法制審議会 担保法制部会 第42回会議 議事録 第1 日 時  令和5年12月5日(火) 自 午後1時30分                      至 午後5時59分 第2 場 所  法務省7階・共用会議室6・7 第3 議 題  担保法制の見直しに関する要綱案のたたき台1(3)         事業成長担保権に関する論点の検討(1) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第42回会議を開会したいと思います。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして、どうもありがとうございます。   本日は、委員の松下さん、幹事の家原さんが御欠席と伺っております。また、大西さん、倉部さんが途中で御退席と、佐久間さんが途中で参加されると、加藤さんは途中で参加されて途中で退席されるという、なかなかバリエーションに富んだ形になっております。   本日から、事業成長担保権の審議に当たっての資料の説明などを行っていただくために、金融庁の職員の方が法務省の民事局付となられて事務当局に参加されていらっしゃいます。大野さん、髙倉さんでございますが、簡単な自己紹介をお願いします。 (関係官の自己紹介につき省略) ○道垣内部会長 どうぞよろしくお願いします。   まず、配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 それでは、本日もよろしくお願いいたします。事前に部会資料37-3「担保法制の見直しに関する要綱案のたたき台1(3)」、部会資料39「事業成長担保権に関する論点の検討(1)」及び部会資料29-6をお送りいたしました。部会資料37-3及び39については、後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。部会資料29-6は、パブリックコメントとして頂いた御意見のうち中間試案第23から第26までを対象としております。   また、若原幹事から2点の資料の提出を頂きましたので、それぞれ委員等提出資料42-1及び42-2としております。これらについては後ほど若原幹事から御説明を頂く予定です。   資料につきましては以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   新しい資料は以上のとおりなのですが、本日は前回の積み残しになっておりました部会資料37-2の第14、4、破産管財人等による譲渡担保財産の換価、譲渡担保権者が処分をすべき期間の指定から、10、動産特定範囲に動産を属させる行為に関する否認等までについて議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○淺野関係官 それでは、部会資料37-2の第14のうち4から10までについて御説明いたします。   まず、36ページの「4 破産管財人等による譲渡担保財産の換価・譲渡担保権者が処分をすべき期間の指定」ですが、このうち(1)及び(2)は、破産法第184条第2項から第4項まで及び第185条の規定とおおむね同様の規定を設けようとするものです。   破産法第184条第2項から第4項までは、破産管財人が別除権の目的である財産を民事執行法等の法令に従って換価することができること等について定めています。動産譲渡担保権については通常、設定者が譲渡担保動産を占有しており、破産管財人が民事執行法に基づき競売をすることができると考えられますが、債権譲渡担保については、民事執行法第193条の規定に基づく債権執行によって実行することとしない理由が同様に妥当することから、動産譲渡担保についてのみ破産法第184条第2項から第4項までと同様の規律の対象とすることを提案しております。   破産法第185条は、別除権者が法律に定められた方法によらないで別除権の目的である財産を処分する権利を有する場合について、別除権者が裁判所が定める期間内に処分をしないときは、その権利を失うこと等を規定しており、この手続の後、先ほど御説明した第184条第2項の換価がされるべきであると考えられています。この規定は、譲渡担保権の私的実行についても適用されるものと考えられていますが、今般、譲渡担保権の私的実行に関する規定を設けることから、アにおいては、引き続き譲渡担保権が同様の規律の対象となることを明確化しています。なお、処分とあるのは現行の条文と同様の文言であり、帰属清算方式による実行もこれに含まれるとされている現行法の解釈を変更しようとするものではありません。   また、先ほど御説明したとおり、動産譲渡担保権を除く譲渡担保権については破産管財による競売の対象としないため、破産法第185条と同様の手続がとられた場合の譲渡担保権の処理について規定する必要があります。そこで、イにおいて、裁判所が定めた期間内に譲渡担保権者が処分をしない場合には、帰属清算通知がされ、かつ期間の満了時に帰属清算の日から2週間が経過したものとみなすことを提案しております。   (3)及び(4)については、破産手続と同様の規定が定められている特別清算手続についても同様の手当てをしようとするものです。   38ページの「5 担保権消滅許可制度の適用」については、従前の部会資料での御提案から実質的な変更はありません。   39ページの「6 根譲渡担保権の取扱い」については、破産手続、再生手続及び更生手続のそれぞれにおいて定められている根抵当権に関する取扱いに関する規律を踏まえ、根抵当権と類似した性質を有する根譲渡担保権についても同様の規律の対象とすることを提案するものです。   (1)については、破産法第196条第3項等の規律について、極度額の定めがある根譲渡担保権についてその趣旨が妥当すると考えられることから、同様の規律の対象とすることを提案しております。   (2)については、民事再生法第148条第6項及び第7項の規律の趣旨は、極度額の定めの有無を問わず根譲渡担保権にも妥当すると考えられるため、根譲渡担保権について同様の規律の対象とすることを提案しております。また、同法第160条第2項等の規律の趣旨は、極度額の定めのある根譲渡担保権についても妥当すると考えられるため、同様の規律の対象とすることを提案しております。   (3)については、民事再生法第148条第6項及び第7項と同様の規定が会社更生法にも存在するため、(2)と同様に、極度額の定めの有無を問わず、根譲渡担保権について、その規定と同様の規律の対象とすることを提案しております。   41ページの「7 再生手続開始の申立て等を権限の消滅事由とする特約の無効」については、従前の部会資料で問題提起をしておりました内容から実質的な変更はありません。   同じページの8及び9については、別途検討する予定として【P】を付しております。   同じページの「10 動産特定範囲に動産を属させる行為に関する否認等」については、従前の部会資料の内容を踏まえて御提案をしていますが、集合動産譲渡担保権に関する設定者の処分権限について、通常の事業の範囲という概念を用いないこととされたことを踏まえ、「専ら譲渡担保権者に弁済を受けさせる目的で」という文言としております。これは、従前の部会資料で、「専ら担保権者に債権を回収させる目的で」としていたものから表現を変えておりますが、実質を修正する趣旨ではありません。また、否認に関して、動産を動産特定範囲に属させる行為及び債権特定範囲に属する債権を発生させる行為があった場合に、担保の供与があったものとみなすのと併せて、破産法等における他の規定における担保の供与についても同様の規律の対象とすることとしております。   以上について御議論いただければと存じます。私からは以上です。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、これらの点につきまして、どなたからでも結構でございますし、どの部分からでも結構でございますので、御意見等を頂ければと存じます。 ○阪口幹事 阪口です。2点あります。まず、41ページの否認のところで従前と実質を変えるものではないという御説明がありましたけれども、ゴシック体の部分では、「専ら集合動産譲渡担保権者に弁済を受けさせる目的でしたときに限り」という、限定的な表現が2か所使われています。元々の破産法71条1項2号の専らという概念も、文字どおりの専らではなく、ほかの目的があっても構わないという議論もある中で、更にここで「したときに限り」と書くと、より狭くなっているようなイメージになってしまいます。専ら自身はもう少し広い概念だと私は理解していますけれども、今回のゴシック体の表現だと、より狭い印象を与えるので、現在の破産法の条文のように、した場合という程度のような表現を、御検討いただきたいのが一つです。  もう一つは、元々、部会では、専ら目的という要件と通常の事業の範囲を超えるという要件のいずれが良いかを議論していた中で、この2つは実際上はそれほど変わらない、アプローチの仕方が違うだけだという意見が強かったと思います。今回、通常の事業の範囲という概念を使わなくなったわけですけれども、ここの専ら概念が、文言だけ見て、通常の事業の範囲を超えた程度では当たらないというような解釈ではないということを、確認ではないですけれども、従前の議論の延長として、意見として述べておきたいと思います。 ○道垣内部会長 「専ら」と「限り」を重ねたことの趣旨にも関係しますので、事務局として、何かそこの心があれば。 ○笹井幹事 御意見いただきましたので、考えてみたいと思いますけれども、元々集合動産ですので、流動しながら全体としての価値が維持されていくと、その中では当然、出ていくものもあれば入ってくるものもありますので、その入ってくること、それ自体が全て否認の対象になったら困るでしょうということで、どういう場面が否認の対象になるのかというのをここで明らかにしようということですので、そういう意味で、限りと書いたのは、形式的に入ってきたものだということから直ちに否認の対象になるわけではなくて一定の限定が掛かるという限定の趣旨を明らかにしようということとした、そういう趣旨です。御指摘の趣旨は理解したつもりですので、条文上どういうふうに書くのかというのは、少し考えてみたいと思います。 ○道垣内部会長 ほかに何かございますか。 ○日比野委員 日比野です。今の阪口先生の御指摘と同じく、41ページの10のところなのですけれども、恐らくこれまでの議論の中では、では搬出された場合には否認の対象になるのか、ならないのかといったような、そういう議論もあったかと思います。この部分は、恐らく条文に書かれるということはなく、解釈問題なのかとも思いますが、今回の表現の仕方が、専ら弁済を受けさせる目的でしたとき、ということからすると、結果的に事業活動の流れで搬出がされているのであれば、そもそもそういう目的が認定されないということになるのかもしれないのですが、搬出行為のところについて現時点で事務局の方ので御理解、考え方がもしあれば、教えていただければと思います。よろしくお願いします。 ○笹井幹事 そうですね、搬出について事前によく検討してきたというわけではありませんので、更に検討が必要かもしれませんけれども、搬出する行為というのは事実上の行為でありますので、基本的には、集合物として特定されていた特定範囲の中から物理的に物が出ていっただけで、当然に担保権の対象から出るとは考えておりません。担保権者が原状回復として元に戻すように請求することができるのだろうと思います。   そうだとすると、否認の対象にするということの意味がどういうことになるのかというのがよく分からないといいますか、否認をするということは、何らかの法的な効果を失わせるということだと思うのですが、元々その担保権が及んでいてその状態に変化がないということだとすると、否認という行為がそもそも必要であるのかどうかというところも含めて検討が必要なのかなと、お聞きして思いました。 ○日比野委員 分かりました。 ○道垣内部会長 ほかにございますか。 ○井上委員 日比野委員が納得されたのかどうかがよく分からなかったのですけれども、搬出自体は担保目的物の価値を減らす方向の行為なので、否認の対象にはなり得ないのだと思いますけれども、搬出の意味するところはそれにとどまらず、搬出を予定して搬入する場合は、ここにいう目的の認定に影響して、結果的に搬入行為も否認の対象にならないということになるのではないかという御質問かと思ったのですけれども、そういうわけではないですか。 ○日比野委員 そうですね、元々の議論の中では、要するに、加入物が否認の対象になっていくのだけれども、実際に営業活動の中で出ていったものがあるときに、どこまで特定のひもづけが必要なのかだとか、あるいは事業活動として出ていったのだとすると、それはそもそも否認の対象にならないのではないかといった議論もあったかと思いましたので、そのようなことが今回の修文によって何か考え方が整理されたものがあるのかどうかというのを少し聞きたかったということが元々の御質問でした。 ○井上委員 少しだけ補足すると、危機時期になって、その時の通常の事業過程として50程度で前後している在庫に急に30を加入したという行為は、かなり怪しい行為として、弁済を受けさせる目的を認定しやすくなる状況かもしれないのですが、その後、例えば20を搬出したとして、30を加入した時点で搬出目的があったと認定されたとします。その場合に、20の搬出自体によって、治癒といいますか、有害性がなくなるなり何なりの理由で、否認できるのは10の搬入行為に減縮されるか否かという問題が1つあるのと、もう1つ、事実認定の問題として、弁済を受けさせる目的の不存在が認定され、最初の30の加入行為全体を否定できなくなるということもあるのではないかと思ったのですが。 ○日比野委員 よく整理していただいて、ありがとうございます。 ○道垣内部会長 それは結局、「専ら」、「限り」という用語の問題にも影響してくるのだろうと思います。つまり、恐らく皆さんが一致しているのは、特に譲渡担保権者に有利にするように運び込むというような意識がなくて、そのままの流れでずっと続いているというときには、それは否認をするというのはおかしいよね、それはずっと普通の状態で続いているのだから。そのときに、たまたま急に50増えるということがあったとしても、否認はされなさそうである。また、今、治癒とおっしゃいましたが、その後の変動も問題になる。そのようなことを、「専ら」、「限り」という文言でどうやって調整していくかということです。治癒問題は結構、書こうとすると難しいですよね。治癒の結果から見て、遡ってそんな意図はなかったよねというふうに見るというのが法文の適用としてはスムーズなのでしょうね。問題意識はよく分かりましたし、かつ、結論自体には皆さん反対されていないと思いますので、修文するなり、あるいは説明のところを気を付けるなりしながらやっていきたいと思います。 ○片山委員 慶應大学の片山でございます。今の10のところなのですけれども、少し視点が違う質問になりますが、ここでは偏頗行為の適用を問題としていて、それゆえに、弁済をさせる目的という形での意思認定がなされるということになるのかとは思います。みなすというのは、恐らく弁済とか担保設定行為という法律行為が観念できない単なる搬入行為なので、みなすということになっているのかと思います。   それとの関係で、ここでは偏頗否認を問題としているのですが、一応安全地帯みたいな意識で、そこに商品を置いておく限りは一般債権者がかかって行けないという意味で、特に優先的な弁済をさせる意図ではないけれども、一種の財産隠匿的な目的といいますか、そういう場合も否認の対象にできるようには思われます。その場合は、法律行為はなくても、擬制によって160条の適用を可能とするということも考える余地はあろうかと思います。それはそれでまた別途、160条の解釈として可能で、擬制の規定をわざわざ置くのは、162条だけということかもしれませんが、逆に、160条の狭義の詐害行為に関してもこのような擬制規定があってもおかしくはないかという気もしますけれども、そこはやはり偏頗否認一本の問題として処理していくという理解でよろしいのでしょうか、そこを再度確認させていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 片山さんのおっしゃったことを数字にして言うと、倉庫に100入っていると、それが担保の目的であり、被担保債権額は80に対応する部分しかないとすると、今の状態でも100%を回収できる。ただ、そこに物を加入させると、その物については他の債権者が手を出しにくくなり、100のところを120にすることによって他の債権者からの安全地帯に置くということになってしまう。それは実は担保権者の方から見ると、自分は80しか所詮取れないわけですから、別段回収額が増えているわけではないのだけれども、しかしそれもおかしいでしょうと、それを何とか補捉するというのはあり得るのかと、そういうことかしらね。 ○片山委員 すみません、マイクを切っておりました。それが一つの例ではあるかと思いますが、その例は場合によっては、残りの部分は一般債権者に分けられる話になるから問題ないということになるのかもしれないですが、担保割れをしているケースでも、一時的にというのですかね、その安全地帯に財産を隠すということは、担保権者との了解の下で行われ得るのかなとは思っている次第です。道垣内先生のも一例ではありますけれども、ほかにも例は考えられるだろうとは思います。 ○道垣内部会長 分かりました。その辺りのことについてはいかがですか。 ○笹井幹事 そうですね、ここはゴシックの書き方からも、片山委員からも御指摘があったように、偏頗行為否認を基本的には対象にして規定を設けております。今御指摘があったような使い方といいますか、隠匿というのは余り想定はしていなかったのですが、特にこの場合は否認が問題になる場面ですので、倒産手続も少なくとももう迫っているということですから、基本的には管財人が入って財産を調査してということになると思います。そういう意味では、仮に隠匿をしたとしても、被担保債権を上回る部分については一般債権者への弁済に充てられることになりますので、そこは否認の対象にする必要はないのかなと感じておりました。   その後に片山委員がおっしゃった、担保割れの場面でもというのは、結局、足したところで担保権者の方に行ってしまうのだけれども、最終的に弁済を受けさせるという意思があったのではなく、一時的に隠したという場面なのかと思いましたが、その結果として、仮にその担保権者が多めに弁済を受けてしまったということになっても、その場合、ここでは限定がされているので、専ら弁済を受けさせる目的が認定されない限りは否認の対象にはならないということかなと思います。それはもうこういう限定を付したことからやむを得ないのかなと思っておりました。 ○道垣内部会長 ならないのですかね。例えば、否認する側が、お前は担保権者にたくさんやろうと思ったのだろうと言ったら、いや、隠そうとしただけですと言ったら大丈夫になるわけですか。それはおかしくないですか。 ○笹井幹事 そこはもう認定の問題になりますので、隠そうとしただけだと言ったところで、それが採用されるかどうかというのは否認の裁判所の判断ではないかと思います。 ○道垣内部会長 そうですよね。だから、余り堂々とそれは対象にはなりませんと言い切ってしまわない方がいいような気がしたのだけれども。   ほかにこの関連で、何かございませんでしょうか。   今のところに関連してでも結構ですし、この文言を利用しながら結局認定をしていく以外はないだろうと、増える場合にせよ減る場合にせよ、増えない場合にせよ、ということなのだろうと思うのですが、ほかに何かございませんでしょうか。   よろしゅうございますか。否認のところは、どういうふうな文言にするかということがあるとともに、どうしても、これは適用に当たってはいろいろなシチュエーションというのがありますので、その文言の解釈で実際には運用していかなければいけないというところがあろうかと存じます。その辺りにつきましても今後、運用を明らかにしていくために、こういった事例はどうなるのかということについても積極的に御発言をいただき、あるいは御意見を事務局に寄せていただければと思います。どうしてもこういった場合は否認しなければいけないのに、文言上は入りそうもないというふうなものがありましたら、それを何とか入れるという形で文言も修正していかなければなりませんので、是非いろいろなシチュエーションについての御意見を頂ければと存じます。   よろしゅうございますか。それでは、部会資料37-3に移りたいと思います。「第21 所有権留保契約に関する定義」から、「第25 拡大された留保所有権」まで、まとめて議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 それでは、部会資料37-3の第21から第25までをまとめて御説明いたします。第21から第25までのうち、第21は所有権留保契約に関する各種の定義を、第22から第24までは、いわゆる狭義の所有権留保に関する規定を、第25は、拡大された所有権留保に関する規定を、それぞれ定めるものとなります。   まず、所有権留保に関する総論的な説明につきまして、第21の説明欄において記載しております。所有権留保の法的構成につきましては、従来の部会資料においては譲渡担保権と同様に扱うことを前提とした提案もしておりましたが、平成30年最判との整合性なども踏まえまして、被担保債権と目的物の牽連性の強い狭義の所有権留保につきましては、目的物の所有権は代金完済までは売主に留保され、留保所有権と他の担保権との競合は生じず、また対抗要件も不要であるとの考え方によることとしております。   これに対し、牽連性ある金銭債務以外の債務を担保する、いわゆる拡大された所有権留保につきましては、実質的に譲渡担保と同様の扱いをすべきとの考え方を前提に、対抗要件具備が必要であるとの規律としております。   以上を前提に、第21以下を説明いたしますと、まず第21は所有権留保に関する定義を定めるものであります。1(1)は、二者間の所有権留保について、(2)は、いわゆる第三者所有権留保について定めるものでありまして、部会資料30、第1の1と実質的な変更はございません。その他、所有権留保動産、留保所有権、留保売主等、留保買主等につきまして、それぞれ本文記載のとおりの定義を定めております。   なお、留保買主等についての第21の5の括弧書きにつきましては、第22の3において、留保買主等が所有権留保動産について有する権利は原則として譲渡することができないこととしておりますが、留保売主等が承諾した場合には譲渡可能としていることも踏まえて、その場合について括弧書きで規律したということになります。   第22は、狭義の所有権留保における留保所有権の効力を定めるものでございます。留保所有権と譲渡担保権を完全に同様のものとしては取り扱わない一方で、留保売主等に留保された所有権も担保の目的に制限されているということや、留保買主等が目的物を使用収益することができることなど、動産譲渡担保と共通する性格を多く有していることも踏まえまして、原則として留保所有権に関する規律は譲渡担保権と同様の規律としております。   ただし、先ほども述べましたとおり、担保権の競合が生じないことを前提としておりますことから、競合に関する規定は設けていないほか、対抗要件の具備も不要であるということを前提とする規律としております。   また、第22の3の留保買主等の処分権限につきましては、目的物の所有権が代金完済までは留保売主等に留保されているということを踏まえ、留保売主等が承諾しない限り、原則として留保買主等はその権利を譲渡することができないこととしております。   なお、第22の1では、留保所有権の被担保債権の範囲について、所有権留保動産の代金債務の元本としておりますが、第三者所有権留保における求償債務を被担保債権とする場合も含む趣旨でございまして、文言が不正確でありましたことから、この点の表現ぶりについては改めて検討したいと考えているところでございます。   次に、第23は、狭義の所有権留保における留保所有権の実行、第24の1及び2は、破産手続等における留保所有権の取扱いを定めたもので、その規律はおおむね動産譲渡担保権と同様であると考えられることから、基本的に動産譲渡担保権の規定を準用等することとしております。ただし、後順位が存在しないことなどを踏まえて、一部の規定を準用しない等の措置を講じております。   第24の3は、再生手続開始の申立て等を所有権留保契約の解除事由とする特約等の無効を定めるものです。その内容は、部会資料32の第4の1から変更はございません。   第25は、拡大された留保所有権についての規律でございます。被担保債権と目的物との間に牽連性のない拡大された所有権留保について、狭義の所有権留保と同様に対抗要件を不要とすると、留保売主等に不当に利益を与えることになると考えられることなどから、拡大された所有権留保については動産譲渡担保権と同様に扱い、対抗要件具備を要するものとしております。   第25の2は、拡大された留保所有権に係る所有権留保契約について、再生手続開始の申立て等を解除事由とする特約等の無効に関する規律であり、その内容は第24の3と同様です。   第25の3は、先ほど述べましたとおり、拡大された所有権留保について、動産譲渡担保権と同様に取り扱うのが相当であることから、動産譲渡担保権とみなして、その規定を適用することとするものでございます。   私からの説明は以上となります。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、この点につきまして、いろいろなところがございますので、どこの点でも結構でございますので、御意見等をいただければと思います。   これは以前からそうなのかもしれないのだけれども、拡大された留保所有権というのは日本語としてどうなのだろうか。ドイツ語で、拡大された所有権留保、延長された所有権留保という言い方があるのだけれども、拡大された所有権留保というのは被担保債権が拡大された所有権留保ということですね。しかるに、拡大された留保所有権というとしても留保所有権が拡大されていないかという気がしますけれども、いいのですかね。別にドイツ語に従わなくてもいいのだけれども。 ○笹井幹事 正確に書けば、留保所有権自体が拡大されるわけではありませんので、そこは本当は拡大された被担保債権に係るとか、何か書く必要があったのかもしれませんが、その辺は慣用的にこのような表現が使われているので、そういうものとして御理解いただければと思います。 ○道垣内部会長 みんな慣れれば大丈夫でしょう。すみません。 ○横山委員 京都大学の横山です。基本的なことがいつまでも分かっていなくて、本当に申し訳ないのですけれども、第21の最初の狭義の留保所有権のところの仕組みについて教えていただきたいと思います。   というのは、目的物と牽連性が高い債権について特別な規律をしようという趣旨は分かるのですけれども、目的物と被担保債権の牽連性が高いということと、その所有権が売買代金の完済までは売主に留保されるということの論理的関係がよくわかりませんでした。所有権が留保される結果、集合動産譲渡担保権と競合しないということは、買主に所有権の一部なり何なりというものが移転しないからこそ競合しないのかなとも思ったのですけれども、何で牽連性が高いと所有権が移転しないという論理になるのでしょうか。そこをどういうふうに説明されているのでしょうか。そういうものについては、全く所有権を移転しないのが通常の意思だからということなのか、いや、でもそうとはいえないのではないか思ったりしますので、基本的なことですみませんけれども、教えていただければと思います。お願いします。 ○笹井幹事 正にそこはこの部会で御議論されることなのかもしれませんけれども、これまでは所有権留保は、動産を目的とする非占有型の担保制度であるという意味では、動産譲渡担保権と同じ性質を持つので、できるだけそれに合わせていこうという方向での御提案をしてきたところです。   しかし、平成30年の最高裁判決も、所有権留保契約においては所有権が動かないという形式を重視したような、これは別に形式だけではなくて、恐らく実質的な理由も背景にはあったのだろうと理解はしておりますけれども、それと同時にその形式を重視したような判断が、少なくとも判決文上はそのように理解されるような判示がされており、また、この最高裁判決を踏まえて、実務的にもそういう理解が強くなってきたのかなと思います。   今回の部会資料におきましては、当事者の意思あるいは所有権留保という仕組みについての一般的な理解を背景として、所有権が移転していないという考え方を採ってはどうかという提案をしているところです。   ただ一方で、実質的には物と関係のない被担保債権を担保するという、実質的には動産譲渡担保権と同じ経済的な実質を持つ取引が、たまたまその被担保債権が目的物の売主という地位を持っている人に帰属していたということから、所有権留保としてのルールが適用されることになり、その場合に、所有権が移転していないという構成を前提にすると、例えば対抗要件の要否や他の担保権との競合という問題において、動産譲渡担保権者よりは優遇されるという結果になってしまう、それは適当ではないのではないかと考えますし、部会においてもそのような理解がされていたのではないかと事務当局においては認識をしております。そこで、拡大された所有権留保においても形式的には所有権が移転しないということにはなっているのだけれども、実質的な動産譲渡担保権との類似性から、むしろこちらの方を修正して、動産譲渡担保権に関するルールを適用させた方がよいのではないかという提案をしているということでございます。 ○横山委員 ありがとうございます。牽連性がある被担保債権についてされた所有権留保について、その担保権者を特に保護しようという、その方向性についてはありうるものとして異論があるわけではありません。所有権留保においては、通常といえるのかどうか分かりませんけれども、売買が所有権留保を用いる典型だとすると、牽連性のある被担保債権であることが多く、その場合には所有権留保権者というのを他の担保権者と比べて保護すべきだというのが出発点にあって、そうだとすると、対抗要件なしに他の担保権との関係では優先するというような言い方だと分かるのですけれども、競合がそもそも存在しないと言われてしまいますと、他のところと整合的に説明できるかが疑問になります。例えば、実行のところでは留保売主等は実行手続によらなければ、その所有権留保動産を譲渡することができないとということは、やはり担保目的を達成するのに必要な限度で売主に留保所有権があるにすぎないということですので、買主に何もないわけではなさそうだと。その辺の説明が少し分かりにくいと思いましたので、競合がないというよりも、所有権留保の場合には、拡大されていない場合には、売主が優先するという言い方の方が論理的には分かりやすいかなと思いました。結論については異存はありません。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 ありがとうございます。今の横山委員の点と共通するかと思うのですけれども、狭義のものについては全く競合が存在しない、なぜなら所有権が移っていないからとしつつ、拡大された方については、形式的には同じだけれども、これは所有権が移っているか移っていないかはともかく譲渡担保と並びなのだと、その切り分けが、なぜそういうふうにいえるのだろうかというのが一つ、気になっております。   所有権留保といっても実質の担保性ということに着目して、様々な点において担保並びの規律を掛けていく、あるいは、破産になったら別除権にしていくということなのですが、そうすると今、横山委員がおっしゃったように、担保目的での範囲でしか留保されていないのではないかと思われますし、例えば、倒産になったときにかなり代金が支払われていて、余剰があるというか、そういうような場合の余剰が、仮に今の形で譲渡担保に入っていたとすると、譲渡担保権者がその分を取れるのではなくて、飽くまで一般財団、破産財団に入ると、何らかの権利を買主なりは持っているのだけれども、それは担保提供ができない権利だけれども、一般の債権者のための引き当てには充てられる権利だということが、それが必然の構成なのだろうかという気がしまして、担保の性質であるということを強調して、様々なところで担保並びにしていくのであれば、結局のところ、最優先を与えるかという優先関係の問題として規律するのが全体として整合するのではないかという気がするものですから、しかも、その性質の違いを牽連性があるかどうかというだけで違いにするとすると、そもそも買主がどういう権利を持っていて、なぜそういうふうになるのかの説明が難しいのではないかという気がするのですけれども、どうでしょうかということです。それともう一つ、これは競合しないとなると、およそ登記にはもう載せることはあり得ないということになるでしょうか。以前は登記の可能性は認めるというような話だったと思うのですけれども、これはもう全く競合もしない、所有権はただ移っていないだけですというときに、登記に載せられるのかというのも、載せると決めてしまえば載せられるのかもしれないですけれども、その点はどういうことになるのだろうかというのも気になっております。 ○道垣内部会長 幾つか御意見、御質問が出ましたけれども、今、片山さんと井上さんからも手が挙がっていますので、お二人の話をまず伺ってからにしたいと思います。 ○片山委員 慶應大学の片山です。ありがとうございます。横山委員と沖野委員とほぼ同じ趣旨ということになるのかもしれませんが、今回の新しい御提案で、いわゆる狭義の所有権留保に関しては、平成30年判決の考え方を前提として、所有権が移転していないので競合しないという御説明がなされているのですけれども、それは確かに説明のところまで読めば、そう書かれているとは思うのですが、本文を見る限りはそうはなかなか読めず、むしろ25の1のところで、拡大された留保所有権に関しては引渡しがなければ第三者に対抗できないという書き方になっていますので、狭義の留保所有権に関しては引渡しなくても対抗できる、すなわち競合はあり得るけれども、登記なくても対抗できるという書きぶりに読めるように思えるのです。   その点を再度、御確認できればというのが第1点です。それから2点目は、私の完全な思い違いかもしれませんが、従前部会の議論としては、今回、牽連性のある所有権留保ということでまとめられている中でも二者間と三者間があって、それを両方同じに取り扱うということになっていますが、いわゆる信販型の第三者所有権留保に関しては、これはやはりその対抗要件は必要ではないかという御意見もかなり有力ですし、私自身もそれを前提として議論が進んでいたと思っておりましたので、第三者所有権留保型も二者と同じように、売買の代金という意味で牽連性があるので、登記なくしても対抗できることで、今までの部会の議論がそうだったということを前提に今回まとめられたということでいいのかどうかを再度確認できればと思いました。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。全員のお話を伺ってからにしたいと思いますので、井上さん、お願いします。 ○井上委員 井上です。今の一連の点に関する点が1点と、今の点にダイレクトに関係しない点もあるのですが、よろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 もちろん結構です。 ○井上委員 今の点に関連して、私も同じような印象を持っておりますが、競合しないということは、所有権留保において、留保売主の承諾があっても留保買主は目的動産に対して担保の設定はできないという考え方を採っているということでしょうか。そうではなく、売主の承諾があれば買主は処分できるという立場に立つとして、その処分の中に担保の設定があるとすると、競合が起こり得るのではないかという感じもしまして、その観点で、本当に後順位が生じない、あり得ないという前提のルールで大丈夫かが気になったというのが一つ目です。   もう一つは、以前から申し上げていることなのですけれども、今回も2ページの(2)、三者型について、所有権留保の一類型という整理をされていて、そこについては私は以前から、これは譲渡担保そのものだろうと思ってはいるのですけれども、効果が仮に全く同じであれば、その点についてこだわる必要はないと思います。すなわち、狭義の所有権留保と牽連性のある債務を担保する譲渡担保の効力が仮に同じであり、拡大された所有権留保と一般の譲渡担保の効力が同じであれば、三者側について区別にこだわる必要はないと思うのですが、今の競合の有無の点も含めて、もし何か違いがあり得るとすると、やはりなお、この2ページの1(2)の類型が、譲渡担保と所有権留保の両方に当てはまるように思えてならないといいますか、例えば、売主をA、買主をB、Bに代金相当額を与信する貸主をCとしたときに、A、B、C三者で合意をして、まず売主Aが物上保証目的で目的物の所有権を貸主Cに譲渡し、次に担保権の負担付きで目的物を売買契約に従って買主Bに移転した場合は、(2)にそのまま該当するように思えるのです。こういった売買目的物代金のファイナンスにおいては、貸主が買主に直接お金を交付することはまずなくて、実務上は、借主の委託に基づいてダイレクトに売主に、住宅ローンもそうですけれども、融資資金を交付する支払うのが一般的です。つまり、売買代金のファイナンスを物上保証の設定と同時に実行すると、そして、その借入金を直接売主に払ってもらうよう委託すると、(2)そのものだと思うのですけれども、それは例外的に所有権留保と扱うという立法をするならば、私としては、譲渡担保の定義の中からこの部分を除くルールを置かないと、どちらにも当たるのではないか気になっていて、効果が同じであれば、こだわる必要はないということかもしれないですけれども、効果を異にするのだとすると、何度も申し上げるのですが、問題が残ってしまうのかなというところに、どうも納得ができていないのですけれども、どう整理されているのでしょうか。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。恐らく事務局案の背後には、所有権が移転していないと言わないと、対抗要件なしというわけにはいかないよねという前提があって、そこから出発せざるを得ないよね、というのが多分あるのだろうと思うのです。そこが事務局の感覚と皆さんの感覚の違いなのかもしれませんが、また私の事務局の考え方の理解が正しいとも限りませんので、以上を踏まえまして、事務局から何かございましたら、お教えいただければと思いますが。 ○笹井幹事 そうですね、沖野委員から御指摘のあった部分というのは、牽連性の有無によって、狭義の所有権留保であるか、拡大された所有権留保であるかによって様々なルールの違いを説明できるのかという点については、共通した物権変動のルートを経て、その上で牽連性についての修正を施すというのが前回までの提案でしたし、その方が理論的にはスムーズな説明ができるのかもしれません。ただ、今回は、所有権が移転しないという構成の方から出発した上で必要な修正をすることによって同じことを実現できないのかということを試みたのですけれども、その当否については、また御議論を頂ければと思っております。   それから、登記について、所有権留保を対象にするという立場を変えたということではありません。ただ、もし競合というものがあり得ない、少なくとも狭義の所有権留保について競合というものがあり得ないとすると、事実上登記をする意味というのがあるのかという問題は出てくるかと思いますけれども、拡大された所有権留保がある以上は、留保所有権と他の担保権が競合するという場面が生じ得ますので、登記制度としては対象にしておき、実質的な意味があるかどうかは別として、その場合に狭義の所有権留保だけを排除するまでの必要もありませんし、また登記官においてそれが判断できるかという問題もありますので、所有権留保全体について登記の対象にする方針について変更があるわけではありません。   それから、片山委員から、三者間の所有権留保における対抗要件の要否について御指摘を頂きました。ここは、もしかすると片山委員の御理解と私の理解が違っているのかもしれないのですけれども、事務当局としては、狭義の所有権留保については三者間であろうと二者間であろうと、牽連性のある被担保債権のみを担保している場合には対抗要件が要らないという部分については、同じルールを適用するつもりでした。ですので、この資料でも、三者間の所有権留保についても被担保債権が牽連性のあるものだけを被担保債権としているものである限りは、対抗要件が要らないという立場を採っているつもりです。それが、部会においてもそういう理解だったと認識をしておりましたけれども、その点についてもし誤りがあれば、御指摘を頂ければと思っております。   それから、井上委員から、競合が生じないということは、目的動産について担保権者といいますか、この場合には所有権売主になりますけれども、所有権売主の承諾があった場合にも設定できないのかということですけれども、この点は今の提案を前提にする限りは、やはりできないと考えております。これは4ページの3にも関わりますけれども、4ページの3で書きましたのは、目的動産そのものというよりも、その目的動産について留保買主が持っている権利、いわゆる物権的な期待権などと呼ばれるものには譲渡性はなく、真正譲渡もできないし、譲渡担保権の設定もできないというつもりでした。そういう物権的な期待権ではなくて、その所有権そのものについては、所有権留保買主に帰属しているわけではないので、その譲渡について担保権者たる留保売主の承諾を得ても、真正譲渡も担保権の設定もできないというつもりです。   それから、ここは前々からも御指摘いただいているところですけれども、三者間の所有権留保についてですけれども、これまでは所有権留保をできるだけ動産譲渡担保に近付けようという理解で資料を作っていましたので、ある意味、どちらに帰属するのかということの整理の問題だったのだろうと思います。そのときからずっと事務当局としては、先ほど井上委員が出された事例を、便利なのでそのまま使わせていただきますと、Aが売主、Bが買主でCが信販会社等の与信者であった場合に、AからCに対する物権の変動が起こっているという意味では、第三者所有権留保においても譲渡担保においても同じだろうと思います。   ただ、このA、B、Cの法律関係において誰を設定者として捉えるべきなのかというと、事務当局としては、やはりBが設定者になるのではないか、といいますのは、担保権ですので、被担保債権が弁済されなければ自分の財産が奪われると、逆に、被担保債権が全て弁済されれば、その財産権が完全なものとして自分のところに帰属するというのが設定者としての地位なのだろうと思っておりまして、先ほどのA、B、Cの場合に、一般的には、やはり被担保債権が弁済されれば、その目的物の完全な所有権を取得するのはBであり、逆に弁済されなければ本当は買ったものを得られなくなるというのはBですので、設定者としてはBなのだろうと思います。譲渡担保においては、財産権の移転元と移転先の通常、二者間の関係で移転が生ずるという意味では、この三者間所有権留保と同じですけれども、その移転元である人が設定者という立場に立ちますので、そこで三者の所有権留保と譲渡担保権とが区別されるということかなというのが、こちらの資料の背景となる理解です。   ただ、文言として、その定義が第三者所有権留保と動産譲渡担保との間で重複してしまうではないかというのは、これは前回も御指摘いただいたところで、条文化するときには気を付ける必要がありますということを私も申し上げたかと思うのですが、全体としての、譲渡担保は譲渡担保、所有権留保は所有権留保という形でまだ別々にお示しをしたので、少しそこの調整がとれていないということかと思います。   その上で、井上委員から御指摘いただいたように、一般的にはBが設定者なのだけれども、Aがまずは物上保証人という立場になっておいた上で、その地位がBに移転するということがあれば、同じではないかと言われれば、確かに同じことが別の法律構成で実現できるという側面はあるのかもしれません。第三者所有権留保と一般的に今いわれている法律関係において、Aがまず自分の財産に設定した上で、それをBに対して移転しているという理解で部会が一致するのであればよいのですけれども、一般的にそのように理解されているかというと、当事者の認識や一般的な理解とはずれがあるのではないかと思ったものですから、今は動産譲渡担保権とは区別された類型として書き出したというところです。 ○道垣内部会長 阿部さんからも手が挙がっているのですが、横山さん、沖野さん等の根本問題というのは、この原案というのは、少なくとも単純所有権留保においては所有権が売主から買主に移転していないということを前提としながら、それで論理的に突っ走っているわけですよね、そうすると競合は生じないから競合の条文は要らないと。しかし、書き方にはあと二つあって、そうではなくて、所有権は買主に移るのですと書いてしまう方法も1個あるのですが、書かなくたって、競合についての条文は書きます、処分についての条文は書きます、対抗要件についての条文を書きますという方式もあり得ると思います。そして、ある人は、その新しい条文を見て、これは根本的に所有権が移転していないという意味だよねと性質決定する論理を立てる人もいるかもしれないのだけれども、他方で、いや、これを書くということは所有権が移転している可能性もあるという前提の下で、特別扱いしたのだよねと分析する人もいるかもしれない。しかし、とにもかくにも条文でそういうふうなことがきちんと書かれているというふうな選択肢というのがあり得るような気がするのですね。それで、横山さんや沖野さんの疑問の根本というのは、平成30年の判決とかというけれども、本当に今回立法するに当たって、単純所有権留保においては買主には所有権は移転していませんということを前提にすることしか立法技術的にあり得ないのか、それともほかにもあり得るのか、事務局としてどうして、買主には全く移っていません、これは所有権留保で、移っていないというものなのですよというふうなことにしたのかというふうな話があると思うのですが、それについて事務局の御見解というのはございますか。そういうのはこういう理由で作りにくかったのだとか、そういうのはございますか。 ○笹井幹事 移転していないということを前提にした上で。 ○道垣内部会長 いや、移転していない、しているというのは係争中なのでお答えできませんという話で、しかし競合については、例えば所有権留保目的物について譲渡担保権が設定された場合にも、対抗要件なくして所有権留保が勝ちますよと書くと。書いたときに、それを見て、移転していないのだからこうなるのだと思う人もいるかもしれないけれども、移転しているけれども政策上こうしているのだ、パーチェスマネーセキュリティーを、だから、買主を特に保護するためにこうしているのだと、その分析は後でいろいろな人がするかもしれないのだけれども、とにもかくにもそういうふうに書いていくという方法もあり得るのではないか。横山さんは、私は出てきている結論には異存はございませんとおっしゃったのですよね。ただ、こういう書き方で、何もなくて当然だよねと書くというのが本当にいいのでしょうかというのが横山さんの問題提起だと思うので、その辺りについて何か事務局から御見解があれば、お教えいただければと思うのですけれども。 ○笹井幹事 十分なお答えができるかどうかわかりませんが、まず、対抗要件に関していえば、例えば、これは実は動産譲渡担保権についても同じような規定を提案しているのですけれども、狭義の所有権留保に関していえば、対抗要件は要らないという書き方はできるかと思います。そこは、実質的にはこの部会の中では、動産譲渡担保権について所有権は設定者に残っているのだという理解が強く示されているところで、私自身もそこに大きな異論があるわけではないのですが、しかし他方で、そこはやや曖昧な形にした上で規定を作ってきたのと同じように、所有権留保についても、所有権の移転の有無については明確にしないままで対抗要件の有無についてだけ明示的に書いておくということはあり得て、それを確認的なものと見るのか、政策的に本来的には必要なものを不要としたのか、そこは解釈に委ねるという形はあり得るかと思います。   ただ、他の担保権との競合については、所有権が移転していないのだと考えると、競合が生ずることを前提にした条文を設けることは難しく、この部分に関していうと、態度をはっきりさせないでおくことは難しいといいますか、一旦所有権が買主の方に移った上で動産譲渡担保権と同じような法律関係が生じていると理解しないと、競合は生じないのではないかと思ったのですが、その点ももしかすると異論があるかもしれません。 ○道垣内部会長 分かりました。沖野さんも手が挙がっているのですが、阿部さんがその前に手を挙げていらっしゃるので、阿部さん、お願いします。 ○阿部幹事 資料4ページの3について、少し伺いたいと思いました。先ほどの御説明だと、留保買主等が譲渡することができないといっているのは、所有権留保動産について有する権利であって、所有権ではなくて物権的期待権のようなものを念頭に置いているということだったと思うのですけれども、そうだとすると、その物権的期待権のようなものを譲渡することはできないということが、資料中の説明にあるように、留保所有権について目的物の所有権が代金完済まで売主に留保され、代金完済の時点で買主に移転するという理解を前提としたときに、そのことだけでなぜ当然にそうなるのかというのが、余りよく分からない気がしました。所有権が移転できない、所有権を譲渡できないとか、所有権を担保のために譲渡することができないとか、それはいえると思うのですけれども、物権的期待権について処分できないというのは当然には出てこない話のような気がしまして、どうしてなのだろうというのが1点目です。   2点目は、先ほど井上委員がおっしゃったこととつながるのですが、資料中の説明に「留保売主等の承諾を得なければ」と書いてありますので、留保売主等の承諾を得れば物権的期待権を譲渡することはできる、また、物権的期待権を担保の目的で譲渡することもできるということのようですが、そうだとすると、物権的期待権の譲渡担保の設定を受けた人は清算金への物上代位ができると考えていいのでしょうか。5に関しては、留保所有権に基づく物上代位として、その清算金への物上代位を規律しないということだったと思うのですけれども、物権的期待権の上に留保売主の承諾を得て成立している譲渡担保権に基づく、その清算金への物上代位、つまり所有権留保の方の清算金へ、物権的期待権上の言わば後順位担保権者の物上代位というのはあり得るのか。あり得るのではないかという気がしたのですけれども、少し確認したいと思いました。   また、こういうふうに考えていくと、他の担保権との競合が生じないといっていますけれども、目的となる権利を異にした状態での競合というのはあり得るような気がしまして、つまり、所有権は買主に移転しているけれども、物権的期待権について何かほかの人、第三者みたいなものが現れるということは、それはあり得るような気がしまして、競合が起こらないというのは、所有権レベルの競合が起こらないということに限られているのではないかというふうな気もしました。そういう理解もあり得るのではないかと思いました。   最後のは意見ですけれども、その前の質問についてお答えいただければ幸いです。 ○道垣内部会長 それは構成に大きく関係していますので、もう少し議論が進んでから、阿部さんの質問に対する話は事務局に伺いたいと思いますが、沖野さんから手が挙がっていますので、沖野さん、お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。ただ、阿部幹事が言ってくださったことと非常に共通していると今思ったのですけれども、その競合が起こらないということの意味と、それから、具体的な帰結として問題はないというお話ですが、井上委員の御指摘によって、一般的に言わば後順位になるというか、別途担保権は付けられないのだと、あるいは、4ページの3は処分権限と書いてあるけれども、本文は譲渡だけが取り上げられていて、これについては担保設定は想定されていないのだという御回答だったと思うのですけれども、その部分は本当にそうなのかということでして、かつ、それが適正な制度設計といえるのだろうかというのが、やはり気にはなっているところです。   ですから、狭義の留保所有権が設定されていたというか、そういうのが留保されていたとしても、飽くまで担保目的を達成するのに必要な限度に制限されるのだということで、ほかのところは全部行っているのと、それから、所有権留保動産について有する権利が留保買主には何かあるという前提であるときに、その権利は譲渡による換金等はできるけれども、担保設定による換金ができないのはなぜなのだろうかと、また、仮に留保売主が実行を掛けたときに、それはもう剰余があれば買主に全面的に渡されて、したがって一般債権者しか行使できず、その間に優先的な権利、約定の権利は付けられないのだと、倒産になったら別除権になるのだけれども、第二の別除権者というのは登場できないのだというのが、それがなぜなのかというのがいまだ分からないのです。   それはできるとした上で、そのときに、言わば所有権は買主に移っているのだけれども第二が付いているのだという考え方をするのか、あるいは最優先のものが後から付いていくのだという考え方をするのか、それは、所有権は移っていないのだけれども一種の期待権を担保供与しているのだとか、だから物上代位はできるのだとか、そこは解釈に委ねるというのは、ここでもできるように思われるのです。そうであるのに、所有権は移っていないからということで、担保との競合は起こりませんといって今の可能性を全部排除してしまうということが唯一の選択なのか、なぜそう導かれるのか、ほかと同様に、別の帰結を採った上で解釈は委ねるということは十分あり得るのではないか、また、財産等の活用からすると、その余地を認める方が望ましく、今までむしろ認める方で検討してきたのではなかったかという感じがしているのです。   少し余計なことを言いますと、対抗要件については書けばいいということだったので、もうそれでいいと思ってはいるのですが、もう決着したことだからどうかと思うのですけれども、私自身は所有権留保も対抗要件が必要だとした上で、でも実際上は当然に取得されて、しかもそれが登記とつなげていけるというのは十分できるとは思っておるのですが、対抗要件を不要とするためにその構成しか採り得ないのだということであれば、対抗要件不要ということ自体を見直した方がいいのではないかと個人的には考えているのですが、そこはその必要がないと、書けばいいというだけで行けるということだったので、あえて言う必要はないとは思っているのですが、少しそういうことも考えておりますということです。 ○道垣内部会長 分かりました。阿部さんの御発言については後にしましょうと言ったのですが、沖野さんの方から、根本には結び付いている話であるという御指摘がありました。私はそれに関しても納得していないのですが、阿部さん、沖野さんの御意見につきまして、事務局からございましたら、お願いいたします。 ○笹井幹事 まず、私が先ほどもしかすると間違えたことを言ったかもしれません。4の3についてですけれども、最初、井上委員からの御質問に対して、留保売主の承諾を得た場合でも留保買主が担保権設定したりとか譲渡することはできないのかという御質問を頂きまして、それについて、4ページの第22の3を引用しながら、その目的物全体について処分をしたり譲渡担保権を設定することはできませんと、それは留保売主の承諾を得た場合でも同じですと申し上げ、この4の3というのは物権的期待権に対するものであると申し上げました。   そのときに、物権的期待権についても譲渡したり担保権の設定をすることができないと申し上げたかもしれませんが、ここでは、ゴシックにありますように、留保売主等の承諾を得なければという条件が付いているので、承諾を得ないで勝手に譲渡することはできないのだけれども、留保売主の承諾を得て、それを真正譲渡したり、あるいは譲渡担保権の設定をするということはできるということだというように訂正させていただければと思います。   そのときに申し上げたのは、真正譲渡については、事業上の必要性があって、いわゆる物権的期待権を誰かに真正譲渡する余地はあると思うのですが、譲渡担保についてのニーズというのは余りないのではないかということを申し上げたつもりです。   ただ、今の沖野委員からの御指摘もあって、それは実務上のニーズの有無の問題でもありますので、その可否を余り明確にする必要はなくて、解釈に委ねておくということはあり得るのではないかと思います。   ただ、その場合、物それ自体についての権利と、物権的期待権についての担保権とか譲渡とかというものが併存し、一つの物について所有権と物権的期待権を観念して、それについて更に担保が設定されているとかという、かなり複雑な状況になるので、最終的に解釈に委ねるということは、それについて特に異存はございませんけれども、かなり法律関係は複雑になりそうですし、恐らく譲渡担保についても同じように、いわゆる設定者留保権についての担保みたいなものを更に検討していくという、その解釈の幅というのも同じように残しておくということになるのかなと思いました。後ろの方は感想のようなものです。   阿部幹事からの御指摘で、確かにそもそも所有権留保において所有権が移転していないということを前提にした場合に、物権的期待権についての譲渡というものができないというのは論理必然ではないのではないかという御指摘だったかと思います。ここはおっしゃるとおりで、そこは論理必然ではないと思います。ですので、ここはむしろ政策的なそういうニーズがあるのかとか、あるいは当事者の意識として所有権留保特約付きで買ったものについて、真正譲渡をしたりとか譲渡担保権を設定したりすることができるという意識の下で、そういうことを認めていく必要があるのかどうかという政策的な判断になってくるのかなと思います。   また、そこでは先ほど申し上げたこととも関わりますけれども、その物権的な期待権を目的とする譲渡担保権とか、その担保権の設定というものができるということになりますと、所有権本体についての帰属とか担保権の設定というものに加えて、その一部、部分的な権利といいますか、物権的な期待権についての法律関係というものが並存するということになりますので、もちろん解決できない問題ではないかと思いますけれども、そこまで複雑にする必要が実際にあるのかというのが、3でこのような提案をした理由です。   阿部幹事から御指摘いただいた2点目は、先ほどもお答えしたとおりかもしれませんが、物上代位の可否というのは、もちろん物権的な期待権に対する担保権の設定の可否とも連動してきますので、そういうものができるということになった場合に、当然に清算金に対する物上代位になるのか、その辺りはよく考えてみないといけませんけれども、その点はもう解釈論として、承諾を得た上でということが条件になるのか、ならないのかという問題はありますけれども、担保権設定の可能性というものを認めるのであれば、物上代位についても、そこは解釈論としては出てくる問題なのかなと思います。 ○水津幹事 既にされた委員等からの発言と、また、おそらく部会長がおっしゃった趣旨と一部重なり、笹井幹事も回答されましたが、基本的な方針等について確認も兼ねてお伺いいたします。   譲渡担保については、所有権が譲渡担保権者に移ったかどうかという問題に関して、部会での審議では、私の意見はともかく、態度決定をしないとする基本的な方針を採ることとされました。他方で、単純な所有権留保については、所有権が留保売主のところから動いていないとする基本的な方針を採ることとされています。つまり、法的構成の問題について、単純な所有権留保については、譲渡担保とは異なる基本的な方針が採られています。ただ、先ほども議論になりましたが、なぜ単純な所有権留保についてのみ態度決定をしなければならないのかがやはり気になりました。競合の規律についての問題は、譲渡担保について設定者留保権説を採ったときであっても生ずるものと考えられます。譲渡担保については、法的構成を決定しないままで競合の規律を設けることができるのに対し、所有権留保については、法的構成を決定しないままでは競合の規律を設けることができないとする理由は、ないような気がいたします。   そのほか、譲渡担保の諸規律が準用されているところについて、所有権は留保売主のところから動いていないことを前提とするときに、所有権が譲渡担保権者に移ったかどうかについて態度決定をしないという前提で設けられている譲渡担保の諸規律を、御提案に示されている形で全て準用することができるのかどうか、慎重に検討されているとは思うものの、この段階での変更ですので、やや気になりました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   どうしますかね。所有権が移転していないというふうなことの可能性を否定しないときには、競合の条文は書けないのかな、技術的に。他人のものに担保権を設定したって、そんなものは効力が生じるわけはないではないかという話で、したがって、有効な担保権同士の競合の問題としてルール化するというのは難しいというのはよく分かるのだけれども、技術的に難しいかな。 ○沖野委員 買主に何の権利もないという立場を採るならば難しいと思うのですが、買主は権利があって、その権利が破産財団に属して、というようなところはベースとしてあるわけなので、競合の規定は、そこで何が起こっているかという解釈は置いたままでも十分書けるのではないかとは思いますし、それを直前の笹井幹事の御説明は否定するものではないのではないかと思いました。それから、権利関係が非常に複雑になる、そのためにその説明が譲渡担保にも跳ね返るというのはなぜかというと、所有権は移っていませんというところを明言するという前提からスタートしつつ、でも何らかの権利があるというから難しくなるのであって、そこを置いておけば、別に譲渡担保に跳ねるということもないのではないかと思っているのですが、あるいは問題設定を取り間違えているのかもしれません。 ○道垣内部会長 今の沖野さんのお話というのは、所有権が買主に移っているということを前提にしている。 ○沖野委員 いや、そこは置いておくこともできるのではないかと。 ○道垣内部会長 置いておいて。 ○沖野委員 何が起こっているかは解釈に委ねるのだけれども、完全に当該目的物の被担保債権となる代金等が完済される前であっても、何らかの優先的な地位というものを、その客体なり目的が何であるかということは解釈の余地があるけれども、例えば、在庫を全体として譲渡担保に取っている譲渡担保権者が一般債権者よりも優先的な地位を用いるということはあり得る、それは競合しているということではないのだろうかという、それを明らかにすることはできる、あるいはそれを前提とした条文を書くことはできるのではないだろうかと思っているのですけれども。   私は個人的には譲渡担保ももう、移転しないというか、買主が持っていて、担保であるという方が、そもそものこの契約構成よりも担保権構成の方がいいと思っていますけれども、それはもう決着したことなので、何が起こっているかはともかく、契約の効力として書いていくのだということの下でもできるのではないかと思っているのですが、何か誤解があるでしょうか。 ○道垣内部会長 これは、所有権が完全に売主に残っていると考えたときに、その目的物が集合動産譲渡担保の特定動産、特定範囲動産、分からないけれども、その範囲に運び込まれて、一般的には清算金なんて生じないのだけれども、清算金等が生じる可能性があるという状態になったときには、これはどうなるのかね。 ○笹井幹事 競合しないということだとすると、多分その清算金は買主の方に帰属するということになって、その是非は、議論はあり得るところだと思いますけれども、平成30年判決はそういう帰結になるのではないかと思っておりました。   ただ、少しそれは別として、沖野委員あるいはほかの委員のお考えとしては、むしろどういうふうな物権変動が生じているかというのは解釈なりに委ねるとして、規定としては、内容的には譲渡担保について提案されているのと同じようなルールを設けることがよいのではないかと、そういうふうに理解してよろしいでしょうか。 ○沖野委員 よろしいでしょうか。私自身はそのように考えており、そこから構成されるのは結局、優先権ある担保権ですねという構成も十分あり得るような形で構成するのができるのではないかと、また望ましいのではないか、今の場面において、特定範囲に入った動産について、もう8割方売買代金が払われたところで実行が掛かったとか倒産になったとかいうときには、買主の一般債権者に行くのではなくて、優先的な地位が行使できるという状態のルールの方が望ましいのではないかとは思っています。 ○笹井幹事 その辺に特に異存のある先生方とかがいらっしゃれば、御発言いただければと思いますけれども。 ○道垣内部会長 全体として、後順位の話というのは、譲渡担保について後順位譲渡担保権の設定を認めたのだと、平成18年の判決で言われるわけだけれども、調査官解説に、あれは、後順位の譲渡担保権者というのは、実は目的物そのものではなくて、設定者留保権を取っていると考えることができるのではないか、みたいな解説があるわけで、今回は多分この立法は、順位付けをきちんとしようという話になっているから、多分そういう考え方ではなくて、同じ目的物について順位が出ているということなのだろうと思うのですね。しかるに、所有権留保目的物について他の担保権が設定されるなどしたときに、そもそもこれは何について設定されたのかという話が多分あって、先ほど3は何を処分しているのという話があったときに、物権的期待権ですという話がありましたが、私はそうだとは全然読んでいなくて、目的物そのもの話だと思っていたのですね。まさか物権的期待権を処分しますなんていう契約をするのは尋常ではないと思います。そうなると、本当は物そのものを取ろうとしたのだけれども、即時取得の要件を満たさないのだけれども、物権的期待権部分については有効に処分が成立しているのではないか、みたいな話になるのか、それとも、それは物全体を取ったのだから有効に成立しないときには何も来ないのですよという話なのか、その辺を全部細かく考えていかないと、本当はよく分からないよね。   笹井さんの問題提起を私が勝手な話をして潰してしまったのですが、片山さんから話を伺う前に、今、笹井さんが出された事例、つまり所有権留保目的物が集合動産譲渡担保の範囲に搬入された。 ○笹井幹事 はい、それは先生が。 ○道垣内部会長 例は私が出したのだけれども、それをそのまま受け取ってくださっているのかを今確認しながら、所有権留保目的物が集合動産譲渡担保の範囲に搬入されたと、しかし8割方払われていて、担保価値は一定程度ありますとか、あるいはまた設定時はいつかという問題も多分あるのだろうと思うのだけれども、そのことについて集合動産譲渡担保権者が、8割方払われているものについては、それはやはり自分の取った範囲内に入ってきたのだから、優先権を持っておかしくないのではないのと皆さんがお考えになるか、それとも、やはりそこはもう所有権留保目的物については物権的に完全に売主に帰属しているのだから、ごちゃごちゃした法律関係を起こさない方がいいとお考えになるか、その辺りについての少し分布を伺っておきたいと思うのです。そうしないと多分、笹井さんも次に困ると思うのですが。 ○沖野委員 すみません、分布を伺う際に、その場合の所有権留保の取引がどういうものかについて、単体で工場機械が入ってくるという場合と、在庫がどんどん入ってくると、売主は所有権留保の約定を付けていると、どんどん入ってお金を払われてというような場面と、いずれのタイプを念頭に置くのか、あるいは両方を念頭に置くのかとかいうことによっても少しイメージは違ってくるかと思いますので、今回の御提案はそれは両方含めて同じ規律だということですから、その両方の場面を含めて、そういうことでいいかということを御検討いただいた方がいいのではないかと思います。 ○道垣内部会長 そうですね。機械に関していえば、今度は個別動産譲渡担保との関係でもそういうのが起こってきて、所有権留保売買がされている工作機械について譲渡担保権が設定されて、かつ即時取得がされないというふうな場合を考えたときに、いや、しかしそれは譲渡担保の設定を受けた人はそれなりの優先権は得るというふうな法制度にすべきだと考えるか、それとも、ごちゃごちゃするから、もう所有権留保なら所有権留保の勝ちなのだと、また、めったに清算金なんて生じないのだから、もうそれでいいではないかと考えるか、その辺りはいかがでしょうか。こういうときは阪口さんでしょうね。 ○阪口幹事 すみません、阪口です。所有権留保の対象として個別動産としての機械を考えた場合に、中古価値が下がりいくい機械というものはありますので、残債がどんどん減っていったときに、残債は残っているが、それを上回る中古品としての価値はあるから担保余剰を利用したいというニーズは一定程度あると思います。したがって、担保設定できる制度はあった方がいい。   ただ、私は部会資料37―3の4ページの3を読んだときに、できるかできないかは留保売主の承諾の有無で決まるという意味だろうと思いました。つまり、残債以上の価値がある中古機械の場合でも、留保売主が駄目と言えば後順位的担保設定はできないし、他方、売主がいいよと言えばできるということが提案されていると思っていたのです。ただ、今日のお話で若干混乱していますけれども。   だから、先ほどの例で集合物の場合でも同じで、集合物の場合は転売授権がされていることが普通であり、それは譲渡担保設定の承諾も含むと考える余地もあるから、そうであれば結局、承諾の有無で結論が決まって、承諾があれば対象が個別動産であろうと集合物であろうと担保設定できる、留保売主の承諾がなければ何もできませんという結果になるのかなと思っていました。 ○道垣内部会長 承諾があったときには、競合するのですね。 ○阪口幹事 そこから正に法律構成の話になると思います。その状態は、実態でいうと競合しているのですけれども、AからB、BからCという転得的なイメージで考えて、法的には競合ではないという説明もあり得ると思うのです。説明としてはどちらもある。実態面でいうと両方が担保権を持っている状態になっており、生の事実でいうと競合ですが、法的な意味での対抗関係になっているかと言われると、なっているという説明もあり得るし、なっていないという説明もあり得るということかなと思っています。 ○道垣内部会長 阪口さんに無理やりに当ててしまいましたが、それ以前から片山さんから手が挙がっておりまして、片山さんにお願いをしておりませんので、片山さん、何かありましたらお願いします。 ○片山委員 慶應大学の片山です。どの話をどうすればいいのかもうすっかり分からなくなっていますが、私がそのときに申し上げようとしたことは、一番最初に私が申し上げたことと変わらないのかもしれません。恐らく所有権が一度も移転していないからということを前提に21の1から5も書かれておりますし、22の3も恐らくその趣旨で書かれているのだと思います。ただ、それは解説、説明があるからそう初めて読めるのであって、本文だけから直ちにそのことが読めないのではないかという点です。そうしますと、やはりきちんと結論をどうするかということを本文で書き込んでいかないと、今でも解釈論としては分かれるところですから、本文だけから直ちに、所有権は一度も移転していませんということを前提に解釈運用すべしということは難しいのではないかと思うのです。他方、22の1では、所有権留保も優先弁済権を本体とするという書き方をしていますから、やっぱり担保権なのですねという解釈運用は今後も出てくると思うのです。その意味で、いずれの構成を採るかにかかわらず、やはり優先関係ということもきちんと書いて、全てを明記していく必要があるのではないかと思います。   そのときに確か道垣内先生が、所有権の移転が一度も生じていないという前提でも優劣関係を書けないのですかとおっしゃっていましたが、私も22の1で優先弁済権と書いている限りにおいては、優劣関係も十分に書けるのだとは思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大西委員 4ページの22の3についてですが、いわゆる集合動産譲渡担保の場合、物が搬入されて、それに対する代金の支払時期が一月後若しくは二月後というのが通常であり、そういう運転資金の確保等のために譲渡担保権の設定がなされるということが一般的にあるかと思います。しかしながら、この場合に、22の3のように留保売主の承諾を得ないと設定できないということになると、そもそもこの集合物譲渡担保自体が利用される場合が少なくなるのではないかと思います。そういう意味で、留保売主の承諾は不要とすべきであり、所有権が留保売主に帰属するとしているとしても、買主が有する物権的期待権について担保設定がされて、代金が払われればそれは完全な所有権になるというような構成で取引のサイクルが回ると考えないと、実務上はワークしないのではないかと思っております。私も間違った解釈をしているかもしれませんが、発言は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。恐らく事務局のお考えとしては、承諾が得られていないときには集合動産譲渡担保の特定範囲に入っても何らの効果も生じないと、そこに全くの第三者所有物が入ってきたのと同じであると、そういうふうな効果しか生じないと考えているのではないかと、承諾をしたときに初めてそこで、それについても担保が設定されるというふうな効果が生じると考えているのではないかと思うのですが、そういう感じでしょうか。 ○笹井幹事 そのとおりです。 ○道垣内部会長 そうですよね。 ○大西委員 そうだとすると、債権者が譲渡担保権の設定を受ける時に、この留保売主の承諾がそれほど簡単に取れるのかという論点があるのではないでしょうか。こういう譲渡担保権の設定がなされる場面は、どちらかというと会社が資金的に厳しい状況である場合が想定され、そのような場合に、留保売主が、代金の支払を受ける前に譲渡担保権の設定についての承諾を行うような制度設計とした場合にワークするのかは、実務的に検証した方が良いと思います。 ○阿部幹事 私も留保売主等の承諾に関わる点で少し疑問がありまして、それは先ほど阪口幹事がおっしゃっていたことに関わるのですけれども、阪口幹事は、通常、所有権留保において転売授権はやっていて、そこに譲渡担保設定の承諾も含むのだと考える余地もあるのではないかというお話があったような気がするのですけれども、担保設定となってくると、少しやはり厳しいのかなという気もしました。実際、平成30年の最高裁判決の事案でも、正にその種の処分授権みたいなものがあったけれども、その処分授権は、集合物譲渡担保の設定には及ばない、飽くまでも売却してお金に換えるための権限にすぎない、というようなことだったと思います。あそこでは、所有権が移転しているということを否定するという文脈で、処分授権についての議論がされていたと思うのですけれども、その話からすると、通常まとまって所有権留保売買をするような場合に、転売できますという権限を与えているというだけで物権的期待権の担保化みたいなことまで正当化できるかというと、少し難しいのかなというような気はしました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。本当はこれはいろいろ、例のディーラー、サブディーラーとかいう問題があったりして、処分授権というのはどこまで認められているのか、即時取得のときには特殊な即時取得ではないかという議論があったり、いろいろありまして、そういうところまで書くか、それとも、それは処分授権の問題だから解釈論だよねとなるのか、まあ後者だろうという形で多分書かれているのだと思いますが、沖野さん、お願いします。 ○沖野委員 大西委員の御指摘は、そもそも担保設定に当たる処分については、単純な譲渡と同様に、売主等の承諾を得るという規律が適切なのかというと、そうではないのではないかという問題を御指摘になっているのではないかと思われたのですが、事務局はそうではないというお考えだということですけれども。 ○大西委員 大西ですが、すみません、私はもうすぐ出なくてはいけないので。 ○沖野委員 もし誤解でしたら、申し訳ないです。 ○大西委員 いや、そのとおりです。ですから、承諾を得なければならないという要件を削除すべきではないかと私は思っています。そういう趣旨で申し上げました。 ○沖野委員 ですので、そこも当然視する話ではないのではないかと思っております。 ○笹井幹事 そこは当然のことであるとは思っておりませんが、そういったものの流通の必要性がどこまであるのかということで、今の提案はこういうふうになっているということですが、今そうではないという御指摘もありましたので、それを踏まえてまた考える必要があるのかなと思います。 ○阪口幹事 所有権留保の対象として個別動産としての機械を考えたときに、常に譲渡担保の設定ができるというのは、違和感はあります。留保売主の承諾もないまま、売主に分からないうちに譲渡担保なり質権設定なりできるのかということです。先ほど沖野先生がおっしゃったように、個別からスタートするのか集合からスタートするのかでイメージが大分違うのかも分かりませんけれども、個別機械で、留保売主も駄目と言っているときに、まだ代金完済していない段階で留保売主が自由に担保設定できますと言われたら、これはこれで違和感があるというのが私の感覚です。 ○道垣内部会長 ほかに、もうごちゃごちゃするから、事務局のように所有権は売主にあるということでいいではないか、というふうな方はいらっしゃいませんか。 ○青木(則)幹事 すみません、私は実はそのように考えていたところです。同じ所有権担保でも、集合物についてはそのような規範は望ましくないのですが、それは狭義の所有権担保ではないということで譲渡担保とほぼ同じ扱いにするという御提案が出されてきたように思います。また、それに関連して牽連性があるものについては後発のものであっても優先するというルールを加えるという御提案もあったところで、集合物についてはそちらと併せてやっていくということになり、個別動産についてはそれらと区別し売主に所有権があるという考え方を残すことになるのかなと思っておりました。それはそれで一つの魅力的な制度になるのかなと思っていたところです。ただ、今日の御議論にありましたように、理論的に考えた場合に個別と集合とで所有権留保の理論が違うということをどうやって説明するのか難しいという点は誠にごもっともであり、理論的には弱いのかなと思います。   ただ、処遇としては、やはり狭義と広義で分けるという方向性でいいのではないかと思っております。また、狭義にあたる個別動産の所有権留保についても、本来であれば公示があった方がいいと個人的には思っておりますけれども、これまでの判例に照らしても個別動産であれば、それほど大きな支障がないのかなという意味で、公示の有無の結論という点でも、広義と狭義の区別が妥当な線ではないかと、個人的には思っております。 ○道垣内部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○日比野委員 すみません、分布をということだったので、担保権者の立場としましては、それはやはり、いわゆる集合であろうと個別であろうと後順位で設定ができるということが望ましいのかなと思います。   特に、現実的に、例えば高額の工作機械みたいなものを念頭に置いたときに、それなりに担保余力があるというケースはどこかの時点で考えられるわけでして、そうすると、債務者、設定者としては、保有資産を活用して資金調達の余力が生まれるということになろうかと思います。それが原理的にできないと考えるのか、留保売主の承諾を得ればできるというふうになるかはともかくとして、いずれにしてもその余剰価値を使うことができないというのは、設定者にとってもよいことではないと思いますので、そのような観点からも、後順位設定はできるという考え方の方が望ましいかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに何か御意見はございませんでしょうか。   青木さんからの意見はありましたが、部会全体の方向としては根本的に変えようという方向かとも思いますが、勘弁してくれとかいう意見はありませんか。心の底にはあるとか。 ○笹井幹事 私の考えだけで決まるわけではありませんので、少しいろいろと考えたいと思います。 ○道垣内部会長 やはりこれは、個々具体的なことについての細かな議論をすることも大切なのですが、全体の方向性としてどういうふうに書き直せば皆さんの言っているようなことをすくい上げることができるのかという問題がございますので、少し事務局の方に御検討いただきまして、もう一度検討させていただくということにせざるを得ないかなと思っておりますが、いかがでしょうか。その過程におきまして、こういった場合も、こういった場合もというふうなことがございましたら、是非事務局にメールなり何なりで御教示いただければと思いますが、差し当たって今日はこの辺りで留めざるを得ないかなと思いますが、いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。それでは、この辺りで休憩を一度取らせていただければと思います。15分間休憩ですが、中途半端ですので13分間休憩ということで、15時40分まで休憩させていただければと思います。           (休     憩) ○道垣内部会長 それでは、15時40分になりまして、時刻になりましたので、審議を再開したいと思います。   部会資料39に移りますが、資料の説明に入る前に笹井幹事及び若原幹事から御説明があると伺っておりますので、順に御発言をお願いいたします。 ○笹井幹事 それでは、前半部分におきまして要綱案のたたき台について御議論いただいたところですけれども、部会資料39でお示ししておりますように、事業成長担保権についての論点について御議論いただければと思っております。   この事業成長担保権は、金融庁において事業全体に対する担保制度として検討されてきたものですけれども、法制審においてもこの部会で中間試案前まで、事業全体に対する担保制度を検討し、御議論いただいてきたところです。また、金融審議会においてもこの事業成長担保権が検討されるという形で、事業全体に対する担保制度として並行して検討が進められてきたところです。しかし、二つ同じようなものを作るという必要もありませんので、どのような扱いにするかということを政府部内で調整してきたところですけれども、今般その調整が進みまして、金融庁において事業成長担保権に関する立案を含め、事業性に着目した融資の推進に関する政策パッケージを推し進めていくということになりました。その概要につきましてはこの後、金融庁の若原幹事から御説明があると伺っております。   これを踏まえまして今後、金融審議会における議論の結果に基づいて、法案全体としては金融庁が中心になって検討を進めていくということになりますけれども、法務省も民事基本法制を所管するという立場から、これに協力して事業成長担保権に関する立案を共同して進めていくという予定になっております。そのベースとなる金融審議会の報告は既にまとめられておりますけれども、法制審でも従前、事業担保権について御議論いただいていたということですとか、また、事業成長担保権の内容が民事基本法制に関わるということから、今回、この部会におきましても、現在検討が進められております事業成長担保権の内容を議題といたしまして、委員等の皆様の御知見を賜った上で、頂いた御指摘を踏まえて金融庁と共に立案を進めていきたいと考えております。   この議論の件について、法務省からの説明は以上でございます。 ○若原幹事 金融庁の若原です。今、金融庁の方から説明というふうに笹井幹事の方から触れていただいた点につきまして、私の方からお話をさせていただきたいと存じます。金融庁の方からお出しいたしました資料42-1と42-2、こちらの二つを使いながらのお話です。   まず、金融庁における議論の経緯ですけれども、これまで御紹介しておりますので、なるべく簡単におさらいします。元々金融庁の方では監督局という実際に金融機関の監督をやっているところに設置された研究会の方で、新しい融資実務の在るべき姿というようなものの勉強をしようということで、この事業全体を担保とする制度につきまして検討を始め、その後、金融審議会で制度化に向けた議論をさせていただきました。その金融審議会の事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループで御議論いただき、その報告書がお手元の42-1ということでございます。   簡単にその概要を3点ほど主要なものを御紹介いたします。まず、事業全体を担保の目的物とするということで、これまで必ずしも財産的な評価をきちんとした上で担保に供するといったようなことがなされてこなかった知的財産や無形資産、さらには将来のキャッシュフロー、こういったようなものを含み、これまで、例えば不動産などの担保に供するような有形資産に乏しい企業への融資、あるいは経営者の個人保証に頼らない形での新しい融資を進めていこうということで、様々な御議論を頂いたところでございます。   2点目でございますけれども、我々のいうところの事業成長担保権につきましては、信託会社との信託契約によって設定ができるというスキームとさせていただいたところです。こちらは、やはり通常の担保と非常に違いまして、先ほど申し上げましたような評価の難しさ、さらにはそれの換価の難しさ等々に鑑みますと、そういった適切な知識、経験、業務を執行できるような信託会社が関与することで、担保権者がどのような方であれ、あるいは債務者がどのような方であれ、円滑にこの担保権の活用をしていけるのではないかということでございます。他方で、新しい業を作るということで、非常に規制コストが高い形で運営していくということですと、それはそれで本意ではございませんので、新しい免許を創設するなど、業規制の在り方についても御提言を頂いたところでございます。   最後、3点目ですけれども、実行手続に関してです。こちらは担保法制部会の方でも、裁判外の実行手続については様々御意見を頂いたところですけれども、そういったものも踏まえまして、飽くまで裁判所により選任された管財人の下で実施するということです。裁判外のものにつきましては見送るというような形で報告をまとめさせていただきました。   また、労働者保護の観点も特に重点的に御議論を頂いたところです。労働債権を優先的に随時弁済する法制度の枠組みを設けることですとか、事業の承継先や条件の決定に当たっては、裁判所が労働組合の意見聴取を行うこと等が報告書では提言をされているところです。   以上が本年2月の報告書の概要ということでございます。   さらに、先般12月1日に、事業性に着目した融資の推進に関する業務の基本方針が閣議決定されましたので、御紹介します。こちらが資料42-2です。   この基本方針の閣議決定ですけれども、その冒頭の部分に、こういった事業性に着目した融資の推進というものを図るために、金融庁において、事業性に着目した融資の推進に関する企画及び立案並びに総合調整を行うということがうたわれておりまして、これまでの前例等に鑑みまして、こういった各省庁が政府全体の複数の施策をパッケージ化して推進するときには閣議決定をして行うというのが前例になっておりますので、こちらにつきましてもこういった閣議決定が行われたところです。   こちらは事業成長担保の方が非常に大きな柱となっておりますけれども、パッケージということで、その他に新たに、実際に融資実務が従来の融資慣行から脱して、こういった新しい担保権の活用等々によって望ましい方向に向かうべく、4本の柱で構成されるところです。   事業成長担保権の創設に加えまして、そういった融資の推進に向けた政府の基本方針を作成すること、続いて、金融庁を中心に司令塔機能を強化する、この司令塔機能の下で、例えば担保権につきましては、関係省庁として法務省が民事法制の観点から私どもと様々御議論させていただくということですし、その他、金融機関を所管している他省庁ですとか、そういったところが関与していくということです。そして、最後に、新しい担保権を創設するということで、何分これまでのノウハウ等々がない状況でございますので、この担保の活用を推進していくために、事業者や金融機関にノウハウ提供や周知等の支援を行う支援機関の認定制度を整備するということです。   最後になりますけれども、この事業成長担保権につきましては、現行制度では資金調達のニーズが満たされていない事業者にとって新しい選択肢となる必要があると考えておるところです。そのため、現実にそれが選択肢となり、さらには利用される制度ということで、我々も設計をきちんとしていかなければと考えているところでして、使い勝手のよさですとか、ほかの制度との法制的な整合性にも留意しながら、制度の周知や浸透に取り組んでいく必要があると考えている次第です。   金融庁といたしましては、法制審の委員の皆様にも御議論いただき、法務省と連携をしながら法制化に向けて取り組んでまいりたいということですので、本日は御議論のほど何とぞよろしく申し上げます。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。今お話がございましたように、金融庁の金融審議会の方でいろいろな御議論があり、さらにはこういうものが閣議決定されているわけでございますけれども、やはり、一方で行われている動産債権担保法制というものと内部的な矛盾があるというふうなことになりますと問題がありますし、仮に制度が異なるということになりますと、それは何によって正当化されるのかというのをやはりきちんと議論しておくということが必要になると思います。それ以外にももちろん、どのような制度が妥当かという問題もあろうかと思いますので、いろいろ御議論いただければと思います。   それでは、部会資料39の「第1 事業成長担保権の設定及び効力」のうち、「前提 基本的な枠組みについて」から「3 特定被担保債権の極度額」までについて、議論を行いたいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○大野関係官 第1の「前提 基本的な枠組みについて」では、金融審議会のワーキング・グループの報告において提言されている制度の基本的な枠組みを説明しております。   本文(1)では、事業成長担保権の設定は、設定者を委託者とし事業成長担保権者を受託者とする信託契約によるものとし、本文(2)では、2種類の被担保債権者をその受益者として指定することとしています。一つ目の特定被担保債権者は、いわゆる与信者を指し、基本的に既存の担保権の被担保債権者と同様の扱いとすることが想定されています。二つ目の不特定被担保債権者は、一般債権者等を指し、具体的には、清算開始事由に該当し、又は破産手続開始の決定を受けた設定者に対する財産上の請求権であって、事業成長担保権の実行手続終結以後に存するものを有する者としています。   その上で、本文(3)のとおり、事業成長担保権が実行された場合には、不特定被担保債権者のために、配当金の一定割合に相当する額を取り置き、設定者の清算手続又は破産手続における配当原資とすること、いわゆるカーブアウトの仕組みを設けることとしています。このような信託の仕組みは、被担保債権の流動性の確保、債務者の理解の確保及び一般債権者の保護の三つの観点から設けられたもので、その詳細については部会資料に記載したとおりです。   このような基本的な枠組みを前提として、本部会では、事業成長担保権者及び設定者の権利義務、他の担保権との優先劣後関係、実行方法などの民事基本法制に関わる部分について御議論いただきたく存じます。   続きまして、「1 事業成長担保権の対象及び設定者の範囲」では、事業成長担保権の目的を設定者の「総財産」とすることとしています。その上で、事業成長担保権においては、担保権設定後にとどまらず、その実行手続開始から実行手続が終了するまで事業活動が継続し、それまでに会社の総財産に含まれるものがその担保目的財産に含まれることを示す趣旨で、「将来において会社の財産に属するものを含む。」ことを明記しています。また、設定者の範囲を会社法上の会社とすることとしています。これは、個人による事業成長担保権の設定を認めると、担保権の目的となる事業のために用いる財産と、それ以外の私生活のための財産とを区別することが困難であることや、公示制度の観点、喫緊のニーズの高さなどを考慮して、まずは営利を目的とする法人であって、商業登記簿において公示される者を対象としたものです。   続きまして、「2 特定被担保債権の定め方」の本文(1)では、根抵当権に関する民法第398条の2を参考に、事業成長担保権は一定の範囲に属する不特定の債権を特定被担保債権とし、根担保権として設定することができるとするものです。本文(2)では、特定被担保債権が譲渡等によって移転した場合、原則として新しい債権者が受益者となることとしています。これは、根抵当権に関する民法第398条の7第1項とは異なる立場を採るものですが、被担保債権の流動性を高め、それによって信用の増進につなげることを目的とするものです。   続きまして、「3 特定被担保債権の極度額」の本文(1)では、事業成長担保権の場合、極度額の設定を必要とする趣旨が必ずしも妥当しないことから、その設定を不要としています。他方、事業成長担保権の設定後に、後順位の事業成長担保権を設定して追加的な資金調達を図るというニーズもあり得ることから、本文(2)では、設定者の一方的な意思表示によって極度額を定めることができることとしています。もっとも、本文(3)では、特定被担保債権者の利益を保護する観点から、本文(2)の下限額を定めており、具体的には、現に存する債務や特定被担保債権者が融資義務を負う契約がある場合には、その融資義務の上限額等の合計額を極度額の下限とすることを定めるものです。本文(4)は、設定した極度額の変更・廃止が可能であること、その際には利害関係者の承諾を得なければならないものとしています。これは、根抵当権の極度額の変更に関する民法第398条の5を参照したものです。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   それでは、ここまでの点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。 ○片山委員 慶應大学の片山でございます。どうもありがとうございます。そもそも事業成長担保権あるいは事業担保権の対象が何かという話で、4ページの第1の1のところで、その前の最初の前提のところにも書いてはいる点ですけれども、会社の総財産を担保とするということで、アセットを担保目的とするという形にはなっているのですが、事業担保権に関する議論は、これまで恐らく、総財産を担保とする包括担保すなわちあくまでもアセット担保なのか、それともそうではなくして事業を担保目的とする事業担保なのか、という議論がなされてきたところです。その点からは、ここであえて総財産を目的とするという形で規律しているわけですが、そうするよりも、むしろ事業自体を目的とするという形で、担保目的を設定する方がいいのではないかとは思っております。   それは一つには今回、信託構成で受益者の一人に一般債権者、労働債権者等を加えるという形でカーブアウトを正当化しているということは、非常に卓越した点だと思いますが、他方、総財産を担保としつつ、何でカーブアウトが認められるのかという点の正当化というのは十分できていないということはあるかと思います。それから、実行自体も、第一には事業譲渡による実行を念頭に置かれているということであるならば、そこで総財産を担保としているというよりも、むしろ事業を担保としてということの方が直裁的であるかとも思われるところではございます。   さらに、少し先になりますけれども、16ページの第2の2のところでは、実行の段階で管財人がどういう権限があるのかということを書いておりますけれども、そこで単なる目的財産の管理処分だけではなくて、事業の経営まで管財人ができるということになると、これは単に目的をアセットレベルでは把握していないということはそこに表れているということになろうかと思います。   さらに、事業成長担保権の効力とか内容に関する定義規定が置かれていないのですが、譲渡担保とか所有権留保とか、これまで法制審で議論してきた担保に関しましてな明確にされていたわけですが、事業成長担保権に関してはがそれが明らかにされていないという点を見ても、やはり今回の事業成長担保権自体の把握しているのは総財産の交換価値というよりも、むしろ事業自体の事業継続価値ということになるのではないかと思います。   そういった諸点を念頭に置くと、事業担保権の目的が何かというときに、アセットレベルで総財産というよりも、むしろ事業というものが目的であると、あえて言うならば事業継続価値、ゴーイングコンサーンバリューを目的としている担保であると直裁に規定する書きぶりの方が、より制度目的に適合的であるし、わざわざ事業担保ではなくて事業成長担保という形で成長まで付けているところを考えますと、そちらの方が、いかにも新基軸という意味で現代的であり、かつ、事業成長担保権の目的により適合したような新しい担保概念をそこで表すことができるかとも思います。その点からも総財産ということではなくして事業ということを担保目的にするという、そういう方向での検討もやっていただければとは思った次第ですが、その辺りのこれまでの議論がどうだったのかというようなところも御説明を頂ければと思います。   長くなりましたけれども、よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。お答えいただく前に、片山さんのお話として、総財産というのを事業にすることによって、具体的にどういうふうなメリットというか違いが出てくるとお考えでしょうか。 ○片山委員 恐らく具体的な違いはないのだと思います。総財産ということで規定をしたとしても、事業と規定したとしても、そこから先の規律自体が大きく変わるものではないと思ってはおります。ただ、既に先ほど指摘した点からしますと、何で総財産を目的としている担保にもかかわらず、事業譲渡による実行が優先して個別の財産の実行が制約さえるのかという点、カーブアウトがなぜ義務づけられるのかという点、さらに管財人が選ばれたときに事業の経営までできるのだという点など、事業が担保目的だからという説明によって、より分かり易い説明が可能となるかとは考えています。 ○道垣内部会長 なるほど。お答えいただいてもいいのですが、少し明らかにするために、企業担保法における企業担保権の実行において、確かこれは運営ができるのですよね、運営というか。 ○笹井幹事 そうですね、そこは条文上はそこまで明確ではなかったかと思いますけれども、様々な立案担当者による逐条解説とかそういったものでは、どこまでの範囲なのかは必ずしも明確ではないところもありますけれども、企業担保法も今、部会長からも御指摘がありましたように、基本的には事業を継続させながら、しかるべきタイミングで譲渡するという換価方法が原則的な換価方法として定められておりまして、その際にどうしてもタイムラグが生ずるものですから、例えば、その必要な範囲で原材料を仕入れるとか商品を販売するとか、そういったことは管財人の権限としてできるという記載が文献上はされているかと思います。 ○道垣内部会長 しかるに、企業担保法は1条で株式会社の総財産は、一体として企業担保権の目的とすることができるとされていますので、少なくとも現行法上は、総財産を担保にするという方法がアドミニストレーションを実行方法として行うという場合にも、採られているのだろうと思います。ただ、片山さんおっしゃったのは、より現代的な法制度を作るためには、そこで総財産というよりは事業といったらいいのではないのという問題を含んでおりましたので、私がそんな昭和30年代の法律を基に、ほら、ここにも財産と書いてあるではないかなんて言ったって、片山さんに対する反論には全然ならないので、何か総財産というのではなくて事業と端的に書くというふうな可能性というものが検討されたのか、あるいは、どういうふうにその点についてお考えなのかということについて、どなたに聞けばいいのかな、こういうのは。 ○笹井幹事 差し当たり私の理解を申し上げますと、恐らく制度趣旨としては、これは法制審の中でもずっと事業全体についての担保化の必要性とか、あるいはそういった手法が検討されてきたときに、ここでも議論がありましたように、それぞれの財産の集合体といいますか、財産の換価価値の合計額を担保化するというよりは、全体として事業に資するものとしてどれだけの収益力があるのかということに着目した担保制度であるという理解がされていたかと思います。   これは今、部会長からも御指摘があった企業担保法でも同じで、企業担保法においても、それぞれを切り売りしたそれぞれの財産についての換価価値ではなくて、事業としての価値を把握した担保制度だと理解されていて、そこと基本的には同じような理解になるのではないかと思います。そうだとすると、片山委員のただいまの御発言からすれば片山委員もそのように理解されているのだと思いますけれども、事業そのものに対する担保制度であるというふうな理解が実態としては正しいのではないかと思っております。   あとは、どういうふうにそれを表現していくかということで、企業担保法においては同じような趣旨で、担保の目的について総財産という文言が用いられているということなどを考慮する必要があると思います。あるいは、これが理由になるかどうか分かりませんけれども、元々、複数の事業を営んでいるときにその一部について設定することができるかというような議論もあった中で、管理部門などがAという事業に属するのか、Bという事業に属するのか、どちらか判断ができないということもありまして、事業成長担保権においても、事業ごとの設定ということはできないということを前提にして、会社単位で1個の担保権を設定することができるということになっておりますし、例えばこういうことも考えられるかもしれませんけれども、事業に役に立たない遊休資産が含まれている場合でも、これを含めて会社単位で1個の担保権が設定されるという制度設計になっておりますから、こういった実態というか、経済的に何を担保価値として把握しているかという観点から見れば、その事業についてということになろうかと思いますけれども、それを技術的にどういうふうに実現するかというと、会社単位で全体としての、その会社に属している財産を全体として、一体としてその担保の目的にしているのだということで、ここは総財産と表現されているというのが、ここでの趣旨であろうと思います。 ○大野関係官 形式的な補足にとどまりますが、最後に笹井幹事の方から御説明があった点と関連しまして、「事業」としたときに、事業の用に供しない財産が担保の目的に含まれるのかという点について、その解釈の疑義をできるだけなくすという趣旨でも、「総財産」ということを明記しているという点は挙げられるかなと思っております。ただ、制度趣旨の基本的な理解につきましては異論のないところでございます。 ○道垣内部会長 片山さん、よろしいでしょうか。 ○片山委員 関連してなのですけれども、最後に御説明のあった遊休資産の除外という話なのですが、これは両方考え方はあるのかとは思います。今回は、総財産という決め打ちで、いわゆる除外は一切認めなくて、常にある企業の、事業というよりも、むしろ企業の全ての財産という形で、除外を一切認めないという方向は定まっているということでしょうか。その点は再度確認をできればと思います。 ○笹井幹事 おっしゃるとおり、一定の財産を除外するという、そういった制度設計はされていないものと理解しております。 ○片山委員 分かりました。そうしますと、なかなか事業とは書きにくいということになりますかね。了解いたしました。 ○道垣内部会長 ほかにはいかがですか。 ○井上委員 ありがとうございます。井上です。私も片山委員と同じように、担保権者が把握するものは、のれんとか無形資産なども含む継続企業価値全体だと理解しているのですけれども、というか、それが正に望まれているところだと思うのですけれども、担保物権の目的としては、ここに提案されているとおり総財産と把握しても、それは両立し得ると考えております。   本文の括弧書きにあるように、将来加入物も含むというのが1点加わっておりますし、後で出てきますけれども、事業過程で逸出していくものが担保から次々と外れていくということも制度の中に組み込まれており、その意味では、総財産といっても、止まったものではなくて、動いている総財産ということであり、かつ、実行手続として、基本的に全てを一括して事業譲渡の形で処分するという手続が用意されていることによって、結果的に、担保権者が把握している価値は個別の財産の価値を積算したものではなく、動いている総財産、すなわち事業を一括して処分することにより得られる換価価値を把握している、だから、物権の目的としては総財産なのだけれども、把握している価値は継続企業価値という説明が一応成り立ち得ると考えておりまして、そうだとすれば、片山委員の御懸念との関係でも説明は可能なのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。信託法を作ったときに、事業の信託ができるかという話があって、そのときに、ある企業のある部門だけを切り離して信託財産にすることができるかというときに、別のものとの共通性が一切欠けている、複数の事業をやっているときに、別の事業に一切関係しない財産だけを集め得るのかとか、いろいろな意見が出て、別に現在の信託法がそれを外しているわけではないのですけれども、何となくは難しいなという感じは多分あったのだろうと思うのです。したがって、やはり明確性というふうなことからすると、事業という形で、例えば、もちろん包括事業という形でして、片山さんの、実際には総財産と同じにするという方法は十分あるのですが、特定事業というのは多分難しいのだろうなというのが、信託法の制定のときもそういう話ありまして、かもしれないと思います。すみません。   ほかに、いかがでしょうか。 ○青木(則)幹事 すみません、当たり前のことの確認の質問になってしまうかもしれませんが、1点お尋ねいたします。  事業の包括担保というような話を外国の本とかを見ていますと、アメリカ法をベースにしている議論を割とよく見掛けるように思うのですが、実はアメリカ法にはそういうふうな債務者の全ての財産を余さず包括的に取る担保制度は存在していなくて、要するに、集合動産譲渡担保、集合債権譲渡担保プラスアルファを取るというような、債務者の主要な財産併せてとる担保制度の効用を包括担保の議論として検討しているように思います。   そういう意味では、事業成長担保権でできることは、我が国でも、例えば倒産時の処遇とか固定化の議論みたいなものがありますので、アメリカ法と全く同じ制度ではないにしても、かなり近いことを、この事業担保権以外の集合動産譲渡担保や将来債権譲渡担保といった担保制度を組み合わせることによってできてしまうということになるのかなと思っておりますし、実はそちらの方が縛りが少ないような気もいたしております。というのは、事業成長権の御議論は、そういう包括担保の海外の議論などを非常によく研究されて、その上で問題点等を解消できるようなパッケージを作っていらっしゃるような気がしますので、パッケージという意味では優れたものかと思いますが、その分自由度は、むしろそれ以外の担保の組合せの方が高いように思います。   そうすると、実質同じようだからということで、例えば、集合動産譲渡担保等によって流動財産を組み合わせて取った担保取引について、事業成長担保権についての規制のようなものを準用あるいは類推するといったようなことは、それはないと考えてよろしいでしょうか。つまり、全く別の制度であるということでいいのかどうかという点について、当たり前のことなのかもしれませんけれども、確認ということで、お伺いできればと思います。 ○道垣内部会長 確認といったって、今ここで笹井さんがないと言っても、青木さんが、できた後に、類推適用されるべきであるという論文を書くのは自由なのですね。だから、あるないを今ここで確認するのはどういう意味があるのか分かりませんが、しかし、どういうふうに考えられているのかというのは聞いてみましょう。 ○笹井幹事 立案に当たっての意図という趣旨で御説明を致しますと、確かに事業成長担保権につきましては、後から出てくるカーブアウトでありますとか、様々な一般債権者の保護のためのルールが組み込まれておりまして、ただ、それが当然に集合動産譲渡担保とか集合債権譲渡担保に類推されるかというと、それはそうではないだろうと理解をしております。   ただ、もちろん今ここでも労働債権の保護という形で御議論いただいておりますように、一定の背景となるような考え方として、一般債権者の保護とのバランスを図るべきであるという共通の考え方があると思いますけれども、事業成長担保権に関する法制度がほかの分野に類推適用されるかというと、それはそういうことを意図しているわけではないと理解をしております。 ○道垣内部会長 ほかに、何かよろしいでしょうか。   この最初のところはこれからもずっと関係してくると思いますから、具体的な内容に入って、それで、もちろん極度額とかの問題は技術的な問題もありますので、あれかもしれませんけれども、4以降の手続的な要件に入っていっても極度額などの話はできると思いますので、少し先に進めさせていただければと思います。 ○井上委員 2と3にまだ行ってはいけないのかと思っていたのですが、2と3についてもよろしいですか。ごめんなさい。   2についてなのですけれども、この特定被担保債権というのは、今回の御提案は一定の範囲に属する不特定の債権及び特定の原因に基づいて継続して発生する債権などということですので、根抵当の規律を参考にされているのだろうと理解しています。そうすると、現在の根抵当に関する解釈上、そういった不特定の債権に加えて特定の債権を被担保債権として挙げることもできると考えられていますし、実際にそのような担保設定がなされていると思いますので、ここでも、不特定の債権に加えて、例えば特定の日付入りの契約に基づくシンジケートローン債権なども被担保債権にすることはできると考えておりますし、それはそれほど難しくない解釈だろうと思います。   ただ、そうすると、逆に言えば特定の債権だけを特定被担保債権とすることは認められないという提案だろうと理解しました。今、主として想定されているユースケースは、成長企業などの一般事業会社が事業資金を調達するケースですので、そういう者が根担保を設定することが想定されるのだろうと思うのですが、ほかのユースケースとして、例えばプロジェクトファイナンスとかLBOなども考えられてはいるのだろうと思います。そのうちプロジェクトファイナンスも、多くの場合、リボルビングファシリティー部分があるので、先ほどの解釈、すなわち不特定なものと特定のものがセットであればよいのであればカバーされるのですけれども、プロジェクトファイナンスの中には特定の債権のみ、すなわちタームローン債権だけを被担保債権にするものもあるにはあると思うので、特定被担保債権の定め方としては、そういった特定の債権も挙げられていると、そちらにも利用が広がるようには思います。今回の御提案は、それだと一般事業会社向けには逆に、広げすぎだという御判断かもしれず、その辺りをどのように考えればいいのかというのが、この2のところについての疑問というか、コメントです。   次の3の極度額についてですけれども、極度額の設定請求権が(2)で挙げられています。これは、非常に重要な設定者の権利だと思っておりまして、包括的な担保の設計においては、レンダーライアビリティーの問題を生じさせないようにするためにも、ボロワーのリファイナンスの自由とか、他のレンダーからの借入れの権利とかを実質的に確保する必要が是非ともあって、そういう観点からは、この権利は強行法的に保護されることを確認したいというのが1点目です。   そうだとした場合に、この極度額設定請求権をあらかじめローン契約などにおいてボロワーに放棄させることはできないわけですけれども、行使した場合に期限の利益喪失事由にすることは許されるのでしょうか。極度額の設定請求は特段、信用不安に関わる事由ではないのですから、事実上放棄させるのと同じような効果を持つという理由で効力が制約されることも十分考えられると思いますが、その辺りをどのように整理すべきなのか、これは専ら解釈に委ねるということなのか、それについてお尋ねしたいと思います。 ○笹井幹事 まず、1点目の、特定の債権のみを被担保債権としてこの事業成長担保権を設定することができるかということなのですけれども、これ自体も解釈に委ねられるということだろうと思っています。抵当権についても同じような問題はあって、特定の債権を被担保債権とする根抵当権の設定ができるかという問題が議論されているかと思いますけれども、その点についてと同じように、ここでは表現としてはこういう表現を採っておりますけれども、特定のみが許されるかどうかというのは解釈に委ねられるということかと理解をしております。 ○大野関係官 極度額設定請求に関して頂いた御質問ですけれども、まず、設定請求権につきましては、その趣旨から考えて強行法規と解されるものと考えております。他方で、それを失期事由にできるかという点につきましては、個別具体的な契約解釈等の問題になるかと思いますが、一般的な失期事由の効力の考え方を踏まえますと、債務者の信用低下を生じさせるような具体的な事実なのかどうかという点も、失期事由に該当するとレンダー側が主張できるかどうかを判断するに当たっては、考慮される事情になると考えているところでございます。   以上で御回答になっていますでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 第1で極度額をこの担保権では定めるということが必須ではないのですよということがあって、説明の1のところでそういうふうなことの説明、どうしてそうなのかということが書いてあるわけですが、そうであるならば、何で請求権があるのかなという感じしますね。実際問題、極度額を、というか、当該債権者が全部取ってしまうというのは、総財産よりも被担保債権額の方が大きいとか、それが一番極端な場合だけれども、それだけ貸しているならいいではないかという感じもしないではないし、レンダーズライアビリティーの問題で、取れるのだからってどんどん貸し付けて、乗っ取り的に全部取ってしまうというのは問題だというのは分からないではないけれども、それならば最初から極度額を付けさせればいいような気もするし、本当はよく分からない。すみません、雑談で申し訳ない。   ほかにはいかがですか。 ○井上委員 今の関連でよろしいですか。レンダーとボロワーの力関係にどの程度配慮するかという続きの話なので、少しここでコメントしたいのですけれども、金融審議会のワーキングでの議論のときには、債務者に元本確定請求権を強行法的に認める、認めないという議論があったと思うのですが、ごめんなさい、見落としかもしれないのですが、今回それについては特段触れられていないように思いますが、そこも債務者にある程度、対抗措置というか、特定のレンダーとの関係で、これ以上貸してくれない場合には関係を終わらせ、代わりの貸し手から借りる手段となり得る権利として、債務者に元本確定請求権を認める点については、どのように現時点で整理されているのでしょうか。 ○大野関係官 この資料では明示的にお示しはしていなかったところなのですけれども、元本確定請求権につきましては、根抵当と同じく、基本的にはどちら側からの主張も認める方向で検討しているところです。おっしゃるようなレンダーとボロワーの関係を終了させるという点でも必要な権利かなと思っておりますので、認める方向で検討を進めているところではございます。 ○道垣内部会長 ほかに御意見、御質問等はございますか。   先ほども申しましたように、全部が有機的に関係しておりますので、4以降に入りましても、今の極度額等の問題について御発言いただいても結構でございますので、説明に関しましては、第1の「4 事業成長担保権の設定に必要な手続的要件」から「7 事業成長担保権のその他の担保権との関係」について、説明をお願いします。 ○大野関係官 それでは、第1の「4 事業成長担保権の設定に必要な手続的要件」から「7 事業成長担保権とその他の担保権との関係」までについて御説明いたします。   「4 事業成長担保権の設定に必要な手続的要件」は、事業成長担保権を設定する場合に設定者に求められる手続的な要件についてです。本文では、各機関設計において重要な財産の処分の決定に必要となる機関決定を列記しております。ここでは、企業担保権を設定する場合や、個別財産への担保権設定が積み重なって、設定者の財産の多くに担保権が設定されている場合でも、現行法上、株主総会決議が必要とは解されていないこと、他方、重要な財産への担保権設定は、設定者が取締役会設置会社である場合には取締役会決議を要することとなること、さらには、迅速な資金調達の要請なども踏まえまして、設定者が取締役会設置会社の場合には、基本的に取締役会決議が必要となることとしております。   続きまして、「5 事業成長担保権の設定に伴う制約」は、事業成長担保権を取得した特定被担保債権者に及ぼすべき制約についてです。本文(1)は、特定被担保債権に係る債務について、個人保証契約等が締結されている場合に、その個人保証人の保証債務の履行請求を制限するものです。これは、事業成長担保制度に対する期待、すなわち経営者保証等に依存した融資慣行を是正し、事業そのものの価値に着目した支援や事業経営のモニタリングを促すという融資を実現するための政策的な規律です。   他方で、本文(2)は、設定者が事業や財産の状況を報告する義務に違反した場合等には、かかる契約上の権利行使を認めるものです。経営者による粉飾や使い込みなどの不正行為が行われると、与信者による事業経営のモニタリングに支障を及ぼすことから、これを抑止するため、特定被担保債権者に対して、一定の虚偽の報告を行ったことなどを条件に、契約上の権利行使を許容するものです。   本文(3)は、物上保証としての事業成長担保権の設定を禁止するものです。事業成長担保権においては、他人の債務を担保することを認めることは制度趣旨に反すると考えられることや、事業成長担保権の実行時には設定者の事業価値に重大な影響が生じるところ、他人の債務不履行という設定者の利害関係人において容易に知り得ない事情に係らしめることは、かかる利害関係人の予測可能性を阻害し、事業活動を困難にするおそれがあることを理由としています。   続きまして、「6 事業成長担保権の効力要件」は、設定者の商業登記簿への登記を事業成長担保権の効力要件とするものです。これは、企業担保法第4条第1項を参考としたものです。   続きまして、「7 事業成長担保権とその他の担保権との関係」についてです。本文(1)は、数個の事業成長担保権相互の順位は、その登記の前後によるものとしています。これは企業担保法第5条を参考としたものです。   本文(2)は、事業成長担保権と、同様に総財産を目的とする一般先取特権又は企業担保権とが競合する場合には、事業成長担保権が優先するものとしています。これは、事業成長担保権が他の約定担保権である抵当権や質権と同等の効力を有するものとする観点から、一般先取特権や企業担保権に優先するものです。   本文(3)は、事業成長担保権が動産を目的とする特別の先取特権と競合する場合、事業成長担保権者は、民法第330条第1項の規定による第1順位の先取特権と同一の権利を有するものとするものです。これは、事業成長担保権を動産質権や動産譲渡担保権と同様に扱い、動産質権者が第1順位の動産先取特権と同順位になることを規定する民法第334条と同様の規定を設けるものです。   本文(4)は、事業成長担保権が不動産を目的とする特別の先取特権と競合する場合の優先順位を定めるものですが、事業成長担保権を抵当権と同様に扱うことを定めるものです。   本文(5)は、事業成長担保権が質権、抵当権又は譲渡担保権・留保所有権と競合する場合には、対抗要件の先後によって決定することとするものです。これも、他の担保権との優劣については事業成長担保権を抵当権又は質権と同様に扱おうとするものです。   本文(6)は、設定者が他の担保権の目的である財産を取得した場合には、かかる他の担保権が事業成長担保権に優先することとしています。これは、事業成長担保権の負担のない財産について担保権の設定を受けた者は、その財産から最優先で弁済を受けられるとの期待を有しており、その財産が事業成長担保権設定者により取得されるという事後の事情により、その期待が害されるのは妥当ではないことを理由としています。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、どの点からでも結構でございますので、御議論いただければと思います。 ○阪口幹事 阪口です。第22回会議で事業担保を検討したときにも申し上げたことがありますけれども、特別決議の問題です。実行時に特別決議を要求できないというのは、実務的に考えたら、実際上そうしなければならないだろうと思います。ただ、事業成長担保権というものを実行する局面というのは、本当は余りないのだろうけれども、仮にあるとすれば、現在の普通の破産申立てよりも早い段階、つまり、完全に事業価値が劣化してはいない段階が想定されます。ということは資産超過であって、債務超過ではない状態での実行が考えられる。そうしますと、現在の民事再生法等との比較等を考えたときに、株主に何の機会も与えなくて本当にいいのですかということになります。実行時に特別決議を要求できないのであれば、せめて最初の設定時にもらっておくべきではないのかという意見です。   今回の御説明では、企業担保権との比較であったり、23ページでは迅速性と株主意思の尊重のバランスということが書かれています。企業担保権との比較は私には分かりませんけれども、機動的な融資の必要性というのは、この事業成長担保権における融資ってそれほど短い期間でできますか、普通はできないでしょうと思うのです。不動産融資のように、物件があるからこの物件を担保にして借りたいが、1週間以内に融資してもらいたいというような話が通じる世界ではないはずですよね。当然、貸す側も会社の事業について十分な調査をし、また信託会社も絡むということになっていますので、一定の時間は必然的に掛かる手続なのだろうと思います。   他方、公開会社というか上場会社であれば、特別決議は大変なことですけれども、中小企業の特別決議ってそれほど時間も手間も掛からないというのが実態です。したがって迅速性とのバランスを理由に特別決議が要らないというのは、中小企業の実態を見ている弁護士からすると、それでいいのかと思います。特に、中小企業の場合は親族経営も多く、多数派と少数派というのが存在することもよくありますので、そのときに資産超過であっても何らかの機会もなく最後、実行までされてしまうリスクというのを少数派が負わなければいけない理由はよく分からないというのが私の意見です。 ○道垣内部会長 何かございますか。 ○笹井幹事 そうですね、そこは御議論の対象かとも思いますが、こちらに記載しましたように、もちろん企業担保法において特段そういった株主総会決議なんかが必要とされていないということ、企業担保法は今まで余り実際に実行されたことはないので、若干机上の理屈にはなりますけれども、企業担保法においても、仮に実行された場合には総財産が換価されるということになりますけれども、こういった類似の制度においては、必ずしもこういう設定段階における手続として株主総会決議が必要であるとは理解されていないのだろうと思いますし、また、企業担保法ほど総財産という意味でこの事業成長担保権と類似しているものではありませんけれども、いろいろな重要な財産についての担保権設定というものであれば、現行法上も取締役決議の対象になってくるものの、今、株主総会決議の対象になっているというものが必ずしもないという状況で、同じ担保権の設定でありながら、ここだけ株主総会決議を要するというところが、他の制度とのバランス上そこまで必要なのかというのが、今の提案になっている一つの理由として挙げられるのかなと理解しております。   資料の繰り返しになってしまいましたけれども、この点について、もし阪口幹事以外からの御議論がありましたら、お伺いしたいと思います。 ○道垣内部会長 いかがでしょうか。 ○井上委員 何度も申し訳ありません、井上です。中小企業の実態を考えると、阪口委員がおっしゃったことにもなるほどと思った点はあるのですけれども、今回の事業成長担保は、事業活動を通じた財産処分にほとんど制約を課さない担保ですので、担保設定のときの設定者の事業に与える影響はそれほど大きくないのではないかと思っております。   ある意味、無担保でお金を借りるという行為も、借りる会社にとってみれば全資産を引き当てにして借りていると見ることができるので、事業活動の自由が保障されている状況で全資産を担保に入れる行為は、無担保でお金を借りる行為とその点では異なるところがなくて、何が違うかというと、特定の人だけに集中するといいますか、借り先というか、少なくとも借入れという方法での資金の調達先が一つに絞られるということだと思います。いろいろな銀行からそれぞれに担保を付けて借りる方法ではなくて、特定の金融機関あるいは特定のシンジケートから借りるという借り方をすることについて、すなわち借入れ政策ついての意思決定の問題と考える方が、よりフィットするようにも思っておりまして、その意味では、他の貸し手から借りにくくなるという重大な効果は生ずるものの、それは、それを犠牲にして特定のシンジケートあるいは借入先から、伴走型の融資を受けることの選択になりますので、そう考えれば典型的な経営判断ということで、取締役会決議の対象にすることもあり得ると思っております。 ○加藤幹事 幹事の加藤です。株主総会の決議、それも特別決議がどういった場合に必要かということについては、つい会社法の研究者の立場から申し上げると、実は何か具体的なポリシーが会社法にあるかと言われると、ないのではないかという気がしております。つまり、会社の基礎的な変更については株主総会の決議が必要であると教科書的な説明はされるのですけれども、何が基礎的な変更なのかということについてはよく分からないところがあります。   ですから、先ほど井上委員がおっしゃったように、どういった影響が株主に生じるかということ、あと、そういった影響がほかの手段によって対応できないのかということ、更に言うと、担保権の設定の段階で株主総会の特別決議というものを要求することによって、どれぐらい株主の利益の保護に資するのかということを併せて考える必要があるかと思います。恐らくそういったことを全て考慮した上で、設定の段階では決議は不要であると、そういった御提案がされているのかと思います。それは会社法の研究者として、会社法がほかにどういった行為について株主総会の特別決議を要求しているかということとのバランスを考えると、賛成できる御提案であると私は思います。   さらに、現行法でも事業の譲渡担保ということについては一応可能であるということを前提にして、いろいろな教科書的な学説はあるのですけれども、やはり事業の譲渡と事業の譲渡担保では、やはりそれによる株主への影響は相当異なるわけであって、現行法でも事業の譲渡担保については設定時に株主総会の決議は要らないという見解の方が多いようです。それがまず1点、会社法の既存の学説や、ほかの株主総会の特別決議とされている事項とのバランスを考えた場合の私の意見です。   もう1点は、これまでの部会の議論では、これも明確に態度決定がされていたわけではありませんけれども、民法の特則、民法の制度というか、一般的な制度として、事業担保を導入する場合にどういった手続などが必要かということが前提とされていたような気がいたします。ただ、今回御提案されている事業成長担保権は、ある意味相当、監督法的な要素というか、例えば2ページで、債務者の理解の確保のために検査監督などの業規制を及ぼすといったようなことも予定されているわけであって、言わば単なる私法ではなくて、規正法と私法のハイブリッドでよりよい融資環境を作っておこうと、そういった政策立法なのかなという気がいたします。そうすると、純粋に私法の観点からだけで言わば株主総会の決議というものが必要かどうかということを考えるのは、やはりこれまでの議論とは少し前提が違うかなという感想を持ちました。   私の意見は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。優れた分析だと思うのですが、大澤さん、続けてお願いします。 ○大澤委員 ありがとうございます。私も井上先生が今おっしゃられたことを焼き直すような形になるのかもしれませんけれども、事業成長担保を設定するのはなぜかということを考えたときに、銀行の伴走を得ながら事業をより成長させるために担保を設定しますと。では、その事業をどう成長させますか、どういうグランドデザインを描きますかということを、株主よりも、むしろ経営者である取締役会で形成機能が働きますし、そのような中で判断していく方がむしろ望ましいのではないかとも思いました。   もっとも小規模な会社であれば、それこそ株主と取締役が一緒であるというような状態に、重なることは結構あるかなと思いますし、もう少し大きな規模の会社になってきて、事業成長担保を使ってよりビジネスを広げたいとなると、正しく今度は所有と経営の分離がなされていることになってくるので、取締役会で考える方が、どのような形での制度設計をするか、どのような形で資金を融通するかということを合理的に判断できるのではないかと考えました。そういった意味で、この資料の説明について特段の違和感を持たなかったということだけコメントしたいと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○村上委員 ありがとうございます。私も金融審のワーキングに参加をさせていただきまして、そちらでの発言と重複する部分もございますが、発言させていただきます。   まず前提といたしまして、事業成長担保権は、労働契約も含む企業の総財産を担保目的財産とする非常に強い担保権でありまして、実行時の問題だけではなくて、平時においても担保権者による強い経営関与により、場合によりましては不当な労働条件の引下げなどが生じるという懸念もあり、制度導入に関しましては消極的な立場でございます。その上で、労働者、労働債権に対する社会政策的な保護の必要性はもちろんですが、この制度が目指す事業の継続発展のためにも労働者による寄与は不可欠でありまして、労働者の理解と協力を得ることが非常に重要だと考えております。そうした観点から、今後も論点に関して意見を申し上げていきたいと思います。   4の手続的な要件についてでございます。この中では設定者側の取締役会手続に関する議論といったようなこともございましたけれども、私どもとしては、労働契約の当事者たる労働者に対しても、情報提供の促進だけではなくて、実行時における労働者への影響であるとか、労働契約の承継の影響なども踏まえますと、設定時において労働契約が目的財産に含まれることなどにつきまして、少なくとも労働組合などへの通知も義務化いただきたいと考えております。   また、企業の総財産を目的とする事業成長担保制度の特殊性を踏まえますと、設定時には事業成長担保権の内容などの説明に加えまして、担保権者が労働条件を決定、変更する権限は持たないことを明確にしておくことや、万一の実行前後には労使協議を行うことをあらかじめ労使で確認しておくことは、事業をより円滑に進めて、労使間の紛争防止を図る意味でも重要だと考えております。したがいまして、手続的な要件として、労働組合などとの労使協議を行うということについても必要であると考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに何かございませんでしょうか。 ○伊見委員 伊見です。私からは、6の効力要件と、それから7の他の担保権等の関係について、2点申し上げたいと思います。   まず、6の効力要件のところで、商業登記簿に登記をするということで、企業担保の規定に倣うというような御説明がありまして、会社の総財産に係る担保権という意味においては、そのとおりなのだろうとも思うところであります。そこで、商業登記簿にどのようなことを公示していくのかということについて、現時点で何か想定がありましたら教えていただきたいのですけれども、企業担保法の登記ですと、原因等が書かれ、企業担保権者が公示をされているかと思います。今回の事業成長担保権では、信託の仕組みを使うということになりまして、信託会社が公示をされていくイメージなのかなというふうに読ませていただきました。一方で、第1の定義のところで行きますと、特定被担保債権者という与信者方が受益者として登場するということかと思いますが、この特定被担保債権者は公示をされないということにもなるのかなと思いまして、それでよいのかというところが少し疑問に思いましたので、教えていただければと思いました。   2点目ですけれども、7の他の担保権者との競合についてでありますが、企業担保権に比べまして強い権利を認めていこうというような御提案が全体的にあると思っておりますが、その中でも7(5)の質権、抵当権との優劣ということになった際に、登記登録による対抗要件の具備と、事業成長担保権に係る登記の前後によるという提案になっている点について、商業登記簿の記載と、抵当権であれば不動産登記の記載とでの優劣というのが、例えば同日の受け付けになった場合に、先後というものがきちんと確認できるのかどうかというところが疑問に思いましたので、それでよいかという意見であります。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。非常に明確な質問だと思いますので、よろしければ御返答いただければと思いますが。 ○笹井幹事 まず、労働者保護といいますか、労働者に対する情報提供ですとか、その点につきましてですけれども、こういった、実際に事業を動かしてその価値を維持しながら換価していくという制度ですので、労働契約上の当事者である労働者に対して、実行がされて事業が譲渡されるという段階において、様々な情報提供が必要であり、その理解や協力が必要になってくるというのは、この担保制度の実際の実行に当たって重要であろうと思っております。   その点については、金融審のワーキング・グループにおいて、実行時あるいは設定時において、特に実行時においてどういう情報提供が必要なのかということについては様々な議論がされたと承知をしておりまして、そこでまとめられたことについて、この部会資料において何か変更するということではございません。ワーキング・グループでの議論の結果が今後の制度設計に当たってもベースになっていくのかと理解をしております。   次に、商業登記のところですけれども、伊見委員から御質問がありました商業登記については、まだ検討中ですので、確定していない部分もあろうかと思いますけれども、御指摘のとおり、事業成長担保権に関する信託業を営むことができる者が常に担保権者になりますので、商業登記に登記される者としては信託会社になるかと思います。他方で特定被担保債権者は公示されないという方向であろうと理解をしております。 ○大野関係官 最後の点につきましては、こちらも重要な指摘であると思っておるところでございまして、正に検討中のところではあるのですけれども、今でも別の登記システム間で競合が生じ得る場面というのはあるのかと思っておりまして、例えば、債権譲渡担保と不動産の抵当権者が物上代位した債権との優先劣後みたいなこともあるのかと思いまして、現行法での解釈なり整理と整合的になるように検討を進めてまいりたいと思っているところです。 ○道垣内部会長 よろしいですか。では、若原さんの方から何かありましたら。 ○若原幹事 労働関係の話についてのワーキングを実際に運営させていただいた立場から付け加えさせていただきますけれども、様々、村上委員からワーキングの場では御指導いただいたことはおっしゃるとおりでして、他方で、先ほどの閣議決定でいいますと、金融庁が来年の通常国会に法案提出を目指す立場ということで、そのパッケージとしての推進をしていく立場が金融庁ということで、そういう意味では、村上委員の御指摘は、労働債権に関しますと、必要条件は満たしているけれども十分条件は満たしていないという御指摘なのかなと、つまり、更に労働者の保護等の観点から改善すべきとの御意見というのは、恐らくおっしゃるとおりかと思いますけれども、他方でワーキングの報告に至る前の議論の中で、最低限これだけは満たしていないことには駄目なのではないかというところは満たさせていただいたようなものが報告書かなと認識しておるところです。併せて、報告書の中では今後の普及活動等々ということで、労働者の方々にも、この制度が使われるときにはどうなのかということも含め、今後我々が更に汗をかくべきということも含めての報告書だと認識しております。したがいまして、村上委員からの御指摘を我々としても真摯に受け止め、今後、制度化、さらには法案提出、さらには、仮に法案が成立した場合の施行に向けての各段階におきまして、少しでもこの制度を用いることで労働債権の保護に傷が生じるようなことがないよう我々としては頑張らなければいけないと、そういうような我々に対する叱責といいますか、励ましといいますか、そういうものだと受け止めさせていただいておるところでして、制度としては最低限の備えるべき水準には達しているというふうに御理解いただいているのかなと考える次第でございます。 ○道垣内部会長 よろしいですか。 ○村上委員 ありがとうございます。今、私が申し上げたのは手続的要件のところであり、その点について報告書の33ページ、34ページ辺りに設定時についての議論は紹介されているところでございます。そうした中で結論的なところは、34ページの中ほどで、労働組合等への情報提供の促進に向けて取り組むことが望まれるといった記載にはなっているところです。   ただ、本日、井上委員や大澤委員からもございましたように、この事業成長担保権を設定して、融資を得て、事業価値を高めていく方向で活用していこうということであれば、働く人たちに対しても、あらかじめ制度の趣旨等を伝える方がと思っております。その点を改めて申し上げておきたいと思います。先ほど御紹介にあった閣議決定の中では、金融庁だけではなくて、ほかの関係省庁を含めて取り組まれるということですが厚生労働省にも参画いただき、具体的な制度の中に組み入れていただくことを是非御検討いただければと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございませんでしょうか。   とても細かい話なのですけれども、7(2)で、事業成長担保権は一般の先取特権に優先すると書いてあるのだけれども、これは一般先取特権のうちの共益費用の先取特権が、事業成長担保権の実行に当たっての手続費用として発生した場合の共益費用の先取特権って、共益費用の先取特権の方が上位に来るのではないですか、一般的には。 ○笹井幹事 そこはそうだと思います。共益債権の先取特権が一番上位に来るということは、そこは解釈によって導かれているのですよね。 ○大野関係官 民事執行とかですと、そのように理解しております。 ○道垣内部会長 でも、抵当権は一般先取特権に勝つという条文はないでしょう。 ○笹井幹事 その条文はないです。 ○道垣内部会長 それで、解釈論として、手続費用に関しては、先取特権のところの329条2項ただし書のところで導かれているのだと思うのだけれども、だから、明文として一般先取特権に優先するものとすると書いてしまうと、そのような解釈ができなくならないですか。 ○山本委員 今、部会長が言われているのは、事業成長担保権の実行手続に要する費用ですか。 ○道垣内部会長 ええ。 ○山本委員 それは、5(1)で書かれているのではないですか。26ページの①とかに当たるのではないかと。 ○道垣内部会長 分かりました。けれども、それは随時弁済する、共益債権になるからなの。つまり、抵当権の実行のときに手続費用が優先して支払われることの根拠は、共益費用の先取特権があるからでしょう。 ○山本委員 ただ、民事執行法上。うん、そうですね、それは。だから、共益債権は配当債権に先立って随時弁済することができるというところで、その実質が書かれているのではないですか。 ○道垣内部会長 実質はね、でも、それでは抵当権とメカニズムが違うわけですね。 ○山本委員 民事執行法記憶が少し定かではないですが。 ○道垣内部会長 元気よくこういう条文を書かれると、若干気になってしまったものですから、後で御検討いただければと思います。すみません、分からないまま発言してしまいました。   ほかにございますか。 ○井上委員 ありがとうございます。井上です。5のところで1点と、6のところで1点申し上げたいと思います。   5のところの(3)で、事業成長担保権は他人の債務を担保するために設定することができない、それについて理由も御説明いただきまして、それはそのとおりだろうと思っております。ただ、実際上、これも先ほど申し上げたように、ユースケースとしてはやや例外的なのかもしれませんけれども、LBO、買収ファイナンスのときに全資産担保が現時点で使われている際の使われ方としては、借入人SPC、すなわちアクイジションビークルを作った上で、ターゲットカンパニー、すなわち買収対象会社の株式をそのSPCが買い取ることが一般的に行われています。その後、その二つが合併する場合が多いと思うのですけれども、ただ、それまでには一定のタイムラグがありますし、実務上、別々のエンティティーのまま存続する場合もにあります。   そうすると、借り入れる法人はSPCであり、事業をしてキャッシュを生み出している会社はその子会社になる場合があるので、そういう場合にも事業成長担保を貸付実行時から利用できるかということ、今のままだと利用できないのかもしれないのですが、その点を打開するために、借入人SPCの借入債務を事業会社、つまり買収対象会社が保証して、その保証債務履行請求権に事業成長担保を付けるといいますか、保証債務を被担保債務として事業成長担保を設定することができれば、この問題は解決するのですけれども、逆に言うと、それをすれば実質的には物情保証をすることができることになっていいのかという点も含めて、現時点の整理があれば教えていただきたいということです。これが5について。   6については、異存があるわけではないのですが、ただし書のところに、一般承継による得喪及び変更についてはこの限りでないということですけれども、この限りでないというのはどんな感じになるのかということなのですが、例えば、事業成長担保権設定者Aと事業成長担保権設定者Bが合併したらどうなるかとか、事業成長担保設定者からの会社分割あるいは事業成長担保設定者への会社分割のときにどうなるのか、といった点は、企業担保権と同じように考えるのでしょうか。最初に申し上げた設定者Aと設定者Bの合併のときに、一方の設定者は10年前に設定して登記をしていて、一方の設定者Bは1年前に設定して登記をしていることもあり得ますし、その合併のときにどちらが消滅会社になるかも選択自由だと思うのですが、そういったことは債権者保護手続などで解消するということなのか、どう考えればいいのかについて教えていただければと思います。 ○道垣内部会長 よろしくお願いします。 ○大野関係官 1点目の物上保証のところにつきましては、一定のニーズがあることは承知をしておるところではございますが、資料でも御説明させていただいた懸念があり得るところでございますし、また、どういう場合に限って認めるべきなのかという、適切な場面設定をした上で法制化することが困難と考えておりまして、現状の規律を御提案しているところでございます。他方で、保証債務に係る債権を被担保債権とするということも御提案いただいたかと思うのですけれども、それ自体については現時点では否定する理由はないと考えているところでございます。   2点目は、合併や分割の場合の御質問だったかと思います。規律の在り方について検討を要するところはございますが、企業担保権の場合ですと、双方の当事者が企業担保権設定者の場合には、合併後の順位の協定がなければ合併をすることができないという規律になっておりまして、これを踏襲することが一つ考えられるところです。その場合、協定された順位に従った登記が合併後の会社の商業登記簿に入るような、そういう登記システムになるように設計されているかと思いますので、それを踏襲することを今検討しているところではございます。分割の在り方につきましても、企業担保権は会社分割により、その被担保債務を承継させることができないという規律になっていまして、これを踏襲するかどうかも含めて検討の余地はあるところかと思いますが、踏襲する場合には登記の問題というのは生じなくなると考えているところでございます。 ○道垣内部会長 ほかに何か、よろしいでしょうか。 ○増田幹事 すみません、幹事の厚生労働省の増田でございます。先ほどの村上委員の御発言に関連しまして、厚生労働省も金融庁のワーキングの方にはオブザーバーとして参加をさせていただいておりまして、議論の状況については承知をしているところでございますので、金融庁、またその他の関係省庁とも連携をさせていただいて、情報提供の促進にしっかりと取り組んでいきたいと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   時間がないときに雑談するのはあれなのですけれども、10ページの6のところで、混同又は特定被担保債権の消滅による得喪については登記をしなくても効力が生じると書いて、これは当たり前の話だから、書かないというのが本来は法制執務的には正しいのではないかと思うのだけれども、企業担保法についてはこういうふうに書いてあるのですよね。ところが、企業担保法は昭和33年にできているので、これはやはり、まだ保全抵当権という制度の方がいいのだという我妻先生の考え方が強かった時代だと思うのです。被担保債権の消滅によって抵当権は当然には消滅しないと我妻先生は本当は言いたかった。そうしたら、消滅するためには書かなければいけなかったというふうな事情が多分あるのではないかという気がするのですが、横並びですし、ほかの法律にもあるようですので、したがって、雑談にすぎません。   ほかに何かございませんでしょうか。   よろしゅうございますか。いろいろ金融庁、法務省の方に注文も出ていると思いますので、すみませんが、よろしくそれを踏まえて更に御検討いただければと思います。   それでは、少し先に進ませていただきまして、次に第1の「8 設定者の処分権限」、「9 一般債権者による強制執行等との関係」について議論を行いたいと思いますので、まず、部会資料の説明を事務局でお願いいたします。 ○大野関係官 第1の「8 設定者の処分権限」、「9 一般債権者による強制執行等との関係」について御説明いたします。   「8 設定者の処分権限」は、事業成長担保権の実行手続開始前に設定者が有する権限についてです。本文(1)及び(2)は、設定者は、事業成長担保権を設定した後も、担保目的財産の管理及び処分をする権利を有するものとする一方で、重要な財産の処分などの通常の事業活動の範囲を超える担保目的財産の管理及び処分をするには、全ての事業成長担保権者の同意を得なければならないものとしています。事業成長担保権は、その設定後も設定者が事業を営んでいくことが予定されているため、在庫の処分や既存の設備等の入替えなど、設定者が一定の範囲で担保権の効力が及ぶ財産の処分権限を有している必要があります。他方で、設定者が担保目的財産を自由に処分できるとすると、事業価値を著しく損なうような処分によって事業成長担保権者の利益を害するおそれも生じ得ます。   そこで、本文(2)では、設定者が通常の事業活動の範囲を超える管理又は処分をするためには、事業成長担保権者の同意を要することとしていますが、これは通常の経営で行われないような事業価値の毀損行為や、代表者個人の利益のために会社の財産の価値を減少させるような行為など、通常の事業運営とはいえない行為が行われると事業成長担保権の利益を害するおそれがあることを踏まえたものです。   本文(3)は、本文(2)において必要とされる同意がなく管理又は処分がされた場合は、その効力を無効とするものですが、その無効は善意無重過失の第三者には対抗できないものとするものです。これは、同意なく処分された財産は事業継続に必要な財産と考えられることから、かかる処分を無効とする一方で、通常の事業活動の範囲を超えて管理又は処分が行われた場合に、事業成長担保権者の同意を得たかどうかを相手方が知ることは困難な場合があるため、商取引の円滑化等の観点から、善意無重過失の第三者を保護するものです。   続きまして、「9 一般債権者による強制執行等との関係」の本文(1)は、事業成長担保権の優先弁済権を規定する一方で、担保目的財産に対する強制執行、担保権の実行若しくは競売又は国税滞納処分がなされた場合には、かかる手続においては、事業成長担保権者はその優先弁済権を行使できないとするものです。これは、事業成長担保権の目的を事業全体の価値とすることを踏まえ、一般債権者等による債権回収の途を閉ざすことを回避する趣旨です。   本文(2)は、担保目的財産に対して強制執行や担保権の実行などの手続が開始した場合は、設定者の事業の継続に支障を来すときを除き、事業成長担保権者は、第三者異議の訴えを提起することができないとするものです。これは、複数の財産を一体として担保価値を把握することを目的とする点で事業成長担保権に類似する財団抵当について、抵当権者は第三者異議の訴えを提起することができるとされていることから、事業成長担保権も同様に第三者異議の訴えを提起することができると考えられる一方で、全ての強制執行等について第三者異議の訴えによる手続の不許を求められるとした場合には、一般債権者の保護が図られないおそれがございます。そこで、強制執行等を認めた場合に、設定者の事業の継続に支障を来すときを除き、事業成長担保権者は第三者異議の訴えを提起することができないとするものです。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、御自由に御議論いただければと思います。 ○阪口幹事 阪口ですけれども、8の設定者の処分権限のところです。この処分権限のところは、今回の事業成長担保権の性質上、設定者には広い裁量があるというか、制約されずに商売できるということは当然だろうと思います。他方、例えば、(2)イの事業の全部又は重要な一部の譲渡なんて、そんなものが担保権者の同意なく認められるはずもないので、そういう一定の制約が掛かることも間違いありません。ところが、その制約が掛かっている部分についての相手方の保護は、善意無重過失で対処するということになってて、この辺りの規律が現在、集合動産譲渡担保権設定者の処分権限のところと平仄が合っているのか、合っていないのか、どちらがどうでなければいかんということもないけれども、少し気になったところです。   というのは、事業成長担保権の方が集合動産譲渡担保権より設定者の裁量が広いという考えがまずあります。そこで、できない行為に関しては、次に掲げる行為等その他の通常の事業活動の範囲を超える担保目的財産の管理及び処分として、重要な財産の処分だったり、事業の全部又は重要な一部の譲渡とあり、かなり狭い範囲で禁止し、無効にする。かなり狭くしたのだったら、相手方の保護が善意無重過失というレベルでいいのかどうか。つまり、現在、集合動産譲渡担保権の方は善意無過失で処理する案が出ていますので、その辺のバランス感覚がどうなのかなと気になります。(2)アの重要な財産という概念や、集合動産譲渡担保権設定者の処分権限について、例の害するという概念の広狭が決まっていない中で、抽象的に議論してもなかなか分かりにくい話だとは思いますけれども、イメージ的には、やはりこちらの方が禁止される行為がより狭くなる中で、相手方に過失があっても保護されるということでいいのかどうかという辺りです。駄目だというわけではないのですけれども、バランスがとれているのかなということが気になります、必ずしもバランスをとらなくてもいいのかも分かりませんけれども、もしお考えがあれば教えてください。 ○道垣内部会長 何かありますか。 ○笹井幹事 そうですね、現状で申しますと、まだ譲渡担保権の方も今、善意無過失の場面と、それから悪意は排除されるという場面、善意であればいいという場面などがあり、そのこと自体についてもいろいろ議論がある中ですので、譲渡担保権についても内容が固まり切っていないということもありますから、譲渡担保以外のものとの間でバランスがとれているのかという検討が十分にできているのかというと、その点はまだ不十分な部分もあるかと思います。   ここはいろいろ御議論があるところかもしれませんので、また御意見があればお伺いしたいと思いますけれども、一般的に言えば、この事業成長担保権における設定者の処分権限の方が、ここは今、阪口幹事の御指摘のとおり、処分権限としては広い、禁止される場面は狭いということになるのではないかと思います。他方で譲渡担保権の方も、通常の事業の範囲ということではなくて、害することを知っている、知っていないというところで区別するとすると、それなりに大分絞れてきているというところもあるのかなという気もいたしますので、譲渡担保権の第三者保護についての主観的要件をどのようにするか点についての検討もまた進めながら、今御指摘いただいた事業成長担保権とのバランスについては、もう少し擦り合わせる必要があるかなと思っております。   差し当たりは以上です。 ○道垣内部会長 少し私からもいいですか。阪口さんの話と関係するのですが、ここは何を目的として基準を定めるのかという話だと思うのです。つまり、集合動産譲渡担保の場合には、動産を担保目的物として取っていて、それが売却されたときは債権に及ぶとは当然にはされていないわけですよね。そうすると、ある倉庫なら倉庫にある動産の価値を一定程度に保っておくということが必要とされるということで、それでは一定程度を切るようなことはなるべくしないようにしてねと、そうなったらすぐに補充してねと、そういう形でやられるのだと思うのですが、しかるに、こちらの担保権では、目的物となっている動産を売ったら、今度はその債権が、それも財産ですから、必ず担保の目的物になるわけであって、それではここは何なのだろうかと思うと、説明とかのところを読みますと、あるいは(2)のイのところを見ますと、当該会社はこういう事業ですよねと、その事業ならうまくいくでしょうと当てにしてお金を貸しているのに、当該事業を譲渡してしまうというふうなことをしてしまうと予測可能性というのを大幅に害すると、したがって、事業の全部又は重要な一部の譲渡は駄目ですよ。そうなったときには、アに関しても、アに関しては実は26行目か何かに、事業の継続に不可欠な財産を売却したり、このような財産に担保権を設定したりと書いてあって、重要な財産の処分という重要性というのは、事業の継続に不可欠かどうかという観点で判断されるのかなと若干思うわけなのです。そうならば、そう書いた方がいいのではないかと思うのです。   と申しますのは、これは民法の中に入ってくるわけではないですけれども、民法の中に重要な財産という言葉は幾つかありますけれども、それに不動産は必ず含まれるのですよ。しかし、不動産を売ったら必ず重要な財産を売ったということになってしまうので、多分それはおかしいでしょう。当該会社の事業というものを破壊するような話ではなくて、遊休財産を売りましたというのは通常の話で、大した話ではないよねと考えるならば、不動産だからといって重要な財産になるわけではないと考えるということになったら、やはり通常の事業の範囲かどうかというふうなところにも、やはり予定されている事業の継続を困難にするような処分というふうな、言葉が必要なのではないかと。   つまり、少なくとも集合動産譲渡担保のときのように倉庫内の動産の価値を一定程度に維持するためにどのような範囲でできるかというふうな基準を作るというのではなくて、ここは何のためにこの制約を付けるのかということを考えて、それに応じた形でルール構成というのをしていかなければいけないのではないかという気がしました。 ○加藤幹事 幹事の加藤です。今の部会長の発言と私も問題意識を共有しておりまして、別によいしょしているわけではないのですけれども、重要な財産の処分という言葉は会社法の362条4項1号にもございまして、こちらは監査役などを設置する取締役会設置会社で、取締役会が決定権限を持つ行為がどういう行為かということの規定なのです。   恐らく、ここでの重要な財産の処分というのは、同じ文言を使っているわけですけれども、362条4項1号の趣旨と多分違う意味で捉えた方が、特に今、部会長がおっしゃったような意味で捉えた方がいいのではないかと思います。恐らく、部会長が今おっしゃったような意味での重要性よりも広い範囲が、この362条4項1号の重要性の中では含まれる可能性がありますし、これは同じ文言が使われているから同じように解釈されることはないと思いますけれども、362条の4項1号の解釈に引きずられない方がいいかなという気もしまして、もし趣旨が違うのであれば、やはり別の言葉を使った方がいいかなという気がします。   もう1点、この重要な財産の処分という言葉は、監査役設置会社の取締役会の権限である362条4項1号にはあるのですけれども、監査等委員会設置会社とか指名委員会等設置会社には類似の規定がないと、正確に言うと、監査等委員会設置会社は定款の定め又は社外取締役が過半数の場合という限定は付きますが、重要な財産の処分であっても代表取締役の判断で行うことができる会社も存在するわけです。そうすると、これは代表取締役が単独でできるようなものは通常の事業活動の範囲でないかというような気もしまして、重要な財産の処分というものを使われると、どうしてもそちらの解釈に引きずられてしまって、むしろここで達成しようとする目的の妨げになる気がいたしましたので、今の部会長の意見に私も賛同するということを申し上げたいと思いました。 ○道垣内部会長 私の曖昧な話を非常に実定法的に正確に説明くださいまして、ありがとうございます。 ○片山委員 慶應大学の片山です。私もよいしょするということではないのですけれども、部会長と加藤幹事の話の延長線上としまして、一番最初の問題提起にも関わるのかもしれませんが、やはり資産自体を担保に取っているわけではなくて、事業を担保に取っているという話にも関わってくるのかもしれませんけれども、ここで、例えば事業を丸ごと変えてしまうという経営判断に関わるような変更をするということになると、それは一体どうなるのかということも気になります。それは、事業にとっての重要な財産の処分ということももちろんそうですけれども、さらに事業自体を丸ごと変えてしまうというようなことができるのかどうかというようなことが一つです。   それからもう一つは、集合動産の譲渡担保とかでも議論しましたけれども、設定者の処分権限の話と設定者の義務との関係ということでは、ここでは権限だけを書いていますけれども、設定者の側の義務ですよね、事業継続価値の維持みたいなものをしなければいけない義務といったものを書き込む必要がないのかどうかという点も併せて、どういう方針であるのかという点を確認できればと思いました。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 後半部分は質問になろうかと思いますので、何かありましたらお願いします。 ○笹井幹事 そうですね、集合動産譲渡担保のところで補充義務の議論をしまして、そこでは確かに一方で処分権限を与えることとのバランスといいますか、処分することができるので、それと対になるものとして補充義務を負わせることによって、全体としてバランスが維持されるということを申し上げていたかと思います。   ただ、事業成長担保権については、処分権限については規定を設けておりますけれども、その事業価値を維持するというような規定としては、今のところ条文として何か設ける予定はなかったかと理解しております。確かに譲渡担保と同じではないかと言われれば、そういう側面もあるのかもしれませんけれども、これも片山委員の冒頭の御発言とも関わることかもしれませんが、集合動産譲渡担保においても構成部分が流動していくことから、構成部分である個々の財産の価値を担保に取るという性質は薄まっておりますけれども、それでも全体としての動産の価値に基本的には着目していると思います。それに対して事業成長担保権の方は、より一層、物の補充によってその価値を維持するということではなくて、より抽象的な事業の価値というところに着目するものですから、物の価値を維持する義務が具体的に一体何を意味するのかというところが、かなり曖昧になってしまうのではないかと、今、御指摘を受けて感じたところです。   もう一つ、事業全体を変えてしまえるのか、これは、ある事業をやめて別の事業を始めるという御趣旨かと思いますけれども、それが事業成長担保権者の同意の下でできるのかと言われれば、それは絶対できないということではないのかと思います。ただ、そのやめるということが譲渡ということになるのか、どういうことになるのかにもよりますけれども、仮に譲渡するということになれば、ここの8(2)の制約といいますか、規制が掛かってきて、その下でやってもらうということになるのではないかと感じました。 ○道垣内部会長 よろしいですか。   ほかにございますか。   本来は今日の配られた部会資料39というのは全部行われるというのが前提になっておりますが、少しそれは無理だという感じがします。しかし、第2の1、2というのが一つの塊でございますので、ここの議論が盛り上がることによって、うまく最後まで行かなければ、それはそれで仕方がないのですけれども、「第2 事業成長担保権の実行」のうち「1 事業成長担保権の実行手続の概要」というのと、「2 事業成長担保権の実行手続開始の決定の効果」について議論を行いたいと思います。そこで、事務当局におきまして、まず部会資料の説明をお願いいたします。 ○髙倉関係官 第2の1「事業成長担保権の実行手続の概要」は、事業成長担保権の実行手続について、事業成長担保権者の実行手続開始の申立てにより開始し、裁判所により選任された管財人が担保目的財産である設定者の総財産の管理処分権を得て、事業を継続しながら担保目的財産を一体として換価し、配当を実施するという全体像についてお示ししたものです。具体的な論点は2以降で取り扱っておりますので、それぞれの箇所で御議論いただければと考えております。   第2の2は「事業成長担保権の実行手続開始の決定の効果」についての規律でございます。本文(1)について、事業成長担保権の実行手続においては、事業譲渡の完了まで事業価値が毀損しないよう事業を継続することが必要になると考えられ、また、事業成長担保権の実行手続は、事業成長担保権者や設定者に限らず、ほかの債権者等の利害にも大きく影響することから、これらの者の利害をも考慮することのできる中立・公正な立場の者が担保目的財産を管理処分した上で、各債権者への配当を実施することが必要になると考えられます。そこで、倒産手続と同様に、裁判所が選任する管財人を実行手続の主体とすることとし、当該管財人に設定者の事業の経営並びに担保目的財産の管理及び処分をする権限が専属するものとすることを御提案するものです。また、管財人は、申立人である事業成長担保権者の利益のみに与することなく、申立人を含む利害関係人に対し、善管注意義務を負うものとすることが適切であると考えられます。   本文(2)について、事業成長担保権の実行手続が開始したにもかかわらず、設定者に対する債権について担保目的財産から自由に弁済を受けられることとすれば、事業成長担保権の被担保債権への優先弁済権を確保することができないことから、本文(2)は、実行手続が開始された場合には、新法に特別の定めがある場合を除き、実行手続によらなければ配当債権又は配当外債権を消滅させる行為をすることができないものとしております。   本文(3)は、配当債権者又は配当外債権者が実行手続の開始後に債務を負担し、相殺適状が生じた場合や、設定者に対して債務を負担する者が実行手続の開始後に他人の配当債権又は配当外債権を取得し、相殺適状が生じた場合に、これらの者による相殺を禁止するものでございます。弁済等禁止の趣旨の潜脱防止を目的としており、倒産法の規定を参照してございます。   本文(4)について、実行手続開始の決定後に設定者の個別財産に対する強制執行や担保権実行等の手続が行われると、会社の総財産の一体性が害され、被担保債権の優先弁済権が確保されないおそれがございます。そこで、本文(4)前段では、実行手続開始時に既にされていた強制執行等の手続は、実行手続との関係で失効することとし、新たにその手続を申し立てることはできないものとしています。他方で、事業成長担保権の実行手続が開始することにより、優先担保権の実行手続についても制限されるとすると、優先担保権を有する者の地位を害すると考えられることから、このような優先担保権の実行手続については制限しないものとしております。   その上で、本文(4)後段は、破産法を参照し、個別換価が必要な場合の便宜の観点から、例外的に、実行手続開始決定時に既にされていた強制執行等の手続について、管財人においてその業務の遂行に資すると考える場合には、これを続行することができるとすることを御提案するものでございます。   本文(5)について、事業成長担保権の実行手続開始の決定があり、管財人が選任されると、管財人に設定者の総財産の管理処分権が専属することを踏まえ、本文(5)は、事業成長担保権の実行手続の開始当時係属していた設定者の財産関係の訴訟については、実行手続開始の決定によって中断することとし、そのうち配当債権に関するもの以外のものについては管財人が受継することを御提案するものでございます。配当債権については、実行手続内で調査・確定されるものであり、別途訴訟手続を進行させるべきではないことから、受継の対象とはしておりません。   本文(6)は、裁判所は実行手続開始の決定をしたときは、直ちに実行手続開始の決定の主文、管財人の氏名又は名称、一般調査期間等を公告し、利害関係人に対して個別に通知しなければならないものとしています。通知の対象となる利害関係人としては、申立人、管財人、債務者及び知れている配当債権者のほか、労働者保護の観点から、労働組合等に通知を要するものとしております。加えて、金融審ワーキング・グループの議論状況を踏まえ、労働者が労働法制上保障されている各種権利を必要に応じて適切に行使することができるようにする観点から、管財人が事業成長担保権の実行手続開始の決定後、遅滞なく労働組合等に対し、実行手続の概要や事業承継先選定に当たっての原則、実行手続後における設定者の破産手続開始の見込み、破産手続の内容等の必要な情報を提供する手続を設けることについて御提案しております。   以上について御審議をお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、御自由に御議論いただければと思います。 ○山本委員 1点、細かいところなのですが、2(2)の主語なのですけれども、設定者というものになっています。設定者は弁済をすることができないという規律だと思うのですけれども、管財人についてはここでは規定されていないわけですけれども、普通に考えれば、弁済の主体は管財人で、管財人の弁済が禁止されるというのが普通なのかなと思って、その管財人が定められていない理由、逆に、設定者は総財産の管理処分権を奪われていますから、通常、弁済することは考えにくいように思われるわけですが、あえてここで設定者が書かれている理由というのを、もしよろしければ教えていただければと思います。 ○笹井幹事 ここは単純に、その点について十分に思いが至っておりませんでしたので、主語については修正させていただきます。 ○道垣内部会長 ほかにいかがですか。 ○村上委員 ありがとうございます。2の実行手続開始の決定の効果のところでございます。17ページの本文の(6)のところですが、実行手続開始時に労働組合等に対して、裁判所からの通知であるとか、あるいは19ページに書かれております管財人からの情報提供の手続を設けるということについては、労働者保護の観点から是非お願いしたいと考えております。また、実行が労働者の雇用などに与える影響の大きさを考えれば、厚生労働省の事業譲渡指針の内容も参考にしつつ、労働組合等との事前協議も手続的な要件として課していくことも是非御検討いただければと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかにございませんでしょうか。   これは全く書き方の問題であり、内容に関わらないのですが。今対象になっていないけれども、22ページの4のところでは、個別資産の管理というのが裁判所の許可があれば認められるという仕組みになっていますし、事業を継続していくに当たっては個別資産の換価というのをすることはあるわけだけれども、そのときに15ページで、一体として換価し、配当を実施するものとすると書いていいのでしょうか。これは、個別財産について売却をすることはあるけれども、その後のものは一体として換価するから、これでいいということなのかしら。 ○笹井幹事 いえ、ここは飽くまで概要ということで、少し全体のイメージを持っていただくということでしたので、細かいところまでは全ては書き尽くされていないのですが、原則としては、これは企業担保法でも同じですけれども、換価方法として等価なものといいますか、同じように一体として換価する方法と、ばら売りする方法等が同じ重みで並んでいて、どちらか好きなほうを選べるということではなくて、飽くまで原則としては一体としての換価なのだということを、まずは概要のところでお示ししたと、そういう趣旨でございます。 ○道垣内部会長 すみません、ありがとうございます。 ○井上委員 井上です。今のところに関連して、基本的には総財産というか事業全体を事業譲渡の形で換価することを優先し、例外的に個別資産の換価がなされる場合があるということだと理解しております。ただ、例えば、事業が二つある会社について、個別資産のばら売りではなくて、事業Aと事業Bを別々の人に譲渡することについては、事業Aを欲しがっている人と事業Bを欲しがっている人が別にいる場合には、より高く買ってくれるところにそれぞれ売った方がいいように思いますので、そういった事業ごとの処分については、例外の方に入れるのではなくて、原則の方でできるということなのかなと思っていたのですが、ここで、総財産を一体として換価することが原則で、例外的に個別資産の換価という言い方は、飽くまでも事業単位で譲渡する場合は原則の方と考えていいかどうかについて、少し確認させてください。 ○笹井幹事 そうですね、もちろん最終的には、いずれにしても裁判所の許可が必要になってきますので、仮に分けて売るにしても、その分け方自体が合理的なのかどうかということですとか、あるいは労働者保護の問題も出てくるかもしれませんけれども、そういった様々な事情の下で、何が合理的で、担保権者にとっても、あるいはその他の利害関係者にとってもどのような方法が利益になるかという観点から、裁判所において適切に判断されるのだろうと思います。   そういう意味では、資産、土地と動産と債権とかというのを本当にばらばらにして売るというのは非常に例外的なといいますか、副次的な換価方法なのだろうと思いますけれども、一括というときに全ての事業を同じ譲渡先に譲渡するのが原則なのか、その事業を別々の譲渡先に譲渡することも含めて原則といってよいのかというのは、原則、例外性というのを議論しても、余り意味がないというと語弊があるかもしれませんけれども、ここでは事業が持っている例えば労働者も含めて、全ての事業が事業としての価値を維持したままで譲渡先に移転するのが一番合理的だということですので、結果的に全ての事業が譲渡される場合に、全体として同じ譲渡先に売るのか、あるいは別々の譲渡先に売る方が、よりその換価方法として合理的なのかというのは、それぞれ個別に裁判所が、あるいは管財人がまず第一次的にはということだろうと思いますけれども、個別に判断していくということになるのかと思います。 ○井上委員 ありがとうございます。 ○村上委員 ありがとうございます。4の方にも話が及びましたので、お伺いしたいと思います。金融審のワーキング・グループの報告書では、雇用を維持しつつ承継するなど、事業を解体せずに換価することが原則となっております。今回の資料でも、先ほどありましたように、第2の1のところで、一体として換価するということが原則で、個別の換価は例外的な扱いだと承知をしております。その際は、やはり労働契約の帰すうについても課題が生じ得ると考えておりまして、裁判所の許可を要件とすることでそうした課題の解消につながるのかが問題となります。裁判所が許可するか否かの判断に当たりましては、例外と位置付けられた個別換価を認める場合には、相当の合理性が要求されるのだろうと考えているのですが、そういう理解でよろしいのでしょうか。なかなか個別事例について列挙できないということが24ページには記載をされておりますけれども、何らか判断要素のようなものを出されるのでしょうか、その点を教えていただければと思います。 ○笹井幹事 判断要素が出てくるというのは、条文上にという御質問でしょうか。 ○村上委員 そうですね。個別換価の合理性についてどのように判断するのかということについて、管財人の先生方は善管注意義務に照らして相当な方法を選択されて、行われるということであるとは思うのですけれども、裁判所はどのようにして、その合理性があると判断されるのかということについて、明確にしておく必要はあるのではないかと思っております。ですから、条文上なり何かしらのものを定めるのか、定めない場合はどのようにして判断されるのかということについて教えていただければと思います。 ○笹井幹事 まず前段の、先ほど井上委員の御質問に対しては、複数の事業を必ず全部一緒に売るのか、欲しい人が複数いた場合に別々に売るのかというのは、それは何が原則で何がということは余り意味がないのではないでしょうかと申し上げましたけれども、事業を一括で売却するのが飽くまで原則ではありますので、例えば、事業の切り分け方などについても、それが合理的な切り分け方なのか、別々に売るのが合理的な処分の在り方なのか、それはその合理性も含めて裁判所が判断をするということであろうと思っております。   その際に、これはワーキング・グループの報告書にもあったかと思いますけれども、単純に高く売れるということだけではなくて、労働雇用が維持されるのかどうかとか、そういう意味では、担保権者だけの利益ということではなくて、様々な利害関係者の利益を全部考慮した上で判断することになるのだと理解をしております。 ○道垣内部会長 条文上は、全体の利益を考えた善管注意義務を負うというところに、やはり今の笹井さんの解釈の根拠があるということなのでしょうかね。 ○村上委員 懸念だけ少し申し上げたいと思うのですけれども、幾つかの事業を営んでいる企業で事業成長担保制度を利用したときに、一部の事業だけが換価されるということになりはしないかと考えております。幾つかの事業それぞれにきちんとそのスポンサーが見付かっていくということがあれば、それはそれでよろしいのかもしれませんけれども、取り残される事業がある、あるいは取り残される事業に働く労働者がいるということになれば、私どもの受け止めとしては当初の事業成長担保権の設計のイメージと大きく変わってくるかと思っております。私どもも今一度改めて金融審のワーキング・グループの報告書などの中身は確認したいと思いますけれども、その点はかなり大きな問題だと思っておりますので、更に御検討いただければと思っております。 ○道垣内部会長 両方あり得ますよね、不採算部門の処分というのと、優良部門だけを売るというのと、そのときに労働者とかそういうことは、縮小が起こるわけですので、どうなるのかという問題があるということだと思いますので、御検討いただければと思います。   ほかに何かございませんでしょうか。先ほどの問題は、なかなか条文上はファクターを書くというのは難しいかもしれませんけれども、御検討いただければと思います。   ほかにございますか。   ということで、2の「3 事業成長担保権の実行手続で配当を受ける債権者」以下については、少し積み残しになってしまいましたけれども、本日の審議はこの程度にさせていただければと思います。   次回の議事日程等につきまして、事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日もありがとうございました。次回まで、また余り時間がないところですけれども、次回は12月18日、時間は午後1時30分から午後6時まで、場所は法務省20階、第1会議室でございます。   次回は、今回積み残しになりました事業成長担保権の続き、主として倒産法との関係部分についてと、譲渡担保権について補充の論点を幾つか取り上げたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 それでは、法制審議会担保法制部会の第42回会議を閉会にさせていただきます。   本日は熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。次回は比較的分かりやすい、法務省20階の第1会議室ですが、ただ、月曜日でございますので、お間違いのないようにお願いいたします。それでは、そういうことでまた、失礼いたします。 -了-