法制審議会 民事訴訟法(IT化関係)部会 第21回会議 議事録 第1 日 時  令和3年12月17日(金)自 午後1時00分                      至 午後4時01分 第2 場 所  法務省7階 共用会議室6・7 第3 議 題  民事訴訟法(IT化関係)の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本(和)部会長 それでは、所定の時刻になりましたので、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第21回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中、御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   本日は湯淺委員、衣斐幹事が御欠席ということです。   なお、本日の部会から関係官として新たに山中関係官に御出席を頂いております。お名前、御所属程度、簡単な自己紹介で結構ですので、お願いできればと思います。   山中関係官、お願いいたします。 (関係官の自己紹介について省略) ○山本(和)部会長 よろしくお願いいたします。   それでは、本日の審議に入ります前に、配布資料の説明について事務当局からお願いいたします。 ○西関係官 御説明させていただきます。   本日は、部会資料30「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案(案)2(補足説明付き)」を配布させていただいております。こちらの部会資料は、前回取り上げていなかった項目につきまして要綱案の案を示させていただいたものとなります。本文中、直近の部会で取り上げた内容からの主な変更点につきましては下線を引かせていただいております。それぞれの項目の内容につきましては、後ほどの御審議の際に事務当局から説明させていただく予定でございます。   なお、本日の部会に関しまして、藤野委員より資料の提供を頂いております。本日はこちらにつきましても委員御提供資料として配布させていただいております。 ○山本(和)部会長 それでは、早速ですけれども、本日の審議に入りたいと思います。   まずは、部会資料30の1ページ、「第2 送達」のうち「1 電磁的記録の送達」について、こちらは前回の部会において送達受取人についての規律がペンディングとなっておりましたので、1ページの下線部ですね、この点について御議論を頂きたいと思います。   事務当局から、まず資料の説明をお願いいたします。 ○西関係官 御説明いたします。   本文におきましては、システム送達における送達受取人の規律を設けるという方向で記載をさせていただいております。これまでの部会におきましては、この点につきまして賛否の両論を頂いておりましたが、論点となり得る点につきまして、考え方については説明中に記載をさせていただいたところでございます。こちらも御参照いただきながら御議論いただければと考えております。 ○山本(和)部会長 それでは、この点につきまして、どなたからでも結構ですので、御意見があればお願いいたします。 ○日下部委員 ありがとうございます。今、御意見があればということだったのですけれども、質問をさせていただいてもよろしいでしょうか。   提案されているシステム送達受取人の制度の内容について認識にそごがありますと、議論が錯綜するように思いますので、最初に確認のために事務当局に2点、質問をさせていただきたいと思います。   部会資料1ページのイの規律によりますと、システム送達を受ける旨の届出をした当事者本人は通知アドレスを届け出ることを要し、かつ、システム送達受取人を届け出ることができるとされています。この規律は、当事者本人に送達場所の届出を義務付けるとともに、その送達場所で送達対象書類を受領する者として送達受取人の届出をすることを認めている現行法104条1項と同様かと思います。そうしますと、システム送達受取人は、当事者本人が届け出た通知アドレスに届く通知を認知することが想定されていて、システム送達受取人が当事者本人が届け出た通知アドレスとは別に自らが通知を認知するための通知アドレスを届け出ることはないという理解でよいでしょうか。これが1点目です。   2点目ですが、仮にそのとおりである、先ほど1点目の質問をさせていただいた内容どおりであるという場合には、当事者本人がシステム送達受取人が通知を認知することになる通知アドレスとは別に、自らが通知を認知するための通知アドレスも併せて届け出て、その両方の通知アドレスに通知が送られるということも想定されるのでしょうか。   以上2点、お尋ねをさせてください。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いいたします。 ○脇村幹事 脇村です。いずれもそのとおりだと思っております。 ○山本(和)部会長 ということですが、日下部委員、何か追加で。 ○日下部委員 ありがとうございます。今のお答えを前提として、後ほど意見を申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは、ほかに、御質問でも結構ですけれども、御意見でも何でも、お出しいただければと思います。   どなたもおられないようなので、日下部委員、御意見がおありのような御発言だったので。 ○日下部委員 分かりました。少し意外だったので、あれですけれども、では、意見を申し上げたいと思います。   システム送達受取人につきましては、以前の部会の会議において確か山本克己委員の方から、御高齢の御両親が訴訟当事者になった場合を例に、その必要性を指摘する御意見が出されたかと思います。しかし、それはオンライン申立てを義務付けられる者の範囲の点について、いわゆる甲案の状態、すなわち誰でも原則としてオンライン申立てが義務付けられる状態を念頭に置いたものであったと理解しています。現在の部会での検討状況では、オンライン申立てが義務付けられるのは、いわゆる乙案、すなわち訴訟代理人のみがオンライン申立てを義務付けられるという考え方に基本的に依拠しており、その前提であれば、訴訟代理人を選任していない当事者本人はオンライン申立てが義務付けられることはなく、それに伴いシステム送達を受けることも義務付けられないということになると思います。   そうしますと、システム送達受取人を届け出る当事者本人というのは、自ら望んでオンライン申立てをする旨、及びシステム送達を受ける旨の届出をしていながら、受送達の場面では他者に代わってもらうことを必要とする者ということになるわけですけれども、少なくとも自然人である当事者本人についていえば、そのような者を想定することは非常に不自然だろうと思います。部会資料の2ページの3(1)におきましては、一定のニーズがあること自体は否定できないとされていますが、少なくとも自然人については法制的な手当てを要するニーズがあるとは思い難いと考えています。部会資料でも当事者本人が法人である場合のニーズについてしか具体的な説明はなされていないところです。   そこで、当事者本人が法人である場合について考えますと、その代表者しかオンラインでの申立てやシステム送達の受領ができないとすることは硬直的にすぎて、それでは事件管理システムを通じてIT化された訴訟制度を利用しようとする法人が見込み難くなるだろうと思います。もちろん法人である当事者も訴訟代理人を選任すれば、その訴訟代理人がIT化された訴訟制度を利用することになりますので、問題が大きく緩和されると思いますが、中小企業など訴訟代理人を選任せずに訴訟追行する法人の当事者も考えられますので、この問題を矮小化すべきではないと考えています。しかし、その問題は、システム送達受取人の制度を導入することでは受送達の局面でしか解決されませんので、オンライン申立ての局面でも代表者に代わって従業員が準備書面などの提出をすることを認めていかないと意味がないだろうと思います。受送達の局面のみ法制的な手当てをするという扱いはいかにも中途半端であって、意図されているはずの目的を達成できるものにはなっていないと言わざるを得ないのではないかと思っています。   長くなってしまいましたが、差し当たりは以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 日下部委員から法人についての発言がありましたが、IT化の導入は訴訟手続の支払督促にも適用されますし、さらに非訟にも準用されます。実務では、例えば不動産競売、債権差押といった事件類型においては、法人申立て、事業者申立てが大半だと現状を認識しています。したがって、この送達受取人制度がなければ、代表者を届け出ざるをえないことになってしまいますが、事業者は、管理部門だとか、法務部門を送達受取人に指定したいというニーズ自体は十分にあり得るわけで、今回の解説を見るまでもなく認識はしています。   そういう意味では、制度導入の必要性は十分理解はしていますが、3ページ等で指摘されている非弁活動との関係についても、配慮は必要だと思います。制度を設けるに際し、それが無色中立のもので終わるのであればともかく、その制度自体を使って、それを器として、非弁活動等に利用されることがほぼ予測される状況において、制度を設けるだけでよいのかという点は考えていただく必要があると思います。   今回の送達受取人という制度は事実行為としての届出ですので、当事者本人が届出をすれば、裁判所はそのまま受け取って処理をするだけになりますが、裁判所によるスクリーニングの手段を考える必要があります。   3ページにたまさか簡裁代理権、民事訴訟法54条についての言及がありますが、私などが裁判所と簡裁代理権の付与状況について意見交換をしますと、裁判所の方では一定、スクリーニングを掛け、不適切な場合には許可をしないという扱いをされている、それが今の実務の運用だと説明を受けています。そうであるなら、送達受取人も、単純な届出、事実行為としての届出ではなくて、裁判所のスクリーニングが入り得る許可、54条に準ずる許可と整理するのがよいと思います。   そもそも送達場所の届出という客観的な場所に着目するのと送達受取人という属性が問題となる人に着目するのでは意味も違うと思いますので、今般のIT化に伴って、送達受取人制度については許可の対象行為とすべきという提案をしたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○小澤委員 電磁的記録の送達に関して送達受取人をも届けることができるとの提案がされた点、すなわちシステム送達受取人を認める提案内容について賛成の立場から意見を述べさせていただきます。   今般のIT化においては義務化の範囲が絞り込まれて、弁護士、司法書士などの一定の者のみを義務化の対象とすることについてはほぼコンセンサスが得られているのだろうと理解をしています。しかしながら、一部の利用者のみのIT化では電磁的記録の活用といったIT化本来の目的を達することが難しく、結局のところ、書面で提出されたものを電磁的記録とする作業がどこかで必要となって、その負担を裁判所だけに担わせるということになりますと、裁判所の事務的負担増加により裁判の迅速化を達することが難しくなり、訴訟手続の遅延の要因になってしまうのではないか、そうであれば、当事者や民間の側で電子化を促進する仕組みや体制も必要ではないかという視点からの意見も述べてまいりました。その手当ての一つとして、申立てなどをインターネットを使用する方法によりすることができる者に対しては、その利用を促す訓示規定を最高裁規則等に設けることが提案されており、そのような訓示規定を設けることは連合会としても賛成するという意見を述べたところです。   今般提案されているシステム送達受取人は、この訓示規定と表裏一体のものであるという考え方もできるのではないかという感想を持っております。前回も申し上げましたが、電子メールのチェックをすることが困難な方も多くいらっしゃるということを常日頃から実務において感じているところです。このシステム送達受取人が認められることで、これらの方が安心して事件管理システムを利用することができ、事件管理システム利用を促す訓示規定も実質的な実効力を持つものとなるのではないかと考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○日下部委員 いろいろ議論があるところだと思うのですけれども、今、小澤委員の方から、本人が安心して訴訟追行するために、この制度の提案について肯定的な意見が述べられたかと思いますが、私はむしろ当事者本人の負うリスクに着目すべきだと考えておりますので、その点について少し意見を述べたいと思います。   事務当局による御説明によりますと、システム送達受取人の届出があった場合に、本人が届け出た通知アドレスに対する通知はシステム送達受取人が認知するということになると思います。その通知を当事者本人が認知できないのだとしますと、訴訟の進行状況には当然には通じていないシステム送達受取人が通知を見逃してはならず、また通知を受領した場合には、送達対象書類を適時に閲覧等し、その内容を当事者本人と共有しなければならないこととなると思います。システム送達受取人がそうした行為を怠った場合には、当然のことながら、当事者本人が上訴期間を徒過したり強制執行を受けたりするといった不利益を被ることになると思います。この帰結については、現行法における送達受取人でも同様であるという御指摘は考えられると思います。しかし、次の2点においては状況が大きく異なると考えています。   一つ目は、現行法における送達受取人への送達は紙ベースでなされますので、その物理的な存在が看過されるおそれは少ないのに対して、システム送達受取人が受領する通知は電子的なものですので、看過されるおそれというのは類型的には大きいだろうと思います。次に、現行法下では準備書面や書証の写しは相手方当事者が主張書面などに記載したファクシミリ番号に宛ててファクシミリで直送されることが通常であって、送達受取人に対して送ることは想定されていないと思います。しかし、改正法下においてはこの直送をシステムを通じて行い、システム送達と同様に通知アドレスへの通知及び事件管理システムでの閲覧等により行うことが想定されていると思います。そのため、送達対象書類だけではなくて、準備書面や書証の写しといった訴訟手続において中核的な意味を持ち、大量となる重要書類の受け手も全てシステム送達受取人となるだろうと思います。   このように、システム送達受取人は現行法の送達受取人に比べて、送達がなされていることを看過するおそれが類型的に大きく、また、送達対象書類のみならず送付対象書類一般についても受領権限を持つことになりますので、その当事者本人に与え得る損害のおそれというのは非常に大きいだろうと思います。しかしながら、先ほど阿多委員の方からも言及がありましたが、システム送達受取人には何の資格要件も就任のための手続要件も予定されていません。それでは当事者本人に生じ得るリスクの観点から、問題が大きいだろうと考えています。   併せて付言する必要があると考えていますのは、非弁活動についての話です。相手方当事者の観点から見ますと、訴訟書類の送付先が全てシステム送達受取人となりますので、その点で訴訟代理人との相違はかなり相対化されるだろうと思います。もちろん、それでも法廷での弁論をする権限はシステム送達受取人には認められませんが、改正法下においては各種期日などがウェブ会議や電話会議の方法によって行われることが非常に多くなると予想されまして、法廷弁論権が実際上持つ意味もまた相対化されざるを得ないと思います。そうしますと、訴訟代理人となる資格がない者、いわゆる事件屋と呼ばれる紛争当事者を食い物にする非弁業者などがシステム送達受取人となって、実質的に訴訟代理人と同様に振る舞うという非弁活動をするようになることは決して杞憂ではないだろうと思います。しかし、その場合でも、その者が就任したシステム送達受取人としての地位を否定することはできないので、非弁活動を排除することが実際上できなくなる事態を極めて強く憂慮しているところです。部会資料の3ページの(2)においては、非弁活動かどうかは民事訴訟法の規律によって左右されるものではないと説明されていますが、現実に非弁活動が横行しやすい制度を民事訴訟法に導入することが妥当でないことは言うまでもないことであって、この問題を民事訴訟法の制度を検討する際に考慮外とすることはできないと思います。   なお、阿多委員の方からは、その問題意識から、システム送達受取人について裁判所の許可制にしたらどうかという御意見もありましたが、その許可の判断をこの時点で裁判所に適切に行使できると期待してよいのか、どういった人がシステム送達受取人として届け出られているのかについて調査権限などを持っているわけではない裁判所に許可をお願いするということがうまく機能するのだろうかという点で、私は楽観視はしておらず、むしろその点については懐疑的であります。   非常に長くなってしまって申し訳ございませんでしたが、差し当たりは以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会、藤野でございます。私は、今の点もあるのですけれども、1のエ(ウ)のみなし送達の点が気になっております。1週間が経過したときに送達されたものとみなされるということに対して、本当にそれでいいのかという点が一つ疑問です。今、日下部委員がおっしゃってくださった送達受取人のことにも実は関係すると思うのですが、現在どのようなシステムが作られるのかはっきり見えていません。送ったことが受け取るべき人が確実に分かるようなシステムができるのであれば、このみなし送達の仕組みもあってよろしいのかと思いますが、様々な事由があって受け取れなかったときに1週間で送達を受け取ったとみなされることが不安でございます。   同じように、この送達受取人の仕組みも、今の段階で作ることに対しては不安がございます。いろいろ不都合の方が大きいと私どもは受け止めております。やってみて、これが必要だということになって作られるのならともかく、懸念がある段階で、届け出ることでこの受取だけができる送達受取人という仕組みには反対いたします。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。事務当局からコメントがあれば、お願いします。 ○脇村幹事 1点だけ日下部委員に御質問させてください。委員の御意見は、運用も含めて、システム送達については受取人以外は一切認めないという理解の御意見ということで承ってよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 日下部委員、もしお答えいただけるならば。 ○日下部委員 特に法人が当事者である場合に、代表者でないと書類の提出、申立てや送達を受領することができないのだということだとすると、法人について電磁的な訴訟手続を利用するということが非常に難しくなってしまう、そういう現実の問題があるという、そのニーズについては理解をしていますし、共感しているところです。他方、先ほど申し上げましたとおり、非弁活動の横行のおそれがあるということや、システム送達受取人の本人にもたらし得るリスクに鑑みると、何の資格要件もなしに素通りしてしまうということでは問題があると考えています。   その上で、では、法人について認められ得るそのニーズについてどのように対応していくことを考えているのだと、こういう問題意識というのは当然出てくるところで、その点についても言及はしないわけにはいかないだろうと考えています。私自身は、法人である当事者について考えられるニーズについては、飽くまで私見ではありますけれども、その申請に基づき、当該法人の従業員に限り、非弁活動のおそれがないことを条件として、準備書面の提出や訴訟記録の閲覧等をすることを認めるといった事件管理システムの運用上の工夫を図ることでニーズにこたえていくことが妥当ではないかと考えています。   運用上の工夫を前提に制度を語るということは、お叱りを受けるのかなとも思うのですけれども、実務的な観点からは、法人である当事者に認め得るニーズを包括的に満たす運用上の工夫が十分に考えられるにもかかわらず、受送達の局面のみという中途半端な効用しか持たず、また既存の送達受取人の制度が必要とされた理由も当てはまらず、手続の安定の観点から必要とされるわけでもなく、当事者本人に大きなリスクを負わせて、かつ非弁活動を排除できなくなる危険性をはらんでいる、そういったシステム送達受取人の制度を法律上導入するということについては妥当ではないという考えです。   以上、お答えになっていればよいのですけれども、私の考えはそのようなものです。 ○脇村幹事 個人については、もうそういった運用は認めないという前提で理解してよろしいですか。 ○日下部委員 個人につきましては、そもそもオンライン申立ての義務化の問題点で乙案をベースにしていれば、無理に電子的な訴訟手続を利用することができるようにするニーズというのはそもそも余りないだろうと考えています。しかしながら、それでも法人の場合と同様に、何らかほかの人の手当て、サポートを得て訴訟活動をしたいということであれば、先ほど法人についての従業員と言及しましたけれども、個人の場合には一定の親族関係のある者について、法人の従業員と同様に、その者に本人の申請に基づいて準備書面の提出や訴訟記録の閲覧等をすることを認めるという運用上の工夫を図ることで対応するということでよいのではないかという考えです。 ○脇村幹事 基本的に我々も運用ベースを考えた際に、その使者的に扱った人が閲覧をしたことをもって当事者が閲覧したといえるどうかというのはかなり疑問な、制度として実現できるのかというのは、私は正直、分からないところでございます。そういう意味では、委員の方から運用でどうかという話もあったのですけれども、どうして使者的な人が見たことをもって当事者が見たと扱うかという点について、そういった意見もあるのかなと思いつつ、それがクリアできるのか、正直そこは自信がない。場合によっては法的安定を欠くことにつながるのではないかということで、部会資料に書かせていただいているとおりでございます。   また、いずれにしても確かに非弁の問題はございます。今でも送達受取人のケースについて、非弁行為であることが明らかなケースについて、恐らく裁判所でも、それは違法だということで扱っているケースはあると思いますが、そういったのを抜きにして裁判所で審査できるかどうかというのは、どうなのかなというところは少し思いますし、また、結局書面と電子そこまで差を設けることの正当性はどこなのだろうかという点、阿多委員の方から許可制にすべきではないかという話もありました、阿多委員の御意見が書類についても許可制にしろということであれば、私も理解はできますけれども、電子だけ許可制にすることには、理解はできなかったというのが正直なところです。 ○橋爪幹事 法人に対する送達について、運用上の工夫でというお話がありましたので、その関係で発言させていただきたいと思いますが、結論的には今、脇村幹事がお話しになった内容に全く同感でございます。   現行制度上、法人に対して送達をする場合に、代表者のみならず営業所などに所在する従業員がその送達書類の交付を受けることも可能になっておりますが、これは民訴法106条1項に補充送達という規定が存在することによるものであり、そういった規定を設けることができないと考えられるシステム送達の制度において、法人の代表者以外の者がシステムで送達対象書類の閲覧等をした場合に法人への送達の効力を生じさせることができるのかというのは非常に悩ましい問題であると考えております。先ほど日下部委員の方からは、私の聞き間違いでなければ、運用上の工夫で、第三者が準備書面の提出や訴訟記録の閲覧等をする局面の話があったかと思うのですが、送達という局面には特に言及がなかったように思います。   いずれにしましても、現段階で具体的な運用上の方法というものが定まっていない以上、少なくともシステム送達受取人として届け出られた者に対しては送達が可能であるということを法律上確保して、例えば、代表者の方が多忙などの理由で自ら送達書類の内容を確認することが困難な場合においても、適切な担当者が送達書類の内容を了知することをもって送達の効力を発生させることができる、そういうような制度設計が望ましいのではないかと考えております。 ○阿多委員 先ほど脇村幹事から、電子と書類の場合に区別するのかという点については、実は私の先ほどの発言の趣旨は、両方とも統一をして、送達場所は事実としての届出で足りるが、送達受取人については裁判所の許可制にすべきだという趣旨です。裁判所の許可という行為が入ることによって、一般予防的に不正な行為というのも一定、排除できるという前提で発言した次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかによろしいでしょうか。 ○日下部委員 先ほど私が申し上げた意見について何点かのコメントを頂きましたので、それについて思うことを若干申し上げますと、先ほど私は運用上の工夫として法人の従業員、あるいは自然人についての親戚関係のある者については、その本人のためにオンラインでの申立てや送達対象書類の閲覧等ができるようにするという工夫について言及したところです。これは、通知を受けるという局面には明確に言及しておりませんでしたけれども、受送達についても当然その中での閲覧等のところで含みおいて表現したつもりでありましたので、受送達のことも念頭に置いた上での発言でありました。   そういった運用上の工夫、これは法律的にいうと恐らく使者や履行補助者としての活動についてどう法的評価を与えるのかということかと思いますけれども、これでできないのだと、それでは送達として認められないのだということで、システム送達受取人の制度を仮に導入したということになりますと、これは少し法制の話を越えたところに言及することになってしまうのですが、いわゆる本人サポートといわれる本人の支援をする立場の者にはすべからく民事訴訟法上のシステム送達受取人になってもらうということが必須ということになってしまうのだろうと思います。そうなりますと、恐らくその立場がもたらす責任の重さなり重要性なりということで、本人サポートの仕組み作りというのがかなり難しくなるのではないかなと、そういう懸念も持っているということを一応言及させていただければと思います。   なお、このシステム送達受取人の制度が提案されるに至った根本といいますか、契機になったのは、恐らく言うまでもなく現行法に存在している送達受取人の制度、これがあるからだろうと思います。ただ、以前の部会の会議で御指摘させていただきましたけれども、現行法における送達受取人の制度は、当事者本人が自宅など日常所在している場所では送達を受けることができないために、それとは異なる場所を送達場所として届け出た場合に、その場所で実際に送達対象書類を受け取る者に対しては補充送達ができないことを想定して、その者に訴訟法上の独自の地位を与えるものと理解しています。そのため、現行法における送達受取人の制度は、物理的な場所概念を伴わないシステム送達に単純に当てはめることはできない以上、現行法で送達受取人が認められているからシステム送達受取人を同様に認めることも妥当であるという考えをとれないことは、これは明らかだろうと思っています。   更に付言しますと、手続の安定の観点から、システム送達がより確実にされるようにするためにシステム送達受取人の制度を導入すべきであるという考え方もあり得るのだろうとは思います。しかし、システム送達の場合には、当事者本人が届け出た通知アドレスに対して通知がなされれば、たとえ受送達者による閲覧等がなされなくても、通知から1週間の経過によって送達の効力が発生しますので、システム送達受取人の制度を導入せずとも手続の安定に欠けるところは全くないだろうと思っています。   一応、補足をさせていただきました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。   このシステム送達受取人の制度については、これまでかなりの時間を割いて御議論いただいて、今日もかなり御議論を頂いたかと思います。相当程度は今までの議論の繰り返し的なもののような印象を受けましたが、新たな観点、あるいは新たな提案等も頂いたように思います。既に、これは全ての問題がそうですけれども、そろそろ成案を得なければならない時期というのが近付いているということは皆さん御承知のとおりでありますので、今日の議論を精査いただいて、事務当局においては次回、成案に向けた提案についてお考えを頂ければと思います。   それでは、よろしければ、続きまして部会資料3ページの「第5 申述に基づく法定審理期間訴訟手続(仮称)」、これについて取り上げたいと思います。   まず、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○波多野関係官 関係官の波多野でございます。説明いたします。   これまで新たな訴訟手続として御議論をお願いしてきていましたテーマでございますが、今回は「申述に基づく法定審理期間訴訟手続」との仮称を付けております。部会資料26に基づく御議論を踏まえまして、これまでどおり判決までの時期についての当事者の予見可能性を高めるという観点から、手続の開始から審理の終結までを6か月、判決を集結から1か月以内とする手続の提案を維持しているところでございます。なお、期日の変更について規律を置いておりますけれども、これは6か月という期間内での変更の趣旨でございまして、変更の理由については法93条4項と同趣旨のものでございまして、弁論準備手続後の変更の実務を踏襲するという趣旨でございます。   部会資料26から規律の内容として変更しておりますのは、3でございまして、申述又は同意をすることができる時期についてでございます。また、手続の進行に際して意識の共有が必要でございますので、各当事者の具体的な準備の時期や内容などについて、裁判所と当事者で協議をして認識の共有を図るということが考えられるところでございまして、その点を後ろの(注)に記載しているところでございます。また、裁判所が判決で判断を示す事項の決定につきましても、当事者が主体的に関与して裁判所と当事者間で確認をし、裁判所はそこで確認された事項について判決で判断を示すということが考えられるところでございますので、その旨を10及び15に記載をしているというところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   そういうことで、前回、部会資料26で事務当局から一定の御提案を頂いて、それについて様々な御議論を頂きましたが、その必要性については肯定する御意見が多く出されたように思いますので、引き続き検討を進めると。ただ、個々の点については様々な御意見がございましたので、それを踏まえて、具体的な内容については修正すべき点は修正するということで今回の提案に至っているものと思いますけれども、この新たな提案について、これもどの点からでも結構ですので、御質問、御意見を御自由にお出しいただければと思います。 ○藤野委員 主婦連合会、藤野でございます。今回この点につき、私どもは参考資料として声明を添付させていただいております。御一読いただければ有り難く存じます。   そのことで意見を申し上げる前に、一つ質問をさせていただきます。今回の資料の説明の中の6ページの下から8行目から書かれている中で、うち下から6行目において、ここは除外すべき内容についての説明をしていただいている箇所ですけれども、「民事訴訟法においては、消費者あるいは事業者との用語はうんぬん」と書かれていまして、最初に提案があったときに書かれていた「消費者と事業者間の紛争に関する訴え」という文言と、ここ何回か書かれている「消費者契約に関する訴え」というのが同義だという結論を出していますが、この民事訴訟法において、こういうことになるということは正しいのでしょうかと、ここに書かれていることに対して「正しいのか」と聞くのは非常に失礼なのですけれども、この見解は正しいのでしょうか。そのことが疑問でして、まずそのことにお答えください。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○脇村幹事 そういう意味で、説明の仕方が少し記載として正しくないのではないかという御指摘で、私も改めて今、考えているところでございます。書かせていただいた趣旨としましては、消費者契約という単語を抜きにして、単なる個人あるいは事業との間、法人との間の関する紛争全てが入るということは、恐らく元々想定していたものとは逆に、広すぎるということが出てくるのかなということも考えておりました。いずれにしても、現行民訴法等の用語の使い方としては、最終的には消費者契約というくくりを前提に制度を組んでいるのは間違いないのではないか、恐らくそれはなぜかというと、単なる個人と法人との間の紛争ですと、本件でいえば証拠の偏在がないようなケースも当然これは入ってくるわけでございまして、今回取り上げようとしていた証拠の偏在等が起きるのは、例えば、事業者が売買の売主等になって、それを買主に対してやって、そういった商品を把握しているケースなどが典型例だとすると、恐らくそこでは契約という概念がなかった場合には、そういった証拠の偏在というものはタームとしては出てこないのではないかと思っているところでございます。   部会資料で書かせていただきましたのは、単なる個人とか法人の間の紛争になると、そういったものが結局、何でも入ってきてしまうということに対して、そこで抜こうとしていたことで、逆に、消費者とか事業者について、消費者契約の事業者あるいは消費者契約の消費者と書いたとすると、結局内容としては同義になってしまうので、書き方を変えただけでは不十分ではないかと考えたことから、書かせていただいています。恐らく、定義として消費者とか相手方の事業者について、契約を抜きにした法人とか単なる個人と置き換えてするのであれば、恐らくそれは藤野委員がおっしゃっていることも含めて幅広く抜くことになり、そうなった場合には消費者契約に関する訴えとは恐らくずれてくるのだと思うのですけれども、そこについて、そういったものがいいかどうかについては、また別途検討が必要なのかなと思っています。 ○藤野委員 藤野でございます。私どもは、例えばPL訴訟になるような製品事故などが除外すべき案件に含まれてこないということを懸念しておりまして、もう少しこの範囲は幅を広く持っていただかないと困るということがございます。この件に関しては、もう一度検討していただけるということで、一応そこまでといたします。   続きまして、意見の方を申し上げてよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 どうぞ、お願いします。 ○藤野委員 今回、参考資料として声明を配らせていただきました。これは、本日の部会資料が出る前までの内容に対しての意見を伝えております。しかし、部会資料30を読み込みましたが、この部分は本質的に変わっているとは捉えられず、本日の私の意見も、この新しい制度を作ることに反対と言わざるを得ません。   短い時間で結審する裁判がある一方で長期化する裁判も多いのが現状で、全体として裁判の迅速化が図られることには賛成しています。また、当事者が予測可能な迅速な裁判を望むというニーズも理解しています。   しかし、配布の参考資料の反対声明に名を連ねている全国消費生活相談員協会の相談員が対応している消費生活相談の現場では、日々被害を受けた消費者からの多様な訴えを見聞きし、部会資料30の新しい制度においても、そのリスクを認識せずこの制度を選択する事例があるであろうことの懸念が大きく、賛成できないのが実情です。これらの私どもの懸念については、部会資料に、その実質的には弁護士等の代理人が就かないときは使えない制度になっている、また、裁判所がこの制度を用いて審理及び裁判をすることが困難と判断をすれば使えないということで、非常に丁寧に具体的に書いていただいております。しかし、それらは説明には書かれていますけれども、本文に具体的に書かれているわけではないのです。今質問したように、除外する案件は書かれていますが、むしろそうではなく、以前にも申し上げた適用できる事例を書いていただくことも含めて、まだまだ懸念が多く検討の余地があると思います。私は、この新しい制度はこのIT化部会ではなく、より具体的に内容を検討するための検討委員会等で十分な時間を掛けて検討していただきたいと要望し、現段階では反対せざるを得ません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○大谷委員 日本総研の大谷でございます。今回事務当局の方で御用意いただいた案は、これまで原案として示されてきた内容からかなり大きく変わっていると思っておりまして、その点、好ましい方向で変更を重ねてきていただいているというふうに、まず受け止めております。その上で、藤野委員の方から送られた御意見などを併せて読みますと、さらにその事件類型として適用可能なものについては工夫の余地があるのではないかと思われますので、一言述べさせていただきたいと思います。   想定している事件類型については、資料の6ページのところに御説明いただいているように、証拠の偏在、そして情報の非対称性がある当事者では、またそういった事件の性質を持つものについてはふさわしくないということは、恐らくこの部会においての共通理解であるかと思います。現在掲載していただいている個別労働紛争、そして消費者契約ということで、その射程といったものを私なりに検討してみましたけれども、若干、もう少しその幅を広げていってもよろしいのではないかと思っております。   一つは、消費者と事業者の関係ですけれども、不法行為の訴訟の場合には、消費者と事業者、消費者契約という言葉ではなかなか拾い切れない問題が多数含まれているのではないかと思います。不法行為の中でもプライバシーの侵害、例えば個人情報の漏えい事案などのような場合には、個人情報の提供に関わる何らかの契約が締結されているので、具体的に商品などの取引についての契約が締結されていないとしても、消費者契約の中の一類型ということで、この類型からは除外されていくということが考えられますけれども、純然たる不法行為の場合、例えば、環境基本法に定められている公害などに相当するケースですね、法人などの事業活動に伴って健康被害、それから生活環境に被害が生じる場合などは、その事業者と被害者との関係というのは消費者と事業者という言葉ではくくれないような部分もあるかと思いますので、こういった公害紛争処理に関わるような事案というのをうまく言葉で切り出すことができれば、想定している事件類型から外れているということは恐らくコンセンサスがとれるものだと思いますので、除外すべき例として挙げていただくことができるのではないかと思います。適切な言葉を提案できないところが申し訳ないのですけれども、環境基本法に定義する公害に関わる紛争処理とか、いろいろな言い方があるかと思いますけれども、そういったふさわしくない事業類型について包括的に述べるような規定の仕方というのも考えられるかと思いますし、ここの辺りは更に工夫の余地があるのではないかと思います。御検討いただければ幸いです。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 2点申し上げたいと思います。   1点目の、消費者契約という除外の規定の定め方については、先ほどの事務当局の御説明からでも、むしろ実質的に消費者と事業者の間の契約関係がないというケースも除外すべきかどうかという実質論に掛かっているところだと思いますので、そこを正面から議論して、その結論に沿った適切な表現をしていくということなのだろうと思っています。私自身は、消費者契約の存在を前提としない消費者と事業者間での紛争も除外の対象に含めるということがよいのではないかと以前の部会でも申し上げたところです。   2点目は、訴訟代理人を選任しているということを要件とすべきなのかどうかという点についてです。以前の部会で、この手続が当事者に対して不合理に不利益を与える事態を回避できるかどうかという観点から、おおむね3点について、反対といいますか、修正すべきではないかという意見を申し上げていました。それは、訴訟代理人が付いていることが要件とされていない点、それから、申述や同意が期日においてする際には書面でなくてもよいとされている点、それから、判決の内容を簡易なものにしている点でした。これは、訴訟代理人が付いていない当事者が、裁判所に促されるまま期日に安易に口頭で申述や同意をしてしまって、通常手続に戻るオプションを行使できないまま結審するおそれを懸念するものでありました。裁判所には判決の内容が簡易になるということからそのようなインセンティブがあるのではないかという見方もあり得るのではないかという御指摘もさせていただいたところです。今回の部会資料では、当事者が特に求めていなくても、判決の理由においては裁判所が確認した事項についての判断の内容のみを記載すれば足りることが明確に提案されておりますので、当事者双方に訴訟代理人が付いていない限りはその懸念は強まらざるを得ないのかなと思っています。   結局のところ、この手続が当事者に対して不合理に不利益を与える事態を回避できるかどうかというのは、主として当事者双方に訴訟手続と実務に通じている訴訟代理人が付いているかどうかに掛かっているように思います。そのため、これまではそれを法律上の要件とすることを要望してきたわけですけれども、今回の部会資料の提案でもそれが入れられていないということについては残念には思っております。しかし、他方で部会資料の7ページ以下の4の説明部分では、訴訟代理人が選任されていないケースでは、訴訟代理人が選任されているのと同視し得るような特段の事情がなければ、この法律により審理及び裁判をすることが困難であるときに該当するという考えが明確に示されていますので、これは実質的には訴訟代理人の選任を法律上の要件とするという考え方に極めて近似するものと受け取っております。   ただ、少し細かいコメントになろうかと思うのですけれども、この特段の事情が認められ得る場合の例示として、部会資料の8ページでは、「訴訟代理人を選任していない者が法人であり、法務担当者等を備えているケースなど」と言及されています。これは例示として不十分ではないかと思いました。つまり、法人の法務担当者は一般には契約実務や業法上の規制、独禁法などの競争法規、会社法、知的財産関連法といった当該法人の事業に関係する法分野には通じていることが多いのですけれども、通常は民事訴訟手続には通じていないのが実態だと思います。法人である当事者が新たな訴訟手続の下での訴訟追行を訴訟代理人を選任せずに、しかし選任されているのと同視し得る程度にできるためには、司法研修所において裁判実務の教育課程を経た組織内弁護士が当該訴訟事件についての法務担当者となっていることが実際上必要になるだろうと思います。部会資料の8ページの中ほどでは、この規律が法案化されたときには制度の趣旨の周知に努める必要があると考えられるとされておりますけれども、仮にそのようになった場合には、特段の事情が認められる場合として、訴訟代理人を選任していない者が法人であり、その法人の組織内弁護士が当該訴訟事件についての法務担当者となっているケースを挙げることが相当だろうと思います。事務当局におかれましては、仮にこの制度が改正法の中に入ったという場合には、その後に発刊されるであろう一問一答などの書籍において、困難性の要件における訴訟代理人の位置付けについて十分に周知に努めていただけるものと信じております。   また長くなってしまいまして申し訳ございませんが、以上です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 私も訴訟代理人の点です。藤野委員から参考資料として提出されました声明ですけれども、これは部会資料30が出る前に作られたということですが、訴訟代理人を付けずに当事者本人がこの手続を使うことを前提としている記載のように思われました。この部会資料では、先ほど日下部委員も言われましたように、特段の事情がなければ訴訟代理人を就けることを前提とする形で記載されていて、訴訟代理人を就けることを要件とするのに近いような記載になっています。したがいまして、藤野委員の提出された声明の前提としているところとは大分ずれてきている、むしろ当たらないのではないかと思います。部会資料の補足説明の説明だけでは安心できないというところを藤野委員が補足して述べられていたところですが、実際に問題とされているような証拠の偏在があるような事件については、恐らく強制されなくても、弁護士が就かなければ訴訟を追行するのは難しいのではないかと考えられます。その点からしても余り懸念するところは当たらないのではないかと考えております。   大谷委員の方から、公害事件も更に除外事由として入れるべきではないかという御発言がありました。この点に関しまして、証拠の偏在といわれている事件には、藤野委員も言われた製造物責任や公害の訴訟のほかにも教科書的には医学とか化学、物理学等の因果関係の証明が困難な事件、そういう事件は証拠の偏在があるといわれています。これらの事件で訴訟を追行するのは事案の内容だけでなく高度の訴訟技術が必要なことが多いと考えられますので、実際には弁護士が付いていることがほとんどではないかと思います。このように、公害事件を除外するという発言がありましたけれども、ほかにも証拠の偏在しているケースはあるところです。そういう事件を、大谷委員が言われたように、網羅的、包括的に除外されるような事件類型を記載すべきというお考えもあるのかもしれませんけれども、それは現実的には難しいのではないかと思います。その点を配慮した上で、この部会資料の本文の12項の(2)のところは、審理及び裁判をするのが困難であると認めるときということで包括的に書いてあるのだろうと思います。ですので、ここのところで十分に、この手続がふさわしくない事件類型は排除できるのではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 大きな議論をされているところに、書きぶりを前提に細かな指摘で申し訳ないのですが、事務当局への質問及び意見になりますが、3ページの第5の3で、申述がいつまでできるかという点について、口頭弁論の最初の続行期日又は準備的口頭弁論若しくは弁論準備手続の最初の期日と記載されています。ところで最近の実務では、第1回口頭弁論期日の指定を取り消して書面による準備手続に付すとか、さらには、第1回口頭弁論期日すら指定しないで書面による準備手続に付すことも行われています。そうすると、その後の手続については、4で口頭弁論又は弁論準備手続の期日で行うことは書かれていますが、書面による準備手続が先行している場合にどのように考えるのかについても手当てをする必要があります。   続いて、10では裁判所は9の期間が満了するまでに当事者双方との間で争点及び証拠の整理の結果に基づいて第5に規律する手続の判決において判断すべき事項を確認するものとするという部分にアンダーラインが引かれていますが、これはそれほど特別なことを言っているのでしょうか。別に皮肉を言うつもりはないのですが、当たり前のことを言っている気がします。むしろこの記載があると、ほかの手続ではそうではないことを前提に議論がされている気になります。確かに民事訴訟法165条は準備的口頭弁論について、さらには170条で弁論準備手続に準用されていますが、裁判所は準備的口頭弁論や弁論準備手続を終了するに当たり、その後の証拠調べにより証明すべき事実を当事者との間で確認する、証明対象だけの確認になっていますが、本来的にはやはり双方当事者との間で争点の確認をした上で手続を進めるわけですから、わざわざ10で創設する話ではなくて、争点整理全体に共通すべき事項と考えています。そういう意味では、10を創設的なものではなく、話を広げて申し訳ありませんが、争点整理一般の基本的な考え方として明記していただき、その上で、15の判決については判断対象を確認した事項とする表現するのがよいと思い発言をしました。10の位置付けについての意見になります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。では、事務当局から少しコメントを。 ○脇村幹事 阿多委員のものから行きますと、まず、書面による準備手続に関しては、この手続を使う際には基本、使わないのではないかということを念頭に置かせていただいていたところで、こう書いていましたが、その点、今頂きましたので、そういった実際の実務の現実を踏まえて修文すべきかどうか、私たちの方でも手当てできるかどうか考えてみたいと思います。   また、判断の確認につきましては、恐らく阿多委員から2点といいますか、それは実質的に広げるべきではないかという御意見と、それを抜きにしても、そもそもここで書く必要があるのかという御意見だったと思います。実質的に広げることにつきましては、現時点でそこまで一般的にできるのかという問題があり、そこは難しい面があるのかなとは思いつつも、またそこは御意見を頂ければと思っています。また、ここだけ書いておくことの理由ですが、これ法制的な理由といいますか、15を書くに際しては、前提として確認したことをどこかに書かないと書けなかったというのが正直なところでございまして、それ以上の意味はございません。そういった意味では、ここだけ書いていることの意味というのはそれに尽きるものでございますので、仮に阿多委員の御提案のとおり一般的に広げなかったとしても、ここに書いているものはそういった趣旨であるということは、いずれにしても事務当局の方から説明させていただき、一般的なものについてしなくていいのだということを当然含意するものではないということは、きちんと説明をしていかないといけないと考えているところでございます。 ○阿多委員 1点目のことについて、今の実務の状況を少し補足しますと、訴状等の記載から相手方に代理人が就いていて事前交渉をしている案件では、裁判所から、第1回口頭弁論期日を指定せずに最初から書面による準備手続に付すという実務が一部行われていまして、申述に基づく法定審理期間訴訟手続(仮称)に適する事案はそういう形で取り込まれている実情もあるかと思い紹介した次第です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○藤野委員 主婦連合会、藤野でございます。先ほど、私どもの声明は部会資料30でほぼ解決されているのではないかという御意見を頂きましたが、私が考えるに、弁護士が就いていることが必須の上に、迅速に行われることが目的の新しい制度が設けられること自体が、裁判官不足といわれている現状の裁判全体に影響を及ぼすことはないのでしょうか。それは、公平に裁判を受ける権利を阻害することにはならないのでしょうか。現状の裁判制度の中で弁護士が必要であり、特定の集中した時間が必要であり、証拠の偏在等もクリアできていなければ臨めないというものができること自体が一般の裁判に影響を与えるのではないかという懸念がとても大きくございます。それも含めて、この制度を作ることを考えていただきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。基本的にはこれまで私自身が述べてきた意見の繰り返しのようなことになってしまうかという感じもいたしますけれども、これは藤野委員からも、その点はそうだという御指摘もありましたけれども、基本的に裁判の迅速さということは、裁判を受ける者にとって非常に基本的な価値であるということがあると思いますし、また、その裁判に掛かる期間についてある程度の予測可能性をもって裁判をするかどうかを判断することができるということも、裁判を利用する者にとって非常に重要な価値であろうと思われますから、そうした価値を実現するために、必要な工夫については積極的に試みていくべきであろうと考えております。   逆に申しますと、時間を掛けることによって、より慎重で質の高い審理ができる場合ということも場合によってはあろうかと思われますし、それが必要な事件というのもあるかと思われますけれども、いたずらに時間を掛ければ全ての事件でより質の高い裁判が提供されるということでも必ずしもないように思われますので、同じ質の裁判であっても迅速にできるものについて、それがきちんとできるような形の手続を整備しておくということは、民事訴訟法の立法を考える際に基本的な課題の一つとして常に考慮されるべき問題だろうと思っております。   そうした観点から見て、今回提案されている制度、これはかなりこの部会で時間を掛けて検討が重ねられてきたもので、様々な厳しい御指摘のあったところについて様々な形での対応が盛り込まれてきているということで、示されてきた懸念について、かなり充実した対応がされてきていると考えておりますので、私自身は今回の提案のような形で基本的に賛成したいと考えているところです。   ただ、先ほども議論がありましたように、除外される紛争の範囲について、消費者との関係で、文言の選択の問題と、そこに対応する実質が何であるのかというところについては、なお認識について若干整理をして協議をする必要があるように思われるところがありますので、そこはなお検討いただければという感じを持っています。   また、弁護士が就くかどうかということにつきまして、私自身は従前、このような手続が適切な場合には広く活用できるようにすべきであるという立場から、必ずしも弁護士が就いていることを要件とするべきではないのではないかという方向の意見も出てきたところで、その考えは今でも変わっておりませんので、この提案には賛成したいと考えているところですけれども、しかし、多くの場合、この手続が適切に利用されるのは弁護士が就いている場合だろうというところについては、私も別に異論はありません。そういう意味で、もしその点についての懸念が非常に大きいのであり、そこが何らか手当てがされなければ立法が難しいということが仮にあるのだとすれば、その点については、小さく産んで大きく育てるということが言われることもありますけれども、若干より慎重な形でスタートするということでありましても、私自身は、それであっても導入されるということの方がより意義があることだと思っておりますので、そういった調整はあり得るところかと考えております。   また、紛争の類型について、ほかにも適切でないものがあるのではないかという御指摘がありまして、これは大坪幹事でしたか、全てを網羅的に記載する、規定するということは難しいのではないかというのは、私もそうではないかと思っております。ただ、これは思い付きのようなお話ですので、深く考えられての提案ということではありませんけれども、例えば4ページの12(1)、(2)で、この手続によらないと、通常の手続による旨の決定をする場合というのが規定されておりますけれども、この(2)で、困難であると認めるときというところにつきまして、現在の御提案ですと、提出された攻撃又は防御の方法及び審理の現状に照らしてといった記載がございますが、ここに幾つかの考慮要素を例示的に盛り込むであるとか、何かそういった工夫というのもあるいは考えられる、それでより懸念が払拭されるということであれば、そういった工夫も考えてよいのかもしれないという感想を持っています。   それから、直前に藤野委員からの御発言で、こうした手続が導入されることによる他の事件への影響、あるいは他の利用者への影響ということについての話があったかと思います。これは、実際に訴訟手続に掛かっている事件負担等がどういうものであるかということによって実際上は左右されるところがあるのかもしれませんけれども、また、この手続がどの程度利用されるのかということもあるのかと思われますけれども、現在、これは資料でも説明あったかと思いますが、事件が激増しているというような状況にはない中で、裁判官の員数については、私自身ももう少し増強するということは十分司法政策としてあり得るのではないかと考えておりますが、現在の事件の水準に照らしたときに、この手続を入れたからといって他の事件の審理の質が低下するであるとか、審理が著しく遅延するといったような心配が現実的にある状況かというと、それは必ずしもそうではないのかなという印象を持っているところですので、その点を一言付言しておきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○大坪幹事 藤野委員の言われましたほかの事件への影響ということなのですけれども、この手続では一定の法定の期間を定めるということになっておりますので、利用される事件は、その一定の法定の期間の中で審理ができるような事件に限られるのだろうと思います。弁護士会の中で議論をしていると、このような制度ができてもそれほどたくさん使われることはないのではないかというようなことがいわれていますので、そうだとすれば、こういう制度が導入されたからといってほかの事件に大きく影響するということは、考えられないと思います。   元々こういう制度を設ける理由は、判決までの審理期間についての当事者の予測可能性を高めるということなのですけれども、これは一般論として、全ての事件について予測可能性を高くするということを考えているわけではなくて、こういう事件が使える事件に関しては、少なくとも予測可能性は高まるということなのではないかと思います。現在は6か月になっておりますけれども、その範囲内で審理を終えられる限られた事件について利用されることが予定されていますので、この手続の審理のためにほかの事件が後回しにされるなどの影響が生じるということは余り考えられないだろうと思っております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○山本(克)委員 藤野委員の最初の発言や大谷委員の発言、それから、先ほど垣内幹事の発言の二つ目の事項について、意見を申し上げたいと思います。   ネガティブリストの問題で、ネガティブリストを充実させるべきだという御意見が藤野委員、大谷委員よりあったのですが、大谷委員がいみじくもおっしゃったように、ネガティブリストを言語化することが非常に難しいというのは事実だと思うのです。それと同じ問題は、平成8年の現行法の成立過程では、恐らく管轄合意について存在していた問題とかなり近いのだろうと思うのです。平成8年当時は消費者契約法自体がなかったので、消費者と事業者ということも民事訴訟法で規律することは誰も思い付かなかった状況下で、結局そういうネガティブリストを作ることを諦めて、現行11条ができて、その代わりに17条で、裁量移送によって、管轄合意の結果が不当である場合について、この移送で何とかしましょうということが17条と20条の1項の括弧書きを合わせるとそうなるというふうに仕組まれたわけです。   それを考えると、17条の当事者間の公平を図るうんぬんという、当事者間の公平というキーワードを使って、ネガティブリストに受皿を作る、つまり、今挙がっている二つのほかに、その他この手続によることが当事者の間の公平を害するおそれが高い訴えとかいうようなものを入れるか、それともあるいは、先ほど垣内幹事がおっしゃったように、2の方の困難というのに入れるのは、少し私は無理があると思うので、私は1の方のネガティブリストに加えるべきだという立場の方がいいと思っているのですが、2の方に何らかそういうような文言で、リスト外で更に2の方で排除していくというような立案の方向もあり得るのではないかという気がいたしております。   ということです。以上で私の意見を終わります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 除外すべき訴訟類型というか事件をどのように規定していくのかというのは、法技術的な問題もあって、かなり難題なのだろうとは思うところですが、今は(2)の規律の中で、困難であるときとなってますが、ここを例えば不相当又は困難であるときというような形にして、困難という言葉ではすくいにくいものもカバーできるようにするというのも、若干小手先の話でもあろうかと思うのですけれども、アイデアとしてはあるのかなと思いました。   それとは別なのですけれども、今回の部会資料の中で新たに追加された提案内容について意見を申し上げたいと思います。今回の部会資料の提案では、新たなポイントとして、当事者による申述又は同意をすることができる時期が原則として争点整理のための実質的な最初の期日までに限定されていることと、それから、判決の理由としては、裁判所が当事者双方と確認した事項に係る判断の内容を記載すれば足りるとしているところかと思います。   まず、1点目の申述又は同意をすることができる時期に関してですけれども、争点整理のための実質的な最初の期日までに限定されるということですと、この手続が利用される可能性を大きく減少させるものであって、私は賛成しづらいと思っています。部会資料の8ページでは、その理由として、申述又は同意は通常は比較的早い時期にされることが想定されるからと説明されているのですが、法制度上その時期に限定すべき積極的な理由はないように思います。ある程度審理が進んで争点の認識が共有された時点で、その後の審理の計画を立てるということも可能であるという柔軟性を持たせるべきだと考えています。   なお、今回の部会資料の提案では、例外的に、申述又は同意をすべき日を裁判所が決めた場合には、その日まで申述又は同意できるとされているのですけれども、これは当事者のイニシアチブを尊重するという趣旨には沿いませんし、(2)の規律によって、裁判所は困難であるときはこの手続に付す決定をしないということが認められているのですから、屋上屋を架すようなものではないかと思われました。   それから、2点目の判決の理由に関してですけれども、ここは従来の御提案よりも、判断事項が当事者双方と裁判所の間で確認されるということから、当事者の意向をより反映できるものとポジティブに評価できる面もあると思います。しかし反面、この規律は判決において理由を記載すべき判断事項を確認されたものに制限することを正面から認めるものですので、確認のプロセスにおいて当事者の意向が適切に反映されないとしますと、当事者が真に裁判所に判断を求めたい事項が判断から漏れてしまうというネガティブな面もあるのではないかと思います。そのために、こうした判断事項の確認の規律が適切に機能するためには、やはり当事者双方に訴訟代理人が付いているということが極めて重要なのだろうと考えております。   そういうわけで、まとめれば、一つ目の新たな御提案については賛成し難い、二つ目の御提案については、当事者双方に訴訟代理人が付いているということであれば理解できるところだというのが私の考えであります。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小澤委員 ありがとうございます。提案の本文に賛成という立場で、1点だけ意見を述べさせていただければと思います。   説明で述べられているように、この手続を利用することができる場合が訴訟代理人が選任されているのと同視し得るような場合に限られるとなりますと、実務的な運用として実質的に代理人強制に近い形になってしまうのではないかという懸念を持っています。仮に代理人の選任がほぼ求められるという手続をとるのであれば、この手続を利用するか否かは裁判に詳しい代理人が適切に判断するということができるということになると思います。そうしますと、消費者契約に関する訴えと個別労働関係民事紛争に関する訴えの二つの事件類型を対象外とする必要性が乏しくなるのではないかとも思いました。つまり、何が言いたいかと申しますと、対象外とすべき事件類型は本文で明記しておられるのですから、法改正に示されるであろうQ&Aなどにおいては、本人訴訟の当事者の利用の道が制限される方向での説明ではなく、むしろ本人訴訟の当事者も利用に適した事件類型を掲げるなど、前向きな内容で手続を説明していただきたいという意見を持っています。重ねて申し上げますが、本文の提案には賛成をしています。当事者も利用しやすい制度として、専門家、当事者、裁判所が一丸となってこの手続を育てていくべきだという観点からの意見です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   事務当局から何かこの段階でありますか。 ○脇村幹事 頂いた宿題がいろいろとあったと思います。恐らく今日の御意見の中で、全体のお話もあれば、頂いた、ネガティブリストについて拡充できないか、あるいはその方法として、この困難以外の要件、あるいは困難の書き方も含めて、何かそこで、いわゆるこの証拠の偏在、先ほどの山本克己委員のお言葉を借りれば、公平に反するようなケースについて、それを具体的に書くのか、書けないにしても何かよすがができないのかという御趣旨だと思いますので、今日の御意見を伺っていて、恐らく個人と法人が全て外れるということまでは当然考えないにしても、そういった事業にまつわるものみたいな、そういう証拠の偏在が考えられる類型の事件については、個別事件の問題そのものというよりは類型的に抜く方法として、一番いいのは明示的に書ける、ネガティブリストとして書くことでしょうが、書けないにしても、その辺が分かる、個別具体的事案ではなく類型的なものをほかにも抜けるのだということを何か示せるような文言を追加できないかというお話だと思いましたので、すみません、少し歯切れが悪いのは、今頭の中で考えが浮かんでいないので、どう書いていいのかが分からないから、こんな歯切れが悪くて恐縮なのですけれども、少しそこは考えさせていただきたいと思っております。   また、ほかに頂いたものとして、日下部委員の方から、特段の事情としてこの訴訟代理人がいなくてもいいケースについて御示唆いただきまして、御指摘のとおり、単なる法務部門というだけではこれは難しく、結局きちんとできる人ということを想定していましたので、説明ぶりも含めて、その辺は頂いた御示唆を踏まえながら私たちも考えていきたいと思っています。また、そういうことが恐らく前提としての、先ほど言った判決のところ、確認のところも含めた問題なのかなと思っているところです。   また、3の申述のところにつきましては、阿多委員からも技術的な問題、また日下部委員からもお話を頂きまして、理念としては、少なくともこの、柔軟に使うべきという方もいれば、そこは最初の段階で選別をした上で、できないものは通常の事件の中で計画的なことを含めてやっていくべきだという御意見もあろうかと思いますが、そこをかっちりと確実に固定をするのか、もう少し柔軟な形にできるのか、この原案でも一応、裁判所の多少の裁量、それが日下部委員がおっしゃった、当事者のイニシアチブといっていた手続と合わないという点の御批判も頂いているところですが、一定の限度で延ばすことは想定しながら作っているところなのですけれども、何かその工夫ができるかどうかについては少し私たちも考えないといけないのかなというふうな思いと、正直、どこまで書けるのかの自信がないのですが、考えていきたいと思っているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにこの論点、いかがでしょうか。おおむねよろしいでしょうか。   先ほどもお話したところですが、もうそろそろ成案を見通してという時期になってまいりましたので、今日、様々な点からやはり御指摘を頂き、今、事務当局の方からも受け止めてというお話がありましたので、かなり、今の脇村幹事の言葉からも、困難な道ということが想定されるような御発言ではありましたけれども、やはり是非引き続きこの点も何らかの工夫を考えていっていただければと思います。   よろしいでしょうか。ありがとうございました。   それでは、続きまして、資料11ページ、「第7 争点整理手続等」の「2 書面による準備手続」、これにつきまして事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○大庭関係官 それでは、御説明いたします。   書面による準備手続については、前回の会議で御議論いただいたところでございますが、その際、遠隔地要件の見直しについての記載のところが抜けておりましたので、今回改めて提示させていただいたものでございます。内容の実質につきましては、これまでの資料の内容と変わっておりません。 ○山本(和)部会長 それでは、この論点につきまして何かございますでしょうか。 ○阿多委員 最後の最後になると思いますけれども、従前から申し上げていますように、書面による準備手続と弁論準備手続の制度的な区別というのを検討いただきたいと思います。その意味で、相当と認めるときはという部分は要件を厳格にし、例えばやむを得ない事由があるときは等を用いて、これは次善の方法だと位置付けを明確にすべきと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは、続きまして、資料12ページの「第8 証人尋問等」の中の「3 参考人等の審尋」、この部分につきまして、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○大庭関係官 御説明いたします。   参考人等の審尋につきまして、本文の内容は以前の会議で頂いた御意見を踏まえ、文言の見直しを行ったほかは、これまでの記載と内容的な変更はございません。 ○山本(和)部会長 ということですが、この点につきまして、何かございますでしょうか。   よろしいでしょうか。内容については変更はないということでしたが。   それでは、よろしければ次に進ませていただきます。資料12ページの「第16 被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度」ということで、この後この関連の話がずっと続くわけですけれども、項目に従って順次、御議論を頂きたいと思います。   まず、12ページの「1 申立人の住所、氏名等の秘匿」、この項目につきまして、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○大庭関係官 資料について御説明いたします。   部会資料27からの主な変更点は、秘匿決定の対象となる事項に申立人の居所や勤務先等の通常所在する場所が含まれるということを明確にしたことでございます。また、秘匿決定の実体要件につきましては、原案を維持しつつブラケットにしておりますので、この点につきましても御議論いただければと考えております。   なお、本文1から本文4までの訴訟記録の閲覧等に係る文言につきましては、現行民事訴訟法、すなわちIT化前の文言を用いておりまして、例えば、本文2の複製という文言は、現行法第91条第4項のビデオテープ等の複製を意味しているという前提で御議論いただければと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは、まずこの論点につきまして、どなたからでも御質問、御意見を御自由にお出しいただければと思います。 ○日下部委員 今回の御提案でも亀甲括弧が付いている実体的保護要件を検討する必要があるものだと承知しております。その点について意見を申し上げますと、この実体的保護要件については、前回の検討の際にほぼ意見は出尽くしているようにも思われます。部会資料13ページ以下の説明部分では、刑事訴訟法における議論を参考に想定される案を示していただいた上で、それを「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」の中に読み込むことを説明していくという考えが示されているところで、また、第三者による閲覧等の制限を定める法92条1項1号と被害者情報秘匿制度は、攻撃防御上の不利益が問題となるかどうかの点で異なるものの、保護法益は異ならないという考えも示されているかと思います。   私がこの点についてこれまで述べてきた意見は、法92条1項1号は当事者の私生活についての重大な秘密を秘匿対象としているので、当事者の氏名や住所等がそれに当たるとは判断されにくいのではないか、そうであれば、被害者情報秘匿制度における実体的保護要件は、この92条1項1号の要件に依拠するのではなく、制度趣旨を正面から捉えたものにすべきではないかというものでした。その意見自体は維持はしているのですけれども、仮に被害者情報秘匿制度における実体的保護要件を、「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」とし、法92条1項1号における秘匿との間では、閲覧等が制限される者に当事者が含まれるかどうかは異なるものの保護法益は共通すると整理するのであれば、92条1項1号の実際の解釈、運用がその整理に沿うようにならなければいけないと思っています。   すなわち、少なくとも今後、92条1項1号の解釈においては、加害者が第三者である場合の新たな被害を抑止するという観点から、被害者の氏名や住所等、それ自体が、たとえ加害者以外に対しては秘密にされず、他者によく知られているとしても、当事者の私生活についての重大な秘密に該当して、92条1項1号により第三者一般に対して閲覧等制限の対象になるということをこの部会の共通認識にするとともに、そのことを被害者保護に不足が生じないように周知しなければならないと思います。   仮にそのようにした場合という話なのですけれども、現在の第三者閲覧等制限の実務を前提としますと、恐らくは当事者が第三者である加害者から新たな被害を受けるおそれがあるとして閲覧等制限を申し立てれば、差し当たりは余り厳格な証明を求めることなく、氏名や住所等、それから、それらの推知情報については、第三者による閲覧等を制限する決定がされる扱いが一般化するのではないかと思います。それによって、相手方当事者としては、どこの誰と裁判で争っているのかを正当な理由なく第三者に開示してはならなくなるということになって、しかし、その決定に不服を申し立てることはできず、第三者が秘密記載部分の閲覧等を求めて制限決定の取消しを求めない限りは秘匿された部分はそのままということになるのだと思います。これは、十分な理由のない閲覧等制限の申立てによって匿名で裁判をすることが認められやすい環境ができてしまう可能性を秘めているように思いました。閲覧等制限の申立ての濫用を危惧する必要はないのかもしれませんけれども、こうした可能性も踏まえて部会としての整理をしなければいけないのだろうと今は考えているところです。   感想的なことも申し上げてしまいましたけれども、以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 隅括弧について、従前、刑事訴訟法を参考にと意見を述べてきました。具体的には、行為要件を入れて当事者の方の主張立証対象を明確にすべきという意見を述べていましたが、今回、法益の議論と行為の議論を同じ類型、同じ条項に配置するのはいかがなものか、また、特定の行為類型のみ例示することの是非という指摘を受け考えた結果、事務当局の案、いわゆる法益に限定しあとは解釈運用、実務の運用に委ねるという案に賛成したいと思います。   なお、今、日下部委員から指摘のありました92条との問題ですが、今回の説明では、用語をそろえるとしても、両者の区別は意識して記載されていると思います。実際、適用される場面も異なるところもありますので、92条と秘匿措置について用語を統一しても、それぞれの場で適切に運用されると考えています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   事務当局から何か確認は。 ○脇村幹事 ありがとうございます。日下部委員から、92条の解釈、特に氏名、住所に関してという周知の話を頂きました。私どもは、この御時世の状況からしますと、そういった被害があった被害者の方に関して住所、氏名というのは当たるということで、恐らく皆さんの御意見、委員、幹事の皆さんの中でもそこに異論ないのではないかと思っておりますので、そういうことであれば、私としても今後そういったことの周知説明について努めていきたいと思っておるところでございます。恐らく異論はないと思いますので、その方向で考えさせていただきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小津幹事 別の点なのですが、事務当局に御質問させていただければと思います。   代替呼称の定めの効力の及ぶ範囲について、部会資料の15ページの真ん中辺りでは、保全と訴訟との関係性について言及があるのですが、訴訟での代替呼称の定めの効力がそれに先立つ仮処分等に遡及的に及ぶことは想定していないとは書かれているものの、先行する仮処分などで秘匿決定がされて代替呼称が定められた場合に、その代替呼称の定めの効力はその後の本案訴訟にも及ぶことになるのかどうかについては部会資料に言及がございませんでしたので、事務当局に確認させていただければと思います。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○脇村幹事 脇村です。結論的には考えていないと私は思っておりまして、もちろん仮決定、仮処分、仮差しをした際に、それを何か準備書面で引く際には、結局そういった仮呼称を書くのかもしれませんけれども、本体訴訟ではやはり改めて仮呼称を定めるということになるのではないかと思っていまして、そういう意味では、強制執行のように連続したり、あるいはその後の仮差し、仮処分のように手続が連続していて基本の訴訟があるのとは違うのではないかと思っていました。 ○小津幹事 ありがとうございました。いずれにしても本案訴訟での代替呼称の定めの効力がそれに先立つ保全等の関係でどうか、あるいは訴訟の後の執行との関係でどうかについては、全体として御検討が必要ではないかと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○山本(克)委員 仮差押えに効力が及ぶとして、不動産の仮差押えの登記はどういうふうになるのでしょうか。仮差押えを執行する際は不動産登記をしますよね、その場合の登記にはどういうふうに、やはり代替呼称が登記されるということなのでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○脇村幹事 脇村です。後で執行の話の説明に少し書かれておりますが、基本的に強制執行のケースと同じように考えておりまして、代替呼称の効力が仮処分に及んでいるケースにつきましては、登記の嘱託もそれでされ、その上で登記もそのままさせていただく、代替呼称、代替住所をそのまま書くということを想定して考えておりました。 ○山本(克)委員 分かりました。2以下と話が続いているのだったら、それで結構です。 ○山本(和)部会長 それでは、よろしいですか。   それでは、続きまして、部会資料16ページの2、秘匿決定があった場合における閲覧等制限、それから、3の調査嘱託の場合の閲覧等制限、これは相互に関連しますので、2と3を併せて事務当局から説明をお願いします。 ○大庭関係官 御説明いたします。   2と3のところに関しましては、部会資料27から実質的な変更点はございません。なお、証人自身に危害が及ぶおそれがある場合の証人の氏名等の秘匿の規律の導入につきましては、前回の会議で慎重な御意見を多数出していただいた状況を踏まえ、将来的な課題とするということとしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それではこの2、3、どちらからでも結構ですので、御発言を頂きたいと思います。 ○阿多委員 3の調査嘱託について質問します。今回の提案は、17ページの(1)では、調査の嘱託をした場合において、当該嘱託に係る調査結果の報告が記載された書面が閲覧されることにより、当事者若しくは法定代理人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることを明らかであると認めたときは、裁判所の方で秘匿措置を執られるという形で書かれています。   この記載が想定している場面として実際に原告が訴訟を提起するときに被告の住所が分からないという場面を想定して考えたのですが、一つは訴状の段階で、DV加害者ということを自認するというか、被告住所が秘匿措置、住民票の閲覧制限が課せられているのだということが訴状等で明らかであれば、ここで書かれている手続で進むことになると思いますが、訴状に原告が自らそのような対象であることを記載するわけではなく、ただ、被告の住所が何らかの事情で分からないので調査嘱託の申立てをする、そういう場面があり得ると思います。これは前回の議論のときも質問させていただいた点ですが、調査嘱託を住所調査の方法として利用するときに、裁判所は、回答を見て、例えば回答の住所地が支援施設になっている等の事情から、初めて秘匿の対象になる回答だということを知り得るという場面もあり得ると思います。その二つのパターンに分けた場合に、後者の場面も当然この(1)の対象で、明確であるとして秘匿の対象になるのでしょうか。これが1点目の質問です。逆に、裁判所の方が秘匿の対象になるかどうか分からない、つまり、そこについて判断しないと、そのまま訴訟記録に綴じられ住民票自体が調査嘱託の回答結果として原告の目にさらされる、閲覧対象になるのでしょうか。 ○山本(和)部会長 それでは、2点、事務当局からお答えをお願いします。 ○脇村幹事 1点目につきましては、もちろん明らかであるということだと思いますので、それは対象になるのだろうと思っています。もちろん、分かればということだと思うのですが、その上で、住民票につきましては、すみません、2点目は私がうまく分かっていないかもしれないのですけれども、いずれにしても裁判所は、訴状の段階で住民票等、住所などが不明なケースについては、基本的にまずは原告の方に立証を求めていくことになると思いますので、その過程で単に出せませんというだけでは、もうこれは発動せず、却下になる前提だと思います。そうしますと、恐らくここではその際に前提として、原告としてはもうそれは自分は見られないのだということを説明しないといけなくなる結果、必ずそういった意味では、いわゆるDV被害の支援がされていることが表に出るのだと理解をしていました。その前提で行きますと、恐らくそういったものがある場合には、裁判所は来たとしてもそれは見せないということで、目にさらされないということでワークするのではないかとは認識していたところです。お答えになってないかもしませんけれども、すみません。 ○阿多委員 必ず事前のチェックの段階で、原告自身に属人的な事情があることが明確であれば、トラブルは生じないと思いますが、危惧するのは、そのような事情があるにもかかわらず、裁判所が気付かずにそのまま嘱託をして、その嘱託結果が訴訟記録に綴じられる可能性があるのではないかという点です。この訴状の送達段階では、被告は一切関与しない状況で被告住所を知られてしまうことが起こるのではないか、それは回避すべきではないかと考えます。その意味で、訴状段階での調査嘱託においては、回答結果が返ってきたとしても、一定、原告には閲覧させない、例えば、被告に送達され、被告が閲覧制限の申立てをする機会が付与されるまでは原告に閲覧させないことにすべきではないか。その期間が徒過したのであれば、閲覧できる状態にしても支障はないと思いますが、被告が何らの対応もできない段階で、要件が明白でないということで訴訟記録に綴じるというのは、被告の住所が意図せず知られる機会を提供する気がしますので、手当てが必要ではないかと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○脇村幹事 ありがとうございます。恐らく運用としてそういったことを含めて考えていくことは重要だろうと思っています。我々としても、今回こういった制度を作った際には裁判所において適切に運用していただくべく周知していかないといけないと思っております。その上で、この要件と別のものを立てるかどうかについては、ただ、一般的に全て閲覧をシャットダウンするようなことができるのかどうかという問題があり、書き方としてこれ以上のことを書けるどうかという問題はあるのかなとは思って今、聞いていたところでございますが、その辺の実務の運用も含めて、私たちも知恵を出せるかどうか、少し考えてみたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今の点に関わっていると思うのですけれども、1点質問をさせていただきたいと思います。日弁連の中で検討していたときに生じた疑問で、明らかにしておくべきかとも思いましたので、お尋ねです。   ここでの職権で可能とされる閲覧等の制限の要件は、当事者による申立てでの要件である「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」に続けて、それが「明らかである」ということも書かれています。ここでいう明らかという部分は、次の4の秘匿決定の取消し等の(1)の規律において、取消しの申立てをする者が欠缺を主張立証すべき要件に含まれるという想定なのかどうかという点です。仮にこれが含まれるということであれば、取消しの申立人は、「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることが明らか」ではないことを立証できれば足りるということになるように思いますが、仮にこれが含まれないということであれば、取消しの申立人は、「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれ」が欠けるということを立証しなければならないということになって、立証のハードルに差が生じるように思いました。ですので、その点はどのように整理されているのかということを御確認いただければと思います。よろしくお願いします。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局からお願いいたします。 ○脇村幹事 ありがとうございます。結論的には、この明白性要件という言い方をしたらいいのかもしれませんが、そこについてまでこの要件が掛かっているということまでは考えておりませんで、この生ずるおそれがあるということ自体が取消しの際に問題になると理解しておりました。書き方としては、職権発動のケースでございますので、気付いているというか、気付いたことですよということを書くために、明らかという表現を少し入れさせていただいたので、すみません、そういう意味で書き方としてあれだったかもしれないのですけれども、ここではそういう意味で、職権発動の書き方に倣って書いたという以上のことは、正直、それ以上は考えていなかったところでございます。 ○日下部委員 ありがとうございます。私もそうだろうと思って読んでいたところではありますけれども、一応確認させていただいて、ありがとうございました。   違う点について意見を申し上げてもよろしいでしょうか。 ○山本(和)部会長 どうぞ。 ○日下部委員 部会資料の16ページの説明部分の2の部分で、複数当事者訴訟における秘匿に関する事務当局の御検討の内容が記載されております。ここは以前の部会の会議で私が問題意識を述べさせていただきつつ、解決方法が思い当たらずという状況だった点かと思います。取り分け複数当事者、3人の当事者がいるという状況において、加害者でも被害者でもない第三の当事者が提出する準備書面などに秘匿対象の事項が記載されていて、それがシステム直送されてしまうという場合には、被害者がそれを知ったときには加害者もそれを知ってしまっているという事態になり得る、これをどうしたらよいのかという問題だったところです。   部会資料では、法制的な手当てはされず、不法行為の成立の可能性もあるから、それが一定の抑止になるのではないかという御指摘がされているのかと思うのですけれども、それはそうだろうと思いつつ、どの程度その不法行為の成立の可能性が有効な抑止になるのかという疑問は否めないところです。この点については、依然として私も妙案があるわけではないのですけれども、秘匿決定がされている事件では、参加人など第三の当事者に対して、秘匿決定の対象事項やそれを推知させる情報が記載された準備書面等を提出するという場合には、事前に被害者である当事者及び裁判所と協議をして、被害者による秘匿決定の申立てがタイムリーにできるようにする、あるいは、難しいかもしれませんけれども、加害者である当事者との関係での弁論を分離する可能性を検討するといった対処をすることが実務上の配慮としては考えられるのかなと思いました。これは法律事項でないことはもちろん、規則事項にするにも適切ではないことだろうと思うのですけれども、単に仕方のない状況なのだということで整理してしまうということではなく、今後の実務の在り方への示唆は何らか残しておきたいと考えた次第です。   本当に単なる意見でございますけれども、以上でございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。では、事務当局から少し。 ○脇村幹事 ありがとうございます。私も妙案があるわけではないのですけれども、委員がおっしゃったとおり、特にこの秘匿決定をしたケースにつきましては、それが加害者にばれるケースにつきまして、正にそれは裁判所のお墨付きで隠すべき情報だということがある意味、認定されたものでございますので、普通に考えると不法行為が、例えば正当な理由もなくばらした場合には不法行為が成立するということは、ある意味明らかなのではないかと思っています。平成8年の改正のときの解説書などを見ても、第三者秘匿決定されたケースについては、秘匿決定されたという、ある意味で裁判所がお墨付きを与えたものを開示したことの問題点として、やはり不法行為が成立するのではないかという解説なども書かれているところでございます。私としては、そういった意味で、正に今後の実務の視点として、そういったことが不用意に開示されるとそういった問題が起きるということは、きちんとこの解説といいますか、法の趣旨としてそういったことがあるのだということはきちんと伝えていかないといけないのではないかと思っておりまして、そういったことをよすがに、今後、分離する、あるいは訴訟代理の方かもしれませんけれども、準備書面を書く際には配慮していただく必要があるということの議論の出発点にならせていただけないかなと考えているところでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか、この2及び3。よろしいでしょうか。   それでは、少し中途半端なところではありますが、2時間程度開始からたちましたので、ここで休憩を取りたいと思います。20分程度の休憩ということですので、15時20分に再開したいと思いますので、そのときまでにお戻りいただければと思います。           (休     憩) ○山本(和)部会長 それでは、予定の時間になりましたので、審議を再開したいと思います。   続きまして、資料17ページの「4 秘匿決定の取消し等」について取り上げたいと思います。   まず、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○大庭関係官 御説明いたします。   「4 秘匿決定の取消し等」に関しましては、部会資料27からの実質的な変更はございません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして御質問、御意見等をお出しいただければと思います。   特段ございませんでしょうか。 ○日下部委員 ここでの問題として議論されてきたのは、要件欠缺を理由とする第三者による取消しの申立権を認めるかどうかというところだったかと思います。仮にという話ですけれども、第三者に秘匿決定の取消し申立権を認める場合には、加害者の意を酌んだ第三者による秘匿決定の取消し申立てが乱発するという可能性が考えられて、その当否を判断するために結局は裁判所が被害者の意見を聴かざるを得ず、被害者が不合理な負担を強いられるという事態を懸念してきたところです。仮に第三者にこの取消し申立権を認めるということであれば、秘匿決定が認められている以上、その要件を欠くこと、又はこれを欠くに至ったことについては、取消し申立てをした第三者にまずは具体的な立証を求めて、それがないという場合には、被害者の意見を聴くまでもなく直ちに申立てを却下するといった、理由のない申立ての乱発が被害者の負担になることがないような裁判所による適切な運用がなされることを期待しております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○小津幹事 1点、御質問させていただきます。部会資料の17ページ4(4)では、秘匿決定の取消し又は閲覧等の許可をする際には秘匿対象者の意見を聴かなければならないと記載されていることに関し、秘匿対象者には意見を聴く機会を与えれば足りるという御趣旨なのかを質問させていただければと思います。事件の終局後は秘匿対象者と確実に連絡が取れるとは限りませんので、裁判所が届け出られた住所に意見聴取のために書面をお送りしても応答がない場合に、取消しなどの裁判ができないとすると、実務上の不都合が生じるのではないかと考えられたために、確認させていただくものです。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局からお願いいたします。 ○脇村幹事 ありがとうございます。ここにつきましては、聴かなければならないという趣旨は、もちろん最終的に意見を聴く機会を与えて、なお答えないケースも含んで書いているつもりでございます。いろいろの非訟事件等、あるいは民事訴訟の方の書き方でも、聴かなければならないというケースについて、適切な呼出しあるいは通知をしたにもかかわらず答えないケースについては、それはできるという解釈はされているのではないかと思っております。もちろんどこまでやれば機会を与えたかという問題は別途ございまして、送達まで要るかどうかという問題はありますけれども、機会を与えれば、最終的に意見が出なかったとしても、それは聴いたことになるという解釈を前提に考えていたというところでございます。 ○山本(和)部会長 小津幹事、いかがでしょうか。 ○小津幹事 今のお答えで結構です。ありがとうございました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 私も実は(4)についてお伺いしたかったのですが、先ほど日下部委員から危惧されました、いわゆる濫用的な申立てについての対応ですが、この(4)の1の取消し又は2の許可の裁判をするときはという記載の意味するところは、例えば取消決定をする場合、ないしは許可するという裁判をする場合、つまり、認める方向の話のときには意見を聴かなければならないが、必要がない場合には意見を聴くことなく判断できるという意味ですか。認容する場合と却下する場合についての書きぶりの違いを意識しての発言です。最高裁とは少し趣旨が違いますがこの(4)の表現ぶりは必要がある場合だけですかという質問です。 ○山本(和)部会長 事務当局からコメントありますか。 ○脇村幹事 すみません、私が少し分かっていないかもしれません。もしかしたら重複しているかもしれませんが(4)は取消し又は許可の裁判ということで、これは認容するときだけに発動する規定という前提で書いています。非訟などで、例えば取消しの申立てについての裁判ですとかを書く場合は、却下も含む形で意味していますが、ここでは取消し又は許可、これを認容する前提のものについてはしてくださいということを書いています。一応、条文上は却下のときにはしなくていいということを前提にしています。恐らく、あとは運用として、初めてやるケースについては一応意見を当然聴くのが普通ではないかということで、方向性を決めてない段階で、どうですかという意見を聴くことが一般的運用としてはあるのだろうと思いますし、何回も乱発されているケースは、もう今更聴いても、却下するのだから聴く必要はないということで、そのまま却下するということもできる規定にはなっているのではないかと思っております。間違えていたらすみません。 ○阿多委員 読み方として、却下ないしは不許可という裁判のときには意見を聴く必要がないという前提で読むのであれば結構です。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。   それでは、続きまして今度は資料18ページの「5 第三者の訴訟参加があったときの通知等」、この部分について事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   部会資料27からの主な変更点は、通知等の基準となる時点を、参加人の閲覧等の請求があったときではなく参加のときとしたことでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   それでは、この部分の御質問、御意見等を御自由にお出しいただければと思います。 ○日下部委員 ありがとうございます。部会資料19ページの冒頭の(2)では、参加をした者に秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない時期の終期を(1)の参加があった日から2週間を経過する日とされています。これは、法92条1項1号の事由を理由として同項の申立てをした者に、当事者に対する秘匿決定の申立てをする機会を付与するためのものであって、2週間という期間はその機会を確保するために設定されているものと理解しています。しかし、そうであれば、2週間の期間は第三者の参加があった日からカウントするのではなく、その旨の通知が申立人にあった日からカウントすることが趣旨にかなうのではないかと思いました。通知は参加後直ちになされるという想定であれば、それぞれの日は結局同じになることが多いとは思うのですけれども、何らかの事情で通知が遅れることもあり得ると思われますので、趣旨にかなうように、この参加をした者に秘密記載部分の閲覧等をさせてはならない期間の終期を(1)の通知があった日から2週間を経過する日とすることを提案したいと思います。なお、この提案は、参加があった日から通知があった日までの間に一定の期間が生じたとしても、その期間中においても閲覧等が認められないことを前提とするものです。つまり、閲覧等が認められない期間の始期を遅らせるという意図で申し上げているものではありませんので、あとはワーディングの方で御配慮を頂ければと考えております。 ○山本(和)部会長 事務当局から何かございますか。 ○脇村幹事 分かりました。私も恐らく始期とカウントが、御指摘があったところを踏まえて、通知があった日にすることの方法といいますか、何といいますか、考えさせていただきたいと思っております。期間については、その前提であれば2週間ということでも特段、日下部委員ほか皆さん、ない感じでしょうかというのは、すみません、期間は結局どの辺がいいのか、実務的な感覚を教えていただければと。すみません。 ○山本(和)部会長 日下部委員、いかがですか。 ○日下部委員 私が答えるのですね。既に事件が係属している状況でありますので、参加がありましたよという通知が裁判所からあれば、2週間という期間があれば、私は大丈夫ではないかと感じますが、それは人によって少し見方が違うこともあり得るかとは思います。すみません、このぐらいしか申し上げられません。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   今の点でも、あるいは別の点でも結構ですけれども、ほかに何かございますでしょうか。よろしいですか。   ありがとうございました。   それでは、続きまして部会資料19ページの「6 IT化後における住所、氏名等の届出の方法等、この部分について事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   部会資料27から具体化しました主な点は、一つ目、秘匿決定を求める申立ての際に必要となる住所、氏名等の届出の方法を最高裁判所規則に委任するとともに、その届出が書面や記録媒体でされた場合には、これを裁判所のサーバに記録しないで書面のままでよいことも可能とすること。   二つ目といたしまして、訴訟記録中のこの届出以外の部分に関しましても、対当事者の閲覧等制限の決定の対象となる住所等及び氏名等、並びにこれらを推知することができる事項が記載、記録された部分につきまして、裁判所のサーバに記録しないで書面のままでよいことも可能とすることなどの措置を執ることができるようにしたことでございます。   また、これらのほか、これらに類似する論点といたしまして、秘密保持命令が発せられる訴訟を念頭に、法第92条の対第三者の閲覧等制限決定の対象となる営業秘密が記載、記録された部分につきまして、同様の規律を設けることを御提案いたしております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ということで、前回の資料では(注)で問題意識というか、を掲げていたところを具体化した形で今回、御提示を頂いたというところかと思いますが、御質問、御意見を御自由にお出しいただければと思います。いかがでしょうか。 ○佐々木委員 佐々木です。6(3)の部分についてでございます。営業秘密の保護のためにこういう措置を執っていただけるというのは必要なことだと思いますし、賛成をしたいと考えております。ただ、ここには書面をもってするものに限る措置、その他の当該営業秘密の安全管理のために必要かつ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置ということが書かれておりまして、恐らくこの最高裁判所規則で定める措置について要望をさせていただくことになるとは思うのですけれども、やはり紙でというのも結構だとは思うのですけれども、やはりIT化との両立というのも考慮していただきたいと考えておりまして、特に、この資料に書かれております知財高裁における運用ですね、こういうものを廃止することもIT化によるメリットだとは思いますので、紙というだけでなくて、暗号化やアクセス制限ですとか、スタンドアローンでインターネット環境に接続しないストレージでの管理ですとか、そこでの専用端末、セキュアな場所での専用端末での閲覧ですとか、そういう形でIT化というのもバランスをとっていただければと考えております。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。その点は最高裁判所規則で正に御検討いただく際に、今のような御意見を参考にしていただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、引き続きまして、今度は部会資料23ページからですね、「第3部 その他」ということになっていって、民事訴訟法以外の規律についての部分ということになりますが、そのうち「第1 被害者の氏名等を相手方に秘匿する制度に対応する改正」のうち「1 民事執行法の改正」の部分について取り上げたいと思います。   事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   部会資料27での御提案を具体化いたしまして、秘匿決定の対象とされた差押債権者の申立てによる供託命令の制度を導入することを御提案しております。また、不動産執行、債権執行、債務者の財産状況の調査におけるその他の点につきましても、部会資料27での御提案を維持しておりますが、民事執行法第20条による民事訴訟法の規定の包括準用及び本部会資料第1部の第16の本文1(5)の強制執行手続における住所、氏名のみなし記載の規律によりまして実現されるものでございますので、この第3部の第1の本文1のゴシックには記載していないということでございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございます。   それでは、この論点につきまして、どの点でも結構ですので、御質問、御意見をお出しいただければと思います。 ○小澤委員 ありがとうございます。民事執行の原告に秘匿決定があった判決をもって不動産執行の申立てがあった場合について、意見を述べたいと思います。前回も述べた点と重複しますが、不動産に差押えの登記がされた後には強制競売の手続が進んでいくわけですけれども、競売手続による売却ですと売却代金が相対的に時価より低くなることが通常であり、また、執行手続の時間も要しますので、実際には多くの差押え事件というのは差押えの登記後に任意売却がされるケースが多いのだと理解しています。一方、差押えの手続に入る時期的な観点から申し上げますと、債務名義を取得後直ちに不動産の差押えをするというケースばかりではなくて、相当期間経過後に債務者所有不動産が判明するようなケース、あるいは、しばらくは任意での弁済が続けられていたのだけれども、相当期間経過後に弁済が途切れてしまって、やむなく不動産の差押えをするという、そういったケースも少なくありません。相当期間の経過後には、本案訴訟の原告代理人が執行の代理人になるとも必ずしも限らないでしょうし、また、本人が代理人を立てずに強制執行の申立てをするということもままあるのではないかと考えていまして、つまり、不動産の差押えにおいては本案訴訟の原告代理人が差押え当時の債権者の連絡先を知らないケースも思いのほか多いのではないかという印象があります。そうしますと、任意売却の需要にこたえるために、買受人候補者及び仲介業者等が裁判所を通じて一定の手続を踏めば差押え債権者と連絡を取ることができる何らかの方法を定めておくことが、実務の混乱を防ぐ手当てになるのではないかという意見を持っています。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○阿多委員 第1で民事執行法の改正について、1の記載だけとなり、あとは説明に回されていますが、従前の発言した密行性に対する配慮は、何かの手当ては考えられているのですか。 ○山本(和)部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いいたします。 ○脇村幹事 以前から頂いていた関係でいいますと、管轄裁判所の関係の密行性のお話を頂いていたのではないかと思っていますが、これにつきましては実務上の工夫としては、判決段階で一部開示、一部閲覧許可を認めるような運用といいますか、手続をとることで、それを知られないままやるということも一つ、強制執行が入る前の段階でそういった手当てをとることができるのではないかと思っています。あわせて、先ほど小澤委員から少しあった話として、判決段階で一部開示されていたところ、その申出から少したった後、判決が出た後に強制執行した後で、改めて調査嘱託等で住所を調査したところ、どうも違うということで移送せざるを得ないというようなことが生じたケースについて、今でも仮差し等で行われていますが、取下げをした上で別途、そこの裁判所に申し立てるということもあり得ると思いますので、そういったことで密行性については一定の取扱いができるのではないかということを考えておりました。 ○阿多委員 24ページ及び25ページの記載で、24ページの(3)の第2段落で書かれている判決が出る前の取扱いについては、現在の実務において相手方、被告側が秘匿の対象である場合に一部開示の方法として、管轄裁判所を定めるために都道府県を記載すると、実務で行われている手法を提案されていて、25ページでは、民事執行段階での方法として、3行目からは秘匿決定の取消しの方法や、5行目では閲覧許可の方法が提案されています。ただ、民事執行の方は秘匿当事者に対する機会付与が前提ですので、こちらの方法をとる限り密行性は保護されない形にならざるを得ないと思います。債務名義を取得した段階で、債務名義を実現するために、債務者に執行することを知らしめた上で秘匿事項の開示を求めるのでは、執行は実際上、機能しないことになります。今回は運用の提案かとは思いますが、今後も継続して立法論について議論いただく必要があります。そういう意味では、将来の課題と考えたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○日下部委員 今の点に関してなのですけれども、私も今後の課題として考えなければいけないことが残っているということを述べたいと思います。若干具体的な話も入りますので、少し長めになることを御容赦ください。   今回の部会資料の24ページの(3)におきましては、先ほど阿多委員の方からも言及がありましたとおり、被害者である被告の普通裁判籍によって強制執行の事件の管轄が定まる場合には、都道府県単位までの開示を例として挙げて、住所の秘匿決定の一部取消しや一部閲覧の許可によって対応することになるという考えが示されており、具体的には、裁判所が請求認容判決をする際に取消しや許可の判断をするということが想定されているかと思います。こうした記載は、強制執行等を可能とするために最低限管轄裁判所が定まるようにすべく、都道府県単位までの開示はやむを得ない、その程度であれば被害者の保護は依然として図ることができるという考えによっているものと思います。   しかしながら、都道府県単位での開示によって被害者の住居所等が知られてしまうということが大いにあるということが日弁連の中での検討において多くの弁護士から指摘されております。どういう場合にそうなるのかという例を簡潔に五つほど挙げさせていただきたいと思います。   一つ目は、被害者が自らの親族を頼って避難するということがよくあるわけですが、DV事案のように加害者と被害者の間に一定の生活関係がありますと、都道府県単位で被害者の所在が知れるというだけで具体的な住居所が知れてしまうということは大いにあるというものです。   二つ目は、被害者の職種によっては避難先で生計を立てる上での勤務先がおのずと限られることがあります。その場合には、都道府県単位で被害者の所在が知れると具体的な勤務先も大幅に絞られてしまうということがあります。   三つ目は、被害者が障害を持つ子と共に避難している場合、その子を受け入れることができる学校がごく限られてしまいます。都道府県単位で被害者の所在が知れると、その子の就学先の当たりがほぼ付いてしまうということもあります。   四つ目は、被害者やその同居家族の持病の治療を行える病院がごく限られているという県もあります。その場合は、都道府県単位で被害者の所在が知れますと、具体的な通院先も大幅に絞られてしまうということがあります。   五つ目は、母子寮などの支援施設が県内に1か所しかないという例もあるようです。通常そうした施設の所在場所は秘匿はされているのですが、分かる人には分かってしまうということのようです。そうした都道府県に被害者が所在していることが分かりますと、具体的な住居所が知れてしまうということは大いにあるということです。   これらはいずれも弁護士が自らの経験してきた加害者が被害者の所在を探し出す契機となるものとして報告されたものでありまして、机上の空論ではありません。DVやストーカーの事案など、加害者が執念深く被害者の所在を探るという場合には、都道府県単位で被害者の所在が知られますと、その生命や身体などに対する危険度が一気に引き上がるということがあるという認識を持つ必要があると考えています。そうしますと、部会資料において、管轄の問題の解決方法として都道府県単位での開示まではやむを得ない、あるいはそうした開示が予定されるかのような説明は非常に危険なものであって、むしろそれでは解決にはならないのだという整理をすることの方が必要ではないかと思われました。   それではどういった解決が考えられるのかといえば、それはやはり管轄の規律に手を入れるほかないのではないかと思われます。日弁連内で検討した際には、秘匿決定がされた訴訟事件の判決を債務名義とする民事執行であれば、その判決裁判所に執行の管轄も認める、あるいは限られた都市の地方裁判所に特別な管轄を認めるといったアイデアが出されておりましたけれども、考えが収斂するところまでは残念ながら至っておりません。   以上を踏まえまして意見としてまとめますと、管轄の問題については都道府県単位での一部取消しや一部閲覧の許可が解決になるという整理はできず、管轄の規律の見直しを含めて引き続きの検討課題とする必要があるということです。この部会での検討が管轄について間に合うとは思い難く、その意味では将来の検討課題にはなると思うのですけれども、事柄の性質上、被害者情報秘匿制度を導入することに伴う最優先の検討事項の一つとして位置付けていただきたいと考えています。   長くなって失礼いたしました。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局から何かコメントがありますでしょうか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。そういう意味では、ここで書かせていただいているものも、取消し要件、閲覧要件があるケースに限ってそういう対応ができるのではないかということで、おっしゃるとおり、要件がないケースについてどう強制執行を掛けていくのか、そもそもこういった秘匿決定をされている方が被告のケースについて、原告の強制執行を広く認める方向で解決すべきかどうかという問題もあるのかもしませんけれども、課題の一つとして今後検討していかないといけないだろうということはおっしゃるとおりだろうと思います。恐らく、この秘匿決定がされた場合だけの問題として捉えるのか、一般的に被告住所地等が分からないケースについての強制執行の在り方としてするべきなのか、どちらかといいますと、加害者が被害者に強制執行する場面を想定する議論よりは一般的な場合を想定して議論をした方がいいのかもしれません。そういったことも含めて、管轄について、正に今回、契機となっていることでございますので、この部会で決着が付いたものでないということはおっしゃるとおりだと思いますので、私たちも管轄に遡って検討していく課題だというふうに考えていきたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。 ○青木幹事 青木です。本文の1(1)の第三債務者に対して供託を命じることができるというところ、以前この点が御提案されたときに、裁判所が供託を命じることの意義について質問をさせていただいたのですが、その際に第三債務者は実体法上は債務を履行する義務を負っていて、他方で権利として供託することは認められているところ、裁判所がその供託を命じて供託を義務付けるということにどのような意味があるのかというのがよく分からないというようなことを申し上げたかと思います。   この点、私の方で考えてみますということも申し上げたのですけれども、それで、考えてみたのですが、第三債務者から見て、差押え命令が送達されて、その債務について履行期は到来しているけれども、差押え債権者の氏名等が明らかでないので差押え債権者に支払うことができないという場合に、第三債務者は供託ができるわけですけれども、供託をしなくても履行遅滞にならないのかどうかというところが問題になると思います。仮に履行遅滞にならないのであるとすれば、裁判所がこのような義務付けをする、供託を命ずることによって、第三債務者は供託をしなければ履行遅滞になるのだというような実体法上の意義が認められることになり、少なくともこのことを明確にするというのは意味があるのかなと思いました。   これに対して、債権者が競合した場合における義務供託の場面とは異なり、第三債務者に対して供託が命じられたとしても、例えば、その差押え債権者の代理人が出てきて、その者に支払うというようなことは禁止されるものではないのだと考えております。   それから、もう一つ、供託を命ずるという表現についてなのですけれども、これも前に、差し押さえられた債権の存在を前提とすることはできないのではないかというようなことを申し上げたかと思いますが、裁判所がその債務の履行そのものを命ずるものではないということを明確にし、かつ(2)にも出てきます取立て訴訟の判決における表現とそろえると、例えば、差し押さえられた債務に係る金銭の支払いは供託の方法によりすべきことを命じるといったような表現も考えられるのかなと思いました。   以上です。ありがとうございます。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。事務当局から何かコメントはございますか。 ○脇村幹事 ありがとうございます。表現ぶりについては、私たちも少し、ほかの呼び名ができるかどうか、なかなか実は今の段階で浮かんでいないところもあるのですけれども、御示唆いただきました点を踏まえ、よりよい表現ができないかは探求していきたいと思っております。 ○山本(和)部会長 よろしくお願いします。ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。おおむねよろしいですか。   ありがとうございました。   それでは、続きまして、部会資料の25ページ、「2 人事訴訟法の改正」、それから「3 家事事件手続法の改正」、これをまとめて取り上げたいと思いますので、事務当局から資料の説明をお願いします。 ○藤田関係官 御説明いたします。   部会資料27での御提案を具体化いたしまして、家事事件手続法におきまして民事訴訟法の秘匿決定及びその取消しの規定を準用することとしておりますが、家事調停の手続における記録閲覧につきましては、秘匿決定の取消しの規律を適用しないことを御提案しております。また、人事訴訟法におきましては、訴訟記録中の事実調査部分につき、適用される秘匿制度の範囲を家事事件手続法と一致させるため、所要の適用除外の規定を設けることを御提案いたしております。 ○山本(和)部会長 それでは、二つありますけれども、どちらからでも結構ですので、御質問、御意見等を頂ければと思います。   いかがでしょうか。特段ございませんか。よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは、よろしければ、資料の最後になりますけれども、26ページの「第2 その他」、この点について、これはこれまで議論されてきた障害者に対する手続上の配慮について、この説明の部分で記載がされているところでありますので、これについて取り上げたいと思います。   事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○大庭関係官 御説明いたします。   民事裁判手続のIT化に伴い、障害者に対する手続上の配慮に関する規律を置くことについては、これまで部会において御議論いただいてきたところでございます。もっとも、資料に書かせていただきましたが、裁判所の一般的な配慮義務については民事訴訟の問題にとどまらず、裁判制度全体の問題として検討を加えるべき課題であるように思われますし、個別的な規定についても、その要否や具体的内容につきIT化後の状況等も踏まえた検討が必要と思われるところでございます。そこで、この点については引き続きの検討課題とすることが相当と思われるため、本文としては記載をしておりません。 ○山本(和)部会長 それでは、この論点につきまして、どなたからでも結構ですので、御発言があれば御発言いただければと思います。 ○清水委員 ただいまも御説明いただきまして、また説明書にも記載いただいておりますが、障害者に対して必要な手続上の配慮が行われることは当然であるとしながらも、法2条との関係の整理、民事訴訟の手続以外の手続をも含めた裁判制度全体の観点からの検討、意思疎通支援に関する個別的な規定の整備、これらに関わる費用負担の在り方等、検討が必要であって、今後の引き続きの検討課題とすることが相当との御説明を頂いております。これらの諸検討課題があることから、このたびの改正において具体的な結論が出せないということは、現時点に至ってみれば、やむを得ないものと考えます。   しかし、繰り返しになりますが、日本は障害者の権利に関する条約について批准しておりまして、この条約に基づき障害者の司法手続の利用の機会について手続上の配慮をなすべき義務が課されております。この点の重要性、また、平成26年の条約批准から相当期間が経過している現状に鑑みまして、障害者に対する手続上の配慮に関する規律を設けること等につきましては引き続き検討がなされることは極めて重要であると考えておりますので、重ねてその旨の意見を申し上げたいと思います。 ○山本(和)部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   今の清水委員の御発言は、恐らくこの部会全体の御意見といってもよろしいかと思います。私自身も全くそのような印象を持っておりますので、引き続きの検討課題というのは是非真摯に真剣に、引き続き御検討を頂きたいということは私からも申し上げたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   あるいは全体を振り返ってみてというか、全体の部分で言い忘れた点等がもしあればとは思いますけれども、いかがですか。よろしいでしょうか。   ありがとうございました。   それでは、本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。   最後に、次回議事日程等につきまして事務当局から御説明をお願いいたします。 ○脇村幹事 皆さん、ありがとうございました。   次回の日程は、令和4年1月14日金曜日、午後1時から午後6時まで、場所は未定でございます。   次回会議におきましては、前回及び今回の議論を踏まえ、要綱案の案について必要な見直しを行いまして修正したものをお出しさせていただく予定でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本(和)部会長 ということですので、繰り返し申し上げましたけれども、かなり審議は終盤に近付いていると思いますので、引き続き御協力のほどをお願いいたします。また、次回は年明けということですので、まだ少し早いかもしれませんけれども、委員、幹事の皆様には是非よいお年をお過ごしいただければと思います。   それでは、これにて法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会第21回会議は閉会にさせていただきます。   本日も長時間にわたりまして熱心な御議論を頂きまして、誠にありがとうございました。それでは、これで終了したいと思います。 -了-