法制審議会 第192回会議 議事録 第1 日 時  令和3年10月21日(木)   自 午後3時31分                         至 午後4時53分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号について   仲裁法制の見直しに関する諮問第112号について   侮辱罪の法定刑に関する諮問第118号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○加藤司法法制課長 ただいまから法制審議会第192回会議を開催いたします。   本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員21名の合計41名のうち,会議場における出席委員20名,ウェブ会議システムによる出席委員4名,計24名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   まず初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○古川法務大臣 この度,法務大臣に就任いたしました古川禎久でございます。   法制審議会第192回会議の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。 また,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は,御審議をお願いする事項が三つございます。   まず,議題の第1は,令和2年2月に諮問いたしました,「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号」の答申についてでございます。   この諮問については,令和2年6月以降,刑事法(逃亡防止関係)部会において調査審議が行われ,本日,その結果が報告されるものと承知しております。 保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭及び刑の執行を確保するため,関係する刑事法の整備を早急に行う必要があると考えておりますので,できる限り速やかに答申を頂けますよう,お願い申し上げます。   議題の第2は,令和2年9月に諮問いたしました,「仲裁法制の見直しに関する諮問第112号」の答申についてでございます。   この諮問については,我が国における国際仲裁の活性化に向けて,令和2年10月以降,仲裁法制部会において調査審議が行われ,本日,その結果が報告されるものと承知しております。国際仲裁は,グローバル化が進む現代社会において,国際的な紛争を解決する手段として,その有用性が増してきています。しかし,我が国における国際仲裁の取扱い件数は低い水準で推移しており,国際仲裁の活性化を図るべく,最新の国際水準に見合った法制度を整備することは政府の喫緊の課題です。 仲裁法制部会においては,国連の国際商取引法委員会(UNCITRAL)が策定した最新の国際商事仲裁モデル法に対応するための法制度の見直し等について,精力的に調査審議を行っていただいたと承知しております。 委員の皆様方には,御審議の上,できる限り速やかに答申を頂けますよう,お願い申し上げます。   議題の第3は,本年9月に諮問いたしました,「侮辱罪の法定刑に関する諮問第118号」の答申についてでございます。   この諮問については,本年9月以降,刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会において調査審議が行われ,本日,その結果が報告されるものと承知しております。 近年における侮辱の罪の実情等に鑑み,その法定刑を引き上げる改正を早急に行う必要があると考えておりますので,できる限り速やかに答申を頂けますよう,お願い申し上げます。   それでは,これらの議題についての御審議・御議論をよろしくお願い申し上げます。 ○加藤司法法制課長 ここで報道関係者が退出しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○加藤司法法制課長 まず,事務局から会議に当たっての留意事項を御案内いたします。   ウェブ会議システムにより御出席の委員におかれましては,御出席されていることを確認させていただくため,会議中は常にカメラをオンにしていただきますようお願いします。   また,本日の会議は,ペーパーレス化によりタブレット端末による資料配布となっております。操作方法等について御不明な点がある場合には,事務局に適宜お知らせください。   では,竹内関係官,お願いいたします。 ○竹内関係官 本年10月7日をもちまして,前会長の内田貴委員が退任されましたので,委員の皆様の互選に基づき,法務大臣が指名するという方法により,新会長を選任する必要があります。   新会長選任までの間,仮議長を選任すべきかとは存じますが,特に御異論がございませんでしたら,私が進行を務めさせていただきたいと存じます。   それでは,どうぞよろしくお願いいたします。   まず,互選の手続に入ります前に,前回の会議以降,本日までの間における委員の異動につきまして御紹介いたします。詳細はお手元にお配りしております異動表のとおりでございますが,新たに就任された委員等が本日御出席されておられますので,御紹介いたします。   日本製鉄株式会社執行役員の大内政太氏が御就任されました。 ○大内委員 大内でございます。よろしくお願いいたします。 ○竹内関係官 学習院大学法科大学院教授の大村敦志氏が御就任されました。 ○大村委員 学習院大学の大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○竹内関係官 それでは,会長の選任の手続に入らせていただきます。   法制審議会令第4条第2項で,会長は,審議会の委員の互選に基づき,法務大臣が指名すると規定されておりますので,皆様には会長の互選をお願いしたいと存じます。   御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。 ○佐伯委員 法制審議会委員としての御経歴からも,また,学識,御見識,お人柄からいたしましても,井田良委員が会長にふさわしいと存じます。 ○竹内関係官 ほかに御意見がございますでしょうか。 ○落合委員 ただいま佐伯委員がおっしゃいましたように,私も次期の会長には井田良委員が適任と思います。 ○竹内関係官 ほかに御意見がございますでしょうか。   ただいま,お二人の委員から井田委員を御推薦いただきましたが,ほかに御意見はございますでしょうか。   それでは,ほかに御意見がございませんようですので,会長には井田委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   ただいまの議事のとおり,会長には井田委員が互選されましたので,法務大臣に会長の御指名をお願いいたします。 ○古川法務大臣 ただいま互選されました井田良委員を会長に指名いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○竹内関係官 それでは,私の議事進行はここまでとさせていただきます。御協力ありがとうございました。 ○加藤司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,ここで大臣は公務のため退席させていただきます。           (法務大臣退室) ○加藤司法法制課長 それでは,井田委員,恐縮ですが,会長席へお移りいただけますでしょうか。 ○井田会長 井田でございます。着席のまま,一言御挨拶申し上げます。   私にとり,身に余る大役ではございますが,委員の先生方を始めとする皆様のサポートを頂きながら,何とか大役を務めてまいりたいと思います。何とぞよろしくお願い申し上げます。   それでは,法制審議会令第4条第4項で,会長に事故があるときは,あらかじめ会長の指名する委員がその職務を代行すると規定されておりますので,会長代理の指名をしたいと思います。   私としては,長期にわたり法制審議会で御活躍いただいている,高田委員を指名させていただきたいと思います。   高田委員,是非よろしくお願いいたします。 ○高田委員 御指名でございますので,謹んで務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ○井田会長 よろしくお願いします。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   先ほどの法務大臣挨拶にもありましたように,本日は議題が三つございます。 まず,「公判期日への出頭及び刑の執行を確保するための刑事法の整備に関する諮問第110号」について御審議お願いしたいと存じます。   初めに,刑事法(逃亡防止関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました酒巻匡臨時委員から御報告いただきたいと存じます。   それでは,酒巻部会長,報告者席まで御移動をお願いいたします。   それでは,お願いいたします。 ○酒巻部会長 刑事法(逃亡防止関係)部会の部会長の酒巻でございます。私から,同部会における審議の経過及び結果を御報告させていただきます。   諮問第110号は,「近時の刑事手続における身体拘束をめぐる諸事情に鑑み,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備を早急に行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでした。   まず,審議経過について申し上げます。本諮問については,令和2年2月21日に開催された法制審議会第186回会議におきまして,まず,部会において検討させる旨の決定がなされ,この決定を受けて,刑事法(逃亡防止関係)部会が設けられました。   部会においては,令和2年6月15日から本年10月8日までの間に,14回にわたって調査審議を行いました。部会においては,委員・幹事から,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するために考えられる諸方策について意見が述べられ,それらを踏まえて,具体的な方策のたたき台を作成するなどして,制度の内容を具体化しつつ議論を重ねました。そして,その議論に基づき,合計11の項目からなる「要綱(骨子)案」を作成し,更に詰めの議論を行った結果,全会一致により,本日配布資料の刑1としてお配りしている「要綱(骨子)案」のとおり法整備を行うことが相当であるとの結論に達しました。   それでは,以下,部会における審議の概要について,個別に「要綱(骨子)案」に沿って御報告いたします。   要綱(骨子)案の1ページの「第一」は,裁判所が,保釈中又は勾留執行停止中の被告人に対し,逃亡のおそれの有無の判断に影響のある住居や労働の状況など,生活上又は身分上の事項やその変更の報告を命じ得るものとする制度を新設するものです。   これは,裁判所が保釈中の被告人の生活状況等を適時に把握し,逃亡のおそれの程度を適切に判断して,保釈の取消しなどの必要な措置を講じることができるようにするものです。   要綱(骨子)案の2ページの「第二」は,裁判所が保釈中又は勾留執行停止中の被告人を監督する者を選任する制度を新設するものです。   具体的には,裁判所が,保釈中の被告人の逃亡を防止し,公判への出頭を確保するために,被告人を監督する「監督者」を選任することができるものとし,裁判所は,この監督者に対して,被告人と共に出頭することや,被告人の生活上又は身分上の事項について報告することを命じることができ,監督者がその義務に違反した場合や,被告人が逃亡するなどしたことによりその保釈が取り消された場合には,監督者が納付した監督保証金を没取し得るものとしています。この制度については,「監督者としての法的責任を引き受ける者は限られるのではないか」との指摘もありましたが,保釈中の被告人の逃亡を防止するための選択肢として有益な場合があることから,新設することとされたものです。   次に,要綱(骨子)案の7ページの「第三」は,公判期日への出頭等を確保するために必要な罰則を新設するものです。   「一」から「五」まで,それぞれ手続の段階に応じて罰則を設けるものです。順次説明します。「一」は,保釈中の被告人が,召喚を受けて正当な理由なく公判期日に出頭しない行為について,「二」は,制限住居を離れた保釈中の被告人が,裁判所の許可を受けないで裁判所の定める期間を超えて帰着しない行為について,「三」は,保釈を取り消された被告人が,検察官から出頭を命ぜられたにもかかわらず正当な理由なく出頭しない行為について,「四」は,勾留の執行を停止された被告人が,執行停止期間の満了時に指定された場所に正当な理由なく出頭しない行為について,「五」は,懲役や禁錮の刑が確定した者が,検察官から出頭を命ぜられたにもかかわらず正当な理由なく出頭しない行為について,それぞれ罰則を設けるものです。これらの罪の法定刑は,刑法第103条の犯人蔵匿等の罪の法定刑の上限が3年の懲役とされていることなども踏まえ,いずれも「2年以下の懲役」としています。   これらの罰則を新設することについては,「被告人が公判期日に出頭しなかった場合などには,保釈の取消しや保釈保証金の没取という既存の制裁で対処すれば足りる」といった意見も述べられましたが,これに対しては,「それらの制裁が必ずしも十分な抑止力として機能しない場合もあるため,逃亡の防止や出頭確保の観点から,罰則を設けることが必要かつ相当である」といった意見が述べられ,「要綱(骨子)案」のとおり,これらの罰則を新設することとされたものです。   次に,要綱(骨子)案の10ページの「第四」は,現行刑法の逃走罪及び加重逃走罪の主体を,「法令により拘禁された者」に統一・拡大するとともに,逃走罪の法定刑を,現行の「1年以下の懲役」から「3年以下の懲役」に引き上げるものです。   現行の刑法第97条の逃走罪の主体は,「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」とされているために,例えば,逮捕状により逮捕されて刑事施設に収容中の者や,勾留状の執行を受けて身柄を拘束されたものの,刑事施設に収容されるに至っていない者が拘禁から脱して逃走したとしても,この罪は成立しないものとされています。その上,その法定刑は1年以下の懲役とされており,主体の範囲及び法定刑のいずれの観点からしても,法令により拘禁された者の逃亡を防止する上で十分なものとは言い難い状況にありました。 そこで,令状の種類の違いや刑事施設への収容の前後により犯罪の成否を分ける合理性はなく,法令上認められる身柄拘束は等しく保護されるべきと考えられることから,その主体を「法令により拘禁された者」に改めるとともに,逃走罪の法定刑について,犯人蔵匿等の罪の法定刑なども踏まえ,その長期を3年とするものです。   要綱(骨子)案の10ページの「第五」は,裁判所の命令により,保釈中の被告人にいわゆるGPS端末を装着させ,一定の区域に侵入した場合には速やかにその身柄を確保することで国外への逃亡を防止する制度を新設するものです。   この制度については,対象となる被告人の範囲をめぐって,「国外逃亡の防止に限らず,国内における逃亡の防止や,被害者を含む証人等への接触の防止のためにも活用できる要件にすべきである」といった意見も述べられましたが,これに対しては,「国外に逃亡すると我が国の主権が及ばないため,公判への出頭確保が事実上できなくなることから,これを阻止する必要性が特に高く,また,海空港への接近を探知して身柄を確保するなど,GPS端末を有効に活用する方法も明らかである」といった意見や,「制度を円滑に導入し,定着させていくためには,そのように,特に活用の必要性が高く,効果的に活用することができ,運用に伴う困難も少ないと考えられる国外逃亡の防止が必要な場合に限定するのが適切である」といった意見が述べられ,「要綱(骨子)案」のとおり,国外逃亡の防止を目的とした制度として,新設することとされたものです。   要綱(骨子)案の18ページの「第六」は,禁錮以上の実刑判決の宣告後における裁量保釈の要件を明確化するものです。   これは,禁錮以上の実刑判決が宣告された後の裁量保釈については,判決の宣告前と比較してより制限的に適用されるべきであるとするのが法の趣旨と理解されていることから,その趣旨を明確化するものであり,禁錮以上の実刑判決があった後の裁量保釈は,保釈されない場合の不利益が著しく高い場合か,実刑判決後でも逃亡のおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由がある場合であって,適当と認められるときでなければならないこととするものです。   要綱(骨子)案の18ページの「第七」は,保釈中又は勾留執行停止中の被告人に対し,控訴審の判決宣告期日への出頭を義務付け,原則としてその出頭がある場合にのみ,判決を宣告する制度を新設するものです。   これは,現行法上,控訴審においては,被告人に公判期日への出頭義務がないため,保釈中の被告人に禁錮以上の実刑判決が宣告されて保釈が失効しても,その場で直ちに収容することができるとは限りませんが,それによって逃亡の機会を与えてしまうことのないように,判決宣告期日への出頭を義務付けるなどして,保釈が失効した場合の収容を確保しようとするものです。   要綱(骨子)案の20ページの「第八」は,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた後に保釈された者が逃亡した場合には,必ず保釈を取り消し,保釈保証金の全部又は一部を没取しなければならないものとするものです。   これは,保釈の取消しや保釈保証金の没取の威嚇力による逃亡抑止力を,より一層高めることを目的とするものです。   要綱(骨子)案の21ページの「第九」は,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者や罰金の裁判の告知を受けた者の国外逃亡を防止し,刑の執行に困難を来すことにならないようにするために,裁判所の許可なく出国することを禁止し,これに違反した者については,身体拘束をすることができる制度を新設するものです。   具体的には,「一」は,禁錮以上の実刑判決の宣告を受けた者は,その判決自体の効力として裁判所の許可なく本邦から出国してはならないものとし,「二」及び「三」は,罰金の裁判の告知を受けた被告人やその裁判が確定した者のうち,罰金を完納できないこととなるおそれがあるときは,裁判所の許可なく出国することを禁止する命令を裁判所が発することができるものとしています。 これらの出国制限や出国禁止命令の対象者であっても,国外に逃亡しようとして空港などに赴いた際に,そのまま出国確認の手続が行われたり,退去強制令書が発付・執行されて強制送還されたりすれば,結局その者が国外に出ることになります。そのため,部会においては,その対象者,特に強制送還され得る者については,そのことを理由として勾留できるようにする必要があるとの議論もありましたが,「要綱(骨子)案」ではそのような制度とはしておらず,出入国管理及び難民認定法の手当てがされて,出国確認の留保の対象となるとともに,退去強制令書が発付された場合であっても,送還しない措置を執ることが可能になるということを前提とした要綱案となっています。   要綱(骨子)案の30ページの「第十」は,裁判の執行に関する調査として,裁判官の発する令状により差押えや検証等の強制処分をすることができるものとするものです。   これは,現行法上,裁判の執行に関する調査については,公務所や公私の団体に必要な事項の報告を求めることができる旨の規定などがあるのみであり,このため,捜査・公判段階であれば可能な差押えや検証などの強制処分も,裁判の執行の段階においては行うことができず,刑が確定した者の収容や罰金の徴収等に支障を来す例が少なくないという実情に対処しようとするものです。   要綱(骨子)案の34ページの「第十一」は,刑の言渡しを受けた者が国外にいる期間,刑の時効が停止するものとするものです。   これは,公訴時効については,現行法上も犯人が国外にいる場合には,その期間,時効の進行を停止することとされているところですが,刑の時効については,時効を停止する仕組みがないため,刑が確定した者が国外に逃亡しても,時効は進行し,刑の執行ができなくなるという状態が生じます。そのようなことがないようにするため,国外にいる間は,時効の進行を停止することとするものです。   以上が「要綱(骨子)案」の概要です。   以上の「要綱(骨子)案」について,一括して採決に付したところ,部会長である私を除く出席委員13名全員の賛成により,「要綱(骨子)案」のとおりの法整備を行うべきであるとの結論に至りました。   以上のような審議に基づき,諮問第110号につきましては,「要綱(骨子)案」のように法整備を行うことが相当である旨の決定がなされたものです。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。 ○井田会長 御報告ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全体につきまして,御質問及び御意見を承りたいと思います。   御質問と御意見とに分けまして,まず,御質問がございましたら承りたいと思います。いかがでしょうか。 ○大迫委員 ありがとうございます。   詳しい御説明,ありがとうございました。   1点だけ御質問させていただきたいと思います。   要綱案の18ページの禁錮以上の実刑判決宣告後における裁量保釈の要件の明確化というところの件でございますが,これは,部会の議事録などを見せていただきますと,刑事訴訟法の第90条の枠組みの中で考えるのかどうかということについて,いろいろ御議論があったように拝見いたしました。先ほどの部会長の御説明では,要件を明確化したものだという御説明がありましたので,これは,現行の刑事訴訟法第90条の要件を明確にしたことにとどまって,この第90条の判断枠組みを殊更変えるものではないと理解をいたしましたけれども,そういう理解でよろしいでしょうか。 ○井田会長 ありがとうございます。ただいまの御質問に対してお答えいただけますでしょうか。 ○保坂関係官 事務当局から御説明いたします。部会におきましても同様の御質問を頂き,事務当局から回答させていただいたところでございますが,要綱案において御指摘の規定を設ける趣旨といいますのは,飽くまで禁錮以上の実刑判決宣告後の裁量保釈の判断の在り方を条文上明確にするものでございまして,現行法の下で認められるべき裁量保釈の範囲を,殊更に限定しようとするものではないと理解をいたしております。 ○井田会長 大迫委員,それでよろしいでしょうか。 ○大迫委員 はい,ありがとうございます。そのように理解させていただきます。 ○井田会長 ほかに御質問ございますか。   それでは,続いて御意見を承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○大迫委員 すみません,私ばかりで申し訳ございません。   本要綱案は,本当に新たな制度が数多く含まれていて,部会での御検討は大変な作業であったと思いますし,敬意を払いたいと思います。   本要綱に係る法整備については,逃亡防止関係とか,あるいは公判期日への出頭及び刑の執行を確保するため,刑事法の整備として新たな法制度が検討されたと理解しますが,その目的の中には,これらの制度が整備されることを契機として,より一層無罪の推定と公平な裁判を受ける権利を保障するという,保釈制度の適正な運用がされる前提となる法整備でもあると理解しております。   特に,保釈制度に関しましては,2016年の刑事訴訟法の改正時に,衆参両院の法務委員会で,被告人が否認あるいは黙秘あるいは検察官請求の証拠を不同意にしているということを過度に評価して,不当な扱いをすることがならないように留意することを求めるという附帯決議があり,これらのことを踏まえた法整備であると考えておりますので,この法整備により,今後より一層の適正な保釈制度の運用が行われることに資すると考えまして,本案に賛成をしたいと思っております。   また,GPSの装着の問題につきましては,新たな制度のため,運用面の観点から,まずは海外逃亡防止という目的で使用が予定をされているところでありますが,運用面の検証や装備機器の発達や改良に伴って,適宜見直しを図り,この海外逃亡防止の観点だけでなく,身体拘束よりも制限的でない代替措置としての活用や部会でも指摘のあった被害者の安心確保の観点からなどの利用方法の拡大に向けた検討が継続されることを期待しております。   以上です。 ○井田会長 ありがとうございました。御意見としてお伺いしました。   ほかに御意見はございますでしょうか。   もしよろしければ,原案についての採決に移りたいと思いますけれども,御異議ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   特に御異議ございませんようですので,そのように取り計らわせていただきます。   諮問第110号につきまして,刑事法(逃亡防止関係)部会から報告されました要綱案のとおり,答申することに賛成の方は挙手をお願いします。また,ウェブ会議システムにより出席されている委員につきましては,賛成の方は画面上で見えるように挙手していただくか,あるいは挙手機能ボタンを押していただくようにお願いいたします。どうぞお願いします。           (賛成者挙手) ○井田会長 では,事務当局において票読みをお願いします。   よろしいですか。手を下ろしていただいて結構でございます。ありがとうございました。   それでは,反対の方,挙手をお願いいたします。           (反対者挙手) ○井田会長 それでは,手を下ろしていただいて結構でございます。 ○加藤司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び部会長を除くただいまの出席委員数は19名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○井田会長 ありがとうございます。   採決の結果,全員賛成でございましたので,刑事法(逃亡防止関係)部会から報告されました要綱案は,原案のとおり議決されたものと認めたいと思います。   議決されました要綱案につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   酒巻部会長におかれましては,多岐にわたる論点につきまして調査審議いただきました。ありがとうございました。   次に,「仲裁法制の見直しに関する諮問第112号」について,御審議をお願いしたいと存じます。   初めに,仲裁法制部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました山本和彦臨時委員から御報告いただきたいと思います。   山本部会長,報告者席まで御移動をお願いいたします。   それでは,お願いいたします。 ○山本部会長 仲裁法制部会の部会長を務めております山本でございます。   当部会では,令和2年9月の諮問第112号につきまして,約1年にわたり調査審議を重ねてまいりましたが,本年10月8日に開催された第13回会議において,仲裁法の改正に関する要綱案を決定いたしましたので,本日はその概要につき,御報告をいたします。   諮問第112号は,経済取引の国際化の進展等の仲裁をめぐる諸情勢に鑑み,仲裁手続における暫定措置又は保全措置に基づく強制執行のための規律を整備するなど,仲裁法等の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたいというものでありました。これを受けて仲裁法制部会が設置され,これまで審議を行ってまいりました。   当部会における審議の途中経過につきましては,本年5月の第190回法制審議会総会において,中間報告をさせていただいたところでございますが,本日改めて,要綱案の決定に至るまでの審議経過を簡単に御説明した上で,最終的に取りまとめました要綱案の概要につきまして御報告をいたします。   我が国の仲裁法は,司法制度改革審議会の御意見を受けて,UNCITRALが策定した国際商事仲裁モデル法に準拠し,平成15年に制定されたものでありますが,平成18年にこのモデル法の一部が改正された後,我が国の仲裁法は,暫定保全措置や仲裁合意の書面性に関する規律について,改正後のモデル法に必ずしも対応していない部分が生じておりました。仲裁法制部会では,国際仲裁の活性化に向けた取組を進めていくために,我が国の仲裁法を最新の国際水準に見合ったものとする必要があるとして,改正後のモデル法に対応させるという観点から,見直しを行うことが相当であるという方向性が示され,この方向性に沿って各論点について調査審議を重ね,本年3月には仲裁法等の改正に関する中間試案を取りまとめ,パブリックコメントの手続を行いました。その後,パブリックコメントに寄せられた意見等も踏まえ,更に調査審議を進め,本年10月8日の会議において,全会一致で仲裁法の改正に関する要綱案を決定するに至ったものであります。   なお,当部会では,調停による和解合意に執行力を付与し得る制度の創設についても検討がされておりますが,この点につきましては,引き続き今後も調査審議を行っていく予定であります。   それでは,続きまして,要綱案の概要について御説明をいたします。   この要綱案は,目次を御覧いただきますと,第1,暫定保全措置に関する規律の見直し,第2,仲裁合意の書面性に関する規律の見直し,第3,仲裁関係事件手続に関する規律の見直しという三つの事項から成っております。   第1の暫定保全措置に関する規律ということでありますが,暫定保全措置命令というのは,仲裁廷が仲裁判断があるまでの間,当事者に対し一時的に財産の保全や証拠の保全等の措置を命ずるものであります。裁判所の手続でいえば,仮差押え,あるいは仮処分に相当するようなものということになります。この暫定保全措置については,現行仲裁法にも規定がありますが,仲裁廷がどのような要件の下,どのような措置を命ずることができるかについては,全て仲裁廷の判断に委ねられている上,その命令について,強制的な実現手段も定められておりません。これに対し,改正後のモデル法においては,暫定保全措置の定義,発令要件,執行等に関する規律が明確化されており,これに対応するという観点から,要綱案においては,基本的にこの改正モデル法と同様の規律を設けることとしております。   以下,順に中身を御説明いたします。   まず,要綱案1ページの第1の1では,暫定保全措置の定義,類型として,(1)アからオまでの五つの類型を定めるとともに,(2)において,その発令要件に関する規律を設けることとしております。(1)のア,イ,エ,オという四つの類型は,財産の処分禁止や証拠の廃棄禁止など,一定の行為を禁ずるものでありますが,(1)ウの類型は,申立人に生ずる損害,危険の発生を防止するため,必要な措置や原状回復として,例えば,継続的契約に基づく物の供給を継続させることや,土地の上に設置された妨害物を除去することなど,一定の作為を命じ得るものとなっております。(2)の発令要件は二つありまして,一つは保全すべき権利又は権利関係の存在,すなわち,最終的な仲裁判断において,権利又は権利関係が認められる蓋然性があること,もう一つは,申立ての原因となる事実の存在,すなわち,暫定保全措置命令の発令を認める必要性があることであります。   なお,これらの発令要件は,(1)オに係るものを除くとされておりますけれども,これは,証拠の廃棄の禁止等を命ずるか否かというのは,仲裁手続の審理の状況に応じた仲裁廷の裁量に委ねることが相当であって,このような要件を課すことは,必ずしも相当でないと考えられたことによるものであります。   2の暫定保全措置命令の担保でありますが,これは,暫定保全措置命令を受けた者に生ずるおそれのある損害を填補するため,改正モデル法の規律を踏まえて,仲裁廷が必要があると認めるときは,担保の提供を命ずることができるということにしたものであります。   3では,(1)及び(2)で暫定保全措置命令の取消し等に関する規律,(3)及び(4)で事情変更の開示命令に関する規律を設けることとしております。暫定保全措置命令の発令要件を欠くに至るなどの事情の変更が生じた場合には,(1)は当事者の申立てにより,(2)は職権によって,仲裁廷が暫定保全措置命令の取消し,変更又は効力の停止ができるという規律を設けておるものであります。また(3)は,暫定保全措置命令の取消し等の基礎となる重要な事情変更について,仲裁廷が当事者に対し,そのような事情変更の有無,内容の開示を命じることができること,そして(4)では,その開示命令に違反した場合の効果に関する規律を設けるものであります。   2ページ,4では,暫定保全措置命令に係る損害賠償命令について規律を設けております。(1)では,仲裁廷は,暫定保全措置命令の取消し等をした場合において,申立人の責めに帰すべき事由により暫定保全措置命令を発したと認めるときは,損害賠償を命ずることができることとし,(2)では,当該命令は仲裁判断としての効力を有する旨の規律を設けております。   5が,暫定保全措置命令の執行についての規律でありますが,暫定保全措置命令の執行等認可決定,暫定保全措置命令に基づく民事執行,暫定保全措置命令に係る違反金支払命令の規律を設けることとしております。かなり長いものになっていますが,まず,(1)では,仲裁地が日本国内にあるかどうかを問わず,全ての類型の暫定保全措置命令について,我が国の裁判所が執行拒否事由の有無を審理,判断するための手続として,執行等認可決定に関する規律を設けております。これは,我が国において,仲裁廷による不当な暫定保全措置命令の執行がされることを防止するため,裁判所がその命令の内容が日本の公序に反しないか等を審査する手続ということになります。 その上で,先ほど御説明したうち,一定の行為の禁止を命じる,先ほどの1の(1)のア,イ,エ,オの4類型の暫定保全措置命令については,当該命令の実効性を確保するため,当事者が命令に違反し,又は違反するおそれがある場合に,裁判所が違反金の支払を命ずることができるものとし,その違反金支払命令に基づく強制執行をすることができるものとしております。これが,後ろの方ですが,5ページの(3)の暫定保全措置命令に係る違反金支払命令に関する規律ということになります。   他方で,(1)ウの類型の暫定保全措置命令について,例えば,継続的契約に基づく物の供給の継続等を命ずるものであるような場合には,当事者が暫定保全措置命令に従わない場合,直接裁判所に強制執行を求めることができるという形の規律にしております。これが,4ページの方の下から3行目の(2)の暫定保全措置命令に基づく民事執行,これは直接民事執行ができるという形の規律になります。   以上が,第1の暫定保全措置に関する規律ですが,続きまして,5ページ一番下の第2,仲裁合意の書面性に関する規律であります。   我が国の仲裁法では,仲裁合意は原則として書面によってしなければならないものとされております。他方,現行法においても,例えば,電磁的記録によって仲裁合意がされたときも,書面性を満たすものとされるなど,この書面性の要件は一定程度緩和されていますが,改正モデル法と比べると,なお書面性を満たす範囲が狭くなっている部分があります。そこで,この要綱案第2では,改正モデル法に対応した規律として,書面によらないでされた契約において,仲裁条項が記載され,又は記録された文書,又は電磁的記録が引用されているときは,その仲裁合意は書面によってされたものとみなす旨の規律を設けることとしております。これによって,例えば,口頭で契約が締結された場合であっても,仲裁条項を含むモデル約款等が口頭で引用された場合などには,書面性の要件を満たすこととなります。   具体例としては,よく挙げられる例ですが,サルベージ契約という,海の上で沈んだ船を引き揚げる契約について,これは非常に緊急性が求められるので,電話などで口頭で契約がされることが多いわけでありますが,そのような場合であっても,この仲裁条項を含む約款等が引用されていれば,この書面性の要件が満たされるようになる場合があると考えられるものであります。   最後に,6ページ,第3,仲裁関係事件手続に関する規律について,御説明をいたします。   この第3では,我が国の仲裁法固有の見直しとして,仲裁手続に関して,日本の裁判所が行う手続についての規律を見直すこととしております。   まず,第3の1では,仲裁関係事件手続における管轄について,仲裁地が日本国内にあるときは,仲裁関係事件手続に係る申立ては,東京地方裁判所及び大阪地方裁判所のいずれにもすることができる旨の規律を設けることとしております。これは,国際仲裁事件を念頭に,後で御紹介する訳文添付省略への対応を含め,裁判所における専門的な事件処理態勢を構築するため,東京地裁及び大阪地裁にも競合管轄を認めるというものであります。   なお,その(注)では,仲裁法上,個別の事件類型ごとに管轄の規律が設けられている部分についても,同様に東京地裁,大阪地裁の競合管轄を認めることとしております。   第3の2は,それに対応して,遠隔地に居住する被申立人の管轄の利益等との調整を図ることを可能とするため,東京地裁,大阪地裁に競合管轄が認められる場合に,裁判所の裁量により,法律上の他の管轄裁判所への移送を可能とする規律を設けることとしておるものであります。   それから,第3の3では,外国語資料の訳文添付の省略について規律を設けることとしております。現行法の下では,仲裁判断の執行決定の申立てにおいて,原則として,外国語で作成された仲裁判断書については,日本語による翻訳文を提出しなければならないものとされております。しかし,我が国を仲裁地とする仲裁手続であっても,英語を使用言語とする事件が多いという実務を踏まえて,当事者の負担軽減を図ること等を目的として,新たにこのただし書の規律を設けて,裁判所が相当と認めるときは,被申立人の意見を聞いて,翻訳文の提出を要しないものとすることができるものとしております。   また,(2)においては,外国語で作成された書証についても,裁判所が相当と認めるときは,当事者の意見を聞いて,翻訳文の添付を省略することができる旨の規律を設けることも提案をしております。   以上が仲裁法の改正に関する要綱案の概要ということになります。どうか御審議のほど,よろしくお願い申し上げます。 ○井田会長 御報告ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱案の全体につきまして,御質問及び御意見を承りたいと思います。   御質問と御意見とに分けまして,まず,御質問ございましたらお願いいたします。どうぞ。   特にございませんか。   それでしたら,御意見を承りたいと思います。お願いします。 ○大内委員 原案に賛成の立場から,3点意見を申し上げます。   1点目は,仲裁法の改正が早く行われまして,日本での国際仲裁の活性化につながることを期待しております。   2点目は,企業の法務担当といたしましては,仲裁地が日本になるというのは,合意によって決まりますので,契約交渉において,できるだけホームグラウンドである日本を仲裁地にすべく,契約交渉を頑張りたいと思っております。   3点目は,そういう意味では,日本の仲裁をアピールするためにも,仲裁法の解釈を明確化すること,それから,裁判所における国際仲裁のノウハウの蓄積や要綱案にもありました外国語への対応を進めること,それから国際仲裁人材を育成していくこと,こういったことを日本の政府,裁判所,専門家の皆様に引き続きお願いしたいと思っております。   こういった取組が,海外から見て分かりやすく開示されることによって,日本の仲裁の魅力が伝わるよう,御支援いただければと思っております。 ○井田会長 ありがとうございました。御意見としてお伺いいたしました。ほかに御意見はございますか。 ○早川委員 私も、大内委員と同様,今回の検討は大変意義のあるものであると思っております。   国際仲裁に関心を持ってきた私といたしましては,このように国際仲裁に関する日本の対応が国際水準に追いついてきたことを,大変うれしく思っております。特に,最後の外国語への対応は,とても大事なことだと思っております。こういう制度が導入されて、裁判所がこれを活発に利用されることを期待したいと考えております。   どうもありがとうございます。 ○井田会長 ありがとうございました。   ほかにございますか。よろしいでしょうか。   それでは,原案についての採決に移りたいと思いますが,御異議ございませんでしょうか。   ありがとうございます。特に御異議ないようでございますので,それでは,そのようにさせていただきます。   諮問第112号につきまして,仲裁法制部会から報告されました要綱案のとおり,答申することに賛成の方は挙手をお願いします。また,ウェブ会議システムにより出席されている委員につきましては,賛成の方は画面上に見えるように挙手していただくか,又は挙手機能ボタンを押していただくようにお願いいたします。どうぞお願いします。           (賛成者挙手) ○井田会長 票読みお願いします。   手を下ろしてくださって結構でございます。   反対の方,挙手をお願いいたします。           (反対者挙手) ○井田会長 ありがとうございます。 ○加藤司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び議事に関係のある臨時委員を除く,ただいまの出席委員数は19名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○井田会長 採決の結果,全員賛成でございましたので,仲裁法制部会から御報告いただきました要綱案は,原案のとおり議決されたものと認めます。   議決されました要綱案につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   山本部会長におかれましては,誠にありがとうございました。 ○山本部会長 ありがとうございました。 ○井田会長 では,次に,「侮辱罪の法定刑に関する諮問第118号」について,御審議をお願いしたいと存じます。   初めに,刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました佐伯仁志委員から御報告いただきたいと存じます。   よろしくお願いします。 ○佐伯部会長 刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会長の佐伯でございます。私から,同部会における審議の経過及び結果を御報告いたします。   諮問第118号は,近年における侮辱の罪の実情等に鑑み,早急にその法定刑を改正する必要があると思われるので,要綱(骨子)についての意見を求めるというものでした。   去る9月16日に開催されました法制審議会第191回会議において,この諮問についてはまず部会において検討をさせる旨の決定がなされ,この決定を受けて,刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会が設けられました。同部会においては,2回にわたり,諮問に付された要綱(骨子)について集中的に調査審議を進めて議論を重ねた結果,賛成多数により,配布資料の刑2として本日お配りしている要綱(骨子)のとおり法整備を行うことが相当である,との結論に達しました。   それでは,部会における審議の概要について御報告いたします。   まず,侮辱罪の法定刑を引き上げる必要性に関して,近時の誹謗中傷の実態や量刑の状況を共有した上で議論を行ったところ,法定刑を引き上げる必要があること自体に異論は見られませんでした。法定刑を引き上げることの相当性に関しては,侮辱罪と正当な表現行為との関係について,議論が行われました。 この点については,前回の総会でも表現行為に対する萎縮効果を懸念する御発言があったところであり,部会においては,論点を整理しつつ議論が行われました。   具体的には,まず,「侮辱罪に該当し得るが,正当な表現行為として処罰されない場合の有無・根拠」,次に,「正当な表現行為について,侮辱罪により処罰しない旨の規定の要否・当否」,そして,「正当な表現行為に対する「萎縮効果」」について,それぞれ議論が行われました。   1つ目の「侮辱罪に該当し得るが,正当な表現行為として処罰されない場合の有無・根拠」については,正当な表現行為が保護されるべきことに異論は見られず,また,そのような行為は,一般的な違法性阻却の規定である刑法第35条を根拠として,侮辱罪により処罰されないと解されるといった御意見が大勢を占めました。   次に,2つ目の「正当な表現行為について,侮辱罪により処罰しない旨の規定の要否・当否」については,「名誉を毀損しても,摘示した事実が公共の利害に関するもので,その内容が真実であれば名誉毀損罪により処罰しないこととしている刑法第230条の2を参考として,侮辱罪についても,例えば,公務員に対する批判などを処罰しない旨の規定を設けるべきである」といった御意見が述べられましたが,これに対しては,「仮に,公務員を保護の客体から外すこととすると,虚偽の事実を前提として公務員を侮辱する場合でも処罰しないこととなるが,これは刑法第230条の2とも矛盾するものであり,適切ではない」との御意見があり,さらに,「現在でも,刑法第35条により正当な表現行為は保護されており,このことは,構成要件の変更を伴わない法定刑の引上げにより変わることはない」,「判例等の蓄積がない中で,侮辱罪として処罰されないための要件を定めることは困難であり,また,個別の事案に応じた対応に支障を来すおそれがある」といった御意見が述べられ,正当な表現行為について侮辱罪により処罰しない旨の規定を設けないとする御意見が大勢を占めました。   そして,3つ目の「正当な表現行為に対する「萎縮効果」」については,これを懸念する御意見が述べられましたが,これに対しては,検察・警察の委員から,「これまでも,表現の自由に配慮しつつ対応してきたところであり,この点については,今般の法定刑の引上げにより変わることはない」との考え方が示された上,他の委員からは,「誹謗中傷の実態や今般の法定刑の引上げ幅等を考慮すれば,正当な表現行為に対する萎縮効果が生じるとは考え難い」,「萎縮効果に関する懸念については,今般の法整備の趣旨を周知するとともに,その趣旨にのっとった運用が図られることによって対処すべき問題である」といった御意見があり,これらが大勢を占めました。   次に,どのような法定刑とすべきかについては,先ほど申し上げたとおり,侮辱罪の法定刑を引き上げること自体に異論は見られず,その上で,「国連自由権規約委員会における採択文書で,名誉侵害に対する刑罰として拘禁刑は適さないとされていることや,侮辱罪の科刑状況を踏まえれば,懲役や拘留を設けるべきではない」といった御意見が述べられましたが,これに対しては,「近年における侮辱の罪の実情,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,これを抑止するという今般の諮問の趣旨,名誉毀損罪その他の刑法上の罪の法定刑との比較といった観点から,侮辱罪の法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とすることは必要かつ相当である」などとして,要綱(骨子)のとおり法定刑を引き上げるべきとの御意見が大勢を占めました。   諮問に付された要綱(骨子)について,採決に付したところ,部会長である私を除く出席委員9名のうち,賛成8名,反対1名の賛成多数により,要綱(骨子)のとおりの法整備を行うべきであるとの結論に至りました。   以上のような審議に基づき,諮問第118号については,お手元の要綱(骨子)のとおり,法整備を行うことが相当である旨の決定がなされたものです。   以上で,当部会における審議の経過及び結果の御報告を終わります。 ○井田会長 御報告ありがとうございました。   それでは,ただいまの御報告及び要綱の全般につきまして,御質問及び御意見を承りたいと思います。   ここでも,御質問と御意見を分けまして,まずは御質問がございましたら承りたいと思います。   特に御質問はございませんでしょうか。   それでは,御意見を承りたいと思います。御意見いかがでしょうか。 ○大迫委員 ありがとうございます。本要綱の刑の引上げについては,拘留・科料の刑が残されており,仮に本要綱に沿った法改正がなされたとしても,捜査機関の対応や当罰性の判断基準などは現状と変わることがないということは部会でも議論になった旨の御説明を頂きました。各機関がそれぞれ,表現の自由が適正に保障されるように運営をされるであろうことは,私も信頼をしているところではあります。   しかしながら,市民の立場からすれば,侮辱罪については,今までどういう行為が刑法上の正当行為や違法阻却事由になるのかということについての議論や判例の集積がないことから,意見の表明などを実際に行う際に,当罰性の判断が非常に困難であろうと考えられます。そういう意味で,要綱での法定刑の引上げは,表現の自由に対する萎縮効果をもたらす懸念があると考えています。   インターネット上の誹謗中傷は,安易に行われ,かつ,容易に拡散するために,甚大な被害になる,そういうことに対して法整備が必要であることは,私も認識するところではありますけれども,同時に,言論等の表現に対する刑罰法規については,憲法が保障する表現の自由を脅かすことがないようにするための調整が必要であると考えます。例えば,公益的な目的で行われる論評や批判など,保護すべき表現については,正当行為や違法性の阻却事由になることを明文化することも,その一つの例だと考えています。   部会では,現時点では,侮辱罪の違法阻却事由の議論や判例の集積が少ないことから,違法阻却事由などを明文化することは難しいといった議論があったことは,今,御説明を頂いたとおりではありますけれども,喫緊の対応としては,まず,現時点で侮辱罪の法定刑の引上げとして罰金刑を導入することで,公訴時効の延長などを図り,その上で,例えば,改正プロバイダ責任制限法の早期施行や,これを発信者情報の開示請求がより早期に行われるための更なる改正等を検討する,あるいは,その他の法整備によって刑事告発,民事の損害賠償の手続などが迅速に行われるような環境の整備を行い,それに合わせて,引き続き侮辱罪の禁錮・懲役刑の導入の可否や,仮に禁錮・懲役刑を導入するならば,正当行為を違法阻却事由の明文化などの検討を継続すべきであると考えています。   以上のような理由から,現時点での禁錮・懲役刑の導入を含む法定刑の引上げについては反対をしたいと考えております。 ○井田会長 ありがとうございます。御意見としてお伺いしたということでよろしいでしょうか。 ○神津委員 ありがとうございます。   本件に関して意見を申し述べたいと思います。   近年,SNSなどのツールを使った匿名による特定の個人への誹謗中傷行為は,目に余るものがあり,自らの命を絶つ事案まで生じてしまっているわけです。精神的な苦痛を余儀なくされている方々が増えている現状を踏まえれば,こうした行為を抑止する策を講ずる必要性は大いに理解できるところであります。   一方で,侮辱罪につきましては,その行為が侮辱に当たるのかどうかの線引き,判断が難しく,現状では,科刑は年間30件程度と聞いております。今後SNSの更なる普及が想定される中,本件については,厳罰化が及ぼす様々な影響を含めて,身体拘束の是非や名誉毀損罪における免責に類した取扱い等,幅広い意見を聞いた上で,慎重に検討を重ねるべきと考えます。今回の検討において,十分な議論が尽くされたとは言い難いのではないでしょうか。   本日採決ということでありますけれども,私としては,現時点で賛成若しくは反対という明確な判断を下す材料を持ち得ないというのが,率直なところでありまして,保留せざるを得ないということを申し述べさせていただきたいと思います。 ○井田会長 ありがとうございました。これも,御意見としてお伺いしたということでよろしいでしょうか。   それ以外に御意見はございますでしょうか。   それでは,原案につきまして採決に移りたいと思いますけれども,御異議ございますでしょうか。よろしいでしょうか。   御異議もないようでございますので,そのようにさせていただきたいと思います。   諮問第118号につきまして,刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会から報告されました要綱のとおり,答申することに賛成の方は挙手をお願いします。ウェブ会議システムにより出席されている委員につきましては,賛成の方は画面上に見えるように挙手していただくか,挙手機能ボタンを使っていただくようにお願いいたします。           (賛成者挙手) ○井田会長 票読みをお願いします。   では,反対の方は挙手をお願いします。           (反対者挙手) ○加藤司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び部会長を除くただいまの出席委員数は18名でございますところ,原案に賛成の委員は16名,反対の委員は1名でございました。 ○井田会長 採決の結果,賛成者多数ということで,「刑事法(侮辱罪の法定刑関係)部会」から報告されました要綱は,原案のとおり議決されたものと認めます。   議決されました要綱につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   佐伯部会長におかれましては,誠にありがとうございました。   これで,本日の予定は終了となりますけれども,ほかに,この機会に御発言いただけることがございましたら,お願いいたしたいと思います。 ○大沢委員 ありがとうございます。   本日の議題に関連するものではないのですけれども,先般の少年法改正に伴って,裁判員に選ばれる年齢が20歳以上から18歳以上になったことに関して,一言意見と申しますか,要望を申し上げさせていただきたいと思います。   この裁判員の年齢は,皆様御承知のとおり,裁判員法で衆院選挙の選挙権を持つ者と定められておりますけれども,選挙権年齢が引き下げられた際に,改正公職選挙法の附則で,当分の間,18歳,19歳は裁判員への就職を禁ずるというような規定が設けられたことにより,20歳以上のままとする措置が採られたという経緯だったと思います。これは,少年法の適用年齢が引き下げられていない状態で裁判員年齢を18歳に下げてしまうと,裁かれる側と裁く側で年齢的に不均衡が生じるということを考慮して,こうした措置が採られたと理解しております。   この論点は,私も委員として参加しました法制審議会の少年法部会でも提起されたことがありまして,少年法の適用年齢を維持した場合には,裁判員の年齢については,選挙権年齢とは別の考え方で20歳以上と規定し直す必要があるのではないですかと,その場合は,裁判員制度の根本に戻った議論が必要ではないかという,問題提起があったと記憶しております。   ただ,この論点は,その後,少年法部会では突っ込んで議論されることがないままに終わり,最終的に,少年法の適用年齢は維持される一方,18歳,19歳については,刑事裁判を受ける原則逆送の範囲が拡大されました。そして,その範囲が裁判員裁判対象事件と重なるということになったことから,先ほど申し上げた裁かれる側と裁く側の不均衡の問題は解消されるということになったので,今般,裁判員年齢も18歳になるというふうなことなのだろうと,私としては理解しております。   1点申し上げたかったのは,ちょっと残念だなと思ったのは,この裁判員年齢の引下げについて,部会の場でも,あるいはこの法制審議会の場でも,また広く一般の国民にも分かりやすく説明されたというようなことが,残念ながらなかったのではないかなと思われることです。本来,私ども法制審議会の委員がきちんと気付いて質問して,答えを引き出せばいい,それが筋なのかもしれませんし,それができなかったと言われれば,自らの不明を恥じるばかりなのですけれども,ただ,この裁判員年齢の変更というのは,先般の少年法等の一部を改正する法律の附則に,公職選挙法等の一部を改正する法律の一部改正として,附則の5条から10条までを削るという形でしか出てきていなくて,この裁判員の年齢の変更,つまり,20歳のままとした暫定措置が削除されるということは,その先の新旧対照表の条文を見比べないと分からないということになっていたわけです。さすがに,これは,法律専門家ならいざ知らず,一般人が通常の注意力を持って見ていたのでは,なかなか気付くことが難しいのではないかなと思いました。   このようなことを申し上げるのは,私は,この裁判員年齢を引き下げるのであれば,これまで以上に学校現場の法教育の充実が必要になると思っているからです。法教育は,教育関係者の皆さんや法曹関係者の皆さんの努力で,実際に意欲的な取組がなされていることは承知しておりますけれども,全般的に見れば,主権者教育と比較しても,まだまだ浸透していないのではないかなというのが,私の実感です。ですから,教育現場にいろいろな取組をしていただく上でも,これから広く国民に周知して,積極的かつ丁寧な説明をしていただきたいなと要望したいなということを思ったので,一言申し上げた次第です。 ○井田会長 ありがとうございました。これは,御意見としてお伺いしたということでよろしいでしょうか。   ほかに何か御発言ございますか。よろしいでしょうか。   それでは,本日はこれで終了としたいと思います。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みて,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することにしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。それでよろしいですか。          (「異議なし」の声あり)   ありがとうございます。それでは,本日の会議における議事録につきましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言いただいた委員等の皆様に議事録案をメール等にて送付をさせていただき,御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトに公開したいと思います。   最後に,事務当局から何か事務連絡がございましたら,お願いいたします。 ○竹内関係官 次回の会議の開催予定につきまして御案内申し上げます。   法制審議会は,2月と9月に開催するのが通例となっております。次回の開催につきましても,現在のところは,来年2月に御審議をお願いする予定でございますが,具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただきたいと存じます。   委員・幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,今後の御予定につき,御配意いただけますようお願い申し上げます。 ○井田会長 ありがとうございました。   それでは,これで本日の会議を終了いたしたいと思います。本日はお忙しいところお集まり下さり,熱心に御議論いただきまして,誠にありがとうございました。 -了-