法制審議会 刑事法(犯罪収益等の没収関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和4年7月27日(水)   自 午前10時00分                        至 午前11時34分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について         2 諮問の経緯等について         3 犯罪収益等として没収することができる財産の範囲の改正について         4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○加藤幹事 ただいまから法制審議会刑事法(犯罪収益等の没収関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は、御多忙のところ、犯罪収益等の没収関係についての御審議に御出席いただき、誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間、慣例により、私が進行を務めさせていただきます。   最初に、私から、この度部会が開催されるに至った経緯等につきまして、御説明申し上げます。   本年6月27日、法務大臣から、「犯罪収益等の没収に関する諮問」(諮問第123号)がなされ、同日開催された法制審議会第195回会議において、この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。   そして、同会議において、この諮問について審議するための部会として、「刑事法(犯罪収益等の没収関係)部会」を設けることが決定され、同部会を構成する委員及び幹事が、法制審議会の一任を受けた会長から指名され、本日ここに御出席いただいたところでございます。   本日は、井田良法制審議会会長にも御出席をいただいておりますので、御紹介申し上げます。 ○井田会長 井田でございます。 ○川原委員 委員や幹事の方々におかれましては、初対面の方も少なくないかと存じますので、まず、簡単にお名前、御所属等を御紹介いただきたいと存じます。   また、後ほど、出席の承認の手続をお願いいたしますが、関係官も出席しておりますので、併せて自己紹介をお願いいたします。   自己紹介をしていただく順番ですが、まず、法務省会場に御参集の委員・幹事の方々に、今井委員から着席順に自己紹介をお願いいたします。その後、オンラインにより御出席の委員・幹事の方々に、私の方から五十音順に順番にお声掛けいたしますので、自己紹介をお願いいたします。 ○今井委員 法政大学の今井でございます。どうかよろしくお願いいたします。 ○久保委員 第二東京弁護士会所属の弁護士の久保と申します。よろしくお願いいたします。 ○古賀委員 最高検察庁検事の古賀と申します。よろしくお願いいたします。 ○井上関係官 法務省特別顧問を務めております井上と申します。よろしくお願いします。 ○保坂幹事 法務省で刑事局担当の官房審議官をしております保坂と申します。よろしくお願いいたします。 ○岡本幹事 法務省刑事局公安課長をしております岡本と申します。よろしくお願いいたします。 ○加藤幹事 法務省刑事局刑事法制企画官をしております加藤と申します。よろしくお願いします。 ○川原委員 それでは、オンラインにより御出席の方々にお願いいたします。 ○大賀委員 警察庁の刑事局長の大賀でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局で参事官をしていますくのぎと申します。よろしくお願いいたします。 ○中井幹事 弁護士の中井でございます。よろしくお願いいたします。 ○樋口幹事 東京大学の樋口と申します。よろしくお願いします。 ○御山委員 大阪地方裁判所の部総括判事をしております御山でございます。よろしくお願いいたします。 ○安枝幹事 警察庁暴力団対策課長の安枝でございます。よろしくお願いいたします。 ○安田委員 京都大学で刑法を講じております安田と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○横山幹事 最高裁判所刑事局の横山でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○吉崎委員 最高裁判所刑事局長の吉崎でございます。よろしくお願いいたします。 ○和田委員 東京大学の和田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   次に、部会長の選任手続に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により、部会長は、部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき、会長が指名することとされております。   そこで、早速、当部会の部会長を互選することといたしたいと存じますが、部会長の選任手続について、御質問等ございますでしょうか。   特に御質問等はないようですので、皆様の御意見を伺いたいと存じます。どなたか、御意見はございますでしょうか。 ○安田委員 私は、今井猛嘉委員が部会長として適任であると存じます。   今井委員は、刑事法の様々な分野で卓越した業績を上げておられる、我が国を代表する研究者でございますし、組織的犯罪処罰法の関係につきましても、我が国の第一人者でございます。これまでの御業績から見まして、部会長には今井委員が適任であると思い、御推薦申し上げる次第でございます。 ○川原委員 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○和田委員 私も今井委員に部会長をお願いすることが適当であると考えます。   今井委員は、これまでに刑事法の在り方に関わる複数の審議会で委員を務められておりますし、法制審議会の刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会において、部会長として議事を取りまとめられております。そのような御経歴に照らしましても、今井委員に部会長をお願いすることが適当であると考えております。 ○川原委員 ただいま、安田委員、和田委員から、今井猛嘉委員を部会長に推薦する旨の御提案をいただきましたが、この御提案について御意見等はございますでしょうか。   特に御意見がないようですので、当部会の部会長として、今井猛嘉委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   今井委員におかれましても、部会長をお引き受けいただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○川原委員 ありがとうございます。それでは、互選の結果、今井猛嘉委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で、井田良会長に部会長を指名していただこうと思います。  井田会長、よろしくお願いいたします。 ○井田会長 部会長につきましては、互選に基づいて会長が指名することとされておりますので、ただいま互選されました今井猛嘉委員を部会長に指名いたします。   今井部会長、よろしくお願いいたします。             (今井委員 部会長席に移動) ○川原委員 井田会長により、今井委員が当部会の部会長として指名され、これをもって、今井委員が部会長に選任されました。   今井委員には、部会長席に移動していただいておりますので、この後の進行をお願いしたいと存じます。   それでは、今井部会長、よろしくお願いいたします。   なお、井田会長はここで御退出されます。ありがとうございました。              (井田会長 退室) ○今井部会長 ただいま、部会長に選任されました今井でございます。議事が円滑に進みますよう、部会を運営してまいりますので、皆様方の御理解と御協力のほど、よろしくお願い申し上げます。   まずは、法制審議会令第6条第5項により、部会長に事故があるときにその職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので、指名をいたします。   安田拓人委員にお願いしたいと思います。安田委員、どうぞよろしくお願いいたします。   次に、関係官の出席の承認の件でございますが、法務省特別顧問の井上正仁氏に、関係官として当部会に出席していただきたいと考えておりますが、よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 それでは、井上関係官には、当部会の会議に御出席願うことといたします。   次に、当部会の議事録についてでございますが、その作成・公開の方法を決めるに当たりまして、まず、これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて、事務当局から説明をお願いします。 ○加藤幹事 これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて御説明いたします。   平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして、議事録の公開方法に関しては、総会については、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則とする一方、法制審議会の会長において、委員の意見を聴いて、審議事項の内容、部会の検討状況や報告内容のほか、発言者等の権利利益を保障するため当該氏名を公にしないことの必要性、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無等を考慮し、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないことができることとされました。   また、部会につきましても、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則としつつ、それぞれの諮問に係る審議事項ごとに、総会での取扱いに準じて、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして、当部会におきましても、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することが原則となりますが、部会長におかれて、委員の皆様の御意見をお聞きし、ただいま申し上げたような諸要素を考慮して、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○今井部会長 ただいまの御説明について、何か御質問はございますでしょうか。   ただいまの御説明を踏まえて考えますと、当部会における審議の内容を広く国民の皆様に知っていただくという観点からも、発言者名を明らかにした議事録を作成し、これを公開することが相当ではないかと考えるところでございます。   そこで、私といたしましては、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、原則としてこれを法務省のウェブサイト上において公開するという取扱いにしてはいかがかと考えます。   もっとも、今の説明にあったとおり、審議事項の内容その他の事項を考慮して、発言者名等を公開することが相当でないと考えられるような場合には、その都度皆様にお諮りして、部分的に公開しない措置を採ることとしたいと考えますが、いかがでございましょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 御異議はないようでございますので、議事録につきましては、発言者名を明らかにしたものを作成の上、原則としてこれを公開するという取扱いとさせていただきたいと思います。   それでは、先の法制審議会総会におきまして、当部会で調査審議するように決定のありました諮問第123号について、審議を行います。   まず、諮問を朗読してもらいます。 ○加藤幹事 諮問第123号   近年における犯罪収益等の実情等に鑑み、犯罪収益等として没収することができる財産の範囲を早急に改める必要があると思われるので、別紙要綱(骨子)について御意見を承りたい。   別紙、要綱(骨子)   組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律第13条第1項各号に掲げる財産は、不動産若しくは動産又は金銭債権でないときも、これを没収することができるものとすること。 ○今井部会長 次に、事務当局から、諮問に至る経緯及び諮問の趣旨等について説明をしてもらいます。 ○岡本幹事 諮問第123号につきまして、諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明いたします。   近年、情報通信技術の進展や普及に伴い、財産の取得・保有・移転が暗号資産をはじめとする新たな形態で行われるようになる一方で、取得・移転の容易性や匿名性の高さといった特性から、これが犯罪に悪用され、犯罪による利益が新たな形態の財産として取得・保有・移転されることがあります。   組織的犯罪処罰法第13条第1項は、犯罪収益などの一定の不法な財産の没収について規定していますが、当該財産が「不動産若しくは動産又は金銭債権」であることを没収の要件としているため、こうした新たな形態の財産は、「不動産」や「動産」に当たらないことはもとより、「金銭債権」にも当たらないとして、没収の対象にならない場合があります。しかしながら、そのような犯罪収益等についても、犯人から確実に剝奪する必要があります。   加えて、マネー・ローンダリング対策等に関する国際的枠組みであるFATF(金融活動作業部会)は、各国に対し、犯罪収益の没収に関し、リスク・アセスメントを踏まえた制度の整備やその効果的な運用を求めており、新たな形態の財産として保有される犯罪収益等の没収を可能とすることは、国際的な要請にも合致するものと考えられます。   以上を踏まえ、犯罪収益等として没収可能な財産の範囲を早急に改める必要があると思われることから、今回の諮問に至ったものです。   次に、諮問の趣旨等について御説明いたします。   配布資料1を御覧ください。   今回の諮問に際しましては、事務当局において検討した案を要綱(骨子)としてお示ししてありますので、この案を基に、具体的な御審議をお願いいたします。   要綱(骨子)について御説明いたします。   要綱(骨子)の概要は、先ほど御説明した、没収の要件を定める組織的犯罪処罰法第13条第1項を改め、同項各号に掲げる財産は、不動産若しくは動産又は金銭債権でないときも、これを没収することができるものとすることです。   要綱(骨子)の概要は、以上のとおりです。   十分に御審議の上、できる限り速やかに御意見を賜りますよう、お願いいたします。 ○今井部会長 次に、事務当局から、配布資料について説明をしてもらいます。 ○加藤幹事 配布資料について御説明いたします。   まず、資料1は、先ほど朗読いたしました、諮問第123号です。   資料2は、平成28年から令和2年までの間における組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法の没収・追徴規定の適用状況に関する資料です。   資料3は、平成30年から令和3年までの間に第一審判決があった事件のうち、犯罪収益が新たな形態の財産、具体的には暗号資産や電子マネー利用権として取得・保有・移転された事例をまとめた資料です。   資料4は、犯罪収益等の没収・追徴に関する近時の裁判例の概要です。   番号1は、暗号資産は組織的犯罪処罰法第13条第1項の「金銭債権」に当たらないとした東京高裁の裁判例、番号2は、被告人が暗号資産交換業者に対して有する債権(暗号資産移転請求権)は「金銭債権」に当たらないとした東京高裁の裁判例、番号3及び4は、電子マネー利用権が「金銭債権」に当たらないとした地裁レベルの裁判例です。   番号5及び6は、没収可能な財産の種類に限定のない麻薬特例法や金融商品取引法の没収規定に基づき不動産若しくは動産又は金銭債権以外の財産、具体的には、金地金等の引渡請求権や振替株式が没収されたものです。   資料5は、昨年(令和3年)8月に公表されたFATF(金融活動作業部会)対日相互審査報告書の概要をまとめたもので、報告書の該当部分の英文を仮訳したものを添付しております。   ここでは、本諮問のような法整備を行うべき旨が明示的に指摘されているわけではありませんが、我が国の没収の現状の問題点を指摘する部分としては、例えば、資料の4ページ「主な評価結果」「b)」において、「追求される財産の拘束と没収の範囲は日本のリスクプロファイルとは一致していない」などといった指摘がなされています。   資料6は、諸外国における犯罪収益の没収等に関する法制の概要に関する資料であり、アメリカ(連邦)、イギリス、ドイツ、フランス及び韓国の関係規定の内容をまとめております。   アメリカにおいては、個別の犯罪ごとに没収規定が設けられているところ、代表的な没収規定においては、刑事没収が可能な財産について不動産・動産・金銭債権などといった種類による限定はありません。   イギリスにおいては、犯罪収益の没収について、回復可能額を決定し、その金額の支払を要求する没収命令を発出する旨が規定されているところ、その金額の算定上考慮される財産は、金銭、不動産、動産及び無形財産を含む全ての財産とされています。   ドイツ、フランス及び韓国においては、いずれも、犯罪収益の没収について、没収対象となる財産について不動産・動産・金銭債権などといった種類による限定はありません。   配布資料の説明は以上です。 ○今井部会長 事務当局からの説明は以上です。   現段階で、これまでの事務当局の説明内容について御質問等がございましたら、お願いいたします。   ございませんでしょうか。   それでは、諮問事項の審議に入りたいと思います。   先ほど事務当局からも説明があったとおり、今回の諮問は、近年における犯罪収益等の実情等に鑑み、犯罪収益等として没収することができる財産について、要綱(骨子)にあるとおり、その範囲を改めるものです。   そこで、この要綱(骨子)に沿って、犯罪収益等が不動産若しくは動産又は金銭債権でないときも、これを没収することができるものとすることについて、必要かつ相当なものであるかどうか、審議を行いたいと思います。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 ありがとうございます。それでは、そのように審議を進めさせていただきます。   御質問や御意見がある方は、挙手の上、御発言をお願いいたします。 ○安田委員 それでは、まず、事務当局に一つお伺いします。   組織的犯罪処罰法の没収は、犯罪収益等の的確な剝奪を可能とするために、財産が有体物、つまり不動産又は動産に限られず、金銭債権である場合にも没収することができること、そしてまた、一次的な対価に限られず、犯罪行為により得た財産等の保有又は処分に基づいた財産として特定され、追跡可能である限りは、その転換により得た財産を没収することができることの二つの点において、刑法の没収を拡大したものであると認識しております。   組織的犯罪処罰法第13条第1項の柱書きは、平成8年から9年にかけて行われた法制審議会の答申を踏まえて立案され、平成11年に制定されたまま、改正は今まで行われていないものと承知しておりますが、本諮問について議論を行う前提として、現行法上没収可能な財産の範囲が不動産・動産・金銭債権に限られている理由について、事務当局にお伺いします。 ○加藤幹事 組織的犯罪処罰法第13条第1項は、犯罪収益や犯罪収益に由来する財産等について、没収の対象を刑法第19条の「物」、すなわち動産又は不動産から拡大し、当該財産が「金銭債権」、つまり金銭の支払を目的とする債権である場合であっても、これを没収することができるものとしておりますが、麻薬特例法第11条第1項などとは異なって、「物」や「金銭債権」に当たらないその他の「財産」は、その対象とはしていないところでございます。   これは、平成11年の組織的犯罪処罰法の制定当時、財産上の不正な利益を得る目的で犯した一定の犯罪につき、実務上最も必要性が高いと考えられる預金債権その他の金銭債権を没収の対象とすることが実現できれば、当時の社会・経済情勢に即応した犯罪収益の剝奪が可能となると考えられたことから、没収可能財産を金銭債権にまで拡大するにとどめたことによるものでございます。 ○安田委員 今の御回答を受けまして、一言述べさせていただきます。   刑事立法に当たりましては、立法事実を的確に踏まえた議論が求められるところかと存じますが、平成11年の制定時の考え方は、薬物犯罪以外の一般的な犯罪を前提犯罪とする犯罪収益を対象として、有体物以外の財産も没収可能にするに当たり、当時喫緊の課題であった預金債権その他の金銭債権を対象に含めたという点で、言わば最初の一歩としての立法政策として、当時としては相応の理由があったように思われます。   しかし、他方で、近年、情報通信技術の進展や普及は目覚ましく進んでいまして、財産の取得・保有・移転についても、現金や預金だけではなく、暗号資産や電子マネーをはじめとする新たな形態で行われるなどしており、当時と比較しますと、社会・経済情勢は大きく変化しております。本諮問につきましては、こうした情勢の変化を的確に踏まえて議論を進めていくことが必要であると感じております。   もう1点申し上げます。刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会でも申し上げましたが、平成11年に組織的犯罪処罰法が制定された後、詐欺罪等の財産犯等の犯罪行為により犯人が得た財産、つまり犯罪被害財産につきましては、当該犯罪が組織的に行われた場合や、当該被害金についてマネー・ローンダリングが行われた場合には、刑事裁判において犯人から剝奪し、これを原資として被害者に給付金を支給する「被害回復給付金支給制度」が導入されるなどの法改正が平成18年に行われておりますし、更には平成29年の改正で犯罪収益の前提犯罪の範囲が拡大されたと承知しております。   こうした法改正を踏まえますと、組織的犯罪処罰法の制定当時よりも、国家が犯罪収益を剝奪することが犯罪の抑止や被害者保護の上で有する重要性が増している状況にあると言えます。このような観点からしますと、追徴より没収の方が一層の被害者保護に資するものと考えられ、以上のことから、本諮問について議論するに当たりましては、先ほど申し上げた社会・経済情勢の変化という観点に加えまして、犯罪収益を、取り分け没収として剝奪することの意義や機能という観点も、重視して検討していくことが重要であるように感じる次第でございます。 ○和田委員 ただいまの安田委員の御発言のうち、特に前半部分に関連して申し上げます。   冒頭で事務当局から諮問の趣旨について御説明がありました。そこでは、近年、暗号資産をはじめとする新たな形態の財産が犯罪に悪用され、犯罪による利益が新たな形態の財産として取得・保有・移転されることがあるということでした。これを、具体的に配布資料3で見てみますと、犯罪収益である暗号資産を収受した事例や、暗号資産を詐取した事例など、組織的犯罪処罰法の制定当時には想定されていなかったような財産が、現に犯罪の対象となり、犯罪収益となっているようでございます。   また、近時も引き続き高齢者等をターゲットとする特殊詐欺の事案が顕著な社会問題となっているところですが、そこでも現金や預金を詐取するという典型的な場合とは別に、電子マネーのギフト券番号を示させて電子マネーの利用権を詐取する事案などが生じております。こうした事案では、犯人グループが、詐取した電子マネーの利用権を電子ギフト券の買取業者を通じて現金化するなどして、マネー・ローンダリングを行っている実情があると考えております。そのような、捜査機関から容易に捕捉されない形で、新たな形態の財産を用いた資金移動が現に行われております。さらに、配布資料4にありますように、金地金等の引渡請求権や振替株式に係る非典型的な類型の実例も現に生じています。   したがいまして、現在の社会情勢、経済情勢や犯罪情勢に鑑みますと、今後ますます、犯罪収益が暗号資産を代表とする非典型的な、これまでの典型例とは異なるような形でやり取りされる事案が増えることが想定されますけれども、対応に苦慮する事案が頻発するようになってから対応するのでは遅きに失します。将来を見通しますと、このような新たな形態の財産が没収の対象から除外されたままとしておくことは適切ではないと考えられ、むしろ犯罪収益等を犯人の手元に残すことなくその剝奪を徹底する観点からすれば、現時点で、そのような財産を確実に没収することができるものとする必要性が急速に高まっているというべきです。   そして、さらに、将来的な情報通信技術の発展、取り分けデジタル資産に関する技術の進展や、それに伴う社会・経済情勢の変化も視野に入れ、それらに耐え得る法制度を構築するという観点からしますと、組織的犯罪処罰法の制定当時から現在に至るまでの間に、既に暗号資産や電子マネーといった新たな形態の財産が生まれ、普及したように、今後も、現時点ではまだ具体化していない、あるいは一般には認識されていないような新たな形態の財産が生まれ、犯罪収益の取得・保有・移転に用いられるような事態が生じることは、容易に想像でき、それに対して対応する必要性が認められると考えられます。   したがいまして、今般の諮問は、「財産」一般について、つまり没収することができる財産を暗号資産や電子マネーという形で個別に加えるのではなく、「財産」一般について、組織的犯罪処罰法第13条第1項に基づく没収を可能とする内容でありますが、今述べたような情報通信技術の進展等や経済・社会の変化により生じ得るあらゆる形態の財産である犯罪収益に対応できる規定を整備するという観点からすると、必要であり、かつ、相当な内容であると考えております。 ○樋口幹事 冒頭の安田委員の御指摘の後半に関わる部分、すなわち、犯罪収益の剝奪について、特に没収として剝奪する意義の検討という点について申し上げます。   本年1月に開催されました、刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会におきまして、「犯罪収益は、人が犯罪組織に集まる理由となり、また、犯罪組織の活動基盤になるものであり、犯罪収益が保持されるという事態は徹底的に排除する必要があります。そのための車の両輪となるのが、没収・追徴の徹底と、マネー・ローンダリングに対する厳正な処罰です。」と申し上げました。   刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会におきましては、マネー・ローンダリングとともに、車の両輪を成す制度として、没収と追徴を併記する形で言及するにとどまりました。没収の対象の拡大が諮問事項となっている本部会では、没収と追徴の関係について、理論的な検討を加えておくことが有用と考えます。犯罪によって生じた利得を保持させないという観点から考えますと、没収と追徴は、いずれも利得の剝奪として機能するという点で等価的という見方も成り立ちます。   没収と追徴の使い分け方は、様々な形であり得るわけでして、事務当局が作成した比較法の一覧表を見ますと、イギリス法では、我が国の法制度から見れば、追徴を刑事制裁として活用する方向になっているようです。犯罪による利得の保持を許さないという点から見れば、各国ごとにその法制度の全体像に照らしながら、没収と追徴の具体的な制度設計がなされるのでしょう。   そこで、我が国の法制度について見ますと、刑法典上の没収と追徴においては、没収が付加刑として規定されており、追徴は没収不能時に限って使用される換刑処分と位置付けられております。そして、この刑法典の規定振りを踏まえて、組織的犯罪処罰法は、没収不能に加えて、没収が相当でない場合にも追徴を利用できる形になっており、追徴の使用はある程度拡張されております。   このような規定振りを制裁の理論面から考えてみたいと思います。没収については、我が国では従前、刑罰的性質と保安処分的性質が問題にされてきました。刑罰的性質から見れば、犯罪収益は犯罪によって得られた「黒い財産」であり、それは保持することが許されない存在であるという形での非難を行うものと言えます。一方、保安処分的性質から見れば、犯罪収益が保持されると、更なる犯罪収益を生み出す原資に使用される危険性があるため、犯罪収益は剝奪すべきということになります。刑罰的性質、保安処分的性質のいずれから見ましても、犯人の一般財産から犯罪収益に相当する利得を剝奪する追徴によっては、その目的を十分に達成することができず、犯罪収益そのものを剝奪する没収によってこそ、その目的が達成されると言えます。   更に付言しますと、比較法的には、犯罪収益の剝奪について、刑罰的性質、保安処分的性質という二つの性質論にとどまることなく、犯罪収益の保持を許さないということは、それ自体、国家が固有の目的として追求してしかるべきものという考え方が見受けられます。この考え方からすれば、「黒い財産」であり、人が犯罪収益を求めて集合し、更なる犯罪の原因になる犯罪収益、それ自体を剝奪することを目指す制度として、まずは没収を活用すべきと言えるでしょう。マネー・ローンダリング罪の客体が犯罪収益であることに鑑みますと、車の両輪の片方になるのは、まずは犯罪収益それ自体の剝奪を目指す没収といった見方も成り立つのかもしれません。   刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会におきまして、法定刑の引上げが捜査機関へのメッセージになるという指摘が和田委員からありましたが、没収対象の拡張は、まずは犯罪収益それ自体の剝奪を目指すという、捜査機関へのメッセージになるといった理解も可能でしょうか。   もっとも、犯罪収益それ自体の剝奪を強調するとしても、それを絶対的な要請であるものとし、運用上過度の負担を生み出すような事態は望ましいものではありません。このような点から見ますと、現在の組織的犯罪処罰法が没収を原則としつつも、没収不能だけではなく、没収不相当も追加することで、刑法典よりも柔軟に追徴の活用も是認することには合理性が認められます。   以上の観点からしますと、組織的犯罪処罰法第13条第1項の財産について、不動産・動産・金銭債権以外であるときについても没収によって対応できるものとし、犯罪収益それ自体を端的に剝奪の対象にすることは、犯罪による利得の剝奪方法として没収を基本に据えている我が国の制度全体の在り方と整合的な対応と言えるでしょう。 ○中井幹事 結論として、要綱(骨子)のとおり、組織的犯罪処罰法の財産の範囲を拡張することに賛成です。以下、理由を述べさせていただきます。   私は、民事介入暴力対策に長年関わってきた弁護士でございます。犯罪収益を剝奪することによる組織的な犯罪の予防や撲滅という視点はもちろん重要ですけれども、弁護士の立場からすると、実際に被害に遭った被害者に対して、被害回復を行うという観点が重視されるところでございます。IT技術の進歩により、匿名犯罪とその組織化が容易になったことや、その組織化された犯罪集団のボーダーレス化などにより、前提犯罪もマネー・ローンダリング行為もともに日進月歩で進歩し、その手口は巧妙化し、被害額も増大していることを本当に実感しております。そして、その巧妙さのために、被った被害を直接取り返すどころか、加害者にたどり着くことさえ難しく、我々弁護士は組織的な犯罪による被害回復がかなり難しいことを日々痛感し、また、非常に悔しい思いをしております。   例えば、近年、最高で約6億5,000万円を回収した事件をはじめとして、私たちは特殊詐欺に関して、暴力団組長に対して使用者責任を追及する民事訴訟を数多く提訴し、被害を回収しています。しかし、明るみに出ただけでも年間数百億円という特殊詐欺の被害額全体からすると、回収額はほんの一部と言わざるを得ません。しかも、被った被害を直接回収しているわけではなく、事件に暴力団員が関わっているときに、直接の被害を回収する代わりに、トップに責任を取らせている、言わば間接的な被害回復です。   また、事件解決についても、個別の特殊詐欺被害が発生してから犯罪の組織的全容が分からないケースも多く、分かったとしても数年掛かります。そして、全容が分かって組長相手に裁判ができそうになっても、被害者である一般の方に暴力団組長相手に裁判を起こしませんかと言っても、なかなかその気になってもらうことは簡単ではありません。また、中には、自分を責めて、自ら命を絶っておられる被害者もおられます。さらに、民事訴訟を提訴できても、終わるまで数年掛かる状況の中で、高齢の被害者の方の中には、裁判が終わって被害を回収したときには、既に亡くなられたり、認知症になっておられたりすることも数多くあります。このように、組織的な匿名犯罪について、民事的な手続で被害回復することはかなり困難であることからすると、やはり国家が被害者に代わって被害回復を積極的に行ってもらわなければならないことを痛感します。   そのため、日弁連においても、2018年10月5日に青森で行われた人権擁護大会において、「特殊詐欺を典型とする社会的弱者等を標的にした組織的犯罪に係る被害の防止及び回復並びに被害者支援の推進を目指す決議」を採択し、その中で、「国及び地方自治体は、特殊詐欺の被害防止と被害回復を実現するため、特殊詐欺の被害の甚大さに見合った十分な予算及び人員を投入し、特殊詐欺に係る捜査態勢を拡充し、適正な捜査手続に基づき、可能な限りの捜査・取締りを推進すること」を決議し、被害回復の道筋が少しでも開かれることを求めています。   追徴と没収関係を我々の立場から言わせていただきますと、もし暗号資産や電子マネー利用権が現行の組織的犯罪処罰法の没収対象から外れることになった場合には、追徴ということになると思います。しかし、追徴の場合には、以下に述べるように没収と比較した場合に、被害者への被害回復の観点から見ると、一定の制約が生じる場合があるように思われます。すなわち、例えば、没収の場合には、裁判の確定により犯罪収益等の財産そのものが国に帰属して、検察官が当該財産を処分するのに対して、追徴の場合には、国は、当該財産の価額に相当する金銭債権を有する債権者の立場になるだけであって、組織的犯罪処罰法による追徴の執行手続においては、優先徴収権が認められていないことから、他の一般債権者と競合することとなる場合には、債権額の割合に応じた配当しか受けられません。そのため、組織的犯罪処罰法による被害者に対しては、犯罪被害財産等による被害回復給付金の支給に関する法律により、没収・追徴した犯罪収益等を被害者に分配・支払することができるわけですが、その前提として、国がどれぐらい回収できるかに違いが出てくる場面が出てきます。   例えば、犯人が暗号資産1,000万円相当を持っていて、第三者が犯人に対して1,000万円の貸金を他に有していてその犯人が破産した事案では、没収の場合には、国が暗号資産1,000万円分を被害者への分配に充てることができます。これに対し、追徴の場合には、国、つまり被害者に分配する原資と他の債権者とは500万円ずつの按分となってしまうことになります。ちなみに、我々の民事介入暴力対策委員会には外国法に詳しい先生がいますが、没収財産を被害者に分配するスイス刑法の教科書でも、「追徴の強制執行は国家の優先権を基礎付けるものではなく、差押え又は破産手続開始の場合において、国家は他の債権者と同等と扱われ、差し押さえられた財産を取り上げることはできない」として、没収と比較する場合の追徴のデメリットが指摘されているそうです。他の債権者と被害者の債権の優劣をどのように順序付けるかということ自体、恐らくかなり難しい問題だとは思いますけれども、少なくとも、私は、被害に遭った人には、とられた被害そのものは返還してあげるべきだと思います。その観点からすると、追徴よりは没収の方が適切な場合が出てくるように思います。   それから、次に刑法上の追徴に関するものですけれども、最高裁の判例上、当該財産の価額に変動が生じた場合には、取得時の価額で追徴するということとされているようです。そのため、追徴によっては、値上がりした場合、対象財産の価格上昇分の利得を剝奪することができない場合が生じる可能性があります。この追徴の場合の最高裁の取得時基準説の立場に立つと、値上がり分は剝奪できないこととなりますが、組織的な犯罪の場合、被害者は多数存在するのが通常ですから、犯人たちから剝奪した被害財産を分け合って被害回復を行うことになるため、できるだけ剝奪できる財産が多い、あるいは価値が高い方がいいことは、言うまでもありません。つまり、値上がり分も含めて没収によって取り上げられれば、それだけ被害回復に充てられる額が増えることになり、その観点からも、追徴よりは没収の方が適切な場合が出てくると思います。   最後ですけれども、没収に代わる追徴については、一部のものを除いて起訴前の追徴保全ができないようですから、捜査をしている間に追徴ができなくなる可能性もあると思います。そのため、被害回復を少しでも確実にするという観点からも、追徴よりは没収の方が適切な場合が出てくると思います。   こうした観点を踏まえると、被害者への被害回復のためには、端的に、当該財産そのものを剝奪する没収による対応を可能とすることが効果的である場合があると思われ、追徴では不十分な場合も想定されるので、没収の範囲を拡大する必要性は高いと思います。   先ほど、先生方もおっしゃったように、組織的犯罪処罰法が制定されたのが平成11年で、その後、社会状況もかなり変わってきました。かつ、その当時、マネー・ローンダリングに対する法執行として対応できるものが、金銭債権まであればよいとの考えから制定されたものと思われますので、あえて限定列挙を維持しなければいけないという積極的理由がないと思います。現行法制定後20年以上経って、いろいろな規約などの性質からも、暗号資産など財産の多様性にはとどまるところがないと思います。したがって、現在の限定列挙方式では、もはや現在のマネー・ローンダリングには対応できないものとなっていると思います。   配布資料でも紹介されているように、暗号資産のほか、被害の対象として、電子マネー利用権や振替株式や新株予約権などの、金銭債権かどうかについて争いのある財産も含まれます。しかし、それらが犯罪により得られたものであるにもかかわらず没収できないということになれば、犯罪収益を剝奪し、被害回復につなげるという組織的犯罪処罰法の趣旨に反します。そのため、没収対象財産は限定列挙するのではなく、広く「財産」として、没収できるかどうか迷う必要がなくなればよいと思います。   ちなみに、限定方法は、「犯罪収益」などの組織的犯罪処罰法の枠組みで十分だと考えております。 ○古賀委員 刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会の第2回会議の席で申し上げましたが、近時、検察の現場におきましては、暗号資産や電子マネーを不正に取得したり、犯罪で取得した資金を暗号資産、電子マネーに転換するなどといったように、暗号資産をはじめとするデジタル技術を用いた資産が犯罪収益となる事案に対処することが求められております。   検察におきましては、法と証拠に基づきまして、個別の事案に応じて的確に対応しているところではございますけれども、先ほどの配布資料4にもありますとおり、近時、下級審において、暗号資産や暗号資産移転請求権、電子マネー利用権が組織的犯罪処罰法第13条第1項の「金銭債権」に該当しないという判断が示された例も見られるところでございます。   中井幹事からも先ほど丁寧に御発言があったとおり、犯罪収益の剝奪としては、犯罪収益それ自体を没収することがより徹底した方法でございますが、それにもかかわらず、現行法の下では、当該犯罪収益を特定できており、事実上も法律上も没収を妨げる要因が他にない場合であっても、犯罪収益である暗号資産等を没収できないこととなります。これは、捜査・訴追の実務に携わる身としては、大きなジレンマとなっております。   加えて、犯罪収益が暗号資産や電子マネーである場合に没収できないとなると、犯罪収益が把握されていても、没収保全ができず、起訴後になって追徴保全ができるにとどまることとなり、このことも、犯罪収益剝奪の徹底を図る上で、マイナスとなるものでございます。   これらの実務的な観点からも、デジタル技術を用いた新たな形態の財産が犯罪収益であるときに、これを没収により確実に剝奪することができるようにするための法整備が以前にも増して急がれるものと考えております。 ○大賀委員 警察の視点から見た没収可能財産の拡大の必要性について、申し述べたいと思います。   警察では、マネー・ローンダリング対策あるいは組織犯罪対策を推進していますけれども、そのための重要な課題の一つが、犯罪により得た財産の行方、これを突き止めて犯人あるいは犯罪組織の手元からこれを剝奪するということです。警察においても、犯罪収益等が暗号資産や、あるいは電子マネーといった新たな形態の財産として取得、保有あるいは移転されていると、こうした実態に少なからず接しているところでありまして、これに的確に対処するといったことが求められていると認識しています。   そうした立場から申し上げますと、捜査の過程において、犯罪収益そのものを発見、そして特定できたとしても、財産の形態によってはこれを没収できず、それゆえに没収保全を行うこともできないというのは、犯罪収益の剝奪を徹底する上では大きな課題であると考えています。   マネー・ローンダリングのリスクといった点に鑑みても、こうした新たな財産形態を念頭に、こうした財産を没収するということができることとする今般の諮問に係る法整備は、犯人、そして犯罪組織から犯罪収益の剝奪を徹底するためには、極めて意義があるものと考えています。 ○久保委員 幾つか質問させていただきたい点がございますので、順次申し上げます。   まず1点目ですけれども、今回の要綱(骨子)のとおりに改正された場合、民事執行法第167条における「その他の財産権」として執行が可能とされているものと同じようなものが、没収対象となるという理解でよろしいのでしょうか。その場合、例えば、事務当局から御紹介のあった暗号資産ですとか電子マネー、また、先ほど中井幹事が言及されていました振替株式や新株予約権のほかに、どのようなものが新たに没収の対象となることを想定されているのか教えていただければと思います。 ○加藤幹事 まず、組織的犯罪処罰法第13条第1項における「不動産若しくは動産又は金銭債権」に該当せず、現行法上は没収できないと考えられている形態の財産として、先ほど、暗号資産、それから、例えば、電子マネー利用権というお話がございました。また、振替株式や配布資料4にございます金地金の引渡請求権のように、動産の引渡しを求めるような請求権、こういったものも、現行法上の「金銭債権」に当たらないと考えられる場合があると考えています。   そのほか、和田委員からも御発言がありましたけれども、現時点では具体化されていないような新たなデジタル資産というものが、今後生じる可能性というのも想定されるところであり、何が想定されるかをお答えすることは困難ですが、そういったものについても、本諮問に係る改正がなされることによって、「財産」に含まれることになると御理解いただければと思います。他方、民事執行法第167条の「その他の財産権」との関係について御質問がございましたけれども、飽くまで本諮問に係る改正は、「不動産若しくは動産又は金銭債権」という限定をなくそうというものでございますので、この民事執行法第167条の「その他の財産権」の範囲と一致してくるかどうかということについては、少しずれが出てくる可能性はあるかもしれませんが、先ほど申し上げたものが、本諮問に係る改正により没収可能となるものとして想定されるところではないかと考えているところでございます。 ○久保委員 ありがとうございます。   2点目の質問をさせていただければと思います。   暗号資産に関しては、民事執行法の領域において、既にいろいろと議論が先行しているところもありまして、現在私が承知している限り、暗号資産を差押えの対象とした場合には、秘密鍵が明らかでない場合に、その実効性が確保できないという問題が生じていると認識しております。この点、没収を更に確実にするための手続法の改正に関する議論を、この部会ですることも想定されているのか、あるいは、別の部会など、別の機会で議論をすることを想定されているのでしょうか。   それに関連して、こちらは、事務当局というよりも、参加されている委員や幹事の先生方で御存じの方があればというところでもあるのですが、各国の制度についての言及も先ほどございました。海外で暗号資産が没収の対象となっている国において、どのような方法でこの暗号資産の没収の確実性を確保しているのか、御存じの方がいらっしゃいましたら、御教示いただければと思います。 ○今井部会長 それでは、最初の御質問につきまして、事務当局からお願いします。 ○加藤幹事 前半の御質問に関しまして、事務当局からお答えします。   先ほど、秘密鍵という御指摘がございました。秘密鍵が分かることによって、暗号資産を移転することができるということが前提になったお話ではないかとお見受けいたします。捜査・公判の過程に照らして考えますと、民事の局面とは異なるところが若干ございまして、捜査・公判の過程におきましては、その被疑者又は被告人が秘密鍵を自ら捜査機関等に明らかにするというような場合や、捜索・差押え等の強制捜査の結果、証拠品を押収することなどによって、捜査機関が秘密鍵を把握する場合が考えられますので、本諮問に係る改正がなされ、犯罪収益等として没収可能な財産の範囲を拡大することができれば、犯罪収益の剝奪の徹底につながる事例というのもあるのではないかと考えているところでございます。   また、暗号資産の没収を確実にするための手続的な措置についての議論についてですが、本諮問としては、いわゆる実体法の部分の要件について検討いただきたいということで、要綱(骨子)をお示ししているところでございます。ですので、そのことについて御議論いただくということが、まず、本諮問においてお願いしているところではございますが、御指摘のあった、没収を確実にするための手続的規定の整備につきましては、今後、実務の課題を整理して、その要否を含めて検討してまいりたいと、事務当局として考えております。   それに当たっては、民事の分野における議論というのが非常に大切になってくるのではないかと考えているところでございまして、現在の民事法の分野における議論というのも参照しながら、考えていかなければならない問題であると認識しているところでございます。 ○今井部会長 それでは、2点目は、これは他の委員・幹事からお願いします。 ○樋口幹事 事務当局からも説明がありましたとおり、暗号資産の没収については民事の知識が必要でして、私の専門分野を超える部分があるのですけれども、今回の部会に向けて調査して分かった範囲で御回答するということで、お許しいただければと思います。   まず、ドイツなのですけれども、こちら、配布資料6に記載があるところですけれども、連邦最高裁判例がございまして、実体法部分としましては、没収の対象になるのは、犯行によって経済的に見て現に得られたあらゆるものであるとの一般論が示された上で、違法なマイニングによって取得されたビットコインも没収の対象にできるとの実体法的な判断が示されているところでございます。   御質問、御関心がございました秘密鍵の問題ですけれども、判例上、秘密鍵が分からないままでも没収自体は言い渡すことができることになっています。ただ、結局秘密鍵が分からないと執行が不可能になるのですけれども、ドイツ刑法には、事後的に追徴に変更できるといった柔軟な規定がありまして、没収と追徴の使い分け方に関して、判決後の執行まで含めた比較が必要なのかなと思われる次第です。   また、アメリカの方ですけれども、こちらは、刑事法(マネー・ローンダリング罪の法定刑関係)部会におきまして、ソニー生命保険の社員が170億円をビットコインに交換して、自らの管理口座に移したという事例について触れさせていただいたところでございます。こちらの事例、アメリカの口座が利用されたものなのですけれども、カリフォルニア南地区連邦裁判所におきまして、ビットコインのアドレスと数量で特定する形で民事没収の対象にし、ソニー生命保険の子会社が返還を受けるという判断が、今月出たばかりでございます。こちらは、民事没収という制度が利用されたものですが、刑事没収についても没収の対象の規定振りから見ますと、暗号資産を対象にすることに支障はないものと思われます。   御関心の秘密鍵の問題ですけれども、アメリカは、文献の紹介の限りでは、司法取引で分かることがあるといったような紹介がなされているところでございます。   また、ドイツ、アメリカに共通する点でございますけれども、秘密鍵が分かった暗号資産について、国のウォレットに移すということが実務的にはなされていると紹介を読んだところでございます。   雑駁ですけれども、調べた範囲で分かったことは以上でございます。 ○保坂幹事 久保委員の御質問に関連して、事務当局として補足をさせていただけたらと思うのですが、没収した後の暗号資産の処分というか執行に関連して、秘密鍵が分からない場合があるのではないかという御指摘でしたけれども、暗号資産の保有の仕方というのは二通りあるという理解をしておりまして、一つには、自分のウォレットによって保有しているというパターンと、交換業者に預託をして保有しているというパターンがございます。   自分のウォレットで管理している場合には、別のウォレットに移すなどするためには、秘密鍵が判明していなければなりませんが、暗号資産を交換業者に預託している場合には、秘密鍵が必要なわけではございません。これを前提といたしまして、交換業者に預託している暗号資産について、それを没収するということを想定いたしますと、これについては関係機関でも更に協議して、実務的に詰める必要があるわけですけれども、差し当たり考えておりますのは、暗号資産交換業者を利用しているという場合には、被告人、つまり没収の対象となる犯人が交換業者に対して有する債権、具体的に言えば、暗号資産の移転返還等の請求権ということになるわけですが、これを没収するということが想定されます。   この場合、没収の裁判の確定によりまして、その債権というのが国に帰属するということになりますので、検察官としては、これを処分しなければならないわけですが、その処分方法としては、例えば、債権者として当該交換業者に対して暗号資産の売却を求めるということをした上で、その換価代金を受領するという形で処分をするということが想定されるところでございます。これも、民事において議論があるところでございますので、そういった議論も参考にしながら、さらに実務的な観点から詰めたいと思っております。秘密鍵が判明しなくても、こういう形で没収後の処分ができる場合でありながらも、実体法において、没収可能財産としての制約がついているという状態ですので、それを取り払うことによりまして、最後の没収の処分までできる場合にはやっていこうと考えております。   もとより、その財産の性質、暗号資産の場合にも様々な規約上の制約があったり、その保管形態、例えば、ウォレットに保管している場合に秘密鍵は分からないということがあろうかと思います。その場合には、没収ができない、あるいは没収が相当でないということを理由として、追徴に切り替えていくということが可能でございますので、その場合には、追徴という形で一般財産の中から犯罪収益を剝奪していくという対応になろうかと考えております。 ○久保委員 今の保坂幹事の話に関連して御質問を更に続けてよろしいでしょうか。   そうすると、手続法の改正などを行わずに、現行の制度の下での没収としてどういう手続が考えられるかということについて、今、御紹介いただいたと認識いたしました。   これについてですけれども、例えば、被疑者・被告人は黙秘しているものの、パソコンや携帯電話あるいは物理的なメモなどが押収できて、そこから秘密鍵を入手できた場合に、その情報を、その後、没収の手続の中でどのように利用することが想定されるのか、つまり、どこかでその秘密鍵に関する情報について、本人が同意すればともかく、事実上得たという場合に、何らか司法審査を経た上で、その情報を利用することが想定されるのか、その辺りについて、どのような手続になるのかがイメージができないものですから、何かあれば教えていただきたいというのが、まず1点目です。   もう1点、今、売却についてのお話がありましたが、預託している場合も含めて、やはり価格の変動がかなり大きいというのが暗号資産の特徴だと認識しております。先ほど中井幹事から、値上がりについての御指摘があったかと思うのですけれども、例えば、いつどのように売却するかによって、むしろ価格が大きく変動して、被害者の方にお支払いできる金額というのが大きく目減りする危険性があるのではないかなということを危惧しております。   例えば、振替株式の事例などがあるということを、先ほど御紹介いただいたのですけれども、そういった預貯金のように大きく目減りしないものと異なるものについて、売却する際の基準時など、どういう方策が考えられるのかについて、何か想定されていることがあれば、教えていただければと思います。 ○今井部会長 最初の御質問は、手続法に関するものだと思います。先ほど加藤幹事からは、実体法がこの部会の主たるテーマであるという御説明がありましたので、それを踏まえて御回答を待ちたいと思います。   2点目の方は、実体法の問題かと思いますけれども、それは、中井幹事がおっしゃったように、最高裁が取得時説を採っているということに関連して、今後どう変わるかという問題なので、この部会の直接のメインテーマかどうか分かりませんが、可能な範囲で御回答をお願いしたいと思います。 ○保坂幹事 1点目の手続法に関する御質問について私からお答えいたします。秘密鍵という情報を把握するためには、当然捜査の過程で被疑者のパソコンなどを押収した上で、それを解析することによって、秘密鍵が判明するということになりますので、その秘密鍵の判明の過程では、これは通常の捜査、強制処分であるときには令状を取った上で、判明する場合には判明するということになろうかと思います。   その上で、恐らくお尋ねというのは、そのように捜査の過程で秘密鍵が判明し、その被疑者が暗号資産をウォレットにしまって、しまうという言葉が適切かどうか分かりませんが、ウォレットによってその暗号資産を管理・保有している場合、通常の有体物であれば差し押さえるということが可能でしょうし、あるいは、債権であれば没収保全をすることが可能であろうけれども、そのウォレットによって管理・保有している暗号資産を、秘密鍵が判明した上で、どう押収なり保全するのかということだと思います。   それについては、現行法の没収保全の規定で賄えるのか、賄えないのかということを踏まえた上で、更に検討することが必要です。仮に賄えないということであれば、それは改正をしていただかないとできませんということになります。   ただ、今回実体法としての没収可能財産の範囲を、こういう形で「財産」一般にさせていただこうとお願いしているのは、先ほど申し上げましたように、秘密鍵が判明してもしなくても、預託型での暗号資産については、現行法のままでも対応できる、つまり、没収後の処分自体は、これは別に刑事訴訟法に基づいてではなくて、検察官の処分として、必要があれば民事法の規定によって換価していくということが行われるわけですが、それが可能である以上は、財産の範囲をこうして拡大させていただくことに意味があるのではないかと考えているということでございます。 ○加藤幹事 後段の御質問は、暗号資産の売却の方法という御趣旨と理解したところでございますが、この点につきましては、先ほど保坂幹事からも発言がありましたけれども、暗号資産について、自己のウォレットで持っているか、預託しているかといった点や、預託しているものに関しても、規約に応じて様々な保管・管理の形態等が想定されるところでございます。   当面考えられるものとして、先ほど申し上げた預託型という場合について申し上げれば、その処分の方法に関しては、正に相手があるということにはなってきますが、それぞれの規約に基づいて、どういったことができるのか、どのタイミングで売却できるのかということにつきまして、実際の事案に応じて、検察当局において個別に対応していくということが、想定されるところです。   また、個別の対応のほかに、先ほど関係機関との協議が必要であると保坂幹事から申し上げた部分でございますけれども、具体的な関係機関としては、財務省、金融庁、そのほか、関係する業界は複数あると考えられますが、そういった業界の、例えば、一般社団法人日本暗号資産取引業協会などの団体が想定されるところでございまして、こちらと検察当局又は法務省の方で協議をした上で、売却等の具体的な方法についても検討していきたいと考えているところでございます。 ○久保委員 1点、最後に意見として申し上げたい点がございます。   先ほど申し上げた手続については、別途必要に応じて議論がなされるということを前提に、意見を申し上げます。   先ほど樋口幹事から、アメリカにおいて秘密鍵を明らかにすることが、司法取引の対象になっているということを御紹介いただいたと思います。この点について、当該犯罪というのが証拠上間違いないということを前提に、暗号資産を没収し、その上で、安田委員から御指摘があったような形で、給付の制度などによって被害者の方に戻るということが想定されるのであれば、それは適切なことだと思っております。   一方で、それは、被害が一定程度填補されたという形になるということを意味しているものでもあります。現状、没収については、量刑上考慮される場面が想定されていないように思いますが、今後、司法取引の導入のほか、少なくとも量刑において適切に反映されることとなれば、秘密鍵を明らかにするモチベーションにもつながることだと思います。今後、別の場でこの没収に関する手続について更に議論を深める場があるのであれば、そういった制度の導入についても是非議論していただきたいということを、意見として申し上げたいと思います。 ○今井部会長 一委員として、久保委員の諸外国における対応に関する御質問に対して、少しだけコメントさせていただきますと、各国の制度を見て、暗号資産についてどのように没収が可能なのかということでありました。樋口幹事が冒頭からおっしゃっている没収と追徴の等価性ということ、あるいはイギリスのように、実は追徴をベースにしているのではないかということなど、いろいろな仕組みがありまして、各国の制度を見る際には、日本語の没収・追徴という言葉に余り拘泥せずに、全体として有体物に着目しているのか、その転換物はどこまで把握されているのかで見ていけばよいと思いますし、結論としては、樋口幹事が先ほどおっしゃっていたように、ドイツの連邦裁判所も、実は没収ベースと言いながら、転換が結構認められているようですので、大きく捉えますと、今回御提案されている要綱(骨子)に近い形が、各国で採られているものだと、私は一委員として認識しております。   ほかに御意見、ございますでしょうか。   ないようでしたら、開会してからかなり時間も経過しましたので、ここで10分ほど休憩を取らせていただきたいと思います。   会議の再開は、午前11時23分にしたいと思います。これから10分間休憩に入りたいと思います。よろしくお願いします。              (休     憩) ○今井部会長 それでは、会議を再開いたします。   休憩前に引き続きまして、犯罪収益等が不動産若しくは動産又は金銭債権でないときも、これを没収することができるものとすることについて、必要かつ相当なものであるかどうか、審議を行います。御質問や御意見がある方は、挙手の上、御発言をお願いいたします。 ○樋口幹事 休憩に入る前になりますが、我が国において、犯罪収益が暗号資産などの新たな財産として取得・保有・移転されているのが実態として存在するという指摘があったかと思います。そうだとしますと、そのようなリスク分野への対応は、FATFの勧告をはじめとする国際動向に合致するものと考えられます。   国際的な視点から見ますと、デジタル技術を用いた暗号資産は、容易に国境をまたいで保有・移転されるという特性を帯びる点が特に問題になります。国際的に見て、我が国の犯罪収益を剝奪するための没収制度に不備があるといった受け止め方をされないようにする必要があります。   今般の諮問に係る法整備は、暗号資産のようにデジタル技術を用いた新たな形態の犯罪収益も確実に剝奪することができるようにしようというものであり、国際的に見て望ましい法制度を整備するものと言えるでしょう。国際協力という点から考えてみましても、諸外国からの共助要請において、他の一般債権者と競合する追徴ではなく、犯罪収益それ自体を把握する没収の使用を可能にしていくことは、重要な意義を有すると考えます。 ○中井幹事 今、樋口幹事のおっしゃった国際的な共助の観点からでございますけれども、先ほど久保委員の方からの質問もありました諸外国の事例等について、飽くまでも報道レベルですけれども、民事介入暴力対策委員会の方でいろいろ調べていただいたところ、米国の石油パイプライン大手がランサムウェア攻撃を受けて支払った暗号資産について、ブロックチェーンデータ分析ツールなどを活用して、取引を可視化、追跡して回収につなげた事例が報道されるなど、追跡技術の方も進化しているようです。   米国の内国歳入庁(IRS)による暗号資産の押収額は、CNBCの報道によりますと、2019年度には約70万ドル相当、2020年度には最大1億3,700万ドル、2021年度の年度途中の8月時点で12億ドルとのことでした。違法薬物や禁制品を販売する犯罪組織から1回で10億ドルを超える押収をしている事例もあるようです。司法省(DOJ)は、起訴した事例として、例えば、2021年2月17日の報道発表で、ある国の工作員がランサムウェア攻撃による恐喝のほか、悪意ある暗号通貨アプリケーションを開発・展開して、アプリケーションにバックドアを仕込んで、仮想通貨取引所がそのバックドアでハッキングされ、顧客の暗号資産そのものが盗まれたケースを紹介していますが、そこで押収された暗号通貨190万ドルは、最終的には被害者に返還されるとしています。   今後、日本での犯罪被害に対し、外国の法執行機関により暗号資産が押収されることもあり得ると思います。そのときに、日本の法律では暗号資産は没収できないのでは、相互主義にもとりますし、日本への分配が受けられないということが起こらないとも限りません。そのため、そのような観点からも、できるだけ暗号資産について被害回復のために必要な法整備が求められると思います。 ○和田委員 今回、新たに没収の対象にするものを「財産」一般とすることとの関係で、何点か補足をしておきたいと思います。   一つは、近時の目覚ましい情報通信技術の進展、あるいは現在、正に犯罪収益が組織的犯罪処罰法の制定当時なかった形態の財産として取得・保有・移転されているという実態に鑑みますと、現在想定されないようなものも、現時点で包括的に没収対象にできるようにするところに、今回の法整備の一つの重要なポイントがあると考えます。それに加えまして、現行の組織的犯罪処罰法でも、第13条第4項でありますとか、あるいは麻薬特例法第11条第1項等の規定におきましては、既に没収対象を「財産」一般にしているところです。   それから、今般の諮問に係る法整備は、犯罪収益の範囲を変えるというものではございません。犯罪収益規制に服する財産の範囲を拡大するのではなく、犯罪収益の剝奪方法として、追徴ではなく没収によって行うことができる場合を拡大しようとするものですので、その点で、財産権その他の国民の権利に対する制約の実質的な拡大・追加を伴うようなものではないと考えます。   更に言えば、あらゆる犯罪についての没収を定めた刑法第19条ではなくて、剝奪の必要性がより高い一定の前提犯罪による犯罪収益の没収を定めた組織的犯罪処罰法第13条第1項を改正するものですので、そのような一定の限定が掛かっているということを、改めて確認しておきたいと思います。 ○今井部会長 ほかに、どなたかから御質問あるいは御意見がございましたら、どうぞ御随意にお願いいたします。   休憩前に皆さんから一通り御意見等頂いておりますが、補充等で、あるいは言い残したことがあれば、是非この機会に御発言いただければと思いますが。 ○中井幹事 先ほど没収の方法について、執行方法についての議論がありましたけれども、民事執行の分野では、法律雑誌に執行部の裁判官や弁護士による論文が寄稿されるなどして、理論的にも大分整理がなされてきたようです。実際に暗号資産交換業者を第三債務者として民事執行する際には、その他の財産権として、債務者の暗号資産交換業者に対する暗号資産移転請求権が差押債権とされる実例も出てきています。   この預託暗号資産の形ですけれども、少なくとも、先ほど事務当局から説明がありましたように、もし没収対象になれば、現行法の下でも、関係機関とも恐らく協議が必要だとは思いますが、民事執行の実務を参考にした形などによって、犯人たちの暗号資産交換業者に対する債権を没収し、処分することも可能なのではないかと考えております。   そして、現実的には、我が国では、暗号資産そのものを支払手段として用いる場面は限られていると思われますので、結局、犯罪収益として暗号資産を取得して保有する者の多くは、最終的には現金化すると思います。そうすると、結局、現金化するときには、暗号資産交換業者を経由することになることが多いといいますか、通常と思われますので、現行法下において、被告人が犯罪収益である暗号資産を、暗号資産交換業者を利用して管理している場合に、その暗号資産交換業者に対する暗号資産移転請求権を没収することができるようにすることは、実務上かなり有意義と言いますか、意味があることではないかと考えます。 ○今井部会長 そのほかに、御質問や御意見、ございますでしょうか。   それでは、要綱(骨子)につきまして、一通り御意見を頂けたと思われますので、本日の審議はここまでとさせていただきたいと思います。   次回は、本日、委員・幹事の方から述べられた御意見等を踏まえまして、必要に応じて、更に二巡目の議論を行いたいと考えております。そして、その次回期日における審議の状況にもよりますけれども、議論が熟したということで委員・幹事の皆様が賛成していただけるのであれば、部会としての意見の取りまとめを行いたいと存じます。   次回の予定について、事務当局から説明をお願いします。 ○加藤幹事 次回の第2回会議は、令和4年8月9日火曜日の午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては、別途御案内申し上げたいと思います。 ○今井部会長 本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。   また、配布資料についても、公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○今井部会長 それでは,そのようにさせていただきます。   本日は、これにて閉会といたします。議論の進捗に協力してくださいまして、どうもありがとうございました。 -了-