法制審議会 担保法制部会 第23回会議 議事録 第1 日 時  令和4年8月23日(火) 自 午後1時30分                      至 午後5時40分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(7) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 よろしゅうございますか。予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第23回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中、御出席いただきましてありがとうございます。   本日は金子さん、横山さん、阿部さん、衣斐さんが御欠席と伺っております。   また、先日新たに就任された松井委員に今日は簡単に自己紹介をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。 (委員の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   それでは、本日の審議に入りますが、まず資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。今日は予備日としての開催になりますので、新しくお送りした事務当局作成の資料はございません。前回お配りいたしました部会資料18「担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(7)」を使用いたします。   資料については以上です。 ○道垣内部会長 それでは、審議に入りたいと思います。   前回からの積み残しとなっておりました部会資料18「担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(7)」ですが、これについて議論を行いたいと思います。   第1は大体終わったところなのですが、第2のうち「3 事業担保権の優先弁済権の範囲(一般債権者に対する優先の範囲)」というのと、「4 事業担保権設定者の処分権限」、「5 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護」について議論を行いたいと思います。3につきましては前回、事務当局からの説明があり、既に議論もしていただきましたが、その後、しばらく時間が空きましたので、事務当局におきまして、3を含めて部会資料の説明をお願いしたいと思います。   また、議論の際に、前回、第1や第2の1、2の辺りをやったときに、3でこうなるのならば、4でこうなるのならば、という話が何回も発言中に出たわけでして、そうなりますと、3、4、5の議論をする際に、一応議論が終わったことになっている第1や第2の1、2のところについても適宜御発言を頂かざるを得ないという場合もあろうかと思います。その点につきましては御遠慮なく御言及いただければと思います。   それでは、説明からお願いいたします。 ○寺畑関係官 それでは、11ページの「3 事業担保権の優先弁済権の範囲(一般債権者に対する優先の範囲)」について御説明いたします。この部分については、前回も御議論いただきましたが、事業担保権が裁判所の選任する管財人によって実行される前に発生した債権のうち一定の債権について、どのような根拠に基づいて優先させるか、どのような債権を優先させるか、具体的にどのように優先させるかという問題に分けて検討しております。   まず、一定の債権をどのような根拠に基づいて優先させるかについて、その債権が事業価値の維持増大に寄与したことを根拠とすることや、事業担保権が担保価値として把握したものは事業が継続的に生み出すキャッシュフローであることを根拠とすること、政策的な保護の必要性を根拠とすることも考えられます。   次に、どのような債権を優先させるかについて、あらかじめ優先させる債権を法定するという方法と、裁判所、管財人や事業担保権者の判断によって優先させる債権を決定するという方法があり得ます。  さらに、優先させる債権の範囲が決まったとして、具体的にどのように優先させるかについて、資料の15ページ以下に①から④までの四つの方法を事例を使ってお示しをしております。   次に、17ページの「4 事業担保権設定者の処分権限」について御説明いたします。事業担保権設定者の処分権限について、設定者が事業を継続する過程で担保権の効力が及ぶ財産権の入れ替わりが予定されていることから、集合動産譲渡担保と同様に捉えることが考えられます。しかし、事業担保権は事業価値そのものを担保として把握しようとするものであり、個々の財産の価値を把握しようとするものではないため、設定者の処分権に制約を設けるとしても、集合動産譲渡担保と同様の基準が妥当するものではないとも考えられます。   他方、事業のために必要な資産が売却されると事業価値が毀損されると考えられますが、どのような場合に担保の価値が減少するのかを一律に規定することは困難であり、実行前の段階では事業の運営は設定者に委ねられており、事業担保権者は総財産の構成の変動について原則として介入することはできないと考えることもできます。そこで、本文では、事業担保権設定者は、事業担保権が実行されるまではその財産を自由に処分することができ、その処分権には法律上の制約を課さないことを提案しております。ただし、この考え方に立っても、設定者と担保権者との間で処分に制約を設けることはあり得ると思います。   最後に、18ページの「5 一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護」について御説明いたします。直前の項目で御説明したように、実行前の段階では事業の運営は設定者に委ねられており、事業担保権者は総財産の構成の変動について原則として介入することはできないという立場を採った場合、事業担保権の効力が及ぶ個別財産について設定者の一般債権者が差し押さえた場合、事業担保権者は、第三者異議の訴えを提起することはできず、配当を受けることもできないと考えることができるかと思いますが、この点についてどのように考えるかについて問題提起をしております。   以上について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構ですので、御意見等を伺いたいと思うのですが、少し議論の前提で、設定者は債務者に限ると考えて議論をしていきますか、それとも、物上保証人という形の事業担保権設定者も存在し得るということで議論になりますでしょうか。どちらかしら。 ○笹井幹事 その点は、確かに問題になるのかもしれません。そこは特に事務当局として何か一定の方針があるわけではございませんが、ただ、趣旨といいますか、一番典型的に使われる場面としては、余り物上保証人的なことは考えておりませんで、基本的には債務者と設定者が一致するのではないかと思っておりました。ただ、絶対に物上保証人は排除するのだというところまで、確固たる考え方があったわけではございません。 ○道垣内部会長 分かりました。ただ、目的との関係で、そういう排除もあり得ると思ったのと、あと、一般債権者との優劣といったときに、事業担保権者というのは一般債権者でもあり得るのか、それとも、ない場合があるのかということが、実はここを議論するときに問題になってくるのではないかと思いまして、最初に確認をさせていただいた次第なのです。もちろんそういうことも含めまして、御自由に御議論いただければと思います。   それでは、よろしくお願いいたします。 ○大西委員 すみません、前回意見を申し上げたことはもうここで今日は申し述べる必要がないという前提でよろしかったでしょうか。それとも、再度申し上げた方がよろしかったでしょうか。 ○道垣内部会長 今、少し事務局との間でもそういうことを申しておりましたが、やはり強調されたいところとか、実行のところにも実は今日のここの部分の議論というのは影響を及ぼしてまいりますので、そういうところの議論をするということも踏まえまして、要点を再述していただくというのは大変有り難いことかと思います。 ○大西委員 分かりました。ありがとうございます。   前回、私が申し上げたことは、今回の事業譲渡担保権の実行の手続を、いわゆる私的整理における事業の処分手続と考えるのか、それとも法的整理における事業譲渡に近い形で考えるのか、という大きな議論が最初にあるかと思います。   私が前回申し上げた意見としては、事業担保権においては、事業価値の維持が非常に重要と考えるため、事業担保権の実行は、私的整理に近い形で考えるべきだと思います。その場合、事業の価値の維持に必要な、人に関する労働債権と取引先に関する商取引債権、を優先して、随時弁済、若しくは譲渡されたときに債務承継をするという枠組みで考え、その他の債権を弁済するかどうかの扱いは裁判所の許可で判断することが妥当であると申し上げました。   この2週間の間、よくよく考えてみたのですが、もう一つ、そのような私的整理に近い担保実行の考え方では妥当でないようなケースもあるのではないかと考えました。例えば、事業の価値はそれなりにあるものの、不法行為に基づく多額の損害賠償債権があるケースも存在し、そういうケースだと、今申し上げた労働債権と商取引債権の随時弁済を行う私的整理に近いスキームだとなかなか解決がしないことが想定されます。従って、制度の枠組みとしては、私的整理に近い形での担保権実行スキームと法的整理に近い形での担保権実行スキームの2種類を想定しても良いかと思います。この法的整理に近いスキームでは、担保権実行の手続を開始した後、管財人が就任し、管財人が管理型の民事再生における管財人を兼務する形で、事業の価値の維持と換価を図り、その他の一般債権者に対する債権の弁済を図ることになります。そして、これらの両方のスキームについては、担保権者がいずれかを担保権実行時に選択できるような考え方もあるのかなと思いました。   具体的な事案としては、全ての一般債権を優先して随時弁済を行うと、担保権者に対する弁済がほとんどなされないようなケースもありますし、そうでない場合もあります。また、別の表現で述べると、事業のキャッシュフローから計算した事業価値と有利子負債を比較した場合に、有利子負債の方が大きいケースもあれば、そうではないケースもあると思います。このような状況にあるので、どちらかのケースだけを想定して手続きを創設するよりは、担保権者が選択できるよう両方の手続きを創設する考え方はいかがでしょうか。法的整理に近い手続きであれば、全ての債務の弁済を保全処分みたいな形で停止し、その後に公平な弁済を行う形になり、私的整理に近い手続きの場合は、労働債権と商取引先権を随時弁済する形になり、このような流れで2通りの手続きで整理していくという考え方もあるのかなと思いました。   それから、もう1点だけですが、4番の事業担保権者の処分権限のところですが、ここは通常の事業の範囲という限定を付けるのがいいのではないかと考えます。問題は、通常の事業の範囲とは何かということですが、事業価値の毀損をさせるような行為をしない範囲で権限を行使するといった消極的な意味で考えるのが妥当だと思います。例えば、事業活動に必要な工場の不動産を売却して、かえって事業価値を毀損させるような行為は、担保価値維持義務の違反にもなりますし、そういう行為を禁止するような限定はするべきと思います。   以上2点、コメントさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。前回も議論になったところかと思うのですけれども、大西さんが先ほどおっしゃったところの、私的整理を選ぶというときには、それはスタートラインははっきりしているということなのでしょうか。つまり、担保権の実行手続に入りますというふうに、債務不履行を前提として、やったとしますよね、それで管財人とかが選任されるというふうな形のプロセスに入るというのは、それはオフィシャルの手続に入るよねという感じなのですけれども、随時弁済をしながらいろいろな処理をしていくというふうなときには、それはスタートラインがはっきりして、実行形態としてそういうのがあり得るということなのでしょうか、それとも事実として、スタートラインは不明確なまま、債務者の状況が危うくなったときに事業担保権者はこういったことができるよねと、そういうお話でしょうか。 ○大西委員 どういう場合を想定するかは、いろいろな考え方があると思うのですが、一番あり得るケースというのは、例えば、事業の譲受け先を、担保権者の方である程度想定していて、ただ、会社側がなかなか事業の譲渡に協力しないようなケースです。そういう場合は、この担保権実行の申立てをして、裁判所に選ばれた管財人が、その譲受先に事業を承継させるということになります。こういうパターンの場合、あらかじめ買い手が見付かって、事業価値の試算もできていると思いますので、先ほど申し上げた私的整理に近い形で円滑に手続きが進行するのではないかと想定しております。 ○道垣内部会長 また実行のところでも併せて議論できればと思います。 ○片山委員 慶應義塾大学の片山でございます。どうもありがとうございます。前回、恐らく最後の方で、4の事業担保権設定者の処分権限のところをどうするべきかという議論がなされて、そこで会議が終了したと記憶をしております。結論的には、今の大西委員と同じことを申し上げることになるのかもしれませんが、やはりこの事業担保をどう制度設計するかという問題は、出発点として、事業担保なのか、それとも包括担保なのかという点に帰着するように思っています。事業担保権を制度設計したいということなのですが、我が国の場合には、のれんとか契約上の地位とか顧客といった、そういった無体財を直接対象とするというような担保権を設けることが難しいという前提もあり、そのために全ての財産を包括的に把握するという形の規定の仕方をせざるを得ないが、実行として、事業譲渡や移転がなされれば、結果としてそのゴーイングコンサーンバリューを確保する担保となっていたということなのかとは思っております。   その点からは、設定者の処分権限については、個々の財産に関する処分権限は自由に認めてよいというのが出発点でありここでも取りまとめていただいたように、処分を制約するようなコベナンツを結んで、その違反については最低限の詐害行為取消権等による救済を認めれば十分でないかということなのかも知れません。しかし、逆に言いますと、ゴーイングコンサーンバリュー自体を失わせてしまうような処分、例えば、顧客リストを処分したり、契約を譲渡してしまうとか、あるいは風力発電の場合に風車自体を処分してしまうとか、そのような重要な固定資産の処分については、やはり禁止をする形の規定が望ましいのではないかと思います。   以上からしますと、集合動産譲渡担保では、通常の営業の範囲であれば処分権を与えるという規定の仕方になるのに対して、事業担保権の場合はその逆の規定の仕方、すなわち、原則として処分は自由だけれども、例外的に、事業価値を損なうような処分は効力を生じないという、ただし書のような規定の仕方をするのが適合的ではないかと考えた次第でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○山本委員 ありがとうございます。5についてのコメントですけれども、基本的にはここに書かれてあることに賛成で、つまり、事業担保権者は第三者異議の訴えを起こせないし、また、配当を求めることもできない、個別執行に対してですね、そういう考え方で基本的にはいいのではないかと。その差押えが困るということであれば、一つはリファイナンスをして、もうその差押え債権そのものを弁済してしまう、債務者に弁済させるということはあり得るでしょうし、あるいはもう事業担保権を実行してしまうという形で対抗するということもあり得て、基本的にはそれで十分なのかなとは思います。   ただ、今、大西委員あるいは片山委員から御指摘があった、事業価値を毀損するような財産についての差押えに対してどう考えるかということが問題になり得るようには思います。この場合も、そういうリファイナンスや、あるいは事業担保権の実行で対抗するということで十分だという政策判断は一方であり得ると思いますが、他方では、そういう事業価値を毀損するような差押えについては、例外的に担保権者に何らかの措置といいますか、そういう差押えを許さないような形の申立て等を認めるということも、ひょっとするとあり得るかなとは思いました。   その際の一つの参考として、民事再生において、民事再生では共益債権とか一般優先権、一般優先債権については原則、自由に強制執行できるわけですが、ただ、例外的にその執行を止められる場合というのが定められていて、民事再生法でいえば、例えば121条の3項ですけれども、そこでは、その差押えが事業の再生に著しい支障を及ぼし、かつ、再生債務者が他に換価の容易な財産を十分に有するときについては、強制執行を止められるという規定があります。ですから、場合によってはこういうような考え方で、事業再生に不可欠な財産に対して差押えがなされ、しかし、ほかにも一杯財産があるというのならばそちらを差し押さえてくださいよということで、少なくとも一般債権者の強制執行については、そういう中核財産についての差押えを認めないというようなこともあり得ないではないと思います。   私はどちらかという定見を持っているわけではありませんけれども、そういうことも考えられるかなと思いましたので、発言をさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。どちらがいいかという定見がないとおっしゃっている方に聞くのは大変申し訳ないのですけれども、今の民事再生法121条3項的な処理を中核的な財産についてやるというときには、4の処分権限のところも、例えば中核的な財産についてだけは差止めができるとか、そういうふうなところにつながってくるのでしょうか、それとも、それはやはり差押えの問題と処分の問題とは違うよねという感覚でしょうか。 ○山本委員 御指摘の問題としては違うのだろうと思いますけれども、ただ、思想というか発想としては、やはり同じ方向、つまり、基本的にはその財産の一体性を保ったまま事業を譲渡して価値を、ゴーイングコンサーンを取っていくという、その基本的な思想は同じ方向だと思いますので、そういう意味では、先ほどの大西委員とか片山委員のような方法、4でそのような方法が考えられるとすれば、それに対しては同質性を持ったような形の規律になるのではないかということですが、その4に対して私自身は必ずしも定見を持っておりませんし、そこで、定見はないということなのです。 ○道垣内部会長 すみません、再度そう言われるとは思いながら伺ってしまって、大変申し訳ないですが、ほかに何か御意見はございませんでしょうか。   これは御意見がないということよりも、恐らく、前回の議論という話もありますが、3の実行というふうな概念で、先ほど私が大西さんに伺ったところなのですが、オフィシャルなレシーバーみたいなものが出てくる実行というのをどう仕組むのかという中と、それ以外の実行プロセスみたいなものをどう仕組むのかという中で問題になってくる事柄であり、区分がしにくいという面も多分あるのだと思うのです。   したがって、3、4、5の内容に御発言としては戻っていただいて全然構わないのですけれども、私としては、一度に議論する範囲を拡大した方がいいのではないかという気がいたします。そうさせていただいてよろしゅうございますか。今の段階で何か御発言があれば伺いますが、そうでなければ後ろと併せて御発言を頂くということにさせていただければと思います。   それでは、5までの議論を終えるということではなくて、拡大をするという形で、「第3 事業担保権の実行」のうち「1 裁判上の実行の概要」から「4 裁判上の実行による事業譲渡における債務の承継の可否」までについて御説明いただいて、そこを含めて議論をするという形にさせていただければと思います。   では、まず部会資料の説明をお願いいたします。 ○工藤関係官 それでは、19ページの「第3 事業担保権の実行」の「1 裁判上の実行の概要」について御説明いたします。事業担保権の裁判上の実行に当たっては、担保権の目的財産である設定者の総財産の売却、売却がされるまでの財産の管理及び事業の継続、支払われた代金の配当などが必要となるため、誰がこれらの手続を実施するものとするかが問題となります。   この点については、実行手続の実効性を確保する観点からは、設定者にこれらの手続を委ねることは相当ではなく、他方で、事業担保権の実行手続においては多様な利害関係人の利害を適切に調整する必要があることから、事業担保権者自身又はその選任する者にこれらの手続を委ねることも相当ではないと考えられます。そこで、ここでは、裁判所が選任し、公正中立義務を負う管財人がこれらの手続を実施することを提案しています。また、詳細については後記の30ページの「7 被担保債権以外の債権の扱い」で検討していますが、事業担保権の裁判上の実行手続においては、被担保債権以外の債権についても配当の対象とし、配当を受けようとする債権の存否及び額を手続内で確定する手続を設けることを提案しています。   次に、21ページの「2 実行開始決定の効果」について御説明いたします。ここでは、事業担保権の実行手続の実施主体を管財人とすることを前提として、実行開始決定によって設定者の総財産の管理処分権は管財人に専属するものとすることを提案しています。なお、事業担保権の実行手続においては、多様な利害関係人の利害を適切に調整する必要があることから、管財人の管理処分権は、例えば事業担保権の被担保債権以外の債権の存否及び額を調査して確定する権限など、事業担保権の目的財産だけでなく、設定者の財産関係全般に及ぶものとすることが考えられます。  また、事業担保権の実行手続と設定者の個別財産に対する強制執行手続等が併存すると法律関係が混乱すること、事業担保権の実行手続においては強制執行等の申立てをしていた者の債権も換価代金から配当を受けることになることから、実行開始決定によって設定者の個別財産に対する強制執行、仮差押え、仮処分、担保権の実行等の手続は事業担保権の実行手続との関係で失効するものとすることを提案しています。   次に、22ページの「3 事業の一部に対する実行及び個別資産の換価の可否」について御説明いたします。事業の一部のみに対する実行を認めることについては、実行手続の対象となる財産と対象とならない財産を区分することが困難である上に、実行手続の対象となる財産と対象とならない財産の管理処分権が管財人と設定者に分属して取引の安全が害されるおそれがあるという問題があると考えられます。そこで、ここでは、事業の一部のみに対する実行は認められないものとし、裁判上の実行手続を開始するに当たっては、常に担保の目的全体を実行手続の対象としなければならないものとすることを提案しています。  また、個別資産の換価については、一読では、これを認めるとすれば価値のない財産ばかりが残されるおそれがあるとの御意見があった一方で、これを一切禁止した場合には、時間の経過により事業価値が低下して事業譲渡が困難になる前に実行しなければならず、早期の実行が求められて使えない担保になってしまうとの御意見もありました。これらの御意見などを踏まえますと、事業担保権の裁判上の実行手続においては、一定の制約を付した上で個別資産の換価を認めることが考えられます。その制約の具体的な内容については、例えば、個別資産の換価には裁判所の許可を要するものとした上で、清算価値を上回る金額での事業譲渡が困難である場合に目的財産全体を個別に換価することを認めることや、事業にとって必要性が乏しいなど事業譲渡の対象としないことに合理的な理由がある個別資産の換価を認めることが考えられます。   次に、23ページの「4 裁判上の実行による事業譲渡における債務の承継の可否」について御説明いたします。担保権の実行をする場合には、原則として担保の目的物のみが第三者に移転すると考えられますが、個別の債務を担保の目的と捉えることは困難と考えられるため、事業担保権の実行としての事業譲渡によって、事業に関連する債務が当然に買受人に承継されるわけではないように思われます。もっとも、事業譲渡に当たっては、一定の債務を買受人に引き受けさせることが事業の継続にとって有益であるなど、買受人が設定者の債務を引き受けることが望ましい場面もあるものと思われます。そこで、ここでは、事業担保権の実行として事業譲渡をする場合において、設定者の債務を買受人に引き受けさせることができるか否かについて、問題提起をしております。  また、この場合に債務の承継が可能であると解したとしても、承継を可能とする要件や承継する債務の範囲については、債権者平等の原則を踏まえた検討が必要となると考えられます。   以上の点について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、先ほど申しましたように適宜、前の方に戻っていただいても結構でございますので、ここの4のところまでで広く御議論いただければと思います。 ○松下委員 松下です。質問が二つあります。まず、19ページの第3の1(1)にある、管財人が負う公正中立義務とは何かという話です。倒産手続ですと、この種の手続機関が負う義務は、再生債務者が負う公平誠実義務ですとか、破産管財人が負う善管注意義務があるのですが、それとどう違うのか、あるいは同じ部分もあるのかということを、この資料の趣旨を確認させていただきたいと思います。   それから、もう一つ、少し細かい話なのですけれども、資料の21ページの3行目から始まる段落ですが、事業担保権の被担保債権に優先させる労働債権ですとか商取引債権について、8行目で、手続内で確定する必要があるという記載があります。これは倒産法の用語でいうと実体的確定、つまり、確定判決と同一の効力を持って確定させるということを意味するのか、だとすると、最終的には判決手続を使う、その債権の存否、額を確定するために判決手続を用意するということまでこの資料は想定しているのかというのが二つ目の質問です。よろしくお願いします。 ○道垣内部会長 それでは、事務局の方からお願いいたします。 ○笹井幹事 一つ目の公正中立義務についてですけれども、公正中立義務という表現が適切であるのか、今後もこれを使い続けるのかどうかというのは、また考えたいと思いますけれども、ここでこういった言葉を使ったのは、担保権の実行を主宰する立場ということだとすると、担保権者の利益を最大化するという職務を負っているという性質決定をしていくということも考えられるのではないかと思われるわけですが、そうではなくて、むしろほかの債権者、一般債権者を含めて、そういった方々の利益、もちろん設定者の利益についても配慮する必要があるという趣旨で書いたもので、先生がおっしゃいましたように、倒産手続上の管財人の善管注意義務と区別して考えていたわけではなくて、それと同趣旨のものを負っているということを考えておりました。   それから、21ページの確定についてですけれども、ここもどちらかというと倒産手続と同じように考えておりまして、基本的には実体的に確定すると考えておりましたが、そこが余り重すぎるということであれば、もう少し軽い手続にしていくということも考えられるのかもしれません。   差し当たりは以上でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。差し当たって、松下さん、よろしいでしょうか。 ○松下委員 松下です。一言だけ。裁判上の実行で選任される管財人の位置付けについて、この事業担保権者の利益の最大化なのか、それとも、ほかの利害関係人の利益に対しても一定の配慮義務があるのかというのは、基本的な制度設計でかなり重要なところではないかと思います。後の方で出てきますけれども、例えば破産手続と並行させて、しかし、事実上同一の人を選任するという記載も資料の中にあったのですけれども、もしこの管財人が担保権者の利益の最大化というのを主眼に置いているのだとすると、破産管財人とは利益相反を起こしそうな気もして、同じ人に選任できるのかということが問題になるように思いました。ここは基本的な考え方に関係し、ほかの箇所でも出てくると思うので、気を付けながら私自身も議論したいと思います。   以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 阪口です。井上先生とか大澤先生も手を挙げられたから、多分同じような話になるのかと思いますけれども、先に発言するようになってしまいまして、申し訳ありません。   まず、今、松下先生がおっしゃった位置付けについては、弁護士はやはりそこを非常に気にしているわけです。管財人に弁護士が選ばれるとすると、板挟みみたいなことにならないのかということは非常に気にしていて、そこは位置付けをもう少し明確にしてほしいというのがあります。担保権の実行の主宰者だというのだったら、そもそも管財人という名前もおかしくて、担保収益執行のように管理人という言葉の方が適切なのではないかという意見もあります。他方、それだったらほかのいろいろな手続が処理できない、やはり破産管財人のような公正中立な立場だということで位置付けしてほしいという、そこら辺はやはり実際に選ばれる者からすると非常に大変なことになるので、そこは明確にしていただきたいというのが一つです。   もう一つは、管理処分権が管財人に専属するということの関係で、例えば訴訟がどうなるのか。訴訟には、積極財産の訴訟もありますし、負債の方の訴訟もありますけれども、これも全部中断、受継のような概念が管財人若しくは管理人に生じるのかという辺りも気になるところです。   まず、積極財産の訴訟は多分、管財人に担当してもらわないとまずいのだろうと思います。資産を最大化し、配当原資を最大化するという意味で、そうなります。他方、負債の方の訴訟は、先ほども少し出てきた実体的確定の議論につながっていくのでしょう。一旦中断させて、確定手続みたいなものに一旦乗せて、またそこで争いがあれば訴訟に行くということなどが考えられますが、その辺も、この管財人の責任がどこまであるのか、またできるのかということから、少し御検討いただけたらなと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。何かこの時点で、事務局からございますか。 ○笹井幹事 1点目の位置付けについては、ここは今、松下先生からも御質問いただいたところですけれども、こちらの資料の立場としては、担保権者の利益を最大化するということではなくて、公正中立な義務を負うということを提案しておりますので、事務局の資料における位置付けとしては、そういうつもりでございます。   それから、中断、受継のことは御指摘のとおりで、この点は問題になるだろうと思っています。この点も、積極的に請求していく側と請求される側と両方あり得るわけですが、請求していく側になった場合には、管財人に管理処分権が専属することの結果として中断、受継ということを考えていかないといけないであろうと思います。逆に、請求される側に立った場合については、これは担保権の目的が積極財産であるということとの関係で、消極財産についての管理処分権がどこまで及ぶのかということが、少しこの後の債務引受けのところでもそういった問題提起をしておりますけれども、理屈の上ではそういう問題が出てくるのだろうと思います。   ただ、この点については、そこも含めて、管財人が管理処分できないと、例えば、優先するほかの債権を確定させた上で配当していくなどのいろいろな義務が全部果たされないと適切な実行ができないということを考えると、やはり消極財産についても管理処分権を付与していかないとうまく実行できないのではないかと思います。そうすると、結論的には、請求される側に立つ場合についても中断、受継のようなことを考えていく必要があるのではないかと今は考えているところです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。私が途中で発言するのも、順番の割り込みになってしまうのかもしれないですが、破産というのは破産者という概念があって、その人に関連する訴訟が、という話になるのだけれども、これは財産が対象となっている手続なのだから、債務者に対する訴訟について、ここにいう管財人が関与することになるということが私にはわからない。被告になる訴訟についてですね。原告の方は、例えば債権なら債権を行使するという手続なのだから、当該債権が担保の目的物として来て、管財人に管理処分権が来ているという、それは分かるのだけれども、被告となるものについて受継するという論理があり得るのかというのが私には分からなかったのだけれども。それが、僕の最初の質問で物上保証人というのはあり得るのですかという話なのですが、物上保証人の場合を考えると、ますますあり得ないと思うのです。それは抜きにして考えるとしても、そんなことにはならないのではないかという気がしたのです。いろいろ意見が分かれるところかもしれませんので、私の意見で押そうというわけではございませんので、感想までです。 ○井上委員 井上です。先ほどの公正中立義務については、阪口先生が既におっしゃったとおりの懸念といいますか関心を持っておりまして、少なくとも事業担保権者だけの利益の最大化を図るということではないだろうと、倒産手続における管財人の義務と全く同じかどうかまでは分かりませんが、かなり同質なものではないかと、少なくとも優先する債権者あるいは配当を受け得る債権者などの利益にも配慮するべきなのではないかと思います。   それと、今回御提案の実行手続、これは恐らく単体で使われることがまずないようなものだろうと思っております。元々この事業担保を設計するとすれば、そこに至る前のところで、事業が高く売れるような形、すなわち設定者と債権者、担保権者とが協議をして、どちらかが無理やりということではなく、事業を継続しながらスポンサーを探して高く売ることが最優先であって、事業担保の実行手続というのは、その協議が決裂して、設定者側、債務者側が抵抗しているにもかかわらず、強引に担保権者が実行するということを念のため規定しておくと、そういうことなのだろうと思います。そして、事業担保権者の被担保債権が不履行になっているにもかかわらず倒産手続の開始原因がないということも実際にはなかなかないことで、恐らくは支払不能なり何なりになっていることが多いでしょうから、そうすると、債務者との協議が決裂して担保権者が事業担保の実行に着手するときというのは、債務者側は対抗措置として倒産手続開始の申立てをした上で中止命令あるいは取消命令を取って、という方向に動くことも十分考えられ、そうすると、事業担保の実行手続というのはかなりの部分、後で出てくる倒産のところでどう扱われるのか、あるいは実行が開始されたのと並行して倒産手続を開始した場合にどのように手続が動いていくのかを考えないでは、実際上はワークしないのだろうと思っているのですけれども、それは後で恐らく議論することにして、前置きが長くなりましたけれども、およそ考え難い、倒産は始まらないのだけれども、でも強制的に実行するというシナリオをここでは考えるという前提で発言申し上げますけれども、そういう実行手続として、19ページ以下においては、被担保債権以外の債権を全て配当の対象として手続内での債権確定手続を設けるという、かなり倒産に近い実行手続を平場でも想定しているということだと思うのですけれども、少なくとも、この前のところで問題になった優先債権ですね、例えば、カテゴリカルに優先されるべき租税債権とか労働債権、あと、カテゴリカルに優先するのか、あるいは裁判所の許可を得て優先するのかはともかく、一定のあるいは全ての商取引債権を優先するとすれば、そういった優先されるべき債権については、私的整理に近い形というのですかね、随時弁済をしていくような形で、債権の確定手続をして配当原資をずっとためておいて配当するのとは異なる取扱いをすることも考えられるのではないかという感じはいたします。もちろんその過程で、そんなことが資金繰り上うまくいかなければ、先ほどから申し上げているように、倒産手続が始まるということなのでしょうけれども、倒産手続が開始されない場合の単体の担保権実行手続として考えた場合には、全てを確定かつ配当に持って行くということではない整理も可能なのではないかと思います。そう考えるとすると、21ページで失効するとされている他の手続についても、優先債権者による差押えとか実行については特段、止める必要はないのではないかとも思いました。   取りあえず、以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大澤委員 大澤でございます。今、井上先生が大体おっしゃってくださったかなと正直、思ってはいるのですけれども、担保実行の考え方として、まず、事業のキャッシュフローに着目した担保だということであるとするならば、やはり任意で債務者と債権者が話合いをして事業譲渡をして、価値を生み出していく、ゴーイングコンサーンを維持していくというのが在るべき姿だろうと思っておりまして、そうすると、実行では債務者はもう完全に対立関係にあると、それでもなお実行できるとしたとして、もちろん実行はできるべきなのですけれども、実行申立てをして、開始決定を受けて、蓋を開けてみて、いや、やはりもうこれでは債務超過である、あるいは支払い不能であるというようなことが分かったときに、この担保実行手続をそのまま続けるのかと、倒産原因がある以上、そこでこの管財人というか管理人というか、に倒産申立権を与えて、倒産手続の中で全債権者のために公正で安定的な手続をもってバランスを取っていくという方が、他の債権者、事業担保債権者以外の債権者との関係でも公平に資するのではないかと。特に、債権確定手続等も含めて、再生手続でも何でも、債権認定をして、それが他の債権者も見る機会があり、異議を申し述べる機会もありというような形で、そういった意味で、もう支払い不能あるいは債務超過になっている以上、誰がどれだけの弁済を受けるのかというのは全債権者の関心事項になってくるわけですから、それをこの担保実行の中で全てやるというのでは重たすぎて、むしろ既存の手続を利用した方がよいのではないかと考えておりまして、その意味で、この担保実行がワークするのは、この管財人が蓋を開けてみて、事業価値がそのまま維持できて、何らか実行できるということを設定者と説得をして、全員に100%弁済ができるような場合に限られるのではないかと考えました。   そうすると、先ほど正に井上先生がおっしゃられたように、もし倒産手続に行ったらこの担保はどうなるのかという話がまた次に出てくるというのは、御指摘のとおりだと思っておりますので、そこはまたそのときに考えたいと思いますが、この実行の大きな枠組みとして、そのような感覚を持ちましたので、意見を申し述べさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○日比野委員 ありがとうございます。第3の1の公正中立義務に関してです。先般来話が出ているとおり、管財人は公正中立義務を負うということで、事業担保権者の利益の最大化を図るのではないとされているところなのですけれども、この意味が、11ページのところで議論になった事業担保権の優先弁済権の範囲において、何が優先するのかといったルールがある中で、それを守っていくということなのであれば、非常に分かりやすいと思うのですけれども、そういうことではなく、各利害関係人に何らかの配慮をする義務なのだということだとすると、事業担保権者としては、最終的に実行という局面にもしなったときに、一体どういう原理で手続が進むのかというのが分からないため、非常に不確実性が増してしまうのではないかという印象を持っています。   これは、阪口先生がおっしゃった、管財人に就任した人が非常に困ってしまうということを裏から言っているようなところもあると思うのですが、やはり担保権者の立場からしますと、実行の場面で出てくる管財人がどういう行動原理に基づいて行動するのかということについてある程度の見通しを立てられないと、そもそも出口が不透明な制度を本当に使えるのかということになってくると思います。なので、これは言葉の問題かもしれませんけれども、担保権者が担保権を実行するに当たって、その利益を実現することを主眼に置くというようなコンセプトで設計していただけると有り難いと思った次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。おっしゃっていることは十分に分かるのですけれども、恐らく部会資料の作りとしては、レシーバーといいますか、担保権の実行のために出てきた管財人というのを選任するということになったときに、では債務者や他の債権者の立場は誰が守るのかという話が出てきまして、そのときに、どうせそのときには破産が起こるよねと考えると、それは破産管財人がやりますと、担保権者の代理人的な立場でレシーバーが活動して、それで調整をしていきますということになるのですが、部会資料の作りとしては、破産までは起こさなくても、それが主たる財産になっています、主たる財産が全部事業担保権で押さえられていますので、もう一つ重ねて破産管財人を選任するというほどのことはなかろうと、ならばそのレシーバーに両方の利益を慮ってバランスを取ってやるという義務を負わせるということにした方がいいのではないかと、多分そういう発想でできているのだろうと思うのです。ただ、そうではないのだと、レシーバーというのは飽くまで担保権者のためにやるのだということになると、債務者や他の債権者が自分で自分を守れるのなら、それはそれでもいいのですが、破産を重ねるということになると比較的スムーズなのですけれども、その辺りをどういうふうに設計していくのかということだろうと思います。ただ、御心配はごもっともな点がありますので、全体の枠組みというのをどう考えるのかというのを更に検討する必要があろうかと思います。 ○大塚関係官 ありがとうございます。調査員の大塚です。私も公正中立義務について、既に何人もの先生が御指摘なさった点ではありますし、先ほどの部会長の御指摘によって御提案の趣旨は分かったところではありますが、それを少しまとめる趣旨も兼ねて発言いたします。   この公正中立義務ということが、担保権者の利益だけでなくて他の債権者の利益、あるいは株主や設定者の利益をも図るということであるということは理解いたしました。ただ、そのときに、一般的な事例では、そこまで管財人のやることが不明確であるというほどでもないかなと思います。例えば、総財産の換価価値を最大化すれば当然、担保権者も他の債権者も設定者も利益を受けるということになるだろうと思います。   ただ、限界的な事例においては、担保権者の利益を図ることと他の債権者の利益を図ることとが、どちらを取るのかによって管財人の行動指針が変わってくるということもあり得るかと思います。例えば、既に買手の候補が現れており、そこでその買手に売れば担保権者は一応満足を受ける、これくらいでいいかなと考えている。しかし、被担保債権を弁済した後、余剰がほとんどないということになって、この買手だと他の債権者は全く満足できない。これに対して、もう少し待って他の候補を見付けようとした場合に、より高く買ってくれる買手が見付かる可能性があれば、その分、一般債権者はそうやって待つということに利益を見いだせる。しかし、待っている間に既に今手を挙げている候補がいなくなってしまう可能性というのはあり得ると思いますので、もちろん高く売れることになればいいのですが、少なくとも現在、今いる買手に売るというよりも担保権者の満足が減ってしまうというリスクを担保権者側は引き受けなければいけない。こういうときに、では管財人はどういう行動をすべきかということが問題となるわけです。   そのときに、公正中立義務とだけ法律上書いておくとか、解釈でそういうふうにしておくと、管財人が何をすべきかというのが必ずしもはっきりしない。そうすると、阪口幹事がおっしゃっていたように、管財人が困ってしまうのではないかということになります。これをもし公正中立義務違反で損害賠償責任を負うというふうなことになるとすると、かなり難しい判断を迫られてしまうのではないかと考えます。   それに加えて、先ほど日比野委員がおっしゃっていたとおり、どちらの選択肢が採られるのかということが事前に分かっていないと、担保権を設定する段階でその担保価値を計算することがかなり難しくなってくる、リスクが多くなりますので、その分、担保価値が減ってしまう可能性がある。どちらかはっきりさせておくことによって計算可能性を増やして、担保価値を計算しやすくするということができるのではないかと思います。   どちらかというのは私個人の見解はないのですが、いずれかにはっきりさせておく必要があるのではないかと考えています。担保権者の利益の最大化を基本的には優先するということにするか、あるいは他の債権者というか債権者全体、あるいは総財産の換価価値全体を大きくなることをまずは第一の目標とするか、いずれかを立法上ないし説明の中ではっきりさせておく必要があるのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大西委員 私は、先ほど少し井上先生が言及されたように、私的実行の場合がほとんどで、管財人のケースというのはほぼないのではないかという御発言がありましたが、実際にその点はそうだと思うのですが、この担保制度で大事なことは、実行したときにきちんとワークできるような制度をしっかり作っておくということであると思います。   例えば、会社側が事業の譲渡に非協力的で譲渡が難しいようなケースは、余り想定してもしようがないというようなお話もあると思いますが、結構、この事業担保権の実行になるような企業の場合、経営者の方に問題がある場合が多いです。事業を支えている経営幹部の人はしっかりしているものの、経営者がしっかりしておらず、経営自体に怠慢であるケースや、少し経営者の考え方がおかしいケースもあります。また、大株主として、例えば創業者である父親がいて、実質的に会社をコントロールしているようなケースもあります。このような場合は、経営者がなかなか事業の譲渡を決断しない場合が想定されますので、担保権実行の局面では経営者の意思決定がなくても実行できる枠組みは非常に大事であると思います。そういう意味で、裁判上の管財人の処分手続を経て、事業を第三者に譲渡するプロセスは、しっかり作っておいた方がいいのかなと思います。   先ほど部会長から、最初の段階から私的整理なのか法的整理なのかが分かるのですか、というお話がありましたが、先ほどの回答以外に申し上げると、実際この辺を判断するときに一番大事なのは対象会社の資金繰りです。金融機関の返済は止めるけれども、その他の債権者に対しては通常どおり支払って事業価値が維持できるケースは、私的整理になじみます。しかしながら、金融機関に対する弁済を止めたとしても資金が足りないような場合は、法的整理に近い手続きになると思います。そのように資金繰り状況が手続きの判断の分かれ目になるので、先ほどの繰り返しですが、金融負債だけの支払を止めて、あとの債権は随時弁済を行う私的整理に近い担保権実行手続と、全ての債権の支払を一旦止めてその後に配当で払うといった法的整理に近い手続き、といった二つの枠組みを用意し、それは担保権者の選択若しくは裁判所の判断に委ねるのがいいのではないかと思います。   続いて、3番の一部換価についてですが、これにつきましては一部換価、事業の一部のみの担保権実行は認めるべきではありませんが、一方で個別資産の換価は認めるべきと思います。それが妥当する場合ですが、資産売却をしても事業価値を毀損しないケースと、資金繰りが厳しいため、多少事業価値は毀損するものの、事業用資産を換価して資金をつながなくてはいけないケースがあるかと思います。そのような場合は、裁判所の許可を得て、個別資産の換価をする場合も十分あり得ると思います。   それから、4番の債務承継についてですが、先ほどの私の考え方からすると、私的整理型手続きでは全ての一般債権は支払いを継続する前提ですので金融債権以外の債権の債務承継は認めるべきだし、そうでない場合でも、優先すべき債権については債務承継を認めてもいいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。私が大西さんに質問したところをクラリファイしておきたいのですけれども、私が質問させていただいたのは、3段階構成なのか2段階構成なのかという話なのです。つまり、管財人、レシーバーを選任して事業担保権の実行手続という正規の手続に入るという、その手続があるのは、それはそのとおりです。しかし、そうではなくて、ぴんぴんしていると、ただ単に事業担保権は設定されているけれども、全く通常どおり運用されているという状況もあるわけです。その真ん中に、事業担保権者が一定のコントロールをしながら売却のための準備をするといったりするような段階というのを構想するのか、それとも、それは飽くまで平時ですよと、平時の間にそれをするのですと、レシーバーが選任されるという手続からになると、それはいわゆる実行手続に入るわけであって、その前は全部平時であると考えて構想するのか、つまり、前の部分を二つに分けるということになると、何かトリガーがあって、例えば実行の意思表示をすると債務者、設定者の処分権限が制約されるとか、そういうふうな何か特殊な効力が発生するということがあり得ると思うのですけれども、3段階構成なのか2段階構成なのかという意味で、少し伺ったつもりだったのです。 ○大西委員 なるほど、分かりました。多分、平時においてはこの事業担保権の存在をベースに、M&Aを設定者の協力を得ながらやることになると思います。よって、基本的には平時と担保権実行時の2段階なのですが、事業担保権実行の手続きにおいて、株主総会開催の省略や包括承継等の特典が認められるのであれば、実は平場でM&Aを実施するよりも、事業担保権の私的実行スキームを利用する方が優れたスキームと考えられます。よって、担保権実行スキームとしては、平場での手続きを含めると3段階を想定することができます。すみません、お答えになっているでしょうか。 ○道垣内部会長 いえ、分かりました。ありがとうございます。 ○尾﨑幹事 私は、3の個別資産の換価のところは全く大西さんと同じでありまして、事業担保権を実行するに際して事業価値の維持向上の観点から一部の資産を個別に売却する方が望ましいということはあり得ますので、個別資産の換価を認めるべきだと考えています。資料の中でもそう書いてあって、その上で裁判所の許可ということが提案されているかと思います。管財人が事業譲渡するまでの事業継続のために、棚卸資産等の譲渡を行うことが必要で、これは通常の営業の範囲の話だと思いますが、これも全部裁判所の許可を要することになってしまうということになると、円滑性や迅速性が阻害されるということになりますので、事業の継続として行われるような個別資産の換価というのは自由にできるような形にするなど、少なくとも、柔軟な形にすべきではないかなと思います。   それと、先ほどのケースに少し戻って、前の第2の4のところです。事業担保権設定者の処分権限について、通常の事業の範囲内の処分行為に限るという条件は必要だろうというような御意見があったかと思いますが、我々もそのように考えています。ただ、この処分権限の制限によって、事業の継続と成長の制約になるような事態を生じさせるべきではありませんので、これもほかの委員の先生方がおっしゃっていたように、事業価値を毀損するような行為でなければ通常の事業の範囲内になると考えております。事業価値を毀損するような、例えば合理性のない重要な財産の廉価での売却であるとか、事業のコアとなる資産の売却といった行為は、無効として原状回復していただくことが望ましいとに考えていますが、通常の事業の範囲の具体的な境界線は、その事業の特性や状況、財産の重要性などに応じて様々になると思われるため、これに含まれるか不透明なものが生じうると考えています。こうした不透明性により取引の安全を害することがないように、事前に明確にする手当ても併せて必要になると考えております。取引の萎縮を防ぐために、一つは善意の第三者を保護するための即時取得のような、又はその特則のようなものを設けることと、それから、事業担保権者の同意があれば有効とするような仕組みというものを設けることが望ましいのではないかと考えております。特に、事業担保権者の同意によって有効とするような枠組みというのは、設定者と担保権者との間のコミュニケーションを取るきっかけになるとも考えられますので、適切な融資や支援をより一層行いやすくなるような、そういう望ましい効果があるのではないかと考えています。   すみません、余りうまく伝わっていたかどうか自信がありませんけれども。   最後、第2の5の、一般債権者が差し押さえた場合の担保権者の保護のところは、私も発言しようかと思っていたのですけれども、山本先生がおっしゃっていたことと全くの同意見なので、ここではあえて繰り返しませんけれども、その旨を申し上げておきたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。尾﨑さんの御発言のうち途切れたところを私の理解でまとめますと、個別の財産の処分権限については、通常の事業の範囲で処分ができるというふうな限定が掛かるというのが、それの方がよいだろうと原則的に思われるけれども、事業の継続という概念がかなり柔軟に解されなくてはいけないというのが第1点で、第2が、相手方が善意無過失であったときに保護されるというふうな制度も必要なのではないかという話で、第3番目は、事業担保権者が同意をするというふうなことによって処分権限が付与されるという仕組みも併せて必要なのではないか、とりわけ最後者の部分については、そのようなことがあることによって、今後の事業をどうしていくかということの設定者と事業担保権者との間の話合いのきっかけにもなるという意味を持つのではないか、というお話だったと理解してよろしゅうございましょうか。 ○尾﨑幹事 はい、ほぼそのとおりです。1点だけ、第三者で善意無過失まで求めるのは多分、かえって取引の安全を損なうのかなと思いますので、善意を求めればいいのかなと考えています。 ○道垣内部会長 分かりました、ありがとうございました。 ○山本委員 ありがとうございます。3点、この部分でコメントですけれども、まず1点目は、皆さんが御議論になっている1(1)の管財人の公正中立義務というか、地位の問題ですけれども、私自身は、皆さんが基本的にはかなりコンセンサスがあるかと思いますけれども、そういう理解、つまり、担保権者だけの利益ではなくて、一般債権者も含めた言わば総体的な債権者全体の利益を図る地位にあるという理解がいいのではないかと思っています。   これは私の理解では、恐らく既に企業担保法が企業担保における管財人について、破産管財人についての善管注意義務の規定を準用しているというところで、既に企業担保法はそういう考え方を採っているのではないかと思いますけれども、そういう考え方でよいのかなと思っています。   先ほどの部会長の御疑問を私が正確に理解しているかどうか分かりませんけれども、被告になる場合も訴訟手続の中断、受継が生じるという点ですが、これは事業担保の財産について、例えば、それを構成する財産について引渡請求訴訟等が起きている場合に、その訴訟手続は中断して、それについては事業担保権の中の財産であるので、管財人が管理処分権を取得して受継をするということ、これは基本的に想定されているのかなと思います。   純粋にこの債権調査の手続を作る場合に、債権届出調査について、管財人がその主体としてそれを行うかどうかということについては議論の余地というか、政策判断の余地はあり得るのかなとは思っています。ただ、こういう制度を作るのであれば、私自身はやはり債務者がそれについて何か認否等をするというよりは、管財人が認否をしていくという制度にするのが自然なのかなと思いますし、そうだとすれば結局、その債権について確定訴訟のようなものが起きた場合には、管財人を被告にするという形にするのが自然なような気がしております。この点は、後での債務についての管財人の地位というものとも関係すると思いますけれども、私はそのように考えているということです。   それから、第2点が2(2)に関係するところでありますけれども、この事業担保権の実行開始決定によって他の手続が失効するということで、ここでは、これも企業担保法の規律に倣ったものかと思いますけれども、担保権実行等も含む全ての手続が失効するという形になっているのですが、私自身がやや疑問なのは、事業担保権に優先する担保権、個別担保が存在する場合に、その実行手続もやはり失効するのかということです。これは、普通の担保権実行との理解から行けば、優先する担保権がある場合には、その優先担保権の実行手続の方が劣後する担保権の実行よりは優先しそうな気がします。後からこの事業担保権が付けられたからといって、例えば、その前に付いていた抵当権の実行手続が阻害されるという必然性は必ずしもないように思うということがあります。これも政策判断の問題なのかもしれませんけれども、私自身はこれは優先するところまで失効させる必要はないのではないかと思っています。   その優先する担保権が実行しない場合には、そのまま放っておかれて、それは結局そうすると、事業の譲受人に承継されるということになるのかなとも思うわけですけれども、結局はやはり優先する担保権の被担保債権をどこかの時点で誰かが弁済するしかないと割り切るということになるのかなと思います。民事再生の担保権消滅のような制度を作るということも考えられますけれども、ここでやはり担保権の不可分性を破るというのは、これは必ずしも債務超過とかでない場面、倒産でない場面なので、なかなか難しいような感じがするので、そうすると、もう債務を弁済する、あるいは民法の一般的な制度、抵当権消滅制度、譲受人がやるとか、何かそういうようなことにならざるを得ないのかなと思っていまして、基本的には優先する担保権の実行まで失効させる必要はないのではなかろうかという印象を持っているということです。   最後が、23ページの3の点でありますけれども、基本的には私はこの資料に書かれていることに賛成でありまして、今の倒産の事業譲渡の場合と同じように、少なくとも優先する債務については、これを事業譲受人に承継させるということは可能なのではないかということであります。結局、ここに書かれてあるように、その債務を承継させるということは、その分、事業譲渡の価額は下がるわけですから、その債務に対して優先弁済をするのと同じで、一種の偏頗弁済が行われるということになるわけですけれども、それは実態上優先する債権であれば基本的には問題はないと考えられるのかなと思っています。   理論的には、ここで書かれてあるように、個別の債務を担保の目的と捉えることは困難であるということはそのとおりだと思うのですが、これは先ほど来の議論にありますように、その担保の目的と管財人の地位といいますか権限というのを必ずしもイコールに捉える必要はないのではないかと。結局、担保権の実行として事業譲渡ということが行われるということが想定された手続でありますので、そういう意味では、その事業譲渡、それに基づく一般債権者も含めた事業価値の実現ということ、ゴーイングコンサーンの実現という観点で管財人の地位を考えていけばいいのではないかと思っておりまして、そういう意味では、債務に係る部分についても管財人に一定の権限を認めるということはあり得るのではないか、そこで、先ほど申し上げたように、債権届出等に対して管財人が対応するということを認められるのではないかと思いますし、ここにある債務引受けについて管財人の判断で、先ほどのような制限はあると思いますが、一定の範囲で行うということを認めてもよいのではないかと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。1点だけ山本さんに伺いたいのですが、債権届出みたいな制度で、管財人が確定するというか、そういうふうな、その手続でやるというときに、破産手続が後続的に生じたり、あるいは並行的に生じたりしているときには、それはどういう関係になるというふうな整理になりますでしょうか。 ○山本委員 この点、後の破産との関係でも述べようかと思っていたのですが、私自身の理解は、この事業担保権の実行手続が行われている場合には、原則はやはり破産手続は中止するのではないかと思っていて、ですから、破産手続の申立てがあったとしても、破産手続上の債権調査の手続は原則、進行しないと原則的には理解しています。ただ、例外的に破産も一定程度並行させる、後で出てきます否認権の行使等、破産手続が必要な場面というのもあり得なくはないと思っておりますけれども、その場合も、基本はやはりこの事業担保権の実行手続が行われている場合には、その債権調査、確定の手続は事業担保権の方の手続で賄っていって、破産手続の方の債権調査は言わばお休みをして、そちらに任せるというような形で基本的にはいいのではないかという、十分精査しているわけではないですが、直感的な印象としてはそういうふうに考えています。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。 ○大塚関係官 ありがとうございます。調査員の大塚です。私からは3、事業の一部に対する実行及び個別資産の換価について、まず、前提の確認をさせていただきたいと思います。   (1)、(2)ともに、これは事業担保権者が事業の全部について担保権実行手続を開始するのではなく、そうせずに事業の一部分についてのみ実行手続を開始するであるとか、あるいは個別資産についてのみ実行手続を開始するといったことは認めないと、そういう御趣旨でしょうか。何と混乱しているかというと、事業の全部についての実行手続が開始された後に、管財人は事業の一部だけをどこかに売るとか、あるいは個別資産を換価するということは、これは公正中立義務にかなっていれば、あるいは善管注意義務にかなっていれば、そういったことはできると、そういう御趣旨でよろしいでしょうか。 ○笹井幹事 そこは御理解のとおりで、(1)が事業の一部分について実行開始できるかという問題で、管財人が一部売れるかというのは(2)の問題だということで、そこは説明の15行目以下に記載したとおりです。 ○大塚関係官 管財人が売れるかというのが、例えば資料23ページ辺りの話で、7行目の(2)の部分は、事業担保権者に対してこういった換価を認めることとすれば、と書いてありますので、担保権者の権限として、一部選んで売るということは相当でないということが書かれているように思います。他方、16行目以下の話は、これは必ずしも担保権者の権限という話ではないようにも見えまして、というか、担保権者の権限としてこういうのを認める必要は必ずしもないような気もいたしまして、管財人がそれこそ権利関係なんかを整理して事業を譲渡するということを可能にすれば、もちろんそこに裁判所の許可うんぬんが必要かというのはありますけれども、という議論とも読むことができますので、どういう前提なのかということをお聞きしたかったという次第です。 ○笹井幹事 売るのは管財人ですね、いずれにしても管財人が売る。 ○大塚関係官 それはもちろんそうなのですけれども、個別資産のみ売るという実行手続を開始できないという意味ですよね。 ○笹井幹事 それが(1)の方です。 ○大塚関係官 (2)はどういう。すみません、理解できていないのですけれども。 ○道垣内部会長 (1)というのが、そもそも実行を一部についてするという手続で、(2)は、実行手続が全体について起こったときに、ある種、断捨離とか整理とかのために、一部のものを事業譲渡の対象から外すべく、個別的に整理をするというのが認められるという話なので、(2)は全部について実行手続が起こっているのですよ。(1)は、それが一部についてだけ起こすというのは認めない方がいいのではないかというのが(1)の話、そういう区別なのです。 ○大塚関係官 そこまでは分かりました。その上で、(2)というのが、これは管財人の決定によってということ、管財人の権限によってということにすぎないということですか。つまり、説明の中の、先ほど申し上げました23ページの7行目辺りは、事業担保権者に対して、個別資産の換価という権限を認めるというような書きぶりのように読めてしまったので、混乱していたのですが、これは手続内で管財人が個別資産の換価を認めるかどうかという議論ということでよろしいですか。 ○笹井幹事 それで結構です。ただ、最終的に裁判所の許可に委ねられるというような制限は付くかもしれませんけれども、ここで事業譲渡担保権者にと7行目に書いたのは、それは担保の効力としてというような趣旨で書いたものなので、最終的に実際に何を売るとか、この部分だけを売るとか売らないとかというのは、まずは管財人において判断をして、その上で、それがいいのか悪いのかというのは最終的にはもしかすると裁判所の判断に委ねられるかもしれませんけれども、そういう趣旨です。 ○大塚関係官 なるほど。すみません、しつこく確認ですけれども、事業担保権者が担保権実行手続、事業全部についての実行手続の中で、これを売ってくれと管財人に指示すること、そういった権限はないということでよろしいですか。 ○笹井幹事 そうです、そういうことはしておりません。 ○大塚関係官 ありがとうございました。 ○片山委員 ありがとうございます。慶應大学の片山でございます。先ほど尾﨑幹事の御発言の中にも同趣旨の御発言があったかもしれませんが、21ページの2(1)の管財人の管理処分権限の話なのですけれども、ここで管財人に総財産の管理処分権が全部専属するという点であります。   というのは、当然、事業自体は継続をして、在庫の処分なども続けながら事業譲渡を計画していくということなのでしょうが、その間の事業との全てについて、管財人の名義で行うということになるのか、それとも、通常の営業の範囲で行っている事業は債務者、事業者の名義で行うことができるのかという点です。逆に、全て管財人名義でということですと、事業を行うに際して新たに契約を締結するということになりますが、それも管財人の名義で行うということになるのか。そうすると、それは総財産の管理処分権とはまた異なるものが含まれるということになるのかもしれません。   そうすると、ここでいう管理処分権というのは、飽くまでも事業譲渡に向けた総財産の管理処分権にとどまるのか、それとも、債務者の事業全体の権限が管財人に与えられているということなのか、その辺りが確認をできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○笹井幹事 想定しておりましたのは、先生がおっしゃった二つのことでいうと、事業譲渡に向けて何か限定された管理処分権があるというよりは、もうその債務者というか設定者の財産全体についての管理処分権が専属しているのだと、したがって、名義というところがもしかすると少し私の理解が間違っているかもしれませんけれども、事業全体の継続というのも、管財人の管理処分権の下で行われるということになると思います。その法的な構成は、想定しておりましたのは、破産とか倒産手続において事業継続される場合、破産手続においても管財人の下で事業を継続する場合もありますけれども、それと同じようなことを想定しておりました。そういう意味では、契約関係というのは、基本的には法人としては一応、同一性を保っていると理解をしておりまして、ただ、その経営の意思決定の権限というのは、取締役とかそういうところではなくて、管財人の方に移っていくと理解をしておりました。 ○片山委員 どうもありがとうございます。先ほど尾﨑幹事の御発言の中で、私の勘違いかもしれませんけれども、事業はやはり継続されるのだから、実行手続になった後も、いわゆる通常の営業の範囲については事業者に処分権限が残るということが括弧で含意されているということでは決してないということですね、そうしますと。 ○笹井幹事 そうですね、通常の事業の継続について何らかの権限が設定者に残っているわけではないと考えておりました。ただ、通常の営業の範囲で事業を継続していくことは、事業の価値を維持するためにスムーズにできないといけませんので、通常の営業の範囲でやっていく分には、裁判所の許可も必要なく、管財人の管理処分権に基づいて事業が継続していくと、そういう理解でございます。 ○片山委員 どうもありがとうございました。よく分かりました。 ○道垣内部会長 別に、そういう趣旨だというだけで、そうではなくて設定者に残しておくべきだという御発言というか御意見があるならば、それはそれでも十分あり得る見解だと思いますので、御発言いただければと思います。 ○村上委員 ありがとうございます。連合の村上です。22ページの3の個別資産の換価の可否の部分と、その次の4の承継の可否について述べたいと思います。   まず、個別資産の換価の可否の部分は、先ほど大塚幹事との間のやり取りがありましたが、私もきちんとここを理解できていないのかもしれないという前提で、意見を申し上げたいと思います。個別資産の換価を認めるか否かというところで、個別資産の換価を認める場合の制約について32行目の後半で記載がございます。事業にとって必要性が乏しいなど、事業譲渡の対象としないことに合理的な理由がある個別資産の換価を許可することができるものとすることとございます。ただ、これは結局、個別資産とは言いつつも、採算のよい事業のみ事業譲渡の対象として、不採算の事業については清算するということになりはしないかという懸念を持っております。従前から、事業譲渡から排除された労働者の救済が困難であるということは何度も申し上げてきているところであります。個別の担保の換価といっても、そこには労働者の生活があるという点は是非踏まえていただければと思います。契約上の地位のところでも申し上げましたように、現行の事業譲渡においては問題となっている労働契約の承継などの点がございまして、そういったものをそのままにして制度設計するということについて大きな問題があると考えております。労働者保護を図るための法制化とセットでの検討ということが必要だと考えております。   また、4の債務の承継についての点です。こちらでは、当該債権に係る債務を引き受けることが買受人による事業の継続にとって有益である場合には、債務を引き受けられるものとすることが望ましいと考えられるとございます。こちらについて労働者の立場からは、譲渡会社との間での、例えば未払い残業代などの未払い賃金があったときに、その債務は承継されるのかという点が問題になるかと思います。もちろん先に弁済していただければ、それはそれでよろしいのですが、そうでない場合に、個々の労働者が承継の場面で未払いの労働債権を含めて買受けの会社に交渉できるのかということは、なかなか難しいことだと思っております。こうした交渉力の弱さを踏まえれば、労働債権については承継していただくことが必要と考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○青木(哲)幹事 ありがとうございます。神戸大学の青木でございます。少し話が戻ってしまって申し訳ないのですが、部会資料第3の1、裁判上の実行の概要の、特に、他の債権の処理についてで、事業担保権の裁判上の実行手続の要件なのですけれども、被担保債権の債務不履行があれば実行手続を開始できるということなのか、それとも、追加して設定者が倒産状態にあることが要件となるのかについて、前提のところを確認させていただければと思います。   倒産手続とは別に担保権の実行を認めるということなので、恐らく債務不履行であれば実行でき、しかし実際には倒産状態にあるという場面が想定されているのだと思うのですけれども、これも既に指摘されていますが、資産が十分にあるけれども何らかの理由で事業担保権者への弁済がされずに事業担保権が実行されるということも理論上は考えられるかと思います。このような場合に、一般債権者への弁済が制約されるということを実質的に正当化できるのかということが気になりました。そのような場合に、先ほど井上委員が優先債権についておっしゃったことですけれども、管財人が一般債権者に随時弁済していくというようなことも考えられるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○加藤幹事 幹事の加藤です。先ほどの村上委員の御意見と関連するのですけれども、事業担保権の実行手続が終わった後に何が会社に残るのかという点を確認した方がよいと思いました。当然、全資産は譲渡する、その譲渡の方法については、要は個別換価ということはあるけれども、できるだけまとまった形で事業として譲渡するということが想定されていると理解しております。その際、契約関係がどうなるかということなのですけれども、契約上の地位の移転については結局、相手方の同意がなければ移転できないということを、前提とするのでしょうか。ただ、実際にはもう会社には何も残らないということになると、相手方は契約上の地位の移転に同意した方がいい場合が多いように思います。一方、全資産の譲渡が原則とされているのであるから、管財人は設定者が有する契約上の地位を全て移転することを目指すべきであり、この点について管財人に裁量はないという理解でよろしいのか、確認させて下さい。 ○笹井幹事 これは22ページの3というところに関わることですけれども、全ての財産が担保権の目的になっていて、その制度の趣旨からすると、それを全体として売却することによって、事業として、ばら売りするよりは高い価値で換価するということが目指されていることからすると、管財人が切り分けて選択をする余地というのは原則としてはないというのが、原則になるのだと思います。   ただ、それはそういう形ではもう買手が現れないということもあり得るので、そこで、22ページの3(2)のような形で一部分を売却するということを認めているわけですが、ここはそういう原則からの乖離ということを考えて、一部分おいしいところだけをつまみ出すということについては、裁判所の許可などの制限といいますか、要件を必要とすべきではないかというのが資料の全体の立場になっております。   そういう意味では、契約上の地位も基本的には同じだと考えております。したがって、契約上の地位についても、基本的には管財人が何か、これとこれだけは持って行くということの選択はできなくて、ただ、ここは前回以来、村上委員などからの御指摘もあるところですが、現時点でのこの資料の立場としては特定承継だと考えているので、そこは個別の相手方の同意がなければ現実には移転しないということになりますから、相手方が同意しなければ残るということになります。ただ、総財産が譲渡されて実際に移ってしまうと設定者には何も残らないので、同意をして移転をしていく方が合理的な判断になることが多いのではないかと考えております。   一つ前の、青木先生から御質問があったかと思います。その点については青木先生の御指摘のとおりで、債務不履行があれば実行としてはできる、ただ、ここも御指摘のとおりで、とはいえ、理論的にはそういう場合はあるかもしれませんけれども、ほとんどの場合は倒産状態に至っていることが多いだろうと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかにございますでしょうか。 ○青山幹事 今、村上委員、加藤幹事、笹井幹事の話があった点、当方も非常に気になっておりました。笹井幹事のおっしゃるように、今回の事業担保の趣旨、実行の考え方からいうと、やはり事業の全体、契約上の地位も含めて移転するということが原則なのだろうと思います。特定承継を想定しているならば、その規律は生きるとは思うのですけれども、労働契約であれば労働者の同意は引き続き必要なのだろうと思っております。   確かに気になるのが、事業譲渡されても法人としては残るというときに、承継される労働者には同意は求められるのですけれども、承継されない労働者は同意を求められずに残される、言わば不承継の不利益といったことが生じ得ることがあります。これは現在の事業譲渡でもある問題で、解雇権濫用法理とか、法人格否認の法理とかで司法において救済されている部分があり、そういうことの周知は必要かなと思っております。いずれにしても、実行はそういう事業譲渡を想定しているということがあるので、その際には労働組合等との協議といった手続を検討するということが必要かと思っております。ばら売りというのは排除し切れないというふうに捉えましたので、やはりそこは手続的にはよく検討していかなければいけないと思っております。管財人にそういう権限があるのかなと思っていたのですけれども、そういう整理をされるのであれば、やはりそれを前提とした手続は重要かと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに何かございませんでしょうか。   4の債務の承継についても特に、皆さん大体、原則としては理屈上は可能だろうという話だったと理解しておりますが、その点は別に御異論はないと考えてよろしゅうございますか。   それでは、また5とか6のところ、ここは非常に全体として密接に関係しておりますので、次の塊に移りましても、前のところを議論していただかなければいけない可能性が十分にございますので、議論としては先に進めさせていただきまして、第3のうち「5 他の債権者及び株主の保護」というのと、「6 換価の効果」というところに進みたいと思います。   まず、事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○工藤関係官 それでは、25ページの「5 他の債権者及び株主の保護」について御説明いたします。事業担保権の裁判上の実行においては、事業譲渡は事業担保権者以外の債権者に対する弁済率を左右し、その利害に重大な影響を及ぼすと考えられるため、その利益を保護するために、一定の手続を踏むことを求めるのが相当であると考えられます。他方で、時間の経過によって事業価値の毀損が拡大するおそれがあることから、事業譲渡を迅速に実現する必要もあります。そこで、事業担保権の裁判上の実行による事業譲渡については、裁判所の許可を要するものとすることが考えられますが、他方で、裁判所が事業譲渡の必要性及び相当性を審査することは容易ではないようにも思われますので、いかなる方法によって事業譲渡の対価の公正さを確保して事業担保権者以外の債権者を保護すべきかについて、問題提起しております。   また、事業担保権の実行として事業譲渡がされる場合に、会社法の原則に従って株主総会決議を要するものとするか否かが問題となりますが、株主総会決議には一定の時間を要するところ、事業譲渡は迅速に実現する必要があることから、株主総会決議を不要とする必要性は大きいと考えられます。この点については、破産法、民事再生法及び会社更生法がそれぞれ異なる規律を設けていることから、各手続における規律の趣旨及び内容も踏まえつつ、株主総会決議の要否並びに不要とする場合の代替手続の要否及び内容を検討する必要があるものと考えられます。   次に、28ページの「6 換価の効果」について御説明いたします。ここでは、企業担保法と同様に、会社の総財産は代金の支払があったときに買受人に移転するものとすることを提案しています。この点については、雇用契約等の契約上の地位の移転に関して、事業譲渡は特定承継であって個別の権利義務の移転行為の集積と捉えられることから、事業担保権の実行による契約上の地位の移転についても契約の相手方の同意が必要となるものと考えられますが、これを不要とすることが考えられるかどうかという点や、営業上の秘密や技術上の秘密などの事実上の利益に関して、現行法上の強制執行によってこれを移転させることが困難であることをどのように考えるかという点を問題提起しております。   また、事業に関する行政庁の許認可等について、事業担保権の実行による事業譲渡がされた場合には、買受人の下で事業を継続することが予定されており、許認可等が買受人に承継されることが望ましいことから、企業担保法と同様に、他の法令に別段の定めがない限り、許認可等が買受人に承継されるものとすることを提案しています。   以上について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございます。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○松下委員 松下です。5の他の債権者、株主の保護のところで、資料の26ページでは6行目で、裁判所の許可を得なければいけないという御提案がされています。15行目以下で、許可決定に対して不服申立てできるかという点の記載があるのですけれども、法律の倒産手続の場合には不服申立てが認められていない、それは倒産事件が係属する裁判所にしか分からず、抗告審の判断を仰ぐのになじまない性質だと、そういう説明がされてきたということを引用した上で、この事業担保権の実行方法としての裁判上の実行手続では、手続の係属する裁判所ですら設定者の事業を十分に把握していないのだとすると、ということで、不服申立ての機会を否定する理由が乏しいとつながっているのですが、ここが理由になっているのかどうか、私はよく分かりませんでした。   つまり、状況としては原審も抗告審も事件全体を十分に把握していないということなので、そもそも裁判所の許可は不適切だとつながるなら分かるのですけれども、分かっていない人が許可決定したのだから、同じく分かっていない人に再度の判断をさせる、抗告審の判断をさせるというのは理由になっていないような気がして、これは説明としては、少し理解し難いと思った次第です。   確かに単発で裁判所の許可を求められて、裁判所が事情を十分に把握できていないというのはあるかもしれませんけれども、この場合にはやむを得ないのではないかと思います。例えば社債権者集会の決議の認可みたいに、飛び込みで来るものだってほかにも例はあるわけで、裁判所の許可は得なければいけないとして、しかし不服申立てまでさせるかというのは、また別の問題で、確定しなければ効力が生じないというのだったら時間がかかって適切ではないですし、確定しなくても効力が生ずるにしては実体的な効果が大きすぎるような気がします。いずれにしても、裁判所の許可は要るが不服申立ては要らないという仕組みがよろしいのではないかと考えた次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。御指摘になられたところの論理が少しおかしいというのはおっしゃるとおりのような気がいたしますけれども、その上で、不服申立てができることを原則と見ることによって、原則を動かす理由がないと考えるのか、それとも、不服申立てまでは認めなくていいのではないかというふうなのが一つの判断の分かれ道として残るのかもしれないと思いますけれども、何かございますか。別によろしゅうございますか。 ○大西委員 5番のところに、裁判所の許可を要するとした場合、裁判所の判断が容易でないと書かれているとは思いますが、事業担保権の実行の申し立てがあったときは、申し立て段階で一定の資料が提出され、管財人は、当該資料をベースとして更に事業自体を調査する権限があるはずですので、そこでの調査と、場合によっては短期ですけれども調査委員か何かを選任して、当該許可を出すかどうかの合理性について調査報告を提出させることも可能です。また、限られた時間の中で入札手続を執るなどによって、一定の判断の合理性を裁判所の方で判断することは可能なのではないかと思います。   それから、2点目は株主総会のところですが、これも結論としては、設定時及び実行時、いずれも不要とすべきだと思います。特に設定時は、28ページに記載のあるように、債務超過に至っていない場合は議決権3分の1を超えるうんぬんとの案も書かれているのですが、恐らく設定時は債務超過でない場合が多いので、ここで株主総会を必要とすると、なかなかこの担保制度を利用しにくい場合も多いと思います。また、実行時は、債務超過の場合も多いですが、実行時に総会決議というのは現実的ではありません。もし、担保権実行時に株主総会を要するとすると、担保権者にとって、担保自体の価値を見られないことにもつながります。よって、いずれの場合も株主総会は不要とすべきと思います。これは、すみません、理論というよりは必要性だけを申し上げました。   それから、もう1点、6番の換価の効果のところで、これは前回も申し上げましたとおり、やはり包括承継によって契約上の地位が移転すること、そして免許等を承継できること、等が認められることによって、この担保権の実行を円滑にすることが保障されます。このことは、担保権者である金融機関が、事業担保権の担保価値を評価するために重要な要素であると思っておりますので、この点も是非認めるべきと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阪口幹事 私も5番のところです。前回、設定時に総会決議があった方がいいというのが私の意見でしたけれども、仮にそうしないとしても、例えば、設定時に総会決議を得ていたら実行時には要らないという規律というのも十分考えられるのではないか。言わば事業譲渡予約みたいなものについて設定時に決議を受けているのだから、実行時には債務超過になっているか否かと関係なく一切株主保護手続は要らないという一つのバランスの取り方というのはあるだろうと思います。また、仮にそうだとすると多分、実際の金融機関の実務としては、設定時に全部決議を取ってくれという話になるのではないのかとも思っていて、そうすると、設定時の段階で総会決議を要求してもほとんど問題ないのではないかと私個人は思っています。   とにかく、実行時に何らかの手続が要るというのは非常に大変です。もちろん実行自身、ほとんど想定されない手続ではあるけれども、やはり実行時に時間が掛かるようなことがあったり、若しくは何か手続的に負担があるとなると、やはりそこはマイナスですので、手続がないようにしたい、そのバランスについて、債務超過でないときになぜそれが説明できるのかということを考えたら、設定時に決議があればいいというぐらいのところかなと思っています。 ○日比野委員 ありがとうございます。今、阪口先生の方からお話がございましたので、金融機関としてどのように考えるのかというところを、一言述べさせていただきます。まず、株主総会決議のところですけれども、理論上、設定時、実行時ともに不要であるということで処理が付くのであれば、それに越したことはないと考えておりますけれども、何かしらの形で必要だろうということになるのであれば、阪口先生のおっしゃるとおり、設定時のところで株主総会の決議、あるいは何らかの株主の同意というプロセスを踏むということによって、実行時のところではそれを不要とするというアレンジメントの方が金融機関としては望ましいと思っております。特に、実行時となると、スピードが要求されると同時に不確実性がどうしても生じる場面と思いますので、そのような要素はできるだけ整理をした上で、スムーズに手続を進めるということが事業価値を維持するという最終目的にかなうものであると考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○村上委員 ありがとうございます。6の換価の効果のところでございます。前回、包括承継のスキームについては賛否を留保しますと申し上げたのですが、2週間いろいろ考えまして、やはり事業譲渡における現在の特定承継の問題を踏まえますと、契約上の地位が当然に移転する法的構成が望ましいと考えます。その際、資料にもありますが、会社分割に伴う労働契約承継法と同様の手続は必要だと考えておりますし、労働協約についても承継されることが必要だと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○山本委員 1点は5のところで、先ほど来御議論があるところですけれども、裁判所の許可というところです。基本的には資料に書いてあるとおりで、裁判所もなかなか大変だろうなという感じはするのですけれども、しかし、ほかに正当性を担保するような代替する方途はなかなか見付け難いところはあるかなとは思っておりまして、その情報をどこまで取れるようにするか。管財人については一般的に、裁判所のやはり監督権というのが認められるのだろうと思いますけれども、そのことと関係して、どういうような報告等を求めていく、説明を求めていくのかということについてはよく考えないといけないかと思いますけれども、やはりこの裁判所の許可で担保せざるを得ないだろうと思っています。   ほかの方法によってということですけれども、ほかの方法というのはやはりなかなかなくて、企業担保法は恐らく入札ということを原則として想定しているということだと思いますが、これはやはり恐らくうまくはいかないのだろうと、これは倒産のときの事業譲渡で、いわゆるお台場アプローチといわれるようなものがあって、ビットを基本的に原則としていこうというようなことが一時期、言われたことはあったと思うのですけれども、かなりの大企業で引手あまたのところであればともかく、基本的には倒産しているようなところですから、しかも地方の中小企業まで範囲を広げるということになると、やはり常にビットでそれを担保していくということはなかなか難しいのだろうと。ビットがもちろんできる場合は、それをした方がいいというところはあるのかもしれませんけれども、法律上やはりそれを要求するということは難しくて、そうすると結局はやはり裁判所のケース・バイ・ケースの判断ということにならざるを得ないのかなと思っています。   不服申立てのところは松下さんが言われたとおりで、ただ、どちらもあり得るのだろうとは思います。結局はこの事業譲渡の迅速性といいますか、それを重視するのか、先ほど、よく分からない人が判断するのはどうかということだったですが、よく分からない人であっても、同じ資料を見て、2段階でその判断をするという可能性を作っておくのかというところかと思います。私自身はどちらもあり得るかなということで、必ずしも定見は今の段階ではありません。   それから、6のところですけれども、6の2は当然、それは認めていいと思うのですが、1のところで書かれている契約上の地位の譲渡で相手方の同意を不要とするという構想であるとか、あるいは電子マネー等についてのキーエスクロー等の必要性というようなお話ですけれども、これは私は両方とも、それは非常に議論する必要がある問題だろうとは思います。契約上の地位の譲渡についても、私は確か債権法改正のときに、このような可能性というのを認めるべき場合というのはあるのではないかということを発言していた記憶がありますけれども、議論をする必要はあると思うのですけれども、前者はやはり倒産法、倒産手続における事業譲渡も含めた、かなり広い射程の問題だと思いますし、後者は結局、電子マネー等に対する強制執行、暗号資産とかも含むのかもしれませんが、それに対する強制執行の在り方という民事執行法のかなり基本的なところに関わる問題であって、このフォーラムがそれを議論するに適当な場所なのかということについては、私自身は必ずしも確信が持てないところがあります。ですから、そういう意味では、問題の必要性というのはテイクノートしておく必要はあるかと思いますけれども、ここで結論を出すということについては、私自身は必ずしも積極的な感じではないということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○加藤幹事 幹事の加藤です。5について、事業担保権の実行として事業譲渡を行う場合に、株主の保護の仕組みとしてどのようなものを考えるかということについて意見を述べます。   まず、資料では事業担保権の実行として行われる事業譲渡は通常の事業譲渡と同じように扱うべきであるという前提に立っていると思うのですけれども、そのような前提が本当に正しいのか疑問があります。   通常の事業譲渡は、取締役会が事業譲渡を株主総会に提案するという形で取引は経過していきますが、経営に関与していない一般株主にとっては不意打ちである場合が多いと思います。一方、事業担保権の場合、事業担保権が設定されているという情報は、これは前回の会議で申し上げましたけれども、開示されているのであれば、当然、株主としては会社の状況などを見つつ、事業担保権が実行されて事業譲渡がされる可能性の程度を考えながら、会社の経営に対して様々な措置を講じる機会が存在したと評価できます。したがって、事業担保権の実行としての事業譲渡を妨げることができる機会が十分にあったことを前提とした上で、実行段階での株主保護を考えることが望ましいと思います。   さらに、先ほど議論がありましたとおり、管財人の職務は、担保権者の利益ではなくて、事業を最も高い値段で売るということであれば、株主にとっても利益になります。そうしますと、株主の利益を保護するために株主総会決議を要求する必要性は高くはないと私は考えております。   さらに、もう1点、一種の政策的、様々な利害調整の方法として、設定時に株主総会決議を要求することにより実行時は要求しないという考え方も、私はあり得ると思います。ただ、その場合に、では設定時に何について株主総会の決議を要求するのかということも考える必要があると思います。現在の467条の株主総会決議では、事業譲渡の契約について承認が必要とされています。実際に事業担保権を設定する際に、どこまで詳しい内容の事項を株主に提示できるかというと、私は余り提示できないのではないかという気がしております。設定段階で株主総会決議を要求する代わり実行時には要求しないという立場については、設定時に何について株主の意思を問うのかということを、この制度の使いやすさと意味のある株主保護を考えるという観点から、慎重に検討する必要があると思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。非常に重要な点だろうと思います。 ○青山幹事 青山です。3点ほど申し上げます。   1点目は、非常に細かい話にはなってしまうのですけれども、こういう点も考えた方がいいという趣旨なのですけれども、5の1のほかの債権者を保護する方法で、(1)の1、2行目に、破産手続における事業譲渡に対する裁判所の許可についての労働組合等の意見等の手続が紹介されていまして、それも踏まえて検討が必要となっているのですけれども、これはこのとおりの議論なのだろうとは思いますけれども、ごめんなさい、第3の1の辺りで申し上げなければいけなかったのかもしれませんが、それに関連して、実行開始手続も裁判所が決定する前提なのだと思うのですけれども、例えば今の破産法でも、開始手続の際に裁判所が公告等をして、その際には知れている債権者とか労働組合等への通知が定められていますので、同様の検討も手続の話として必要かと思いました。これが1点目です。   2点目の、6の換価の効果の1の財産権の移転の、28ページ目の(2)にあるような、雇用契約上の地位の移転で特定承継か包括承継かという話につきましては、先ほど別のところの同じような論点で私は、特定承継という話だったので、それを前提に話をしましたけれども、ここは両方のお考えがあることは分かりましたし、それぞれある御議論なのだと思います。   包括承継、特に部分的包括承継である会社法上の会社分割については、労働者保護のための法律を別途設けておりますが、ただ、その法律というのは部分的包括承継ということで、会社が分割して承継されて、分割契約に労働者が書かれるか書かれないか、あと、事業に主に従事しているか否かで不利益、利益の度合いが違うので、一定の労働者に異議申立権を認めようなど、部分的包括承継であることによる保護の規定もあったりしまして、その点、今回の事業担保の実行による事業譲渡は基本的に事業全部を想定していますので、合併に近いのか分かりませんけれども、その法的性質をよく考えて、それに応じた労働者保護の規律も我々も考えていかなければいけないと思います。   さらに、いずれにしても、今後のために一定の労働者の理解と協力を得る措置というのは、何らかのことはどういう法律構成を採るにしても必要かと思いますし、特定承継なら尚更、先ほど一部御意見がありましたけれども、労働者の同意が必要だという今の規律は当然維持されるべきものと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。その点も留意して進めるべきだろうと思います。 ○尾﨑幹事 株主総会決議の点ですけれども、実行時については既にいろいろな御意見があるように、株主としてそもそもオプションが狭くなっているということもそうですし、事業価値の維持のために迅速な対応が必要だということもあって、不要にすべきだろうと考えています。   設定時についても、正に資金調達に関わる話ですので、経営上の必要に応じて機動的にやる必要性が非常に高いということと、それから、今正に加藤先生がおっしゃったように、設定時において何を株主に問うのかという点がやはり明確でないだろうと思います。具体的な、どういう価格で譲渡するのかとか誰に譲渡するのか、そういったようなことが分からない段階で漠然と、事業担保権を設定しますと、そして将来何らかの形で実行されれば事業譲渡が起こりますということなのですが、多額の借財をして、それを払えず、かつ何らかの形で債務の整理がうまくいかなければ、事業譲渡が必要になる可能性が当然出てくることと同様に捉えることができるところ、多額の借財が株主総会の決議事項となっていないこととの整合性なども考えて、これについても総会決議は不要とすべきだろうと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに。私からも1、2点あるのですが、まず、5なのですが、あるいは後からの裁判外での実行のところで発言すべきなのかもしれないのですが、通常の事業譲渡のとき、通常というのは事業担保権とは無関係の事業譲渡のときには、対価のコントロールってどういうふうにして行われるのですか。対価の適切性、債権者や株主、株主については、それは総会決議を取るから。他の債権者にとっては、詐害行為取消の問題ですか。   何が言いたいかというと、今までの大西さんなどの御意見も含めまして、管財人が出てくるという形の実行局面というのが限定されていて、それ以前に債務不履行が生じて、いろいろな交渉が起こって、任意に事業を譲渡しましょうというのが本則になるでしょうということになったときに、そのときは実行そのものではないのだから裁判所の許可なんか要らないよねというふうなことで、通常の平場の譲渡の規律に戻すならば、管財人が出てきた場合との差が大きすぎやしませんかという感じがして、任意売却であっても事業担保権に基づく事業譲渡であるということになったならば、管財人が出てくるような場合と同じような規律が出てくると考えるのか、何かその辺りを、管財人が出てきたというオフィシャルな実行のときだけを考えるのではなくて、それに近いような、しかし実は任意的な手続でやられているという場合とのバランスを考えて制度設計しなければいけないのではないかという気が少ししたものですから、伺ったのですが、何か御意見ありますか。 ○笹井幹事 そこはまた宿題ということで、検討させていただきます。 ○道垣内部会長 もう1点は、換価の効果のところで、許認可とかが引き継がれるよねということで、みんないいよねとおっしゃっているのですが、他の法令に禁止又は制限の定めがある場合を除いてということの解釈が問題です。全ての許認可に関するいろいろな法令が、こういうふうな譲渡の場合を考えて、制限の定めとか禁止の定めというのを置いて、きちんと全部判断して明文の規定を置いているというのならば、これでいいのだけれども、多分そうではないような許認可の手続も一杯あるのではないかという気がしまして、そうすると、解釈論として、移転を認める趣旨のものなのか、そうではないのかというのが出てこざるを得ないような気がするのです。しかるに、そこを、定めのある場合を除いてというふうな明示の定めみたいな書き方をすると、かえって窮屈になってくるというか、そういう感じがして、ここは多分に解釈論でやらなければいけないところが結構あるのではないかと思います。企業担保法44条2項には、確かに他の法令に禁止又は制限の定めがある場合を除いて移転すると書いているのですが、それは企業担保法が事実として実行されないから、それほど問題にならないだけであって、実際に実行されてくるということになると、解釈で当該許認可や免許の趣旨というものを評価して対応せざるを得ないのではないかという気がします。これも感想ですから返答は結構です。 ○加藤幹事 幹事の加藤です。ただ今の部会長の第1点目の御指摘に関連して、担保権の私的実行として平場で事業譲渡が行われる場合に他の債権者の保護はどうなっているのかという話について、現在の会社法の規律を御紹介させて下さい。会社法の23条の2に詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求という規定がありまして、この規定は、いわゆる残存債権者と呼ばれる会社に取り残される債権者の保護のための規定であります。ですから、正に今、部会長がおっしゃったような状況に適用される可能性がある規定だと思います。   この規定は、非常に一般的な規定になっておりまして、残存債権者を害することを知って事業を譲渡した場合に、残存債権者が移転先に対して一定の範囲で債務の履行を請求できるという規定です。この残存債権者を害することを知ってというのは、解釈の余地があり、例えば、事業担保権が設定されているということを言わば考慮した上で、この残存債権者を害することを知ってということをうまく解釈すれば、一定のコントロールはできるように思います。   あと、もう一つ、平場ではまだ株主の持分が経済的な意味で残っているのであれば、株主が自分たちの下に何も残らないような形での処分の価格に同意することはないだろうということも規律として働くと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。けれども、株主がそれは同意をするというのが前提なのですが、株主は設定時にも同意は要らないだろう、いわんや処分時には同意は要らないと、株主総会の決議は要らないというふうにしますと、任意譲渡の場合はそうではありませんよねと言ったって、これは事業担保権に基づく私的実行としての任意譲渡ですから、やはり管財人が出てきた場合の譲渡にかなり性質的には近いはずで、単純な本当の平場の事業譲渡とは違うのだと思うのです。そのときには株主総会の決議が必要ですなどというと、皆さんがおっしゃっているような、それは迅速性を欠くではないか、面倒ではないか、何とかかんとかという問題は、ほとんどの場合クリアされないというか、問題が生じるままになってしまうのではないかという気がして、その辺、少し私もまだ頭の中が整理ができていない状態にあるということなのですが、これも私の感想ですので、また検討していただきたいと思います。 ○大西委員 今、部会長がおっしゃられたことで、先ほど私に質問していただいた真意が今よく分かりました。先ほどの御議論ですと、要するに、実行時に総会決議等があるのはワークしないという大前提と、現実的には法的実行というのはごく限られた場合でしか行われず、多くの場合は裁判外で私的に行われるという前提に立って考えます。その場合、後の9で出てくる裁判外の実行ですか、総会決議を要する平場での通常の事業譲渡でない事業担保権実行としての私的実行において、総会決議を要しないということと、包括承継や許認可の継承等の特典があるのであれば、担保権実行に基づく事業譲渡が円滑になされ、担保権の価値を高めることになります。よって、この点は、非常に重要な点かなと改めて思いましたので、コメントさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。そうすると、私的実行というのと単純な平場の譲渡というのをどういうふうに分けるのかというのが問題になってくるので、そのトリガーイベントみたいなものをどういうふうに考えるのかというのが問題になるのではないかというのを、2時間ぐらい前に申し上げたわけなのですけれども、そういうわけです。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。立教大学の藤澤です。道垣内先生の方から、事業担保の私的実行としての任意売却と、それから法的実行との比較、連続性のお話がありましたので、これを抵当件と比べて考えてみたらどうかなと思いました。抵当権のような担保物権でも、任意売却によって不動産が処分されて、それによって三者間の合意で抵当を権抹消するというようなことはあると思うのですけれども、その際には法的実行手続とは違って、例えば最低競売価格みたいなもの、最低売却価格みたいなものを決めるわけではありませんし、他の債権者がベストの値段で売られたかどうかということを担保するような制度はなくて、文句があるのだったら、例えば詐害行為取消権とかを行使せざるを得ないというような状況かなと思います。これがいいのだとすると、事業担保の私的実行としての任意売却の際に、そういった他の債権者の保護として何らかの制度が必要だと考えるのならば、それは何でなのかということを抵当権との比較で考えることもあり得るのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○片山委員 慶応義塾大学の片山です。どうもありがとうございます。先ほどの部会長の御発言とも関連するのかもしれませんが、法的な実行のときに、包括承継に近いような形で全ての契約等がそのまま承継されるという大前提でこの実行制度を制度設計してしまったときに、それで果たしてうまくワークするのか、買受人が付いてくれるのかという点が若干心配なところもございます。個別承継のように考えていって、ある程度取捨選択しながらスマートにする形で譲渡ができるというような余地があった方が、買受人が更に付きやすくなるのではないかとは思いました。ただ、労働債権者というだけではなく契約の、労働契約者ですかね、労働者の保護等も当然考えなければいけませんから、その辺りの保護の問題はあるのでしょうが、包括承継なので全部承継だという前提をスタートとするということになると、実際にやはり買手が付かないという状況が多く出てしまうのではないかということが懸念されるように思われます。実際の実務を知りませんので、感想程度にとどまりますが、一応、危惧は抱いているという点を述べさせていただきました。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに、ここまでで御意見はございますでしょうか。 ○大西委員 今の片山先生の御懸念に関してのコメントなのですが、多分ケースバイケースだと思います。一つは、単一の事業で事業自体は魅力がある場合は、オフィスの賃貸借、工場の賃貸借とか、取引先との重要な契約といような契約上の地位が承継されないと価値がないため、包括承継は買受人として好ましいと制度だと思われます。ただ、おっしゃるケースというのは多分、事業全部の担保権実行の手続をしたのだけれども、事業価値の乏しい事業が複数含まれているため、結果として、事業がばら売りしかできないようなケースも実際的にはあると思います。   そういうときに、全部包括承継ではない限り一切何もできないという論理になると、ワークしないことになるかと思います。実際に会社更生等の法的倒産の場合でも、更生計画自体が事業ごとにスポンサーが決まるというケースは実例がありますので、現実にこういう再生に近い会社の場合は、全ての包括承継ではない手続きも採りうることにすべきかと思います。包括承継の方が妥当な場合も妥当でない場合もありますので、その辺の整理が少し必要かと思います。   私も今、具体的にアイデアがあるわけではないのですが、第2の3(2)では個別資産の換価の議論があるのですが、実際に全部の担保権実行手続きが始まったとしても、一部譲渡や異なるスポンサーに譲渡するケースも存在しますので、このような場合は、片山先生の御懸念が妥当する場合かと思います。この点は、改めて整理をすべきかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   いかがでしょうか。開始しまして2時間35分たっておりまして、長くやりすぎているのですけれども、もしここまでのところで一旦御議論がないということでございましたら、15分程度休憩を入れさせていただきたいと思うのですが、よろしゅうございますか。   それでは、少し長くなりましたので、少し休憩を長めにいたしまして、4時20分再開ということにさせていただければと思います。4時20分にお戻りいただければと思います。よろしくお願いいたします。どうもありがとうございます。           (休     憩) ○道垣内部会長 よろしいでしょうか。それでは、16時20分になりましたので、審議を再開したいと思います。   第3のうち「7 被担保債権以外の債権の扱い」、「8 収益執行型の実行方法の要否」、「9 事業担保権の裁判外の実行」についての議論を行いたいと思います。ただ、先ほどから出ておりますように、これまでのところとも密接に関係をしておりますので、別に厳密な意味で7、8、9のゴシック部分ないしは説明部分を対象とする御意見だけを伺うというよりは、全体構造をどういうふうに仕組むかということで御議論いただければと思います。   まずは、事務当局におきまして部会資料の説明をお願いしたいと思います。 ○工藤関係官 それでは、30ページの「7 被担保債権以外の債権の扱い」について御説明いたします。ここでは、まず、実行手続の実施に必要な費用などの実行後に発生した債権については、各倒産法上の規定を参考として、共益債権として被担保債権に先立って弁済を受けられるものとした上で、随時弁済することができるものとすることを提案しています。  また、実行前に発生し、事業担保権に優先する債権については、事業担保権者に対する配当額を確定する前提としてその有無及び額を確定しておく必要があることや、これらの債権者に対して債務名義の取得を求めることは現実的でないことから、倒産手続を参考として、事業担保権の被担保債権以外の債権の有無及び額を調査し、これを実行手続の中で確定する手続を設けることを提案しています。  さらに、実行前に発生し、事業担保権に劣後する債権についても、全ての一般債権者に配当要求の終期までに債務名義を取得することを期待することは困難であることなどから、ここでの債権調査手続の対象とすることが考えられます。   次に、31ページの「8 収益執行型の実行方法の要否」について御説明いたします。ここでは、事業担保権の実行方法として、事業を譲渡する方法のほかに、事業の継続によって得られる収益を被担保債権の弁済に充てる収益執行型の実行方法を設けるか否かについて、問題提起しております。  これを設けることとした場合には、その制度の内容は、担保不動産収益執行手続と同様に、裁判所の選任する管理人が事業を遂行することとし、一定の期間ごとに事業の収益から必要な費用を控除した金銭を配当するものとすることが考えられます。  また、事業担保権の被担保債権と収益執行手続開始後に生じた債権との優劣関係については、事業担保権の裁判上の実行手続と同様に、開始後に生じた債務は、事業の価値を維持するために必要な負担であるとして、事業担保権の被担保債権に先立って随時弁済を受けられるものとすることが考えられます。他方で、事業担保権の被担保債権と収益執行手続開始前に生じた債権との優劣関係については、事業担保権の裁判上の実行手続と同様の取扱いとする考え方と、事業担保権の被担保債権に先立って随時弁済を受けられるものとする考え方が、いずれもあり得るものと考えられます。  このほかに、事業担保権の収益執行型の実行手続については、事業担保権の裁判上の実行手続との関係や、配当手続の在り方も問題となるものと考えられます。   次に、34ページの「9 事業担保権の裁判外の実行」について御説明いたします。  ここでは、事業担保権について、裁判上の実行のほかに裁判外の実行を認めるか否かを問題提起しています。  事業担保権の実行手続については、優先する債権の存否及び額を確定する必要があることや多様な利害関係人が存在することから、中立、公正な立場の者が手続を実施することが望ましいこと、事業譲渡の実現は設定者の協力が得られなければ現実には困難であることから、事業譲渡について設定者の協力が得られない場合において、帰属清算方式又は処分清算方式による私的実行によって事業譲渡を実現することは現実的とはいえないように思われます。他方で、事業譲渡について設定者の協力が得られる場合には、任意売却としての会社法上の事業譲渡等を利用すれば足り、あえて裁判外の実行として特別な手続を設ける必要はないとも考えられます。   裁判外の実行については、以上のような点を踏まえても、なおこれを設ける必要があるか否か、また、仮に裁判外の実行を設けないとしても、事業担保権の設定された事業の譲渡について、何らかの特別な規律を設けるか否かが問題となると考えられます。   以上について御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いします。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。立教大学の藤澤です。7番に関連して、7番に関連するかどうか若干自信がないのですけれども、ここでは管財人が一定の費用を弁済することができるとなっていますけれども、この点について二つ質問があります。   一つは、これは弁済することができるとなっていますけれども、相手方から請求された場合には払わなくてはいけないというルールなのか、それとも、管財人の方に払うか払わないかの選択権があるというルールなのか、それについて一つ、教えていただければと思います。   その上で、二つ目なのですけれども、倒産手続になりますと、倒産手続の管財人は、一定の契約関係について、それが再生等について不要であると考えれば、双方未履行双務契約についての解除権があったりということがありますけれども、ここでの管財人は、係属中の一定の契約関係から管財人の判断で一方的に離脱する、解除するというような権利は認められているのでしょうか。   以上、2点について御教示いただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○笹井幹事 そこも何か確定しているわけではありませんので、御議論いただければと思いますけれども、資料の7(1)に「することができる」と書かれているのは配当手続をする必要はないですよという趣旨です。法律上は債務ですので、相手方から請求されれば弁済しないといけないということになると思います。   2番目の解除権のところなのですけれども、ここはどうしたものかと迷ったところはあるのですが、この資料の立場としてはそこまでは考えていないと、飽くまで総財産について、事業を継続して弁済に充てるということですので、解除をして何か不必要なものから離脱するというようなところまでは、この資料の立場としては作っていないというところです。そういったところも必要があるという御意見がありましたら、そういった御意見を承った上で、また考えてみたいと思います。 ○道垣内部会長 藤澤さん、何か御意見はございますか。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。私としては、前回少し発言させていただきましたように、債務者の協力が得られる任意売却ではない形で事業担保を実行する場合には、それはもうほとんど倒産手続なのではないかと考えておりますので、倒産手続と同様に、管財人が双方未履行双務契約について処理する権限を持っていてもいいのではないかと考えております。ただ、その分、債権者間の債権者平等といったものは強く要請されることになるのかなと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大西委員 7番の30ページ、31ページの3のところで、実行前に発生した事業担保権に優先する債権のところですが、私の意見は前も申し上げましたとおり、優先する債権については随時弁済にすべきと思っております。仮に、ここに書かれているように、債権調査をし、配当でということになるとすると、実際に実行が始まって、管財人がスポンサーを見付けて譲渡するまでに3か月では難しく、多分半年近く掛かると思われます。そうすると、それまでの間に、例えば労働者の債権とか商取引債権を棚上げにして、果たして事業価値が維持できるのかということに疑問を感じます。   私の提案は、金融債権以外の一般債権は全部随時弁済にすることによって事業価値の維持を前提に行ういわゆる私的整理型の手続きと、全ての債務の支払を一旦停止とする法的整理型の手続きとを用意し、担保権者である金融機関がこれらを選択できる建付けにすることがいいのではないかと思っています。   そうした場合、ここで書かれている法的整理型の手続きとしては、多分こういう手続になると思います。ただ、一方で私的整理型手続きは、金融債権者間で金融支援の内容等を合意した上で、随時弁済を行って担保権実行を円滑に進める手続きですので、この2種類の手続きがあると実務的にはいいのではないかと思っております。   2点目は、8番の収益執行型です。これも結論としては、選択肢としてあった方がいいかと思います。というのも、実際に管財人が付いてからスポンサーを探しても、結果的に見付からないケースもよくあります。資金繰りが厳しくなれば当然、法的整理に移行せざるを得ないということですが、資金繰りは維持できるようなケースでは、ある意味で収益執行に近いような形になります。このため、そのような状態が一定期間続いたところで、収益執行型に切り替えるとか、若しくは、簡単に買い手が見付からないような会社の場合は、中長期的に買い手を探索しつつ、最初から収益執行という選択肢を選べることができると、実際上は実務的に対応しやすいと考える次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。大西さんの最後の御発言について、もう少し伺いたいのですけれども、今のお話を伺うと、どちらかといえば収益執行型の実行方法というのが必要であるというのではなくて、オフィシャルな手続が開始して管財人が選任され、売却を行おうとしても、売却のためにはどうしても一定の時間が掛かって、その間が何か月かあるわけであり、その何か月かの間の法律関係というものは、収益執行で利益分は事業担保権者に来るというふうな効力がその間は生じていると、こういうふうな制度設計にすべきだということなのですか。 ○大西委員 はい、おっしゃるイメージです。ただ、私は収益執行の期間は、何か月かで済まないのではないかと思っており、場合によっては1年ないし2年になるかもしれないと考えています。そのように、結果的に事業の中身によっては簡単に売れないケースや、売却先を探しても何らかの理由でなかなか買手が見付からないというケースも実務では多数あり、その場合において、資金繰りは回っていて利益も少しずつ出ているようなケースもあります。いずれにせよ、買い手が見つかるまでの間は、部会長がおっしゃる考え方の通りだと思います。 ○道垣内部会長 分かりました。結果論としての収益執行型ということですよね。もちろん収益執行だけを目標にしている場合もあるのかもしれませんが、売ろうとしていても、収益執行手続というのが何年か続くということもあり得るということですよね。 ○大西委員 少し付言しますと、収益執行だけを最初から目的とした手続となると、管財人の属性が変わってくるようにも思います。担保の対象は正に事業そのものなので、原則は、担保対象たる事業の売却活動を前提とした管財人を選定すべきであり、管財人として事業家を選ばなくてはいけないというような手続まで私は考えておりません。部会長の御指摘の通り、結果としての収益執行というイメージです。 ○道垣内部会長 分かりました。ただ、私の整理ですと多分、そうしますと8番に関しては大西さんは反対と位置付けるべきではないかと思いますけれども。つまり、実行までの間、そういうふうなことができるということであって、収益執行という形を選ぶというのを積極的に認めるということには必ずしもならないということなのかなと。それはいろいろな整理の仕方とかがあると思いますので、今のは少し極論を言うことによって問題点を明らかにしようとしただけですので、失礼があったらお許しいただければと思いますが。 ○井上委員 井上です。今、大西委員が7と8についておっしゃったところに近いとは思うのですけれども、大西委員は、7番のところで、担保権者の選択で二つあっていいのではないかという御趣旨の御意見だったと思うのですけれども、私はむしろ、基本的には、優先債権といいますか、労働債権や商取引債権については随時弁済をするという前提でよいのではないかと思っています。そうではない法的整理に近いとおっしゃった実行手続は、むしろ事業担保権の実行手続の中に取り込むというよりは、法的整理自体で実現してもいいのかなと思っていまして、繰り返しになりますが、この担保の実行はほとんどの場合、倒産状態で行われるのだろうと思いますものの、制度としては倒産手続が開始されていない場合にも開始され得る手続と考えるとすると、担保実行手続としては、全部の支払いを止めて配当していくというよりは、基本的には私的整理にかなり近い方向で整理することができないかなと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○阪口幹事 収益執行型に関する8番のところで、先ほど少し道垣内先生もおっしゃったことの延長線なのですけれども、弁護士会で議論したときに、これは要らないのではないかという意見がありました。というのは、抵当権に関していわゆる競売と収益執行があるのは、賃借人を入れるという作業は競売ではできないから、管理人を選んで、その人が賃貸借契約を締結して収益を得るというプロセスの収益執行があります。ところが、ここでいういわゆる事業譲渡型の管財人は何でもできるわけで、そうすると当然、収益執行を含んでいる、大は小を兼ねていることになるはずだと思われます。   部会資料で、違いはどこにあるかと見ると、例えば配当手続の問題で、違いが生じる余地があります。確かに事業譲渡までに非常に長い時間が掛かっているときに、最後まで行かないと弁済がされないというのは困りますが、それは単に中間配当のような問題なのかなとも思えます。そうすると、単に大は小を兼ねる話にすぎない。仮に収益執行型では予納金が変わるとかそんな話になってくると、これはこれでメリットがあるのかも分かりませんけれども、多分、収益執行型にしても、結局管財人がやらなければいけないことは同じだから、予納金が変わるわけでもなく、多分ここの収益執行型の実行というのは、結局事業譲渡型に吸収されてしまうのではないのかというのが意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。それほど意見の差異があるというよりは、整理の問題かなと思いますが。 ○山本委員 ありがとうございます。まず、8については、もう今の皆さんのやり取りと基本的には同じということで、大西委員と部会長のやり取りで明らかになったかと思いますが、独立型の収益執行みたいなものについて言えば、これは現実に可能かと、大西委員が正に言われたように、これを5年、10年仮にやるとすると、5年、10年、結局その企業を経営していくということになるわけなので、経営者を選ぶということになるわけですけれども、一体そんな人材を裁判所はどこから見付けてきて、やるのか。不動産収益執行は、御存じのように、基本的には執行官がやっているわけですが、もちろんこんなものは執行官はできないわけですし、倒産弁護士から選ぶといっても、それほど事務所を空けて本当に経営に携わるみたいなことができるのだろうかと。それから、申立てに応じて必ずやらなければいけない手続ということにするとすれば、少しこの収益執行というのは私はフィージビリティーに欠けるのではないかと。売却までの間、大西さんも最初そう言われましたけれども、その間、それは一定期間あると思いますので、収益を取ってやっていくと、これはもちろんあり得て、実際には私の理解しているところでは、担保不動産収益執行も多くはそういう事案、つまり競売と並行して申し立てるという事案だと思うのですが、ただ不動産収益執行でそれが必要なのは、競売では基本的には債務者の使用収益権を奪えないから、不動産収益執行を申し立てて、それを奪う必要があるということなのだと思います。それに対して本件は、管財人を選任して、財産の管理処分権は全面的に移転するわけですので、収益執行を結局並行させる必要性というのは基本的にはなくて、そのまま競売を申し立てて、管財人が売却されるまで事業を経営していく、その間の収益は債権者の配当、担保権者等の配当に充てられると、そういうことになるのかなと思っています。そういう意味では、この収益執行というのを作る必然性、あるいはそのフィージビリティーというのが私にはやや疑問だと思っています。   それから、9の裁判外の実行についてですけれども、これについても私はやや消極的な意見を持っておりまして、裁判外の実行というのをどういうふうに位置付けるのかというのが一つの問題かなと思っています。つまり、裁判所における実行の方に引き付けて考えるのか、あるいはいわゆる私的実行ですね、当事者間の合意に基づいて行われる、不動産でいえば任意競売に当たるようなものに引き付けるのかというところかなと思いまして、先ほどこれは部会長からの問題提起もあったところかと思いますけれども、私自身は、やはりこれは実行方法として考える以上は、裁判所における実行方法の方に引き付けて考えるべきなのではないか、それと同じような結果がそこで出るようなもの、そうだとすれば、やはり優先権者に対する弁済であるとか、劣後債権者に対する債権調査、配当といったような手続と等しい効果が生じるものになるべきではないかと思うわけですが、では、それを誰がやるのかと。裁判所の手続では管財人が行い、それを裁判所が監督するということなわけですが、私的実行では結局、この裁判外の実行では結局、担保権者がやらざるを得ないということになるのだと思うのですが、そこで争いが生じると結局、担保権者との間の訴訟みたいな話に全部なってしまうということで、果たしてそれがよいのかということ、これもややフィージビリティーに私は疑問を感じます。   確かにニーズとしては、経営者が任意の実行には、私的実行には同意しないけれども、それほど抵抗するわけでもないというような場面で、従業員その他、ほかの関係者は基本的にある程度協力的だというような場面で、こういうニーズが全くなくはないのかなという気は確かにしています。ただ、そこは制度の割り切りの問題かと思いますけれども、私はその場合には、代表者を説得できない場合、あるいはその首をすげ替えられない場合には、裁判所の実行手続によらざるを得ないという割り切りはあり得るかなと思います。   裁判所の実行手続によったとしても、例えば協力的な取締役等がいるような場合には、そういう人を管財人とか管財人代理のような形で起用することで、これは会社更生のいわゆるDIP型の運用といわれるものに近いものですけれども、そういうような形にすればある程度円滑に事業を承継するというようなことも可能になるのかなと思っておりまして、そういう意味では、この裁判外の実行というところまで認める必要性というのは、あるいはそういうフィージビリティーというのが、やはりやや疑問であるという印象を持っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。若干、定義の問題もあるのかもしれないと思いますが。 ○沖野委員 沖野です。ありがとうございます。私も8と9について、それぞれ申し上げたいと思います。   8の収益型の実行方法については、私も少しこの制度の存在意義がどこにあるかということがよく分からない面があります。特に、具体的には33ページの(2)の手続開始前に生じた債権との優劣関係に関して、14行目辺りですね、このように考えると収益執行手続においては、開始前に生じた債務についても事業担保権の被担保債権に先立って随時弁済を受けられる、これは優先するものはもちろんそうですけれども、劣後する債権について論じられていますので、結局、優先劣後を問わず、開始前の債権債務は全て随時弁済で行くということになります。ここに不法行為債権や法定債権が入るのかという問題はありますけれども、不法行為債権についても外部化の問題というのがありますので、積極的にプラスにはなっていないけれども、しかしながら、それを本当に劣後化させていいのかという問題もあることを考えると、根拠からすると、他の債権というものが随時弁済であるならば、法定債権も随時弁済していくということになるのかもしれません。   そうだとすると、結局、開始後も開始前も全部随時弁済ですので、配当ということがあり得るのかというのがよく分かりません。これは結局のところ何をしているかというと、裁判所での実行というのが、事業について主体を変更してしまう、事業譲渡によって設定者から別の法人が事業を行うということを実現するということに対して、この収益執行型というのは、事業の主体を変えず経営者をすげ替えるということで、その経営者に管財人がなると、そういうタイプになるのではないかと思います。ただ、そうすると、一体それをいつまで続けるのかという問題があって、結局のところはやはり実行は譲渡によるのだという中で、それをなかなか譲渡が進まないときに間をつないでいくという大西委員がおっしゃったような形になるのではないかと。ただ、それが場合によっては何年か続くということがあるかもしれないけれども、それは飽くまで過渡的なというか、本来的な譲渡ができないけれども、ここのままにしておいてはいけないというときに、今のような法人の主体はそのままにした上で、経営者の部分を一部暫定的に置き換えるというような意義しかないということになるのではないかと思います。   それに対しまして、これを実行手続として考えるならば、やはり配当へと持って行くということですから、全ての債権を随時弁済していたのでは配当の意味もないわけで、開始後についてはここに書かれたように随時弁済するとすると、開始前の優先債権は随時弁済するけれども、劣後債権についてはそうしないということになります。そうすると結局、優先債権と劣後債権をどう切り分けるかという問題で、かなりものがやはりそこに弁済していかないとこの事業が回していけないということだとすると、この部分の扱いが結局は非常に難しい、労働債権は全て払うと、それから商取引債権は全て払うと、さらには、他の融資をどうするかということを考えていくと、結局、不法行為債権とかだけが置いていかれるというような、そのぐらいになるのではないかと、そういうのでいいのか、わざわざそのために手続を設ける必要があるのかというと、独自型ではなく付随型として設けると、ただ、それは結局、事業継続をそのままやっていくと、ただ、管財人の下でやっていくという期間がありますということでないとうまくいかないのではないだろうかと、制度的な意義という点でも疑問ではないだろうかと思っております。ですので、大西委員、阪口幹事、山本委員がおっしゃったこと同じことにはなりますけれども。   一方、9の裁判外の実行なのですけれども、これはここで書かれているような、どこまで裁判上の実行に近付けるのか、それとも、これはやはり任意譲渡の形を使い、ただ、実行なので、担保権者のイニシアチブでそれをやると、ちょうど譲渡担保における任意実行と同じような形で、担保権者が売れるというタイプのものだと考え、かつ、それは普通の譲渡を使っていますという構成も十分あり得るのではないかと思っております。確かに、ここに書かれていますように、事業譲渡の実現には設定者の協力が得られないと無理だということからすると、そんなものを置いても使えないではないかということになるかと思います。   ただ、先ほど山本委員が最後のところでおっしゃった、例外的に使える場合があるかもしれないという、関係者の協力も得られて、スポンサーも見付かって、でも設定者が余り協力しないというような場合に、担保権者の実行でできる制度があるということは意味があるように思われますし、何よりも、それがあることで協力を引き出すと、裁判に行くのではなくて、いざとなったらもう担保権者のイニシアチブで買受人を見付けてきて売りますよということができるということが、協力を取り付けるための一つの背を押す制度になるという意味で、使うことは想定されていないぐらいだけれども、置いておくに意義があるというものとして設けるということは考えられるのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大西委員 度々申し訳ございません。先ほど山本先生がおっしゃられた、経営者が協力しないけれども社員が協力するようなパターンもあれば、それ以外のケースもあると思っています。通常の事業譲渡だと株主総会特別決議が必要となります。しかしながら、オーナ企業で2代目とか3代目の経営者に経営が移っていると、株式が結構散らばっているケースも多く、当該創業家出身の者が経営をしていたとしても、自分では3割か4割しか持っていないとかというようなケースは多いです。このような場合には、必ずしも私的な事業譲渡を行う際に特別決議が取れないようなことも想定されるため、このような株主総会決議を要しない私的実行の手続き類型を認める必要性は相応にあると思います。このような場合の割合が、全体の中ですごく多いかというと、そうでもないかもしれませんが、いずれにせよニーズはあるのではないかと思っております。   あとは、万が一これが認められない場合でも、債務の支払を全面的に停止して、管財人が厳格に配当手続までやるような形でなく、管財人が、簡易にワンタッチで事業の譲渡手続が実施できるような手法が仮に考えられるのであれば、それはそれでも良いと思います。いずれにせよ通常の平場での事業譲渡の手続を行うことはそれなりに困難なケースもあるので、この私的実行若しくはそれに近いようなスキームを用意すべきと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○片山委員 ありがとうございます。慶應大学の片山でございます。収益執行ですけれども、やや分が悪そうですが、事業譲渡の買受人が見付からないという場合だけでなく、債務不履行には陥っているが、経営自体はその会社で継続をしつつ、かつ、その間に新たなスポンサーが現れるということであれば、その段階までの収益執行を取りあえずやってもらうという場合も想定されなくはないでしょうから、選択肢として全く不要というわけではないように思いました。実際のニーズが必ずしも見通せませんが、少なくとも、収益執行という制度を用意しておく意味はそれなりにあるのではないかとは思った次第です。 ○尾﨑幹事 裁判外の実行についてです。事業担保権のメリットは、窮境に陥った場合でも迅速な対応によって事業の毀損を最小限に抑えて早期の回復を目指すことにあるので、迅速な処理が期待される裁判外の実行というのは不可欠なものだと考えています。今までもいろいろな先生方がおっしゃっているように、裁判外の実行については担保権者と設定者の間で方針についてある程度合意ができているということが基本だと考えていますので、当然、任意売却という選択肢もあるわけですけれども、既に話が出ていますように、裁判外の実行と任意売却の違いというのは、一つは、裁判外の実行の場合には担保権の実行として株主が既にオプションを失った中での事業価値の維持回復を迅速に行うという観点から、株主総会決議を省略するということが妥当であるということを考えれば、それを省略できるというメリットがあるということと、それから、円滑な事業譲渡のためには個別財産に付着している担保権を消滅させる必要があるわけですけれども、特に劣後する担保権については、価値がゼロであるにもかかわらず、消滅について劣後する担保権者の同意を得るために担保価値以上の金銭を支払うというようなことがままあるので、裁判外の実行とすることでこれを回避する仕組みにするということができるのではないかということと、それから、最後に、行政上の許認可というのを引き継ぐことが一応できるということにあると思います。これに関しては、先ほど道垣内先生の方から指摘のあった、具体的に実際にどうなるのだという議論はあるのだと思います。その点はまた今後、具体的に一つ一つ確認していく必要があると思いますけれども、全体としてこのような形に仕組むことができるのではないかと考えています。   山本先生もおっしゃっていたように、経営者が事業譲渡に必ずしも反対しているわけではないけれども、例えば、既に経営意欲を失っていて、積極的に協力しないというような場合には、例えば、大西さんもおっしゃっていたことでもありますけれども、株主の了解を取るのがなかなか大変なときに、こういう制度があれば迅速に対応できるということがあるのかなと考えています。   それから、実際には多くの場合、例えば商取引債権や労働債権は随時弁済がされていて、債権者が非常に少ない、あるいは1者であるような場合で、損害賠償権のようなものもない場合には、非常に単純になりますので、もう一つの裁判外の実行のメリットとして、裁判上の実行の弁済の優先順位というのを裁判外の実行においても適用するということによって、任意売却の場合よりも望ましい優先順位を確保できるということがあるのだと思います。   ただ、もちろんこれをやるために、実際にどういうふうにそれをしっかりと実施するのかという問題点はあるかと思います。ただ、現実にはそれほど複雑でないケースであれば、実際に多くの場合はそういうケースだと思うのですけれども、裁判上の実行における優先順位というものを保ちながら裁判外の実行ができるといった意味において、任意売却よりも、より望ましいものを実現する可能性もあるのかなと考えております。ただ、おっしゃるように非常に複雑になってしまうと、本当にこれがうまくいくのかという問題があって、確かにそのような場合には裁判上の実行の方が望ましいということになるのだと思いますけれども、一定の場合に、この裁判外の実行でうまくいくケースというのがあるのだと思いますので、こういった制度についても設けておくことが必要なのではないかと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○阪口幹事 阪口です。今の裁判外の実行を認め、かつ、そこで株主総会の特別決議も要らないとなると、正に会社法の脱法ができてしまうので、少しそれはいかがかなというのが今伺って思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   事業担保権が存在しているときの任意売却というものは、どちらに寄せて考えるのかと、それはもう任意売却なのだから別段、事業担保権とは無関係な、ただ単なる売却ですと考えるのか、それとも、それというのはやはり事業担保権が存在しているところにおける任意売却なのだから、担保権の実行たる性格を有するのだと考えていろいろな効果を与えるのかという違いかなと思います。   山本さんが最初におっしゃったのは、様々な効果が出てくるとするためには、やはり管財人をきちんと選任してという手続をとらせて、そのことによって効果が生じるというふうな仕組みにした方がすっきりしているだろうということなのに対して、尾﨑さんは、それは少し時間が掛かって重くなってしまうのではないかという御心配をされているということなのだろうと思います。   というのは、管財人が仮に選任されましても、そこから先の手続は、大西さんもおっしゃいましたように、競売手続をとって事業を売却するわけではありませんから、実際には様々な交渉の下で売却していくので、任意売却の手続とそれほど違ったことが行われるわけではないと思うのですが、ある種の効果を導くときの要件として、手続をとって管財人を選任するというのを要件にするのか、事業担保権というものが存在していれば、それは要件は満たされていると考えるべきではないかというところの違いかなという気が、皆さんの御意見を伺っていて、思うところであります。 ○村上委員 ありがとうございます。今の御議論とは違うところなのですが、7の被担保債権以外の債権の扱いにおける共益債権について申し上げたいと思います。資料にもございますように、事業の換価までに一定の期間を要する場合について、換価まで事業を継続するためには労働者の労働が必要であり、その反対給付である労働債権の支払いがなされなければ労働者は無給になってしまいますので、共益債権とした上で随時弁済することができるとする考えに賛成であります。   あともう1点、先ほど休憩前に特定承継か包括承継かというお話があり、ケース・バイ・ケースだといったようなお話の中で、一定程度選別したいというような御意見もあったものですから、そのことについて少し考えておりました。その際、選別されて、事業譲渡のときに買受けの会社の方に行けなかった労働者の救済としては、青山幹事からは解雇権濫用法理があるのだというお話もあったのですが、では、その際、設定者には一体何が残っているのだろうか、設定者に対してそれを求めていって、一体どんな救済になるのだろうかということを考えておりました。通常の事業譲渡の場合であれば、その売却代金は元々の会社に入るわけですが、事業担保権実行の場合における事業譲渡というのはどんなふうになっていくのかということが疑問にありまして、この点は私自身ももう少し整理して考えたいと思いますが、そういった課題もあるということで御意見を申し上げておきたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大塚関係官 ありがとうございます。調査員の大塚です。先ほどの部会長のまとめの中にも既に含まれている話かもしれませんけれども、実行手続ないし担保権者が優先弁済を受けるための手段としては三つ考えられるということかなと思います。一つが、裁判上の実行手続であり、これは先ほどまでの議論にある。二つ目が、任意売却といいますか、通常の平場での事業譲渡などを利用するという方法である。三つ目が、9のところで提案され議論されている裁判外の実行手続であり、これについては認めるべきかどうかという議論があるところ、皆さんの御指摘などを聞いておりますと、必ずしも必要ないのではないかという意見が多かったかと思います。   私自身は任意売却のところについて少し疑問があるのですけれども、通常の事業譲渡の方法で優先弁済を受けられるということが前提となっていたようにも思いますが、これは何ら条文なく、それは認められるのでしょうか。事業譲渡したときに換価された金額について、事業担保権者が優先して弁済を受けられるということは当然なのかという点です。また、もしそれが優先弁済を受けられるということになったときに、では裁判上の実行手続とは違って、商取引債権であるとか労働債権についての前回議論になったような規律というのは、ここは効いてくるのかどうかということです。   もしこれが効いてこないのだとすると、先ほどから出ているように、裁判上の実行手続が余り使われず、任意売却で基本は換価されるのだということになってしまいますと、結局、労働債権や商取引債権を保護するといったとしても、その規律が妥当しない範囲が多くなってしまって、困るのではないかと思っています。そういたしますと、この任意売却による場合についてもある程度、規律を置いて、裁判上の実行手続に関するルールが適用される、準用されるようにした方がいいのではないかと考えています。 ○道垣内部会長 おっしゃるとおりで、任意売却というものは事実として存在していて、それは交渉によって行うことはできるわけですよね。それに別に何ら担保権の実行としての効力を与えないと、それはただ単に普通の平場の事業譲渡と同じですよというのが一つの考え方で、それはやはり一種の実行ですよねということになりますと、大塚さんがおっしゃられたような、どういった効果がそれには付着してくるのかというのはある程度書き込まなければならない。あるいは、やはりそういった効果が生じるためには管財人を選ぶというふうなことをしなければならないのであって、ただ単に任意売却は飽くまで平場の事業譲渡と同じ効果しか生じませんというのが、また一つの立場としてあり得るというわけで、それはおっしゃるとおりだと思います。   ほかに何かございますか。 ○井上委員 井上です。単にどこまでの範囲のものを任意売却といって、どこまでの範囲のものを私的実行といって、どこまでの範囲のものを強制的というかの問題なのかもしれないのですけれども、私が任意売却として想定していたのは、平場で行われる事業譲渡に近い取引を前提としておりましたので、期限が到来すれば優先債権どころか全ての債権が当然に支払われることが前提になっていました。ですから、未払債権は全て事業譲渡によって譲受人に引き継がれ、弁済期が到来しているものは随時支払われるという前提で考えておりまして、他の債権者をその同意なしに犠牲にして不払いにして、事業担保権者が換価代金を優先的に取得することを意味しないものとして、任意売却を捉えておりました。ですので、もし本当に他の債権者への支払原資がなくなるような形で売却代金を単一の債権者が全額取得するとすれば、そんなことが倒産原因も何もない状態で行われるという想定ではないですし、無資力の状態で行われれば優先債権との関係では否認とか詐害行為の問題になるのではないかと思います。 ○道垣内部会長 井上さんのは山本さんに比較的近くて、そういった優先弁済的な効果をもたらすのであれば、きちんと管財人を選んでそういう手続を取りなさいと、井上さんはそういうお立場なわけね。 ○井上委員 そうですね、山本先生の考え方に比較的近いのかもしれないのですけれども、そうすると、何人かの方がおっしゃったように、迅速さを欠くという問題があるとすれば、いわゆる処分清算型の私的実行手続を設けるというよりは、任意売却ではあるけれども、事業担保権設定者の事業譲渡であって、事業担保権の被担保債権に不履行が生じている場合などといった形で、何か条件を付けて、例えば総会決議を不要とするとか、そういった手続の簡略化を検討する余地はあると思います。そうすると、私的実行に近付いていくと思うので、先ほど申し上げたように、何をもって強制的というかどうかの話に帰着するのではないかと思っております。   実際のところ、会社法的に言えば、設定者の代表者ががんとして判子を付かない、事業譲渡の意思表示をしない、と言っているときに、それをやるのが強制的な手続であって、そうでない場合は任意の手続だとすると、私的実行として議論されているものの相当部分は任意売却という実態があるのかもしれず、単にどこで線を引くかの問題で、もしかするとほかの方々と違ったことを言っているわけではないのかもしれないです。すみません。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに、9まででございますか。それほど意見は分かれていないのかもしれませんが、結局は私的実行というときに、井上さんがおっしゃったようないろいろな要件があるときの任意売却というものを私的実行と位置付けるということなのでしょうけれども、管財人を選ばないという方法でほぼ同じ効果が生じるということ、手続を並行して設けるのか、それとも管財人をてきぱき選べるようにするということで、管財人を選ぶというふうなことをやはりするということをした方がいいと考えるのかという違いだろうと思いますけれども、ほかにいかがでしょうか。問題点は比較的明らかになったと思います。   それでは、それを踏まえまして、更に検討をさせていただければと思いますが、さて、第4に入ることができるようになりました。事業担保権の倒産法上の取扱いということなのですが、6までをあと15分でやるというのは、なかなか難しかろうと思います。少し事務局で相談したときに、1だけは独立で話ができるだろうと、1で担保的な取扱いという話になると、2以下は比較的、それに基づいて議論ができるので、1だけについて何か特に大きな異論がないかを確認するということもあり得るのではないかということが事務局の内部では出ているのですけれども、そうさせていただきましょうか。   それでは、「第4 事業担保権の倒産法上の取扱い」ということについて議論を行いたいと思いますが、時間の関係上、1についてのみ事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○淺野関係官 それでは、35ページの「第4 事業担保権の倒産法上の取扱い」のうち「1 別除権及び更生担保権としての取扱い」について御説明いたします。ここでは、事業担保権を破産手続及び再生手続との関係では別除権として扱い、その被担保債権を更生手続との関係では更生担保権として扱うことについて問題提起をしております。   これは、各倒産手続における約定担保権の取扱いから、事業担保権もこのように取り扱うのが整合的であると考えられるためですが、例えば再生手続との関係でも、事業担保権を別除権とせず、再生手続外の権利行使を制約する考え方もあり得ないとはいえないと考えられます。もっとも、このような考え方については、他の担保権と異なり、事業担保権についてのみ再生手続外での権利行使を認めないこととする根拠が問題となります。   事業担保権が設定されている場合において、設定者について破産手続の利用が考えられる場面としては、事業担保権の効力が及ばない財産がある場合や、偏頗弁済などが行われ、否認などを通じて設定者の積極財産を増殖させることができる場合などが考えられます。事業担保権の実行手続と破産手続が併存する場合、それぞれの手続で管財人が選任されますと、管理処分権の分配が問題となります。また、それらの手続は債権の調査や分配が行われる点で共通しますので、非効率な重複が生じないようにする必要があると考えられるところです。  さらに、設定者が自主的な再建を目指して再生手続を申し立てることも考えられるところです。この場合、担保権実行手続中止命令を得て、別除権協定を締結することを目指すことになると考えられます。  更生手続が開始した場合、事業担保権者が更生担保権者として扱われ、更生計画による権利変更に服することになると考えられます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、第4の1に限りまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。 ○松下委員 松下です。事業担保権を破産、再生との関係で別除権として扱うという本文それ自体には、もちろん異論はありません。問題は、先ほど来、ところどころ既に頭出しされていますけれども、破産手続と事業担保権の実行手続をどう調整するのかということなのですが、既に資料36ページで指摘があるとおり、手続的にも債権の調査がダブるというのは非常に無駄ですし、それから、36ページの2行目以降で、管財人と破産管財人の管理処分権がどうなるかというのは、これは併存するのだとすると、非常に煩瑣だと思います。   例えば、ある財産が債務者に帰属するのか、第三者に帰属するのかということが争われているときに、第三者が、管財人と破産管財人の両方を被告として取戻権の行使をしなければいけなくなるのか、これは必要的共同訴訟になるのだと思うのですけれども、そういうことは非常に煩瑣なので、併存するというのは何としても避けた方がいいのかなと思います。   一つの考え方は、一般先取特権の実行は破産の開始決定で禁止されることのアナロジーで、破産を走らせて事業担保権の実行を止めるということも考えられないではないですけれども、別除権として扱うというようなことになると、余りこれは平仄が合わないような気がして、36ページの14行目にあるとおり、何らかの法律上の調整規定を置く必要があるのだろうと思います。   先ほど確か山本委員からも御指摘があったと思いますけれども、事業担保権の実行が開始されると、破産手続の方は中止して、破産管財人の管理処分権が止まって、事業担保権の実行が終わった後に、例えば残っている財産があるとか、否認権行使できるというなら、中止した破産手続を進行させるし、もう残っているものがなければ廃止だと、例えばこんな整理があり得るのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○山本委員 ありがとうございます。基本的には今、松下委員が言われたことに賛成で、まず事業担保権、破産民事再生でいう別除権で、更生手続で更生担保権ということは、基本的にはこれでいいのかなと思っています。もちろん民事再生のときは中止命令とか担保権消滅、別除権協定で対応するということですけれども、それなりに柔軟な要件ということになっていますし、後でその中止命令とか消滅請求の話が出てきますけれども、その辺りで工夫をすれば、私は対応可能かなと思っていますし、会社更生の場合には更生担保権という形で手続の中に取り込むという、これも一定の例外を認める余地というのはあり得るかなとは思っていますけれども、原則はこの扱い、つまり、倒産法の基本的なスキームを崩さない中での扱いで対応はできるのではなかろうかというのが私自身の印象です。   破産との関係は正に今、松下委員が、あるいは先ほど部会長の御質問に答えて私自身、若干先走ってお話をしたとおりで、基本は破産手続は中止という形にして、管理処分権は事業担保権の管財人に一元化するということでよいのかなとは思っているわけですけれども、ただ、事業担保権の方で対応できないところで、その否認権等の問題というのは確かにあり得るところだと思います。   ただ、これは資料にも書かれているように、否認権を行使して、事業担保権者がその分を取っていくということでは意味がないというか、否認制度の目的にそぐわない結果になってしまいますので、それは相当ではないということになるわけですが、逆に、劣後債権者に対して配当があるようなケースにおいては、これは逆に否認権が行使できないと、そのような債権者は事業担保権が設定されたことによってかえって不利益を受けるということにもなりかねないわけですので、それも相当ではないということになると思います。   ですので、そういう劣後債権者の方に配当が行くような場面においては一定程度、破産管財人の権限を残すような形のアプローチというもの、松下さんの方からは今、事業担保権の方が終了した後、破産手続を続行させるというような御提案がありました。あるいは、部分的に並行するということもあり得るのか、その場合は調整規定の作り方が難解なものになる可能性はあるような気もしますが、並行させて処理するということも、あるいはひょっとするとあり得るかもしれないとは思っていますけれども、取りあえずは以上のようなことを考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大澤委員 大澤でございます。私は元々の事業担保権の実行の作りとして、事業担保権の法的実行に入ったときに支払い不能、あるいは債務超過というような場合には、もうそこで倒産手続の申立てをして、そちらに入った方がいいと考えておりますので、併存というのは余り考えづらいとは思っているのですが、逆に、こういった困難な併存のような問題が生じることも考えると、倒産手続に一本化するというのが一つ、在り方として考えてみてもいいのかなと考えておるところが一つございます。   あと、別除権及び更生担保権としての取扱いのところなのですが、ここは事業担保権を別除権として必ずしも考えなくてもいいのでは、立法論としては別に考えてもいいのではないかとも思います。というのは、個別資産への、個別資産というか、担保権者が自ら実行できるような担保ではございませんし、事業を総体的、全ての債務者の事業を担保として取りましたということであるとするならば、やはり設定者の協力がなければ実行ができないというようなやや特殊なものでもあると思いますので、それを別除権と扱わないで、そうすると、ではどうするのだという話になりますけれども、例えば、この後で出てきますけれども、もうここで一旦、手続開始時にもう倒産、担保権としては、その時点での担保権の価値は優先はしますよというような形にして、実行も含めて倒産手続の中で行うというのも一つの在り方としてできるのではないかと、なので、そこで、今、松下先生であるとか、あるいは山本先生からは、事業担保権を優先型というお話がありましたけれども、倒産手続の方を優先させて、その中で全て処理をするというのもありかなと思っております。また、倒産手続の中であれば、もう支払い不能等になっている関係もありますが、債権者集会が開かれて一般債権者への情報の配当というようなこともなされますし、なぜここまで資産が毀損して、その配当がどうなるのかというところについての納得感も得られる手続も準備がされておりますので、そちらへの一本化ということを考えてもいいのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見、御質問等はございますか。 ○大塚関係官 ありがとうございます。調査員の大塚です。私も別除権としての扱い、あるいは更生担保権としての扱い自体には異論はありません。また、実行手続と倒産手続とをどういうふうに併存させるか、あるいは併存させないかという点については、基本的には松下委員や山本委員に賛成です。破産手続と民事再生手続につきましては事業担保権は別除権として扱われますので、実行手続の管財人が取りあえず処理をすればよろしいのかなと思います。   ただ、更生手続の場合に更生担保権として扱われることからすると、更生手続の管財人と実行手続の管財人との義務の在り方に違いがあるとすれば、本当に実行手続の管財人にお任せでよいのかという問題は出てくるかなと思います。今日の最初の方の公正中立義務の中身という話にもありましたとおり、公正中立義務の内容が更生手続における管財人の義務の内容と同一であれば、どちらに任せても基本的には変わらないと思いますので、実行手続の管財人に処理は任せればよろしいかということになります。これに対して、実行手続の管財人は更生手続の管財人に比べて担保権者に対する配慮の余地が大きいのだというようなことであるとすると、むしろ更生手続においては更生手続の管財人に処理を任せた方がいいということもあり得るかなと思います。これも実行手続の管財人の義務や権限をどういうふうに考えるかというところと関係してきますので、そちらの規律次第なのかなと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○松下委員 松下です。今の大塚さんの発言がよく分からなかったのですが、事業担保権者が更生担保権者として扱われるということは、事業担保権の裁判上の実行はされなくなるということなのではないですか。だから、管財人と更生手続の管財人は併存ということはないのではないかと思うのですけれども。 ○大塚関係官 そうですね。 ○松下委員 だから、更生手続が始まったら、更生手続の管財人しかいない世界になるのではないですか、と思いました。 ○大塚関係官 すみません、誤解していました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ほかに何かございますか。   別除権、更生担保権という構成自体は多くの方は御賛成でしたが、大澤さんの方からは、とりわけ破産の場合には、事業譲渡みたいなことをするにしても破産管財人に任せておくということもあり得るのではないかという御意見を頂いたということかと思います。事務局の説明のところにも、同一人にさせるといったようなものがあったりしますので、そうなったら、あるいは大澤さんのおっしゃっているところに近付くのかもしれませんので、また、それをどういうふうな権限分担とか関係にするのかというのは、もう少し精緻な規定が必要であるということでしょうから、いずれにせよ大澤さんのおっしゃった問題点は検討しなければいけないのだろうと思います。   今日のところで、ほかにはいかがでしょうか。   では、本日のところは倒産手続のところに入って、1について大体の御意見を伺ったということにさせていただきまして、2以下につきましては、予備日だったにもかかわらず積み残し分が処理できなかったというのは大変、司会の不手際であるという、口先だけおわびしておきますが、本当は全然そんなことは考えていませんけれども、駄目だよ、そんなこと、司会の不手際でございまして、おわびを申し上げますけれども、次回少しその積み残し分と、次のものをやらせていただければと思います。本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。   次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 今日もありがとうございました。次回は9月6日火曜日です。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、法制審議会担保法制部会の第23回会議を閉会にさせていただきます。   本日は熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。次回もよろしくお願いいたします。 -了- - 10 -