法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和4年9月2日(金)   自 午前10時01分                       至 午後 0時27分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も、御多用のところ、お集まりいただきありがとうございます。   本日、池田委員、大賀委員、向井委員、吉崎委員、くのぎ幹事、近藤幹事、親家幹事はオンライン形式によって出席されています。   議事に入る前に、前回の会議以降の幹事の選任について御紹介をさせていただきます。   前回、関係官として御出席いただいておりました、最高裁判所事務総局刑事局第二課長の近藤和久氏が、本日は幹事となられて御出席されています。どうぞよろしくお願いします。   続きまして、事務当局から、配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料6として、「検討項目」をお配りしております。配布資料の内容については、後ほど御説明いたします。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   前回の会議においては、まず、委員・幹事の皆様の問題意識の共有を図る観点から、諮問事項全体について概括的・包括的な議論を行い、次いで、「一」から「三」までの諮問事項それぞれについて、当部会において法整備の在り方を検討すべき具体的な項目に関する御意見を頂きました。   本日は、その際に示された御意見を踏まえつつ、取り上げられた検討項目について、より具体的な議論を行いたいと思います。   そのような議論に資するものとして、前回の会議で御了承いただいたとおり、事務当局に、前回会議における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえて、諮問事項ごとに検討項目を整理した資料を作成してもらいました。まずは、事務当局から、この配布資料6「検討項目」について、説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料6について御説明いたします。   配布資料6「検討項目」は、部会長の御指示に基づき、前回の会議における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえ、諮問事項の「一」から「三」までのそれぞれについて、検討項目を整理したものです。   この資料は、飽くまで審議を効率的に進めるため検討項目を整理してお示しするものとして作成したものであり、もとより、検討すべき項目を限定したり、議論を方向付けようとする趣旨のものではありません。   また、この資料の1ページ目右上に「※」を付して記載してありますように、ここに掲げられた項目についての今後の検討は、要件の在り方だけではなく、その要否・当否の検討も含むことを前提とする趣旨です。   「第1」は、諮問事項「一」についての検討項目を記載したものです。   前回の会議における委員・幹事の皆様の御発言のほか、「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」における議論の状況を踏まえ、項目相互の関連性も考慮して、「1 書類の作成・発受」、「2 令状の発付・執行の手続」、「3 証拠開示等」、「4 公判廷における証拠調べ」の四つに分けて記載しています。   資料の2ページ目の「第2」は、諮問事項「二」についての検討項目を記載したものです。   前回の会議における委員・幹事の皆様の御発言のほか、検討会における議論の状況を踏まえ、項目相互の関連性も考慮して、「1 弁解録取・勾留質問・取調べの手続」、「2 被疑者・被告人との接見交通」、「3 裁判所の手続への出席・出頭」、「4 証人・鑑定人の尋問及び通訳」、「5 公判審理の傍聴」の五つに分けて記載しています。   資料の3ページ目の「第3」は、諮問事項「三」についての検討項目を記載したものです。   前回の会議における委員・幹事の皆様の御発言を踏まえ、「1 第1及び第2の実施を妨げる以下の行為等に対処できるようにすること」、「2 新たな形態の財産の生成・取得・保管・移転により行われる犯罪事象に対処できるようにすること」、「3 その他情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に対処できるようにすること」の三つに分けて記載しています。   このうち、「1」には、「(1)電子的に作成される文書の信頼を害する行為」と「(2)電子的に作成された書類やオンラインを用いた手続の遂行を妨害する行為」を記載した上で、前回の会議において、「(1)」や「(2)」の行為と同様の対処をすべき行為があるのであれば、そのようにすることを検討すべきとの御意見があったことを踏まえ、「(3)」として、「その他(1)及び(2)と同様の対処をすべき行為」を記載しています。   また、「2」には、実体法による対処に関するものとして、「(1)新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転する行為を適切に処罰できるようにすること」を、犯罪収益の剝奪に向けた手続や捜査における対処に関わるものとして、「(2)新たな形態の財産として取得・保管・移転される犯罪収益の没収保全や、財産上不法な利益を得る犯罪の通信傍受ができるようにすること」を記載しています。   そして、「3」には、「1」や「2」以外にも、情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に現行法が対処できるか等を検討すべきとの御意見があったことを踏まえ、「その他情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に対処できるようにすること」を記載しています。   配布資料の説明は、以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、何か御質問等はございますか。よろしいですか。   それでは、ただいま事務当局から説明のあった配布資料6に沿って、順番に議論を進めていきたいと思います。   この資料には、検討項目が記載されていますが、これらの項目について法整備の在り方を検討するに当たっては、まずは、具体的な議論の前提として、それぞれの項目について、どのような制度設計の在り方が考えられるか、その際にどのような点が論点になるかを具体的に抽出して、議論すべき検討課題を整理しておくことが、この先のより突っ込んだ議論にとって有益と思います。   そこで、本日は、そうした制度の設計の在り方についての検討の方向性やその際に検討すべき論点など、今後議論すべき検討課題について、この資料に記載された項目ごとに、委員・幹事の皆様から御意見を頂きたいと思います。その上で、次回以降の会議では、その御意見を踏まえて、その検討課題について一層具体的に順次御議論いただくことにしたいと考えていますが、このような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのように進めさせていただきます。   まず、第1の「刑事手続において取り扱う書類について、電子的方法により作成・管理・利用するとともに、オンラインにより発受すること」の「1 書類の作成・発受」について御意見を伺います。   本日、時間は限られていますが、可能な限り、この資料に記載された全項目について御意見を頂きたいと思っていますので、御発言に際しては、各項目に関する検討課題について端的に述べていただくよう御協力をお願いします。   それでは、まず、「第1」の「1 書類の作成・発受」に関する検討課題について御意見のある方は、挙手などした上で、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 検討項目「第1」の「1」については、検討会においても議論が行われ、法制上の措置を採ることについて意見の一致が見られたことから、取りまとめ報告書においても考えられる方策が示されています。当部会においても、そうした議論を踏まえ、検討項目の「(1)」に記載されているように、電子的方法により作成された書類に署名押印・記名押印等に代わる技術的措置が採られたときは、署名押印・記名押印等がなされた紙媒体の書類と同一の効力を有するものとすること、及び、検討項目の「(2)」に記載されているように、事件の送致、公訴の提起、裁判所・裁判官に対する各種の申立て、各種の送達における書類の発受をオンラインによりすることができるものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   このうち、検討項目の「(1)」に関しては、前回会議において池田委員から御発言があったように、現行の法律・規則において署名押印・記名押印等が求められる書類には、証拠書類や手続書類など、性質や適用される規律が異なる様々な類型がありますので、それぞれの類型ごとの違いを意識しつつ、まずは、現行の法律・規則において、公判調書や公判前整理手続調書のように裁判所が作成する書類、起訴状や申立書のように手続において提出される書類、供述調書や捜査報告書のような証拠書類のそれぞれについて、署名押印・記名押印等が求められている趣旨を明らかにする必要があると思います。その上で、それぞれの趣旨に照らして、電子的方法により作成された書類について、署名押印・記名押印等がなされた紙媒体の書類と同一の効力を有するものとするために、これらに代えてどのような措置が講じられることが必要となるかといった点について、具体的に検討していく必要があると考えます。   次に、検討項目の「(2)」のうち、事件の送致、公訴の提起、裁判所・裁判官に対する各種の申立てについては、現行法がそれぞれの場面で書類の送致・提出等をすることを求めている趣旨を明らかにし、それらの趣旨に照らして、これらの書類の提出等をオンラインにより行う場合にどのような措置が講じられることが必要となるかという点について、検討する必要があります。   他方、書類の送達については、現行法が民事訴訟に関する法令の規定を準用することとしている趣旨を明らかにし、その趣旨に照らして、民事訴訟法に新たに設けられた電子情報処理組織による送達を刑事手続における書類の送達についてもすることができるものとするかといった点について、検討する必要があると思います。 ○久保委員 まず、「第1」の「1」の「(1)」について、3点申し上げます。   1点目に紙の保管について、2点目にデータの完全性について、3点目にログの取扱いについて申し上げます。   1点目の紙の保管についてですが、最初から電子的方法により作成する書類と紙媒体の証拠を電子データ化するものが想定されますが、証拠廃棄の取扱いについての規律を検討する必要があると考えます。   まず前提として、証拠品と供述調書などの捜査書類を区別する必要があります。前者は、提出者に還付するのが原則とされていますが、後者については、捜査機関の裁量により廃棄できるという運用については承知しておりません。仮に、裁量により廃棄をすれば公用文書毀棄罪に当たりますし、実際にそのような事例は多数見られます。いずれも、被疑者・被告人や再審請求人に有利な証拠となる可能性がありますし、電子データ化しても原本の紙媒体に含まれる情報は失われるおそれがありますので、捜査機関の裁量により廃棄するのは問題があると考えます。一定の証拠を廃棄できるとするのであれば、どのような証拠をどのような要件の下で廃棄できるとするのか、議論が必要だと考えます。   2点目のデータの完全性についてです。証拠の取得方法のいかん、例えば、後で出てきます記録命令付差押えなど、そのような取得方法のいかんを問わず、電子データの完全性の維持、つまり、データの作成・変更などをトレースして証明できる仕組みとする制度の検討が必要です。特に捜査書類については、後で改変できないよう、例えば、電子帳簿保存法のタイムスタンプなどを参考にし、法律レベルで規定することを検討するべきだと考えます。また、後でデータの改変の有無を検証できるよう、弁護人にそのような検証を求め、あるいは、それに関わる情報の開示を求める権利が規定されることが必要だと考えます。   3点目にログの取扱いです。オンラインシステムにおいて取得され得るログの取扱いについては、法律に明確に規定するべきだと考えます。例えば、利用目的の制限、取得範囲の合理的な制限、保存期間の制限、弁護活動の秘密や弁護士の独立性を損なうような利用の制限などについての規定が考えられます。   続きまして、「(2)」についても4点申し上げます。   1点目に提出当事者が複数になる場合について、2点目にオンライン以外の提出方法について、3点目に被疑者・被告人の書類提出について、4点目に被疑者・被告人以外の提出者について申し上げます。   1点目の提出当事者が複数となる場合について、今回項目に挙がっているのは、事件の送致、裁判所に対する申立て等のみですが、当然弁護人が警察官や検察官に書面を提出する場合についても検討が必要です。例えば、同じ書類を裁判所と検察官に同時に提出する場合に、異なるシステムを使うことになれば、結局二度手間になり、同時に送信できる現在のファックスよりも煩雑になることはもちろん、事故の原因にもなります。二者、三者それぞれでオンラインが活用できる仕組みが必要だと考えます。また、弁護人選任届については、警察署へ提出することもありますので、弁護人と警察署とのやり取りについても、オンラインやファックス提出の選択肢が検討されるべきです。   2点目に、オンライン以外の提出方法について申し上げます。当部会においても、オンライン提出とそれ以外の書類の提出方法の関係について検討が必要です。その際、今後の通信技術の発展により、選択肢を柔軟に増やせる制度作りが検討されるべきです。オンライン提出ができない場合もあり得ますので、ファックス提出や紙媒体の提出も認められるべきですから、オンライン提出を原則としつつも、併用できることを前提とした法制度が設けられるべきです。システムのエラーのほか、経済的・技術的な理由、あるいは障害があることなどから、オンラインの利用が困難な人にも配慮が必要です。   また、刑事手続は民事の手続とは異なり、弁護人が接見に行き、そのまま書類を警察署に提出したり、あるいは検察庁に提出したりするということもありますので、刑事手続の特性を踏まえた制度設計が重要だと考えます。   また、これに関連して、IT化が実現するまでの間、ファックス提出を積極的に認めていく運用も検討されるべきです。現行法においても、書類の性質によってファックス提出を適法と認める余地があると解釈できるということについては承知しておりますが、現段階から具体的に運用を始め、その上で支障を検討することができれば、当部会の議論もより充実したものになると考えます。当部会は、法改正に向けた検討が中心となることは承知しておりますが、ファックス提出が法改正をするまでもなくできることを、当部会において確認することには、一定の意味があると思われます。   3点目に、被疑者・被告人の書類提出についてです。準抗告や保釈請求、勾留取消請求、控訴申立書、控訴趣意書など、被疑者・被告人自身に権利があるものも多数あります。それらについて、オンライン提出できるようにするのか、できるようにするとしたらどの端末でどのような形でできるようにするのかについての検討が必要です。被疑者・被告人に弁護人が選任されていない場合もあり得ますので、そうした状態も想定した検討が必要になります。   署名押印・記名押印に代わる技術的な措置として、電子署名が必須としますと、被疑者・被告人にとっては、逆に利便性を損なう場合もあり得ます。弁護人も常に電子署名が利用できるとは限りませんので、そうしたことも想定する必要があります。また、押印については、端的に署名があれば廃止するということでも良いように考えております。   4点目に、被疑者・被告人以外の提出者についてです。書類などの提出者が被疑者・被告人以外となる場合についても検討する必要があります。例えば、捜索差押えなどの強制処分の被処分者が準抗告を申し立てたり、押収物の還付を請求したりする場合が想定されます。 ○酒巻部会長 書類の作成・発受に関し、ほかに論ずべき点についての御意見はございますか。よろしいですか。   それでは、次に、「2 令状の発付・執行の手続」に関する検討課題について、御意見のある方は、挙手の上、御発言をお願いします。 ○池田委員 検討項目「第1」の「2」の「(1)」について意見を申し上げます。   この点については、検討会の議論を経て、法制上の措置を採ることについて意見の一致が見られ、取りまとめ報告書において考えられる方策が示されているところです。そこで、そうした議論を踏まえ、当部会においても、電子的方法により作成した令状をオンラインにより発付することができるものとすることや、令状の請求に係る書類や疎明資料を電子的方法により作成してオンラインにより発受することができるものとすること、あるいは、電子的方法により作成され発付された令状の呈示は、これを電子計算機の映像面に表示し、又は紙面に印刷したものを示すなどの方法によりすることができるものとすることについて、更に具体的な検討を進めていくべきであると考えます。   その際に、検討を要する課題として考えられるところとして、まず、電子的方法による令状の作成やオンラインによる発受に関しては、紙媒体を念頭に置いた規律の趣旨を明らかにした上で、電子的方法で作成された令状との関係で求められる技術的措置を検討するということであり、具体的には、紙媒体の令状に裁判官の記名押印が求められていることとの関係で、その趣旨が何であるか、その趣旨に照らして、その裁判官の記名押印に代えてどのような措置が講じられることが必要となるかといったこと、また、有効期間経過後に返還しなければならない旨の記載が紙媒体の令状には求められていますが、その趣旨がどのようなもので、その趣旨に照らして、電子的方法により作成・発付される令状について、これと同内容の記載を求める規律を設ける、あるいはこれと同様に機能する規律を設けることが必要となるかどうか、また、紙媒体の逮捕状や勾引状については、数通を発付できることとされているわけですが、これも、その趣旨は何か、その趣旨に照らして、電子的方法により作成されるそれらの令状について、同様の規律を設けることが必要となるかといったことについて、検討する必要があります。   また、令状の請求に係る書類や疎明資料の電子的方法による作成やオンラインによる発受に関しては、現行の刑事訴訟規則が令状の請求を書面ですることを求めていますが、その趣旨は何か、その趣旨に照らして、令状の請求をオンラインで行う場合には、どのような措置を講じることが必要か、これに対して、疎明資料については、少なくとも明文ではその種の要請はなく、現行法の下でも、電子的方法により作成された書類をオンラインで送信することは許容されると解されるわけですが、これができることを明示する規定を設けるかどうかといったことについて、検討する必要があると考えます。   そして、令状の呈示や執行に関しては、紙媒体の令状を執行する際には、処分を受ける者に対してこれを示さなければならないとされているわけですが、その趣旨が何で、その趣旨に照らして、電子的に発付された令状を執行するときに、処分を受ける者に対してどのような方法により当該令状を示すことが必要となるかについて、検討する必要があります。そのほかにも、紙媒体の令状に基づいて処分を実施する場合との違いを意識しながら、例えば、電子的に発付された令状の執行についても、少なくとも勾引状や勾留状、また逮捕状に関する現行の取扱いを踏まえて、緊急執行の規律を設けるかどうかといったことや、処分を受けた者等に交付することとされている刑事訴訟法第119条の「証明書」や第120条の「目録」について、電子的方法により作成したものをオンラインで交付できるものとするかといったことについても、検討する必要があると思います。 ○成瀬幹事 検討項目「第1」の「2」の「(2)」について意見を申し上げます。   この点については、検討会においても、電磁的記録提供命令として議論が行われ、法制上の措置を採ることについて意見の一致が見られたことから、取りまとめ報告書においても考えられる方策が示されています。   当部会においても、そうした議論を踏まえ、裁判所が、必要があるときに、電磁的記録の保管者や利用権限者に対し、必要な電磁的記録をオンラインにより提供させることができるものとすること、及び、捜査機関が、犯罪を捜査するため必要があるときに、裁判官の発する令状により、先に述べた者と同様の者に対して、必要な電磁的記録をオンラインにより提供させることができるものとすることのそれぞれについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   具体的には、この強制処分についての司法審査や執行の在り方など、法制度の詳細を詰めていく観点から、電磁的記録をオンラインにより提供させる新たな強制処分について、現行法の強制処分との対比においてどのような規律を設けるべきかという点や、その提供を命ずることにより、命令を受けた者にどのような法的効果を生じるものとするかといった点について、具体的に検討していく必要があると思います。   また、前回会議において池田委員から御指摘がありましたが、強制処分としての実効性をより一層担保するための方策として、命令に応じない被処分者に対する制裁を設けて間接的に強制するなど、命じられた行為をすることをより強力に義務付けるための方策を講じることとするかといった点についても、検討する必要があると考えます。 ○久保委員 「第1」の「2」の「(1)」について1点申し上げます。   検討会でも指摘されていたところですが、電子令状の真正性をどのようにして判断するのかについての検討が必要です。画面上に表示するだけでは、裁判官の電子署名があることを確認できないのではないかという懸念があります。   例えば、真正性の確認のため、写しを交付することを義務付ける方法が考えられますし、写しが交付されない場合には、電子令状を写真撮影することの可否も問題となると思われます。 ○酒巻部会長 「2」について、ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは、次に、「3 証拠開示等」に関する検討課題について、御意見のある方は、挙手の上、御発言をお願いします。 ○池田委員 「3」の「(1)」と「(2)」の双方に関する意見を申し上げます。   まず、「(1)」については、検討会においても実務上のニーズが示され、これを実現することに向けて法制上の措置を採るということについて、意見の一致が見られたところと承知しております。   このうち、証拠書類等の閲覧・謄写の機会をオンラインで与えることに関する規律については、取りまとめ報告書にも記載されていますように、刑事訴訟法第299条第1項等の趣旨との関係で検討する必要があります。そして、それらの規定が、相手方当事者に証拠の信用性の吟味の機会を確保するために証拠の取調べを請求する者にそのような機会を設けることを義務付けるものであって、その違反が証拠の採否にも影響し得るものであることに鑑みますと、解釈上の疑義を生じないようにするため、オンラインで閲覧・謄写の機会を与えることができることを明文で規定するということが考えられます。   したがって、当部会においては、そうしたことを踏まえて、オンラインによる証拠開示が可能であるということを規定上明らかにするための方策として、電子的方法により作成・管理される証拠書類等であってその取調べを請求するについてあらかじめ相手方にその閲覧の機会を与えなければならないものについて、オンラインによりその機会を与えたときは、刑事訴訟法第299条第1項等に規定する「閲覧」の機会を与えたものとすることや、事件が公判前整理手続等に付された場合において、電子的方法により作成・管理される証拠書類等であって相手方にその謄写の機会を与えなければならないものについて、オンラインによりその機会を与えたときは、同法第316条の14第1項等に規定する「謄写」の機会を与えたものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきだと考えております。   その検討に当たっては、先ほど述べた刑事訴訟法第299条第1項等は、相手方に証拠書類等を「閲覧する機会」を与えなければならないこととし、事件が公判前整理手続等に付された場合について、同法第316条の14第1項等が相手方に証拠書類等を「謄写する機会」を与えなければならないこととしている趣旨に照らして、電子的方法等により作成・管理される証拠書類等について、オンラインによる開示をする場合において、どのような措置を講じれば、相手方に対してそれらの条文が規定する「閲覧」・「謄写」の機会を与えたものとなるかについて、検討する必要があると考えております。   次に、「3」の「(1)」のうち、証拠の一覧表をオンラインで交付することに関する規律についてですが、検討会の取りまとめ報告書でも、現行法の規定は、有体物として紙媒体の一覧表を予定していると考えられるものの、証拠の一覧表を記録した電磁的記録をオンラインで提供することによることもできる旨を明文で規定するということが考えられるとされています。当部会においては、そうしたことを踏まえ、オンラインによる証拠の一覧表の交付が可能であることを規定上明らかにするための方策として、証拠の一覧表の交付については、電子的方法により作成したものをオンラインにより交付したときは、「交付」をしたものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   その検討に当たっては、刑事訴訟法第316条の14第2項が、事件が公判前整理手続等に付された場合に、被告人又は弁護人に対し、検察官がこの保管する証拠の一覧表を交付しなければならないこととしている趣旨に照らして、証拠の一覧表の交付について、電子的方法により作成したものをオンラインにより交付する場合において、どのような措置を講じれば、同項に定める証拠の一覧表の「交付」をしたことになるかについて、検討する必要があると考えます。   次に、「(2)」に関して申し上げます。これについても、検討会においては、これは可能である旨を明文で規定するなどの措置を講じることを検討する必要があるとされたところであり、当部会においても、裁判所において電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等について、刑事訴訴法第40条の閲覧・謄写は、オンラインによってもすることができるものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   その検討に当たっては、刑事訴訟法第40条第1項等が、弁護人が訴訟に関する書類等を「閲覧し、且つ謄写することができる」こととしている趣旨に照らして、裁判所において電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等について、オンラインによる閲覧・謄写をさせる場合において、どのような方法によることが必要となるかについて、検討する必要があると考えております。 ○佐久間委員 情報セキュリティの観点から意見を申し上げます。   前回会議でも申し上げたとおり、刑事事件の証拠をオンラインで開示することを考えるに当たっては、万が一にも情報が流出する事態が生じないよう万全のセキュリティが講じられ、証拠書類等に記載・記録された関係者の名誉・プライバシーが不当に害されることがないことが大前提であり、開示をする側・受ける側の双方において、万が一にも情報が流出しないようにするための情報セキュリティ上の措置が採られる必要があります。   この点、実際に開示する側・受ける側のそれぞれにおいて、どのような措置を採ることができるかについては、両者の間で実務的・技術的な検討をすることが必要であり、そのような観点から、法務省においては、現在、日本弁護士連合会等の関係機関との間で、証拠開示等における情報セキュリティの在り方について実務的・技術的な協議を実施しているものと聞いています。前回会議において、久保委員から、弁護人による証拠書類の閲覧状況等を検察官に把握されることのないようにすべきである旨の御発言がありましたが、もとより、ここで必要とされる情報セキュリティの確保は、前回会議においても念のため申し上げたとおり、取り扱う情報が意図せず外部に流出しないようにするために施すものであって、弁護人の活動をオンラインで監視したり、流出の防止という目的に照らして必要以上の措置を採ったりするなどして、不当に防御権を制約するものではないものと理解しております。いずれにしましても、久保委員の御指摘の点を含め、刑事事件の証拠をオンラインで開示する場合における情報セキュリティ上の具体的な措置の在り方は、そうした弁護士会も参加しておられる協議の場で検討されることとなると考えております。   そのような情報セキュリティ上の具体的な措置の在り方については、まず、そうした実務的・技術的な観点から行われる協議の場における検討に委ね、当部会においては、技術的には情報セキュリティに関し万全の措置を採り得ることをひとまず前提としつつ、先ほど池田委員から御指摘があったとおり、オンラインでの証拠開示それ自体を可能とする上で、現行法の証拠開示に関する規定との関係で、どのような法制上の措置を採ることが必要であるかなどについて検討すべきであると考えております。   もっとも、そのような検討は、飽くまで技術的に情報セキュリティに関し万全の措置を採り得ることをひとまずの前提とするものであって、それが十分とはいえない場合には、別の対処が必要となります。   その意味で、先ほど池田委員から御発言があった検討項目「第1」の「3」についての法的な仕組みを検討する大前提として、技術的措置のみによって情報セキュリティが十分に確保されるか、十分とはいえない場合、どのような対処が考えられるかが検討課題となるべきであり、具体的には、技術的措置のみによっては情報セキュリティの確保が十分になされないのであれば、例えば、オンラインでの証拠開示の範囲や方法などを制限したり、情報の流出があった場合の制裁を規定するなど、不十分な点を補うために、より厳しい法制上の措置を採ることを検討せざるを得なくなることにも十分留意すべきであると考えます。 ○久保委員 まず、「3」の「(1)」について7点申し上げます。   1点目に全体のシステム設計について、2点目に本人の証拠確認方法について、3点目に謄写の権利について、4点目に開示の制限について、5点目に保管の期限について、6点目に関連する手続の証拠開示について、そして、7点目にセキュリティについて申し上げます。   まず、1点目の全体のシステム設計についてですが、証拠開示の費用及び時間の浪費を解消し、かつ、弁護活動に支障が生じないよう、ファイルコントロールのない電子データをオンラインでダウンロードする方法により記録を謄写できるようにする必要があります。開示された証拠が印刷可能とされなければ、弁護活動上の支障は大きいものとなります。   2点目に、本人の証拠確認方法についてですが、オンラインにより開示された証拠を被告人が確認する方法につき、刑事訴訟法第39条や刑事収容施設法の改正など、法律の改正を検討し、疑義が生じないようにするべきだと考えます。確認方法については、証拠がオンラインで開示され、被告人も留置施設内の電子機器で自由に閲覧することができる仕組みとされるべきです。検察庁のシステムに直接アクセスできることがベストではありますが、それが難しい場合には、電子データの差入れが許容されるべきです。   施設内の電子機器の利用については、施設内で電子機器の貸与を受ける方法と弁護人が電子機器を差し入れる方法が考えられます。前者について、予算の問題があることは承知しておりますが、それ自体は法改正をしないことの理由にはならないように思いますので、まずは、それが検討されるべきだと考えます。後者については、予算の問題はクリアできるものの、被告人の費用負担が考えられますので、被告人によって差が出るということになり、それは望ましくないと考えます。電子機器の差入れに関する適切な検査方法を検討することで、対応できるように思います。   3点目の謄写の権利についてです。今回の部会を機に、是非実務慣行に沿って謄写の権利を明確化し、その上で、弊害がある場合には検察官と弁護人が協議し、最終的には裁判所の裁定で開示の可否を決定するという仕組みとすることが検討されるべきです。検討会において、公判前整理手続に付された事件以外では、閲覧の機会を与えれば足りるとされていることが指摘されていましたし、先ほども池田委員から御指摘がありましたが、閲覧の機会を与えるだけではなく、謄写をするという実務慣行は確立されております。証拠は検察官の所有物ではなく、公正な裁判のためには、検察官の自由な裁量で謄写の機会を与えないこととするのは不合理である、ということは明らかだと考えます。   4点目の開示の制限についてです。オンラインになることにより、包括的に検察官が自由な裁量で弁護人や被告人の権利の制約をすることができるとすることには問題がありますので、それを許容しない法制度とすることは、システム設計のレベルではなく、法制度のレベルで議論が必要だと考えます。性的な画像のように、漏えい防止の必要性が特に大きい証拠につき、特段の配慮が必要であるということには異論はありません。しかし、開示の必要性の程度や弊害の内容・程度を考慮して、開示の在り方を判断する手続が保障されるべきですから、現行法の規定を用いながら適切に対応するべきです。   5点目に保管期限について申し上げます。オンラインで開示された証拠や書面については、弁護人でなくなった後も、電子データで保管できる仕組みとすることが検討されるべきです。具体的なシステムにもよりますが、仮にダウンロードや印刷ができないシステムになった場合、控訴・上告や再審請求などの際に、証拠が閲覧できなくなる可能性があります。上告が棄却された場合、上告審の弁護人は証拠を閲覧できなくなるというシステムになった場合、再審請求の準備ができなくなります。印刷できるのであれば印刷物は手元に残りますが、結局は保管が大変ということになり本末転倒ですから、ダウンロードできるようにし、そのまま保管できるとすることは必須だと考えます。   控訴・上告や再審が関係のないケースであっても、開示された証拠や書面を弁護人には保管するという義務があります。例えば、弁護人ではなくなったとしても、事後的に依頼者から問合せがあるという場合もあります。そのような場合に、手元に証拠や書類がなくなると回答ができず、トラブルになるということも想定されます。また、そのような場合に対応するために、常に全ての証拠をプリントアウトしておかなければならないとすることは無意味ですので、弁護人がPDFにより記録を保管し続けることができるとすることは不可欠です。   6点目に、関連する手続の証拠開示についてです。再審請求については、そもそも証拠開示の規定が存在しませんので、現在も運用にばらつきがあります。仮に、証拠開示に関する規定が存在しないことが再審のオンライン証拠開示の議論の支障になるのであれば、前提として、再審の証拠開示制度についても当部会で議論をし、オンラインによる開示も想定した規定を置くことが検討されるべきです。再審証拠開示については、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」においても議論が予定されているということは承知しておりますが、協議会の後、更に法制審議会となりますと時間が掛かりますので、関連する当部会において議論することは有益であると考えます。同様に、確定記録や不起訴記録などの関連する手続における閲覧・謄写のオンライン化についても、検討が必要です。   7点目にセキュリティについてです。佐久間委員からも先ほど御指摘がありましたが、オンラインによる証拠開示において、セキュリティ確保が重要となることに異論はありません。ただ、その際、被告人や弁護人の防御権に不当な制約が加えられることには反対です。特に、利便性のためのものである以上、現在の制度よりも不便になったり、過度な制裁が課されるようになるということは、許容できません。先ほど実務的な協議が始まっているとの御指摘がありましたが、非公開の場での協議ですので、当部会において全体的な方向性について議論をし確認しておくということには、一定の意義があると考えます。   「(2)」について2点だけ指摘させていただきます。   1点目に本人の証拠確認方法、2点目に少年事件や医療観察についてです。   1点目に、被告人の閲覧・謄写方法については、裁判所に関する書類についても議論が必要だと考えます。特に、身体を拘束されている被告人は、留置施設内からどのような形で閲覧・謄写ができるようになるのかについての議論が必要です。   2点目に、少年事件や医療観察法の事件についてです。少年事件については、逆送となることも想定される以上、捜査段階では区別せずに証拠作りが行われると思います。電子的な開示を想定して捜査書類が作成される以上、少年事件においても、オンラインによる開示が適切だと考えます。また、少年事件固有の問題として、例えば、社会記録はどうするのかといった点について検討が必要です。この点は、医療観察法の事件についても同様です。 ○酒巻部会長 ほかに、「3 証拠開示等」について、御意見・御指摘がある方はいらっしゃいますか。よろしいですか。   それでは、次に、「4 公判廷における証拠調べ」に関する検討課題について、御意見のある方は御発言ください。 ○成瀬幹事 検討項目「第1」の「4」については、検討会においても議論が行われ、法制上の措置を採ることについて意見の一致が見られたことから、取りまとめ報告書においても考えられる方策が示されています。当部会においても、そうした議論を踏まえ、電子的方法により作成・管理される証拠書類等の取調べを公判廷においてするに当たっては、第1に、文字情報の言語的内容を証拠とするものであるときには、これを朗読しなければならないものとすること、第2に、文字ではない情報を証拠とするものであるときには、これを表示し、又は再生しなければならないものとすること、第3に、文字情報の言語的内容及び非言語的内容の両方を証拠とするものであるときには、その言語的内容については朗読しなければならず、非言語的内容については表示し、又は再生しなければならないものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   その検討に当たっては、まず、証拠書類等の取調べの方式として、刑事訴訟法第305条第1項が、「証拠書類」についてはこれをその請求者に「朗読」させ、同法第306条第1項が、「証拠物」についてはその取調べを請求した者をしてこれを「示させ」、同法第307条が、「証拠物中書面の意義が証拠となるもの」についてはこれを「朗読」させるとともに「示させ」ることとしている趣旨を明らかにする必要があります。その上で、これらの趣旨を踏まえ、電子的方法により作成・管理される証拠書類等であって公判廷における取調べの対象となるものとしてどのようなものがあり、その性質に応じた取調べの方式について、どのような規定を設けるべきかといった点について、具体的に検討していく必要があると思います。 ○久保委員 2点申し上げます。   1点目に証拠調べやその記録について、2点目に提出書類の印刷について申し上げます。   1点目に、証拠の取調べ方や、取調べ方を記録することについて、議論がなされるべきです。電子データには様々な情報が含まれておりますが、事実認定に用いられるべき情報が公判廷に適切に現れる方法による必要があります。また、公判廷においてどのような方法で取り調べられたのかが、公判調書などに適切に記録されることも必要だと考えます。   2点目に、証拠書類などが電子データで裁判所に提出された場合、その後、裁判所はそれを印刷できるのかどうかという点について疑問を持っています。例えば、電子書籍が相当程度普及しましたが、やはり紙で読む方が集中して読めるという研究結果なども聞いたことはあります。例えば、裁判員が証拠を紙で読みたいというときにはどうするのかについても、議論しておくと有益であると思います。 ○酒巻部会長 ほかに、この点について、御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、ここで10分ほど休憩を取りたいと思います。              (休     憩) ○酒巻部会長 会議を再開します。   次に、「第2 刑事手続において対面で行われる捜査・公判等の手続について、映像・音声の送受信により行うこと」の「1 弁解録取・勾留質問・取調べの手続」について、御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○池田委員 検討項目「第2」の「1」の「(1)」と「(2)」について、併せて意見を申し上げます。   まず、「(1)」については、検討会において、被疑者の身柄の引致が困難な場合などにおいて有用であることや、現行法は弁解録取や勾留質問の際に検察官・裁判官と被疑者が所在する場所や実施の方式について規定しておらず、これらの手続を映像・音声の送受信により行うことを一般的に禁止・制限するものではないことについて、認識が共有されました。これを受けて、取りまとめ報告書においても、考えられる方策として、弁解録取や勾留質問を、一定の要件の下で、検察官が検察庁、裁判所・裁判官が裁判所の庁舎に所在し、被疑者を警察署等に所在させ、ビデオリンク方式により行うことができるものとすることが示されています。   そこで、当部会においても、そうした検討会における議論の積み重ねを踏まえ、検察庁にいる検察官が、留置施設等にいる被疑者に対して、映像・音声の送受信により弁解録取の手続を行うことができるものとすることや、裁判所にいる裁判官が、留置施設等にいる被疑者・被告人に対して、映像・音声の送受信により勾留質問の手続をすることができるものとすることについて、具体的な検討を更に進めるべきであると考えます。   その検討に際しては、まず、裁判官の行う勾留質問の手続について、そもそも、刑事訴訟法第61条に規定する被疑者・被告人の陳述の聴取は裁判所の庁舎で行うことが求められているのかについて、手続の趣旨に立ち返った検討をする必要があります。また、裁判所の庁舎にいる裁判官が留置施設等にいる被疑者・被告人に対して映像・音声の送受信により行う勾留質問の手続と、裁判所の庁舎において裁判官が被疑者・被告人と対面して行う勾留質問の手続との間に、何らかの差異があるか、その差異が適正手続の見地から被疑者・被告人の法的な権利利益にいかなる影響を及ぼすものかについて、検討すべきであると考えます。   その上で、それらの検討を踏まえ、裁判所にいる裁判官が留置施設等にいる被疑者・被告人に対して映像・音声の送受信により勾留質問の手続を行うことができるものとするか、その上で、裁判所にいる裁判官が留置施設等にいる被疑者・被告人に対して映像・音声の送受信により勾留質問の手続を行うことで、仮に被疑者・被告人の法的な権利利益が損なわれると考えるとして、その実施について何らかの要件が必要となるかといった点について、検討する必要があると考えます。   その際には、検討会においても同様の指摘がありましたが、捜査機関とは独立した機関である裁判官が行う勾留質問の手続は、その外形上も、捜査機関の活動とは別個・独立のものであることが要請されるという指摘に鑑みますと、被疑者・被告人を留置施設等に所在させたまま行うときにも、被疑者・被告人を捜査機関からの影響から遮断することができるのかということについても、併せて検討する必要があるものと考えます。   他方で、検察官が行う弁解録取の手続については、取りまとめ報告書にも、「勾留質問との異同を踏まえつつ」との指摘があったように、捜査機関である検察官が、同じく捜査機関である司法警察員から被疑者の送致を受けて行う手続であり、外形的な別個・独立性の要請は、裁判官が行う勾留質問に与えられるべき位置付けとは差異があり得るということも踏まえた検討をする必要があるものと思います。   その上で、この点との関係でより具体的には、刑事訴訟法第203条第1項が「これを検察官に送致する手続をしなければならない」こととし、第205条第1項が「被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え」ることとしている趣旨に立ち返りつつ、検察庁にいる検察官が留置施設等にいる被疑者に対して映像・音声の送受信により行う弁解録取の手続と、検察庁において検察官が被疑者と対面して行う弁解録取の手続との間に、適正手続の保障との関係で差異があるというべきであるかについて検討し、また、その実施について何らかの要件が必要となるかを検討する必要があると考えます。   続きまして、「(2)」については、検討会においても議論が行われ、法制上の措置を採ることについて意見の一致が見られたことから、取りまとめ報告書においても考えられる方策が示されています。そのため、当部会においても、そうした議論を踏まえて、映像・音声の送受信又は対面により行われる取調べにおける供述を録取した調書を電子的方法により作成することができるものとし、その作成方法についての規律を設けることについて、具体的な議論を更に進めていくべきであると考えます。   また、この点に関しては、検討会において、刑事訴訟法第321条第1項第2号の「検察官の面前」に映像・音声の送受信による場合を含むことを明示する規律を設けることについても、議論が行われています。その中では、取調べが映像・音声の送受信により行われても、検察官による取調べであることには変わりがないので、これにより得られた供述を録取した書面も、同号により証拠能力を認める上で必要な基礎に欠けるところはないと考えられることから、この場合も、同号にいうところの「検察官の面前」で行われる場合に当然に含まれると理解されるものの、同項第1号が、「裁判官の面前」との文言に、証人尋問をビデオリンク方式により実施した場合を含むことを明記しているために、これとの対比を根拠とする解釈上の疑義が生じないようにする必要があるとして、確認の趣旨で、同項第2号の「面前」にも、映像・音声の送受信による場合も含む旨を明記することが考えられると指摘されていました。   もっとも、検討会では、そうした現行法の解釈に対して異論があり、取りまとめ報告書の考えられる方策には掲げられなかったという経緯があります。この問題については、当部会において、改めて理論的な観点からの議論をした上で、明確な結論を得ることが必要であると思います。   以上を踏まえて、この「(2)」の項目に関して検討すべき課題としては、まず、供述調書の電子的方法による作成に関して、現行の刑事訴訟法第198条第4項が「調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない」こととしていること、そして、同条第5項が「被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる」こととしている趣旨を明らかにし、これに照らして、電子的方法により供述調書を作成する場合に、どのような規律を設けるかといった点について、検討する必要があるものと思います。   その上で、先ほど申し上げた刑事訴訟法第321条第1項第2号の「検察官の面前」に映像・音声の送受信による場合を含むことを明示することに関しては、同号が「検察官の面前における供述を録取した書面」について同項第3号に規定する書面よりも緩やかな要件の下で証拠能力を認めている趣旨を踏まえて、取調べが対面で行われたのか、映像・音声の送受信によって行われたのかの違いに証拠能力の要件を左右するような要素が果たしてあるのか、あるというのであれば、それは何なのかということについて、更に詰めた議論をする必要があると考えております。 ○久保委員 「(1)」について、2点申し上げます。   1点目に実施場所について、2点目に録音録画について申し上げます。   1点目の実施場所については、先ほどの池田委員からの御指摘に重なりますが、弁解録取や勾留質問の実施場所についての議論が必要だと考えます。勾留質問については、捜査機関の支配から離れて行う意義が軽視されてはならないと考えます。捜査機関の影響を遮断するため、勾留質問時の被疑者・被告人の所在場所は裁判所又は拘置所に限定するべきだと考えます。弁解録取についても、司法警察員から送致を受けて面前で留置の必要性を判断することには意義がありますので、警察署に被疑者を置いたままで弁解録取し勾留請求することを一般化することは、適切ではないと考えます。要件を慎重に検討することが必要です。   2点目の録音録画について申し上げます。取調べをビデオリンク方式で行う場合、第三者の同席などの不当な影響を検証するために、録音録画を義務付けるべきです。映像・音声の送受信による方法とすれば、録音録画自体容易にできるはずだと考えます。更に申し上げると、刑事手続のIT化のために、様々な電子機器を導入し、予算を確保することが当然に予定されていると思われます。その中には、当然録音録画のための機器も含まれると考えます。これまで取調べの全面可視化については、データの保管や予算の問題が指摘されていたところだと承知しております。それ自体は、改正しない理由とはならないとは思いますが、データの保管については、証拠開示がオンライン化されれば、膨大なデータを保管することが予定されることになるはずです。「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」においても検討されるところだとは思われますが、全面的に取調べを録音録画し可視化することを積極的に検討し、そのデータ保存の在り方について議論をするという方法を考えるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは次に、「2 被疑者・被告人との接見交通」に関する事項について、御意見のある方は御発言ください。 ○佐久間委員 弁護人との接見に関し、検討すべき課題について申し上げます。   検討項目「第2」の「2」のうち、被疑者等と弁護人等との接見・書類の授受については、検討会においても、刑事弁護の立場の委員からその必要性が指摘されるとともに、映像・音声の送受信により行う接見やオンラインによる書類の授受を、刑事訴訟法第39条第1項に規定する権利性のあるものとして位置付けるべきものであるとの意見が示されましたが、これに対しては、権利として位置付けると、いつでもそのような接見・書類の授受をすることができることが保障されることとなりますが、その場合にも対面で行う場合と同様に被疑者等の逃亡や罪証隠滅、戒護に支障のある物の授受等が行われないことを確保する必要があり、そのために必要な技術・物的設備・体制を全国一律に確保することは容易ではなく、権利性のあるものとして位置付けたとしても、それが全国一律に実現しないという不均衡が生じかねないとの意見も示され、法制上の措置を採ることについて意見の一致が見られず、取りまとめ報告書には考えられる方策が示されませんでした。   また、検討会においては、被疑者等と弁護人等との接見を映像・音声の送受信により行うことや、書類の授受をオンラインで行うことそれ自体についても、接続先にいる者が本当に弁護人等であるか、その者の傍らに接見禁止等の決定の対象者がいないことが確保されているかなどの確認が困難となり、逃亡や罪証隠滅につながり得る行為の防止が困難となりかねないとか、紙自体の書類の授受と異なり、罪証隠滅等の防止のために刑事施設等の職員が行う点検の量が膨大なものとなったり、閲覧用の端末を収容中の者に貸与することで事故の危険が増大し、施設職員の負担が過大なものとなったりしかねないなどの懸念が示されました。   その上で、なりすましや弁護人等以外の第三者の同席等を防止しつつ、可能な範囲で映像・音声の送受信による外部交通を実現するための実務的な方策として、弁護人等が、被疑者等が収容されている刑事施設等と接続された特定の施設に赴き、当該施設の職員が身分確認等を行い、入室後に不正行為が疑われる状況があれば中止を促すなどするという、アクセスポイント方式の外部交通の運用が紹介され、設備等の整備状況に応じてこれを漸次的に拡大していくことが現実的に検討し得る選択肢であることについて、認識が共有されました。   以上のような検討会における議論の状況を踏まえれば、映像・音声の送受信による外部交通は、刑事訴訟法第39条第1項に規定する権利性のあるものとして位置付けるのではなく、アクセスポイント方式の外部交通の拡大によって対応するのが現実的ではないかと思われます。   そして、そのような現実的な対応を検討する場合においても、そもそも、映像・音声の送受信やオンラインにより行う場合に、対面や紙媒体の書類の授受の場合と異なるどのような弊害が想定されるのかを検討し、それを踏まえて、映像・音声の送受信やオンラインにより行う場合についての規律を設ける必要があるかについて、検討することとなると考えられます。   また、弁護人等以外の者との接見や書類の授受を映像・音声の送受信やオンラインにより行うことについては、検討会では、刑事弁護の立場の委員から言及がありましたが、掘り下げた議論は行われなかったものと理解しております。   検討課題は、弁護人等との接見や書類の授受の場合と基本的に同様であろうと思われますが、弁護人等以外の者は、弁護士ではなく、弁護士の職務として接見や書類の授受を行うものではないため、弁護人等が接見や書類の授受を行う場合と比較しても、映像・音声の送受信やオンラインにより行う場合において、被疑者等の逃亡や罪証隠滅、戒護に支障のある物の授受等が行われないようにするための措置を講じる必要性は、より大きいと考えられることに留意すべきであろうと考えております。 ○久保委員 まず、「2」の「(1)」について6点申し上げます。   1点目に議論の必要性について、2点目に権利性について、3点目にアクセスポイントについて、4点目に面会室での電子機器の利用について、5点目に接見時の通訳について、6点目に一般面会について申し上げます。   まず、1点目の議論の必要性につき、前提として、先ほど佐久間委員からも御指摘がありましたように、少なくともアクセスポイント方式による外部交通の拡大については、その必要性や現実的な実施可能性が認められることは、検討会でも共通の認識になっていたものと理解しています。既に、法務省や警察庁と日本弁護士連合会との間での実務的な協議も始まっていると認識しております。この部会では、ビデオリンク方式による外部交通を実現していくに際して法制度の改正が必要な点については議論をするべきだと考えます。その際、刑事訴訟法だけではなく、刑事収容施設法など関連する法律の改正に関わる問題も含まれ得ると考えますので、重要な点については、この部会で議論がなされるべきだと考えます。   2点目に、権利性についてです。まず、ビデオリンク方式による接見を権利として制度化するべきです。先日も、室蘭拘置支所が収容停止になるとの報道がありました。今後は、室蘭市から2時間掛かる札幌拘置支所が収容先になるとのことでした。これは弁護権を侵害するものであり、接見を映像・音声の送受信により行うことの重要性を示していると言えます。   様々な事情で、捜査を担当する警察と留置する施設が分かれ、留置場所が遠方となるということは、全ての都道府県で生じている弁護活動の支障だと思われます。先ほど佐久間委員からも御指摘があったように、検討会では、権利として位置付けると全国の刑事施設で設備や体制を確保しなければならないが、それは容易ではないなどの理由で、権利性を認めることには消極的な意見が出ておりました。しかし、そのような議論は本末転倒なことだと考えます。全国一律のスタートが難しいというのであれば、法改正の前からでも、実施できるところ、あるいは特に実施の必要性が高い地域から、順次ビデオリンク方式の接見を開始していけば良いと考えます。   既に、法務省や警察庁では電話連絡による外部交通が実施されており、一部の拘置所ではテレビ電話による外部交通も実施されています。実務の運用によって、ビデオリンク方式による外部交通を含めて実施される地域が拡大され、順次必要な設備や体制が整っていけば、近い将来、ビデオリンク方式の接見に権利性を認めても実務に大きな支障はないという状況になると考えます。もちろん、オンラインで接見をする場合にも、弁護人との接見は全て秘密接見であることが重要ですので、その点の確認も必要だと考えます。   3点目に、アクセスポイントについて申し上げます。アクセスポイントの設定については、弁護人からのアクセスがしやすい場所とされなければ、結局使われることはなく、無意味なものとなります。法律事務所からアクセスできるのが最善であるということは間違いありませんが、例えば、最寄りの警察署からあらゆる留置施設にアクセスできるとすれば、弁護活動の支障は大きく改善されると思われます。   4点目に、面会室での電子機器の利用について申し上げます。面会室での電子機器の使用の在り方についても、当部会で検討されるべきだと考えます。電子データの画像や動画・音声について差入れをすることができないとされると、接見室において画像や動画・音声を表示ないし再生することが不可能となりますが、これらは弁護活動に不可欠ですので、面会室での電源や通信回線の使用、パソコンなどの持込みを認める必要があります。また、現在は、接見室でオンラインに接続するということ自体が許容されておりません。誰かと通信をするということではなく、刑事手続全体をIT化していく以上、接見においても防御活動のために必要となるオンライン接続を想定していく必要があるように思われます。例えば、被疑者・被告人が話す場所を特定するために、グーグルマップを開いて地図を動かしながら場所を特定しようとすることは、現在は禁止されています。紙の地図を差し入れても、その地図に本人が話す、該当する場所が存在しなければ、改めてまた話を聞いて、また別の地図を差し入れるということしか今はできません。明らかに弁護活動に支障がありますし、本人の防御活動の上でも大きな支障となっています。   5点目に、接見時の通訳についてです。後に出てきます「4」の「(2)」とも関連するところですが、接見時の通訳についても、オンラインで行えるようにすることが必要です。遠隔地の通訳人に依頼し、映像・音声を送受信する方法により通訳してもらえるようにすることが重要です。通訳事件においては、通訳人と時間の調整を行うことも必要となりますので、必然的に接見の時間が遅くなり、弁護人の助言のタイミングも遅くなりがちです。少数言語であれば、そのような遠隔地からの通訳の必要性が特に高いと考えます。少数言語では、通訳人の選択肢が非常に少なくなり、例えば、弁護士会から紹介を受けられる通訳人の候補が1人しか存在しないという場合もあります。遠隔地の通訳人に依頼することができるようになれば、被疑者・被告人の言語の特徴に合った通訳人を選択することもできるようになり、より防御が実質化することにも資すると考えます。   6点目に、一般面会についてです。弁護人以外の者との面会についても、ビデオリンク方式により行うことができるものとするべきです。先ほど佐久間委員からは、検討会では深い議論が行われなかったとの御指摘がありましたので、是非当部会において、一般面会のビデオリンク方式の実施についても、深い議論ができればと考えます。   「(2)」について2点申し上げます。   1点目に権利性、2点目に弁護人の選任について申し上げます。   1点目は、先ほどと同様、オンラインによる書類の授受についても権利とされるべきです。想定される弊害への対処については、情報通信技術を活用し、必要最小限の規制になる工夫をするべきです。   2点目に、弁護人の選任について申し上げます。接見をする前提として、身体を拘束された被疑者・被告人が、直ちにオンラインで私選弁護人の紹介の申出や国選弁護人の選任の請求をし、かつ、弁護人又は弁護人となろうとする者と接見をすることができるようにするべきです。遠隔地にいる場合、最低限、遠隔地にいる本人からの弁護人選任届の取得がオンラインにより行われることが必要となります。また、在宅の被疑者・被告人の中には、既に刑事施設に収容中の受刑者が含まれますので、在宅の被疑者・被告人から書類を取得することについても、オンライン化の検討が必要だと考えます。 ○酒巻部会長 接見交通について、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、続きまして「3 裁判所の手続への出席・出頭」について、御意見を頂きたいと思います。 ○成瀬幹事 検討項目「第2」の「3」の「(1)」と「(2)」について意見を申し上げます。   「(1)」に関しては、検討会においても、柔軟な期日指定や迅速な公判準備といった観点からその必要性が指摘され、裁判所が検察官・弁護人を映像・音声の送受信により出頭させることができるものとすることについて必要な法制上の措置を採ることにつき、意見の一致が見られたことから、取りまとめ報告書において、その旨が考えられる方策として示されています。   また、検討会では、合議体の一部の裁判官が支部等で勤務する日に公判前整理手続期日等を開催し、受命裁判官によっては行うことができない手続を実施する必要がある場合等においては、当該裁判官が映像・音声の送受信により出席できるようにすることが考えられるという意見があり、取りまとめ報告書にもその旨が示されました。   さらに、検討会では、被告人が公判前整理手続期日等に出頭する場合又は被告人に同期日への出頭を求める場合についても、裁判所が、手続の進捗状況等に応じて、映像・音声の送受信により出頭させるかどうかを含め、適切な方式を選択し得るものとすることが考えられるなどの意見が示され、取りまとめ報告書においても、被告人を映像・音声の送受信により公判前整理手続期日等に出頭させる措置を採ることができるようにすることが、考えられる方策に示されています。   当部会では、そうした議論を踏まえ、裁判所が、公判前整理手続期日等に、検察官・弁護人・裁判長ではない裁判官を、映像・音声の送受信により出頭・出席させることができるものとすること、及び、裁判所は、被告人が公判前整理手続期日等に出頭する場合又は被告人に同期日への出頭を求める場合に、被告人を映像・音声の送受信により出頭させることができるものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   このうち、公判前整理手続期日等への検察官・弁護人・裁判長ではない裁判官の出頭・出席については、現行法において、公判前整理手続期日等に検察官又は弁護人が出頭しないときはそれらの期日の手続を行うことができないこととされている趣旨や、これらの期日が非公開で行われることとされている趣旨を明らかにした上で、これらの趣旨に照らして、検察官・弁護人・裁判長ではない裁判官のそれぞれについて、どのような要件を満たす場合に、どのような場所からであれば、映像・音声の送受信により出頭・出席させることができるものとするかという点について、検討する必要があると思います。   また、公判前整理手続期日等への被告人の出頭についても、現行法において、被告人が同期日等に出頭することができることとされ、また、裁判所が必要と認めるときは、被告人に対し、それらの期日に出頭することを求めることができることとされている趣旨を明らかにした上で、その趣旨に照らして、どのような要件を満たす場合に、どのような場所からであれば、被告人を映像・音声の送受信により出頭させることができるものとするかという点について、検討する必要があると思います。   続いて、検討項目「第2」の「3」の「(2)」について意見を申し上げます。   「(2)」に掲げられている者のうち、被告人や弁護人の公判手続への出頭に関しては、検討会においても、被告人が感染症に罹患している場合等を念頭に置いてその必要性を指摘する意見があり、一定の場合には、裁判所が被告人・弁護人を映像・音声の送受信により公判手続に出頭させることができるものとすることについて必要な法制上の措置を採ることにつき、意見の一致が見られました。   また、被害者参加人やその委託を受けた弁護士の公判手続への出席に関しては、検討会において、当部会にも関与しておられる𠮷澤委員から実務上のニーズに関する指摘がなされ、そうしたニーズを踏まえて、裁判所が被害者参加人やその委託を受けた弁護士を映像・音声の送受信により公判手続に出席させることができるものとすることについて必要な法制上の措置を採ることにつき、意見の一致が見られたところです。   取りまとめ報告書においては、そうした法制上の措置を採ることが考えられる方策として示されておりますので、当部会では、このような議論を踏まえ、第1に、裁判所が、映像・音声の送受信により被告人を公判手続に出頭させることができるものとし、この場合においては、弁護人についても、映像・音声の送受信により出頭させることができるものとすること、第2に、裁判所は、被害者参加人が刑事訴訟法第316条の34第1項の規定により公判期日に出席する場合について、被害者参加人を映像・音声の送受信により出席させることができるものとし、この場合においては、被害者参加人の委託を受けた弁護士についても、映像・音声の送受信により出席させることができるものとすることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   このうち、公判手続への被告人・弁護人の出頭については、まず、現行法において、軽微事件の場合を除き、被告人が公判期日に出頭しないときは開廷することができず、死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件については、弁護人の出頭・在廷も開廷の要件とされている趣旨を明らかにする必要があります。その上で、その趣旨に照らして、被告人・弁護人を映像・音声の送受信により公判手続に出頭させることが許容されるか、許容されるとすると、被告人・弁護人それぞれについて、どのような要件を満たす場合に、どのような場所からであれば、映像・音声の送受信により出頭させることができるものとするかといった点について、検討する必要があると思います。   また、公判手続への被害者参加人やその委託を受けた弁護士の出席についても、現行法において、被害者参加人やその委託を受けた弁護士が公判手続に出席する場合に、映像・音声の送受信により出席することが認められていない趣旨を明らかにした上で、その趣旨に照らして、被害者参加人やその委託を受けた弁護士のそれぞれについて、どのような要件を満たす場合に、どのような場所からであれば、映像・音声の送受信により出席させることができるものとするかという点について、検討する必要があると思います。 ○𠮷澤委員 私からも、今御指摘のありました「第2」の「3」の「(2)」の被害者参加人・その委託を受けた弁護士が、映像・音声の送受信により公判手続に出席することについて、述べさせていただきます。   もちろん、大原則は公判廷にリアルで出席することだと、私も承知しておりますが、検討会の取りまとめ報告書において、今、成瀬幹事からも御指摘があったように、一定の場合には被害者参加人・被害者参加弁護士がビデオリンク方式により出席することも認める、という形で取りまとめられていると思います。そして、その要件については、「被害者参加人から申出があり、かつ、訴訟運営上の支障の観点から相当と認めるときは、ビデオリンク方式によることができるものとすることが考えられる」とあり、この相当性の判断に当たっての考慮事情というものも列挙されています。今後は、この考慮事情というものについて、条文上例示するのかどうかも含め、検討する必要があると思います。   そうした考慮事情の一つとして、取りまとめ報告書には、「訴訟行為の有無・内容」が挙げられておりますが、例えば、当初は積極的な訴訟行為を予定していなくても、当日の被告人の供述内容などによっては、急遽発言の機会を求めることになるという可能性も十分にあります。そういった実務の実情に応じ、柔軟な対応を阻害することのないよう、慎重に検討する必要があると考えております。   また、被害者参加人や被害者参加弁護士の所在場所について、取りまとめ報告書においては、「公判廷が開かれる法廷と同一構内の別室や、他の裁判所構内等の場所とすることが考えられる」とされるにとどまっているのですが、この「裁判所構内等」という点について、更に議論すべきであると考えています。検討会においても述べてきたところですが、裁判所外であっても、裁判所書記官等に同席していただくといったことで、無断録音や無断録画も防止でき、訴訟指揮権の行使も十全のものとすることができると思われますので、是非オンラインによる証人尋問における証人の所在場所と同様に、被害者参加の場合においても、裁判所外の所在場所についても積極的に議論を進めていただければと思います。 ○久保委員 まず、「3」の「(1)」について申し上げます。   「(1)」については、そのような制度を設けること自体は利便性の点で意義があることではありますが、その際に検討しておくべき点について申し上げます。   議論するべき点については、先ほど成瀬幹事からも御指摘があったところですが、1点目として、被告人本人が出頭を希望した場合には、それが権利として守られる制度であるべきだと考えます。   2点目に、被告人自身が裁判の迅速性を優先する判断をし、オンラインで出頭する選択をした場合にも、所在場所は捜査機関の影響を受けない場所である必要があります。   「(2)」について4点申し上げます。   1点目に、被告人の意思に反してこれを強制することは相当ではないと考えます。   2点目に、被告人自身が迅速性を優先する判断をした場合においてビデオリンク方式で出頭する場合に、捜査機関の影響を受けない場所である必要があることについては、先ほどと同様です。   3点目に、法廷から誰もいなくなるというような制度設計は望ましくありませんので、やはり弁護人や検察官・裁判官は、公判期日には現実の出頭・出席をするべきだと考えます。その上で、被告人がビデオリンク方式により出頭する場合には、法廷と被告人の側の両方に弁護人が所在する必要があります。必然的に二人以上の弁護人が必要となりますし、そうでなければ、即座に被告人の意思確認ができる方策が担保されなければなりません。   「(3)」についても3点申し上げます。   1点目に、ビデオリンク方式とする場合にも、候補者となる裁判員を観察する機会が保障されることが必要です。   2点目に、この手続についても、やはり検察官も弁護人も現実の出頭をするべきだと考えます。   3点目に、被告人には質問請求権や不選任請求権などが保障されていますので、ビデオリンク方式による出頭の必要性があります。また、その方式で出頭する場合には、法廷と被告人の側の両方に弁護人が所在する必要があります。 ○小木曽委員 今、久保委員からも御指摘がありましたが、「(3)」について若干申し上げます。   裁判員等選任手続への出頭については、検討会でも、裁判所までの移動に長時間を要する裁判員候補者の負担を軽減することができるとか、感染症が拡大しているときに、感染の危険を防ぎつつ、手続を進行させることができるといったことなどが指摘されました。裁判員制度を安定的に維持するためには、裁判員となることの負担感や感染への危惧感を軽くする施策が求められます。そこで、裁判員等の選任手続を映像・音声の送受信によってすることができるものとすることについて必要な法制度上の措置を採ることについて、意見の一致が見られたとして、検討会の取りまとめ報告書には、考えられる方策が記載されているところであります。   当部会でも、これを踏まえますと、一定の場合に、裁判所が、裁判員等選任手続期日に裁判員候補者を呼び出す場合において、他の裁判所の構内その他の適当と認める場所に出頭させ、選任手続を映像・音声の送受信によりすることができるものとすることについて、具体的な検討を進めるべきであると考えます。   この検討に当たっては、裁判員法において、裁判員等選任手続は、期日を定めて候補者を呼び出さなければならないとされている趣旨や、これを公開しないこととされている趣旨に照らして、映像・音声の送受信による候補者の出頭を認めることができる場合の要件や出頭場所を検討する必要があると思います。   また、検討会では、裁判所が必要と認める場合の被告人の選任手続への出席を、映像・音声の送受信によってすることについても検討されました。当部会でもこの点を検討するのであれば、やはり裁判員等選任手続に被告人を出席させることができることとされている趣旨やそのニーズを踏まえて、検討する必要があると考えます。 ○酒巻部会長 「3 裁判所の手続への出席・出頭」について、ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは、次に、「4 証人・鑑定人の尋問及び通訳」について、御意見を頂きたいと思います。 ○成瀬幹事 「第2」の「4」の「(1)」と「(2)」の両方について、意見を申し上げます。   まず、「(1)」については、検討会では、刑事訴訟法第157条の6第1項及び第2項のいずれにも該当しないときでも、ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるようにする必要性がある者として、外国に所在する証人、多忙であるため公判廷への出頭の日程調整が困難な専門家証人、入院中の重症患者等裁判所への出頭が困難な証人、刑事施設等に収容中の証人という、4類型の証人が具体的に指摘され、ビデオリンク方式によることについて現行法と同様の必要性があるものについては、新たに同方式によることができる場合に加えることが考えられるのではないかといった意見が示されたほか、当事者に異議がなく、裁判所が相当と認める場合についても、ビデオリンク方式による証人尋問を実施できるものとしてはどうかという意見が示されたところです。   当部会では、そうした意見を踏まえ、証人尋問を映像・音声の送受信により実施することができる場合として、現行法と同様の映像・音声の送受信によることの必要性を示す要件を満たす場合、及び、当事者に異議がなく裁判所が相当と認める場合という、二つの場合を追加して規定することについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   このうち、現行法と同様の映像・音声の送受信によることの必要性を示す要件を満たす場合を追加して規定することについては、現行法が、ビデオリンク方式による証人尋問を実施できる場合を、刑事訴訟法第157条の6第1項・第2項の場合に限定している趣旨を明らかにした上で、その趣旨を踏まえて、先ほど申し上げた4類型の証人について、映像・音声の送受信により証人尋問を実施することができるものとするか、実施することができるものとする場合、その要件としてどのようなものを規定するかといった点について、具体的に検討する必要があると思います。   その検討を行うに当たっては、前提として、次の二つの観点を踏まえる必要があると思います。一つ目は、ビデオリンク方式が対面による場合と比較して証人の表情や挙動等の観察のしやすさの点で劣るとして、そのような事実上の差異が、証人尋問の方法にどのような制約をもたらすこととなるのかという観点です。二つ目は、現行法の必要性の要件がこのような事実上の差異ゆえに厳格に定められているとすると、そのような対面による場合との事実上の差異は、ビデオリンク方式が初めて刑事訴訟法に導入された平成12年改正当時や、その後に構外ビデオリンク方式が追加された平成28年改正当時と同程度に現在も存在し、また、今後も同程度に存在し続けることを想定するのか、言い換えれば、情報通信技術が著しく進歩し、映像・音声の送受信によるやり取りが当部会も含め日常的に至るところで行われるようになった現在でもなお、現行法と同程度に厳格な必要性の要件を設けることが求められ、今後も求められ続けるのかという観点です。   それから、当事者に異議がなく裁判所が相当と認める場合を追加して規定することについては、その場合における裁判所による相当性の判断は、どのような点を考慮して、どのようにして行われることとなるのかといった点について、検討する必要があると思います。   そして、これらの二つの場合を含め、証人尋問をビデオリンク方式により実施する際の証人の所在場所については、現行の刑事訴訟規則が、公判が行われる裁判所又は他の裁判所の構内に限定している趣旨を明らかにした上で、その趣旨に照らして、ビデオリンク方式により証人尋問を実施する場合における証人の所在場所を裁判所の構内に限定しないものとする場合において、どのような規律が必要となるかという点についても、検討すべきであると考えます。   続いて、検討項目「第2」の「4」の「(2)」についても、意見を申し上げます。   検討会においては、鑑定人尋問・通訳をビデオリンク方式により実施することができる場合として、証人尋問よりも広い要件で実施することができるものとする規定を設けることで意見の一致が見られたところであり、当部会においても、そうした議論を踏まえ、そのような仕組みを設けることについて、具体的な検討を更に進めていくべきであると考えます。   その検討に当たっては、鑑定人尋問と通訳のそれぞれについて、どのような要件を満たす場合に実施することができるものとするかという点や、鑑定人・通訳人の所在場所について、どのような規律が必要となるかといった点について、具体的に検討する必要があると思います。 ○𠮷澤委員 私も、「第2」の「4」の「(1)」について述べさせていただきます。   この点については、検討会の取りまとめ報告書において、考えられる方策の中に、今も成瀬幹事から御指摘がありました外国所在証人であったり、専門家証人、入院中の重症患者、刑事施設等に収容中の証人という四つの類型について、明文で新たにビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるようにすることが要請される場合があると例示されていると思います。それ以外の場面でも認めるべきかどうかという点については、取りまとめ報告書では、この四つの類型「など」という記載にとどまっており、まだ積み残しがあるという状態だと思います。   この点については前回も述べたところですが、罪種の特定という点では、現在のものでは足りず、ストーカー犯罪やDV事件、児童虐待などの事件についても追加すべきではないかと考えているところです。   この点、例えば、児童虐待については、アメリカでも合衆国法典第3509条で、性的虐待・搾取以外の身体的虐待を受けた被害児童についても、被告人のいる公開の法廷において証言することができないと認めた場合には、法廷以外の場所に証人が在廷し、テレビ会議システムで証人尋問を行うことができるという明示の規定があるところですし、ビデオリンク方式による証人尋問によることができる現在の罪種の定め方としては、現行法は非常に限定的であると考えています。   また、この点は、ビデオリンク方式による証人尋問を実施する要件をどのように定めるかということとも関連することだと思いますが、その要件についても、類型的要件を新たに追加する方法によるのか、相当性の要件の中で判断する方法によるのか、取りまとめ報告書においてⒶからⒹまでとして四つ例示的に挙げられている4類型を含め、拡大すべき事例を漏れなくカバーできるような要件の立て方について、より議論を深める必要があると考えています。   さらに、証人の所在場所についても、諸外国、例えばイギリスでは、刑事司法関係機関の建物や被害者・証人援助団体の建物、地方公共団体の建物なども認められているということですし、ドイツでも、裁判所外の建物における適切な設備が備わった部屋も念頭に置かれた規定になっているようです。ですので、日本においても、証人の所在場所について、裁判所外も念頭に置く方向で是非検討を進めていただきたいと考えています。 ○久保委員 まず、「(1)」について2点、1点目に強制をするべきではないということ、2点目に音声認識について申し上げます。   1点目ですが、当事者がビデオリンク方式によることに異議がある場合には、やはり対面の反対尋問権を奪うべきではないと考えます。これは、もちろん現在の制度についても共通する大前提として考えております。一方で、裁判所が相当と認める場合で当事者に異議がない場合に、ビデオリンク方式が行われることには異議はありませんが、先ほど成瀬幹事が御指摘されたように、対面で得られる情報とオンラインで得られる情報には事実上の差異があるということを前提に、これ以上、追加・拡大するべき理由が現時点においてあるのかについては、慎重な議論がなされるべきだと考えます。   2点目に音声認識についてです。通訳にも関連することですが、ビデオリンク方式で行う場合には、例えば、音声を即座に文字化して伝えられる方法も担保するようにするべきではないかと考えます。これは、被告人や弁護人・裁判官・被害者参加代理人など、関係者が聴覚障害者である場合には、音声ではなく文字情報こそ適切に情報を得られるという場合も想定されますので、いろいろな制度設計を想定して検討される必要があるのではないかと考えます。   「(2)」について2点申し上げます。1点目に検証について、2点目に鑑定人尋問について申し上げます。   前提として、オンライン検証は、現行法上もできることから今回の項目に入っていないという趣旨なのかについて確認しておきたいと考えております。検討会において、検証については、笹倉宏紀委員が、現行法上カバーされているという見方も可能であるという発言をされていたと承知しております。一方で、民事訴訟手続のIT化では、検証について明文の規定が置かれることが予定されていると承知しております。そのような経緯から、刑事手続において、検証がどのような位置付けとなるかについては、検討が必要であると考えます。   2点目に、鑑定人尋問についてです。鑑定人尋問のうち、鑑定の経過及び結果の報告については、やはり対面の反対尋問権を奪うことは認められないと考えます。この点、簡単に認められるような制度とされる場合の弊害について、しっかりと議論をした上で、慎重に制度の議論がなされるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、「5 公判審理の傍聴」に関する検討課題について御意見のある方はお願いします。 ○𠮷澤委員 この点について、検討会の取りまとめ報告書においては、検討の状況として記載されるにとどまっているのですが、被害者や御遺族が物理的に傍聴できないという、本当に現実に生じている、そういう事態を避けるために、一般的に広くオープンにするという形のオンライン傍聴とは別に、そういったケースを救済するようなオンラインによる傍聴ということも、何とか検討できるのではないかと考えておりますので、その点も議論をしたいと考えています。 ○久保委員 2点申し上げます。1点目に関係者の傍聴について、2点目に裁判の公開について申し上げます。   1点目の関係者の傍聴につき、今、𠮷澤委員からも御指摘がありましたように、被害者のオンライン傍聴については、裁判所の訴訟指揮権・法廷警察権が確保されるなど、一定の条件の下で認められるようになることには異論はありません。その上で、どのような条件が適切かについて、慎重に議論をするべきだと考えます。その上で、被害者のオンライン傍聴だけではなく、被告人の家族についても同様の制度が認められるべきだと考えますので、この点についても議論をしたいと考えます。   2点目の裁判の公開についてですが、国民の知る権利の観点から、公判審理の公開を検討するべきとの強い意見もあります。名誉やプライバシーなどの弊害がある場合も多くありますが、少なくともそのような弊害がないケースでは、今後積極的に検討されても良いように思います。例えば、最高裁判所での弁論は弊害も少なく、オンラインの方法による公開に適する部類ではないかと考えます。また、検討会でも指摘がありましたが、政治犯罪や出版に関する犯罪、憲法が保障する国民の権利が問題となっている刑事事件については、裁判の公開性を高め、国民の知る権利を実現するために、オンライン傍聴できるようにするべきだと考えます。 ○小木曽委員 今、お二方から御意見があったところですが、裁判の公開方法については現行法に具体的な定めはありませんので、運用に委ねれば良いとも思われるわけですが、その方法や対象を明確にするために法制上の措置を講じることも考えられるという意見が検討会でもあったところです。当部会でこの事項を検討する場合の選択肢としては、公判審理の傍聴を映像・音声の送受信により行うことができるものとするか、あるいは、そのような法制上の措置は講じないものとするかということになろうかと思いますが、この検討に当たっては、憲法第82条が裁判の公開を定める趣旨、それを実現する手段としての公開の在り方ないし傍聴方法の、言わば指導原理といいますか、原則は何であるかということ、それから、社会的に注目される事件の傍聴について抽選制度が採られていることと犯罪被害者の優先傍聴との関係、さらには、民事・行政分野の裁判等への影響なども併せて検討されるべきであろうと思います。 ○酒巻部会長 ほかに、傍聴に関して御意見はございますか。よろしいですか。   それでは、「第3 第1及び第2の実施を妨げる行為その他情報通信技術の進展等に伴って生じる事象に対処できるようにすること」のうちの「1 第1及び第2の実施を妨げる以下の行為等に対処できるようにすること」に関する検討課題について、御意見を承りたいと思います。 ○安田委員 私からは、検討項目「第3」の「1」全般について意見を述べさせていただきます。   まず、検討項目「第3」の「1」の「(1)」についてですが、ここに掲げられている「電子的に作成される文書の信頼を害する行為」は、諮問事項「一」の制度化に伴い処罰できるようにしておくことが求められるものであり、例えば、電子令状と同じ内容の表示がなされる虚偽の電磁的記録を無権限で作成し、自分のタブレット端末の映像面等に表示して、電子令状として人に示す行為などが考えられます。   そうした行為に対処できるようにすることについての検討に当たっては、まずは、このような行為を現行刑法によって処罰することができるか、具体的には、公文書偽造・同行使罪や公電磁的記録不正作出・同供用罪の成否について、それぞれの構成要件に即して検討する必要があるように思います。   続いて、検討項目「第3」の「1」の「(2)」について申し上げると、ここに掲げられている「電子的に作成された書類やオンラインを用いた手続の遂行を妨害する行為」も、諮問事項「一」や「二」の制度化に伴い処罰できるようにしておくことが求められるものであり、そうした行為としては、例えば、電子令状の執行の際に、タブレット端末の機能を妨害する装置を用いることにより電子令状を表示できなくするような行為ですとか、ビデオリンク方式による取調べの際に用いられる機器の機能を電磁的方法により妨害する行為ですとか、電子令状の執行の際に、これを表示するための機器として警察官が所持するタブレット端末を破壊する行為ですとか、あるいはオンラインにより送達される電子的に作成された文書の内容を第三者に知られないようにする措置を無効化する行為などが考えられます。   これらの行為に対処できるようにすることについての検討に当たっても、まずは、現行刑法によって処罰することができるかを検討する必要があり、一つ目に申し上げた、電子令状の執行に用いられる機器の表示機能を電磁的方法により妨害する行為と、二つ目に申し上げた、ビデオリンク方式による取調べに用いられる機器の機能を電磁的方法により妨害する行為については、公務執行妨害罪、偽計業務妨害・威力業務妨害・電子計算機損壊等業務妨害罪の成否について、三つ目に申し上げた、電子令状の執行の際に表示するためのタブレット端末を破壊する行為については、公用文書等毀棄罪の成否について、四つ目に申し上げた、オンラインにより送達される電子的文書の内容を第三者に知られないようにする措置を無効化する行為については、信書開封罪等の成否について、それぞれの構成要件に即して検討する必要があろうかと思います。   最後に、検討項目「第3」の「1」の「(3)」についてですが、ただいま申し上げた「(1)」及び「(2)」の行為について何らか対処をするとしますと、諮問事項「一」及び「二」に直接関係しない行為であっても、刑法の罰則の在り方として同様の対処をすべきものについては、そうすべきであるように考えられます。   例えば、先ほど例に挙げました電子令状を無権限で作成する行為と同様に、電子的方法により作成される文書の信頼を害する行為として、公務員に虚偽の申立てをして免状や旅券の電磁的記録部分に虚偽の記録をさせる行為ですとか、公務所に提出すべき診断書等を電子的に作成する際に虚偽の記録をする行為などが考えられ、「(1)」の行為に対処できるようにするのであれば、それと同様の対処をして、先ほど挙げたような行為も処罰できるようにしておくことが、刑法の罰則の在り方として整合的であると考えられます。   これらの行為についても、まずは現行刑法によって処罰することができるかについて検討する必要があり、具体的には、一つ目に申し上げた、公務員に虚偽の申立てをして免状等の電磁的記録部分に虚偽の記録をさせる行為については、免状等不実記載罪の成否について、二つ目に申し上げた、公務所に提出すべき診断書等を電子的に作成する際に虚偽の記録をする行為については、虚偽診断書等作成罪、電磁的記録不正作出・同供用罪の成否について、それぞれの構成要件に即して検討する必要があろうかと思います。   以上の行為について、現行刑法により処罰できるかを検討した結果、先ほど挙げた現行刑法の構成要件では対処できない、あるいは解釈上の疑義が残るということであれば、対応する罪の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかについて、それぞれ検討する必要が出てこようかと思います。また、これらの行為以外にも、同様に処罰するべきものがあるかについても、併せて検討していく必要があると思います。 ○酒巻部会長 「1」に関して、ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは、「2 新たな形態の財産の生成・取得・保管・移転により行われる犯罪事象に対処できるようにすること」について、御意見を承ります。 ○樋口幹事 私からは、「2」のうち「(1)」の新たな形態の財産に関する不正行為について、検討すべき課題を指摘したいと思います。   第1に、当部会の前回会議において、スマートフォン用のクレジットアプリのようなカードレス化という現象によって、支払用カードと同様の機能を持つ電磁的記録が現れていると指摘しました。刑法典第18章の2に定められている支払用カード電磁的記録に関する罪は、準備罪や所持罪も規定して支払システムへの信頼を保護していますが、その文言において「カード」という表現が使用されており、カードレス化という新たな現象に対応できるかが課題になるわけです。電磁的記録ではあるものの、カードが発行されないものについて、支払用カードと同様の保護を及ぼす必要があるのではないかといった検討が必要になるでしょう。   第2に、スマートフォンを利用する新たな現象への対応という関心を持ちますと、支払用カード電磁的記録に関する罪の隣の章である有価証券偽造の罪についても、同様の問題が生じていることに気が付きます。具体例としては、デジタルチケットを挙げることができますが、スマートフォンなどの簡単に携帯できる端末によって、電磁的記録の内容を表示することを通じて権利行使するという現象が生じています。有価証券偽造の罪は、偽造・変造・行使だけではなく、交付・輸入といった行為態様まで、重い法定刑で捕捉しているわけでして、有価証券と同様の機能を果たす電磁的記録について同様の保護を及ぼす必要があるのではないかが検討課題になります。   これらクレジットアプリによるカードレス化、デジタルチケットのようなペーパレス化という新たな現象について、現行法の解釈で対応できるかが問題になります。そして、解釈論による対応に疑義が残るのであれば、刑法典第18章の2が規定する構成要件を改める、あるいは新たな罪を設けるかの検討が必要になります。   このような課題以外にも、情報通信技術の発展による新たな財産は次々登場してきています。例えば、現時点で日本での発行が計画されているわけではありませんが、デジタル通貨というものの実験が開始されており、外国ではより具体的な検討が行われていると伺っています。情報通信技術の発展のスピードを考えますと、早めに刑法第16章が定める通貨偽造の罪について検討してみても良いかもしれません。   さらに、ここでの話とは少し離れてしまうかもしれませんが、インターネットバンキングなどが主流になる中、銀行預金の刑法上の取扱いも改めて検討対象になり得るように思います。例えば、横領罪では、客体を財物と規定しながら、事例によって預金の横領が認められているわけですが、預金の数字を移す窃盗は考えられていません。また、横領のように広く知られてはいないように思うのですが、身の代金目的拐取では、財物を交付させる目的と規定しながら、振込入金させた場合もこの要件の充足を認める裁判例もあります。それぞれの構成要件ごとに論点は異なるかもしれませんが、電子化された銀行預金、さらには暗号資産等の新たな形態の財産の取扱いについて検討するのも、有益ではないでしょうか。   情報通信技術の発展は、私には考えつきようもない新たな形態の財産に関する不正行為を生み出します。指摘させていただいた検討すべき課題以外にも、新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転する行為を適切に処罰できるようにすることによって対処すべき犯罪事象があるかについても、検討しておく必要があるように思います。 ○成瀬幹事 私は、検討項目「第3」の「2」の「(2)」について、意見を申し上げます。   「(2)」には二つのことが書かれていますが、まず、前半部分の新たな形態の財産として取得・保管・移転される犯罪収益の没収については、前回会議において佐久間委員から御発言がありましたように、近時、取得・移転の容易性や匿名性の高さといった特性から、犯罪収益が暗号資産等の新たな財産の形態で取得・保管・移転されることが増えており、そうした犯罪収益を組織的犯罪処罰法第13条による没収の対象とすることについては、「刑事法(犯罪収益等の没収関係)部会」で調査審議が行われ、先月9日に、同部会において、同条第1項各号に掲げる財産は、不動産若しくは動産又は金銭債権でないときも、これを没収することができるものとすることを内容とする要綱(骨子)が全会一致で可決されたものと承知しております。   その一方で、そうした犯罪収益を没収する裁判の執行を確保するためには、犯罪収益である財産を発見した段階で、早期に、当該財産の性質に応じて、その処分を防止するため適切な保全の措置をあらかじめ講じることができるようにすることが必要です。そうしたことを踏まえますと、当部会においては、犯罪収益等が新たな形態の財産である場合の没収を保全するための措置を講じることができるものとすることについて、検討する必要があると考えます。   その検討に当たっては、まず、現行法において、没収のための財産の保全としてどのような対処ができるかという点や、現行法では対処ができない財産としてどのようなものがあるかといった点について検討し、その上で、現行法では対処ができない財産がある場合には、そのような財産の没収を保全するため、どのような要件・手続で、どのような措置を講じることができるものとするかという点について、検討する必要があると思います。   ここからは事務当局へのお願いになりますが、そうした検討に際しては、諸外国において同様の財産の没収を保全するために、どのような要件・手続で、どのような措置を講じることができる制度が設けられているかが参考になると考えられますので、事務当局において、可能な範囲で調査をしていただき、その資料を当部会に提供していただければ幸いです。   続いて、検討項目「第3」の「2」の「(2)」のうち、後半部分の財産上不法な利益を得る犯罪を対象とした通信傍受について、意見を申し上げます。前回会議において、佐久間委員から、通信傍受法に基づく通信傍受の対象犯罪にいわゆる2項犯罪、すなわち、刑法第236条第2項、第246条第2項、第249条第2項の各罪を追加することについて検討すべきである旨の御意見が示されたところであり、当部会においては、そうした犯罪が組織的に行われる場合の犯罪捜査を適切に行うようにするという観点から、そのような措置を講じることについて、具体的に検討する必要があると考えます。   その検討をする際は、現行の通信傍受法において、通信傍受の対象犯罪が限定され、同法別表第1及び第2に掲げる罪が対象犯罪とされた趣旨を明らかにした上で、その趣旨に照らしつつ、その後の犯罪情勢等も踏まえながら、通信傍受の対象犯罪を追加する必要性・相当性はあるか、どのような罪を追加するのかといった点について、具体的に検討する必要があると思います。 ○久保委員 ただいま安田委員、樋口幹事、成瀬幹事から、それぞれ実体法・手続法について様々な御提案を頂きました。その中には、検討会では議論されてこなかった論点も多数含まれていると認識しております。もちろん、せっかくの部会ですから、幅広くいろいろな論点について議論することについて異論があるものではありません。そのような観点から、先ほど来、私の方でも再審の証拠開示や取調べの全面可視化など、幅広く議論するべきだという意見を申し上げた次第です。   その上で、新しい処罰類型を設ける場合には、思わぬ行為が処罰される可能性もありますので、そのような処罰類型を設けるのであれば、しっかりと時間を取って慎重に議論されるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 「第3」の「2」について、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、最後になりましたが、「第3」の「3 その他情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に対処できるようにすること」に関する検討課題について、御意見を承ります。 ○樋口幹事 検討項目「第3」の「3」のその他事項になりますが、前回会議において、賭博が行われるために設定される物理的な場所や空間がなく、情報通信技術を利用して行われる賭博について、刑法第186条第2項の「賭博場」の文言の立法論的検討の可能性を指摘させていただきました。この問題について、既に改正刑法草案第252条が「賭博を主催して」という文言に改めることを提案していました。その解説を読み上げさせていただきますと、「現行法の賭博場開張罪は、博徒を特定の場所に集合させて賭博を行わせるという伝統的な職業賭博を前提としているが、最近では、必ずしも賭博場に人を集めず、電話、郵便その他の方法で賭けさせる大がかりな賭博が行われるようになっている。そういう場合についても賭博場開張罪の成立を認める判例はあるが、本条では、これらの新しい形態による職業的な賭博の開催が犯罪となることを明らかにするため、「賭博を主催して」利益を図った者を広く処罰することとした」と説明されています。   このような過去の法制審議会の検討を踏まえつつ、現行刑法第186条第2項の「賭博場」という文言について立法論的な検討をする際には、まずは、情報通信技術を利用して行われる賭博について、現行法によって処罰できるかを検討する必要があります。その際には、前回会議でも指摘したところですが、下級審裁判例におきまして、賭博場開張図利罪を認めてよいかについて判断が分かれているという現状を踏まえることも必要です。そして、現行の刑法第186条第2項の解釈論による処罰に疑義が残るのであれば、その構成要件を改めるか、あるいは新たな罪を設けるかについて検討する必要があります。   情報通信技術の広がりが社会生活の多岐にわたることに鑑みますと、情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に対処できるようにすることという項目に関しては、オンライン賭博以外にもどのような事象があるかについて、検討しておく必要もあります。 ○久保委員 「3」に関わるというよりも、全体に横断する問題につき、2点申し上げます。1点目は関連する手続について、2点目は障害者の視点という点で申し上げます。   1点目の関連する手続についてですが、第1回の部会でも指摘させていただき、本日も若干言及させていただきましたが、医療観察法や少年法のように、通常の刑事手続と密接不可分な関係にある手続については、各種法律の改正の要否や解釈が検討されるべきだと考えます。同様に、再審請求や検察審査会への申立て、略式裁判あるいは確定記録などについても手続のつながりがあることから、どのような制度とされるべきか検討がなされるべきだと考えます。   例えば、略式命令が想定される軽微な事件において、検察庁ではオンラインの取調べができるとしても、略式命令の発令は裁判所に現実に出頭しなければならないということとされると、オンラインの意味が半減するように思われます。   2点目に、障害者の視点について申し上げます。全体を横断する問題として、制度設計に当たっては、障害者の方の視点を入れることも必要だと考えます。コロナ禍において、ウェブが積極的に活用されるようになった結果、その弊害も顕在化していると思われます。どのような制度設計とすれば、あらゆる人が排除されない刑事手続となるかを検討するため、広く意見を聴く機会なども設けられると良いように思います。 ○酒巻部会長 「第3」の「3」について、ほかに御意見はございますか。よろしいですか。   それでは、本日の審議はここまでにしたいと思います。   本日は、皆様から配布資料6に記載された各項目について様々な御意見を頂き、それぞれの項目について、制度設計の在り方についての検討の方向性やその際に検討すべき課題・論点が相当具体的に明らかになったと感じております。   次回以降の審議については、本日皆様に頂いた御意見を踏まえ、各項目ごとに、考えられる具体的な仕組みや、そういう仕組みを設ける上で検討すべき課題を整理した、議論のための資料を事務当局に準備していただき、その資料に沿って、各項目ごとにより具体的な審議を進めていくというのが良いのではないかと思います。   そして、本日委員・幹事の皆様から御指摘のあった検討課題だけでも相当な数に及びますので、次回第3回会議では、まずは、本日の検討項目の資料でいうところの「第1」について審議を行うこととし、その後、順次「第2」、「第3」と進めていきたいと思います。   この先の審議の進め方は、今申し上げたような形でよろしいですか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきますので、準備を進めていただきたいと思います。   それでは、次回の予定について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回第3回会議は、令和4年9月26日午前10時からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能です。詳細については、また別途御案内申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議の議事については、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。それから、本日の配布資料についても、公開するということにしたいと思います。そのような取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。   本日もどうもありがとうございました。今後もよろしくお願いいたします。 -了-