改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第7回) 第1 日 時  令和5年7月6日(木)       自 午前 9時57分                           至 午前11時49分 第2 場 所  法務省共用会議室6・7 第3 議 題  公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況等         通信傍受の合理化・効率化の施行状況         裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化の施行状況         弁護人による援助の充実化の施行状況 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○栗木参事官 ただ今から改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会の第7回会議を開催します。本日は、皆様御多用中のところ御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日の会議から、小林構成員の後任として、足立構成員に御出席いただいています。足立構成員から、簡単で結構ですので、自己紹介をお願いします。 ○足立構成員 読売新聞論説委員の足立と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○栗木参事官 ありがとうございました。   次に、事務当局から、本日の配布資料について確認をさせていただきます。   本日は、配布資料22から28までのほか、第1回会議でお配りした配布資料3を改めてお配りしています。それらのうち、配布資料22は、供述の任意性・信用性が争われた事件における裁判所の判断状況に関するもの、配布資料23は、通信傍受の実施状況に関するもの、配布資料24は、裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化に関するもの、配布資料25及び26は、弁護人による援助の充実化に関するもの、配布資料27及び28は、証拠開示制度の拡充に関するもので、いずれも事務当局において作成したものです。   また、配布資料3は、平成28年の刑事訴訟法等の一部を改正する法律の概要に関する資料であり、本日、裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化、弁護人による援助の充実化及び証拠開示制度の拡充について御説明する際に御参照いただくものとして、改めてお配りしています。   横山構成員御提出の資料1「通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の勾留期間(地裁)(令和3年)」及び資料2「通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期(地裁)(令和3年)」は、最高裁判所において作成されたもので、裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化に関する資料です。   河津構成員御提出の「被疑者国選弁護の対応態勢について」及び「法テラス白書令和3年度版」の87ページから88ページまでの抜粋は、弁護人による援助の充実化に関する資料です。   各配布資料の内容については、後ほど、それぞれの点について御協議いただく際に御説明することとします。   次に、本日の議事に入る前に、第5回会議においてお配りした証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の実施状況に関する配布資料16について、事務当局からの補足の説明をさせていただきます。   第5回会議においては、合意制度の利用が明らかにされた判決等をまとめた資料として配布資料16をお配りし、2件の事件の判決等において明らかにされた合意の概要について御説明しました。この点に関して、若干補足して御説明すると、第5回会議において成瀬構成員から、配布資料16記載の2件のほか、1件の不正競争防止法違反事件においても合意制度が利用されたことは周知の事実である旨の御発言もあったとおり、配布資料16記載の2件のほか、1件の事件についても一部の被告人に対する判決の量刑の理由において、合意制度の利用があった旨の記載があることは、事務当局においても承知しているところです。もっとも、配布資料16は、事務当局において、平成28年改正法の施行状況をはじめとする実務の運用状況を共有しながら、意見交換を行い、制度運用における検討すべき課題を整理するという本協議会の目的に資するものとして作成したものであり、先ほど申し上げた判決には、合意内容の概要等の情報が記載されておらず、そうした本協議会の目的に資するものとは言い難いことから、この判決については、配布資料16には記載していないものです。   次に、前回会議において、配布資料に関して、構成員の方から御質問、御要望があった点についてお答えします。   まず、刑事免責制度の実施状況についての配布資料19に関して、成瀬構成員から、各事例において共犯者とされている者について、その者自身も起訴されているのかとの御質問がありました。この点に関して、事務当局において判決書の内容から確認できた範囲でお答えすると、配布資料19記載の事例のうち、番号3、5、6、10については、判決上認められる証人の立場欄に共犯者と記載されている者に対する判決が確定しており、その判決において、配布資料19記載の各事例で、共犯者と共謀の上行われたと認定された犯罪事実と同様の事実が認定されていることが確認できました。すなわち、番号3、5、6、10については、共犯者とされている者自身も起訴されていることが確認できたものです。   次に、通信傍受の合理化・効率化の実施状況についての配布資料21に関して、河津構成員から、通信傍受法第30条第2項に規定される通信の当事者に対する通知の実施状況に関する件数、同法第31条に基づく通信の当事者による傍受記録の聴取・閲覧等の実施件数、同法第32条第1項に基づく通信の当事者による傍受の原記録の聴取・閲覧等の許可の請求件数、同法第33条第1項に規定される不服申立ての件数について、それぞれ明らかにされたいとの御要望がありました。これらのうち、一点目と二点目に関しては、事務当局として、そうした件数を把握していませんが、三点目と四点目に関しては、最高裁判所で件数を把握されているとのことですので、横山構成員から御説明していただくこととしたいと思います。   横山構成員、よろしくお願いします。 ○横山構成員 まず、いわゆる通信傍受法第32条第1項による傍受の原記録の聴取等の許可の請求件数ですが、報告を受けていた令和元年6月1日から令和4年3月31日までの間、0件となっています。また、通信傍受法第33条による不服申立ての件数については、同じ期間で21件となっており、いずれも捜査機関側からの申立てになっています。   最高裁判所が把握している件数については、以上です。 ○栗木参事官 ありがとうございました。前回会議における御質問、御要望に関する御回答は以上です。 ○成瀬構成員 配布資料19の各事例において、免責決定を付与された証人自身が起訴されているかどうかに関する追加の情報を提供して下さり、ありがとうございました。ただ、前回の会議においては、私の方から、免責決定を付与された証人の捜査段階の供述調書が必要とされる事態に陥る事例はあったかという質問もさせていただき、また、佐藤構成員から、免責決定を付与された証人の証言の信用性について、裁判所はどのような判断をしているのかという御質問もなされました。これらの点については、追加の調査をされましたでしょうか。 ○栗木参事官 今回、判決で明らかになっている範囲で御要望に対してお答えしたところであり、御指摘の点については、前回も申し上げたところですが、免責決定を付与された証人が供述を拒否するなどしたということが判決からは明らかになっておりませんでした。事務当局としては、判決から明らかになった範囲で、共犯者の方の起訴の状況についてお答えしたというところで、御理解いただければと思います。 ○成瀬構成員 判決からは分からないということで、一応、了解しました。ただ、免責決定を付与された証人が十分に証言したかという点や、免責決定を付与された証人の証言の信用性判断が合意制度の下での協力者の供述の信用性判断とどのように異なるかという点は、今後の検討の視点として重要であると思いますので、二巡目の議論において、さらに突っ込んで意見交換をさせていただければ幸いです。 ○栗木参事官 それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、まず公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況について、配布資料22に基づく協議を行い、次に、通信傍受の合理化・効率化の施行状況について、配布資料23に基づく協議を行い、次に、裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化の施行状況について、配布資料24及び横山構成員御提出の資料に基づく協議を行い、引き続いて、弁護人による援助の充実化の施行状況について、配布資料25及び26、並びに河津構成員御提出の資料に基づく協議を行った後、証拠開示制度の拡充の施行状況について、配布資料27及び28に基づく協議を行うこととしたいと思います。   それらの協議に当たっては、それぞれ事務当局又は横山構成員若しくは河津構成員から、関係する配布資料の説明を行った上で、その内容についての質疑応答、意見交換を行うこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは、公判段階における取調べの録音・録画記録媒体による立証状況についての協議を行いたいと思います。   まず、事務当局からこのテーマに関係する配布資料22の内容について御説明します。配布資料22は、供述の任意性・信用性が争われた事件における裁判所の判断状況を整理したものです。この点については、第6回会議で配布した配布資料18の2枚目でお示ししていましたが、配布資料22では、配布資料18の2枚目の表に新たに、「供述の任意性又は信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされた事件数」として〔B〕欄を、「供述の任意性又は信用性の立証のために取調官の証人尋問請求がなされた事件数」として〔C〕欄を、それぞれ追加しており、追加した部分を緑色に着色しています。   このうち、〔B〕欄に記載された「供述の任意性又は信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求がなされた事件数」は、平成26年10月から12月までが6件、平成27年が20件、平成28年が18件、平成29年が21件、平成30年が18件、令和元年が21件でした。また、〔C〕欄に記載された「供述の任意性又は信用性の立証のために取調官の証人尋問請求がなされた事件数」は、平成26年10月から12月までが10件、平成27年が55件、平成28年が34件、平成29年が38件、平成30年が21件、令和元年が25件でした。   なお、表の下の「※3・4」に記載したとおり、〔B〕欄と〔C〕欄の事件数の合計が必ずしも〔A〕欄の全体「事件数」と一致しないのは、供述の任意性・信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求及び取調官の証人尋問請求の両方がなされた事件については、〔B〕欄及び〔C〕欄のそれぞれに計上していること、供述の任意性・信用性の立証のために録音・録画記録媒体の証拠調べ請求及び取調官の証人尋問請求のいずれもなされていない事件も存在することを理由とするものです。   また、今回新たに追加した部分ではございませんが、「供述の任意性が争われた事件」数と、「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件」数の合計が〔A〕欄の全体「事件数」と一致しないのは、供述の任意性が争われたと同時に取調べの違法・不当を理由として供述の信用性も争われた事件については、「供述の任意性が争われた事件」及び「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件」のそれぞれに計上していることを理由とするものです。   配布資料22の御説明は以上です。ただ今の説明に関して、御質問はありますでしょうか。   それでは、次に、通信傍受の合理化・効率化の施行状況について協議を行いたいと思います。   まず、事務当局からこのテーマに関係する配布資料23の内容について御説明します。配布資料23は、平成27年から令和4年までの通信傍受の実施状況をまとめたものです。通信傍受の実施状況については、前回会議でお配りした配布資料21において、通信傍受法が施行された平成12年以降の年間実施事件数、事件の種別、傍受令状の請求件数及び発付件数、逮捕人員数をお示ししましたが、配布資料23では、より詳細に、通信傍受法第36条により義務付けられている通信傍受の実施状況等の国会への報告内容に基づき、通信傍受の対象犯罪拡大に係る改正の施行前年である平成27年から、令和4年までの通信傍受の実施状況等の内容を各別表として添付しています。   具体的には、別表1-1、別表2-1などの枝番号の1が付いている表では、各年ごとに、実施事件別の傍受令状の請求件数及び発付件数、通信手段の種類、実施期間、実施期間内における通話回数、逮捕人員数等を記載しています。また、別表1-2、別表2-2などの枝番号の2が付いている表では、各年ごとに、その年以前に通信傍受を実施した事件に関して、新たに逮捕した人員数等を記載しています。   なお、別表1-1、2-1、3-1、4-1においては、「第22条第2項」、「第1号」、「第3号」と記載している欄がありますが、これらは、刑事訴訟法等の一部を改正する法律による通信傍受の手続の合理化・効率化に関する改正前の通信傍受法の条文番号です。改正前の通信傍受法第22条は、現行の通信傍受法第29条に相当する規定です。改正前の通信傍受法第22条第2項は、傍受をした通信の内容を刑事手続において使用するための記録を作成するに当たっては、同項各号に掲げる通信以外の通信の記録を消去することを定めていました。このうち、同項第1号は、傍受すべき通信に該当する通信、同項第3号は、改正前の通信傍受法第14条の規定により傍受をした通信、すなわち、傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の一定の犯罪の実行を内容とする通信等です。「第1号」欄及び「第3号」欄には、それぞれの通信に該当するものの回数が記載されています。   これに対して、別表5-1以降においては、これらの欄に代わり、「第29条第3項」、「第1号」、「第3号」、「第29条第4項」、「第1号」、「第3号」といった現行法の条文番号が記載された欄が設けられています。現行の通信傍受法第29条第3項第1号及び第3号の内容は、ただ今御説明した改正前の通信傍受法第22条第2項第1号及び第3号の内容とおおむね同じです。一方、現行の通信傍受法第29条第4項は、通信傍受の手続の合理化・効率化に関する改正によって導入された、一時的保存を命じて行う通信傍受や特定電子計算機を用いる通信傍受を実施した場合における、再生をした通信の内容を刑事手続において使用するための記録の作成に関する規定です。同項第1号は、傍受すべき通信に該当する通信、同項第3号は、現行の通信傍受法第15条に規定する通信、すなわち傍受令状に被疑事実として記載されている犯罪以外の一定の犯罪の実行を内容とする通信等を規定しています。   また、別表5-1以降においては、傍受の実施方法に関するものとして、「第20条第1項等の傍受の実施」欄が追加されています。同欄に記載されている「㋐」から「㋒」までの記号については、例えば、別表5-1の「(注3)」に記載されているとおり、「㋐」は、現行の通信傍受法第20条第1項の規定による通信傍受、すなわち一時的保存を命じて行う通信傍受を実施したとき、「㋑」は、現行の通信傍受法第23条第1項第1号の規定による通信傍受、すなわち特定電子計算機を用いる通信傍受のうち受信と同時に復号して傍受を行うものを実施したとき、「㋒」は、現行の通信傍受法第23条第1項第2号の規定による通信傍受、すなわち特定電子計算機を用いる通信傍受のうち、受信と同時に一時的保存をし、その後復号して傍受を行うものを実施したときを、それぞれ意味しています。   配布資料23の御説明は以上です。ただ今の御説明について御質問等はありますか。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明いただき、ありがとうございました。配布資料23に基づいて、松田構成員に質問をさせていただきたいと思います。   各事件における通信傍受の実施期間を見ますと、長期間に及んでいる事件が複数見受けられます。例えば、別表7-1、これは令和3年中に実施された通信傍受についてまとめたものですが、その1枚目の一番下にある事件番号3の「大麻取締法違反事件」を見ますと、ここでは、30日間の傍受が5回繰り返されています。   通信傍受法第5条第1項によれば、裁判官は傍受令状を発付する際、傍受ができる期間として10日以内の期間を定めるとされており、同法第7条第1項により、裁判官が捜査機関の請求に基づいて傍受ができる期間を延長したとしても、その期間は通じて30日を超えることはできないとされています。   そうすると、事件番号3の「大麻取締法違反事件」では、一つの傍受令状で傍受ができる期間を法定の最長期間である30日間まで延長した上で、同様の傍受令状発付手続及び傍受ができる期間の延長手続を5回繰り返したということになります。   そこで、松田構成員に質問させていただきたいのですが、このように長期間にわたる通信傍受が行われる背景事情を可能な範囲で教えていただけますでしょうか。 ○松田構成員 御質問ありがとうございます。その前に、この表の見方ですが、この事件でいいますと、五つの電話回線についてそれぞれ30日間の通信傍受を実施したということであり、一つの電話回線について繰り返し30日間の通信傍受を実施したものではないということを御理解いただきたいと思います。その上で、30日間という期間、通信傍受を実施する理由ですが、ある通話が犯罪関連通信であったとしても、その内容は本当に様々でありまして、この事件については引き続き傍受を継続することが必要な内容であったということだろうと思います。傍受すべき通信に該当するものがあったとしても、その内容は様々ですので、引き続き傍受を実施する必要があったということから、30日間にわたって通信を傍受したということだろうと思います。 ○成瀬構成員 御説明いただき、ありがとうございました。そうすると、同一の電話回線について30日を超える傍受を行うために再度傍受令状を取得した事例はないということでしょうか。 ○松田構成員 今の時点では把握をしていませんが、基本的にはないと思います。 ○成瀬構成員 一つの電話回線については、法定の最長期間である30日を厳守していることがよく理解できました。ただ、先ほども申し上げたように、通信傍受法は、傍受ができる期間をまず10日以内で定めた上で、それを最長で30日まで延長できる仕組みになっているところ、捜査実務においては、法定の最長期間に至るまで粘り強く傍受している事例が複数見受けられるということですね。   前回の会議において、令和元年6月に施行された通信傍受手続の合理化・効率化により、通信傍受の実施事件数が約2倍になったことを指摘させていただきましたが、今回、配布資料23によって明らかになったように、一つの事件における通信傍受が複数の電話回線に対して長期間にわたって実施されていること、言い換えれば、一つの事件における通信傍受が相当な規模であることを踏まえると、実施事件数が約2倍になったことはそれなりに大きな変化であると評価することも可能であるように思われます。   それから、平成28年通信傍受法改正と直接の関わりはありませんが、配布資料23のそれぞれの別表において、各条文の「第3号」という欄に記載されている数字は、先ほど事務当局から御説明がありましたとおり、通信傍受法第15条ないし第21条第5項に基づいて、他の犯罪の実行を内容とする通信の傍受ないし再生が行われたことを示しており、各条文の「第1号」に記載されている犯罪関連通信と比べれば、その数は圧倒的に少ないものの、実績自体は存在すると分かり、参考になりました。 ○足立構成員 松田構成員にお尋ねしたいのですけれども、今回、警察庁の発表でもふだんからそうなのですけれども、大体、通信手段の種類としては携帯電話として、事件数とその罪名について、今回のようにプレスリリースをしていただいているわけですけれども、この携帯電話の中でも、電話通話の内容なのかメールなのかFAXなのか、FAXはないと思いますけれども、どのような種別というか、傍受の種別があるのかを教えていただけますでしょうか。 ○栗木参事官 配布資料の内容にも関連するので、まず、事務当局からできる範囲で御説明させていただきます。   配布資料23の各別表に、「通信手段の種類」として記載のある「携帯電話」とは、携帯電話事業者による音声通話サービスを意味するものですので、例えば、SNSの音声通話サービスは含まれません。もちろん、通信傍受の対象となる通信については、「電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が有線であるもの又はその伝送路に交換設備があるもの」と通信傍受法第2条第1項で定義されており、SNSの音声通話サービスについてもこの要件に該当するものは通信傍受の対象となり得ますが、配布資料23に記載されている「通信手段の種類」の「携帯電話」の意義は、今申し上げたとおりですので、SNSの音声通話サービスは含まれないということになります。 ○足立構成員 そうしますと、これは携帯電話事業者による音声通話のみということで承知したのですけれども、これとは別に、電子メールだったりとかSNSによるやり取りだったりとか、そういった統計がまた別途あるということなのですか、傍受についての。 ○栗木参事官 携帯電話事業者による音声通話サービスを利用した通話以外を対象とした通信傍受を実施したという実績はありません。国会報告に基づいて作成された配布資料23に記載されている「携帯電話」によるもののみということになります。 ○足立構成員 国会報告以外ではあるかもしれないということなのですか。 ○栗木参事官 通信傍受の実施状況については、法律で国会に対する報告が義務付けられていますので、国会に報告されていない通信傍受はないと受け取っていただいて差し支えありません。 ○足立構成員 携帯電話事業者による音声通話のみが通信傍受の対象になっているということなのですか。 ○栗木参事官 法律上の通信傍受の対象はそれより広いのですが、これまで通信傍受をした実績という意味では、御指摘のとおりです。 ○足立構成員 承知しました。 ○栗木参事官 その上で、松田構成員から御発言があればお願いします。 ○松田構成員 いえ、今の御説明で結構です。 ○足立構成員 もう1点いいですか。捜査が終わった段階で、この通信傍受の音声通話の内容については、どれぐらいの期間をもって消去するというような実務になっているのでしょうか。そもそも消去するのか、それとも保存するのかということも含めて、運用上どうなっているのか。 ○松田構成員 法律上の建付けになりますが、犯罪関連通信として傍受記録に残すもの以外、すなわち、その犯罪に関連するもの以外は全て消去することとされています。通信を傍受した原記録は裁判所に全て提出することとされていますので、それについては全て残るわけですが、警察の手元には傍受記録として犯罪関連通信があったものだけが残ります。それについては検察庁に送致をして、裁判、公判で使用されるかどうかが判断されるということだと理解しています。 ○足立構成員 そうしますと、逮捕人数が0人のところが結構あると思うのですけれども、そのような最終的に摘発に至らなかったような犯罪、若しくは犯罪が認められなかったようなことについては、検察庁に送致した上で消去しているということになるのですか。 ○松田構成員 「逮捕人員数」欄の数字は0人となっているとしても、これは、飽くまでも、各年の国会報告の時点で0人ということであり、その後、例えば当該報告の翌年になって捜査が進んで被疑者を逮捕するということもありますし、そもそも「逮捕人員数」には、通信傍受による傍受が主要な原因、若しくは端緒となって逮捕した人員を計上していますので、そのほかの捜査により逮捕した人員は含まれないということもあります。   実際、配布資料23の後ろから2枚目の別表8-2を御覧いただければと思います。これは、令和4年の報告で、令和2年の事件、令和3年の事件で新たに逮捕した人員数を報告しており、こういった意味で、捜査ですので、年度で区切って、そこで終わりというわけではなく、継続して新たに逮捕されるものもある。ですから、「逮捕人員数」欄の数字が0人でも、今後、逮捕されるかもしれないということは御理解いただければと思います。 ○足立構成員 すみません、私の問題意識としては、前回の議事録でちょっと拝見したのですけれども、使い勝手がよくなった割には件数がそんなに増えていないのではないかというような指摘があり、先ほど成瀬構成員からもそれについての言及がありましたけれども、昨今の犯罪情勢の中でスマートフォンとか携帯電話が使われる犯罪が非常に増えている、特殊詐欺とか、フィリピンを拠点にするような強盗事件、闇バイト事件とかも増えている中で、そういった犯罪に占める割合からすると、やはりちょっと、使い勝手がよくなった割にはさほど増えているかどうか、評価は難しいとは思うのですけれども、そういったことをちょっと思ったもので、つまり、さほど増えているように私が見えない背景には、そういった犯罪捜査の難しさとか、通信傍受がどんどん難しく、テレグラムとかを使ったような非常に新たな手段が出てきているので、なかなかその件数が増えていっていないのかなという、そういうふうにちょっと問題意識を持って、質問させていただきました。 ○栗木参事官 それでは、次に裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化の施行状況について協議を行いたいと思います。   まず、事務当局から、平成28年の刑訴法改正の概要に関する配布資料3、裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化に関する配布資料24の内容について御説明します。事務当局作成の配布資料についての御質問等については、横山構成員から最高裁判所作成の配布資料について御説明していただいた後に、まとめてお伺いすることとしたいと思います。   まず、平成28年の改正前後の保釈状況について御説明するのに先立ち、改正の概要について御説明しますので、配布資料3の6ページを御覧ください。   平成28年改正前の刑事訴訟法第90条においては、「裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」と規定されていましたが、平成28年改正により、その判断に当たっての考慮事情として、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」が明記されました。平成28年改正は、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情について、実務上の解釈として確立しているところを確認的に明記することにより、法文の内容をできる限り明確化し、国民に分かりやすいものとするとの趣旨によるものです。   次に、改正により明記された各考慮事情の意義等について御説明します。「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」と、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情」は、「のほか」との文言で接続されていますが、これは、裁量保釈の判断に当たっては、まず、判断の基礎となる事情として、勾留の目的に直接関連する前者の事情を考慮し、その上で、後者の事情については、個々の事案における具体的状況に応じて考慮するものとする趣旨です。   また、「保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度」は、保釈を許可されて身体拘束を解かれた場合に被告人が逃亡し又は罪証隠滅する可能性の程度を意味し、その程度が大きいほど保釈を不許可とする方向に作用すると考えられます。   「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度」は、保釈が許可されずに身体の拘束が継続された場合に被告人がそれによって受ける不利益の程度を意味し、その程度が大きいほど保釈を許可する方向に作用すると考えられます。   例えば、被告人が重い疾病に罹患しており、身体拘束の継続によりそれが重篤化するおそれがある場合等においては、そのような事情は「健康上の不利益の程度」として、被告人が自営業者であり、事業の資金繰りが極めて悪化していて、経営破綻を回避するため被告人自らが関係先との交渉等に従事することが不可欠である場合等においては、そのような事情は「経済上の不利益の程度」として、被告人が大学院入学を目指して受験勉強中であり、その入学試験の期日が目前に迫っている場合等においては、そのような事情は「社会生活上の不利益の程度」として、関係者が多数で証拠も膨大であり争点が多岐にわたるなど、複雑困難な裁判員裁判の否認事件であって、被告人本人が弁護人との打合せを十分な時間をかけて綿密かつ機動的に行わなければ、連日的開廷の審理に備えることができない場合等においては、そのような事情は「防御の準備上の不利益の程度」として、それぞれ考慮され得ると考えられます。   また、「その他の事情」としては、例えば、被告人が被害者等の事件関係者を逆恨みして加害行為を行うなどの、いわゆるお礼参りに及ぶおそれがあること、被告人に介護又は養育を行うべき親族がおり、被告人自身がこれを行わなければ、その親族が生活できなくなるような影響が生じることなどが考慮され得るものと考えられます。   次に、参考として、令和5年第211回国会で成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律により新設された刑事訴訟法第344条第2項について、その内容・趣旨を御説明します。   この令和5年改正により新設され、本年6月6日から施行されている刑事訴訟法第344条第2項においては、裁量保釈に関して、「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第90条の規定による保釈を許すには、同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならない。ただし、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでない。」と規定されています。   刑事訴訟法上、禁錮以上の実刑判決の宣告があった後は、これにより、被告人が逃亡するおそれが一般的・類型的に高まり、刑の執行を確保するため被告人の身柄を拘束する必要性が高くなることなどに鑑み、権利保釈に関する規定等を適用しないこととされています。このような法の趣旨に鑑みれば、禁錮以上の実刑判決の宣告があった後の裁量保釈についても、判決宣告前のそれと比較して、より制限的に適用されるべきものと考えられますが、令和5年改正前の刑事訴訟法第344条は、その適用を制限的なものとする規定とはされていませんでした。そこで、令和5年改正により、禁錮以上の実刑判決の宣告があった後の裁量保釈について、判決宣告前よりも制限的に適用されるべきという法の趣旨を明確化するため、刑事訴訟法第344条第2項が新設されました。   このように、刑事訴訟法第344条第2項は、裁量保釈の要件を明確化するものであり、同法第90条が適用されることを前提として、その判断の在り方を規定するものであって、改正前の同法の下で認められるべき裁量保釈の範囲を殊更に限定しようとする趣旨のものではありません。   裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化に関する刑訴法の改正の概要についての御説明は、以上です。   続いて、配布資料24について御説明します。   配布資料24は、平成24年から令和3年までの通常第一審における勾留状発付人員、保釈許可人員及び保釈率を、最高裁判所事務総局作成の司法統計年報に基づき、事務当局がまとめたものです。   まず、「勾留状が発付された被告人の人員」は、通常第一審において受理時に既に勾留されていた述べ人員と、受理後、通常第一審終局前に新たに勾留状が発付された延べ人員の合計数です。次に、「保釈許可人員」は、通常第一審終局前に保釈が許可された延べ人数です。最後に、「保釈率」は、「勾留状が発付された被告人の人員」に対する「保釈許可人員」の割合であり、平成24年には20.8%でしたが、平成30年には32.1%まで上昇し、その後、令和3年まで大きな変化はありません。   配布資料24の御説明は以上です。   それでは、横山構成員から、最高裁判所作成の配布資料の内容について御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○横山構成員 私の方から、最高裁判所で作成しました資料2点を提出させていただきました。その資料の概要について御説明します。   資料1は、令和3年の通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の勾留期間に関するものです。資料2は、同じく令和3年の通常第一審における終局人員のうち保釈された人員の保釈の時期に関するものです。いずれも通常第一審のうち地方裁判所についてのものであり、また、両資料の「(注)1」にあるとおり、いずれも実人員、すなわち、被告人によっては勾留状が複数発付されていて、複数の保釈許可がされるケースがありますが、それらについてはいずれも「1」という形でカウントしたものになっています。ですので、先ほど事務当局の方から作成いただいた配布資料24とは、多少の数字の違いが見られます。   まず、通常第一審において保釈された人員を自白事件、否認事件の別で見ますと、資料1の「保釈人員」という欄の括弧内にあるとおり、自白事件では32.9%が、否認事件では26.5%が、通常第一審において保釈されているということになっています。   保釈された人員の勾留期間、実際に釈放されるまでの期間については、資料1にあるとおり、通常第一審事件全体では、起訴後15日以内が52.6%となっており、起訴後1か月以内まで広げると、全体で67.6%ということになっています。これを自白と否認の別に分けて見ると、自白事件では1か月以内が70.9%を占めています。これに対して、否認事件では1か月以内は34.3%であり、6か月以内にまで広げると73.9%ということになっています。   保釈された時期については、資料2にあるとおり、通常第一審事件全体では保釈された人員のうち77.7%が第一回公判期日の当日までに釈放されているということになっています。これを自白と否認に分けると、自白事件では81.4%が第一回公判期日の当日までに釈放されているのに対し、否認事件では第一回公判期日の当日までに釈放されているのが46.3%ということになっています。   提出した資料の御説明は以上です。 ○栗木参事官 これまでの御説明に関して御質問、御意見などはありますか。 ○河津構成員 事務当局から平成24年以降の保釈率等を御紹介いただき、令和3年の保釈率が32.1%という御説明がありました。この数値は平成24年と比較しますと10%程度上昇しておりますが、そもそも保釈率は昭和51年まで50%、昭和54年まで40%を超えておりました。また、ここにいう保釈率の算定に当たっては、公判審理の終盤に保釈された被告人も保釈された被告人に含まれています。   御承知のとおり、国際人権(自由権)規約には、裁判に付される者を抑留することが原則であってはならない旨が規定されておりますが、現在の保釈率では、そもそも勾留されていない被告人の数を考慮してもなお、多数の被告人が勾留されたまま裁判を受けているという状況が解消されていないように思われます。   次に、横山構成員御提出の資料につきましては、今回事務当局を通じてお願いさせていただいたものです。資料の提出に応じていただき、ありがとうございました。この統計資料から分かることについてコメントをさせていただきます。   令和3年の司法統計年報によりますと、通常第一審(地裁)の否認事件の平均審理期間は10.6月とされています。これを踏まえて、資料1の否認事件で保釈された人員の勾留期間を見ますと、15日以内に保釈されたのは勾留人員の6.9%、これに1月以内を加えて9.1%、2月以内を加えて11.9%、3月以内を加えて14.2%、6月以内を加えて19.6%です。審理の期間が平均10.6か月続く中で、6か月以内に保釈されているのは2割に満たないことになります。   防御の準備は、もちろん自白事件でも必要ですが、その程度は否認事件の方が明らかに大きいといえます。審理期間で比較すると、自白事件が3.0か月であるのに対し、否認事件は、先ほど申し上げたとおり10.6か月です。否認事件はそれだけ検討すべき証拠も尋問すべき証人も多いことになります。それなのに、被告人の大多数が6か月を超えて拘禁されていることにより、否認事件ではほぼ常に防御の準備に重大な支障が生じているというのが実感です。また、これだけ長期間拘禁されると多くの人は心身の健康を維持することができず、そのこと自体が国民に健康上の不利益を与える権利侵害であることに加え、心身の健康を害された状態で刑事裁判を迎えなければならないことは、防御上の不利益も生じさせています。   自白事件との差という視点で見ると、単純な保釈率の違いは32.9%と26.5%の差の6.4%ですが、そもそも勾留されていない人員の数にも大きな違いがあります。令和3年の司法統計年報によると、自白事件では保釈人員数よりも多い1万1425人がそもそも勾留されていないことになると思われます。これに対し、否認事件ではその数は646人です。また、自白事件では被告人が刑罰を科されることを受け入れていることから、実刑が想定される事件では未決勾留期間の算入を念頭に、被告人が保釈を希望しないこともあります。これに対し、否認事件ではそのような理由で保釈を求めないということは考えられず、防御準備のために保釈の必要性が高いことは先ほど申し上げたとおりです。   厳密に否認事件と自白事件の差異を把握しようとすると、罪名別などかなり細かな統計が必要になると思われますが、弁護人としての経験に基づいて申し上げると、最も顕著な差が生じるのは、村木事件もそうでしたが、仮に有罪となっても執行猶予付きの判決や比較的短期の実刑判決が想定される事件です。そのような事件では、自白事件の被告人は早期の保釈を希望し、高い確率で保釈されているのに対し、無罪を主張する被告人が保釈を得ることは困難で、執行猶予付きの判決が確定した事件でも勾留期間が1年を超えている例もあります。   その結果、この種の事件では長期間の拘禁を避けるために捜査機関の見立てに沿った供述をさせる圧力が相当強いものになります。それは被告人に対してだけではなく、弁護人も、争点を減らすために客観的事実と異なる事実を争わないこととしたり、証人の数を減らすために、取調べの録音・録画もなく供述が正確に記録されていない供述調書に同意をしたりせざるを得ないこともあります。このことは防御権を損なうだけではなく、刑事裁判における事実認定を誤らせる結果をもたらしていると認識しております。 ○成瀬構成員 河津構成員から、刑事弁護の視点を踏まえ、現在の保釈の運用について詳細な御意見を頂き、参考になりました。   ただ、本協議会の趣旨との関係でまず確認させていただきたいのは、先ほどの事務当局の御説明にもありましたように、平成28年に行われた刑訴法第90条の改正は、従前の裁量保釈の判断基準を確認的に明記したものにとどまり、裁量保釈に関する実務の運用を変化させることを意図したものではないという点です。その意味で、配布資料24に記載された保釈率が平成28年以降に大きく変化することはなく、ここ数年は32%前後で落ち着いていることは想定どおりともいえます。   もっとも、平成28年改正により裁量保釈判断の考慮事情として明記された事柄、取り分け、「身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度」に照らして、現在の裁量保釈の運用が適切といえるかについては、更に踏み込んだ検討を要すると思われます。   このような観点で私が気になったのは、横山構成員御提出の資料1において、自白事件で被告人が保釈される場合の勾留期間は、その大部分が2か月以内に留まっているのに対し、否認事件で被告人が保釈される場合の勾留期間は、3か月を超えて2年以内が全体の約46%を占めるという点です。   そこで、鈴木構成員と宮崎構成員に伺いたいのですが、否認事件で最終的に保釈されるとしても、その判断が出るまでに長期間を要する事件が相当数存在する背景事情として、どのような事情が考えられるのでしょうか。裁判所、検察、それぞれの立場でお感じになられていることを御説明いただければ幸いです。 ○鈴木構成員 まず申し上げたいのは、我々が保釈を判断するときに、自白事件だから、否認事件だからという視点では余り考えておりません。刑事訴訟法第90条の規定の趣旨に従って、その要件があるかどうかという辺りをかなりきめ細かく判断しているつもりです。   否認事件について申し上げますと、一番問題になりそうなのが罪証隠滅というところになると思いますが、もちろんもう捜査は終わっていますので、我々も、証拠関係をしっかり見た上で、どういった辺りが否認されているのか、公判でどういう証拠調べがされそうなのかといった辺りを見て、その上で罪証隠滅のおそれとしてどういうものが考えられるのか、それが実効的なものなのか、現実的にどれぐらい可能なのかという辺りを見ていくことになります。否認事件ですと、何が争点になり、どういった証拠調べが行われそうなのかというところが、やはり、ちょっと見えづらくなるというところがあるのかなという気はしています。   ですので、逆に言いますと、保釈請求をされる弁護人の方で、この事案ではこういうところが問題になりそうで、罪証隠滅のおそれについても、仮に否認であっても、こういう方法で罪証隠滅の防止策をとるというところを具体的に主張、疎明していただくということが非常に重要かなと思っています。   なぜこういう統計になっているかを正確に申し上げることは難しいのですが、そのように感じている次第です。 ○宮崎構成員 保釈が認められるかどうかは、それぞれの事案ごとの判断になりますので、一概にはなかなか言いにくいのではないかとは思います。それが前提にはなりますが、そもそも裁量保釈が問題になるのは、刑事訴訟法第89条の必要的保釈の除外事由に該当している場合です。その中には、当然、罪証隠滅のおそれであったり、事案の重大性に関わる必要的保釈の除外事由もあるわけです。そうなると、そもそもどれだけ保釈を相当としない事情が大きいのかというところ、例えば、罪証隠滅のおそれがどの程度あるのかということが、当然ながら、裁量保釈の判断にも影響してくるのだろうと思います。   鈴木構成員のおっしゃるとおり、否認か自白かで単純に決まるものではないと思いますが、罪証隠滅のおそれが大きいと判断されれば、その分、裁量保釈はされにくくなるという関係にあると思いますので、それが影響しているのではないかなとは思います。 ○成瀬構成員 鈴木構成員と宮崎構成員から、裁判所と検察の視点を提供していただき、参考になりました。私は、鈴木構成員が、否認事件の場合には、何が争点となり、どういう証拠を取り調べるかが見えにくいという御趣旨の発言をされたことに特に注目しました。これは、否認事件において争点と証拠の整理が遅れると、罪証隠滅の対象が明確化されず、その結果、保釈の判断の遅れにもつながるという御示唆であると受け止めた次第です。実際、この後に議論させていただく予定の配布資料27では、公判前整理手続に付された事件の平均審理期間が年を追うごとに長期化していることが分かります。よって、保釈の問題は、それ単体で議論することはできず、否認事件における争点と証拠の整理のあり方なども踏まえながら検討していく必要があると考えています。   最後に、平成28年改正とはやや離れますが、先ほど事務当局から、令和5年第211回国会で成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律により新設された第344条第2項、すなわち、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告後における裁量保釈の要件の明確化について御説明がありました。もっとも、この改正法の中には、それ以外にも保釈制度に関する改正が多数含まれており、具体的には、保釈されている被告人の公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設や、保釈されている被告人に対する報告命令制度や監督者制度の創設、更には、保釈されている被告人の国外逃亡を防止する目的での位置情報を取得する制度の創設などがあります。よって、今後は、これらの保釈に関する制度改正も踏まえ、保釈の実務運用がどのように変化していくかについて注意深く見守る必要があると考えています。 ○鈴木構成員 先ほど申し上げましたが、否認事件であっても、弁護人から保釈請求があれば、その請求内容などを拝見し、その後必ず検察官の意見も伺います。もちろん裁判官は証拠も確認します。否認事件であっても、検察官の意見を聞き、その意見が保釈に反対であるという場合には、その検察官の問題意識を踏まえて、弁護人に、この事案で罪証隠滅あるいは逃亡を防止するための実効性のある措置をどう考えるのかというところを更に検討していただき、その上で必要があれば、また更に検察官にも伺うと、そのようなやり取りを重ねながら保釈の判断の精度を高めているというのが我々の日頃考えているスタンスです。ですから、否認事件であっても、罪証隠滅あるいは逃亡の防止について証拠関係や検察官、弁護人の意見を踏まえて精査した上で、保釈するということも十分あるところですので、念のため申し上げさせていただきます。 ○吉田構成員 先ほどの河津構成員の御意見についてお伺いしたいことがあります。要約が不正確でしたら御指摘いただければと思うのですが、先ほどの御意見の中で、不必要な勾留がなされることによって勾留されている人の健康が害され、健康上の不利益が生じるというお話があったと思います。そのようなことがどのぐらいの頻度で生じているという御認識でお話しされたのか分からなかったので、そういうことがままあるという御趣旨なのか、そういうことがたまにあるという御趣旨なのかといったことを、まず確認したいと思います。また、仮に健康上の不利益が生じているケースがあるということであれば、どういったことを根拠におっしゃっているのかを教えていただきたいと思います。拘置所でも、留置施設でも、医療上の配慮はしているはずで、健康が害されたという場合にそれを放置しているとは考えられないのですが、そのような事態がどの程度生じているのか、また、どのような病状の人が生じているのか、その根拠と併せて教えていただければと思います。また、そうした健康上の不利益が生じることによって防御上の準備にも支障が生じているといった御指摘もあったようにお伺いしましたが、それがどういう御趣旨なのかという点も併せてお聞かせいただければと思います。 ○河津構成員 御質問ありがとうございます。長期間拘禁された被告人が心身の健康を害する事態は、決してまれではないと申し上げることができます。通常の市民で、3か月や6か月間拘禁されて、拘禁される前と同じ精神状態を保つことができる人は多くないと思います。我々弁護人は、被告人の健康状態が悪化していく様子を接見を通じて観察しておりますが、それだけでなく、現に医師からうつ病の診断を受けている被告人が数か月にわたり拘禁され続けているという実態もございます。   刑事施設の中で十分な医療上の配慮を受けることができているかというと、実態はそうではないというのが私の認識です。確かに拘置所の中にも医師はおりますが、医師の診断を受けることができる日は限られており、そこで処方される医薬品にも限定されています。精神疾患に関して申し上げると、精神科の専門医の診断を受けることができる機会も限られており、拘禁されている被告人が専門医の診断を希望しても、1か月以上診断を受けることができなかったという事案もございます。   このように健康、特に精神的な健康を害している被告人が刑事裁判を受ける場合、精神疾患によって思考力や記憶力が低下している状態で刑事裁判に臨まなければならないのですから、記録を読んで準備をする上でも、法廷において供述をする上でも、証拠調べを見聞きし、それを踏まえて判断をする上でも、様々な支障が生じているというのが私の実感です。 ○佐藤構成員 話題を戻して恐縮ですが、配布資料24に関して、伺いたいと思います。   裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化に関する規定は、平成28年6月23日から施行されており、それ以降の保釈率については、先ほど来、その評価も含めて議論があったところですが、遡って、平成28年以前の状況を見てみますと、平成24年が20.8%、翌25年が20.6%で、平成28年が29.4%ですので、平成26年、27年、28年と、数年のうちに有意に保釈率が上がっていると感じます。こうした変化の背景に関心を持ちました。   この時期、例えば、最高裁で、勾留の要件である「罪証隠滅のおそれ」の意義に関する判断や、裁量保釈の判断に対する抗告審の審査方法に関する判断が出ておりますので、あるいは、そうした判断が影響しているのだろうかなどと考えてみたりもいたします。特定の原因に帰するのが難しいことは承知しておりますが、実務上、こうした変化につながるような事情として何か思い当たるものがございましたら、教えていただければと思います。 ○栗木参事官 配布資料24の数値は、最高裁判所事務総局の統計資料を基に作成したものですので、横山構成員あるいは鈴木構成員からコメントなどを頂ければと思います。 ○鈴木構成員 個々の事案ごとの判断の積み重ねですので、保釈率が上がったという理由をお答えするのはなかなか難しいのですが、恐らくこの頃、裁判官の間で、勾留の在り方もそうですが、保釈の運用についても、例えば、罪証隠滅のおそれについて具体的あるいは実質的に判断していこうというような議論が活発に行われたことがありまして、それに基づく運用が実践されてきたことも要因の一つとしてはあるのかなと感じます。 ○佐藤構成員 そうした要因も存在した上で、平成29年以降、保釈率が31%から32%で推移する状況に至っていること、承知しました。ありがとうございました。 ○河津構成員 成瀬構成員の最初の御指摘に関連して、刑訴法第90条の改正の経緯から少しお話をさせていただきたいと思います。   改正のきっかけとなった村木厚子さんの事件では、取調べで検察官の見立てに沿って供述した被告人3名が起訴直後に保釈されたのに対して、無実であることから無実であると供述し続けた村木さんは繰り返し保釈請求を却下され、身体拘束は164日間に及び、その間、防御の準備すら困難にされていました。起訴直後に保釈された3名のうち1人は、保釈という甘い餌の誘惑で供述調書への署名押印を拒めなかったという旨を被疑者ノートに記しており、別の被告人については、検察官がわざわざ低額の保釈金を相当とするという意見を裁判官に提出していたことが判明しています。このように、村木さんが公訴事実を認めなかったことを、保釈の判断に当たり直接であれ間接であれ不利益に取り扱ったことが、無実の村木さんを長期間拘禁しただけではなく、その防御の準備を困難にし、他方で身体拘束が見立てに沿った供述を強要する手段と利用され、現に無実の村木さんを巻き込む虚偽の供述をさせたというのがこの事件の経験でした。   法制審特別部会では、先ほど事務当局からも御説明があったとおり、身体拘束の運用について共通の認識を得るには至らなかったと整理され、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情を明記するにとどまりました。しかし、特別部会で一般有識者を含む委員から述べられていたのは、村木事件の経験を踏まえ、被告人の防御権への配慮を考慮事情として明記すべきという意見でした。そうした経緯で刑訴法第90条に、身体の拘束の継続により被告人が受ける防御の準備上の不利益が明記されるに至ったものと理解しております。   また、国会の附帯決議では、その趣旨はより明確に述べられており、「保釈に係る判断に当たっては、被告人が公訴事実を認める旨の供述等しないこと又は黙秘していることのほか、検察官請求証拠について刑事訴訟法第326条の同意をしないことについて、これらを過度に評価して不当に不利益な扱いをすることとならないよう留意するなど、本法の趣旨に沿った運用がなされるよう周知に努めること」が求められています。   今申し上げた観点からは、刑訴法第90条の改正による運用面の影響については、残念ながら改善は見られないと申し上げざるを得ません。現在でも検察官の見立てどおりに供述した被告人が直ちに保釈される一方で、無実を主張する被告人が何か月、場合によっては1年を超えて保釈を許可されないという例は多くあります。私が担当している事件でも、検察官が共謀したと主張する個人8名のうち、自白した1名は訴追を免れ、起訴された7名のうち5名は、そもそも逮捕を免れるか起訴直後に保釈され、否認している2名のみが約5か月にわたり拘禁されて健康を害され、防御の準備にも支障が生じている事案があります。   前回の会議で付審判請求の決定内容を一部御紹介したプレサンス事件では、無罪が確定した山岸さんの身体拘束は248日間に及んでいます。控訴の取消しにより事件が終結した大川原化工機事件では、そもそも犯罪が成立しない事案において、同社の代表取締役、常務取締役及び相談役の3名が長期間にわたり拘禁されました。取締役2名の拘禁は約11か月に及び、相談役については勾留中に胃がんと診断され、逮捕から約8か月後に勾留の執行を停止して入院した3か月後に亡くなっています。この事件については先日、国家賠償請求事件の証人尋問において、捜査を担当した警察官が、事件は捏造であった旨証言したと報道されています。   被疑者弁護の過程でも、依頼者から、逮捕され何か月も勾留されることを避けるために、捜査機関の見立てに沿って記憶と異なる供述をすべきかという相談を受けることが少なくありません。そのような場合、弁護人としては記憶と異なる供述をすべきでいないと助言しておりますが、多くの普通の市民にとって、長期間の拘禁というリスクを恐れずに捜査機関の見立てに沿った供述をするのを拒むことは容易でありません。   先ほど申し上げましたが、弁護人としても被告人の勾留の長期化を避ける必要から、やむを得ず、争点を減らすために真偽不明の事実を争いのない事実としたり、証人の数を減らすために、録音・録画もなく供述が正確に記録されていない疑いのある供述調書に同意をしたりせざるを得ないことも少なくありません。   裁判所の立場からは、罪証隠滅や逃亡を防止する必要性に基づき判断をしているという御説明になるものと理解しますし、弁護人も具体的な主張や疎明に努める必要性があることも理解しますが、それ以前に、このような保釈の運用の反面で生じている重大な弊害についても、より正確に知っていただく必要があると感じているところでございます。 ○吉田構成員 今の河津構成員の御意見に関して、若干述べたいと思います。   個別の事件について言及するつもりはありませんが、裁判所においては、先ほど御発言があったように、現行の刑事訴訟法の条文に基づいて適切に判断されているものと考えています。証拠関係等によっては、勾留が長くなる、あるいは保釈が認められなくなるということはあり得るのだろうと思いますが、それは個々の事案ごとの証拠構造その他の事情によるものであると思います。   身柄拘束が長引くことによる弊害についての御指摘がありましたが、その一方で、仮に罪証隠滅のおそれがあるにもかかわらず保釈をするなどして身柄を釈放すると、当然のことながら、証人威迫その他の罪証隠滅工作が行われやすくなる、その余地が生じるのは事実であり、一旦そのような罪証隠滅が行われてしまうと、適正な事実認定に弊害が生じる場合があるというのも、これまた当然のことですので、拘禁が長引くことによる被告人の不利益というのはもちろん考慮すべきではありますが、適正な裁判を実現するために罪証隠滅を防がなければならないということも、また当然に考慮すべきことであり、その両者をどのように適切に配慮していくのか、これは正に個々の事案における裁判所の適切な判断によらざるを得ないのだろうと思います。   ですので、過度に一般化して一方の利益だけを強調して、現行の運用が不適切であるというような御意見は、適切ではないと思います。 ○河津構成員 簡潔に反論させていただきます。証人威迫等が行われた場合、それが適正な事実認定を妨げるおそれがあることは理解いたします。ただ、それについては偽証罪や証人威迫罪など、予防のための手当てが設けられているのに対し、長期間の拘禁を避けるために捜査機関の見立てに沿った供述をするという選択をさせることは、それこそ取り返しのつかない事実認定の誤りをもたらすものであり、その最たるものが冤罪であるということは、重ねて強調させていただきたいと思います。 ○栗木参事官 他に御質問、御意見等はよろしいでしょうか。   それでは、次に、弁護人による援助の充実化の施行状況について協議を行いたいと思います。   まず、事務当局から、平成28年の刑訴法改正の概要に関する配布資料3、弁護人の援助の充実化に関する配布資料25及び26の内容について御説明します。事務当局作成の配布資料に対する御質問等については、河津構成員から、御提出の配布資料について御説明していただいた後、まとめてお伺いすることとしたいと思います。   それでは、配布資料3の6ページを御覧ください。平成28年改正における「弁護人による援助の充実化」に関する改正の概要について御説明いたします。   まず、「(1)被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大」と記載されている部分を御覧ください。被疑者国選弁護制度は、被疑者が弁護人の援助を受ける権利を実効的に担保するとともに、捜査段階から国選弁護人が選任されることとすることにより、弁護人による早期の争点把握を可能にして、刑事裁判の充実・迅速化を図るという観点から、平成16年の法改正により導入され、平成18年10月から施行されているものです。   被疑者国選弁護制度の適用対象は、制度導入当初、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる事件」について勾留状が発せられている被疑者に限られており、その後、平成21年5月から、「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件」について勾留状が発せられている被疑者に拡大されましたが、なお、一定の事件に限定されていました。   これは、被疑者に国選弁護人の選任請求権を与える以上、全国どこでも迅速かつ確実に弁護人が選任される必要があるところ、平成28年改正以前においては、弁護士がいない地域や、弁護士がいても少数にとどまる地域が少なからず存在するという、いわゆる司法過疎の問題があり、対象事件の範囲によっては、被疑者に対する国選弁護人の選任態勢を確保することが容易でない事態を生じることが予想されたことから、対象事件の範囲について、刑の重大さに鑑みて弁護人の援助を受ける必要性が高いと考えられる事件に限定されていたものです。   しかし、制度導入後、弁護士会や法テラスにおいて、いわゆる司法過疎地域の解消に向けた取組や、弁護士が少ない地域において被疑者国選弁護人の選任が必要となった場合における態勢整備等が進められてきた結果、被疑者国選弁護制度の対象事件の範囲を拡大しても、被疑者に対する国選弁護人の選任態勢を確保することが十分可能な状況に至ったと考えられました。   そこで、平成28年改正によって、先ほど申し上げた被疑者国選弁護制度の趣旨をより十分に実現し、証拠の収集方法の適正化及び公判審理の充実化を図るため、被疑者国選弁護制度の対象事件を限定せず、勾留状が発せられている全ての被疑者を対象とすることとされました。   次に、「(2)弁護人の選任に係る事項の教示の拡充」と記載されている部分を御覧ください。平成28年改正前の刑事訴訟法においては、身体を拘束された被疑者・被告人は、裁判所、司法警察員、検察官、刑事施設の長等に、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができ、その申出を受けた裁判所、司法警察員、検察官、刑事施設の長等は、直ちに被疑者・被告人の指定した弁護士等にその旨を通知しなければならないこととされていましたが、そうした方法によって弁護人の選任を申し出ることができることの教示に関する規定は置かれていませんでした。   そこで、平成28年改正において、身体を拘束された被疑者・被告人の弁護人選任権に関する手続保障をより十分なものにするという観点から、裁判所、司法警察員、検察官等は、被疑者・被告人に対して弁護人選任権を告知する際に、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならないこととされました。   「弁護人による援助の充実化」に関する改正の概要についての御説明は以上です。   次に、配布資料25について御説明します。配布資料25は、刑事訴訟法第204条第1項の規定により、検察官が被疑者に弁解の機会を与えたときに作成する弁解録取書の様式として、事件事務規程に定められているものです。検察官は、被疑者を逮捕したとき、又は逮捕された被疑者を受け取ったとき、刑事訴訟法第203条の規定により司法警察員から送致された被疑者を除きますが、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与えることとされているところ、その際、検察官は、配布資料25の2枚目の別紙に記載されている事項について被疑者に告知及び教示することとなります。   別紙を御覧ください。まず「1」は、弁護人を選任することができる旨を告知するものです。次に、「2」は、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示するものです。次に、「3」は、貧困等の事由によって自ら弁護人を選任することができないときは、裁判官に対し、弁護人の選任を請求することができることや、その際の資力に関する要件といった国選弁護人の選任請求に関する事項を教示するものです。最後に、「4」は、取調べの適正を確保するため、逮捕・勾留中の被疑者と弁護人等との間の接見に対して十分に配慮を行うという観点から、被疑者から弁護人等との接見の申出があった場合、直ちにその旨を弁護人等に連絡することを教示するものです。   なお、刑事訴訟法第203条の規定により、司法警察員から送致された被疑者を受け取った場合については、犯罪事実の要旨及び弁護人選任権の告知は既になされているので、刑事訴訟法上、検察官において、改めてこれらの告知をすることは要求されていませんが、実務の運用においては、弁解録取の際に被疑者に対し、別紙記載の事項について告知することとされています。   配布資料25についての御説明は以上です。   次に、配布資料26について御説明します。配布資料26は、平成24年から令和3年までの間における、1年間の勾留状発付数、国選弁護人の選任数及び勾留状発付数に対する国選弁護人選任数の割合について、それぞれ記載したものです。先ほど申し上げたとおり、被疑者国選弁護制度の適用対象は従前、「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件」について勾留状が発せられている被疑者でしたが、平成28年改正法によって対象事件の限定がなくなり、勾留状が発せられている全ての被疑者とされました。この点に関する改正法の規定は平成30年6月1日に施行されました。配布資料26に記載しているとおり、勾留状発付数に対する国選弁護人選任数の割合は、平成24年から平成29年までの間、おおむね65%前後で推移していましたが、改正法が施行された平成30年には78%、令和元年以降はおおむね86%となっています。   配布資料26についての御説明は以上です。   続いて、河津構成員から、御提出の配布資料の内容について御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○河津構成員 被疑者国選弁護の対象事件の拡大に関し、弁護士の対応態勢につき御説明申し上げます。   カラーの資料は、インターネットでも公開されている法テラス白書令和3年度版の抜粋です。2枚目を御覧いただきますと分かりますとおり、被疑者国選弁護制度が勾留全件に拡大された平成30年6月の前後を通じて、法テラスの地方事務所が裁判所等から国選弁護人候補者の指名通知請求を受けてから24時間以内に国選弁護人の候補者を指名し、裁判所等に通知している割合は99.9%です。   対応態勢を都道府県別にまとめたのが「被疑者国選弁護の対応態勢について」と題する資料で、これは2020年のデータを基に日弁連で作成されたものです。出典によって数値を拾っている範囲が若干異なりますので、その点は御注意ください。全国で見ますと、一番下のところですが、「①」の「勾留人員数」8万7810人のうち、「③」の87%に当たる、「②」の7万6073人の被疑者が被疑者国選弁護人を請求しています。これに対し、国選弁護人契約をしている弁護士の数は「④」の3万160人、「⑤」のように1人当たり年間平均2.5人件を担当して対応していることになります。都道府県別に見ますと、1人当たりの件数が多いのは埼玉の7.11件、茨城県と滋賀の6.73件、逆に少ないのは東京の0.88件です。   なお、「⑥」以下は御参考までに、逮捕総数から勾留と同じ割合で国選弁護人選任請求があると推定した場合のシミュレーションです。被疑者国選弁護制度を逮捕段階に拡大した場合、全国では国選弁護人契約をしている弁護士1人当たり年間2.80件を担当することになると推計しております。   以上です。 ○栗木参事官 ただいまの御説明について御意見、御質問はありますでしょうか。 ○成瀬構成員 御説明ありがとうございました。配布資料26に基づいて、河津構成員に質問をさせていただきたいと思います。   事務当局からの御説明にもあったように、平成28年改正によって被疑者国選弁護制度の対象事件が全ての勾留事件に拡大し、法定刑による限定がなくなりました。その結果、被疑者国選弁護人の選任割合は、平成29年までは約65%であったところ、令和元年以降は約86%で推移しています。ここで、私選弁護人を選任できる資力のある被疑者の割合は各年で大きく変化していないと仮定すると、勾留される被疑者のうち、20%強の者が、今回の法改正により新たに国選弁護人を付してもらえるようになったということができ、それ自体は大きな変化であると思います。   そこで、河津構成員に質問させていただきたいのですが、今回新たに被疑者国選弁護制度の対象となった事件は、長期3年以下の懲役若しくは禁錮、罰金等に当たる比較的軽微な事件ですが、このような比較的軽微な事件の被疑者に国選弁護人が付されることの意義について、刑事弁護の御経験を踏まえて、御説明いただければ幸いです。 ○河津構成員 御質問ありがとうございます。弁護人の立場から申し上げると、被疑事実が重大な事件であろうが軽微な事件であろうが、被疑者の権利義務を擁護するために最善の努力をするという点には変わりがございません。したがって、その事件が否認事件なのか自白事件なのかにもよりますけれども、軽微事件であれば、自白事件であっても、10日の勾留期間で不起訴処分を受けることが期待できる事件も少なくありませんので、その種の事件では、有利な情状を収集したり、被害者との間で迅速に示談交渉をするなどして、早期の処分と身柄解放を目指した弁護活動をすることが多いと思います。否認事件であれば、不適正な取調べが行われ、あるいは取調べで不正確な供述が録取されることのないよう、黙秘権の行使を含む、取調べに向けた助言をすることが多く、それについては、重大な事件と同様であると考えております。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明くださり、ありがとうございました。被疑事実が重大か否かにかかわらず、弁護人は被疑者の権利を擁護するために最善の努力をすべきであるという冒頭の御指摘を踏まえますと、平成28年改正によって法定刑の限定がなくなったことには、やはり大きな意義があったと思われます。また、自白事件と否認事件に分けて、比較的軽微な事件の弁護活動の詳細を御説明いただき、参考になりました。   続いて、河津構成員が御準備くださった資料に基づいて、もう一つ質問をさせていただきたいと思います。   弁護士の先生方と法テラスの皆様の御尽力により、被疑者国選弁護制度の対象事件を拡大した後も、ほぼ全ての事件において、迅速に、具体的には、24時間以内に国選弁護人の指名がなされていることについて、敬意を表したいと思います。   もっとも、「被疑者国選弁護の対応態勢について」と題する資料において、各弁護士会の対応状況を確認すると、先ほど、河津構成員からも御指摘があったように、地域によっては、「⑤国選弁護人契約弁護士一人当たりの国選弁護事件数」が大きい数字になっているところがあります。例えば、埼玉は7.11件で、弁護士1人当たりの国選弁護事件数が7件を超えており、6件を超えている地域も、茨城、栃木、群馬、三重、滋賀、沖縄と複数存在します。   先ほどの河津構成員の御説明によると、被疑者国選弁護人が行うべき弁護活動は、比較的軽微な事件であったとしても重大事件と大きく変わることはなく、自白事件であれば、被疑者に有利な情状を集めて、早期の身柄解放、更には不起訴処分を目指し、否認事件であれば、接見等を多数回行って、取調べに対する適切な助言等を行う必要があるとのことでした。つまり、被疑者国選弁護人は、かなり忙しく活動するということだと思います。被疑者の勾留期間は最大で20日間に及ぶことも併せ考えますと、刑事の公判事件や民事事件も同時に受任している弁護士が、1年間に7件ないし6件の被疑者国選弁護事件を担当することは相当な負担であるようにも思われます。   そこで、河津構成員に伺いたいのですが、現在の態勢のままで、捜査弁護の質を十分に確保しつつ、被疑者国選弁護制度を安定的に運用していくことは可能だとお考えでしょうか。もし、日弁連ないし各弁護士会において、態勢を強化するための方策をお考えになっているということであれば、それも併せて御教示いただきたいと思います。 ○河津構成員 難しい御質問ですが、年間7件という数字は、刑事事件を中心に取り扱っている弁護士であれば、それほど多い数字ではないと思います。この数値は、各地の実情により異なるところがあり、恐らく1人当たりの国選弁護事件数を決定しているのは勾留人員数であるとともに、国選弁護人契約弁護士の数によるところが大きいのだろうと思います。いずれにしましても、全国の会員の中からは、地域により、被疑者国選弁護への対応が負担になっているとの報告も受けてはおりますが、全体的には99.9%という先ほど御紹介した数値に表れているとおり、対応態勢は十分に組むことができているというのが私の理解です。その中で、弁護の質を維持向上するための研修等は、日弁連及び単位弁護士会で行っているところでございます。   重大な課題は、いわゆる司法過疎地や遠隔地です。そこで迅速に弁護人が助言をし、援助を与えることができるようにするためには、現在、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会でも議論されておりますが、接見についてオンラインを活用することが必要になるのではないか、特に被疑者国選弁護を逮捕段階まで拡大することを想定すると、迅速な接見の必要性は特に大きくなることから、オンライン接見の実現の必要性はより大きくなる、と私は考えております。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明いただき、ありがとうございました。御回答の中で、被疑者国選弁護への対応が負担になっている地域もあるという御指摘がございましたが、被疑者国選弁護制度を拡充するに当たっては、全国一律で対応できるかが常に論点となってきました。よって、ほとんどの地域で大丈夫だからということでは足りず、全ての地域において確実に対応できることが求められます。そのような観点から、弁護士会としても問題意識を持って態勢の強化に取り組んでいかれることを望みたいと思います。   被疑者国選弁護制度は、平成16年の刑訴法改正で初めて導入された制度ですが、約20年を経て大きく成長し、現在では、勾留される被疑者の約86%がこの制度を利用しています。その意味で、被疑者国選弁護制度は、我が国の捜査手続において欠くことのできない重要な役割を担うようになったということができます。今後も、弁護士の先生方の御尽力により、捜査弁護の質を確保しつつ、安定的に運用されていくことを期待しています。 ○河津構成員 確認的に補足させていただきますと、少なくとも勾留全件に対象事件を拡大したことについては、全国的に対応することができていると認識をしているところでございます。 ○足立構成員 河津構成員にお尋ねなのですけれども、配布資料25の弁解録取書の段階では、最初に被疑者が弁護人を付けてほしいというときには多分、当番弁護士をお願いしたりすることになると思うのですけれども、その後、勾留段階になって国選弁護を依頼するときには、その当番弁護士の方がそのまま国選弁護人として付くケースが多いのか、それとも、そこで交代したりするケースもあるものなのか、お伺いできますでしょうか。 ○河津構成員 御質問ありがとうございます。現在の実務では、当番弁護士がそのまま被疑者国選弁護人に選任されるケースが多いものと理解しております。そのために、当番弁護士が一旦私選弁護人を辞任して、国選弁護人に選任される手続がとられていると認識しております。 ○藤井構成員 配布資料26の関係で1個お願いがありまして、今回、勾留状発付数がかなり減少傾向にあるデータを頂きましたけれども、勾留請求率、あるいは勾留請求の却下率、可能であれば、どういった犯罪類型で勾留請求が却下されているかという情報を頂ければと思います。勾留請求却下率が上昇していると報道されているところで、実際、私が把握している統計でも、平成の初め頃は勾留請求の却下率は1%以下で推移していましたが、令和元年には5.2%まで上昇しているようです。一方、被害者と加害者との間に、もともと一定の関係性がある事件、典型的にはDVの事案などですが、勾留中にシェルターに逃げるというケースもあり得る中で、勾留請求が却下されて被疑者に弁護人が付かない中で、被害者側としても非常に対応に苦慮したケースもあると聞いており、現状の把握という見地からも、第二巡目以降の議論の素材としても、今申し上げた数字の御提供を御検討いただければと思います。よろしくお願いします。 ○栗木参事官 藤井構成員御指摘の勾留請求率や勾留請求却下率については、例えば、犯罪白書に掲載されているものと承知していますが、そういった統計的な数値を、この協議会でも共有すべきだという御趣旨でしょうか。 ○藤井構成員 そうですね、二巡目以降の議論の素材にもなると思いますので。あと、先ほど申し上げたとおり、できればどういう類型で却下されているのかというような情報があれば、頂きたいと思います。 ○栗木参事官 御指摘を踏まえ、どのような対応が可能かについて検討したいと思います。 ○河津構成員 弁護人選任の申出方法等の教示について、コメントさせていただきます。   法制審特別部会では、各地の弁護士会が実施している当番弁護士制度の告知をすべきであるとの意見も述べられておりましたが、当番弁護士制度は法律上の制度でないとして、その意見は採用されませんでした。もっとも実務上は、法改正前から当番弁護士制度の告知をしていただいている都道府県もございました。改正法の施行後、弁護士会から都道府県警に当番弁護士制度の告知を行うよう申入れを行いましたが、幾つかの都道府県警では現在も当番弁護士制度の告知が行われていないとの報告を受けております。   憲法は、直ちに弁護人を依頼する権利を与えられなければ抑留又は拘禁されないとして、弁護人選任権を保障しているのでありまして、逮捕段階の被疑者国選弁護制度が整備されていない中で、言わばこれを補完しているのが当番弁護士制度ですので、こうした憲法上の要請を踏まえた運用が全国的になされることを期待しております。 ○栗木参事官 他に御質問・御意見等はよろしいでしょうか。   時間の関係で、次のテーマに入るのが難しいため、「証拠開示制度の拡充の施行状況」については次回会議のテーマとさせていただきます。   それでは、本日までの協議により、取調べの録音・録画制度、合意制度、刑事免責制度、通信傍受の合理化・効率化、裁量保釈の判断に当たっての考慮事項の明確化、弁護人による援助の充実化の各施行状況について情報共有をすることができたと思います。   そこで、第8回会議においては、証拠開示制度の拡充のほか、犯罪被害者等・証人を保護するための措置、証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げ及び自白事件の簡易迅速な処理のための措置の各施行状況について、情報共有と意見交換を行うこととしたいと思いますが、その具体的な内容については、事務当局において検討し、おって御連絡します。そのような進め方とすることでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   第8回会議の日程については、できるだけ早期に調整の上、おってお知らせしたいと思います。   また、先ほど申し上げたとおり、第8回会議の具体的な内容については事務当局において検討しますが、第8回会議において、構成員の皆様から資料の御提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御準備いただいて御送付いただく必要がある関係上、早めに御連絡することとして、御提出の期限についても御連絡します。その場合の資料については、事務当局において確認させていただき、必要に応じて、どのような形で御提出いただくかなどについて御相談させていただくことは、これまでと同様です。   それから、本日の会議における御発言の中には、職務上取り扱われた事例に関するものなどがありましたので、御発言なさった方の御意向を改めて確認の上、非公開とすべき部分がある場合には、該当部分を非公開としたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等については、その方との調整もありますので、事務当局に御一任いただきたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。               (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-