法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和4年12月27日(火)   自 午後1時28分                         至 午後4時41分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○仲戸川幹事 ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第6回会議を開催いたします。 ○酒巻部会長 本日は、御多忙のところお集まりいただき、ありがとうございます。   本日、池田委員、吉崎委員、𠮷澤委員、鷦鷯幹事は、オンライン形式により出席されています。   なお、保坂幹事、くのぎ幹事におかれましては、本日、所用のため御欠席と伺っております。   事務当局から、本日の配布資料について説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 本日、配布資料9として「考えられる仕組み・検討課題(諮問事項「三」関係)」を、配布資料10として「諸外国における暗号資産の処分を防止するための制度・運用の概要」をお配りしています。配布資料の内容につきましては、後ほど御説明します。   また、参考資料として、配布資料8「考えられる仕組み・検討課題(諮問事項「二」関係)」を配布しております。 ○酒巻部会長 それでは、審議に入ります。   前回の会議におきましては、配布資料8の「考えられる仕組み・検討課題(諮問事項「二」関係)」のうち8ページ・9ページの「4 証人・鑑定人の尋問及び通訳等」の検討課題の「1 映像・音声の送受信による証人尋問ができる場合に関する規律」まで議論を行いましたので、本日は、引き続き、検討課題の「2」以降について、順次議論を行いたいと思います。   配布資料8の8ページ・9ページの「考えられる仕組み」と「検討課題」については、前回事務当局から説明してもらっていますので、早速、御意見を伺いたいと思います。   検討課題の「2 映像・音声の送受信による鑑定人尋問・通訳等ができる場合に関する規律」は、「(1)」から「(3)」までありますので、まずは、「(1)鑑定人尋問」について、御意見等のある方は、挙手などした上、御発言をお願いします。 ○池田委員 鑑定人尋問につきまして、これを映像・音声の送受信により実施するとした場合の要件の在り方及びその所在場所について、意見を申し上げます。   鑑定人尋問については、当部会に先立つ検討会におきまして、証人尋問よりも広い要件の下でビデオリンク方式により実施できるものとすることについて意見の一致が見られまして、取りまとめ報告書の「考えられる方策」にも掲げられています。   これは、鑑定人尋問が、学識経験を有する鑑定人が、その専門的知見や、これを具体的事実に当てはめた経過及び結果を供述するものであって、証人自身の固有の体験を証言する証人尋問とは異なり、自ら体験した過去の事実について記憶のまま述べているかどうかが吟味されるものではないため、法廷供述の信用性を判断するために鑑定人の表情や動作を直接観察したりしながら尋問する必要性が必ずしも高くないと考えられることによるといえるように思います。   そして、このような考え方は、民事訴訟法において鑑定人からの意見聴取をビデオリンク方式で行う場合の要件にも見られ、同法第215条の3は、「裁判所は、鑑定人に口頭で意見を述べさせる場合において、鑑定人が遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるときは、」いわゆるビデオリンク方式により意見を述べさせることができるものとしており、さらに、本年5月に成立した民事訴訟法等一部改正法は、この「遠隔の地に居住しているとき」という遠隔地要件を削除して、単に「相当と認めるとき」に実施できるものとしております。こうした要件の在り方も一つの参考になると思います。   その上で、取り分け、鑑定人尋問の手続のうち、人定尋問、宣誓、鑑定能力に関する尋問、鑑定事項を告げて鑑定を命じることについては、当該鑑定人を法廷に呼び出してその表情や動作を直接観察しながら尋問すべき必要性はほとんどないものとして、民事訴訟法と同様に、相当と認めるときに実施し得るものとすることも適切といえるのではないかと考えられます。   他方で、ビデオリンク方式による鑑定人尋問を行う場合の鑑定人の所在場所については、証人尋問を実施する場合の証人の所在場所と同様に、裁判所が、事案に応じて、訴訟指揮権等の十全な行使の確保等の観点から相当と認める場所を指定することができるものとすることが考えられます。 ○久保委員 鑑定人尋問につきましては、今、池田委員からも御指摘があったように、鑑定事項を告げて鑑定を命じるまでの形式的な部分については対面で行わないということに、当事者に異論がないことは多いと思われます。   他方で、鑑定の経過や結果報告については、実質的に証人尋問と同様のことを行う必要がある場合や、信用性を減殺する尋問をする必要があるときにまで広く認めるというような余地があるものとなれば、それは反対という意見になります。   結局のところ、ここでも、当事者に異議がなく、かつ、裁判所が一定の要件を満たしていると認めた場合には認めると、そういう条文があるということに集約できるのではないかと考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、よろしいですか。   それでは、ほかに御意見はないようですので、次に、検討課題の「2」の「(2)通訳」について、御意見を頂きたいと思います。 ○小木曽委員 能力を有する通訳人の確保は、国語に通じない被告人の防御等の観点から、刑事手続の運営上不可欠ですが、その確保が容易でないということはもはや公知の事実といってもいいことだと思いますので、ビデオリンク方式による通訳を可能とする必要性は高いと思います。   現行法上、通訳には、証人尋問の規定が準用されますが、通訳の本質は国語と国語以外の言語による陳述を相互に変換する点にあります。そうしますと、証人尋問とは異なって、国語に通じない者と通訳人との間では主に言語情報が伝達されれば足り、映像・音声の送受信によってこれをすればその目的は達成されますので、ビデオリンク方式による通訳を広く実施できるようにしても、特段の支障はないように思われます。   現行法では、実際上、通訳人についてビデオリンク方式の利用があり得るのは、刑事訴訟法第157条の6第2項第4号のいわゆる遠隔地要件を満たす場合に限られていますので、この点を見直す必要があると思います。検討会の取りまとめ報告書にもありますとおり、裁判所が当事者の意見を聴いた上で、相当と認めるときにビデオリンクを介して通訳を実施できるものとしてよいのではないかと思います。   また、民事訴訟法では、これまで、映像と音声の送受信による通訳を実施するための要件は、通訳人が「遠隔の地に居住しているときその他相当と認めるとき」とされておりましたが、本年5月に成立した民事訴訟法等一部改正法では、「裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、」ビデオリング方式による通訳をさせることができることとされておりますので、参考になると思います。   さらに、同改正法では、映像と音声の送受信による方法によることが困難な事情があるときは、音声の送受信によることができることとされておりまして、刑事手続において同様の定めを置くことができるかどうかについても、検討に値すると思います。   また、ビデオリンク方式による通訳を行う場合の通訳人の所在場所ですが、証人尋問を実施する場合の証人の所在場所と同様に、裁判所が、事案に応じて、訴訟指揮権等の十全な行使の確保等の観点から相当と認める場所を指定することができるものとすることが考えられると思います。 ○久保委員 通訳についても、まずは対面で行うことが原則となるべきだと考えております。   その上で、通訳には様々な言語があり、少数言語については通訳人を確保することが困難であるということがしばしばありますので、そういった事例においてビデオリンク方式などを利用するということにはニーズがあるということは承知しておりますし、そのような場合に選択肢を増やすということは刑事裁判の質の向上にもつながると考えております。   ただ、通訳にも、単に言語を翻訳するだけではなく、手話通訳といった問題もありまして、手話通訳は映像上ではなかなか読み取りにくいという問題もあります。聴覚障害者の方の中にはデジタル音声だと聞き取りにくいといった面もあります。健常な方であったとしても、やはり映像を通じて映像を見ながら口の動きを見て、そして音声を聞き取るということは、対面での通訳を聞き取る場合に比して、恐らく疲労を伴うことになり、裁判の負担ということが被告人にとっては大きくなるのではないかということも懸念しております。   そのため、特段の必要性がなくビデオリンクを安易に広げるということには反対であり、まずは原則として通訳も対面で行うべきだと考えております。 ○酒巻部会長 民事訴訟法では音声のみでも可能ということはそのとおりだと思いますが、刑事訴訟法では何か違うことがあるのかについては、音声のみを可能にした立法の際の議論などが参考になればと思います。 ○久保委員 通訳の事件を担当していて感じますのは、単に音声だけで聞き取るということではなく、被告人の方々は口の動きも併せて読み取り、その上で理解をしているということがしばしばあります。取り分け、その言語の中にも、日本語のように画一的に理解できるものではなく、中国語では微妙にイントネーションが違ったりということがある中で、音声だけでは理解ができないけれども、口の動きで分かるということもあるように思っております。そのため、取り分け刑事裁判において長時間尋問を行うことが想定される中では、音声だけで行うということにより必ずしも正確に理解ができず、的確に回答ができないということになる場合の支障というのは、民事裁判の場合に比べても、大きくなる場合があるのではないかと考えます。 ○酒巻部会長 「(2)通訳」に関し、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次は、「(3)検証」ですが、検証について特に何らかの法制上の措置を採る必要があるかということについては、いかがでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、検証について簡潔に意見を申し上げた上で、事務当局に1点質問をさせていただきたいと思います。   本年5月に成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律において、映像と音声の送受信により検証の目的の状態を認識することができる方法による検証についての規定を新設することとされたところ、第2回会議において、久保委員から、この民事訴訟法の改正を踏まえて、刑事手続において検証がどのような位置付けとなるかについての検討が必要であるという御発言がありました。   刑事訴訟法における検証を映像・音声の送受信により実施する上で、何らかの法制上の措置を採る必要性があるかについては、検討会においても議論が行われたところですが、その際に申し上げたとおり、裁判官や訴訟関係人が物等の存在・形状を直接認識せず、機器を介して認識する場合であっても、現行刑事訴訟法上の検証として実施可能であると考えられますので、あえて映像と音声の送受信により検証を行うことができる旨の規定を設ける必要性はないと考えています。   民事訴訟法等の一部を改正する法律において、先ほど申し上げたような規定を新設することとされたのは、恐らく民事訴訟法固有の事情によるものと思われますが、事務当局において、その趣旨を把握されているようであれば、御教示いただけますと幸いです。 ○吉田幹事 本年5月に成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律においては、民事訴訟法第232条の2として、「裁判所は、当事者に異議がない場合であって、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により検証の目的の状態を認識することができる方法によって、検証をすることができる」との規定を新設することとされています。   その趣旨については、次のようなものであると承知しております。すなわち、民事訴訟法では、検証に関しては、第232条第1項において「検証の目的の提示」について書証の申出に関する規定が準用されているところ、その書証の申出は、第219条において「文書を提出し」てすることとされていることから、これに準じて検証の目的を提出してすることとなり、そのため、提出された検証の目的を裁判所が直接に認識する方法でのみ認められているものです。   もっとも、検証の目的を直接認識しなくても、映像と音声の送受信の方法を用いてこれを認識することができるケースもあり、そのようなケースにおいては、そのような方法による検証を認めることが迅速な証拠調べを実現する観点から望ましいと考えられる一方で、映像と音声の送受信の方法を用いた検証は、飽くまでも間接的な認識方法によるものであり、当事者が、より正確に検証の目的の状況を把握する等の観点から、裁判官に対し、検証の目的を直接に確認することを望むという場合には、その意向を尊重する必要があるとも考えられることから、先ほどのような規定が設けられたものであると承知しております。 ○成瀬幹事 丁寧に御説明くださり、ありがとうございました。   ただいまの御説明によれば、民事訴訟法における検証については、申出をする者が検証の目的を裁判所に提出するという物理的な行為を意味する手続が前提であるため、同じ検証であっても、裁判所が直接に認識することができるようにするという手続が法律上定められていたという民事訴訟法固有の事情により、映像と音声の送受信による検証の規定が必要とされたものと思われます。   これに対して、刑事訴訟法は、第128条において「裁判所は、事実発見のため必要があるときは、検証することができる」と規定するにとどまり、民事訴訟法のような規定はないことから、あえて映像・音声の送受信の方式による検証を行うことができる旨の規定を設けなくても、当然にその方式によることができると考えられます。 ○酒巻部会長 久保委員、今の点について何かありますか。 ○久保委員 やはり民事訴訟法には固有の事情があるので、民事訴訟法を参考にするということは、それぞれの法律の事情を鑑みて検討しなければならないということがよく分かりました。 ○酒巻部会長 「(3)検証」につきまして、ほかに何か御意見、御質問はありますか。よろしいですか。   それでは、これで「4 証人・鑑定人の尋問及び通訳等」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、この検討課題に明記されていない点を含め、証人尋問、鑑定人尋問、通訳、検証に関わるものについて、ほかに御意見等はありますか。よろしいですか。   それでは、次の「5 公判審理の傍聴」について議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料8の「5」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 配布資料8の10ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」には、公判審理の傍聴について、二つの案を記載しております。すなわち、A案として、映像・音声の送受信により行うことができるものとするというもの、また、B案として、法制上の措置を講じないというものです。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   この項目については、「1 公判審理の傍聴に関する規律」、「2 必要性」、「3 相当性」という三つの検討課題を記載しています。   これらの点については、公判審理の傍聴の在り方、あるいは公判審理の公開の方法は、何によって規律されているか、どのような事件、どのような対象者について、どのような必要性があるか、どのような弊害が想定され、これを防止するために実効性のある方策を採り得るか、他の裁判手続の公開の在り方と整合するかなどの点が、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの事務当局の説明内容に関して、御質問等はありますか。よろしいですか。   それでは、議論に入ります。   検討課題の「1 公判審理の傍聴に関する規律」について、御意見等のある方は挙手の上、御発言をお願いします。 ○小木曽委員 憲法第82条第1項は、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」としております。その趣旨は、公開によって裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保することにあるとされておりますが、その趣旨を全うするための具体的な公開方法については、現行法上、特に定めがありません。   現在、実務においては、法廷に傍聴者の区画を設け、誰でも出入り自由とするという方法で裁判を公開していると承知しておりますが、同時に、法廷内で行われる裁判の適正さや迅速さが傍聴者によって損なわれることのないように、裁判所法や最高裁判所規則に、傍聴やその方法を制限する規定が置かれております。   例えば、裁判所法は、法廷の秩序維持のための裁判長・裁判官の法廷警察権を、刑事訴訟規則は、公判廷における写真撮影や録音、放送は裁判所の許可を得なければならない旨をそれぞれ規定しており、裁判所傍聴規則は、傍聴券の発行等に関する裁判長・裁判官の権限や傍聴人の遵守事項等を定めております。   しかし、これらの定めには公開方法が特に記されておりませんので、裁判の公開方法について、現行法は、これを音声・映像の送受信によって行うことを禁止しているものではないと思われます。したがって、公開を音声・映像を通じて行うことは新たな定めを置かなくとも可能であるということもできると思いますが、他方、仮にこれを実施する場合、映像・音声の送受信により裁判を公開することにより生じるおそれのある弊害を防止するために、あらかじめ統一的なルールを定めるということも考えられると思います。   公判審理の傍聴を映像・音声の送受信により行うことについては、その是非自体に加えて、これを規律する法令の要否についても検討する必要があると思います。 ○佐久間委員 公判審理をインターネットなどを通じて広くオンラインで傍聴できるようにすることについては、検討会においても議論がなされ、その際には、当部会の第2回会議において久保委員から御指摘があったのと同様に、政治犯罪や出版に関する犯罪、憲法が保障する国民の権利が問題となっている刑事事件については、憲法第82条第2項ただし書が「常にこれを公開しなければならない」と規定している趣旨に照らして、オンライン傍聴を認めるべきとの意見もありました。   もっとも、検討会でも指摘したとおり、刑事裁判をインターネットを通じて傍聴できるようにすることについては、例えば、公判審理において明らかにされる証言の内容や事件の詳細が、インターネットを通じて広く多数の人に知られることとなり、その映像や音声が録音・録画され、インターネット上に半永久的に残ることとなることも考えられ、その結果として、証人の協力を得ることが困難となったり、あるいは、証人が萎縮して真実を証言することが困難となったりするおそれが高まり、事案の真相解明に支障が生じ得ること、公判審理の内容が広く知られることとなることなどが、被害者の精神の平穏を害したり、被告人の社会復帰に悪影響を生じさせたりすることがあり得ること、裁判員や証人等の容貌・言動等が広く知られることとなり、それに伴い、それらの者に対する接触行為、困惑・威迫させる行為等が行われること、といった弊害が懸念されるところでありまして、御指摘のあった憲法第82条第2項ただし書の趣旨を考慮しましても、インターネット傍聴を実現することは慎重に検討していくべきと思われます。   こうした認識は、検討会の委員の間で共有されたものと認識しておりますし、この部会でも共有できるものではないかと考えています。   また、最高裁判所での弁論であれば、裁判員や証人等の容貌が広く知られることになるおそれはないのではないかとの御指摘もありましたが、弁論の中で事件や証拠の内容に言及する場合があることから、先ほど述べた弊害の懸念は残るのではないかと思っております。 ○酒巻部会長 今の御意見には必要性や相当性に関わるものが含まれていると思います。さらに、検討課題の項目「2 必要性」、あるいは「3 相当性」について御意見があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○𠮷澤委員 検討課題の「2」と「3」について併せて意見を言いたいと思います。   被害者側としては、これまでも述べてきましたが、インターネットなどで全ての人に公開されるということまでは求めません。せめて個々の事件において被害者が自分の裁判を知ることができるように、裁判所に柔軟に対応していただきたいと考えています。被害者・御遺族が事件の当事者として自身の裁判の帰すうを確認したいと考えるのは当然だと思います。犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第1条に、「犯罪により害を被った者及びその遺族がその被害に係る刑事事件の審理の状況及び内容について深い関心を有する」とされているとおりだと思います。   ここで、被害者・御遺族のオンラインによる傍聴のニーズについて三つの類型に分けて御説明したいと思います。   まず一つ目ですが、元々起訴された事案が被害者参加対象事件ではない場合が挙げられます。このとき被害者が自分の事件がどのようになっているのか知りたいと思いましたら、傍聴をするほかありません。しかし、例えばストーカー規制法違反など、事案の性質上、被害者が傍聴すること自体に恐怖を感じるというケースは多く存在します。一方で、こういったケースこそ、被害者は、被告人が今どのように供述しているのか、反省の態度は見られるのか、もう二度と自分に接近するようなことはないかなどということを被告人質問などで実際に感じ取りたいと思われることも多いです。   次に、二つ目ですが、被害者参加対象事件であるからといってオンライン傍聴がなくてもよいというわけでも決してありません。検討会でも述べましたが、たとえ被害者参加がオンラインで可能になったとしても、参加によって内容を知ることができるからよいというものではありません。参加という方法はどうしても被告人と対立構造になるため、それが怖い、被告人には二度と自分の存在を認識されたくないという思いを持たれる被害者は数多くおられます。性犯罪の被害者が、自身の存在は認識されたくないから参加はしたくないが、被告人に反省の態度があるのかどうか、被告人には自分の存在を認識されない形で確認したいと考えられる方も多くいらっしゃいます。   これらの一つ目、二つ目のケースで今どのようにしているかといいますと、何とか被害者のニーズに応えるため、例えば、被告人から見えないように、被害者の代理人弁護士であったり被害者支援センターの職員や検察事務官などが、被告人が振り返ったとしても傍聴席に座る被害者の方が見えないように、目線を遮る場所に座るなどしてできる限りの工夫をすることもあるのですが、それでもどうしても同じ空間にいること自体が苦痛であったり、いつ見られるか分からないという恐怖を感じ続けることに耐えられず、傍聴を断念される方も多いです。<ここで法廷傍聴をためらわせる要因について補足的な説明がなされた。>   最後に、これまでも繰り返し述べてきましたが、被害者・御遺族が多数の事案の問題があります。被害者が多数であれば、被害者参加人の数も多くなり傍聴希望も多くなる一方で、耳目を集める裁判であるため報道機関の席も相当数確保しなくてはならないということで、どうしても物理的に裁判所の傍聴席を確保すること自体が困難となってしまうことがあります。   そもそも被害者・御遺族は、先ほど述べたように、被害に係る刑事事件の審理の状況及び内容について深い関心を有することから、優先傍聴の配慮を行うよう定められています。特に、この3点目の被害者多数の事件については、個々の被害者側の事情は関係がなく、ひとえに裁判所の施設のキャパシティの問題により物理的に傍聴ができないということになります。せめてこういったときに別の部屋を準備していただき、そこをオンラインで接続して被害者・御遺族が傍聴できるようにしていただきたいという切実な被害者・御遺族の思いがあります。そして、これについては、先ほど小木曽委員もおっしゃっておられましたが、特に法律等の定めに抵触するものではなく、運用により可能なのではないか、是非こういった実態を考慮していただいて柔軟に対応していただきたいと考えています。   三つ目の相当性にも関連しますが、どのような弊害が想定されるかという点について少しだけ述べます。   検討会の取りまとめ報告書においては、先ほど佐久間委員が述べられていたように、映像・音声が録音・録画されるリスクや、公判審理の内容が広く知られることになり、被害者の精神の平穏、被告人の社会復帰に悪影響を生じさせること、裁判員や証人等の容貌が広く知られることとなり、それらの者に対する接触行為等が行われる危険性があるなどといった点が弊害として指摘されていましたが、今まで述べたように被害者・御遺族だけに限定してオンライン傍聴を認めるということであれば、少なくとも2点目、3点目の弊害はありません。   1点目の録音・録画のリスクですけれども、こういった弊害を防ぎ、訴訟指揮権の行使や法廷警察権の行使といった点を十全に裁判所が行うためには、オンラインで傍聴を行う被害者らの所在場所に裁判所職員に同席していただくことによって十分にカバーできると考えています。裁判所に御負担を掛けるということはよく分かるのですが、だからといって一律にオンライン傍聴を認めないとするのではなく、これまで述べてきたような、事件に巻き込まれた被害者・御遺族の自分の裁判がどのようになっているのか知りたいという強い思いに応えていただけるよう、個々のケースの必要性に応じ柔軟に対応していただきたいと考えています。 ○久保委員 まず、一般的な公判審理の傍聴について申し上げます。私としても関係者のプライバシーですとか名誉というものが非常に重要であることを承知しておりますので、広くオンラインでの傍聴を可能にするべきとまでは思っておりません。その上で、最高裁の弁論などを公開するという方法があるのではないかといった意見を申し上げたことにつきましては、先ほど佐久間委員からも御紹介いただきました。   昨今、イギリスですとか韓国などでも、ここ1年ぐらいの間に広くオンラインでの傍聴などが認められるようになったと承知しております。例えば、イギリスでは裁判官が判決や量刑理由を読み上げている様子を公開することで司法制度への理解が進むとして、重大な刑事事件の判決については撮影が可能となるように法改正されたという報道を拝見しました。韓国においては、最高裁判所のホームページで弁論の動画を見ることができるようになっているようです。そうした海外での様々な制度設計等も考えながら、どのような制度設計があり得るのかということを前向きに今後検討していくということについては、一定の意味があるように考えております。もちろん、そのような制度設計に際しては、関係者、その中には被害者や証人の方はもちろん被告人自身も含まれますが、そういったプライバシーや名誉に関わる情報の取扱いには十分配慮がなされるべきだと考えております。   次に、先ほど𠮷澤委員から御発言のありました、被害者自身や被害者の御家族の傍聴について申し上げます。   私自身、被害者参加代理人になることもしばしばありますので、そのようなケースにおいて裁判所が傍聴についてかなり柔軟に対応していただける傾向にあるということはありつつも、やはり傍聴人が多数見込まれる場合には、何人までという縛りがあることは承知しております。ですので、そういったケースにおいて一定の要件を満たす場合にオンライン傍聴が認められるようになることについては、私としても異存はありません。   その上で、被告人の御家族についても同様の手続が設けられるべきだと考えております。残念ながら、被告人の御家族というのは、被告人自身と同視されるという傾向にあります。時には傍聴席にいる他の傍聴人や報道関係者との間でトラブルになり、あるいは好奇の目にさらされるということが多々あります。そうしたことをちゅうちょし、被告人の御家族が傍聴自体をできないというケースは多数あります。御家族が事件に関する事実を正確に知ることが被告人の更生に資するという場面があります。傍聴することができず、事実関係をきちんと把握できない結果、きちんと監督ができないということになるのは本末転倒です。時には情状証人として御家族が出廷し、その尋問の中で検察官から、「ここまでの法廷は傍聴していましたか」と質問をされることがありますが、先ほど申し上げたようなトラブルをちゅうちょし、傍聴できなかった結果、「傍聴していません」ということになり、監督能力に疑問があるということになるのは適切でないと考えております。被告人の御家族についても広くオンライン傍聴の道が設けられるべきだと考えます。 ○近藤幹事 まず、ウェブ配信のような形態の傍聴については、佐久間委員の御指摘のとおりの様々な弊害が生じることが考えられます。   次に、裁判所内の別室や他の裁判所の構内からオンラインで傍聴するために、審理を法廷以外の場所に中継する形態の傍聴についても、訴訟関係人、証人、被害者その他の関係者のプライバシーの侵害が生じるおそれが高まる面があることなどから、慎重な検討を要すると考えられます。   また、裁判手続の内容を直接その状態を把握できない場所に中継した場合、裁判所は中継先の状況にも留意しながら手続を進めなければならず、円滑な訴訟進行が妨げられるおそれもあります。具体的には、特定の場所とつないでオンライン傍聴を認める場合、裁判体においてモニターを通じて法廷外の状況を適切に把握し、場合によっては、モニターの中の複数の傍聴人について録画等を含む何らかの禁止行為を行っていないかを確認し、対象となる人物を特定して法廷警察権等を行使する必要があります。また、モニター自体が複数になることも考えられます。裁判体においてこれらのモニターの状況を常に留意しつつ、目の前の実際の法廷における状況を見ながら手続を進め、かつ、当然、事件の結論を出すために裁判をしている以上、裁判体が法廷において適切な心証形成をも並行していくには困難があると考えられます。この点は、向井委員が前回の部会において、被害者参加人が映像・音声の送受信により参加する場合に関して述べた訴訟指揮の困難さと共通する問題であると思われます。   法廷警察権や訴訟指揮権の行使は、裁判所職員を中継先に派遣することにより確保可能ではないかという考え方もあり得ましょうが、そのような方法を採った場合でも、法廷警察権等を行使する裁判体が中継先の状況を適切に把握したり確認したりする必要があることに変わりありません。中継先に職員を立ち会わせることによって、中継先の状況にも留意しながら手続を進めなければならないことに伴う支障がなくなるものではないと考えられます。   また、現行法上の優先傍聴の規定についての言及もございましたが、この規定は法廷の座席数に限りがあることを前提に、被害者等の心情に配慮し、一定の被害者等についてできる限り優先的に傍聴ができるように配慮することを定めたものであります。傍聴は、裁判の公開の原則を踏まえ、万人に対して裁判の公開を実現するための方法であります。小木曽委員が御指摘されたとおり、裁判の公開は裁判の公正を担保するための制度的保障であると解されます。そうしますと、特定の方に対して同一の傍聴方法の中での配慮という枠を越えて、他の者とは異なる傍聴方法までを認める根拠は何か、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第2条の存在ではその説明は困難ではないかという問題も生じ得ると考えられます。   傍聴の在り方については、このような弊害・あい路を踏まえつつ検討する必要があります。どのような形で傍聴を認めるかは、刑事手続にとどまらず、民事訴訟等を含めた裁判制度全体に関わる問題でありますことから、他の裁判手続の公開の在り方との整合性も含め、慎重に検討する必要があると考えております。 ○酒巻部会長 今の裁判所からの御意見を踏まえて、ほかに御意見はありますか。 ○小木曽委員 これまでの御意見によりますと、まず、インターネットを通じて広く不特定多数人が傍聴できるような形態のオンライン傍聴については、佐久間委員からも、近藤幹事からも御指摘があったとおり、公判審理の適正かつ迅速な遂行に影響があるおそれがあるため、慎重な検討が必要であるということだろうと思います。   久保委員からは被告人側のニーズについてもお話がありましたし、𠮷澤委員からは、検討会を通じて、被害者等を対象とした傍聴のニーズについての御意見がありました。被害者等を対象とした、例えば裁判所の別室からのビデオリンク方式による傍聴については、インターネット傍聴のような弊害はないとも思われますが、近藤幹事からは、法廷警察権との関係でなかなか難しい点もあるのだといった御発言もありました。同時に、特定の者に対して他の者と異なる傍聴ツールを与えることの正当な理由の有無、民事・行政裁判との関係はどうなるのかといった課題が指摘されたと思います。   ですので、この課題について直ちに結論を出すことは容易でないように感じますが、取り分け犯罪被害者は、訴訟の当事者ではなくとも、事件の当事者として公判審理やその結果について重大な関心を有するということは従来から言われていることであります。近藤幹事からは、犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律の趣旨についても言及がありましたけれども、裁判長に被害者等の傍聴への配慮義務を定めた法律が制定されているということには留意するべきであると思います。   これは、なかなか難しい課題ですが、特に裁判所には、既に制定されている法律の趣旨も酌みながら、犯罪被害者等のほか被告人側のニーズにも応えていただくような工夫をお願いできれば幸いです。 ○𠮷澤委員 今、小木曽委員がおっしゃられた優先傍聴に関する配慮義務というものは、実際そのように課せられているものですので、私も、それにはやはり十分に配慮をしていただきたいと考えています。   先ほど、近藤幹事は、裁判所の別室でオンラインで傍聴することについても法廷警察権等の問題があるとおっしゃっていたのですけれども、被害者側としても、例えばたくさんの部屋を同時に中継してくださいということまではとても無理だということは分かります。ただ、例えば1室なり、本当に限定された範囲であれば、どなたかが1人でも裁判所の職員の方がいらっしゃれば、そこにいらっしゃる被害者・御遺族の方を、手元まで普通にきっちり見えるのではないかと思います。大きな法廷で傍聴席の隅々まで見るのとどちらが難しいのだろうという気もしますし、全て駄目ですよというのではなく、個々の事件で、特殊な事件で、被害者のニーズが非常に高いというものは、類型的にもありますので、そういったものについては是非、このオンラインによる傍聴を認める選択肢だけでも残していただきたいと、そのように思っております。 ○酒巻部会長 公判審理の傍聴について、現行法制上の措置の要否、それから必要性・相当性について御意見を頂きましたけれども、ほかに全体について御意見がございましたら、お願いします。よろしいですか。   それでは、これで「5 公判審理の傍聴」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、この検討課題に明記されていない点に関するものも含めて、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、以上で諮問事項「二」に関する「考えられる仕組み」やその「検討課題」についての審議は、この程度とさせていただき、次に、諮問事項「三」についての議論を行いたいと思います。   まず、配布資料9の「1 第1及び第2の実施を妨げる以下の行為等に対処できるようにすること」についての議論を行いたいと思います。   議論に先立ちまして、配布資料9の「1」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 配布資料9の1ページ・2ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」の「①」として、電子的に作成される文書の信頼を害する行為を処罰できるようにすることを記載しており、そのような行為の例として「ア」に記載したものを掲げています。   また、「②」として、電子的に作成された書類やオンラインを用いた手続の遂行を妨害する行為を処罰できるようにすることを記載しており、そのような行為の例として「ア」から「エ」に記載したものを掲げています。   さらに、「③」として、「①及び②と同様に以下のような行為を処罰できるようにする」ことを記載しており、そのような行為の例として「ア」及び「イ」に記載したものを掲げています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「①」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、公文書偽造・同行使罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   また、「2」には、「考えられる仕組み」の「②」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、公務執行妨害罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   さらに、「3」には、「考えられる仕組み」の「③」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、免状等不実記載罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるか、その他にも同様に処罰できるようにすべきものがあるかなどの点が、検討課題となります。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、御質問等はありますか。よろしいですか。   それでは、議論を行いたいと思います。   検討課題の「1 電子的に作成される文書の信頼を害する行為の処罰」について、御意見等のある方はよろしくお願いします。 ○安田委員 私の方からは、考えられる仕組み「①」について意見を申し上げたいと思います。   考えられる仕組み「①」「ア」の、「電子的方法により作成される令状と同じ内容の表示がされる虚偽の電磁的記録を無権限で作成し、自分のタブレット端末の映像面等に表示して、電子令状として人に示す行為」については、前提として、検討課題「1」「ア」にありますように、現行の公文書偽造・同行使罪や公電磁的記録不正作出・同供用罪により対処可能かを検討しておく必要があります。   電子的方法により作成される令状は、端末のモニターに表示して紙媒体の令状と同じように人に示して使用することが想定されておりますが、これは飽くまで電磁的記録として作成されることとなりますので、公文書偽造罪等の客体である「文書」には当たりませんし、それを無権限で作成しタブレット端末で表示して人に示しましても、モニター表示それ自体も「文書」には当たりませんので、それらの罪により対処することは困難であると考えられます。   次に、公電磁的記録不正作出・同供用罪は、「人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する」「電磁的記録」を不正に作出する行為や、不正に作られた一定の電磁的記録を「人の事務処理の用に供」する行為を処罰するものです。   考えられる仕組み「①」「ア」の行為は、自分のタブレット端末で利用する目的で電磁的記録を作成し、実際にも自分のタブレット端末に表示させて相手方に見せるものですが、現行法の解釈としてこの類型を捕捉しようとしますと、その電磁的記録は、相手方の電子計算機では用いられていないものの、相手方の事務処理を誤らせる危険がある、すなわち、電子計算機によって表示される内容を相手方が読み取って一定の判断をするという事務処理を誤らせる危険があるとして、公電磁的記録不正作出・同供用罪を成立させるということができるかを検討することとなるように思われます。   もっとも、刑法第161条の2第1項の「その事務処理の用に供する」「電磁的記録」という文言における「その事務処理」というのは、やはり相手方が相手方の機械を介して行う事務処理を通常想定するものであるように思われますので、先ほど申し上げました解釈には難があるように思われますし、また、同罪が新設された昭和62年当時、電子データは企業等の設備に備え付けられたコンピュータにより処理されるものであり、現在のように、スマートフォン等によって電子データを文書と同様に管理し、人に提示することが容易になることは想定されていなかったようにも思われます。   情報通信技術の進展に伴い、誰もが電子計算機を持ち運び、電子データを紙と同じように使うようになった現在の社会の実態を考慮しますと、電子令状の偽造に限らず、電子データの偽造により文書偽造と同様の結果が生じ得るところでありますので、こうした行為について適切に対処できるようにする必要があることは明らかだと思われます。   そうした観点からしますと、刑法第161条の2によって対処が可能とも考えられる行為も含めて、機械による情報処理システムとの関係での正・不正が問われる第161条の2の罪とは別に、電磁的記録が端末に表示されて対人的に行使される文書的性質を備えた画像における成立の真正さに対する公共の信用の侵害を正面から捉える構成要件を設けること、例えば、そのような電磁的記録を作成名義を偽って偽造する行為を、文書の偽造と並ぶものとして取り扱うような、新たな構成要件を設けることを検討するべきではないかと考えます。 ○久保委員 まず、今の点に限らず、刑事実体法全体の議論について意見を申し上げ、その上で少し質問をさせていただきたいと思っております。   事前の検討会でも議論されていないので、私は前提や実情も十分理解できていないのではないかと承知しております。前提も含めて、事務当局や学者の先生方、あるいは捜査の実務に関わっている皆様にはいろいろと質問をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いいたします。   まず、刑事の実体法につきましては、基本的に社会的に規制が必要な対処すべき事象が具体化してから立法をしてきたものと承知しております。例えば、昭和62年の改正の際には、コンピュータが急速に普及し、コンピュータに関する不正行為が発生し、従来の刑法の解釈で対応していく中では限界があることを前提としておりました。平成13年の改正の際には、支払用カードのスキミングの問題などが契機となっておりましたし、平成15年の刑事法(ハイテク犯罪関係)部会では、サイバー犯罪条約への対応という具体的な問題への対処という中で改正の議論がされたものと承知しております。   今回の改正に際しましては、一つ一つの議題につき、本当にニーズがあるのかどうか、それに今の時点で対処をする必要があるのか、対処をすることが適切なのか、対処をする方法が適切なのか、今回議題にあるようなものを全てこの部会で議論するのであれば、それが適切なのか、それぞれ仮に議論をするのであれば、きちんと時間を掛けて議論するべきなのではないかといったことについて、検討がなされるべきだと考えます。   昭和62年の改正の際にはコンピュータが普及しつつある状況でしたが、現在はタブレットやスマートフォンが普及し、情報通信技術の状況は全く異なります。現行法に単にプラスをするという発想ではなく、昭和62年の改正以降の問題状況を検討し、現行法の廃止すべきものは廃止することも含めて検討するべきだと考えます。例えば、情報通信技術の発展に伴い、当罰性はあるものの法律解釈に疑問があるケースについて、法律を拡大解釈する形で対応しているようなものがあるのではないか、あるのであれば、むしろ法律が明確になるように現行法の規定ぶり自体を改正するべきではないかといった点についても検討をするべきだと考えます。   その上で、まず、安田委員にお伺いしたいのですが、先ほど御説明の中で、端末のモニター上に表示する行為は「文書」に当たらないと表現をされたと思うのですが、例えばタブレット端末に表示された画面の内容というのは、今の刑法上の「文書」には当たらないという理解が前提になっているということでよろしいのでしょうか。 ○安田委員 スイッチを切れば消えるわけですので、永続性の要件を欠き、「文書」には当たらないと解釈しております。 ○久保委員 次に、また質問をさせていただきたいと思うのですが、これは安田委員、あるいは捜査に関わっていらっしゃる松田幹事、大賀委員あるいは佐久間委員にお伺いしたいのですけれども、現状の紙の令状を模倣したような事例として、これまでにどのようなものが発生していて、それにどのように対処をしているのかについて、御教示いただければと思っております。 ○吉田幹事 事務当局において現時点で御指摘の点について詳細を把握しているものではありませんので、この部会にお示しできるものがあるかどうかは事務当局において検討したいと思いますけれども、いずれにしても、刑事の実体法に関する法整備は、犯罪事象として現行の刑法やその他の特別法で対処できないものが現実に生じてきたときにだけ行うものではなく、新たな手続を構想する場合には、その手続が導入されたときに当然に予想される行為であって、かつ、現行の刑事法上なされているのと同様の対処をすべきものについては、その手続の整備に伴って当然に法整備を行うべきだと考えることは十分可能でありますので、現に、例えば今御指摘のような事象が起こっていないからといって、法整備の必要性が否定されるものではないと考えております。 ○久保委員 そうしましたら、また事例がありましたら、別の機会にでも御紹介頂ければと思います。   その上で、更に安田委員にお尋ねしたいのですが、最後に御提案いただいた対処の方法として、電磁的記録を文書と並ぶものという形で規定するということを述べられていたと思うのですけれども、この趣旨を確認させてください。   これは、現行法にある規定に単純に文書と並べて電磁的記録を併記するようなものという趣旨での御提案ということになるのでしょうか。 ○安田委員 その点は、今後のこの部会での御議論によるものと思います。基本的には、対人的に行使するという局面を捉えて、文書に対するものと並んで規定していく方向での議論が考えられるところかなとは思っております。 ○久保委員 ありがとうございます。いろいろ質問させていただいて恐縮なのですが、更に質問をさせてください。今回議題として挙がっておりますのは、虚偽の電子令状を作成するという行為ですけれども、安田委員の御提案としては、この虚偽の電子令状を作成した場合に限った形での規定ということなのか、それとも、もう少し抽象的な形でのものになるということなのかをお伺いしたいと思います。   といいますのも、書類が電子的方法により作成される場面というのは、電子令状だけではなく、捜査機関が虚偽の捜査報告書を電子的な方法で作成するといった場合も想定されるのではないかと思います。そういった虚偽のデータを警察官あるいは検察官が作成した場合にはどのような規律になるのか、そういったことも含めて、内容虚偽のものを作成した場合も広く拾うような形で何らかの規定を置くべきというお考えなのか、その辺りについて教えていただければと思います。 ○吉田幹事 配布資料の「第3」の「1」のところに書いてある、「第1及び第2の実施を妨げる以下の行為等に対処できるようにすること」の「等」の中には、この考えられる仕組みの中に書いてあるもの以外のものが含まれ得ます。今回の刑事手続のIT化を行うに当たって、それに伴い想定される対処が必要な行為、対処が必要な電磁的記録の不正な作成が考えられるのであれば、それも検討の対象となり得るということです。したがって、どのようなものが対処の必要のあるものとして考えられるかという点を含めて御議論いただければと思います。 ○酒巻部会長 そういうことだと私も理解しています。検討の対象となる電子的に作成される文書としては、電子令状だけではなく、訴訟関係人・手続関係者が作成する様々なものが考えられるのではないかと思います。 ○久保委員 ここからは意見になりますが、ここまでの議論といいますのは、「第1」、「第2」については、刑事手続のIT化ということで、基本的にまずは作成権限のある者が作成権限のある内容を、紙とデータをそのまま同視できるような場面において、その便宜を図っていくという視点があったと思います。ただ、ここからの刑事実体法の関係につきましては、作成権限のない者がそういった書類を作ったりとか、そういった処罰の場面になってきますので、ここまでの「第1」、「第2」の議論とはまた場面が変わってくると思います。そのため、ここの「①」のところも含めて、ここから単純に紙と電磁的記録を同視できるのではないかといった視点だけではなく、これまでの改正の中でも議論をされていたように、紙と電磁的記録の違いということも前提に置いて検討されなければならないものと思います。   例えば、刑法第161条の2の規定は、元々改正の議論の中で、紙と電磁的記録をそのまま同視できないということが前提となった立法になっていたものと思っております。この点について私なりに勉強したところとしましては、刑法第161条の2というのは、文書と同様に、その「権利、義務又は事実証明に関する」という規定を置くだけではなく、「人の事務処理の用に供する」というものに限定した趣旨として、電磁的記録が文書とは異なり、それ自体独立してその証明機能を発揮するものではなく、それを用いて一定の事務処理をすることが予定されているシステム及びプログラムの下で用いられて初めて本来の機能を発揮するものであったことによる、などと解説されているのを私なりに学んだところです。そうすると、現行刑法というのは基本的に紙と電磁的記録をそのまま入れ替えるという発想には立っていないのではないかと思っておりますので、処罰の場面におきましては、紙と電磁的記録の違いといったことも意識しながら、整合性なども検討しなければならないのではないかと思います。 ○酒巻部会長 検討課題の「1」について、ほかに御意見はありますか。   それでは、次に、検討課題の「2 電子的に作成された書類やオンラインを用いた手続の遂行を妨害する行為の処罰」についての御意見を伺いたいと思います。   考えられる仕組み「②」の「ア」から「エ」までの行為がいろいろ想定されているわけですが、いずれについて御発言いただいても結構ですので、御意見のある方は、挙手などした上で、どの点についてのものかを明示していただいた上で御発言をお願いします。 ○樋口幹事 考えられる仕組み「②」のうち「ア」、「イ」について意見を述べます。   考えられる仕組み「②」「ア」の、「電子令状の執行の際に、タブレット端末の機能を妨害する装置を用いることにより電子令状を表示できなくする行為」について、検討課題の「2」「ア」にありますように、立法論の前提として、現行刑法の犯罪が成立するかについて考えてみたいと思います。   電子令状の執行妨害を考えるための対比として、従前の形態である紙媒体での令状の執行の妨害行為を考えてみますと、警察官が相手方に令状を呈示して行う強制処分の執行は、刑法第95条第1項の「職務」に該当し、紙媒体の令状を警察官からひったくって破り捨てるような場合、暴行該当性も認められ、公務執行妨害罪が成立するように思われます。   これに対して、電子令状の執行方法として、これまでの部会での議論を踏まえまして、例えば、警察官が、タブレット端末から電気通信回線を通じて電子令状が保存されているサーバにアクセスし、当該電子令状をタブレット端末の映像面に表示させて相手方に示す方法を想定してみます。この場合に、通信機能を抑止する装置によってサーバとタブレット端末との間の通信を妨害する行為や、強力な電磁波を用いてタブレット端末の動作を阻害するような行為を行いますと、暴行・脅迫に該当しませんので、公務執行妨害罪が成立しないことは明らかです。   現行刑法典が定める罪名としてもう一つ検討すべきは業務妨害罪です。判例上、公務について威力業務妨害罪を認める際には、強制力を行使する権力的公務ではないことが理由として挙げられています。判例にいう強制力については、自力執行力の有無を判別基準にする議論が有力ですが、それ以外にも、直接私人に対し命令・強制を現実に加える作用の有無、あるいは優越的な国家意思の発動として支配権に基づき国民に直接服従を強いるものかを判別基準にすべきとの議論も存在します。いずれの判別基準から見ましても、令状を呈示して行われる強制処分の執行行為は強制力を行使する権力的公務の典型といえるものですから、判例の基準でいえば、威力業務妨害罪は成立しません。公務を妨害する実行行為が偽計だけであったという事案がないため、強制力を行使する権力的公務という基準が偽計業務妨害についても及ぶのかは確定していない状況です。また、電子計算機損壊等業務妨害罪についての最高裁判例はないため、やはり強制力を行使する権力的公務という基準が使用されるべきかは明らかでない状況です。   例えば、自力執行力の有無に注目して、威力とは異なり、電磁的な方法による妨害の自力での排除は困難であることから、威力業務妨害罪の判例の射程は、昭和62年改正で追加された刑法第234条の2には及ばず、強制力を行使する権力的公務にも電子計算機損壊等業務妨害罪が適用可能との立場を採れば、電子令状の執行に対する通信妨害やタブレットの動作阻害行為を同法第234条の2で捕捉することは可能にはなります。ただ、このような解釈については、優越的な国家意思の発動として支配権に基づき国民に直接服従を強いるものが強制力を行使する権力的公務であると解する立場から、業務妨害罪による保護の拡張は妥当でないとの批判もなされているところです。刑法第234条の2による公務の保護をどこまで及ぼすかについて、いかなる解釈を裁判所が今後採用するかは明らかではないのが現状と見るべきでしょう。   考えられる仕組み「②」「イ」の、「ビデオリンク方式による取調べの際に用いられる機器の機能を電磁的方法により妨害する行為」についても、同様の分析が可能です。すなわち、公務執行妨害罪については、暴行・脅迫がありませんから、刑法第95条第1項は成立しません。業務妨害罪については、ビデオリンク方式による取調べが強制力を行使する権力的公務に該当するかが問題になり、また、仮に該当する場合があるとしても、同法第234条の2については、強制力を行使する権力的公務も保護するとの解釈を採れば、考えられる仕組み「②」「イ」の行為は処罰可能になりますが、裁判所がそのような解釈を採用するかは明らかではありません。   このように、考えられる仕組み「②」の「ア」、「イ」に掲げられた行為について現行刑法で処罰可能かは解釈次第であって、処罰できないという解釈もあり得る状況にあります。この点で、検討課題「2」「イ」に挙げられました立法論的検討の必要性が認められるかと思います。   発言の最初の方で、考えられる仕組み「②」「ア」について紙媒体の令状執行の場合との対比をさせていただきましたが、紙媒体の令状執行の場合と比して電子令状の執行の場合に刑法の保護がないとしますと、情報通信技術を活用した手続が選択されにくくなるおそれもあり得るところです。自力執行力の有無に着目する考え方から、「②」の「ア」、「イ」の行為について妨害の排除は困難であり、暴行・脅迫と同様に令状の執行を困難にする点で当罰性があるという議論も可能だと思います。また、国家の支配権に基づいて国民に直接服従を強いることに注目し、そのような立場から、強制力を行使する国家機関は国民の抵抗をある程度は甘受すべきとの考え方から見ましても、暴行・脅迫による公務執行の妨害と、考えられる仕組み「②」の「ア」、「イ」に掲げられた電磁的妨害は、その悪性において異なるところはないと考えることも可能でしょう。   いずれの議論にせよ、現行の公務執行妨害罪と同様に、適切な処罰を可能にする規定を設けることを検討することが一つの考え方になろうかと思います。 ○安田委員 私からは、考えられる仕組み「②」「ウ」について意見を申し上げます。   考えられる仕組み「②」「ウ」の、「電子令状の執行の際に、これを表示するための機器として警察官が所持するタブレット端末を破壊する行為」につきましては、タブレット端末を破壊した点で器物損壊罪が成立することは明らかですが、これにより警察官が電子令状を使用できなくなる点につきましては、前提として、検討課題「2」「ア」にありますように、現行の公用文書等毀棄罪により対処可能かを検討しておく必要があるように思われます。   この行為が公用電磁的記録の毀棄に当たるかどうかを検討する前提として、この部会での御議論を踏まえまして、電子令状を紙に印刷せずに電子データのまま画面などに表示して被処分者に示す方法としてどのようなものがあり得るかを考えてみますと、一つは、あらかじめ、タブレット端末に電子令状のデータをダウンロードしておき、それをタブレット端末の映像面に表示させて示す方法と、もう一つは、電子令状のデータが保存されているサーバにアクセスし、ダウンロードはしないで、タブレット端末の映像面に表示させて示す方法があると考えられます。   刑法第258条にいう「毀棄」の意義は、文書の「毀棄」におけるのと同様に、電磁的記録の記録としての本来の効用を毀損する行為をいうものと解されており、具体的には、電磁的記録が保存された記録媒体の物理的な破壊行為や、電磁的記録の全部又は一部の消去、改変等のほか、電磁的記録が保管された記録媒体の隠匿等の方法により、その記録としての利用を妨げる行為などもこれに当たると解されております。   このうち、まず、タブレット端末に電子令状のデータをダウンロードしている場合に、考えられる仕組み「②」「ウ」の行為により、電子令状のデータが保存されているストレージを破損するなどしたときには、電子令状のデータの読み取りができなくなることから、この場合が電磁的記録の「毀棄」に当たることには、恐らく疑問の余地はないものと思われます。   これに対しまして、電子令状のデータがタブレット端末にはダウンロードされていない場合には、「②」「ウ」の行為がなされたとしても、電子令状のデータが保存されているストレージは破損しておらず、別の端末を使えばサーバ上のデータを使用することが可能であることは確かです。しかしながら、電子令状のデータは、タブレット端末の映像面に表示されて被処分者へ示されることにこそ、その本来的な効用があることからしますと、この場合も、電子令状を執行する警察官が被処分者に電子令状を示すことができず、電子令状のデータが利用されることが妨げられている以上、判例上、「毀棄」に当たることが認められている、隠匿により文書の利用を妨げる場合と同様であって、電子令状の電磁的記録としての本来の効用を毀損する行為であり、「毀棄」に当たるということができるように思われます。   そうだといたしますと、考えられる仕組み「②」「ウ」の行為につきましては、現行刑法によって対処することができるのではないかと考えております。 ○久保委員 樋口幹事の御意見に関連して、事務当局に前提を確認させていただきたいのですけれども、正に安田委員からも御指摘があったように、そもそも令状を呈示する場面において、タブレット端末にデータを保存し、それを表示するということをシステム設計として想定をしているのか、あるいはサーバに保存し、それをWi-Fiなどで接続した環境の中でデータとして表示をするのか、それについてどちらを想定しているのかということを御教示いただければと思います。やはり、いずれになるかによって、それをどのように捕捉するかという点も変わってくると思いますので、この点について、まず御教示いただきたいと思います。 ○吉田幹事 現時点ではどちらのシステムになるかは決まっておりませんので、両方の可能性を念頭に置いた上で御議論いただければと思います。 ○久保委員 では、それを前提に引き続き質問させていただきたいと思います。   樋口幹事、あるいは事務当局への質問ですけれども、タブレット端末の機能を妨害する装置という形で議題には書かれており、先ほどの樋口幹事からの御説明としましても、通信を通じて表示をするということが想定された内容になっていたかと思います。ここで、令状を呈示することを妨害する装置というものが私なりにイメージができなくて、現実にそのように妨害する装置としてそもそもどのようなものが存在をしているのか、それが具体的にどのようにそのタブレット端末等に支障を生じるということが科学的に証明されているものとして既に存在しているのかといったことについて、教えていただければと思います。 ○吉田幹事 例えば、携帯電話等の通信を抑止する装置があると承知しています。そのような装置の例として、携帯電話が使用するのと同じ周波数帯の電波を発射することによって、その装置の周辺で携帯電話等が使えないようにする、具体的には、それが設置されると携帯電話等が圏外の状態になって、発信も着信もできなくなるというものがあります。もし捜査機関が将来使用することとなるタブレット端末について、これと同じようなことが技術的に可能になるとしますと、そのタブレット端末の周辺にこうした装置を置くことによって、タブレット端末に本来表示されるべき電磁的記録のサーバからの取得が不能になって、電子令状を表示できなくなるということが考えられるということです。              (川原委員退室) ○酒巻部会長 おそらく、従来からコンサートホール等でも使っているかもしれないですね。 ○久保委員 ありがとうございます。今の御説明に関連して、更に質問させていただきたいのですが、電波のようなもので妨害する装置ということですと、電波の関係では特別法などもあるのではないかと思っているところでして、今回の議題に関わるものとして特別法としてどのようなものがあるのかお伺いできればというのが、1点目です。   その上で、2点目として、総務省のホームページに、正に今御紹介いただいたような内容のものがありました。離れたところにいる赤ちゃんの様子を見るためのベビーモニターの電波が携帯電話の基地局に影響を与えるといった事例が紹介されておりました。私なりの理解では、こうした電波の利用に関しては総務省の管轄ではないかと思っており、専門の総務省の方などのヒアリングをすることが必要なのではないかと思っているのですけれども、この点について何か専門的に御紹介いただけるということは今後予定されているのか、この2点についてお伺いできればと思います。 ○吉田幹事 まず、1点目ですけれども、先ほど私が申し上げた携帯電話等の通信抑止装置の使用に関しては、電波法上、免許が必要とされておりまして、そうしたものを免許を受けずに使用した場合には電波法違反に該当し得ると理解しております。その上で、これについて総務省の方からヒアリング等を行うというお話ですけれども、どのような観点から何をお聞きすることをイメージされているのかが分からないのですが、罰則の適用範囲を考えるのであれば、必ずしも総務省の方に来ていただく必要はないと思いますし、それ以外で何かこの審議に当たって必要な事項があるということであれば、他の委員・幹事の皆様の御意見もお聞きした上で部会として検討していただくということになるのではないかと思います。 ○酒巻部会長 実体法の刑罰法令の設計については、前提として刑法典の犯罪規定で対処ができるかどうかという観点から議論していますけれども、特別法に刑罰法令があれば、その相互関係等は当然踏まえて議論することになると思います。 ○久保委員 今、特別法で処罰の可能性があるという御紹介を頂いたのですけれども、そうしますと、今回のこの令状の呈示の場面において妨害する装置などを仮に行使した際に、特別法で処罰できない範囲があり得るのかどうかということについて、何か教えていただけることがあればと思っております。   また、総務省のヒアリングについて、何の必要性があるのかという疑問を頂いたのですけれども、この議題を拝見したときに、令状呈示の場面で令状が表示できなくなったときに、本人が何らかの装置をたまたま持っていて、その装置を起動させた結果、令状を表示できなくなっているのか、あるいはそれ以外の別の原因によって表示できなくなっているのか、単純なタブレットの不調なのではないかといったことがその場で判断できるのか、あるいは事後的に、このとき電波が妨害されていたのはこれが原因だったということが特定できるか、ということがなかなかイメージできなかったものですから、抽象的な議論をするのではなく、どのような場面を想定し、どのようなことについて処罰の必要性があるのか議論する上で、現在の科学においてどのような装置があり、それによってどのようなことがあり得るのかということは、やはりそれを専門にされている方にお伺いするのが適切ではないかと思って、意見を申し上げた次第です。 ○酒巻部会長 今までの御議論、御質問等に関連して、何かほかに御意見はありますか。   もしないようでしたら、「ア」、「イ」、「ウ」まで来たのですが、「エ」についてまだ御意見を承っていないので、こちらについてお聞きしたいと思います。 ○樋口幹事 考えられる仕組み「②」「エ」について、意見を述べさせていただきます。   「エ」の「オンラインにより送達される電子的に作成された文書の内容を第三者に知られないようにする措置を無効化する行為」について、検討課題の「2」「ア」にありますように、立法論の前提として、現行刑法の犯罪の成否を確認させていただきたいと思います。   オンライン送達との対比のために、紙媒体である起訴状の謄本の送達について考えてみますと、正当な理由なく信書に施された封を開く行為は、刑法第133条の信書開封罪が成立します。   これに対して、オンライン送達、あるいは、より一般化して言えば、オンラインで電磁的記録を送付する際に、パスワードによって開くことができなくしているにもかかわらず、第三者が不正に解除して開いてしまう場合、「封をしてある信書」という刑法第133条の文言には当てはまらず、信書開封罪は成立しないように思われます。この点で、検討課題「2」「イ」の立法論的検討の必要性が認められるかと思います。   オンライン送達がどのようなシステムで行われるのか次第という問題があるため、現時点で確たることは言えませんが、紙媒体の信書としての送達による場合と電磁的記録のオンライン送達の場合とで、刑法による対処が相違するとなってまいりますと、オンライン送達に対する信頼の保持が難しくなるおそれが生じるところです。   このような事態が生じないようにするため、オンライン送達についても、紙媒体の場合と同様に信頼が確保されるように対処する規定があるかどうかを点検し、必要に応じて、新たな構成要件を設けるかについて検討する必要があるように思われます。 ○久保委員 事務当局への質問ですが、前提として、電子送達というのはどの場面を想定されているのでしょうか。つまり、在宅の被疑者・被告人本人への電子送達をも想定しているのか、あるいは身体拘束されている被疑者・被告人への送達につき刑事収容施設に送達することのみを想定しているのでしょうか、ということが1点目になります。   2点目に、送達の方法につきましては当然、オンラインシステムにログインをしてというような形ではないかと思ってはいるのですけれども、電子メールでの送達なども想定しているのかということについても、前提として、まずお伺いできればと思います。 ○吉田幹事 今御質問のあった2点は、正にこの部会で御議論いただくべき事柄であろうと考えております。この「第3」については、今後、「第1」や「第2」に関する議論がどのような方向に進んでいく可能性があるかということを視野に入れながら御議論いただく必要があるのだろうと思われます。どのような方法でオンライン送達を行うことになるかについて、現時点で確たるものをお示しすることは難しいのですけれども、そのような前提で御検討いただければと思います。 ○久保委員 では、次に、樋口幹事あるいは事務当局への質問ということになると思いますが、通信の秘密を侵害する罪といいますのは、刑法では信書開封罪のみだと思うのですけれども、それ以外にも特別法があるのではないかと思います。例えば、郵便法ですとか、電気通信事業法第179条第1項ですとか、いろいろな法律の中で規定されており、電気通信による送達も特別法でそのままカバーされるのではないかと思います。そうであるとすると、この電子送達の場面に特有の問題として、何か特別法でカバーできない特別な保護法益があるのか、特別法に穴があって処罰できないところがあるのか、お伺いできればと思います。 ○酒巻部会長 現行の郵便法とか、不正アクセス禁止法とか、電気通信事業法とか、このような特別法との関係はどうかということですね。 ○吉田幹事 今御指摘があった法律のうち、まず郵便法に関してですが、郵便法の第77条において次のように規定されております。すなわち、会社、これは日本郵便株式会社を指していますが、「会社の取扱中に係る郵便物を正当の事由なく開き、き損し、隠匿し、放棄し、又は受取人でない者に交付した者は、これを3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。ただし、刑法の罪に触れるときは、その行為者は、同法の罪と比較して、重きに従つて処断する。」と規定されております。ここで対象となるのは、会社の取扱中に係る郵便物です。   一方、電気通信事業法第179条第1項においては、次のように規定されております。すなわち、「電気通信事業者の取扱中に係る通信」、以下少し略しますが、「の秘密を侵した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する」とされ、同じ条の第2項において、「電気通信事業に従事する者」「が前項の行為をしたときは、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する」として、刑が加重されています。ここで対象となるのは、電気通信事業者の取扱中に係る通信ですので、取扱中でないものがあるとすれば、例えば、相手方に電子メールなどが届いた後などですけれども、そうしたものは、恐らくこの「電気通信事業者の取扱中に係る」という要件を満たさないことになり得るのではないかと思われます。 ○久保委員 事業者等の取扱中に係る通信以外のものについても、有線電気通信法や電波法の規定もあると思うのですが、その点との関係ではいかがでしょうか。 ○吉田幹事 今手元ですぐに条文を開くことができませんので、また別の機会に御説明申し上げたいと思います。 ○久保委員 私としては、結局オンラインのシステムに、例えば第三者が不正アクセスすれば不正アクセス禁止法違反の問題になりますし、メールなど電気通信の場合であれば特別法でカバーされるものであり、裁判書類の送達の場面について特別に刑法に法規を設ける必要性があるのかについて疑問を持っております。   また、先ほどの御説明では、現時点ではオンラインシステムによるものなのか、それともメールによるものなのかということも含めて議論の対象になっているということでしたが、メールの場合ですといろいろな方が、本人だけではない他の方が開封をする場合ということが当然に想定されるのではないかと思います。ここで、例えばメールに添付されているファイルのパスワードを知っている者がそれを入力し、添付ファイルを開封して初めて罪が成立するということなのか、そのメールを開いた時点で罪が成立するということなのかも不明確ではないかと思います。家族であればパソコンを共有しており、家族が不意に開くということもございますし、例えば、被疑者・被告人への送達も視野に入る場面では、被疑者・被告人がどのようなメールアドレスを裁判所に知らせるかによって、例えば勤務先の会社のメールアドレスを伝えていた場合に、会社の一定の責任のある立場の人がそのメールを見るということも想定されますので、具体的にどのようなシステムを前提とした議論なのかを確認しないと、どのような行為を処罰するべきかという議論なのかが明確にならないのではないかと思いますので、これまでの部会でも申し上げましたように、システムについて決まったところから順次、是非御説明いただきたいと思っています。 ○吉田幹事 今の点に関連して補足して申し上げますと、まず、どのような場合に罪が成立するか、あるいはどの時点で犯罪が既遂に達するかというのは、正に構成要件の設定の仕方によりますので、それらの点は、どのような行為を処罰対象とすべきかという観点から御議論いただければと思います。   また、特別法で処罰対象となっている行為であれば、それのみをもって今回新たに処罰対象とする必要はないと結論付けるのか、それとも、保護法益が異なっていることも踏まえて、現行法上同様に対処されている行為についてはやはり同様に対処する必要があると考えるのかといった観点も含めて御検討いただければと考えております。 ○久保委員 今の点について申し上げます。現行法で、紙の裁判書類の送達の場面と、他の紙の手紙の場面とは特に区別されているわけではなく、信書開封罪で処罰されるのではないかと思います。そうしますと、現行法において紙の送達で特別の保護が課されていないものについて、今回電子化するということのみをもって何か特別の保護を課すというのは、理由がないのではないかというのが、私の意見です。 ○酒巻部会長 検討課題の「2」について、ほかに御意見はありますか。   それでは、次に、検討課題の「3 同様の対処をすべき行為の処罰」について、御意見を承りたいと思います。   まず、検討課題の「3」の「ア」と「イ」について御意見を伺い、その後、「ウ」について御意見を伺いたいと思います。   まず、検討課題「3」の「ア」と「イ」についてですが、考えられる仕組み「③」の「ア」と「イ」のいずれについてでも結構ですので、御発言を頂ければと思います。 ○安田委員 考えられる仕組み「③」の「ア」と「イ」について、意見を申し上げます。   考えられる仕組み「③」「ア 公務員に対し虚偽の申立てをして免状や旅券の電磁的記録部分に不実の記録をさせる行為」及び「イ 公務所に提出すべき診断書等を電子的に作成する際に虚偽の記録をする行為」については、前提として、検討課題「3」の「ア」にありますように、現行の免状等不実記載罪や虚偽診断書等作成罪により対処可能かにつき検討しておく必要があります。   刑法第157条第2項の「免状」が電子化される場合について考えますと、その一例である自動車運転免許証については、既にその記載事項の一部が運転免許証に組み込まれたICチップに電子的方法により記録されるようになっており、マイナンバーカードと一体化する法案も成立したところです。同項は「旅券」もその対象としておりますが、その記載事項は、既に旅券冊子にとじ込まれたICチップにも電子的方法により記録されるようになっています。   次に、刑法第160条について考えますと、医師が公務所に提出すべき診断書等が電子的方法により作成される場面としては、戸籍法上の死亡の届出が考えられます。すなわち、戸籍法上、死亡の届出は電子情報処理組織を使用してすることができるものとされており、その場合、届出書の添付書面として診断書が電子的に作成されて公務所に提出されることが想定されるわけです。   そうしますと、公務員に虚偽の申立てをして自動車運転免許証や旅券のICチップなどに不実の記録をさせたり、医師が公務所に提出する電子診断書に虚偽の記録をしたりすることが考えられることになりますが、刑法第157条第2項は、免状や旅券等に「不実の記載」をさせることを処罰する旨を規定し、同法第160条は、診断書に「虚偽の記載」をすることを処罰する旨を規定しているところ、公正証書原本不実記載罪を定める同法第157条第1項は、「不実の記載」と「不実の記録」を区別して規定しております。そのことからしますと、同法第157条第2項や第160条の「記載」には電子的方法による「記録」は含まれないと解するのが自然であり、少なくともそれを含むと解することには疑義があり得るところです。   そうしますと、電子的方法により作成される文書の信頼を害する行為を処罰する観点から、電子令状の偽造などについて新たな構成要件を設けることを検討するのであれば、ただいま申し上げたような解釈上の疑義を解消し、免状や旅券と同様に用いられる電磁的記録に不実の記録をさせる行為や、電子的方法により作成される診断書に虚偽の記録をする行為に適切に対処するための改正についても、併せて検討するべきではないかと思われるところです。 ○久保委員 まず1点目として、これは事務当局への質問ですが、資料に書かれている場面に関わる特別法として、私なりの理解としては旅券法ですとか道路交通法などがあるのではないかと思うのですが、他にも特別法として関連するものがあればそれを御紹介いただき、現行法でカバーできない部分というのがどういう部分なのか、御紹介いただければと思います。 ○吉田幹事 御指摘のように、例えば、運転免許証に関しては道路交通法に規定があり、旅券に関しては旅券法に規定があります。これらの規定については、今、口頭で読み上げてもなかなかうまく伝わらないと思いますので、また皆様に共有する方法を考えたいと思います。 ○久保委員 ありがとうございます。それから、2点目として、今御意見を頂いた安田委員か、あるいは捜査の実務に関わられている委員・幹事にお伺いしたいところですが、この場面は、これから刑事手続をIT化して新しい制度を作ることに伴い想定されるものではなく、現在既にある状況における場面ではないかと思います。そうすると、免許証や旅券に電子的方法により記録されたものについて、不正な操作をした事案が既にあって、それが処罰できなかったということがあるのであれば、御教示いただければと思います。 ○吉田幹事 その点についても、先ほど申し上げたのと同様に、事務当局の方でお示しできるものがあるかどうかを検討したいと思います。 ○酒巻部会長 「ア」と「イ」について安田委員から御意見を頂いたのですけれども、ほかに御意見はありますか。   なければ、次に、「ウ その他にも同様に処罰できるようにすべきものがあるか」について、何か御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。よろしいですか。   それでは、ないようですので、これで、「1 第1及び第2の実施を妨げる以下の行為等に対処できるようにすること」についての議論をひとまず区切ることにしたいと思いますが、ほかに御意見はありますか。 ○久保委員 「1」の全体に関わるものとして意見を申し上げてよろしいでしょうか。   この「1」において想定されている行為というのは、強制力を行使するような権力的公務の場面ではないかと思っております。取り分け、電子令状の呈示ですとか、あるいは取調べにつきましても、身体拘束をされている方についての取調べといいますのは、取調受忍義務は私としては否定するべきという立場には立っておりますが、捜査機関としては取調受忍義務を肯定する立場だと思いますので、やはり取調べも強制力を行使する権力的公務の場面ではないかと思います。そうしますと、取り分け「②」の「ア」や「イ」の場面、それから「ウ」も対象にはなってくると思うのですが、このような場面というのは、強制力を行使する権力的公務の場面において、電磁的な方法で攻撃したりするという情報通信技術を用いた攻撃についての対処を考えるという場面ではないかと理解しています。   これまでの裁判例などを見ますと、電磁的な攻撃のようなものについては偽計業務妨害、つまり「偽計」に分類されるものではないかと思います。そうしますと、強制力を行使する権力的公務の場面において電磁的な方法による攻撃に対処する立法を何か特別にするとすると、公務執行妨害の場面で偽計の類型での妨害の処罰を可能にするという処罰の拡大につながるのではないかと懸念しております。ここで抽象的に、強制力を行使するような権力的公務の場面で電磁的な攻撃という偽計の類型での処罰を可能にする特別な手当てをすると、公務執行妨害がかなり拡大するようなことになりかねないと思っておりますので、具体的にどのような場面を想定し、それが適切な拡大なのかということは慎重に議論がなされるべきだと思います。 ○酒巻部会長 御意見ありがとうございました。ほかに、この「1」について、検討課題として記載されていない点に関する意見はありますか。よろしいですか。   それでは、ここで休憩したいと思います。              (休     憩) ○酒巻部会長 会議を再開します。   次に、「2 新たな形態の財産の生成・取得・保管・移転により行われる犯罪事象に対処できるようにすること」についての議論に入りたいと思います。   まず、「(1)新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転する行為を適切に処罰できるようにすること」について、議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料9の「2」「(1)」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 配布資料9の3ページ・4ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」として、新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転する行為を適切に処罰できるようにすることを記載しており、そのような行為の例として「ア」から「エ」までに記載したものを掲げています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「ア」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、支払用カード電磁的記録不正作出等罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「2」には、「考えられる仕組み」の「イ」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、有価証券偽造・同行使罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「3」には、「考えられる仕組み」の「ウ」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、通貨偽造・同行使罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「4」には、「考えられる仕組み」の「エ」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、身の代金目的略取等罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「5」には、その他にも、新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転することにより行われ、適切に処罰できるようにすべき犯罪事象があるかを記載しています。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、御質問等はありますか。よろしいですか。   それでは、議論に入ります。   検討課題の「1 代金等の支払用の電磁的記録であるがカードを構成しないものの不正作出等の処罰」について、御意見のある方はお願いします。 ○樋口幹事 考えられる仕組み「ア」の、「代金又は料金の支払用の電磁的記録であるがカードを構成しないものを不正に作出する行為」等について、意見を述べます。   まずは立法論の前提として、検討課題の「1」「ア」にありますように、現行刑法によって処罰できるかの検討が必要なところです。   この点について、第1回、第2回会議でも触れたところですが、スマートフォンなどで使える支払用のアプリケーションのように、有体物としてのカードが発行されないまま支払用カードと同様の機能を持つ電磁的記録は、刑法第163条の2の「支払用のカードを構成するもの」という文言に該当するということはできません。そのため、支払用カードと同様の機能を持つ電磁的記録を不正に作出しても、支払用カード電磁的記録不正作出罪は成立せず、私電磁的記録不正作出罪が成立することになります。   しかし、この両罪を比較しますと、所持や不正作出の準備としての情報取得といった行為態様に対する処罰の有無や法定刑に差異が生じることになります。この点に検討課題の「1」「イ」の立法的検討の必要性が認められるでしょう。   平成13年の刑法改正で導入されました支払用カード電磁的記録に関する罪について、立法時の解説を見ますと、支払用カードは直接機械に使用することも可能であり、その場合、真正なカードの外観は必要ではないことから、カードの文字・図柄等の外観に着目したものではなく、電磁的記録自体に着目した罰則構成がとられたとされています。このような議論は、スマートフォン用のクレジットアプリケーションに用いられる支払決済用の電磁的記録にも当てはまるように思われます。   そうすると、考えられる仕組み「ア」に掲げられた行為について、刑法第163条の2と同様の対処ができるようにするかを検討することが一つの方向性になるでしょう。   この場合のイメージとしては、刑法第163条の2第1項の電磁的記録と同様の機能を果たすものについて、「カードを構成するもの」であることを要件としない形で、同法第163条の2の客体を見直すことが一案になるかもしれません。   もっとも、検討に当たって念頭に置くべきものとしては、スマートフォンで使える支払用のアプリケーションのほかにも、カードレスのデビット決済、事前チャージ型の決済など様々なものが考えられ、今後も新たな形態の電子決済手段が現れ得ることから、それらにも対応可能な構成要件となるよう、電子決済分野の知見を広く収集した上で、十分な検討が必要になると思われます。   その際には、当然のことですが、処罰すべきでない行為まで取り込むことにならないようにするという観点からの検討も必要です。ほかにも、現行刑法の第18章の2が規定する「支払用カード電磁的記録に関する罪」や、第18章が規定する「有価証券偽造の罪」と新たな構成要件の関係などについても検討することが必要になるかと思われます。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「1」につきまして、御意見はありますか。よろしいですか。   次に、検討課題の「2 有価証券と同様の機能を果たす電磁的記録の偽造・変造等の処罰」について、御意見を頂きたいと思います。 ○樋口幹事 考えられる仕組み「イ」について意見を述べます。   まずは立法論の前提として、検討課題の「2」「ア」にありますように、現行刑法によって処罰できるかの検討が必要になるところです。   第2回会議では、スマートフォンで表示して用いるデジタルチケットという具体例を挙げましたが、それ以外にも、現行刑法上、第162条の「有価証券」に該当するものが電子化された場合、そのような電磁的記録であっても「有価証券」に該当する場合もあり得るとの解釈が支持を得られるかは明らかではありません。   また、例えば、見せるだけのデジタルチケットを偽造して偽造者自身のスマートフォンで表示するような場合を考えてみますと、先ほど安田委員から電子令状の偽造の事案で検討があったところですが、デジタルチケットのシステム運営者及び表示を受ける側の電子計算機の処理がおよそなされないという点で、私電磁的記録不正作出罪が成立するかについても明らかではないように思われます。このように、考えられる仕組みの「イ」に掲げられた行為について、現行刑法で処罰可能かは解釈次第になる点で、検討課題「2」「イ」の立法論的検討の必要性が認められるかと思います。   有価証券偽造の罪は、経済取引の確実性を担保する手段として重要な意義を有する有価証券に対する公共の信用を保護法益とするものですが、スマートフォンで持ち運ぶことができるデジタルチケットは刑法上の有価証券に該当するとされている紙のチケットと同様に使用されるものであり、有価証券偽造の罪と同様の対処ができるようにするかを検討することが一つの方向性になるでしょう。   この場合のイメージとしては、人に対して有価証券として見えるように表示して用いられる電磁的記録への信頼を保護するため、有価証券偽造の罪と並ぶような形の新たな構成要件を設けることも一案になるかもしれません。   もっとも、刑法第162条の「有価証券」に該当するものには様々なものがあります。例えば、会社の株券については電子化されて、振替制度の対象になっていますが、社債、株式等の振替に関する法律という特別法において罰則が整備されており、こういった特別法との関係の整理が必要になります。   今後も有価証券の電子化に際して新たな形態が現れるであろうと予想されるところですが、新たな構成要件を設けることについての検討に当たっては、様々な形で電子化される有価証券について過不足なく対処できるものにすべく、デジタル分野の知見を幅広く収集した上で、十分な検討が必要になると考えられます。 ○久保委員 先ほど、画面上でチケットを見せるという態様について御紹介いただいたと思うのですが、それに関して樋口幹事に質問をさせていただければと思います。   デジタルチケットというと、今御指摘があった画面を見せるもののほか、最近特に多いのは、QRコードのようなものではないかと思います。御指摘のあった有価証券に分類されるものとして、QRコードはどのように理解すればよいのか、お考えがあれば教えていただければと思います。というのも、これまでにも、例えばバーコードは文書に位置付けられるという議論があって、それ自体は少し疑問に思うところではあるのですけれども、バーコードとQRコードは何が違うのだろうというところが、なかなか理解ができないところでして、QRコードのデジタルチケットがどういう位置付けで理解すればよいのか、御教示いただければと思います。 ○樋口幹事 QRコードとデジタルチケットの刑法典の評価としては、かなりしっかり場合分けしないと議論が混乱すると思うので、少し場合分けしてよろしいでしょうか。   昭和62年改正の際に刑法第7条の2が設けられまして、「この法律において、「電磁的記録」とは、電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう」とされました。   先ほど久保委員から、バーコードは文書という議論があるという御指摘がありましたが、恐らくその御指摘は、この刑法第7条の2の「人の知覚によっては認識することができない方式」という文言の解釈に関して、例えばスーパーマーケットなどで「ピッ」と機械で読み取るバーコードは、それ自体、人の目に見えて、詳しいことは知りませんが、読める人には読めるようでして、そのため「ピッ」と読み取る機械は有人レジであれば多分補助器具という位置付けになるのだろうと、そうであるとすると、有体物に添付されたバーコードは、文書と位置付けることができます。   QRコードについてもそういうことができるのか、私は十分承知しているわけではありませんが、バーコードと同じように解することができるのであれば、有体物にQRコードが添付されている場合には文書という扱いになるというのが、まずこれが前提になるかと思われます。その場合、文書に該当すると同時に、行使目的の要件、人に向かって行使しているという点も、有人レジを経由するような事案であれば恐らくクリアできるのであろうということになります。   次に、デジタルチケットにもいろいろなパターンがあるようでして、スマートフォンで電車などで車掌さんなどに見せて使うタイプのものもあれば、「ピッ」とバーコードを読み取って使うものもあれば、「ピッ」とQRコードを読み取って使うものもあるということですが、そのいずれもスマートフォンという電子計算機による処理が必要な電磁的記録であることは変わりはないところかと思われます。   更に対人行使という点については、「ピッ」と機械で読み取る手続なしに純粋に人に見せるものは全く問題なく対人行使型のものになり、バーコードのように、それをよく見たら分かるのだけれども、チケットを見る人が補助器具で「ピッ」と読み取っていると位置付ければ、スマートフォン型の場合も対人行使は充足するということができます。QRコードについても同じ議論ができるのかは、御指摘のとおり、少し疑わしい部分もあり、対機械処理的に使用していると見るか、対人行使的に使用していると見るかという論点が生じると思われます。   更にややこしいのですけれども、文書に関しては行使目的は対人行使ということになるのですが、有価証券の行使の目的は判例上、文書と必ずしも全く同一と解されていないということも可能で、テレフォンカードはテレフォンカードの外観があって、人に、例えばチケット屋さんなどに、テレホンカードを売ることもできる一方で、公衆電話という機械で使用することもできるという形で、対人行使と対機械行使、両方備えていることになります。仮にQRコードが対機械処理的行使であるとしても、デジタルチケットの外観全体が対人行使や対機械処理行使の両方を備えているとすると、テレフォンカードの判例と同様に、刑法第162条の行使の目的をクリアできるということになるのだと思います。ただ、今、我ながら説明していても、しっかり検討しておかないと大変なことになるなというのは、しゃべっていて痛感しましたので、立ち入った検討が今後必要になるかと思われるところです。 ○久保委員 ありがとうございます。これは私の意見ですが、樋口幹事の御説明の中で、こういう場面において刑法第161条の2の私電磁的記録不正作出罪などが成立するかどうかについては疑義があるというような御発言があり、他の場面でもそのような御指摘があったのではないかと思います。そこで、ここで少し刑法第161条の2について意見を申し上げたいと思います。   といいますのも、本日冒頭に、現行法において問題がある規定については、それの見直しも検討するべきだと考えているということを申し上げましたが、その最たるものがこの刑法第161条の2ではないかと考えているところです。この第161条の2については、改正をされた当初から批判も多く、私なりに勉強したところでは、例えば、山口厚最高裁判所判事は、その頃、同条は内在的な矛盾を含んでいるように思われるという御指摘をされていたものと理解しています。1987年に発刊された「ジュリスト885号」に掲載された論文では、概要、刑法第161条の2は、有形偽造と無形偽造を併せて規定するものといえる独自の規定であるところ、電磁的記録について可視性の要件は不要とし、また文書のように記録自体から名義人が直ちに認識し得ることが必要だとする要件は厳格には維持できないものとして設けられたものだが、名義人の観念は維持すべきであったし、権限なく記録を作成する場合を処罰する方法を採るべきだったなどとしており、結局のところ、この規定が曖昧であるがゆえに、同法第161条の2を適用できるのかという疑義が生じるのではないかと思っております。   この刑法第161条の2については、そもそもどういう場合が「不正」に当たるのかという点でも解釈に疑問がありまして、システム設置運営者の意思に反したら不正という解釈が採られていると思いますが、このシステム設置運営者の意思に反したら不正という規範自体が曖昧かつ不明確である上、刑事手続のIT化に伴う改正としては捜査機関の業務に関するIT化が主眼になり、そこではシステム設置運営者である捜査機関の意思に反する行為をすれば全て刑法第161条の2に該当するといった広範な解釈を採ることになりかねないのではないかと思っておりまして、こういった疑義が生じるような同法第161条の2は、それ自体、改正も含めて検討するべきではないかと思っております。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「2」について、御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「3 デジタル通貨の偽造・変造等の処罰」について、御意見を伺いたいと思います。 ○安田委員 私からは、考えられる仕組み「ウ」につきまして意見を申し上げます。   考えられる仕組み「ウ」に記載されている「デジタル通貨」や「外国デジタル通貨」は、電磁的記録として発行・流通するものと想定されますので、刑法第148条や第149条の「貨幣」、「紙幣」、「銀行券」には該当せず、それらを偽造する行為が行われたとしても、通貨偽造罪は成立しないものと考えられます。   日本銀行においては、現時点では発行計画がないとしているものと承知しておりますが、実証実験はしているということでありますので、仮に将来、我が国においてデジタル通貨が発行されるとしますと、それを偽造する行為について、通貨偽造行為への対処と同様に対処ができるよう、新たな構成要件を設けることを検討する必要が生じるようにも思われるところです。   もっとも、通貨とデジタル通貨を、偽造の罪に関して全く同様のものとして取り扱うことが相当かについては、改めて検討する必要があるようにも思われます。   すなわち、判例によりますと、通貨偽造の罪は、「通貨発行権者の発行権を保障することによって通貨に対する社会の信用を確保しようとする」ものとされ、その権限を持たない者が「流通におく目的をもって通貨の外観を具えた物を作成する」ことによって成立するものとされておりまして、そこでは、有体物である通貨が取引等の経済活動に伴い人の手を転々とするものであることを前提として、真貨、本当のお金と誤認させるような外観を有するものを作成する行為を、特に重く処罰するものとして位置付けられていると考えられます。   これに対して、デジタル通貨の場合、そもそも外観が存在しないことも考えられ、また、デジタル通貨に対する社会の信用は、その発行者である中央銀行のシステムの正確性・堅牢性やデジタル技術による改ざん防止措置により確保されるものとも考えられるところでありまして、有体物である通貨の場合のように、外観を強く保護する必要はないということも考えられるように思われます。   どのような構成要件が必要となるかは、デジタル通貨が、どのような仕組みで、どのようなものとして発行されるかによるものと思われますので、新たな構成要件を設けることの要否やその在り方を検討するに当たっては、外国を含めたデジタル通貨の検討状況等を注視していく必要があるように思われるところです。 ○久保委員 安田委員に1点質問ですが、今おっしゃられたデジタル通貨として想定しているのは、いわゆる中央銀行デジタル通貨であって、例えば暗号資産のような仮想通貨と呼ばれるようなものを含む趣旨ではないという理解でよろしいでしょうか。 ○安田委員 今おっしゃったとおりです。暗号資産等は想定して議論しておりません。 ○久保委員 その前提で、1点意見を申し上げます。   日本銀行のホームページを拝見しますと、2020年10月9日の時点で日本銀行でデジタル通貨を発行する計画はないと発表されておりました。そうしますと、将来的にデジタル通貨が発行されるようなことが具体的に視野に入ってきた際には規制の必要があるということには異論がないのですけれども、現時点では発行する計画はなく、具体的なシステムについても不明確な現時点において検討するには時期尚早であり、将来にわたる検討課題になるのではないかと思っています。 ○酒巻部会長 ほかに、検討課題の「3」につきまして、御意見等はありますか。   それでは、続いて検討課題の「4 「財物」でない財産上の利益の移転を目的とする略取・誘拐の処罰」について、御意見のある方はお願いします。 ○安田委員 考えられる仕組み「エ」につき、意見を申し上げたいと思います。   ここで問題となる身の代金目的略取・誘拐罪、以下、簡単に拐取罪と申しますが、これは、被拐取者の安否を憂慮する者に財物を交付させる目的で人を拐取する行為を重く処罰するものでありますが、財産上の利益の移転を目的として人を拐取する行為については、同罪は成立しないものとされており、考えられる仕組み「エ」の行為については、同罪よりも法定刑の軽い営利目的拐取罪が成立し得るにとどまるものと考えられます。   身の代金目的拐取罪の立案担当者の解説によりますと、これは、その犯人が財産上の利益を得るためには「自分自身のなんぴとたるかを容易に看破されるという危険」を冒さなければならず、そのような危険、リスクと取得し得る利益を対比すると到底ひき合わないことが明らかであって、実際問題としてほとんど発生の余地がなく、典型的な身の代金目的の拐取とは実態を異にするため、これを重い身の代金目的拐取罪として処罰するまでの必要はないと考えられたことによるものとされております。   もっとも、財産上の利益であっても、現金と同等かそれ以上に犯人が高い匿名性を確保しながらその手中に収めることが可能なものとして、例えば暗号資産が考えられるところであり、これを得る目的で人を拐取する行為につきましては、身の代金目的拐取の行為を重く処罰することとされている趣旨が、そのまま妥当するようにも思われます。   そうだとしますと、そうした財産上の利益の移転を目的として人を拐取する行為につきましても、身の代金目的拐取への対処と同様の対処ができるようにすることが考えられるところであります。   その方法としましては、飽くまでイメージではありますが、例えば、身の代金目的拐取罪の構成要件を改めて、「財物を交付させる目的」のほか、財産上の利益のうち受領する側が匿名性を保ったまま移転を受けることができるものを得る目的で人を拐取する行為を、同罪で処罰できるようにすることが考えられるところであります。   もっとも、そのような性質を有する財産上の利益は今申し上げました暗号資産に限られるものではなく、今後も同様の性質を有する新たな形態の財産が出現し得ることなども考えますと、新たな構成要件を設けることを検討するとしても、それが対処を必要とする行為に過不足なく対処できるものとなるよう、こうした新たな形態の財産について知見を幅広く収集し、十分な検討を行う必要があるようにも思われるところであります。 ○酒巻部会長 ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「5 その他」につきまして御意見いただければと思います。「その他」というのは、「その他にも、新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転することにより行われ、適切に処罰できるようにすべき犯罪事象があるか」というものですが、御意見はありませんか。   特に御意見はないようですので、これで「2」の「(1)新たな形態の財産を不正に生成・取得・保管・移転する行為を適切に処罰できるようにすること」についての議論はひとまず終えることにしたいと思いますが、検討課題に明記されていない点に関するものも含めて、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、「2」の「(2)新たな形態の財産として取得・保管・移転される犯罪収益の没収保全や、財産上不法な利益を得る犯罪の通信傍受ができるようにすること」について、議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、まず、配布資料9の「2」「(2)」に記載されている「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。   付随して、本日の配布資料10は、この項目のうち、没収保全に関するものですので、これについても併せて説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 まず、配布資料9の5ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」の「①」として、犯罪収益等が新たな形態の財産である場合の没収を保全するための措置を講ずることができるものとすることを記載しています。   また、「②」として、通信傍受法別表第2に掲げる通信傍受の対象犯罪に刑法第236条第2項の罪、同法第246条第2項の罪、同法第249条第2項の罪を加えることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、「考えられる仕組み」の「①」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、「(1)対処を要する財産」と「(2)保全の方法」を具体的な項目として記載しており、「(1)」については、現行法において、没収のための財産の保全としてどのような対処ができるか、現行法では対処ができない財産として、どのようなものがあるかなどの点が、「(2)」については、没収を保全するため、どのような要件・手続で、どのような措置を講ずることができるものとするかなどの点が、それぞれ検討課題となります。   「2」には、「考えられる仕組み」の「②」に関係する検討課題を記載しています。   この点については、現行法において、通信傍受の対象犯罪が限定され、通信傍受法別表第1及び第2に掲げる罪が対象犯罪とされた趣旨は何か、通信傍受の対象犯罪を追加する必要性・相当性はあるか、どのような罪を追加するかなどの点が、検討課題となります。   続いて、配布資料10について説明します。   配布資料10は、諸外国における暗号資産の処分を防止するための制度・運用の概要に関する資料であり、イギリス、アメリカ、これは連邦のものです、ドイツ、フランス及び韓国の制度・運用を一覧表にまとめたものです。   現時点で把握したものを参考として取りまとめたものですので、不十分な点については、御容赦いただきたいと思います。   資料の概要を御説明します。   国名の欄の下に3段あるうちの、一番上の段には、暗号資産をはじめとする没収可能な犯罪収益がどのように規定されているかを記載しています。   次に、中段と下段には、暗号資産の処分を防止するための制度・運用として、「権利者による暗号資産の処分を禁止・防止する処分禁止命令等」と「暗号資産・秘密鍵を移転・取得する押収」の二つの欄を設け、それぞれに分類して記載しています。その際、暗号資産が保有される形態として、権利者が暗号資産交換業者等を介して保有する「間接保有型」と、そのような業者等を介さずに自ら直接保有する「自己保管型」という保有形態の違いにも着目しています。   各国ごとに制度・運用の概要を見ますと、まず、イギリス及びアメリカでは、権利者による暗号資産の処分を禁止・防止するための手続として、裁判所が権利者に命じて財産の取扱いを禁止するなどする「保全命令」や「保護命令」の制度があり、それでは保全の実効性を確保できない場合に、暗号資産を権利者の下から移転する手続として、一定の要件を満たすときに、警察等に対して暗号資産の移転を命じたり、令状による暗号資産の押収を許可したりして、捜査機関等が管理するウォレットに移転するものとされているようです。   次に、ドイツ及び韓国では、裁判所が暗号資産の処分を禁止する「差押え」や「没収保全命令」の制度があり、ハードウェアウォレット等が証拠物あるいは没収するものと思料する物件であるときに押収はできるものとされているようですが、暗号資産を移転させる制度は見当たりませんでした。   フランスでは、権利者に暗号資産の処分の禁止を命ずる制度はなく、没収対象財産で保全が必要な暗号資産については、間接保有型・自己保管型を問わず、自由勾留判事や予審判事による「差押え」により「押収・没収資産管理回収機構」の専用ウォレットに移転するものとされているようです。 ○酒巻部会長 ただいまの説明内容に関して、御質問があれば承りたいと思いますが、いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは、議論に入ります。   まず、検討課題の「1 新たな形態の財産として取得等される犯罪収益等の没収保全」について、御意見を伺いたいと思います。この項目については、「(1)」と「(2)」は相互に密接関連しますので、いずれの点について御発言いただいても結構です。挙手などして、御意見をお願いします。 ○成瀬幹事 検討課題「1 新たな形態の財産として取得等される犯罪収益等の没収保全」について意見を申し上げます。   第1回会議において、佐久間委員から、近時、取得・移転の容易性や匿名性の高さといった特性から、犯罪収益等が暗号資産等の新たな財産の形態で保有されることが増えているとの御指摘がございました。こうした状況を踏まえ、これまで不動産・動産・金銭債権に限られていた組織的犯罪処罰法第13条による没収の対象が、さきの臨時国会で成立した改正法により「財産」と改められ、暗号資産等もその対象となり得ることになったと承知しております。   その一方で、犯罪収益等を没収する裁判の執行を確保するためには、対象となる財産を発見した段階で、早期に、当該財産の性質に応じて、その処分を防止するため適切な保全の措置を講じることができるようにしておく必要があります。   この点について、組織的犯罪処罰法では、裁判所が発する没収保全命令により没収対象財産の処分を禁止する手続が、不動産、船舶等、動産、債権といった財産の類型ごとに定められており、いずれにも当てはまらないものは、「その他の財産権」とされ、同法第31条第1項により、その没収保全は、「債権の没収保全の例」によることとされています。そして、現行法では、暗号資産等は、この「その他の財産権」に該当することになります。   もっとも、暗号資産を保有する方法は複数考えられるところ、権利者が交換業者等を介在させず、自ら秘密鍵を管理することにより暗号資産を保管している場合、これは先ほど事務当局が説明してくださった配布資料10の言葉を借りれば「自己保管型」に当たりますが、そのような場合には、債務者やこれに準ずる者がいないため、「債権の没収保全の例」、具体的には、債務者に対し債権者への弁済を禁止する命令を発し、債権者に対し債権の取立てその他の処分をすることを禁止する命令を発することでは、処分を防止することは困難であると考えられます。   そこで、そのような暗号資産についての適切な没収保全の措置の在り方を具体的に考えるため、関連文献等をいろいろと調べました。その結果、暗号資産は、対応する秘密鍵を把握していれば、それを用いて現在のウォレットから別のウォレットに移転することができ、また、移転がなされれば、新たな秘密鍵との対応関係が生じ、移転前の秘密鍵では移転ができなくなって、新たなウォレットでの排他的管理が生じるという仕組みになっていることが分かりました。そこで、犯人と疑われている者の下にある犯罪収益等である暗号資産について、その者が処分できないようにするためには、今申し上げた仕組みを利用して、犯人と疑われている者が管理している現在のウォレットから、その者の管理が及ばない別のウォレットに移転するという方法が考えられ、これが暗号資産の仕組みに応じた唯一の実効的な保全の措置であるように思われます。   先ほど事務当局が御説明くださった諸外国の法制度・運用に関する配布資料10を見てみますと、イギリス、アメリカ、フランスでは、暗号資産の没収を保全するための措置として、当局が管理するウォレットへの暗号資産の移転を行っているようですので、我が国においても、組織的犯罪処罰法を改正し、没収保全命令の新たな類型として、暗号資産を移転する措置を採ることができるようにすることが考えられるのではないでしょうか。   その際には、没収保全の措置を採る機関において秘密鍵を把握できていない場合も考えられることから、そうした場合に対処するための方策も、併せて検討しておく必要があると思います。   なお、法制審議会刑事法(犯罪収益等の没収関係)部会の第1回会議において配布された資料3の事例集を見ますと、犯罪収益等が暗号資産等として取得・保管・移転される事案は、実際に少なからず発生しているようであり、今後、同種の事案がますます増えていくと予想されます。冒頭で申し上げたとおり、組織的犯罪処罰法第13条が改正され、暗号資産が没収の対象とされることとなったのですから、その実効性を確保するための没収保全の手続の整備についても早急に取り組むべきであると考えます。 ○酒巻部会長 当局というのは、裁判所か、検察機関かそこがよく分からなかったのですが、外国について「当局」とおっしゃったのはどういう当局ですか。 ○成瀬幹事 配布資料10によれば、例えば、イギリスは「警察等」であり、アメリカは「捜査機関」や「USマーシャル」です。 ○酒巻部会長 裁判所に頼んで命令を出してもらってから、その鍵をどうするのでしょうか。 ○成瀬幹事 イギリスやアメリカでは、裁判所に命令を出してもらった後、捜査機関が秘密鍵を把握している場合には、その秘密鍵を用いて、没収対象財産である暗号資産を捜査機関が管理するウォレットに移転させているものと理解しております。 ○酒巻部会長 国家機関の関与介入手法についてイメージを知りたかったものですから、どうもありがとうございました。   今の没収保全に当たるものにつきまして、ほかに御意見等はありますか。 ○大賀委員 警察ではマネー・ローンダリング対策を推進していますけれども、そのための重要な課題の一つが、犯罪により得た財産の行方を突き止めて、犯人や犯罪組織からこれを剝奪するということであります。警察においても、実際にこうした犯罪収益等が暗号資産や、あるいは電子マネーといった新たな形態の財産として、これが取得・保有・移転されている実態に触れることがありまして、こうしたことに的確に対処していくことが求められていると考えています。   こうした立場から申し上げますと、捜査の過程において犯罪収益そのものを発見・特定できたとしても、財産の形態によっては没収できず、それゆえに没収保全を行うこともできないということであれば、この犯罪収益の剝奪を徹底する上で、これは大きな課題であると考えておりました。   この点、先ほど成瀬幹事からも御指摘がありましたように、さきの臨時国会で新たな形態の財産を没収保全の対象とし得る法改正がなされまして、これについては、この犯罪収益の剝奪を徹底するという観点では極めて意義があるものであり、警察としては、この改正法を効果的に適用してまいりたいと考えております。その上で、やはり没収とその保全の手続は車の両輪であると考えておりまして、現行の制度では対応が困難な新たな形態の財産の没収保全、これがしっかりとできるように、手続の実効性が高いような制度というものを構築して検討してもらいたいと、このように考えております。 ○久保委員 先ほどの事務当局からの御説明による表現でいうところの「自己保管型」、いわゆる自分のウォレットに入っているタイプで、かつ、捜査の過程で本人から任意に、あるいは、例えば、紙に書いてあって、それを捜査の過程で押収したとか、そういう形で秘密鍵が判明している場合において、国家のウォレットに移すというようなことの必要性があること自体を否定するつもりはありません。   ただ、その上で、仮にそういう形で保全をされ、ウォレットに移された後、不起訴になった場合には、やはり速やかにそれが返却されるという運用がなされるべきだと思います。といいますのも、現在、組織的な犯罪への関与を疑われ、預貯金が一旦凍結された場合に、その後不起訴になったとしても凍結の解除が全くされずに、生活に多大な支障が生じるという方は多数いらっしゃいますので、保全をし、そのまま不起訴になったにもかかわらず返さないというようなことは慎まれるべきだと思っております。   次に、その上で一番問題になってくるのは、捜査の過程で秘密鍵が明らかにならなかった場合ではないかと思います。本人が任意に秘密鍵を明らかにした場合であればともかく、そうでない場合に強制するような取扱いとなることは反対をいたします。といいますのも、秘密鍵はやはり自己負罪拒否特権の関係で、本人が拒否する場合にはその権利は守られるべきだと考えます。取り分け、主に没収保全が問題となってきますのは起訴前の段階、あるいは判決が出る前の段階のことですので、黙秘権を含む自己負罪拒否特権は厳格に守られるべきだと考えます。   とはいえ、秘密鍵を明らかにするという必要性があること自体は否定するつもりはなく、任意の開示を促進する方法としては、適切に量刑上考慮されるということだと思います。実務上、特殊詐欺の事案において、被害弁償の有無が非常に重要な量刑事情になっていると思います。特殊詐欺は取り分け厳しく処罰される傾向にあり、未遂であったとしても実刑となるケースは多々ありますが、一方で財産犯であるという性質上、被害弁償をすると適切に考慮されるという傾向にあります。私自身が弁護活動をする中でも、依頼者との間で、特殊詐欺の事件では被害弁償の重要性を特に重視して説明をいたしますし、被疑者・被告人も一生懸命被害弁償する傾向にありますので、やはり任意の秘密鍵の開示を促す最たる方法は、量刑上の考慮だと考えます。 ○酒巻部会長 自己負罪拒否特権の対象は「供述」ですが、秘密鍵は、必ずしも「供述」に当たるとは限らないと思いますが。 ○久保委員 おっしゃるとおりでして、ただ、例えばアルコールの検知ですとか、そういう動作によるものと異なり、供述的な性格があるということは、やはり軽視されるべきではないと考えております。特に、秘密鍵の保管の方法にもいろいろな方法がありまして、紙がどこに保管されているのかということを動作で提出する場合だけではなく、例えば携帯電話の中に保管されており、携帯電話の暗証番号を明らかにせよというようなことになる場合も想定されるかと思います。取調べの中で携帯電話の暗証番号というのは、今は事実上、黙秘権の対象となっているところでして、どの携帯電話かを明らかにし、その中の供述的な性格の証拠も含めて明らかにするようなものについては、やはりこの自己負罪拒否特権の保障の趣旨からすると、保護の対象になるべきだと考えております。 ○酒巻部会長 「供述」に当たり、かつそれを法的に「強要」すれば自己負罪拒否特権の対象になり得るでしょう。しかし、その存在形態によってはならない場合もあるでしょう。実は秘密鍵というのがどうなっているかよく分からなかったものですから、それの確保、保管状況によって、いろいろ違ってくるかなと思ったのです。 ○久保委員 おっしゃるとおりだと思います。そういった供述的になる場面もあるので、一律に強制するようなことは適切ではないと、そういう趣旨です。 ○酒巻部会長 没収保全に関しまして、検討課題の「1」について、ほかに御意見等はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「2 通信傍受の対象犯罪の追加」、2項犯罪を追加するということですけれども、これについて御意見等のある方はお願いします。 ○佐久間委員 第1回会議において発言しましたとおり、現在は、通信傍受法による通信傍受の対象犯罪に2項詐欺・2項恐喝・2項強盗が掲げられていないため、財物に当たらないものをだまし取る態様の詐欺の捜査においては、通信傍受ができない状況にあります。   そのため、例えば、犯罪グループが役割を分担して被害者から高値の暗号資産をだまし取った詐欺事件において、首謀者の関与の状況等を含めた事案の真相の解明に通信傍受が必要かつ有効であるとしても、「財産上不法の利益」を得る2項詐欺の犯罪事実では通信傍受ができません。   仮に、同じ犯罪グループが、その後、だまし取った暗号資産を正当に手に入れたかのように装って第三者に売却して現金をだまし取った場合には、「財物」を得る1項詐欺の犯罪事実として通信傍受をすることが可能となりますが、前者と後者で通信傍受の可否を区別する合理性はないと思われます。   そもそも、通信傍受の対象犯罪は、犯罪情勢や捜査の実情等を踏まえ、通信傍受に伴う通信の秘密の制約に見合うほどの重大性を備えたものといえるか、組織的に行われることが現実に想定され、かつ、その捜査において通信傍受が必要かつ有用な手段となるものといえるかといった観点から選定されたものとされております。   そして、現在の通信傍受法別表第2に、刑法第236条第1項、第246条第1項、第249条第1項の罪が掲げられているのは、特殊詐欺や恐喝、集団強窃盗などの組織的な犯罪が、現に一般市民の生活を脅かしており、そうした重大な犯罪に適切に対処するためには、首謀者の関与状況等を含めた事案の解明が求められるところ、そうした犯罪においては、構成員相互間の連絡などに電気通信が用いられるのが通常であり、事案の真相解明に通信傍受が必要かつ有用な手段となるからでありますが、そうした組織的な犯罪が、現金等の財物ではなく、電子マネー等の財産上不法の利益を得ようとして行われた場合についても、犯罪として重大であり、また、組織的に行われることが現実に想定され、その捜査において通信傍受が必要かつ有用な手段となることは同様であります。   社会生活においてキャッシュレス化が広く進み、財物ではない財産上不法の利益が組織的な詐欺・恐喝・強盗の標的とされるケースが増える中、そうした組織的な犯罪についても、首謀者の関与状況等を含めた事案の解明が求められるのは当然でありまして、捜査機関は、日々そうした必要性に迫られているところであります。そうした実際のニーズに対応するためにも、もはや合理性がないというべき制限は解消されるべきであり、いわゆる2項犯罪についても通信傍受を行うことを可能とするため、それらを対象犯罪に追加すべきであると思います。 ○松田幹事 私からは、佐久間委員の御発言に補足をさせていただく形で、現場の実情を少し申し上げたいと思います。   例えば、特殊詐欺については、架空の有料サイト利用料金等を要求するなどして被害者をだまし、被害者に電子マネーを購入させてIDを犯行グループに教えるよう仕向けるといった電子マネーの利用権を詐取する手口があります。こういった場合には、いわゆる2項詐欺の適用対象になると思われますが、こういった手口は過去5年間の特殊詐欺全体の認知件数の約1割ございます。これらの事案についても、佐久間委員から御発言がありましたとおり、通信傍受を行うことを可能にすることは首謀者の関与状況を含めた事案の真相解明を行う上で有用であるといえると考えております。 ○久保委員 どなたか御存じの方がいらっしゃれば教えていただきたいのですが、この通信傍受法の対象犯罪についての議論の過程の法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の議事録を拝見していても、刑法第236条、第246条、第249条について、1項は対象犯罪に入り、2項が入らなかった趣旨というのが、そもそもよく分からなかったので、なぜ入らなかったのかについて御教示いただければと思っております。 ○吉田幹事 平成28年の刑事訴訟法等一部改正法による通信傍受法の改正の際、別表第2に掲げる罪が通信傍受の対象犯罪に追加されました。それらは、いずれも、通信傍受の運用状況、その時点における犯罪情勢、捜査の実情等を踏まえ、通信傍受に伴う権利制約との均衡という観点からの犯罪の重大性と、捜査手法としての通信傍受の必要性・有用性とを、個別の罪ごとに検討し、その時点において現に一般国民にとって重大な脅威となり、社会問題化している犯罪であって、通信傍受の対象とすることが必要不可欠と考えられるものが選定され、追加されたものであります。   その際、刑法第236条、第246条、第249条の罪のうち各条第1項だけが選定されたところでありまして、それ以上の詳細は明らかではありませんけれども、例えば、今御指摘のあった法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会における議論では、新たに通信傍受の対象犯罪とする必要がある組織的な犯罪事象として、当時振り込め詐欺と呼ばれていた事案、すなわち、被害者に電話をかけてだまし、現金やキャッシュカードを受け子に手渡させたり、指定する銀行口座に振り込ませて、出し子にATMで引き出させたりする事案、これは恐らく1項詐欺が適用され得る事案ではないかと思われますが、そういった事案が議論の中で取り上げられていたところであります。   その当時、2項詐欺に当たる態様の事案については特に言及されておりませんけれども、いずれにしても、いわゆる2項犯罪を積極的に除外しようという趣旨での議論ではなかったように思われます。 ○久保委員 もう1点質問をさせていただきたいのですが、これは、先ほどニーズという点で言及いただきました佐久間委員又は松田幹事にお伺いする形になるかと思うのですけれども、通信傍受の運用については通信傍受法第36条に基づいて毎年国会で報告がなされています。これについて数年分見てみたところ、例えば、通信傍受法の制定以来最多とされている昨年でも、通信傍受が実施されたケースのうち逮捕につながったケースは半分、かつ、そのほとんどが覚醒剤や大麻などの薬物犯罪という分類になっておりました。そうしますと、そもそも1項詐欺も含めてあまり利用されていないようでして、その理由について何か御教示いただけることがあれば、教えていただければと思います。 ○吉田幹事 事務当局からお答えできるのは一般的なことですけれども、通信傍受法における傍受令状の発付の要件は、御案内のとおり厳格に規定されております。捜査機関としてはそれらを満たすことを疎明しなければならないわけですが、それらを実際に疎明できるだけの資料が集まるかどうかは、個別の事案ごとに異なってくるだろうと思われ、一概にこういう事情で件数が少ないということは言いにくいのかなと思います。 ○酒巻部会長 通信傍受法の別表犯罪に2項犯罪を加えるという件について、ほかに御意見等はありますか。   それでは、これで「2」の「(2)新たな形態の財産として取得・保管・移転される犯罪収益の没収保全や、財産上不法な利益を得る犯罪の通信傍受ができるようにすること」についての議論はひとまず区切りにしたいと思いますが、検討課題として明記されていない点に関するものも含めて、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、次に、「3 その他情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に対処できるようにすること」についての議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料9の「3」に記載された「考えられる仕組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 配布資料9の6ページを御覧ください。   「考えられる仕組み」として、情報通信技術を利用して行われるものなど、刑法第186条第2項の「賭博場」を設けずに賭博を主催する行為を処罰できるようにすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「1」には、賭博場を設けずに賭博を主催する行為の処罰を記載しています。   この点については、現行刑法によって処罰することができるか、賭博場開張等図利罪等の構成要件を改めるか、新たな罪を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「2」には、その他にも、情報通信技術を利用して行われ、適切に対処、処罰できるようにすべき犯罪事象があるかを、検討課題として記載しています。 ○酒巻部会長 ただいまの説明について、御質問はありますか。よろしいですか。   それでは議論に入ります。検討課題の「1 賭博場を設けずに賭博を主催する行為の処罰」について、御意見のある方は、挙手をお願いします。 ○樋口幹事 考えられる仕組み「ア」について意見を述べます。   まずは立法論の前提として、検討課題の「1」「ア」にありますように、現行刑法によって処罰できるかについて検討させていただきます。   第1回会議で、下級審の判断が分かれている状況にあると述べましたが、具体的に紹介しますと、否定例として福岡地裁平成27年10月28日判決が挙げられます。携帯電話の電子メールで行われていた野球賭博について、胴元側が賭博場と評価できる一定の場所ないし場所的設備を確保して提供していたと評価することは困難とし、刑法第186条第2項の「賭博場」という文言から大きくかけ離れた解釈は採用できないとして、賭博場の開張は認められないと判断しています。この判断に当たっては、「刑法第186条第2項が古典的な賭博を念頭に置いた規定で、移動可能な電子通信機器が発達した現代の賭博の実情に適合していない面があることは確かであるが、立法を経ずに解釈によって場所的要素を伴わない賭博主宰行為に処罰を拡大することは許されない」と付言されているところです。   これに対して、大阪地裁平成28年9月27日判決は、携帯電話アプリのLINEを使用した野球賭博について、通信機器を利用して複数の客から申込みを集約的に受け付けて賭博を成立させている点に注目し、そのような行為を行った場所を本拠として賭博場を開張したと解することができると判断しています。   これらの下級審の状況を踏まえると、「賭博場」という文言について検討課題「1」の立法論的検討の必要性が認められます。   立法論という見地から、第2回会議において、改正刑法草案が「賭博を主催し」という文言を提案していたことを紹介させていただきましたが、この文言を参考にすることが考えられるところです。   もっとも、いかなる構成要件とするかの検討に際しては、賭博の実態に即したものであることが重要でしょう。改正刑法草案当時は電話や郵便による大掛かりな賭博が想定されていましたが、現在では国内外のオンライン事業者を利用したものなど様々な態様のものを想定する必要があり、また、今後も新たな形態が現れてくると考えられているところです。   新たな構成要件が対処を必要とする行為に過不足なく対処できるものとなるよう、この種のオンライン賭博の実態や仕組みについて知見を幅広く収集して、十分な検討を行う必要があるように思われます。 ○久保委員 今、樋口幹事から御紹介のありました下級審の中での表現として、立法を経ずに解釈によって場所的要素を伴わない行為を、その処罰を拡大することは許されないというような指摘があったと思いますが、この観点はやはりすごく重要だと思っておりまして、賭博に限らず、当初予定していなかった結果、拡大解釈により対処するようになっているものにつきましては、現在に合わせて見直すべきですし、これは重ねての指摘になりますが、先ほど申し上げたように、刑法第161条の2の電磁的記録不正作出罪などは見直すべきだと思っております。   その上で、賭博に関しましては、やはり単純賭博を不処罰にするべきではないかですとか、常習性のあるものについては依存症として適切な対応をするべきではないかなど、様々な論点を含む分野だと承知しておりますので、賭博全般について改めて別の機会に多角的な議論がなされるべきだと考えます。 ○酒巻部会長 「賭博場を設けずに賭博を主催する行為の処罰」について、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   それでは、最後に検討課題の「2 その他」について、御意見のある方は、挙手をお願いします。   ないようですので、検討項目の「3 その他情報通信技術を利用して行われる犯罪事象に対処できるようにすること」についての議論は、ひとまずここで区切りを付けたいと思いますが、検討課題として明記されていない点について、ほかに御意見はありますか。よろしいですか。   以上で、諮問事項「一」から「三」まで、各検討項目ごとに、「考えられる仕組み」や、そうした仕組みを設ける上で検討すべき課題について一通りの議論をすることができました。   そこで、今後の審議の進め方につきまして、皆様に御意見をお伺いしたいと考えております。   これまでの諮問事項「一」から「三」までの審議状況を見ますと、それぞれの進捗状況といいますか、深度、深さは必ずしも均一ではないように思われます。そういうことも踏まえた上で、次回以降の審議の進め方について、まず、委員・幹事の皆様において、御意見等があれば、お伺いしたいと思うのですが、いかがでしょうか。 ○小木曽委員 諮問事項は三つあります。このうち「一」と「二」につきましては、検討会での議論を土台に議論を深めることができたのではないかと思いますし、ある程度具体的な制度のイメージが共有されてきているのではないかと思います。刑事手続に情報通信技術を活用するための法整備は、早期に実現されることが望ましいということもあり、また、規制改革実施計画に示されたスケジュール感もありますので、これらを念頭に置きつつ部会として結論を得るということを考えますと、諮問事項の「一」と「二」に掲げられたもののうち可能なものについては、事務当局に、これまでの議論を踏まえて具体的な制度案を準備していただいて、それをベースに議論をするというのが効率的かつ有益ではないかと思います。   諮問事項「三」についてですが、本日の議論を伺いまして、取り上げられてきた項目は、いずれも何らかの議論なり対応を要するものばかりであるという印象を受けましたけれども、ただ、今後利用される可能性のある新たな技術ですとか、デジタル分野の幅広い知見等が必要になる事項が多いわけですので、それらを踏まえた上で全ての項目について当部会で検討していくということになりますと、かなり時間が必要になることが予想されます。したがって、先ほど申しましたスケジュール感を念頭に置きますと、諮問事項「三」については、その中で優先順位を付けて、検討すべき項目を絞り込む作業をした方が良いのではないかと思います。   それを前提としますと、諮問事項「三」のうち「1 第1及び第2の実施を妨げる以下の行為等に対処できるようにすること」は、諮問事項「一」と「二」の実施を適切にするための基礎となるものであり、言わば諮問事項「一」と「二」とセットで議論をされるべきものだと思いますので、時間の使い方としては、「三」のうちの「1」を優先的に検討するということが考えられるのではないかと思います。 ○池田委員 私も、諮問事項「三」について検討事項を絞り込むという小木曽委員の御意見に賛同いたします。つまり、刑事手続における情報通信技術の活用のための法整備について調査審議する当部会としましては、諮問事項「三」のうち、諮問事項「一」及び「二」と併せて検討する必要性の高いものとして、まず諮問事項「三」の「1」の点を優先するのが妥当であると思います。   これに対して、諮問事項「三」のうちの「2」「(1)」や「3」は、これもいずれも重要な課題ではあるものの、これまでの議論からもうかがわれるように、現時点では将来の導入の見込みやその在り方を見通すことが容易ではないものもあることなどに鑑みますと、限られた時間の中で漏れのない検討ができるのかといった問題があり、その意味で、検討の優先度あるいは緊急の必要性といったものが相対的に低いものとなるのではないかと思っております。   他方で、諮問事項「三」の「2」「(2)」の没収保全手続や通信傍受の対象犯罪の追加については、今述べたような問題はなく、また、先ほど成瀬幹事や大賀委員、また佐久間委員及び松田幹事から御発言があったように、暗号資産等を対象とする組織的な詐欺等が現実に行われ、それが犯罪収益となったりすることが少なくないという現下の情勢に照らしますと、むしろ、そうした事案の真相解明に通信傍受を用いるニーズや、そうした新たな形態の財産の没収を保全するための手続のニーズは、現実的かつ緊急のものといえるかと思います。そのため、この点に係る検討を優先的に行う必要は、なおあるのではないかと考えております。 ○佐久間委員 スケジュールを踏まえた現実的な観点から、諮問事項「三」の中で、優先して検討する事項を絞り込むという御提案に賛成いたします。   その上で、池田委員の御発言にもあったように、まず、組織的犯罪処罰法の改正により間もなく暗号資産が同法による没収の対象となることから、暗号資産等の没収保全の方法についての法整備は喫緊の課題であり、可及的速やかな検討を要すると思います。   そして、通信傍受の対象犯罪の拡大についても、先ほど発言しましたとおり、財産上不法の利益をだまし取る特殊詐欺の事案など、組織的犯罪における事案の真相解明に通信傍受が必要な事案は実際に存在するのでありまして、速やかな対処が必要であると思います。   したがって、諮問事項「三」のうち、「1」はもとより、「2」「(2)」の没収保全と通信傍受の項目についても、法整備に向けた議論を優先的に進めるべきであると考えております。 ○酒巻部会長 ほかに、今後の審議の進め方についての御意見があれば承りたいと思いますが、よろしいでしょうか。   御意見ありがとうございました。ただいま、小木曽委員、池田委員、佐久間委員から御指摘がありましたとおり、最終的な答申に向けたスケジュール等を念頭に置きますと、やはり検討の優先順位を付けて進めていくことが必要なことと思われます。   そこで、ただいま頂きました御意見を踏まえまして、次回以降の当面の進め方について皆様にお諮りしたいと思います。   部会長としては、次回以降の審議につきましては、皆さんの御意見にあったとおり、まず諮問事項「一」及び「二」について、事務当局において、これまでの議論状況を踏まえ、法整備に向けて更により具体的な検討をすることが考えられるものを選定して、議論のたたき台になるような制度のイメージに関する資料を順次準備してもらい、それに基づいてより具体的な議論を行うこととし、諮問事項「一」・「二」についてそのような議論を一通り終えた後に、今度は諮問事項「三」について、全体のスケジュールも意識しながら、配布資料9の「1」と「2」「(2)」に掲げられた項目から順番に、事務当局に同様の資料を準備してもらい、それに基づいて議論を進めていくというのが、最も効率的な議論に資するのではないかと思います。いかがでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。それでは、当面の進め方はそのようにさせていただき、年明け以降の審議の進捗状況に応じて、またお諮りしたいと思います。   それでは、次回の会議の日程について、事務当局から説明をお願いします。 ○仲戸川幹事 次回、第7回会議は、令和5年2月7日午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○酒巻部会長 本日の会議における御発言の中で一部、議事録に残してほしくない旨の御発言があったと思いますので、その御意向につきましては改めて確認の上、非公開とすべき発言がある場合には、該当部分を非公開にしたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等につきましては、発言していただいた方との調整もございますので、部会長である私に御一任いただきたいと思います。そのような扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 ありがとうございます。   配布資料につきましては問題ありませんので、公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいですね。              (一同異議なし) ○酒巻部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日は、これにて閉会といたします。   皆さん、どうぞよいお年をお迎えください。ありがとうございました。 -了-