法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  令和5年2月3日(金)   自 午前10時00分                       至 午前11時33分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 要綱(骨子)案についての議論         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第14回会議を開催いたします。 ○井田部会長 本日も御多忙の中御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日は、今井委員、北川委員、中川委員、金杉幹事は、オンライン形式により出席されています。また、木村委員、くのぎ幹事、佐藤陽子幹事におかれては、所用のため欠席されています。   まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をお願いします。 ○浅沼幹事 本日、配布資料として、資料28を配布しています。配布資料28は、「要綱(骨子)案」です。その内容については、後ほど御説明いたします。 ○井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。   前回会議の後、事務当局に、ただ今確認のあった「要綱(骨子)案」を作成してもらいました。本日の会議においては、部会としての意見の取りまとめを行うことも念頭に置きつつ、この「要綱(骨子)案」に基づいて、最終的な詰めの議論を行いたいと思います。   それでは、まず、事務当局から、配布資料28の「要綱(骨子)案」について説明をお願いします。 ○浅沼幹事 配布資料28「要綱(骨子)案」について御説明します。   「要綱(骨子)案」は、これまでの当部会の御議論を踏まえて、部会長の御指示に基づき、事務当局において、当部会における取りまとめに向けた案として作成したものです。その内容は、前回会議において配布した資料27「試案(改訂版)」と同様であり、実質的な変更はありません。   なお、形式的な変更点として、縦書きで「要綱(骨子)案」を作成したことに伴い、「要綱(骨子)案」と「試案(改訂版)」とでは項目番号の振り方に違いがあること、「要綱(骨子)案」5ページの「第五」の見出しについて、「試案(改訂版)」で記載していた「グルーミング行為」との文言を用いないこととし、「性交等又はわいせつな行為をする目的で若年者を懐柔する行為に係る罪の新設」としたことという点があります。   配布資料28についての御説明は、以上です。 ○井田部会長 それでは、「要綱(骨子)案」について議論を行います。   まず、今の事務当局の説明に関して、御質問はございますか。   御質問は、特にございませんか。よろしいですか。   それでは、続いて、「要綱(骨子)案」について、御意見のある方は、挙手などをしていただき、どの点に関するものかを明示いただいた上で、御発言いただきたいと思います。 ○宮田委員 今までの議論の中でも話してきましたが、「要綱(骨子)案」の「第一 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正」の部分について述べます。刑法には、罪刑法定主義の大原則があります。曖昧な規定を置くということは、どのような適用となるかの予想が困難になります。もちろんそれは、行動する人の予想の困難もありますが、解釈をする人の予想の困難も起こり、被害を申告する人の予想の困難にもなります。「類する」という漠然とした規定を置くことについて、性犯罪については、悪い者を罰するのだからいいではないかと言えるのかもしれません。しかしながら、このように「類する」という、非常に曖昧で、解釈に委ねられるところが多く、何が処罰されるか分からない規定を置くことができるという前例を作ることは、今後国民の表現などの様々な権利を国が規制する濫用的な立法が検討されたときに、このような前例があるではないかという形で使われる危険があり、極めて危険なものであると思います。   例えば、自動車運転に関しては、平成13年に危険運転致死傷罪が新設されました。過失運転致死傷罪の倍と言ってもいい重い刑を科すものです。危険運転の解釈について、被害者団体が、こんなひどい運転を過失運転致死傷罪で罰するのはおかしいではないか、危険な運転ではないか、今の規定に類する行為ではないかと主張していますが、それについては、過失犯から切り出して故意犯として罰するに値するものを危険運転致死傷罪の構成要件としている以上、罪刑法定主義の原則からして、それはできないことであり、罪刑法定主義を緩めるべきではないという考え方が刑法学における通説的見解であり、実務で採られてきた解釈です。   ここで、性犯罪は特別なものだという限定を付けない限りは、我が国における罪刑法定主義は、この「要綱(骨子)案」が蟻の一穴となって決壊しかねないのではないかと、私は危惧を持ちます。   そして、今般の規定は、夫婦間の事例についても適用されます。強制性交等罪ならともかく、強制わいせつ罪に関して言えば、夫婦間でのキスやボディタッチ等にまで処罰対象が拡大されることには、非常に問題があります。家庭の中という非常に証拠の乏しいところで、このような曖昧な規定ができることの危険を考えるべきです。前回申しましたけれども、この「要綱(骨子)案」の「第一」の「一1(一)(8)」の「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力」については、夫婦間というのはこの社会的な関係に当たりますから、この規定で処罰するのは不適当なものまで処罰される、処分を受けることが著しく増えるのではないかと危惧するものです。前回も述べましたように、下限が5年という非常に重い強制性交等罪において、本当に柔軟に検察官の起訴裁量が働くのかという危惧も持ちます。   年齢要件についても、5歳の年齢差の微妙さも感じます。前回の私の発言に対して、子供に対する搾取について、お前は何を考えているんだと聞こえるような御意見が出ましたが、私が申し上げたいのは、15歳で世の中に出た男の子が、女性とそういう行為がしたいとせがんで性交したときに、まあいいよと言った相手が罰される、それでいいんですかということが言いたいわけで、搾取されるような関係のことを言おうとしたつもりはありません。年齢差の要件は本当に妥当なものなのかということは、今でも思います。   性的行為というのは、お互いの了解の下で一つのコミュニケーションの手段としてなされるものであって、殺人や窃盗のように、元来が違法な行為というものとはわけが違います。そういう意味において、国民の予測可能性を害するような規定はあってはならず、今回の改正には大きな疑問を持ちます。   また、「要綱(骨子)案」の「第七」の「被害者等の聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設」についてです。一歩でも前に進むからいいではないかという意見はあるかもしれませんが、進んだ一歩が間違った方向であったらどうなのかということを考えなければならないでしょう。ヒアリングで聞いた司法面接と、ここでいう聴取結果を記載した録音・録画媒体が同じものではないということが問題です。供述弱者に対するものであれば、少しの配慮をすれば、録音・録画を何でも証拠としていいのか。そして、聴取主体、あるいは聴取の方法という最も重大な問題について、何ら言及されないままでこの制度が推し進められてもいいのか。また、反対尋問という極めて重大な手続について、どのようにそれを行えばいいかということについても、何らの検討もなされないまま、この制度が導入されるということに対する危惧を持ちます。 ○小西委員 まず、この「要綱(骨子)案」の「第一」について申し上げたいと思います。同意のない性交をしてはいけないことについては、これはもう大前提で皆様が納得していることだと思います。私は、それをどうやって表していくかという問題だと思ってきましたが、この「要綱(骨子)案」は、もちろん不十分なところはありますけれども、一定の進歩があり、今の状況を改善するという点で、私は評価したいと思います。   列挙について、今、問題を挙げていただいたのですけれども、列挙がなければ明確になるのかという点については、ならないということで、反論したいと思います。   この「要綱(骨子)案」の形で性犯罪を捉えていくということについて、最終的にもこの形のままでいいのかという問題は、それはまた少し違う話だと思います。でも、私は、今の段階で、今の社会の中で、強制性交等罪について正当に評価してもらうようになるには、こういう列挙、すなわち具体性が必要だと思っています。最終的には、全ての専門家や関係者が、どういう状態に被害者があるのかということをよく理解して、こういう列挙がなくても大丈夫な条文というのができるようなときが来るのかもしれませんけれども、今の段階では是非必要だと思っています。   全体として、法律家ではない私が言いたいこととしては、今でも被害を受けた人の6割は誰にも言っていなくて、せいぜい5%も表に出ていない中での議論を私たちはしていて、表れていない人たちをきちんと拾っていかなくてはいけないということを、基本路線としては押さえておきたいと思っています。 ○山本委員 私からは、年齢についてお伝えできればと思います。   性別にかかわらず、年長者が16歳未満の年少者に性的行為をするということ自体が性的搾取であり、性的虐待になると考えています。それは、知識の差、社会的地位の差、経験の差により生じるものなのですけれども、5歳差以上の者から16歳未満の者に性的行為をしてはいけないという理解が明確に示されたと思われるので、私はこの「要綱(骨子)案」について評価しています。例えば、30歳差とか40歳差とか、そういう極端な年齢差の人たちが10代の人たちにアプローチをした場合には、さすがにそれは問題なのではないかという社会的認識はある程度共有されてきたとは思いますが、中学生と大学生や20代の社会人が性的関係を持った場合には、被害が生じているにもかかわらず、被害者本人の選択であるとみなされてしまうことが非常に多かったと思います。ですので、どのような性別であっても、年齢差が5歳以上の人が16歳未満の人に性的行為をするということ自体が性的な搾取であるというメッセージを明確に出す上でも、この規定でよかったと思います。   また、配偶者に関しては、内閣府の調査によれば、無理やりに性交された被害の加害者の多くは、配偶者、元配偶者、交際相手、元交際相手なわけです。そのようなDV関係又はデートDV関係における性的行為は、性的関係がある相手柄ということで、まともに取り扱ってこられなかった経緯があります。交際関係があれば、極端なケースでないと司法で取り扱ってもらえないような状況になっており、例えば、夫がほかの男を連れてきたとか、あるいは家を出ているなど、夫婦関係が破綻しているケースしか認められてきませんでした。それを正す上でも、この「婚姻関係の有無にかかわらず」という文言が明記されたことも、非常に評価できることだと思いますし、DVの中で被害を受けている人たちに希望を与えるものだと思います。 ○近藤幹事 「要綱(骨子)案」の「第七」の証拠能力の特則の新設に関して意見を申し上げます。   「要綱(骨子)案」の文言を拝見する限り、対象者の範囲が広範に過ぎるという懸念や、いわゆる司法面接的な措置が明確に定義されていないという懸念など、この部会において、裁判所の委員を含む複数の委員・幹事から繰り返し指摘されてきた問題点が、いまだ払拭されていないということを残念に思います。問題点の詳細について繰り返すことは控えますが、今後、この問題が刑事訴訟の原則を揺るがすことにつながってしまわないか、懸念しています。   他方、前回の会議において、事務当局から田中委員の御質問に答える形で、司法面接に関し、現在の運用では、児童が被害者や参考人となる事件、知的障害、精神障害、発達障害など、精神に障害を有する方が被害に遭われたとされる性犯罪事件を対象としているところ、新たな制度においても、これらの方が中心的な対象者になるとの御説明がありました。また、池田幹事からも、通常の取調べが実施された後は、いわゆる司法面接の実施に適した情況ではなくなることから、幅広に司法面接が実施されたり、その結果が証拠として活用されたりするとは考えにくいとの御発言があったところです。このことは、今後新たな制度を運用する上での前提になると思われます。   裁判所の事務当局としましては、この点を含め、「要綱(骨子)案」の趣旨が各裁判所に正確に伝わるように周知してまいります。 ○中川委員 私から二点意見を申し上げます。   まず、「要綱(骨子)案」の「第一 暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正」につきましては、これまでの事務当局の御説明を踏まえ、裁判所の立場から適切に解釈・適用してまいりたいと考えています。すなわち、御説明によれば、本改正の趣旨は、これまで当罰的だと評価されていた行為の範囲を明確にするというものでありました。また、内心ではなく状態を要件とし、その原因となる行為や事由を掲げて、客観的・外形的に判断することを可能にしたものであること、その判断は、まず列挙事由の該当性を判断し、それを満たす場合には、被害者が同意しない意思の形成等が困難といえる程度に達しているかどうかを判断するという、2段階になるという御説明もありました。他方で、起訴状の公訴事実や罰条がどのように記載されることになるのかといった点については、この部会での議論のみでは明らかではありません。今後、例示された行為や事由の内容、相互の関係などについて、適切に周知していただきたいと思います。   次に、「要綱(骨子)案」の「第二」の年齢の引上げに関しては、実際の運用において、一般的な違法性阻却や責任阻却等という、これまでの裁判手続で取り上げられる機会が多くはない分野について検討せざるを得ないように思われます。部会においては、検察官の適切な対応を期待する旨の御発言もありましたが、逮捕・勾留の場面や、行為者が5歳差を僅かに超えることが想定される少年保護事件を中心に、なお混乱が生じるおそれもあります。前回の会議において田中委員からも御発言がありましたが、裁判所の立場からしましても、事務当局におかれては、改正の趣旨を十分に周知していただきたいと考えています。   なお、「要綱(骨子)案」の「第七」につきましては、これまで数度にわたり意見を述べており、また、その趣旨は先ほど近藤幹事が発言されたことと同様です。適切な運用がされることを望みます。 ○金杉幹事 本「要綱(骨子)案」の取りまとめがこの後されることになると思いますけれども、私は幹事で議決権がありませんので、採決に先立ちまして、この「要綱(骨子)案」に反対する立場から、最後に意見を述べさせていただきたいと思います。   これまで主に研究職の委員・幹事の先生方から、今回の改正については、これまで処罰されてきたものと同等の当罰性を有するものを処罰、捕捉できるようにするものであって、処罰範囲を広げるものではないので、法定刑の下限を引き下げる必要はないということが、繰り返し述べられてきました。他方で、前回の部会においては、主に複数の被害者支援のお立場の委員から、「要綱(骨子)案」の「第一」の「一」の改正について、実質的な不同意性交等罪であり、悲願がかなった、これからの判例が変わる、より被害者の実情に沿った判断がなされるようになるのではといった、肯定的な期待の御意見が出されました。   これまでの裁判の実情については、条文に「暴行又は脅迫を用いて」という文言があることから、処罰されるべき事案が処罰されていないとするお立場の被害者側の委員の先生方と、逆に処罰されるべきでない事案まで、不当に重く処罰されているのではないかと考える私たち刑事弁護の立場とで、評価が相容れないということは致し方ないかもしれません。しかし、少なくとも被害者側の立場の皆様からの前回の反応からしても、今回の「第一」の「一」の改正によって、本当に今後も処罰範囲は変わらない、広がらないと言えるのかどうか、強く疑問を呈さざるを得ません。   前回、吉田幹事から、「要綱(骨子)案」の「第一」の「一1」について、「(一)」ないし「(二)」の「(8)」、従前の試案(改訂版)「(ク)」の要件に関連して、主観的な構成要件としての故意に必要な認識は、これまでの判例によれば、評価そのものについての認識ではなくて、これにより「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難」であることを基礎付ける事実の認識であるという旨の御説明がありました。これこそ、正に私が繰り返し懸念を表明していた点です。   経済的又は社会的関係上の地位に差異があるという関係は、それこそ無数に存在します。政治家と秘書、会社の課員と課長、スポーツや習い事の指導者と教え子、大学教授と大学院生、裁判所であれば右陪席裁判官と左陪席裁判官、検察官と検察事務官、弁護士と事務員、正社員の夫とパート勤務の妻、コンビニ店長とアルバイト、あるいは職場やサークルの先輩と後輩に至るまで、人間は社会的動物ですから、およそ互いに影響力を持ち合っているのであって、何らの不利益も発生しない、真に対等な関係というのは、本当に探すのが困難なほどだと思います。性交等の際に、相手から何の異議も、そのサインもなくて、本当に同意していると認識して行為に及んだとしても、後から被害申告がなされて、実際に当事者に経済的又は社会的関係上の地位の差異があって、かつ、不利益も生じ得るような状況であるという、その事実の認識さえ被告人に存在していたことが立証されれば、それに基づいて同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったという評価そのものについての認識は問われずに、強制性交等罪が成立してしまうということになりかねません。   そして、この点は、強制性交等罪だけではなくて、例えば、懇親会帰りのタクシーの中でいい雰囲気になったと思ってキスをしたら、強制わいせつ罪に当たるといった場合も同様です。これだけでも本当に処罰範囲が広がらないと言えるのか、また、当罰性の高い行為のみを、明確にこの構成要件で規定できていると言えるのか、構成要件の明確性の観点からも大いに疑問です。   さらに、繰り返し申し上げているとおり、「要綱(骨子)案」の「第一」のみならず、「第二」の16歳未満の者に対する5歳以上年上の者の性交等、そして「第三」の膣又は肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為も、5年以上の有期拘禁刑とされています。これらは、強制性交等罪として処罰されてこなかった行為であって、これらも5年以上の有期拘禁刑とされるのであって、5年以上とされる行為の範囲が広がっているということは明らかです。そうであれば、処罰範囲が広がらないと詭弁を弄するのではなくて、より当罰性の低い行為や、これまで強制性交等罪の法益侵害の程度が低いとされてきた行為にまで、処罰範囲を広げることを認めた上で、軽い行為にも対応した刑を科せられるように、法定刑の下限を引き下げて、グラデーションの幅を持たせるべきだということを、改めて、最後に強く申し上げます。   それから、「要綱(骨子)案」の「第七」の証拠能力の特則の新設については、これまで多くの具体的な意見を述べさせていただいたつもりです。それらが何一つ反映されず、この「要綱(骨子)案」が取りまとめられたことには、むなしさを感じざるを得ません。司法面接は、元々誘導や暗示にかかりやすいという児童の特性に注目して始まったはずですが、この「要綱(骨子)案」では、聴取の対象に、そういった児童といった限定も付されておらず、また聴取主体や実施方法についての要件も不明確です。これは、司法面接でも何でもないということを、重ねて申し上げたいと思います。   この「要綱(骨子)案」が採決されて法案提出された場合には、国会審議の場で更に議論が深められて、早期に汚染のない供述を確保することによって、繰り返しの供述による児童の負担を軽減し、かつ、冤罪をも防ぐという、司法面接の本来の趣旨、目的に沿った修正がなされることを期待します。   最後になりますが、2020年の性犯罪に関する刑事法検討会の段階から繰り返し申し上げてきたことを、もう一度述べさせていただきます。私自身も、性暴力はなくすべきだし、根絶したいという思いは共有しているつもりです。ただ、殊に刑罰権の行使については、一遍の誤りも許されないし、誤りが生じ得るような制度にならないように、最大限に謙抑的であるべきだと、そう考えています。性被害を訴える方は無謬で、性犯罪については、加害者とされる被告人の認識は常に誤っている、そういった結果を招来するような偏った改正とならないように、今後の法改正に向けて慎重な審議がなされることを期待するとともに、仮に本「要綱(骨子)案」のままの改正がなされた場合には、運用に際して、現実に処罰範囲が拡大することが決してないように、また、構成要件の不明確さゆえに萎縮効果が生じて、実際に性的行動の自由が制約されるといったことがないよう、適切かつ謙抑的な運用がなされることを、心から願っています。   長くなりましたが、ありがとうございました。 ○小島委員 「要綱(骨子)案」に賛成する立場から意見を述べたいと思います。   日本型の不同意性交等罪の犯罪の在り方を、性犯罪に関する刑事法検討会、この審議会を通じて模索してきて、それが実現されたと理解しています。まず、条文の仕組みとしては、不同意が包括文言になっており、錯誤がもたらす問題は独立して切り離すことで解決をしている。二番目に、列挙事由が大きく二つ分かれていて、強制作用を帯びる行為態様と脆弱な被害者への付け込みが書いてある。三番目に、地位利用については、「第一」の「一1」の「(8)」に取り込まれた形と理解しています。   先ほども申しましたが、日本型不同意性交等罪が導入されたと考えています。これまで抗拒が著しく困難という判例の解釈が被害者を苦しめてきましたが、これを刷新する文言となっています。「同意しない意思」とすることで、抵抗義務問題を明確に排斥するというメッセージを発していると思います。捜査機関が適切に捜査してくださると期待しています。「同意しない意思」というのは、改正法の大綱を示しており、今後の捜査機関の運用と司法による解決の指針になるものと理解しています。   「Yes means Yes」の導入は、今後の課題となります。   また、諮問事項の「第一の三」の地位関係利用型については、先ほど申しましたように、「第一」の「一」に入っていると理解していますが、今後の運用で漏れる行為があれば改正が必要だと考えています。さらに、性交同意年齢ですが、16歳未満の者との性的行為は許されないという明確なメッセージを刑法典が示すことになったと受けとめています。例外を年齢差という明確なラインで設けている点については、5歳差というのはやや大きい気がしますが、およそ一律に処罰することは行き過ぎていると思っているので、条文の在り方としては支持したいと思います。 ○長谷川幹事 金杉幹事から述べられていた点について幾つか意見を述べたいと思います。   まず、金杉幹事から、今回の改正は処罰範囲を広げるものではないはずなのに広げているのではないかという御指摘がありましたが、その議論をしていたのは、「第一」の「一」のところの議論で、年齢引上げや新しく導入しようとしている懐柔する行為などについては、これまででは足りないので、改正する必要があるのではないかという観点からの議論だったと思います。そこは議論を混ぜてしまってはいけないと思っています。   それから、「第一」の「類する」について、罪刑法定主義との関係ですが、私は、今回のこの例示列挙があって、各例示列挙に類するという形の定められ方がしている「要綱(骨子)案」については、現行の刑法が、暴行・脅迫とか、抗拒不能、心神耗弱という要件を解釈で広げてきたということに比べると、行為態様がより具体的に示され、それに類するということであるので、現行の刑法よりも解釈の幅が曖昧だとは理解していないということを述べたいと思います。   それから、宮田委員がおっしゃっていたのは配偶者間の性的行為に関する明文化についてですが、これも、従前からも配偶者間で強制性交等罪が成立し得るということについて否定的な見解はなかったと思いますので、それを明文化したからといって、従前以上に配偶者間での性交等について、不必要に処罰範囲が拡大するとは理解していませんし、むしろ、配偶者間だからこそ法が立ち入らないとなっていて、被害者が保護されない現状になっていたことに鑑みますと、非常に大事な改正だと理解しています。 ○齋藤委員 基本的に「要綱(骨子)案」全体に賛成の立場であり、特に「第一」あるいは「第三」についてになりますが、「同意しない意思」という言葉が入ったことで、性的行為が性暴力となることの本質が、その人の同意意思とか感情にあるという、性暴力の研究で明らかであることが法律でも示されたように感じていますし、挿入行為の範囲に関しては、性的に侵襲されることの苦痛は、挿入する物に左右されないということも、また示されたように感じています。そして、フリーズしてしまうことであるとか、継続した暴力で抵抗する意思が奪われることなど、これまで被害当事者の方々が語ってきた、そして研究や臨床で示されてきた、被害に遭ったときの心理的な反応が理解されつつあることも、よかったと思っています。   これまで、私は様々な事案に関わってきましたが、これらの解釈のされ方、理解のされ方によって、一方で有罪になり、一方で被害届が受理されないであるとか、起訴も難しいというような事態が生じてきたように感じていて、そうした判断のぶれが、今回の改正で修正されていくことを願っています。   しかし、今回の改正で、これまでの判断のぶれが修正されていくためには、これは今後の課題ですけれども、被害に直面したときの人の反応や心理の適切な理解が不可欠となると思われますので、裁判所、検察庁、警察、弁護士、医師、もちろん自戒を込め、心理職、支援者、性暴力・性犯罪被害に関わる可能性のある全ての専門職が、継続した研修と学びを続けていくことが必要だと考えています。 ○山本委員 人間が社会的な動物であり、上下関係は多様に存在するという御意見に関して意見を述べます。上の立場の人は、下の立場の人の感情や意思を無視する傾向が高いという心理学的調査にもあるように、上の立場にある人が自分の都合のよいように相手の反応を読み替えて、受諾していると解釈をして、被害者にとっては性暴力となる性的行為を実行するということが、今まで起こってきたと思います。   そのようなノーと言いにくい立場にあったために意思に反した性的行為がされたという場合について、司法の中で曖昧さが残るとして取り上げられず、性暴力が性犯罪として裁かれてこなかった現状に関しては、強く異議を申し立てたいと思います。   性犯罪・性暴力が行われ、被害者は人生を大きく損なわれて苦しみ、生きていくのが難しいほどのダメージを受けているにもかかわらず、加害者が何も処罰されず、のうのうと普通に生活できる状況が続いてきたからこそ、性暴力は許される行為で、よくあることで仕方ないことという認識が広まり、性暴力の不処罰の文化を形成してきた。それが、この社会で性暴力が払拭されない原因だと考えています。   今回の法制審議会の場において、同意のない性的行為は処罰の対象であるという理解が一致したのは、非常によかったと思います。ただし、立場が様々違いますので、性的同意については、それぞれ学んできたことや経験により認識が異なるように思います。暴行・脅迫や監禁による同意は真の同意ではないということは一致していると思いますが、暗黙の、あるいは力関係の結果得られた同意については、この部会でも意見が分かれたと思います。例示列挙により示された部分もありますけれども、裁判の場で何が同意しない意思とされるのかについては、この部会の場ではまだよく見えませんでした。しかし、基本的に同意のない性的行為は処罰の対象であることは一致したのですから、性的行為の前に行われる性的同意についても、御理解を深めていただければと思います。性的同意の非対等性、非継続性、非強制性について、法律家と運用に関わる関係者、社会一般の理解が深まれば、同意のない性的行為が行われた時に、性暴力の実態に即した判断ができると思います。   何よりもお伝えしたいこととして、この同意のない性的行為が処罰の対象であるということが、明確に示されるということが大事だと思います。この同意しない意思という文言を性的同意の観点から、司法の場でも明らかにしてほしいと思っています。 ○井田部会長 ほかに御意見ございますか。よろしいでしょうか。   ここまでの御議論をお伺いしておりますと、本諮問に対してまだまだ御意見をお持ちの方はいらっしゃると思いますが、議論自体は尽くされたように思われます。そろそろ部会としての意見の取りまとめに移ってもよいのではないかと考えますが、いかがでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 それでは、これから部会としての意見を取りまとめたいと思います。   諮問第117号は、「近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると思われるので、左記の事項を始め、法整備の在り方について、御意見を承りたい。」というものでありました。   これを受けて、当部会において調査審議を重ねた結果として、本日、配布資料28の「要綱(骨子)案」が示されておりますので、取りまとめの方法としては、この「要綱(骨子)案」について採決することとしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 それでは、「要綱(骨子)案」について、採決いたします。   配布資料28の「要綱(骨子)案」を当部会の意見とすることに賛成の委員の方は挙手をお願いします。オンラインで御出席の委員の方は、その場で挙手していただき、そのことを画面上で確認できるようお願いします。              (賛成者挙手) ○井田部会長 次に、反対の委員の方は、挙手をお願いします。オンラインで御出席の委員の方は、先ほどと同様の方法で挙手をお願いします。              (反対者挙手) ○井田部会長 ありがとうございました。それでは、事務当局から採決の結果を報告してもらいます。 ○浅沼幹事 ただ今の採決の結果を御報告いたします。   賛成の委員が14名、反対の委員が1名でした。   なお、本日の出席委員総数は、部会長を除きまして、15名です。 ○井田部会長 ただ今、事務当局から報告がありましたとおり、採決の結果、「要綱(骨子)案」については、賛成多数により可決されました。   諮問第117号については、配布資料28の「要綱(骨子)案」のように法整備を行うことが相当であるとして、来るべき法制審議会総会において、部会長である私から報告させていただくこととなりますが、これについては、私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます。   当部会の会議は本日で最後になります。委員・幹事の皆様におかれては、精力的に御議論いただきまして、ありがとうございました。   この機会に、最後に御発言があればお願いしたいと思います。 ○渡邊委員 警察庁の刑事局長の渡邊と申します。前回のオンラインと、今回のみの出席になりますけれども、一言申し上げさせていただきたいと思います。   参加は、今申し上げた2回だけなのですが、それまでの議事録を、全てではありませんけれども、読ませていただきました。その上で、私どもとしては、今回の「要綱(骨子)案」に基づく法整備がなされて施行された場合には、本審議会における審議や、あるいは今後引き続く国会での審議等を踏まえて、正に適切な運用をしていかなければならないと考えています。   特に、私も議事録を勉強させていただいて感じているところですけれども、賛成・反対、いずれの御議論についても、私どもとしてはよく踏まえる必要があると考えています。この審議以前にも、私は警視庁刑事部長をしており、性犯罪捜査の実務については、それなりに問題意識を持っていましたので、正に適切な運用が行われるように、都道府県警察を指導してまいりたいと考えています。 ○山本委員 法制審議会において、1年4か月にわたり御議論いただき、本当にありがとうございました。意見の対立があり、どのような法律案になっていくのかと心配していましたけれども、文言に同意が取り上げられたのは本当に画期的なことだと思います。この会議を通して、異なる専門の方々が性犯罪・性暴力に対する理解を深めていただけたことも感じられ、感謝しています。それぞれに立場が違うので、不十分な点に対しても、多々意見がありましたけれども、このように意見をまとめていただいた井田部会長、法務省刑事局の方々に御礼申し上げます。   この法案が実現すれば、大改正になると思います。これまでも性暴力の実態に法律が対応できていないとして、様々な人々が声を上げてきましたが、余り聞き届けられませんでしたし、2017年までは、刑法の性犯罪規定が変わることはあり得ないと言われていた法律家の方もいました。今、この2023年にそれがかなえられようとしているのはなぜだろうかと考えます。   私は、2015年から刑法性犯罪改正に携わってきました。そのときは、顔と名前を出して性被害を訴えようとしている方は、10本の指にも満たなかったです。そのような人たちが、性被害の実態を伝えようとして声を上げても、メディアからはお茶の間にふさわしい話題ではない、本当のことか確認できないとして、退けられたこともありました。性被害の実態が伝わらず、性暴力や性犯罪を取り扱うニュースでは、性暴力が加害者の選択の結果であるにも関わらず、コメンテーターなどが、被害者が何かうまく対応できれば、このようなことは起こらなかったのではないかと、被害者を責めるような二次被害的な発言も多く聞かれました。そのため、性被害やセクシャルハラスメントを訴えることは非常に難しく、甚大な被害を受けながら、被害者は声も上げられず、なかったことにされてきました。被害が存在しないとされ、被害を受けた自分が受け入れられないことは、被害者にとってはこの社会から疎外され、抹殺されることを意味します。   今、その声が聞き届けられようとしているのは、いわゆる児童虐待防止法やいわゆるDV防止法が制定され、LGBTQIA+の方々への配慮ある対応が少しずつ進んでいることも、無縁ではないと思います。ジェンダー平等が進み、女性や少数派の方が管理職などの意思決定機関に参加することが必要とされてきていることも、影響しているでしょう。社会的立場に関わらず、一人一人の人権が尊重されることが求められるのであり、この流れは今後も進んでいくと思います。だからこそ、今回の法案により、同意のない性的行為が処罰の対象であることが、真に実現することを求めます。弱い立場にあった人が何を経験しているか、どのような体験をしているかを、強い立場の目線から一方的に判断するのではなく、その心情と経験を聞き、性的同意について理解した対応をしてほしいと思います。   司法においては、証言と証拠によって裁かれることは当然ですが、性暴力・性犯罪は、被害者と加害者しかいない現場で起こることも多く、証拠が残りにくい犯罪です。証拠や証言がないことを言い訳にせず、打ちのめされた被害者が、ここに行けば対応してくれる、支えてくれると感じられるような支援体制を作ってください。そして、家庭や施設という密室の中で被害を受ける方々にも、そのような支援が届けられるようにしてほしいと思います。   私は、基本的に性加害は強い立場の者が抵抗できない人、弱い立場の人、反撃できない人に行う、ひきょうで卑劣で許せない犯罪だと思っています。性暴力加害は、性的欲求によるものというよりも、加害者が攻撃、支配、優越、男性性の誇示、接触依存などの様々な欲求を、性という手段・行動を通じて自己中心的に従属させるために、被害者を物として扱うことと定義されています。意思ある人間を物として扱うことで、加害者はそのようなことができる自分の力に満足感を得て、支配欲を満たすことができます。   一方、被害者は、最終決定権が自分にあるはずの心身の支配権を奪われ、意思ある人間として扱われず、相手の意向次第で殺されるかもしれない、もっとひどいことが起こるかもしれないという、自分の未来が予測できない状態に陥れられ、人間としての尊厳を奪われ、人生も損なわれます。生きていくのが難しくなり、被害者の自殺や自殺企図は2.5倍から8倍になると言われるほど深く傷付けられた上に、同意していなかったことを証明しなければならず、その同意しない意思の証明は不十分だと言われる可能性があり、真の同意でなかったにもかかわらず、同意しない意思の表明・形成・全うが困難な状態ではなかったと言われる可能性があります。   性的同意の非対等性、非継続性、非強制性については、相手にノーと言ったにもかかわらず、それが無視されたり、同意しなかったら後から報復されることを憂慮しての同意は、対等な力関係ではなく、真の同意ではありません。また、キスしたからといって、性交に同意したことにならないように、一つ一つの性的行為について同意を得る必要がありますし、先週セックスをしたからといって、今日もセックスしなければいけないということではないように、一回一回の性的行為について同意を得る必要があります。そして、職位や年齢差やジェンダー差や何らかの権威によってプレッシャーを与えられ、同意せざるを得ない状態になっているかを判断することが重要です。   弱い立場の人は、はっきりとノーを示すことができません。相手の気分を害したら、何をされるか分からないからです。そのような状態を避けるために、性的行為に同意することすらあります。しかし、真の同意でなければ、それは人にダメージを与える性暴力です。プレッシャーの結果、自ら同意したように見えるようなケースの証明は非常に難しいと思います。ですので、同意がなかったことの証拠を被害者に求めるのではなく、相手が同意をしているかを確認したかということを問う規定にしてほしい。行く行くは、いわゆるスウェーデン型の任意の参加であるかを相手に確認したかという法律にしてほしいと望んでいます。そのためには、性的行為は常に積極的なもので、相手の弱い立場に付け込んでするものではないという社会の認識の変化も必要だと思います。そのような変化に向けて、広報・啓発や性的同意ワークショップなど、性的同意に対する認識を変化させるための活動にも取り組んでいかなければいけないと思います。   これまでも被害を受けた方が、そのことを恥と思わされ、公表すればすさまじい誹謗中傷を受け、傷付いた人が口を閉ざさなければいけないような社会状況がありました。何を言われるのか分からないというおそれや、聞いてもらえないのではないかという不安から、警察や性暴力ワンストップ支援センターに相談できない方もいます。今回の改正によって、同意のない性的行為は処罰の対象であることが明確に発信され、そのような被害を受けた人に、適切な取り扱われ方、対応がされるというメッセージを出すためにも、不同意性交等罪という名称にしていただくことを望みます。   また、検察官、警察官、裁判官、行政職員、医療職者、弁護士などへの研修を実施し、二次被害が起こらない適切な運用をしてもらえることを望みます。司法における性的同意とは何かということについては、刑法学者の方々に考えていただき、活発な議論の対象にしていただければと願っています。   今回、私は、被害当事者として発信させていただくことが多かったですけれども、委員・幹事の方々に、被害者の感情・感覚を聞いていただけたことで、性被害の実態に関する認識を得ていただけたのではないかと思います。今後、もし見直しが行われる場合には、自分がどうしてこうなっているのか、何でこんなに生きづらいのかなどと混乱してしまう被害者心理がよく理解されないことも多いので、心理・精神の専門家である齋藤委員、小西委員には今回御参加いただきましたけれども、更なる改正を議論される場においても、被害当事者、そして心理・精神の専門家に委員として入っていただければと思います。   今後私たちが目指すところは、性暴力が起こらない社会だと思います。WHO世界保健機構、ロンドン大学のジェンダー暴力研究センターが2010年に発表した調査では、性暴力に対する法的措置が公正で強化されたものであり、社会の意識変革がなされ、性暴力をしないのが当たり前のこととなり、男女が平等に働ける社会では、性暴力の発生率が下がることが明らかになっています。今回の法改正が、性暴力不処罰の文化を終わらせ、性暴力のない社会が実現できるよう、これからも皆様と一緒に取り組んでいければと思います。   最後になりますけれども、司法における性的同意が性暴力の実態と乖離することがないように、これからも見守っていきたいと思いますし、一人一人の感情や意思、人権が尊重されるという、時代の要請に応えられる司法運用をしていただければと思っています。本当にありがとうございました。 ○吉崎委員 採決後のこの段階で、裁判所における今後の取組などについて申し上げたいと思いますが、その前に、訴訟法に関係する点ですので、「要綱(骨子)案」の「第七」の証拠能力の特則の新設に関しまして、一言だけ申し上げさせていただきます。   先ほど近藤幹事からも御説明の引用があったとおり、委員・幹事の皆様から、今後の運用も、現状の司法面接的手法の対象の範囲を出るものではないといったイメージが示されたところです。御説明の言わんとされていることには、一応の得心がいったものの、その外延が明確とまでは言えないところでありますし、現在の「要綱(骨子)案」上の文言が、客体についても、司法面接的な措置についても、おっしゃるような運用イメージよりも広い運用を許す解釈の余地が残るものとなっています。   裁判、取り分け刑事裁判は、法廷で直接心証を採ることを旨とし、伝聞証拠による心証形成は飽くまで例外であるという大原則の下にあり、実務もこれに沿って運用され、これまでもこれからもそうでなければならないと考えているところです。当部会におきましても、この点は大前提として議論がされてきたものと信じています。前回会議における委員・幹事の皆様のこの点に関する御説明の正確な趣旨が、今後の運用に適切かつ長きにわたって反映されていくよう、強く求めるものです。   当部会に参加して本日に至る過程で、委員・幹事の皆様の御意見を拝聴したことは、改めて、性犯罪被害を受けた方の置かれた立場や実態について、学ばせていただく機会にもなりました。裁判の現場で実務を担う裁判官や書記官に対しては、その理解の促進につながるような研修や研究会を実施してきたところですけれども、今後も、当部会で得られたものをできる限り周知するとともに、研修等をより充実したものとするなどの取組を進めてまいりたいと考えています。 ○齋藤委員 2020年に性犯罪に関する刑事法検討会が開始されてから今日まで、長い時間いろいろな議論が行われていたと感じています。まずは、性暴力被害者の支援や研究に携わる心理職という法律の門外漢の意見に、真摯に耳を傾けてくださったことに感謝申し上げます。それは、性暴力被害の現実や支援の現場で起きている、法律と性暴力被害の乖離に耳を傾けようとしてくださったということだと思っています。   多くの委員・幹事の皆様にとって、想像したこともないかもしれない被害の現実もあったかもしれません。そうした現実を踏まえて、どのように、処罰すべきではない人を処罰することがないように、かつ、被害の現実が適切に捉えられる形にするか、真摯に考え続けてくださった結果が、今日の「要綱(骨子)案」だと思います。もちろん、今後、国会審議を経て、この案を踏まえた改正が行われたならば、定期的に適切な運用が行われているかを検討する必要もあるのではないかと考えています。   また、レイプシールドについては、性犯罪に関する刑事法検討会の時点で議論から落ちてしまいましたが、そのときにも述べましたとおり、研修や学びには、ジェンダーバイアスなど、私たちが持っている様々なバイアスを取り払っていく内容を含めていただきたいと思います。そして、司法面接に関しましては、懸念を含めて様々な意見があったことと思いますので、適切な運用のために議論を継続していただきたいです。   そして、公訴時効の議論のときにも述べましたが、公訴時効、あるいは撮影罪など、調査が必要な内容は山積しています。国が調査をしてこなかったことで、既に理不尽を負っている被害者が、更に理不尽を負う、そのようなことはあってはならないと思っています。現在、内閣府を始めとした民間も含めて、様々なところで性暴力の調査が行われつつあります。そうしたことも踏まえていただきたいと思いますし、また、性暴力の調査は、聞き方一つで引き出される内容が変わります。それは、性暴力が社会の中に偏見や誤解が蔓延しているために、被害を被害だと認識しにくい出来事であるということも一因です。   これまで様々な国の研究者がそうした点を考慮しながら、調査を行ってきました。日本においても、精緻な調査が行われることを願います。そして、そのデータは、性暴力の被害に遭った方一人一人が回答したデータです。中には、被害を思い出して、それこそ死ぬ思いをしながら回答をくださる方もいらっしゃいます。データの背景を含め、データが何を示しているのかを、適切に御理解いただきたいと考えています。   最後に、私は大学の授業で性犯罪の刑法改正、こんなふうに2017年に変わったのですよみたいなことも触れますが、多くの学生は、2017年の改正を把握していませんでした。それどころか、これまでは13歳以上は性的同意が可能だと思われていたことも、暴行や脅迫という要件があることも知りませんでした。自分の行為が加害になるのか、自分が行われた行為が被害であるのか、自分の大切な人に何が起きたか、そうしたことを国民一人一人が適切に理解できるよう、今回の改正を司法関係者の皆様はもちろんとして、社会全般にきちんと周知をしていただきたいと思います。 ○宮田委員 最近の刑事法の改正は、いずれも重罰化の方向に進んでおり、問題であると思います。今回の改正も、前回改正によって下限5年という大変重くなった強制性交等罪の法定刑を前提とした改正になりました。   何度も申し上げたとおり、比較法的に見て、このような法定刑は非常に重いものです。先ほど金杉幹事も発言したように、広く罰するのであれば、刑の下限を軽くする必要があります。そうすれば、例えば、被害者に対して誠意ある謝罪をして、加害者の方が治療などを受けることなどを和解の条件として話合いがつくものについては、検察官が説諭して起訴猶予で終えることも容易になるなど、弾力的な運用が可能になると思います。   現在、被害者との示談ができ、加害者がきちんと治療を受けて、入院までして、これからやっていこうということを被害者に評価していただいて、それで話合いがついたにもかかわらず、この下限5年という法定刑のために、起訴され、結局実刑になる案件がたくさんあります。自分が悪いことだと分かった、金銭賠償をした、これから治療も受けたいというような、被害者も評価してくれた誠意が刑事法廷では評価されない。これは、刑罰の効果を下げてしまうのではないでしょうか。ましてや、自分は本当はやっていないにもかかわらず、誤って処罰された方が、どのような思いでいるのかと考えないわけにはいきません。   そして、新聞報道などでは、日本の司法は性犯罪の被害者をないがしろにしてきたなどと報道されます。しかしながら、暴行・脅迫や抗拒不能という要件がありながら、法曹実務家が必死で、このような条件があれば暴行・脅迫と同視できるではないかとか、あるいはこんな状況で被害者が抵抗ができるわけないではないかという緻密な認定をして有罪判決を積み重ねてきた。そのような司法の努力については、全く無視された報道が垂れ流されていることに対しては、私は怒りを禁じ得ません。   そして、そのような司法の努力に対して理解がなされなかった原因には、判決データの公開の問題もあると思います。性犯罪については、非常に微妙な問題があるので、最高裁の国民に公開されたデータベースから性犯罪についての判決が除外されたことは、ある意味やむを得ないのかもしれません。ですが、今の民間のデータベースでは、認めていない、争った事件がデータベースに載ることはありますが、認めていて争いもなく終わった事件はほとんど載ることはありません。どういう事情でどういう判断がされたのか、どういう量刑がされたのか、我々は情報がないままで議論をしたことになります。我々法曹実務家、あるいは研究者の方々に対して、検察庁の判例データベースが公開されるなど、全判決の公開がなされ、法律の解釈についてもっと実質的な議論ができるような形での情報の公開がされることを、私は心から願ってやみません。   それから、我が国で処罰がされないのは構成要件が悪いからだという議論がありますが、証拠がないから罰されないことと勘違いしているのではないかと思える事柄もあります。裁判は証拠によらなければならないのです。先ほど山本委員も、性犯罪の被害は非常に証拠が薄いのだとおっしゃいました。そうしたとき、主たる証拠である被害者の供述が果たして信用できるものなのかどうかについては、客観的な事実や客観的な証拠によって裏付けられるものでなければならない。それは、全く虚偽の事実、全く架空の事実を司法が誤って処罰しないために、我々が見いだしてきた長年の知恵なのです。性犯罪であっても、そのことは無視できないものであるという大前提については、被害者の方々、被害者を支援する方々にも御理解いただく必要があるのではないかと思っています。私は、構成要件の問題と現に証拠に基づいて行われる事実認定の問題が、一緒くたになって議論がなされてきたのではないかという懸念を持ちます。   これをテレビで言ったところ、事務所に、お前なんか弁護士辞めろとか、私の勤めている法科大学院に、あんなやつ辞めさせろとか、電話がかかってくるなどしました。けれども、私は、私の正しいと思う意見を言い続けなければならないと思っています。   そして、最後に加害者とされた人への対応について述べます。無罪の人が罰されることは絶対にあってはいけないことなのです。刑務所で、無罪の人たちがどれほど苦しい思いをしているのかということを、お考えいただければと思います。   もう一つ考えていただきたいのは、加害者の属性です。過去に弁護した事件の中には、被害者の同意があったと思いこんだ、その認知のゆがみの原因が発達障害にあった事件がありました。今、性犯罪加害者に対して、刑務所では性犯罪プログラムが行われていますが、そのようなプログラムの前に、加害者自身の属性、コミュニケーションの特性がどうであるかを、きちんと見定め、それに対する教育・指導がなされる必要があると考えています。自分が加害者ではないと思っていると、加害者として処罰される立場を受け入れることはできないのです。そのような属性まできちんと考えなければ、性犯罪をした人が再犯を行うことを防ぐことも不可能であろうと思います。 ○長谷川幹事 私は、第1回会議で、望まない性的行為の被害者にもたらす結果の深刻さと、同意のない性的行為は許されないのだという当たり前のことを皆様と共有し、この部会での共通認識を社会全体の共通認識としていきたい、そのためにこの場を、課題を克服し、立法の技術を尽くして不同意性交等罪の実現に向けて議論する場としていきたいと、抱負を述べました。本日採決された「要綱(骨子)案」は、幾つかの論点でまだ不十分であると考えるところはあるものの、それは今後の運用・検証を踏まえた議論に期待することとして、大きな前進であると受け止めています。この議論に参加できたことを、うれしく思っています。   部会が終わるに当たり、最後に二点、犯罪被害者の支援を行っている弁護士の立場から、「要綱(骨子)案」の「第七」、被害者の録音・録画を証拠とするに当たってのお願いをしたいと思います。   一点目は、被害者のプライバシーへの配慮です。被害者の事情聴取では、会話の流れから、犯罪それ自体についてだけではなく、氏名、住所、勤務先、その他の刑事訴訟法上被害者特定事項とされる事項や、私生活上の事柄についても供述がなされることがあります。調書の場合には、供述がされても、立証に必要のない事項は記載しないということが可能ですが、録音・録画は、開始から終了までを撮影して、記録媒体に残すということになろうかと思います。録音・録画は証拠開示の対象となり、また、証拠採用された場合には法廷で再生されることになりますので、供述の録音・録画に際しては、必要以上に被害者特定事項や私生活上の事柄が供述され、録音・録画されることのないような配慮をお願いしたいと思います。   また、証拠開示や法廷での再生に際しては、刑事訴訟法第299条の3に規定されている、証拠開示における弁護人に対する被害者特定事項の秘匿の要請や、第290条の2の被害者特定事項を明らかにしない決定といった現行法上の制度を十分利用することはもちろん、第305条第3項のような、被害者特定事項を明らかにしない方法での再生のほか、見知らぬ他人からの被害などの場合、将来的に被告人に姿を見られることが、被害申告や供述へのちゅうちょを生じさせることもあることから、これを防ぐためにも、再生に当たって被告人・傍聴人からの遮蔽も必要と考えます。現行法上難しい場合には、法整備をするなどして、こういったことについても配慮、対応をしていっていただけたらと思います。   二点目です。被害者は、刑事手続の中で十分な説明を受けることなく、想定外の事態に直面して、手続の中で粗末に扱われたと感じたり、疎外感を持ったり、傷付くことがあります。新しい制度ができるわけですけれども、録音・録画の実施に当たっては、被害者・証人に対して、録音・録画が証拠となる場合には、法廷で一から説明する必要はなくなるというようなメリットの説明だけではなく、弁護人・被告人に証拠を開示されたり、法廷で再生されることがあり得るということを、それを防ぐための被害者保護の制度内容と併せて、十分説明していただきたいと思います。 ○山本委員 宮田委員の御発言で私の名前が出たのでお伝えしますが、先ほど、証拠・証言についてお伝えしたのは、なかなかそういう証拠・証言を確保するのが難しいけれども、それは、この社会の支援体制の不備が原因であるという観点からお伝えしました。私は、SANE、日本語では性暴力対応看護師でもあるので御説明します。性被害後にワンストップ支援センターや警察に相談し、医療機関につながることで、加害者の体液や体毛といった様々な法医学的証拠を採取し、被害者の状態などと併せて証拠と記録を残し、医療職者の証言などとともに性被害の証明として立証することが可能になります。日本でも徐々に行われていますが、国が定める統一した基準による運用ではないので、諸外国のようにどこの地域で被害を受けても同じレベルの質の高い支援が受けられるようにしていただきたいと思います。   また、不同意性交を性犯罪としているイギリスにおいても、裁判官は、決して証拠がないものを裁くのではなく、きちんとその事件が起こった前後の、店員の証言や、周りの人の証言を聞き、法医学的証拠採取などを採用して判断していると言われますので、そこが揺らぐことはないと思います。   また、いつも罪が重いと言われますけれども、何で死ぬほどのダメージを受けて、自殺率が高まるような、被害を受けているにもかかわらず重いと言われるのかが、本当に全く理解ができません。知的な障害があるなどといった加害者の特性によって、性的同意を理解することが難しい場合には、きちんと包括的性教育を行っていく必要があると思います。加害者の特性の考慮は必要ですが、それによって免責されるべきではないと考えています。世界の潮流としては、被害者がその状況に陥った時に、何を感じてどのような経験をしたかということを、正しく評価するということが、非常に重要であると言われています。ヴィクティム・センタードは、世界的な潮流です。被害者の経験・感情や感覚を中心に置いて考えないと、性暴力がない社会というのは実現できませんし、そのような理解を深めていただくことを願っています。 ○小西委員 本当に、真摯な議論を重ねていただいて、ありがとうございます。   私は、2017年の法改正のときの法制審議会にも参加させていただきました。この中にも、何人かはそういう方がいらっしゃると思いますが、この数年の性犯罪に対する社会の理解、それから、法学者の方の理解、司法関係者の方の理解というのは、非常に変わってきたと思います。当時も真摯に聞いていただいたのですけれども、たった数年前は、例えば、嫌だったらノーと言うはずだとか、虐待の被害者でも、繰り返しの後の方の頃になると抵抗できない人が多くいるということは、今は皆さん知っていると思いますけれども、当時はそういうことを力説しないといけないようなところがあって、法律の専門家の方々がこういう事実に対してどう考えているのかというのが、正直よく分からないという、孤立感を非常に持ちました。   今回は、それは大きく変わったと思っています。やはり法律を改正するということは大きな契機で、これによって、様々な性犯罪の実態が見えるようになったということは、大きいと思います。法改正だけではなく、先ほど山本委員も言われましたけれども、当事者の力というのも、今回非常に大きくて、被害の実態を示すことができるようになったかと思います。二つの会議で自分が言っていることは、余り変わらないのですけれども、周りがすごく変わってきたという感じを強く持っています。このことを考えると、やはり今回の法律で、最終的には国会を経なければどうなるかは分かりませんけれども、大体現在のような骨子が維持されるのだとすれば、大きな改正になって、運用がどういうふうになされるのか、どういう結果が出てくるのかということは、また次の改正に向けても、非常に大事だと思います。   今回様々な当事者の発言や法改正によるいろいろな変化がきっかけになって議論は進んでいるのだけれども、実証的なデータで直接示すところは、まだ十分ではないという気がいたします。そういう点では、この法律が改正されたら、その運用についてしっかり見て、しっかり議論するということが必要だと思いますので、私は、ここで言うことではないのかもしれませんけれども、法律の見直しということを法律の中に付け加えていただけたらいいなと思っています。   私の領域であるPTSDに関して言うと、戦争を除いて、市民生活の中で最も人に大きな影響、精神的な影響を与えるのが性暴力であることはもう間違いありません。どこの国であっても、どんな調査をしてもそうです。例えば、DVの中の性的な暴力も非常に影響が大きいことが、WHOの調査で分かっています。そういうことに基づいて、さらに、この法律に関しても実証データを積み重ねていただきたいと思っています。 ○井田部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。   ほかになければ、これまで部会に御出席いただいた井上関係官から、もし一言あればお願いいたします。 ○井上関係官 1年3か月余りの期間、14回にわたって熱心に御議論いただき、本日部会としての答申案を取りまとめるに至り、井田部会長を始め、委員・幹事の皆さんの御尽力に深い敬意と謝意を表させていただきたいと思います。お疲れさまでした。法制審への諮問に先立つ性犯罪に関する刑事法検討会での検討が1年くらいであったと思いますが、それをも含めると、随分長く議論をしてきましたので、本日御反対の方ももちろんおられましたけれども、ともかく一つの締めくくりを迎えることができ、ずっと拝聴していた私としましても、感慨深いところがあります。   問題が非常に複雑で、多面的なものであり、皆様それぞれのお立場や、御経験とかバックグランドの違いがあるため、実に多様な角度ないし視点から、様々な御意見が出ました。それぞれ有益に拝聴しておりましたが、それらの多様な御意見を的確に整理した上、基本法である刑法や刑事訴訟法その他の法律に適切な形と文言で落とし込み、改正に結び付けていかなければならないわけですが、その点で、皆様それぞれの言葉に対する感覚とかイメージが、かなり違っているというかズレがあるのを実感しました。それらをすり合わせて一つにまとめていくという点で、これまで私もかなり多くの刑事法関係のこういった審議に参加してまいりましたけれども、それらの過去の審議にも増して、非常に苦労が多かったように思います。その意味で、反対の結論を採られた方々も含めて、極めて真剣かつ熱心に取り組んでいただいたことをありがたく思っております。   また、私の立場で申すのはいかがかと思いますが、そういう様々な皆様方のお考えとか御意見をすり合わせて整理し、いろいろな文案を考えて、御指摘や、おそらくお叱りも受けながら、何度も練り直して文章を完成させていった事務方の尽力も非常に大きかったと思います。   これから本日まとめられた「要綱(骨子)案」を総会の方に報告して審議し、採択していただかなければならないわけですが、更にその上で、それを法案化して、国会の方に提出して審議いただく。その結果、無事に成立したとしても、それは、言ってみれば、装置といいますか、道具立てを作ったにすぎません。それを実際に動かして、御懸念のような副作用を併発させず、所期の効果を挙げていくためには、実務の各方面に携わられる方々、警察、検察、裁判所のみならず、刑事弁護や被害者の付添人とか代理人をお務めになる弁護士の方々も含めて、それぞれにおいて、真摯で真剣な御努力、御尽力を重ねていっていただかなければなりません。   特に、性犯罪に関する刑事法検討会からこの部会に至る一連の議論の経過をずっとたどっていれば、こういうまとめになった経緯やその趣旨はよく分かるのですけれども、従来の実務に慣れていて、今回の議論の経過をフォローしていない人がこのまとめの文書を見ると、恐らく仰天するのではないかと思います。実際、私も、実務界の知人からそういう反応を受けました。私自身、前の性犯罪に関する刑事法検討会の最後に申し上げたのですが、御議論をうかがっていて、いかに自分の中に、余り根拠のない固定観念のようなものが深く根付いていた、意識しないところに潜んでいたということが実感され、反省させられた次第です。先ほど小西委員がおっしゃったように、実務界の人達も大分変わってきたことは確かだと思いますけれども、現場にはいろいろな方がおられますので、まだまだ根深いところがあるように思います。   先ほど、各方面の責任ある立場の方々が、それぞれの持ち場で、今回の趣旨を実現すべく努めていくとおっしゃってくださいましたが、そういう最前線の現場の方々の意識改革ということも含めて、努力を積み重ねていく必要があるわけで、そのために、この部会での議論の経緯とか、皆様から出された様々な御意見も、適宜、繰り返しお伝えいただくなどして、法改正ができたならば、その改正の趣旨を周知徹底させていっていただきたいと思います。その意味で、今後の運用を注視していこうと思っています。どうもありがとうございました。 ○井田部会長 次に、事務当局から御発言お願いしたいと思います。 ○松下委員 事務当局を代表いたしまして、一言、御挨拶を申し上げます。   委員・幹事・関係官の皆様方には、御多忙のところ、今回の諮問につきまして、1年4か月という非常に長きにわたり、全14回の会議を重ねて、熱心に御議論いただきましたことに、厚く御礼を申し上げます。本当にありがとうございました。   また、井田部会長には、議事の進行や意見の取りまとめに格段の御尽力を賜りまして、誠にありがとうございました。   今回の諮問につきましては、平成29年6月に成立した刑法の一部を改正する法律の附則第9条において、「この法律の施行後3年を目途として、性犯罪における被害の実情、この法律による改正後の規定の施行の状況等を勘案し、性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」とされたことを受け、法務省において、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」及び「性犯罪に関する刑事法検討会」を開催した後、その結果を踏まえ、近年における性犯罪の実情等に鑑み、この種の犯罪に適切に対処するため、所要の法整備を早急に行う必要があると考え、諮問に至ったものです。   当部会においては、性犯罪に対処するための法整備の在り方について、様々な観点から幅広い御意見等を頂戴いたしました。御意見が相違する点もありましたけれども、活発な御議論を経て、皆様方の御尽力により、このような「要綱(骨子)案」を取りまとめられたことは、大変意義深いことであると考えております。   本日取りまとめていただいた諮問第117号に関する御決定は、今後開催される法制審議会の総会に部会長から御報告していただき、速やかに答申を頂戴したいと考えております。   その上で、法務省としては、法案の立案作業を進め、できる限り早期に関連する法律案を国会に提出したいと考えております。様々な御懸念・御意見も踏まえまして、国会審議もこれからございますけれども、知恵を寄せ合い、工夫をして、しっかりと乗り越えてまいりたいと考えておりますので、委員・幹事・関係官の皆様方には、今後とも引き続き御支援・御協力を賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。 ○井田部会長 最後に、私からも一言、御礼を申し上げたいと思います。委員・幹事の皆様には、コロナ禍が長引き、なかなか収束しない状況の下、いろいろな制約がある中で、この部会のためにいつも周到に準備して会議に臨んでくださり、それぞれ御専門の立場からの非常に貴重な知見を提供いただいたこと、こういう学際的と言ってもいいと思うのですけれども、それぞれに異なった分野、領域、関心方向から意見が交わされる際に生じる相互理解の難しさにもかかわらず、大いなる寛容の精神をもって対応してくださり、また、私の司会進行、しばしばふつつかなものであったにもかかわらず、大変高度なレベルの議論を展開してくださったことに対して、心より御礼を申し上げます。   元々性犯罪に対して、刑事法において、どのように対応するかという問題は、法律家の間でも意見が相当に厳しく対立するところです。法律家同士の見解の対立に加えて、法律家と法律家以外の方たちとの間でも、相当に考え方のギャップの見られる問題です。こういう幾重にも複雑な様相で見解が対立する問題について、一定の方向に結論を収れんさせていくという作業は、最初から極めて困難であることが見込まれ、途中で議論が行き詰まったり、頓挫したりしたとしても、全然おかしくはなかったと思います。何とか一定の成案を得ることができるとしても、委員・幹事がお互いにどこかで傷付き、妥協し、各自が、あるところではぎりぎり納得できるけれども、別の箇所でどうしても不満を持つというような、そういう作業以外ではあり得なかったと思います。   今回の「要綱(骨子)案」が、全体として現行法よりもベターな内容であるという点については、多くの委員・幹事が確信を持つところでしょうが、部分的には保守的・微温的であり、不満足だとする委員・幹事もいらっしゃるでしょう。逆に、ここまでいって果たして大丈夫か、一世代前の刑法学者の先生方だったら何と言うだろうかという不安を持つ法律関係の委員・幹事もいらっしゃると思います。そうしたこと全てにもかかわらず、最終的に一つの形に意見を収れんさせることができたということは、大きな成果であると自負してよいことでありますし、強い反対意見を示された方の御意見も、正にブレーキを掛けることを通じて、この「要綱(骨子)案」をこのような最終的な形にするのにあずかって大きな力があったと認識しております。その意味で、委員・幹事の皆様全員に、心から感謝を申し上げる次第です。   また、最後になりますが、事務当局の法務省刑事局の皆さん全員にも御礼申し上げたいと思います。この14回の会議、皆さんのサポートがなければ、今日この日にたどり着くことはできませんでした。特に、ここにいらっしゃる若手の刑事局の俊秀の皆さんには、委員・幹事を代表させていただいて、昼夜兼行の誠実なお仕事に対し、深く敬意を表するとともに、心から御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。   なお、本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して、公開することとさせていただきたいと思います。また、配布資料についても公開することとしたいと思いますが、そういう扱いでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○井田部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   以上をもちまして、当部会は終了いたします。皆様の御協力に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。 -了-