法制審議会 担保法制部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  令和4年4月19日(火) 自 午後1時30分                      至 午後3時26分 第2 場 所  法務省7階・共用会議室6、7 第3 議 題  担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(3) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは、13時30分という予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第15回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は、衣斐幹事が御欠席と伺っております。   まず、前回の部会の後に関係官の交代がございましたので、報告します。新たに森下関係官と工藤関係官が部会に参加されます。   まずは、森下さんの方から簡単に自己紹介をお願いします。 (関係官の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   本日は、部会資料の続きですが、資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日は新しくお送りした資料はございません。前回、部会資料14「担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(3)」をお配りしましたが、今日はその積み残し部分について御審議いただければと思います。 ○道垣内部会長 私の授業というのは大体、予定をしたやつの3分の2ぐらいが終わって、それで、それを積み残してやって2分の1が終わってみたいなって、いつも中途半端な形で次に進んでいくのですが、1回ぐらいはこういうふうな、新たなものがないということで追い付くということをやって、今後またきれいに始まるというふうにするのもいいことかなと思いまして、本日はそういう事情もございますし、新たな資料なしということで、積み残し部分をということになりました。   前回の積み残し部分となっておりました部会資料14「担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(3)」というところなのですけれども、第1については大体御議論いただいたかと存じます。第2につきまして、若干実は前回ここの議論に入ったのですけれども、やはりまだ途中で打ち切ったというふうなことでもございますので、事務局におきまして再度この部分からの御説明をお願いしたいと思います。第2の1と2ですね、よろしくお願いします。 ○寺畑関係官 前回の部会で御説明をしたところではございますが、少し期間も空いておりますので、改めて簡単に御説明いたします。   まず、第2の「1 同一の動産について新たな規定に係る担保権が数個設定されたときの優劣関係」について御説明いたします。本文では、担保権相互の優劣関係について、一読と同じく二つの案を併記しております。【案14.2.1.1】は、対抗可能になったときの前後によって決めるという考え方です。【案14.2.1.2】は、占有改定によって簡易に対抗要件を具備することができることとしながらも、例えば担保ファイリング制度によって優劣関係を決めることによって、隠れた占有改定の問題を解消しようというもので、別添に「簡易な記録制度のイメージ」を付けております。記録事項としては、今の譲渡登記以上に軽くするのは難しいかもしれませんが、手続的な部分で使いやすい制度にできないかという問題意識をお示ししております。   次に、「2 引渡しと登記との優劣関係」についてです。本文は、いわゆる登記優先ルールの採否を取り上げるものです。これは、第2の1で担保権相互の優劣関係を対抗可能になったときの前後によって決める【案14.2.1.1】の立場を採る場合、隠れた占有改定による問題を解消するために占有改定を劣後させるかどうかという問題であり、ファイリングによって優劣を決める【案14.2.1.2】の立場を採った場合には問題になりません。一読では、登記優先ルールを採用する方向性が強かったと思います。そこで、17ページに、登記優先ルールを導入する場合、どのような場面に適用されるかについて、場合分けして整理しております。結論としては、真正譲渡との優劣関係を考える場合には登記優先ルールは適用せず、四つ目の担保取引同士のケースのみ、このルールを適用することを提案しております。   また、18ページの26行目以下では、占有改定の問題に対処するという観点から、全体として登記やファイリング制度をどのように設計するかについて、大きく三つのパターンを示しております。①は、現状を維持するというものですが、占有改定の問題は残ります。②は、対抗要件は現状を維持し、担保権の優劣はファイリングによって決するというものです。③は、登記優先ルールを採用するものです。②と③の場合には、更に詳細な情報を書き込むか、書き込むとしてどこに書き込むかという分岐もございます。   以上について引き続き御議論いただけますと幸いです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構ですし、また、前回の御発言と重複するということがあっても、皆さん全部覚えていらっしゃるわけでもないと思いますので、構いませんので、御意見を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。本日もよろしくお願いいたします。   今ほど事務局から御説明がございましたとおり、担保権が競合した場合における優先関係を定めるためのルールに関しまして、その背景として、隠れた担保権としての占有改定をどう取り扱っていくかということがあるのだと理解しています。すなわち、公示性の向上ということと、併せて簡易、迅速、廉価な公示方法をどう設計していくのか、その際に、【案14.2.1.1】の対抗要件具備の先後によるとの案と第2の2を組み合わせた登記優先ルールと、【案14.2.1.2】の担保ファイリング制度のどちらが妥当なのかという議論の状況なのかなと理解しております。   これらのうち担保ファイリングを導入するということになりますと、実務上簡易、迅速、廉価な制度として実現できるためには、既に多くの方から御指摘がございますが、担保ファイリングを登記よりも簡易、迅速、廉価な制度として設計するということを前提としまして、対抗要件具備については専ら占有改定によるというのが有力な組合せなのかなと理解しております。   一方で、対抗要件具備を動産譲渡登記により行う必要があるという場合も想定されるところでございまして、そうなりますと、登記に関するシステムと担保ファイリングに関するシステムとが両建てになりまして、公示方法の重複が生じてしまうということになり、追加的なコストとして、例えば登記とは別途担保ファイリングをしなければならないということについてのコスト、それから、対抗要件の具備の調査だったり、競合する担保間の優先関係の判定のための調査だったり、といったもののために要するコストが発生してしまいます。これを軽減するために、登記申請すれば自動的に担保ファイリングの登録手続も行われるというシステム連携も提案されているところでございます。   こうした状況を踏まえまして、担保ファイリングと登記優先ルールの選択に際する実務的な観点からの考慮要素として、例えば、実際に担保ファイリングを簡易、迅速、廉価に設計できるのかという点だったり、そうできるとして、簡易、迅速、廉価な制度の実現に向け、占有改定と担保ファイリングの組合せというものを徹底できるのかという点だったり、一方で対抗要件具備方法として登記を利用するということになる場合において、担保ファイリングと登記という二つの公示システムが併存するということの合理性をどう考えるのかといった辺りが論点になるのかなと思っております。   これを前提としまして、まず、そもそも実際に担保ファイリングを簡易、迅速、廉価に設計できるのかという点が検討の対象になるわけなのですが、この点に関しまして、担保ファイリングのコンテンツにつきまして、ノーティスファイリングの制度も参照された上で、相当程度簡素なものが目指されるべきと考えられます一方で、公示性の向上という観点からは、それが合理的な考え方なのかどうかというのは議論があるかもしれないですが、より情報を充実してほしいというニーズがあるかもしれませんで、それが実際どうなのか、精査する必要がありそうなのかなとも思っております。   また、担保ファイリングの登録手続をどう設計するのかというのも当然のことながら論点になりまして、例えば、設定当事者が自ら手軽に行うことができるということのニーズはあり得るとは思われます一方で、担保ファイリングのコンテンツの内容次第というところがあるかもしれませんが、正確性の確保が重視される場合には、登記申請の場合と同様に、専門家による助力が望まれることがあるかもしれませんで、また、事務の効率化という観点からは、担保ファイリングの申請手続をアウトソースしたいというニーズが生じることも考えられます。それから、他方で登記制度について、より簡易、迅速な制度となるような改善提案もこの部会資料においてなされているところではございますが、こうした改善がなされることによりまして登記の使い勝手が向上するということになりますと、担保ファイリングの導入ニーズというのも相対化しそうなのかなと考えております。   次に、簡易、迅速、廉価な制度の実現に向けまして、占有改定と担保ファイリングの組合せというのをどこまで徹底できるのかという論点についてなのですけれども、【案14.1.4.2】にありますように、登記を担保権の処分だったり順位の変更だったりというものを公示できる制度として、ある種の高度化、高機能化を図るということになりますと、その分、登記の使い勝手というものが向上しそうであるとも思われます。そうだとしますと、担保ファイリングと登記が併用されるケースというのは生じやすくなりそうなのかなとも想定されるところだと思います。そうした場合に、今度は担保ファイリングと登記という二つの公示システムが併存するということの合理性をどう説明するかというのが実務的な論点になるわけなのですが、この点については幾つか細目的な検討事項が生じそうであると考えています。例えば、担保ファイリングのUIだったりUXだったりというものが、公示性の向上という目的に照らしまして、登記との重複を感じさせない優れたものとできるのかというのも実務的な検討課題の一つと考えております。   ちなみに、登記につきまして、これはどちらかというと風評リスク等への配慮の観点からと理解しておりますが、現状の仕組みとしまして、設定当事者、それから利害関係人以外の者が参照できる情報が、登記事項概要証明書だったり概要記録事項証明書だったりにおけるような簡素な情報に限定されているという取扱いとなっておりますが、担保ファイリングによって参照できる情報がこれらと同様な内容になる場合に、両制度の重複感が生じやすくなりそうなのかなと思われます。   それから、担保ファイリングの導入の効果としまして、担保権者の優先関係が担保ファイリングによって一元的、一覧的に把握できるという点があると考えておりますが、一方で登記優先ルールの場合には、例えば占有改定によって対抗要件具備されたものについて優先関係を公示できないことになると思いますが、考え方によっては、登記によって優先関係が分かるだけで十分ですという考え方もあるかもしれませんで、この辺りの制度上の効用の考え方についても精査が必要なのかなと思っております。   それから、担保ファイリングの実施時期につきまして、仮に担保ファイリングが担保権設定前にできますということになりますと、登記優先ルールでは実現できない利点の一つになるとも考えられるのですが、そうすべき実務上のニーズがどこまであるのかということについても精査が必要になりそうなのかなと思います。すなわち、濫用されるおそれがないのかとか、後発の資金供給者にとって萎縮効果みたいなものを生じさせないかといった辺りについても検証の必要がありそうなのかなと考えております。   それから、担保ファイリングと登記という二つの制度が併存するということによって事実上、公示性が向上しますという利点はある一方で、設定者にとって風評リスクがより生じやすくなるというところが懸念されることがあるかもしれなくて、その辺りについても効果検証が必要になりそうなのかなと考えております。   最後にもう一つだけ、対抗要件と優先関係の判定に関する制度が分離するというところも効果として伴うことになるわけなのですが、こうした結果による再構成リスク、リキャラクタライズリスクということについても一応考えておく必要があるのかなと考えております。すなわち、占有改定によって対抗要件具備した先行する真正譲渡が、事後的に担保取引とリキャラクタライズされましたという場合に、後行の担保権者に優先されることになり得るというリスクなのですけれども、これは登記優先ルールの場合にも生じるリスクなのかなと思われます一方で、例えば、登記によって対抗要件具備した先行する真正譲渡が、事後的に担保取引とリキャラクタライズされた場合には、担保ファイリング制度の下においては先行する譲受人が担保ファイリングを経ていないということである以上、後行の担保権者に敗れる可能性が生じてしまうという一方で、登記優先ルールの下では後行の担保権者に優先できることになるかもしれないという点において、リスクの発現の仕方が変わってくるという評価はあり得るのかなと思っています。   以上をまとめますと、実務上、実際に担保ファイリングを簡易、迅速、廉価に設計でき、かつ、占有改定と担保ファイリングの組合せというものを徹底できる、あるいは、担保ファイリングと登記という二つの公示システムが併存したときに、その合理性を説得的に説明できるという場合には、担保ファイリングが魅力的な選択肢となり得る一方で、そうでない場合には、登記優先ルールの方により妥当性が認められるという選択肢になりそうと考えておりまして、取り留めのないコメントになってしまって恐縮なのですが、私の考えを述べさせていただきました。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。最後の塊でおっしゃった再構成リスクというのは、確かに考えなければいけない問題だろうとは思いますけれども、そもそも再構成リスクを避けるために対抗要件と担保としての効力の問題を分けるというふうにしたわけですね。しかし、そうしても、最初にやった人が真正譲渡だと思って担保ファイリングをしなかったら、その後、それが担保目的であると性質決定されて、その後に担保を取得して担保ファイリングまでやった人がいますと、そちらの担保ファイリングで優劣を決めるということになると、やはり負けてしまう、再構成をされることによって順位的には負けてしまうというふうなことになるのだけれども、その辺をどう考えるのかという問題もあるということだったのだろうと思います。いろいろ御指摘頂きまして、どうもありがとうございました。   ほかに、どなたかございませんでしょうか。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。立教大学の藤澤です。本多さんの御意見の中にも登場した点なのですけれども、ファイリング制度を採った場合のファイリングの効力について、少し確認させていただきたいことがあります。紙でお送りいただいた資料の16ページの5行目、6行目辺りの話なのですけれども、本多さんが御指摘されたように、実体法上担保権の効力が生じる前にファイリングを行った場合に、そのファイリングにどのような効力があるかという問題についてです。   お送りいただいた資料の中には、実体的に担保権が発生する前にファイリングを行ったとしても、そのファイリングには効力がないということを前提に制度を設計していくと記載されていました。このことの意味についてなのですけれども、これは、あるファイリングをした時点で実体法上担保権が存在していなかったら、そのファイリングは無効で、その後、そのファイリングに対応するような担保権が発生した場合には、もう一度ファイリングをしないとその担保権の優先順位を確保する効力は生じないという意味でしょうか、それとも、後にそのファイリングに対応するような担保権が発生すれば、その時点で順位を確保する効力が生じるということなのでしょうか。   というのも、実体的な担保権の効力についても、前回の議論、前々回の議論では、非常に抑制的な立場が採られていて、例えば集合物に対する担保権においては、その集合物が一定程度実現可能な状態とか、観念的には存在しているといえるような状況でなくては担保権を発生させることはできないというような御議論があったかと思うのですが、それを前提にすると、具体的な意味での集合物が存在しないと実体的にも担保権を設定することはできないし、担保権の優先順位も確保することができないということになります。そうすると、漠然とした在庫とかそういったものについて事前に融資を行って、それについて優先権を確保したいというような要請がある場合には、このような制度では応えられないことになります。その結果、包括担保のように、その会社の全財産について担保を設定するというような手法を採らない限りはそういったニーズにこたえられないということになるのではないかとの懸念を持っております。在庫について優先権を確保したいというような小さいニーズに応えるために、包括担保という大きすぎる器を使わないとならないという問題があるのではないかと感じました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。少し今、分からないところがあったのですが、確認できればと思います。というのは、個別動産とか個別債権について担保を設定する、ないしは譲渡をするというふうに、実体的な物権変動の効力が発生する前に担保ファイリングだけしても効果が発生しないというふうな問題は、ある種、空っぽのものの登記には、登記ではないのですけれども、効力が発生しないという話なのだと思うのです。これに対して、後半おっしゃったのはどちらかといえば、集合物という概念を採るかどうかともかくとして、集合物に担保を設定するというときの集合物の適格性の問題で、ある程度実質的なことがないと集合物に担保設定しても物権的な効力が発生しませんよということにするのか、それとも、集合物なんていうのは所詮観念的なものなのだから、別に現在全然存在しなくても集合物に担保が設定されたという状態は観念できるのですという問題であるかということですね。個別の場合と集合の場合とを藤澤さんは続けてお話しになりましたけれども、生ずる問題は別問題ではないですか。 ○藤澤幹事 藤澤です。おっしゃるとおり、必ずしもつながる問題ではなくて、別々の問題であると認識しております。ただ、集合物の方について比較的厳格な立場を採るということが以前の議論の中で出てきましたので、このファイリングの効力の問題は、特にその場面で強く問題になってくるのではないかと考えた次第です。 ○道垣内部会長 分かりました。そうすると藤澤さんの問題は、集合物についてどれだけ厳格な話を採るかどうかというのは、またそれは議論をして決めなければいけない問題だけれども、ファイリングをするということが、実体的な法律関係が生じた段階で当該ファイリングの効力が発生すると考えるのか、実体的な効力が発生した後でもう一度ファイリングをしなければいけない、前のやつは空っぽのファイリングなのだから効果がありませんよと、そういう話になるのかという話で、抵当権でいうと被担保債権の成立前に登記をしたらどうなるかという問題が昔からあるわけですけれども、そういうものに近いのだけれども、どういう立場を採っているかということなのでしょうかということですね。この資料はどういう立場も採っていないと思います。それは藤澤さんを含めた議論で決めるべき問題であって、藤澤さんは、そのときには実体的な効力が発生した時点で少なくとも担保ファイリングの効力が発生するというふうにしないとまずいのではないかと、そういうお立場であったと考えてよろしいでしょうか。 ○藤澤幹事 はい、そうです。 ○道垣内部会長 何かありますか。 ○笹井幹事 御指摘を受けて、確かにその点は少し考えないといけないなと思いました。資料作成の際はそこまで詰めて考えていたわけではないのですが、どちらかというと、元々無効で、もう一回改めてやり直さないといけないのではないかなと思っておりました。でないと、例えば、すごく広くファイリングしておいて一部分だけ合致しているというときに、その一部分についての効果は発生するのか、その後また別の一部分に対応したときに二つに分かれて発生するのかとか、検討しなければならない問題が生じてしまいます。もう一度考えてみたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。 ○片山委員 どうもありがとうございます。慶應大学の片山でございます。先ほど一つ前の本多委員の御発言とかなり重複をすることになりますけれども、対抗要件としての登記ということと、それから優劣決定のためのファイリングとの関係ということで、やはり両者を併存させるということになりますと制度がかなり複雑となり、実務も混乱するようには思いました。実務において占有改定による対抗要件具備が定着化していて、引渡しを対抗要件具備から除外することは実務に混乱をもたらすからということが根拠で、簡易な3要素を記載する形のファイリング制度を設けて、順位決定を一元化するという根拠が述べられているわけなのですけれども、もしそれだけであるということであるならば、むしろ対抗要件としての登記事項を簡易化して、登記を正面から要求するという方が制度設計としては分かりやすいのではないかとも思われます。   また、逆に、これも本多委員から御指摘があったとおりですが、登記をして対抗要件を具備しようとしている担保権者に更にファイリングの手続をとらせるというのは余りに手続が重すぎるように思われまして、16ページの最後のところにはシステムの連携という点は指摘されておりますけれども、少なくとも登記を履践すれば自動的にファイリングをしたという取扱いは不可欠かなと思います。いずれにしましても、これは前回申し上げたかもしれませんが、対象を動産に限定するということであるならば、対抗要件としての登記とファイリングの併存は制度的に重すぎて、登記に一元化した方が簡便であるように思われます。   しかし、仮にファイリングシステムを導入するメリットというものを考えるということであるならば、それはUCC等でもそうでありますように、動産に限らず不動産を除いた全ての事業資産が対象となり得るというような点にあるのかとも思います。動産債権、有価証券、知財、もし可能であれば事業担保もここに含めてということになるのかもしれませんが、担保の構成部分である個々の動産の対抗要件具備とは別に、ファイリングシステムによって担保取引の一覧性の高い公示及び優劣決定が可能であるということであるならば、対抗要件としての登記の併存もそれなりに大きな意義があると考えております。その上で、占有担保をどこまで外すのかと、動産質とか、担保権者が支配を確保している債権担保について、ファイリングの適用をどこまで外せるのかというようなことが検討対象になってくるのかとは思います。   繰り返しになりますけれども、やはりファイリングシステムというのは我が国を始め大陸法の私法体系にとっては、かなり異質なものかと思いますので、恐らく多くの大陸法の諸国では登記とか登録とかという対抗要件制度の中に落とし込んで取り込んでいるのではないかというような印象は持っております。ファイリングシステムを正面から導入するということになりますと、少なくとも担保取引に関しては動産だの債権だのという区別をする、刻む担保とか、多元主義とかという、そういう方向はこの機に切り捨てて、まとめる担保とか一元主義に舵を切るような抜本的な改革をするということでないと意味がない、何か割に合わないというような印象を持ちました。   以上、意見でございます。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。少し片山さんにというか、片山さんだけの問題ではないのですけれども、少し伺いたいのですけれども、現在の動産債権譲渡登記にそれなりの情報を付け加えるというふうにして、きちんとしたある種の登記システムにすると、それで、担保の方はそちらに誘導して担保ファイリングとは別に作らないという、それはよく分かる話なのですけれども、そのときには、現在の動産債権譲渡登記のシステムの中に、転担保だとか順位の変更だとか、そういうふうなシステムも全部登記の中に組み入れるというお考えでしょうか、それとも、それについてはもうある種、公示しないかもしれませんけれども、もういいではないかと、あるいは実体的に認めないというのもありますし、実体的に認めるのだけれども、それはまあ契約があればそれでいいということにするという話なのかもしれませんけれども、それはどう考えですか。 ○片山委員 私自身が代表してお答えできることではないかと思いますが、これは恐らく前回も議論がありましたとおり、必要的な登記記載事項としては3要素で、担保権者、設定者、そして担保取引ということでいいのかとは思いますが、併せて任意的な記載事項として、被担保債権の額であるとか、あるいは極度額を公示するということを前提とした上で、順位の変更とか、あるいは転担保といったような担保権の処分を可能とするという、そういう選択肢を提供するという形での登記制度にしてはどうかということが、前回も御意見が出ていたかと思いますけれども、仮に登記制度に一本化するということになれば、一種の添え担保のような形で動産担保を使うという場合は簡易な必要的記載事項だけ、それから、本格的な事業担保にも匹敵するような集合動産担保を用いるという場合には、その任意的な記載事項で担保の処分を可能にするような選択肢を与えると、そういうような2階建て構造がいいのではないかと私自身は思っているところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○水津幹事 本多委員や片山委員のおっしゃったことと一部重複又は関連しますが、担保権の優劣関係を決するためのファイリング、つまり担保ファイリングを設ける提案と、登記優先ルールを定める提案とについて意見を述べた上で、対抗要件を登記又はファイリングに一元化する方向性が考えられないかということを申し上げます。   まず、担保ファイリングを設ける提案は、新たな担保権については、担保権の設定の対抗と切り離して担保権の優劣関係を決する判断枠組みを新たに取り入れるものです。この考え方によれば、新たな担保権についてのみ、担保権の優劣関係について抵当権等とは異なる判断枠組みが採られることとなります。  この考え方を採る背景として、新たな担保権について引渡しを対抗要件から除外することは、実務に混乱を生じさせるおそれがあることが指摘されています。しかし、担保ファイリングの制度が設けられたときであっても、新たな担保権の設定を受ける者は、コストにもよるかと思いますが、通常は、担保権について先順位の地位を確保するため、対抗要件を備えるとともに担保ファイリングも備えることとなるように思います。担保権の設定の対抗と担保権の優劣関係とを切り離す意味があるのは、真正譲渡を受けたつもりであったものの、担保譲渡を受けたものとされてしまった場合において、差押債権者等との関係では、担保権を行使することができるといったときなどに限られるような気がいたします。  また、新たな担保権の設定を受けた者が対抗要件を備えたものの、担保ファイリングを備えなかった場合において、その後に真正譲渡を受けて対抗要件を備えた者がいたときの扱いと、その後に担保譲渡を受けて対抗要件を備えた者がいたときの扱いとの間にアンバランスが生じないかどうかが問題となります。この問題について、部会資料の15ページの4は、対抗の意味を限定することによって、アンバランスは生じないと説明しています。たしかに、対抗の意味を限定すれば、論理の不整合は生じません。しかし、所有権は、担保権よりも強い権利であるという前提を採るときは、次の意味において、評価の不整合が生ずる気がいたします。すなわち、真正譲渡がされると、新たな担保権の負担が付いた所有権が移転するという考え方を採った場合において、先行の担保権者が担保権の実行としての競売をしたときは、真正譲渡を受けて対抗要件を備えた者は、剰余金があればその交付を受けることができるにすぎないのに対し、担保譲渡を受けて対抗要件を備えた者は、担保ファイリングを備えていれば、先行の担保権者に優先して弁済を受けることができ、また、担保ファイリングを備えていなかったとしても、先行の担保権者と按分して弁済を受けることができることとなります。この扱いは、少しバランスが悪いように思います。この扱いによれば、先述のケースとは逆に、真正譲渡を受けたとされた者が、実は真正譲渡を受けたのではなく、担保譲渡を受けたものであると主張するケースが出てきそうです。先行の担保権が対抗要件を備えていた以上、真正譲渡を受けた者は、その負担による不利益を覚悟すべきであるというのであれば、担保譲渡を受けた者は、なおさらその負担による不利益を覚悟すべきであるような気がいたします。これまではそのように考えられてきましたし、ここでの提案によっても、新たな担保権以外の担保権、つまり抵当権等については、そのように考えるべきであるとされています。   次に、登記優先ルールを定める提案は、対抗要件の具備の先後によるという規律について、動産譲渡登記を優先させるという規律を付け加えることによって、その規律を修正するものです。  しかし、登記優先ルールを定めたときは、新たな担保権の設定を受ける者は、ここでもコストによるかと思いますが、通常は、担保権について先順位の地位を確保するため、引渡しを受けることではなく、動産譲渡登記を備えることを選択するようになるかと思います。そうすると、上述のように規律を重層化したとしても、その意味は、あまり大きくないような気がいたします。  また、登記優先ルールは、担保権の優劣関係を決するものであるとされています。そのため、部会資料の17ページのケース3とケース4との扱いについて、担保ファイリングについて述べたのと同じような意味でのバランスの悪さが生ずるように思います。つまり、ケース3において、真正譲渡を受けて動産譲渡登記を備えたBは、Aが担保権の実行としての競売をしたときは、剰余金があればその交付を受けることができるにすぎないのに対し、ケース4において、担保譲渡を受けて動産譲渡登記を備えたBは、Aに優先して弁済を受けることができることとなるのは、アンバランスではないかということです。   そこで、ファイリングを担保権の優劣関係を決するもの、つまり担保ファイリングとして位置付けるのではなく、ファイリングを対抗要件として位置付けることができないかという気がいたします。  その方向性としては、まず、占有改定プラスファイリングと動産譲渡登記との双方を対抗要件とすることが考えられそうです。この考え方によれば、占有改定がされたときは、ファイリングまでしないと対抗要件を備えたことにならないこととなります。部会資料の16ページの4(4)で挙げられている方向性は、基本的なコンセプトは異なるものの、これに近いものといえそうです。  しかし、この方向性を採るのであれば、もう一歩進めて、ファイリングと動産譲渡登記との双方を対抗要件とした方が簡明であるように思います。これは、部会資料の第1の1の問題について、登記一元化ではなく、いわば登記又はファイリング一元化の方向性を目指すものです。この考え方については、引渡しを対抗要件から除外することから生ずる負担について懸念が生じそうです。しかし、ファイリングについては、これを備えることについての負担を軽くすることができるのであれば、実務のことはよく分かりませんが、上記の懸念に対処することができるのではないかという気もいたします。また、担保ファイリングを設けたり、登記優先ルールを定めたりした場合であっても、先述のように、新たな担保権の設定を受ける者は、通常は、担保権について先順位の地位を確保するため、担保ファイリングや動産譲渡登記を備えることとなるように思います。   登記又はファイリング一元化の方向性によれば、ファイリングは、簡素な公示により対抗要件を備えるものであるのに対し、動産譲渡登記は、詳細な公示により対抗要件を備えるものであると整理されます。動産譲渡登記を備えれば、その登記により詳細な情報を公開したり、担保権の順位の譲渡等をすることができたりするものの、対抗要件を備えることができれば十分である者は、ファイリングを備えれば足りることとなります。この方向性を採るときは、部会資料の16ページの(4)の最後の括弧書きにあるように、ファイリングと動産譲渡登記との2つのシステムを連携させることが必要になるかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ですが、私はアンバランスとおっしゃったところがよく分からなかったのですけれども、どういう事例を想定されてアンバランスだとおっしゃったのだっけ。 ○水津幹事 新たな担保権の設定を受けた者が対抗要件を備えたものの、ファイリングを備えていない場合において、簡単にいうと、後に出てきた所有者は、劣後するにもかかわらず、後に出てきた担保権者は、優先したり、平等であったりするのは、少しバランスが悪いのではないか、言い換えると、抵当権等の設定を受けた者が対抗要件を備えたときと同じように、後に出てきた者は、所有者も、担保権者も劣後するとしたほうが、バランスが良いのではないかということです。 ○道垣内部会長 すみません、分かりました。ある種のくるくる回りというか、そういう話になるということですね。ごめんなさい、前も出た話だったのに、理解できませんで、申し訳ありませんでした。 ○大塚関係官 ありがとうございます。調査員の大塚です。私からは、少し細かい点かもしれませんが、本多委員の言われた簡易、迅速、廉価という言葉の意味を少しはっきりさせたいという趣旨から質問させていただきます。   前回も出た話なのですけれども、簡易、迅速、廉価という目的を満たすために、登記事項ないしファイリング事項を限定するといったような提案がなされていたかと思います。特に問題なのは、被担保債権に関わる情報をファイリング事項にするかという問題なのかと思います。このとき、そういった事項をファイリングさせないことがどれだけ簡易、迅速、廉価に資するのかというと、よく分からないところがございまして、すなわちインターネット上のシステムでファイリングできる、あるいは登記できるとする場合に、被担保債権に関わる情報、例えば債権者、債務者、弁済期、あるいはその元本や利率の額であったり、根担保の場合であれば被担保債権の範囲であるとか極度額について、こういった事項については当然、ファイリングする際には決まっているはずですので、それをファイリング事項に入れないことが果たしてそこまで簡易、迅速、廉価に資するのでしょうかということを、実務に携わっている方にお聞きしたいと思います。   一つ考えられますのが、そういった被担保債権に関わる情報について、それを証明する文書の提出が求められると簡易、迅速、廉価という要請が満たされなくなってしまうかもしれないと、しかし、そういった証明する文書の提出をどこまで求めるのかということは、ファイリング事項をどうするのかという問題とは別個切り離して考えることができるかと思いますので、そういった文書の提出を求めないという制度にした場合に、ファイリング事項を限定する必要が果たしてどこまであるのかということは、いかがでしょうかということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。どなたかお返事ありますか。 ○伊見委員 伊見でございます。実務の立場からという、私自身も今の御指摘については同様の考えをかねてから持っておりました。申請する際のいわゆる文字や情報の多さ、少なさというのが負担感の増減とどこまで関係があるのかという点であります。そして、今、最後にも御指摘がありましたとおり、現行の動産債権譲渡登記におきましては物権の発生を証明する書類、情報というのは提供を要しないということになっておる関係で、そこにおいてもそのまま提供を要しないということを維持するのであれば特段、登記事項、登録事項が増えたということによって申請人の負担が多くなるということにはならないのかなと実務の感覚としては考えているところでございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○村上委員 ありがとうございます。連合の村上です。今、様々実務上の課題などについて御意見があり、【案14.2.1.1】と【案14.2.1.2】の間には様々バリエーションもあるというところを伺いました。ただ、私どもは実務上の課題というのがまだよく分かっていない部分もありますので、少し原則的な考え方を発言しておきたいと思います。   前回も申し上げましたけれども、占有改定による引渡しを第三者が認識することは極めて難しいということがございます。そうしたことから、資料の14ページ、27行目にあるような、不測の損害から労働者を含む一般債権者である第三者を保護するためには、やはり担保権の存在が第三者に分かるように記録されているということが必要だと思います。したがいまして、占有改定よりファイリングを優先させる【案14.2.1.2】の方がよいと考えております。原則的な発言ですが、よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。先ほど藤澤先生がおっしゃったところと同じところについて、少し私も疑問を持ったものですから、一言申し上げたいと思います。このファイリングというのをあえて登記とは違うという形で論ずる、検討してみるということの意味は、公示の機能を細分化した上で、ファイリングというものが担当するのは飽くまでも順位の確保だけだと、そこまで限定してそれに必要な公示の内容を検討してみようということなのではないかと思っておりました。そうしますと、普通の登記と同じように、存在する物権変動の公示なのだから実体的に担保権が発生していることが必要だということをはじめから前提にしてしまい、ファイリングの方までその枠組みで検討してしまうと、分けて検討することの意味が失われてしまうのではないかと懸念いたします。最終的には一元化ということもあり得るかと思いますし、引渡しは残すにしても登記制度はどちらかにするということはあり得るかと思いますが、その場合でも、登記まで必要か、それとも、正にそういうふうなおそらく簡易な内容になるであろう公示を意味するファイリングで足りるのかという議論は出てくるかと思いますので、ここは分けて検討いただけないものかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。重要な御指摘だと思います。 ○本多委員 三井住友銀行の本多でございます。私が手を挙げておりましたのは、大塚先生と伊見先生の対話に関する部分でございまして、私も伊見先生に同じく、被担保債権に関する情報を担保ファイリングに追加すること自体が何か手続を特段に重くすると実務的に考えられているわけではないと思っております。一方で、登記に関しても同じくなのだと思いますが、被担保債権に関する情報を載せることが風評リスク等との関係においても配慮される必要があるかもしれなくて、被担保債権に関する情報が載ることによって、後順位の担保権者との間において必要な情報を提供できることになる一方で、設定者がどうお感じになるかというところも含めて検討する必要がありそうなのかなと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   全体の皆さんの意見の分布としては、担保ファイリングというのを別個に設けるというよりは比較的、現在の動産譲渡登記のところをもう少しきちんとすべきだというものが多かったのではないかという気がしております。しかるに、そのときの前提なのですが、それは、今日の2のところと関係しますけれども、現在の言葉で言いますと譲渡担保ですけれども、譲渡担保を占有改定で行っても一応は対抗要件が具備できるのだけれども、しかし登記には負けるのですよという、だから、そういうふうなマイナスにすることによって登記に誘導していきましょうと、そういう話なのか、いや、もうこれは登記に書くと、それをなるべく簡易にするということならば、それはそちらにもう統一していいのではないかという話なのか、それはどうなのですか。   前者の問題に関しては、先ほど水津さんがおっしゃったような、担保権の範囲においては、担保権者同士の間では登記した人が勝つけれども、純粋な所有権を受けた人との関係ではそれと少しまた違ったりすると、くるくる回りになったりアンバランスが生じたりするという問題があるという問題があるのかもしれませんけれども、前提としては、占有改定はやめてしまえということですか、それとも、占有改定は簡易な方法で、それで、ひょっとして後でひっくり返ってしまうかもしれないし、その順位の変更とかいろいろ、そういうのはなかなか表立ってできるのは難しいかもしれないのだけれども、まあそれはそういう方法もあるよねということなのか、それはいずれですか。というか、どちらにしようという何か強い御意見があれば、お教えいただければと思いますけれども。 ○阪口幹事 阪口です。今の御質問に関しては、部会資料14の18ページの3に書かれている、集合動産と個別動産を分けないという考え方のところが引っかかる、というのが弁護士会の多数意見ではないかと思っています。登記優先ルール、ファイリング制度でもいいのですけれども、登記優先ルール的なものを入れると、やはりそちらに流れていかざるを得ないし、そこまで行くのだったら一元化はどうかという話が先ほどの御質問の趣旨だと思います。しかし、その問題を考えるときに、個別動産と集合動産を交ぜて議論することはできないという価値判断が弁護士にあるのです。この部会資料では、個別動産と集合動産でルールを分けることに合理性はないと書かれていて、理論的にはそうなのかも分かりませんけれども、日頃の担保の実際を見ている人間からすると、それは別なのではないかという価値判断があるということです。   登記優先・ファイリング制度というのは、真正譲渡なのか担保目的譲渡なのかによって、ルールを変えるということになりますので、個別動産の場合にはそこの問題が非常に顕在化してしまうわけです。他方、集合物であればその問題の顕在化は、ほとんどといっていいかどうか分かりませんけれども、ないという感覚です。そうすると、集合動産と個別動産で分けるのは合理性がないと書かれているけれども、しかし、それを言ってしまうと、個別動産のときに真正譲渡か担保目的譲渡かの境目も微妙なのに、そこで分けることに合理性はあるのですかという議論にもなりかねない。したがって、道垣内先生がおっしゃった、一元化すべきかどうかという価値判断について述べれば、集合動産は登記一元化だという議論だってあっていいと思うけれども、個別動産に関して一元化はあり得ないという意見です。   この問題はもしかしたら、金融機関はそういう融資をしないけれども、個人間では登記までしない融資も残るのではないかということがあるかも分かりません。そうかもしれませんけれども、他方、専門家に相談されたら専門家は、いや、やはり登記をしておかないと最後の最後でひっくり返るかもしれんよというアドバイスをせざるを得ないわけですから、登記優先ルールが導入されると、個別動産まで登記の方に流れていく。しかし、それはコストが合わない。部会資料には個別動産だからといって価値が小さいとは限らないと書かれていますけれども、普通の場合は当然価値の大小があって、個別動産は小さいものが多い、集合動産は価値があるものが多いのが大部分ですから、今ここで求められている融資の円滑化という目的との関係でいうと、個別動産と集合動産を分けることは目的に合うのではないかと思います。したがいまして、今回は中間試案の取りまとめという作業ですので、中間試案では、ここでもう個別動産と集合動産を分けないよということで確定するのではなくて、何らかの形で個別動産と集合動産を分けることもあるのではないかという問題提起を残していただきたい。その分け方は登記優先ルール・ファイリングなのか一元化なのか、そこは両方あると思いますけれども、その問題提起は残していただきたいというのが弁護士の意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。登記一元化を採用する場合のハードルとなるものとして、理論的なものと実際的なものとがあると思います。理論的なものについては、真正譲渡の場合には引渡しにより対抗要件を具備することができるのに、担保目的譲渡の場合に引渡しによる対抗要件具備が認められないのはどうか、という風に、両者の整合性が問題となることがあるかもしれません。その問題は差し当たり置いておいて、実際の問題として、これまで繰り返し伺ってきたハードルが二つあります。一つが、阪口先生がおっしゃったように、日常的に融資を行っていないような個人間で取引を行うときに、個別動産についても登記を必要とすることは担保権者にとって酷なのではないかという、個人の保護とか、法律について余り詳しくない人の保護という観点が一つだと思います。それから、もう一つはリキャラクタライゼーションリスクというか、真正譲渡だと思って取引したのに、後に担保と性質決定されてしまった人が救済されないという問題があるかと思います。   この二つについては、本当に簡単に対抗要件を登記で備えることができるというふうな制度にしてしまえば、ある程度クリアできる問題なのではないかというような気もしています。というのも、不動産の取引では、個人間で売買をしたって、やはり登記を備えないと対抗要件を備えることはできないことになっていて、明治時代に民法を作るときには、それではうまくいかないというようなことがあったかと思うのですけれども、結局コストが下がったり情報が周知されたりすればクリアされていく問題かもしれません。そのため、動産の登記についても、どれくらいの周知期間を置くかといったことを慎重に検討することによってクリアされていく問題なのではないかという気がしています。また、真正譲渡についても、念のためスマホで登記しておくというようなことができるのだとすれば、担保と性質決定されてしまうリスクもそれほどのハードルにならないのではないかという感じを受けています。実務上はもしかしたら全然違うかもしれないのですけれども、そんなふうに思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。私が申し上げようと思っておりましたことは、実は藤澤先生とほとんど同じですというところではあったのですが、登記一元化に関しまして、部会資料の2ページでも紹介されていますとおり、かつ皆さんもおっしゃったように、コストの問題と真正譲渡に関するリキャラクタライズリスクの問題があると認識してはいるのですが、特に前者に関しまして、銀行実務を念頭に置いた場合に、これもかねて申し上げているところであるのですが、信用状取引だったり、輸入ユーザンスといわれる融資取引だったり、といった輸入ファイナンスに関して、個別動産譲渡担保を取得する際、占有改定により対抗要件具備する方法がしっかり実務的に定着していまして、これが輸入業者、それから運送業者も含めて、かなり確立された制度としてエコシステムを構築しています。これが覆ることによる実務上の影響は相当大きいかもしれなくて、こういう世界においては占有改定による動産担保権の設定に関する対抗要件具備というのは維持されてもいいのではないかと考えております。一方で、藤澤先生がおっしゃるように、技術の進展によって、既存の取引に大きく影響を生じさせないような新たな対抗要件具備あるいは優先関係の確保の仕組みが技術的に可能となることが想定できなくないのかもしれないですが、実務家の考え方としては、そうしていくためにはかなりのエネルギーと時間を費やしそうなのかなという問題意識を持っていまして、その観点からは引き続き占有改定による対抗要件具備が必要な世界があるということはきちんとお伝えしたいと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。前回発言したこととの重複があるかもしれないので、少し控えていたのですけれども、繰り返しになってしまうかもしれませんが、発言いたします。本多委員が冒頭におっしゃったように、今回いろいろな考慮が組み合わさっていろいろな組合せがあり得る中で、有力な選択肢になるのは、私も、【案14.2.1.1】のように、対抗要件の先後によって優劣を決めるという立場を採った上で、占有改定については登記優先ルールを採用するという考え方か、あるいは、【案14.2.1.2】に従ってファイリング制度で担保の優劣を決めるという考え方か、どちらかだと思います。そのどちらかに決めるに際して重要になってくるのが、担保ファイリングという制度を、制度改正の努力を尽くした後の登記制度と比べて、質的にというか、相当程度異なるくらいに簡易、迅速、廉価にできるかどうかなのかなと感じております。   また、もう一つ、少し小さな枝分かれかもしれませんけれども、選択肢としては、資料でいいますと16ページの(4)、先ほど水津先生が言及されたことになりますが、資料の提案としては、「登記」又は「占有改定以外の引渡し」又は「占有改定+ファイリング」の先後、という形で、占有改定の場合には対抗要件具備に加えてファイリングをすれば、担保権者相互間の優先順位をその時点で確保できるという制度も一応あり得るのかなと考えます。  なお、そもそもそれであれば占有改定をなくしてもいいのではないか、あるいは登記又はファイリングに一元化すればよいではないか、ということに関しては、私はほかの委員の多くの方々と同じように、占有改定も対抗要件としては残すべきではないかと感じております。   後になされる登記に劣後するような対抗要件には意味がないのではないかという考え方もありましたけれども、私は、阪口先生が先ほどおっしゃった少数意見ということになるのかもしれませんが、人的な関係、個人間の信頼によって業としてではなく行われるような貸し借りで設定される担保権について、登記優先ルールを採用すると、占有改定だけで対抗要件を備えることに意味がなくなってしまうのかについては、意味がなくなるとはいえないと思っております。というのは、そういう関係で担保設定を受けた人が最も気にする点というのは、借主が潰れたとき、破綻したときに、倒産手続において担保として認められるかどうか、あるいは差押えに負けないかという点になるわけですが、対抗要件であることが確保できているとすれば、そこは占有改定だけで勝てるわけです。確かに、担保を入れてもらって、それでお金を貸してあげたにもかかわらず、その担保物をその後、ほかのレンダーの担保に入れてしまうようなことをされたら、それは負けるわけですけれども、そこは約束で禁じておくことができますし、何も言わなくてもそういうことはインプリケーションとしてあるのかもしれません。登記優先ルールを採用すると、そういう約束を裏切られてもなお、その後に登記を備えた融資者に勝つことまでは、確かに占有改定だけではできなくなるわけですが、占有改定をしただけでそこまで保護しなければいけないのかといえば、倒産あるいは差押えとの関係で保護されるところまで確保できていれば、全く意味がないとはいえない気もしますし、他方で、別の人に担保を入れたりしないでね、と約束し、あるいは他人の担保に入れる剰余価値はないという状況であるにもかかわらず、その信頼が裏切られたときには、それは気の毒ではありますけれども、やはり保護すべきはその後に登記を備えて担保を受けた人ではないかと考えておりまして、そういう意味では、占有改定に対抗要件としての効力を認めつつも、登記優先ルールあるいはファイリング制度を採用することは十分あり得るのではないかと考えます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。確かに占有改定による対抗要件の具備自体を排除できるとすれば、公示制度をわざわざファイリングと登記に分ける必要はなくて、同一の制度として、その上でいかにコストを抑えていくかということで済むのかとも思います。そういう考え方もあり得るかどうかということですが、個人的には、譲渡担保といった一定の類型を画しつつできるのではないかと思っております。例えば、我妻先生の教科書などでは、何で占有改定みたいな観念的な占有の移転が、物理的な引渡しと同じく178条の対抗要件になり得るのかということについて、「主として動産物権変動の公示の原則の緩和のために発達」してきたのだというふうに、公示の緩和という目的が先行しているというような説明の仕方がなされているものもあるかと思います。そういうふうな立場に立って考えていくことができるとすれば、逆に物権変動の公示の緩和をするべきではない類型については外していくというような考え方もできるのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 公示の緩和のために発達してきたわけではなくて、要式性の緩和のために発達してきたような気もするけれど、そのことに、公示の緩和という意味があったって構いはしないのだけれども、それが目的だったのかというとどうなんだろうか。 ○大塚関係官 ありがとうございます。私からは、登記一元という話からは少し脇道にずれるようですけれども、本多委員から御発言がありました信用状取引などについて別扱いするという提案についてです。信用状取引の実務について詳しく存じ上げないからなのかもしれませんが、信用状取引において実務が定着しているからといって、その実務を崩すことによるコストをそこまで重視すべきなのかについては疑問があります。   信用状取引の対象になっている動産などにつきましても、公示を図る必要性というのは他の動産と同じくあると思いますので、それについて別個の対抗要件制度ないしファイリング制度を設けるというのは必ずしも望ましくないのではないかと思います。すなわち、当該動産について何らか担保を設定しようとする場合に、それが信用状取引の対象になっていたということが後から発覚したという場合に、ファイリングを見てもその信用状取引に基づく担保があることが分からなかったといったことも出てきてしまうのではないか、そういった予想外の担保が出てきてしまうと、ファイリング制度を設計することの意味が薄れてしまうのではないかと思います。さらに、そういった信用状取引、もちろん重要ではあると思いますが、今後ファイリング制度ないし登記一元化という制度になったとした場合に、ある取引だけ別のルールが適用されているとなりますと、その中にいる人は分かりやすいと思いますが、そのエコシステムにこれから入ろうとする人にとっては分かりにくい制度になってしまうような気がいたします。そうしますと、あえて一部の取引についてのみ例外を残すという形を採るのであれば、より積極的な理由を付ける必要があるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○尾﨑幹事 座長が登記優先ルールと担保ファイリングの内、どちらかというと登記優先ルールの方が優勢なのではないかとおっしゃった点に関して、別に私も全くそれに反対するものではありません。ただ、大事な点は、この担保ファイリングという新たな制度を作るのであれば当然、一元的かつオンラインで、正に簡素、迅速、安価といったようなものを実現できるのではないかということがお話の前提になっていたのではないかということです。   既存の登記制度を活用する形で登記優先ルールを設けることはもちろん可能だと思っておりますし、それが本当にできるのであれば非常に望ましいことだと思っています。けれども、既存の登記制度がある中で、本当にそれを可能な限り一元的に、かつ全てオンラインでできますという形で非常に簡素な制度ができるのかどうかというのが非常に重要な点になってくると思います。この点、制度としてもちろん幾つか、複数の制度があること自体は構わないのですけれども、実際のユーザーインターフェースとして本当にシームレスなものができるのかどうかということの問題ではないかと考えております。   例えば、被担保債権のお話も先ほどございましたけれども、どちらにしても新たに融資関係に入る金融機関は必ず被担保債権といった事柄について調べることになると思いますので、こういうものを公示させることがどの程度コストを増やすことになるのかという論点が大事であると同時に、そもそも本当に必要なのかといったような点についても十分に議論をすべきではないかと考えております。制度は、これもあれもといってしまうと結果的にやはりコストが増えてしまうということになると思いますし、使い勝手が悪くなるという可能性は十分に高いのではないかと思います。   それからもう一つ、担保ファイリングの制度と登記制度でひょっとして議論が違ってくるかもしれないというのが、先ほども出ていた、担保設定より前にファイリングを行って担保としての優先順位を確保するといったようなことでございます。本多さんの方から、その点については実務上どの程度ニーズがあるかということについて検証すべきだといったことはお話がありましたけれども、諸外国でもこういった事例があって、ニーズがそれなりにあるのではないかと考えております。ここは本当に十分検証されるべきだと思いますけれども、担保ファイリングと登記の方でもしルールが違うのであれば、この点についても勘案した上で議論がされるべきではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   今までいろいろな意見を頂きましたけれども、今ここでこれでまとまったよねとはもちろん言えないのですけれども、中間試案に向けまして、仮に動産譲渡登記を充実してそちらを優先させるということを採りながら、占有改定も破産や差押えとかとの関係において一定の効力があるものとして認めるという簡易な方法もあっていいはずだということにしますと、3点ぐらい考えるべきことがあるのかなという気がしております。   第1、第2は、実は尾﨑さんがおっしゃったことに大きく関係するのですけれども、登記制度というものを改善するという方向を採ったときには、登記制度の持つ厳格さというものをやはり引き継ぐという面がどうしてもあるのではないか。対抗要件としての登記制度ではなくて、別の情報のある種、公示方法ですよというふうにすることによって、つまり登記ではない担保ファイリングですね、それによって手続などを簡易化できるということがひょっとしてあるのかもしれない。もちろん動産譲渡登記においても、その手続的な制約とか、あるいはそのインターフェースの問題とか、そういうのをどこまでできるかというのは検討しなければいけないのですが、そこを検討しなければいけないというのが第1の話です。   第2の話として、これは先ほど私、尾﨑さんから手が挙がったときに、尾﨑さんはその話をされるのかと思ったのですが、今までいろいろな情報を登記を精緻化するということによってそこに書き込むという話で、登記一元化ないしは登記優先というのが出てきましたけれども、前回、尾﨑さん等から話が出てきたのは、そこにそれほど情報を書く必要はないではないかと、担保であるということをきちんと書いておけば、それについてはその担保権者に対して情報を問い合わせるという仕組みにすればいいのであって、そこに全部の公示というものを入れ込むと考える必要はないのではないかということでした。そのことの妥当性の検討というのは更にしなければいけないだろうと思います。   3番目なのですが、この部会自体が、世界的に見て日本の譲渡担保法制その他が公示において不完全である、もちろんその実体的な効力についても条文がないということについての不安定さというのがあるわけですけれども、不完全であるということを背景に生まれているときに、占有改定でいいよねという話を残すということが最初の出発点との関係で許されるのかというのは、更に検討する必要があるのかなという気がしております。  私に何かの意見があるというわけではないのですが、更にそうそういうふうな、私が今ここで思い付いたのは3点なのですけれども、そういうことを詰めながら、中間試案に向けてのたたき台に向けて、もう少しここを検討してというふうにしたいと思いますが、本日のところで何かまだございますでしょうか。   よろしゅうございますか。それでは、次の3の留保所有権と譲渡担保権との優劣関係、ないしは留保所有権そのものの問題でもいいのですけれども、について議題を進めたいと思います。事務当局におきまして、部会資料14の第2、3についての資料の説明をお願いいたします。 ○寺畑関係官 それでは、第2の「3 留保所有権と譲渡担保権との優劣関係」について御説明いたします。本文では、狭義の留保所有権と譲渡担保権の優劣について、一読と同じく二つの案を併記しております。【案14.2.3.1】は、狭義の所有権は特段の要件なくして当然に競合する譲渡担保権に優先するという考え方です。これに対して、【案14.2.3.2】は、単純な先後ではなく、引渡しから一定期間経過するまでに対抗要件やファイリングを具備した場合には譲渡担保権に優先するという考え方です。一読では、特に【案14.2.3.2】の考え方を支持する御意見が多かったと思います。この論点は、資料の20ページの3以下にも書いたように、所有権留保について対抗要件を要するかどうかという問題と、優劣関係をどのように考えるのかという問題と密接に関わるため、引き続き両論併記としております。   以上について御議論いただけますと幸いです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、御自由に御議論いただければと思います。よろしくお願いします。 ○山崎委員 ありがとうございます。山崎です。一読目のときに申し上げたとおりなのですけれども、いろいろ意見を聴いたところ、留保所有権については代金完済まで所有権移転しないという実務が定着しているため、こちらの【案14.2.3.1】にありますように、特段の要件なくして競合する譲渡担保権に優先する考えの1を求める声が多くありました。もしこの定着している実務慣行を変更する場合には、幅広くパブリック・コメントなどを求めた上で、企業取引の実態、実務への影響に配慮した制度設計を是非御検討をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○阪口幹事 阪口です。先ほどの山崎委員のお話と一緒なのですけれども、【案14.2.3.2】の方を採用して一定期間経過するまでに何らかの手続を備えないといけないということになりますと、売主としては、当然支払サイトを短くする動きになってしまうわけです。しかし、この一定期間というのは、法律で何日と定めるのだと思うのですけれども、現在の実務だと業界によって支払サイトがかなり違う。今、世の中を挙げてサイトを短くしようという動きにはありますけれども、例えば農業関係の業界などは非常にサイトが長い。それはまあそうですよね、1年に一遍しか米を作れないので、エンドユーザーがそういう農家だとすると、そういう資金サイクルに合わせたお金の流れになってきますから、必然的にサイトが長いわけです。農業関係というのは、例えば農薬であったりホームセンターであったり、その種の業界の取引は普通の他のものに比べて支払サイトが長いということです。しかし、【案14.2.3.2】の制度ができたときに、農業関係の業界が、急にサイトを短くしろと言われてもできないわけで、この【案14.2.3.2】というのは実務的にしんどいというか、変革を伴うと思いますので、やはり【案14.2.3.1】がベースではないかと考えております。   なお、拡大された所有権留保の問題に関して、【案14.2.3.1】で優先しているのはその目的物の代金債権だけなのですが、前回に申し上げたとおり、そもそもベースとなる発想のところで拡大と狭義を分けるかどうかという問題は残っていると考えています。ただ、ここだけでいうと、今申し上げたとおり【案14.2.3.2】はまずいのではないかということを申し上げたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○井上委員 井上です。【案14.2.3.1】か【案14.2.3.2】かの前に、以前も申し上げたことではあるのですけれども、何を狭義と捉えるか、切り取るかという問題なのですけれども、現在の御提案は、その目的物の代金債権を担保する限度でとなっています。ということだとすると、例えば継続的売買的契約に基づいて、月に3回ぐらい発注して納品されるという在庫の売買取引があったとすると、ある月に部品3箱、2箱、5箱という形で3回ぐらい個別売買があり、3か月分ぐらいの在庫が倉庫にたまっているという状況があるとしますと、この代金債権を担保する限度というルールによれば、支払自体は1か月分をまとめて翌月20日払いになっていたとしても、代金債権は毎月、先ほどの例で言えば3本ずつ発生しており、その1本が不払になったときには、そのときに売った部品の所有権がその担保として留保されているという関係になりますので、動産売買先取特権がなかなか使いにくいといったときと同じような問題、すなわち、売主としては、この部品の箱を留保しているぞという特定が求められることになる。逆に言うと、それ以外のものについては、自分が売ったものが倉庫内に残っているにもかかわらず、そちらについては代金が完済されているのであれば、狭義の所有権留保にならない。そうすると、買主の破綻時において、余り価格に影響しない在庫もあると思いますが、在庫の価格が下がったりすると、代金が未払となっている個別売買の目的物を留保しているだけでは未払代金全額を回収できない場合に、自分が売ったものがほかに倉庫にあるのに、この区別でいえば拡大された所有権留保の対象になるので、無条件では掛かっていけないことになると思います。   ただ、近年の最高裁の判例、スクラップの事例では、あれはどちらかというと、そういう個別の売買単位というよりは、月当たりの支払日単位といいますか、決済単位でひとまとまりとして、どこまで明示的に判示されているかというのは読み方によりますけれども、狭義の所有権留保的な発想で捉えて、そういった所有権留保については所有権が移転していないという形で売主を保護していたように思いますけれども、これを実際にルール化しようとすると、「決済日ごとに」みたいな特則をどういうふうに書くのかとかが、問題となります。少なくとも今、事務局から御提案されている書き方だと、くどいようですが、個別売買契約ごとに売買代金債権を担保しているものを狭義の所有権留保として保護するルールになるので、かなり狭い範囲での特則ということになり、それ以外のものは拡大された所有権留保として、譲渡担保等と同様、対抗要件がないと勝てないということになるかもしれず、それは現在行われている所有権留保においても同じ問題が実は既にあるのかもしれませんけれども、実務の認識と一致しているかどうかが一つ問題になり得ると思いまして、明文化するということであれば、その辺りを意識する必要があるという気もいたしました。   他方で、また全然別のことを申し上げますけれども、債務者の破綻の場合に保護しなければいけない債権者として商取引債権者が挙げられるわけですが、そういう商取引債権者は、売買の売主とは限らないわけで、サービスの提供者などもいるわけですけれども、ここで議論している所有権留保によって保護されるのは、売主に限られます。ですから、全く別の観点から、つまり商取引債権者の保護という観点から、米国などはそうなのではないかと理解しているのですが、不正確かもしれませんが、倒産手続開始前の一定期間内に生じた商取引上の債権を共益債権とするというような、担保ルールとは別の倒産法上のルールでもって商取引債権者を保護することを併せて考えることができれば、逆に言うと、所有権留保のところで狭義、広義の線引きですごくぎりぎり詰めて、そこで保護すべき売主を全部保護する必要は必ずしもないともいえるのであって、ほかのところで手当てができるのであれば、ここは、先ほど申し上げた非常に狭い意味にはなってしまいますけれども、売買契約単位の所有権留保についての特則を設けることでも足りるような気もします。そうだとすれば、余りここは複雑にせずに、【案14.2.3.1】というシンプルなルールでもいいのかなとも思っております。 ○道垣内部会長 商取引債権を全部共益債権化するというので、この部会の諮問されている配意との関係もありますけれども、ほかのところでみんな納得してくれるかどうかというのは、少し微妙な感じもしますけれども。 ○大西委員 この【案14.2.3.1】か【案14.2.3.2】ということなのですけれども、これは先ほど山崎さんがおっしゃられたように、留保所有権者である取引先が、商取引を安心してできるような状況を確保する中で考えるべきだと思います。そういう意味で【案14.2.3.1】は妥当です。【案14.2.3.2】の場合は、一読のときも申し上げたのですけれども、引渡しから一定期間という期間設定だと、例えば一定期間が30日だとして、その支払サイトが60日だとすると、その支払期限が徒過していないのに取引先にファイリングと対抗要件を求めることになってしまいます。このようなルールだと、結局は、取引をする都度、速やかにファイリングと対抗要件の具備を取引先に求めることに等しい状況になりますので妥当ではありません。この場合、例えば、引渡しではなくて支払期限から一定期間という条項であれば、法律上なじむかどうかは分からないのですが、妥当な条項ということができます。また、その場合の期間設定が余りに短くなると、やはり取引先にとって酷なので、その辺の勘案も必要と考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。大変重要な指摘だと思います。 ○青木(則)幹事 こちらについては結局、【案14.2.3.1】であっても【案14.2.3.2】であっても、所有権留保の方が勝たせるという優先順位の決め方については同じことなのだと思いますので、基本的な違いは、全ての担保権はやはり公示されるべきであるというような要請あるいは理念を入れるかどうかということに関わってくるのかと思っております。譲渡担保について占有改定を残すかどうか、差押債権者とか管財人とかを含めた全ての対抗関係について、やはり公示がなければいけないという意味での対抗要件を求めていく、ここまでやる場合には、必然的に所有権留保についても、より強い担保であるにもかかわらず公示がないのはおかしいではないかという話になるように思います。ですけれども、そうでない場合には、譲渡担保の方だって別に公示の要請ということが徹底されていないにもかかわらず、所有権留保の方だけ、特に順位に影響がないという意味での所有権留保の方についてだけ、登記やファイリングによる対抗要件を求めるというのは、おかしいのではないかというような方向に行きそうな気もいたします。個人的には公示の要請を徹底する方向に行ってほしいと思っているところもありますので、そういう意味では【案14.2.3.2】の方を支持したいところではありますけれども、先ほどお話した意味では少し弱いところがあるのかなと思っております。譲渡担保の方との平仄をということで御検討いただければと思っております。   ちなみに、引渡しから何日間というのは、そのような制度を採用しておりますアメリカ法の考え方で行くと、譲渡担保設定時に本来は登記が必要であり、全ての担保権は公示されるべきだという理念があるが、しかし、与信売買をするたびにその商品を引き渡す前に一旦登記やファイリングを備えるためにその登記所などに行かなければならないというのでは流通を阻害するから、だから引渡し後でもいいのだと、ただし、本来公示が必要な担保権であり、長らく放っておくことは許されないので、短期間、例えば20日以内にねというふうな考え方になっております。出発点が違うというところをすごく感じております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 ありがとうございます。青木先生が御指摘された点が、私もそうではないかと思っておりまして、一定の公示の要請と、かつ、原則的な対抗力を備えた先後ではなく、それを覆すという形で優先権を与えるにしても、一定の公示ということに配慮すべきではないかということを考えるならば、【案14.2.3.2】のような考え方もやはりなお追求していくべきではないのかと考えたところです。それで、これが実務に大きな影響を与えてマイナスに非常に働くということであれば、元も子もないということがありますので、もちろん実務への影響というのは十分に検討した上でというのは、そのとおりだと思います。ただ、サイトが長いということは、逆にそれだけ外から分からない期間も長いということになりますので、それをどう考えるかという点もあるのではないかと思います。   それから、この案の考え方ですけれども、私の方で中身がよく分からなかった点があるのですけれども、紙の方ですけれども21ページの15行目、(2)の辺りで、対抗要件についての考え方と、ここでの最優先というか、その優先権付与のための要件の考え方なのですけれども、対抗力自体をどのようにして備えるかということと、対抗力を備えたときに、しかし対抗力を備えたのが後であるにもかかわらず、なお優先するというためには何が必要かというのは、それぞれ別の問題のように思われまして、一方を採れば他方は採り得ないという形にはならないのではないかと考えています。その理解が間違っているかもしれないのですけれども、19ページの【案14.2.3.1】の、例えば特段の要件なくして競合する譲渡担保権に当然に優先するという考え方の、特段の要件なくしてというのが、対抗力を備えるにもおよそ何も要件は要らなくてという趣旨であると、すると選択肢はもう一つ増えそうな気はします。そうではなくて、対抗力を具備すれば、もう当然に他にも優先するという一種のスーパープライオリティがそこで働くということなのかもしれません。対抗力の当然具備なのか、一定の引渡し等、あるいはそれ以外の公示などがあって、対抗力を備えれば競合する譲渡担保権に当然に優先するということなのか、2通り可能性があるように思われますので、少しこの案の整理が必要ではないかと思ったところです。 ○道垣内部会長 私は少し後半、論理についていけなかったものですが。所有権留保が対抗要件をどうした、とおっしゃったのでしょうか。 ○沖野委員 対抗要件をというか、対抗力を備えるかですが。対抗できるようになるためには、5ページのところで2通りの可能性が提示されていますよね。 ○道垣内部会長 具体的な場所はどこでしょうか。 ○沖野委員 5ページの【案14.1.3.1】と【案14.1.3.2】です。オートマティックに対抗力具備するというタイプと、プラスアルファがあって対抗力を具備するというパターンがここに書かれているわけですけれども、さらに、対抗力を具備すると、何もルールがなければ一般的には対抗力の先後で、ただ引渡しと登記の関係とか、引渡しとファイリングの関係とかいう話が先ほど来あるわけなのですけれども、そういう一般的な優先関係のルールに服するということですよね、何もなければこの限りで。3は、それを更にスーパープライオリティを与えるという話ではないのかなと思いまして、原則的なルールよりも更に所有権留保を優先させていくという可能性があるというものです。例えば、引渡しを備えたら、そこから対抗力具備するので、それを基準に優先を考えるのだけれども、更にそこから一定期間内に、対抗要件というか、ファイリングとかそういうものを備えると、それより先に備えていたとしても優先関係は覆ると、そういう最優先権を与えるというための要件は何かということなので、21ページの説明ですとか、対抗力との関係での対応というのは、こういう話には必ずしもならないのではないかということを申し上げたのですけれども、余計分かりにくかったでしょうか。 ○道垣内部会長 いや、大丈夫です。沖野さんの話に何かレスポンスされる。 ○笹井幹事 一応、私の理解としては、一般論としては沖野先生がおっしゃるとおりだと思っていまして、第1の3の問題と、第2の1の問題と関連付けて、この(1)から(4)までの組合せを考えたつもりなのですが、もしかしたら何か抜けているかもしれませんので、もう一度考えたいと思います。 ○沖野委員 私が元々の原案の説明を誤解しているのかもしれません。 ○道垣内部会長 どうぞよろしくお願いいたします。 ○阿部幹事 ありがとうございます。【案14.2.3.2】に関して、先ほどから、代金の支払期限が長い場合に売主に酷な結果が生ずるのではないかという御意見があって、その中で、引渡しからではなくて支払期限から一定期間経過するまでに対抗要件、ファイリングを備えれば足りるとすることも考えられるのではないかという御意見があったように思います。正しく理解できているか分からないのですけれども、それは要するに、実際に支払期限が来てみて払えないということが分かってから、その対抗要件とかファイリングとかを備えられるようにすべきだと、そうでないと常に全ての取引についてファイリングをずっと全部備えないといけなくなって大変だという御趣旨だったのかなと思ったのですけれども、仮にそういうことだとして、ただ、支払期限から一定期間経過するまでに対抗要件やファイリングを備えれば足りるとした場合には、先ほど沖野委員がおっしゃったような、潜伏期間が結構長くなってしまうという問題が確かにあると思います。それから、この【案14.2.3.2】の中で余り明らかになっていない部分が一つあると思いまして、それは要するに、手続を経なければならない一定期間までに担保権の競合が生じてしまって、そこで担保権を実行しなければいけなくなったときに、その場合には一定期間経過前でも対抗要件の具備やファイリングが必要だと考えるのか、それとも、一定期間経過するまでに競合場面が実際に生じてしまって優劣を決しなければいけなくなったときには、狭義の所有権留保は対抗要件、ファイリングがなくても優先すると考えるのか、その両様が【案14.2.3.2】からはあり得るような気がしました。先ほど青木則幸幹事がおっしゃったような、一定期間というのは猶予期間で、本来は対抗要件、ファイリングが必要だという考え方からすると、一定期間経過していなくても競合が生じてしまって優劣を決しなければいけなくなったら、そのときには対抗要件、ファイリングが必要だという方向にもなりそうですけれども、複数の考え方が一応分岐し得るような気がしまして、そのどちらを採るのかというのによって【案14.2.3.2】の性格というのも少し変わってくるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   多分、沖野さんのおっしゃったことにつながるところがあるのでしょうけれども、山崎さんなどがおっしゃった話というのは、そもそも所有権留保の通常形態というのを担保として捉えていないのだから、対抗問題なんていう考え方は出てこないのであり、ただ単に売買契約における所有権移転の時期の約定ですというところから始まるわけですね。そして。それが仮に担保として表に出てくるときがあるとすると、それは弁済期が来ているのにまだ払わないというときであり、これは今持っていた所有権が担保として機能して、それによって代金債権を回収するということが出てくる。そうなると、どちらかといえばその時期から担保なのだという理解ですね。それで、スパンが長い場合にはなかなか対応できないというのも、それの間というのは単に代金支払の猶予の話で、売買契約の過程の中の話ですよねというところから発想すると、またいろいろな違いが出てくるので、そうなると、そこら辺を整理しないと本当はいけないということになる。そうすると、3のところで、5ページの動産所有権留保の対抗要件というふうな書き方をして、対抗要件の話だよねという話として最初から位置付けているというのも、本当はもう一個選択肢というのがあるのかもしれない。そういうことはありますね。先ほど言ったような売買契約の話みたいなものもあって、売買契約の実務の話があるので、譲渡担保なんかとは少し違って考えざるを得ない。その点を考慮して、整理をしていくべきなのかもしれない。あるいは、その整理はよくないと、全部を担保としてきちんと公示させるべきだというのは、もちろん片方の考え方として十分あり得るのだろうと思いますけれども。 ○片山委員 ありがとうございます。慶應大学の片山です。今の部会長の議論とも、あるいは一つ前の沖野委員の議論とも関連するのですけれども、やはり部会資料でいいますと5ページの【案14.1.3.1】か【案14.1.3.2】かという部分です。恐らくここでの議論は、【案14.1.3.1】の方は、要するに所有権移転は全然生じていないのだから、そもそも対抗要件は不要で、所有権移転していないということを誰に対しても対抗できるという出発点がありますが、【案14.1.3.2】の方は、そうではなくして何らかの物権変動があるということを前提としています。学説の立場は多くそうなのですけれども、その場合には権利変動があるのだから対抗要件が必要だということになります。そのときに、対抗要件は引渡しと書いている点がやはり少し気になるところでありまして、ここの引渡しには当然、占有改定が含まれるという話が出てきておりまして、所有権留保を付けても、所有権がそれによって移転する、何らかの権利変動はあるけれども、現実の引渡しがなされると同時に逆向きに買主の方で占有改定の意思表示もしていることになる。そう考えることができるから、対抗要件は同時に具備できているというのが出発点としてあって、そして、さらに19ページの方の【案14.2.3.2】の方では、仮に占有改定で対抗要件を具備できることがあるとしても、その前に集合譲渡担保権が設定されているわけだから、対抗要件では負けるということを前提とした上で、更に所有権留保には一定のスーパープライオリティを与える必要があるのではないかという議論の積み重ねになっているのだと思います。そして、更にその中で、そもそもの対抗要件が引渡しでは駄目で、別途登記等が必要であるという選択肢が入ってきているもので、非常に議論が複雑錯綜化しているように思われます。しかし、そもそも所有権留保の対抗要件が基本的には引渡しだという、この5ページの【案14.1.3.2】の出発点のところが疑問を覚えるところであります。確かに平成22年などの倒産判例では別除権行使には対抗要件が必要だといわれているわけですけれども、そこでいう対抗要件というのは自動車等の登録の話でありまして、また比較法的にも所有権留保に対抗要件が必要だというときの対抗要件は登記・登録ということなので、占有改定による引渡しが所有権留保の対抗要件だという話は恐らくなされていないように思われます。   当事者の効果意思の問題としても、所有権は移転させないという効果意思があるところを所有権移転の効果意思があると擬制したり、あるいは、占有改定の意思があるかどうか分からないのだけれども占有改定の意思があるというような形で意思を擬制したりすることを重ねていくような形での解釈をしなければいけないということになりますから、そもそもこの引渡しが対抗要件だという出発点が、譲渡担保に関していうと、譲渡という法律構成があるのだから178条の引渡しが大前提になるのかもしれませんが、所有権留保に関していいますと、ここで引渡しという対抗要件を出してくることの意味が分かりにくいところがあるように思います。もし所有権留保をいずれにせよ勝たせるということならば、物権変動は一切生じていませんという平成30年のような形の解決がより説得力があるように思いますし、逆に、公示等の要請もあって、所有権留保についても担保取引なのだから一定の公示が必要ですというときには、178条の対抗要件としての引渡しを問題とせずに、端的に所有権留保というものについての担保権について対抗要件としての登記とか、あるいはファイリングということを直裁に考えればよくて、更にその上に優劣関係においてスーパープライオリティを与えるか否かというような議論をしていけばいいのではないかと思っているところです。   少し話が長くなりましたけれども、そもそも対抗要件は引渡しであるという【案14.1.3.2】の出発点は、必ずしも前提としてこの議論を進めなくていいのかなと、そうすると、19ページ以下のところの議論の整理ももう少し単純になるのかなと思った次第でございます。よろしく御検討お願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。多分、対抗要件不要だというふうなことも整理の必要として、出発点のもう一つの選択肢として必要なのですよね。片山さんは今、比較法的にも引渡しというのはおかしいのではないかと言ったけれども、それは完全な所有権が買主に移転して、買主から売主に対して譲渡担保権類似の担保権が設定されていると考えたら、それは引渡しが対抗要件になると、もし仮に譲渡担保がそうなれば、そうなるという話であって、そうなると、これは譲渡担保権間の優劣の問題になるので、所有権留保売主に優先権を与えるということになるとスーパープライオリティなのかという話になるわけだけれども、そもそも競合していませんという考え方もあり得るわけであって、そういうのも含めて整理をする必要があるのかなと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○横山委員 ありがとうございます。京都大学の横山でございます。前回申し上げたことで、少し前に戻ってしまうのですけれども、5ページの動産所有権留保の対抗要件について、対抗要件は全く不要だという【案14.1.3.1】考え方がありました。それで、今、また、そもそも対抗要件は要らないのではないか、引渡しがなくても第三者に対抗できるという話がもう出てきました。そこで、前回申し上げたことをもう一回申し上げることになるかもしれないのですが、売買により所有権が売主に留まる場合のなかには、確かに、所有権がまったく移転していないという場合もあります。つまり、担保のためではなく、単に売買において所有権の移転時期を遅らせるということもあるとは思うのですけれども、売買とともに所有権が留保され、しかし買主に現実の引渡しがされているときには、やはり多くの場合、担保だと想定されるのではないかと思います。それを前提としますと、担保の場合には、物権変動をどう法律構成するかはいろいろ考え方があると思いますけれども、やはり、所有権がまったく移転していない場合とは売主の地位は異なっていると考えるべきではないかと思います。そうすると、3のところ、前の話ですけれども、5ページで、やはり、所有権留保を第三者に対抗するには、何らかの対抗要件がなければいけないであろうと思います。そして、その場合、所有権留保は非常に日常的に使う担保だと思いますので、対抗要件としてはその動産の引渡し、つまり占有改定でも足りるのではないかと考えております。   その上で、今回の話につきまして、留保所有権と譲渡担保権との優劣関係をどのように考えるのかということに関しましては、仮に、一般的には所有権留保について第三者に対抗するには対抗要件が必要だと考えたとしても、【案14.2.3.1】の譲渡担保権との関係では、何もなくても当然に優先するものとするという考え方もあり得ないわけではないと思います。それがいいと私自身が思っているわけではなく、どちらがよいかということについては、少し実務との関係で悩ましいところもあると考えてはおりますけれども、一応、論点としては別なのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   いろいろ考え得る御意見は頂いたかなという感じもいたしておりますけれども、何かこの点につきまして更に御発言がございますでしょうか。   もしほかにございませんでしたら、今日はそもそも範囲が少ないですので、今日の話を踏まえて、更に中間試案に向けてもう一度話を作り直して、事務局にお願いしたいと思いますけれども、本日のところはよろしいでしょうか。   それでは、本日の審議はこの程度させていただくことにいたしまして、次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日もありがとうございました。次回は5月17日火曜日、午後1時30分から午後5時30分までとなっております。場所は法務省7階、共用会議室6、7の予定です。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、これで法制審議会担保法制部会の第15回会議を閉会にさせていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。また来月、よろしくお願いいたします。 -了- - 24 -