改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第13回) 第1 日 時  令和6年6月5日(水)      自 午前10時00分                          至 午前11時30分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室(5階) 第3 議 題  取調べの録音・録画制度 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第13回会議を開催します。   本日は皆様、御多用中のところ、御出席くださり誠にありがとうございます。   本日は、取調べの録音・録画制度に関する第2段階の協議を行うこととします。   事務当局から、本日の配布資料について、確認をさせていただきます。本日は、事務当局において作成したものとして配布資料41をお配りしています。   それでは、議事に入ります。   まず、事務当局から配布資料41の内容について御説明します。   配布資料41は、「取調べの録音・録画制度」についての第2段階の協議の論点整理案です。第11回会議では、「取調べの録音・録画制度」についての第2段階の協議において検討すべき事項について構成員の皆様から御意見を頂きました。そこで御提案のあった論点を事務当局において整理した上で、本論点整理案の形にまとめています。   具体的には、一つ目として「取調べの録音・録画制度の対象とする事件の範囲を改めるべきか」、二つ目として「取調べの録音・録画義務の除外事由を改めるべきか」、三つ目として「逮捕又は勾留されていない被疑者に対する取調べについて、取調べの録音・録画義務の対象とすべきか」、四つ目として「被疑者以外の者に対する取調べについて、取調べの録音・録画義務の対象とすべきか」という4つの論点を記載しています。   「検察における取調べと警察における取調べとで、取扱いを異にすべきか」という点も論点として御提案がありましたが、この点はただ今申し上げた4つの論点全てについて、一応問題となり得ることから、独立の論点とはせず、「※」として各論点に関する副次的な論点として記載しています。また、これらの論点に含まれないものについても協議の対象から排除されるものではないため、「その他」という項目も設けています。   配布資料41についての御説明は以上です。   取調べの録音・録画制度についての第2段階の協議の進め方としましては、ただ今御説明した論点整理案記載の順番に沿って、それぞれの論点について検察における取調べと警察における取調べとで取扱いを異にすべきかという点も含め、意見交換を行うこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   また、本協議会における第2段階の協議は、第1段階の協議における実務の運用の状況に関する情報共有を踏まえて行われるものであることから、構成員の皆様におかれましては、御協議いただくに当たって、これまでに事務当局から配布させていただいた資料、又は構成員の皆様から御提出いただいた資料に言及されることもあろうかと思います。そこで、円滑な協議の進行に資するため、具体的な協議に入る前に、事務当局から、第1段階の協議において取調べの録音・録画制度に関連するものとして共有された資料の内容を改めて御紹介させていただきます。   まず、事務当局配布資料としては、第2回会議から第7回会議までにおいて15点の資料を配布させていただいたところです。資料番号と併せて申し上げますと、6-1として、最高検察庁次長検事名で発出された取調べの録音・録画の実施等に関する依命通知、6-2として、この依命通知を受けて最高検察庁刑事部長及び公判部長名で発出された取調べ等の録音・録画要領に関する事務連絡、7として、最高検察庁がホームページ上で公表している取調べの録音・録画の実施状況に関する統計資料、8-1及び8-2として、裁判員裁判対象事件及び検察官独自捜査事件における取調べの録音・録画の実施件数や、その録音・録画が全過程実施ではなく一部実施となった場合におけるその理由の内訳に関する資料、9として、最高検察庁監察指導部における監察の概況に関する資料、10として、供述の任意性が争われた事件における検察官の取調べに係る録音・録画の実施件数を身柄事件・在宅事件ごとに整理した統計資料、11として、供述の任意性が争われた事件における任意性に関する裁判所の判断状況を整理した資料、12-1及び12-2として、供述の任意性の立証がなされていないことを理由として供述調書等の証拠調べ請求が却下された事例、取調べの録音・録画記録媒体に基づいて供述の任意性が認められ、供述調書等が証拠として採用された事例をそれぞれまとめた事例集、13として、供述の任意性・信用性が争われた事件における裁判所の判断状況を整理した資料、14-1及び14-2として、取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が否定された事例、取調べの録音・録画記録媒体に基づいて供述の信用性が認められた事例をそれぞれまとめた事例集、18、22として、いずれも供述の任意性・信用性が争われた事件における裁判所の判断状況を整理した資料がございました。   なお、このうち配布資料11、13、18、22の関係について若干補足します。第4回会議において配布資料11を配布しましたが、同会議においては時間の都合上、同資料に基づく協議まで進まず、次の第5回会議において同資料の更新版として配布資料13を改めて配布させていただきました。さらに、第6回会議において、配布資料13の更新版として配布資料18を、第7回会議において、配布資料18の更新版として資料22を、それぞれ配布したところです。   次に、構成員の皆様から御提出いただいた資料としては、松田構成員から、第3回会議に資料1として御提出いただいた「取調べの録音・録画について」と題する警察庁刑事局長通達、資料2として御提出いただいた「警察における取調べの録音・録画実施状況」と題する警察庁作成の統計資料、第4回会議に御提出いただいた「警察の被疑者取調べに関する苦情等への対応状況」についての資料、河津構成員から、第4回会議に御提出いただきました「取調べに関する問題事例一覧」がございました。   なお、当然のことながら、御協議いただく中で、ただ今御紹介した各資料以外の配布資料の内容に言及いただくことを妨げるものではございません。   それでは、論点整理案の一つ目ですが、取調べの録音・録画制度の対象とする事件の範囲を改めるべきかについて、御意見等はありますでしょうか。 ○松田構成員 論点整理の一つ目の対象とする事件の範囲は、逮捕又は勾留されている被疑者についての事件の論点ということでよろしいでしょうか。論点整理の三つ目と四つ目との関係で任意段階まで含めた総論的な話になるのか、それとも逮捕又は勾留されている被疑者に関する取調べに関する事件についてなのか、この点いかがでしょうか。 ○中野参事官 松田構成員の御指摘のとおりでございまして、対象事件の範囲については、逮捕・勾留されている被疑者についてのものという整理です。   ○河津構成員 取調べの録音・録画制度の対象事件の範囲を改め、全事件に拡大することは必須であると考えます。  この制度の導入を提言した法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の基本構想及び取りまとめにおいては、二つの共通認識が確認されています。一つ目は、「供述証拠の収集が適正な手続で行われるべきことは言うまでもない」ことであり、二つ目は、「被疑者の捜査段階での供述が適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要がある」ことです。これら二つの共通認識はいずれも、限られた事件にのみ妥当するものではありません。   特別部会の取りまとめに先立ち、村木厚子さんをはじめとする5名の一般有識者委員は、「将来的な全事件の可視化の方向性に沿うものであること」や「一定期間経過後に運用状況の検証を行い、それに基づく見直しを行う手続を具体的に盛り込むこと」などの取りまとめの評価・判断の基準を示していました。これを受けて示され、かつ全会一致で承認された取りまとめは、「制度としては取調べの録音・録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件」を対象としつつ、「施行後一定期間を経過した段階で検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずる」ものとしました。かつ、その検討等は、基本構想及び取りまとめを踏まえて行われるべきものであることが注記されています。   取調べの録音・録画制度の創設に際しては、弊害が生じる場合もあるとの御意見もありました。しかし、当協議会で施行状況が共有されましたが、小林構成員が第4回会議、第6回会議で繰り返し指摘されたように、録音・録画の弊害と言われていたものは、具体的には何も示されていません。抽象的には、被疑者の口が重くなる、関係者の名誉やプライバシーが害されるおそれがあるという御意見はありました。しかしながら、被疑者には供述しない権利があるのですから、供述しようとしないことを弊害と評価するのは不適切です。また、関係者の名誉やプライバシーを不必要に害さないよう配慮すべきことは、録音・録画が行われていなくても当然であり、むしろ取調官が被疑者の中学校の成績を持ち出して侮辱するなど、名誉やプライバシーを侵害するような不適正な取調べを行っているのですから、それを録音・録画の弊害というのは本末転倒であると言わざるを得ません。弁護人として、取調べの録音・録画記録媒体を検討した経験に照らしても、録音・録画が行われているために、供述したいのに供述することができないといった弊害はおよそ生じていません。   第4回会議で、吉田構成員から、「現行の取調べ録音・録画制度に関しては、録音・録画に伴う弊害も考慮して、一定の除外事由、例外事由を設けており、その意味で、現行制度を適正に運用している限りにおいては、取調べの録音・録画を実施したことそのものによる弊害というのは具体的ケースとして把握されにくい状況にあるのではないか」との御説明がありました。録音・録画によって客観的に記録されている以上、弊害が生じているのであれば具体的に把握可能なはずですから、弊害を考慮して一定の除外事由を設けたことにより、少なくとも必要性を上回るような弊害は生じていないことは明らかであると思われます。   法制審特別部会で幹事を務められた川出敏裕教授も、先日公表された、「捜査における取調べの可視化の意義」と題する論文で、「刑訴法が捜査の必要性に配慮した除外事由を設けている以上、理論上は対象事件の拡大を否定する理由はないと言わざるを得ないであろう、捜査機関としては録音・録画がなされることを前提に、そのメリットを生かしながら、どのように信用性のある供述を獲得していくかを検討すべき時期に来ていると思われる」と指摘されています。   このように、もとより全ての事件において供述証拠の収集手続の適正を確保する必要があることに加えて、除外事由によって弊害も生じていない以上、対象事件の範囲を改め、全事件に拡大すべきことは当然であると言うべきです。   念のために申し上げると、近年、公判において自白の任意性が争われることは減少しており、このことは事務当局に御用意いただいた資料にも表れています。しかし、第2回会議で小林構成員が全面的に賛成するとおっしゃったように、自白が公判において利用されなければ不適正な取調べがあってよいというものではありません。現行の取調べ録音・録画制度の下では、公判において取調べの録音・録画記録媒体を取り調べなければならない場合が、起訴された事件において、供述調書が証拠請求され、その任意性が争われ、検察官が証拠請求を維持して、裁判所が記録媒体を証拠採用した場合に限られており、不適正な取調べを行っても、容易に裁判所の審査を受けることを回避することができる構造になっています。公判で自白の任意性が争点となるのは、不適正な取調べが行われた事案のごく一部にすぎません。   そもそも刑訴法改正のきっかけとなった村木厚子さんの事件も、村木さんの自白の任意性が問題となった事件ではありません。村木さんの事件では、多数の関係者に対し、無実の村木さんを罪に陥れるような供述を強要するような取調べが行われたのであり、公判において供述調書の記載と異なる証言をした証人については供述調書の特信性が、公判においても供述調書と同様の供述をした証人については証言の信用性が問題となったものです。近年においても、プレサンス事件のように他人を罪に陥れる供述を強要するような取調べが行われているのであり、そのような取調べが行われるおそれは現行法の対象事件に限られるものではありません。   そして、これは三つ目の論点とも共通することですが、これまでの取調べの録音・録画の施行状況により明確になったのは、録音・録画を取調官の裁量に委ねることの弊害が非常に大きいことです。法制審特別部会の取りまとめでは、「制度の対象とされていない取調べであっても、基本構想で確認された共通認識を実現する観点から、実務上の運用において可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされ、かつ、その記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくことを強く期待する」とされていました。また、国会でも改正法の施行に当たり、「逮捕又は勾留された被疑者以外の者の取調べについても録音・録画をできる限り行うよう努めること」について、格段の配慮を求める附帯決議がなされていました。   しかし、当協議会で共有いただいたところによると、警察が対象事件以外で録音・録画を行っているのは、ほぼ精神に障害を有する被疑者に係る取調べに限られています。検察は逮捕・勾留されていない被疑者の取調べの録音・録画をほとんど行っておらず、施行後の見直しが予定されていたにもかかわらず、その実施状況の統計すら取っていないというのは、非常に不適切であると申し上げざるを得ません。そして、取調官が録音・録画をしていないところで被疑者の人格を否定するような言動をしたり、不起訴や強制捜査を示唆したりして、見立てに沿った供述を強要する取調べが行われていることが、被疑者による録音によって明らかになっています。   それだけでなく、第11回会議で、最高検察庁監察指導部の調査結果を御報告いただいた参院選大規模買収事件のように、被疑者が供述内容の記載内容を否認している供述をしているのに、あたかも記憶のとおり供述し、供述調査を作成したかのように偽装するような一部録音・録画が行われていることも明らかになっており、録音・録画を取調官の裁量に委ねることの弊害は顕著であると言わなければなりません。被疑者が取調べの録音を試み、かつそれに成功するのは極めてまれなことですし、逮捕・勾留されている場合にはおよそ不可能となりますから、被疑者の録音によって明らかになった不適正取調べの事案は、氷山の一角にすぎないと言わざるを得ません。   最近でも、一昨年から昨年にかけて捜査が行われた東京五輪に関する独占禁止法違反被告事件について、捜査段階で自白調書が作成されている被告人4名、被告会社4社が公判で公訴事実を争っており、これまでに少なくとも被告人3名について、録音・録画のない取調べで虚偽の自白を強要された旨が公判期日で陳述されています。そのうち1名の被告人は、不適正な取調べを受けて、弁護人が最高検察庁監察指導部に対して苦情申立てをしたところ、検察官が会社代表者を取調べに呼び出し、当該被告人の逮捕を示唆し、苦情申立ての取下げとわび状の提出を要求し、会社は被告人を守るためにこれに応じた旨を公判期日で陳述しています。この事例は、検察改革の意義を否定するような深刻な問題を含んでおり、調査の上、調査結果を当協議会に報告し、かつ公表していただくべきだと思いますが、このような一連の取調べが客観的に記録されていないこと自体、録音・録画を取調官の裁量に委ねることが不適切であることを示しています。   最後に、検察における取調べと警察における取調べとで取扱いを異にすべきかという点について、意見を申し上げます。冒頭に申し上げた供述証拠の収集手続の適正を確保する必要性等は、警察と検察とで異なるものではありません。ただ、立法論としての当否は別として、現行刑訴法は検察官調書について警察官調書とは異なる取扱いをしており、検察官の取調べについて、より高度の適正さを求めていると考えられます。また、検察官は警察官にはない勾留請求や公判請求の権限を有することから、その心証に合致する方向に供述を誘導しやすく、その結果として、刑事裁判における事実認定を誤らせる危険も大きいといえます。他方で、ほとんどの事件で初期供述が録取されるのは警察官の取調べであり、供述が適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることを明らかにするという観点からは、初期供述を客観的に記録する必要性が高いと考えられます。いずれにしても、供述証拠の収集手続の適正を確保する必要があり、取調べの録音・録画がそれに資することは警察、検察に共通する以上、いずれの取調べについても全ての事件に対象を拡大すべきであると考えます。 ○足立構成員 河津構成員から御意見あったものと一部重複するので、私からも意見を申し述べたいと思います。   これまでの議論等を振り返ると、取調べの録音・録画は現行制度の範囲内においてはおおむね問題がなく運用されているというふうに感じています。事務当局の配布資料14-1の「取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が否定された事例」を見ると、録音・録画データを根拠に検察官調書の記載内容との矛盾点を指摘する判決例が複数あったり、ほかにも捜査官の誘導的な質問や被疑者への恫喝を指摘したりする判決例もありました。反対に、配布資料14-2の「取調べの録音・録画記録媒体に基づいて供述の信用性が認められた事例」を見ると、録音・録画の映像から検察官の不当な誘導や押し付けを否定したり、被告人の自白の信用性を認定したりするといった判決例もありました。取調べをめぐる任意性・信用性の争いが生じたときに、客観的に事実認定が一定程度はなされているという見方ができると考えています。先ほど河津構成員からも御指摘がありましたが、録音・録画によって具体的な弊害が報告されていないという実態があり、供述調書に過度に依存しない捜査・公判を目指すという刑事司法改革は一定程度、安定的に運用されているように思います。   一方で、配布資料5-1にありました「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」では、録音・録画の対象範囲について、身体拘束下での取調べは取調べ状況をめぐる争いが生じやすく、制度の対象とする必要が大きいことに異論はなかったと指摘しています。また、同じ資料の中で、先ほど河津構成員からも御説明がありましたが、刑事司法における事案の解明が不可欠であるとしても、そのための供述証拠の収集が適正な手続の下で行われることは言うまでもないとも述べています。こうした基本構想が刑訴法の改正につながり、その改正法の運用を再検討するという本協議会の議論にもつながっていると考えます。そうであれば、えん罪を防止し適正な捜査を実現するという特別部会の理念を引き継いで、可視化の対象範囲を更に拡大すべき時期なのだろうと考えています。   事務当局の配布資料7の「平成28年度から令和3年度までの録音・録画の実施状況」を見ると、いわゆる裁判員裁判の対象事件や検察官独自捜査事件などの4類型以外の事件でも、既に検察官の取調べでは9万件前後が録音・録画を実施されており、全身柄事件の90%を超える割合に達しています。少なくとも検察官の取調べにおいて、身柄事件については原則として録音・録画が実施可能であり、制度化を検討すべきだと私は考えています。 ○松田構成員 それでは、私からも意見を述べさせていただきます。   まず、取調べの重要性は変わらないということを申し述べたいと思います。警察は、これまでの経緯も踏まえまして、取調べに過度に依存しない客観証拠を重視する捜査を推進しているところでございますが、取調べは引き続き重要な捜査手法の一つであります。取調べにおいては、例えば故意や目的といった犯罪の主観的要素や、共犯関係における謀議の情報等を解明すること、また、真犯人のみが知り得る犯罪の全容を解明すること、さらには供述によって新たな客観証拠の発見に至ることなども多々ありまして、取調べは事案の真相解明に非常に重要な役割を果たしているということは変わらないということは申し上げておきたいと思います。加えて、警察におきましては、当該事件に関連したやり取りが重要でありまして、例えば犯罪組織の構成だとか指揮命令系統、利権構造等を取調べなどで把握すること、また犯行の手口の詳細を知ることが可能になるということも、重要な機能であることを申し述べたいと思います。   その上で、意見を申し上げますと、取調べの録音・録画につきましては、被疑者の供述の任意性等の立証に資する一方で、被疑者から供述を得にくくなる側面があるほか、一定の人的・物的負担が生じるということもありますので、これ以上対象範囲を拡大することは取調べの真相解明機能の低下につながることから、現行の制度を維持することが適当と考えております。   過去の法制審議会におきましても、警察庁からの発言で、録音・録画の範囲は真に必要かつ合理的な範囲に限って導入されるべきものであること、公判請求率や自白の任意性が争われる頻度、録音・録画に要するコスト等を勘案すれば、警察の取調べに関しては、裁判員裁判対象事件等について録音・録画を行うことが合理的な範囲であると発言したことがありますけれども、現在においてもこの意見に変わりはございません。   1巡目の議論におきまして警察庁から、捜査段階における取調べの録音・録画の実施状況や被疑者取調べに関する苦情等への対応状況について御説明差し上げました。また、事務当局から、供述の任意性が争われた事件や、取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件における裁判所の判断状況について説明していただきましたけれども、これらを踏まえましても、現行の制度を改める必要性は認められず、制度を改めた場合の弊害、捜査現場の負担等を踏まえれば、制度対象事件の範囲の拡大は不要であると考えます。   取調べの録音・録画を実施したことの弊害について説明がないという御指摘も今ございましたけれども、それは一つの事件で同時に取調べを録音・録画する、しないということを同時並行で行うことができないことから、厳密には立証できませんが、都道府県警察において録音・録画をすることによって支障が生じた事例を把握していることから、何点か具体的に紹介させていただきたいと思います。   例えば、一つ目として、自首した被疑者が逮捕後の録音・録画の取調べでは黙秘した事例であります。警察に自首したことから自首調書作成の上、逮捕した被疑者について録音・録画下で取調べを実施したところ、黙秘したというものです。   二つ目として、録音・録画下の取調べで黙秘していた被疑者が、取調べ終了後に、カメラがあると話ができない等と申し立てた事例であります。これは録音・録画下の取調べでは明確な拒否言動をしなかったことから、除外事由の2号は適用できなかったと聞いております。   三つ目として、録音・録画下の取調べでは黙秘していた被疑者が、取調室の外では事案について自主的に話し出した事例であります。このときには被疑者は、弁護士や共犯者が録音・録画記録を視聴するのではないかと心配していたというものです。   四つ目として、録音・録画記録を視聴した際の遺族感情等を懸念し、供述をためらう事例であります。被疑者は自分をよく見せたいという思いと、被害者を蔑むわけにはいかないという両方の思いがあり、後で遺族が映像を見るかもしれないと懸念していたというものです。   五つ目として、取調官と被疑者の人間関係の構築に支障が生じた事例であります。録音・録画下において取調官が自分の情報、自分がこういう人間だという情報の開示をちゅうちょし、人間関係の構築に影響を及ぼしたというもので、これらの事例について承知しており、録音・録画により取調べの真相解明機能に支障が生じるおそれがあると考えている次第です。   もとより御指摘が多々ありますように、適正な取調べというものは当然のごとく必要でございまして、不適切な取調べがあってはならないということは当然、警察においても共有しているところです。ただ、これをなくすために取調べの録音・録画の拡大ということは考えておりませんで、警察におきましては、既に御説明差し上げましたとおり、被疑者取調べの適正のための監督に関する規則に基づきまして、被疑者取調べ監督制度を設けるなどして被疑者取調べの一層の適正化を図っておりますし、不適切な取調べがあったと指摘された場合には事実関係をしっかりと調査し、不適切な点が認められた場合、取調官の個別の指導や再発防止策等を講じています。また、御説明しましたとおり、苦情申出制度によって対応もしています。   もう一つの弊害、供述を得にくくなる側面というのを申し上げましたが、一定の人的・物的負担ということについて申し上げておきたいと思います。   録音・録画装置の整備については、現在も財政的な負担が大きいことが課題になっているところ、制度対象事件の範囲が拡大された場合には、更に録音・録画装置を整備する必要が生じるということでございます。財政的な負担が大きくなるほか、これらの装置が足りないために直ちに取調べができないということになれば、捜査に支障を生じ得るというふうに考えている次第です。なお、警察の場合、国費に加えまして都道府県による費用負担にも留意する必要があるということは御承知おきいただきたいと思います。   また、録音・録画の実施に当たっては、現在取調官以外の補助者が録音・録画装置の操作を行うことにしているほか、捜査主任官等が録音・録画装置の視認や、録音・録画記録媒体の再生等により、適正に録音・録画が行われていること及び行われたことを確認することとしております。制度対象事件の範囲が拡大された場合には、この負担もまた増えるということでございまして、例えば署員数40人か50人の小規模署というのもございますけれども、そういったところでは、例えば録音・録画装置の操作を行う補助者を確保することは困難であり、警察官を増員する必要があるということを見込まれまして、コストになり得るほか、人員が足りないために直ちに取調べができないということになれば、捜査に支障が生じ得ると考えている次第です。   以上でございますけれども、第一線の警察官、警察は、被害者その他の関係者の思いに応えるべく、一件一件の事件について検挙・解決のため捜査に全力で取り組んでいます。そういった状況の中で、対象事件を拡大した場合には、捜査に重大な支障が生じ、犯人が検挙できなくなり、未解決の事件が増加するような事態が生じるおそれがあるということを懸念しております。その結果、犯人が野放しになり新たな被害者が生まれてしまうようなことがあれば、取り返しがつかないということでございまして、国民の安全・安心に直結するような治安の分野ということでは、一度試してみてうまくいかないと、それで元に戻すという実験のようなことはできないというふうに思っておりますので、仮に制度を改める場合には慎重の上に慎重を期さなければならず、様々な意見を踏まえながら、バランスもとりながら、改正の必要性・相当性を慎重に吟味する必要があると考えております。 ○宮崎構成員 対象事件の範囲を改めるべきか否かにつきまして、検察官の立場から意見を申し上げます。   取調べの録音・録画制度の対象事件の具体的な範囲については、平成28年の刑事訴訟法等の一部を改正する法律の立案に先立ち開催された法制審議会・新時代の刑事司法特別部会においても、相当長時間を費やして議論が行われたものと承知しており、最終的には、実際に公判において取調べ等の状況が争われる事件は極めて少ないことからすると、全ての事件を一律に録音・録画制度の対象とすることについては、その必要性・合理性に大きな疑問があること、取調べの真相解明機能の低下など捜査への影響を懸念する意見も示されたこと、制度の運用に伴う人的・物的負担も甚大なものとなることなどを考慮して、法律上の制度としての録音・録画制度の対象は、録音・録画の必要性が最も高い類型の事件、すなわち裁判員裁判対象事件及びいわゆる検察官独自捜査事件とすることが適当とされたものと承知しています。   取調べの録音・録画制度の対象事件の範囲を改めるべきか否かについては、このような現行制度の立案時の議論も踏まえ、議論の前提状況について変化が生じているのか、すなわち、対象事件を改めるべき状況が存在するのかという点を、第1段階の協議において共有された現行制度の運用状況などに照らして慎重に検討する必要があると思われます。   そこで、まず申し上げておきたいのは、検察においては、法律上義務付けられている取調べの録音・録画を適切に実施していることはもとより、運用においても、逮捕又は勾留されている被疑者の取調べについて幅広く録音・録画を行っているということであります。配布資料6-1の次長検事依命通知にもあるとおり、現在検察においては法律上の対象事件のほか、知的障害を有する者で言語によるコミュニケーション能力に問題がある者又は取調官に対する迎合性や被誘導性が高いと認められる者、精神の障害等により責任能力の減退・喪失が疑われる者について逮捕・勾留中の被疑者として取調べを行う場合には、原則として録音・録画を実施することとしており、また、それ以外の事件であっても、公判請求が見込まれる事件であって事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる事件に係る逮捕・勾留中の被疑者の取調べなどについては、幅広く録音・録画を実施しています。その結果として、配布資料7のとおり、例えば令和2年度及び令和3年度におけるいわゆる身柄事件についての録音・録画の実施率は、どちらも90%を超えているところです。そして、検察においてはこうした運用を後退させるというつもりは全くなく、このような傾向は今後も変わらないと思われます。   その上で、そもそも公判において取調べ等の状況が争われる事件は極めて少ないという事実は、現在も何ら変わるところはありません。配布資料13によれば、例えば令和3年において供述の任意性が争われた事件及び取調べの違法・不当を理由として供述の信用性が争われた事件の件数は全部で67件であり、そのうち裁判員裁判対象事件は7件、検察官独自捜査事件は0件、それ以外の事件は60件です。この資料に参考として記載されている同年中の起訴件数が24万4,425件であることと比較すると、統計の取り方が異なるため、飽くまで大まかなボリュームを把握するための計算になりますが、供述の任意性等が争われた事件の割合は約0.027%にとどまっており、事件全体の中で供述の任意性等が争われることは極めてまれであるといえます。また、裁判所が公表している統計資料によれば、近時の裁判員裁判対象事件の年間の受理人員数はおおむね800から1,000人程度であり、令和3年については793人であったとされていることからすると、現行制度の対象事件以外の事件については、対象事件と比べて一層、任意性をめぐる争いが生じる割合が少ないということも明らかであります。   現在におきましても、取調べの録音・録画制度の対象事件の範囲は必要性が高い類型の事件とするのが適当であるという前提は、基本的に変わっていないものと考えられます。そして、取調べの録音・録画制度が被疑者の供述の任意性等の的確な立証を担保するという趣旨もあって導入されたということを考えますと、やはりそのような観点からは、被疑者の供述の任意性等の的確な立証を担保すべき状況、すなわち現実に公判において取調べ等の状況が争われる事件がどれほどあるのかという点は、極めて重要な考慮事情であって、これに着目して議論することには合理性があると考えております。   また、河津構成員からは個別の事案に言及の上で、対象事件の範囲を拡大すべきという御意見がございました。これまで本協議会で言及されてきた個別事案の中に不適正とされる取調べがあったと指摘されているものがあることを否定するものではなく、そのこと自体は検察に身を置く者として重く受け止めなければならないと考えておりますけれども、本協議会の趣旨を踏まえますと、飽くまで制度・運用の全体を見渡して議論を行う必要があると思います。   その意味で、御紹介のあった個別事案の存在は、中にはそもそもその事実関係や評価について共通の認識が得られているとはいえないものもありますが、いずれにせよ、直ちに録音・録画制度の対象事件の範囲を拡大する必要性を基礎付けるものではないと考えております。少なくとも私自身の経験に照らして、不適正な取調べが蔓延しているという状況はないという認識です。   私自身、職務上数多くの事件の捜査に携わっており、必要に応じて録音・録画記録媒体も視聴しておりますけれども、今申し上げたとおり、日常的に不適正な取調べが横行しているという状況にはないと認識しております。このことについては、本協議会で共有された資料からもお分かりいただけると思うのですが、例えば、配布資料9として共有されております最高検察庁監察指導部における監察についての件数等を確認しますと、令和元年6月1日から令和4年3月31日までの期間で監察指導部が取調べに関する不満等に係る情報を受け付けた件数は452件であるとされており、平均すると年間およそ150件程度ということとなります。また、これに関連しまして事務当局から、同じ期間中に監察が実施された案件で、被疑者の取調べに関して問題があったとされた件数は79件であったとの補足説明もあったところで、これも平均すると年間およそ25、6件という数になります。   また、本協議会の第4回会議で河津構成員から御提出いただいた、「取調べに関する問題事例一覧と題する資料」がございました。こちらも令和元年6月以降、最後の事例が2022年6月となっておりますので、令和4年6月ということになると思いますけれども、日弁連で会員の弁護士から取調べの問題事例として報告を受けた事例全てをまとめたと伺いましたが、全部で30件という数でございました。なお、この資料については弁護人からの報告内容をまとめたもので、その報告どおりの事実があったかどうかはまた別問題でありまして、実際、幾つかの事例については、弁護人から捜査機関に苦情申出をしたところ、捜査機関側からは申出対象の事実がなかった旨の回答があったといった報告がされているところであります。   いずれにしても、検察庁における被疑人員の受理人員数は、道路交通法等違反被疑事件を除いても、令和元年以降、一貫して年間50万人を優に超えておりまして、取調べ全体から見て、取調べの適正が問題となる事案の数はごく一部であるといえると思います。もちろん不適正な取調べがあってはならないということは当然のことだと思っております。  次に、取調べの録音・録画のマイナス面についても申し上げたいと思います。   まず、録音・録画により取調べで十分な供述が得にくくなるという場合が現実としてあり、捜査への影響があるということは、立案当時に懸念されたとおりではないかと思います。実際に録音・録画下では、取調べを受けている被疑者において自分の言動が即記録に残るということを意識することから、必要以上に口が固くなり、特に自己に不利だと思うような供述をしにくくなるといった傾向があり、録音・録画を実施している事件について被疑者から事案の真相解明に資する供述を得にくい場合が少なからずあるといった印象を抱いているところであります。   また、録音・録画の実施に伴う人的・物的負担についても無視できないものがあると感じております。機器の整備といった物的負担はもちろんのこと、人的負担としても、機器の動作状況のチェック等の事前準備、録音・録画機器の操作、実施後の関係書類の作成、出張時の録音・録画機器の運搬設置作業といったものがあるほか、警察官の取調べの録音・録画記録媒体の視聴や、決裁官や公判担当検察官などによる捜査担当検察官の取調べの録音・録画記録媒体の視聴には、実務上、相当な業務時間を割いており、現場の負担感が大きいことは紛れもない事実であります。   このように、現行制度の対象事件以外の事件についてほとんど任意性等が争われていないという現実がある中で、録音・録画による取調べの機能への影響は依然として存在しており、かつ録音・録画の実施に伴う人的・物的負担も大きいことを踏まえると、供述の任意性等の的確な立証を担保するとともに取調べ等の適正な実施に資するという取調べの録音・録画制度の趣旨に照らしても、現時点で制度の対象事件を拡大すべき状況は認められないと考えております。   なお、誤解のないように申し上げておきたいと思いますけれども、取調べ等の適正な実施という観点から、先ほど申し上げたとおり、検察における取調べの在り方について問題が指摘されている事案があることを否定するつもりはなく、そのことは真摯に受け止めなければならないと考えております。もっとも、取調べの適正は、録音・録画制度によらなければ確保できないというものではないと考えております。この点、検察においては、取調べの適正を確保するため、被疑者・弁護人等から被疑者の取調べに関する申入れがなされた場合の調査等の対応、検察官を対象とする研修、日常業務における決裁官による部下検察官への指導、最高検監察指導部による監察調査といった様々な方策を講じております。取調べの適正の確保は、取調べの録音・録画の義務付けだけでなく、運用上の取調べの録音・録画の実施や、その他の種々の方策を組み合わせることによって図っていくのが現実的かつ合理的であると考えております。 ○成瀬構成員 取調べの録音・録画制度の対象事件の範囲を改めるべきか否かを検討するに当たっては、刑事訴訟法301条の2第1項に規定されている制度対象事件を見るだけではなく、実際の運用において、どの範囲の事件が録音・録画されているかという点にも着目する必要があると思います。   そこで、まず検察の運用をよりよく理解するため、宮崎構成員に質問をさせていただきたいと思います。先ほどの御発言の後半で、取調べの録音・録画のデメリットとして、取調べで十分な供述が得にくくなることや、録音・録画の実施に伴う人的・物的負担が大きいことを指摘しておられましたが、このようなデメリットが現に存在するにもかかわらず、検察の運用において、いわゆる身柄事件の録音・録画の実施率が90%を超えているのはなぜなのでしょうか。身柄事件の録音・録画には、ご指摘のデメリットを上回るメリットがあるということであれば、そのメリットの内実を敷衍して御説明いただきたく存じます。 ○宮崎構成員 御質問ありがとうございます。録音・録画のメリットに関して申しますと、例えば被疑者が供述調書の作成に応じない場合に供述を残すであるとか、あるいは弁解を次々変遷させる場合にそれを記録に残すという、証拠の確保というメリットがあることは事実ですが、他方でこれを重視して実施しているかというと、そういうことでもないように思います。メリットといっていいのか、ややニュアンスが違うようには思うのですが、検察官としてはやはり、仮に立証に資する供述が被疑者から得られたとしても、後に録音・録画していないことで任意性・信用性の立証に支障が生じるのではないか、録音・録画がないことによって、結局のところ公判で立証に用いることができないのではないかという懸念があり、やはり公判での立証を考えると、ある程度の弊害があるとしても録音・録画せざるを得ないという、そのような発想になっているのではないかと思っております。   そういう意味では、デメリットを上回るメリットというよりは、メリット、デメリットも勘案しますけれども、やはり公判立証を考えると録画に踏み切らざるを得ない、録音・録画を実施せざるを得ないという判断に至っているのではないか、そのような思考過程ではないかと思っております。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明いただき、ありがとうございました。立証責任を負う検察官として、公判で供述の任意性・信用性が争われた場合に備える観点から録音・録画を実施しているというご説明であったと思います。   振り返ってみますと、第1段階の議論においても、鈴木構成員が、取調べ室内の出来事を立証するには録音・録画記録が最もふさわしい証拠であり、それは供述の任意性・信用性のいずれが争われた場合でも変わらないという御趣旨の発言をしておられたと思います。裁判所がそのようなスタンスで審理に臨まれるのであれば、公判で供述の任意性・信用性が争われた場合に録音・録画記録がないということが、立証責任を負う検察官にとって不利に働くことは十分に考えられますので、宮崎構成員のご説明は理解できるところです。   他方で、刑訴法301条の2が規定する録音・録画制度の目的としては、先ほど河津構成員や足立構成員が言及されたように、取調べの適正な実施を確保することも挙げられていたと思います。先ほどの宮崎構成員のご説明では、検察官が運用において身柄事件の取調べの録音・録画を実施する場合のメリットとして、取調べの適正確保を挙げておられませんでしたが、この点も考慮した上で、録音・録画の運用が行われていると理解してよろしいでしょうか。 ○宮崎構成員 取調べの録音・録画に取調べの適正を確保するという効果があることについて、もちろん否定するものではないですが、取調べを行う個々の検察官がそれを考慮して実施しているかというと、やや違うのかなと。というのは、検察官が取調べの適正確保を考慮して録音・録画するというのは、要するに自分が不適正なことを何かするかもしれないから、しないために録音・録画しようという発想になると思うんですが、恐らくそういう発想する人はいないであろうと思います。   要するに、取調べの適正確保を録音・録画のメリットと考えているというわけではなく、見方の問題なのかもしれないですけれども、不適正なことをしたと公判で言われない、言われたときに反論できるようにするという意味では、結局のところは公判立証という観点になると思いますが、何か自分が不適正なことをしたということを理由に公判で供述の任意性・信用性を否定されないようにするという、そのような考慮はしているかと思います。 ○成瀬構成員 重ねて御説明いただき、ありがとうございました。  検察における身柄事件の録音・録画の実施状況をあえて理論的に整理するとすれば、身柄事件の取調べの大部分においては、今、宮崎構成員がおっしゃった録音・録画のメリット、すなわち、不適正な取調べを理由として供述の任意性・信用性が争われる場合に備え、公判で的確に反論できるようにするというメリットが、録音・録画のデメリット、すなわち、被疑者の十分な供述を得にくくなることや、実施に伴い人的・物的負担が生じることを上回ると判断されていると理解できるように思います。   このような比較衡量判断に基づき、身柄事件の取調べの大部分において録音・録画が現に行われており、かつ、先ほど宮崎構成員がおっしゃったように、検察において、現在の運用を後退させるつもりは全くないというのであれば、そのことを制度上も担保するため、足立構成員が提案されたように、刑訴法301条の2第1項における録音・録画制度の対象事件を拡大し、検察官が身柄拘束中の被疑者を取り調べる場合には一律に録音・録画を義務付けるということも考えられるように思うのですが、このような立法提案について、宮崎構成員はどのようにお考えでしょうか。 ○宮崎構成員 現状で身柄事件の大半を録音・録画しているとはいえ、配布資料7を見ていただきますと、身柄事件について録音・録画を一度も実施しなかった件数は身柄事件全体の1割に満たないといっても、件数そのものを見れば相当な件数がございます。また、いわゆる4類型事件以外の事件について録音・録画を実施したもののうち、全過程実施ではなくて一部実施だったものの件数も、令和2年度は6,664件、令和3年度は4,666件となっており、こちらも相当な件数に上っております。   これらの事件の中には、録音・録画を実施することによって取調べの真相解明機能への影響があると考えられたことなどから、録音・録画を実施しないこととしたものも一定数含まれているのではないかと思われ、そのような事件についても法律によって一律に録音・録画を義務付けることとすれば、検察官としては、将来供述の任意性や信用性が争われた場合のことを考え、義務の除外事由に該当するかどうかを非常に慎重に判断することとなって、結局録音・録画下で取調べを行わざるを得なくなり、現在運用上の録音・録画の実施によって回避できている捜査への支障が顕在化することとなりかねないと考えております。   取調べの録音・録画には取調べの真相解明機能を低下させる弊害があるということは、先ほど松田構成員からも御紹介がありましたけれども、ここで、私の方からも改めて申し上げておきたいと思います。   この点については、例えば平成23年に法務省が作成した取調べに関する国内調査結果報告書において、録音・録画下では、被疑者の口が重くなったり、言葉を選んで話すようになるなどの供述態度の変化や、従前と比較して刑事責任の軽い内容を供述したり、供述が曖昧になるなどの供述内容の変化が認められたといった報告がされ、平成24年に最高検察庁が公表した検察における取調べの録音・録画の検証結果においても、録音・録画下では、被疑者が緊張、羞恥心、自尊心等の心理的影響から自由な意思に基づく供述をしづらくなる場合があること、組織的な背景のある犯罪や共犯事件において、組織や共犯についての供述を得ることが困難となる場合があること、取調官と被疑者の間で信頼関係を構築することが困難であることなどが指摘されていました。   さらに、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会においても、捜査機関側からの幹事、委員から、録音・録画下では、暴力団組員に対する取調べなどにおいて、取調官との一対一のやり取りだからこそ話せる情報等が得られなくなる、被疑者は映像が残ることを意識し、虚偽供述であっても一度した供述を維持し続けるおそれがある、証拠化を前提とせずに話をするように説得して供述を得、その上で段階的に被疑者が納得した範囲内で供述調書にするといった手法がとれなくなり、特に共犯事件などにおいて供述が得られなくなるおそれがあるといった懸念が示されていたところです。   令和元年6月から取調べの録音・録画制度が施行され、ある程度の年数が経過しましたが、私としては、ただ今述べたような報告書や検証結果、特別部会での幹事・委員の発言において指摘されたことについては、基本的に現在でも同じことがいえると考えており、取調べの録音・録画が取調べの真相解明機能にマイナスの影響を与える場合が少なからずあるということは否定できないと感じております。   特に、録音・録画下では被疑者の口が必要以上に重くなってしまい、事案の真相解明に資する供述が得られにくくなる場合があるといった側面は、私自身の取調べの経験や、同僚や部下の話を聞いていても一般的な傾向として感じるところであり、数値として示すことは難しいですけれども、自分の話したことの全てがその場で一語一句記録されるとなれば、率直に話せない、うかつなことは言えないというのは、人間の自然な心理として誰もが理解できるところではないかと思います。   なお、ここで供述が得られにくくなると申し上げているのは、必ずしも被疑者にとって不利な供述だけには限られません。被疑者から見れば、自分のどのような発言が自分にとって有利に働くのか、あるいは不利に働くのか、必ずしも明らかではないことも多いと思われるところ、自分の発言が即時に証拠化されるという状況においては、そもそも有利・不利を問わずに最小限のことしか話さないという人も一定数いるかと思います。その結果、取調べによって得られるそもそもの情報量が少なくなってしまい、事案の真相を十分に解明できなくなるということがあり得ます。  こうしたことは、私自身も日々の執務の中で実感しているところであります。   いわゆる特殊詐欺などの組織犯罪について、犯行の組織性を明らかにし、上位者を含めた共犯者を検挙して当該組織による同種犯行の全容を解明するためには、最初に検挙した被疑者に関する捜査から様々な情報を得て段階的に組織全体に捜査を進めていく、いわゆる突き上げ捜査が極めて重要となり、中でも被疑者の供述は捜査を大きく進展させる貴重な情報となり得ますが、この種の事案においては、弁護人の選任経緯等によっては、弁護人から共犯者に自らの供述内容が伝わることを懸念する被疑者が一定数おり、自らの供述が供述調書や録音・録画記録媒体などの証拠にならない形であれば上位者等の共犯者に関して供述してもよい、という姿勢を見せるケースはそれなりにあります。私自身、共犯事件の被疑者から、取調べの録音・録画の実施を告知した際に、「これって共犯者が見ることはありますか。」などと聞かれた経験もあります。こうしたケースは、特殊詐欺等のみならず会社ぐるみで行われた企業犯罪などでも見られることがあります。   また、性犯罪の事案で、録音・録画を実施していない警察の取調べには応じて供述はするけれども、検察官の取調べについては、録音・録画されていることを理由に全く供述が得られなかったという例もありました。性犯罪は、羞恥心や自己保身から、被疑者から供述を得にくいと常々感じるところでありますが、他方で被疑者と被害者の供述が主要な証拠となり、客観証拠が乏しいことが多いため、被疑者の供述が得られないことが捜査・公判における被害者の負担の増大にはね返ってしまうという面がございます。   また、裁判員裁判対象事件については、既に警察、検察いずれの取調べについても録音・録画が義務化されていますが、私の個人的な実感としては、録音・録画の義務化の前と比べて事案の解明度が下がっているという印象が強いです。これは組織犯罪に限ったことではありません。例えば、殺人事件の経緯や動機、背景事情等については、被疑者の供述を手がかりにして、関係者の取調べや証拠の収集などの捜査を展開することによって、事実が明らかになるということが多いです。検察官としては、事案に見合った処分、量刑を実現するという観点だけでなく、なぜ自分の家族が亡くなったのかを知りたい、被疑者に真実を語ってもらいたいという御遺族の切なる思いにこたえるためにも、動機等の解明は重要であると考えていますし、重大凶悪事件の報道等を見ますと「動機の解明が待たれる」というフレーズがしばしば見聞きされるなど、動機等に関する社会的な関心も高いと思われます。   動機等に関しては、男女関係や家族関係、自己のコンプレックスに関することなど、被疑者にとって他人に語ることがためらわれるような事情が関係することも多く、犯行を認めている被疑者であっても、口が重くなったり、取り繕おうとしたりしがちであり、一言一句が録音・録画されている状況でいきなり語ることには、被疑者にとって相当なハードルがあると感じます。私自身の経験としても、高齢の母親が自分の子供を殺害した事件で、録音・録画下の検察官の取調べで動機に関してのみ黙秘したという事案がありました。その事件では、被疑者にかなり同情すべき事情があって、それが動機につながっていたと思われ、有利・不利でいえば、供述した方が被疑者に有利な場合でした。   動機等は飽くまで一つの例でありますけれども、動機等に限らず、一言一句が録音・録画によって記録化される状況では、取調官は、供述をするというハードルと、それを証拠に残すというハードルを、被疑者に一度に乗り越えてもらわなければならないのであり、録音・録画されていない場合と比べて格段に供述を得られにくく、取調べの真相解明機能が損なわれることは自明であろうと思います。   このような点に関しては、事件の検挙率や起訴率、有罪率など数字に表れない以上、そのような弊害はない、あるいは無視できるほど小さいという御指摘もあるかもしれないですけれども、そうではないということを申し上げておきたいと思います。すなわち、刑事事件における事案の真相解明は、必ずしも検挙できたか、起訴できたか、有罪判決が言い渡されて確定したかといった統計的な数値によって明確に示せるものばかりではありません。例えば、取調べにおいて十分な供述が得られなかった結果、犯行の経緯や動機、計画性といった事情が解明できなければ、適切な処分や量刑を実現できないこともありますし、組織的な犯罪について共犯者等の背後関係を解明できなければ、処罰すべき者を処罰できないといった事態も十分に生じ得るところです。これは検挙率には反映されてこないことだと思います。こうした統計には必ずしも現れてこない事案の解明度の低下という弊害もあり得るのだということは御理解いただきたいと思います。   もちろん録音・録画の有用性については十分に理解しており、録音・録画の必要性が高いものとして、法律上取調べの録音・録画が義務付けられている裁判員裁判対象事件及びいわゆる検察官独自捜査事件については、取調べの録音・録画によって取調べの真相解明機能が後退したとしても、それは捜査機関として甘受しなければならないものだと考えています。しかしながら、取調べの録音・録画を義務付ける必要性やその場合の弊害について十分に吟味することなく、録音・録画制度の対象事件の範囲を拡大した結果、取調べにおいて本来得られるはずだった供述が得られなくなり、事案の真相解明に支障が生じるといった事態は、検察官としては受け入れ難いと言わざるを得ないと思います。 ○成瀬構成員 大変詳細に御説明くださり、ありがとうございました。仮に、録音・録画制度の対象事件を拡大し、検察官が身柄拘束中の被疑者を取り調べる場合について一律に録音・録画を義務付けるならば、ただ今、多数の具体例を通じてお示し下さったような録音・録画のデメリットがメリットを上回る場合であっても、除外事由をうまく用いることができず、録音・録画を事実上実施せざるを得なくなる場面が出てきてしまう。それは事案の真相解明に支障を生じさせるので、検察官として受け入れ難いという趣旨の御意見であると承りました。   宮崎構成員のお話を伺いながら配布資料の8-1や8-2を見ていたのですが、検察においては、公判での立証責任を意識して、刑訴法301条の2第4項が定める録音・録画義務の除外事由を非常に謙抑的に用いておられます。このような検察の運用を前提とするならば、除外事由をうまく用いることができず、デメリットがメリットを上回る場面でも録音・録画を事実上実施せざるを得なくなるという宮崎構成員の御指摘も、一応、理解できるところです。   そもそも、刑訴法301条の2に規定されている取調べの録音・録画制度は、対象事件の全過程の録音・録画を一律に義務付けて、極めて限られた範囲でその義務を免除するという固い仕組みになっています。録音・録画のメリット・デメリットの程度が事件によって異なるとすれば、全ての身柄事件を一律に刑訴法上の固い仕組みの対象とすることは、かえって事案に応じた柔軟な対応を困難にしてしまう面があるのかもしれません。   続けて、今度は警察の録音・録画の運用について、松田構成員に質問をさせていただきたいと思います。  第3回会議で松田構成員が提出してくださった資料2の1ページによれば、警察における令和3年度の録音・録画実施件数は1万1,874件とされています。他方、配布資料7の1ページによれば、検察における令和3年度の録音・録画実施件数は9万1,607件ですので、警察の録音・録画実施件数は検察の録音・録画実施件数よりも圧倒的に少ないといえます。  警察においても、刑訴法301条の2第1項が規定する制度対象事件に加えて、取調べが制度対象事件に及ぶ見込みがある場合と、精神に障害を有する被疑者を取り調べる場合には、積極的に録音・録画を実施しておられますので、警察と検察の録音・録画実施件数の違いは、警察がそれ以外の身柄事件について録音・録画を実施する件数が極端に少ないという点に求められます。松田構成員が提出してくださった資料2の6ページによれば、令和3年度に見込み事件と精神障害を有する被疑者の事件以外の身柄事件において録音・録画が実施された件数は、僅か17件にとどまります。  先ほど宮崎構成員との議論の中で申し上げたように、検察においては、身柄事件の取調べの大部分において、録音・録画のメリットがデメリットを上回ると判断されています。これに対して、警察においては、見込み事件と精神障害を有する被疑者の事件以外の身柄事件の取調べにおいて、基本的に、録音・録画のデメリットがメリットを上回るという判断がされていることになります。  このように、警察と検察において、録音・録画を実施するか否かを決する上での比較衡量判断が正反対になっている理由について、松田構成員の方で何かお考えがあれば、お聞かせいただきたく存じます。 ○松田構成員 制度対象事件や精神に障害を有する被疑者の事件以外の警察における録音・録画は、通達にも示されているとおり、個別の事案ごとに被疑者の供述状況、供述以外の証拠関係等を総合的に勘案しつつ、録音・録画を実施する必要性がそのことに伴う弊害を上回ると判断するときに実施しているということでございまして、これは個別の判断の積み重ねとしか申し上げようがないわけですが、一つ、検察の取調べとの比較ということで申し上げますと、捜査の初期段階で行われる警察の取調べと、警察によってある程度の捜査が既に行われた事件について検察が行う取調べを同列に扱うことは、適当ではないと考える次第でございます。   具体的に申し上げますと、多くの事件は警察が第一次的に捜査を行いまして、検察官が補充的な捜査と公判維持を担っているということでございます。このような中で、警察といたしましては事案の全容を早期に幅広く解明し、事件の真相に迫るということがより強く期待されていると考えておりまして、警察としては録音・録画により被疑者が供述をちゅうちょしかねないという真相解明機能への支障につきまして、より慎重に判断を行っていく必要があると考えておりまして、そういった判断の積み重ねの結果がそのような数字に表れていると考える次第です。 ○成瀬構成員 丁寧に御説明いただき、ありがとうございます。第一次捜査機関である警察としては、捜査の初期段階で被疑者の十分な供述が得られなくなるという録音・録画のデメリットを検察以上に重視せざるを得ないという御趣旨であると理解しました。   ただ、被疑者の供述については、警察官の取調べと検察官の取調べのいずれで得られたものであっても、その証拠能力の規制に変わりはありません。よって、公判で被疑者供述の任意性・信用性が争われた場合に備えるという、先ほど宮崎構成員がおっしゃった録音・録画の第1のメリットは、多少の程度の差はあるにせよ、警察官の取調べにも妥当するように思われます。また、取調官自身の認識はどうであれ、客観的に見れば、録音・録画の第2のメリットとして取調べの適正確保もあり、これは警察官と検察官の双方に同じように求められます。   このように、録音・録画の二つのメリットが警察の取調べと検察の取調べに共通して認められることを踏まえると、ただ今、御指摘いただいたように、捜査の初期段階で被疑者の十分な供述が得られなくなるという録音・録画のデメリットを検察以上に重視するとしても、警察と検察における録音・録画の運用の圧倒的な差は説明できないのではないでしょうか。   第3回会議において、一般有識者である小林構成員が、検察に比べて警察の録音・録画は余りに消極的ではないかという趣旨の御意見を述べておられましたが、この御意見は、同じ捜査機関による取調べでありながら、録音・録画の運用に大きな差があることを疑問に思う一般国民の素朴な感覚を代弁するものであったようにも思われます。   検察が身柄事件一般について取調べの録音・録画を積極的に実施している現状を踏まえると、見込み事件と精神障害を有する被疑者の事件以外の身柄事件において、警察官が取調べを行う場合でも、録音・録画のメリットがデメリットを上回ると判断できる場面は一定数存在するように思われるのですが、この点についてはいかがでしょうか。 ○松田構成員 先ほど申し上げたように、現場における個別の判断ということですので、一概に申し上げることはできませんけれども、御指摘いただきましたとおり、録音・録画の実施が公判における効果的な立証に資するという観点、これについては警察としても当然重視しております。加えて、取調べの適正確保という点もあるかもしれませんけれども、ただ、それには、しっかりした事案の解明を行うことができるという大前提がありますので、録音・録画によって被疑者が供述をちゅうちょしかねないという支障について、より慎重に判断を行っている結果であると考えております。 ○成瀬構成員 本会議の前半において、松田構成員は、取調べの適正確保は、録音・録画だけで実現できるものではなく、被疑者取調べ監督制度や苦情申出制度を活用するなど、様々な方策によって実現していくべきであるというお話をされていたと思います。この点は、私も同意見です。  ただ、被疑者取調べ監督制度や苦情申出制度を更に充実させるためにも、被疑者取調べの録音・録画をもう少し広く実施することが有益ではないでしょうか。第4回会議では、最高検察庁監察指導部において、検察官の取調べに関する不満等の調査をする際に、取調べの録音・録画記録媒体を積極的に確認しているという御説明がありました。よって、警察において被疑者取調べの録音・録画の運用がもう少し広がれば、最高検察庁監察指導部と同様の調査を行うことができる事件が増えて、被疑者取調べ監督制度や苦情申出制度における調査が更に充実することになり、取調べの適正確保に一層資するようにも思われます。 ○玉本構成員 平成28年の刑事訴訟法改正の立案を担当した法務当局の立場から、取調べの録音・録画制度の対象事件を改めるか否かを検討するに当たっての一つの視点についてお話ししたいと思います。   制度の対象事件の範囲を改めるとする場合には、三つほど考えるべきことがあるかなと思っております。  まず、1点目は、対象事件を改めるべき政策的な必要性、合理性が認められる必要があるということです。これは当然のことですが、録音・録画制度の対象事件は政策的観点から定めているものですので、それを変更するとなれば十分な必要性、合理性が必要だろうということです。   次に、2点目として、捜査機関に取調べの録音・録画を義務付け、その違反には一定の法的な効果が伴うということになりますので、その対象事件は、明確かつ厳密な形で、すなわち、対象事件に該当するかどうかが一義的に判別できるような形で規定できるものである必要があると思います。   さらに、3点目としまして、刑事訴訟法に書き込むことになりますので、刑事訴訟法上の整合性という観点も必要だろうと思っております。先ほど、「少なくとも」という留保付きでしたが、検察官の取調べについては、司法警察職員の取調べとは区別して、全ての事件について取調べの録音・録画を義務付けることを検討すべきではないかというような御提案があったかと思います。そうした御提案については、刑事訴訟法において、被疑者の取調べに関し、検察官と司法警察職員の権限は同一であり、取調べにより得られた供述の証拠能力についても同一の取扱いをされているという中で、取調べの録音・録画の義務付けの場面に限って検察官と司法警察職員との間で取扱いに差異を設けるということが、刑事訴訟法上の取扱いとして整合性を有するかどうかという観点からの検討も必要になるだろうと考えております。   この点は特別部会でも議論されたところでして、特別部会の中間取りまとめである基本構想の中でも、被疑者取調べについて検察官と警察とで取扱いを区別する制度とすることには法制的な課題が多いという指摘もあったということが明記されているところですので、このような制度を検討する場合には、そうした課題についても更に御議論いただければと思っております。 ○中野参事官 それでは、予定していた時間が参りましたので、本日の協議はここまでとさせていただければと思います。   次回会議におきましては、本日に引き続きまして、取調べの録音・録画制度についての第2段階の協議といたしまして、論点整理案記載の論点についての意見交換を行うこととさせていただきたいと思います。そのような進め方とすることでよろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは、そのような進め方とさせていただきます。   第4回の会議の日程についても追ってお知らせいたします。また、第14回会議におきまして構成員の皆様から資料の提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御送付いただく必要があります。併せて提出の期限についても御連絡いたします。その場合の資料については、事務当局において確認させていただいて、必要に応じてどのような形で御提出いただくかなどについて御相談いただくことは、これまでと同様です。   また、本日の会議における御発言の中には、職務上扱われた事例に関するものなどもございました。御発言内容を改めて確認するとともに、御発言なさった方の御意向を改めて確認の上、非公開とすべき部分がある場合には該当部分を非公開といたしたいと思います。それらの具体的な範囲、議事録上の記載方法等については、その方との調整もございますので、事務当局に御一任いただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。               (一同異議なし) それでは、そのようにさせていただきたいと思います。 ○河津構成員 議事録の公表まで時間がかかる状況が続いておりますので、速やかに公表されるよう、よろしくお願いいたします。 ○中野参事官 鋭意努力したいと思います。   それでは、本日はこれにて閉会とします。ありがとうございました。 -了-