法制審議会 仲裁法制部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  令和3年12月23日(木) 自 午後1時29分                       至 午後5時12分 第2 場 所  法務省7階 共用会議室6・7 第3 議 題  仲裁法制の見直しに関する諮問について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山本部会長 それでは、予定した時刻、まだ少し前ですけれども、既に御予定の委員、幹事、全員御出席ということでありますので、これより法制審議会仲裁法制部会第16回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中、御出席を頂きまして、誠にありがとうございます。   本日は片山委員、衣斐幹事、長沼幹事が御欠席と伺っております。   まず、前回に引き続きまして、本日はウェブ会議の方式を併用して議事を進めたいと思いますので、ウェブ会議に関する注意事項を事務当局から説明していただきます。 ○福田幹事 福田でございます。本日もどうぞよろしくお願いいたします。   毎回同様のお願いをしておりますけれども、念のため御案内をさせていただきます。まず、ウェブ会議を通じて参加されている方の映像及び音声を確認させていただきます。私の声が聞こえておりましたら、手を挙げる機能を使ってお知らせください。   ありがとうございます。   それでは、ウェブ会議に関する注意事項を改めて説明させていただきます。ウェブ会議を通じて参加されている皆様につきましては、ハウリングや雑音の混入を防ぐため、御発言される際を除きマイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願い申し上げます。審議において御発言される場合は、先ほどの手を挙げる機能をお使いください。それを見て部会長から適宜指名がありますので、指名されましたらマイクをオンにして御発言ください。発言が終わりましたら再びマイクをオフにし、同じように手のひらマークをクリックして手を下げるようにしてください。なお、御発言の際は会議室にお集まりの方々を含め、必ずお名前をおっしゃってから御発言されるようお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。   本日は、審議に先立ちまして事務当局から1点、御報告があります。お願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。本日は皆様に非常に残念な御報告がございます。既に御存じの方も多いと思いますけれども、当部会の委員を務めていただいておりました古田啓昌委員が先日急逝されました。余りに突然の訃報であり、事務当局一同、本当に驚き、ショックを受けた次第でございます。今はただ深く哀悼の意を表したいと思っております。   部会長からも一言頂けますでしょうか。 ○山本部会長 委員、幹事の皆様御存じのとおり、古田委員は当部会における審議の開始当初から大変大きな貢献を頂いてきたところであります。その急逝の報に接しまして、部会として、また私個人としましても、痛恨の思いであります。部会を代表して、古田委員に対して哀悼の意を表したいと思います。   ここで、古田委員の御冥福をお祈りしまして黙禱を捧げたいと思います。会議室に御参集の皆様におかれては御起立ください。   黙禱。   お直りください。   それでは、本日の審議に入ります前に、配付資料の説明を事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 御説明いたします。本日は部会資料16「調停による和解合意に執行力を付与し得る制度の創設等に関する要綱案の取りまとめに向けた検討」と題する資料を配付させていただいております。資料の内容につきましては、後ほど事務当局から順次説明をさせていただきます。 ○山本部会長 それでは、本日の審議に入りたいと思います。この部会資料16について順次御審議を頂きたいと思いますが、まず「第1 新法の規定による整備」のうち「1 定義」、「2 適用範囲」、これらは相互に関連したところがございますので、まとめて取り上げたいと思います。   まず、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは、鈴木から部会資料16について説明をさせていただきます。   前回の部会においてお示しさせていただいたとおり、調停において成立した和解合意のうち「国際性」を有する和解合意については、シンガポール条約の国内担保法としての性格を持つ新法を制定した上、国内の事案につき認証紛争解決手続において成立した和解合意については、ADR法を改正することで執行力を付与し得ることとするとの法制を想定しております。部会資料の第1では新法に設ける規律、第2ではADR法に設ける規律を提案しております。   では、まず第1の1及び2について説明いたします。第1の1では「調停」及び「調停人」の定義について取り上げております。中間試案の提案の実質を維持するものになりますが、中間試案では「民事上の紛争」としていたのを「民事又は商事の紛争」と変更しております。これは、シンガポール条約が商事紛争を解決するための和解合意に適用されるものであることを明示していることに鑑み、「商事」との文言を用いることの意義がある一方、「商事」の外縁は必ずしも明確ではないことから、「商事紛争」と限定すると条約の範囲より狭くなるおそれがあることから、「民事又は商事」とすることを提案するものです。また、中間試案では民事上の紛争について、「当事者が和解をすることができるものに限る」としていましたが、執行拒否事由において和解の対象とすることができない紛争に関する和解合意が除外されることは明らかであることから、法制的な観点も踏まえ、調停の定義では記載しないことを提案するものです。   次に、第1の2では新法の適用範囲について取り上げております。(1)は、国際性の要件に関する規律であり、中間試案の提案では①ないし④の類型を国際性を有するものとしていたところ、本部会資料では①ないし③とすることを提案しております。中間試案で提案されていた④の準拠法が外国法である場合の類型については、純粋国内事案と実質的に変わらないものも含まれ得ることになり、中間試案における乙2案を採用するとの考え方と矛盾するとも考えられることなどから、国際性を有するものとはしないことを提案しております。   続いて、(2)では、シンガポール条約又は条約実施法令に基づく民事執行の合意がされたものについて新法を適用するとの規律を提案しております。ここでは、シンガポール条約との整合性の観点から、民事執行の合意の時期に制限を設けないことを前提とした規律としております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   それでは、この1及び2の点、どこからでも、あるいはどなたからでも結構ですので、御質問、御意見等を御自由にお出しいただければと思います。いかがでしょうか。   特段ございませんか。 ○道垣内委員 回線の具合が悪いため、もしかすると既にご説明があったのかもしれないですけれども、定義の最初のところで「この法律」と書いてございます。これは2の適用範囲の(2)のところにある条約の実施に関する法令とは異なるものであり、特別法を1本立てるということなのでしょうか、それとも、この実施法のことなのでしょうか。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。「この法律」というのは、新たな条約実施法の性格を有する新しい法律を1本立てるという趣旨でございまして、その法律の定義規定として調停という定義と調停人という定義を設けると、こういう整理をしております。 ○道垣内委員 そうしますと、2(2)のところの、「又は条約の実施に関する法令に基づき」という法令は、この法律のことであり、この法律に基づきということになるのですか。 ○福田幹事 福田でございます。その点につきましては、日本法でいうところの「この法律」も含まれますし、他の国において条約ないしは条約の実施法に基づくという合意も含まれ得ると考えてございます。 ○道垣内委員 なるほど、分かりました。ただ、この表現だけでそれが分かるかというと、やや分かりにくいですね。意味は分かりました。書き分けているということですね。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 吉野です。それでは、余りいい質問にならないのかもしれませんが、先ほどの御説明の中で、当事者が和解をすることができるものに限るという文言をここでは落とすと、それは、後に出てくる執行許否事由の中で和解の対象とすることができない紛争に関するものであること、というものが入ってくるということから、というお話、その理由としては法制的な観点からという御説明でした。もう少しその法制的な観点というものを具体的に、私どもに分かるように御説明いただけませんでしょうか。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の点につきましては、それをもって法制的というかどうかはともかくですけれども、実質において執行拒否事由で和解をすることができないものは拒否されるというようなことになりますので、重複してわざわざ定義規定で同じことを設ける必要はないのではないかと、こういう観点から外したというのが一番大きな理由になります。 ○吉野委員 そうすると、重複しているからという理由ですが、重複するとやはり何かまずいということになるわけでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。いろいろな考え方があるのかもしれませんけれども、この点だけを重複して記載するということがどういう意味を持つのかという話になると思うのです。もし厳格にやるのであれば、執行拒否事由として定められているものを、別の観点から別の規律として設けるということも考えなければいけませんので、そういったところとの兼ね合いで、重複はできる限り避けた方がいいのではないかということでございます。 ○吉野委員 ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは、引き続きまして部会資料の第1の3、4ページ以下の適用除外について審議をお願いしたいと思います。まず、事務当局から部会資料の説明をお願いします。 ○鈴木関係官 鈴木から、部会資料の第1の3について説明させていただきます。   第1の3では新法の適用除外について取り上げております。(1)ないし(3)は紛争類型に関する除外の規律であり、(1)では消費者紛争のうちいわゆるBtoC事案及びCtoC事案を除外することを、(2)では個別労働関係紛争を、(3)では家事紛争を除外することを提案しております。(4)及び(5)では、他の枠組みで執行力が付与されるものについて新法の適用から除外することを提案しているものであり、中間試案での提案の実質を維持するものになります。   (4)における裁判所の認可を受けた国際和解合意についてどのようなものが想定されるかということについては、問題となり得るものと考えております。事務当局としましては、執行力の付与に関する各国の法制は様々存在するものと考えられるところ、シンガポール条約に基づく執行決定を含め、裁判外の調停で成立した和解合意に裁判所が執行力を付与するものは、「認可」に当たると整理しております。そして、その認可がされた状態の和解合意が日本の裁判所に持ち込まれた際には、この(4)の規定により執行決定の対象とはならないものの、例えば、他の国で執行決定を得ていたとしても、その元となっている和解合意自体を日本の裁判所に持ち込めば、(4)には該当せず、執行決定の対象となるものと整理しております。このような考え方について、皆様の御意見をお聞かせいただければ幸いです。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この3の点につきまして、どなたからでも結構ですので、御発言を頂ければと思います。 ○河井委員 河井でございます。(4)の認可の点について、今、事務当局からも、裁判外の調停で成立した和解合意に裁判所が執行力を付与するものは、「認可」に当たるといった若干広めの解説があったと思うのですが、この点につきましては、やはり、特に新法の場合は外国調停を前提とすることが多いと思いますので、日本語の認可の必ずしも直訳でないような当該法域の言語による裁判所の行為というものが入ってくる可能性もあるので、その点については要綱案の解説なのか、それとも法律ができた段階での担当官の解説なのか、どちらかで若干広めに解釈するということを明確に打ち出していただければと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございます。御要望であったかと思います。 ○出井委員 出井です。ただいまの3(4)についてですが、鈴木さんの方から丁寧な御説明があって、帰結としてそういうふうになるのだということは理解しました。その上での重ねての確認になってしまうかもしれませんが、3(4)の前半、日本若しくは外国の裁判所の認可を受け、というところですが、まず日本のところなのですが、民間国際調停の和解合意であって、日本のある裁判所で執行決定を得ているものについて、他の裁判所に執行決定を申し立てた場合は、これで却下されるということになると、それが6ページの御説明だと思います。   6ページのそれに続く、他方でというところが少し難しいところなのですが、重ねての確認で恐縮ですけれども、国内は先ほどのようなことになるわけですが、外国の裁判所で執行決定あるいは執行決定とイクイバレントな認可を得たものについてですけれども、ある国でそういう執行決定等の認可を得ているものを、今度は日本の裁判所に持ってきて執行決定を申し立てることはできるのかと、そういう質問に対して、先ほどの御説明だと、執行決定は拒否されないというふうに伺ったのですが、それでよろしいでしょうか。ただ、そうすると、日本国内の場合だと、A裁判所で執行決定を得ているものについてB裁判所で執行決定を重ねて申し立てることはできないということになるのに対して、それが国をまたぐと、A国で執行決定を得ていても、日本に持ってきて執行決定を申し立てることはできるということになりますが、果たしてそれがこの3(4)から読めるのかというところが、私は結論自体については、そうしないとおかしいと思っていますけれども、ここから読めるのかという点が若干疑問ではあります。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお答えを頂けますか。 ○福田幹事 福田でございます。今、御質問も含まれていたかと思いますので、その点についての考えをお伝えしたいと思うのですけれども、その前提となるところを若干補足して先に説明をさせていただきたいと思います。   まず、このシンガポール条約の枠組みというのは、どこかの国の調停手続で和解合意が成立した、その民間での営みの和解合意を、この条約に入ること、ないしは入らなくても相互の保証は必要ないわけですけれども、この条約の枠組みを使ってあらゆる国で執行することを許すと、そういった枠組みを定める条約であると理解しております。ですので、出井委員がおっしゃるように、どこかの国で執行決定を取ったからといって、直ちにほかの国にもう持って行けませんということになると、条約の趣旨に反するのだろうと思っております。それを今回の3(4)の規律で、実質においてどういうふうに解釈するのかというところが次の問題になってこようかと思います。   いろいろなアプローチがあると思うのですけれども、一つのアプローチは、この裁判所の認可という概念の解釈によって解決するというのが一つの考え方としてあろうかと思います。つまり、シンガポール条約でいうところの執行決定のようなものだけを省くと、それ以外のものはこの認可に当たるというような考え方も採れなくはないかなと思っております。シンガポール条約の制定過程における議論、コメンタリーなどを見ると、比較的そちらの考え方に親和的なのかなと思うような表現もあるところでございます。ただ、そうしますと、その国の執行決定の手続といいますか、執行力を与える手続というものをよく見ないと、この認可に当たるかどうかというのは区別できないという問題が生じてこようかと思います。   もう一つの考え方として、今回、部会資料の考え方はこちらの考え方に立つわけですけれども、認可を受けた国際和解合意というものと、認可を受ける前の状態の国際和解合意というものを区別して観念し得るということを前提に、認可を受けた和解合意については、もうそれはその国で執行手続をやってくださいと、認可を受ける前の状態で日本の裁判所に執行決定の申立てがされた場合には、その和解合意について執行拒否事由がない限り執行決定を出しますと、こういう整理ができるのではないかと考えております。そういう意味で、認可については、広く裁判所が執行力を与えるような手続は認可というものに当たるけれども、認可を受ける前の国際和解合意を日本の裁判所に持ち込むことによって執行決定ができると、そういうシンガポール条約の実質を捉まえて解釈ができるのではないかというのが今回の提案の内容になります。 ○出井委員 なかなか難しいのですが、外国裁判所の認可を受ける前の和解合意であれば、日本の裁判所に執行決定を申し立てることができるというところは分かりましたが、執行財産は日本だけにあるとは限らなくて、世界各国にある場合に、別の国で執行決定みたいなものを取って、その国で執行を始めた、その後、日本でも執行をしたいということで日本の裁判所に執行決定を申し立てたときに、それは事実としては外国の裁判所で認可を受けているということになるのですよね、なので、これに文面上は引っ掛かるような気がしたのですが、そこはどういうふうにこの3(4)を読むのかというところが少し分からなかったです。解釈で、この条文の趣旨からして、そういうのは日本で執行決定を拒否すべきではないというのは、それはそのとおりだと思うのですが、文言から読めるのかというところが少し気になりました。これは今解決できる問題ではないかもしれませんが、一応疑問点として出しておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○三木委員 三木です。3(5)ですが、「仲裁判断としての効力を有する国際和解合意であって」、という文言になっています。他方、この国際和解合意の定義は2ページにありまして、「調停において当事者間に成立した合意であって」、という定義になっています。これらが文言として整合するのかどうかをお教えいただければと思います。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今、三木委員から御指摘の点は、恐らく日本でいうところの仲裁法38条1項の決定のようなものはどうなのかというところともつながってくる話かと思いますけれども、おっしゃるように、仲裁手続の中で仲裁廷がコミットした形で成立している38条1項決定のようなものは、そもそも調停の手続とは呼べないので、調停の概念にすら入ってこないから、この(5)で除くまでもないということは、そのとおりかと思います。   他方で、仲裁廷ではなくて、仲裁廷のような強制的に最終的に判断する権限を持たない者が関与した和解合意で、場合によっては仲裁判断と同一の効力を有するような法制を仕組んでいる国もあるかもしれませんので、そういったものはこの(5)で除外できるという趣旨でございます。 ○三木委員 今、福田幹事がおっしゃったような趣旨もあるのですけれども、もう一つごく単純な疑問として、国際和解合意は調停において成立した合意であるという定義があるのですけれども、仲裁判断としての効力を有する和解合意というのは、一般的にはというか、普通に考えれば、調停において成立した合意ではなく仲裁において成立した合意になるのではないかという疑問もあります。 ○福田幹事 福田でございます。三木委員のおっしゃるとおり、ほとんどのものは多分そういうことなのだろうと思いますので、この(5)を持ち出すまでもなく、調停の定義に当たらないというところで、この制度に乗ってこないということになろうかと思います。ただ、繰り返しになりますけれども、果たしてそれで全部が全部除外できているのか、必要十分なのかというところが若干自信がないところでございまして、我々の分からないようなところでそういう法制がもしあれば、(5)で除くこともできるということで考えてございます。 ○三木委員 再度の確認ですが、そうすると、この(5)というのは恐らく世界の仲裁法制のほとんどが採っている制度、日本法でいうと仲裁法の38条における合意などは、この(5)の適用対象にはならず、世界のどこかで、あるかないかはよく分からないような形での仲裁上の和解合意のみを対象にした規定であると、そういう理解でよろしいでしょうか。 ○福田幹事 基本的にはそのような理解になるかとは思ってございます。 ○三木委員 分かりましたが、それがこの規定を見て、これがどういうふうに英訳されるのか分かりませんが、そういう趣旨がこの規定から通じるかどうかはかなり疑問がありますので、諸外国にそういう手続があるのかどうかも含めて、若干の留保を付しておきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○高杉委員 高杉でございます。元々シンガポール条約で本文の(4)、(5)に当たる部分が適用除外とされている趣旨でございますけれども、これはニューヨーク条約とか、ハーグの管轄合意条約等判決の承認とか仲裁判断の承認の枠組みを定める条約との抵触を、避けるために適用除外としたのだとコンメンタールなどに書かれているわけですが、そうだとすれば、積極的にこれを除外する必要もないなく、国内法としては、かえって規定することでややこしい問題、誤解を招くということであれば、この(4)とか(5)を国内法としては定めないということも考えられるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 ○山本部会長 では、事務当局から一応あれですか。 ○福田幹事 福田でございます。シンガポール条約で(4)と(5)のような規律が設けられた趣旨は今、正に高杉委員がおっしゃったとおりで、事務当局も同様の認識を持ってございます。ただ、(5)については先ほどの三木委員の御指摘のとおり、観念し得るものがほとんどないのかもしれませんけれども、やはり(4)については、我が国がハーグの管轄条約等に入っていない関係で、この規律を設けておかないと支障が出るようなこともあり得るのかなとは思っておりまして、その意味でも(4)は規律としては設けた方が望ましいのではないかと思っております。そうしたときに(4)だけを残すのかという話になってくると、またここはいろいろ御議論があろうかと思いまして、現時点での案としては(4)と(5)の双方の規律を設けるということで提案をさせていただいております。 ○山本部会長 高杉委員、よろしいでしょうか。 ○高杉委員 はい、結構でございます。 ○手塚委員 手塚でございます。今の点についての実務家としてのコメントと、それから適用除外に関する質問というか、確認をお願いしたい点が1点ございます。   まず、第1点目なのですけれども、3の(4)、(5)ですが、理論的に詰めていくと、国内法では要らないのではないかとか、そういうお考えもあり得るとは思うのですが、実務家的な観点から申し上げますと、今回の新法がシンガポール条約の実施法であり、シンガポール条約と基本的には同じことを言っているのだということを説明するのに、同じような文言があった方がずっと説明がしやすいということがありますので、私は両方とも残しておいていただけるとよいなと思いますし、それから(5)の方も、確かに調停手続ではなくて仲裁手続に転換した以上は、仲裁法38条1項ですか、の決定については、この(5)からは外れているというか、そもそも調停合意における仲裁判断としての性質を持つ合意ではないとか、そういう議論もあるかもしれませんが、そこを余り突き詰めて、日本法の(5)に当たるものはうんと狭いのだというようなことを言うよりは、どちらからいっても除外されているから安心ですという方が実務的には説明がしやすいので、余りそこで突き詰めない方がいいのかなという感想を持ちます。理論的な完璧性よりは説明のしやすさの方が私としては好ましいような印象を持っております。   2点目の確認事項なのですが、適用除外の中に国を当事者とする調停手続での和解合意の除外というものはなく、かつ、投資協定等の国際法に基づく紛争、国と投資家との間の紛争についてのISDSに関わるものの除外というものもなくて、かつ、調停の定義で民事又は商事と書いてあって、狭い意味での商事に限るものでもないので、国家に対して投資家が金銭の請求をするというのも広い意味での民事ないし商事だということから、私はこの調停の定義規定と適用除外の項目を併せて考えると、今回の新法はそういうISDSにおける国家と投資家の間の紛争の調停による解決、これは近時、ICSIDを始め、これまで以上に利用価値があるのではないかということで規則の制定等を進めていると理解しておりますけれども、そういうものについて適用を排除するものではないという理解でよろしいのでしょうか。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の手塚委員からの御質問につきましては、事務当局としての現時点での考えとしては、おっしゃるような投資協定に基づく調停ですとかISDSのようなものについて、明示的にここから除外をするということまでここで提案しているものではございません。シンガポール条約の制定時にもそのような議論があったと聞いておりますけれども、そこでも含み得るというような見解も強く主張されていたところですので、解釈として我が国としてもそのようなところでいいのかなとは考えているところでございます。 ○手塚委員 ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。今の3(4)のところについて、高杉先生から、日本の国内法制だからということでこれを除外しなくてもいいのではないかというご発言があり、それも一つのもっともな考え方かとは思われるのですが、他方で手塚先生から実務的な観点から、やはり除外しておいた方がいいというご発言があり、私も個人的にやはりこの(4)のところは除外をしておいた方がいいのではないかと考えております。それはなぜかといいますと、以前にも申し上げたような気はしますが、そもそもの調停の定義のところで、当事者に対して紛争の解決を強制する権限を有しない第三者による紛争解決ということで、恐らく非常に強く当事者の自由意思に基礎付けられている和解合意が念頭に置かれているのではないか、それに対して、特に裁判所の手続において成立した国際和解合意というのは、恐らく裁判所から和解案が提示されて、それについて合意をするということも想定されるので、やや性質が異なる場合もあるのではないかと思われるためです。そういった外国の裁判所で行われた合意についても、もちろん日本がハーグの判決条約を締結するようであれば、日本で承認、執行するといったことがあり得るのだとは思うのですが、今回の立法とはやや性質を異にする要素が含まれる点で、(4)は今のまま除外とすることでいいのではないかというのがまず1点目でございます。2点目でございますが、この(4)について、先ほど出井先生からも御指摘があった点ですが、やはり表現についてはもう少し御検討いただけないかと考えております。事務当局から御説明いただいた内容は非常によく分かるし、私自身もそれが望ましい解釈というのはよく分かるのですが、ただ、法制審等で議論していた文言が実際に立法されたときに世の中で本当にそう解釈されるかというのはいろいろと疑問もあるところでございまして、裁判所の認可を受けた国際和解合意について、認可を受ける前のものと受けた後の合意とを別々の合意と理解するというのは、確かにそれで実質においてはいい気がするのですが、今の文言でそれが読み込めるかというところは、若干疑義が残るような気がいたしますので、文言を御検討いただければ有り難いと考えております。   最後に、手塚先生がおっしゃられた点は、私も基本的にはこれは含まれ得るのだろうなと、ただ、どうしても民事裁判権免除の問題は残りますので、執行免除の話がどうしても出てくるところ、そういったものにまでこの法律が優先するということはあり得ないというのは大前提ではございますが、本法の中に含まれ得るというのはそのとおりかなと考えているという、最後の点は一私見に過ぎませんが、発言させていただきました。長くなって申し訳ありませんでした。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 吉野です。やはり(4)の点なのですが、日本若しくは外国の裁判所の手続において成立した和解合意、それから、日本又は外国の裁判所の認可を受けたという、和解合意と認可の2段階にわたっての問題なのですが、裁判所の手続、あるいは裁判所の認可というものが、これは国によって様々なものがあるように思います。そうすると、ここの解釈で、果たして裁判所の手続において成立したものなのか、あるいは民間合意、民間の制度に基づく和解合意なのかという点が、かなり分からないといいますか、民間合意というか、裁判所以外の手続において成立した和解合意といった方がいいかと思いますが、その区別がはっきりしないようなものがあるのではないかと、そういう場合に、恐らく解釈で苦労することがあるのではないかという気がしているのですが、その辺りはいかがお考えでしょうか。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。確かに(4)の規律だけを見ますと、吉野委員御指摘のような問題点というのはあるのかもしれません。例えば、(4)でいうところの裁判所の手続において成立した国際和解合意というのは、我が国でいうところの民事調停のような、裁判所における調停のようなものをまずは想定をしているというのがあります。民間でされたものと裁判所でされたものの区別というところは、執行決定の申立てに当たって提出しなければいけない調停において成立したことの証明ですね、この文書で裁判所がそれを証明しているのか、それとも民間の機関が証明しているのか、調停人が証明しているのかという辺りで区別し得るものと事務当局としては考えてございます。 ○吉野委員 今、裁判所の手続と民間の手続といいますか、民間における和解合意という区別をされましたが、では行政機関において成立したものについてはどう考えておられるのでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。行政機関で成立したものは裁判所の外ということで一応は整理をしておりますので、そこは裁判所でされたものなのか、そうでないものかというところの整理かと思います。 ○吉野委員 分かりました。ただ、そこの辺りがまた区別が付かない国の制度もあるのではないかと。例えば、これは山田委員と一緒に、数年前ですが、関わらせていただきました、モンゴルにおける裁判所の調停についての法整備支援の中で、実は裁判所に置かれた調停人が、これは当初モンゴル最高裁判所の裁判所評議会で任命をされていたのですが、その後に司法の民主化という名の下に、任命権者である裁判所評議会が最高裁判所から大統領府、つまり行政機関に移ったと聞いているわけです。そうすると、行政機関で任命された調停人が裁判所の建物の中で調停を成立させる、こういうような形に形式的にはなっているのではないかと思われるのです。これ一つを取っても、よく分からないといいますか、いずれと解釈していいのか分からないということがあります。ただし、調停法は、これは裁判所の調停も民間における、あるいはその他の行政機関における調停も、全てひっくるめた一つの法律の下に規定されていると聞いているわけですが、このように、ある意味では特異な例なのかもしれませんが、そういう例が出てくる可能性がある。そうすると、執行決定をする裁判所としては非常に悩ましいといいますか、という問題が出てくる可能性があるのではないかという点、これは最後は単なる私の意見ということで考えていただいて結構です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。どうもありがとうございます。今、直前に吉野委員がおっしゃっていた点については、確かに実際上、適用がなかなか難しい、判断が難しい事例というのはこれから出てくる可能性はあろうかとも思いますけれども、このような立法がされた場合には、ここでいう裁判所の概念にそれが当てはまるのかどうかというのをその国の法令等に照らして事例ごとに判断をしていくというほかないのではないか、例えば、これは裁判所のほかにあらゆる法的機関が関与したものを除外するというようなことになりますと、シンガポール条約とは整合しないということになりますので、これはこのような規律でやむを得ないのかなと思います。   それから、国を当事者とするようなものということについても明示的に除外されているわけではないということで、かつ、この新法では民事執行の合意を前提として適用するということですので、基本的には裁判権免除についても外国等の明示的な同意がある場合に当たるということになるのではないかという感じがいたしますので、大きな問題が生ずることは基本的にはないのかなという感想を持ちました。   それで、最初の出井委員の御質問の関係に戻ってしまうのですけれども、私も実質としては、先ほど事務局が御説明されたとおりのことで問題ないというか、それが適切だろうと考えております。かつ、表現について工夫の余地があるのであればというのも他の先生方と同様の意見ですけれども、表現の前提として、実質に関して、少し出井委員の質問に含まれていた内容のうち私が気になった点としまして、対象はもちろん国際和解合意ということではあるのですが、日本の裁判所が既に執行決定をしているというものについては当然、再度執行決定の対象にはならないのではないかという問い掛けが出井委員の御発言に含まれていたと思うのですけれども、事務局の御説明で使われた、認可を受ける前の合意と認可を受けた後の合意というものの区別というのが、日本の国際和解合意の場合と外国でされた国際和解合意の場合とで同じようになるのか、それとも違うのかというところが、実質の問題としては、余り日本でもう一回やろうという人はないのだろうとは思いますけれども、あろうかと思いまして、その点についてどういう御理解をされているのかということを念のために伺っておきたいと感じました。 ○山本部会長 それでは、事務当局から御説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。おっしゃるとおり、先ほどの出井委員の御質問に対して答えが漏れていた部分があります。私の理解では、少なくとも日本の裁判所がしたものと外国の裁判所がしたものとで区別する理由はないと考えておりますので、同様に認可を受ける前の国際和解合意、認可を受けた後の国際和解合意というのがそれぞれ観念し得るものと思っております。更に言いますと、これは垣内幹事がおっしゃったように、一回日本のほかの裁判所で執行決定を取って、また違う日本の裁判所に執行決定の申立てをするということはほとんど考えにくいかなと思いますので、現実問題そういったことは起こりにくいのかなということは考えております。 ○垣内幹事 分かりました。したがいまして、(4)の規律の問題としては、日本のある裁判所で既に執行決定があったとしても、それと結び付かない形で持ち込まれる国際和解合意については一応、対象には観念的にはなり得る、しかし、実際上そのようなことは想定しにくいということに加えて、恐らく解釈上、既に執行決定のある国際和解合意について、日本で再びということについては、申立ての利益等々の観点から適法なのかどうかというのは、別途また問題になり得るのかと思いますが、それは別途の解釈問題ということで整理されていくというふうに伺いました。結構かと思います。ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。そうすると、私も誤解していたのかもしれませんが、部会資料の6ページの3の最後の段落の5行目ぐらいですが、「また、裁判所外の調停で成立した和解合意につき、裁判所の認可を受けることにより執行力が付与されるとの法制度を有する国」、これは、この新法ができれば日本も含まれるわけですね、その国において、当事者が裁判所による認可を受け、当該認可を受けた和解合意について執行決定の申立てがされた場合には、この規定により除外され、日本では重ねて執行決定の申立てというのはできないと理解していたのですが、今の御説明だと、それもできるということになるのですね。つまり、執行決定被申立人がこの和解合意については別の裁判所で執行決定が既に出ているということを言っても、それは執行決定を阻止する理由にはならないということになるのですね。まず、そこを確認したいと思います。 ○山本部会長 では、事務当局から。 ○福田幹事 福田でございます。先ほど垣内幹事が整理してくださったように、観念的にはもう一度、我が国の別の裁判所で執行決定の申立てをすることができると、ただ、それは執行決定を受ける前の、本当に純粋にどこかの調停機関でされた和解合意をそのまま裁判所に持ち込むことは可能ということになります。ただ、その可能という意味は、この部会資料の3(4)における適用除外を受けないという意味では可能ということになります。ただ、垣内幹事が先ほどおっしゃったように、果たして申立ての利益がまだ残っているのかどうかとか、そういう別の観点から、結果的には執行決定が出ない可能性というのはあるのではないかと考えております。 ○出井委員 今議論しているのはほぼあり得ないシチュエーションなので、余りここを詰めても仕方がないのだと思います。   もう1点、この3(4)に関して、これはシンガポール条約にも同様の除外があるので、それに倣えばこういう規律になるのでしょうが、これは事務局だけではなく、シンガポール条約に詳しい方にもお聞きしたいのですが、シンガポール条約で(4)を除いている趣旨というのは、別のルートで執行できるからということなのか、それとも、裁判所が関与するものを、それは別のルートで執行できるかどうかはともかくとして、別の措置があり得るので、裁判所で成立したものを除くという趣旨なのか、そこはどちらなのでしょうか。つまり、仲裁判断などは正にそうですが、ほかのルートで執行できるわけです。ただ、外国の裁判所で成立した和解は外国判決の執行のルートには乗らないと思いますので、そうすると、そういうものは別途、民間調停に戻して、民間調停で国際和解合意をしないとシンガポール条約及び新法のルートには乗ってこないということになるのでしょうが、(4)の趣旨、立法理由というのか、これについて少し教えていただけますでしょうか。 ○山本部会長 それでは、まず、事務当局の方から御説明いただけますか。 ○福田幹事 福田でございます。今の出井委員の御質問につきましては、先ほど高杉委員からもありましたように、この(4)、(5)は他の条約との重複ないしは矛盾を避けるということが一番大きな立法理由とされておりまして、事務当局もそのような認識をしております。そういう意味で、言い換えたら別のルートがあるということにニアリーイコールなのかもしれませんが、少なくとも日本はハーグの管轄条約等を締結しておりませんので、完全にイコールにはならないのかなと思っているところでございます。 ○出井委員 出井です。そうすると、(4)の中で、例えば外国の裁判所で成立した和解については、それを除く理由というのは、今の条約の重複ということで説明するということですか。すみません、私がきちんと理解していたかどうか分かりませんが。 ○福田幹事 福田でございます。そのような理解でございます。 ○山本部会長 よろしいですか。 ○出井委員 はい。 ○手塚委員 手塚です。今の3(4)なのですけれども、これは質問ということになるのだと思いますが、私がやった事件で、アメリカの確かノースカロライナ州だと思いますけれども、そこの州の裁判所での国際訴訟の事件で、ノースカロライナ州法上、プレリティゲーションメディエーションという訴訟手続開始前の、裁判所が命じる形で開始する調停手続というのがあって、担当裁判官はもう決まっており、訴訟手続自体はそういう意味では係属しているわけですけれども、実体に入る前に外部の調停人による調停を行ったということがあり、その調停人の選任は、確かその件では全当事者が合意して行いましたが、合意ができないときは裁判官あるいは裁判所が任命できるという制度だと思います。その件は調停が成立、和解が成立したと記憶しておりますが、裁判手続を終了させるために、恐らく裁判所の和解合意についてのアプルーバルがあったのではないかと思うのですが、裁判所が和解をアプルーブしないと訴訟手続が終わらない仕組みになっているのかどうかまでは、少し私、記憶が定かではありません。   質問事項は、そういう裁判手続に関連して裁判所からの命令で始まったけれども、調停人自体は外部の人であって、裁判所の調停部に属しているというか登録している調停人というわけではない、調停手続に裁判所は関与はしていないのだけれども、最後のところで、それが適正な和解で訴訟手続を終了させることが相当だという限度では、裁判所が審査というかアプルーブするかどうか決める余地があるというようなものが、ある意味で限界事例かもしれませんが、現にあったと思うのです。そういうものは、この(4)では除外されるということになるのでしょうか。もし除外されますと、例えばノースカロライナで訴訟が始まって、裁判所の命令で強制調停が始まったけれども、調停人は本当に外部の人がやっているという場合に、それを日本で執行しようとしたときに、新法に乗らず、かつ、ほかの条約等に仮に日本が入っていても、それは対象範囲に入ってこないのかもしれないですね、なので、そういう形で除外ということになるのか、そこら辺について事務局の方ではどういう御理解なのか、教えていただければと思います。 ○山本部会長 それでは、事務当局から御説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。なかなか個別事案についてのお答えは難しいのと、あと、私が不勉強で、そのノースカロライナ州の制度というものを全く理解していないところが前提で、個人的な見解として申し上げますと、手塚委員がおっしゃるように限界事例かなと思います。最後の裁判所の認可といいますか、アプルーバルとおっしゃったところの部分が、和解合意に効力を与えるためのものなのか、単に並行して進めている訴訟手続を終了させるための手続的なものなのかとか、その辺りのところとも関係してくるのかなとはお伺いしていて思いました。仮に和解合意に効力を与えるためのものだという形になりますと、やはりこれは裁判所の認可があるということにつながりやすいのかなと、解釈上ですね、そのようには考えた次第です。また、選ばれた調停人の立場等にもよりますけれども、それが裁判所から独立したような手続であれば、民間の調停という話になりますので、裁判所の手続において成立したということには当たらないのかなとは思いますが、この辺りがどのぐらい独立しているのかというところにも関わってくる話かと思います。そして、最後に、当該和解合意が裁判上の和解と同一の効力を有するというように定められているのであれば、それは裁判上の和解と同じような形で考えざるを得ないという側面もあろうかと思いますので、いろいろ調べてみないとなかなかお答えが難しいかなと思った次第です。 ○手塚委員 限界事例なのかなと思います。一応のお考えをお聞かせいただいてありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○山田委員 山田でございます。大分時機を逸してしまったのですけれども、先ほど出井委員から御質問がありました(4)の規律について、シンガポール条約の制定時の議論はどうだったのかというお話がありましたので、少しだけ補足をさせていただければと思います。   基本的には先ほど福田幹事が言われたとおりでございまして、シンガポール条約の議論をしているUNCITRALのところに、ハーグ条約、ハーグの判決等の執行に係る条約の審議をちょうどパラレルでしていたものですから、その方々がわざわざ御説明に来られて、重複する可能性のあるところについては、除外をしてほしいというお話があったというのが実際の状況であります。ただ、その際にも、一方ではハーグの方は批准する国がどれぐらいあるのか分からないので、少ない場合には落ちてしまう合意があるのではないか、逆に、しかし、それを無視して(4)を置かないということになるとオーバーラップをすることになって、それはそれで混乱の元ではないかということで、どちらにも転びそうな議論があったかと思います。最後は、批准国がどれぐらいになるかは分からないけれども、やはり外国の裁判所のアプルーバルがあるということですと、何らかの形で司法判断があると、そうだとすれば、それを執行するに当たっては、やや慎重側に立った方がよいのではないかという発想があったのだと思いますけれども、はざまに落ちる合意もあり得るところですけれども、決断としてこれに準じた規定を置いたというところでございます。   その意味では、(5)の議論も先ほどございましたけれども、日本の仲裁法38条1項でいうところの和解についても、他国においては、これはニューヨーク条約では執行できないのではないかという意見もあり、これもやはりオーバーラップするのか、落ちるものがあるのかという議論はあったのですけれども、ここも制度的な安定性という観点からこのような規定を置いているということかと存じます。そういう意味で、どうしてもオーバーラップだったり、あるいは落ちがあったりするというのは一定、内在的に避けられないものと考えていたということかなと思います。 ○山本部会長 ありがとうございます。   クラリファイいただいたかと思いますが、ほかにいかがでしょうか。 ○髙畑委員 ありがとうございます。今の(4)と(5)のところですね、シンガポール条約の立法当時の状況等も踏まえて、なるべく表面的に同じような文言を置くということには基本的には賛成なのですけれども、やはり文言上、分かりにくいというか、特に前段のところですね、日本若しくは外国の裁判所の認可を受けのところとか、分かりにくいところもございますので、やはり文言レベルで調整可能なところ、日本語として調整可能なところは調整していただくとともに、やはり、今言われたような立法趣旨というか、他の条約との抵触を避けるためというところを明確化できるような文言が入ると、なおよいのかなと感じました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○竹下幹事 竹下でございます。何度も申し訳ございません。(4)のところですが、1点だけ少し気になる点がございます。正に立法の趣旨として、ハーグの判決条約との抵触を避けるということなのですが、ハーグとの抵触を避けるためにシンガポール条約でも、この執行可能なものというところに、裁判として執行可能なもの、判決として執行可能なものというのが含まれていて、ただ単に執行可能なものというのとやや異なるようにも思われます。ハーグの方では基本的にコモンロー系の国で下されるコンセントオーダーが判決として条約の対象になるとすると、大陸法系の裁判上の和解のように判決ではないけれども似たようなものについては同じ取扱いをすべきだということで、ジュディシャルセトルメンツという条文を置いて、判決と同様に執行できるようにしているので、シンガポール条約の山田先生の翻訳でも、合意について、裁判として執行可能なものということとなっているかと思います。何かこの条文の中にも、裁判として執行可能なもの、これが法制的に文言として使えるのかどうかといった点は、全く分かりませんが、何かその要素を組み込むことによって、両者の切り分けのようなものをもう少し明らかにすることができるのではないかと少し思いましたので、発言させていただきました。 ○山本部会長 ありがとうございます。 ○高杉委員 この(4)、(5)でございますけれども、まず、シンガポール条約より適用範囲が狭くなっては困るのでの、国内法では適用範囲をできる限り広く取らないといけないのではないか思います。条約に違反するとまでいえるかどうかは分かりませんが、少なくともその点が問題となりえるというのが1点目でございます。   2点目としましては、ハーグの判決条約とか管轄合意条約に入っていない日本としては、むしろ、そうだからこそ、(4)を削除する方向で検討することも考えられ得るのかなと、外国で裁判所を使って調停和解合意が成立したとしても、関係する条約に入っていない日本では執行できないことになりますので、だからこそ、逆に日本でこれらに執行力を認めるという判断をするのであれば、むしろ(4)はない方が良いのではないかとも思われます。御検討いただければと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   事務当局から何かコメントは大丈夫ですか。   ありがとうございました。(4)、(5)について主として本日は御議論いただいたかと思います。特に(4)につきましては、大体の中身といいますか、については私の理解では、おおむねコンセンサスというか基本的な了解はあったように思いますけれども、この文言でうまくそれが表現されているのかということについては複数の委員、幹事から疑義が呈されたということかと思います。もちろん前提としては条約があり、条約の文言がありますので、それからまた、他方では日本の法制的な観点という点もございますので、そこの調整は、恐らく事務当局としても非常に苦慮されているところなのかなと思いますけれども、引き続き今日の審議を踏まえて検討をして、成案を得ていただければと思います。   それでは、引き続きまして、今度は資料6ページ以下の「4 国際和解合意の執行決定」、この部分について、まず事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 鈴木から部会資料の第1の4について説明させていただきます。   第1の4では、国際和解合意の執行決定について取り上げております。ここでは、仲裁判断の執行決定に関する規定を踏まえた中間試案の提案の実質を維持しております。シンガポール条約においては、和解合意の書面性要件を設けつつ、その内容が何らかの方式で記録されているときは書面性を満たすとの規律となっていることを踏まえ、この新法においても書面性要件を緩やかに認める規律とすることを提案しております。また、署名要件についても、書面性要件を緩やかに認めることを前提に、当事者の同一性及びその意思を確認することができれば足りるとして、緩やかに認める規律とすることを提案しております。そして、執行決定の申立て時に提出が必要となる(2)①及び②の書面、部会資料7ページの部分になりますが、この書面については両方の書面の提出が必要となりますが、物理的に別の書面であることは必須ではなく、一体となった書面で①及び②の要件を満たすということでもよいものと整理しております。また、①では、民事執行の合意がされたことについて書面性は要求しないことを前提としており、(2)では、国際和解合意が調停において成立したことを証明できれば足り、調停において民事執行の合意がされたことを証明することは要求していないものと整理しております。また、新法においては国際性を有する和解合意が執行決定の対象となることを踏まえ、管轄の規律や翻訳文の提出の省略について、仲裁法の改正に関する要綱案と同様の規律を設けることを提案しております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この4で、どこからでも結構ですので、御発言を頂ければと思います。いかがでしょうか。特段ございませんか。   基本的にはこの中間試案の段階のものをそのまま維持しているということかと思いますが、よろしければ次に移らせていただきたいと思いますが。   それでは、引き続きまして、第1の最後ですけれども、部会資料11ページ以下になります。「5 国際和解合意の執行拒否事由」この点につきまして、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 引き続き鈴木から、部会資料第1の5について説明いたします。   第1の5では、国際和解合意の執行拒否事由を取り上げております。中間試案では、シンガポール条約の規定の文言にできる限り近づけた11個の拒否事由が提案されていました。もっとも、シンガポール条約起草時の議論においては、各国の法制が様々であることから、拒否すべき事由について、どの国の法制を前提としても読めるような規定とするとの配慮がされ、事由の間で重複し得るものがあることが前提とされていたものと理解しております。そこで、本部会資料においては、我が国の法制を踏まえ、重複する事由を整理したものを提案しております。このような観点から事由を整理したものの、その実質については中間試案から基本的に変わっていないものと理解しております。   もっとも、1点だけ実質においても変更した点がございます。本部会資料では、5④において、「債務の全部が履行されたこと」としており、中間試案の⑤では「全部」との制限を設けていなかったものを、全部の履行の場合のみに限定をすることとしました。これは、債務の一部しか履行されていないにもかかわらず執行許否をすべきではなく、残債務が少しでもあれば執行決定をするということを想定しており、また、一部認容、一部却下がされることは想定しておりません。残債務を超えた範囲で執行開始がされた場合には、債務者側において請求異議の訴えで争うことを想定しております。シンガポール条約では拒否事由を全部の履行の場合に限定しておらず、一部の弁済があった場合にどうするかは裁判所の裁量に委ねられているものと考えられますので、新法においては条約よりも拒否事由を限定していると考え得ることになります。もっとも、拒否事由を限定することは執行決定をする場合を条約より広い範囲で認めることになりますので、条約との抵触はないものと考えております。このような拒否事由の整理について、皆様から御意見を賜れれば幸いです。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきましても、どなたからでも結構ですので、御質問、御意見を頂ければと思います。 ○高杉委員 今、事務当局から説明がありましたとおり、執行拒否事由を狭めるということで、執行しやすくするという点については賛成でございます。元々シンガポール条約7条で、国内法で執行が一層容易にできるものあれば、国内法を援用できるということでございますので、シンガポール条約が自動執行条約であるとすれば、裁判所の実務でシンガポール条約の適用を避け、できる限り新法を適用するようにしようと考えると、執行を求める当事者は執行が一層容易な新法の適用を前提としますので、新法の文言が、シンガポール条約の文言と変わったとしても、執行を容易にするという方向での文言ですので、この点について、私は賛成でございます。   それから、今度は質問でございますが、本文5⑤の部分でございます。「調停人が法令又は当事者間の合意(公の秩序に反しないものに限る)」という点でございますが、これは中間試案の⑧のところから変更があった部分かと思います。「法令又は当事者間の合意」の部分、は、変更があった部分で、かつ条約にも規定のない部分かと思います。この点は、条約の起草過程から読み取れる条約に関する一致した解釈、これを明文化したものと理解していいのかどうかというのが1点でございます。2点目は、ここでいう「法令」ですが、これは執行国である日本の国際私法によって指定される準拠法という意味で理解してよいか、この2点について御教示いただければ幸いでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。2点質問を頂いたかと思います。まず1点目の法令又は当事者間の合意の部分についてですけれども、これは高杉委員がおっしゃったように、条約の起草過程における議論、それからコメンタリーなどを参照しつつ、一致した解釈を明文化したものと事務当局としては考えてございます。法律のみならず、その国の裁判実務や倫理規定、判例法、こういったものがいろいろと含まれ得ると考えております。これがまず1点目です。   2点目の御質問について、この法令というものがどこを指すのかということですけれども、この点については、まずそもそもの前提として、調停人又は調停に適用される規範というものが特定できることが前提になってこようかと思います。それがどのような形で特定されるのかという、その特定の方法についてはいろいろな考え方があるのかもしれませんけれども、まず、当事者がどの国の法令を適用するという形で合意をした場合が一番明確かなと思います。それで決まらないときがどうかというところですけれども、それは関連する法規をどういった形で決めていくのか、例えば、取引に適用される準拠法ですとか、調停において何か参照した規律ですとか、そういったものから最も密接な関係がある規範というものを適用していくというような形で行くのかなと思いますので、必ずしも日本の国際私法によって指定される準拠法という意味でいっていいかどうかというところは、若干疑義があるかなと考えてございます。 ○高杉委員 ありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。先ほどの説明で、今回、中間試案から実質的な変更があった箇所として御説明のあった5④の、債務の全部が履行されたことという点に関してですけれども、こうした提案の背景となっている理解として、先ほどの御説明にもありましたし、今回の資料ですと14ページの4の説明でも記載されているところですけれども、例えば、債務の一部が履行されている、7割ほど履行されているというような場合に関して、その点について申立ての一部を認容して一部を却下するということは想定していないという説明がされているということなのですけれども、一部を却下することは想定しないというのは、裁判所としては一部却下することはできないという理解を前提とされているということなのかどうか、そうだとすると、その根拠と申しますか、一部認容等ができないという理由というのはどの辺りに求められるのかということについて、御教示をお願いできればと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。まず、今の点につきましては、今回提案している規律から直ちに一部却下、一部認容というものができないということが読み取れるかという御質問につきましては、そこまでのことは多分なかなか言えないのかなと思っておりますが、かえって当該和解合意のうちの一部だけを切り取って何か執行決定を出すというような、そういうことができるという積極的な規律を設けないと一部却下、一部認容ということができないのではないかという考え方もあろうかと思います。例えば、仲裁判断の執行決定においても、仲裁に付託された範囲を超えるものとそうでないものとが分けられるときは、その範囲の中に入っているものだけを区別して執行決定ができるというような規律がありますので、それに類似したような規律が必要なのではないかという考え方が一つあろうかと思います。   もう一つは、これは実質的な理由としまして、いくら弁済されたかといった点が執行決定の手続で争われて、そこを裁判所が探究しなければいけないという形になりますと、この手続自体が重い手続になる、場合によっては迅速な執行決定ができないような手続になるのかなというきらいがあります。そういったところから、裁判所としてはオール・オア・ナッシングで執行決定を出す、却下するという形の方が分かりやすいのかなというところが一つございます。   取り急ぎ、以上になります。 ○垣内幹事 どうも御説明ありがとうございました。今御説明のあった趣旨自体は理解できる部分もあるかなとも思われますけれども、確かに仲裁法でそのような取扱いがされているということは、そうかとは思いますけれども、理論上こちらの国際和解合意の場合も同様に扱うことが必然かどうかという辺りについては、選択肢はいろいろあり得るところではあるのかなという感じもいたしまして、今、簡明な処理ができるのではないかという点は一つの観点としてはあるかと思いますので、それであればあり得る規律なのかなという感じもいたしますけれども、私ももう少し考えてみたいと思います。どうもありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○出井委員 出井です。私もこの点の規律については特に異存はないのですが、この規律を前提とした場合の、これは運用の問題になるので、ここで議論すべきことではないかもしれませんが、もしこういう場合はこうなるのだというのが分かっているのであれば、教えてください。   一部弁済が既になされている場合で、執行決定申立てをする側がそのことを前提に、そもそも和解契約では1億円となっているけれども、8,000万円弁済されているので、そのうち2,000万円についてだけ執行決定を申し立てると、そういう申立てを行った場合はどういうふうに取り扱われることになるのでしょうか。これは民事訴訟あるいは民事執行の一般論を理解していないと、とんちんかんな質問になっているかもしれませんが、もし分かれば教えていただきたいと思います。 ○山本部会長 それでは、事務当局から。 ○福田幹事 福田でございます。その点につきましては、多分いろいろな考え方があり得るのだろうと理解しております。まず、そもそも論として、この和解合意書というものが出来上がったときに、複数の条項が盛り込まれている可能性があって、そのうちの第何項の部分について執行決定が欲しいというような申立てというのは容易に想像できるのかなと思います。恐らくそういうものは許容され得るのではないかと事務当局としては考えてございます。   その次の問題として、当該条項が今、出井委員がおっしゃったように、1億円の債務ということの給付文言があるときに、そのうちの8,000万円だけの一部請求というものが認められ得るのかどうかということですけれども、恐らく処分権主義的な考え方を推し進めていくと、できていいのではないかという議論はもちろんあるのではないかと思います。ただ、そうしたときに、そのような考え方、要は量的な一部みたいなものを観念し得るとすると、逆に、先ほどの垣内幹事からの御指摘のとおり、一部却下、一部認容みたいな、そういうふうなことも、論理必然ではないにしても、親和的な考え方として出てくるのかもしれないと思っております。そうだとすると、この執行決定の手続は飽くまで執行決定を与えるか与えないか、執行力を与えるか与えないかというところの作用の裁判ですので、基本的には全体についてどうかというような形で考えるのが一番簡明な考え方かなというのも一つあると思います。   もう一つの観点は、この執行決定の手続において出た判断というのは、恐らく既判力ということは余り観念しづらいのかなと思っております。そこはやはり執行決定という手続でやる以上はそうなのだろうと。外国裁判所の確定判決の執行判決とはそこは全然違うのかなと思っておりますので、そうしたときに、一部弁済について既判力が働くのか、働かないのかとか、そういった話になってくると、また少しこの執行決定が想定していることから外れているのかなと思っていますので、なるべく簡明な形の取扱いが望ましいのではないかと個人的には思っているところでございます。 ○出井委員 実務サイドとしては、どうせ請求異議が出ることが分かっているのであれば最初からということですが、これは債務名義取得段階の問題ですので、債務名義を取得しておいて、その後の強制執行に実際に移るときに、正に残っている額でやればいいということだと思いますので、それで理解しました。ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特段ございませんか。よろしいでしょうか。   事務当局、いいですか。 ○福田幹事 福田でございます。1点少し御議論いただきたいところがございまして、今回この④のところで全部の履行というような形で書かせていただいたところがございます。この文言を素直に読みますと、全部の履行、いわゆる弁済ですね、そこをこの条文で読むのだということは明らかかと思いますけれども、それ以外の債務の消滅原因があった場合にどう読むかというところは解釈として残っているのかなと思ってございます。部会資料の13ページ、14ページにも書きましたとおり、元々シンガポール条約は、といいますか中間試案は、事後的な変更というものを拒否事由として定めてございました。その事後的な変更というのは、どうも条約の起草時にはかなり広い意味で捉えられていたようでして、和解合意後の事後的な相殺とか免除とかそういったものも、この事後的に変更されたということで④で読めるし、また、場合によっては②で失効というものが出てきますけれども、和解合意の失効というところでも読めると、こういうふうな議論もあったようでございます。この辺りを整理したときに、今申し上げた、弁済以外の債務の消滅原因を②で読むということも解釈上できるかと思いますし、それは④で読むべきだという解釈もあろうかと思います。その辺りについて何か委員、幹事の皆様から御意見がありましたら、御教示いただければと思います。よろしくお願いします。 ○山本部会長 いかがでしょうか、今の事務当局からの御質問で、こういうふうに考えられるのではないかというような御示唆を頂ければと思いますけれども。確たる定見でなくても、何かヒントになるようなことでも結構ですが。 ○今津幹事 幹事の今津です。今、事務局から御指摘いただいた点、確かに履行されたという文言だと少し狭くなってしまう懸念があるのかなというふうに伺っていました。仮にこれを、今御説明の中にあったような、全部が消滅したというような文言にすることは、法制上は何か問題とか支障というのはあるのでしょうか。 ○山本部会長 事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。④について全部の消滅ということを、多分そのように書くことは我が国の国内法の問題としては許容され得ると思うのですけれども、この履行という文言が消えて消滅と置き換わったときに、条約との抵触の問題は一応出てくるのかなと思います。実質においては変わらないと、どちらで読むかというだけの問題だということであれば問題がないという考え方もありましょうし、やはり文言として履行という文言が消えるということの部分を重視して、条約との抵触があるのではないかというような御意見もあろうかと思いますので、その辺りの感触も皆様方から何か頂ければ幸いです。 ○今津幹事 今回の御提案が、中間試案と比べると、条約のそのままの文言を使わなくても必ずしもいいという方向での御提案だと伺ったので、そこの履行という言葉に余りこだわるよりは、消滅と端的に言った方がいいのかなと個人的には思った次第です。 ○山本部会長 今回の提案は条約より拒否事由を少なくしているのですが、履行を消滅にすると、条約よりも広くなってしまうという懸念を恐らく事務当局は抱いておられるのだろうと思いますけれども。 ○高杉委員 今、部会長からも御意見があったとおり、やはりここを消滅にすると広く捉えられるということで、そういう懸念を私も感じております。事務当局からの説明にもありましたとおり、②の中で読めるということであれば、このままでもいいのではないかと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 河井です。これは質問になってしまうのですけれども、例えば、債権債務の発生証明書というのはドイツとか大陸法的な考えだと思うのですけれども、大陸法系の国がこのルールについてどういう国内法を制定されているか、そういう情報はお持ちなのでしょうか。 ○山本部会長 事務当局、お願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今回のシンガポール条約に批准している国の国内法を少し調べてみたのですけれども、まだやはり数が少ないので、実際に実施法を置いている国はシンガポール、カタール、サウジアラビア、ベラルーシ、エクアドル、ホンジュラス、トルコ辺りなのですが、こういった国が大陸法系の国なのかどうか、若干怪しいところがございまして、なかなかそれ以上の調査ができていないところでございます。 ○河井委員 分かりました。 ○三木委員 私は、単純に、「履行又はその他の事由により」という表現でいいのかなと思っています。そのようにすると、「履行」の言葉も残しつつ、それ以外の消滅事由も入れられることになります。ところで、先ほど御指摘があった、「消滅」という言葉を入れるとシンガポール条約よりも広くなるということについて、例えばどのようなものがシンガポール条約は想定していないのに入ってしまうことになるのかを、お教えいただければと思います。 ○山本部会長 あるいは私の今の整理についての御質問かもしれませんが、私が申し上げたのは実質ではなくて、文言として広くなってしまうということがどうなのかというだけのことであります。 ○三木委員 その点については、「履行」という言葉は残し、「又はその他の」という表現にすれば、確かに、シンガポール条約自体にはない言葉遣いですけれども、それはシンガポール条約に入っていながら、この法案では除いているものを意味するわけで、例えば事後的な変更とかを意味するのだということですので、実質的に広くしたという懸念を持たれることはないのではないか、そういう誤解をもたれる文言の変更ではないのではないか、という気がいたします。 ○山本部会長 いえ、ありがとうございます。もしそういうことで説明が通るのであれば、それは非常に、一つの解決策にはなるだろうと思います。   ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。 ○山田委員 ありがとうございます。制定時の議論においては、様々な消滅原因、元々の②で想定されていましたように、日本風にいうと和解合意自体の有効性の問題と、それから、新たな御提案でいえば④に係るような、債務が履行されたとか、あるいは相殺等によって消滅をしたというようなことは、渾然一体として議論をされた後に、様々な妥協の産物としてこういう形で示されたものでありますので、実質において履行等の理由によって消滅をしたという日本法でいう請求異議事由的なものも含まれていたとは考えてもよいと私自身は理解をしております。   それから、先ほどお話がありましたように、②の失効というところで読むことが、中間試案における失効というところで読むことができるということもおっしゃるとおりなのですけれども、ただ、この場合は和解合意自体が何らかの事由で失効しているという作りになっておりまして、債務の消滅ということですと、④で読むということがすっきりするような、分かりやすいような感じがいたします。そういう意味で、文言としてはいろいろと御工夫の余地があるのだと思いますけれども、先ほど三木委員が言われたような形も分かりやすくてよろしいのではないかという印象を持っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○北澤委員 北澤でございます。私は山田委員がおっしゃったことと発想としては似たようなことを考えていたのですけれども、債務の消滅の場合には、有効な国際的な和解合意に基づいて相殺があったという話になりますので、②で読むとなると、②の和解合意が失効するという話とは違うように思えてしまいます。やはり有効な国際的な和解合意がまずあるという前提で、債務の消滅の中に債務の履行以外のものがある場合にどう考えるかとする方がすんなりと理解できるようにも思いますので、④の方で文言の工夫をしたりはできないのであろうかと考える次第です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   事務当局、よろしいですか。 ○福田幹事 福田でございます。貴重な御指摘ありがとうございました。皆様から頂いた御意見を踏まえて、少し文言を工夫させていただきたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   今回の御提案で、この拒否事由を、従来11あったものを8つに整理するという点については、基本的には大きな御異論はなかったかと思います。④の項目については、今ありましたように、何らかの文言の工夫等ができるかできないか、これも条約の文言と国内の法制的な観点の双方からもう少し御工夫を頂くということになろうかと思います。ありがとうございました。   それでは、ここで第1が一応終わりましたので、休憩を取らせていただければと思います。15分程度ということですので、切りがいいところで、3時半に再開したいと思いますので、それまでお休みを頂ければと思います。           (休     憩) ○山本部会長 それでは、時間になりましたので、会議を再開したいと思います。   ここからは、部会資料の「第2 ADR法の改正による整備」の部分について審議を頂きたいと思います。   まず、部会資料15ページ以下になりますけれども、「1 定義」、この部分を取り上げたいと思います。事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは、鈴木から部会資料第2の1について説明いたします。   第2の1では、ADR法上に設ける定義について取り上げております。ここでは、認証紛争解決手続において成立した和解であって、かつ民事執行をすることができる旨の合意がされたものを「特定和解」と定義することを提案しております。特定和解に該当するものは第2の3において執行決定の対象となることを想定しております。新法では民事執行の合意の時的制限を設けていませんが、ADR法ではこれまでの御議論を踏まえ、認証紛争解決手続において民事執行の合意までされることが必要であるものと整理しております。   この点に関し、弁護士会ADRによる手続において成立した和解についても執行力を付与し得る対象とするかについて、これまでの部会において御議論を頂いてきました。弁護士会ADRによる手続はその実質において、手続の公正かつ適正な実施という点に関しては認証紛争解決手続と遜色ないものであると評価できるということについてはおおむね異論がなかったものと認識しております。もっとも部会においては、そのことが制度的に担保され、かつ広く国民に周知される必要があるとの御指摘もありました。   今回、中間試案における乙2案を採用し、認証紛争解決手続については手続の公正かつ適正な実施が制度的に一律に担保されていることを前提に執行力付与の対象とするとの考え方を採るのであれば、やはり弁護士会ADRによる手続についても、全ての弁護士会ADRの手続の公正かつ適正な実施が制度的に一律に担保されている必要があるものと考えられます。しかし、現状において、弁護士会ADRにおける手続の準則は各弁護士会における規則等に委ねられているところ、弁護士自治の観点等を踏まえると、全ての弁護士会ADRの手続に共通する準則を設け、一律に制度的な担保をすることは容易ではないものと考えられます。また、認証紛争解決手続の利用についてのみ時効の完成猶予効等の特例を認めている現行法の規定との整合性も検討する必要があります。このように、弁護士会ADRによる手続において成立した和解について一律に執行力を付与し得る対象とすることについては、なお検討すべき課題が多いことから、本部会資料においては認証紛争解決手続において成立したものに限定して特定和解とすることを提案しております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この部分につきまして御質問、御意見を御自由にお出しいただければと思います。 ○河井委員 河井でございます。今までこの部会でいろいろな議論、中間試案を始め、それ以降も含めて、いろいろ議論をしてきていて、そして、新法とADR法の改正法という二段構えで行くとなって、今ようやくADR法の改正案ということで今回、案を頂きまして、私は日弁連に所属している者として、非常に残念な思いがしております。   それは、幾つかあるのですけれども、今、事務当局の御説明でも出てきたのですけれども、例えば、弁護士会ADRの各会の規則が違うという、違いがありやなしやでいえば、確かに違いはあるのですが、それほど大きな違いがあるわけではなくて、というのは、実務上新たに弁護士会ADRを始めようという会は既に始めている会から規則等を取り寄せて、それに類似した規則を制定するという実務運用を行っていますので、全く違う規則というものが入る余地というのはほとんどないのです。かつ、日弁連も各弁護士会にこういう規則を作れという、命令する権限はないのですけれども、各会の弁護士会規則、会則とか準則というのは全て効力発生要件として日弁連の承認が必要となっていまして、ですから、そういう意味で全くおかしなことを各会が自分で勝手に規則を制定できるかというと、そんなことはできないということがありまして、その意味で一律な制度的担保という場合、制度的な担保ではないのかもしれないけれども、類似性までは必ずあるといえると思いますし、この点について、事務当局の方もいろいろな御意見があったと伺っておりますので、事務当局を責めるつもりは毛頭ございませんが、私個人としては非常に残念な思いがあります。また、各会の規則が違うことというのは、例えば弁護士自治を、理由の一つに挙げられているような書きぶりですけれども、それも少し弁護士としては不本意であります。弁護士自治というのは基本的に、弁護士が不祥事を起こした場合に弁護士会で懲戒を行うということが根幹にある概念、要するに、行政庁の下に入っていないという話なので、それが弁護士の誇りの源であるのですけれども、そこで今回の執行力付与と絡められるのも少し不本意だなという思いもあるので、最低限というか、その点は委員の皆様、事務当局の皆様、全ての皆様に御理解いただきたいと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○出井委員 出井です。この弁護士会ADRに広げられないという点で、私も日弁連から出ている委員ですので、意見を述べておきたいと思います。恐らくこの点について意見を述べる最後の機会になるかと思いますので、若干お時間を頂いて意見を述べたいと思います。   先ほどの御説明、それから部会資料で、弁護士会に広げられない、認証ADRだけにするという理由として、認証紛争解決手続と同程度に手続の公正かつ適正な実施が制度的にかつ一律に担保されているかどうかという点に疑義があると、これが理由であると受け止めました。ここで執行力付与との関係で、手続の公正かつ適正な実施の制度と、この実質は何なのかという点を考えるべきであると思っています。   中間試案で乙2案を採った理由は、一定の弊害があるからということであったかと思います。中間試案をもう一回私、先ほど見直しましたけれども、中間試案では、弊害はこの部会の議論としては次のように整理されていました。当該和解の成立が当事者の真意かつ終局的意思に基づくものではなく、当該和解合意の内容に実体的、手続的正当性が認められないにもかかわらず強制執行がされるおそれがあること(調停手続を悪用して債務名義が作成されることを含む)と整理されておりました。この弊害が実態としてどれだけあるかという問題はあるのですが、一応この弊害に対応するために認証ADRに限って執行力を付与するということが提案されているわけです。この弊害に対応するための認証ということになるわけですが、認証の要件の中には幾つかのものがあって、その中で実質的に何に着目したものなのかということを吟味する必要があるかと思います。全部だと言われれば、もうそれで議論は終わってしまうのですが、私はそうではないと思っています。   この点に関しては、かなり前の部会で申し上げたように、やはり執行力付与に関する弊害との関係では、手続実施者が誰なのか、特に法律的な専門知識、経験を有する者が関与しているのかどうかということが私はクリティカルではないかと思っております。認証ADRにつきましては、前回確認したように、手続実施者に関する要件が法定されておりまして、実際にもそれで運用されているということです。弁護士関与の要件ですね。この点、弁護士会ADRは、単なる助言という関与を超えて、少なくとも共同の手続実施者として弁護士が必ず関与することになっているわけですから、その観点ではもう十二分にクリアをしている、これは制度的にクリアをしていると言ってよいと思います。認証ADRというのは、むしろ制度上は弁護士関与を緩めるもの、これはいろいろな理由で緩和しているわけですけれども、その点に関しては緩めるものであるということになります。手続実施者としての法律専門家の関与という観点からは、そうやって緩めた認証ADRに執行力が認められるのに、本家と言ってしまってはいけないのかもしれませんが、弁護士会ADRには認められないというのは、私はこの弊害の関係では理屈に合わないのではないかと今も思っております。認証に関しては、その他、手続実施者に関して、利害関係の排除とか守秘義務の問題とか、そういう定めがADR法上あるわけですが、これらも手続実施者に関する要件で、これらについても全て弁護士が手続実施者となる場合は、弁護士法及び職務基本規程上担保されているということがいえると思います。認証にはそれ以外の要件が定められておりまして、全部は挙げませんけれども、ADR法6条各号に、通知について相当な方法を定めていることとか、標準的な手続を定めていることとか、手続依頼の要件を定めていること、それから、手続応諾についての定め、資料保管の取扱い、秘密保持の措置、これは手続実施者以外ですね、それから、手続終了の定めがあること、報酬費用の定めがあること、苦情の取扱いについて定めていること、そのほかありますが、これらについても認証ADRは要件となっているわけです。これらについて弁護士会ADRについては、私はいろいろな規則を見ても、実質的には満たしていると思いますが、確かにこれらについて制度上の担保がないというのは、それはそのとおりかもしれません。正に規則に委ねられていることになります。ここで弁護士自治を持ち出されるのは少しミスリーディングだと思いますので、是非適切な修正をお願いしたいと思っておりますが、いずれにせよ規則に委ねられているということになるので、その点で制度上の担保がないと言われているのだと思います。   私が先ほど列挙した手続実施者以外の要件ですね、これらが執行力付与について言われた弊害の防止のためにどれだけ必要なのか、そこの実質を是非見ていただきたいと思います。私は無関係とは言いませんけれども、先ほど申し上げた手続実施者の要件に比べれば、弊害との関係での重要性には格段の差があると思っております。仮にこれらのいろいろな手続実施者以外の要件が執行力付与の弊害との関係で重要なものであるということであれば、仮にそういうものがあるのであれば、それを制度的に担保しなければいけないわけですから、やや規定は煩雑になるのかもしれませんが、特定和解の定義の中にそういうものを入れてしまうとか、それから、執行拒否事由の中にそれらを特出しして規定して司法審査ができるようにしておくとか、いろいろな法制上の措置は考えられるのではないかと思っています。   いろいろ意見を申し上げましたが、しかしながら、部会資料にも書いてあるとおり、その点の議論が十分ではないと、まだ時間が掛かるということであれば、当部会で弁護士会ADRを入れるべきではないという意見は実質の問題としてはなかったということを踏まえると、日本弁護士連合会としては残念ではありますけれども、委員個人としては、今回は認証ADRに限定して特定和解とするということで了とすることでやむを得ないのではないかと思っております。   最後に、これはこの部会の初めの頃に道垣内委員と私の方から確認したと思いますけれども、和解あっせん手続、調停手続で内容的に和解が成立した、あるいは成立間際まで行った段階で、仲裁合意をして仲裁手続に移行して仲裁法38条1項決定を得るという方法、これは今、認められているわけですが、今回のADR法改正でそれができなくなるということはないという、そこは今までどおりだという理解ですが、もしそうではなくて、今回の法律改正でそこも変わるのだということであれば、御指摘を頂きたいと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。事務当局から。 ○福田幹事 福田でございます。弁護士自治の尊重うんぬんのくだりについては再検討させていただきたいと思います。それから、お尋ねの点ですけれども、今回のADR法の改正がされた暁に、現状の運用について何か変更を生じさせるということまで予定しているものではございません。ですので、出井委員の御理解のとおりかと思います。 ○手塚委員 手塚でございます。私は日弁連の会員ですけれども、今回は日弁連からというよりはJAA、日本仲裁人協会からという立場で参加させていただいておりますけれども、そうであるにしても、やはり今回、認証ADRについては全てが執行力付与の対象となり、弁護士会ADRで非認証のものについては、東京3会のようにこれまでの実績あるいは信頼というものが確立しているところを除外してしまうということについては、大きな違和感を持っております。認証ADRの全てが、例えば東京3会よりも実績や信頼性において優れている、あるいは認証ADRの全てが東京3会よりも弊害防止体制は十分であるといえるかというと、そんなことは決してないと思っております。   認証ADR全部について、時効の完成猶予効あるいは調停前置の例外というような措置が認められているといっても、それは東京3会より信頼性があるから認められているというよりは、認証を取ってもらうインセンティブとして認められた措置であり、かつ、弁護士会のADRであれば時効の完成猶予効については、一旦仲裁申立てをしてもらうとか、あるいは時効についての延長の合意、トーリングアグリーメントをするとか、専門家たる弁護士として本当に必要な場合にはそういう時効の完成猶予を実質達成できるようないろいろなテクニックを使うこともできるから、そういう特別な制度的なものを付与されていなくても大きな意味での弊害がないということで、そのためだけに認証を取るということをしていないということなのではないかと思います。認証ADRの運用面における監督等が全ての認証ADR機関で本当に十分行われているのだろうかというようなところについても、今回そこについて十分な検証が行われているのかというと、どうもそうまではいえないように懸念されます。いずれにせよ、とりわけ東京3会との比較でいうと、バランスを失している感は否めません。   制度的担保の点なのですけれども、元々認証を付与するときには執行力付与が前提となるという体制での認証をしたわけではないわけで、認証手続において執行力付与にふさわしい制度あるいは運用ができるのかということについて審査した上で認証しているわけでもないということだと思いますから、制度的担保が認証ADR全てについてあるのだという評価が本当にできるのだろうかという点も疑問に感じます。   ただ、ここからはJAA、日本仲裁人協会としての立場からのコメントになると思うのですけれども、元々この国内調停について執行力付与をする場合には、弁護士会ADRとの違いその他についていろいろと違った見方、評価がなされる可能性があって、そこで議論が紛糾し、国際調停についての執行力付与というものが全体として大きく遅れるというのは困るということをずっと申し上げてまいりました。ですので、ここは私自身としては、どうも議論に納得できない点、あるいはバランスを欠いているのではないかと思われる点、それから、認証ADRの運用体制がこのままでいいのかというような点についての懸念、本当に弊害が防止されるのか、とりわけ家事関連など、専門家から具体的な弊害のおそれが指摘されていていたような、そういう領域について今の体制で十分な弊害予防ができるのかというような点については、いろいろな懸念もございますけれども、それを措いて、私としては、弁護士会ADR全部を入れるということがコンセンサスが現状では得られないようであれば、今御提案のような形で取りあえずは進めていただき、国際調停に関する執行力付与がタイムリーに進むということのためにはやむを得ないのかなと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 道垣内です。ありがとうございます。同じ条文における違う点について、よろしゅうございますでしょうか。日本商事仲裁協会の調停規則は認証を受けておりまして、その規則に基づいて行われるJCAAの調停はADR法に基づくものです。しかし、場合によっては認証外の調停手続をすることもなくはないと思われます。その場合、どちらに該当するものとして執行が判断されるのかについては気にしなくてもいいのでしょうか。両者の執行要件、あるいは除外要件は完全に同じなのでしょうか。その点を確認させていただきたいのが一つ。   もう一つは、2ページの方では条約なり法律をメンションしなければいけないような書きぶりなのですけれども、ADRの認証法に基づく調停の場合については、単に執行できますということだけ言っておけばいいのでしょうか。ADR法に基づく場合とそうでない場合が絡む、あるいはどちらなのか分からないことが起こり得ますので、御教示いただければ有り難いです。 ○山本部会長 それでは、少し次の論点とも関係するかもしれませんが、事務当局から取りあえずお答えを頂けますか。 ○福田幹事 福田でございます。2点御質問があったかと思いますが、最初の点につきましては、次の17ページのところで出てくる話ではございますが、新法とADR法の両方に当たり得るものについては新法の規律が優先適用されて、そちらの方の執行決定の対象になるという整理をしてございます。詳細につきましては、後ほどまた御説明を差し上げたいと思います。   二つ目の点ですけれども、ADR法上の民事執行の合意というものは、我が国の裁判所で執行決定をすることが前提でこの規律を設けておりまして、ADR法の認証紛争解決手続において民事執行がされた合意があれば、我が国の裁判所においてはそれで執行決定の対象にするということになります。ですので、JCAAの方でされた和解合意を外国の裁判所に持って行ったときにどうなるかというのは、その外国の法律の規律に従うということになろうかと思います。 ○道垣内委員 では、2ページのところの条約なり法律に基づき民事執行をすることができる旨の合意と書いてあることから、これは日本ではそういうふうに言っておかなければならず、単に当事者間の合意でこの調停手続で出来上がった和解については執行力があると書くだけでは駄目ということでしょうか。シンガポール条約又は条約実施法に基づきと、書かなければいけないということですね。 ○福田幹事 福田でございます。正におっしゃるとおりかと思います。道垣内委員のおっしゃるとおりの解釈になろうかと思います。 ○道垣内委員 ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 今津です。今回部会資料16の15頁に記載していただいた定義の中の、民事執行をすることができる旨の合意がされたものを特定和解と呼ぶという点について、従前の議論では、紛争本体についての合意の部分と、それから、執行を認める部分についての合意は、必ずしも同一の機会でなされなくてもよいような解釈の余地があったように記憶しているのですけれども、今回のような認証紛争解決手続の中で紛争本体の合意と執行部分の合意がセットで行われるというような形の方が個人的にはよかったかなと思っておりますので、このような形の御提案に賛成したいと思っております。   それから、先ほど来議論に上っている弁護士会ADRの扱いについては、実質論としてはもちろん認証ADRと横並びで置くということも問題はないと感じているのですけれども、ただ、この執行力の付与の局面で、そういう扱いをする場合、ADR法全体の規律との関係で、例えば時効の問題とか調停前置のところにも波及するような、そこでも横並びにする方がいいのではないかという議論にもなりそうな気がしておりまして、そこまでこの部会で踏み込んで検討ができるかというと、少し疑問もありますので、差し当たりこの部会の役割としてはそこまでは立ち入らないということであれば、今回の御提案のような形でもやむを得ないかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 吉野です。私どもの民間総合調停センターは、弁護士会が関係しているADRでありますけれども、それだけではなくて、他の諸団体が参加して出来上がっているADRであると、弁護士会関連ADRとでも申し上げてもいいのかもしれませんが、ただ、一方では認証を受けておりますので、今回の案について無論、私どものADR機関がこの執行力の付与というものの対象になり得るということについては、私どもとしては喜ばしいことだと思っておりますが、ただ、一方で先ほど来いろいろな御意見が出ております弁護士会ADRをそもそもどう扱うのかという点については、やはり多くの方が御指摘になったように、横並びで考えてもいい面は多々あろうかと思います。ただ、これまでにも出ているいろいろな問題もあると、その解決には時間が掛かるということであれば、今回この法改正をできるだけ急ぐという観点から、その点はしばらくペンディングすると。ただ、ここで延ばされたからといって、それが全く駄目だという議論ではないということは今回の記録に残るわけだと思いますので、様々な事情が整えば、明日にでもとは申しませんけれども、そう遠くない時期にこの弁護士会ADRに関する執行力の付与というものは当然、俎上に上ってくる問題だろうと考えられるかと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。どうもありがとうございます。弁護士会のADRの取扱いについては大変悩ましいと申しますか、私自身は少なくとも、十分に検討する時間的余裕があるのであれば、是非弁護士会ADRにも認めてよいのではないかと実質的には考えております。ただ、資料の説明でもありますような法制的な問題等について、なお時間が掛かるということが事務局の御提案の背景なのかなと推測しておりまして、難しい問題もあるのかなという感じもいたしますけれども、検討の方向としては、私自身は確かに一律に制度的担保がされているとはなかなかいえないというところはあるのだろうと思います。実際、弁護士が担当者になるということも、当然そうだという前提ではあろうかとは思いますけれども、共同実施者として弁護士以外の者が入るということも現にあるわけですし、いろいろな形態が、これは弁護士会がそれが適切と思えば、できないわけではないということですから、実際上はそうでないということにすぎないという見方もできないわけではないのだろう、その辺りをどう評価するかということがあるのだろうと思います。そうした観点からは、弁護士会について、例えば法務大臣が執行を経て付与に値するという認証をするという認証のようなスキームがそぐわないということなのだとしますと、認証の場合には執行決定の付与を判断する裁判所としては、その機関に係る実質的な要件については認証があるかどうかだけを見ればよいというところが認証という制度のメリットだということかと思いますし、これは時効の完成等の関係でもそういうことだと思いますけれども、弁護士会について、これは数も限られていて設立主体は限定されているということを前提としますと、弁護士会については認証ではなくて、個別にその要件を判断するというスキームもおよそあり得ない、非現実的とまではいえないところがあるのではないかと思います。   これは、出井委員が先ほど言われた、特定和解の要件として弁護士会との関係では盛り込むということがあり得るのではないかというところに関わるかもしれませんけれども、もし執行力を付与するための条件として認証制度上の規律のどこが重要なのかということが特定できれば、その点について弁護士会のADRが満たしているかということを個別に判断して執行決定をするかどうかを判断するということに仮になったとしても、弁護士会のものが現にほぼそこは満たしているということであれば、それで事案の処理等が紛糾をしたりであるとか、予測可能性が著しく損なわれるという弊害は心配しなくていいのだろうということだと思いますので、そういう検討の方向というのはあるのかなという感じがしております。   その関係では、先ほど認証要件について出井委員からいろいろ御指摘もありましたけれども、私自身はそれに加えて、ADR法の14条で定めている説明義務ですとか、あるいは16条で定めている手続実施記録の作成保存等の規律というものも、執行決定をするのにふさわしいかどうかということとの関係で意味を持つ規律ではないかと思っておりますので、今後この問題について仮に検討する機会があるとすれば、その辺りも含めて検討の対象となるのではないかと考えているところです。   それから、別の点で、先ほど道垣内委員の御指摘のあった点との関係で、若干戻ってしまって恐縮なのですけれども、確認の質問をさせていただきたいのですけれども、国際的な新法の方で問題となる合意について、条約又は条約の実施に関する法令に基づきということが合意の内容として想定されているということですが、これはもちろんそういった形での合意の書面が作成されていて、そこに記載されていれば、それは満たすということが容易に認定できるかと思われますけれども、執行ができるという旨の合意があって、その趣旨は条約あるいは条約の実施に関する法令でできるということが読み取れるような合意であれば、必ずしも正面から明示されていなくても、ここでいう合意に当たり得るという解釈もあり得るのかなとも感じたのですけれども、その点はそういうわけではないのでしょうか。先ほど、書かれていなければいけないというお話があったかと思いますので、その点について御教示を頂ければということでございます。 ○山本部会長 それでは、最後の点は御質問だと思いますので、事務当局からお答えを頂ければと思います。 ○福田幹事 福田でございます。私が先ほど申し上げた趣旨をもう一度繰り返させていただきますけれども、ADR法上の特定和解というところについては、これは特段、シンガポール条約とか条約の実施法に基づくというような文言等は必要がなくて、単に認証ADRでされた和解合意、それに基づいて強制執行することができる旨の合意ということで足りるのだろうと思っております。新法の方の、2ページに記載させていただいております2(2)の方は、外国の調停で合意がされたものが日本に持ち込まれるということになりますので、シンガポール条約又は条約実施法に基づいて民事執行をすることができる旨の合意というものが明示的にされている必要があると、こういう趣旨で説明をさせていただいたということでございます。 ○垣内幹事 今の明示的とおっしゃったところですけれども、合意の意思解釈としてそう認定できるということでは足りないということなのでしょうか。 ○福田幹事 福田でございます。明示的に書かれていなくても、そこは合理的な意思解釈として、そういったものであるということであれば足りるということでよろしいかと思います。 ○垣内幹事 分かりました。どうもありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○有田委員 いろいろ先生方がおっしゃっていますので、難しいことは私の方からは話すこともできませんので、私の考えとしましては、これまで弁護士会のADR機関を外すというふうには議論をしていなかったように私の中では記憶していて、それは私の受け止め方かもしれませんが、先ほど何人かの弁護士の方もおっしゃいましたが、今、急ぐのでというような発言の中で、この考え方に仕方がないというような発言をされましたが、本当にこれを今急ぐ必要があるのかどうかも私も何か疑問を感じているところです。新法というところはまた別の、シンガポール条約のことに関しては、それは急ぐのだろうと思うのですが、御説明を伺っていると、特にここはそれとは直接的に関係がないようにも聞こえますし、ですから、何人の方からか今後の検討ということで文書中に入れるべきだというふうな発言があったと思いますが、それが本当にここに残されて、今後、弁護士会のADRもいろいろなところがあると、でも、これまで実績があるところは認めてもいいのではないかと、そういうことで意見が出たということは記録が必要かと思います。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○竹下幹事 竹下でございます。1点、少し前のところに戻るかのごとくになって恐縮なのですが、和解に基づいて民事執行することができる旨の合意の点、ADR法の定義のところでは、今津先生がおっしゃられたとおり、和解に基づいて民事執行することができる旨の合意なので、多分、和解とある意味でワンセットになっているようなものなのだと思うのですが、他方で部会資料2ページの適用範囲の(2)の、この法律の規定は国際和解合意の当事者が条約等に基づき民事執行をすることができる旨の合意をした場合の、こちらの合意というのは和解合意と一緒になっていないといけないものなのでしょうか。それとも、例えば和解手続が始まる前に、最終的に和解合意できたらこれは執行できるものとしておきましょうということをあらかじめ約束しておいて、それが最終的に和解に至って、和解の文書の中ではそういったことについて言及はされていないのだけれども、確かに前に合意していたよねということが明らかになっている、こういった場合にも、民事執行についての合意として認められるのでしょうか。これは結局、国際の方の合意をしたタイミングと関係してくるのだと思うのですが、この点、ADR法の方と違いがあるのか、それとも違いがないのか、少し分からなくなってきたので、教えていただいてもよろしいでしょうか。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。御指摘のとおり、国際の方ですね、新法の方は時的な制限を設けておりませんので、あらかじめした、又は事後的にした民事執行の合意というのは、いずれも認められるということになります。他方、ADR法の方は、認証紛争解決手続の中で民事執行の合意をしなければいけないというような形になっておりまして、その手続の中で、将来成立したものについて執行力付与しましょうというようなことまでは排除しておりませんが、飽くまで手続の中でやるということの縛りを掛けていると、その意味において国際とADR法とでは違いがあるという整理をしてございます。 ○竹下幹事 なるほど、ありがとうございました。 ○山本部会長 それでは、よろしいでしょうか。   今回、特に弁護士会のADRとの関係におきまして種々御意見を頂きました。結論的には残念であるとか、違和感があるとかいう御意見を頂きました。他方、弁護士会ADRが、この資料にも書かれていますが、その実質においては執行力を付与し得ると評価し得るということについて、この部会内で大きな御異論は見られなかったということは、今日もそうだったかと思いますし、有田委員の方からは、それはきちんと残しておくべきであるという御意見もございました。ただ、いろいろな理由があるかと思いますが、結論的には今回の資料の定義のゴシック部分の記載、それ自体については反対ということは御意見としてはなかったのかなと思いました。ということで、本日はこの程度にさせていただければと思います。   それでは、続きまして、部会資料17ページの「2 適用除外」の点について、事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 それでは、鈴木から部会資料第2の2について説明いたします。   第2の2では、執行決定の規律の適用除外について取り上げております。まず、①では、消費者紛争のうちBtoC事案のみを適用除外とすることを提案しております。②では、個別労働関係紛争を適用除外とすることを提案しております。③では、家事紛争を適用除外とした上、民事執行法第151条の2第1項各号に掲げる扶養義務等に係る金銭債権については適用除外の除外、つまり適用対象とすることを提案しております。④は、先ほどの説明でも既に言及させていただきましたが、新法とADR法の適用関係を整理するものになります。この規定によって、新法の適用対象となるものは新法の適用を優先させるということを提案しております。   ①の消費者紛争に関し、前回の部会では、執行力を付与し得る対象を認証紛争解決手続において成立した和解に限定するのであれば、BtoC事案についても対象としてもよいのではないかとの御意見もありました。もっとも消費者紛争が類型的に当事者間の潜在的な力の不均衡等が想定される事案であるところ、消費者保護に配慮した手続が制度的に担保されている必要があり、今回の制度において対象とすることは適当ではないとの御意見もありました。消費者紛争については個別労働関係紛争と同様、我が国における法制度上、特別な配慮が必要である類型として位置付けられていることなどに鑑み、消極的な意見もあることを踏まえ、本部会資料では適用対象としないことを提案しております。   ③の家事紛争に関し、前回の部会では、扶養義務等に係る金銭債権について執行力を付与し得る対象とすることにつき、そのニーズの高さについては意見の一致が見られた一方、弊害の有無については慎重に検討するべきとの御意見もあり、特に認証紛争解決手続の運用面においての課題などの御指摘も頂きました。本部会資料においては、扶養義務等に係る金銭債権を対象とすることについては、今般の制度の導入による弊害とはいい難いものと整理しつつ、部会におけるヒアリングや皆様の御議論を踏まえ、今後運用面において検討を行う必要があるものとしております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この点、前回かなり御議論を頂いたところで、それを受けて本日の提案がされているということかと思いますけれども、どの点からでも結構ですので、御質問、御意見、御発言を頂ければと思います。 ○吉野委員 吉野です。まず、消費者紛争に関して意見を述べさせていただきます。家事紛争については、また後ほど意見を述べたいと思います。   消費者紛争に関して、私どものセンターを始めとするADR機関において、実質この消費者に関する紛争をかなり扱っているということは、これまでも繰り返し紹介させていただきました。そういう意味で、この紛争類型においても執行力を付与する必要性、特に消費者が債権者側に立って申し立ててきている事件が意外に多いということから、このような必要性は高いということも繰り返し述べさせていただきました。ただ、これまでにも御懸念が示されております、それから、このペーパーにも記されております問題があるということは私どもも認識をしております。ただ、先ほどの議論と重なってしまうわけですが、制度的担保がないのではないかと、こういう御指摘でありますけれども、私どもはある意味では中立的な紛争処理機関でありますところに対して、国民生活センターを例に挙げて、それと比べると制度的担保に乏しいと言われるのは少し心外な気がするわけです。と申しますのは、国民生活センターは、これは正しく消費者保護というものを前面に打ち出して国が設立した機関でありますから、私ども民間のセンターは中立性というものを大前提とする機関でありますから、消費者を助けますということを正面からうたうということはおよそ考えられないわけであると、そういう意味で、それに類する制度的担保ということを言われますと、少し困るというところであります。ただ、私どもとしてもそういう実績というものを今後見ていただきたいと、そして、更に実績を積み重ねていこうという考えでありまして、今回いろいろな御意見の中で指摘された点を踏まえて、更に私どももいろいろ検討していきたいと考えているところであります。   そういう意味で、この点に関して全面的に賛成ということではありませんけれども、今回はやむを得ないというのも一つの結論になっているところであります。この消費者紛争に関しましては以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   吉野委員、家事についても御意見があるのであれば、お願いします。 ○吉野委員 家事紛争に関しましては、前回までにも申し上げておりますけれども、この民事執行法151条1項のいわゆる養育費等に関する問題について執行力を付与すべきかどうかという点に関し、特に慎重に検討すべきであるという意見を述べさせていただきました。ただ、慎重にといいながら、その中身として、積極的にこういう理由だからどうだというようなこと、そして、方向性としてどうだということを申し上げていなかったという反省をしております。   ある意味では、私のこの慎重論といいますのは、これまでの私の実務経験から来るものであります。一つは、結局、家事紛争そのものの難しさというものがございます。これはADR法自体が直接担当することは少ないかもしれませんが、国際的な事案について申しますと、御承知のように、かつては夫婦の離婚等において夫の本国法というものが適用法令だという時代がありました。そうすると、結局、本国法が何かという調査というものに非常に苦労したわけです。そういう国際的な問題についての苦労というものがある。それから、やはり民事執行の場面で、この養育費等に関しまして、主として債務者となる夫側からいろいろな申立てが出てくる。例えば、会社を首になったから養育費が払えない、それからまた、再婚したから減額してくれというような理由で、ある意味ではもっともなのですけれども、それだけで減額させていったら、元妻側、あるいは子供が直ちに生活困難に陥ってしまう、こういう事情があって、そこのバランスをどう考えていくかということに非常に苦労したということ、あとは、感情の対立が激しいという家事紛争の特質というものもございます。そういうような点から、やはり全体的に慎重に考えるべきであるという経験論だけから来るものでありまして、理屈の上でこうなければならないということを申し上げたことはなかったかと思います。   そういう意味で、今回の提案については、このいわゆる養育費等をめぐる問題、それに関係する分野においてだけ執行力を付与するという点、この点について必要性が高いということはこれまでの部会でも出ていましたし、私もその点の認識は変わるものではありません。そういう面から言いますと、ADR機関において、これらを多く取り扱い、そして専門的に取り扱う機関が登場してきているということは、これまでのヒアリング等でも出てきたところであります。したがって、これについて現段階でその必要性、そして専門性という機関の登場とか、そういうようなことを考えますと、執行力を付与するということも余り反対する理由は少ないのかなという気がするようになってきております。別にこれは考え方を変えたわけではなくて、よく考えてみたら反対論というものにそれほど大きな根拠を持って述べたわけではないという私の反省からの意見でございます。   以上のような点から、これについて、ただ、これも積極的賛成とかということではないかもしれませんけれども、導入やむなしと、この点に限ってですね、導入やむなしという意見を述べさせていただくということでございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、ほかにいかがでしょうか。 ○山田委員 ありがとうございます。今回の御提案のうち①のBtoC事案に関しましては、消費者が債権者となる場合等に立法のニーズがあるほか、認証基準とその担保により債務名義作成の濫用はかつての議論と異なり考えにくく、また紛争に応じた手続実施者を備えること等により実質的にも適切な運用が期待でき、執行決定制度によりセーフティネットも置かれたことから、適用範囲とすることは理論的には十分にあったのではないかと今でも考えてはいるところでございます。ただ、御説明にあるような懸念を払拭するための制度的な一律的な担保というものが必要だという法制的な制限が掛かったということの結果であろうとは理解をしております。   また、先ほどの、一つ戻りますと、弁護士会ADRについても同様で、弁護士会ADRについても私も、少なくとも近い将来には是非執行力付与の方向性を見いだすことが望ましいと考えております。ADRは本来は多様な紛争解決手続を提供するというものであったわけですけれども、執行力付与というところで逆に一律的な制度設計を迫られたという非常に皮肉な状況にあるように思われます。従来はこの皮肉な状況というのは、濫用や弊害をコントロールするという理由で正当化されてきましたが、今後は法制的にも、あるいは実務の熟度という意味でも進化していくだろうと思いますので、従来のような一律的なコントロールの次の段階として、プラス面での多様化を図る規律が考えて良いように思います。認証基準の中で、例えばBtoC関係の紛争を扱う認証基準を特に設けるとか、先ほど出井委員や垣内幹事からも御示唆があったところですけれども、弁護士会ADRに関して執行決定の段階で特別な要件を付けてBtoC事案についても検討の対象にするといったような方向が見いだされれば、大変有り難いと考えてございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○今津幹事 幹事の今津です。今回御提案のうちの③の家事に関してですけれども、私は個人的にはこの御提案のとおりでよろしいかと思っております。ヒアリング等、それから委員の先生方の議論の中でも、いろいろ弊害等も指摘されたという点については資料にあるとおりだと思うのですけれども、それについては、この資料にあるような解釈があるということと、それから、今回は特定和解そのものに執行力を付与するというのではなくて、次に議論されると思いますけれども、執行拒否事由の規定があって、それを踏まえて執行決定がされたものについて執行力が発生するという規律なので、余りその弊害のところを強く見なくてもいいのかなと思っております。養育費に関しては、ニーズが高いということもありまして、執行力付与を是非認めていただければと思うのですけれども、養育費以外の扶養義務に関する債権についても、件数として恐らく実務的に余り多くないので、社会的なニーズがそれほど高いものと認識されていないのだと思うのですけれども、内容的に見れば、債務者の生計維持に不可欠であって立法の必要性が高いというところは、養育費と並んで認められると思われますので、今回の御提案のように、養育費とそれを含めて扶養義務全体を除外するというような形で規律することに賛成ということの意見を述べさせていただきます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○河井委員 河井です。家事の点について、私の意見を申し上げたいと思っているのですが、前回の部会の議論で、認証の際にどのように専門性を審査してしいるのかという質問をさせていただいて、その御回答を頂いたわけですけれども、やはり一月近くもう一回考えてみて、専門性については、より実態というか実質に即した審査をしていただくことが、恐らくいろいろなところで指摘されている弊害を少なくさせる一つの大きな機能を有するのではないかと思いますので、そこは今後、司法法制部の方でも今までもやってこられたということは十分聞いておりますが、それをより実質化していただきたいというのが1点と、それから、これは御質問なのですけれども、19ページの下から3行目に説明モデルという言葉が書いてございますが、これは今回のADR法改正に関するいろいろな説明をする、そういう説明キットではないですけれども、何かそういうものを法務省の方で作って、それを各所に浸透させていくと、そういう御予定なのかどうか、その点を教えていただければと思います。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお答えをお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の点ですけれども、恐らく執行力の付与という新しい効果が付されるに当たって、ADR事業者における説明義務の範囲というのは広がってき得るのではないかと思っております。御質問の点について今、法務省として、何かこういったものというものを具体的に考えているわけではございませんけれども、運用面の検討の中で、何かこの点について説明をする際には重視してほしいというようなことなどをお示しすることは、場合によってはあり得るかなと思っております。今想定しているのはその程度でございます。 ○河井委員 ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。適用除外の①の消費者の関係につきましては、私自身は、先ほど山田委員の御発言もありましたけれども、BtoC紛争についても対象とすることが考えられるのではないかという方向から意見を申し上げてきたところです。今回の御提案は、そちらについてはこの段階では断念ということかと思われますが、理論的には十分対象とし得るのではないかと私はなお考えているところでありますけれども、資料で説明がされている事情でありますとか、あるいはこの部会において消費者の関係の紛争に深い知見をお持ちの委員、幹事の方からも慎重な御意見があったというようなことを踏まえますと、引き続き検討ということでもやむを得ないのかなと考えております。ですので、この御提案にあえて反対ということではございません。   それから、人事の関係で、養育費を中心とする扶養義務に係るものについては特に対象として含めるということにつきましては、こちらは私は原案のとおりでよろしいのではないかと考えております。今回、国内のADR法の改正で…… ○山本部会長 垣内幹事、音声が良くないようですが。今回の改正の辺りから聞こえなくなったのですが。 ○垣内幹事 それでは、その辺りからもう一度、恐縮ですが、発言させていただきます。   今回の改正でADR法上、一定の場合に執行決定という形でADR和解の強制執行が可能になると。聞こえておりますか、聞こえないでしょうか。 ○山本部会長 聞こえております。 ○垣内幹事 ありがとうございます。   今回の改正でADR法上、一定の場合に執行決定という形でADR和解の強制執行が可能になるわけですが、養育費等は、そうした最もニーズが高いもので、この制度が仮にできた場合には最も利用が期待される分野ではないかと思われますので、ここは含められるということは非常に重要な意義を持つのではないかと考えております。ただ、資料でも説明されておりますように、また、先ほど河井委員の御指摘もありましたけれども、認証制度の運用等において今回、仮にこういう制度が導入されたとすれば、そのことも踏まえて適切な運用が更に努められていくべきであるというのはそのとおりであり、そこも非常に重要なことではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○北澤委員 前回の部会でも発言をさせていただいたところなのですが、③の人事に関する紛争の適用除外のところでございます。これまで、離婚時の合意内容でも金銭債権が複数あって、それが扶養義務等の支払を求めるものなのか、その他の金銭債権の支払を求めるものなのか、判然としないような場合があるので、どれが執行力付与の対象であるのかのかという疑問に始まりまして、またヒアリング等でも、離婚時の合意内容はこの金銭債権だけではないというようなお話もございましたので、執行力付与の対象を扶養義務等に係る金銭債権に限定することへの様々な疑問を事務局の方に伺ったりはしておりました。けれども、今回の資料でおまとめいただいているような御説明で私がこれまで抱いていた疑問にはお答えいただけていると思いますし、今後は、ガイドラインの見直しであるとか、先ほどお話にあった説明モデルの開発等でそういったことに対応されていくのであろうと考えております。   それから、扶養義務等に係る金銭債権というところで、民事執行法151条の2第1項各号に掲げているものという部分でございますが、私は元々この部会での議論で、執行力を付与し得る対象としての扶養義務等に係る金銭債権とは、養育費に限るものではなく、婚姻費用の分担とか、その他の扶養料請求も含まれるのではないかという形で議論を聞いていたところでございます。いずれも生計の維持に必要なものであり、迅速にやはりこういったものの履行確保ができることが望ましいかと思いますので、扶養義務等に係る金銭債権にそういったものが含まれるとする事務局の御提案には賛成をしたいと思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかに御発言はいかがでしょうか。 ○出井委員 出井でございます。この適用除外の点について、消費者を除くという結論になっていて、結論としては賛成です。ただ、何人かの委員の方から御指摘があったように、これは将来に向けた議論としては十分可能性はあり得るのではないか、さらには、消費者問題に特化したADRについて執行力を与えるという可能性は十分あり得るのではないかと思っています。ただ、今回は措置をしない、適用除外にするということでやむを得ないかと思います。   それから、扶養義務等に係る金銭債権についてのところですけれども、今回の部会資料を拝見すると、これまでの議論、それから、ヒアリングを含めた議論で出てきた意見をバランスよくまとめていただいていると思っています。扶養等に係る金銭債権についての和解に執行力を今回付与するという提案になっているわけです。部会資料の19ページの29行目以下に、これは扶養料に関するものに限らないということだと思いますが、「今般、認証紛争解決手続において成立した和解に一定の要件の下、執行力を付与するとの新たな制度を創設するのであれば」ということで、いろいろ運用上の見直し等の方向が出されています。ということもありまして、様々な懸念にも配慮されていると思います。   1点、これは私からも意見を申し上げて、それを一部取り入れていただいたところだと思いますけれども、少し趣旨を明確にしておきたいと思いますが、認証要件の実質がきちんと満たされているのか、そういう観点で運用を見直す、あるいはガイドラインを見直すというのは、見直すといっても現在の、例えば、私は先ほど弁護士関与というのが執行力付与の関係では大事だと申し上げましたが、ただ、ADR法での弁護士関与は、ADRの多様性であるとか、いろいろな考慮から、現在の、法的な問題で専門的知識を必要とするときに弁護士の助言を行うと、そこで一応線引きがされているので、これはヒアリングでは弁護士の関与、弁護士が手続実施者になっていなければいけないのではないかとか、いろいろな御意見も出ましたが、そこは私の趣旨としては、必ず弁護士が手続実施者として関与しなければいけないという趣旨ではありませんので、紛争類型によってはそういうのがあるかもしれませんけれども、そこはいろいろな議論があり得るという意味でのガイドライン等の見直しであると私は理解しております。そういうふうに取りまとめてほしいということではないので、趣旨の説明をさせていただきました。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   事務当局、よろしいですか。   ありがとうございました。それでは、この適用除外の問題、前回に引き続いて御議論を頂きました。①、③を中心に御議論いただいて、私が伺った限りでは、ニュアンスの差はあったかと思います、積極的に賛成するという御意見からやむを得ない、反対はしないという御意見までありましたが、結論的には反対という御意見は伺わなかったと承知をしました。今日の段階ではそのようなことで整理をさせていただければと思います。   それでは、引き続きまして、今度は資料20ページの「3 特定和解の執行決定」、それから22ページの「4 執行拒否事由」、これらの点は先ほど御議論いただいた新法の同様の規定と並びになっております。多少の差があるということは説明にあるとおりですけれども、それほど大きな違いはありませんので、まとめて取り上げたいと思います。   まず、事務当局から資料の説明をお願いいたします。 ○鈴木関係官 鈴木から、部会資料第2の3及び4について説明をさせていただきます。   第2の3では特定和解の執行決定、4では特定和解の執行拒否事由について取り上げております。今、部会長の方からも御説明がありましたとおり、基本的には第1の国際和解合意の執行決定及び執行拒否事由と同様の規律を設けることを提案しておりますが、主な違いについては次のとおりになります。   まず、3(2)①で特定和解の書面性を要求しているところ、民事執行の合意がされたものが特定和解となりますので、民事執行の合意についても書面性が要求されることになります。また、3(2)②で特定和解が認証紛争解決手続において成立したことを証明する必要があるため、民事執行の合意が認証紛争解決手続においてされたことまで証明する必要があることになります。次に、翻訳文の提出の省略に関する規律や東京地裁又は大阪地裁に競合管轄を認める旨の規律はADR法上は設けないこととしております。さらに、4①において、準拠法に関する記載をしないこととし、新法の拒否事由①、②としていたものをADR法では①にまとめたという違いがあります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この点、どちらからでも、3でも4でも結構ですので、御意見あるいは御質問をお願いしたいと思います。 ○小津幹事 執行決定の申立てをするときに裁判所に提出する書面について御質問させていただければと思います。部会資料の20ページの3(2)①のゴシックの本文には、裁判所に提出する書面として、「特定和解の内容が記載された書面」と記載されております。他方で、今御説明がありましたように、部会資料22ページの上から3行目の辺りには、「民事執行の合意がされたことについても記載された書面等を提出する必要がある」と記載されております。ここに書かれた説明のとおり、民事執行の合意がされたことについても記載された書面等を提出する必要がある旨をゴシックの記載として明示した方がよいのではないかと考えておるのですが、事務当局のお考えをお伺いできればと思います。 ○山本部会長 それでは、事務当局から御説明をお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。今の御指摘の点は、20ページの下から2行目、特定和解の内容が記載された書面というところで十分読めているのかなと理解をしております。その理由としましては、15ページのADR法の定義、特定和解の定義の中に、民事執行をすることができる旨の合意がされたものがここで含まれておりますので、そのような帰結になろうかと考えております。 ○小津幹事 今の事務当局の御説明によりますと、特定和解の定義の中に民事執行の合意がされたものということが含まれているので、あえて裁判所に提出する書面としてその旨の明示はしていないというふうにお聞きしたのですが、特定和解の定義としては、認証紛争解決手続において成立した和解である旨も15ページには盛り込まれております。ところが、21ページの②では「認証紛争解決手続において成立したものであることを証明する書面」が提出書面として挙げられております。つまり、定義に盛り込まれている内容であっても裁判所への提出書面として明示している部分もありますので、定義と提出書面とはなお区別して考えられるのではないかと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。事務当局、何かコメントはありますか。 ○福田幹事 福田でございます。今、小津幹事がおっしゃったような考え方もあろうかと思いますけれども、念のため申し添えますと、20ページの下から2行目の①の要件は、飽くまで特定和解の内容の特定といいますか、どのようなものに執行決定をしてほしいのかというものの内容を明確にするために必要なもの、これが①でございます。②につきましては、これが認証紛争解決手続において成立した、そういう調停という手続で成立した和解合意であることの証明として要求しているものということで整理をしておりますので、このような書き分けというものも十分合理性のあるものかなと事務当局としては考えてございます。 ○山本部会長 というのが事務当局のお考えだということかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○今津幹事 幹事の今津です。執行拒否事由の内容について、少し確認をさせていただきたいのですけれども、家事について、元夫婦間で、具体的に金額を2,000万円なり3,000万円なり払うという内容の合意がされた場合に、この場合だと、②の拒否事由のうちの内容を特定することができないというふうには当たらないと思うのですけれども、先ほど北澤委員からも少しお話があったように、金銭の払う趣旨が養育費なのか財産分与なのか、その辺りが必ずしもはっきり書かれていないようなケースだと、これは②の内容特定という形で執行を拒否されるということになるのでしょうか。その辺りの解釈についてお伺いできればと思います。お願いします。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。今津幹事がおっしゃったような事例は、②の要件はクリアしているのかなと思っております。つまり、訴訟物的なものが書かれていなくても、誰が誰に対していつ幾ら払うということだけ書いてあれば、内容自体は一応特定し得るものと一般的にはいえるのかなと思います。お尋ねの点につきましては、むしろ適用除外規定を受けるかどうかというところの話かと思います。仮に養育費等、先ほどの議論で適用除外の除外として入るものという形で合意がされたのであれば、それが明示的にされていないと、場合によっては人事、家事の紛争に当たるものということで適用除外規定の適用を受けてしまって執行されないと、執行決定の対象にならないということになろうかと思いますので、養育費だということが言いたいのであれば、それを明示した形にして執行決定の申立てをしなければならないのではないかと考えております。 ○今津幹事 ありがとうございます。除外の除外であるということを明示するという点を認証機関にも広くお知らせいただければと思います。ありがとうございます。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。これは実質というよりも多分、表現ぶりの話なのですけれども、先ほど最高裁の小津幹事が言われた点に関しまして、確かに事務局の御説明がありますように、15ページの特定和解の内容、定義には民事執行ができる旨の合意というのは含まれているのですけれども、ただ、特定和解というのは基本的には認証紛争解決手続において紛争の当事者間で成立した和解であって民事執行合意があるというもので、20ページの①で、特定和解の内容が記載されたとあるときに、これは成立した和解の内容を指すのではないかというふうな受け止め方も一般的にはありそうにも思われますので、何かその点、これはもう本当に表現ぶりの話で、実質の違いではないかと思いますが、明らかにする表現というのをもし工夫できるのであれば、それは試みていただく価値はあるのではないかという感じもいたしました。一言だけ、感想めいたことで恐縮ですが、以上です。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○道垣内委員 ありがとうございます。執行拒否事由のところについて、国内事案でも準拠法は外国法ということがあり得るわけですが、それは排除するわけではないと理解しておりますが、それでよろしいでしょうか。 ○山本部会長 それでは、事務当局からお願いします。 ○福田幹事 福田でございます。以前の部会でも御議論いただいたとおり、もちろん国内のADR法の規律においても準拠法に対する考え方について排除するものではないという点は、道垣内委員のおっしゃるとおりかと思います。 ○道垣内委員 確かに前もそういう議論をしたと思うのですが、二つ並べて見ると、何か意味が違うようにも見えますけれども、そうではないということですね。つまり、準拠法が外国法である場合にも、基本的には同じであり、例えば、日本の公序には反しないけれども当該準拠法上の強行規定に反しているから効力がないという場合には、①に当たるということですか。 ○福田幹事 福田でございます。おっしゃるとおりかと思います。それは①の方で、効力を有しないということで整理してよろしいかと思います。 ○道垣内委員 なるほど。国際的な場合にも同じように書いても構わないと思うのですが、シンガポール条約に合わせるということで、あちらはたくさん書いてあるということであれば、それで結構です。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。おおむねよろしいですか。   ありがとうございました。この点についても実質については特段の御異論はなかったかと思いますけれども、先ほどの3(2)の書きぶりについては幾つか御意見を頂いたかと思いますので、事務当局においても引き続き検討していただければと思います。   それでは、本日最後の点でありますけれども、部会資料23ページの「第3 民事調停事件の管轄に関する規律の見直し」、この点につきまして事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○石川関係官 石川から御説明申し上げます。   第3では、裁判所で行われる民事調停事件の管轄に関し、いわゆる知財調停のより一層の活用を図る観点から、知的財産の紛争に関する調停事件について、民事調停法第3条に規定する裁判所のほか、相手方の住所等に応じ、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に競合管轄を認めることを提案しています。これは中間試案の本文と同一の規律であり、従前の部会における御議論でもパブリック・コメントの手続で寄せられた御意見でも反対の意見がなかったことから、引き続きこの規律を維持しています。   また、中間試案の本文の(注)では、医療事件、建築事件、商事事件など、知的財産の紛争以外の紛争に関する調停事件について、専門的な知見を要する事件を処理するために特に必要があると認められるときは、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所に事件を移送することができるとの規律や、東京地方裁判所又は大阪地方裁判所において事件を自ら処理することができるとの規律を設けるとの考え方も御紹介していました。しかし、これらのうち、特に自庁処理の規律については、従前の部会における御議論でもパブリック・コメントの手続で寄せられた御意見でも賛否が分かれていました。また、移送の規律についても、これを単体で設けるべきか、自庁処理とセットで設けるべきかという点については様々な御意見があろうかと思われます。いずれにしても、これらの規律の対象となる「専門的な知見を要する事件」の具体的な規律の在り方について更に精査する必要があり、今後、民事調停事件を含む裁判のIT化の進展に伴う動向を注視する必要もあると考えられます。   以上を踏まえ、今回の部会資料では、知的財産の紛争に関する調停事件の管轄規律のみを提案しています。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、この第3の点につきまして、どなたからでも結構ですので、御意見、御質問等を御自由にお出しいただければと思います。 ○小津幹事 部会資料では知財調停の管轄について御提案いただいているのですが、最高裁判所としましては、以前の部会でも申し上げたとおり、知財事件以外の専門的な知見を要する調停事件について、東京地裁又は大阪地裁に移送することができるという規律を設けることが望ましいと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございます。御意見の表明だったかと思いますが、事務当局、何かコメントはありますか。 ○福田幹事 福田でございます。今の御意見に対する直接的なコメントということではございませんが、中間試案のときの御議論では、先ほど石川からもありましたように、やはり自庁処理の規律とセットで設けるべきではないかといった御意見も複数寄せられたかと思います。この辺り、もし現時点でのお考えが委員の方々にありましたら、御紹介いただければと思いますが、いかがでしょうか。 ○山本部会長 ありがとうございました。   それでは、いかがでしょう、今の点でも、あるいはほかの点でも結構ですけれども、御意見等ございますか。 ○三木委員 三木です。私は以前の部会では、自庁処理の規定も積極的に設けるべきだという意見を言いましたが、それは移送とセットでなければいけないという趣旨で申し上げたわけではありません。今、最高裁の方からおっしゃられたように、移送の規定だけ単独で切り離してでもいいので、設けた方が望ましいと考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 垣内です。ありがとうございます。以前、私自身どのような意見を述べたか、記憶が余り定かでない部分もありますけれども、移送の制度を知財以外の専門的な知見を要する事件についても設けるということ、それ自体としては前向きに考えていい問題だろうと捉えております。他方、今問題となっている自庁処理については、移送の申立てを認めつつ自庁処理は認めないとする積極的な理由というのは、私自身はそれほどないように考えておりまして、移送の申立てを認めるのであれば自庁処理も認めるということでよいのではないかと考えております。ただ、自庁処理が認められないのであれば移送申立てを認めることは絶対に不可能であるとまで申し上げるつもりもないのですけれども、自庁処理も認めてしかるべきではないかというのが私の考えということになります。 ○山本部会長 ありがとうございました。   その場合、少し私から質問ですが、資料にある専門的な知見を要する事件の具体的な規律の在り方ということを問題点として挙げられていますが、これについて何かアイデアみたいなものはございますか。 ○三木委員 アイデアではないですが、この移送というのは裁量移送だと思いますので、従前の裁量移送の定義には当たらないかもしれませんけれども、専門的であるかどうかの判断も移送裁判所の裁量でいいのではないか、裁判所の御判断であれば、それほどおかしなことは起きないだろうと、取りあえず考えております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○吉野委員 これは知的財産権だけではなくて、このような医療、建築等の事件について、専門家がやはり大都市に偏在しつつあるといいますか、その偏在性がより顕著になってきているという事情があるのではないかと思われます。そして、その専門性を持った民事調停委員を確保するということがより困難になってきているという事情があることから、このような規律が出てきたわけですし、それからまた、先ほど最高裁の方から意見がありましたように、自庁処理にしろ裁量移送にしろ、そのような方向を進めるべきだということだろうと思います。やはりこの傾向はより強くなっていく可能性が高いと思われますから、この点についてはやはり今後、早急にというところまでは申しませんけれども、やはりしかるべき時期を見て、より実質的な検討をすることが望ましいだろうとは思っております。 ○山本部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   事務当局から何かありますか。 ○福田幹事 福田でございます。事務当局が1点懸念しているのは、正に先ほど部会長からもありましたように、専門的な知見を要するという、この用語を使えるかどうかという点が最も大きな懸念点でございます。仮にですけれども、このままの文言で法制化されたときには、説明の中にも書きましたように、医療や建築、そういったものはすべからくここに入ってくるのだということになります。そうすると、こういった調停事件は現状では全国の都道府県の簡易裁判所、地方裁判所で扱われており、その中で東京地裁や大阪地裁でなければならない事件をどういうふうに規律していくのかというのは、やはり考えておかなければいけない問題なのではないかと思います。ここに「高度な」とか、そういった文言が法制上使えるのであれば、それは一つの考え方なのかもしれませんけれども、その辺りを少し、どのような事案をターゲットにしてこの規律を置くのかというのは、もう少し議論を深めていただく必要があろうかと思っております。この点につきまして何か御示唆を頂ければ幸いです。 ○河井委員 河井です。最高裁の皆さんの御意見も非常によく分かるところである反面、例えば今、私は建築紛争をやっていまして、建築物の所在地は軽井沢町で、調停ではなくて裁判なのですが東京地裁でやっています。それは私個人にとっては、代理人としてむしろそちらの方が楽で助かっている面というのはあるのですけれども、ただ、それは一般的にいえるのかというと、建築紛争は確かに専門性は要しますけれども、ただ、県に建築士がいない県って多分ないと思うので、長野本庁でも本当はできたのではないかという気はしていました。していましたが、当時非常に、時期的にコロナの時期に始まった紛争だったがゆえに、東京でやった方がいいのではないかということで、当事者間で東京に持って行ったという事案があって、私としてはそれは事案の個別性によるものがかなり強かったのかなとは思っております。ですから、今、事務当局からも、専門性というだけでいいのか、それとも高度な専門性なのかとか、ないしは場合によりなのかとか、専門的だから全部東京、大阪に集めることが本当にいいのかどうかというのは非常に、私も即断できないというか、それこそもう少し議論した方がいいのではないかと個人的には思っております。 ○山本部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。特段ございませんか。   それでは、今日の段階ではこれ以上は難しそうな感じですので、中間試案の(注)の部分ですね、専門的な知見を要する事件の移送あるいは自庁処理について、今日、幾つかの御意見が出ましたので、ただ、先ほどもありましたように、事務当局としてはなかなか難しい問題を実際に法制化するに当たっては抱えているということは御理解いただけたのではないかと思いますので、またこれは事務当局の方でも御検討いただきますし、委員、幹事の方でも更にお考えを頂ければということで、今日の段階ではそのような形にさせていただければと思います。   それでは、以上でこの部会資料16については一通り御審議を頂けたかと思いますが、何か最後に言い落とした点等がございましたら御発言いただければと思いますが、いかがでしょうか。大丈夫ですか。   それでは、これにて本日の審議は終了させていただきたいと思います。   次回議事日程等につきまして、事務当局から御説明をお願いいたします。 ○福田幹事 福田でございます。本日も長時間にわたりまして熱心な御議論を頂きまして、誠にありがとうございました。次回の日程でございますけれども、年が変わりまして1月21日金曜日の午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。場所は現時点では未定でございます。   次回の会議では、今日の御議論を踏まえて、要綱案の取りまとめに向けた御議論を更に続けていただきたいと思っております。 ○山本部会長 それでは、法制審議会仲裁法制部会第16回会議を閉会にさせていただきます。   今ありましたように、次回は年明け、要綱案の取りまとめに向けた御議論ということですので、どうかよろしくお願いをいたします。今年はこれで最後ということですので、皆様にはどうかよいお年をお迎えいただければと思います。   それでは、本日の会議はこれにて終了します。熱心な御審議を賜りまして、誠にありがとうございました。 -了-