改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第2回) 第1 日 時  令和4年10月3日(月)      自 午後1時55分                           至 午後3時51分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  捜査段階における検察の取調べの録音・録画の実施状況についての議論 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗木参事官 ただ今から改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会の第2回会議を開催いたします。   本日は、皆様、御多用中のところ御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日は、吉田構成員におかれては、所用のため遅れての出席となります。   まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をさせていただきます。前回会議の配布資料の番号からの続きですので、配布資料4からになります。   配布資料4は、平成28年の刑事訴訟法等の一部を改正する法律に関する、衆議院法務委員会及び参議院法務委員会における附帯決議です。   配布資料5は、法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会において作成された「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」及び同部会から法務大臣に対してなされた答申です。   配布資料6から8までは、捜査段階における検察の取調べの録音・録画の実施状況に関するもので、事務当局が作成したものです。   その他の配布資料は、警察庁において作成していただいたもので、捜査段階における警察の取調べの録音・録画の実施状況に関するものです。   配布資料6から8まで及び警察庁の配布資料の内容につきましては、後ほど、捜査段階における検察及び警察の取調べの録音・録画実施状況について御協議いただく際に御説明することとし、ここでは、配布資料4について御説明します。   配布資料4は、刑事訴訟法等の一部を改正する法律案に対する衆議院法務委員会及び参議院法務委員会における附帯決議です。いずれも7項目あり、それぞれ、「一」は取調べ等の録音・録画の実施について、「二」は保釈に係る判断について、「三」は再審制度に係る国会審議の状況の周知について、「四」から「六」までは通信傍受の実施について、「七」は証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の実施について、配慮すべき事項を定めています。   ただ今の説明について、御質問はよろしいでしょうか。   それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、まず、検察の取調べの録音・録画の実施状況について協議を行った後、警察の取調べの録音・録画の実施状況について協議を行うこととしたいと思います。それらの協議に当たっては、それぞれ、関係する資料の説明を行った上で、その内容についての質疑応答を行うこととし、検察の取調べの録音・録画の実施状況に関する資料については事務当局から説明し、警察の取調べの録音・録画の実施状況に関する資料については警察庁から御説明いただくこととしたいと思います。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、まず、検察の取調べの録音・録画の実施状況について協議を行います。初めに、事務当局から、このテーマに関する配布資料6から8までの内容について御説明します。   配布資料6から8までを説明する前提として、刑事訴訟法第301条の2に規定する取調べ等の録音・録画制度の概要について御説明します。刑事訴訟法第301条の2は、裁判員裁判対象事件及びいわゆる検察官独自捜査事件を対象として、公判において、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べ等の際に作成された供述調書等の任意性が争われたときは、検察官は、その取調べ等を録音・録画した記録媒体の証拠調べ請求をしなければならず、この義務に違反したときは、当該供述調書等の証拠調べ請求が却下されることとした上で、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べ等を行うときは、一定の例外事由に該当する場合を除き、その全過程を録音・録画しておかなければならないこととしています。   そして、その例外事由として、次の四つ、すなわち、@記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき、A被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき、B当該事件がいわゆる指定暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき、Cそのほか、犯罪の性質、関係者の言動、被疑者がその構成員である団体の性格その他の事情に照らし、被疑者の供述及びその状況が明らかにされた場合には被疑者又はその親族の身体等への加害行為等がなされるおそれがあることにより、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるときを規定しています。   各資料の御説明に入ります。   配布資料6−1及び6−2の内容について御説明します。   配布資料6−1は、最高検察庁次長検事名で発出された取調べの録音・録画の実施等に関する依命通知、配布資料6−2は、この依命通知を受けて最高検察庁刑事部長及び公判部長名で発出された取調べ等の録音・録画要領に関する事務連絡です。いずれも、取調べ等の録音・録画制度が平成31年6月1日から施行されることになったことを踏まえて発出されたものでありまして、検察庁における取調べの録音・録画は、法制度としての録音・録画制度によらないものも含め、この依命通知及び事務連絡に基づいて行われています。   配布資料6−1の依命通知の1ページを御覧ください。検察庁においては、録音・録画制度の施行前から、運用上、一定の事件について、身柄拘束中の被疑者を対象として取調べの録音・録画を実施してきたところ、それらの事件については、録音・録画制度の施行後も引き続き録音・録画を実施することとされています。その一定の事件とは、この依命通知の「別添1」の「第1」の「1(1)」から「(4)」までに列挙されている四つの類型の事件であり、具体的には、一つ目として、「裁判員裁判対象事件等」、すなわち、死刑又は無期の懲役・禁錮に当たる罪に係る事件、短期1年以上の有期の懲役・禁錮に当たる罪であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させたものに係る事件のほか、弁論の併合により裁判員裁判で審理される見込みのある裁判員裁判非対象事件、二つ目として、「検察官独自捜査事件」、すなわち、司法警察員が送致・送付した事件以外の事件、三つ目として、「知的障害者に係る事件」、すなわち、知的障害により、言語によるコミュニケーション能力に問題がある被疑者又は取調官に対する迎合性や被誘導性が高いと認められる被疑者に係る事件、四つ目として、「精神障害者等に係る事件」、すなわち、精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われる被疑者に係る事件を指します。   この依命通知の1ページに記載されているように、これら4類型の事件のうち、裁判員裁判対象事件及び検察官独自捜査事件については、刑事訴訟法第301条の2による録音・録画義務及び録音・録画記録媒体の証拠調べ請求義務の対象となることから、録音・録画を遺漏なく行うよう、特に留意することとされています。   検察庁においては、これら4類型の事件以外の事件についても、一定の事件については、取調べの録音・録画の試行を行ってきたところ、この依命通知では、「別添2」により試行を継続することとされています。   試行の対象となるのは、「別添2」の「第2」のとおり、逮捕・勾留中の被疑者につき、公判請求が見込まれる事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件について、被疑者として取り調べる場合、公判請求が見込まれる事件であって、被害者・参考人の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの個々の事情により、被害者・参考人の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件の当該被害者・参考人を取り調べる場合であり、これらに該当する場合には、取調べの録音・録画を積極的に試行することとされています。   そして、この依命通知の2ページには、ただ今御説明した取調べの録音・録画の実施又は試行すべき場合以外でも、検察官において、捜査・公判の必要上、取調べの録音・録画を行うことは差し支えないことが付言されています。   続きまして、配布資料6−2の事務連絡別添の「取調べの録音・録画要領」を御覧ください。まず、「第2」において、取調べの録音・録画の手順として、録音・録画は、原則として、検察庁に整備された機器を使用して行うこと、取調べの冒頭から録音・録画を行う場合には、原則として、供述人の入室時点から開始し、取調べの冒頭に、供述人に対し、適宜の方法で、録音・録画を開始していることを告知すること、録音・録画を終了する場合には、供述人に対し録音・録画を終了する旨を告知する時点又は供述人が退室する時点まで録音・録画を行うなどの適宜の方法により、その終了時点を明確にすることなどが定められています。   次に、「第3」において、取調べの録音・録画記録の作成に関し、録音・録画機器に外部接続され、取調べの録音・録画に係る動画ファイルを記録するための装置、いわゆる「録音・録画用記録装置」が整備されている庁と、整備されていない庁に分けて取扱いが定められています。この「録音・録画用記録装置」については、各庁ごとにサーバが整備され、各庁に配備された録音・録画機器を使用して録音・録画された動画ファイルの全てが、内部ネットワークを通じて当該サーバに記録・蔵置されるとイメージしていただけるとよいかと思います。   「録音・録画用記録装置」が整備されている庁での取扱いは、「第3」の「1」のとおりであり、身柄拘束中の被疑者について取調べの録音・録画を行うに当たっては、「取調べ状況等報告書」の「その他参考事項」欄に、録音・録画を行った旨を記載するとともに、この実施要領の「別紙2」として書式が添付されている「録音・録画記録管理表」に必要事項を記載し、事件記録として保管することとされています。   取調べの録音・録画に係る動画ファイルは、「録音・録画用記録装置」に記録することとされ、その都度DVD又はブルーレイディスク等の光学ディスク等の記録媒体に記録する必要はないものの、取調べの録音・録画を行った事件について公判請求する場合、裁判員裁判対象事件については、公判請求後速やかに、それ以外の公判前整理手続又は期日間整理手続に付する決定があった事件については、当該決定後に、記録媒体の任意開示請求があって開示を相当と認める場合には、当該請求後に、以上のいずれの場合にも当てはまらないときは、記録媒体を作成する必要が生じたときに、供述人ごとに、当該供述人の取調べの録音・録画に係る全ての動画ファイルの記録媒体を作成することとされています。   そして、記録媒体を作成した場合には、この実施要領の「別紙3」として書式が添付されている「録音・録画記録媒体作成報告書」を記録媒体ごとに作成し、作成した記録媒体の原本は、その表面に作成年月日や供述人の氏名等を記載した上、破損等防止措置を講じ、先ほど申し上げた「録音・録画記録管理表」及び「録音・録画記録媒体作成報告書」とともに、事件記録として保管することとされています。   次に、「録音・録画用記録装置」が整備されていない庁での取扱いは、「第3」の「2」のとおりであり、取調べの録音・録画を行った場合には、その都度動画ファイルを記録媒体に記録することとされています。この場合、「録音・録画記録管理表」に必要事項を記入することは必要となるものの、「録音・録画記録媒体作成報告書」の作成は不要になります。   なお、証拠開示や決裁官による視聴など、記録媒体を証拠調べ請求以外の目的で使用する場合には、記録媒体の原本の複写物を作成して用いることとされており、当該複写物についても複写の目的等に応じて適正な保管管理をするよう努めることとされています。その保管管理方法については、個々の検察官によって対応がまちまちとならないよう、各庁の実情に応じて取扱いを統一することが求められております。   配布資料6−1及び6−2の内容についての御説明は以上です。   続きまして、配布資料7の内容について御説明します。配布資料7は、ただ今御説明した配布資料6−1及び6−2に基づいて行われている録音・録画の実施・試行の状況に関する統計資料であり、最高検察庁がホームページ上で公表しているものです。   1ページを御覧ください。こちらは、検察庁における被疑者取調べの録音・録画の実施・試行の概況をまとめた表です。[1−1表]と[1−2表]に分かれていますが、これは、令和2年度に検察庁内部における録音・録画の報告様式が変更され、これに伴い、実施件数に関する集計項目が若干変更されたため、その前後で表を分けているものです。   [1−1表]について御説明します。ここでいう「4類型事件」とは、先ほど申し上げた4類型の事件を指しており、「実施件数の内訳」欄に、「裁判員裁判対象事件」、「検察官独自捜査事件」、「知的障害者に係る事件」、「精神障害者等に係る事件」と記載されているものです。「試行対象事件」についても、先ほど申し上げたものと同様ですが、この表では、逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を行ったものに限って、集計の対象としています。集計期間は平成28年度から平成31年度までです。各年度について、「実施件数」欄には、当該年度中に事件処理に至った事件についての取調べの録音・録画の件数の総数、「実施件数の内訳」欄には、事件類型ごとの録音・録画の件数がそれぞれ記載されています。   [1−2表]について御説明します。この表では、[1−1表]において「試行対象事件」とされていた欄が、「4類型事件以外の事件」に変更されており、試行対象事件に限らず、4類型事件以外の事件について、逮捕又は勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を行った件数が記載されています。このように、[1−2表]では、身柄事件、すなわち被疑者が逮捕又は勾留されている事件について録音・録画を行ったものが全て集計対象となっています。集計期間は、令和2年度及び令和3年度であり、各年度について、「録音・録画の件数」欄には、当該年度中に事件処理に至った事件についての取調べの録音・録画の件数の総数、「録音・録画の件数の内訳」欄には、事件類型ごとの録音・録画の件数、「身柄件数」欄には、身柄事件として受理した事件のうち、当該年度に終局処分に至った件数がそれぞれ記載されています。身柄事件における録音・録画の実施率は、令和2年度が約93.67パーセント、令和3年度が約94.41パーセントとなっております。   2ページを御覧ください。まず、[2−1表]について御説明します。集計期間は平成28年度から令和3年度までであり、各年度について、表の「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った裁判員裁判対象事件及び弁論の併合により裁判員裁判で審理される見込みのある裁判員裁判非対象事件のうち、被疑者が逮捕・勾留されていたものについて、録音・録画の実施に関する報告を受理した件数、「実施件数(うち全過程)」欄には、被疑者の取調べの録音・録画の実施件数と、そのうち取調べの全過程の録音・録画を実施した件数、「不実施件数」欄には、取調べの録音・録画を一度も実施しなかった件数、「裁判員裁判対象罪名で公判請求した件数」欄には、事件処理の際に、裁判員裁判対象罪名で公判請求した件数がそれぞれ記載されています。   もっとも、この後の配布資料8の御説明の際に改めて申し上げますが、この表の「実施件数」欄のうち、括弧内に記載されている全過程実施の件数について、数件の誤報告が判明しており、正しい件数は、平成31年度が5件増えて2,693件、令和2年度が2件増えて2,461件、令和3年度が4件増えて2,182件となります。   「裁判員裁判対象罪名で公判請求した件数」欄に関しては、令和2年度及び令和3年度については、報告様式の変更に伴い記載されていません。   裁判員裁判対象事件及び弁論の併合により裁判員裁判で審理される見込みのある裁判員裁判非対象事件については、平成29年度及び平成30年度に1件ずつ録音・録画不実施の事件がある以外は、全件について逮捕又は勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施しており、特に、録音・録画制度施行後の期間が含まれる平成31年度から令和3年度までの期間に関しては、一部実施を含む実施率は100パーセントであり、全過程実施率は、先ほど申し上げた正しい数値に基づいて算出しますと、平成31年度が約99.48パーセント、令和2年度が約99.51パーセント、令和3年度が約99.45パーセントとなっています。   [2−2表]について御説明します。この表には、裁判員裁判対象事件及び弁論の併合により裁判員裁判で審理される見込みのある裁判員裁判非対象事件の処理件数が、処理事由ごとに記載されています。集計期間は平成28年度から平成31年度までであり、令和2年度及び令和3年度については、報告様式の変更に伴い、記載されていません。   3ページを御覧ください。[3−1表]について御説明いたします。集計期間は平成28年度から令和3年度までであり、各年度について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った被疑者が逮捕・勾留されていた検察官独自捜査事件について、録音・録画の実施に関する報告を受理した件数、「実施件数(うち全過程)」欄には、被疑者の取調べの録音・録画の実施件数と、そのうち取調べの全過程の録音・録画を実施した件数、「不実施件数」欄には、取調べの録音・録画を一度も実施しなかった件数がそれぞれ記載されています。   検察官独自捜査事件については、全件について逮捕又は勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施しており、特に、録音・録画制度の施行後の期間が含まれる平成31年度から令和3年度までの期間における全過程実施率は、平成31年度が98.94パーセント、令和2年度が約94.03パーセント、令和3年度が100パーセントとなっています。   [3−2表]について御説明します。この表には、検察官独自捜査の処理件数が処理事由ごとに記載されています。集計期間は平成28年度から平成31年度までであり、令和2年度及び令和3年度について記載がない理由は、先ほど御説明したとおりです。   4ページを御覧ください。[4−1表]について御説明します。集計期間は平成28年度から令和3年度までであり、各年度について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った、被疑者が逮捕・勾留されていた知的障害者に係る事件について、録音・録画の実施に関する報告を受理した件数、「実施の内訳」欄のうち、「全過程」欄には、被疑者の取調べの全過程を録音・録画した件数、「準全過程」欄には、事件の送致を受けた段階では、被疑者について知的障害によりコミュニケーション能力等に問題があることを把握できなかったため、録音・録画を実施しなかったものの、そのような問題があることが判明した後の取調べについては、その全過程の録音・録画を実施した件数、「一部」欄には、それ以外の一部実施件数、そして、「不実施件数」欄には、取調べの録音・録画を一度も実施しなかった件数がそれぞれ記載されています。   知的障害者に係る事件については、平成28年度及び平成29年度に1件ずつ録音・録画不実施の事件がある以外は、全件について逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施しています。特に、直近3年間で見ると、全過程実施率は、平成31年度が約96.83パーセント、令和2年度が約98.63パーセント、令和3年度が約98.11パーセントとなっています。また、全過程実施と準全過程実施を合わせた実施率で見ると、平成31年度が約97.41パーセント、令和2年度が約98.63パーセント、令和3年度が約99.24パーセントとなっています。   [4−2表]について御説明します。この表には、知的障害者に係る事件の処理件数が処理事由ごとに記載されています。集計期間は、平成28年度から平成31年度までであり、令和2年度及び令和3年度について記載がない理由は、先ほど御説明したとおりです。   5ページを御覧ください。[5−1表]について御説明します。集計期間は平成28年度から令和3年度までであり、各年度について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った、被疑者が逮捕・勾留されていた精神障害者等に係る事件について、録音・録画の実施に関する報告を受理した件数、「実施の内訳」欄のうち、「全過程」欄には、被疑者の取調べの全過程を録音・録画した件数、「準全過程」欄には、事件の送致を受けた段階では、被疑者について精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われることを把握できなかったため、録音・録画を実施しなかったものの、精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われることが判明した後の取調べについては、その全過程の録音・録画を実施した件数、「一部」欄には、それ以外の一部実施件数、そして、「不実施件数」欄には、取調べの録音・録画を一度も実施しなかった件数がそれぞれ記載されています。   精神障害者等に係る事件については、平成29年度、平成30年度、令和2年度、令和3年度に1件ずつ録音・録画不実施の事件がある以外は、全件について逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施しています。特に、直近3年間で見ますと、全過程実施率は、平成31年度が約94.55パーセント、令和2年度が約96.57パーセント、令和3年度が約96.51パーセントとなっています。また、全過程実施と準全過程実施を合わせた実施率で見ますと、平成31年度が約96.03パーセント、令和2年度が約97.91パーセント、令和3年度が約98.79パーセントとなっています。   [5−2表]には、精神障害者等に係る事件の処理件数が処理事由ごとに記載されております。集計期間は平成28年度から平成31年度までであり、令和2年度及び令和3年度について記載がない理由は、先ほど御説明したとおりです。   6ページを御覧ください。[6−1表]は被疑者の取調べに関するもの、[6−2表]は、被害者・参考人の取調べに関するものです。いずれも、集計期間は平成28年度から平成31年度までです。令和2年度及び令和3年度については、先ほど御説明したとおり、報告様式の変更に伴い集計項目が変更されたため、次のページに記載されています。   まず、[6−1表]について御説明します。ここでは、各年度について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った試行対象事件について、逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施した件数、「全過程実施件数」欄には、そのうち、取調べの全過程の録音・録画を実施した件数がそれぞれ記載されています。全過程実施率は、平成28年度が約68.59パーセント、平成29年度が約82.48パーセント、平成30年度が約87.13パーセント、平成31年度が約90.89パーセントとなっており、年々、全過程実施率が上がっていることが分かります。   [6−2表]について御説明します。ここでいう参考人とは、被疑者及び被害者以外の立場の供述人のことをいい、例えば、目撃者などが含まれます。ここでは、各年度について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った試行対象事件について、被害者又は参考人の取調べの録音・録画を実施した件数、「実施者の内訳」欄のうち、「被害者」欄には、被害者について取調べの録音・録画を実施した件数、「参考人」欄には、参考人について取調べの録音・録画を実施した件数がそれぞれ記載されています。   7ページを御覧ください。この「4類型事件以外の事件」の表も、取調べ対象者が被疑者であるか、被害者・参考人であるかによって、二つに分かれています。いずれも、集計期間は、令和2年度及び令和3年度です。   [7−1表]について御説明します。ここでは、各年度について、「総数」欄には、4類型事件以外の事件のうち、当該年度中に事件処理に至ったものについて、逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施した件数、「全過程実施件数」欄には、そのうち、取調べの全過程の録音・録画を実施した件数がそれぞれ記載されています。全過程実施率は、令和2年度が約92.82パーセント、令和3年度が約94.68パーセントとなっており、前のページの[6−1表]と比較して、全過程実施率が更に上がっていることが分かります。   次に、[7−2表]について御説明します。ここでは、各年度について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った事件について、被害者又は参考人の取調べの録音・録画を実施した件数、「対象者の内訳」欄のうち「被害者」欄には、被害者について取調べの録音・録画を実施した件数、「参考人」欄には、参考人について取調べの録音・録画を実施した件数がそれぞれ記載されています。   配布資料7についての御説明は以上です。   最後に、配布資料8−1及び8−2について御説明します。配布資料8−1及び8−2は、刑事訴訟法第301条の2第4項により逮捕又は勾留中の被疑者の取調べの録音・録画が義務付けられている「裁判員裁判対象事件」及び「検察官独自捜査事件」についての逮捕又は勾留中の被疑者の取調べの録音・録画の実施件数や、その録音・録画が全過程実施ではなく一部実施となった場合におけるその理由の内訳に関する資料です。   配布資料8−1については、刑事訴訟法第301条の2第4項により録音・録画が義務付けられている裁判員裁判対象事件だけでなく、弁論の併合により裁判員裁判で審理される見込みのある裁判員裁判非対象事件も集計対象となっております。集計期間は録音・録画制度の施行後の期間を含む平成31年度から令和3年度までであり、平成31年度の欄については、改正法の施行日前である「平成31年4月1日から令和元年5月31日まで」と、施行日後である「令和元年6月1日から令和2年3月31日まで」に分けて記載されています。そして、各年度又は期間について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った裁判員裁判対象事件及び弁論の併合により裁判員裁判で審理される見込みのある裁判員裁判非対象事件のうち、被疑者が逮捕・勾留されていたものについて、録音・録画の実施に関する報告を受理した件数、「実施件数」欄には、逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施した件数、「一部実施件数」欄には、その録音・録画が全過程実施ではなく一部実施となった件数がそれぞれ記載されています。   なお、「一部実施件数」欄の数字は、先ほど御説明した配布資料7の2ページの[2−1表]に記載された数字と若干異なっています。具体的に申し上げますと、[2−1表]に記載されている実施件数から全過程実施件数を差し引くと一部実施件数が算出できることになりますが、その件数と比較して、この表に記載されている一部実施件数は、平成31年度において5件、令和2年度において2件、令和3年度において4件、それぞれ少なくなっています。これは、先ほど[2−1表]の御説明の際に申し上げたとおり、本来、全過程実施として報告すべき事件であったのに、一部実施として誤って報告していた事件が数件あることが判明したことによるものであり、この表において、正確な件数に訂正したものです。   一部実施件数についての理由は、四つの「除外事由」と「その他」に分けて記載しています。ここに記載された四つの除外事由は、刑事訴訟法第301条の2第4項第1号から第4号までに掲げる事由のことであり、括弧内の号数が条文上の号数に対応しています。「その他」欄に集計されているものとしては、例えば、「機器の故障その他のやむを得ない事情」とはいえない録音・録画機器の操作ミスなどが含まれます。   配布資料8−2を御覧ください。表の見方は、配布資料8−1と同じであり、各年度又は期間について、「総数」欄には、当該年度中に事件処理に至った、被疑者が逮捕・勾留されていた検察官独自捜査事件について、録音・録画実施に関する報告を受理した件数、「実施件数」欄には、逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画を実施した件数、「一部実施件数」欄には、その録音・録画が、全過程実施ではなく一部実施となった件数がそれぞれ記載されています。   配布資料6から8までの御説明は以上です。   ただ今の説明について、何か御質問はありますか。              (吉田構成員入室) ○藤井構成員 被害者・参考人の取調べの録音・録画の試行対象について、配布資料6−1の「別添2」の「第2」の「2」には、「個々の事情により、被害者・参考人の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件」という記載がありますが、具体的にはどういった類型の事件が多いのか、教えていただければと思います。 ○栗木参事官 御指摘いただいた配布資料6−1の「別添2」の「第2」の「2」には、「公判請求が見込まれる事件であって、被害者・参考人の供述が立証の中核となることが見込まれる」と記載されています。個々の事件で、どのようなものが当たるのかについては、それぞれの検察官の判断によりますが、被害者・参考人の供述が立証上非常に重要となる事件について、録音・録画を実施するということになると思われます。一方で、「別添2」の「第3 留意点」の「2」は、「関係者の身体、名誉、プライバシー等の保護やその協力確保に支障が生じるおそれがある場合」などは、「録音・録画を行うことが不適当であると認められる場合」として、録音・録画を行わないものとしていますので、こういった事情も個々に判断していくことになるものと思われます。 ○宮崎構成員 統計ではなく感覚的なところですが、藤井構成員からお尋ねのあった被害者・参考人の録音・録画が行われる場合の典型例として、児童虐待における被害者や、目撃者となった児童からの聴取が該当すると思われます。 ○河津構成員 この協議会で共有すべき資料についてコメントさせていただきます。事前に事務当局にはお願いしましたが、今回の配布資料では、逮捕・勾留されていない、いわゆる在宅被疑者の取調べについて、録音・録画の実施件数や実施された割合が明らかになっていませんので、それらが明らかになる資料を御提供いただきたいと思います。弁護人としての経験上は、在宅被疑者の取調べの録音・録画はほとんど実施されていないように感じられますが、供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきこと、取調べの録音・録画が取調べの適正な実施に資することは、在宅被疑者の場合にも妥当します。そして、被疑者にとっては、取調べに応じなければ逮捕されるおそれがあり、退室することも事実上困難で、回数の制限もない在宅被疑者の取調べは、逮捕・勾留されている場合に劣らない強制性を帯びることがあります。   例えば、私が弁護人として担当した独占禁止法違反被告事件では、いわゆる共犯者の立場にある証人について、公正取引委員会の質問調査と検察官の取調べが、12か月にわたり、合計99回行われていました。公判廷における証言によれば、地方に在住していたその証人は、朝9時から、最初の頃は夜10時まで取調べを受け、昼食も庁舎内で取り、平日はホテルに泊まって、週末に自宅に帰っていたといいます。このような在宅被疑者の取調べには、場合によっては、身柄事件以上の強制性があるように思われます。   逮捕又は勾留されている被疑者以外の者の取調べについても、録音・録画をできる限り行うように努めることは、配布資料4−2の参議院法務委員会の附帯決議でも明示的に求められています。したがって、この協議会において取調べの録音・録画制度の在り方について検討を加えるために、録音・録画の実施状況を把握するに当たっては、在宅被疑者の取調べの録音・録画の実施件数や、実施された割合を明らかにすることが必須であると思われますので、その資料を御提供くださいますようお願いします。 ○栗木参事官 御指摘のとおり、配布資料7については、最高検察庁に対する報告の対象とされる被疑者の取調べに、在宅被疑者の取調べが含まれていなかったため、記載された数値が、身柄事件、すなわち逮捕・勾留されている被疑者に係るものに限られています。御意見を踏まえ、どういった対応が可能なのか考えたいと思います。 ○小林構成員 今回出していただいたデータについては既にホームページなどで公表されている資料の範囲内ですので、別途出していただきたいものは私もたくさんあるのですが、その前に、今回開示されたデータについての質問ということで、よろしいでしょうか。   まず、配布資料6−2について、いわゆるハードディスクに記録している保存年数がどれくらいなのか、刑事確定記録法に準ずる扱いなのか、教えていただきたいと思います。   次に、「録音・録画用記録装置」の整備庁と未整備庁という言葉が出てきますが、この整備状況を、具体的に、どこの庁に記録装置があって、どこが未整備なのか、何年計画で整備する御予定なのか、予算なども含めて教えていただければと思います。   次に、動画ファイルの記録について、今は装置があるところはハードに記録しているということだと思いますが、クラウド等の利用があるのか、あとは、刑事IT化の議論とも関連しますが、データ保全や流出防止の措置がどうなっているのかについてもお聞きしたいと思います。   次に、配布資料7について、[4−1表]の知的障害の方の取調べの録音・録画件数が、平成28年度以降減っているように見えますが、何か理由があるのでしょうか。また、「知的障害者に係る事件」に該当するかどうかの判断基準ですが、福祉の現場の方にお話を伺うと、知的障害者に係る事件として録音・録画を実施しているのは障害者手帳を持っている人が中心で、いわゆるボーダーの人や、罪を犯して初めて福祉の支援の必要性が判明する人、福祉の支援がそれまで届いていなかった人は、録音・録画の対象外になっていることが多いといった話もお聞きすることがあります。そこで、知的障害者に係る事件に該当するか否かの判断基準について、もう少し詳しく教えていただきたいと思います。それから、[1−2表]の「4類型事件以外の事件」欄に記載されている事件について、録音・録画の全過程実施と一部実施の割合が分かれば教えてください。   次に、配布資料8−1と8−2について、「除外事由」の欄に「被疑者が拒否・その他被疑者の言動から十分な供述不可」という欄がありますが、具体的に、どういう被疑者の言動なのかというのがこの数字からだと分からないので、教えていただきたいと思います。また、「指定暴力団構成員による犯罪」欄の件数が結構少ないのですが、この除外事由に該当する場合とされない場合はどのように判断しているのかということと、「その他」欄に該当するものが具体的にどうやむを得なかったのかということを教えていただきたいと思います。 ○栗木参事官 まず、事務当局からお答えできるものについてお答えします。   「録音・録画用記録装置」について、幾つか御質問をいただきました。   動画ファイルの保存期間について、こちらは訴訟に関する記録として取り扱うことになりますので、最長で50年以上保管される場合があります。   次に、「録音・録画用記録装置」の整備状況について、平成28年度から、順次、録音・録画に係る動画ファイルを「録音・録画用記録装置」に記録する方式を採用しており、現在、全国の地方検察庁本庁、それから、裁判員裁判対象支部等の合計65庁に整備済みです。   また、データの流出防止措置についての御質問については、「録音・録画用記録装置」は、外部に接続されておらず、検察庁内においてのみ接続可能という措置が講じられているため、データの流出が起こらない運用となっています。クラウドを利用しているということもありません。   次に、録音・録画の対象事件のうち、知的障害者に係る事件に該当するか否かを、誰がどのように判断するのかという御質問について、検察当局においては、知的障害を有する逮捕・勾留中の被疑者で、言語によるコミュニケーション能力に問題がある者又は取調官に対する迎合性や被誘導性が高いと認められる者につき、被疑者として取調べを行う場合には、その録音・録画を行うものとしていると承知しており、その運用に当たっては、事件を担当する検察官において、例えば、療育手帳の交付の有無や、特別支援学校への在籍の有無、実際の取調べにおける受け答えの状況などといった当該事件において認められる種々の事実関係に基づき、ただ今申し上げました、言語によるコミュニケーション能力に問題がある者や取調官に対する迎合性や被誘導性が高いと認められる者に当たるかどうかを判断しているものと承知しているところです。   また、4類型事件以外の事件の録音・録画の全過程実施と一部実施の割合については、先ほど、配布資料7の[7−1表]の御説明で申し上げたとおり、全過程実施率が、令和2年度は約92.82パーセント、令和3年度は約94.68パーセントとなっています。   それから、配布資料8−1及び8−2に関連して、録音・録画を一部実施した場合の除外事由について、具体的にどういった場合があるのかという御質問がありましたが、この点について、御発言いただける方はいらっしゃいますか。 ○宮崎構成員 まず、除外事由のうち、刑事訴訟法第301条の2第4項第2号の「被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により、記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき」について、同号に基づいて録音・録画を停止した事例として聞き及んだものは、例えば、被疑者が、組織が関係する話なので録音・録画下では供述できない旨の供述をしたために、録音・録画を停止した事例などです。   それから、同項第3号の「当該事件がいわゆる指定暴力団の構成員による犯罪に係るものであると認めるとき」について、件数が少ないのではないかという御指摘がありましたが、いわゆる指定暴力団の構成員による犯罪に係る事件に当たるからといって、必ず録音・録画しないというわけではありませんので、個々の検察官の判断によって、同号に当たり得る事件であっても録音・録画している場合が多いということではないかと思います。   それから、どうやむを得なかったのかというお尋ねがありましたが、これは、同項第1号の「記録に必要な機器の故障その他のやむを得ない事情により、記録をすることができないとき」についての御質問と理解しました。機器の故障によって取調べの録音・録画ができなかった事例として、例えば、録音・録画機器の故障によって映像のみが録画され、音声が録音されていなかった事例があったと聞いています。また、実際に生じたかどうかは承知してはいないものの、例えば、災害等の影響による停電によって録音・録画機器が使用できないといった場合は、第1号の除外事由に当たるといわれています。 ○栗木参事官 先ほどの私の答えで抜けていたところがありました。   知的障害者に係る事件の録音・録画件数が減少している理由についての御質問があったかと思います。確かに、知的障害者に係る事件の録音・録画の実施件数を見ると、全体として減少傾向にあるといえますが、検察当局が依命通知に基づいて実施している取調べの録音・録画は、検察官において、個別具体の事案に関して依命通知の定めるところに従って録音・録画の実施を判断しているところですので、実施件数の減少傾向の原因を一概に申し上げることは困難です。もっとも、知的障害者を含む精神障害者等による刑法犯の検挙人員の総数自体が減少傾向にあるものですから、そのことと関連している可能性はあるのではないかと思われます。 ○小林構成員 ただ今の御説明の中で、幾つか事例を挙げていただきましたが、数字と今の御説明だけだと、顔が見えないというか、なぜこの事件が録音・録画から除外されたのかちょっとイメージが湧かないという印象がありますので、その点を指摘しておきたいと思います。   ○佐藤構成員 配布資料7の[6−1表]と[7−1表]に関して、試行対象事件と、4類型事件以外の事件についての録音・録画の全過程実施率が年々上昇しているという御説明がありましたが、その理由として、何か考えられる要因があるのでしょうか。 ○栗木参事官 先ほど申し上げたとおり、録音・録画の実施については、依命通知に基づき、検察官が個々の事件に応じて判断しているところがあるものですから、一概にその理由を明確にお示しするのが難しいところではあります。試行対象事件においては、こういった要件でというところが出ていましたが、それ以外も含めて、取調べの録音・録画は検察官の判断で幅広くできることとされていますので、その点を踏まえて、実施件数が増えているという背景があり得るかとは思います。 ○佐藤構成員 確認ですが、録音・録画を実施する必要性を判断する基準が変わったということではなく、同じ基準によりながら、実施率は年々上昇している、そういう理解でよろしいですか。 ○栗木参事官 録音・録画の実施に関する依命通知は、録音・録画制度が施行される前に発出されて、それ以降、これに基づいて運用がされていますので、あとは、個別の事件について、依命通知が定める録音・録画の実施対象に当てはまるかどうかを各検察官が判断しているものと承知しています。 ○成瀬構成員 佐藤構成員の御質問に関連して、私も質問させていただきたいと思います。法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会において、被疑者取調べの録音・録画制度の導入について議論されていた頃は、録音・録画制度の弊害として、被疑者が供述しなくなり取調べの真相解明機能が害され得ることや、関係者の名誉、プライバシー等を害するおそれがあることなどが指摘されていたと思います。現在、検察においては、身柄事件の被疑者取調べの録音・録画がかなり広く行われており、4類型事件以外の事件の全過程実施率であっても約95%以上に上るとのことですが、このように録音・録画を広く行っても、先に申し上げたような弊害は生じないということなのでしょうか。この質問については、事務当局よりも、宮崎構成員の実感を伺いたいのですが、いかがでしょうか。 ○宮崎構成員 まず、録音・録画の実施件数が増えている理由について、恐らく一つ挙げられるのは、録音・録画をしておかないと、公判で被告人の供述の任意性や信用性が争われたときに、立証上問題が生じるのではないかという心配があるのではないかと思います。その上で、録音・録画していることで供述人の口が重くなるという側面は、当然あると思います。録音・録画していない場合であれば、まず供述するという段階があり、その先に供述調書にして記録に残すという段階があるという形で2段階のプロセスがあるところを、録音・録画している場合は話したことが即記録に残るので、口が重くなるとか、自分に不利な話をしにくくなるという面はあると思いますし、実際そのようなことも感じますが、他方で、公判における立証のことも考えて、そことの利益衡量をしているのではないかと思います。もちろん、個々の事案によって、供述証拠がどの程度立証に重要かということも変わってくるので、一概に言えないとは思うのですが、録音・録画することのメリットとデメリットを考慮した上で、公判立証のことも考えて、録音・録画するという判断に至っているのではないかと思います。   また、関係者の名誉、プライバシーの点も、当然害されるおそれは出てくるので、録音・録画下で取調べをする際には、それが公判で証拠として取り調べられることもあり得るということを考えた上で取調べを行うことになり、取調べをする側としても、録音・録画していない取調べとは違う配慮をせざるを得ないという意味での取り調べにくさはあると思います。 ○栗木参事官 ほかに御質問のある方はいらっしゃいますか。 ○河津構成員 質問ではないのですが、もしほかの方に御発言がなければ、コメントを述べたいと思います。取調べの録音・録画制度の在り方について検討を加える前提としましては、統計数値を確認するだけではなく、改正刑訴法の施行から3年が経過した現時点において、取調べの適正な実施という目的がどの程度達成されているのか、その実態を把握する必要があると考えます。その観点から、弁護人としての経験に基づいてコメントします。   先ほど申し上げた在宅被疑者の取調べは別として、身柄事件については、ほとんど録音・録画が実施されており、いずれ公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証の状況の統計数値をお示しいただければ明らかになると思いますが、供述調書の任意性をめぐる争いは相当減少していると感じます。他方で、取調べの適正な実施という制度の趣旨については、弁護人としての経験に照らすと、十分に達成されていないと申し上げざるを得ません。   私が担当した、ある録音・録画制度の対象事件では、逮捕直後から一貫して黙秘権を行使している被疑者が、検察官によって重大な精神的苦痛を与えられ続けていると訴えていました。起訴後、記録媒体を確認したところ、検察官は、一貫して黙秘し、沈黙している被疑者に対し、41日連続で、録音・録画の合計で205時間、一方的に罵詈雑言を浴びせ続けていました。ある一日の取調べのごく一部ですが、確認された検察官の発言は、次のようなものです。   【捜査機関は厳しい。少しでも反省しているなら話した方がいい。反省していないなら仕方ない。アドバイスしてきた人たちは責任を取らない。徹底的に闘いたいのか。明らかにそちらが悪く、こちらに何の落ち度もないのにファイティングポーズを取られたら、こちらはどうしたらいいか。常識的に考えよ。もう一度言うが、みじんも反省が感じられない。黙秘するのは自由だが、黙秘すると言ったことをどう捉えるかもこちらの自由だ。あなたにこういう手段を取らせている人たちは検察と闘うと思っているのだろうが、その人たちが被害に遭って被害届を出すのは検察や警察だ。そして助けを請う。そういうのは、自己陶酔だ。自分が大好きなのだろう。黙秘したらいいが、黙秘は損だ。既に否認して、今更の黙秘だから。黙秘に不利益は本来ないが、検察は事案を解明するのが仕事だ。弁解しようがないはずだ。何がしたいのか。SMでいうとMになる。法廷では悲惨なことになる。ここで黙秘をするのはドMだ。検事が妻と会ったことを手段に供述させようとしているとか言う人がいるかもしれないが、私はそんなにあほではない。正直、息子たちに会いたい。本当は一番気になるのはそちらだ。(要旨のみ掲載)】 ○栗木参事官 河津構成員、途中ですみません。今、取調べにおける個々の発言をいろいろとおっしゃっているかと思うのですが、第1回会議でも申し上げたとおり、本協議会の進め方については、平成28年の刑訴法改正を踏まえて、その制度に見直すべき点があるか、あるとすればそれはどういった点かという検討に資するために、まずは改正法の施行状況を共有していこうということをお話しして、御理解いただけたと思っているところです。したがって、本協議会は、個別事案におけるやり取りの評価や裁判所の認定の是非を議論する場ではないと理解していたのですが、先ほどから、長い間録音・録画の個別のやり取りを披露されているのは、ただ今申し上げた本協議会の趣旨との関係では、どういった御見解なのでしょうか。 ○河津構成員 冒頭で申し上げたとおり、取調べの録音・録画制度の在り方について検討を加える前提としては、統計数値を確認するだけでは不十分であり、改正刑訴法の施行後に、この取調べの適正な実施という目的がどの程度達成されているのか、その実態について共有する必要性があると考えています。第1回会議におきましても、個別の事件に言及することを前提に、リアルタイムでの議事の公開はしないということになったと理解しています。ですから、これを議事録上どのように残すかということについては後ほど御相談させていただきたいと思いますが、こういう実態があるということについて共有することを妨げられる理由はないのではないでしょうか。 ○吉田構成員 今おっしゃったことについて、一部は理解できるのですが、程度の問題があるのだと思います。個別事案における取調官の言動の紹介をどこまで続けるつもりであったのかは分かりませんが、例えば10分や20分にわたり、この場で披れきしていただいたとしても、そのことと、取調べの録音・録画がどの程度任意性立証や取調べの適正の確保に資するものになっているかを議論することとの論理的な関係が分かりませんので、先ほど事務当局からも話があったように、本協議会の目的に照らして必要かつ相当な限度に限って、個別事案の御紹介を頂くということが必要なのではないかと考えています。 ○河津構成員 10分、20分、披れきするということは考えていませんので、そこは御心配頂かなくてよいのではないかと思いますが、取調べの実態について、検察官はもちろん御自分の取調べについて御経験があるでしょうし、私どもは弁護人という立場で記録媒体を見る機会がありますが、それ以外の構成員の方々は、こういった取調べが録音・録画の下で行われているということ自体を御存知ないのではないでしょうか。こういった実態を知る必要があるかどうかということについて、御指名して恐縮ですけれども、小林構成員、いかがでしょうか。 ○栗木参事官 もし御意見があれば、どうぞ。 ○小林構成員 今のやり取りをお聞きしていて、私も、一般論や印象で話していても仕方がないと思っています。数字を見るだけでは検証になりませんし、先ほど質問した点もそうですが、除外事由に該当すると判断された事件はどういう事案なのかをもう少し具体的に示していただかないと、それが本当にきちんと除外事由に当たると判断してよかったのかどうかということは分かりません。同様に、録音・録画をして取調べの適正が担保されたのかということを考えるときには、先ほど河津構成員が御紹介くださったように、この3年間で問題があったケースがあるのであれば、具体的に、こんな調べもありましたという実態を知りたいと思いますし、録音・録画されなかった事件で問題が起きていないのかということも知りたいと思っています。具体的な事例の検証を一切排除するということは違うのではないかと思います。 ○栗木参事官 第1回会議においても、具体的な事例を一切排除するという話にはなっていなかったと認識しているところです。本日は、捜査段階における検察・警察における取調べの録音・録画の実施状況の共有というテーマで会議を進めているところですが、公判段階においては、例えば、任意性が争われた事例であれば、既に裁判で明らかになっているところもありますし、裁判所が認定している事実ということであれば、構成員の皆様と共有しても差し支えない部分も相当あるかと思います。ですから、結局、どういった形で個別事案の内容を皆様と共有していくかというところに尽きていくのかなと思うところです。   この機会に、ほかに御意見がある方はいらっしゃいますか。 ○宮崎構成員 まず、除外事由の関係で申しますと、除外事由に該当すると考えて録音・録画しなかったことが正しかったのかどうかということについては、仮にそれが本当は除外事由に当たらないのに、当たると考えて録音・録画しなかったということであれば、そのことによって不利益を被るのは、検察官です。要するに、検察官が供述調書の証拠請求をしても裁判所が却下するということになるわけです。除外事由の該当性について最終的に判断できるのは裁判所であるということと、供述調書の証拠請求が却下されるかもしれないようなものについて、除外事由に当たるからといって録音・録画しなかったことのデメリットは検察官に結局、立証上、帰属することになりますので、その判断の適否について、実際に裁判で問題になっていないものに関してまで適当だったかどうかという議論をするのは、この協議会の趣旨にそぐわないのではないかと思っています。   それから、河津構成員から御紹介のあった、特定の事件における取調べの問題をつぶさに取り上げるということが、刑訴法改正後の制度の施行状況をはじめとする実務の運用状況を共有しながら意見交換を行って、制度運用における検討すべき課題を整理するという本協議会の趣旨にどのように資するのか、私自身は理解できていません。必要性がない上に、かえって偏った議論や意見を招くことになりかねないのではないかと危惧しています。   例えば、録音・録画された取調べにおけるやり取りを一部読み上げるとしても、それは、極めて限られた資料に基づいて個別事件の取調べの適否を評価することにはならないでしょうか。刑事事件で取調べの任意性や信用性を判断するに当たっては、被告人側と検察官側のそれぞれが事実を主張し、様々な証拠を取り調べた上で、裁判所が判断するというプロセスを経ます。当該事件における取調べに問題があったのか、問題があったとして具体的にどの部分にどういう問題があったのかということについては、取調べの特定の部分のみを抜粋して判断するものではないと思います。ですから、そういったある事件の取調べの特定の部分のみを前提に制度の在り方を議論する、あるいは運用の在り方を議論するということは適切ではないのではないかと思います。   河津構成員は弁護人として様々な御経験をお持ちだと思いますので、その御経験から御意見を述べていただくのは全く問題ないと思いますし、むしろそれで足りるのではないかと思います。   個別事件について、この事件の取調べがどうであったのかということをつぶさに取り上げることが本当に必要かつ適切であるのかという点については、疑問に思うところです。 ○河津構成員 途中で止められてしまったので、個別事件についての評価を求める趣旨ではないことが不明確になってしまったのですが、私が申し上げたかったのは、こういう取調べが行われているという実態があって、取調べの適正な実施が必ずしも十分に確保されていないのではないかという疑問が呈されていることは、取調べの録音・録画制度の在り方を議論する上では避けるべきではないということです。   先ほど、宮崎構成員が、公判においては録音・録画を実施していなければ検察官が不利益を被るというお話をされました。公判立会検察官の立場からは、そういう見方になることは理解できますが、実際には、不適正な取調べが行われたときに、必ずしも供述調書が作成されて、その供述調書の証拠能力が公判で争われるとは限らないということも認識する必要があると思います。取調べの適正な実施というのは、それ自体が取調べの録音・録画制度の目的の一つであったはずですから、それがどこまで果たされているのかということは、この協議会で認識する必要性が大きいと私は考えます。   かえって時間を取ってしまいましたので、御指摘いただいた趣旨を踏まえて、簡潔に発言をまとめさせていただきます。先ほど、被疑者の息子たちに会いたいという話に言及した後に、この検察官は、【息子を呼ぶと脅されたと言うか。録音・録画はしている。(要旨のみ掲載)】という発言をしていました。こういった取調べは41日連続で、1日平均5時間行われました。検察官が明らかな大声で被疑者をどなりつける場面も複数回確認されました。そのような場面で、検察官が発していた言葉は、【自分がここにいる理由がないと思うのか、理由はあるだろう。自分が責められたら逆ギレしたらいいと思っているのなら、それは違う。黙秘を人のせいにするな、自分が選んだのだろう。(要旨のみ掲載。併せて、検察官が「おらあ」といった怒声を発した旨の紹介があった。)】といったものです。更に、どなりつけた後に、【大きい声を出したことは録音・録画に残っている。(要旨のみ掲載)】といった発言も確認されました。   このような取調べが客観的に記録されていること自体は、取調べの録音・録画制度の積極的な効果であるということもできますが、一方で、録音・録画がなされているにもかかわらずこのような取調べが行われているというのが実態であり、取調べの適正な実施という目的は残念ながら達成されていないと評価せざるを得ません。   先ほども申し上げましたが、改正刑訴法の施行から3年が経過した現時点において、取調べの適正な実施という目的がどの程度達成されているのか、まずは取調べの実態を把握する必要があると考えます。今御報告した事例は、偶然、私が弁護人として担当していたものにすぎません。第1回会議でも申し上げましたが、検察改革の一環として最高検察庁に設置された監察指導部には、取調べに関して苦情申立てがなされた事例が蓄積されているはずですので、この協議会に資料として御提供いただきたいと思います。   また、この協議会においては、実際に行われている取調べの状況を認識した上で制度の在り方について検討を加えることが適切ですので、取調べの録音・録画記録媒体の視聴や、録音・録画のなされていない事例について、取調べを受けた被疑者からのヒアリング等を実施するべきであると考えます。 ○栗木参事官 監察の関係について、御指摘のとおり、最高検察庁の監察指導部において、検察官の取調べに関して監察が実施された事例が存在することは承知しています。ただ、監察指導部は、検察官や検察事務官の捜査・公判遂行上の違法・不適正行為等を把握して、監察の実施によってこれに適切に対処するなどして、対象となる検察庁又は職員に対して必要な指導等を行う部署であり、監察の対象となった個別の事例について、監察実施結果を公表して他の目的で使用することは想定されていないものと承知しています。実際にも、概括的に監察の端緒別・類型別の件数や結果別の件数を公表したことはありますが、監察案件として個別の内容は公表していないものと承知しています。監察指導部による監察実施結果は、司法の判断を経て事実関係やその評価が確定したものではありません。したがって、監察の対象となった事例を本協議会の資料とした場合には、その前提となる事実関係や評価についての意見が対立してしまうのではないかという点が懸念されるところかと思われます。そうしますと、監察の対象となった個別の事例を本協議会の資料とすることは、適切ではないのではないかと感じるところです。 ○小林構成員 監察の件についてですが、私もお願いしたいと思っておりました。個別具体的な事例は難しいにせよ、少なくとも、取調べに関する苦情申立てがあった事件について、録音・録画制度の対象事件なのか否かの別、それぞれの件数、調査の結果と問題があると判断された件数ぐらいは出してもいいのではないかと思います。監察案件については、最高検の参与会の議事要旨が公表されておりまして、その中で重要な指摘がいくつもされています。例えば第15回の参与会では、「改正刑訴法の附帯決議を踏まえ、在宅被疑者や被害者・参考人の取調べについても、録音・録画が実施されなかった事案の有無やデータを収集してチェックする体制が必要である」というような指摘もされていますし、第13回では「録音・録画で問題となった事案を確認すると、申立ての根拠が全くないというようなことが多く見られる。以前なら水掛け論だったけれども、事後検証が可能になったということは録音・録画の大きな成果である」というような指摘もあります。他にも、「黙秘する被疑者を説得して供述を得ようとすることには限界がある。最高検において、どこまでが良くて、どこからが悪いのかについて、研修等で明確にすべき」とか、「検察庁では録音・録画は当たり前というような雰囲気ができているけれども、警察がついてこないと本当の意味での可視化は達成されない」等々の指摘があり、資料は恐らく参与の方たちには示されているのではないかと思います。この協議会に出していただけない理由はないのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。 ○栗木参事官 御指摘を踏まえまして、どういった対応ができるのかを検討して、お示ししたいと思います。 ○河津構成員 個別事案の資料につきましても、必ずしもこの協議会の資料としたからといって一般に公表することにはなりませんし、前回取り決めたとおり、リアルタイムでの公表はせず、議事録で調整する余地も残しているわけですから、個別事案に関する資料についても、積極的に御検討いただきたいと思います。 ○栗木参事官 御趣旨は理解しました。外に公表するかどうかということとは別に、司法手続の判断を経ておらず、様々な評価があり得るものが本協議会の資料として出されたときに、それが、その後の改正刑訴法の制度について見直すべき点や、その内容を議論することにどこまで資するのかという点については、どういったお考えなのでしょうか。 ○河津構成員 個別事案のいい悪いという評価をここでするわけではないとしても、小林構成員も御指摘になったとおり、録音・録画制度の導入によって取調べにおける言動が客観的に記録されているわけですから、取調べの中でどういうやり取りがあったのか、どういうやり取りが原因で苦情の申立てに至ったのかということは、事実として共有することに積極的な意味があると私は考えています。   司法的な判断を受けていないという指摘については、先ほども申し上げましたけれども、不適正な取調べは常に供述調書の証拠能力という形で公判で争われるとは限らないものです。例えば、不起訴になった事案というのは、全く裁判所にはその資料は提出されませんし、弁護人にも開示されません。だからといって、不適正な取調べがあっていいということにはならないはずですから、不適正な取調べを防止するという制度の趣旨、それがどこまで達成されているのかということを検証する上では、裁判所の判断をまだ経ていないものであっても、取調べでどういう事実があったのか共有する価値があると私は考えます。 ○宮崎構成員 今ほど、録音・録画記録媒体の視聴及び元被疑者の方のヒアリングを行うべきという御提案がありました。前提として、特定の事件における取調べの問題をつぶさに取り上げることが、この協議会での議論にどう資するのか、私自身は理解できないということは既に申し上げた次第です。必要性がないと考えておりますし、かえって偏った議論や意見を招くことになりかねないのではないかという危惧があります。   その上で、録音・録画記録媒体の視聴や、取調べを受けた方のヒアリングは、個別事案を取り上げる方法としても適切ではなく、賛成できないと考えております。録音・録画記録媒体は刑事事件の証拠として作成されたものであり、取調べにおける生々しい言動が一言一句記録されております。被疑者のプライバシーに関わるというだけではなく、被害者を含め関係者の名誉、プライバシーに関わるものでもあります。刑事事件の証拠は、公判で取り調べられたものを除き、原則として公にされることはないのでありまして、被疑者が同意すればよいという性質のものではないと考えます。   また、取調べを受けた方のヒアリングについて、その方のお話を議論の前提とするためには、当該事件での具体的な取調べ状況がどのようなものであったのかということを問題とせざるを得ませんが、それはその方のお話だけで判断すべきではありませんし、そもそも個別の事件の取調べにおいてどのような言動があったのかという事実を認定して、それが適切であったか否かを評価するといったことは、この協議会の場で行うべき事柄ではないと考えます。仮に、当該事件が裁判所において取調べに問題があったと認定された事件であったとしても、具体的に取調べにおいてどのような状況や言動があって、どのような理由から問題があったと認定されたかについては、当事者がお話しすることが裁判所の認定と一致しているとは限りません。   結局のところ、録音・録画記録媒体の視聴や取調べを受けた方のヒアリングを行うことは、極めて限定された資料に基づいて個別事件の取調べの適否を評価することにならざるを得ないと思います。先ほども申し上げたように、ある事件における取調べに問題があったのか、具体的にどのような問題があったのかということは、録音・録画された取調べの特定の箇所を視聴し、あるいは取調べを受けた方のお話を聞くだけでは判断することはできないと思いますし、そのように異なる判断の余地があって評価の分かれ得るものを共有して議論を行うということは適切ではないと考えています。 ○栗木参事官 録音・録画記録媒体の視聴や被疑者の方からのヒアリングについて、御意見を頂きました。これに関連して、ほかの構成員の方から御意見はありますか。 ○小林構成員 まず、先ほど河津構成員がおっしゃった、公判で利用されないからといって不適正な取調べがあっていいということにはならないという点については、全面的に賛成します。   それと、ヒアリング等が必要かどうかということについてですが、法律上録音・録画の対象となっていない事件においてどのような取調べが行われたのかについては、録音・録画されていないわけですから、当事者から話を聞くしかないのではないかと思います。今回の協議会では、法の範囲内で行われた録音・録画が適正に行われたかどうかを検証するだけではなく、それを今後広げるべきかどうかを判断するためにも、法律の対象になっていない事件でどういう取調べが行われていたのかということを知ることは大事なのではないかと思います。   それから、今回の配布資料について、事務当局の方からは「これが全てという訳ではない、こういう資料がないかと聞いてもらえれば、出せるものは出します」とおっしゃっていただきましたけれども、既にHP等で公表されている範囲の資料しかお出しいただけていないことについては、正直、大変がっかりしました。最高検が平成24年に出した録音・録画の試行状況の検証結果を読みましたが、これを見ると、どの事件かというのは特定できないものの、かなり具体的な事例を紹介しながら、どういう場合に録音・録画を拒否したのかとか、有効性と問題点とか、取調官への影響などを詳細に検討した結果が記載されています。今回は試行ではなくて、3年目に見直しをするということが国会から求められているわけですから、同等程度の検証は、この3年間、組織として当然行っていると思います。その結果を、プライバシーに配慮する形で結構ですのでこの協議会に出していただきたいですし、その検討を行っていないということであれば、是非すべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。 ○栗木参事官 本協議会は、改正刑訴法の施行3年後に、その施行状況等を踏まえて制度・運用における検討すべき課題を整理するためのものであり、実際に3年間法律が施行されて制度が運用されているわけですので、それについてきちんと御説明をして、共有するということが議論の出発点になると考えて本日の配布資料について御説明したところであり、事務当局としては、全く無駄なもの、意味のないものを共有したとは考えていません。 ○小林構成員 意味がないと申し上げているわけではなくて、この数字が検証のベースにあるのはもちろんですが、それだけでは不十分だという趣旨です。 ○栗木参事官 その上で、更にどういった資料を共有することが必要かということについては、構成員の皆様の御意見を伺いながら、議論してまいりたいと考えております。 ○成瀬構成員 個別事例の詳細について披れきすることや資料として提供することの当否、及び、録音・録画記録媒体の視聴や取調べを受けた方のヒアリングの当否について、各構成員から様々な御意見が示されていますが、この議論は、河津構成員が個別事例を取り上げて、録音・録画の下でどのような取調べがなされたかについて、かなり詳細に言及されたところから始まっています。私が注目したいのは、河津構成員が取調べの内容を話し始めた段階では、誰も止めようとはせず、ある程度話が長くなってきたタイミングで、事務当局が御発言の趣旨を確認する質問をしたという点です。吉田構成員は、本協議会の目的に照らして必要かつ相当な限度で個別事例に触れていただくことは差し支えないとおっしゃいましたが、その観点から考えますと、先ほどの河津構成員の御発言は、途中から、必要かつ相当な限度を超えてしまったのではないかと思います。   本日の河津構成員の御発言の中でも、在宅被疑者の取調べの実態について、個別事例を取り上げ、取調べの期間や回数、時間を明示して簡潔に御説明くださったことは、実務を知らない研究者である私にとって有益なものでした。ただ、先ほどのように一つの事件の詳細に踏み込み過ぎると、その事件の当否に議論が集中してしまいますので、刑訴法改正後の実務の運用状況全体について意見交換を行うという本協議会の目的に照らして、やはり限度があると思います。   このような観点からしますと、録音・録画記録媒体の視聴や取調べを受けた方のヒアリングを実施するということは、個別事件について立ち入って検討することを意味しますので、「木を見て森を見ず」にならないか、つまり、全体の運用状況がかえって見えにくくなってしまうのではないかという危惧を抱くところです。   むしろ、先ほど河津構成員や小林構成員が言及されていた、最高検察庁の監察指導部における監察の実施結果を、検察官の取調べの運用全体を把握することに資するような形で示していただいて、本協議会の場で共有することの方が有益であると思います。   どこまでの資料が出せるかについては、今後、事務当局が検討されるものと思いますが、例えば、監察の端緒、監察の対象となった理由、監察結果のそれぞれについて件数を示していただけると、検察官の取調べの運用状況を把握する一助になると思います。 ○親家構成員 検察、法務省の説明に対しての御質疑だったので、これまでの議論はほとんど検察の取調べを対象としていたと思いますが、同じような話は警察の取調べについても御指摘されるかと思いますので、警察の観点から申し上げます。例えば、取調べを実際に受けた被疑者からヒアリングを行うということについて、恐らくその趣旨は、警察あるいは捜査機関の取調べに対して何ら不満を有していない被疑者等の話を聞きたいということではなく、捜査機関の取調べに対して不満等を有している被疑者等から、捜査機関からひどい取調べを受けたという話を聞きたいということだろうと思います。   しかしながら、先ほど宮崎構成員からも話があったとおり、こういった被疑者等から話を聞くこととした場合には、当該被疑者等を取り調べた取調官の言い分も聞かなければ、やはり本協議会として公平な判断はできないだろうと考えています。そうすると、個別事件の内容や当該被疑者等のプライバシーにわたる話もせざるを得なくなるところであり、この協議会の場で、そういったやり取りを行うことは適当ではないのではないかと考えます。   取調べが不適切であったことが裁判所によって認定された事例があるのであれば、被疑者等からヒアリングを行わずとも、裁判で認定された事実関係や証拠を基に検討を行えば足りると考えますし、被疑者等の主張したいことについては、日常的に被疑者等の弁護に当たる弁護士が代弁できるのではないかと思っています。したがって、弁護士会の構成員等において、必要があると認めるのであれば、こうした主張を行っていただければ、議論に役立つのではないかと考えています。   それから、録音・録画記録媒体の視聴についてですが、警察の取調べについて申し上げますと、取り扱う事件の罪種や態様、被疑者の特性、それに対する取調官の個性や取調べのスタイルも様々であります。また、地域によっては方言等もありますので、言葉のニュアンスについて地域性が見られる部分もあります。さらに、取調べは逮捕後20日間の勾留期間中に断続的に行われるものであり、場面によって取調べも様々な様相を呈します。こうした状況において、仮に幾つかの取調べの録音・録画記録媒体を視聴したとしても、そこから得られるものは、当該特定の取調べについての評価にすぎず、そのような偏った情報を基に議論を行ったとしても、取調べの録音・録画制度の一般的な課題を整理することにはつながらないと思います。   それから、録音・録画記録媒体の中には、関係者のプライバシー、あるいは他人に聞かれたくないような話が詰まっており、取調官においても、被疑者との信頼関係を築くために自らのプライバシーをさらけ出して全身全霊を込めて取調べに当たっていますので、その様子が本来の目的以外の目的で視聴され得るということになりますと、取調官にも一定の萎縮が生じ、今後の取調べに悪影響を及ぼすおそれも生じてくるとも考えています。   こういったことから、私どもとしても、この協議会において録音・録画記録媒体の視聴を行うことについては適当ではないと考えているところです。 ○河津構成員 ただ今、親家構成員が御発言になったことのうち、仮に被疑者から話を聞くのであれば取調官からも話を聞く必要が生じるという点は、おっしゃるとおりだと思います。我々が個別事件にすぎないということを念頭に置いて話を聞いたときに、この協議会の構成員の議論に大きな偏りが生じるということは、私はないと信じます。取調べの録音・録画記録媒体についても、もちろん本来、公判に提出することを想定して作成していることは承知していますが、例えば、既に出ております最高検の監察指導部では、その録音・録画記録媒体の視聴をしているはずですし、検察庁内の研修等においても、録音・録画記録媒体が利用されることはあると伝え聞いております。そういうことを前提とすると、私は、録音・録画記録媒体の内容やヒアリングの結果を公表することを求めているのではありませんで、前回この会議で取り決めたように、内容によっては議事録にも掲載しないという取扱いをしつつ、取調べ等の実態を把握するという目的に限定して、この協議会でヒアリングや録音・録画記録媒体の視聴をすることは、有益ではあれ、害はないと考えています。 ○吉田構成員 私がまずもって踏まえるべきだと思うのは、先ほど成瀬構成員のお話にもあったように、この協議会の目的との関係で、個別の事件にどこまで踏み込む必要があるのかという点です。確かに、一つの事件について、被疑者であった人のみならず、取調官、あるいは事件やその捜査に関係したいろいろな人たちから話を聞けば、情報量は広がって、その被疑者であった人が話すこと、あるいは取調官が話すことの位置付けは理解しやすくなるかもしれませんが、その特定の事件における詳細な情報がこの場で共有されたとして、今回の協議会の目的を達成することにどの程度資するのか、そこまで時間を使ってやることにどれほどの意味があるのかという疑問があります。そこはやはり、正に成瀬構成員がおっしゃったとおり、個別事件に触れることには一定の限度があるだろうと思っており、その観点からすると、ヒアリングという手法は、必要がないというのを超えて、やはり適切ではないと考えています。 ○栗木参事官 ほかに御意見のある方はおられますか。よろしいでしょうか。   本日は、前半で検察における捜査段階の取調べの録音・録画の実施状況についての協議を行い、後半で警察における取調べの録音・録画の実施状況の協議を行うことを予定していましたが、本日の残り時間からしますと、これから警察における取調べの録音・録画の実施状況の協議に入っても、とても終わりませんので、予定を変更し、警察における捜査段階の取調べの録音・録画の実施状況については、第3回会議において御説明いただき、御協議いただくことにしたいと思います。   また、本日、この協議会における資料についても様々な御意見を頂きましたが、情報共有すべき内容等については、事務当局においても検討したいと思います。構成員の皆様におかれまして、第3回会議で資料を提出することを希望される場合には、準備の都合上、事前に事務当局に送付していただければと思います。   第3回会議の予定ですが、先ほど申し上げたとおり、本日実施できなかった警察の取調べの録音・録画の実施状況についての情報共有と意見交換を行うこととし、本日構成員の方から要望があった資料については、事務当局で検討の上、お示しできるものがあればお示ししたいと思います。それから、時間に余裕があるようでしたら、公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況についての協議に入ることも考えたいと思います。そのような進行とすることについて、御意見はありますか。 ○河津構成員 進行については、私の発言が契機で時間が掛かっておりますので、もちろん異存ありません。ただ、資料に関しては、検察について申し上げたとおり、警察についても、在宅被疑者の取調べについて、録音・録画の実施件数や実施された割合が明らかになる資料を御提出いただきたいので、御検討いただければと思います。 ○栗木参事官 そのような御意見があったということで、分かりました。   進め方については御提案した内容でよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   構成員の皆様が御提出を希望する資料の事務当局への提出期限は、追って御連絡します。   第3回会議は、令和4年11月25日に開催することを予定しています。詳細については、追ってお知らせします。また事前に御送付いただいた資料については、事務当局において確認させていただいて、どのような形で御提出いただくかなどは御相談させていただきたいと思います。   本日の会議の御発言ですが、職務上取り扱われた具体的事例に関する御発言などもございましたので、御発言者の御意向も確認させていただいた上で、非公開とすべき部分がある場合には、該当部分は非公開としたいと思います。その具体的な範囲や議事録上の記載方法等につきましては、御発言者との調整もありますので、事務当局に御一任いただきたいと思います。   御発言者と調整して決することについて、事務当局に御一任いただくという取扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   では、そのような取扱いにさせていただきます。   それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。 −了−