法制審議会 家族法制部会 第23回会議 議事録 第1 日 時  令和5年2月28日(火)  自 午後1時31分                       至 午後2時22分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 家族法制に関するその他の論点についての補足的な検討         2 その他の意見交換 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会家族法制部会の第23回会議を開会いたします。  本日は御多忙の中を御出席いただきまして、誠にありがとうございます。  本日も前回までと同様、ウェブ会議の方法を併用した開催となりますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。  それでは、本日の会議の配布資料の確認をさせていただきたいと思います。まず、事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。お手元の資料について御確認いただきたいと思います。本日の会議資料として、部会資料23をお配りしております。また、池田委員から資料を二つ御提出いただきましたので、お配りさせていただきました。この資料の内容については、本日の会議の後半部分で御説明いただく予定です。資料の説明は以上です。  今回もウェブ会議を併用していることから、御発言に当たっては冒頭でお名のりいただきますようお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。資料を御確認いただきたいと思います。  本日の審議に入りたいと思いますが、本日はパブリック・コメントの手続が終わって初めての会議に当たりますので、まず、現時点での速報を御報告いただきたいと思います。これも事務当局の方からお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。昨年11月15日の第20回会議では中間試案を取りまとめいただきまして、ありがとうございました。この中間試案については、事務当局の責任において作成した関係資料と共に公表させていただき、昨年12月6日から今年の2月17日までの間、パブリック・コメントの手続により意見募集をさせていただきました。その結果として、非常に多くの個人や団体から様々な御意見を頂戴しております。まだ集計作業中ではありますけれども、現時点で確認できているところによりますと、少なくとも8,000件を超える件数を頂いているというところになります。これらの意見につきましては、現在事務当局においてその概要をまとめる作業を鋭意行っております。今後しかるべきタイミングで、委員幹事の皆様に資料をお送りさせていただきたいと思います。  なお、本日の会議室には、寄せられた意見をコピーしてつづったファイルも御用意しております。個人情報等のマスキング作業ができた範囲のもののみではありますけれども、委員幹事の皆様が会議の前後などに御参照いただくことができるように、置かせていただいております。  本日の時点での事務当局からの報告は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございました。パブリック・コメントの手続で寄せられた意見は、現在整理中ということでございますけれども、一部は御覧いただくことができるようですので、この会議の終了後などに御覧いただければと思います。  引き続きまして、本日の議題のうちの「家族法制に関するその他の論点についての補足的な検討」という部分に入りたいと思います。これにつきまして、事務当局から部会資料23の御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。部会資料23では、家族法制に関するその他の論点についての補足的な検討として、民法第770条第1項の定める裁判離婚の事由について取り上げております。  民法第770条第1項第4号は、配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないときという事情を離婚原因として掲げておりますけれども、この規定に対しては、精神的な障害を有する者に対する差別的な規定であるとして、これを削除すべきであるとの指摘がされているところです。また、最高裁の判例や最近の裁判実務の傾向を見てみますと、民法第770条第1項第4号の適用のみによって離婚請求の当否を判断するのではなく、同項第5号の定める、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときという離婚原因に係る判断の一つの事情として、配偶者の精神病の状況も考慮し判断するという傾向にあるように思われます。こうした事情を踏まえ、部会資料23では、民法第770条第1項第4号を削除すべきであるとの考え方を取り上げておりまして、本日はこの考え方について御議論いただきたいと思います。  資料の説明は以上です。よろしくお願いします。 ○大村部会長 御説明ありがとうございました。  それでは、今御説明を頂きました部会資料23につきまして、御意見を頂戴したいと思います。どなたからでも結構でございますので、御意見等がありましたら自由に挙手をお願いいたします。 ○棚村委員 裁判離婚の原因で、特に、回復の見込みのない強度の精神病については、先ほども御紹介がございましたけれども、1996年、もう26年、7年前に法制審の方で答申が出されて、既に削除をするというような方向が示されていました。この改正提案が本来はすぐ閣議決定を通じて実現すべきところを、今なお足踏みをしているという状態です。また、これも御紹介がありましたように、国連の障害者権利委員会の方から総括所見が出されて、精神病離婚原因についてもやはり早急に削除すべきであるということが勧告されている状況です。そういう意味で、離婚原因ということについて、破綻主義を徹底すれば、回復の見込みがない婚姻関係の破綻、その他婚姻を継続し難い重大な事由という、一般的な離婚事由の中でこの問題についても考えていくべきで、特に精神的な障害を抱えた方に対する社会的な差別みたいなものを助長しないようにすべきであるということですので、是非この提案については、この機会に改正の議論をすべきと考えます。つまり、従来からの積み残しの問題でもあり、大方のコンセンサスが得られるであろうと思いますので、是非この機会に削除をするということについてきちんと検討して、一定の結論を示すことができればとこの提案に賛成をしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。事務当局、それから棚村委員から、この資料の内容と、これまでの経緯について御説明を頂き、棚村委員からは、これを積極的に考えたいという御意見も頂戴いたしました。 ○大山委員 大山でございます。私も、棚村委員からのお話と軌を一にする意見になります。今、ダイバーシティー&インクルージョン、正にインクルーシブな社会を作っていこうという世の中の流れの中で、離婚事由の一つに疾病とか障害の有無といったことの規定があるということ自体、違和感を感じますが、今御指摘がございましたとおり、いろいろな経緯があって、なかなか削除に至っていないということではございますけれども、今回これを機に、是非きちんと削除して、前に進めていくことが大変重要と思いますので、是非削除するという方向性に賛成させていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。大山委員の方からも、削除の方向で考えるということについて賛成の御意見を頂戴いたしました。  ほかの委員、幹事の方々、いかがでしょうか。 ○原田委員 私も賛成ですが、日弁連でもこの、日本の国別審査のときのカウンターレポートの中で、これは即時に削除すべきだというような意見を出しております。この部会がどのくらい続くのかということもありまして、早くこの部分だけでもやってもらえないのかという意見があったことを付言したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。賛成の御意見を頂いた上で、スピード感についての御指摘も頂いたと受け止めました。  そのほか、いかがでございましょうか。 ○柿本委員 柿本でございます。私も賛成でございます。理由は委員の皆様がもう先ほどおっしゃられましたけれども、一刻も早く削除されるべきと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。柿本委員からも賛成意見を頂戴いたしました。そのほか御意見あるいは御指摘等があれば頂きたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○赤石委員 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石でございます。私も結論から言えば賛成です。ひとり親の方の御相談を受けている中で、離婚前に相手の精神疾患についての御相談を受けるということもありますし、逆に、その方が、軽度ですけれども、精神疾患を患っておられてというようなケースもなくはないです。どちらにせよ5号で、その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときというところの方で実質的にその離婚事由をいえますので、4号の削除は賛成です。  今ここに来てから思い出したのですけれども、いろいろな一般的な相談を受けるときに、作業所に通っているですとか、そういう障害者の方からの御相談を受けたときに、その方がそこで出会った方と結婚するですとか、そういった御事例もあったなというのを思い出したので、どうしてもひとり親とかそういうのを想定しているのですけれども、お子さんのいらっしゃらないケースでもここは適用になるのだなということで、賛成ではあるのですけれども、私どもが判断していいのだよねと、少しそこを確認したかったところです。 ○大村部会長 ありがとうございました。結論としては賛成であるけれども、前提となる問題状況について確認をする必要があるかもしれないという御指摘を頂いたと思います。  そのほか、いかがでしょうか。特に御意見はございませんでしょうか。  それでは、本日のところは、これを新たにこの部会での検討の課題とする、そして、部会の御意見としては現時点ではおおむね賛成の御意見が出されているということで引き取らせていただきたいと思います。  一言だけ申し添えさせていただきたいと思いますけれども、先ほど事務当局からも説明がありましたし、棚村委員からも御説明がありましたが、これは平成8年2月に法制審で決定された民法改正要綱案に盛り込まれていた提案でございます。この要綱案に盛り込まれた提案は、全体としては、当時、実現することはなかったわけですけれども、その後、折に触れて少しずつ実現しております。また、法制審の部会において、直接の検討課題との関係では多少外れるように見える場合もありましたけれども、しかし、部会にのせて平成8年の提案の一部を検討し、改正を実現したということもございます。今回もそうした従来の例に倣って、これを議論のテーブルに載せ、積極的な方向で検討していく、本日のところはそのような形で受け止めさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。事務当局もそれでよろしいですね。  それでは、今の点につきましてはそのようにさせていただきたいと思います。  引き続きまして、本日の議題で、その他の意見交換というところになりますけれども、池田委員の方から資料2点を御提供いただいておりますので、まず、池田委員からこれについて御説明を頂きたいと思います。よろしいですか。 ○池田委員 池田でございます。お時間頂きありがとうございます。お配りいただいておりますのは、国連子どもの権利委員会が出しています二つの一般的意見です。一般的意見といいますのは、国連子どもの権利委員会が子どもの権利条約の重要項目について解説をした文書でございますが、今回は子どもの意見表明権に関する一般的意見12号と、子どもの最善の利益に関する一般的意見14号を御紹介いたします。  まず、子どもの意見表明権の12号の方を御覧いただけますでしょうか。ここでは、条約12条の条文解釈や具体的適用の在り方というものが示されています。ハイライトを引いておいたのですが、まず4ページを御覧いただきますと、条約12条は子どもの意見表明権と、その示された意見を当該子どもの年齢及び成熟度に従って正当に重視される、ここは政府訳は、相応に考慮されるとなっていますけれども、そういった二次的権利も定めているとしています。また、意見表明権は権利であって義務ではなく、子どもが意見表明するかどうかの選択ができることも確認をしています。  5ページでは、第12条の権利主体に何らの年齢的制限がないことを確認しています。つまり、乳幼児も含まれるということですね。それから、6ページでは、自由に自己の意見を表明するというところで、意見表明に当たって圧力を受けないということを確認しています。それから、その下にいきまして、意見表明に当たっては正確な情報が子どもに提供される必要があるということも確認をしています。  7ページに移りまして、表明された意見を正当に重視するということは、子どもの意見に耳を傾けるだけでは不十分であって、子どもに自己の意見をまとめる力があるときは、その意見が真剣に考慮しなければならないということを確認しています。   少し飛びまして、11ページですが、これは離婚、別居における子どもの意見表明ということについてですが、そういった場面における子どもの監護、面会についての裁判所の決定においては、子どもの最善の利益が至高の考慮事項となるべきことを示しています。  14ページから15ページにかけましては、子どもの最善の利益と意見表明権の関係について解説をしています。15ページのパラグラフ74を見ますと、子どもの最善の利益について定めた条約3条と条約12条との関係ですが、これには緊張関係はなく、補完的役割を果たしていること、それから、12条の要素が尊重されなければ3条の正しい適用はあり得ないこと、最善の利益の決定において、子どもの必要不可欠な役割を促進することは、すなわち意見表明権の機能を強化することであるとしています。難しい表現ですが、子どもの最善の利益というのは子どもの意見表明の先に初めて形作られるということを述べているものと考えています。  17ページですが、ここでは親等の子どもに対する適当な指導の責任について定めた条約5条との関係について書かれています。親等は、子どもが成長するにつれて、子どもへの指示や指導を子ども自身の気付きを促すための注意喚起及びその他の形態の助言に、やがては対等な立場の意見交換に変えていかなければならないこと、そして、このような変換は子どもの意見表明を奨励する中で進行していくということが記されています。  18ページに移りまして、ここでは家庭における子どもの意見表明権の実施について記しています。パラグラフ90では、子どもが自由に意見表明でき、それを真剣に受け止めてもらえる家庭像を示し、それが個人の発達の促進、家族関係の強化、子どもの社会化の支援に役立つこと、家庭内の暴力の予防になることを示しています。  次に、子どもの最善の利益の方の第14号の方を御覧ください。第3条は、子どもに関わるあらゆる場面で子どもの最善の利益が第一次的に考慮されなければならないという規定をしている条項ですけれども、9ページのパラグラフ37を御覧いただきますと、この第一次的に考慮されるという文言ですが、これは、子どもの最善の利益は他の全ての考慮事項と同列には考えられないことを示していると解説しています。  12ページ以下ですけれども、ここでは子どもの最善の利益を評価する際に考慮されるべき要素を列挙していまして、最初に子どもの意見が挙げられているところです。それから、13ページでは、その考慮として、家庭環境の保全及び関係の維持というものも挙げられています。パラグラフ60のところを見ますと、親の一方又は双方から分離されている子どもは、子どもの最善の利益に反しない限り、定期的に親双方との個人的関係及び直接の接触を保つ権利を有するという条約9条の規定を引用しています。  14ページに移りまして、パラグラフ67では、国連子どもの権利委員会としては、親責任が共有されることが一般的に子どもの最善の利益にのっとったものであるという見解に立つことを示しています。ただし、親責任に関する決定におきましては、何が特定の子どもにとって最善の利益であるかが唯一の基準とされるべきことを示しています。ここは少し分かりにくい表現ですけれども、例えば父母間の公平などといった基準は適用されないということかと理解しています。また、法律により親責任が一方又は双方の親に自動的に委ねられるのであれば、これは子どもの最善の利益に反しているという見解を示しています。パラグラフ70では、子どもの親以外の親族や友人、学校などを含めた幅広い環境が保全されるべきことを示しています。  最後に、18ページに飛びますが、ここでは子どもと大人の時間に対する知覚の仕方の違いというのを指摘しておりまして、この違いを考えますと、子どもに関する決定が遅滞したり長期化することは子どもの発達に有害な影響を及ぼすとして、子どもに関わる手続は優先的処理の対象とされ、可能な限り短時間で完了することが望ましいとしています。  以上、簡単ですが御紹介いたしました。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。池田委員の方から資料を御提供いただきましたが、それについて補足の説明も頂きました。  ただいまの池田委員からの御説明につきまして、皆さんの方から何か御質問あるいは御意見等がありましたら頂きたいと思いますけれども、いかがでしょうか。 ○水野委員 水野でございます。こういう国際的な条約につきまして、私はもちろん存在意義を否定する立場ではありません。1985年の女子差別撤廃条約で日本の女性の地位がどれだけ改善されたかを知る世代の一人ですので、国際的な人権条約の力も意義も、身をもって知っております。ただ、これらの条約に対する批判もそれぞれの国にありまして、決して無批判に受け入れられているわけではないことはお伝えする必要があるかと思います。  殊に意思決定、意見表明権の部分につきましては、私が多少勉強しておりますフランスでは、アングロサクソン流の議論だと、自己決定万能だという批判が強く行われています。特に、先ほど、精神病離婚の改正のところで触れられました障害者権利条約につきましては、昨年9月に日本に対する勧告でも、もう後見制度は廃止して、支援付きの意思決定制度にすることという勧告をされているのですけれども、同様の勧告が日本のみならず各国に出されています。私はフランスしかフォローしておりませんけれども、フランスではその勧告に対して激しい批判が起こっていて、判事たちがそろって批判声明を出していますし、学説も猛反対しております。差別との闘いの名の下に保護の仕組みを奪うものであって、結局は弱者の保護に逆行してしまうという批判だとか、あるいは、この勧告はもうドグマでイデオロギーだというような批判が行われています。  そして、児童の権利条約の意見表明権の部分につきましても、フランスでは非常に批判が強くて、殊に子どもの意見表明権が子どもの福祉に反する点の代表として、離婚事件に適用して子どもに両親のどちらかを選ばせることについては、激しい批判がございます。私も論文で引用したことがありますけれども、これはもう残虐なソロモンの裁きだとか、あるいは恐ろしい大衆迎合の欺まん的な両親の競りだなどという激しい言葉で批判されています。  子どもの状況を詳しく調査することはもちろん必要ですし、子どもの福祉が最大、最善の法益だということは誰も否定しないのですけれども、ここで子どもの意見を聴くことは非常に慎重にやらなくてはならなくて、児童精神科医のようなプロフェッショナルが慎重に行わなければならない手続なのだろうと思います。ただ、日本でそういう手続ができる体制があるかといいますと、これはもう残念ながらそういう体制にないのは皆さん御存じのとおりです。もしこの意見表明権を条文に書いてしまいますと、非常に機械的に裁判所なり調査官が聴いてしまう、残虐な問いを発してしまい、お父さんとお母さんのどちらがいいかというようなことを聴いてしまって、子どもを深く傷付けることになりかねないという危惧がございます。ですから、子の意見表明権の問題を離婚後の両親の問題に適用することについては、私は非常に慎重であってほしいと思っております。  以上でございます。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。水野委員からは、資料として出ている文書についての受け止め方と、これからの審議における留意点などについての御指摘を頂いたと受け止めました。  その他の委員、幹事、何か御発言はありますでしょうか。 ○原田委員 弁護士の原田です。先ほど御紹介いただきました、意見を聴かれる子どもの権利のところですから12条ですかね、このパラグラフ93のところで、迅速に判断する必要があるということと、もう一つ、成長発達の観点から定期的に再審査されなければならないというところがありますけれども、こういうものを担保するための何か制度を持っているような例があれば、教えていただきたいと思うのですけれども。 ○池田委員 今の御指摘は、14号の方の18ページのパラグラフ93だと思いますが、時間とともに変わっていくということで、再検討ということですけれども、私は他国の制度は存じておりません。申し訳ありません。日本においては、例えば子の監護に関する処分等について、再申立てが認められているというような位置付けになるのではないかと考えています。  それから、先ほどの水野委員の御指摘について、私から申し上げてよろしいでしょうか。  水野委員がおっしゃった、子どもの意見を聴くということについて、特に両親の離婚の場面においては非常に慎重に取り扱うべきだという御指摘は、正にそのとおりだと思いますし、それから、子どもにどちらかの親を選ばせるということが非常に酷だということは、これはもう異論のないところでして、日本の今の裁判実務においても基本的にはそういう問い掛けはしていないと認識をしています。  それから、自己決定万能論に対する批判があるという、特にフランスにおいてですね、という御指摘がございましたが、子どもの権利条約においては、子どもは自己決定ができるということを前面に押し出しているわけではありませんで、子どもに関する決定は、大人が責任を持ってその最善の利益に資する結論を導かなければいけないという前提の下に、そうであるがゆえに、その決定に子どもが意見表明を通じて参加していけると、そういう構造になっておりますので、必ずしも子どもの権利条約において自己決定万能論というものに立っているということではないのではないかと認識しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。  そのほかに何か御発言はありますでしょうか。 ○佐野幹事 幹事の佐野です。池田委員の方、ありがとうございました。少しお伺いさせていただきます。  一般的意見12号の方ですか、パラグラフ25などの情報提供との関係で、まず、裁判手続内で子どもの意向が確認される場合の子どもへの情報提供や、先ほど最善の利益との関係で、子どもが意向を表明したとしても、意向に反する判断が出るという場合の、なぜそういう判断が出たかという説明などをするという意味で、やはり子どもに独自の代理人が就くということが非常に重要ではないかと思うのですが、実際、例えば面会交流などに子どもの代理人が就くことで、親、両親が子どもの方の利益に集中して協力関係を築いていくことができるという事案は経験するところではあるのですけれども、なかなか裁判所においてこの子どもの代理人が選任されないという点について、どこに問題があるとお考えになるかというのが一つです。  それから、もう一つ、パラグラフ90でしょうか、家庭における意見表明の重視というところで、実際、協議離婚の場面などでは、なかなか子どもが意向を聴かれることがない、両親からは聴かれるかもしれないけれども、中立的な立場で聴かれるという場面がないと、そういう点の方策につき、この議論の中でもいろいろ検討はしてきたのですけれども、なかなかこれというものが出てこないと、その辺についてどういった方策があり得るとお考えになるのかという辺りを少し教えていただければと思います。 ○池田委員 池田でございます。ありがとうございます。まず一つ目の、子どもの手続代理人の選任数がなぜ少ないのかという御指摘かと思いますけれども、裁判所に伺いたいところですけれども、私たち弁護士、日弁連の方で意見交換する中で課題として指摘できるところは、やはり一つは、家裁調査官制度がございまして、子の監護に関する調査の中で既に子どもの意見を聴いているというところがあるのではないかと思っています。それに重ねて子どもの手続代理人を選任して意思を聴くという必要性がないのではないかという受け止めをされているように感じているところがございます。それに対して、日弁連の方で子どもの手続代理人の役割等について文書を出しておりますけれども、そこにも指摘しておりますとおり、子どもの手続代理人は飽くまで代理人ですので、子どもの意向を聴く、真意を確認するというだけが仕事ではありませんで、代理人として子どものために主張立証していく。もちろん最善の利益という観点から適切な手続行為をしていくわけですけれども、そういったところがありますので、調査官とは本質的に役割が違うという理解をしています。そういったところを裁判所にも御理解いただきたいと考えています。  2点目ですが、今のは司法手続における子どもの意見表明ということですけれども、そこに至らない、特に父母の協議離婚のような場面について、子どもの意見がどのように聴かれ、尊重されているか、いくべきかということですけれども、現状は本当にそこは御指摘のとおり、どちらかの親が子どもと話をして話を聴くというところで済まされている。もちろんそれで事なきを得るというところもあるわけですけれども、ただ、ヒアリング等でもございましたとおり、子どもが親の協議離婚の場面で非常に、何も言えず、誰にも相談できずというところがある、そういった実態があるように思われましたので、何らかの子どもの相談支援の活動とか、あるいは手続上、協議離婚に何らかの要件を付加していくような改正をする場合には、そこに子どもが意見を言えるような手続を設けるとか、そういったことも検討されていいのではないかと考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。  そのほか、よろしいでしょうか。 ○原田委員 すみません、今のところに関連して、先ほどの51の離婚及び別居のところで書いてあるのは、これはやはり基本的に裁判所で何事も決めた方がいいということが前提のパラグラフと考えられるのでしょうか。 ○池田委員 池田です。特段そこは裁判所で決めるべきという前提はとっていないと読んでいます。審判において、又は裁判所が主導する調停を通じてという場面設定ではないかと思います。 ○原田委員 ありがとうございます。 ○窪田委員 神戸大学の窪田でございます。2点、ごく形式的なことになるのかもしれませんが、質問させていただければと思います。  一つは、この文書の持っている法的な意味についてです。当然、条約に関していえば、それを批准した場合、その国家はその条約に適合するような形での国内法を整備するとか、そういった法的義務を負うというのは分かるのですが、ここで示されているのは、基本的に、言わば注釈的なものということになると思います。もちろん条約に関係する子どもの権利委員会で示されたものではあるわけですが、それが我が国との関係で、厳密な観点から考えた場合に、どこまでの法的拘束力を持っているのかという点について、教えていただければと思います。この質問の背景ですが、特に12条に関しては、条約の文言から当然、そのような結論になるのかというと、一つの解釈としてはあり得るかもしれませんが、複数の解釈のうちの一つではないかという感じもするものですから、その点がどうなのかというのが第1点の質問です。  それから、第2点なのですが、これは今日御紹介していただいた点にも係ると思うのですが、viewとかviewsという言葉が、これは政府訳では「意見」とされていますが、一方で冒頭のところでは「見解」とされていますし、先ほど池田委員が触れた中では、「意向」という言葉を使っておられた場面もあったようにも思います。子どもの意見を聴くというのと、子どもがどう考えているのかを知るというのは、ニュアンスとしても結構違いがあるのかなと思うものですから、viewをどういうふうに訳すのかで持っている説明の意味が全く変わってきてしまうような気がして、その点が少し気になりましたので、何かありましたら教えていただければというのが第2点目の質問です。 ○池田委員 池田でございます。御質問ありがとうございます。一つ目の、この一般的意見の法的拘束力についてですが、外務省の方で間違いがあれば御指摘いただければと思いますけれども、条約とは異なりますので、厳密な意味での法的拘束力はないのではないかと考えています。  それから、viewsの訳ですけれども、政府訳では「意見」と訳しておりますが、「見解」という訳語を当てられることもあるところです。こういったように、いろいろな訳語の当て方があるというところはおっしゃるとおりだと思います。では、どれが適切かということなのですが、乳幼児もこのいわゆる意見表明権が保障されているということを考えますと、我々が日本語で「意見」という言葉を見たときに思い浮かべるイメージからしますと、やや「意見」という言葉は適合的かどうかというのは疑問もあるところで、「見方」ですとか「見解」とか、そういった辺りの訳語が本来は適切ではないのかなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。  そのほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○菅原委員 ありがとうございます。それでは、短く意見を述べさせていただきます。先ほど佐野幹事からの御指摘にもありましたが、子どもの手続代理人と、それから家裁の調査官の子どもにとっての役割の違いというのは、やはりもう少し深く議論される必要があるかなと思います。特に、ケースによっては家裁調査官の場合は、親にそれが伝わるということもありえますし、それが子どもたちにとって非常に緊張感を生んだりすることもあります。やはり、より明確に子どもの側に立って手続きを実行する代理人の役割について明確に議論されるべきではないかいうのが1点目です。  2点目は、協議離婚の場合ですけれども、先般2021年に法務省がされた未成年期に別居、離婚を体験した1,000人の20代、30代の調査の中で、父母に対して離婚や別居について本心といいましょうか、気持ちを開示できたと回答していた人は31.4%ぐらいで、できなかったという人が21.5%でした。ですので、やはり2割ぐらいの人たちは親に対しては自分の本心は言えなかったということを表明しています。協議離婚の場合にも、子どもが安全に自分の気持ちや意見を表明できるシステムを作っていくことを考えることが必要なのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。具体的な協議離婚の場面でということについて、御意見を頂戴いたしましたけれども、そのほか、いかがでしょうか。  よろしいでしょうか。今の御発言もそうですけれども、先ほど水野委員からも御指摘がありましたが、どういう制度を作るのかということが最後には問題になってくるかと思いますので、協議離婚なら協議離婚について対応する、あるいは一般的な規定を置くなら一般的な規定を置くというこということで、それぞれの場面で具体的な御議論を頂きたいと思います。  本日のところはこのぐらいでと思いますが、池田委員、よろしいですか。 ○池田委員 はい、ありがとうございます。 ○大村部会長 それでは、そのようにさせていただきたいと思います。  ほかに特にこの点について御発言がなければ、今日の審議はこの程度にさせていただきたいと思います。 ○棚村委員 言い忘れていた点について一言述べさせていただきます。子どもの意見表明権との関係なのですけれども、私自身、結局ここで今扱っている問題というのは、割合と総論的な規律ということについては大方の賛成が得られているのではないかと思います。  それで、池田委員からの御提案というか、御趣旨の説明についても、総論的な意味でいうと、子どもの意思の尊重ということについては今般の、2022年12月10日に成立した民法等の改正でも、子どもの人格の尊重とか、年齢とか発達の状況に応じた配慮という条文が盛り込まれております。親子法制に関する民法の改正でも、個別具体的な規律は難しくても、一般的な形では民法の中に取り入れましょうということになり、懲戒権をなくして、父母の監護教育というところでは、お子さんのことを大切にしましょうという総論的な規律は入っているわけです。  そこで、親の別居とか、あるいは離婚とかというところにおいても、一般的な原則とか一般的な規律として、例えば家事事件手続法の第65条のような形で、やはり年齢とか発達状況に応じてお子さんの意思を考慮するとかいうような規律の可能性というものについては、それほど大きな異論はないのではないかと思います。むしろ、それを具体的に制度化して、どの段階でどのようなことについて、誰がどういう形でお子さんの意向とか心情みたいなものを把握して、それをそれぞれの場面ごとにどこに届けていくかという具体的な制度化や規律についていうと、非常に難しい問題があるというのは皆さんおっしゃっているとおりです。  このようにみてきますと、私自身は、そういう具体化するときにはいろいろな問題があるのだけれども、一般的な規律として、子どもの最善の利益もそうですけれども、DVだとか暴力については、これはやはりきちんと対応しなければ駄目だとかという、そういうことで一般的な規律、原理原則的な規律を設けていくとことについてはこれを閉ざしてはいけないのではないかと考えます。もっとも、具体化するときにはいろいろな問題があるので、どこまで制度として具体化できるかとか、運用のレベルとか体制を作っていかないと、多分、水野委員が繰り返しお話しされているのも、そこにあると思うのです。  一応、私の意見としては、一般的な規律というのは既に子どもの意向とか心情とか、そういうものを配慮しましょうという流れはあるので、民法の中にこの場面で一般的な規律として、お子さんの意思を尊重するというような形の規律というものの可能性というのは、私はあると思います。それで、宣言的な意味でも教育的な意味でも、やはりメッセージとして、こういうものを大切にするのだということの方向としては、十分に検討に値すると思っています。ただ、具体的な制度化をし、それにまた人や、いろいろなものを付けていくということになってくると、お子さんにとってもそれがプレッシャーとかストレスになる可能性があるような場合には、それは議論を慎重にしなければいけないということで考えております。タイミングを失してしまい、申し訳ありません。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほど私はごく簡単に申し上げましたけれども、一般的な原則的な規定を置くか置かないか、置くとしたらどういう形で置くのか、それから、個別の場面に即した形で子どもの関与をどのようにするのか、おそらく2段階の問題があるだろうと思っております。棚村委員からも、今、具体的な形でその点を御指摘いただいたものと思います。2段目の方については様々な御意見があるだろうということだったかと思いますが、1段目の方については、確かに先般の親子法改正で、子どもの人格を尊重する、それから、年齢・発達の程度に応じた配慮するという規定を置かれておりますけれども、それを超えて、他の場面でどこにどのような規定を置くのかといったことが水野委員の関心事でもあろうと思いますので、そうしたことも含めて、この先、具体的な場面でまた議論をしていくということかと思っているところであります。どうもありがとうございました。  それでは、池田委員の資料提供及び御説明に関する点はここまでということにさせていただきまして、あわせて本日の審議もここまでということにさせていただきたいと存じます。  そこで、次回のスケジュール等について、事務当局の方から御説明を頂ければと思います。 ○北村幹事 事務当局でございます。次回の会議は令和5年3月28日火曜日午後1時30分から午後5時30分までで開催したいと思います。場所は改めて御連絡いたします。  次回会議以降ですけれども、頂きましたパブリック・コメントの結果なども踏まえながら、個別の論点についての御議論を行っていただきたいと思っておりますが、次回会議で取り扱う具体的な論点項目については、事務当局において検討した上で部会長とも御相談させていただいて、改めてお知らせしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。パブリック・コメントの結果の整理にかなりの労力を要するのではないかと思いますが、次回はパブリック・コメントの結果も踏まえまして、具体的な議論につなげていければと思っております。何を扱うかということについては、また事務当局と相談して検討させていただきたいと思います。 ○赤石委員 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石です。よろしくお願いします。まとめについてのお願いですが、私どもの会員さんも、またほかの団体の会員の方たちも、特に当事者の方が一生懸命勇気をふるってパブリック・コメントを送ってくださったかと思います。確かに件数が多くて、すごく睡眠時間を削っているのではないかとか、労基法は適用されていないのか、私には分からないのですけれども、本当に非常に時間とかを掛けておられるのがすごく分かるのですが、一つ一つの意見が大切に扱われるというのが大切だと思っております。また、その項目の中で、実はこの条件を掛けているとか、賛成ですと書きながら、ここは条件が入っているとか、そういうところも見落とさずに、おまとめいただけるようにお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。パブリック・コメントのまとめ方について、赤石委員から御要望を頂きました。各種の団体の御意見もありますし、たくさんの個人の方々からも御意見が寄せられております。そこに示されている意見を過不足なく酌み取るように、事務当局には本当に御苦労をお掛けいたしますけれども、お願いをしたいと思っております。  ほかに、その点につきまして、よろしいですか。  パブリック・コメントの整理につきましては、そのようにさせていただくということにいたします。  それでは、これで法制審議会家族法制部会の第23回会議を閉会いたします。  本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。閉会をいたします。 −了−