法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和4年4月28日(木)   自 午後1時00分                        至 午後5時17分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 第一の四(わいせつな挿入行為の刑法における取扱いの見直し)について         2 第一の六(いわゆるグルーミング行為に係る罪の新設)について         3 第二の一(公訴時効の見直し)について         4 第二の二(被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設)について         5 第三の一(性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪の新設)について         6 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第7回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日も、御多忙のところ、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。   本日、今井委員、大賀委員、北川委員、木村委員、田中委員、中川委員、池田幹事、金杉幹事、くのぎ幹事、中山幹事は、オンライン形式により出席されています。   また、小西委員におかれては、所用のため遅れて出席される予定です。   まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をお願いします。 ○浅沼幹事 本日、配布資料として、資料16から20までをお配りしております。   前回の会議でも申し上げたとおり、いずれの資料も、部会長の御指示に基づき、諮問事項ごとに、一巡目の議論における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえ、規定イメージの案とそれに関連する検討課題を整理したものです。飽くまで検討のためのたたき台として作成したものであり、もとより、複数の案のいずれを採るかという形で検討対象を限定したり、議論を方向付けようとする趣旨のものではありません。   資料の具体的な内容につきましては、個別の諮問事項を御議論いただく際に御説明いたします。 ○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。   前回の会議から二巡目の議論に入っておりますが、本日は、まず、前回の会議において時間切れとなり十分な議論ができなかった諮問事項の「第一の四」について議論し、次いで、「第一の六」、「第二」及び「第三」について御議論いただきたいと思います。   本日、かなり盛りだくさんな内容が予定されておりますので、できるだけ多くの委員・幹事の方に御発言いただけるよう、必要に応じてほかの委員・幹事の方が述べられた意見を引用するなどして、重複を避けつつ、御発言いただければと思いますので、御協力をお願いいたします。   本日の進行における時間の目安については、まず、「第一の四」について30分程度、「第一の六」について40分程度御議論いただいた後、午後2時15分頃に、10分程度、1回目の休憩をとりたいと思います。その後、諮問事項の「第二の一」について40分程度、「第二の二」について40分程度御議論いただき、午後3時45分頃に、10分程度、2回目の休憩をとった上で、諮問事項の「第三の一」について30分程度、「第三の二」について30分程度御議論いただきたいと考えております。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。   予定している時間については、その都度申し上げますので、御協力をお願いいたします。   それでは、初めに、「第一の四」の「刑法第百七十六条の罪に係るわいせつな挿入行為の同法における取扱いを見直すこと」について御議論いただきたいと思います。   前回の会議では、配布資料14のA案に賛成の立場から、性具を挿入する事案と、例えば、割り箸や硬貨を挿入する事案とでは、侵襲という点で異なるところはなく、被害者の意思に反して、膣や肛門という通常隠されている部分に何かを挿入する行為は、被害者の恥辱感などを強めて、体の安全を脅かすものであるという御意見、また、何かを身体に挿入する行為は、身体の境界線の侵害であって、レイプと認められるべきであるといった御意見が述べられたほか、膣又は肛門への挿入行為以外の行為について、例えば、口腔に身体の一部や物を挿入する行為は、一般的・類型的に見て性的性質が乏しいと考えられることから、対象から除外することが考えられるという御意見、あるいは、挿入させる行為は、被害者側の身体に性的な接触が起きない場合もあることなどから、対象から除外することが考えられるといった御意見などが述べられました。   これらの御意見も踏まえつつ、御発言をお願いしたいと思います。   御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いいたします。   この諮問事項については、最大で30分程度の時間を予定しております。 ○宮田委員 配布資料14のA案、B案に対して非常に違和感を覚えるのが、刑法176条の強制わいせつ罪についての懲役6月以上10年以下という法定刑と、強制性交等罪についての懲役5年以上という法定刑の差が大きすぎるところです。強制性交等罪の中に全部入れ込んでしまうということに対する違和感が、私にはあるのです。   さりとて、このC案についてですが、この行為だけ切り出してきて、一定の重い類型として処罰するということに対しても、なぜこの行為を切り出すのか、もちろん膣や肛門に対する挿入行為が被害者に与える影響の大きさについては、前回御意見が出たところではあるわけですけれども、性的な屈辱感という意味では、口に性具を挿入される場合も同じであると思いますし、いわゆるヘビーペッティングと言われるような、挿入を伴わない被害者に非常に激しい羞恥心や嫌悪感を与える行為もあります。C案がこれだけ強制わいせつ罪から切り出して重くすることに対しても、非常に疑問を持ちます。これがまず第一点です。   第二点目です。結局、A案、B案だと、強制性交等罪という罪名が付くことになります。私が言う例が必ずしも適切な例とは思いませんが、子供たちがお医者さんごっこと称して、女子の性器にビー玉などを入れるような非常に悪質な「遊び」があるわけですけれども、そういう経験がある、刑事責任年齢に達した知的障害のある被疑者が、強制性交等罪という罪名になることに対して、私としては非常に抵抗を感じます。つまり、強制性交等罪という罪名と法定刑の重さゆえに、社会復帰の困難等を生じさせるという危惧感を持つところでございます。 ○井田部会長 A案、B案、C案、いずれにも懐疑的な御意見ということで、A案、B案については刑の重さにおいて、またC案についてはこの切り出し方について問題があるという御意見だったかと思います。 ○金杉幹事 配布資料14のA案からC案まで、いずれも改正の必要がないのではないかという反対の立場から意見を申し上げます。この点については、一巡目の議論の際に、三つの根拠を挙げて、反対の意見を述べさせていただきました。それ以外に、二点指摘をさせていただきたいと思います。   被害者の方の受け止め方として、体内への侵襲の度合は変わらないと、あるいは、恥辱感といったものは、物であろうが性器であろうが変わらないということは、そのとおりなのだろうと思います。ただ、そういった被害者の方の受け止め方ということ以外にも、やはり法定刑であるとか刑罰自体を切り分ける切り口というのはあろうかと思います。   そういう観点から、一点目は、行為の危険性の点で、やはり異物を挿入する場合と性器を挿入する場合は違うのだろうと思っています。体腔内に性器を挿入する、あるいは挿入させる行為というのは、粘膜と粘膜の接触がある上に、性器に付着しているというか、例えば、性病を持っている方が性病をうつしてしまう危険性といったように、その行為自体の危険性がやはり性器の挿入を伴う方が高いということはいえるのではないかと思います。   二点目は、行為の危険性ではなくて、その行為に対する非難の程度の違いです。これは、もちろん性的興奮、性的快楽を得る方法には、いろいろな嗜好もあり、いろいろな違いがあるということは理解しています。ただ、異物、物を挿入する場合と、自分が性的快楽をより直接的に感じる部位である性器を挿入する、あるいはさせるという、利欲的な態度に対する非難というのは、やはり非難の程度が強まるのではないかと考えます。   以上二点から、被害者の方の受け止め方が一緒であったとしても、現状の、性交等を口腔性交、肛門性交にまで広げたところで線を引くべきかなと思います。   ただ、以前から申し上げているように、実際強制わいせつであっても、挿入を伴う行為、物ですとか舌ですとか、そういう挿入を伴う行為については体表を触るだけのものより重く処罰されているということはあると思います。ですので、C案については、検討には値する、つまり、法的な中間類型を設けるというのは、現状でも重く処罰されているものを切り分けて重い類型にするということなので、そこは考慮には値するかなとは思うのですが、この点については前回も指摘をさせていただきましたように、未遂処罰をする場合の混乱が生じるのではないかと思っています。新たに設けるC案についても未遂処罰をするということになれば、現状でも生じ得る、わいせつ行為となっているのだけれども、性交目的があった場合の強制性交等未遂なのか、あるいは強制わいせつなのかという争いに加えて、中間類型の未遂なのか、中間類型にもならない強制わいせつにとどまっているのかという未遂の問題は生じてくると思います。そういった観点から、現状のまま改正なしで、わいせつ行為の中で重く処罰するということでよいのではないかという意見です。 ○井田部会長 被害者の受け止め方、感覚というものとは別に、行為の危険性とか非難の程度という点で、男性器の挿入と同視することは難しいという観点から、A案、B案には反対で、C案についても、考えられなくはないのだけれども、特に未遂との関係で問題があるのではないかということで、基本的にはA案、B案、C案、いずれに対しても懐疑的な御意見だったと受け止めました。 ○山本委員 被害者の受け止めということなのですけれども、挿入されるということが問題なのであって、それは羞恥心や恥辱感というものではなく、人はなぜ凍り付くのかということに関して、近年、神経生理学的に非常に影響が大きいのだということが、ポリヴェーガル理論などでも説明されています。同意なく身体内に挿入されるということにおいては、同等だと思います。   また、先ほど宮田委員が、子供が女子の性器にビー玉を入れるというような遊びを行うことがあるというようなことも言われていましたけれども、幼児から学童低年齢期の性的問題行動のアセスメント分類がありまして、その中でパンツを脱いで見たりということは通常の発達過程でもあり得ることですけれども、挿入行為を幼児がした場合には、その挿入行為をした幼児は虐待を受けている可能性が高いと考えられています。侵襲性の高い行為を、自分がされているから、他者に行っていると考えられ、被虐待児として介入する必要があるということが共有されている知見でもありますので、指摘させていただければと思います。 ○佐藤(陽)幹事 改正に特に反対するという立場ではないのですけれども、一点気になった点を指摘させていただければと思います。   全ての異物挿入行為を、一律に同じ法定刑で規定する配布資料14のA案につきましては、性犯罪に関する刑事法検討会やこれまでの部会で指摘されました膣・肛門に身体の一部や物を挿入する行為によるPTSD等の被害の程度は、挿入された身体の一部や物がどのようなものであっても性交等と変わらないという、性犯罪被害に関する心理学的・精神医学的な知見に基づくものだと思われます。こうした指摘は非常に重要ですし、異物挿入は被害者にとって取り分けつらい体験になりますので、重く処罰しなければならないという点で、全く異論はございません。齋藤委員が前回御教示くださいましたように、挿入された物が具体的に何であるかが判別できないような問題もございます。   こういった指摘があるということをきちんと踏まえながら、さらに、被害者にとっては全ての異物挿入被害が最大限につらい経験であるということをもちろん理解した上で、しかし、それでもあえて言及しなければならないと思うのは、A案に対しては、本当に全ての異物挿入行為を一律に性交等に匹敵するものとして、強制性交等罪で処罰することが妥当なのかという点で、やはり批判が想定され得ることでございます。被害者にとっては、被害を比較すること自体がナンセンスだということは重々承知しているのですけれども、しかし、量刑や法定刑を決定する際には、どうしても横との比較が必要になってまいります。金杉幹事が先ほど、行為者側の態様を見るとおっしゃっていたのは、これに関する御指摘ではないかと思うところでございます。   この点、前回も簡単に申し上げましたけれども、A案のような拡張類型にする場合には、拡張された部分については、罪名・法定刑だけではなくて、量刑水準もほかと同等のものになることが自然であるということを踏まえて、慎重に改正の議論をすべきだという論考が既に出ているところでございます。   さらに、諸外国の例を見ますと、例えば、ドイツやオーストリアは、性交等やそれ以外の異物挿入を強姦罪として重く処罰しますけれども、その要件としては、全体的な事情に鑑みて、被害者をおとしめるような性質であることが、特別に要求されております。他方、イギリスでは、性交等とそれ以外の異物挿入を全く同じ法定刑で規定している一方で、量刑ガイドラインの方で、男性器の挿入とそれ以外の物の挿入を別個に取り扱っております。更に言えば、フランスでは全ての異物挿入は強姦罪となりますけれども、この改正の際に、一旦全体の法定刑が引き下げられまして、その代わりに、被害者の脆弱性や行為の悪質性などを理由にした加重事由が複数設けられたという状況にございます。これらの法制は、いずれも、いわゆる性交等とそれ以外の異物挿入とは、法定刑又は量刑の上限は同じだと理解しながらも、下限については慎重な取扱いをしているものになります。   もちろん、外国法が全て正しいというわけではなく、いずれの国も試行錯誤しておりますし、日本なりの条文というのがあってしかるべきだと思っておりますけれども、A案を目指す場合には、この点について考慮に入れて、しっかりと議論をした上で判断をしなければならないと考えているところでございます。 ○井田部会長 身体の一部、物、こういった異物の挿入行為について、果たして性器の挿入と全く同視して同じように扱うことで問題ないか、今一つ検討を要するのではないかという、そういう御指摘だったと思います。 ○齋藤委員 何点かお話をと思うのですけれども、先日、WHOのレイプの定義をもう一度見直しておりまして、そちらも、もちろん身体の一部あるいは異物の挿入を含むものをレイプとするということになっておりましたし、もし異物の挿入について、それが一律全て同じなのかという批判があるとしたら、それが既に誤解に基づいた批判であるということを、繰り返しこれまでも述べてきました。   また、先ほど行為の危険性ということがございましたが、性感染症に関しては、確かに粘膜の接触というものがございますけれども、異物の挿入に関しては、膣や肛門の中が傷つく可能性というのは、性器よりも大きいです。そうしたこととか、更に長いものになって、鉄パイプなどになってくると、その先の内蔵の傷つきなどもございますし、先ほどのビー玉とかチョークとかといったものであっても、それが取り出せなくなるとか、かえって小さなものの場合は、取り出すのに非常に困難があるとか、中が傷つくということがございます。そうした行為の危険性について、性感染症の危険がないからということで語られるというのは、ちょっと違和感があるなということを思っております。   また、先ほどの知的障害のお子さんなどについてとはちょっと違う観点ですけれども、基本的に性加害をするときに、加害者が満たすものは、性欲もそうですけれども、大きくは支配欲や屈服させる欲望であるということは、性犯罪の加害者の臨床ではよく知られたことかと思いますけれども、異物の挿入というのは、正しく支配とか屈辱、屈服させるというような欲求を満たす行為だということも、付け加えさせていただきます。 ○長谷川幹事 今、述べていただいたものと重なるところがあるのですけれども、まず、行為の危険性については、物の挿入の場合、臓器の損傷が生じたり、性感染症はないとしても、元々挿入することを予定されていない物を入れるものですから、雑菌などによる感染症が生じたりなどの危険があるので、性感染症の危険性がないから危険性が低いということは当てはまらないかなと思っております。   あと、物の挿入を一律に処罰するということでいいのかというお話がありましたけれども、入れる物が違うということで法的非難が違うのかということについての評価、価値観の話にもなるのかもしれませんが、元々肛門は物が入れられることを想定されていない部分、膣は、正常な性行為で性器が入ることは想定しているけれども、そうではない物が入ることというのは想定されていない部分であるので、そこに、どのような物であれ、物を入れるということは、その人に対する人格的な攻撃であったり、おとしめであったりするというところでは、物の違いによって変わりがないと思いますので、物によって法的非難の程度が違う、だから一律的に処罰するのは相当でないというのも、当てはまらないかなと思っています。 ○橋爪委員 齋藤委員に一点質問してもよろしいでしょうか。   齋藤委員の御見解については、配布資料14のA案に賛成されるお立場として、基本的には異物が身体の中に挿入されることそれ自体が重要であって、何が入るかということには大きな違いがないというお考えであると理解いたしました。このような御理解からは、確かに異物であろうが男性器であろうが、全ての挿入行為を同一条文で同一法定刑で処罰することになろうかと存じます。   その場合、仮に改正されてA案が実現された場合ですが、裁判実務における量刑としましては、全く同一の状況下において、男性器を挿入する行為と異物を挿入する行為の量刑については、やはりそれは、侵害性が共通である以上、同じような量刑で処罰すべきということなのでしょうか。お考えをお聞かせいただけますと幸いです。 ○齋藤委員 量刑に関しましては、私、心理職ですので、その詳細について言及するというのは難しいですが、例えば、もちろん男性器の挿入で避妊具が着いていなくて妊娠の不安を抱いたとか、妊娠をしたとか、その結果、中絶をする必要があったという場合には、それは重く検討されるべき事案かと思いますし、例えば、異物の挿入であっても、ナイフを突き付けて脅しているとか、そうした行為があれば、それはまた勘案される事案だと思いますし、それぞれ結果や事案の詳細によって異なるのではないかと思いますが、挿入される物によって量刑が変わるということではないと考えております。 ○橋爪委員 そうしますと、念のための確認ですが、異物挿入に限れば、例えば、性具を挿入するようなケースと、前回の部会で、齋藤委員が例になさったようなタンポンや綿棒を入れるようなケースについても、基本的には異物挿入という観点では共通なので、挿入する異物の内容によって量刑についても差を付けるべきではないという御理解でよろしいでしょうか。 ○齋藤委員 それはそのとおりです。 ○橋爪委員 分かりました、ありがとうございます。 ○金杉幹事 先ほど、齋藤委員と長谷川幹事から、行為の危険性は、異物挿入の場合の方がより高いのではないかといった御指摘を頂きました。ありがとうございます。   なるほどとは思ったのですけれども、その点については、致傷の生じやすさということはあると思います。そういった異物を挿入することによって性器等に傷が生じた場合には、手段としての暴行から生じた傷害ではなくて、直接その行為自体から生じる傷害ということで、より致傷に至りやすいということはいえるのかなと思います。ただ、致傷が付かない場合、つまり、傷害がなかった場合、性器の挿入は、性病の罹患のしやすさといった意味の危険性がやはり高いのではないかと考えました。 ○山本委員 先ほどの性器に傷がついた場合についてですが、性器・肛門への挿入性の被害を開示した子供であっても、異常所見を認めるのは、5.5%との報告があります。粘膜の回復がやはり早いものですから、日時がたつと、性器損傷は、性暴力被害診察をしてもやはり発見できないですし、そうすると証拠がないということになりますので、そこの扱いには、より慎重であってほしいなと思います。 ○井田部会長 被害の実態について補足していただきました。   ほかに御意見ございますか。よろしいでしょうか。   それでは、「第一の四」についての議論は、本日はこの程度とさせていただきたいと思います。   前回の第6回会議、そして本日の御議論を伺っておりまして、まず、配布資料14に検討課題として挙げられております、身体の一部や物の口腔への挿入行為、それから、もう一つは、身体の一部や物を自分の膣・肛門に挿入させる行為、この扱いについては、この部会においては「第一の四」の検討の対象とはしないこととするのが妥当であるという御意見があり、それに対する反対の御意見はなかったように思われます。その上で、挿入された身体の一部や物がどのようなものであったとしても、被害の程度は、性交等、すなわち性器の挿入と変わらないという、犯罪被害者に関する心理学的あるいは精神医学的知見に基づいて、A案をもって妥当とすべきである、こういう御意見が複数の委員・幹事から強く主張されました。   これに対して、改正はむしろ不要であって疑問であると、こういう御意見もありました。その御議論の中で、A案とすべきとする心理学的・精神医学的知見に基づく指摘は、重要であり、それは十分尊重しなければいけないとしつつも、この議論が5年以上の有期懲役という、比較法的に見ても重い法定刑で処罰する対象についてのものであることを踏まえると、なお十分な吟味が必要であって、また、身体の一部や物を挿入する行為には様々な態様のものがある中で、一律に強制性交等、すなわち性器の挿入と同視して処罰することとした場合、量刑も考えると、それに対する批判も想定されるのではないかという、こういう御指摘もありました。これに対する反論ももちろんございました。   いずれにしましても、これらの御意見は、今後のこの部会の議論にとって、有益かつ重要なものだと考えられます。次にこの論点を取り上げる機会においては、更に意見の収束ないしは集約を目指して、検討を深める必要があるということを感じました。   次に、「第一の六」の「性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪を新設すること」について御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から配布資料16の内容について説明してもらいます。              (小西委員 入室) ○浅沼幹事 配布資料16について御説明いたします。   1枚目の三つの枠内を御覧ください。   ここには、規定イメージの案として、一定の年齢未満の若年者に対し、わいせつな行為又は性交等をすることを要求し、又は約束する行為を処罰対象とするA案、一定の年齢未満の若年者に対し、わいせつの目的で、働きかけをする行為を処罰対象とするB案、一定の年齢未満の若年者に対し、わいせつの目的で、偽計や利益供与などの手段を用いて会うことを要求する行為を処罰対象とした上で、その要求の結果として、実際に若年者と会った場合を加重処罰の対象とするC案を記載しています。   その上で、これらの案に共通する検討課題として、保護法益についてどのように考えるか、処罰対象とする実態的・理論的根拠についてどのように考えるか、他の罪との関係についてどのように考えるか、客体となる若年者の範囲をどのようなものとするか、法定刑をどのようなものとするかといった点を掲げています。   また、B案及びC案の検討課題として、どのような行為をすれば犯罪となるのか、どのような行為であれば犯罪とならないのかが文言上明確となっているか、主観面だけによらずに、法益侵害又はその危険性が客観的にも認められる行為を適切に捕捉できているか、自白によらなくても検挙や処罰の実効性が確保できるような要件となっているかといった点を掲げています。   配布資料16の御説明は、以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容に関して、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。御意見のある方は、挙手するなどした上で御発言をお願いします。この諮問事項については、最大で40分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 グルーミングは、リアルでもオンラインでも加害者が子供への性的接触頻度を高め、相談に乗って加害者を信頼できる人間だと思わせたり、相談に乗った上で、このお返しをしないと申し訳ないと思わせる返報性のルールという心理操作などを利用して、自分はこれだけ君のことを考えているのになどと言って罪悪感を刺激するなどの手懐けを行った上で性的勧誘を行うプロセスのある行為であるので、そのプロセスを捕捉できる規定が必要だと思います。   配布資料16のA案は、「わいせつな行為又は性交等を行うことを要求し、又は約束した」ときということなので、プロセスの最終段階を捕捉するものなのかなと考えております。被害を未然に防ぐ上ではとても大事なので、是非規定してほしいですが、最終段階だけでは足りないと思います。性的勧誘の過程を捉えるためにも、B案とC案が取り入れられるとよいと思います。   B案の「わいせつの目的で、働きかけをした」に、どのようなものが入るとよいかということなのですけれども、被害者の身体感覚などの五感と知識、信念に働きかけ、加害者と性的関係を持つことが大人への近道だとか、成長の機会になるなどと信じ込ませた場合は、正しくグルーミングの被害です。加害者の価値観や加害者によって都合のよい理屈が刷り込まれて、被害者の思考過程が支配されていて、加害者の意に反する意思決定ができる状態ではない、性的自己決定権を行使できない状態と考えます。これを、「働きかけ」として捉えられるのであれば、実態が捕捉できると思います。身体感覚などの五感への影響には、アダルトビデオ動画などを送り付け、性行為の場面を視聴させるなどの行為がありますし、知識や信念への働きかけには、性行為のメリットが強調されているようなウェブ記事を読ませるなどの行為や、年齢差のある性的関係を含む恋愛小説や漫画を読ませたり、映画を見せたりするなどがあります。そのような行為を通じて被害者の思考過程に影響を与え、性的行為に応じるように仕向けることが「働きかけ」になるのであれば、B案で捉えられると思います。   C案は、「わいせつの目的で、偽計や利益供与などの手段を用いて、会うことを要求した」という書きぶりになっています。何もしないと言って密室に誘導して性加害を行った場合、芸能人に会わせるというような虚偽の約束をして会うことを要求した場合も、「偽計」や「利益供与」に含まれるとよいなと思います。「わいせつの目的」をどのように認定するのかに疑問があるのですけれども、会うときにコンドームを持っていた場合や、自室やホテルの部屋に入った段階で認定するとなると、A案に近くなるのではという疑問があります。チャットメッセージなどのやり取りの過程で、裸を見たいとか一緒に寝ようなどの性的勧誘が行われればわいせつ目的があると認定されるとすれば、実態を捕捉できて被害を防げる規定になるのかなと思います。   配布資料16に記載のある検討課題の一つ目の丸の保護法益についてですけれども、このグルーミング、性的勧誘の過程で、マインドコントロール、つまり心理操作が行われていることを捉えてほしいと思います。うそと隠蔽によって、正しいと思っていたことを間違っていたと思わせるように、時間を掛けて心理を切り替えていくプロセスと説明されます。加害者の意に沿うように影響を及ぼされ、支配されているので、性的自己決定権を行使できない状態になります。性的自己決定権の基礎となる、自分を大事にしていいし、大事にされる存在であるという自尊感情や、自分の体のことは自分が決めているという認識に影響を与える行為です。   検討課題の三つ目の丸の客体となる若年者の年齢についてですけれども、ネット上の出会いを調査した2014年の共同調査で、高校生女子のうち、58.1%がネットで異性と知り合い、そのうち20.8%がリアルで出会い、12.2%がそういうつもりがないのに性的関係になったと報告されています。高校生の多くが、意図しない性的関係に巻き込まれており、対応できないという現実があるといえますので、B案、C案の対象は18歳未満の若年者になるのではないかと考えております。   そのような形で議論いただければと思っております。 ○井田部会長 グルーミング行為の被害の実態について御説明くださった上で、性的な誘惑のプロセスを捕捉するという見地から、B案、あるいは、場合によってはC案というのがいいのではないかという御意見だったと思います。 ○浅沼幹事 山本委員から、配布資料16のC案の「偽計」について言及がありましたので、参考にしていただきたいという趣旨で、たたき台を作成した事務当局として、説明させていただきます。   「偽計」というのは、一般に、人の判断を誤らせるような術策をいうものと解されておりまして、たたき台のC案の「偽計」についても、ひとまずこれと同様に解されるということを前提として説明させていただきます。   C案において、会うことを要求する手段として「偽計」を要件とする趣旨が、若年者の会うことに関する判断を類型的にゆがめると認められる行為を要件化するというところにあるとすれば、「偽計」に該当するといえるためには、その行為の内容が虚偽と評価できるものであることを前提として、若年者の会うかどうかの判断を誤らせるに足りるものであることが必要であると考えられます。   わいせつ目的を秘して会うことを要求するに当たり、単にわいせつ目的を秘しただけの場合、人と会うに当たってわいせつな目的があるときはそれを告げるべきという作為義務を一般的に認めることは困難であると思われ、そうすると、不作為による「偽計」を構成すると解することは困難ではないかと思われます。   他方で、わいせつ目的で会うことを要求する場合、もとよりわいせつ目的であることは告げないで、例えば、実際には芸能の関係者ではないのに、これを装って、面接などと称して会うことを求めるような場合とか、勉強を教える意思も能力もないのに、学歴を偽って勉強を教えるように装って会うことを求める場合、そのようなものについては、そのような行為の内容は虚偽と評価できますし、かつ、若年者の会うかどうかの判断を誤らせるに足りるものであるとも思われまして、「偽計」に当たると解されるのではないかと思われます。   差し当たり、以上のように考えておりますけれども、その点も含めて御議論いただければと思います。 ○井田部会長 「偽計」というと、現行法上、偽計業務妨害罪で使われている文言ですけれども、それ自体、明確性を欠くのではないかという学説の批判も強いところで、C案の規定についても、わいせつ目的を隠したというだけで「偽計」に当たるというと、全部の事案が「偽計」に入ってきてしまうということになります。そういう趣旨ではないことを明らかにしていただいたと思います。 ○嶋矢幹事 私の方からは、それぞれの案を踏まえました規定の方向性について、意見を述べさせてください。   グルーミング行為を処罰する規定の在り方を検討するに当たっては、配布資料16のB案・C案の検討課題のところに記載されております、罰則としての明確性や処罰範囲の合理性といった観点が重要であると思われます。このうち、B案については次の二つの問題があるように思われました。   一つは、「働きかけ」には、客観的に見て問題のない日常的なコミュニケーション行為も含まれることから、罰則として不明確である上、外形的に問題のない行為について、行為者の主観面をもって幅広く犯罪とすることになりかねないという点です。もう一つは、行為者の主観面が決定的に重要な意味を持つこととなり、検挙や処罰の実効性を欠いてしまうのではないかという点です。   このような問題を回避するという観点からは、A案やC案のような規定が望ましいということになりますが、具体的な規定の在り方を更に検討するに当たっては、若年者に対する性犯罪の実態を踏まえる必要があると思います。具体的には、若年者に対する性犯罪について、最終的なわいせつ行為の態様に着目した場合、物理的に会っている状態でわいせつ行為が行われるという対面型のものと、オンライン上でわいせつ行為が行われる遠隔型のものの、二つに分けて考えることができるところです。   このうち、対面型の性犯罪の場合、行為者がわいせつ行為に及ぶためには、物理的に若年者と会う必要がある一方で、わいせつ行為をする目的を有する行為者と若年者が会った場合には、客観的に見て性犯罪が行われる危険性が一段高まったといえます。これに対して、遠隔型の性犯罪の場合には、オンライン上のメッセージのやり取りから、そのままビデオ通話に移行して、すなわち、遠隔の状態のままわいせつ行為が行われることも多いと思われます。その場合には、性犯罪が行われる危険性が高まったといえる段階が見いだし難い一方、対面型のものとは異なり、若年者自身による行為がなければ性犯罪に至ることはないといった違いがあるように思われます。したがいまして、それぞれの類型の実態に応じて、それぞれ、性犯罪に至るまでの過程のうち、どの段階の行為に法益侵害又はその危険性が客観的に認められるかといった観点から、処罰対象として捕捉すべき行為を検討することが考えられるように思われます。   また、先ほど偽計の内容を説明いただいたところですが、C案のように、一定の手段を用いたことを要件とする場合、その手段の内容としては、若年者の会うことに関する判断を類型的にゆがめると認められる行為を捕捉するという観点から考えますと、例えば、C案に記載されている「偽計」や「利益供与」のほかにも、「威迫」や「誘惑」、あるいは「執ように」とか「拒まれたにもかかわらず」といったものが考えられるのではないでしょうか。先ほど山本委員が挙げられた働きかけなどは、「誘惑」とか「執ように」などに当たり得るのではないかとも思われたところです。 ○井田部会長 不明確な規定は、かえって実効性がない規定になってしまう、あるいは使えない規定になってしまうという見地から、B案よりもA案、C案の方がベターであるということ、また、対面型と遠隔型という二つのタイプがあるということを考慮した規定を考えるべきではないか、こういう御指摘であったかと思います。また、C案の行為態様については、「偽計」あるいは「利益供与」以外の文言というのも考えられるのではないかという非常に貴重な御指摘を頂いたと思います。 ○木村委員 既に今、非常に詳しく説明していただいたので、私が付け加えることは余りないのかもしれないのですけれども、結論として、実際に会ってしまってからでは、被害を防ぐことは非常に難しいことになると思うので、私としては、配布資料16のC案のような規定というのは、作る意味はあるのではないかと思います。   C案の場合、要求内容として、会うことの要求と限定しているわけですけれども、それで足りるかという議論はもちろんあろうかと思います。ただ、会うということは、その後の性被害ですね、強制わいせつだとか強制性交等に至る危険性は極めて高いことになってしまいますので、事前的な処罰として、当罰性は特に高いと思います。また、このような限定を加えることによって、処罰の明確性もある程度保たれるのではないかと思います。対象の範囲については、先ほども、山本委員から御指摘がありましたけれども、グルーミングの保護法益を性的な判断が未熟である青少年の保護であると考えれば、18歳未満とするのが適切ではないかと思われます。   なお、対面型あるいは遠隔型という御指摘があり、未成年者拐取罪とか強制わいせつ罪等の未遂との区別というのが配布資料16の検討課題として挙げられていますけれども、確かに対面型の場合には、これらの罪の未遂との区別が難しい場合もあるのかもしれません。ただ、特に近年問題が大きいのは、メールその他の通信手段がいろいろとあるかと思うのですけれども、それを使った場合には、なお身体の直接の侵害とは距離がありますので、そのような罪の未遂として捕捉するのは難しいという場合も多いのかなと思います。そうだとすると、近年の問題状況から考えても、このような新たな規定を設けるということは、意味があるように思われます。 ○井田部会長 処罰の前倒しの必要ということから、特にC案を基本にするということに御賛成の御意見、また年齢については18歳というのが考えられるのではないか、また他罪との関係も検討が必要である、こういう御趣旨の御意見であったと思われました。 ○齋藤委員 配布資料16のA案、B案、C案のいずれについてということではなくて、実態についての補足を少しさせていただければと思います。   先ほど、わいせつの目的を伏せて会うことが「偽計」に当たらないということでしたけれども、子供の場合、ゲームのカードをあげるよであるとか、課金を使わせてあげるよと誘い込まれての被害というものも多いですし、ツイッター、インスタグラムなどで家出の願望がある子供たちに泊まる場所を提供すると持ち掛けるであるとか、あるいは風俗の仕事を持ち掛けるといったようなことから、被害に遭うということも多いなと感じております。特に最近は、インスタグラムなどのSNSを利用して、家族との葛藤などを吐露している中学生や高校生の子供などに、風俗業の関係者がオンラインで近づき、相談に乗り、周囲から切り離して家出を誘発して、最終的にわいせつな行為をするであるとか、だます形で風俗の仕事に就かせるといった形も、現れてきております。そうした実態がどうしたら捉えられるのかというのが、私にはちょっと分からないのですけれども、捉えられるようにしていただきたいなと思っております。   こうした被害に遭っている子供たちの多くは、義務教育を終えて、しかし、まだ自立して生活することの難しい16歳、17歳の子供たちです。実際に生じている被害をいかに捉えるかということならば、16歳、17歳の子供たちをターゲットにしたグルーミングについても、検討いただきたく思っております。   山本委員の御説明の中にもありましたけれども、グルーミングというのが、拒絶する意思の形成を非常に困難にするものだという理解を適切にしていただき、それをどの法律で捉えるのかというのはちょっと想像が難しいのですけれども、捉えられるように適切に御判断していただけるといいなと思っております。 ○佐藤(陽)幹事 グルーミング処罰規定につきまして、私の方からも、保護法益と客体の年齢について意見を言わせていただければと思います。   まず、保護法益ですけれども、このような規定の保護法益が、最終的には性的自由・性的自己決定権にあるというのは疑いないと思います。しかし、どうして若年層に対してだけ、単に相手方に働きかけたり、会う約束をしたりするだけで処罰が可能になるのかということを、きちんと保護法益論も絡めて説明しておかなければならないように思います。   この点については、先ほど山本委員の方から、マインドコントロールが行われるということに配慮した法益論というのが重要なのではないかという御指摘があったかと思います。私の考えによりますと、マインドコントロールだけだと少し狭いのではないかと思っています。例えば、配布資料16のA案のわいせつな行為の約束をした場合というのは、被害者側から積極的に働きかけてきた場合も含まれますし、C案の「利益供与」などですと、マインドコントロールには至らない、おいしいものあげるよとか、いいところに連れていってあげるよとか、そういうような形だけでも処罰対象に含まれていると読めますので、それを考えると、もっと広く保護法益を設定しておく必要があるのではないかと思っています。   そして、この点については、前回の部会の刑法176条後段や177条後段の対象年齢の引上げに関する議論の中で出た、若年者の判断能力が未熟で、相手方の働きかけに対処する能力が圧倒的に不足しているという点にヒントがあるように思います。つまり、若年者は、精神的に未成熟で、もとより判断がゆがみやすい上に、人の真意を見抜くことが難しいために、他人からの働きかけがあった場合に、それに的確に対処することが困難で、それゆえ性被害に遭う危険性が高いという実態があるように思います。そのような実態に鑑みますと、最終的な保護法益である性的自由・性的自己決定権を十分に保護するためには、性犯罪の実行の着手前の行為を処罰する必要があり、そのためにグルーミング処罰規定が必要であって、その場合の保護法益をあえて性的自由・性的自己決定権以外の言葉で言い表すとすれば、若年者がそういう働きかけ、あるいは性的な状況から守られて、性被害に遭う危険性のない状態、つまり、性被害に遭わない環境にある状態だといえるのではないかと思われます。   このような説明をしますと、客体となる若年者の年齢が、理論的に一定なものに限られることになろうかと思います。つまり、私の説明だと、本罪は、判断のゆがみやすさや他人からの働きかけに対して的確に対処することが困難である若年者の特徴を踏まえて、その性的自由・性的自己決定権の保護を徹底しようとするものでありますから、客体となる若年者というのは、このような趣旨が妥当する年齢の者、すなわち、類型的に見て判断能力や対処能力に欠けていると認められる年齢の者であり、それはすなわち刑法176条後段や177条後段の客体だとすることになろうかと思います。   また、先ほど、18歳未満まで客体の年齢を上げておいた方がいいという御意見がございました。それは、確かに未成年者の手厚い保護の観点からすればそうかもしれないのですけれども、仮に刑法176条後段や177条後段の客体以外の者も本罪の客体に含まれるとすると、行為者が目的のとおりにわいせつな行為や性交に及んだときに、強制わいせつ罪や強制性交等罪により処罰されないにもかかわらず、グルーミング罪だけが成立するという場面が出てきます。例えば、先ほどA案で見たような「約束」というのは、グルーミングの相手方から積極的にコンタクトを取ってきた場合も含みますし、C案の「利益供与」には、全ての事情を知った上で、何か欲しい物のために、自ら会いに行く場合も含まれます。これらの場合は、仮に最終的にわいせつ行為等に至ったとしても、相手方が刑法176条後段や177条後段の客体以外の者ならば、強制わいせつ罪等が成立する可能性が低いです。それにもかかわらずこういう場合に準備行為だけを処罰するというのは、理論的に正当化が難しいように思います。つまり、本体の性犯罪が成立しないのだけれども、準備行為に係る罪は成立するということになってしまうので、この場面の理論的な正当化というのは、かなり困難ではないかと思っているところでございます。   そうすると、本罪の客体となる若年者については、やはり、刑法176条後段及び177条後段の客体の年齢とイコールとするのが相当ではないかと思っているところでございます。少なくとも、たたき台に出ている条文の作りだと、そうしなければならないのかなと思っています。また、刑法176条後段及び177条後段に年齢差要件などが設けられた場合につきましては、その部分の取扱いについても留保しなければならないと思っているところでございます。 ○井田部会長 保護法益について、性被害に遭わない環境にある状態といった、新たな法益を考える余地があるということ、また、保護すべき客体の年齢については、いわゆる性交同意年齢と平仄を合わせるべきことを、それぞれ御指摘いただいたと思います。非常に有益な御指摘だったと思われます。 ○長谷川幹事 まず、年齢のことについて意見を申し上げたいと思います。   私は18歳に賛成です。今、佐藤陽子幹事がおっしゃった、例えば、17歳の子が対象の場合、強制性交等では処罰されないけれども、その手前のグルーミング行為で処罰されるということについて、正当化が困難というような御指摘だったと思うのですが、そもそもグルーミング行為を処罰する必要があるのではないかという議論の出発点が、グルーミング行為などで懐柔されている子供が、強制性交等の手段を用いなくても、やすやすと性行為をされてしまう実態があり、その場合に、処罰できないという実態があるというところから、その手前のところを捕捉して処罰をする、そのような処罰規定を設けることによって、そういった行為の防止にもつなぎたいということが出発点であったと思いますので、グルーミング行為で処罰対象となる客体の年齢と性交同意年齢が合わなければいけないということはないと思っています。   また、実態を考えましても、私のところに相談に来る事件でも、ネットで知り合って、会って性行為されてしまうというのは、高校生のケースです。やはり年齢が12歳、13歳の子供よりも17歳ぐらいの方が、親からの目も離れて行動範囲も広がったりしているので、被害に遭う危険性も高まっているというところもありますので、そういった点も加味して、単に判断能力や対処能力が12歳、13歳の子より17歳の方が上がっているということで、この年齢の子の保護が必要ないということにはならないと思います。   次に、構成要件について申し上げますと、配布資料16のA案からC案までについてはグルーミング行為のプロセスで書かれているのですが、B案は「働きかけ」というのが抽象的で実効性がないだろうというのは、嶋矢幹事の意見と同じです。   そこで、グルーミング行為については、ストーカー規制法のような特別法にあるように、問題とすべき児童に対する働きかけの行為を具体化して、例示列挙や、定義をするという方法が参考となると考えられると思います。グルーミング行為については、山本委員からお話があったような、性的画像を送らせるだとか、性的働きかけをするとか、その手段となる行為として周囲の大人に対する不信感を植え付けて信頼を得ようとする行為とか、いろいろありますので、この部会での御発言中で手なずけ行為の例として示されているものなどを具体化して、「働きかけ」のような抽象的なものではなく、構成要件化していくのがいいのではないかと思っています。いろいろ例示をして、例えば、以下、「児童働きかけ行為」というなどの定義や総称を置き、規定していってはどうかと思っています。 ○橋爪委員 一点質問してよろしいでしょうか。   対象年齢に関する長谷川幹事の御見解が、私には十分理解できていないところがあるのですが、先ほどの佐藤陽子幹事の御意見は、要は、グルーミングとは、言わば性犯罪の準備段階の行為であり、若年者の性的保護という観点から、実行に着手するよりもっと前の段階まで例外的に保護しようということですよね。つまり、行為者が目的とする行為本体が犯罪であり、その犯罪についての準備的行為であるからこそ、準備段階の行為を先行して処罰ができるという御趣旨だと思うのです。仮に客体となる年齢を18歳未満にした場合、ゴールとなる行為が犯罪を構成しない場合があるわけです。犯罪を構成しない行為の準備的な行為を処罰するということは説明がつかないという御趣旨の発言だと思うのですが、その点については、どのようにお考えでしょうか。   長谷川幹事の御指摘は、若年者を誘惑し、面会した上での性行為全てが強制わいせつ罪や強制性交等罪を構成するという前提であれば、面会に基づく性行為が全て性犯罪を構成する以上、その準備的な行為を罰するという形で一貫していると思いますが、性交同意年齢以上の者との性行為自体は処罰されない場合があるという前提の下、その準備的な行為は処罰するということについては、理論的にはかなり難しい問題があるように思うのですが。 ○長谷川幹事 その準備的な行為自体について、子供の脆弱性などを利用して、犯罪にならない形で性的行為を獲得するというところに、法的な非難を考えて法制化しようとしているものなので、必ずしも刑法176条、177条の準備行為を罰するということでもないように思うのです。現行法では、グルーミングによる被害について、性的行為自体を罰することができないけれども、子供が自己決定権を十分に行使できない、まだ脆弱で、性的行為をするかどうかを決定するところもまだ未熟なところに付け込んで行うということに問題があるので、必ずしも本体の性犯罪が成立するものの準備行為だけではなくて、そういう付け込む行為のところにも、違法性を認めて処罰をする必要がないかという議論だと思うのです。 ○小島委員 前回、私の方で、グルーミングの処罰行為としては二つあると申し上げました。今の議論と関係するので申し上げたいのですけれども、①として、強制性交等罪などの性犯罪の予備罪的な行為、これを捕捉しようというもの、それから②として、先ほど未遂の前の段階と木村委員がおっしゃいましたけれども、強制性交等罪などの予備罪的な行為にとどまらないで、そのこと自体が、児童に対する特別な法益侵害と考えるもの、この二つのものがグルーミングの中ではあると思います。①は、最終的に会って性交に持ち込む場合で、②はグルーミング自体、それ自体が児童の健全育成を害する場合という、二つの類型があるのではないかと。条文の骨子としては、中核的には性犯罪の危険性の構成になりますし、②の問題としては、性的目的を持った接触自体が有害であるという構成があって、そういう意味では、両方からの規制が必要だと思います。   行為類型でいいますと、典型的には、グルーミング行為には、一つは性犯罪に至る段階として、例えば、ホテルに誘うとか、家、カラオケボックスなどに誘うとか、車の中に引きずり込むとか、そういう行為があり、刑法177条とか176条の未遂より前倒しの段階を捕捉する行為があると思います。もう一つの類型として、子供に接触をする行為として、ウェブで自慰行為等の性的画像を送り付けたり、自撮り写真を送らせたり、SNSでやり取りをさせて交際に持ち込む行為があり、二つ種類があると思います。   ストーカー規制法でも、重大な犯罪に至る行為と、そこまではいかないのだけれども、私生活の平穏を害する行為ということで、つきまとい行為にも2種類がある。一つは、前段階の行為を規制して重大な犯罪が起きないようにするということであり、もう一つは、生活の平穏を害する行為を規制する、二方面の規制が必要なのではないかと思います。   そういう意味では、配布資料16のA案の方は、先ほど申し上げたことでいうと、犯罪の予備的な行為というか、そのずっと前の行為ですけれども、それを捕捉しようということで、B案、C案の方は、今申し上げたことでいうと、子供に接触すること自体について、有害だということで捕捉していこうということではないかと思います。ただ、A案からC案のいずれでも、②の行為として、子供に接触する行為、特にウェブで自慰行為等の性的画像を送り付けたり、自撮り写真を送らせる、典型的な行為なのですけれども、そういう行為やSNSでのやり取りという行為について、A案ないしC案ではあまり捕捉できていないのではないかなと思いました。   今、年齢の問題が出ていますけれども、①の性犯罪の前段階としての行為については、性交同意年齢と連動すると思いますので、絶対的に性交が禁止されている13歳未満、今回の改正で16歳に上がってくれば、その年齢が検討される必要がありますし、例えば、子供同士のやり取りを除外するということであれば、子供同士のそういう行為を処罰しないための例外を設ける必要があると思います。先ほど申し上げた②で、児童保護として何歳までと考えるかということについては、決断があり、それは18歳までだとか、16歳までだとか、必ずしも性交同意年齢と連動させないでもいい行為類型ではないかと思います。二つの処罰根拠を分けた上で議論した方がいいのではないかなと思います。 ○木村委員 私も今、小島委員のおっしゃったこととほとんど同じような印象を持ちました。実は二つの側面があって、やはり自己決定ということが重要であるという、それだけが保護法益みたいに考えてしまうと、どうしても年齢要件が難しくなるように思うのですけれども、私も、青少年の健全育成というのは、刑法で保護されても構わないのではないかと思いますので、そうだとすれば、18歳ということもあるのではないかと思います。   それと、強制性交等罪について、今度改正をしようという議論において、手段として欺罔等も入っていたのではないかと思うのですけれども、そうだとすると、強制性交等罪自体が一定程度広がることになるので、先ほど佐藤陽子幹事がおっしゃった、予備だけを特別に処罰するようなことになってしまうからおかしいのではないかという指摘なのですけれども、本体の罪の範囲が広がると、ある程度、そこも予備的な行為として含む余地もあるのかなという印象があります。 ○井田部会長 「第一の一」と「第一の六」を突き合わせるといいますか、その関係を精査することも必要だという御意見であり、確かにそのとおりかなと思いました。 ○橋爪委員 私の方からは、先ほど小島委員から御指摘がございましたが、犯人の性的な画像の送り付け行為について、私なりの理解を申し上げたいと思います。   改めて諮問事項を確認いたしますと、諮問事項の「第一の六」では、性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為、これについての答申が求められております。すなわち、若年者に対する性犯罪の準備的な行為を、いかなる範囲で処罰対象にするかということが、正に諮問事項になっているわけです。このような意味からは、先ほどの小島委員の分類に従いますと、①について検討することが、本部会のミッションではないかと考えています。   このような前提からは、性的画像の送信行為につきましても、これを二つのグループに分けて検討することが有益だと思います。すなわち、専ら相手に対して性的羞恥心やショックを与える目的で、性的動画の送信自体を目的に自らの画像を送り付ける行為と、まず性的な会話などで関係を作っていく過程で、相手との性的な関係を構築するための手段として性的画像を送り付ける行為とを、分けて検討することに意味があるように思います。   そして、前者の行為、すなわち、行為者が画像の送り付け自体を目的に行為に及んでいる場合には、これを、将来の性犯罪に向けた準備的行為として、グルーミングという概念に包摂することは難しいように考えております。これに対しまして、性的画像の送り付け自体が目的ではなくて、これを契機として若年者との関係性を深めて、将来の性犯罪を容易にするために行われた場合については、将来の性犯罪の準備行為としての性質を有しており、これをグルーミングの類型として考えることは可能かと思います。   ただ、その場合にも、行為者が現実に性犯罪を実行するためには、性的画像の送り付けだけではなく、その後、例えば、性的行為や面会を要求したり、あるいは遠隔からオンラインで被害者の性的画像の送信等を要求する行為などが必要になるはずです。そして、仮に配布資料16のA案やC案、あるいは、先ほど嶋矢幹事から御提案があったように、遠隔型の性犯罪の準備行為に関する処罰規定を設けるのであれば、準備行為がこの段階に至れば、グルーミングとして処罰することが可能になりますので、それに先行する形で、性的画像の送信だけを準備的行為として切り取った上で処罰をする必要性は、それほど大きくないように思います。   もちろん、性的画像の送り付けによって、若年者を性的に羞恥させ、心身にダメージを与える行為については、それ自体の当罰性について十分に検討する必要があると思います。しかし、これをいかなる範囲で処罰するかについては、対面で性的姿態を見せつける行為が、そもそもいかなる限度で強制わいせつ罪を構成するかなどの論点とも関連付けながら、更に検討する必要があり、これを全てグルーミングという概念に包摂して議論することは、必ずしも本質を得ていないような印象を持っております。 ○佐藤(拓)幹事 配布資料16の検討課題のうち、法定刑のところがまだ触れられていなかったかと思いますので、発言させていただきたいと思います。   先ほど小島委員がおっしゃった①と②ですけれども、そのうち、②については、むしろ青少年保護育成条例上の淫行処罰規定を彷彿させるようなお話のように思いまして、そうしますと、ちょっと今回のたたき台と外れることになりますので、これから私が述べることというのは、今回のこのたたき台、つまり将来の犯罪の準備段階の行為としてグルーミング罪を設けた場合の法定刑についてどう考えるべきかということで、お聞きいただければと思います。   法定刑をどのようなものにするかについては、このA案、B案、C案のいずれによりましても、それらが未成年者誘拐罪やわいせつ目的誘拐罪、あるいは強制わいせつ罪の実行の着手前の行為を捕捉して処罰するものであることに鑑みますと、これらの罪について、未遂減軽がなされた場合の処断刑が、未成年者誘拐罪については1月半以上3年6月以下の懲役、わいせつ目的誘拐罪については6月以上5年以下の懲役、強制わいせつ罪については3月以上5年以下の懲役であること、強制わいせつ罪よりも法定刑の重い身代金目的略取等罪や強盗罪について、その予備罪の法定刑が2年以下の懲役とされていることに留意して考える必要があるように思います。   また、仮にC案のように、一定の手段を用いて「会うことを要求」する行為をも処罰対象とした場合には、刑法上の罪のうち、一定の要求行為を処罰対象とするものである証人等威迫罪や強要罪の法定刑も参考としつつ、法定刑を検討することも考えられるのではないかと思います。 ○井田部会長 法定刑について、これまた貴重な御発言であったと思われます。 ○宮田委員 まず指摘したいのは、グルーミングが予備罪的なものであることから、その処罰に慎重でなければならないという前提に立つ必要があります。未成年の保護の必要性があることはもちろん否定しませんが、例えば、児童福祉法の60条2項は、34条1項9号の児童の心身に有害な影響を与える行為をさせる目的を持って、これを自己の支配下に置く行為を処罰しています。これは、3年以下の懲役、そして100万円以下の罰金という法定刑です。グルーミング行為は、この中にかなり入ってくるのではないでしょうか。   また、いわゆる児童ポルノ法には、児童買春をした者を5年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処するという規定がありますが、この児童買春の概念ですが、対価の供与については、通常の買春のようにお金を渡すことだけではなく、先ほど齋藤委員のおっしゃった、居場所を与えるようなものなども入ってきます。また、児童買春は、性交だけではなく、性交類似行為や性器等をさらすような行為なども含めて児童の被害が考えられています。   このように、児童福祉法やいわゆる児童ポルノ法で、グルーミングに当たるような行為は、相当程度捕捉が可能なのだと思います。しかも、その刑罰は、それほど軽いものではないのです。だから、刑法は重くていいのかというと、逆に刑法の中のほかの予備罪の処罰は、佐藤拓磨幹事がおっしゃったとおり、相当軽い。その辺の全ての合理性を満たす規定がうまくできるのかに疑問があります。これがまず一点。   それから、年齢についてですが、グルーミングの対象となる働きかけをかなり広く捉えることになると、例えば、同年代の高校生が友人をデートに誘うときに、周りに処女の子なんかいないよとか、あるいは、いやいや、こういうことをしてこそ恋人なのだよ、というようなことを言ったときに、全部グルーミングとして処罰されてしまうのですか。確かに不適切ではあるけれども、それに女性が応じたときに、全て犯罪にしなければならないのだろうかと思います。   法定刑絡みのところと処罰の対象というところで、二つ指摘させていただきました。 ○井田部会長 まだまだ御意見があるかもしれませんけれども、「第一の六」についての本日の議論は、この程度とさせていただきたいと思います。   本日の御議論におきましては、配布資料16のB案にシンパシーを感じられる、そういう御意見もありましたけれども、B案に対しては、罰則としての明確性、処罰範囲の合理性に問題があるのではないかという御指摘もありました。また、A案やC案については、具体的な規定の在り方を検討するに当たって、若年者に対する性犯罪の実態を踏まえる必要があって、より具体的には、物理的に会っている状態でわいせつ行為が行われる対面型のものと、オンライン上でわいせつ行為が行われる遠隔型のものという、各類型の実態に応じて、性犯罪に至るまでの過程、山本委員のおっしゃる性的勧誘のプロセスにおいて、どの段階に及ぶと、侵害やその危険が認められるかという観点から、処罰対象とすべき行為を検討することが考えられるのではないかという御意見がありました。   また、本罪の罪質、保護法益については見解が分かれました。一つの考え方は、最終的な性犯罪の性的自由・性的自己決定権という本来的な法益に向けた、言わば危険犯として捉える考え方です。その上で、前段階、前倒しの段階の行為というものは、実態に即して考えると、性犯罪に遭わない環境にある状態に向けられた行為というような形でより具体的に理解することが可能ではないかと、こういう御意見がありました。それは、本体の方は違法であること、つまり性犯罪となることを前提として、その前段階をどのように捕捉していくかと、こういう問題意識に基づくものであるわけです。これに対して、本日、もう一つの考え方として、保護法益について、そういう性的自己決定権のみではなく、それに併存する形で、青少年保護という見地を正面から認めるべきだという御意見も表明されました。一つの条文に二つの保護法益が併存すること、両方がそれぞれ処罰の範囲を基礎付けるということ、本体が適法であるにもかかわらずその前段階が違法であること、これらについては異論も生じうるところだと思いますが、いずれにしても、そういう御意見も主張されました。   保護法益についての議論は、結局は、客体となる若年者の年齢についての議論に反映いたしまして、もし前段階処罰と考えれば、性交同意年齢未満の者とするのが相当だという話になりますし、もし青少年保護を正面に持ってくるとすれば、それは18歳未満の者とするというような議論も可能となると思われます。   さらに、法定刑については、未成年者誘拐罪やわいせつ目的誘拐罪、強制わいせつ罪、あるいは身代金目的略取等罪の予備罪といった、他の犯罪の法定刑も参考としながら検討すべきであるという御意見があったところです。   いずれの御意見も、今後の部会における検討と意見集約のために、非常に有力な手掛かりとなると思われます。この論点を次に取り上げる機会に向けて、委員・幹事の皆様方には、またそれぞれの御検討を進めておいていただければと存じます。   開会から時間も経過しましたので、ここで10分ほど休憩したいと思います。再開は午後2時30分としたいと思います。              (休     憩) ○井田部会長 それでは、会議を再開いたします。   次に、「第二の一」の「より長期間にわたって訴追の機会を確保するため公訴時効を見直すこと」について御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から配布資料17の内容について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料17について御説明いたします。   二つの枠内を御覧ください。   ここには、規定イメージの案として、性犯罪一般について、公訴時効期間を一定の期間延長するものとするA案、若年者を被害者とする性犯罪について、被害者が一定の年齢に達するまでの期間、公訴時効の完成を遅らせるものとするB案を記載しています。   その上で、両案に共通する検討課題として、公訴時効について特別の取扱いをする実態的・理論的根拠はどのようなものか、両案の組合せの当否についてどのように考えるか、どのような性犯罪を対象とするかといった点を掲げています。また、A案の検討課題として、公訴時効期間をどれだけ延長するかといった点を掲げ、B案の検討課題として、対象となる若年者の範囲をどのようなものとするか、公訴時効の完成を遅らせる法的構成についてどのように考えるかといった点を掲げています。   配布資料17の御説明は以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容について、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。御意見のある方は、挙手するなどした上で御発言をお願いします。この諮問事項については、最大で40分程度の時間を予定しております。 ○齋藤委員 最初に公訴時効について、どのぐらいの年齢までが最低限覆われるとよいかという点について、様々な調査の結果について述べさせていただきたいと思います。   性犯罪に関する刑事法検討会の際にも述べさせていただきましたけれども、オーストラリアで行われた子供の性虐待への組織対応に関する調査報告書では、8,000人のサバイバーへのインタビューなどの結果が掲載されております。その中には、調査で語られた内容から、虐待について誰かに話すまでに、男性で平均25.6年、女性で平均20.6年掛かっておりました。子供時代に開示できた人が27.8%、成人期に開示した人が46.0%でした。   スウェーデンの調査では、子供時代の性暴力を開示した人のうち、未成年のうちに開示した人が32%、68%は成人してからの開示でした。開示に掛かった平均年数は21年でした。   アメリカの思春期に性暴力の被害に遭った人を対象とした調査では、30%が調査時点まで誰にも開示したことがない、つまり、30%は調査で初めて開示したということになります。調査以前に開示した人のうち、10%は誰かに開示するまでには9年以上、半数近くが8年以上掛かっておりました。なお、これは、警察や専門機関への開示ではなく、身近な人への開示でそのぐらい掛かったということになります。   一般社団法人Springの皆様が行った調査では、10代の人々のうち、2割近い人が自分の身に起きたことを被害だと認識できるまでに11年以上が経過しておりました。   こうした調査から、子供時代の性暴力の被害について、被害を認識し、身近な人に開示するまでに10年から20年掛かることも珍しくないということが分かるかと思います。例えば、オーストラリアの調査で考えるならば、18歳で被害に遭った場合、継続しての被害ではありますけれども、開示した平均の年齢で計算すると、男性が43.6歳、女性が38.6歳です。   以前にもお伝えしましたとおり、臨床の場でお会いする方々が何歳で被害を初めて言えるようになったかというと、やはり30代で初めて来所して被害を話したという方は大変多く、そうした感覚とも調査の結果というのは一致しているなと思っておりまして、30代がカバーされることが望ましいと考えております。18歳が成人年齢となりましたけれども、性暴力被害の開示は、成人になったからすぐにできるということではなく、親元から離れ、自立し、被害を開示しても自分の生活ができていくことができる状況になって、初めて開示されていきます。   そう考えると、例えば、B案が25歳頃、A案がプラス5年ぐらいされると、年数がカバーされたとも思いますし、B案が20歳まで、A案はプラス10年ということも考えられますが、何にせよ、どのような方法にせよ、被害に遭った方が30代になってやっと被害を話すことができたとして、そのときに、もちろん起訴か不起訴かなどは証拠の有無で決まることと思っておりますけれども、せめて警察に届け出ることさえもできないということは、ないようにしていただけたらなと思っております。 ○井田部会長 被害の開示までに掛かる年数ということで、諸外国、そして日本での調査報告を御紹介いただきまして、結論としては、被害を受けた方が30代になるまでは被害の申告ができるような法制にしてほしいと、こういう御意見だったと思われました。 ○小西委員 今の齋藤委員の意見に補足という形で申し上げておきたいと思いますが、今おっしゃったように、開示というのは、誰かに話すというだけのことであって、公的な機関に訴えるということはもう一つ先にある過程であるということは、お話ししておきたいと思います。日本でも、内閣府の生涯被害経験を問う調査でも、話さない人が相変わらず過半数を占めて、これはこれまでの生涯についての調査ですから、年齢層が非常に高い人まで含めても、話さないという人の方が多いということになります。だから、平均ということで言えば、開示するまでに40年とか50年という人も含めての日本の実情があるということはお話ししておきたいです。   それからもう一つ、私も、今日も午前中臨床してきたのですが、臨床の印象では、やはりそういう医療機関に行って治療をしようという気持ちになる人は、30歳前後、その辺りにならないと、なかなか子供のときの被害のことでは来てくれないなと思っておりますので、申し添えておきたいと思います。 ○井田部会長 被害の開示ということと公的機関に対して申告することとの間にはワンクッションある、こういう非常に貴重な御指摘を頂いたと思います。 ○川出委員 配布資料17の検討課題の最初に挙げられております、性犯罪の公訴時効について特別の取扱いをする実態的・理論的根拠について、意見を申し上げたいと思います。   ただ今齋藤委員と小西委員からも御指摘がありましたが、性犯罪に関する刑事法検討会、それから本部会の審議の中で、性犯罪については、その性質上、恥の感情や自責感によって被害申告が困難であることや、周囲が被害に気付きにくいということから、他の犯罪と比較して、類型的に被害が潜在化しやすく、その結果、捜査機関が犯罪の発生を認知できないために、その捜査、ひいては訴追が困難になるという特色があるという指摘がなされております。   このことが、公訴時効について特別な取扱いをする根拠となるかどうかを考えてみますと、現行法上も、犯人が国外にいる場合には、公訴時効の進行が停止するものとされておりまして、捜査、ひいては訴追の事実上の困難性を踏まえて、時効の完成を遅らせ、訴追可能性が確保される仕組みとなっています。これに照らしますと、それと同様の事情が存在する場合には、公訴時効について特別の取扱いをすることは可能だと考えられます。   この考え方を前提にしますと、先ほど申し上げた性犯罪の特性からすれば、A案のように、性犯罪一般について、事実上訴追が困難と考えられる期間分、公訴時効期間を延長するということも正当化できるだろうと思います。さらに、心身ともに未成熟である若年者については、性犯罪一般に妥当する特性に加えて、例えば、行為の性的な意味を理解できないですとか、あるいは性被害を被害と認識できないといった問題がありますし、また、社会生活上の自律的な判断能力とか対処能力が十分でないために、本来は親権者等の保護者の指導・監督によって、これが補完されるということになっているわけですけれども、性犯罪の被害に遭った場合には、自責感等によって被害について保護者に相談しにくいといった若年者特有の事情があるということも指摘されております。つまり、若年者が性犯罪の被害に遭った場合には、大人の場合と比べて、類型的に被害申告がより困難であって、ひいては、捜査・訴追が事実上困難であると考えられますので、そこを捉えて、B案のように、一定の年齢に満たない若年者について、公訴時効の完成時期を遅らせることの説明ができるのではないかと思います。   そして、今申し上げましたB案の根拠は、対象者が若年者であることによって、A案における性犯罪一般の場合の根拠に付加されるものですから、そうであるとすれば、A案とB案を組み合わせて規定するということも可能であろうと思います。   その上で、検討課題に挙がっているB案の場合の法的構成の在り方ですけれども、これについては、そこに記載されているように、幾つかのものが考えられますが、いずれであっても、公訴時効の完成を遅らせる実質的根拠は同じですので、どの構成を採るかによって、遅らせることのできる範囲が変わってくるわけではありません。したがって、いずれの構成を採るのが妥当かは、既存の制度との関係などを踏まえて検討されるべきものだと思います。   その観点から見ますと、まず、第一の公訴時効の期間を延長するという方法については、若年者が性犯罪の被害に遭った場合に特有の事情を考慮して、A案の構成をこの場合にも適用するというものですから、仮にA案を採用するのであれば、それと併せるという意味では、最も素直な法的構成になるかと思います。   それから、第二の公訴時効の起算点を遅らせる方法ですが、これについては、現行法上、公訴時効というのは犯罪行為が終わった時から進行するとされておりますので、仮に起算点の基準としてそれが原則だという考え方を維持するのであれば、若年者が性犯罪の被害に遭ってから一定の年齢に達するまでの間は、犯罪行為は終わっているけれども、それが終わっていないのと類似の状況があるといえるのかどうかが問題になります。   最後に、第三の公訴時効の進行を停止させる方法については、現行法の停止事由が、犯人が国外にいる場合などの、言わば具体的な事情を問題としていることとの関係で、一定の年齢に達していないという一般的な事情を停止事由とすることが、現行法の停止事由と整合的に説明できるかということが問題になろうかと思います。 ○井田部会長 被害の実態を踏まえ、また公訴時効制度の根拠に照らして検討すると、この公訴時効の見直しは十分理由があるのではないかと、こういう御意見で、A案のように性犯罪一般について公訴時効期間を延長することも十分根拠がある、また、B案のように心身ともに未成熟である若年者については、一定期間公訴時効の完成を遅らせることにも理由があるとされて、また、A案とB案を併用することも、理論的に可能であるとされました。また、B案に関する法的構成の在り方についても御検討いただいたと思います。 ○池田幹事 私からは、この配布資料17の検討課題に挙げられているA案との関係では、「延長する期間の在り方」について、また、B案との関係では、「若年者の範囲」について、すなわち、どれだけ延ばすかということについて、ただ今の川出委員の整理も踏まえまして、意見を述べたいと思います。   まず、A案による場合の「延長する期間の在り方」についてですけれども、A案は、先ほどの御指摘のとおり、性犯罪一般について公訴時効期間を一定の期間延長するもので、その実態的根拠を、被害者から被害の申告をするのが困難であることや、周囲の人が被害に気付きにくく、類型的に被害が潜在化しやすいということに求めるといたしますと、このうち、周囲が被害に気付きにくいということとの関係で、被害に遭ってから周囲が被害に気付くまでの期間が具体的にどれだけなのかという形での統計資料等は、今のところ示されていないのではないかと思います。   これに対して、被害申告が困難であることとの関係では、先ほど齋藤委員からも御紹介がありましたけれども、部会の第4回会議において、配布資料9として配布された「男女間における暴力に関する調査報告書」の下の方に「82」とあるページに記載されている、無理やりに性交等をされた者の「被害にあってから相談までの期間」の分布によりますと、相談がなされた事案の中ではということでありますけれども、その大部分で、被害から5年までの間に相談がなされ、被害が外部に出てきているということがうかがわれます。もとより、先ほど齋藤委員、小西委員から御指摘があったとおり、性犯罪については、被害に遭ってから更に長期にわたって申告ができないという場合も少なくないものと認識しておりますが、他方で、この調査に現れておりますように、被害に遭ってからすぐに被害申告に至るというケースもあります。また、そうでなくても、期間が経過するにつれて、被害申告の困難性という問題がだんだんと解消されていくというケースも、実態としてはあるものと考えられます。   こうした一様には捉え難い実態があるということを踏まえながらも、全ての事件に適用される規律を設けるに当たりましては、申告が類型的に困難であるといえる期間として、少なくとも大部分の事案ではどの程度のものであるのかということが、実証的に裏付けられるかということが、一つの検討の手掛かりとなるとはいえるだろうと思います。そして、ただ今申し上げた資料を踏まえますと、A案による公訴時効期間の延長幅については、5年を指標とするということが、一つの検討の対象となり得るように思われます。   次に、B案による場合の「若年者の範囲」について申し上げます。   これも、先ほど御指摘があったように、若年者特有の事情として、若年者は社会生活上の自律的な判断能力や対処能力が十分ではなく、通常、保護者の指導・監督を通じて、被害申告するか否かの判断・対処をすることとなるものの、性犯罪の被害に関しては、自責感等により保護者に相談しにくいと指摘されていることを踏まえますと、B案の対象とすべき若年者の年齢については、社会生活上の自律的な判断能力や対処能力が十分に備わり、捜査機関への被害申告といった社会的に重要な行為をするかどうかを、自ら判断・対処することが可能となる年齢を指標とすることが考えられます。   その年齢を決する上での一つの手掛かりとしては、民法の成年年齢が挙げられようかと思います。この年齢に達した者は、民法という一般的な法律の扱いとして、契約の締結といった社会生活上重要な行為をするかどうかを、自ら判断し対処する能力があるとされるものでありまして、また、親権の対象から外れて、自律的に行動できる能力があるとされていることを踏まえますと、B案の対象とすべき若年者の年齢については、18歳とすることが一つ検討対象となり得るものと思われます。   実質的に見ましても、成年年齢に達した者については、社会において大人として扱われるとともに、親権者の影響を脱して、自律的に行動できることとなりますので、公訴時効において、一律に特別な法的取扱いの対象とする年齢を設定するとすれば、18歳というのが一つの案にはなると考えられます。   なお、このように考えた場合、A案との組合せも踏まえますと、例えば、若年者に対する強制性交等罪については、被害者が33歳になるまでは公訴時効が完成しないということになるものと考えられます。 ○井田部会長 A案を採ったときに延長する期間としては、調査資料によると5年という期間が考えられ、また、B案による場合の年齢については、成人年齢である18歳が考えられる。そして、両案を組み合わせると、結果として、若年者に対する強制性交等罪については、被害者が33歳になるまで時効は完成しないということになる、こういう御意見でした。 ○山本委員 臨床的な御意見や、私も様々な被害者の方の話を聞きますと、ようやく周囲の人にも話せる年齢が30代前後である、そして、話せない人は非常に多いので、五、六十歳ぐらいになって初めて言いましたという人の話もよく聞きます。小西委員、齋藤委員が言われているように、30代はカバーできるような期間にしていただかないと、自分が受けた被害というのを公に訴えられる状況にならないということを鑑みていただければと思います。   先ほど5年ずつ延長できればという話があり、そして、配布資料17のB案を何歳にするのかというお話がありましたけれども、18歳という規定にするのは余りにも低いと思います。18歳に成人年齢が引き下げられたことで、今、AV出演強要が非常に問題になっています。今まで20歳未満であれば未成年取消権があったのに、今回成人年齢が引き下げられてしまって、高校生がAV出演の対象になるというようなことも議論にされていますので、ここはまた、法制審議会と少し離れるところではありますけれども、18歳になったからといって、きちんと自分の性的な行為の影響力や性暴力であったかを認識できるのかといわれると、非常に難しいですし、それが、B案は18歳でA案はプラス5年だと、先ほど言われた強制性交等罪で時効が完成するのは33歳ということになると、ちょっと余りにもカバーするには厳しいのかなということを思います。   この部会の第2回会議のヒアリングで、桝屋二郎先生が、脳が成長し発達して完成に至るような年齢は25歳ぐらいですよということも言われていたのですけれども、そのような脳が完成するというような視点とか、あるいはある程度の人が親元から離れて社会的な生活を送り、少し生活が安定して、それからようやく自分の被害の受け止めとか、それをどのように考えていければいいのかというような、意識の醸成などが徐々に始まっていくことを考えても、やはりB案を25歳にしてA案でプラス5年、そうすれば、強制性交等罪で40歳まで、強制わいせつ罪で37歳までカバーできるので、その期間があれば、実態を捕捉できることに近くなるのではないかなと思います。 ○金杉幹事 一巡目の議論のときにも申し上げましたけれども、刑事弁護の立場からすると、やはり反証の困難という、反証をしたいときにその証拠が散逸しているという問題から、A案、B案ともに消極であるという意見を申し上げます。   先ほど川出委員の方から、犯人が国外等にいるとき等に公訴時効を停止するという制度もあるので、それと同様に考えられるのではないかという御意見がありました。この点については、少し違うのではないかなと思っています。犯人が国外にいるとき、又は犯人が逃げ隠れ等をしていて、起訴状や謄本が送達できないときというのは、基本的には、犯人が捜査機関において特定されていて、その執行、公訴の提起が困難である場合という理解かと思います。この場合には確かに、恐らく起訴をされたとしても、実際に犯人と思われている人は国外に逃亡しているとすれば、自分が日本に戻れば訴追されるといったことを認識している場合が多かろうと思います。こういった場合には、犯人の側で、もし疑われているけれども、実際は違うのだという場合であれば、自分で反証のために意識的に証拠を押さえておくということも可能かと思います。   ただ、今想定している、性犯罪の被害がそもそも表に出ない、なかなか言えないということから捜査機関にも告知できないということだとすると、もちろんそれは、本当に犯人がいるとすれば、本当に性犯罪を行った者については、自分を防御するということは可能かもしれませんけれども、そうではなくて、もし、捜査機関に犯人と特定された者が実際に真犯人ではなかった場合については、不意打ち的に自分が疑われて、それに対して反証を用意していないということになるかと思います。やはりその場合、反対の証拠が散逸していることにより、えん罪が発生するという懸念は払拭できないと思います。   一巡目のときにも申し上げましたが、公訴時効を停止ないし延期等する必要性については、私も理解しています。ただ、許容性の点で、申し上げたとおり、性犯罪の特殊性として、被害自体が表に出ないということから捜査機関においても捜査に着手できないということ、それから、やはり同意・不同意の争いが生じたときに、その同意を立証する証拠、反証というのが困難になるということ、この2点の特殊性もあろうかと思います。   ですので、基本的に公訴時効の見直しについては、刑事弁護の立場からは反対ですが、もし仮にそこに折り合いをつけて考慮するのであれば、例えば、B案で、何歳に満たない若年者というところが、性交同意年齢の刑法176条、177条後段の年齢と一致するのであれば、要は、同意・不同意が問題にならない年齢以下の者について、自分の受けた被害を認識するまでの期間停止をするということであれば、辛うじて考慮に値するかなと思うのですが、その場合でも、大幅の延長ということにはやはり消極であって、例えば、今であれば13歳に満たない者が成人年齢あるいは18歳に達するまでの期間に相当する期間、公訴時効の進行を停止すると、そういった小幅の延長であれば、まだ考慮に値するのかなと思いました。 ○池田幹事 配布資料17のA案・B案に共通する検討課題の「対象とする罪の在り方」について更に意見を申し上げたいと思います。   どのような罪を対象とするかについては、このたたき台のA案にも示されておりますけれども、特別の取扱いとすべき趣旨の及ぶ範囲が、この範囲に限られるものではないとすれば、更に具体的に検討しておく必要があるように思います。どの範囲の罪を念頭に置くべきかについての参考としては、ビデオリンク方式による証人尋問を定める刑事訴訟法157条の6第1項第1号・第2号に掲げられている罪が、いわゆる性犯罪あるいは性犯罪に類似する犯罪を掲げたとされていますので、ひとまず、これらの罪を手掛かりに時効期間を長期とする趣旨、つまり、被害申告が困難であることによって被害が潜在化しやすい性質との関係を考えてみますと、刑法の強制わいせつ罪や強制性交等罪を含む刑法176条から179条までの罪や強制わいせつ等致傷罪、強盗強制性交等罪、児童福祉法60条1項の罪については、公訴時効について特別の取扱いをする実態的根拠が妥当すると考えられますので、これらの罪を対象犯罪に含めることが適当ではないかと思われます。   他方で、それらの罪に死亡の結果が伴うものや、その未遂、例えば、強制わいせつ等致死罪であるとか強制性交等致死罪、強盗強制性交等殺人あるいはその未遂といったものですけれども、これらは死亡、あるいは通常病院に行く必要のある負傷という客観的に明らかな被害結果が生じるものと考えられます。また、わいせつ目的等による略取・誘拐罪や人身買受け罪、それらの罪を幇助する目的等による被略取者引渡し等罪、あるいは児童福祉法34条1項9号に係る同法60条2項の児童に対する有害支配の罪、あるいは児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律の4条から8条までの罪につきましては、犯人が被害者を事実的支配下に置く、あるいは、事実的支配を移転させることなどを必要としたり、あるいは児童ポルノが存在したりすることなどから、被害結果が客観的・外形的に明らかとなりやすいと思われます。そうだとしますと、今言及した罪については、被害に遭った者の申告がないと発覚しにくいとは必ずしもいえないのではないかとも考えられまして、そうであるとすれば、時効との関係での特別の取扱いの趣旨が妥当するか否かは、性犯罪といっても一律ではないと見る余地もあろうかと思います。   また、児童福祉法60条1項の罪、児童に淫行をさせる行為につきましては、自己を相手方として淫行させる行為のほかにも、様々な行為が想定されるとされておりまして、時効について特別の扱いとする趣旨との関係も、その行為態様との間では様々であると考えられますので、それらのうちどの行為を対象とするべきかについても、検討すべき点があるものと考えております。 ○井田部会長 公訴時効について、特別の取扱いをするとして、そのうちどのような罪をその対象にするかについて、大変詳細に御検討くださいました。 ○宮田委員 殺人罪については時効がなくなりました。殺人罪について、時効に非常に特別な配慮されるというのはよく分かります。先ほど金杉幹事がお話しになったことと、私の考えはほぼ一致しています。さらに、性犯罪についての時効延長の必要性が、今、池田幹事のおっしゃった特別法についても検討されるべきというお考えについては、その法定刑を考えたときに、余りに時効の延長が酷な効果をもたらさないかと感じたというところでございます。 ○小西委員 性犯罪には当然いろいろな類型があるわけで、例えば、職場で知人から被害に遭った強制性交等罪などを、すぐに外部に言う人はたくさんいるわけですね。それでも、もちろん言えない人もいますけれども、多分そういうタイプの犯罪と、それからもう一つ、虐待を中心とする、ここだと監護者性交等罪だけとはいえないのですが、繰り返しの被害が幼少期から起こってくるような類型ですと、これはもう、やはり言う困難さが大分違ってくることになります。   例えば、虐待の場合は、そのまま続くと、被害が被害であることも分からなくなって、長い場合には、二十歳を過ぎてもまだ被害のことが分かっていないようなケースというのが、実際にあるわけですね。ですから、成人になったら判断ができるという、そういう考え方に、それこそ発達的にいうと、あるいは心理的にいうと、全く乗らないような形になる。でも、こういう人でも、例えば、母親には言ってみたけれども、母親にそんなこと黙っていなさいと言われたというような形で、こういう被害を受けた人は、調査には1年と答えるかもしれません。   先ほどから言っている、ディスクロージャーすることと、公的機関に被害として話すことはハードルが全く違います。特に虐待の場合には、非常に乖離があるということを知ってください。典型的な、家庭の中で繰り返し起こっているような、あるいは学校で繰り返し起こっているような、そういう被害についてはディスクロージャーが非常に遅れることが、これは、先ほど齋藤委員が言われましたけれども、いろいろな実証的な調査で分かっております。   特に子供のときの被害、それから長期的な被害、それから支援がない被害というものが、ディスクロージャーが遅れるということは研究で分かっています。例えば、時効の5年延長だけでは、この調査の見かけ上、妥当に見えるかもしれないけれども、これでも現実としては決してそうでないということを、お話したいと思いました。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。そろそろ御意見が出尽くしたと考えてよろしいでしょうか。   それでは、「第二の一」についての議論は、本日はこの程度とさせていただきたいと思います。   本日の御議論を伺っておりますと、公訴時効を見直すことに消極的な御意見がありました。他方で、複数の委員・幹事からは、見直しを求める、そういう御意見も出されました。もし見直すとした場合には、その方向性については、性犯罪の特性を踏まえて、配布資料17のA案のように性犯罪一般について公訴時効期間を延長することが考えられ、そしてまた、被害者が若年者の場合には特有の事情があるということで、B案のように一定の年齢に満たない若年者について、特に時効の完成を遅らせることも考えられる。また、A案とB案を組み合わせて規定することも正当化し得る、こういう御意見がありました。もちろん、それに対する反対の御意見も表明されました。   その上で、A案による公訴時効期間の延長幅については、類型的に、少なくとも大部分の事案において、被害申告の困難性が解消されていく期間として、実証的に根拠付けられる必要があるという観点から、資料に基づき5年を指標とすることが検討対象となり得るという御意見がありました。また、B案により一律に特別な取扱いの対象とする若年者の範囲については、性交同意年齢に至るまでと考えるべきだ、他方で、脳の発達を考えると、25歳とすべきだという御意見があった一方で、民法の成年年齢が18歳とされていることに着目して、18歳とすることが検討の対象となり得る、こういう御意見があったところです。   さらに、時効について特別な扱いをするとした場合、どういう犯罪が対象となるかについても、具体的な御意見が示されたところです。   いずれの御意見も、今後の部会における検討、意見集約のために、重要かつ有益な手掛かりとなると思われます。次にこの論点を取り上げるときには、こうした御意見を踏まえて、更に掘り下げた検討ができればと考えております。   次に、「第二の二」の「被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設すること」について、御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から配布資料18の内容について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料18について御説明いたします。   1枚目の二つの枠内を御覧ください。   ここには規定イメージの案として、性犯罪の被害者等の供述及びその状況を記録した録音・録画記録媒体について、その供述が司法面接の手法として必要な措置が採られた情況の下になされたものであるときは、反対尋問の機会を与えた上で、証拠能力を認めることとするA案、性犯罪の被害者の供述及びその状況を記録した録音・録画記録媒体について、その者が公判期日等において更に供述することで心身に重大な故障が生じることが明らかであるときであって、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるなど、高度の必要性があること、司法面接の手法として必要な措置として採られた措置の内容その他の事情を考慮し、その供述が特に信用すべき情況の下になされたものであることのいずれにも該当するときは、反対尋問の機会を与えることなく証拠能力を認めることとするB案を記載しています。   その上で、これらの案に共通する検討課題として、証拠能力の特則を設ける実体的・理論的根拠はどのようなものか、証人審問権、反対尋問権、伝聞法則との関係についてどのように考えるか、必要性や信用性の情況的保障を示す要件についてどのように考えるか、どのような供述者を対象とするか、聴取主体を限定するか、A案とB案を組み合わせることに問題はあるかといった点を掲げています。また、A案の検討課題として、「司法面接の手法として必要な措置」とはどのようなものかといった点を掲げ、B案の検討課題として、「司法面接の手法として必要な措置として採られた措置の内容」や「その他の事情」とはどのようなものかといった点を掲げています。   配布資料18の御説明は以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容に関して、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。御意見のある方は、挙手するなどして御発言をお願いします。この諮問事項については、最大で40分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 配布資料18のA案に基本的には賛成なのですが、「必要な措置が採られた情況の下になされた」ということが、どういう情況であり、誰がどのように認定するのかということを議論の中で明らかにしてほしいと思いますし、そこのハードルが高くなり、録音・録画記録媒体が証拠として使われないということがないようにしてほしいと思います。   また、司法面接の専門家に意見を聞いたのですが、反対尋問をなくすことはしなくてもいいのではないかとも言われていて、それは、幼い子供には裁判所も一定の配慮をしていることが多いということで言われていました。ただ、ティーンエージャーになると非常に厳しい質問をされることも多く、それがやはり問題であるということで、反対尋問が行われるときには、例えば、証人のニーズに適した質問方法のグラウンドルールというのがあるのですが、年齢が高い子供にも低い子供にも、分からないことは分からないと言っていい、覚えていないことは覚えていない、忘れたと言っていいということを丁寧に教えてあげて、無理をさせないように配慮することが大切だということと、あと、訴訟関係人というのがあるのですけれども、司法面接をした司法面接者が出廷して、司法面接で子供から聞いた供述を証言し、さらに、専門家としてその供述の意味を解説する制度を創設する方が、子供たちの負担軽減に役立つということですので、この訴訟関係人に司法面接者が含まれるとよいのではないかと思っています。   また、B案の「心身に重大な故障が生じることが明らかであるとき」というのが、どういうことを意味するのかなということと、それを誰がどのような形で認定するのかなということを明らかにしていただければと思います。そして、やはりそのような状態で出廷させることは、二次加害でもありますし、真実追及も妨げますので、心身に重大な故障が生じるような状況では、この録音・録画記録媒体が認められるようになるとよいのではないかなと思いました。 ○井田部会長 A案に基本的に御賛成という立場ですが、A案、B案いずれも、その要件についてもう少し具体化といいますか、明確化が必要ではないかという御意見とお聞きしました。 ○宮田委員 もしかすると、今、山本委員がおっしゃったことは、私の考えと少し近いのではないかと感じました。まず証拠能力をこのように論じるのではなく、司法面接、被害者の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体を作るために、どういう制度として設計するべきであるのかが、証拠能力の議論の前になされるべきではないかと私は思うのです。   司法面接の手法については、供述能力が非常に低い児童、あるいは、場合によっては障害者の方などについては、極めて有効な手法です。司法面接手法について、まず、どういう人に対して、そして誰が主体となって聞き取りをするのかが、非常に重要であると考えています。例えば、スウェーデンなどでは、証人適格がない15歳未満の方に対しては、司法面接の手法を用いる。その代わり、その司法面接で得られた録音・録画に対しては、必ず補強証拠を要求するというような立て付けになっているそうです。録音・録画というのは、当然に信用できるものとなるのではなく、それが持っている証拠価値がほかのもので補強される必要があると考えるわけです。   しかも、司法面接は、きれいで信用できる供述が出てくるとは限らず、既に記憶が汚染されてしまっている場合には、汚染された記憶がきれいに取得されるというものです。まず、そのような汚染ができるだけ起きない方法を考えなければならない。まず、面接の聴取主体が誘導してしまう可能性がある人ではいけないと思っています。捜査機関が証拠を見て、その証拠に基づいて、いわゆる供述弱者に対して話を聞けば、それが誘導的になってくる高い可能性があります。   裁判官の面前の調書は、非常にその信用性が高いと言われているのは、裁判所が中立の第三者であるからです。供述弱者に対する聴取というのは非常に難しいというお話は、齋藤委員や小西委員が非常に詳しく一巡目の議論でおっしゃってくださいました。やはり医師や臨床心理に関しての詳しい知識や経験を持った人たちが、供述弱者のノンバーバルな動きまでも含めてきちんと観察できる能力が必要であろうと思います。そういう意味で、聴取主体は中立の第三者、しかも供述心理についての知識や経験を持っている人でなければならないと思います。   また、被害者の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体を作ることがなぜ必要かといえば、繰り返し供述を求められることの弊害を防ぐということであったかと思います。去年、名古屋高等裁判所の事件で、検察官の調書に対して、検察官の調書とは違った司法面接が出てきたという、確か被害者が中学生の事件があったかと思います。この件では、司法面接をやったのに、検察官が司法面接の手段をとらずに事情聴取して、その聴取の信用性が否定されました。司法面接によるのか、通常の被害者への事情聴取の手段をとるのか、そういう手法を恣意的に、そのように言ってはいけないのかもしれないのですけれども、手法がまぜこぜになってよいのでしょうか。恐らく客観証拠と違っているから、調べが必要だったということかもしれませんが、そうなると、供述の一回性、初期供述をきちんと残す、何度も聞かれないで被害を防ぐという点は、大幅に後退してしまうことになる。また、誘導的な手段を用いないで聞く司法面接の手段が取られているかどうかわからない手続が挟まるということになります。ですから、司法面接の手法を入れるのであれば、初期供述を取ることの一回性を守らなければならないのだろうと思いますし、心理的な負担に配慮することや初期供述を残すことが大事だから司法面接をするのであれば、追加的な司法面接によらない被害者調べをすること自体が矛盾なのではないでしょうか。   反対尋問については、事実関係について細かく聞いていくということもありますが、供述者がすごく被誘導性が高いということを反対尋問で聞くことだってできます。例えば、甲山事件なんかだと、被誘導性のある供述者だということを証明するような尋問をしたりもしました。反対尋問は憲法で保障された権利ですし、そのときに配慮すべきことを配慮すれば、この聴取をされた人に対しての弊害を、ある程度防ぐことはできるのだろうと思います。   あと、聴取をする人を心理の専門家とするとなると、その方に対する尋問の機会を与えることも必要になるでしょうし、その方が専門家として果たして適格な方であったのかどうか、ある意味において、鑑定人に対して別な鑑定人が意見を申し述べることと類似した立証も許していただく必要があるのではないかとも考えました。そういう意味で、このA案、B案の議論の前に、もっと議論しておくべきことがあるのではないかなというのが、私の申し上げたいことでございます。 ○井田部会長 証拠能力の議論に入る前に、そもそも司法面接そのものの方法について検討すべきであるという御意見で、聴取主体の問題、それから証言の汚染をいかに排除するかについての方策の問題、あるいは聴取の一回性の担保の問題、あるいは証拠能力を認めるとして、補強証拠が必要と考えるべきではないか、さらには、聴取者自体の証人尋問というのも必要なのではないか、そういう御意見だったとお聞きしました。 ○小島委員 私は、反対尋問なしという配布資料18のB案に賛成する立場から申し上げたいと思います。   B案は、刑事訴訟法321条1項3号書面、これと同じような扱いをしようということです。もちろん、この書面と同じ扱いをするために、厳格な要件が必要だということは承知しております。まず、必要性と特信情況が必要だということです。必要性については今まで何回も出ていますけれども、心身に重大な故障が生じることが明らかであるということで、高度の必要性が求められます。性犯罪の被害者、特に子供に対しては、反対尋問なしということでやっていく必要が高いのではないかと思います。PTSDなど、医師鑑定書が必要になってくると思います。   二点目として、特信情況ということが言われますけれども、前回の部会で池田幹事が、公判で供述することによって心身に重大な故障を生じる者については、むしろ信用性について情況的保障が認められた状況での供述の方が、公判廷での供述よりも信用性が担保されるのではないかということを御指摘してくださいました。この条文の文言としては、例えば、被害後の早い時期に、聴取前に記憶の変遷がないということを確認の上、誘導・暗示等の影響がないことに配慮してというような形で考えたらどうかと思いました。   特信情況を担保する要件としては、今述べたように、まず方法・時期・供述の経過経緯という3要件を具体化して、心身への重大な影響という必要性が要件化されることが求められると思います。   反対尋問権、証人審問権の保障については、種々議論があるところではございますが、証拠の信用性を確保し、事実認定の正確性の確保をするためということと考えたらいいのではないかと思います。   聴取の主体については、現時点で捜査と心理の両方が見えている人というのはいない、だから、反対尋問を省略する方式は採れないということなのですけれども、この部分は要件として記載せず、先ほど申し上げましたように、反対尋問の省略については、特信情況を担保する要件として、方法・時期・供述の経緯という3要件を挙げたらいいのではないかと思います。   A案を採用する場合については、B案と比べて、相当要件を緩くしてもいいかと思います。特信情況も不要になります。司法面接の手法ということについては、これを更に緩くする提案も可能だと思います。司法面接の要点としては、暗示・誘導の影響に配慮した聴取が可能であるということが核心だと考えております。A案で必要な事情を明確にしつつ、B案は全く別建てで考えていくべきではないかと思います。 ○小西委員 この司法面接の問題については、やはり相対的に考えるしかないと思っています。例えば、記憶の汚染ということは、記憶が作られたそのときから当然始まっているわけで、もちろん程度の問題はありますが、司法機関の捜査に乗った段階で、汚染が全くないケースというのも考えられません。非常に汚染されているケースというのはある。でも、その中でも、先ほど宮田委員が言われたところですけれども、なるべく早いうちに、詳しく記録を取っていくというのが、汚染を防ぐ大事な側面だと思うのです。だから、この方式で取ったら汚染はないともいえないし、そうではない場合に全く駄目なのかと、そういうわけではないのだと思います。   それから、司法面接をやる主体ですけれども、医師と言っていただきましたが、私は、医師はあまり適切ではないと思っています。私は、医師の中では、こういう性犯罪の裁判に関わる仕事は突出して多いと思いますし、関心も持っています。それでも、捜査の中で何が論点になるか、裁判で最終的に何が問題になっていくかということまでは見えないです。対象者の心理、病理は分かっても裁判を行っていくのに何が必要かは分からない。もちろん捜査と心理的な状況、あるいは医学的な判断というのが全部できる人が理想でしょうけれども、司法の中でそういう人を作ってからでないと法律を考えられないというのは、とても難しいと思います。   ここも相対的な判断ですが、それでも、被害者本人は絶対こんなふうにしゃべらないよねという供述が並んでいる調書を性犯罪の知識のない捜査機関が作ることに比べれば、司法面接の制度や手法を使った方が、ずっといいと思います。ずっといいという言い方が法律になじむかどうか、私は分かりませんが。実は、この司法面接の証拠化の議論のところで、捜査初期の頃にかなり注意して作られた録音・録画記録媒体というものを裁判官が見られないということには、素人として、正直とてもショックを受けたのです。もちろん、現状では司法面接のクオリティーにばらつきがあるというのは、そのとおりですから、それはまた録音・録画記録媒体の評価をすればいいのだと思うのです。だけど、今、完璧でないから、あるいはそういうことをしても汚染が防げないからという理由で、それをやめてしまうということは、あり得ないのではないかと思います。裁判の場が中立だからそこでの話が証拠能力が高いというのは、法律学的にはそうなのかもしれませんけれども、それは、法廷を構成している司法の専門家たちにとってであって、そこに引っ張り出される被害者にとってではない。その場が一番しゃべりやすい場なんかではないということも、考えなくてはいけないと思います。   私の結論としては、この配布資料18のA案とB案だと、反対尋問というのは、やはりする機会というのがなくては、被告人の人権というところでも必要なことだと思いますので、私としてはA案に賛成したいと思います。それから、専門家の精度は当然上げていかなくてはいけませんけれども、本当に両面の分かる専門家を作っていくというまでには、司法面接という手法が日本に紹介されてから今に至るまでと同じぐらいの時間が掛かるかもしれないと思います。そういう意味では、そういう長い間、完璧でないからといって、ここで司法面接の価値を捨てるべきではないというのが私の意見です。現状の中で、相対的にいいものを採っていく。相対的にいいものしか採れないのだということは、きちんと意識してやっていくということがよいのではないかと思っています。 ○金杉幹事 まず、配布資料18のA案、B案ともに基本的には反対の立場です。一巡目のときにも申し上げましたが、やはり被告人の反対尋問権の保障は憲法上の保障ですから、特にB案については許容できないと考えます。仮に検討するとすればA案ですが、この点について、やはり、現状のA案では、「性犯罪の被害者等」であるとか、「必要な措置が採られた情況」とか、要件が固まっていなくて、これでどうこうという議論にならないというか、もう少し絞っていかなければいけないと思っています。   前提として、皆さん御承知だと思うのですが、刑事弁護の立場から申し上げたいのは、これは飽くまで録音・録画記録媒体に特別の証拠能力を付与するかどうか、それが許容されるかどうかという議論であって、証拠能力が認められたからといって、信用性が当然に認められるということではないということは、当然の前提ですが、共有しておきたいと思います。その上で、証拠能力を認める趣旨の部分でちょっと混乱というか、一貫性がないかなと感じているのは、まず、児童なのか、性犯罪の被害者等なのか、もちろん両者がかぶるということはあると思うのですけれども、これによって検討すべき課題も異なると思っています。児童の場合は、被暗示性、被誘導性から、1回に限って初期供述をできるだけ早期に汚染のない状態で確保するという必要性の観点から、司法面接の録音・録画記録媒体に証拠能力を認めるかという議論だと思います。他方で、性犯罪の被害者等ということになると、やはり何度も聞かれることにより、つらい体験を何度も思い出させることによって、二次被害が生じるというおそれ、またこれは、公判廷でやる場合に特に強くなるということから、できるだけ1回に限り、本人が信頼できる環境で聴取をするということが必要になるのだろうと思います。   この二つの観点を同時に考えると、要件がかなり混乱してくるように思います。例えば、この児童等の被暗示性、被誘導性という部分から証拠能力を認めようとするのであれば、性犯罪の被害者に限ることではなくて、一巡目のときも申し上げましたけれども、目撃者であるとか、性犯罪以外の被害であっても、児童の被誘導性、被暗示性から初期供述を確保すべきということになります。そういう場合には、年齢要件をかなり下げるべきだということは、申し上げていたとおりです。かつ、その場合には、特に聴取の主体については、検察官であることが必ずしも必要ではなく、かつ、検察官であることによって弊害が生じると思います。一方当事者が一方的に聴取したものに対して、特別の証拠能力を認めていいのかという問題もありますし、児童の被暗示性、被誘導性からすれば、検察官が例えば客観証拠を念頭に置いて、捜査に耐えるかどうかという観点から、客観証拠との整合性とかも考えながら聴取するということ自体が、誘導、暗示に当たってしまう可能性があります。そうではなく、客観証拠との矛盾等も考慮せずに、児童の供述をなるべくそのまま保存するという観点からすれば、やはり児童の聴取にたけた専門家が聴取する主体になろうかと思います。   性犯罪の被害者の繰り返し聴取されることによる二次被害を防ぐということであれば、この規定以外に、もっと確保されるべきことがあるのだろうと思います。例えば、司法面接、これは1回に限る、つまり、検察官が2回司法面接を行うということは、原則として禁止されるべきだと思いますし、もっと言えば、例えば、A案を採ったとして、反対尋問の機会が与えられた場合に、検察官が事前に客観証拠とのすり合わせを確認するために証人テストを行うですとか、そういったことも併せて禁止されなければ、整合しないのではないかと思います。 ○齋藤委員 もし配布資料18のA案が採用された場合に、「司法面接の手法として必要な措置が採られた」ということに関しては、司法面接の専門家の方々に、きちんとどういったことが必要な措置なのかということを確認いただき、マニュアルなりチェックリストなり、何かをきちんと作成していただきたいなと思っております。   また、反対尋問を行うとき、これは、以前からもお願いしていることですけれども、先ほど山本委員から、グラウンドルールとして、無理をさせないように説明をするという話がありまして、そうしたことは既に説明していると考えている先生もいらっしゃるかもしれませんけれども、子供の特性をきちんと理解した上で、グラウンドルールとしての説明をしていただきたいです。また、記憶の誘導を避けるという意味で司法面接の手法を採用するということであれば、反対尋問においても、子供の特性をきちんと理解いただいて尋問をしていただくですとか、そうした、配慮すべきことを配慮するというお話が先ほどありましたけれども、それを徹底していただきたいなと思っております。 ○川出委員 ここまでの議論では、司法面接の具体的なやり方についての御意見がかなり出されましたが、ここで検討すべき対象とされているのは、飽くまで証拠能力を認める規定の新設の当否ですので、それに絞って意見を申し上げたいと思います。   一つは、聴取主体についてですが、今申し上げた観点からは、ここでの問題は、一定の聴取主体が行った司法面接に限ってその聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に証拠能力を認めるという形にすべきなのかということです。これについては、今も御指摘がありましたように、司法面接というのは、誘導や暗示の影響を受けやすい者から、より正確な情報を得ることを目的として開発された聴取手法であり、その本質は、供述者の特性に応じて、誘導や暗示を極力排した方法で質問するなど、供述の内容に不当な影響が及ばないように配慮する措置が採られるところにあります。   そうだとしますと、聴取主体が誰であっても、その手法が採られたこと、あるいはそれが功を奏したことこそが重要であり、かつ、それで足りるはずですから、A案とB案のいずれについても、証拠能力を認める前提として聴取主体を限定する必要はないと思います。   この点については、先ほども御指摘があったように、捜査機関による聴取では誘導や暗示のおそれが払拭できないとして、聴取主体は中立的な第三者に限定すべきだという意見もあります。もし捜査機関による聴取は常に誘導・暗示を含むというのであれば、確かにそれは司法面接の聴取主体としてはふさわしくないということになるのでしょうが、そのようなことはいえないと思いますし、また、仮に一部でそのような聴取がなされる可能性があるとしても、現在の司法面接の運用では、供述及びその状況の全過程を録音・録画することが必要とされていますので、それを要件とすれば、裁判所が必要に応じて録音・録画記録媒体の内容を閲覧することにより、発問のニュアンスや文脈を含めて詳細に検討することができ、それにより、誘導や暗示的な発問がなされるなど不相当な聴取が行われていないかをチェックできます。このように事後的なチェックは可能ですし、さらに、捜査機関が聴取主体となることは、捜査・公判の実情に通じたものが聴取をすることで、繰り返しの聴取を避けつつ、犯罪の成否を確認する上で必要かつ十分な供述を得ることが可能となるといった利点もあります。   もちろん、先ほど小西委員から御指摘がありましたように、子の福祉と捜査の両面を熟知した面接の専門官が聴取を行うというのが理想ですし、その方が司法面接がより功を奏するとはいえるでしょうが、そのことと、聴取主体を限定して、それ以外の者が行った場合は司法面接結果に一律に証拠能力を認めないとするかは、次元が異なる問題です。したがって、証拠能力を認めるかどうかとの関係で聴取主体を限定する必要はなく、また相当でもないと思います。   それから、もう一点、配布資料18の2ページ目の冒頭の、A案における信用性の情況的保障を示す具体的な要件の在り方について意見を申し上げたいと思います。   たたき台のA案のところでは、「その供述が司法面接の手法として必要な措置が採られた情況の下になされたものであるときは、これを証拠とすることができる」と記載されています。これは、要するに、司法面接の手法として必要な措置が採られたときには、信用性の情況的保障を満たすということを意味していると考えられますが、その上で、具体的な要件の在り方としては、大きくは二つの案が考えられると思います。第一は、一般に司法面接の手法として採られている措置のうち、供述の信用性を一定程度確保するのに必要なものを抽出して要件化し、当該措置が採られたことをもって、信用性の情況的保障の要件とするものです。第二は、司法面接の手法として現に採られた措置の内容等を考慮して、それによって信用性が一定程度確保された情況の下での供述であると認められるということを、信用性の情況的保障の要件とするものです。   第一案については、要件化された措置を採れば信用性の情況的保障を満たすこととなりますので、新設する特則の安定的な運用に資すると考えられます。ただ、他方で、前回この論点を扱った際に意見が述べられましたように、反対尋問の機会が保障されているA案において求められる信用性の情況的保障の程度というのは、刑事訴訟法321条1項3号のいわゆる特信性よりも相当低いもので足りると考えられますので、そのことを前提に、司法面接のプロトコルが統一されて確立しているわけではない現状において、どのような措置を要件化すべきかについては、司法面接において採られることがある複数の措置のうち、どのような措置を切り出すべきなのか、また、その措置の具体的な内容を過不足なく法文上規定できるかについて、更に詰めた検討が必要になると思います。   他方、第二案は、特定の措置が採られていることを要件とするのではなく、結局のところは、信用性が一定程度確保された情況の下での供述であると認められるということを要件とするものですから、確立した司法面接の統一的なプロトコルがいまだ存在しておらず、供述者の特性等に応じて柔軟に必要な措置が採られている実務の現状には即したものといえます。他方で、この案については、特信性よりも相当低いもので足りると考えられる信用性の情況的保障の程度というのを、法文上適切に表現することができるのかといった点について、更に検討が必要であると思います。 ○中川委員 今、A案とB案という案が出ております。まず、B案について意見を申し上げます。   一点目は、配布資料18のB案の一つ目の丸、必要性の要件についてです。「公判期日等において更に供述することで心身に重大な故障が生じることが明らかであるとき」という点ですけれども、これは、現行法でも、例えば、証言段階で証人が既にPTSDを発症しており、証言自体がおよそ不可能な場合は、刑事訴訟法321条1項2号又は3号のいわゆる供述不能に当たるとして、伝聞例外となり得るように思われます。そうすると、B案は、少なくとも、これらの規定では対応することのできない類型、すなわち、現時点では心身に故障は生じていないものの、後に被害の意味を理解するなどした結果、将来、心身に重大な故障が生じるという場面で活用することが想定されていると思います。このような事案では、裁判所は、現行法の刑事訴訟法321条1項2号、3号などの要件とは異なり、将来の予測に関する判断を求められることになりますが、そのような事項を果たして適切に審理し、判断することができるのか、当事者の立証の在り方も含めて、慎重に検討する必要があると思います。   二点目は、B案の二つ目の丸、特信性の要件についてです。「司法面接の手法として必要な措置」という点について申し上げます。この要件は、被害者等の聴取結果を記録した記録媒体のうち一定のものについて、尋問の機会をも与えることなく特別な証拠能力を付与することの基本的な要件となる部分であります。したがって、その具体的な内容が法律上明確になっている必要があると考えています。その検討に当たっては、このような証拠能力の特則を設ける趣旨として、先ほど金杉幹事やほかの委員もおっしゃっていましたが、元々、年少者は暗示や誘導を受けやすいという供述特性を有するので、このような年少者については、初期供述が重要であるということが議論の出発点になっていたことを踏まえて、司法面接の対象となる者、それから、先ほどから議論になっていました聴取の主体、聴取の条件や手法などについて、更に具体的な検討をする必要があると思います。   聴取の主体については、先ほどから幾つか意見は出ておりましたけれども、専門家の方々からは、聴取に必要なスキルは簡単に習得できるものではなくて、事実を適切に聞き取るためには、十分な専門的知見を有する者が行う必要があるという指摘がされているところです。聴取の主体は特信性を担保する上での重要な要素ですので、事実を適切に聞き取るのに必要な専門的知見を真に有する者が行った聴取であることが担保される必要があると思います。   B案のもう一つの問題点として、審理運営上の課題についても申し上げたいと思います。事件が強制わいせつ致傷とか強制性交等致傷になりますと、裁判員裁判になります。今、証拠能力の特則を新設することが議論されておりますが、裁判員裁判では、証拠能力の判断は裁判官が、供述の信用性については裁判員も交えて判断することになっています。しかし、一般的に、証拠能力に関する特信性要件の判断と供述の信用性の判断は、判断の要素としては重なるところが多く、両者を区別して判断することは非常に難しいです。そうすると、裁判員との間で適切に評議を行い、判断することが、困難になるおそれがあると考えています。   最終的な規定ぶりがどうなるかにもよりますけれども、いずれの要件も様々な事情を考慮して判断されることになる難しい要件で、要件の存否をめぐって、例えば「司法面接の手法として必要な措置」という要件の存否をめぐって、当事者が様々な立証を行うことが想定されます。そのような要件に関する審理を経て記録媒体が採用されたとしても、弁護人が被害者の供述の信用性について具体的な事実関係や疑問点等を主張した場合、司法面接は初期の段階に限られた時間内で聴取するものであることなどに鑑みると、それらについて聴取の中では触れられていないということが考えられます。そうすると、被害者の供述を支えるほかの十分な証拠がないときには、その弁護人の主張を排斥できない、すなわち、当該供述の信用性が認められないと判断せざるを得ないことになります。そして、被害者の供述が犯罪の証明に欠くことができない証拠となる事案では、犯罪を証明する証拠がないという結論にならざるを得ないことも少なくないと思います。   裁判所は、十分に審理を遂げ、事案の真相を明らかにして、適切に事実を認定する責任を負っております。このような立場の裁判所としましては、B案のような形ですと、必要性や特信性の要件判断に当たり、慎重にならざるを得ないということは、やはり申し上げたいと思います。このような観点からしますと、性犯罪に関する刑事法検討会でも申し上げたとおりですが、弁護人が供述の信用性を争って供述者の尋問を請求した場合に、裁判所として、証人尋問の実施によって適切に供述の信用性を判断し、真実の発見に資すると判断したときは、これを却下することは非常に難しいこともあります。証人尋問を行えば、適切に事実を認定して、真相を明らかにすることができる可能性がある事案であるのに、証人尋問を行わないがために、真相が明らかにならないという判断をするのは、裁判所としては難しいといえます。   以上申し上げたとおり、B案は、各要件の審理、判断の在り方に課題が多く、B案を設けたとしても、これが活用される場合は、実際はごく少ないのではないかと思います。   これに対して、A案については、伝聞例外として記録媒体の証拠能力を認めるに足りる程度に「司法面接の手法として必要な措置」の内容が具体的に定められると仮定しますと、供述の信用性の判断に必要な事実については後で直接本人に確認することが前提になっていますから、証拠の採否とか供述の信用性の判断は比較的しやすく、規定ぶりにもよりますけれども、実際に活用されやすい規定を設けられるのではないかと思います。   特に年少の被害者の証言の負担に配慮が必要であることは、これまで指摘されているとおりですが、実際の事案では、聴取結果自体から認定すべき事実は限られていることも多く、A案を前提に尋問で確認すべき事項も限られるように思います。そして、実際に被害者の尋問を実施するに当たっては、公判廷でのビデオリンクですとか、遮蔽とか、付添人という様々な措置のほか、必要に応じて、公判準備として適切な場所に赴いて尋問を行うなどの工夫も考えられるところです。裁判所としましても、被害者の負担について十分に配慮した上で、適切な事実認定を行う必要があると考えており、A案を前提に司法面接の結果を適切に活用した上で、真に必要な部分に限り、必要な配慮を行った上で、直接証人に確認するというのが最も適切な審理運営、事実認定につながるのではないかと考えております。 ○池田幹事 検討課題のうち、先ほど金杉幹事からも御指摘がありました、聴取の対象者、「性犯罪の被害者等」というのはどの範囲で考えるのかという辺りを含めて、要件の在り方について意見を申し上げたいと思います。   再三指摘がありますように、現在挙がっております案は、いずれも被害状況等を繰り返し供述することによる心理的・精神的負担を軽減するために、性犯罪の被害者等の供述及びその状況を記録した録音・録画記録媒体について、証拠能力の特則を新設するものであると考えられます。そこで、性犯罪の被害者等の範囲を検討するに当たりましては、これらの案と同様に、性犯罪の被害者等が受ける心理的・精神的負担の軽減を目的として、一定の要件の下でビデオリンク方式による証人尋問を認めている刑事訴訟法157条の6において、同条1項各号に掲げる者には、そのような負担軽減の必要性が認められるとされてきたことが参考になると思われますので、この範囲を論じるに当たっても、これを手掛かりに範囲を検討することが考えられようかと思います。   あわせて、配布資料18のB案との関係で、対象者の範囲について、信用性の情況的保障に係る要件との関係を踏まえて意見を申し上げます。B案については、当部会の第5回会議でも申し上げましたとおり、反対尋問の機会を与えないものですので、信用性の情況的保障を示す要件は厳格なものとする必要があると考えております。その上で、B案の意味するところを考えてみますと、司法面接の手法による聴取が特に功を奏したと認められる場合には、公判廷での反対尋問と同程度に、高度の信用性の情況的保障を満たすと考えられることに着目したものということができるように思います。この考え方からいたしますと、B案の対象者については、司法面接の手法が特に功を奏するといえる者、すなわち、誘導・暗示の影響を受けやすい特性を有する者に限定をするということが考えられようかと思います。このように、信用性の情況的保障を示す要件として、対象者を誘導・暗示の影響を受けやすいものに限定する要件を設けることとすれば、そのような者に対して司法面接の手法として採った措置が功を奏したこととあいまって、高度の信用性の情況的保障を確保することにつながるのではないかと思います。   ただ今申し上げた観点から、B案の対象者を誘導・暗示の影響を受けやすい者に限定するという場合には、例えば、一定の年齢未満の年少者や、知的障害者等の精神の障害によりその供述に他人からの影響を受けやすい特性を有すると認められる者とすることなどが、検討対象になり得るものと思われます。   あと一点、宮田委員から御指摘がありましたけれども、聴取者の尋問を要求すべきであるという見解について申し上げたいと思います。その際に、鑑定人尋問で適格性を確認するために尋問しているということにも触れられておりましたが、この場合は、聴取者の供述ではなくて、飽くまで被聴取者の供述が証拠になりますので、両者を同列に論じることにはならないのではないかと思います。仮に不適切な聴取がなされて、誘導等があるということがあるしても、それは川出委員から御指摘があったように、録音・録画記録媒体を確認することによって判別可能であると思われますので、尋問を要件とする必要はないのではないかと考えております。 ○金杉幹事 ただ今池田幹事から御指摘がありました、真正立証に類するような聴取者、すなわち聴取の主体の尋問が要らないのではないかという点についてだけ、一点補足させてください。   私は、配布資料18のA案の立場であっても、「必要な措置が採られた情況の下になされたもの」という部分には、聴取の主体に対する真正立証のような尋問が認められるべきという意見なのですが、それは、中身を見れば分かるというものについては御指摘のとおりかと思います。ただ、ここで聞きたいのは、録音・録画記録媒体を見ただけでは明らかにならない、例えば、バックスタッフの状況であるとか、そのバックスタッフとやった打合せであるとか、どの程度の情報を事前に得た上でこの司法面接を行ったのかとか、それから、尋問の客体ですね、被聴取者の側が、事前にどの程度の情報や、誰に話していて、そのほかの方からはどういう働きかけがなされたと聞いているのかとか、その録音・録画記録媒体の中では明らかにならない事情について聞く必要があるのではないかという問題意識です。 ○井田部会長 池田幹事、いかがですか。 ○池田幹事 まず、バックスタッフとの会話や相談の内容ということですけれども、これが供述の信用性を評価する上でどのような意味を持つかというのは、必ずしも判然といたしませんので、聴取者の尋問が必要であるということの理由にはならないのではないかと思われます。   また、記録媒体に現れない事情について尋ねる必要があるのだということですけれども、聴取者も、それまでにどのような事情が生じているかということについて知らない場合もあるのではないかと思いますので、常に聴取者の尋問が功を奏するという関係にはないのではないかと思います。そうだとすると、その目的との関係で、尋問という手段が必要であるとはいい難いのではないかと思います。   聴取内容については、繰り返しになりますけれども、記録媒体自体によって確認すれば足りることではないかと考えております。 ○井田部会長 それでは、この論点につきましては、本日のところはこのぐらいにとどめたいと思います。   本日の議論におきましては、配布資料18のA案に対しては、複数の委員・幹事からの賛成の御意見がありましたが、ただ、この「必要な措置」について、その内実が明らかではないのではないか、あるいは対象者によってその状況が異なるということがあるのではないかという御意見が一方でありました。他方で、この信用性の情況的保障を満たす具体的要件については、条文を作るとすれば、その条文の中に一般に司法面接の手法として採られている措置のうちで、供述の信用性を一定程度確保するのに必要なものを明らかにして、法文上要件化し、それが充足されたことで要件を満たしたとするという考え方が、一つの案となり得るし、また、もう一つの案として、具体的に採られた措置の内容等を見て、それによって信用性が一定程度確保された状況の下で供述されたと認められるのであればそれで要件を満たしたとする、そういう二つの考え方があり得るのではないかという御指摘がありました。   また、このA案については、聴取者の証人尋問を行うことを要件とすべきであるという御意見があり、それに対しては、必ずしも必要でないと、こういう反論があったところです。また、特に今日の御議論では、司法面接の方法について議論が集中した面がありますけれども、A案、B案に共通して問題になる性犯罪の被害者等の範囲を検討するに当たっては、いわゆるビデオリンク方式のよる証人尋問の規定、刑事訴訟法157条の6が参考になるのではないかという御意見がありました。   その上で、今度はB案ですが、B案のような方向性を採ることについては、消極的な御意見も複数の委員から表明されました。反対尋問権の保障という観点も示されましたし、要件の充足の判断が非常に困難であるということも、裁判官の委員から御発言がありました。他方で、B案の方向性に賛成する御意見もあり、高度の信用性の情況的保障を確保するための要件を、供述の方法・時期・経緯等について条文に書き込むことが考えられるのではないかという御意見、また、対象者については、誘導・暗示の影響を受けやすい者、例えば、一定の年齢未満の年少者か、知的障害者等の精神の障害により供述に他人から影響を受けやすい特性を有すると認められる者に限定することが考えられるのではないかという御意見がありました。   取り分け、議論が集中したのは、A案及びB案を採る場合に、聴取主体の問題で、その対象が誘導・暗示から免れているということを保障する、そういう聴取主体として中立的な第三者、例えば、医師等の専門家に限定すべきだという御意見が一方で主張されたわけですが、他方において、司法面接の手法が一定の要求されるレベルをクリアしているのであれば、それは聴取者が誰だということ自体について問題とする必要がないのではないか、あるいは、医師などになると、それはむしろ適格ではない、やはり事件についてある程度中身を知っている人でないと難しいのではないか、また、総合的な判断が必要で、まずは一歩踏み出すことが大事であり、厳しいことを言うと、一歩踏み出せないではないかという御意見、あるいは、検察官は事件をよく知っているので、それなりに利点はあるのではないかと、こういうような御意見があったところであります。   いずれの御意見も、今後のこの部会における検討と意見集約のために、非常に有力な手掛かりになると思われますので、次にこの論点について検討する際、再び掘り下げた議論ができるように、それぞれに御検討を進めておいていただければ幸いです。   1回目の休憩から時間も経過しましたので、10分ほど休憩したいと思います。再開は午後4時10分としたいと思います。              (休     憩) ○井田部会長 それでは、会議を再開いたします。   次に、「第三の一」の「性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為に係る罪を新設すること」について御議論いただきたいと思います。   まず、事務当局から配布資料19の内容について説明してもらいます。 ○浅沼幹事 配布資料19について御説明いたします。   1枚目の枠内を御覧ください。   ここには、性的姿態の撮影行為を処罰する規定イメージの案として、「性器」や「下着」といった対象を「ひそかに」、あるいは、「強制性交等罪の犯罪行為が行われている機会に」といった態様・方法で撮影する行為を処罰対象とする案を記載しています。   その上で、検討課題として、保護法益や処罰根拠についてどのように考えるか、保護法益や処罰根拠を踏まえ、どのような対象をどのような態様・方法で撮影する行為を処罰すべきものとするか、自ら露出していた場合や、撮影の承諾があった場合をどのように考えるか、法定刑をどのようなものとするかといった点を掲げています。   次に、2枚目の枠内を御覧ください。   ここには、性的姿態の画像の提供行為等を処罰する規定イメージの案として、撮影行為により生じた画像又はこれが記録された物を提供する行為、電気通信回線を通じて、物への記録及び記録の提供を伴うことなく、先ほどの「1(1)」の対象の映像を「1(2)」の「ひそかに」といった態様・方法で送信する行為を処罰対象とする案を記載しています。   その上で、検討課題として、保護法益や処罰根拠についてどのように考えるか、保護法益や処罰根拠を踏まえ、どのような要件が考えられるか、相手方が不特定・多数であることを要件とするか、処罰されるべき行為が適切に捕捉され、かつ、処罰されるべきでない行為が適切に除外されているか、法定刑をどのようなものとするかといった点を掲げています。   配布資料19の御説明は、以上です。 ○井田部会長 ただ今の説明内容に関して、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。   御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いします。   この諮問事項については、30分程度の時間を予定しております。 ○山本委員 配布資料19の1枚目の枠内の「(2)態様・方法」について、確認をさせていただきたいと思います。   被害者の同意のない性的姿態の撮影を規定する法律だと思うのですけれども、撮影がされていることを知っているけれども、被害者の真の同意がない場合について、確認したいと思います。例えば、利益供与と引換えの場合です。お金や何らかの利益の提供ということを言われての場合、経済的な格差もあり、弱みに付け込むことも多く、その行為が自分、つまり被害者に長期に及ぶマイナスの影響を与えるということを知っていないということがあります。   それは、真の同意、自由な意思決定といえるのかなというところには疑問があります。また、加害者が、自分だけが持っていると言った場合、モザイクを掛けると言った場合、そういう条件付きで同意したという場合が処罰の対象に入ってほしいと思います。   あとは、断ったら何をされるか分からないという恐怖で、ノーと言えず同意してしまった場合や、断ったけれども全く聞き入れられない場合というところが、被害類型に多く入ってくるかと思います。「②拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」は、「第一の一」の刑法176条、177条の規定ぶりに関わってくるのかなという印象を受けるのですけれども、それだと、被害者が拒絶していなかったではないかと言われる懸念があるので、この「(2)」の「②」については、被害者が積極的かつ自発的に性的姿態撮影を提案した場合以外を処罰するような規定にしていただければというのが、私からの提案です。   また、「1」についての検討課題の四つ目の丸の「その他の要件の在り方」なのですけれども、自ら露出していた場合はどうするかということですが、たとえ自ら露出していたとしても、性的姿態の撮影とはまた別の行為ですので、同意なくその性的姿態を撮影した場合には罪に問えるようにしていただければと思います。   また、先ほどの話とも関連しますが、「撮影の承諾があった場合」に、条件付きの同意である、自分だけが持っている、顔にモザイクを入れると、だまして撮影するというときを含めないでほしいと思います。なぜかというと、配布資料19の2枚目の「2」の「性的姿態の画像の提供行為等」の対象が、「1の撮影行為により生じた画像又はこれが記録された物」になっていますので、このような真の同意とはいえないような行為を性的姿態の撮影行為に含めないと、その画像の提供行為を処罰できないことになるのではないかと危惧しています。   また、法定刑についてなのですけれども、児童ポルノ法などが参考になるという御意見を頂きました。その懲役が3年以下となっているかと思うのですけれども、それでいいのかということについては疑問があり、法定刑について御議論いただければと思います。加害者は常習犯が多くて、職人のようにカメラやレンズや設置場所を工夫しています。性犯罪全体にいえますけれども、失敗から学び、犯行のスキルを習熟させていく中で何百人もの被害者を出します。そのような常習性が高い人に対して、3年以下の懲役でいいのかなということは、疑問に思います。加害者の治療行為を行わないと行動修正は難しいので、法定刑だけで議論できないところはあるかと思いますけれども、自己の欲求を充足させるために、他者の性的自由と人としての尊厳を踏みにじることをいとわないという性暴力の本質を踏まえて、常習者の場合についても踏まえた法定刑にしていただければと思っています。 ○小島委員 山本委員と重なるかもしれないのですけれども、意見を申し上げます。   配布資料19の1枚目の枠内にある「(2)態様・方法」の中の「②」のところでございます。「②」というのが、本体犯罪の要件を流用している形になっていて、撮影行為の手段が本体犯罪の要件の流用という形になっています。それで、「(2)」の「③」は、性犯罪に付随する行為ということになっております。「②」が「③」と重なっているように見えるのですけれども、「②」がどういう行為を想定しているのか、よく分からないです。例えば、後で消すからとか、顔出しはしないからと言われて撮影行為に同意した場合とか、お金を払うとうそをついて撮影に同意させた場合、当罰性があるのではと思いますが、こういう場合に「②」で処罰できるのかということと、そもそもこの撮影罪の処罰範囲というのが、性犯罪、本体犯罪の要件と平仄が合わなくてもよいのではないかと思います。   「②」として、撮影行為は独自の性犯罪であり、この撮影行為の保護法益は、自らの性的姿態についてみだりに公表されない権利で、性犯罪とは異なるのだと考えると、行為態様が刑法177条、178条の要件と同じでなくてもいいと思っています。例えば、今問題になっておりますAVの出演強要問題で、同意はしてしまったので刑法177条、178条の性犯罪には当たらないけれども、撮影は嫌だと、撮影には同意していないという場合についてどうなのだろうかと。正にそういう場合を処罰する規定として設けているのだろうか。だまされて性的行為には同意してしまった場合などについて、ここに入るのだろうかということが、疑問としてございます。 ○木村委員 条文の細かいことではなくて恐縮なのですけれども、以前の部会でも申し上げましたけれども、特に盗撮行為については、広く条例で規定が設けられていることを考えれば、都道府県の区別なく、法律で統一的に規制するという時期に来ているのではないかと思いますので、それは是非入れていただければと思います。   なお、お示しいただいた配布資料19の中の「撮影する行為」という文言について、きちんと理解できているかどうかよく分からないのですけれども、どこまで含まれるのかというのは、議論する余地があるのかなと思います。条例では、例えば、県によっては機器の設置まで含むというような規定もあるようです。特に赤外線カメラ等を準備して機器を設置すれば、十分当罰性はあると思いますので、未遂罪を作るかどうかという議論と関係しますけれども、未遂のような行為も処罰できるような対応は必要なのかなと思います。 ○佐藤(拓)幹事 今の木村委員の発言と重なるところもあるかと思うのですけれども、私は、配布資料19の1枚目の検討課題の、先ほどの御発言で二つ目の丸以降のところでの御意見がありましたけれども、まず一つ目の丸のところに関係して発言させていただきたいと思います。   保護法益に関してですけれども、当部会の第5回会議で議論しましたように、撮影罪の保護法益については、自己の性的姿態を他の機会に他人に見られないという意味での性的自由・性的自己決定権とすることが考えられますところ、保護法益をこのように捉えることを前提に、撮影としてどのような行為を捕捉すべきかを確認しておきたいと思います。   性的な姿態の視覚的情報が記録・固定化されることによって、性的な姿態を他の機会に他人に見られる危険性が創出される一方で、性的な姿態を単に撮影機器のファインダーを通して見るだけの場合や、撮影する目的で撮影機器をスカートの下に差し入れるだけの場合、その視覚的情報は記録・固定化されませんので、先ほど述べたような意味での保護法益の侵害というものは、まだ発生していません。したがって、撮影とは保護法益の侵害が生じ得る映像の記録・固定化を伴う行為を意味し、記録・固定化を伴わない行為は撮影行為そのものには当たらないと考えるのが適当だと思われます。   もっとも、木村委員がおっしゃいましたように、結果としてこのような意味での撮影に至らない行為の中でも、例えば、撮影する目的で撮影機器をスカートの中に差し向けてシャッターを押したけれども、何らかの事情で撮影に失敗したと、記録としては残らなかったという場合などは、法益侵害が発生しなかったのは偶然にすぎず、当罰的であるように思われます。そこで、例えば、撮影罪の未遂罪ですとか、条例のように差し向けるとか機器の設置を独立の構成要件とするとか、そういったことも検討すべきではないかと考えます。 ○井田部会長 保護法益について、性的自由・性的自己決定権と解すべきだとした上で、撮影というのは映像の記録・固定化という、正に保護法益の侵害が生じ得る、そういう行為を意味すると解すべきだという御意見でした。また、それとの関係で、もし未遂の可罰性を検討するのであれば、それは別途検討する必要があるということで、単にファインダーでのぞいてみるというだけでは、撮影には当たらないという御意見と理解しました。 ○橋爪委員 ただ今の御意見に関連しまして、飽くまでも本罪が性的自由又は性的自己決定権に対する犯罪であるという観点から、撮影対象をめぐる問題について、三点意見を申し上げたいと思います。   第一点ですが、配布資料19の1枚目の枠内の「(1)対象」の「②下着」の意義です。ここでは、下着姿が性的姿態と評価できることが前提となっていると思われますので、当然ではありますが、こういう下着というのは、性的部位をカバーする目的で、被害者が現に身に着けていることが必要であると思われます。つまり、洗濯物としてベランダに干してある下着を撮影しても、本罪を構成しないということを確認しておきたいと思います。   また、私自身、そこら辺は非常に疎いのですけれども、下着と申しましても、最近ではどこまでが下着といえるか、その外延が明確ではないような気がします。ここでも飽くまでも性的な姿態の撮影と評価できる実質があることに意味がありますので、下着という概念につきましても、例えば、通常衣服で覆われているものであって、また、性的な部位をカバーするために用いられているものというような形で、何らかの限定を付すことが必要であるような印象を持ちました。   第二点ですが、「(2)態様・方法」の「③強制性交等罪や強制わいせつ罪等の犯罪行為が行われる機会」の撮影対象について申し上げます。「(2)」の「②」と「③」の違いにつきましては、「②」が同意がない、つまり意思に反する撮影行為の内容を具体的に規定するものであり、「③」というのは、性犯罪の遂行過程における撮影行為を処罰する趣旨であると理解いたしました。このような前提からは、「③」ですが、性犯罪の遂行過程において、その犯行に関係する状況を撮影することは、被害者にとっては性犯罪に遭った自分の姿が撮影され、拡散されるおそれをもたらすものであり、これ自体を性的自由の侵害と評価できるように思います。つまり、ここでは、性犯罪の機会に自らを撮影されたということが重要であって、身体のどの部位を撮影されたかは重要ではないと思われます。したがいまして、「(2)」の「③」の類型につきましては、撮影対象を「(1)」の「①」から「③」に限定する必然性は乏しく、被害者の顔や衣服を着た姿を含め、とにかく被害者の姿態全般の撮影行為を処罰対象に含めることが考え得るように思います。   最後に、撮影内容から撮影された被害者の人物が特定し得る必要があるかという問題について申し上げます。撮影罪の処罰根拠は、被害者の性的姿態を視覚的に固定し、それが拡散する危険性が生ずる点に求められます。そうしますと、自分の性的姿態等が意思に反して記録されたこと自体が決定的であり、それが自分の姿態であることが特定できることは、法益侵害との関係では本質的な内容ではないと思われます。したがって、本罪の構成要件としては、行為者以外の者の性的姿態等が撮影されたことを認定すれば十分であり、顔など被害者が特定できる部位や情報が映り込んでいる必然性はないと考えます。 ○井田部会長 特に撮影対象に関わる幾つかの重要な論点について、それぞれ大変貴重な御意見を頂いたと思いました。 ○長谷川幹事 私の方から、まず、配布資料19の1枚目の枠内の「(2)態様・方法」の「②」の要件について意見を述べたいと思います。   この「拒絶する意思」というのは、撮影を拒絶する意思だという理解をした上で、まず最低限、このような方法の撮影は処罰すべきであると考えるのですが、これで足りるのかどうかという点が気になります。性交とかわいせつ行為は、性行為や触れる行為など、身体的な接触が伴うのですが、撮影行為は身体的な接触を必ずしも伴わない、遠くからということもありますので、明示に反対の意思を伝えていても、堂々と撮影されてしまうことがあり得ます。この「②」の要件というのが、反対の意思を表明をしていて、堂々と撮影されてしまう場合を含むのかどうか。含まないのだとしたら、それを含むような要件にする必要があると思います。先ほど言ったように、撮影行為というのは、身体的な接触が伴わないものですから、必ずしも刑法176条から178条の議論と平仄を合わせて、そこで限定されるようなものと合わせなくてもいいのではないかと思っていますということです。   あと、下着なのですが、下着について、今、橋爪委員から御意見を頂きました。今、いろいろネットで氾濫しているわいせつな画像の中には、下着ではないけれども、アウターとしての体裁を整えている、衣服としての体裁を整えているのだけれども、結果的に性的な部位を本当に少ししか隠さないで、臀部などを強調して出しているようなものがあるわけなのですが、そういったものが、今の「(1)対象」の「②」のところでは入ってこないということになるのではないかと思います。そういった、着衣の体裁をしているけれども性器や臀部、胸部の周囲の大部分を露出しているようなものについては、撮影対象者にとっては、少なくとも下着姿と同程度に性的羞恥心が激しく深刻にもたらされるようなものであると思うので、そういったものも疑義なく含める定義とすべきではないかと思っています。これについては、いわゆるリベンジポルノ法やいわゆる児童ポルノ法などの定義規定の3号の規定が参考になるのではないかと思いますので、そのように意見を述べさせていただきます。 ○浅沼幹事 長谷川幹事からありました、拒絶する意思を表明していたのに撮影されてしまうという場合ですけれども、たたき台を作成した事務当局としては、配布資料19の「1(2)②」に「実現することが困難である」というのを入れておりまして、それが正に拒絶する意思を表明したのだけれども、それを乗り越えて撮影されてしまうという場合を捉えようというものです。 ○嶋矢幹事 配布資料19のたたき台の1枚目の枠内にある「(2)態様・方法」のところには明示されていないところでございますが、先ほど来一部議論に出ております錯誤や誤信の場合の取扱いについて、少し意見を述べさせてください。   撮影罪についても、撮影対象者の誤信に乗じる類型について検討する必要はありますが、諮問事項の「第一の一」に関して議論されましたように、誤信については様々な態様・程度というものがあり得ますため、撮影について誤信がある場合の全てが当罰性を有するとはいい難いと思われます。例えば、モデルとして対価の支払を約束し、性的姿態を撮影した際に、その金額にのみ誤信があった場合など、もちろん、地位利用がある場合や、困窮や困惑に乗じたというような事情があれば、拒絶困難を構成し得る場合もあり得るかと思いますが、そうでなければ、直ちに撮影罪の処罰の対象とすべきとはいい難いものも含まれ得るのではないかと思います。ですので、どの範囲を処罰対象とするかについて、慎重に検討する必要があると思われます。   一方、例えば、通常のカメラであるかのように装って、赤外線カメラを用いて着衣の上から撮影対象者の性的部位を撮影するような場合には、撮影対象者が外形的な撮影行為自体は認識していても、その撮影対象が性的姿態であるということの認識を欠いていることからすると、撮影自体の認識を欠いている場合と同様といえ、自己の性的姿態を他の機会に他人に見られないという意味での、先ほど述べられた性的自由・性的自己決定権という撮影罪の保護法益を侵害しており、撮影された者にとって、「ひそかに」という態様として評価できると思われます。このような理解を前提としますと、たたき台の「1」の「(2)態様・方法」の「①ひそかに」によって、誤信の一部である性的姿態を撮影されることを認識していない場合を捕捉し得るように思われます。先ほど例として出てまいりました、そもそも撮影自体を認識していないような場合には、当然「ひそかに」に当たるのではないかと思われます。   さらに、誤信が問題となる類型のうち、例えば、医療行為のために必要な撮影行為であると誤信しているなど、撮影行為の意味を誤信している場合については、撮影対象者が撮影に応じるかどうかの意思決定をするそもそもの前提を欠くことになると思われます。例えば、乳がんの診断に必要などと欺罔されている事例です。このような類型については、強制性交等罪の要件の項目で議論があったのと同じように、法益侵害があることが明らかであり、誤信がある場合には、直ちに拒絶困難といえると考えられますことから、たたき台の「1」の「(2)②」の「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」撮影する行為の類型とは別に定めて、取り扱うことも考えられると思います。   また、これら以外にも、例えば、撮影行為者、撮影対象者以外の者、つまり、第三者が閲覧しないと誤信をしていた場合など、性的姿態を見る者の範囲に誤信がある場合を処罰対象とするかどうかについても、検討をしていく必要があると思われます。 ○佐藤(陽)幹事 配布資料19の「1」にある検討課題のうち、「その他の要件の在り方」の中に、撮影の承諾があった場合をどのように考えるかという課題がございます。この点について意見を述べさせていただきますと、撮影の承諾があった場合は、当然ながら法益の放棄が認められますので、犯罪は成立しないということになろうかと思います。ただし、たたき台の「1(2)」の「①」から「③」までの態様・方法というのは、撮影対象者の意思に反する撮影行為であることが、外見的・客観的に明らかな態様・方法を類型化したものだと思われます。そうすると、「(2)態様・方法」にある類型に該当する場合には、撮影対象者の意思に反して撮影がなされたということが通常認められますので、あえて別個に加えるような形で、被害者の承諾がないことを要件とする必要はないと考えるところでございます。   他方で、「(2)態様・方法」のうちの「①」の「ひそかに」の類型につきましては、要件を満たしていても、処罰対象から除外しなければならない場合があると思っております。これは、検討課題の三つ目の丸にある処罰の適正、処罰範囲の合理性に関する意見なのですけれども、一つ目は、正当な理由がある場合や一般的に許容されている場合でございます。前者は、例えば、医療行為がこれに当たります。もちろん、正当な医療行為の範囲でなければいけませんけれども、いずれにせよ、医療準則にのっとって行われたような撮影行為は、構成要件の段階で許容されるべきと考えます。それから、後者に当たるものとしては、例えば、親子間の撮影がございます。もちろん、親子ならどんな写真を撮ってもいいわけではありませんが、親が子の成長の記録として、普通に写真を撮影するような場合は構成要件の段階で処罰範囲から除外されるべきだと思っております。そうすると、こうした正当な理由がある撮影行為などを処罰対象から除外するための要件の追加というのが、検討課題の「その他の要件の在り方」との関係で必要なのではないかと思うところでございます。   さらに、二つ目としまして、先ほど山本委員の方からも御発言がありましたけれども、路上など、人が通常衣服を身に着けているような場所において、不特定又は多数人の目に触れることを認識しながら、あえて性的姿態を露出している場合につきましても、処罰対象に入れるのは難しいのではないかと思っているところでございます。もちろん、公衆の面前で性的姿態を露出することと、その撮影に同意していることは、全く別物なのですが、それでも、映り込みの問題もありますし、また、脱衣室などとは違いまして、通常、普通に撮影が許されている環境下で、自ら性的姿態を露出したという場合になりますから、この場合には、法益を放棄したと言わざるを得ないことが多いように思います。そうすると、処罰の適正と明確性の観点からは、この場合も、やはり一律に処罰対象から除外するというのが、無難な方向ではないかと思うところでございます。   また、この二つ目の自ら露出したことにより処罰対象から除外される場合につきましては、「ひそかに」の態様以外にも、例えば、不特定多数の人が通る道であることを知りながらも、わざと裸で寝たという場合のように、「(2)②」の態様におきましても、検討する余地があるのではないかと思うところでございます。 ○井田部会長 「態様・方法」に関して、「ひそかに」の類型から除外すべきものなどについて御指摘いただいたかと思います。 ○宮田委員 路上などでの被害の件について言おうと思っていた点は、佐藤陽子幹事がおっしゃっていただいた内容を引用させていただきます。今は、防犯カメラなどでひそかに公道上の人々を撮っていますから、そこに映り込んでしまったものなどが処罰されないように、あえて露出したものは除外した方がいいように思います。   あと、法定刑の関係です。先ほど山本委員から、いわゆる児童ポルノ法の法定刑では軽いのではないかという御意見がありましたが、搾取の対象になってはいけない児童への撮影についてさえ、児童ポルノの製造が懲役3年以下、罰金300万円以下という法定刑ですし、あるいは、提供した場合が懲役3年以下で罰金300万円以下、これが不特定多数や公然と陳列するようなことになって、懲役5年以下で罰金500万円以下というところです。やはりその辺の周辺法との権衡というのは必要になってくるのではないか。リベンジポルノの提供についても、懲役3年以下で罰金50万円以下です。やはり周辺法との権衡は、法定刑を考える場合には必要なのではないかと考えます。 ○井田部会長 幾つも貴重な御意見を頂いたと思います。   なお、本日、予定された議題では、「第三の二」についても御議論いただくこととしていましたけれども、時間の関係から、「第三の一」についての議論を今日の最後のテーマとしたいと思います。   どうぞ、更に御意見を頂ければと思います。 ○齋藤委員 二点教えていただきたいなと思っているのですけれども、例えば、フィギュアスケートなどで、足を上げているときに下半身のところを強調して撮るような写真をたくさん撮っている人たちというのは、「ひそかに」でもなく、対象が、そもそもフィギュアスケートの衣装は「下着」でもないので、それはこうしたところに当たるのかということが一つと、もう一つ、配布資料19の2枚目の「2」の提供行為に関して、これは、撮影した人が誰かに提供して、その提供された人が更にまた誰かに提供した場合も、処罰の対象となる提供に当たるのかということです。そして、やはり特定・少数が除かれてしまうと、そういう写真や動画を共有する特定・少数のグループ内で共有した場合が除かれてしまうというのは、問題ではないかと思いました。 ○井田部会長 大変有益な問題提起だと思います。一つは、フィギュアスケートの選手が、あるいはもうちょっと一般化すると、海水浴場などで、水着姿を撮影するような行為について、どの範囲であればいわば許容限度にとどまり、どの範囲から撮影罪の対象になってくるのかの線引きの問題ですかね。もう一つは、二次提供についてどう考えるかということですが、どうでしょうか。 ○橋爪委員 前半について、一言、私の理解を申し上げます。   撮影罪の処罰根拠とは、性的姿態等、すなわち一般に外部からは見られないもの、つまり、下着姿であるとか、あるいは性的部位のように、一般には外部からは見られないように衣服で覆われているものが撮影されることに伴う法益侵害に求められると思われます。そのような意味で、例えば、水着やスポーツのユニフォームなどは、外部から見られないものとはいえませんので、配布資料19の「1(1)対象」の「①」から「③」には該当せず、今回の原案では処罰対象からは除かれていると理解いたしました。 ○浅沼幹事 今、橋爪委員から御発言がありましたけれども、たたき台を作成した事務当局としましても、この案としては、そのような水着姿やユニフォーム姿は、処罰すべき撮影対象には含まれていないという案として作成しています。その上で、それが適当かどうかは御議論いただきたいという趣旨でございます。 ○齋藤委員 水着などもそうなのですけれども、性的な部位だと思われるところ、衣服に覆われているけれども、そこを特に強調して撮った場合みたいなことを想像したのですけれども、それは、この中には入っていないという理解でよろしかったでしょうか。 ○橋爪委員 以前の部会で発言した記憶がございますが、確かにアスリートの性的な部分を強調した撮影行為が横行しており、大きな問題であると認識しております。ただ、仮に性的に強調した撮影行為を処罰するとしても、例えば、精巧なカメラを使うと、普通の撮影行為でも後から加工などをして一部だけを強調することもできます。そうすると、性的に強調した撮影行為というものを、そもそも構成要件上、処罰対象を明確に規定できるかという問題もありますし、また、性的な部分を強調した撮影行為、あるいは性的な目的の撮影行為を処罰対象にするとしても、それを実効的に処罰することは困難ではないかとも思われまして、深刻な問題ではありますが、今回の撮影罪をめぐる議論では、一応分けて考えた方がいいだろうと考えている次第です。 ○佐藤(拓)幹事 簡単に、先に結論だけを申しますと、二次提供のところについては、提供の対象となる客体である画像ないしその画像を記録した物というのは、犯罪、つまり撮影罪によって成立した、出来上がったものだということの認識が必要だという前提で、処罰範囲に入ってくるべきなのだろうと思っています。また、特定かつ少数の者に対する提供行為についても、処罰範囲に含めるべきだろうと考えておりますが、ただ、行為態様はいろいろなパターンがあり得ますので、そこは丁寧に考える必要があると思っておりまして、そのことについて、処罰根拠と絡めて発言させていただきます。   今問題になっている配布資料19の2枚目の提供行為の検討課題のうちの「要件の在り方」のところで、正に相手方が不特定・多数であることを要件とするのか、それとも特定・少数の場合も処罰対象とするのかということが書かれているわけなのですけれども、この問題は、撮影罪の処罰根拠に立ち戻って検討すべきかと思います。   撮影罪は、性的姿態の視覚的情報が固定化されることによって、性的な姿態を他の機会に他人に見られ得る状態になるため、性的な姿態を他の機会に他人に見られないという意味での性的自由・性的自己決定権を保護法益として設けるものだといえますけれども、これは、撮影行為が不特定又は多数の他人に見られるという重大な結果を生じさせる危険性を有するため、実際に他人に見られる前の撮影行為の段階で処罰対象とするものと考えることができるかと思います。その上で、相手方が特定かつ少数の場合も含めるべきかについて、行為態様ごとに考えてみたいと思います。   具体的には、一つ目として、たたき台の「2(1)」の「画像又はこれが記録された物」の提供、二つ目として、たたき台には記載されていませんが陳列、三つ目として、たたき台の「2(2)」が想定していると思われますライブストリーミングです。   まず、「画像又はこれが記録された物」の提供です。不特定又は多数の者に対する提供は、先ほど述べたような意味での撮影行為の危険性を現実化し、重大な結果を生じさせるものですので、処罰対象とすべきだと思います。一方、特定かつ少数の者に対する提供は、確かに提供先が限定されてはいますが、提供先から不特定又は多数の他人に画像又は画像が記録された物が拡散する危険性があります。そのため、特定かつ少数の者に対する提供についても、このような意味での危険性を生じさせる行為として処罰対象に含めることが妥当ではないかと考えます。   次に陳列です。不特定又は多数の者に対する陳列、すなわち公然陳列は、撮影行為の危険性を現実化し、重大な結果を生じさせるものだといえますので、当然これは処罰対象とすべきだと考えます。これに対し、特定かつ少数の者に対する陳列については、提供の場合とは異なりまして、閲覧した者が記録しない限り、更に特定又は多数の他人に視覚的情報が拡散する危険性を必ずしも伴いません。また、当初の撮影行為によって評価し尽くされるといえる行為も含むことから、処罰対象とするかどうかについては慎重な検討が必要かと思います。   最後に、ライブストリーミングについてです。これを不特定又は多数の他人に対して行うこと、つまり公衆送信することも、先ほど申し上げた撮影行為の危険性、すなわち不特定又は多数の他人に見られるという重大な結果を生じさせる危険性を現実化し、重大な結果を生じさせるものといえますので、当然処罰対象とすべきです。これに対し、特定かつ少数の者に対するライブストリーミングについては、特定かつ少数の者に対する陳列の場合と同様に、送信を受けた側が記録しない限り、視覚的情報がそこから拡散して不特定又は多数の他人に見られる危険性を必ずしも伴わないことから、処罰対象とすべきかについては慎重に考える必要があるのではないかと思われます。   このような趣旨ですので、先ほど齋藤委員の御発言に対して、行為態様ごとに分けて考えるべきだと申し上げた次第です。   以上を踏まえまして、法定刑についてですけれども、やはり児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律とのバランスというのは考える必要があるかと思いまして、同法においては、特定かつ少数の者に対して児童ポルノを提供する罪が、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金とされているのに対して、不特定又は多数の者に対して児童ポルノを提供する罪及び公然陳列の罪が5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科とされております。両者の間に差が設けられていることとのバランスというのは、こちらの方でも留意すべきかと思います。 ○山本委員 議論が配布資料19の2枚目の「2」に移っているので、少し戻るのですけれども、1枚目の「1」について、佐藤陽子幹事が言われた処罰の範囲に入らないのではないかという親子の撮影と、あと公の場で自ら露出している場合についてだけ、述べさせていただきます。   例えば、親が成長の記録として撮影するということは、乳幼児のことを想定されているのかなと思うのですけれども、親が金銭を得る目的で子供の裸を撮影して、それを動画にして販売するというような、児童ポルノ製造に当たる性的虐待も起こっていますし、自分の性器を父親に毎年撮影されていたという被害者の方もいます。それらは、性的虐待を構成するということを共通認識にしていただければと思っています。また、公の場で自ら露出している場合ですけれども、事情がいろいろあると思われ、例えば、球技大会とか、あとダンスの発表会とか、あと舞台とかもあるのですけれども、会場が狭くて更衣室がなくて、ちょっと廊下の隅とかで着替えざるを得ないというようなこともあります。それを故意で撮影した場合に、それが含まれないというのはどうなのかなということも思いますので、いろいろな状況を鑑みて検討いただければと思っています。 ○長谷川幹事 配布資料19の2枚目の枠内の提供行為の方の「(1)」の要件の在り方についての意見を述べたいと思います。「(1)」の案は、「1の撮影行為により生じた」という限定が入っているのですが、この限定が不要、適切ではないと考えます。保護法益を性的自己決定とか他人に性的姿態を見られないということであるとすると、どのような画像かということが問題なのであって、撮影罪となる撮影行為で撮影されたものに限定すべき理由はないと考えています。また、提供者が自ら撮影した画像に限定すべきでもないと思います。   あと、撮影に同意があった画像の提供についての論点のところですけれども、撮影への同意と提供への同意は切り離して考えられるべきだと考えています。一般通念としても、個人情報保護の意識の高まりやSNSなどでのリテラシーの浸透によって、性的画像に限らず、画像一般について、撮影への同意に画像の提供、拡散、公表の同意が含まれるものとは考えられていない、世間一般考えていないのが通念であると考えられます。性的画像については、これがより当てはまると考えられますので、撮影に同意があった場合であっても、提供についてはこれを切り離して考えるべきと思います。   それから、特定・少数の問題については、私も特定・少数に対する提供も処罰すべきと考えています。 ○井田部会長 撮影罪を前提としない提供罪も作るべきだという御意見だと思います。 ○嶋矢幹事 今の点にも関係するところでございますが、配布資料19の2枚目の提供行為のところの最後の検討課題として出ております、「①撮影対象者の同意の下に撮影した画像を、撮影対象者の意思に反して提供する行為」について処罰をするとした場合に、生じ得る問題点について少し指摘をさせてください。   もちろん、それによる被害というのは生じ得るところであるのですが、これらを処罰する場合、その処罰根拠は、提供行為が撮影対象者の意思に反して行われることに求められることになり、各提供行為ごとに、その時点での撮影対象者の意思に反するか否かを問題とすることになります。そうしますと、撮影対象者の意思は時間の経過や撮影後の状況等に応じて変化をし得るため、例えば、販売することに同意して撮影し、その後、長期間にわたって販売されていたとしても、撮影対象者の意思に反した時点から、そのことをもって販売による提供行為が犯罪の構成要件に該当して処罰され得るということになるかと思います。その場合、提供行為をするに当たって処罰を避けようとすると、販売の都度、常に撮影対象者の意思確認をすることが必要となってきますが、常にそうした確認を求めなければならないとするのは、現実的に厳しい場合もあるのではないかと思われます。   ですので、このように撮影対象者の同意の下に撮影した画像を、対象者の意思に反して提供する行為を処罰するということにすると、処罰範囲の合理性の点で問題が生じ得るということを、検討の際には踏まえて考えていく必要があるように思われました。 ○小島委員 配布資料19の2枚目の「2」の提供行為について意見を申し上げたいと思います。   今、嶋矢幹事からお話があったのですけれども、基本的な考え方として、撮影行為と提供行為は違うということからスタートしたいと思います。提供行為については、撮影罪の被害の拡大という面と、これと異なり、性的姿態を撮影した画像をみだりに拡散されないという、そういう固有の利益があると思います。ですから、基本的には撮影罪は成立しないけれども、提供には同意していないという場合については、これは処罰すべきではないかと考えます。提供罪について、撮影罪の延長として考える、つまり撮影罪にひも付けるという法の構造から転換が必要ではないかと思います。今回のたたき台の「2(1)」は、「1の撮影行為により生じた画像」について、これを提供した者となっておりますが、ここは、特にひも付けをしないでもいいのではないかと考えました。   そこで、配布資料19の2枚目の検討課題の末尾に「①」と挙がっています、「撮影対象者の同意の下に撮影した画像」についてですが、撮影罪は成立しない画像を対象者の意思に反して提供する行為、同意なく提供する行為については処罰すべきではないか。もちろん、途中で対象者の意思が変わった場合どうなのかという難点はあるのですけれども、基本的には、やはり撮影行為と提供する行為は全く違うものなのだと、提供というのは、自分の性的画像を拡散されることだと分けて考えた方がいいのではないかというのが、私の基本的発想です。   それから、この検討課題にもう一つの例として挙がっている、「②1の撮影行為により生じた画像を収受、所持・保管又は複製・加工する行為」はどうなのかということでございますが、先ほど来申し上げているように、性的画像を人にみだりに見られない、拡散されない利益ということになりますと、これらの行為態様というのは、全て拡散する行為ですね、これについても、やはり犯罪ということで提供罪に入れていくべきではないかと思います。特に収受については、収受者が有する画像について没収・消去できるということになるので、大きな意味があるのではないかと思います。   性的画像の問題については、拡散される、拡散されたものが没収・消去できないと、自分の性的姿態が出回っている、それを何とかしてほしいという、消去のところとか没収のところに対して、被害者側の気持ちが強いわけですね。この提供罪と、それから撮影罪の範囲が広がって、これが犯罪化されることによって、消去や没収ができるようになるという、こういう関係になるので、撮影罪、提供罪については分けて、それぞれ犯罪を考えていく方がいいのではないかと思います。特に、単純所持についてはいろいろ御意見があるとは思うのですけれども、同意のない撮影だと分かっていて、不特定多数に頒布する目的で所持している場合は、処罰すべきだと。画像を持っていられるだけで精神的苦痛を感じる、拡散されるのではないかと不安になる、心の傷を与える、前回も申し上げましたように、この画像というのは、この世の中に存在してはいけない画像なのだという前提で、提供罪も考えていただきたいと思います。 ○井田部会長 撮影罪を前提としない提供罪を設けるべきであるということと、提供以外の様々な行為態様についても、処罰の範囲に取り込むべきである、こういう御意見だったと思われます。 ○佐伯委員 先ほど小島委員がおっしゃられました配布資料19の2枚目の末尾にある「②1の撮影行為により生じた画像を収受、所持・保管又は複製・加工する行為」の処罰について、若干意見を申し上げたいと思います。   まず、複製行為ですけれども、撮影罪により生じた記録の複製を処罰することについては、全く新たに記録を生じさせる撮影行為や、あるいは性的姿態を不特定又は多数の者が見ることを現実に可能にする公然陳列行為などとの比較において、法益侵害の程度に違いがあるのではないかという点の検討が必要ではないかと思われます。また、例えば、撮影行為者がデジタルカメラで撮影した性的姿態の画像を、パソコンのハードディスクに保存する場合、あるいはスマートフォンで撮影した画像が、自動的にクラウドにバックアップされる場合のように、デジタルデータについては、撮影と複製がセットで行われるということも多いので、そのような場合につきましては、複製したために、別の者に見られる危険性が増大したとはいい難く、撮影行為と別に処罰することに疑問があるのではないかと思われます。したがいまして、複製罪を設けるべきかについては、以上のような問題点も踏まえた上での検討が必要であると思われます。   次に、撮影罪により生じた記録の収受行為や所持・保管行為を処罰することにつきましては、これもまた、撮影行為、提供行為等と比較して、法益侵害の程度に違いがないかという点の検討が必要だと思われますし、各行為を併せて処罰する必要性、さらには、処罰規定を設けた場合に生じ得る問題点なども踏まえて、更に検討することが必要だと思われます。 ○橋爪委員 先ほどの小島委員の御意見にありました、配布資料19の2枚目の検討課題の末尾にある「①」の問題について、少し思うところを申し上げます。非常に難しい問題で、十分私も詰め切れてはおりませんけれども、今後の検討における視点となりそうな点だけ、簡単に申し上げておきたいと存じます。   第一に、撮影段階において、撮影者が、第三者に頒布、販売する意図があったにもかかわらず、その点を秘して、自分しか見ないと偽り、被害者を誤信させた上で撮影行為を行えば、先ほど嶋矢幹事からも御提案がありましたけれども、撮影に関する同意を無効とした上で、撮影罪の成立を肯定する余地があり得ます。そういった意味では、一部の類型については、撮影罪の範ちゅうでこのような問題をカバーする余地があると思われます。   多分、一番難しい問題は、撮影段階には販売、提供に関する同意があったけれども、その後、販売、提供に関する同意を撤回した場合だと思われます。確かに、被害者の同意は、実行行為段階で必要になりますから、被害者の同意という観点だけから検討した場合、事後的な撤回の余地を無制約に肯定すべきであるようにも思われます。もっとも、なお検討を要しますが、ここでは被害者の同意という観点だけではなくて、民事法上の契約の有効性という観点からも、この問題を検討する必要性があると考えています。つまり、民法上許容される行為について、これを刑法で処罰することは、刑法の謙抑性、補充性の観点から正当化できません。したがいまして、この問題については、そもそも民法上、いかなる範囲で契約に基づいて提供行為が正当化できるのか、あるいは、どこまで行為者が撤回できるかという問題など、私法上の権利関係を正確に理解した上で、それを踏まえて刑法の議論をしなければいけないと考えております。 ○今井委員 皆様の御意見と重なることになるかもしれませんが、今日の議論を振り返りまして、若干の整理を行っておきたいと思います。   当部会では、相互に関連します新たな罰則規定の新設を検討しているわけでありますが、その際の一般論を確認いたしますと、刑罰を科すことには、できる限り謙抑的であるべきという観点が当然必要でありまして、新たな罰則の対象も、真に処罰すべき行為であり、それが明確に定められるものでなければならないと思われます。   当部会での議論を通じまして、本諮問事項に関連して新設しようとする罪の保護法益については、本日も大変熱い議論があったわけですけれども、最低限の共通理解といたしましては、自己の性的姿態を他の機会に他人に見られないという意味での性的自由・性的自己決定権とするのが適当だということについては、ほぼ共有されていると思われます。   それに加えまして、小島委員、長谷川幹事等から、対象者の尊厳保護という観点も強調されておりました。それも考慮すべき視点だと思いますけれども、私の理解では、対象者の尊厳保護という観点は、対象者の性的自己決定権の基礎として重視されているのではないかと思われますので、そのような理解の当否は、今日も先ほど御意見がありましたように、撮影罪を前提としない提供罪を考えたときに、その提供罪の外延が明確になるかどうかという点との関係で、具体的に検討するべきなのではないかと思います。   そこで、対象者の尊厳保護ということは、また改めて検討するにしても、一般的に今日も言われてきた意味での性的自由・性的自己決定権という観点から、どういう行為が処罰対象としてほぼ合意されてきているかということなのですけれども、それは、例えば、典型的には、性的姿態の撮影行為や、これによって生じた画像の提供行為であろうと思われます。言わずもがなですけれども、そういった行為は、今申し上げたような保護法益の侵害を明確に認定し得るものでありますので、この点については異論がないと思います。   他方で、このような撮影行為やこれによって生じた画像の提供行為と比べると、当罰性を下回るものではないか、あるいは、処罰すべきかどうかについて意見が分かれる、そういった外延的といいますか、撮影行為とやや距離感があるような提供等、拡散行為について、どこまでを処罰対象とするかということは、保護法益を侵害する危険性の程度を、具体的に慎重に検討して決定すべき問題だと思います。例えば、先ほども、スポーツ選手がユニフォームを着ていて、そして、その一部にフォーカスし、クローズアップするというような行為でありますとか、部会長もおっしゃっておりましたけれども、水着を着るのが当然の海水浴場でありますとかプール等で、水着の一部について焦点を当てているような行為、多々そういうことが生じていると思いますけれども、そういったことが、この部会で、ほぼ合意されつつある法益との関係で、その侵害の程度があるやなしやという点から、そうした行為を処罰対象に取り込むかを検討すべきものだと思います。   保護法益を自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られない性的自由あるいは性的自己決定権とした場合には、今のように衣服を着けた状態の性的な部位が、画像上拡大されるなどして強調されたことによって、どの程度保護法益の侵害が生じているといえるだろうかということ、あるいは、具体的にどの程度まで強調すれば、ここで想定しています罰則の構成要件に該当するのか、そこに明確な線引きができるかという観点から、改めて慎重に検討すべきであると思います。そして、こうした加工行為、クローズアップするような行為が、保護法益の侵害を生じさせるとはいえないのだとしますと、その提供行為についても、やはり保護法益の侵害がより遠くなりますので、処罰するのは難しいのではないかと私は思いますが、また、皆さんと慎重に検討すべきだと思います。   撮影罪と区別された提供罪というアイデア、これは処罰範囲を広げるものでありますし、一方で社会的ニーズがあるようにも思えますが、法技術的に可能なのかどうかということを、冷静に考えてみる必要があると思います。同じく、提供行為とはいえない、それに準ずるような行為についても、同じ観点からの慎重な検討が必要だと思います。 ○山本委員 最後に質問させていただければと思うのですけれども、次の「第三の二」に向けて、サイバー露出とディープフェイクの議論がなかったのではないかと思います。グルーミングでも議論されましたが、チャットなど閉鎖的な空間で性的画像や動画を送り付けるサイバー露出については、法規制がないと伺っています。そのような同意のない性的画像や動画を送り付ける行為の規定は、配布資料19の2枚目の「2」の提供行為等に含まれる規定になるのかということと、あと、同資料の「2」に書かれている検討課題の一番最後の例の「②」の「加工」なのですけれども、AI技術により作成されたアダルトビデオの顔部分を別人の顔にすげ替えて、別人がアダルトビデオに出演しているように見せる行為のディープフェイクも、規定の対象にないのではないかと思うのですけれども、これは、この加工に入るのかということを、また次回教えていただければと思っています。              (宮田委員 退室) ○井田部会長 何かその点、御意見ございますか。よろしいですかね。   それでは、時間も過ぎておりますので、この「第三の一」についての議論は、本日はこの程度とさせていただいてよろしいでしょうか。   たくさんの御意見を伺うことができまして、まとめるというのは非常に難しいのですが、まず、配布資料19のたたき台の「1性的姿態の撮影行為」に関しては、その撮影の対象と、その態様・方法をどのように考えるかについて、たくさんの具体的な御意見を伺うことができました。まず、撮影としてどういう行為を捕捉すべきかについては、保護法益の侵害を生じる行為、すなわち、映像の記録・固定化を伴う行為を意味すると考えるのが適切だという御意見があったところです。また、撮影の対象については、これもたくさんの御示唆を頂いたところですけれども、例えば、画像自体から撮影対象者が誰であるかを特定できることなどは、要件とする必要はないのではないかと、こういう御意見がありました。   また、誤信が問題となる類型で、どの範囲を処罰対象とするかについては、諮問事項「第一の一」の議論と同様に、慎重に検討する必要があるという御意見があり、例えば、医療行為のために必要な撮影行為だと誤信しているといった、そもそも撮影行為の意味を誤信している場合については、これは法益侵害が明白ですので、たたき台の「(2)態様・方法」の「②」の類型とまた別の類型として処罰対象とすることが考えられるのではないかという、これも貴重な御意見を頂いたところです。   また、たたき台の「(2)態様・方法」の「①」、「ひそかに」の類型については、例えば、医療行為としての撮影行為など、正当な理由のある場合、また、人が通常衣服を着けている場所で、不特定又は多数の人の目に触れることを認識しながら、性的姿態を露出しているような場合については、処罰対象から除外すべきではないかという御意見があったところです。   たたき台の「2 性的姿態の画像の提供行為等」につきましては、撮影罪の処罰根拠を踏まえて、特定かつ少数の者に対する陳列とか、あるいはライブストリーミングなどについては、処罰の対象とするかどうか慎重な検討を要する、こういう御指摘がありました。また、法定刑については、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律における法的な定め方との関係に留意すべきであるとの御指摘がありました。   それから、たたき台の「2」の「(1)」及び「(2)」に掲げられた行為以外に、処罰対象とすべき行為があるかどうかについては、いろいろ御異論があったところですが、まず、撮影罪を前提としない提供罪を設けるべきだという考え方に対しては、賛成する複数の委員・幹事の御意見と、またそれに対しては、処罰範囲の明確化の見地から、消極的な複数の委員・幹事の御意見がありました。消極的な御意見の中には、その際、民事関係を無視して、一足飛びに犯罪にするというのは問題があるのではないかという御指摘があったことも、注意を引くところでありました。   複製罪を設けるべきかどうかという御意見については、これはやはり撮影行為や提供行為とは法益侵害の程度に差があるということで、果たしてそこまで処罰すべきかどうかというのは、難しいのではないか。また、収受や所持・保管についても、法益侵害の程度に違いがあるかないかの検討が必要であるといった御意見を伺ったところです。加工罪、加工した画像の提供罪を設けるべきだという御意見に対しては、具体的にどういう加工をすればその構成要件に該当するかを明確に規定できないのではないかという見地から、消極的な御意見もあったところです。   いずれも、今後の部会における検討のために、非常に有益かつ重要な御意見だと思われました。今の御意見を踏まえて、次の機会には更に掘り下げた議論をしていきたいと思っております。   それでは、本日の議論につきましては、もう時間を相当に超過しておりますので、ここで終了としたいと思います。   最後の「第三の二」については次回に積み残しとなりましたが、そのほかに次回の会議で取り上げる事項又は進行の仕方については、これまでの議論の状況を踏まえて、私の方で早急に検討し、また事務当局を通じて皆様にお知らせすることとさせていただきたいと思いますが、そのようなことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。   本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開をさせていただきたいと思います。また、配布資料についても公開することとしたいと思います。そのような扱いとすることでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきたいと思います。   次回の予定について、事務当局から御説明お願いします。 ○浅沼幹事 次回の第8回会議は、令和4年6月8日水曜日、午前10時からを予定しております。詳細につきましては、別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日はこれで閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-