法制審議会 刑事法 (マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和4年1月31日(月)   自 午後1時30分                        至 午後1時55分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  マネー・ローンダリング罪の法定刑の改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○今井部会長 本日も、お忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。   本日、大賀委員、蛭田委員、安田委員、吉崎委員、和田俊憲委員、長村幹事、中井幹事、横山幹事、井上関係官は、オンライン形式により出席されています。   くのぎ幹事におかれましては、所用のため、欠席されています。   それでは、早速、本日の議事に入りたいと思います。   前回の会議において、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要性・相当性、そして法定刑の具体的な在り方について、充実した御議論をしていただきましたが、本日は、諮問事項の全体について、更に御意見等があれば伺いたいと思います。   そして、前回の会議でも申し上げたとおり、議論が熟したということで賛同していただけるのであれば、部会としての意見の取りまとめを行いたいと考えておりますが、このような進め方とさせていただくことで、よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 ありがとうございます。   それでは、御意見等がある方は、挙手の上、御発言をお願いいたします。 ○和田(恵)委員 前回の部会の後、検討してまいりましたことを申し上げたいと思います。   犯罪収益が犯罪組織の維持や強化に利用される結果、組織犯罪やテロが助長され、市民の生活や社会に重大な影響が生じることに鑑み、国際社会と協調しながらマネー・ローンダリングに対抗する、その方策として、法定刑の引上げを始めとする対応が必要であるということは十分理解いたします。もっとも、前回の部会でも述べましたとおり、マネー・ローンダリング罪の規定は、いずれも処罰範囲が広いという問題があると考えております。この点については、組織的犯罪処罰法制定時に日弁連も問題点として指摘いたしました。法定刑を引き上げ、かつ、量刑上も重く評価すべきであるというのであればなおさら、併せて、どのような行為が犯罪収益の隠匿や収受の罪に当たるのかという点についても検討すべきであると考えます。すなわち、前提犯罪の範囲は、組織犯罪に限定されず、その範囲が非常に広範です。1回限りで行われた財産犯も含まれます。また、前提犯罪が訴追・処罰されている必要がないと解されています。さらに、犯罪収益等には、犯罪収益のほかに、犯罪に由来する利益、混和財産も含まれ、ほとんど限定がありません。主観面においても、犯罪収益等収受罪にいう「情を知って」という要件を例にとって申し上げますと、犯罪収益等であるかもしれないという一般的・抽象的な危惧や懸念、不安では足りないと解釈されている一方、確定的認識を要せず、未必的認識でも足りるとされています。この未必的認識は、判例上広がりを見せています。刑事弁護に携わる実務家の感覚としては、未必的認識があるとして故意が容易に認定される傾向にあると感じています。そのため、現行法の規定のままでは、当罰性のない、あるいは低い行為が処罰対象とされる危険があると考えます。例えば、1回限りの詐欺で得た現金を、働いて得たお金だと説明をして、毎月の生活費として同居の家族に渡すような場合、犯罪収益等隠匿の罪が成立するのか。さらに、生活費としてお金を受け取った側にも犯罪で得たお金が含まれるかもしれないと考えていた場合には、犯罪収益等収受の罪が成立するのか。犯罪組織とは関係のない一般市民のこうした行為もマネー・ローンダリング罪の対象となり得ます。したがって、法定刑について規定を見直すのであれば、その処罰範囲の明確化も同時に図られるべきです。この点について検討しないまま法定刑を引き上げ、更に量刑傾向も重いものとすると、当罰性のない、あるいは低い行為について不相当に重い刑罰が科される危険が大きくなります。よって、現行法の構成要件のまま法定刑だけを引き上げることには賛成致しかねます。 ○保坂幹事 1点御質問なのですけれども、今回、FATFからの勧告を契機として、マネー・ローンダリングを強力に抑止していくため法定刑を引き上げるということについては共有されて、その必要性については認めるということなのですが、その一方で、処罰範囲を明確にするというのか、もっと限定して狭くせよというようにも聞こえたのですが、そうした場合、またFATFから目を付けられるのではないか、国際社会と協調してマネー・ローンダリングに対抗できるのかという問題を生じるようにも思うのですが、その点については何かお考えはあるのですか。 ○和田(恵)委員 現行法のマネロン関係の三つの規定というのが、元々範囲が広いというのが私の考えの前提にあります。その点について、FATFも何も意見は述べていないように私は認識しています。例えば、パレルモ条約第6条にも目的が要件として加わっていたりといったものがありますけれども、組織的犯罪処罰法第9条から第11条の規定にはそういった限定は加わっていないというところはあると思います。 ○保坂幹事 目的要件を掛けるなど、現行法よりも処罰範囲を狭くするとしても、国際協調によってマネー・ローンダリングに厳正に対処して抑止するという目標とは両立するんだということでしょうか。 ○和田(恵)委員 はい。矛盾しないと考えています。飽くまで個人的な考えですけれども、矛盾しないと思いますし、きちんとどういった行為が処罰されるべきなのかを明示した上で厳しく処罰をするということは、マネー・ローンダリング罪に対する対処として適切ではないかと考えます。 ○樋口幹事 前回の会議で、和田恵委員から、相当性に関して、なお検討の余地があるであろうという御意見があり、更に本日補っていただけたと思っております。   必要性・相当性という言葉自体は、文脈に合わせて具体化しなければ、時に不明瞭になり得ると思うので、非常に貴重な御指摘かと思います。   この局面で、マネー・ローンダリングの処罰を厳正に行うということに関しては意見の一致を見ており、犯罪収益の保持の禁圧を徹底することが、現在の国際動向、そして国内情勢から必要であるということには問題がないかと思われます。   一方で、相当性の方でございますけれども、これは幾つかの意味があり得るかと思います。まず、法定刑を従前の倍に引き上げるということが罪刑均衡から見て適切かということについての確認が必要かと思うのですけれども、これは、前回議論したとおり、組織犯罪を中心に、犯罪収益の保持の禁圧を徹底するという見地から、主たる前提犯罪と同程度の法定刑であることが適切であるということは十分議論できたかと思います。一方、和田恵委員から御指摘があった相当性への疑問というのは、組織犯罪の禁圧に偏る余り、マネー・ローンダリング罪の適用範囲が緩やかになるという危険がある、あるいは、処罰の積極化に応じて、刑事実務が処罰に偏る恐れがあり、それに対する歯止めが必要ではないかという御指摘であったかと思われますが、我が国の条文では、実行行為が仮装、隠匿、収受となっており、犯罪収益の保持の禁圧という趣旨に鑑みて、それぞれの構成要件の実行行為を解釈し、その客観要件の解釈に合わせて他の犯罪類型と同様の未必の故意の認定を行っていくことになります。これが一個一個の事件において緩やかになってはならないという点は貴重な御指摘かと思いますけれども、立法のあり方として、我が国の条文が不明確である、あるいは処罰範囲が過剰であるとまではいえないように思われる次第です。 ○和田(恵)委員 今の樋口幹事の整理は、私が申し上げたことを正確に整理していただいたものだと思います。それを裁判の場できちんと解釈していくべきではないか、実務の現場でやっていくべきではないかということもあり得ると思うのですけれども、今、立法のあり方を議論する場で処罰範囲を明確にする、そういう議論するということにも意味があると考えています。現に裁判官が書かれた論考の中にも、ある事例について、犯罪収益等隠匿罪が成立するのかどうか意見が分かれる限界事例もあるというふうに認識しております。そういった意味でも立法の場で議論するということは意味があると考えます。 ○今井部会長 今の和田恵委員の御意見、あるいは樋口幹事の御意見は今回の諮問の背景と言いますか、前提問題に係るものではございますけれども、諮問された法定刑引上げの必要性については、和田恵委員の冒頭の発言にもあったように賛成されていると認識しております。   それを踏まえてほかに御意見はありますでしょうか。   よろしいでしょうか。前回会議を含め、これまでの御議論の状況を踏まえますと、本諮問に関する議論は尽くされたように思われます。そこで、部会としての意見の取りまとめに移らせていただければと存じますが、その前にもう一度伺いますが、是非とも発言しておきたいことがございましたら、お願いいたします。   よろしいでしょうか。それでは、ほかに御発言はないようでございますので、これから部会としての意見を取りまとめたいと存じます。   諮問第119号は、近年におけるマネー・ローンダリング対策の国際的動向等に鑑み、早急にマネー・ローンダリング行為に係る罰則の法定刑を改正する必要があると思われるので、別紙要綱(骨子)について御意見を承りたいというものであり、その別紙として要綱(骨子)が付されております。当部会での議論の状況に鑑み、この要綱(骨子)を採決の対象とさせていただきたいと存じますが、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 特に御異議がございませんので、そのように採決したいと存じます。   それでは、採決に移ります。要綱(骨子)に賛成の委員の方は、挙手をお願いいたします。オンラインで御出席の委員の方は、その場で挙手していただき、そのことが画面上で確認できるようお願いいたします。              (賛成者挙手) ○今井部会長 ありがとうございます。次に、反対の委員の方、挙手をお願いいたします。オンラインで御出席の委員の方は、先ほどと同様の方法で挙手をお願いいたします。              (反対者挙手) ○今井部会長 ありがとうございました。それでは、採決の結果について、事務当局から報告をお願いいたします。 ○浅沼幹事 ただ今の採決の結果を御報告いたします。   賛成の委員の方が7名、反対の委員の方が1名でございました。   本日の出席委員総数は、部会長を除きまして、8名でございます。 ○今井部会長 ただ今、事務当局から報告がありましたとおり、要綱(骨子)については賛成多数で可決されました。   当部会の意見としては、諮問第119号については、要綱(骨子)のようにマネー・ローンダリング罪の法定刑を改正することが相当であるとして、来るべき法制審議会総会におきまして、部会長の私から報告をさせていただくこととなりますが、これについては、私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます。   この際、事務当局から何かありますでしょうか。 ○川原委員 事務当局を代表いたしまして、一言、御挨拶を申し上げます。   委員・幹事・関係官の皆様方には、御多忙のところ、今回の諮問につきまして、非常に厳しい日程の中で熱心に御議論いただき、厚く御礼を申し上げます。   また、今井部会長には、議事の進行、意見の取りまとめに格段の御尽力を賜りまして、誠にありがとうございました。   本諮問につきましては、先般も申し上げましたとおり、マネー・ローンダリングについて、FATFからの勧告を契機として、より一層、厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示して強力に抑止・防止するため、早急に、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げる必要があると考え、諮問に至ったものでございます。   本部会において、委員・幹事の皆様方からは様々な観点から御意見等を頂戴いたしました。皆様方の御尽力により、マネー・ローンダリング罪の法定刑の改正について幅広く御議論いただけたことは、大変意義深いことであると考えております。事務当局の法務省といたしましては、本部会において御決議いただいた要綱(骨子)に沿って、必要な法整備を速やかに実現するため、その準備作業を進めてまいりたいと考えております。   今後のスケジュールでございますが、本日の部会における諮問第119号に関する御決定は、法制審議会の次回総会に部会長から御報告いただき、総会において答申を頂戴いたしましたならば、答申を踏まえて、内閣官房その他の関係省庁と連携しながら、できる限り早期に関係法案を国会に提出するための立案作業を進めてまいりたいと考えております。   委員・幹事・関係官の皆様方には、今後とも引き続き、御支援、御協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。   最後となりますが、本部会におきまして熱心に御議論いただき、誠にありがとうございました。改めて、厚く御礼申し上げます。 ○今井部会長 どうもありがとうございました。   委員・幹事・関係官の皆様におかれましては、精力的に御議論いただきまして、ありがとうございました。   最後になりますが、この機会に何か御発言があれば、お願いいたします。当部会での議論を振り返っての御感想、あるいは今後の検討に向けた御要望など、どのようなことでも結構でございます。 ○古賀委員 部会第1回の会議におきまして、FATFからの指摘への対応の中で、暗号資産について触れられておりました。刑事の分野におきましても、暗号資産を用いて犯罪収益を隠匿した事件が起訴されるなど、デジタル技術を用いた犯罪収益の保持・移転への対策が急務であると思われますので、立法に向けた検討課題として申し上げたいと存じます。   今般の諮問は、マネー・ローンダリング罪の法定刑を引き上げるものでございましたが、現在、検察の現場におきましては、暗号資産や電子マネーを不正に取得したり、犯罪で取得した資金を暗号資産や電子マネーに転換するなど、暗号資産を始めとするデジタル技術を用いた資産が犯罪収益となる事案に対処することが求められております。   現行の組織的犯罪処罰法では、犯罪収益やこれに由来する財産等が「不動産若しくは動産又は金銭債権」であるときにこれを没収することができると定められておりますため、暗号資産などが金銭債権かどうかが問題となり、金銭債権でなければ没収することができませんし、金銭債権と認定されたとしても、没収判決の確定後、これをどのように処分するかが問題となる状況でございます。   このように、暗号資産などの没収に当たっては検討すべき課題があると思われます。犯罪収益の剥奪を徹底するという観点からは、こうした暗号資産などを確実に没収することができるよう、課題を洗い出して、必要な立法を講じるべきではないかと思われます。 ○樋口幹事 部会第1回会議におきまして、犯罪収益の保持を徹底的に禁圧・抑止するための車の両輪が、没収・追徴の徹底とマネー・ローンダリングに対する厳正な処罰であると申し上げました。今回のマネー・ローンダリングの法定刑引上げは、片方の車輪を強化するものと言えます。もう一方の車輪の強化という点から見ますと、先ほど御指摘がありましたように、暗号資産のようなデジタル技術を用いた新たな形態の犯罪収益を適切に没収することができるように検討をすることも重要な課題と考えます。   国際的に見て、犯罪収益を剥奪するための没収制度に不備があるといった受け止められ方をされないようにするという観点から見ても、我が国の犯罪収益の剥奪制度をデジタル時代に見合った最先端のものにする必要があるでしょう。   必要な法改正に向けた検討が行われることを望みます。 ○川原委員 今の点に関連して私から申し上げますが、近年のデジタル化の進展によって、電子マネーや暗号資産など、資金移転や決済の手段・方法が多様化していることに伴い、刑事の分野でもこれに的確に対応できるようにすることが必要であると考えております。   今般の諮問についての当部会での御議論を踏まえますと、デジタル化に対処するための刑事法に関する立法課題の一つとして、暗号資産などの犯罪収益を確実に没収することができるような法整備についても、不断の検討を進めていくことは、重要な課題であると認識をしておりまして、法務省刑事局として、今後、しっかりと検討してまいりたいと考えております。 ○今井部会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。オンラインの方も御意見がありましたら挙手をお願いいたします。   皆様からの御意見がないようでしたら、私からも一言、御挨拶を申し上げます。   日本のマネー・ローンダリング罪の執行状況が同罪を抑止するに足るだけの効果を伴っているか疑問であるというFATFの指摘は大変厳しいものでありますけれども、現状では、日本が国際的なマネー・ローンダリング対策の連携の中でループホールになってしまう可能性があることは否定できなかったと思います。   そこで、今回諮問された形で関係する犯罪の法定刑が引き上げられ、マネー・ローンダリング罪には前提犯罪と同様の違法性が認められることが確認されますなら、日本におけるマネー・ローンダリング対策をより効果的・抑止的なものにする上で大きな意味があると思います。   今後につきましては、既に委員・幹事の皆様からも御発言がありましたけれども、不法な財産的利得を目指して行われる前提犯罪とマネー・ローンダリング罪を更に抑止するために、そうした違法な利得の剥奪の強化が検討される必要があると思います。   国際的な潮流を振り返りますと、1990年代初頭からローンダリングの客体として理解されたものは、薬物犯罪の収益に始まり、そこに犯罪組織が獲得した収益が加えられる過程で、重大犯罪から得られた収益一般として理解されるに至っています。この観点からは、ローンダリングの対象としてのマネーというものについても、現金、金融機関等に対する預貯金債権等に加えて、今後は仮想通貨を捕捉すること、すなわち、国境を越えて大量になされる仮想通貨を用いた犯罪収益の移転・隠匿を捕捉し、効果的に制裁を科す対策を検討することが必要であると個人的にも考えております。   2016年にパナマ文書というものが国際的にも大変問題になりました。私はその時、OECDにおりましたので、マネー・ローンダリング、脱罪の問題も含めて、悪質で違法な国際的なマネーの潮流をどう規制するかを議論してきたのですが、いまだ国際的な調和には至っていないように思われます。そういった状況も踏まえまして、今回の諮問に係る審議と議決を基礎にして、将来の刑事政策を考えていく必要があるのではないかと思っております。   司会に戻らせていただきますが、本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   以上をもちまして、本部会は終了でございます。どうもありがとうございました。 -了-