法制審議会 家族法制部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  令和3年12月14日(火) 自 午後1時30分                       至 午後5時06分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  財産分与制度に関する論点の検討 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会家族法制部会の第10回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして、誠にありがとうございます。   本日も前回と同様、ウェブ会議の方法を併用した開催となりますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。   それでは、まず、本日の会議の配布資料の確認等をさせていただきます。事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 それでは、お手元の資料について御確認いただきたいと思います。今回お配りしておりますのが、部会資料10と参考資料10−1です。部会資料10は、前回配布いたしました部会資料9−2と同じものですが、番号を振り直しております。今後、できるだけ部会で使用する資料と配布するものをずれないようにさせていただきたいと思いますし、引用する部分については特定いただければ、それで結構かなと思いますが、基本的には部会の中で利用した方の資料を引用していただけると有り難いと思います。   参考資料10−1は、以前のこの会議の中で御要望いただいておりましたリテラチャーレビューにつきまして、法務省が実施した調査研究委託の報告書になります。こちらは御参考までにということでお配りさせていただきました。   資料の説明は以上になります。   今回もウェブ会議を併用しておりますので、御発言に当たっては冒頭でお名前をお名のりいただきますようお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。   本日は、前回からの積み残しになっております資料10に基づきまして、財産分与制度に関する論点について御議論を頂きたいと考えております。   まず初めに、事務当局の方から資料10の全体について簡単に御説明を頂き、その後、幾つかに分けて御意見を頂きたいと思っております。では、お願いいたします。 ○北村幹事 それでは、事務局でございます。部会資料10について御説明いたします。   財産分与制度に関する論点の検討でございますけれども、まず、「第1 はじめに」ということで、今回財産分与を取り上げる意義について御説明させていただいております。そして、本資料の検討対象、2ページになりますけれども、まず、財産分与制度に関する議論の基礎として、制度の目的や本質的な性質について整理をした上で、財産分与の主要な目的である清算的な要素について、その清算の対象となる夫婦の財産の範囲について検討を行っていただく、そしてその清算、分配の在り方について、いわゆる2分の1ルールに焦点を当てて検討いただきたいというものになります。また、離婚後の配偶者及び同居する子の居住を確保する観点から、居住用不動産を対象とした財産分与に関する規律の在り方、さらに、財産分与請求権の期間制限に関する規律の在り方について検討を頂くもの、そして、最後にその他関連する論点についての御検討を頂くものというものになります。   第2は「財産分与制度の目的及び法的性質について」ということになります。財産分与については、民法第768条において定めがありますけれども、第2項において、財産分与の許否、金額及び分与の方法等は当事者の協議で決めることとされておりまして、当事者間で協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所の判断を求めることができるということを規定しております。また、その基準については、3項におきまして、家庭裁判所は当事者双方がその協力によって得た財産の額、その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか、並びに分与の額及び方法を定めるとされておりますけれども、これ以上の具体的な判断基準は明示されておらず、解釈論に委ねられているというところでございます。   具体的にその判断基準等をどうするのかということについて検討するに当たっては、その財産分与の法的な性質から検討いただくのがよいのではないかということで、3ページ(1)法的性質というものを記載してございます。条文を見ていただきますと分かりますように、財産分与の目的とか法的性質については明確に規律しておらず、文言上は明確ではございません。ただ、清算的要素を中心として、さらに扶養的要素、慰謝料的要素があるのではないかと解されているというのが一般的だとされております。財産分与の法的性質の中心は、基本的にはこの清算的要素であると考えられるところでありまして、実務的にもその清算的な要素をめぐる問題が争点となることが多いとの指摘がございます。また、この扶養的要素、慰謝料的要素については、実務的にはどこまで認められるのかなどといった指摘もあり、また、それらの要素を含ませるべきなのかどうかという点についても御意見がございまして、検討を行う必要性があると考えられるところでございます。   (2)については、扶養的要素の位置付けの点について御議論を頂くもの、(3)は子に対する扶養の考慮というものはどう考えるのかという点、これらにつきましては、いずれも扶養の議論であるとか監護親の養育費請求権、子の扶養料請求権との関係についても十分整理をして検討する必要があるのではないかと考えられるところでございます。また、慰謝料的要素と不法行為に基づく慰謝料請求権との関係についても、学説上も議論があるところではございますので、こちらを御議論いただければと思います。また、(5)につきましては、財産分与の内容を判断する考慮要素について明示する必要はないかという点について御議論を頂くというものになります。これらにつきまして、8ページにおいて課題として挙げさせていただいているところでございます。   9ページ、「第3 清算的財産分与」につきまして、まず、この清算的財産分与を考えるに当たっては、財産というものはどう考えるべきなのかということで、民法の規定を挙げさせていただいているところでございます。民法の755条におきましては、夫婦の財産関係は、婚姻の際に夫婦財産契約を締結した場合を除いて、法律の規定により定まることとされており、このうちの一つであります民法第762条では、夫婦間における財産の帰属について規定されています。同条第1項は、夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中、自己の名で得た財産は、特有財産として各自の所有であることを規定しており、いわゆる夫婦別産制の原則を定めたものと解されておるところではございます。他方で、これらの財産には該当せず、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、民法第762条2項により、夫婦の共有に属するものと推定されるとされております。このように夫婦の財産についての規定がございますけれども、財産分与の対象となる場合にはどの範囲が対象となるのかということについては、夫婦間の衡平という観点から異なった見方が必要となってくるとされます。   12ページの図を見ていただければと思いますけれども、基本的には婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産につきましては、原則としては夫婦の一方の単独の名義の、その片方の財産であるとはされますけれども、財産分与の場面におきましては、夫婦が婚姻前から所有している財産以外のものについても夫婦の協力によって得た財産であるということで、今回は便宜的に潜在的共有という形で記載させていただいておりますけれども、実際に第762条第2項によって共有だと推定される部分以外の部分についても財産分与の対象となるとされているところでございます。このように解しますと、その範囲というのはどこまでなのかということについて明確ではない、そして、一般的に財産分与の対象となる財産がどこまでなのかをめぐって争いになることが多いということもございまして、その点について明確にする必要はないか、などといったところを御議論いただければと思います。   第4につきましては、「清算的要素における清算の在り方」ということで、民法第768条第3項では、当事者双方がその協力によって得た財産の額を財産分与に関する処分をする場合の考慮要素としておりますので、この中心的要素はこの清算的要素と考えられることについては異論がないところでありますが、様々な観点を加えることは可能であるとされているところではございます。その上で、一般的な裁判実務上は、当事者間の寄与の程度について異なることが明らかでない限りは、多くの場合、双方で相等しいものとする、いわゆる2分の1ルールがそれなりに広く定着しているのではないかといわれているところでございます。そこで、この寄与の程度を2分の1とする規律を設けることを検討してはどうかとの御意見があるところでございます。実際に法制審議会でも14ページの(注1)に記載しておるような案が出されたところではございます。ただ、夫婦の在り方は様々でございますので、原則2分の1としつつも、様々な観点を考慮してはどうかということで、その2分の1を法律として明示すべきなのかというところについても慎重な立場もあるところでございますので、この点についての御意見を頂ければと思います。   第5については、財産分与の際に、夫婦が婚姻中に協力して取得した居住用不動産のような場合に、例えば、その一定の居住権を認めるかどうかの点についての御意見を頂くものでございます。この点、相続法の改正で認められました配偶者居住権のようなものを認めてはどうかなどという御指摘もあるところではございます。ただ、離婚の場合と相続の場合を全く同じように考えてよいのかどうかという点であるとか、いつまでそれを認めるのか、その期間等、様々な御意見があろうかと思いますので、様々な点に御配慮いただいて、御議論いただければと思います。   第6につきましては、除斥期間について、現在2年間とされている除斥期間、こちらは期間の経過によって権利が当然に消滅することになるものとされておりますけれども、この2年でよいのか、どうしても離婚の際、様々なことを定めなければならない中で、2年間経ってしまうともう財産分与の請求ができなくなるということでよいのかという点について御意見がありますので、その点について御意見を頂ければと思います。   第7は、その他の論点ということで、財産分与について協議をするに当たって、あるいは裁判手続を行うに当たっても、相手方の財産がどれだけあるのか分からないと正確な財産分与ができないという声もございますので、その点について何らかの規律を設ける必要はないかというもの、また、共有物分割制度との関係について何らかの調整の規定を設ける必要はないか、3につきましては、離婚時以外、財産分与というものにつきましては現行法上、解釈といたしましては、協議又は審判等によって具体的な内容が形成されるまでは、その財産分与請求権の範囲や内容が不確定、不明確であるとされておりまして、実際に財産分与の請求がされて、財産分与請求権が具体化する解釈が一般的とされているところではございます。もっとも、実際に離婚して離婚後の財産分与の請求をするより前に、夫婦の財産を清算するための規律を設ける必要はないかということについて、事例を二つ挙げさせていただきましたが、こちらについて御意見を頂ければと思います。ただ、いずれも離婚前ということでございますし、現行法の解釈として財産分与請求権が具体化していない中で、例えば破産のような場合に債権者との関係をどう考えるのか、先ほども夫婦財産制の関係では、基本的に自己の名で取得したものはその方の財産だとされている中で、債権者との関係をどう整理するのかといったような点も含めて、なかなか難しい点がございますけれども、今回、御議論いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   ただいま部会資料10について御説明を頂きました。1ページ目の第1の1の一番最後のところにございますけれども、財産分与が適正に行われるということが子どもの利益の観点からも重要であるのではないかということで、この部会の中で、前回の養子の問題に続きまして、本日は財産分与の問題というのを取り上げさせていただくという趣旨であると理解をいたしました。   その上で、七つの項目に分けて論点が挙がっておりますけれども、先ほど申し上げましたように、三つに分けて御意見を頂きたいと思っております。まず最初に、第1と第2、資料で申しますと1ページから9ページまでの部分について御意見を頂き、その後、第3の清算的財産分与に関する問題及び、それに関連するものとして、第4、第5、ページでいいますと9ページから17ページということになりますが、この部分について、そして、最後に第6と第7、17ページ以下について御意見を頂く、こういうことで進めさせていただければと思っております。   そこで、まず最初に、資料第1の「はじめに」の部分、それから、第2の「財産分与制度の目的及び法的性質について」の部分につきまして御意見を頂戴できればと思います。どなたからでも結構ですので、お願いを申し上げます。 ○戒能委員 ありがとうございます。戒能でございます。   第1と、直接的には第2の、5ページになりますが、(注2)に直接関連することで、法的性質について意見を申し上げたいと思います。   それで、1ページのはじめにの1のところには、今、座長も御指摘なさったように、夫婦財産制というのは夫と妻の関係、離婚時における財産の分与という夫と妻の問題であるけれども、それが子どもの貧困を引き起こすという問題もはらんでいるのだというような位置付けで取り上げるのだという趣旨を御説明いただきました。   それで、その第2の方の5ページに移りますけれども、(注2)のところに補償という考え方が出てまいります。家族法において、国際的なスタンダードといいましょうか、国際基準を参照するということも議論する上では必要なのではないかということを考えさせられました。   それは、1ページに戻りますけれども、1の最初の前文のようなところなのですが、基本的には本来、離婚時における夫婦間の衡平を図るための制度であるというような位置付けが書かれております。衡平というのはエクイティということなのですけれども、実際には不公平な結果をもたらすものをいかに是正していくかと、そういうスタンスを示しているのだと思うのです。その点から言いますと、これは本文の中にも様々な指摘はございますけれども、国際基準で言えば、女性差別撤廃条約、1979年に採択されておりますけれども、そして、女性差別撤廃条約は、その後の社会経済の変化を直接的には示していないのですが、社会の変化に応じて、基準の考え方とか法の規定の考え方の基準を示すものとして、女性差別撤廃委員会が国連にありまして、そこが一般的勧告を出すわけですね。この女性差別撤廃条約は、直接は16条に婚姻家族についての夫と妻の平等原則というのを示しているわけです。その平等原則が結果的には平等になっていない。それをどうしていけばいいのかということで、一般勧告29号というのが2013年に出されておりまして、このことについては家族法学者の中で、犬伏由子さんが法学研究という論文で指摘しいるところなのです。   やはり財産分与を考えるときに、婚姻財産の分配に関して当事者間の平等がいかに図られているのか、図られていないのだったらどういうふうに是正すべきなのかということが一般的勧告に書かれております。そのポイントは、金銭的な寄与が一つあるけれども、それにとどまらず、非金銭的な金銭に換算できないような寄与、間接的な寄与の価値というのも考慮すべきだという考え方が示されていて、これは、ここの本文の中にも指摘がありますけれども、家事とか育児とか介護とか、そういう家族に対するケアの評価、あるいは経済的な価値の承認ということはよく言われることなのですが、それに加えて国連が考え方として示す問題は、キャリアの問題なのです。キャリアの開発とか、それをいかして所得に反映させていくとか、そういう観点が指摘されているということがこの本文からは十分酌み取れない面もあるのではないかと感じております。   例えば、同じ大学卒で同じ学歴であっても、その後にキャリア開発の機会があるかとか、それをいかす機会があるかとか、そういうことで大きく実は離婚時の財産が変わってくると、経済的な力の差が出てしまうと、それをいかに取り戻すかということなのです。それが補償の考え方ではないか。そういうことも夫婦間の平等原則を大原則にしていかないと、結果的にはそれが子どもの貧困にも転嫁されていってしまうというようなことだと思います。それは何も国際基準を持ち出すまでもなく、日本国憲法24条の平等原則の反映にもなるわけです。ですから、学歴が高くなればなるほど実は問題があるにもかかわらず、なかなか顕在化してこなかった課題ではないかという、キャリアの格差の問題というのを、これは考える余地があるのではないかと思っております。   それで、8ページに「2 課題」がありますが、そこのA−2というところです。元配偶者による扶養的要素として、これは扶養の要素の中に含めているという考え方のようなのですが、元配偶者の生活状況について法定してはどうかという提案があるのですが、これはある意味、ざっくりした表現だと思うのです。ですから、ここに何が含まれるのかということだと思うのです。そのときに、非金銭的な価値として、家事労働とか介護とか、そういうアンペイドワークについては指摘されてきた、多分この中にも入っているだろうけれども、もう一つ、離婚時の財産の格差というのがもたらされる大きな要因として、例えば同じ大卒でもということで、子育ても含まれますけれども、どうしても、優先順位で夫の方が優先して、妻の方がその後になってしまうという中でキャリアの格差が生じてしまっているという、そういう視点もこの基準、女性差別撤廃条約及び一般的勧告では強調しているところなのです。ですから、家族法の基本的な考え方として、平等原則をどういうふうに具体化していくかという際に、そういう視点も入れていくべきではないかというのが私の意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。5ページの(注2)に補償という言葉がありますけれども、この補償というものを支えている考え方について、国際的な動向を踏まえて御説明を頂き、その上で、8ページの課題のA−2について、その点との関連で考えていくということが必要ではないかという御指摘を頂いたと受け止めました。ありがとうございます。 ○武田委員 今日も皆様ありがとうございます。親子ネットの武田でございます。   では、第2に関してということで発言をさせていただければと思います。私は個人的には財産分与、それほど明るくございません。そういう前提であること、あわせて、今回の部会資料で法制審の平成8年2月要綱というのがあったみたいですね、そこもきちんとまだ読み切れておりませんので、まず、子どもと離れて暮らす当事者の目線から見た現時点の考えということで意見を述べさせていただければと思います。   私どもはこういった当事者に対してメッセージといいますか、こういった財産分与の話のタイミングになったときによく話に出ていくのは、基本2分の1なのでここで争って葛藤を上げることをやめようよということが1点、あともう1点、こういった財産分与の問題、ここは早く決着させて、それよりも面会交流とか子どものことに集中していきましょうよと、よくこのようなメッセージを我々は当事者に向けて出しています。   具体的な意見というところをここから簡単に述べさせていただきたいと思うのですが、部会資料10の3ページ目、1、財産分与の機能ということで三つ挙げられているかと思います。その中で今、戒能先生はこの補償という観点、扶養という観点の御意見を頂きましたけれども、私といたしましては、どちらかというと5ページ(注1)の、婚姻中は扶養の義務があるとしても、婚姻の効果として位置付けられるべきものであって、離婚によってそのような義務も根拠も失うことになる、婚姻の事後的効果として離婚後についての扶養義務があることを説明するのは困難ではないかという考えに基本的に賛同するものでございます。しかしながら、扶養的要素、慰謝料要素、これは全て排除するというわけではございませんで、いろいろ当事者の皆さんのお話を聞いていますと、例えば財産分与の際、自宅であるとか、この後も不動産という議題が出ておりますが、あと、共有財産である現預金、これを全て配偶者に渡した、又は財産分与の合意タイミングにおいて、よくある慰謝料の中で、恐らく不貞慰謝料が多いと思います、不貞慰謝料、この請求も放棄したとか、こういう報告も実はありまして、当事者同士で合意できる範囲であれば、財産分与の中でこういった扶養的要素、慰謝料的要素、ここを残すことは当然よかろうと、こんなふうに思います。   しかしながら、扶養的要素、慰謝料的要素、これを法定することというのは少し疑問が残るなというのが今の立場でございます。理由は、先ほど挙げました、離婚後の元配偶者に対する扶養義務の根拠、これが乏しいこと、これに加えて、こういった財産分与において扶養要素、慰謝料的要素を考慮に入れることによる、この財産分与の係争の長期化ということを懸念するものでございます。基本的に財産分与に関しましては、清算要素に特化して、まず早期合意ということかなと考えております。子どもの扶養に関しましては、従前部会資料3で議論になりました養育費の範ちゅうでということ、慰謝料的要素に関しては民事訴訟で整理するのが相当ではないかと、こんなふうに考えています。元配偶者に対する扶養的要素という中でも、例えば別居後離婚に至るまでの婚姻費用の清算であるとか、こういったものに関しては合理性が十分あると思いますが、生活困窮になるようなケースにおきましては、当事者の自助というものに頼るのでなく、公序、社会保障の範囲でひもといていくものではなかろうかと、こんなふうに考えております。   ここまでの考えを基に、8ページ、2の課題ということについて意見を申し述べます。@目的・理念の明確化、ここは賛同するものでございます。適正な実務、運用の支障とならない範囲で明示する規定を設ける、これは非常によいことかなと思います。A−1についても賛同的な立場でございます。A−2、3に関しましては、現時点では消極的な立場でございます。この平成8年の法制審要綱、多分かなりの議論が積み重ねられて出されたものかと思いますので、そこももう少し勉強しながら、今日の委員、幹事の先生方の御意見もお聞きしながら、引き続き考えてまいりたいと、こんなふうに考えます。 ○大村部会長 ありがとうございました。当事者の方々の実際の受け止め方に関わる御説明の後に、扶養的な要素について、当事者が合意で決めることはともかくとして、法定することについては消極的であるという御意見を頂いたと思います。清算的要素を中心にして問題の早期解決を図るというのが望ましいのではないかという御趣旨と理解をいたしました。どうもありがとうございます。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。   この財産分与については、お子さんの養育にも非常に関わるので、貧困対策も含めまして、夫婦間の経済的なバランスをいかにとっていくということが非常に重要なことだと思います。特に、法務省の財産分与を中心とした実態調査の結果でも、取決めをしていないというのが6割を超えていたり、あるいは、お金のやり取りをやっていないというのも6割近くになったりと数字のが出てきます。協議離婚の実態調査でも、少し違った数字も出てはいるのですけれども、おおむねやはり取決めをしていない、それから、財産のやり取りがないというのはかなりの数に上っていており、後で出てくる、「相手方と関わりたくない」というのもあれば、「元々全く財産を持っていない」というのもあって、いろいろであるということが明らかになっています。   そこで、私は、今まで御議論いただいていたところで、とくに、財産分与の法的性質というところなのですが、清算ということが主であろうということは異論がないわけですけれども、扶養あるいは補償という要素のところもかなり重要ではないかと思っています。もっとも、夫婦の財産関係の衡平な清算ということで十分双方に経済的な条件のアンバランスが解消できるということであれば、扶養的あるいは補償的な要素というのはそれほど考えなくてもいいかもしれません。しかしながら、現在の状況ですと、戒能委員もおっしゃったように、男女の賃金の格差というのもあるし、それから、雇用の場での正規・非正規という面でも男女の不平等などがありますから、そういう意味で、それを私的な分野でどこまで誰がどうサポートできるか、守ってあげられるかということについては、婚姻が解消して、他人にはなったものの、夫婦の間で一定の場合に責任を果たしてもらう必要があると考えています。扶養的あるいは補償的給付、その名前の付け方や呼び方はさまざまで、海外でも、アリモニー(Alimony)、リハビリテーティブ・アリモニー(Rehabilitative Alimony)などで、婚姻によって所得能力とか経済活動が停滞してしまった部分について、一定期間は取り戻すための再出発のための援助というのが必要なのだという考え方、婚姻の余後効などいろいろあるかと思います。水野先生も、フランスの補償給付を紹介する中で、離婚の際に夫婦の経済的な条件の不均衡みたいなものを是正するための、再調整するための給付みたいな形での位置付けで、補償に近い考え方をとられたりしていました。扶養や補償の要素では、いろいろな立場があって、理論上の根拠付けはとても難しいと思うのですけれども、清算と並んで、扶養なり補償なり、あるいは経済関係の再調整のためのファクターというのは何らかの形で持っておいた方がいいなと考えています。   これに対して、慰謝料も、不法行為の損害賠償としてのもので、財産分与とは性格を異にすると言われています。しかし、判例では、慰謝料的要素も性質は違うのだけれども、便宜的にこれを含められるという形で一括処理することは認めています。これは紛争の一回的な解決性とか、調停委員をしていると、相手方としては、解決金という名目であれば払うけれども、慰謝料だというのであれば嫌だというケースが結構あります。そうなると、名前の付け方よりも、全体として調整するお金が確実に渡るということも重要ですので、そういう意味で、慰謝料については、財産分与としての法的性格は別だけれども、場合によって解決のための一つの調整の道具や手段として、名前は解決金でも何でもいいのですけれども、そういうような形で慰謝料的なものも含めて解決できるというのが、紛争解決を全体としてする場合の便宜として含めることを認めるというのはあり得るのだと思っています。   最後に、考慮要素という点ですけれども、武田委員の方は、法定するのは必要ないのではないか、特に、寄与の割合とかについてはいいけれども、それ以外の扶養的な補償的なものも含めて、法定することについては消極的というご意見のようでした。しかし、協議離婚についての法務省でされたウェブ調査の結果を見ても、財産分与でどういうことを考慮したかというときに、やはり「夫婦間の衡平」というのを半数近いカップルの方たちが一番重視したのだということを言っています。それから2番目に、非常に興味深かったのは、「子どもの養育」というのを43%の人たちが重視したとあります。つまり、一般の人たちの意識にも子どもの養育と財産分与というのはかなりリンクしている面があるのだなと感じました。その後については、「財産形成への貢献度」、それから、「お互い資産をどれくらい持っているか」、「健康状態」、「就労能力」、「年齢」などと、こういうふうに続いています。この調査結果をみると、一般の方たちが財産分けをするときに考慮している要素というのが浮かび上がってくると思うのです。財産分与を決める際に総合的に、どんなふうに考慮するかという問題はもちろんあるのですけれども、一定程度実務でも一定の考慮事項が形成されているわけですから、それを条文にきちんと書いて、裁判官の裁量とはいっても、ある程度どういうものを重視したかということの目安とか基準みたいなものは、明示しておいた方がいいのではないかということを考えています。   そういう意味では、理念・目的もそうですけれども、財産分与というのがどういうことを目指していて、どんなことで具体的に算定をしたり、財産分けをしていくべきかということの一応の判断基準や考慮事項を、「その他の一切の事情」というようなことでざっくりと規定されているということでは余りよろしくなくて、考慮事項はある程度明示した方がいいのではないかと思います。そうでないと、離婚の際の財産分与をしようにも、ない人はしようがないとしても、ある人が、これは何のためにどういうふうに分ければいいのかということで、具体的な分与の基準が分からないとか、認識していないとか、あるいは、争われたときにどういう基準で分けてもらえるのかということの予測可能性という面からも必要であるように思います。合意ができない理由の中に、「関わりたくない」とか「煩わしい」とか、いろいろなものがあるのですけれども、財産分与ということの趣旨とか意味、そういうことについて十分な理解をしていなくて、とにかく早く別れたいとか、こういう人と関わりたくないというような気持ちは絶対あると思うので、そのときに一歩立ち止まって、養育費のときもそうですけれども、安全とか安心の問題がないのであれば、きちんと財産分与について取り決めて、責任を果たしていくという意味でも、考慮事項の明示とか、あるいはルール化、基準を示していくということは重要かなと思います。   少し長くなりましたけれども、扶養というような要素、補償という要素というのは、どういうふうに、またどういう基準で算定するかとか、二次的、補充的とはいっても、どういう場合だったらそれを認めるべきかということについて、実際の実務を見ていても、基準が示されていないので苦労されていますし、調停委員としてケースに関与するときに、要するに、不動産とか預貯金とか、そういう財産がないのだけれども、お仕事はされていて、所得能力はあるけれど、経済的な状況は大分違ってしまっているときに、2年とか3年、あるいは5年とか、お子さんの状況とかも勘案しながら、そういう扶養なり補償的な財産分与というものを、高齢の方とかもありますし、そういうときに使えるために設けておくべきでないかと思います。先程、戒能委員もおっしゃっていたように、意味付けについては納得されない方もおられますが、夫婦で、何で別れて他人を扶養する、あるいは経済的援助をする責任があるのかということの説明は、いろいろな国でそれなりに理論付けされていますから、おっしゃるように、グローバルなスタンダードで、今の婚姻とか家族の多様化を踏まえた上で、きちんとした説明が必要なのだろうなと感じています。   それから、慰謝料については、実務ではもうほとんど別立てをしていますので、これについては不法行為の損害賠償、しかも離婚ということでの不利益を指しているのか、個別的な暴言とか暴力とか不貞とか、それを指しているのかが少し曖昧なところがありますので、調整的なお金として含めて考えるということで、法的性質は分けた方がいいのかなと思っています。   それから、考慮事項の明示については、先ほど申しましたように、やはり一定程度判断の基準を示してルール化をしていくということは非常に重要なことだと思います。長くなりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。大きく2点御指摘を頂いたかと思います。   一つは、財産分与の法的性質についてですけれども、清算の要素が主であるとしても、扶養、補償、あるいは慰謝料といったものについても考えていく必要があるのではないかと御指摘いただいたかと思います。扶養、補償については、お話の中で期間はどうかとか、あるいは財産がない場合はどうかという御指摘がありましたが、これらの点もなお検討する必要があるのではないかという御指摘として伺いました。   それから、もう一つは、考慮要素を条文に明示した方がよいのではないか、冒頭に財産分与についての取決めなしというケースが多いという御指摘がありましたけれども、そうした事態に対応するためにも、考慮要素を定めて分かりやすい方向を目指すべきではないかという御指摘を頂いたと理解をいたしました。 ○窪田委員 窪田でございます。   これは総論部分ですので、一個一個細かく議論するというタイプのものではないと思うのですが、従来は財産分与というものについては三つの要素があるのだとされており、清算と扶養と慰謝料だとは言うのですけれども、では、それらが厳密に区別されて議論されていたのかというと、一まとめにしてということだったのだろうと思います。それについてより明確化するという方向自体は、十分にあり得るものなのだろうと思っています。   ただ、私は少し今伺っていて、かなり性格の違う問題が入っているのかなという感じがいたしました。これは基本的には、三つの要素といっても従来は夫婦間の問題として考えてきましたので、2番目の扶養というのは、飽くまで他方配偶者についての扶養をめぐる問題だと考えられてきたのだと思います。それについて婚姻の余後効としての扶養と考えるのか、もはや婚姻の効果としてはないけれども、しかし婚姻する際に、これは特に専業主婦を想定した場合には、それまでの仕事を辞めてキャリアが中断してしまっている、それを再度始めるためにはやはり一定の期間、言わばスタートアップの手当てが必要だという意味での補償ということだったのではないかと思うのですが、そうしたもの、特に補償といったような場合には、今言ったように、離婚後は扶養の関係で本来扶養義務を負っていないでしょうということを前提としての説明ということになると思います。他方で、出てきていた子どもの扶養をめぐる問題というのを仮に考慮に入れるとすると、これは離婚後であったとしても当然、子どもに対する扶養の義務はあるわけですから、その扶養義務を負っているということを財産分与という仕組みの中で反映させるのかどうなのかという問題なのだろうと思います。これは本来、子どもに対する義務ではあるのだけれども、子どもを引き取った側に対する財産分与という形でそれを実現するかどうかというのは、ここでいう清算、扶養の問題とはかなり性格の違う問題ではないかと思います。そこの部分については、もちろんそういうのを考慮要素とするというのはあり得ると思うのですが、ここでの三つの要素をどう扱うのかという問題とはかなり性格の違う問題であると思いましたし、その点を意識して議論していく必要があるのだろうと感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。議論の性格の違いということについて御指摘を頂きました。従来、財産分与は夫婦間の財産関係を調整するものとして考えられてきており、その中で3要素があるといわれてきたわけですけれども、子どもの扶養ということを考慮するということになると、従来の議論とは違った議論になるのではないかということを十分に意識した上で議論をする必要があるのではないかといった御指摘を頂いたと理解をいたしました。これは言葉遣いの問題もあるのだろうと思います。先ほど棚村委員から御指摘もありましたけれども、離婚したときに財産が移転するという現象を一括して財産分与と呼ぶのであれば、その中にいろいろなものが入っていることがあり得るわけですが、法的に見て財産分与にあたるものと、事実として行われているものを区別して考えると、問題の性質が多少明らかになるのかと思って伺っておりました。 ○原田委員 弁護士の原田です。   今、御意見を伺ったものと大きくは変わらないのですが、やはり私も補償的な要素というのは必要だろうと思います。実務で扱っていても、やはり先ほど賃金格差という話がありましたけれども、一般的に女性の賃金が低いのはどうしてかということを考えたときに、やはり性別役割分担に基づいて、家庭責任を負う人が長時間働けないから賃金が低いというようなところにつながっているということを考えると、そういう役割分担に基づいて家庭生活を営んできて、一方当事者がキャリアを形成できなかったということについては、やはり補償の考え方が必要なのではないかと思いますし、そうなったときに扶養なのか清算なのかということがやはり問題になってきて、どちらかというと清算的要素なのかなと私は考えるのですけれども、そうすると、後で出てきます2分の1ルールとの関係で、清算的要素で2分の1と考えたときに、その部分を入れるのか、入れないのかによって、また大きく違うので、対象財産の清算と、それと別に補償的な要素というのが考えられないと、衡平を図れないのではないかと思います。   子に対する扶養の考慮は、確かに性質が違う問題なので、どう考えればいいかというのがあるのですけれども、子どもを引き取ったことによって稼働能力の回復が非常に遅れるという問題があって、それは単に養育費だけでは解決できない問題なのではないかと思っていて、そこをどう取り込んで考えればいいかという方法論については、私もよく分からないところがあるのですが、そういうふうに考えました。   それから、慰謝料的な要素の問題は、棚村委員がおっしゃったように、解決のときに、慰謝料は嫌だけれども解決金ならいいという人がいて、もらう方は慰謝料的だと思ってもらっているというところがあるのですが、もしこの慰謝料的要素というのを財産分与から外してしまうと、そういう考慮ができなくなるのかなというのが若干不安なところがありまして、性質から外すということについて、外した場合にどうなるのかということが少し不安なところがありますが、実際上は慰謝料としてなかなか払われていないということはあって、慰謝料をどうしても要求するのだったら訴訟してくださいと、特にもう離婚については合意しているのですから、離婚は合意した上で地裁で裁判してください、財産分与は家裁でやってください、みたいな解決もあるので、一回的な解決のためには、こういう性格がないとしない方がいいのではないかと考えています。   そういう考え方で、8ページのところのそれぞれについては、大体の回答になるかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。2点御指摘いただいたかと思います。補償ということをどこに位置付けるのかということと、そして、その中にどのようなものを盛り込むのかということが一つの問題提起だったかと思います。それから、もう一つは、先ほどから出ております慰謝料というものをどうするかということで、その要素を排除しない方がよいのではないかという御意見を頂いたと理解をいたしました。 ○窪田委員 すみません、もう個別の論点については発言しないつもりだったのですが、慰謝料に関して、解決金だったら払えるけれどもというのがお二人から出ましたので、私自身は今のお話を前提とすると、むしろやはり慰謝料は切り離した方がいいのではないかという気がいたします。どうしてかというと、現在の判例も、財産分与の中で慰謝料を扱ってもいいとは言うわけですけれども、一方で財産分与外で損害賠償請求してもいいよとしています。ただし両方ともできるのではなくて、どちらか1回ですよと言っているわけですよね。慰謝料は嫌だけれども解決金だったらいいと言って払った場合、慰謝料の請求が再度できるのかどうなのかというのがものすごく不透明になるわけです。したがって、名前の点で気になるのだったらこっちでやってもいいよねというのは、実は後々別の紛争を起こす可能性があるのではないかと思いますし、現在の判例を前提としても、財産分与の中で支払われたときには損害賠償請求できない、損害賠償請求を既にされていれば財産分与では駄目だと、後者の方は多分、訴訟の判決に関しての効力の問題として扱えると思うのですが、財産分与の中で慰謝料を扱った場合に、後に損害賠償請求できるかどうかというのに関して、きちんとした手掛かりは実はない状態ではないかと思いますので、それを避けるという意味でも、私自身は基本的には慰謝料は切り離した方がいいのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。慰謝料について御意見いただいているところですけれども、後に紛争を持ち越さないという観点からは、切り離した方がいいのではないかという御意見を窪田委員から頂きました。 ○水野委員 ありがとうございます。水野でございます。平成8年の民法改正要綱の作成過程に携わっていた者の生き残りですので、そのときにどのような議論がされたかを、私のおぼろな記憶ですが、少し御紹介したいと思います。   まず前提として、先ほどからの離婚後の扶養の根拠はないという議論ですけれども、西欧法は基本的に離婚後扶養があることが前提です。離婚後もずっと扶養義務が続いていて、そして、破綻主義離婚法導入の際に、それを一時金で代替して圧縮してしまおうというのが例えばフランス法の、プレスタシオン・コンペンサトワール、補償給付と訳されますけれども、この離婚給付の発想の前提になっております。そして、その背景にある考え方については、キリスト教の婚姻非解消主義の伝統など、いろいろなことが言われるわけですけれども、離婚後扶養の一つの発想の根拠は、出口のところで大きなサンクションを経済的な力のある方に掛けておかないと、婚姻中の平等が図られないということであろうと思います。   それから、清算の方ですが、日本の財産分与は清算が主になっていますが、フランス法では、補償給付のほかに、夫婦財産制の清算として夫婦で蓄積した財産の2分の1は取られることになっています。ですから、2分の1取られた上で、残りのところから補償給付をとられますから、日本法はパラレルに考えると離婚給付はないことになります。そして、その補償給付の額は非常に重くて、現存財産の縛りもなく、夫婦の経済状態を将来にわたって均等にする給付ですから、私が調べた当時は、古い情報ですが、大体、離婚した男性の8割は全財産を渡して裸になっても足りなくて、補償給付という借金を背負って別れるという数字になっていたかと思います。今現在の数字については、調べておりません。   日本法はそれと全く違うところから出発しております。つまり、離婚後の妻は実家の負担になるという発想から始まっております。財産分与の立法当時は、GHQの圧力が強かったようですけれども、GHQは、夫婦財産制の清算規定が必要だと考えたようで、そして当時の起草者たちは、日本の伝統にない清算という概念を言われると非常に困るので、ほかにも扶養的なものも慰謝料的なものもありますよねと、そういう説明の仕方をして、結局現行のような規定になりました。それなら清算以上の額になるはずなのですが、実際の実務は、当初は手切れ金という感覚で運用されていました。やがて実務の中で清算的なものだという理解で、徐々に中身を発展させていき、現存財産の2分の1というところにたどり着いたということになります。   現存財産の半分という基準は、日本の状況にとっては、確かに一歩進めたものだったわけですが、平成8年のときには、やはりその基準では足りないという意見が多かったと思います。もう昔のような自営業の家が主流という社会ではなくなっていましたし、サラリーマン家庭において、月収100万円の夫とパートで10万円の妻という夫婦が現存財産を2分の1で分けただけで、別れた後の生活が公平に行われるはずはないのであって、それは婚姻中の平等にも影響するということで、より充実した離婚給付に発展していく道は、やはり残すべきではないかという議論があったと記憶しています。   ただ、もちろん日本の場合、これらを計算するのが非常に難しいという問題があります。フランスですと夫婦財産制の清算は全部公証人がやってくれることになっておりますし、補償給付の算定についても、ほとんど実務でメルクマールが決まってくるわけですけれども、日本では、全部が個人間に委ねられてしまいます。そういう現状の中でどこまでやれるかと考えますと、現存財産の2分の1というのは一つの非常に明確な計算の仕方ではありますので、それを日本の一里塚としては大事にした方がいいかとは思います。ただ、そこから先、それではやはり100万円と10万円のカップルが別れるときに余りにも不公平ではないかと、婚姻中の平等も保ちにくくなるだろうと思いますので、私も補償的な要素というのは入れていいのだろうと思います。できれば夫婦財産制の清算とまた別に、そういう衡平を図るための給付という要素があるということは書いた方がいいかと思います。   そして、更に少し異なることを申しますと、プレスタシオン・コンペンサトワールには、例外的な規定が設けられています。補償給付の背景は、家事育児というシャドウワークの負担と、労働市場における男女差という問題が背景にあるわけですが、これらの背景が当てはまらない例外的場合、つまり全く協力をしなかった男性、表現は悪いですが、ヒモのような場合には、適用される除外があります。実際には夫は何もせず、妻が家事育児をしながら一生懸命稼いで生活していたときに発動されるものとして、配偶者の請求権は衡平上、例外的に認められないことを許容する条文があります。日本法の場合にもいろいろな場合があるでしょうから、そういう最後の衡平の条文というのを入れ込んでおくということも、可能でしたら考えてもよいかと思います。   ありがとうございました。長くなりました。 ○大村部会長 ありがとうございました。平成8年の案の背景等について御説明を頂きました。最終的に衡平を図るための制度を組み込めれば、その方がよいのではないかという御意見であったかと思いますけれども、その前提としてフランス法の御紹介がありましたが、フランスでは夫婦財産制の清算と補償給付は別のものですので、そうした相違点もふまえつつ、日本法の財産分与の中でこれをどうするかを考えていく必要もあるという御指摘も含んでいるものと理解をいたしました。 ○小粥委員 小粥でございます。   最初の総論部分ですので、少し浮世離れしたようなことを申しますけれども、お許しいただければと思います。申し上げたいことは、財産分与のルールを作る際に、そのルール作りが将来に向けてどういう効果をもたらすのかということを考慮することが必要ではないかということです。   たまたまですけれども、今、水野委員がおっしゃったこともそれに関わることでございましたけれども、つまり、個々の財産形成に対する貢献寄与などを細々と測定していくというようなことになりますと、これは離婚の原因を探り出すというようなことになって、なかなかスムーズな額の決定に至らないという可能性もございますし、それから、補償についても過去志向で考えていきますと、あのとき私が仕事を辞めた、いや、それはお前が勝手に辞めたからというような話になってしまいますので、水野委員が今おっしゃったように、将来展望的な形で補償的要素を入れていくと、そして、大きなサンクションを用意することによって婚姻中の平等をより間接的に促すと、できればそういう視点も込みで、振り返って正確に財産分与額を測定するということも一方では重要だと思いますけれども、将来に向けて、武田委員が、だから2分の1は諦めて、すぐに次のことに行こうとおっしゃったこともそれに関わると思いますけれども、将来に向けてよい流れになるようなルール作りという視点は考慮に入れていただければと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。ルールを作るに当たって、どういう影響が及ぶであろうかということも考えて議論をすべきだという御指摘で、過去を回顧してというだけではなくて、将来に向けてどうするのかという視点も重要であるという御指摘を頂きました。  ○佐野幹事 2点だけ申し上げます。   まずは扶養的要素、今までずっとお話がありましたけれども、やはり実務的な感覚で、裁判実務ではなかなか認められていませんので、入れていただく必要はあるのかと思います。そのときA−2の、元配偶者の生活状況というだけで足りるのかということは、少し疑問を持っております。平成8年の民法要綱のところでも、もう少しいろいろな要素が入っていたかと思いますので、そういったものも含めて検討していく必要があるかと思います。   もう一つ、先ほど窪田先生がおっしゃったことと絡むのですけれども、子どもの関係を入れていくというのは、別の要素を入れることになるのではないかというお話があったのですが、この考慮要素、もし平成8年要綱の内容や現行法の規定のあり方を考えると、この考慮要素というものは、分与方法にも関わってくるところなのではないか、そうすると、後で話が出てくるような居住用不動産をどうするかとかといったところについては、子どもの福祉や利益というのが考慮要素として挙がってもいいかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点御指摘を頂きましたが、1点目については、扶養的要素を入れていただきたいという御希望と、考慮事由をもう少し書き込んだらどうかという御提案を頂きました。それから、2点目、子どもの問題をどうするのかということについて、財産の分け方においてその点を考慮に入れるといったことも考えられるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。 ○武田委員 親子ネット、武田でございます。   冒頭の戒能先生の補償の考え方、キャリアが婚姻によって損なわれたと、それは当然あると思います。それはおっしゃるとおり。この補償という考え方、私も物の本で少しだけ読みまして、一定の金額、これを一定期間、要はキャリアによって月収、例えば、先ほどの水野先生の話で言えば10万円と、それが本来きちんと生活できるレベルまで回復するまでの期間と、そんなふうなものも少し拝見させていただきました。   少しイメージが私、湧かなかったのが、今は制度はないとは思うのですけれども、例えば水野先生がおっしゃった、旦那が月収100万円で奥さんが10万円と、これって、例えば養育費、養育費は確かにもうお子さんのものですから、妻に対しての扶養的要素は入らないと思うのですけれども、そちら側で何か新しい組み方ってできないのかなというのが私の素朴な思いです。離婚の流れの中で、恐らくこの養育費とか面会交流の方が先に決まる、財産分与が後になって、最後に、財産分与を決めようという話が非常に多いように思っていまして、その際に、要は、新しい制度の話と、100万円と10万円であれば、一定の養育費の金額になると私は思っていまして、そこがいわゆる現状の算定表で一定は表現されている。そこに、例えば扶養的要素を入れる何らかの考え方を作っていく、こんな考え方ってないのかなと今、先生方のお話を聞いて、素朴に思いました。   少し水野先生が歴史も御説明いただいたので、本当にありがとうございます。可能であれば、その辺を少し水野先生から補足いただけると有り難いなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。御指摘は、今、財産分与の方で子どものこともということが言われているけれども、養育費の方で元配偶者のこともといった選択肢は考えられないかという御趣旨と承りましたが、水野委員、もし何かあればどうぞ。 ○水野委員 子どもの問題は子どもの問題で親権行使方法も離婚時に決められますし、もちろん養育費の問題もあります。それとプレスタシオン・コンペンサトワール、補償給付とはまた別問題です。配偶者に対する離婚後扶養を一時金で与えるように固めたという発想で出来上がっています。ただ、破綻主義離婚法立法当時よりは、相当、柔軟に変更できる方向に変わっておりますし、それから、女性の就業率も変わっておりますし、現在のところ運用の数字などは、申し訳ありません、追い掛けておりません。 ○武田委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ウェブの方で、大石委員、沖野委員、それから青竹幹事とお三方、手が挙がっておりますので、お三方の御意見を伺って、そこで休憩したいと思います。 ○大石委員 千葉大学の大石です。   ありがとうございます。私は法学者ではないので、いろいろ視点の違うことを申すかと思いますが、以前、養育費の関連でもストックとフローの話をコメントしていたことがあったかと思います。この財産分与、子が関わる場合とかも含めて、財産分与の問題についても、離婚時点である現存財産だけではなくて、例えば、夫と妻、それぞれのその時点から将来に向かって得られるであろう所得の流列というのでしょうか、定年まであと何年あって、月収100万円で何年間働けるとか。例えば、交通事故のときの逸失所得の算定とかもありますけれども、同じような発想で、夫と妻それぞれの将来にわたる所得も評価して、それも含めて2分の1というような計算などができれば本当はよいのかもしれないと、皆さんのお話を聞いて思いました。   特に子どもの扶養に関わる問題としては、2分の1では子どもを引き取る側にとっての公平性が保たれませんから、子どもを引き取る側により多くなるように割合を変えることも考えられるかと思います。将来にわたって養育費をフローで得るということも考えられますけれども、将来所得も考慮した上で、現時点でその夫婦が全部稼ぎなし得た金銭的な価値というのでしょうか、それを評価して、その中から養育費分を考慮するとかいったことが今後、できないのかなと思います。   居住する家についても、同様の問題があります。例えば、賃貸ではなくて持ち家であっても、月何万円分かの居住サービスというのをその持ち家というのは生み出していると考えられるわけですので、その時点での不動産の評価というやり方もありますけれども、将来的にわたって財産から生み出されるものというのを考慮した上での財産分与というのを考えることはできないのかなと思います。   以上、少し変なコメントになったかもしれませんが。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。資産の評価をするときにストックとフローとを分けて考える必要があるという御指摘を以前から頂いているところかと思いますけれども、そうした観点をいかすことができるのではないかという御指摘を頂いたと思います。財産分与の場合には現在あるものをベースに考えておりますので、今おっしゃっていただいたような考え方を取り込むとしても、どういった形で取り込むのかということが問題になりそうですが、あり得る方向性として伺いました。どうもありがとうございます。 ○沖野委員 ありがとうございます。3点を申し上げたいと思うのですが、実はいずれも自分の方でも漠としてまとまりがなく、ただ、総論的だから今はいいのではないかと小粥先生がおっしゃったことに力を得てということなのですが、一つ目は慰謝料的要素の関係です。慰謝料的な要素については性格としては、これは不法行為であるということからしますと、また、損害賠償を認める根拠というのがそれとは別途ないということであれば、やはり性質は違うものとして理解をするのがよろしいのだろうと思っているのですけれども、しかし、そうしますと、一方は家裁、一方は地裁というような形で分断が起こるというのも必ずしも望ましくないと思っております。紛争の一括的解決というのも大変重要ではないかと思っておりまして、そうしますと、財産分与の請求の際に慰謝料の分についても取り込むことが、財産分与として取り込むのではなくて、その部分も、例えば当事者が合意するならば入れてこられるというようなことは十分考えられるのではないかと思っております。   念頭に置いておりますのは、例えば遺産分割の場合に、遺産でない財産を補充的に調整のために使うというようなことは、当事者が合意すればできるわけですし、それから、当然分割になるような債権についても入れてくるというようなことは認められており、それは審判の場合にも、当事者の合意ということを経て認められておりますので、少なくともそういう形で一体的な解決を図るというのは、両者が違うものであって、財産分与とは別に慰謝料があるということにしたとしても、十分できるのではないかと思っております。それが一つ目です。   二つ目が、扶養的要素という点ですけれども、今回御議論いただいた中で、やはり扶養的要素という表現が非常にトリッキーに思われました。ここで今まで明らかにしていただいた中には、一つは清算的な要素としまして、いわゆる狭義の意味での財産を共同体の中でどう形成してきたかということの清算ということもありますけれども、稼働能力ですとか、資格ですとか、そういうものを一方のサポートによって他方のところに集積してきたと、そういう形態を選んできたということもあると思います。いろいろな国家資格などを苦労して得て、でもその間、財産面は全部一方が支えてきたと、ようやく稼げるようになって、そこで解体するというようなこともあり得るわけなのですけれども、そういう形ある財産にはなっていないけれども、経済的な収益などを生むような能力面での清算ということは十分あるのだと思います。ただ、それだけなのかというと、やはり多様な家族関係というのがありますし、互いにキャリアを築いてきたということであれば全く問題ないのか、例えば、解消の直前に異常な事態が生じる、病を得てとか、事故でしばらく働くことが難しくなったというようなことはありうるわけで、そのような場合の考慮は大分要素が違ってくるのだと思います。   しかし、私は、ここから感想ですけれども、婚姻の形で夫婦で共同体を形成してきた、その共同体を解消するときに、どういうような立場で次の生活を送っていくのかということについて、それぞれが単独で、夫婦ではないという形で生活をまずはスタートする、別の家族を形成するということも十分あると思うのですけれども、そういうのに際しては、互いへの配慮義務というものがやはりあるのではないかと思われまして、それを扶養と呼んでしまうから、扶養義務というのがあるのですかというような話になってくるのですが、そういう性格ではないのではなかろうかと。ただ、それが具体的に2年間は生活をサポートするとか、そういうような形になって表れているだけで、考え方としては違うものとして整理した方が、より見通しがよくなるのではないかという印象を持ちました。   それから、3点目が子どもの養育との関係なのですけれども、これも伺っていまして一つ気になりましたところに、夫婦間の問題とはまた別の話だということになるのですけれども、取り分け同居親というのは子どもに対して、一種の現物給付というか、身近なケア等を含めて子どもの養育に当たっていくということになると、そういう養育を担うための、何というのか、原資というのも少しおかしいかもしれませんけれども、そのようなサービス提供ができるように大元を整えるといいますか、そのために必要なものを一方に与えて、やってもらえるようにするというような面が財産分与の中で出てくる面というのもあるのではないかという気がしまして、それは扶養の問題だという、そういう性格かもしれないけれども、子どもの扶養をダイレクトにというよりは、同居親を経由して、そのサービス提供で実現させる部分について状況を整えるべく配慮をするといいますかサポートをすると、そういう面はあるのかなと思ったところです。非常に漠として、構成も正確ではないのですけれども、印象としてそういう印象を持ったというのが3点目です。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点御指摘を頂きましたけれども、いずれも問題の整理に関わる御意見として受け止めました。まず一つ目、慰謝料というものについては、性質は異なるけれども、異なる性質の慰謝料をあわせて処理するということはできないかという御指摘を頂きました。それから、二つ目に、これまで扶養として御意見を頂いたものについて、その性質の違いを区別して、清算の中で処理すべきものと、将来に向けての配慮に関わるものとに分けて考えるべきではないかとという御指摘。そして、三つ目として、子どもの問題については、これも将来に向けてということになるのだろうと思いますが、子どものケアに関わるものを対価として組み込むことができないかといった御指摘を頂いたかと思います。最後の点は養育費との関係を更に検討する必要があるかと思って伺いましたけれども、今後議論していく上での考え方をお示しいただいたと受け止めました。 ○青竹幹事 ありがとうございます。青竹と申します。2点ありまして、まず、慰謝料を財産分与から分離するという点についてですけれども、御指摘が出たような手続とか性質の違いといった点に加えて、慰謝料の額とそれ以外の財産分与の清算とか扶養を、丼勘定ではなくてきちんと算定するという観点からも、基本的に方向性は正しいとは思っております。しかしながら、沖野委員、そのほかの委員からも御指摘があった離婚の手続の点について、主に私の方からは当事者の負担ということを申し上げたいと思うのですけれども、財産分与の審判と別に慰謝料を請求する訴訟を提起するということになりますと、やはり当事者にとって負担が大きいのではないかと考えております。特に、再三指摘されているDVの事例を想定すると、負担が大きいという問題のために、かえってひとり親家庭の負担の軽減という方向に逆行するというおそれがあるのではないかと考えました。それで、問題が生じているということではないのであれば、現状を維持して、財産分与には清算と扶養と慰謝料の要素を含めるという方向を維持した方が、かえって法制審の目的に逆行しないのではないかと思っております。   2点目ですけれども、扶養的要素ですが、これは余り実務で認められていないと指摘されていますけれども、一方で財産分与に扶養的要素、離婚後の扶養の考慮があった方がいいということはほぼ一致した見解のようですし、比較法的に見てもそういう立法例が多く、離婚後の扶養を考慮することが望ましくないとはみられていないので、これをきちんと明文化するという方向でよいのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点御意見を頂きました。1点目については、慰謝料について、分けて考えるということが理屈は通るけれども、当事者の負担を考えると、一体として扱われることが望ましい、そう考えると、大きな問題がなければ現状維持がよいのかもしれないといった御指摘。それから、もう一つ、扶養については何らかの形で規定を置くほうがよいのではないかといった御指摘を頂きました。ありがとうございます。   ここまで御意見を伺ってまいりましたが、ここで少し休憩したいと思います。財産分与の要素については、かなり皆さんから御意見を頂いたと思いますが、もし更に何かあれば、その後伺いたいと思います。いずれにしましても、少し中断させていただきます。10分休憩しまして、15時に再開いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、時間になりましたので、再開させていただきます。   休憩前は資料の第1と第2について御意見を頂きました。いろいろな御意見を頂きましたので、大体論点は出尽くしているのかと思います。また、第3以降について、それぞれの問題に応じて関連して御発言いただくということもできるかと思いますので、特に御発言がなければ、第3以降に行きたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。 ○久保野幹事 すみません、1点細かい点で、一括解決、一回的解決についてどこまで考慮するかということが議論になっている中で、冒頭の武田委員からの御発言の中にもありました、過去の未払婚姻費用について財産分与の中で一緒に扱うというのがあるかと思うので、その点についても、婚姻費用には子どもに係る費用も入っているということもありますし、検討の中でそれも視野に入れるとよいと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。婚姻時の財産分与の手続の過程の中で何をどこまで取り込むかということで、未払の婚姻費用の清算についても考えていく必要があるという御指摘を頂きました。   ほか、よろしいでしょうか。   それでは、第3、第4、第5の方に移らせていただきたいと思います。9ページの「第3 清算的財産分与について」というところから始まりまして、13ページ「第4 清算的要素における清算の在り方(2分の1ルール)」、そして「第5 夫婦が婚姻生活中に協力して取得した居住用不動産」、この三つの項目について御意見を頂戴したいと思います。どなたからでも結構ですので、お願いをいたします。 ○池田委員 弁護士の池田でございます。   第3の13ページの課題の@、Aの辺りについて意見を申し述べたいと思います。   入口がとても個別的なニーズの話から入っていくのですが、13ページの一番上の注書のところで、学資保険が財産分与の対象となるか否か、よく争いになると例示されているところに関連してです。この点の実務を紹介しますと、学資保険は生命保険契約の一つとして、通常は財産分与の対象となるところ、別居時の解約返戻金相当額を2分の1ずつに分けるということが原則になっているかと思います。そのような原則に従って処理をしたいというのが非監護親側の主張です。他方、学資保険は子どもの大学入学資金等として使用することを目的として契約されていますので、監護親側としては離婚時に清算するのではなくて、当初合意された目的に従って使用したい、そのため財産分与とは別枠で単独で取得して管理したいと主張します。これが監護親側の主張で、双方対立するという構図にあると思います。私の経験からしますと、監護親側のほとんどがそういう要求を持っていて、これに同意する非監護親も一定数いるという印象を持っています。ただ、それは合意をベースとする協議離婚ですとか調停離婚の場合に限られて、裁判所が監護親の主張を判決等で認めるということはなかなかないのかなと理解しています。   私自身の感覚としては、やはり子どもの教育に係る資金としてあらかじめ目的を合意しているということがありますし、また、非監護親も一定数それに同意をする扱いをしているということもありますので、別枠にするということについては一定の合理性があるのかなと考えていまして、裁判所が財産分与の対象としないということについて、法的解釈の一定の根拠を設けることができればいいなと考えています。   それで、この13ページのAのところに関わるのですが、今挙がっています考慮要素として、財産内容、性質、取得のための原資等が挙げられています。この「性質」というのがその目的を含むものであれば、それはそれでいいのですけれども、「取得の目的」ということも独立の要素として挙げるということがあってもいいのかなと思います。それを一つの根拠に、先ほど申し上げた学資保険の問題というのもクリアできる可能性があるかなと思っています。それから、取得の目的という要素は必ずしも今のものに限った話ではなくて、例えば、後で出てきます居住用不動産の扱いを考えるときというのも、有効に機能し得るものになるのではないかと思っています。   以上がAに関する私の意見ですが、更に学資保険の問題を敷衍させていただきたいのですけれども、実は学資保険の問題ってそこで終わらないのです。というのが、契約の名義が非監護親になっている場合に、財産分与から外すとだけ言ってしまうと、非監護親が持ってしまう、それで終わりということになってしまうので、その名義を監護親に移転するという手続が更に必要になってくるのですね、目的をきちんと達成するためには。そうなってくると、少し財産分与の話ではなくなってくるかもしれません。むしろ子どもの扶養、先ほど窪田先生が御指摘されていましたように、子どもの扶養というのが非常に前面に出てくる話で、財産分与の中で取扱いができるのかどうかという問題は出てくるかなと思います。では養育費の中で扱えるのかというと、そうでもありません。調停では、大学の入学資金等は特別経費として位置付けられ、将来協議しましょうねという約束だけをして終わってしまい、学資保険を正面から扱ってもらえないのが実情です。多分、先ほど大石先生がおっしゃっていたように、養育費はフローの問題と考えられているからだと思います。そういうわけで、養育費の中でもなかなか扱い切れない、財産分与の中でも扱い切れないというのが学資保険かなというところがあって、やはりニーズがある中で、何らかの形で扱えるようにできればよいと思います。私の個人的な意見としては、学資保険は特別の教育費のためのストックではあるけれども、養育費の中で、その名義の移転を命ずるとか、そんな扱いがあってもいいのかなということを少しおぼろげに考えています。漠然とした意見で申し訳ありません。 ○大村部会長 ありがとうございます。13ページの上の(注)に出てくる学資保険との関係で御意見を頂きました。学資保険について財産分与の対象になるという扱いがされているけれども、そうではない取扱いが望まれることが多いということで、財産分与と別枠で処理することができるようにしたい。それとの関係で、課題の2のAに挙がっている考慮要素の中に目的を書き込むというのはどうかという御指摘を頂きました。また、学資保険を外に出したときに、それはどうなるのかという問題を別途考えなければいけないということで、広い意味で養育費に関わる問題として取扱いを考えていく必要があるのではないかという御指摘も頂いたと思いますが、そちらはまた養育費の方でまた御議論を頂きたいと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。   特に762条とも関わってくるわけですけれども、特有財産、それから、名義は一方になっていても、夫婦の協力によって得た実質夫婦共有財産、名実ともに共有財産、こういう3分類みたいなものについて、きちんと明確にした方がいいのだろうと思っています。先ほども少し触れましたが、調停ですとかいろいろなところでも、婚姻財産一覧表みたいなものを出していただいて、婚姻前に持っていたものと婚姻後に取得したものと分類しながら、表を作りながら、どこに入れる、入れないというときに、結局、特有財産であるということを主張する方がそれを主張立証しなければいけないという原則になってきているので、それ以外は、婚姻後に取得したのは、婚姻前から持っていたか、婚姻中であっても贈与とか、あるいは相続で取得したということでないと、全体がやはり婚姻財産という範ちゅうに入るような形に今、なっています。   そうすると、先ほど水野先生が言ったような、実際のケースを見ていても、女医さんで非常に所得が高くて一生懸命働き預貯金や不動産を購入していて、これに対して、夫が全く働かずに、浪費や借金もして、迷惑をかけ続けてるようなケースでも、婚姻財産とされて半分を持って行ってしまうなど、もちろん管理や分別の仕方にもいろいろあるのですけれども、要するに悪平等とか不平等みたいなことも起こったりもしていたりもしています。それから、もう一つは、特有財産なのか、夫婦の協力によって得た実質共有財産、婚姻財産なのかというのは、宝くじとか馬券とかそういうものが当たったときに、これは自分の能力や才能で得たのだと得た方は言うわけです。ところが、いや、私がいたからその協力によって得られた財産なのだということで、海外でも、何億も当たってそれが離婚に結び付いて、財産争いが非常に熾烈に展開されるという出てきています。そのときも、一体これは夫婦財産なのか、それとも個人財産なのかという線引きみたいなことが常に問題になったりして、ルールや基準がないといけないと感じる事案も増えてきました。   ですから、先ほど池田委員がおっしゃられた、財産取得の目的とか経緯とか、いろいろな事情を総合的に勘案しつつ、お金を誰が出したか、出さないかというのももちろん重要ですけれども、管理分別の仕方ももちろんあったりして、いろいろなことを総合的に考慮しながら、夫婦の協力によって得られた財産なので清算の対象にすべきだというものと、やはり個人の資質や能力で取得したものなのでその人個人の財産だとするものについて、その辺りを明確に議論をしてルール化しておくというのは非常に重要なことではないかと思っています。   それから、2分の1ルールの方にも入っていいですか。2分の1ルールは、先ほどもお話があったように、寄与度、財産の取得への寄与貢献の度合い、そういうのをベースに考えているわけですけれども、それがはっきりしない場合には相等しいものとするというので、実務上も、先ほど言いましたように、定着をしていてこれ自体は悪くはないのかなと思う部分もあります。ただし、これも2分の1でないということの主張立証というか、反証を挙げないといけないということで、婚姻関係が大分多様化してきて、稼働能力、稼ぐ力も、共働きもありますけれども、専業主婦や性別役割分業を前提にしていた時代とはだいぶ違ってきていないかとも思います。私は、先ほどの特有財産と夫婦財産かで清算対象になる財産の決め方もそうなのですが、調停をやっていますと、何も分けるものがないというので、本当に養育費も払えないというのもあれば、逆に、お互いがかなりの所得能力を持って、金融資産とかいろいろなものに投資したり、その収益について多少混じったり、預貯金の利用がいろいろな形で流用されたり、それから、不動産で多額の投資する方もいて、財産分与の割合をめぐっても、かなりもめたりすることが多くなってきました。ある面では夫婦の経済活動が活発化して、よくなったなという面もありますけれども、他方でいうと、従来の夫婦の在り方とか形と異なった夫婦の経済的関係も出てきているので、その辺りも本当にこの2分の1ルールというものを、先ほど言った清算の対象にする財産の範囲もそうなのですけれども、その辺りのところを夫婦の協力関係や経済活動の実態との関係でもう一度、せっかくいろいろな調査をしていただいていますから、見直す必要はないか、多分、二極分化しているのではないかという感じを持っています。つまり、全くお金を持っていなくて分ける対象がないのだというのが協議離婚の結果なんかでも結構出てきたりします。他方で家裁なんかで見ていますと、かなりの資産形成とか、多額のお金を作っている御夫婦みたいなのがあって、リストで出すと、後でいう財産開示の問題の方がむしろ深刻かもしれませんけれども、どういう範囲のお金や財産を資産形成しているかというのがよく分からないケースがすごくあります。次々といろいろなもので出てきたときに、かなりの量になっていて、財産関係をもう一度再調整するとか、公平に分けるということはどういうことなのかとか、その辺りをケースも多様化してきていると思うので、原則をどういうふうに立てて、どんなふうに処理するかということについて、もう一度議論していく必要があると思います。   最後に、居住用不動産なのですけれども、これは一番悩ましいところで、財産分与の問題として何らかの形で利用権みたいなものを設定するという、財産分与の方法の一つとして規律をしていくというやり方と、それから、婚姻中の夫婦財産制度の一環として、何らかの形で利用権を設定していって、他方による恣意的な処分みたいなものに対して一定の制限を居住用不動産について掛けていくという方法も考えられます。私は、この点についてはいろいろなやり方があると思うので、財産分与の中の一つの公平を図る手段、子や当事者の居住確保として、賃貸借と使用貸借とかを設定させて利用するという方法も可能にしてよいと思います。多分ケースによっては、そうでないと難しいというケースもあるかもしれません。しかし、御提案は頂いているのですけれども、なかなか一つに絞っていくというのは難しい感じなのかなとも思います。配偶者の居住権みたいなものを相続のところでも作られた経緯はあるのですけれども、この辺りのところは、どういうふうに制度設計をして、居住を確保できるような手立てをしていくかと、現行法でも四苦八苦しているわけです。たとえば、オーバーローンのときなんかは一体どうするかというので、その辺りのところも含めると、財産分与の一つの方法として、そういう利用権、居住権みたいなものを設定するような方式というのは考えられると思うのですけれども、婚姻中の居住の確保みたいなところで、夫婦財産制の一環として制度設計をすることも考えるべきだと思います。もちろん、それから別居や離婚した後も、もちろんそういう必要性があれば構わないとは思うのですけれども、第三者との関係の調整とか、それから、設定された権利の性質みたいなものをめぐって、亡くなったときよりももう少し複雑な問題が出ないかどうかということだけ、少し心配なところを指摘させていただきます。長くなりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点御指摘いただいたかと思いますが、最初の2点は密接に関わっていると理解をいたしました。清算的な財産分与を算出する基礎となる財産をどのように捉えるのかということを考える必要があるだろう、それとあわせて、2分の1ルールをそのまま適用するのが適切ではないような夫婦も増えてきているので、これらの問題について考える必要があるのではないかという指摘を頂きました。他方、居住用不動産の問題については、財産分与の一方法として居住用不動産の取扱いを考慮するということはあるかもしれないけれども、相続の場合のような利用権を新たに設けるということになると、相続の場合以上に難しい問題があるのではないかという御指摘を頂いたと理解をいたしました。 ○窪田委員 今の棚村先生の御発言とかなり重なってしまうのかもしれませんが、私も3点、2分の1ルールについて発言させていただけたらと思います。   最初に、2分の1ルールということで言葉が出てくるのですが、この言葉の意味については少し、きちんと共有した上で議論をしていく必要があるのだろうと思って伺っておりました。先ほどから出ております平成8年の要綱ですけれども、今、手元にあるのですが、考慮すべきものとして、当事者双方がその協力によって取得し、また維持した財産の額及びその取得又は維持についての各当事者の寄与の程度、婚姻の期間、婚姻中の生活水準、婚姻中の協力及び扶助の状況、各当事者の年齢、心身の状況、職業及び収入、その他一切という形で、考慮要素は非常にたくさん挙がっていて、この考慮要素がたくさん挙がっている中で、各当事者の寄与の程度は、その異なることが明らかでないときは相等しいものとする意味での2分の1ルールということですから、少なくとも平成8年の要綱の段階では、財産をそのまま単純に2分の1に分けるということではなかったのだろうと思います。   一方で、最終的には改正に至りませんでしたが、相続法の改正のときに配偶者相続分について取り上げられて、そのときには婚姻中の、要するに、夫婦の財産の中から、結婚前から持っていた財産、それから相続等によって無償で得た財産を除いたものを2分の1に分けるということで、これは非常に単純に財産全体に対して2分の1を当てはめていたということでしたので、どちらを前提とするのかでかなりイメージも違ってくるのかなと思いました。場合によっては、実務において2分の1ルールが定着しているということの意味も、どちらの意味なのかということをお聞きできればいいなと思いながら伺っておりました。これが第1点目です。   第2点目として、これも棚村先生から御指摘のあった点なのですが、2分の1ルールに関して言うと、2分の1にするというのを条文に書くと大変なのですが、寄与の程度が分からなかったときに相等しいものとするという程度の書き方だったら、条文としては十分にあり得るのだろうと思います。ただ、問題となるのは、どの財産に対して適用するのかということです。先ほど言ったように、婚姻前の財産、それから婚姻中に無償で得た財産を除いてという程度のやり方であれば、比較的簡単に特定できるのかもしれませんが、その場合であったとしても、例えば婚姻前から800万円の定期預金を持っていた、あるいは普通預金を持っていた、結婚してからは、収入があって全部使ってという形で何も残っていない、プラスマイナスゼロだと。このときの800万円の預金というのは、残ったということについてどう評価するのか、これは古典的にいつも言われてきたことなのですけれども、こうした問題がありますので、2分の1ルール、これはいいよね、悪いよねという話ではなくて、どういうふうに実現していくのかというのはかなりかなり大変なのかなと思いました。反対というわけではないのですが、検討すべき必要性があるのではないかということです。   それから、3点目で、これはもう、こんな余計なことは言い出すなということなのかもしれませんが、これも棚村先生の御発言の中にもあったことだと思うのですが、この2分の1ルールというのは、裁判官の方に聴いても、学会とかでの御報告を伺っていると、基本的には専業主婦家庭を想定しながら、その専業主婦家庭のモデルを念頭に置きながら、そこでバランスを確保するためのものとして作られてきたという経緯はあるのではないかと思います。   そうだとすると、問題となるのはいわゆるパワーカップルといわれるような、夫婦ともにばりばり稼いでいるというところでこのルールをそのまま当てはめるのかということが出てくるのだろうと思います。もちろん当てはめてもいいのかもしれませんが、それを望まないという夫婦もいるだろうと思います。二人とも望まないのだったら、それでいいのですけれども、片一方は望んで、片一方は望まないというときどうするのだとかということが出てくるとやっかいだろうなと。恐らくこれに対する一つの解決の仕方は、これが余計な話ということになるのですが、夫婦財産契約をもう少し使いやすいものにするということで対応できないかということなのです。今回のこの法制審議会の役割からすると随分はみ出してしまったものになるのかもしれませんが、ただ、2分の1ルールとの関係で、もしこれを導入するのだとすると、それを当事者の合意によって回避するということを確保するために、幾らかでもやはり夫婦財産契約について検討した方がいいのではないかという感想を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。棚村委員の発言とつながる形で御指摘を頂きました。   3点おっしゃいましたけれども、一つ目としては、2分の1ルールが適用される際の2分の1というのは何の2分の1なのかということについて、これまでの立法提案の中には異なる考え方が含まれていたのではないかと思われるので、それを明らかにする必要がある、実務上どういう考え方がとられているかということについても関心があるという御発言がありました。   それから、二つ目におっしゃったことは、財産の内容や構成は変化していくので、その変化していく財産をどのようにトレースして、どのように分与の対象を固定するのかという問題がかなり難しい問題として存在する、これは棚村委員の御発言にも含まれていたと思いますけれども、そうした御指摘を頂きました。   それから、三つ目に、2分の1ルールを望まないようなカップルもあるであろうということで、もし2分の1ルールのようなものを設けるのならば、それを合意によって外すということも考えていく必要があるのではないか、それとの関係で夫婦財産契約の可能性ということについても御発言がありました。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○原田委員 弁護士の原田です。   研究者の先生から理路整然とお話を伺った後で、言いにくいのですけれども、実務でやっていると、今の2分の1ルールというのはとても便利で、今、寄与の程度のお話がありましたけれども、基本的には婚姻前に持っていたものと相続や贈与で途中でもらったものを除いて、婚姻中に取得した財産を全て一覧表にして、それを半分にすると、基本的には寄与の程度は同じという形で考えて清算をしているのが現状で、それは非常に便利な、紛争が激化しないと。ただ、水野先生もおっしゃったように、あるいは棚村先生もおっしゃったように、家庭責任を負っている人、これは今の現状では、共働きであっても専業主婦であっても、一方が家庭責任をたくさん負っているということは多いので、共働きで同じような収入がありながら家庭責任も負っていたという人が、この2分の1ルールに非常に不満があるという現実は、実務をやっていて、あります。ただ、今の実務で、この2分の1ルールがある意味、絶対化されているというか、そういう事情をほとんど考慮されないというところがあって、もう少し、この寄与の程度は、その異なることが明らかでないときはというところについての解釈をもう少し入れて、そこが広がれば、そこの不満というのもある程度解消できるのではないかと思っています。   そういう意味では、先ほど棚村委員がおっしゃったような、財産をその形成過程でいろいろ分けて、特有財産にするのか、固有財産にするのか、あるいは夫婦の共有財産にするのかという、分けるところで一個一個また紛争が起き、そして、またその割合で紛争が起きるということを考えると、どちらかといえば、婚姻中に取得した財産は一応共有財産だという形にして、その2分の1ルールの適用の仕方をもう少し柔軟性を持って考えるというようなやり方の方が、余り、こんな言い方は申し訳ないけれども、面倒くさくないといいますか、解決ができるのではないかというふうに、実務をやっている者としては考えます。 ○大村部会長 ありがとうございました。2分の1ルールは便利に使われていて、機能しているのではないかという認識を御披露いただきました。ただ、寄与の程度が明らかでないときに、それを2分の1と考えるというのだけれども、寄与の程度はもう少し緩やかに認定してもいいのではないかといった御意見も併せていただいたと受け止めさせていただきました。 ○原田委員 もう1点、居住用財産の件なのですけれども、これは特に子どもさん、未成熟子がいるような場合は有用なのではないかという、議論したときに意見が出ました。未成熟子がいる場合と、高齢で家を借りたりすることができないような場合は有用なときがあるので、こういう制度を入れてほしいという意見が、弁護士会の中で議論したときにありましたが、夫婦の一方の固有財産についても当該権利の創設を命ずることを可能とすべきかという点については両論ありまして、現に住んでいる家なのだからいいではないかという考えと、いや、そこまで所有権を侵害するのはいかがなものだという二つの意見に分かれました。 ○大村部会長 ありがとうございます。居住用不動産の問題について、一定の場合に有用性があるのではないかということと、それから、固有財産に属するものについても対象にするのかという点については、両論あり得るのではないかという御指摘を頂きました。 ○石綿幹事 石綿でございます。   今、原田委員から御発言があった居住不動産について、細かいのですが、4点指摘させていただければと思います。   私自身、居住建物、居住の権利ということに注目をして議論していくということは、比較法的に見ても重要なことだと思っております。ただ、第一に、この居住用不動産の利用権の設定というのが果たして、利用の可能性がどの程度あるのか、本当に利用可能なのかということを議論できればと思っております。配偶者居住権についても指摘されているかと思いますが、権利を円滑に運用していくためには、所有者と利用者の間に、良好とまではいわないかもしれませんが、一定の関係性が必要かと思っております。特に、先ほど原田委員からあったように、未成熟子の子どもがいるような場合、子どもの居住環境を保護するということは重要だと思いますので、個人的には、夫婦が離婚した後も、特に子どものためを考えて、協力していくということが理想だと思いますが、この部会で今まで出ていた議論を伺っていると、子どものことでは交流を持つことが難しいと思っている方たちが多いとも認識しています。そのような方たちが、建物の利用に関しては交流を持てるのだろうかということに、少し不安を持っているところでございます。部会資料であるような想定している層に利用されることがなく、第三者との関係で濫用的にこの権利が使われてしまうということは防ぐべきかと思いますので、利用権を設定して、元夫婦がどのような形で円滑に利用していくことができるのか、そこまで含めて制度設計を議論していっていただければと思います。   2点目は、細かいのですが、期間をどうするのかということで、これも配偶者居住権のように終身とはいかないと思いますので、例えば、子どもがいる場合は未成熟の子が成年に達するまでなど、幾らか期間を区切る必要があるのではないかと思っています。   また、3点目、これも細かい話ですが、離婚の前に別居に至っているような夫婦もいるかと思いますので、配偶者居住権と同じように、離婚時に居住をしているというようなことを要件とすると、かえって守られない配偶者という方も出てくるかと思います。どういうときにこの居住用不動産の利用権が認められるかというのも、別居、離婚の実態を踏まえて議論ができればと思います。   4点目、これは棚村委員がおっしゃっていたようにも思いますが、離婚後の居住環境ということを考えていくのであれば、本来は、これも余計な話かもしれませんが、婚姻中の居住環境の確保ということも併せて少し議論ができると、より子ども及び配偶者の保護につながるのではないかと考えた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございました。4点御指摘いただきましたが、1点目は、こうした制度を作ったとしてどのくらい利用されるだろうか、当事者の関係が悪い場合には利用は難しいのではないかという御指摘を頂きました。それから、2点目は、他方で濫用される可能性があるということにも配意をする必要ではないか。3点目、具体的な制度を組む際に、期間をどうするのか、要件をどうするのか、現に居住していったことを要件とするとしたら、いつの時点で判断するのかといった問題がある。さらに4番目の問題として、婚姻中の居住の確保ということも考える必要がある。最後は少し分かりにくいかもしれませんが、婚姻住宅の処分制限のようなことをおっしゃっているわけですね。 ○石綿幹事 はい、そのような趣旨でございます。 ○大村部会長 夫婦の一方名義の不動産に夫婦が住んでいるという場合に、名義人が単独で行う処分に制限を加えるべきではないかという議論が以前からありますけれども、そうしたことも考える必要があるのではないかという御指摘として理解をいたしました。 ○赤石委員 ありがとうございます。しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石です。居住用財産についてお話をさせていただきたいと思います。   小中学生ぐらいの子どもが別居、離婚によって移転しなければいけない、それでお友達も替わる、また学校や近隣との関係も変わるということは、子どもにとって大きな負担がありますので、住み続けられるということはよいことだと思います。また、この間もシングルマザーの方500人に居住の問題で調査を掛けましたが、非常にやはり家賃負担が大きくて、しかも公営住宅とかに入れる方はごく僅かで、しかも、家の居住の条件というのは非常に厳しい、安いところに入るので、かびが生えているですとか、近隣の音がすぐに聞こえてしまうですとか、本当に日当たりが悪いですとか、ワンルームに3人で住んでいますとか、本当に目も当てられないような調査結果が出ました。ですので、住み続けられる権利を持つというのは基本的にはよいことだと思う反面、いろいろな懸念点が出たので、これをどういう権利として整理するのかは皆さん、法律家の方にお任せしたいと思うのですが、懸念点を幾つか挙げさせていただきます。   例えば、その家の鍵というのは一体どういうふうになるのか、替えられるのか、替えられないのか、替えられないなら好きなときに元配偶者が来るのか、そういうことで不安とか支配とかが続いてしまうのではないか、固定資産税の負担はどちらになるのか、家の補修の責任はどちらがあるのか、住宅ローンを滞納された場合に住み続けられる権利となるのか、競売に掛かったときはどうなるのか、それから養育費の減額につながるのか等々、いろいろ法的に曖昧な状態の中で、どういうふうな位置付けになるのかに不安がありました。それから、先ほども出たと思うのですが、別居中から住むとして、そのときの立場というのはどうなるのかということもあります。それから、公的な支援として児童扶養手当というものがあるのですが、この家族法をどうするかというときに、児童扶養手当法の運用もかなり変えなければならないと認識しているのですけれども、元配偶者の名義の家に住み続ければ、今の児童扶養手当の運用では事実婚を疑われ、児童扶養手当は支給停止に間違いなくなっていると思います。ですので、こういった運用をどうするのか。DV防止法では退去命令が出たら住み続けられる場合というのはあるわけですけれども、なかなか運用でそのことが適用されることは少ないわけですけれども、その退去命令で住み続けられるという権利を拡張していくということもあり得るのではないか、などが出てきております。   離婚後扶養、先ほどのところについては、いろいろ思うところはあるのですけれども、まだまとまっていないので、ここにとどめさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。赤石委員からは、住み続けられることにはメリットがあることを前提としつつ、しかし、幾つかの懸念があるだろうという御指摘を頂きました。最初、鍵のことをおっしゃいましたが、管理はどうなるのか、それから、様々な費用の問題や第三者との関係がどうなるかといった問題があるだろう。これは配偶者居住権などについても生じている問題で、一定の対応がされているかと思います。それから、養育費の方にどういう影響が生じるのか、あるいは児童扶養手当の運用とどう関わるのかといった問題。別居の問題は先ほど御指摘がありましたけれども、それも問題になるだろう。それと別に、DV防止法の方の制度との関係で対応を考えるということはできないだろうかといった御指摘も頂きました。 ○武田委員 ありがとうございます。親子ネット、武田でございます。   元々第4についてきちんと意見を申し述べようと思ったのですが、先生方の今日の議論を聞いていて、意見を申し上げるのは、今日は差し止めさせていただこうかなと思います。   このアンケート結果、第4に関しては、私はこの2分の1ルールというのは裁判実務上ではもう定着していると、当然、共有財産について2分の1と、そう思っていましたが、このアンケート結果を見ると、2分の1にしているのは15%なのですね。少しそこもありまして、頭の中で整理をもう一度し直さなければと思いますので、第4に関してはまた改めてということにさせていただきたいと思います。   第5、居住用不動産に関して、簡単に意見を申し述べたいと思います。冒頭御紹介を若干させていただきましたけれども、私ども子と離れて暮らす当事者の中に、共有財産であった自宅、これを元配偶者と子どもが住めるように引き渡すケース、それほど多くないですが、事実として相当数ございます。この目的は、赤石委員からも今ありましたけれども、子どもが暮らす環境を変えないようにということに配慮するためというふうに私も理解しております。   一方、外国なんかを見てみますと、特に北欧諸国は、子どもが一定の元いた家に住み続けて、両親の交代監護という取組も一定程度、普及し始めている、そんなふうにも聞いてございます。結果的に見れば、このような行動をとる当事者御夫婦、又は元御夫婦ですね、極力争いを回避しようという傾向がやはり見て取れることから、この部会で議論が続いておりました養育費の支払、面会交流に関しても継続できている傾向があると、このように感じております。   したがいまして、子の居住を確保するという観点から、この第5に関しての一定の規律は、権利関係が複雑なことがいろいろあろうかと思いますが、そこは事務当局及び法学者、弁護士の先生方の知見を得て整理を進めていくということがよろしいのではないかと、このように考えます。 ○大村部会長 2点御発言いただきましたが、1点目は2分の1ルールについて、実務上定着していると思われるけれども、アンケートを見ると必ずしもそうではないので、その点については後ほど考えたいという御趣旨だと受け止めました。それから、2点目として、住宅の問題については、住宅を引き渡すというケースはそれなりに存在するという御指摘、そして、御意見としては、そうしたことが可能なカップルについては、養育費や面会交流と含めて、それを促進することを考えるべきだという御意見だと受け止めてよろしいでしょうか。 ○武田委員 おっしゃるとおりです。 ○大村部会長 分かりました。そうした御意見を頂きました。   ほかにはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○池田委員 居住用不動産の件についてですけれども、今、現行法でも家事事件手続法154条2項のところで、一定の利用権の設定というのが可能ですが、余り活用されていないというところがあると思います。その意味で、子どもの養育環境の継続性を守るという趣旨でも、それが積極的に活用されるような何らかの方策というのはとるといいのではないかと思っています。ただ、課題として17ページに挙げられているところを見ますと、ややその権利性というのが非常に強いという印象を持っていまして、こういうふうな形で仮に法律に定めた場合に、この権利って財産的価値としてはどれくらいあるのかとか、その分、取得する財産分与の預金の額が減るとか、そういうふうなところに波及するとよろしくないのかなと思いました。ですから、ここでこういった居住を確保するというときには、清算的財産分与ではなく扶養的な意味合いで認めていくという形が明らかになるといいのかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございました。二つ指摘があったかと思いますが、一つは、現行制度で認められているものについて、更に活用していく工夫が必要ではないかという御指摘かと思います。もう一つは、今回ここに示されているようなものを定めた場合に、その金銭評価に関する問題が出てくる、清算の枠内で行うということになりますと、当然その分が引かれることになりますので、そのことをどう考えるのかという御指摘があり、あわせて、清算の外で行うことは考えられないだろうかという御指摘もあったと受け止めました。ありがとうございます。 ○青竹幹事 青竹です。よろしくお願いします。   今、2分の1ルールについていろいろ御意見が出たところですけれども、実務では必ずしも使われていないこともあるかもしれないということですが、便利に使われているということで、これをあえて否定することはないかとは考えております。他方で夫婦の働き方が多様化して共働きの方が多くなっていますので、専業主婦を想定して、あるいは一方が極端に収入が少ないという夫婦をモデルにして、妻が夫に対して2分の1を請求するという画一的なルールを明文化するというのは、多様な家族に対応させるという方向性に逆行するので、少し抵抗があるように思われます。   ですけれども、何を2分の1にするかについて、様々な家族に対応することもできるのではないかとも思います。個々の財産について全部2分の1としてしまうと、やはり画一的ということになってしまいますが、財産を全体として見て、婚姻中、主に各自が得た稼働による収入の差額の2分の1を一方が他方に請求するという方法をとれば、つまり、収入の多い方が低い方に対して差額の2分の1を与えるということで、多様な働き方をする夫婦に対応するというような方向性になるようには思います。この場合には、2分の1は清算を目的としますので、ほかの離婚後の扶養については、清算に加えて、離婚後の各自の想定される働き方を基に、扶養料というものを清算に加えて上乗せするということになるのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。2分の1ルールについて、画一的なルールが一律に適用されるというのは望ましくないという御意見を頂きました。それとの関連で、しかし何を対象にして2分の1のルールが適用されるかということを定めることによって、夫婦の多様性に対応するといったことも考えられるだろうという御指摘を頂きました。   ほかに、第3から第5につきまして、御意見はございますでしょうか。 ○柿本委員 柿本でございます。私からは1点コメントがございます。   共働きなのか、専業主婦なのか、パワーカップルなのかというような議論が出ているかと思いますけれども、14ページの(注2)のところ、無業の妻からなる世帯が582万世帯に対して、共働き世帯が現在1、245万世帯となっているという表記がございますが、私はこの共働き世帯の中で、もちろんパワーカップルの方もいらっしゃるとは思いますけれど、多くは所得が不均衡である、またはキャリア格差がある可能性が高いと思われますので、そこをきちんと押さえておく必要があると思います。そして、シングル世帯が貧困に陥っている理由につながってくるのではないかと考えます。ですので、数字のみでの判断は控えるべきであると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。直前の青竹幹事の御発言とも関わるところがありますけれども、現在の夫婦の就労形態がどうなっているのかという認識に関する御発言を頂いたと理解をいたしました。14ページの(注2)で、雇用者の共働き世帯は1、245万と出ておりますけれども、この内訳を分けて考えることが必要ではないかといった御指摘だったかと思います。ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、第3から第5まで御意見を頂いたということにしまして、第6、第7が残っていますが、ここで休憩を挟ませていただきまして、16時に再開して、残りの部分について御意見を頂きたいと思います。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、再開させていただきたいと思います。   17ページ以下の「第6 財産分与請求権の除斥期間」、そして、18ページの「第7 財産分与に関するその他の論点」が残っておりますので、この部分につきまして御意見を頂ければと思います。どなたからでも結構ですので、お願いをいたします。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。   第6の財産分与請求権の除斥期間ですけれども、これについてもいろいろ相談機関での相談とかを伺っていると、別居とか離婚とかで、うまく円満に別れたり、大人の問題を処理できたところはいいのですけれども、そうでないところでは、離婚して2年間でやっと落ち着いたところで考えられるようなときに、財産分与というところまで手が回らなかったというような方もいらっしゃって、なかなかこの離婚から2年間の除斥期間という期間制限があるということについても、周知がされていないというような問題もあると思います。ただ、今言われたような形で当事者の方たちが割合と、自分自身の生活を立て直したり、紛争の解決をするなど落ち着きを取り戻すためにどれくらいの期間が必要なのかということをもう一回考えて、2年という起算点というか除斥期間の設け方について、除斥期間も、これでもう打切りなのだというような性質のものなのか、時効ですと権利が行使できるときから何年ということにもなるわけなので、この期間の問題も考えていただければというのが第1点です。   それから、第2点が、第7で、財産の開示制度というのは、これは多分、実務の先生方もそうだと思うのですが、どれだけの財産を持っているかというようなことがよく分からないというケースが結構あると思います。その意味では、これは養育費とか財産分与とか、婚姻費用の分担もそうなのですけれども、お隣の韓国でも財産の明示とか照会制度とかという形でいろいろな工夫をして、財産を全て出させるという制度が是非必要だと思います。韓国のを見ていてびっくりしたのは、自分の所有している財産のほかですけれども、2年間にわたって親族等に譲渡したような財産とか、そんなようなものも含めて、追跡しながら財産をきちんと出させて、それを養育費とか、婚姻費用とか、財産分与ということで適正に分けたり、支払を命じたりする仕組みみたいなものを作っています。それに対して、例えば過料とか、拘留という強力な制裁制度も設けています。これは、裁判所侮辱みたいな英米の制度を参考にしたようですけれども、いずれにしても、そういうような形で財産の強制的な開示制度とか、それから場合によっては、ここにもあると思いますけれども、財産を出さない場合には当事者の主張を認めるという制度、弁論全趣旨から、そういうことへの規定化というのも海外でもやっているところはありますので、これは高田先生辺りにお教えいただければと思うのですが、実体法上、手続法上の財産開示制度、どういうような形で、どこに置くかというのは是非検討していただきたいと思います。   それから、共有物分割も、財産分与とどちらが優先するかというので、非常に悩ましいケースが結構出てきています。当然、共有ということで、名義上も持分権を持っているわけですから、それをきちんと実現できるということは必要なことだと思います。ただし、今、実務では共有物分割請求訴訟が出されるときに、財産分与の話合いをしたり、やるべきなのに、それを回避する目的で、あるいは相手方に対する嫌がらせというのですか、そういうようなことで出てくるときに、権利濫用で押さえるというようなことで調整をすることがあります。けれども、財産分与と共有物分割という両方の調整をするような規定を設けるなど、そういうようなことのルール化というのが必要だろうと考えています。   最後に少し余計なことを一つ言わせていただきたいのは、この家族法制部会とは関係ないのですけれども、先ほど言った夫婦財産契約というのを、例えば財産分与に関わって離婚のときにこういうふうに分けたいというようなことで提案をしたり、それから、共有にするという形で、婚姻後取得した財産は共有財産にするのだと夫婦になろうとする者が、そういうような定めをして、結婚前に登記もしなければいけないのですけれども、夫婦財産契約登記をやっても、税法上の扱いは、一旦稼いでいた夫なりが取得をした形で、それを共有にしたというので贈与税が課せられたりということになってしまっているわけです。それから、財産分与も資産譲渡をしますと、不動産の場合ですと譲渡した方に譲渡所得の課税が生じてしまうということになります。バブル期の非常に不動産が高騰していたときには、財産分与を気前よく子どもや妻のためにというのでやった方が、ものすごい譲渡所得課税を受けてしまって、錯誤の規定で勘違いしましたというので取り消さざるを得なかったという事案もあって、そういう意味で言うと、私自身、この財産分与とか、正にそういうところでの課税上の扱いについても、この部会がやることではないのですけれども、財産分与を気前よくやってあげたいという人を応援するような形で、これは養育費とか婚姻費用とか、いろいろなこともそうだと思うのですけれども、やはり税務上の何らかの御褒美とか優遇をするような仕組みを考えないと取り決めを促進したり、奨励することにはならない可能性があります。どうも取決めをなかなかしないという背景には、DVとかいろいろなことで怖いから関わりたくないというのもあるのですけれども、そもそもそういうことをした場合に税金を含めてメリットがどれくらいあるのか、デメリットがどれくらいあるかも含めて、分からないケースが結構あると思うのです。ですから、財産分与の制度を今度見直すにしても、ここでどれくらい検討できるかというのは、むしろ難しいかもしれませんが、先ほど正に窪田先生が言ってくださった、夫婦財産契約というのはほかの国では事前に、お互い同士が、きちんと紛争を起こさないで法律関係、権利義務関係をはっきりさせるために使われていますから、それが使いやすいような制度にして、いろいろなひな形とかそういうものを見せて普及させると同時に、むしろ婚姻前の登記というようなことではなくて、届出とか、婚姻後、むしろ必要に応じて話し合って決められるとか工夫も必要ではないかと思います。   言いたかったことは、制度をもう少し使いやすくして、御褒美をあげるような仕組みにしていかないと、なかなか使いづらいのだろうなと思った次第です。財産分与とか、正にそういう制度についても、税法上の取扱いについても、ここでは検討できないかと思うのですけれども、課題として申し上げさせていただきます。長くなりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点プラス1点、御意見を頂きました。まず一つ目は除斥期間の問題で、期間は短すぎるのではないか、起算点などと併せて再検討した方がよいのではないか。それから、開示の問題については、ルールをどこに置くのか、実体法なのか手続法なのかということはあるけれども、積極的に検討すべきではないか。共有物分割については、調整ということを考えていくべきだろう。こういう御意見を頂きました。それと、もう一つ、ここでは少し無理だけれども、という留保の下で、先ほど出ました夫婦財産契約などについて、より使いやすいものとすることも考えていく必要がある。税制の問題は、財産分与も含めて一つ問題としてある。先ほど児童扶養手当などの話も出ましたけれども、税金と社会保障給付とは家族の関係に大きな影響を及ぼすので、そうしたことも考える必要があるという御指摘を頂きました。 ○井上委員 ありがとうございます。連合の井上です。質問と意見と発言をさせていただきます。   質問の方は、17ページの第6の除斥期間の第2段落のところ、10行目以降になりますが、離婚前後の様々な事情で2年が経過後、財産分与の請求ができず、経済的に困窮する例について記載があるというところがありました。どんな例があるのだろうと思っての質問だったのですが、今ほど棚村委員から、大人の事情でいろいろあって、やっと落ち着いてきたら2年が過ぎていたという話もありましたので、そういうケースなのだろうなとは分かりましたが、もしほかに何かあるのであれば、どんなケースがあるのかを教えていただければというのが質問です。   意見ですが、同じ17ページのところで、この除斥期間の2年が、その趣旨は必ずしも明らかではないということで記載があります。課題の方で、除斥期間を3年又は5年とする規定を設けてはどうかとありますけれども、趣旨が明らかでないということになると、せっかく請求をするときに、知らなかったとか、そういうことで2年で打ち切られてしまうと、それは請求する側にとっては、全く知らなかったことで請求するすべもなくなってしまうというのはどうなのだろうと思いますので、その意味では、何かしらの消滅時効と同じ事情で、根拠をしっかりと持った方がいいと思いますので、その意味では、3年の根拠だったり5年の根拠をしっかり作るようにしていただけたらいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。除斥期間について、御質問と御意見を頂きました。御質問の方は、2年間に請求できないという例としてどのようなものがあるのかを、もしあれば教えていただきたいということでした。御意見の方は、期間を設けるという場合に、その根拠についても併せて検討して、その上で決める必要があるのではないかという御意見を頂きました。御質問の方について、事務当局で何かあれば。 ○北村幹事 おおむね棚村委員の方から御指摘いただいたところでありますけれども、特に高葛藤の離婚の場合に、離婚は何とかできたけれども、まず自分の生活を立て直す、あるいは整えることが精一杯で、財産分与までなかなか行かない、そのうちに2年たってしまったというようなお声を伺ったことがございまして、そのようなことを念頭に置いて記載をさせていただいております。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○杉山幹事 私からは、棚村先生から御指摘のあった第7の1の財産開示の制度と、あとは、少し細かな話になるかと思いますけれども、第7の3の事例2に関連して、ここで意見を述べさせていただければと思います。   第7の1の相手方の財産の開示を認めるという点につきましては、方向性としては賛成でありまして、この問題は財産分与のみならず、これまで議論してきた養育費の算定の基礎となる相手方の収入を知りたいという場面でも、開示のための何らかの手続があった方がいいと思っており、そのための手続を構築していくことは必要であると思います。ただ、その手続や、手続的な規律を考える以前に、実体法上の開示請求権があった方が、手続上も開示を求めやすいと思いますので、そのような方向で議論する方がいいのではと思います。   仮にこの開示に応じなかったときに、先ほど御指摘があったような過料その他の制裁を課すかという点は、難しい問題であろうかと思います。開示に応じなかったときに手続的な不利益を課すということで十分であれば、必ずしも実体法上の制裁を課すまでは必要ないと思います。少なくとも実体法上、このような開示請求権があるといいますか、開示をする義務があるということが明らかになることが重要であろうかと思っています。細かな点までまだ詰められていませんが、以上が第7の1に関する意見になります。   第7の3の事例2に関する問題ですけれども、倒産の問題が関わりますので、そもそもこの部会で一定の方向性について決着を付けていいかよく分からないところですが、ここで紹介されている判例のように、財産分与請求権が、相手方が破産したときに、破産債権としてごく僅かな配当しか受けられないことになるのは、現在の解釈論としてはやむを得ないところはあろうかとは思っています。他方で、様々な事情で離婚に時間が掛かることがあることを考えますと、破産と離婚の時期の前後で、先に財産分与をしてしまえば、よほどのことがない限りはそれが取り消されることがないこととのバランスといいますか、結論が大きく変わってくるというのはいかがなものかという気もしております。もちろん今は、破産債権だというのが判例ではありますけれども、解釈論として、清算的な部分については取戻権として構成するとか、あるいは財団債権として優先的な弁済を受けられるように構成すること自体も理論的には全く不可能ではないと思っております。そのため、財産分与の法的性質について検討するのであれば、清算的部分とか扶養的な性質の部分については、優先権を一定程度付与する、優先的な取扱いを認める方向で検討することもありうるのではないかと思っています。もちろん今でも優先的な取扱いを認める方法として、例えば、財産分与のうち扶養的性質の部分を切り分けて、その部分は破産債権だけれども免責されないというような取扱いをすることはできると思いますが、それで十分かについても検討する必要があると思いますし、この問題を考えるに当たっては、養育費の破産、倒産手続上の取扱いについても平仄を考える必要はあると思います。   この問題については、破産法が改正された際に、養育費も含めた扶養料請求権については、破産債権としつつも非免責債権とする取扱いにしましたけれども、他方で、手続開始後に弁済をすると偏波行為否認として取り消される可能性もあり、それでいいのかという問題も残っていると思います。優先権の付与、あるいは優先的取扱いといった場合には様々な方法があるのですが、付与する方向で検討する必要はあると思います。他方で倒産法的な視点から見ますと、このように公示がないもの、2分の1ルールがあるからといって当然に配偶者の財産の2分の1は相手方のものになるというのも公示としては不十分だとは思いますので、そのようなものに優先権を本当に認めていいのか、また、詐害的な分与等が行われる可能性もあるので、優先権の範囲については検討する必要性があるかと思いますが、一定程度のものについては優先的な取扱いをするということも、再度検討していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。2点について御意見を頂きました。開示の問題については、実体法上の請求権を定めた方が手続の方も組みやすいということと、それから、清算の問題をどうするのかについての御意見を頂きました。もう一つ、22ページの事例2について、現状の取扱いは、それはそれで仕方がないというとした上で、しかし、破産と離婚の先後で帰結が大きく違うということには問題はないだろうかということで、財産分与の対象となる財産について優先権を認めるということも考えられるのではないか、ただ、公示や詐害の可能性ということを考える必要があるといったお話があったかと思います。杉山幹事の御趣旨は、事例2は、婚姻関係が継続している場合であっても、将来において財産分与の対象となり得るような財産について一定の保護をすることができないのかという含みを持っていると思いますが、そうした場合全てを念頭に置いて、今のようなことをおっしゃったと理解してよろしいですか。 ○杉山幹事 全てかどうかについては、また少し検討する余地はあると思いますけれども、保護する場合もあるというくらいで考えています。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 幹事の今津です。私も資料の18ページからの第7のその他の論点のうちの財産の開示の部分について、意見を述べさせていただきます。   この問題は、財産分与のみならず養育費の算定に当たっても、夫婦双方の財産状況をクリアにするという点は必要なことと思われますので、こういった方向について議論していくということには賛成です。ただ、どういう形で規律を設けていくかという、その方向については、資料では民事執行法上の財産開示の手続についての説明なども加えられておりまして、財産開示という文言で説明されている箇所もあるのですけれども、ただ、執行法上の財産開示は、既に債務名義があるという前提の下、強制執行の準備段階的な位置付けになっているのに対して、養育費の算定とか財産分与をこれからやっていこうという局面では、これはそのまま使うというのはなかなか難しいかなという気がしております。なので、表現ぶりとしても、財産開示と言ってしまうと執行法上のものとの混同が生じやすいところかなと思いますので、その辺りは少し工夫していただけるといいかなと思います。   それから、規律の中身についても、先ほど杉山幹事からもお話がありましたように、やはり実体法上、開示請求権なり開示義務なりというものがあった上での実現という形の方が議論がしやすいのではないかと思いますので、そういう方向での議論をしていただくといいのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。今津幹事からも開示の点について御意見を頂きました。基本的な方向については賛成されるということで、ただ、執行法上の財産開示をそのまま使うというわけにはいかないので、用語も分けて考える必要があるのではないかということなどの御指摘を頂きました。それから、もう一つ、実体法上の請求権をやはり認めた方がよいという御指摘も頂いたところです。 ○畑委員 畑でございます。私の意見も今までのお二人と方向性としては重なっていると思います。   まず、財産開示については、養育費のところでも同じように問題になり、必要な情報が手に入らないというのは一般的な問題の一環でもあるというようなことも申し上げたかと思いますけれども、類型的に問題になりやすい、定型的に問題が生じるという場面について何かしらの、それが実体法なのか手続法なのか分かりませんが、手当てを置くということは十分あり得ると思っております。   ただ、今津幹事も言及された執行法上の財産開示というのは、これは実は実効性がほとんどないと言われ、比較的最近、それを強化する手当てもされたのですが、なかなか難しい面もあるかなという気はしております。(注1)の弁論の全趣旨で何かしら認定するという、この弁論の全趣旨という位置付けがいいかどうかは分かりませんが、ある種、本案の問題として一定の判断を可能にするという仕組みは、あるいは実効性という意味では、ありうるかなという気はしております。   それから、破産手続の話も、これも杉山幹事がおっしゃったのと重なりますが、確かにもう少し何とかならないのかなという感じは私もしております。財産分与に関わる請求権の保護という意味では、23ページの(注1)で書いてある、特段の事情がない限り分与自体は詐害行為にならないということとの関係からも、もう少し何とかならないかなという気はしております。かつ、これは、23ページの(注3)にも書いてありますように、離婚前の財産分与制度というものとは独立した問題として存在しますし、それからまた、22ページの説明の辺りでも言及されておりますけれども、破産手続固有の問題ではなくて執行の局面でも問題となる、ある意味では一般的な実体法的な優先権の問題でもあると考えております。現物を分けるというときに対抗要件もなしにほかの人に対抗できるというようなことになると、確かに影響は大きいかなとも思いますけれども、金銭債権という場合に一定の優先権を与えるというようなことは検討してもいいのかなという気は私もしております。 ○大村部会長 ありがとうございました。開示の問題については、今までの御発言の中にも、他の問題と併せてといった御発言がありましたけれども、これは一般的な問題の一環をなすものであり、ほかのところにも様々な問題があるわけですが、しかし類型的に必要が大きい問題としてここで手当てをするということは考えられるであろうというお話と、それから、実効性の観点から、実効性があるような形の仕組みを作っていく必要があるのではないかという御指摘を頂きました。そして、破産の問題の方については、様々な問題があるけれども、金銭債権として優先権を付与するといったことが考えられるのではないかという御指摘を頂きました。ありがとうございます。   裁判所、手が挙がっていますか。 ○原田委員 裁判所にお伺いしたいことがあるので、それをしてからお話ししていただいた方がと思ったんですけれども。 ○大村部会長 では、原田委員に先に伺って、それから木村幹事にお願いします。 ○原田委員 すみません。まず、意見としては、除斥期間についてはやはり少し短いのではないかということと、いろいろな事情があるので、先ほど棚村委員がおっしゃったような時効的な考え方を取り入れていただいた方がいいのではないかということなのですけれども、あと、財産分与の開示請求の問題で、実は昨日議論したときに、現行、調停の段階では調査嘱託とか文書提出命令とかを全然裁判所がやってくれないという不満が一杯出たのです。何で調停でできないのかというところが、皆さん、根拠条文とかそういうのが全く出てこなくて、何で駄目なのだろうという話だけだったので、これは是非裁判所に聴いてほしいという意見がありましたので、すみません、その点をお願いして、あと、開示請求の関係では、民事執行法上の開示請求と同じようなイメージですると、対象をある程度特定してやらないといけないので、調査嘱託などと同じように、包括的に開示請求をすることが難しいし、そのたびごとに費用が掛かるとかいうような問題があるので、包括的な開示請求、あるいは開示の義務、ここに出ていますフランス法のような、そういうものがあった方がいいのではないかという感じがしております。すみません、割り込んで。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点御意見を頂きました。期間の点については、やはり短いということと、除斥期間であるということの問題点を御指摘いただいたかと思います。それから、開示の問題については対象の特定ということが障害になっているので、より包括的なものが考えられないだろうかという御指摘でした。御質問がありましたけれども、木村幹事の方の御発言と併せて、原田委員からの御質問について何かありましたら、御発言いただけると大変助かります。 ○木村幹事 最高裁の木村でございます。ありがとうございます。   ただいま原田委員から御質問ありましたけれども、調査嘱託などを裁判所が採用しないということの理由につきましては、対象が特定されているかとか、探索的であるとか、なぜ駄目なのかというのは、様々具体的にそれぞれの事案ごとだと思うのですけれども、私の方で発言させていただこうと思っていた点が、正に財産の開示の第7の1のところでございますけれども、この提案で想定されているのが離婚後の手続に限られてくるのかと。例えば、原田委員の問題意識にも通じるかもしれないのですけれども、離婚調停ですとか、離婚訴訟とか、離婚も含めて、いろいろと争いになっているというような手続、つまり、離婚につきましても手続進行中ということで、まだ判断がされていないというところでありますけれども、そういった離婚を含む法的手続の進行中というのも、この財産分与の関係での財産を適切に開示させるための規律が適用されてくるのかどうかというところが、原田委員の問題意識と通じるところがあるのかどうかは一概には言えないかもしれませんけれども、私の方で発言させていただこうと思ったのは、そういったところでございます。離婚を含む法的手続がまだ進行しているときに、こういった開示についての規律が適用されてくるのかどうかについて、問題意識を持ったというところで、発言させていただこうと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。開示の手続がどの範囲で利用可能なものとして構想されるのかという問題があるだろうという御指摘を頂きました。離婚後に限られるのかどうかといったことが検討されなければならないだろうということであったかと思います。御意見という趣旨でよろしいでしょうか。御質問ということでしょうか。 ○木村幹事 今後、そこも含めて議論されていくということであれば、そういうことだと理解します。 ○北村幹事 財産開示の部分につきましては、養育費であるとか、その他の部分でも御議論も頂いていたところですので、様々なところで御議論いただくという形になろうかなと、手続の様々な場面、それが離婚の前、後も含めて、議論にはなり得る問題であろうと。今回は財産分与ということで、主に離婚した後の話ではありますけれども、この論点自体は様々、委員から御意見いただいていたように、手続、離婚の前からも問題になり得ることであろうと思いますので、その点も含めて今後意識して議論をしていただきたい、そういう資料を準備したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。そういうことで引き取らせていただきたいと思います。 ○菅原委員 ありがとうございます。白百合女子大学の菅原でございます。17ページの第6の財産分与請求権の除斥期間につきまして、少し意見を述べさせていただきたいと思います。   先ほどから御意見がありましたように、こちらの17ページの下段の方に書いてございますように、様々な事情によって2年以内に請求することができなかった場合に、結果的に経済的に困窮するに至っている者がいるという指摘があるということで、きちんと請求できなかったことによって離婚後、特にシングルマザーの家庭などで経済的に困窮して貧困に落ちていくと、そういうことがあるのかなということが十分予想できます。これに関しては子どもの将来にも大きく関わることですので、この18ページの排斥期間を長くするということに賛成です。   これについて今日の議論を伺っていて思ったことは、調停離婚および裁判離婚の場合は、財産分与について、 争われるという形にしろ弁護士さんも入ってきちんと顕在化して請求がなされ、また支払ということがあると思うのですけれども、協議離婚の場合は一体どうなっているのかという実態が明らかになっていないと思います。もしかしたら、協議離婚の場合は、請求権そのものがあることも知らず、結果請求もできず終わってしまっているケースも多いのかもしれないという想像をしました。協議離婚に関するデータがあれば教えていただきたいと思いますし、なければ、協議離婚における財産分与請求の実態について調べていく必要があるのではないかと考えられました。   派生的な意見になってしまうのですけれども、これまでの離婚後養育に関する部会の審議の中で、離婚時に離婚後養育についての親講座や親へのガイダンスが必要だという議論になっていたわけですが、財産分与請求権に関しての基礎知識を講座やガイダンスのなかに含めて、親のリテラシーアップということも離婚時に織り込んでいくことが必要かなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございました。17ページの除斥期間の問題について、これを改正していくということに基本的には賛成だという御意見との関連で、協議離婚の場合に、財産分与の請求を行い得るということがどれくらい理解されているだろうかということで、情報を伝えていくということが必要ではないかといった御指摘を頂きました。先ほど、棚村委員だったでしょうか、財産分与がどのくらいなされているのかということについての御発言もありましたけれども、そうしたことも含めて、今のような対応が必要ではないかという御意見として伺いました。これについて、事務当局の方で少しお願いします。 ○北村幹事 事務当局でございます。御意見ありがとうございます。確かに協議離婚の場合にどこまで皆さんが財産分与のことまで理解をしておられるのかという点、御意見等あったところでございます。現在ですけれども、離婚届に養育費、面会交流についての取決めをしていますかというチェック欄を作らせていただいて、さらに、今年ですけれども、そこを分かりやすく改正しております。離婚届に更に、財産分与や年金分割、あるいは離婚するときに考えておくべきことをまとめた情報について法務省のホームページで案内していますという記載とともに二次元バーコードを載せるなどの取組をしているところでございます。また、それらはなかなか文字も非常に多くて、いろいろなことが盛り込まれているということもありますので、各市区町村で使いやすいように、法務省のホームページを案内していただくような形でのリーフレットも配布をお願いしたところでございまして、法務省といたしましては、まず制度について正しく御理解いただきたいということで、様々な形で現在、周知を行っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。現状については今、御説明を頂きましたけれども、この先、制度を組んでいく際に、他の離婚に伴う法律問題と併せて、当事者に情報を提供する必要があるのではないかということは、別途、考えていく必要があるかと思って伺ったところです。   そのほかに御発言はございませんでしょうか。 ○佐野幹事 佐野です。   まず、除斥期間のところですけれども、実務家の中で話をしていたときには、確かに延長してほしいという話もありつつも、早期に紛争が解決するというか、終息するというメリットもあるのではないかという両方の意見が出たことはお伝えしておきます。   それから、19ページの開示なのですけれども、その必要性は本当に感じるところではあるのですが、ただ、実体法上の開示の義務というのをどの段階でそれが生じるとするのかというところが若干気になるところです。といいますのは、離婚請求されても自分は離婚するつもりがないからということで開示したくないという場合もあって、その義務が夫婦であるからということで生じるとするのか、それとも離婚を請求されたら生じるとするのか、その辺、どのように考えるのかというところが少し気になっているところではあります。それから、裁判所の手続にのった場合でも今、やはり夫婦が両方の財産を把握していなくて全く手掛かりもないという場合もあります。そのような場合に、養育費の場合もそうなのですけれども、やはり税務情報が取りたいと、税務署の方が絶対出してこないということがありますので、この機会にこれも是非検討していただきたいとは思っております。   もう一つ、最後の夫婦の財産の性質に関する規律ということなのですけれども、先ほど、棚村先生がおっしゃっていたように、居住用不動産については、離婚前の段階でも一方的に処分できないようにするニーズはあります。もう一つ、22ページの方に事例として挙がっております成年後見の場合について、夫名義の財産を奥さんの方としては生計同一の中で自由に管理できると思っていたところが、後見人が付くことで、それを後見人が管理するということになる。もちろん扶養として幾らか払われるということにはなるのですけれども、今までのように自由に管理することはできないというところで、むしろ後見申立てをためらうということにもつながっている事案もあると思います。もちろん、これを半分、先に渡してしまうとすると、その後、配偶者がすべて費消してしまったときに、扶養義務がまた発生するのかとか、そういう問題はありつつも、一つ、後見申立てを阻害する事由になっているということも念頭に入れて検討していただく必要はあるのかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点御意見を頂きました。除斥期間については延ばす必要があるのではないかと考える一方で、紛争の早期解決、先ほどからそうした御指摘もありますけれども、この点も考える必要がある。それから、開示請求権はいつから認めるのか、これも先ほど出た点ですけれども、この点も考える必要があるといったお話がありました。効果に関わってまいりますけれども、税金の点などについても問題はあるという御指摘を頂きました。それから、最後に22ページの事例1がどのような問題なのかということについて御説明を頂いたと理解をいたしました。 ○武田委員 親子ネット、武田です。   第6の除斥期間、ちょうど今、3先生が御発言いただいたことと同じことを考えておりました。基本的には延ばす方向で検討するのがよいと考えています。一方、私どもが1、2年前に、やはり当事者からアンケートをとったことがございます。今、手元にないのですけれども、要はどういう順番で離婚の裁判所での手続が進んでいったかということを確認するような、そういう項目が網羅されているアンケートだったと思っています。やはり最初は離婚だけ、その前の面会交流とか養育費は置きまして、離婚だけ。決まったことは何かと、離婚と親権だと、非常にそれが多かったように私は記憶しております。またまとめてどこかで報告できるように準備したいと思いますが、そこから後になって、ずるずると面会交流の話が続いて、それが終わって、さあ財産分与みたいな、そういうケースが非常に多くて、私は個人的にはこういう話、もう一気に片付けられるのであれば片付けた方が子どもの負担にならないというのが基本的な考え方ですので、除斥期間を延長する方向は、それはそれでよいと思うのですけれども、もう少しこの手続そのものを総合的に早く進める方法はないものかというのが私の素朴な問題意識でございます。以上が第6、除斥期間に関しての意見とさせていただきます。   第7の1、もう皆さんから御意見が出ております、いわゆる財産の開示に関する問題です。繰り返しになりますけれども、私どもは財産分与に関しては争わない、早期決着して子どもとの関係に集中するというスタンスは繰り返し述べてきたとおりでございます。早期決着のための阻害要因となるのがこの財産開示であろうと認識をしています。したがいまして、課題2に挙がっている財産開示のための規律、これはもう是非検討いただきたいと思います。立て付けをどうするか、民事執行法的なものができる、できない、それは当然あろうかと思いますが、一歩進めて検討を進めていくべきという立場でございます。   最後に財産開示に関して、考慮要素として発言しておきたいことを1点、挙げさせていただいております。何かといいますと、共有財産の別居前の持ち出しです。話合いを経ないで、連れ去りのケース、やはりよく報告されるのは共有財産である預貯金の持ち出しでございます。自宅に帰ると子どもはいません、家財もまるっきりなくなっているということに加えて、預貯金口座残高が計画的に引き出されていて、気付いてみたら残高がなかったというケースです。非常に多いです。まだまだ日本国内では妻に家計管理、資産管理をお願いするという文化が残っていると思っておりまして、預貯金口座を含めて、実印と併せて妻に預けているという事例もまだまだ多いものと、こんなふうに考えています。かく言う私も同じ経験がございます。   法学者の先生方、弁護士の先生方には言うまでもないことですけれども、家庭裁判所の手続では別居時点を起算点として共有財産を整理していくというのが一般的な進め方かと思いますが、この場合、別居前の預貯金、これはどこかに移動されていますので、別居時点の共有財産にはカウントされないというのが一般的な運用かと思います。先ほどの、無断で預貯金の移動があった、持ち出された場合、口座履歴から預貯金が引き出された履歴、これを追って、いわゆる持ち出された側が、履歴が残っていれば、それを提出して、本来はこれは共有財産であるという主張をしていくという形になり、認められるケースもありますけれども、この共有財産の確定にまた時間が掛かるという問題があるであろうと、こんなふうに思っています。当然、認められないケース、開示してくれと言っても認められないで、そのままばたばたと判決まで行くケースもあると思っています。   このような共有財産の持ち出し、これは係争の長期化ということにもつながると思っておりますし、夫婦間の葛藤を更に高める原因にもなると思っております。何とかこういう事態を抑止できるようにといいますか、そういう目的として、この別居前の無断の預貯金の持ち出しに関しても規律化の検討に入れていただくこと、これを述べさせていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。除斥期間の問題と開示の問題について御意見を頂きました。全体として早期解決を図りたいというスタンスで御意見を頂いたものと理解をしております。その上で、除斥期間については、財産分与の問題は後で出てくるということが多いので、期間を延ばしていくということは分かるけれども、しかし、やはり早く終わる策を考えたいという御意見があったかと思います。それから、開示の方は、これは早期解決のための手段として必要なのではないかということと、あわせて、預貯金の持ち出しについても問題として意識していただきたいという御指摘を頂いたと思います。ありがとうございます。 ○青竹幹事 お願いします。第7の2の共有物分割との関係について一言ございまして、夫婦が共有する居住用不動産について、一方が財産分与に先立って濫用的に共有物分割請求して、第三者の手に渡ってしまうという事例について、これを阻止する必要があるというのはそのとおりだと考えております。居住用不動産を失うということが離婚後の貧困の要因になりますし、また、先ほどから委員の先生方に御指摘いただいているように、子どもの環境を変えるということにもなるかと考えます。   夫婦の共有する不動産の分割については本来、清算とか離婚後扶養を考慮して審判の手続でするにふさわしいのですから、このような場合には共有物分割請求は基本的にできないとするべきではないかと考えております。参考になる規定として、例えば令和3年改正後の民法258条の2の第1項などがあるのではないかと思っております。258条の2第1項では、相続の話ですけれども、共有物が相続財産に属する場合で、遺産の分割をすべきときには、共有物分割請求ができないとされていますので、これに倣って、夫婦が共有する居住用不動産についても、財産分与すべきというときには共有物分割請求ができないとする規定を置くということが、例えば考えられます。 ○大村部会長 ありがとうございます。財産分与と共有物分割の関係の調整ということが資料に出ておりますけれども、財産分与優先ということで解決するということで、258条の2で遺産分割と共有物分割を調整した規定などを参照すべきではないかという御意見を頂きました。 ○小粥委員 小粥でございます。同じく第7の2についてなのですけれども、この第7の2の資料の書き方が、包括的に共有物分割請求が濫用的に行使されるおそれがあるという書き方なのですが、立法事実として居住用の不動産の分割請求以外のものまであるのかどうかというのがはっきり私には分かりませんで、紹介されている裁判例も夫婦の居住用不動産に関わるものではなかったかと理解しております。なので、その辺りの立法事実の射程のようなものを考えて、仮に居住用不動産についての分割請求を阻止したいということであれば、共有物分割請求一般と財産分与との関係一般を整理するとかなり大きな問題になってしまうような気がいたしますので、そうすると問題解決の方法としては、居住用不動産の保護、今日の石綿幹事の発言にもありましたけれども、一方配偶者による他方配偶者の無断での処分の制限と、そういった文脈からの問題解決ということもあり得るのではないかと思いますので、この問題については、資料以外でのアプローチの解決、あるいは縮小しての問題解決の可能性ということも検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。直前の問題について、何が問題なのかということを明らかにした上で、その問題に特化して対応をする、あるいは別の方策で対応するということも考えられるのではないかという御指摘を頂きました。 ○水野委員 除斥期間の問題でございます。ともかく問題の前提として、本来、西洋法ですと離婚の成否と離婚に伴う事後的な処理、子どもたちの問題とか、あるいは経済的な問題とか、これらが全て裁判離婚でまとめて行われるという前提で制度設計されております。ただ、日本の場合にはそうなっておりません。協議離婚を前提に発想しております。そして、この2年の除斥期間も、戦後、財産分与を作ったときに起草者たちはどういうふうに考えたかといいますと、離婚した後でないと当事者は対等になれないだろうと、離婚した後ならば対等に交渉ができるだろうという発想で事後的な請求ができる設計にしたわけですけれども、そもそも対等でない二人が離婚の合意をするということ自体に一番根本的な問題があることを考えなければならないのだと思います。全てが合意に任されていますので、バーゲニングパワーで左右されることになり、例えばDV被害者であれば、もう逃げられるためならばともかく全てを譲るということになりかねません。そして、双方にそれなりに交渉のやり取りができるとなると、まずたくさん吹っ掛けて、それから半分譲った形になるようにもちかける、などという調停のハウツー本が出ていたりします。   何でもありの合意ではなくて、客観的な基準で、本来なら裁判所が決めるのがいいのでしょうが、日本では判事の人数が少ないという問題がありますので、行政機関でもいいと思います。担当窓口に相談に行けば妥当な金額を教えてもらえるという、そういう対等性が守られるような制度設計を何とか考えていくのが、本当は筋ではないかと思います。先ほどリテラシーでという御意見もありましたが、確かにそれはないよりはいいと思うのですけれども、リテラシーの問題になりますと、やはり結局は自己責任になってしまいます。もっと社会的に、合意に委ねてしまうと危ないこのような場面で、妥当な結論が確保される介入の方法をこの際、いろいろと考えて知恵を絞るという方向に行くのが筋でしょう。除斥期間を延ばすか延ばさないかというのは、いささか矮小化された議論のような気がします。その背景にある構造的問題を共有した上で議論をしていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。当事者に委ねて、そして、請求はいつまでにしなければいけないのかという発想ではなくて、よりよい結果が出るような制度的なサポートをすることを考えていく必要があるのではないか、これは、この部会で議論している他の問題とも関わるところがあろうかと思いますけれども、財産分与についてもそのような文脈で考えていく必要があるという御指摘として理解しました。 ○木村幹事 ありがとうございます。最高裁の木村でございます。   補足的なことでございますが、先ほど武田委員の方から、家裁の離婚の関係での手続で、順番というふうな御指摘があったでしょうか、離婚の話と親権の話、それで終わってしまうとか、そういったようなお話があったところかとは思うのですけれども、人事訴訟、離婚訴訟というところで申し上げますと、人事訴訟法上、附帯処分ということで、子の監護に関する処分とか、正に財産分与などもそうなのですけれども、そういった附帯処分の申立てがないと裁判所としても審理していくことができないというところがございまして、当事者の方々からの適時的確な申立てということも必要なところがあるというようなことを補足させていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。人訴の場合の附帯処分について、適切な申立てが問題になるといった御指摘を頂きました。 ○武田委員 ありがとうございます。今、水野先生からの対等というよいお言葉を頂きましたので、今日たまたまここに来る前、あるお母さんの当事者から話を聞きまして、来週離婚訴訟の和解期日なのだという方からちょうど話を聞くことがありました。今日の議論とは全然関係ないので、申し訳ない話なのですけれども、財産分与を譲ってくれたら面会交流を考慮すると離婚前の旦那さんから言われたそうです。よく面会交流と養育費をバーターにしてはいけないと、それはおっしゃるとおりかと思います。しかしながら、対等というふうに言いますが、私ども離れて暮らす親は対等ではございません。先ほどのお母さんの例のように、離婚の最後の高裁の和解期日になっても、財産分与の中で、財産分与を諦めろと、そうしたら子どもに会わせてやるぞと言われているのです。こういう力関係があること、これは逆に、是非御承知おきいただきたいと思いまして、すみません、少し本論と違いますが、発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。当事者の力関係ということが話題になりましたけれども、その力関係の在り方についてはいろいろなものがあるということで、その一つの見方に対して別の見方があるということを御指摘いただいたと受け止めさせていただきました。   そのほかについてはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○高田委員    手続法の観点からの御発言は杉山幹事、今津幹事、畑委員からなされましたので、それに尽きていると思いますし、離婚の前後において破産手続が開始された場合について特に重大な問題が起こるということも御指摘いただいたとおりですが、部会長から御指摘のあったように事例2は離婚とは無関係な事態を想定しているということで、私の理解しますところ、破産の局面において婚姻家族を守るために何か措置ができないかという問題意識かと思います。そのために何ができるか、理論的にはなかなか難しいと思いますけれども、考えてみたいと思います。その前提として一つ、単に不勉強なせいでよく分からないところがあるわけですけれども、事例2における財産分与という枠組みにおいて債務がどう理解されているのか、この事例を拝見しながら、財産の増加分の算定の仕方によっては財産分与の対象がないという事態も想定可能なようにも思います。その辺り、財産分与の性質について議論するという今回の問題の中で、債務の位置付けについても御検討いただければと思いましたので、一言発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございました。22ページの事例2について、御指摘を頂きました。ここで前提になっているような括弧付きの財産分与請求権があり得るのだとすると、それはどのようにして導かれているのかということについての御質問であると理解いたしました。債務の取扱いなどについてどうなるのかということを含めて、何を保全すべきものとして取り出すのかという問題提起をしていただいたと受け止めました。ありがとうございます。   ほかにはいかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは、皆様からおおむね御意見を頂けたかと思いますので、部会資料10に関する意見交換は以上ということにさせていただきたいと思います。   今日が年内最後になりますが、次回の会議についてですが、これまでの会議では明示的に検討されなかった残された論点の検討に進みたいと思っております。事務当局としては、今の点につきまして、意見交換のための資料の準備をお願いしたいと考えております。   次回の議事日程等と併せまして、事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○北村幹事 次回の日程ですが、来年、令和4年1月25日火曜日、午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。場所につきましては改めて御連絡いたします。   次回につきましては、今、部会長からお話がございましたように、これまでの会議において明示的に取り上げてこなかった残った論点の審議をお願いしたいと思います。また、来年度の会議の日程を決めさせていただきたいと思っておりまして、事務局の方から日程調整の御連絡をさせていただく予定です。御協力の方をよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど申し上げましたけれども、これで年内の会議は最後ということになります。直前に申し上げましたように、これまでの会議において明示的に取り上げられてこなかった論点の審議がなお残っておりますが、それを除くと、様々な問題について一通り議論を行い、年明けに残された点について議論をするというところまで、1巡目の検討が進んできております。皆様の御協力によって年内にここまで進むことができたということで、お礼を申し上げたいと思います。あわせて、来年も審議の進行に御協力を頂きたくお願いを申し上げます。   皆さん、よい年をお迎えくださいと申し上げまして、会を閉じさせていただきます。   法制審議会家族法制部会の第10回会議、これで閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして、ありがとうございました。閉会をいたします。 −了− - 38 -