法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和4年9月26日(月)   自 午前9時59分                        至 午後0時31分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会第3回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日も、御多忙のところ、お集まりいただき、ありがとうございます。   本日、池田委員、大賀委員、安田委員、吉崎委員、くのぎ幹事、近藤幹事、親家幹事はオンライン形式により出席されています。   まず、事務当局から配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料7として、「考えられる仕組み・検討課題(諮問事項「一」関係)」をお配りしております。配布資料の内容については、後ほど御説明いたします。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   前回の会議において、配布資料6「検討項目」に基づいて、委員・幹事の皆様から、諮問事項の「一」から「三」までの各検討項目ごとに、制度の在り方についての検討の方向性やその際に検討すべき課題・論点について、様々な御意見を頂きました。本日からの会議では、それらを整理した結果を踏まえつつ、各項目ごとに、考えられる具体的な仕組みや、そうした仕組みを設ける上で検討しなければならない課題について、具体的な議論を行いたいと思います。   そのような議論に資するため、前回の会議で皆様に御了承いただいたとおり、事務当局に資料を作成してもらいましたので、事務当局から資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料7について御説明いたします。   前回の会議では、配布資料6「検討項目」に記載された各項目について検討課題を整理するための御議論を行っていただきましたが、配布資料7は、「考えられる仕組み」をひとまず前提として「検討課題」を整理するという形で作成したものであり、諮問事項「一 刑事手続において取り扱う書類について、電子的方法により作成・管理・利用するとともに、オンラインにより発受すること」に関して、「考えられる仕組み」を記載するとともに、「1 書類の作成・発受」、「2 令状の発付・執行の手続」、「3 証拠開示等」及び「4 公判廷における証拠調べ」の各項目ごとに「検討課題」を整理したものです。   この資料も、飽くまで検討課題を整理するためのものとして作成したものであり、「考えられる仕組み」に記載している内容は、それに限定したり、議論を方向付ける趣旨のものではありません。   また、「検討課題」についても、飽くまで現時点で考えられる主なものとして列記したものであり、ここに掲げられていない事項についての検討は行わないという趣旨のものではありませんので、「考えられる仕組み」の内容自体の要否や当否を含め、記載のない事項についても御議論いただければと思います。   配布資料7に記載されている「考えられる仕組み」と「検討課題」の詳しい内容については、「1」から「4」までの各項目について議論する際に、改めて御説明いたします。 ○酒巻部会長 ただいまの説明の内容に関して、現段階で御質問等はございますか。よろしいですか。   それでは、ただいま事務当局から説明があった配布資料7に沿って、順に議論を進めていきたいと思います。   進め方としては、この資料の「1 書類の作成・発受」から順に議論を行っていくことにしたいと思いますが、それでよろしいですか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのように進めていきます。   まず、「1 書類の作成・発受」について、議論を行います。   議論に先立ち、配布資料7の「1 書類の作成・発受」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から更に説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料7の1ページ・2ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」の「①」として、電子的方法により作成された書類に署名押印・記名押印等に代わる技術的措置が採られたときは、署名押印・記名押印等がなされた紙媒体の書類と同一の効力を有するものとすることを記載しています。   また、「②」として、事件の送致等、「ア」から「エ」までに掲げる手続における書類の発受をオンラインによりすることができるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「①」に関係する検討課題として、「電子的方法による書類の作成とその効力に関する規律」を記載しています。   この点については、現行の法律・規則において各種の書類への署名押印・記名押印等が求められている趣旨は何か、その趣旨に照らし、電子的方法により作成された書類が紙媒体の書類と同一の効力を有するものとするためにどのような措置が講じられることが必要となるのかなどの点が、検討課題となります。   また、「2」には、「考えられる仕組み」の「②」に関係する検討課題として、「事件の送致等の手続に伴う書類の発受をオンラインによりすることに関する規律」を記載しています。   この点については、現行法において紙媒体の書類の発受によってこれらの手続をすることとされている趣旨は何か、その趣旨に照らし、書類の発受をオンラインによりする場合にどのような措置が講じられることが必要となるかなどの点が、検討課題となります。   「3」には、「その他」として、紙媒体の書類を電子的記録に変換し、後者のみを管理する場合における当該紙媒体の書類の取扱い、及びオンラインによる書類の発受と紙媒体の書類の発受との関係を記載しています。   これらの点についても、書類を電子的方法により作成し、その発受をオンラインによりすることができるものとする場合に検討すべき課題であると考えられます。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。   項目ごとの議論の進め方としては、「考えられる仕組み」を念頭に置きつつ、「検討課題」について「1」から順に議論を行っていくこととします。その際、併せて「考えられる仕組み」についての御意見を述べていただいても結構です。   これ以降、「考えられる仕組み」と「検討課題」に関する議論については、今述べました進め方をしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのように進めさせていただきます。   まず、検討課題の「1 電子的方法による書類の作成とその効力に関する規律」について、御意見等のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 考えられる仕組みの「①」、それから検討課題の「1」について申し上げたいと思います。   検討課題の「1」の「ア」には、署名押印等の趣旨は何かとあります。「ア」に掲げられている書類のうち、「ⓐ」の公判調書等の裁判所が作成する書類、「ⓑ」の起訴状や申立書等の手続において提出される書類には、その作成者が署名押印又は記名押印をすることが刑事訴訟規則で定められております。その趣旨は、書類の成立と内容の真正を担保するためと解されますが、その手段として署名押印又は記名押印が選択されたのは、そうした方法が、日本においてその目的を達成する伝統的な方式であったことによるものと思われます。   また、「ⓒ」の供述調書、捜査報告書等の証拠書類のうち、供述録取書については、刑事訴訟法第321条第1項が、それを証拠とするための要件として、供述者の署名押印を求めております。これは、供述者の供述を録取した者がその内容を書面にして事実認定者等に伝えるという供述録取書の性質に鑑み、自身の供述が正確に聴取・録取されていることを供述者が署名押印によって確認することで、その内容の信用性を担保する趣旨ですが、ここでも、署名押印がその確認手段とされているのは、そうした方法が日本においてその目的を達成する伝統的な方式であったことによるものと思われます。なお、捜査報告書は供述書ですので、伝聞法則との関係では署名押印を必要としませんが、刑事訴訟規則第58条第1項にいう公務員が作成する書類として、署名押印が求められています。   そこで、さらに、書類に署名押印がされると、なぜ書類の成立と内容の真正が担保されるのかということを考えますと、一つには、書類上に作成者や供述者の氏名等が表示されることによって、作成者や供述者が誰であるかが明らかになる、二つには、その書類の作成や内容の真正を確認する必要が生じた際に、署名押印の筆跡・形状等によってそれらを確認することができるといったことが、その理由として考えられます。   そうしますと、検討課題の「イ」のそれらに代えた措置としては、今申し上げたような機能、すなわち、電子的書類それ自体に表示される文字等によってその作成者が明らかになり、かつ、作成や内容の真正を確認する必要が生じた際に、紙媒体に施される署名押印と同等にそれを確認することができるような技術的な措置を講じることになると思います。   具体的な方法は、様々考えられるわけですが、例えば、供述録取書であれば、供述を録取した文書データ上にタッチペンで供述者の署名を求めた上で、その全体を変更できないようにする措置とか、検討会でも紹介された電子署名技術を用いることが考えられると思います。電子署名は、視覚的に作成者を示すものではありませんが、書類の作成者と署名後の改ざんのないことを暗号技術によって検証することができるように設計されたものですから、署名押印と同等の機能を果たすと見ることができると思います。   具体的な方法については、今後の技術の発展により、更に効果的な措置が現われるということも考えられますので、法制上は、少なくとも署名押印と同等の機能を果たすことができる措置を講じることを求めるものとして、具体的な方法は下位規範に定めるというような工夫をすることも考えられると思います。 ○向井委員 ただいまの小木曽委員の署名の在り方についての御発言は、裁判所が作成する書類なども含めて、一律の趣旨のものとして捉えるもののようにも聞こえたのですが、署名押印が求められる書類として、捜査機関が作成する証拠書類と裁判所で作成する決定書・判決書とでは少し異なる部分があると考えております。   署名押印が求められる書類として、捜査機関が作成する証拠書類に関しては、捜査の過程で作成されて証拠として提出されることで事実認定の証拠資料となるところ、今、小木曽委員がおっしゃられたとおり、捜査の過程における手続の適正性を立証するということで、後日に成立の真正が問題となったり、内容面について問題になったりすることがあることを踏まえ、作成に当たってより厳重、厳格な方式である署名押印が要求されていると承知しております。   これに対して、現行の刑事訴訟規則で、裁判所で作成される書類については、裁判官その他の裁判所職員が作成する書類のうち判決書を除いて、署名押印に代えて記名押印することができるとされております。判決書については署名押印が必要とされておりますが、その趣旨としては、裁判官の自署を必要とするということが国民感情にも合致し、件数も記名押印が必要とされる決定書などに比べると少ないため、記名押印により作成の合理化を図る現実の必要性も高くないということから、署名押印という形が残っていると考えられます。現行の法律・規則で書類に署名押印が求められる趣旨は、文書の内容・性質によって違っているところがあります。その趣旨を踏まえて、必要とされる技術的措置の内容も検討する必要があるということを指摘させていただきたいと思います。 ○久保委員 私からは、主に供述調書の作成における技術的な措置と事後的な検証について申し上げたいと思います。   署名押印の趣旨は、先ほど小木曽委員が指摘されたところとも重なりますが、作成者本人がその意思に基づいてその文書を作成したということを担保する点にあります。そして、加除・訂正や差替えなどがないことにより完全性を確保できるという機能を有しています。電子データの場合には、紙媒体と比較して加除・訂正や差替えなどが容易であり、かつ、発覚しづらいということについては、検討会でも繰り返し確認されていたものですので、御異論はないものと承知しております。   供述調書については、現在、被疑者は紙を1枚ずつ見て、各ページごとに指印及び末尾に署名指印をした上で、取調官が各ページごとに契印をし、末尾に署名押印をしておりまして、それを被疑者の目の前ですることにより差替えや改ざんがないことが一定程度担保されております。そうすると、署名押印に代わる技術的措置は、紙媒体の署名押印と同様の機能を有するものでなければなりません。   電子データへの署名の方法についても、幾つか選択肢があって、それぞれに一長一短があり、方法によっては被疑者の署名押印と電子データの内容確定までにタイムラグが生じる可能性が高くなります。供述調書の場合、被疑者の署名押印と捜査官による電子データの内容の確定の間にタイムラグがあれば、加除・訂正や差替えなどが可能になります。被疑者等の被聴取者の署名押印によって、電子データが確定されるものでなければならないと考えます。   多くの警察官や検察官が改ざんのような行為はされないということはもちろん承知しておりますが、残念ながら、過去には警察官が自身の指印を押した供述調書を偽造した例もありますし、検察官が証拠を改ざんした例もありますので、やはりそのような余地を技術的に可能な限り排除できる仕組みにしておくことが必要だと考えます。その上で、加除・訂正や差替えの有無が事後的に検証できるものでなければならないと考えます。改ざんを隠す余地の乏しい手続とすることで、手続の公正性が向上することはもちろん、文書の作成の真正に関する紛争を未然に防止し、訴訟の効率性の向上にも資するものと考えます。例えば、電子文書である供述調書の作成の真正に関する争いが減少するものと想定されます。逆に申し上げますと、その点に疑義が生じる仕組みや技術的措置になっていれば、証拠開示が長引き、警察官や検察官の証人尋問も増加するということになりかねません。   事後的な検証という点で最も優れているのは、取調べや事情聴取を録音・録画することですが、当該文書を格納する文書管理システムに保存される文書のメタデータ、すなわち文書を登録した事実、日時やハッシュ値その他のデータ全般の開示に関する手続を整備するべきだと考えます。   真正性の確認手段として、文書管理システムにおけるメタデータは重要なものとなると思われます。文書そのものやメタデータが確かに保存されること、不当に変更又は廃棄されないことを担保する必要があります。その上でもなお、タブレット上などで自署をさせ、加筆して電子署名をするなどということは容易にできますので、そのような場合に、警察官や検察官にどのような罪が成立するのかということも、検討が必要になると思います。万が一何の処罰もないとすれば、それは心理的な抑止力も含めて存在しないことになりかねませんので、その点も検討が必要だと考えます。 ○酒巻部会長 ほかに、この検討課題の「1」について、御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「2 事件の送致等の手続に伴う書類の発受をオンラインによりすることに関する規律」についての議論に移ります。   「(1)」から「(4)」までのいずれの点についてでも結構ですので、御意見等のある方は、挙手などした上で、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 私は、検討課題の「(1)」の事件の送致について、意見を申し上げます。   刑事訴訟法第246条は、「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない」と規定しています。これは、旧刑事訴訟法の下では、司法警察官が検事の補佐機関であったところ、現行刑事訴訟法制定時に司法警察職員が独立の捜査機関とされたことに伴い、捜査中の事件の最終処分に関する判断を公訴官である検察官に行わせるため、第一次的な捜査機関である警察から検察官へ事件を引き継がせ、その権限行使に委ねることを法律上の義務として規定したものとされています。   そうであるとすれば、刑事訴訟法第246条により事件を送致するときに、書類及び証拠物を送致するというのは、検察官が事件の最終処分をするために、これらを検察官の管理下に移して利用できるようにすることを意味するにとどまるのであって、書類を有体物として物理的に検察官の下に移動させることまでを求める趣旨ではないと言えます。   今後、証拠書類が電子データとして作成・管理されることとなった場合には、それらを検察官の管理下に移すときに、これを印刷して紙媒体の書類にするのではなく、電子データのままオンラインで行うことができるようにすることが必要と考えられます。   そこで、事件の送致に伴う書類の発受をオンラインにより行う場合には、例えば、証拠書類である電子データを検察官に送信するなどすることにより、検察官の管理下に移して利用できるようにすることが考えられ、そのような措置を講じるのであれば、書類とともに事件を検察官に送致したものとして、先ほど申し上げた刑事訴訟法第246条の趣旨を満たすことになると思います。 ○池田委員 私は、この考えられる仕組みの「②」の「イ」と「ウ」、検討課題の「2」の「(2)」と「(3)」について意見を申し上げます。この「(3)」の見出しにあります「裁判所(官)」という言葉については、発言の中で「裁判所等」として言及させていただきます。   この点については、現行法の下では、公訴の提起や抗告などの裁判所等に対する各種申立ての際に、起訴状や抗告申立書などの提出が求められているため、恐らく実務上は、これらを電子データで作成した後に、裁判所等に提出するために改めて印刷をして紙媒体の書類にしているのだろうと思います。そうだとしますと、刑事手続において、電子データを紙媒体の書類に代わるものとするためには、これらの手続において、紙の書類を提出することに代えて、電子データを電子データのままオンラインで提出できるようにする必要があると思います。   そこで、この検討課題「2」の「(2)」や「(3)」にあるとおり、これらの手続において、書類の提出が求められている趣旨に遡って検討しますと、例えば、刑事訴訟法第256条第1項が、「公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない」としているのは、訴訟手続の明確化を図るとともに、防御すべき範囲を被告人に対して明らかにして、被告人の権利を保障するためであるとされています。また、裁判所等に対する各種申立てについては、例えば、同法第423条第1項が、「抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出さなければならない」こととしていますが、これについても、その趣旨は、手続の明確性を確保し、また内容の正確性を担保すること、言い換えれば、申立て等の趣旨が正確に伝達されるようにすることにあると考えられます。このように、口頭ではなく書面のやり取りを要求することには、口頭でのやり取りに伴う不明確性や不正確性を排除すること、つまり、手続の明確性や伝達の正確性を担保し得るということに、その趣旨があると考えられます。   そうであるとしますと、公訴の提起や裁判所等に対する申立てに伴う書類の発受をオンラインですることについても、手続を明確にして進められる、つまり、申立て等があった事実が明確になるとともに、その内容が正確に伝わる、具体的には、オンラインにより送付された電子的書類に記録されている内容から、公訴事実や求める裁判の内容など、これらの書類に記載されている事項が明らかとなるのであれば、先ほどの趣旨が満たされると言えるものと思います。   具体的な規定の在り方については、様々なものが考えられるところですが、例えば、さきの通常国会において成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律においては、裁判所等に対する申立てをオンラインによりすることができることとされており、具体的には、民事訴訟に関する手続における申立て等のうち、書面等をもってするものとされているものであって、裁判所に対してするものについては、最高裁判所規則で定めるところにより、電子情報処理組織を使用して当該書面等に記載すべき事項をファイルに記録する方法により行うことができる旨の規定が設けられております。公訴の提起や裁判所等に対する申立てに伴う書類の発受をオンラインによりすることができることとすることについて検討するに当たっては、こうした規定も参考としながら、具体的な規定の在り方を検討する必要があると考えられます。 ○成瀬幹事 検討課題の「(4)」の各種送達について、意見を申し上げます。   刑事訴訟法第54条は、書類の送達には一定の法的効果を伴うことが通常であることに鑑み、その手続を定めることとしつつ、民事訴訟法等にその手続等を定めた規定が設けられていることを踏まえ、裁判所の規則に特別の定めのある場合を除き、民事訴訟に関する法令の送達の規定を準用することとしています。これは、刑事手続固有の規律が必要とされるものについては刑事訴訟規則に規定を設けることとしつつ、そうでないものについては民事訴訟に関する法令の規定を準用することで足りると考えられたことによるものと思われます。そのような趣旨から、例えば、公示送達に関する規定は、被告人の権利保護のため、準用の対象から除外されています。   先ほど池田委員からも御指摘がありましたが、さきの通常国会において、民事訴訟法等の一部を改正する法律が成立しました。この改正法により、民事訴訟法に電子情報処理組織による送達の規定が新たに設けられることとなりましたが、刑事手続については、改正法の附則の規定により刑事訴訟法第54条が改正され、改正後の民事訴訟法の規定のうち、第1編第5章第4節第3款に設けられた電磁的記録の送達に関する規定などは、同条による準用の対象から除外することとされています。   もっとも、民事訴訟法の送達に関する規定のうち、公示送達に関するものは引き続き準用しないという立場を堅持しつつ、例えば、現在の刑事手続において、郵便による送達が可能なものについては、これに代えてオンラインによる送達を可能とすることも考えられるのではないでしょうか。   そこで、刑事手続の特質にも十分に留意しつつ、基本的には、民事訴訟法に新たに設けられた電子情報処理組織による送達の規定を刑事手続に準用する方向で検討することが適切であると考えます。 ○久保委員 私からは、「(3)」の裁判所・裁判官に対する各種申立てについて申し上げます。   オンライン提出に関する規律を考える上では、提出方法につき、今後の情報通信技術の発展による選択肢の増加をカバーし得るような規定とすることが適切だと考えます。書面の提出が求められている趣旨については、先ほど池田委員が指摘された公訴提起の書類提出の趣旨と同様で、申立行為を明確にするためだと考えられますので、オンライン提出に限らず、申立行為が明確になる方法であれば、選択肢とされるべきです。   例えば、既に存在する選択肢として、ファクシミリによる送付を現行法上も適法と解釈する余地があるものと承知しておりますが、改めてファクシミリなどの方法も選択肢とすることができる、そういうカバーし得るような規定とするべきだと考えます。   また、提出の主体としては、被疑者・被告人など、あるいは被処分者の権利も意識した規律が検討されるべきだと考えます。 ○向井委員 まず、裁判所・裁判官に対するファックスによる申立てに関して、現行法でもできるのではないかという趣旨の御指摘がありましたが、現行法では、各種申立書を含め、弁護人が作成する書類については、署名押印又は記名押印が必要であると、刑事訴訟規則第60条の2第2項・第60条に規定されており、申立ては確実性が強く要求される行為ですから、ファックスを利用した申立ては現状認められていないものと承知しております。   それから、送達についてですが、裁判所との間で頻繁に書類のやり取りを行う検察官・弁護人との間に関しては、可能な限りオンライン発受の方法により実施することが合理的であり、本人確認等の適切な措置が採られることを前提とすれば、送達についても同様に考えられると思っております。   また、刑事手続において、裁判所が最も頻繁に書類を送付する相手方として、身柄拘束中の被疑者・被告人がいます。これらの者に対する送達は、刑事施設の長に対してするとされているところ、現状では、裁判所から書類を封書に入れて郵送し、刑事施設において、その封書を開封して確認の上、本人に渡すといった運用が行われているところですが、刑事施設との間でオンライン発受を行うことが可能となれば、事務の合理化、時間の短縮化につながる可能性があるのではないかと考えております。   この場合、先ほども御紹介のありました改正民事訴訟法第109条の2の規定が新たに設けられましたが、この規定を刑事施設の長に対する送達に準用できるのか、あるいは別の規定が必要かという点については、民事訴訟法で採用されたシステム送達の仕組みを踏まえつつ、検察官や弁護人との間におけるオンライン発受に関する規定の在り方も加味して、検討する必要があると考えております。 ○久保委員 ファクシミリの点について言及いただきましたので、簡単に補足させていただきたいと思います。   私としても、現行法上、ファクシミリが必ず適法とされるということまで申し上げる趣旨ではないのですが、大コンメンタールの刑事訴訟法第9巻(第2版)に刑事訴訟法第431条の解説として、「ファクシミリによることができるかどうかは問題であり、ファクシミリによるときは刑訴規則60条、同60条の2に規定するところの「署名」「押印」がないことになるが、判例(最高裁決定昭和58年10月28日)が上告趣意書の提出について複写機を用いたコピーによる申立てを適法としていることとの均衡を考慮すれば、適法とする余地はあろう」などと解説されていることを御紹介させていただきます。 ○酒巻部会長 検討課題の「2」について、ほかに御意見がなければ先に進みたいと思いますが、よろしいでしょうか。   それでは、検討課題の「3 その他」について、「(1)」と「(2)」のいずれの点についてでも結構ですので、御意見があれば御発言をお願いします。 ○久保委員 「3」の「(1)」について申し上げます。   捜査機関の自由な裁量により廃棄ができるものとすることには、反対をいたします。   前提として、現行法制上、捜査機関の自由な裁量により捜査書類を廃棄することはできないものと理解しているということについては、前回も申し上げたとおりです。特に、捜査機関作成の文書については、公用文書になることから廃棄は許されておらず、公用文書毀棄罪が成立すると認識しております。   また、改ざんのような意図的な場合でなくとも、スキャナの精度によって判然とせず、原本を確認したいというケースなども今後考えられると思われます。手でスキャンする以上、どうしてもミスが起こることもあり得ますし、ページを飛ばしているのではないかと思われる場合に、原本がなくなっているということになりますと取り返しがつきません。少なくとも、データの完全性の立証責任は、証拠書類や供述書の提出者が負うことになると解されます。加除・訂正や差替えなどの疑いが生じた場合に、紙媒体の原本が保存されていなければ、その立証が困難になることも想定されます。   弁護人が原本を確認できるものとすることにより、作成の真正に関する争点がなくなり、訴訟が効率化するということも考えられます。もちろん、あらかじめ争点となることが予想される場合ですとか、再審となることが予想されるような場合には保管するなどという対応も考えられるのではないかと想定いたしますが、そのような場合にも、誰がどのような基準でそれを判断するのかという難しい問題があります。残念ながら、一審の弁護人が適切に争点化せずに控訴審で初めて争点化する、あるいは最高裁になってから初めて争点化するということは、しばしばあります。再審の有無についても、どのタイミングで判断できるのかという問題点もあります。   いずれにせよ、一度廃棄すれば事後的な回復が困難である以上、一定の指針は決めるべきだと思われます。廃棄の基準をきちんと定めた上で、原則的に原本を倉庫等で保管できる体制を考えるべきだと考えます。 ○保坂幹事 法律的な議論をする前提として御指摘の趣旨を確認したいのですが、今おっしゃった廃棄の問題に関して、現行法上の規律とは別に、新たに紙媒体の証拠をデータに変換した場合には、紙媒体の証拠は廃棄してよいという規定を設けるべきだという御趣旨なのか、それとも、仮にもしそうした規定を設けるのであれば、きちっとした要件を付けて設けなければならないという趣旨なのか、それはどちらですか。 ○久保委員 今後、どのような書類をどのようにデータ化していくかが現時点ではまだ定まっていないところもありますし、私としては、やはり必要な原本が残されるべきだと考えますので、自由な裁量で廃棄できるような形にはしていただきたくないということを現時点では申し上げたいという趣旨です。それを超えて、その規律の在り方がどうなるのかは、今後の仕組みについての議論の中で検討されるべきだと思いますので、現時点で、その点について明確に何か申し上げることは予定しておりません。 ○保坂幹事 重ねてですけれども、現行法上は、捜査機関の自由な裁量によって廃棄できるとはなっていないという御認識でいらっしゃるわけですね。   そうすると、今のままであればそれでよろしいということなのか、それとも、今と変わって廃棄してよいという規定を設けた上で、そこに厳格な要件を設定するべきという趣旨なのか、それはどちらですか。 ○久保委員 その点も、廃棄できるものとする対象をどうするのかということによって変わってくると思います。例えば、原則的にどのような証拠であったとしても、廃棄はできるが要件を厳しくするということになりますと、やはりそれは証拠の内容によっては、要件がいかなるものであったとしても廃棄していただきたくないと考える証拠もあるのではないかと想定されます。   いずれにせよ、抽象的な議論にはなりますので、証拠の内容次第によってはきちんと原本が保管されるべきですし、他方で、どう考えても不要と思われるような証拠について一定の要件の下で廃棄するということは想定されると思いますが、それについても、やはり証拠の性質などに応じてきちんと要件化されて検討されるべきだという趣旨になります。 ○小木曽委員 「3」の「(2)」について申し上げたいのですが、その前に、先ほどの検討課題の「1」について、私の発言の最後のところで、「法制上は、少なくとも署名押印と同等の」と申し上げてしまったのですが、向井委員から御指摘があったとおりであり、「少なくとも署名押印又は記名押印と同等の」と言わなければいけなかったところですので、訂正させていただきます。   「3」の「(2)」の紙媒体との関係ですが、考えられる仕組み「②」の「ウ」のように、裁判所等に対する申立書類の発受をオンライン化する場合に、前回久保委員からも御指摘があったように、オンライン化できない場合やオンラインにすることがかえって不便である場合には、紙媒体での提出もできる余地を残しておくかどうかという問題があると思います。   オンラインの原則化やその例外については、検討会でも議論があり、まず、事務の効率化をできる限り推進する観点からは、刑事手続に携わる者が職務の過程で作成する書類については、可能な限り、初めから電子データとして作成・管理し発受することが望ましいこと、少なくとも、裁判所と訴訟関係人や捜査機関との間、訴訟関係人相互や訴訟関係人と捜査機関との間における書類の発受は、オンライン化を原則とすることが目指すべき方向であるということについて、委員の間で認識が共有されていたと思います。   ただ、それとともに、オンラインによる書類の発受が困難である場合や、オンライン化のための事務負担がそれで得られる利益を上回ってしまうなどオンライン発受が相当でない場合があり得ることにも留意が必要であるということについても、認識が共有されておりました。   当部会においても、必要な例外は設けつつ、オンラインによる発受を原則とすることを目指すべきであるという認識が共有されることになれば、その旨の規定について、さらに具体的に検討することになるのだろうと思います。その際には、現在でも電子データで作成されている裁判所等に対する申立書といった手続書類と、電子データと紙媒体とが混在することが想定される証拠書類などとでは、異なった配慮が必要と思われますので、そうした書類の種別・性質を念頭に置きながら考えるべきだと思います。   なお、先ほどから民事訴訟法への言及がありますが、ここにおいても、民事訴訟に関する手続における申立て等のうち、書面等をもってするものとされているものであって、裁判所に対してするものについては、オンラインにより行うことができるものとし、訴訟委任による代理人や指定代理人は、オンラインにより申立て等をしなければならないものとしつつ、裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他責めに帰することができない事由によりオンラインによる申立て等を行うことができない場合には例外を認めるというのが、さきの通常国会で成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律による改正後の民事訴訟法に定められているということも、参考にして考えるべきであると考えます。 ○向井委員 オンラインによる書類の授受と紙媒体の書類の授受との関係に関してですが、前提として、紙媒体と電子データが混在していくということは、記録の管理等の観点から考えると合理的で適正な事務処理を阻害するおそれがあるので、可能な限り避けていくべきと考えております。捜査機関や弁護人においてパソコン等により作成した書類が提出されることが一般的な書類については、合理的な理由がないにもかかわらず紙媒体を提出することは相当でないと考えます。   その上で、デジタル化により迅速・適正な刑事手続を実現するという観点からは、書類については、オンライン発受によりすることにつき具体的な支障があるという例外的な場合を除き、オンライン発受によるのが原則であると考えられることから、それが明確となっている制度の在り方が望ましいのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 検討課題の「3」について、ほかに御意見はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、「1 書類の作成・発受」についての議論は、ひとまず終えることにしたいと思いますが、これに関して、検討課題として明記されていない点に関するものを含めて、ほかに御意見や御発言はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、ここで休憩をしたいと思います。再開は11時とします。              (休     憩) ○酒巻部会長 会議を再開します。   続きまして、「2 令状の発付・執行の手続」について、議論を行いたいと思います。   まず、配布資料7の「2 令状の発付・執行の手続」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料7の3ページから5ページまでを御覧ください。   「考えられる仕組み」の「①」として、電子的方法により作成した令状をオンラインにより発付することができるものとすることを、「②」として、令状の請求に係る書類や疎明資料を電子的方法により作成してオンラインにより発受することができるものとすることを、「③」として、「①」により発付された令状の呈示は、これを電子計算機の映像面に表示し、又は紙面に印刷したものを示すなどの方法によりすることができるものとすることを記載しています。   また、「④」として、裁判所が、電磁的記録を利用する権限を有する者に対し、必要な電磁的記録をオンラインにより提供させることができるものとすることを、「⑤」として、捜査機関が、裁判官の発する令状により、「④」記載の者に対し、同様のことをさせることができるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「①」に関係する検討課題として、「令状の電子的方法による作成・オンラインによる発付に関する規律」を記載しています。   そのうち、「(1)裁判官の「記名押印」」では、現行法において紙媒体の令状に裁判官の記名押印が求められている趣旨や、その趣旨に照らし、電子的方法により作成・発付される令状には、これに代えてどのような措置が必要となるかなどの点が、「(2)返還」では、現行法において令状に有効期間経過後の返還を記載することとされている趣旨や、その趣旨に照らし、電子的方法により作成・発付される令状には、どのような規律が必要となるかなどの点が、「(3)令状の複数発付」では、現行の規則において勾引状や逮捕状を数通発付できることとされている趣旨や、その趣旨に照らし、電子的方法により作成・発付される勾引状や逮捕状等に同様の規律を設ける必要があるかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   「2」には、「考えられる仕組み」の「②」に関係する検討課題として、「令状の請求に係る書類や疎明資料の電子的方法による作成・オンラインによる発受に関する規律」を記載しています。   そのうち、「(1)令状の請求」では、現行の規則において令状の請求は書面ですることとされている趣旨や、その趣旨に照らし、令状の請求をオンラインによりする場合にどのような措置が必要となるかなどの点が、「(2)疎明資料の提供」では、疎明資料の提供についてオンラインにより送信することも可能であることを明示する規定を設けるかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   「3」には、「考えられる仕組み」の「③」に関係する検討課題として、「電子的に発付された令状の呈示・執行に関する規律」を記載しています。   そのうち、「(1)令状の呈示」では、現行法において処分を受ける者に対して令状を示さなければならないこととされている趣旨や、その趣旨に照らし、電子的に発付された令状を示すに当たってはどのような方法によることが必要となるか、電子的に発付された令状の執行についても緊急執行の規律を設けるかなどの点が、「(2)処分を受けた者等に交付することとされている書類の交付方法」では、現行法において処分を受けた者等に交付することとされている証明書や目録をオンラインにより交付することができるものとするかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   「4」には、「考えられる仕組み」の「④」・「⑤」に関係する検討課題として、「電磁的記録のオンラインによる取得に関する規律」を記載しています。   そのうち、「(1)処分の性質・法的効果」では、この処分について、現行法の強制処分との対比においてどのような規律を設けるべきかという点や、この命令の法的効果などの点が、「(2)強制処分としての実効性をより一層担保するための方策」では、命じられた行為をすることをより強力に義務付けるための方策を講じるかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明の内容に関して、御質問等はありますか。よろしいですか。   それでは、議論に入ります。   検討課題の「1 令状の電子的方法による作成・オンラインによる発付に関する規律」については、「(1)」から「(3)」までをそれぞれ順に議論していくのが効率的だと思いますので、まず、「1」の「(1)裁判官の「記名押印」」について、御意見を伺いたいと思います。御意見のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 先ほどと同じですが、現行法が紙媒体の令状に裁判官の記名押印を求めている趣旨は、その作成と内容の真正を担保する点にあると思います。また、その手段として記名押印が選択されたのは、それがその作成や内容の真正を担保する手段として伝統的に採用されてきたことによるものと考えられます。   そうしますと、電子令状についても、記名押印と同等の機能を果たす技術的措置を採ることを求めることとして、例えば、電子令状にこれを発付した裁判官の氏名を表示して、そのデータ全体について、内容を変更できないようにする措置を採れば、記名押印と同等の機能が果たされることになると思われます。   この点について必要となる法制上の措置に関しても、先ほどと同様、技術の発展を視野に入れて、法制上は、少なくとも記名押印と同程度の機能を営む措置を採ることを求めるということにして、具体的な方策は下位規範に定めることが考えられると思います。 ○酒巻部会長 ほかに、「1」の「(1)」について御意見がなければ、次に、「1」の「(2)返還」について、御意見等のある方は、挙手などの上、御発言をお願いします。 ○池田委員 返還について意見を申し上げます。   現行法の下では、令状の有効期間経過後はこれを返還しなければならない旨や、有効期間内であっても、必要がなくなったときは、直ちにこれを返還しなければならない旨を令状に記載しなければならないこととされています。   これは、これらの場合に令状を裁判所・裁判官に返還させて、捜査機関や執行機関の手元に残さないことで、令状が濫用されることを防止しようとするものとされています。具体的には、令状の執行は原本をもって行うものとされていて、紙媒体の令状の原本は、どれだけ精巧に作成したとしても、押印の点を含めて原本と完全に同一のものを作成することは通常困難であることから、原本を捜査機関等の手元から裁判所・裁判官の元に戻させることで、強制処分が許されているかのような外観を呈するものが捜査機関等の手元に存在しないようにして、その外観を借りて行われる理由のない処分の実施や反復を防止しようとしたものと考えられます。   そこで、電子的方法により作成・発付される令状についても、紙媒体のものと同様に有効期間を設けるべきであると考えられます。ただ、電子データそれ自体は、全く同じものを複製することが技術的に容易なので、仮に、紙媒体と同様に、その有効期間を経過等した令状を裁判所・裁判官にオンラインで送り返すこととしたとしても、先ほど述べた趣旨、すなわち、強制処分が許されているかのような外観を呈するものが捜査機関等の手元に存在しないことを確保するという趣旨は全うできないと考えられます。   したがって、電子的方法により作成・発付される令状について、有効期間経過後や必要がなくなった場合に、令状を返還させる以外の方法で、強制処分が許されているかのような外観を有するものを捜査機関等が保有しておらず、そのことを裁判所・裁判官が確認するなどの仕組みを設けることを考えるべきであると思われます。   例えば、電子的方法により作成・発付された令状について、有効期間が経過し、又は権限行使の必要がなくなったときは、捜査機関等が、発付を受けた令状の電子データを消去し、また、呈示のため紙面に印刷したものがあればこれを廃棄しなければならないこととした上で、捜査機関等が、これらを消去・廃棄したことを裁判所・裁判官に所定の方法により知らせるということが考えられます。また、そうした取扱いを確実に担保するという観点からは、加えて、以上申し上げた旨を電子令状の必要的記載事項・記録事項とすることとすることも考えられるものと思います。 ○酒巻部会長 「1」の「(2)」について、ほかに何か御意見等はありますか。よろしいですか。   それでは、次の検討課題「1」の「(3)令状の複数発付」について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○池田委員 令状の複数発付に関しては、現行の刑事訴訟規則は、勾引状及び逮捕状について、数通を交付し又は発することができる旨を規定しております。これは、令状が紙媒体で発付され、その呈示は裁判官の記名押印がある原本をもって行うことを前提に、被疑者等が現在している蓋然性があると思料される関係箇所を一斉に探索して逮捕等を試みる場合などに、数通の令状を発付する実益があることから、裁判官が数通の勾引状・逮捕状を発付する権限を有することを明らかにしたものであるとされています。   そして、現行の数通発付、複数発付の規律は、紙媒体で作成された令状には、裁判官しかできない押印がなされ、それが成立の真正、すなわち、有効に執行し得る令状は、裁判官の押印のあるそれら以外には存在しないということを担保するため、これらを複数発付する場合には、裁判官が作成するものとしたものということができます。   これに対し、電子令状の場合、その作成の真正は、電子署名など、記名押印に代わる技術的措置により担保されることとなり、その措置の内容によっては、令状を発付した裁判官以外の者が複製したとしても、裁判官が作成した電子令状及びそれ以外の者が作成した複製のいずれについても、同様に真正性の担保が働くということも考えられます。また、紙媒体で作成された令状の記名押印が、呈示された者にとって、外観上、一応成立の真正を表示する機能を有すると考えるとしても、それが電子令状の電子的複製やこれを印刷した書面にも表示されるような仕組みとするのであれば、そうした複製や印刷物にも、それと同様の機能を持たせることは可能であると考えられます。   そうであるとすれば、そのような措置が講じられている場合には、裁判所・裁判官が令状の発付の際に捜査機関等に送付した電子令状と、その後において捜査機関等がこれらを複製したり印刷したりしたものとを区別する実益がなくなりますので、電子令状を呈示するに当たっては、紙の令状のように必ずしも原本の呈示を要求する必要はなく、裁判所・裁判官が作成して発付した電子令状と全く同一であることが担保されたデータやこれらを印刷したものが相手方に呈示されれば、執行の際に令状を相手方に呈示することとした法の趣旨を満たすこととなるものと考えられます。   そして、そのように考えますと、電子令状については、紙媒体の令状とは異なり、同じものが複数必要であるときにも裁判官が発付しなければならない旨の規律を設ける必要はなく、捜査機関等が令状執行の場面に応じて複数の電子計算機にダウンロードしておいたり、紙面に印刷したものを複数作成したりすることができるものとして良いと考えられます。 ○酒巻部会長 専ら議論の整理のためですが、気付いた点を申し上げます。令状には、今、池田委員から御発言があった身体拘束処分に関わる令状と、証拠物の収集保全を目的とした捜索差押え等を許可する令状とがあり、規律が違っている点もあれば、共通の点もあるので、その辺を意識しながら議論するのが良いのではないかなと思いました。   「1」の「(3)」について、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「2 令状の請求に係る書類や疎明資料の電子的方法による作成・オンラインによる発受に関する規律」について、御意見を伺いたいと思います。   この項目については、「(1)令状の請求」と「(2)疎明資料の提供」は相互に関連しますので、併せて御意見を伺うことといたします。いずれの点について御発言を頂いても結構ですので、御意見のある方は、御発言をお願いします。 ○佐久間委員 検討課題「2」の「(1)」と「(2)」について併せて発言させていただきます。   現行の規則において、令状の請求は、書面でこれをしなければならないこととされている趣旨は、令状の重要性に鑑み、請求手続の明確性を期することにあるとされており、その要点は、口頭による請求を認めず、請求者に請求の内容や理由を整理させ、これを文章で記載した書面を作成させ、提出させることにあると考えられます。   令状の請求をオンラインによりする場合においても、紙の請求書に記載することとされている事項、つまり法定の記載事項と同じ事項を記録した電子データを作成させ、これをオンラインにより裁判所、あるいは裁判官に送信等させることにより、裁判所がその内容を文章として読むことができるようにすれば、書面でする場合と同様に、請求内容の明確性が確保されることとなると考えられます。   次に、刑事訴訟規則に定められている令状請求の際の疎明資料の提供については、検討会でもその旨の指摘があったとおり、請求者が口頭で陳述することも含まれるとされています。また、「提供」という文言は、刑事訴訟法第281条の4第1項等に、「証拠に係る複製等」を「電気通信回線を通じて提供」という用例があるように、特に支障なく電磁的記録の送信を含むものとして用いられておりますので、この文言が解釈上の疑義を生むものでもないと思われます。   これらのことからしますと、電子的方法により作成された書類をオンラインにより送信する方法により疎明資料の提供をすることは、現行法の下においても許容され、必ずしも法令を改正するまでの必要はないものと考えられると思います。 ○久保委員 疎明資料の提供について申し上げたいと思います。   疎明資料の提出を、遠隔地から通常のインターネット回線を利用してオンライン上で提供できるものとした場合、やはりセキュリティの問題は生じるのではないかと思われます。捜査段階という起訴・不起訴も決まっていない段階の捜査資料が万が一にも漏えいすることは、法廷で提出される証拠の漏えい以上に重大なプライバシー侵害となりかねません。特に、令状の取得段階ということになりますと、被害申告をされた方が提出した証拠である可能性も高く、そのような証拠が万が一にも漏えいすることは許容できないものと思われます。   遠隔地からのオンライン提出を予定するのであれば、どのような規律が必要かということについては、検討が必要ではないかと思います。 ○酒巻部会長 ほかに、「(1)」と「(2)」に関して、御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「3 電子的に発付された令状の呈示・執行に関する規律」についての御意見を伺います。まずは、「3」の「(1)令状の呈示」について、御意見のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 「(1)」の令状の呈示について意見を申し上げます。   現行法において、処分を受ける者に対して令状を示さなければならないこととされている趣旨は、手続の公正を担保する観点から、処分を受ける者に対して、令状に係る裁判の内容を知る機会を与え、これに対する不服申立ての機会を与えることにあります。この趣旨に照らせば、電子的に発付された令状を執行する場合においても、処分を受ける者が電子令状に記録された裁判の内容を知ることができるようにすれば足りると考えられますが、電子令状は電磁的記録であって、それ自体は人には認識できないものですので、単にこれを示さなければならないと規定しただけでは、記録された裁判の内容を目で見て読んで知ることができる方法により表示され、示されることになるのか、疑義が残り得るところです。   そこで、電子令状については、令状に記録された裁判の内容を、処分を受ける者に認識可能な形で表示すること、例えば、タブレット等の電子計算機の映像面に表示し、又は、これを紙面に印刷したものを示すなどの方法によりすることができるものとすることを明らかにする規定を設けることが考えられます。   また、刑事手続において記名押印を要するとされる文書の中でも、令状は、これを人、つまり被処分者に見せることによって手続の公正を担保しようとするものであるという特殊性があることに鑑みますと、少なくとも、その外観から、それが裁判官により発付された真正なものらしいことを一応確認できるようにすることが望ましいとも思われます。   紙の令状の場合には、紙面上の裁判官の記名押印がその役割を果たしているとすると、電子令状の場合にも、作成の真正それ自体は記名押印に代わる技術的措置により客観的に担保した上で、これに加えて、処分を受ける者が、電子令状の外観からそれが真正なものらしいことを一応確認できる表示上の措置を講じることも考えられます。そのような表示上の措置としては、様々なものが考えられますが、例えば、電子令状においても、裁判官の記名と裁判官の印影らしき赤い印が表示されるようにすれば、紙の令状と同程度には真正らしさを一応確認できることになるでしょう。   以上が、検討課題「(1)」の「ア」と「イ」に関する意見ですが、続けて「ウ」の緊急執行についても意見を申し上げます。   電子令状について、タブレット等の映像面に表示するなどして示すことができるものとしたとしても、例えば、対象者を発見した警察官等が電子令状を表示し得るタブレット等を所持していない、あるいは、所持していたとしても通信環境が悪い、などの理由で電子令状を表示できないという場合は容易に想定されます。   そもそも、現行法が勾引状・勾留状・逮捕状・鑑定留置状について、一定の要件の下で緊急執行を認めているのは、たまたま令状を所持しないときに対象者を発見した場合に身体拘束ができないとすると捜査の合目的性を著しく害することから、既に司法審査を経て令状が発付されていることを踏まえ、口頭で理由及び令状が発付されている旨を告げて執行することを許したものとされています。   そうだとすれば、さきに申し上げたとおり、電子令状の場合でも、令状が発付されていながら、これを表示する手段を持ち合わせていないことのみを理由に令状を執行できないという場面は十分に想定されますので、電子令状の執行についても、紙媒体の令状が発付されている場合と同様に、緊急執行に関する規律を設けるべきであると考えます。 ○久保委員 今の成瀬幹事の御指摘と重なるところもありますが、電子令状に裁判官の記名押印がないということになりますと、これが真正な令状であるかどうかの判断が困難になると思われます。   今回の検討は、遠隔地からも令状を取得できるようにすることが一次的な目的であり、呈示自体をタブレットで行えるようにするかどうかは二次的な問題だと思われますが、仮にタブレットで呈示をするという方法を可能とするのであれば、どのように令状の真正を判断するのかについての規律が必要だと思われますし、偽の令状、その中には、先ほど御指摘があったような期限切れの令状なども想定されますが、そのような令状を呈示することが容易となりますので、そのような行為があった場合に、どのような罪が成立するのかを検討すること、それから、そのような行為がなされていないかどうかを事後的に検証できる仕組みとすることが必要だと考えます。 ○佐久間委員 ただいまも久保委員から御指摘がありましたが、前回の会議において、久保委員から、電子令状を画面に表示するだけでは裁判官の電子署名があることを確認できないのではないかという疑念があるため、例えば、真正性の確認のため、写しを交付することを義務付けることや、電子令状を写真撮影することの可否が問題になるとの御意見がありました。   久保委員の御指摘は、令状の呈示を受ける者は、その外観により真正性を確認できることが保障されるべきとのお考えに基づくものと思われ、そのような利益が法律上保障されているかどうかはひとまずおくとして、先ほど成瀬幹事から御発言があったように、電子令状を呈示する際に、それが真正なものらしいことを一応確認できる表示上の措置が講じられるのであれば、それにより、呈示を受ける者は、紙媒体の令状が呈示された場合と同じ程度には、真正らしさを一応確認することができることとなります。   検討会でも指摘されたとおり、現行の刑事訴訟法上、被処分者に令状の写しを交付しなければならないものとはされておらず、そのことが、被処分者の権利利益の保護に欠けるものであるとか、事後的な不服申立ての要否等の判断に支障を来しかねないものであるとは考えられていません。   その上で、電子令状に先ほど述べたような措置が講じられ、紙媒体の令状と電子令状とがいずれも真正らしさを一応確認できる外観を同様に備えるとしますと、電子令状に異なるルールが必要となる理由はないように思われます。そもそも被処分者にとって、写しが交付されたり写真撮影したとしても、紙媒体の令状か電子令状かを問わず、呈示された令状が真正なものか否かの判断には何も役立たないと思います。そうであるとすれば、電子令状の執行の際に、その写しの交付を義務付ける必要はないと考えられます。 ○酒巻部会長 ほかに、令状の呈示に関わる事柄、あるいは緊急執行について、御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「3」の「(2)処分を受けた者等に交付することとされている書類の交付方法」について、御意見のある方は、挙手などをした上で、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 「(2)」について意見を申し上げます。   刑事訴訟法第119条は、捜索をした場合において証拠物等がないときは、捜索を受けた者の請求により、その旨の証明書を交付しなければならない旨を規定しています。その趣旨は、一たび捜索を受ければ、たとえ証拠物等がなかったとしても、犯罪に関与したのではないかとの疑念を抱かれるおそれがあり、また、証拠物等がなかった場合にそのことが明らかにされなければ、捜索が終了したのか否かが捜索を受けた者に分からず不安定な状態に置かれることから、証拠物等が発見されなかったこと及び捜索が終了したことを明確に告知し、併せて、さきに申し上げたような疑念の解消を図ることにあるとされています。捜索に関してこのような要請が生じることは、電子令状による場合であっても何ら変わるところはありません。   また、刑事訴訟法第120条が、押収をした場合には、その目録を作り、所有者等に交付しなければならないとしている趣旨は、いかなる押収機関が、どの事件について、何人の所有又は管理する物を押収したかを明らかにし、被押収者の財産権の不当な侵害の防止を図るところにあるとされているところ、押収をした場合にそのような要請が生じることは、電子令状による場合であっても何ら変わるところはありません。   そして、紙媒体の令状による場合でも電子令状による場合でも、その執行後に交付することとされている証明書や目録については、紙媒体で作成・交付されなければ、先ほど申し上げた趣旨を果たし得ないものとは考えられず、これらの書面に記載すべき事項を記録した電子データが作成され、これを交付された者がいつでもその内容を電子計算機の映像面に表示して読むことができるようになるのであれば、刑事訴訟法第119条や第120条の趣旨を満たすことができると考えられます。   その上で、これらの規定で用いられている「交付」という文言は、例えば、刑事訴訟法第281条の4において、証拠に係る複製等の「交付」と、電気通信回線を通じての「提供」とが区別されて用いられているように、有体物を対象とする用語であると考えられますので、証明書や目録の電磁的記録を相手方に提供することによっても同法第119条や第120条の義務を果たしたことになる旨の規定を設けることが考えられると思います。 ○酒巻部会長 「3」の「(2)」について、ほかに御意見等はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「4 電磁的記録のオンラインによる取得に関する規律」について、御意見を伺いたいと思います。これは、現在は存在しない新たな強制処分類型を作るという話になりますので、まず、「(1)処分の性質・法的効果」について、御意見等のある方は、挙手などの上、御発言ください。 ○小木曽委員 「(1)」の「ア」に関して、処分の性質について申し上げたいと思います。   電磁的記録をオンラインで提供させる強制処分、「検討課題」には「電磁的記録提供命令」と書いてありますが、これを新設する場合にどのように規律するかについては、「検討課題」にありますとおり、現行法にある強制処分の性質・内容と対比しながら検討することが有益であろうと思われます。   検討会では、この処分は、現行法に定めのある記録命令付差押えを基礎として、電子データの取得方法を記録媒体の差押えからオンラインでの送信に変更した処分類型であって、言わば物の差押えの部分を除いて、記録命令の部分に限った処分というようなイメージであるという説明がありました。   この処分の性質・内容について改めて考えてみますと、現行法上の幾つかの処分の性質と共通する側面があるものの、しかし、それらと完全に一致するわけではないという面もあるように思われます。つまり、必要な電磁的記録を、保管する者に命じて提供させるという面に注目しますと、刑事訴訟法第99条第3項の裁判所による提出命令と共通する点があるように思われるのですが、提出命令は、差押えと同様に有体物の押収の一態様であるのに対して、電磁的記録提供命令は、記録媒体ではなく電磁的記録そのものの提供を命じるものですので、被処分者が、対象となる電磁的記録を捜査機関に送信することによりこれを提供するとしますと、その電磁的記録は被処分者の手元に残ることになりますので、その点で、対象物の占有の移転を前提とした従来の押収とは異なるということになるものと思います。   占有を移転させずに、対象となる電磁的記録の内容を裁判所や捜査機関が認識し得るようにすることが処分の中核であると見ますと、対象物の性質・形状を五官の作用で感知・記録する検証に類似するという理解もあるかもしれません。   処分の性質は、執行手続や不服申立てをどのように規律するかという点にも関わっており、この処分については、そうした様々な側面を分析して、それに応じて適切な規律方法を考えていかなければならないだろうと思います。 ○久保委員 今回の電磁的記録提供命令がどのような対象者を想定しているのかということも関係しますが、仮に協力的な通信事業者などが想定されているとしても、通信事業者以外の被疑者・被告人や共犯者等の参考人、あるいはそれらの家族等が被処分者となることもあり得ます。この次の検討事項にも関わるところですが、その場合に、間接強制によってそれらの者が保管する電子データの提供を強制されるようなこととなれば、プライバシーを侵害するということは明らかです。正しく憲法第35条の趣旨に照らして、「何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を侵害する性質を有する強制処分であると言えるように思われます。   そうだとすれば、その権利保護に係る規定が適用されるべきだと考えます。例えば、刑事訴訟法第103条ないし第105条、第110条、第111条の2、第119条、第120条等は、有体物であるか否かにかかわらず適用されるべき規定であるように思われます。   また、記録命令付差押えと電磁的記録提供命令は、本来、被処分者が当該電子データをオンラインで提供し得ることとすれば必要な電子データの収集という目的を達することができるとともに、捜査機関にとっても移動の負担がなくなるだけではなく、処分を受ける事業者等にとっても記録媒体を捜査機関等に手渡すための対応や記録媒体の準備等の負担を省くことができることとなるという、専ら捜査機関及び被処分者の負担軽減のために設けられる規定であったにもかかわらず、押収に関する規定が適用されないということになれば、実質的には押収に関する規定の潜脱になりかねません。   この規定を仮に設ける場合には、押収に準ずる形として規律が検討されるべきだと考えます。 ○池田委員 「4」の「(1)」の「イ」の、法的効果に関して意見を申し上げたいと思います。   先ほど、小木曽委員からも御指摘があったとおり、現行刑事訴訟法第99条第3項の提出命令とこの電磁的記録提供命令とは共通する部分があると思いますので、提出命令の法的効果がどのようなものと解されているかが、参考になるものと思います。   提出命令は、対象物の所有者等にこれを提出する義務を生じさせる裁判であり、その効力は、告知によって生じるものとされ、告知を受けた者は、提出を命じられた物件を裁判所に提出する義務を負い、提出命令に応じて当該物件が提出されたときは直ちに押収の効力を生ずると解されております。   電磁的記録提供命令も、対象となる電磁的記録を保管する者等にその提供を命じるものですので、提出命令と同様に考えるとすれば、考えられる仕組みの「④」の裁判所の命令についても、その告知を受けた者は、提出を命じられた電磁的記録を裁判所に提供する法的義務を負い、その義務の履行として当該電磁的記録の提供がなされたときにその処分が完了すると考えることになると思われます。   また、考えられる仕組みの「⑤」については、そのような命令を捜査機関がすることを許可する令状に基づき、捜査機関が被処分者に対し、電磁的記録の提供を命じた時点で、被処分者はこれに応じる法的義務を負い、その義務の履行として当該電磁的記録の提供がなされたときにその処分が完了すると考えることになるものと思われます。   もっとも、このような考え方は、電磁的記録提供命令の内容を、記録命令付差押えと同様に、被処分者が対象となる電磁的記録を捜査機関等に送信等をして記録することにより提供するものとする場合について成り立つと言えます。他方で、仮に、例えば命令の内容として電磁的記録を移転すること、すなわち、当該電磁的記録を捜査機関等の下の記録媒体に複写するとともに被処分者の下の記録媒体から消去するものとする場合には、その法的効果はおのずから先ほど述べたものとは異なるものとなると考えられます。さらに、それに伴って、処分に不適法な点があった場合に被処分者がどのような内容の是正措置を裁判所に求めることができるものとするかといった不服申立てに関する規律の在り方も、異なるものとなることが考えられます。   先ほど小木曽委員からも御指摘があったとおり、電磁的記録提供命令の法的効果や不服申立ての規律を検討するに当たっても、この処分が有する様々な側面を分析し、それに応じて適切なものを考えていく必要があると思われます。 ○酒巻部会長 池田委員に質問ですが、既に記録命令付差押えという制度があり、これは刑事訴訟法第99条第3項の裁判所による提出命令のように、対象者に一定の行動を義務付けるものですが、その一方で、提出命令は、私の理解では、現在は刑事訴訟法第222条において捜査機関の活動には準用されていないので、現行法では物の提出命令は捜査では使えないということになっていますね。 ○池田委員 はい、そのとおりです。 ○酒巻部会長 今考えている新しい強制処分は、先ほど小木曽委員が指摘されたように、ある面では情報の提出命令の性質を持っていると考えられますが、物の提出命令は捜査には使えないにもかかわらず、電磁的記録を対象とする新しい処分、すなわち情報の提出命令は捜査にも使えるということになる。確かに記録命令付差押えは提出命令の性質を持っているのですが、これらの処分の相互関係ないし整合性はどういう理解になるのかという質問です。 ○池田委員 私の理解を申し上げますと、飽くまで出発点としては、記録命令付差押えのうち記録媒体の移転の部分を除いた部分は、現在でも、裁判所も捜査機関もいずれも行い得るものとされているものに当たりますので、その範囲で処分は許されるべきものだと考えられると思います。   ただ、それに伴って生じる法的効果については、先ほど小木曽委員からも検証と共通の部分があるとか、あるいは、私も申し上げましたが、現行法の提出命令とも共通する部分があるので、刑事訴訟法第99条の2の記録命令付差押えの範囲で許されていると思われるものを取り出すに当たり、それにふさわしい規律を考える上で、現行法の規律を参照する、その手掛かりとして既存の強制処分を念頭に置くということであって、前提として、捜査機関にも提出命令が認められているという理解をとるものではないと考えております。 ○酒巻部会長 ありがとうございました。   検討課題の「4」の「(1)」について、ほかに御意見等はありますか。   もしなければ、次の「(2)強制処分としての実効性をより一層担保するための方策」について、御意見のある方は、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 「(2)」について意見を申し上げます。   電磁的記録提供命令は、被処分者に対して、その管理する電磁的記録をオンラインにより提供させるものであって、被処分者の行為を要するものであることから、被処分者がその命令に応じず、必要な電磁的記録を提供しない場合も想定されます。そこで、強制処分としての実効性をより一層担保するための方策として、例えば、命令に応じない場合に制裁を科すこととし、その威嚇力により履行させる制度とすることが考えられます。   この点に関して、現行刑事訴訟法に規定されている記録命令付差押えは、強制処分でありながらその執行の過程で被処分者の行為を要するものである点で電磁的記録提供命令と共通するところ、記録命令付差押えの被処分者が命じられた行為を行わない場合については、制裁は設けられていません。平成23年刑事訴訟法改正の立法担当者は、その理由として、記録命令付差押えは、通信プロバイダ等の協力的な者を想定して設けられたものであり、被処分者が応じないことが予想される場合に用いることを予定していないことや、被処分者が命令に応じない場合には、必要な電磁的記録が記録されている記録媒体自体を差し押さえるという直接強制によって対応できるので、命令違反に対する制裁を設けるまでの必要はないと考えられたことを挙げています。   もっとも、近時は、クラウド技術の普及等により、記録命令付差押えが新設された当時よりも電子データの記録・蔵置の状況が複雑化しています。それゆえ、必要な電子データが記録されている記録媒体を特定して差し押さえることが事実上不可能な場合も少なくなく、被処分者が容易には命令に応じないときに、それでもなおその者に必要な電磁的記録を提供させるため、より強力に提供を義務付ける方策が必要となる場合が生じていると言えます。   他方、現行の刑事訴訟法は、身体の検査や証人としての出頭など、その対象者自身による行為がなければ処分の実効性を欠くこととなる処分については、間接強制として、過料や刑罰の制裁を設けているところ、電磁的記録提供命令についても、これらと同様に命令を受けた者の協力を得ることが処分の実効性を確保する上で重要な要素となりますので、これに応じない者に対して制裁を科すことにも合理性があると思われます。   仮に制裁を設けることとする場合には、刑事罰と過料のいずれとするか、その双方を科し得るものとするかについて検討する必要がありますし、刑事罰であれば、科すべき刑種やその長短、金額の多寡等についても検討することが求められます。それらの検討に当たっては、先ほど申し上げた現行刑事訴訟法に規定されている制裁の内容等も参考になると思います。 ○久保委員 電磁的記録提供命令について、間接的な強制をする措置を設けることにつきましては、反対をします。   刑事訴訟法第99条の2や第110条の2の記録命令付差押えを導入するに際して、間接強制が議論された上で、あえて罰則は導入しないと結論付けられたことについては、先ほど成瀬幹事も御紹介されたとおりです。この点については、法制審議会はもちろん、国会においても同様の答弁がなされているものと承知しております。仮にグーグルのような膨大な個人情報を保有する事業者やクラウドサービスを提供する事業者など、あるいは様々なSNSの事業者に対して、罰則などの間接強制をもって電磁的記録提供命令をできるとすれば、その影響は甚大だと思われます。   例えば、クラウドサービスについて申し上げますと、実際には、その提供命令によって権利制約を受けることになるのは、そのクラウドサービスを利用しているユーザーとなります。自分が知らないところで、クラウドサービスに保存しているデータが捜査機関に提供されるような制度とされれば、そのようなサービスを使用すること自体についてちゅうちょをするという事態になりかねず、その影響は甚大だと思われます。   他方で、今回の制度が導入された場合にも、主に想定されるものが捜査に協力的な通信事業者であるということであれば、罰則を設けて強制するような立法事実は乏しいものと考えます。記録命令付差押えの導入の際にも議論されていましたが、被疑者が対象となることもあり得ます。被疑者でなくとも、電磁的な記録の中には、それを提出することで自身が刑事罰を受ける可能性がある者も含まれることになります。   そして、電磁的な記録の中には、供述的な性格を持つ証拠も多数含まれる可能性がありますので、そのような証拠について、罰則をもって提出が強制されることには慎重であるべきです。万が一にもそのような証拠を提出することについて罰則などの不利益が伴う場合には、提出前に不服申立ての手段が設けられることも必要です。対象者が罰則を受けないように一旦は電磁的な記録を提供することを強制されながらも、事後的な不服の申立てもできない制度となるということは、絶対に避けなければならないように思います。   また、対象者という点では、万が一にも、罰則を伴う形で弁護士等に電磁的記録の提供が強制されるようなことは許容されません。現在の記録命令付差押えは、押収の一種として刑事訴訟法第103条から第105条の押収拒絶権などの適用があるものと承知していますが、今回の制度が導入されるような場合も、押収の一種という前提で押収拒絶権や準抗告等、押収に適用される条文が適用されるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 「4」の「(2)」について、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、「2 令状の発付・執行の手続」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、これに関して、「検討課題」として明記されていない点に関するものを含めて、ほかに御意見や御発言はありますか。よろしいですか。   次に、「3 証拠開示等」についての議論に移りたいと思います。   まず、配布資料7の「3 証拠開示等」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料7の6ページ・7ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」の「①」として、電子的方法により作成・管理される証拠書類等であってその取調べを請求するについてあらかじめ相手方にその閲覧の機会を与えなければならないものについて、オンラインによりその機会を与えたときは、刑事訴訟法第299条第1項等に規定する閲覧の機会を与えたものとすることを、「②」として、事件が公判前整理手続等に付された場合において、同様の証拠書類等であって相手方にその謄写の機会を与えなければならないものについて、オンラインによりその機会を与えたときは、同法第316条の14第1項等に規定する謄写の機会を与えたものとすることを記載しています。   また、「③」として、電子的方法により作成した証拠の一覧表をオンラインにより交付したときは、刑事訴訟法第316条の14第2項に規定する証拠の一覧表の交付をしたものとすることを、「④」として、裁判所において電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等について、同法第40条の閲覧・謄写は、オンラインによってもすることができるものとすることを、それぞれ記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「①」から「④」までに関係する検討課題として、「情報セキュリティの確保」を記載しています。   この点については、証拠開示等をオンラインによりすることについて、技術的措置のみによって情報セキュリティが十分確保されるか、十分とは言えない場合、どのような対処が考えられるかなどの点について、検討が必要となります。   「2」には、「考えられる仕組み」の「①」・「②」に関係する検討課題として、「電子的方法により作成・管理される証拠書類等のオンラインによる閲覧・謄写に関する規律」を記載しています。   この点については、現行法において相手方に証拠書類等を閲覧する機会や謄写する機会を与えなければならないこととされている趣旨は何か、その趣旨に照らし、オンラインによる証拠書類等の証拠開示をする場合、どのような措置を講じればそれらの機会を与えたものとなるかなどの点が、検討課題となります。   「3」には、「考えられる仕組み」の「③」に関係する検討課題として、「証拠の一覧表の電子的方法による作成・オンラインによる交付に関する規律」を記載しています。   この点については、現行法において証拠の一覧表を交付しなければならないこととされている趣旨は何か、その趣旨に照らし、電子的方法により作成した証拠の一覧表をオンラインにより交付する場合、どのような措置を講じれば、現行法に規定する証拠の一覧表の交付をしたものとなるかなどの点が、検討課題となります。   「4」には、「考えられる仕組み」の「④」に関係する検討課題として、「電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等のオンラインによる閲覧・謄写に関する規律」を記載しています。   この点については、現行法において弁護人が訴訟に関する書類等を閲覧し、かつ、謄写することができることとされている趣旨は何か、その趣旨に照らし、オンラインによる閲覧・謄写をさせる場合において、どのような方法によることが必要となるかなどの点が、検討課題となります。   御説明は以上です。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、まず御質問等があればお願いしたいと思いますが、よろしいでしょうか。   それでは、証拠開示に関する議論に入りたいと思います。   まず、検討課題の「1 情報セキュリティの確保」について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○佐久間委員 検討課題「1」、情報セキュリティの確保について意見を申し上げます。   前回会議において、久保委員から、証拠開示等をオンラインにより行う場合のシステム設計について、ファイルコントロールのない電子データをダウンロードする方法により謄写できるようにする必要があるとの御発言がありました。   ファイルコントロールのない電子データをダウンロードする方法がどのようなことを指すのかについては、必ずしも明らかではありませんが、仮に、御発言の趣旨が、ダウンロードできる者にもダウンロード先にも制限がなく、また、ダウンロード後の電子データの取扱いにも制限がないこと、すなわち、どのような場合にも制限ができないことを求める趣旨であるとすれば、そのようなセキュリティの在り方では、紙媒体とは異なる電子データに特有の情報流出リスクに対応することができず、意図したか否かによらず、開示された証拠の内容がインターネット上の不特定多数人に拡散されるといった、取り返しのつかない事態を招来しかねないと思われます。   もちろん、弁護活動上の利便性が弁護人にとって重要であることは否定いたしませんし、それをないがしろにするものではありません。しかしながら、オンラインによる証拠開示が弁護人にとって利便性の大きいものである以上、それに伴うリスクに適切に対処することは不可欠であり、そのために、必要かつ適切なセキュリティ措置が要求され、それを甘受しなければならないのは当然のことではないでしょうか。   例えば、紙媒体の証拠を開示するときは、開示を受けた後に、紙媒体の写しをあえてスキャンして電子データ化し、それをインターネットに接続した端末で取り扱うことがない限り、証拠の内容がインターネットに流出するという事態は生じにくいと思います。   これに対して、証拠開示をオンラインにより行う場合には、開示それ自体の過程においても、証拠の内容が電子データの形で流出するリスクが伴うこととなりますから、そのような特性に合わせた措置が必要になると思います。例えば、紙媒体の証拠の閲覧を許す場合に身分確認を行うのと同様に、開示する証拠のデータを格納するサーバにアクセスできる者の範囲を適切に管理したり、電子データを謄写した場合にこれを利用できる者や利用できる機器、利用の方法、利用できる期間等を一定の範囲に限定する技術的な措置を講じたりするなどして、情報流出のリスクを抑えることが必要になると考えられます。   また、開示される証拠の内容は様々であり、例えば、万引き窃盗の現場となった量販店の店内の状況についての実況見分調書のように、個人の名誉やプライバシーにほとんど関わらないものもあれば、性犯罪の被害状況を撮影した動画データのように、それらが流出し一旦インターネット空間に拡散すれば、関係者の名誉・プライバシーに取り返しのつかない甚大な悪影響を及ぼす事態になるものもあります。そのような証拠の内容の違いによっても、オンラインによる開示の可否や開示の方法を適切に切り分けていく必要があると思います。   特に、今申し上げました性犯罪の被害状況を撮影した動画データのように、流出した場合に関係者の名誉・プライバシーに甚大な悪影響を及ぼす証拠については、これまでの証拠開示でも、検察庁内での閲覧のみを認め、謄写は許さないこととする場合もあるところであり、証拠開示等をオンラインにより行う場合の流出のリスクの大きさに照らせば、オンラインによる閲覧・謄写は認めないこととすることができるようにすべきであろうと考えます。   そして、どのような証拠をどのような方法により開示するかについての判断を最も適切に行い得るのは、当該証拠の内容や性質、それが流出した場合に捜査・公判の遂行に与える影響の大きさ等を正確に把握し得る立場にある検察官でありますから、そうした判断は、検察官が行うものとすべきと考えております。   前回会議でも申し上げたとおり、証拠開示をオンラインによって行う場合に必要となる情報セキュリティ上の措置の具体的な内容については、実務的・技術的な観点から行われる協議の場においてまず検討されるべきことではありますが、開示をする側・受ける側の双方において、先ほど申し上げたような必要な措置が採られ、また双方が必要なルールに従うことが確保されないようであれば、制度上、オンラインによる証拠開示の範囲を相当限定的なものとしたり、相当強力な罰則等の制度を追加して流出を抑止したりすることなどの他の選択肢を採ることも含めて検討せざるを得なくなることを、十分に念頭に置いておく必要があろうと思います。 ○久保委員 今、佐久間委員から、ファイルコントロールのない電子データのダウンロードの趣旨について御確認を頂きましたので、その点についてまず補足をさせていただきます。   ここで私が申し上げたのは、例えば、特定のアプリですとかシステムにオンライン上で接続しなければ証拠が見られない、あるいはダウンロードができないなどということになりますと、例えば、前者については、接見の時に被告人と打合せをする際に、証拠を確認するということもできなくなりますので、開示された証拠を、弁護人が自由に確認できるようなシステムであるべきだという趣旨です。   また、ダウンロードについては、ダウンロードができないとプリントアウトができず、結局被告人に差入れをすることもできなくなります。その点で、ファイルを、ある程度現在と同じような形で使えるような制度であるべきだという趣旨で説明したもので、先ほど御指摘のあったような、誰でもどこでもダウンロードができるというような趣旨ではありませんので、まず、その点について補足をさせていただきます。 ○酒巻部会長 「ファイルコントロール」という言葉は、普通の人に分かるものでしょうか。 ○久保委員 その点がやや抽象的だったかと思います。 ○酒巻部会長 その意味自体の認識がずれてくると議論が生産的でなくなるので、何か違う言葉があれば、あるいはその趣意を示す分かりやすい表現があればと思ったのです。いかがでしょうか。 ○久保委員 おっしゃるとおりだと思います。ここで申し上げたい趣旨は、結局、被告人側の防御活動や公判準備に不当な制約が加えられて、防御権が侵害されるべきではないという、正に佐久間委員から御指摘いただいたような視点で申し上げたものです。   例えば、現在よりも権利が制約されるような形になりますと、結局、誰もその制度を利用しないということになり、現在と同じように紙で謄写するという事態となり、せっかく制度を設けても意味がないということになりますので、現在と同じような形で権利が確保されるようなシステムであるべきだという趣旨として、御理解いただければと思います。   その上で、弁護人に開示された証拠の情報セキュリティについて御懸念を抱く御意見を頂いていますので、弁護士会の現在の検討状況について、簡単に御紹介させていただきたいと思います。   前提として、紙であれ電子データであれ、記録の管理に問題があれば、これまでの弁護士倫理上でも当然問題となります。現行法において、被告人とは異なり、弁護人に記録の謄写が認められている根拠は、そもそも弁護士には高い職業倫理の下で適切に管理されることが期待されているからだと承知しております。一方で、弁護人にも様々な考え方があるのは事実であり、それに対する懸念を持つ方がいらっしゃるということについては、十分に理解できるところです。   そこで、オンラインによる証拠開示に向けて、弁護人がオンラインによる証拠開示等においてより明確に指針を意識できるように、日本弁護士連合会として、新たに情報セキュリティに関する規約を作り、現在周知に努めているところです。率直に申し上げると、規約を作る際には、インターネットに詳しくない会員等から不安の声が上がったのも事実です。しかし、きちんと議論を重ねた上で、弁護士が弁護士の判断で適切に証拠を管理する重要性を認識しているという日弁連の姿勢を明確にするためにも、規約が可決されました。   また、それと同時に、情報セキュリティに関する研修メニューを用意したところ、早々に全国の弁護士会から日弁連に研修実施の依頼が多数届いており、情報セキュリティを確保することへの関心や意識の高さを感じているところです。   また、セキュリティという言葉についても、前回「万全のセキュリティ」という表現が佐久間委員からあり、このセキュリティという言葉で想定するところについても、人それぞれ違うところがあると思います。セキュリティの水準については、検討会で河津委員が指摘したとおり、現在も、一定の機密性を有する情報もインターネット回線を利用して送受信されています。情報の機密性の程度に応じた措置を講じることにより、合理的な水準のセキュリティを確保するということが、ここで申し上げるべきセキュリティの水準だと考えております。   この点、民事訴訟においても、当該民事訴訟と関連する刑事裁判で開示された証拠は、当然に現在も提出されておりますので、民事訴訟手続のIT化において想定されるセキュリティと同程度のセキュリティを想定すれば良いのではないかと考えます。 ○酒巻部会長 今御紹介頂いた弁護士会の取組も含めて、情報セキュリティの確保について、ほかに御議論・御意見、あるいは御質問等はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、検討課題の「2 電子的方法により作成・管理される証拠書類等のオンラインによる閲覧・謄写に関する規律」について、御意見を伺いたいと思います。よろしくお願いします。 ○池田委員 検討課題の「2」について、意見を申し上げます。   考えられる仕組みの「①」に関してですが、刑事訴訟法第299条第1項が、証拠書類等の取調べを請求するについては、あらかじめ相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならないこととしている趣旨は、相手方に当該証拠による立証に対する防御の準備を整える機会を与えるとともに、証拠調べ請求に対して適切な意見を述べることができるようにすることにあります。   したがって、同項にいう閲覧する機会を与える義務を果たしたと言えるためには、証拠書類であれば相手方がその内容を把握することができる状態に置くことが必要であり、また、証拠物であれば相手方がその性状を目で見るなどすることで認識することができる状態に置くことが必要であって、かつ、それで足りると考えられます。   そうであるとしますと、電子的方法により作成・管理される証拠書類等をオンラインにより閲覧する機会を与える場合に関しては、文字データについては、証拠書類と同様の方法で相手方がその文字を読むことによって内容を把握できるようにするということ、また、音声データなどについては、相手方が再生機器で再生することにより音としてその内容を把握できるようにすることなどがそれぞれ考えられ、そのような措置が採られるのであれば、証拠調べ請求をする者は、当該電子的な証拠について、刑事訴訟法第299条第1項の義務を果たしたことになると言えるものと考えられます。   これを、同項の文言との関係で言いますと、電子的に作成・管理される書類についても、電子計算機の映像面に表示して相手方がその言語的内容を把握することは、「閲覧」という用語に含まれるので、閲覧する機会を与えるべきものの対象に電磁的記録である書類を加えたとしても、必ずしも文言上無理があるということにはならないとも思われるのですが、その一方で、電磁的記録自体は、これまでにも指摘があったように、その定義上、人の知覚で認識することができないもので、いかなる方法を採った場合に電磁的記録を閲覧する機会を与えたこととなるかについて、解釈上の疑義が残り得るとも考えられます。そうした考えによれば、例えば、電子計算機の映像面に表示してその内容を人の知覚で認識できる状態にすることが「閲覧する機会を与え」ということに含まれることを規定上明らかにすることが考えられるように思われます。   さらに、電子的方法により作成・管理される証拠が音声データである場合には、相手方は、音を耳で聞くことによりその内容を把握するわけですので、これを「閲覧」という語に読み込むことは文理上無理があり、現行法の下でも、規定の趣旨からは刑事訴訟法第299条第1項に読み込まれるものとして解釈できるとしても、この機会に、そうした証拠については、相手方が再生機器で再生することにより音としてその内容を把握することができる機会を与えるものとすることを、規定上明らかにすることも考えられるものと思います。   次いで、考えられる仕組みの「②」について、検討課題「2」を踏まえて意見を申し上げます。   刑事訴訟法第316条の14第1項及び第316条の18は、検察官が同法第316条の13第2項の規定により取調べを請求した証拠書類等、あるいは被告人・弁護人が同法第316条の17第2項の規定により取調べを請求した証拠書類等について、速やかに、相手方に閲覧する機会を与えなければならないものとし、かつ、検察官・弁護人には謄写する機会を与えなければならないものとしているわけですが、その趣旨は、公判前整理手続等において、争点及び証拠の整理を実効的に行うため、相手方が、それらの証拠の内容を十分に検討することができるようにするということにあるとされています。   したがって、まず、相手方にオンラインにより証拠書類等を閲覧する機会を与える場合については、先ほど申し上げた同法第299条第1項の規定によりその機会を与える場合と同様に考えることができます。   また、先ほど述べた刑事訴訟法第316条の14第1項及び第316条の18の趣旨からすれば、これらの規定による「謄写する機会を与え」る義務を果たしたと言えるためには、相手方が後にその証拠の内容を参照することができるように、これを写し取ることができる状態に置くことを必要とするとともに、それで足りると考えられます。つまり、証拠書類であれば、その内容を書き写したり、写真コピーを取ったりすることができる状態に置くこと、また、証拠物であれば、その写真を撮影したりすることができる状態に置くことが、謄写する機会を与えたことに当たると考えられます。   ここで、謄写の機会を与える意味が、証拠書類等の原本が一つしか存在しないことを前提に、証拠の内容をいつでも見直すことができるようにすることにあるとしますと、電子データの場合には、写しを作成せずとも、例えば、アクセス権限を付与された弁護人がいつでもアクセスできる証拠開示用のサーバにアップロードして相手方がオンラインで見ることができるようにすることでも足りるのではないかとも考えられるところですが、検討会でも御指摘がありましたように、弁護活動の実態としては、オンラインでいつでも証拠の内容を見直すことができるとしても、それを紙で印刷して被告人に差入れすることができないとすると、これまで紙媒体の写しを取ることで行われてきた謄写よりも利便性が制約されて、かえって謄写の機会を与えられた意義を損なうことになるということも否定できないように思われます。そこで、証拠の内容にもよりますが、そのような公判準備上の利便性に対して、一定の配慮がなされてしかるべき場合もあるように思われます。   もちろんそれは、これも再三指摘があるように、謄写する機会を与える証拠の内容にもよるのであり、例えば、それが性犯罪の被害状況を撮影した動画データのように、流出した際に関係者の名誉・プライバシーに甚大な影響を及ぼすものである場合には、先ほど述べたような謄写が認められることの利便性よりも、それが流出するリスクを抑制する要請が上回る場合もあるものと考えられます。したがって、そのような場合には、当該データのダウンロードや印刷を許さないこととすべきことになるのではないかと思われます。   以上述べたように、オンラインにより謄写する機会を与える場合に、どのような方法によりどのような条件を付して行うものとするかは、証拠の内容に照らして個々に判断をすべき事項であるように思われ、検察官は、当該証拠の内容に応じて、ダウンロードやプリントアウトを制限する条件を付すとともに、それを確実なものとする技術的な措置を講じるなどの方法を選択し、それについて弁護人に異議があるという場合には、裁判所の裁定を求めることとなるのではないかと思われます。 ○𠮷澤委員 この「①」と「②」ともに、「考えられる仕組み」の欄では、刑事弁護を念頭に刑事訴訟法第299条や第316条の14などが挙げられているものだと思うのですが、この点、被害者に関しても、刑事手続の様々な段階において記録の閲覧・謄写というものが認められています。「①」・「②」で挙げられているような証拠書類に関する被害者側の閲覧・謄写については、特に法律で具体的に定められているというものではありませんが、現場で開示する側の検察官の判断により、現在はかなり柔軟に運用、対応していただいております。   例えば、被害者参加対象事件が起訴された場合は、当該事件の被害者等若しくはこれらの者の法定代理人又はそれらの者から委託を受けた弁護士が、検察官が証拠調べ請求をすることとしている証拠の開示を求めたとき、事案の内容、捜査・公判に支障を及ぼすおそれや関係者の名誉・プライバシーを害するおそれの有無・程度などを考慮して、相当でないと認める場合を除き、当該証拠の閲覧を認めることとされておりますし、現場においても、原則としては閲覧が認められているものと承知しています。この趣旨は、被害者参加人が適切かつ効果的に訴訟行為を行うためには、あらかじめ証拠関係を十分把握する必要がありますし、被害者らが被害者参加の申出をするか否かを判断するに当たっても、証拠関係を十分把握することが必要な場合があるためと理解しております。   また、閲覧によるのか謄写を認めるのかという開示の方法についても、検察官が判断するということになっておりますが、被害者参加人から委託を受けた弁護士から謄写を求めた場合、謄写の必要性や謄写に伴う弊害が認められるかどうか個別の判断がなされた上、その必要性があり、弊害が認められないときは、現在広く謄写が認められているものと承知しています。運用でなされていることですので、特に新たな規律まで定める必要がないものとは思いますが、今後、「①」や「②」などの証拠について、検察庁から被害者側への閲覧・謄写についてオンラインの方法で内容を確認し、内容を写し取ることができるようになること自体は、被害者側としてはとても有り難いことだと考えています。   ただし、これまでも再三申し上げておりますとおり、また、先ほど佐久間委員と池田委員もおっしゃっていたところですが、性的動画や画像といった流出のリスクが非常に高く、一度流出した際の被害回復が極めて困難であるというような証拠については、例外的にオンラインでの閲覧・謄写を行わないといった、特に慎重な配慮や厳格な取扱いが必要であると考えております。   そして、このような証拠の性質によってどのような開示方法を採るかという点については検討会でも議論され、取りまとめ報告書でもまとめられていると思いますが、現行法上、いずれにしても検察官が判断するという枠組みになっているものだと思いますので、その点については、今後も厳格な取扱いがなされるよう、極めて慎重に開示方法について判断されるべきだと考えています。 ○久保委員 先ほど池田委員から御指摘のあったオンラインによる開示が導入された後に、何をもって閲覧とし、何をもって謄写とするのかという問題に関連して、改めて弁護人の謄写の権利を明記すべきであるということについて申し上げたいと思います。   公判前整理手続に付された事件において弁護人に謄写を認めることとした趣旨については、法改正の際にも確認されていたとおり、防御準備のためには単に閲覧できるだけではなく、謄写した証拠を手元に置いて内容を検討することが必要であるということにあります。この趣旨は、公判前整理手続に付されているか否かによって、何ら違いはありません。   実際、公判前整理手続に付されていない事件においても、謄写は既に確立した実務慣行となっています。それに加えて、現在、裁判員裁判対象外の事件につき、公判前整理手続に付すように請求した場合、多くの事件が、まず打合せ期日を入れることとされ、その後も公判前整理手続に付すことなく、証拠開示を任意開示で対応するように求める裁判官が多くおります。そのこと自体の是非はおいておくとして、検察官も、以前と比べれば柔軟な証拠開示に対応しているようになっております。もはや公判前整理手続に付されたか否かという形式的なところで証拠開示は行われていないものと承知しておりますし、公判前整理手続に付されているか否かにかかわらず、開示される証拠の量も格段に多くなりました。   証拠は、単にどの証拠に大体どのようなことが書かれているかということをチェックすれば足りるようなものではありません。例えば、証人の証言が、開示された証拠とは供述が変遷しているのではないかをチェックするためには、手元に証拠の写しそのものがなければチェックすることは不可能です。改めて謄写の権利を定めた上で、謄写に適さない証拠の謄写を制限し、あるいは、それに対する裁定請求の制度を設けることが簡便であり、オンライン開示にもなじむものと思います。 ○酒巻部会長 ほかに、この「2」について、御発言はありますか。よろしいでしょうか。   次に、検討課題の「3 証拠の一覧表の電子的方法による作成・オンラインによる交付に関する規律」について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○成瀬幹事 証拠の一覧表について、意見を申し上げます。   刑事訴訟法第316条の14第2項が、検察官が一定の要件の下で被告人等に対して検察官が保管する証拠の一覧表を交付しなければならないこととしている趣旨は、弁護人が類型証拠や主張関連証拠の開示請求をするに当たっての手掛かりを提供し、公判前整理手続等の進行をより円滑・迅速なものとすることにあるとされています。証拠の一覧表の記載事項についても、そのような趣旨を踏まえて定められており、例えば、供述録取書面については、当該書面の標目、作成の年月日及び供述者の氏名とされています。   そうすると、証拠の一覧表を電子的方法により作成し、オンラインにより被告人等に交付することとする場合についても、刑事訴訟法第316条の14第3項所定の事項が当該一覧表の電子データに記録され、交付された相手方がその内容を電子計算機の映像面に表示するなどして読むことができるようになるのであれば、証拠の一覧表を交付することとされている趣旨を満たすことができると考えられます。   その上で、刑事訴訟法第316条の14第2項で用いられている「交付」という文言は、先ほど捜索証明書や押収目録について意見を述べた際にも申し上げたとおり、有体物を対象とする用語であると考えられますので、電子的方法により作成された証拠の一覧表を被告人等に提供することによっても同項の義務を果たしたことになる旨の規定を設けることが考えられると思います。 ○久保委員 証拠の一覧表については、エクセルやワードなど作成した元のデータ形式で開示されることが相当だと考えます。   現在紙で開示され、まれに証拠開示書により既に開示されたものと対応する形で一覧表が交付されるケースもありますが、多くは証拠一覧表と証拠開示書は対応しておらず、一覧表の中のどれが開示済みなのか、一つ一つ照らし合わせるという作業をしております。そのような作業が必要となることは、弁護人の準備時間が不必要に増えることとなり、裁判の長期化にもつながります。   この点は、法律に明記するということではなく、運用の問題であるということは承知しておりますが、当部会において、元のデータ形式で開示することを否定するものではないということを確認しておきたく、念のため発言させていただきました。 ○酒巻部会長 ほかに、「3」について、御意見はありますか。よろしいでしょうか。   では、「3」について御意見がなければ、検討課題「4 電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等のオンラインによる閲覧・謄写に関する規律」について御意見を頂ければと思います。 ○小木曽委員 刑事訴訟法第40条第1項は、公訴の提起後、弁護人は、裁判所において、訴訟に関する書類等を閲覧し、かつ謄写することができることとしております。その趣旨は、公判廷における防御活動のため、裁判所に提出された訴訟に関する書類等を点検してその証明力等を吟味することができるようにすることにあると思われます。   そうであるとしますと、裁判所において、電子的方法によって作成・管理される訴訟に関する書類等についてオンラインによる閲覧・謄写をさせる場合についても、先ほど池田委員から御発言がありましたように、刑事訴訟法第299条第1項や第316条の14第1項等の場合と同様の措置を採ることとすれば、同法第40条第1項に定める訴訟に関する書類についても閲覧・謄写をさせたことになると思います。   刑事訴訟法第40条第1項は、「裁判所において」と書いてありますが、オンラインによる閲覧・謄写をもしするのだとしますと、必ずしも裁判所においてする必要はないと思われます。そうすると、これを仮に法制化する場合に、実施場所を限定する文言は入れなくてもよいのではないかとも考えられるわけですが、そのような規定とすることを想定した場合に、裁判所において実務上、何らかの支障が生じることがあり得るかどうかといったことなど、更に検討すべき課題があるかどうかについて、裁判所のお立場から御意見をいただければ幸いです。 ○向井委員 オンラインによる閲覧・謄写を認める場合において、「裁判所において」という場所の要件を定めないことについては、現時点では特段問題はないのではないかと考えております。 ○𠮷澤委員 この「4」については、刑事訴訟法の第40条が挙げられていますが、被害者に関しても、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律の第3条と第4条において、被害者や同種余罪の被害者等についても裁判所の記録の閲覧・謄写が掲げられておりますので、その点も同様に規律の整理がなされるべきと考えています。 ○酒巻部会長 今の「4」に関して、ほかに御意見等はありますか。よろしいですか。   それでは、切りもいいようですので、本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。次回は、配布資料7の「第1」の「4 公判廷における証拠調べ」から審議を行うこととし、諮問事項の「一」に関する議論が済んだ後に、諮問事項の「二」に関する議論も行うことにしたいと思います。   諮問事項の「二」に関する議論についても、本日と同様、資料を事務当局に準備していただき、その資料に沿って議論をしていきたいと思います。よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、次回の予定について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 次回第4回会議は、令和4年11月4日午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございますので、詳細につきましては、別途御案内を申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の議事についても、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成し、公開することとさせていただきます。また、本日の配布資料についても公開することにしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれで閉会といたします。   皆さんどうもありがとうございました。 -了-