法制審議会 刑事法(情報通信技術関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和5年2月7日(火)   自 午後1時28分                       至 午後4時54分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 情報通信技術の進展等に対応するための刑事法の整備について         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○鷦鷯幹事 ただいまから法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会の第7回会議を開催いたします。 ○小木曽部会長代理 部会長代理の小木曽です。本日は、酒巻部会長が御都合で御欠席ですので、議事の進行を代行いたします。どうかよろしくお願いいたします。   改めまして、本日もお集まりいただきましてありがとうございます。   本日は、池田委員、佐久間委員、安田委員、吉崎委員におかれましては、オンラインで御出席です。酒巻部会長のほか、くのぎ幹事、井上関係官におかれては、所用のため御欠席と伺っております。   審議に入る前に、前回の会議以降、委員の異動がありましたので、御紹介いたします。   川原隆司氏が委員を退任され、新たに松下裕子氏が委員となられました。   また、大賀眞一氏が委員を退任され、新たに渡邊国佳氏が委員となられました。   初めてお二方が会議に御出席ですので、それぞれ一言ずつ御挨拶を頂戴したいと思います。   まず、松下委員、お願いします。 ○松下委員 松下でございます。1月10日付けで川原の後任として法務省刑事局長になりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小木曽部会長代理 続いて、渡邊委員、お願いします。 ○渡邊委員 警察庁の刑事局長を仰せつかりました渡邊と申します。大賀の後任で1月16日付けで着任いたしました。どうぞよろしくお願いします。 ○小木曽部会長代理 ありがとうございました。   続いて、事務当局から、配布資料について説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 本日、配布資料11として、「検討のためのたたき台(諮問事項「一」関係)」をお配りしております。配布資料の内容については、後ほど御説明いたします。 ○小木曽部会長代理 次に、事務当局から、調査審議の進め方について提案があるということですので、お願いします。 ○鷦鷯幹事 審議の進め方について、事務当局から提案させていただきたいことがございます。   当部会においては、刑事手続において取り扱う書類を電子的に作成・管理するとともに、オンラインにより発受すること、対面で行われる手続を映像・音声の送受信により行うことに関する法整備の在り方について御審議いただいているところですが、そうした法整備の在り方を検討するに当たっては、刑事手続に障害者の方が訴訟関係人あるいは事件関係者として関与することがあり得ることを念頭に置く必要があり、検討会の取りまとめ報告書においても、「障害者への配慮について」との項目が設けられ、「今後、更に具体的な制度設計やシステム等の整備の内容を検討するに当たっては、視聴覚の障害その他の様々な障害の有りようにも留意し、あらゆる場面を想定した検討が必要となると考えられる。」とされているところです。   前回の会議までに、諮問事項「一」から「三」までについて一通りの御議論を終え、今後、更に具体的な検討をすることとなりますが、ただいま申し上げた様々な障害の有りようにも留意した検討を進める上で、障害者御本人の視点からの御意見を直接伺う機会を設けることは、有益ではないかと考えられます。もとより、審議の進め方は部会において決定される事柄でありますので、御審議いただければと存じます。 ○小木曽部会長代理 ただいま、事務当局から、障害者に配慮した制度設計等に関して障害をお持ちの方から御意見を伺うことについて、提案がありました。   他の委員・幹事の皆様からも、そうしたヒアリングの実施について御意見を頂いていると事務当局を通じて伺っております。   諮問事項の審議に当たりまして、そうした方々からヒアリングを行うことは有益であると考えますが、いかがでしょうか。              (一同異議なし) ○小木曽部会長代理 御異論ないようですので、ヒアリングを行うということで検討を進めることといたしたいと思います。   ただ、実施するとしましても、どのような方々から、いつ、どのような形で御意見を伺うのが良いかということにつきましては、更に調整が必要と思われますので、部会の日程には組み込まずに期日外で行うという選択肢も含めて、実施方法等については、部会長に御一任いただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○小木曽部会長代理 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   ヒアリングの対象者、日時、場所、実施方法等が正式に決まりましたら、事務当局を通じて御連絡いたします。   それでは、審議に入りたいと思います。   前回の会議において御了承いただいたとおり、本日の会議から、まず、諮問事項「一」及び「二」について、法整備に向けた具体的な検討のためのたたき台となる資料に基づき、議論を行いたいと思います。   事務当局には、そのための資料を作成してもらいましたので、まず、事務当局から、資料の位置付けなどについて説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の位置付けなどについて御説明いたします。   配布資料11は、諮問事項「一」についてのこれまでの御議論を踏まえ、「書類の電子的方法による作成及びオンラインによる発受に関する規定の整備」、「令状の電子的方法による請求・発付・執行等に関する規定の整備」、「電磁的記録を提供させる強制処分の創設」、「電子的方法による証拠開示等」、「電子的方法により作成・管理される証拠書類等に対する公判廷における証拠調べの方式」の5項目について、それぞれ「考えられる制度の枠組み」を記載するとともに、法整備に向けた議論のたたき台となるよう、項目によっては既存の規定や民事訴訟法等の他の法令の規定を参考にした規律のイメージを点線枠内に示しつつ、検討課題を整理して記載したものです。   この資料は、飽くまで検討のためのたたき台として作成したものであり、これまでの配布資料7から9までと同様に、「考えられる制度の枠組み」に記載している内容は、それに限定したり、議論を方向付ける趣旨のものではありません。   また、「検討課題」についても、飽くまでこれまでの御議論を踏まえて現時点で考えられる主なものとして列記したものであり、ここに掲げられていない事項についての検討は行わないという趣旨のものではありませんので、「考えられる制度の枠組み」の内容自体の当否や要否も含め、記載のない事項についても、御議論いただければと思います。   配布資料11に記載されている「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」の詳しい内容については、「第1」の「1」から「5」までの各項目について議論をする際に、改めて御説明いたします。 ○小木曽部会長代理 ただいまの説明自体について、御質問等はございますか。よろしいですか。   それでは、ただいま事務当局から説明があった配布資料11に沿って、順に議論を進めていきたいと思います。   議論の進め方としては、この資料の「第1-1 書類の電子的方法による作成及びオンラインによる発受に関する規定の整備」から順に議論を行っていくこととしたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○小木曽部会長代理 それでは、そのように進めてまいりたいと思います。   まず、配布資料11の1ページから3ページまでの「第1-1 書類の電子的方法による作成及びオンラインによる発受に関する規定の整備」について、議論を行いたいと思います。   議論に先立ち、配布資料11の「第1-1」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、事務当局から説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の1ページから3ページまでを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)書類の電子的方法による作成」については、「ア」として、刑事手続において取り扱う書類であって電子的方法により作成されるものには、その作成者の署名押印・記名押印に代わる措置を採るものとすることを、「イ」として、電子的方法により作成された供述書又は電子的方法により作成された供述録取書であって「ア」の措置が採られたものは、他の要件も満たすときは、これを証拠とすることができるものとすることを記載しています。   また、「(2)オンラインによる発受」については、「ア」として、公訴の提起、抗告その他の裁判所に対する申立ては、オンラインによってもすることができるものとすることを、「イ」として、事件の送致及び書類の送達は、オンラインによってもすることができるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)書類の電子的方法による作成」に関しては、「考えられる制度の枠組み」の「(1)」の「ア」及び「イ」に関して、それぞれ「①」・「②」の点線枠内のような規律を設けるか、公判調書は、電磁的記録をもって作成するものとするか、その場合、「③」の点線枠内のような規律を設けるか、書面又は電磁的記録を記録した記録媒体が裁判所に提出された場合について、「④」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   また、「(2)オンラインによる発受」に関しては、公訴の提起、抗告等の裁判所に対する申立てをオンラインによりすることを可能とするため、「①」の点線枠内のような規律を設けるか、検察官・弁護人が裁判所に対する申立てをする場合について、「②」の点線枠内のような規律を設けるか、事件の送致及び書類の送達をオンラインによりすることを可能とするため、「③」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。 ○小木曽部会長代理 ただいまの説明内容について、御質問等はありますか。よろしいでしょうか。   それでは、議論に入りたいと思います。   検討課題の「(1)書類の電子的方法による作成」について御意見を伺います。   検討課題の「(1)」のうち、「①」と「②」、「③」と「④」は、それぞれ相互に関連すると思いますので、そのように分けて御意見を伺いたいと思います。   まず、「①」と「②」について御意見を伺います。「①」と「②」のいずれについてでも結構ですので、御意見のある方は、挙手などをした上で、いずれの点についてのものかを明らかにして、御意見をお願いしたいと思います。 ○久保委員 まず、「①」について申し上げます。   署名押印に代わる措置の具体的内容につきまして、裁判所の規則に委ねるという形になっております。裁判所の規則に委ねるとしても、電子データが紙媒体と比較して差替えや改ざん等が容易であり、かつ、事後的に検証が困難であるということについては、この部会で申し上げてきたとおりであり、それ自体を否定するような御意見はなかったものと思っております。また、その前提には、進関係官が検討会において御説明なさったことがあるものと認識しております。署名押印に代わる技術的措置は、署名押印と同様の機能を有するものである必要があります。それゆえに、署名押印に代わる措置によって供述調書の内容が確定され、事後的に差替えや改ざんができないようにする必要があります。事後的に差替えや改ざんの有無を検証し得る措置を採る必要があること自体は異論がないものと思いますし、具体的な方法としては、これまで述べたように、ログですとかメタデータの開示等であるべきだと考えておりますので、改めてこの点について申し上げます。   「②」について、引き続き申し上げます。   オンラインにより供述調書を作成する際の成り済ましや第三者の影響、改ざんのしやすさといった問題点については、この部会で申し上げてきました。このたたき台の中ですと、他の要件も満たすという表現になっておりますが、その中身を考えるに当たっては、単純に現行法の要件を満たすということではなく、オンラインによる方法であることに伴う改ざん防止措置などを含めた検討がなされるべきだと考えます。 ○保坂幹事 今の久保委員の御発言の一番最後のところで、取調べがオンラインで行われると成り済ましの可能性があるという話と、供述調書を電磁的記録で作成し、これまで紙であれば署名押印をしていたところをこれに代わる措置を採って作成が正しく行われたことを担保しようという話とは、どうつながるでしょうか。つまり、取調べで第三者が入れ替わって成り済ましているかもしれないではないかという懸念について、供述調書のデータに何を施すと成り済ましが防止されるのかというところがよく分からなかったのですが。 ○久保委員 これまで申し上げてきたところをかなりまとめてしまったので、混同したように聞こえてしまったのかもしれないですけれども、供述調書の改ざんという場面においては、捜査機関が事後的に改ざんできないようにすることが必要になると思いますし、オンラインで事情聴取をするということについては、聴取の対象となる者がどのような状況で、どのような人と一緒にその聴取を受けているのかが問題になります。聴取をオンラインでし、かつ、供述調書もオンラインで作成するということになると、供述調書ができるまでの過程で聴取者と聴取対象となる者が一度も対面をしないということも想定され、内容において第三者の影響などが問題となる場合もあれば、事後的に供述調書が改ざんをされる余地が出てくるという問題が生じ、この二つがあいまって、これまでとは異なる問題点が生じますので、これまで以上にその点について検討が必要ではないかという趣旨になります。 ○小木曽部会長代理 ほかに、この点について御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。   では、続いて、検討課題「(1)」の「③」と「④」について、御意見を伺いたいと思います。いずれの点についての御意見であるかを明らかにして、御発言をお願いします。 ○池田委員 「③」と「④」に関連して、事務当局に一つ、この段階で質問させていただきたいことがあります。   公判調書や提出書面・提出記録等の取扱いに関し点線枠内のような規律を設けるべきかということについては、これまで、検討会においても、あるいは当部会においても、こういった具体的な形では必ずしも明示的には議論されてこなかったものと思います。   先ほども御説明いただいたように、点線枠内にある規律は、さきの民事訴訟法の改正を参考にしたものと理解していますけれども、これがどのような趣旨で設けられたかについて、資料を準備された事務当局にお尋ねできればと思います。 ○鷦鷯幹事 事務当局から御説明いたします。   御指摘のとおり、この点線枠内の規律案は、昨年成立した民事訴訟法等一部改正法による改正後の民事訴訟法の規定を参照しているものです。その民事訴訟法の規定においては、裁判所書記官は、口頭弁論について、期日ごとに、電子調書を作成しなければならず、また、裁判所に対する申立て等が書面等によって行われたときや、法令の規定に基づき裁判所に書面等が提出されたとき、それから電磁的記録を記録した記録媒体が提出されたときは、当該書面等に記載された事項や当該記録媒体に記録された事項を、裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録しなければならないものとされております。   これらの趣旨については、訴訟記録の電子化をできる限り進めることにより、インターネットを利用した閲覧や送達等も可能となり、訴訟記録を作成・管理する裁判所の事務の効率化のみならず、民事訴訟手続の利用者全体の負担軽減や手続の円滑化につながることから、訴訟記録が原則として電子化されるようにするために設けられた規律とされているところです。   御指摘の検討事項「(1)」「③」・「④」の点線枠内の規律案については、そのような改正後の民事訴訟法の規律を参考に、刑事手続においてもこれと同様の規律を設けるとすればどのようなものが考えられるかという観点からの御議論を頂きたいと思います。 ○池田委員 御説明を頂き、ありがとうございました。頂いた御説明を踏まえて意見を申し上げますと、「第1-1」について制度の在り方を検討するに当たっては、検討会においても全委員の共通認識として確認されていたように、現在紙媒体で作成・管理されている書類が、できる限り広く電子的方法により作成・管理されることとなるようにすることが、刑事手続に関係する各機関の事務の効率化のみならず、刑事手続に関与する方の負担の軽減に資するのであって、ひいては刑事手続のより効率的で適正な運用に資することとなるという観点が肝要であり、そのような考え方は、ただいまの御説明にあったように、民事訴訟法における議論でも共通するものであって、刑事手続でも、このような考え方が踏まえられるべきだろうと考えております。   そうした観点からは、ここに示していただいておりますように、刑事手続においても、公判調書等の訴訟記録は、できる限り電磁的記録として作成・管理されることが望ましいといえますし、また、提出された書面や記録媒体についても、裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録するという規律を設けることが考えられるように思います。 ○向井委員 刑事手続に関する訴訟記録の電子化をできる限り図っていくという大きな方向性自体には異論はございません。   他方で、裁判所に提出されます書面等の電子化に関する規律の在り方については、紙媒体で提出される書面が申立てに関する書類なのか、証拠書類なのかといった各種書類の内容・性質、また、この辺りは後で議論が出ることかと思いますけれども、電子データのオンライン提出の当事者への義務付けの可否、そして、電子データでの提出を義務付ける書類の範囲といったことも踏まえて検討する必要があると考えております。その辺りの事情を考慮せずに、裁判所に書面等が提出された場合には裁判所書記官において原則的に電子化して記録するということだけを先行して、その適否を考えていくというのは適当でないのではないかと思われます。 ○小木曽部会長代理 ほかに、「③」と「④」につきまして、御意見はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、先に進みたいと思います。   次に、検討課題の「(2)オンラインによる発受」について、御意見を伺います。   検討課題「(2)」の「①」と「②」は相互に関係すると思われますので、まず、この二つについて御意見を伺い、その後に「③」について御意見を伺いたいと思います。   まず、「①」と「②」について御意見を伺います。先ほどと同じで、いずれの点についての御意見であるかを明らかにして、御発言をお願いしたいと思います。 ○成瀬幹事 検討課題「(2)」「②」の点線枠内の規律案について、事務当局に質問をさせていただきます。   ここでは、検察官や弁護人が裁判所に対して申立てをする場合には、オンラインによることを原則とする旨の規律を設けるか否かが検討課題とされています。そこで、これまでの議論を振り返ってみますと、裁判所に対する申立てに限らず、現在、紙媒体の書類を発受することにより行われている手続を、できる限り広くオンラインにより行うこととすることが、事務のより一層の効率化・迅速化及び刑事手続に関与する者の負担の軽減に資するものであり、ひいては刑事手続のより効率的で適正な運用につながるという御意見が多くの委員・幹事から示されており、このような認識は、検討会においても、当部会においても、共有されてきたと思われます。   恐らく事務当局の皆様は、そのような認識を前提として、昨年成立した民事訴訟法等の一部を改正する法律を参考にしつつ、「(2)」「②」の規律案を作成されたものと拝察しておりますが、その趣旨について改めて御説明いただけますでしょうか。 ○鷦鷯幹事 御質問のありました検討課題「(2)」「②」について、趣旨を説明させていただきます。   御指摘のとおり、こちらの案についても、昨年成立した民事訴訟法等一部改正法による改正後の民事訴訟法の規定などを参照しているものです。それらの規定においては、「訴訟代理人のうち委任を受けたもの」については、「当該委任を受けた事件」について裁判所に対して申立て等をするときは、民事訴訟法第132条の10第1項の方法、すなわち、電子情報処理組織を利用したオンラインの方法による申立てを義務付けることとしております。   これは、申立て等がオンラインによりなされ、訴訟記録が電子化されることにより、書面管理等のコストを削減することができ、ひいては訴訟手続の迅速化・効率化が図られることとなって民事訴訟に関する社会全体のコストが削減されることとなること、また、弁護士等の法律専門職にある者は、職務として民事訴訟手続に関与するものでありますから、訴訟手続の迅速化・効率化に率先して取り組むことを期待することができ、また、一般に、インターネットを用いた申立て等に対応する能力を十分に有しているものと考えられることによるものとされているところです。   御指摘の検討課題「(2)」「②」の点線枠内の規律案につきましては、そのような改正後の民事訴訟法の規律を参考に、刑事手続においてもこれと同様の規律を設けるとすればどのようなものが考えられるかという観点から、御議論を頂ければと思います。 ○成瀬幹事 丁寧に御説明くださり、ありがとうございました。ただいまの御説明を踏まえて、私の意見を申し上げます。   民事訴訟法において、原告・被告の訴訟代理人となる弁護士が裁判所に対して申立て等をするときは、原則としてオンラインにより行うことを義務付けるものとした趣旨は、刑事手続にも基本的に妥当すると思われますので、「(2)」「②」のような規律を設けることも検討に値すると考えます。   ただし、実際にオンラインによる申立てを原則とする旨の規律を設ける場合には、これまでの議論において適切な例外を設ける必要性が繰り返し指摘されてきたことにも留意すべきです。   例えば、第2回会議において、久保委員から、オンラインによる申立てを原則としつつも、オンライン以外の申立てについて、刑事手続の特性を踏まえた制度設計をすることが重要である旨の御指摘がありました。民事手続と異なり、刑事手続においては様々な場面で迅速な申立てが求められますので、そのような手続の差異を踏まえた例外の在り方について具体的に検討していく必要があるでしょう。また、裁判所に対する申立て以外の手続における規律の在り方についても併せて検討すべきだと考えます。 ○久保委員 今、成瀬幹事からも御指摘がありましたように、やはり刑事手続がどういうものであるかということを踏まえたオンラインの発受であるべきと考えます。   まず、弁護人は検察官とは異なり、接見などのために事務所外で執務をすることが多々あります。常時オンラインによる申立てができる環境にあるとは限りません。仮に紙媒体の提出を認めないということとすれば、事務所外で紙媒体をPDFに変換し、オンライン申立てができる仕組みを設ける必要があるように思われますが、それによってかえってセキュリティリスクを高めるような場面も想定されます。   このたたき台における申立てがどこまでの書類を含むのかということについては判然としませんし、先ほど向井委員からも、各種書類の性質に応じた検討が必要であるという趣旨の御指摘があったと思います。それ自体は私もそのとおりだと思います。例えば、弁護人選任届について考えますと、警察署や拘置所は電子データでの差入れであるべきものの、仮に紙媒体で弁護人選任届を差し入れるということになれば、弁護人は接見先の警察署等で被疑者・被告人から弁護人選任届を紙で受領し、それを電子データに変換して司法警察員・検察官又は裁判所に提出しなければならないということになりかねません。紙媒体をPDFに変換することができないとか、事務所外の端末から裁判所のシステムにログインできないとか、そういった問題がある場合には、現在以上に不便になるということも考えられます。もちろん、それゆえに弁護人選任届をオンラインによる発受の対象外とするべきということではございません。   そういった書類の性質に応じ、様々な選択肢を対等な形で設けるべき場面も考えられます。例えば、裁判所や検察庁、拘置所等に、紙媒体をPDFに変換し裁判所のシステムに登録することを可能とする端末を設置するといったことは考えられますが、裁判所や検察庁、拘置所の開庁時間以外は利用できないということにもなりかねません。そもそも、オンラインシステムのために裁判所等に行かなければならないとすることは本末転倒であり、弁護人が検察官とは異なり、接見に行った上で外部で速やかな提出をすることが必要となる業務であることを前提としたオンライン化がなされなければならないと考えます。繰り返しになりますが、オンライン化によりかえって利便性が損なわれるようなことになるのであれば、IT化はすべきではないということになります。   次に、先ほど成瀬幹事から御指摘のあった刑事と民事の違いということについて、私なりに考えてみたことを御説明したいと思います。   民事は準備書面や証拠の提出が中心となると思われます。次回期日というのはおおむね1か月程度先に指定をされ、期日の1週間前ぐらいに準備書面を提出することが予定されます。裁判を受任する段階においても、万が一システム障害が生じることにも備えて訴状の提出のタイミングなどを調整することもできます。   それに対して、刑事事件では、逮捕・勾留は突然なされ、身体拘束を伴います。たった一日がその被疑者・被告人の人生を左右しかねないという性質を持っております。システム障害があったから翌日提出しますという対応をすることで、仕事や家庭を失うということも想定されます。   オンラインは、選択肢を増やす方向で検討するべきであって、現在より不便になり、身体拘束が延びることを想定されるような制度とするべきではありません。私たちは国選弁護人に選任され、接見に行った帰りに、そのまま準抗告の申立書を時には紙で手書きで作成し、その足で裁判所に提出するということを今も行っています。それがなぜかといえば、被疑者・被告人にとって、そのたった数時間や一日が非常に大切なものだということを接見を通じてよく実感しているからです。   また、今回のたたき台においては、在宅の被疑者・被告人、身体拘束中の被疑者・被告人がどうなるかといった面も考慮されておりません。これについては、刑事と民事の違いという点を踏まえても、民事事件においても本人が使える制度となるのであれば、被疑者・被告人がオンライン提出ができるといった仕組みも考えられるべきだと考えます。   さらに、また別の話になりますけれども、民事訴訟においては私自身も受任した事件の様々な場面でTeamsを使ってまいりました。システム障害がかなり多いというのが実感です。そのTeamsのシステム障害の原因が事後的に明らかになるかというと、必ずしもそうではありません。なぜか期日の時間にTeamsにログインをしようとしてもログインができず、結局その原因は不明のままで、場合によっては持っているデバイスの問題ではないかという回答を得ることもあります。それをどうやって事後的に検証できるのかという問題があります。例えば、自分のパソコンからたまたま接続ができず、紙で申立てをし、事後的にやむを得なかったと答えればそれで足りるということであれば、事実上、選択権があるに等しいので、それであれば大きな問題にはならないかもしれませんが、義務付けのような規定になると、必ずしもそうとは考えられません。システム障害というのは裁判所側や検察庁側の事情に限るものではありませんし、それが全て弁護人側の責められるべき事由となるということはおかしいと考えます。   民事訴訟の準備書面であれば、提出できなくとも、法定の期限を超えるようなものでない限り、一日提出が遅れるだけということもできますが、先ほども申し上げたように、刑事事件で一日遅れるということは被疑者の身体拘束が一日延びるということであり、それは比較のしようがありません。極端に言えば、弁護人側のパソコンの問題として外部から接続できないとして、それが弁護人の責めに帰すべき事由があるからといって提出できないものとすることにより、弁護人のパソコン環境が被疑者の不利益に転嫁されるということ自体がそもそもおかしいと考えられます。解釈は刑事と民事では異なることはもちろんですが、責めに帰すべき事情という表現自体に強い違和感を覚えます。被疑者・被告人、本人側の緊急性や必要性といった事情も取り込んで検討されるべきだと考えます。 ○𠮷澤委員 ここでは、検察官・弁護人が裁判所に対する申立てをする場合について取り上げられており、被害者参加弁護士については触れられていません。被害者参加弁護士は検察官を通して手続に参加することが多く、手続上、余り裁判所に対して直接申立てを行う場面はないのですが、刑事訴訟規則第217条の35においては、「法第316条の34及び第316条の36から第316条の38までに規定する行為を弁護士に委託した被害者参加人は、当該行為を当該弁護士に行わせるに当たり、あらかじめ、委託した旨を当該弁護士と連署した書面で裁判所に届け出なければならない」とあります。   これまで、この部会の中で、現在でも電子データで作成されている裁判所等に対する申立書といった手続書類については、裁判所と訴訟関係人との間では原則としてオンライン化を目指すべきということで認識は共有されていたと思います。その点からしますと、先ほどの委託申出書も通常、被害者参加弁護士が電子データで作成しているものだと思いますので、原則オンラインでの提出ということになるのだと思います。そして、これを「②」にあるように原則的に義務化するかどうかは、将来的にはあり得るものだとしても、先ほど久保委員がおっしゃった点も関連しますが、かなり慎重に段階を追って実現していく必要があるとも考えています。   現在、刑事手続に先行して民事裁判においてIT化が進められているところですが、まだまだシステムの不具合であったり、操作に慣れていないということもあるのだと思いますが、スムーズに手続を進められている状況ではありません。例えば、ウェブ期日として設定され、裁判官だけが裁判所の部屋におり、両当事者である弁護士がそれぞれの事務所からTeamsで接続し、オンライン期日を開催する予定になっている場合でも、一方当事者若しくは裁判所の接続が遅れたり、また、そもそもTeamsがつながらないといった事象もたまに発生し、結局電話会議に切り替えるという状況もあります。また、現在は、Teamsを利用して書面をアップロードしたり、ダウンロードするということも実施されてはいますが、Teamsは午後8時30分までの利用という時間の制限があり、また、土曜、日曜は終日利用できず、サインイン自体ができない状況です。ですので、例えば、これまでであればファックスで24時間、書面の提出が可能であったのに、オンライン化により決まった時間以降は書面提出や受領すらできないという状態になっており、オンライン化したことで、Teamsの問題ではありますけれども、逆に不便になったという声もあるくらいです。   刑事手続において扱う書面については、民事事件よりも時間、期間制限にシビアなケースも多いので、例外的にそのようなオンラインによらない提出も設けるということも考えるべきであると思いますし、その内容も民事に比較してかなりセンシティブなものであることは間違いありませんので、それを間違いなくスムーズに多くの人が利用できるようになるには相当な時間が掛かると思います。ですので、十分な検証を行いながら慎重に移行すべきものだと考えています。 ○向井委員 部会の第3回会議でも述べたところですが、紙媒体と電子データが混在するということは、記録の管理などの観点から見て、合理的で適正な事務処理を阻害するおそれがありますので、可能な限り避けるべきであろうとは考えております。捜査機関や弁護人においてパソコン等により作成された書類が提出されることが一般的であるといった書類につきましては、合理的な理由がないにもかかわらず紙媒体を提出するということは相当ではなく、そういった意味で御提案された規律の方向性は望ましいと考えます。   なお、当事者が裁判所に対して書類を提出する場面としましては、先ほど来御指摘のある各種申立ての場面のほか、証拠の提出の場面もございます。訴訟記録の全面的な電子化を目指すという場合に、証拠の提出場面についての規律をどのようなものにするのが適切かといった点については、場面に応じて検討していく必要があると思います。 ○小木曽部会長代理 そのほか、この点について御意見はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、「(2)」の「③」について御意見がありましたら、お願いいたします。 ○向井委員 「③」について、書類の送達をオンラインによりするということを可能とするために、裁判所の規則に特別の定めのある場合を除いて、民事訴訟に関する法令の規定を準用するという大きな方向性には異論はございません。   他方で、民事訴訟法に新たに定められた電子情報処理組織による送達に関し、改正民事訴訟法第109条の2は、送達を受けるべき者が電磁的記録に記録されている事項につき閲覧又は自ら使用する端末への記録、ダウンロードをすることができる措置を裁判所が採るなどとされており、送達を受ける者によっては、この方法によってオンラインで送達を受けることが困難な場合もあるのではないかという懸念があります。   部会第3回会議でも述べましたとおり、裁判所が頻繁に書類を送付する相手方としては、検察官や弁護人のほか、身柄拘束中の被疑者・被告人がおります。このような者に対する送達は刑事施設の長に対してするものとされておりますが、刑事施設の長に対してオンラインによる送達を実施するに際しても同様に、民事訴訟法で採用された電子情報処理組織による送達の方法とは別の方法も視野に入れて検討していく必要があるのではないかと考えております。   それから、在宅や保釈中の被告人について、先ほど久保委員からも御指摘がございましたけれども、民事訴訟法の電子情報処理組織による送達を刑事訴訟法にも準用するという場合、身柄拘束を受けていない被告人について電子情報処理組織による送達を適用するのかどうかについては、慎重な検討をする必要があると考えております。すなわち、送達は、訴訟関係人に対して訴訟上の書類の内容を了知させるため、法律で定める一定の方式に従って書類を交付し、又は交付を受ける機会を与えることにより、訴訟法上の一定の効果を生じさせる裁判所の職権的行為でありまして、その性質に鑑み、確実かつ迅速に行われる必要があります。この点、民事訴訟法の定める電子情報処理組織による送達は、送達を受ける者による通知先の届出や、裁判所のシステムへのアクセスを前提といたしますが、刑事訴追を受ける立場の被告人に裁判所のシステムへの積極的なアクセスや通知先の変更の届出等を適時にしてもらうことなどを期待できるのかということについて疑問があり、確実かつ迅速な送達が実現できるのかについて懸念があります。   また、改正民事訴訟法第109条の3第1項第3号では、届出先への通知から1週間で送達の効力が生じ得る旨規定されておりますが、刑事手続における被告人との関係でそのようにみなすことが適切なのか、仮にそのようにみなすとして、1週間という期間が適当なのかといったところも問題になり得るように思います。   したがいまして、在宅や保釈中の被告人につきまして、民事訴訟法の採用する電子情報処理組織による送達の規定を適用するに際しては、検討すべき課題や問題点が多々あると思われますので、その必要性・相当性について慎重に検討をする必要があると考えます。 ○久保委員 今の向井委員の御発言を受けて、1点考えたことがありますので、申し上げます。   今、向井委員から、考えられる送達先として、検察官や弁護人のほかに、在宅の被疑者や保釈中の被告人、刑事施設の長が挙げられました。在宅の被疑者や保釈中の被告人に裁判所のシステムへのアクセスへの協力を求めるのが困難な場面が生じるということについては、私としても賛同するところです。そうしますと、オンラインによる送達の対象から在宅の被疑者や保釈中の被告人を除外することも想定されます。   今回の「③」に直接関連するところではないのですが、前回の部会で送達に関する刑事罰についての議論がございました。在宅の被疑者や保釈中の被告人が送達の対象とされないとすると、刑事施設の長のみが主たる対象となると考えられます。今後、実体法に関してもたたき台を準備されることと思いますが、処罰範囲を明確化するため、処罰範囲を刑事施設の長や刑事施設の職員に明示的に限定するような形でたたき台を作っていただきたいと思いましたので、ここで申し上げたいと思います。 ○保坂幹事 向井委員と久保委員にそれぞれ一つずつ質問、確認したいことがあるのですが、まず、向井委員がおっしゃった身柄拘束中の被告人に対する送達のところで、民事訴訟法を準用することになると、刑事施設の長に電子情報処理組織を通じた送達が行われることになるけれども、刑事手続においてはそれが適切でない場合があるから、そうではない方法も用意すべきだとおっしゃったのか、そこが聞き取れなかったので、仮に適切でないとすると、どういうことをおっしゃっているのか、どういう規律が必要なのかというのをお伺いできますか。 ○向井委員 刑事施設の長への送達が電子情報処理組織による送達できちんとできるという体制が整っているのであれば、それはそれでよろしいのかと思うのですけれども、むしろ民事訴訟法の定める送達の方法でうまくいかないというのであれば、別途のオンライン送達の方法も考えなければいけないのではないかということです。その場合に、直ちに紙で行うというのではなくて、民事訴訟法の定める方法とは別途のオンラインの方法を定めて送達を行うべき場面があるのではないかということです。民事訴訟法の定める電子情報処理組織による送達がうまくいくのであれば、特に問題はないのではないかと考えております。 ○保坂幹事 ありがとうございます。   それから、次に久保委員に御質問ですが、在宅とか保釈中の被告人に対する送達で、民事訴訟法を準用して電子情報処理組織による送達の対象にすべきでない場合もあるのではないかという趣旨だと思います。別に無理強いするわけではなくて、この方法による送達は届出をしている場合に限られるわけで、言わば届出をすればそういう便利な方法で送達を受けられるということなのだろうと思うのですが、それでもなお適切でない場合というのはどういう想定でしょうか。 ○久保委員 今おっしゃったように、本人が希望しない場合にそれを無理強いするようなことがあってはならないというところが一番の主眼にはなりますので、それを前提として確認しておきたいという趣旨です。その上で、今後のたたき台について意見を申し上げたものと御理解いただければと思います。 ○保坂幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○小木曽部会長代理 「③」について、ほかに御意見はよろしいですか。   これで「第1-1 書類の電子的方法による作成及びオンラインによる発受に関する規定の整備」についての議論はひとまず終えることになりますが、検討課題として明記されていない点に関するものも含めて、「第1-1」について、御意見はよろしいでしょうか。   それでは、次に、「第1-2 令状の電子的方法による請求・発付・執行等に関する規定の整備」について、議論を行います。   議論に先立ち、配布資料11の「第1-2」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の4ページから6ページまでを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」として、令状は、電子的方法により作成してオンラインにより発付することができるものとし、その令状には、裁判長・裁判官による記名押印に代わる措置を採るものとすることを、「(2)」として、令状の請求及び疎明資料の提供は、オンラインによってもすることができるものとすることを、「(3)」として、「(1)」により発付された令状を執行するには、これを電子計算機の映像面に表示し、又は紙面に印刷したものなどを処分を受ける者に示さなければならないものとすることを、「(4)」として、刑事訴訟法第119条の証明書及び同法第120条の目録の交付は、電子的方法により作成したものをオンラインにより提供することによりすることができるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)令状の電子的方法による発付」に関しては、電子的方法により作成した令状をオンラインにより発付することを可能とするため、「①」の点線枠内のような規律を設けるか、電子令状に関し、裁判長・裁判官の「記名押印」に代わる措置について、「②」の点線枠内のような規律を設けるか、紙媒体の令状の「返還」が果たす機能を電子令状についても確保するため、「③」の点線枠内のような規律を設けるか、紙媒体の令状と電子令状のいずれを発付するかの選択について、「④」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が検討課題となります。   また、「(2)令状の電子的方法による請求」に関しては、令状の請求に係る書類を電子的方法により作成してオンラインにより発受することを可能とするため、点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、「(3)」の令状の執行の手続に関しては、電子令状の執行について「①」の点線枠内のような規律を設けるか、電子令状の緊急執行を可能とするため、「②」の点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、「(4)被処分者に対する証明書等の電子的方法による提供」に関しては、これを可能とするため、点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。 ○小木曽部会長代理 ただいまの説明に関して、御質問等はございますか。 ○久保委員 配布資料では、令状は、電磁的記録をもって「発付することができる」とされておりまして、電子令状と紙媒体の令状が、捜査機関の選択によって自由に選べるように読めると思います。また、検討課題の「(1)」「④」では、紙媒体の令状が原則であり、希望があった場合に限り電子令状を発付することができるというような規定ぶりにも読めます。この点について、どのように読めばいいのかについてお伺いできればと思います。 ○鷦鷯幹事 御指摘の規律案の趣旨について説明をさせていただきます。   令状は、他の種類の書類とは異なり、様々な場所で様々な相手方に呈示して執行することが予定されるものであるため、電子令状の発付を受ける側において、それに適した特別な機器やシステムが整備されていることが前提となり、それを欠く場合には、電子令状が発付されても執行することが困難となることも考えられることなどを考慮し、電子令状は、請求者がこれを求めるときに発付するものとすることを記載しているものです。もとより、これは飽くまで案ですので、参考にしていただきつつ、規律の在り方について御議論いただければと思います。 ○久保委員 ありがとうございます。今おっしゃったように、書類の種類ですとか緊急性に応じてその提出主体が選択権を持つということは重要だと思います。弁護人が提出する書類についても、やはり書類の性質とかその緊急性に応じて提出主体が選択権を保持することは重要だと考えますので、改めて申し上げたいと思います。 ○小木曽部会長代理 資料そのものについての御質問がほかになければ、議論に入りたいと思いますが、よろしいでしょうか。   それでは、議論に入ります。   まず、検討課題「(1)令状の電子的方法による発付」について、御意見を伺います。   検討課題「(1)」の「①」から「④」までは、相互に関連すると思われますので、併せて御意見を伺いたいと思います。いずれの点でも結構ですので、どの点についての御意見であるかを明らかにした上で、御意見を頂戴したいと思います。 ○成瀬幹事 今、久保委員から御指摘があった検討課題「(1)」「④」の規律案について、改めて私からも事務当局に質問をさせていただきたいと思います。   「(1)」「④」に掲げられている紙媒体の令状と電子令状の請求と発付との関係については、検討会においても、当部会においても、明示的には議論されてこなかったものと認識しております。そこで、何らかの規律を設けるかどうかを考える前提として、点線枠内の規律案の趣旨について、先ほど一部御説明がありましたが、追加的に御説明いただけることがあれば、お願いしたいと思います。 ○鷦鷯幹事 事務当局から、若干付け加えて説明させていただきます。   これまでの御議論を踏まえますと、紙媒体の令状と電子令状が少なくとも当面は併存することになろうと思われるところ、電子令状は、令状を紙媒体で発付して執行することに伴う裁判所・執行機関双方の事務的な負担を軽減することを目的として新たに導入しようとするものである一方で、これを効果的に活用するためには、先ほども申し上げたとおり、発受を受ける側においても所要の機器やシステムが整えられていることが必要となると考えられるところです。   検察官や捜査機関が捜査上の必要があって裁判官に令状の発付を求める場合には、令状が電子令状で発付されるのが適当であるかどうかについては、当該令状により行われる強制処分の内容や、被処分者がどのような者であって、処分が行われることが想定される場所がどのような場所であるかといったこと、また、令状の発付を受ける側の物的設備の整備状況等の事情を踏まえながら、その適否を判断することが考えられ、そのような判断を最も適切にすることができる立場にあるのは、令状の請求者と考えられます。   そのように考えるとすると、点線枠内に記載したような規律を設けることも検討課題となり得ると考えられたことから、記載しているものです。 ○成瀬幹事 ありがとうございました。ただいまの御説明も踏まえて、私の意見を申し上げたいと思います。   確かに、裁判官が電子令状を発付したとしても、捜査機関側に必要なシステムが整備されていなかったり、一時的な資機材の不調やシステム障害が生じていたりして、その発付を受けることができない場合や、発付を受けることはできても、その執行が困難になる場合があり得ると思います。これに対して、紙媒体で令状が発付される場合には、そのような困難は基本的に生じないものと思われます。   よって、捜査機関側が、個別の事案において、資機材やシステムの整備状況等を踏まえて紙媒体の令状が必要であると考え、その旨を明示して令状請求したにもかかわらず、裁判所が電子令状を発付してしまうという事態は避ける必要があると思います。   もっとも、事務当局も先ほど言及されたように、電子令状は、令状を紙媒体で発付して執行することに伴う裁判所・捜査機関双方の事務的な負担を軽減することを目的として導入するものですから、今後、なるべく広く用いられることが望ましいといえます。   そのような観点から規律案を見てみますと、先ほど久保委員からも御指摘がありましたように、この規律案は、捜査機関が特に求めた場合に限り、例外的に電子令状を発付する、言い換えれば、飽くまで紙媒体の令状の発付が原則であると読めるような規定ぶりになっています。このような規定ぶりは、電子令状をなるべく広く用いることが望ましいという考え方と整合しない部分があると思いますので、具体的な規定の在り方については更に検討する必要があると考えます。 ○向井委員 「④」について成瀬幹事から御意見がありましたが、私も同じような意見を持っております。裁判所としましても、捜査機関において電子機器を使用できないなどの事情がある場合に、紙の令状の発付を受けることが必要になる場面があり得ることは否定しませんが、紙での令状発付が必要な場面は飽くまで例外的な場面であると考えています。ここで提案されている規律案ですと、原則として紙の令状を発付することが想定されるように読めまして、刑事手続のデジタル化を進めるに当たってできる限り紙媒体の電子化を図ろうとする全体の立て付けとの整合性の点からは疑問があります。   先ほどその必要性について御説明がありましたが、紙の令状が必要な場面というのは、やはり具体的な場面としてはなかなかイメージしづらいところです。捜査機関が電子令状を印刷した書面によって令状を執行することも可能と想定するのであれば、電子機器に問題がある場合はともかく、基本的には電子的方法により令状の発付を受けた上で、捜査機関において必要に応じてそれを印刷するなどすれば足り、電子データでなく紙媒体で令状を取得する必要があるという場面は相当限られるのではないかと思うところです。   また、「②」の電子令状における裁判官等の記名押印に代わる措置について、処分を受ける者において電子令状の外観からそれが真正なものらしいことを一応確認できる表示上の措置を講じることは必要であろうと考えます。もっとも、そのような措置の具体的内容につきましては、部会第3回会議で、成瀬幹事から、裁判官の記名と裁判官の印影らしき赤い印といったものが一例として示されたところですが、電子令状の真正らしさを表示する措置としては様々な方法があるように思われます。電子令状の外観上の真正らしさを確保する具体的な方法につきましては、採り得る技術的措置の内容も踏まえて検討できるようにしていただければと考えております。 ○池田委員 今、向井委員から御指摘があった点について、私も一言意見を申し上げたいと思います。   外観上、真正らしさを一応確認できるような表示上の措置を講じるということについて、これまでにも御意見が示されていたわけですけれども、電子化された場合も、作成の真正を担保するための記名押印に代わる技術上の措置が採られるということを前提とするならば、記載内容の表示を手掛かりに真正性を確認するという指摘との関係では、表示上は現在の紙の令状に記載されたものと同様の措置を採れば足りるということになると思われます。現在のたたき台に示していただいております点線枠内の規律案というのはそうした考え方に沿ったものだという意味で、その内容は理解できるものと考えております。 ○向井委員 「③」の令状の返還に関する場面の規律について、ここでは、「書面によりその旨を通知」が「その旨を記録した電磁的記録を提供」と並列して記載されています。令状の返還に代わる措置について、提案されているとおり、有効期間経過後は電子計算機から消去するなどして、その旨を裁判官に通知するという枠組みに異論はないものの、捜査機関が裁判官に通知する方法としては、電磁的記録を提供することによってするということを原則とした方が、できる限り紙媒体の電子化を図ろうとする法律全体の立て付けと整合的なのではないかと考えます。 ○小木曽部会長代理 ほかに、「(1)」について御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは、次に、検討課題の「(2)令状の電子的方法による請求」について、御意見がありましたらお願いしたいと思います。 ○久保委員 意見というよりも質問として、1点目に、以前の部会でも申し上げたように、令状請求の場面を含めて、捜査機関が裁判所に対して何かするときはインターネット回線を利用しないということが前提になっているのかという点について、セキュリティの観点で、お伺いしたいと思います。   2点目に、この令状の電子的方法による請求という場面においても、先ほどの「(1)」と同様に、捜査機関がどちらか自由に選択できるような規定ぶりになっていることについて、どのような趣旨なのかを御説明いただきたいと思います。 ○鷦鷯幹事 御質問のあった事項について、資料を準備した事務当局としての回答をさせていただきます。   1点目、インターネット回線を利用するかどうかは、実際に運用が行われる場合におけるシステムの在り方に関するものであり、御指摘のセキュリティの在り方も含めて検討すべきことですが、飽くまでここでは電子情報処理組織を使用する方法など、他の法令に規定する方法によって行うことを想定した案として御理解いただければと思います。   2点目の、「できるものとする」という文言になっている点ですが、飽くまで、オンラインによって発受することを可能とするための規律として、このような規律を設けるかということを検討課題として掲げたものですので、御指摘のように、原則としてどうするかといったところも含めて御議論いただければと思います。 ○久保委員 そうすると、このオンラインによる令状の請求の場面は、疎明資料の提出も含めて、いわゆる閉域網を使うのではなく、一般的なインターネット回線を使うことも想定したものという理解でよろしいのでしょうか。 ○鷦鷯幹事 この案はそれを排除するものではございません。 ○仲戸川幹事 システムを担当している事務当局の仲戸川から、検討状況を申し上げます。   現在、システムの在り方については、飽くまでこの法制審議会の議論を参照しながら検討を進めているところですが、データの発受においては、この部会でも先行する検討会でも示されているように、セキュリティへの配慮というものは強く意識しているところです。そのため、回線の使用の在り方に関しても、そこを強く意識して検討しているものです。現状、こういった回線を使うのだというのを確定的に決めたわけではありませんが、セキュリティの遵守というのは本当に一丁目一番地の重要な課題だと思っておりますので、それを踏まえた検討をしているという状況にあります。 ○久保委員 ありがとうございます。今このような質問をさせていただいたのは、従前より、この部会でも検討会でも、セキュリティに関しての議論が行われてきたからです。一方ではセキュリティの観点でインターネット回線を利用するべきではないという議論が行われ、一方ではインターネット回線を想定した疎明資料等の提出が想定されるというのは整合しないように思われ、全体的な整合性をどのように考えるかといった点で申し上げた次第です。この場面においてインターネット回線を利用する可能性があるのであれば、ほかの制度の検討においてもそれを前提とした議論がなされるべきだと感じましたので、質問をさせていただきました。 ○小木曽部会長代理 「(2)」につきまして、ほかに御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。それでは、先へ進みます。   次に、検討課題「(3)(1)により発付された令状の執行の手続」について御意見を伺います。   この項目につきましては、「①」と「②」に分けて議論するのが効率的と思われますので、順に御意見を伺います。   まず、「①」について、御意見のある方は、お願いいたします。 ○成瀬幹事 検討課題「(3)」「①」の点線枠内の規律案について、意見を申し上げます。   これまでの議論においても繰り返し確認されてきたところですが、現行法が令状の執行に際して被処分者に対し令状の呈示を求める趣旨は、手続の公正を担保する観点から、被処分者に対して、令状に係る裁判の内容を知る機会を与え、これに対する不服申立ての機会を与えることにあります。そうすると、電子令状を執行する場合においても、点線枠内の規律案にあるように、紙媒体の令状の記載事項と同じ事項が電子令状に記録され、その事項が被処分者に了知できるように示されることとなるのであれば、法が令状の執行に際してその呈示を義務付ける趣旨は満たされると考えられます。   そして、この規律案のうち、電子令状に記録されている事項等を「表示したもの」を示す方法としては、執行する側が持っている電子計算機の映像面に表示する方法と、被処分者側が持っている電子計算機の映像面に表示する方法が考えられますが、いずれの方法によるとしても、被処分者が紙の令状の呈示を受けたのと同じように電子令状の記録事項を了知できるように示されれば、呈示の要請は満たすと思われます。 ○久保委員 意見といいますか質問になるのですけれども、一口に電子令状といっても、身体拘束に関わる令状と、捜索差押えに関わる令状などが想定されると思います。この後、電磁的記録提供命令の議論も予定されているので、その観点でお伺いしたいのですけれども、捜索差押えに関わる令状について、どのような形でオンライン上で呈示することを想定しているのでしょうか。例えば、メールに添付をするのか、あるいはZoomのようなビデオ通話システムで画面上に表示をするといったことも想定しているのか、執行における令状の呈示の方法について、どのような形を想定しているのか御回答いただければと思います。 ○鷦鷯幹事 事務当局からお答えいたしますが、この案の「表示したもの又は印刷したものを処分を受ける者に示」すという部分の具体的な方法としては、例えばですが、執行する者の使用に係るタブレット等の電子計算機の映像面に表示して処分を受ける者に示す、すなわち手元の端末に表示して示すという方法、それから、紙面に印刷したものを処分を受ける者に示す方法が考えられ、そういったものを想定してこのような記載をしているところです。先ほど成瀬幹事からも御指摘がありましたとおり、処分の相手方の端末の方に表示するという方法も考えられると思われます。 ○久保委員 ありがとうございます。相手方の端末での表示も考えられるのだとすると、スクリーンショットのような形でこの令状を撮影するということは事実上非常に簡単になるのではないかと思います。電子令状の真正についての判断の難しさについては、これまでの部会でも申し上げてきましたので繰り返しませんが、そのような形で遠隔地においてスクリーンショットが簡単にできるような呈示が想定される以上、それとのバランスで考えても、電子令状については電子データで交付することが合理的であり、対面の場合においても、同じように、印刷物ですとかそういったものを交付することが容易になる以上、そういったことも考えられるべきではないかと思います。 ○保坂幹事 遠隔地で先方の画面に表示する方法で令状を呈示する場合、それは先方のパソコンですから、スクリーンショットは容易になるのですが、それが容易になるから、紙の令状や、あるいは面前で画面に表示させて見せるときに、併せて写しを取ったり、スクリーンショットというのか、写メで撮るのでしょうか、そういうことをさせる理由がよく分かりません。前にも申し上げたかも分かりませんが、呈示された令状が本物か偽物かというのは、写しを取ることによって何が見抜けるのかがよく分からないのです。その議論の過程で、正に今の紙の令状であれば、裁判官の名前が載っているから、それを見て、正しく出たのかなと一応はそういうふうに思えるということで、今のこの案では、そういった表示も電子令状においてもしましょうということになっているので、それを超えて何か真贋を見抜くために写しを交付するという趣旨がよく分からなかったのですが。 ○久保委員 次の電磁的記録提供命令の議論の中でも出てくる話と思うのですが、電子データの差押え等においては、取り分け差し押さえるべきものの記載と押収品目録の比較ができなければ、どのような形で不服申立てをするべきかを判断することが困難という場面が想定されます。現状、令状が交付されないからといって、それが正しいというわけではなく、この部会は、情報通信技術の進展に伴い、今ある問題点を様々な形で改善していくことが想定されていると思います。捜査手法について新たな手法を検討するのであれば、被疑者・被告人の利益を守るという観点で、今後、情報通信技術の進展に伴いできるようになった防御策も、また取り入れられるべきだと考えます。   取り分け、今の電子令状、特に遠隔地にいる者に対してオンライン上で令状を呈示し、かつ、その者が今後はスクリーンショットなどで撮影することが簡単になり、それを事実上容認するのであれば、他のケースにおいても被疑者・被告人の権利利益を守り、不服申立てが適切にできるようにするために、改めて現行の制度そのものを見直すべきだという趣旨になります。 ○小木曽部会長代理 今の「①」についてはよろしいでしょうか。   それでは、「②」の緊急執行について、御意見があれば伺いたいと思います。   この点はよろしいでしょうか。特段御意見がなければ、「(3)」については御意見を伺ったということで、先へ進みます。   検討課題の「(4)被処分者に対する証明書等の電子的方法による提供」について、御意見がありましたらお願いしたいと思います。   特段御意見はございませんか。よろしいですか。   それでは、「(4)」については特段御意見がなかったということで、これで「第1-2 令状の電子的方法による請求・発付・執行等に関する規定の整備」についての議論はひとまず終えることにいたしますが、検討課題として明記されていない点も含めて、ほかに御意見等はよろしいでしょうか。   それでは、先へ進みます。次に、「第1-3 電磁的記録を提供させる強制処分の創設」です。   議論に先立ちまして、配布資料11の「第1-3」に記載された「考えられる制度の枠組み」と「検討課題」について、説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の7ページ・8ページを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」の「(1)」として、裁判所が、電磁的記録を保管する者等に命じて、必要な電磁的記録を提供させることができるものとすることを、「(2)」として、捜査機関が、裁判官の発する令状により、「(1)」に定める者に命じて、同様のことをさせることができるものとすることを記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)命令の内容・方法」に関しては、対象となる電磁的記録を「証拠となる電磁的記録又は没収すべき電磁的記録と思料するもの」とするか、これらの電磁的記録について、「移転」をさせることができるものとするか、電磁的記録の提供の方法、移転も可とする場合には移転の方法について、どのような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「(2)電磁的記録の移転をさせることを可能とする場合における原状回復措置」に関しては、移転をさせた電磁的記録についての原状回復措置について、点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「(3)不服申立て」に関しては、提供に対する不服申立て、移転を可とする場合には移転に対する不服申立てについて、点線枠内にあるような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「(4)強制処分としての実効性をより一層確保するための方策」に関しては、命令に応じない被処分者に対する制裁を設けるか、刑事罰を設ける場合、その法定刑をどのようなものとするか、被処分者が被疑者・被告人である場合について、憲法第38条第1項との関係をどのように考えるかなどの点が、検討課題となります。   「(5)その他」では、「(1)」から「(4)」まで以外の検討課題について御議論いただければと考えております。 ○小木曽部会長代理 ただいまの説明に対して、質問はありますか。よろしいですか。   それでは、議論に入りたいと思います。   検討課題「(1)命令の内容・方法」について御意見を伺います。   この項目につきましては、「①」と「②」を分けて議論するのが良いと思いますので、順に御意見を伺いたいと思います。   まず、「①」について、御意見がありましたらお願いします。 ○池田委員 ここで取り上げられております電磁的記録を提供させる強制処分について、現時点で明示的には検討課題として掲げられているわけではないのですが、先ほど「第1-2」の電子令状の呈示の議論の際に成瀬幹事から御発言のあったオンラインによる令状の呈示に関する規律が、この処分との関係でも問題になるということは、先ほど久保委員からも御指摘があったとおりであり、関連する議論ですので、ここでまず申し上げておきたいことがあります。   電磁的記録を提供させる強制処分は、被処分者に電磁的記録をオンラインにより提供させることを想定するものですので、処分の実施に先立つ令状の呈示も、オンラインによって行うことが当然に想定されます。   配布資料11の5ページの検討課題「(3)」「①」の点線枠内に、電子令状の執行に関する規律案として記載されているもののうち「表示したもの」の部分には、先ほど成瀬幹事あるいは久保委員からも御発言があったとおり、例えば、オンラインにより被処分者側の電子計算機の映像面に表示して電子令状に記録された事項を知らせるようにする方法も含むと考えるべきこととなるものと思っております。これが呈示に関する指摘ということになります。   その上で、検討課題の「(1)」「①」についても意見を申し上げます。   まず、このうち前段の「対象となる電磁的記録を「証拠となる電磁的記録又は没収すべき電磁的記録と思料するもの」とするか」についてですけれども、現行法における差押えの対象は、刑事訴訟法第99条第1項において、「証拠物と思料するもの」と「没収すべき物と思料するもの」と規定されており、いずれも物、有体物と理解されております。したがって、電磁的記録そのものは、同条第1項による差押えの対象にも、あるいは同条第3項の「差し押さえるべき物」の提出命令の対象にもなりません。また、同法第99条の2の記録命令付差押えは、電磁的記録を記録媒体に記録することを命ずることができるものではありますけれども、これも電磁的記録が記録された有体物を差し押さえる処分として規定されておりまして、その対象は有体物と理解されております。   これに対して、「考えられる制度の枠組み」のように、電磁的記録そのものを処分の客体とするものであるとすると、検討課題「(1)」「①」前段にありますように、提供命令の対象は、「証拠物」や「没収すべき物」とパラレルに考えて、「証拠となる電磁的記録」あるいは「没収すべき電磁的記録」と表記することが一つの考え方としてあり得るように思います。   これらは、電磁的記録が記録されている記録媒体を「証拠物」あるいは「没収すべき物」として差し押さえることによって保全できるのと同様に、電磁的記録それ自体を提供させることによって保全できるようにするということを意味するものといえます。   加えて、「(1)」「①」の後段についても意見を申し上げます。   「これらの電磁的記録について、「移転」をさせることができるものとするか」ということですけれども、証拠となる電磁的記録は、通常は、複写されれば、内容を把握する限りではそれで足りると思われるのですが、現行の刑事訴訟法第110条の2は、「差し押さえるべき物が電磁的記録に係る記録媒体であるときは」、当該「記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に複写し、印刷し、又は移転した上、当該他の記録媒体を差し押さえること」ができるともしています。このように、複写ではなくて移転をする場面として想定される例としては、同法第110条の2の制定時の議論等を参照しますと、危険物の製造方法を内容とする電磁的記録や、被処分者の下に残せば罪証隠滅等の捜査妨害を容易にする電磁的記録など、被処分者の下に残しておくことが適当でないものについて処分を実施する場合が考えられるとされております。   このことを踏まえて、電磁的記録提供命令においてもこれと同様に考えるとすれば、証拠となる電磁的記録のうち被処分者の下に残しておくことが適当でない電磁的記録は、複写させるだけではなくて移転させることもできるようにするということが考えられると思います。 ○久保委員 まず、前提として質問をさせていただきたいと思います。   従来の記録命令付差押えにつきましては、元々通信事業者などの協力的な者を想定していた制度だと認識しております。この部会に先立つ検討会におきましても、基本的に協力的な事業者を想定し、しかし、それまでよりも利便性を高めるといった観点で議論がなされていましたし、間接強制というこの後に出てくるものにつきましても、検討会ではほとんど議論はされておりませんでした。したがいまして、検討会での議論とはもはや前提を異にしており、この電磁的記録提供命令につき間接強制に関する議論を前提とするのであれば、そのような間接強制がなされる結果、どのような結果が生じるのかということも含めて、改めて一から検討するべき場面になっているのではないかと考えております。   そこで、前提として確認させていただきたい点がございます。これは警察の委員の方にお伺いするべきところかもしれませんので、可能な範囲で御回答いただければと思っております。前提として、現在は捜査関係事項照会など、あるいは記録命令付差押えなどによってデータを取得している場面において、どのような情報は得られていて、どのような情報は拒否されているのかという、その双方について御説明を頂きたいと思います。それが明らかにならなければ、この制度が新たに導入されることにより捜査機関がどのような情報を新たに取得できるようになるのか、裏返せば、誰のどのような権利が制約されることになるのかが分かりません。また、この制度によりどのような情報を得ようとしているのかという目的についても明らかにしていただきたいと思います。目的との関係で広範にすぎる規定とすることは、制度として問題がありますので、やはり想定している利用方法について明らかにしていただきたいと考えます。   もちろん、これまで記録命令付差押えという制度があることは承知しておりますが、仮に間接強制を伴う制度となれば、これまでは拒否していた事業者についても提供するということが当然に想定されます。そうすると、これまでの記録命令付差押えの延長線上というような形で議論することは、それ自体が不適切であり、この前提として、現在はどのような運用となっているのかについて御回答いただければと思います。 ○吉田幹事 このたたき台の考え方自体に関わる話だと思いますので、事務当局からお答えします。   まず、現在、捜査関係事項照会によってどのような情報が得られているか、あるいは、記録命令付差押えによってどのような情報が得られているかということについては、捜査上の秘密に当たる話だと思いますので、この公開の場でつまびらかにすることは適切ではないのではないかと思います。その上で、どのような資料が出せるかについては、事務当局の方でも検討したいと思います。   それから、この電磁的記録を提供させる強制処分の利用方法についてということですが、それは制度設計に関わる話だろうと思います。間接強制を設けるかどうかによって、強制の度合いが変わってくるわけですけれども、そのようなものを設けるべきかどうか、あるいはそこまでせずに、命令を受けた相手方の履行を待つような制度設計にするかどうか、そこは正に御議論いただきたいと思います。 ○久保委員 今の点について、追加で質問をさせていただきたいと思います。   現状について、捜査の秘密を理由に御説明いただけないということになりますと、どのような立法事実があって、どのような理由で間接強制が適切であり、どのような効果が間接強制によって得られるのかということ自体の議論をすることができません。   その上で今、捜査の秘密とおっしゃいましたので、公刊物で紹介されていることを踏まえてお伺いしたいと思います。検事が編集代表をされております「サイバー捜査・デジタルフォレンジック実務ハンドブック」という著作には、記録命令付差押えは、携帯電話会社や通信プロバイダのような、事件に対して中立的であり捜査に協力的な者を想定していたと記載されています。携帯電話会社などから出てくるものとしては、通話履歴など、客観的な、何月何日に誰々と誰々の間で電話が行われたというリストのようなものは出てくる可能性がございますが、それを超えて通信の内容が読み取れるような、メールなどが出てくることはないものと承知しております。LINEやGoogleといった事業者からは、この記録命令付差押えではなかなか情報の取得が困難だとも聞きます。   電磁的記録提供命令の制度を導入し、かつ、間接強制をすることにより、今までは拒否していた事業者に対しても間接強制を課すことで、これまでよりも膨大な情報を得ようとしているのか、それが可能となる仕組みとなるのかといったことは、議論をする上で当然に必要となる情報ではないかと考えます。この点について、更に御説明いただけることはないということでしょうか。 ○吉田幹事 まず、一般論として申し上げると、通信の秘密に関わる情報については、通信事業者は令状がないと応じられないというスタンスをとる場合が多いと認識しています。他方で、そのような通信の秘密にわたるものでない情報についても、処分の対象となる個々の事業者の考え方によって、捜査関係事項照会でも回答するという場合もあれば、令状がないと応じられないとお答えになる場合もあるなど、捜査への協力を求める相手方のスタンスによって変わってき得るものだろうと思います。令状がないと駄目だという立場の方に対しては、強制処分として対応していく必要が出てき得るのだろうと思います。   その上で、そうした事業者が具体的にどういう場合にどういう条件の下でどういう対応をするかということは、つまびらかにするのは難しいという趣旨で申し上げているものです。 ○久保委員 今回のたたき台にある制度は、主に二つの点で、これまでの制度とは全く異質な制度であると考えます。   一つ目に、データそのものに着目した制度であるということです。二つ目に、間接強制として一種の罰則を伴うことも想定しているということです。この二つの点で特有の問題があり、検討会のときの議論とはもはや前提が異なる以上、正面から時間を掛けて議論しなければならない論点だと考えます。   そもそも記録命令付差押えの制度が作られた平成23年当時と現在とでは、情報通信技術の進展の度合い、あるいは普及の度合いは全く異なっております。記録命令付差押えがどのように利用されているのか、捜査機関の利便性だけではなく、被疑者・被告人にとってどのように問題があるのかという点も含めて検討し、それを前提に議論はなされるべきだと考えます。   間接強制の点については改めて申し上げますが、一つ目のデータそのものに着目したものであるという点について、今回の電磁的記録提供命令が制度化されると、初めて、従来の有体物を差し押さえるという原則が外されることになります。これまでは物に着目し、パソコンですとかUSBを押収するという形になっておりました。そうしますと、情報を差し押さえることになるのだという情報そのものの特殊性に着目し、改めて強制処分の規律が考えられるべきだと考えます。また、情報の性質についても、単純に情報と抽象的に捉えるのではなく、内容に踏み込むものなのか、内容ではない宛名などといった中立的な情報なのかということも区別をして議論するべきだと考えます。先ほど吉田幹事から御紹介もありましたように、正に通信の秘密に関わる内容にわたる情報については、取り分け区別して議論がなされなければなりません。   日本の場合、警察官がデータを記録媒体で持ち帰ると、その後の規律について明確に法律があるわけではございません。このような情報通信技術が進展した社会においては、規律がないということ自体が問題だと考えます。平成23年の刑事訴訟法改正時はクラウド技術はほとんど普及していなかったのに対して、現在は飛躍的に普及しました。総務省のホームページを拝見すると、通信の普及状況に関する統計が毎年掲載されております。令和3年は企業の80%がクラウドを何らかのために利用しているとの回答になっていましたが、平成22年末には14.1%、平成23年は21.6%という回答となっており、この記録命令付差押えが想定していた社会とも、そもそも大きく異なっております。   この点、第3回会議で成瀬幹事が指摘されていたとおり、記録命令付差押えが新設された当時よりも、電子データの記録や蔵置の状況が複雑化しているという状況を踏まえて検討がなされるべきです。法制審議会においては情報通信技術の進展に伴う議論を行うという前提となっておりますので、情報通信技術の進展に伴う規律そのものをこの場で正面から議論すべきだと考えます。仮にこの部会の時間的な制限で難しいということであれば、この議題自体、実体法に関する議題を外すということが提案されていたことと同様に、重要な議題であるとしてこの部会から外し、改めて多数回にわたって議論の場を設けるべきだと考えます。   通話履歴につきましては、現在も通常の押収手続で行うことはできますが、例えば現在進行形で通話されているような中身に踏み込むときには、通信傍受法の対象となるようなものとなっております。その意味では、現行法でも既に情報の内容に着目し、それとの関連性から手続を厳格に考えるという規律は日本でも採られているわけですから、そうした規定も参照するべきだと考えます。情報の内容そのものに踏み込む可能性が格段に高くなるような手続については、従来の強制処分の延長というよりも、むしろ通信傍受法の規律に近く、そういった観点で検討が必要だと考えます。   SNSなどは、先ほどのLINEのように、実際は内容にわたる情報の提供は事業者が拒否するため、現在の記録命令付差押えでは、事実上、先ほど申し上げたような通話履歴のようなリスト的なものが提供されるものの中心となっていると思います。仮に、間接強制を導入することで、これまで拒否していた事業者が通信の秘密にわたるようなものについても開示をするとすれば、それは情報の内容を押収するという場面が格段に増えますので、そういった観点でも議論が必要だと考えます。 ○吉田幹事 今の御発言の関係で質問させていただきたいのですが、通信の内容に踏み込む場合には通信傍受法の規律に倣った形で考えるべきではないかという趣旨のお話があったようにお聞きしましたが、現行法の下でも、例えば通信の内容が既にどこかに記録されているという場合には、差押えによってそれを入手することが可能なわけで、その場合、通信傍受法のような厳格な規律ではないわけですけれども、通信の内容に踏み込むと通信傍受法と同様の規律が必要になるというのは、どういう考え方によるのでしょうか。 ○久保委員 2点あるかと思います。   1点目に、現行の制度下において情報の内容に踏み込む情報を捜査関係事項照会ですとか記録命令付差押えによって適切な規律なく押収しているのであれば、そのような制度自体が問題であり、先ほど申し上げたように、平成23年の刑事訴訟法改正当時とはもはや情報通信技術の発展の度合いが全く異なり、それを踏まえてこの部会が設けられていると思います。極端に言えば、平成23年の刑事訴訟法改正時にはオンラインにより証拠開示をされるということは想定していなかったはずですから、平成23年のときに想定されていなかったような事態になっているということを前提に、改めて現在の制度の在り方についても検討がなされるべきだと考えております。   2点目に、通信傍受との関係ですが、これは通信の内容に踏み込む、通信の秘密を侵害する、国民の利益を侵害する制度であることを踏まえて、通常の手続よりも厳格な規律が置かれているものと考えます。もちろん通信傍受法は、情報の内容に踏み込むだけではなく、現在進行形で行われている会話を想定しているものですから、その点でこの場面と全く同じだということを申し上げているつもりはございません。   ただ、記録命令付差押えの対象としてクラウドが想定されますと、現在あるものだけではなく、過去の記録も含めて押収の対象となることが考えられます。例えばLINEですとかSNSであれば、現在疑われている被疑事実についてのものだけではなく、現在進行形ではない過去の余罪に関わるような情報も含めて対象となることが想定されます。そうすると、現在進行形の無関係な会話などが膨大に含まれる通信傍受と同等の膨大な情報、しかも被疑事実とは関係ない余罪などが含まれるような情報も含めて出てくるといった点で、情報の内容を押収することの問題は、通信傍受と何ら変わるところではないと思います。   その上で、内容に着目した情報を押収する手続において厳格な規律が置かれているという限度で通信傍受法に触れさせていただきましたが、いずれにせよ、平成23年の改正当時とは全く状況が違う以上、それを踏まえて議論がなされるべきであり、今この制度があるから、それを前提に、大きな違いがないという議論は不適切だと考えます。 ○吉田幹事 繰り返しになってしまうかもしれませんが、現在の制度の下でも、例えば、どこかの記録媒体に誰かが話した内容の電磁的記録が記録されている、あるいはメールの内容が記録されているということがあり得るわけで、それを差押えや記録命令付差押えによって入手することは可能なわけです。その要件は、通信傍受法とは違っています。なぜ通信傍受法が厳格な規律を設けているかというと、それは、その対象となるものが正にリアルタイムで行われていく通信であって、通信の内容の予測がある程度難しいということも踏まえ、かつ、密行性・継続性があるということも踏まえて、厳格な要件を定めているのでありまして、通信の内容を知ることになるので通信傍受法と同じようにすべきだというのは、論理が飛躍していると思うのですけれども、そこはいかがでしょうか。 ○久保委員 今、吉田幹事から、通信傍受は将来にわたるものであるので、情報が予測できず、かつ密行性が大切だという御指摘がありました。クラウドにおいては膨大な情報が含まれており、正にどのような情報があるのか事前に予測できず、包括的な差押えが可能となるのではないかといった問題点があります。その意味で、他でも述べる予定にはしておりましたが、令状でどの程度差し押さえるべき情報を特定するかといった点も当然議論の対象となるべきですし、そこにおいて情報が予測できないから包括的な差押えが許されるという議論がなされるのであれば、クラウドの差押えと通信傍受とで何ら変わるところはないものと考えます。   また、密行性という点でも、後ほど申し上げようと思っていたところですが、クラウド事業者を対象に処分を行うとすれば、本来のデータ保有者の権利保護をどうするのかといった点も検討が必要になると思います。恐らく出てくる反論としては、捜査の密行性が重要であり、あらかじめクラウドの本来のデータ保有者に通知をすることは難しいといった議論も出てくるのではないかと思います。これが私の単なる考え過ぎなのであれば、それは撤回させていただこうと思いますが、そういった捜査の密行性という観点が出てくるのであれば、その点においてもクラウドに対する情報の収集と通信傍受法という点では何ら変わりがないものと考えます。 ○保坂幹事 久保委員の御発想からすると、現行法に既にある記録命令付差押えも、時代が変わって、もはやその記録命令の対象が膨大なクラウドをも対象になり得る以上は、今の要件では問題があるから、更に規律を設けよということになるのでしょうか。 ○久保委員 おっしゃるとおりで、記録命令付差押えを前提に膨大な情報が収集され、かつ、事後的にそれをどのように管理するかといった規律がきちんと置かれていないということ自体が問題だと考えております。それは正に、過去にはなかった情報通信技術の進展を伴う変化でもありますので、そういった現在ある制度の見直しも含めて検討されるべきですし、仮に今のある制度をそのままにするとしても、事後的な情報の管理の在り方について別途規律を設けるかどうかということは、また別の問題ですので、そういった観点でも、情報通信技術の進展に伴う議論がなされるべきだという趣旨になります。 ○池田委員 私が先ほど申し上げた議論について、久保委員から、情報に着目した処分を求めるものであるとおっしゃったのですけれども、現行刑事訴訟法上も第110条の2などは、電磁的記録を複写し、移転するという表現を用いておりまして、最終的に有体物を差し押さえる形はとっておりますが、処分の客体として電磁的記録を想定する場面は、既に条文上の表現としても現行法に存在しております。電磁的記録提供命令においても、処分を受ける者が管理し得る記録媒体に蔵置された記録を、捜査機関が管理する記録媒体に複写なり移転するという点では、現在の同法第110条の2の想定する世界と質的に異なるものではないのではないかと理解しているところです。   それと、議論の中で、情報の内容に踏み込むということをおっしゃっていたわけですけれども、これは吉田幹事からも再三御指摘があったことと重なりますが、既に記録媒体に記録されているものを差し押さえるということと何か質的に異なる事態が想定されているのかということが、御議論を聞いていて理解できませんでしたので、異なった角度から改めて検討を加える必要性自体について、議論の余地があるのではないかと思っております。 ○小木曽部会長代理 今の点は整理して更に議論をする必要があるように私は受け止めました。   「①」について、ほかに御意見がなければ、「②」にまいりたいと思いますが、よろしいですか。   それでは、検討課題「(1)」の「②」について御意見があれば、伺いたいと思います。 ○成瀬幹事 検討課題「(1)」「②」の電磁的記録の提供ないし移転の方法に関する規律について、意見を申し上げます。   まず、電磁的記録を提供させる方法の典型例としては、電気通信回線を通じて、裁判所又は捜査機関が管理・利用する電子計算機の記録媒体に、当該電磁的記録を複写させる方法が考えられます。   もっとも、提供を命じた電磁的記録の性質によっては、情報セキュリティの確保の観点から、オンラインによる提供になじまないものもあり得るでしょう。また、当該電磁的記録の容量が特に大きい場合などには、利用可能な電気通信回線の状況等により、オンラインによる提供が困難な場合もあり得るように思われます。   そこで、そのような場合に電磁的記録を提供させる方法として、例えば、電気通信回線を利用せず、持ち運び可能な記録媒体に当該電磁的記録を複写させる方法を採ることもできるようにしておく必要があると思います。   ただし、今申し上げたように、被処分者に対して、持ち運び可能な記録媒体に電磁的記録を複写させる方法を採る場合には、現行法の記録命令付差押えにおいて被処分者が行うべき作業と全く同じ作業を命じることになりますので、新たに設ける電磁的記録提供命令と既存の記録命令付差押えの関係についても整理する必要があると考えます。   それから、電磁的記録の移転を可とする場合には、移転の方法も問題となりますが、複写させる場合について申し上げたのと同様に、元の記録媒体から当該電磁的記録を消去することを前提として、電気通信回線を通じて移転させる方法と、持ち運び可能な記録媒体に移転させる方法の双方が考えられますので、そのいずれも可能にしておく必要があると思います。 ○久保委員 電磁的記録の提供の方法について、先ほど成瀬幹事からオンラインでインターネット回線等で提供することになじまないものもあるのではないかという御趣旨の発言があったと受け止めました。逆に申し上げますと、インターネット回線を通じて提供するような方法とは、どのような方法での提供を想定されているのか、御教示いただきたいと思っています。先ほどの令状の示し方と同じような話になってきますが、メールに添付するということなのか、警察において何らか新しいクラウドを準備するということなのか、その点についてもセキュリティに関わるところではあると思いますので、どのような方法を想定しているのかについて、どなたかに御回答いただければと思います。 ○鷦鷯幹事 事務当局からお答えさせていただきます。   どのような形で提供させるかは、当該被処分者との関係で、利用可能で、かつセキュリティの高い方法をその都度考えなければいけないことだろうと思います。現時点において具体的に固定して考えているものではありません。被処分者との関係、あるいは提供すべき電磁的記録の中身との関係で、それぞれ検討する必要があるのかもしれませんし、場合によってはあらかじめ何らかのシステム等を準備するということも考えられるのかもしれません。いずれにしろ様々な方法が考えられるとは思われます。 ○久保委員 そもそも電磁的記録提供命令は、オンラインでの提供を可能にすること自体を目的とするものであったと承知をしております。これまでUSBやハードディスクといった物の受渡しで行われていたものは、少なくともハードディスクなどを物理的に紛失するということがない限りは、情報がなくなることはないということが前提になっていたものと思います。それに対して、この部会においては、再三にわたり、オンライン上で何らかのデータをやり取りするに当たっては、セキュリティの問題があり、漏えいのリスクがあるということが、他の議題との関係でも指摘されたことではないかと思います。   先ほど来申し上げておりますとおり、この電磁的記録提供命令、あるいは現在の記録命令付差押えも同様ではありますけれども、実際上、被疑者とされている者以外の第三者の情報が当然に入ってくる場面ですので、事件に関する情報以外の、全くそのような差押えがされていることに気付いていない第三者のプライバシーにわたるような情報が事実上包括的に差し押さえられ、それをクラウド上などで、あるいはメールなどで提供するということを許容することになる場合には、その漏えいした場合のリスクあるいはその損害というのは、より一層甚大なものになるのではないかと思っております。   この場面において、いろいろな選択肢が考えられ、インターネット回線を通じた提供も想定されるということについて、どのような制度になることを想定されているのかということが、なかなかイメージがつかめないものですから、その点について更に何か御説明いただけることがあれば、お願いいたします。 ○吉田幹事 先ほど来、包括的に情報を取得するという御発言がありますが、電磁的記録提供命令は強制処分であり、「考えられる制度の枠組み」に書いてあるように、捜査機関が行う場合には裁判官の発する令状が必要になります。その令状記載事項については、更に御議論いただきたいと考えておりますが、現行法の下でも、差押許可状や記録命令付差押許可状には、どのような情報を取得することができるかという点に関することが裁判官の審査を経て記載され、その範囲内でのみ処分が行われることになるわけで、もとより、世の中にあるオンライン上の情報が全て一切合切取得できるようになるということではないわけであります。まずそのことを前提とした上で、裁判官の審査すべき事項、あるいは令状に記載すべき事項について御意見があればその辺、更に御議論いただきたいと思います。 ○久保委員 今の御指摘はすごく重要な点だと思いました。私としても改めて、この情報を対象とする差押えにおいて令状にどのような記載をするかといった点も含めて議論をするべきだと思っております。このたたき台の中には令状の記載事項といった項目がなかったので、どの点で申し上げようか、後でその他のところで申し上げようかと思っていたところでもありますので、是非今後につきましては、この令状の記載事項という議題についても論点として掲載いただき、適切な情報を前提とした電磁的記録提供命令とし、令状の記載の仕方がどうあるべきかということを、情報の性質を踏まえて検討すべきだと思います。   令状について、実務上のことはむしろ裁判官の方に伺った方が適切ではないかと思いますが、私なりに勉強してきたところによりますと、最近の事例であれば、最決令和3年2月1日の事件におけるリモートアクセス令状の記載事項は、例えば、1点目として、差し押さえるべきパーソナルコンピュータ及びスマートフォン・タブレット端末からの接続可能なファイル保管用サーバの記録媒体の記録領域であって、当該パーソナルコンピュータ等の使用者に使用されているもの、2点目として、差し押さえるべきパーソナルコンピュータ及びスマートフォン・タブレット端末からの接続可能なメールサーバの記録媒体の記録領域であって、当該パーソナルコンピュータ等の使用者のメールアドレスに係る送受信メールその他の電磁的記録を保管するために使用されているものという記載になっていました。   これでどこまで特定されているのだろうかといった点については、恐らく共感いただける方もいるのではないかと想定をしているところです。現状の令状が実際にどのような記載になっていて、記録命令付差押えの場面では、どのような令状でどのような情報が取得されているのかということは、やはり前提として確認をし、その上で、情報通信技術の進展に伴いどのような令状の記載事項になるべきか、対象物としてどのような特定をするべきかといった点も改めて検討するべきではないかと考えます。   その際、私の方は不勉強で余り承知していないので、例えば、他の先生方で御承知の方に教えていただきたいのですけれども、アメリカなどでは情報についてかなり特定した形で令状が発付されるということも聞いたことがあります。それはやはり、情報を取得する場面においては、ともすれば包括的な差押えになりがちであり、それがなぜかというと、先ほど申し上げたように、情報がどのような形のものがあるのか予測できず、リスト、件名だけでは予測できないということに伴うものではないかと思います。そうすると、それを前提にしてもなお、令状で第三者の権利を侵害しないように事前にどのような形で特定できるのか、それはもちろん限界があることは承知していますけれども、事前にまずは令状審査で規律をさせるべきということは、今、吉田幹事がおっしゃったとおりであり、そうすると、正にこの部会の場で、今はどういう形になっていて、それによってどのような問題が生じていて、誰の権利が侵害されているのかということも、やはり一から検討するべきではないかと考えます。 ○小木曽部会長代理 「②」について、ほかによろしいですか。   それでは、ここで10分ほど休憩を取りたいと思います。              (休     憩) ○小木曽部会長代理 会議を再開したいと思います。   次に、検討課題「(2)電磁的記録の移転をさせることを可能とする場合における原状回復措置」について御意見を頂きたいと思います。 ○池田委員 「(2)」について意見を申し上げます。   先ほど申し上げましたように、ここで取り上げられている電磁的記録の移転をさせるのは、当該電磁的記録を被処分者の下に残しておくことが適当でないという事情があり、そうする必要があるためですので、その後の事情の変化によってその必要がなくなったというときには、留置の必要がなくなった押収物を還付するのと同様に、被処分者が当該電磁的記録を自分の下に戻すことができるようにする仕組みを設けるのが適当であると考えられます。   参考として、先ほども言及しました刑事訴訟法第110条の2の規定により、差し押さえるべき物である記録媒体に記録された電磁的記録を他の記録媒体に移転し又は移転させた上で当該他の記録媒体を差し押さえた場合において、同法第123条第3項は、差押えを受けた者と、差し押さえられた他の記録媒体の所有者・所持者・保管者が異なる場合に、その移転等がされた電磁的記録を被処分者の下に戻す方法を定めています。これによると、移転等がされた電磁的記録が記録されている当該他の記録媒体を被処分者に交付する方法のほかに、被処分者に当該電磁的記録の複写を許す方法があるとされています。   これを踏まえますと、検討課題「(2)」の点線枠内の規律案は、この規定を参考に、同項に規定する二つの方法のうち、被処分者に複写を許す、後者の方法による原状回復措置のみを規定する趣旨のものと理解されます。   具体的な原状回復の方法がどのようなものとなるかは、先ほど成瀬幹事からも御指摘があった、電磁的記録の移転の仕方によるものと考えられまして、一つには、まず、電気通信回線を通じて移転させる方法の場合には、記録媒体の交付は必要なく、電気通信回線を通じて電磁的記録を複写することを許すなどの方法によることが考えられます。また、持ち運び可能な記録媒体に電磁的記録を移転させる方法の場合には、記録媒体が処分者側が提供したものであれば、記録媒体の交付は必要でなく、被処分者に複写を許す方法によって原状回復するものとし、記録媒体が被処分者の物である場合には、複写に加えて、これを還付する必要があると考えられます。   他方で、移転ではなくて電磁的記録を複写させるにとどまる場合には、被処分者は、提供後も当該電磁的記録の保管・利用が可能ですので、移転をさせた場合のように当該電磁的記録の複写を許す実益はなく、処分を受ける者との関係で原状回復措置を設ける必要はないとも考えられます。   これに対して、命令により提供させた電磁的記録が必要がなくなったときの原状回復措置として、裁判所・捜査機関が保有する当該電磁的記録を抹消することまで要するかについては問題となり得るところですけれども、現行法の刑事訴訟法第123条第3項においても、移転した場合の原状回復措置としては、複写とされており、消去することなどは求められていないわけで、そのこととの関係をどのように考えるかといったこと、あるいは、そもそも裁判所や捜査機関がこれらを抹消せずに保有し続ける理由の有無や、抹消されないことによって被処分者に生じ得る不利益の内容、そのほか現行法上、電磁的記録が記録された記録媒体が押収され、当該電磁的記録を他の記録媒体に複写した後に、押収された記録媒体については還付したとしても、当該複写された電磁的記録を抹消しなければならないものとは解されていないこととの関係を考慮しつつ、更に検討すべき事柄ではないかと考えております。 ○久保委員 移転をした場合の原状回復措置が複写となることについて、現在の記録命令付差押えについても同様の制度となっていることは承知しておりますが、やはりそのこと自体に強い違和感を覚えているところです。   といいますのも、ここのたたき台にもありますように、必要がないものだと判断したにもかかわらず、複写をするということは、必要ない情報を捜査機関がそのまま保持することが前提となっております。これは、現在の記録命令付差押え自体が問題だという、先ほど私が申し上げた点にも関わるところですが、このような形で間接強制によってこれまでよりも膨大な情報が出てくるとすれば、よりその問題は甚大なものになるのではないかと思います。その事件においては関係なかったはずの第三者の情報を捜査機関がそのまま保有をし続けるということが、今の制度のままだと前提となってしまいますので、やはり必要のない情報だと判断をした場合には、複写ではなく、元データの回復だけでは足りず、コピーしたデータの消去、移したデータの消去を義務付ける必要があるように思います。そうしなければ、捜査機関は必要がないにもかかわらず永遠にその情報を保有することができるということになってしまいます。これは、素朴な国民感情にもそぐわないものではないかと思います。   これは結局のところ、現在捜査機関において収集した情報の取扱いに関する法律が適切に定められていないということに起因するものだとも考えられます。例えば、押収した情報についてはその事件限りで使用するといった規律ですとか、一定期間後には必ず削除をするといった規律を設けておかなければ、全く関係ない第三者ですとか、当該被疑者に関するものであったとしても、将来別の形で使われるといったことも想定されてしまいますので、情報管理の問題性ということにも絡んで、この規定については改めて、移転という形、つまり消去を義務付けるような形での規律がなされるべきだと考えます。これは、今の制度も含めてという趣旨になります。 ○小木曽部会長代理 ほかに、この点について、いかがでしょうか。よろしいですか。   それでは、更に先に参ります。検討課題「(3)不服申立て」について御意見をお願いいたします。 ○池田委員 「(3)」について意見を申し上げます。   電磁的記録の提供ないし移転を命じて、移転がなされたときは、被処分者は、その後原状回復措置がなされるまでの間は、当該電磁的記録を利用することができなくなるのでありまして、有体物が押収されたのと同様の状況が生じることになります。そこで、この検討課題「(3)」の点線枠内の規律案の「ウ」のように、電磁的記録の複写が許されるべきときに許されないときは、その許可を求めて抗告ないし準抗告をすることができるものとするのが適切と考えられます。   この場合、抗告や準抗告に理由があると認めるときには、抗告・準抗告裁判所は、原裁判所や捜査機関に対し、複写を許可すべきことを命ずることになるものと思います。   また、現行の刑事訴訟法第99条第3項による提出命令に対しても抗告が可能と解されていることからしますと、電磁的記録の移転を命ずる命令について、命令を受けた者がこれを履行する前にその適法性や当否について争い得るものとすべきと考えられます。そこで、検討課題「(3)」の点線枠内の規律案の「ア」及び「イ」のとおり、これを抗告・準抗告の対象とすることも適切と思われます。   この場合、記録の移転を命ずる命令に対する抗告・準抗告に理由があると認めるときは、抗告・準抗告裁判所は、原裁判や原処分である命令を取り消し、あるいは、変更する決定をすることになり、それにより、記録を移転すべき義務の消滅、あるいはその内容が変更されることになると考えられます。   これに対して、命令により電磁的記録の複写がなされたにとどまるときには、被処分者は、その後も当該電磁的記録を利用することができるので、原状回復のための措置は不要であり、したがって、裁判や処分の取消し・変更を求める場面もなく、抗告・準抗告の対象とする必要はないとも考えられるところです。   もっとも、電磁的記録の複写を命ずる命令が下され、その履行がなされるまでは、移転の場合と同様に、裁判や処分の取消し・変更を求めて不服申立てをし、違法・不当な命令に応じる義務を負うことを阻止することを認める実益がなおあるものと思われます。そのため、検討課題「(3)」の点線枠内の規律案「ア」・「イ」の抗告ないし準抗告の対象には、電磁的記録の複写を命ずる命令を含めることも考えられます。   「(3)」の点線枠内の規律案「ア」及び「イ」において、現在、複写を命ずる場合と移転を命ずる場合とを区別せず、裁判所がした命令や捜査機関がした命令に対して抗告・準抗告をすることができるものとされているのは、そのような趣旨によるものかと思われますし、複写と移転の違いも踏まえつつ、不服申立ての規律をそのようなものとすることは、一つの考え方として十分にあり得るように思われるところであります。   なお、複写を命ずる命令に対する抗告・準抗告に理由があると認める場合に採られる措置は、移転を命ずる命令に対する抗告・準抗告について先ほど述べたところと同じであるものと考えられます。 ○久保委員 提供であれ移転であれ、事前及び事後の不服の申立ての機会が設けられるべきということについては、当然のことだと考えております。これまでの差押えにつきましては有体物を想定していますので、令状に差し押さえるべきものを記載し、その範囲内でのみ差し押さえることが可能であり、仮に違法な差押えがあった場合には、押収品の目録と対照した上で準抗告を申し立てるという不服申立て手段が保障されていました。ですので、電磁的記録については、令状に電磁的な記録の範囲を明記し、その範囲でのみ記録した後、押収品目録に電磁的な記録を記載し、準抗告により消去させるという不服申立て手段を保障すべきであり、これは電磁的記録提供命令についてはそのように考えるべきだと考えております。その上で、現在は押収品の目録に電磁的記録の明細までは記載されていないのではないかと思いますが、やはりデータの一覧を出力し、どのような記録を提供し、あるいは移転したのかということを確認する機会というのは必要不可欠ではないかと思います。   その上で、この不服申立ての申立権者についても改めて検討が必要だと考えます。例えば、今回の部会で出ておりますクラウド事業者などを想定しますと、そもそもクラウド事業者はそのクラウドの中に入っているデータの管理者なのかということ自体に強く疑問を感じております。クラウド事業者ではなくデータの所有者あるいは利用者自体が、その差押えについての事実を知り、不服の申立ての機会が設けられるということが必要不可欠ではないかと考えます。そのため、この申立権者ということを考えるに当たっては、実質的なデータ保有者の権利保護という観点も検討が必要だと考えます。 ○小木曽部会長代理 不服申立ての点について、ほかに御意見はよろしいでしょうか。   よろしければ、検討課題「(4)強制処分としての実効性をより一層担保するための方策」について議論を行いたいと思います。   「①」から「③」までは、相互に関連しますので、併せて御意見を伺いたいと思います。いずれの点についてでも結構ですので、対象を明らかにして御意見を頂戴したいと思います。よろしくお願いします。 ○樋口幹事 検討課題「(4)」の実効性を担保するための方策について、「①」の制裁を設けるかどうか、「②」の刑事罰を設ける場合の法定刑をどのようなものとするかの2点に関しては、実体法にも関わる点ですので、発言させていただきます。   まず1点目の、制裁を設けるか、取り分け刑事罰を新設するかという問題です。本日、「(4)」に入る前に既に議論が先行してなされているところですが、第3回会議を振り返りますと、成瀬幹事から、電磁的記録の提供をより強力に義務付ける方策が必要になる背景として、クラウド技術の普及等によるデータの記録・蔵置の状況の複雑化によって、データが記録されている記録媒体を特定して差し押さえることが事実上不可能な場合も少なくないという事情が指摘されたところです。そして、義務付ける方策を考えるに当たり、現行刑事訴訟法を参照しながら、対象者自身による行為がなければ処分の実効性を欠くこととなる処分については、間接強制として、過料や刑罰の制裁を設けることに合理性がある、そういった指摘がなされたところです。   刑罰という制裁を設けることについて、実体法的見地から考えますと、罪刑法定主義の派生原理として一般的に挙げられている、刑罰法規はその内容において適正でなければならない、あるいは比例性を充足していなければならないといった視点、あるいは明確性の原則を充足していなければならない、こういった基本原理に立ち戻ることが有益と思われるところです。   刑罰法規の内容の適正について考えてみますと、成瀬幹事が、近時のIT技術を踏まえると電磁的記録の提供について強力な義務付けが必要であると、こういった指摘をされた点は、実体法的にはデータの提供を刑罰で義務付ける目的の正当性を論証するものと整理することになるかと思われます。   久保委員は、第3回会議で、罰則を設けて強制するような立法事実は乏しいと指摘されておられまして、本日もその点を指摘されました。刑罰を置く立法事実の事実認識を研究者が述べるのは必ずしも容易ではないところでもありますが、これからこの部会で提示される立法事実によって正当化されるかどうかが議論され、この刑罰法規の目的の正当性が確認されることになるのかなと考えております。   もう一つ、刑罰法規の適正に関して、目的の正当性以外に、目的達成手段としての相当性という吟味も必要になるところですが、電磁的記録の提供を義務付ける内容が刑事訴訟法の見地から見て適切な制度設計となっている場合、権利侵害の程度と捜査の必要性の利益衡量が指針になるかと思うのですけれども、そちらが確保されておりましたら、基本的には実体刑法の見地から見ても相当という評価に至ると、そういう性質のものであろうと考えます。   先ほど、この義務履行に関して事前・事後の不服申立て制度の整備の議論がなされたところですが、こういった議論は、実体法的な適正さの確保に必須かはともかく適正さを強める事情になると整理できることになるのかなと思います。   それ以外に、明確性の原則に関してですが、こちらは義務の名宛人が特定されて、そして義務履行の内容が特定されていれば、明確性の原則は実体法的に充足されるわけですが、こちらも先ほど議論が出ました、令状が訴訟法的に十分に特定されていれば、義務の内容は特定・明示され、実体法的にも明確性の原則を害する事態にはならないのかなと思われ、先ほど小木曽部会長代理から、整理して更に議論をする必要があるように私は受け止めました、というコメントがございましたが、そちらの議論の整理をしていただければ、実体法的にも刑罰法規の適正、明確性の原則、両面から支持できるかどうか、吟味可能になると思われるところです。   発言が長くて恐縮ですが、ワンセットの問題ですので、法定刑の観点もここで申し上げます。一般論として申しますと、法定刑は違法性・責任の大小に応じて定められるものでして、法益はもちろん行為態様・行為主体の属性等を考慮して決定することになります。もっとも、ただこのような一般論を持ち出しても法定刑の具体的な数字をイメージすることは難しく、実際には似た性質を帯びた罪を参照することが現実的です。   法益という見地から見ますと、電磁的記録の提供を義務付けられた者が義務履行しないという行為を処罰するのは、事案の真相を解明する刑事法の作用、ひいては国家刑罰権の適切な行使を妨げるという意味での司法作用の侵害罪に属します。ただ、刑事司法作用の侵害という法益は偽証、犯人隠避、証拠隠滅といった刑法典上の罪に共通し、その法定刑には大きな幅があるため、それだけでは参照価値に乏しいかなと思われるところです。類比の仕方として考えられるのは、対象者に積極的な行動を義務付けない限り事案の真相解明に困難を来すという構造を持つ条文であって、具体的に申し上げますと、刑事訴訟法第161条が規定する証言拒絶罪の1年以下の懲役又は30万円以下の罰金というのが一つの手掛かりを提供するように思われます。偽証、犯人隠避、証拠隠滅といった刑事司法作用への積極侵害ではなく、刑事司法作用の実現に向けた貢献を行わないという消極的な態様の罪であることから、法定刑は低めに抑えられることになるのであろうと思われます。   この法定刑の候補と連動してくる部分になるのですが、間接強制としてどのような制裁を規定するのかという問題もございます。成瀬幹事の御指摘におかれましては、間接強制の候補として過料と刑罰の両方が挙げられておりました。この点、刑罰の謙抑性を強調する立場からは、過料では十分でないといえるときに限って刑罰の新設が認められるという形で、立法事実を強く要求するという議論もなされる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、過料も候補になる場合には、過料では足りない理由を具体的に論証できない限りは刑罰の新設は認めないというのは厳格に過ぎるものでして、間接強制の実効性を強力に担保するという要請、これを示す立法事実が存在するといえるのであれば、刑罰を新設しても、刑罰法規の適正の見地からは不当という評価を受けることはないように思います。ただ、仮にこの電磁的記録の提供義務の違反について過料と刑罰の両方を規定するということでしたら、それぞれをどのように使用するのかという運用についてイメージをしておき、その合理性を確認しておくことが必要かと思われます。   検討課題の「①」・「②」に関する意見は以上ですが、検討課題の「③」で、被処分者が被疑者・被告人である場合の憲法第38条の議論をすべきだと、このように指摘されている点に関連して、1点補足させてください。憲法第38条の議論は刑事訴訟法の先生に委ねたいと思いますが、憲法第38条が及ぶ範囲の問題とは別に、実体刑法の見地、罰則の適正さに関わる問題としまして、被疑者・被告人にも電磁的記録の提供を義務付けるのであれば、期待可能性論の見地からの検討をしておくべきと指摘したいと思います。証拠隠滅という積極的な侵害態様についてさえ期待可能性の見地を強調し、被疑者・被告人を主体から除外するといった議論がなされてきたことは周知のとおりでございます。ただ、近時は期待可能性を強調する議論はかなりの程度、相対化されてきております。例えば、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪の導入が想起されるところですし、ほかにもマネー・ローンダリング罪の主体には従前から本犯者も含まれており、その法定刑の引上げに際しましても本犯者も含める形で実現されているところでございます。このような近時の変化を踏まえて実体刑法上の適正さを考えることが課題になるかと思われます。 ○成瀬幹事 私は、検討課題「(4)」「③」の被処分者が被疑者・被告人である場合に憲法第38条第1項との関係をどのように考えるかという点について意見を申し上げます。   憲法第38条第1項は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定しており、同項においては、「自己に不利益な」、「供述」、「強要」という三つの要件が問題になります。   まず、同項にいう「自己に不利益な」事項とは、判例上、自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項をいうとされていますが、捜査機関等が必要とする電磁的記録の多くは、被疑者・被告人の刑事責任に直接又は間接に関係するものと思われます。   次に、同項にいう「強要」には、直接的な強制だけでなく、義務違反に対する制裁により間接的に強制することも含まれると解されていますので、仮に、電磁的記録提供命令に応じない被疑者・被告人に対して刑事罰や過料を設けるとすれば、「強要」の要件も満たすことになります。   そこで、同項により強要されないことが保障される「供述」の意義が問題となりますが、この「供述」には、人が口頭で事実を述べることのみならず、人が供述内容を新たに文書にして提出することも含むと解されています。他方で、既に存在する文書を差し押さえることは、その文書が差押えの処分を受ける者にとって不利益な内容を含むものであっても、憲法第38条第1項の問題にはならないと考えられています。このような「供述」要件に関する理解を電磁的記録提供命令の場面に当てはめると、次のようになると思われます。   まず、仮に、自己に不利益な内容の供述を新たに電磁的記録として作成させて提供することを刑事罰や過料をもって強要することとすれば、憲法第38条第1項に違反することになるでしょう。   これに対して、捜査機関等が提供を命じた電磁的記録の内容が、単なる現象や過程の機械的記録であって、人が観念したことの表出としての意味を持つものと評価されない場合、例えば、被疑者・被告人のスマートフォンにより自動的に記録された位置情報データのような電磁的記録には、そもそも「供述」が含まれていないので、その提供を強要しても憲法第38条第1項に違反しないと考えることができるように思われます。   また、捜査機関等が提供を命じた電磁的記録の内容が、人が観念したことの表出という意味で供述的要素を含むとしても、既に存在している電磁的記録の提供を強要したにとどまる場合には、たとえその内容が不利益なものであったとしても、不利益な内容が既に記載されている被疑者・被告人の日記帳を差し押さえる場合と同様に、憲法第38条第1項の問題を生じさせるものではないと考えることができるように思われます。   差し当たり、「供述」要件に関する従前の理解に従って、私なりに整理した内容を申し上げましたが、憲法第38条第1項における「供述」の意義及びその射程については、いまだに共通理解が形成されておらず、現在も諸外国の議論を踏まえて様々な見解が示されているところですので、憲法第38条第1項との関係については、引き続き慎重に検討していく必要があると考えています。 ○久保委員 部会の第3回会議でも申し上げましたように、そもそもこの間接強制の導入自体に反対を致します。先ほども御指摘のありましたように、被疑者・被告人が被処分者となることもあり得るとすれば、このデータの提供又は移転を強制する間接強制というのは、より大きな問題を含むということになります。もちろん協力的な通信事業者に対して用いることを想定しているのであれば、そもそも罰則の必要性もありません。記録媒体で差し押さえていたものをオンライン上で取得できるようにしたいという利便性の問題と、それについて罰則を付すということは、全く別の次元の問題だと考えますので、罰則を科すとすれば、先ほど成瀬幹事から御指摘もあったような憲法第38条との関係も含めて、慎重に議論が行われなければならないと考えます。   先ほど樋口幹事から御指摘のあった立法事実の点について、更に補足したいと思います。やはり立法事実の観点で、遠くにあるデータを取りたいという希望以外が現時点ではよく理解しかねるところです。例えば、現在、記録命令付差押えを拒否する事業者が、通信の秘密ですとかプライバシーを理由としているのか、あるいは事業者に掛かる負担を理由としているのか、海外にデータが保管されていることによる主権の問題なのか、これが明らかにならない限り、間接強制をするという方法の有効性も相当性も明らかにはなりません。例えば、外国事業者であって、結局のところ主権の問題なのだとすれば、間接強制が無意味になるということもあるのかもしれません。事業者に掛かる負担だとすれば、間接強制をすることによる負担は甚大なものとなりかねません。通信の秘密やプライバシーを理由とするのであれば、制度設計に際し、特にその点において議論を深めなければなりません。   記録命令付差押えの延長線であるという議論は、間接強制を伴わないものであれば、それ自体の問題は別にあるとしても、選択肢を増やしたいという発想自体は理解できる部分もありますが、間接強制とすることにより、しかも、それが被疑者・被告人も対象となるとすれば、出てくる情報の量や性質が格段に変容することは明らかである以上、従来の制度を前提とした議論は適切ではありませんし、検討会でしっかり議論されていない以上、この場できちんと議論がなされるべきです。明確性の要請があることや、処罰内容が適正であることが必要であるということは、先ほど樋口幹事からも御指摘がありましたが、そのような観点での検討に時間を要するのであれば、この議題については現時点では検討の対象から外すのが相当だと考えております。   その上で、間接強制を伴う命令の名宛人を被疑者・被告人とすることには、やはり憲法第38条の問題があるので、強く反対いたします。被疑者に対して積極的に自分を処罰させるための行動をとることを要求することになるのは明らかであり、それを間接強制をもって強制することは、憲法第38条に明確に反するというべきです。先ほど、成瀬幹事から諸外国においても議論があるということを御紹介いただきましたが、海外においてどのような議論があり、自己負罪拒否特権の観点をクリアするためにどのような手当てがなされているのか、制度全体の在り方を見なければ、検討することは困難です。   1点申し上げたいのは、検討会の際に比較法の資料が提供され、この部会の第1回会議でも配布をされましたが、検討会で議論されていなかったところについては、反映されておらず、確か今後の議論状況に応じて加筆をしていくという説明も事務当局からあったかと思います。被疑者・被告人に対する間接強制について、海外においてどのような議論が行われているのかなど、比較法の観点での御説明を改めてお願いしたいと思っておりますし、さらに、ついでに申し上げるようで恐縮ですが、前回の実体法に関する議論につきましても、刑事手続のIT化に伴い独自の実体法改正として、海外においてどのようなことが行われ、どのようなことは行われていないのかといったことも含めて、改めて比較法の観点で事務当局に御紹介をお願いできればと思っております。これは、もちろんすぐにということは難しいことは承知しておりますので、今後の部会に向けて、御準備をお願いしたいと思っております。   発言が長くなって恐縮なのですけれども、クラウドサービスについて、間接強制を伴う電磁的記録提供命令が行われることになりますと、様々な弊害が考えられるのではないかと思います。例えば、クラウドサービスの使用をちゅうちょするのではないかということを、以前指摘しましたが、どのようなちゅうちょが考えられるか、考えてみました。   先ほど申し上げたように、仮にクラウドサービスの事業者に対して命令が行われ、不服の申立権者がクラウド事業者だということになると、押収の処分でいうところの押収拒絶権がどうなるのかといった点も問題になると思います。例えば、現行法で押収拒絶権の主体となっている者自体に対して命令が下れば、それを理由に拒否をすることができますが、クラウドサービス事業者に対して命令が行われるということになりますと、押収拒絶権を行使する機会そのものが与えられないということになり、問題が生じます。例えば、医師については押収拒絶権が規定されているところですが、電子カルテなどのクラウドサービス化というものもかなり進んでいるものと承知しております。医師において電子カルテを保存するクラウドサービスが自身の知らないところで知らないうちに警察に提供されるといったことを想定すれば、セキュリティ意識の高い人ほどクラウドサービスを利用することにちゅうちょするということも考えられるのではないかと思います。   押収拒絶権の対象以外の場面でも問題が考えられます。例えば、営業秘密に関わる情報が保存されていた場合です。コロナ禍においてテレワークが進み、外部から接続できるクラウドを利用する会社も増えているものと思われます。そこに営業秘密に該当するデータを保存したものの、クラウド事業者が警察から押収を受け、その通知も受けず、かつ、そのことが情報として事件に関係がないということが事後的に分かったとしても、先ほど制度設計として御提案があったように、消去をされることが義務付けられることもなく、そのまま警察に保管され、いつどこで誰から情報が漏えいするか分からないという状況について、国民がそのまま許容するとは到底思われません。仮に営業秘密が漏えいした場合に、誰が補償するのかといったことを考えれば、企業がクラウドを使うことをちゅうちょすることがないといえる理由が私には理解しかねます。本来のデータ管理者に対して通知をし、不服申立ての機会があり、かつ、不要な情報については消去されることが担保されなければならないというのが素朴な国民感情ではないかと考えます。   さらに、長くなって恐縮なのですけれども、先ほど樋口幹事からは期待可能性という点でも御紹介を頂いたかと思います。被疑者・被告人に対し、自らを訴追させるための証拠提出に、罰則をもって強制・協力させるということは、やはり期待可能性の点で、おかしなものだと考えます。先ほどの発言とやや重なりますが、クラウドには過去の情報も多数含まれていますので、被疑事実となっている犯罪はもちろん、余罪に関する証拠が含まれている場合も想定されます。自身の犯罪に関する証拠隠滅行為が不可罰であるということとの整合性もないように思われます。   先ほど、過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪についても御指摘いただきましたが、やはり積極的に新たな行為をする場面と、既にあるデータについてそれを開示するように求める場面とでは状況が異なるように思われますし、クラウドに情報が保存されているということを知っていたという事実そのものが、被疑者・被告人によっては不利益に考慮される場合もございます。例えば、クラウドに何らかの犯罪に関わる情報が保存されていた際に、そのクラウドのパスワードを知っていたということ自体が、不利益に働くという場面も想定されます。客観的に供述のような場面でなかったとしても、被疑者・被告人にとって不利益になる場面については、憲法第38条の保障が及ぶべきであり、それについて間接強制をもって提出・提供を強制するということは問題があると考えます。 ○成瀬幹事 久保委員から、憲法第38条第1項に関して、外国における議論を御紹介いただきたいという御発言がございましたので、アメリカにおける議論を簡単に御紹介したいと思います。周知のとおり、憲法第38条第1項の母法はアメリカ合衆国憲法修正第5条ですので、修正第5条に関する判例法理について、私が理解している範囲で紹介させていただきます。   合衆国憲法修正第5条に関する判例においては、提出する文書の内容にかかわらず、これを提出する行為自体が、提出者が有する当該文書についての認識等を黙示的に「供述」するものであると評価する考え方が採用されています。   具体的には、既に存在する文書の提出を命ずる処分であっても、それに応じて文書を提出する行為(act of production)は、その行為自体により、提出を求められた特定の文書が存在していること、自己がその文書を所持・支配・管理していること、提出する文書が真正なものであること、という三つの事項を提出者が黙示的に認めることになるという意味で、「供述」としての側面(testimonial aspect)を有しており、そのような行為を強要することが、修正第5条の保護に反し、許されない場合があるとされています。この判例法理は、「act of production doctrine」と呼ばれ、被疑者・被告人に対して文書の提出を命ずる場合だけでなく、電磁的記録の提供を命ずる場合にも適用されています。   他方で、アメリカの判例法理では、既に存在する文書を提出する行為が、性質上、「供述」としての側面を有するとしても、検察側が、提出を求める文書が存在すること、被疑者・被告人が同文書を所持・支配・管理していること、同文書が真正なものであること、という三つの事項について、合理的な特定性(reasonable particularity)をもって事前に知っていたことを立証した場合には、当該文書提出行為の「供述」としての性格が失われ、修正第5条による保護は及ばなくなるとされています。この判例法理は、「foregone conclusion doctrine」と呼ばれています。   このような合衆国憲法修正第5条に関する判例法理を我が国の憲法第38条第1項の解釈として採用すべきか否かについては、慎重な検討を要すると思いますが、電磁的記録提供命令に罰則等を設けてその履行を強制する制度を創設するに当たっては、今申し上げたアメリカの判例法理も一つの参考として念頭に置いておく必要があると考えます。 ○小木曽部会長代理 ほかに、検討課題「(4)」について御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。   それでは、資料には「(5)その他」というのもありますが、それを含めて、検討課題として明示されていない点に関するものも含めて、「第1-3」について御意見はいかがでしょうか。 ○久保委員 幾つかあるのですけれども、まず1点目として、間接強制として罰則を設けることには反対ですが、仮に罰則を伴うものとするのであれば、除外規定を設けることについても議論すべきだと考えます。例えば、被疑者・被告人は一律に除外するべきですし、他に除外するべき場合がないのかといった点についても検討されるべきだと考えます。   押収拒絶権については、先ほど指摘させていただきましたが、それを実質的にどのように保障するのかの検討が必要であると考えます。先ほど来申し上げておりますとおり、第三者あるいは実質的なデータ保有者の権利利益の侵害への配慮といった点が現在のたたき台の中だとどのように保障されるのか不明確であり、その観点からの議論が必要だと考えます。   その際は、先ほどアメリカでの議論について成瀬幹事に御紹介いただきましたが、外国では何らかの除外規定があるのか、あるとすればどのようなもので、日本にも取り込めるものかといった観点で、参考にできる部分もあるかもしれません。   私なりに調べてみたところですと、例えば、ドイツでは、押収されたものについての情報の取扱いをどうするのかといった規定もあるように認識しております。文書などで集めたものについても、その後どういう取扱いになるのかといったことも検討がなされているようです。事前の除外規定のほかに、情報管理として、あるいはその証拠をどのような形で事後的に使えるのかということについても、比較法の観点でも是非御紹介いただきたいと考えております。   「その他」の関係ですので、いろいろな点が混在して恐縮なのですけれども、除外規定の問題、事後的な管理、第三者の保護をどうするのかといった、本日申し上げたことについて別途、議題として検討がなされるべきではないかと考えているところです。先ほども申し上げた令状の対象の特定方法などといった点についても、一から議論が必要だと考えております。 ○小木曽部会長代理 「第1-3」につきまして、ほかに御意見はよろしいでしょうか。   よろしければ、「第1-4 電子的方法による証拠開示等」について議論をできるだけ行いたいと思います。資料の説明をお願いします。 ○鷦鷯幹事 配布資料11の9ページから11ページまでを御覧ください。   「考えられる制度の枠組み」には、「(1)」の「ア」・「イ」として、電子的方法により作成・管理される証拠書類等であって相手方にその閲覧・謄写の機会を与えなければならないものについて、オンラインによりその機会を与えたときは、前記の閲覧・謄写の機会を与えたものとすることを、「(2)」として、証拠の一覧表の交付は、電子的方法により作成したものをオンラインにより提供したときは、前記の交付をしたものとすることを、「(3)」として、裁判所において電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等についての閲覧・謄写は、オンラインによってもすることができるものとすることをそれぞれ記載しています。   続いて、「検討課題」を御覧ください。   まず、「(1)」に関しては、電子的方法により作成・管理される証拠書類等の閲覧・謄写の機会の付与について、点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「(2)」に関しては、証拠の一覧表を電子的方法により作成し、オンラインにより交付すること等を可能とするため、点線枠内のような規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。   「(3)」に関しては、電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等を裁判所外からオンラインにより閲覧・謄写することを可能とするため、点線枠内のような規律を設けるか、電子的方法により作成・管理される訴訟に関する書類等を裁判所において複写することについても、同様に裁判長の許可を受けることを要するものとするかなどの点が、検討課題となります。   「(4)」に関しては、以上の各規律のほか、オンラインによる証拠書類等の開示や訴訟に関する書類等の閲覧・謄写について、情報セキュリティの確保に関する規律を設けるかなどの点が、検討課題となります。 ○小木曽部会長代理 ただいまの説明について、御質問はありますか。よろしいですか。   それでは、議論に入りたいと思います。検討課題の「(1)」と「(2)」は、当事者間における証拠の開示や、その請求の手掛かりとする一覧表の交付の制度に関するものですから、併せて御意見を頂きたいと思います。   「(1)」と「(2)」のいずれについても結構ですので、御意見を頂きたいと思います。 ○池田委員 検討課題の「(1)」と「(2)」について意見を申し上げます。これまで当部会で述べてきたとおり、刑事訴訟法第299条第1項の規定により相手方に閲覧の機会を与えなければならない証拠が電磁的記録であるという場合には、同項の趣旨を踏まえますと、電磁的記録のうち、例えば文字データや画像データなど、その内容を目で見て把握することができるものについては、相手方がその内容が表示されたものを閲覧することができる状態に置き、また、映像や音声データなど、その内容が映写され、あるいは音として再生されたものを目で見たり耳で聞いたりして把握するものについては、相手方がその内容を見聞きすることができる状態に置けば、証拠調べを請求する者は、当該電磁的記録について、同項の義務を果たしたことになると考えられます。   また、公判前整理手続等における証拠開示において、相手方に謄写の機会を与えなければならない証拠が電磁的記録である場合についても、同様に、刑事訴訟法第316条の14第1項等の趣旨を踏まえると、相手方がこれを複写することができる状態に置けば、当該電磁的記録について、これらの規定の謄写の機会を与える義務を果たしたことになると考えられます。   あわせて、証拠の一覧表の交付についても、同法第316条の14第2項の趣旨を踏まえますと、同条第3項所定の事項が記録された内容のデータが被告人又は弁護人に提供されれば、同条第2項の証拠の一覧表の交付の義務を果たしたことになると考えられます。   以上を踏まえますと、検討課題の「(1)」及び「(2)」の点線枠内に示されている規律案は、現行法の義務の在り方をそのまま維持した上で、各規定の趣旨に照らして、電磁的記録の性質に応じたこれらの規定による開示の方法を示すものであり、いずれも合理性があると思われます。 ○𠮷澤委員 私も、この点線の丸囲いにあるような規律を設けることに賛成です。これまでに述べてきたところとも重なりますが、閲覧によるか謄写によるかなど、開示の方法については検察官が判断することとなっており、現在も性的動画や画像といった流出のリスクが高く、一度流出した場合に回復不可能な名誉・プライバシーへの侵害が起きてしまう、そういった証拠については検察官において検察庁内での閲覧のみを認め、謄写は認めないという対応をされてきたところだと思います。そして、オンラインによる証拠開示では、こういった動画や画像の流出のリスクは格段に高まることとなると思いますので、オンラインによる開示は認めず、これまでと同様、検察庁での閲覧のみという方法を検察官が選択されるのだと思いますし、そういう立て付けにすることがオンライン化による利便性と名誉・プライバシーの侵害のリスクとの兼ね合いを考える上で必須だと思います。   ですので、この点線の丸囲みのような規律を設け、これまでと同様、検察官がオンライン方式も含め、証拠開示の方法を選択するという立て付けにすることが相当だと考えています。 ○久保委員 𠮷澤委員からも御指摘がありましたが、この規定ぶりですと、紙媒体と電子データというのが選択的なものにされているように読めます。弁護人が紙にするのかデータにするのかということの選択権を有する場合はともかくとして、検察官の裁量が原則であるかのような立て付けにする趣旨であれば、それについては反対を致します。電子データをオンラインで、かつ、閲覧・謄写の機会を全ての事件において与えることが原則とされるべきです。   この点について、第2回の会議などで申し上げたとおり、公判前整理手続に付されない事件であったとしても、閲覧に加えて謄写の権利を定めるべきだということを申し上げました。その発言自体には特段の異論がなかったものと思いますが、しかし、この議題の中には含まれておりません。そこで改めて、公判前整理手続に付されているか否かによって実務においては実態は変わらないという実務上の運用を踏まえて、全ての事件において閲覧・謄写の機会を与えるということを定めた上で、まずは原則としてオンラインの開示の機会が行われるべきだと考えます。   先ほど𠮷澤委員から御指摘のあったような性犯罪の動画データなどについて、それがオンライン上で開示をされないという取扱いになることについてはケース・バイ・ケースで、異論がないところではありますが、従来どおり、それについては紙での開示ですとか、閲覧若しくはUSB交付としてオンライン開示の対象から除外すればよいのであり、そうした一部の証拠を理由に、通常の証拠開示に際して過度なセキュリティを要求することによる防御活動の制約は許されるべきではありません。謄写権の保障は、防御準備に必要不可欠であるだけでなく、公判前整理手続期日や公判期日の迅速な進行のためにも必要不可欠であり、謄写権が認められなければ迅速な進行は不可能になり、刑事裁判の遅延を招きます。つきましては、原則としてオンラインによる閲覧・謄写の機会を与えることとし、検察官が一定の事由がある場合に他の方法とすることができるとした上で、それに不服がある場合には裁定請求という不服申立ての機会が与えられるという制度設計にすることが適切だと考えます。   なお、在宅の被疑者や被告人、身体拘束中の被疑者・被告人の閲覧の問題については、この点で言及されておりませんが、結局オンラインで開示されたとしても差し入れの際に紙にするということになると本末転倒ですので、改めてこの点についても、被疑者・被告人が電子データで閲覧をする機会が与えられるべきだと考えます。   次に、この閲覧・謄写に関連して、これも以前の部会でも申し上げた、しかしこの議題の中に含まれていないものとして、少年事件の記録をどうするのかという点についても申し上げたいと思います。少年については、少なくとも部会の議論の対象となり得るという御回答を事務当局から頂きましたが、この点についてどうなるのかということは現時点でも判然としておりません。少年審判の手続には成人の刑事裁判とは異なる性質がありますが、そうした性質を踏まえてもなお、成人の刑事裁判と同様に閲覧・謄写の機会が与えられるべきであり、議題に含まれていないのは、成人の閲覧・謄写の議論に含まれるという趣旨であれば結構ですが、更に言うと、少年の事件については謄写が許可制となっております。少なくとも弁護士が付添人となる場合には、成人と同様、オンラインによる謄写が原則とされるべきだと考えます。   このまま法制審議会において少年についてほとんど議論されることのないまま最高裁判所規則制定諮問委員会で議論するようなことになると、方向性自体、部会でも想定していなかったようなものとなる危険性もあると思います。社会記録の存在がどうなるのかといった問題があるのではないかという点は、以前も指摘したとおりです。原則としてオンライン化する以上は社会記録についてもオンラインによる開示がなされるべきだと思いますが、そのような前提でよいのかも含めて、やはり異論があるのであれば指摘していただきたいですし、この場で議論がなされるべきだと考えます。   さらに、「(2)」の証拠の一覧表について申し上げます。この証拠の一覧表につきましては、これも紙媒体と電子データが選択的なものとされているように読めますが、エクセルなどの原データを電子データとしてオンラインで閲覧・謄写する機会が与えられ、かつ、具体的にはダウンロードができるようにする権利が与えられるのが原則とされるべきです。証拠の一覧表は標目が記載されているものであり、証拠それ自体に比べても、その情報の秘匿性は低く、これを選択的とすれば、その理由がよく分かりません。   昨今、刑事裁判が長期化しているということが問題となっておりますが、その一因には、証拠の一覧表が紙のみで交付され、弁護人が希望したとしても、一部の検察官の裁量でデータ開示されることがあるということは承知していますが、多くの検察官はデータで一覧表を交付するということはしておらず、結果として証拠の一覧表と証拠開示書を比較し、どのような証拠が現時点で開示されていないのかという比較作業に膨大な時間を要するといった面もございます。エクセルなどの原データで開示をされることにより、その比較作業が飛躍的に早くなることが想定されますので、この一覧表の開示に当たっては、エクセルなどの原データで開示されることをこの部会で除外するものではないという趣旨について、改めて確認をするために申し上げておきたいと思います。 ○保坂幹事 今の久保委員がおっしゃった証拠の一覧表の関係ですけれども、確認したいとおっしゃったのは、現行法においてもデータで一覧表を交付する義務があるのだと、こういう御趣旨でしょうか。 ○久保委員 現行法で義務があるというよりも、現在は検察官の裁量で開示してくれるケースもございます。その意味で、現行法でデータでの開示が禁止されているものではないということを前提に、今後、証拠の一覧表をオンライン開示されるに際しては、そもそもオンライン開示されることを原則とし、その際にPDFで開示をされるということになると、結局これまでと変わりないということになりますので、利便性を高める、そして刑事裁判の迅速化という観点からは、エクセルなどの原データで開示をされるべきだと思っておりますし、この部会でもそのような運用とすることが排除されていないということを確認のために申し上げた趣旨になります。 ○吉田幹事 検察官が証拠の一覧表をデータで提供する場合に、PDFにするかエクセルにするかというのは、法律論として議論すべきことではなく、法改正に当たって特定のファイル形式について禁止する規範を作らなかったとしても、その点は検察庁の運用によるところも大きいので、この場で共通認識を作るということは難しいのではないかと思います。議論をするに際しては、飽くまで法律論として御議論いただきたいと思います。 ○久保委員 仮に、PDFで開示をすることが前提という意見をお持ちの方がいらっしゃるのであれば、是非御意見を伺いたいと思います。そうでないのであれば、この部会において異論がなかったということを前提に、運用の指針もこの部会において検討すべきと思います。オンラインでの開示を原則とするということも、例外を前提とするということを考えれば、一面において運用という見方もございます。証拠の一覧表の開示を原則としてオンラインでするということを、法律上規定し、その運用の在り方として、エクセルでの開示などにより利便性を高め、刑事裁判を迅速化することが望ましいということは、この部会での議論の対象になり得るものと思います。 ○保坂幹事 証拠の一覧表のデータを交付する場合に、データへのアクセスの仕方としてどういうものとするのかについては、電磁的記録である証拠それ自体の開示の仕方がどのようなものになるのか、例えば、回線がどのようなものになるのかといった点とも関連するところだと思います。証拠の場合をまず想定しますと、データを改変できない、内容が変更されないものにできるのかどうかという問題もあり、そう考えるとPDFとして固定したものがよろしかろうということになります。証拠の一覧表だけの問題だけではなくて、そういった証拠の開示の仕方とも関連して検討が必要なので、証拠の一覧表についてだけを取り上げて、PDFにすべきという異論がなかったからエクセルで行うことが否定はされませんでしたねというのは、やや議論として無理があるように思います。 ○久保委員 今、具体的にどうやっているかというと、紙で交付された証拠の一覧表をPDFで取り込むということは、技術的に当然可能なことというのは想定されているものと思います。一覧表をPDFで取り込み、OCRを掛け、エクセルに直し、その上で誤字などを修正し、その上で対比するといったことは、現在においてもやっておりますが、やはり非常に時間が掛かりますので、エクセルデータをそのまま開示された方がはるかに刑事裁判の迅速化にも、被疑者・被告人や弁護人の利便性という点で資すると考えます。   現在の制度を前提としてもそのようなことは可能である以上、禁止されるべきではありませんし、仮にエクセルの形で開示することに問題のあるようなものがあるのであれば、現在においても、例えば証拠の一覧表自体がマスキングされて開示されるといったこともございます。ですので、何らかその一覧表自体に問題があるということであれば、そういった検討をすればよいということになりますので、やはり今の制度を前提とした上でも、運用面ではできる限りエクセルなどの原データの開示が望ましいと考えています。 ○向井委員 1点だけ、迅速化という観点から意見を申し上げます。   裁判の迅速化に係る検証に関する報告書や実情調査におきまして、公判前整理手続の長期化要因の一つとして、電子メールですとか防犯カメラ映像等の客観的証拠の量が格段に増えてきており、捜査機関における解析、検察官による開示の弊害の検討、紙での謄写、弁護人による分析といった各段階、それぞれの段階において長期化しているということが指摘されております。証拠の閲覧・謄写がオンラインで行われることになったとしても、大量の客観的証拠を当事者において分析検討する時間が直ちに大幅に削減されるというわけではないものの、これまで紙媒体の証拠書類でやり取りをしていたのに比べれば、閲覧・謄写に要する時間が確実に削減されることになると思われます。その意味で、長期化の要因の一つが解消され、ひいては裁判の迅速化につながるというところにつきまして、当事者間の証拠の閲覧・謄写がオンラインで行われるということに対して、裁判所としても期待をしているところであります。 ○小木曽部会長代理 ほかに検討課題「(1)」、「(2)」について、御意見はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、皆様、長時間ありがとうございました。「第1-4」の「(1)」と「(2)」まで議論が終わったところですけれども、終了時刻が近付いておりますので、本日の議論はここまでとしたいと思います。   次回は、「第1-4」の「(3)」から始めまして、諮問事項「一」に関する議論を終えた後に、諮問事項「二」に関する議論を更に進めてまいりたいと思います。   諮問事項「二」に関しましても、本日と同様、資料を事務当局に準備していただきまして、それに沿って議論を進めていくこととしたいと思います。   それでは、次回の日程の説明をお願いいたします。 ○鷦鷯幹事 次回、第8回会議は、令和5年3月14日午後1時30分からを予定しております。本日と同様、Teamsによる御参加も可能でございます。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○小木曽部会長代理 冒頭御意見を伺いましたように、ヒアリング等につきまして正式に決まりましたら、事務当局を通じて御連絡いたします。   本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さないものはなかったと思いますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することにいたします。配布資料についても公開することにいたしますが、そのようなことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○小木曽部会長代理 ありがとうございます。   それでは、本日はこれにて閉会です。   どうもお疲れさまでした。ありがとうございました。 -了-