法制審議会 担保法制部会 第17回会議 議事録 第1 日 時  令和4年5月31日(火) 自 午後1時30分                      至 午後4時49分 第2 場 所  法務省共用会議室6・7 第3 議 題  担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(4) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第17回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は大西さん、村上さん、衣斐さんが御欠席と伺っております。   まず、資料の説明をしていただきます。事務局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。本日は予備日としての開催となりますので、事務当局の方から新たにお送りした資料はございません。前回お配りいたしました部会資料15「担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(4)」を使用いたします。事務当局作成のものではなくて、阪口幹事から御提供いただきました「新たな規定に係る動産担保権の私的実行について」というものと、その別添の図になりますけれども、2点、委員等提出資料を頂いております。それぞれ17-1、17-2として配布しております。   資料については以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、審議に入りたいと思います。   部会資料15「担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(4)」というものがございますけれども、これについて、前回の続きのところから議論を行いたいと思います。続きはどこなのかというと、第4のところまでは大体終わったということで、第5の「1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法」というところからになります。事務当局におきまして、部会資料の説明をお願いいたします。 ○工藤関係官 関係官の工藤です。それでは、13ページの「第5 新たな規定に係る担保権の実行方法」の「1 新たな規定に係る担保権の各種の実行方法」について御説明いたします。   ここでは一読と同様に、動産を目的とする担保権について、私的実行として、いわゆる帰属清算方式と処分清算方式の二つの実行方法を認めるほか、民事執行法上の競売の方法による実行を認めることを提案しています。   一読では、担保権者が私的実行と裁判所の競売手続を利用する実行とを選択できるようにすることについて、実務的なニーズがあるとの御指摘があり、この点に反対する意見はありませんでした。他方で、そのような結論が妥当であるとしても、理論的な問題として、担保目的取引規律型を前提とした場合には、所有権者として扱われる担保権者に対して裁判所の手続による担保権実行を認めることとしてよいのかという御指摘がありました。また、担保物権創設型を前提とした場合には、例えば、動産質権は私的実行ができないにもかかわらず、新たな規定に係る担保権は私的実行ができることについて説明を要するのではないかといった御指摘がありました。新たな規定に係る担保権の各種の実行方法についての規定の在り方につきましては、これらの理論的な側面からの御指摘も踏まえて検討をする必要があるものと考えられますので、このような点も含めて御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構ですので、御意見等を頂きたいと思います。よろしくお願いします。 ○佐久間委員 担保目的規律型の場合には、所有権を有する者にその担保権の実行の資格を与えていいのかという御指摘がありましたという御説明があり、その点も含めて議論していいということなので、申し上げたいのですが、担保目的規律型を採るからといって、いわゆる譲渡担保権者とか所有権留保権者の有する権利が所有権であるという決定をしたことにはならないと思っておりまして、……ごめんなさい、思わずミュートを押してしまいました。申し訳ありません。どこまで話しましたか、分からないけれども、担保目的規律型は所有権なのか譲渡担保権などかなどを、今、聞こえていますよね。申し訳ない、少し机の上が汚くてばたばたしていたら、申し訳ありません。   担保目的規律型というのは、譲渡担保権者とか所有権留保権者が有する権利が担保権なのか所有権なのかということはさて置き、今、実態としてある譲渡担保とか所有権留保とか、そういったものを包括して合理的な規律を用意しましょうということだと私は理解しています。ですから、仮に理論的な問題を検討せよというときに、担保目的規律型というのは所有権を認めるものなのだからという整理は、そう考えていらっしゃる先生方もおられるとは思いますけれども、一致してそのような考え方が採られているわけでも、採らなければならないわけでもないと思っています。   質権について認められないのにというのも、それは別に、質権について認められないけれども、新たに創設する担保物権に認める効果というのはほかにもあるわけですから、そこもそこまでクリティカルな問題ではないのではないかと感じています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見ございませんでしょうか。   所有権を移転するという形をとった契約が担保目的であるときに、それをどういう効力のものとして規律するのかというのが、いわゆる担保目的の取引規律型なのでしょうから、そのときに、所有権が移転するという文言にもかかわらず設定者の方に残っていると考えることも不可能ではないわけであって、必ずしも所有権が担保権者に移転しているということを意味しているわけではないのではないかというのが佐久間さんのお考えであろうと思います。それはそうだろうと思いますが、ほかに何か御意見はございませんでしょうか。 ○片山委員 ありがとうございます。片山でございます。今の佐久間委員の御発言と趣旨は全く同じなのですけれども、今の判例法理としましても、譲渡担保で所有権が移転するということであったとしても、弁済期到来前は担保目的に必要な範囲での所有権移転ということですし、実行というのは、弁済期が到来したら換価処分権が付与されて、その換価処分権に基づく実行手続を行うという理解ですので、それは担保目的取引規律であったとしても物権創設型であったとしても全く同じ理屈ということですので、佐久間委員と同じように、民事執行法に基づく競売も併せて適用がなされるとすることに何ら問題はないかと思いますし、やはり私的実行のみということになりますと、適正な清算金の提供の支払がなされたかどうかという点が実行後の訴訟で長く争われるリスクも多く残りますので、そういう意味でも民事執行の規定に基づく競売の余地は必ず残しておかなければいけないのかなとは思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかにございませんでしょうか。   これは、第一読会のときに山本さんから何か御発言いただきませんでしたっけ。少し記憶が曖昧で申し訳ないですが。 ○山本委員 申し訳ありません、山本というのは私のことでしょうか。完全に失念しておりますけれども、どのようなことだったでしょうか。 ○道垣内部会長 分かりません、私も失念しておりますので。今ここで民事手続法を御専攻になられている先生の観点から見て、別段理論的には問題はなかろうとお考えになるのならば、それはそれで結構でございますので、そのようなお墨付きを頂ければと思いますが。 ○山本委員 私が代表しているわけではないと思いますけれども、私自身はこの資料を見て、特段の違和感は感じませんでした。先ほどの所有権者だからという点については、佐久間委員がおっしゃったとおりのような感じがいたしますし、実際上のニーズはかなりあるのだという御指摘は、今日の片山さんのお話を含めて、実務家の方からも出たと思いますし、規定を置くとすれば、理論的な問題は、私自身は余り感じませんでしたけれども。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに、よろしゅうございますでしょうか。ここは最初のジェネラルなところでございまして、個々具体的な中身がより一層問題になると思います。そして、各論的な議論をする際に、自然に第5の1のところに戻ってくるということになるかもしれませんので、少し先に進めたいと思います。繰り返しになりますが、その際、1についても含めて御議論いただいても結構です。   そこで、第5の「2 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について、まず事務当局から部会資料の説明をお願いします。 ○工藤関係官 関係官の工藤です。14ページの「2 帰属清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について御説明いたします。ここでは、帰属清算方式による実行手続について二つの考え方をお示ししています。   【案15.5.2.1】は、部会資料6でお示しした考え方です。この考え方によれば、担保権者は、設定者に対して目的物の引渡しを請求するに当たり、帰属清算の通知等をしたことに加えて、通知した目的物の評価額は一応の合理的な根拠に基づいて算出したものであることを主張立証する必要があり、設定者はこれを争うことができることになります。このような考え方を提案した趣旨は、目的物の客観的な価額を正確に算出するには一定の時間が必要であり、当事者間に争いが生じることもありますが、その間に目的物の価額が下落する可能性もあるため、その時点で一応の合理的な根拠に基づいて得られる評価額を基に手続を進行させることとして、目的物の価額の評価をめぐって実行手続が長期化することを避けようとしたというものです。   この考え方に対しては、一読の議論の中で、誠実評価額の概念が曖昧である旨、目的物の占有が設定者にある状態で担保権者が目的物の評価をすることは困難であるが、その場合に誠実評価額の算定に当たって担保権者に要求される調査の内容が不明確である旨、担保権者が暫定的な清算金を支払って目的物の引渡しを受けたものの、実際には目的物の客観的な価額が誠実評価額を下回っていたときに、担保権者が過分に支払った清算金の回収リスクを負うことは不合理である旨などの御指摘がありました。   このような御指摘を踏まえ、今回新たにお示しするのが【案15.5.2.2】の考え方になります。この考え方には、【案15.5.2.1】と比較して二つの特徴があります。一つの特徴は、誠実評価額という概念を採用しないこととして、目的物の価額についての立証責任を設定者に負わせるとともに、誠実評価額ではなく客観的な価額に基づいて算定された清算金の支払と、目的物の引渡しとが同時履行関係に立つものとしたことです。もう一つの特徴は、担保権者が帰属清算の通知等によって目的物の所有権を確定的に取得することと、目的物の引渡請求権の発生とを切り分けることとして、担保権者は帰属清算の通知等に先立って設定者に対して目的物の引渡しを請求できるものとしたことです。   もっとも、この考え方には、帰属清算の通知等に先立って目的物の引渡しが請求された場合には、清算金支払請求権がいまだ発生しておらず、これと目的物の引渡しとを同時履行関係に立たせることはできないため、設定者に対する清算金の支払をどのように確保するかという問題があります。この点について、設定者は、清算金が発生する見込みがあることや、その額を主張立証し、担保権者に対して清算金見込額の供託を請求することができるという考え方がありますが、この考え方による場合には、供託額及び還付額の判断や供託の手続の在り方をどうするかという点が問題となり得るように思われます。   また、以上のような二つの案の対立とは別に、受戻権の消滅時期の問題があります。いずれの案においても、帰属清算の通知等がされたときに受戻権は消滅するものとしていますが、これとは異なり、帰属清算の通知等に加えて現実の引渡しがされるまでは受戻権は消滅しないとの考え方が示されております。   最後に、目的物の調査費用、評価費用及び処分費用の位置付けの問題があります。この点については、処分清算方式においてはいずれの費用も被担保債権の範囲に含まれると解することができるように思われますが、帰属清算方式においては処分費用は直ちには被担保債権の範囲には含まれないとも考えられますので、その点は特約による対応が考えられるのではないかとの考え方をお示ししております。   以上について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   関連いたしまして、本日、阪口さんから委員等提出資料17-1、17-2というものですが、「新たな規定に係る動産担保権の私的実行について」という文書と、その別図というのが提出されております。これが実行手続全体とも関連いたしますので、この段階で阪口さんの方から御説明を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○阪口幹事 阪口です。お時間を頂きありがとうございます。それでは、委員等提出資料17-1及び2について御説明させていただきます。   この大阪担保法制研究会の山本、奥津、福井、福永という4名の弁護士からの書面は、部会資料15でも参考文献として引用していただいている金融法務事情2171号、2172号の論考を補充するものです。この委員等提出資料17-1及び2と金融法務事情の論考を合わせて本提案と呼ばせていただきます。本提案は、金融法務事情の副題に実務家の視点からという記載がありまして、執行や倒産を取り扱う実務家としての意見が色濃く出ており、その結果、理論的検討には十分でないところが多数あるのではないかと思っています。その点、御批判を受けて検討したいと思っていますので、よろしくお願いします。   本提案の出発点は、まず、現在の動産譲渡担保権については実行手続がスムーズに進まないという問題があり、それが動産譲渡担保権が活用されていないことの大きな原因だという問題意識があります。そのため、今回の立法に当たっては簡易迅速な実行手続がマストであると考えています。ここでいう簡易迅速というのは、主に占有の取得の面です。現在の実行手続の最大の難点は、担保権者がいかにして設定者から対象動産の占有を取得するかというところで苦労しているからです。また、対象物の評価であったり第三者への処分ということについても、やはり占有取得が必要だと思います。動産担保というのは、本来は担保権者と設定者が協力して任意で売却するという方が望ましいですけれども、法制度としては担保権者が強制的に占有を簡易迅速に取得できる制度が必要で、また、その制度があることによって、逆に互いに協力して売却することが促進されると考えております。   ところが、担保権者が簡易迅速に対象動産の占有を取得できるようにしますと、当然ながら設定者からすると、対処する間もなく重要な動産を引き渡さざるを得なくなる、その結果、再起の可能性がつまれてしまうという問題があります。そこで利害のバランス、調整が必要になるわけですけれども、本提案では、清算金の確保のための供託請求制度を設けること、及び、受戻しができなくなる時期を後ろ倒しにして受戻し機会を確保すること、この二つでバランスをとろうとしています。   先に受戻しの機会の確保について申し上げますと、部会資料15の16ページの(注11)にも書かれていますけれども、一旦清算を終了して、目的物の所有権が確定的に担保権者に移転した後も、設定者が目的物を受け戻すことができると、こういう制度を考えています。部会資料15の24ページでは、実行までに1週間の猶予期間を設けるか否かという論点が検討されていますけれども、事前の段階で僅か1週間の猶予期間があっても、実務的には、これは受戻しの機会の確保につながらないというのが正直な実感です。また、更に詳細な理由は部会資料15の24から25ページにも書かれています。   そこで、事前の1週間ではなく後ろに受戻しができる期間を延ばすということを考えて、具体的には現実の引渡しがされるまでは受戻権を行使できるとする。現実の引渡しを基準にするのは、占有が設定者の手元にある段階では第三者への処分清算というのはほとんど起きない、担保権者の子会社への処分なんかはあるでしょうけれども、普通の第三者は登場しないということ、また、帰属清算の場合であれば、占有の取得という面倒なことをするまでに受け戻してくれるのだったら、担保権者の方にとっても正直、ウェルカムというのが本音だからです。   これについては、部会資料15の20ページで、倒産局面において清算金の支払等によって確定的な所有権が担保権者に帰属するに至っているとすれば、その後の引渡請求は取戻権の行使であると考えられ、これを実行手続中止命令や禁止命令によって阻止することは困難ではないかという記載があります。確かに現状の枠組みの中では理論的にはそのように考えられます。この辺りも実務家としての感覚が優先してしまったのかも分かりません。ただ、仮登記担保法の受戻権というのは、言わば立法的に創設された権利であって、同様に別除権概念を少し修正する、若しくは実行中止命令、禁止命令の対象を少し拡張するということが立法論としてできないということはないだろうと思っているところでございます。   さて、もう一つの大きな問題が供託請求制度です。民法において何らかの権利を確保するために対立当事者に供託請求できるという制度は、394条2項、461条1項、578条の条文があり、また、そのほかにも供託によって何らかの担保を設けることで利害調整をしようという条文は、461条2項など多数あります。ただ、そのような担保的な趣旨の供託を定めた実体法については、その後の供託金の還付や取戻しなど具体的な手続が判然としないように思われます。他方、裁判所が立担保を命ずる手続、民事保全法だったり民事訴訟法、訴訟法的な立担保ですけれども、そのようなものであれば、その後の手続は非常に明確です。   そこで、本提案では、担保権者の引渡請求と供託請求制度を実体法的に考えるのか、手続法ないし執行法的に考えるのかについては、両論併記になっております。その二つの考え方によって幾つか違いが出てきまして、それは委員等提出資料17-1の4ページから6ページに少しずつ違いが書かれています。   具体的な手続の流れについては、部会資料17-2を御覧ください。ここの、まず左上のところに債務者A、債権者Bと書いております。設定者Aというべきかも分かりませんけれども、まず、BがAに対して実行開始通知を送ると、これに対してAが供託請求の抗弁を出すということから始まるわけです。これに対して、ここでは黄色くマーカーされた三つのルートを考えています。ただ、この三つ目の本訴ルートというものは、執行法的な考え方を徹底すると不要になるのではないかと思っています。また、二つ目の執行(保全)ルートと書かれている、この微妙な書き方は、執行法的な組立てと実体法的な組立てによって、根拠となる条文が民事執行法なのか民事保全法なのかが異なってくるので、このような曖昧な書き方になっています。   いずれのルートをたどっても、最終的に供託されて、新しい規定に係る担保権が実行された後の供託金の還付、取戻しに関しては、右側の赤い丸の中で幾つか枝分かれしています。実務的に一番問題になるのは、右の一番下の、確定清算金請求訴訟が全部又は一部認容となった場合の取戻し手続、ここのところが一番ややこしくなります。ここまで考えると、この4名の方の意見ではなく、私個人の意見としては、執行法的に考えた方が制度設計しやすいだろうとは思っていますが、実体法的に考えても制度設計できないわけではないというのが本提案になっております。   これらの供託請求制度は、清算金見込額は飽くまで見込みというものであって、対象動産の客観的価値で定まる確定清算金とは全く別だという割り切りをしています。そのため、部会資料15の20ページでも指摘されていますけれども、占有を取得した担保権者がいつまでも帰属清算も処分清算もしないという問題があり得て、その場合には、占有取得後一定期間の経過、又は占有取得後に設定者からなされた催告から一定期間経過することによって帰属清算がなされたものとみなすという規律が必要になると思われ、そのことは委員等提出資料17-1の6ページに記載したとおりです。   私からの説明は以上です。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、今の阪口さんからのお話も含めまして、どなたからでも結構でございますので、いろいろ御意見を賜れればと思います。最初に山崎さんからお手が挙がっていたように思うのですけれども、山崎さん、お願いできますでしょうか。 ○山崎委員 ありがとうございます。今の阪口先生の御提案のものとは違うのですけれども。 ○道垣内部会長 はい、それで結構です。 ○山崎委員 先ほど事務局の方から提案された【案15.5.2.2】について、1点申し上げさせていただきたいと思います。   事業者などにヒアリングを行ったところ、設定者が清算金請求権を有するときには、担保権者が清算金の支払又はその提供をするまでは目的物の引渡しを拒むことができるとありますが、既に債務不履行となっている事業者が目的物の評価額の立証責任を負担し、清算金を提示することは、現実的には困難ではないかという意見がございました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大澤委員 大澤でございます。今の阪口先生の提出資料と関連すると思いますが、まず、阪口先生がおっしゃられた実務的なバックグラウンドにおいては、私も同様に考えております。といいますのも、やはり今回、個別動産あるいは集合物等も含めた新しい担保権ということで、実行されてしまうと即時に事業が止まるという可能性は極めて高いものと、まず、考えております。その意味で、設定者において受戻しの時期というものを後ろ倒しにしておくべきではないかと考えている次第です。   一方で、担保権者の迅速な実行ということもありますけれども、そこは何らかの期間等を設ければいいのかなとも思っておりまして、むしろ動産の評価、主として動産を念頭に置いて考えておりますけれども、評価が変動しやすいようなものを金融機関が一括で実行して、買取り業者等が買ってというのを、どこか部会資料にもありましたけれども、そうしますと往々にして評価も下がってくるというところでもございます。やはり債務者がうまく売っていくというのが一番いい話であり、事業としても成り立ちますし、回収としても大きくなるという考え方が基本にございますので、受戻権の行使というものをできる時期を後ろにしたいとは考えております。   その観点で申し上げると、【案15.5.2.2】ですけれども、【案15.5.2.1】も同じような問題になるとは思うのですが、やはり通知によって受戻権が消滅してしまうということとなりますと、もちろん債務不履行に陥ってはいますけれども、そこでもう完全に事業の息の根が止まるということを考えますと、何らかの猶予期間、協議期間があってしかるべきではないかと。具体的に申し上げると、【案15.5.2.1】でも【案15.5.2.2】でもありますが、通知というのがまず冒頭にあって、通知から一定の期間、例えば2週間とかそういった形で協議期間のようなものを設けて、その上で、その間に協議がまとまらないということであれば、元々債務不履行状態にもある債務者ですので、最後のチャンスをもう与えたということで、今度もうそこで受戻権が消滅するというようなことを考えてもいいのかなと。そういう意味で、【案15.5.2.2】は、やはり担保権者に優位になりすぎるというか、設定者に最後のチャンスを与える場面としては少し不適切かなと考えております。   一方で、【案15.5.2.1】では誠実評価というお話が出てきております。確かに誠実評価とは何かというお話であるとか、評価とは何かと、きちんとした評価ができるのかというようなお話はあるかと思いますけれども、貸手側からすれば恐らく、貸したときにまず評価をして、その後モニタリングをして、何らかの形でモニタリングをしているからこそ貸し続けができるということになるわけですから、全く評価ができないということは恐らくなくて、その銀行が自分側の資料に基づいて評価ができるという素地は十分にあるのではないかとも考えます。そうしますと、誠実評価という形できちんとしたものの枠組みを示して、それが実行通知、【案15.5.2.1】(1)でいう通知ですかね、こういったものに乗って、それが債務者に着いた上で2週間程度の協議というような確定的な期間が定まっておれば、その間に再度の話合い、協議のやり方というものがあって、それでもやはり駄目だということであれば、そこからは実行に進むというような考え方もありではないかと、なので、【案15.5.2.1】の変形のようなことを考えております。その間、確かに、動産ですから隠匿なり何なりを債務者がやってしまうというようなことも、そういった事例も否定はできないと思っておりますので、その間に関しては担保権者による保全処分等で対応できるのではないかとも考えております。   また、阪口先生がおっしゃられましたとおり、事前の1週間というのでは実務上はとてももたないというのが、私も同じ考えでもございまして、同様の考えから、こういった受戻しについて後ろ倒しにして、最後のチャンスを与えていくべきではないかと考えた次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○片山委員 どうもありがとうございます。慶應大学の片山でございます。今回御提案いただいている【案15.5.2.1】、【案15.5.2.2】、それから、阪口幹事から御提案いただいた別案も、いずれもそうなのですけれども、清算金の確保ということが重要だということで、清算金請求権を根拠とした引渡しの拒絶のような権利、これは【案15.5.2.1】では同時履行ですが、【案15.5.2.2】では同時履行関係にはならないのだけれども、やはり引渡拒絶を認めるということで、阪口幹事の御提案も同じところがあるのかとは思います。これは私も実務がよく分からないところではありますけれども、そのような形で設定者に引渡しの拒絶権という形で権利を認めてしまいますと、例えば清算金が発生しないようなケースでも設定者は引渡拒絶権を主張して、それによって実行が動かなくなってしまうのではないかというような危惧をやはり持っております。   動産に関しましては、設定者による処分の防止ということもあるのでしょうが、それ以上にやはり占有がないと換価処分できないという面がありますので、担保権者がまず占有を取得するというのは実行手続のスタートラインにあたるものであって、清算金の提供とか弁済というのはむしろ換価処分の最終段階に位置付けられるものですので、理論的に同時履行関係に成り立ち得ないと思います。清算金の提供とは切り離して引渡しを請求できるという点をベースとして、その上で清算金をできる限り確保するという制度設計を考えるべきではないかとは思っております。   このように、清算金の確保と引渡しを関連付けてしまうと手続が動かなくなってしまうことが危惧されるとところですので、設定者の保護は、今もいろいろ御提案のあったような、実行期間であるとか猶予期間を前後に設けて、また、25ページにはいろいろ御指摘をされているところではありますけれども、受戻権の確保にとどまらず、倒産手続における担保権実行手続中止命令等の機会の確保、あるいは設定者の商流を用いた売却の提案の機会の確保というような形での保護を図れば十分で、清算金の確保については、最終的には清算金の請求訴訟に委ねてもいいというような割り切り方をすることも一つの考え方ではないかとは感じております。実務を十分知らなくて申し上げるのは恐縮なのですが、まずは動産の場合は引渡しをしてからでないと、担保権者の方で占有確保した上でないと実行手続が進まないのではないかという点が非常に危惧されているところではあります。よろしく御検討いただければと存じます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。今ほど片山先生から実務上の感覚についてお問い掛けを頂いたところなのですけれども、実務上、担保権者の感覚としては、やはり引渡しが先んじてあった方がよいかもしれないという感覚自体はございまして、そういう意味では【案15.5.2.2】によれば先に引渡しを実現できるというところに魅力を感じる部分はあります。一方で、これも既に再三指摘されているところでありますが、設定者の清算金請求権の保全が図られないといけないというところがありまして、【案15.5.2.1】の設計の合理性も当然認められるのかなと思っております。   ただ、ここで一旦考えてみたいのは、清算金請求金の保全が認められる必要があるから同時履行の抗弁を認めないといけないということが、今の片山先生の御指摘にも重なる部分があるかもしれないのですが、そういう設計が合理的なのかどうかというところはありまして、例えば、担保権者に十分な資力があって、かつ清算金が発生した場合には速やかに支払いますという意向が明確だった場合に、設定者の清算金請求権の保全を必要とする状態ではないかもしれなくて、その場合に別途の取扱いを許容するというのは認められてしかるべきなのかなと考えます。   一方で、これも片山先生から御示唆があったところなのですけれども、清算金の有無だったり金額だったりという点のみが論点となって紛争が生じ、その結果として設定者が引渡しを拒絶できるということになるのは非効率なのかなと考えます。そうだった場合に、帰属清算の通知等あるいは清算金の支払等と引渡しとが同時履行であるというルールの在り方につきまして、デフォルトルール的な設計にするということも考えられなくはなくて、例えば、設定者と担保権者間で担保権設定契約の締結交渉をする際に、担保権者側から、自分には十分資力があって、かつ清算金の支払が必要な場合にはきちんと支払うということを明らかにする説明がなされて、設定者もそれを合理的に了承できるということなのであれば、別段の定めとして同時履行の抗弁権等を放棄する特約を認めるという設計はあり得るのではないかと考えております。   一方で、万一不誠実な担保権者がその設定交渉の段階において背信的に虚偽の説明をする、すなわち資力がないにもかかわらずあると言ったり、支払う意思がないのにもかかわらずありますというふうなことを言ったりした上で、ある種錯誤的に放棄の特約が締結されてしまったような場合には、実際に担保権実行の局面に至って引渡しの請求があった場合に、設定者側から、放棄の特約は無効である、したがってデフォルトルールに基づいて同時履行の抗弁を主張するというふうな争い方ができるような設計、運営にするということも考えられなくはなくて、そういう場合に設定者側から放棄特約の無効をいう際に、担保権者に実際に資力がないとか、仮に清算金が発生した場合に速やかに支払うことが認められ難い事情があるとかということを主張立証することによって特約の無効をいえるというふうな運用の仕方もあるのかなと考えます。   こういう少し荒っぽいことを申し上げながら、また別の実務的な観点からの指摘になりますが、そういう放棄特約が本当にどこまで必要なのか、先んじて引渡しを得ることが実務上どこまで確保されていないといけないのかということについて、仮にそういう特約が有効と認められて、実体上の請求権として先んじて引渡請求ができるということになったとしても、設定者が非協力的であった場合には結局、速やかな引渡しが実現しないということに現実的にはなってしまうのかなと考えております。そうした場合に、引渡請求訴訟を提起して、債務名義を取って、執行してという間に、目的動産は価値が減価してしまう、劣化していってしまうということなので、結局奏功しないということになりそうです。特に、私的実行の場合において、紛争含みであるということになりますと買手が現れないということになってしまうのかなと思います。そうなりますと、非協力的な設定者を前提とすると、最初からラストリゾートとしての民事執行法に基づく競売手続によらざるを得ないかもしれないとも思われます。   万一、例外的なのかもしれないのですが、なお私的実行ができて、先に引渡しが得られた方がよいということなのであれば、この後検討されることになると思うのですが、かつて部会資料6の第2の2で議論いたしました保全処分を有効に活用し、担保権者として占有を先んじて確保する一方で、保全処分における担保金の提供等を通じて設定者の清算金の確保を図るというふうな運営でもって実務的な落着を図っていくというのも一つの制度運営、制度設計上の考え方なのかなとも思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。払うよと言えばいいということになりますと、それはいかがかとも思いますが、全体の流れとしては理解できるお話かと存じます。 ○阪口幹事 阪口です。片山先生と本多委員のおっしゃる、占有取得までにどこまで担保権者に要求するのかという問題意識は、委員等提出資料17-1というか、本提案でも同様にあります。清算金を現実に支払う、若しくは提供するということまで求めるのは、やはりやりすぎだろうというところで、供託という一種のエスクローのような制度を設けてバランスをとろうとしているということになります。もちろん供託請求制度を導入した場合でも、法外なことを要求されたら法外な供託金を積まなければいけないのかという問題が起きるわけですけれども、そのときこそ、先ほどの17-2でいうと②のルートで、設定者が法外な供託金を要求していますということになれば、裁判所からすると、それはおかしいということで、むしろ無審尋に行くかも分かりませんし、対処可能であろうと思います。やはり払うということと供託というところでとどめるのは実務的には大分違うのではないかというのが、弁護士的な発想かも分かりませんけれども、そこでとどめることによってバランスをとるということです。   また、本多委員のおっしゃる、最初に同時履行の抗弁権を放棄する特約というものを一定の場合認めるという考え方はあり得るとは思うのですけれども、しかし、一般的に銀行は資力があるので、銀行はセーフ、それ以外の担保権者はそうでないと、そういうことになるのか。それは立法の形式としていいのかなと疑問を感じるところです。かつ、仮に放棄特約が無効だということで争う余地があるとすると、これまた逆に手続が重くなるリスクがあることにもなりかねません。さらに同時履行の抗弁権若しくは留置権の放棄特約というのは、そもそも、現行法だと認めないのではないかと思っていて、解釈は分かれるかも分かりませんけれども、そういう方に進むのはむしろまずいのではないのかとも思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。資料の【案15.5.2.1】と【案15.5.2.2】に共通する考え方として、担保権者による通知に記載される評価額と実際に債権が消滅する額とは異なるというものがあると思います。それを踏まえた上で、後者の方、実際に債権が消滅する額の評価についてなのですけれども、その消滅額については両方とも、通知時の評価額であると書かれています。ところが、通知時に評価額が確定すると、目的物が減価するようなものであった場合に、債務者の側がその引渡しを拒んで、ごねるとかもめるとか非協力的な態度をとった場合に、債務者の側には全く損がないというか、清算金は通知時の評価額をもとにもらえますし、債権の消滅額も通知時の評価額をもとに決まりますし、債務者の側には全然損はないのですけれども、もめられればもめられるほど債権者の側が損をしていくというようなことになりそうな気がいたしました。   先ほどの御発言でも、非協力的な債務者への対応が実務的に大きな課題であるということがあったと思うのですけれども、債務者のなるべく協力的な態度を引き出すのであれば、評価時点を現実の引渡時にするということはあり得ないでしょうか。そうすると通知のときの評価額と実際の評価額というのは更に掛け離れていくことになるかもしれないのですけれども、元々その違いを容認しているのであれば、そのような制度設計はあり得るのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。しかし、その方法を採るときには同時履行関係はどうなるのですか。何が言いたいかというと、清算金が100万円ですと言われて、それならばいいかなと思ったら、払われる段になると、それから下がって50万円になっていますと言われますと、いや、それならば納得できないという話になりそうな気がするのだけれども、同時履行関係がないということならば後で決まる話なので、清算金決定の基準時だけの問題になるのですけれども、プロセスとしてのどういったことをお考えなのかというのを少し補足していただければと思います。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。私としては、不動産譲渡担保について同時履行の法理があるというのは十分理解しているのですけれども、動産のように、もちろん動産にも様々な種類があるのですけれども、比較的値段が下がりやすいものですとか、隠匿が容易であるといったものについてまで同時履行関係を維持する必要があるかということについて、少し疑問を持っております。 ○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございました。 ○井上委員 井上です。実行手続は、実際にはそれほどは使われないことが想定されるとは思っているのですが、担保権の権利の中身を実現する究極的な手続という意味で、非常に重要だと思います。ただ、先ほど議論されていたとおり、基本的には債務者にとっても担保権者にとっても高く売れることはいいことなので、本当に担保目的物を売らなければもうにっちもさっちもいかないという状況であれば、任意売却、すなわち債務者が協力して売却することを志向するのが本来的なシナリオだろうと思います。しかし、実行手続というのは、そういうわけにもいかないと、これは売るわけにはいかないと債務者が抵抗する状況で、強制的に実行するという、そういう場面で使われるものだという、当たり前のことなのですが、前提で考える必要があると思います。今回御提案の【案15.5.2.2】は、不履行になった途端に、引渡しを請求でき、その時点で帰属清算通知をしていないと、先ほどの御説明のように、清算金との同時履行の主張もできないとすると、受戻権がすぐになくなってしまい得る点で、債務者側からすると問題ではないかと思います。恐らくそういう問題意識で、阪口先生からの御提案を検討することができると思いますし、正にこの点で、大阪担保法研究会の提案は、有力な選択肢になり得ると思いました。   ただ、一方で、この御提案は、最初の印象として、裁判所に頼る面がやや強いという印象がありまして、動産の評価について、担保金の判断なり何なりの局面で、裁判所の負担といいますか、裁判所が果たしてそれをよりよく評価できるのかということは一応考えられるように思いました。あと、担保権者の観点で申し上げると、債務者側で、言わば言い値で清算見込額を供託請求すると、納得できない担保権者は執行あるいは保全ルートを取ることになると先ほど御説明があったわけですけれども、そうすると、譲渡担保のメリットが私的実行ができるところに一つあるとすると、そのメリットが相当程度失われる面があると思います。このように、実行の場面に関して、裁判所の関与がかなり想定されるというのが、担保権者から見てどうかというのは一つ考慮点としてあり得るかと思います。あとは、現実の引渡しまで受戻しができるということで、それまでは逆に所有権の移転について確定できない点が、処分活動にどのぐらいの影響があるのかも考えなければいけないように思います。ただ、そうはいっても、今回の御提案は、両者のバランスを考えた有力な提案ではないかと思います。   それに対するもう一つの対抗馬といいますか、有力な考え方としては、私はむしろ【案15.5.2.2】ではなくて【案15.5.2.1】が考えられると思っております。先ほど本多委員から言及があったと思うのですけれども、こちらの立場は、一読のときに御提案のあった、設定者の調査受忍義務と、それから、どういう要件かはともかくとして、その調査に必ずしも協力的でない場合も含めた引渡しの保全処分とセットで考えるべきだと思います。この1案は、これらと一つのセットといいますかまとまりとして、有力な選択肢になり得るのかなと思っております。   ただ、こちらについては、先ほどの御説明にもあったように、誠実評価の中身が曖昧であるという問題や、これを客観的評価に近付けすぎると、客観的な清算金と分けてスムーズな実行を実現しようとした趣旨が害されるという問題がありますし、他方で非常に軽くといいますか、中身を薄いものにしすぎてしまうと、これは逆に担保権者からの言い値で、清算金がありそうな場合もそれが保全されないまま簡単に受戻権が失われてしまうという問題があるので、どういうふうにこれらの弊害をなくすかというのが、こちらの方はこちらの方で問題になると思います。ただ、誠実のレベル感にもよりますけれども、元々一定の担保評価をした上でモニタリングをしているのに加えて、調査受忍義務の履行を要求して、一定の情報を収集し、その上で得られた範囲の情報で評価するということで手続を前に動かせるということであれば、これを一つの有力な実行方法として考えられるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。本多さん、藤澤さんの方から、同時履行関係というものを動産において余り強く要求するというのは、減価のリスクなどを考えると妥当ではないという場合が結構あるのではないかという御意見が出まして、そのような問題意識は阪口さんが御説明くださった大阪の弁護士の意見のところにも含まれているのだろうと思います。しかし、そうだからといって清算金が確保できないのは困るといったときに、【案15.5.2.1】というのは誠実に評価した額で、これも供託できるのだと思うのですが、供託しましょうよ、ないしは提供しましょうよという話なのに対して、【案15.5.2.2】の方はそういうふうな誠実評価という概念を入れないので、少し困ってしまっているという感じかなと思います。   【案15.5.2.2】について、少し脇道に入りますと、私はこれが、清算金が発生していないので同時履行の抗弁が立たないという説明は少し、そうなのかなという気はします。清算金は客観的な価額によって発生しているのではないかという気が私にはするものですから、少しそれはどうなのかなと思うのですけれども、しかし、いずれにせよ、それを詰めて確定していくというのには時間が掛かりますので、そこが問題になります。それは裁判所の手によって適当な額を定めて供託させるということもできるかもしれませんけれども、一定の時間が掛かってしまうということになりますと、せっかくのシステムというのが崩れてまいります。そこで、そこを誠実に評価した額でやるということにしてはどうかというのが本来の【案15.5.2.1】の立場なのだろうと思います。ただ、「誠実」という言葉を入れますと、不誠実であったと後から言われると困ると、不安だと、こういうことをすれば誠実であったということを明確にできればともかくというのですが、それはなかなか難しいところもあるのだろうと思いますし、そういうところは、無理のない資料の範囲で合理的な判断ができれば、それはそれでいいということなのではないかと思うのですけれども、その辺は更に詰めていく必要があるのかもしれません。それに対して、【案15.5.2.2】はもちろんのこと、供託すればというのもそうかもしれませんけれども、供託の時期をどこまでに設定するかにもよりますけれども、受戻しの範囲をもう少し期間を長くしなければ、債務者の更生等に、再生等に支障を来すというふうな御指摘もあったと思います。   ほかに何か御意見はございませんでしょうか。 ○阪口幹事 阪口です。ここは一応、個別動産の執行が前提なのでしょうけれども、集合動産を考えたときに、担保権者にとって対象動産の数も分からないということがあると思います。何が何個あるか分からないという事態が一定数発生する。特に執行の場面で問題となる非協力的な債務者、設定者というものを考えたときには、一体今日現在何個残っているか分からないし、少なくとも実行通知を送って、実際に引渡しを得るまでに何日か空いただけで、また数も変わるかもしれないという、そういう問題がある中で、誠実評価額の誠実性を決めるのはかなり難しくないかと思います。その結果、もう債権者が思った個数でいいのだというところまで薄めないといけないことになって、それは、ほとんどもう何でも、担保権者の言い値でいいということとほとんど同義だと思うのです。だから、誠実評価額というのは実際、ほとんど無内容というと失礼ですけれども、言い値価格ということと同義でないとうまく回らないことになるのではないかというのが【案15.5.2.1】に対する問題意識です。つまり、本提案の金融法務事情の方に書いてあったと思いますけれども、個別動産であっても機械が壊れているかどうかも分からないし、集合動産だったら数も分からないという、そこが誠実評価額に対する疑問のスタートです。数が分からない問題に対して、【案15.5.2.1】というのは、どういうことがあれば誠実だということを想定しているのかにつき、もし法務省の方でお考えがあれば、お教えいただきたいと思います。 ○道垣内部会長 法務省のお考えはともかくとして、裁判所が決めるというときにはどういうふうにして決めるというふうなお考えなのですか。 ○阪口幹事 すみません、裁判所が決めるというのは、17-1の場合の話でしょうか。 ○道垣内部会長 いえ、大阪弁護士会のグループの2の執行保全ルートにおける清算金見込額の供託額を裁判所が決めるといった場合の、数などが分からないのではないかという話はそこには当てはまらないのでしょうか。 ○阪口幹事 委員等提出資料17-1の考え方は、まず債務者が、私の手元に何個あります、1個当たり何ぼです、他方で被担保債権は何ぼだから見込額は何ぼあるはずですと設定者側が言うことから始まります。それに対して、担保権者が分かった、言い値で供託するわというのがこの三つのルートのうち①になりますし、それほど沢山残っているはずないし、そんな価値もあるはずはないと思って裁判所に決めてもらおうとするのが②の執行(保全)ルートです。執行(保全)ルートの中で、債務者が、今現在何個ありますということを言っていかないと、その見込額は出てこないわけですから、その証拠が提出されたら裁判所がそれに対して判断するということになります。他方、誠実評価額案、【案15.5.2.1】というのは、基本的な考え方としては、裁判所が入るまでにまず誠実評価通知を送ることになる。そうすると、まだ誰も入っていない中で、一体どうやってその数字を決めていくのだというのがはっきりしません。だから、【案15.5.2.1】と17-1の違いは、プロセスが違うのだと思います。 ○道垣内部会長 そのときに、例えば、誠実評価額の話が出るとともに、調査権限とかいろいろの話が出たりしていましたけれども、例えば、設定者側が資料を提出する義務を負うというふうな設計をするということでは足りないのでしょうか。別に私は【案15.5.2.1】にこだわっているわけでも何でもないのですけれども。 ○阪口幹事 もちろん債務者がいるときに、債務者側が調査受忍義務を負うので、それに基づいて物事が進んでいくということはあり得ると思うのです。しかし、例えば、実務的には、設定者がもう行方不明になっているケースなんかもあります。そのときにはもちろん担保権者は自力執行できませんので、結局裁判所の手を借りるわけですけれども、そもそも尋ねる相手もいないときには調査受忍義務では分からないわけですよね。そうすると、結局、そこでいう誠実評価額というのは正に、分からないことが前提の評価をもう誠実な評価とするのでしょう。相手がいないことをもって誠実だということにするということであれば筋としては通るのですけれども、手前に調査受忍義務があるから、スムーズに物事が流れていくという感じでもないと思います。勿論、現実にはうまくいくケースも一杯あると思いますけれども、基準時が早くなっているものですから、全てがうまく回るわけではない気はします。 ○道垣内部会長 しつこくて申し訳ないのですが、債権法改正のとき、「重大な」債務不履行という言葉についてもめたのと同じような構造にあるのではないかという気がするのです。というのは、これを「誠実」といったものだから、「誠実」とは何かという話が出てきてしまうと。例えば、「合理的」といったら「合理的」ではないときはどういうときかという話になるのかもしれませんけれども、やはり「誠実」という言葉が多少きついというのが、どこまでやればいいのかというふうな不安感を生じさせているような感じがするのです。というのは、裁判所に決めてもらうといったって、債務者、設定者の側でそれなりの資料を出して、それで裁判官が判断できるようにして、きちんとやらないと決まらないわけであって、そのときに、きちんと資料を出さないからもうこんなものは駄目です、ゼロですと判断することが、裁判所の判断として適切であるといえるのならば、それは設定者側が、きちんとした資料も出してこないでいろいろ言っても駄目だ、そのとき清算金はゼロだと担保権者が通知したとしても、それは合理性のある清算金の通知になるのではないかという気がするのです。「誠実」という言葉が嫌われているのではないかという気がするのですが、そんなことはないのでしょうか。 ○阪口幹事 概念的に、確かに誠実という概念は非常に分かりにくいという感覚はもちろんあるのですけれども、それとは別に、プロセスでいうと誠実評価通知が先行しなければいけないという、そこがしんどいと思うのです。もちろん調査受忍義務というのを前に持ってくることによって、いきなり誠実評価というのが始まるのではない、もっと前段階があるという説明なのだと思うのですけれども、そうはいっても数字を一旦フィックスする時点がどこかにあり、かつ、それは対象動産が手元にない時点で数字をフィックスするということになります。それがこの【案15.5.2.1】の最大の難点というか、うまく理解できない、実務的にそれで本当にいいのかと思う問題点です。誠実概念ももちろん問題なのですが、その数字をフィックスする時点の問題、飽くまで手元にない時点で通知しなければいけないという、そこが【案15.5.2.1】の問題点だと思っています。 ○道垣内部会長 私がどれかの見解にコミットしているわけではないのですけれども、裁判所に引き渡すわけではないですよね。どうして裁判所の方は資料から一定の合理性を持った判断ができるのに、債権者がその判断をするのは苦しいということになるのですか。 ○阪口幹事 阪口の方が答えさせていただきますと、裁判所の手続は信頼できるという前提があり、かつ、もう一つは、債権者といってもいろいろな債権者がいるという前提で立法しなければいけないと思うのですけれども、裁判所をかますとそこで調整がうまくいくというのが実感です。立法の対象となる債権者は金融機関だけですというなら、誠実評価という概念で問題はないかもしれませんが、現実にはそうではない立法を考えなければいけないと思います。そこへ裁判所というのが入ると、変な人は裁判所にそう簡単に来られないというか、来てもいいのですけれども、来てもなかなかうまくいかないということもあるので、バランスがとりやすいということです。また、委員等提出資料17-1の一番の眼目は、飽くまで供託させるだけ、お金が宙に浮くだけなので、裁判所としては比較的安心して発令できるということです。現在の民事保全法に基づく引渡断行の仮処分はかなりハードルが高いわけですけれども、新しい立法をして、かつ、それが執行法のものだとすると、所詮供託、立担保だからねという、そういうイメージで発令もしやすいというのが、これは理屈ではなくて裁判官のマインドの問題ですけれども、そういうふうにも思っています。 ○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございました。   ほかに御意見はございませんでしょうか。   多数の御意見としては、客観的な清算金と同時履行関係に立つというのは難しいだろうということかと思います。同時履行関係にするのか供託にするのかはともかく、一定額を払えばそれで暫定的には引渡しが行われるとしなければよくないだろうというのは多くの方がおっしゃっているとことかなと思います。大澤さんの方からは、それで受戻権をどこまで認めるかという問題は更に残っているという御指摘があり、それはそのとおりなのですけれども、それを含めて、具体的な手続においてどういうふうにすればうまく調整できるのかというのが、いろいろな方の御意見が若干分かれているということかなと思います。   いかがでしょうか、ほかに。 ○笹井幹事 阪口先生にばかりいろいろとお尋ねして申し訳ないですけれども、供託という制度になっているのは、清算金の有無や額が確定する前に引渡請求ができるので、清算金債権は具体的には発生していないということだと思うのですが、その場合にこの供託金をどういうものとして定めるのかということは、どのようにお考えなのでしょうか。   ちなみに先ほど阪口先生は、これはお金を実際に払うわけではなくて供託するにとどめるので、だから裁判所も安心して発令できるのだとおっしゃいましたが、恐らく裁判所のメンタリティーとしては、供託だけだから適当に払わせてもいいということではなくて、やはりその分、一定の資金の提供を担保権者側に強いることになるわけですので、比較的きっちりした基準で、供託金をどういうふうに判断するのかということを問題とするのではないかと思います。 ○阪口幹事 阪口です。よろしいでしょうか。まず、供託は、委員等提出資料17-1のどこかに書かれていると思いますが、将来の確定清算金請求権のための担保であると位置付けることになります。そうすると、本当は実体法的に構成する方が多分理論的にはすっきりするのでしょうけれども、他方、実体法的に構成するといろいろな問題が起きると思います。例えば、委員等提出資料17-1の4ページ以降のとおり、その後の還付と取戻しの手続がスムーズに行かないという問題です。他方、訴訟法的に考えると、先ほどの立担保も、今の民事保全の担保額というのはある意味、割り切って決めているではないですか。一定の基準で数字を決めて、それに対して何%かを掛けているという、あの感覚です。つまり実体法の問題だとすると、事実を認定し判断するというプロセスですけれども、訴訟法的な意味の立担保というのは非常に裁量が広いと思っています。先ほど、裁判官のマインドというのを申し上げましたが、それは、事実認定となるとシビアに考えなければいけないけれども、訴訟法上の立担保となれば、まあ決めやすいと、そういうことかなと思います。   ごめんなさい、御質問に対する私の回答は、本来は将来の確定清算金請求権の担保という実体的なものではありますけれども、それを執行法的に構成する方が制度としてはうまく動くと、そういうことなのですけれども、御質問の回答になっているでしょうか。 ○笹井幹事 私が十分理解できていないのかもしれないのですが、出発点としては、清算金の金額や有無というのがまだその時点では確定できないということなので、しかも価格の変動も激しいということになると、どの時点での評価額を前提として清算金を決めるのか、刻々と金額が変わっていくはずなので、その基準時といいますか、それをどういうふうに考えるのかということが問題になるのではないかと思うのですけれども。 ○阪口幹事 ここでは、その基準時は一義的に決めるべきなので、実行開始通知到達時と考えます。その結果、実際の帰属清算・処分清算とは時間がずれていくので、最終的な確定金清算金とは当然ながらずれが生じます。それはもうやむを得ない。動産というもの、価値が変動するものについて、ここの見込額と確定清算金を一致させる努力を払う必要は何もないと、ある程度ニアリーであればそれでいいという割り切りかなと思います。 ○笹井幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ほかにございますでしょうか。 ○井上委員 井上です。先ほど来の部会長と阪口先生のやり取り、いずれもそれぞれに興味深く聞いておりまして、阪口先生のお答えは納得できる部分もあるのですけれども、他方で、先ほど申し上げたように、【案15.5.2.1】をそれ単独で見るというよりは、先立つ調査受忍義務と、それから、それが必ずしもうまくいかない場合の引渡しの保全処分をセットで考えると、基本的にいきなりの実行通知で全て失ってしまうという見方よりは、先ほど阪口先生自身がおっしゃいましたけれども、実は先行するそういったやり取りがあり、その後に通知がなされることが想定されるので、その間に一定の期間が、交渉期間も含めて、あるという評価はできるのではないかと思いますし、個数も何も分からんという状況で実行通知をしなければいかんということは想定されていなくて、調査権限として、単に実際に立ち入って物を見るだけではなくて、在庫であればここ数か月の仕入れ数と単価、あるいは売上げ状況でいえばここ数か月の売上げとその単価のようなものも調べられるという前提で、そういった情報いずれも債務者が非協力的で何も得られない場合に、引渡しを受けて評価するということが想定されるのではないかと思います。   そうはいっても実際にはうまくいかない、あるいは裁判所をやはりかませた方がいいという感覚も非常によく分かるのですが、先ほどこれも申し上げましたとおり、裁判所にやや頼っている面があるのが気になるのと、それが私的実行のうまみを削ぐとすると、担保権者から見て問題になり得ると思うということを、申し訳ありませんが、もう一度申し上げたいと思います。   もう1点、思い付きで恐縮なのですけれども、誠実評価額といってしまうと、情報が必ずしも十分ではない担保権者が非常に低い金額を言わざるを得ないのではないか、それでも足りるとすべきではないかということが問題になるわけですが、それとの関係で、例えば【案15.5.2.1】によれば、実行通知をすれば、それが一定程度誠実に、あるいは合理的になされたものであれば、そこで債務者の受戻権がなくなるわけですけれども、受戻権、つまり被担保債権全額を払って受け戻すという権利はなくなっても、それに代えて、誠実評価、通知された合理的な評価額の例えば10%増しで債務者は買い取れるという手続は考えられないでしょうか。単なるアイデアですけれども、受戻権はなくなるかもしれないけれども、10%増しで債務者が買い戻せるという立て付けにすると、不当に低い金額を担保権者がオファーすることは抑止できそうに思いますし、担保目的物、動産の場合は10%が適切かどうかすら全く分かりませんが、債務者は多くの場合一番高く売ろうと思えば、あるいは買おうと思えば、買える人であるはずなので、資金手当てをしなければいけないでしょうから、うまくいくかどうか分かりませんけれども、一定の期間内に手当てができれば、そういう価格で買い戻せるというのは、受戻しとは別のチャンスを与えるという意味で、考え得るシナリオかなとも思います。こういったことが使えるのは、飽くまでも非常に低い評価額が出てしまって、10%増しでも被担保債権額より大分少ないという場合に限られるのかもしれませんけれども、そういったことも考えました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 阪口です。一つは、裁判所に寄り掛かりすぎというのは、そうかもしれません。ただ、そういう制度があることによって、逆に裁判所に寄り掛からない任意の話合いが進むと思っているというのが一つです。   後半の、何%増しかはともかくという買戻しみたいな権利というのは、動産の場合はかなり難しいのではないのかと思います。正常価額を100とすると、仕入れ値60、早期処分価格が30、バッタ価額は10以下という、この中で多分、担保権者がいう誠実評価額の数字は10以下の数字を持ってくることが多くて、そうすると、10と100ですから、10%増しどころか10倍の数字を言わないと数字が合わないとなって、しかし、それもまた物によって大分違うわけです、衣類と食料品と鉄鋼製品では全然違うので、なかなか難しいのかなとも思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   大澤さんから手が挙がっているのですが、これは受戻しの話ですか。 ○大澤委員 いえ、誠実評価と受戻しがミックスでお話しできればと思いましたが。 ○道垣内部会長 お願いします。というのは、別に受戻しの話をしてはいけないという話では全然なくて、今までの議論の中で受戻権が消滅する時期についての議論が必ずしもクリアにされていないと思いましたので、実はそのことの議論をお願いしようかと思っていたところでございますので、大澤さん、お願いいたします。 ○大澤委員 大澤でございます。誠実評価に関して、阪口先生がおっしゃったような、言い値になるではないかというような、あるいは非常に低い値段でというようなリスクがあるというのは、確かに誠意のない担保権者を想定すれば、残念ながらあり得るお話と。では、それをどううまく立法の中で解決していくのか、それが実務とどうリンクするのかと考えたときに、やはりそうすると、誠実評価の通知があった後、それを協議する期間というのが必要なのではないかと、ただ、一方で協議の時間が後ろが全く決まっていないと、ずるずると引き延ばされて、担保権者にとっては何の意味もない協議期間というような形で、担保権者の利益も害するようなことになるかなと、なので、今、【案15.5.2.1】が誠実評価とセットで受戻権消滅というような形にはなっていますが、そこを少し考えを変更して、誠実評価についても一定期間の中できちんと話をして、それが駄目なら、その駄目な後、それを上回る買値なり何なり、あるいは提案ができるのであれば、そこでもう受戻しをできるというような形で何らか期間を設けておけば、不当に低い価額でのというところについての懸念をある程度払拭できるのではないかと考えた次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。井上さんがおっしゃったことも関係するのですが、目的物の価額についての評価の1割増しだとかそういう話というのは、実は担保権の不可分性の問題と絡んでいまして、例えば1億円の被担保債権があるといったときに、5,000万円の担保目的物があって、それを3,000万円だと評価して主張したとします。しかし、それはもっと高いだろうといって3,300万円出せば買い取れるということをしますと、実は3,300万円の弁済によって担保権を消滅させることができていることになりますので、それが不可分性との関係で認められるのかという問題はなおあるかなという気がします。それは可能だといえば可能なのですが、第三取得者の場合とは少し性格が異なるかなと、以前の滌除とかの場合とは話が異なるかなという気がいたします。   さて、大澤さんの御発言の前に一言申し上げたのですけれども、評価の問題とかでいろいろ議論を頂いておりますけれども、いつまで債務を弁済して担保関係を終了させる権利を設定者側が持つのかという問題があります。誠実評価といいますか、誠実というと駄目だと自分で言っておきながら、誠実評価と言っては駄目なのですけれども、そういうふうな合理的な評価額を通知をして、清算金額がゼロの場合もあるのですが、そういうふうな通知がされれば、その時点でもう受戻しはできなくて、あと清算関係に入りますよというふうな考え方、あるいは、通知だけではなくて現実にそれを、例えば供託をするとなって初めてなくなるという考え方、あるいは裁判所によって定められた担保額というものを供託した時点で初めてなくなるというふうな考え方もあるかもしれませんし、現実に弁済したときというのもあるかもしれませんし、さらには、目的物の現実の占有が設定者から離脱するといいますか、担保権者が取るといいますか、第三者かもしれませんけれども、その時点で初めて受戻権が消滅するという見解もありました。そこら辺りについて皆さんはどのようにお考えになられるでしょうか。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。私自身は、先ほども申し上げたとおり、占有の回収が先行してもいいと考えている立場なのですけれども、そのことと受戻しの可否というのはまた区別して考えた方がいいのではないかと思っています。特に、大澤先生がおっしゃったように、倒産の局面などを考えますと、もう既に担保権の実行が終わってしまっていて、それをもうどうしようもないというふうな状態になってしまってよいのかという問題意識を持っております。   そこで、一つの考え方としては、占有の移転は先行している状態で、そうするとその後、債権者の側、担保権者の側から確定評価額の通知であるとか清算金の提供といったものがあるのだと思うのですけれども、そこから一定期間、債務者が異議を言えるような期間を設けておいて、その間に特に異議がなければその期間が満了したところでその受戻権が消滅する、紛争になった場合には、額の決着が着くまでは受戻権は消滅しないと考えてはどうかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。額の決着が着くまでということですか。 ○藤澤幹事 藤澤です。清算金等について特に当事者間に紛争がない場合には、清算金の提供又は清算金がない旨の通知から一定期間経過後に受戻権が消滅すると考えて、当事者間で清算金に関する紛争が続いている状態の場合には、清算金が確定したところで受戻権が消滅するという考え方はどうかと思いました。つまり、それが債権者側にしっかりとした清算金を提供させるインセンティブにつながると考えているからです。 ○道垣内部会長 しかし、それは債権者の側で引渡請求をするのに対して設定者が異議を唱えれば、それで引き渡さなくていいということになるのですか、それとも、引渡しはしなければいけないのだっけ、藤澤さんのお立場からすると。 ○藤澤幹事 債務不履行があったら、もう引渡しがあっていいのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 しかし、額について言ってきたら、それはみんな争いますよね。1,000万円だと言われたら、いや、1,300万円ではないですかとかいうふうに言うのは当たり前なのではないですか。向こうは誠実に1,000万円だと言ったと、よし、それでいいと言おうと思うのですかね。 ○藤澤幹事 それで裁判等になるのだったらそこで決着を着けるということになろうかと思うのですけれども、そこまでするかどうかというのがよく分からなくて、既に占有も奪われている状態で、再建に不可欠であれば争うのでしょうけれども、清算に行く場面であれば、さっさと清算金を手に入れて、そこで終わりにしようと考える可能性も考えられます。 ○道垣内部会長 分かりました。どうもすみません。ありがとうございました。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。実務的に素朴に、担保権実行の局面に至った場合において受戻しの権利が本来どこまで設定者にとって確保されるべきなのかということを考えた場合に、担保権者になる立場の方が多いので、そういうふうに考えてしまうところがあるかもしれないのですけれども、元々被担保債権について期限が設けられ、その期限における弁済の確保のために動産を含む担保権を設定させていただいておりますということになっていて、その期限が到来する限り担保権の実行ができる、担保権者に処分権限が与えられるという制度設計が現状、多数の支持を得ていると理解しているのですが、そうでありながら、もう一回受戻しをするためのチャンスを法定の猶予期間を設けて与えますというふうにするのは、結局法定の弁済猶予を設けるのに近くなってしまうのではないかという気がしています。   もちろん受戻しが可能な設定者が誠実に受戻しのための行動をし、それが被担保債権の弁済にとって有意なのであれば、担保権者としても経済合理性の観点からそれに応じるということになる、すなわち設定者に対する協力を担保権者としてもさせていただくというのが在るべき実務上の均衡になるのではないかと思うのですが、万一不誠実な担保権者が現れてしまう場合、本来設定者側においても期限に至るまでに必要なアクションをする必要があったかもしれなくて、これも実務上、通例的なのですが、期限の到来をもって担保権の実行ができるから、それから交渉しますということはまずなくて、期限に至る前までに、例えば弁済が難しくなっているという状況にあるのであれば、相当早いタイミングからリスケも含めていろいろな交渉が行われるということになると思います。設定者が再生に至れるというのが期限に至る前から担保権者側、債権者側において見えているということなのであれば、リスケの合意に至れるということもありますし、万一その交渉の過程で先行きが見通せない、ただし設定者としてはきちんと再生に関する動きをなさっているということなのであれば、期限が到来したからすぐ実行ですということにはならないのではないかと思っています。   そうした状態を前提として、受戻権というのが法定の猶予期間を与えられた実体的な権利として考えられるべきなのか、それとも、期限が到来してしまっており、担保権者としては目的物を処分できる状況にあるのだけれども、受戻しの可能性がある限りにおいては待機を担保権者側で自発的にしますという場合に、その間において被担保債権を弁済することによって目的物を取り戻せる権利と位置付けるのか、今、実務的には後者の方だと認識してはいるのですけれども、そういう権利として考えた場合に、あまり受戻権を強化するような形で法制度設計をしてしまいますと、担保権者に対する萎縮効果を生じさせてしまうのではないかというのを、お話をお伺いしながら考えておりました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。不動産の抵当権の場合も同じではないですか。弁済期が到来しても、実行手続が終了するまでは、債務者が弁済してそれをストップすることができるわけでして、法定の猶予期間が与えられているのと一緒ではないですかという話がそれには当てはまらないでしょうか。 ○本多委員 三井住友銀行の本多でございます。御指摘のとおりでございまして、不動産の抵当権に関しても同じ議論が当てはまるのかなと思います。 ○道垣内部会長 でも、不動産抵当権についてはそうであるわけだから、日本の法制度において、譲渡担保についてだけすぐに終わるというのは不均衡ではないかというのが、この受戻権の話が出てきた発端にあるわけですので、抵当権の方を動かさないということを前提にするならば、それほどおかしいわけではないような気がするのですが。 ○本多委員 本多でございます。担保権者として、直ちに実行する権利は与えられてはいるのだけれども、受戻しができる可能性が設定者側にあるのであれば、合理的に対応するということにはなるのかなと思っていまして、それは動産、不動産のいずれについての担保権の場合でも同じくなのかなと理解しております。 ○道垣内部会長 少し会話が成り立っていないような気がするのですが、担保権者が不動産抵当権を実行すると決めて、手続をとったとします。その手続をとり始めた段階で、債務者側に弁済をするという権利がなくなるわけではないですよね。ということは、担保不動産競売の手続が進んで、買受人が出るまでの間においては弁済できるということになったら、それだけ期間は猶予されていると抵当権の場合も評価できるような法制度に現在なっているのではないでしょうかというのが私の疑問なのですが。 ○本多委員 ありがとうございます。すみません、上手に御疑問をキャッチできなくて恐縮だったのですけれども、動産担保権の場合に私的実行が認められるがゆえに即時的な担保実行ができてしまって、例えば、民事執行法に基づく競売手続を利用しない場合に抵当権の場合とギャップが生じるという御指摘と理解したのですけれども、抵当権の実行の場合に即時的にできないというのは、法制度として猶予期間が定められているがゆえにというよりも、実行手続をする上で事実上時間が掛かってしまうということによるものなのかなと考えておりまして、理想的には、例えば期限が到来したタイミングですぐに実行を申し立て、裁判所と握っておいて、うまく回しますということが、実務的には難しいかもしれないのですが、想定できなくはないのだと思うのですけれども、それが、私的実行ができる動産との間において、理屈的に大きな懸隔があると評価できる場合もあるかもしれませんし、必ずしも理屈上すぐに実行できるから担保権者はそうするのですというわけではないといえる限りにおいて、大きな懸隔はないと申し上げられるかもしれません。   いずれにしましても、繰り返しになって恐縮なのですが、設定者側において合理的に受戻しができるための対応をなさっているということなのであれば、担保権者として合理的に考える限りにおいて、すぐに私的実行を強行してしまうというわけにはならないとは思っていまして、そういう担保権者の合理的な行動が期待できる中で、法定の猶予期間を、それが抵当権の実行の場合と同等となるような猶予期間として法定できるかどうかというのは、また別の議論としてあるかもしれないのですが、組立てを図るのはかなり技術的には難しいのではないかと考えました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○山本委員 ありがとうございます。恐らくポイントは、今の部会長と本多さんのやり取りの中のことかなと思っています。抵当権実行には一定のやはり時間が掛かる、恐らく倒産法の担保権実行手続中止命令等の制度も、そのことを暗黙の前提として、担保権が実行されてからも倒産手続の開始の申立てができ、そして、その中止命令を出せば間に合うことが多いという事実上の認識の中に制度はあるのかなと思っているところで、ですから、動産の場合に、先ほどの即時実行というお話がありました、特に、清算金がない場合のないこと通知みたいなもので担保権実行が完了してしまうとすれば、これは今の前段階の先ほど来の議論に関わってくる、どういう手続を仕組むかに関わると思いますが、仮にそういう、瞬時に実行が終わってしまうということになったときに、何か倒産手続側で制度を用意する必要がないのかという問題なのかなと思っています。   本多さんは、あるいはそれは必要ないという御意見なのかもしれない、債務不履行が既にあるわけだから、そこで十分対応しておくべきなのだと、私はこれはこれで一つの考え方なのだろうとは思っています。私自身は定見はないのですが、仮にそれが必要だという場合は、選択肢は二つあると思っていて、一つは担保権実行の完了時期を遅らせるということで、つまり、清算金がないような場合でも即時に実行が完了するということにはしない、何らかの猶予期間を設けるという話なのかなと思っています。それが恐らく【案15.5.4.1】の(2)の、1週間の期間が経過したとかという猶予期間を設けるという案で、私が理解したところ、先ほどの大澤委員の意見もそれも近かったような印象を受けましたけれども、これができれば比較的単純に物事が処理できるように思われまして、つまり、実行は完了していないわけだから、その間に倒産手続を申し立てて中止命令などを取得すれば、その後、担保権消滅等でも対応できるということになるということです。ただ、これについては、そういう猶予期間を設けることについてこれまで当部会でも様々な批判があったところと認識をしています。   もう一つは、今日の阪口幹事の御発言がそうだったのではないかと思いますけれども、実行を完了した後、受戻しを認めるという構想ですね、仮登記担保法の11条ですかね、そういう方法もあり得なくはない、この場合は、だから受戻しというより、私は巻き戻しではないかと思うのですが、つまり、一旦移転した所有権を戻して、一旦消滅した被担保債権を一種復活させて、それを弁済するということを認めるということなのではないかと思うのですけれども、これも相当ラジカルな感じもしますけれども、実体法に存在するということですので、あり得なくはない解決策なのかなとは思いました。   ただ、幾つかの問題があるような感じがして、今日の阪口幹事のお話は、現実の占有が移転するまでそれができるというような趣旨のお話があったように思いますけれども、それは、この資料のどこかに書いていたような気がしますけれども、結局、占有の移転をずっと妨害している人ほど長く、いわゆる受戻権を享受できるという結果になる可能性があって、それが果たして合理的な制度といえるのかどうかというのが少し疑わしいような感じもしています。   それから、これは飽くまでも制度としては受戻しということになると思いますので、倒産手続を仮に申し立てても、その管財人なり再生債務者か分かりませんが、受け戻すということになるのかなと思うわけで、そうすると被担保債権を全部弁済するということが当該動産を倒産手続で使う前提になるということかと思うのですけれども、そうすると、先ほどの、仮に担保割れの場合を仮定すると、担保目的物価額を超えて被担保債権全額を弁済しないといけないということになると思われるわけですけれども、それが果たしてそれでいいのかということで、先ほどの井上委員と部会長のやり取りの中で目的物価額という話が出てきて、担保権の不可分性の話にも及んでいましたけれども、正に民事再生の担保権消滅請求というのは平時の担保権の不可分性を破って、目的物価額を弁済すれば担保権全体が消滅するという制度を倒産手続において用意したということだと思うのですけれども、この受戻権構成で果たしてそれが実現できるような制度が仕組めるのだろうかと、何か作ろうと思えば作れなくなさそうな気もしますが、倒産手続を前提にしてですね、かなり複雑になりそうな感じもしますけれども、一体どういう方向性を、そもそも全部諦めるという一番最初のあれもあると思うのですが、諦め切れないとすればどういう選択肢を採るかというのは、お話を伺っていて、幾つかのことは考えられるかなと思いました。   長くなりましたが、以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。おっしゃるように、仮登記担保法における受戻権というのは、債権が消滅しなかったものとすれば債務者が支払うべき債権等の額を支払うことによって受け戻すということで、一旦債権は消滅していますので、元の債権額の相当額を支払うという書き方になっているのですよね。そこでかなり性質が違うものなのですけれども、どういうふうに仕組むかということとも関係しているのかもしれません。ありがとうございました。また、倒産法上の問題をどこまでするのかという問題もあるのかもしれません。 ○片山委員 片山でございます。どうもありがとうございます。あるいは誤解があるのかもしれないのですけれども、恐らく今の判例法理からしますと、帰属清算に関しては、清算金の支払若しくは提供、あるいは清算金がない旨の通知をして換価処分が完結するので、受戻権が消滅するということなのだと思いますが、そこでいう清算金の提供というのは適正な価額での提供でなければ提供としての効果が生じないということなので、設定者としては、適正な額でないということを争えば、時効に掛からない限りは、半永久的に受戻権があるのだという主張ができてしまうということが大前提になっているのかと思います。   今回の改正提案も、実は【案15.5.2.1】も【案15.5.2.2】も、誠実評価額の提供、あるいは清算額の提供ということですけれども、これはいずれも誠実な評価額でなければならないし、あるいは適正な価額でなければいけないということなので、その部分を設定者が争うということになれば、半永久的にその主張ができて、それが認められれば、提供がなかったことになるので、受戻権はいつまででも行使できますということが大前提となっているのではないかと思っていました。   そうしますと、やはりそれはどこかで歯止めを効かせて受戻権を消滅させなければいけないかなとは思っておりまして、一つの方法としては、実行期間、猶予期間のようなものを設けて、その期間内しか受戻権は行使できませんというような制限の仕方もあるでしょうし、あるいはもう一つは、阪口幹事の供託の御提案とも近いのかもしれないですけれども、一種公的な機関で鑑定人によって適正と評価されるような清算金なり保証金といったものを供託すればそれによって受戻権は消滅するというような、何らかの歯止めを設けておかないと、実は今の御提案のままでは、設定者が額を争うという形で受戻権の主張がずっとできてしまうのではないかということが危惧されているところではございます。よろしく御検討をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。二つの話がありまして、少し私から補足させていただきますと、現在の判例法理が客観的な清算額を支払わなければ受戻権が消滅しないという形になっているのかというと、そこは議論がありまして、調査官解説などを見ますと、やはりそれは誠実に評価した額を払う、誠実に評価した額でゼロだと言うということがあれば、そこで受戻権が消滅すると解さざるを得ないと、そして、客観的なその清算金額というのは後で争うのは可能であるといわれており、それが【案15.5.2.1】になっているわけです。そのときに合理性を争う、誠実性を争うということになると、いつまで受戻権があるのかなかなか不安定になるではないかというのは、これはおっしゃるとおりで、そこは合理性が欠けているようなことをしたのだから仕方がないのではないかというのが【案15.5.2.1】の考え方なのに対して、【案15.5.2.2】はそうではないと、それでも、そこで長くなると困ると、さらには、阪口さんなどが御説明いただいた御見解ですと、裁判所が決めてくれれば、その額で何とか、そこで収まりを一応付けるということなのだろうと思います。それは仮の額なのですけれども。あるいは、仮登記担保法などですと期間の問題にしているというところで、いろいろな切り方があるところではあろうかと思います。両方の話があったかと思います。 ○大澤委員 大澤でございます。今、本多委員からもお話がありましたとおり、また、部会長からもありましたとおり、片山先生からもお話がありましたが、受戻権が延々と続くのは好ましくないというお話は誠にもっともだとは思っております。しかも、一方で一旦は債務不履行に陥っている債務者というポジションでもありますから、何らか一定期間という形での法定期間というのがワークしやすいのかなと個人的には思っているところでございます。   不誠実な債務者の可能性も十分検討されるべきですが、一方で不誠実な債権者というところもございまして、残念ながら倒産局面で物事を振り返って見たときに、そういった事前の相談等について、途中でもう完全に銀行主導なり、あるいは信用組合主導でばさっと打ち切られてしまって、もう手も足も出なくなって、ただ破産に至ったというような事例も、特に中小企業において多く見られます。やはり設定者側の交渉能力という事実上の問題が大きいのかなと思っております。   そういったことを考えますと、最後、猶予期間なり何なりという形で適正な期間を設けて、もしそこでも決着が付かないのであれば、それは倒産申立てで担保権の実行禁止なり何なりという形でセットで申立てをするべきですし、そこで納得がいくのであれば、お互いにウィン・ウィンで話合いの結果まとまった金額で売却していくというような形での進路が取れるのではないかと考えております。そういった意味での猶予期間ということでは、【案15.5.4.1】で入口のところで1週間という形でもありましたが、これは阪口先生からもお話がありましたとおり、実務ではなかなか難しいと思ってもおりますので、何らかもう少し長い期間での猶予期間を考えるべきではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。2段階も可能かもしれませんね。つまり、誠実、合理性のある通知をしたときには、そこから何か月以内でその合理性を争うことができなくなる期間を設けるということで、あるいは通知がなくても何年かしたらなくなる、何年もか分かりませんけれども、何か月かしたらなくなるというのもあるのかもしれませんが、誠実評価額の通知というのと今、大澤さんがおっしゃったような話を結び付けることも不可能ではないような気もいたしました。 ○阪口幹事 阪口です。受戻権の消滅時期に関しては、本提案では現実の占有移転時期というので区切ることになっていますけれども、確かに日弁連のバックアップでは、それプラスということなのか分かりませんけれども、法定の一定期間、2週間なのか1か月なのかは別にして、何らかそういう法定期間が欲しいという意見もありました。つまり、仮処分で直ちに持って行かれて、それでもう受戻権が消えたとなると困るということだと思います。ここから先は多分割り切りだと思いますけれども、そういう一定の期間を定めるというのはあり得るだろうと思っています。   もう一つは、山本先生からの御指摘の中で、本提案が受戻しというよりも巻き戻しではないかと言われたのは、全くそのとおりで、正に巻き戻しです。本提案が考えているのは、仮登記担保法の受戻権を更にもう一歩進めていて、もう一遍また別除権状態に戻っているという、正に巻き戻しを想定し、だから、担保権消滅請求等の不可分性を破る制度が使えるということです。そこは理論的に破綻しているではないかという指摘が部会資料15の中にあって、現在の枠組みの中では確かにそうです。債務が一旦消滅したのに、消滅額と同額のものを払ったからといって債務がもう一遍復活したわけではないというのはおっしゃるとおりで、そこは理論的に整合していない部分があるとは思いますけれども、ただ、正に倒産局面で、再生債務者がいて、重要な財産を持って行かれようとしているところに、帰属清算の額よりも高い価額で買ってくれるスポンサーが現れましたというときに、いや、一遍帰属清算通知がされたからもう終わりです、ではないようにしたい。重要な財産を持って行かれようとするときに、持って行かれるまでは、再起のチャンスを欲しい、そのためにはスポンサーからの資金をベースに不可分性を破った形で担保権消滅請求が使えるという制度を想定したのが本提案なので、もうそこは仮登記担保法の受戻権を超えて、巻き戻し権を提案しているのではないかと言われたら、全くそのとおりです。そのような制度がお願いしたいというのが本提案の趣旨でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○加藤幹事 加藤です。感想めいたコメントになってしまうのですけれども、新たな規定に基づく担保権につきましては、基本的に担保権の実行方法については担保権者が選択するという立て付けになっているかと思います。御提案されていますように、民事執行法に基づく担保権実行も選択肢となります。そうすると、私的実行に関する規定の負担が多ければ多くなるほど、民事執行法に基づく担保権実行を担保権者が選択するメリットが相対的に増えていくということになります。そうすると、民事執行法に基づく担保権実行の中で、例えば今、先生方が議論されているような、担保権者と設定者との間の利害調整がどういうふうに図られるのかということも併せて考えながら議論をしていく必要があるように思います。   特に、目的物の客観的な額が被担保債権の額を大きく超えるような場合には、民事執行法に基づく担保権実行の手続の内容次第ですが、そちらの方が担保権者にとってはメリットがあるというふうにもなりかねませんが、それでよいのかを考える必要があるのでは、ということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。なかなか設計は難しいところがあるのですけれども、ほかに何かございますでしょうか。   いろいろな意見を頂いたのですが、議論として多分、倒産法の方で処理をするというところと、民法なら民法の方で処理をするというところの役割分担をどこで付けるのかというのもあるのかもしれないと思いますけれども、よろしゅうございますでしょうか。   もちろんまだ御意見がまとまっているわけではございませんけれども、大体2時間が経過をしておりますので、ここで少し休憩を取らせていただいて、次は3の処分清算方式の話に行きますけれども、取り分け、先ほども申しましたように、いつまで受戻しができるかというふうな問題は両類型でかなり密接に結び付いておりますので、自然と最後の話題をもう一度するということになるかもしれません。それはそれで全然構わないと思いますので、ここで17分間、3時45分まで一旦休憩を取りまして、3、処分清算方式の方にその後、入りたいと思います。そして、そのときには受戻しの問題も、ある意味では蒸し返しで議論をしていただくというふうにしたいと思います。   では、45分まで休憩にさせていただければと思います。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○道垣内部会長 45分が参っておりますので、審議を再開したいと思います。   前半に続きまして、第5の「3 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について議論を行いたいと思いますが、先ほど申し上げましたように、受戻しの範囲といいますか、時的限界みたいな問題というのもある種、共通しているところがございますので、厳密には処分清算の問題ではないけれども、という点につきましても併せて御議論いただければと思います。まずは、事務局の方から部会資料の説明をお願いいたします。 ○工藤関係官 関係官の工藤です。それでは、21ページの「3 処分清算方式による新たな規定に係る担保権の実行手続等」について御説明いたします。ここでは、処分清算方式による実行手続について、二つの考え方をお示ししています。【案15.5.3.1】は部会資料6でお示しした考え方であり、【案15.5.3.2】は今回新たにお示しする考え方です。いずれの案も、担保権者が目的物を第三者に処分したときに被担保債権の消滅及び受戻権の消滅などの効果が発生するという点では異なるところはありません。   【案15.5.3.1】では、原則として処分を受けた第三者が設定者に対して目的物の引渡しを求めるということを想定しています。また、【案15.5.2.1】と同様に誠実評価額という概念を採用しているため、誠実評価額に基づいて算定された清算金の支払と目的物の引渡しとが引換給付関係に立つことになります。この考え方に対しても、【案15.5.2.1】の場合と同様に、目的物を実際に占有しているわけではない担保権者が目的物を評価することは困難である旨や、担保権者が暫定的な清算金を支払って目的物の引渡しを受けたものの、実際には目的物の客観的な価額が誠実評価額を下回っていたときに、担保権者が設定者に対して過分に支払った清算金の回収リスクを負うことは不合理である旨の御指摘が当てはまるほか、そもそも担保権者が目的物を占有していなければ処分先を見付けることが困難であるとの御指摘もありました。   このような御指摘を踏まえ、今回新たにお示しするのが【案15.5.3.2】の考え方になります。この考え方によれば、【案15.5.2.2】の考え方と同様に、担保権者は、第三者に対して目的物を処分するのに先立ち、設定者に対して目的物の引渡しを求めることができ、また、誠実評価額ではなく客観的な価額に基づいて算定された清算金の支払と目的物の引渡しとが引換給付関係に立つことになります。もっとも、この考え方についても、第三者への処分に先立って目的物の引渡しが請求された場合には、清算金支払請求権がいまだ発生しておらず、これと目的物の引渡しとを引換給付関係に立たせることができないため、設定者に対する清算金の支払をどのように確保するかという【案15.5.2.2】と同様の問題があります。   以上について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、御自由に御議論いただければと思います。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。細かい点で恐縮ですが、あるいはこれは言葉の問題なのかもしれませんが、【案15.5.3.1】にしても【案15.5.3.2】にしても、処分清算であっても被担保債権の消滅の範囲は客観的な価額の範囲であると規定されておりますが、これは少し違和感がございまして、というのは、もちろん客観的な価額とは何かということにも関わるのかもしれませんが、実際にこれは既に第三者へ処分されているわけでありまして、実際に第三者が付けた価額が出ているかと思います。そういたしますと、基本的にその価格こそが処分価格であって、それが不当であるというのは、恐らく処分の手続が通常のものでない、言い方を替えますと、取引通念上適正でないという場合なのではないかと思います。そういたしますと、そういうふうに素直に規定した方が分かりやすいのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。前提としてお伺いしたいのですが、担保権者が適正な行動をとるというものに、第三者に贈与をするということをしてはならないということが含まれますか。 ○青木(則)幹事 それは取引通念上の適正な処分に、贈与は含まれないと考えてもよろしいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ただ、自分に帰属させることもできるわけなので、そうすると、近親者ないしは関連会社に帰属させるということも可能なのではないかという気もするのですが、そうでもないですか。 ○青木(則)幹事 それは正に取引通念上適正かどうかということに関わってくるのかなと思います。つまり、処分の在り方としてもちろんあり得るものではあるけれども、通常ではないということで、除外できるということになるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 除外できるというのは、それでは駄目ということ。 ○青木(則)幹事 その価格ではないということになるのではないでしょうか。 ○道垣内部会長 その価格ではないということね。なるほど、分かりました。規定の仕方として、取引通念上妥当な方式で処分されたときには、その処分価格をもって評価額とするということであって、第三者に適正な額で処分しなければならないという義務を担保権者に課すというわけではないというわけですね。 ○青木(則)幹事 そのように考えております。 ○道垣内部会長 分かりました。誤解いたしました。申し訳ありません。ある種、推定規定みたいなものですね。   ほかには何かございませんでしょうか。 ○大澤委員 大澤でございます。先ほどと同じように、ここでも帰属清算方式でやはり受戻しということの時期について考えていましたけれども、こちらの処分清算方式でも同じ問題は発生をすると理解をしております。ただ、処分清算方式になるとなると、今度は自己帰属もありますが第三者処分ということが出てきますので、考え方を別にしなければいけないのかとも少し思ったのですが、ただ、処分清算方式においても、いわゆるそういった猶予期間のようなものを法定で置く、その上での処分というようなことであれば、一気通貫で考え方が通せるのではないかと考えました。なので、この受戻しについては同じように時期を遅らせることを提案できればと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。それは第三者に処分されてもなお一定期間は受戻しができると、そういうことなのでしょうか。 ○大澤委員 先ほど阪口先生からも確か御指摘があったかと思いますが、引渡しがさすがに第三者まで行ってしまうと、そこまでは無理だと思うのですが、ここは少しごちゃっとしてはくるかもしれませんが、占有が債務者にある間においては、少なくとも第三者処分といっても、第三者としても何らかリスクがあるものだということを理解しながらだとも思いますので、それであれば受戻しを優先させてもよいのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございます。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。今の大澤先生の問題意識と同じように、処分清算方式においても受戻権消滅時期を少し後ろにすることはできないかということを考えております。他方で、第三者との関係で、第三者の手に動産が渡ったときにまで、猶予期間なのでそれを返してきなさいということを言うのはかなり酷なのではないかという気もしております。そこで、受戻権と第三者の保護との調和という観点からすると、第三者が保護に値する人なのか、そして第三者が保護を要する状態にあるのかということを考えて、少し要件を厳しくしていくことができるのではないかと思いました。   まず、一つ目なのですけれども、第三者の範囲については、本当に普通に売却したという場合と、道垣内先生が先ほどおっしゃったように、内部者に売却する、したふりをするというか、そういったような場面があるかと思うのですけれども、後者の場面については処分清算とは呼べず、一種の帰属清算なので、帰属清算と同じルールが適用されるとすることが考えられます。例えば帰属清算について猶予期間があるのだとすれば、その猶予期間を第三者との関係でも主張できるルールとすることがありえます。これは、「第三者」の解釈論と位置付けることができるかもしれません。   それから、もう一つ、処分の意味なのですけれども、普通、処分というと、売買契約が成立すればそこで処分が済んだと考えられますが、大澤先生がおっしゃったように、例えば「現実の引渡しを受けた第三者」と規定することにより、そこまで保護に値する状態になって初めて猶予期間が主張できなくなるというような制度にしてはどうかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただ、前者の内部者問題なのですが、日本法と英米法の違いの一つとして、日本法上は無償の譲渡でも即時取得が成立するのですよね。あるいは民法の94条2項にせよ、93条3項にせよ、別に有償譲渡に限られているわけではないのですよね。この部分だけ無償譲渡を特別扱いするということが、それはもちろん否認権とか詐害行為の場合は別ですけれども、第三者保護というふうな観点をするときに、その問題をここにだけ出すというのは、日本法全体として整合的なのですか。 ○藤澤幹事 ここでいう第三者保護の趣旨は、取引の安全ということではないような気もします。つまり、先行取引の瑕疵についての善意、悪意を問題とする場面ではないということです。ここでは目的物を第三者に取得させることによって合理的なお金が入ってくるかどうかということを問題としているので、端的に合理的な取引を選別できるように第三者の要件を設定してよいのではないかと考えました。 ○道垣内部会長 分かりました。ありがとうございます。 ○佐久間委員 今までの皆さんの高度な議論から一気にレベルが低くなると思うのですけれども、【案15.5.3.2】の(3)が実は私、よく分からなくて。といいますのは、一応処分清算の場合ですよね、処分をするにも価値を見積もらなければいけないからというようなことで、引渡しを求めるのかもしれないのですが、(3)の場合にただし書は、第三者に処分したときは請求できない、つまり、設定者からすると引き渡さなくていいということになるのだと思うのですが、これって設定者からすると、引渡しを求められたときに帰属清算なのか処分清算なのか、すでに処分がされているのかということが区別できるのでしょうか。帰属清算だったとすると、先ほどの対応する案だとすると、清算金があるのだったら清算金の支払又は提供があるまでは引渡しを拒めるのに、処分清算の一過程でやろうとなった場合は、(3)ではその引渡しを拒めず、(4)で第三者というか処分の相手方から引渡しを求められたときは、清算金の支払又は提供があるまでは渡しませんと拒めるという、完全に誤解しているのかもしれませんけれども、これは何か変なのではないかという気がします。処分清算の場合、この(3)だと、設定者は譲渡担保権者から引渡請求をされると、引渡しに直ちに応じなければいけないと見えるのですけれども。それは間違っていますか。完全に間違っているかもしれないです。申し訳ないです。以上の疑問を持ちました。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。では、事務局から何かありましたら、お願いします。 ○笹井幹事 今の御指摘はそのとおりなのですが、そこは、宿題として※の方に残してあるということです。確かに【案15.5.3.2】、それから【案15.5.2.2】の場合は、処分清算にするのか帰属清算にするのかを決める前に引渡請求することができますので、そういう意味では、引渡しの請求を受けた設定者は、その時点ではどちらか区別はできないということになっています。かつ、そのときにはまだ清算金の有無とか金額を確定できないため、清算金を同時履行の抗弁として主張することはこの時点ではできないので、大阪の研究会では供託請求権が提案されているわけですが、この資料では、この点について今後の検討課題になっていると。ただ、(3)のただし書で、第三者にもう権利が移転している以上は、引渡請求はその第三者にしてもらうということで、担保権者はもうそれ以上は引渡請求できませんよという提案になっています。 ○佐久間委員 いや、まだこれからの検討だというのは、それは分かったのですけれども、そうすると、【案15.5.2.2】の(3)との違いがやはり。理屈の上では分かれてきますというのは、何となくそうなのかなと思いますけれども、帰属清算か処分清算か決める前に引渡請求って別にできないわけではないのかなと思うと、この区別は、少なくとも【案15.5.2.2】と【案15.5.3.2】を並べて見せられると、よく分からないと思いました。 ○笹井幹事 【案15.5.2.2】の(3)は、もう清算金が発生しているという段階のことを書いていまして、だから、並べるとすると、【案15.5.2.2】でいうと(3)の、(1)の清算金支払請求権がまだ発生していないという段階と、【案15.5.3.2】の処分の前の段階とがパラレルになって、それは両方とも※で宿題になっているということです。 ○道垣内部会長 佐久間さん、よろしいですか。よくないよね。 ○佐久間委員 よくないとは思うのだけれども、多分少しまた違う問題だと思います。そうすると、【案15.5.2.2】の(3)の「有するとき」はということがすでに決まってるというのが何か、今のお答えを伺って直ちに気持ち悪いなと思ったのですが。取りあえず今はその程度でやめておきます。 ○道垣内部会長 まず前提として、【案15.5.3.2】というのは、1つ前のところで【案15.5.2.2】を採ったときだけの話であり、これはセットと考えられるのですか。 ○笹井幹事 一応セットだと考えています。 ○道垣内部会長 セットで、ですから、こういう考え方を採った場合には、とにもかくにも担保権者は債務者が被担保債務を履行しないときに引渡請求をすることができると、そのルールがあって、【案15.5.2.2】の(1)の通知があることによって清算金が発生しているというふうな場合と、処分があって初めて発生するという場合とに分けてという話なのかな。私もよく分からないといえばよく分からないですが。   佐久間さんの御疑問に乗ってもう1点、私の方から伺うと、第三者からすると、担保権者は売主ですよね。売主に対して引渡請求できないのですか。私が処分を受けた第三者だったら、売主がきちんと俺に引き渡せと、設定者がごちゃごちゃ言っているのだったらば、そこからきちんと占有を取得して自分のところに持ってこいと請求するのであって、抵当権のような場合のように、抵当権者が売主になっているのではないという場合とはパラレルには考えられないのではないですか。 ○笹井幹事 ええ、ですので、第三者から見て、担保権者に対して引渡請求をするという場面を想定すると、23ページの23行目以下に書きましたように、こういうただし書を設けないという考え方は十分あり得ると思います。ただ、比較的教科書類などで留置権の判例が引用される場面では、第三者が直接引渡しを請求することが念頭に置かれているのかなと思ったものですから、(3)では本文の方ではただし書を入れたということになります。 ○道垣内部会長 申し訳ありません。佐久間さん、差し当たってはよろしいでしょうか。 ○佐久間委員 もうこれでやめますけれども、この3のただし書は、(4)の方が多分望ましい処理だということを前提に、(4)に行けば、清算金の問題とかですね、処理ができるので、(3)では処分を第三者に担保権者がしたときは、担保権者はもう引渡請求できませんよというふうにしておられるのかと思ったのですけれども。しかし、今、道垣内先生がおっしゃったのに絡むのですけれども、そもそもが権利の移転としては、設定者から担保権者、担保権者から第三者と移転しているときに、引渡請求権をそもそも、中間者とはいえ、持っていませんと言い切って、それは立法だからいいのだと言われたらそれまでなのかもしれませんけれども、それは何かすごく違和感があるという気がします。違和感以上のものはなくて、ではどこが駄目なのだと言われると、ここが駄目ですとは言えないのですけれども。少し取りあえず、またいずれ何か発言することがあるかもしれないので、違和感だけ申し上げておきます。 ○道垣内部会長 所有権の移転が設定者、担保権者、第三者と移ると考えるのは必然的ではないような気がするのだけれども。 ○佐久間委員 それは必然的ではないと思います。それは今日の初めのほうで私、担保目的何とか型で、そう考えなくたっていいではないかと言ったのと、ある意味では矛盾するところは含んでいますが、それにしても。やはりそうかな。分かりました、すみません。 ○道垣内部会長 私は、担保権者が売主だからという話だけで言ってみたのですが、所有権移転のプロセスは十分に考えていなかったかもしれません。すみません。 ○阿部幹事 阿部です。少し話が戻ってしまうのですけれども、先ほどの受戻しの限界のところで、当然皆さん御存じの上でだと思いますけれども、例えば仮登記担保だと、先ほどから話題になっている仮登記担保法11条の受戻権では、第三者が所有権を取得した後には受戻しはできないということになっていますし、また、不動産担保の判例法理でも、贈与であれ何であれ、処分がされたら直ちにもう受戻しはできないということになっています。今般の立法で、もし動産の新たな規定に係る担保だけ、第三者への処分の後も受戻しをできるようにするとするならば、仮登記担保や不動産譲渡担保との違いを正当化する理由が必要になりそうですが、何がほかの担保と違うのだろうというのがよく分からないという疑問が一つありました。   これは、ほかの担保の現状での扱いとの整合性という話ですけれども、それ以上によく分からないのは、特に動産の担保権の場合、目的動産にもいろいろあるかもしれませんけれども、早急に処分しなければいけない動産が結構あると思うのです。そういったときに、猶予期間を置いてその後の処分でないと受戻しの可能性がまだ残りますと、猶予期間中も処分自体は法的には不可能ではないということなのかもしれませんけれども、受戻権が残りますといったら、その間の処分は事実上かなり制約されるような気もしまして、果たしてそれで妥当なのかという疑問も少しあると思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。同じ話ですけれども、受け戻されるかもしれないというものですと、ろくな額では売れないような感じがしますね。 ○尾﨑幹事 この受戻権のところもそうですし、その後、帰属清算方式のところの話にも関係しますし、処分権限のところも多分同じような話が全部絡んでくるのだと思うのですけれども、債務者が弁済できるのなら通常はやはり待った方がいいと思いまして、それは債務者にとっても、恐らく債権者にとっても、合理的であるケースが多いのだと思います。ただ、その判断はやはり容易ではないですし、どのくらい待つべきかというのもケース・バイ・ケースということなので、本来は当事者間の協議に任せた方がいいことが多いのだとは思います。   一方で、恐らく少数であろうと思われる不誠実な債権者を想定して、一律に実行時期とか受戻権の消滅時期というのを遅らせるということになれば、当然その分、全体としての取引コストを高めるということになりますし、制度が使われにくいということになる、あるいは使われたとしても、善意の債権者とか債務者がより高いコストを支払うということになるのではないかと思います。特に動産の場合は不動産に比べても、短期間で処分しなければ質が悪くなる、価値が下がってしまうというものも多いので、なるべく早く手続を進めさせることのメリットも大きいのだろうと思います。   それに加えて、不誠実な債権者というのは、こういう実行とか受戻しのタイミングを若干制度的に操作したからといって、契約条件その他、いろいろな事柄で債務者に不利になるようなことをやるということはあり得て、不誠実な行為を本当に防止できるのかは疑わしいのではないかとも思います。したがって、余り技巧的な制度によって実行時期とか受戻権の消滅時期を遅らせるというよりは、シンプルに制度を構築した上で実務の定着を待った方が、全体としては望ましいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ごもっともなことも多いと思いますが。   ほかに何かございますでしょうか。 ○大澤委員 大澤でございます。今、尾﨑さんからおっしゃられたとおり、不誠実な債権者あるいは不誠実な債務者、どちらの病理現象をもってどうするのかというようなお話は、確かにあるとは思います。   ただ、一方で現実的な中小企業の債務者等を見ておりますと、やはり交渉力、あるいはそういった事前の調整においても、金融機関等のかなりおんぶに抱っこの部分というのもあると思っておりますので、そういった意味でも、法律がきちんと全体を見通した形での枠組みを作るということではなお意義があると考えております。かつ、猶予期間ということでは、まだなかなかばらばらな感じはあるとは思いますけれども、それほど長い期間持たせるものでもないと私も理解をしております。というのは、おっしゃるように動産そのものの換価というものの特性に関していえば、それを債務者が持ち続ける、その交渉をずっと続けることがいいことではないとも思いますので、最後のチャンスという意味合いにおいての法的な強行的な規定というものを猶予期間という形で置くのでどうかと考えている次第です。 ○道垣内部会長 その猶予期間というのは、債務不履行があって、例えば実行通知をして、現実に第三者に対する処分権限が発生するまでに一定の期間を要すると仕組むという話なのでしょうか、それとも、最初に大澤さんがおっしゃったように、処分があった以降も場合によっては受戻権が一定期間行使できるということなのでしょうか。 ○大澤委員 私は後者の方で考えております。というのも、帰属清算の方でいろいろ議論をさせていただいて、仮に猶予期間等の設定を短期間でも置くということになったとしても、処分の方で同じようなものを置かないとなると、結局、処分清算すればいいではないかという話になってしまいますので、バランスとしてもおかしな話だとも思いますし、法文として作るのも、それもそれでおかしな話かなという気もしておりますので、今、部会長のおっしゃられたような形での後者の方と考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。しかるにそのときに、阿部さんとの間で話が出たわけなのですけれども、売却をしても一定期間は受戻しをされる可能性があるということならば、それはそれほど高額で買おうというインセンティブは第三者には働かないということになりはしないかという問題点については、いかがお考えでしょうか。 ○大澤委員 完全に実務的な感覚で申し上げますと、第三者によるすごく短期間での処分価格というものは元々、正直、かなり低いものだというのが実感としてございます。逆に言えば、清算金が発生するような高額での売却ということは実務上は余り想定し難いのではないかというところもございます。 ○道垣内部会長 分かりました。   ほかに何かございますでしょうか。仕組みとしては第三者に売却するということなのですが、それをいつまで、債務者の受戻権というのをどういうふうにして確保するか、あるいは確保はそれほど、不要なのではないかという考え方もあるかもしれませんし、その辺りで若干、意見の分かれがあるのかなと思いますが、何かほかに御発言はございませんでしょうか。何か事務局から、ここは確認しておきたいということはありますか。 ○笹井幹事 特にはございません。 ○道垣内部会長 それでは、なかなか難しい問題が多々提起されておりますので、次の回までにきちんとしたものが出てきますとはなかなか確約はできないかもしれませんけれども、事務局が頑張るということにさせていただきまして、次のテーマに移りたいと思います。   第5の「4 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限」について議論を行いたいと思います。事務当局におかれましては部会資料の説明をお願いいたします。 ○工藤関係官 関係官の工藤です。それでは、24ページの「4 新たな規定に係る担保権の私的実行における担保権者の処分権限」について御説明いたします。ここでは、目的物の処分権限が発生するために実行開始の通知及びその到達から一定期間の経過を要するとする【案15.5.4.1】と、債務者の債務不履行によって直ちに担保権者は目的物の処分権限を取得するとする【案15.5.4.2】の二つの案をお示ししており、その内容は部会資料6で提案したものと変わりありません。   一読の議論では、【案15.5.4.2】に賛成する意見ないし考え方として、一般的な金融機関は設定者との協議を通じて合理的な猶予期間を付与しているため、あえて法改正によって猶予期間を設ける必要はないし、固定的な期間を猶予期間として設けることはかえって非効率的である旨、時間の経過によって担保価値が毀損される集合動産を担保の目的物としている場合には、猶予期間を設けることで担保価値が毀損されるおそれがある旨、受戻しのためには1週間の猶予期間は短すぎるが、猶予期間を更に延ばすことは非現実的である旨などの御指摘がありました。   他方で、【案15.5.4.1】に賛成する意見ないし考え方として、動産担保においては事業を継続する上で重要な財産が担保の目的物であることが多いことから、倒産手続及び担保権実行手続中止命令等の申立てをする機会の確保のために一定の猶予期間を与えることが妥当である旨、担保権者が目的物を処分するに当たって、設定者が担保権者に対してより高値を付ける買手がいることを提示する機会を確保するために、設定者において従前の取引先などと交渉する期間が必要である旨、設定者に受戻しの機会を十分に与えないまま直ちに担保権実行を強行して利益を得ようとする悪質な担保権者を想定すると、一定の猶予期間があることが望ましい旨などの御指摘がありました。   また、これらの案のほかに、猶予期間は設けないものとしつつ、担保権者は実行通知の送付によって私的実行権限を取得するものとするという考え方も示されております。これらの点を踏まえまして、実行通知及び猶予期間の要否について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御発言、御意見を頂ければと思います。 ○本多委員 ありがとうございます。三井住友銀行の本多でございます。私は従前、【案15.5.4.2】に当たる見解について支持するとコメント申し上げておりましたが、今回も変わらずでございまして、一方で【案15.5.4.1】に関する根拠となる見解の幾つかについてコメントさせていただければと思っております。   まず、より高値で買取りを行う買手を探索するための機会の確保のために必要であるという考え方についてなのですけれども、実際に設定者がより高値で買取りを頂ける買手候補を連れてくるということなのであれば、担保権者としても歓迎するところではあるのですけれども、一方で猶予期間を設けた場合に、その猶予期間中に設定者が実際にそういう行動をとるかどうかということについて、担保権者間において情報の非対称性がありますし、それから、担保権者にとって設定者が高値で買取りを頂ける買主を連れてくるということを期待するという関係が生じることによって、エージェンシー関係みたいなものも発生することになるのですが、そうした状況、関係が生じる場合に、猶予期間を法定することによって、その期間において実際に設定者がきちんと行動すればいいのですが、そういう行動をとらなかったり、かえって目的物を隠匿、毀損してしまうというふうな行動に出てしまったり、というモラルハザードが生じる可能性があることになりますと、そういうモラルハザード事象を制度的に抑えるためのまた別の手当てが必要になりそうなのかなと思いまして、そうでない限りは、むしろ非効率を生じさせてしまう可能性があるのかなと考えております。   それから、別の考え方として、担保権実行手続中止命令等の申立てをする機会を確保するために必要という考え方も示されているところではあるのですけれども、こちらにつきましても、確かにそういう必要性、すなわち猶予を設けることによって担保権実行手続中止命令等を申し立てられるという機会を設ける必要がある設定者も存在するということはよく理解できるところではあるのですけれども、それから、大澤先生も先ほど来御指摘になっていますとおり、中小の事業体におきまして、特に金融機関との交渉の中でそういう機会が必要という実態もあるというお話だったのですけれども、そもそも論で考えてみた場合に、やはり事業の継続に必要なために担保目的物の使用収益を継続したいとお考えになるのであれば、元々期限があることを踏まえますと、その期限が到来する相当前から担保権者と誠実に交渉をしていただきたいと思いますし、その交渉に際しまして担保権者として事業の継続が可と判断できるのであれば、期限の猶予を含めまして、場合によっては期限が到来した後も担保権の実行を猶予するということを含めまして、誠実に対応できるはずだと思っています。万一担保権者側が不誠実であるということが交渉の過程を通じて発覚した場合には、少し極論なのかもしれないですが、期限の到来を待って、そのタイミングで、例えば再生手続の開始の申立てをし、同時に担保権実行手続中止命令等を申し立てるという対応は不可能ではないとは思われまして、そういう対応の仕方をするというのも在るべき実務上の仕組まれ方、制度運用のされ方なのかなと考えます。   それから、もう1点、不誠実な担保権者が受戻権の行使を阻止するような行動に出てしまうということを回避するために、猶予期間が必要という考え方についてなのですが、先ほど尾﨑幹事からも御指摘がありましたとおり、そのためだけに猶予期間を設けるということはかえって制度設計として非効率である可能性がありまして、これも実務のやり方というところもあるかもしれないのですが、やはり期限がある被担保債権、被担保債務を前提としまして、その期限の到来のタイミングで不誠実な担保権者が担保実行してしまうということが想定されるのであれば、期限が到来する相当前からきちんと交渉をした上で、受戻しをしたい設定者としては、リファイナンスのめどを付けることが期待されるものと思われ、リファイナンスのめどが付くかどうかについて時間が必要ということなのであれば、担保権者側からしても、受戻しの可能性が認められるのであれば対処するということになると思いますので、そういう部分で手当てされるべき問題なのではないかと考えます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見、御質問等はございませんでしょうか。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。今の本多委員のコメントについて、少し前提を確認させていただきたいのですけれども、基本的に、誠実な債権者であれば債務者の再生を助けてくれるはずであるという前提でお話しになっていたかと思うのですけれども、そういうハッピーなシナリオの場合には、本多さんがおっしゃったように、リファイナンスなどの対応がありえて、担保の実行にも至らないし倒産手続にもならないしということで、それらの手続を想定する必要がない場面だと思うのです。他方で、いくら担保権者が誠実であっても、事業の継続について担保権者側と担保権設定者側とで情報の非対称があって、担保権者側が事業の再生について理解できない場合ですとか、リスク選好の違いがあって、担保権者側がそのリスクをとれない場合などは、やはり再生の局面で対立の構造が生じざるを得なくて、担保権者としては担保権実行したいけれども債務者としては存続させてほしいということで、再生手続などに打って出るというようなことがあるかもしれません。そこで初めて、受戻権が必要かという話ですとか、そういうことが問題になってくると思うので、ハッピーなシナリオの方を念頭に置いて受戻権が要らないとおっしゃるのは、それは当然のことなのだけれども、そうでない局面を念頭に置いた上でなおそう言えるのかということは、少し考える必要があるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。本多さんの方から何かございますか。 ○本多委員 ありがとうございます。藤澤先生の御指摘のとおりかなとお伺いしておりましたが、一方で被担保債権には期限がありまして、もちろん期限が途中で失われてしまうということはあるかもしれないのですが、期限が到来するタイミングまでに、例えば、事業が少し傾いてしまったということになって実際の期限が到来するタイミングで担保権の実行がありそうだということなのであれば、相当前の段階から場合によってはそういう事態が発覚している可能性がありまして、期限の到来のタイミングに向けてどういうふうに対応していくのかという議論は少なからずされることになると思いますし、実務上も実際にそうしています。そこでハッピーなシナリオとして、事業の存続で大丈夫だよねということなのであれば、何のアクションも起きないということなのだと思うのですけれども、期限が到来してはいないのだけれども、事業の存続の方向性とそうでないという方向性の考え方が対立してしまった場合に、期限が到来したタイミングで担保権の実行があり得るというのは想定されてしまうことがなきにしもあらずなのだと思います。   ハッピーでないシナリオとして、事業の存続の方向性について設定者と担保権者間で意見が割れてしまいますと、設定者としてはまだ十分に存続可能であると考える一方で担保権者の理解が得られない場合に、そのまま期限を迎えてしまいますと担保権が実行されてしまうかもしれないという局面になり得ると思うのですが、そうした場合に、設定者としての対抗手段として、期限が到来するタイミングにおいて、例えば再生手続を申し立て、併せて担保権実行手続中止命令等の申立ても行いますということはできるのではないのかと、不可能であるわけではないのかなと思っていまして、それを超えて、あえて法定の猶予期間を設け、その猶予期間内にもう一回できるようにするとするべき必然性がどこまであるのかということについての考え方、認識のギャップによるのかなと理解いたしました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 阪口です。私の方は、今の本多委員と藤澤委員との議論とは少し別に、部会資料15の26ページの24行目ぐらいから書かれている、実行通知の送付の要否ということについて意見を述べたいと思います。   ここは、手前の帰属清算のときの【案15.5.2.1】か【案15.5.2.2】、処分清算の方で【案15.5.3.1】か【案15.5.3.2】と密接に結び付いている問題だということが、まず前提です。つまり、【案15.5.2.1】若しくは【案15.5.3.1】であれば、そこでいう誠実評価通知というものは、同時に被担保債権の額並びに誠実評価額等を全部通知するということになるのですけれども、他方【案15.5.2.2】若しくは【案15.5.3.2】だと、引き渡してくれと要求する段階では別に手続が何もない、渡せという通知は別にして、先ほど言った被担保債権がどうこうというのは別に要求されるわけではないということになるのだと思うのです。ところが、設定者というのは必ずしも被担保債権をきちんと理解してないことが少なくないというのが実務的な感覚です。一本の債権については債務額が何ぼだというのは理解できていても、そもそも被担保債権の範囲がどこまでだというのは、まずよく分かっていないことが少なくない。そうすると、渡せと言われたときに、俺は今どうなっていたっけというのを設定者側の方にきちんと分からせた上で、渡す、渡さない、若しくは先ほどの供託金や何やら、清算金見込額にせよ清算金にせよ、はっきり理解して物事を進めなければいけない、それによってまたお互い、ウィン・ウィンな手続に進むかもしれない、こういうことだと思うのです。   したがって、【案15.5.2.2】若しくは【案15.5.3.2】というのを採るときには、実行通知、委員等提出資料17-1では実行開始通知と呼んでいますけれども、ここでいうと実行通知というものが必須だろうと思います。   また、それは手続から考えてもそうなのだろうと思うのです。つまり、法的実行か私的実行かというのはいずれも広い意味の実行手続概念ですから、実行が一体いつ始まったのかというのは、それは、手続の一環ですから、はっきりするべきなのであって、明確な開始時点がはっきりしない手続というのはあり得ないだろうと思っています。したがって、【案15.5.2.2】若しくは【案15.5.3.2】、更に進んで委員等提出資料17-1の考え方を採るのであれば、この実行通知若しくは実行開始通知というのは必須になるだろうと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見等はございますでしょうか。   到達しようと思って目的として設定している状況は、皆さんそれほどは違わないような気もします。ただし、そのときにどういうルールを設けるのがその目的に最も適合的なのかということで、副作用があると問題がまた生じますので、そこをどういうふうに仕組むかということなのでしょうけれども、なかなか一方が立つと他方が立たないところがございます。難しいところがあるかもしれませんが、何か御意見があれば、お願いいたします。 ○大澤委員 大澤でございます。先ほどの本多委員と藤澤先生のやり取りを伺っていて、少しそこに関してのコメントをさせていただければと思います。   本多委員のおっしゃるとおり、窮境に立っている債務者は、期日までに何らか交渉を始めるべきだし、もしかしたら期日に同時に申立て等で自分の救済を図るべきだというのは非常に理論的で、なるほどとも思います。ただ、実情は、再生申立てあるいは管財事件を見ておりますと、やはり再生ということになれば、債権の一律カットということも含めて、経営者にとっては非常にハードルの高い最後の手段という覚悟が要る手続になります。その意味で、ここで期限が到来したので、はい、ではすぐ申立てと行けるかというと、なかなかそれは、幾ら事業の再生を債務者が望んでいても、そこでの時間というのは必要ですし、また、申立てに当たって、期限の到来があるから、それに備えて必ず申立てをしようとまで実務上、考えていられるかというと、なかなかそれは、大手であれば十分可能でありますし、また、そういうことをやるとは思いますけれども、再生債務者なり何なりの実務的な観点からすると、何らかやはり受戻しの期間も含めた形での期間猶予、短期間でもいいので、期間猶予というものが必要だというのが実感でございます。一定期間の猶予ということがあるのであれば、先ほどのハッピーシナリオもあり得ますし、また、一方で再生に向けた法的整理による短期での整理ということも始められるとも思いますので、そういった意味でも、期間というものについては、この私的実行の場面で考えていただく必要があるかなと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それぞれの債務者、いろいろな債務者がいらっしゃるのだと思いますけれども、行動パターンの認識がなかなか難しいところもあると思うのですけれども、少し私が伺っていて分からなかったのは、債務不履行があって、通知をして、何週間か置かなければいけないことにすると、その間に物を隠したり、いろいろしたりするかもしれないと。しかし、債務不履行になりそうだということが分かっているのだったらば、合理的な行動をいろいろとれるのだから、別に債務不履行になったところで通知しなくてもいいのではないかというのも、それは分かるのですが、悪い人が物を隠すのだというのだったらば、債務不履行になる2週間前から物を隠せばいいような気がしますよね。だって、自分はもう債務不履行になりそうだからといって相談をするという行動をとるというのを前提にするのだったら、債務不履行になりそうだから隠すという方法もとれそうで、別にそれが2週間というか、後になっても、状況は別に、悪いやつは悪いし、悪くないやつは悪くないというだけの話なのではないかという気もするのですが、こういうのは私が理解不足なのでしょうか。すみません、本多さんに無理やりに振ったみたいな形になってしまいまして。本多さん、よろしくお願いいたします。 ○本多委員 とんでもないです。ありがとうございます。御指摘のとおりかなと伺いしておりました。正に悪い人はとことんいろいろなものを悪用するということなのだと思います。逆に、そういう悪い人に対しても、例えば1週間だったり2週間だったり、猶予期間を与えることによって、更に悪用される、かてて加えてということになってしまうというところはあるかもしれなくて、一方で、逆に示唆されていますのは、猶予期間のあるなしに関わらず、やはり悪いことをしてしまう人は悪いことをしてしまい、誠実な行動をとれる人は誠実な行動をとれるということでもありまして、そういう制度設計をすることによって、これは尾﨑幹事からも御示唆があったところなのですけれども、全体的な効率性を上げられることになっているかどうかというふうな検証は引き続きやっていかざるを得ないのかなと思いました一方、やはり猶予期間を設けることによって向上する利益がどれだけあるのかなというところが、まだ私個人には腑に落ちていないところがあるので、私もしっかり考えていかないといけないのかなと改めて思いました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   デフォルトがどこにあって、動かすと考えるかどうかの問題もあるような気がするのです。つまり、猶予期間がないというのがデフォルトで、猶予期間を設けるといいことがあるのですかという話と考えるか、それとも、先ほどから申し上げていますように、抵当権の実行だって一定の期間は掛かることになっているわけだから、それと平仄を合わせて、通知だけではなかなか事が進まないようにするというのが、それがデフォルトなのだと、しかし、動産なんかの場合の減価、劣化の急速度なんかを念頭に置きながら、猶予期間をなくすというふうにすべきであると考えるのか、どちらがデフォルトでどう動かすのか、だとしたら、なくすというときにどういういい効果が生じますかという話になるわけで、与えるというのが変更であると分析するのは必然的ではないと私は思います。ただ、どちらがいいというわけではないですが。 ○大塚関係官 ありがとうございます。関係官の大塚です。今の部会長の問題提起を受けまして、猶予期間を設けないことによる担保権者にとってのメリットは何かについて考えてみましたが、一つは、何度か議論に出てきましたが、即時に処分しなければ困るような財産が目的物である場合が考えられます。すなわち生鮮食品のように、猶予期間を待っていると減価が激しくて担保としての意味がなくなってしまう、そういう場合が考えられます。ただ、この場合に対処するためには、動産譲渡担保一般に猶予期間を設けないという選択をする必要は必ずしもなくて、そういった即時に処分することが必要な財産についてのみ猶予期間を設けないという立法が考えられると思います。もちろんその切り分けというのが非常に難しいとは思いますけれども、例えば、そのとおり処分が即時に必要なといった要件を立てることでも構いませんし、あるいは、必ずしも一対一に対応するわけではありませんが、通常の譲渡担保については猶予期間を設け、集合動産譲渡担保については猶予期間を設けないといった切り分けというのも一つ考えられるかと思います。もう一つは、猶予期間を設けるという立法をしつつ、そういった生鮮食品などについては保全処分などで対応し、金銭などに換価して、そこに担保の効力を及ぼすという考え方もあり得るかと思います。これが、処分が即時に必要な場合についてです。   もう一つ、担保権者にとってのメリットといいますと、本多委員などが挙げられている、隠されてしまうというリスクに対応できるかという問題があります。ただ、この点については、部会長がおっしゃっていたとおり、猶予期間を設けるかどうかによって有意にリスクが大きくなるかというと、よく分からないところがありますので、もう少し具体的に考える必要があるのかなと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございますでしょうか。 ○阿部幹事 阿部です。ありがとうございます。猶予期間を設けないことにどれぐらい意味があるかということで、確かに約定の弁済期がもうすぐ到来しそうだということになったら、隠す人はもう弁済期到来前に隠すといったことがあり得るような気もしますけれども、そうでなくて、例えば、期限の利益喪失事由があって、そういうものによって期限の利益を喪失したりだとか、あるいは債権者の請求によって期限の利益を喪失させられるというときに、それでも、そこから更に1週間待たなければいけないということになると、その間に隠匿等をされるといったことはあるのかなと思いました。それに対しては、確かに大塚さんのおっしゃるように、保全処分とか、何かほかの方法で手を打つということもあり得るのかもしれませんけれども、約定の期限が到来するという場面だけではなくて、ほかの場面もあり得るのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   よろしいでしょうか。結論が全然出ているわけではないのですが、考えられる論点というのはかなり明らかになってきたと思いますので、これを基にもう少し検討してまとめるという方向にさせていただければと思います。   ほかに御質問、御意見がないようでしたらば、本日は残りの部分をやったということで、本当はもう少し早く終わるかと思っていたのですが、結局ほとんどフルに時間が掛かってしまいましたけれども、本日の審議はこの程度にさせていただくということでよろしいでしょうか。   それでは、どうもありがとうございました。次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日もありがとうございました。次回は6月14日火曜日午後1時30分から午後5時30分まで、場所は法務省20階第1会議室でございます。 ○道垣内部会長 今度は広い部屋でございますので、感染状況を見ながら、リアルな出席の可能性も含めて、御判断いただければと思います。   それでは、法制審議会担保法制部会の第17回会議を閉会にさせていただければと思います。   本日は熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了- - 36 -