法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  令和4年11月14日(月)   自 午前9時58分                         至 午後1時19分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 試案についての議論         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第11回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日も、御多用中のところ御出席いただきまして、誠にありがとうございます。   本日、今井委員、大賀委員、北川委員、田中委員、中川委員、池田幹事、金杉幹事、くのぎ幹事、中山幹事は、オンライン形式により出席されています。また、木村委員におかれては所用のため欠席されています。   それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、「試案」に掲げられた事項のうち「第1-6」から、できれば最後の「第3-2」まで御議論いただきたいと思います。「試案」全体についての事務当局の説明は、前回会議においてまとめて行われましたが、それに対して御質問がある場合には、本日の事項ごとの議論の際にしていただきたいと思います。   本日の進行における時間の目安については、試案「第1-6」について30分程度、「第2-1」について30分程度、「第2-2」について30分程度、御議論いただいた後、午前11時30分頃から10分程度休憩をとりたいと考えています。その後、試案「第3-1」について40分程度、「第3-2」について30分程度、御議論いただきたいと考えています。予定している時間についてはその都度申し上げますので、御協力をお願いいたします。   それでは、まず、「第1-6 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪の新設」について、御議論いただきたいと思います。   この試案「第1-6」については、最大で30分程度の時間を予定しています。   まず、前回会議における事務当局の試案「第1-6」についての説明内容に関して、御質問はございますか。 ○中川委員 大きく三点、事務当局に御質問させていただきたいことがあります。   一点目は、「1」に関して、13歳以上16歳未満の者の対処能力が不十分とはいえない場合の法益侵害について、どのように考えればよいのかという点です。言い換えれば、ほかの条文と異なって、対処能力が不十分という要素が掲げられていない理由をお聞かせいただきたいと思います。   二点目は、「2」に関して、要求の対象は映像を送信する行為だけではなく、「(1)」又は「(2)」のいずれかに掲げる姿態をとることも含まれる、すなわち、要求時以降に16歳未満の者が新たに「(1)」又は「(2)」のいずれかに掲げる姿態をとることを要求することが要件になっているのかどうかをお尋ねしたいと思います。前回の会議における事務当局の御説明では、性犯罪の実行の着手前の行為であっても、若年者への性被害の危険を生じさせる行為などとして処罰するためと伺ったので、その点も要件になっているのではないかと考えているのですが、その点が不明確であるため、お尋ねしたいと思った次第です。   最後に、三点目ですが、「2(2)」の「その他の姿態」とは、どのような部位についてどのような姿態を想定しているのかについても、確認させていただきたいと思います。 ○浅沼幹事 御質問の一点目について、これは、試案「第1-2」との関係でお聞きになったのだと思いますけれども、試案「第1-2」の「対処能力が不十分であることに乗じ」ることの意義について、仮に行為者と13歳以上16歳未満の者との間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる対等な関係が存することはまずなく、「乗じて」といえないのは、13歳以上16歳未満の者の対処能力の不十分さとは全く無関係に性的行為が行われる場合であるとの考え方を採ることを前提としますと、試案「第1-6」の「1」により処罰対象となる行為は、5歳以上年長の行為者がわいせつの目的で一定の不当な手段を用いて面会を要求したり、当該要求行為の結果として面会する行為であり、行為者の方から性的行為を目的とした働きかけをするものにほかならないため、対処能力の不十分さとは無関係に行われる場合は想定されないと考えられます。そのため、試案「第1-6」の「1」においては、「対処能力が不十分であることに乗じ」ることを要件とはしていません。   御質問の二点目ですけれども、試案「第1-6」の「2」に関して、性的な姿態をとることが要件となっているかということですけれども、試案「第1-6」の「2」においては、その要求行為の対象行為につきまして、16歳未満の者に姿態をとらせることを要件としています。その理由を御説明しますと、試案「第1-6」の「2」の要求行為の対象行為は、現在の実務において非対面・非接触型の強制わいせつ罪の成立が認められているわいせつな行為を参考にしているところ、遠隔型の性犯罪は、行為者が被害者と身体的に接触することなく、被害者自身の行為を利用してわいせつな行為を実現するものであって、被害者に一定の行為を行わせることにより、その身体を性的な対象として利用できる状態に置くことが必要であると考えられることから、行為者の要求行為に基づいて16歳未満の者が性的な姿態をとる行為は、それがわいせつな行為を構成するために不可欠な要素であると考えられるためであります。   最後の三点目ですけれども、試案「第1-6」の「2」における「その他の姿態」としては、この「試案」の趣旨として御説明しますと、例えば、性的な部位をなめ、又は性的な部位をなめられる姿態を想定しています。 ○中川委員 性的な部位というのは、具体的にはどのようなものを考えているのですか。 ○吉田幹事 例えば、この試案「第1-6」の「2(2)」に書いてあるような、膣や肛門といったものが該当し得ると考えています。 ○井田部会長 ほかに御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、「第1-6」についての御意見を伺いたいと思います。 ○宮田委員 グルーミング行為は、強制わいせつ罪あるいは強制性交等罪の予備罪的なものと考えることができるわけですけれども、殺人罪や強盗罪の予備行為については準備行為としての明白性がありますけれども、グルーミングについては合法的な行為との線引きが難しい。確かに、面会を要求する行為については、「1(1)」の「ア」、「イ」、「ウ」のところで、威迫や反復等のかなり違法性の高いものに限定をしたという御趣旨だとは思いますけれども、これが果たしてわいせつ目的によって更に限定できるのでしょうか。つまり、わいせつ目的の立証は結構難しく、これをほかの事件を起こしたからということからわいせつ目的を推認することは、ほかの事件がそうであるからといって、こちらの面会が直ちにわいせつ目的とは限らず、そのような推認は乱暴すぎると思います。そうすると、わいせつ目的を自白すると罰せられるけれども、自白しなければ罰せられない罪になってしまわないだろうかと危惧します。   否認しているような場合だと、年少者が年長者に対して性的な行為を持ち掛けて、それに年長者が乗ってきたような行為しか捕捉できないのではないかと感じます。年少者が年長者に対して性的な行為を持ち掛けるケースはかなり多いですし、確かにそこで性的な搾取が起きるかもしれませんが、搾取がない場合も考えられ、このような行為に対する処罰の法定刑としては重すぎるという問題もあると思われます。   さらに、先ほど質問すべきことだったかもしれないのですけれども、18歳だと年齢をごまかして風俗店などに就職する高校生がいます。年齢をごまかすというのは、結構あることです。13歳から16歳の者が年齢を偽って年長者からの働きかけに乗ったケースなどについては、年長者は相手が18歳だと思ったわけですから、年長者には相手の年齢についての故意がないという理解でいいのですか。 ○浅沼幹事 最後の故意についての御質問ですけれども、「試案」では「16歳未満の者に対し」と規定していますので、当然、行為者において、相手の年齢についての認識は必要ということになります。ですので、証拠上、行為者において、相手の年齢が18歳だと認識していたということであれば、試案「第1-6」の罪は成立しないということになると思います。 ○井田部会長 宮田委員の御発言は、普通の予備罪であれば、目的犯として規定されており、基本的には目的要件が充足されれば犯罪が成立することになりますが、今回の試案「第1-6」は、それに加えて行為態様も相当に限定をしており、処罰範囲をより明確にしようとしていることは理解できるけれども、なおそれでも不明確な面があるという御趣旨だと理解してよろしいでしょうか。 ○宮田委員 結構です。 ○山本委員 宮田委員の御発言に対しては、いろいろな御意見があると思うのですけれども、年少者が年長者に働きかけてグルーミング行為をするのは、年齢の発達段階や脆弱性から考えると余りないのではないのかということと、やはり、グルーミング行為という、今、多く起こっていて非常に問題になっているものをきちんと捉えることは大切だと思うので、このような規定を設けることに賛成しています。   あと、影響を受けやすい若年者ということを考えると、オーストラリアの報告でも、ほとんどの被害者が13歳から17歳までの少女ですので、16歳・17歳の若年者がカバーされないというのは、問題なのではないかと思います。予備罪になるという説明を頂いているのですけれども、前回、小島委員及び長谷川幹事も言われていたように、保護法益を児童に対する特別な法益侵害として捉えていかないと、実態が捕捉されないのではないかと、「1(1)」に関して思っています。ですので、グルーミング行為の対象者を18歳未満の者にしてほしいのですけれども、それは難しいのでしょうか。 ○齋藤委員 年少者が年長者に働きかける場合として、例えば、年少者が年長者に対して、お金が欲しいから性行為を持ち掛けるという事例は想定されるのかもしれないですけれども、16歳未満の者を対象者としているということは、16歳未満の年少者は性交が自分にどのような影響を与えるのか分からない中でそれをしているということを前提としているのですから、年長者は年少者からの働きかけに応じてはいけないということは、もちろんそのとおりだと思っています。   山本委員も話していたように、実際には、年長者の方が年少者に対して巧妙に性的なグルーミングをするという事例が非常に多いので、それがきちんと捉えられるということは大変大事なことだと思っており、こうした法律ができるということはすごく大事ですし、そういうことをしてはいけないのだということが社会にきちんと伝わるというのは大事だと思っています。一点、16歳・17歳の子供たちが実際にはメインターゲットになっているという現状はあるので、そこが漏れてしまうというのは感じているところですけれども、ひとまず子供たちに対してわいせつな目的・性的な目的で性的なグルーミング行為をしてはいけないということが明確になることは大事だと思っています。   もう一点、これは法律の趣旨とは直接関係はないのですけれども、よくこの行為は「グルーミング行為」といわれるのですが、動物の世話をする方のグルーミング行為と割と混在されてしまうので、なるべく「性的グルーミング」といったような形で、それは性的なことのグルーミングを指しているのだというのが明確に議論されるといいなということを少し思っています。 ○井田部会長 今までのところで、三つの点について御意見がありました。一つ目として、宮田委員から、「わいせつの目的」というのが不明確で、規定が濫用される危険があるのではないかという御意見がありました。二つ目として、山本委員から、保護法益をどのように考えるのかが曖昧であり、これを明確化してほしいという御意見がありました。それから、三つ目として、対象者の年齢については、16歳未満の者ではなく、18歳未満の者の方がいいのではないかという御意見がありました。これらの御意見に対する検討がまだ十分にされていない感じがいたしますが、もし事務当局の方でお考えがあれば、伺えますでしょうか。 ○吉田幹事 「試案」における考え方を御説明したいと思います。「わいせつの目的で」という文言は、現行法上も、わいせつ目的略取等の罪などで用いられているものであり、ここでも、それと同様の意味で用いています。わいせつな犯罪に限る趣旨ではなく、刑法225条のわいせつ目的略取等でいわれているような、性的な意味を持つ行為という広い意味で用いているものです。   それから、試案「第1-6」の保護法益ですけれども、試案「第1-6」は、精神的に未成熟であることによって、大人と比べてより性被害に遭う危険性が高いという若年者の特性や性被害の実態を踏まえて、若年者の性的自由・性的自己決定権の保護を徹底しようという趣旨によるものです。もっとも、いわゆる予備罪として構成しているものではなく、今申し上げたような、若年者が性被害に遭う危険性がない状態、すなわち、性被害に遭わない環境にあるという状態そのものを、言い換えると、性的保護状態というような言い方ができるかもしれませんけれども、そうした状態そのものを保護しようというものです。したがいまして、目的の点も、いわゆる殺人予備罪などのように、特定の犯罪を犯す目的でという構成にはしていません。   次に、年齢の点についてですけれども、例えば、試案「第1-6」の「1(1)」の「16歳未満」という部分を「18歳未満」と置き換えたとしますと、18歳未満の者に対して、わいせつな目的で、威迫や偽計などを用いて面会を要求する行為が処罰対象となることになります。そして、「わいせつの目的」については、先ほど申し上げたように、必ずしも犯罪に限られるものではありませんので、例えば、17歳の者に対して、相手方の同意を得て体に触るという行為を頭に描いているという場合も含まれてくることになります。   しかしながら、一方で、これまでの試案「第1-1」及び「第1-2」の議論を前提といたしますと、仮に、いわゆる性交同意年齢を16歳とした場合、17歳の者に対して試案「第1-1」に記載された態様などによらずに性的な行為をすることは、それ自体としては処罰対象とならないわけです。そのような、性犯罪に当たらない行為をしようと考えて面会を要求する行為は、本来、処罰すべきでないように思われますけれども、仮にこの試案「第1-6」で対象者を18歳未満の者としますと、そうした面会要求行為が処罰対象となることとなり、この場合、面会要求の後に待ち受けている行為は処罰対象とならないのに、その行為をする目的で面会を要求すると処罰されるということになって、その点の整合性が問題になると思われます。そうしたことを踏まえて、「試案」では、相手方を「16歳未満の者」としているものです。 ○宮田委員 予備罪の場合、予備行為をした後にその準備行為に基づいて実行行為が行われた場合には、予備行為は独立して評価されませんが、そうすると、新しく出てきたグルーミング罪の場合は、その後の強制わいせつ罪や強制性交等罪とは別罪として残るという理解でよろしいのですか。 ○吉田幹事 試案「第1-6」の罪とその後に行われる性犯罪の保護法益は、密接に関連しているものではありますが、先ほど申し上げたように別のものとして考えています。例えば、わいせつ目的略取について考えますと、わいせつ目的で略取をして、更にわいせつ行為をした場合、牽連犯になるような気がするのですが、試案「第1-6」の「1」の罪とその後に行われる性犯罪についても、そのような形で科刑上一罪になることはあり得るかもしれませんが、構成要件に該当するかどうかというレベルでは、別罪を構成するということになるのではないかと思われます。 ○長谷川幹事 私は、グルーミング罪について、やはり、18歳未満の者を対象にすべきと考えています。16歳以上18歳未満の者については、試案「第1-1」に当てはまらない場合は犯罪にならないのだから、グルーミング罪においても、16歳以上18歳未満の者を対象者にするのは整合性がないのではないかというのが、予備罪かどうかは別として、16歳以上18歳未満の者を除外している実質的な理由であるということは、今の説明を聞いて理解しました。   その上で、また、グルーミング罪とは何なのかというところに立ち戻るのですけれども、グルーミングというのは、手なずけ、懐柔又はその後の脅しなどの策を弄して若年者に性交等やわいせつ行為を行うという被害実態があり、その結果、被害者に長年の精神的な苦しみを与えることから、社会的に問題視をされている行為です。なぜ、今、これが大きく問題視されているのかというと、グルーミング行為が介在することによって、行為者と若年者の面会が実現し、その後、性行為が行われる時点では、暴行・脅迫がなくても行為者が未成年に対する性交等を獲得することができてしまっているという実態があるからです。ですから、捉える時点を、会った時以降だけを見ると、そこに、現在の刑法177条の罪が成立しないけれども、会って性交等を獲得するまでの若年者に対する懐柔行為によって、そこの時点では、そういった手段を弄さなくても行為者が目的を達成してしまうことができてしまい、そのことによって、被害者、特に若年者の性的自由や自己決定権が脆弱性に乗じて侵害されている、これを何とかしたいというのが出発点なわけです。   そうすると、やはり、行為の時点で暴行・脅迫等の手段がないのは、むしろ当たり前であるという実態がありますので、16歳以上18歳未満の者に対して、試案「第1-1」の罪にはならない行為であっても、これを目的として手段を弄した場合には、行為の時点では試案「第1-1」の要件は必要ありませんので、試案「第1-2」の性的同意年齢や年齢差要件に合わせる必要はないと考えていまして、18歳未満まではやはり保護の必要があると考えているところです。   なぜ18歳なのか、16歳ではないのかについては、性交同意年齢の引上げの議論をしているときに、16歳であれば対処能力・性的同意能力が完全にあるということで16歳という線を引いているのではなくて、最低限、16歳未満の者は守るという観点から、脳科学や臨床の方々の知見によって、18歳・20歳・23歳でも不十分な実態がある中で、一発アウトの類型として作るわけです。このように、最低限の安全を見て、少なくとも16歳未満の者は守るというところで線を引いているわけなので、このグルーミング行為のように、「1(1)」の「ア」から「ウ」までのような不当な行為を弄して行うものについては、先ほど、浅沼幹事が、「対処能力が不十分であることに乗じて」との要件を外した理由についておっしゃったのと同じ趣旨で、やはり、18歳まで年齢を引き上げ、また、5年差要件も不要とすべきと考えます。   結論としては、試案「第1-6」の罪の対象者を18歳未満の者にすべきであるということ、年齢差要件及び「対処能力が不十分であることに乗じて」との要件は不要であるという意見です。 ○橋爪委員 長谷川幹事の御発言の御趣旨を確認させていただきたいのですが、長谷川幹事は、16歳・17歳の者を懐柔した上で性的行為を行った場合、性的行為の行為時には試案「第1-1」の要件は満たしていないため、その性的行為自体は試案「第1―1」の罪には該当しないという前提でおっしゃっているのでしょうか。 ○長谷川幹事 グルーミング行為によって形成される関係性が、例えば、試案「第1-1」の「1(1)ア(ク)」に当たるということが明確に運用としてされていくのであれば、これに該当すると思います。 ○橋爪委員 もう少し確認させてください。例えば、先ほど、長谷川幹事は、暴行・脅迫について御指摘になりましたが、試案「第1-1」の成立要件は、それに限られてはいません。試案「第1-1」の「(1)ア」では「(ア)」から「(ク)」の類型があり、いずれにしても、「拒絶困難」な状態であれば処罰対象に含まれるわけですが、長谷川幹事は、16歳・17歳を懐柔した上で性的行為を行った場合は、類型的に「(ア)」から「(ク)」のいずれか、あるいはそれに類する行為といえるので、基本的にそれは、試案「第1-1」で処罰できるという前提でお考えなのでしょうか。 ○長谷川幹事 そもそも、現在の実態が、現行の刑法177条でなかなか処罰できていないということがあって、それは、行為時の時点で、手段を弄さなくてももう懐柔された状態になっているので、やすやすと、本人も同意しているつもりで性交をされてしまうという実態があるということです。これが、試案「第1-1」の「1(1)ア(ク)」又は「イ(ク)」で捕捉されていくのであれば、今私が言っている点をそれほどデリケートに考えなくてもいいのかもしれないですけれども、その点については、かなり今のところ不安を持っています。結局、グルーミング行為によって懐柔されている状態が、試案「第1-1」の「1(1)ア(ク)」又は「イ(ク)」に該当せず、性的行為自体は処罰されないという結果になることを危惧していますが、いわゆるグルーミングの中で、最終的に裸の写真を使って脅すなどの行為があれば、試案「第1-1」の「1」で捕捉していくことがあろうかと思いますけれども、ずっと手前のところから策を弄して懐柔し、最後まで優しいお兄さん・優しいおじさんであったため、抵抗できなかったということが、インターネットを使った懐柔行為などにおいても存在します。今まで、地位関係性として論じてきた、教師と生徒や親族関係といった社会的関係と名前が付くような関係ではなく、インターネットで知り合った関係などにおいても、懐柔行為はあり得るものですから、そこで懐柔されていく場合に、性的行為のときに具体的な手段が弄されない場合が試案「第1-1」では捕捉されない場合があり得ることを危惧しています。このような場合も、やはり、そのような手段を弄しているので、最終的な性的行為の実現が試案「第1-1」の罪の対象とならなかったとしても、試案「第1-6」の罪の対象とすべきだと考えます。 ○橋爪委員 長谷川幹事の御発言の御趣旨は、16歳・17歳を懐柔して性的行為を行った場合、一定のものは試案「第1-1」でカバーできる場合があり得るけれども、その具体的な行為態様によってはカバーできず、それゆえ処罰されないものもあるということだと理解いたしました。そうしますと、仮に、16歳・17歳の者に対する懐柔行為をグルーミングとして処罰する場合、その後、現実に性的行為を行った場合は、グルーミング行為は処罰されても、性的行為それ自体は処罰されないことになりますが、この場合の性的行為についても新たな罰則を設けて処罰すべきというお考えでしょうか。 ○長谷川幹事 試案「第1-6」の「1(2)」には、わいせつの目的で16歳未満の者と面会をした場合についての処罰類型がありますが、その結果、更に性的行為をした場合についての第3段階の処罰類型を作るべきだと考えています。 ○橋爪委員 そうすると、懐柔をした上で16歳の者と性的行為を行うと、それはグルーミングの罪の結果的加重犯のような形で性犯罪として処罰をすべきということになるかと思うのですけれども、そうしますと、私がよく分からなくなるのは、試案「第1-2」の議論との関係です。   つまり、試案「第1-2」では、飽くまでも16歳未満という形で線引きをしているわけですが、これは、つまり、16歳を超えた場合には、いわゆる性交同意年齢に達しており、有効な自己決定ができるという前提で議論をしていると思うのですけれども、その年齢を超えていても、これに懐柔行為が付け加わると、その性的行為が可罰的な行為に転ずる理由が、私にはよく理解できないところがあります。 ○長谷川幹事 性的同意年齢についての議論の際、その年齢を16歳と決めるときに、16歳を超えれば、性的行為に同意する能力がゼロから100になるという議論はしていなかったと思います。性的同意年齢の議論の際、性的行為に同意する能力は、16歳で100になるということではなく、だんだん補われて成人になるという知見が示されました。試案「第1-1」及び「第1-2」を前提とすると、16歳以上の者の場合、試案「第1-1」の手段・状態を使われた場合のみ処罰され、16歳未満の者の場合は、そのような手段・状態が使われなくても処罰されるわけですが、性的行為に同意する能力は16歳でも100%ではないのに、何も働きかけなどがなくて、ただ性的行為をするだけでアウトにするものとしては16歳とするということであるとすれば、グルーミング行為のような、不当な働きかけがあって、脆弱性を突いている場合には、この中間的なものとして保護をすることは、今回、グルーミング罪を諮問された趣旨である被害実態や保護の必要性の趣旨に照らしても、あり得ることだと思います。 ○佐伯委員 試案「第1-6」の罪を予備罪ではなく性的保護状態を保護法益とする罪であると理解した場合には、例えば、刑法225条のわいせつ目的略取・誘拐罪の目的が、「わいせつ」や「結婚」など必ずしも犯罪行為に限定されていないように、目的とする行為が犯罪であることは必然ではないと思います。したがって、長谷川幹事や山本委員が御提案になっているように、試案「第1-6」の罪の対象者を18歳未満にするということも、考えられないわけではないと思います。   ただ、略取・誘拐罪の場合は、保護された状態から場所的に引き離すということで、明確性がある程度あるわけですけれども、性的グルーミングについては、心理的に保護された状態から引き離すということで、いわゆるマインドコントロールのような場合が典型かと思うのですけれども、本当にそのような状態になった場合には、長谷川幹事がおっしゃるように、もう懐柔されていて、何らの行為も必要なしに性的な自由が侵害されてしまうということで、処罰に値すると思うのですが、そのような状態をきちんと法律で定義できるかというと、これは非常に難しいように思われます。   試案「第1-6」の「1(1)」は、行為態様を限定しておりますけれども、これで十分に、心理的に保護状態から引き離されているということが、特に「1(1)イ」で示せているのかというと、私は少し自信がないところで、そのような意味で、試案「第1-6」の罪の対象・目的とする行為を、16歳未満の者に対する、今度犯罪として処罰しようとしている行為に限定するというのは、立法論として、少なくとも、今の段階では妥当ではないかと考えております。 ○金杉幹事 先ほど、マイクの不調で質問ができませんでしたので、時機に遅れましたが事務当局への御質問です。年少者から積極的に働きかけた場合についての議論がありましたけれども、この試案「第1-6」はいずれも「要求する行為」ですので、そのような場合は、試案「第1-6」には該当しないという理解でよろしいでしょうか。例えば、16歳未満の者が、「何月何日、1回1万円でデートしてください。」、「デートできる人いませんか。」といった投稿をして、それに対して年長者が「何月何日、行けます。」と手を挙げた場合、あるいは16歳未満の者から「私の胸の写真、性的部位を露出した写真を1枚1万円で買ってくれませんか。」、「誰か買いませんか。」といった申込みがされて、それに対し年長者が「私、買います。」といった応諾をした場合は、これらは、いずれも「要求する行為」ではないので、それぞれ、その後実際に会ってわいせつな行為をすれば強制わいせつの罪で、性的部位が露出された写真を受け取れば児童ポルノの罪で処罰される可能性があるとしても、この試案「第1-6」には該当しないという理解でよろしいでしょうか。 ○浅沼幹事 御指摘の事例にそのまま当てはまるかというのは、事案ごとに考えることになるかと思いますけれども、この「試案」の趣旨としまして、例えば、試案「第1-6」の「1(1)」の面会の要求につきましては、黙示的・間接的なものも含む趣旨で記載しています。そのため、行為者が面会に向けて偽計等の手段を用いた場合には、これによって16歳未満の者が面会の要求をしたとしても、偽計等の手段を用いる中で、少なくとも黙示的・間接的には、行為者からの面会要求行為があったと認められる場合がほとんどであると考えられるところです。   他方で、行為者が偽計等の手段を用いて行う面会要求行為が、黙示的・間接的にすら認められない場合には、そもそも、偽計等の手段と16歳未満の者の面会の意思決定との間の因果関係、すなわち、行為者が面会の危険性を高めたという関係が認め難いと考えられます。その場合に、仮にそれを処罰するとすると、その実質的な理由は、行為者がわいせつな目的を有しているのに、面会の要求を拒絶せずに受け入れたことへの非難となりますけれども、そのような場合を処罰することについては、行為者に16歳未満の者からの面会要求を回避すべき義務を課すに等しいのではないかといった問題があると思われます。そのため、そのような場合については処罰対象とすることとはしていません。 ○吉崎委員 先ほど、吉田幹事から、わいせつ目的略取とその後のわいせつ犯罪との罪数の話がありましたので、確認させていただきたいのですが、吉田幹事が出された例が牽連犯であるとした上でですが、牽連犯になるかどうかの判断には保護法益の観点も重要であり、グルーミング行為とその後のわいせつ犯罪行為とで保護法益に共通する部分は多いけれども、完全に重なるわけではないという御説明をてこに、予備罪と本罪のような完全な吸収関係に立つわけではないという趣旨で、御説明の例として牽連犯を出されたと認識しました。罪数の判断において、特に、牽連犯に当たるかどうかについては、先行行為の保護法益と後行行為の保護法益の比較ももちろんですが、先行行為の行為態様なども判断の要素になると思いますので、一言、確認のために申し上げさせていただきました。 ○山本委員 5歳差要件について質問があります。私は、法律の理解が難しいので、間違っているのかもしれませんが、予備罪ではないと言われながらも、なぜ、いわゆる性交同意年齢の5歳差要件が、試案「第1-6」に掛かってしまうのでしょうか。このように申し述べる理由は、実態をきちんと捉えて、社会的にこのような行為はしてはいけないことであるということをメッセージとして発してほしいと思うからです。ですので、試案「第1-6」ができることは非常に支持しているのですけれども、例えば、大学生の家庭教師が15歳の生徒に対してグルーミング行為をした場合、大学生の家庭教師が19歳であった場合にはこの罪には問われないとなってくると、非常に困ると思います。未成熟であることによって若年者を保護するのでしたら、試案「第1-6」の「1」についても、対象者を18歳未満の者とすることが適切ではないかとも思いますし、さらに、この5歳差要件をここで適用した場合、これによって漏れる人がいるのはどのような理由なのかと思っています。 ○浅沼幹事 繰り返しになる部分があるかもしれないですけれども、試案「第1-2」の考え方との関係ですけれども、試案「第1-2」について、仮に、行為者と13歳以上16歳未満の者との間に年齢差が5歳以上ある場合には、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる対等な関係が存することはまずないという考え方を採ることとした場合、13歳以上16歳未満の者は、5歳差以上年長の者以外の者との関係においては、有効に自由な意思決定をすることが可能である一方で、5歳差以上年長の者との関係においては、それが一般的に困難となることから、性犯罪に遭う危険性も高まるといえ、その保護を徹底する必要性が高いといえることになると思われます。   この試案「第1-6」の「1」において、わいせつな目的での面会要求や面会をすることを処罰することとした場合、「わいせつの目的」がそれ自体犯罪を構成するものには限られないと考えられるため、行為者がその目的のとおりにわいせつな行為や性交等に及んでも、それだけでは処罰されないにもかかわらず、その準備的な行為をすれば処罰されることとなるところ、当部会のこれまでの御議論を踏まえますと、そのような事態は不合理であって、理論的に正当化が難しいと考えられます。試案「第1-6」の「2」においても同様の状態が生じますので、行為の客体が13歳以上16歳未満の者である場合には、行為の主体を5歳以上年長の者としているところです。 ○井田部会長 よろしいでしょうか。それでは、試案「第1-6」についての本日の御議論は、この程度とさせていただきます。   次に、「第2-1 公訴時効の見直し」について御議論いただきたいと思います。この「第2-1」についても最大30分程度の時間を予定しています。   まずは、前回会議での事務当局の説明について、何か質問はございますか。   特に質問はございませんか。それでは、御意見を伺いたいと思います。 ○小島委員 公訴時効の見直しの対象犯罪についてこのように選別をした理由について伺います。例えば、児童ポルノの罪やグルーミングの罪などが対象犯罪に含まれていませんが、グルーミングの罪は時効期間が短いですし、児童ポルノの罪についても、児童の保護ということになると重大な犯罪ですが、見直しの対象となっていません。私としては、グルーミングの罪や児童ポルノの罪も対象に含めたらいいと考えています。 ○浅沼幹事 お尋ねの公訴時効期間の延長の対象とする罪の範囲につきましては、当部会のこれまでの御議論の中で、いわゆる性犯罪あるいは性犯罪に類似する犯罪を掲げているビデオリンク方式による証人尋問を定める刑事訴訟法第157条の6第1項第1号・第2号に掲げられている罪を手掛かりとして、公訴時効の完成を遅らせることとする趣旨との関係を踏まえて検討を行ってはどうかといった御意見が示されたところです。   その上で、試案「第2-1」における公訴時効期間の延長は、性犯罪について、恥の感情や自責感により被害申告が困難であること、被害者の周囲の者が被害に気付きにくいことから、類型的に被害が潜在化しやすく、その結果、訴追が事実上可能となる前に公訴時効が完成し、犯人の処罰が不可能になるという不当な事態が生じる場合があることに着目したものであり、公訴時効期間の延長の対象とする罪の範囲につきましては、先ほど申し上げたビデオリンク方式による証人尋問を定める刑事訴訟法第157条の6第1項第1号・第2号に掲げられている罪のうち、先ほど申し上げた公訴時効期間を延長する趣旨が妥当するといえるもの、すなわち、一般的・類型的に、被害申告が困難であり、また、通常、例えば被害者の申告がなくても周囲が被害に気付くほどの重大なけがといったもののような客観的に明らかな被害結果が生じるとはいえず、被害について周囲が気付きにくいといえるものをその対象にすることとしています。   お尋ねの児童ポルノについてのいわゆる児童ポルノ法第4条から第8条までの罪につきましては、児童ポルノが存在するなどの理由から被害結果が客観的・外形的に明らかとなりやすく、被害について周囲が気付きにくいとは必ずしもいえないと考えられますし、試案「第1-6」のグルーミングの罪についても、面会要求行為及びその結果としての面会行為並びに映像送信の要求行為を処罰対象とするものであり、被害者は面会要求などをされたにとどまり、性犯罪が実行されてその被害に遭った場合とは異なり、被害に遭ったことに対する自責感等により保護者に相談しにくいとまではいえない上、多くの場合、面会要求行為や映像送信要求行為は、オンライン上のメッセージのやり取りなどで行われるため、その履歴等が存在し、被害者の申告がない場合でも客観的に被害結果が明らかとなり、周囲が被害に気付くことが考えられるため、公訴時効期間の延長の対象にはしていないということです。 ○齋藤委員 18歳未満の者について、公訴時効が実質的に18歳からスタートすることになるのは、よかったと思っています。ただ、現在、延長する期間が各5年となっていますが、それはやはり少し短いと感じています。   性犯罪に関する刑事法検討会第11回会議でもお話ししたことですけれども、オーストラリアの調査ですが、子供の性虐待に関する調査報告書で、虐待について、誰かに話すまでに、つまり、警察に届けるまでではなく、誰かに話すまでに、平均で23.9年掛かっていたという調査結果があります。その会議の時にお示ししていないものではありますけれども、ほかのものでも、例えばドイツでは、1,000人以上の生存者を対象とした、18歳未満の子供に対する児童性的虐待を被害者が報告したときの平均年齢が約52歳だったという調査結果や、アメリカの男性の児童性的虐待の生存者を対象とした調査ですと、最初の暴露まで、つまり、最初に誰かに話すまでの平均期間が平均21.45年だったという調査結果があります。   この数字を踏まえると、そもそも言える人が少なく、現在のプラス5年だと、言える人の中の更に半分も対象にならないということになってしまわないかと思っています。性教育が進み、より性暴力の告発についてオープンになっている欧米社会でも、このぐらいの年数が最初に誰かに相談するまでに掛かり、そこから更に警察に相談するまではもっと時間が掛かるので、5年というのはまだ少し短いかなと、もうあと5年ぐらい延長されると実態に即して有り難いと、特に児童期の性虐待については思っています。 ○井田部会長 10年ぐらいの延長が望ましいという御意見と理解してよろしいでしょうか。 ○齋藤委員 はい。 ○小島委員 公訴時効の延長期間は5年が妥当であることの根拠としてこの部会で引用されたものとして、配布資料9の内閣府の「男女間における暴力に関する調査報告書」があり、配布資料9の82ページには、被害を誰かに打ち明けたり相談したりした期間についての調査結果が記載されています。ここでは、5年経過するまでに被害を誰かに打ち明けたり相談したりしたという方が約90%で、10年以上掛かったという方が約10%だという調査結果が記載されており、恐らく、この内閣府の調査結果を根拠にして、試案「第2-1」では、公訴時効の延長期間を5年としたのだと理解しています。   しかし、ここで、被害を誰かに打ち明けたのかどうかと、被害申告ができたのかどうかは、違うのではないかと思います。誰かに相談した期間が5年未満の方の割合は多いのですけれども、では、その相談先はどこかというと、配布資料9の81ページに記載がありますが、警察に連絡・相談した人の割合は5.6%となっており、それ以外の公的機関に相談した人もかなり割合が低くなっています。被害を誰かに打ち明けたということと、捜査機関までつながったのかということは、違う問題ではないかと考えます。この点については、十分な検討が必要かと思います。   配布資料9の83ページでは、相談しなかった理由についての調査結果として、恥ずかしくて誰にも言えなかったからという理由の割合が高くなっており、警察などの捜査機関が、安心して相談できる司法機関になっていないという現状があります。   齋藤委員や小西委員などから、なかなか被害申告ができないのだという御意見が今まで出ています。延長期間が5年というのは短すぎるという意見を持っています。せめて、現在の公訴時効期間の2倍、すなわち、強制わいせつの罪であれば7年の倍の14年、強制性交等罪であれば10年の倍の20年に公訴時効期間を延長していただければと思います。例えば、ドイツ等の例を参考にしてはどうかと思います。 ○山本委員 被害を訴えにくいということと、被害認識ができにくいということを、齋藤委員、小西委員及び私からも報告させてもらっているのですけれども、先月、10月26日の広島地方裁判所で、性的虐待の事実を認定しながらも、提訴が遅いとして、訴えを退けたという報道がありました。保育園のときから中学2年になるまで、実の父親から性的虐待を繰り返されて、フラッシュバックなどの後遺症に苦しむ広島市の女性が、40代になって民事裁判を起こし、この裁判で、父親側は、性的な行為をしたことを認め、裁判所も、父親による性的虐待の事実や女性の被害を認定しました。しかし、裁判所は、10代後半には精神的苦痛を受けていたとしても、少なくとも、20歳になったときから20年が経過した提訴前の時点で、賠償請求できる権利が消滅したという判断を示しました。これは、民事の事件なのですけれども、被害が申告されたにもかかわらず、画一的に定められた出訴期限によって門前払いされてしまうということは、刑事事件においても起こります。   性犯罪に関する刑事法検討会でも法制審議会でも、私たちが繰り返しお伝えしてきたのは、まず、被害を認識するためにすごく時間が掛かることです。一般社団法人Springの調査でも、挿入を伴う性被害の認識年数に26年掛かったケースも5,899件中、約0.6%で35件、31年以上掛かったケースが0.3%で19件あります。少ない数であっても、その人たちが訴えたときにきちんと、その訴えが認められるという余地を残してほしいと思います。そして、さらに、小西委員や齋藤委員が言われているように、被害者にとって、公的機関・司法に訴え出るのは、相談のもう一つ先にある過程です。レイプ場面を再体験するような質問をされたり、被害の状況を再現した写真を撮られるといった過酷なプロセスを経験することとなるため、訴えられるようになるまでには更に心身の回復を要します。   公訴時効期間を何年にするのがいいのかということなのですけれども、社会的に成熟しないと、なかなか被害の認識もできないし、これが訴えられるような被害だということが分からないわけです。きちんと経済的にも自立して、自分の生活が落ち着いてこないと、本当に被害と認識することは難しいと思います。私からは前回、25歳に満たない若年者に対して行われた罪については、犯罪行為が終わった時から被害者が25歳に達するまでの期間に相当する期間、公訴時効の完成を遅らせるものとした上で、現行の公訴時効期間を5年延長すれば、強制性交等罪については公訴時効期間が15年となるので40歳まで、強制わいせつ罪については公訴時効期間が12年となるので37歳までカバーできるのではないかという意見をお伝えしました。各委員からも、せめて30代まではカバーしてほしいということを伝えられていると思います。エビデンスを示して説明しているのに、こういう提案がなぜ受け入れられないのか、なぜそれを無視してこのような線引きになっているのかということを、お聞きしたいと思います。 ○小西委員 臨床の実態というところで言いますと、30代で来られる方は結構いるのですけれども、最近は40代で性的虐待を訴えてこられる方もいます。ですが、多くの人は、法律を先に見るので、諦めてしまっているという状況があります。要するに、「もう時効だから、どうしようもないのですよね。」などと言われながら、具合が悪いので来られるということがあるので、私も、30代まではカバーできるようにしてほしいと是非お願いしたいと思っていたことです。   例えば、PTSDなどが診断されれば公訴時効期間が20年となることもあり得るということかもしれませんが、これくらい時間がたってしまうと、PTSDの診断がなかなか付き得ないような、生活レベルでのうまくいかなさや本人のパーソナリティの問題のように見えてしまうような場合も結構あります。そのような場合についてまできちんと診断が付くということが、余り全国レベルでは期待できないことを考えると、試案「第2-1」の「1(2)」で強制性交等罪についての公訴時効期間が15年となっているところが20年ぐらいになると、多くの人にとって、何とか30代までを保障できるのかなと思います。 ○浅沼幹事 試案「第2-1」の公訴時効期間の延長については、性犯罪について、ほかの犯罪と区別して、一般的・類型的に公訴時効期間を延長することが適当といえるかという点が大きな問題になるものと理解しています。その上で、試案「第2-1」では、先ほども申し上げましたけれども、性犯罪特有の事情として、一般的・類型的に被害申告が困難であり、また、通常、客観的に明らかな被害結果が生じず、被害について周囲が気付きにくいといった特別の事情があることに着目して、公訴時効期間を延長しようというものです。   現行の公訴時効期間は、処罰の必要性を反映するものとしての法定刑を基本的な基準として定められていますけれども、どの罪であっても、捜査・訴追に一定の期間を要することは一般的・類型的に考慮されていると考えられる一方で、被害申告の困難性や被害についての周囲による気付きにくさに伴う捜査の開始時期の遅れという性犯罪特有の事情までが考慮されているとは言い難いと考えられます。   そのため、性犯罪の公訴時効期間をほかの犯罪と比較して特に長く設定する場合に、その期間をどの程度とするかについては、性犯罪において、被害に遭ってから、被害申告の困難性や被害についての周囲による気付きにくさが解消され、被害が外部に表出されるまでにどの程度の期間を要するといえるかを踏まえて検討することが適当であると考えられます。この点は、先ほど小島委員から御指摘がありましたけれども、当部会の配布資料9に記載されている、無理やりに性交等をされた者の被害に遭ってから相談するまでの期間の分布を見ますと、大部分の事案では、被害から5年が経過するまでの間に、被害が外部に表出されているということです。このようなことを踏まえまして、公訴時効期間の延長幅を5年としています。   また、被害者が若年者である場合について、大人とは異なる取扱いをしておりますけれども、これについては、当部会のこれまでの御議論の中で、心身ともに未成熟である若年者については、性犯罪の被害を受けたとしても、知識・経験が不十分であるため、そもそも行為の性的な意味を認識することができなかったり、性的な意味を理解できた場合でも、それが性犯罪の被害であることを認識することができない、あるいは社会生活上の自律的な判断能力・対処能力が十分でないため、親権者等の保護者の指導・監督によってこれが補完される立場にありますが、性犯罪の被害に遭った場合には、自責感等により被害について保護者に相談しにくいといった若年者特有の事情があり、性犯罪の被害に遭った場合、大人の場合と比較して、類型的に、被害申告がより困難であって、ひいては、捜査・訴追が事実上困難であると考えられるとの御意見が示されていたところです。   その上で、具体的にどの範囲の者について特別の取扱いをすべきかに関しましては、18歳未満の者は、社会的実態として、一般的に見て、性的な行為を含めた社会生活一般についての知識・経験が備わっているとは評価し難く、性犯罪の被害に遭った場合、それが性犯罪の被害であることを認識できない、あるいは法律上の取扱いとして民法上の親権の対象となっていることなどから、社会的に重要な行為について、親権者等の保護者の指導・監督を受けることになるところ、性犯罪の被害については保護者等に相談しにくいといったことに鑑みますと、一般的・類型的に、18歳以上の者の場合と比較して被害申告がより困難であると考えられたため、特別の取扱いをする対象については18歳未満としているというものです。 ○井田部会長 発言された委員の皆さんの御意見も理解できるのですが、現行法が公訴時効制度を認めていて、それに整合的な改正でないといけないということも、考えていただきたいと思います。 ○金杉幹事 これでも短いという御意見が出ているところに大変恐縮ですが、刑事弁護の立場からは、公訴時効期間の延長には消極の意見を申し上げます。試案「第2-1」を拝見して、「2」に関して、18歳未満の者について、18歳に達する日まで延長するということはやむを得ないのかなと考えました。ただ、それに加えて、「1」の延長もするということは、やはり慎重に考えるべきだと思っています。   先ほどから、性犯罪特有の事情として、表に出にくい、申告がしにくい等の事情が指摘されており、延長の必要性については私も理解するところです。その反面、これも何度も申し上げていることですが、それであるがゆえに、客観的な証拠が残されないという問題は、非常に大きいと思います。公訴時効期間が延長されたとしても、連鎖的に、例えば、記録の保存等の期間が延びるように法律が改正されるかどうかは分かりません。少なくとも、現状、被害者の被害申告が遅れて、精液等の採取・保存等が遅れた場合、被害者の供述を裏付けるほかの証拠として、例えば、医療機関の診療録、宿泊記録、宿泊施設等の防犯カメラ、携帯電話の通話・通信の履歴等が考えられるかと思います。ただ、これらはいずれも保管期限があり、5年の延長であっても、この5年の間にほぼ全て散逸し、あるいは廃棄されてしまうなどの可能性は非常に高いと思います。反証だけでなく、そもそも立証が困難という事態は、十分に考えられると思います。   その場合に、確かに、申告をしたときに既に公訴時効が成立しているという理由で諦めてしまうということはこれで防げるため、被害申告はできるのかもしれないけれども、申告したとしても、その客観的証拠・裏付け証拠がないということであれば、残念ながら立件はできず不起訴になります。あるいは、仮に起訴にこぎ着けたとしても、証拠がなくて無罪になったということがもしあった場合、それでも納得されるのかもしれませんが、どちらがいいのかという問題は本当にあると思います。また、実務的にも、証拠の保存期間のキャパシティが大きくならないのに、公訴時効期間だけ5年間延ばしてしまった場合、例えば、被害申告されたけれども犯人の特定に至らなかったというような事件の積み重ねにより、保管する記録の量も膨大になると思います。このように、公訴時効期間の延長は、かなり影響が大きいので、慎重に考えるべきだというのが私の意見です。 ○宮田委員 金杉幹事とほぼ同旨で、公訴時効期間の延長に対する過度の期待があるのではないかと感じています。今、金杉幹事が、客観証拠の問題について指摘しました。客観証拠の問題について更に一つ付け加えるならば、例えば、DNA検査がされ、その鑑定結果がある場合であっても、これを弁護人・被告人側で反対実験ができるような場合でなければ、鑑定の証拠としての価値は著しく減じられます。客観証拠であってもそれは絶対的なものではありません。そして、一番の問題は、性犯罪の立証が供述に頼るところが非常に大きいということです。言うまでもなく、供述証拠というのは、知覚、記憶、表現、叙述の全ての段階で誤りが入り得るわけです。海外の論文などでも、カウンセリングを受けている人への性被害が暗示されることによって記憶が書き換えられるというケースの存在も紹介されております。ロフタスの論文などは、非常に参考になります。供述証拠の持つ限界という意味で、時間がたつことの危険性について、我々は十分に認識しておかなければならないのではないかと思います。 ○山本委員 証拠の問題は今までも様々に説明されていますけれども、この前も、警察官が盗撮で捕まって、調べたところ、7年前に採取されて保存されていたレイプ事件のDNAと一致したという報道もありました。きちんと証拠が残っていたり、加害者が記録として保存している場合も、公訴時効によって無視されていくというのは、本当に理不尽だと思います。先ほど、浅沼幹事から、内閣府の調査報告書に記載された周囲に相談することができた期間に関する調査結果を理由として、5年という延長期間は適切であるという趣旨の説明がありましたが、警察に被害申告をしても、何回も事情聴取をさせられ、再現見分をさせられ、そのことに耐えられないために去っていく人も多いわけです。これは日本の捜査の問題ですけれども、司法が被害申告を諦めさせているし、権利を奪っている状態ではないかと思います。   私の知り合いで、親から性的虐待を受けた方がいたのですけれども、性交がなかったので、強制わいせつ罪となり、公訴時効期間は7年でしたけれども、被害に遭ったのが11歳の頃であり、公訴時効期間が満了するのが18歳の頃で、とても訴えられるような状態ではありませんでした。このような人たちは、試案「第2-1」の「2」を前提とすると、33歳になるまで公訴時効が成立しないこととなりますが、33歳までで間に合うのではないかということについては、治療に来られる方や、私が出会っている人たちのお話を聞くと、33歳までに訴えられるような状態にならない人も多いです。そうすると、例えば、証拠が残っていて、DNAや写真が残っていても公訴時効が過ぎて、罪に問えないということは、非常に理不尽なことだと思います。今回、このような性犯罪の実態に即した刑事法に改正しようという趣旨で議論がされています。この点について説明がきちんとされていないと思いますので、検討していただきたいと思います。 ○川出委員 「試案」に沿って、まず、仮に性犯罪一般について公訴時効期間を延長するとして、それを何年にすべきなのかという点について、次に、若年者について一定年齢に達するまでの期間分、公訴時効期間を延長するとして、その年齢として「18歳」が妥当なのかという点について、意見を申し上げたいと思います。   まず、最初の点ですけれども、先ほど事務当局から説明がありましたように、性犯罪について特別に公訴時効期間を延長する根拠は、性犯罪は、被害申告が困難であることなどから、類型的に被害が潜在化しやすいという特色を持っているところに求められます。その上で、そのことを根拠に、どの程度の期間、公訴時効期間を延長すべきなのかですけれども、ここでは、個々の被害者の事情にかかわらず、性犯罪一般について一律に公訴時効期間を延長しようとするわけですから、そうである以上は、性犯罪について、他の犯罪と比較して、一般的・類型的に被害申告が困難であるといえる期間がどの程度なのかを基準とすべきことになるはずです。そして、それは可能な限り実証的な根拠に基づいて検討することが必要だと思います。   この点で、先ほど小島委員及び事務当局からも御紹介がありましたように、内閣府の「男女間における暴力に関する調査報告書」によれば、無理やりに性交等をされた方の大部分について、被害から5年までの間に相談がなされているということです。この調査結果は、被害申告が一般的・類型的に困難といえる期間についての一定の実証的な根拠になると思います。つまり、性犯罪について、被害が潜在化しやすいことにより、捜査の開始の遅れが生じることが多いと考えられるわけですが、この調査結果を踏まえますと、性犯罪についても、多くの事案において、おおむね5年を経過することによって被害者が被害を外部に表出することができるようになり、この時点で、他の犯罪と同様の意味で捜査が開始できるようになると考えられます。   そして、齋藤委員からは、外国における調査結果について御紹介がありましたが、我が国においては、この内閣府の調査報告書以外に依拠できるような実証的な根拠は見当たらないことを踏まえますと、性犯罪一般についての公訴時効期間の延長幅としては、この「試案」にあるように、5年とするのが適当だと思います。もちろん、先ほども御指摘がありましたように、個別の事案においては、被害を申告するまでに5年以上の時間が掛かっているものもあり、そのような事案では5年以上の公訴時効期間の延長が必要になるというのはそのとおりなのですが、ただ、それを言い出しますと、結局、公訴時効を廃止するというところまで行き着かざるを得ません。性犯罪について一律に公訴時効期間を延長する以上、その延長の幅は一般的・類型的に考える必要がありますので、個別の事案で、どうしてもそこから漏れてしまうものが出てきますが、それは、公訴時効という制度の性格からしてやむを得ないものだと思います。以上が一点目についての意見です。   次に、若年者についての特別の取扱いについてですが、先ほど御説明がありましたように、性犯罪の公訴時効に関して、性犯罪一般の公訴時効期間の延長に加えて、若年者について更に公訴時効期間を延長する根拠は、心身ともに未成熟である若年者に特有の事情によって、性犯罪の被害に遭った場合に、大人の場合と比較して一般的・類型的に被害申告がより困難である場合が多いという点に求められます。   若年者についてこうした特有の事情があること自体は異論のないところだと思いますが、その上で、何歳になればこの意味での被害申告の困難性が解消されるといえるのか、言い換えますと、性犯罪の被害に遭った場合に、それが性犯罪の被害であることを認識した上で捜査機関への被害申告を行うという行為について、自ら判断し、対処することが一般的・類型的に可能となる年齢は何歳なのかについては、先ほど性犯罪一般のところで紹介があったような実証的な根拠となり得るような調査結果は、私が知る限り、存在していません。   そうしますと、その線は、基本的には法的な観点から引かざるを得ないように思います。この点、事務当局から説明があったとおり、18歳になれば、民法上、成年として扱われ、親権の対象から外れることに伴い、犯罪事実についての告訴や契約の締結といった社会的に重要な行為をするかどうかを自ら判断し、対処する能力が備わっているものとして取り扱われることになりますので、法的な観点から線を引くとすれば、18歳とするのが最も説明がしやすいと思います。   また、法的地位を離れて、社会的な実態という点から見ましても、18歳になれば、一般には、精神的に相当程度成熟し、性的な行為を含めた社会生活一般についての知識・経験も備わると評価されるとともに、その多くが就職したり大学に入学したりして自立した生活を送ることになりますので、社会的に重要な行為をするかどうかを自ら判断し、対処する機会が多くなると考えられます。こういった点から考えますと、性犯罪の公訴時効に関して、若年者としての特別の取扱いの対象とすべき年齢については、「試案」にあるように、18歳未満とするのが適当ではないかと思います。 ○小西委員 配布資料9の内閣府の調査結果では、無理やりに性交等をされた被害に遭った人のうち、誰にも相談しなかった人が過半数でした。質問は、「無理やりに性交されたことがありますか」という聴き方になっているのですけれども、誰にも相談しなかった人が、女性は58.4%、男性だと70.6%、全体で約60%の人が、誰にも相談していないという調査結果でした。その次の被害に遭ってから相談までの期間についての質問は、相談した人の中で取った数字であって、5年以内に約90%の人が相談できたというところが取り上げられていますけれども、実はこれは半分以下であり、大多数の人が5年以内に相談できたわけではないということを知っていただきたいと思います。   それから、もう一つ私が分からないのは、被害に遭ってから相談するまでの期間が10年以上であった人が約10%と少数だからいいではないかという理由付けです。強制性交等罪の議論をするときに、100件に1件もないようなまれなケースについてすごくしっかり考えているのに、この10%を無視するという乱暴さの理由がよく分かりません。実際にはもっとたくさんいると思いますが、仮にこの10%という数字を取りあえず使うとしても、10%の人が相談できないでいるという事態を無視していいとは思えないです。そこのところが、バランスを欠いているのではないかと思います。   もう一つ、付け加えて申しますと、公訴時効のせいで被害申告ができなくなるケースの中に、例えば、被害者本人は具合が悪くてその事件について誰にも言うつもりがなかったのだけれども、例えば、複数の性犯罪を犯した加害者がいて、その加害者の所持品等から、たまたま、ある被害者の事件に関する証拠が出てきたケースの場合、罰したいと思う被害者もいます。結構事件から時間がたっていることもあります。   虐待に関しては、年齢が高くなると、加害者が加害したことを認めているケースも結構あります。時間が経過すると証拠が散逸するというのも、非常に一般論な話であって、実際にはそうではないケースも引っ掛かってきていると思います。 ○吉田幹事 今の御指摘に関連して、事務当局としての考えを申し上げたいと思うのですけれども、最初に、内閣府の調査結果によると、誰にも相談できない方が半分くらいはいるという御指摘がありました。それは、確かに御指摘のとおりだと思います。その上で、今回、公訴時効期間の延長幅を考えるに当たってこの調査結果を参考としているのは、仮に被害結果を外部に表出できるとすれば、何年くらいかかると考えるのが一般的・類型的に相当といえるのだろうかという観点から参照しているものであり、その意味で、誰にも相談できない人の存在自体は認識した上で、表出できる方に着目して、それを期間の設定に活用しているということです。   それから、二点目と三点目の御指摘は、先ほど川出委員がおっしゃったこととも関連するように思われますが、性犯罪に限らず、個別のケースを見たときに、被害申告まで時間がかかったために、あるいは時間がたって証拠が発見されたために、相当期間経過後にようやく訴追が可能になる場合というのは、犯罪類型を問わず存在し得ると思われます。その上で、公訴時効制度は、そうした個別の事情をひとまず捨象して、犯罪類型として一般的・類型的に見たときに、どの程度の期間であれば、処罰の必要性と法的安定性の調和という観点から適当といえるかという観点で定めるものですので、先ほど御指摘になったような個別の事情があることは前提としつつも、今申し上げたような一般的・類型的な判断ということで期間を考えていく必要があるという理解の下に、この「試案」を作成しているものです。 ○齋藤委員 小西委員の御発言の補足で、科学的に、研究の側面から考えましたら、誰にも相談できない人が過半数の約60%その時点でいたとして、その60%の人は、その後、被害を開示するかもしれないということを考えると、このデータの見方は、被害申告できている人の中の5年ということではないので、データの見方が若干不正確な中で議論がされているのではないかということを、申し上げたいと思います。 ○山本委員 最後に一つだけ申し上げたいと思います。小西委員も齋藤委員も私も、被害の実態に関するエビデンスを知っているから、この部会に呼ばれていると思います。日本でデータがないのは、被害者にとってはトラウマで言葉にできないようなことであり、社会がそのような被害をきちんと調査してこなかったからだ思います。だからといって、データがないことを言い訳にして、今、出されているエビデンスを法律に盛り込まないというのは、エビデンスを本当に無視しているのではないかと思います。   あと、先ほど、18歳になれば人間的にも成熟していくというお話もありましたけれども、それは、性的虐待などを受けていない一般の人の話であって、性的虐待を受けた人は、人間の心理・精神的、神経系統的な発達段階も、すごく混乱させられていて、その年齢になったからといって正常に判断できるということではありません。そのようなところをきちんと反映した法律にしてほしいですけれども、それについての説明は次にお願いします。 ○井田部会長 それでは、ここで休憩を10分間入れることにしまして、午前11時40分に再開したいと思います。試案「第2-2」から再開することとします。              (休     憩) ○井田部会長 それでは、再開したいと思います。   次に、「第2-2 被害者等の聴取結果を記録した録音・録画媒体に係る証拠能力の特則の新設」について、御議論いただきたいと思います。この試案「第2-2」については、最大で30分の時間を予定しています。   まず、前回会議における事務当局のこの点についての説明内容に関して、御質問はありますか。 ○金杉幹事 二点質問があります。   まず、一点目は、「1(2)」の「次に掲げる措置」の「ア」及び「イ」についてです。現状行われている警察官ないし検察官による事情聴取で、これらの措置・配慮はなされていないのでしょうかというのが、一点目の質問です。   すなわち、「ア」は、供述者の特性に応じた、供述者の不安又は緊張を緩和することによって十分な供述をするための配慮であり、「イ」は供述者の特性に応じて誘導をできる限り避け、内容に不当に影響を与えないようにするということですが、これらの措置・配慮は、実際、今の事情聴取においても一般的に行われていることなのではないかと思うのですが、そのような理解ではないのでしょうか。もし、仮に、現状もそのような事情聴取が行われているのだとすれば、それを特別に措置と規定したからといって、何が変わるのでしょうかという質問です。   二点目の質問は、「2」に関してのものです。事務当局の説明は、「2」は重複尋問等を防ぐための規定であるというものであったと理解しているのですが、こちらとしては、重複尋問であるからといって直ちに制限されるわけではなく、基本的に、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、あるいは裁判長がそれを踏まえて認めた場合には、重複尋問も認められるという理解をしています。そうすると、例えば、主尋問で一般的な性被害の内容が語られたからといって、反対尋問でオープンにもう一度その被害の核心部分を尋ねるということは、必ずしも重複尋問に当たるというだけではなくて、主尋問に関連した事項でもありますし、あるいは、証人の記憶等に関して、本当に今でも記憶しているのかということは、供述の信用性を争うために重要になってこようかと思います。証言の信用性を吟味するために主尋問で現れた被害の内容を反対尋問で再度訴訟関係人が尋ねるということは、これも訴訟関係人の本質的な権利だと思うのですが、そのような理解、すなわち、重複しているから直ちに主尋問と同じことを聴いてはいけないということではない、という理解でよろしいのかという質問です。 ○浅沼幹事 この「試案」の趣旨として御説明します。まず一点目の御質問ですけれども、試案「第2-2」の「1(2)」に「次に掲げる措置」を掲げていますけれども、これは、司法面接的手法は、できる限り正確に、かつ、できる限り多くの事実を聴取するために開発された手法であり、様々な具体的なプロトコルがありますけれども、中核的な要素は、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置、あるいは、誘導をできる限り避けることその他の供述者の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置であると考えられます。そこで、試案「第2-2」の「1」において、そのような措置を要件としているところです。御質問は、普通の取調べでもそのような措置が採られているではないかということですが、確かに、被害者・参考人の一般の取調べにおいても配慮することが望ましいものであり、現に採られ得るものでもあると考えられます。そこで、試案「第2-2」の「1」においては、一般的な通常の配慮だけでなく、司法面接的手法の中核的要素と考えられる措置が当該供述者の特性に応じて講じられたものであることが明確になるようにするため、措置が「特に採られた」と規定しているところです。   二点目ですけれども、実際の公判において重複尋問であることを理由に制限されるかどうかは、当該公判において裁判官が判断されるべき事柄だと考えていますので、必ず当たるとか当たらないとかいったことを我々の方から申し上げることはできないのですけれども、この試案「第2-2」の「2」の趣旨について申し上げますと、現行の刑事訴訟法第321条の2第3項によりビデオリンク方式による証人尋問調書が公判で取り調べられた場合には、当該調書に記録された供述は、被告事件の公判期日においてなされたものとみなすこととしており、これによって、裁判長は、刑事訴訟法第295条第1項前段の規定により、調書に記録された尋問と重複する尋問を制限することができるとされています。その趣旨は、証人の心理的・精神的負担を軽減するために繰り返しの証言を避けるということにあるところ、試案「第2-2」の趣旨も、現行の刑事訴訟法第321条の2と同様に、被害状況等を繰り返し供述することで生じる心理的・精神的負担の軽減を図ることにあります。そこで、試案「第2-2」の「2」におきましては、録音・録画記録媒体に記録された供述者の供述は、刑事訴訟法第295条第1項前段の適用について、被告事件の公判期日においてされたものとみなすこととし、裁判長が重複尋問を制限することができることとしているものです。 ○井田部会長 ほかに事務当局への御質問はありますか。よろしいですか。   では、御意見を伺いたいと思います。 ○齋藤委員 「試案」の内容に反対するという趣旨ではないのですけれども、反対尋問をする場合に、これまでも申し上げてきたとおりなのですが、真実を明らかにするためにも、子供の心を守るためにも、できる限り子供にストレスを与えない状況で、そして、子供の記憶とか心理について司法関係の方がしっかりと学んだ上で行っていただきたいと思っています。   また、「(2)」のところの説明で、先ほどもありましたが、司法面接のプロトコルは様々ありますが、それぞれのプロトコルは、きちんとした実証的な研究に基づいて作られているものです。司法面接については、しっかりとしたトレーニングを積んでいただきたいですし、そうした趣旨に基づいてきちんと実行されるようになってほしいと思っています。 ○吉崎委員 今、齋藤委員から頂いた御意見の一点目、例えば、公判廷での被害者の証人尋問に当たって、被害者の心情に配慮した訴訟指揮などを行うという点に関しましては、裁判所の内部でも、その見地を尊重して考えるべきであるということを研修などを通じて周知しているところです。この点については、引き続き現場の裁判において励行してまいりたいと考えています。   その上で、いわゆる司法面接的手法による録音・録画された供述に特別な証拠能力を付与するかどうかという問題に関しては、これまでの部会において中川委員が何度か御意見を述べてきているところです。私もその御意見の範囲を出るものではありませんけれども、一言、意見を述べさせていただきます。   試案「第2-2」の「1(1)ウ」の類型に関してです。この類型に関しましては、対象者を、性犯罪の被害者以外にも広く「公判準備又は公判期日において更に供述することで精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」とされています。したがいまして、仮にこの「試案」のとおりの要件が定められると、犯罪の目撃者はもちろんのことですが、例えば、特殊詐欺の受け子のような上位者の報復を恐れる共犯者も対象となり得ることになりますし、事と次第によりましては、窃盗の被害者であってもこの対象となり得るということになります。当部会における諮問の内容は、「近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため」、「性犯罪の被害の実態に応じた適切な公訴権行使を可能とするための刑事手続法の整備」といった事項とされており、整備される制度の対象者は性犯罪の被害者が想定されていたと理解しています。今、私が述べております「ウ」の類型につきましては、今回の諮問、ひいては当部会での議論の言わば想定外・射程外なのではないかというのが、これまで部会に参加してきた者としての理解です。 ○中川委員 私からも、今、吉崎委員がおっしゃったところと同じ、試案「第2-2」の「1(1)ウ」の類型に関連して、実務上の観点から意見を述べたいと思います。   これまでも繰り返し発言してきたところですが、被害者の供述及びその状況を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則を新設するに当たりましては、証拠能力を認める場合を適切に限定しないと、裁判所が事実認定をする際に困難が生じると思います。今回の「試案」では、反対尋問の機会が確保されているとはいえ、過去に録音・録画された供述について、時間を置いてその信用性が争われるということになります。この場合、例えば、供述者が法廷で「覚えていません。」などと答えたときなどを想定しますと、時間の経過による記憶の減退があったためそのような供述になっているのか、それとも過去にした供述が真実とは異なるためにそのような供述となっているのか、録音・録画に立ち会っていない裁判官としては、的確に判断できない場合があります。そうすると、結果的に、録音・録画記録媒体に記録されている供述の信用性が認められないということになり、ひいては事実認定のための証拠とすることはできないということにもなりかねません。   対象者についてですが、第7回会議において、いわゆるビデオリンク方式による証人尋問の規定である刑事訴訟法157条の6が参考になるのではないかという御意見がありました。また、前回の会議において、事務当局から、悲惨な犯罪の目撃者や「1(1)」の「ア」又は「イ」に掲げられた罪以外の被害者についても、繰り返しの供述が心理的・精神的な負担になることから、それらを軽減する必要性は、性犯罪の被害者と同様に認められるとの説明がありました。しかし、まず、ビデオリンク方式による証人尋問の規定は、精神的負担の軽減という観点では、今回の議論と共通するところはあるものの、飽くまでも証人として尋問する場合の証拠調べの方法に関する規定です。今回の「試案」のように、過去に録音・録画された供述について時間を置いて反対尋問を行い、その信用性を争う場面とは、大きく異なります。なお、刑事訴訟法321条の2は、ビデオリンク方式による証人尋問調書の証拠能力を認めておりますが、同調書の一部である記録媒体に記録された供述というのは、裁判官の面前で、かつ、宣誓をした上で聴取されたものであります。後に信用性が争われるとしても、捜査段階で一方当事者が録取した供述を記録したものとは状況が異なります。供述が繰り返し求められることによる心理的・精神的負担については、ビデオリンク方式による証人尋問など既存の制度を十分に活用することによって軽減が図られるべきであると考えます。証拠能力の特則を新設するとしても、その対象は、先ほど吉崎委員の御発言にもあったとおり、今回の諮問の趣旨である性犯罪の被害者に限るとするのが相当ですし、証拠能力を認める要件も明確にする必要があると考えます。   また、供述が録取される際に採られる措置については、今回、伝聞例外として証拠能力を認める規定の新設を検討する際には、供述の繰り返しによる精神的負担の軽減という必要性だけではなく、いわゆる司法面接の手法によれば信用性の高い供述を確保することができるという相当性も、その根拠とされていたものと理解しています。事案の真相を明らかにする責任を負っている裁判所としましては、信用性の高い供述が確保される情況にあるという相当性も無視することはできません。ところが、今回の「試案」では、聴取の主体、聴取の条件やその手法等について具体的に規定されていません。「1(2)」の「次に掲げる措置」の中で挙げられている要素も、先ほど金杉幹事の御発言にもあったとおり、一般的・抽象的なものにとどまり、広く一般の取調べにおいても採られるべき措置であるようにも思われます。また、最終的には、裁判所が「1」の柱書に記載されている「聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当」かどうかを判断することが想定されていますが、様々な考慮要素がある中で、適切な判断ができるのかという懸念があります。   対象者と措置の内容について、以上のとおり懸念がありますので、意見を申し上げさせていただきました。 ○金杉幹事 まず、反対尋問なしの類型ではなく、反対尋問ありの案になったということについては、若干、安堵をしています。ただ、ここで強調してもう一度申し上げたいのは、反対尋問ありの類型であったとしても、憲法37条2項で定められた証人尋問権を侵害する危険性があるということは、御理解いただきたいと思います。その上で、限定がかなり必要であろうかと思います。といいますのは、先ほど中川委員からも御指摘がありましたように、参考とされている刑事訴訟法157条の6や321条の2というのは、いずれも、裁判所で立証責任を負っている検察官が主尋問をし、反対当事者である被告人ないし弁護人がこれを聞いている状態で、かつ、適切な反対尋問が行われた上で、公正中立な裁判所がこれを判断するという対立構造がとられています。しかも、証言をするに当たって、証人は、宣誓をしていることが条件になっています。基本的には、このような宣誓をした証人が、対立当事者がいる前で証言をし、十分証言の信用性を吟味されて、公正中立な裁判所がこれを判断するというこの形自体が、長い時を経て、一番信用性が高い供述が確保されるであろうということが認められてきた類型だと思います。   今回のこの案は、これを大幅に変えて、ほぼどんな犯罪であっても、どんな立場の方であっても、「ウ」の類型でそれを崩すということになりかねません。これは、とても容認できないことです。今まで議論されてきたのは、「司法面接」であり、対象が児童であるという点が特殊なのだということが、繰り返し言われてきたと思います。ですから、対象は、宣誓能力がない、あるいはそういう法廷での対立構造での証言がなじまない、緊張してしまって、逆に真実の供述が聞き出しにくいといった児童の特性に着目したものであったという出発点に戻って、児童に限るべきだと思います。   そこで、具体的な提案を申し上げますけれども、まず、「1(1)」の「次に掲げる者」の「ア」と「イ」の部分の最後に、「被害者であって犯罪行為が終わったときに10歳未満である者」を付け加えるという提案です。この年齢については、12歳未満などいろいろな年齢が考えられるかと思いますが、少なくとも、法廷での宣誓ということになじまない年齢の児童に限るべきだと思います。その上で、「ウ」については削除すべきということは、中川委員と同意見です。   「2」の措置も、ほとんど全ての取調べが当たってしまうというのはそのとおりだと思うので、少なくとも、以下に申し上げます五つの要件を加えるべきだと考えています。今の「ア」と「イ」は削らせていただいた上で、五つの要件を提案したいと思います。   まず、聴取者、誰が聴取するかという聴取主体の問題です。「ア」としまして、「その供述が、警察官、検察官及び弁護人以外の者であって、認知、記憶、表現の能力が未発達で、誘導、暗示の影響を受けやすい児童の供述特性を踏まえた聴取技術を有すると認められる者、これを以下、聴取者といいますけれども、により聴取されたものであること」という聴取者の要件です。   二点目が、プロトコルの問題です。「イ」としまして、「当該聴取が一般的に普及し、かつ公開されているプロトコルにのっとり、児童の供述特性に配慮して行われたものであること」、この児童の供述特性というのは、先に申し上げたものになります。   三点目ですけれども、聴取の状況の記録及び開示の問題です。「ウ」としまして、「当該聴取が行われた日時、場所、聴取者以外に聴取に協力した者の氏名及び所属、聴取に至る経緯並びに聴取の時点において聴取者が得ていた情報及び参考にした資料の全てが記録され、かつ、それらの全部が訴訟関係人に開示されていること」、という点です。これは、聴取の時期をできるだけ犯罪事実が行われたときに近接した時期とすることや、あるいは聴取の回数を1回に限るといった要件を課すことも考えられるのですけれども、例えば、聴取を2回行うということもあろうかと思いますし、様々な事情によって時期が離れるということもあろうかと思いますので、後でその証言の信用性を吟味するために必要な情報及び資料は全て残して、開示して、吟味できるようにしておくべきだという観点からの規定です。   四点目ですけれども、仮に、ほかにも司法面接的手法での面接が行われた場合には、それら全てが開示されることを求める必要があろうかと思います。そこで、「エ」として、「(1)に掲げる者に対して、証拠として請求された記録媒体に記録された供述とは別の機会に同様の聴取、これは供述の最初から最後まで録音・録画されたものに限るということですけれども、同様の聴取が行われた場合には、その全部につき、聴取が行われた日時、場所、聴取者以外に聴取に協力した者の氏名及び所属、聴取に至る経緯並びに聴取の時点において聴取者が得ていた情報及び参考にした資料の全て、これは先ほどと同じですけれども、すなわち、ほかの司法面接についても、これら全てが訴訟関係人に開示されていること」というのが四点目です。   そして、五点目は、聴取者に対して尋問する機会が与えられるべきということです。「オ」としまして、「その記録媒体の証拠調べの決定に先立ち、訴訟関係人に対し、その聴取者を証人として尋問する機会が与えられること」というような規定を置くべきだと考えます。   少なくとも、以上のような五つの要件を満たした上で、その証言の信用性がある程度高いものだと担保されていること及び更にその証言の信用性については証拠能力とは別に吟味することが可能になるような規定にすべきだと考えます。 ○井田部会長 今、3人の方から、特に対象者の範囲が広すぎるのではないかという点や、さらには、聴取主体や措置の内容などのその他の要件について、いろいろと御意見を頂いたところです。これらの点について、お考えのある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○川出委員 まず、対象者について、「ウ」を除くべきではないのかという点ですけれども、試案「第2-2」は、司法面接的手法を用いた聴取の結果を記録した録音・録画記録媒体の取調べをもって主尋問に代えることによって、被害状況等を繰り返し供述することで生じる心理的・精神的な負担の軽減を図ることを目的としたものです。このような制度趣旨に照らしますと、その対象者は、繰り返しの供述による心理的・精神的負担を軽減することの必要性が認められる人ということになるわけで、必ずしも性犯罪の被害者あるいはその中でも児童に限られるものではありません。「試案」に示されている、「公判準備又は公判期日において更に供述することで精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」というのは、それを示したものということになります。   この意味で「ウ」の類型を対象者とすることの必要性が認められるとして、次に、本制度の対象者とすることが妥当なのかということが問題となります。この点については、性犯罪に関する刑事法検討会のヒアリングにおいて仲教授がおっしゃっておられたように、司法面接的手法というのは、性犯罪の被害者である子供以外にも使うことができ、かつ、それらの者についても司法面接的手法を用いた聴取によって一定の信用性の情況的保障が担保されると考えられます。   したがって、「ウ」の類型についても、司法面接的手法を用いる必要性が認められるとともに、それによって供述の信用性も担保できるといってよいのではないかと思います。逆に言いますと、ここでは、供述の信用性を担保するために「(2)」で掲げられたような措置、すなわち司法面接的手法に基づく措置を採ることが求められるような者が対象者になるわけで、「ウ」に挙がっている者が文字どおり全て対象になるわけではありません。そのような意味で、おのずから限定がなされることになるだろうと思います。   それから、供述の信用性の担保に関して、先ほど金杉幹事から、対象者を限定する、聴取主体を限定する、更にはその方法について一定のプロトコルに沿ったものにするといった具体的な御提案がありました。確かに、今回の「試案」には入らなかった、「検討のためのたたき台」のB案、反対尋問の機会を与えない案ですが、それであれば、現在の刑事訴訟法321条1項3号の特信情況に対応するものとして、そのような条件を満たすことを要求することはあり得ると思います。しかし、「試案」の制度は反対尋問の機会を与えることを前提としたものですので、そこで要求される信用性の担保措置として、そこまでのことは必要ないだろうと思います。 ○宮田委員 司法面接について、仲教授のヒアリングでのお話では、証拠法とともに、どのような主体がどのような方法をもって司法面接を行うかという実施方法についてのガイドラインが、車の両輪としてあったはずです。司法面接についての詳細が全く語られないままのこの案は、非常にむなしいと思います。証拠法だけを先行させることで、かえって、問題を大きくするのではないでしょうか。これは刑事弁護の立場からの意見と矮小化しないでいただきたいです。被害者団体からでさえ、司法面接の主体については、心理学などの中立的な専門家であるべきだという意見が多数出されています。我が国の検察官の代表者聴取の実績を強調する法務省からのプレゼンテーションがありましたが、この実績は実際に証拠として採用された件数ではなく、代表者聴取をやった件数が多数ありますというだけのものだったではありませんか。しかも、検察官は、心理学の専門家ではありません。検察官のキャリアラダーを考えたら、3年ごとの転勤を繰り返すような職種であり、心理学を専門的に学ぶ時間はありません。先ほどの御意見の中でも、法曹三者以外の専門家を養成し、そのような方によって司法面接がなされるべきだという意見がありましたが、私も、やはり、この部分については、司法面接的手法の中の必須の要件であると考えています。また、我が国においては司法面接的な聴取手法について十分に習熟した人間が必ずしも育っていないという現状があり、そのような現状の下で、いきなり、このように対象者を広げる規定を作ること自体が現実的ではありません。先ほど、金杉幹事から児童という言葉がありましたけれども、せめて、小学生程度の年齢までの聴取客体に限って制度を開始するのでなければ、現実的ではないと思います。   そして、仲教授が、ヒアリングにおいて、司法面接によって供述はクリーンになるわけではないと、供述が汚染されていればそれは信用するには足らないものであるとおっしゃいました。このような点は、証明力として事後的に考えればいい問題だとおっしゃるのでしょうか。およそ信用するに当たらないものは、証拠としての関連性すらないのではありませんか。取り調べる必要性がないのではありませんか。そうすると、司法面接までに至る過程、先ほど、金杉幹事の意見の中にもありましたけれども、司法面接までに誰が被害者に接したのか、そこまでに集められていた証拠にはどのようなものがあって、聴取者はそれについて知っていたのか知らなかったのか、あるいは、それまでに集めていた証拠の一覧といったものがきちんと記録された上で、それらが反対当事者に開示されなければ、信用性を争うための反対尋問もできないではありませんか。形式的に反対尋問をすればいいだろうというものではなく、反対尋問や供述を弾劾し得る資料が不可欠であると私は思います。   しかも、この案は、司法面接が一回的なものだと考えられている節がありますが、司法面接で聴取を開始した場合に、後から出てきた証拠について更に被聴取者に対して聴取を行わなければならないなどというような、事後的な聴取が必要な場合が起きてきます。そのような聴取にしても、司法面接的な手段によらなければ、被害者の精神状態は害されるのではないでしょうか。   また、反対尋問についても、司法面接的な手段で行われることが考えられるべきなのではないでしょうか。先般、弁護人の反対尋問に誘導があった、高圧的だったという理由で、司法面接が信用でき、反対尋問で崩れた信用性に問題がある司法面接で取得された供述に関し、反対尋問での供述を考慮しないような判決が出たところです。常に中立的な聴取者を考えるべきだということは、反対尋問の時点においても、最後まで、精神的な負担が少ないような聴取方法・聴取手法が採られる可能性を保障するものであり、被害者に資するものだと、私は先般から申し上げているつもりです。   そして、今まで実務で行われている代表者聴取について、心理学の学会その他で検討されているところで、仲教授等の心理の専門家から、誘導が多くて問題だという指摘がかなりされています。少なくとも、現在の法曹三者の知識で、ビデオを見ただけで代表者聴取の問題点を指摘できる能力はあるのでしょうか。それだけの能力がある法曹は十分に育っていないと思います。先ほど金杉幹事がおっしゃったように、代表者聴取の方法を採るのであれば、客観的な第三者が聴取するというだけではなく、聴取自体の妥当性について専門家による鑑定を行った上で採用するといった慎重さがなければ、判断がゆがめられるのではないかと思います。   あと、司法面接により得られるものは供述ですから、形式的要件ではなく、かなり実質的な裏付けのある証拠が存在しなければ信じるに足りないものだという注意規定を置く必要すらあるのではないでしょうか。司法面接は信用できるものだというだけで終わらせない、そのような法的な慎重さが必要なのではないかと思います。 ○川出委員 ただ今御指摘があった点のうち、聴取までに記憶が汚染されている場合の扱いについてですが、そのような状況があった場合は単に供述の証明力の問題にとどまるわけではなく、試案「第2-2」の「1」の「聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるとき」に該当せず、証拠能力が認められないという判断がなされると思いますので、これで対応できるのではないでしょうか。 ○宮田委員 判断の問題ではなく、そのような証拠を集めるべきであるという行為規範についても、きちんとした定めが必要だと、私は申しているつもりです。裁判所がそのように判断するのは当然です。 ○吉田幹事 「試案」を作成した立場から、何点か御説明させていただきますと、まず、これまでの御議論の中で、聴取者に関して、中立的な専門家に限るべきであるという御指摘がありました。その際、中立的とか専門家ということについて、法令上どのように規定することを考えておられるのかは必ずしも明らかではありませんが、いずれにしても、仮に、そうした点について疑念があるということであれば、今回の「試案」においては、録音・録画を行うことにしていますので、まず、それを見ることが考えられます。そして、その中で、聴取者の発している質問が中立的でなく、バイアスの掛かったものである、あるいは、誘導がなされているということがうかがえるということであれば、そこで判断がなされるでしょうし、また、プロトコルを守っているかどうかといった専門的な知見を要する事項についての疑念があるということであれば、その録音・録画記録媒体を専門家に見ていただいて判断していただくことが考えられるのではないかと思います。   それから、元々汚染してしまっている供述は、この試案「第2-2」の仕組みの下で供述を得ても意味がないのではないか、むしろ、調べることは不適当であるという御指摘がありました。確かに、司法面接的手法による聴取というのは、汚染されてしまった供述を元に戻す、回復することまでを可能にするものではありません。そのように汚染されていることなどは、今回の「試案」における相当性の要件の中で判断され得るものであり、そうした事情に照らして相当でない場合には、証拠として採用できないということになります。また、その点が証拠採否の段階では必ずしも明らかではなかったために、一旦証拠として採用されたとしても、反対尋問の過程でそうした点が明らかになったということであれば、証拠排除をすることもまた可能であると考えています。   さらに、聴取者がどのような情報を得ていたかを把握する必要があるという御指摘がありましたけれども、それについては、どのような観点からそれを把握する必要があるかが必ずしも理解できていませんが、いずれにしても、そうした聴取の状況等について疑念があって、それが証拠能力や証明力の判断に関連してくるということであれば、現行法の下での証拠開示の仕組みなどを通じて、必要な証拠が開示されることになります。例えば、公判前整理手続に付されている場合であれば、類型証拠開示や主張関連証拠開示の中で、具体的にどのような証拠が必要かが示されることを通じて、検察官の持っている証拠が弁護側に開示され、そのことを通じて証拠の吟味が可能になるものと考えています。 ○金杉幹事 今の事務当局の御説明に対して、補足して意見等を申し上げます。今、事務当局から説明があった、記録された録音・録画記録媒体の中身を見れば分かるではないかという点については、必ずしもそうでない場合もあるので、それ以外の外形的な事情についても記録をするように規定をしておいてほしいというのがこちらの趣旨です。   聴取者がどのような情報を得ていたかを把握することがどのように影響するのかという点につきましては、例えば、明示的な誘導でなかったとしても、聴取者が持っている客観的な証拠に合わない供述を供述者が行った場合に、例えば、ほかの角度から尋ねてみるとか、何か聴取者が自分で持っている情報に合わせようとすることが本当にないかどうかということを判断するためには、その録音・録画記録媒体だけを聞いて質問が誘導的かどうかということだけを吟味したのでは分からない場合もあると思います。また、こうしたものを記録するように法律で規定をされていなければ、記録を取られていないということもあると思います。私自身も、バックアップスタッフが取っていたメモなどの開示を求めても、それ自体が廃棄されてしてしまっていたことも何度もあるものですから、必ず記録して、かつ開示を義務付ける規定を置いていただきたいということです。   それに加えて、公判前整理手続についての説明もありましたけれども、現状で、裁判員裁判対象事件ではなく、公判前整理手続が必要的でない事件も、この性犯罪の類型に含まれています。そのような場合に、公判前整理手続を求めても採用されないという場合もあるものですから、必ずしも公判前整理手続にのっとった証拠開示がなされるとは限らないため、やはり、この開示に関する規定は置いていただきたいと強く思います。同じ趣旨で、聴取者に対する尋問の機会も与えてほしいということです。   もう一点、川出委員からお話がありました、「ウ」について残していいのではないかという御意見なのですが、私は、公判廷で供述することによって心理的な負担が大きい方の軽減を全く否定しているわけではありません。反対尋問できるからいいではないかということではなく、先ほど中川委員からも御指摘がありましたように、これが認められることによって、法廷でもう供述しなくていい、忘れていいということを、言わば担保してしまうわけです。だから、「本当にもう忘れました。」、「つらい体験なので、思い出したくもないので、忘れました。」、「一切覚えていません。」という供述であっても許され、それでも信用性が否定されないということが、本当に考えられます。これは、反対尋問の実質を失わせるものだと思っています。   ですから、慎重にすべきだと考えているのですけれども、もし仮に、心理的な負担の軽減を本当に重視するのであれば、オプションとしてこういうこともできるということではなく、心理的な負担がありそうな方についてはこれに限るのだとされる覚悟はあるのでしょうかということです。すなわち、刑事訴訟法321条1項2号、3号に基づく請求はせず、供述調書も作成せず、聴取回数も1回に限り、証人尋問請求も反対尋問以外に行わず、証人テストも行わないということが本当に規定されるのであれば、考慮の余地はあると思っています。 ○保坂幹事 最後におっしゃった意味が少し理解できなかったのですが、これしか証拠として使えないということによって、なぜ反対尋問が損なわれるところがリカバリーされるのかを、もう少し御説明いただけますか。 ○金杉幹事 反対尋問でリカバリーされるとは全く思っていません。つまり、そこまで被害者の方の心理的な負担の軽減を図るとおっしゃるのであれば、捜査機関自体が、そのような負担がある方については、証人テストも行わず、司法面接1回に限り、たとえ供述した後に客観的証拠に反する供述があったとしても、その点について再度尋ねるといったこともせず、その結果、起訴できない、あるいは無罪になるということがあっても、それはそれでいいのだということなのであれば分かりますという趣旨の発言でした。 ○保坂幹事 最後の「分かります」というのは、刑事弁護の立場から、そうであれば許容できますということでしょうか。 ○金杉幹事 いえ、そのような規定を作る必要性がある、そこまで供述者の心理的な負担に配慮すべきだということをおっしゃるのであれば、その前提で議論をするということは可能ですという意味であり、それを容認しますという意味ではありません。 ○山本委員 私からは、被害者側のお話をさせていただければと思います。心理的・精神的な負担に鑑みて、この試案「第2-2」を規定しようというお話であり、まず一つには、トラウマを受けた被害者が脆弱な証人であることを理解する必要があります。そのような証人をきちんと保護するために、プロトコルを定めた司法面接を行い、これを証拠として用いていきましょうという話です。そして、子供も含めた被害者証人というのは、証拠物件ではありません。その人たちは、それぞれ回復していかなければいけない人間であって、司法面接の専門家たちは、回復のプロセスの中に司法面接が位置付けられるということを、とても重視しています。   きちんと証拠に基づいて事件が起こったのかどうかということを判断するための規定を定めなければいけないということは分かるのですけれども、今の日本の状況は、例えば、イギリスでは1999年から行われているような、脆弱な証人に対する仲介人制度のような、言語聴覚士や心理の専門家など、障害の特性とトラウマを知る人がきちんと供述者に対して質問を伝えて、その供述者が答えるときにもきちんと翻訳できる人がいて、証人への尋問が適切に行われるためにはどうすればいいのかについてのグラウンドルールやヒアリングのガイドラインもないような状態です。それにもかかわらず、なぜ、裁判所に行くと適切な話ができると思われているのかということや、先ほど言われていた聴取を1回限りにすべきであるという御意見も、理解できない話だなと思います。どうやれば被害を受けた脆弱な人たちが適切に証言できるのか、そして、それを証拠として採用できるのかということが、最も重要なことだと思いました。 ○小西委員 私は、第一審の公判記録を鑑定で読むこともあるのですけれども、読んでいるとここで解離が起きているではないかとか、もう話せなくなっていて、感情まひも起きているのにと思いながら記録を読むことがあります。今、山本委員が言われたような被害者の保護とか、それから、回復しないと答えられないようなことをたくさん聞かれてもどうしようもないよなと思うような記録も読むことがあります。ここは、裁判の手続の根幹に関わってしまうのかもしれませんけれども、少なくとも、被害者を保護するという姿勢は必要だと思います。   やはり、専門性の高い面接をしていただくということは、どうしても必要だと思いますが、「1(1)ウ」については、PTSDやトラウマを扱う立場からしますと、ほかの犯罪でも試案「第2-2」のような規定が必要なことはもちろんあると思います。実際にそういうケースに遭うこともありますので、限定をしたいという御意見は理解したのですが、何らかの形でこれも置いておく必要があると考えています。   一番の根本的な解決は、裁判に関わる司法の専門家の中に、例えば、子供や性犯罪の専門の人を置く、要するに、裁判官も検察官も弁護士も、そのような専門の人を置くということをしない限り、解決しないように思います。              (小西委員 退室) ○井田部会長 一つ、裁判所のお二人にお聞きしてよろしいでしょうか。対象者の範囲を限定すべきだという御意見を伺ったわけですけれども、例えば、性犯罪の被害を受けた子供に限定してうまくいく制度だったら、どうして対象者を広げてはいけないのかがよく分かりませんでした。適切でないのであれば一切やるべきではないということなら分かりますが、一部で実施するのであれば、同じことが当てはまるほかの対象者に広げても問題ないのではないかと思うのですが、どうして限定しなければいけないのかの理由がよく理解できないのです。 ○吉崎委員 今の御質問は、試案「第2-2」の「1(1)」について、「ア」と「イ」のほかに広げるという余地がないかという御質問と理解したのですけれども、突然の御質問ですので、対象者の範囲を広げる案を持っているわけではありません。ただ、私が申し上げたかったのは、限定的に運用されるべき条文であることを明確にすべきだということであり、ひいては刑事訴訟の証人尋問における原則形態はできるだけ崩さない形の立法が望ましいのではないかということです。 ○中川委員 仮に司法面接的な手法を採るというのであれば、仲教授などがおっしゃっていたとおり、元々、児童の特性から来た話ですので、最初は児童でやってみるというのが適切なのではないかと考えます。 ○池田幹事 中川委員から御指摘があった、聴取と反対尋問の間に時間的間隔があるので、主尋問における供述の信用性の評価が難しくなるという御指摘について意見を申し上げます。   これは、これまでの議論の繰り返しにもなるのですけれども、その種の問題が生じるであろうということは確かにそのとおりなのだろうと思いますが、それがこの場合に固有の問題かと申しますと、現在のビデオリンク方式における尋問であっても、あるいは通常の公判であっても、常にとは申しませんけれども、主尋問と反対尋問には時間的な間隔があって信用性の評価が難しい、あるいは反対尋問が難しいということがあり得るわけです。しかしながら、運用上そのような問題が生じ得るから許されないという話ではないわけですから、試案「第2-2」との関係でも、それと性質の異なる問題が生じるものではないと考えます。   さらに、この種の問題を防ぐために、直前に主尋問をすればよいかということですけれども、司法面接的手法による聴取が行われる事案においては、主尋問の時点で記憶が失われたり薄れたりしていることが少なくないので、結局のところは、録音・録画記録媒体を実際に改めて見て、司法面接の時点での供述に関する記憶を喚起した証人に反対尋問をするということになり、それは、時間的間隔によって生じる問題への対処という点では、録音・録画記録媒体を主尋問に代えるということと実質的には違いがないように思われますので、このような観点からも、時間的な間隔が生じることが試案「第2-2」の創設を否定する理由にはならないと考えます。   付け加えて、刑事訴訟の証人尋問における原則を守るべきだという御指摘について、確かに、法廷で宣誓をして供述をすることが信用性を担保する有効な手段であることは、そのとおりですが、他方で、脆弱な証人から適切な証言を引き出すためにどのような手段があり得るのかという問題も踏まえると、例外を厳格に考えながらも、同時に可能な方法を考えるというのが建設的なのだろうと考えています。 ○金杉幹事 今、池田幹事がおっしゃられた点について、一点、手短に申し上げます。主尋問と反対尋問の間隔が空くことは現在もあり得るという御意見についてですが、当然、御承知のとおり、反対尋問はできる限り主尋問に近接して、主尋問に続いて行わなければならないということに、刑事訴訟規則上なっています。現実にも、普通は、主尋問が行われたら、反対尋問を一期日後にしたとしても、それが1年も先になるということはないわけです。池田幹事が、刑事訴訟法321条の2などのことをもしおっしゃっているのだとしたら、それは飽くまで、公判や公判手続の中で、主尋問及び反対尋問を経たものを別の刑事手続で持ってきているから必然的に生じるものであって、当たらない部分もあると思いました。 ○長谷川幹事 今まで論じられていた論点とは少し別のことになるのですけれども、反対尋問を実施する際ですが、二次被害を与えないという配慮が大事だと思います。先ほど、裁判所からも御意見がありましたけれども、幾つか反対尋問に際して特別に必要なことをピックアップして規定化しておくということも、考慮に値するのではないかと思います。   現時点で具体的なものがあるわけではないのですけれども、例えば、体調などに考慮して適宜休憩時間を設けなければいけないこととすることや、尋問の繰り返しに対するルールは一般的な尋問のルールと同じでよいのかなどについては更に考えさせていただきたいところではありますが、二次被害防止の観点から、そのような特別の規定を考慮する必要があるのではないかというのが私の意見です。 ○井田部会長 試案「第2-2」につきましては、賛成、反対の両方の立場から、御意見の大要をお伺いできたと思いますので、この点についての本日の議論はこの程度とさせていただきたいと思います。   続いて、試案「第3-1 性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為等に係る罪の新設」について御議論いただきたいと思います。この試案「第3-1」については、最大で40分程度の時間を予定しています。   まずは、前回会議で、事務当局の説明について、何か御質問はございますか。 ○小島委員 撮影罪について、典型的な類型が三つあります。いわゆる盗撮の類型、性犯罪が行われる機会という類型、それから不同意の撮影の三つです。これについて、前回、「検討のためのたたき台」に基づいて議論をしたときに、態様・方法について、「ひそかに」というのと、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難である」と、3番目について、「強制性交等罪や強制わいせつ罪等の犯罪行為が行われる機会に」という、この三つがありました。性犯罪が行われている機会に行われる撮影は、性犯罪の被害者にとって最も忘れたいことの記録が固定化されるということを意味します。強制性交等とか強制わいせつが行われた機会における撮影というのは、試案「第3-1」のどこに規定されているのでしょうか。分かりにくいと思います。   もう一点は、撮影罪の作り方なのですけれども、人を拒絶困難にさせ又は人が拒絶困難であることに乗じて撮影をするという要件や、欺罔・誤信させてという要件、それから16歳未満の者に対するものもそうなのですけれども、性犯罪の本体の規定と似通っているように見えます。強制性交等については、性的自由の中でも中核的なものであり、保護法益が性的自由であっても、二つの犯罪は保護法益が相当違うのではないかと思いますので、要件については性犯罪本体の要件と平仄を合わせる必要はないのではないかと考えます。 ○浅沼幹事 まず、一点目の、配布資料19の「検討のためのたたき台」にありました、「強制性交等罪や強制わいせつ罪等の犯罪行為が行われる機会に」との態様・方法を今回の「試案」で掲げていない理由ですけれども、今申し上げた類型につきましては、当部会の御議論の中で、処罰対象とする撮影行為の態様・方法の一つとして示されていましたので、配布資料19には記載していました。   しかし、当部会のこれまでの御議論の中でも御指摘がありましたように、同じく「検討のためのたたき台」に記載されていました、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」行う撮影行為との重複が生じるのであれば、これを掲げる必要はないと考えられます。すなわち、試案「第3-1」の「1(1)」におきまして、性器や下着を撮影対象とする場合、強制性交等罪等の犯罪行為が行われる機会に性器や下着の撮影行為が行われれば、通常、被害者は当該犯罪行為のみならず当該撮影行為についても拒絶することが困難であると考えられ、試案「第3-1」の「1(1)イ」の拒絶困難にさせ、又は拒絶困難であることに乗じて撮影する行為として処罰対象となり得ると考えられたことから、先ほど申し上げたような類型については掲げていないとものです。   それから、試案「第1-1」との整合性という観点から御発言がありましたけれども、前提として、試案「第3-1」の保護法益についてですが、この「試案」の趣旨として御説明いたしますと、試案「第3-1」の各罪は、当部会のこれまでの御議論を踏まえ、人の意思に反して性的な姿態を撮影したり、これにより生成された性的な姿態の記録を提供するといった行為がなされれば、当該記録の存在・流通等により、性的な姿態が当該姿態をとったとき以外の機会に他人に見られる機会が生じ、ひいては、不特定又は多数の者に見られるという重大な事態を生じる危険があることから、それらの行為を処罰するものであり、その保護法益としては、自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での性的自由・性的自己決定権として捉えています。そういった観点から、そのような保護法益を侵害することが外部的・客観的に明らかな態様・方法による撮影行為としまして、ひそかに撮影する行為や、拒絶困難であることに乗じて撮影する行為などを掲げているという整理で「試案」を作っています。 ○金杉幹事 一点、質問があります。「正当な理由がないのに」の「正当な理由」には、後で訴えられた場合に備えて撮影をすることは含まれるのでしょうか。といいますのは、例えば、今議論されている試案「第1-1」で、社会的関係上の地位の差があるような、例えば、職場の上司と部下といった関係性の者が合意の上で性交渉に至るときに、後で訴えられることを懸念して撮影していたという場合です。関係性が実際にその後悪化して、後で「(ク)」の類型で訴えられたという場合に、撮影した動画を弁号証として請求して、その中身を見て、これは拒絶の意思を形成・表明・実現することが困難な状態での性交渉だとはいえない、若しくはその故意がないという理由で無罪になったような場合に、撮影罪で有罪になるということはないのかという懸念があります。もちろんそれは、事案ごとに裁判体が判断するという御回答になるのかもしれませんけれども、事務当局としてその点についてどのようにお考えかをお聞かせ願えればと思います。 ○浅沼幹事 金杉幹事の御質問に必ずしも直接お答えすることにはならないかもしれませんが、「試案」の趣旨として御説明いたしますと、「ひそかに」の類型で、「正当な理由がないのに」という要件を記載していますけれども、これについては、当部会のこれまでの御議論の中で、医療準則にのっとって行われた撮影行為や、親が子の成長の記録として行う撮影行為は、構成要件の段階で処罰対象から除外すべきであるといった御意見が示されたところです。こういった御意見を踏まえて、そのような行為が処罰対象とならないことを明示するために、「正当な理由がない」ことを要することとしています。個別の事案において当該要件に該当するかにつきましては、それぞれの事案ごとに総合的に判断されるということになると思います。 ○井田部会長 ほかに御質問はよろしいでしょうか。   では、続いて、御意見をお伺いしたいと思います。 ○小島委員 「1(1)エ」についてですけれども、これは、子供に対する撮影行為ですが、この法律以外に、いわゆる児童ポルノ法がありまして、この法律は18歳未満の児童について撮影を禁止しているものですけれども、いわゆる児童ポルノ法との関係についてはどう整理されるのでしょうか。いわゆる児童ポルノ法は、18歳未満の者を広範にカバーしておりますが、児童ポルノとの関係で、試案「第3-1」の罪の立法趣旨や対象とする行為について伺いたいと思います。 ○浅沼幹事 試案「第3-1」の「1(1)エ」の類型についてですけれども、撮影罪の保護法益は、先ほど申し上げたとおり、自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での撮影対象者の性的自由・性的自己決定権として捉えていますけれども、試案「第1-2」に関するものも含めた当部会のこれまでの御議論を踏まえると、16歳未満の者については、性的な姿態の撮影行為に応じるかどうかについて有効に自由な意思決定をする能力が備わっているとはいえないと考えられることから、処罰対象となる撮影行為として、試案「第3-1」の「1(1)エ」を掲げることとしているものです。   この点、撮影罪における撮影対象と児童ポルノ製造罪において描写の対象となる児童の姿態を比較いたしますと、児童の胸部など性器ではない児童の身体の部位を衣服の上から触っている間における当該児童の姿態は、わいせつな行為がされている間における人の姿態として撮影罪の撮影対象に該当し得る一方で、いわゆる児童ポルノの2号ポルノには該当せず、また、それが殊更に衣服の一部を着けない児童の性的な部位を強調するなどしたものでなければ、いわゆる3号ポルノにも該当しないと考えられますし、下着のうち、性的な部位を直接又は間接に覆っている部分は撮影罪の撮影対象に該当し得る一方で、それが下着に覆われた性的な部位を強調するなどしたものでなければ3号ポルノには該当しないなど、撮影罪の方が児童ポルノ製造罪より撮影対象の幅が広いという状況にあります。そのような観点から、児童ポルノ製造罪と重複する部分があるとしても、試案「第3-1」の「1(1)エ」を掲げる合理性があると考えています。 ○今井委員 私からは、試案「第3-1」の「1(1)ウ」の誤信類型に係る撮影罪につきまして、特にこの撮影対象者に対して顔にモザイクを掛けるとうそをついてアダルトビデオ等を撮影する行為を処罰対象に含めるべきかについて、意見を申し述べたいと思います。   「1(1)ウ」の誤信類型に係る撮影罪は、その保護法益については、今、浅沼幹事から説明があったとおりですが、私も、自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるか否かに係る決定という意味での、撮影対象者の性的自由ないし性的自己決定権であると理解しています。撮影対象者の誤信によって、この意味での保護法益の侵害に至ることが明らかであると考えられる場合を想定し、これを取り上げて処罰対象とするものであると理解できます。そこで、撮影対象者の顔にモザイクを掛けるなどの、性的な姿態を撮影するに当たっての条件について撮影対象者において誤信があった場合を、この「(1)ウ」の処罰対象に含めることができるかという問題につきましても、以上のような保護法益の理解から検討すべきであると思います。   この問題との関係で、撮影行為により生じた画像から撮影対象者が特定できることを要するかということにつきまして、既に当部会の第7回会議において議論があったところです。そこでは、撮影罪では撮影対象者の同意を得ることなく性的な姿態が記録されることによる法益侵害類型が想定されているということ、そうすると、当該記録から認められる者が撮影対象者であると特定できることは、この法益侵害の危険を基礎付ける事情として決定的なものとはいえないこと、したがって、撮影罪の成立にとっては、撮影行為により生成された画像等の記録中に撮影対象者が特定できる部位、例えば顔その他の情報が写り込んでいる必要はないとの意見が示されました。この理解は、私の理解するところ、当部会においても共有されているように思われます。   この観点からしますと、顔にモザイクを掛けることが性的な姿態を撮影する際の条件であると撮影対象者が思っていたが、その点につき誤解があった場合には、撮影対象者は、自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られること自体は承諾していると考えられますので、そのような事案におきましては、当該撮影行為により撮影対象者の保護法益が侵害されることが明らかであるとはいえないと思われます。つまり、そのような場合には「ウ」に想定されている犯罪は成立しないものではないかと考えています。 ○山本委員 よく分からなかったのですけれども、今の御意見は、「モザイクを掛ける。」、「顔ばれしない。」と伝えて撮影した場合は、それは「1(1)ウ」の誤信には入らないということなのでしょうか。でも、性的な姿態をほかの人に見られないという保護法益であるのであれば、その人は、自分の顔は映らない状態であれば自分の性的姿態を撮影することに同意したかもしれないけれども、映るのであれば不同意であった場合には、その性的な姿態の撮影に同意しなかったわけだから、その点を誤信させて性的姿態を撮影したというのは犯罪なのではないかと私は思います。   それに関連して、ほかのこともお伺いしたいと思うのですけれども、第10回会議において、事務当局から、撮影罪の保護法益が自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られない性的な自己決定であるということと併せて、特定少数ではなく不特定多数に見られることが重大であるという説明もされましたけれども、特定多数に見られる方が、特定少数に見られるよりも、被害の影響が大きいと思っておられるのかなと思います。ですが、自分の知っているコミュニティの特定少数の人たちに自分の性的な画像を見られることの方が、よりダメージが大きく、非常に被害者に深刻な影響をもたらすものであり、特に中学生や高校生など、自分の生きている生活範囲がまだ狭い人たちにとっては、不特定多数に見られることももちろん大変ですけれども、特定少数の人たちに見られることも非常にダメージが大きいといえます。ですので、保護法益の侵害としては同等ではないのかと思いますので、保護法益について質問をしたいと思います。   それから、「1(1)イ」において、「拒絶困難」という試案「第1-1」の文言が入ってきているので、今後、文言が変わるのかもしれませんけれども、拒否、つまり、「ノー」と言えない状況で撮影された場合は、試案「第3-1」の罪に当たるということだと思うのですけれども、「やめてください。」、「撮らないでください。」などと言ったのに、相手が全く聞き入れず撮影を続けたため、逃げられず、受け入れざるを得ない状況になった場合に、結局、最後には応じたという理由で同意があったとみなされるのか、それとも、そうでないのかということも、お伺いしたいと思います。 ○吉田幹事 まず一点目についてですけれども、顔が映ってこそ性的な自由の侵害が生じるという考えに立つとしますと、例えば、この試案「第3-1」の「1(1)」の類型においても、人の性的な部位等を撮影しただけでは足りず、それに加えて本人であることが特定されることが必要であるということになってくるのではないかと思われます。つまり、この撮影罪の「1(1)」において撮影対象者の特定を不要としていることと、顔が特定されるかどうかについての誤信がある場合の取扱いは、密接に関連してくるものではないかと思われまして、もし仮に「1(1)」のところで本人の特定までは不要であるとした場合には、本人が特定されるかどうかはこの罪を考える上では本質的な要素ではないということになってきて、その点についての誤信があっても処罰対象とすることは難しいという帰結になるのではないかと考えたものです。   次に、二点目の御質問についてですけれども、不特定多数の意味は、不特定又は多数ということです。不特定であれば少数であっても対象となりますし、また、特定の人であっても多数であれば対象となるということです。その多数の意味については、これまでの法令上の文言の使い方なども見ますと、少なくとも2人以上という理解が可能なのではないかと考えています。   それから、三点目の御質問についてですけれども、撮影対象者が撮影行為をやめてくださいと言ったのに対して、行為者がそれを押し切って撮影行為に及んだ場合にどうなるかということですけれども、それについては、「1(1)イ」の「拒絶困難」に当たるかどうかという問題になってくるのではないかと思われます。ここは、具体的な事実関係によるところですので、一概に申し上げることは難しいですけれども、例えば、「やめてください。」と言っているのに、体を押さえたり、あるいは押さえなくても、その場の言動などから相手方の拒絶困難に乗じているといえるような場合には、この「1(1)イ」に該当し得るのではないかと考えられます。 ○保坂幹事 山本委員の御質問に対する答えに少し補足しますが、山本委員の御質問は、保護法益との関係で、特定の少人数に対して見せる予定で撮影した行為も保護法益の侵害があるではないかという御趣旨だとすれば、それはおっしゃるとおりで、撮影時点でどれだけの人に見せる予定かというのは、全く要件にしておりません。先ほど事務当局から説明したとおり、保護法益は、撮影の時に、それ以外の機会に他人に見られることがないという意味での性的自由・自己決定になりますので、それが何人に見られるかということは保護法益の中身そのものではありません。ただ、その結果として、撮影されたものが提供されたとなったときに、提供罪の客体というのは、不特定多数ではない、少人数の場合がまず提供罪としてあって、更にそれが不特定多数に提供されたときには、それは保護法益の侵害が大きくなるだろうということで、刑を重くしているということですので、保護法益の中身としては、少人数か大人数かによってそれ自体が変わってくるということではなくて、侵害された結果が大きくなると、そういう捉え方で理解いただければと思います。 ○山本委員 提供罪の話になってしまうけれども、侵害された結果が大きくなるというのは、一概にはいえないこともあります。それは、被害者の心理的な話ではありますけれども、多くの人に見られるのと、特定の人に見られるのと、それだけではなかなかダメージの比較できないということは申し伝えておきます。 ○橋爪委員 今、山本委員の方から提供罪に関して御指摘がありましたが、試案「第3-1」の提供罪の内容を御覧いただきますと、「2(1)」は、不特定若しくは多数という要件を要求していないわけです。つまり、1名に提供する場合でも、「試案」の「2(1)」には該当するわけで、それが更に不特定又は多数の者に提供された場合に「2(2)」で刑が加重される関係にあるわけですので、1名に対する提供でも処罰対象になることを前提に議論した方がよいかと思います。 ○山本委員 ありがとうございます。 ○宮田委員 撮影罪の法定刑についての意見です。特に保護されるべき児童についての、しかも、極めて悪質なポルノグラフィである児童ポルノ製造罪の法定刑が懲役3年以下、罰金300万円以下であるにもかかわらず、成人も含めた撮影罪の法定刑が児童ポルノ製造罪の法定刑と同じでは、重いのではないかと思います。各地の条例があるけれども、その条例では漏れている地域もあるため、それを全国化するということだけでも、意味があると思います。撮影罪については、過去、条例で処罰されていた程度の法定刑で十分ではないか、少なくとも開始時点ではそれで十分ではないかと考えます。 ○浅沼幹事 撮影罪の法定刑につきましては、当部会のこれまでの議論の中で示されました、児童ポルノ製造罪とのバランスを考慮しているだけではなくて、撮影罪は、撮影対象者の意思への作用にとどまらず、性的な姿態の影像を記録して固定化することを内容とするものであり、個人の意思の自由を保護法益とする脅迫罪の法定刑である「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」を上回る法定刑が相当ではないかといったことも踏まえて、「3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金」としています。 ○山本委員 提供罪の法定刑に関する意見です。   提供罪の法定刑は3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金となっていますが、罰金については低すぎるのではないかと思っています。全国盗撮犯罪防止ネットワークの代表によると、盗撮の市場は数百億円規模、1サイトで1年間の売上げが10億円という人もいて、その人が過去にも大手の盗撮販売サイトで盗撮画像を販売し、いわゆる児童ポルノ法違反で逮捕されたけれども、やはりその後も出てきて、同じような盗撮をして、販売することを繰り返しているわけです。弁護士からも、「300万円の罰金を払っても全然おつりが来るから、このぐらいの罰金では全く効果がない。」、「抑止力がない。」という話も聞きました。いわゆる児童ポルノ法やいわゆるリベンジポルノ防止法などほかの法律で規定された法定刑との整合性をとるためという説明もされますけれども、ほかの法律がそうだから今回もそうするというのでは、いつまでたっても加害者が盗撮をして儲けるというやりたい放題の状態は終わらないと思います。なぜこの罰金刑なのでしょうか。 ○吉田幹事 罰金の額については、今、山本委員も御指摘になったような他法との関係も考慮しておりますし、また、この規定をどの法律に設けるかということにもよりますけれども、仮に刑法に設けるということになれば、刑法のほかの罰則の罰金刑の均衡も、考慮すべきことになってくるだろうと思われます。   他方で、高額の収益を得ているという場合には、犯罪収益の没収ないし追徴という形で犯人から剝奪することは刑法あるいはいわゆる組織的犯罪処罰法の規定によって可能です。また、主刑としても、もし300万円以下の罰金では不相当であり、より重く処罰すべきであるということになると、拘禁刑が選択されることになると思われます。 ○佐藤(拓)幹事 宮田委員の法定刑についての御発言について、迷惑防止条例の盗撮罪の保護法益と、今度作ろうとしている撮影罪の保護法益は全く異なるものですので、今度、新しく仮に撮影罪を作るときに、条例と同じ法定刑でいいということにはならないだろうということを、意見として申し上げたいと思います。 ○齋藤委員 これまでの議論とは少し違うことなのですけれども、試案「第3-1」のような罪の新設が検討されることは本当によかったと思っています。運用して不足するところなどはあるかもしれませんが、そうしたものは見直していけるといいなと思っています。今まで、撮影や性的画像の望まない拡散についてのPTSDの議論というものがあったのですけれども、今、日本ではDSM-5が使われていまして、今、アメリカの方で、DSM-5-TRという次の版が出ていまして、日本でもそのうち翻訳が出ると思うのですけれども、そちらでは、PTSDになる原因の出来事を規定する「A基準」として、意に反して性的画像を撮られることや、性的画像の望まない拡散なども採用されているということがあり、そのように、性的画像を撮られることや性的画像の望まない拡散は、精神医学の中でも深刻な傷付きを与えるものとして認識されてきていますので、こうした罪が新設されるということは本当によかったと思っています。 ○小島委員 提供罪と撮影罪は異なるものだと考えています。提供罪と撮影罪は、性的自由・性的自己決定権の侵害でありますが、それぞれ固有の利益があると考えています。撮影には同意しても、提供には同意しないということ、提供罪というのは、特定の相手にのみ見せるという、提供する相手を限定する話です。相手を限定する利益、できる利益、これが、性的姿態を見られないという権利の捉え方として、撮影罪とは別にあっていいのではないかと思います。提供する相手を限定することも性的自己決定の内容と考えます。   撮影罪は、これまで存在しなかったデータを固着化・固定化し、性的姿態の視覚的情報を記録、固定化することであり、他の機会に他の人に見られる危険性を考えています。守られるべき権利・利益が提供罪とは異なるので、撮影罪が成立しない限り提供罪は成立しないという組立てには疑問があります。提供罪について、撮影罪の延長という構造からの転換が必要ではないかと思います。例えば、撮影のときに同意がある場合というのは、典型的な例です。 ○橋爪委員 今の点について、小島委員に一点質問してもよろしいでしょうか。おっしゃるとおり、理論的には、撮影に同意するか否かという問題と、その画像の提供に関して同意するか否かの問題は別次元の問題ですので、例えば、パートナー間で同意の上で性的な姿態を撮影する場合、すなわち、飽くまでもパートナー間だけで共有する趣旨であって、第三者に対する提供を想定していないケースにおいて、一方のパートナーが相手の意思に反してデータを提供する行為については、確かに十分な可罰性があるように思います。もっとも、このような行為は、いわゆるリベンジポルノ防止法の第3条の提供罪で処罰できる類型であるように思われます。そうしますと、小島委員の御趣旨は、いわゆるリベンジポルノ防止法では処罰できない行為について、更にこの「試案」によって処罰をすべきということでしょうか。仮にそうである場合、具体的にどういった類型をお考えかについて、お伺いさせてください。 ○小島委員 いわゆるリベンジポルノ防止法は、不特定多数への提供のみを処罰していまして、特定少数は含まれません。私が申したいのは、提供罪と撮影罪があるけれども、提供罪は撮影罪が成立しない場合も成立し得るということです。試案「第3-1」の「2」において、提供罪は、撮影罪とひもつきになっていますから、撮影罪が成立しない場合には提供罪はそもそも成立しないという構造になっています。けれども、撮影罪が成立しなくても提供罪が成立するという場合はあり得るのではないかと思います。例えば、16歳未満の者に対する撮影罪について考えると、16歳未満の者の対処が十分でないことに乗じた場合でないと、撮影罪は成立しません。しかし、16歳未満の者に対する撮影について、これに当たらない場合もあるのではないかと思います。   それから、「1(1)イ」及び「ウ」については、分かりにくい条文です。先ほどの説明で、強制わいせつや強制性交等の犯罪が行われる機会に撮影したものも入ると説明されていましたが、分かりにくいです。また、撮影罪に当たるかどうか限界事例もあると思います。撮影罪に当たらないとされたものが全部、提供罪にも当たらないこととなります。提供罪は、性的画像を誰に提供するかという問題です。二人で仲良くしていて、撮影に同意しているが、特定の者に対してだけ提供することに同意するということは幾らでもあると思います。そのような場合について、提供罪が成立しないというのはおかしいと思います。提供罪は、ほかの人に渡すのはやめてほしいという権利、つまり、相手を限定する権利だと思います。ですから、そのような意味で、提供罪と撮影罪を別なものとして考えていくべきだというのが私の意見です。 ○井田部会長 例えば、自分自身で撮影したものを恋人に提供し、それを恋人が勝手にほかの人に見せるとなると、犯罪にすべきだということですか。 ○小島委員 はい、それは提供罪にすべきだと思います。撮影したものを渡す相手を限定しているのに、自分が限定した相手以外の者に勝手に提供する行為は処罰すべきです。 ○井田部会長 そうなると、相当に処罰範囲が広くなると思います。 ○山本委員 撮影罪と提供罪は別の話であるということに関して質問なのですけれども、例えば、遠距離に住んでいる恋人同士で、実際に恋人のために裸の写真を自分のパソコンに保存していたところ、ハッカーが侵入してそれを抜き去った上、これを販売したりして拡散させた場合、提供罪にはならないのでしょうか。 ○浅沼幹事 御指摘のような事案ですと、ハッカーに侵入された方は、提供の故意はないと思われますので、提供罪には当たらないと思います。一点、少し御説明させていただくと、小島委員からの御指摘との関係ですけれども、誤信類型のところで、撮影行為の時点で第三者が閲覧しないと誤信していた場合については、試案「第3-1」の「1(1)ウ」で、「特定の者以外の者が閲覧しないと誤信させて」といった要件を設けていますので、そこである程度解消されることになると思います。残りの問題は、先ほど橋爪委員からも趣旨の確認がありましたけれども、そのような場合に当たらない場合で、かつ、特定少数の者に提供する場合であると理解しています。 ○橋爪委員 確かに、小島委員のおっしゃるとおりで、理論的には、撮影に関する同意の有無と提供に関する同意の有無は別だと思います。ですが、これを厳密に区別して考えると、かなり処罰範囲が広範になってしまって、処罰することが現実的ではない事態が処罰対象に含まれるように思われます。幾つか具体例を申し上げたいと存じます。   例えば、男性グループが集まって、海やプールに行くケースを考えてください。男性の胸部も、これは性的姿態に該当します。したがって、男性グループで全員の同意に基づいて水着写真を撮った場合、これは性的姿態の写真ですので、仮に提供についても別個に同意が必要であるとした場合、この写真を意に反してブログにアップしたりほかの者に画像を提供する行為は、全て犯罪を構成することになります。そうすると、このような記念写真をブログに掲載する場合でも、逐一、全員の同意を得なければそれが掲載できず、誰か1名の意思に反する場合には提供罪を構成するというのは、もちろん理論的には可能だとしても、現実的ではない印象を持ちます。   もう一点、例えば、写真集の販売についても、考えてみたいと思います。例えば、数年前に自らの意思で性的姿態の撮影に応じた上で、写真集としての販売・提供に関しても同意があったケースを考えます。それから数年後に、本人が翻意して、やはり自分の写真を公開するのは嫌だと内心で考えるに至ったとします。この場合、対象者の内心において、同意が撤回されたその瞬間から、全ての販売行為が犯罪を構成するのかという問題です。意思を撤回して、それを関係者に周知するプロセス自体がそもそも整備されていませんし、また、民法の契約に基づいて、販売行為は有効になし得る以上、これを全て犯罪として処罰することは、民法上適法な行為を刑法で処罰することを意味しますので、正当化は困難であるようにも思われます。更に申しますと、提供行為についても対象者の同意によってカバーされる必要があるということを徹底しますと、性的姿態が記録された写真集などを販売する際には、販売行為の都度、個別に同意を得なければいけないことになりかねませんが、これも現実的ではないように思います。   これは非常に難しい問題で、本来は性的な情報のコントロールについての対象者の意思を十分に尊重すべきではありますが、これを徹底した場合、処罰範囲が極めて広範に拡大することになり、現実的ではない事態が生ずることを懸念しているところです。 ○井田部会長 もう時間がまいりましたので、ここで一旦、今日の議論は終わりにさせていただいて、次回、試案「第3-2」について議論する前に、冒頭で、試案「第3-1」についての今日の御議論の続きを行うこととしたいと思います。   「試案」に基づく前回と今日の議論を踏まえますと、部会としての最終的な意見の取りまとめに向けて、相当に意見の集約に近付いている事項もある一方で、更に議論を深める必要がある事項もあったように思われます。   そこで、次回は、試案「第3-1」について御意見がある方に御発言していただいた上で、試案「第3-2」について議論をし、それが終わった後で、意見集約のために議論を深める必要があると思われる事項について、「試案」を修正すべきか、修正するとしてどのように修正すべきかも含めて、更に議論を行うのが適切ではないかと思います。   具体的にどの事項について議論を行うかについては、これまでの議論の状況等も踏まえて、私の方で早急に検討し、事務当局を通じて皆様にお知らせすることとさせていただきたいと思いますけれども、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。   本日の会議の議事につきまして、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思いますが、若干気になるところもありましたので、後で個別に発言者とお話しした上で、場合によっては修正等を行うことを考えたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等については、その方との調整もありますので、部会長である私に御一任いただければと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。   では、次回の予定について、説明をお願いいたします。 ○浅沼幹事 次回の第12回会議は、令和4年12月19日月曜日の午前10時からを予定しております。詳細につきましては、別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日はこれにて閉会とします。   ありがとうございました。 -了-