法制審議会 家族法制部会 第29回会議 議事録 第1 日 時  令和5年7月18日(火)  自 午後1時30分                       至 午後5時28分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  家族法制の見直しに関する要綱案の取りまとめに向けた検討(6) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会家族法制部会の第29回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席を頂きまして、誠にありがとうございます。本日も前回までと同様、ウェブ会議の方法を併用した開催になりますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。   それでは、本日の会議の配布資料の確認をまず、させていただきたいと思います。事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。お手元の資料について御確認いただきたいと思います。本日の会議資料として、部会資料29、そして「「家族法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要【令和5年7月時点の暫定版】」をお配りしております。   また、大石委員及び武田委員から資料の提出がございましたので、こちらもお配りしてございます。これらの資料につきましては、追って大石委員、武田委員からそれぞれ御発言の際に御説明いただけるものと承知しております。部会資料29の内容につきましては、御議論いただく直前に御説明させていただきます。   「「家族法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要【令和5年7月時点の暫定版】」は、御議論の際の参考としていただく趣旨で、パブリック・コメントの手続で寄せられました今回の議論に関連する部分についての意見につき、現時点までに集計することができたものを暫定的に御紹介するものでございます。この資料につきましては、前回会議と同様に、パブリック・コメントの手続における全ての意見を御紹介するものではないことや、今後の集計作業における修正の可能性があることに御留意ください。また、今後随時資料を更新させていただく予定です。   資料の説明は以上になります。   なお、前回会議と同様、本日も委員、幹事の皆様が会議の前後や休憩時間等に御参照いただくことができるように、パブリック・コメントに寄せられた意見をコピーしてつづったファイルを会議室に御用意しております。   今回もウェブ会議を併用していることから、御発言に当たっては冒頭でお名のりいただきますようお願いいたします。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   本日の大まかな進行でございますが、全体を二つに区切りまして御意見を頂きたいと思っております。一つ目は、すぐ後で御説明いただきますけれども、部会資料29の第1の養育費に関する論点、これは、法定養育費に関する論点、第1の1ですが、それから、第1の2といたしまして、養育費、婚姻費用の分担及び扶養義務に係る金銭債権の民事執行手続に係る規律の見直し、この二つに分かれておりますが、ここの部分はまとめて御議論いただきたいと思っております。   そして、二つ目の区切りといたしまして、それに続きます部会資料第29の第2、22ページ以下になりますけれども、親子交流に関する規律の見直しの部分について御議論を頂こうと思っております。この中も1と2に分かれておりますけれども、やはり併せて御議論を頂ければと考えております。   そこで、まず部会資料29の「第1 養育費に関する規律の見直し」の部分につきまして、事務当局から資料の御説明を頂きたいと思います。 ○北村幹事 事務当局でございます。部会資料29の第1では、養育費に関する規律の見直しについて取り上げております。現行法の下では、養育費に関する取決めをすることは協議離婚の要件とはなっていませんので、養育費の額を定めることなく協議上の離婚をするといったケースが存在し、そのことがひとり親世帯の貧困につながっているとの指摘がこの部会でもされております。この問題に対応するための方策としては、離婚時の養育費の取決めを促進するため、周知広報や様々な支援策を拡充する方向での検討を進めるということも考えられますが、しかし、このような促進策を講じたとしても、様々な事情により養育費に関する協議等をすることが現実的には期待できず、養育費の額を直ちに確定することができない場合があるとも、この部会でも繰り返し御指摘があったところでございます。   そこで、部会資料29の第1の1では、このような場合に対応するためのある意味、応急の措置として、養育費の取決めがない場合に一定の法定額を請求することができるという法定養育費の考え方及び、法定養育費に一般先取特権を付与することで、債務名義がなくても民事執行手続の申立てをすることができるものとする考え方を提示しています。   もっとも、このような法定養育費を定めることについては検討すべき課題も少なくないように思います。例えば、先ほども申し上げましたように、養育費の取決めがない場合に一定の法定額を請求することができるということがそもそも許されるのかであるとか、また、法定養育費の額を法令で一定額と定めた場合には、債務者の資力や収入に見合わないような過大な債務を課すことになるのではないかといった懸念や、債務者の手続保障の観点から問題があるのではないかといった懸念などもあり得るかと思います。   本日の会議では、まず総論的な問題として、法定養育費を認めるべき必要性の観点に加えて、これを認めることへの懸念にも留意した上で、ゴシックの1(1)のとおり、法定養育費の仕組みを設けることの可否や正当化の根拠について御議論いただきたいと思います。その上で、仮に法定養育費の仕組みを認めるものとした場合には、ゴシックの1(2)のとおり、その要件や効果等をどのように規律すべきかが問題となりますし、また、ゴシックの1(3)のとおり、この債権に一般先取特権を付与するかどうかが問題となります。このような各論的な事項についても御議論いただきたいと思います。   次に、部会資料29の17ページ以下のゴシックの2では、執行手続における債権者の負担を軽減するための仕組みについて取り上げております。現在の民事執行の仕組みでは、民事執行の手続ごとにそれぞれ当事者による申立てが必要となるため、これが養育費等の債権者にとって大きな負担となっているのではないかとの指摘があります。そこで、ゴシックの2では、1回の申立てにより財産開示手続や第三者からの情報取得手続と、それにより判明した財産に対する執行手続をまとめて行うことができるようにするということを提示しております。   養育費関係の説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ただいま部会資料29の「第1 養育費に関する規律の見直し」の部分について御説明を頂きました。1と2とありますけれども、双方を含めて御意見を頂ければと思います。どなたからでも結構ですので、御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○武田委員 親子ネット、武田でございます。大変お暑い中、皆さん御苦労様でございます。第1に関して発言をさせていただければと思います。   まず、ゴシック1の法定養育費に関して、今年2月に出した弊会としてのパブコメの意見といたしましては、法定養育費といった制度が、取決めが困難なときの救済措置としての位置づけで検討されることに賛成するという意見を、提出させていただいてございます。基本的な考え方といたしましては、部会資料29でいいますと7ページの(注2)、ここの前段記載の考え方に近しいものだと思っております。具体的には、法定養育費の必要性には賛同するものの、要件に関しては、例えばゴシックで記載されております離婚した父母間で養育費の合意がないこと、あと、部会資料29ページ、先ほどと同じ7ページの2段落目ですかね、要件として一定の期間の経過などの要件のみとすることに懸念を覚えるものでございます。   理由といたしましては、法定養育費の要件を簡便にしすぎた場合、養育費の取決めに関して、かえって取決めが促進されなくなるのではないかということを懸念するものでございます。本日補足資料として配布をさせていただきました。こちらの資料は第2回で配布いただいた協議離婚に関する実態調査結果、これを抜粋したものなのですけれども、これの2ページに二つ表を記載しました。例えば、相手方と話をすることがイヤだった等を理由とする層Aの区分のところですね、こういったケースに関しまして、一定の期間の経過などの要件のみとすることが、取決めをしなくてもよいという風潮を生まないかということに懸念を持っているということでございます。   あともう1点、法定養育費の一定額の検討に当たりまして、義務者側の困窮ケースがあることも念頭に御検討を頂きたいと思います。弊会の会員の養育費支払率は約90%でございます。基本的には会員の大多数が養育費や婚姻費用を支払っていること、これは昨年の第18回会議で御紹介したとおりでございます。しかしながら、中には別居後の過程によって精神を病んで失業に至り生活保護を受給している、このような当事者も事実存在しています。また、当事者になった後、これも最近報告を受けたのですが、がんを発病して、発病した後、併せてこの当事者の父親が亡くなりましたと、以降、毎週、母親の看護に週1回、栃木まで行っております。このがんを発病した当事者は母親ですが、現在、元夫から養育費の増額請求を受けており、今、調停中とのことです。彼女としては自身の事情を話したということでございますが、担当の調停委員からは、同情はするが、最悪、算定表どおりになることを御了承くださいと、このように言われているそうでございます。こういった観点、部会資料29の9ページ、ウでも少し触れていただいておりますが、父母のいずれかに負担能力があるか、このような観点にとどまらず、義務者が困窮している場合に関しましても配慮が必要なケースも存在するということも念頭に検討を頂きたいと思います。   あと、第1に関しては、恐らく本日、細かな論点が多数出てくるのではないかと思いますので、ほかの委員、幹事の先生方の御意見をこの後は拝聴させていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。武田委員は、法定養育費については基本的な方向については賛成であるという前提の下で、幾つかの点について御懸念を示されたと理解しました。大きく分けて二つあったかと思いますが、一つは、要件が余りに簡便であると、取決めを促進しない、あるいは阻害する効果を持つのではないかということ、それから、額を決めるに際しては義務者が困窮しているというケースを考慮に入れる必要があるのではないかということ、この2点の御指摘を頂いたと受け止めさせていただきます。 ○大石委員 ありがとうございます。それでは、今日はこうした法定養育費の制度を新設することの可否や正当化の根拠ということが問われているということだそうですので、提出した資料に基づき、少しマクロ的な観点ではございますが、私の意見を述べさせていただきたいと思います。   まず、ひとり親世帯の貧困と養育費の実態についてお話をしていきたいと思います。ポイントとしましては5点ございます。第1に、日本のひとり親世帯の貧困率は国際的に見ても顕著に高い水準にあるということ、第2に、その貧困率は改善傾向にあるとはいっても、その一因としては貧困線自体が下がっているということがありまして、30年ほど前であれば貧困とされた所得層の人々が今では非貧困となっているということをお示ししたいと思います。また、一つ飛ばしまして、第3のポイントとしては、コロナ禍のシングルマザー世帯を1年間追跡したデータをお示ししています。6割以上が養育費の支払を受けておらず、また、受けている世帯でも、養育費の支払が中断したり、あるいは金額が変動したりするというケースが少なくないということが明らかとなっております。第4に、そうした養育費支払の不調ですとか中断といったものは、こどもにとって必要なものをなかなか買えないという、いわゆる物質的?奪となって表れております。第5に、国際的に見ますと、ひとり親世帯の自助努力に委ねたままでは養育費の確保は難しいという観点から、EU諸国などでは公的関与を強める方向への制度改正を行っているということがあります。   それでは、グラフを用いて具体的に見てまいりたいと思います。3枚目のスライドですけれども、こちらの図では、△がひとり親世帯にいる世帯員の貧困率、■が二人親世帯にいる世帯員の貧困率を示しています。特記ない限り2018年時点の貧困率となっております。日本は、赤でお示ししておりますけれども、国際的に見てもひとり親世帯の貧困率が顕著に高いということが分かります。2021年には44.5%と改善しましたので、ほかの国とは年次が違いますが、それをピンクで示して入れております。ただ、まだ依然として高い水準にあるということは否めないと思います。   さらに、次のグラフとなりますけれども、ひとり親世帯のこどもの貧困率が改善したといいましても、必ずしも楽観できない状況にあります。こちらの図ではひとり親世帯の貧困率の推移を■の点でつないでおりまして、また、物価水準を調整した貧困線を赤い線で示しております。貧困線というのは、世帯員数を調整した等価可処分所得というものの中央値の半分に設定されています。ひとり親世帯の貧困率が最も高かった1997年の貧困線の実質値は130万円でした。2021年では、これは108万円となっています。つまり、貧困線が低下していることによって、25年前であれば貧困とされた所得層が、今では貧困ではないということになっているわけです。   次のグラフは、しんぐるまざあず・ふぉーらむさんがコロナ禍の2020年8月から2021年7月までの12か月にわたって実施されましたシングルマザー世帯の追跡調査のデータを使わせていただいております。調査に協力してくださった528人の世帯について、12か月間の養育費の受給状況を示しています。白く抜けているのは、その月だけ調査に参加しなかったケースとなっています。ピンク色は養育費の受給があった月、黒はなかった月を意味します。一つのブロックが100人ずつのデータを示しており、全体で528人分となっています。厚生労働省の「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」では、養育費を現在も受けていると回答した割合は28.1%でした。こちらのデータでは、調査に参加した月のうち全てについて養育費を受給していたと回答した世帯は全体の21.8%となっています。一方、調査に参加した全ての月において養育費の受給がなかった世帯は全体の62.8%となっています。注目したいのは、受給した月としない月がまだらになっている世帯の存在です。全体の15.3%がこれに該当しております。ほんの12か月の間にも養育費の支払いが中断したり、あるいは、詳細は割愛しておりますが、養育費の金額が変動したりする、そういうことが決してまれではないということです。   次のスライドを御覧ください。養育費の受け取りがないこと、あるいは断続的にしか受け取れないということは、物質的な?奪に影響します。ここでの物質的?奪とは、家族が必要とするものを経済的な理由で買えなかったことを意味します。この棒グラフの長さは、必要とするものを買えないと回答した箇月数を表しています。例えば一番上、米などの主食を買えなかったという場合ですけれども、毎月養育費を受け取っていたり断続的に受け取っている世帯では、平均して2か月ほどそうした経験があると回答しています。一方、養育費を受け取っていない世帯では、米などの主食を買えなかったという平均月数は3か月以上となっています。更に物質的剥奪傾向が顕著なのはこども関係の出費です。グラフでは下の二つの項目になりますが、断続的にしか養育費を受け取っていなかったり、あるいは一切受け取っていない世帯の場合、こどもの靴とか服、玩具とか文具や学用品などを平均して4か月から6か月近く購入できないと回答しております。   結論としましては、次のようなことを申し上げたいと思います。まず、何らかの強制力のある養育費の支払システムの構築が必要と考えておりますので、法定養育費の創設はその一つのステップになるのではないかと考えて、賛成しております。   また、養育費の支払が中断したり、不定期になるということもまれではなくて、その都度、ひとり親が対応することは非常にハードルが高いと。ですので、一般先取特権を有するようにするといった対応なども重要であると考え、賛成します。   また、諸外国の動向なのですけれども、法定養育費の創設に加えまして、公的な立替えシステムを構築している国々が増えてきております。例えばエストニアなども2017年に制度改正を行っております。   また、ここで議論されている法定養育費の金額についてなのですけれども、経済学者の観点としては、やはり物価スライドを行うことが必要であると考えております。   最後になりますけれども、子育ての費用の一番大きな部分は教育費です。洋服やおもちゃは兄弟の間で融通し合ったりおさがりを使うことができるかもしれませんけれども、教育費についてはそういったことはできません。つまり、子育て費用の一番大きな部分については規模の経済が働きません。したがって、ので、法定養育費はこども1人当たりの金額として設定すべきであると考えております。   私からは以上となります。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。大石委員からは4種類のデータをお示しいただき、現在の貧困の状況がなお改善されていないという認識をお示しいただいた上で、今回の法定養育費の提案には基本的には賛成であり、一般先取特権を付与するということについても賛成したいという御意見を頂戴いたしました。金額につきましては、スライド制ということと、それから、教育費に着目して、1人当たりということで計算すべきだという御提案を頂きました。ありがとうございます。 ○井上委員 連合の井上です。ありがとうございます。まず、第1の法定養育費についてですが、養育費負担の制度化につきましては、政府の第5次男女共同参画基本計画の中でも、貧困など生活上の困難に直面する女性への支援やこどもの貧困対策の観点から、養育費制度を見直すための法改正を検討する必要性が明記をされております。連合も従前から実現を求めてきた課題であります。特に今、大石委員からもありました、ひとり親家庭の貧困が大きな課題であることを踏まえれば、離婚する父母間で養育費について合意がない場合、法定額の養育費負担を義務付ける方策については賛成を致します。   その上で、(2)エの金額について、2ページの(注3)において二つの考え方が示されておりますけれども、最低限度額を定めることによって確実な履行確保を図る一方で、金額の上乗せに関しては当事者間の協議に委ねるのが現実的ではないかと考えております。   また、(3)の一般先取特権の付与についてですが、こちらは第24回会議でも発言をしておりますけれども、債務者の経済状況に留意が必要ではあるものの、認める方向で検討すべきだと考えています。   また、17ページの2の民事執行手続に係る規律の見直しに関してですが、こちらの見直しについても、1回の申立てで差押えが可能となることで当事者の負担軽減にもつながることを踏まえれば、こちらも認める方向で検討すべきと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。井上委員からも、1の法定養育費については賛成である、金額については最低限度額を定めて、その後は協議による上乗せというのが実際的ではないか、それから、一般先取特権についても基本的にはこれを認めるという方向に賛成する、また、2の手続の面についても基本的には賛成である、こういう御意見を頂戴いたしました。ありがとうございます。 ○今津幹事 幹事の今津でございます。何点か申し上げさせていただきます。まず、法定養育費制度を導入すること自体に関しては賛成の立場であります。確かに、先日のパブコメの御意見を見ましても、導入に慎重な御意見とか、あるいは、法制化に当たっては債務者の財産権等への配慮といった小さくない課題があるということも承知しておりますけれども、だからといって現状のままでいいかというと、そういうわけにはいかないという認識でおりまして、広報活動を強化する等といった工夫も示されておりますけれども、それによって状況が劇的に改善するとは思えない状況にありますので、今正に苦境にあるお子さんを救済するという意味でも、もちろんそうですし、離婚したからといって法的な親子関係が否定されないのですよと、あるいは養育の義務から免れることはできないのですよというメッセージを発信するという意味でも、こういった新たな制度を設けるということは前向きに検討してもいいのではないかと思っております。   仮にそうした権利を認めた場合ですけれども、その内容としては、今回の部会資料29の8ページにありますような、本来父母の協議等で決めるものが、できない場合の補充的な、あるいは最低限の保障という理解に賛同をするところです。権利の主体としては、監護費用の分担であるという趣旨からしますと、こども自身ではなくて父母の権利と構成するのが自然ではないかと思われますし、行使の際の便宜からいっても、恐らく父母に権利を認めた方がよろしいのではないかと思っております。   それから、内容、金額ですね、こちらについては個別の事情、特に収入などを考慮して決定するということになりますと、かなり手続に手間が掛かりますので、実際の救済につながりにくいというリスクがあるかと思いますので、資料の13ページでいうところの@に当たるような、法令で一律に金額を決めるという方式がよいのではないかと思っております。   さらに、実効性確保という点につきましては、資料16ページにありますような一般先取特権付与という方向性に賛同したいと思っております。この点、従来型のいわゆる養育費に関しても同じような議論がありましたけれども、法定養育費を仮に認めるとすれば、より一層、先取特権を付与するという方向性が望ましいのではないかと思っているところです。制度趣旨として、こどもの健全な養育のために最低限保障するという趣旨であるとすれば、実体法上、優先権を付けるということは不自然ではないかと思いますし、また、従来型の養育費の場合ですと、父母の合意というのが基礎にありますので、実効性確保のためには、先取特権以外にも、例えば、債務名義をより簡易な方法で取得させるといったような別のルートがあり得るのですけれども、法定養育費の場面だと、そうした債務名義を簡単に取らせるという方向性はなかなか難しいのかなと思われるところです。そもそも父母の合意がないというところですので、そういった方策よりも、むしろ先取特権化をするという要請が高いのではないかと思われるところです。   仮にそういった制度を設けた場合の最大の懸念としては、恐らく債務者への配慮というところがあろうかと思うのですけれども、それとの関係でも、先取特権にした方が、債務名義を新しく、例えば、より簡易な手段で取得させる方向よりも、債務者にとっては、よりダメージが少ないのかなと思っているところです。具体的に言いますと、今回の資料の17ページの冒頭の(注2)というところに記載がありますように、先取特権を付けて担保権の実行という形式で実行していく方が、債務者にとっては、より簡易な方法で実体的な異議を述べる手段が確保されているということがございます。   さらに、部会資料でいうと、同じ17ページの(注4)にもありますけれども、過酷な執行を回避するための対策というのが既に民事執行法には用意されているところです。直近の執行法の改正でいいますと、給与債権を差し押さえた場合、4週間の猶予が新たに認められたという、そういった改正もされています。この点、現在の仕組みでは扶養義務の場合はこの4週間という猶予はない訳なのですけれども、例えばそちらを、法定養育費の場合は取立権行使までもう少し時間を置くといったような追加の手当てをすることで、もちろん不利益の程度は大小ありますけれども、債務者にとって耐え難い不利益とまではいえないと、制度趣旨としてこどもの利益を実現するというところとのバランスでいうと、甘受できる程度の負担なのかなという評価も可能であると思いますので、私自身はこうした制度に賛成の立場を表明させていただきたいと思います。   すみません、長くなりましたが、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。今津幹事からも、法定養育費について基本的には賛成の御意見を頂きました。課題はあるけれども、こうした制度が実際上も理念上も必要であるという御意見だったかと思います。具体的には、補充的なものとして最低限の額を一律に定める、権利の行使は父母が行うというのがよいのではないかという御意見で、先取特権を付与するということについては、法定養育費の場合には特にこれが必要ではないかという御指摘があったと思います。また、先取特権の付与が制度としてよろしいということと、あわせて、債務者への配慮については、現在の民事執行法上の対応にある程度の追加をすることによっても対応が図れるといった御指摘も頂きました。ありがとうございます。 ○戒能委員 ありがとうございます。委員の戒能です。先ほど大石委員から資料を基に、国際的な視点も入れながら、全体的な状況を御説明いただきました。それで、やはりひとり親世帯の貧困率が改善されたに見えるけれども、これは貧困線も同時に低下しているという背景事情があるということも認識を新たにしたところですが、ジェンダーギャップ指数というのがありまして、最新のデータでも125位ですか、非常に低い、格差が縮まらないということが報道もされております。その中で、一般的には経済の場面では経営者の割合が低いとか、政治の場面では国会議員の女性比率が低いとか、そういうことがずっと言われておりますが、経済的な面では、やはり所得の格差が縮まらないということが大きいとも報道されております。月にすると、これはいわゆる正規雇用者でありますけれども、月8万円の差がある、年にすると100万円の差まで行くというような状況の中で、離婚等あるいは非婚の場合もありますけれども、母子家庭の貧困というのは状況が改善されていない、というよりも悪化しているという中で、養育費の支払率が極めて低いことが明らかになったと思っております。   そこで、重要な点だと思うのは、法定養育費自体は今までなかったことでありますし、本当にゼロに近いような、養育費をもらっていないという割合が高いわけですし、もらっていても額が低いという状況がありますから、応急措置として法定養育費をきちんと決めて、その額は必ず保障されるという制度化が行われることは賛成はいたしますが、しかし問題は、金額を決めてもその金額の支払、履行確保の問題ですね、履行確保の仕組みがこの御提案では先取特権というところにとどまっておりますが、それでいいのかどうかということがあります。   それで、大石委員の今日の資料でも強調されていると私は理解いたしましたが、EU諸国では養育費支払への公的関与を強めつつあるということですね。それから、最後の結論のところでもおっしゃっていますけれども、法定養育費の創設は一歩前進であろうけれども、それだけでは不十分であって、それに加えて公的な立替えシステムの構築ですね、たとえ支払があったとしても中断があったり、継続的な安定的な支払にはなっていないということを見ると、公的な立替えシステムの構築が求められると、そういう国々が少しずつ増えているというお話がございました。ですから、これはもう何回も以前から申し上げていて、民事法の議論をするところだということで、そこでストップしてしまいますが、一歩やはりここで進めなければ、この状況、特に母子家庭の貧困、こどもの貧困の問題は解決しないのではないかと考えております。   それで、債務者の負担の問題が先ほどから取り上げられておりますけれども、数えましたら、この補足説明には4回も指摘がありまして、非常に強調されておりますが、では一方で、これは15ページの(注2)にこの言葉が出ておりますが、法定養育費制度を真に必要としている者のために検討するのだというようなことが書かれておりますが、その真に必要としている者の立場はどうなのかということが問われなければならないし、支払をしない場合もあるわけですね、支払が可能であるにもかかわらず負担をしないという人も一方にはいると、そういう人たちに対してどういう手立てを用意するのか、確実に履行確保ができるような、民事法の範囲の中でもそういう手立てをどうするのかということを、これは検討しなければいけないのではないのかと思っております。   今のところはそこまでにしたいと思っております。以上です。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。戒能委員からも、ひとり親家族の貧困状況についての御説明があり、具体的な御意見としては、法定養育費の御提案に応急措置として賛成する、しかし履行確保の仕組みを考えるということが重要で、先取特権付与だけということでよいのかという御指摘がありました。民事法の範囲で更に考えられることはないかといった問題提起を頂きましたけれども、その点について何か具体的な御意見があれば伺えればと思いますが。 ○戒能委員 検討をしていただきたいと思います。 ○大村部会長 分かりました、ありがとうございます。問題提起を頂いたというふうに受け止めさせていただきたいと思います。 ○赤石委員 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石でございます。よろしくお願いいたします。まず、法定養育費のところでございますが、少しこどもの貧困ということに触れられておりますので、私も発言させていただきます。私どもは2023年度4月から4,300の世帯に団体として食糧支援をさせていただいております。3月に申込みを受け付けたときのアンケートを今、集計して、発表予定でございます。?奪指数についてはいろいろ大石委員の方から御報告があり、本当にお米を買えないことがあった、よくあった、時々あった、の方が65%とか、服や靴を買えないことがよくあった、時々あったが90%と年々上がっております。   また、自由記述も、本当に目を覆うような記述がありました。少し読み上げさせていただきます。学校が給食ではないため、お弁当を持たせられないときがあり、そういうときはこどもはトイレに籠もっていると息子が言っていたが、食料支援でお米が来るようになって、おにぎり一つでも持たせられるようになり、トイレに籠もることがなくなったとうれしそうに言っていて、親としてはショックでした。でも、お陰でクラスで仲間外れになったりすることがなく学校に通えていますとか、毎月お米を頂けて、体重が減らなくなりました。1か月はもたないけれど、前のように半月ぐらい米を食べられないということが減りました。そのせいだと思います。こどもが1日2食以上抜くことを防ぐのに食料支援が役立っています。こんな声を頂いております。   こどもの貧困というのは非常に深刻化しており、かつ、先ほども大石委員がおっしゃったように、数字でなかなか見えないという状況があるので、皆さんも今、この話を聞いたら大変驚かれると思うのです。私はいつも驚かれている現場におります。何とかして改善したい。ですので、もちろん親の就労収入を上げるという方策も必要ですし、戒能委員がおっしゃったように男女の格差、賃金格差をなくすことも大変重要でございます。とともに、養育費についても確保していくということが大事です。   法定養育費の話に行かせていただきます。こういう現状があると、私どもとしては、それが最低限の額であっても、お米が20キロ買えるよねとか、例えば1万円であっても、お米が20キロ買えるとしたら、この家にとっては救われるだろうと思ってしまい、すごく少額でも妥協したくなる気持ちがあります。しかし、一方ではやはりきちんといろいろな生活が保障される額を決めるべきだという声もありますので、非常に迷うところではあるわけです。   法定養育費に関しては今、私どものほかの調査でも、1年、2年たつとどうしても、養育費を取り決めても不払いになるケースがある、あるいは最初取り決めても、最初の1か月目から支払われないというケースがあるということを見ておりますと、やはり法定養育費が決まるということは、まずは大事なことであり、その後に、取立ての確保の制度が必要であると思っております。養育費の合意がないことをどういうふうに証明するのか、もう少し議論が行ったらもう一度発言したいのですけれども、ともかくこれがあることは必要であると。   そのときに、最低限の額を一定程度でこども1人当たり、私は御説明の中では1万円と聞いて、1万円ですかと非常に思ったわけでございますけれども、とはいえ、先ほども言ったように、それでお米を何キロ買えるなとも思うわけですけれども、しかし、やはり収入に見合った額というのが決まることが大切かなとは思っております。   一案として思っているのは、例えば、これは離婚届を自治体の戸籍課でお出しになるとするならば、この自治体で課税証明なども把握されておりますので、そういった収入に見合った養育費を決めるということができないのかということは一旦検討していただけたらよいのかな、収入認定が簡便に基礎自治体ではできるのではないかということは一旦、検討していただけたらいいかなと思っております。   あと、支払者側、債務者の方の関与についてですけれども、これが6ページでしょうか、周知広報のところで、様々な支援策とともに、ここに債務者が関与できないというような記述がございましたけれども、法定養育費について、きちんとこれが決まったということが周知されれば、これを決めることに反対である債務者の方はここで取決めについてアクションを起こすという、消極的なことでできるわけで、全く関与がないというのは少し違うのかなとは思っております。本当に離婚後、口約束のみの養育費というのは、なかなか支払われないまま1年、2年経過してしまうと、支払わなくてよい、何のおとがめもないのだということが続いてしまうと、不払いが続いてしまうということになりますので、やはり最初の取組というのは大事かなと思っております。   少し気になりましたのは、11ページでございます。養育費をもらう者というのはどういう人なのかと、これはまた別の議論なのかもしれないのですけれども、子を主に養育する者という言葉が出てきました。監護の分担との議論の中で出てきております。子を主に養育する者というのが一体どのような定義なのか、少し御質問させていただきたいと思います。今まで親権者ということがあり、そこに財産権とかに関わるというようなことがあり、あと、監護者というものがありました。それと別に、監護者指定する、しないというような議論があった、その後に、養育費どうなるのでしょうということが前回、前々回に多分、質問に出ていたときにはお答えがなかったのですけれども、ここで子を主に養育する者が養育費の権者であるというようなことが出てくると、この新しい概念に関してどのように考えたらよいのかというのが、少しまだ分かりかねるところがございますので、是非定義を示していただければと思います。   また、そのときに気になるのが、扶養控除を受ける者は誰なのか、社会保障の児童手当の、こどもを主に育てている者が権者となるのかとか、このようなこと全てに関わりますので、そこをはっきりさせることは必要なのかなと思っております。また、この11ページのイの段落の後ろから2番目のところに、監護を半々の場合には、養育費の金額というのは、監護費用の分担に関しては父母の協議等で定められないといったことは通常は想定し難いように考えられるというような記述がございます。これは一体どのようなことを想定しているのかと思うのですが、半々に決めたら非常にコミュニケーションが成り立ち得るでしょうというようなことをお考えなのかなと思うのですが、いろいろな協議のときに、半々です、親権も共同で、監護についても半々で、というのが形式的に決まってしまった後に全くコミュニケーションがとれないというようなこともあり得るのかなと思っておりますので、こういう記述については懸念があります。   それから、終期についても意見を述べさせていただきます。法定養育費の終期については、家裁等の手続によって養育費用の分担が定めるまででよいかと思います。また、子の数に応じて法令で決めるので不都合はないかと思っております。先ほども言いましたように、法定養育費の額については、最低限であっても有り難いと思ってはおりますけれども、その最低限が幾らなのかというのは、ささやかれた以外に額が分からないわけなのですけれども、とはいえ、やはりこれから未来に育つこどもたちのためにこの法制審議会ができることとして、本当にこどもの未来を明るくするためには、やはりきちんとした額が決められるということが私たちの責任なのだろうと思っております。ですので、できれば親の収入に応じた額が決まることがベストであろうかと思って、先ほど申し上げたところでございます。   また、こんなことを申し上げると何か少し、そうでない方もいらっしゃると思うので、武田委員も先ほどいろいろな、お仕事ができなくなってしまった方のお話をされていたので、もしかしたら両面あるのかもしれないですけれども、わざと養育費を支払いたくないがためにお仕事を辞めてしまわれたというようなことで非常に苦慮されている同居親の方のお話を聞きますので、実際に稼得能力があるにもかかわらず養育費の支払を回避するためにそういうことをやられている方については、どうしたらいいのかなとは思うところでございます。   今のところはそんなところで、最後に、一般先取特権が決まるという方向性は、私は別によいかなと思っております。なかなかこの一般先取特権の理解が進まず、大変申し訳なかったのですけれども、一定程度のよい影響があるだろうと思っております。とはいえ、養育費の支払確保に関しましては、やはり何らかの取立機関が関与するという大石委員の意見に賛成でございます。いろいろなやり方があると思います。税の徴収や社会保険料の徴収のような機関が関与するということもあり得ますし、そこまでできないにしても、取立機関の民間のサービサーが関与するといったことは、法務省の養育費の検討会ではサービサーの方に来ていただいて、お話を聞くことがありました。ある程度の量が取りまとまらないとなかなか実現に至らないというお話でしたが、それが自治体でまとまれば、サービサーの関与というのもあるのかもしれません。一番よろしいのは、やはり公的な機関が関与することだと思いますので、ここで議論ができないのだとしても、できるのが一番望ましいと思いますが、取立機関についての検討というのをするべきであろうと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。赤石委員からたくさんの御指摘がありましたけれども、法定養育費については方向性としては賛成だという御意見だと承りました。そして、一般先取特権につきましても、先ほどから、各委員が御指摘になっている公的な立替えシステムが必要だということは一方にありながら、一般先取特権の付与自体については賛成であるという御意見だと理解を致しました。その上で、額については一方で最低額でよいという気持ちもあるけれども、収入に連動させるということが考えられないかという御指摘、それから、債務者側への配慮ということについては、債務者側でアクションをとるということで対応できるのではないか、さらに、終期については、分担額が決まるまでということでよいのではないかといった御意見を頂きました。合意がないことをどのように証明するかという点についても問題提起をしていただきまして、これには、ほかの方の御意見もあろうかと思いますので、後で何か御意見のある方がいらしたら御発言を頂きたいと思います。それから、最後に事務当局に対して、子を主に養育する者というのはどういう趣旨なのかという御質問があったと思いますので、この点につきまして何かありましたら、お答えをお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。御質問いただきました、子を主に養育する者についてですけれども、前回まで御議論いただいていました法的な意味での監護者というものと少し区別して議論していただきたいということで、実際にお子さんを主に見ている人ということを表現したくて使っているというものになります。ですので、他法令での制度とどう関係があるのかということについては、直ちにお答えする立場にはないのですけれども、監護費用の分担という意味で養育費というものを考える以上、実際にお子さんを事実として見ているということ、そこを今、表しているということになります。また50、50の場合、半々になる場合には話合いがあるであろうということを書いたけれども、そうならない場合もあるのではないかといったような御指摘などもいろいろ頂きました。この点は以前にも御指摘があったところではございますけれども、監護費用の分担であり、また、それぞれ親である以上、生活保持義務があるということになれば、通常は、交代で監護するということまで決められるのであれば、そこの費用負担、分担というものは通常、話し合われるだろうと思っていますけれども、そこの部分に決められていなかったとしても、実際の収入に差がある場合には、当然そこには養育費の負担というものは想定され得るであろうということは、従前からこの場でも御議論があったところだと理解しております。 ○大村部会長 赤石委員、差し当たりよろしいですか。 ○赤石委員 そうですね、この三つ目の概念が出てきたことが、ほかの監護者指定のところですとかとどのように整合性がとれるのかが少しまだ分かりにくいという印象を持っておりますので、全体でどうお考えになるのかは、もう少し留保したいところがあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。他の概念との関係がどうなるのかというところについては、どこかで調整をする必要はあるのだろうと思いますけれども、他の概念の方を今ここで議論していますと、こちらの固有の議論ができなくなるということもあって、おそらく分けて御提案になっているということかと思いますので、整理ができるのであればどこかで整理する、そこのところは赤石委員がおっしゃったように、留保しておいていただくということで進めさせていただきたいと思います。 ○水野委員 委員の水野でございます。ありがとうございます。法定養育費の御提案、有り難く存じます。是非実現したいと思います。突飛な比喩で恐縮なのですが、地球温暖化に例えていいますと、山火事とか洪水とかいう深刻な事態、つまりこどもの安心・安全が保てない奪い合いの事態にはもちろん対処しなければならないのですけれども、ここで地球全体の気温を左右することに当たるのが養育費の確実な履行だと思います。養育費の履行が確実に行われれば、暴力のある育児環境から被害者が逃げ出すということもしやすいでしょうし、母子家庭の貧困という問題も改善されると思います。西欧の家族法は離婚手続を重くして、確実に弱者保護をケースごとの手続に内包してきましたが、日本の家族法はその弱者保護手続を削除して民法を継受いたしました。戦前は家の自治に任せ、戦後は当事者の自治に任せて、非常に安上がりに運営してきました。   とはいえ、西欧法のように全てを裁判離婚にするような根本的な改革は難しいので、協議離婚制度を前提に考える方が現実的です。そうすると、個別の事情を事前に配慮できませんので、一律の対応にならざるを得ませんから、事後的に実態に合わせた修正が必要になるでしょう。例えばこどもを奪われた親が扶養能力のない貧しい親である場合もあり得るかと思います。そのような事案に応じた修正をする際には、弱者にとっては法廷で争うことは途方もないハードルの高さになり得ることも考えないといけません。立証が楽になるように、住民税非課税証明書で簡単に免除されるような工夫もあり得るかもしれません。   また、将来的にはマイナンバーなどで簡単に立証できる可能性もありますが、現段階でも妥当な養育費の算定のために当事者が相手方の収入情報を立証するために、赤石委員の御発言にもありましたけれども、税務当局の情報とか市町村の保有している住民税の課税情報などを活用することも考えられると思います。フランスでは、不払いの養育費は直接税の取立手続に乗せて徴収しています。そこまで行かなくても、こどもの養育費のために使える公的支援ツールを積極的に開拓するべきだと思います。ここにはこども家庭庁などからも出席しておられるメンバーがおられますから、ほかにもいろいろと支援は考えられるはずです。それでも全てを裁判離婚にするよりはずっと現実的な改革で、かつ、こどものために必要なことだと思います。   あと、些細な点を、1点だけです。11ページから12ページにかけて、利益相反行為の特別代理人を利用する案が書かれておりますが、この特別代理人制度は、元々は親権者であれば利益相反行為であっても代理法の制約を免れて、代理できなければならないという明治民法立法時の発想で、親は親たらずとも子は子たれというのが我が国の醇風美俗だという発想でできた、いささか筋悪の制度でした。にわかに代案は思い付きませんが、特別代理人候補をどう選ぶかなど、筋悪の制度ゆえの問題点を抱えていることは少し心配ですので、慎重な御検討をお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。水野委員からも、法定養育費については賛成であるという御意見を頂きました。現行の協議離婚制度を前提として考えるときには、一律の対応というのが不可避であろうという御指摘がありました。それとの関係で、課税情報等の利用ということをおっしゃっておられたかと思いますけれども、それは額の点についてですか。 ○水野委員 はい、額の点です。 ○大村部会長 そうすると、額については、例えば先ほど赤石委員がおっしゃったような、収入に連動した額を定めるというような御意見だということになりますか。 ○水野委員 定額を保障した上で、その後、当事者の資力に合わせて修正する手続がとられていいと思っております。また、それが負担にならないように設計する必要があると思います。 ○大村部会長 分かりました。それから、あともう一つ、利益相反についての御注意を頂いたと理解を致しました。 ○杉山幹事 幹事の杉山です。まず、法定養育費についてでありますが、私自身は、基本的には当事者間の話合いとか調停審判で当事者の資力、収入に沿って実情に合った額を定めるのがよい、そして、それに向けて合意形成をサポートするとか、簡易迅速に債務名義を作成する制度を整備する方が望ましいと思っています。その一方で、そのような合意形成が不可能であるとか、非常に時間が掛かるという場合もあり、本来は審判前の仮処分などを活用できればいいのですが、それが難しいこともあるようですので、それに代わるものとして、つまり本来のルートに乗せるまでのつなぎとして、法定養育費のような制度を作っていく方向性自体には賛成を致します。また、仮にこのような制度を作るとして、その後、強制執行ができないと困りますので、一般先取特権を付ける方向性になっていくであろうと考えております。   ただ、この制度を設けるに当たっての一番の懸念として指摘されている債務者の手続保障、つまり、法律で当然に、場合によっては過剰な債務負担を負わせることになる、あるいは過剰な執行がされる可能性があるという問題については、実体法と手続法の双方から対応を考えることができると思っております。実体法の側面ですが、この法定養育費の制度というものは、合意形成とか、あるいは調停審判が成立するまでのつなぎの制度として位置づけるのが適当であろうと思っており、そうであれば、債務名義などが成立するのに相当な期間で区切ることもあり得ると思いますし、また、実際の債務者の資力を勘案できればいいのですが、なかなか難しいと思いますので、低額で一定の額を定めておくことが、債務者の手続保障を考えると、望ましいのではと思います。ただ、一方で額が低すぎると、債務者が変更の話合いに応じない可能性もある点は、少し悩ましいところではありますが、ただ、過剰な債務負担と過剰な執行に対する懸念を考えるのであれば、低額で一定の額で設定するのでやむを得ないと思っております。   1点、債務者の貧困事例への対応が悩ましい問題であると思いますが、養育費の算定表を見ていますと、確かに毎月の養育費がゼロから1万円で設定される場合もあるようなのですが、実際に本当に資力がなくて、限りなくゼロに近いものが設定される場合がどれぐらいあるのか、よく分かっていないのですが、ある程度の額は負担するのが通常ではないかと思っております。破産した場合であっても養育費は免責されないものでもあるので。逆に、ゼロあるいはそれに近い額で設定されるのがそれほど多いケースではない、まれなケースであれば、そのような極限的な事例をベースに考えるのではなくて、本当に救済が必要な貧困事例は手続的に救済措置を与えることで対処すべきであると思います。   手続による対応ですが、先ほど今津幹事から一般先取特権だと執行抗告が使えるという話もございましたが、差押禁止の範囲を変更する形も執行場面で救済することも可能ですし、債務者側からも適正額に修正させるような機会として簡易なものを用意することによって、債務者の貧困事例に対しては対処していくのが望ましいのではないかと思います。法定養育費の額そのものを変更というか、合意で養育費を定める方向にもっていくとか、そのようなことが簡易にできるような手続を準備していく方向の検討もすべきであろうと考えています。   包括申立ての件ですが、こちらも方向性には賛成を致します。執行の負担をなるべく軽減するために必要な制度であると思いますが、ただ、この制度の本来の趣旨を考えますと、新たな制度を作るときに余りにも複雑なものを作って、申立人に難しい選択権を与えるとか、あるいは逆に裁判所に過度な裁量を認めるというのも適当ではないと思っております。   そうすると、特に財産の調査手続、第三者への情報開示のところで、なるべく広い財産を調査できる方向にするのが望ましいことは理解をしており、預金債権なども含めて広く調査対象にしていくことも一つの方向性ではあると思いますが、養育費というのが毎月少額の債権を継続的に払ってもらうという性格のもので、さらに、既に養育費に関しては執行法上、様々な手当てができておりまして、将来分の養育費についても給与とか、その他継続的な給付に係る債権の差押えをする制度が用意されていることを考えますと、一つの考え方としては、給与債権を調査して差し押さえることをベースに一括して財産、情報開示、執行ができるような制度を構築していくことが望ましいのではと考えます。   特に、預金債権については、これもこの制度の対象にするのが望ましいとは思いますが、複数の債権が発見されたときなどに、どれから差し押さえたらいいのか、按分するのかという問題が出てきて、手続が複雑になる可能性があると思われますし、また、預金債権なんかを情報開示の手続で得ますと、記録閲覧できる債権者の範囲が広いので、例えば、債務名義を持っているほかの金融機関などが記録を見ることもでき、本来、養育費の債権者に特化して負担を軽減した手続を作ったにもかかわらず、ほかの債権者が参加できることになり、本来の目的が薄れる可能性もあるので、制度を作るとしても、まず範囲を少なめに作っておくのでも良いのではと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。杉山幹事からは、法定養育費については、合意促進が本来は望ましいけれども、しかし応急の方策としてはこれに賛成をするという御意見を頂きました。先取特権の付与について、債務者の手続保障ということを考えると、期間制限をする、それから低い定額を考えるということで対応するのがよいのではないか、債務者の貧困事例というのも挙げられるけれども、これについては救済の仕組みを作っておいて対応するということではないかという御意見だったかと思います。それから、2の手続の一本化については、基本的な方向は賛成だけれども、余り複雑なもの、裁量性の高いものは避けた方がよいということで、給与債権差押えをベースに考えるというのも一案ではないかといった御意見を頂戴いたしました。 ○大石委員 委員の大石です。情報提供なのですけれども、私が調べた範囲で得た情報ですけれども、例えば2017年に法改正をしたエストニアの場合ですと、不払いがあった場合には公的機関が1人1か月当たり100ユーロ、今、1ユーロが156円ぐらいですから1.5万円少しぐらいでしょうか、それから、フランスの場合ですと、同じくこども1人につき1か月で116.57ユーロを公的機関が立替支払をするということになっているようです。ここの部会には関連省庁の方も多数参加されておられますし、是非EUの動向ですとか、諸外国の動向について調査を進めていただければと思います。また、こういう法定の養育費を定めるということであれば、公的な徴収機関の設立や立替払制度の創設というのも恐らくセットにすべき方向性だと考えておりますので、その点も関連省庁の方に是非お願いしたいと思います。   また、債務者に対する過剰な執行や取立てに関しての懸念が多数出ておりますけれども、例えばEU諸国の場合ですと、債務者側に対して就労支援を行って経済的な自立を果たせるようにするとかいったようなことも行われているようです。そういった方向性からのアプローチも必要ではないかと考えます。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。大石委員からは情報について補足の御説明があり、また、関連省庁の方々への御要望も頂戴いたしました。 ○柿本委員 柿本でございます。委員の皆様方と重なるところが多いのですが、申し上げます。   養育費の受取が一切できていないひとり親世帯が63%にも及ぶという現状が、貧困を生む大きな一因と考えますので、応急的措置としての法定養育費の新設には賛成でございます。ただし、金額につきましては、最低限度額はもちろん必要とは思いますけれども、収入に見合った金額、標準的な父母の生活実態を参考とする金額、つまり、日々の食料や衣料を心配することのない生活が送れるような金額が望ましいかと思われます。   法定養育費制度を新設するに当たりましては、大石先生の説明にもございましたけれども、やはり強制力の持たせ方ですとか公的な立替えシステムの構築が非常に重要かと思います。また、公的な支援ツールをしっかり確立することにより、貧困に陥る家庭が少なくなるようにという思いでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。柿本委員からは、何人かの方がおっしゃっている公的な支援についての御発言がありましたけれども、法定養育費そのものについては応急の措置として賛成であるということで、特に金額について、最低額というものよりも高い額を何らかの形で考えるべきではないかといった御意見を頂戴いたしました。 ○原田委員 委員の原田です。法定養育費の制度を作ることについては、弁護士会の中でもおおむね賛成の意見が多かったのですが、ただ、先ほど大石委員が言われたように、本来は国による立替えが在るべき姿ではないかと思います。理論的にも、債務者に支払わせるのに法定というのはどうなのかという議論がありましたし、私もそうかなと思います。   正当化の根拠についての議論があって、必要性については皆さんも全く異論はないと思うのですけれども、許容性の問題があるのかなとは思いますが、このバランスをどう考えるかということで、許容性のところを強調すると、低額であったり期間の限定ということが出てくるのだろうと思いますが、必要性が非常に大きいということを考えますと、この許容性のところについても一定、考慮すべきところがあるのではないかと思います。   そういう意味で、制度趣旨を応急のものと考えるのか、取決めがなされない場合への対応ということを強調するのかということになってくるのだろうと思います。取決めがなされないということについては、請求することが困難というだけではなくて、義務者が義務を免れるということもありますので、取決めがなされていない場合、できない事情の証明とか、困難性の証明とかいうようなことは特に必要はないと思いますし、合意がないことの証明というのはなかなか難しいので、合意があることを抗弁と考えるということで考えればいいのではないかと思います。また、重要なのは履行の確保ということなので、そういう意味では先取特権やその他の制度というのは非常に重要になるのだろうと思います。   それから、一回的手続の問題、まず先取特権の問題ですけれども、これは法定養育費に今回は限って書かれていますが、先ほどの大石委員の報告や赤石委員の報告にありましたように、一旦は払っても払わなくなるという場合があるということと、それから、法定養育費の問題点として、合意がないのにやっていいのかという問題があるという点を考えますと、合意がある場合でも払わなくなった場合ということも考えられるのではないかと思います。ただ、この場合、これまでの議論で、他の債権者への考慮、つまり高額の合意をして、それを先取特権でするというような場合も考慮する必要があるのではないかという議論があったと思うのですけれども、合意があっても途中で払わなくなった場合でも、法定養育費の範囲であれば先取特権を認めてもいいということもあり得るのではないかと思いました。   それから、請求主体の問題としては、父母ということで、法定養育費は18歳までだろうと思いますので、父母でいいのだろうと思いますが、先ほど大石委員からもありましたように、主たる養育者というのを誰が認定するのか、特に共同親権とか共同養育の場合はどうなるのだろうかというのが私も疑問に思います。協議ができているだろうというのは少し楽観的ではないかと思いますし、私は半分ずつという合意をしたことがあるのですけれども、その場合、必要だったお金をいちいちレシートを用意して、その半分は幾らかというのと、元々決めていた養育費との差額ということで、非常に面倒くさい計算を半年に1回ずつやるというようなことをやっておりました。なかなか使いにくい制度になる可能性もあります。そういう意味では、私は元々言っておりましたけれども、共同親権とか共同養育の場合には、家裁を関与させて、そこできちんともう決めてしまっておくというふうにすることが、法定養育費をスムーズにさせるという意味でも、つまり、そういうふうに決まっていれば取り決めがないという意味での法定養育費は発生しないわけですから、スムーズに行くのではないかと思いました。   それから、期間の問題で行けば、始期は離婚のときでいいと思うのですけれども、終期については、先ほどの制度趣旨をどう考えるかによって関連すると思います。もし応急措置として一定の合意ができるであろう期間というふうに期間を定めるのであれば、合意形成の支援策が整えられるべきだろうと思います。私としては、取決めがなされるまでということで、過大な負担と考える当事者や過小だと考える当事者が申立てをして、裁判所で取決めをするということと、それから、ここは民事法のところではありますけれども、法テラスなどの支援ということをきちんと法務省の方でも御検討いただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。原田委員も基本的には法定養育費制度、そして、それに先取特権を付与するということについて賛成というスタンスで御意見をくださったものと理解を致しました。それで、幾つか問題を指摘してくださいましたけれども、法定養育費という場合の法定ということをどのように正当化するのかという問題があるということ、これは理論上あるいは法制上の問題に関わる点ですけれども、それから、取決めがない場合ということを要件にすべきだけれども、これは抗弁とするほかないであろうということ、そして、適用範囲の問題として、法定養育費以外のものについて先取特権を認めていくことも考える必要があるだろうということ、それから、先ほどから出ている、父母が請求者になるというのだけれども、主たる養育者というものをどう定めるのかということに関わる御意見、最後に、終期をどうするかということについて二つの考え方があるけれども、御自身としては取決時ということでよいのではないかということ、こういった御意見だったと理解を致しました。 ○今津幹事 幹事の今津です。部会資料17ページ以下の部分について、追加で発言させていただきます。今回の御提案では、1回の申立てによりと記載をされていますけれども、これは従前の民事執行法制にない新たなものを作るということではなく、これまで順次複数回やってきていたものを一度の機会でまとめてやるという趣旨であると理解をしました。その意味であれば、現状の制度とそこまで大きく乖離したものではありませんので、導入することに大きな支障はないのではないかと思います。   その場合の制度の組み方について、申立ての段階で債権者が何をどこまですべきかということが問題になりそうなのですけれども、手続に慣れていない債権者にとっては、手続の最初の段階で余り大きな作業を求められない方が、もちろん有り難いと思うのですけれども、他方で事案ごとの選択の余地が一切なくなってしまうというのもまた硬直的にすぎるような気もしております。その意味で、資料の18ページの冒頭の(注)のところに今回、法定されている手続が列挙されていますけれども、こういったものを一つの、デフォルトとしてはそれを包括的なパッケージとしつつ、事案によって、例えば要らないものを落としていくような、そのぐらいの選別の余地は残してもいいのかなと思っております。   それから、先ほど杉山幹事からもありましたけれども、どういう財産に対して執行できるかという辺りについて、基本的には給与債権を使うということが多くなるのだろうと思っております。ただ、その場合は給与取得者しか捕捉できないというデメリットもありますので、可能であれば預貯金まで行けるということがいいのかなと思うのですけれども、他方で預貯金の場合は実務的にも、例えば費用倒れになってしまうリスクとかも出てくると思いますので、その辺り、実情を考慮した上で、まずは、例えば給与債権に限って制度を導入してみるといったような形で仕組んでいくというのも一つの選択肢かなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。今津幹事からは2の方について御意見を頂きましたが、これを導入するのに大きな支障はないのではないかという御意見を前提にして、制度の組み方として、選択の余地をどのくらい認めるのかということについて、一定のものをデフォルトとして、若干の選択の余地を認めた方がよいのではないかということ、対象については、更に拡大するということもあり得るけれども、取りあえずは給与債権ベースで考えるということも考えられるといった御意見だったかと思います。 ○小粥委員 委員の小粥でございます。一つだけ、法定養育費についての法定額の決め方について、申し上げさせていただいた後に、第1の1に関して全般的なことを申し上げたいと思います。   まず、法定額の定め方についてですけれども、今まで、できるだけ低い額にする、あるいは標準的な額にするというような御意見が出ていたかと思いますけれども、契約法の理論的な研究によれば、罰則的任意規定という考え方がございまして、つまり、乱暴に言いますと、わざと当事者に都合が悪いような任意規定を用意しておいて、それで、当事者が合意しなければ都合が悪いことになると仕組むことを企図するのです。これによると、むしろ逆に高い額を最初にデフォルトルールにしておくというようなことになるかもと思います。そのような考え方もあるということを申し上げたいと、それが第1でございます。   二つ目の、第1の1に関しての包括的なことでございます。部会の今日の議論を伺っておりますと、法定養育費制度の創設あるいは一般先取特権の付与ということについて積極的な意見が多かったように伺っておりました。しかし、なおこのまま現在、必要性が高いというような形で、部会で意見は大体そうだったということで事務局に投げると、これは多分実現できるのだろうということかというと、私自身はまだまだというか、非常に難しい部分があると考えております。   たくさんの問題があると思っているのですけれども、ここでは実体法上の問題だけ、申し上げたいことは一つでして、実体法上、誰の誰に対する権利なのかということがはっきりしないまま議論が行われているということです。その上に法定の養育費制度を乗っけるとか、あるいは一般先取特権を乗っける、あるいは行政による立替払いの仕組みを乗せるといっても、誰の誰に対する債権なのかということの議論がこの部会で必ずしも十分に行われていないために、その後の発展の可能性というのが、危うい基盤というか、砂上の楼閣のようになっているのではないかと思うわけです。   具体的に申しますと、養育費といわれるものには現在、大まかにいうと二つの種類があると思います。一つは監護費用の分担というもので、それは父母の一方から他方に対する権利ですね。他方でもう一つは、扶養義務の一つとして、子の親に対する扶養の請求権というものがあると思っております。仮に監護費用の分担という枠組みの中で養育費を考えていくとなりますと、例えば、先ほど北村幹事の御説明にありましたとおり、監護者が誰なのかということをかなり幅広に柔軟に、事実上監護している者が誰かという観点で決めていくことはできるのか、できるとして、それが子の養育という観点、あるいはひとり親家庭の貧困対策という観点から説明できるものなのかという疑問が直ちに生じてくるように思うのです。   他方の親なり監護者のポケットに入るお金ということになりますと、子の養育に直接使われるかどうか、少なくとも法的な保障はないわけです。それでは子の親に対する請求権というものを考えるとすると、それは理論上は筋が通ると私自身は思っておりますけれども、他方で、先ほど水野委員がおっしゃったような特別代理人の問題が直ちに思い浮かぶところで、実際に制度を仕組むとなると、なかなか難しいところがあると思っております。   一般先取特権ということについても肯定的な意見が多かったと思うのですけれども、しかし一般先取特権を監護費用という枠組みで作った場合には、債権者は父母の一方ということになるわけで、そうすると、父母の一方に入るお金に先取特権が付くというのは、養育費の保障という観点からすると非常に違和感が残ります。なので、実体法上の権利関係をはっきりさせないまま法定養育費が行けるとか、一般先取特権が行けると結論づけるのは、まだ本当は民事法制、特に民法の実体法の問題だと思いますけれども、検討すべき問題が検討されていない部分がかなりあるような気がするので、慎重に考える必要がある部分がかなりあるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。小粥委員からは、具体的な論点についての御意見と、より包括的な前提に関わる御意見を頂戴したと思います。まずは、金額について皆さんは今、低い方からスタートするという御意見であるけれども、高い方の額を定めて交渉を促すといった考え方もあり得るという御指摘がありました。それから、本日は法定養育費、それから、それに先取特権を付与するということについて、全体として賛成の意見が続いているけれども、その理論的な根拠については、なお検討を要する点があるのではないかという御指摘を頂きました。問題になるのは、民法上の制度ないし概念としては、父母間の監護費用の分担という問題と、それから未成年のこどもの親に対する扶養請求権という問題があるけれども、この両者の関係を整理しないと、法定養育費ないし、それへの先取特権の付与を正当化できないのではないかという御指摘を頂戴したと思います。どうもありがとうございました。 ○向井幹事 最高裁家庭局、向井でございます。裁判所からも法定養育費請求権の理論的というか法的な性質について、この点を少し御議論いただきたいという問題提起をさせていただきたいと思います。なお、法定養育費の必要性などについては、冒頭から皆様に御発言いただいておりまして、裁判所としてもそのような必要性があるのだろうということについては認識しているところでございまして、主に裁判所から申し上げたいのは、理論的な部分についてこの点を少し御議論いただきたいという趣旨でございます。   裁判実務を担う立場からしますと、過去に一旦発生した法定養育費請求権をその後、今回の御提案では協議に代わる審判という提案がされておりますけれども、これを審判で後になってからどういう根拠で変動させることができるのかということが少し気になっております。また、今回提案されている、離婚時から発生しているとされる法定養育費請求権と、現在裁判実務において請求時に発生すると理解されている協議、審判に基づく養育費請求権、この両者の関係をどう考えるべきかといったことにも強い関心がございまして、この点については、法定養育費の実体法上の性質をどのように位置づけるかということと深く関わっているのではないかと考えております。   これまでの協議とか審判で定められる具体的な養育費請求権を通常の養育費請求権といわせていただきますけれども、法定養育費請求権がこの通常の養育費請求権と同様に実体法上の権利として成立しているとすると、それを過去に遡って変動させることができるのか、一旦発生しているものを過去に遡って変動させることができるのか、できるとすれば、それは法的にはどのような意味であるのか、また、法定養育費請求権と通常の養育費請求権とが基本的には同じ性質のものだということであれば、通常の養育費請求権の増減額請求の場合と同様に、基本的には協議に代わる審判の申立て、請求があったときから将来に向かっての養育費請求の変更の規律に服することにならないか、反対に、これまでにないような特殊な権利として位置づけるとすると、それはどのようなものであると説明されるのかといったようなことがもろもろ理論的に問題になると考えておりまして、それが裁判所で現在行われている実務が今後どのように変容するのかということにも大きく影響すると考えておりますので、法定養育費の請求権の法的な性質がどういうものなのかということについて、是非御議論いただきたいと考えている次第でございます。   もう1点、別の論点の包括的申立てのところについても意見を申し上げますけれども、これは杉山幹事と今津幹事におっしゃっていただいたことと基本的にはほぼ同じでございまして、やはり対象とする債権をたくさん増やせば増やすほど手続は複雑になりますし、費用倒れのおそれ等も出てくることになりますので、基本的には簡易な制度を前提にするということであれば、対象となる債権を、例えばですけれども、給与等の債権に絞るとか、そういったことにすると簡易迅速な手続になるのではないかと、そんなふうに考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。裁判所の方からは、ゴシックの第1の1と2について、それぞれ御意見を頂きました。1は、一言でいうと、法定養育費の法的性質というのを更に明らかにする必要があるのではないかということで、それによって既存の通常の養育費請求権との関係とか、法定養育費が請求されているという状況を踏まえて、後で行われる養育費についての協議、審判の性質といったことも影響を受けるのではないかという御指摘があったと受け止めました。それから、2の方については、対象を限定することが簡易迅速な手続という点からは望ましいのではないかということで、これまでに出ているような、例えば給与債権に限るといった方向が考えられるという御指摘だったかと思います。 ○沖野委員 沖野でございます。すみません、私、遅れて来て先ほど参加したものですから、この間の議論を伺っておりません。そのため、これまでの御指摘を踏まえないまま、考えるところを述べさせていただきたいと思います。具体的には、1の法定養育費についてです。   法定養育費ですけれども、これがどういうものであると考えるべきかという点につきましては、法定養育費という言葉からは、父母の合意がどうあれ、例えば最低限は法律の規定による養育費として取らせるというような考え方も、もちろんないわけではないですけれども、現在、そして中間試案においても、ここで考えられているのは、養育費の分担については父母がその協議によって決めるべきであると、決められないときには審判という手法が用意されているという中で、そのような合意がないときに、それを埋めるための方法として提案されているものと考えられます。そして、そのこと自体は一定の合理性を持っていると考えられます。   そうだとしますと、父母が協議をするならば、まずそれによるのだけれども、それがないときの言わばデフォルトルールとして、今回の法定養育費という考え方が出されているというふうに考えられます。そのようなデフォルトについても、協議がされるまでの間の暫定的なものだという考え方と、より一般的な合意がないときのデフォルトルール、あるいは任意規定であるという考え方と、両論がありますけれども、養育費用についての分担がこどもの養育を支えるという非常に重要な意義を持っているということを考えますと、協議ができるのにしないということに対して、空白をもたらすという状態は子の不利益となりますので、そのような不利益を子に甘受させることは正当化できない、あるいは望ましくないと考えます。ですから、暫定的で一定期間内にやらなければ、もうそこまでということになりますと、結局また空白が生じるということになりますので望ましくないと考えられます。   さらに、そもそも合意によって決するべきだけれども、合意の指針となるとか、合意がないときの補完となるというのは、一般的な契約の任意規定の性格として認められるものですので、そのようなものとして位置づけることは、決して民法の全体の中でも非常に突飛なものではないと考えられます。したがいまして、私自身は協議がないあるいはそれが調わないときの審判がないときのデフォルトルールとして、この法定養育費についての考え方を打ち出すべきではないかと思っております。   部会資料の中ではしばしば、債務者の関与がないということを正当化の根拠や規律の内容にどうつなげていくかということが書かれていますけれども、本来協議で決めていくべきものだ、また決められるものだということからすれば、それと異なることをやりたいということであれば協議をするとか、相手方が応じないというようなことがあるのであれば審判を申し立てるということをすればいいということですので、そうだとすると、債務者の関与がないのに法定養育費というのを認めるものだということ自体が、必ずしも妥当しないのではないかと考えております。   異なることをしたいということであれば、協議をすればいいということになりますし、そして、先ほど途中で最高裁から御指摘がありましたけれども、後日になってといいますか、変更をするということ自体は、これが当事者間の養育に当たる父母の間の合意の問題であるとすれば、一般的な契約や合意からすると、これまでの法律関係について変更する合意というのは、当事者が真摯に合意するのであれば、できるというのが合意についての一般的な考え方であると思われます。   こどもの利益の観点からそこに枠をはめるかというのは、それはおよそ一般的に通じることです。ゼロというふうな協議も基本的には有効であるということであれば、およそその内容は当事者に委ねられており、当事者がこれまでの関係を踏まえて、違う関係にしたいということであれば、その協議をすればいいというか、合意をすればいいということで、したがいまして、離婚に際しても、あるいは離婚後も、当事者の協議の道というのが用意されていて、その補完であるということですので、十分正当化ができるものではないかと思っております。   そのように協議がないときの、あるいは合意がないときのデフォルトルールと考えるならば、これについての特段の過重要件は必要ないと考えております。(注2)のような要件が出されていますけれども、要件をプラスアルファとして、こういうときにだけ補完が働くとする必要はないと考えております。また、そもそも離婚のときには様々な情報提供がされるということが別途想定されておりますので、そういうガイダンスの中で養育費については決めないといけないですねとか、あるいは、法定ではこうなっていますと、こういうのが一応の額ですがどうしますかとか、そういうような情報提供がされますので、一般的にはその下で、多くの場合は何らかの取決めがされていくということになるのではないかとも思っております。ですので、あえて協議ができなかったとか困難であったというような事情は必要がないだろうと考えております。   それから、終期につきましても、暫定の補完ではなくて一般的な合意の補完であると考える以上は、その終期ということを考える必要はなくて、むしろ当事者としてはこういうふうに、何も合意しなければこうなるということで、それでいいというので、あえて合意しないということでも、それ自体は構わないのではないかと思っております。明定することが望ましいとは思いますけれども、それで当事者がいいということであるならば、それでいいのではないかと。強いて終期を定めるならば、こどもが成年になるまでというようなことを書きまして、養育費については未成熟子の概念との関係が問題になっておりますし、それが必ずしも成年と一致しないということを考えますと、差し当たりこの合意については、成年になるまでというふうな形で明らかにすることによって、逆に一般的なものは必ずしも成年とは一致しないというような含意をすることも可能ではないかと思っております。また、子の成長によって見直しの余地があるとすると、一定期間とした上で更新といったことも考えられるかもしれませんけれども、合意のない状態を防ぐ、それに対応するという趣旨からすると、やはり空白が生じることは望ましくはないので、ずっとこの状態、何らかの負担についての一定の法律関係が形成されているという状態の確保が最も重要ではないかと思っております。   更に言えば、協議もできるし、審判の申立てもできるのに、しないということが、それで法定のものでいいという一種の消極的同意というようなことも、十分に情報提供がされるのならば、基礎づけられるのではないかと考えておるところでございます。   長くなって恐縮なのですが、額についてです。額をどうするかについては、最低限の額というのと、標準的実態を考慮した言わば標準額という二つが示されております。最低額というのが一体何かというのがよく分からないところもありますけれども、標準額の最低ラインということなのかもしれません。確かに協議や審判によって具体化していないから、支えが弱いということを考慮するならば、最低限度とすることも考えられるかもしれませんけれども、合意に対する任意規定であると考えたときには、通常一般的にはどのような額になるだろうかということを考えて規律内容を決めるという、恐らく最も一般的な契約の任意規定についての考え方からすると、標準額を基準とするということも考えられるのではないかと思われますし、また、当事者にとっての指針となるということからしましても、ある程度の類型化というのは必要かもしれませんけれども、標準額というのは十分考えられるところではないかと思います。   もっとも基準の適用運用上、余り複雑でない方が望ましいと思われますので、そういった考慮を踏まえて、どちらがよろしいかということを考えていくのではないかと思います。こどもの人数は、一律それで倍数ということにはらないように思われますけれども、最低限度ですとか標準の考え方次第ではありますけれども、子の数を考慮した基準を立てるのはむしろ当然ではないかと思っております。   それから、一方で、どのくらい今もあるのかという問題があるのかもしれませんが、追い出し離婚的な状況を考えますと、それに対しても、その後の変更や遡及的な調整の可能性を認めることで対応ができるのではないかと思われますけれども、基準自体において、例えばそれまでの主たる生計維持者であった場合にはこのくらいとか、そうでなかった場合はこのくらいというような2通りのパターンを用意するとか、類型の立て方によって考えられるというものがあるのではないかと思います。資力を具体的に入れてくるということについて、負担のための最低収入を入れるなどは考えられるのかもしれませんけれども、一方で運用コストの問題がありますので、運用コストが余り大きくなると、それ自体は問題で、資力がないようなときには、もう基本的に協議によって対応すると、協議ができない場合も審判があるということで、更に事後調整によるということで対応するというふうな考え方ができるのではないかと思っております。   法定養育費の請求権というものですけれども、この法定養育費というのは、父母間でどのような費用分担をするかということについての合意が調わないときのデフォルトルールであると考えるならば、養育についての義務を負う者の間でどのような分担をするかという義務者間の前払的なというか、あるいは将来分も含めた、そして、過去の分もある程度あるかもしれませんけれども、そういった請求権という性格になるものだと思われます。   そういうものに一般先取特権を付けるのかということですけれども、しかしながら、それがこどもの養育に必要な費用の確保、同居親あるいは主たる養育を担う者がその部分を手当てされることによってこどもの養育につながるという、そのつなぐことの重要さということを考えると、一般の債権者にとっても甘受してもらえるほどに社会的に重要であるとか、優先性が高いという説明はできるのではないかと思います。一般先取特権自体は、それが働く余地はそう大きくないと思いますし、優先的確保といっても、実際の機能としてどのくらい働くかという面はありますけれども、それが優先的に扱われるべき債権であるということを明らかにする意義はありますし、さらには可能性としては、一般の先取特権を付けることによって、飽くまで可能性ですけれども、倒産の場合の更なる優先、財団債権化ですとか共益債権化ですとか、そういう道を開くということにもなると思われます。   一般債権者との関係では、一定範囲では社会的に保護が容認されている債権として位置づけることができるのではないかと、子の養育に社会全体が責任を持って一定の負担を負うというような考え方で説明ができるのではないかと思っておりますが、しかし、一般先取特権との関係で優先を基礎づけるためには制限が必要ですので、そうだとすると、一般先取特権の範囲については最低限度という考え方を採ることもできるのではないかと思います。ですから、法定養育費としてここでいわれている範囲や額と一般先取特権の範囲は、必ずしも一致するというのは必然的ではないように思っております。   さらには、これが飽くまで合意がないときのデフォルトルールであるとするならば、合意があるときには優先が認められないというのはかえって奇妙なことに思われますので、この法定養育費が発動する場合に限るのではなくて、法定養育費の範囲では、合意による養育費についても一般先取特権の形で優先権が認められるべきではないかと思っております。   更に言えば、養育費自体は、こどもが父母に対して持つ端的な養育費の請求権というのも別途認められ、これについては父母の合意の拘束が必ずしも及ばないということが認められていると思われまして、これ自体もやはり優先的な権利として認められる必要性の高いものと思われますので、一般先取特権については法定養育費と必ず横並びで連動するのではなくて、範囲とともに対象となる被担保債権についても、子の養育費債権というものもまた一般先取特権によって保護されるべきものということになるのではないかと思っております。   そうしますと、主たる養育者が持つ養育費債権と子の養育費債権と、あるいは、又はかもしれません、それが被担保債権という形になり、競合する範囲で連帯債権のような形として構想されるのではないかと、両者が競合して範囲に差があるときに、この二つの債権の間でどういうふうな考え方を採るか、平等なのか一方優先なのかというのは、更に考えていく必要があるのだと思いますけれども、そういった形で一般の先取特権というのを構想してはどうかと考えております。   長くなって恐縮ですが、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。沖野委員からは、大きく分けて2点だったかと思いますが、一つは法定養育費について、その法的性質についての御意見を頂いたかと思います。この法的性質論と併せて、実際上の問題として、空白期間を作らないという要請とを考慮に入れて、具体的な御意見、御提案も頂いたと理解をしております。法的性質については、先ほど小粥委員がおっしゃったこととも多少関係するのですけれども、任意規定であるという考え方で整理するというのはどうかということだったかと思います。養育費の分担について当事者が協議することができるのだけれども、協議されていない場合にはどうなるということが任意規定として定められているのだという整理をするのならば、これが暫定的なものであると考える必要はないし、金額についても最低のものだと考える必要もないということになるのではないか。また、父母の養育費の分担についての任意規定であるということならば、当事者は父母だということになるのではないか、それから、終期についても同様に、合意ができない限りこれが続くのだということでよいのではないか、こういった御意見だったかと思います。一つの説明として一貫した説明ではないかと思って伺いましたが、現在の養育費請求権の性質を変えることになるのかならないのかということについて、多少検討が必要になるかと思って伺っておりました。   それから、先取特権の付与についても御意見を頂きまして、これも二つあったかと思いますが、正当化の仕方については、間接的に子の養育につながるということで、この結び付きが重要なのではないかという御意見を頂きました。そして2番目に、一般債権者との関係では、一般債権者の利益も考慮して最低額の線を引くということも考えられ、これを先ほどの法定養育費、今はそう呼んでいるわけですが、その額と必ずしも連動させる必要はないという御指摘と、それから、先取特権を認める場合に、これをどこまで及ぼしていくのかということについて、これは先ほど原田委員も御指摘になった点でもありますけれども、法定養育費以外の場面も考えられるし、それから、子自身から親に対する請求がなされる場合の、その債権についても考えられると、こうした御指摘を頂いたと理解をしております。ありがとうございます。   青竹幹事、久保野幹事、さらに畑委員もいらっしゃるということなので、少し時間がまだ掛かるかと思います。他方で、始まって2時間近くなりますので、ここで休憩させていただきまして、その後に今のお三方、それから、他に御発言があれば他の御発言も伺うということにさせていただきたいと思います。今、15時22分でしょうか、少し短くてすみませんが、15時30分再開ということで進めさせていただきたいと思います。   休憩を致します。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、時間になりましたので、席に戻っていただいて、再開したいと思います。   まだ御発言の方々がたくさんいらっしゃいますので、多少スピードアップしてまいりたいと思いますが、青竹幹事、それから久保野幹事、畑委員、池田委員、佐野幹事、棚村委員と、御発言があるということですので、順番に伺っていきたいと思います。 ○青竹幹事 法定養育費の導入には賛成をしておりますが、先ほどから問題点とされていることの一つについて、少し意見を述べさせていただきたいと思います。   問題の一つとして御指摘されていたのは、法定養育費は一律に一定額となりますので、支払義務を負う親の収入から見て低すぎるという問題でした。その場合には協議や審判でより高い額に修正でき、更にその不足部分を過去に遡って請求できると考えるのではないかと思います。逆に、法定養育費が支払義務を負う親の収入から見て高すぎるという問題も指摘されましたが、その場合には、やはり協議や審判でより低い額に修正し、過払部分は取り戻せると考えるのではないかと思われます。法定養育費の制度を導入する場合には、過去の養育費も遡って請求できる、過去の調整ができるという考えが前提になるように思われました。   実際に過去の不足部分を調整するのが難しいこともあるかもしれませんし、裁判所からは、理論的な問題にも課題が残るという御指摘がありました。もっとも、理論的な問題については、先ほど沖野委員が御説明されていたように、合意がない場合のデフォルトと見る場合には、合意によって修正されたという説明が成り立つようにお聞きいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。青竹幹事からは、法定養育費については基本的には賛成だという御意見を頂いた上で、その額が後に決定された額との関係で低い場合、高い場合、清算について考える必要があるという御指摘を頂いたかと思います。 ○久保野幹事 ありがとうございます。幹事の久保野です。途中から遅れて参加しまして、ここまでの議論を踏まえずに、気になる点だけ1点、意見させていただきます。   法定養育費について、6ページの(4)で書かれております検討課題と関わり、1点、気になっておりますのが、請求される側が稼働能力を失って収入がないようなときに、例えば自己の生活も公的扶助によって支えるような状態のときに、養育費支払の義務を、具体的に額が生じるものとして負うということになるのかというところが気になっております。この場合であっても一定額の支払義務を負うと解するのだとしますと、従前の考え方とは異なるということになるのではないかという気もしております。この点、沖野先生の御提示された構成その他、何らかの説明を試みなくてはならないのではないかと思います。   それで、私自身、まとまった形で構成を御提示できるところには全く至っておりませんけれども、ただ、少なくとも公的扶助や公的給付との関係という、この部会でも従前から指摘が出ております点との関係について、今言ったようなケースを念頭に置いて、少し詰めて考えてみる必要があるような気がしております。すみません、中途半端な意見でございますけれども、以上でございます。 ○大村部会長 久保野幹事からも基本的には賛成という方向で、やはり問題の指摘を頂きました。債務者に収入がないという場合にも一定額の請求を認めるというのは、従来の考え方と緊張関係に立つのではないか、何らかの説明が必要なのではないかというのが基本的な問題の提起であったかと理解を致しました。 ○畑委員 畑でございます。幾つか申し上げます。まず、一般先取特権の付与です。これは前回も申し上げたかと思いますが、まずは実体法の問題として優先権の付与の可否や、果たしてどの範囲で付与するのかということを考えていただく必要があるだろうということです。その上で、付与するということであれば、手続的には担保権実行の手続に乗せることはできるのではないかというように、申し上げましたし、そのように考えておりますが、その際に、やはり考えるべき点もあるだろうということも申し上げたかと思います。   一つは、資料の16ページから17ページに掛けて記載されておりますが、債務者側の手続保障の問題というのもやはり考える必要はあるかと思います。これは今回初めて生じた問題というよりは、担保権実行の手続一般の問題という気もするのですが、ただ、恐らく一般先取特権の実行というのは今までほとんど実例はなく、今回の改正によって、もしかすると実際に動き始めるかもしれないということのように思いますので、検討しておく必要はあるのかなという気はしております。   例えばですが、債務者側の救済方法として、17ページの(注2)、(注3)、(注4)といろいろ挙がっており、こういうことになるのだろうと思いますが、これはかなり複雑な話にもなっておりますので、例えば、債務者の側にある種、手続的な教示をするというようなこともあり得るかなという気はしております。現行法上、既に債権執行において法律上、教示の規定があり、それを受けて裁判所規則の方で一定のことが定められているかと思いますけれども、それを拡充するというようなことも考えられるかなということです。   それから、(注2)に書かれておりますが、いわゆる実体抗告、執行抗告の中で実体的な異議事由を述べることができるということがありますが、これがどのくらい実効的なものかという問題もありそうで、先ほどの教示の話もありますが、執行抗告の一般的な枠組みですから、差押えがされてから1週間ということで、それで足りるのかということもあるかもしれません。また、異議事由の内容によっては、1週間以内ということだと執行抗告では主張できないということもあり得るように思います。少し細かくなりますが、例えば将来の給与債権が差し押さえられたというときに、後になってその分は支払いましたというような異議事由が生じたとしても、1週間が過ぎていると、執行抗告の枠組みでは主張できないということにもなり得て、それでいいかというようなことも、あるいはあるかもしれません。今の問題などは、どういう手当てがいいのかというのもよく分からないところがありますが、少し考える必要はあるかなと思いました。   それから、先ほど、実体法的問題だと思いますが、先取特権の額の問題とか、あるいは先取特権を付与する範囲の問題があり、それは実体法の問題として議論していただければいいと思うのですが、執行手続との関係では、それを証明文書の形で出す必要があるということがあります。つまり、状況に応じて法定の養育費の額も決まりますということにした場合、それを直ちに文書で証明できるのかという問題が、執行との関係では出てくるようには思います。   それから、やや細かいのですが、少し前後して、14ページから15ページに掛けての(注1)の中で、法定養育費の額の変更を求める申立てについての取下げの話が出てきております。ここに書かれているように、申立ての取下げを制限する規律というのも考え得るとは思います。ただ、この種の問題というのは家事事件の別表第2の事件一般についてある問題でもあり、家事事件手続法を作る際にはその辺りも議論した上で、一定範囲に取下げの制限の規律を、財産分与と遺産分割だったかと思いますが、に置いているということがあります。そこに限るという理論的な必然性というのも必ずしもないような気もいたしまして、必要に応じてこの種の取下げの制限という規律を拡大するということもあり得ると思いますが、ではどこまで拡大するのかというようなことについては検討が必要かなという気はしております。   それから、17ページ以下の2の執行手続の話です。これもなかなか難しい問題だろうと思っており、方向性としてはあり得ると思っておりますが、考えるべきことはいろいろあり、一つには、やはり多少の柔軟性を持った手続にせざるを得ないのではないかという気がしております。先ほど来出ておりますように、対象なども絞ってシンプルな手続というのも魅力的な考え方と思いますが、例えば、資料の20ページにも少し出ておりますが、給与債権を対象といっても、複数の給与を得ているという場合もあるわけです。20ページでは、そういう場合は多くはないと書いてありますが、今、働き方は多様化しておりまして、副業というのもそれほど珍しくはないような気もいたします。そうなってくると、例えば複数の給与の支払先が判明しましたというときに、ではどうしますかというようなことに、ある程度柔軟に対応できるような手続が望ましいのではないかと、あるいはそうせざるを得ないのではないかというような気もしているところです。更に言えば、ある程度柔軟な手続として考えるのであれば、対象も少し広く考えるということも可能かなという気もしております。   いずれにしてもこの辺りも、手続の仕組み自体もそうなのですが、今度は債権者側に対する手続の教示のようなことも実際には重要になってくるのかなという気もしております。最後の点は法律に書くことではないのかもしれません。私からは差し当たり、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。畑委員からは、ゴシックの1と2について、それぞれ御意見を頂きました。1については、実体法の方で決めてもらえば手続法的には受けられるけれども、考えるべき点は幾つかあるだろうということで、手続保障について、手続的な教示が必要ではないか、あるいは現在の執行抗告の制度が実効的なものなのかという点について考える必要があるだろう、それから、額や範囲については証明文書をどうするのかという問題があるという御指摘を頂きました。2の方については、シンプルなものがいいという御意見が幾つかあったけれども、多少の柔軟性があるものにせざるを得ないという御指摘だったかと思います。給与について複数の給与支払者があるという場合もあるのではないか、そういうことも考えるということになると、他方で対象の方も少し広げることも考えられるかもしれないといった御指摘を頂戴いたしました。さらに、それと別に変更申立ての取下げ制限について言及していただき、これは一般論として受けているところもあるので、それとの関係というのを考える必要があるという御指摘を頂いたと理解を致しました。ありがとうございます。 ○池田委員 弁護士の池田でございます。法定養育費請求権について理論的な問題が幾つか指摘されておりますが、私からは専ら実務的な観点から幾つか意見を申し上げたいと思います。   まず全体として賛成を表明した上で、幾つかの点についての申し上げますと、行使主体ですが、具体的にこの法定養育費が適用されるケースというのを考えたときに、これだけ合意をした方がいいというふうな、恐らく周知もされるでしょうし、そういう世論の中で、それでも合意をしないという父母というのは、養育費に関心がない父母であるという可能性もあるかと思われます。むしろそれが多数を占める可能性も否定できないと思っているところですけれども、そうすると、せっかく法定養育費が発生していても、権利行使すべき親が権利行使をしないという事態もやはり想定しなければいけないのではないかと思います。   そうしたことを考えますと、こどもを法定養育費請求権の行使主体から排除して、こどもは通常の扶養料請求ができるだけということにするのは、誰のための法定養育費なのかという疑問も出てきかねないところだと思います。確かにこどもを主体とする場合の手続の煩雑さということを考えますと、こどものみを行使主体とするのは適当ではないと思いますので、例えば、主として養育する者又は子というような選択的な行使主体という規律もあり得るのかなと思います。それが1点です。   それから、後に決まった相当な養育費との差額の調整という問題です。これも少し具体的ケースを想定しますと、離婚時には確かに合意していませんねと、けれども、これは後でしっかりと調停などで話し合って決めましょうということをある程度、示し合わせておいて、果たして離婚直後に養育費の調停や審判をいずれかから申し立てたという場合を考えますと、当事者としてはなすべきことをしているという中で、そのタイムラグ、調停や審判などで相当な額が決まるまでの間、法定養育費が発生してしまうということとの調整という問題が出てくるのではないかと思います。ですから、例えば、審判や調停の申立時点までは少なくとも遡って清算ができるようにしておくと、それは多くても少なくてもですね、そんなことは考えられるのではないかと一つ思います。   それから、次に先取特権の関係ですが、合意した養育費で先取特権を認める以上、法定養育費の意義から考えますと、同様に先取特権を付与するというのが必要ではないかと思います。ただ、債務者側に立って考えてみますと、いきなり執行の場面に立ち会うということになるわけですね。何か争いたいことがあっても、とにかく執行が始まった段階でしか争えないというのが、それでいいのかというちゅうちょはあるところです。その衝撃を緩和するという意味では、一定期間猶予を置かないと執行の申立てができないとか、そんな制度設計があり得るかなというのが一つあります。あとは、大石委員の方から御指摘があった立替払制度ですね、そのような制度とセットにすると、そこの衝撃がかなり緩和されるのではないかと思います。まずは公的機関が立替払いをして、今度は公的機関と義務者との間のやり取りの中で、義務者が争いがあれば何らかの申立てをしていくということもあって、そういう意味でも立替払いというのは法定養育費制度と相性がいいのではないかという印象を持っています。   それから、最後ですが、これは質問になるのですが、仮に法定養育費発生要件を合意がない場合としたときに、養育費ゼロという合意をした場合は、やはりこれは合意があるとみなして、法定養育費から排除されるということになるのでしょうか、それはそれでしようがないという制度設計なのでしょうか、というのを伺えればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。池田委員からは、法定養育費及びそれへの先取特権の付与について、基本的には賛成であるという御意見を前提に、幾つか御指摘を頂きました。一つは主体に関わる問題で、親が権利行使をしないという場合に備えて、こどもを行使主体に加えておくことが必要なのではないかという御意見だったかと思います。それから、あと二つ御指摘を頂きましたが、それはいずれも時間の経過というかタイムラグに関わるような御指摘で、一つは調停審判の申立てとの関係でどういう整理をするかということで、どこまで遡って清算するかにつき申立て時点を基準に考えるという形で整理すべきではないかということ、それから、執行に当たって債務者の保護が必要なので、猶予期間のようなものを設けるという案をお示しいただきました。それとの関係で、公的機関の立替えということについての御意見というのも頂戴したと受け止めました。最後に、養育費ゼロの合意がされた場合はどうなるのですかという御質問があったかと思いますけれども、事務当局の方に伺いたいと思います。皆さんの御意見を伺って検討するということかとも思いますが、何かありましたら、事務当局の方でお答えいただければと思います。 ○北村幹事 事務当局でございます。正にその点は、請求できる要件に関わるところですので、むしろ池田委員の御意見をこの場でお聞かせいただければと思います。 ○大村部会長 池田委員は、ゼロというのをそのまま合意があるということで認めてしまっていいのかという方向の御意見だったと受け止めましたけれども、そういった御意見でよろしいですね。 ○池田委員 はい。 ○大村部会長 ありがとうございます。そこはいろいろな御意見があろうかと思いますので、また御検討いただくということになろうかと思います。 ○佐野幹事 佐野です。4点ぐらいになりますが、手短に申し上げます。まず、方向性として、法定養育費の制度を認めるということについて、私は賛成です。ただ、先ほどから御意見が出ておりますように、併せて公的な立替制度も検討すべきだと考えております。   気になっているのは請求の行使主体、「父母の一方で子を主に養育する者」ということで、監護者の定めともリンクしないというお話なのですが、実際今、別居している親の間でこどもの住民票の争奪合戦みたいなものが起こっていて、行政などもかなり巻き込まれている中、さらには法定養育費の負担が関係してくるとなると、住民票の奪い合いのようなことが助長されないかということが懸念されます。実際そういう事態になってくると、両方とも自分が子を養育しているということを主張し、執行裁判所の方では実態が判断できないということになって、家裁で判断してくれということになるのではないか。そうすると、家裁で、養育費の支払義務がどちらに発生するかの前提として、監護者についても判断することになりますが、監護者について判断されたときにそれでも監護者ではないと判断された方が子を引き渡さない場合、子を養育しているということで、家裁への申立前の法定養育費は引き渡さない方の親に発生してしまうのかと、余計なことまでいろいろ考えてしまいました。そういった意味でも、この要件はなかなか難しいと思っていたところです。   それから、一般先取特権のところですけれども、先ほど池田委員からもありましたけれども、債務者が、いきなり給与差押えなどをされて、執行抗告の場で初めて言い分を主張ができるということでいいのかということは考えてしまいます。給与差押えというのはある意味、債権者にもリスクがあって、結構、債務者の方が、会社に知られたということで、給与差押えをされた会社を辞めてしまうということが起こり得るので、かなり慎重に考えなければいけない。そういう意味では、通常であれば、法定養育費を払ってくださいという催告をして、それでも払わないときに執行という段取りになるのではないかと思います。その意味では、その前に任意の支払の機会の提供、例えば催告とか一定期間執行ができない期間を設けるとか、そういった制度設計をすることも、一つの案ではないかと思います。   それから、もう一つ、これもここでは余計なことかもしれませんけれども、認知の場合の法定養育費の発生はどうなるのかというところが気になって、弁護士会の方では議論をしていたところではありました。   最後に、1回の申立てによる民事執行ですけれども、これも方向性については賛同しているところです。ただ、これも先ほどからいろいろ御意見がありましたけれども、やはり申立人の側、債権者の方からすると、せめて一定の段階ごとに、例えば財産開示をする段階など、節目ごとには選択を認めていただきたいと思います。費用の問題や、あるいは、例えば預金が先がいいのか給与が先がいいのか、そういった選択は、やはり債務者をよく知っている当事者の選択に委ねた方が安全というところもありますので、そういった節目での選択というのは認めていただく制度にすべきではないかというのが意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。佐野幹事からは、法定養育費制度及びそれに対する先取特権の付与について、基本的には賛成であるという御指摘を頂いた上で、前者については主体の問題、主に養育する者というところについて先ほどから御意見を頂いておりますけれども、この点が紛争の種になるのではないかという御指摘を頂きました。それから、先取特権の方については、先ほどの障壁を和らげるという池田委員の御発言がありましたけれども、催告といったことも考えられるであろうという御指摘を頂きました。そして、あとは認知の場合をどうするのかという問題提起、最後に、ゴシックの2については賛成だけれども、ある程度債権者に選択を認める必要があるのではないかという御指摘を頂きました。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。手短にお話しします。私も基本的に法定養育費制度ということを創設するということ、それから一般先取特権、これについても方向性としては賛成をしたいと思います。   先ほど来ずっと出ています、法定養育費というよりは法定監護費用というのですか、平仄を合わせると、民法第766条で基本的に当事者間で合意をできた場合は問題がないのですが、合意ができなければ家裁で、例えば保全処分で仮払いとか、あるいは正式に審判で決まるという場合とが対置させられると思います。しかし、合意がない場合でも、家裁の手続によらずに、一定の要件の下で監護費用の分担について請求権を発生させる制度というものが新たに提案されているわけです。こういう位置づけで理解すると、請求権者も条文も、基本的には現行の民法第766条の規定をある意味では前提とした上で考えていくわけです。これまで協議離婚という制度を少しいじって、合意、監護費用についても義務化するかしないかという議論があったのですけれども、なかなかそういう制度を改革すると簡便な協議離婚のハードルが高くなって問題がありそうだという異論もかなりある。そうなると、仮に監護費用について合意が望ましいのだけれども、合意できそうもない場合について暫定的、補充的に法定で定まる養育費制度を創設するのがいいのではないかというご提案であるというイメージで考えています。   その結果、法定養育費(監護費用)はただ暫定的とか応急的とかといっても、これは金額の問題になりますけれども、最低限度の金額なのか、それとも標準的な生活を考慮した金額なのかというときに、場合によっては終期が少し長くなるということも起こり得るし、いろいろな状態があるのですが、ターゲットになるのは、かなり合意が困難で厳しい人たちだと思うのです。ですから、その辺りのところで、合意がなくても一定程度当然に発生させる制度というのは、かなり必要性とか合理性がかなり高いのかなと考えておりまして、沖野委員が整理されていただいたようなイメージで考えています。   ただ、具体的な金額とかについても、先取特権との関係でも、金額とかの決め方のときに、ほかの国を見ても、最低生活費額とはいっても、やはりある程度生活実態や物価水準などを踏まえた上で、ある程度客観的統計的に出される資料をベースにするという考え方もありますし、金額のイメージについては慎重に検討していった方がいいと思います。つまり、最低生活費額だから少ないとか、標準額だから高いというイメージでやらない方がいいのではないかと思っています。   私の方からは基本的に、養育費というものはかなり支払われていない現状があるので、こどもの生活に重要な債権ということで、他の債権に優先して確保される必要性が高く、先取特権みたいなものを付与して優遇していくというコンセンサスはある程度得られるのではないかと考えております。ただ、理論的には、小粥委員からも御指摘があったような形で、かなり詰めていかないといけない論点があります。それから、久保野幹事がおっしゃったように、公的扶助とか、それとの関係で、現在確かに申立てをしても、監護費用とか婚姻費用ということですと、収入とか支払能力がない場合には義務者には命じられないということは起こるのですけれども、ただ、先ほど言った整理で、合意ができて家裁での通常の手続で決まるものと、そうではなくて合意がないために、早急に一律に暫定的応急的にこどもの保護のために新たな制度を作るということになると、その辺りもこれまでの従来の考え方をある程度改めなければいけないような説明をできるのではないかという感じは少し持っています。いずれにしても、基本的に御提案されている方向性に賛成です。 ○大村部会長 ありがとうございました。大きく3点だったかと思っていますが、まず、基本的には民法第766条をベースにして考えていくべきだろう、制度設計はそこから始まるという御指摘で、2番目に、暫定的、補充的な制度であるとの位置づけにつき、それはそうなのだけれども、金額や期間の点についてはある程度の幅を考える必要がある、そして最後に、必要性の点では皆さん一致して必要だという御意見であるのに対して、理論上の詰めが必要だというのもそのとおりであるけれども、ある程度、従来の制度を変えるということについて説明が付くのではないかという見通しを述べていただいたと受け止めました。   いかがでしょうか、さらに御発言はありますか。 ○落合委員 落合です。いろいろ御議論を伺っていまして、既に出た点かと思うのですけれども、少しだけ繰り返したいと思います。まず、基本的には私も御提案の方向に賛成です。   ただ、金額をどのぐらいにしておくかということについて、やはりここで金額が示されると、それがこれからの養育費についての交渉のときの目安になってしまうのだろうと思うのです。それで、これをあまり低く設定しておくと、合意しなければこの金額にどうせ落ち着くのだからというように使われるようになるのではないかと考えます。ですから、あまり低くするのではなくて、標準かそれより少し低いか、よく分からないですけれども、標準に近い金額にしないと、これからの交渉に大きい影響を及ぼしてしまうのではないかと危惧しております。そのくらいです。 ○大村部会長 ありがとうございます。基本的に賛成だという前提の下に、金額についての御意見を頂きました。低く設定すると、それが当事者の交渉に影響を及ぼすので、一定の額、標準に近い額というのが必要ではないかという御意見として承りました。   その他、いかがでしょうか、大体皆さんの御意見を頂いたということでよろしいでしょうか。   それでは、一通り頂いたということにさせていただきます。ゴシックの第1の法定養育費については、基本的にはこの方向に賛成だという御意見だったと理解をしております。ただ、債務者側の負担にも何らかの形で配慮するということが必要であるという御指摘や、それから、理論上の整理もう少ししておく必要があるのではないかといった御指摘も頂いたところですので、そうしたことも考慮に入れて、更に検討するということかと思って伺いました。   個別の点についてもいろいろ御指摘を頂きました。特に行使主体については、両親という点については多くの方々が賛成されたと思いますけれども、しかし例外を設ける必要があるのではないか、あるいは追加的な主体を加える必要があるのではないかといったような御意見も頂きました。期間についても、養育費の額が決まるまでという意見の方が多かったように思いますけれども、ずっとそのままでもよいといった御発言もあったようにも思います。そして、一番意見が分かれたところは額の問題で、これをどうするかということについては様々な御意見を頂戴いたしましたので、更に検討をするということになるのかと思っております。   先取特権につきましても、多くの委員から、基本的にはこれに賛同する御意見を頂戴いたしましたが、先取特権の及ぶ額をどうするのか、あるいは法定養育費の場合以外の場面についてどうするのかといった御指摘も頂戴したと理解をしております。   それから、第1の2の手続の方についても、多くの方々から基本的にこの方向について賛成だという御意見を頂いたと理解をしております。ただ、具体的な制度として、単純なものがよいのか、ある程度柔軟なものがよいのかと、それは対象をどうするのかということにも関わってくるわけですけれども、そこについては意見の違いもありましたので、更に検討を要すると受け止めました。   仮の整理として以上のようなことにさせていただきまして、次の部分に進ませていただきたいと思います。   次は、部会資料29の第2の親子交流に関する論点で、資料としては22ページ以下ということになりますけれども、まず、この部分につきまして事務当局の方から説明をお願いいたします。 ○北村幹事 事務当局でございます。それでは、部会資料29の22ページ以下の第2について、簡潔に御説明させていただきたいと思います。   まず、ゴシックの1では、父母の婚姻中の親子交流に関する規律を取り上げております。現行の民法では、父母の離婚後については、民法第766条が親子交流について規律しておりますけれども、別居する場面については明文の規定がありませんので、ゴシックの(1)及び(2)では、現在の実務において定着していると思われる考え方を明文化することを提示してございます。   ゴシックの2では、親子交流に関する裁判手続の見直しを取り上げております。今回の部会資料のゴシックでは、現在の家庭裁判所における実務運用も踏まえて、調停成立は本案の判断に向けた家庭裁判所の審理運営に資するよう、個別具体的な事案に応じて親子交流を試行的に実施し、その結果を裁判所や当事者双方が共有して更なる検討、調整を行うことができるような仕組みとして、事実の調査のための親子交流の試行的実施に関する規律を提示させていただいております。   ゴシックの2(1)では、家庭裁判所が事実の調査のために別居親と子との交流の試行的実施を促すことができるものとしつつ、その要件として、継続的な親子交流の実施の可否や、その方法について調査するための必要があると認めるときという要件と、その実施が子の心身に害悪を及ぼすおそれがないことという要件を試みに提示しております。ここで想定している親子交流の試行的実施は、ゴシックの(注1)に記載しているとおり、事案に応じて、直接対面する方法での直接交流のほか、例えば電話やウェブ会議等を活用した間接交流による場合もあり得るかと思います。また、家庭裁判所が第三者の関与などの条件を付すこともあり得るかと思います。   その上で、ゴシックの2(2)では、このような親子交流の状況について、家庭裁判所が家庭裁判所調査官に調査を命じたり、当事者に対して報告を求めたりといったことをすることができるという考え方を提示しております。また、事案によっては、家庭裁判所が親子交流の試行的実施を促したにもかかわらず、何らかの事情によって当事者がこれに応ずることができないことも想定されますが、その場合には、ゴシックの(注3)のとおり、当事者からその理由の説明を求めるといったこともあり得るかと思います。   部会資料の説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは、ここも1、2というようには区切らずに御意見を頂きたいと思いますので、どなたからでも結構です。 ○水野委員 委員の水野でございます。親子交流するに当たっては、こどもの安全や安心を確保することが何より重要だと思います。それでは、交流させると危ないケースが多いから交流させない方がいいかというと、それは解決にはなりません。交流できていない親子のうちで交流させると危険な親子が仮に多数派だとしても、親子交流をすることが子の利益にとって望ましい少数派のケースを切り捨ててはいけないと思います。そういうケースで別居親と子との交流がない期間が長期化することは、こどもにとって決してよいことではありません。中には同居親とずっと一緒にいることが安全・安心ではないケースもあるはずです。   今回の資料を拝見いたしますと、家庭裁判所が事実の調査のために、子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りという要件が付された上で、親子交流の試行的実施を促すということが提示されていて、文言上は相当慎重に提案されています。また、裁判所が親子交流に関する判断をする上でも、裁判手続の過程で親子交流を試行してみることが、審理も充実するでしょうし、判断内容も子の利益に合致した、より適正なものになるだろうと思います。また、今回の資料では、家庭裁判所が第三者の関与などの条件を付すことも提示してあります。これを積極的に用いますと、こどもの安全や安心により配慮できる実務が形成できると思います。   ただし、こうした親子交流の試行的実施は、あくまでも安全に行われなくてはなりません。そのためには、試行的実施を運用していくときに、家庭裁判所だけで対応するのではなくて、児童相談所や警察などの行政機関や民間の支援機関とも連携していく流れになることが望まれます。児相の関係者に聞いてみましたら、会えない親から、監護親が虐待しているという訴えが児相や警察に持ち込まれていて、実際に既に巻き込まれているようです。会えない親がこどもにとって危険な親である可能性も高いのですが、いずれにせよそのような危険を避けるためには、多くの社会的資源を巻き込んで、それらを整理し制度化してネットワークを作って、こども家庭庁にも御尽力いただいて、広くかつ早期に、また継続的に関わっていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。水野委員からは、第2の2について、基本的にはこの提案に賛成という御意見を頂いたと理解を致しました。親子交流が望ましいケースがあるので、これに対応することが必要だということで、特に関係機関との連携を促進するような実務の形成が望まれるという御意見だったかと思います。 ○今津幹事 幹事の今津です。第2の1の方ですけれども、婚姻中の親子交流に関する規律の見直しについては、賛成の立場です。現状でも類推適用という形で実質的には認められているものを明文化するということですので、現状と特に乖離があるものではありませんし、明文化した方が、今後の運用の明確化という点では望ましいと思っております。   それから、第2の2についてですけれども、こちらも中間試案で示された御提案とは少し異なるということで、中間試案の段階では、審判前の保全処分を使う方法と、それから、既存の制度にはない新しいものを作るという2通りの方向性が示されていたかと思うのですけれども、それとの対比でいいますと、今回の資料で御提案いただいたような方向性の方が、むしろ受け入れやすいのかなと。つまり、事実の調査という既存の制度の枠の中で取組をしていくという方向性が受け入れられやすいのかなと思っております。   資料の中でも29ページ辺りでも御紹介いただいていますように、実務上既に調停前とか、あるいは審判前の段階で、裁判所が関与する形で別居親とお子さんとの交流が図られているということで、いわゆる試行的な面会交流という形で図られているということですので、そうした現状から大きく逸脱したものではありませんし、また、現状では運用上の工夫というような位置づけで、恐らく裁判官の皆さんがやっていらっしゃると思うのですけれども、それをもう少しはっきりした形で法律上の根拠を与えるということが、今後のよりよい運用のためには必要ではないかと思われるところですので、そういった形で明確化といいますか、より子の利益になるための運用というところを目指す意味では、今回の御提案のような形で規律を整えるというのは必要ではないかと思っております。   それから、直前の水野委員からのお話にもありましたように、やはりお子さんが安全に過ごせるということはもう前提条件になるかと思います。その意味では、現在家裁で行われているような試行的な面会交流というのは、裁判所の庁舎の中で安全が確保された形で行われているので、その意味では余り大きな心配はないかなと思われます。今回の御提案でも、第三者の関与というようなところで一定の枠がはめられておりますので、もし父母の間で合意がとれていて安全性確保されているというものであれば、そういったものを第三者として、例えば私的な機関で済むというような形にするとか、あるいは、少し安全性に不安があるという場合には、裁判所の庁舎に来ていただいて、必要であれば入口できちんとチェックをした上で安全が確保された状態で実施するというような形で、運用の工夫としてかなり手当てができるかと思いますので、こういった制度の導入自体は賛成ということで御意見させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。今津幹事からは、第2の1と2の双方について御意見を頂きましたけれども、1も2も従来の制度を明文化するというものであるということで、基本的には賛成だということだったかと思います。2については、今回の事実の調査という位置づけが、前の提案に比べて受け入れやすいのではないかという御意見も頂戴いたしました。それからもう一つ、安全性の確保ということについては重要であるけれども、裁判所調査で行うというのと、第三者の関与によって確保するというのと使い分けるということで一定程度確保されるのではないかという御意見だったかと思います。 ○窪田委員 委員の窪田でございます。基本的には私も第2の1と2について、この方向で示された部分について賛成なのですが、表現ぶりについて少し検討していただけないかというのを、2(1)について、少し感じております。   この部分では、飽くまで試行的なものということで、調査の必要性という観点から、親子交流の試行的実施を促すということを出していますので、既にほかの委員からも御指摘があったとおり、十分に考えられる仕組みなのだろうと思います。ただ、表現ぶりと申しますのは、必要があると認めるときは、親子交流の実施が当該子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りという部分についてです。私自身は、試行の必要性、調査のための必要があるという場合において、これを実施する、しかし子の心身に害悪を及ぼすおそれがある場合には当然その対象にはならないという全体の枠組みは十分に理解しているつもりなのですが、この表現は、家裁実務では面会交流が原則実施となっていたのではないかということが言われたときに、あるいはそういうふうな学説もあったと思いますが、親子交流、面会交流はこどもの心身に害悪を及ぼすおそれがない限り実施すべきだというような文脈で使われたことが多かったように思います。   この法制審議会の中でも細矢委員から、家裁実務はそれほど単純なものではなくて、新しく見直しもしており、面会交流等の在り方についても、より工夫した形で実施しているという御紹介がありました。その点を含めると、(1)の表現ぶりについては何か工夫していただかないと、親子交流の実施が当該子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りやった方がいいのだという、そうしたニュアンスを与えるようにも少し感じましたので、工夫していただけたらという意見でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。窪田委員からは、2(1)の表現ぶりについて御指摘を頂きました。子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りというところについて、少し考えた方がよいのではないかという御指摘だったかと思います。調査の必要があるというのが前提での話ではあるけれども、ということだったと思います。 ○赤石委員 しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石でございます。よろしくお願いします。私は第2の2の方について意見を述べさせていただきます。   試案の中では、暫定的な面会交流命令ということで議論がされてきたと思うのですけれども、それから随分、少し立て付けが変わった形での御提案になっているかと思います。パブリック・コメントもいろいろ見させていただいたのですけれども、やはり調停の中で取決めをしていくときに、暫定的な面会交流命令があることによって、かえって調停の進行にいろいろな不利益があったり、混乱を招くというような御意見が非常に多かったように見受けられます。ですので、姿形を変えて御提案があるのだなと理解しております。   ただ、懸念点が幾つかあって、まず質問なのですけれども、今の裁判所で試行面会をやっているケースの中で、お子さんが拒否しているようなケースでもどのくらいおやりになっているのか、あるいは、裁判所の働き掛けによって夫婦の葛藤が減じるようなことが書かれていたのですけれども、そういうふうなケースというのはどのくらいあるのか、また、同居親がメンタル面でダメージを受けているケースというのがどの程度なのかとか、こういったところが分からないで法律的なところに書き込むというのが、少し不安がよぎります。   34ページですかね、結局として、双方が納得していなくても、この事実調査の親子交流をするというような書きぶりになっているので、暫定的な面会交流命令ではないとしても結局、強制的な試行面会になっているように見受けられまして、余り実質的に変わっていないなという印象を受けました。ですので、このままではやはり、パブリック・コメントにもいろいろありましたが、調停というのは本当にお互いの納得を得られるところで少しずつ進んでいくのだと思うのですが、ここでこの事実調査のための別居親との子の交流を試行的に実施する必要性というのが本当にどこにあるのかも、調停の進行の中できちんと必要なときにやればいいのであって、ここにこれを書き込む必要性を余り感じられない、これはパブリック・コメントを読んでも分かるところなのですが、そのように思っております。   質問と意見ということでお伝えします。 ○大村部会長 ありがとうございました。赤石委員からは、2(2)について御意見を頂きました。この制度の立て付けについて、従前のものと変わっているように見えるけれども、実質は余り変わらないのではないかというのが御意見だったかと思います。それから、質問という形でお示しになったのは、必要性の点、それとも実態の点、どちらを御質問されたのでしょうか。 ○赤石委員 実態として。 ○大村部会長 実態の点について、多分、今、裁判所の方にどうですかと急にお伺いしても、お答えを頂くのは難しいかと思いますので、赤石委員の御要望に応じられるようなものが何かあれば後で出していただくということかと思いますが、そういうことで裁判所の方で、お答えを頂くことは可能でしょうか。 ○向井幹事 最高裁家庭局の向井でございます。定量的なものとしてどれぐらいの割合であるかということについては、お話しするのはなかなか難しいのですけれども、一般的にこういった形で行っていますとか、こどもが拒絶している場合には一般的にはこのような対応をしたりすることがありますというような限度であれば、追って御説明することは可能でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。それでは、後日、御説明を頂くということで、引き取らせていただきたいと思います。 ○菅原委員 ありがとうございます。委員の菅原です。第2の1と2について、若干意見を述べさせていただきます。   まず、1につきましては、今まで別居ということについて明文化されていなかったのですが、別居も長引くこともありますので、こどもの立場からしますと、その長引く期間に乳児などの場合親のことを忘れてしまったり、親子関係が難しくなったりすることもありますので、子の利益を優先して考慮していくということが書き込まれることに賛成いたします。   それから、2(1)につきまして、先ほど窪田委員からもお話がありましたが、害悪を及ぼすおそれがない限りというところが表現的に厳しいかなというのを感じました。害悪がないことを確認し、といった程度の書き方でもよいのかと思います。害悪がないことは当然ながら考慮していく必要がありますが、この条項につきましても、家裁での調査自体の質の向上に資することができるといいましょうか、家裁の判断材料にとっても親子交流を観察することは重要なことになりますし、また、こどもの立場からすれば、特に愛着関係が成立しているような別居親との交流の機会も確保されることにもなります。別居親との関係性についてあまり会えない期間が長くなる前に調査することができるようになるという点は、こどもにとっても、また調査者にとってもメリットがあるのかなと感じております。 ○大村部会長 ありがとうございます。菅原委員からは、1については賛成であると、2についても、このような制度に基本的にメリットがあるのではないかという御意見を頂きました。先ほど窪田委員から御指摘があった、おそれがない限りという表現についての御意見も頂戴したということかと思います。 ○戒能委員 ありがとうございます。委員の戒能です。3点申し上げたいのですが、第2の1の婚姻中の別居している父母の場合の親子交流を、民法第766条の類推適用をされてきたけれども、明文化すべきだという御提案だと思うのですけれども、しかし、それを明文化するということの影響といいましょうか、それも考慮をすべきだと思います。今まで実務上行われてきたことなのだから、明文化して別に問題はないというお考えが多いかもしれませんが、影響の大きさということも一つ考えておくべきだという意見をまず、申し上げたいと思っております。   簡単に申し上げますけれども、親子交流を実施するという、先ほども窪田委員の御意見にあったように、原則と考えられてしまうという誤解が生じたというのは、細矢裁判官も前におっしゃったとおりだと思うのですけれども、別居というのは期間が長い場合もあるかもしれませんが、これは前にも何度も申し上げたように、別居時というのはDVや児童虐待という、そういう暴力や安全という観点から見ると一番危険性が高いところでありますし、それによって与えられるこどもへの影響の大きさも考えなければならないことだと思うのです。そうすると、明文化されることによって、安全とか安心とかそういうものが危機に及ぶということもあり得るということを考えなければいけない。どういうことかというと、親子交流をしない限り別居できないのではないかという誤解が生じるおそれもあり、そういう不安を持つ方も出てくるのではないかと、だから、明文化というのはそういう作用ももたらすのだということを考えておかなければならないということを、まず第1点として申し上げたいと思います。   それから、これは資料の中にも度々書かれていることなのですけれども、家裁実務でもそういう誤解を生じることがあった。そうではなくて、ニュートラル・フラットという考え方を強調していると思うのです。それで、新しい実務の運営の仕方、そういう方向で提案、議論をしていきたいのだということだと理解しております。そうであるならば、試行的面会について、ここではそういう御提案が必ずしも明確にされているとは理解しなかったのですが、やはり要件をきちんと定めるべきだというのが私の意見です。試行的に調査をすると、事実どうなのかと、それをその後の審理にいかしていくという目的であったとしても、少なくともニュートラル・フラットの実務を進めるに当たっての要件はきちんと、もし規定するのだったら、明記すべきだと。   それで、やはり同意は必要だろうし、こどもの安全だけではなくて同居親の安全ということも保障されるべきだし、葛藤が激化しないというような要件が必要です。それから3番目の要件は、先ほど赤石委員の御意見にも出ました、拒否反応といいましょうか、望んでいない面会交流、試行はすべきではないというような、少なくとも以上の3点については要件として規定をすべきだと思っております。それが2点目です。   それから、3点目、こどもの拒否反応なのですけれども、それは最高裁がお調べいただいて、次回あるいは次回前に御報告いただけるかと思うのですが、既に名古屋高裁の決定が裁判例として出ておりますので、こどもの非常に強い拒否反応があって、これは試行的な親子交流を相当の回数やっているわけなのですが、その結果として身体的にも精神的にも大きな影響をそのお子さんに与えていて、高裁の決定は、専門家の意見書なども取り入れながら、そういう試行的面会はきちんとした協議が調わない前には行うべきではないという決定をしていると、そういう判例についてもきちんと見ていくべきだと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。戒能委員からは3点ということで、1については、明文化がもたらす影響、特に、これによって誤解が生じないかどうかということを考慮する必要があるということ、それから2番目に、2の方については要件を明確化する必要があるのではないかということで、3点を挙げられて御意見を頂戴いたしました。3番目に、既に存在している判例も考慮に入れて検討する必要があろうという御指摘を頂いたかと思います。 ○原田委員 原田です。戒能委員の意見とかなり重なるところがありますが、私も民法第766条の類推適用で問題ないと思っています。それは新たに明文化するという場合には、民法第766条改正のときに原則面会交流実施論が独り歩きしたことに対する考慮はきちんとすべきで、新たに作るのであれば、離婚後も別居後も含めて、きちんと子の福祉に関する原則を入れるべきではないかと思います。その内容としては、試行面会だけではなくて、一般的な面会交流について、今、判断基準とされているニュートラル・フラットの三つのカテゴリーを明記する必要があるのではないかと思いますし、今、皆さんは子の安全ということをおっしゃっていますけれども、私は安心がすごく重要だと思っています。   これは試行面会のときもそうなのですけれども、試行面会をするに当たって、そこで裁判所で暴力を振るったりどなったりするような別居親というのはほとんどいないです。もちろん非常に深刻な事例が発生したりすることがないとはいいませんが、皆さんやはりそこではきちんと落ち着いた態度をとられたりとか、あるいは、そもそもそんなことはしていませんとおっしゃる場合がほとんどで、自分が暴力を振るっていましたとか、これからも何かこどもが悪いことをしたら、それはしますよとかいうような人はほとんどいらっしゃらないわけで、そういう意味では、安全も重要ですけれども、安心がとても重要だと思っています。面会交流の相手がもう将来そんなことはしないということを、こども自身も、あるいは同居親も信頼できるという関係が非常に重要だと思います。   未成年期に親が離婚をした子に対する実態調査ですかね、そういうものの中でも面会交流ができていない理由は、元々親子関係がよくないというのが一番大きかったわけで、面会交流の取決めをした場合の継続率と裁判所が決めた場合の継続率では、はるかに後者の方が劣っているというような結果もあって、やはりお互いが信頼をして、合意でするというふうにならないと、強制をされたり不安があるとかいうような場合では続かないというのが調査結果でも出ておりますので、そこには十分留意する必要があるのではないかと思います。   こういう議論で、どうして会えないのかというときに、別居親が会わせないというイメージをお持ちかもしれないですけれども、実際にはこどもが同意しないケースが結構ありますし、仮に同居親がどうしても会わせたくないと言っているという場合は、どうしてそうなのかということを理解することなしに、面会交流を決めても、親の紛争に子が巻き込まれる可能性が高いと思います。   それから、試行面会についてですけれども、これは今、戒能委員が言われたように、私も同意が必要だと思うのですけれども、今回の規定は同意がなくてもできると書いてあるのかどうなのかとうのが非常に不安で、促すという表現がどうなのかなと思っていて、この促すというのは同意を求めるために促すと考えていいのかというのが、疑問に思っています。現在も同意が要件として書いてあるわけではありませんけれども、実際にはかなり同居親が説得されて、嫌々ながらでも、まあしようがないかなといって同意をした上で、だからこどもも連れてくるし、こどもに対して嫌だというこどもを説得するということができているので、同意というのは絶対に必要だと私は思っています。   ですので、新たな制度として位置づけるのであれば、同意を原則とするということと、それから、これは窪田委員や、ほかにもおっしゃっていただきましたけれども、当該こどもの心身に害悪を及ぼすおそれがない限りというのは、やはり表現上、問題ではないかと思います。害悪の程度とか、過去の害悪がどのような影響を与えるかということなど、未知数なところもありますので、やはり子の福祉にかなう場合というような場合に試行面接を促すというような表現がいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。原田委員からは1と2について御意見を頂きましたが、1については、明文化をするのならば、面会交流についての原則を掲げる必要があるのではないかという御意見がありました。それとの関連で、安全・安心のうちの安心というのを重視するべきだという御意見だったかと思います。2については、同意が必要だということで、その方向で考えるべきである。それから、先ほどの窪田委員の御指摘にあった、子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りというところについては、再検討を要するというのに賛成するという御意見を頂戴いたしました。 ○池田委員 池田でございます。まず、第2の1についてですが、これ自体については賛成です。もう実務でこのようなことが行われておりまして、類推適用という判例もございますので、明文化することについて賛成です。ただ、多分明示的に除外される趣旨ではないと思うのですが、別居中、もう一つ問題になるのは監護者指定というのがございまして、監護者指定についても同じ条文の中で規律するということがよろしいのではないかと思います。   婚姻費用も別居中に問題となる問題のもう一つなのですが、しかも、婚姻費用と面会交流というのは、養育費と面会交流と同じで、車の両輪といわれている中で、両方大事だよねといっている中で、婚姻費用は別の条文があるので、ここには婚姻費用を入れられないという説明はよく理解できますけれども、何らかの工夫ができればいいなという思いはございます。あるいは、婚姻費用は別の条文に定めているその点のという周知をきちんとしていくということが必要ではないかと思います。   次に、2ですが、これは問題意識としては窪田委員がおっしゃったことと全く同じです。子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りという書き方をすると、原則実施という形になるのではないかという懸念が強くあります。どういった文言がいいかということなのですが、試行的な段階ですので、正にこれから判断をしていくというところで、試行的面会が子の利益に合致するかどうかと言い切れない中でやらなければいけないという難しさはあるものの、やはり「子の利益の観点から相当であるとき」とするなど、害悪でなければやるというのではない形にしていただけると有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。池田委員からは、1については基本的に賛成であるということを前提に、別居に伴う他の問題についても併せて規定を置くということを考えるべきだろうという御指摘を頂きました。2については、先ほどの窪田委員の御指摘に賛成されるということで、具体的な文言についても御意見を頂きましたが、子の利益の観点から見て、ということを書いた方がいいのではないかという御指摘だったかと思います。 ○石綿幹事 幹事の石綿です。第2の1と2について意見を述べさせていただきます。   まず、1については基本的に賛成で、正に直前に池田委員がおっしゃったとおり、別居というタイミングで親子の形が大きく変わりますので、別居時において可能であれば、親子交流のことだけではなく監護者指定をする等、こどもの利益のために、その後の監護についての定めをするという規定も置けると、より望ましいのではないかと思いました。   2について、まず(1)について、窪田委員始め皆さんが、子の心身に害悪を及ぼすおそれのない限りという表現ぶりを検討するようにということで、そのことについても、原則実施ということが望ましくないというところは賛成いたしますが、これも池田委員がおっしゃったことと重なりますが、面会交流は子の利益にかなう場合に実施するわけですが、試行的面会交流は、面会交流が子の利益にかなうかどうかを判断するためにということであるので、同じ子の利益という言葉を使ったとしても、レベルが違うというか、面会交流が認められないかもしれない場合にも試行的面会交流は行われることがあるのだというようなことが伝わるような文言を用いるなど、少し違いが分かるような形で整理ができるとよいのではないかと思いました。   それから、(2)のところで、上記(1)の場合を含めということで、試行的面会交流以外にどのような交流があり得るのかということは、資料等で整理していただけるとよいのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。石綿幹事からは、1については、池田委員の指摘も含めて、賛成ということでした。2について、(1)の表現ぶりについて先ほどから御意見が出ているということを踏まえ、池田委員からの、子の利益の観点から見て必要だということとの関係で、子の利益というのが場面によって違う、本来の面会交流と試行的な面会交流とで違うということを考慮した表現ぶりというのが望まれるのではないかという御指摘を頂きました。(2)については、上記(1)の場合を含めということが書いてあるのだけれども、その他の場合というのはどういう場合なのかということを明らかにする必要があるという御指摘だったかと思います。 ○棚村委員 早稲田大学の棚村です。今、石綿幹事がおっしゃったこともかなり重なってしまうのですけれども、まず、婚姻中、別居中の親子交流についての規定については、かなり紛争が多く起こっていますので、類推適用とかということで実務は一定程度きちんとやっているものの、明文の規定を置くということについては賛成です。   それから、2のところで、特に(1)のところで、窪田委員や皆さんがおっしゃるように、子の心身に害悪を及ぼすおそれがない限りというのが、少し誤解を招いたり、表現として適切でないのではないかという点についても賛成をします。先ほどから言うように、子の利益とかという抽象的なのもいいかもしれませんし、それから、去年の12月10日に改正をされた、こどもの人格を尊重し、年齢や発達の状況に配慮してとか、そういうような形でこどもを大切にするというメッセージを込められるような条文の表現にした方が、誤解を招かないのかなという感じを持っております。   ただ、子の利益とかというとどこでも出てくるので、やはり少し受け止め方が違うといけないかもしれませんので、その辺りの表現を少し工夫していただきたいと思います。それから、(2)のところなのですが、調停の成立前とか審判前ということについて、できるだけ、実務でもやはりどのタイミングでやるべきかというのはかなり難しいところがあるのですが、この試行的な面会交流とか家裁の調査官の関与というのは、かなり早い段階でされる方が非常に効果的であると考えております。私も調停委員をずっとやっていて、試行的面会交流で解決の見通しが立ったり、親子交流の在り方について役立ったという経験もしております。特に親子の交流というのは、監護者とか親権をめぐって争いがあったり、子の引渡しとか、そういうふうに高葛藤となりエスカレートしたような紛争を見ていますと、早い段階に親子として本当にきちんと関係性が築かれているのだろうかとか、それから、今後どういうような形で親子の関係を作ることができるのだろうかとか、いろいろな面から、過去にわたっても、それから、これから先のことを見通していく上でも、親子の交流というのは、間接的な交流も含めてですけれども、いろいろな形で重要な役割を果たすと思うのです。   共同親権とか共同監護ということが、今、親権に議論をされていますけれども、本当に親子としての交流や関わり方がうまくできるかどうかというのを客観的に評価したり総合的に測定をしたりすることは、ある意味では、その後の関係をどういうふうに再構築していくか、親子の関わりをどう作っていくかとか、こどもの問題に親がどう関わるべきかということにも関わるような、重要な要素になると思うのです。ですから、今の家裁の実務を前提としながら、それをきちんと試行的親子交流の規定を明文化をし、しかも早期に家裁が関与して、こういうような形で、あるいは第三者が関与して、交流が可能かどうか、すべきかどうかということについて、ある程度の見通しをきちんと立てながらやっていくという意味で、この制度についても明文化していくことについて賛成です。 ○大村部会長 ありがとうございます。棚村委員からは、1については賛成である、2について、(1)は表現について御意見はいろいろありますけれども、他の表現の可能性、新しい民法第721条も含めて検討する必要があるだろうということ、それから、早い段階で将来を見極めるために、試行というのは行った方がよいという御指摘を頂きました。これは先ほど菅原委員もおっしゃっていたことかと思います。 ○武田委員 親子ネット、武田でございます。では、第2、親子交流に関する規律の見直しに関して発言をさせていただきます。   まず、1の民法第766条の類推適用、これを明文化しようという提案に関してでございます。基本的には(1)、(2)の方向で取りまとめに向けて検討を進めていただきたいと考えております。   その上で、1点だけ申し上げさせていただきます。少し趣旨は違うのですけれども、今回、部会資料29には、必要な事項を定めるという提案がなされたと思っています。試案3の2、協議離婚の際の取扱いと同様、離婚要件とするかという話は別にしまして、離婚時のみならず別居時についても一定の取決め、これを促進する方策、これが必要であろうと。かつ、委員、幹事の先生方からも、これは促進される方策はあるのだろうけれどもという指摘があったと記憶しておりますが、ではどうやって促進していくのかと、これは親向けの講座も同様の話かと思うのですけれども、少しこの辺りはどこかのタイミングで、どのような促進策がとれるのかというところの提示はいただきたいなと、これは事務当局へのお願いでございます。1に関しては以上でございます。   次に、2に関して、親子交流に関する裁判手続の見直しに関してでございます。この試行的交流の実施を促すこと、結果に関して家裁調査官に報告を求めること、双方この方向で是非進めていただきたいと考えております。親子交流の実務での進め方なのですけれども、部会資料29、32ページの2段落目ですが、これはほかの先生方からも既に御指摘もありましたが、現在は必ずしも手続の序盤に実施されるものではないと、正に今はこういう運用になっていると感じています。   この場で個人的な話をするのは余り適当でないかもしれないですけれども、私、この親子交流の調停、面会交流の調停ですね、試行面会、個人的に経験をしています。民法第766条改正後のことでございます。改めて確認したのですが、調停を申し立てたのが4月でした。当時も私、元々ずっと会えていたのが突然会えなくなりましたので、やはり早くこどもたちと関係を作らないとこどもに負担が掛かる、このように感じておりました。なので、申立て当初から、早く試行面会をお願いしたいということを、初回期日からお願いをしておりました。結果、試行面会が実現したのは、12月でした。そこまで期日としては6回、期間は8か月です。私のケースはまだ実現まで早い方、全く争いがなくて、一回会ってみましょうというケースは、もっと早いケースがあるかもしれませんけれども、結構早い方かと思います。   当時から私が感じていたのは、今このニュートラル・フラットとか、いろいろな考慮要素とか、いろいろな観点から検討いただくのは全然いいのですけれども、親子交流の考慮要素の中で、当事者であるこどもと交流の相手である別居親の関係を確認せずして、どうやって本案に対する決定が出せるのだと。調停の進行でもそうだと思います。このお父さんとこの子の交流がこどもの利益に資するのか、何を根拠に判断するのですか。裁判所の立場としては、双方を公平に取り扱うこと、これを否定するものではないのですけれども、当時私は裁判所で強く主張したことを記憶しています。親だけの主張を聞くことに無為に期日を重ねて、裁判所としての交流の是非の判断をできるのか。いや、こんな事情があるから会わせられない、そんな期日が4回も5回も、続きます。私はこどもとの関係はよいはずだと思っている、相手方はこどもは会いたくないと言っている、そういった主張が繰り返されます。こういったことを親同士でいつまでも裁判所が関与しやっていることというのは、当時私は本当に時間の無駄だと思いました。こどもの利益に資するのかと思いました。当時そういう主張をしたことを、改めて思い出しましたことをお伝えしたいと思います。   棚村先生、菅原先生なども触れていただきましたけれども、やはりこの親子交流の判断基準というのは、一番大切なのは、離れて暮らす親と当該こどもの関係だと思います。親子交流、試行面会ができれば、調査官にも判断いただけると思いました。試行面会当日、私は不安でしたよ、8か月。8か月ぶりです。調停期日に毎回聞かされた、もう会いたくないと言っている、パパのことなんか嫌いだと言っている、もう不安で不安で、会の中でグループウェアで聞き回りました。試行面会のとき何を持っていったか、どんな過ごし方をしたか、もし嫌われたらどうしよう、そんな心境で私たちは臨んでいるのです。   試行面会の当日のこと、今でも覚えています、年末の押し迫った頃だったと記憶しています、こども向けの部屋をとれなくて、殺風景な普通の調停室でした。そこに4人机で私が座って待っていて、調査官は同じ部屋の中で視界に入らないようにいていただいていました。息子はどうしたかというと、試行面会が始まる前に私のことを見つけて、がらっと開けて、パパ、久しぶりと笑顔で声をかけてきました。ここに至るまで8か月、こんなばかな話は、本当にないと思いました。まず、こういった離れて暮らす親とこどもの関係、ここが良好かどうか、是非、これを早期に見てほしいと思います。   正に、原田先生がおっしゃったのか、この試行面会の場で暴言を吐いたり、殴る蹴るなんて、さすがにそれは、中にはいるのかもしれないですが、ないと思います。安全とか安心とか重要です。でも、この親子関係がよいかどうか、これが、棚村先生がおっしゃっていただいたように、早期に実施できれば早く判断できると思います。親子交流の平均審理期間、10.3か月、もっと早く終わらせるケース、早く決着できるケース、あると思います。こういう親子の交流の光景を見れば、さらに、調査官も裁判官も、相手方とも、いろいろな話がしやすくなるのではないかなと思っています。   是非この試行面会の制度に関して、なかなか表現が難しいのか、理解しづらい部分もありますけれども、他の先生方の御意見も是非取り入れていただきながら、実現に向けて議論を進めていただきたい、そんなふうに思っています。   最後に、親子交流に関して1点だけ、ゴシックの(注)に今回、試行的な親子交流に対して第三者を関与させるという選択肢が登場したと思っています。これに関しても、特に否定するものでもないのですが、現在は弁護士とか民間の面会交流支援機関が候補として挙がっていると思います。こういう方々に関与を頂くことがいいのか悪いのか、メリット、デメリットもあって現時点で判断できない、こんなふうに思っています。特に民間の面会交流支援団体に関しましては、実態も分からないというのが率直なところだと思います。これは少し部会の議論と切り離して進めた方がよいかなと、個人的には思っているのですが、親子交流の支援団体、こども家庭庁とかが主体になるのですかね、是非実態調査などの調査研究を並行して進めていただきたいと、こんなふうに考えます。   すみません、長くなりましたが、以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。武田委員からは1、2、それぞれについて基本的には賛成だという御意見を頂いたと受け止めました。1について、別居時の取組の促進というのが必要ではないかということで、どこかで整理していただきたいというのは、御要望として伺いました。2について、最後に第三者の関与についてメリット、デメリットがあるのではないかという慎重論をおっしゃったかと思いますが、それとは別に、運用の問題ということだろうと思いますけれども、早くということが望ましいということで、棚村委員や菅原委員の意見に賛成されるという御趣旨だったと受け止めました。 ○向井幹事 今、武田委員から面会交流の調停でのやり取り等についてお話がありましたけれども、これは以前の部会でも説明しているところではございますが、改めて試行的な親子交流について、家裁の実務でどうやっているのかというのを少し説明した上で、意見を申し上げたいと思います。   現在、家裁の実務では、例えば今後、親子交流を実施することを前提に、その際に配慮が必要な課題等について把握、調整をすることですとか、あと、子と別居親の関係に問題があるとの主張がされているような場合などに、親子関係の実態等を精査することなどを目的として、当事者双方の同意の下で試行的な親子交流を実施してもらい、その交流場面を調査官が観察、評価するといったことが行われておりまして、その際には、当事者双方からの聞き取りを基に、その必要性を検討した上で、実施する方向性となった場合でも、試行的な親子交流の実施が子に与える影響などを慎重に検討して、十分な準備をした上で、目的に照らした効果が上げられるような形でこれを実施しております。こういった形で当事者双方の同意の下で行っておりますので、特に同居親側からの同意の取得に時間を要して、別居親の立場からすると、試行的な親子交流の実施が遅くなるということも、実際問題としてはございます。   あとは、今のような形をとらずとも、期日間に親子交流を実施することを当事者間で調整していただいた上で、その結果について調停委員会に伝えていただいて、その情報も踏まえて、必要な調整を図りつつ、交流の頻度や方法等に関して自主的な解決を促していくといったことも行われております。   その意味では、今回の部会資料で提案いただいている記載内容は、今申し上げたような裁判実務との連続性が保たれた内容だと認識しておりまして、更に言えば、こういう規律が設けられることによって調整を図りやすくなるということも期待したいと考えております。   なお、同居親が試行的な親子交流の実施にも消極的な意向を有する場合に、その背景には、やはり安全・安心に関する課題を含め、様々な事情があり得ることは部会資料にも記載されているとおりでありまして、試行的な親子交流の実施を働き掛けるのは、子の最善の利益を考慮した上で望ましいと判断される場合であると認識しております。   部会資料の内容は、そのような丁寧な事情聴取や慎重な検討といった姿勢を否定するものではなく、安全・安心といった点で課題がある場合にも取りあえず試行的な親子交流をさせるべきといった趣旨の提案ではないと認識しておりまして、その前提で先ほどの意見を述べさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。裁判所の方からは、現在の実務についての御説明を頂き、それを踏まえて、第2の2の点は、実務との間に連続性がある、この提案に依拠して、更によい実務が形成されるということが期待されるといった御趣旨の発言を頂いたと受け止めました。ありがとうございます。 ○原田委員 今、最高裁の方から、今回の提案は、安全・安心に問題がある場合にも試行するという趣旨ではないというような解釈をしているとおっしゃっていただきましたが、それであれば私も賛成できるのですけれども、同意を要件としない場合ですね、促した場合に応じることができない理由の説明を求めるというふうにあって、その理由の説明によっては理由がなくてもできるというふうに書いてあるのかなと心配したものですから、先ほど同意を要件にすべきだという意見を申し上げました。   それから、迅速に行うということを否定はしませんけれども、慎重に行わなければならないケースもあることも事実で、武田委員のケースでは、相手の、こどもが嫌がっているというのが虚偽だったとおっしゃっているのだろうと思いますけれども、実際にそうではないケースもたくさんありますし、そのケースを一般化はできないと思います。やはり慎重に行わなければならないケースで、私も担当しているケースではそのようなケースがたくさんあります。   それから、第三者の関与の件ですけれども、第三者が関与した場合に調査官は関与しないのかというのが問題で、やはり調査官が関与すべきであると思います。第三者の関与については、信頼性とか中立性の確保ができるのかという問題があって、あるいは費用をどうするのかという問題が出てきます。しかも、報告書を書いていただくとなると、どういう立場で報告書を書いてくれる第三者機関かというような選択も出てくると思いますので、必ず調査官が関与するというのを原則にすべきではないかと思います。ただ、こどもの手続代理人が選任されている場合は、こどもの手続代理人が試行的な面会に立ち会って、その報告書を出すというのはあり得るのかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。原田委員からは、先ほどの御発言の補足と、それから第三者の点について、調査官関与が必要ではないかという新たな御意見を頂きました。 ○佐野幹事 幹事の佐野です。第2の御提案に関しては、全体の方向性としては賛成します。この規定があることによって、調査官調査がより促進されるということを期待するところでもございます。その観点からいうと、特に地方の裁判所では、なかなか調査官に入ってもらえないとか、先ほど、武田委員からもお話がありましたように、児童室が十分確保されていない、児童室がないところもあるという話も聞きますので、こういった規定を作るのであれば、調査官の増員や、児童室の確保とか、制度を支える人員・設備も併せて検討していく必要があるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。佐野幹事からは、第2全体について基本的には賛成だという御意見を頂きました。調査官の調査が促進されるということを期待したいということでしたが、それとの関係で、人員やスペースについての配慮も必要だろうという御指摘を頂きました。 ○赤石委員 ありがとうございます。しんぐるまざあず・ふぉーらむの赤石です。先ほど少し言い忘れたことがあったので、お伝えしたいと思います。まず、第2の1についてですが、原田委員、戒能委員の御懸念に賛成します。やはり民法第766条が改正された後の裁判所の原則面会交流実施の動きを考えますと、どういう影響があるのかというのは非常に懸念されるところです。   それとの関連で、今資料に加えられている点ですごく懸念がある点は、試案には(前注)がございました。その(前注)の一つが、ドメスティック・バイオレンス、配偶者に対する暴力や虐待については、今、表現は忘れてしまいましたが、きちんと対応するということが書かれておりました。今回、その後の要綱案での議論のところで、一体DVや虐待についてどのように位置づけるのかという議論が全くないまま進んでおります。そこから来ますと、第2の親子交流についての1あるいは2について、ではDVや虐待についてのアセスメントはどのようにするのかということと議論が密接に関わっていると思います。   だから、先ほどニュートラル・フラットについてもきちんと条文の中に位置づけるやに御発言があったのですが、私も賛成なのですが、あと、第13回で細矢委員からDVのアセスメントについての方針が示されました。私はその方針というのは非常に、おおむね素晴らしいなと思ったわけなのですけれども、ヒアリングで、例えば1月のじゅんこさんという方のヒアリングを思い出していただいても、細矢委員がおっしゃっているようなアセスメントが行われているとは思えない。面会交流は原則実施のままになっていて、身体的な明らかな暴力の証拠も提出していても、面会交流はさせられているという証言だったかと思います。このようになっていることを考えますと、事実調査のための面会交流ですとか、こういった親子交流について当然、懸念が生じるということになります。   ですので、ここでの議論としては、やはりDVや虐待のアセスメントやその方針に関して、きちんとした方針を資料として御提出いただき、きちんと議論をするべきであると思いますが、いかがでしょうか。でないと、ここでオーケーすると全てがそのまま進んでしまうという懸念を持って、議論が進められないというようなことになってしまっていると思います。   いろいろな事例がございます。今日もパブリック・コメントを見させていただきましたけれども、暴力があってもやはり面会交流を決められたというようなパブリック・コメントも来ております。当然ながら、あります。一体、では、裁判所の中で、私どもが11月に出した調査でも、最近の例でもやはり調停委員、それから調査官の言葉に傷付いたとか、きちんと主張を聞いてもらえなかったということはあるわけでございます。ですので、今後はそういうことがないようにするのであれば、どうするのかといった方針とともに示されていただきたいと思います。やはり離婚後、別居中、ポスト・セパレーション・アビューズと今、いっておりますけれども、別居後やはり危険というのが高まるといわれておりますので、そこへの対策というのはきちんとすべきかと思います。   あと、少しよく分からなかったのが、水野委員のおっしゃった、児童相談所に、かなりの虐待の訴えの中に、別居親が同居親の対応を少し問題があると指摘したいがために、児相に通報するというのが非常によく見られるというのはよく聞く話です、ということも一言言っておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。赤石委員からは、先ほどの発言を補充するということで、第2の1について、明文化に対する懸念を述べられた委員が何人かおられましたけれども、それに賛成だということが一つあったかと思います。それからもう一つ、DVへの対応ということと密接に関連をするので、その点について議論をする必要があるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。それから、水野委員の御発言についてのコメントを頂いたと理解を致しました。 ○池田委員 時間がない中、すみません。こどもの手続代理人のことについて、一言だけ申し上げたいと思います。試行的面会交流プロパーのことではないので、少し控えていたのですが、先ほど原田委員が言及されたのに勇気を得て、一言だけ。   この親子交流、試行的な面会交流を含めて、面会交流において本当にこどもはいろいろなことを考えています。例えば、別居親と会いたいのだけれども、同居親の顔色をうかがわなければいけないと思っているこどももいれば、本当に自分は別居親と会いたくない、同居親にそれを何度訴えても、返ってくる言葉は、いや、裁判所に会わせろと言われているというふうなことで、裁判所に対する不信、ひいては同居親に対する不信を感じているようなこどももいたりもしますし、そんな中で、こどもとしてこの事態にどう対処していくかというのは、やはり味方となって相談に乗ってくれる相手ということが必要になってくると、とても心強いのだろうと思います。ですから、こどもの手続代理人が付くと、非常にその辺りが心強く感じて、いろいろなことを相談しながらこの事態に対処していけるというところで、特に面会交流については、こどもがいろいろなことを考えているという中で、こどもの手続代理人が非常に有用であると感じているところですので、試行的実施の場面を含め、こどもの手続代理人の活用ということをしていただけると有り難いなということを一言申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございます。こどもの手続代理人の有効性というのが、今問題になっている場面では大きいのではないかという御指摘を頂いたと受け止めました。   ほかにはよろしいでしょうか。 ○戒能委員 ありがとうございます。委員の戒能です。本当に短く申し上げます。先ほどの赤石委員の御発言につながることなのですが、中間試案をまた読み直してみました。それで、最後の方なのですが、第5というところで、子の監護に関する事項についての手続に関する規律の見直しというところがございまして、そこに、これは概要版を今日、持ってきたのですが、DV又は虐待が疑われる事案に適切に対応するものとする仕組みの検討という指摘がございます。必要だという御意見は多くの委員から上がってはいるのですが、ここで欠けているのは、やはり仕組みの検討ということだと思います。具体的な仕組みを、先ほどの試行的な、あるいは別居時の明文規定というところで密接に関わっているというような御意見もございましたが、正にそのとおりだと思いますので、仕組みをきちんと検討し、必要な明記をするべきだと考えております。   以上です。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほど赤石委員の方からDVへの対応についての御指摘がありましたけれども、そのための具体的な仕組みというのを考えていく必要があるという御指摘を頂きました。   ほかはよろしいでしょうか。   それでは、御意見いただいたということでよろしいでしょうか。第2について御意見を頂きましたけれども、そのうちの1については、多くの委員、幹事からはこれに賛成だという御意見を頂きましたが、一方で、明文化することに伴って誤解が生じ得るという点について対応をする必要があるのではないかという御指摘も頂いたところでございます。   そして、第2の2については、これについて賛成だという委員の方々もたくさんいらっしゃいましたけれども、他方で慎重論の委員、幹事の方々も複数いらしたと思います。慎重論の方々からは、本当に必要性があるのかといった御指摘もありましたけれども、制度化をするのであれば、要件を明確にするということが必要なのではないかということで、具体的な御指摘も含めて御意見を頂いたところでございます。その明確化ということとも関わるのですけれども、安心・安全ということについて、直前にあったDVの問題、具体的にどのように対応するのかということを含めて考える必要があるという御意見もあったかと思います。それと、第三者の関与ということについても様々な御意見もありましたので、なおこの点についても検討をしていかなければいけないと思って伺ったところでございます。   今日のところはこのくらいにさせていただきたいと思いますけれども、よろしいでしょうか。   それでは、本日の審議はここまでとさせていただきまして、次回のスケジュール等について事務当局から御説明を頂きたいと思います。 ○北村幹事 事務当局でございます。次回の会議は、令和5年8月29日火曜日、午後1時30分から午後5時30分までを予定しております。場所につきましては改めて御連絡させていただきたいと思います。   次回ですけれども、これまで3巡目として様々な論点について御議論いただきましたが、頂きました御意見を踏まえて、それぞれの論点、何回かに分けて御議論いただいたところの関連性を含めて、分かるようにということでの御意見も頂戴したかと思っていますので、少し論点の全体像が把握できるような資料をお示しした上で、それに基づいて御議論いただきたいと思っておりますが、その具体的な資料につきましては、少し我々の方で検討させていただいた上で部会長とも御相談させていただいて、改めて皆様にお知らせしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。これまで検討してきた様々な問題について、相互の関連に関わるような御意見、御質問が幾つも出てきたかと思います。そうしたことも踏まえて全体にわたる資料を準備していただいて、次回はそれに基づいて御意見を頂くということだったかと思います。次回は、8月29日ということでしたが、この夏はずいぶん暑いので、皆さん、健康に留意されてお過ごしいただきまして、また秋に全体像についての御議論を頂ければと思います。   本日、法制審議会家族法制部会第29回会議は、これで閉会をさせていただきたいと思います。   本日も熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。閉会を致します。 −了−