法制審議会 家族法制部会 第24回会議 議事録 第1 日 時  令和5年3月28日(火)  自 午後1時30分                       至 午後5時24分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会家族法制部会の第24回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席を頂きまして、誠にありがとうございます。   本日も前回までと同様、ウェブ会議の方法を併用した開催となりますので、そちらの方もよろしくお願いを申し上げます。   それでは、次に、本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局の方からお願いをいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。お手元の資料について御確認いただきたいと思います。本日の会議資料として、まず部会資料24、そして、部会資料24に関する御参考資料として1枚の絵のもの、そして、「「家族法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要【令和5年3月時点の暫定版】」をお配りしております。   これまでにこの部会では、諮問に関連する各論点について2巡の議論を行った上で中間試案をお取りまとめいただいて、パブリック・コメントの手続や追加のヒアリング等を実施してきたところでございます。部会資料24は、これらも踏まえまして、今後の要綱案の取りまとめに向けた各論点に関する3巡目の議論を行うための検討課題をゴシック体で記載した上、その補足説明を明朝体で記載しております。具体的な今回行う論点としては、まず、第2として「親子関係に関する基本的な規律の整理」、第3の1として「離婚時の情報提供に関する規律」、第3の2として「養育費等に関する定めの実効性向上」に関する規律、第4として「収入に関する情報の開示義務に関する規律」、第5として「財産分与制度に関する規律」を取り上げております。資料の内容については、後ほど御説明いたします。部会資料24に関する御参考資料は、部会資料24のうち養育費等に関する定めの実効性向上についての参考資料です。内容については、部会資料24と併せて御説明いたします。   そして、「「家族法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要【令和5年3月時点の暫定版】」ですけれども、こちらは飽くまでも今回の部会資料24の議論の御検討の御参考としていただくという趣旨で、パブリック・コメントの手続に寄せられた御意見のうち、現時点までに集計することができたものを暫定的に御紹介するものでございます。今回の論点に関しましても、全ての御意見を御紹介できていないということは御理解いただければと思います。そして、また集計作業、我々の方で確認しながら作ってはおりましたけれども、場合によっては少し意見がずれているという点もあるかもしれません。今後そこは速やかに修正していきたいと思いますので、その点を御留意ください。   また、別紙に付けております団体一覧でございますけれども、今回はe−Govの意見提出フォームを経由せずに意見提出を頂いた団体のうち、現時点で確認できているものの一覧でございます。当然、e−Govの意見提出フォームからもたくさんの団体から、そしてたくさんの個人の方から御意見を頂戴しておりますけれども、その中からまず団体を抽出するのにやや時間が掛かっておりますので、そちらにつきましては次回以降の会議資料において整理させていただいて、次回以降、随時資料を更新させていただく予定でございます。   資料の説明は以上になります。   なお、前回会議と同様、本日もパブリック・コメントに寄せられた意見をコピーしてつづったファイルを会議室に御用意しております。個人情報等のマスキング作業ができた範囲のもののみではございますが、委員、幹事の皆様が会議の前後や休憩時間等に御参照いただくことができるように備え付けております。   今回もウェブ会議を併用しておりますので、御発言に当たっては冒頭でお名のりいただきますようお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。ただいま事務当局から御説明がありましたように、本日は部会資料24に基づきまして、各論点の3巡目、第三読会ということになりますが、3巡目として、要綱案の取りまとめに向けて御議論を頂きたいと考えております。両論併記の中間試案をまとめましたけれども、意見の取りまとめができるところから少しずつまとめていきたいと思いますので、よろしくお願いを申し上げます。   具体的な進行予定ですけれども、部会資料24を三つに分けたいと思っております。まず、「第2 親子関係に関する基本的な規律の整理」を御議論いただきたいと思っております。資料で申しますと1ページから11ページの頭までということになります。その次に、「第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し」及び「第4 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し」という二つの項目、資料で申しますと11ページから32ページの途中までということになりますが、ここをまとめて2番目に御議論いただければと思っております。最後が「第5 財産分与制度に関する規律の見直し」で、32ページ以降ということになります。今御説明したように、大きく三つに分けて進行させていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いを申し上げます。   それでは、まず部会資料24の「第2 親子関係に関する基本的な規律の整理」という部分に入りたいと思います。事務当局の方から部会資料24の第2の部分につきまして、まず御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。部会資料24の第2では、親子関係に関する基本的な規律の整理を取り上げております。中間試案におきましては、父母は成年に達しない子を養育する責務を負うものとするという考え方を提示するとともに、子の最善の利益や子の意見に関する考え方を示しておりました。また、子に対する父母の扶養義務の程度については、他の直系親族間の扶養義務の程度よりも重いものであることを明らかにする規律を提示するとともに、成年に達した子に対する父母の扶養義務の程度について、複数の考え方を示していました。父母は、親権を有するかどうかにかかわらず、子との関係で特別な法的地位にあり、その根幹部分は子を養育する責務や責任であると考えられますが、現行民法にこのことが必ずしも明確に規定されていないため、例えば、親権者でない父母が子に対して何らの責任を負わないかのような誤解をされることがあるとの指摘があります。このような指摘を踏まえますと、親子関係そのものから生じる法律関係を明確化する観点から、子の養育に関する父母の責任や責務についての規律を設ける方向で検討する必要があるように思います。しかし、子の養育に関する父母の責務や責任についての規律を設けるとしても、父母がこの責務や責任をどのように果たしていくかは各親子関係によって様々であると考えられ、また、子の利益、子の意見、扶養義務の程度などの論点に関しても、どのような事案や場面を念頭に置くかに応じて様々な考え方があり得るところでありまして、パブリック・コメントの手続におきましても様々な御意見を頂きました。   資料のゴシックの@からCまでは、現行法の解釈としてあり得る考え方の一例を記載しておりますけれども、その解釈を具体的に規律するということは必ずしも容易ではないようにも考えられます。この部会の第23回会議でも部会委員から、子の意見の考慮の在り方についての具体的な規律を設けることには様々な困難を伴うことを御指摘いただき、一般的な規律を設ける方向での検討を示唆する御意見を頂いたものと受け止めております。こうしたことから、部会資料24では、本日の会議で御議論いただきたい検討課題として、子の養育に関する父母の責務や責任に関し、ゴシックの@からCまでのような解釈の根拠となるような一般的な規律を設けるということを提示しているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは、ただいまの部会資料24の第2につきまして意見交換をお願いしたいと思います。どなたからでも結構ですので、御意見等のある方は挙手をお願いいたします。 ○窪田委員 第2に関して少し意見を申し上げたいと思います。意見は2点ございますけれども、基本的には最終的に、この四つの方向を踏まえた上で、より一般的な条項を作っていくという方向だということですし、それ自体は十分考えられるものだと思っております。その点では今、@からCまで、余り細かいことにこだわるべきではないのかもしれませんが、一般的な規律を作る上で参考にしていただければという意味で、2点発言をさせていただきたいと思います。   一つは、@の父母が子を養育する責務を負うことということで、基本的には非常に多くの賛成意見があったところだと理解しておりますが、私自身が気になるのは、養育する責務ということについて、これが扶養する義務あるいは扶養する責務では駄目なのかという趣旨の点です。この点について発言させていただくのは、基本的には3点理由がございます。   一つは、このことの背景になったこととして、2ページの下の方に書かれていることですが、従来、未成年の子に対して親が扶養義務、生活保持義務を負うということについては、ほぼ異論がないのだろうと思います。ただ、法律上の根拠は明確ではないということで混乱していた中で、こうした規定を設けるということであれば、端的に扶養というふうな形でもいいのではないか、これが第1点です。   第2点として、扶養というもの自体も実は非常に広い概念でして、様々な形での扶養があるということを考えるのであれば、扶養という言葉によってカバーされる範囲は十分に広いのだろうと思います。   第3点に、これはひょっとすると一番実質的な論点になるのかもしれません。余り神経質に扶養という言葉ではなくて、養育でいいではないかという議論はあると思うのですが、養育に含まれるけれども扶養にはうまく含まれないものというのがあるのか、どうなのか。また、あるとすれば、それが適切なのかということがあるのだろうと思います。説明の方を見ていきますと、3ページの上から10行目ぐらいでしょうか、子と別居する親も、親子交流をする方法や養育費や扶養料の分担をする方法などによって子を養育する責務を果たすことが考えられるとあります。このうちの養育費や扶養料の分担というのは、恐らく扶養という概念の中に含めることができる。そうだとすると、そこに入ってこない親子交流をする方法というのが扶養の中に入ってくると読める可能性があるのですが、そうすると、親子交流をするということ自体について、まだいろいろな形での議論を抱えている状況の中で、養育という言葉を使うことによって、その中にこれが入ってくるというようなことは、基本的にはやはり避けた方がいいのではないか、その部分を明確に議論した方がいいのではないかと思います。そういう意味で、養育する責務ということで、一般的な表現としては非常に魅力的な言葉なのですが、もう少し単純に扶養ということでは駄目なのかという印象を持ちました。   もう一つの点は、もっと抽象的なのかもしれませんが、A、Bについてです。A、Bなのですが、これは中間試案の段階では第1の1、子の最善の利益の確保という中で、養育する責務を受けるような形で(2)、(3)というものがあったものですから、何となくイメージがはっきりしたのですが、その前提をなくしてA、Bで、どの場面でかということが全く規律されないまま、子の利益を考慮しなければならない、子の意見等の把握に当たっては様々な事情を配慮しなければならないということが、どの場面でということが全くないままあるという規律は、これがどのような意味を持つのだろうかというのが、よく私自身には分からないということがありました。もちろん中間試案の段階の、民法その他の法令により、子について権利の行使及び義務の履行をする場合や現に子を監護する場合にはというのが狭すぎるとか、あるいはこれでも広いとかという議論はあり得ると思うのですが、こうした場面限定が全くない形で子の利益を考慮するというのは一体どういう規律なのだろうかと。人は正しく生きなければいけないという規律のような感じもいたします。このまま、もちろん場面を限定することについていろいろな議論があるとしても、全く場面を限定しないこの配慮義務というのは、少し観念しにくいのかなと思いましたので、一般条項として考える場合には、少し検討していただければと思いました。   以上の2点です。 ○大村部会長 ありがとうございます。窪田委員からは、一般的な規律を置くという基本的な方向には賛同いただいた上で、2点御指摘を頂きました。一つは、養育という概念と扶養という概念を整理する必要があるのではないか、この場面では扶養の方がむしろよいのではないかという御意見だったかと思います。それが@についてですが、それから、A、Bについては、一般的な書き方になっているので、より場面を限定する必要があるのではないかという御指摘を頂きました。 ○落合委員 ここは一般的なことで、余り反対がないのではないかというようなことで、まとめでもそんなことも書いてあるのですけれども、しかしパブリック・コメントを読みますと、やはり反対とかその他というところもかなりありますよね。特に私が注目するのは、この責務というところを、父母の責務を強調することによって、社会的な支援を受けられるというようなことが後退するのではないかというような懸念です。それから、権利・義務といったらどうだというような提案をされている方もありますね。責務という言葉が元々出てきたのは、親権とかいう言葉ではなくて責任というのが適切ではないかとかいうようなことでした。それが責務という形で結局ここに入ったのだと思うのですけれども、責務という言葉だけ見ますと、やはり義務に似たところがありまして、そうすると、中間試案の第1の1の(1)と(2)のところで、少し齟齬があります。(2)では、権利の行使及び義務の履行と書いてあるのですけれども、(1)にはその言葉がないのです、責務になっている。この(1)と(2)の関係はどうなるのかというようなことも気になるように思います。ですから、いっそのこと、このパブリック・コメントで御意見いただいたような、子を養育する権利・義務を負うものとする、とした方が、まだ筋が通るように思うのです。それが一番言いたいことです。   それから、やはり社会の責任とか国家による支援とか、そういうことが全く書かれず、父母の義務的なことだけを強調する文言にやはり見えます、この部分は。やはり私はこれは非常にまずいと思うのです。後で家族社会学的に歴史を振り返ったときに、時代に逆行する規定を作ったと言われると思います。これは20世紀的な規定ですよね。近代といいますか、20世紀になる前は、父母以外の人も子育てに関わるのが当たり前でした。親族も近所の人も、少なくとも何か縁のある人は。父母だけに責任を押し付けるのではないのがよい子育ての在り方だといわれてきたと思うのですけれども、それが近代の、特に20世紀の子育てになって父母に限定されるようになった。それをこの21世紀の段階で民法の中に改めてはっきり書き込むというのは、時代に逆行していると思うのです。   ヨーロッパの国などでは、既に1970年代以降の家族政策の変化の中で、父母だけの責任ではない、社会や国家が支援すべきものなのだ、そうしなければ父母はその責務、義務を履行することができないのだというようなことがはっきり意識されて、いろいろな規定ができていると思います。その部分が全くなくてこれを言ってしまうと、世界からは、何というか、ガラパゴス化してしまいますし、それから、時代には逆行すると思います。ですから、私はここは非常に問題があると思います。   ですから、例えば(1)のところを、父母は社会の支援を受けつつとか、国家の支援を受けつつとかで、養育する権利・義務を持つものとする、のようにする、あるいは、入れるのが前の方では何でしたら、権利・義務を負うものとする、父母はその遂行のために国家、社会の支援を求めることができる、というようなことを明記するということで、形がきれいになるように思うのですが、いかがでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。落合委員からは2点御指摘をいただいたように思いますが、いずれも第2の@の父母の責務に関わる御意見であると受け止めました。父母の責務というのは、これでよいのかと、社会的支援との関係について一方で御指摘があり、もう一つは、権利・義務とむしろ書いた方がいいのではないかといった御指摘も頂きました。具体的な文言についての御提案も頂いたものと思いますが、しかし、規定を置くということ自体については反対されているということではないと受け止めさせていただいてよろしいでしょうか。 ○落合委員 社会について書き込まれたのであればですね、社会や国家の義務について書き込まれるのであれば、ということです。父母についてだけ書くというのには反対です。 ○大村部会長 分かりました。その点について、事務当局の方から。 ○北村幹事 今御指摘いただいた点でございますけれども、むしろ社会的な政策であるとか理念的なところはこども基本法などでしっかりとうたわれているところもございますし、それ以外の部分、児童福祉法なども含めて様々な法律の中で全体として見ていただくものかなと思います。その上で民法として何を規律していくのかというのは、今頂いた御指摘も踏まえて、更に検討していきたいと思います。 ○赤石委員 申し訳ございません。落合委員が、権利・義務がどこに位置付けられるのか、少し聞きはぐれてしまったので、もう一度、御提案の文案を教えていただけたらと思いました。私の意見はまた後で申し上げます。 ○落合委員 (1)の責務のところを権利・義務にするということです。 ○赤石委員 父母の権利・義務にする。 ○落合委員 はい。父母は、その権利・義務を負うものとする。 ○大村部会長 それが一つと、それから、社会的支援がどこかで係るような形の表現を盛り込んだらどうかという御提案だったと受け止めました。 ○落合委員 はい、そうです。民法に書いていただきたいと思います。 ○大村部会長 それについては先ほど事務当局の方から、他の法制との関係も含めて検討したいといったお話があったと思いますけれども、赤石委員、それに関連の御発言でしたら、続けてお願いします。 ○赤石委員 そうですね、権利・義務とするということは、また違う意味合いを少し付与するのかなと思いますので、ここで書かれている責務というのは、本当に扶養なのか養育なのか分からないですけれども、責務の方だけが書かれているのかなと思いました。権利というのをどの程度のものとしてするのかというのは、また議論が必要になるのかなと受け止めました。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   柿本委員、水野委員に御意見を言っていただいた後に、石綿幹事、大石委員という順番にさせていただきたいと思います。 ○柿本委員 柿本でございます。私もおおむね落合委員の意見と重なるかと思いますが、父母が成年に達しない子を養育する責務を負うこと自体に異論はございません。私も従前より申し上げているように、親のみが子を養育する責任を負うというのではなく、社会全体でこどもを育てるということが必要ではないかと考えております。この件に関しましては、北村幹事より更に検討を進めると回答をいただきましたが、私からも申し上げさせていただきました。以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。その前に少し戻りますと、赤石委員からは、責務を権利・義務というのに変えるというのが直ちによいというわけではない、もう少し議論をしたいという御意見を頂いたかと思います。   そして、柿本委員からは落合委員の、社会的支援ということについて何らかの形で触れることに賛成だという御意見を頂戴しました。 ○水野委員 水野でございます。落合委員の御意見についてですけれども、社会学的に見たときに、日本の社会がかつては群れによる育児ができていた、つまり周囲の社会が関与して皆で育てていたのが、育児が孤立化していったという経緯はそのとおりだと思いますし、それが社会学的にはもちろん実際に、日本の子育ての現状として問題であることは確かです。ただ、民法学的に申しますと、どうして日本民法に親の特別な権利・義務が書かれていなかったかといいますと、明治民法の起草者たちは、家制度を立法し、家でまとめて生活している中で育っていると考えていて、それを扶養という形の中に落とし込んで戸主に扶養義務を負わせたという経緯です。それ以外の扶養義務ももちろん書き込んだのですが、それを裁判所で権利・義務として請求するようなことを現実問題として考えていない時代に書いた条文です。それから、大正時代に民法改正の議論をしたときでさえ、裁判所に扶養を請求することは我が国の醇風美俗から考えてあり得ないと言われていました。そういう状況で、西欧の民法だと一番基本的なものとして書かれている条文が日本法から落ちてしまっていました。私は社会がきちんと関与しなくてはならないということでは、落合委員とまったく同じ問題意識を持っていますけれども、ここで条文として、親の責任を書き込むのは、社会が育児に関与する基本的かつ伝統的方法の一つだと思いますし、日本法に今まで落ちていた部分を補うという意味で、必要だと考えております。   あと、もう一つ、例によってこどもの意見表明権についてなのですが、また後でその点は発言させていただきます。 ○大村部会長 分かりました。水野委員の方からは、明治以来の立法の経緯との関係で、やはりこの点を明らかにしておくということが今日必要なのではないかという御意見を頂戴いたしました。 ○石綿幹事 幹事の石綿です。窪田委員らと同じく、第2の方向性については賛成いたしますが、2点、細かいですが、意見を述べさせていただければと思います。   1点目は、AとBに関連してということですが、こどもの利益の考慮や子の意向等を配慮するということにつきましては、5ページの(注)に記載があるように、現行民法でも第820条と第821条で既に親権者については一定の規定が設けられているところかと思います。今後どのような形で文言化していくか、子の意見・意向をどのように考慮していくか検討する際には、現行法との整合性ということも一つの考慮要素になるかと思います。その際には、親権者についてこれらの規定があるということを前提に、親権者である場合と、ある者が親権者でなくても親であるという場合で同様に考えられるのか、考えられないのか、あるいはそこに何らかの差異があるならば、それは何で、どうしてそのような差異があるかといったような視点から検討をしていくということが、議論を進めていく際に有益なのではないかと思います。その結果、例えば現状のBのように意見、意向という文言ではなくて、新しくできた第821条のように、子の人格を尊重するといったような形の方が妥当だという結論も十分にあり得るのではないかと考えております。これが第1点目です。   第2点目は、@とCに関連してということですが、私自身は@の子を養育する責務というのは、窪田委員もおっしゃられたかもしれませんが、扶養を行う義務があるのだということを強調するという点で意味があるのだと思います。第2の@とC併せて、なぜ子に対する扶養義務というものが重視されているのか、後に扱う第3の養育費等の定めについての話とも関わってくるかと思いますが、なぜ養育費について法が他の債務に比べて優先的に支払を促すことができるかという点についての実体法上の根拠を決める必要があるということも重要かと思いますので、そのような意味で、@やCの方向性の規定が置かれるということに意味があるかと思います。   落合委員のおっしゃる、国家の支援が必要なのだといったようなことも十分に理解をしておりますが、ここでの@とCというのは、親に責任を押し付けるということではなく、私人間の、様々な私人がいる中で、なぜ親が子に対して負っている責務というのが重要か、それを履行するために国がどのような支援体制を整えていくかということを定めるために重要なものかと思いますので、何らかの規定は設けた方がよいかと思います。   最後に一言だけ、権利・義務という文言をという御提案があったかと思いますが、それはもう少し慎重に、親がこどもを養育する権利があるのかというところ自体議論があるところかと、例えば、そもそもこの部会で親権という語を改めた方がいいかというような議論も最初にあったようなことかと思いますので、権利という文言を使うかどうかということは慎重に考えた方がいいかと思います。   長くなりましたが、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。石綿幹事からは大きく2点、御指摘を頂いたかと思います。@からCまでございますけれども、AとBについては、親権者については既に第820条、第821条という規定がありますので、これとの整合性を考える、親権者と親権を持たない者がどういう関係に立つのかということを検討する必要があるだろうということ、それから、@とCについては、後で問題になる養育費についての優先的な取扱いを根拠付ける規定が必要だという観点から、検討することが必要ではないかという御指摘を頂いたかと思います。 ○大石委員 ありがとうございます。大石です。基本的に窪田委員、それから石綿幹事の御意見に私も賛成だということをまず表明させていただきたいと思います。扶養という言葉に置き換えるというところが重要だと思っておりまして、何回か前に私も省庁横断的な対応が必要だということについてこちらで意見を申し述べさせていただきましたけれども、今後、税制ですとか社会保障その他、様々な制度について他省庁と協調して制度を構築していく上で、その根拠となりますが、参照するときに扶養という言葉をここで書いてあるということは、やはりとても重要なことなのではないかと思っております。   権利という言葉を入れるかどうかについては、私も石綿幹事がおっしゃいましたように、少し慎重になるべきではないかということ、それから、国家あるいは公的な支援ということですね、それについてはもし可能であれば、この法案全体を作り上げたときに、前文ですとかそういった理念について書くときに、これは親子関係について定めるものではあるけれども、決して国家の役割などを軽視するものではなく、また、こどもを養育していく上ではそういったものは非常に重要であるということをどこかで書き込むことができればよいなと思っております。   ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点御意見いただいたかと思います。扶養について書き込んでおくことは、いろいろな観点から必要なことだろうということ、それから、権利という書き方についてはやはり慎重な検討が必要だろうということ、そして、落合委員がずっとおっしゃっている公的支援については、先ほど水野委員もおっしゃったかもしれませんが、民法典に規定を置くというのは難しいとしても、我々がそれを軽視しているわけではないということ、この点については多分御異論はないところだろうと思いますが、それをどこかで強調しておくということが考えられるのではないか、こういう御指摘だったかと思います。 ○菅原委員 ありがとうございます。窪田委員が述べられた扶養と養育について一言だけ申し上げます。発達心理学の領域からいいますと、養育には育むという言葉が付いていますので、英語ではペアレンティングとなりこどもの発達を親が促すというニュアンスがありますが、扶養の方は助ける、面倒を見るということで、英語だとケアしか残りません。世界的に見ますと、こどもの養育というのはケア・アンド・エデュケーションとより積極的に考えてきているので、扶養だと発達のサポートとかこどもを育むというニュアンスが消えてしまい、英語に訳したときケアだけが日本の親の権利義務となってしまうおそれがあり、その辺のところは少し検討していく必要があるかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。菅原委員からは、今まで養育と扶養について、扶養の方がいいのではないかという意見が多かったと思いますけれども、扶養とすると切り捨てられてしまう要素があるのではないかということで、もう少し検討が必要なのではないかという御意見を頂きました。 ○青竹幹事 父母が子を養育する責務の規定について、養育とか責務といった文言について、先ほど多数の御意見がありました。パブリック・コメントでも、既に親子間の扶養義務の規定があるので、新たに規定を置く必要はないという意見があったようです。確かに養育する義務を新しく置く規定と、現行法の扶養義務の規定はかなり重複する面があると思われます。しかし、公的な支援を受けてということですけれども、父母の離婚後の子の養育の問題に対策を図る必要があるという認識が共有され、子を養育する責務、扶養する責務を特に強調する必要がありますので、やはりここで子を養育する、あるいは扶養する責務について、改めて規定を置くことは望ましいと思われます。   ただ、その規定を置く第一の意味というのが、親権者とならなかった親も子を養育する責務、義務を失うことはないことを強調することにありますので、これによって公的支援を受けずに父母にのみ養育義務を負わせようとする意味はありません。この点をより明確にするために、例えば、父母は親権の有無にかかわらず子を養育する責務を負うといったような規定にするのがよいのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。青竹幹事からは、規定を置くということに賛成である、そして、それが様々な社会的支援を排除するというようなものではないことが分かるような書き方が可能なのではないかということで、具体的な御提案を頂いたと受け止めました。 ○池田委員 弁護士の池田でございます。第2の@からCの解釈となり得る一般的規律を設けるという大きな方向性については、賛成いたします。ただ、@からCの解釈の根拠となり得る一般的規律といいますと、要は決め打ちをしないということなのかと思いますけれども、そうしますと規定としては相当抽象的なものになるのではないかと思います。ただ、余りに抽象的になってしまいますと、理念しか語っていないか、あるいは結局何も語っていないという規律になってしまう危険もあるのではないかと思いますので、その検討作業はなかなかに困難になるのではないかとも思います。そうしたことを考えますと、一般的規律とはいいながらも、やはりある程度一定の方向付けをするという必要性も出てくるのではないかと思っています。   この点、日弁連が本年の2月16日に出しました中間試案に関する意見書におきまして、このAとBについては、既にある児童福祉法第2条第1項やこども基本法第3条第4号を参考に、次のような規律とすることを提案しています。少し御紹介申し上げますと、「父母は民法その他の法令により、子について権利の行使及び義務の履行をする場合や、現に子を監護する場合には、子が示した意見をその年齢及び発達の程度に応じて尊重し、子の最善の利益を優先して考慮しなければならない」というものです。日弁連としましても、今申し上げたAとB以外の@とCを含めて、どのような規定とするのがよいのか、引き続き検討していきたいと考えています。   それから、少し加えまして、扶養と養育ということについて窪田先生から御意見がありました点に関して、一言だけ申し上げたいと思います。実務家としての何となくの印象ではあるのですけれども、扶養といいますと、やはりお金の問題というイメージが先行しているように思いまして、やはり扶養も含め、いろいろな実際のこどもへの関わりというものを含めたものが養育という感覚で受け止めることが多いのかなという印象は持っています。特に、親子交流などもこの規律の下に考えていくとなりますと、やはり扶養というよりも養育という言葉の方が適切なのではないかと感じています。 ○大村部会長 ありがとうございます。池田委員からは2点御指摘を頂きました。1点目は、窪田委員がおっしゃったこととも関連するかと思いますけれども、全体として一般的な規定を置くという方向はよいとしても、どのくらいの抽象度のものを置くかということが問題になるのではないかということ。具体的な案もおっしゃっていただきましたけれども、少し立ち入った形で書いた方がいいのではないかという御指摘だったかと思います。それから、もう一つは、扶養、養育につきまして、先ほどから御議論がありますけれども、養育の方に賛意を示されるということだったかと思います。   そのほか御発言も、随分ありますね。たくさんいらっしゃるので、手短に、皆さん、お願いします。 ○佐野幹事 手短ではすまないかもしれません。幹事の佐野と申します。私は@からBの、未成年者の父母の責務ということで抽象的な規定を置くということに必ずしも反対ではない、方向性としては、反対はしていないのですが、懸念しているのは、それにCが引っ掛かってくるというところです。というのは、先ほどの窪田先生のお話にも関係あるのかもしれないのですが、実務家としては、やはり未成年者のみ生活保持義務の対象となると、大学生の方のところまで生活保持義務が及ばなくなるのではないか、養育費の終期が前倒しになってしまうのではないかということを非常に懸念しています。実務家としては、この養育費の終期、かなり争われるところと感じているところでもあります。特に成人年齢引下げのときに、あれほど養育費の終期には関わらないと言っていたにもかかわらず、実際、大学生になった方で、この影響により養育費を18歳で打ち切られたという話も聞きました。生活保持義務を未成年の子に限定するようなメッセージを出すことによって、ひとり親の家庭の方が大学に行けないというようなことになるというのは、この法制審のそもそもの目的というものが、離婚後の子の利益の確保の観点から関連する法制を検討するというところにありますので、実務の中でこどもの高等教育機関への進学を後押ししてきたというところを後退させるようなことになるというのは、どうしても看過できないと思っています。   ここで重要なのは、後の一般先取特権のところにも関わってくるのかと思うのですけれども、生活保持義務の範囲を明確にするということがやはり必要なのではないかと思っています。それは今までの実務で考えると、未成熟子や配偶者に対する生活保持義務ではないか。この点を明記するとか、もう少し追求できないのかなと思っております。   最近法務省の大臣官房司法法制部の方で翻訳してくださったドイツの家族法、ここにいらっしゃる先生方も関わっていらっしゃるのではないかと思うのですけれども、その第1603条の方で、これは生活保持義務のことをいっているのか分からないので、教えていただきたいのですけれども、その第2項の方で、「両親は未成年の子に対し、処分可能な全ての資産を自分たちとその子らの生活維持のために均等に用いる義務を負う」とあって、その後で、「21歳に満たない未婚の成人の子は、両親又は親の一方と世帯を同じくし、かつ普通学校教育を受けている限り、未成年の子と同様に扱うものとする」という規定も置かれているようなのです。こういうような形で、少なくとも大学に行くお子さんたちが、安心して進学できるような、生活保持義務というのを設定できないのかと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。佐野幹事からは、一般的な規律を設けることには反対しない、あるいは賛成するという前提の下で、@からBと、Cを区別されて、Cについて御意見を頂戴したと思っております。Cについて、現在の実務上の取扱いが維持されるような配慮が必要ではないかという御意見だったかと思いますが、これは先ほどから問題になっている、どういう書き方をするか、どのくらい詳しく書くのかということにも関わってくる問題かと思って伺っておりました。 ○落合委員 2点あります。1点目は、水野委員がおっしゃった、欧米にはある規定を日本でここで明らかにするということなのだと、やっと追い付くのだという話なのですけれども、それって欧米の20世紀に追い付く話なのです。もう21世紀になっているのです。もう20世紀の法とか政策というのは変わっているのです。それを20世紀に追い付いてどうするのだと私は思います。欧米の国が植民地をさんざん作って、それに少し遅れて日本が植民地を作り始めて、みんなに怒られたということがありますけれども、何かそれと似たずれ方を感じます。ですから、父母の責務をはっきりさせることではなくて、今大事なのは、父母だけでは育てられないということをはっきりさせるのが21世紀的だと思うのです。という意味で、何かそういうものを、だから、父母がその責務なり権利・義務なりを負うなら、それを実行できるように国がサポートするとかいうことがやはり書かれるべきだと思うのです。そうではないと21世紀にならないと思うのです。これが1点です。   それからもう1点は、養育と扶養のことですけれども、私もやはり養育という方がよいと思っていまして、扶養というのはやはりお金とか体のことだけみたいな。人格的な関わりというのがやはり親子関係とか養育というときには重要だと思うのです。だから、そこまで入れないでお金だけ出させるというのは何なのだろうという。発想が逆転しているような気がして。何人かの方は養育費を別居親からどうやって取るかというところから話を始めていませんか、それは逆転していると思うのです。やはり理念から決めるべきではないのですか。理念から考えるのだったら、父母がこどもに対してすることは、ただ体を育ててあげる、お金を出すことではなくて、人格的な関わりも通して本当の意味で人間として養育することですよね、それを否定するような書き方になるのはまずいだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。落合委員からは2点、一つ目は20世紀的、21世紀的というお話がありましたけれども、先ほどおっしゃっていた社会的支援について書き込むことが是非必要だという御趣旨の御発言かと思います。それから2点目は、先ほどから出ている扶養、養育で、ここは意見が分かれているところだと認識いたしましたが、養育の方がよいという御意見として承りました。 ○武田委員 親子ネット、武田でございます。今回、大量のパブコメを整理しつつ本日の会議のご準備いただきましたこと事務当局に感謝申し上げたいと思います。本日もよろしくお願い申し上げます。弊会では、この11月に中間試案がまとまって以降、対面で意見交換会をやったりオンラインの勉強会をやったり、私どもは法学者の先生方とは違いあくまで素人集団ですので、まずは、試案の内容の理解に努めました。また、最終的には弊会として急遽、臨時総会を1月に実施しまして、意見を集約しました。結果、何とか2月17日、意見書を提出したというところでございます。したがいまして、本日の部会以降は集まった弊会会員の声を中心に発言をさせていただきたいと考えます。   前置きはこのぐらいにいたしまして、第2に関してです。おおむね弊会として提出したパブコメの意見についても、網羅的に触れられておりますし、こういった規律ですので、やはり一般的な表現になっていくだろうという部分に関しましては十分理解できるところです。まずは、方向性に関しておおむね賛同すること、申し上げたいと思います。   その上で2点申し上げます。責務、それに対する権利性という意見、私どもも同様の意見を提出しております。責務に加え、責務を履行するための権利を追記いただきたいという意見を出させていただきました。やはり理由といたしまして、責務を履行するために、何も権限がなくて履行することというのは当然困難になるであろうというところから提出させていただいた意見です。   もう1点、水野先生より欧米がどういうふうに進んできたかという御説明もありました。当部会にもお越しになっていただきました関西学院大学の山口先生の著作の表現、米国法であり、私はこれが重要だと思っております。具体的には「父母の婚姻関係にかかわらず、法律婚が有効であろうとなかろうと、離婚していようと、はたまた事実婚であろうと、という前提に立って、親にはこどもを養育する権利と責任がある」と紹介されています。親の権利というと、その言葉だけで少しいろいろなハレーションが起きるかもしれませんけれども、合衆国最高裁判所でも確認されていたこのような考えを取り入れていくことは極めて重要であろうということを申し上げたいと思います。   あともう1点、扶養と養育、いろいろな先生方の御意見もいろいろ拝聴しておりました。私どもといたしましては、やはり養育であろうと思います。理由はほぼ他の先生方が述べた意見と同様です。私からいたしますと、菅原先生がおっしゃっていただいた、育む、やはりケアではなくペアレンティングであろうと、これが親が負うべき責務であろうと、こんなふうに考えております。一旦この方向性で進めていただきまして検討いただいたもの、なかなか表現は難しいかと思いますけれども、改めて提示いただきまして、次の議論に進めていくという方向で進めていただければというのが私からの意見でございます。   簡単ですが、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。基本的な方向性に賛成ということを踏まえられた上で、2点、責務というのにプラスして権利ないし権限というのを加えるべきだという御発言と、扶養よりも広く養育と考えるべきだという御意見だったかと思います。 ○水野委員 水野でございます。先ほどの池田委員の御発言に対する、要するに反対の意見を申し上げます。今までもさんざん繰り返してきたことでございますけれども、条文に書き込んだ言葉は非常に強い力を持ってしまいます。私も親権法改正のときに面会交流という言葉を条文に入れまして、それが立法のときに考えていたよりもはるかに硬直化した運用がされたという過去がございます。そして、意見を聴くというのは面会交流よりもはるかに簡単なことですので、硬直的な実務を生んでしまいかねません。子の意見の考慮という表現は非常に明確ですので、現在の負担過重の家庭裁判所の実務が、このこどもの意見を聴くことについて細心の注意を払った慎重な対応をしてくれるだろうかというと、私は非常に疑問でございます。こどもの意見の考慮と書いてしまいますと、簡単にこどもに聴いてしまうことになるように思います。こどもにとって、両親のどちらを選ぶかという質問は、非常に残酷な質問です。理念を語る言葉では曖昧すぎてという御批判がありましたけれども、曖昧である言葉にはそれなりの意味があるように思います。子の利益が曖昧すぎるということでしたら、もう少し、例えばこどもの人格を尊重するとか、せいぜいそのような言葉にとどめていただけないでしょうか。子の意見、意向の考慮と書いてしまいますと、これは非常に硬直的に、かつ強力な実務を生んでしまいかねないと危惧いたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。書きぶりについていろいろ御意見を頂いておりますけれども、余り特定の用語を使った書き方をすると、運用に強い影響を及ぼしてしまうのではないかという御懸念を示されたものと受け止めました。 ○窪田委員 少しうまく整理ができていないところもあるのですが、今までお話を伺っていて、私自身はやはり@の部分は扶養という言葉を使った方がいいのではないのかなという思いをむしろ強くしております。その理由というのは、扶養といったら、もう実務上はお金の問題だけになってしまうではないかというのは、そうなのかもしれませんが、その部分がはっきりしていなかったので、はっきりするというのが、やはり一つの大きな意味があるだろうと思います。   それともう一つ、非常に気になる点は、養育という言葉の方がいいのではないかという方が考えている内容というのは、実は親権と重なっているのではないかという点が非常に気になります。つまり、養育というのはお金の問題だけではなくてこどもを育むものなのだというのはよく分かるのですが、そうだとした上で、義務だけではなくて、むしろ権利もあるのだという話になってくると、これはもう親権とかぶさる内容になってきて、むしろ親権の有無にかかわらず同じ内容をここで規定されるということになりかねないというような気もしました。   池田委員は、面会交流の話もこれを手掛かりにすればよいということだったのですが、この養育の責務という中に面会交流も入るのだとすると、もう有無をも言わさず、養育の責務がある以上は面会交流というのも責務になるというような帰結になりかねない部分があるような気がします。その点では、養育という言葉が非常に幅広い意味を持っていて、ということはよく理解できるのですが、むしろここの部分は非常に、従来実務上行われてきたけれども根拠は明確ではなかったところを明確にするという、志が低いと言われるかもしれませんが、そういった観点から捉えてもよいのではないかと思います。   それからもう一つ、先ほども少し言及があったドイツ法なのですが、私もドイツ法のことしかよく分からないのですけれども、ドイツ法でも扶養に関しては、非常に細かく規定されています。どういうふうな場面でどういうふうなところまでというような、佐野幹事から御指摘があったような点まで含めて、扶養に関しての規定が置かれています。そうした扶養に関する手掛かりとなる、根拠となる規定を置くということは意味があると思います。他方、ドイツ法では養育という言葉は非常に限定的に使っておりまして、まず、手元で育てるというような場面に限って養育という言葉を使っています。その点では、同居の有無にかかわらず、父母である以上、その法的地位に基づいて子を養育する義務がある、あるいは権利があるというのは、必ずしも、少なくともドイツ法と同じような発想ではないなと思いながら伺っておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。窪田委員からは2点に分けて御発言がありましたけれども、基本的にはどちらも扶養と養育の概念をどのように整理するのかということに関する御意見として承りました。その中で、二つの点を示されていたのだろうと思います。一つは親権との異同を考える、これは先ほど石綿幹事もおっしゃったことかもしれませんが、その視点が必要だろうということと、それからもう一つは、これは水野委員などがおっしゃっていることですけれども、現在の状況との関係で、何が最低限必要な規定なのかということから考えるべきだという御指摘だと理解を致しました。 ○井上委員 ありがとうございます。連合の井上です。事務当局の提案である、今回この規律を設けるものとすることについては、賛成の立場で発言をさせていただきたいと思います。というのも、現行民法で何ら規定がされていない状況を踏まえれば、これらを導く一般的な規律を設ける考え方は、あってよいのではないかと思っています。前回会議で棚村委員が発言されたかと思うのですが、総論では賛成でも各論では意見の一致を見るのが容易でない論点でありますので、その意味でも一般的な規律にとどめるのがよいかと思っています。   例えば、2ページの補足説明に記載があるのですが、父母は親権の有無にかかわらず、子との関係で特別な法的地位を有すると解されることからとありまして、その法的地位を規律で明文化し、その規律から@の子を養育する責務やCの特別な法的地位によって生じる生活保持義務を導くような解釈も考えられるのではないかと思います。   それから、先ほど責務と義務・権利の話が出ておりますが、法律が少し違いますけれども、労働法の労働政策総合推進法などでも国や事業主、労働者の責務という言葉を使って、そこで自覚とともに、正に責任も含めて責務という言葉を使っていますので、私は権利・義務よりは責務という言葉の方が適切ではないかと考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。井上委員からは、この一般的な規律を設けるということについて賛成する、むしろ一般的な規律にとどめるほかないのではないかという御意見を頂いたと思います。その上で、責務という言葉についても、広い意味をそこに込めることが現行法の法体系の下で可能なのではないかという御意見を頂戴いたしました。 ○原田委員 委員の原田です。よろしくお願いします。私も窪田委員がおっしゃったように、@を扶養と考えるということに賛成し、権利というのは消極的に考えています。   これをまとめたような総論的な条文というのがどう考えても思い付かないというか、それで、私が考えたのは、その性質としては、@とCと、AとBは少し性質が違うものではないかと思いました。それで、@の中に、先ほど窪田先生がドイツ法のことを言われて、なるほどと思ったのですけれども、養育という意味をここに含ませると、本当に広い範囲になって、先ほどの親子交流とか、そのほかのいろいろなことを、責務の中に全部入ってくるというので本当にまとめられるのだろうかという思いがあります。   それと、権利ということになると、親の権利というのは一般的にこどもを教育する権利として、国に対するものとしてはよく概念されるわけですけれども、親子関係ですると、やはり子に対する権利というふうになってくるので、やはり親権の概念と重なってくるし、A、Bの子の意思の尊重とぶつかる場面も出てくるのではないかと思いますし、少し言葉尻を捉えるものかもしれませんが、先ほどおっしゃった、武田委員ですかね、責務を履行するための権利というのが少し概念しにくいと思いました。   弁護士同士で話をしたときも、これを総論としたときに、第766条との関係、第820条、第821条との関係で、どこにどう入るのだろうかということが、なかなかまとめた感じでは概念できずに、やはり@を扶養と考えて、Cと併せて、未成年ではなくて、先ほど佐野先生が言われたように、これまで概念的には明確ではないといわれていた未成熟の子に対する父母の扶養義務ということ、生活保持義務ということを明確にして、それはAとの関連で出てくると思いますけれども、それとA、Bの、こどもの意思を尊重するという部分の総論的なものがあっていいのではないかと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。原田委員からは二つの方向の御意見だったかと思います。一つは具体的な事柄で、扶養、養育については、やはり扶養の方がよいのではないか、また、権利・義務とすることについては疑問があるというお話だったかと思います。もう一つは、規律の仕方で、これも既に御指摘もあったところですけれども、ひとまとめにするのではなくて、@とC、AとBをセットにして規律するということを考えるべきではないかということだったかと思います。 ○赤石委員 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石でございます。ありがとうございます。@からCまでを一般的な解釈をできる規定にするという方向性について、私は法律家でないので、かなり想像が難しく、とはいえ今の議論を聞いていても、ある程度は抽象的なものになっていた方がいいのだろうということは容易に想像できますので、基本的には賛成です。ここに来て初めて窪田委員の扶養と養育という言葉を変えることについての御提案を聞いたので、今必死に考えているわけですが、パブリック・コメントの意見などを見ていますと、また、今まで規定がないものを入れるということでは、扶養という言葉の方に私の意見は今、傾いております。   その上で、Aですかね、子の利益、この言葉をワーディングするというような話になっているのですが、子の最善の利益ではなく子の利益とするところはどんな理由なのかというのは、少し想像がまだできかねるところです。   あと、つらつらと児童の権利に関する条約のこととかを考えていて最近思っていることは、子の利益というところにいろいろなことがあるわけですよね、意見表明権ですとか親子交流の権利とかももちろん位置付けられておりますし、いろいろな権利があるのですけれども、どなたかが少し書いていらした、パブリック・コメントの意見であったかもしれないのですけれども、子の利益といったときにやはり階層がある、これは考え方として少し置いておいた方がいいなと思うので、条文に入れてくださいということではないのですが、まずは生存が保障され、そして安心・安全が保障され、その後に社会的な承認とか交流とかそういったものがあるというふうに、やはり子の利益というものには階層があるのではないか、マズローの欲求階層説ではないですけれども、これがごちゃごちゃになって順番を優先されると非常に議論がおかしくなると思っておりまして、安心・安全というところが、各国の親子法の中の改正論議の中でも結構この頃、オーストラリア、それから英国司法省の提案や、カナダ、スイスですかね、そういうところで安心・安全というのをすごく重視されてきている方向があると聞いているので、ここでその言葉を入れるかどうかはともかく、解釈としてやはりこどもの安心・安全というものが何かきちんと観念されるといいなとは思ったところです。   あと、意見の尊重というのはやはりものすごく大切で、ヒアリングでもいろいろなお子さんの立場の方に聴いたときに、やはりこどもの意見が聴いてもらえなかったときに非常に?奪感というか、非常につらいお気持ちになったという御発言もありましたし、また、暴力を受けた方の意見の中でも、とはいえ御自身で決めて父親と会う決心をしたことによって、ある種、それに関しては自分で決められたということで、よかったと思っているということや、とはいえ御兄弟でも意見は違うというような、非常にこどもの意見ということを、その言葉はともかく、尊重されるというのは、非常に大きなこどもたちにとってのよい状況だと思うということはあるかと思うのですが、子の年齢及び発達の程度に応じて配慮するものを何とワーディングするかとかいうのは、本当に水野先生の意見もありつつも、やはり何か基盤はあった方がいいと思います。   これは言わずもがななのですけれども、落合委員の社会的な支援についてのお気持ちもすごくよく分かります。ヒアリングの中でも、お子さんが非常にスクールカウンセラーに救われたという話を少しだけ出してくれたと思うのですが、私も後で聞いているのですけれども、毎日スクールカウンセラーは彼の意見をずっと小学校のとき、聴いていたのですね。それは今の学校の中でなかなかないことなのですけれども、彼はそこに第三者に支えられて、もう家は荒れ狂っているわけですから、お父さんの暴力もあったので、そういうことをどう担保するかというのは、この法律では難しいのかもしれないけれども、支援制度として考えたときにはものすごく大事なことになるということは、一言お伝えしたかったです。   生活保持義務をどこまでにするのかというのは、あれなのですけれども、今の奨学金制度とか生活保護を活用すればいいのではないか、みたいな御意見があったように見受けられ、非常に残念に思いました。私どもはこの新入学時期にひとり親のお子さんに入学金のお祝い金を、小学校2万5,000円、中学3万円、高校6万円、大学等5万円で、総額2,380人に1億321万円をこの間、御支援しました。一団体としては精一杯の支援でございます。それがなければひとり親の方たちは進学すら成り立たないところに追いやられている中で、奨学金や何かがあればいいのではないかというような御意見にはすごく残念な思いをしております。とはいえ、ここで書き込めることはそれほどはないということも理解しております。   1点気になることをお伝えしたいと思います。7ページですかね、これはおまとめのときにお願いなのですけれども、5行目、忠誠葛藤や片親疎外などの影響など、幾つかのところにこの片親疎外という言葉が、かぎ括弧付きでもなく留保付きでもなく、出てきておりますが、これからのおまとめのときにはかぎ括弧を付けるなり(注)を付けるなりしていただきたいと思います。ヒアリングでも渡辺久子乳幼児精神医学会の先生が、これはもう概念としては成り立たないのだということを言っておられて、いろいろな学会でも否定されており、片親疎外症候群はアメリカの精神医学会の中でも入っていない言葉でございます。そこを踏まえた御対応をお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。赤石委員からは、全体の方向としてはこれでよいのではないかという前提で、扶養、養育については扶養を支持したい、それから、子の意思については御懸念もあるけれども、何かの形でやはり書き込んだ方がいいのではないか、さらに、子の利益については、書けるかどうかは別にして、利益といってもいろいろなものがあるということについての認識を深める必要があるといった御指摘を頂きました。それから、立法そのものの問題ではありませんけれども、補足説明での用語法について御注意を頂いたと理解をいたしました。 ○久保野幹事 ありがとうございます。幹事の久保野です。私はまず、方向性としまして、このような規定を入れる方向性には賛成いたします。取り分け、@とCによって、扶養義務について、親が未成熟の子に対して負う扶養義務は、ほかの扶養義務とは異なる性質を持つのだということを条文上明らかにするということは、大変に重要なことではないかと思います。現行法で条文上の根拠が必ずしも明確に指摘できないということは非常に問題が大きく、それを明らかにすることは、実践面のみならず理念の面でも大変重要だと思います。   その上で、用語について議論がございますが、どちらかというと扶養の方が現時点ではよろしいのかなと感触を持っておりまして、少なくとも養育という言葉が適切かについては、既に出ています親権との関係等を含めて、なお検討が必要だと思います。親権との関係については、第820条、第821条が既に指摘されましたが、以前に11回の会議で池田関係官からの資料として出していただいた資料の中で、第828条に養育という言葉が使われていることの意味の御検討がありまして、そこでもやはり、この第828条は親権の監護、教育との関連性を指摘する学説があるといったような指摘などもございまして、いずれにしても親権の監護、教育概念との整理がなお必要であろうというのが1点です。   もう1点、先ほど池田先生からも御指摘がありました、児童福祉法上に養育の言葉がございますけれども、児童福祉では家庭的養育や社会的養育といった言葉がかなり一般的な用語として使われているところ、それとの関係がどうなのかということも検討が必要だと思いますし、同時に児童福祉の分野では、社会的養育と並んで、社会的養護と呼ばれていたりですとか、他にも、育成という言葉が使われているといったことがありますので、養育という言葉について民法を越えての用語使いについてなお検討、整理をしていく必要があるのかなと思いました。   以上です。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。久保野幹事からも基本的な方向性については御支持を頂いたと思いますが、扶養義務の根拠付けが是非必要だという御意見と、それから、扶養か養育かということについては、養育という言葉の意味について、民法第820条、第821条以外の規定も含めて検討する必要があるだろうという御指摘を頂きました。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。委員、幹事の皆さんの御意見も聞かせていただいて、基本的な親子関係に関する規律の御提案については、相互の関係とか用語、言い回しの点では少しまだ検討の余地はあると思いますけれども、賛成をしていきたいと思います。   特に、父母のこどもに対する養育責任というところなのですけれども、皆さんの御意見を聞いても、現行法をみても、親権、監護という言葉自体も、それから、面会交流が今度、親子交流という形になったりしていますが、やはり古い用語とか言い回しが持っているイメージというのがあって、そのために具体的な親子の関係はどうあるべきかということについてきちんと議論がされてこなかったという経緯があるように思います。特に、ここで問題になっているのは、親権、監護、監護権を持ったり親権を持っている者がどういう権限や責任を負っていくのかという点が現行法では非常に曖昧になっていたので、ある意味では、親というものが法的に確定されたり決められたらどういう地位にあるのかということを真剣に議論する必要があると思っています。私はどちらかというと、落合委員がいつも言っておられるような用語の概念や定義、総論の辺りについてはっきりとした親子の法律関係についての規定を持つということ自体は非常に重要だと思うのです。   そういう意味で、扶養と養育の言葉が持っている広さとか意味合いの違いということをいう点ですけれども、これもワーディングの問題なので、私は、逆に言うと、こどもを養育する責務及び扶養の責任とか責務とか、そういうような形で明確にしていった方がいいのかなと現段階では考えています。ある意味では、養育が含んでいるもの、特に、私も、人格的な精神的な関わり方と、経済的な意味で支えていく関わり方というのがあって、もし分けるとすると、その双方を含むような言葉というのが重要なのかなという感じは持っております。ただ、先ほど言いましたように、ここでは親責任だとか親の配慮だとか、海外でいわれていることがなかなかしっくりしないし、議論をする上で非常に混乱を招く可能性があるので、一応従来どおりのものにしようということで議論をしてきました。   こどもを養育する責任とか、先ほど久保野幹事からもあったように、家庭的養育が大事なのだとか、児童福祉法でもいろいろ言われており、社会的養育という言葉になったり、国も社会も責任を負うのだというようなことで、多用されているわりに、概念的に議論はされてきませんでした。そこで、ここは民法の場所なので、児童福祉やその他の分野を参考にしつつ、どういうような用語を使っていくことがいいかということについては、少し議論すべきかとは思います。   しかし、基本的にはこどもを養育する責任というのは親にきちんとあるのだと明記すべきとは考えます。先ほどから出ているように、親権があるとか、一緒に暮らしているとか、そういうことと関わりなく、親である以上、こどもに対して重い責任を負っているということを明確にすることは、今の海外の21世紀の改正を見ても大切だと思います。国威的な潮流としては、面会交流の用語を、ペアレンティング・タイムという、要するにお子さんと親としてどんな時間を過ごすかという問題がペアレンティング・タイム、それから今、親の権利とか監護という言葉、監護というのはむしろ拘束したり支配するというものに結び付きやすいので、ペアレンタル・ディシジョン・メイキング・リスポンスィビリティ、こどもにとって重要なことについて決定をする責任ということで表しています。   ですから、大きな流れとしては、こどもと親としてどう時間を過ごすかというのと、それから、こどもにとって大切なことについてどういうふうに決めていくかというようなことが大きな流れであり、それもこどもの権利とかこどもの利益を実現するために親に与えられたものなのだという発想で用語も見直しているし、仕組み全体も大きく見直して、チルドレン・ファーストとかチャイルド・フォーカスド・ターミノロジーとかと言われて、どんどん進んでいるのが現状です。私も、落合先生がおっしゃるように、法律家の中で閉ざされた議論というよりは、かなり広がった議論の中でもう一度、原理的な一般的、抽象的な規定を何らかの形で示していくことが、世の中やこれからの社会の流れというものをはっきりと日常生活の中でも親子の中でも確認していく上で重要だと考える次第です。   したがいまして、@、A、B、Cについて、特に、先ほど窪田委員からの御指摘は、お金の面での関わり方というのも非常に重要なので、それを余り曖昧にしないようにはっきりさせるというのも大事だと思うのです。そういう意味で扶養の責任を中に入れていくということで明らかにしていく。ただ、扶養ということになると、かなり狭いイメージで捉える可能性があるので、もし誤解が生ずるのであれば、もう少し人格的な精神的な関わり方というのも入れられるようなワーディングとして、養育がいいのか育成がいいのか、少しこれも検討していただければと思います。   基本的には、井上委員からも御指摘があったように、私は一般的な規律として、子の人格の尊重とか、年齢とか発達への配慮とか、それから意思・心情への配慮ということを一般規定と置くことは重要であると思います。水野委員はそういうことが独り歩きすると恐いというのもおっしゃるとおりだと思うのです。しかし、具体的な規律で細かく規定すればするほど、どういうふうに紛争とかで使われて争われるか分からないので、一般的な規律としてこういうようなものを置いていくということに意義があると思います。   それから、未成熟子、要するに自立できない、いろいろな心身の故障とか、あるいは教育の必要性とか、いろいろな理由で自立できない、自活できない人に対する親としての扶養の責任は、これは多分、原田委員も前におっしゃっていたように、国家とか社会の責任を免れさせるというよりは、親の間での公平、責任の均衡みたいなものを図る意味で、そのような配慮というのは必要なのだろうと思います。   そういう意味では、私自身、少し長くなりましたけれども、事務局が提案をしている提案それ自体に対しては、こういう基本的な規律を一般原則として示していくことによって、今後細かい規律についての議論が出てきますけれども、その前提となるような原理原則というのを示していくということは非常に重要であり、ほかの委員も多分異論はないと思います。ただ、その示し方によっては、この後に議論する親権という言葉を使いながら、それを共同で持った場合に起こる支障とかいろいろな問題に対して、それから、面会交流とか親子交流というものとの関係性とか、さらには、監護という言葉の中にある権限とか責任の分担の問題とかそういうことについて、この規律がかえってそれを曖昧にしたり混乱を生ずるというのはやはり避けるべきことだと思いますので、一般原則、一般原理としてこういうものを示していくことにより、更にこどもの権利とかこどもの利益というのを守っていけるような方向での議論につなげていくためには、賛成したいと思います。  今まで出ている議論について全く否定するとか反対するというよりは、むしろそれを具体的に議論して明らかにしていくことによって、この一般原則というものを、各論的な議論の指針になるように位置付ける必要があると思います。これは、井上委員がおっしゃっていることとほぼ同じになると思いますけれども、基本的な規律を定めることで、こどもの利益やこどもの権利を守っていくため、親も含めて、社会も含めて、何ができるかということの議論につなげていければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。棚村委員からは、方向としては賛成であるということと、それから、様々な御意見が出ておりますが、それについて議論をしていく際の視点のようなものについてお話を頂いたかと思います。扶養、養育という問題については、二者択一ではない解決もあるという方向も御示唆していただいたように思います。 ○戒能委員 ありがとうございます。戒能です。非常に勉強になる議論を聞かせていただいておりましたが、少し大きなことを言えば、法体系の問題というのが大きくて、民法学の中で対応しなければならないというジレンマが出ているのかなと思うのです。それは、例えばイギリス法なんかだとファミリーローですよね、それから児童法は児童法としてあるとか、そういう組み方をしており、社会のニーズに対してもそれぞれ、イギリス法が柔軟であるように見えます。その辺のところが多分もう100年以上の歴史を経て、余りにもギャップが出てきているのではないか。ただ、ここの家族法制部会でその議論をするわけではないので、もう少し違う段階で、でも、是非そういう議論をしてほしいと思うのです。その中で、扶養義務が履行されない、取決めも少ない、その少ない取決めの中でも履行をされないと、その履行確保の手段についても、これは国家とか社会のバックアップというか責任ということも入ってくると思うのですけれども、そういう議論もされないと、そういう現状に立って見るべきだと私は思っております。   ですから、最初の@からCまでの基本的な規律をどういう意味を持たせて構築していくかというのがすごく問われることであると。それで、私は研究者ですが、かなり実践にも関わりながら研究をするというスタンスを持っている立場から言うと、パブコメもすごく多く、8,000ぐらいとお聞きしましたけれども、意見が寄せられているということは、市民の間で家族の問題、親子の問題に限らずですけれども、よるべき規範が必ずしも自分たちの生活に本当に役立つものというか、ニーズに対応してくれるものなのかという疑問があるということの反映のように思えるのです。ですから、ここでの議論というのは本当に慎重に進めてほしい。今まで放置してきた分をどうやって規範化していくかという大事な役割だと思いますので、慎重にしてほしいし、余りにも限定的にしないということを望みたいと思うのです。それが、少し大きめの話として1点、申し上げたいと思いました。   それから、2点目は、扶養と養育というところでは、棚村委員から二つ含めたような考え方の提案もあったので、少し考えてみたいと思うのですけれども、窪田委員から、これはまた機会があったらお話しいただきたいのですが、扶養概念が広いのだということ、そこをまだお話しされていないような気もしますので、その辺のことを聞きながら、扶養というワードがいいのか養育というワードがいいのか、この@からCを考えると、@とCと、AとBを分けるという原田委員の考え方はすごく納得したのですけれども、その@とCのところで考えたときに、どういうワードを置くべきかということも少し考えたいと思ったのが2点目です。   3点目が、Cのところです。これはもう皆さんおっしゃったとおりだと思っております。未成年の子に限定するということではなくて、例えば10ページを見ていただきたいのですが、事務局の補足の説明がずっと続いておりますけれども、ここにパブリック・コメントの意見もあります。上から5行目から6行目ぐらいですが、18歳、19歳、20歳辺りですね、大学生の方もいればそうでない人もいるわけですが、あと、障害の問題とかひきこもりの状態とかありますけれども、父母の責任によって生ずるとは限らず、社会保障制度の利用、それからその次に子自身の努力などということが書いてありまして、確かにそういう面もあって、自己責任の社会だ、世界だと言われれば、それまでかと思うところもありますが、しかし、必ずしもそうではないことがあります。   これは今までの実務を是非尊重していただきたい。佐野幹事がおっしゃってくださったように、実務の尊重ということは、若年の方々の実情ということですよね。家族の問題が非常に大きいです。家出など、今いろいろな問題が社会現象として注目されていますが、ようやく若年に光が当たるようになりましたけれども、やはり家族関係の悪化が非常に大きいです。誰が責任を取るのかということで、社会や国家が支援ということを今、打ち出しておりますけれども、やはりそこにきちんと養育義務ということが明記されるべきだと、実務にとどまらず明記されるべきだと考えております。   以上でございます。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。戒能委員からは、最初に議論の仕方についての御意見ないし御要望があったと承りました。慎重な検討が必要であり、過度に限定的にならないような方向で考えたいということだったかと思います。具体的な問題については、扶養、養育、先ほどから御意見を頂戴していますが、これについての御感触と、それからもう一つ、第2のCの部分について、先ほど佐野幹事がおっしゃった御指摘に賛同されるということだったかと思います。   そのほかに御発言ありますでしょうか。 ○落合委員 度々すみません。質問なのですけれども、先ほどどなたか、青竹幹事だったかと思うのですけれども、出された論点ですね、これをすごく一般的な規定とするのではなくて、婚姻の有無に限らずとか、何かを挟み込むというような御提案があったかと思うのですけれども。 ○原田委員 親権の有無。 ○落合委員 親権の有無の話もありましたけれども、婚姻関係の有無というのも出たと思うのです。 ○大村部会長 それは別の方ですね。 ○落合委員 別の方からでしたか。それを挟み込むということについてその後、議論がされていないので、そこは考えなくていいのでしょうかという質問です。   これは非常に一般的な規定ですよね、父母は成年に達しない子を何とか・・・ものとするという、非常に一般的なので、一般の人々にとってはこれはすごくショッキングな文言だと思うのです。親の義務について、改めてこれをはっきり書かれるという。何のために今これをやったのだろうと思われると思うのです。でも、ここで審議するべきことは、離婚した後のことなのですよね。一般的な規定をするのは踏み越えていると思うのです。それがこの機会に必要だというのなら、それも意味があるかもしれませんけれども、私などは異論がありますし、父母たるものはどういうものだというような規定は余りに一般的な規定ではないか。私たちがここで言いたいのは、婚姻関係が解消しても、それから親権とか監護権の有無にかかわらず、父母というものはこれがあるということを言いたいわけですよね。一般の人にそれは伝わらないと思うのです。私などはこれを理解できるようになるまでしばらく掛かりました。親権がない親にも義務があるというようなことを理解するのに、私は本当に正直言って時間が掛かったのです。ですから、一般の人が読んだときに、何をここで言いたかったのかが伝わらないと思うのです。だから、ここに何か親権の有無、婚姻関係の有無にかかわらず、などを挟み込むと、何でこれを出さなければいけないかもよく分かると思うのですが、その辺りはいかがでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。今御指摘があった点ですね、青竹幹事だったか、あるいは武田委員だったか、父母に一定の言葉を掛けることによって、社会との関係ではなくて父母の間での関係なのだということがクローズアップされるような、そういう規定の置き方をするということが望ましいのではないかというふうな御指摘だったと私は受け止めました。それは多分、落合委員が最初におっしゃった御懸念に対して、書きぶりによってそれを緩和することができるのではないかと、そんなふうな御指摘だったのではないかと思います。それで果たして十分なのかどうなのかということはあろうかと思いますけれども、ここで私たちが伝えたいことというのがどういうことなのか、というのを文言の上でどう工夫するのかということが皆さんから今日、課題として出されたということで受け止めさせていただきたいと思います。今その表現がどれがいいかということをここでやると、多分それだけで今日、残りの時間を費やすということになりそうですので、重ねて落合委員の方から問題提起を頂いたと受け止めさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。   そのほか御発言はいかがでしょうか。 ○原田委員 今のところなのですけれども、私はここで父母という言葉を使ったということは、婚姻関係があろうと、離婚していようがそうでなかろうが、かかわらず、とにかく法律上の父母、だから、事実婚で認知していなければ法律上、父でないという場合もあるのですけれども、法律上の父母であればこういう責任を負うという意味で、父母という言葉が使ってあるとずっと理解しています。   それと、そういう意味ではここで、繰り返して申し訳ないのですけれども、権利と義務との関係でいうと、例えば、親子交流が子の福祉に合致すると考えるのであれば、親子交流したい親もあるけれども親子交流をしない親もいるというところから考える、養育費を払う親もいれば養育費を払わない親もいる、その中で最も重要なのは、払わない人、子に関わらない人に関わってもらうということが大事だということをここでは言いたいのではないかと考えると、やはり責務を強調すべきなのではないかと思っているということと、あと、社会的な責任との関係では、この問題に限らず全ての場面にあるのですよね。共同親権になった場合に裁判所がどうするかとか、支援組織がどうなるのかとか、大石先生が言っていただいたような社会保障がどうなるのかとか、全てのところに関わる問題なので、それを、ここの民事法の部分ではまとめられないとしても、先ほど大石先生が言われたようなやり方を考えるということを含めて、だから、逆に言えばここの中で、国の支援を得ながらということよりは、総論として何かあった方がいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。原田委員の今の御発言が、かなりの部分についてまとめておっしゃっているところもあると思いますので、落合委員にとっては十分な答えではないかもしれませんけれども、また、細部についてご異論のある方もいらっしゃるかもしれませんが、差し当たりの答えということにさせていただいて、先に進ませていただきたいと思います。   そのほか御意見がないようでしたら、これについては一応ここまでにしたいと思います。よろしいでしょうか。   ここまで様々な御意見を頂戴いたしましたけれども、第2の基本的な方向について反対であるという御意見はなかったと理解をしております。何らかの形で一般的な指針を示す、その規律を設けるということによって従来の解釈を基礎付けていくということが望ましいのではないかということは、ほぼ一致していたのではないかと受け止めました。   その上で、既に出ているところでありますけれども、親の責務という書き方はこれでよいのかが問題になる。一方で権利・義務という問題もありますし、他方で国家との関係という問題も指摘されました。それから、扶養なのか養育なのかという点についても様々な御意見を頂戴いたしました。さらに、原則を書くというときにどのくらいの詳しさで書くのか、一つで済ませるのか、二つにするのかといったことについても御意見を頂戴いたしました。これらにつきましては、本日の御意見を踏まえて、事務当局の方で今後、要綱案のたたき台を作成する際に検討をしていただきたいと考えているところでございます。   議論の仕方についてですけれども、狭く捉えるのか、あるいは幅広に捉えるのかということはあるかと思いますけれども、仮に限定的に捉えたとしても、余った部分を否定するという趣旨ではないのだろうと思います。意見が一致するところで規定を書いて、更にどこまで一致できるかという形で書き加えていく。それで、書けないところについてはどういう考え方が望ましいのかということについて、皆さんの意見を補足説明等の中で示していく、そうした形でこの先、取りまとめができればと思っているということを付け加えさせていただきたいと思います。   今、15時14分ですので、この第2についてはここまでということにさせていただきまして、15時25分に再開したいと思います。それまで休憩をいたします。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、再開させていただきたいと思います。   第2について御意見を頂戴いたしましたが、続きまして、「第3 父母の離婚後の子の監護に関する事項の定め等に関する規律の見直し」及び「第4 子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直し」、この部分に入りたいと思います。事務当局から部会資料24の第3、第4について、まず御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。11ページ、部会資料24の第3の1では、離婚時の情報提供に関する規律を取り上げております。中間試案の第3の1の甲案では、離婚後養育講座の受講を協議離婚の原則的な要件とする考え方を提示しておりました。しかし、甲案に対しては、我が国の協議離婚制度の在り方を根本的に変えるものとして様々な懸念点が指摘されているところでございます。こうした懸念点を解消するために、受講を原則としつつ一定の例外要件を設けるとしても、その要件の充足を戸籍の届出の際に実効的に確認することが困難ではないかという問題もございます。パブリック・コメントの手続におきましても、このような懸念点や問題点の指摘がございました。   他方、中間試案の乙案では、離婚後養育講座の受講を協議離婚の要件とはせず、受講を促進する別途の方策を講ずるという考え方を提示し、(注2)では、その別途の方策として受講を義務付ける訓示的な規定を設けるという考えを示しておりました。しかし、民事基本法制の中でそのような訓示的な規定を設けることについては、その法的意義や効果を整理する必要があるほか、民法上一律に義務付けることへの問題点も考えられるところです。   そこで、この部会資料24では、離婚後養育講座について、子の利益の観点から有用ではあるものの、それを協議離婚の原則的な要件とするような規律を設けない方向で検討するという考え方を提示しております。また、協議離婚の要件としないこととした場合の離婚後養育講座の受講を促進する方策については、民事基本法制の枠組みの中での対応の可否や当否も含めて御議論いただきたいと考えております。   続きまして、部会資料24の第3の2、15ページになりますけれども、養育費等に関する定めの実効性向上を取り上げております。中間試案では、養育費に関する定めの実効性向上の方策として、裁判手続によらずに容易に債務名義を作成できるような新たな仕組みを設ける考え方、こちらは中間試案の第3の2(2)アでございます、と、養育費請求権に債務者の総財産についての一般先取特権を付与する考え方、第3の2(2)イでございますけれども、こちらの二つを提示しておりました。後者の養育費請求権に一般先取特権を付与する考え方による場合、強制執行が競合した場面等において、より多くの回収が図られることとなり、また、債務名義がなくても、その存在を証する文書を提出することで財産の差押え等ができるようになります。この執行手続のイメージについては、部会資料24の参考資料も御参照ください。   他方、養育費請求権に一般先取特権を付与する考え方については、他の一般債権者の利益や債務者の手続保障との関係で、その正当化根拠をどのように整理するかを検討する必要があると思います。また、一般先取特権を付与する場合には、その正当化根拠との関係で、対象となる債権の範囲についても御議論いただきたいと考えております。さらに、一般先取特権の順位については、雇用関係の先取特権が認められる根拠に照らして、これに劣後するものとして位置付ける考え方を提示しております。   以上の一般先取特権を付与する考え方に対し、裁判手続によらずに容易に債務名義を作成できるような新たな仕組みを設ける考え方については、裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律の改正案も踏まえて御議論いただきたいと考えております。   続きまして、部会資料24の第4でございます。25ページ以下になりますけれども、収入に関する情報の開示義務に関する規律を取り上げております。中間試案では、当事者の収入に関する情報について実体法上の開示義務を定めるという考え方と、手続法上の開示義務を定めるという考え方を提示していました。しかし、実体法上の開示義務を定めることについては、必ずしも対等な関係とはいえない場合もある離婚当事者間で、裁判所の関与なく開示義務を課すということに対する様々な懸念点が考えられるところでございます。   そこで、部会資料24では、実体法上の開示義務に関する規律は設けずに、手続法上の開示義務に関する規律のみを設ける方向で検討することを提示しております。手続法上の開示義務を定める場合には、対象となる債権の範囲や手続の種別、開示義務の対象等が問題になると考えられます。また、開示義務違反に対する制裁を設けるか否かや、その制裁の内容も問題となります。そこで、これらの点についても御議論いただきたいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第3と第4について、まとめて御意見を頂きたいと思います。第3は11ページの1と15ページの2に分かれますので、大きく3点ございますけれども、どこからでも結構ですので、御意見等を頂ければと思います。どなたからでも構いませんので、挙手を頂ければと思います。 ○武田委員 親子ネット、武田でございます。まず、第3の1ですね、離婚時の情報提供に関する規律に関して私どもの意見を申し述べさせていただければと思います。パブコメとして提出した弊会の案といたしましては、試案では甲案、つまり離婚要件化する方向、対象は父母双方、(注1)裁判離婚の場合も受講義務付け、(注2)の訓示的な規定のみにとどまるのであれば反対という形で提出をさせていただいております。   部会資料24、補足説明でも触れられておりますが、甲案にした理由といたしましては、補足説明の12ページの2段目に記載されている内容とほぼ同一でございます。特にこの中で、(c)ですね、講座の受講を任意にした場合、以前の部会でも紹介があった大阪家裁の受講率のように低調にとどまるということが予想されるということを挙げております。私どもの考えに近しいと思いますのは、13ページ記載の3番です。「受講を原則としつつ一定の例外を認める」方向かなと、これが一番近しいかなと感じました。   一方、今回の部会資料では、講座の受講を原則的な要件とするような規律を設けないという大きな方向性が出され、13ページ記載の先ほどの3ですね、受講を原則としつつ一定の例外を認める方向、あと、14ページの4番、受講を促進するための方策ということに関しても、余り具体的な方策が示されていない状態で、結論として規律を設けないという表現になっております。最初に読んだときには非常にびっくりしたというのが率直な印象でございます。これでどうやって父母に気付きを与えるのかと感じました。   ここまで何度かこの受講、講座に関する議論もなされたわけですけれども、私の理解といたしましては、まず、現行の協議離婚制度には課題があること、離婚する父母が十分な知識を有していない。何よりも、離婚に直面した父母が父母間の争いに終始するケースが極めて多く、子の視点に立ち返って離婚後の子の養育に関して学ぶ場を提供することが必要と、事務当局からも説明がありましたが、親講座の有用性という点に関してはほぼ共有されたものと、そんなふうに理解をしておりました。   これは法務省が出した調査結果でございますが、令和3年3月に実施された協議離婚に関する実態調査結果によれば、中身の数字はもう割愛させていただきますが、知識面も不足している。また、何よりもこどもが両親の突然の別居や親の離婚に関する説明をしたのは僅か34%、別居に当たり、どちらと住むか聴いた結果も35%にすぎないという結果、これは明らかになっているものと考えております。このような現状を踏まえてもなお、これは解釈の問題だと思いますが、我が国の協議離婚制度の在り方を根本から変える、だから規定化はしないということなのかなということに疑問を感じております。この講座受講、根本から変える、変えないというインパクトも当然重要だと思いますが、子の利益に立ち戻って、よりよいもの、これを入れていこうということだと思っております。先ほど議論しました第2の親子関係に関する基本的な規律にある子を養育する責務、子の利益の考慮、子の意向を考慮、こことの整合性は、これで果たしてとれているのだろうかと感じております。   また、懸念理由としまして、部会資料24の13ページの冒頭ですね、父母の一方が受講を拒絶すると離婚をすることが困難になるとありますが、そもそも離婚は父母の合意によるものと思っております。この合意に当たって、感情的な話合いだけでなく、繰り返しになりますが、こどものことに立ち返って話合いをすべき、そのための機会を与えるべきと思っております。ここにいらっしゃる弁護士の先生方、調停委員の御経験がある先生方は御存じだと思いますが、基本的には父母の一方が離婚を求めてくるところから話合いが始まると思っています。私がずっと聞いてきた当事者の話によっても、極めて親同士の気持ちだけの会話になっている、こどもがいかに置き去りにされているかという現実を是非思い起こしていただきたいなと思います。   ただ、私は目的がこの講座受講、これを離婚要件化することと思っているわけではございません。飽くまで両親の離婚により苦しむこどもたちを減らしたい、泣いたこどもたちが少しでも早く笑顔を取り戻せるようにしたいという思いでございまして、この親向けの講座はそのための手段であると、目的ではなく手段であると、そのように考えております。私といたしましては引き続き、このタイミングで要件化ということを排除せず、要件化も含めた、多くの当事者が受講できる制度実現のためのアイデアも引き続き議論していただきたいというのが率直な思いでございます。今日の次のテーマ、先取特権、また、先取特権に限らず、今後いろいろな法改正が検討されてくると思います。そういった先取特権を始めとする制度の内容に関しても、分かりよく当事者に説明する機会を確保する必要があるのではなかろうかと、こんなふうに考えております。   最後に、資料上は読み取れなかったのですが、この部会資料24で読み取れなかった点といたしまして、14ページの(注)に記載がございます講座受講を促進する方策ということで、モデル自治体の取組などがなされていると記載がございましたが、これもかなり前から継続的な取組としてやっておられると思っておりまして、具体的な検討が進んでいるのであれば、可能な範囲でその内容の御説明をお伺いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。武田委員からは、中間試案の段階での甲案、乙案との関係でいうと、例外を許容するという前提での甲案に賛成であるという御意見を頂きました。その理由について幾つかおっしゃったかと思いますけれども、理念的な問題としては、子の利益を重視するということとの整合性という問題があるのではないか、それから実際上の問題としては、任意にした場合には実効性が確保できないのではないか、こうした御指摘があったと思います。それとも関わるところかと思いますけれども、資料の(注)について、これは御質問ということですか。 ○武田委員 そうです。 ○大村部会長 もし事務当局の方で御質問について何かあれば、お答えいただければと思いますが。 ○北村幹事 今御指摘いただいた点、こちらの講座、親講座、養育講座というものの有用性については、この部会の中でも様々な御議論はいただいたところでございます。どの方向に向かっていくかは今後、皆さんに御議論いただきたいところでありますけれども、14ページの(注)の前段部分につきましては、既に厚生労働省の方で離婚前後親支援モデル事業というものを用意されておりまして、実際に各自治体において既に実施されているところがございます。あわせて、法務省におきましても法制審とは別に、棚村先生にも御協力いただきまして、調査研究を行っているところでございます。こちらは幾つかの自治体に御協力いただいて、動画なども作ってみて、その効果なども見ていただいたりしているところでございます。そういったところにつきましては、準備が整った段階で御参考にお送りするなどもしてみたいと思います。 ○武田委員 そのモデル事業、法務省が今、取り組んでおられて、棚村先生が御協力されていると、それの期限は今月末で一旦締める形になりますか。 ○北村幹事 今年度の事業になりますので、報告書の方を提出いただいて、それを公表できる段階、あるいはお示しできる段階になれば、お示しできるようになると思います。今年度の予算事業でございますので、今月中で一旦事業としては終了する形、あとは最終的な整理のもの、納品をしていただいたりとか中身の確認とかはありますけれども、飽くまでも今年度の事業としてさせていただいているものは、速やかにお示しできる段階になればお示しできるようになると思います。 ○武田委員 もし可能であれば、棚村先生から少し補足を頂けると、より有り難いと思います。 ○大村部会長 では、棚村委員、簡潔にお願いします。 ○棚村委員 棚村です。養育費の不払の解消についての法的支援と紛争支援を中心として、令和3年度からモデル自治体を選ばせていただいて、そこでどのような支援ができるか、関係機関の連携を自治体が起点となってどうつなげるかということで、一応、報告書をまとめさせていただいて、令和4年度も引き続きさせていただきました。その結果、法改正をしなくても現行法の枠の中で何ができるかということで、特に自治体のひとり親支援とか、戸籍の担当の部署とか、市区町村の部署間でひとり親の方たちや離婚届を取りに来るような人たちに、どんな働き掛けをしながら専門家とか家庭裁判所とか、必要な機関につなげるかということを調査研究しています。   それから、今伺いましたように、離婚後の親講座、親ガイダンスを中心として、離婚時の当事者に対する情報提供をどういうような形でやっていくかということで、海外の実情調査として、各国がどんなような取組をどのくらいの時間でどんな機関が中心になってやっているか、どんな内容をコンテンツを用意しているかとか、そういうようなことも調べさせてもらいました。   自治体モデル事業ということですので、離婚前あるいは離婚後の情報提供でどういう内容のものが比較的当事者のみなさんに見ていただけるかとか、よかったかどうかという感想も含めて、アンケートを取ったりしています。それから、面会交流の日時の調整の支援アプリを使っていただくとか、養育費額の参考になるような自動計算ツールみたいなものを用意するとかして、各自治体の窓口でそういう御相談とか、関わりを持ったひとり親の方に、どんな支援ができるかということを中心に、効果測定も含めてですけれども、調査報告書をまとめる予定です。   少しそれから先の話になりますけれども、今、家庭裁判所は親ガイダンスみたいなことをやっておられる、厚生労働省で今度こども家庭庁になると、離婚前後の親支援講座とか、そういう事業をやっておられます。自治体がやるのか、裁判所がやるのか、どこが実施主体になるかとか、どんなコンテンツをどの段階で、どういう当事者に提供していくことが一番、当事者にとって取決めとか、安心・安全も含めてですけれども、できるかどうかというようなことについて検討しております。その結果、離婚前後の親ガイダンスについても私自身は協議離婚の要件にするとか制度化するということの前に、どこの機関がどういう形で責任を持って、当事者の支援の一環としてそういう情報提供をするかということを明確にするとともに、内容的にもいいものを作って効果的に使ってもらえるようにすることを積み重ねて、そこで初めて法制化していくとか、制度化するということが重要だなと考えております。今のようにいろいろな場面が試行的にというか、ばらばらに自治体ごとにやっているような状況だと、制度として要件化したり義務化したりということについては、もう少し検討したほうが良いのではないかと考えております。その上で、法務省の委託調査研究の結果を見て、国が責任を負って、広域自治体と基礎自治体との役割分担の中で情報提供していく制度をやはりきちんと作った方がいいだろうなという印象をもっております。この離婚前後の情報提供の制度というのは当事者にとって非常に重要なことですし、武田委員がおっしゃるように、できれば海外のように制度化し、法制化というところまで進めば、なおいいのですが、海外でも裁判所が中心になってやっていくところと、行政が中心になってやっていくところと別れています。また、これも任意にやっているところと義務化しているところと、いろいろあるものですから、日本で、今この段階で、講座というふうな形で言っているのですが、一般的な集合での情報提供と、それから個別専門相談みたいなものも組み合わせながら効果的にやっていかないとなかなか難しいところもあります。そこで、今、法務省がそういうようなことを音頭を取って、モデル自治体を選んで、調査研究をし、それから海外調査も含めて行った結果が3月にまとめられて、そして4月ぐらいには公表されると思います。そこで、このような実情や課題等を踏まえた上で制度化とか法制化ということを次のステップとしてやった方がいいのかなと思っております。 ○武田委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいですか。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐野幹事 これは第3、第4を含めてお話ししてもよろしいですか。   まず、第3の離婚時情報提供の件なのですけれども、私は要件化しないという方向はやむをえないかと思っております。ただ、前の第2のところでも問題になりましたし、今、武田さんとか棚村先生からお話もありましたけれども、親によるこどもの離婚時の養育というところも含め、この離婚時の情報提供も含め、その親に対するサポートにつき、国や自治体の責任をきちんと明確化する、これは民事基本法制ではできないのかもしれませんけれども、法律を別途置くべきだというのは、部会での意見として何らか別途、発信できないかなとは思っております。   というのは、実際、弁護士会の方で法務省のパイロット事業に関わっている方にもお話を伺ったのですけれども、結局、当事者の方たちの間で養育費という言葉は知っていても、そこをどう合意していいか分からないとか、自分がもらえるものとは思っていないとか、自分のことだとは思っていないとか、あるいは日々の生活に追われてなかなかそこまでたどり着かないなど、思っている以上に情報提供というのは重要ということのようです。他方で、基礎自治体の方が支援しようにも、今、人件費削減の流れで職員の予算とかを減らしていて、自治体の責務としてその根拠が立法されて国からお金が下りるという状況にならないと、支援を実施するところに至らないという実情もあるようなのです。そういった意味では、民事法制を改正していくにしても、それとは別途きちんとこういった状況下にある親をサポートする枠組みというのを設けなければ実効化できないという点は、何らかの形で発信できないかと思っています。その意味では、次回からになりますでしょうか、こども家庭庁の方もここに参加されるのかなと思うのですが、そちらの方にもきちんと課題を持ち帰っていただきたいと思っております。   それから、2番目の先取特権のところですけれども、設けるという方向性は、養育費回収につながるというところで、反対するところではございません。ただ、範囲については、かなり強力な権限があるというところで、それで先ほどの生活保持義務を明確化すべきではないかというところにつながってくるのですが、感覚的には、そのような強力な権限を正当化できるのはせいぜい生活保持義務の範囲であり、生活扶助義務に広げるべき話ではないと思っております。そこでも、成人に達した未成熟子をどうするのかというところが出てきてしまうので、成人も含めた生活保持義務の範囲を明確にした方がいいのではないかと先ほどのところで意見を申し上げた次第です。   順位については、雇用との関係は非常に悩ましいところなのですけれども、これは弁護士会でも議論したのですが、やむを得ないのではないかという考えがありつつも、他方で雇用に劣後するというメッセージ性というのはよくはないので、せめて同順位ということができないかというような話も出ておりました。   それから、収入開示のところですけれども、これも方向性として反対するところではございません。確認なのですが、手続法の開示義務を設けた上で開示の命令制度を設けるということだと理解しております。   ただ、今、調査嘱託で自治体に課税証明とかの情報を出してくれと言ったときに、出してくる自治体と出してこない自治体があるという状況の中で、これができることによって、当事者への開示命令を出してもらわないと第三者に対する調査嘱託にもっていけない、第三者が、開示命令が出たことを条件としないと情報を出してこないということになると、逆に今の実務より遅延してしまうおそれも出てくるのではないかという懸念があると思っております。どのようなプロセスでやるかという辺りは考えなければいけないのではないかと思います。   ただ、開示命令の範囲については、これは個人的には、裁判所に上がってくる扶養義務なので、生活扶助義務の範囲も入ってもいいのかもしれないと思っております。ただ、それが利用できる手続については、実務家的には調停も必ず含めていただきたいと考えております。収入を開示しないというところだけで頑張っているような方もいらっしゃるので、それは開示した上で、全体的な解決について話合いをするには調停の方が適しているため、そこは調停も含めていただきたいと思っております。   最後に、制裁ですけれども、制裁を設けることは賛成で、特に最近、渉外事案などでは、制裁がないからといって海外にある収入とか資産とかを開示してこないという事案も見受けられます。(注)にあるように、経済事件に関しては、家事事件であったとしても、真実擬制を入れてもいいのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。佐野幹事からは第3の1と2、それから第4について、それぞれ御意見を頂きました。第3の1については、要件化しないということについては、それはそれでよいけれども、別途対応するということを強調する必要があるということだったかと思います。それから、第3の2についても反対はしないとおっしゃいましたけれども、範囲については限定すべきである、それから順位については、考え方は分かれるかもしれないけれども、雇用と同順位ということは考えられないか、そして、最後に、第4については、実効性を確保する方策を考える必要があるということだったかと思います。ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。連合の井上です。まず、離婚時の情報提供の規律ですが、1巡目、2巡目の議論のときは、私もこれは何らか受講の義務があった方がいいとも思っていたのですけれども、パブリック・コメント等を拝見しますと、やはりそれはなかなか難しいのだろうということがよく分かりましたので、その意味では事務当局の提案に賛同する方向で考えています。   ただ、そうはいっても、何もないとなると、これはやはり離婚時、余りにも無責任なことになってしまうと思いますので、それで行くと、先ほど棚村委員から厚生労働省のモデル事業の話、法務省の話がありましたけれども、それに加えて、14ページの4行目に寡婦福祉法第5条第3項の記載があります。国及び地方公共団体は、母子家庭等の児童が心身ともに健やかに育成されるよう、養育費の履行を確保するために、広報その他、適切な措置を講ずるよう努めなければならないとされているという規律があるのですけれども、このほかにも、困難な問題を抱える女性の支援に関する法律が来年の4月から施行されます。その条文に、民間団体に対する援助であるとか、あるいは費用の支弁等ということで、都道府県、市町村の支弁・補助、国の負担・補助というのが入っています。そこに関連づけて何かできないのかと思ったところですので、引き続き、民法上は難しいとしても、ほかの法令で何らかの措置ができないのかというのは検討に値するのではないかと思いました。   それから、一般先取特権ですけれども、@からC全てというのはなかなか厳しいかと思うのですが、BとCに関しては、子の監護・養育に関する義務に係る負担でありますので、その意味では一般先取特権を結び付ける考え方は検討に値するのではないかと思います。ただし、債務者の総財産について一般先取特権を有するのであれば、債務者の経済状況には留意が必要でありますので、中間試案に盛り込まれた法定養育費制度が仮に設けられるのであれば、そこにも関わってくる論点ではないかと思っています。また、参考資料で出していただいていますけれども、1回の裁判手続で差押え等が可能になれば、離婚当事者の負担軽減にもつながるので、ここは前向きに検討すべきだと思います。   それから、一般先取特権の順位のところなのですけれども、民法上の一般先取特権の順位から考えますと、やはり養育費債権につきましては、Aの雇用関係には劣後しますけれども、葬式の費用や日用品の供給には優越するのではないかと思います。そもそも雇用による収入がなければ多くの場合、養育費の原資の確保というのは難しいと思いますので、雇用関係に劣後するということに関しては妥当性があり、雇用関係に次ぐ順位が適切ではないかと考えます。   それと、第4のところなのですが、養育費支払の取決めの実効性向上や、取決めがない場合も支払を促進する観点から、収入に関する情報の開示義務を規律する方向性には賛同します。資料の27ページの下から9行目以降にあるように、仮にこの規律を実体法上に置く場合、協議が調わなければ裁判手続によって調整が図られざるを得ないので、そうした手続は当事者の負担になってしまうと思います。一方で、28ページの上から4行目以降に記載があるように、手続法上で開示義務を定めれば、養育費等に関する裁判手続が迅速かつ容易にできるようになって、適正な事実認定や判断にもつながると思いますので、手続法上の規律を優先するという考え方があってもいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。井上委員からも第3の1、2、それから第4について御意見いただきましたけれども、全体として提案の基本的な方向性には賛成するということだったかと思います。ただ、第3の1については、既に指摘もありましたが、民法の外での対応ということを考える必要があるのではないか、それから、第3の2については範囲を限定する必要があるということと、法定養育費制度との関連も考える必要があるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○小粥委員 委員の小粥でございます。第3の2の養育費等に関する定めの実効性向上に関して、一言だけ申し上げます。一般先取特権を付与するという考え方について、検討の俎上にのせるペーパーを用意してくださった事務局に感謝したいというか、その方向で進めていただけないかという趣旨であります。つまり、伝統的に一般先取特権を増やすというような考え方は法律学の世界では余り好まれない考え方であったわけで、そこへ、しかし養育費確保の実効性向上という観点から様々な方策を検討される中で、やはり実体法上の優先権、少なくとも一般債権に対する優先権が必要だという御判断が背後にあるのではないかと考えております。伝統的には、一般先取特権の付与をなぜ、どういう場合にできるかというと、先ほど井上委員がおっしゃったとおり、共同担保ないし一般財産の増殖に寄与した債権あるいは債権者がいたからこそ一般先取特権を付与するというような考え方が一般的、あるいは支配的ではないかと考えますので、そういう観点からすると、養育費債権に一般先取特権を付与するというのは少し別の正当化根拠が必要になるところではないかと思います。   しかし、債務者になるのは自然人でありまして、基本的に法人ではないと思うのですけれども、その場合に競合が想像される債権としては、例えば多額の消費者金融に対する債務を負っているような父又は母と、こういった債務者がいる場合に、手間を掛けて執行にたどり着いた養育費債権者が債権額に応じて按分になるという結論は、やはりなかなか厳しいものがあると私は考えますが、そういうことからすると、少なくとも一般債権者に対する実体法上の優先があるということは、なお引き続き前向きに考えていただけないかと。その上で、順位等についてはなかなか難しい問題があると承知しておりますけれども、引き続き考えたいと。さらに、優先権の範囲についても、やはり検討の必要はもちろんあると思いますけれども、実体法上の優先権ということを引き続き前向きに考えたいということを申し上げたいと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございました。小粥委員からは、第3の2について方向性に賛成であるということで、具体的には正当化の根拠に関わる御意見を頂いたと思います。一般先取特権を増やすということについては、確かに否定的な見解も学説の中にはございます。それに対してどのような理由付けが可能なのかということについて御意見を頂戴いたしました。その上で順位や範囲については別途考える必要があるだろうといった御指摘を頂いたものと思います。 ○窪田委員 窪田でございます。私も、第3の2の部分なのですが、先取特権について発言させていただければと思います。小粥先生からは問題としてあるということで指摘があった部分なのですが、やはり範囲の部分が大変に気になります。ここの切り分け方だと、根拠条文が752条なのか760条なのか、といった規定に即して切り分けられているのですが、どの条文によっても養育費以外のものが入ってくる可能性があります。先ほど佐野幹事の方から、生活保持義務という観点からの切り分けもできるのではないかということではあったのですが、もちろん佐野幹事は親子の関係を想定してだと思いますが、夫婦間の扶養義務というのも多分、生活保持義務としての性質を持っているのだとすると、夫婦間の扶養についての権利が一般債権者に対して優先するというのは、私自身には余りしっくりはきません。そうだとすると、飽くまで未成年の子に対する扶養の義務の履行としてのものに限定するということが必要になるだろうと思いますし、そうだとすると、条文の切り分けではなくて、何らかの形でそれをやはり費目として切り出すような仕組みが用意されないといけないのではないかという気がします。その点では、現行法を前提として、現行の手続を前提として、どこまでにしようかという議論をするよりは、やはりうまくその切り出しができるような方法を考えていかなければいけないのではないかと思います。   少し補足すると、夫婦間の扶養に関する関係は一般債権者に優先しないけれども、こどもに対する関係では優先するというのは、例えば一つの考え方として、落合委員からずっと出ていたことですけれども、こどもに対する関係での親の責任というのは親だけが負うものではなくて社会一般がという観点から、一定の基礎付けをすることができるのかなとも思いますので、その範囲では、この方向で検討していただくのがよいのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。窪田委員からは、やはり第3の2について御意見を頂戴いたしました。範囲についてということで、今の案ですと養育費以外のものが入っているので、それらについては除く必要があるのではないかという御意見だったかと思います。他方で、こどもの養育費については他のものと区別するということが正当化できるのではないか、社会的にこれを尊重していくという考え方によって基礎付ける等々のことが可能なのではないかという御指摘を頂きました。 ○沖野委員 ありがとうございます。委員の沖野でございます。私も15ページの2の一般先取特権について申し上げたいと思います。小粥委員、窪田委員が御指摘になった、あるいは既に様々御指摘いただいている点と共通するものでありますけれども、申し上げたいと思います。   一般先取特権の付与による優先については、正に一般の債権者に対して優先する地位を与えるということで、強制執行などの具体的な強制的な実現の場面での優先のほか、否認の対象など既に支払われたものを安定させるというような面でも意味がありますので、そういう安定を与えることにふさわしいかということも含めて検討していく必要があると思います。そして、現行法上も既に特別な扱いがされている債権として、ここに掲げられているものがあるわけで、ただ、その特別な扱いというものが、差押え禁止の部分が縮小する形で、実質的に特定の財産については優先的な取扱いになっているという、実定法上も、そのような意味での扱いはされているのですけれども、それを越えて全ての財産において一般の債権者よりも優先する地位を一般先取特権で与える、債務名義の取得というのはまた少し置きますけれども、それが果たして正当化できるかということです。   御指摘がありましたように、雇用関係、労働債権については、元々は生活保障という面もいわれておりましたし、それから、債務者にとって窮境になったときに労働力確保が必要になる、そのためにも優先を与える必要があるとか、それから、債務者財産の形成の維持や増大への寄与、あるいはこれからも含めてという面もある、というように複数の根拠があったと思います。もっとも債務者財産の維持・増大に資しているかというのは、実は労働債権だけではなくて、一般の貸付金とかそういうものであっても、実はそれがあるから財産形成がされているという面がありますので、それだけで十分かという問題はあります。   そういったことを考えたときに、ここに挙げられている債権については、特定の財産との結び付きはない以上、一般の先取特権にせざるを得ないわけですけれども、財産の増殖には寄与はやはりしていないと考えられますし、それがないと窮境を乗り切れないというような状況もありません。そうだとすると、そのような優先を社会として是とするということがやはり必要で、冒頭に出ました社会で負担するといったような考え方がそのような保護を基礎付け、一定の範囲で一般の債権者としても劣後してもやむを得ないと、それを認めましょうというところになるのではないかと思います。違う事情ですけれども、葬式費用とかは元々は公益上の利益によるものとされて、こちらは公衆衛生とかですけれども、一定の社会的な公認ということから基礎付けるということは十分あり得るものと思われます。   ただ、そうしたときにやはり広すぎるということがございまして、せいぜいやはり子の養育のための費用に限られるだろうと。子の養育の費用であれば全て認められるかということも、やはり難しいのではないかと思っておりまして、一定の金額の限定ですとか、そういうことが考えられてしかるべきではないか、あるいは月数によるとか、そういうことと組み合わせて考えていく必要があるのではないかと思っております。   順位についてなのですけれども、この場合の順位として、雇用関係の先取特権は非常に重要で、元々第3順位から第2順位に上げられたというようなこれまでの経緯もございます。ただ、ここは競合する局面となりますと、個人事業者との関係ですとか、いわゆる家事使用人といわれるような類型とか、そういうかなり限定的なものになると思いますが、これも範囲との関係で、例えば法定養育費の話が出ましたけれども、仮に法定養育費というものを一つの区切りとするならば、その範囲ではむしろ優先するとか、あるいはそれ以外のところではそうではないとか、一般先取特権について細かな順位を付けるというのは今余りないのですけれども、そういったことも考えられてしかるべきではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。沖野委員からは、前のお二方と同様、第3の2についての御意見を頂きました。基本的な方向性は窪田委員がお示しになったものと共通しているかと思いますけれども、更に立ち入って、養育費についても一定の制限が必要なのではないか、順位についてもその制限との兼ね合いで考えるということもあり得るのではないかという御指摘を頂いたかと思います。ありがとうございます。 ○石綿幹事 石綿です。私も第2の3について1点述べさせていただきたいと思います。方向性については、前に御発言なさった委員、幹事の先生方と同じく、賛成いたしますが、現状、範囲が広すぎるのではないかと思うところでございます。事務当局がお作りいただいた現状の資料は、未成年の子の養育に関する費用の請求が問題となる場面に関連する条文というのを挙げてくださっているわけですが、既に多くの先生方が御指摘のように、これら全てを一般先取特権を有するとすると、養育費以外の権利も含まれるわけなので、広すぎるということになるのかと思います。結論として、窪田委員と同じく、費目として切り出すような仕組みを考え、できるだけ養育費についてのみ認めるという方向性を検討するのがよいのではないかと思っておりますが、恐らく問題の所在として、現在、養育費について請求していく根拠条文が場面によって異なっているという点が、このような資料が出てきているというところにあるのかと思いますので、本日前半で議論した第2の点とも関連するかと思いますが、もう少し養育費について、何を根拠に請求していくのかというものを分かりやすくする、費目だけ切り分けるのではなく、手続も分かりやすくするというのも一つ考えてもいいかなと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。石綿幹事からも今までの何人かの方々と共通の御意見を頂戴いたしました。優先権を付与するものを切り出すときに、現在は根拠条文がはっきりしないということがこのような提案とつながっているところがあるのではないかということで、そこを整理しておくことも必要ではないかという御指摘を頂戴いたしました。 ○原田委員 私も、一つは先取特権のことなのですけれども、範囲が広すぎる、養育費以外のものが入っているというお話がありましたが、実は第766条の婚姻費用には、こどもがいない夫婦の場合はありませんけれども、養育費が入っているのです。それで、今、法テラスというところで、養育費や婚姻費用を請求した場合の弁護士費用や、幾ら立て替えるかとか、償還を免除するかとかいう話をしているときに、計算したのですけれども、いわゆる裁判所が出している算定表の中で、婚姻費用と養育費を比べると、こどもが1人のときには婚姻費用の中の50%から60%ぐらいの間なのですけれども、こどもが3人になりますと婚姻費用の中に占める養育費というのは70%ぐらいになるのです。それを考えると、婚姻費用を一律に除くというのはどうなのかなと思います。   そういう意味では、では計算して除くのかとか、除かないのかとかいうことを考えると、やはり生活保持義務という根拠があるわけです。もう一つ、私は、やはり夫婦だけの場合は養育費が入っていないよなと悩んでいたのですけれども、小粥委員がおっしゃってくださった財産の増殖に関与した場合というところ、先ほど石綿委員ですかね、これには入らないというおっしゃる方もありましたが、財産分与で考えた場合には、個人事業者の場合は、そこで財産が形成されていれば財産形成に寄与したと考えるわけで、そういうことから考えても、婚姻費用は保持義務の範囲では入れていいのではないかと思います。ただ、全額入れるのかどうかという点についての範囲が広いという趣旨であれば、それをどう考えるかというのは検討の余地もあると思いますが、養育費と婚姻費用を切り分けて婚姻費用は入れないという考え方については、私は適当ではないと思います。   それから、財産開示の関係で当事者間の開示義務を外すという話について、裁判所からの御意見で、これがあった方が手続上、第三者機関に請求したりするときに回答が得やすいという御意見が出ておりましたが、その辺りの関係がどうなのかというのが、私は今ひとつ判断しにくいところがあるのですが、もしそういうことがあるのであれば、検討する余地もあるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。原田委員から2点御指摘いただきましたが、一つは、今続けて意見が出ておりました第3の2について、婚姻費用第760条の扱いをどうするかということだったかと思います。婚姻費用を除くという意見は、婚姻費用の中に含まれている養育費の部分は、おそらくは皆さん、これは除かないと考えておられて、それを取り出すという御意見なのだと思います。 ○原田委員 そうなのですか。分かりました。 ○大村部会長 ですから、その限度では意見の対立はないのだと思いますが、それとは別に、固有の意味での婚姻費用についてどうかということで、原田委員からは養育費とは別の根拠付けで優先権を認めることができるのではないかという御意見を頂いたと受け止めました。それから、第4については、実際上それに意味があるということであれば、いいかもしれないという御感触を頂いたと理解をいたしました。 ○向井幹事 最高裁家庭局の幹事の向井でございます。裁判所からは、第3の2の一般先取特権のところと第4の収入情報の開示義務の点について、意見を述べさせていただきます。   まず、第3の2のところですけれども、今まで出ていた話とは少し異なり、主に執行手続を円滑に進めるという観点からの技術的な問題点、意見の指摘をいたします。養育費請求権について一般先取特権を付与した場合の懸念としては、部会資料の20ページから21ページに掛けて、@からDということで書いてありますけれども、やはり養育費については取決めの段階や執行の段階で、必ずしも法律の専門家が関与する事例ばかりではないことや、性質上非常に長期間にわたって継続的に発生するということを考慮しますと、部会資料に記載してあるような懸念が顕在化するおそれは、他の一般先取特権に基づく執行手続の場合とは明らかに異なって、そういう懸念は大きいのではないかというのが裁判実務を担う立場からの率直な感想というか見通しでして、この点については、中間試案に対する各裁判所からの意見でも、このような懸念が多く示されたところです。   ただ、こうした懸念がある一方で、養育費の履行確保という制度趣旨に基づく迅速な執行手続の要請もありますので、この点も踏まえますと、少なくとも一般先取特権の存在に関する立証方法として、債権者が裁判所に提出できる文書の種類を、こういったものみたいな形で明確にしていただくとか、あとは文書の記載事項といったものを法律できちんと明確に記載するということが必要なのではないかと考えております。   なお、先ほど原田委員からもありましたけれども、現状やはり婚姻費用については、こどもの養育費相当分と配偶者の分が合わせて婚姻費用という形で調停でも審判でも定められているところでして、そこは内訳が明らかになっていないというような問題がありますので、現状としてはそのような形にはなっているということはお伝えしておきたいと思います。   あと、第4の収入の開示義務の関係ですけれども、この点につきましては、佐野幹事におっしゃっていただいたこととほぼ同様になります。調停でもやはり実際に収入関係の情報を開示しないという方がいらっしゃいますので、調停を円滑に進める、前向きに進めるという意味では、調停手続でも開示義務に関する規律が設けられると円滑に進めやすいというところはあろうかと思います。   あと、制裁については過料の制裁ということが挙げられていますけれども、裁判所の中では、過料の制裁よりも手続の全趣旨によって収入額を認定できるとした方が実効的ではないかというような意見もございました。必ずしもそのどちらか一方でなければいけないというわけでもないかと思いますので、どちらか一方とは限定せずに、両方の手段を定めるということもあり得るのではないかと考えております。   それと、もう一つ懸念としては、これは佐野幹事がおっしゃっていただいたところですけれども、開示命令がされないと、第三者としては調査嘱託をされても応じないというようなことは、実際にはもしかしたらあるかもしれないと、そういう懸念があるという話は裁判所の中でも出ていたところでした。さらに、これに不服申立ての手続まであるとなると、不服申立てを経てきちんと確定しなければ嘱託には応じないというようなことにもなりかねず、そういう場合にはかえって収入の開示が遅れるというような話もあり得ますので、相手方の手続保障ということももちろん大事ではありますけれども、それを確保しながらどう開示義務を実効的なものにするのかということについて、これから検討していくことが大事だと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。向井幹事からは、第3の2と第4について御意見を頂きましたが、第3の2については、手続の円滑化という観点から見たときに、20ページに挙げられているような懸念はあるだろう、これに対応するために、証明につき文書を言わば定型化することが必要なのではないかという御意見だったかと思います。そして、もう一つ、第3の2については、先ほど話題になった婚姻費用が、現状では切り分けられていないことが前提になっているので、それについて対応が必要になるだろうということだったと思います。第4の方につきましては、3点あったかと思います。調停を含めた方がいいということが一つ、それから、制裁・過料以外のものを併せて考えることもできるということがもう一つ、最後が、佐野幹事がおっしゃっていたような手続遅延の懸念はやはりあるということで、それを考える必要があるだろうといった御趣旨だったかと思います。 ○杉山幹事 幹事の杉山です。まず、先取特権を付与することの問題ですけれども、既にほかの委員、幹事の方がおっしゃったように、先取特権と認めることによりメリットがある、例えば債務名義が不要となるとか、他の一般債権者より優先されるというメリットがあるので、一般先取特権を認めることも含めた議論をするという方向性自体は賛成ですが、他方で沖野委員がおっしゃったように、根拠付けの難しさはあると思います。特に、合意で多額の養育費を設定することができると、ほかの一般債権者に対して優先する根拠をどう基礎付けたらいいのかという点は、実体法の問題として残っているかと思いますし、それとの関係で、これも既に前の委員、幹事の御発言のように範囲を制限していくことも必要であろうとは考えています。   特に、手続との関係で、既に最高裁の方から問題点が指摘されていたところですが、一般先取特権とすることによって、債権者側にはメリットもありますが、既に指摘されているように、債務者の手続保障が十分図られるのかという問題については、慎重に検討する必要があると思います。特に、債権者債務者間での対立が想定されやすい養育費請求権について、先取特権を認めることで執行抗告などの簡易な争い方、簡易な方法で争うことができるというメリットは債務者にあるのですけれども、そのような簡易な争い方になってしまうか、あるいは、慎重に争いたければ担保権不存在確認訴訟を提起するなどといった選択肢になってくるのがよいのかといった点は、検討する必要があると思いますし、それとの関係で、担保権を証する文書としてどのようなものが出されてくるのかは、十分に配慮する必要はあるかと思います。   元夫婦間ですと、養育費について合意をした旨の文書を偽造することも可能でありまして、虚偽の文書が出されてくる可能性もあると思いますし、債権者側も、合意があったことを十分に証明できない場合、例えばメールはあるけれども、それ以外は証拠がないといった場合もあると思います。そうなりますと、ほかの先取特権の場合と比べて、そもそも養育費の合意があったか、それがどういう内容であったのといった、問題が、執行手続を開始する段階で裁判所が判断しなければなりませんが、そのような紛争が執行裁判所に持ち込まれることが適当かということは問題となってくるかと思います。   とはいえ、最高裁の方が提案されたように、証明文書を定型化することも難しいと思いますが、担保権を証する文書について検討するに当たっては、今回は直接の検討の対象にはなっていませんけれども、合意成立の手続の過程ですね、そもそも実体法上の合意の成立要件として、例えば専門家の確認が必要であるかといったような問題と並行して検討していくことが必要であろうと思っています。   あと、手続に関連する話になりますけれども、先取特権を認めることと債務名義の成立を容易化することが択一の関係なのか、あるいは両方導入するかという問題もあります。排他的な関係にはないので、両方導入することも可能であると思いますし、仮に導入するとして、今、養育費請求権などについて債務名義がある場合の強制執行については特則がありますので、それを先取特権を認めた場合の担保権実行手続の場合にもどの程度準用するかといった点も議論する必要性が出てくると思います。また、この部会で議論することかどうかは別として、先取特権とすると、債務者が倒産したときの取扱いについてもまた考えていく必要性が出てくると思います。そのようなほかの手続への影響も含めて検討していく必要はあると思います。   2点目の開示義務の点ですが、基本的な方向性として、手続上の開示義務を設けること、また、それを証拠調べの場面だけではなくて、それ以外の場面においても、もう少し広く認めるという方向性自体には賛成をするところです。細かな点について十分詰められていませんけれども、制裁に関しても、過料だけでなくて弁論の全趣旨で考えるという点も含めて、様々なものを用意していいのではないかと今のところは考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。杉山幹事からは、第3の2と第4について御意見を頂きました。第3の2については、根拠付けが難しいとか、範囲をどうするかということについては、既に今まで御意見が出ていたところだったかと思います。そのほかに手続保障の問題、文書の問題を御指摘していただきました。さらに、先取特権化することによって、手続の他の場面でそれが影響するということを考える必要があるということと、それから、今回は出ておりませんが、債務名義の簡易化という、もう一つあった選択肢との関係をどうするかという問題もまだ残っているのではないかという御指摘であったかと思います。 ○赤石委員 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石です。ありがとうございます。すみません、少し議論が元に戻ってしまいますが、第3、11ページの離婚時の情報提供に関する規律のところですけれども、協議離婚制度というのがなかなかこの法制審議会でも姿形が分からないところで、こういった要件を掛けることについては、やはりなかなか難しいのだろうと思っております。例えば、協議をしているかのように見えるけれども、協議しないで書面だけが、離婚届だけが書かれて、それが郵送されてきて、それで提出されたといった場合に、一体どこでこの情報提供が行われたらいいのかとか、いろいろな疑問が出てくるわけです。今、別居親の方が家を出てしまって、その後戻ってこなくなったみたいなこともよく聞きますので、何割かはそういう形ですので、義務化したときにどうなるのかとか、いろいろな悩みが生じるので、こういうふうになるしかないのかなと思っております。なので、基本的な方向は、やはり協議離婚に何かの条件を掛けるなら、私たちはもっと議論しないと多分難しいだろうと思っておりましたので、それでよいのかなと思っております。   一方では、確かに情報提供というのは大事でございます。武田委員もおっしゃったように、やはりいろいろなこどもへの影響、それから、それはもうどの親御さんも、まあ、心配でない方もいるかもしれないですが、多くの方は心配していると思いますし、ではこどもにどんな説明をしたらいいのか、あるいはどういうことを考慮したらいいのかとかいうことがいろいろあると思いますし、こどもにはこどものやはりレジリエンスもありますので、それをどういうふうに育んでいったらいいのかとか、いろいろなことがあると思います。   一方、同居親、ひとり親になる多くがシングルマザーなのですけれども、その方たちは生活費を得る手段もすごく限られていたりするので、情報提供の中に、やはりいろいろなサポート体制とか、就労支援の事業とかそういったことも、厚生労働省の枠でやるときにはやはり必要かと思っているわけですけれども、そういったことも必要だろうということを、やはり今、言っておいた方がいいかなと思って、一応、義務化はなくなるのですけれども、一応お伝えしておきたいと思います。   あと、これも懸念なので、一応言っておくのですけれども、いろいろな団体が今もいろいろなプログラムをやっているのですが、やはり家族の形が一通りであって、それが壊れてしまってこどもがかわいそうである、みたいな議論をされる団体もあるやに聞いていますので、やはり家族は多様性があって、離婚して親が分かれて住んでいるような場合であっても、それは家族の一つの形であるというようなことがきちんと位置付けられるような情報提供であってほしいと思っております。そのようなことを、少し蛇足ですけれども、付け加えておいた方がいいかと思って、お伝えします。   養育費に関する定めの実効性向上の一般先取特権、私は今まで債務名義については分かってきたのですが、なかなか分かりが悪くて申し訳ありません。基本的にはその方向性でいいと思っております。ただ、幾ら債務名義化したものがあったとしても、今も厚労省の調査でも、債務名義化した執行力があったとしても、取り立てることができない方はまだいらっしゃるということを少し言っておきたいと思います。とはいえ、養育費についてほかの債務よりも特別なものであると位置付けがされるのは、やはり今後いろいろな支援制度を考える上でも、今、法テラスの方でも何か検討がされているようなことを聞いていますので、それも含めて評価ができるかなと思っています。   先ほど婚姻費用のところがあったのですが、私もそこが余り考えが進んでいなかったので、どうしようかと思いましたけれども、基本的にはやはり順番としては、まず別居中があって、それから離婚が成立して、養育費になるわけで、その最初の婚姻費用のところは先取特権にならなくて、その次とか切り分けるとか、かなりハードルが高くなるよりは、婚姻費用のところはお認めいただけた方がいいなとは、ひとり親を支援する立場では、思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。赤石委員からは第3の1と2について御意見を頂きました。1については要件化は難しいのではないかということと併せて、しかし情報提供は重要だということで、その内容についてのお考えというのをお聞かせいただいたかと思います。それから、第3の2については、履行確保の問題はあるけれども、方向性としてはよいのではないか、婚姻費用についても、切り分けというようなことを言わないで一括してやっていただきたいというような御意見だったかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○畑委員 畑でございます。今までの議論にそれほど付け加えるところはないのですが、まず、一般先取特権について、今までの議論もそうなっていると思いますが、まずは実体法的に優先権を認めるかどうかというところを御議論いただくのがよいのかなと思っております。手続的には既に出ているような懸念も幾つかあるかと思いますが、一般先取特権のルートに乗せるということで、何かしら解決はできるのではないかと思っております。   それから、収入の開示の話ですが、私も方向性としてはこういう開示義務というのはあり得ると思っております。ただ、これも既に出ておりますように、ほかの手段との関係というのは整理する必要があるだろうと。資料でいうと30ページの辺りですが。法律にどう書くのかというのはよく分かりませんし、あるいは書けないのかもしれませんが、恐らく、ほかの手段と並列というのでしょうか、どれかが優先するというものでもないということにするのではないかなという気もしております。   それから、31ページの辺りの制裁の話ですが、やはり何かしら必要だろうという感じはしております。過料も、確かにあって駄目ということはないかもしれませんが、実効性の点では少し不安があります。資料にも出ておりますが、手続の全趣旨に基づく認定のようなことの方が確かに実効的かなという感じはします。ただ、これを制裁と位置付けるのかどうかというのはよく分からないところがあります。例えば、違う局面ですが、民事訴訟法に第248条というのがあって、これは損害額の認定、算定に関するものですが、この条文は別に制裁とかいうことではなく、置かれているわけです。この第248条自体も位置付けが難しいものですが、制裁という位置付けになるのかどうかということは考える必要があるかと思います。それから、こういう制度を置くかどうかというのもまだ分からないわけですが、「手続の全趣旨」という表現も少しはしょりすぎというか、例えば民事訴訟法第248条だと口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいてということになっているので、それと似たようなことになるのではないかという気もしております。   少しまとまらない感触のみですが、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。畑委員からは第3の2と第4について御指摘いただきましたが、第3の2については、まず実体法上の優先権を認めるか、認めないかということをしっかり議論していただきたい、その上で認めるということであれば、手続法の方は何らかの形で対応が可能なのではないかという御感触をお示しいただきました。第4については、方向性としては賛成だということを前提に、他の手段との関係ということが一つ。それからもう一つ、制裁ということとの関係で、手続の全趣旨というので受けていくという意見が今出ているけれども、その位置付けというのでしょうか、制裁という位置付けがよいのかどうか、あるいは、書き方にしてももう少し詳しく書くといったことが必要なのかということにつきまして、民訴法第248条との関係で御指摘を頂いたということだったかと思います。   そのほかはいかがでしょうか。 ○池田委員 弁護士の池田でございます。細かいことなのですが、32ページの(注2)のところです。一方当事者から提供された情報は他方当事者に開示しないとの規律が考えられるがという記載のところなのですが、これはプライバシー情報が含まれているということで開示しないということを検討するということなのだと思われますが、これは今、養育費ですとか婚姻費用とかを審理する中での話ですので、収入額等というのは非常に重要な情報で、反対当事者の手続保障という観点からは基本的には開示するべきものなのだろうと考えています。ただし、勤務先とか住所とか、そういったところはマスキングをして開示をするということでもいいのかなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。池田委員からは、32ページの(注)の開示について、基本的には相手方にも開示するという方向で考え、一定の制限を加えるということでよいのではないかという御意見を頂いたと思います。 ○原田委員 私も今のところは、現在マスキングで開示しているところがあるので、そのような運用を後退させないということを御注意していただきたいというのが一つです。今までの議論を無駄だというつもりは全くないのですけれども、私も、例えばこの先取特権という話が出たときに、赤石委員が理解できないというお話をずっとされて、私もこの40年間、先取特権をやったのは2回ぐらいしかないのです。そういう意味で、この規定を作って本当に使えるのかという問題で言えば、手続的に、それに弁護士を頼んだら、今、養育費を決めても、例えば養育費3万円、5万円から10%報酬を頂く、3,000、5,000円報酬を頂くというのが法テラスのやり方なのです。法テラスを使ってもそうなのです。だから、更にこの執行を加えるということになったときに、費用を誰がどう負担するのかという問題や、今度一回的にやるという手続の話も次に出るとは思うのですけれども、当事者の方が本当に使える手続にするためにはどうするのかという議論がもう一つ要るのだろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点あって、1点目は池田委員の御指摘と同じということで、2点目は、先ほどから話題になっている先取特権について、実効性を確保するという観点が必要ではないかという御指摘だったかと思います。 ○赤石委員 ありがとうございます。赤石でございます。先ほど言い忘れたのですが、やはり一般先取特権というのは書式の必要事項みたいな、何ページでしたか、今見えなくなってしまいましたけれども、示されており、あの項目を抜けなく作ることもできる方は、半数以上の方たちはできるのかなと、21ページに項目が(注2)のところにありますよね、話し合ってできるのかなと思いつつ、やはりそれだけの話合いができなければ、やはり調停なりADRということなのでしょうか、ADRを推奨されているような雰囲気も感じるので、になるとして、どのくらいの方がこれで救われるのかというのは、私も本当に自信がないところではあります。とはいえ、もし定まれば、もちろん書式を示して皆さんにお伝えして、作れるようにサポートはしなければいけないと思っています。   原田委員がおっしゃったように、これでどの程度届くのか。養育費の取決めをしなければいけないという認知度は徐々に上がっていて、ひとり親の調査でもその数字が出てきているわけですから、それはあるとはいえ、では養育費の支払率を、例えば50%、60%に上げていく、骨太の方針に書かれているのですかね、ごめんなさい、あるかと思うのですけれども、そこにたどり着くのにこれでいいのでしょうかということは、やはりあると思います。   たまたま金曜日に明石市から、明石市こどもの養育費に関する条例が成立しましたという一報を頂きました。一基礎自治体がやれることを精一杯にやっておられるところで、棚村先生も委員をされていて、私も委員の端くれをさせていただいているのですけれども、やはり国がもう少し踏み込んだものは必要であるということは、ここの委員の皆さんも思いつつ、やはりできることはどうしたらいいのかと悩みつつおっしゃっているのだろうとは思いますが、改めて、もう少し進んだ議論があったらいいなとは思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。赤石委員からは、直前に原田委員がおっしゃった問題について、当事者間でできる場合もあるだろうし、できない場合もあるかもしれないということで、一定程度は効果があるかもしれないけれども、しかしこぼれてしまうところもある、更に進むということが考えられないだろうかという御意見を頂戴したと受け止めました。 ○畑委員 畑でございます。先ほど少し話題に出たことについて、発言し忘れておりましたが、32ページのプライバシー保護などの話です。こういう問題は確かにあると思うのですが、この種の問題というのは恐らくこの開示義務とか開示命令だけの話ではないような気がいたしますので、そういう一般的な問題として考える必要があるのではないかという、1点のみです。 ○大村部会長 ありがとうございました。先ほど話題になった32ページの(注2)のプライバシー保護の問題につき、一般論として考えるべき問題というのが含まれているのではないかという御指摘を頂きました。   ほかには御発言、いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。   それでは、第3と第4はこのぐらいにさせていただきたいと思いますが、今日御意見を伺ったところでは、第3の1については武田委員から、なお選択肢としてこれを残しておいていただきたいという御発言がありましたが、他方で他の方々は要件化をしないということで仕方がないのではないかという御感触だったと受け止めました。   それから、第3の2の先取特権の問題につきましては、おおむね賛成の御意見が多かったと理解をしております。ただ、範囲とか順位については更に考える必要があるし、また、範囲及び順位と密接に関わるわけですが、正当化の理由が何であるかということについても明らかにしていく必要があるといった御指摘があったと受け止めました。   それから、最後の第4についても、基本的な方向として、このように手続法上の対応をするということで、おおむね皆さんの意見は方向としては一致していたように思います。ただ、制裁の問題等々、考えなければならない問題はなおあるという御指摘がありました。以上のようなまとめで、今日は引き取らせていただきまして、御意見を基にして、要綱案に向けて更に事務当局の方で御検討を頂きたいと思います。   それで、本日の予定としては、もう一つ残っている第5を終えたいと思っていたのですけれども、残り時間の関係でもう無理かと思います。ここで休憩すると中途半端で、残り時間がなくなってしまいますので、大変恐縮ですが、続けさせていただきまして、「第5 財産分与制度に関する規律の見直し」に入らせていただきたいと思います。事務当局から部会資料24の第5について御説明を頂いて、時間の許す範囲で御意見を頂き、御発言がなお残るかと思いますので、それにつきましては次回に持ち越すということにさせていただきたいと思います。 ○赤石委員 パブリック・コメントのまとめを委員が見るというところで、少しお願い事項が幾つかあるのですけれども、それは最後の5分とか10分とか取っていただいて。 ○大村部会長 そうですね、第5についてしかるべきところで打ち切らせていただいて、今の赤石委員のお話を、と思っています。 ○赤石委員 お願いします。ありがとうございます。 ○大村部会長 それでは、第5につきまして、事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。部会資料24の第5では、財産分与制度に関する規律の見直しを取り上げております。中間試案では、財産分与の目的や考慮要素について、平成8年の法制審議会の答申と実質的に同様の規律を提示しておりました。パブリック・コメントの手続においては、様々な場面を念頭に置いて、中間試案に含まれていなかった点も御意見いただいたところであります。もっとも考慮要素として規律するためには、財産分与全般に妥当する一般性を備えているかという点を考慮する必要があるほか、考慮要素を多数書き込むことによって、かえって審理が長期化するといった懸念も考えられるところです。そこで、部会資料24では中間試案と同様の規律を提示しております。   また、財産分与請求権の期間制限の伸張に関しまして、中間試案においてはこれを3年とする案と5年とする案を提示しておりました。部会資料24では、財産分与の法的性質や債権一般の消滅時効のその期間とのバランス等を考慮して、これを5年とする案を提示しております。   さらに、財産に関する情報の開示義務に関する規律については、先ほど御議論いただいた収入に関する情報の開示義務と同様、手続法上の開示義務を定めるという考え方を提示しております。手続の種別や開示義務違反に対する制裁等については、先ほど御議論いただいた点、収入に関する情報の開示義務と同様の問題があると考えられますけれども、財産分与特有の問題があるということであれば、その点も御議論いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。第5については、1の考慮要素の問題と、2の期間の問題と、それから3の開示の問題とがありますけれども、取りあえず全体を含めて御意見を頂くということで、御発言のある方は挙手を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○原田委員 財産分与の要素のことで、パブリック・コメントの裁判所の方から出ているところで、扶養的要素を強調しすぎているのではないかというような趣旨の御意見が幾つか出ているように思うのですけれども、それはそうなのでしょうかというのが一つ。   それから、もう一つは、前々から補償的要素ということを入れてほしいという話をしていましたが、例えば、財産の公平を図るためとか、職業及び収入その他一切の事情を考慮しというような要素の中で、それは考えられるのではないかというまとめになるのでしょうか。 ○大村部会長 いずれも御質問ということですね。 ○原田委員 そうです、はい。 ○北村幹事 1点目の御質問については、裁判所から出された御意見に対しての御質問ということでよかったですか。 ○原田委員 そうです。だから、ここでは扶養的要素が強調されすぎているのではないかという趣旨の御意見のように伺えたのですが。 ○向井幹事 最高裁家庭局の向井でございます。1点目の御質問の関係については、現状、他の弁護士の先生方も御認識のとおり、財産分与については清算的要素を中心に考慮しておりまして、扶養的要素については、言わば補充的に考慮しているというのが恐らく一般的な実務運用かと思います。そういった観点からすると、今回の中間試案の記載ぶりというのは、並列に書いてありますので、今の実務運用からすると、少し強調しているように見えるのではないかと、そういう意見なのかなと考えております。   裁判所としましては、別に今の実務運用のとおりにせよというところまで申し上げるつもりはないのですけれども、清算的要素と扶養的要素がどういった関係にあるのか、それぞれの位置付け、どちらが中心的なもので補充的なものなのかといったことですとか、並列なのかということですとか、そういったものについてどう考えるべきなのかというところについては、この部会で理論的なところも含めて整理して御検討いただきたいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○原田委員 なので、どういう趣旨の御提案になるのでしょうかと聞いてみたのです。 ○大村部会長 どういう趣旨の御提案になるのでしょうかというのは、事務当局に対する御質問ということですか。 ○原田委員 はい。 ○北村幹事 今の御質問についてですけれども、従前からこの部会で様々御議論いただいていたところではありますけれども、補償的要素等も含めた形で、個別具体的な事情に応じて、様々な事情を考慮し得るような形での考慮要素を定める、そこがその他一切の事情という中で入っている、それは水野委員からも従前の御議論というのを繰り返し御説明いただいていたところではありますけれども、それらを踏まえて、ここにはいろいろ入り得るという形で整理をさせていただいているという理解でございます。 ○大村部会長 原田委員、よろしいですか。 ○原田委員 いや、これを読んで裁判所が感じられたことが、そうなのでしょうかという質問なのですけれども。逆に言えば、扶養的要素が補充的要素だから、もう少し検討してほしいということなのか、分かりませんが、扶養的要素が今の実務よりは強調されているように読めるとおっしゃっているようなので、そういう趣旨で提案されているのでしょうかということを聞いたのです。   これは、10年か15年前か分かりませんが、そのときの提案どおりだとは伺っているのですが、そのときの議論ではどうだったのでしょうか。質問を変えますと。 ○水野委員 水野でございます。そのときの議論に参加していたメンバーの生き残りでございます。当時、本当にいろいろな議論をしました。清算的要素自体、実務の中で出てきたもので、戦後に立法されてきた当初は本当に手切れ金感覚だったようです。それを実務が夫婦財産制の清算という内容に確立していった、そのこと自体に対する評価は皆、あったのです。でも、やはりそれでは足りないのではないか、離婚した途端に、毎月100万円の収入のある男性と、家事育児の負担で常勤職についておらずパートでせいぜい10万円という女性とが、全くその要素が反映されず、現存財産の半分だけというのは、これはやはり不公平なのではないかという議論がございました。   そして、当然、比較法もしたのですが、西欧法は離婚後も扶養義務が続くのが原型で、英米法はアリモニーが続いておりました。フランスは、離婚法改正までは離婚後もずっと永続的に夫婦間の扶養義務は継続するという規定だったのですけれども、離婚後も扶養義務が続くのはおかしいと一時金にしたのですが、その補償給付は非常に高額なものです。日本法の財産分与にあたる給付は、夫婦財産制の清算でとれてしまって、補償給付は、それ以外の離婚給付です。当時の昔の数字ですけれども、補償給付は非常に巨額で、離婚した男性の約8割は全財産を渡して、その上に借金を背負ってということになるという、そんな数字なども紹介されたのですけれども、やはり日本でそれは無理だという判断でした。補償給付の背景には婚姻は生涯の絆だという国の離婚後扶養があったのであって、それは日本では無理でしょうということは、皆さんが了解していました。   ただ、やはり清算の要素だけだと夫婦財産制の清算だけであって、事実上、離婚給付はないということになるので、それはよくないから、やはりここに何かを足していきたいと、そういう意味では、従来の実務に対して変えようという意思はあったと思います。それははっきりしていましたけれども、それではその扶養的要素を、例えばフランスの補償給付のようにしようという議論は、これは無理だということも共有されていましたが、どの程度認めるかは、意見に幅がありました。結局、いろいろな議論をした結果、これくらいの条文の書きぶりでまとまって、プラスアルファは付けるけれども、実務の進展を見守ろうということで落ち着き、これは、相当いろいろ議論をして考えた挙げ句の条文でありました。   現在の清算的要素中心という財産分与に対して、プラスアルファを付けますというのはかなりはっきりしていたと思いますが、それをどこまで書き込むかについては、日本独自の展開を見ようということで、この条文になりました。相当議論をした結果、こういう書きぶりになったものですので、今ここで議論し直して新たなものにするのは、もちろんこの部会に委ねられていることなのですけれども、それは結構難しいだろうという気がしております。というのが、すみませんが、条文を作った部会の生き残りの感想でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。前のときは、やはりこどもの養育を確保するとかということに関連して、配偶者と未成年の子の居住環境みたいなことを考慮事項として是非入れてほしいというようなことをお伝えしました。ただ、その議論の中でも、今、水野先生からもお話があったように、ある意味ではそのほか一切の事情ということでブランケット条項みたいなものを付けてはいるのですが、ただ、今の条文よりはかなり考慮要素とか考慮事項みたいなものを明確に挙げていただいているので、このくらいの条文は是非作ってもらいたいと思っております。ただ、かなり細かいもの、例えば経済的な不均衡の解消とか、稼働能力とか、いろいろなものを挙げれば挙げるほど、多分、今の実務で考慮すべき事項とか事情というのは一定程度挙げられているとは思うのですが、また先に変化が出てきて社会情勢が変わってくると、大村部会長がおっしゃったように、どこまで詳しく書き込むべきなのかという議論になってしまって、逆に、財産分与の争いというのが一層長期化したり非常に複雑化してくるのではないかという点も危惧されます。また、事件ごとにさまざまな状況があって、考慮事項が増えることによって明確になって裁判所の裁量の範囲が一定程度狭まるというメリットもあるのですが、他方でやはり争いがかなり熾烈になってきて、ある意味では問題の解決というものに今度は時間が掛かってくるというデメリットも出る可能性があります。そこで、私もこどもの福祉とかこどもの利益を守るとかということで是非海外並みに入れてもらいたいと思ったのですが、水野委員がおっしゃったようなお話を聞いていると、これくらい挙げていただいた上で、そのほか一切の事情というブランケット条項を入れることで個別の具体的な状況を勘案しながら、今後の解釈や運用に委ねていくという形で、今回の提案について賛成したいと思っている次第です。   少し長くなりましたけれども、個別の事情を一つ一つ挙げていくことによって、ある程度明確化できるというメリットと、それから、細かい考慮要素が入ることで争いが生じてしまい、ある意味では時間が掛かったり、いろいろなことが起こるのではないかという心配もございます。社会や状況の変化に応じてある程度柔軟にやっていくためには、ブランケットの条項というのがやはり必要なのかなということで、事務局の提案に賛成したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。個人的な御希望とは別に、提案としてはこの案でよろしいのではないかという御意見として承りました。 ○武田委員 親子ネット、武田でございます。ちょうど水野先生が当時の議論の金額水準のお話をしていただきましたので、弊会として、実は水野先生の昔の発言が非常に私どもの中で問題視されまして、やはりこの扶養的要素に関しては賛成できないという意見が多数でございました。これは水野先生から少し今、触れていただいたので、事務当局に、この解釈なのかという観点で御質問をさせていただきたいと思います。   水野先生が2003年に、対談記事がございます。離婚訴訟、離婚に関する法的基盤の現状と問題点、離婚訴訟の家裁移管に控えてという部分でございます。私ども当事者が懸念していた具体的な金額に関してということで説明がなされています。先ほど水野先生からもお話があったように、離婚時には収入がある方の配偶者は全財産を収入のない方の配偶者に支払うべき、だけでなく、それでも足りず、更に借金してでも追加で金員を支払うのが扶養的財産分与の目指すところであると、このような説明がありました。具体的な例としまして、婚姻期間が15年程度、年収700万円から900万円のサラリーマンであれば、養育費とは別に、離婚時には借金をして3,000万円から5,000万円を相手に支払うような制度であるというような説明がありました。水野先生に関しましては、この部会での議論でも賛同する部分も非常に多く、リスペクトも申し上げておるのですが、さすがにこの金額水準の考え方に関しては賛同しかねるという部分もございますし、こういう前提だとさすがに国民の理解も得られないだろうと、そんなふうに感じたというのが私どもの率直な意見でございます。   ただ、今般、部会資料24、中間試案から引き続きということになるかと思いますが、こういった扶養的財産分与が、今私がお話ししたようなのと同様の金額水準、考えているものとイコールなのかということも定かでありませんので、この場で事務当局から補足の御説明を頂きたいと思います。よろしいでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。武田委員からは、現在の提案によると実際にどういう額になるのかというようなことについて、事務当局の方で何かお考えがあるのかということだったかと思いますけれども。 ○北村幹事 先ほど水野委員から平成8年の議論の状況については御説明いただいたとおりですけれども、財産分与として様々な考慮要素を考慮できるようにしようという形でこの提案をさせていただいているというものでして、直ちに、今御説明があったように、分ける財産がない中で借金をして多額の金銭を渡すということまでがその当時合意されていたというものではないと理解しておりますので、そういう前提での資料ということになろうかと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○武田委員 はい、ありがとうございました。 ○落合委員 ありがとうございます。京大の落合です。私からも、少し似た感じの質問だったのですけれども、それで幾らになるのですかという質問です。家事や育児をした無償労働の価値はどのぐらい測られているのですかというのが一つで、もう一つは、仕事を辞めて専業主婦になったことで生涯の収入を失いますよね、何千万円となるということはほかの省庁の試算でも出ているわけですけれども、それの補償というのは一体幾ら、今は大体、普通補償されているのですかという、その2点を伺いたいのですが。 ○大村部会長 今の落合委員の御質問は、現在どうなっているのかということについての御質問ですか。 ○落合委員 はい、もちろん人によると思うのですけれども、ざくっとですね。 ○大村部会長 現状について事務当局で、こういうことでこう計算されていますということは、少し言いにくいのではないかと思いますけれども、北村幹事、何かありましたら。 ○北村幹事 現状の実務においては、先ほども申し上げましたように、様々な観点を考慮してされているものと承知しております。そして、今回の部会資料の提案に関しては、32ページの第5の1について、後半の部分ですけれども、様々な事情を考慮してその分与の額及び方法を定めるものとするの後に、当事者双方は、その協力により財産を取得し又は維持するについての各当事者の寄与の程度は、その異なることが明らかでないときは相等しいものとするとさせていただいております。それは従前の実務も踏まえつつということになろうかと思っておりまして、当然、夫婦として、専業主婦であっても、その財産の寄与の程度、財産を増やすことについての寄与があったという理解の下、実務上の運用もされている、それがはっきり分からないときは、寄与の程度は相等しいとさせていただいているというところなのかなと、それを踏まえつつ、この提案になっています。ただ、それがこの場合は幾ら、この場合は幾らと明確に、何か基準があってやっているわけではない、個別の事情に応じてされていると承知しております。 ○落合委員 仕事を辞めたことによる逸失利益というか、それはどのぐらいですか。ゼロですか。時々議論に出ていましたよね、だから幾らぐらいになっているのかなと思ったのです。ゼロなのですか。それであれば、ここに書いてある、今は女性も社会進出する時代だから扶養的要素は現状に合わないという、34ページの@というのは、これこそ現実に合いませんよね。一回仕事を辞めたら、その後で就ける仕事は全く変わってしまうのですから。とにかく、34ページの(2)@は全く現実を見ていないということを言っておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。扶養的要素、あるいは補償的要素、これはニュアンスの差があって、カバーしているものに違いがあるのだろうと思いますけれども、これについてどう考えるのかという点は、パブリック・コメントもそうかもしれませんが、この部会の中でも様々な御意見があるところなのではないかと思います。事務当局の方からは、ここに挙がっているような要素を考慮して、それぞれのケースで決めるのだとしかお答えしにくいところがあるのだろうと思いますけれども、ここで示されているような考え方を間接的に背景にしながら、これまでの家裁実務が形成されてきたのではないかと私は認識しております。今回の提案によって何か大きな変更をするということではなくて、現在までやってきたことをまずは確認する、そういう趣旨でこれを置こうということなのではないかと理解しています。水野委員、どうぞ。 ○水野委員 水野でございます。ケア労働にそれなりの経済的価値を認めることは、現在の清算的要素の中でも活かされているのだと思うのです。でも、今、落合委員が言われましたように、社会にある不平等の要素、一度ケア労働で常勤職を辞めてしまうと、大きなマイナスを負うという問題があります。このマイナスについても、潜在的稼働能力の喪失として清算的要素に入れるのだという学説の議論は一部にあったと思いますけれども、実務はそれは入れてこなかったと私は理解しています。そして、基本的にケア労働の従事のみならず、社会にある雇用関係における男女の不平等の要素などについても、これをもう少し補えるようなものを、つまり現存財産の2分の1というものではなく、先ほど申しましたように、著しく当事者の収入に違いがあるときに、ケア労働を負ったがゆえに、あるいは社会による差別によって稼得能力が下がってしまったものに、もう少したくさんのものをという趣旨だったと思います。   先ほど昔の座談会で私が挙げた数字を出してくださいましたけれども、それは私の意見を語ったので、私は法制審議会の中でも手厚い財産分与をと言う意見でしたが、それは法制審議会のコンセンサスには到底なり得ない数字だったと思います。けれども、実務をそのまま肯定するというよりは、ケア労働とか、あるいは社会にある男女不平等な労働慣行などを根拠に、それらを考慮に入れて、現在の、二人で築き上げた現存財産の2分の1という実務よりは、離婚後の収入に大きく差があるときに、もう少し収入が少ない方にたくさん取らせようという配慮は、全体の多くの意見としてあったと思います。   そのときに、その他の要素についてもいくらか議論は致しました。たとえば、外に出てきちんと働けば働けるのに、ずっと働かないで配偶者の収入にぶら下がっていた者に取らせるか、具体的には特に妻の収入に依存して遊んでいた夫というような場合について、フランス法にあるような例外規定を置くかどうか、みたいな議論は少ししたと思いますけれども、それは一切の事情の中で考慮できるというやり取りだったように記憶しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。最初に原田委員がおっしゃったことと関わるのかもしれませんが、今回これが提案されているということをどのように位置付けるのか、どのように意味付けるのかということについて、もう少し意見の擦り合わせが必要なのかと、思って伺っておりました。   それで、久保野幹事から手が挙がっていますが、すみません、時間になりましたので、久保野幹事の御発言は次回に持ち越しということにさせていただきたいと思います。次回発言したいという方がいらっしゃったら、今のうちに手を挙げていただいて、あとどのくらいの御発言の希望があるかというのを確認させていただきたいと思います。   それでは、今手を挙げられた方々については、すみませんが、次回に持ち越しということで御発言を頂きたいと思います。   この件については中途半端で申し訳ないのですが、次回に送らせていただくということにいたしまして、先ほど赤石委員から、最後にということで御発言がありましたので、それを伺って今日の審議を終えたいと思います。赤石委員、お願いします。 ○赤石委員 赤石です。ありがとうございます。パブリック・コメントのまとめがかなり直前に送られてきて、そちらも大部だったのですけれども、本当におまとめに大変だったろうなと思っておりますが、少しやはり、一つの個人なり団体が、団体の方は今日もあれなのですけれども、どのように発言しているのかとか、このまとめ方でずっと行かれるという方針でいらっしゃるのだろうと推測するのですけれども、であれば、それを閲覧する時間というのをもう少し長く設けていただいたりですとか、そういうことができるのかどうか。これはもう勝手な意見ですけれども、本当にこままで皆さんが過労死しないようにして、かつ私たちにきちんとした情報提供を頂けると有り難く思います。閲覧期間についてはいかがでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。では、その点につきまして。 ○北村幹事 しっかりと我々としてもまとめられるように準備させていただいて、皆さんの御議論に資するようにしたいと思っています。そして、閲覧の関係につきましては、どういう形で見ていただくのがよいか少し中でも検討させていただきたいとは思いますけれども、また御希望等をお伺いしながら、少し考えたいと思います。別途そこは御相談、御連絡の方をさせていただいて進めたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。大部なもので、整理の方も大変だと思いますけれども、皆様の方も中を見たい、しかも会議の前に見るというのでは十分に見られないということもあろうかと思いますので、この後どういう形で皆さんに御覧いただくのかということにつきましては、事務当局の方で少し検討して、また御相談はさせていただくということにさせていただければと思います。いつまでにといった具体的な期日はこの場ではなかなか出せないと思いますが、御要望を承って検討するということで、赤石委員、よろしいですか。 ○赤石委員 はい。まとめ方はこのスタイルで、エクセル表形式とかいうのはかなり難しいということですか。 ○北村幹事 飽くまでも部会での御議論に資させていただくつもりでまとめさせていただいています。そのまとめ方については十分配意したいと思いますが、エクセル表で出すことがよいのかどうかも含めて検討させていただきます。 ○赤石委員 いろいろ工夫されていらっしゃるのかなと思いますが。はい、分かりました。 ○大村部会長 ありがとうございました。それでは、パブコメの原資料につきましては、そのようなことで対応をしていただきたいと思います。   では、今日の審議はここまでということにさせていただきまして、次回のスケジュール等について事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○北村幹事 次回の会議は、令和5年4月18日火曜日午後1時30分から午後5時30分までで開催したいと思います。場所は改めて御連絡いたします。   次回会議で取り扱う具体的な論点項目につきましては、今回、財産分与の部分が御発言ある方が多数いらっしゃいましたので、そちらから進めさせていただくとして、それ以外の部分については、まず事務当局において検討させていただき、部会長とも御相談させていただいて、改めてお知らせしたいと思います。 ○赤石委員 今後の、すごく飛び飛びで議論が進んでいるのですが、中間試案の取りまとめとは違う順番で来ているわけなのですけれども、それについての方針なり何か、今日、最初の第2のところがあって、確かにつながっている部分はあったように思いますが、どのように進むのかが全然予見ができないというのもなかなかつらいところもあるので、少し御方針があれば、教えていただければと思います。 ○北村幹事 すみません、その点につきましても、パブコメの整理をしながら、御議論いただきやすいように準備させていただいています。具体的にまだ、これをこうやっていくというところまで、あるわけではありませんけれども、できるだけ分かりやすい形で資料を準備したいと思いますので、よろしくお願いします。 ○大村部会長 おっしゃるように、この後のスケジュールがどうなるのかを気にされている委員、幹事の方もいらっしゃると思いますが、なかなかパブコメの中身の整理というのも、傍で見ていて大変なところがございます。中を見ながらでないと、どういう形で議論をするかということも定まらないというところもありますので、事務当局には大変御苦労ですけれども、先の予定が示せるのであれば、できるだけ示していただくということをお願いさせていただきたいと思いますが、それでよろしいでしょうか。 ○赤石委員 皆さんを苦しめるのは本意ではないので、なるべくということで、よろしくお願いします。 ○大村部会長 分かりました。では、そのようにお願いをしたいと思います。   ほかはよろしいでしょうか。   それでは、法制審議会家族法制部会の第24回会議をこれで閉会させていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。閉会いたします。 −了−