法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  令和4年7月29日(金)   自 午後1時31分                        至 午後3時29分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 部会長の選出等について 2 諮問の経緯等について 3 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について 4 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 予定の時間となりましたので、ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第1回会議を開催いたします。 ○川原委員 法務省刑事局長の川原でございます。   本日は、御多忙のところ、情報通信技術関係についての御審議に御出席いただき、誠にありがとうございます。   部会長が選任されるまでの間、慣例により、私が進行を務めさせていただきます。   最初に、私から、この度部会が開催されるに至った経緯等につきまして、御説明申し上げます。   本年6月27日、法務大臣から、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備に関する諮問」(諮問第122号)がなされ、同日開催された法制審議会第195回会議において、この諮問についてはまず部会において審議すべき旨の決定がなされました。   そして、同会議において、この諮問について審議するための部会として、「刑事法(情報通信技術関係)部会」を設けることが決定され、同部会を構成する委員及び幹事が、法制審議会の一任を受けた会長から指名され、本日ここに御出席いただいたところです。   委員や幹事の方々におかれましては、初対面の方も少なくないかと存じますので、まず簡単にお名前、御所属等を御紹介いただきたいと存じます。   また、後ほど出席の承認の手続をお願いいたしますが、関係官も出席しておりますので、併せて自己紹介をお願いいたします。   自己紹介をしていただく順番ですが、まず、法務省会場に御参集の委員・幹事の方々に、小木曽委員から着席順にお願いいたします。その後、オンラインで御出席の委員・幹事の方々に、五十音順で私の方から順にお声掛けをいたしますので、自己紹介をお願いいたします。 ○小木曽委員 中央大学の小木曽です。刑事訴訟法を担当しております。よろしくお願いいたします。 ○久保委員 第二東京弁護士会の弁護士の久保と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○酒巻委員 早稲田大学で刑事訴訟法を教えております酒巻です。どうぞよろしくお願いします。 ○佐久間委員 山形地方検察庁の検事正をしております佐久間と申します。よろしくお願いいたします。 ○成瀬幹事 東京大学で刑事訴訟法を担当しております成瀬剛と申します。よろしくお願いいたします。 ○向井委員 東京地方裁判所で刑事裁判を担当しております向井と申します。よろしくお願いいたします。 ○𠮷澤委員 和歌山弁護士会所属で、日本弁護士連合会の被害者支援委員会の事務次長をしております𠮷澤と申します。よろしくお願いいたします。 ○井上関係官 法務省特別顧問を務めております井上と申します。よろしくお願いします。 ○進関係官 法務省でデジタル統括アドバイザーを務めております進でございます。よろしくお願いします。 ○仲戸川幹事 法務省刑事局企画調査室長を務めております仲戸川でございます。よろしくお願いいたします。 ○保坂幹事 法務省で刑事局担当の官房審議官をしております保坂と申します。よろしくお願いいたします。 ○吉田幹事 法務省刑事局刑事法制管理官の吉田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 法務省刑事局参事官の鷦鷯と申します。よろしくお願いいたします。 ○川原委員 続きまして、オンラインによる御出席の委員・幹事の方々にお願いいたします。 ○池田委員 京都大学で刑事訴訟法を担当しております池田と申します。よろしくお願いいたします。 ○大賀委員 警察庁の刑事局長の大賀です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○くのぎ幹事 内閣法制局で参事官をしておりますくのぎと申します。よろしくお願いいたします。 ○近藤関係官 最高裁判所刑事局第二課長の近藤と申します。 ○川原委員 近藤関係官は、後に幹事に御就任予定でありますが、手続の都合上、本日は関係官として御出席をいただいております。 ○親家幹事 警察庁刑事企画課長の親家でございます。よろしくお願いいたします。 ○樋口幹事 東京大学で刑法を担当しております樋口亮介と申します。よろしくお願いします。 ○安田委員 京都大学で刑法を講じております安田と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○吉崎委員 最高裁判所刑事局長の吉崎でございます。よろしくお願いいたします。 ○川原委員 どうもありがとうございました。   次に、部会長の選任手続に移りたいと存じます。   法制審議会令第6条第3項により、部会長は、部会に属すべき委員及び臨時委員の互選に基づき、会長が指名することとされております。   そこで、早速、当部会の部会長を互選することとしたいと存じますが、部会長の選任手続について、御質問等ございますでしょうか。   御質問等はないようですので、皆さんの御意見を伺いたいと存じます。どなたか御意見はございますでしょうか。 ○小木曽委員 酒巻委員にお願いするのがよろしいのではないかと思います。   御経歴、御業績から考えまして、適任であると考えます。 ○川原委員 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○安田委員 私も、酒巻委員に部会長をお願いすることが適当であると考えます。酒巻委員は、これまでも法制審議会の複数の部会で委員を務められ、取り分け刑事法(逃亡防止関係)部会では部会長を務めておられまして、実体法を含む刑事法全体に関わる調査審議を的確に取りまとめておられます。このような御経歴に照らしましても、酒巻委員に部会長をお願いすることが適当であると考える次第です。 ○川原委員 ただいま、小木曽委員、安田委員から、酒巻委員を部会長に推薦する旨の御提案を頂きましたが、この御提案に対して御意見等はございますでしょうか。よろしいですか。   ほかに御意見がないようですので、当部会の部会長として、酒巻委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   酒巻委員におかれましても、部会長をお引き受けいただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○川原委員 ありがとうございます。それでは、互選の結果、酒巻委員が部会長に選ばれたものと認めます。その上で、本日は高田法制審議会会長代理に部会長を指名していただこうと思います。   本日は電話による指名となりますので、高田会長代理と連絡を取るまでの間、一旦会議を休憩とし、午後1時50分から再開したいと存じます。   では、一旦休憩といたします。              (休     憩) ○川原委員 それでは、再開いたします。   高田会長代理と連絡を取った結果、高田会長代理により、酒巻委員が当部会の部会長として指名をされました。これをもちまして、酒巻委員が部会長に選任されました。   酒巻委員には、既に休憩時間中に部会長席に移動していただいておりますので、この後の進行をお願いいたしたいと存じます。   それでは、酒巻部会長、よろしくお願いいたします。 ○酒巻部会長 部会長を仰せつかりました酒巻でございます。   これまで刑事訴訟法、刑事司法制度について勉強してきましたけれども、この度のいわゆるIT化について、この部会で法律の専門家の皆様に御議論・御検討いただくべきことは、結局のところ、刑事訴訟法あるいは刑事司法システムの制度趣旨を踏まえて、IT化してよいことと、技術的には可能でもしてはならないことを検討し、これを通じて刑事訴訟法の基本原理について改めて確認することであろうと考えております。時間の許す限り、委員・幹事の皆様に活発な御議論をしていただけるよう、進行に努めたく念じておりますので、御協力と御理解のほど、よろしくお願い申し上げます。   まずは、法制審議会令第6条第5項により、部会長の私に事故があるときに、その職務を代行する者をあらかじめ部会長が指名しておくこととされておりますので、指名させていただきます。   「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」の座長をお務めになられました小木曽委員にお願いしたいと思います。小木曽委員、どうぞよろしくお願いいたします。   引き続きまして、関係官の出席の承認の件ですが、法務省特別顧問の井上正仁氏、それから法務省デジタル統括アドバイザーの進京一氏には、関係官として当部会に出席していただきたいと思います。   なお、最高裁判所事務総局刑事局第二課長の近藤和久氏は、幹事に就任予定でありますけれども、手続の都合上、本日は関係官として出席していただきたいと考えております。   関係官の出席につきましては、以上のようにさせていただいてよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、関係官の皆様には、先ほど申し上げたとおり、当部会の会議に御出席願うことにいたします。   次に、当部会の議事録について、その作成・公開の方法を決めるに当たりまして、まず、これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて、事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○鷦鷯幹事 これまでの法制審議会における議事録の取扱いについて御説明いたします。   平成23年6月6日に開催されました法制審議会第165回会議におきまして、議事録の公開方法に関しては、総会については、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則としつつ、法制審議会の会長において、委員の意見を聴いて、審議事項の内容、部会の検討状況や報告内容のほか、発言者等の権利利益を保護するため当該氏名を公にしないことの必要性、率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれの有無を考慮し、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないことができることとされました。   また、部会につきましても、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則としつつ、それぞれの諮問に係る審議事項ごとに、総会での取扱いに準じて、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないことができることとされました。   したがいまして、当部会におきましても、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、これを公開することを原則としつつ、部会長におかれて、委員の皆様の御意見をお聞きし、ただいま申し上げたような諸要素を考慮して、発言者名等を公開することが相当でないと認められる場合には、これを明らかにしないこととすることができることとなります。 ○酒巻部会長 ただいまの議事録の公開に関する説明につきまして、何か御質問はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、ただいまの御説明も踏まえて考えますところ、当部会における審議の内容を広く一般国民の皆様に知っていただくという観点からも、発言者名を明らかにした議事録を作成し、これを公開することが相当だと思われます。   そこで、部会長といたしましては、発言者名を明らかにした議事録を作成した上で、原則としてこれを法務省のウェブサイト上において公開するという取扱いにしたらよいのではないかと思います。   もっとも、ただいまの事務当局説明にあったとおり、審議事項の内容その他の事項を考慮して、発言者名等を公開することが相当でないと考えられるような場合には、その都度、皆様にお諮りした上で、部分的に非公開の措置を採ることにしたいと思います。以上のような取扱いでいかがでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 御異議はないようですので、議事録につきましては、発言者名を明らかにしたものを作成の上、原則としてこれを公開するという取扱いとさせていただきたいと思います。   それでは、先の法制審議会総会におきまして、当部会で調査審議するように決定のありました諮問第122号について、審議を始めたいと思います。   まずは、諮問を朗読していただきます。 ○鷦鷯幹事 朗読いたします。   諮問第122号   近年における情報通信技術の進展及び普及の状況等に鑑み、左記の事項に関して刑事法の見直しをする必要があると思われるので、その法整備の在り方について、御意見を承りたい。      記   一、刑事手続において取り扱う書類について、電子的方法により作成・管理・利用するとともに、オンラインにより発受すること。   二、刑事手続において対面で行われる捜査・公判等の手続について、映像・音声の送受信により行うこと。   三、一及び二の実施を妨げる行為その他情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること。 ○酒巻部会長 次に、事務当局から諮問に至る経緯及び諮問の趣旨等について説明をしてもらいます。 ○吉田幹事 諮問第122号につきまして、諮問に至りました経緯及び諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   近年、情報通信技術が進展するとともに、社会に広く普及し、様々な場面で利用されるに至っており、刑事手続においても、こうした情報通信技術を活用することにより、手続に関与する国民の負担軽減や円滑・迅速な手続の実現に資するものとすることが、政府を挙げて早急に取り組むべき課題となっています。   また、こうした情報通信技術の活用の実施を妨げる行為や、その他情報通信技術の進展等に伴って生じる事象についても、刑事法として対処できるようにする必要があります。   そこで、これらの事項に関し、刑事法の見直しをする必要があると思われることから、この諮問に至ったものです。   次に、諮問の趣旨等について御説明申し上げます。   配布資料1を御覧ください。   今回の諮問においては、刑事法の見直しをする必要があると考えられる事項を「一」から「三」までに掲げ、それらの法整備の在り方について御意見を承りたいとしています。   「一」に関しては、現在の刑事訴訟法の下で行われる捜査・公判の手続においては、証拠書類や訴訟記録が紙媒体で作成・管理されるとともに、それらの書類や記録が、関係機関に送致され、閲覧・開示の対象となり、公判廷での証拠調べの対象となるなど、紙媒体として利用・発受されています。   また、「二」に関しては、現在の刑事訴訟法の下で、捜査段階においては、検察官や弁護人、裁判官が被疑者などと対面して手続が行われ、また、公判段階においても、裁判官、検察官、弁護人及び被告人の公判廷への出席・出頭や被害者参加人の参加は、法廷という場所に臨場して対面で手続が行われており、証人尋問について、例外的にビデオリンク方式で行うことができるにとどまっています。   このような現状にある刑事手続において、どのように情報通信技術を活用するかという方策について、法務省では、令和3年3月から「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」を開催し、令和4年3月、同検討会により、その検討結果が報告書に取りまとめられました。   諮問事項の「一」及び「二」は、この検討会の検討結果も踏まえつつ、法整備の在り方について、御意見を承りたいとするものです。   そして、「三」は、「一及び二の実施を妨げる行為その他情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること」についてです。   情報通信技術を活用した「一」や「二」の施策を制度化するに当たっては、書類が電子的方法により作成・管理・利用・発受され、手続が映像・音声の送受信により行われることとなった場合にも、刑法等の規定について、それらを妨げる行為に対し、同様に対処できるようにしておくことが、その適正な実施に必要であると考えられるほか、それ以外にも、情報通信技術が犯罪に悪用されるなどの事象に刑事法として対処できるようにする必要があります。   「三」は、そうした観点からの法整備の在り方について、御意見を承りたいとするものです。   御説明は以上です。   十分御審議の上、できる限り速やかに御意見を賜りますよう、お願いいたします。 ○酒巻部会長 続きまして、事務当局から配布資料について説明してもらいます。 ○鷦鷯幹事 配布資料について御説明いたします。   配布資料1は、先ほど朗読いたしました諮問第122号です。   配布資料2は、「刑事手続における情報通信技術の活用に関する記述を含む政府の基本方針・実施計画等」について、その該当部分を抜粋した資料です。   配布資料3は、事務当局からの説明の中でも触れました「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」の取りまとめ報告書です。   配布資料4は、「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」第9回会議で配布された「諸外国における情報通信技術の活用に関する法制・運用の概要」についての資料です。   この資料は、当部会における調査審議においても参照され得るものと考え、お配りすることとしたものです。   当部会における今後の御審議に資する外国法制に関する資料については、今後の御審議の状況を踏まえ、必要に応じて追加していくことを考えております。   配布資料5は、情報通信技術の進展等への対応に関係する過去の刑法・刑事訴訟法等の改正の概要を、事務当局においてまとめたものです。   具体的には、昭和62年の刑法等一部改正法、平成13年の刑法一部改正法、平成23年の刑法等一部改正法、平成28年の刑事訴訟法等一部改正法の各法律案を国会に提出した際の要綱及び提案理由説明を参考に、今回の諮問である情報通信技術の進展等への対応の在り方に関係すると思われる部分を整理して作成したものです。   それぞれ概要を御説明すると、まず、「第1」の昭和62年の刑法等一部改正法は、電子情報処理組織の普及により各般の事務処理の形態が大きく変化するなどした当時の状況に鑑み、これに対処するため、刑法を改正し、電磁的記録不正作出・供用や電子計算機使用詐欺などの罪を設けるなどしたものです。   「第2」の平成13年の刑法一部改正法は、クレジットカードをはじめとする支払用カードの偽造などの犯罪が急増するなどしていた当時の状況に鑑み、これに対処するため、刑法を改正し、支払用カード電磁的記録不正作出等などの罪を設けるなどしたものです。   「第3」の平成23年の刑法等一部改正法は、サイバー犯罪が多発するとともに、証拠収集等の手続の面においてもコンピュータや電磁的記録の特質に応じた手続を整備する必要が生じていた当時の状況に鑑み、これに対処するため、刑法・刑事訴訟法を改正し、不正指令電磁的記録作成等などの罪を設け、記録命令付差押えの手続を導入するなどしたものです。   「第4」の平成28年の刑事訴訟法等一部改正法による犯罪捜査のための通信傍受に関する法律の改正は、通信傍受の対象犯罪を拡大するとともに、暗号技術を用いるなどした新たな傍受の実施方法を導入するなどしたものです。   資料の説明は以上です。 ○酒巻部会長 事務当局からの説明は以上です。現段階で、これまでの事務当局の説明内容につきまして御質問等がございましたら、お願いいたします。よろしいですか。   それでは、特にないようですので、諮問事項の審議に入ります。   諮問の趣旨は、先ほど事務当局から説明があったとおりですけれども、今回の諮問の趣旨・内容に鑑みますと、本日の会議におきましては、まずは、第1に、委員・幹事の皆様の問題意識の共有を図るという観点から、この諮問事項全体について概括的・包括的な御意見の提示・審議を行い、次いで、第2に、諮問事項「一」から「三」のそれぞれについて、順次、当部会において法整備の在り方を検討すべき具体的な項目に関する御意見を皆様から頂くということが、今後の議論を進めていく上で有益だと考えます。   このような審議の進め方に皆様に御異論がなければ、本日の審議は、今申し上げたような順序で進めたいと思いますが、よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   それでは、審議事項の全体について御意見をお伺いしたいと思います。全体についての御意見のある方は、挙手の上、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 概括的・総論的な議論ということですので、まず、諮問事項「一」及び「二」につきまして、配布資料3の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」の取りまとめをごく簡単に紹介させていただきたいと思います。検討会における議論の状況等は、当部会における審議において参照されるべき内容を含むと考えるためです。   検討会では、諮問事項「一」及び「二」に係る施策が、刑事手続に関与する国民の負担軽減や円滑・迅速な手続の実現に資するものであるという観点から、種々の議論が交わされましたが、そこでは、刑事手続において情報通信技術を活用する方策を検討する際に重要な三つの視点があることについて認識が共有されました。一つ目は、情報通信技術の活用は、刑事手続に携わる者の負担軽減や合理化に資するものですが、それのみを目的とすべきではなく、刑事手続の円滑かつ適正な実施に資するものとならなければならないということ、二つ目は、情報セキュリティが十分に確保されることを前提に情報通信技術の活用が検討されるべきであるということ、三つ目は、この分野における技術の進展が非常に早いことから、将来の技術の発展も視野に入れて、社会の変化に耐え得る法制度を見据えた検討を行う必要があるということであります。これらの三つの視点は、当部会において各諮問事項を審議する上でも重要であると考えます。   検討会では、そのような視点を持ちつつ、大きく二つの柱、すなわち、「書類の電子データ化、発受のオンライン化」、「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」という二つの柱を立てまして、それぞれについて、具体的な施策に関して活発な議論が行われたところです。   一つ目の「書類の電子データ化、発受のオンライン化」につきましては、具体的には、手続に関する種々の書類の作成・発受の電子化、各種令状の請求・発付・執行の電子化、電子化されたデータの証拠収集、証拠開示等の電子化、公判廷における電子データの証拠調べといった項目について、一定の方向性が共有されたと言ってよいと思います。   二つ目の「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」については、具体的には、取調べの際の供述録取の電子化、一定の条件を満たした場合の勾留質問・公判前整理手続・証人尋問等のビデオリンクによる実施、この、証人尋問のビデオリンクは対象の拡大ということですが、さらに、一定の条件を満たした場合の公判期日における被告人や被害者参加人の出頭、裁判員選任手続等のビデオリンクによる実施といった項目についても、法制上の措置を採ることに向けた検討の対象となり得るという取りまとめをしております。他方、被疑者・被告人と弁護人との接見交通、公判審理の傍聴の非対面・遠隔化についても議論されましたが、検討会として一定の方向性を示すには至っておりません。   なお、検討会の第5回会議では、技術的な観点について、進関係官から御説明いただいております。   今申しましたように、今年3月の取りまとめの段階で、委員の間で意見の一致が見られなかった項目もありましたけれども、取りまとめ報告書では、それらについても、どこに意見の相違があったか、検討に当たっての留意事項は何か、更に検討を必要とする点は何かを明らかにしております。当部会では、この検討結果も参考にしつつ、更に議論を進めることが有益ではないかと思います。   以上が、諮問事項「一」及び「二」についてですが、この部会の審議の対象である諮問事項「三」について付け加えますと、諮問事項「三」は、検討会においては検討対象となっておりませんが、刑事手続においてIT技術の活用を制度化するからには、そうしたIT技術を活用して行われる手続の実現を妨害しようとする新たな手法にも対処できるようにしておく必要があると思います。当部会においては、刑事実体法の研究者の方も委員・幹事に加わっておられますので、そうした実体法の在り方についても議論をさせていただきたいと考えております。 ○久保委員 刑事手続のIT化が進むことについて、刑事手続に関わる多くの弁護士が期待を寄せているところです。これは、単に業務の効率化が図られることへの期待ということではありません。被疑者・被告人の権利利益を実現するための選択肢が一つ増え、刑事手続が迅速・公正なものになるということへの期待です。   例えば、証拠開示について、電子データをオンラインにより送受信できるようになれば、証拠へのアクセスが容易になり、裁判の準備をより効果的に行うことができることが期待できます。小木曽委員も先ほど指摘されたとおり、IT化すること自体を目的化するのではなく、刑事手続をより迅速かつ公正にすることを目的とし、どうすればよりよい刑事手続となるかを意見交換する場になればと思っております。   この点、酒巻部会長が冒頭に指摘された、技術的に可能であってもやるべきでないことがあるのではないかという視点は、非常に重要な御指摘だと感じたところです。   一方で、刑事手続のIT化によって最も重大な影響を受けるのは、被疑者・被告人の立場に置かれた国民です。そうであるにもかかわらず、その権利利益を代弁することのできる委員が1名しか選任されていないということが、著しくバランスを欠いているように思っております。例えば、捜査・公判の非対面・遠隔化の観点からは、東京などの都市部の弁護士と、それ以外の弁護士、本庁の弁護士と支部の弁護士とでは、置かれている実情が異なることもありますので、私の未熟さゆえに重要な意見を見過ごし、その結果、被疑者・被告人の権利利益を損なうような事態となることを危惧しております。この部会は、相当程度の期間開催されることも見込まれますので、是非、今後の部会において、追加の委員・幹事の選任も含めて御検討いただければと思っております。   その上で、複数が集まって行う議論は、様々な立場で多くの意見が出され、相手の意見に耳を傾け、時には相手の立場に立って意見を変えることもあるからこそ意義あるものになると思っております。誰もがいつか別の立場になるかもしれないという観点で、率直な意見交換ができればと思っております。 ○酒巻部会長 諮問事項全体につきまして、ただいま、小木曽委員と久保委員から御意見を頂きましたけれども、ほかに全体についての御意見はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、次に個別の諮問事項についてですが、まず、諮問事項「一」に関し、検討すべき項目についての御意見を皆さんからお伺いしたいと思います。御意見のある方は、挙手の上、御発言をお願いします。 ○大賀委員 私からは、諮問事項「一」に関して、検討すべき項目として、令状請求・発付のオンライン化、それと電子データの証拠収集、この2点について、捜査現場の実情も御紹介しながら、その必要性等について申し上げたいと思います。   まず、令状請求・発付のオンライン化についてでありますが、紙媒体を前提とする現在の実務においては、令状の請求は紙で作成をした書類を裁判所に持ち込んで行っておりますけれども、当然裁判所までの物理的な移動が必要となります。その場合に、天候や交通状況などによっては、最寄りの裁判所まで片道数時間を要する警察署もあります。その一方で、警察の捜査におきましては、例えば、DV、ストーカーといった人身安全関連事案のように、一刻も早く被疑者を逮捕し、被害者の安全を確保しなければならないといったケースや、覚醒剤等の薬物事案のように、被疑者から一刻も早く強制採尿を行って証拠を保全しなければならないケースなど、速やかに令状を請求して発付を受け、強制捜査に移行することが求められることも多くあります。   こうした実情を踏まえますと、令状請求・発付のオンライン化に対する現場のニーズは高いものと考えておりますし、また、それは捜査員の負担の軽減といったことにとどまるものではなく、捜査の迅速化・効率化による被疑者の早期検挙や、あるいは被害者の早期安全確保といった、国民や社会全体の利益につながるものと考えています。   次に、電子データの証拠収集についてですけれども、例えば、捜査の過程で通信事業者から被疑者の通信履歴を差し押さえるといった場合があります。その場合、現行の刑事訴訟法においては、紙の令状を直接相手方に提示することが求められているほか、無体物であるデータ自体を押収するという手続が規定されていないことから、捜査員が事業者の窓口まで出張して、対象となる通信履歴のデータを記録した記録媒体を差し押さえて対応をしているというところであります。そのために、差押えの手続自体は数分程度で終わるにもかかわらず、近くに事業者の窓口がない場合には、その都度、長距離の出張を伴うということとなります。また、こうした現在の実務は、捜査機関側だけでなくて、事業者側にとっても、対面でのやり取りのためにスペースや人員の確保が必要となるなど、負担が生じているものと認識しています。   したがいまして、電子化された令状をオンラインで相手方に提示することや、強制力を伴って証拠となるデータをオンラインで送信を受けるなどの方法によって、USBメモリ等の物理的な記録媒体の授受を介さずに、データそのものを証拠として収集することができるようになれば、捜査の迅速化・効率化が図られるとともに、事業者等の負担軽減にも資すると考えております。   これらの検討項目については、既に検討会の取りまとめ報告書において、委員の総意として実現に向けた考えられる方策が示されているものと承知をしておりますけれども、それを検討の土台としつつ、この部会においても、引き続き検討項目として、更なる議論を行うべきだと考えております。 ○佐久間委員 刑事手続について情報通信技術を活用し、諮問事項「一」のとおり書類を電子的方法により作成・管理・利用したり、オンラインにより発受したりすることができるようにすることは、現在、大量の紙媒体で行われている事務を効率化し、物理的運搬に要する時間を短縮するなど、円滑・迅速な刑事手続の遂行に大いに資することとなると考えられ、捜査・公判のみならず、裁判の執行や記録の保管等にも関与する検察にとって、重大な関心事でありまして、検察としては、これまで、検討会における検討などに積極的に参画してきたところであります。   当部会においては、こうした情報通信技術の活用の意義を踏まえ、諮問事項「一」に関し、捜査報告書や供述調書のほか、裁判所に提出する手続書類等の作成を電子的方法により行うことを可能にする方策について、具体的な検討を進めていくべきものと考えております。   また、ただいま大賀委員からも御意見があったように、記録命令付差押えの対象となる電磁的記録を、記録媒体の差押えを要さずにオンラインにより取得することができるようにすることについても、被処分者の負担を軽減させ、捜査の迅速性にも資することとなると思われることから、当部会において引き続き議論を深めていくことが必要であると考えております。   そして、そのように、電子データとして作成された証拠書類やオンラインにより取得された電子データについて、電子データのまま裁判所に証拠調べを請求することができるものとする規定や、裁判所において電子データとして証拠調べを行う方法に関する規定を設けることについても、併せて検討する必要があると思われます。 ○久保委員 諮問事項「一」に関して、二つに分けてお話ししたいと思います。一つ目は閲覧・謄写の局面について、二つ目は書類の提出の局面についてです。   まず、一つ目ですが、全ての証拠書類の閲覧・謄写、そして交付をオンラインで行うことを可能とすべきだと考えます。検察庁における閲覧・謄写・交付はもちろん、尋問調書や手続調書のような裁判所の書類につきましても、オンラインによる閲覧・謄写・交付を可能とするべきだと考えております。   検討会でも指摘されていましたとおり、現在の証拠書類の閲覧・謄写は紙媒体で行われておりまして、時間と費用が膨大に掛かるものとなっております。余りに費用が大きく掛かるために、謄写できないというケースも聞きます。そうなると、検察庁で弁護人が閲覧する方法によらざるを得ず、十分に裁判の準備ができず、防御権が害されるという事態に陥ります。膨大な量であるために、弁護人や被疑者・被告人の手元に届くまでに数週間掛かるということもあり、裁判の迅速さが害されております。証拠書類などの閲覧・謄写をオンラインで行うことで、公正・迅速な刑事裁判に資することになります。   また、これに付随して、被疑者・被告人本人は、どのように電子データの証拠にアクセスするのかという問題を解決する必要があると考えます。弁護人がプリントアウトをして差し入れなければならないとすると、オンラインによる受交付をする意義が損なわれかねません。被疑者・被告人も、電子データの証拠及び勾留状などの書類にアクセスすることができることとするとともに、書類、例えば、準抗告申立書などを提出することができるという制度にするべきだと考えます。この点につきまして、手続調書や尋問調書、判決書につきましても同様であり、被疑者・被告人がオンラインでアクセスできる制度とされることが望ましいと考えます。   さらに、証拠書類の閲覧・謄写に関連して、一般的な成人の刑事手続とはやや異なるものの、密接不可分な関係にある手続として、少年事件や医療観察法の手続においてはどのような制度となるのかについても検討しておく必要があるように思っております。例えば、少年事件の社会記録の閲覧方法はどうするのかという問題があります。また、証拠の閲覧・謄写以外についても、少年事件や医療観察法特有の論点として議論しておくべき点が、そもそもないのかどうかについて検討がなされるべきだと考えます。   そして、電子データで作成する場合の証拠書類の捜査機関における取扱いのルールについても、検討がなされるべきだと考えます。例えば、証拠をPDF化した場合には、紙が廃棄されるなどということのないよう、証拠の管理の在り方についても検討がなされるべきだと考えます。   2点目の書類の提出の局面について申し上げます。証拠書類以外の刑事手続において作成・交付される全ての書類について、電子データで作成し、オンラインで提出・交付できるようにすることについては、大きな異論はないように思っております。現在、東京では、例えば、証明予定事実記載書が、提出期限当日に郵便で弁護人に送付された結果、弁護人の手元には本来の期限より1日、2日遅れて届くなどというケースもあります。ファックスで送るという対応もないために、弁護人の検討時間が短くなるという事態になっております。例えば、こうした証拠開示書や証明予定事実記載書、証拠一覧表などの交付をオンラインで行うことができるようになれば、弁護人も期限どおりに受領し、速やかに検討することができるようになり、裁判の迅速化に資するものと考えます。   この点、例えば、控訴に関係する書類については、それを期限までに提出できないと、控訴が棄却されたり、あるいは却下されたりするという事態になるなど重大な不利益につながるものです。取り分け申立書に関しては、オンラインでの提出が可能とされるべきだと考えております。   その上で、オンラインでの提出だけでなく、他の方法も選択できるものとするべきです。弁護人が被疑者に紙の弁護人選任届を差し入れて紙で受領した場合に、これをどのようにして電子データに変換し、オンラインで提出するのかという問題があります。もしオンラインによる提出のみとした場合には、弁護人選任届を提出するために、一旦事務所に戻って電子データに変換し、システムに登録された端末から送信しなければならなくなって、かえって無用な時間が掛かり、紙の場合よりも不便になるということが起こりかねません。IT化自体を目的化しないという観点で、状況に応じて複数の選択肢の中から選択できる制度作りが必要だと考えます。   弁護人が提出する弁護人選任届や準抗告申立書、保釈請求書、控訴申立書、控訴趣意書、上告趣意書などの書面につきましては、先ほども少し指摘させていただきましたように、現在、ファックスでの提出をすることができません。郵便によることはタイムラグが生じますし、現地に行くことについては、更に時間が掛かります。取り分け身体拘束に関わる書面については、被疑者・被告人が拘束される期間自体にも関わりますし、趣意書などについては、提出期限に間に合わなければ控訴棄却などの不利益もありますので、オンラインで行うという選択ができるようにする必要性が高いと考えますので、この点について、特に慎重に検討していただきたいと考えております。   その上で、オンライン特有の問題として、オンラインが使えなくなるという事態も想定されますので、オンラインが使えなくなった場合には、ファックスによる提出を可能とするというような制度作りも必要だと考えております。 ○𠮷澤委員 記録の開示・閲覧・謄写について、被害者支援の立場から述べさせていただきます。   被害者の代理人弁護士としましても、記録の閲覧・謄写は刑事弁護人と同じように相当な時間や費用が掛かることもありますので、記録を電子データ化してオンラインにより閲覧・謄写を受けることで、これらの時間や費用負担を軽減できるという期待はあります。   ただし、証拠の中には、現在、法制審議会の刑事法(性犯罪関係)部会において、没収・消去などが検討されている性的画像・動画などもありますので、こういったプライバシーの侵害の度合いが非常に高い証拠については、例外的にオンラインでの発受を行わないなど、特に慎重な配慮や取扱いが必要であると考えております。 ○成瀬幹事 ここまで示されました実務家の委員の皆様の御意見を踏まえまして、諮問事項「一」について、検討する際の視点を申し上げたいと思います。   諮問事項「一」について検討するに当たっては、これまで紙媒体の書類によって行われてきた各種の手続において、紙媒体の書類によることにどのような意義や価値があったのか、紙媒体の書類に署名や押印をすることにどのような意義や価値があったのかなどの基本的な問題に立ち返り、各手続の意義や趣旨に照らしつつ、一つ一つ丁寧に検討し直した上で、そのような意義や価値をできるだけ損なわない形で、場合によっては、その意義や価値をよりよく実現する形で情報通信技術を活用するという視点を持って検討することが必要であると思います。   このような視点は、先に開催されていた検討会の議論においても意識されていましたが、当部会において、諮問事項「一」について検討するに当たっても、同様の視点を持って議論をすることが重要であると考えます。   例えば、憲法第33条、第35条は、逮捕や捜索・押収は、司法官憲が発する令状によらなければならないとしていますが、令状を電子的方法により作成することを検討するに当たっては、これらの処分に裁判官の発付する令状が求められる趣旨を踏まえつつ、これまで令状を紙媒体で作成し、そこに裁判官が押印することとされてきたことの意義や価値を検討し直し、どのような措置を講じることとすれば、これまでと同様に令状主義の趣旨を満たしつつ、電子化のメリットをいかすことができるかについて検討することが必要であると思います。   また、供述調書については、刑事訴訟法第321条第1項や第322条第1項において、供述者の署名や押印があることが証拠能力要件の一つとされるとともに、刑事訴訟規則第58条第1項により、作成者である司法警察職員や検察官がこれに署名押印することも求められているところ、これを電子的方法により作成することを検討するに当たっては、現行法が供述者及び作成者の署名や押印を要求する趣旨に立ち返り、これらに代えてどのような措置を講じることとすれば、これまでと同様に法の趣旨を満たしつつ、電子化のメリットをいかすことができるかについて検討することが必要であると考えます。 ○池田委員 諮問事項「一」は、刑事手続において取り扱う書類について電子的方法により作成等することやオンラインにより発受することを掲げるものですが、佐久間委員の先ほどの御指摘の中にも示されていましたように、刑事手続で取り扱う書類の中にも、犯罪事実の立証に用いる証拠書類がある一方で、当事者等が裁判所に対する申立て等のために提出する手続書類がありまして、両者の間では、その性質ないし手続における位置付けには違いがあり、そういった違いを反映して、その取扱いに適用される規律にも違いがありますので、書類の電子化やオンライン化の在り方をめぐっても、そうした差異を意識して議論する必要があるものと思います。   さらに、手続書類の中でも、その作成者や提出先等には様々なものがあり、そうした違いを反映して、それぞれについて異なる規律が適用されることになります。そのため、今後、当部会において、これらの書面の提出等を伴う手続を電子的方法により行うことについての法整備の在り方を検討するに当たりましては、そうした作成主体や提出先等の違いも意識して議論する必要があると考えております。   これと併せて、検討会においても制度化に向けて意見の一致が見られた電磁的記録提供命令の実効性を担保するための方策についても、意見を申し上げます。   この制度を設けることについては、既に大賀委員や佐久間委員からも御指摘があったように、実務上のニーズがあるとされておりますし、情報通信技術を活用することにより、記録媒体の差押えに代えて、対象となる電子データの提供を受けるものでありまして、捜査機関のみならず、処分を受ける事業者等にとっても負担軽減が図られるものであり、情報通信技術を活用した法制度として合理性があると考えられることから、当部会においても、制度化に向けた議論を行うべきであると考えております。   その上で、その際の課題を申し上げますと、電磁的記録提供命令は、被処分者に対してその管理する電磁的記録を他の記録媒体に記録する法的義務を負わせるものではあるものの、その実施を直接的に強制することができませんので、電磁的記録提供命令の実効性をどのように担保するかといったことが挙げられようかと思います。この制度の意義を踏まえますと、電磁的記録提供命令については、強制処分としての実効性を担保するという観点からは、義務を履行しないことに対する制裁を設けることによって間接的に強制するなど、被処分者が命じられた行為をすることを実際的に担保する方策に関しても検討するべきではないかと考えております。 ○佐久間委員 証拠開示のオンライン化について、検察の立場から指摘をしておきたいことがあります。   検察官が保管する証拠書類等の閲覧・謄写をオンラインで行うことについては、証拠開示に伴う事務負担やコストを軽減するだけではなく、円滑・迅速な争点整理の進行等にも資することとなるとして、弁護人のサイドに強いニーズがあることは承知しております。   もっとも、先ほど𠮷澤委員から性的画像・動画について御指摘があったように、刑事事件の証拠をオンラインで開示することを考えるに当たっては、万が一にも情報が流出する事態が生じないよう、万全のセキュリティが講じられ、証拠書類等に記載・記録された関係者の名誉・プライバシーが不当に害されることがないことが大前提となることを、改めて指摘したいと思います。   セキュリティ確保をおろそかにしたまま、情報通信技術の活用による利便性を追い求めた結果、関係者の名誉・プライバシーに重大な影響を及ぼす情報や、捜査・公判に重大な支障が及ぶ情報が流出するようなことになれば、被害者を含む国民の刑事司法に対する信頼は失われることとなります。その意味で、電子的に作成された証拠書類等をオンラインで開示することを考えるに当たっては、開示をする側と受ける側との双方において、万が一にも情報が流出しないようにするためのセキュリティ上の措置が採られることが前提とされなければならないと思っております。   そうした観点から、具体的にどのようなセキュリティ措置を採り得るのかについては、法制度の在り方以前に、実務的・技術的な観点から、率直かつ建設的な協議が行われる必要があると思われます。もとより、ここで申し上げている情報セキュリティの確保は、取り扱う情報が意図せず外部に流出しないようにするために、技術的な措置を施すものであり、弁護人の活動をオンラインで監視したり、流出の防止という目的に照らして必要以上の措置を採ったりするなどして、不当に防御権を制約するものではありません。   具体的なセキュリティ措置の在り方については、そのような実務的・技術的な協議の推移を見守る必要がありますが、当部会において、証拠書類等をオンラインで閲覧・謄写できるようにすることについて議論するとすれば、技術的にはセキュリティに関し万全の措置を採り得ることをひとまず前提としつつ、法律上の課題につき議論することとなろうと思います。   そして、そうした法制度についての検討は、証拠開示に関する現行法の趣旨との整合性にも留意しつつ行われるべきものであると思います。   すなわち、証拠書類等に関する証拠開示について、刑事訴訟法第299条第1項では、相手方に閲覧する機会を与えれば足りるものとされており、公判前整理手続に付された事件では、閲覧に加えて謄写をする機会を与えることとされておりますが、後者の場合、検察官は、対象となる証拠の内容・性質等を考慮して、裁判所に開示方法の指定等を請求することができ、類型証拠の開示については、開示の方法等を指定し、又は条件を付することができるものとされております。   このように、現行法は、証拠開示について、閲覧の機会を与えれば足りることを原則とし、謄写の機会まで与えることを必要とする場合でも、一次的には検察官がその方法を判断することとしております。   実際、例えば先ほど𠮷澤委員から御指摘のあった性犯罪の被害状況を撮影した動画など、特に配慮を要する電子データの証拠については、検察官は、謄写を認めず、閲覧の機会を与える際にも、検察庁内において検察事務官の立会いの下で行うなど、複製や流出、第三者の閲覧等の危険が生じないような開示方法を採り、事件関係者のプライバシー・名誉に配慮しているところであります。   当部会において、電子的に作成された証拠書類等をオンラインで閲覧・謄写できるようにすることについて議論する場合には、このような証拠開示に関する現行法の趣旨等を踏まえつつ、議論されるべきであろうと思っております。 ○酒巻部会長 ほかに、諮問事項「一」に関する検討すべき項目について、御意見等はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、今から午後2時55分まで休憩時間とします。              (休     憩) ○酒巻部会長 それでは、会議を再開します。   今度は、諮問事項「二」に関し、検討すべき項目についての御意見をお伺いしたいと思います。先ほどと同様、御意見のある方は、挙手の上、御発言をお願いします。 ○久保委員 諮問事項「二」につきましては、大きく分けると、一つ目にオンラインによる接見交通、二つ目にオンラインの公判、三つ目に刑事裁判の傍聴という観点で申し上げたいと思います。   まず、被疑者・被告人との接見をオンラインでできるようにすることについて、検討がなされるべきだと考えております。また、これに付随しまして、書類の授受をオンラインでできるようにすることも検討されるべきです。現在は、基本的に留置施設や拘置所に行かなければ弁護人は接見をすることができず、遠方ですと、緊急の場合でもすぐに接見ができないという事態もあります。拘置所や留置施設に郵便を送っても、直ちに本人の手元には届きません。オンラインでの接見や書類などの授受ができることにより、迅速に助言をすることができ、取調べや公判に適切に対応できる結果として、刑事手続全体の迅速・公正さに資するものと考えます。   さらに、弁護人のオンライン接見と併せまして、弁護人以外の者との接見、いわゆる一般面会やそれらの者との書類の授受につきましても、オンラインで実施できるようにすることも検討されるべきです。これらについては、例えば、親族等のやり取りだけではなく、当事者鑑定のための医師等との面会や環境調整のための福祉専門家のアセスメントなどのためにも、実施する必要性が高いものと考えられます。   次に、二つ目のオンライン公判について申し上げます。公判前整理手続や期日間整理手続にオンラインを活用することによって、裁判の迅速化を図ることができると思います。他方で、やはり対面以上に正確に意図が伝わる手段はございません。原則を確認し、公判期日は当然のことながら、公判前整理手続期日などにおいても、被告人の意思に反して出廷が妨げられない制度作りについての議論がなされるべきです。   また、証人尋問においては、これまで十分対応できてこなかった国外にいる証人で強制的に出廷を求めることができないケースなどにおいて、オンラインにより尋問を行うことができるのであれば、より証人審問権の保障や公正な裁判に資するように思います。他方で、証人の出廷が不可能でない場合にまでオンラインとすることは、反対尋問の実効性が損なわれ、憲法上の権利である証人審問権が制約されます。その点を意識し、飽くまでも対面での尋問を原則とした議論がなされるべきだと考えます。   また、三つ目の刑事裁判の傍聴につきましては、刑事裁判の傍聴は広く公開するべきとの意見もあります。他方で、プライバシーや名誉の観点で、強い反対があるということも承知しております。少なくとも、そのような弊害のないケースや方法において、オンラインで裁判の公開を行うということも検討されるべきだと考えます。 ○𠮷澤委員 諮問事項「二」の「刑事手続において対面で行われる捜査・公判等の手続について、映像・音声の送受信により行うこと」について、3点述べたいと思います。   まず1点目が、証人尋問や心情意見陳述の際のビデオリンク方式についてです。証人尋問において、ビデオリンク方式が認められる範囲は、現在の要件では厳格に過ぎるのではないかと考えています。検討会の取りまとめ報告書の30ページには、拡大を検討すべき類型として、ⒶからⒹまで四つの類型が挙げられておりますが、これ以外にも拡大すべき事例はあると考えています。   例えば、検討会でも述べましたが、刑事訴訟法第157条の6第1項では、第1号・第2号で罪種の列挙がありますところ、これに含まれないストーカー犯罪やドメスティック・バイオレンスの事件、児童虐待の事件などについても、第1号・第2号で列挙されている性犯罪などの被害者の方と同様、被告人が在廷する公判廷において証言することは非常に難しいと考えられます。現行法でも第3号の規定はありますが、精神の平穏を著しく害されるという要件が、実務では非常に厳密に運用されていて、実際は、ビデオリンク方式によることが必要だと思われるケースでも実施できていないというケースがあるのが実情です。この点、諸外国の例を見ましても、ビデオリンクによる証人尋問によることのできる罪種、犯罪類型の定め方としては、現行法は非常に限定的ではないかと考えています。   元々被害者というのは、犯罪の被害に遭い、そのこと自体で精神的な苦痛を感じている上、刑事裁判という国の制度に協力するために出頭するわけですから、その苦痛をできる限り緩和し、協力を得やすい環境を作るということは、IT化が進む現代における刑事裁判への国民の理解を得る点においても、大きな要請としてあると思います。ですので、もちろん公開の法廷での証人尋問が原則ではありますが、被害者らが刑事裁判に協力する法的な選択肢自体は多く認めておくべきではないかと思います。   ビデオリンクで証人尋問を行うことは、証人の証言態度を観察する点で、公開の法廷で行うものよりも劣るのではないかという点もありますが、ビデオリンク方式が導入されてから相当経過しており、その間、格段に技術の進歩が遂げられております。さらに、昨今のコロナ禍の情勢もあって、非対面での手続が広く浸透してきた状況や、今後も通信技術が発展することを考慮しますと、刑事手続においても、裁判所に出頭することが困難である事情のある証人について、ビデオリンク方式での証人尋問を現在の規定よりも広く可能とする方向で検討すべきであると考えます。   その際の証人の所在場所についてですけれども、もちろんその場所が、セキュリティ対策が講じられ、設備の適合性などを備えていることが前提ではありますが、裁判所だけではなく、検察庁や地方自治体の建物といった公的施設、可能であれば被害者支援センターの建物内など、また被害に遭われて病院に入院されている方であればその病院内など、できる限り広く、被害者に負担にならない程度において尋問ができるような選択肢があることが望ましいと考えています。   2点目が、被害者参加の方法についてです。検討会において、被害者参加人や被害者参加人の委託を受けた弁護士が出席する場合、一定の要件を満たすときは、ビデオリンク方式によることができるものとするという方向で取りまとめがなされています。もちろん、被害者参加制度が創設された経緯からしますと、被害者参加制度を利用する際、参加人らがいわゆるバーの中に入り、直接訴訟活動を行うことが大原則であり、これは今後も変わりません。   ただ、被害者多数の事件である場合、バーの中に全ての参加人が入り切れず、傍聴席を一部区切り、在廷する扱いとすることがあります。しかし、傍聴席の一部を区切り、特に遮蔽措置が採られている場合などは、どうしても後方の席に行けば行くほど何も見えず、訴訟関係者の発言も聞き取りづらく、結局、参加をしても訴訟の内容が分からなかったということになってしまいかねないという問題点があります。また、特に性犯罪などの場合は、公判の内容を、自分自身が直接見聞きして把握したいけれども、被告人には絶対に姿を見られたくないという被害者も多くいらっしゃいますが、遮蔽措置を採った場合には、参加はしたものの、公判廷の様子が全く分からないというケースも多数存在します。   こういった場合にも対応できるようにするため、被害者側の申出がある場合、別の場所において、法廷内の状況を把握できるモニターを設置してもらい、公判廷の状況をよく把握できる状態で参加するという方法も採れるように、被害者に対して参加する方法の選択肢を与えていただくという検討をしていただきたいと思います。その際の参加人等の所在場所につきましても、先ほど述べましたように、広く選択肢があることが望ましいと考えています。   3点目が、オンラインによる傍聴です。被害者多数の事件は重大事件ともなりますので、報道関係者の席を確保する必要もあるなどの事情で、優先傍聴券が不足し、被害者らが傍聴したくてもできないというケースがありますし、性犯罪などの場合、被害者やその家族等は、事件の内容は知りたいけれども、いつ被告人や事件関係者に自分たちの姿を見られるかが分からないため、傍聴すらできないというケースが存在します。特に被害者多数の事件の場合は、物理的に裁判所の傍聴席に入れないということがあり、裁判所の設備の問題で、本来優先傍聴の対象であるにもかかわらず、そういった被害者・御遺族ですら傍聴が制限されるケースが発生することにもなりかねません。そうすると、物理的に裁判所の傍聴席となる場所を増やすしかないのではないか、つまり、ビデオリンクによる傍聴を認めるしかないのではないかと考えます。   その場所についても、証人尋問等と同様、広く別の場所に法廷の映像を中継するモニターを設置してもらい、オンラインによる傍聴をするという方策を検討していただきたいと考えています。 ○成瀬幹事 検討会においては、今、久保委員と𠮷澤委員が指摘してくださった事項のほかにも、諮問事項「二」に関して、以下に述べるような事項について情報通信技術を活用する方策が議論されました。   まず、捜査段階では、弁解録取や勾留質問を映像・音声の送受信により行う方策や、映像・音声の送受信により行われる取調べにおける供述を録取した調書を、電子的方法により作成する方策が議論されました。   次に、公判準備段階では、訴訟関係者が映像・音声を送受信する方法により公判前整理手続や期日間整理手続に出席・出頭する方策が議論されました。先ほどの久保委員の御発言は、主として弁護人・被告人が映像・音声を送受信する方法により出頭することを念頭に置いたものと理解しておりますが、検討会では、裁判官や検察官が同様の方法で出席・出頭することについても議論が及びました。   さらに、公判段階では、先ほど𠮷澤委員が言及してくださった、被害者参加人及びその委託を受けた弁護士が映像・音声の送受信により公判手続に出席する方策や、久保委員及び𠮷澤委員がおっしゃっておられた、証人尋問を映像・音声の送受信により行うことができる場合を追加・拡大する方策が議論されましたが、それと並んで、被告人及び弁護人が映像・音声の送受信により公判手続に出頭する方策や、鑑定人尋問や通訳を映像・音声の送受信により行うことができる場合を追加・拡大する方策についても議論が及びました。   それから、裁判員制度に関しては、裁判員候補者が映像・音声の送受信により裁判員等選任手続に出頭する方策について議論が行われました。   これらの非対面・遠隔化に係る方策は、通常は対面で行われる捜査・公判等の手続について、対面で行うことが困難となる事情が生じた場合に、それでもなお手続を前に進めなければ、刑事訴訟法の目的を達成することができないと判断される状況等において、有効な解決策になり得るものです。そのような観点からすると、これらの諸方策についても、当部会において具体的な法整備に向けた議論を進めていくべきであると考えます。 ○近藤関係官 傍聴の在り方につきましては、検討会の取りまとめ報告書にもありますとおり、刑事手続にとどまらず、民事訴訟等を含めた裁判制度全体に関わる問題であると認識をしております。他の裁判制度の公開の在り方との整合性も含めて、慎重に検討すべき点がなお残ると考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、諮問事項「二」に関し、御意見はございますか。   それでは、諮問事項「二」についてはここまでにしまして、次に、諮問事項「三」に関し、検討すべき項目について御意見をお伺いしたいと思います。先ほどと同様、御意見のある方は、挙手の上、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 諮問事項「一」及び「二」を制度化するに当たりましては、その適正な実施を確保するために、電子的方法による書類の作成・管理・利用・発受や映像・音声の送受信により行われる手続を妨害する行為に対して、紙媒体で手続が行われる場合と同様に、刑法典などで対処できるようにしておくことが求められると思います。   例えば、被疑者が紙の令状を警察官の手から奪い取って破ったとしますと、公務執行妨害罪のほか、公用文書等毀棄罪の成立が考えられるのではないかと思いますが、電子令状が発付されて、これが被疑者に提示されるという場面について考えてみますと、これを妨害する行為としては、令状を表示するタブレット端末を警察官から奪い取って破壊して、令状を表示できなくするとか、それ以外の方法でタブレット端末を使用不能にして令状を表示できなくする行為などが考えられます。   こうした行為が諮問事項「一」及び「二」で実現される可能性がある手続の遂行を妨害する行為として思い浮かぶわけですが、これらの場合、サーバ上の令状の電子情報自体は恐らく破壊されないのではないかと思います。このときに、現行刑法の第258条にいう電磁的記録を毀棄したものとして、公電磁的記録毀棄罪が成立するのかといったことについて整理が必要ではないかと思います。   また、このほかにも、電子令状のデータを偽造し、これを真正なもののように表示して人に見せる行為など、電子的に作成された文書の信頼を害する行為も考えられます。   したがいまして、手続が電子化された場合に、紙媒体での手続を前提とした刑法典等で、先ほど挙げたような行為に対処することができるのかどうか、できないとすれば、法律上どのような対処をすればよいのかということを検討する必要があると思います。 ○安田委員 ただいま小木曽委員から、諮問事項「三」に関しまして、諮問事項「一」・「二」で実現される手続を妨げる行為に対処するために、刑法等の規定を見直す必要があるのではないかとの御発言がございました。その御発言に付け加えて申し上げますと、諮問事項「三」は、刑事手続とは関係しないものも含めて、「その他情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること」についても、その法整備の在り方を示すことを求めているものと理解しております。   近年では、スマートフォンなどの高機能の情報通信端末が国民に広く普及するとともに、社会生活のあらゆる場面において、その活用が一般化してきておりまして、これまでであれば紙媒体の書類が用いられていた場面においてペーパーレス化やオンライン化が急速に進展してきておりますのは、刑事手続上の場面に限られるものではなく、刑事手続以外の場面におきましても、同様のことが起きてきております。   行政機関の公的部門の活動に関しましても、公務所への書類の提出、公務所からの文書等の発出の電子化・オンライン化が進められておりまして、その結果、電子データが紙媒体の文書に代わる社会的機能を持ち、その真正や機能に対する公共の信用を保護することが要請される場面が出てきております。   具体的に申し上げますと、公務所に提出する診断書として作成する電磁的記録に虚偽の記録をしたり、公務所に虚偽の申立てをして、自動車運転免許証の電磁的記録部分等の電磁的記録に虚偽の記録をさせたりする行為などが問題となり得ます。また、行政機関の公的部門の活動に限らず、様々な業務において用いられる電子的に作成されたデータの完全性を保護するため、他人の電子データを権限なく変更・移転・消去したりする行為を防止することが要請される場面も出てきており、民間の企業等や個人が、その業務において用いている電磁的記録を毀棄してその効用を害する行為などが問題となり得ます。   先ほど小木曽委員から御発言がありましたように、諮問事項「一」・「二」で実現される手続の遂行を妨げる行為として、電子的に作成された文書に対する公共の信用を害する行為や、電子的に作成された文書の効用を失わせる行為が行われた場合につきまして、刑法等の規定が従来の紙媒体に対するのと同様に対処できるように、規定上の手当てをしていくことを検討することとするのであれば、同じようなものは同じように扱うことが妥当と思われますことから、こうした行為につきましても、それと同様の対処をすべきものと考えられます。   本日の配布資料5にも記載されておりますとおり、昭和62年の刑法改正により設けられました刑法第161条の2の電磁的記録不正作出罪や、第258条、第259条の電磁的記録毀棄罪によりまして、人の事務処理の用に供する権利・義務、事実証明に関する電磁的記録を不正に作出する行為、公務所の用に供する電磁的記録を毀棄する行為や、権利・義務に関する電磁的記録を毀棄する行為については、対応することができるようになっておりますが、先ほど申し上げましたような刑事手続以外の場面における行為などにつきましても、これらの罪、あるいはその解釈で対応することができるのか、あるいは関係する罪の構成要件を改めたり、新たな罪を設けたりするべきなのかなどを含めまして、関係する刑法等の規定の見直しの要否を検討することも考えられるのではないかと考える次第です。 ○樋口幹事 諮問事項「三」のうち、情報通信技術の進展等に伴って生じる事象への対処という点につきまして、安田委員からは、ペーパーレス化を踏まえた実体法的対処について検討が必要という指摘があったかと思います。安田委員の御指摘に加えまして、更に検討すべき点として、大きく分けて2点追加したいと思います。   情報通信技術の進展への対処といいますと、本年6月27日に本諮問と同時に諮問されました組織的犯罪処罰法の規定による没収の対象の拡大についても、同様の要請を背景にするものと理解しています。そちらの部会、すなわち刑事法(犯罪収益等の没収関係)部会の第1回会議におきましては、取引決済におけるキャッシュレス化によって利用される電子マネーやブロックチェーン技術による暗号資産といった、新たな形態の財産の没収を可能にすることが論じられているところです。こういった新たな形態の財産に関する犯罪事象への対処について、本部会でも検討が必要ではないかという点が1点目になります。   日本の刑法典は、明治40年に制定された古いものですけれども、新たな形態の財産についても、それなりに対応できる規定になっている面があります。例えば、財産犯については、条文が簡素な文言で、利益一般を保護の客体とする2項犯罪を持っているものですから、新たな形態の財産を対象とする犯罪にも基本的に対応可能になっているように思われます。   また、そうは言っても不十分な点も当然出てくるわけですが、事務当局が用意してくださった配布資料5にもあるとおり、例えば、平成13年の改正では、刑法典第18章の2に支払用カード電磁的記録に関する罪を追加するなど、その都度必要な対応がなされてきているところです。   しかし、更に時代が進んだ現在においては、例えば、スマートフォン用クレジットアプリのようなカードレス化という現象によって、カードが作られないまま、支払用カードと同様の機能を持つ電磁的記録が現れているところです。そのため、こういった電磁的記録についての不正作出や移転、供与について、現在の刑法の規定によって対処できるのかが問題になるところです。   このように、新たな形態の財産の生成・取得・保管・移転により行われる犯罪事象が存在し、その傾向は今後更に進むと考えられるところですから、そうした事象に対して、現在の刑法の規定によって適切に対処することができるか、できないとすれば、どのような改正をすべきかについて、この機会にこの部会で検討すべきではないかと考えるところです。   2点目になりますが、新たな形態の財産の出現という問題以外について見ても、情報通信技術を利用して行われる犯罪事象について、現行法で対処できるか、できないとすれば、どのような改正をすべきかを検討するという視点から見ますと、この機会に検討しておいてよい事象はほかにもあるのではないかと思います。   一つ具体例を挙げますと、賭博が行われるために設定される物理的な場所や空間がなく、専ら情報通信技術を利用して行われる賭博について、下級審裁判例におきまして、賭博開張図利罪を認めてよいかについて判断が割れているという現状があります。この現状からしますと、この機会に賭博場という文言について、立法論的な検討をしてみてよいのではないかとも思われるところです。   情報通信技術を利用して行われる犯罪事象について、この機会に一旦視野を広く取って考えてみてよいようにも思われるところです。 ○佐久間委員 諮問事項「三」について、ただいま研究者の委員の方々から重要な御意見が示されましたが、そのうち、ただいまの樋口幹事の御意見に関連して、新たな財産の形態で取得・保管・移転される犯罪収益の剝奪等や、新たな形態の財産に対する犯罪についての捜査に関し、当部会で議論すべきと思われる事項がありますので、検察の立場から意見を述べたいと思います。   情報通信技術の進展やその普及は、犯罪の対象やその手段に変化をもたらすだけではなく、犯行により取得し、あるいは、その後保管・処分する際の財産の形態や、犯行の際に被害者とのやり取りや犯人相互の連絡に用いられる通信機器などの犯行ツールなどにも大きな変化を及ぼしており、捜査・公判の現場では、そうした変化に対応することが求められておりますが、現行の法制度がそうした変化に追い付いていないと思われることがあります。   例えば、犯罪収益の剝奪について申し上げますと、近時、取得・移転の容易性や匿名性の高さといった特性から、犯罪収益が暗号資産等の新たな財産の形態で取得・保管・移転されることが増えているところ、そうした犯罪収益を組織的犯罪処罰法第13条による没収の対象とすることについては、樋口幹事が御指摘されたように、本諮問と同日に諮問され、現在、法制審議会の別の刑事法部会で調査審議が行われていると認識しておりますけれども、その没収の裁判の執行を確保するための暗号資産等の新たな形態の財産に関する手続法の整備については、情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処するものであり、当部会で検討する必要があると思われます。   この点については、民事執行法や民事保全法の分野での先行的な研究や実務の取組があるようでありますから、そのような研究や実務の取組なども参照しつつ、検討することが必要ではないかと思われます。   また、捜査について申し上げますと、通信傍受法に基づいて通信傍受をすることができる対象犯罪として、現在、1項詐欺・1項恐喝・1項強盗は掲げられておりますが、2項詐欺・2項恐喝・2項強盗は掲げられておりません。そのため、例えば、かつて主流であった、受け子が被害者と駅などの近くで落ち合って、現金を手渡しで受け取り詐取する態様による特殊詐欺については、1項詐欺に当たるものとして傍受令状が発付され得るのに対し、近時増えている、そのような特殊詐欺の犯罪グループが、あらかじめ様々な手口で欺罔した上で、現金を手渡しさせるのではなく、アマゾンギフト券などを繰り返し購入させ、そのコードを電話で伝達させるなどして財産上不法の利益を得る態様のもので、2項詐欺に当たるものについては、通信傍受をすることができないという状況になっております。   犯罪の重大性においても、通信傍受の現実的な必要性・有用性においても差がないにもかかわらず、被害財産が有体物かどうかで区別する合理性はないと考えられますことから、これらの2項犯罪を通信傍受の対象犯罪に加えることとするかについても、情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処するため、当部会で検討する必要があると考えております。 ○久保委員 諮問事項「三」に関連して、弁護人の活動状況がオンライン上で検察官に確認できるような仕組みとなれば、それは大きな問題があります。単に何時から何時まで証拠を閲覧したとか、何時から何時まで接見したというようなことではなく、どの文書のどの箇所をオンライン上で閲覧したのかといった活動を検察官に把握されることにより、弁護活動が管理されたり、秘密が筒抜けになったりすることのないよう、制度設計に当たって検討がなされるべきだと考えます。   もう1点、こちらは諮問事項「三」というよりも全体に関わる点かもしれませんが、刑事手続のIT化は、国民が公正・迅速な裁判に参加することができるようにすることを目的とするべきであり、その国民にもいろいろな立場の方がいるということも念頭に置くべきです。被疑者・被告人や弁護人、そして被害者の方も含めて、聴覚障害や視覚障害など、様々な状況にある方がいらっしゃいます。誰かを排除することのないよう、どのような対処が考えられるかについて、検討が必要であるように思います。原則的な対応だけではなく、様々な状況に置かれた方について、公正・迅速な裁判が受けられる制度作りについての議論を求めます。 ○酒巻部会長 このほか、諮問事項「三」に関し、検討すべき事項について、御意見等はございますか。   それでは、御意見はないようですので、本日の審議はここまでにしたいと思います。   次回以降の審議の進め方につきまして、皆様にお諮りしたいと存じます。   本日、委員・幹事の皆様から、諮問事項に関連して、大変活発に、様々な具体的な御意見を頂きましたので、それらの御意見を踏まえつつ、今後の充実した審議を効率的に進行させていくという観点から、部会長である私の責任の下で、事務当局に、本日の審議の内容を踏まえて、諮問事項ごとに検討すべき項目を整理・記載した資料を準備していただき、次回は、その資料に沿って、順次その検討項目についてより具体的な議論を行うということが進行として適切ではないかと思いますけれども、いかがでございましょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、今述べましたような形で、次回以降の進行をさせていただきたいと思います。   次回の予定日等につきましては、事務当局からお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回、第2回会議は、令和4年9月2日午前の開催を予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能です。詳細につきましては、別途御案内を申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、先ほど定めましたとおり、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。また、本日の配布資料につきましても、特段の問題はないと思いますので、公開することにしたいと思いますが、そのような取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 どうもありがとうございます。   それでは、本日の審議はこれまでとし、これにて閉会といたします。   御協力、御議論、どうもありがとうございました。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。 -了-