改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第8回) 第1 日 時  令和5年9月8日(金)       自 午後3時00分                           至 午後5時08分 第2 場 所  東京高等検察庁第二会議室 第3 議 題  証拠開示制度の拡充の施行状況         犯罪被害者等・証人を保護するための措置の施行状況         証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げの施行状況         自白事件の簡易迅速な処理のための措置の施行状況 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会の第8回会議を開催いたします。   本日は皆様御多用中のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日の会議から、栗木の後任として、私、法務省刑事局参事官の中野が進行役を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。   本日の会議から、吉田構成員の後任として玉本構成員が出席しております。玉本構成員から簡単で結構ですので、自己紹介をお願いできればと思います。 ○玉本構成員 法務省刑事局刑事法制管理官の玉本でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中野参事官 次に、事務当局から、本日の配布資料について確認をさせていただきます。   本日は、配布資料29から34までをお配りしているほか、前回会議でお配りした資料27及び28、第1回会議でお配りした配布資料3を改めてお配りしています。   そのうち、配布資料27及び28は、証拠開示制度の拡充に関するもの、配布資料29から31までは、犯罪被害者等・証人を保護するための措置に関するもの、配布資料32及び33は、証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げに関するもの、配布資料34は、自白事件の簡易迅速な処理のための措置に関するもので、いずれも事務当局において作成したものです。   また、配布資料3は、平成28年の刑事訴訟法等の一部を改正する法律の概要に関する資料です。本日、改正項目を御説明する際に御参照いただくものとして、改めてお配りしています。   各配布資料の内容につきましては、後ほど、それぞれの点について御協議いただく際に御説明します。   それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、まず、証拠開示制度の拡充の施行状況について、配布資料27及び28に基づく協議を行い、次に、犯罪被害者等・証人を保護するための措置の施行状況について、配布資料29から31までに基づく協議を行い、次に、証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げの施行状況について、配布資料32及び33に基づく協議を行い、引き続いて、自白事件の簡易迅速な処理のための措置の施行状況について、配布資料34に基づく協議を行うこととしたいと思います。   それらの協議に当たっては、それぞれ、事務当局から関係する配布資料の御説明を行った上で、その内容について質疑応答・意見交換を行うこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、証拠開示制度の拡充について協議を行いたいと思います。   まず、事務当局から、平成28年の刑訴法改正の概要に関する配布資料3、配布資料27及び28の内容について御説明します。   まず、平成28年改正における証拠開示制度の拡充に関する改正の概要について御説明しますので、配布資料3の7ページを御覧ください。   まず、「(1)証拠の一覧表の交付手続の導入」と記載されている部分を御覧ください。   この改正の内容は、公判前整理手続等が行われる事件では、検察官請求証拠の開示の後、被告人側から請求があったときは、検察官は、検察官が保管する証拠の一覧表を交付しなければならないものとするというものです。   平成28年改正前から、公判前整理手続の下で、被告人側は、検察官に対し、類型証拠及び主張関連証拠の開示を請求することが可能でしたが、被告人側において、それらの証拠開示請求に先立ち、その手掛かりとして、検察官の保管する証拠の一覧表の交付を受けることができれば、円滑・迅速なものとなり得ると考えられたため、このような証拠の一覧表の交付手続が導入されることとなりました。   ここでいう証拠とは、証拠物及び証拠書類をいい、一覧表には、証拠物については、品名及び数量、供述録取書については、その標目、作成年月日及び供述者の氏名、それ以外の証拠書類については、その標目、作成年月日及び作成者の氏名を記載することとされています。   このように、証拠の一覧表の記載事項が個々の検察官の実質的な判断・評価を要しないものとされたのは、被告人側に証拠開示請求に当たっての手掛かりを与えることにより円滑・迅速な証拠開示請求に資するようにするという証拠一覧表の趣旨に鑑み、その記載事項については、一覧表を迅速に作成・交付でき、かつ、記載内容に関する争いが生じないものとする必要があると考えられたことによります。   もっとも、事案によっては、証拠の一覧表にそのような事項を記載することにより関係者に危害が加えられたり、その名誉が著しく害されるなどの弊害が生じるおそれがある場合もあるため、そのような事項については、証拠の一覧表に記載しないことができることとされています。   本改正は平成28年12月1日から施行されています。   次に、「(2)公判前整理手続の請求権の付与」と記載されている部分を御覧ください。   この改正の内容は、被告人・弁護人及び検察官に、公判前整理手続の請求権を付与するというものです。   平成28年改正前は、事件を公判前整理手続に付するか否かは、専ら裁判所が、職権で判断することとされており、訴訟当事者である被告人、弁護人、検察官は、裁判所に対してその職権発動を促すことができるにとどまっていました。   しかし、事件が公判前整理手続に付されるか否かは、訴訟当事者の公判準備に大きな影響を与えることに鑑みると、訴訟当事者が裁判所に対して事件を公判前整理手続に付するように求めることができることを制度上明確にするとともに、裁判所がその判断を決定という方式で合理的期間内に行わなければならないものとすることが必要であると考えられたため、このような改正が行われることとなりました。   本改正は平成28年12月1日から施行されています。   最後に、「(3)証拠開示の対象の拡大」と記載されている部分を御覧ください。   この改正の内容は、類型証拠に、共犯者の身柄拘束中の取調べについての取調べ状況報告書、検察官が証拠調べ請求した証拠物に係る差押調書・領置調書、検察官が類型証拠として開示すべき証拠物に係る差押調書・領置調書を追加するというものです。   これは、争点及び証拠の整理をより円滑・迅速なものとするため、検察官請求証拠の証明力を判断するために類型的に重要と考えられるものを新たに類型証拠開示の対象に追加するものです。   本改正は平成28年12月1日から施行されています。   証拠開示制度の拡充に関する改正の概要についての御説明は、以上です。   引き続いて、配布資料27について御説明します。   配布資料27は、平成28年の改正と直接関連するものではありませんが、同改正内容が公判前整理手続に関連するものであることから、同手続に関する基礎的な資料として、平成24年から令和3年までの、公判前整理手続に付された通常第一審事件の被告人数、平均審理期間及び平均開廷回数を、最高裁判所事務総局作成の司法統計年報に基づき、事務当局がまとめたものです。   「公判前整理手続に付された被告人数」とは、全地方裁判所における各年中に終局した通常第一審事件のうち、公判前整理手続に付されたものの被告人の合計数を意味しています。   「平均審理期間」とは、表の下の「※3」に記載したとおり、全地方裁判所における各年中に終局した通常第一審事件のうち、公判前整理手続に付されたものの、裁判所における事件の受理から終局までの平均期間を意味しています。   「平均開廷回数」とは、全地方裁判所における各年中に終局した通常第一審事件のうち、公判前整理手続に付されたものの、第1回公判から終局までの平均開廷回数を意味しています。   また、「(参考)」として、公判前整理手続に付されていないものも含めた、全地方裁判所における各年中に終局した通常第一審事件の被告人数として、「終局総人員数」を記載しております。   配布資料27の御説明は以上です。   次に、配布資料28について御説明します。   配布資料28は、最高検察庁次長検事名で発出された、「証拠の一覧表交付手続における一覧表の書式等について」と題する依命通知です。   本通知には、証拠の一覧表の作成方法と書式を定める「証拠の一覧表の作成要領」と題する書面が添付されていますので、その内容を簡単に御説明します。   まず、証拠のうち、供述録取書及び証拠書類については、別紙1と記載されている「供述録取書及び証拠書類一覧表」に記載することとされています。その際、警察等から送致又は送付された供述録取書及び証拠書類は、おおむね送致等の順に並べて記載し、検察庁で作成した供述録取書及び証拠書類は、警察等から送致等された供述録取書及び証拠書類の後に引き続いて、おおむね検察庁で作成した日付の順番で記載することとされています。   次に、証拠のうち、証拠物につきましては、別紙2と記載されている「証拠物一覧表」に記載することとされており、その際の記載の順番等は先ほど申し上げた内容と同様です。   そのほか、一覧表の不記載事由があると認める事項については、一覧表を作成するに当たり、不記載部分が一覧表上明らかとなるよう当該事項の部分を黒塗りで表記することとし、不記載事由の事項がある証拠そのものを一覧表に一切記載しないという取扱いは行わないことなどとされています。   配布資料28の御説明は以上です。   ただ今の説明について御質問、御意見はありますでしょうか。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明下さり、ありがとうございました。まず、配布資料27に基づいて、河津構成員と鈴木構成員に質問させていただきたいと思います。   平成28年改正は、当事者に対して公判前整理手続の請求権を付与しましたが、裁判所が公判前整理手続に付するか否かについて判断する際の基準自体を変更するものではありませんでした。実際、配布資料27に基づいて、各年の終局総人員数に占める公判前整理手続に付された被告人数の割合を計算してみたところ、当事者に公判前整理手続の請求権を付与する規定が施行された平成28年12月の前後で大きな変化はなく、平成27年から令和3年までの割合は、いずれの年も2.3%から2.5%で推移しています。   そこで、河津構成員と鈴木構成員に質問させていただきたいのですが、このような現状をお二人はどのように評価しておられるでしょうか。当事者に公判前整理手続の請求権が与えられたことの実務上の意義についても、御意見をお聞かせいただければ幸いです。 ○河津構成員 御質問ありがとうございます。御指摘のとおり、請求権が付与される前後で公判前整理手続に付された人員数に大きな変動はございません。   全国の弁護士から日弁連に対し、公判前整理手続を請求したにもかかわらず付されなかったという報告があり、日弁連から最高裁にお願いして、2020年9月から11月までの3か月間の調査を行っていただきました。   日弁連が2022年1月20日付けで公表している「刑事訴訟法附則第9条に基づく3年後見直しに関する意見書」にも記載しておりますが、その3か月の間に弁護人が公判前整理手続を請求した44件のうち、裁判所が公判前整理手続に付する決定をしたのは22件、却下したのは16件とのことでした。もちろん決定は個別の事案における裁判所の判断ですが、この請求した44件のうち否認事件が32件あるところ、このうち公判前整理手続に付する決定は16件で、12件が却下されているということについては、被告人が無罪を主張している事件において、必要な証拠が開示されないまま公判が行われているのではないか、という懸念を覚えております。   公判前整理手続の要件は、証拠開示の必要性をいうだけでは満たされるものではありませんが、他方で平成28年改正において公判前整理手続の請求権は証拠開示制度の拡充の一環として規定されたものですので、そうした改正法の趣旨に沿った運用がなされるべきであると考えております。 ○鈴木構成員 公判前整理手続の請求権が付与されたことで実務上どういう影響が生じているのかという点ですけれども、請求権の付与に関する規定は、先ほど来御説明があるとおり、平成28年12月1日に施行されました。その施行の前後で、終局総人員数に占める公判前整理手続に付された被告人数の割合に大きな変動がないというのは事実として指摘することができるわけです。その原因については、これは個々の事例の積み重ねの結果なので、お答えすることはなかなか難しいのですけれども、御指摘を頂いて改めて考えてみますと、裁判所としては、請求による場合であれ職権による場合であれ、法律上書いてある、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があるかどうかという要件で判断しています。この要件自体は、先ほど成瀬構成員からも御指摘がありましたとおり、改正前後で変わっていない、同じであります。裁判所としては、当事者の意見を踏まえながら、最終的にはこの要件に該当するかどうかというところを適切に判断しているつもりです。 ○成瀬構成員 鈴木構成員に追加の質問をさせて下さい。先ほど河津構成員から、否認事件においても公判前整理手続に付するよう求める請求が却下されるケースがあるという御指摘がございました。そのようなケースの争点と証拠の整理については、事実上の打合せが行われると伺ったことがあるのですが、裁判所の方ではそのような運用がなされているという理解で正しいでしょうか。 ○鈴木構成員 公判前整理手続以外にも、成瀬構成員がおっしゃるように、打合せを行って争点や証拠をある程度整理していく、あるいは事前準備という形で行うなど、様々な公判準備の手段、ツールはあると思います。それは事案に応じて適宜判断していると思います。 ○成瀬構成員 ただ今の鈴木構成員の御回答も踏まえますと、裁判官は、複数のツールの中から当該事案に適する公判準備の手段を選んで争点と証拠の整理を行っており、公判前整理手続は、316条の2第1項の要件を満たすような、最も複雑かつ困難な事件に限定して用いられているということかと思います。そうだとしますと、各年の事件全体の中で公判前整理手続に付される事件の割合が少なくなるのは自然であり、また、公判前整理手続に付された事件の平均審理期間がある程度長期化してしまうこともやむを得ないのかもしれません。   ただ、配布資料27によりますと、近年は、公判前整理手続に付された事件の平均審理期間が13か月を超えるようになっておりますので、この状況を改善するための法曹三者の取組が強く求められているようにも思います。最後の点は、平成28年改正と直接関係する事柄ではありませんが、広い意味で公判前整理手続の運用に関わりますので、コメントさせていただきました。   続いて、配布資料28に基づいて、宮崎構成員に質問させていただきたいと思います。   配布資料28によって証拠の一覧表の大まかなイメージはつかむことができたのですが、この一覧表を作成する際の事務的な負担について、検察官としてどのようにお感じになっているか、お聞かせいただきたいと思います。   また、「証拠の一覧表の作成要領」の「5」を見ますと、刑事訴訟法316条の14第4項に基づき、一定の弊害が認められる場合には証拠の一覧表に記載すべき事項を記載しないことができるとされています。そこで、検察実務において、証拠の一覧表の一部を黒塗りにすることがどの程度行われているかについても、併せて御教示いただければ幸いです。 ○宮崎構成員 御質問ありがとうございます。まず、証拠の一覧表作成の事務的な負担ということですけれども、個別の事件における証拠物、証拠書類の量によっても大きく異なり得るものですから、一概にお答えするのはなかなか難しいのですけれども、一般的に申し上げると、証拠の一覧表を作成するに当たっては、当該事件を担当する検察事務官におきまして、記載する証拠の作成年月日、標目、作成者や供述者の氏名などの記載事項に誤りがないか、記載の漏れている証拠がないかを、一つ一つ証拠の原本と照らし合わせて確認しながら作成をしておりまして、そういった一覧表の作成作業の負担感は非常に大きいという印象を持っております。   それから、2点目の御質問の一覧表の不記載ということですけれども、私自身の経験として申し上げると、御指摘のような一覧表の一部について黒塗りで表記するというケースを見聞きしたという記憶はございません。他方で、刑事訴訟法316条の14第4項各号に該当して、証拠の一覧表の不記載部分を黒塗りにするという事例が全くないわけではないと思います。いずれにしましても、検察官としましては、個別の事案における具体的な事情を踏まえて、同項各号のおそれの存在などについて慎重に吟味した上で、不記載の取扱いをするかどうかを慎重に検討していると思われます。 ○成瀬構成員 御回答いただき、ありがとうございました。証拠の一覧表の作成は大変だろうなと素人ながらに思っていたのですが、実際に相応の事務的負担がかかっているということがよく分かりました。また、証拠の一覧表の一部を黒塗りにする事例は余りないということも理解しました。   このように作成されている証拠の一覧表は、先ほど事務当局から御説明いただいたとおり、弁護人が証拠開示請求をする際の手掛かりとして活用することを想定しています。そこで、河津構成員に伺いたいのですが、刑事弁護実務において、証拠の一覧表は証拠開示請求の手掛かりとして有効に機能しているとお考えでしょうか。また、証拠の一覧表の交付によって、証拠開示手続が全体として迅速化したという実感はありますでしょうか。 ○河津構成員 証拠の一覧表の交付手続の導入により、弁護人が一覧表と証拠開示の回答書や開示された証拠を対照することにより、証拠の開示漏れがないかどうかを確認することは容易になりました。私の経験でも、検察官から証拠開示の回答書を受領した後に、回答書に記載はないが証拠一覧表には記載のある証拠を発見して検察官に御連絡し、開示を受けたことがございます。   また、事件によっては証拠開示請求をする段階で、証拠一覧表の記載から、例えば目撃者の供述の存在や鑑定を実施した事実が分かり、証拠開示請求の手掛かりとなることもないわけではございません。ただ、そのような活用ができる場合は多くはなく、その理由は、証拠一覧表の記載からは証拠を十分に特定することができないことにあります。   法制審議会特別部会でも議論されておりましたが、例えば、捜査報告書は証拠一覧表上、標目として「捜査報告書」としか表示されておりませんので、内容をうかがい知ることができません。また、証拠物も証拠一覧表上、例えば品名「○○と題する書面等」、数量「1箱」とか、品名「○○と題するファイル等」、数量「1箱」といった記載になっており、この「箱」というのは引っ越しのときに使うような大きな段ボール箱でして、その中に入っている物の多くが分からない記載となっております。また、録音・録画記録媒体については、「録音・録画記録媒体報告書」の作成者である検察事務官の氏名のみが記載されていて、供述者が記載されていない例もあると報告を受けており、このような記載では、誰の取調べを記録した媒体なのか分からないことになります。このようなことから、証拠一覧表の標目や品名の記載からは開示を求めるべき証拠を十分に特定できないことが多く、そのため証拠開示請求をする段階では余り有効な手掛かりとなっていないと私は感じております。   成瀬構成員御指摘のとおり、証拠開示については、証拠一覧表の交付手続の導入等の改正にもかかわらず、時間がかかりすぎていることが大きな問題であると認識しております。証拠開示に1年以上かかることはまれではなく、私が担当している事件でも、最初の証拠開示請求から2年以上たっているのに開示が終わっていない例もあります。証拠開示に要する時間のうち記録の謄写に要する時間については、IT化により改善することが期待されますが、それを差し引いても時間がかかっておりますので、原因はそれだけではなさそうです。   現行の制度では、証拠が手元にない弁護人が証拠を特定して開示請求することが求められています。そのため、まず、弁護人が想像力を働かせて証拠を特定して開示請求するところで時間を要しています。しかも、開示されるべき証拠の請求が漏れることのないよう、網羅的で多岐にわたる請求をせざるを得ないことが多くあります。そして、証拠が手元にある検察官から見ると、弁護人が想像力を働かせても、証拠の特定が的確でないと思われることもあるのではないかと思います。そのような請求について検察官が要件該当性を判断するところでも時間がかかっているように思われます。しかも、防御の準備のための開示の必要性について、反対当事者である検察官が判断をするところにも困難な要素があります。   刑事訴訟規則第217条の26は、検察官が開示の請求があった証拠を開示しないときは、開示しない理由を告げなければならないとしていますが、実務上、検察官から弁護人への回答では、理由の記載がなく、該当する証拠が存在しないのか、それとも存在するが不開示なのかが曖昧にされることが少なくありません。これも、そもそも弁護人が開示請求をする段階で的確に証拠を特定することが困難であることが一因であると思われます。そうすると、そのような回答を受けた弁護人としては、開示されるべき証拠が開示されていないのではないか、防御の準備のための開示の必要性が適切に判断されていないのではないかと考えざるを得ないことがあり、そこで弁護人と検察官との間のやり取りが始まります。   しかし、そのやり取りの間も弁護人はその証拠の存在を確認できないので、らちが明かなくなった段階で裁判所に裁定請求をすることになります。公判前整理手続で証拠に触れることに抑制的な裁判所は、裁定請求を受けても、まず当事者間で解決することを促すことが少なくありません。それでも解決せず、結局裁判所が時間をかけて裁定請求に対する判断をすることになるというようにして、時間がかかっているように思われます。   証拠開示に時間がかかることは、迅速な裁判を受ける権利が損ねられるという点でも、未決拘禁の長期化という点でも、証人や被告人の記憶が減退するおそれがあるという点でも、問題は小さくありませんので、より迅速に証拠開示が実現するよう手続の合理化が必要なのではないかと考えます。 ○成瀬構成員 丁寧に御回答くださり、ありがとうございました。刑事弁護の視点から見た証拠開示の実情と課題について、具体的に御説明いただき、参考になりました。 ○佐藤構成員 先ほど河津構成員より、弁護人が事件を公判前整理手続に付することを請求した件数とその帰趨に関する調査について御紹介がありましたが、裁判所においては、これらの事項について、年単位で統計を取っているのでしょうか。 ○横山構成員 お尋ねにありました公判前整理手続の請求数につきましては、統計を取っておらず、把握していないところです。先ほど河津構成員から御紹介いただきました、日弁連の意見書にあります数値につきましては、その3か月間に限定した調査を過去に行ったというものです。 ○佐藤構成員 それでは、差し当たり、先ほど御紹介のあった数字を手掛かりとして質問させていただきますが、2020年9月から11月までの3か月間の調査では、弁護人が事件を公判前整理手続に付することを請求したのは44件であったということでした。そうしますと、単純計算によるのは不適切かもしれませんが、一月当たりで15件、一年にすると180件程度の請求が行われている見当になるでしょうか。事件が公判前整理手続に付されることによって、従来型の公判準備に比べ、例えば証拠開示をめぐる権利義務関係が明確になるなど、被告人側にとってのメリットは小さくないのではないかと想像するのですけれども、先ほどの数字からはそれほど広がりが見られないとの印象も受けるところです。そこで、私の印象を基にした質問で恐縮ですが、河津構成員において、弁護人が事件を公判前整理手続に付することを請求した件数が先ほど御紹介いただいた水準にとどまっている理由について何かお考えがありましたらお聴きしたいと思います。 ○河津構成員 御質問ありがとうございます。まず、裁判員裁判対象事件については、請求するまでもなく必要的に公判前整理手続に付されることになりますので、請求件数には含まれていないことになるかと思います。   それ以外の事件で公判前整理手続を請求する件数がそれほど増えていない原因について、日弁連でも調査等をしたことはございませんけれども、公判前整理手続に付することのメリットとデメリットの評価が弁護人によって異なることは、あるのだろうと思います。私は、証拠開示を受けるメリットが非常に大きいことから、争いのある事件においては公判前整理手続を請求するのが通例であり、ほとんどの場合、公判前整理手続に付されています。他方で、公判前整理手続に付された場合、いわゆる証拠制限がかかってくることが、デメリットとして以前から指摘されておりました。実務上は、それ以上に、身体拘束が長期化するおそれがあることが公判前整理手続に付することを回避する一つの理由になっているように思われます。被告人が早期の保釈を希望する事件においては、争いのある事件であっても、あえて公判前整理手続に付することを求めず、早期に第1回公判期日を迎えて、保釈の実現を目指すという選択をすることもあるようです。 ○足立構成員 配布資料28の「証拠の一覧表の作成要領」を見ると、その中に、警察から送致又は送付された証拠という記載があるんですけれども、この点について宮崎構成員にお伺いしたいのですけれども、送致された証拠があるということは、送致されなかった証拠もあるという、つまり、全てが検察庁に送致されるわけではなくて、警察に残された証拠もあるという理解でよろしいのでしょうか。 ○宮崎構成員 ここに書いていますのは、もともと警察送致事件を前提にしているのだと思います。警察から来る証拠は一遍に送致されるわけではなく、一番最初の送致の段階で手元に来る証拠、証拠書類もありますし、その後順次、作成する都度、追加で送致されてきますので、「証拠の一覧表の作成要領」の記載自体は、その順番で記載してくださいねというくらいの意味だと思います。対比として、警察から送致された証拠と検察庁で作った証拠とを区別しているだけの記載で、送致されていない証拠のことを何か想定した記載ではないと理解しています。 ○足立構成員 ありがとうございます。そうしますと、この一覧表が弁護側に開示された段階では、まだ一覧表に記載されていない証拠も出てくるということになるのでしょうか。 ○中野参事官 事務当局から補足して御説明しますと、刑事訴訟法316条の14第5項によりまして、検察官は、一覧表の交付をした後、証拠を新たに保管するに至ったときは、速やかに被告人又は弁護人に対し、当該新たに保管するに至った証拠の一覧表の交付をしなければならないとされていますので、一覧表を交付した後に送致又は送付を受けた証拠に関しては、別途一覧表の交付をすることとなります。 ○足立構成員 河津構成員にお伺いしたいのですけれども、そうしますと、まだ検察庁に送付されていない、送致されていない証拠について、それの証拠開示を求めるということは実務上難しいということになるのでしょうか。その必要性は特に感じられないということになるのでしょうか。 ○河津構成員 先ほど申し上げたとおり、証拠開示請求をする段階では一覧表にそれほど依存せずに請求を行っておりますので、その段階で受領している一覧表に記載があるかどうかにかかわらず、検察官の請求証拠の証明力の判断に必要な証拠や弁護人の予定主張に関連する証拠については、開示を請求しております。最高裁判所の判例で、現に検察官の手元にない証拠であっても証拠開示請求の対象となり得るというものがありますので、そのような場合には、一覧表には記載がなくても、当然開示されるべき証拠があり得ると理解しております。 ○足立構成員 そうしますと、仮になのですけれども、過去の事例で、一覧表に記載されていない証拠をめぐってトラブルが起きたりしている、例えば、弁護人が開示請求をして、一旦検察官が存在しないという回答をしたのだけれども、後から見つかったとか、そういったトラブルのようなことが起きたりしているようなケースはあるんでしょうか。 ○河津構成員 私の経験上は、トラブルというほどのことではありませんが、後でこういう証拠もありましたとして、追加の一覧表の交付を受けたことはあります。 ○足立構成員 証拠が最終的に全て検察庁に送付されるわけではなくて、使わない証拠については恐らく警察署に残されたりとかしているのではないかなと思ったもので。そうしますと、本当は必要な証拠が検察庁に行かないので、この一覧表に載らないまま、弁護側に活用されないまま見過ごされているというケースがあるのか、ないのか、そういう問題意識で質問させていただきました。 ○河津構成員 その点については、弁護士向けの研修やロースクールの授業などでは、証拠の一覧表に記載がなくても開示されるべき証拠はあるので、積極的に証拠開示請求をすべきであると教えております。 ○足立構成員 もう1点。今の一覧表の作成要領を拝見すると、手掛かりということで、河津構成員からは非常にこれが役立っている側面もあるというお話がありましたけれども、記載内容については、このようにここに書かれていますけれども、これを超えて、例えば識別の仕方、手掛かりの特定の仕方について、検察庁で運用指針のようなものを作られたりしているのでしょうか。先ほど、一覧表から特定していくのがかなり難しい作業だというお話も河津構成員からありましたので、この作成要領とは別に、具体的な日々の実務上の運用指針のようなものが作られていれば、教えていただきたいと思います。 ○玉本構成員 まず、一覧表の記載事項についてですが、事務当局から冒頭御説明があり、河津構成員からも御紹介がありましたとおり、どの程度までを詳しく書くのかということについては、この法案が議論された法制審の特別部会でも議論があったところです。   例えば、中身について書き込むと、詳しく書けば書くほど証拠そのものを開示することになるのではないかという問題があろうかと思います。また、先ほど例に挙げられました捜査報告書について申し上げると、捜査報告書には非常に様々なものがあることから、その内容をどのように一覧表に記載するのかというところで、評価が入ることにより、かえってミスリードしてしまうおそれもあり、そのことをめぐってトラブルが生じるおそれがあるといった議論もありました。そうした議論の結果として、一覧表の記載事項は、評価的な要素を含まない形式的な内容とすることとなり、現行の制度ができたといういきさつがあります。   その上で、個別の事件の中で、検察官が交付した一覧表について弁護人から問合せ等があった場合には、統一的な指針のようなものがあるわけではないと思いますけれども、個々の検察官において、事案に応じ、弁護人とのコミュニケーションの中で手続が円滑に進むように柔軟に対応しているものと考えております。 ○中野参事官 そのほか、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、犯罪被害者等・証人を保護するための措置の施行状況につきまして協議を行いたいと思います。   まず、事務当局から、平成28年の刑訴法改正の概要に関する配布資料3と、配布資料29から31までの内容について御説明します。   まず、平成28年改正における犯罪被害者等・証人を保護するための措置に関する改正の概要について御説明します。配布資料3の8ページを御覧ください。   まず、「(1)ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」と記載されている部分を御覧ください。   この改正の内容は、証人が同一構内に出頭するときにその精神の平穏を著しく害するおそれがある場合や証人が同一構内への出頭に際して加害行為を受けるおそれがある場合などに、証人を同一構内以外にある場所に在席させた上で、映像と音声の送受信により通話をするいわゆるビデオリンク方式により証人尋問を行うことができることとするというものです。   平成28年改正前から、ビデオリンク方式による証人尋問を行うことは可能でしたが、その対象は、性犯罪等の被害者その他裁判官等の在席場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者に限られており、また、その具体的な方法につきましても、証人を同一構内に出頭させた上で、裁判官等の在席場所と証人が在席するその同一構内の別室との間を回線でつなぐ方法しか認められていませんでした。   しかし、証人としては、同一構内に出頭すること自体により、精神の平穏を著しく害されたり、あるいは、その身体・財産に対する加害行為等がなされるおそれがある場合等もあり得るところであり、より充実した公判審理を実現するためには、そのような場合においても、証人の負担を適切に軽減しつつ証人尋問を行うことができるようにして、十分な証言を確保し得るようにすることが必要であると考えられたため、このような改正が行われることとなりました。   本改正は、平成30年6月1日から施行されています。   次に、「(2)証人の氏名・住居の開示に係る措置の導入」と記載されている部分を御覧ください。   この改正の内容は、まず、刑事訴訟法第299条の4において、検察官による措置として、被告人側に対し、証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるべき場合において、その者若しくはその親族に対して加害行為等がなされるおそれがあると認めるとき、又は被告人側に対し、証拠書類等を閲覧する機会を与えるべき場合において、検察官請求証人等若しくはその親族に対して加害行為等がなされるおそれがあると認めるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除いて、弁護人に対し、これらの機会を与えた上で、当該証人等や検察官請求証人等の氏名又は住居を被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、又は被告人に知らせる時期若しくは方法を指定することができる(以下、この措置を説明の便宜のために「条件付与等の措置」といいます。)、これによっては加害行為等を防止できないおそれがあると認めるときは、被告人及び弁護人に対して、証人の氏名又は住居を知る機会や、検察官請求証人等の氏名又は住居が記載され又は記録されている部分について閲覧する機会を与えないこととした上で、当該氏名に代わる呼称や当該住居に代わる連絡先を知る機会を与えることができる(以下、この措置を説明の便宜上「代替的呼称等の開示措置」といいます。)とするものです。   刑事訴訟法上、訴訟当事者は、証人等の尋問を請求するについては、あらかじめその氏名及び住居を知る機会を、証拠書類又は証拠物の取調べを請求するについては、あらかじめこれを閲覧する機会を、それぞれ相手方に与えなければならないとされているところ、平成28年改正前におきましては、検察官は、証人やその親族等に対して加害行為等がなされるおそれがある場合には、弁護人に対し、これらの機会を与えた上で、一定の事項が被告人その他の者に知られないようにすることを求めることができることとされていました。   しかし、暴力団による組織的な犯罪等においては、証人など刑事手続に関与する者の安全の確保やその負担の軽減を図るための方策として必ずしも十分でない場合があり、その結果、これらの者から十分な協力を得ることが困難となるおそれがありました。   そこで、このような加害行為等を防止して証人等の安全を保護し、その負担の軽減を図ることにより、十分な協力を確保し得るようにし、より充実した公判審理の実現に資するようにするとの観点から、より実効性のある方策として、このような改正が行われることとなりました。   また、刑事訴訟法第299条の6においては、裁判官による措置として、検察官による措置に係る者又はその親族に対して加害行為等がなされるおそれがあると認める場合において、検察官及び弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き、弁護人が訴訟書類等を閲覧・謄写するに当たり、当該訴訟書類等に記載又は記録されている当該措置に係る者の氏名又は住居について、これが記載又は記録されている部分の閲覧若しくは謄写を禁じ、又は被告人に知らせてはならない旨の条件を付するなどの措置をとることができ、被告人が公判調書の閲覧等をするに当たり、当該措置に係る者の氏名又は住居について、これが記載され又は記録されている部分の閲覧を禁じるなどの措置をとることができることとされました。   この裁判所による措置は、検察官が被告人側に対する証拠開示の段階でとった措置に係る者の氏名及び住居が、その後の弁護人による訴訟記録等の閲覧・謄写等の機会においても、引き続き、被告人側に知られないようにすることなどを可能とし、当該措置に係る者の氏名及び住居の情報が刑事手続を通して適切に保護されるようにするためのものです。   なお、検察官による措置については、加害行為等のおそれの有無や被告人の防御に実質的な不利益が生じるおそれの有無など、その要件に該当するか否かについて、検察官と弁護人の間で争いが生じることがあり得るところです。刑事訴訟法第299条の5においては、そのような場合に、中立的な立場にある裁判所が、検察官による措置について要件に該当しないと認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、当該措置の全部又は一部を取り消さなければならないこととされています。   本改正は、平成28年12月1日から施行されています。   最後に、「(3)公開の法廷における証人の氏名等の秘匿措置の導入」と記載されている部分を御覧ください。   この改正の内容は、被害者以外の証人等についても、証人等に対する加害行為等のおそれがある場合には、その氏名等を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができることとするというものです。   平成28年改正前においては、性犯罪に係る事件等の被害者については、その氏名等の被害者特定事項を公開の法廷で明らかにしないで訴訟手続を行うことが可能でしたが、被害者以外の証人等は、その対象とされていませんでした。   実務においては、事案の性質等から証人等の氏名等を公開の法廷で明らかにしないことが必要かつ相当と認められる場合もあり、そのような場合に、弁護人や裁判所の同意や了解を得た上で、証人等の氏名等を公開の法廷で秘匿する例も見られました。   しかし、そのような運用は、弁護人や裁判所の同意や了解を前提とする点で、秘匿が必要な場合に常に行うことができるとは限られないこと、法律上、証人等の氏名等を公開の法廷で秘匿することを可能とする制度を設けて、その要件等を明記することにより、裁判官、検察官、弁護人等の注意を喚起し、証人等に対する加害行為等を未然に防止することができると考えられること、また、公開の法廷における証人等の氏名等の秘匿が可能であることが法律上明記されていること自体が、証人等に安心感を与え、十分な協力の確保に資することとなると考えられることなどに鑑みて、証人等に対する加害行為等を防止するとともに、その負担の軽減を図ることにより、十分な協力を確保し得るようにし、より充実した公判審理の実現に資するようにするとの観点から、このような改正が行われることとなりました。   本改正は、平成28年12月1日から施行されています。   犯罪被害者等・証人を保護するための措置に関する改正の概要についての御説明は、以上です。   続いて、配布資料29について御説明します。   配布資料29は、平成30年から令和4年までの刑事訴訟法第157条の6第2項のビデオリンク方式による証人尋問が行われた証人の数について、最高裁判所事務総局の統計資料「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」のうち通常第一審事件に係る数値に基づき、事務当局がまとめたものです。   各年の数値については、御覧いただいている表記載のとおりです。表の下の「※3」に記載したとおり、本資料の数値は延べ数です。例えば、一人の証人に対する証人尋問が2回実施された場合や、一人の証人に対する証人尋問が2回の期日にまたがって続行して行われた場合には、いずれも数値は「2」として計上されることとなります。   配布資料29の御説明は以上です。   次に、配布資料30-1について御説明いたします。   配布資料30-1は、平成28年から令和4年までの、検察官が刑事訴訟法第299条の4各項の措置をとった証人等の数について、事務当局がまとめたものです。   ここでいう「証人等」とは、刑事訴訟法第299条の4各項の措置がそれぞれ対象としているもの、すなわち、同条第1項及び第2項の措置については、証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人であり、同条第3項及び第4項の措置については、証拠書類若しくは証拠物に氏名若しくは住居が記載され若しくは記録されている者であって検察官が証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人として尋問を請求するもの又は供述録取書等の供述者をいいます。   表の一番上には、「第299条の4の措置をとった証人等の数」として、同条各項の措置をとった証人等の数の各年ごとの合計数が記載されています。   そして、その下に、第1項の措置、すなわち、検察官が刑事訴訟法第299条の4第1項の規定により、証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるべき場合において条件付与等の措置をとった証人等の数、第2項の措置、すなわち、検察官が証人等の氏名及び住居を知る機会を与えるべき場合において代替的呼称等の開示措置をとった証人等の数、第3項の措置、すなわち、検察官が証拠書類又は証拠物を閲覧する機会を与えるべき場合において条件付与等の措置をとった証人等の数、第4項の措置、すなわち、検察官が証拠書類又は証拠物を閲覧する機会を与えるべき場合において代替的呼称等の開示措置をとった証人等の数がそれぞれ記載されています。   これらの刑事訴訟法第299条の4各項の措置については、氏名のみについて行う場合、住居のみについて行う場合、氏名及び住居について行う場合があり得るところです。それぞれの場合の内訳については、調査により把握した平成30年1月1日以降分を記載しております。   また、括弧で囲まれた数字は、「※4」記載のとおり、検察官がとった措置について、刑事訴訟法第299条の5第1項の裁定請求がなされた証人等の数を内数として記載しているものです。   この内数についても、平成30年1月1日以降分を記載しております。   なお、「※3」に記載のとおり、本資料の数値は延べ数です。同一の証人等について、2以上の刑事訴訟法第299条の4各項の措置がとられた場合、例えば、証拠調べ請求をすることとした供述録取書等の供述者として同条第3項の措置をとった者について、その後、証人尋問を請求することとしたため、同条第1項の措置をとった場合などは、同条第3項の数値と同条第1項の数値のいずれにも計上されることとなります。   配布資料30-1の御説明は以上です。   続いて、配布資料30-2について御説明します。   配布資料30-2は、平成28年から令和4年までの、裁判所が刑事訴訟法第299条の5の規定による決定等をした証人等の数及び刑事訴訟法第299条の6各項の措置をとった証人等の数について、最高裁判所事務総局の統計資料「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」のうち通常第一審事件に係る数値に基づき、事務当局がまとめたものです。   ここでいう「証人等」とは、刑事訴訟法第299条の5、第299条の6がそれぞれ対象としているもの、すなわち、刑事訴訟法第299条の5については、検察官による刑事訴訟法第299条の4各項の措置に係る者、刑事訴訟法第299条の6については、検察官による刑事訴訟法第299条の4各項の措置に係る者及び裁判所による刑事訴訟法第299条の5第2項の措置に係る者をいいます。   刑事訴訟法第299条の5については、第1項の決定、すなわち、検察官がとった刑事訴訟法第299条の4各項の規定による措置の全部又は一部を取り消す決定をした証人等の数、その内数として、裁判所が、検察官のとった措置を取り消す場合において、証人等に対する加害行為等のおそれが認められるときに、弁護人に対し、当該措置に係る者の氏名又は住居を被告人に知らせてはならない旨の条件を付し、又は被告人に知らせる時期若しくは方法を指定した証人等の数が各年ごとに記載されています。   刑事訴訟法第299条の6については、次の事項が各年ごとに記載されています。すなわち、上から順に、第1項の条件の付与又は時期等の指定、すなわち、検察官が刑事訴訟法第299条の4第1項若しくは第3項の条件付与等の措置をとった場合又は裁判所が刑事訴訟法第299条の5第2項の措置をとった場合において、弁護人が刑事訴訟法第40条第1項の規定により訴訟書類又は証拠物を閲覧・謄写するに当たって、これらに記載・記録されている当該措置に係る者の氏名・住居を被告人に知らせてはならない旨の条件の付与、又は被告人に知らせる時期若しくは方法の指定の対象となった証人等の数、そして、第2項の閲覧・謄写の禁止又は条件の付与若しくは時期等の指定、すなわち、検察官が刑事訴訟法第299条の4第2項若しくは第4項の代替的呼称等の開示措置をとった場合において、弁護人が刑事訴訟法第40条第1項の規定により訴訟書類又は証拠物を閲覧・謄写するについて、これらに記載・記録されている当該措置に係る者の氏名・住居の閲覧・謄写の禁止、又は当該氏名・住居を被告人に知らせてはならない旨の条件の付与、若しくは被告人に知らせる時期若しくは方法の指定の対象となった証人等の数、第3項の閲覧禁止又は朗読拒絶、すなわち、検察官が刑事訴訟法第299条の4各項の措置をとった場合又は裁判所が刑事訴訟法第299条の5第2項の措置をとった場合において、被告人が刑事訴訟法第49条の規定により公判調書を閲覧し又はその朗読を求めるについて、当該措置に係る者の氏名・住居が記載・記録されている部分の閲覧禁止又は朗読拒絶の対象となった証人等の数です。   配布資料30-2の御説明は以上です。   続きまして、配布資料31について御説明します。   配布資料31は、平成28年から令和4年までの、刑事訴訟法第290条の3の規定による公開の法廷において証人特定事項を明らかにしない旨の決定がなされた証人等の数について、最高裁判所事務総局の統計資料「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」のうち通常第一審事件に係る数値に基づき、事務当局がまとめたものです。   ここでいう「証人等」とは、同条が対象としている証人、鑑定人、通訳人、翻訳人又は供述録取書等の供述者をいいます。   各年の数値につきましては、表記載のとおりです。   配布資料31の御説明は以上です。   ただ今の御説明につきまして、御質問、御意見はありますでしょうか。 ○河津構成員 配布資料30-2について質問させていただきます。刑事訴訟法第299条の5第1項の決定をした証人の数が10件ということですが、同項の何号に該当するとして決定されたものなのか、もし内訳が分かりましたら御教示ください。 ○横山構成員 今御質問のありました各号の内訳については、統計が取られておりませんので、これ以上の詳細について把握していないところです。 ○成瀬構成員 配布資料29について、事務当局に質問をさせていただきたいと思います。   先ほど配布資料3に基づいて御説明いただいたとおり、平成28年改正が行われる前から、刑訴法157条の6第1項に基づいて同一構内におけるビデオリンク方式の証人尋問が認められていました。そこで、配布資料29でお示しいただいた構外ビデオリンク方式による証人尋問の実施状況をより的確に理解するため、もし可能であれば、同時期に実施された同一構内におけるビデオリンク方式の証人尋問の人数について御教示いただきたいのですが、把握しておられますでしょうか。 ○中野参事官 事務当局からお答え申し上げます。   お尋ねの点につきましては、最高裁判所がインターネット上で公表している「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」によりますと、同一構内におけるビデオリンク方式による証人尋問が行われた証人の数は、平成30年は302人、令和元年は318人、令和2年は264人、令和3年は320人、令和4年は332人とされているものと承知しています。   ただし、ただ今申し上げた数値は、通常第一審終局事件を対象としている配布資料29とは異なりまして、高等裁判所における数値も含むものです。 ○成瀬構成員 御教示いただき、ありがとうございました。お示しいただいた数値は高等裁判所における数値も含むとのことですが、その点を考慮しても、構外ビデオリンクの実施人数が同一構内におけるビデオリンクの実施人数と比較して少ないことは、明らかだと思います。それでも、構外ビデオリンク方式による証人尋問は、毎年、一定数行われていますので、同一構内ではなく、構外でビデオリンク方式による証人尋問を行う実務上のニーズは存在するといえるでしょう。   その上で、配布資料29の数値をより詳細に見てみますと、令和3年と令和4年の実施人数が、他の年と比べて、有意に増加しているように見受けられます。その理由は定かではありませんが、この2年間は、移動に伴う新型コロナウイルスの感染拡大が強く懸念されていた時期ですので、もしかしたら、刑事訴訟法第157条の6第2項第4号の「証人が遠隔地に居住し・・・健康状態その他の事情により、同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき」という要件が比較的認められやすかったのかもしれません。   そこで、鈴木構成員に伺いたいのですが、コロナ禍において、構外ビデオリンクによる証人尋問がやや広く用いられる傾向はあったのでしょうか。 ○鈴木構成員 そういう影響があった可能性がないとはいえませんが、統計上も、あるいは私の感覚としても、分からないというところが正直なところです。 ○成瀬構成員 私自身も理由は分からないのですが、コロナ禍における移動の抑制が一つの説明としてあり得るかなと思い、質問させていただきました。   ところで、平成28年改正が創設した構外ビデオリンクによる証人尋問は、犯罪被害者の方が証人として公判廷に出頭する際の負担を軽減する場合もあろうかと思いますが、藤井構成員は刑事訴訟法第157条の6第2項の運用状況をどのように評価しておられるでしょうか。被害者側の実情も踏まえて、御意見をお聞かせいただければ幸いです。 ○藤井構成員 私も質問をしようとしていた点と関連するのですけれども、構外ビデオリンクで、例えば支部などでお願いをすると、設備がないといって断られたというような事例も仄聞をするところでありまして、現在の支部等での設置状況などの情報についても、もし分かっておられたら共有していただきたいと思います。質問に答える形で、更に質問するような形になってしまいましたが。   ということで、今申し上げたとおり、なかなか設備の問題でできないというのは非常に問題じゃないかなという問題意識を持っているのが1点と、あともう1点、先ほど成瀬構成員がおっしゃったとおり、コロナの影響は私はもう間違いなく、かなりあると思っているのですが、実感としても、被害者委員会の委員のほかの先生に聞いても、やはりコロナでこれを使ったという事案をよく聞きます。刑事訴訟法第157条の6第2項というのは各号分かれて、1号から4号までありますけれども、その号別の情報というのは、恐らくコロナでやっているんだったら4号になっているんだろうと思いますけれども、そういった情報がないのかというのも、すみません、質問に答える形で、かつ質問をして恐縮ですが、教えていただければと思います。 ○横山構成員 まず、最後に御質問のありました号別の構外ビデオリンク方式による証人尋問が行われた証人の数については、把握しておらず、これ以上の詳細については分かりかねるところです。   もう1点、先に御質問いただきました支部におけるビデオリンクの機器の整備に関しては、ビデオリンク方式の証人尋問を実施するとなりますと、法廷用のビデオリンクの機器と、証人等が出頭する別室側の機器、その双方が必要ということになります。支部のうち裁判員裁判の実施支部におきましては、法廷用ビデオリンク機器と証人等が出頭する別室側の機器、いずれも設置していますけれども、裁判員裁判を実施しない支部におきましては、証人等が出頭する別室側の機器のみが設置されています。したがいまして、裁判員裁判を実施しない支部の法廷でビデオリンク方式による証人尋問を実施する場合には、他庁が管理している貸出し用の法廷用のビデオリンク機器を借り受ける必要があるという形になっています。そのため、早めに尋問の実施方法ですとか期日を調整していただく必要があります。支部におけるビデオリンク機器の整備状況については以上のようになっています。 ○河津構成員 ビデオリンク方式による証人尋問についてコメントさせていただきます。   ビデオリンク方式による証人尋問については、従前から対面での証人尋問と比較して証人の態度の観察が困難であると指摘されておりましたが、平成28年改正法で導入された構外ビデオリンク方式を経験した弁護士からは、それに加えて、通信のタイムラグが生じることから、例えば証人が言いよどんだのか、それとも単なる通信タイムラグが生じたのかが判別しにくいなど、様子の把握が一段と困難であるとの報告を受けております。刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会でも発言しましたが、罪を犯していない市民が真実でない証言に基づいて処罰されることのないようにするためには、弁護人が反対尋問を通じて、その証言が真実でないことを明らかにすることが必要となります。しかし、真実でない証言をした証人は、決して真実でない証言をしたとは認めず、真実でない証言をしたことが発覚しないように証言をする傾向にあります。尋問者は、その証人に対して質問をし、その証人から回答を得ることによって証言が真実でないことを明らかにすることが求められますが、それは大変困難な作業であるといえます。そのため、反対尋問では証人の顔色、視線の向き、全身の挙動などをつぶさに観察しながら証人を追及することが真実を明らかにするために必要となります。このようなことから、特に公訴事実に争いのある事件における信用性が問題となる証人について、その観察が困難になる弊害は大きいと感じております。 ○成瀬構成員 配布資料30-1と30-2に基づいてコメントをさせていただいた後に、河津構成員に質問をさせていただきたいと思います。   証人の氏名・住居の開示に係る措置を導入する際には、証人等の氏名・住居を被告人のみならず弁護人に対しても知らせない措置、すなわち、刑事訴訟法第299条の4第2項や第4項の措置を設けることの当否について、特に活発に議論されたと記憶しております。   そのことを踏まえて、配布資料30-1を見てみますと、第2項及び第4項の措置をとった証人等が、毎年、一定数存在しており、第1項や第3項のように証人等の氏名・住居を被告人に対してのみ知らせない措置では、証人等に対する危害を十分に防止することができないと思われる事案が現に存在することが明らかになったといえます。   もっとも、刑事訴訟法第299条の4の措置をとった証人等の数は、配布資料30-1の右上に記載されている総数でも300人であり、公判事件の総数から見れば、ほんの一部にとどまっています。その意味で、実務では、本制度が慎重に用いられているといえるでしょう。   また、刑事訴訟法299条の5第1項による裁判所に対する裁定請求は、括弧内の数値に表われているように、本制度が施行された当初の時期に多くなされていますが、これは実務の運用が固まるまでの一時的な現象であったようで、その後は落ち着いています。さらに、配布資料30-2を見ますと、裁定請求の結果、裁判所が措置の全部又は一部を取り消した人数が示されており、最高裁判所が平成30年7月3日の決定において本制度の合憲性を肯定するにあたり、理由の一つとして挙げていた不服申立て制度も機能していることが分かります。   以上の考察を前提に、河津構成員に質問させていただきたいのですが、検察官が刑事訴訟法第299条の4第2項や第4項の措置をとり、被告人のみならず、弁護人にも証人等の氏名・住居が知らされない場合に、弁護実務上、何か不都合が生じているかという点について、御意見をお聞かせいただければ幸いです。 ○河津構成員 御質問ありがとうございます。公訴事実に争いのない事件において、信用性を減殺する必要のない証人であれば、弁護人に対しても氏名・住居を伝えない代替的呼称の付与の措置がとられても、防御上の不利益は限定的といえるかもしれません。これに対し、公訴事実に争いのある事件において、信用性を減殺する必要のある証人につき、弁護人に対しても氏名・住居を伝えない措置がとられると、証人の信用性について弁護人が調査をする上で最も基本的な情報がないことになりますから、有効な反対尋問をすることもできず、弁護活動上これに代替する手だても考えられません。それにより刑事裁判の事実認定を誤らせる結果が生じても、秘匿された情報が秘匿され続ける限り、そのことを検証すること自体ができないことになりますので、非常に深刻な事態であると考えます。 ○成瀬構成員 御回答くださり、ありがとうございました。本制度が刑事弁護実務に与える影響を具体的にお示しいただいたものと思います。ただ、確認的に申し上げますと、本制度では、被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合には第1項から第4項の措置をとることはできないとされており、先ほど申し上げたとおり、裁判所に対する裁定請求も用意されています。その意味で、防御権に対する制度的な手当ては整っていると思いますが、河津構成員の御意見も踏まえて、引き続き、慎重に運用していくことが求められると考えます。   なお、平成28年改正とは離れますが、今年の第211回通常国会で成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律においては、犯罪被害者等の個人特定事項を、証拠開示の場面に限らず、手続の各段階で秘匿する措置が創設されていますので、今後はこちらの制度の運用状況も併せて注視していく必要があると思います。 ○中野参事官 その他、御質問等はいかがでしょうか。 ○成瀬構成員 配布資料31についても、事務当局に質問させていただきたいと思います。   先ほど配布資料3に基づいて御説明いただきましたように、平成28年改正が行われる前から、刑事訴訟法第290条の2において、公開法廷における被害者等の氏名等の秘匿措置が認められていました。そこで、配布資料31の内容をより的確に理解するため、もし可能であれば、被害者等の秘匿措置の実施人数について御教示いただきたいのですが、把握しておられますでしょうか。 ○中野参事官 事務当局からお答え申し上げます。   刑事訴訟法第290条の2の規定による被害者特定事項を明らかにしない旨の決定がされた被害者の数につきまして、通常第一審終局事件を対象とする数値として事務当局が把握しているものをお答えします。平成28年は3,437人、平成29年は2,844人、平成30年は3,301人、令和元年は3,446人、令和2年は3,371人です。また、同じ数値につきまして、最高裁判所の先ほど申し上げた「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」によりますと、高等裁判所における数値も含むものとしまして、平成28年は3,976人、平成29年は3,351人、平成30年は3,846人、令和元年は4,025人、令和2年は3,923人、令和3年は4,266人、令和4年は4,081人となっているものと承知しております。 ○成瀬構成員 丁寧に御回答いただき、ありがとうございました。そもそも数値の桁が被害者等と証人等とで異なり、証人等の秘匿措置はかなり少ないことがよく分かりました。それでも、証人等の氏名等の秘匿措置は、毎年、100人以上に用いられていますので、公開法廷において、被害者等には当たらない証人等の特定事項を秘匿する実務上のニーズは存在するといえるでしょう。 ○藤井構成員 配布資料30-1ですけれども、ある程度、立法当初、趣旨として想定された組織犯罪的なものも一定数ありましょうし、あるいはもちろん被害者、性犯罪の被害者であったりストーカーの被害者であったりというところもあるのかもしれません、そういったところの内訳、罪名の内訳というものがないのか、仮にそういう情報がないとしても、肌感覚としてどういった事案が多いのかというのを、もし分かれば教えていただければと思うのですが。 ○中野参事官 まず、前段につきまして事務当局から申し上げますと、お尋ねの数値につきましてはこちらは把握してございませんで、お答えすることが困難です。何か肌感覚という点につきまして御意見ありますでしょうか。 ○鈴木構成員 肌感覚としても分かりかねます。多種多様な事件があり、個人的には経験もないということもありまして、感覚としても申し上げにくいところです。 ○河津構成員 配布資料30-1、30-2に関しまして、先ほど成瀬構成員から裁定請求が機能しているのではないかというコメントがございました。1点、弁護人が裁定請求をして、もし受訴裁判所が加害行為等がなされるおそれがあると認定すると、公判の開始に先立ち受訴裁判所に強い予断が生じることが懸念されることから、裁定請求をすることには相当慎重にならざるを得ないという構造があることには、留意する必要があると考えます。 ○藤井構成員 念のための確認なのですが、配布資料30-2に関して、先ほど号別の情報はないということだったのですが、やはりそうすると、どういった罪名であったとか、どういった証人の属性であったとか、そういう情報もないということになりますかね。 ○横山構成員 この数値としてしか把握していないところでして、具体的な事件の罪名ですとか、証人の属性については把握していないところです。 ○中野参事官 ほかに御質問等はよろしいでしょうか。   それでは、次に証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げの施行状況につきまして、協議を行いたいと思います。   まず、事務当局から、平成28年の刑訴法改正の概要に関する配布資料3と、配布資料32、33の内容につきまして御説明申し上げます。   まず、配布資料3の9ページを御覧ください。   「8 証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げ」の「(1)証人の不出頭の罪及び宣誓・証言拒絶の罪の法定刑の引上げ」の欄に記載されているとおり、平成28年改正前の証人不出頭の罪及び証人の宣誓・証言拒絶の罪におきましては、いずれもその法定刑が10万円以下の罰金又は拘留とされておりましたが、改正により1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に引き上げられました。   これらの罪について、改正前の法定刑は、各種行政機関等への出頭義務や陳述義務の履行を担保するための罰則と比べても軽いものにとどまっていたところ、刑事手続における証人の不出頭や証人の宣誓・証言拒絶について、これまで以上に厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すとともに、その威嚇力によってこれを抑止して、証人の出頭及び証言の確保を図るために、法定刑が引き上げられたものです。   本改正の施行日は、平成28年6月23日です。   次に、「(2)証人の勾引要件の緩和」につきまして、改正前の刑事訴訟法第152条においては、召喚に応じない証人に対しては、更にこれを召喚し又はこれを勾引することができると規定されていましたが、改正により、同条の規定が、証人が正当な理由がなく召喚に応じないとき又は応じないおそれがあるときは、その証人を勾引することができると改められました。   改正前においては、例えば証人が召喚に応じないことが事前に判明している場合であっても、不出頭を確認するための公判期日を開かなければ、勾引をすることができず、公判期日の空転を招くなどの不都合が生じていました。   そこで、このような事態に対処するため、本改正により、証人が正当な理由なく召喚に応じないおそれがあるときは、召喚の手続を経ることなく勾引することができることとされました。   本改正の施行日は、平成28年12月1日です。   そして、「(3)犯人蔵匿等、証拠隠滅等の各罪の法定刑の引上げ」について御説明します。   まず、平成28年改正前の犯人蔵匿等の罪及び証拠隠滅等の罪におきましては、いずれもその法定刑が2年以下の懲役又は20万円以下の罰金とされていましたが、改正により3年以下の懲役又は30万円以下の罰金に引き上げられました。   これらの罪について、改正前の法定刑は、国家の作用に対する妨害という点で性質が類似する強制執行妨害関係の罪、あるいは人の業務に対する妨害という点で性質が類似する業務妨害罪等と比べても軽いものにとどまっていたところ、刑事手続における事実の適正な解明を妨げる行為について、これまで以上に厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すとともに、その威嚇力によってこれを抑止して、公判審理の充実化を図るために、法定刑が引き上げられたものです。   次に、平成28年改正前の証人等威迫の罪におきましては、その法定刑が1年以下の懲役又は20万円以下の罰金とされていましたが、改正により2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に引き上げられました。   この改正の趣旨も、先ほど御説明した犯人蔵匿等の罪の法定刑の引上げの趣旨と同様であり、証人等威迫という、刑事手続における事実の適正な解明を妨げる行為について、これまで以上に厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示すとともに、その威嚇力によってこれを抑止し、関係者の供述が損なわれたりゆがめられたりすることなく公判廷に顕出されるようにすることなどにより、公判審理の充実化を図ろうとしたものです。   そして、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律における組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等、証拠隠滅等及び証人等威迫の罪におきましても、改正前の3年以下の懲役又は20万円以下の罰金の法定刑が、これまで御説明した改正の趣旨と同様の趣旨から、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に引き上げられました。   本改正の施行日は、平成28年6月23日です。   証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げに関する改正の概要につきましての御説明は、以上です。   続きまして、配布資料32について御説明します。   配布資料32は、最高裁事務総局の資料を基に、平成24年から令和3年までの間における、処断罪が犯人蔵匿等、証拠隠滅等又は証人等威迫の罪であるものについて、刑期・罰金額区分別の人員を記載したものになります。   その量刑につきましては、こちらに記載したとおりになります。   配布資料32についての御説明は以上です。   続いて、配布資料33について御説明します。   配布資料33は、最高裁事務総局の資料を基に、平成24年から令和3年までの間における簡易裁判所又は地方裁判所で勾引状が発付された件数を記載したものです。   勾引状の発付件数は、平成24年は85件、改正直後の平成29年は104件、令和3年は68件となっています。   配布資料33の御説明は以上です。   ただ今の御説明につきまして御質問、御意見はございますでしょうか。 ○成瀬構成員 配布資料32について、コメントをさせていただきたいと思います。   「※1」に記載されているとおり、配布資料32は、犯人蔵匿等、証拠隠滅等又は証人等威迫の罪が処断罪であるものの数値を示しているにすぎず、これらの犯罪が他のより法定刑が重い犯罪と併合審理された場合は含まれていないことに留意する必要があると思います。つまり、ここで示されている数値は、三つの犯罪で処罰された全事件を表しているわけではないということです。   そのような資料上の制約を確認した上で、配布資料32の中身を見てみますと、まず、三つの犯罪の法定刑を引き上げる法改正が施行された平成28年6月の前後で、各年の有罪人員には特に変化が見られません。次に、量刑傾向の変化を確認するために、便宜上、平成24年から平成28年の5年間を法改正前の期間、平成29年から令和3年までの5年間を法改正後の期間と捉えて、懲役・禁錮の量刑分布を割合で計算してみました。その結果、各期間に懲役・禁錮に処せられた者のうち、1年以上2年未満の刑期であった者は、改正前の5年間で48.3%、改正後の5年間で52.2%でした。また、6月以上1年未満の刑期であった者は、改正前の5年間で43.7%、改正後の5年間で40.8%でした。つまり、法改正の前後で、1年以上2年未満の刑期であった者の割合が少し増え、6月以上1年未満の刑期であった者の割合が少し減ったということです。これが統計上有意な変化といえるかは定かではありませんが、平成28年改正による法定刑の引上げを受けて、量刑傾向が僅かに上向きになっているのかもしれません。さらに、1年未満という比較的短期の刑期であっても、執行猶予ではなく実刑となる者がコンスタントに存在していることも注目に値します。   冒頭に申し上げたとおり、資料上の制約があるので、確たる評価は申し上げられませんが、これら三つの犯罪に対しては、ある程度厳しい対応がなされているという評価も可能であるように思います。 ○中野参事官 その他、御質問、御意見はございますでしょうか。 ○成瀬構成員 配布資料33について事務当局に質問させていただきたいのですが、ここに記載されている「勾引状が発付された件数」は、証人に対して勾引状が発付された件数なのでしょうか、それとも、被告人に対して勾引状が発付された件数も含まれているのでしょうか。 ○中野参事官 この資料につきましては、横山構成員から御説明をお願いします。 ○横山構成員 配布資料33につきましては、最高裁が作成しております資料に基づくものですけれども、ここで書かれている数字につきましては、証人と被告人双方を含む、いずれにかかわらず勾引状が発付された件数ということです。その証人と被告人との内訳に関しましては、別途統計を取っておりませんので、把握していないところです。 ○成瀬構成員 御説明いただき、ありがとうございました。配布資料33の数値には、勾引要件が改正されていない被告人と、勾引要件が改正された証人の両方が含まれるということですので、この数値自体から平成28年改正について何らかの示唆を引き出すことは難しいと思います。   もっとも、平成28年改正が証人に対する勾引要件を緩和した趣旨は、勾引される証人の数自体を増やすというよりも、実務の運用において、証人の出頭を確保しやすくするとともに、公判期日の空転を回避しやすくするという点にあったと理解しています。そのような観点から、宮崎構成員と鈴木構成員に質問をさせていただきたいのですが、証人に対する勾引要件が緩和され、事前の召喚を必須としなくなったことにより、証人の出頭確保や迅速な審理の実現という観点で、実務上どのようなメリットがあったのでしょうか。それぞれの御経験を踏まえて、御意見を賜れますと幸いです。 ○宮崎構成員 実際に経験したわけではないので、実感として申し上げられるものではないのですけれども、やはり先ほど来、話に出ていますが、期日の空転を防げるという意味では非常に意味があると感じております。証人が召喚に応じないということが事前に明らかである場合に、不出頭を確認するというためだけの公判期日を費やさなくても勾引することができるようになったことにより、期日の空転を防げるということは実務上のメリットだと考えております。 ○鈴木構成員 先ほど説明がありましたとおり、以前は証人が出頭しないことが明らかな場合でも一度召喚しなければいけないということがありました。今回の改正で、そういう意味では期日の空転が避けられることになりました。特に裁判員裁判などでは審理計画を割ときっちり立てておりますので、そういう意味では公判の審理予定を立てやすくなり、選択肢が増えたというメリットがあると思います。ただ、事案によってはこの召喚に応じないおそれというところの判断が微妙なものもないわけではなく、難しいと感じる事件もないわけではないというところです。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明くださり、ありがとうございました。取り分け、鈴木構成員には、裁判員裁判などの審理計画を立てる上で、公判審理の迅速化に役立っているという御意見をいただき、参考になりました。 ○中野参事官 その他、御質問、御意見はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   では、次に自白事件の簡易迅速な処理のための措置の施行状況につきまして、協議を行いたいと思います。   まず、事務当局から平成28年の刑訴法改正の概要に関する配布資料3と配布資料34の内容について御説明します。   配布資料3の9ページを御覧ください。   平成28年改正におきましては、現行の刑事訴訟法第350条の26が新設され、起訴時に即決裁判手続の申立てがされた後、被告人が否認に転じるなどしたために即決裁判手続によらないこととなった場合に、証拠調べが行われることなく公訴が取り消されたときは、公訴取消し後の同一事件についての再起訴の制限の例外として、同一事件について再起訴することができるようにする旨の改正がなされました。   起訴時に被告人が犯罪事実を認めていて、即決裁判手続の申立てがなされた場合においても、その後、被告人が否認に転じるなどすることがあり得ますが、起訴後は被告人に対する捜査が制限されることとなり、他方で、仮に公訴を取り消すと、刑事訴訟法第340条の規定により、同一事件については公訴取消し後に犯罪事実につき新たに重要な証拠を発見した場合でなければ再起訴することができないこととされています。   そのため、捜査段階においては、即決裁判手続の対象となるような簡易な自白事件であっても、起訴後に被告人が否認に転じるなどした場合に備え、あり得る弁解を想定して、言わば「念のための捜査」を遂げるのが一般的であり、このことが起訴に至るまでの捜査の合理化・迅速化を困難とする原因となるとともに、検察官に即決裁判手続を活用することに向けた動機付けが働かず、即決裁判手続の活用が限定的なものにとどまる原因となっていると考えられました。   そこで、簡易な自白事件について即決裁判手続の申立てがなされた後、即決裁判手続によらないこととなった場合につき、検察官が公訴を取り消して、言わば捜査に戻る途を設けることにより、「念のための捜査」を遂げることなく、早期に即決裁判手続を活用することに向けた動機付けを検察官に与え、これにより捜査・公判手続の合理化・迅速化を図り、ひいては重大・複雑な事件に人員等の資源をより重点的に投入することを可能としようとしたのがこの改正の趣旨です。   なお、本改正は平成28年12月1日に施行されています。   続いて、配布資料34を御覧ください。   配布資料34は、平成24年から令和3年までの間における、即決裁判手続により審判する旨の決定のあった事件の人員数について、各年の総数及び主な罪名ごとの数をそれぞれ記載したものです。   また、即決裁判手続により審判する旨の決定があった後、その決定が取り消されたものがあった場合、その内数を括弧内に記載しています。   即決裁判手続により審判する旨の決定のあった事件の人員総数は、平成24年には地方裁判所で1,391件、簡易裁判所で156件、改正直後の平成29年には地方裁判所で657件、簡易裁判所で69件、令和3年には地方裁判所で137件、簡易裁判所で8件でした。   なお、これまでに即決裁判手続の申立ての後、公訴が取り消されたというものはなかったと承知しております。   配布資料34についての御説明は以上です。   ただ今の御説明につきまして、何か御質問、御意見はございますでしょうか。 ○成瀬構成員 御説明の最後の部分について確認させていただきたいのですが、公訴が取り消された事件はないということは、すなわち、平成28年改正で新たに導入された刑事訴訟法第350条の26が使われた事件は一件もないということでしょうか。 ○中野参事官 御指摘のとおりでございます。 ○成瀬構成員 これまで本協議会において、平成28年改正で導入された様々な制度の運用状況を見てきましたが、改正により新たに設けられた規定が実務で一度も用いられていないのは初めてだと思います。   配布資料34を見てみますと、刑訴法350条の26が平成28年12月に施行された直後の1年間、すなわち、平成29年だけは即決裁判手続の実施人員総数が一時的に増加していますが、法改正のインパクトは長続きせず、令和3年の実施人員は、平成24年の約10分の1にまで落ち込んでいます。中でも、平成24年当時、即決裁判手続を行う事件全体の半数以上を占めていた覚醒剤取締法違反事件の実施人員の減少は著しいといえます。   そこで、宮崎構成員に質問させていただきたいのですが、平成28年改正にもかかわらず即決裁判手続の利用が減少している理由として、実務上どのようなものが考えられるのでしょうか。検察実務の観点から、御意見をお聞かせいただければ幸いです。 ○宮崎構成員 即決裁判制度の申立てをするかどうかは、個々の事案の内容や証拠関係に基づいて検察官が判断するものでありますし、また、そもそも即決裁判手続に適した事案がどの程度あるのかということにもよりますので、なかなか一概にお答えしにくいところであります。   個人的な考えになりますが、あえて所感を申し上げるとしましたら、即決裁判手続でも証拠調べが省略されるわけではないという一方で、実務上、通常の手続であっても争いのない事件については効率的かつ迅速に公判審理が行われていることや、そうなると即決裁判手続で得られる合理化・効率化の効果が非常に高いとまではなかなか認識されていないのではないかなと感じるところがございます。   また、それぞれ事件は様々でありますけれども、勾留期間の間はそれほど余裕がないというのが恐らく実態でありまして、その間に、真に争いのない事件であるのかどうなのか、事実認定に問題がないのか、法律適用上問題がないのか、また余罪がないのかどうなのかということを全て確定した上で、かつその弁護人と被告人から書面で同意を得るということになりますと、なかなか時間的な余裕もないというケースも多いのではないのかなと想像するところです。 ○玉本構成員 刑事訴訟法第350条の26が適用されていない点について一言述べさせていただきたいと思います。   公訴取消し後の再起訴要件を緩和する刑事訴訟法350条の26の趣旨は、先ほど事務当局からも御説明があったとおり、検察官が公訴を取り消して、いわば捜査に戻る途を設けることによって、念のための捜査を遂げることなく早期に即決裁判手続を活用するという動機付けを検察官に与えるというものです。飽くまでも検察官に心理的に働き掛けるための規定であり、立案当時においても、実際にこの規定が広く発動されることが想定されていたわけではなかったように理解をしております。 ○成瀬構成員 両構成員から、元々の立法趣旨と、検察実務において即決裁判手続の利用が減少している背景事情について御説明をいただき、参考になりました。   本改正の目的は、自白事件の簡易迅速な処理を促すことにあったのですが、宮崎構成員の御発言を踏まえますと、実務において現実に機能する簡易迅速な処理手続を設けることの難しさも感じられたところです。 ○河津構成員 即決裁判手続の申立ては、宮崎構成員もおっしゃったとおり、検察官の判断ですので、弁護人の立場から申し上げられることは余りございません。ただ、自白事件を簡易迅速に処理すべきというのは、改正刑事訴訟法の立法者の意思であったと思われます。自白事件の簡易迅速な処理の必要性は幾つかの観点から示されていたかと存じますが、我が国の刑事司法において、無実の市民を処罰する危険を大きくしないようにしつつ被害者の保護を図るという困難な課題に向き合う上では、公訴事実に争いのある事件と自白事件を区別して、それぞれにふさわしい手続を整備していくべきなのではないかと私は感じております。 ○中野参事官 その他、御意見、御質問はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。  これまでの協議によりまして、本協議会における第一段階の協議として予定していたとおり、平成28年改正に係る9項目の制度全てにつきまして、その施行状況をはじめとする実務の運用状況の共有を行うことができたと思いますが、この機会に何か御発言のある方はおられますでしょうか。 ○成瀬構成員 大変僭越ながら、次回以降の議論の進め方について、構成員の皆様に提案をさせていただきたいと思います。   本協議会における議論の進め方については、第1回会議において事務当局から御提案があり、まず、平成28年改正の9項目に関して第一段階と第二段階の議論を行い、その上で、平成28年改正の附則第9条第3項で明示されている、再審請求審における証拠の開示や証人等の刑事手続外における保護に係る措置等について議論することになったと認識しております。   もっとも、改正9項目に関する第一段階の議論が充実していたこともあって、令和4年7月に第1回会議が開催されてから第一段階の議論が終了した本日までに、既に1年以上が経過しています。そのため、仮に、当初の予定どおり、改正9項目に関する第二段階の議論を行った後に、附則第9条第3項で明示されている事項の議論に入るとすると、当該事項を議論するのが相当先の時期になってしまいます。  附則第9条第3項では、「必要に応じ」という留保が一応付されているものの、そこに掲げている事項を「速やかに」検討するとされていますので、その議論が余りにも遅くなってしまうことは好ましくないと思われます。   そこで、私は、改正9項目に関する第二段階の議論に入る前に、この段階で一度、附則第9条第3項で明示されている事項について議論する場を設けた方がよいのではないかと考えるのですが、他の構成員の皆様の御意見はいかがでしょうか。 ○中野参事官 ただ今、成瀬構成員から、附則第9条第3項において検討が求められている事項の協議時期に関して御意見を頂きました。ほかの構成員の皆様から、何かこの点につきまして御意見はございますでしょうか。 ○河津構成員 附則第9条第3項で検討が求められている事項についての協議を急ぐべきという御発言の趣旨には賛成をいたします。ただ、一方で附則第9条第1項で検討することが求められている取調べの録音・録画制度の見直しについては、早期に結論を得る必要があるのではないかと考えます。  先日、8月30日に法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の一般有識者委員であった神津里季生さん、周防正行さん、松木和道さん、村木厚子さん、安岡崇志さんが声明を発表されたとの報に接しました。この声明は、私も第5回会議で言及した、いわゆる参院選大規模買収事件について、検察官の不適正な取調べや証人テストが録音により明らかになったことを受けたものですが、声明はこの協議会にも言及しており、検討のスピードが遅いこと、具体的に不適正な取調べの実態などについて情報を収集・開示しての議論がなされていないこと、マスコミの傍聴を認めないため、広く市民に検討状況が共有されていないことなどが指摘されており、協議会における検討を急ぎ、早期に法制審における審議に移行し、全事件全過程の取調べの録音・録画の義務化を含む実効ある法改正を早急に進めることが要望されています。法制審議会特別部会の一般有識者委員からのこのような指摘については、協議会として重く受け止めるべきではないかと考えます。 ○足立構成員 今の成瀬構成員の御提案とは関係なく、むしろ河津構成員の関連で提案をさせていただければと思うのですけれども、今、河津構成員から御発言のあった2019年参院選の大規模買収事件について、個別事例としてこの協議会でも議論の対象とした方がいいのではないかと私は考えています。   この問題では、元法相から買収現金を受け取った疑いを持たれた市議に対して、検察官が不起訴やなるべく軽い処分にするということを言った上で、市議から自白調書を得ていたと、この取調べのやり取りを収めた録音データから判明して、これは広く報道もされているところです。さらに、この問題については二つの問題も判明しています。その一つは、市議が自白調書に署名した後の取調べでも、検察官が録音・録画するに当たって買収資金の趣旨を否定する供述を意図的に記録しなかったという点、もう一つが、市議が元法相の公判に証人出廷する前の証人テストで、別の検察官が自白調書に沿った証言をするように誘導したという問題です。   つまり、任意の取調べのやり取りと、その録音・録画、公判の証人テストという三つの違う局面で不適切な行為があった可能性が出たことになります。しかも複数の検察官が関与していると。その経緯もそうなんですけれども、検察官の独断だったのか、そうではないのか、取調べを受ける側の事情はどうだったのかといった点を共有すれば、取調べの課題を探る重要な手掛かりになるのではないかと考えております。   この点については現在、最高検の監察指導部だと思うのですけれども、最高検が取調べに当たった検察官の聴取などの調査を行うという報道もされているところです。少なくともその調査状況と調査の内容、結果については、この協議会でも共有していただきたいと私は考えています。 ○玉本構成員 今、足立構成員が言及された事件に限らず、これまでも、当協議会において、個別事件について取り上げるのかどうか、どこまで深掘りするのかどうかといったことについては様々な議論があったものと承知しています。これまでの議論にもあったように、やはり特定の一事案について特に具体的に取り上げて詳細に検討するというようなことは、制度や運用の全体についての評価を行う上で必ずしも必要ではなく、むしろそれが阻害されてしまうようなおそれもあるのではないかと思います。その意味で、個別の事件について深く取り上げて、それに基づいて検討を行うというようなことは、必ずしも適切ではないのではないかと考えています。   しかも、今言及された事件につきましては、現在公判係属中の事件であり、そのような言わば生きている事件を素材として取り上げることは、より一層慎重であるべきだろうと考えます。 ○河津構成員 個別事案について深く取り上げることが制度の見直しの議論を阻害するという御意見ですが、私はこの協議会の構成を前提とする限り、個別事件についての情報に接することによって制度の見直しの議論が阻害されるということはあり得ないと考えます。この協議会の場でどのような情報を取り上げて、判断の当否の議論にまで及ぶべきかについては検討の余地があるとしても、情報の共有をすること自体に何かデメリットがあるとは到底考えられませんので、足立構成員が御提案になった事件について、最高検察庁で行われている検証の結果及びその基礎資料については、当協議会で共有いただくべきだと私は考えます。 ○中野参事官 先ほど言及いただいた案件につき、そもそも調査結果が公表されるのかどうかにつきましては仮定のお話ということになりますので、一度こちらで引き取らせていただければと思います。   また、成瀬構成員から頂戴しました次回以降の進行につきましても、事務当局におきまして検討して、構成員の皆様方に追って御連絡させていただくという形でいかがでしょうか。 ○河津構成員 成瀬構成員の御提案に加えて、取調べの録音・録画制度、これは附則第9条第1項で他の制度とは異なる位置付けをされておりますので、これについて早期に当協議会としての取りまとめを行うことについても御検討いただきたいと思います。 ○中野参事官 次回第9回会議の日程につきましても、できる限り早期に調整させていただきまして、追ってお知らせさせていただきます。   次回の具体的な議事につきましても、事務当局において検討させていただきます。   次回の会議におきまして、構成員の皆様から資料の提出あるいは御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御準備を頂いて御送付いただく必要がございますので、提出期限につきましてもあらかじめ御連絡申し上げます。その場合の資料につきましても、事務当局におきまして確認させていただきまして、必要に応じてどのような形で御提出いただくかなどにつきましては御相談させていただければと思います。   本日の会議における御発言、配布資料の中には職務上取り扱われた事例に関するものはなかった、特に公開に適さない内容はなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。また、配布資料につきましても公開することとしたいと考えておりますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。 ○河津構成員 先ほどの成瀬構成員の提案に関連してお尋ねしたいのですけれども、この附則第9条第3項で検討が求められている事項については、当協議会とは別の協議会で協議が行われていたかと存じますが、そちらはどのような状況になっているのでしょうか。 ○中野参事官 御指摘の協議会につきましては、法曹三者あるいは警察庁によりまして意見交換、協議の場として持ち回りで開催されてきたと承知しています。具体的な協議内容は対外的には明らかにしないということとされていますので、その内容等につきましてはこの場では差し控えさせていただければと存じます。 ○河津構成員 この点に関する協議が、こちらの協議会とあちらの協議会で併存することになるのでしょうか、その辺りをどう整理するのかということをちょっと御検討いただければと思います。 ○成瀬構成員 私は、河津構成員が言及された非公式の協議会の存在自体を知りませんでした。   附則第9条第3項で明示されている事項、取り分け、再審請求審における証拠の開示は重要な問題であると認識しており、この問題に関する議論が先送りになってしまうことを懸念しています。本協議会は、配布資料や議事録が公表される正式の協議の場ですので、この場で法曹三者と警察庁のみならず研究者や一般有識者も交えて議論することには大きな意義があると考えます。 ○中野参事官 第1回会議におきまして、附則第9条第3項の事項につきましても取り上げるということでお話があったかと思いますので、そのことを念頭に成瀬構成員が御発言されたものだと事務当局としては認識いたしました。 ○足立構成員 私も成瀬構成員の御意見に全面的に賛成いたします。特に今、世間でも騒がれているように、静岡県の一家4人殺人事件の再審等も準備されているところですので、社会の関心も特に強い事案だというふうに考えていて、議論をここで活発にした上で公表した方が国民のためになると考えています。 ○中野参事官 その他はよろしいでしょうか。   それでは、本日はこれで閉会とさせていただきます。どうもありがとうございました。 -了-