法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第13回会議 議事録 第1 日 時  令和5年1月17日(火)   自 午前9時58分                        至 午後0時12分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 試案(改訂版)についての議論         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第13回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日も御多忙のところ御出席いただきまして、誠にありがとうございます。   本日は、今井委員、北川委員、木村委員、小西委員、中川委員、山本委員、渡邊委員、金杉幹事、中山幹事はオンライン形式により出席されています。また、くのぎ幹事におかれては所用のため欠席されており、池田幹事におかれてはオンライン形式により御出席いただく予定ですが、所用のため遅れての御出席となります。   議事に入る前に、前回の会議以降、委員の異動がございましたので、御紹介させていただきます。大賀眞一氏が委員を退任され、新たに渡邊国佳氏が委員となられました。また、川原隆司氏が委員を退任され、新たに松下裕子氏が委員となられました。初めて会議に御出席いただいた渡邊委員、松下委員に自己紹介をお願いしたいと思います。   まず、オンライン参加の渡邊委員、お願いいたします。 ○渡邊委員 はじめまして。警察庁の刑事局長を拝命いたしました渡邊と申します。初参加からオンラインで恐縮でありますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田部会長 次に松下委員、お願いします。 ○松下委員 1月10日付で刑事局長を拝命いたしました松下裕子と申します。委員の先生方には長きにわたりまして御審議を頂いており、本当に感謝を申し上げます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井田部会長 それでは、事務当局から、本日の配布資料について確認をお願いします。 ○浅沼幹事 本日、配布資料として、資料27をお配りしています。配布資料27は、「試案」の改訂版です。その内容については、後ほど御説明いたします。 ○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。   前回会議後、これまでの当部会における議論を踏まえて、事務当局に、ただ今確認のあった「試案」の改訂版を作成してもらいました。そこで、まず、事務当局から、配布資料27の「試案(改訂版)」について説明をお願いします。 ○浅沼幹事 配布資料27を御覧ください。   この「試案」は、これまでの当部会における御議論を踏まえて、部会長の御指示に基づき、事務当局において、改訂版として作成したものです。   まず、改訂を行った部分について、その趣旨等を御説明いたします。   試案(改訂版)「第1-1 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正」を御覧ください。改訂前の試案「第1-1」においては、当部会におけるそれまでの御議論を踏まえ、被害者において、性的行為をしないことについて自由な意思決定をすることが困難な状態を指す要件として、「拒絶困難」、すなわち、「拒絶の意思を形成し、表明し又は実現することが困難な状態」と記載していました。この「拒絶困難」との要件は、「意思を形成することが困難な状態」を含むものであり、もとより被害者が拒絶することを義務付けられるようなものではない趣旨で記載していました。もっとも、この点については複数の委員・幹事から、「拒絶」などの文言が、被害者に何らかの行為をすることを要求しているかのような印象を与えるといった御意見が示されました。そのような御意見を踏まえて改めて検討した結果、「拒絶」や「実現」といった行為を表す文言を変更して、被害者が拒絶などの行為を義務付けられるようなものではないことを明確に示すとともに、被害者において、性的行為に同意するか否かの意思決定が困難な状態であることを示す要件とすることが適当であると考えられました。そこで、改訂後の試案「第1-1」においては、「拒絶困難」との要件を改め、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」とすることとしています。   次に、試案(改訂版)「第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ」を御覧ください。改訂前の試案「第1-2」においては、当部会におけるそれまでの御議論の中で、年齢差要件だけで処罰範囲を適切に画することができるか、一定の年齢差があれば対等な関係があり得ないと言い切ってよいかといった疑問が示されていたことから、そのような問題意識を踏まえて、「対処能力が不十分であることに乗じて」との実質的な要件を記載していました。もっとも、この点について、当部会におけるその後の御議論も踏まえて改めて検討した結果、行為者と相手方の間に年齢差が5歳以上ある場合には、そのこと自体で、性的行為についての自由な意思決定の前提となる対等な関係ではないと考えるのが適当であり、そうすると、実質的要件によって処罰対象から除外すべき場合としては、13歳以上16歳未満の者が、5歳以上年長の者に対して暴行・脅迫を用いて性的行為をした場合といった極めて例外的な場合以外には想定し難いように思われ、そうであるのに、このような実質的要件を設けると、そのような場合以外にも、実質的要件を満たさないとして処罰されないことになりかねないと思われました。そして、真に処罰されるべきでない極めて例外的な場合については、構成要件に実質的要件を設けないこととしても、刑法総則の規定により、処罰から除外され得ると考えられることから、改訂後の試案「第1-2」においては、実質的要件を削除することとしています。   次に、試案(改訂版)「第3-2 性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みの導入」を御覧ください。改訂前の試案「第3-2(2)」においては、当部会におけるそれまでの御議論を踏まえ、試案「第3-1」の撮影罪若しくは記録罪に当たる行為により生じた物又はその複写物、児童ポルノを措置の対象とすることとしていました。もっとも、この点については、当部会におけるその後の御議論の中で、いわゆるリベンジポルノ法の私事性的画像記録の提供等の対象となった画像についても、廃棄や消去の対象とする必要性が認められ、また、犯罪との関連性も認められるとの御意見が示されました。そこで、そのような御意見を踏まえて改めて検討した結果、改訂後の試案「第3-2(2)」においては、措置の対象として、提供等の犯罪行為を組成し、又はその用に供した私事性的画像記録物等も措置の対象に含めることとしています。また、改訂前の試案「第3-2(1)」の「複写物の没収」においては、試案「第3-1」の撮影罪又は記録罪の犯罪行為により生じた物を複写した物をその対象としていましたが、同様の理由から、リベンジポルノ法の提供等の犯罪行為を組成し、又はその用に供した私事性的画像記録物を複写した物等も没収の対象に含めることとしています。   次に、これまでの御議論で、「試案」について内容を改めるべきとの御意見があったものの、今般の改訂の対象としていない項目について、その主な理由を御説明いたします。   まず、試案「第1-6 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪の新設」について御説明いたします。試案「第1-6」においては、行為の客体を16歳未満の者としていますが、これに対しては、行為の客体を18歳未満の者とすべきであるとの御意見が示されました。もっとも、当部会におけるこれまでの御議論でも指摘されたとおり、仮に行為の客体を18歳未満の者とした場合には、16歳又は17歳の者に対してわいせつな行為や性交等に及んでも、それだけでは犯罪とならないにもかかわらず、その前段階の行為である働きかけ行為に限って処罰することになりますが、このような帰結は整合性を欠くのではないかと考えられました。そのため、試案「第1-6」については、改訂していません。   次に、試案「第2-1 公訴時効の見直し」について御説明いたします。試案「第2-1」においては、性犯罪についての公訴時効期間の延長期間を5年とし、また、大人とは異なる取扱いをする若年者の範囲を18歳未満の者としていますが、これに対しては、「試案」よりも更に長い期間、公訴時効の完成を遅らせることとすべきであるとの御意見が示されました。もっとも、当部会におけるこれまでの御議論を踏まえると、現時点で、性犯罪について、公訴時効期間を一律に5年より長い期間延長することとすることを根拠付ける実証的な根拠や特別の取扱いをする若年者の範囲について18歳以外の年齢を基準として考える根拠が十分に示されているとは言い難いと考えられました。そのため、試案「第2-1」については、改訂していません。   次に、試案「第2-2 被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設」について御説明いたします。試案「第2-2」に対しては、対象者の範囲、聴取主体、措置要件の内容等について、より限定的な要件にすべきであるとの御意見が示されました。もっとも、当部会におけるこれまでの御議論でも指摘されたとおり、対象者の範囲については、試案「第2-2」の趣旨が妥当する者は性犯罪の被害者や児童に限られないことから、これを限定することは相当ではなく、聴取主体については、証拠能力の要件を検討する上では、司法面接的手法において求められている一定の措置が採られたことこそが重要であり、かつ、それで足りることから、証拠能力を認める前提として聴取主体を限定する必要はないと考えられました。また、措置要件の内容については、試案「第2-2」は、訴訟関係人に対して尋問の機会を与えることとしており、このような制度における証拠能力の要件の在り方としては、試案「第2-2」の要件とすることが相当であると考えられました。そのため、試案「第2-2」については、改訂していません。   次に、試案「第3-1 性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為等に係る罪の新設」について御説明いたします。試案「第3-1」に対しては、撮影対象者の承諾を得て撮影した画像であっても、その意思に反して提供する行為については処罰することとすべきであるとの御意見が示されました。もっとも、当部会におけるこれまでの御議論でも指摘されたとおり、このような行為を処罰対象に含めることとした場合には、処罰範囲が過度に広範なものとなり、現実的でない事態が生じることなどから、適当でないと考えられました。また、試案「第3-1」に対しては、撮影対象者が特定されないと誤信させて撮影する行為を処罰対象とするべきとの御意見も示されました。もっとも、撮影罪は、性的な姿態を自己のものと特定されないことを保護法益としておらず、撮影罪の対象となる性的な姿態についても撮影対象者が特定されるものであることを要件としていないため、性的な姿態が他の機会に他人に見られること自体に同意した上で撮影に同意している場合に、自己のものと特定される形で見られることはないと誤信していたからといって、錯誤に基づく同意として無効であるとまではいえないと考えられました。そのため、試案「第3-1」について、試案「第1-1」及び「第1-2」の改訂に伴うもの以外については、改訂していません。   御説明は、以上です。 ○井田部会長 本日は、ただ今説明のありました「試案(改訂版)」に基づいて議論を行いたいと思います。   議論の進め方としては、これまでの議論の状況や今般の改訂に鑑みて、大きく三つのグループに分けて検討していただくのが適切かと思います。まず、最初に、改訂が加えられた試案(改訂版)「第1-1」、「第1-2」及び「第3-2」について順次議論を行い、次に、改訂がなされなかった試案(改訂版)「第1-6」、「第2-1」、「第2-2」及び「第3-1」について、まとめて議論を行いたいと思います。その上で、最後に、それ以外の事項について、更に補足して表明したい御意見があれば、これをお伺いする時間を設けたいと思います。今の事務当局の説明に対して質問がある場合には、項目ごとの議論の際に御質問していただければと思います。   そうした進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日も、限られた時間の中で、できるだけ多くの委員・幹事の方に御発言いただけるよう、可能な限り、重複を避けつつ、端的に御発言いただければと思いますので、御協力をよろしくお願いいたします。   本日の進行における時間の目安については、まず改訂がなされたグループの試案(改訂版)「第1-1」について50分程度、「第1-2」について20分程度、御議論いただいた後、午前11時30分頃から10分程度休憩をとり、引き続き、「第3-2」について15分程度、御議論いただきたいと思います。そして、次に、改訂されなかったグループの試案(改訂版)「第1-6」、「第2-1」、「第2-2」及び「第3-1」について、まとめて55分程度、御議論いただきたいと考えています。その上で、最後に、「試案」のその他の事項について御議論いただく時間として、5分程度時間を設けたいと思います。予定している時間については、その都度申し上げますので、御協力をお願いいたします。   それでは、まず、試案(改訂版)「第1-1 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正」について、御議論いただきたいと思います。この試案(改訂版)「第1-1」については、最大で50分程度の時間を予定しています。まず、先ほどの事務当局の「第1-1」についての説明内容に関して、御質問はございますでしょうか。 ○山本委員 新たに追加された文言である、「全うすることが困難な状態」というのはどういう状態なのかをお伺いしたいと思います。例えば、「(ク)」に該当する行為によって行為者側から何らかの働きかけが行われて、被害者がノーを示したにもかかわらず行為が継続される場合は、これまで、被害者が抵抗を諦めたととるか、説得に応じた、又は行為者の働きかけに応じて受け入れたととるか、二つの見方があると判断されるように思われます。例えば、同僚とカラオケ店の個室で二人きりとなり、性的行為を持ち掛けられて、被害者が帰ると主張しているにもかかわらず、行為者が、自分のことを信用できないのか、ちょっとだけだからなどと言って、断っている被害者の言葉を全く聞かず、行為を進めようとすることは、「全うすることが困難な状態」となるのかということをお伺いしたいと思います。 ○浅沼幹事 試案(改訂版)「第1-1」の趣旨として御説明いたしますと、「全うする」というのは一般に、「完全にはたす」、「なしとげる」、「完全に保つ」という意味で用いられている文言であり、「同意しない意思を全うすることが困難な状態」というのは、例えば、性的行為をしないという意思を一旦表明したものの、恐怖心などからそれ以上のことができない状態、あるいは押さえ付けられて身動きがとれない状態など、性的行為をしない、したくないという意思があるのにそのとおりにならない状態を表すものとして記載しています。   その上で、山本委員からの御指摘の具体的な事例について、それぞれが個別にこの要件に当たるかというのは、証拠に基づいて個別に判断されることになると思いますけれども、この要件の構造として、「(ア)」から「(ク)」までに掲げている原因事由あるいは行為、その他これらに類する行為・事由によって、今申し上げたような「同意しない意思を全うすることが困難な状態」に当たるかどうかというのを、個別に判断していくということになります。 ○山本委員 今の説明が、恐怖や押さえ付けられて身動きがとれない場合と説明されたので、少し程度が高いような印象を受けました。個別に判断されることになるとは思うのですけれども、断ったにもかかわらず解放してくれない場合は、程度を問わないという理解でよろしいでしょうか。 ○浅沼幹事 重ねてになりますけれども、「(ア)」から「(ク)」、あるいは「その他これらに類する行為」によって、「同意しない意思を全うすることが困難な状態」にあったかというところを判断していくことになります。事例によって、いろいろな原因事由・行為、あるいはその他これらに類する行為・事由に当たるかどうかが問題になると思われ、例えば、「(カ)」の「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、又は驚愕させること」といったものに当たるかどうかであるとか、「(ク)」の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」に当たるかどうかといったものを個別に判断していくことになり、その上で「同意しない意思を全うすることが困難な状態」になったかというところをこれも個別に判断していくことになると思います。 ○吉田幹事 補足させていただきますと、例えば、「(カ)」にある「恐怖」や「驚愕」ということについて、それが著しく強いものであることまでを必要とする趣旨で記載しているものではありません。その意味で、この列挙されている行為や事由それ自体の程度を問う構造にはなっておらず、その上で同意しない意思の形成等が困難であるといえるかということを判断していくという趣旨のものです。 ○山本委員 程度を問わないことが確認できてよかったです。ありがとうございます。 ○長谷川幹事 「困難」との言葉については、これまでもその程度について質問してきたのですけれども、例えば、形の上では性的行為を受け入れており、同意をしない意思を貫くことが全く不可能ではないものの、同意しない意思を持ち続けている場合に、相手方の執拗さだとか相手方との人間関係などのいろいろな事情を踏まえて、「困難」と評価し得ることはあるのでしょうか。 ○浅沼幹事 「困難」の意義についての御質問だと思いますので、この「試案(改訂版)」の趣旨として説明しますと、この「困難」というのは文字どおり、それをすることが難しいことを意味しているものとして用いています。したがって、「困難」について、その程度を問うような形では記載していませんので、先ほど申し上げたとおり、同意しない意思を全うすることが難しいかどうかを原因行為・事由と合わせて考えていくということになると思います。 ○長谷川幹事 全うすることが不可能ではないけれども、諸般の事情で全うを断念するようなケースも入り得るという理解でよろしいでしょうか。 ○保坂幹事 今、「全うする」のところに焦点が当たっていますが、構造としては、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うする」となっていまして、表明が困難という要件について、それが表明がおよそ不可能であることを意味するかというと、それはそんなことはないだろうというお答えになるのだろうと思います。その上で、表明はできた、困難ではなく、できたけれども、更にその同意しない意思を「全うすることが困難」ということが、不可能であることを意味するものではないというのも、またこれは同じ理解になるのだろうと思います。困難という言葉の意味としては、形成の場合も、表明の場合も、全うの場合も、困難自体の程度は同じように理解するということになるのだろうと思います。 ○中川委員 この試案については、第10回会議において吉田幹事から、これまで当罰的だと評価されていた行為の範囲を拡大する趣旨のものではないとの御説明があり、一方で、試案「第1-1」の「ア」及び「イ」の「(ア)」の「暴行又は脅迫」については、同じ第10回会議において浅沼幹事から、「暴行」は人の身体に対する有形力の行使、「脅迫」は他人を畏怖させるに足りる害悪の告知を意味するとの御説明がありました。したがいまして、現行法の「暴行又は脅迫」に当たると解釈されているもののうち、試案「第1-1」の「ア」又は「イ」の「(ア)」の「暴行又は脅迫」に当たらないものについては、「(イ)」から「(ク)」までの行為又は事由として捕捉されることになると理解しています。そのような理解の下、今回の試案を裁判実務で適正に解釈・運用するという観点から、大きく三点、御質問させていただきたいと思います。   まず、一点目は、前回会議で申し上げた、「その他これらに類する行為」の解釈に関連して、列挙事由のうち、「ア(イ)」の「心身に障害を生じさせること」及び「ア(オ)」の「拒絶するいとまを与えないこと」とは、行為として具体的にどのようなものが想定されているのでしょうか。特に、これらの行為が単体で問題になる事案においてどのような行為が想定されているのか、御説明いただきたいと思います。   二点目は、実行の着手時期についてです。第10回会議において吉田幹事から、個別の事案ごとに具体的な事実関係に即して実行の着手時期を考えていくことになるとの御説明がありました。例えば、「ア(イ)」の「心身に障害を生じさせること」に関して、一点目の質問とも関連しますが、被告人が想定される行為に着手した時点ではわいせつ目的があったとまでは認められないものの、その後、被害者の心身に障害が生じるまでの因果の流れの中のいずれかの時点でわいせつ目的を有するに至ったと認められる場合について、被告人の行為の時点では「ア(イ)」の実行の着手があったとはいえず、「イ(イ)」の「心身に障害があること」による実行の着手時期を検討することになるのでしょうか。この「ア(イ)」の実行の着手時期について、具体例を挙げて御説明いただきたいと思います。   最後に、三点目は、「ア」の各行為や「イ」の各事由が、例えば、起訴後の審判の対象、すなわち訴因として法的にどのように位置付けられるかという点です。審理の進行における具体的な局面でいえば、証拠上認定できる事実と起訴状に記載された行為又は事由が一致しない場合において、訴因の捉え方次第で進行が変わってくると思われます。より具体的には、そのような場合に訴因変更を要するかどうかということになります。この点について事務当局の御説明を伺いたいと思います。               (池田幹事 入室) ○浅沼幹事 一つ目の御質問である試案(改訂版)「第1-1」の「1(1)」の「ア(イ)」、「ア(オ)」の関係ですけれども、この「試案(改訂版)」の趣旨として御説明しますと、「心身に障害を生じさせること」は、例えば、行為者自身が、被害者に対し、脅迫以外の手段で強いストレスを与えるなどして、一時的な精神症状を引き起こさせる行為などを想定したものです。また、「拒絶するいとまを与えないこと」は、例えば、行為者自身が被害者の気をそらすような発言をして、その隙に胸を触る行為などを想定したものです。   続いて、二つ目の御質問である実行の着手についてですけれども、どの時点で実行の着手が認められるかについては、個別の事案ごとに、具体的な事実関係に基づいて判断されるべき事柄ですが、実務上は、現行の刑法第177条について、一般に、手段となる暴行・脅迫を開始した時点で実行の着手が認められるとされ、そのような暴行・脅迫に当たるというためには、性交等の遂行を可能にするような客観的事情が必要であると解されていると承知しています。これを前提としますと、試案(改訂版)「第1-1」の「1(1)」の罪についても、個別具体的な事実関係に基づき、それぞれの原因行為又は原因事由ごとに、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」での性交等の遂行が可能となるような行為が開始されたと認められる時点で実行の着手が認められると思われます。   御指摘の「ア(イ)」について、例えば、先ほど申し上げた例に沿って御説明すると、行為者が性交等の手段として一時的な精神症状を引き起こさせるような強いストレスを与える行為を開始した場合に、それが当該状態での性交等の遂行を可能にするような行為が開始されたものと認められれば、その時点で実行の着手が認められると考えています。一方、途中で性交等の意思を生じた場合、具体的には、性交等の手段としてではなくそのような行為が行われた結果、被害者が心身に障害を生じて当該状態に至り、行為者がその段階で性交等をする意思を生じた場合には、当該状態に乗じたとして「イ(イ)」に該当し得ると考えられますが、この場合の実行の着手については現行の準強制性交等と同様に考えることになろうかと思われます。   最後に、訴因変更との関係についての御質問ですが、試案(改訂版)「第1-1」の「1(1)」の罪が成立するためには、客観的事実として「ア」及び「イ」の「(ア)」から「(ク)」まで、又はこれらに類する行為・事由があること、それによって被害者が同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態になり、又は当該状態にあること、そして、当該状態の下で、又は当該状態を利用して、性的行為が行われたことが必要であり、これらの原因行為・原因事由は、相互に排他的・補完的な関係ではなく、併存し、競合し得るものと考えられます。   その上で、どのような場合に訴因変更を要するかについては、様々な考え方があり、また、個別の事案ごとに具体的な事実関係に基づいて判断されるべき事柄でありますけれども、一般論として申し上げれば、重要な事実にずれが生じるとき、あるいは訴因の機能に着目し被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは訴因変更を要するとする立場に立った場合には、公訴事実に記載された列挙行為・列挙事由と異なる列挙行為・列挙事由を認定することが、重要な事実のずれ、あるいは被告人の防御に実質的不利益を生ずるおそれがあるときは、訴因変更を要すると考えられます。   お答えとしては以上なのですけれども、一点、御質問の前提として暴行・脅迫の点について言及があったかと思うのですが、御指摘にもあったとおり、「(ア)」における暴行とは人の身体に対する有形力の行使、脅迫とは他人を畏怖させるに足りる害悪の告知というものであり、いずれもその程度を問わないものとして記載しています。仮に、中川委員において、現行法の「著しく」という程度を問題にしている暴行・脅迫でなければこの「(ア)」の暴行・脅迫に当たらないと理解されているということであれば、その御理解は「試案(改訂版)」の趣旨とは異なるものでありますので、念のため申し上げさせていただきます。 ○中川委員 現行法の「暴行又は脅迫」に当たると解釈されているものと、試案(改訂版)「第1-1」の「1」の「ア」又は「イ」の「(ア)」の「暴行又は脅迫」との関係がよく分かっていないので、もう一回御説明していただけますか。 ○吉田幹事 「試案(改訂版)」の趣旨として御説明いたしますと、「試案(改訂版)」における暴行・脅迫の意義は、今、浅沼幹事が申し上げたとおりです。他方で、現行の刑法第177条における暴行・脅迫は、そこに程度の概念を持ち込んで、抗拒を著しく困難にさせる程度のものと解されていると承知しています。その意味で、この「試案(改訂版)」における暴行・脅迫は、現行の刑法第177条における暴行・脅迫よりも広いものということになります。   その上で、現行の刑法第177条においては、そのように暴行・脅迫に程度を持ち込んで、言わば暴行・脅迫という言葉の中で被害者の抗拒困難の状態を問題にするわけですけれども、この「試案(改訂版)」においては、暴行・脅迫自体としてはそのような程度概念を持ち込まないことにして、まずは、人の身体に対する不法な有形力の行使、あるいは人を畏怖させるに足りる害悪の告知があったかどうかをこの「(ア)」で問題とし、それを満たす場合には、それによって被害者が同意しない意思の形成等が困難な状態になっているかを次の段階として判断することとしており、刑法第177条の暴行・脅迫要件の中で行われていた、不法な有形力の行使等という事実に関わる要素と、被害者の抗拒を困難にさせるという程度・評価に関わる要素を、分離してそれぞれ書いているというようなイメージのものとして御理解いただければと思います。 ○小西委員 例えば、実際に私が臨床で経験したケースの中に、ドアを開けたら知らない男が立っていて、そこでやらせろと言って入ってきたというときに、それが命を奪われるよりはいいと思って、後は抵抗しないで性交に至ってしまったという例が複数あります。そういう形で性交が行われることがあるのですけれども、そういう場合は、私はこの「(カ)」に入るのかなと思っていたのですが、どういうふうに考えればいいか少し教えていただければと思います。 ○浅沼幹事 今御質問のありました「(カ)」の「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、又は驚愕させること」ですけれども、ここにいう「予想と異なる事態」には、性的行為が行われるかどうかに関する予想が実際と異なった場合のほか、行為者の態度や言動、周囲の状況、性的行為が持ち掛けられたタイミングなどについて予想と異なる点がある場合なども含むものとして記載しており、その上で、そういったことで恐怖又は驚愕させたかというところが判断されることになります。御指摘の事例がこれに当たるかというのは、個別の判断にはなりますけれども、ドアの前に立っていて、やらせろと言って部屋に入ってきたということが今申し上げたような予想と異なる事態ということに当たり、その上で恐怖又は驚愕し、そして、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になったということであれば、当たるということになります。 ○山本委員 これまでの説明の中で、「(ウ)」の「アルコール又は薬物」と、「(エ)」の「睡眠その他の意識が明瞭でない状態」についての説明がなかったと思いますので、先ほど、全体的に程度は問わないと御説明いただきましたが、確認のために質問させていただきます。   現在、性被害の相談現場において、アルコールや薬物の影響下で記憶がないか、一部失われている状態での性被害を警察に相談したときに、防犯カメラの映像などから、加害者に支えられている状態でも自力で歩行できていれば、準強制性交等罪には当たらないと一律で言われてしまい、被害届が受け付けられないことが非常に多いです。自力歩行していることと記憶の維持というのには関連性がなく、臨床的には、睡眠剤を飲んだ後、普通に話したり歩いたりしていても本人の中で記憶が飛んでしまい覚えていないということはあります。このような場合について、本人が自力歩行しているとか歩行していないとかの判断ではなく、この例示列挙にあるアルコール、薬物の影響下にあり、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」であれば、要件に当たると解釈されるのかをお伺いしたいと思います。 ○浅沼幹事 今お尋ねにあった「(ウ)」の「アルコール又は薬物を摂取させること」あるいは「(エ)」の「睡眠その他の意識が明瞭でない状態にすること」の要件についても、先ほどから御説明しているとおり、特にその程度問題を持ち込んで記載しているものではありません。例えば、アルコールであればアルコールの影響があるかどうかを判断して、その上で同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったかを判断することになります。   今、山本委員がおっしゃったような、自力歩行が可能か困難かというところは、証拠としてそういう証拠があって、それをどう評価するかという問題につながってくるかと思うのですけれども、例えば、アルコールで説明すれば、アルコールの影響があれば、それは要件には該当しますが、その上で更に同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったかの判断において、場合によっては、酩酊の程度が考慮される場合もあり得るわけで、そこは個別の事案ごとに証拠に基づいて判断されることになると思います。 ○齋藤委員 これまでも確認をしていたことの再確認になるのですけれども、「(キ)」の「虐待に起因する心理的反応」というのは、加害をする人、被害を受ける人の関係性によらず、身体的暴力だけではなくて、例えば、どなるなどの心理的な暴力であるとか、あるいは強制的な性的行為を事前に何回もしているというような様々な継続的暴力が含まれるという認識でよかったでしょうか。 ○浅沼幹事 「試案(改訂版)」の趣旨として御説明いたしますと、虐待というのは、物理的又は精神的にひどい取扱いをすることをいうものとして記載しています。典型的には、殴る・蹴るといった暴力を振るう身体的虐待、あるいは親が子に対して性的行為をする性的虐待のほか、いわゆるネグレクトや、ほかの兄弟姉妹との間で著しい差別的取扱いをしたり、ほかの家族に対する暴力を見せるなどの心理的な虐待、こういったものが該当すると考えています。 ○齋藤委員 それは、親子でなくても該当するということですね。 ○浅沼幹事 そのように考えています。 ○井田部会長 ほかに御質問はございますか。よろしいですか。   それでは、御意見を伺いたいと思います。 ○小西委員 私は、試案「第1-1」の「1」の「ア」及び「イ」の「(イ)」について意見を出させていただきましたので、細かくは意見の方を見ていただければと思います。ここで全部を説明しても時間が掛かるかと思いますので、簡単に言うと、事件の最中に、例えば、感情とか動作の麻痺が起きてしまったり、あるいは後から健忘の状態になったりというような急性解離反応が起こることがありますが、こういった症状は、事件の中では、法的側面に大きな影響を与えるものであることは分かっていただけるかと思います。それにもかかわらず、精神医学的に見ると、この急性解離反応が精神障害全体の体系の中での周辺部に位置するものであり、それから、臨床家が見ることのない時期に症状が起こって終結するという実情があります。そこで、急性解離反応の位置付けをきちんと整理しておいて、こういう急性解離反応がこの「(イ)」の中に入ってくるということを確認したくて、意見を出させていただきました。 ○山本委員 一つだけ質問をして、その後、意見を述べさせてもらいたいと思います。   例示列挙の「(キ)」に関することなのですけれども、長期的に虐待をされている場合は、子供でも大人でも、加害者に迎合して、更にひどい目に遭わないようにとか、これ以上暴力を振るわれないようにということで、自ら性的行為を持ち掛けるというような迎合反応が起こることがあります。この場合、自ら持ち掛けてはいるものの、その前に「(ア)」から「(ク)」に至るような強制的な意思に反した性的行為があり、その結果として迎合的反応が生じているのですから、ケース・バイ・ケースの判断になるとは思うのですけれども、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難」と認識される可能性があるのかということをお伺いしたいと思います。 ○浅沼幹事 今の御質問について、まず例示の「虐待に起因する心理的反応」というところを御説明しますが、この「試案」の趣旨としては、虐待を受けたことに起因する順応、すなわち性的虐待を通常の出来事として受け入れる心理状態になることや、虐待を受けたことに起因する無力感、すなわち抵抗しても無駄であると考えられる心理状態になることといったような心理的反応という意味で記載しています。ですので、今、山本委員が言われたようなものがここには当たり得ることになると思います。その上で、そもそも同意するしないという判断ができないというような状態になっていれば、同意しない意思を形成することが困難、あるいは表明することが困難ということになってくると考えています。 ○山本委員 虐待順応症候群はなかなか裁判の場で認められないということがありましたので、そのような状態も「虐待に起因する心理的反応」に当たり得ると明確に言っていただき、よかったです。   では、続いて意見を述べさせていただきます。   法制審議会の議論において、本人の同意のない性的行為が性犯罪の処罰対象であることが繰り返し共有されてきました。その同意という言葉が文言に入ったことは、私たち被害者・支援者にとっては、被害者の拒否や抵抗ではなく、本人が同意しないと表明できたか、それが現実に可能であったか、若しくは同意しないという意思の形成が難しい、できない状態であったかということを判断の中核に置いた文言であり、とても革新的であり、悲願がかなったと言えるものであり、井田部会長と事務当局の方たちに深く感謝しています。   同意しない意思と拒絶の意思は同じではないかと思われるかもしれませんが、全く違います。私たちは性的行為に限らず日常生活においても様々な場面で同意・不同意を判断することがあります。例えば、本などを貸してもらうとき、本を貸してほしいと申し入れたときに、相手が今はちょっとというふうに言ったり、うーん、というふうに言葉を濁したりしたら、同意していないということは分かります。嫌です、お断りしますとはっきり拒否を示されなくても理解はできるわけです。貸す方も、はっきりと明示的に嫌だというほどまで思っていなくても、貸すことに抵抗がある、今は貸すことができるような状態ではないということを表明することができます。性的行為と物の貸し借りは違う話であるように思われるかもしれませんが、日常生活の様々な場面において相手の同意を得ることが当然であるように、性的行為においても、相手が同意しない状態で性的行為をしてはいけないわけで、同意しないという文言になることによって、このことが分かりやすく示されると思います。   このように説明すると、それでは定義が広がってしまうのではないかという反駁を受けるかもしれませんが、これまでの議論から、解釈を広げるものではないということも説明されていますし、私としては、本人の同意のない性的行為が性犯罪の処罰対象であることが分かりやすく示されたと受け止めています。そして、それは市民にも分かりやすいと思いますので、「同意しない意思」という文言に全面的に賛同しています。   また、このような理解の下、今後、スウェーデン刑法に倣い、被害者が同意していない意思ではなく、性的行為をしようとする側が相手の自発的な参加をきちんと確認したのか、それらのない場合は処罰されるというふうな規定にしていただくことを望みます。そうなれば、性暴力が何かということが、より分かりやすくなり、今回の改正において救済されない人も救済されるようになると思います。今回の改正を受けて、今後実態調査も行われると思いますので、その結果を受けての更なる議論がされることを期待します。   最後に、このように例示列挙が提示され、包括的要件が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という文言になりましたので、罪名を不同意性交等罪にしていただけることを強く希望したいと思います。本当にありがとうございます。 ○小島委員 私は、日本型の不同意性交等罪の在り方を模索してきて、それが実現されたと理解しています。条文の仕組みとしては、不同意というのが包括的文言になっており、錯誤がもたらす問題は独立して切り離すことで解決しています。列挙事由は大きく二つで、強制作用を帯びる行為と、脆弱な被害者への付け込みという類型としています。地位関係利用型については「(ク)」に取り込まれたと理解しています。「抗拒が著しく困難」という判例が、被害者を苦しめてきましたが、日本型の不同意性交等罪が導入されたことにより、これを刷新する文言となっています。「同意しない意思」とすることで、拒絶義務問題を明確に排斥するというメッセージを発しています。今後、捜査機関が適切にこれに基づいて捜査してくださると期待しています。「同意しない意思」というのは、改正法の大綱を提示しており、今後の運用の解釈の指針になるものと考えています。「Yes means Yes」の導入は今後の課題となります。また、諮問事項「第一の三」で諮問を受けています地位関係利用型については、「(ク)」に入っていると理解していますが、今後ここから漏れるような運用の実態があるのであれば、改正が必要になると考えています。 ○宮田委員 私は否定意見です。この部会の議論の中で、裸の構成要件であってはいけない、恣意的な解釈を許すものであってはいけないという議論があったにもかかわらず、試案(改訂版)「第1-1」の「1」の「(ア)」から「(ク)」に例示されている行為に類する行為というのが、前回発言したとおり、条文上定義が疑いなく明確なものであればともかく、それに「類する行為」を処罰するという規定で本当に処罰に値しない行為を排除できるのか、非常に大きな疑問を持っています。まず、これが一点です。   二点目ですが、先ほど吉田幹事からの説明では、まず、「ア」ないし「イ」のそれぞれの列挙事由を立証し、その上で被害者の同意しない意思の形成・表明・全うが困難であるかどうかという段階的な判断をするという説明がありました。今は、抗拒不能、あるいは暴行・脅迫に比肩するような被害者の意思の形成の困難という包括的な事実に対して立証を行うこととなっており、間接事実による立証の場合には、包括的事実に対する間接事実を訴追側、弁護側でぶつけ合う形、あるいは、間接事実の推認力について弁護側が弾劾することになると思います。しかし、試案(改訂版)「第1-1」の場合、行為に関する間接事実なのか、それとも被害者の意思に関する間接事実なのかについて、どのように整理していくのかという疑問を持ちました。また、被疑者・被告人として裁かれる人は何を認識していることが必要なのでしょうか。立証が段階的なものであるということは、それぞれ「(ア)」から「(ク)」までの事実についての認識、プラス被害者の意思の困難の認識の二段階になってくるという理解でよろしいでしょうか。そうすると、「ア」だと自分の行為、あるいは「イ」だと存在する事由に関する認識が争いになる場合、非常に価値的な言葉の場合はどう争えばいいのか分からない場合が出てくるのではないでしょうか。特に、「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力」については、その認識について争うときに、どこからどこまでがその範疇に入るのか、その範疇かどうかについて何を主張すればいいのか明確ではなく、どのような認識を争えばいいのか、どのようにして争えばいいのかが、分からなくなるような事案も出てくるのではないかという印象を持ちました。   それから、今般、夫婦間でも処罰の対象となることが明示されることになったわけですが、この「(ク)」の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力」というのは非常に広範な概念であるという問題もありますが、夫婦という関係は経済的又は社会的な関係であることは明らかです。夫婦間では、一方が身体的接触、性交をしたくないと思っていれば全て犯罪になってしまうのではないでしょうか。不適当な被害申告があった場合、そこは検察官の起訴裁量によってコントロールできるから大丈夫だという考えの方もいるかもしれません。しかしながら、強制性交等罪は、法定刑が下限5年の罪です。検察官の起訴裁量について定めた条文の中で、犯罪の軽重は考慮すべき事由の一番最初に出てきます。重い犯罪について検察官の裁量の余地は小さくなります。   夫婦間だけではありません。「ア」及び「イ」の「(ア)」から「(ク)」に当てはまる行為の中には、今までであれば全く犯罪ではなかったものも含まれてくる可能性があります。私は、特に「(ク)」の危険性を感じます。検察官が、強制性交等罪の刑の下限の重さから、こういう関係でこのような事情があれば不起訴にしてもいいではないかと考えて不起訴にすることは容易ではないのではないかと考えます。検察官の起訴裁量が、ある意味ダムの役割を果たすことにより、被疑者が早期に解放される機能が期待できるわけですが、このように処罰の外延が広がって、なおかつ不明確になる中、下限5年の重い罪である強制性交等罪についてはその機能に期待し得ないのではないかという、危惧を持ちます。 ○木村委員 今回文言の改訂があったわけですけれども、それについて私は異論はございません。また、列挙されている行為・事由に関しても、このような形式をとるというのは、言わば裁判員裁判の時代における刑法の一つの在り方かなと思うので、この点も適切ではないかと思います。   一点だけ、感想めいたことで恐縮ですが、指摘させていただきます。   以前から申し上げていますけれども、いわゆる監護者性交等罪を教師とか、あるいはスポーツ指導者などにも拡大する必要性は、なお残っているのではないかと思われます。この点は、先ほど小島委員も御指摘されていましたけれども、試案(改訂版)「第1-1」の「1」の「ア(ク)」である程度カバーできるのではないかとは思っており、その意味では前進だと評価しています。ただし、文言として「不利益を憂慮」するという言葉が入っており、少し言葉は悪いのですけれども、言わば計算した上で、みたいなニュアンスがもし入るのだとすると、確かに成人被害者の場合にはそれでよいのかもしれませんけれども、青少年にこのような事情を要求するのはやや酷かなという気がします。   今回、試案(改訂版)「第1-2」で同意し得る年齢が16歳未満にもし引き上げられたとすると、その場合には具体的に処罰の間隙が生じそうなのは16歳・17歳ということになるのかと思われるのですが、青少年の保護を条例に任せる、あるいは児童福祉法で処罰するということももちろん考えられるのですけれども、いずれも、条例では少し軽すぎますし、児童福祉法ではかなり無理して適用しているという感じは否めないように思います。青少年の保護は、性的自己決定を重視するとなかなか整合性がとれない面があるということは承知しているのですけれども、青少年保護の中でも特に重大な性犯罪は、刑法の中で保護する必要性はなお残っているのではないか、なお高いのではないかと思います。今回このように改正すること自体は非常に適切だと思うので、今後の課題ということになってしまうのかもしれませんけれども、青少年保護についても刑法において正面から扱ってもよいのではないかと思いました。 ○吉田幹事 先ほど宮田委員から、この試案(改訂版)「第1-1」の下での立証の在り方に言及がありましたので、この「試案(改訂版)」を前提とした場合の考え方について御説明したいと思います。   この試案(改訂版)「第1-1」の「1(1)ア」に係る部分を例として申し上げますと、客観的な構成要件としては、「ア」に掲げている行為があること、そして、柱書の部分ですが、それによって被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」になったこと、そして、当該状態の下でわいせつな行為が行われたこと、この三つが客観的な要件として、まず必要になると考えられます。   また、主観的な要件としては、故意ですが、今申し上げた点についての認識が必要になってくると考えられます。その場合、例えば、柱書にある困難な状態というような、その評価にわたる部分、規範的な要件の部分については、これまでの判例の考え方によれば、評価そのものの認識までは必要ではなく、その評価を基礎付ける事実についての認識があれば足りると考えられます。   今申し上げたような考え方を前提として、捜査機関においては必要な証拠を収集し、立証していくことになると考えられます。例えば、「ア(ア)」に関していえば、一番目の要件、すなわち暴行あるいは脅迫に該当する行為があったことを立証できるかどうかを考え、行為者が被害者に対して何らかの有形力の行使をしていれば、それを暴行と捉えることができるかが検討されることになると考えられます。   また、二番目の要件、すなわち柱書にある同意しない意思の形成等が困難な状態になったかどうかという点については、行為の場所や時間帯、その状況、行為者と被害者との体格差など諸般の事情を考慮して、この困難な状態になったといえるかどうかを検討することになり、検察官としては、それらに係る事実を証拠で立証していくということになります。   さらに、わいせつな行為があったかどうかについても必要な証拠によって立証していき、主観面である故意についても、今申し上げたような客観的な事実について被告人が認識をしていたといえるかどうかについて、自白だけでなく客観的な間接事実などからその認識が立証できるかということを精査していくことになるものと考えられます。 ○齋藤委員 山本委員、小島委員とも重なるのですが、「同意しない意思」というような表現で、司法関係者以外の人たちにとっても大変分かりやすくなったのではないかと思っています。これまでも述べてきたとおり、行われている行為が同じであっても、相手の意思や感情を尊重せずに行った場合、性的な行為というのは人を深刻に傷付ける暴力となるため、その本質が条文の中に入ったことについて、本当によかったと思っています。   もちろん、暴行や脅迫が用いられなくとも、人は様々な理由で恐怖を感じたり、驚愕したり、体が動かない状態になったり、抵抗できない状態になったりします。継続的な暴力があれば、同意しない意思の形成が妨げられたり、表明が困難になったりします。さらには、上司と部下、教師と生徒、あるいは学校で力を持っている存在かどうか、祖父母など自分の家族に影響を及ぼす地位にいる人かどうかなど、いろいろな関係性によって容易に同意しない意思を表明できない状態になりますし、同意しない意思を持つこと自体が抑圧されていきます。このような性暴力に典型的に生じる様々なプロセスにおける被害者の心理状態を捉えやすくなる条文だとも思っています。   これまで、被害者が被害に直面したときの反応や心理を理解いただけたときには起訴され、それが難しいときには起訴されないといったような問題もあったように見受けられますが、今回の改正の内容には、被害の実態であるとか被害者の心理、被害に直面したときの人の反応に対する、より深い理解が必要になるのではないかと考えています。先ほどお話のあった16歳・17歳の心理などは特に複雑となります。この改正がなされたとして、本当に実態に沿って運用されるためには、改正の趣旨がきちんと広がること、そして、被害を受けたときの人の反応などへの理解が必要だとも思っています。改正がなされた場合、混乱による判断のぶれであるとか、性暴力の実態に関する知識がないことによる不適切な判断が起きないように、条文の意図するところを広く周知したり、研修等がしっかりと行われることを望んでいます。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。よろしいでしょうか。   それでは、予定された時間にもなりましたし、また、主要な御意見を伺うことができたと思いますので、試案(改訂版)「第1-1」についての本日の議論はこの程度とさせていただきます。   次に、試案(改訂版)「第1-2 刑法第176条後段及び第177条後段に規定する年齢の引上げ」について御議論いただきたいと思います。この試案(改訂版)「第1-2」については最大20分程度の時間を予定しています。   先ほどの事務当局の試案(改訂版)「第1-2」についての説明内容に関して、御質問はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、御意見のある方は挙手するなどした上で御発言をお願いしたいと思います。 ○小島委員 16歳未満の者との性的行為は許されないという明確なメッセージを刑法典に示すことになったと受け止めています。実質的要件が入らなかったというのは非常に意義が大きいと考えています。年齢差という明確なラインで例外を設けている点については、5歳差という点についてやや大きい気がするものの、およそ一律処罰は行き過ぎだと思っていますので、条文の在り方としては支持できます。 ○齋藤委員 私たちは、20歳と25歳などの話ではなくて、13歳と18歳、14歳と19歳、15歳と20歳というような話をしてきたと思います。この年齢の5歳差というのは非常に大きく、物事の認知や思考の能力も異なりますし、社会的に使用できる資源も異なります。対等ではないということがきちんと認識されてよかったと思いますし、言い方が非常に僭越なのですが、対等という考え方について心理学でもこの何十年か掛けて理解が深まってきたので、それがきちんと社会にも伝わっているとよいなと思っています。   一方、当然のことではあるのですが、14歳同士とか年齢の近い者同士でも、クラスの中の立ち位置であるとか、部活の先輩、後輩、部活の中で優位な人とそうではない人など、権力関係というのは存在しますし、デートDVのように対等ではない関係性が作り上げられている場合もあります。そうした年齢の近い者同士、同年齢同士の対等ではない関係というのも、試案(改訂版)「第1-2」ではなく試案(改訂版)「第1-1」など、様々なものを踏まえて適切に対応される必要があると考えていますし、もし低年齢同士で加害をした子供たちがいた場合に、その加害をした子供たちも適切に児童相談所などにつながり、対応されることが必要であると思っています。 ○宮田委員 繰り返しになってしまいますが、5歳の差があるからといって真摯な恋愛関係というのが本当にないのでしょうか。例えば、もう少し年下の者が大きくなるまでは性交までしないで我慢しよう、しかし、身体的な接触をするという真面目な交際は今でもあるのではないでしょうか。しかし、これが試案(改訂版)「第1-2」の「1」の強制わいせつ罪で処罰されてしまうわけですよね。また、現在の刑法では、させる行為も含めて性交です。性的に興味のある男の子が、年上の女性にねだって関係を持ってしまったら、その女性は処罰されるわけですが、それでいいのですか。そして、不適当な処罰を避ける防波堤が検察官の起訴裁量となると、強制性交等という下限5年の罪を本当にコントロールできるのかという疑問をここでも呈したいと思います。 ○田中委員 私は、この試案(改訂版)「第1-2」について、実質的要件が削除されてよかったと思っており、異論はございません。ただ、今の宮田委員の御意見に関して少し申し上げますと、実質的要件がなくなったことによって、万が一、この規定の趣旨に照らして処罰すべきではないと思われる事案が発生した場合に、検察官の裁量によって不起訴とするなどの適切な運用がなされるのかどうかといった御懸念があると思うので、その点について申し上げます。   一般論として申し上げますと、検察官が起訴・不起訴を決する際には、個々の事件ごとに、まずは有罪を立証するだけの証拠があるかどうかを判断した上で、行為の悪質性その他の具体的な事情を総合的に検討して、起訴の必要があるかどうかを判断しています。仮に、「試案(改訂版)」のような形で法整備が行われた場合には、改正の趣旨等も踏まえつつ、引き続き事案に応じて起訴・不起訴の判断をしていくことになると思われます。ただ、その前提として、今後、立案担当者におかれては、実務の解釈の指針となるように、当部会における議論や今後の国会審議等を踏まえて、改正の趣旨等について適切に周知していただけると有り難いと思っています。 ○山本委員 5歳以上の年齢差があれば適切に対応ができないということが明確に示され、とても評価できるので、賛同いたします。   ただ今の議論において、例えば、5歳以上年長の女性から男子に対して性行為が行われた場合も含まれていいのかという意見がありましたが、年長者であるということは、その分の人生経験、また社会的な能力があり、年少者の発達に見合わないような性的行為を行うことができる可能性もあるわけです。そういう場合において、年少者の未発達さ、脆弱性を利用すれば性的搾取です。年長者は年少者を性的に搾取してはいけないということは性別に関わりがないことだと思います。16歳未満の者に対して5歳以上の年齢差があれば対等ではないということが示されることが重要であって、例えば、恋愛関係があってお互いに同意していると思われるような事情があるように見えることもあるかもしれませんが、対等な関係ではない者は性的な同意をすることができないということを確認していただければと思います。   齋藤委員からのお話もありましたが、年齢が5歳差未満の場合でも対等でない場合がありますので、年齢が5歳差未満の者同士においても、対等性があるかどうかや、権力関係を利用していないのかということに関して、実態調査や、起訴・不起訴の判断がどのように行われているのかなどを調査していただければと思います。 ○長谷川幹事 試案(改訂版)「第1-1」に戻ってしまいますが、これまで「拒絶困難」要件の「意思」の部分についていろいろ意見を述べてきた立場から、今回の「試案(改訂版)」に賛成する見解であるということを申し上げます。意思の定義のところで、私は、方向性のない中立的な意思というのを主張してきたわけですが、先ほどの浅沼幹事の御説明で、同意をしない意思について、同意するかの意思決定が困難であることを示すというような御説明がありました。「同意しない意思」の中に私が考えていたものも込められていると理解しておりまして、この「試案(改訂版)」に賛成をします。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。   もしよろしければ、試案(改訂版)「第1-2」について、本日の議論はこの程度とさせていただきたいと思います。   予定された休憩時間まで若干時間がありますので、次の論点の検討に入りたいと思います。   試案(改訂版)「第3-2 性的姿態の画像等を没収・消去することができる仕組みの導入」について、御意見を頂きたいと思います。15分程度の時間を予定したいと思います。   先ほどの事務当局の試案(改訂版)「第3-2」についての説明などに関して、御質問はございますでしょうか。   特にございませんか。それでは、御意見をお伺いしたいと思います。 ○山本委員 試案(改訂版)「第3-2」の「没収・消去」について申し述べます。「試案(改訂版)」でリベンジポルノが入って、とてもよかったと思います。ただし、試案「第3-1」の「1(1)」と「5(1)」などが対象にされることは、今までも申し述べてきましたが、対象範囲が狭すぎると思います。   個別の事件にはなりますが、交際していたときに撮影された性的行為の動画を削除するよう何度も求めたが応じてもらえなかった女性が、その動画をSNSなどで拡散されたと思い込み、男性を刺殺するという事件がありました。交際当時高校生だった女性が、6歳上の年上の男性と交際したときに撮影されたものです。殺人は絶対にしてはいけないことですが、現在このような被害に社会が救済の手段を与えていないことも問題です。   撮影罪は、自己の性的な姿態を他の機会に他人に見られるかどうかという意味での性的自由・性的自己決定権といわれていますが、それが何を保護しているのかが十分に理解されていないように思われます。性的部位や行為の画像・動画記録が残るということは、その人が性的な対象物となっている記録が残ることです。性には肯定的な意味合い以外にも、わいせつな、汚された、おとしめられた、などの様々なネガティブな意味が付与されます。性的対象物となり性化されるということは、今後、どのような社会的成功をその人が収めたとしても、その性的画像がさらされることにより、その人の人生が一瞬で破壊されるほどのインパクトを持つものであり、人に致命的なダメージを与えるものといえます。返してほしいと要求している性的画像を他者が所持して返さないということは、今後、人間として平穏に生きていく権利を奪われることです。これは、不快に感じるとかというレベルではなく、恐怖や脅かされている、心身の危険を感じるというようなレベルであるということを御理解いただければと思います。この事件では他者への危害になりましたけれども、自傷行為を繰り返し、死に至る人もいます。そのような被害であるということをよりよく認識するためにも、今後、性的画像・動画をその人の意思に反して他者に所有され続けていることがどういうダメージを人に与えるのかということを実態調査して、この「没収・消去」の対象の拡大も検討してほしいと思います。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいですか。   ほかに御意見はないようですので、試案(改訂版)「第3-2」についての本日の議論はこの程度とさせていただきます。 ○宮田委員 試案(改訂版)「第1-1」に戻ってしまいますが、よろしいでしょうか。   被害者の同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難というところには、被害者の属性も立証対象になるのでしょうか。例えば、被害者がまだ大学生で社会経験がないとか、未成年であるとか、あるいは精神障害や知的障害などを持っているとか、そういうことは、その点の立証命題だと考えてよろしいですか。 ○吉田幹事 今、委員がおっしゃった被害者の属性に関する事情というのは、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態かどうかという判断の際に考慮事情となると考えています。 ○宮田委員 そうすると、その誤信についても、争点たり得るという理解でよろしいですか。 ○吉田幹事 例えば、その「困難な状態」を基礎付ける事情として、検察官が10の事情を主張立証すると考えた場合に、被告人としては、そのうちの5を認識していなかったということですと、まず、その5を認識していなかったということ自体が一つ、争点になろうかと思います。その上で、それらの事実認定がなされた上でですが、それを前提とした場合に、故意として認定し得るのかどうかが問題となり得ると考えています。 ○井田部会長 ほかにございませんか。   それでは、休憩時間を10分程度とし、午前11時30分に再開したいと思います。              (休     憩) ○井田部会長 それでは、会議を再開したいと思います。   次に、「試案」のうちの改訂されなかった部分ですが、試案「第1-6 性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為(いわゆるグルーミング行為)に係る罪の新設」、「第2-1 公訴時効の見直し」、「第2-2 被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設」、「第3-1 性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為等に係る罪の新設」について御議論いただきたいと思います。   これらの項目については、議論を行う順番は特に決めませんので、御意見のある方は挙手等をした上で、どの項目に関するものかを明示していただいて御発言をお願いしたいと思います。最大で55分程度の時間を予定しています。   まず、先ほどの事務当局のこれらの項目についての説明内容に関して御質問があれば、お伺いしたいと思います。   特に御質問はございませんか。それでは、御意見をお聞きしたいと思います。 ○宮田委員 進行についてなのですが、全体としての評価を言いたい人もいるかもしれませんけれども、そのような形の意見聴取は後でやるとお伺いしております。一つずつやっていった方が意見を言いやすいかと思いますが、いかがでしょうか。 ○井田部会長 それでは、最初に試案「第1-6」についてお聞きしたいと思います。 ○齋藤委員 私は、以前の会議でもお話をして、今回、要望書も拝見させていただき、本当にそのとおりだなと思ったのですけれども、「グルーミング」という言葉について、使い方を御検討いただきたいと思っています。「グルーミング」という言葉をこれまでずっと大切に使っていた方々から言葉を奪うようなことになってしまいかねないと思うからです。「チャイルド」といってしまうと限定されてしまうので、例えば、「性的グルーミング」とか、そういった言葉を使用していただければと思っています。それと、「性的グルーミング」は新設されるものですので、実態であるとか、その運用であるとか、そういったものが今後きちんと把握されていくことが望ましいと思っています。 ○長谷川幹事 試案「第1-6」について、先ほどの説明では、客体の年齢を18歳にすることとか、試案「第1-6」の行為の結果行われた性的行為を処罰するといった私が主張していたものが今回は見送りになるとのことですが、この点について、本日の段階では特にどうすべきということを申すつもりはありません。ただ、今後の課題として、この試案「第1-6」の「懐柔行為」と「撮影罪」のところに5歳差要件が入っていることについては、試案「第1-2」の性交同意年齢の引上げで5歳差要件を入れた趣旨に照らして、平仄を合わせる必要はないと思っていることを再度述べたいと思います。   年齢引上げの論点のところで、5歳差要件を入れるのは、同年代同士の真摯な恋愛によるキスなどが処罰の対象になってよいのかという問題意識があったわけです。性的行為自体は、人間が生物として本来的に自然に行われている行為ですが、試案「第1-6」が対象とする懐柔行為は、不適切な働きかけをして行う行為であり、性質を異にしますので平仄を合わせる必要はないと思います。撮影につきましても、人間の生物本来のものとして行われているものではないことに照らすと、年齢引上げの議論で年齢差要件を設けた趣旨が当てはまるものではないと思いますので、平仄を合わせる必要はないと思っています。今後の課題として、今、齋藤委員がおっしゃったように、運用実態などを把握された上で、やはり16歳・17歳の被害実態、それが適切に保護されるのかというようなことを踏まえて、改めて将来的にこの5歳差要件を廃止するかどうかの検討をする機会を設けてほしいと思っています。 ○井田部会長 御意見として承りたいと思います。   ほかに御意見はございますか。   特にございませんか。それでは、次に、試案「第2-1 公訴時効の見直し」について御発言はございますか。 ○山本委員 公訴時効に関しては、内閣府の「男女間における暴力に関する調査報告書」を根拠にして、延長期間を5年としたという説明がありましたが、第11回会議での議論にもあったように、全体で約7割の相談していない人が、何十年後だったら相談できるようになるのかが立法事実の根拠として必要なデータとなります。今回そこがないということなので、それについては今後、国が実態調査をしていただくことを望みます。   また、ドイツとフランスが5年から7年前に、それぞれ公訴時効の延長という措置を採ったと聞いています。その措置の結果、実際に相談件数が増えたのか、立件においては、証言と証拠が重要になると思いますが、その証言や証拠を確保することができるような運用がなされているのか、その結果どのくらい立件されたのか、その立件には、DNAや画像などの客観的な証拠の必要性がどのくらいパーセンテージとして含まれているのか、それ以外の方法でも可能なのかなどについて、国際的な実態調査を望んでいます。それに従って、やはりこの公訴時効については、前々から主張しているように、30代がカバーされないとなかなか真の意味での被害実態というのが上がってこないと思いますので、そのようにしていただくことを望んでいます。 ○小島委員 山本委員がおっしゃったことと同じですが、この公訴時効を5年とする根拠について、我が国では、内閣府の調査以外に見当たらないという御説明がありました。性犯罪について、我が国でももっと数多くの実証的研究・実証的調査をしていただいて、今後この5年の期間の延長というのを再度検討していただきたいと思います。 ○井田部会長 それでは、次に試案「第2-2 被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設」について、御意見をお伺いしたいと思います。 ○宮田委員 性犯罪被害者に対するいわゆる司法面接が諮問事項であるにもかかわらず、聴取の対象について、年少者だけでなく成人の被害者を含めるだけでなく、「1(1)ウ」まで広げることに大きな疑問があります。議論が拙速ではないでしょうか。司法面接的な手法を行う以上は、対象者はどこまでか、聴取主体がどういう者であるべきなのか、司法面接的な手法を最初に行った後には普通の取調べはしないといったその後の手続の方法も含めた被害者に対する聴取の在り方をどのようにしたらいいのか等を検討する必要があります。被害者の心に傷を付けないようにこの制度を入れたとしても、この規定を入れるだけでは、1回は司法面接をやったとしても、その後、新たな証拠が出たので話を聴く必要ができたからと、警察で通常の取調べの形で話を聴かれ、検察庁で通常の取調べの形で話を聴かれ、そして裁判になって普通に証人となることを止められるわけではありません。被害者に対する負担を減らすのに、この証拠能力の特則の規定を作るだけで対応できるとは到底思えない。一歩でも前進すればいいのかもしれませんが、かえって悪い結果が出ることだってあり得るのです。   そして、反対尋問の機会があるからいいではないかといわんばかりのこの規定は問題です。反対尋問は、主尋問があって、その生の供述に対しての尋問をしていく、そのライブ感が非常に重要なのです。しかしながら、司法面接的な聴取を録音・録画した記録媒体を証拠として採用する場合には、主尋問に当たる録音・録画と反対尋問との間には大きな時間の間隙が生じるのですから、通常の尋問とは全く違った配慮が必要になってくるのではないでしょうか。反対尋問の聴取の方法についても全く違った方法を考えなければならないのかもしれません。真実が明らかになるような方策について十分議論が尽くされていない中での立法は問題です。   そして、「1(2)ア」は「供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置」を採ることを要件としていますが、これは参考人聴取において当たり前のことしか書いていないではありませんか。もしかすると、不安を与えるような脅しや誘導が、参考人取調べでも普通に行われているということなのでしょうか。当たり前のことに気を付けたら、「1(1)」に定める供述者については、録音・録画した記録媒体が直ちに証拠にできてしまうというのは伝聞例外として範囲が広すぎ、極めて問題だと思います。   初期の供述を保全する仕方が適切であっても、記憶が汚染されていれば事実ではない供述になります。以前から申し上げているように、捜査機関の準則として、録音・録画された聴取までの間に、被害者にどういう人が接してどういうやり取りをしたのか、その他の被害者の供述の汚染が起きていないか、被害者が虚偽を述べていないかどうかについて、十分な証拠を集めることが定められていなければ、単に司法面接的な手法で行われた録音・録画記録媒体が無批判に事実認定に供される運用につながりかねません。この規定のままで、司法面接的手法で行われた録音・録画記録媒体に対して証拠能力が認められるということに対しては、非常に危惧を持ちます。   そのような証拠が集められていなければ、法廷で反対尋問を行ったとしても、反対尋問によって被害者に圧迫が加わって、被害者が答えられなくて当たり前であるとして、司法面接的手法の下での録音・録画記録媒体の方が信用できるという非常に荒っぽい判断を招きかねないのではないでしょうか。   そして、聴取主体についても、どのような研修を受けてどのような準則に従って質問を行っているのか等が分からなければ、聴取者の不適切な質問等についての検証ができないではありませんか。この規定を新設しても本当にいいのですか、極めて危険な規定ではないかともう一度言っておきたいと思います。 ○長谷川幹事 まず、「試案」については、平成27年に三庁の通知によって共同面接が始まり録音・録画が実践されてきているにもかかわらず、それが法廷に提出される機会がほとんどなく、本来処罰すべきものが見過ごされてきたということに対して道を開くもので、肯定的に評価をしています。   その上で、宮田委員の問題意識と共通するところはあるのですが、宮田委員のように、だからこれは拙速だから新設すべきではないということではなくて、法改正後の運用に当たっての課題について、三点意見を述べたいと思います。   まず、この法制化によって子供の供述が録音・録画により証拠提出される件数が増えることから、子供の供述が現状よりも証拠として大きな意味を持つ存在となってくると思われます。証拠としての重要性のあまり、子供の精神状態よりも聴取の必要性を優先させるようなことがあったり、また、子供自体への配慮やケアが背後に回ってしまうということがあってはならないということは言うまでもありません。平成27年の通知によって共同面接や関係機関の連携強化ということが進められてきて、子供の心理的負担の軽減をしようとする試みが行われてきているという趣旨を損なわれないよう、法務省におかれましては、この制度が取り入れられた後でも、引き続き連携強化に取り組むとともに、試案「第2-2」の「1(2)」の措置は抽象的になっているので、これを具体化するための協議を続ける協議会などの枠組みや、ガイドラインの策定などを警察庁、厚生労働省、民間の関係機関などと検討することを望みます。   二点目です。この「試案」だと反対尋問の機会を与えることが必須になります。最初の録音・録画の場面では、この「1(2)」の措置の規定により、供述者の不安や緊張の緩和、誘導・不当な影響の排除という司法面接的手法で供述を得ることということが刑事訴訟法上担保され、そのように運用、実践も進むと思われますが、法廷での反対尋問については特別な規定が予定されていません。むしろ、現行の刑事訴訟規則では、反対尋問においては、必要があるときは、誘導尋問をすることができるとされており、供述内容の信用性を争う弁護人側としては、積極的に誘導尋問を行うことも想定されます。ただ、子供の認知能力や発達能力や供述能力を踏まえず、誘導やその他の不相当な尋問や困惑させるような尋問を行うということは、後々にまで響く重篤な精神的な負担を与えるおそれがあるばかりでなく、証人が混乱して、真実発見からも遠のく危険があります。刑事訴訟規則は、最高裁判所が定めるもので、法務省の管轄ではありませんが、法務省、検察庁、最高裁判所におかれましては、反対尋問の在り方について、特に、子供や知的障害者、精神障害者については、その供述特性も踏まえて、刑事訴訟規則の改正を含めた検討、運用、協議を行っていただきたいと思います。   最後に、三点目ですが、今回の「試案」では、反対尋問なし類型は見送られましたが、法廷での反対尋問がベストエビデンスなのかということは、私もこの会議で以前に申し述べているところです。記憶をとどめることが難しいような小さい子供については、反対尋問自体が無意味な場合もあります。今後、様々な実践でいろいろな年齢層の子供や状態の方々について反対尋問が実施されることになりますので、その運用実態を踏まえて、反対尋問なしの類型の導入を検討する機会もまた設けていただきたいと思います。 ○中川委員 これまで、特に試案「第2-2」の「1(1)ウ」の規定を新設することや「(2)」の措置の内容について懸念を申し上げてきましたが、これらの点が修正されていないことを遺憾に思います。   その上で、今回の試案を前提とする場合、「1(1)ウ」に規定する者、すなわち「犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、公判準備又は公判期日において更に供述することで精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」を証人として尋問をすることになり、一見すると何か矛盾するようにも読めますし、実際上も反対尋問権の保障との関係において調整が困難ではないかと考えられます。そうした中で、この「1(1)ウ」の規定の解釈と、その解釈を踏まえた上で、「1(1)ウ」に該当する者としてどのような者が想定されているのかについて、御説明いただきたいと思います。 ○田中委員 ただ今の中川委員の御質問と関連しますので、検察官の立場からも少し質問させていただきたいと思います。二点ございます。   一点目は、ただ今の中川委員と同じで、対象者に関するものなのですけれども、この試案「第2-2」の「1(1)ウ」は、「公判準備又は公判期日において更に供述することで精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者」を対象者としていますが、現在の代表者聴取では、供述者の負担軽減及び供述の信用性確保の観点から、まずは児童が被害者又は参考人となる事件について対象としているほか、知的障害、精神障害、発達障害等、精神に障害を有する被害者に係る性犯罪事件で代表者聴取を行うことが相当と認められる事件についても試行対象としているところです。この「試案」で想定されている対象者は、このような現在の運用上の対象者と比べて違いを設けようと意図しているものなのかどうかについてお聞きしたいと思います。   二点目は、「(2)」の「次に掲げる措置」の措置要件につきまして、この「試案」では、「ア」と「イ」の二つの措置要件が掲げられていますが、これらの措置要件を満たすものとして、実際にどのような措置を講じることを想定しているのかについてお尋ねしたいと思います。   この二点とも、現在の実務における運用の範囲を大きく変更することが求められるものでないのであれば、適切な運用を行うことができるのではないかと思われることから、質問させていただきました。 ○浅沼幹事 今、中川委員、田中委員から一部重なる形で御質問いただきましたので、お二人の御質問に併せて回答させていただきます。   ただ今田中委員から言及があった対象者につきましては、実務の運用として、司法面接的手法によることが適当と認められる者、具体的には、負担軽減の必要性があり、かつ、その手法での聴取によって信用性の情況的保障が担保され得る者として対象としているものと承知しており、この試案「第2-2」の制度が導入された場合において、その中心的な対象者はこれらの者になるということを想定しているところです。   また、二つ目の御質問ですが、試案「第2-2」の「1」は、聴取において「(2)」に掲げる措置が特に採られたことを必要としているところ、その趣旨は、一般的な通常の配慮だけではなく、司法面接的手法の中核的要素と考えられる措置が当該供述者の特性に応じて講じられたことを求めるものです。この点、現在運用されている代表者聴取の取組においては、司法面接的手法の中核的要素である供述者の不安又は緊張を緩和するなどの供述者が十分な供述をするために必要な措置や、誘導をできる限り避けるなどの供述の内容に不当な影響を与えないようにする措置が供述者の特性に応じて採られつつ聴取が行われているものと承知しており、そのような措置が供述者の特性に応じて採られた聴取であれば、現在の代表者聴取の取組における司法面接的手法を用いた聴取を行うことで、試案「第2-2」の措置要件は満たし得ると思われます。 ○池田幹事 ただ今の中川委員、田中委員と事務当局とのやり取りに関連して申し上げます。   いわゆる司法面接が導入された場合の実務上想定される対象者の範囲についてですが、検察官は立証責任を負う以上、実際に司法面接的手法を用いた聴取を行って、その録音・録画記録媒体により被害の状況等を立証することを考えるのは、そうするだけの必要があって、かつ司法面接的手法が信用性のある供述を得る上で功を奏すると見込まれる場合に限られることになると思われます。したがって、単に、その供述者から負担を訴えられたというだけのことで、それを回避するためだけに試案「第2-2」の特則を用いるということは想定されないものと考えられます。   その上で、第11回会議におきまして、試案「第2-2」の「1(1)ウ」に掲げる者に特殊詐欺の受け子のような、上位者の報復を恐れる共犯者も含まれることになるのではないかとの御懸念が示されました。この御懸念について、必要性の点から考えてみますと、司法面接結果の記録媒体を用いる必要は、供述を公判廷で更に繰り返すことで精神の平穏を著しく害されるために、これを回避することにあるわけですが、報復を恐れて証言を渋るという者は、そういう問題があるというのではなく、あるいは繰り返しの負担がないから証言しようということにはならないので、そもそもこの制度を用いる必要がないということになるのではないかと思います。つまり、御懸念の事例は、ここで想定している脆弱な証人の類型には通常の場合は当てはまり難いと思います。また、被疑者から事案解明につながる供述を得ようとする働きかけは、場合によっては追及的なものとなることもあるものと考えられますが、司法面接はそのような働きかけを伴うものではありませんので、捜査を有効に進める観点からも、捜査の初期段階で司法面接をまず実施しようとはならないのではないかと思われます。また、そう考えて通常の取調べを実施した場合は、その後は司法面接の実施に適した状況ではなくなるものと通常は考えられます。   以上述べましたように、司法面接は試案「第2-2」の「1(1)ウ」との関係でも、制度趣旨や手法の特質との関係において適合的な事件が選択されて適用されていくことになるものと考えられますので、現実には御懸念のような事案との関係で、幅広に司法面接が実施され、その結果が証拠として活用されることになるとは考えにくいように思っています。 ○齋藤委員 既に多くの検察官や捜査担当の方が司法面接的手法について学んでいるということは知った上でのことなのですけれども、今後一層、代表者聴取、司法面接的手法について精通した人を増やしていただきたいと思っています。もちろん、これまでも司法面接を行ったにもかかわらず、また一から法廷で話さなければいけないということを言われて、本当に心が折れるとか、精神的に非常に悪化するような子供たちを見てきましたので、今回こうして検討されたことは本当によかったと思っています。   ただ、司法面接に精通するためには司法面接のプロトコルを知るだけでは足りず、子供の心理についての理解が必要です。子供の発達年齢もばらばらですので、私たち心理職であっても、小学生年齢の子供たちを専門に担当するということと、思春期の子供たちを専門に担当するということと、青年期の人々を専門に担当するということでは、求められる知識も非常に大きく変わります。ましてや、そこに障害の傾向を持つ子供たちというものが含まれたら、本当に大きく変わってきます。そのくらい繊細で難しい知識や実践であるということを御認識いただいて、適切に聴取できる人をきちんと増やしていただきたいということを思っています。 ○山本委員 運用に関してのお願いになりますが、今後この試案「第2-2」が作られて、裁判などで主尋問に代えて用いられる場合に、本人の個人的な情報とか秘匿性に関わるものが流されないように配慮をしてほしいと思います。また、他の委員・幹事からも伝えられていましたが、プロトコルを遵守し、プロトコルの基準に沿った研修の実施とともに、被害者の心理を理解した聴取の専門家を養成してほしいと思います。さらに、今後どのような運用をするのか、グラウンドルールをどう定めるのか、イギリスで行われている言語聴覚士や心理の専門家など、障害の特性とトラウマを知る人が適切に供述者に対して質問を伝え、その供述者が答えるときにも適切にその言い分を伝えることができる証言を保障するような仲介人の養成などについても、今後検討していただきたいと思います。今、日本でも複数の司法面接のプロトコルなどが導入されています。今後の運用を話し合うときには、是非その複数の司法面接の専門家を入れて、根拠に基づいた適切な運用がされるように整備していただければと思います。 ○井田部会長 ほかに御意見はありますか。特によろしいでしょうか。それでは、試案「第3―1 性的姿態の撮影行為及びその画像等の提供行為等に係る罪の新設」について御意見を頂きたいと思います。 ○山本委員 試案「第3-1」の「1(1)エ」についての質問なのですが、「13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が」となっており、試案「第1-2」と同じ文言になっています。しかし、13歳以上16歳未満の者に対し、当該者が生まれた日より5年以内に生まれた者が相手の同意を得れば性的姿態の撮影を行ってよいということにはならないと考えます。なぜなら、人間の性的発達の過程において、相手の性的行為を撮影するということは必須の過程ではないからです。性的発達は通常、第二次性徴が起こる思春期になり、デートをして交際し、他者との接触の頻度を高め、性交して生殖に至るという段階的なものですが、この中に、相手の性的な姿態を撮影するということは含まれません。性的な姿態を撮影する行為は、性的姿態を撮影する文化やポルノグラフィティの影響のほか、スマートフォンで撮影が容易になったことなどの影響もありますし、ほとんど男子や男性側が求めることが多いというものになっており、性的発達に必須の過程のものではないと考えます。   そして、求められる側の16歳未満の人が、性的撮影に応じることが何を意味するのか、自分の人生に与える長期的な影響や心理的ダメージ、その性的な姿態の撮影が明らかになったり、公開されたり、流出したりしたときに、人間、市民としての地位を失うということまで理解して同意するか否か判断することは不可能だと考えます。   なので、13歳以上16歳未満の者に対して、当該者が生まれた日より5年以内に生まれた者であっても、同意を得たからといって性的姿態を撮影していいわけではありません。撮影罪の「ア」には、「正当な理由がないのに」との文言があり、この「正当な理由」には、医療準則に則って行われた撮影行為や、親が子の成長の記録として行う撮影と説明されました。「エ」にも「正当な理由がないのに」とありますが、この「正当な理由」というのはこの範囲であると理解してよいのでしょうか。13歳以上16歳未満の者に対して、当該者が生まれた日より5年以内に生まれた者が相手の同意を得て行う場合が、「正当な理由」とされるのか、されないのかということについて確認したいと思い、質問しました。 ○浅沼幹事 お尋ねの試案「第3-1」の「1(1)エ」の要件については、いわゆる試案「第1-2」の性交同意年齢に関するものと同様に、16歳未満の者は性的な姿態の撮影行為に応じるかどうかについて有効に自由な意思決定をする能力が備わっていないと考えられることを前提に作っているものであり、13歳以上16歳未満の者に対するものであれば、5歳差の要件を満たすような場合にはこれに当たるというのがまず前提です。   その上で、お尋ねの、「正当な理由がないのに」をどういう意味で書いているのかということですが、そこは、御指摘のとおりでして、例えば、親が子の成長の記録として、寝ている子供や水遊びをしている子供の上半身裸の姿を撮影する行為などが典型的に想定されるところであり、そのような行為が処罰対象とならないことを明示する必要があることから、試案「第3-1」の「1(1)ア」の「正当な理由がないのに」と同様の考え方により、「正当な理由がないのに」ということを要するものとしているものです。 ○山本委員 18歳未満の人が14歳の人に対してだと5歳差未満になるのですけれども、その場合は「正当な理由」に含まれますか。 ○浅沼幹事 今おっしゃられたような5歳差未満という場合には、「正当な理由がないのに」という要件で判断するのではなくて、「13歳以上16歳の者に対し、当該者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者が」という要件のうちの、「5年以上前の日に生まれた」かどうかというところで、判断することになります。 ○山本委員 16歳未満の者についても、基本的には同意があったからといって性的姿態を撮影していいわけではないと考えていることを伝えておきたいと思います。 ○齋藤委員 今、山本委員がおっしゃっていたことに関連しまして、例えば、現在では、中学生同士がお互いに性的な写真を送ることが付き合っている証としてやり取りをされるであるとか、例えば、性行為中の撮影をしたい、それをいつも見返したい、他のAVを見るよりは、あなたとの性行為を見返す方が浮気ではないでしょうとか、そういうことが行われている現状があります。しかし、その写真や動画がどう使われるか、その後、永遠に相手の手元に残り続けるということの意味を彼ら、彼女たちが想像しているかというと、そうではないと思うことがあります。実際に、今、中学校や高校などの年齢の子供たちの間で、撮影をめぐるどのような問題が起きているかということがきちんと把握されていないように感じています。それを刑法の枠組みで議論するかどうかということは置いておきまして、中学生や高校生が実際にはどのような被害に遭っているのか、あるいは撮影にまつわるどのような問題が生じているのかということを、撮影罪新設後にも、刑法の枠組みだけではなくて、きちんと調査して実態を把握していただき、その上で再度、何年か後になるかと思いますが、運用の見直し、確認がきちんと行われるといいなと思っています。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますか。   特によろしいでしょうか。それでは、今回御意見はあったけれども改訂がなされなかった試案「第1-6」、「第2-1」、「第2-2」及び「第3-1」については、大方の主たる御意見をお伺いしたということで、この点については、本日はこの程度とさせていただきたいと思います。   最後に、更に「試案」のそれ以外の事項について、もし、こういう点はどうなのだろうという御意見がありましたら、御発言をお願いしたいと思います。あるいは、本日の議論で言いそびれたということがあれば、ここで補充してくださっても結構です。 ○齋藤委員 一つ確認をさせていただきたいのですが、試案「第1-4」で、「物を挿入する行為であってわいせつなものをした者は」という記載がありますが、これは、例えば、家族が座薬を入れるとか、そういうことではないという趣旨でよろしかったでしょうか。 ○浅沼幹事 御指摘のとおりで、例えば、医療行為であるとか、家族が薬を入れたりとか、そういったものがわいせつではないと評価される場合がありますので、そういった場合を除くという趣旨です。 ○井田部会長 ほかに御意見・御発言はございますか。   それでは、「試案(改訂版)」についての本日の議論はこれまでとさせていただきます。   以上で、本日の議論は終了となりますが、本日までの議論を踏まえて、今後の進め方について御提案させていただきます。当部会では、「試案」に基づいて三回にわたる議論を行った後、本日、「試案(改訂版)」に基づいて、更に議論を行って、様々な御意見を頂戴しました。   そこで、本日までに頂いた御意見をもう一回改めて精査した上で、部会長である私の方で事務当局とも相談して、これまでの「試案」に基づく議論から更に一歩進めて、部会の取りまとめの対象となります「要綱(骨子)案」を作成する段階に移るのが適当かどうかを検討させていただきたいと思います。   次回の会議の議論を「要綱(骨子)案」に基づいて行うことが適当であると考えられる場合には、委員・幹事の皆様には、次回会議までに、あらかじめ、事務当局を通じて「要綱(骨子)案」をお送りしたいと思います。   そういう進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきたいと思います。   本日予定した議事につきましては、これで終了いたしました。   本日の会議の中で、具体的な事例に関する御紹介などがありましたので、この点については後ほど委員と御相談の上、どういう扱いにするか、その部分は削除して議事録に載せるということにしたいと思いますけども、その点については御一任いただきたいと思います。そういうことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 それでは、そのようにさせていただきたいと思います。   それでは、次回の予定について事務当局から御説明をお願いします。 ○浅沼幹事 次回の第14回会議は、令和5年2月3日金曜日の午前10時からを予定しております。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○井田部会長 本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-