法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  令和4年1月26日(水)   自 午後1時29分                        至 午後4時20分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 第一の四(わいせつな挿入行為の刑法における取扱いの見直し)について         2 第一の五(配偶者間において強制性交等罪などが成立することの明確化)について         3 第一の六(いわゆるグルーミング行為に係る罪の新設)について         4 第二の一(公訴時効の見直し)について         5 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第4回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日は、御多用中のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   本年最初の部会となりますが、今年もよろしくお願いいたします。   本日、今井委員、大賀委員、木村委員、小島委員、小西委員、齋藤委員、田中委員、中川委員、吉崎委員、池田幹事、市原幹事、金杉幹事、佐藤陽子幹事、中山幹事、井上関係官は、オンライン形式により出席されています。   また、北川委員、くのぎ幹事におかれては、所用のため欠席されています。   議事に入ります前に、前回の会議以降、委員の異動がありましたので、御紹介させていただきます。   藤本隆史氏が委員を退任され、新たに大賀眞一氏が委員となられました。   初めて会議に御出席いただいた大賀委員に自己紹介をお願いしたいと思います。 ○大賀委員 警察庁で刑事局長をしております大賀でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田部会長 ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。   次に、事務当局から、配布資料について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料について御説明いたします。   資料9は、内閣府が作成した「男女間における暴力に関する調査報告書」から、諮問に掲げられた事項に関係すると思われる部分を抜粋したものです。   この報告書は、内閣府が、国内の男女間における暴力の実態を把握するため、令和2年度に、全国の20歳以上の男女5,000人を対象に実施した無作為抽出によるアンケート調査の結果をまとめたものであり、ページ下部に「13」と記載されているページの次のページから、調査結果の概要として、「無理やりに性交等をされた被害経験」における「加害者との関係」、「被害にあったときの状況」、「被害にあった時期」、「無理やりに性交等をされた被害の相談経験」などが記載されております。   本日の御審議との関係では、ページ下部に「82」と記載されているページに、「被害にあってから相談までの期間」がまとめられており、諮問事項の「第二の一」についての御議論において、参考になるものと思われます。   なお、「男女間における暴力に関する調査報告書」につきましては、内閣府のホームページに掲載されておりますので、報告書全体を御覧になりたい場合は、そちらを御参照ください。   配布資料の御説明は、以上です。 ○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、諮問に掲げられた事項のうち、「第一の四」から「第二の一」までについて御議論いただきたいと思います。   本日の進行における時間の目安については、諮問事項の「第一の四」について45分程度、諮問事項の「第一の五」について15分程度御議論いただいた後、恐らく午後2時30分過ぎになると思いますが、10分程度休憩をとりたいと考えております。   その後、諮問事項の「第一の六」について45分程度、「第二の一」について50分程度、それぞれ御議論いただきたいと考えております。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   まず、諮問事項の「第一の四 刑法第百七十六条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと」について御議論いただきたいと思います。   御意見のある方は、挙手の上、又は、オンライン出席の方は挙手ボタンを押すなどアピールしていただいた上で、御発言をお願いします。45分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 意見としては、被害者側からまず申し述べたいと思います。   被害者からすれば、まず、自分の体に挿入されたことが被害です。挿入されたものが性器でも物でも、同意なく身体に性的侵襲がされることに苦痛があります。男性器に限らず、舌や手指などの身体の一部、性具やその他の物を、膣・肛門に入れたら、強制性交等罪とすることを望みます。   例えば、電車内の痴漢被害において、指1本で法定刑の下限が懲役5年の強制性交等罪になるのかと言われますけれども、自分が電車に乗って通勤・通学の途中で、ほかにもたくさんの人がいる中で、見知らぬ人から下着に手を突っ込まれたらどういう気持ちになるのかを想像してみてほしいと思います。驚きや不快感で凍り付きますし、ましてや、どこの誰とも知らない、その前に何を触っているかも分からない加害者の指が、自分の膣や肛門に入れられることは、被害者にとってあり得ないことです。挿入されたものが何であっても、強制性交等罪として扱ってほしいと思います。   また、身体の一部を挿入させられる被害についてですが、加害者の口腔・膣・肛門に被害者の男性器を挿入させた場合は、現在でも強制性交等罪です。これは、加害者の身体に包み込まれる、覆われるという形での性的侵襲と理解されていたと思います。覆われるものについて表現するに際してお願いしたいのは、男性器に限られることのない表現にしてほしいと思います。膣に舌を挿入させる被害において、舌が覆われたという意味で性的侵襲として扱ってほしいと思うからです。また、性同一性障害の方の性別適合手術の中には、ホルモン療法や手術療法を行い、陰茎を形成する手術もあります。形状によっては、男性器として認められないとも言われていて、苦痛であるとおっしゃっていました。今回、Broken Rainbow-japanから、性別や性的指向、性の在り方に捉われない法的評価への要望が出ております。多様な性の在り方を踏まえた御議論をお願いします。   物を挿入させられる場合についてですが、物を手に、あるいは肘とか足の間に持たされたりして、挿入させられる行為もあります。同意のない性的行為をさせられている意味では性暴力ですが、被害者の身体の一部に挿入される、又は被害者の身体の一部が加害者の身体に覆われるといった被害ではないので、強制性交等罪には当たらないのではないかと理解しています。   このように議論を進める中で、性犯罪に関する刑事法検討会では、男性器を膣・肛門に挿入し、又は挿入させる以外の被害については、強制性交等罪と強制わいせつ罪との間に中間類型を設けるべきだという議論もありました。しかし、先ほどから申し上げているとおり、性具や手指などを用いたセックスが、その人たちにとって自然な性の在り方である方たちもいます。中間類型とすることで、男性器を挿入することだけが性交であり、レイプであるということになり、それは差別ではないかと思うので、反対します。同列に扱ってほしいと思います。   また、中間類型とした場合、捜査機関では必ず何を挿入されたのか、それが男性器であることがどうして分かったのかを聞かれることになると思います。自分の身体に挿入されたことまでは分かっても、何が挿入されたかまでは、身体下部のことであり、見ることも怖いし、具体的には分からないということもあります。医療機関での被害者診察においても、何かが膣や肛門に挿入されたとは言えても、その特定までは難しいこともあります。侵襲されたことに変わりはないのに、それが何かによって罪が変わるのは、被害者にとっては理不尽で承服し難いことですので、中間類型を設けることには反対したいと思います。 ○小島委員 強制わいせつ罪の対象とされている行為の一部を、強制性交等罪の対象となる行為に格上げするということにつきましては、挿入される場所が、膣なのか、肛門なのか、口なのか、それから、挿入するものが、陰茎なのか、身体の一部なのか、性具などの物なのか、この3掛ける3の組合せがございます。現行法は、陰茎を膣・肛門・口腔に挿入する行為を強制性交等罪の対象となる行為としていますが、これと同等の当罰性があり、強制わいせつ罪から格上げする行為は何かということが、本件で問題になっております。   私は、挿入するものと挿入される場所のいずれか一方がいわゆる性器である場合について、強制性交等罪として処罰したらどうかと思います。身体への侵襲性という意味で、同等だと考えるべきだと思います。2017年改正では、口腔への挿入について問題になりましたが、陰茎、すなわち、性器の挿入であることから、強制性交等罪の対象とされました。そして、LGBTの方の性交を考えると、肛門については性器と言い得るのではないかと考えており、そうすると、膣・肛門への挿入は、身体の一部やいわゆる性具などの物の挿入も、強制性交等罪として処罰するということでよいのではないかと考えております。他方、口については、性器とは言えないので、口腔に挿入するものは性器に限るということで考えております。ですから、指や性具などの口腔への挿入は、強制性交等罪には当たらないと考えております。   法定刑は、いずれも強制性交等罪と同様に5年以上の懲役とすることを前提としており、先ほど山本委員が言われたように、中間的な類型を設けることについては反対いたします。   一方で、挿入させる行為については、挿入する行為とは身体の侵襲性に違いがあると考えると、現行法で処罰している性器を膣・肛門・口腔に挿入させる行為に加えて、膣・肛門に舌を入れさせる行為についてのみ、強制性交等罪に格上げしたらどうかと思います。舌を挿入させる行為というのは、指等の他の身体の一部を挿入させる行為と異なって、粘膜が接触するという意味で、身体の侵襲性が大きいからです。舌を挿入させる行為の法定刑は、挿入する行為と同様に、5年以上の懲役とすることを前提とします。この点は、感覚的な違いもあるのではないかと思っています。   膣・肛門に指を挿入させる行為は、限界事例かと思っております。 ○齋藤委員 私の意見は、これまで性犯罪に関する刑事法検討会などで述べてきたとおりで、性器を膣・肛門・口腔へ挿入される、あるいは挿入させられる被害、体の一部及び異物を膣・肛門に挿入される被害について、今、小島委員がおっしゃったように強制性交等罪の対象とすることに賛成します。それらは、強制性交等罪と同等の身体的・心理的な侵襲である、体の境界線を性的に侵害される被害であると思っています。   例えば、異物や手指を無理やり相手の肛門に入れさせられることは、それもまた苦痛なことではありますが、強制性交等罪の対象とすることは、難しいと考えています。一方、指1本、割りばし1本という例えが言われますけれども、それを膣や肛門に挿入されるということは、境界線を侵害する行為であると思っています。口への侵害として、性具などの挿入などといった意見もありましたが、食べ物などを挿入されることとの区別がとても難しいということを考えまして、おおむね、今、小島委員がおっしゃっていた意見に賛成をしております。   これまで述べてきました体の境界線を性的に侵害される、越えられるということに関する精神的衝撃が、挿入されるものによっては変わらないということは、性犯罪に関する刑事法検討会で意見を述べたとおりです。現在の法律では、性交という言葉を使っているために、異物などの挿入に関する被害を受けた人のダメージが、皆さんのイメージの中で軽視されているのではないかと感じることがあります。   先ほど山本委員がおっしゃっていたことと同じ意見を考えていたので、言うのもどうかと思うのですけれども、2017年の改正のときの議論でも、電車内で指1本挿入されることはどうかという話があったことを記憶しておりますが、やはり公衆の面前で、見ず知らずの他人の体の一部が、同意なく自分の体の中に侵入してくるというのは、大変に苦痛で、怖くて嫌悪を感じる出来事です。また、男児同士のいじめなどで、肛門に異物を挿入される行為などが行われることもありますが、それは被害者にとって大変屈辱的な性的な暴力だと思います。   膣に陰茎を挿入される行為には、妊娠の危険や恐怖があるということは、そのとおりです。一方、月経の来ていない子供への挿入も危険ですし、閉経後の女性への挿入だって、精神的影響は甚大です。妊娠への危険とか恐怖がある場合や実際に妊娠した場合は重く考えられる必要もありますし、性感染症とか臓器への損傷があった場合も、重く考えられるべき事情だと思っています。              (具体的事例を紹介)   子供の被害では、挿入されたものが何だったか分からず、強制わいせつ罪になることもありますし、女性から女性に対して物への挿入の加害ということも起こっております。              (具体的事例を紹介)   強制性交等罪と同じ程度の当罰性が認められるかということだと認識しているのですけれども、体の境界線を性的に侵害されるということは、挿入されるものによって変わらないと思います。   以前、例えば、陰部をなめることと指を1本入れるとか舌を入れるということが、それほど違うのかという意見などもあったように記憶しているのですけれども、私の関わる事例などでも、男性器を陰部に当てただけか、それとも挿入したかで法律は取扱いを分けておりますし、口腔への侵入で、唇に当たっただけか口の中に入ったかでも、法律は取扱いを分けています。もちろん、心理臨床の場面で、人の心理的な苦痛に区別をつけるということはいたしませんが、そうした法律という枠組みに関する議論ですので、こうした意見を述べさせていただきます。 ○井田部会長 小島委員と齋藤委員に、確認のため、お伺いしたいのですけれども、例えば、被害者の口腔に陰茎の形を模した性具のような物を無理やり挿入するような行為や、あるいは、加害者が被害者の口腔に舌を挿入するような行為については、法定刑の軽い類型でよいという御意見であるという理解でよろしいでしょうか。 ○齋藤委員 一人一人の心理的な苦痛で言ったならば、もちろん苦痛な出来事に変わりないと思いますが、法律の枠組みとして、大きくどこで分けるかといった問題でしたら、そうなるのではないかと思っています。 ○井田部会長 小島委員もそれでよろしいですか。 ○小島委員 先ほど申し上げましたように、いずれかが性器の場合については、強制性交等罪として処罰すべきということになります。 ○井田部会長 分かりました。 ○小西委員 私は、ちょっと違う観点から、メンタルヘルスの問題として、どのくらいの影響があるのかというところで、思うことをお話しさせていただきます。   PTSDが、こういう精神的な影響の一つの指標としてずっと扱われてきています。性的な被害がどのくらいPTSDを生むのかということについては、1990年代頃から、各国の調査や、それから、最近では、WHOとハーバード大学が協力して国際調査なども行われております。ここで改めてお話しすることではないですが、その中で、PTSDに関して、性的な被害との関連が非常に深くて重いということが、どこでも言われています。    それらの調査では、大体、レイプともう一つのカテゴリー、例えば、あるものでは、レイプとsexual assault、あるいはレイプとsexual molestationというような分け方で、PTSDの発症、正確にいうと関連有病率が調査されております。そのときのレイプの定義について、原文の質問を確認してみたところ、penetrating your body with a finger or objectという言い方になっており、要するに、性器や体の一部、それから異物を挿入する行為とまとめられております。国際的に、医学、特に疫学の領域で使われている定義でそのようにまとめられているレイプと、それ以外のsexual assaultとの間におけるPTSDの発症率の差異は、細かくは言いにくいのですが、大体1.5倍から2倍ぐらい違うというような結果が出ていると思います。この切り方がある意味では妥当だからこそ、そのように分けていると考えられます。   レイプのところで、性器の挿入だけを取り上げるということは、齋藤委員が言われたとおり、私たち支援の領域では、ナンセンスというか、余りに狭すぎるものであると言えます。ただ、口に挿入する行為については、いろいろ見てみても、sexual penetrationという形で書かれていたりするので、例えば、口に物を入れるということは、やはりレイプの中には含まれないと考えられます。   そういう点では、私自身の意見としては、アメリカの法務省やFBIで使っている普通の定義ですけれども、レイプというのは、膣あるいは肛門に体の一部や異物を挿入する、あるいは、ほかの人の性器を口腔に挿入する行為と考えるのがいいのではないかと思います。もちろん、ゼロ、1で切れるものではないし、限界のところはそれぞれの事件の文脈がないと分からないことはたくさんあるわけですけれども、どうしても何か一つ案を出せと言われれば、そのように考えられるのではないかと思っております。 ○佐藤(陽)幹事 性犯罪に関する刑事法検討会の議論と本日の委員の先生方の御意見を踏まえますと、仮に条文を新設するであれば、気を付けておかなければならないことが幾つかあると思いましたので、実際に条文を作る場合に、どのようなものが考えられるかといった形でまとめさせていただきたいと思います。   一点目は、性犯罪に関する刑事法検討会の議論で出ていたものなのですが、医療行為や介護の際に、他人の性器・肛門に指を入れるようなことがあり得ますので、性的性質に欠ける行為が構成要件の中に紛れ込まないように、挿入行為の中でもわいせつなものといった形で限定を掛けておくことが必要であると思います。   二点目として、行為者が被害者に挿入する行為と被害者に挿入させる行為とは、分けて規定することが必要であろうかと思います。つまり、先ほど、山本委員がおっしゃっていたことですけれども、例えば、行為者が被害者を脅迫して、自己の性器に性具を挿入させる行為は、被害者の性器に性具を挿入する行為と比較した場合、性的接触を強いられる侵害の程度が原則的に軽いと考えられることに留意しておかなければならないと思います。   小島委員がおっしゃっていた、舌を挿入させる行為をどうするかについては、別途検討する必要があると思っていますが、性器をなめる行為はどうするのかとか、なめさせる行為はどうするのかといった形で、たくさんの問題に派生してしまうようであれば、少なくとも今回の改正においては、挿入する行為だけに限るといった選択もあろうかと思うところでございます。   三点目として、挿入する行為の中でも、性器・肛門に身体の一部や物を挿入する行為には、性交等と同じぐらいの侵害性があるという点は、性犯罪に関する刑事法検討会においても、また、本日の議論においても、ある程度のコンセンサスの得られた御意見だと思われるのですが、口腔に身体の一部や物を挿入する行為については、なおそこまでのコンセンサスは得られていないと思っておりまして、その点に留意して条文を作っていく必要があろうかと思います。   私も、性犯罪に関する刑事法検討会では、口腔への物等の挿入も強制性交等と同じぐらい重いものがあると言いましたけれども、逆に言うと、そうではないものが多くあることも認識しておりまして、少なくとも口腔への物等の挿入については、強制性交等と全く同じ法定刑で規定するというのは、少し難しいと思っているところです。   以上の三点が留意点だと思っていまして、これらを前提にしますと、性交等を強いられたときに匹敵するような侵害を生じさせる行為としては、基本的に性器又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為であって、かつ、わいせつなものというようなことになろうかと思います。   ただ、身体の一部又は物を挿入する行為の中にも、重大なものから軽微なものまであるということは、多々指摘されているところでして、そのような反対の御意見を全く無視するわけにはいかないとも思っています。取り分け、物には様々な形状・性質のものがありますので、仮に身体の一部又は物を挿入する行為を性交等と同じ法定刑で規定しようと思った場合には、例えば、わいせつ目的で座薬を入れたとか、そういう場合が入らないように、何か更に絞る文言、思い付きですけれども、例えば、挿入する対象を手指といった身体の一部又は性具やそれに類似する物に限るなどして、ある程度の限定を付するか、あるいは対象となるものは絞らずに、法定刑の下限を下げる形で対応するという方法もあろうかと思います。法定刑の下限を下げる場合も、法定刑の上限は強制性交等罪と同じですので、重い類型は重く処罰ができ、場合によっては紛れ込む可能性のある軽い類型については軽く処罰ができるといった形になろうかと思います。   先ほど、齋藤委員が、心理的な傷に区別をつけることはできない、負担に区別をつけることはできないとおっしゃっており、それはそのとおりだと思うのですけれども、法定刑を定めるときは、行為態様も併せて考慮するというのが一般的かと思われますので、やはり行為態様の違いといったものも考慮に入れておく必要があろうかと思います。特に、前回の改正で、口腔性交や肛門性交が性交と並んで処罰されるようになったときに、量刑水準も同水準になったという研究がございます。今回の改正の際にも、仮に身体の一部又は物を挿入する行為を性交等と同じ法定刑で規定しようと考える場合には、それらの行為の量刑も、性交等と同水準になる可能性があることを考慮に入れて、どうすべきかというのを判断すべきと思っているところでございます。 ○宮田委員 齋藤委員や小西委員に教えていただきたいのですが、性的侵襲行為は被害者に非常に大きなショックを与えるものなので、それらを切り出すに値するという御趣旨はよく分かるのですけれども、乳房や性器をなめられたといういわゆるヘビーペッティングをされるという被害を受けた事件であっても、非常に精神的に大きな傷を負った例がございます。   また、海外では、例えば、カナダなどの国では、挿入行為の有無にかかわらず、性的な自由を侵害する行為を一つの構成要件としている法律もあります。   性器への挿入行為を特に重く見るという見方、性的な侵襲行為は他の身体への性的行為とは違うと余り強調する議論は、仮に、カナダのような形での立法をすることとなった場合の足かせになるのではないかと思ったのです。性的侵襲行為とそうではない行為というのは、そこに本質的な差があるのかないのかということについて、教えていただければと考えた次第です。 ○小西委員 きちんと答えられるかどうかは分からないのですけれども、私の言葉で言うと、それぞれの事件の文脈というのが当然あって、ペッティングについても、例えば、衆人、たくさんの人がいる前でそのようなことが行われたといったことがあれば、とても傷つきは深い。そういう意味では、先ほどお話ししたことは、正確にそれで心的な傷つきと一緒になるわけではないのだけれども、もし法律で区切るとして、どこかに区切りが必要なのであればという形でお話ししているものと思っています。   もし、性的な被害による傷つきについて、社会が非常に理解し、全て分かっているのであれば、新たに全体で考えるということも、理念的にはあり得るとは思います。ただ、今の状況で、この具体的なところを外してしまうということが、日本の性犯罪にどのようなことをもたらすのかということを考えると、宮田委員の御意見には少し賛成しかねるところがあります。   そういう点では、法律が、例えば、心理状況とか身体状況とかを、正確に反映しているものではないということを前提にして、今、私たちができることの中で、最も現実をよくするものを考えないといけないのではないかと思っております。   お答えになったかどうか分かりませんけれども、以上です。 ○齋藤委員 基本的には、小西委員がおっしゃってくださったとおりなのですけれども、私も心理の立場から、人の主観的な苦痛を区切るということは、とてもしにくいことであるということをずっと思っております。性暴力の傷つきの本質というのが、その人の意思を無視されるとか、その人が物のように扱われるということにあるのだとするならば、もちろん、挿入されていない被害も甚大な傷つきをもたらすということに変わりはありません。   ただ、今は、法律の議論であり、カテゴリーとして分けるという議論です。そして、法律ということを考えたときに、現在、挿入するものによって成立する犯罪を分けているということは問題なのではないかという趣旨の発言をさせていただいております。小西委員がおっしゃるように、性暴力によってどのぐらい傷つくのかということを、本当にいろいろな方々が理解してくださるならば、将来、違う法律の構成というのもあるのかもしれないとは思いますが、こうして、男性器を挿入するという性交と異物や手指の一部を挿入するという行為は違うというような認識を持っている人が多いという現状の中で、適切に判断いただけるとは思えず、一足飛びにそこに至るということはできないのだろうということを考えています。   先ほど、佐藤陽子幹事の発言で、性具やそれに類似する物といった発言や、座薬はどうなのかといった発言がありましたが、性具であるのか、それとも同じ大きさの棒であるのか、あるいは割ばしや座薬のような形態の物であるのかによって、なぜ、それほど違うと思うのかということの方が、私には疑問です。 ○宮田委員 結局、下限5年という、突出して重い法定刑の強制性交等罪に、どのような行為をどのように加えるかという議論をしているので、様々な反対の意見が出てくるのではないかと思うのです。   今の御議論を聞いていると、逆に、なぜ強制性交等罪と強制わいせつ罪とで条文が分かれているのか、うんと軽いものからうんと重いものまで、同じ構成要件でもいいではないかという議論が出てきてもいいような気がしたのです。現行法の刑法177条、178条にそこまでこだわって議論をしなければならないのかという疑問を持ちました。 ○長谷川幹事 話が広がっている中で、整理がしにくくなっているのですけれども、まず、出発点として、挿入する行為のどこまでを強制性交等罪と同じ罪として処罰すべきかということについては、私も小島委員などと同じで、膣や肛門に挿入する行為については物の挿入行為も含めて同じ罪として処罰すべきであり、口に挿入する行為については性器を挿入する行為に限るべきという意見です。   理由は、既に皆さんが述べているので、ここでは述べないこととし、その後の議論でいろいろ出てきていることについて、私の考えを述べたいと思います。   物を挿入する行為には、医療行為なども含まれるので、わいせつ目的などの文言を条文に入れるべきではないかといった御意見についてなのですが、現行の強制わいせつ罪において、わいせつ目的は不要との解釈が最高裁判例で示されていることとの整合性を考えると、わいせつ目的という文言を要件として入れることはどうなのかということ、また、行為者がわいせつ目的であるかどうかによって、侵襲されたことによって被害者の受ける感じ方は変わらないということ、それから、医療行為などを除くのであれば、刑法35条の正当行為で足りるのではないかと考えていることから、わいせつ目的などの限定文言を入れることには反対と考えています。 ○浅沼幹事 佐藤陽子幹事の発言との関係で御発言なさいましたが、佐藤陽子幹事は、わいせつ目的を要件とすべきとはおっしゃっておられなくて、対象とする行為をわいせつな行為に限定することを検討すべきではないかとおっしゃっていたと思われますので、その点について確認していただけたらと思います。 ○佐藤(陽)幹事 そのとおりです。わいせつ目的という要件を設けるべきという発言ではなく、医療行為も構成要件を満たすというのはおかしいと思うので、構成要件の段階から外すことができるように、わいせつな行為といった形の限定要件を設けておくことが必要と思われるという発言でございます。   わいせつ目的が要らないということについては、私もよく存じ上げておりますので、それはそれでいいかと思います。   ここでの議論は、刑法176条に当たる行為のうち、どれを重い類型として取り上げるべきかという問題ですので、刑法176条に当たらない行為が入らないようにすべきという趣旨です。 ○長谷川幹事 刑法176条では、わいせつな行為という言葉で行為を限定しているけれども、その一部を重い類型とするときに、そのような限定がなくなってしまうといけないのではないかということですね。 ○佐藤(陽)幹事 そうです。そういう趣旨です。 ○長谷川幹事 医療行為などを適切に処罰から除けるようにすべきという趣旨であるとすれば、正当行為でも除けるのではないかというのが、今の感覚的な考えです。この点については、改めて詰めて考えたいと思います。   それから、物について、性具とか座薬とか、いろいろな物の性質の話が出たのですけれども、被害者側、すなわち、挿入される側からして、今言ったような種別がそれほど大きな意味を持つのかということについては、私も疑問に思っているということを、一言申し上げたいと思います。   宮田委員は、強制性交等罪と強制わいせつ罪の二つを一つの罪にして、その中で、挿入行為があるものも、そうでないものも対処したらどうか、そのような考え方もあるのではないかという御意見だったと思うのですが、構成要件とそれに対する法定刑というのは、その行為の重さ、違法性の強さを示すという意味もありますので、法定刑の幅を広くして、その中で全部対処できるからいいということにはならないと思っています。   挿入を伴う行為と、そうではないわいせつな行為とでは、小西委員がおっしゃられているように、被害者に与える精神的苦痛に違いがあるということですので、やはり、これは分けるべきではないかと思います。そして、侵襲の大きさとしては、物が挿入された場合であっても、陰茎が挿入された場合と異ならないと私は考えています。実際の事件において、暗いところでの被害、目隠しをされての被害、それから、何が挿入されているのか分からない被害というのはあって、物と陰茎のどちらが挿入されたかが、被害後に本人に明らかとなったからといって、それによって侵襲の程度が大きく異なるのかというところがありますので、やはり、物が挿入された場合についても、陰茎が挿入された場合と同程度の侵襲性があると見て、現行の強制性交等罪の対象とすべきではないかと考えています。 ○金杉幹事 私は、三つの観点から、現行の法律を変える必要がないという立場で意見を述べさせていただきます。   一つ目は、被害者の結果の重大性というか、被害者の方の侵襲の程度が変わらないという点についてです。   例えば、電車の中で、痴漢行為で指を挿入された方が、体内にそのように他人の指が侵襲したということについて、性交と同等のしんどさ、つらさを感じるということは、その方の立場からすれば分かるのですが、他方で、男性器を膣内に挿入された、性交されて射精をされたというような方の立場からすると、自分の体内に、自分が同意していない方の性器や、性器だけではなく精液が体内に侵入する、しかも、時間的にも長い時間というようなことで、やはり電車の中の痴漢の行為とその行為を、被害者の方の感じ方という点で同等には捉えられないのだろうと思います。   そうすると、従来、強制わいせつ罪の中でも、挿入行為があれば重く処罰されていたと思うのですが、これまで強制わいせつ罪で重く処罰をされていた指や体の一部等を性器等に挿入する行為が強制性交等罪になり、5年以上の懲役ということになるのであれば、必然的に性交等までされた行為は、被害者側の感じた結果の重大性を考えると、もっと重い刑にしないといけないということになると思います。このように、従来の強制性交等罪についてまで重い処罰にシフトするという波及効果があるのではないかということを懸念します。    二つ目は、行為規範としての問題です。   法定刑は、結果の重大性若しくは結果が重大になり得る可能性があるということだけで定められているのではなく、より悪質性が大きい行為については、それを行うときに行為者の側が乗り越える規範の大きさというものに応じて定められていると思います。行為者の側から見ても、電車の中の痴漢行為で指を挿入するという行為と、暗がりでいきなり女性を襲って、性器を露出させて、性器を挿入して性交等をするという行為とでは、それぞれ直面する規範は違うだろうと思います。それを、5年以上の懲役という同じ重い法定刑の中で処罰をするということは、最終的な刑だけではなく、例えば、これは性犯罪に関する刑事法検討会のときも申し上げたことですけれども、権利保釈の除外事由に当たってしまうので、裁量保釈が許されなければ保釈が認められない、電車の中の痴漢行為でも保釈が原則認められないということになる、それだけの重い処罰という、同じくくりでいいのかという問題意識が一つです。   三つ目、最後ですけれども、これは未遂罪の観点からの問題です。   これも性犯罪に関する刑事法検討会のときに申し上げたことですけれども、器具や指の挿入、あるいは舌を性器に挿入するという行為が、強制性交等罪になるということになれば、例えば、舌で膣をなめまわして、結果、膣の中に舌を挿入しなかったという場合も、場合によっては、挿入しようとしたけれどもしなかったという、強制性交等罪の未遂罪ということもあり得るわけです。電車の中で、指で膣を触る行為についても同様で、指を挿入しようとすればできる状況だったけれども、何らかの理由でできなかったという場合に、それが強制性交等罪の未遂罪なのか、あるいは強制わいせつ罪にとどまるのかといった問題も生じてきます。法秩序が混乱するのではないか、運用面でも難しいのではないかということを懸念しています。   以上の三点から、どこかで線引きをしないといけないということを考えますと、現行法が、体内への侵襲行為ではなく、性器を挿入する、若しくは挿入させる行為を強制性交等罪にしたということは、一定の線引きとして合理性があるのではないかと考えます。 ○小西委員 今おっしゃった性的な規範というのは、一方的に男性の立場から作られていて、例えば、今、加害者の行為とおっしゃいましたけれども、大したことではないだろうとか、実は喜んでいるのではないかとか、そういうところに基づいて作られてきた法律そのものの規範というのは、やはり疑って掛からなくてはいけないのではないかと思います。   国際調査などでも、日本は回答者数が少なくて採られておりません。日本、韓国、中国というのは、割と同じ形の反応なのですが、なぜ採られていないかといいますと、大体、被害者の調査で性犯罪を扱い、世帯単位で調査を採ると、まず、被害があったという回答者数がすごく下がってしまいます。   それから、もう一つ、ほかの被害と一緒にやると、それだけでも回答者数がすごく下がってしまうのですね。それくらい人に言いたくないものだというように、日本の人は思っている。しかし、国際調査の中で、欧米の人たちは、そうであるにもかかわらず、かなり答えているというところがあります。   何が言いたいかというと、多分、実際の被害率というのは、日本とアメリカでは半分ぐらいの違いがあるのですけれども、回答する人は、日本はゼロで、アメリカはその何十倍も答えるわけですね。そういう社会の差があって、女性だけではなく、性的な被害というものがきちんと扱われていない社会だということは、是非考えていただかなくてはいけない。今の規範でどうなのかということも、当然必要なことですけれども、新しくそういうことを考えていくにはどうすればいいかと考えていただけたらなと思います。 ○佐藤(拓)幹事 陰茎以外の異物挿入に関する被害の実態について様々な御発言があり、それらの御意見については深刻に受け止めるべきであると考えておりますが、他方で、なめる行為と挿入行為との区別・比較の話ですとか、また、異物といっても様々な形状・大きさのものがあるということも、やはり否定できないところであります。現行法は、性交・肛門性交・口腔性交を強制性交等罪の対象とし、懲役5年以上というかなり重い法定刑で処罰することとしておりますので、そういうものと同等に扱うということに合理的理由があるのかどうかということについては、丁寧に考えていかなくてはならないだろうというのがございます。   その上で、先ほど佐藤陽子幹事が二つの案を提示されておられたかと思うのですけれども、そのうち、身体の一部や物を膣・肛門に挿入する行為を更に絞り込んで、手指や性具の挿入に限定するという案は、そのような限定を掛けることによって、現行の刑法177条に匹敵するものを刑法176条から拾い上げ、それを刑法177条に入れていこうというような考え方かと思いますが、性具という言葉には、様々なものがそこに入り得るかと思いますので、文言の明確性という観点、つまり、処罰の外延の明確性という観点から問題はないかということは検討する必要があると思います。   他方で、対象行為を広くとって、その代わり、刑法176条と刑法177条の中間類型を作るといった妥協案もあるかと思うのですけれども、そうした場合に、中間的な重さの法定刑にする理論的根拠を詰めていく必要があるかと思います。 ○小島委員 電車の中の痴漢行為について、金杉幹事がおっしゃった件について確認なのですけれども、一般的に、痴漢というのは、言葉のイメージとしては、着衣の上から触ったりするというイメージなのですが、金杉幹事がお出しになった事例というのは、電車の中で、例えば、膣とか肛門に指を入れられた場合という例なのでしょうか。 ○金杉幹事 はい、おっしゃるとおりです。 ○小島委員 そうすると、電車の中で、膣とか肛門にいきなり指を入れられた場合について、今の強制性交等罪と同様の被害とは言えないという御主張ですね。   私は、膣とか肛門の中に身体の一部や物を入れる行為は、強制性交等罪と同じように考えていいのではないかと思います。膣とか肛門に身体の一部や物を挿入されるということは、強制性交等罪と同じような身体への侵襲性があると思っており、被害が大きいと思うので、強制性交等罪と同様に処罰していいと思います。電車の中で、皆の面前で被害に遭った場合は、苦痛が大きいと思います。 ○齋藤委員 男性器を挿入された方にとって、指を挿入された被害と同じだと言われることは苦痛だという御意見もあったかと思うのですけれども、私が言っているのは、性暴力に関して、社会の捉え方自体が今までとても軽くて、性交という言葉を使っていたからかどうかは分かりませんけれども、異物の挿入であるとか、体の一部の挿入というのが大変軽視されてきたと思いますし、今のいろいろな委員・幹事の御発言を聞いていても、やはりすごく軽視されているのだという感覚を抱いております。   そうではなくて、それがすごく苦痛を与える行為なのだ、そもそも大変苦痛を与える行為だったのだということの認識を持っていただきたいと思っていますし、行為規範に関して、小西委員もおっしゃっていましたが、そもそも電車の中で膣に指を入れる行為は少なくないのですけれども、それが行為規範として軽いと思われていること自体がすごく問題ではないかと考えております。 ○山本委員 一つは、医療者が医療行為と偽って性加害をするという状況を、きちんと捉えてほしいということがあります。もちろん、正当な業務として行っている人がほとんどですけれども、そうでない場合に、なかなか訴えづらく、司法の中で適切に取り扱ってもらっていないという現状があります。   あと、私の理解であるので、少し解釈と合わないのかもしれないのですけれども、わいせつと言われることに関しては違和感があります。それも、先ほどから齋藤委員が言われているように、性交というイメージにも引きずられているのかとも思うのですけれども、被害者にとっては、性的暴行という侵襲であって、性的な暴力であり、そういうわいせつな行為ということとは、余り関係がないような気がするのですね。身体の一部又は物を挿入する行為を更に限定すべきというお話も出ましたけれども、それも、性交というイメージに引きずられていて、被害者にとって被害の本質は侵襲であり、セックスではないということを、余り理解していただけていないのかなとも思っています。   また、繰り返し、法定刑の下限が5年の懲役であることは重いと言われていますけれども、強盗罪の法定刑の下限が5年の懲役で、強制性交等罪の法定刑の下限が5年で、物や男性器以外の指や身体とかの挿入とかを強制性交等罪の対象とすると法定刑の下限が変わってくるとか変わってこないといった議論がされていますけれども、私たちにとっては、性的な侵襲であるということ自体で同じ被害と捉えますので、法定刑の下限が5年の懲役であることが重いということは全くないと思っています。 ○小島委員 性交という言葉を使っていることが、やはり問題なのではないかと思います。性交ではなくて、性的挿入とか、議題にありましたわいせつな挿入行為とか、そういうもっとぴったりな文言を、強制性交等罪の実態に合わせて考えていくことが必要ではないかと思います。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   時間もまいりましたので、この「第一の四」についての議論はここまでとさせていただきたいと思います。   ここでの問題は、現行の刑法176条から切り出して、より法定刑の重い罪の対象とするわいせつな挿入行為とはどういうものであるべきかということだったかと思います。   そのように切り出すことに、そもそも反対の御意見もありましたし、また、現行法が、基本類型を強制わいせつ罪とし、重く処罰すべき類型を強制性交等罪としており、そのように二つの類型に分けていること自体も問題だという御意見もありましたが、被害者に与えるダメージを考えれば、膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為は、重く処罰すべき類型に入れるべき対象になるのではないかという御意見が、複数の委員・幹事から有力に主張されたと思われます。   他方で、それに対する言わばもう一つの案として、対象となる行為を性交等に厳密に匹敵するものに限定すべきであるという観点から、膣又は肛門に手指又は性具を挿入する行為という形で文言を限定し、こうした侵害性の強い行為に限って重い類型に加えるという考え方もあり得るという御意見もありました。   その上で、刑法176条から切り出したわいせつな挿入行為をどのように扱うかについては、全て強制性交等罪の対象とするという御意見が、多くの委員・幹事から出されたと思われますけれども、それに対しては、広く対象となる行為を切り出すのであれば、一律に法定刑の重い類型とするのは問題であり、むしろ、強制性交等罪より法定刑の下限の軽い類型を作ること、又は強制性交等罪より軽く強制わいせつ罪よりも重い法定刑の中間類型を設けることも検討対象となるのではないかという御意見もありました。   そうした御意見について、それぞれ幾つかの可能性があると思うのですけれども、処罰範囲の設定に合理性があるかどうか、また、規定の明確性が十分に実現されているかどうか、それぞれの類型、つまり、重い類型、軽い類型、場合によっては中間類型による処罰範囲が相互に合理的に切り分けられているかどうか等が検討課題となるという御指摘があったように思われます。   膣・肛門に挿入する行為のほかに、口腔に身体の一部や物、例えば、性具を挿入する行為についてどう考えるべきかという問題や、加害者が自分の膣・肛門に被害者の身体の一部や被害者の持つ物を挿入させる行為についてどう考えるかという問題もあるわけですが、挿入先が口腔である場合は、挿入先が膣又は肛門である場合との比較で、一般的・類型的には相当に違いがあるのではないかという御意見が出されました。   また、挿入する行為と挿入させる行為というのは、性的な接触を強いられる侵害の程度に違いがあるのではないかという御意見があり、他方で、特に舌については別なのではないかという御意見もあり、これらの点については、確かに重要な検討課題となるだろうと思われます。   これらの御意見・御指摘は、今後この部会における検討と意見集約のための有力な手掛かりとなるだろうと思われます。そこで、事務当局におかれましては、本日の議論を踏まえて、二巡目の議論のためのたたき台となる資料を作っていただくことをお願いしたいと思います。こういう形で進めるということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。   次に、諮問事項の「第一の五 配偶者間において刑法第百七十七条の罪等が成立することを明確化すること」について、御議論いただきたいと思います。   御意見のある方は、挙手の上、又は挙手ボタンを押された上で、御発言お願いいたします。15分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 本日配布された資料9の目次には載っているのですけれども、配偶者からの暴力の被害経験についての令和2年度の内閣府調査によると、嫌がっているのに性的な行為を強要される、見たくないポルノ映像等を見させられる、避妊に協力しないなどの性的強要は、女性が8.6%、男性が1.3%との報告でした。そのうち、どのくらいが強制性交等罪に当たるものであって、被害として届けられているのかは不明ですけれども、加害者が配偶者又はパートナーである被害については、取扱いとしてはかなり少ないのが現状だと思います。   性的なことは語りにくいので、親密なパートナーからの被害相談でも、一番最後に出てくるのがDVの中で行われた性被害です。DVは、深刻な暴力や殺害につながることもあるセンシティブな被害だということは御存じのとおりだと思います。ただ、配偶者間又はパートナー間では、日常的な支配関係の中で性行為を強いられるので、明らかな暴行や脅迫がないことも多く、立件が難しいという状況もあります。今回の法改正により、そういう親密な関係での暴力を、例示列挙や包括的要件によって正しく捉えてもらえればと思います。   また、配偶者・パートナーからの性暴力を大したことでないかのように扱う現状も、是正してほしいと思います。性犯罪に関する刑事法検討会でもお伝えしたと思いますが、WHO(世界保健機関)の調査で、パートナーから性的・身体的暴力を受けたことのある女性の鬱病発症率は2倍、パートナー以外からの性暴力を受けた女性の鬱病発症率は2.3倍と、ほぼ変わらないことが明らかになっています。それでも、配偶者・パートナーからの性行為には応じるべき、我慢すべきという社会通念がまだまだあるし、配偶者・パートナーから性暴力を受けた被害者も、司法機関に通報してよいと思っていない現状があります。配偶者・パートナーであっても、性犯罪の成立範囲が限定されることはないという広報・啓発とともに、今後、司法関係者への研修も行ってほしいと思います。   今回の法改正の議論においては、婚姻関係の有無にかかわらずという文言を入れて、婚姻関係にある場合だけではなく、恋人、同棲しているパートナー、性的マイノリティー同士のパートナーについても、性犯罪の成立範囲が限定されることがないようにしてほしいと思います。 ○小島委員 配偶者間の身体的暴力や性的暴力、脅迫についての警察への相談件数は令和2年で8万2,000件余りです。配偶者間の暴力事案に関する全ての犯罪についての検挙件数は8,700件、そのうち、強制性交等罪の検挙件数はわずかに10件です。ほとんど検挙されていません。被害者自身が、夫婦の間で強制性交等罪が成立するのだという認識を持っておりません。被害申告をするなどということも考えていません。このような状況にある中で、配偶者の間であっても犯罪が成立するということを刑法に明記していただくというのが必要だと思います。   具体的な条文の作り方については、夫婦であることによって、性交要求権があるなどということが言われるので、そこが壁だというところに焦点を当てるならば、客体の「者」というところの後に括弧書で、婚姻関係にある者を含むというような規定を設けることが考えられます。先ほど、山本委員がおっしゃったように、LGBTとか事実婚パートナーも取り込むことということを考えるのであれば、被害者の「者」の後に、括弧書で、婚姻関係にあるか否かにかかわらないとか、婚姻関係の有無にかかわらずというような規定を設けることもできると思います。 ○木村委員 私も、今、お二人の委員から出た意見と結論としてはほとんど同じなのですが、特に、国連等から繰り返し指摘されていて、政府もそれに一応は応えてはいるのですけれども、条文が整っていないために、なかなか説得的になっていないという状況なのではないかと思います。少なくとも、そのような批判が出ることがないようにする必要があると思いますので、条文で明確化した方がいいのではないかと思います。   その場合の規定ぶりなのですけれども、山本委員や小島委員がおっしゃった婚姻関係の有無にかかわらずといったようなものであれば、特に同棲であるとか同居であるとか、そのような方たちを排除することにはならないので、そのような文言でもよろしいのではないかと思いました。 ○齋藤委員 夫婦間での性暴力が性暴力と認識されてこなかったという問題に端を発しているのは承知しているのですが、いろいろおっしゃられているように、法律上の婚姻関係を現状では結ぶことができないパートナー関係の中でも同様の問題が起きているので、そうした親密な関係性における暴力をないものにするような書き方は避けていただきたいと考えております。婚姻関係の有無にかかわらずという言葉は、婚姻関係があろうとなかろうとということなので、親密な関係性における暴力がないものにはされていないのかと思いますが、丁寧に意図を説明していただきたいと思っております。   ただ、そういう文言が設けられても、私が関わったり聞かせていただく事例だと、明らかに暴力の影響で相手に迎合的な反応をしているような、これ以上怒らせないように自分の安全を守るために行っているような言動であるにもかかわらず、それが司法の中で適切に捉えられないといったことも多く見られるので、そういった親密な関係性における暴力に直面したときの人の心理に関する研修というのも、検討していただきたいと思っております。 ○嶋矢幹事 これまでの各委員の御意見と性犯罪に関する刑事法検討会の議論を踏まえますと、検討の方向性としては、先ほど小島委員の御批判にありましたとおり、学説上、配偶者間における性犯罪の成立を限定的に解するような見解がなお存すると思われることに鑑み、婚姻関係という法律上の関係を根拠として、それゆえに生じる法律解釈上の疑義を払拭するために、確認的に規定するということは考えられるかと思います。具体的には、既に、各委員の御意見の中にもありましたし、かつ、性犯罪に関する刑事法検討会でも述べられておりましたとおり、婚姻関係の有無にかかわらず、強制性交等罪が成立することを確認的に規定するということがあるかと思います。それによって、法律上の疑義を排するということです。   他方で、婚姻関係以外の関係にある人に関しても、区別することなく規定することへの要望書が提出されていると思われます。   このような関係は、法律上の関係にある婚姻関係とは異なり、先ほど述べたような、法律解釈上の疑義は必ずしも生じないとも思われますが、もし、それらも含めて規定するといたしますと、婚姻関係以外の関係も含めて、一定の関係を切り出し、その有無にかかわらず、強制性交等罪が成立することを確認的に規定するということが考えられるかと思います。   検討に当たっては、そのような確認的な規定を設けることによって、行為者と相手方が条文上規定されている関係以外の関係にあるときに、犯罪の成否にどのように影響が及ぶのかといった点を含め、規定を置くこととした場合にどのような問題があるかということを検討する必要があるものと思われました。   また、先ほど民法上の夫婦間の権利に関する話が出てまいりましたが、特定の関係をもって性犯罪の成否に何らかの疑義が生じるとして、それが、法律解釈上の問題なのか、同意の有無といった事実認定上の問題であるのかというのを整理し、そのような関係にかかわらずということを法律に確認的に規定する趣旨や効果をどのように考えるのかが問題になるものと思われました。   特に、婚姻以外の関係にも広げて、一定の関係にかかわらずという規定をする場合には、二つの検討すべきことがあり、一つは、婚姻以外にも様々な親密な関係がある中で、どのような根拠・基準に基づいて、どのような関係を対象とするかという点、もう一つは、規定の対象とする関係を明確に規定することができるかという点であり、それらの観点からも検討を行う必要があるように思われました。 ○佐藤(拓)幹事 確認規定を入れることには賛成という前提でお話ししますと、確認規定の検討に当たっては、婚姻関係の有無にかかわらずという形にするといった方向性と、それ以外の関係も含めた一定の関係という形にするといった方向性の二つの考え方が、今、示されたかと思うのですけれども、いずれにしましても、確認規定を置く趣旨を踏まえて検討しなくてはならないと思っております。   例えば、先ほど来御指摘がありますように、婚姻関係の有無にかかわらずといった確認規定を置く趣旨が、民法上の考え方とも関係して、犯罪の成否について解釈上の疑義が生じ得るので、これを払拭する趣旨だと考えるのであれば、様々な性犯罪規定がありますけれども、そのうち被害者が18歳未満のものについては、今年の4月1日から婚姻適齢が男女ともに18歳以上になることとの関係で、条文に確認規定を置く必要がなくなるのではないかとか、そういった立法技術的な問題はあるかと思いますので、具体的な規定ぶりを検討するときには整理が必要だと考えます。   もう一つ、立法技術的な話になって恐縮なのですけれども、具体的な規定の設け方については、個々の条文に一つ一つ確認的な文言を置くのか、それとも、独立の条文として一括してそういう趣旨を明らかにするものを置くのかという二つの考え方があり得るかと思いますので、この点についても、検討する必要があると思いました。 ○長谷川幹事 今、最後におっしゃった規定の書きぶりというか、置き方なのですが、皆さんは、婚姻関係の有無にかかわらずというような規定の書きぶりをおっしゃっているのですけれども、疑義を払拭するということを端的に表現するのであれば、私は、婚姻関係にあることが犯罪の成立を妨げないといった表現はあり得るのではないかと思っています。第何条何項の規定はとか、第何条の規定はというように対象となる規定をまとめた上、当事者間が婚姻関係にあることは犯罪の成立を妨げないというような形の規定ぶりもあるのではないかと思っています。   そうすることによって、親密な関係を排除しているわけでもないということも示すことができるのではないかと思います。 ○宮田委員 この議論については、性犯罪に関する刑事法検討会では、確認的な規定を置くというコンセンサスが得られていたところかと思います。   若干、今までの議論と外れるかもしれませんが、三点述べます。   家族間の問題については、ここでは夫婦間の問題についてですけれども、客観的証拠がなかなか得られないという難しい問題があります。客観的証拠がない中での事実認定の難しさがあれば、捜査を開始できない、起訴できない、無罪となり得るということについても、ここでの議論の中でコンセンサスを得ておくべきではないかと思います。   二点目ですが、こういう規定を置くことで、警察が張り切りすぎると言うと、警察の委員の方に怒られるのかもしれませんが、児童虐待やDVの検挙件数は、犯罪白書などを見ると、平成25年と、児童福祉法が改正された平成28年とで、児童虐待については、傷害は2.2倍ぐらい、暴行は3.6倍ぐらいに、また、DVについては、傷害は1.5倍ぐらい、暴行は2.5倍ぐらいに、件数が増えています。夫婦間での処罰が必要な案件もありますが、過剰な介入が起きるとすれば問題です。また、DVで逮捕されたということと、強制性交等で逮捕されたということとでは、社会に与えるインパクトは全く異なります。夫婦間であっても強制性交等罪が成立するという確認的な規定を置くこととなったとき、逮捕したときのマスコミの発表などを含めた運用についても、十分に考えて慎重な対応をする必要があるのではないかなと考えました。   三点目ですが、先ほど、佐藤拓磨幹事がおっしゃったように、個々の条文に一つ一つ確認的な規定を置くのか、それとも、一括してその趣旨を表現する条文を設けるのかというのは、とても大事なことで、強制性交等罪について確認的な規定を置くことについての議論は随分していたかと思うのですが、強制わいせつ罪についても確認的な規定を置くとすると、夫婦だったら勘違いがあるような行為等が随分出てきてしまうのではないかと感じました。その点についての議論が、更に必要なのではないかと感じました。 ○井田部会長 諮問の文言は、「刑法第百七十七条の罪等が」と書かれていますので、強制性交等罪に限定される趣旨ではないと思われます。また、実態については、宮田委員のおっしゃるとおりの面があると思われます。   ほかにございますか。時間もまいりましたので、「第一の五」についての議論はここまでとさせていただきたいと思います。   本日の議論を伺っておりますと、配偶者間において強制性交等罪等の罪が成立することを規定上明確にすることについては、特に反対の意見はなかったように思われます。   そのための確認規定の在り方については、例えば、婚姻関係の有無にかかわらずといった文言とすることが考えられるのではないかといった御意見が多く出されたところでありますけれども、具体的な規定ぶりをどのようにするか、また、性犯罪処罰規定のどの規定について、その確認規定が必要なのかということ等については、詰めて議論する必要があり、検討課題となろうという御指摘がありました。こういったことを踏まえて、二巡目の議論のたたき台となるような資料を作っていただくことを、事務当局にお願いしたいと思います。それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、開会からかなり時間も経過しましたので、10分ほど休憩にしたいと思います。再開は午後3時としたいと思います。よろしくお願いします。              (休     憩) ○井田部会長 それでは、会議を再開いたします。   次に、「第一の六 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること」について御議論いただきたいと思います。   御意見のある方は、挙手の上、あるいは挙手ボタンを押すなどしていただいた上、御発言をお願いします。45分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 まず、グルーミング罪を議論に入れてくれたことへの感謝を述べたいと思います。メディアの報道も増えていますし、心理操作によって手なずけて性加害をする行為があることが、広く知られる機会が与えられたと思います。   次に、グルーミング被害の実態と被害者が希望する法規制についてお話しさせていただきます。   グルーミングをされて性被害を受けた人たちに対して、どの段階で介入し、阻止してほしかったかを聞きました。一番多かったのは、そもそも最初から加害者と出会いたくなかった、接触してほしくなかったというものです。次に多かったのが、やり取りを重ねて心を持っていかれる前に止めてほしかったというものです。心を持っていかれる前というのは、相手の言いなりにならざるを得ない状況に置かれる前にという意味であるとのことでした。   オンラインでもリアルでも、知り合っていく過程においてコミュニケーションを重ねる中で、信頼関係が構築されるように加害者は仕向けます。被害者は、加害者が話を聞いて慰めてくれたり、励ましてくれる中で、最初は不審に思っても、徐々に信頼していくようになるし、それが進むと、相手から要求されることに対して、疑いの気持ちを抱くことに罪悪感を抱くようになるとのことでした。ここまで話を聞いてもらったり、自分のことを気に掛けてくれた人に疑いの気持ちを持つなんて恩知らずだと感じるようになり、本当は心のどこかで違和感を抱いている部分があったこともあるけれども、そのようなはずはないと自分に言い聞かせてしまう。そうなると、もうほかの人に相談することが裏切り行為のように思えて、相談することができなかったということです。   また、偽りの信頼関係を構築される過程で、加害者から被害者の身近な人たちに対する社会的な切離しも行われています。例えば、親に叱られたタイミングで、お母さんは本当は君のことを考えていないよと言われたり、本当に君のことを友達だと思っているなら、君を嫌な目に遭わせないのではないの、僕だったらしないよと言い切られて、親や学校の友人などの身近な人は自分のことを思ってくれていないのではないかと不安な気持ちにさせられ、自分のことを本当に考えてくれるのは加害者だけだと思うようになる。そうなると、加害者に依存するようになってしまいます。そして、二人で会うように仕向けられ、加害者の部屋や車などの密室に誘い込まれて、いきなり性行為を始められたという人が多かったです。そうなると、加害者から言われて、これは恋愛だと思い込むようになったり、自分が悪かったと責めるようになり、ますます誰にも打ち明けられなくなります。   全てが仕組まれたプロセスだったということが分かるのは、性加害が行われた後に、加害者から離れることができて、何年も、時には何十年もたって、安全な環境で落ち着いて暮らせるようになり、似たような被害に遭った人の話を、ニュースや何かで聞いた後のことが多いです。だから、本当に初期の段階で取り締まってほしいということを、強く望まれていました。   ただ、性犯罪に関する刑事法検討会で佐藤陽子幹事より御説明いただきましたが、ドイツの規定などでは、グルーミングの初期の段階で犯罪が成立し得るけれども、そうした規定は、行為者がオンライン上で子供だと思ってグルーミングしているつもりで実は大人を相手にそうした行為をしていたという場合にも未遂犯として処罰するという規定がないと、実効性のあるものにはならないと伺っています。実効性のある処罰規定にするためには、どういう規定にするのが適切なのかは御議論いただければと思いますが、このような子供への性的目的での働き掛けを処罰する規定も設けられるべきだと思います。それは、このコロナ禍において、オンライン空間でのコミュニケーションが急速に拡大し、オンライングルーミングが世界的に問題になっていることも関係しています。AIによる自動翻訳技術も進んでいますので、どのような言語であっても翻訳することができるようになって、海外で行われているように、他国の加害者が自国の被害者にオンラインで接触する、あるいは、自国の加害者が他国の被害者に接触するといった被害事例も増えてくると思います。成人でも子供でも起こり得ることですが、18歳未満の方については、このような手なずけ行為、グルーミングから確実に保護することを求めます。   オンラインに関してもう一つ言い添えますと、加害者の行為として多いのが、性的画像や動画の送り付けです。自分の勃起した男性器の写真や自慰行為の動画などのポルノ画像をダイレクトメッセージなどの閉ざされたチャット空間の中で子供に送り付けています。サイバー露出と呼ばれ、送り付けられた人はとてもショックを受けますけれども、これを処罰する規定は、青少年健全育成条例や迷惑防止条例ぐらいしかない上、迷惑防止条例違反となるかどうかは、そうしたわいせつな画像を送り付ける目的や反復性が認められるかどうかなどによるとのことで、一律に常に犯罪が成立するわけではないということです。わいせつな画像を送り付ける行為も規制の対象にすべきだと思います。   グルーミング罪については、早くから取り締まってほしいという希望がありますが、それが難しい場合でも最終段階では、性加害が行われる前に捕まえられるようにしてほしいと思います。性加害が行われてからでは遅いので、性的行為を目的として車やホテルの部屋などの鍵の掛かる密室に誘うことを禁止される行為として規定することで、もし被害を受ける人たちを守ることができるのならば、そのような規定にしてほしいと思います。 ○小島委員 グルーミングについては、それをきっかけに子供が深刻な性被害を受けているので、処罰規定を設けなければいけないという立場です。   まず、グルーミングを処罰する根拠としては、二つの視点があるのではないかと思います。一つは、強盗罪に予備罪があるのに、強制性交等罪にはないのはどうしてかということです。つまり、強制性交等罪にも予備罪があってしかるべきだと思います。ただし、強制性交等罪の予備罪を作る場合は、被害者が未成年者であるかどうかは問わないし、法定刑も強盗予備罪の法定刑が2年以下の懲役であることとの関係で、結構軽くなります。もう一つは、グルーミング自体が強制性交等罪の予備にとどまらず、児童に対して特別の危険を及ぼす行為だから、それ自体に一定の侵害性があるとして、児童に特化した保護規定として規定を設けるということです。児童は心身の発達が未熟であって、犯罪を回避する能力が低いという児童の特性が前面に出てきます。   私としては、二つ目の視点が重要だと考えております。一つ目の視点は、最終的に会って性交に持ち込むということに着眼して、予備罪のように、その前段階を捕まえるということです。すなわち、エスカレートする危険を捕まえるということだと思いますが、二つ目の視点は、重大犯罪につながらなくても、グルーミングそれ自体が児童の健全育成を害するということです。そういう意味では、ストーカー行為等の規制等に関する法律によるストーカー行為の規制に似ていると思います。   そして、条文の骨子としては、中核的な性犯罪の危険性と性的目的を持った接触自体が有害だということの両面から作っていくことが必要だと思います。例えば、ホテルに誘うとか、家とかカラオケボックスなど密室に誘い込む行為などについて、強制性交等罪が立証できない場合もございます。結果的に性的行為を行っている場合については、言わば強制性交等罪の予備罪のような類型が設けられないかと。それから、先ほど山本委員がおっしゃっていた、ウェブを利用して自分のポルノ写真や自慰行為の動画などの性的画像を送り付ける行為というのは、強制わいせつ罪や児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反の罪としては捕捉できないものもあります。SNSなどの閉じた空間では、公然わいせつ罪にも当たらないと思われます。性的意図を持って子供に接触すること自体が有害だとして、これを類型化できないかと思います。   奈良県子どもを犯罪の被害から守る条例があります。これに対しては、罪刑法定主義の観点からいろいろ批判もあるところですが、どういう項目が挙げられているかという点で、条文を作る際の参考になるのではないかと思います。例えば、客体、つまり、子供の年齢、場所、つまり、公共の場所なのか、それとも密室なのか、行為態様や、違法性阻却事由の関係、正当な理由があるかどうか、主観的要件、つまり、目的を入れるかどうかなどといった項目が考えられると思います。具体的な条文までは提案できませんが、以上のようなことを考慮して、条文を作っていただきたいと思います。 ○木村委員 先ほどの山本委員、小島委員のお話や当部会第2回会議におけるヒアリングでの御指摘を伺いますと、やはりネット上のやり取りの危険性は非常に大きいのではないかと思っております。今、小島委員からの御指摘にありましたけれども、最終的には強制性交等の甚大な被害につながってしまうというおそれがあるので、法益侵害の重大性に鑑み、一定程度早めの段階で対策を講じる必要があるのではないかと思います。   今、予備罪のお話が出たのですけれども、予備罪にはあらゆる手段が入りますので、そこまで一度に広げてしまうのは、ちょっと難しいかなとは思っております。資料を拝見すると、海外に参考になる条文はあるようなのですけれども、我が国でも全く手掛かりがないわけではなくて、青少年保護育成条例等で自画撮りの要求規制があります。平成29年に東京都が規制したのが最初だと思うのですけれども、要求行為自体に罰則を掛ける規定を設けたと思います。その後、私もきちんとフォローしていないのですけれども、かなりの割合で、他県の条例に同様の要求行為自体を処罰する規定が設けられているようです。   これは、元々グルーミングとはちょっと筋が違って、児童ポルノの関係の議論なのかとは思うのですけれども、例えば、先ほどお話があったように、特定の場所に呼び出すといった行為に限定する、あるいは、東京都などの条例では、断ったにもかかわらず要求するとか、あるいは威迫や欺罔といった手段を用いて要求するという行為に限定しているところが多いと思いますけれども、そうした限定を掛けた上で、ある程度結果に結び付きやすいような行為を特定するという形で立法化することはあり得るのではないかと思います。特に、今申し上げたような条例は、既にかなりの県で作られているので、もうそろそろ法律として吸い上げなければいけないような段階になっているのではないかと思います。 ○長谷川幹事 私も、グルーミングについて処罰する規定が必要だと思います。当部会第2回会議におけるヒアリングでもお話があった、若年児童の性的搾取や不適切な性的行為の将来にわたる悪影響の深刻さに照らせば、手なずけ行為により獲得した未成年者の信頼その他の関係を利用して性交等を行うという行為には、刑罰をもって対処することが必要であると考えます。また、性的搾取や不適切な性的行為の結果が発生してからでは遅いというのは、皆さんと同じ認識です。そういう意味で、性交等やわいせつ行為の前の段階での処罰が必要だということを考えています。   あと、グルーミング行為の結果、加害者が暴行・脅迫等の手段を用いなくても性交等やわいせつ行為を行い得る状態になることから、そこを処罰対象とする、つまり、グルーミング行為の結果として行われた性交等やわいせつな行為を処罰するということも必要だと思います。   どのような行為を処罰する必要があるのかについては、一般論としては、予備的な行為、例えば、手なずけ行為やグルーミング行為と、性的搾取の危険が現実化する段階の行為、そして、先ほど言ったグルーミング行為の結果の性交等やわいせつな行為それ自体が考えられます。グルーミング行為の結果としての性交等やわいせつな行為は、手段の卑劣さから重い処罰に値すると考えているのですが、刑法176条、177条が要件とする手段や状態がなくても加害者はやすやすと性交等やわいせつ行為を行い得ることから、結果としての性交等やわいせつな行為が刑法176条、177条等では処罰できない場合があり得るので、その場合の受皿となる処罰規定が必要だと思います。   規定の作り方、条文のイメージですが、刑法犯のように、構成要件と法定刑という形でグルーミング行為の定義と法定刑を定めるというのもあり得ると思うのですが、いろいろな行為態様があり、行為によって法定刑の重さも変えた方がいい場合もあり得ることを考えると、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律やストーカー行為等の規制等に関する法律のように、グルーミング行為の定義規定と禁止規定を置いた上で、それに対する罰則を設けるという形で規定することもあり得るのではないかと思います。長所としては、いろいろな態様を書き込めるし、規制の強弱を付けやすいということです。   罰則の定め方としては、グルーミング行為自体が禁止されて、処罰対象となる類型、グルーミング行為に加えて何かプラスアルファの行為があって初めて処罰対象となる類型、それから加重類型として、今言った二つの類型に該当した者が対象者と性交等やわいせつな行為をした場合に処罰対象となる類型というような定め方があり得るのではないかなと考えています。   グルーミング行為というのは、それ自体では性的な意味合いを持たないものもあるものですから、問題とならない未成年者と大人の交流まで処罰することにならないような限界付けというのも意識しなければいけないと思っています。グルーミング行為としてどういった類型を挙げるのかということについては、まだしっかりと煮詰められていないのですが、まず、手なずけ行為の態様としては、リアルでの対面もあれば、電話、ビデオ通話などでの対話・対面、ネット上のSNS、チャット、出会い系サイト、ゲームアプリなどでの文字上の対話というのもあり得るところかと思います。   加害者との関係性としては、匿名や仮名のものと実名のもの、日常生活を送る中で接触し得る人であって、直接面会して知り合った関係性のものと、日常生活を送る中で通常接触しない人であって、ネットなどを介して知り合った関係性のものなどの分類があるのかなと思います。   それから、想定される加害者の年齢ですが、高い年齢の者による加害が想定されがちなのですが、当部会第2回会議におけるヒアリングで、ぱっぷすがNHKと行った調査では、性的目的でメッセージを送ってくる者の中には10代の者がいるということであったので、想定される加害者の年齢は中高年齢層には限らないなと思っています。   規制対象として検討すべき行為としては、行為自体に性的な意味合いがあるものと、行為自体には性的な意味合いはないが、性的目的を果たすための手段として、未成年者に近づくための手段として利用されることが多い行為というのがあると思います。後者については、それだけでは、問題のない交流との区別が難しいので、検討の対象としては、当該行為をした者が性的目的を持って行う次の段階の行為を処罰の対象とするとか、性的目的が具体化する次の段階の行為を処罰の対象とするといった二つの例があるかなと思います。   あと、具体例ですが、ネット上のグルーミング行為は整理がしやすくて、行為自体に性的な意味合いがあるものとしては、加害者のもの、対象者のもの、それから他人のものを含む性的画像を送り付けるとか送らせる。その中には、自分の性的画像を撮影するように仕向けるだとか、互いの画像と音声をリアルタイムで相互に送受信できるようなサービスを使った対話の中で、そういった性的画像を見せるように要求するもの、性的なことを話題にするとか、性的な行為に誘うとか、性的な行為を決意させるとか、そのようなものがあるかなと思います。   行為自体に性的な意味はないけれども、危険がかなり高い行為としては、オンライン上で、氏名や年齢、性別、職業、その他の属性を隠して、又は偽って、そのまま未成年者と会うことを約束する場合というのがあると思っています。   行為自体に性的な意味合いはないが、性的目的を果たすための手段として、未成年者に近づくための手段として利用されることがある行為に、悩み相談とか趣味とか勉強を教えるとか、楽器を教えるとか、ゲームをするというようなものが入ってきて、こういったものを手段として近づいてくる者については、なかなか法規制が難しくて悩んでいるところではあります。   性的目的が具体化する次の段階の行為としては、保護者なしに会う約束をする行為であるとか、密室である自宅、カラオケボックス、ホテル、車に誘う行為とか、胸・股などの性的な部位や、太ももなどの性的な部位に近接した部位に軽いタッチをするとか、それ自体は性的な部位ではないけれども、グルーミングや性的接触の前段階として触れられることが多い身体の部位、例えば、肩をもむとか、頭、髪をなでるとかマッサージをするとか、性的意図を隠して、家出少女など訳あって家に帰りたくない未成年者に宿を提供するとか、そういった行為が考えられるのかなと考えています。   今、列挙したものを整理して、どういったものを禁止し、また、処罰対象とするのかとか、グルーミング行為を単独で処罰していいのか、より危険性のある行為があったときに処罰するのかとか、そういった検討が必要だと思います。法定刑については、まだちょっと考えられていません。   最後に、条例の話ですが、例えば、ざくっと条例で対処すればいいではないかという考え方があるかもしれません。ただ、条例での規制というのは、保護の地域格差を生みます。条例全てが内在するものですけれども、ただ、このグルーミングについては、SNSやネットなどの利用によって、県境をまたいで加害者と被害者が存在する場合があり、また、加害者と被害者が実際に会うのはどちらとも関係のない場所であるということもあるので、条例だと適用関係が難しくなって、結局、行為がどこで行われたかによって処罰されないことになってしまうということが起こる懸念もあります。事態の深刻さもありますし、やはりこれは国が法律で対処すべき問題であると考えます。 ○齋藤委員 具体的な話でなく申し訳ないのですが、グルーミングは今までも出ていたとおり、子供に優しい言葉を掛けて、悩みの相談などに乗って、相手の信頼を得るところから始まり、徐々に自分に依存させてスキンシップを増やしたり、性的な写真を送るように求めたりして、車とか家とかカラオケボックスといった密室や人の目のない閉じられた空間に呼び出して性的な接触に及ぶというようなことになります。もちろん、塾の教室とか学校の教室もそうですけれども。ただ、性的な目的で子供に近づくことが悪いのであって、子供の相談に乗ること自体が悪いということではないです。   グルーミングとか手なずけのプロセスは、小島委員がおっしゃるように、それ自体子供に有害な影響をもたらしますが、途中のプロセスでグルーミングか本当の親切かを見極めるというのは、大変に困難なことだと思っています。ただ、性的に嫌な感じがするとか、性的な感じがするということを、被害に遭う前に子供たちが感じていたということも多いです。少なくとも、大人が子供に対して性的な行為を目的として、密室とか閉じられた空間に誘ったり、子供に性的な写真を送るように求めたり、性的な写真を送り付けたりして、性的な会話をする関係性を作り出していくということが処罰対象になれば、子供たちが危険にさらされることが少なくなるのではないかと考えていますので、そのことについて考えていただけると有り難いと思っています。 ○嶋矢幹事 委員・幹事の皆さまの様々な御意見を拝聴させていただいた上で、規定の在り方としてどういったものがあるか考えますと、大きく分けて、三つぐらいの方向性があるように思われました。   性犯罪に関する刑事法検討会の議論を踏まえますと、いわゆるグルーミング行為の処罰規定を設ける場合には、行為者の主観面だけによらず、性犯罪を引き起こす危険性が客観的に認められる行為を処罰対象とするという観点から、一つ目の在り方としては、若年者に対し、わいせつな行為や性交等をすることを要求したり、約束する行為を処罰する案が検討対象として考えられると思われます。これは、性交等の前段階で、必ずしも実行の着手に至っているわけではない、未遂になっていない時点で性的行為の要求や約束が行われることが想定されて、しかし、その段階で、性的被害の危険性は十分に高まっていると認められるため、その点に着目するという案でございます。   他方で、各委員の御指摘にもありましたとおり、性質上できるだけ早い段階での処罰を可能にするという点を重視するということはあり得まして、海外の規定などを参考として、より早期に犯罪成立を可能とする案といたしましては、若年者に対し、わいせつ目的で働き掛けをする行為などを処罰するという案も考えられるところです。ただ、働き掛けには、日常的なものも含めて様々なコミュニケーション行為まで該当するように思われます。この点に関しては、グルーミング行為を処罰する規定を設けることに積極的な委員・幹事からも、問題点として御指摘があったところですけれども、この案は、日常的な様々なコミュニケーション行為までも広く含んでしまい、かつ、性犯罪の実行行為よりも相当前の、いまだ客観的な危険性が乏しい段階で処罰対象になりかねないというところがあります。   そこで、もう少し修正した三つ目の案といたしまして、性犯罪の実行につながる、その少し前の段階をより具体的に捉えるものとして、例えば、わいせつ目的で若年者と会う行為や、その準備行為、例えば、若年者に対し、会うことを要求する行為を処罰する案が考えられるかと思います。密室に誘うなどというのは、これに通ずるところがあるかと感じられたところでもあります。また、長谷川幹事などの御指摘にもありましたとおり、ここでの「会う」には、オンラインでの面談なども含めることを真剣に検討すべきであるように思われました。   もっとも、これらオンラインを含め、会うことや会うことの要求自体というのは、その行為に及んだというだけでは性犯罪を引き起こす客観的危険性が認められるとは直ちに言い難いようにも思われます。そうしますと、この案の検討課題は二つありまして、一つは、わいせつ目的という主観面だけによって可罰性が基礎付けられているということにならないか、法益侵害又はその危険性が客観的にも認められる行為を適切に補足できているかという点。もう一つは、検挙や処罰の実効性という点で、これについても既に御指摘があり、重要なものと思うところですが、自白によらなくても検挙や処罰の実効性が確保できるかという点を検討する必要があると思われました。これは、恐らく二つ目の案にも共通の課題だと思われます。   そういった観点から、この三つ目の案も少し修正するといたしますと、グルーミングの場合には、経験が乏しく判断力に未熟さのある若年者が基本的に対象と考えられ、それを前提に議論をさせていただければと思いますが、そのような若年者に対し、性犯罪を引き起こす危険性が外形的にも高いと言える行為を類型的に捕捉するために、例えば、手段を付加するというようなことが考えられます。より具体的には、既に委員・幹事からいくつか御提案があったところでありますが、うそを言ってだましたり、お金や物をあげるといった利益供与などの意思決定に影響を与えるような手段を用いて会うことを要求し、又は会うに至ったというようなことを要件とする案が考えられるように思われます。   先ほど述べました二つの検討課題を踏まえまして、具体的な要件としてどのようなものが考えられるかを検討する必要があると思われます。いずれの案にいたしましても、具体的な規定にするに当たっては、処罰範囲の外延が明確となるように、かつ、実効性を持つように留意をする必要があると思われるところです。 ○井田部会長 これまでの議論をうまくまとめてくださって、三つの案が考えられるということをおっしゃいました。第一の案は、言わば性犯罪の実行の着手に至る直前のところを捉える考え方ですが、これだと犯罪の成立が少し遅くなりすぎるという問題があり、第二の案は、広く働き掛けまで遡ろうという考え方で、こちらはかなり早期処罰を徹底する形になりますが、それだと少し無限定過ぎるかもしれないといった問題がある。そこで、第三の案は、第一の案と第二の案の中間になるのでしょうか、直接に会う行為やオンラインであればコンタクトを取る行為を補捉する考え方であり、ただ、それもわいせつ目的で会うというだけだと、なお無限定だとすると、もう少し具体的な限定要件を課すことも可能かもしれないということを御指摘くださいました。それぞれ検討課題を持っているとしても、そのような三つの案が考えられるのだろうと、こういう御意見だと思います。 ○佐藤(拓)幹事 今、嶋矢幹事から三つの案が提示されましたし、その前にも条例を手掛かりにして条文作りができるのではないかという議論もあったかと思うのですけれども、いずれにしましても、仮に新たにグルーミング行為を捕捉し得る処罰規定を設けるのであれば、保護法益をどのように考えるのかということを整理する必要があると思います。この点につきましては、先ほど小島委員からいくつかのアイディアの御提示がありましたが、そうしたところを詰めて、条文の設計の際には議論する必要があると思います。   次に、予備罪との関係なのですが、グルーミング行為を処罰する規定を設けるとすれば、強制わいせつ罪や強制性交等罪の準備段階の行為を捕捉するものになると思われます。そうしますと、強制わいせつ罪や強制性交等罪の予備罪を設ける、例えば、「これらの罪を犯す目的で、その予備をした者」というような規定を設けて対応することも可能なのではないか、その是非ということが問題になってくるように思います。この点は、先ほど小島委員からの御発言もあり、選択肢としては三つあり得るかと思いました。一つ目は、強制わいせつ罪や強制性交等罪の予備罪を作って対応すること、二つ目は、そういう規定は設けずに、グルーミング行為の処罰を可能とする独立の規定を設けること、そして、三つ目は、一つ目と二つ目の両方を作ることであり、それぞれの長所、短所を見極めた上で、制度設計をする必要があるのではないかと思います。   さらに、未遂罪との関係もあります。先ほど嶋矢幹事がおっしゃった三つの案のうちの最初の案、つまり、性交等やわいせつな行為の要求や約束を処罰するという案は、部会長のまとめでもありましたけれども、かなり強制性交等罪の実行の着手に近いという印象を受けました。刑法177条を改正するのか、改正されるとするとどういう文言になるのかというのは、現時点では不明ですが、その条文の作り方によっては、性交等やわいせつな行為の要求や約束も、全てとは言いませんが、場合によっては実行の着手に該当するということすらあり得るのではないかと。そうすると、強制性交等罪・強制わいせつ罪の未遂罪とのすみ分けというものも、条文を作る際には考える必要があるかと思います。   最後になりますが、他の罪との関係の整理も必要ではないかと思っておりまして、具体的には、未成年者略取・誘拐罪、あるいは、わいせつ略取・誘拐罪との関係です。仮に若年者に一定の不当な手段を用いて会うことを要求し、そして、実際に会うに至ったことを処罰するという案を採るとしますと、それによって、若年者を自己の事実的支配下に置くことを可能にするという側面があるため、略取・誘拐罪との重複も生じ得るように思いますので、その点の整理も必要かと思います。 ○井田部会長 保護法益、そして、予備罪との関係、あるいは強制わいせつ罪・強制性交等罪の未遂罪との関係、さらには、略取・誘拐罪等との関係、こういったものを検討する必要があるという御趣旨だったと思います。 ○佐藤(陽)幹事 先ほど佐藤拓磨幹事から、仮にグルーミング行為を処罰する規定を設けるならばという話が出ましたので、私も同様の前提で話をさせていただければと思います。   仮にグルーミング行為を処罰する規定を設けることになりますと、具体的な構成要件を検討する際には、十分に考えておかなければいけない点が二点あるように思います。   一点目として、客体となる若年者の年齢や範囲をどう設定するかというところが問題になろうかと思います。「第一の二」で刑法176条後段や刑法177条後段の年齢を引き上げるべきかという検討をしているわけですけれども、この議論と連携させておく必要があろうと思っているところでございます。例えば、刑法176条後段や刑法177条後段は、対象年齢未満の者に対してわいせつな行為又は性交等に及べば常に処罰されるという規定ですけれども、ここで保護される若年者の年齢を、例えば、16歳未満まで引き上げ、他方、グルーミング行為を処罰する規定で保護される若年者の年齢を18歳未満とすると、16歳以上18歳未満については、実際に行われたわいせつな行為又は性交等は犯罪にならず、その前のグルーミング行為だけが犯罪になるという状況が生じ得てしまうことになります。   グルーミング罪を強制わいせつ罪や強制性交等罪の予備罪的な犯罪だと考えると、このような領域が存在することは、あり得ないと考えられます。逆に、このような領域をあえて許すというのであれば、グルーミング行為は、後の犯罪の予備行為ではない、別個の行為だということになりますので、なぜ処罰できるのかという点を十分説明しておかなければならないと思うところでございます。   健全育成という視点もあるかと思いますけれども、後の行為を処罰しないのに、前の行為を処罰するという場合には、やはりただ健全育成という言葉だけでなくて、どうしてその行為が健全育成に悪影響を及ぼすのかということまで、きちんと説明しておく必要があろうと考えています。これは、更に言うと、刑法176条後段や刑法177条後段で、年齢差要件などを用いて、年齢の近い者同士の行為を処罰対象から外す場合には、グルーミング行為を処罰する規定の対象からもこの範囲を同時に外さなければならないし、あるいは、外さずに処罰対象にするのであれば、なぜ処罰するのかの説明責任は当部会が果たさなければならないと思っています。これが一点目でございます。   二点目ですけれども、これは私も悩んでいるのですが、児童から接触してきた場合、例えば、SNS上で児童の側から性的接触を意図してコンタクトを取ってきた場合を処罰範囲に入れるかどうかというのは、検討しておく必要があろうと思います。行為者側が消極的に受け入れているだけのコンタクトであっても、徐々に性被害に近づいているという点は、行為者側が積極的にコンタクトを取っている場合と変わりませんから、予備罪的な視点で考えると処罰対象に入れてもいいのではないかと思うのですが、グルーミング行為にもっと積極的な意味を求めるのであれば、処罰範囲には含めないという理解もあろうかと思います。   これにつきましては、私の意見はまだ決まっていないのですけれども、グルーミング行為を処罰する規定を設けるのであれば、以上のような点について留意して検討する必要があると思うところでございます。 ○井田部会長 被害者となる若年者の年齢とその範囲について、いくつか重要な問題を御指摘いただいたと思います。   そろそろ予定された時間を経過しようとしているのですけれども、ほかに何か御発言はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、「第一の六」についての議論は、この程度とさせていただきたいと思います。   本日の御議論では、もし規定を新設するとしたときには、三つの案が考えられるのではないかという御意見が、嶋矢幹事の方から述べられました。大変参考になるだろうと思うのですけれども、一つ目の案は、行為者の主観だけに頼るのではなくて、性犯罪を引き起こす客観的な危険性がはっきりと認められる段階で初めて処罰するのだという観点から、若年者に対してわいせつな行為や性交等をすることを要求したり、あるいは約束するといったかなり実行の着手に近いところを処罰対象とする案です。   二つ目の案は、より早い時点での犯罪の成立を可能とするという観点から、海外にもそういう規定が見られるわけですが、若年者に対して、およそわいせつの目的で働き掛けをする行為を広く処罰の対象としてはどうかというものです。   三つ目の案は、働き掛けには様々なものがあり、相当に危険性の低いものまで処罰対象になりかねないことから、より具体的な危険性のある行為、例えば、わいせつの目的で若年者と会うとか、若年者に対して会うことを要求する行為などを、処罰の対象とすることが考えられるのではないかとするものであり、この三つ目の案については、それでもなお客観的な危険性が十分に認められないと考えられるのであれば、偽計や利益供与といった手段を用いたことなどの付加的な要件を設けることも考えられるのではないかということでした。こうした三つの案の御提案は、私としては、とても示唆に富むものではないかと思われました。   このように三つの案が考えられるとしても、それぞれについていくつかの検討課題があり、保護法益や処罰の範囲をどのように考えるか、法定刑をどのようなものとするかという問題がありますし、強制わいせつ罪や強制性交等罪の未遂罪との関係、あるいは、それらの罪の予備罪を設けた場合との関係についても考える必要があるという御指摘、それから、未成年者が積極的にアプローチした場合についてどのように考えるかという問題、被害者となる若年者の範囲・年齢をどうするかといった検討課題があるのではないかという御指摘がありました。これらの点は、もし仮に三つの案のどれを採るにしても、それぞれ検討課題となるという御指摘があったところです。   こうした御意見・御指摘は、いずれも今後の部会における検討と意見集約のために非常に有力な手掛かりとなると思われますので、本日の議論を踏まえて、事務当局において、二巡目の議論のたたき台となるような資料を作成するようお願いしたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 次に、「第二の一 より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと」について、御議論いただきたいと思います。御意見のある方は、挙手の上、あるいは挙手ボタンを押すなどしていただいた上、御発言いただきたいと思います。50分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 被害者からの意見として、ディスクロージャー、つまり、被害の開示をすることが被害者にとって困難なことを分かってほしい、そのような困難性があるので、できるだけ長く訴追の機会を確保してほしいというものがありました。   困難性の理由としては、大体三つの理由が挙がっており、一つ目の理由として、解離などにより記憶が失われることの影響があります。性犯罪に関する刑事法検討会でも出されたような、幼い時からの長期・反復的な性被害の影響で、記憶が失われてしまう、解離してしまうこと、又は、複数の加害者からの性加害、暴力的な被害で、思い出すことができず、思い出したときには時効が過ぎているという問題があります。二つ目の理由として、性被害を報告することで、家族や親しい仲間に責められたり排除されたりすることが怖いということと、実際の排除の影響で居場所を失ったり、心身に悪影響が出たりということがあります。そういう社会の偏見や二次被害の影響で訴えることが困難になるということです。三つ目の理由として、自分が性的な暴力の被害者であるということを認めるまでにも、長い時間が掛かるというものです。物のように扱われ、人間としての存在価値が全くなかった、そのときの自分自身を受け止めるまでにも、長い時間が掛かります。事故により手足を失った人が、喪失を受容するのに時間が掛かるのと似ているとも思います。   そういう葛藤を経て司法機関に訴えたときに、時間がたったから訴えられませんというのは不当であるというのは、性犯罪に関する刑事法検討会で申し述べてきたとおりです。しかし、立証できないと取扱いがされないというのも、そのとおりだと思います。ただ、今は、DNAや動画・画像などの証拠があって、加害者が犯行を認めている状態でも、公訴時効によって罪に問えないことがありますので、そのようなDNA、画像、動画などの証拠が得られている場合には、期限なく訴えられるようにしてほしいと思います。   また、性犯罪に関する刑事法検討会でも、30歳前後にならないと、一人ではなかなか被害を認識できないという意見が出ました。私自身が接する方たちも、多くは30歳前後、30代前半ぐらいのときに、ようやく自分の被害を周りの人に打ち明けたり、私のような被害経験を公表している者に接触して相談したりするということがあります。そのように、開示が初めて行われた後も、またしゅん巡して、被害者支援センターやカウンセラーなどに相談をし、そこでケアを受けてある程度回復しないと、司法機関に訴えることは非常に難しいです。私たちの希望としては、30歳で被害を認識し、その後、司法機関に訴えられるようになるまでにも時間が必要なので、せめて、ドイツやフランスのように、50歳くらいまでは訴えられるようにしてほしいです。   証拠がなければ、その場合でも難しいというのは、諸外国の例からもそのとおりだと思うのですけれども、時効だからといって話も聞いてもらえないのでは、何十年も苦しんでいる被害者に対して余りにも不実ですし、社会としても被害の実態が分からないと思います。性暴力被害の実態に即して、解決の道を見いだしていただければと願っています。 ○齋藤委員 まず、大前提として、大半の人は自分の身に起きた性犯罪を一生届け出ないということがあるかと思います。本日配布された資料9でも分かるとおり、警察に相談する人の割合は、ほとんどの調査で非常に少ないです。それは、今、山本委員がおっしゃったように、被害者が社会の中の被害者非難を内在化して自分を責める気持ちがあったり、あるいは、子供の頃の被害などで被害が認識できず届け出られなかったり、加害者がほかの人に言ってはいけないと言っていた場合があったりしますし、衝撃的な記憶なので、記憶や人格を解離させて自分を守って、その間は訴え出ることができないということも多いです。PTSDの症状がひどくて、回避しないと生活ができず訴え出ることができない人も多いです。   そうした中で、成長して、あるいは年月がたって、自分が安全な状況になって、解離や回避が少し和らいで、やはり訴えたいと思う人もいます。そのように、気が付いて、あるいは自分がやっと安全な状況になって、今なら届け出られるとか相談ができるというときに、証拠がないから立件することができませんということは、大変悔しくとも仕方のないことかもしれないと思うのですけれども、証拠がある程度残っているにもかかわらず、時間が来たから届け出られませんというのは、どうなのかなと思います。最近、関わっている事案でも、別の事件で逮捕され、写真や動画が出てきて、被害者が特定されたものの、時効期間を過ぎているために事件化することができないといったようなことが生じています。少なくとも、そうしたことがなくなってほしいと考えております。   では、何歳ぐらいまで時効の完成を遅らせるべきかということですけれども、今、山本委員のお話を聞いていて、ああ、そうだなと思ったのですが、臨床現場の感覚として、安全な状況で訴えようと思えるようになるのが、大体30代ぐらいからが多いということを感じています。もちろん、40代、50代になって初めて訴えることができるようになるという方もいらっしゃるのですけれども、少なくとも子供の頃の被害であっても、30代ぐらいの年齢できちんと訴えられるような仕組みを作っていただければなと思っております。 ○小西委員 二つの点から申し上げたいと思います。   一つは、齋藤委員がおっしゃったこととほぼ同じですが、30代ぐらいにならないと自分の被害が分からない方もいますし、本日配布された資料9の調査でも、10年以上たって初めて相談したという人が10%ぐらいはいますよね。臨床にそういう方は結構いらっしゃって、それほどまれなことではありません。   ディスクロージャーができない原因としては、子供の頃の被害、それから知人からの被害、繰り返しの被害といったものが、いろいろな研究で繰り返し挙げられています。こういうものが全部重なっているような性的虐待のケースは、当然のことながら、ほとんど、自分で被害だと分かるにも時間が掛かるということになります。   一方で、では1回だけの被害なら大丈夫なのかというと、こちらも、若年者の場合は、とにかく忘れたくて何も考えないようにする。資料9の調査の、相談しなかった理由のところを見ると、「恥ずかしくてだれにも言えなかったから」という理由が最も多く、「そのことについて思い出したくなかったから」というのが3番目に多い理由とされており、文章だけ見ると、どうでもいいことみたいに見えるのですよね。例えば、被害だと思わなかったからというのも、すごく誤解される選択肢になっていて、大したことではなかったのではないかというイメージを与えるのですけれども、かなりひどいことをされていて被害だと思えないということは、とても大変なことです。症状としてそういうものが出てくるというのは、臨床をやっている者はみんな思っていることだと思います。そういう人たちを治療して、PTSDが何とかよくなってもらうのに、そういう慢性的な被害だと早くて二、三年、長いともっと掛かると思いますが、そうなったときには、もう時効が完成していたりします。   WMH(世界精神保健)調査の中では、レイプや性的虐待などは、PTSDの持続が非常に長くて、レイプの例で言いますと、110か月が平均です。標準偏差が14.1か月でしたけれども、要するに、10年ぐらい症状があるのが普通ということですね。縦断で追ったわけではないので、一つの目安なのですけれども、少なくとも大変時間が掛かるということだけは確かだと思います。そういう実態を踏まえて、今、捜査がされて、加害者が逮捕されて、さらに、裁判ができている被害者というのは非常に一握りなので、そこだけで考えると実態を間違えるということを分かっていただけたらと思います。   臨床家としての意見を言いますと、30歳から時効のカウントを始めてもらえばいいかな。みんないろいろな言い方をしているのですが、とにかくその辺りのところが入ってこないと、できないかなと思います。   今は、動画が残っているケースとか、私が担当していたケースでは、偽のタレントの契約書が残っていたケースとか、SNSも7年とかぐらいだったらまだ残っていることもありますよね。そういう点では、確かに難しいのでしょうけれども、可能性は十分あるのではないかなと思いました。 ○小島委員 性被害の場合、被害者自身が、これは被害なのだと認識するまで、そして、警察や捜査機関に結び付くようになるまで、相当の時間が掛かります。これは、未成年のときに被害を受けた人だけではなくて、成人に達してから、二十歳過ぎぐらいで職場で被害を受けたりとか、そういう人でも同様です。性被害には、ほかの犯罪と違う特殊性があり、年少者に限られない。先ほど小西委員がおっしゃったように、恥ずかしいということがあって、なかなか口にもできないと。恋人ができたり、結婚しようとなり、初めて自分が被害者だと分かる。経済的にも精神的にもある程度自立しないと、被害を訴えられないということがあります。小西委員や齋藤委員がおっしゃったように、私も30代ぐらいにならないと、20代ではそういう年齢に達していないということを感じておりまして、実務家として、公訴時効のスタートラインは30歳以降にしてもらいたいと思います。それが一点目です。   二点目として、DNAなどの確実な証拠が残っている場合、科学的な証拠が残っているのに処罰できなくなる、捜査機関にも話を聞いてもらえなくなるというのは、問題なのではないかと思っております。   性犯罪に関する刑事法検討会で配布された資料47に、諸外国の性犯罪規定の概要が載っております。その資料を見ると、ミシガン州では、未特定の個人に関するDNAを含む犯罪の証拠がある場合、個人が識別された場合は、そこから時効がスタートするという規定があります。犯罪として捜査できない間は時効がストップしますということです。被害者が被害届を出して、DNAの採取をし、DNAを保管していましたが、公訴時効を徒過してしまったというときに、別件で捕まった被疑者のDNAと一致するような場合があります。その場合に、訴追ができないとして本当にいいのか。こういう場合については、現行の公訴時効制度では処罰はできないということになりますが、DNAのような客観的・科学的な証拠がきちっとあり、犯人が誰かということが特定できる場合に、被害申告すらできないということについて、法が対応できないかと思います。 ○宮田委員 公訴時効制度の趣旨には、証拠の散逸の問題があり、性犯罪に関する刑事法検討会のときから繰り返し述べているところでございますけれども、被害についての証拠だけでなく、加害者とされた人が、自分のアリバイであるとか、自分が罪を犯していないと言うための証拠も、時間がたてば散逸してしまうという問題があります。   DNA鑑定は客観的な証拠として非常に価値がありますが、DNAのコンタミネーションの問題などもあり、検体が残っていて、追試再実験ができるような状態でなければ、信用できる鑑定とはいえない。画像についても、コピーしか残っていなかったら、その画像の真正について立証ができないという問題なども出てきます。客観的な証拠があるということは、もちろん、とても重要なことですが、客観的な証拠があるということで起訴された人が、実は無罪であったという事件もございます。そこを余りに強調しすぎることの危険性を、今のお話を聞いていて感じた次第です。 ○金杉幹事 公訴時効を撤廃ないし一時停止するという意見に対して、消極の立場から申し上げます。   今、その必要性については、二つの方向の御意見が出たかと思います。一つは、性犯罪の特殊性で、被害そのものを申告することに時間が掛かるという御意見、もう一つは、被害を被害と認識することに時間が掛かるという御意見かと思います。その必要性自体は非常に理解できるところなのですけれども、ただ、許容性の点で、殺人罪と性犯罪というのは異なる配慮が必要なのかなと思っています。   大きく異なる点の一つは、同意の存在です。もちろん性交同意年齢に達しない方に対する犯罪ということであれば、また別の考慮が必要になるのですけれども、性交同意年齢以上の方の被害の申告に対しては、たとえDNAや画像といった客観的な証拠が残っている場合でも、画像については実際に殴っているところ自体が映っているというのであれば別ですけれども、同意があったと争う余地はあります。宮田委員からも御指摘がありましたが、そうした場合に反証のための証拠が散逸しているという問題は考慮すべきだろうと思います。 ○池田幹事 本日の議論や性犯罪に関する刑事法検討会での議論を踏まえますと、性犯罪については、これまでにも御指摘がありましたように、被害認識の形成にそもそも時間が掛かるという問題や、被害認識が形成されても、その開示に至るまで時間が掛かる、開示しても、司法機関につながるまで時間が掛かるということで、その他の犯罪とは異なって、処罰に向けた手続を進めるのに時間が掛かるという問題があり、そのために、訴追可能性を長期にわたって確保しておくという必要性があるということについては、ある程度認識が共有されているのではないかと思います。   そのことへの対応に当たっての今後の検討の方向性といたしましては、これも既に御指摘がありましたように、そういう問題は被害者の年齢に関わらないものなので、性犯罪一般について、公訴時効期間を一定の期間延長するという案について、検討を加えていくことがまず考えられるかと思います。   その上で、さらに、若年者を被害者とする性犯罪につきましては、被害申告等に特に困難があるものとして、特別の取扱いをするということを検討対象とすることも考えられるのではないかと思います。   この若年被害者に対する対応の具体的な方法といたしましては、若年者について、その被害時の年齢にかかわりなく、一律に公訴時効期間を一定期間延長するという方法や、あるいは、被害者が一定の年齢に達するまで公訴時効の完成を遅らせる、時効が完成しない扱いとするという方法が考えられます。ただ、前者の一律に一定期間延長するという方法について具体的に考えてみますと、例えば、被害者が5歳であったという場合と15歳であったという場合とで、一律に同じ期間だけ延長するということになります。その取扱いに、実態として合理性があるか、あるいは理論的に正当化可能であるかといった点は、なお疑問とする余地があるように思われます。   これに対して、被害者が一定の年齢に達するまで公訴時効の完成を遅らせるということについて、更に具体的に考えてみますと、一定の年齢に達するまでの期間に相当する期間、公訴時効期間を延長するという方法、あるいは一定の年齢に達するまでは公訴時効期間を起算しない、あるいは公訴時効の進行を停止させるという方法が考えられるように思います。   その上で、冒頭で述べた二つの方向性、つまり、被害者の年齢にかかわらず、性犯罪一般について公訴時効期間を一定期間延長したものとする案と、若年者を被害者とする性犯罪について、被害者が一定の年齢に達するまで公訴時効の完成を遅らせるという案のいずれとの関係でも、その検討に当たっては、そのような取扱いとすることの理由として、性犯罪被害の認識を形成することや申告すること、それぞれの困難性を挙げるのだとしますと、そうした考え方が、公訴時効制度の趣旨についての一般的な理解、つまり、時の経過により法的安定性を図るという必要性、具体的には、証拠の散逸によって訴追が困難になることや、被害者を含む社会一般の処罰感情が希薄化すること、あるいは犯人が一定期間処罰されなかったという事実状態を尊重すべきであること、それらと、罪を犯した犯人を処罰する必要性との調和を図ることが公訴時効制度の趣旨であると理解されていることとの関係で、どのように位置付けられるのかといった理論的な根拠について整理をしておく必要があると思われます。また、被害申告の困難性といった事柄を実証的に説明できるかということについても、併せて検討しておく必要があるかと思います。   以上を踏まえて、そうした理論的根拠や実態に照らしての取扱いの合理性をも勘案しながら、今後の議論において検討すべき事項として考えられるものといたしましては、それぞれの方向性との関係で、どのような性犯罪を対象とするか、また、性犯罪一般について公訴時効期間を延長するという場合には、具体的にどの程度の期間延長するのか、また、特に若年者を被害者とする性犯罪について、一定の年齢に達するまで時効の完成を遅らせるというならば、その若年者の範囲をどのようなものとするか、また、時効の完成を遅らせるための具体的な法的な構成の在り方といったことが挙げられようかと思います。 ○井田部会長 被害の実態を踏まえて、法的にどのように検討していくかの方向性について御教示いただきました。具体的には二つの案があるのではないかという御指摘だったと思います。 ○川出委員 ただ今、池田幹事から、性犯罪について公訴時効の完成を遅らせる場合の具体的な方法として、性犯罪一般について、公訴時効期間を一定期間延長する案と、若年者を被害者とする性犯罪について、被害者が一定の年齢に達するまで公訴時効の完成を遅らせる案についての言及がなされましたが、この二つの案は、互いに排他的な関係に立つものではありませんので、組み合わせて規定することも十分可能であると思います。   もっとも、その場合には、それぞれの案の理論的な根拠及び実態的な根拠に照らして、この二つの案を同時に採用することについて整合的な説明が可能であるかということを検討した上で、組合せの当否について検討する必要があると思います。   例えば、先ほども御指摘があったように、被害時の年齢にかかわらず、性犯罪というのは被害申告が困難であるということを、性犯罪一般について公訴時効期間を延長する根拠と考える場合は、その対象には若年者も含まれていますので、若年者を被害者とする性犯罪について、それに加えて公訴時効期間を延長するということであれば、公訴時効期間を延長する根拠として、若年者が被害者である場合に特有、あるいは顕著なものがあるのかという点の検討が必要になると考えられます。以上が、池田幹事が指摘された二つの案についての意見です。   次に、山本委員と小島委員から御提案があった、DNAなどの客観的な証拠が得られた場合には、公訴時効が進行しないようにするという制度について意見を申し上げたいと思います。   この案について公訴時効制度の趣旨に照らして考えてみますと、仮に公訴時効制度の趣旨を、証拠の散逸によって訴追が困難となるという点だけに求めるとすれば、こういった制度も成り立ち得ないではないと思います。しかしながら、公訴時効制度の趣旨としては、先ほど池田幹事がおっしゃったように、これ以外に、被害者を含む社会一般の処罰感情が希薄化することですとか、犯人が一定期間処罰されなかったという事実状態を尊重すべきであるということも挙げられており、これらの点は、客観的な証拠がある場合であっても同様に妥当します。また、客観的な証拠が得られている場合には公訴時効の進行が停止するという考え方は、DNAのような客観的な証拠があって、犯人であることが確実に立証できる場合にまで、公訴時効の完成によってその訴追ができなくなるのは不当であるという考え方を基礎とするものであると思います。感覚としてはよく分かりますが、しかし、この考え方は、先ほど申し上げた公訴時効制度の趣旨を否定するものであり、突き詰めていくと、公訴時効制度そのものの否定に行き着かざるを得ないように思います。既存の公訴時効制度を前提とする限りは、御提案のような制度を採用することは困難であると思います。   それから、御提案は、先ほど小島委員から御紹介があったように、アメリカの制度を参考にしたものと思われます。州によって差異がありますが、アメリカの多くの州で採用されている制度は、先ほど御紹介があったミシガン州がそうであるように、犯人に由来すると考えられるDNAが取得された場合は、それ以後ずっと公訴時効が進行しないというものではなく、そのDNAの持ち主が特定されるまで公訴時効が停止し、それが特定されれば、そこから公訴時効が進行を始めるというものです。この制度は、元々は、犯人に由来すると考えられるDNAが取得されたものの、その持ち主が特定できない場合に、DNA型のみで被告人を特定して起訴することによって公訴時効の進行を止めるという運用を前提に、それを公訴時効の停止事由に移し替えたものであり、DNAが誰に由来するかが特定できるまで、一時的に公訴時効の進行を止めるというものであって、一般的に、客観的な証拠があれば公訴時効の進行が停止することを認めるものではありません。その意味で、アメリカの制度を踏まえても、御提案のように、客観的な証拠があれば公訴時効が進行しないという制度を採用することは困難であると思います。先ほど申し上げたように、こうした制度を採用するためには、公訴時効制度の趣旨そのものの見直しが必要になりますので、御提案の制度を当部会で検討の対象とすることは難しいのではないかと思います。 ○井田部会長 いろいろと御指摘いただきました。特に、最後の辺りについては、先ほどの小島委員の提案に対する異論ということでもありますので、小島委員の方から何か、それに対する再反論はございますか。 ○小島委員 日本の刑事訴訟法でも、犯人が海外に逃亡していて捜査できない場合は公訴時効が停止する規定があるので、それに近い状況かと思いました。捜査ができなかった期間、公訴時効が停止しても不合理ではないのかなと思いました。 ○長谷川幹事 今、川出委員がおっしゃった、公訴時効の完成を遅らせる話題のところについて意見を述べたいのですけれども、性犯罪の特質とか若年被害の特質などから、ほかの委員・幹事からも30代という話が出ていたように、私も35歳ぐらいまでは、若年の頃の被害であっても訴追できるような制度が望ましいと思っています。   その方策として、川出委員がおっしゃったことと同じだと思うのですけれども、性犯罪は、被害申告やそれを司法機関に届け出るまでに時間が掛かるということは、年齢にかかわらず起こり得るものなので、まず、性犯罪一般について、公訴時効の期間を延長し、それから、若年で被害に遭った場合についての対処として、これは公訴時効期間の延長との組合せで何歳までかというのはありますけれども、例えば、25歳までといった一定の年齢まで、公訴時効の進行を停止するというような考え方はどうかと思っています。   被害者が若年であることを理由として公訴時効の進行を停止するという考え方については、犯人が国外にいる場合、公訴時効の進行が停止するという制度があるわけなのですけれども、それと同様に、特に被害者が若年の場合の特質から、公訴権を行使できないと考えて、公訴時効の進行を停止するということを考えています。   公訴時効期間の延長については、人が亡くなっている事件について延長したという経緯が既にあるので、特定の犯罪について公訴時効期間を延長することが許容されないということではないと考えています。なぜ性犯罪だけかということについては、本日の議論でほかの委員・幹事もおっしゃっていた性犯罪の特質に照らせば、許容性があると考えています。   あと、公訴時効制度の趣旨との関係について、まず、証拠の散逸との関係ですが、現行法の公訴時効期間は、法定刑を基準として定められています。法定刑の軽重は、証拠の散逸の度合で変わるものではないので、公訴時効の期間を定めるに当たって、証拠の散逸の度合が直接影響を及ぼすことはないと思います。ですから、性犯罪について公訴時効期間を延ばすということが、証拠の散逸の観点から否定されることとはならないと思っています。   それから、法的安定性の話がありましたが、これは加害者が訴追され、有罪とされることなく生活していることの安定性ということだと思うのですけれども、それは加害者の側から見たことであって、被害者の側から見ると、本来であれば処罰されるべき者が処罰されていない状況を保護するように見えるわけで、被害者にとって正義は果たされません。法的安定性は被害者にはそれほど利益はないですので、これを強調しすぎるべきではないと考えます。   あと、被害感情が緩和するとか希薄するという点ですが、性被害は長く苦しみます。現行の強制わいせつ罪や強制性交等罪の公訴時効期間である7年とか10年といった期間で被害者の処罰感情が希薄になるとは、言えないのではないかと思います。逆に、時間がたって被害を認識して処罰感情が生まれたり、強くなるということもありますので、処罰感情が緩和するということは、性被害については、7年、10年では言い難いのではないかと思います。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、本日の「第二の一」についての議論は、ここまでとさせていただきたいと思います。   本日の議論をお伺いしておりますと、もし公訴時効について見直しを行うのであれば、その方向性として二つの案が考えられるという御意見が複数の方から出されました。   一つが、性犯罪一般について公訴時効期間を延長する案であり、もう一つが、若年者を被害者とする性犯罪について、その被害者が一定の年齢に達するまで公訴時効の完成を遅らせるという案でした。ただ、これらの案は、排他的な関係に立つものではなくて、両方を組み合わせることも考えられるのではないかという御意見もありました。   そして、それぞれの案について検討課題も指摘されたところです。   まず、こうした特別な取扱いをする実態上・理論上の根拠を検討する必要があるという御指摘、また、それらが公訴時効制度の趣旨と矛盾・衝突しないかということについて、立ち入った検討の必要があるという御指摘がありました。そして、仮に二つの案を組み合わせることとする場合には、理由付けが重複するといったような不整合が生じないようにする必要があるという御指摘もありました。   より具体的に見ていきますと、どのような性犯罪について特別な取扱いをするか、性犯罪一般について公訴時効期間を延長するとした場合、どの程度延長するか、若年者を被害者とする性犯罪について、一定年齢に達するまで時効の完成を遅らせることとした場合、その年齢をどのようなものとするかといった検討課題があるのではないかという御指摘がありました。年齢については、30歳、あるいは25歳という具体的な御意見もありましたけれども、どのように考えるかについては、今後、更に立ち入った検討が必要かと思います。また、公訴時効の完成を遅らせる具体的方法として、どういう法的な構成を採るのが適切かについても検討課題になるのではないかという御意見があったと思います。   他方で、DNAなどの客観的な証拠を得られた場合には、公訴時効の進行を停止するという案も考えられるのではないかという御意見もありましたが、これについては、日本法に取り入れることにいろいろな問題もあって、当部会において検討対象とすることは現実的ではないのではないかという御指摘があったところであります。   これらの御意見・御指摘は、いずれも今後の検討や意見集約のために重要な手掛かりとなると思われますので、本日の議論を踏まえて、事務当局において、二巡目の議論のためのたたき台となる資料を作成していただくことをお願いしたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 以上で、諮問事項の「第一の四」から「第二の一」までについての一巡目の議論を終えることができました。   次回は、「第二の二」から「第三の二」までについての一巡目の議論を行うこととしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。   齋藤委員の御発言の中に、公表について検討したいものがあるということでしたので、後ほど齋藤委員の御意向を確認させていただいた上、非公表とすべきものがあれば、該当部分については非公表としたいと思います。その具体的範囲や、議事録上どのようにそれを記載するか等については、齋藤委員との間に個々の調整もございますので、御一任いただければと存じます。それ以外の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。また、配布資料についても、公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。そのようにさせていただきます。   次回の予定について、事務当局から説明をお願いします。 ○浅沼幹事 次回の第5回会議は、令和4年2月28日月曜日の午前10時からを予定しております。詳細につきましては、別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-