改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第5回) 第1 日 時  令和5年2月21日(火)      自 午前 9時56分                           至 午前11時49分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室(5階) 第3 議 題  公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況等         証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の実施状況         刑事免責制度の実施状況 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗木参事官 ただ今から、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会の第5回会議を開催いたします。   本日は、皆様御多用のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   まず、事務当局から本日の配布資料について確認をさせていただきます。  本日は、配布資料12から17までをお配りしています。配布資料12から14までは、公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況等に関するもの、配布資料15及び16は、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の実施状況に関するもの、配布資料17は、免責決定下で証人尋問を実施した事例に関するもので、いずれも事務当局において作成したものです。  各配布資料の内容については、後ほどそれぞれの点について御協議いただく際に御説明することとします。   次に、本日の議事に入る前に、前回会議におきまして、最高検察庁における監察の概況についての配布資料9に関連して、河津構成員から御質問があった点についてお答えをいたします。   前回会議では、最高検察庁の監察指導部において監察を実施する際、黙秘権侵害の有無についての統一的な判断基準は存在するのかという御質問がありました。統一的な判断基準としてどのようなものを念頭に置かれているかは明らかではありませんが、監察指導部においては、監察案件として立件した案件について、必要な調査等を行っており、調査等によって明らかとなった事実関係に基づいて、監察対象となった行為が捜査・公判遂行上の違法・不適正行為等に当たるかを個別具体的に判断しているものと承知しております。   事務当局からの回答は以上です。 ○河津構成員 御回答いただきありがとうございます。判断基準が明らかでないというのは、明確な判断基準はないという趣旨なのか、それとも、事務当局の方でお問合せいただいたけれども、判断基準の有無については明らかにならなかったという意味なのか、どちらなのでしょうか。 ○栗木参事官 河津構成員が黙秘権侵害の有無についての統一的な判断基準としてどういったものを念頭に置かれているのかが明らかではないという意味でお話ししたのですが、いずれにしましても、必要な調査等を行っており、個別具体的に判断しているという趣旨でお答えしました。 ○河津構成員 そうすると、統一的な判断基準はないと理解してよろしいのでしょうか。 ○栗木参事官 個別具体的に判断しているというお答えに尽きるところではありますが、一般論として申し上げると、例えば、黙秘権行使による不利益を示唆したり、黙秘権の行使自体を非難したり、あるいは黙秘権の行使を助言する弁護人の活動を非難して信頼関係を破壊する言動については、不適正な言動と判断していると承知しています。 ○河津構成員 御回答は理解いたしました。ありがとうございました。 ○栗木参事官 それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、まず、公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況等について、配布資料12から14までに基づく協議を行い、次に、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の実施状況について、配布資料15及び16に基づく協議を行った後、刑事免責制度の実施状況について、配布資料17に基づく協議を行うこととしたいと思います。それらの協議に当たっては、それぞれ、事務当局から関係する配布資料の説明を行った上で、その内容についての質疑応答、意見交換を行うこととしたいと思います。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況等についての協議を行いたいと思います。   まず、事務当局からこのテーマに関係する配布資料12から14までの内容について御説明いたします。   なお、前回会議において、皆様に、配布資料11「供述の任意性が争われた事件における供述の任意性に関する裁判所の判断状況」を配布いたしましたが、前回会議において、河津構成員から、「供述の任意性だけでなく、供述の信用性に関する裁判所の判断状況についても統計的な資料を提供されたい」との御要望がありましたので、事務当局において、配布資料11の内容に「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件における裁判所の判断状況」を付け加える形で、新たに、配布資料13を作成いたしました。そこで、ここでは、まず、配布資料13について御説明をし、続けて、配布資料12−1、12−2及び配布資料14−1、14−2について御説明することとし、配布資料11については、先ほど御説明した経緯に鑑み、御説明を省略させていただきます。   配布資料13について御説明いたします。   配布資料13は、供述の任意性が争われた事件及び取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件における裁判所の判断状況を整理したものです。   「供述の任意性が争われた事件」とは、表の下の「※1」に記載したとおり、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、被告人の捜査段階における供述の任意性を争う旨の主張がなされた事件で、検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由として証拠調べ請求を却下した事件を除くものであって、令和4年10月24日までに判決が確定したものを指しています。   また、「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件」とは、表の下の「※2」に記載したとおり、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、取調べの違法又は不当を理由として被告人の捜査段階における供述の信用性を争う旨の主張がなされた事件で、検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由に証拠調べ請求を却下した事件を除くものであって、令和4年10月24日までに確定したものを指しています。ただし、被告人の捜査段階における供述の信用性を争う旨の主張が取調べの違法又は不当を理由としてなされたかどうかは、任意性と異なり、一概に区分けできるものではなく、各検察庁からの報告があったものをそのまま計上しているため、前提となる判断にばらつきが生じている可能性があることに、御留意願います。   配布資料13におきましては、暦年で、「裁判員裁判対象事件」、「検察官独自捜査事件」及び「それ以外の事件」の類型別に、各年の状況を記載しています。まず、表の一番左の「事件数〔A〕」と記載された欄を御覧ください。表の一番下の「合計」の欄に記載しているとおり、供述の任意性が争われた事件又は取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件の事件数は、裁判員裁判対象事件について13件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について153件でした。   次に、その右横にある「供述の任意性が争われた事件」の欄を御覧ください。表の一番下の「合計」の欄に記載しているとおり、供述の任意性が争われた事件数は、裁判員裁判対象事件について11件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について142件でした。「供述の任意性が争われた事件数」の欄の右横には、供述の任意性が立証されていないことを理由に、供述調書の証拠調べ請求が却下された事件数の欄を設けており、それらの「合計」の欄を見ていただくと、裁判員裁判対象事件について2件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について6件でした。   次に、その右横にある「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件」の欄を御覧ください。表の一番下の「合計」の欄に記載しているとおり、取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件数は、裁判員裁判対象事件について8件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について75件でした。「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件数」の欄の右横には、取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が否定された事件数の欄を設けており、それらの「合計」の欄を見ていただくと、裁判員裁判対象事件について1件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について9件でした。   次に、その右横にある「供述の任意性又は信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされた事件数」の欄を御覧ください。表の一番下の「合計」の欄に記載しているとおり、供述の任意性又は信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされた事件数は、裁判員裁判対象事件について9件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について40件でした。   次に、その右横にある「供述の任意性又は信用性の立証のために取調官の証人尋問請求がなされた事件数」の欄を御覧ください。表の一番下の「合計」の欄に記載しているとおり、供述の任意性又は信用性の立証のために取調官の証人尋問請求がなされた事件数は、裁判員裁判対象事件について3件、検察官独自捜査事件について0件、それ以外の事件について79件でした。   最後に、「〔参考〕起訴された事件数」と記載された欄を御覧ください。この欄は、検察統計年報に基づき各年の検察庁における起訴件数を明らかにしたものであり、「供述の任意性が争われた事件」及び「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件」の各欄に記載した件数が事件数全体に占める割合をおおよそのボリューム感として把握するための目安として記載したものです。   なお、表の下の「※3・4」に記載したとおり、B欄、すなわち、「供述の任意性又は信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされた事件数」と、C欄、すなわち、「供述の任意性又は信用性の立証のために取調官の証人尋問請求がなされた事件数」の数値の合計が必ずしもA欄の数値と一致しないのは、供述の任意性・信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求及び取調官の証人尋問請求の両方がなされた事件については、B欄及びC欄のそれぞれに計上していること、供述の任意性・信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求及び取調官の証人尋問請求のいずれもなされていない事件も存在することが理由です。   配布資料13の御説明は以上です。   続きまして、配布資料12−1及び12−2について御説明します。これらのうち、配布資料12−1は、供述の任意性の立証がなされていないことを理由として供述調書等の証拠調べ請求が却下された事例、配布資料12−2は、供述の任意性が取調べの録音・録画記録媒体に基づいて認められ、供述調書等が証拠として採用された事例をまとめたものです。   まず、配布資料12−1について御説明します。先ほど、配布資料13の御説明の際に言及したとおり、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、被告人の捜査段階における供述の任意性を争う旨の主張がなされた事件で、検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由に証拠調べ請求を却下した事件を除くものであって、令和4年10月24日までに判決が確定したものの中で、供述の任意性が立証されていないことを理由に、供述調書等の証拠調べ請求が却下された事件は、8件ありました。   そこで、事務当局において、この8件について、判決書等の記載に基づき作成したものが、配布資料12−1です。この事例集には、起訴罪名、供述の任意性が争われた供述調書等、供述の任意性が争われた取調べに係る録音・録画の実施の有無、公判請求時又は略式命令請求時の身柄区分、録音・録画記録媒体の証拠調べ請求の有無、供述の任意性についての判決等の要旨を記載しています。   この8件のうち、取調べの録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされたのは、1番、2番、5番、6番及び8番の5件であり、このうち5番の事件については、判決書等に供述の任意性についての裁判所の判断が記載されていなかったことから、この表にも記載していませんが、それ以外の事件については、判決書等に記載されていた供述の任意性についての判断を記載しています。   次に、配布資料12−2について御説明します。先ほど、配布資料13の御説明の際に言及したとおり、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、被告人の捜査段階における供述の任意性を争う旨の主張がなされた事件で、検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由に証拠調べ請求を却下した事件を除くものであって、令和4年10月24日までに判決が確定したものは合計153件ありました。この153件の判決書等を確認した結果、そのうち、録音・録画記録媒体に基づいて供述の任意性を認めたものが合計22件ありました。   そこで、この22件について、判決書等の記載に基づき作成したものが、配布資料12−2です。この事例集には、起訴罪名、供述の任意性が争われた供述調書等、公判請求時又は略式命令請求時の身柄区分、取調べの録音・録画記録媒体に基づく供述の任意性についての判決等の要旨を記載しています。   なお、事例集の中には、第一審判決がその後上訴審で破棄されたものも含まれていますが、これらの事件においては、いずれも、当該第一審判決においてなされた供述の任意性についての判断が当該上訴審において否定されなかったことから、当該第一審判決においてなされた供述の任意性についての判断の要旨を記載しております。   配布資料12−2の御説明は以上です。   続きまして、配布資料14−1及び14−2について御説明いたします。これらのうち、配布資料14−1は、取調べの違法・不当を理由として、供述の信用性が否定された事例、配布資料14−2は、取調べの録音・録画記録媒体に基づいて、供述の信用性が認められた事例をまとめたものです。   まず、配布資料14−1について御説明します。先ほど、配布資料13の御説明の際に言及したとおり、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、取調べの違法・不当を理由として被告人の捜査段階における供述の信用性を争う旨の主張がなされた事件で、検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由に証拠調べ請求を却下した事件を除くものであって、令和4年10月24日までに判決が確定したものの中で、取調べの違法・不当を理由として、供述の信用性が否定された事件は、10件ありました。   そこで、事務当局において、この10件について、判決書等の記載に基づき作成したものが、配布資料14−1です。この事例集には、起訴罪名、供述の信用性が争われた供述調書等、供述の信用性が争われた取調べに係る録音・録画の実施の有無、公判請求時又は略式命令請求時の身柄区分、録音・録画記録媒体の証拠調べ請求の有無、供述の信用性についての判決の要旨を記載しています。この8件のうち、取調べの録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされたのは、1番から4番まで、7番及び10番の6件でした。   次に、配布資料14−2について御説明します。先ほど、配布資料13の御説明の際に言及したとおり、令和元年6月1日から令和4年8月31日までの間に第一審判決があった事件のうち、取調べの違法・不当を理由として被告人の捜査段階における供述の信用性を争う旨の主張がなされた事件で、検察官が証拠調べ請求を撤回し又は裁判所が証拠調べの必要性がないことを理由に証拠調べ請求を却下した事件を除くものであって、令和4年10月24日までに判決が確定したものは合計83件ありました。そこで、この83件の判決書等を確認した結果、そのうち、録音・録画記録媒体に基づいて供述の信用性を認めたものが合計3件ありました。   そこで、この3件について、判決書等の記載に基づき作成したものが、配布資料14−2です。この事例集には、起訴罪名、供述の信用性が争われた供述調書等、公判請求時又は略式命令請求時の身柄区分、取調べの録音・録画記録媒体に基づく供述の信用性についての判決の要旨を記載しています。   なお、この事例集の中には、第一審判決がその後上訴審で破棄されたものも含まれていますが、これらの事件においては、当該第一審判決においてなされた供述の信用性についての判断が当該上訴審において否定されなかったことから、当該第一審判決においてなされた供述の信用性についての判断の要旨を記載しています。   配布資料14−2の御説明は以上です。   ただ今の説明について御質問はありますでしょうか。 ○小林構成員 御説明どうもありがとうございました。資料13も貴重なデータですし、資料12、14も具体的に裁判所がどのような点に注目して任意性や信用性の有無を判断しているのかが分かる、とても貴重な資料だと思います。   その上で資料13についてお聞きしたいのですが、法の施行前と比較した件数を出していただくことは可能でしょうか。 ○栗木参事官 録音・録画制度の施行前後の供述の任意性が争われた事件及び取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件についての件数の比較ということかと思いますが、施行前の件数について網羅的に把握できていないため、どういった対応ができるか検討したいと思います。 ○小林構成員 録音・録画制度が導入されて、任意性の争いが非常に減ったという声を裁判官の方からお聞きすることもあります。施行前の数字と比較できるのであれば、お聞きしたいと思った次第ですが、数字としてお出しいただくのは難しいでしょうか。 ○栗木参事官 施行前の件数を、配布資料13と全く同じような形でお示しするのは難しいと思っています。 ○小林構成員 数字を出してもらうのが難しい場合、録音・録画制度があることによって裁判所にとって判断がしやすくなったということがあるのであれば、体感で結構ですのでお聞きしたいと思います。鈴木構成員もしくは横山構成員にその辺りを伺うことは可能でしょうか。 ○横山構成員 最高裁判所では、今回のような供述の任意性あるいは信用性が争われた事件についての報告というものを求めてはおりません。ですので、改正前後におけるそのような事件の増減といったものについては、数字としては把握しておりません。 ○小林構成員 数字を出すのが難しくても、体感としてお話しいただけることはありますか。 ○鈴木構成員 数字がないので、体感としてというのもなかなか難しいところがあるのですが、供述の任意性がその事件の中心的な争点、最後まで争われるような深刻な争点になっているという事件は、印象としては減っているのかなと思います。 ○小林構成員 ありがとうございます。 ○佐藤構成員 ただいまの鈴木構成員のお答えは、裁判員裁判対象事件など録音・録画の対象事件に関するものと理解してよろしいでしょうか。対象事件以外の事件における任意性立証のありようは、記録媒体があるか否かによって異なり得るようにも思われるのですが、いかがでしょうか。仮に違いがあるとすれば、その違いについても教えていただければと思います。 ○鈴木構成員 裁判員裁判対象事件についての感覚、それ以外の事件についての感覚と、分けた印象というわけではなく、全体としての感覚です。いずれにしても感覚なので、正確なところは申し上げにくいのですが、全体として減っているのかなという印象はあります。 ○松田構成員 今の点に補足して、これも体感的なことですけれども、警察としても取調べに過度に依存しない客観的証拠を重視した捜査というのを推進しておりますので、そういった意味からも、もしかしたらそういった取調べの争点になるような事件が減っているのかもしれません。それは申し上げておきたいと思います。 ○成瀬構成員 供述の任意性立証について、先ほど御説明を頂いた配布資料12−1、12−2、それから、今回の事務当局の説明対象ではありませんが、配布資料11に基づき、私の意見を申し上げた上で、鈴木構成員に質問をさせていただきたいと思います。   今回、事務当局の皆様が多数の判決を精査して、配布資料12−1、12−2の事例集を作成してくださったおかげで、取調べの録音・録画記録媒体が供述の任意性立証において果たす機能を具体的に理解することができたように思います。   配布資料12−2は録音・録画記録媒体が任意性を肯定する方向で機能した事案ですが、私が特に興味深いと感じた二つの事案類型について述べさせていただきます。一つは、14事件や17事件のように、裁判所が録音・録画記録媒体を視聴することによって、被告人が主張する事実はそもそも存在しなかったと認定し、供述の任意性を肯定している類型です。取調べの録音・録画制度の一つの機能は、取調室内の出来事の有無を事後に客観的に認定できるようにすることにありますが、その機能が発揮された類型といえるでしょう。もう一つは、2事件や15事件のように、警察官の取調べは任意性に疑いを生じさせるものであったと認めながらも、録音・録画記録媒体により認定された検察官の言動により、検察官の取調べについては任意性に疑いが生じないと判断している類型です。この類型は、講学上、反復自白と呼ばれており、警察官の取調べによってもたらされた不当な心理的影響が、同じ捜査機関である検察官の取調べの際にも継続しており、検察官に対する供述の任意性にも疑いがあると判断される危険があるのですが、これらの事件では、検察官が様々な影響遮断措置を取ったことを録音・録画記録媒体によって具体的に明らかにすることを通じて、その危険を回避し、検察官に対する供述の任意性の立証に成功しています。   他方、配布資料12−1は供述の任意性が否定された事案ですが、こちらも、1事件、2事件、6事件のように、録音・録画記録媒体が存在する事案においては、録音・録画記録媒体により取調官の具体的な言動を認定することができており、その認定事実を前提に任意性を否定する判断が示されています。また、3事件のように、録音・録画記録媒体が存在しない事案においては、被告人の供述と取調官の証言が対立し、検察側が被告人の供述を排斥するだけの根拠を示すことができずに、任意性立証に失敗することもあると分かります。   このように、取調べの録音・録画記録媒体は、任意性を肯定する方向にも否定する方向にも有効に機能していると思われますが、配布資料11において、取調べの録音・録画制度の対象ではない事件、つまり、表の下の方にある合計欄のうち「それ以外の事件」を見ると、供述の任意性が争われた事件142件のうち、任意性立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされた事件は約4分の1にとどまっており、取調官の証人尋問を請求した事件が半数を超えている状況にあります。   このような現状を踏まえて、鈴木構成員に質問をさせていただきたいと思います。先ほどの御説明では、録音・録画制度の対象事件であるか否かを問わず、供述の任意性が当該事案の中心的争点となるケースは減っているという印象をお持ちとのことでしたが、取調べの録音・録画が任意性の問題を解決する上で有する意義や機能について、裁判所としてどのように認識しておられるか、もう少し踏み込んで御説明いただけますでしょうか。 ○鈴木構成員 供述の任意性を争うといいましても、いろいろな事情が主張されることがありますが、取調室内の出来事といいますか、取調べ状況については、録音・録画があることで、これは最もダイレクトな証拠になりますので、最適な証拠であるというのは感じております。ここは恐らく異論がないかなと思っております。 ○成瀬構成員 御回答いただき、ありがとうございます。もう一点、鈴木構成員に質問をさせていただきたいことがあります。   先ほど事務当局から説明していただいた資料のうち、配布資料12−2では、録音・録画記録媒体に基づいて供述の任意性が認められた事例が多数列挙されているのに対して、配布資料14−2では、録音・録画記録媒体に基づいて供述の信用性が認められた事件は僅か3件しかないのですが、この差はどのような理由によるものとお考えになりますでしょうか。言い換えれば、録音・録画記録媒体が供述の任意性立証において果たす役割と、供述の信用性立証において果たす役割の違いをどのように認識しておられますか、という質問です。 ○鈴木構成員 これはなかなか難しい質問だと思います。供述の任意性が争われる事件は、同時にその信用性が争われることも多いのですが、ざっくり言うと、信用性が争われる事件の方がその主張の内容は多種多様といいますか、いろいろな事情が主張されるという印象があります。供述の任意性を争う旨の主張の内容もいろいろあるのですけれども、こちらはある程度類型的といいますか、外形的な事情が主張されますので、録音・録画記録媒体の証拠としての適性という意味でいうと、任意性を判断するときの方があるのかなという印象は持っております。ただ、取調室内での出来事が供述の信用性に関わるというような主張をされた場合には、やはり録音・録画記録媒体が一番ふさわしい証拠になるというのは変わらないと思います。 ○小林構成員 ありがとうございます。先ほど成瀬構成員から発言があった配布資料11について、関連で鈴木構成員に伺いたいことがございます。録音・録画の対象事件以外で任意性が争われた事件は142件あって、そのうち半分以上の78件で証人尋問の請求がなされています。対象事件ではほぼ任意性の争いがなくなった一方で、非対象事件ではまだ不毛な争いが残っているというふうに私はこの数字を受け止めたのですけれども、その辺りの感想をお聞かせいただきたいと思います。 ○鈴木構成員 数字としてはそうなのですけれども、実際にその事件でなぜその証人尋問が行われたのかということは、中身が分からないとお答えできないので、何とも言えません。推測になりますけれども、録音・録画記録媒体があっても、録音・録画がされていない場面での事実関係が問題になって証人尋問をするということもあるかもしれませんし、そもそも録音・録画記録媒体がない事件について証人尋問をするということもあるでしょうし、その点の理由は様々だと思います。 ○小林構成員 ありがとうございます。もう1点、成瀬構成員の御発言で、配布資料12−2で14事件と17事件を挙げられて、「争いが減ったのは録音・録画の効果といえないでしょうか」という御指摘がありました。そこで捜査側の構成員の方にお聞きしたいのですが、録音・録画は、警察官や検察官にとっても、被疑者から言いがかりをつけられないというメリット、つまり、取調べが適正に行われたということの証明にもなるという利点があると思いますが、この点について御意見があればお聞かせいただきたいと思います。 ○松田構成員 御質問ありがとうございます。おっしゃるとおりだと思います。そういったメリットがあることは当然だと思いますけれども、繰り返しこの場で申し上げたとおり、録音・録画には供述を得にくくなるというデメリットもあるということも踏まえて、そのバランスをもって考えなければいけないということだけ、自明のことかもしれませんが、申し上げておきます。 ○小林構成員 ありがとうございます。 ○宮崎構成員 取調べの録音・録画が始まって以降、公判で捜査段階における被告人の供述の任意性・信用性が争われる件数が減ったかどうかと聞かれると、体感としてはよく分からないところだと思います。供述の任意性・信用性を争うかどうかは被告人、弁護人の訴訟戦略的な判断によるところも大きいと思いますので、仮に公判において捜査段階における被告人の供述の任意性・信用性が争われた事件数に何らかの変化が認められるとしても、それが本当に取調べの録音・録画の実施の影響をどの程度受けているのかというのは、なかなか評価しにくいのではないかと思っております。そもそも任意性・信用性がシビアに争われるような事件というのは、事件全体の数と比べて極めて少ないということもありますし。 ○河津構成員 被告人供述の任意性・信用性の判断状況と事例に関する詳細な資料を御提供いただき、ありがとうございました。調査いただいた事務当局の皆様に感謝申し上げます。   先ほど小林構成員から御質問があった点に関連して、私は、感覚的には、公判において被告人の捜査段階における供述の任意性が争点となること自体がかなり減少したという印象を持っています。これは、取調べの状況が客観的に記録されることにより、任意性を失わせるような取調べで作成された供述調書が刑訴法322条1項に基づき請求されることが減り、それと同時に、事実に反して任意性を失わせるような取調べであったとの主張がなされることも減ったことを意味するものと思われ、この点は積極的に評価されるべきであると考えます。   ただ、留意しなければならないのは、刑訴法改正のきっかけとなった村木厚子さんの事件の公判で問題となったのは、被告人であった村木さんの捜査段階の供述の任意性ではなく、関係者である証人に事実と異なる供述をさせるような取調べが行われたことであったことです。このうち、公判においても供述調書と同じ供述を維持した証人については、公判供述の信用性が問題となり、公判においては供述調書と異なる供述をした証人については、刑訴法321条1項2号の特信性が問題となりました。   弁護人としての経験に基づいて申し上げると、取調べの録音・録画制度の施行後も、被告人以外の関係者について事実と異なる供述をさせるような取調べは残念ながら行われており、その数も減っていないように思われます。   例えば、在宅被疑者の捜査弁護を担当していると、被疑者が何度も繰り返し呼び出され、長時間の取調べを受けることがあります。その取調べは任意という建前ですが、多くの被疑者は逮捕されることを恐れていますから、実際には相当な強制性を有しています。そのような取調べを受ける中で被疑者が、例えば、関係者の中で認めていないのはあなただけだなどと告げられて供述の変更を求められたとか、供述したことと異なる内容の調書への署名押印を求められたという話を聞かされることが少なくありません。自身が逮捕され訴追の対象とされることを恐れている被疑者が、そうした取調官の見立てに沿った供述の変更を拒むことは決して容易ではありません。   そうした在宅被疑者の取調べの録音・録画は、国会の附帯決議で実施が求められているにもかかわらず、ほとんど実施されていません。そのため、取調官の見立てに沿って供述を変更した被疑者が、自らは訴追を免れて証人として公判に出廷したときに、変更後の供述を維持した場合、裁判所も当該事件の被告人の弁護人も、それが取調官の見立てに沿って変更された後の供述であること自体を的確に把握することができませんし、公判では調書と異なる供述をした場合も、捜査段階供述の特信性を客観的な資料に基づいて判断することができません。その結果、自らが逮捕、訴追されることを恐れて取調官の見立てに沿って変更した供述により、罪を犯していない人が訴追され有罪とされる構造が解消されていないことは、大変危惧すべきことであると認識しております。   事務当局へのお願いをさせていただきます。配布資料12及び14の事例は大変貴重な資料であり、各事例の判決書は当協議会の構成員に共有いただくのがよいのではないかと考えます。刑事裁判の判決書は、正に「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であると思われますので、前向きな御検討をお願いしたく存じます。また、先ほど申し上げたこととも関連しますが、被告人供述の任意性・信用性だけではなく、被告人以外の者の供述の信用性・特信性についての裁判所の判断状況や事例も当協議会で共有すべき情報であるように思われますので、御検討いただきたく存じます。 ○栗木参事官 判決書の提供について御意見をいただいたところですが、今回、本協議会の趣旨に鑑みまして、個別の事案に一切触れないわけではなく、制度や運用の課題の整理に資する限度において個別事案も御紹介するという観点で、事務当局において調査を行い、判決の内容のうち、例えば、違法・不当な取調べに係る裁判所の判断が記載されたものについて、事案が特定されず、かつ検討に資するような形でまとめたというところです。その上で、更にこれらの事例についての判決書そのものが必要なのか、どういった御趣旨での御要望なのかを教えていただけますでしょうか。   また、これらの判決書につきましては、訴訟記録としては、刑事確定訴訟記録法に基づき、第一審の裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官が保管検察官として保管することになっております。一般の方から裁判書を含む保管記録の閲覧謄写請求があれば、保管検察官が個々の事件に応じて閲覧・謄写の可否を判断することになっており、事務当局が仮に本協議会の構成員の皆様に個別の刑事被告事件に係る裁判書を提供しますと、今申し上げた保管検察官の判断によることなく提供することにもなってしまい、刑事確定訴訟記録法との関係でも問題があるかと思うのですが、その辺りはどういったお考えでしょうか。 ○河津構成員 御承知のとおり、裁判所の判断には前提としている事実関係があるはずですので、どうしてその事案でその裁判所がそのような判断に至ったのか、この協議会の構成員がより詳細に知ることに意味があるのではないかという趣旨で申し上げました。先ほども申し上げましたけれども、刑事裁判の判決書は本来、「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」というべきものですので、共有について前向きな御検討を頂きたいと存じます。 ○栗木参事官 今回、制度の運用に関する課題についての整理に資するためということで、先ほど申し上げたとおり、判決を事務当局で時間を掛けて精査した上でまとめたところです。これまでの協議会でも御意見等をいろいろ頂きましたが、個別の判決についての裁判所の判断の当否を議論することは適切でないと整理されたものと承知しており、より詳細な事実関係を基に、どうして裁判所がそういう判断に至ったのか、どうして当事者がそういう主張になったのかというところを突き詰めて議論するということも、協議会の趣旨とずれるのではないかと思うのですが、その上で、今日お配りした事例集、前回お配りした事例集ではどの辺りが足りなかったのかということを具体的にお示しいただければ、事務当局として更にどういったことができるかを考えたいと思います。 ○河津構成員 また会議後に調整させていただきたいと思います。 ○栗木参事官 特信性に関する資料についても御意見を頂きました。被告人以外の者の供述の特信性が争われた事件についての、例えば録音・録画の実施状況については、統計的な調査を実施していないこともあり、お尋ねの資料をお示しすることは困難な状況です。御案内のとおり、特信性が問題となる事案はたくさんありますが、被告人以外の者に係る供述調書の特信性が争われる場合の全てについて、取調べの違法・不当が問題となり得るというわけではないと認識しております。また、その判決等を精査したとしても、必ずしも、被告人以外の者が相反供述等をした理由が明らかにされているわけではないというのが実情ではないかと認識しています。そうしますと、被告人以外の者の供述の特信性が争われた事件について、例えば、録音・録画の実施等について調査したとしても、特信性との関係において、その調査の結果をどのように評価するかがなかなか難しいのではないかと思っています。 ○河津構成員 いわゆる刑訴法321条1項2号書面の要件として、捜査段階で行われた供述を信用すべき特別の情況の存することが求められていますから、取調べの録音・録画がなされていれば、より客観的にその情況の認定が可能であることになります。特別部会の取りまとめにおいても、供述の任意性だけではなく信用性についても、取調べ録音・録画の記録媒体によって明らかにされていくことを期待するということが述べられていました。その前提として、先ほど申し上げたとおり、もともとこの法改正のきっかけとなった事件が、被告人供述の任意性が争点となった事案ではなく、むしろ関係者の供述の信用性ないし特信性が問題となった事案でした。これらを踏まえると、この改正法施行3年後の見直しを行うに当たっては、被告人以外の者の供述の特信性に関する判断状況や事例についても共有した上で議論を進めることが当然に期待されていると考えられますので、前向きな御検討をお願いいたします。 ○小林構成員 資料12−2について1点、お尋ねしたいと思います。警察と検察の遮断がとても重要だと感じました。例えば、2事件や15事件、21事件で、きちんと遮断されていると判断されて供述の任意性が認められています。そこで、どのように検察と警察の違いについて説明をしているのか、検察の方にお聞きしたいと思います。   以前ある検察官の方にお聞きしたのですが、録音・録画の記録媒体を確認したところ、いつも同じような文言で、「ここは検察庁で、警察とは違う。同じことを話す必要はない」といった定型文のようなものを通り一遍に伝えているだけだったので、それでは駄目だと言って指導をしたことがあったそうです。一般の市民にとっては警察と検察の違いをきちんと理解した上で供述するってすごく難しいと思うのですね。違いを分かった上で「警察ではこう話したけど、実は・・」などと供述を変えられるような人は少ないと思いますので、どのようにその違いを説明しているのかということをお聞きしたいと思います。警察と検察の録音・録画の実施状況に大きな違いがある現状では、特にこの遮断をきちんとする必要があると思いますので、伺う次第です。 ○宮崎構成員 前提として、警察と検察の違いというのは、そもそも、取調べをする上で告げなければならない事項ではないと思います。その中で、各検察官が、自分の取調べにおいて、どのように信用性のある供述を得るかという点から工夫しているのだと思います。それから、客観的には、取調べを行う建物が全く違いますし、取り調べる相手も全く違うということで、別組織であるということは、普通、一目瞭然で分かると思います。その前提をまずは御理解いただければと思います。   その上で、どういう説明を被疑者にするかというのは検察官によっても差があるでしょうし、また、相手の被疑者がどんな立場の者なのかということによっても違うだろうと思います。個人的にどういうふうに説明するかと考えると、例えば、私の場合であれば、「ここは検察庁で警察とは違う組織です、あなたは警察でした話と違う話をしても構わないし、警察で言えなかったことを話しても構わない、警察での供述と同じ話をしなければならないということではないので、警察でどう話したかということにこだわる必要はありません。」と、そのような説明をしたことがあるかなと思います。そこは、飽くまで相手の理解度にもよるのだろうと思います。当然ながら、何度も逮捕されて、よく手続を理解しているという被疑者も一定数おりますので、事案によりけりだろうと思います。 ○佐藤構成員 配布資料の事例集との関連で、供述調書等の証拠調べ請求を却下された事例について、検察又は警察において、組織としてそれらを共有する仕組みがあるのか、あるとすれば、どのような形で共有されているのか、教えていただければと思います。 ○栗木参事官 私が把握している限りなのですが、仕組みとして自動的に把握するようなものではなく、例えば、請求が却下されて検察官の主張が認められなかった場合に、各庁の実情に応じてそういった事例を共有して、どういった点に問題があったのかを振り返ったり、検討したりという取組などが行われることはあろうかとは思います。網羅的にどのような形で共有しているかというところまでは把握できていないところです。 ○松田構成員 今更なのですが、前回、河津構成員からの提出依頼があった資料についてお答えをさせていただいてよろしいでしょうか。   前回協議会において河津構成員から、各都道府県警察等に対する苦情の申出につきまして、苦情の申出の内容と、監督部門の事実認定の結果を網羅的に示してほしいという話がございました。その検討結果についてですが、警察庁においては都道府県警察等に対する個別の申出内容、監督部門の事実認定に関しまして公表していないということでございまして、前回御説明した以上の内容について資料を提出することは、困難であると考えております。   また、繰り返し事務当局からも説明がありましたとおり、取調べ監督部門による事実認定結果は、裁判等で評価が決定したものではないということでもあり、事実関係の評価について意見が分かれることもあろうかということもありますので、本協議会の趣旨である、取調べの録音・録画制度に係る検討課題を整理するという前提からいいましても、構成員が共有する資料とするには適切とは思えないということから、そういった事例を資料とすることは差し控えさせていただきたいと思っております。 ○藤井構成員 先ほど小林構成員がおっしゃった、録音・録画制度施行前の任意性や信用性が問題となった件数について、私が今インターネットを見た感じだと、平成23年度頃に法務省が調査した数字というのは出ていました。1年間で全事件数7万4982件に対して、任意性が争いとなった事件数が218件で、任意性が否定された事件数が9件と、そういう数字があるみたいなので、そちらの方が資料としてあるのかなというのを、一応指摘だけさせていただきます。 ○小林構成員 全く同じ形で比較ができなくても、参考として、是非共有させていただきたいと思いますが、可能でしょうか。 ○藤井構成員 私が今ネットで見られるような形で、平成23年8月の「取調べに関する国内調査結果報告書」という、法務省が公開した資料がありました。一応、御参考までに。 ○栗木参事官 録音・録画制度施行前後の期間について網羅的に把握できているわけではないのですが、御指摘を踏まえて、どういったことができるかは検討したいと思います。 ○小林構成員 お願いします。ありがとうございます。 ○栗木参事官 それでは、次に、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の実施状況について協議を行いたいと思います。   事務当局から、このテーマに関係する配布資料15及び16の内容について御説明いたします。   配布資料15は、最高検察庁次長検事名で発出された「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の運用等について」と題する依命通達です。この依命通達の別紙に、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の具体的な運用の在り方についての、検察としての当面の考え方が取りまとめられていますので、以下、別紙の概要を御説明いたします。   別紙1ページ目の「第2 合意制度の趣旨及び概要」を御覧ください。   合意制度の趣旨について御説明いたします。「1 趣旨」に記載のとおり、合意制度は、組織的な犯罪等において、首謀者の関与状況等を含めた事案の解明を図るためには、組織内部の者から供述を得ることなどが必要不可欠である場合が少なくないところ、近時、取調べによってかかる供述を得ることが困難となってきていることも踏まえ、手続の適正を担保しつつ組織的な犯罪等の事案の解明に資する供述等を得ることを可能とする新たな証拠収集方法として導入することとされたものです。   次に、合意制度の概要について御説明いたします。「2 概要」に記載のとおり、合意制度は、特定の財政経済犯罪と薬物銃器犯罪について、検察官と被疑者・被告人とが、以下、被疑者・被告人のことを「本人」といいますが、弁護人の同意がある場合に、本人が他人の刑事事件について証拠収集等への協力をし、検察官が、その協力行為を考慮して、本人の事件につき不起訴処分や特定の求刑等をすることを内容とする合意をすることができるというものです。その詳細については(1)から(12)に記載のとおりですが、ここでは、内容をかいつまんで御説明いたします。   まず、別紙2ページ目の「(3) 本人による協力行為」について御説明しますと、本人による協力行為として合意の内容とすることができるのは、他人の刑事事件について、@検察官、検察事務官又は司法警察職員の取調べに際して真実の供述をすること、A証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること、B検察官、検察事務官又は司法警察職員による証拠の収集に関し、証拠の提出その他の必要な協力をすることとされています。   次に、「(4) 検察官による処分の軽減等」について御説明しますと、検察官による処分の軽減等として合意の内容とすることができるのは、本人の事件について、公訴を提起しないこと、公訴を取り消すことなど、(4)の@からFに記載されているものとされています。   続けて、6ページ目の「第3 合意制度の運用に関する当面の考え方」を御覧ください。   まず、「1 事案の選定について」を御覧ください。ここには、事案の選定についての当面の考え方が記載されており、合意制度を利用するためには、本人の事件についての処分の軽減等をしてもなお、他人の刑事事件の捜査・公判への協力を得ることについて国民の理解を得られる場合でなければならない、基本的には、従来の捜査手法では同様の成果を得ることが困難な場合において、協議の開始を検討することとする、協議の開始を検討するに当たっては、本人の協力行為によって合意制度の利用に値するだけの重要な証拠が得られる見込みがあるかということや、協議における本人の供述につき、裏付証拠が十分にあるなど積極的に信用性を認めるべき事情がある場合でなければ合意しないこととなることを考慮する必要がある、協議の開始を検討するに当たっては、協議に時間がかかることや協議により取調べにおける供述の任意性に影響が及ばないよう配慮する必要があることなど、協議を行うことによる捜査・公判への影響をも考慮する必要があるとされています。   次に、7ページ目の「2 協議について」を御覧ください。   まず、「(1) 協議に関する基本的な考え方」についてですが、その概要を御説明いたしますと、検察官は、合意するか否かの判断に当たり、合意をした場合に本人が行う協力行為により得られる供述等の証拠の重要性や信用性、本人が合意を真摯に履行する意思を有しているかなどを見極めることが必要である、他方で、協議における本人の供述につき十分な裏付証拠が得られないなど、本人の供述に高い信用性を認めることができず、あるいは、本人の協力行為により得られる証拠に重要性が認められない場合には、協議を打ち切るべきであるとされています。   次に、「(2) 協議に関する留意事項」を御覧ください。   まず、「ア 手続の概要」に関する留意事項についてですが、協議は、その開始について検察官、本人及び弁護人との間で意思が合致した際に開始されることとなります。協議において、どのような順序でどのようなやり取りを行うのかは事案により異なり得ますが、一般的には、弁護人による本人が行い得る協力行為の内容の提示、検察官による本人からの供述の聴取、検察官による処分の軽減等の内容の提示、検察官と弁護人の間における合意の内容等についての意見の交換などが行われることになると考えられます。   次に、「イ 協議開始の判断の在り方」についての留意事項です。   まず、「(ア) 検察官が協議開始を申し入れる場合」の協議開始の判断の在り方についてですが、検察官は、合意により、本人から、他人の刑事事件について信用性の高い重要な証拠が提供される見込みがあると考える場合において、弁護人に対し協議開始を申し入れることを検討する、協議開始の申入れは原則として弁護人に対して行うこととする、とされています。   次に、8ページ目の「(イ) 弁護人から協議開始を申し入れられた場合」の協議開始の判断の在り方ですが、検察官としては、弁護人から協議開始を申し入れられた場合には、合意に至る見込みがどの程度あるのかを見極めた上で、その申入れに応じて協議を開始するか否かをできる限り速やかに判断すべきであるとされています。   次に、「(ウ) 本人から協議開始を申し入れられた場合」の協議開始の判断の在り方ですが、本人から取調べの場において協議開始を申し入れられた場合、検察官は、本人から、他人の刑事事件や提供可能な協力行為の内容について聴取すべきではないとされています。   次に、9ページ目の「ウ 本人及び弁護人への説明」についての留意事項について御説明します。   まず、「(ア) 協議開始に当たって説明すべき事項」についてですが、検察官は、協議開始に当たり、本人及び弁護人に対し、協議の手順、合意の自由、協議における供述に当たっての留意事項、合意不成立の場合の供述の証拠能力の制限及びその例外、合意の効果、協議開始書の記載内容等について説明すべきであるとされています。   次に、「(イ) 処分の軽減等の見込み等に関する説明の在り方について」ですが、協議の過程において、本人又は弁護人から、協力した場合の処分の軽減等の見込み等について問われることがあり得ますが、処分の軽減等の見込み等を説明するのは、基本的に、供述を十分に聴取し、裏付捜査等を実施して、その供述に高い信用性が認められると判断できる状況になった後とすべきであるとされています。   次に、10ページ目の「カ 協議における聴取の在り方」についての留意事項ですが、協議において本人から聴取する際は、弁護人の同席の下、黙秘権を告知して行う、協議における聴取は、合意するか否かの判断に当たり、合意した場合に本人の協力行為により得られる供述等の証拠の重要性、信用性等を見極めるために行うものであるので、まずは、本人に、他人のどのような刑事事件に関してどのような協力行為をし得るのかにつき、自発的に供述させるべきであるとされています。   次に11ページ目の「3 処分の軽減等について」の当面の考え方について御説明いたします。   まず、「(1) 処分の軽減等に関する基本的な考え方」ですが、処分の軽減等の具体的な内容については、基本的には、合意により本人が行う協力行為の重要性に応じて定めることとする、合意制度を利用する事案においては、本人の協力行為が事案の真相解明に寄与し得ることに加え、本人に捜査協力を促す政策的必要性が認められ得ることから、事案によっては、本人の事件について処分等を大幅に軽減することも柔軟に検討するとされています。   次に、12ページ目の「(2) 処分の軽減等に関する留意事項」ですが、処分の軽減等の内容は協力行為の重要性に応じて定められるべきものであるから、本人及び弁護人に一たび提示した処分の軽減等の内容は、基本的には、その後の本人及び弁護人との交渉で譲歩すべきではない、本人の事件に被害者がいる場合は、被害者の処罰感情等にも十分に配慮する必要があるとされています。   次に、12ページ目の「4 合意について」の当面の考え方について御説明いたします。   このうち「(1) 合意に関する基本的な考え方」については、合意に基づく供述の信用性は、他人の刑事事件の公判において慎重に判断されることになる上、合意をした本人が合意後に虚偽の供述をして無関係の第三者を巻き込み、あるいは、事実を歪曲して第三者に責任を転嫁する事態はあってはならないため、そのような事態が生じないよう、合意に際しては、協議における本人の供述の信用性の吟味を徹底して行う必要がある、協議における本人の供述につき、裏付証拠が十分にあるなど積極的に信用性を認めるべき事情がある場合のみ、合意することとする、合意が成立した場合、検察官は誠実に合意を履行するとされています。   次に、13ページ目の「5 合意後の公判について」の当面の考え方について御説明いたします。   まず、「(1) 本人の事件の公判について」ですが、検察官は、本人の事件の公判において、合意内容書面の証拠調べ請求を行うことに加え、必要に応じ、本人の協力行為の内容や真相解明への貢献度等を立証することが考えられる、特に、求刑について合意をした場合、合意した求刑を上回る判決がなされると、本人の離脱事由となり、合意が無に帰すとともに、求刑合意に対する信頼が失われ、合意制度の定着に影響を及ぼしかねない、求刑について合意した場合には、公訴の取消し又は訴因の変更等、求刑以外の合意事項があれば、それらを誠実に履行するほか、求刑に沿う判決が得られるよう、協力行為の具体的内容や真相解明への貢献度等を適切に主張・立証することが重要である、仮に、求刑を上回る判決が言い渡された場合には、量刑不当を理由として控訴することも検討するとされています。   次に、「(2) 他人の刑事事件の公判について」ですが、他人の刑事事件の公判において、合意に基づく供述調書又は証人尋問によって立証を行う場合、その供述・証言については、裁判所において、信用性の有無を慎重に判断されることとなろう、検察官としては、裏付証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情があることを立証することにより、信用性を的確に立証する必要があるとされています。   次に、14ページ目の「7 捜査機関との関係に関する留意事項」ですが、警察等の捜査機関が合意制度の利用を要望してくることは、合意制度の利用を検討する契機や考慮事情の一つとはなるものの、合意制度の利用については、検察官の権限と責任において判断すべきことである、他方で、警察等の捜査機関が送致する事件においては、本人の合意に基づく協力行為等を踏まえて他人の刑事事件を捜査するのは第一次的には警察等の捜査機関の役割であることはもとより、協議の過程でも、本人の協議における供述の裏付捜査には警察等の捜査機関の協力が欠かせないことに鑑みると、検察官が合意制度の利用を検討する際には、警察等の捜査機関との十分な意思疎通が肝要であるとされています。   最後に、「8 取調べ一般における留意事項」ですが、被疑者の取調べにおいて、検察官が合意制度について言及すると、後に、被疑者から、取調べで利益誘導をされたなどと主張され、供述の任意性が争われる可能性が生じる、したがって、取調べにおいては、そのようなそしりを招かないよう、基本的には、合意制度について言及すべきではないとされています。   配布資料15の説明は以上です。   続きまして、配布資料16について御説明いたします。配布資料16は、合意制度の利用が明らかにされた判決等をまとめた資料です。   合意制度の利用が明らかにされた判決等の一つ目は、東京地方裁判所令和3年3月22日判決、東京高等裁判所令和4年3月1日判決、最高裁判所令和4年6月16日決定です。この判決等に係る事件は、業務上横領被告事件であり、全被告人について有罪判決が確定済みです。   判決等において明らかにされた合意の概要は、次のとおりです。まず、検察官と合意をした被疑者の立場は、被告人の一人であるA1が代表取締役を務める会社B社の従業員Cでした。次に、合意内容の概要ですが、被疑者による協力行為の概要は、検察官の取調べに際して真実の供述をすること、証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすることであり、検察官による有利な取扱いの概要は、公訴を提起しないことでした。   次に、判決等において合意制度に言及した部分について御説明します。まず、第一審判決について御説明いたします。第一審判決には、従業員Cの供述の信用性を否定した部分と、肯定した部分がありました。   まず、第一審判決のうち従業員Cの供述の信用性を否定した部分について、同判決は、要旨、「3(1)ア」記載のとおり指摘し、特に信用性の検討に当たって考慮すべき内容として、一般的に、犯罪事実を認める旨の共犯者の供述については、刑責を軽減する目的での引っ張り込みの虚偽供述がされていないかどうかを慎重に検討する必要がある上、司法取引をした従業員Cについては、自らは刑事訴追を免れることから、犯罪事実の悪質性を過度に強調する虚偽供述がされていないかどうかを一層慎重に検討する必要がある、したがって、従業員Cの供述のうち、争点とされている部分であって、客観的な裏付けを欠くものについては、その信用性を検討するに際して、相当慎重な姿勢で臨む必要がある旨の判断を示しました。   次に、第一審判決のうち従業員Cの供述の信用性を肯定した部分について、同判決は、要旨、「3(1)イ」記載のとおり指摘し、従業員Cの供述の信用性について、確かに、従業員Cの供述については、争点であり、客観的な裏付けを欠く部分の信用性は相当慎重に検討する必要がある、したがって、上記の従業員Cの供述のみによって、従業員Cが、B社に在籍した期間を通じ、封筒から着服したことが一切なかったとまで断定することは、ちゅうちょをせざるを得ないと評価する一方、客観的な証拠関係に沿っていることを根拠に、供述の信用性を肯定できる旨の判断を示しました。   次に、控訴審において合意制度に関して言及した部分について御説明いたします。控訴審判決は、要旨、原判決は、捜査の過程において従業員Cと捜査機関との間で証拠収集等への協力及び訴追に関する合意がなされていることから、従業員Cの供述のうち、客観的な裏付けを欠き、争われている部分については信用性判断において相当慎重な姿勢で臨む必要があると述べているが、このような考え方に基づく証拠評価を含め支持することができるものである旨の判断を示しました。   上告審である最高裁判所令和4年6月16日決定では、合意制度について言及がなされていませんでした。   次に、合意制度の利用が明らかにされた判決等の二つ目は、東京地方裁判所令和4年3月3日判決です。この判決等に係る事件は、金融商品取引法違反被告事件であり、このうち、被告会社につき有罪判決確定済みで、被告人については公判係属中です。判決等において明らかにされた合意の概要は次のとおりです。まず、検察官と合意をした被疑者の立場は、被告会社の秘書室長及び被告人の執行役員でした。次に、合意内容の概要ですが、被疑者による協力行為の概要は、検察官の取調べに際して真実の供述をすること等、証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること、検察官による証拠の収集に関し証拠の提出をすることであり、検察官による有利な取扱いの概要は、公訴を提起しないことでした。   配布資料16の御説明は以上です。   ただいまの説明について御質問はありますでしょうか。 ○河津構成員 御説明ありがとうございました。合意制度の利用が明らかにされた判決等を2件御紹介いただきました。合意制度の利用はこの2件以外にはないという趣旨ではないと思われますが、利用件数が少ないことは間違いなさそうです。第2段階の協議では、そのことを踏まえて制度の見直しの要否を議論することになると思われますが、その前提として、判決で明らかにされたものに限らず、協議の申出があった件数、検察官が被疑者及び弁護人との間で協議を開始した件数、検察官が被疑者及び弁護人との間で合意をした件数、被疑者による協力行為の種類別の件数、検察官による処分の軽減等の種類別の件数等を御教示いただけませんでしょうか。 ○栗木参事官 事務当局として網羅的にその辺りの状況を把握しているものではないため、判決によって明らかにされたことにより把握できた限度で、かつ、今回の議論に資する限度で御紹介したところですが、どういった対応が可能かまた検討したいと思います。 ○成瀬構成員 御説明ありがとうございました。事務当局が配布資料16に基づいて説明されたとおり、判決において合意制度の利用が明らかにされた事件は2件にとどまりますが、もう1件、不正競争防止法違反事件においても合意制度が利用されたことは周知の事実であろうと思います。最高裁判所令和4年5月20日判決の事案です。そこで、これら3件の共通点と相違点について、私なりに整理したことを申し上げたいと思います。   主な共通点として、三つ挙げられます。第1に、3件の罪名は不正競争防止法違反、金融商品取引法違反、業務上横領であり、いずれも広い意味での企業犯罪であること。第2に、検察官が合意をした被疑者に対して与えた恩典は、3件とも公訴を提起しないという恩典であったこと。第3に、合意をした者の供述の信用性は、裁判所において相当慎重に評価されていることです。   第3の点については、配布資料16の【判決等@】の第一審判決及び控訴審判決において、合意をした者の供述のうち、「争点とされている部分であって、客観的な裏付けを欠くものについては、その信用性を検討するに際して、相当慎重な姿勢で臨む必要がある」と判示されているほか、配布資料16に記載はありませんが、【判決等A】の第一審判決においても、合意をした者の供述の信用性は、「客観的な証拠や信用できる第三者の供述等といった裏付け証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情があるかという視点から慎重に検討すべきであり、直接の裏付け証拠がない供述部分については、供述した事項の性質・内容のほか、当該事項に関連するところの動かし難い事実関係に照らして供述内容が確かであるかという視点からより慎重に検討すべきである」と判示されているところです。   他方、3件の相違点としては、配布資料16に記載されている二つの事件では、社内の下位の地位にある自然人が検察官と合意しているのに対し、冒頭で申し上げた不正競争防止法違反事件では、法人自身が検察官と合意しているという違いなどが挙げられます。   差し当たり、合意制度が利用された3件の事案について簡単に整理してみましたが、このうち【判決等A】の事件はまだ控訴審に係属中であり、僅か3件に基づいて合意制度を評価するのは難しいようにも思われます。引き続き、罪名や合意の相手方、検察官が付与する恩典の内容、合意した者の供述の信用性判断等に着目しつつ、合意制度の運用を注意深く見守る必要があると考えています。 ○栗木参事官 ほかに何か御意見や御質問はありますでしょうか。 ○河津構成員 御承知のとおり平成28年改正刑訴法は、国会の附帯決議でも明らかにされているように、「度重なるえん罪事件への反省を踏まえて重ねられた議論に基づくもの」であり、きっかけとなった村木厚子さんの事件では、被疑者が逮捕を免れ、あるいは早期に保釈されることと引換えに、村木さんを引き込む内容の供述調書への署名押印に応じたという引込み型のえん罪事件でした。そのため、引込み供述を誘発するおそれのある合意制度を導入することについては強い批判もあったものと記憶しております。   そうした批判を踏まえて、国会審議の過程では法務大臣や法務省刑事局長から、合意に基づく供述が他人の公判で使われるときは、合意内容が記載された書面が当該他人にも裁判所にもオープンにされ、供述の信用性が厳しく吟味される仕組みとしているとの答弁が行われました。   具体的には、合意に基づく供述については、裏付け証拠が十分に存在するなど積極的に信用性を認めるべき事情が十分にある場合でない限り信用性は肯定されないこと、合意に基づく供述が既に収集されている証拠に整合するというだけでは積極的に信用性を認める事情があるとはいえないこと、合意に基づいて供述を得た上で捜査を行ったところ捜査官の知り得なかった事実が確認されるとか、供述中の重要部分についての裏付け証拠が新たに得られたといった事情がなければ、供述の信用性は十分に認められないという考え方が示されました。   さらに、合意制度というものを法律で定めて、その対象犯罪や合意の内容に含めることができる事項等を法律で限定している以上、法律で定められた合意制度ではない事実上の合意をすることは違法となることも確認されました。   制度の実施状況はこうした経緯を踏まえて見る必要があるところ、合意制度の利用が少ないことの背景にあるのは、先ほども申し上げたような、取調べにおいて逮捕の回避や早期の保釈と引換えにして供述を獲得する従来の捜査手法が改められていないことであるように思われます。   例えば、令和元年の参議院議員選挙をめぐる公職選挙法違反事件で、買収者とされた側が起訴される一方で、被買収者は在宅被疑者として取調べを受け、全員が不起訴とされたという事案がありましたが、検察審査会の議決を経て起訴された被買収者は公判で、金は陣中見舞いだと思って受け取ったが、検察の取調べで陣中見舞いだと思ったと言っても取り合ってもらえなかったことや、認めれば罪に問わないという話を聞き、検察に協力する供述をしたと主張したと報道されています。当該公職選挙法違反事件の担当弁護人からは、この事件では、検察に協力をして変更した後の取調べのみ録音・録画が実施されていたと聴取しております。   このように、在宅被疑者の取調べの全過程が録音・録画されていないことにより、実際には取引的な経過により供述が変更されても、そのことが訴追された被告人の弁護人にも裁判所にもオープンにされず、供述の信用性が厳しく吟味される仕組みが回避されていることになります。これは、国会審議の過程で確認された法改正の趣旨に反する事態であるように思われます。   もし宮崎構成員がお分かりでしたら教えていただきたいのですが、先ほど申し上げたとおり、国会審議の過程では、合意制度というものを法律で定める以上、法律で定められた合意制度ではない事実上の合意をすることは違法となることが確認されていますが、検察庁においてはその旨を周知する通達等は発出されているのでしょうか。 ○吉田構成員 その点について依命通達に記載があるかどうかは、事務当局で確認した方がいいかと思います。   今言及のあった話の中で、広島の事件で取引的経過により供述が変更されたという御趣旨の話がありましたが、これは裁判所においてもそのように認定されているのでしょうか。 ○河津構成員 私が申し上げたのは、供述の変更後の取調べのみ録音・録画が実施されていたと、担当弁護人から聴取したということです。裁判所の判決の中でそのような認定がされたとは把握しておりませんが、取調べの全過程が録音・録画されていれば、その経過は客観的に把握することができたと考えます。 ○吉田構成員 御趣旨は理解いたしました。そうであるとすると、先ほどの御発言は、裁判所において判断が確定していない事柄を、一方の立場からおっしゃったものとして理解するのが公平ではないかと思います。また、今おっしゃった話は、合意制度というよりも、取調べの録音・録画制度の話のような気もいたしまして、先ほど御議論があったことの延長なのかなと理解いたしました。 ○宮崎構成員 河津構成員の御発言の趣旨がよく分からない部分もあったのですが、事実上の合意が横行しているから合意制度の利用件数が少ないというような御趣旨にも聞こえました。私は、そもそもそのような事実上の合意が横行しているというような実態にあるといった理解は全くしておりません。 ○栗木参事官 それでは、続いて刑事免責制度の実施状況についての協議を行いたいと思います。   事務当局から、このテーマに関係する配布資料17の内容について御説明いたします。配布資料17は、刑事免責決定下で証人尋問が実施された件数をまとめた統計資料です。この統計資料は、刑事免責決定書等に基づいて作成した統計資料であり、令和5年2月1日時点のものです。表には、平成30年から令和4年における、刑事免責決定下で証人尋問が実施された件数を、証人尋問開始前に刑事免責請求がなされたものと、証人尋問開始後に刑事免責請求がなされたものに分けて、各年ごとに記載しています。なお、平成30年については、刑事免責制度が施行された日である平成30年6月1日からの件数を記載しています。   配布資料17の御説明は以上です。   ただいまの御説明、資料についての御質問、御意見等はありますでしょうか。 ○成瀬構成員 御説明ありがとうございました。刑事免責請求の有無は、研究者が判決を読むだけでは把握できませんので、配布資料17において、刑事免責決定下で証人尋問が実施された件数を具体的に明らかにしていただいたことには感謝しております。   もっとも、実施件数だけでは、どのような事件において、どのような証人に対して、いかなる目的で刑事免責請求がなされ、その目的が達成されたのか否かが分かりません。先ほど議論した協議・合意制度と異なり、刑事免責制度はそれなりに実務で利用されているようですので、運用の実態にもう少し踏み込んで検討することが有益であるように思われます。   そこで、事務当局の皆様に多大な御負担をお掛けしてしまい申し訳ないのですが、もし可能であれば、刑事免責制度についても、取調べの録音・録画に関して御準備いただいた配布資料12や配布資料14のような事例集を作成していただけないでしょうか。御紹介いただく事例は、配布資料17に計上されている全ての事件である必要はなく、適宜、絞っていただいて構いませんし、一定の基準に従って類型化していただくような形でも構いませんので、御検討いただければ幸いに存じます。 ○栗木参事官 ただいまの御意見、それから協議会の趣旨を踏まえまして、どういったことができるか事務局として検討してまいりたいと思います。 ○小林構成員 今、事務局からそのようにおっしゃっていただいたので、期待したいと思います。私も、刑事免責制度が意外に使われているのだなという感想を持ちましたので、ケースの具体的な実情が分かるような資料を是非御提供いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○栗木参事官 事務当局として検討させていただきます。 ○河津構成員 刑事免責につきましては、尋問に応じてした供述及びこれに基づいて得られた証拠は、証人の刑事事件において、これらを証人に不利益な証拠とすることができないとして、いわゆる派生使用免責の仕組みが採用されておりますけれども、この刑事免責下で証人尋問が実施された後に、証人自身の刑事裁判において派生使用免責の対象となるかどうかが争われた事例があるのかどうか、可能な範囲で調査をしていただけないでしょうか。 ○栗木参事官 どういった対応が可能か検討させていただきます。   そのほか、御質問等はありますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、本日予定していた議事についてはこれで終了いたしました。   本日、構成員の皆様方から御要望、御意見を頂きましたので、これにつきましては事務当局の方で、どういった対応が可能かを検討いたしまして、資料としてお示しできるものはお示ししていきたいと思います。   本日までの協議により、取調べの録音・録画制度、合意制度、それから刑事免責制度の施行状況について、一通りの情報共有はできたと考えております。   そこで、第6回会議につきましては、本日頂いた御要望を踏まえて事務当局から新たな資料としてお示しできるものをお示しするとともに、次のテーマとして、通信傍受の合理化・効率化の施行状況等について情報共有、意見交換を行うこととしたいと思いますが、具体的な内容については、事務当局において検討し、追って御連絡したいと思います。   そのような進め方とすることでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。   第6回会議の日程については、できるだけ早期に調整の上、追ってお知らせいたします。   また、第6回会議で構成員の皆様から資料の提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御準備いただいて御送付いただく必要がある関係上、早めに御連絡することとし、提出の期限についても御連絡いたします。その場合の資料について、事務当局において確認させていただき、必要に応じてどのような形で御提出いただくかなどを御相談させていただくことは、これまでと同様です。   本日の会議の御発言の中には、職務上取り扱われた事例に関するものなどもございましたので、御発言なさった方の御意向を改めて確認の上、もし非公開とすべき部分がある場合には当該部分を非公開としたいと思います。その具体的な範囲や議事録上の記載方法等については、その方との調整もありますので、事務当局に御一任いただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。 ○小林構成員 すみません、最後に1点お願いがございます。議事録の公開についてですが、事務局の皆様がお忙しい中で対応してくださっているのは本当によく分かっているのですけれども、余りに遅いのでメディアとして報じるタイミングを逸してしまうという声が寄せられております。少なくとも協議会が開かれる前に、前回の議事録がホームページにアップされるようにしていただけないでしょうか。議事録を読んで、次回はここが論点になるのだなということで私に連絡を下さる方もいらっしゃいます。もう少しスピードアップをしていただけると助かります。よろしくお願いいたします。 ○栗木参事官 御意見ありがとうございます。議事録につきましては、事務当局において確認するとともに、構成員の皆様方にも御確認いただいた上で、皆様御確認の上、ホームページに公表するという流れにしております。本協議会の第1回会議においても、速やかに議事録を公表していくという御説明をさせていただいたところです。今回の御指摘を踏まえまして、改めて、速やかに公表できるよう努めてまいりたいと思います。   それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 −了−