法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和4年3月29日(火)   自 午後1時02分                        至 午後4時59分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 第一の一(暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正)について         2 第一の二(対象年齢の引上げ)について         3 第一の三(相手方の脆弱性や地位・関係性の利用を要件とする罪の新設)について         4 第一の五(配偶者間において強制性交等罪などが成立することの明確化)について         5 第一の四(わいせつな挿入行為の刑法における取扱いの見直し)について         6 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第6回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日は、御多忙のところ、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。   本日は、今井委員、大賀委員、北川委員、木村委員、小島委員、小西委員、中川委員、吉崎委員、池田幹事、市原幹事、金杉幹事、佐藤陽子幹事、中山幹事は、オンライン形式により出席されています。   また、くのぎ幹事におかれては、所用のため欠席されています。   まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をお願いします。 ○浅沼幹事 本日、配布資料として、資料11から15までをお配りしております。   いずれの資料も、部会長の御指示に基づき、諮問事項ごとに、一巡目の議論における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえ、規定イメージの案とそれに関連する検討課題を整理したものです。飽くまで検討のためのたたき台として作成したものであり、もとより、複数の案のいずれを採るかという形で検討対象を限定したり、議論を方向付けようとする趣旨のものではありません。   資料の具体的な内容につきましては、個別の諮問事項を御議論いただく際に御説明いたします。 ○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。   前回の会議でも申し上げたとおり、本日からは、二巡目の議論に入ることとします。   二巡目の議論では、一巡目の議論を踏まえつつ、法改正の必要があるとされたところについては、最終的な条文の姿をイメージしながら、より掘り下げた議論をしていければと考えております。慎重に、一歩一歩議論を進めて、やがて一定の結論に至ることを目指さなければなりませんので、委員・幹事の皆様には、時には小異を捨てて大同につくこともお願いしつつ、なるべく多くの方々に賛成していただける成案を得ることを目指したいと思います。御協力いただければ幸いです。   本日配布された資料は、各諮問事項についての考えられる複数の選択肢の案とそれに関連する検討課題が整理されておりますので、これを使いながら、被害の実態をきちんと踏まえているかどうか、理論的に矛盾なく説明できるかどうかといった点をめぐって、建設的かつ効率的な議論を行うことができればと考えております。   御発言いただくに当たっては、資料に記載されている案のうちいずれを支持するか、あるいは、いずれの案も支持できないといった結論だけではなく、その理論的根拠、支持する案の検討課題を乗り越えるための方法や他の案の理論的難点などについても、具体的に御指摘いただければ、議論が更に深まるかと思います。   本日は、諮問に掲げられた事項のうち、「第一の一」から「第一の五」までについて御議論いただき、次回は、本日時間切れになり積み残しとなった事項が出てくれば、その事項を検討するほか、「第一の六」、「第二」及び「第三」について議論ができればと思っております。   本日、御議論いただく項目の順序ですけれども、まず、「第一」のうち、「一」から「三」までについて、それぞれ御議論いただいた後、時間の都合も考慮して、既に議論がかなり深まっていると思われる「五」を先に御議論いただき、その後、「四」について、できるところまで御議論いただきたいと思います。   限られた時間の中で、できるだけ多くの委員・幹事の方に御発言いただけるよう、ほかの委員・幹事の方が既に述べられた意見については、それに賛成であれば適宜それを引用するなどして、重複を避けつつ、御発言いただければ幸いです。御協力をお願いしたいと思います。   本日の進行における時間の目安については、諮問事項の「第一の一」について70分程度御議論いただいた後、午後2時15分頃から10分程度、1回目の休憩をとり、その後、諮問事項の「第一の二」について50分程度、「第一の三」について40分程度、それぞれ御議論いただいた後、午後4時少し前頃から10分程度、2回目の休憩をとり、その後、諮問事項の「第一の五」について5分程度、「第一の四」について40分程度御議論いただきたいと考えております。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。   予定している時間については、その都度申し上げますので、御協力をお願いいたします。   それでは、初めに、「第一の一」の「刑法第百七十六条前段及び百七十七条前段に規定する暴行及び脅迫の要件並びに同法第百七十八条に規定する心神喪失及び抗拒不能の要件を改正すること」について御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から、配布資料11の内容について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料11について御説明いたします。   1枚目の二つの枠内を御覧ください。   ここには、規定イメージの案として、性交等の手段や被害者の状態を列挙した上で、「その他意思に反して」との包括的な要件を設けるA-1案、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」との包括的な要件を設けるA-2案を記載しています。   その上で、これらの案に共通する検討課題として、処罰範囲の外延が明確か、安定的な運用に資するか、処罰されるべき行為が適切に捕捉され、かつ、処罰されるべきでない行為が適切に除外されているかといった点を掲げているほか、例示列挙事由をどのようなものとするかについて、これまでの御議論で示された主なものを「(例)」として記載しています。   次に、2枚目の枠内を御覧ください。   ここには、B案として、刑法177条、178条を改正するのではなく、これらの規定より法定刑の低い新たな規定を設けることとする案を記載しています。   その上で、B案の検討課題として、新たに処罰対象とすべき場合として、どのような実態があり、その理論的根拠についてどのように考えるか、強制性交等罪が成立する場合との区別の明確性に問題はないか、法定刑をどのようなものとするかといった点を掲げています。   配布資料11の御説明は、以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容に関して、何か御質問はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、議論を行いたいと思います。   御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いしたいと思います。   この諮問事項については、最大で70分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 どのような文言になるにせよ、被害者側として実現してほしい内容についてお伝えします。   全ての人の性的自己決定権、性の尊厳が守られることが何よりも重要なことであり、そのために性的同意が理解された法改正を望んでいます。A-1案の「その他意思に反して」にせよ、A-2案の「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」にせよ、断っても断っても聞き入れられず性交が行われること、ノーと言えない人への性的同意の押し付け、本人の弱点に付け込んで性的行為に同意させること、性的同意の選択のための重要な情報が提示されていないこと、また、一度同意しても、自分が想定しない性的行為を相手がし始めたときには中断することができ、その中断が聞き入れられなかったら性的自己決定権が侵害されたと捉えてほしいと思います。AVへの出演強要などの場合、「グラビアアイドルになれる」と勧誘し、レッスン代などで縛り、出演に同意せざるを得ない状況に追い込む心理操作を行っていくこともあります。そのような弱みに付け込んでいくような手口も、性的自己決定権の侵害として評価してほしいと思います。   その際に、誰がどのように性的自己決定権、性の尊厳が侵害された状態であるかを判断するのかということについては、非常に不安を感じています。これまでも、被害者の意思に反して行う性交等は規定の対象であると言われてきましたが、運用により「当てはまらない」と排除されてきた経緯を知っているからです。また、被害者の行動の自然さ、不自然さの判断が、精神医学・心理学的なエビデンスを用いてされてこなかったという指摘もあります。被害を受けたことのない人の常識ではなく、エビデンスに基づいて判断してほしいと思います。   性的自己決定権を真に保障しようとするのならば、一般社団法人Springの要望書にもありますが、「自発的・任意に参加していない者に対する性交」という概念を含んだ「Yes means Yes」型の規定とするべきだと思います。それは、被害者側が同意がなかったことの証明をしなくてはいけないのではなく、加害者側が同意があったことの証明をしないといけないと転換されるからであり、加害者側の行為の責任を問うことができるからです。虐待的な家庭環境や過去の性被害により、合理的に自分を守るような判断をすることが難しい人は、再被害を受けることがよくあります。そのような状況も、「自発的・任意に参加していない者に対する性交」であれば捉えられると思います。   ただ、司法実務に関わる様々な方の御意見もお聴きしたところ、一足飛びの転換は難しいのかなと思うところもございます。将来の目標を「自発的若しくは任意の参加」と「Yes means Yes」に置いた上で、現在のA-1案についてお伝えしますと、同意のない性行為を表現する文言としては、「その他意思に反して」は、私たちにとっては分かりやすいのですけれども、曖昧であるとも言われます。A-2案の、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」は、被害者に抵抗する義務を要求しないということでお考えいただきましたけれども、本当にそのような運用がされるのかは不安なところもあります。「同意の意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」という規定とすることも考えられますでしょうか。   ただ、配布資料11に「①」から「⑧」までの例示があり、包括的要件が示されれば、性的自己決定権が守られない社会の仕組みによってこれまで排除されてきた人たちも救われると思います。例示列挙については、処罰の範囲が議論の対象となると思いますが、「②」の「心身の障害」には、手帳を持っている人たちだけではなく、境界知能の人や発達障害の特性を利用された人も含めてほしいと思います。また、先に薬物を与え、嗜癖を起こさせて依存状態にさせてからの同意も、「③」の「睡眠、アルコール・薬物の影響」か、「⑤」の「継続的な虐待」で捉えてほしいと思います。「⑦」の「重大な不利益の憂慮」については、利益を与えると示唆されたときも当てはまるようにしてほしいと思います。例えば、昇進させるということを言われた場合でも、そのような人事決定権を持つ者は不利益を与えることもできますから、昇進させると言われたことで性交に同意したと評価するのではなく、そもそも仕事上の評価と関係ないところで性交を持ち出してきた上で、人事権を持つことでプレッシャーを掛けていることを評価して、処罰対象に入ると考えてほしいと思います。   最後に、規定の罪名についてお伝えさせていただきます。被害の本質としては、本人が同意していないのに無理やりに性交等をされ、身体の境界線を侵害されることが重大な被害となります。性的な暴行であり、「性的侵襲罪」という表現が適切かもしれません。少なくとも、「強制」というのは適切ではないと思います。強制されたという認識が持てない人もいますので、意思の形成・表明・実現が困難な状態も含むのであれば、「不同意性交等罪」が適切なのではないかと思っております。 ○小島委員 私は、第3回の会議において、「177条は強制作用に着目した規定であり、178条は被害者の状態の不適切利用であって、処罰根拠が違うから、二つの条文は分けておいた方がいいのではないか」と申し上げましたが、今回のA-1案もA-2案も、一緒の条文に統合する案だと思いました。   この点についてはさて置きまして、A-1案とA-2案について意見を申し上げたいと思います。私は、A-1案の立場から意見を申し上げます。このA-1案とA-2案というのは、少し分かりにくいのですけれども、全く違うものだと思っております。どう違うかというと、包括要件と個別事由の関係が異なっているということです。   つまり、A-1案は、個別事由に該当すれば強制性交等罪が成立するというものです。A-1案を見ていただきたいのですけれども、「次の事由により、・・・性交等をした者は」となっております。個別事由として何を挙げるかについては、いかなる処罰根拠に基づいていかなる場合に処罰するかということが重要でして、この案は、個別事由に該当すればそれだけでアウトという趣旨だと理解しております。包括文言である、「その他意思に反して」に該当する事由については、現在、個別事由のうち処罰すべきかどうか議論が分かれているものについて、将来コンセンサスが得られた場合、例えば判例法の発展により処罰されるようになった場合には、「その他」で捕捉する、そういう意味では、このA-1案は、個別事由プラス包括要件の案でございます。   これに対して、A-2案は、「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」と規定しています。そうしますと、個別事由に該当しても、拒絶が困難でないと強制性交等罪は成立しないと読めました。この点について、性犯罪に関する刑事法検討会の取りまとめでは、列挙された手段、状態の実質的意味を示す包括要件を設けるか検討するとされていました。性犯罪に関する刑事法検討会で、座長は、個別事由は不同意とイコールではないと、解釈の指針として包括要件を設けると指摘されておりまして、これを踏まえますと、包括要件は、個別事由に該当しても不同意性交と認められない事例を除外するものであると考えられます。そうすると、個別事由に何を盛り込むかということは余り重要ではない、最終的に、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難だという解釈をすることが大事であって、個別事由にはあまり重きを置かない案ではないかと思いました。   A-2案について、私は、処罰を左右する基本的発想、処罰根拠を明確にするという観点について問題があると思いました。そういう意味で、A-1案が妥当であると考えます。A-2案は、「拒絶の意思を形成・表明・実現することが困難」という文言が果たして何を意味しているのかが余り明確ではないし、個別事由を作る指針になるのかどうか疑問がございます。しかも、先ほど山本委員がおっしゃったように、「拒絶する意思」というのは、女性に性的行為を拒絶する義務があるというような発想をもたらすものであり、被害者が「なぜ拒絶しなかったのか」と警察官に聴かれてしまうのではないかと思うのです。A-2案は、個別事由として、ここに書いてあるものを載せるのだと思うのですけれども、この個別事由が、どういう理由で犯罪性を裏付けるのかを表現できていないのではないかと思います。   A-1案について、個別事由を列挙すると、177条型、つまり、刑法177条の基礎にある強制作用に着目したものと、178条型、つまり、刑法178条の基礎にある脆弱な状態への付け込み、被害者の状態の不適切利用に着目したものという二つの大きな発想があると思います。そして、これ以外に地位関係利用型というのがあって、これには177条型、178条型の両面があるので、独立させ、さらに、欺罔・錯誤は独立性が高いので別にする。そうすると、どういう個別事由になるかというと、4項目ございまして、①として、暴行・脅迫、威力・威迫、不意打ち、逮捕・監禁と、強制作用に着目した規定、それから、②として、被害者の状態の不適切利用、すなわち、身体又は精神の障害、身体拘束、意識障害・睡眠・酩酊・薬物の影響、継続的虐待、恐怖・驚愕による脆弱な状態に乗じた場合、③として、地位利用ということで、教育・スポーツ・業務・医療・宗教その他の権力を有し又は信頼を得る地位の濫用、④として、行為者の同一性又は行為の法的性質についての欺罔というものを考えればいいのではないかと思います。   「意識障害」というのは、小西委員が前回、「人の無意識」という言葉を使うことは問題なのではないかとおっしゃったので、「意識障害」という言葉にしました。それから、「脆弱な状態に乗じた」という文言については、前回、長谷川幹事がおっしゃった、「性に関する意思形成、意思伝達又は意思に従った体の制御が困難な状態に乗じた」と言い換えることもできるかと思います。   配布資料11には、個別事由として「重大な不利益の憂慮」が地位利用型で入っておりますが、地位関係利用型の基本的視点としては、「服従心が形成されやすい、つまり、言いなりになりやすい」、「無防備になりやすい」という点から類型を設けているのではないかと思います。今回、未成年者、障害を有する者及びこれ以外の者が被害者になる場合について、諮問事項「第一の三」で出てきますけれども、「重大な不利益の憂慮」というのは、この地位関係利用型に代わるもので、これを刑法177条、178条に入れるものだと思われます。「重大な不利益の憂慮」という表現は、地位関係利用型の悪質性から少しずれているのではないかと思われます。雇用関係での不当な働き掛けを処罰する、これが含まれるという点はありがたいと思いますが、「重大な不利益の憂慮」以外でも不当な地位利用はあると思います。例えば、医師について、治療での不利益を受ける以外の地位利用があるのではないかと思います。   また、先ほど山本委員がおっしゃったように、利益誘導型、つまり、採用・昇格・単位等を餌にして関係を迫るような場合について、「重大な不利益の憂慮」から除かれるのではないかと思うので、そういう意味では少しこの表現は検討した方がよいと思いました。 ○井田部会長 A-1案とA-2案を比較して、A-1案の方がベターだというお立場で、列挙事由をもう少し詳しく書き込んで、それに当たれば直ちに犯罪が成立するようなものにするべきだと、こういうお考えであったと思います。 ○佐伯委員 ただ今、小島委員から、A-1案とA-2案を比較されて、A-1案の方が妥当ではないかという御意見があったわけですけれども、私は、むしろA-2案の方が妥当ではないかという意見を申し上げたいと思います。   A-1案の、「次の事由により、その他意思に反して」という規定の「その他」という文言は、通常、列挙事由とその他の後の文言が並列関係にある場合に用いられるものですので、列挙事由が例示によって包括的な要件を限定するという機能を果たさないのではないかという疑問があります。したがって、A-1案においては、結局のところ、列挙されている具体的な事由とは並列の、これによって限定されないものとして「被害者の意思に反する」ということが要件となり、そうすると、性犯罪に関する刑事法検討会でも問題点が指摘されていましたように、人の心理状態や意思決定の過程には様々なものがあり得る中で、人の内心の意思を直接に問題にすることになり、いかなる場合に処罰されるかが明確であるといえるのか、安定的な運用に資するのかという点に疑問が残るように思われます。   これに対して、A-2案の、「次の事由その他の事由により」という規定の「その他の事由」という文言は、通常、列挙されている具体的な事由が例示となって、その他の事由を限定するために用いられるものですので、具体的事由が「その他の事由」を限定し、明確化することになります。また、A-2案の包括的な要件は、人の内心の意思そのものを要件とするのではなく、拒絶の意思の形成・表明・実現が困難というものであり、その状態にあったかどうかが客観的、外形的に判断可能であるといえると考えられます。   ただ今、小島委員からは、「このような包括要件を設けると拒絶義務を課すことになってしまうのではないか」という御懸念もあったわけですけれども、単に拒絶することが困難であるという規定ではなく、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難である」と具体的に書かれておりますので、そのような御懸念は当たらないのではないかと私は思っております。   したがって、処罰範囲を明確にすることができ、安定的な運用にも資するという点で、私は、A-1案よりはA-2案のような要件の規定ぶりの方が望ましいのではないかと考えております。 ○井田部会長 A-1案の難点といいますか、問題点を示してくださり、A-2案の方が望ましいのではないかという御意見であったかと思われます。 ○橋爪委員 小島委員に一点質問させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。   小島委員の御理解ですと、A-1案は「次の事由」により性交等した場合を全て処罰するわけですから、「次の事由」に該当すれば常に性犯罪を構成することになります。そうしますと、「次の事由」というのは、それに該当する場合には必然的に意思に反する性行為を構成する事情であって、したがって十分に当罰的な行為のみが「次の事由」に該当することになると思われます。   そうしますと、配布資料11の「①」から「⑧」についても文言どおり形式的に解釈・適用することは困難であり、自由な意思決定が観念できないような場合として限定的に解釈しなければ、A-1案は正当化できないように思われます。例えば、「②」の「心身の障害」につきましても、先ほど山本委員から御提案がありましたようなグレーゾーンを含むような趣旨で解釈することは恐らく困難であって、およそ自由な意思決定ができないような障害として限定的に解釈しなければ、A-1案は正当化できないように思うのですが、そのような理解でよいのか、御意見を頂けますと幸いです。 ○小島委員 今の橋爪委員の質問にお答えする前に、佐伯委員の質問に先にお答えしてもよろしいでしょうか。   佐伯委員の御質問は、「その他」というのは結局、不明確なのではないかということだと思うのですが、「その他」にただ丸投げで意思に反する事由を全て入れるということを申し上げているわけではなく、もしそういう御心配があるのであれば、「個別事由に類する事由によって、被害者の意思に反して」という趣旨の文言を入れてもいいと思います。つまり、個別事由というのは、「その他」の事由との関連でいうと、それに類する事由というような言い方もできるのではないかと考えます。将来の判例法の発展と申し上げましたけれども、この個別事由をきちんと細かく入れることによって、処罰根拠も明らかになることを踏まえ、それらの処罰根拠や個別事由に類するような「その他」の事由という趣旨で申し上げたのであって、内心の意思に反するものを全て丸投げでここに入れるというわけではございません。   それから、橋爪委員の御質問ですけれども、私の提案は、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」といっても、その内容がそれほど明確なのかという疑問です。つまり、個別の事案でこの要件をもって判断できるのだろうかと。それほどこの要件が明確なものといえるのでしょうかということです。それよりも、むしろ、個別事由について処罰根拠を明らかに挙げることによって処罰していった方が明確なのではないかと思います。   そして、先ほどの橋爪委員からの御質問に答えると、個別事由について一発アウトになるのかどうかについて意見を詰めていかなくてはいけないと考えており、このような個別事由では一発アウトにはならないということであれば、個別事由から抜いていくことになると思います。ですから、個別事由について厳密に議論していって、一つずつ、処罰要件との関係で、こういう根拠に基づいてこういうことを処罰するのだということを厳密に言っていかなければならないと思います。結局、A-2案は、「拒絶の意思を形成・表明・実現することが困難」という、はっきりしたことを言っているように見えるのですけれども、これは一般条項ですから、この条項による処罰の対象となるかどうかがそれほど分かるのかなという疑問です。先ほど橋爪委員がおっしゃったように、例えば、「心身の障害」といっても、どこまでを指すのかが分からないではないかと、そのとおりなのですけれども、精神の障害、身体拘束、意識障害、睡眠、酩酊、薬物の影響、継続的虐待、恐怖・驚愕による脆弱な状態と、具体的な文言を申し上げましたけれども、これらについては、個別事由と被害者の状態の不適切理由のワンセットで、この表現を組み合わせて、処罰しましょうということです。「脆弱な状態に乗じた場合」というのが分からないというのであれば、ここに、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」ではなくて、「性に関する意思形成、意思伝達又は意思に従った体の制御が困難な場合に乗じて」といった、個別事由と被害者の状態の不適切利用について更に詳しく言う文言に入れ替えることによって解決できるのではないかと考えています。   個別事由についてもう少し処罰根拠と表現の関係を詰めて載せた方がいいのではないかと考えています。 ○井田部会長 恐らく、論点が二つあると思うのです。一つは、包括的要件と例示列挙事由の関係をどう考えるか、です。配布資料11に列挙事由の例が並んでいますけれども、必ずしもこういうふうに並べるという趣旨ではもちろんなくて、更に書き込んでいくことが必要になると思うのですが、いずれにしても、包括的要件をどのようなものにして、また、例示列挙事由をどのようなものにして、その関係をどう捉えるかということが一つの論点だと思います。そして、もう一つは、その包括要件をどういうものにするかということであり、それは、一方では意思に反してということ、他方では拒絶の意思を形成・表明・実現することが困難であること、この二つがあって、どちらの方がベターかということかと思います。まずは、包括的要件を何にするのが一番よいのかを決めた上で、例示列挙との関係をどう考えるかを検討する、というような形で少し整理して議論する方が分かりやすいのかなと私自身は感じたところです。 ○橋爪委員 部会長のおまとめのとおりだと思います。要するに、「次の事由」を、A-1案のように、一発アウトになる事由として限定的に考えた上で、それに該当すれば正に一発アウトで、それだけで直ちに犯罪を構成すると考えるのか、あるいは、A-2案のように、事由についてはかなり幅広に、広くこれを捉えた上で、いわば中間的な要件として、「拒絶する意思の形成・表明・実現」のところで実質的に絞り込んで処罰範囲を画するかというところが重要な問題であるように思いました。 ○田中委員 先ほど部会長がまとめられました論点のうち、後半の方の、包括的な要件の在り方について、検察実務の立場から意見を申し述べさせていただきたいと思います。   性犯罪に関する刑事法検討会を含めたこれまでの議論では、現行法の暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件について、解釈によって幅広く適用できるとの意見がある一方で、解釈・適用にばらつきがあるという指摘もなされているところ、これらの要件を改正して、「意思に反する」といった要件にしたとしても、「意思に反する」というだけでは、結局のところ、内心のみが問題となってしまい、どのような行為が処罰されるかが明らかでないため、運用にばらつきが生じるおそれがあるように思われます。このことは、列挙事由を規定した上で、「意思に反する」といった包括的な要件を定める場合においても同じではないかと思われます。   実務において、安定した解釈・適用ができるようにするためには、被害者の内心のみに着目した要件ではなく、客観的・外形的な要素に着目した要件とする方が適当であると思われ、そのような観点から検討を進めることが望ましいのではないかと思っております。 ○井田部会長 検察実務のお立場から、行為者の内心のみに注目したような要件よりは、客観的・外形的要素に着目した要件の方がベターだと、こういう御発言だったと思われました。 ○齋藤委員 「その他意思に反して」なのか、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」なのかということについて、「拒絶する」と付いていることについていろいろ懸念があるので、それは後に述べるとしまして、「意思の形成・表明・実現することが困難」と表現された場合、心理の立場から見ると、例えば、ドメスティック・バイオレンスなどでイエスと言わされている状態について、従前の暴力的な関係によって拒絶することができなかった、あるいは不同意という意思を形成できなかったと考えられるので、含まれると考えています。しかし、そのように司法の皆様が受け取っているのかということを少し疑問に思っています。ノーはノーと捉えられる、その上で、本当にイエスと言っているわけではないイエスについても、ノーという意思の形成ができない状態を証明できれば捉えられる可能性がある、「No means No」よりも広い意味と考えられるのであれば、「意思の形成・表明・実現することが困難」でもよいと考えます。   ただし、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」のA-2案については、二点、今までも出ていることですが、懸念があります。やはり、これまでと同じように、暴力はあったけれども拒絶する意思の形成が困難になる程度ではないといったような、同じ問題が繰り返されるのではないか、障害があっても、不意打ちの状態であっても、拒絶する意思の形成も表明もできたでしょうと言われかねないことを大変危惧しています。また、一般の方々に、これまでと何も変わらず、被害者に抵抗や拒絶を求めているではないかという思いが生じることも懸念しております。加害者のどのような行為が人の意思の形成を妨げるのか、表明を妨げるのか、実現を困難にするのかについて、被害を受けていない方たちの社会通念といったようなことではなく、被害を受けた人の目線で積み上げられた研究や臨床治験を基に考えるようにということをお願いしたいと思っています。   なお、例示列挙で今挙がっているものについても、少し考えるところを述べさせていただければと思います。「⑤」の「虐待」ですけれども、これは子供を指しているのかどうかということは大事な点だと思いまして、大人であっても、ドメスティック・バイオレンスやIPVなどの継続的な暴力は、それこそ、人の拒絶の意思の形成を困難にする最たるものです。それをきちんと捉えられるように検討いただきたいです。また、「何もしない」と言って密室に連れ込んで突然性交を迫るという場合に、不意打ちや恐怖・驚愕、困難が利用されていると思われ、その被害を受ける人の判断能力を奪っている、意思の形成や表明を妨げているということになると考えられますが、そうした理解で大丈夫でしょうか。「⑦」の「重大な不利益の憂慮」というものの「重大」に関しても、すごく難しいと思っていまして、例えば、17歳、18歳の子供が教師から性交を迫られたときに、進路が妨げられるかもしれないと思わされるとか、フリーランスの方が雇用側から性交を要求されて、断ったら雇用がなくなるかもしれないと思わされる場合などありますが、何が「重大」なのかということを、社会通念ではなく、被害を受けた人の思考のプロセスや、加害者がそれまで被害者にどのような会話を行っていたかといったような行為面から、きちんと捉えられるようにしていただきたいと思っております。 ○井田部会長 A-2案について、被害の実態あるいは被害者の側の立場を考えた上で、更に明確化すべき解釈論上の問題としてどのようなものがあるかということについて、御指摘いただいたと理解いたしました。 ○中川委員 大きく分けて二つ、話をしたいと思います。   まず一つは、明確性の点です。A-1案、A-2案に共通して、例示列挙事由について申し上げます。配布資料11のたたき台に記載されている列挙事由のうち、例えば「④」の「不意打ち」、「⑦」の「重大な不利益の憂慮」、「⑧」の「偽計・欺罔による誤信」など、先ほど小島委員からも御指摘がありましたが、具体的な事実の適用の範囲としては曖昧に見える類型があるかと思います。これまでも、明確性の点は申し上げてきましたが、列挙された事由は、被告人の主観面の対象にもなります。実務上は、被告人の主観をめぐって争いが生じることも少なくありません。改めて、明確性の観点からの検討の必要性を指摘させていただきたいと思います。   また、個々の列挙事由の相互の関係性についても意識する必要があるように思われます。たたき台に記載されている列挙事由は、被告人の行為と被害者側の状態が混在する形で挙げられていますが、これまでは、実務上、判例を踏まえて、強制性交等罪の暴行・脅迫といえるかどうかという点を、被害者が暴行・脅迫等によって受ける恐怖や驚愕等の精神状態も含めて判断をしてきました。そうすると、例えば、被告人が被害者に対して暴行・脅迫を用いて性交等に及んだ場合は、「①」の「暴行・脅迫」と「⑥」の「恐怖・驚愕・困惑」の双方に該当するように思われますし、反対に、「⑥」の「恐怖・驚愕・困惑」やほかの状態で拒絶する意思の表明などが困難な状態に陥った被害者と性交等に及んだ場合も、被害者と性交等に至るまでの被告人の言動が「①」の「暴行・脅迫」に該当するようにも思われます。そうすると、「⑥」の「恐怖・驚愕・困惑」という類型が単独で問題となる事案としてどのようなものを想定しているのかが、判然としないように思われます。   条文上、類型が明示された場合、実務上は、どの類型の事案であるかが明らかにされた形で審判の対象が設定されます。すなわち、起訴状では公訴事実として記載され、その設定された審判対象をターゲットとして、被告人の争い方、そして裁判所の判断の在り方なども定められていきます。争点を明らかにして実体的真実を追求するという充実した審理判断を行うためには、それぞれの類型が捕捉する範囲を明確にしておく必要があると思われます。これが一点目であります。   二点目は、先ほど井田部会長もおっしゃった、例示列挙事由と包括要件の関係性の点です。A-2案との関係で申し上げます。A-2案だと、例示列挙事由によって「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」であることが要件とされているところ、この例示列挙事由と包括要件の関係性、すなわち、例示列挙事由はこれを満たせば基本的に包括要件を満たすという位置付けのものなのかどうかという点についても整理しておく必要があると思われます。たたき台に示されている「①」から「⑧」の事由を見ますと、この点の位置付けがまちまちな類型が混在しているように思われます。例えば、先ほど橋爪委員がおっしゃいましたが、「②」の「心身の障害」などは広い概念ですので、直ちに包括要件を満たすことにはならないように思われますが、他方で、「⑦」の「重大な不利益の憂慮」という場合は、先ほどの明確性の問題はおくとして、「重大な」といった評価的な文言が入っていることもあって、包括要件を満たすことにつながりやすいようにも思われます。このような例示列挙事由と包括要件の関係性によって、被告人の争い方や、裁判所の判断の在り方も異なることを踏まえますと、先に述べたのと同様に、充実した審理判断を難しくするなど、実務が混乱しないかという点にも留意する必要があるように思われます。 ○井田部会長 裁判実務に携わられている立場から、特に例示列挙事由それぞれについて、このままでは少し曖昧ではないか、また、相互関係も少し整理する必要があるのではないかという点、それから、包括的要件と例示列挙事由の関係についても検討が必要であると、こういう御意見であったと思われました。 ○金杉幹事 私は、基本的には、現状においても当罰性が高いものは適切に処罰されているという立場ですので、積極的に条文を変えることを求めるものではありません。ただ、もし変えるのであれば、現状で捕捉されていないものを処罰するということになるから、法定刑が一段階軽い類型を作る方がまだましであろうという意味で、積極的ではないものの、B案であれば検討に値するという意見を申し上げました。ただ、積極的にB案を主張するということではありませんので、A-1案、A-2案についての考えを申し上げます。   A-1案につきましては、先ほどから御指摘がありましたように、処罰すべき範囲が明確になるか、つまり、処罰範囲の明確性という観点、また、処罰する範囲がこれまでに比べて広がりすぎる、それを全て法定刑5年以上という重い刑罰で処罰していいのかという問題から、基本的には賛成することはできません。   A-2案についての問題を申し上げます。検討するとすれば、A-2案で、今の処罰範囲が明確になっていない、あるいは、運用にばらつきがあるという問題があるのであれば、それをもう少し明確化できるのかという観点から、今処罰されていない、処罰されるべきでない行為の類型がこのA-2案によって除外できるのかという点についての問題意識を申し上げます。   この包括事由、「次の事由その他の事由により」ということを入れるかどうかなのですけれども、先ほど中川委員から御指摘がありました、配布資料11の「⑥」の問題点については同じ問題意識です。特に「⑦」、「⑧」については、このままこの「⑦」、「⑧」を例示列挙で残す場合、あるいは、例示列挙に挙げないとしても、「その他の事由により」という包括要件がある場合、この「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難である」という要件のみで、処罰すべきでない行為を除外できないと思います。   具体的に言いますと、例えば、「重大な不利益の憂慮」について、確かに「重大な」という文言が付いているので、その点でふるいに掛けられるかもしれないのですけれども、これまでは基本的に当罰性が高いとして処罰されることが少なかった、いわゆるセクハラ事案や、地位・関係性があって、例えば、上司が、断ると仕事を教えてもらえないかもしれないとか、それが「重大な」に当たるかどうかというのはもちろん評価の問題であるのですけれども、そういう不利益を憂慮して性行等に及んだという場合についても処罰されるということになるのではないかという懸念があります。   特に、「偽計・欺罔」については、例えば、お金を払って性交をするという契約、約束で性交をしたのだけれども、お金を払うつもりがないのに、あるいはお金を払う能力がないのに、お金を払いますと言って性交等をしたという場合も、拒絶する意思を形成することが困難であるということはいえると思います。そういう場合に、民事の債務不履行という問題でなく、それが犯罪になるということでよいのか。あるいは、「自分が社長である」、「お金を持っている」、あるいは「交際をする」、「結婚をする」と言うことも「偽計・欺罔による誤信」に当たり得るのではないか、抵抗する意思を形成することが困難ということがいえるのではないかという問題意識もあります。そういたしますと、処罰されるべきでない、当罰性がそれほど高いとはいえない行為がこの条文では適切に除外されないのではないかという問題意識があります。   具体的な提案としては、もしA-2案で行くのであれば、少なくとも「⑦」、「⑧」、更には「⑥」についても、暴行・脅迫なしに、ただ単に恐怖・困惑しているという状況を外部から見て認識できるかどうかという問題もありますので、そういった辺りを除外した上で、もう一つ、「②」の「心身の障害」については少し申し上げたいことがあるのですけれども、それを除外した上で、包括要件なしという形であれば、あり得るのかなと思います。   「心身の障害」につきましては、先ほどからも御指摘がありましたように、特に、知的障害ですとか、障害をそもそも持っている方の性的自由という観点からも、問題があると思います。このままでしたら、例えば、軽度の知的障害のある被害者に対し、施設職員が、性的行為とは直接の関係がない場合であっても、障害について認識をして行為に及んだという場合に、それは、「抵抗・拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」と言われかねません。そうすると、例えば、障害を持った方が自由恋愛で好きな人ができて性交等をしたいということを考えたときに、関係が良いときはいいのですけれども、後から、別れましたというときに、許せないから知的障害を持った方が被告人を訴えて、「いや、本意ではなかったのです」というようなことを言われるといった争いが生じないか、懸念があります。「心身の障害」については、分かるのですけれども、難しい点がありますので、少なくとも、「重大な心身の障害」とか、もう少し限定を掛けるような形でないと、処罰すべきでない行為が混じってくるのかなと思います。 ○井田部会長 基本的に、もし処罰範囲を広げようと考えるのであれば、B案のような類型を設けるべきだけれども、それは積極的に主張するものではないとした上で、A-1案、A-2案、それぞれについて問題を指摘されました。取り分け、A-2案については、例示列挙の書き方、これをもう少ししっかり書き込まないと問題があるのではないかと、こういう御主張であったと思われました。 ○小西委員 私は法律家ではないので、その視点から話させていただきますが、これまで、実際に、裁判の中で、司法関係の方、警察から裁判官まで全ての方に非常にばらつきがあって、rape mythといわれるような偏見をそのまま持っていらっしゃる方もあれば、新しい知識にのっとって判断しようとされている方もいる、その割合がどれくらいかなどは分かりませんけれども、これだけ性犯罪に関して様々な議論がなされている中で、今、曖昧な規定にしてしまうと、どう使われるか分からなくて心配だというのが、法律の素人としては思うところなのです。   A-1案とA-2案の問題というのは、今伺っていて、どちらにも問題があることは分かりましたが、そういう立場からすると、やはり、なるべく具体的に指定してほしいという気持ちがあります。さらに、配布資料11に「①」から「⑧」まで例示が挙がっていますが、これだけではないことは明らかですので、「その他の事由により」というところが保障されないといけないと思っています。   一方で、この「①」から「⑧」のところには、いろいろな問題があると感じているのですけれども、諮問事項「第一の一」のところと「第一の三」の地位・関係性のところは連動していて、どちらで扱っていくかということが余りはっきり示されていないと思うのです。その中で、実際に起こっていることをこの「①」から「⑧」までに落として考えてみると、加害者の行為について判断しているもの、それから、もう一つは、地位・関係性というのは行為ではありませんけれども、地位・関係性の状態とそれを利用するということについて判断しているもの、それから、被害者の脆弱性について判断しているものという三つが、「第一の一」と「第一の三」には含まれているように思うのです。それが余り整理されていないことが、これはどちらでとればいいのかなということを考えさせられるところです。そこは法的に教えていただけたらなと思って、読んでまいりました。   それから、「①」から「⑧」までの全体についても、それぞれがみんなある程度のスペクトラムといいますか、帯状にいろいろなものがあり、さらに、「心身の障害」なんていうのはものすごく幅が広いですから、重大な障害だったら必ず脆弱になる、重大とは何ですかと本当は聞きたいところですけれども、例えば、障害者手帳の1級だったらいいのだみたいな形では、性犯罪に関して考えたときには切り取りにくいものです。そういう点で、どうやって適切にこの「①」から「⑧」までを考えていくか。例えば、「睡眠」だって非常に難しいし、多分、皆さんはむしろ専門ではないから、「アルコール・薬物の影響」といったときの問題というのは余り考えられないかもしれないけれども、酩酊に関しては、責任能力の問題だっていろいろあるわけで、責任能力そのままには考えないとしても、どういうものをどういうように判断していくかというのはなかなか、客観的にマル・バツを付けるのがすごく難しいものです。でも、あえてこういうものを列挙しない限り実際に起こっている犯罪行為を適切に罰せないから、こういうように出しているわけなので、そこのところを、最大限、適切な範囲というのを考えていくことが必要だと思っています。   継続的な虐待といっても、数回性的虐待があったというケースもありますし、それから、もう小さいときからの、本当によくこの人、生きてきたねと感じるような虐待もあれば、大人になって義父が突然来て、それで暴力を振るわれているとか、心理的な暴力を振るわれているとか、そういうものもあるわけで、そういう意味では「①」から「⑧」まではかっちり決まらなくて、これは当然なのだと思います。そこをやはり精選していくのかなと思います。「⑦」についても、ハラスメントに当たるようなものだけではなくて、よく被害者の方が「殺されると思ったから、死ぬよりはましだと思って、全く抵抗しませんでした」ということを言われますが、そういうものが入ってくるのかなと考えましたけれども、今のお話だとよく分からないという気もしました。   だから、「①」から「⑧」までについては、議論をしながら、でも、具体的に例示しない限り前に進まないというのが私が思うことです。 ○井田部会長 例示列挙事由を更に書き込んでいくときのために、大変貴重な御示唆を与えていただいたと思いました。 ○佐藤(拓)幹事 列挙事由と包括要件の問題について述べさせていただきたいと思います。私は、先ほどの佐伯委員の発言にもありましたように、A-2案が適切であると考えますが、冒頭で橋爪委員と小島委員の議論にありましたように、A-1の案でも問題になるようなことが、同じくA-2案でも問題となるかと思いますので、述べさせていただく次第です。   まず、列挙事由なのですけれども、配布資料11のたたき台に例として挙げられている「①」から「⑧」までの事例については、いろいろ議論はあるかとは思いますが、現行法の下での裁判例等に照らして、列挙事由として十分検討対象になり得るように思われます。ただ、先ほど来、不明確性ですとか、相互関係が不明確だという御指摘がありました。こういった御指摘というのは、正に、A-1案の並立方式には無理があるということの一つの証左になるのではないかと思います。   ただ、A-2案の見解を採ったとしても、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」という包括文言と列挙事由との関係というのが問題になるわけでして、それについては二つの考え方があり得るかと思います。一つは、先ほど来、何度も御指摘があったかと思いますが、列挙事由の方を絞っていって、それに該当すれば直ちに拒絶困難だといえるような書き方にするのが一つの考え方で、もう一つは、列挙事由のところは軽めに規定しておいて、拒絶困難というのはまた別個の要件として考えると、そういうような整理ができるかと思います。   仮に前者の考え方を採るとすると、例えば、列挙事由に「①」のように「暴行」と書くだけで十分なのかという問題がありまして、文言上それを絞っていくかが検討されるべきだと思いますが、過度に絞りすぎますと処罰範囲が狭くなるのではないか、さらに、恐らくよろしくないと思うのは、列挙事由の方を絞り、更に拒絶困難のところでも絞るという二重の絞りが掛かってしまうと、期待されるような処罰範囲の確保ができないという懸念があるかと思います。   二つ目の、入口要件の方を軽くして、拒絶困難ということを中間結果のような形で要求するという考え方は、そうした難点は克服、回避できているのですけれども、先ほど、確か小島委員だったかと思いますが、御懸念されていたように、拒絶困難のところで処罰が排除されてしまうのではないかと、そういう御懸念があるのはごもっともなところで、具体的に、こうした二つ目の考え方を採ったときにどういう事例が処罰範囲から省かれることになるのかということは詰めて考える必要があるのではないかと思います。 ○小島委員 包括事由と、それから個別列挙事由の関係について、明確ではない、「意思に反して」という内心の意思だけで結局カバーすることになるのではないかという御意見があったのですけれども、私としては、個別列挙事由について十分議論して、これは一発アウトだというのを定めた上で、それに類する事由については当面「その他」で捕捉していく、どういうものをどういう処罰根拠で処罰するのかということを明確にしていくことが重要だと考えています。   地位・関係性の利用型も、不同意性交の中では一番重要なところではないかと思います。上司とか先生とか、そういう閉ざされた権力関係で、嫌とは言えない関係性の中で被害が広まっているのではないかと考えます。地位関係性利用型についてはきちんと条文の形にして入れておく必要があるのではないかと考えます。   先ほど提案したように、刑法177条、178条の改正案の中での個別列挙事由として、「教育、スポーツ、業務、雇用、医療又は宗教その他の権力を有し、また信頼を得る地位の濫用」を入れておく必要があります。   先ほど来議論になっております「重大な不利益の憂慮」については、明確ではないと思います。中川委員もおっしゃっていましたし、山本委員もおっしゃっていましたように、利益誘導が入るのかどうかよく分からない。この文言については、もう少し明確にする必要があるのではないかと思いました。「驚愕」ですけれども、これはフリージング、思考停止することをカバーする意味で入れていただいたのではないかと思います。 ○嶋矢幹事 配布資料11に記載のある例示列挙事由のうちの「⑧」について申し上げさせてください。   これまでの議論で様々な意見がございましたが、個人的には、「拒絶の意思を形成・表明・実現」というA-2案が適切であると考えております。拒絶の意思の形成や表明を含んでいることから、拒絶を義務付けているというようなことには理論的になり得ないのではないかということも一つの理由です。   それを前提に、議論となっております列挙事由のうちの「⑧」、「偽計・欺罔による誤信」について、この「偽計・欺罔」には、様々な態様や程度のものがあり得まして、拒絶困難に直結するものも、拒絶困難とはいえないものもあり得るのではないかと思われます。そして、性犯罪に関する刑事法検討会を含め、これまでの議論にありましたように、例えば、成人に対して婚姻意思を偽って性交した場合などのように、多くの人から見て処罰の対象とすべきでないものや、処罰の対象とすべきかどうかについて現時点では必ずしも意見が一致するとは限らないものも含まれ得るというようになるかと思います。その意味で、どの範囲で処罰対象とするかについては、非常に慎重に検討する必要があると思われます。もちろん、偽計や欺罔を含んでいるけれども「⑧」以外の事由に当たるということもあるかとは思います。「何もしない」とだまして家に連れ込んで性行為を仕掛けるというのは「④」の不意打ち、あるいは「⑥」の驚愕や困惑に当たり得ますし、だまして薬物等を飲ませるのは、それが効きますと「③」に当たるというようなことで、他の事由との関係で処罰すべき場合というのは多くあると思われます。   その上で、純粋に欺罔や誤信としてどのようなものを捉えるべきかについてですけれども、強制性交等罪や強制わいせつ罪は、性的行為を行うかどうか、誰を相手として行うかについての自由な意思決定を保護法益としていると考えられますところ、誤信で問題となる類型のうち、例えば、被害者が行為を医療行為と誤信している場合のように、行為の性的な意味を誤信している場合については、性的行為を行うかどうかの意思決定をするそもそもの前提を欠くことになります。また、被害者が行為の相手方について人違いをしている場合については、行為の実際の相手方と性的行為を行うかどうかについて被害者が正しく判断するそもそもの前提を欠くことになると思われます。そうすると、これらの類型については、性的自由、性的自己決定に対する法益侵害があるということが明らかだと思われます。加えて、これらの類型は、現行法の下でも抗拒不能として刑法178条により処罰の対象となると解されており、当罰性があるということには異論はないと思われるところです。そこで、これらの類型については、要件に該当する場合には直ちに拒絶困難といえる類型として、他の列挙事由とは別に取り扱うというようなことも検討してよいのではないかと思われました。   誤解でなければ、小島委員からの御意見も、出発点は異なりますが、帰結としては同じような御提案を頂いていたのではないかと思われますし、中川委員から示された明確性への御懸念であるとか、金杉幹事が示された、広がりすぎるのではないかという御懸念にも対応できるものではないかと思われます。 ○井田部会長 A-2案がより適切だというお立場から、例示列挙事由の中の錯誤類型の一部、これは小島委員の御提案にもつながるのですけれども、包括的要件の検討なしに当然に当罰的であり、可罰的であるとすべき場合があるのではないかという御意見を述べられたと思いました。貴重な御意見であったと感じました。 ○今井委員 先ほど小西委員のお話を聞いておりまして、配布資料11に例として挙げてある「①」から「⑧」ですね、やはり、それぞれに幅があり、重複しているのだなということを改めて私も理解させていただきました。それが精神医学の知見であるといたしますと、何か重要な当罰的な行為をくくり出して、小島委員の言葉ですと一発アウト類型を出そうと思っても、なかなか困難なことがあると思われますので、A-1案、A-2案通じてなのですけれども、「その他の」という文言を使う法文の形が望ましいと思います。   その上で、仮に、一発アウト類型となるものが少数ではあるけれども存在して、あとは判例法の進展に応じて、「その他意思に反して」という言葉で読むのだということをおっしゃったわけでありますけれども、それは一発アウト類型がだんだんと広がっていくことにどうしても帰着するので、その御趣旨はよく分かるのですけれども、A-2案型がよいだろうと思います。   その上で、両方に共通しているのは、「意思に反する」というのか、あるいは「拒絶意思を形成するのが困難」であったのかというのは、今日の冒頭から皆様がおっしゃっているように、行為者の内面のことなので、客観的に明確な事実によって立証すべきであろうと思います。この点は、田中委員もおっしゃっていたと思います。そうしますと、その両方を合わせて考えるならば、A-2案型がよく、あとは、精神医学の知見と被害者の方の意見をこの場でよく伺った上で、「①」から「⑧」を原型としながら、更にそれを絞り込んでいけるかというところが一番大事なところではないかと思いました。 ○長谷川幹事 私は、処罰範囲を明確にするため、つまり一発アウトというものを明確にするということで、現在考えられ得る、意思に反した当罰性のある類型を網羅して列挙した上で、受皿規定を置くという意味で、A-1案に賛成です。   列挙事由はなかなか作るのが難しいという御意見があるところですけれども、ここはまだ工夫ができるのではないかと思っています。その上で、包括要件ですが、A-1案では「その他意思に反して」としているところ、「性行為等についての意思の決定若しくは伝達又は意思に従った行動に支障があることに乗じて」という要件を提案します。A-2案の包括要件と、性行為について意思を決定して行動するまでのプロセスとして、3段階を設けているというところでは発想が共通していると思います。   A-2案のものと語句について比較していきますと、「拒絶する意思」というのがA-2案なのですが、ここについては、齋藤委員などが懸念されているように、やはり「拒絶の意思」という言葉だと、まだ意に反した性行為を強いられる者は抵抗、拒絶をすることを前提とするようにも解釈し得ます。性犯罪の保護法益が自己決定権、性的自由であることを端的に言うならば、性行為は本来自由意思に基づき行われるべきものであり、性犯罪は、性行為等をするかどうかの意思決定から性行為等を行うまでのプロセスが加害者によって歪まされているものでありますので、拒絶という一定方向に向けられた意思ということではなくて、「性行為等についての意思」とすべきではないかというのが私の意見です。   3段階のプロセスの表現についてですが、A-2案は「形成」「表明」「実現」としているところ、私の意見は「決定」「伝達」「行動」としています。「決定」なのか「形成」なのかという点は、刑事法の領域では、「反対動機形成」の例に見られるように「形成」という言葉がなじみがあり、民事法の領域では判断能力などの文脈では「意思決定」という言葉がなじみがあるということかもしれず、どちらが刑法になじみがあるのかということなのかもしれません。「表明」か「伝達」かについては、例えば、M&Aの契約においては、「表明」という言葉は、「瑕疵ないことを表明する」など、はっきりと示すというような強い意味で用いられることから、A-2案の「表明」が、はっきりした意思を示すことができないというような、例えば小さい弱々しい声で嫌だとは言えても、はっきりとノーと言えないような状態を含む趣旨だということであれば、「表明」の方がより良いのかもしれません。他方、「伝達」には、示すだけではなく伝えるというところも入りますので、この3プロセスを考えるときに、意思を表現するというところに留めるのか、伝えるというところまで入れるのかというのは吟味の対象かなと思って、対案として出しました。あとは、A-2案の「実現」という言葉について、「意思に従った行動」という方がシンプルな感じがしますので、そのような表現をさせていただきました。   あと、A-2案の「困難」という言葉についてですが、「困難」という言葉が現行法上の「暴行・脅迫」要件の解釈である「著しく抵抗を困難にする程度」と同じであるとなると、処罰の明確化のために行っているこの議論が振り出しに戻ってきてしまうことと、判例上、「暴行・脅迫」が、「抵抗が著しく困難」なものよりも緩和されている実態もあると考えますので、「困難」ではなく、「支障」があるという表現をしました。   最後に、A-2案にもある「乗じて」について確認したいと思います。「乗じて」という言葉には、加害者の何がしかの内心や行為を要求するのではないかという懸念が出てくることがあり得るのですが、これは、前回の刑法改正のときに、監護者性交等罪の議論の中で、元々の要綱案が「利用して」であったのを「乗じて」と変えたという経緯があったということを議事録で確認しました。変更の理由は、「利用して」ということでも何がしかの行為を要求するということではなかったのだけれども、「乗じて」と表現を変えることで、それをはっきりさせたというようなことと理解をしています。ですので、A-2案で「乗じて」という言葉を使っていますけれども、これも監護者性交等のときに説明されたのと同じ趣旨なのかということと、あと、今、検察実務、裁判実務で、この「乗じて」ということが特に加害者の行為を必要とするとか、そういうようなことで運用されているのではないという理解でいいのかということだけ、確認させていただければと思います。 ○宮田委員 私は、中川委員が言われたように、行為者の行為そのものなのか、被害者の状態を利用してのものなのかが非常に未整理だと感じております。刑法177条は、暴行・脅迫があることを認識して性交すれば、故意があるということになるわけですが、「①」は非常にそこが明確ですけれども、不意打ちの場合には、不意打ちをしていることを認識するのか、不意打ちをされた被害者が非常に困っている状態、当惑してしまっている状態を利用するのか。故意を形成するためにどのような認識が必要であるのか、中川委員が先ほどおっしゃった、加害者側の主観面に非常に影響があるという御指摘の部分に問題があると感じました。また、特定性の問題については、金杉幹事の方からかなり詳細に発言がありましたので、そちらを引用させていただければと思いますが、さらに、「アルコール・薬物の影響」については、どの程度の酩酊等の薬理作用があればそれが「影響」があるといえるのかというところも、もっと考えなければならないと考えます。   そして、安定的な運用に資するためには、余りに刑が重すぎると、かえって起訴すること、あるいは有罪することに対するちゅうちょが生まれるのではないかと思われるのです。起訴猶予にしてしまえば刑務所に行かなくて済みます。今、刑事の量刑実務は、犯情、つまり、ある犯罪が成立するとき、その犯罪行為自体に酌量の余地がなければ、簡単には執行猶予は付きません。今まで、判例上罰されているのか罰されていないのか、ある件では罰され、ある件では罰されていないというものは、もしかすると、そういった量刑的な面なども配慮されて、処罰されなかった可能性もあることを考える必要があると思っています。   比較法的に見て、例えば、ドイツで下限5年以上のものは、生命や身体に本当に危険を与えるような行為、下限3年のものは、凶器を使用するものや、健康に害を与えるようなものですよね。フィンランドではレイプ罪は4月から4年までで、悪質なレイプでも2年から10年、スウェーデンではレイプ罪は2年から6年で、加害レイプが5年以上ということです。そういう意味で、今の暴行・脅迫要件や抗拒不能要件で解釈に疑義があった原因は、要は、個別の事件で問題にあった案件が、それらに比肩するほどの下限5年で処罰すべき行為に当たるかどうかが微妙だと思うから、犯罪として処罰されなかった、あるいは起訴されなかったのではないか。そして、今回、例示列挙をすることによって、今まで解釈に疑義があるとされていた、ある事件では罰され、ある事件では罰されなかったものについて、適正な範囲を画するというよりも、更に広がってしまう危険はないか、つまり、今までの判決をみれば、案にある個別要件の合わせ技的に有罪としているようなものがあったところを、単体の要件にしてしまうことは、広がることになり得るのではないかと思うのです。そうであるとすれば、せめて、改正前の下限3年にするなど、現行の法定刑について再検討してみる必要があるのではないかというのが私の意見でございます。 ○橋爪委員 本日はここまで、A-1案、A-2案を対比する形で議論が続いておりますが、B案についてもコメントしておきたいと思います。   結論から申しますと、B案を採用することは困難であると考えております。本日も、繰り返し御指摘がございましたけれども、当事者が同意していないにもかかわらず、意思に反して行われる性行為は、被害者の性的自由を侵害する行為であって、性犯罪を構成すべきです。すなわち、性犯罪の処罰の限界は、被害者の有効な同意の有無という観点から一元的に判断すべきであるように思います。そして、この有効な同意をどのような観点から規定すべきかを巡って、正に、A-1案、A-2案として本日、議論されているわけです。   このような前提から申し上げますと、B案の類型については、被害者の同意が認められない事例をカバーしているのか、同意が認められる行為のうち、なお一定の類型について例外的に処罰する趣旨かということが明らかにされていないように思われますが、恐らく前者の趣旨であろうと理解いたしました。しかし、もし前者の趣旨であるならば、被害者の意思に反する性行為でありながら、それを一般の性犯罪よりも軽く罰する合理的な理由は全くないように思います。行為態様が異なっていても、意思に反して性行為が行われたという事実が共通であるならば、同様に処罰すべきであって、あえて減軽類型を設ける合理性はないからです。  恐らく、B案は、A案というのは現行法では処罰されていない類型の行為を新たに処罰するものであり、新たに処罰する類型については減軽類型として規定すべきという前提によるものだと思われますが、その前提自体について疑問があります。すなわち、現行法の解釈におきましても、暴行・脅迫要件や抗拒不能要件は柔軟に解釈する余地がありましたので、本日議論がありました「①」から「⑧」の類型につきましても、現行法でも処罰可能な類型であったという評価は十分にあり得ます。しかし、先ほどから田中委員、小西委員からも御指摘がございましたように、実務における運用にばらつきが生ずるおそれがあったために、それを解消した上で安定的な法適用を図るべく、先ほど述べたような柔軟な実質的解釈を明文の規定で担保しようというのが、A-1案、A-2案の背景にある問題意識であるように理解しております。このような意味において、現行法で処罰されていない行為を新たに処罰する、という評価が直ちに妥当するわけではない点についても確認しておきたいと思います。 ○井田部会長 時間を超過しましたので、「第一の一」についての議論は、本日はこの程度とさせていただきます。例によって簡単にまとめておきたいと思います。   A-1案の方向性に基本的に賛成だという複数の御意見がありましたが、これに対しては、包括的要件である「意思に反して」という要件について、これだけでは明確性、あるいは安定的な運用といったことの関係で問題があるという御指摘が複数あったと思われます。もちろんそれへの反論もございました。   他方、A-2案については、多くの委員・幹事が賛成の意見を述べられたと思いました。包括的要件については基本的に好意的な御意見が多かったように思われました。ただ、例示列挙について、それぞれの内容、それから包括的要件との関係についてはなお詰めるべき点がたくさん残っていること、特に、錯誤類型については他の列挙事由とは少し性質が違うのではないか、別に取り扱うべきなのではないかという御指摘もあったところです。   いずれの御意見も、今後のこの部会における検討、更には意見集約のために非常に有力な手掛かりになると思われます。委員・幹事の皆様には、これらの論点を次に取り上げるときまでに、それぞれ御検討を進めておいていただければと存じます。   以上のように本日の議論をまとめさせていただいた上で、開会から時間も経過しましたので、ここで10分ほど休憩したいと思います。再開は午後2時40分といたします。              (休     憩) ○井田部会長 会議を再開いたします。   それでは、次に、「第一の二」の「刑法第百七十六条後段及び第百七十七条後段に規定する年齢を引き上げること」について御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から配布資料12の内容について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料12について御説明いたします。   1枚目の三つの枠内を御覧ください。   ここには、規定イメージの案として、処罰範囲が広くなるものから順に、対象年齢の上限を16歳とし、処罰対象に含めない例外的な場合は規定しないものとするA案、対象年齢の上限を16歳とした上で、処罰対象に含めない例外的な場合を規定するものとするB案、対象年齢の上限を14歳とするC案を記載しています。   そして、B案については、条文化する際の形式として、本文において、16歳未満の者に対する性交等を処罰するものとした上で、ただし書において、一定の場合を処罰対象から除外する方法と、当初から、本文において、16歳未満の者に対する性交等のうち、一定の場合におけるものを処罰するものとする方法があり得ることから、それぞれB-1案及びB-2案として記載しています。   その上で、全ての案に共通する検討課題として、対象年齢を引き上げる実態的・理論的根拠はどのようなものか、その根拠との関係で引上げ後の対象年齢は合理性を有するか、対象年齢の者同士による行為の可罰性をどのように考えるか、現行の法定刑を維持するか、強制わいせつ罪についても同様に取り扱うものとするかといった点を掲げています。   また、B案の検討課題として、処罰から除外し又は限定すべき場合があるか、どのような場合を除外し又は限定するか、その理論的根拠についてどのように考えるか、処罰から除外し又は限定すべき場合について、その理論的根拠を踏まえ、どのような要素を要件とすることが考えられるかといった点を掲げています。   これまでの御議論では、対象年齢の引上げにより実現しようとすることの実質に着目し、対象年齢の引上げではなく、13歳以上16歳未満の者の脆弱性や未成熟さに付け込むことを処罰する地位・関係性利用類型を新設するといった方向性も示されていたと思われますが、それについては、対象年齢の引上げに関する御議論を踏まえた上で、諮問事項「第一の三」の相手方の脆弱性や地位・関係性の利用を要件とする罪の新設についての検討の際に御議論がなされるよう、配布資料13の検討課題に記載しています。   配布資料12の御説明は、以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容に関して、何か御質問はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、議論を行いたいと思います。   御意見のある方は挙手するなどした上で御発言をお願いします。この論点については、最大で50分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 被害者の認識としても、16歳未満に引き上げて中学生を守ってほしいというのが希望なので、C案には反対します。   A案についてですけれども、16歳未満同士で性交をする子供たちは、ネグレクトや不適切な養育、デートDVなどの影響があり、保護される対象だと思います。私は、16歳未満同士の対等な関係での同意のある性交は難しいと思います。性愛が自立した個人の相互関係によって作られるものだとすると、そのような成長発達段階に至っていないと考えるからです。ただ、とても難しいことではありますけれども、処罰対象であるかということについては、疑問に思うところもあります。A案だと全件送致になりますので、家庭裁判所で話を聴いてもらって大人との関わりを持つことは重要ですけれども、より保護的な仕組みが整えられてほしいということを希望しています。   B-1案とB-2案についてなのですけれども、13歳以上16歳未満の「一定の場合について」がどのようになるのかということが不明確ですので、それを明確にしていただければと思います。その際に、現在対象になっている13歳未満から後退するようなことになるのは不適切だと思いますので、避けていただきたいと思います。例えば、2歳差の要件を設けたときに、14歳が12歳と性交したら処罰対象でなくなるというのは不適切という意味です。たとえ1歳でも、年齢差はプレッシャーになることから、14歳から13歳への性交についても疑問はあります。ノーと言えない状況をやはり作られてしまうと思います。ただ、15歳から13歳では、その影響はより強度になるということも考えられます。もし2歳差という規定を置くことで現状を捉えられるのであれば、そのような規定を置くことも適切なのではないかと思います。 ○小島委員 私は、13歳未満とする現行法を16歳未満まで引き上げるという案に賛成いたします。その根拠と、処罰から除外する根拠について申し上げます。   B案というのは、16歳未満の者に対する性交は当罰性があるということを前提にして、政策的配慮をして、13歳以上16歳未満を一定の場合に処罰から解放するという案だと思います。16歳未満に引き上げる根拠について、判断能力の未熟な青少年を法的に保護するとか、青少年の健全な育成を図るとか、年少者は年上の者に服従してしまいがちだとか、判断能力の浅薄さに付け込まれやすいということがあると思います。それから、何といっても、児童虐待の防止ということがあると思います。児童の性的保護を社会の共有ルールにするのだということで、そういう意味では強いメッセージ性があるものだと思います。児童に対する性的搾取、児童に対する性的道具化の防止ということがあると思います。   基本構造ですが、13歳未満について一律処罰するというルールと、16歳未満について一律処罰するという基本構造は全く同じで、これまでの13歳未満についての一律処罰ルールを16歳未満まで引き上げるということだと考えております。いずれも、児童保護のため、対象者の個々の判断能力には立ち入らないというルールを基本にしております。13歳以上16歳未満は、では何で処罰から除外するのだということですけれども、年齢の近い者同士で、健全育成についてその危険があるとはいえないということ、強制の生じやすさというのが年齢差から起きるということ、判断能力の低さの不当利用も年齢が近いと起きにくいということだと思います。16歳未満で除外規定を設けないと、行為者もその相手方も、14歳以上であれば犯罪が成立してしまいます。   子供たちにNPOの関係で性教育をしている方に聴いたのですけれども、家庭に問題のある子供も、それであればこそ、相手を真剣に求めるということはあるとのことです。中学生同士については除外するべきである、そういう子供たちを両方犯罪にするというのはいかがかと思います。例えば、「僕たちは犯罪になるのか」と聞かれたときに、この線までは犯罪になるけれども、この線は犯罪ではないというような形で明確なルールが必要だと思うので、限定・除外要件については、行為者の年齢要件というのが明確ではないかと思います。年齢差要件だと、先ほど山本委員がおっしゃったように、設定するのが難しく、行為者の年齢要件を挙げるのが明確だと思います。ただし、16歳未満とした場合、初回の年齢が16歳未満なら処罰しないとしておかないと、15歳で付き合っていて、片方が16歳になった途端に駄目というのは妥当ではないので、初回の年齢要件というのも、入れた方がよいと思います。中学生同士は当然、除外するとして、中高生同士をどうするかというのは決断の問題で、私としては、今のところ、除外するのは中学生同士という感じを持っております。   刑法177条前段の強制性交等罪との関係なのですけれども、例えば、13歳の被害者に15歳の加害者が暴行を用いて性交をしたような場合は、刑法177条、178条の新規立法で個別対応するということになります。この点が分からないではないかということであれば、確認規定を入れて、「ただし、他の性犯罪の成立は妨げない」としておけばいいのではないかと思います。 ○井田部会長 基本的にB-1案に御賛成の立場とお聞きしました。 ○北川委員 今、山本委員や小島委員が、一律16歳に引き上げて、一定程度の除外事由を設けるという御意見を述べられました。これに対して、私は、違う観点から、結論を申し上げますと、C案に近い考え方を採っておりますので、なぜそういう考え方に立つのかということを申し上げたいと思います。   私は、この年齢の引上げの検討というのは、現行法体制の見直しとして、現在の刑法の性犯罪と、児童福祉法や各都道府県の淫行条例とのすみ分けや関係性をどう整理するのかといった見直しの議論でもあると思っております。現行法では、性行為に関する判断能力は、13歳未満については一律に否定して13歳未満の者を保護することとし、13歳に達していない者はおよそ性行為の対象としてはならないのに対して、13歳以上の者については性的自己決定権を認めることを前提に、性的な判断能力が発展過程にあって未熟な年齢層に当たる、いわゆる18歳未満の児童、特に今問題とされている13歳から16歳の年代層については、青少年の健全育成の保護の観点から、児童福祉法の児童淫行罪や、いわゆる淫行条例の保護の対象として保護しているわけです。   このような現行法体制の下で児童淫行罪や淫行条例で処罰することと、性的同意ないし保護年齢を見直して刑法で処罰することとした場合の違いということを考えますと、性交等の場合は前者の法定刑が非常に低いので、法定刑の高い刑法犯として処罰すべきなのではないかと、特に13歳から15歳という年齢については、性的判断能力もまだまだ未熟な義務教育に当たる者なのだから保護を厚くすべきという御意見が出てくるのだと捉えております。   さらに、児童淫行罪や淫行条例と性的同意、保護年齢を引き上げての刑法犯の処罰の違いというのは、児童淫行罪の場合には、「淫行させる」に該当するかの判断において、事実上の影響力を利用した性交ないし性交類似行為かという点が考慮され、淫行条例の場合には、淫行という用語の下で単に自己の性欲を満足させるための対象として扱ったかといった行為の悪質性が考慮され、大人による性的搾取を処罰することとなり、児童に対する性的行為一般ではなく、対象行為が限定されています。つまり、特別法犯や条例で規制する現行法体制では法定刑が低いという点で、青少年の健全育成という観点からは保護の不十分さが否めない場合があるかもしれませんが、一方において、相思相愛というか、真摯な恋愛感情に基づく性的行為は処罰の対象から外れている点に留意する必要があると思います。   先ほど、山本委員が16歳未満の対等な恋愛関係の成立は難しいとおっしゃられたこととの関係で悩ましい点はあるのですけれども、仮に、今回、A案やB案のように一律16歳未満の者についての性行為というのはおよそ許されないのだとしてしまうと処罰の対象に含まれてしまうという点が性的同意年齢ないし性的保護年齢の引上げにちゅうちょする一つの理由でございまして、仮に16歳未満に引き上げるというのであれば、この引上げの根拠自体について更に掘り下げた議論が必要であると思います。   今のところ、この年齢の設定の根拠というのは、性的判断能力の有無で説明されているわけですけれども、年齢を引き上げるのであれば、性的判断能力のみを理由にするのではなく、先ほど小島委員や山本委員も指摘されましたように、青少年の健全育成であるとか、将来にわたる心身への影響を勘案した保護目的というものを正面から導入した上で引き上げるのだという整理をすべきであり、16歳未満の者の性的判断能力を否定するという形で整理してしまいますと、仮にB案に立って処罰の除外事由を設けるに当たり、その除外事由の説明が難しいと考えます。   ただ、その上でB案が適当かということを再度考えてみました。年齢を16歳に引き上げた場合には、従来、児童福祉法や条例で対処していたケースについて重く処罰するにとどまらず、先ほど言いましたように、児童淫行罪であれば事実上の影響力の有無というのを考慮していたのが不要となる、あるいは、淫行条例では大人による性的搾取という側面があるか、性的道具という形で未成年者を扱っていなかったかという考慮要素があったのを考慮せずに処罰の対象になります。それゆえ、B案において、どう除外事由を設定すべきか、その適切な設定は可能なのかということを十分に詰める必要があると思うのですけれども、その除外事由を、先ほど挙げられたような中学生同士であるとか年齢差だけにとどめてよいのだろうかという点に疑問を持つわけでございます。むしろ、思春期世代にも当たる年齢の者に対する性的行為を問題にするにあたっては、事実上の影響力であるとか、性的道具として扱われていないという点こそを考慮すべきだと思うのですが、後に議論される地位・関係性利用とか、未成年で脆弱であって、大人のいいように、言われるままになってしまうがゆえの保護の必要性の観点から見直した方がよいと思うわけです。   そうすると、むしろ刑事未成年と同じ14歳未満という区切りを採用して、14歳以上の児童の性的保護の見直しについては、諮問事項「第一の三」の被害者の脆弱性であるとか地位・関係性による類型で対処した方がよろしいのではないかと考える次第です。 ○井田部会長 基本的にC案に御賛成という立場で御説明いただいたと思います。 ○佐藤(陽)幹事 先ほど小島委員と北川委員から年齢を引き上げる理論的根拠に関する御意見が述べられたかと思いますので、私の方からも、これについて幾つか述べさせていただければと思います。   現在の刑法176条後段及び177条後段に関する年齢を、例えば対象年齢と呼ぶとしますけれども、この対象年齢の引上げに関して理論的根拠を検討しようと思った場合には、まず、現行法の対象年齢の趣旨を整理する必要があるのではないかと思います。刑法176条前段及び177条前段の保護法益を、通説的に、性的自由、性的自己決定権であると解し、かつ、近年は児童の健全育成を併せて考慮に入れる見解もありますけれども、一応後段も同じ保護法益で自己決定権を保護しているのだということを前提に考えますと、強制わいせつ罪や強制性交等罪については、次のような説明ができるのではないかと思います。   つまり、13歳以上の者は、基本的には自由な意思決定をすることができるはずなのだけれども、何らかの理由で、それは内在的な理由だったり外在的な理由だったりするわけですが、それが困難な状況にあるときに、わいせつな行為又は性交等をされると法益が侵害されるのに対して、13歳未満の場合には、その年齢ゆえに一般に自由な意思決定をすることが困難だとみなされているため、それらの行為がなされると、すぐに、一律、法益が侵害されるという説明です。   確かに、13歳未満の者であっても、あるいは13歳以上の者であっても、人間は個性がありますから、それぞれ意思決定能力に差はあると思うのですけれども、ここでは、人が年齢を重ねるにつれて精神的に成熟していって、一定年齢以上になると有効な自由な意思決定をするための能力が備わるのだということを前提にして、刑事政策的に、その年齢が一律13歳に定められたと考えることができるのだと思われます。   この「13歳」という年齢を引き上げるとした場合の考え方としては、このような通説的な保護法益に基づく処罰根拠の説明をやめて、新たな処罰根拠に基づく説明を取り入れる方法、例えば、先ほど北川委員もおっしゃいましたけれども、健全育成の視点を取り入れた形で説明するというのが、一つあり得ると思います。ただ、この場合には、北川委員もおっしゃっていたとおり、今まで健全育成を保護する規定の場合には、いろいろな制約をした上で「10年以下の有期懲役」となっていたものが、いきなりそういう制約を取り払って、「5年以上の有期懲役」という重い処罰になることになりますので、この点で少し飛躍があるように思われます。そうだとすると、極力、これまでと同じように、性的自由や性的自己決定権という保護法益が侵害されるのだということを前提に説明をした方がいいのではないかと思います。   そこで、性的自己決定権を根拠にして年齢を引き上げることができるかについて考えますと、自由な意思決定をするのに必要な能力は、論理的に何歳だと定まるものではなくて、社会情勢も踏まえて刑事政策的に決するものだと思われますから、どのような能力が必要とされるべきかという、能力の内実を改めて整理し直した上で、一般に何歳に達すればその能力が備わると言えるかという観点から、検討することができるのではないかと思います。   では、その能力の内実は何かというのを更に考えますと、まず、性的な事項に関する認識や理解がなければ自由な意思決定をする前提を欠くのだという観点から、これまでの議論の中で指摘されているとおり、行為の性的な意味を認識する能力や行為が自己に及ぼす影響を理解する能力といったものがその内実になると思われます。また、例えば、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに対処することができなければ、相手方からの影響力の作用を適切に排除しながら自分で決定するということが難しくなると考えますので、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに的確に対処する能力といったようなものもその内実として考えられるのではないかと、現在考えているところです。そういった能力の内実を手掛かりにして、改めて年齢は何歳だろうかと考えていく作業を進めるというのが、一つの手段として有効ではないかと思うところです。では、一体何歳なのかと言われると、皆様の御意見を聴きたいと思っているところですので、よろしくお願いします。 ○井田部会長 対象年齢の引上げということを検討するに当たっては、現行法の対象年齢の趣旨を理解、整理する必要があるという、極めて真っ当な御意見を述べられました。そして、有効に自由な意思決定をする能力には、従来言われてきた、行為の性的な意味を認識する能力と、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力だけではなくて、さらに、性的行為に向けた相手方からの働き掛けに的確に対処していく、そういう能力が考えられるということをおっしゃいました。大変示唆に富むお考えだったのではないかと思います。 ○長谷川幹事 私は、まず、年齢は16歳に引き上げるべきという意見です。これについての根拠は、先回、長々述べましたので、繰り返しません。基本的には今おっしゃられたことに近いものであったかと思います。その上で、例外を設けるかどうかという点についてお話をしたいと思います。   この件については、結構悩みがありますので、子供の支援をしている弁護士や被害者の支援をしている弁護士に意見を聴いてみました。子供の支援をしている弁護士は、除外を設ける、設けない、両説あるというところでした。被害者の支援をしている弁護士は、例外を設けないという考えの人が圧倒的に多かったという状況でした。それを踏まえて例外を設けることで懸念されることや、例外を設けなくても構わないのではないかという理由などを述べさせていただきたいと思います。   まず、子供の支援をしている方、子どもの実際をよく御存じの方からの意見だったのですが、現行法の13歳未満の場面においても子供同士の事例は生じていて、小学生同士というのもありますし、小学生と中学生のものもある。その中には、真剣交際といわれているものもあるということでした。小学生と中学生の場合、中学生の側は、14歳以上であれば法律上は処罰の対象になっているわけです。16歳未満に引き上げられた場合の中学生同士の事例というのは、現行法下の12歳と15歳の場合と同じですので、中学生同士の場合がどうかという問題は、年齢を引き上げた場合に固有の問題ではなく、現在、そういった小学生同士の事例や小学生と中学生の事例がどのように処遇されているのかということも考えて、絶対に例外を設けないと不適切なことになるのかどうかということを考える必要があるのではないかというような指摘がありました。   また、真摯な真剣交際がありますというお話ですが、これは、山本委員がおっしゃったように、真摯な恋愛に見えて、その背景に、子供への虐待、性虐待などの生育環境上の問題がある場合があり、児童相談所や家庭裁判所が関与することで、問題の発覚や解決に向けた保護につながることもあるという評価もありました。   それから、性加害者の再犯率は高いというのは知られているところですが、再犯防止も重要な課題となっています。性加害者の犯行はエスカレートしていく傾向があるというのも、被害者支援をする中で、加害者のそれまでの犯罪歴などを見て実感するところなのですが、そういうことを踏まえると、早期に治療につなげるというのは大事であるということがあります。   さらに、被害者支援をする側として重要なものとして意見が出されたことなのですが、同年齢同士の例外を設ける場合、そこに該当する者は、まずは未成年性交等の罪からは排除されることになるわけですけれども、同年齢同士の性行為には、三つ、問題として指摘されている類型があります。まず、いじめを背景とするもの、これは、最近はかなり過激なものも発生しています。それから、先輩・後輩の関係を背景に強要するような事例、あとは、一時保護施設や児童福祉施設内でのもの。これらはやはり性的自由に対する重大な法益侵害行為です。例外を設けることによって、改正後の刑法でこれらが適切に捕捉され得るのかというのが懸念事項です。これらが改正によって隙間になってしまうのは、適切ではありません。中学生同士の健全な恋愛を保護するために、本来保護されるべき、被害を受けている子供の保護がされなくなるというのは問題だと思います。隙間がないような法制度を作るというのは、これから制度を作ろうとしている私たち大人の責任であると思います。   ですから、私は、例外規定を設けないという立場で意見を申していますが、仮に例外規定を作るとなった場合には、今言った三つの類型ですね、こういったものが新しく作る、本日の最初の議論の条項、それから、この後、地位・関係性の議論もありますが、こういったその他の条項で捕捉できるように十分留意をしていかなければいけないと思います。 ○井田部会長 基本的にA案の立場に御賛成というお立場だったと思われます。 ○齋藤委員 先ほど、どのような能力というようなお話もあったと思うのですけれども、佐藤陽子幹事もおっしゃっていたことですが、性行為への同意というのが、性行為をどのようにするか分かっているということだけではなく、性行為が自分の心身とか、相手との関係性とか、自分の将来に及ぼす影響を分かった上で、かつ、ノーと言えない強制力とか、対等ではない関係の影響などを受けずに性行為をするかどうかを考えることだと思うのですが、これまでの性犯罪に関する刑事法検討会ですとか、法制審議会部会で、これだけの大人が、不同意の性交等とは何かとか、何が同意で何が不同意なのかが適切に判断されていないからと話し合っているにもかかわらず、14歳、15歳の子供たちが、なぜきちんと同意できると思うのかというのは、なかなか疑問だなと思います。   性犯罪に関する刑事法検討会の第2回会議で、大阪大学の野坂先生が、思春期の性行動を、成熟のあかしというより、ケアを要する行動化として捉えられて、同意能力の未熟さを表す可能性があるとおっしゃっていまして、その意見には心から同意しております。能力という問題で、子供の認知発達という側面から考えてみますと、中学生の年齢の子供たちというのは、一般的に、認知発達の程度で考えると、第三者の視点から自分を見ることができるようになり、また、抽象的な思考をして仮定を立てて先を推測するとか、予測するということができるようになりますが、こうした能力はまだ大分限定的です。思考の幅が広がることで、かえって自分のアイデンティティが揺らいで、自分とは何かを模索し始める年齢でもありまして、親から離れて他者の承認やケアを求めるので、他者から最も利用されやすい年齢であるともいえます。中学生の年齢の子供たちにとって、年齢の差というのはもちろん大きく、先輩には従うものといった上下関係が中学校では結構強く作られていますし、能力差があって、中学生にとっては強制力が働く、2歳とか3歳差の相手でも、同意の能力は制限されるかもしれません。13歳からそういった能力が育ち始めるとはいっても制限されるかもしれませんし、同年齢であっても、相手がクラスの中心人物であるとか、日常的に暴力を振るわれていたとか、そのときに暴力を振るわれていたとか、強制力がそこに存在するならば、やはり同意はゆがめられるだろうと思います。   一方で、対等な関係で、何の強制力も働いていない状態であれば、ある程度の判断というのが、中学生の年齢では可能になるかもしれないとも思います。真摯な恋愛というお話もありましたけれども、恋愛ではなく、今考えているのは性交への同意という話なので、性交への同意という能力が何を基盤としているかということについて、何への賛成意見ということではないのですけれども、一つ、心理からの視点を提示させていただきます。 ○井田部会長 例えば、15歳同士でキスをするとか、それ以上の関係に進むというときに、やはり、それは国家的に介入する必要があるというお考えですか。 ○齋藤委員 例えば、15歳同士であったときに、そこに何があるかということはきちんと理解しなければいけないと思っていて、本当に対等だったのかとか、それとも暴力とか関係性が使われていたのかということで、その行為をした側、行為をされた側の同意がやはりゆがめられる、ゆがめられやすいのではないかということは思ってはいます。ただ、それを、このB-1案、B-2案を含め、どのように規定するとそれらをきちんと全部捉えられるのかということについて、B-1案とB-2案の違いがどうなのかということさえ、理解できているとは言い難いため、意見を伝えることが難しいと思っています。 ○嶋矢幹事 私の方からは、A案に関する意見と、理論的な能力に関する意見を申し述べさせてください。   まず、A案についてなのですが、漏れをなく処罰するという趣旨については理解できるところでありますが、二点、問題があるように思われました。一つは、小島委員御指摘のとおり、処罰をするというのは刑事責任年齢以上の者を対象とすることから、14歳及び15歳の者同士の性交等について、両当事者に強制性交等罪が成立するということになります。また、もう一点、実態として、16歳未満の者と同世代の者との間の性交等が行われている現状があり、年齢が16歳に近い方がその実態があるものと思われ、それにもかかわらず、一律に犯罪が成立するというのは、諮問事項「第一の一」で議論した列挙事由のような不当な手段、状態が利用され、拒絶困難であるという場合はもちろん別の話だとは思うのですが、処罰範囲の相当な拡大になり得るといった問題があるように思われました。   このようなA案の問題を回避すると、C案かB案かということになると思います。もっとも、B案を採った場合には、処罰の除外・限定については、対象年齢を引き上げる理論的根拠との整合性に留意をする必要があると思われます。例えば、対象年齢を引き上げる理由の説明を、先ほど佐藤陽子幹事から御指摘のあった、能力の不足のうち、行為の性的な意味を認識する能力と、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力の不足のみに求めた場合、行為者が誰であろうと、その能力が必要な水準に達していないということには変わりはないため、同年代の者同士の性交等であっても処罰の必要性がなくなることをどのように説明するのかというのは、かなり難しい問題になると思われます。   他方で、対象年齢を引き上げる理論的根拠として、先ほどこれも佐藤陽子幹事から御指摘のありました、対処する能力、そういったものを含めて考えるとすれば、その能力は、行為者が誰であるか、簡単に言えば、年齢の近い者同士であるかそうではないかということによって発揮のされ方が異なるようにも思われるところです。同年代の者同士の性交等については処罰の必要性が減少すると考える余地はあるのではないかと思われました。もっとも、このような考え方で対象年齢を引き上げて処罰の対象とし、その上で、処罰の除外・限定をすることが合理的に説明できるかということについては、法定刑の重さも踏まえつつ、更に検討する必要があると考えられますし、先ほど齋藤委員からお示しいただきました心理学的・精神医学的な知見、そういったものも踏まえながら検討するというようなことも必要なのではないかと思います。 ○井田部会長 処罰の例外を認めないA案については問題があるとされ、B案で例外を設ける際には、対処能力というものに注目する必要があるという御意見だったと思われます。 ○宮田委員 私は、引上げの必要がない、即ち、A案、B案、C案のいずれも採らないという意見です。   13歳という年齢については、小学生は絶対に保護するという意味で非常に明確だと思います。また、先ほど北川委員がおっしゃったように、児童福祉法あるいは青少年保護育成条例といったものもありますし、性的搾取に関しては児童ポルノ法もございます。このようなほかの法律もあり、そこでは、明確に児童の健全育成、あるいは児童の搾取の防止がうたわれておりますので、そちらが広がるならともかく、刑法で、中学生の性交、特に中学生同士の性交までが犯罪の俎上に上ってくることは防ぐべきではないかと考えるものです。   13歳という立法は、ほかにも例があります。例えば、イギリスが13歳だったと思いますし、台湾やカリフォルニア州が10歳だったのではないでしょうか。9歳までである程度の人格が完成するともいわれますから、ある一定の発達という意味では、10歳という立法が全く不合理という批判はできません。10歳という海外の立法があるということも考えると、他国にも例のある13歳未満という規定が著しく不当だとは思わないのです。   私自身は新宿区の公立の学校の出身です。中学生の性交には、もちろん家庭に問題がある場合もあるのでしょうが、その後、結婚して幸せになっている人たちもいます。そういう環境を経験していると、中学生同士の性交をおよそ犯罪にしてしまうような立法には非常に抵抗を感じるところです。 ○金杉幹事 二つの観点から、A案、B案については賛成できず、仮に引上げの必要があるのであれば、C案であるという立場から申し上げます。   一つは、今、宮田委員からも御指摘がありましたけれども、比較法的に見ても16歳未満というのはかなり年齢としては高いということが挙げられます。フランスについては、15歳未満に対する性交等で、かつ年齢差が5歳以上というものが強姦になるということですし、スウェーデンについては、15歳未満の児童との性交等が2年以上6年以下という法定刑で、これは、自発的に参加していない者に対する不同意の性交と同じ法定刑になっています。ドイツでは、14歳未満の児童と18歳以上の者が性交した場合に2年以上ということですし、イギリスでは、今、宮田委員からも御指摘がありましたけれども、13歳未満というのが、性交等が一律に、同意とかそういうことを観念しないで処罰される年齢として挙げられています。16歳未満という提案は、年齢がかなり上がっていますので、5年以上という重い刑罰に科せられるということからしても、やはり高すぎる、飛躍がありすぎるのではないかと思います。   もう一点は、一巡目の議論のときから申し上げていますけれども、やはり、およそ一般的に性的自由、性的意思決定というものが観念できない年齢としては、現行以上に引き上げる、刑事責任年齢以上に引き上げるのは理論的におかしいのではないかという点です。もちろん、私自身も、性的な行為に対する意思決定能力の未熟さに乗じて性交等を行うということについては、別の保護が必要であるということは全く否定するものではありませんし、そういう特別な配慮が必要だと思うのですけれども、先ほど佐藤陽子幹事から御指摘がありましたように、自分の行為の意味を認識する能力ということについては、性的な行為だけではなく犯罪についてもそうですし、あるいは、それを行った結果どういう不利益が自分の身に降り掛かってくるかということについては、性的行為であっても、犯罪を行った場合にどうなるかということについても、変わらないと基本的には考えます。そうであれば、自分が意思決定をして犯罪を行い、刑事責任を問われ得る年齢が14歳であるのに、性的な意思決定を行う能力はおよそ一律にないと考えるのは、理論的にも整合しないのではないかと思います。そういう意味で、刑事責任年齢以上に上げることには反対の意見です。 ○小西委員 私は、最初、やはりどうしても実際の被害例というのを考えるものでして、14歳、15歳の者がSNS等で誘われて、表面的には同意があるままで性交に至ってしまって、その後、とても大きな問題が起きるというケースをよく見るものですから、これには何か対処をしなくてはいけないと思っておりました。   そういう意味では、最初は、何人かの方がおっしゃったように、「14歳未満の者に対し」のところでここの一般的な話は切っておいて、地位・関係性のところで処罰できるようにすればいいという思いもあったのですけれども、この法制審議会の中の御議論を聞いているうちに、そのように定義するのは非常に難しいということを感じるようになりまして、意見を変えました。   むしろ、ここで性交同意年齢を16歳に上げるということが必要なように思います。それをどうやって合理的に説明するかというのは、また次の問題としてあるのですけれども、生物学的なことでは、前にも性犯罪に関する刑事法検討会でお話ししたと思いますけれども、感情レベルでは、この思春期という年齢は、もうある程度成熟している、けれども、大脳皮質のコントロールによって、悪いということは分かっているというのが、生物学的な事実です。それに対する反論として、犯罪はみんなそうではないかと言われるところもあるかもしれませんが、性的な被害の特異性といいますか、生涯にわたって及ぼす影響の深刻さというのを考えていただく必要があるのではないかと思っています。そういう点では、やはり、B-1案やB-2案のような形で規定していただかないと救えないのだと、今は思っております。 ○佐藤(拓)幹事 これまでの議論は強制性交等罪を念頭に置いてなされてきたと思いましたので、強制わいせつ罪についても念のため一言と思いまして、発言させていただきたいと思います。その前に、先ほど、宮田委員と金杉幹事から比較法の話が出てきたかと思うのですけれども、手持ちの資料が今、心もとないもので、はっきりとしたことを申し上げられませんが、ドイツでは、16歳未満の者に対して21歳以上の者が性行為をする場合も入っているような気がしますので、これは後ほど確認された方がよろしいのではないかと思いました。   本題の強制わいせつ罪のところですけれども、性交等とわいせつな行為とでは、その法益侵害性や心身に対する影響が異なり得ることから、対象年齢を引き上げる趣旨によっては、強制わいせつ罪と強制性交等罪とで異なる年齢にするという考え方もあり得ないわけではないと思われますが、結論的には、私は、両者はそろえるべきであろうと考えております。   といいますのも、先ほど御指摘があったように、対象年齢を、有効に自由な意思決定をするために必要な能力が備わるに至っていない年齢と考えた場合、わいせつな行為と性交等は実態として連続性を有するものであることに鑑みると、両者の間でそのような能力に違いが生じるのかは疑問であること、また、現行法においても強制わいせつ罪と強制性交等罪との間で対象年齢に差異を設けていないことからすると、強制性交等罪について対象年齢の上限を引き上げるのであれば、強制わいせつ罪についても同様に引き上げることになるのが自然であると思いまして、もし区別するのだとすると、相当に説得力のある理由が必要となると考えます。 ○井田部会長 強制わいせつ罪と強制性交等罪の対象年齢は同じとするのが合理的だという御意見だったと思います。 ○小島委員 13歳未満の規定の処罰根拠等についてですが、13歳未満の子供たちは、性的被害を受けやすい点で、類型的に危険な状態にあると考えることができると思います。13歳未満の児童について、低年齢であるがゆえに、フリージングの状態になったり、年上の者に対して服従しがちであるということがあると思います。そういう意味では、類型的に危険状態にある。小西委員がおっしゃったように、甚大な被害が生じてしまうということで、重い処罰をしてきたのではないかと思っています。また、子供に対する性被害については、健全育成や福祉、自己決定や能力というものを超えた、児童虐待の防止ということから捉えるべきではないかと思います。人格が未熟だから、被害者の人生に対して与える悪影響、継続的な悪影響が深刻なものであるということが明らかになってきました。私は、中学生に対する性被害については処罰してほしいと思っています。先ほど小西委員がおっしゃったように、同意があったということで被害者の児童が救われないというのは不当だと思います。また、刑事責任能力との関係については、刑事責任能力の規定は、14歳以上の者全員に向けて性犯罪を処罰するものである一方で、性交同意年齢の規定は児童保護のためのものだと考えると、当然のことなのですけれども、これらの規定は質的に違うものなので、性交同意年齢を刑事責任能力と合わせなくてもよいと思います。諸外国の立法で、刑事責任能力と合わせて性行為同意年齢を考えているところがあるのかどうか、そのような立法をあまり聞いたことがないので疑問に思いました。   それから、限定・除外要件なのですけれども、子供にとっても、教育する方にとっても、はっきりしていた方がいいのではないかと思います。子供に、「僕たちが性的行為をした場合、処罰されるのか、犯罪になるのか」と聞かれたときに、「相手方の脆弱性や行為者との対等性が問題だ」と答えても、子供は分からないと思います。子供に対する性教育という観点からいうと、中高生は駄目だとか、中学生同士なら大丈夫とか、子供たちに教えるときに分かりやすいというのも重要ではないかと思います。そういう意味では、私は、これまで年齢差と言ってきましたが、ルールを作るとしたら、行為者年齢説が一番分かりやすいのではないかと思いました。 ○金杉幹事 先ほど佐藤拓磨幹事から御指摘いただきましたドイツ法の観点について、補足を申し上げます。御指摘いただき、ありがとうございました。私の方では、性犯罪に関する刑事法検討会の第1回会議で配布された、法務省の訳文を見て発言をしております。確かに、御指摘のように、青少年の性的虐待という項目で、青少年保護の観点から、「強制状態を利用して」であるとか、「その際の行為者に対する被害者の性的自己決定能力の欠如を利用することにより」等、青少年保護的な要件が課されている場合に、「21歳以上の者が16歳未満の者に対して」といった条文はもちろんあるのですけれども、そういった要件なしに、この年齢以下の者に対して性的行為を行った場合に一律に犯罪となるという年齢については14歳未満であるという意味で発言させていただきましたので、補足いたします。 ○橋爪委員 先ほど、長谷川幹事や小島委員から、児童虐待やいじめの問題について言及がございましたので、この点に関連して一言だけ申し上げます。確かに、児童虐待やいじめによる性被害の問題は深刻であり、十分な対策が必要になると思いますが、そもそも、虐待や暴行がある事例は、「第一の一」のA-1案又はA-2案の枠組みで対応することが想定されているわけです。したがって、ここではまず、「第一の一」のA-1案又はA-2案で対応できる事例からは一旦離れて、A-1案、A-2案では対応できないような類型、つまり、外形的には同意があるようなケースについて、どこまで一律に処罰すべきかという観点から議論をすることが生産的であるような印象を受けました。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。もし、特に、これまで御意見をまだ表明されていない方がいらっしゃいましたら是非御発言いただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。   それでは、「第一の二」についての議論は、本日はこの程度とさせていただきたいと思います。   本日の御議論では、対象年齢の引上げの議論の前提として、なぜ現行法が13歳未満という決め方をしているのか、現行法の対象年齢の趣旨を明らかにすべきだとする、極めて真っ当な御意見がありました。そのときに、そこで前提とされている能力の内実を整理するに当たっては、これまでの議論の中で指摘されているような、行為の性的な意味を認識する能力と、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力といったもののほかに、対処能力といいますか、性的行為に向けられた相手方からの働き掛けに的確に対応していく、そういう能力も併せて考慮すべきではないかという、注目すべき御意見があったと思われました。   引上げの在り方については、処罰の除外・限定をしないA案のようにすべきだという御意見も複数の委員・幹事から表明されました。ただ、社会の実態として、16歳未満の者と同年代の者との間で性交等の性的行為が行われているという現状があると見られることからすると、A案では処罰範囲の不当な拡大となり得る、あるいは、国家権力の過剰な介入となり得るといった問題があり、その問題を回避するためにはB案かC案ということになるのではないかという御指摘がありました。   B案かC案かについては、B案に賛成する御意見の委員・幹事の方が若干多いと思いました。ただ、B案を採る場合には、処罰の除外・限定について、対象年齢を引き上げる根拠との整合性に留意する必要があり、例えば、能力の不足を理由に年齢を引き上げる場合、その理由が、行為の性的意味を認識する能力、行為が自己に及ぼす影響を理解する能力の不足ということであれば、それは相手方、行為者が誰であろうと、能力は必要な水準に達していないということに変わりがないはずなので、除外・限定を設けることができなくなる、その理論的根拠はなくなるということになってしまうのではないかという御指摘がありました。   他方、対処する能力といったものを含めて考えるとすれば、行為者、相手方が誰であるかによって発揮のされ方が異なることから、同年代の者同士の性交等については、基本的に対処が可能だということで、処罰の必要性が限定されると考える余地があるのではないか、そのように考えてよいかどうかについて更に検討する必要があるだろうという意見があったように思われます。   また、仮に、対象年齢を引き上げるとした場合に、強制わいせつ罪と強制性交等罪と同じ年齢とすべきかどうかという点についても、これを区別するのはなかなか難しいのではないか、相当に説得的な根拠がないと難しいのではないかという御意見があったと思われます。   いずれの御意見も、重要かつ示唆に富むものであったと思われます。委員・幹事の皆様には、この論点を次に取り上げるときまで、それぞれ、それらの点について検討を進めておいていただければ幸いでございます。   それでは、次に、「第一の三」の「相手方の脆弱性や地位・関係性を利用して行われる性交等及びわいせつな行為に係る罪を新設すること」について御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から、配布資料13の内容について説明をしていただきます。 ○浅沼幹事 配布資料13について御説明いたします。   1枚目の「1」の三つの枠内を御覧ください。   ここには、規定イメージの案として、一定の年齢未満の者や障害を有する者が被害者である場合について、相手方の自由な意思決定を困難にすることを必要とし、現行法の強制性交等罪などと同等の当罰性を有する行為を処罰対象とするA案、相手方の自由な意思決定を困難にすることまでは必要とせず、行為者が学校の教師や障害者施設の職員などといった相手方の意思決定に影響を与えやすい地位・関係性を有している場合に、教育・保護等の対象者に対し、地位・関係性を利用したことをもって足りるとするB案を記載しています。   そして、A案の具体的な規定ぶりについては、監護者性交等罪のように、一定の地位・関係性を有する者であることによる影響力に乗じた場合には、相手方の意思決定が一般的・類型的に自由なものとはいえないとして、これを要件とする方法と、行為者が一定の地位・関係性を有することを前提としつつ、これに加えて、相手方の自由な意思決定を困難にしたことを示す実質的な要件を設けることとし、その要件について、この案が捕捉しようとする場合を念頭に置いて規定する方法を、それぞれA-1案及びA-2案として記載しています。   その上で、全ての案に共通する検討課題として、処罰範囲の外延が明確か、処罰されるべき行為が適切に捕捉され、かつ、処罰されるべきでない行為が適切に除外されているか、諮問事項「第一の一」の暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正及び「第一の二」の対象年齢の引上げの各案との関係についてどのように考えるかといった点を掲げています。   また、A-1案及びB案の検討課題として、現行法において処罰対象とされていないものを新たに処罰対象とする場合には、その理論的根拠や法定刑の在り方をどのように考えるか、どのような地位・関係性を対象とし、その理論的根拠をどのように考えるかなどといった点を掲げ、A-2案の検討課題として、主体を一定の地位・関係性を有する者に限ることとするかといった点を掲げています。   次に、2枚目の「2」の二つの枠内を御覧ください。   ここには、一定の年齢未満の者や障害を有する者以外の者が被害者の場合の規定イメージの案を記載しています。   この場合の規定の在り方の方向性も、基本的には、先ほどの「1」と同様であると思われますが、相手方に類型的な脆弱性がない以上、「1」のA-1案のような考え方は採り難いことから、それに相当する案は記載せず、「1」のA-2案とB案に相当する案をそれぞれA案及びB案として記載しています。   その上で、「1」と同様に検討課題を掲げています。   配布資料13の御説明は、以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明の内容について、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。   御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いしたいと思います。   この諮問事項については、最大で40分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 先ほど小西委員もおっしゃられていましたけれども、この地位・関係性をどのように扱うかということは、性暴力の本質をどう捉えるのかということで、非常に重要なことであると思います。様々な地位・関係性がありますけれども、やはり、権力を利用した暴力が性暴力です。権力を持たない弱い立場の人が苦しみます。家庭内での、親や年長者に逆らえない立場の児童に対するものもそうですけれども、上司、部下のような社会的に大人であるという人たちも、そのような地位・関係性に縛られて、抵抗することができず、受け入れざるを得ないということが非常によくあります。ですので、脆弱性を有する状態でなくても、性交に同意せざるを得ない状態になるということは、捉えていただきたいと思います。   ただ、こちらの諮問事項「第一の三」については、監護者性交等罪の拡大という意味で、A-1案に賛成いたします。対象が18歳未満の者なのかということについては、疑問に思うところはあります。親族関係などは、お正月やお盆、冠婚葬祭などを共にする共同体なので、18歳になったからといってその影響から脱せられるわけではないからです。その分を「第一の一」できちんと捕捉していただければと思います。   A-1案の中に、親族関係として、祖父母、おじ・おば、兄弟姉妹が入ることが重要だと思います。子供が最も安心して暮らせるはずである場所の家庭が安全でないということは、発達に大きなダメージをもたらします。成長後の他者への攻撃、自分を危険にさらす行為につながっていることも説明され、報告されているとおりです。児童だと、お世話される中で年長者に従わないといけないという関係が刷り込まれています。年長の親族は対等に性的自己決定権を行使できる相手ではありません。性被害が始まったときに、とても怖くてつらいけれども、何が起こっているのか分からないし、誰にも言えないということがあります。   そのようなことも「第一の一」で対応できるのではないかと言われますけれども、そもそも被害と思えないので子供が訴えられない、あるいは、訴えたいと思って相談しても、身内であることから訴えにくい、身内を加害者にするのかということも批判されますし、家族や親族も、性暴力を起こした家庭と見られたくないので、否認の圧力が強く働きます。児童の言っていることを否定し、児童が自分の証言を撤回せざるを得なくなることもよくあることです。ですので、このような関係性での性交等を許さないという意味での規定を作ってほしいと思います。   また、教師、コーチなども同様で、子供にとって権力者です。教育や指導の過程を通して支配、従属する立場が作られ、性的な接触が行われているという実態を捉える必要があると思います。社会的な地位も影響するので、直接な指導者だけではなくて、その更に上の権威がある人からの被害というのも実態としてよく報告されているところですので、そこを是非捉えていただければと思います。   また、それぞれにケース・バイ・ケースで対応すると言われますと、被害者が、自分に起こったことが被害なのかについてとても悩む、自分を責めるということも多くなります。それは、本人も分からないし、周囲も、なかなか法的に犯罪だと理解することが難しいので、判断が付き難いということがあります。ですので、親族関係や、教育・指導する立場に乗じた被害というのを、きちんと規定していただければと思います。   A-1案「(2)」の「心身の障害を有する」立場についてですけれども、これも規定してほしいと思いますし、あと、心配なのは、施設に入所している場合などは、18歳以上になったからといってこの影響力から脱することができるというわけではないということも知っていただければと思います。生命を維持する、生活を維持する場合には、対等な関係性を前提とする性的自己決定権を発揮できないということを当然の前提として、A-1案が作られることを希望いたします。 ○木村委員 従前からの議論で、このような形で立法化するのはそもそも難しいのではないかという意見は大分あったので、私も気にはなるのですが、結論から申し上げると、配布資料13の「1」について、18歳未満等の場合についてはA-1案のような規定を作る意味というのは、なおあるのではないかと思っております。   先ほどからお話が出ているように、確かに、諮問事項「第一の一」とかぶる部分はもちろんあるわけです。配布資料13のA-2案のように、「重大な不利益」とか「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難」といった要件が含まれることは妥当ではないと思っているのですけれども、それはどういうことかというと、A-2案ですと、事実上、「第一の一」の配布資料11の「⑦」の要件と同等ということになるのかなと思われます。この場合、例えば、教師あるいは指導者でも「重大な不利益」とまではいえないのではないかとされてしまうおそれもありますし、そのような行為が日常化しているような場合には、「拒絶する意思を形成・表明することが困難」とまではいえないのではないかというような場合もあるのかなと危惧しております。   配布資料13のA-2案は、緩和された形ではあるのですが、性的自由の侵害を保護法益とする考え方を基礎にしていると思われます。18歳未満の方及び障害を有する方に対象を絞るのであれば、そもそも、性的自己決定の判断が不十分であるということが前提になっているはずなので、そうだとすると、「拒絶する意思」といった意思決定の観点を重視すべきではないと思います。その意味で、A-2案の形の規定を作るのであれば、賛成できないと思います。   なお、A-1案の場合は、これまでも言われていましたけれども、「一定の地位」とか「関係性」の中身について、例えば、教師、スポーツの指導者等が挙げられていますけれども、「教師」や「指導者」の定義が難しい、つまり外延が明確であるかというのが最大の問題だと思います。確かに、教師、指導者、コーチの立場の方々全てが該当するわけでないことは明らかなのですけれども、「影響力があることに乗じて」という規定ぶりがなされているので、例えば、限定的に考えればですけれども、クラス担任の教員であるとか、あるいは、部活動の顧問の教員や指導者であるとか、あるいは、プロを目指すようなレベルのスポーツ指導者であるとか、ある程度限定された範囲というのは一定程度想定できるのではないかとは思います。   そもそも、A-1案のような、言わば、監護者性交等罪を拡大する案が妥当だと私が考える理由なのですけれども、従来、教師による行為とかスポーツの指導者による行為について、本来は刑法178条をもっと活用すべきだったと思うのですけれども、それが刑法177条でも刑法178条でも適切に対応できてこなかったという思いがございます。今回、「第一の一」で見たように、刑法177条と刑法178条を統合する方向で検討して、さらに、「第一の二」で年齢を16歳に引き上げるということが、もし実現するのであれば、これらの規定によって、今言ったような事案についてはある程度対処できるのではないかという御意見があるというのはよく理解できます。もし本当に対処できるのであれば、私自身も、この地位・関係性の規定を新設すべきだということに固執するものではないのですけれども、対象となるものを、特に当罰性が高く、立法事実があると考えられる、18歳未満の方であるとか、心身の障害を持つ方に限定するのであれば、仮に「第一の一」や「第二の二」でカバーできるものと部分的に重複する部分があったとしても、より明確な規定として、置くという意味はあるのかなとは思っております。 ○井田部会長 一つお聞きしたいのですけれども、支持される案はA-1案なのですか、B案ではなくて。B案は良くなくて、A-1案の方が良いというお考えですか。 ○木村委員 B案だと、「影響力があることに乗じて」も何もないということでよろしいのですよね。 ○井田部会長 「地位・関係性を利用して」という規定ぶりになっています。 ○木村委員 今伺った限りだと、「利用して」と「乗じて」がもし同じであれば、B案だと軽い規定にするということですよね。 ○井田部会長 そうです。 ○木村委員 私自身は、いわゆる軽減規定のようなものは作るべきではなく、法定刑としては同じ重さとすべきだと思っているので、A-1案と申し上げました。 ○橋爪委員 地位・関係性を濫用した上で、自由な意思決定の機会を奪って行われる性行為は、意思に反する性行為であり、これを処罰することには当然です。ただ、非常に悩ましいのですが、私個人としましては、具体的な立法方法としては、地位・関係性に着目した特別の規定を設けるよりは、むしろ、「第一の一」のA-1案又はA-2案のような一般条項の中でこの問題を解決する方法の方が適当だと考えております。以下、理由を申し上げます。   本日御提案の配布資料13のA-1案でありますが、これは、監護者性交等罪の処罰根拠を前提として、これを監護者以外の主体に拡張することを想定しておりますが、その当否につきましては、まず、監護者性交等罪の罪質について改めて確認することが必要であると思います。性犯罪の本質は意思に反する性行為である以上、性犯罪の成立を認めるためには、本来は、個別の被害者について具体的にどのような働き掛けが行われ、どのような心理状態であったかということを個別に認定した上で、当該性行為が被害者の具体的意思に反するものであったことを個別に証明することが必要であるはずです。しかしながら、監護者性交等罪は、監護者が影響力に乗じて性行為を行った場合には、それだけで犯罪の成立を肯定するものであり、具体的な働き掛けや被害者の意思内容を個別に認定する必要はありません。また、被害者の同意があったとしても、犯罪の成否には影響がありません。それは、監護者が被監護者を監護養育する立場にあり、被監護者は生活全般において精神的にも経済的にも監護者に依存していることから、およそ被害者の自律的な意思決定を容れる余地はないという評価が正当化できるからです。   このように、監護者性交等罪は、一定の関係性に基づいて性行為が行われれば、それだけで常に性犯罪の成立を肯定するという、非常に強い規定です。このような規定が正当化できるのは、何度も申し上げますが、監護者という、相手に対して極めて強い影響力、支配力を有する者による行為であるがゆえに、このような罰則を設けることが例外的に正当化できるわけです。このような前提からは、A-1案で列挙されているような地位・関係性があるとしても、その関係性だけで常に相手方の自由な意思決定をおよそ観念できないと評価することは、困難であるように思います。もちろん、例えば、教師やスポーツの指導者の中には、相手の意思決定に強い影響力を有する者も存在します。しかし、逆に言うと、それほど強い影響力を有していない者も存在するわけです。このことからは、一定の関係性の存在だけで、一律に処罰をすることが正当化できるわけではなく、個別に関係性の濃淡を判断する必要があることが導かれます。   すなわち、A-1案のように、一定の関係性があれば一律に処罰するという法形式を採用することは困難であり、行為者と被害者の間の関係性や具体的な働き掛けの内容、影響の程度等を個別に判断した上で、性犯罪の成否を検討する必要があると考えるべきです。その意味では、検討の出発点になるのはA-1案ではなく、個別の働き掛けや被害者の心理状態を問題とするA-2案であるように思われます。   もっとも、A-2案の構造を確認しますと、先ほど木村委員からも御指摘がございましたけれども、A-2案の中核部分は拒絶意思の形成・表明・実現の困難という事実でありまして、それに更に地位・関係性等の要件が付け加わる関係にあります。そして、「第一の一」のA-2案として、拒絶意思の形成・表明・実現が困難であることに乗ずる性行為一般の処罰が提案されておりますので、「第一の一」のA-2案と「第一の三」のA-2案は、「第一の一」のA-2案の限度で完全に重なり合っています。したがいまして、「第一の一」のA-2案を前提とした上で、その列挙事由を明確に規定することができれば、あえて地位・関係性に特化した条文を設ける必要はないように思われます。同じことは、「第一の三」の「2」、すなわち、「前記1以外の者が被害者の場合」に関するA案についても、全く同様に当てはまります。今申しましたことを具体的に説明したいと思います。例えば、家庭内で親族から突然、性行為を要求され、驚愕・困惑の余り、これを拒絶できなかった場合については、「第一の一」の配布資料11に記載されている列挙事由の「⑥」の要件を満たします。また、既に性的虐待が継続しており、抵抗する意思を失っているような場合については、「⑤」の要件で対応できます。また、生活上の不利益を恐れて性行為に応じた場合については、「⑦」の要件を満たす場合があり得ます。また、被害者に心身の障害があったために抵抗が困難な場合は、正に「②」の要件が想定するケースといえます。更に申しますと、「①」から「⑧」までの要件を満たしていない場合でも、包括的要件が設けられておりますので、個別具体的な事案において被害者が拒絶困難といえる事情があれば、それに基づいた処罰が可能です。このように具体的に考えてまいりますと、地位・関係性に着目した規定を設けなくても、「第一の一」のA案の一般規定の中で十分に対応できるのではなかろうかというのが、私の理解です。   このような理解に対しましては、先ほどから御指摘がございましたように、「第一の一」のA案で対応する場合には処罰の漏れが生ずるのではなかろうか、それであれば、一律に地位・関係性に着目した規定を設けるべきではないかという御懸念、御批判があるかと存じます。もちろん、そのような御懸念も十分に理解しているつもりですが、「第一の一」のA案でも、広範な列挙事由を規定した上で、かつ、包括的な要件を設けるわけですので、地位・関係性を利用する当罰的な行為のうち、処罰対象から漏れるようなケースは、実際には考えにくいように思います。また、仮に、「第一の一」のA案の個別要件の立証が困難なケースがあるとしても、その場合には、現行法上、児童福祉法における児童に対する淫行罪を適用することも可能であると思われます。この点を含めれば、なおさら、当罰的な行為が処罰できない場合というのは、実際には観念し難いと考えております。 ○井田部会長 A-1案の要件として予定されている「関係性」と、現行の監護者性交等罪で予定されている「関係性」の間には相当にギャップがあるのではないかということで、これはなかなか同一視することは難しいということ、監護者性交等罪は、法定の強制性交等罪と見られていますが、要件に当てはまれば当然に、という規定になっていますので、それよりも具体的な意思決定のインパクトを考えるほかはないと考えるとすると、むしろ、諮問事項「第一の一」の要件で考えていくべきではないかという御意見であったと思います。 ○佐伯委員 私も、ただ今の橋爪委員の意見と基本的に同意見です。木村委員は、A-1案の「影響力があることに乗じて」という要件によって限定すればよいのではないかという御意見を述べられましたけれども、監護者性交等罪の「影響力があることに乗じて」という要件は、基本的に関係性があれば満たされる、それ以上に限定する要件ではないという趣旨で立法されたと理解されておりますので、A-1案のような規定を設けた場合に、「影響力があることに乗じて」という要件でどのくらい限定ができるかは、かなり疑問があるように思います。 ○井田部会長 私も、立法段階の議論を思い出すところですが、「影響力があることに乗じて」は非常に薄い要件であって、むしろそれがない事案はなかなか考えにくいというような議論がなされたことを覚えております。 ○嶋矢幹事 これまでの議論には出てきておりませんが、配布資料13の「1」のB案と「2」のB案、いずれについても少し意見を申し述べさせてください。   「1」のB案も「2」のB案も、理論的に考えますと、一定の地位・関係性を利用した場合には、相手方の自由な意思決定を困難にしていないとしても、その利用の事実のみをもって処罰するものであると考えられます。それらに職業倫理上の問題があるということは確かではあるのですが、性的自由、性的自己決定が侵害されていないというような場合にまで処罰対象とすることには、理論的な正当化について相当に懸念がございます。また、仮にその点を置くといたしましても、それぞれの案に掲げられております地位・関係性の例を見ますと、その関係性の中には様々なものが含まれると考えられまして、相手方に与える影響の程度にも濃淡があると考えられます。関係性を利用したというB案の要件だけで過不足なく明確な要件を設けることができるかという点には、相当に懸念があるところです。   その意味で、B案のように、法定刑を軽減するということもセットなのかと思いますが、一定の関係性を利用しただけで、軽い法定刑とはいえ、一律に処罰対象とすることについては、理論的根拠に関して合理的な説明が困難なのではないかと思われるところです。この点は、結論におきまして、先ほど木村委員がおっしゃられたことと同じということになるかと思います。   もちろん、ただ今申し上げたことは、地位・関係性を悪用して行われる性的行為について処罰すべきではないというような趣旨では全くございませんで、性犯罪としての実態を十分に正当化することが可能な、問題のある地位・関係性の利用をする類型、それを適切に捉える形で処罰を実現するという方がよいのではないかという趣旨も含んでおるところです。先ほどの、A-2案についての橋爪委員の御指摘のように、列挙事由として挙げられているものと並ぶような規定を設ける方向や、それに含まれていると理解し、整理するような方がよいではないかという考えを前提としておりますし、さらには、先ほど議論になりました性交同意年齢の引上げや、その中で、少なくとも、年の離れた大人からは子供を保護すべきであるという二つの前提を採るとした上で、B案に対する問題点の指摘として御理解を賜れればと存じます。 ○井田部会長 配布資料13の「1」のB案と「2」のB案のいずれについても、要件が少し曖昧で処罰範囲の外延が不明確となること、それから、法益の観点からも処罰の合理性を理由付けるのは難しいのではないか、安定的な運用が困難ではないかという御指摘を頂きました。貴重な御意見であったと思います。 ○金杉幹事 一点、法定刑の観点から申し上げます。A-1案、A-2案のいずれについても問題があるのではないかという意見です。仮に、A-1案にした場合、現行の児童福祉法の「淫行をさせる行為」もこれに当たってくるかと思うのですけれども、その場合、自由刑としては10年以下の懲役でして、例えば、高校の講師が学校の生徒に対し、事実上の影響力を及ぼして淫行を積極的に促進、助長するような行為をした場合に、今であれば、「淫行をさせる行為」で10年以下の懲役であるのに、これを新設することによって、いきなり5年以上の有期懲役になるということで、かなり不均衡が生じるのではないかと思います。仮に、未成年者等の意思決定に関する脆弱性を利用して行うという場合、つまり、意思決定能力は一定程度あるのだけれども、その脆弱性を利用するという行為については、やはり強制性交等罪に比べてその行為の責任非難の程度は下がるのではないかといった観点から、法定刑については、少なくとも10年以下の懲役とするなど、5年以上の有期懲役という強制性交等罪と同じ法定刑で考えるべきではないと思います。 ○井田部会長 基本的に、法定刑に注目された御意見だったと思います。 ○齋藤委員 これまで、諮問事項の「第一の一」の「重大な不利益の憂慮」、「障害」、「拒絶の意思の形成・表明・実現の困難」などで捉えられるのではないかという御意見が多かったかと思うのですけれども、私自身は、「第一の一」あるいは配布資料13のA-2案のような形では見落とされる可能性のある出来事というのは結構あるのではないかと思っております。18歳未満の場合、影響力のある立場の人は拒絶の意思の形成が困難に当たる状況を容易に作り出すことが可能であり、かつ、それが正しいことだと思い込ませるのですけれども、それを司法の場面で適切に捉えるということが難しいのではないかと考えるからです。   もう一つ、考えていただきたいということがあるのですけれども、先ほどから、教師や指導者は影響力が様々である、もちろん、関係性が本当に多岐にわたるということはそのとおりだと思うのですが、影響力が様々であるとおっしゃっているときに、それは加害側の視点や第三者の視点であるような気がしております。当の子供たちにとって、教師は担任でなくとも教師であって、権力があって、従わないとならない存在です。離れて暮らしていても、祖父母は自分の父母に影響を与えることができる力のある存在で、当事者にとって、その関係性、その影響力がどのようであるかという視点を忘れずにいただきたいと思っております。   被害者が成人である場合についても、本当に諮問事項の「第一の一」の改正で適切に捉えられるならばよいと思うのですけれども、これまでも繰り返し述べてまいりましたとおり、大人の地位・関係性による被害は、最も司法のプロセスに乗りにくいものであり、不受理とか不起訴が多く、しかし、その影響が非常に甚大であるというような被害です。そのため、地位・関係性の規定が作られなかったということによって、自分たちのこれまで受けてきた傷付きとか生涯のトラウマというものが非常にないがしろにされるのだろうかという誤解を生まないように、検討いただけるといいなと思っております。 ○長谷川幹事 今の齋藤委員の意見と共通するところがあるのですが、監護者類型を広げなくても諮問事項「第一の一」で捉えられるのではないかという意見に対して意見を述べます。「第一の一」の要件がどういうものになるのかというのはまだ定まっていないところで、抽象的な議論ではあるのですが、やはり、この監護者類型を広げるという考え方は、18歳未満の者であることによる脆弱性も加味した上で、被害に遭いやすいというところにも着目をしているところでありますので、こういった関係性を利用して性行為等がされた場合を「第一の一」の新しく作る要件で適切に捕捉し切れるのかというのは、疑問が残るところです。重なる部分があるではないかという点については、確かにそのとおりなのですが、被害に遭いやすい者を類型的にくくり出すということは可能ではないかと思います。   あと、ここにある教師やスポーツの指導者、それから親族関係についてですが、これらが現行の監護者性交等罪で予定する監護者と強制される関係性が違うのではないかというのが消極的意見の背景にあるのではないかと思いますが、齋藤委員がおっしゃったように、やはり、子供の視点から見ると、自分よりも上の立場の者、それから、ふだん従うということが通例とされている関係、教えられるものとする関係、異論を唱えると、生意気を言うのではないみたいなことで塞がれてしまうような関係であり、そういった関係は、子供からすると、監護者等と同じぐらい拒絶できない、異論を挟めない、抵抗できない、異論を述べられない、従うままになってしまうという関係であると思いますので、今回、一定の地位・関係性として広げようと示されているものの中には、監護者等と同じ当罰性があるものがあると考えます。ですので、やはり、これを「第一の一」の類型とは別に作るということに意義があると考えます。 ○井田部会長 A-1案に賛成のお立場ということでよろしいですか。 ○長谷川幹事 そうですね、はい。 ○山本委員 御議論を聞いていまして、家庭内とか、親族関係の中で、18歳未満の児童を性的対象にしてもいいと思われているのかなということとか、指導監督する立場の大人が子供を性的対象にしてもいいと思われているのかなということに関しては、すごくショックです。中学生の教師が生徒と恋愛関係にあるということで処分されたことが報道されていましたけれども、教師は恋愛と主張し、しかし不適切ということでの処分でしたけれども、生徒もやはり恋愛と思い込まされて巻き込まれていった。周囲も何かおかしいと思っていたけれども、誰も介入できなかったような事件があります。また、親族とかに関してもですけれども、被害を受けながらも親和的に振る舞って、表面上は同意があるように見えるというケースもあります。つらく苦しい思いをするからこそ、更により加害者に迎合的に振る舞うということもありますし、そもそも力関係が構成されている序列が明確な家庭で起こることも多いので、自分をより有利な位置に上げるために、加害者である人に擦り寄っていくということもあります。だから、監護者性交等罪による処罰の対象となる場合以外に、親族間の中で、生き延びるための迎合的な行動をとらざるを得ない人を性的対象とするような被害を、どのようにこの司法で処罰の対象にしてくれるのかなと思います。   諮問事項「第一の一」で対応可能であると言われますけれども、そもそも、訴えるということ自体、非常に困難なことです。教師も親族もそうですけれども、自分を委ねて信頼する立場の人から、劣った存在であり、何をしてもいいのだと、そういう対象にされたということを認めることは、とても時間が掛かりますし、はっきり言えば、とてもみじめなことです。傷付けてよい対象と思われたということを認めること自体が耐え難いことですので、すぐに訴えたりということはできないのです。だからこそ、この地位・関係性によって規定して、これは誰であってもしてはいけないことなのだと、したら即罪が成立するのだということを明確にしていただくことを望んでいます。 ○小島委員 私はA-1案の、特に「(1)」について申し上げたいと思います。   A-1案については、2017年改正前から議論してこられた案だと思います。先ほどから、刑法177条、178条に、地位・関係性利用型も含めるというお話がありました。私の方で、先ほど、地位・関係性利用型について条文を提案しておりますが、地位・関係性利用型について刑法177条、178条で取り込めるのかどうかということが問題になります。刑法177条、178条の不同意性交罪の中に地位関係性利用型が取り込まれるのであれば、刑法177条、178条の他に地位関係性利用型の規定を設ける必要はないかもしれません。しかしながら、A-1案は、18歳未満の者に対し一定の地位関係性を有する者であることによる影響力があることに乗じて性交を行った者は、現行の刑法179条と同様に、被害者の同意・不同意を問わずに一律に処罰するという規定です。教師、スポーツの指導者などは、現行の刑法179条の監護者と同じほどの類型的重みがあるとは言いがたいので、現行の刑法179条の要件を加重し、「影響力があることを利用し」とするなどして特別の規定を設けたらよいのではないかと思います。 ○橋爪委員 二点申し上げます。   第一点ですが、先ほど申し上げましたように、この問題について、諮問事項「第一の一」の中で一般条項により対応する場合には、ただ今、小島委員や齋藤委員から御指摘がございましたように、列挙事由を十分に精査する必要があると思うのです。つまり、地位・関係性の濫用による典型的な被害を適切に配布資料11の「①」から「⑧」の要件の中で評価できるような形で、列挙事由の内容や表現を慎重に検討する必要があると思います。例えば、「⑤」の「虐待」という文言がやや強すぎる感じもしますし、「⑦」の「重大な」という文言についても、これが過度に制限的にならないかについて検討する余地があります。地位・関係性を濫用する類型を幅広く取り入れるために、これらの要件については更に検討する必要があると考えます。   二点目ですが、今議論しています、「第一の三」のA-1案の「(2)」について一つ課題を申し上げます。この規定案を採用した場合には、心身の障害を有する方が職員の方に対して恋愛感情を持って、自ら交際を提案し、性行為を促した場合についても、これに応じた場合には犯罪を構成する可能性があります。先ほど、佐伯委員からも御指摘がございましたように、「影響に乗ずる」というのはそれほど実質的な限定機能を有しない要件であって、一定の関係性を背景に性行為が行われれば、これに該当すると解されています。そうすると、A-1案では、障害を有する方からのアプローチで性行為に至った場合についてもこれらが全て処罰対象になりかねず、そのような意味では、障害を有する方の性的自由を過度に制約する懸念があることについてもこの機会に申し上げておきたいと思います。 ○佐伯委員 先ほどの山本委員の御発言について、一言、私の意見を申し上げたいと思います。山本委員の被害者のお立場からの御意見は非常に重く受け止めておりますが、A-1案等に反対するということは、18歳未満の者を性的対象としてよいとか、教師や親族が相手の信頼を裏切ってよいと考えているわけでは決してございません。ただ、性的意思決定の罪として、監護者性交等罪は、先ほど橋爪委員からも御説明がありましたけれども、およそ自由な意思決定の余地がないというような場合に限って強制性交等罪と同じ法定刑で処罰するという趣旨の規定ですので、それと同じように処罰する、5年以上の法定刑で付加的な要件もなしに処罰するということは、やはり妥当ではないであろうということを、あえて言えば、学者の立場として申し上げているということです。 ○井田部会長 この点について、ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、「第一の三」についての議論は、本日はこの程度にさせていただきたいと思います。   A-1案について、被害者保護の見地から、監護者性交等罪の処罰根拠を前提にして、これを拡張しようとするA-1案のような類型を設けるべきだという複数の委員・幹事からの御意見がありました。これに対しては、A-1案に例示されている、相手方に非常に強い影響力を及ぼす地位・関係性であっても、その関係性ゆえに相手方の意思決定が、当然に、一般的・類型的に、自由なものとならないとは言い難いのではないかという、理論的な問題点の御指摘がありました。その上で、A-1案の類型を設けて捕捉しようとしている行為自体は、先ほどの諮問事項「第一の一」の配布資料11に挙げられていた「重大な不利益の憂慮」や「心身の障害」などを原因として、被害者による拒絶の意思の形成・表明・実現が困難になるような状況に乗じて行われる場合が多いと考えられ、また、現行法の強制性交等罪と同じ法定刑とするなら、それは一緒に検討して一元的な要件の下に置いた方が、明確性の確保、安定的な運用にも資するということで、「第一の一」の検討の中で、そうした場合を処罰対象とすることが明確になるような要件を具体的に検討していくべきではないか、こういう御意見が一方においてあったわけであります。もし、「第一の一」について、そういう方向での検討が進むとすれば、それらの規定で対応できますので、配布資料13の「1」のA-2案や「2」のA案のような類型を別途設ける必要はないのではないか、そういう御意見がありました。   また、配布資料13の「1」のB案、「2」のB案に対しては、これは法益が違うのではないか、職業倫理上非難を受けるようなものがあることは当然だけれども、自由な意思決定を直ちに困難にしておらず、性的自由、性的自己決定権の侵害がない場合まで処罰の対象とする可能性がある、そういう意味で正当化が難しいのではないか。それから、「一定の地位・関係性を利用した」という要件だけでは、関係性には様々なものが含まれ、相手方に与える影響の程度にも濃淡があるということで、なかなか過不足のない明確な要件になっていないのではないかといった問題点の御指摘があり、軽い法定刑であるとしても、一律の処罰対象とすることは難しいのではないかという御意見があったと思われます。   こうした御意見は大変有益かつ重要なものであると思います。次の機会に「第一の一」について検討を行う際にも、こうした点を十分に勘案しながら、「第一の一」の要件を検討していくということが求められるものと考えております。場合によっては、その中にどうも入ってこない、不十分で漏れてくるというようなことが明らかになった場合には、また改めて、別の形での検討を行うということも十分可能かと思います。委員・幹事の皆様方には、こうした論点を次に取り上げる機会まで、それぞれに御検討を進めておいていただければと存じます。   それでは、1回目の休憩から時間も経過しましたので、ここでもう一回、10分ほど休憩して、午後4時35分に再開いたします。              (休     憩) ○井田部会長 会議を再開いたします。   次に、「第一の五」の「配偶者間において刑法第百七十七条の罪等が成立することを明確化すること」について御意見を頂きたいと思います。   まず、事務当局から、配布資料15の内容について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料15について御説明いたします。   二つの枠内を御覧ください。   配偶者間において強制性交等罪などが成立することを確認的に規定する場合の規定イメージの案として、性犯罪の各条文ごとに確認的に規定するA案、一括してその趣旨の規定を設けるB案を記載しています。そして、検討課題として、こうした具体的な規定の在り方のほか、性犯罪のうち、どの罪について、確認的に規定するか、婚姻関係以外の関係にある場合にどのような影響があると考えられるかといった点を掲げています。   配布資料15の御説明は、以上です。 ○井田部会長 今の御説明に対して、何か御質問はございますでしょうか。特によろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。   御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いします。   この諮問事項については、最大で5分程度の時間を予定しております。 ○今井委員 A案とB案を拝見しますと、規定ぶりは違うのですけれども、実質的に意図されているところは同じではないかと思います。もしもそのように理解してよいということでありましたならば、A案、B案のいずれによるべきかというのは、恐らくは法制技術的な問題、これからどういうようにして作り上げていくかという技術的な問題でありまして、その際には、手当てをすべき条文の数や刑法全体を見たときの規定ぶりなどを整合的に見て、立法化する際の並びというのでしょうか、そういう技術的な観点から検討されるべきではないかと思います。   以上、総括的意見を申し上げました。 ○宮田委員 性犯罪の成立を妨げないというB案の規定ぶりとA案の規定ぶりが同じだとすると、刑法177条、178条だけではなく、強制わいせつ罪も対象になってくるかと思います。夫婦の関係にあるときに、かなり軽い行為類型について、それが全て捕捉されてしまうことに対しては非常に大きな危惧感を持ちます。そういう意味では、配偶者であっても強制わいせつ罪が成立し得る場合があるということはそのとおりでしょうが、一定程度の軽微な類型については慎重であるべきであるなど、何らかの解釈指針を出すなど、歯止めは必要なのではないかと感じた次第です。 ○井田部会長 強制性交等罪はともかく、強制わいせつ罪については、このような規定を必ずしも置く必要はないのではないか、こういう御趣旨であったかと思います。 ○山本委員 強制わいせつ罪であっても、強制性交等罪であっても、性的な行為ということに変わりはないですし、そのような行為を、配偶者であっても、事実婚の関係であっても、同性のパートナーであっても、犯罪の規定の類型になっていたら成立するという規定になるかと思いますので、当然強制わいせつ罪も含まれるべきだと思います。   また、法律上はA案もB案も同じということで理解していいのかなと思うのですけれども、普通に読むと、A案の方が、婚姻関係の有無にかかわらず成立するという、より保障された認識というか感覚を、余り法律に詳しくない私のような人は持ちますので、配偶者であれば性関係に応じる義務があるというような誤解がはびこっている現状においては、A案の方がより肯定的なニュアンスがあるかなと思われ、支持します。 ○小西委員 二つのことを申し上げたいと思います。   一つは、例えば、DVの中の性暴力というのは、PTSDの発生総体で見ると、国際的な調査でも、原因としての頻度が一番高いのです。隠れているけれども、やはり非常に影響は大きいということを申し上げたいと思います。   もう一つは、個別の例ですけれども、例えば、妻を裸にしてその性器を子供に見せるという例は、当然、強制わいせつ罪に当たると思いますけれども、そういう例も結構あるのです。そういう意味では、強制わいせつ罪と言った途端に何か遊びみたいな気がするのだったら、それは間違いで、実際にひどい暴力の例があることをお伝えしておきたいと思います。 ○今井委員 先ほどは技術的な観点から申し上げたのですが、今、山本委員、小西委員の言われたことの実質論について、私も賛成です。つまり、強制わいせつ罪だけ配偶者間では成立しないというようなイメージを持たせるような規定は作るべきではないということを、2名の御意見と同じですが、一言申し上げます。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   「第一の五」についての議論は、本日はこの程度とさせていただきます。   御議論を伺っておりますと、配偶者間において強制性交等罪が成立することの明確化については、まず、強制性交等罪に限って言うと、特に反対の意見は出されませんでした。A案とB案のいずれの方法を採るべきかについては、A案の方が明確だという御意見もありましたが、これは法制技術的な観点から検討されるべきもので、どちらかの案を、部会として、こちらが良いというほどの必要はないのではないかという御意見もありました。   また、強制わいせつ罪についてはあえて確認的な規定を設けるべきではないという御意見も出されましたけれども、これに対しては、配偶者間においても実態として問題のあるケースもあるのだということが指摘されましたし、強制わいせつ罪だけ規定を設けないことの問題点も指摘されました。そういう意味で、強制わいせつ罪については設けないという限定の御意見に対しては、反対の御意見が幾つか表明されたと思いました。   そうなりますと、この諮問事項については、この部会における意見集約に非常に近いところまで至っているという感じがいたしました。   それでは、次に、「第一の四」の「刑法第百七十六条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと」について、御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から、配布資料14の内容について説明していただけますか。 ○浅沼幹事 配布資料14について御説明いたします。   1枚目の三つの枠内を御覧ください。   刑法第176条の罪に係るわいせつな挿入行為の取扱いを見直す方法として、膣又は肛門への挿入行為を一律に強制性交等罪として処罰する、膣又は肛門への挿入行為の一部を強制性交等罪として処罰する、膣又は肛門への挿入行為を、強制性交等罪よりも軽く、強制わいせつ罪よりも重い法定刑で処罰するといったものが考えられ、いずれについても、性的性質に欠ける行為が対象とならないよう、「わいせつな行為」という限定をかけることとしています。   すなわち、規定イメージの案として、膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為であってわいせつなものをした者を、強制性交等罪として、5年以上の有期懲役に処するものとするA案、膣又は肛門に手指又は性具を挿入する行為であってわいせつなものをした者を、強制性交等罪として、5年以上の有期懲役に処するものとするB案、膣又は肛門に身体の一部又は物を挿入する行為であってわいせつなものをした者を、強制性交等罪よりも軽く、強制わいせつ罪よりも重い法定刑で処罰するC案を記載しています。   その上で、全ての案に共通する検討課題として、現行の強制性交等罪の対象とされている行為について、重い処罰を基礎付ける趣旨をどのように考えるか、その趣旨との関係で合理性を有する取扱いとなるか、口腔への挿入行為の取扱いをどのようなものとするか、膣又は肛門に挿入させる行為の取扱いをどのようなものとするかといった点を掲げています。   また、A案の検討課題として、身体の一部又は物の挿入行為を一律に強制性交等罪として処罰することとする根拠・理由はどのようなものかといった点を、B案の検討課題として、現行の強制性交等罪と同等の当罰性を有する行為が適切に捕捉されているか、処罰範囲の外延が明確かといった点を、C案の検討課題として、法定刑をどのようなものとするか、その理由についてどのように考えるかといった点を掲げています。   配布資料14の御説明は、以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容について御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。   御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いします。   この点については、40分ほどの時間を予定していますが、午後4時45分になっておりますので、午後5時になりましたら会議を終了したいと思います。 ○齋藤委員 私自身は、ずっとお話ししているとおり、A案に賛成をしております。これまでも、体の一部や異物の膣や肛門への挿入が深刻な心身への侵襲、心身への影響をもたらすものであるとお伝えしてまいりました。ほかの国で当たり前にレイプとして捉えられていることが、なぜ日本ではそうではない感じがすると言われて否定されてしまうのかを疑問に思っております。自分の膣や肛門への体の一部や異物の挿入は、自分の体の安全が脅かされる出来事です。通常、何かが挿入されることが余りない部位に、自分の意思ではなく何かが挿入されるということは、生命への恐怖と強い恥辱をもたらすことは想像できるのではないでしょうか。また、膣や肛門に何かを挿入される場合には、既にそこに至るまでに衣服の中などへの侵襲が起きています。   幾つか、例もお話ししたいと思います。              (具体的事例を紹介)   性的虐待もそうで、子供たちは、何が挿入されたかは分からず、分かることは、自分の体に何かが入ったということです。男の子も女の子も、集団のいじめなどで、下着を下ろされて、ペン類やその場にある備品等を膣や肛門に挿入されるということがあります。それは、学校でのいじめの場合、すぐ身近にあるものを使っているためです。しかし、それがどれほど屈辱的で、自分の体の安全が脅かされる出来事かということは、想像するのがたやすいと思います。それは、挿入されたものが、例えば、綿棒や消しゴムでも同じです。女性の生理用品であるタンポンであっても、意思に反して挿入されるならば、体の安全が脅かされる感覚になります。   大人の例では、(具体的事例を紹介)。膣や肛門という、通常隠されている部分に加害者の手などが侵入してきて、自分の意思に反して何かを挿入されるという行為が、恥辱感などを強めて、体の安全を脅かすということだと思っております。   以前もお話ししましたとおり、心理学は人の主観的な苦痛を扱うものなので、主観的な苦痛に線引きをするということはもちろんできないのですけれども、こうした理由から、膣や肛門への体の一部あるいは物の挿入に関しては、強制性交等と同等とすべきだと考えております。 ○井田部会長 A案に賛成の立場からお話しいただきました。 ○山本委員 前から申し上げているとおり、私もA案に賛成しています。なかなかこの被害が理解されないこと自体が非常に問題だと思います。いじめの中で、齋藤委員が言われたように、様々な物が挿入される被害があって、穿孔のリスクや、身体内から取り出せなくなるケースもある身体的危険がある行為でもあり、さらに、心理的にも非常にダメージが大きく、PTSDの発症率も同じ程度であるということが心理・精神医学的なエビデンスから語られているのにもかかわらず、やはり今までの見方によって、いたずらとか、ふざけていただけだとか、そういうことが言われて、なかなか学校の現場などでもきちんと対応されていないということがあります。   物を挿入する行為ということが身体境界線の侵害であり、レイプと認めていただきたいですし、B案の手指又は性具を挿入する行為というのは、やはり限定的だと思います。足指などを挿入する行為もどうなのかということもありますし、性具を使った性的な侵襲だけではなく捉えてほしいです。加害者が何で性的な行為を侵襲として行っているのかというと、性暴力加害の治療教育的な観点からは、接触と攻撃の増加と捉えられています。単に接触するだけではなくて、攻撃として侵襲をする、被害者が望まない物を入れることによって、自分がその体を支配し、そのような行為をすることができる自分の力、権威を確認しているわけですから、それは、物が何であるかにかかわらず、レイプとして扱い、強制性交等罪として諮問事項「第一の一」中の規定に含めてほしいと思います。C案については、配布資料14にある「●●●」が少し明確でないので分からないのですけれども、軽い類型ではないと思います。同じように扱ってほしいと考えています。 ○井田部会長 A案を支持する立場からの御発言でありました。 ○佐藤(拓)幹事 残り時間は限られていますので、私は議論の拡散を防ぐという観点から、膣・肛門への挿入行為以外の行為の取扱いについて簡単に述べさせていただければと思います。   まず、口腔に挿入する行為について、論点として挙がっていますけれども、これについて申し上げます。性犯罪に関する刑事法検討会を含めたこれまでの議論を踏まえますと、膣・肛門への挿入行為について、被害の程度は挿入された身体の一部や物がどのようなものであっても性交等と変わらないという立場に立った場合でも、必ずしも口腔への挿入行為も同様であるとの結論が導かれるものではないと思われます。また、実質的に考えても、口腔は膣や肛門とは異なり、衣服や下着で通常覆われているものではなく、飲食物や、それを摂取するために用いる食器や手指等を入れることが本来的に予定される部位であることから、口腔に身体の一部や物を挿入する行為は、一般的・類型的に見て、性的性質は乏しいと考えられます。当該行為をわいせつな行為に限定したとしても、その大部分は、当該行為が行われた状況ですとか、行為者の主観を加味して初めて性的性質が認められるものであって、性交等に匹敵するほどの性的性質の強さが類型的にあると評価はできないと思います。したがって、口腔への挿入は、A案、B案、C案では全て除かれていますけれども、それが適切な扱いではないかと考えます。   次に、挿入させる行為ですけれども、これまでの議論を踏まえますと、膣・肛門に挿入する行為によって生じる被害や影響が、同じように膣・肛門に挿入させる行為によっても生じるといった関係性には必ずしもないと理解されること、さらに、例えば、被害者に持たせた性具等を行為者の膣に挿入させる場合には、そもそも被害者側の身体に性的な接触が起きないことなどを考えますと、行為者が他人の膣・肛門に身体の一部や物を挿入する行為と比較して、性的自由の侵害の程度が類型的に低いと思われることから、対象とはしないとするのが適当ではないかと思われます。これもA案、B案、C案ではいずれも省かれていますけれども、それで適当ではないかと思います。   舌を挿入させる行為の話ですけれども、それに限っては処罰対象に含めるべきだという意見が一巡目の議論でありました。しかし、舌を挿入させられた場合の被害や影響が、舌を挿入された場合のそれと同じであるという関係が示されているわけではありませんし、「膣や肛門に舌を挿入させる行為は、粘膜の接触を生じるという意味で身体への侵襲性が大きい」という意見も出されましたけれども、粘膜の接触が生じるとなぜ身体の侵襲性が大きくなると言えるのかは明らかでないと思われます。粘膜の接触というのは、ほかの部位でも起こり得ますので、そこが決定的な重罰の根拠になるとは思われないと考えます。 ○井田部会長 口腔への挿入行為、そして、被害者をして膣・肛門に挿入させる行為の扱いについては、重い類型に組み入れる必要はないと、こういう御意見だったと思われます。   時間がもう午後5時に近いところまで参りましたので、本日の議論はここまでとさせていただき、次回、本日に引き続き、この「第一の四」についての議論を更に進めた上で、残りの諮問事項について、本日の会議と同様に、議論のたたき台となる資料を使って二巡目の議論を行うことにしたいと思います。次回の会議において御議論いただく事項については、本日の議論の状況も踏まえて、私の方で早急に検討し、事務当局を通じて皆さんにお知らせすることとさせていただきたいと思います。そういうことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。そのようにさせていただきたいと思います。   本日の会議における御発言の中で、個別の事例に関する御発言などが幾つかございましたので、御発言された方の御意向を改めて確認の上、非公開とすべき部分につきましては該当部分を非公開とさせていただきたいと思います。それらの具体的な範囲あるいは議事録上の記載方法については、その方との調整もございますので、私に一任いただきたいと思います。配布資料につきましては、公開することとしたいと思います。そういう取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   では、次回の予定について、事務当局から御説明をお願いします。 ○浅沼幹事 次回の第7回会議は、令和4年4月28日木曜日の午後1時からを予定しております。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日はこれにて閉会といたします。ありがとうございました。 -了-