法制審議会 民法(成年後見等関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和6年9月2日(月)自 午後1時30分                    至 午後4時57分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  参考人からの意見聴取 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第6回会議を始めます。   本日も御多忙の中、御出席を賜りまして誠にありがとうございます。   本日は櫻田委員、馬渡委員、家原幹事、杉山幹事が御欠席と伺っております。また、佐保委員、遠坂幹事、櫻庭幹事が会議の中ほどから御出席予定と伺っており、小林幹事が途中で御退席予定と伺っております。   まず、前回の部会の後、委員等の交代がございましたから、事務当局から御紹介を差し上げます。 ○波多野幹事 最高裁判所の人事異動に伴いまして、棈松晴子幹事に替わり、南宏幸最高裁判所事務総局民事局第一課長が幹事に就任されました。また、法務省の人事異動に伴いまして、松井信憲委員に替わり、内野宗揮法務省大臣官房審議官が委員に就任しております。 ○山野目部会長 それでは、南幹事、内野委員におかれて簡単な自己紹介をお願いいたします。 (委員等の自己紹介につき省略) ○山野目部会長 どうぞよろしくお願いいたします。   本日の審議に入ります前に、配布資料と本日の進行についての説明を事務当局から差し上げます。 ○波多野幹事 本日はヒアリングのみを予定しておりまして、部会資料の配布はございません。参考人から御提供いただきました資料を配布しております。   順に御説明いたしますと、桐原参考人から「法制審議会民法(成年後見等関係)部会における全国「精神病」者集団のヒアリング意見書」と題する資料を頂いております。樋口参考人から「成年後見制度改正検討に際しての意見」と題する資料及び「京都府社会福祉協議会が担う法人後見あり方検討会報告書(抜粋)」と題する資料を頂いております。崔参考人から「成年後見制度の見直しに対するDPIの意見」と題する資料を頂いております。石川参考人から「法制審議会民法(成年後見等関係)部会参考人意見」と題する資料を御提供いただいておりまして、それぞれ配布しているというところでございます。   本日の進行でございますが、参考人4名の方に御出席をお願いしております。お話をお聞きする順に団体、お名前を申し上げますと、全国「精神病」者集団運営委員、桐原尚之様。公益財団法人日本知的障害者福祉協会会長、樋口幸雄様。NPO法人DPI日本会議議長補佐、崔栄繁様。静岡県立大学名誉教授、国連障害者権利委員会元副委員長、石川准様です。参考人ごとに御意見の聴取、質疑応答を繰り返すイメージの進行を予定しております。参考人から20分程度で御意見を述べていただきまして、その後、その参考人に対して15分程度の質疑応答の時間を行うということを、参考人ごとに繰り返すということでお願いしたいと存じます。   説明は以上でございます。 ○山野目部会長 ただいま案内を差し上げました進行に即して、これから後、議事を進めてまいります。   初めに、全国「精神病」者集団の運営委員をお務めでいらっしゃいます桐原尚之参考人からヒアリングを行います。   この際、私から桐原参考人に一言申し上げます。本日は、桐原参考人におかれましては大変お忙しい中、資料を調えてくださるなど事前の御用意も頂いた上で、この部会に御来臨を賜りまして、誠にありがとうございます。桐原参考人から忌憚のない御意見を伺って、今後のここでの検討にいかしてまいりたいと考えるものでございますから、何とぞよろしくお願い申し上げます。質疑応答の機会につきましては、先ほど御案内を差し上げましたとおり、桐原参考人の御意見を伺った後で、桐原参考人に対する質疑応答の時間を設けることといたします。   それでは桐原参考人、どうぞよろしくお願いいたします。 ○桐原参考人 御紹介いただきありがとうございます。全国「精神病」者集団の桐原です。精神障害の当事者です。全国「精神病」者集団は、1974年に結成した精神障害の当事者の個人及び団体による全国組織です。障害者権利条約の実施に関わっております。   障害者権利条約は、障害の社会モデルを基本理念としています。社会モデルというのは、誤解を恐れず言えば、障害は個人ではなく社会にあるという考え方のことです。このような考え方は、障害がどのように社会的に構築され、そしていかに解消すべきかを考える上で重要な枠組みとなります。障害者権利条約が目指す社会はインクルーシブ社会です。資料の方にも図を用意しました。図に従って説明していきたいと思います。   精神障害という症状、いろいろな症状がありますけれども、病状が不安定になると、地域において不必要なことを口走ることや、挙動不審な行為をしてしまうことがあります。私自身、病状が安定しないときは口調が厳しくなったりだとか、記憶力が低下したりだとか、そういったことがあります。そうした場合に、地域住民らは精神障害者に対して、面倒だとか、おかしいだとか、怖いといった感情を抱き、関わりを絶とうとしていきます。地域住民は、精神障害者を精神科病院に入院させることで、目の前の困難から逃れることを求めるか、若しくは治療して正常になることを求めるようになります。精神科病院は精神疾患の治療を担う機関である以上、精神障害者を受入れていくことになります。これによって地域社会からは取りあえず目の前の困り事、対応を迫られることがなくなっていきます。そして、地域住民は、このような地域社会に徐々に慣れていくようになります。   現在、様々な事情により病院から地域へ精神障害者を地域移行させていく時代というのが訪れようとしていますが、地域社会の住民たちは今まで精神障害者との関わりを持ってこなかったため、どのように関わってよいのか分からないという人たちが大多数を占めるようになってしまいました。ここにいきなり精神障害者を地域移行させたとしても、精神障害者は数多くのバリアに直面することになります。   従来の福祉というのは、この目の前のバリアを取り除くことに力点を置いてきたわけです。それに対して社会モデルの観点は、バリアがある社会が構築された原因がどこにあるのかをわかった上で、解消に向かって、あるべき社会の展望を示していくことになります。そういう意味で従来の福祉とは観点が異なるということが言えます。   社会モデルが目指す社会はインクルーシブ社会です。インクルーシブ社会というのは、障害の有無にかかわらず人々が交じり合っている社会のことです。インクルーシブ社会までの段階は、EXCLUSION(エクスクルージョン)、SEGREGATION(セグレゲーション)、INTEGRATION(インテグレーション)、INCLUSION(インクルージョン)の四つに分けて考えることができます。   まず、エクスクルージョンですけれども、これは障害者等を地域社会の外に追いやっていく段階です。この段階では、障害者等を排除して健常者だけが集まった社会を作ることが目指されていきます。ここがセグレゲーションの段階に移行していくと、障害者等を単に排除するのではなく、その排除された障害者等を1か所に集めて、その枠組みで対応する段階になっていきます。要は、病院や施設のように障害者等を1か所に集めた空間というものが出来上がっていきます。一見すると障害者等は、単に排除するのとは違って、居場所ができることになります。しかし、この居場所は一般社会の中には存在しておらず、一般社会から分離された場所に存在するものということになります。さらに、インテグレーションという段階に移行すると、今度は一般社会の中に障害者等だけを、特別枠を用意して、そこに一般社会から分離された障害者を統合していく段階になっていきます。一見すると障害者等は、一般社会から分離されることなく、一般社会の中に居場所を持つことにはなります。しかし、一般社会の中とはいえ、その中で特別枠が出来上がっているという点では、一般社会の中で共生できているとまではいえない状況になっています。一般社会の中で特別枠を取り払って、障害のある人もない人も完全平等にするためには、いろいろな人が社会の中で交わり合うインクルージョンの段階へ移行させていかなければならないと考えています。ここが目指すところなのですけれども、なかなか現実には難しいところもあるとは思います。   問題は、今説明したときに、施設や病院、それから建造物とか交通とか、そういったものを想定されたのではないかと思うのですけれども、社会のバリアというのは、必ずしも物質的な世界のみにあるわけではなく、法律の中にも存在します。例えば、この成年後見制度の趣旨ですが、円滑な契約社会の安全の保護とか、判断能力が不十分な人のための保護だとか、そういったことを趣旨としています。これは、個人よりも社会の都合を優先する結果がもたらしていることと、それからはじかれた人たちが保護の名の下に囲われていることから、医学モデル、つまり障害者権利条約の観点からすると、他の者との不平等ということになると考えられます。   法律が前提とする法的人間像は、正常に判断できる理性的な人間ということになります。法は理性を前提とするわけなので、例えば非理性に基づく行為、判断能力が低下した状態でする不本意な消費契約などについては、そのまま効力を認めることはできません。その非理性による行為というのは、通常の法律構造のシステムから除外して、別枠の中で対応するほかなくなります。これが、事理弁識能力の程度に応じた行為能力の制限に代表される代理決定の枠組みになります。   確かに法律の世界における法的人間像は、理性的な人間です。しかし、現実に存在する人間の中には、理性的な人間だけではなく、精神障害者のように非理性、狂気も存在しています。現実の人間にはもっとバリエーションがあります。非理性、狂気が現実の人間として存在している以上、法律は、現実の人間に接近したものに変わっていく必要があると思います。そのためにも非理性、狂気を包摂した新しい法体系の構築に向かっていかなければならないはずだと考えます。理性は、ないときもあるものなので、理性ありきで作られた法律は、そもそもバリアだらけの仕組みになります。そのバリアだらけの仕組みから別枠で、例えば後見だとかそういったものを用意されると、それは他の者との不平等を帰結します。要するにインテグレーションの段階であって、一般の枠の中に障害者枠を設けて、一般とは少し違うというような形になってしまっているわけです。これを何とかインクルージョンといえるような、非理性と理性が両方包摂した形の法体系に向かっていくためにはどうすればいいかと、そういうことを考えなければならないと思います。   ただ、この問題は、この度の民法改正に限ったことではなく、人類史上のかなり大きな宿題になるので、例えば、今回の部会のまとめ方としては、障害者団体からそういう指摘があったというような形の整理だとか、今後課題として踏まえるべきではないのかというような確認があったとか、その程度の記述で構わないから、報告書の中では必ず明文にして確認されるよう求めます。   それから、国会で附帯決議が出ています。これは、私たち全国「精神病」者集団が要望して通った附帯決議なのですが、内容としては、障害者権利条約の勧告が行われたときには、障害者を代表する団体の参画の下で当該提案及び勧告に基づく現状の問題点の把握を行い、関連法制度の見直しを始めとする必要な措置を講ずる、という内容になっています。これは、国の最高意思決定機関たる立法府が、障害者権利条約の初回政府審査に係る総括所見の勧告に基づき、必要な措置を講ずるよう政府に対して求めたものになっています。念を押しますと、障害者権利条約の実施自体の検討というよりは勧告に基づく措置の検討に重きが置かれています。そういう意味なので、勧告というものに従って検討を進められていくべきということが前提になります。   障害者権利条約が締約国に求める措置なのですけれども、幾つか分類があります。通常、条約というのは締約国を拘束するもので、締約国内の私人までは拘束できないことになっています。しかし、締約国政府が立法等の措置を講じることで国内の私人を間接的に拘束することは可能とされています。こうすることで、私人を障害者権利条約の趣旨に従わせていくことができるようになります。こういった締約国政府が立法等を通じて間接的に私人を拘束する措置のことを保護措置と呼びます。それに対して、政府によって直接的に法律等の改廃をする措置のことは立法措置と呼びます。   即時的措置と漸進的措置という二つの枠組みがあります。即時的措置は、すぐに講じるべき措置のことで、主として立法措置などが該当します。漸進的措置というのは、時間を掛けて段階的に行っていく措置のことであって、予算措置や保護措置などが該当します。   ここで少し確認しておきたいのは、障害者権利条約第5条と第12条の総括所見の読み方なのですが、第5条に規定される差別というものはあらゆるものが含まれるというふうになっていて、一般的意見第6号パラグラフ18においては、障害を直接の理由としていないものも含むと明記されています。ここが重要です。障害を直接の理由としたものについては、確かに障害を理由に他の者と不平等を帰結する可能性というのが端的に指摘できるのですが、障害を直接理由としていないものも、間接的には障害を理由としているとみなされる場合には、これは障害に基づく差別に該当する可能性があるということになります。   この度の成年後見制度の見直しに係る民法改正の検討というのは、この障害を理由とした行為能力の制限を撤廃する即時的措置としての側面と、障害を直接の理由としない行為能力の制限の中で障害に関わるものを段階的に減少させていく漸進的措置の側面、二つに分けて考えていく必要があるのではないかと考えています。   これが、おおむね障害者権利条約の実施について、勧告の対応についての基本的な方向性について意見を述べました。ここからは、具体的に民法や家事手続法の見直すべき点について大枠の意見を述べます。   まず、民法で見直すべき点について意見を述べます。  精神上の障害要件についてです。精神上の障害要件は、撤廃すべきです。障害者権利条約は、他の者との平等を基礎とした措置を講じるよう締約国に求めています。精神上の障害という要件は、障害を理由とした直接差別に該当するため、即時に削除されなければならないと考えます。   事理弁識能力要件についてです。事理弁識能力要件は、社会的障壁との相互作用の要件に変更していくべきと考えます。障害者権利条約は、医学モデルから社会モデルへの転換を趣旨としています。ですので、事理弁識能力のように、個人の能力に全て帰属させる色彩の強いものではなく、社会との相互作用という観点から必要性を判断する新要件へと変更される必要があります。スポット後見についての議論というのも既に進んでいるところではありますが、例えば期限を設けるだとか、そういった意見も出ていますけれども、どちらかというと私たちとしては、必要性というものを法律の中で具体的に示して、その中で裁判官がきっちり判断できるというような形に改めなければならないと考えています。   類型についてです。後見類型・保佐類型という現状の類型については、完全に撤廃する必要があると考えます。そして、現行の補助類型に相当する部分についても、更に限定的な運用をしていく必要があると考えます。   意思決定支援についてです。商事法務研究会のヒアリングから意見が変わった部分があります。意思決定支援は、成年後見に内在的なものなのか、外在的なものかというところなのですけれども、これを外のものと位置付けて、補充性要件との関係で整理すべきであると考えますので、民法858条の意思尊重義務については、これは制限行為能力下の義務という位置付けに整理されるべきではないかと思います。従来の判例とかそういったものの運用はありますけれども、例えば親族等ともきちんと相談して行っているかどうかとか、そういったところについても可能な限り意思決定支援を行って、意思尊重義務の範囲の中で後見事務を行っていくということが必要であると考えます。   補充性要件の導入についてです。民法には、制限行為能力が最終選択肢であることを明記し、意思決定支援などの活用を推奨する必要があると考えます。   障害者が法の前で平等であることの確認についてです。障害者が法の前で平等であるということをどこかに明文化する必要性があると考えます。   そして、法的人間像に障害者を包摂するための民事法制の抜本的見直しについてです。法的人間像に障害者を包摂するための民事法制の抜本的見直しに向けた検討を続けていく必要があると考えます。   続いて、家事事件手続法に関わる意見を述べます。   家事事件手続法の中の後見類型・保佐類型に関する手続は削除する必要があると考えます。   本来、後見制度が必要でない人が利用している事例が少なからず散見されます。本当に必要ではない人については、しかるべき機関が対応できるようにワンストップ窓口を設けて整理していく必要があると考えます。そのための手続規定を入れる必要があります。   意見聴取についてです。現行の家事事件手続法は、第120条第1項のただし書で、被後見人等となる者から意見聴取をしなくてもいいと書かれているわけなのですけれども、これは例外なく本人から聴き取りを行う必要があるのではないかと考えます。少なくとも、家裁職員が制限行為能力者となろうとしている者を面談して確認することなしには開始の審判をすべきではないと考えます。   必要性要件の消滅について規定を設ける必要があります。審判の取消しについては、環境要因により現に生じた必要性、社会的な障壁との相互作用によるものに限りますけれども、制限行為能力の必要性の消滅の有無を判断するものにする必要があると考えます。   監督体制についてです。家庭裁判所が監督する仕組みとして成年後見監督人制度のようなものはやめた方がいいのではないかと考えます。   報酬についてです。成年後見制度に対しては、専門職が設けるための制度だといった批判があります。報酬額や付加報酬の理由が本人や家族に公開されていない現状があり問題となっています。報酬額の決定に関係者が関与できる仕組みが必要です。   それから、審判の告知における不公平性を解消する必要があります。これも図を用意しておりますけれども、申立人と後見人となるべき者と、被後見人となるべき者、それから被後見人となるべき者の親族とで、実は告知の方法等が違います。かつ、この告知を受けたところを起算点として2週間以内に即時抗告ができるということになっているのですが、例えば、親族は告知を受けないけれども即時抗告はできます。しかし、告知を受けなければ審判の事実を知るすべがない場合もあり得るわけなので、その場合は即時抗告のしようがありません。被後見人となるべき者については、告知を行わず通知でよいとされています。ここら辺について不公平性の解消が必要だと考えます。   その他、住民票と印鑑の関係なのですけれども、総務省マターの通知があります。これについては廃止が必要であると考えます。   精神保健福祉法、今現在、医療保護入院の見直し等の検討が行われていますけれども、家族等同意に成年後見人や保佐人、補助人といったものの同意についての規定があります。これは医療保護入院自体に問題がありますので、医療保護入院自体の廃止の検討が必要であると考えます。   以上をまとめますと、全国「精神病」者集団の意見は、障害者権利条約への対応等を中心としたものであって、つまるところ成年後見制度の廃止を求めたものになります。廃止の中身について具体的に提案いたしました。重要なのは、成年後見制度の廃止の具体像であって、一つ目は、障害を直接の理由とした制限行為能力の即時撤廃、二つ目が、障害を直接の理由としない制限行為能力の段階的な縮減、そのための仕組み、法律を見直しによって実現すること、そして、理性を前提とした法律の体系、枠組みを将来的に見直していくことを確認することとなります。   以上になります。御清聴ありがとうございます。 ○山野目部会長 桐原参考人におかれましては、資料に基づいて明快な御意見を御披瀝いただきました。誠にありがとうございます。   ただいまより委員、幹事からの御質疑をお願いいたします。ただいまのお話に対して御質疑のある方は、どうぞ御随意に申し出てください。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。大変参考になる御意見をどうもありがとうございました。1点だけ御質問をさせていただければと思います。資料5ページの1行目からの箇所で、障害を直接の理由としない行為能力の制限の中で、障害に係るものを段階的に減少させていくという漸進的措置という御意見がありました。措置を考える際に、障害を理由とするものかどうかという点が考慮要素の一つにされていると理解をしました。障害を直接の理由としない行為能力制限を考える際には、どのような考慮すべき要素があるとお考えなのか、教えていただければと思います。 ○桐原参考人 ありがとうございます。障害を直接の理由としたものについては、精神上の障害という要件などがあたります。これについては既に法制審の中でもいろいろな議論が出されていていると感じているところです。   問題は、この障害を直接の理由としない行為能力の制限です。基本的には本人の医学的な状況、あるいは本人の識別力を理由としたものについては、おおむね障害を直接の理由としない行為能力の制限に該当してしまうと考えてよいのではないかと思っています。具体的には、意思無能力や事理を弁識する能力などがあたります。あらゆる間接差別をなくす観点にたち、識別力にはある程度の個人差があることを前提としつつ、支援によって行為能力の制限をしないで済む人を増やしていくということが必要になります。好事例やノウハウの蓄積によって、徐々に減らしていくことができると思います。 ○山野目部会長 小澤委員、よろしゅうございますか。 ○小澤委員 はい、ありがとうございます。 ○星野委員 御報告ありがとうございました。2点ほどお尋ねさせていただきたいと思います。   6ページのところにございますが、家事事件手続法改正に係る意見の②のところです。スクリーニングとクリアニング手続の導入というところで、もしこちらについて、日本において具体的な何かイメージがおありか、例えば日本では利用促進の基本計画の中で中核機関というものが今、位置付けられているのですが、ワンストップとおっしゃいましたが、中核機関をイメージされているかどうかというのが1点目の質問です。   2点目については、7ページのところに書かれております監督体制のところです。これも御意見がもしあれば教えてほしいのですが、例えば、監督人という立場の人が後見制度の必要性とか継続の必要性などを見るということも考えられるのか、監督というのはもう一切要らないという御意見だったと思うのですが、その辺りの御意見を頂ければと思います。2点、お願いいたします。 ○桐原参考人 ありがとうございます。1点目の質問についてなのですが、これは、補充性要件があって、最終選択肢として限定的に障害を直接の理由としない制限行為能力という制度があった場合というのを想定した上で、さらに、本来そういった制限行為能力の必要性がないけれども、必要だと思い込んで相談を受けている人たちが、適切なその他支援につながるようにするというイメージになっています。中核機関の運用は、かなり地域によってまちまちなので、中核機関のやり方がいいとか悪いとか、なかなか言いづらい状況ではあるのですが、本来僕らが中核機関に対して求めていた機能というのはこういった機能です。つまり、財産管理制度というキャッチコピーが先走りすぎてしまって、例えば、障害を持った親が、子供が自分が死んだ後に路頭に迷ってしまうのではないかとかそういった不安で、直ちに後見の相談をして、では審判開始しましょうと、でも思ったのとは違ったとか、そういったことがかなり各地で起きていたので、そういった思っていたのと違ったということを少なくともないようにするためにも、最初のファーストコンタクトで、本当にそれが後見の審判開始によって解消されるニーズであったかどうかというところを点検できるようにしなければいけなかったのではないかと思っていて、そういった狙いから、こういった要望をしています。   2点目の、継続の判断だとかそういったものを行うことについての、成年後見監督人についての評価に関わることなのですけれども、そういったものについて、確かに家裁が直接判断するということになじまない場合は、家裁側の第三者を連れてきて、そこで判断を仰ぐとか、そういったことが往々にしてあり得るとは思うのですけれども、基本的には監督自体は家裁が直接行うようにして、家裁が直接行う監督とは別に、継続の必要性があるかないかとかそういったことについては、本来は、何というのでしょうね、本人たちから、例えば継続したくないという要請があった場合は、それは基本的にはやめていい場合はやめていいというような整理でよくて、それ以外について、例えばもうやめることが前提に進んでいくみたいなことについては、僕らの要望の中では余り想定はされていない感じになっています。 ○山野目部会長 星野委員、よろしいでしょうか。 ○星野委員 ありがとうございました。 ○野村幹事 本日はありがとうございました。2点質問させていただきます。   まず1点目ですが、5ページの2.1の民法改正に係る意見の③のところなのですけれども、後見と保佐の廃止ということで、少し補助類型についての記載もあるのですけれども、もちろん限定するということを前提として、本人の同意に基づくのであれば、代理権や同意権、取消権を補助人に付与してよいというお考えでしょうか、本人が同意できない、例えば意思を表示できない場合は、代理権や同意権、取消権は補助人には付与できないというお考えでしょうか。これが1点目です。   2点目は、8ページの最後の3のまとめのところなのですけれども、成年後見制度の廃止に関して③として、理性を前提とした民事法制の体系の抜本的見直しによって実現できるものとありますけれども、ここをもう少し詳しく教えていただければと思います。具体的にはどのようなことを想定されているのでしょうか。よろしくお願いいたします。 ○桐原参考人 ありがとうございます。1点目です。わたしは補助類型という言い方をしましたが、現在法制審ではもう少し進んだ議論がされていると認識しています。2類型にするか1類型にするかとか、いろいろな議論がありますけれども、同意権、代理権、取消権については、原則として本人から同意があってなし得るというのが望ましいと考えています。それ以外に必要性がある場合というのを包括的に代理人に与えるというようなことは、少なくとも全国「精神病」者集団としては想定していないです。具体的な仕組みについてはまだ十分な検討ができていないため、現状としてはここまでが全国「精神病」者集団として合意できている見解ということになります。   次なのですけれども、理性を前提としない新しい法体系の具体的な青写真については、我々としても現時点では示しえない状況です。ただ、私たち障害者は、現にバリアだらけの法律の下で生活を強いられており、今法律というフィクションの世界がうまく回っているとかなんとかという到底納得できないような理由で、再び障害者に対して我慢を強いることを酷であることに想いを馳せてほしいです。この社会には、我々のような精神障害者が現に存在しているわけであって、理性がないなりの人たちがどうやったら共生していけるかみたいなところに立脚して、議論を進めてほしいなという思いは強く持っています。 ○山野目部会長 野村幹事、よろしいでしょうか。 ○野村幹事 はい、ありがとうございました。 ○山下幹事 大変貴重な報告をありがとうございました。大変勉強になりました。1点、先ほども少し質問のあった、監督体制を家庭裁判所が行うということについて、もう少し伺いたいのですが、成年後見監督人が監督するのではなくて家庭裁判所が監督するということによって何を期待されているのかというのを、もう少し具体的に説明していただけると大変助かります。というのは、つまり成年後見監督人というのは、私のイメージとしては、やはり裁判所では十分監督し切れない部分について、より後見人ともう少し会う機会の多い方々などが監督をするというような、きめ細かい監督のために用意しているのだろうと思うわけですが、家庭裁判所が監督をするということによって、その監督がむしろ軽くなってしまうというか、甘くなってしまう危険性はないのかということがすごく気になるわけですが、家庭裁判所に直接監督してもらうことによって何を期待されているのか、要するに、成年後見監督人の判断では心もとないから、裁判官に判断してもらった方がいいとか、そういうことをお考えなのか、その辺のイメージを少し伺わせていただけると有り難いと思っております。よろしくお願いします。 ○桐原参考人 ありがとうございます。私たちの基本的なスタンスは、制度をつくるときに制度を悪く使う人がいることを前もって想定したうえで、その対策も含めて考えておく必要がある性悪説にたちます。制度を使う人にとっては、たまたま1回悪い人に当たったとしても、その1が全てになってしまうのです。そこは何としても避けたいという思いは強く持っています。   後見監督人については、私たちの議論の経緯を話した方が分かりやすいと思います。後見監督人は、財産額によってはほぼ自動的に付いてしまうというような現状があります。そのことが被後見人やその家族たちからしたら、二重でお金を取られているという感覚があるわけなのです。かつ、その監督人が裁判手続上必要であったとしても、被後見人やその家族たちからしたらブラックボックスな感じで、後見人がもう一人増えただけと感じられています。では、監督人の役割を精査してみたところ、確かに家裁では対応しにくいことを監督人が引き受けている部分もあるとは思いますが、家裁の監督機能ではできないことをしているというわけではなく、家裁が本来引き受けるべきところを監督人にさせているような側面があり、全体を通じて家裁のマンパワー不足の補填のようになってしまっていると評価しています。ならば、家裁のマンパワーにあわせた運用に改めるべきです。 ○山下幹事 ありがとうございました。 ○青木委員 今日は貴重な御意見をいろいろありがとうございました。4点ほどありまして、御質問したいのですけれども。 ○山野目部会長 青木委員にお願いです。1点ずつお願いできますか。 ○青木委員 はい、1点ずつ申し上げます。今日のお話の中で、インクルージョンの理念を、法制度も含めて、民法も含めた近代法制についてインクルージョンを考えるという御指摘は、非常に示唆的なものを受け止めたのですけれども、具体的に、非理性的なものを法律の考え方に取り込むということですけれども、この部会でも議論していますのは、一人一人が事理弁識能力が欠ける状況にあるとかそういうことではなく、物事によって、その人が判断できることもあれば判断できないこともあり、判断できるときもあれば判断できないときもあるというような相対的なものと考えることはできないだろうかという議論をしておりますが、桐原参考人から御指摘いただきました、インクルージョンの理念に基づく法的な考え方ということと、今私が申し上げたような考え方では、何か共通するようなベースがあるか、社会的なモデルということと関係するかについて、御意見があれば教えていただければと思います。 ○桐原参考人 一旦お答えします。民法には、法律行為を無効にするための規定が、意思無能力法理だけではなく、錯誤契約による無効や公序良俗に反する契約の無効などがあります。例えば、社会的な経験不足に乗じた消費契約の無効、取消しは、確かに能力に関わる部分ともいえはするのですが、これは障害のある人とない人を平等に見ているものではあると思っています。なので、基本的には割とインクルーシブなものであると言っていいと思います。ただ、意思無能力については、障害から完全に切り離すことが難しいものなので、ここについては恐らくパラダイムごと見直さないとどうにもならないのだと思います。現状、意思無能力や事理弁識能力に依拠していくのであれば、当面は段階的に減らしていくしかないと思っています。 ○山野目部会長 2点目をお願いします。 ○青木委員 ありがとうございました。   続きまして、5ページでお書きいただいていますスポット後見の具体策のところで、定期審査とか有期にすることについて消極的な御意見を頂いているのですけれども、この趣旨をもう少し教えていただきたいと思います。今部会で議論されているのは、開始要件の中に必要性を取り込んだ上で、有期とか、それから見直しの機会というところは、そういう必要性も含めて見直しをしていこうではないかということで、必ずしも医学的な判断に関する見直しということだけを想定はしていないのですけれども、桐原参考人のお考えはいかがでしょうか。 ○桐原参考人 ありがとうございます。これについては会内でもいろいろな意見が出ました。社会モデルの観点に立つのであれば、必要性の方に最も重きを置くべきとの考えが強かったので、このようになりました。定期審査や有期は、制限行為能力開始の審判が医学的な判断を根拠にして行われていたとしても実施可能です。ある意味では、医学モデルとの親和性が高く、医学モデルを前提にした場合でも実施可能です。医学モデルを前提にしないのであれば必要性にこそ目を向けるべきということで整理されるに至りました。ただ、誤解がないように補足すると、これについては、ここが対立点になって前に進まないとか、そういうレベルのことではないです。 ○山野目部会長 3点目をお願いします。 ○青木委員 先ほど意思決定支援の位置付けにつきまして、現時点では成年後見制度を利用する前のところで意思決定支援を十分に行うという御意見だとお伺いしました。私はもちろんそれは重要だと思っておりまして、それは補充性にも関係するのかなと思っておりますが、それに加えて、実際に成年後見等を利用している中においても、できるだけ代理・代行とか同意権、取消権の行使ではなく、意思決定支援を尽くした上で、それで済むのであればそうするという考え方で、利用中についても利用前についても意思決定支援が必要ではないかという考え方もあると思うのですけれども、その点についてはいかがでしょうか。 ○桐原参考人 ありがとうございます。不適切な後見の運用について、民法858条が牽制する効力を持っている部分というのは少なからずあると思っています。これを意思決定支援と表現したときに、立ちどころにややこしくなっていて、意思決定支援というのは医療同意等に関するものを含めたら、省内に7個ぐらいのガイドラインがあって、どれも定義がまちまちで異なります。この手垢まみれの言葉については何とか整理しなければいけないのではないかと思っているところではあるのですけれども、少なくとも補充性要件として、後見の外にあるものと後見事務の中で不適切なものを排除して牽制していくような仕組みとは、概念上分けなければならないのかなという気がしています。 ○山野目部会長 4点目をお願いします。 ○青木委員 最後に、医療保護入院のお話を頂いていますけれども、医療保護入院の問題点は制度そのものの是非としてというのは重要だと思っております。それを前提としてなのですけれども、医療保護入院が存在する現段階で、家族の同意も問題だとは思いますけれども、家族でもない後見人や保佐人が同意をすることができることについては問題があるという意見もあるのですけれども、桐原さんはいかがお考えでしょうか。 ○桐原参考人 ありがとうございます。誰が同意するかという、与えるかということと、どのような枠組みで同意を与えるかということとは少し分けて考えていて、医療保護入院の枠組みで同意を与えることに対して私たちは反対しています。親族が代諾することで違法性は阻却されるであろう、みたいなところがあるのですけれども、それが例えば、場合によっては身寄りがない人に関しては後見人であったり、近所の人でもいいのですけれども、主にその人に対して親身である人だとか、そういったいろいろな人が関わっていけてもいいはずであるとは思っています。そのいろいろな人のバリエーションの中に後見人がいるのはいいと思いますが、後見人に対してその地位を与えてしまうような形のやり方はよくないと思っています。 ○青木委員 ありがとうございました。以上です。 ○山野目部会長 引き続き伺います。いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。ありがとうございます。   桐原参考人におかれましては、貴重な御意見の御開陳を頂き、また質疑応答について1問ずつ丁寧にお考えを明らかにしていただきました。誠にありがとうございます。桐原参考人の活動しておられる団体におかれましても、引き続きこの部会における調査審議を見守って、いろいろな御議論を熱心に続けていかれることであろうと予測します。また折々に、私どもの方にもそうした御議論の御様子を教えていただき、参考にさせていただければ有り難いと考えております。桐原参考人におかれては、本日は誠にありがとうございました。   休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   続きまして、公益財団法人日本知的障害者福祉協会の会長でいらっしゃる樋口幸雄参考人のヒアリングを行います。   この際、私から樋口参考人に一言申し上げます。本日は、樋口参考人におかれましては大変お忙しい中、資料を調えてくださるなど事前の御用意も頂いた上で、この部会に御来臨を賜りました。誠にありがとうございます。樋口参考人から忌憚のない御意見を伺い、今後の当部会の検討にいかしてまいりたいと考えます。何とぞよろしくお願い申し上げます。質疑応答の機会につきましては、先ほどの桐原参考人の場合と同じでございます。お話を伺った後で、質疑応答の時間をお願いいたします。   それでは樋口参考人、どうぞよろしくお願いいたします。 ○樋口参考人 皆さん、こんにちは。日本知的障害者福祉協会の会長を務めております樋口と申します。今日はどうぞよろしくお願いいたします。当協会は、全国の知的障害関係施設・事業所を会員とする全国組織で、知的障害者の自立と社会経済活動への参加を促進するため、知的障害者の支援及び知的障害者の福祉の増進を図ることを目的としています。現在、会員数6,551施設・事業所、全国9地区47都道府県に支部組織がある主に社会福祉法人からなる組織です。創立から90年近い歴史を持ちます。   本日は、知的障害分野から成年後見制度の今後の在り方について意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、感謝を申し上げます。正直、なかなか我々の業界もこの成年後見についての議論が十分であるとはとても言えません。これから本格的にこの権利擁護の問題について議論を深めていきたいと思っております。私からは、社会福祉事業者から見た現在の成年後見制度の在り方について、少し御意見を述べさせていただくということで、よろしくお願いします。   まず初めに、お示しいただきました成年後見制度に対する主な指摘事項については、私たちも同様の課題を感じております。また、検討テーマとして示されております方向性についても、基本的に賛成いたします。御本人の意思に基づき、必要となった人が、必要とする事柄について、必要な期間、誰もが安心して利用できる身近で使いやすい制度への改善が求められていると考えています。私からは、以下の4点について意見を述べさせていただきます。   一つ目は、意思決定支援を前提とした検討を行っていただきたいということです。知的障害のある人の自己決定が必要以上に制限されることがないような仕組みとしていただくとともに、意思決定支援を土台とした検討をお願いいたします。意思決定支援は、自ら意思を決定することに困難を抱える障害者が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように、可能な限り本人が自ら意思表出、決定できる支援をすることです。知的障害があり、その障害状況が重度、最重度、また著しい行動障害がある人についても、言語だけに頼らず、お一人お一人に寄り添い、その方の独自の意思表現を理解することで、御本人の希望や思いを聴き取ることは十分に可能です。自閉症スペクトラム症等、それぞれの障害状況に合った様々なツールやICT機器を積極的に活用することで、コミュニケーションの概念も大きく変わりつつあります。現行の後見類型における代理権、取消権を行使する前提として、支援の都度、意思決定支援を行い、本人の依頼に基づく支援を基本とするべきであると考えています。   私が普段働いている社会福祉法人にも成年後見を付けてもらっている方が幾人かいらっしゃいますが、後見人の選定に当たり、本人に会いに来られた方は一人もいらっしゃらず、何らかの決定をする際に本人の意思確認に来られるということもありません。本人の障害が重度であるという証明だけで、意思決定が代行されている現状があります。最終手段として重大な代行決定が必要な場合にあっては、後見人だけでなく外部の第三者を交え、家族や利用している福祉サービス事業所の職員等で構成される集団での検討の場が是非必要であると考えております。   二つ目は、包括的な権利擁護のシステムの構築についてです。知的障害のある人は権利を侵害されやすい立場にあるため、財産の保護だけでなく、障害のある人の権利を保障するための包括的な権利擁護制度の構築が必要です。特に、障害のある人の身近な地域における権利擁護は重要であることから、地域における権利擁護システムの一層の充実、構築が必要だと考えています。よく失われた30年と言われますが、我が国の障害福祉はこの間、目覚ましい発展を遂げてきたといえます。予算規模も平成19年から4倍の4兆円に届き、また、欧米の制度にはない、より細やかで多様な福祉サービスが生まれました。それぞれの事業の質の評価はこれからの大きな課題ですが、障害のある人が地域で暮らすために必要な制度や体制はおおむね出そろったといえます。そうした中で、現在の成年後見制度についても当然見直しされていくことが自然なことだと思います。   また、核家族化が一層進み、地方、都市部に関わりなく、また高齢者だけでなく世代を越えて1人世帯、ひきこもりや生きづらさを感じている人が増え続けており、自助、共助、公助のバランスが大きく崩れてきている社会状況の中で、従来の権利擁護の在り方が屋上屋にならないように、今あるサービスをうまく使い分けて、最終的なセーフティーネットとしての成年後見制度が機能することが必要だと思います。   包括的な権利擁護システムを構築するというのは、要するに、いろいろな制度のはざまにある日常生活の問題に細やかにこたえていくということです。そこにあって、お金の問題とニーズのはざまをどうしていくのかという、地域の権利擁護事業とうまく重ねていかないと隙間ができます。福祉サービスの事業と成年後見制度による支援が、途切れることのないようにしていくことが必要ではないかと考えています。従前、地域ごとに様々なその土地なりの互助制度というか助け合い制度、そういうものがあった、そういう社会が、やはり、先ほど言いましたように、どんどん家族も個人も孤立していくという、そういう社会状況の中で、どのような仕組みが必要であるかということを改めてやはり再考していかないといけないのではないかなと思っております。   そうしたきめ細かい日常生活の支援メニューを実際に行っておられる市町村さんも多いわけですけれども、まだまだその実態はまちまちです。本人が地域生活を送る上で、自らの意思で望む暮らしが実現できるような多様な権利擁護というか、新しい支援メニューも含めて、やはり今の社会に合った後見制度を考えていかないといけないのではないかなと思います。   三つ目は、後見に関わる利用者負担の軽減策についてです。収入が障害基礎年金のみの障害のある人が、後見人の費用月額2、3万円を支払うのは大きな負担であることから、利用者の負担を軽減する方策の検討をお願いしたいと思います。現状として、成年後見制度を利用したくても、費用が掛かりすぎることで利用をちゅうちょする、また断念されている方が多くいらっしゃるのが現実です。後見人選任費用について、一般的に弁護士に依頼して成年後見人選任申立てをする場合、初期費用として弁護士費用20万円程度、家庭裁判所への予納金2万円程度、医師の鑑定費用5万円程度、合計30万円程度の費用が掛かります。これに加えて、後見人に対する月々の費用として2、3万円程度が必要となります。こうした費用負担は、生活保護世帯や非課税所得等の低所得者世帯だけでなく、資産を十分に保有していない一般世帯においても安心して利用できる制度とはいえません。地域福祉権利擁護事業等の費用も含め、利用者負担の軽減策が必要であると考えています。   四つ目は、法人後見の活用の検討についてです。法人後見については利益相反の課題等が指摘されており、慎重な議論が必要ですが、費用が抑えられることや、後見人の変更等についても法人内で対応できるといったメリットがあります。法人後見の意義を十分に理解した上で、予測される課題やリスクをあらかじめ考慮し、個別のケースごとに検討するなど、より効果的な活用方法の検討をお願いしたいと思います。令和2年の厚生労働省による先行研究によれば、法人後見に取り組む民間の社会福祉法人は極めて少ないのが現状です。社会福祉法人は、地域公益活動に積極的に取り組むことが責務とされております。代理援助の専門職である支援員は、日々の相談支援や就労生活支援を通して御本人の生活状況や望まれていることを把握するスキルを持っています。地域の権利擁護の活動に関わることで、広くそのスキルをいかして、障害のある方の生活の質の向上に貢献する経験を重ねることができ、対人援助職としてのやりがい、モチベーションやスキルアップを得られる機会につながることが期待されます。また、法人経営においても、職員の定着に資する効果や、これからの地域における権利擁護の担い手を育成する機会となることが期待されるところです。   当協会は社会福祉士養成校を運営しており、毎年多くのソーシャルワーカーを送り出しています。福祉分野には地域貢献を志して入職する職員が潜在的に多く存在しています。地域公益事業は、現場で長年経験を積んだ職員が本領を発揮できる有効な活用の場の場となることも期待されます。社会福祉法人が担う法人後見における利益相反の問題は、社会福祉法人の運営において重要な課題です。社会福祉法人が法人後見を行う上で、契約により福祉サービスを日常的に提供する社会福祉法人が同時に利用者の後見等を引き受ける場合、法的には利益相反が発生する可能性が生じます。この点、社会福祉法人の運営は株式会社等一般の民間法人とは異なり、広域性や非営利性など公的な性格が強いことから、強い公的規制を受けています。監督官庁による指導監査が行われ、法人として遵守すべき事項について運営実態の検査、確認が行われることになっており、法人運営の適正さが一定担保されているといえます。社会福祉法人による法人後見の実施を利益相反の問題と関連させて、形式的な論理により一律に消極的に捉えるのではなく、利用者、家族、職員にとってのそれぞれの意義を評価するとともに、法人後見実施により予測される課題やリスクを検討し、個別ケースごとに検討する視点が大切ではないかとも考えております。   例えば、社会福祉協議会が後見監督人となる方法、当該法人と社会福祉協議会が共同法人後見を実施する、又は複数法人が支援の内容において役割分担をする方法等が考えられます。あわせて、地域福祉権利擁護事業についても、社会福祉法人の関係職員が地域福祉権利擁護事業の支援業務の一部を担うことができるかについても検討していく必要があるのではないかと思います。   今回の報酬改定で、意思決定支援が障害者支援施設の指定基準に盛り込まれました。今年度から障害者支援施設において意思決定支援が義務化されます。これは、自法人だけでの意思決定は認められず、第三者を必ず交えた確認が必要とされるということであります。法的な権限を持つ成年後見人等には、法令により財産管理権とともに身上配慮義務が課せられています。一方、事業者が行う意思決定支援においても、自宅からグループホームや入所施設等への住まいの場の選択や、入所施設からの地域移行等、成年後見人等が担う身上配慮義務と重複する場面が含まれています。意思決定支援の結果と成年後見人等の身上配慮義務に基づく方針がそごをきたさないように、入所施設からの地域移行等の重大な意思決定支援のプロセスに成年後見人等の参画を促し、検討を進めることが望ましいと考えております。   保佐人及び補助人並びに任意後見人についても、基本的な考え方としては成年後見人についてと同様に考えることが望まれると厚生労働省の障害福祉サービス等の提供に関わる意思決定支援のガイドラインに明記されております。まずはその本来業務に過大な負担が生じない範囲で、本人の意思表出の橋渡しをするサポーター的な役割を担うことから始められるのではないかと考えています。具体的には、こうした情報を日頃から取り扱うことを専門としている相談支援専門員、就労発達支援専門員などの職種があり、本人の日常的な業務遂行の中で課題となっている権利擁護の問題について具体的な事例の把握や分析を行うなど、ケーススタディーを重ねることで、活躍が期待されます。施設からの地域移行が推進され、民間のグループホームが急速に増加、グループホームを利用する人が増え、身寄りのない高齢者も全国で2020年672万人、5.3%だったところ、2040年には896万人、7.9%に増えると推計され、ますます地域における権利擁護事業へのニーズが高まっております。待ったなしの問題であることから、まずは現行の制度における人材や枠組みを活用することが必要ではないかと考えています。   最後に、知的障害児者の概数について、109万4,000人、このうち軽度知的障害者の割合は8割程度を占めると言われています。他方、最重度者の割合は1割未満です。当然ながら、権利擁護の観点における意思決定支援の在り方は等しく重要視されるものですが、その意思決定支援のアプローチは異なる面もあることから、あまねく皆様の権利がしっかりと守られる制度となるようにお願いしたいと考えています。   私からは以上です。 ○山野目部会長 樋口参考人におかれては、資料に即して相互に密接に関連し合う4点にわたる御意見を明快、簡潔に御披瀝いただきました。ありがとうございます。   ただいまから委員、幹事からの質疑を出していただきます。委員、幹事におかれてお尋ねのある方は、どうぞ御発言を求めてくださるようお願いします。 ○小澤委員 ありがとうございます。参考になるお話、どうもありがとうございました。   1点目は、この資料一つ目の4ページの、知的障害のある人の自己決定が必要以上に制限されることがないような仕組みとしていただくとともに、意思決定支援を土台とした検討をお願いしますと、こういう御指摘の点についてです。自己決定が必要以上に制限されることがないようにとの御指摘ですけれども、自己決定が必要以上に制限されていると考えられるケースは、具体的にどのようなケースをお考えなのかという点と、その自己決定を制限することが許されるケースがもしあるとしたら、具体的にはどのようなケースが考えられるでしょうかというのが1点目でございます。   2点目は、資料の二つ目の利益相反のところですね、13ページの11行目から、社会福祉法人による法人後見の実施を、利益相反の問題に関連させて形式的な論理により一律に消極的に捉えるのではなく、利用者、家族、法人職員にとってのそれぞれの意義を評価するとともに、法人後見実施により予測される課題やリスクを検討し、個別ケースごとに検討する視点が大切ですという御指摘を頂いておりますが、社協の後見事務が一律的に利益相反に該当してしまうようなことがないように、例えば、法律に例外規定を盛り込むようなことをお考えなのかということが2点目の質問になります。 ○樋口参考人 1点目の、自己決定の仕組みにおける阻害要因ということについては、様々にあると思います。まず1点目は、家族です。家族の皆様の判断というかそういうことで、例えば施設入所、ある意味でグループホームについてもそうですが、御本人自ら、そうした暮らしの場を自分で決定するということに実態としてはなっておりません。私は日本の入所施設の在り方については、親御さんの思いやそのお気持ちは十分に、今の社会の状況から見ても、理解できないわけではなく、成年後見もそうなのですが、ゼロ、100ではないわけで、皆さんがやはりそれぞれの形で自律して暮らしておられる、自律の力を持っておられる、これを最大限に評価して、理解して、その選択肢の中にそういうことがあっても、やはりそのプロセスが踏まれていないということは重大な問題だと思っていますので、今回そういう指摘事項に、御本人お一人お一人の意思決定に基づいた意向確認をしなさいという文言も盛り込まれたことは画期的なことだと思っていますし、新たな時代の幕明けになるのではないかなと思っています。   許されるケースというのは、非常に難しいことですけれども、著しい行動障害のある方が、やはり他の人の生活を脅かす危険行為とかそういうことについてのみ、そういう判断が、代行決定が必要になるという、それ以外のことはもう、ほぼありません。やはり御本人参加で御本人の意思を確認するというプロセスを踏むべきだと思います。   もう1点について再度よろしいですか。 ○小澤委員 もう1点は、社協さんの後見事務が一律的に利益相反に該当してしまうことがないように、例えば法律に例外規定を盛り込むようなことをお考えなのか。 ○樋口参考人 そういったことよりも、やはり社会福祉法人の地域貢献活動を公益事業として明確に示していただくということが、一番分かりやすいことではないかなと思っております。 ○小澤委員 ありがとうございます。 ○山野目部会長 引き続き伺います。いかがでしょうか。 ○佐保委員 ありがとうございます。少し遅参し申し訳ございませんでした。お話を頂きましてありがとうございます。私から2点ほどお伺いしたいと思います。   1点目が、4ページの資料にあるとおり、「地域における権利擁護システムの構築が必要」という考え方については、全くそのとおりだと思っております。既に2022年度からの第二期成年後見制度利用促進基本計画に基づき、権利擁護支援モデル事業を実施する自治体も存在しておりますが、現行のモデル事業において課題と考える点、改善すべき点があるかどうかについて、伺いたいのが1点目でございます。   2点目につきましては、5ページの4ポツ、法人後見の活用の検討についてです。法人後見において、担う人材の業務負担、現行でもかなり業務負担があるのではないかと思っておりますが、更なる業務負担についてどう考えていらっしゃるのかをお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○樋口参考人 まず2番目のことからですけれど、私もそのように思っておりますし、この人材確保難の中でそうした新たな業務を担うということは非常に現実的ではないという側面もあります。ただ、従前の障害福祉の中で、近年何が一番変わったかというと、やはり相談支援です。福祉サービスを利用するに当たってお一人お一人に必ず相談支援員が、その支援を行った上で利用してもらうという仕組みが、全国あまねくできたということが、私は一番大きな変化だったのではないかなと思います。そういう今の職種というか業務の中で一定、現場の負担を考えながら担っていく方法はあるのではないかなとは思いますし、そういう専門のスキルを持った支援員がそういうことにも少しずつ関わっていくということが、現実的には人材の確保になるのではないかなと思っています。   それから、もう一つは何でしたでしょうか、すみません。 ○佐保委員 権利擁護支援モデル事業を実施する自治体のことで、現行のモデル事業において課題となる点、それから改善すべき点について、もしお考えがあれば教えていただければと思います。 ○樋口参考人 先ほど言った費用負担の件です。例えば、京都であれば1時間1,000円、ほかの地域では1,200円などもありますが、その費用がなかなか負担できないという理由で一定の期間で終了される人も多くいると聞いておりますので、そういうところも法人が担うことで、そうした費用の一部を負担するということも可能ではないかなと思いますし、私は特にそういう費用負担のことを中心に申し上げたいと思います。 ○佐保委員 ありがとうございます。 ○星野委員 御報告ありがとうございました。今、利用者負担のところをおっしゃられたので、そこのところで2点お伺いしたいと思います。   このスライドの3の後見に係る利用者負担の軽減策というところで、利用者の負担を軽減する方策の検討というところがあるのですが、私ども社会福祉士会の方では、利用者がどの程度の負担をすべきなのかという、その負担の割合というところについて、これまでも意見は出しているのですが、例えば、負担すべき費用をどのぐらい、何割といいますか、例えば福祉サービスなどの場合は全額自己負担ではないわけですが、そういったような考え方をお持ちなのかどうかということを1点目でお伺いしたいところです。   それから、2点目は法人後見のところ、その下のところですけれども、費用が抑えられるということを書かれていますが、これは正に利用する人にとっての費用が抑えられるのですが、逆に社会福祉法人の方では、先ほど業務負担というお話もありましたけれども、むしろそういったところの財源をどうするかという課題もあると思うのです。その辺りについてお考えがあれば、教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○樋口参考人 まず、どのくらいというときに、やはり基本的には応能負担という原則で考えるべきではないかなと思っています。障害のある方といっても、いろいろな所得状況がありますので、やはり公平に考えるならば応能負担が原則ではないかなと思っています。それから、印象的に言えば、福祉サービスは、基本的に無料で自己負担のないことが非常に多いです。それはいいことなのですけれども、そういうことと比較した負担感というのもあるのではないかなと思いますし、その辺の見極めというか、何かそういうことも今一度考えてみるべきではないかなと思っています。   それから、そうですね、余裕のある法人さんを対象にした発言だというふうに聞いていただけたらと思います。正直に言って、充実財産ということが担保されるような法人さんも少なくありませんので、そうした充実財産を地域の権利擁護事業に拠出をしていただきたいという、そういう思いでもあります。 ○竹内(裕)委員 お話と資料をありがとうございました。私からは2点、お話をお伺いできればと思います。   まず1点目なのですけれども、5枚目のところに、御負担の関係で利用したくても断念をされている方がいらっしゃるというところなのですけれども、知的障害者とされている方の中で利用したいと思われるとき、そのニーズの大きいもの、例えばどういう行為をしたいときがニーズが大きいのか、あるいは関わり方として、スポット的なのか、あるいは継続的なのか、どういう関わり方のニーズが多いのか、どういうお声を聞いていらっしゃるかというのを教えていただけたらと思いますのが、まず1点です。   2点目なのですけれども、ここはまだこの審議会でも今後の議論されるところではあるのですが、スライドの3枚目の主な指摘事項というところで、任意後見のことを触れてくださっています。知的障害者の方々の任意後見契約に対する期待であるとか、現状困っている点、こういうところが改善できたらもっといいのにというものがございましたら、是非お知恵を貸していただきたいのですが、よろしくお願いいたします。 ○樋口参考人 そうですね、どういうニーズがあるかというときに、やはり自分のお金を自由に使えない、簡単に言えば、そういう今の金銭の管理状況、御本人の所得であっても、実際にそれを自由に使えていない、そういうことが一番だと思います。やはり将来のことを考えてとか、無駄遣いしないでとか、そういうことで片づけられてしまう、そういうことが日常的に行われているのではないかという、利用者の御本人の意思に基づいて、やはり権利として、自分のお金なのですから、それを使えるような仕組み、そういうための仕組みとして使いたいと思っておられる方が一番多いのではないかなと思います。   それから、任意後見制度についてのご質問をもう一度、すみません。 ○山野目部会長 任意後見制度について、どういうふうな課題や、また期待を抱いておられますか。 ○樋口参考人 そうですね、やはり先ほど言いましたように、7、8割はそうした説明が理解できる人と捉えていただきたいのです。だから、任意後見という難しい表現や言葉ではなく、そういうことをもう少し分かりやすく伝えるような、そういう方法論というのをもう少し考えて、我々が考えないといけないのですが、そういうところで任意後見を選択できる機会を持ってもらうという場面が、現在は余りにもないに等しい状況ではないかと思います。皆さん結構、自分の意思でいろいろと発言されますが、そういう場面が余りにもないのではないか、保護者などにはそういう機会はあると思うのですけれども、直接御本人にこうした法律のことについて理解してもらう機会を提供するということが前提ではないかなと思います。 ○山野目部会長 竹内委員、よろしゅうございますか。 ○竹内(裕)委員 はい、ありがとうございました。 ○青木委員 本日はありがとうございました。私からは、福祉施設や福祉事業所のお立場から見てどういうふうに思われるかをお伺いしたいのですけれども、後見制度を御利用になっている方について、現場から見れば、もう制度利用は終わってもいいのになと思えるようなときというのはどんなときだろうかということを、具体的にもしお感じになるものがあれば、教えていただきたいというのが1点目です。   また、同じことの裏返しなのですけれども、福祉施設や事業者から見ると、キーパーソンがいなかったりとか、あるいは何かの事情があって、成年後見の利用を続けてほしいなと思われるようなときというのもあるとは思うのですけれども、現場から見て成年後見の利用を続けてほしいときというふうに思われるようなことがございましたら、教えていただければと思います。 ○樋口参考人 家族や兄弟との関係がうまくいっていて施設側との意思疎通が十分に図れている場合は、成年後見の必要は感じません。現場が困っていることは、医療機関を利用するときに、事業者が保証人になって入院、手術といったことを行うことについて、病院側も非常にリスクを考えて、家族の同意が得られないとなかなか進まず、そのことについてはもう年々、拒否的なのですね。そういう医療の場面で必要性を感じますね。   それと、やはり大きなお金、財産の管理についてです。私の所属法人では、年金を預からないで運営をしてきているのですけれども、多くの施設はやはり大きな金額を預かっているというところがまだまだ多いと思います。そういう場合に、これから始まる地域移行の確認、その具体的な生活の場への移行にかかる費用について誰が判断するのかという、そういう辺りの財産管理の問題がやはり大きく出てくると思います。親御さんがいらっしゃらない場合、あるいは認知機能が低下されている場合などに、施設の利用契約を結ぶ際にも必要性を感じます。   実際のところは、後見人の方が来られて何か相談ができるというようなことはほとんどありません。本来は身上監護ということがあるとすれば、やはりもう一歩踏み込んでいろいろと我々と議論をするような、そういう立場であるということを、やはりしっかりと理解していただきたいなと思っています。 ○青木委員 ありがとうございました。 ○野村幹事 本日はありがとうございました。2点質問させていただきます。   今後改正になりまして、必要な範囲、期間で後見制度を利用して、後見制度の利用が終了した場合に、御本人の支援はどのようにされていくのか想定されていますでしょうか。これが1点です。2点目ですけれども、成年後見制度を使わない場合、包括的権利擁護システムにどのような意思決定支援を行う仕組みを作っておけばよいとお考えでしょうか。 ○樋口参考人 2番目のことについて言えば、やはり集団でいろいろな立場の人がそのことに関わるという、そういう場を作ることに尽きると思っています。なかなかそういう場が正直、設けられていないのが現状なので、是非我々の事業所、団体としては、それぞれの法人の中に、まずは正式な形でなくても、そうした後見に関わる部署を作って検討するというか、第三者の方にも入ってもらってそれを検討するという、そういう機能が必要ではないかなと思っています。1点目については、福祉サービスを利用される方には必ず相談員が伴走していますので、必要な期間の後見制度を利用された後も、その人の状況を常に相談員が把握し、必要に応じて後見制度の再利用等の選択を支援していくことが考えられます。 ○野村幹事 ありがとうございます。 ○根本幹事 今日はお話しいただいてありがとうございます。先ほどお答えいただいたところの中で、後見制度を事業者側から見て続ける必要があるかという話の中で、医療と大口の金銭というニーズの指摘がありましたけれども、御本人が亡くなられた場合について、何か事業所側で思われるところがありましたら、教えていただければと思います。 ○樋口参考人 そうですね、私のところも当然亡くなられる方がいらっしゃるのですけれども、後見が元々立っていない人が大半なので、今言った後見人さんとの関係でそういう判断を求められるということはないわけです。家族の方が引き取って、その後のことについてはそのままということになっているのが実情です。 ○山野目部会長 よろしいですか。   引き続き委員、幹事からの御質疑を頂きます。いかがでしょうか。   大体お話を伺ったでしょうか。   樋口参考人におかれましては、貴重な御意見を御披露いただきまして、ありがとうございました。大事な意見をたくさんおっしゃっていただきましたけれども、特に法人後見に特徴的なメリットや、あるいは課題について光を当てる御議論を提供してくださったことに深く御礼申し上げます。樋口参考人におかれましては、本日は誠にありがとうございました。   休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   続きまして、特定非営利活動法人DPI日本会議の議長補佐を務めていらっしゃいます崔栄繁参考人のヒアリングを行います。   この際、私から崔参考人に一言申し上げます。本日は、崔参考人におかれましては大変お忙しい中、資料を調えてくださるなど事前の御用意も頂いた上で、この部会に御来臨を賜りました。誠にありがとうございます。崔参考人から忌憚のない御意見を伺い、今後の当部会における検討にいかしてまいります。何とぞよろしくお願い申し上げます。お話を伺った後、質疑応答の機会を、今までのお二人の参考人の場合と同様に、お願いしたいと考えております。   それでは崔参考人、どうぞよろしくお願いいたします。 ○崔参考人 皆さん、こんにちは。ただいま御紹介にあずかりましたDPI日本会議の崔と申します。今日は貴重な機会をありがとうございます。資料もぎりぎりになってしまって、本当に申し訳ございませんでした。今日配布していただいて、急にもかかわらず、まずはおわびを申し上げてから私の話をさせていただきたいと思います。   まず、私どもの団体の紹介をさせていただきます。お手元のパワポの資料順に申し上げていきますけれども、DPIというのは、障害者インターナショナルと日本語では訳しておりますけれども、DPIと言っております。世界のDPIは1981年の国際障害者年にできました。日本のDPIは1986年に発足しています。障害当事者を中心に、障害当事者が意思の決定をしながら活動している団体で、私はDPIで活動して25年ぐらいたつのですけれども、一応今のところは障害がないというふうなことだと思いますので、障害当事者の活動のサポートという立場で関わってきております。   日本のDPIは加盟団体方式を採っておりまして、障害当事者が意思決定機関の過半数以上を占めるとか、あと理事長、事務局長が障害当事者であるということを条件に加盟団体方式を採っておりまして、今、全国90の団体のネットワークを組んで活動しております。その90の団体の中には、また更に地域で何十団体かの加盟団体を持っている団体等もございます。   資料に書きましたけれども、国連の経済社会理事会の資格も持っており障害の分野において特別諮問ということで様々な活動をしてきました。DPI自体も、障害者権利条約の条約交渉が本格的に2001年ぐらいから始まっているのですけれども、そこにも日本のNGOということ多くの関わりを持ってやってまいりました。ですので、今日は、今日また横に石川さんもいらっしゃいますけれども、国連の方の動きなんかも皆さんに紹介しながら、DPIの考え方を述べていきたいと思います。   私の紹介を付けてしまったので、これは少し飛ばします。今、私はこの職以外にアジア経済研究所というところで韓国の障害者法制度なんかも調査研究をさせてもらっていて、成年後見制度の調査に行ったこともございます。   DPIの基本的な立場をこれから少し述べていきたいと思います。パワポの5枚目になりますけれども、DPIの障害者関連の制度政策に対する基本的な立場ということで、根底にある理念ということで、障害の社会モデル、障害の人権モデルに即した法制度の実現と、また後で少しお話ししますけれども、あともう一つは、DPIのIはインターナショナルということがありますので、国際水準の障害者に対する人権保障を確立するということが目的になっています。では国際水準の人権保障って何かというと、喫緊で言えば障害者権利条約に規定されている権利の保障ということになると思います。   次のスライドに行きまして、では具体的にはどういうことかということを申し上げます。今日のテーマである成年後見制度に関連して言えば、まず、どんなに重い障害のある人も障害のない人と平等に、入所施設や病院でなく地域で暮らせるインクルーシブ社会の実現、これは条約19条に関連してきますけれども、それから、二つ目としては障害に基づく差別の解消、障害に基づく区別・排除・制限といった差別の解消をしていくと。それから、今日のテーマで言えば、全ての人の法的能力を、これは行為能力も含みますけれども、承認するということを前提に制度設計をしていくべきだと、それを支えるもちろん支援体制というものも同時に作っていくということになると思います。また、インクルーシブ社会ということで、精神障害者の強制入院制度の廃止とか、あとは障害の有無で分けられないインクルーシブ教育の実現ということを中心に活動しております。   それで、今日は自由にというふうに何か書いてあったような気もしましたので、横に石川さんがいるとしゃべりづらいのですが、障害の社会モデルについて簡単に整理したものを皆さんに少し御提示したいと思います。いろいろなところで今、障害の社会モデルという言葉が、政府が作られた資料等でも言われていますし、国会の答弁でも、差別解消法やそういったところで大臣が障害の社会モデルといった言葉を使って答弁されたりもする時代になってきました。その障害の社会モデルというのは、先ほど少し申し上げましたけれども、DPIが活動の理念の根本としている部分なのですけれども、それと比較するモデルというのが、ここに少し書いておりますけれども、障害の医学モデルという考えです。   何かもう釈迦に説法みたいになってしまって恐縮なのですけれども、簡単に御紹介しますと、この二つの医学モデル、社会モデルの比較というのは、この表の社会参加の不利の原因が何かという考え方の違いになると思います。医学モデルというのは、それはあなたの機能障害のせいでしょうと、今日で言えば知的能力のせいでしょうとか、見えない目のせいでしょうとか、聞こえない耳のせいでしょう、そのせいで社会参加が不利になったり、できなかったりするのでしょうという考えです。何となく一般化しているような考えですけれども。それに対して社会モデルというのは、いや、それは社会の環境がそういった障害という人たちを抜きに作られてきた結果で、それは社会の側による排除によるものでしょうというのが、簡単に言えば社会モデルです。社会モデルも米国型とか英国型とかいろいろあって、細かいことは少し省きますけれども、ざっくりと言えばこういうことになると思います。   なので、社会モデルの考え方をベースにということになりますと、個人の障害をどうするかということよりは、社会のシステムをどう変えていくか、環境をどう変えていくかということに焦点を当てる制度政策を私たちは求めています。なので、この医学モデル、社会モデルというものを比べたときには、障害者問題、この表の最一番下になりますけれども、障害者が何か障害のない人と比べてできないとか、何か不利になってしまったという場合は、やはりそれは社会モデルの場合は障害者の権利の問題、人権問題になると、医学モデルの場合は、狭い福祉の限られた問題になるというふうに整理することができると思っています。   それともう一つ、昨今、石川さんもいらっしゃった障害者権利委員会が、障害の人権モデルという言葉を使っています。社会モデルという言葉は2012年の南米ペルーの総括所見以降使われていなくて、今はもう障害の人権モデルという言葉が使われています。これも簡単に説明、御紹介しますと、いろいろな方が書いた論文等を読んで私なりに解釈した限りで、やはり平等というものを非常に厳しく求めていくみたいなところがあると思います。差別の正当化事由を厳格に認めないと、認めるとしてもかなり厳格な判断です。今の人権規範というのですかね、モデルという言葉を使うと少し語弊がありますけれども、今の人権規範で一般的に考えられている差別行為の正当化事由、それは基本的に許さないというのが障害の人権モデルだと思います。なので、障害の人権モデルを言い出したお一人であるドイツのテレジア・デゲナーさんは、法的能力に関する条約12条を含めて、これは革命的な規定だと言っているようです。   それで、次の9枚目のスライドを見ていただきます。これも、難しい話だから分かりやすくまとめてくれとずっと言われて、私のない知恵を絞って一応、社会モデルと医学モデル、従来の人権規範と、障害者権利委員会の言っている人権モデルを簡単に整理してみたものです。従来のこれは憲法学でもそうですし、国際人権も同じだと思うのですけれども、医学モデルの視点に基づいて機能障害というものが社会参加の不利の原因だと、もう少し簡単に言えば、悪いものなのだから、あなたたちが努力して克服してくださいという考え方が、やはり人権の規範にも影響を与えてきたのではないかと思っております。なので、障害者だけ認められるような強制入院の制度だとか、教育の場においても、望んでもいないのに障害者だけが通う学校に行かざるを得ない場合ですとか、そういったことがなぜか許されてきたというのがあって、最近の障害者権利委員会は、もう障害を理由としたそういった例外は認めんぞというのが、私は障害者権利委員会の人権モデルだと理解をしております。また、これが成年後見制度とも密接に関係をしてくる部分だと思うのですけれども、一応現在のところは、障害の人権モデルはこういうふうにまとめられるのではないかなと思います。   人権の概念や差別の概念、平等の概念は発展する概念ですので、これを今すぐに、では世界がこれを全部やっているのかというと、そういうわけではないと、もちろんそれはあると思いますけれども、方向性としては障害の人権モデルの実現ということが言えるのではないかと私は思っております。DPIとしてはそう考えております。   それからもう1点、社会モデルと言ったときに、私は前のお二人の話を聞けなくて残念だったのですけれども、何かを決める能力とか判断する能力というのは個人の能力、知的能力とかということだけではないですよね。やはりどういう環境にいるかとか、どういうふうに育ってきたかとか、人との関係をどう作ってきたかということで、人の判断する能力とか意思能力というのは大きく変わってくると思います。   例えば、オレオレ詐欺に引っ掛かる方というのは、それは障害とは関係ない、高齢者の方も多いのですけれども、孤立をさせられるとか、人と相談ができなくなるとかという方が、うまくそういうふうに分けられてしまって、引っ掛かると言われていますし、また例えば10年、15年、刑務所にいて出所したら電車に乗るときに切符が買えなくなったとか、あるいは、部屋にドアを開けて入ろうとしたときにはきちんと挨拶をしないと入れなくなってしまったという例を聞きます。人の判断の能力とか行為には、その人が育ってきた環境というのが非常に大きな影響を与えるのではないかというふうなことが言われていて、それの一つが、障害者権利委員会の作った法的能力に関する一般的意見1という、少し難解な文章ですけれども、そこの根底を貫いている考え方ではないかと思います。   では成年後見制度をどうすればいいのかということで、前提から本題に入っていきます。細かい話はできませんし、まだ全て方針がDPIの内部で、こう在るべきだとか、これはこうすべきだと全てが決まったわけではないのですけれども、大きな方向性として、今日は少し、本当に御参考までにお聞きいただければと思います。   まず、現行の成年後見制度は、障害者の地域生活において、地域移行も含めてですけれども、障害のない人と平等な権利の行使の弊害になっている面がどうしてもあるということです。これは段階的に、今の制度というものは廃止していくべきだと考えております。施設入所の方が今、大ざっぱに言って20万人、待機されている方もかなりいらっしゃいます。私たちの推計では4万、5万はいるのではないかと思っていますあとは精神科の病院の患者の数も少しずつ減っています。皆さんの努力で減っているのですけれども、大きな枠組みとしては、まだ全然変わっていません。こうした現状を、全体のことを考えずに包括的な代理権とか同意権を認める制度を認めてしまうと、今のこうした社会体制ですとか構造をそのまま維持させてしまうおそれがあると考えています。   次のページは、簡単な事例を挙げております。成年後見の方が、本人は入所施設から出たいというふうな意思表示をしたにもかかわらず、後見人が反対して出られなくて、結局裁判になったという事例ですとか、少し今日、入所施設の話をしていますが、そこが悪いというわけではなくて、家族負担の結果として今の施設や病院での障害者というのがあるので、こういったことを考えていただきたいということで事例を出しています。   それで、今回皆さんで議論されている見直しに求めていきたいことですが、制限行為能力者制度を廃止して、精神障害を理由とする能力の制限を一律に正当化しない制度というものがやはり求められると思います。それから、意思決定能力、判断能力、特にそれは全ての人にまずは存在するのだということを前提に制度を組み立てていくべきだと思います。この人は欠けているとか、この人はないということを前提に組み立てていくのではなくて、一応全ての人にあるということを前提に組み立てていっていただきたいと思います。   それから、自己決定、自己選択の権利について、どこにどう書き込むかというのはあれですけれども、これはやはりきちんとした法律上の明記というのをしていただきたい。民法でできるかどうか分かりませんけれども、特例法でも何でもいいので。   あとは、似たような話として、やはり知的、精神能力によって一律にこういう類型に分け込むときの根拠になっている、今の成年後見制度の事理弁識能力ですけれども、こういった考え方は基本的にはなくしていくべきだと思っています。   期間を限定して、どうしても本人の意思の表明とかが難しい場合は、限定した環境や状況、個別具体的な場面で、個別的にこういう支援が必要だというような形の制度設計をお願いしたいと思っています。その介入というのは、補充性の原則と言われていますけれども、必要性と補充性の原則というものをきちんと踏まえたものにしていただきたいと思います。   しかも、やはり意思決定をしていく、あるいは法律行為をしていくときの支援の仕組みというのは、一人二人の後見人とか一人二人の人が決めていく体制ではない、たくさんの人が関わっていくしくみが必要であり、権利擁護、障害者の権利をきちんと守れる実績とか知識のあるような資格というのですかね、持った人がきちんとそこに関わっていくというような仕組みを作りたいな、作ってほしいなと思っております。   15ページ目は韓国の特定後見の例です。私が調査したときはまだあまり使われていないようでした。事務が煩雑になってしまうなどの理由があるようでしたが。韓国は日本と同じような制度、似たような制度を持っている国なので、参考になるのではないかなと思っています。私は最近この件については調査していないので、今年中にこの件も含めて現地調査に行ってきたいと思っています。   同時に、成年後見制度自体の見直しというのは、もちろん私たちは必要だと思っていますけれども、いろいろな方がおっしゃっている通り、意思決定の支援とか、あとは法律行為を行うときの支援ということとセットに見直すということが、これはもう言わずもがなで必要だと思います。同時並行で行うというか、この制度に組み込んでいくということですね。   よく話に出てくるのは、イギリスの意思決定支援法の独立意思代弁人制度です。現在どのような運用がされているものか、最近の話はコロナ以降、余りよく分からないのですけれども、そのような、意思決定をするに当たって障害者の権利なり、本人に寄り添って権利の主張を一緒にできるような、そういった人をきちんと意思決定支援の体制の枠に入れていただきたいと思います。あとは、現在ある福祉サービスで日常生活自立支援事業の利用の活性化です。今までもかなり議論されてきたのではないかと思いますけれども、これを、いろいろな限定点はあるにせよ、制度を見直しや拡充していくことで、成年後見制度に頼らず、かなりの部分をカバーできるのではないかなと思っています。今の事業内容だけでは足りないところもあると思いますが、本人の自己決定だとか障害者の権利といったときには、福祉サービスで今あるものをきちんと使っていくということも大切ではないかなと思っていて、私はこれにもかなり期待をしたいなと思っています。どういう議論をされてきたかというのはちらっと聞いてはおりますが。   あと同時にこれは障害に係る欠格条項の見直しというものを同時に考えていかなければいけないことだと思っております。御存じのとおり、一括改正法で成年被後見人に係る欠格条項が一括改正されましたけれども、精神の機能の障害という新しい形の欠格条項が増えてきてしまっているということがあって、これは成年後見制度と密接に関係があるということで、一応最後の方で欠格条項のことも申し上げておきます。   ということで、稚拙な話になってしまいましたけれども、私の話は以上とさせていただきます。御清聴ありがとうございました。 ○山野目部会長 崔参考人におかれましては、要点を絞って力強く御意見を御披露いただきました。   これから委員、幹事の皆さんからの質疑の時間といたします。委員、幹事におかれては、御質疑のある方はお申出をください。 ○小澤委員 ありがとうございます。貴重なお話、ありがとうございます。1点だけ少し教えていただければと思います。コロナ以降は少し分からないというお話だったのですが、イギリスの独立意思代弁人についてどんな制度か、もう少し教えていただければと思います。 ○崔参考人 これは、イギリスの意思決定能力法とかという法律があるのですけれども、そこに制度として独立意思代弁人というのが付いていて、ある代理決定をするときに、その代弁人が、イギリスのガイドラインに書いてあるのは、本人に寄り添ったと、決して客観的な要素と主観的な要素を中立的に考えてということではなくて、本人の主観的な要素だとか障害者の権利をきちんと代弁というか、主張できるような人だとされているようです。これも自治体とかいろいろなところによって運用の仕方が違うとか、お金の問題もあって、うまくいっているというところと、うまくいっていないという話も少し聞いていますので、自分でも少しまた、私よりも詳しい方もいらっしゃいますので、調べてみたいと思いますけれども、私が申し上げたいのは、ある士業の資格だけではなくて、障害者の権利とは何かとか、そういったことをきちんと理解している人を、きちんと責任を持った形でその意思決定の仕組みに組み込んでほしいと申し上げたいと思います。 ○小澤委員 ありがとうございました。 ○根本幹事 今日は貴重なお話を頂いて、ありがとうございます。資料の12ページ、13ページとの関係でお伺いをさせていただければと思います。地域移行について、制度が弊害となっている部分があるという御指摘を頂いて、その上で13ページのところで事例を御紹介いただいているということかと思います。13ページの事例は、たまたま両方御親族ということですが、これは専門職でもあり得るところであるということを前提としたことでお伺いしたいのですが、仮に改正される成年後見制度の中で一定程度、御本人の意思決定支援が行われていくと仮定した場合でも、この制度は地域移行の弊害になるという側面があるのかどうか、もしあるとすると、それは制度のどういったところが地域移行を阻害するということになるのかについて、もう少し教えていただければと思います。 ○崔参考人 ありがとうございます。これは施設が悪いとか病院が悪いという話ではなくて、まず一つに、やはり日本のこういった制度が家族を、あなたたち、まず家族でしてくださいという家族中心の体系で作られてきたと。それで、どうしても家族負担が大きくなって、なので施設や、というものが使われてきたという歴史があると思うのです。なので、成年後見制度だけがこの地域移行の弊害になっているわけではなくて、やはり地域の資源がまだ足りないと。安心して、例えば親、保護者の方に、地域で暮らせるよと言えない状況にある、そこに後見人の人が、そういった障害者の権利とかというのが余り分からない、いろいろな客観的な要素に基づいて判断すると、本人の希望というのがなかなか実現できないよという例なのです。   なので、全体的な話で捉えていただくということなので、今、厚労省さんの方でも地域移行ということで一生懸命法律を少しずつ改正していますけれども、まだこのセットで進めていくということで、これを、そういうバックグラウンドというか前提をきちんと理解していないと、余りにも今の後見人の力というのが強すぎ、しかもそれが永劫続いていくので、これは全体の社会の構造的から見れば、今の後見制度というのは地域移行なり自律生活の弊害になっていると言い切れると思います。だから、直していくには、後見制度だけではなくて地域のサービス、福祉サービスやいろいろなサービスを増やしていくということも同時に必要だと考えております。 ○星野委員 今日はありがとうございました。欠格条項については一括的になくなったのだけれども、ほかの法律において制限的に規定されていることの問題を改めてお知らせいただき、本当にありがとうございます。   それで、1点お伺いしたいのが、今回の見直しに求めることの中に、一番下のポツのところで、この制度自体は廃止をするというところの御意向、御意見については本当に深く共鳴するところがあるのですが、それでも一定程度限定された形での代理や取消しを可能とする制度と書かれています。どういう場面が考えられるかというところを、もし教えていただければと思います。 ○崔参考人 代替決定、代理決定が必要な場面をどのように法律に位置付けるかというのは、まだきちんと整理できないのですけれども、原則はやはりそれは禁止だというような立場ですけれども、一応申し上げますと、そうですね、よく言われているのは遷延性意識障害の方だとか、そういう場合にどうするのですかということは言われますね。あとは、どうなのですかね、場面、場面になってみないと分からないのですが、私は重度の知的障害の方を仕事上というか活動上、見てきましたけれども、人がずっと関わってくると、この人はこういうことを考えているのだと何となくみんな分かるところが多いので、どういうときに必要かと言われると、やはり遷延性意識障害の方とかというのが思い浮かぶのですかね。あとはもう個別に考えていくしかないかなと思いますけれども。 ○山野目部会長 今の点、この部会でも悩み始めています。崔参考人の顔を見て、やはり悩ましいということがよく分かりました。 ○竹内(裕)委員 私から1点、お願いいたします。スライドの14枚目、「今回の見直しに求めることは」の一番最後のポツに、期間を限定した、時期や環境、状況を踏まえたというような表現があります。ここでは代理取消しのことを論じておられるわけなのですが、この審議会で、法定後見の開始要件のところでも、必要性であるとか補充性であるとか、同じ補充性という言葉で議論されていました。その中で、家族とか親族による事実上の支援というものをここの補充性で考慮すべきなのか、その考慮すべきレベルというのが法的に位置付けるものなのかどうなのかというところを議論したのですけれども、この点について、家族、親族による支援というのは、崔さんとしての個人の御見解でも構わないのですが、どのような位置付けをされているのかお伺いできればと思いまして御質問しました。よろしくお願いします。 ○崔参考人 ありがとうございます。家族の支援、どうなのですかね、私は家族負担というものはなるべく減らしていかなければいけないと思いますので、法人後見の開始の要件に、どうですか、そこに家族支援とかが入ると逆にどうなるのかなというのを、また専門の皆さんで御議論していただきたいなと思います。私の立場、私というか障害者団体全て、これは共通していると思うのですけれども、家族負担を減らしていこうというのは、これはもう全ての団体で、精神だろうが、知的だろうが、身体だろうが、全て一致できるところだと思いますので、そこを踏まえて御議論していただければなと思います。返し方が卑怯ですみません。 ○竹内(裕)委員 ありがとうございます。 ○青木委員 今日は貴重なお話をありがとうございました。桐原参考人のときにも話題にさせていただいたのですけれども、この権利条約でインクルーシブな社会の実現というのは非常に重要な根幹の考え方ということだと思うのですけれども、日本ではどちらかというと障害福祉分野の問題とか、地域共生社会という厚労省の課題と捉えられがちだと思いますけれども、権利条約としては、このインクルーシブな社会というのはもっと社会全体の問題として捉えているかどうかというのを再度教えていただきたいと思います。また、今の成年後見制度は、ノーマライゼーションの実現ということを2000年に理念にしてきたのですけれども、インクルーシブな社会ということとノーマライゼーションの実現というのはどういう関係になるかも、併せて教えていただければと思います。 ○崔参考人 ありがとうございます。まず1点目ですけれども、インクルーシブ、インクルージョンというのは、もちろん福祉分野の話だけではございません。条約上でいえば、第3条に8つの原則が規定されており、その一つとして参加とインクルージョンと、原則の一つになっています。これらの原則は条約の指導原理として位置付けられます。指導原理なので、全ての分野、全ての日常生活、社会生活の分野に関わる広範囲というか、全ての面に関わるものだと理解すべきだと思っております。なので、これと密接に関係して差別の定義のところでも、障害に基づく区別・排除・制限が差別だと規定しています。また、権利委員会でも、新しい平等に関する一般的意見の6も出していますけれども、それを読んでも差別とインクルージョンとかというのは密接に関わっているというのが理解できるのですね。インクルージョンというのは決して個別の一つの分野だけの話ではなくて、教育、働く場、生活の場全てに関わってくる指導原理だと御理解いただければなと思います。指導原理というのは国際法の学者さんがそう言っていますので、そういうふうに御理解いただければと思います。   それから、ノーマライゼーションなのですね。いろいろな話があるのですけれども、御存じのように、条約策定のときからノーマライゼーションという単語はほぼ使われてこなかったのです。そこではインクルージョンが、先ほど言ったように指導原理として入ったわけですけれども、その理由は、誰かが明快に教えてくれたわけではないのですけれども、ノーマライゼーションも、知的障害のある方が地域で障害のない人と同じような生活ができるのが当たり前の社会にすべきでしょうということを言っているので、その理念というか考え方自体はインクルージョンや差別に関する考え方と多分それほど差はないのではないかなと思うのですけれども、やはり何がノーマルかと言われたときに、ノーマルとなると必ずアブノーマルとか特別というのが出てくるわけですよ。最近国連のユネスコの報告書でも、正常や異常、特別という考え方もやめていきましょう、すべての人が持っているものは違う、みたいなことを言っていてそれを教育の場でもいかしましょうみたいなことを言われているので、多分ですが、ノーマライゼーションのノーマルというのは普通という意味なのでそこの根本的な考え方を変えていきましょうということがまず、あるのではないかなと思います。これは、東大の学者さんで調べている方がいらっしゃいましたので、私よりもスマートにお答えできるのではないかと思いますけれども、もし必要であればその方の意見もお送りいたします。私はそういうふうに考えておりますけれども。少なくともノーマライゼーションという言葉は全く今、国際権利条約では使われていないということだけはお伝えしておきます。 ○青木委員 ありがとうございました。 ○野村幹事 本日はありがとうございました。1点質問させていただきます。14ページの一番下のところなのですけれども、期間を限定したとありますけれども、成年後見制度の期間が限定されて終了が可能となった場合、どのような権利擁護の体制があればいいとお考えでしょうか。よろしくお願いいたします。 ○崔参考人 やはり、先ほどもちらっと言いましたけれども、きちんとした意思決定の支援の仕組みというのがあって、そこには障害者の権利を分かる人もきちんと入ってもらった形での仕組みというものが必要だと思うのです。なので、それが、例えば法人とか民間だけに、あなたたちでやってよというものではなくて、やはりきちんとした国の制度として位置付けると、ただ、運用は柔軟にやれるべきだと思うのですけれども、なので、例えば後見終わりましたと、後見というか何というか、ある意味ラストリゾートとしての代理決定、少ししつこくてすみませんけれども、終わりましたというときには、速やかにそちらの制度の方に移行できるような、というのが漠然とした答えなのですけれども、必ず必要だと思っています。また家族に丸投げとか、そういうことだけは絶対に避けなければいけないなと思っています。 ○佐保委員 いろいろ御説明ありがとうございます。私から1点だけ、16ページのイギリスの独立意思代弁人についてなのですが、これを例えば日本でやろうとすると、きちんと法体系などを整備していくということが必要と思いますが、それを実現できる既存システムはどういったものが考えられるか、なくても結構ですが、もしお考えがあれば教えてください。 ○崔参考人 今ですよね。何かあるのかもしれませんけれども、私が知る限りでは、なかなかないのではないかなと思いますけれども。ありますかね、厚労省に聞いても。 ○山野目部会長 崔参考人がお答えいただくところでお答えいただくことでよろしくございます。 ○崔参考人 すみません、ありがとうございます。例えば、私たちDPIは、国内人権機関も必要だと思っていますし、あるいはニュージーランドの人権のオンブズパーソン的なものもあればいいなと思っています。そういったことがあれば、そういったところと連携をしながら何かできると思うのですけれども、まだそこまでのはないかな。あとは期待したいのは人権擁護委員の方々ですけれども、やはり地域で広範なことをやっていたりするので、障害のこととかは余り御存じない方も多いと思いますので、新しい制度を作った方がいいのではないかなと思いますけれども。 ○佐保委員 貴重なお考えをありがとうございました。 ○佐久間委員 今日は貴重な御報告をありがとうございました。1点、お考えを伺いたいことがございます。インクルージョンとか人権モデルという考え方から国の制度を作っていくということ、すべきだということは大変よく分かります。成年後見制度というのも国の制度の一つであるので、その対象となるということもよく分かるのですけれども、成年後見制度あるいは制限行為能力者の制度というのは契約に関わる制度なのですね。この契約を結ぶのは国と、あるいは社会の何かの権力のある人と誰かということではなくて、普通の人と人との間で行われることです。そうであるがために、契約の場合は、障害のある方であろうがなかろうが、この人と契約すると効力が不安定になるのではないかとか、そうではないかもしれないけれどもややこしいなというときには、一般的には契約をしないという選択が社会では極めて広く行われているところだと思うのです。そのことを、その社会がおかしいのだと言うのは簡単なのですけれども、それを制約することができないという前提に立った場合に、行為能力制度を極端に言えば廃止する、あるいはなるべく使わないようにするとした場合、現在行為能力制度があるお陰で締結できている契約が、障害のある方にとってできなくなる、あるいはすることが困難になるということが、恐れられる事態の一つとしてはあると思うのですけれども、そのような場合にも、それは契約はできなくても仕方がないということに最終的には腹をくくるのか、そうではなく、こういうふうな道を探るべきだというようなことがあるのか、その点のお考えをお教えいただければ有り難く存じます。よろしくお願いいたします。 ○崔参考人 ありがとうございます。私の考えでよろしいですね、教えるではなくて。障害を理由に契約をする、しないというのは、それは法律が禁止している差別解消法の話にもなると思いますね。なので、契約の自由はありますし、経済活動の自由も、もちろんこれは憲法で保障される権利としてあるので、それはもちろん大前提、資本主義の国なので大前提なのですけれども、それを、例えば、行為制限能力者が、この人は少しあれかなと思ってやった場合に、それがどういう拒否の理由になるかというところを、やはり、しかも、それに合理性とか正当性があるのかどうかということを、逆にではないですけれども、きちんと決まり事で突き詰めていくという形になるのではないかなと思います。最初からある意味、契約をしやすいと言ったら変ですけれども、そういうのも必要かもしれませんけれども、障害当事者団体の立場からすれば、それを前提にするよりは、これは私の意見なのですけれども、やはりきちんとした、それが差別に当たるか当たらないかということを人権規範に基づいて判断していくという社会の仕組みを作っていくことも重要ではないかなと思っています。少し抽象的かもしれませんけれども。あとは消費者保護の仕組みを使ったりとか、あとは社会福祉のいろいろなものを使ったりとかということで、なるべく個人、個人の孤立した関係にしないというのが私たちの立場でもあるので、そういった社会全般の、いろいろな人が関わっていけるような仕組み、あとは差別をきちんと禁止していくというような仕組みを作っていくべきではないかなと私は思います。 ○山野目部会長 佐久間委員、お続けになることがあれば、どうぞ。 ○佐久間委員 分かりました。ありがとうございます。ただ、実は差別のことを申し上げたかったのではなくて、障害のない人につきましても、この人はややこしそうだなということになると契約してもらえない、するのにハードルが上がるというのは、これは普通に起こることなので、障害を理由としてではなく、その一つとしてそのようなことが起こることが恐れられるなと思っているものですから、御意見を伺った次第です。ありがとうございました。 ○山野目部会長 今の意見交換を踏まえて、またこの部会での調査審議を進めてまいりたいと考えます。ありがとうございます。   引き続き御質疑を承ります。いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。   それでは、崔参考人におかれましては貴重な御意見を御披露いただきまして、ありがとうございました。崔参考人におかれて、また今後ともこの方面の研究を重ねていかれると思いますが、何か御知見がおありでしたら、また適宜お伝えくださるようにお願いします。ノーマルという言葉は、障害の領域ではありませんけれども、ジェンダーの領域においては今、ノーマルである人とノーマルでない人という性的指向の分け方というものは、そういう言葉遣いはしないようになってきていますよね。同じような発想が多分、障害の分野でも、既に議論されているでしょうし、これからもそういう感性での論議が多分俎上にのってくる側面があるかもしれませんね。引き続きこちらの調査審議の様子を見守っていただきたいとお願いいたします。ありがとうございました。 ○崔参考人 貴重な機会をありがとうございました。 ○山野目部会長 休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   続きまして、静岡県立大学名誉教授でいらっしゃるとともに国際連合障害者権利委員会の副委員長も務めていらした石川准参考人のヒアリングを行います。   この際、私から石川参考人に一言申し上げます。本日は、石川参考人におかれましては大変お忙しい中、資料を調えてくださるなど事前の御用意も頂いた上で、この部会に御来臨を賜りました。誠にありがとうございます。石川参考人から忌憚のない御意見を伺い、今後の当部会における検討にいかしてまいります。何とぞよろしくお願い申し上げます。お話を伺った後、これまでのお三方の参考人と同様に、質疑応答の機会もお願いしたいと考えております。   それでは石川参考人、どうぞよろしくお願いいたします。 ○石川参考人 御紹介ありがとうございます。この度は貴検討部会にお招きを頂き、意見を述べる機会を頂きましたこと、ありがとうございます。   今御紹介いただきましたように、4年間ほど障害者権利条約の条約機関である障害者権利委員会の委員を務めた経験を持っております。また、国内では障害者政策委員会の委員長を10年間務めてまいりました。この障害者政策委員会は、政府から障害者権利条約の国内監視枠組みに指定されて、権利条約の国内実施状況を監視して、それを権利委員会に報告する責務を担ってまいりました。第1回の建設的対話におきましては独立した監視枠組みの責任者の立場で冒頭ステートメントを述べました。それらの立場から、特に障害者権利委員会の条約12条の解釈である一般的意見に基づきつつ、私見を述べたいと思います。   まず、一般的意見の要点をおさらいしたいと思います。まず、法的行為能力の制限について、権利委員会はどのように述べているかということですが、これは端的に、障害を理由に法的行為能力を制限してはならないと述べております。そして、代理決定などの障害者の法的行為能力を制限する制度は廃止して、代わりに意思決定を支援する制度が導入されるべきであるとしております。障害者が契約を結ぶ、財産を管理する、医療を受けるなどの行為において適切な支援を得ることができれば、代理決定は必要ないとする立場です。自分の意思をどのような方法によっても表明できない状況に限って、本人の意思の支援者による最善の解釈が必要であり、許容されるとしております。加えて、障害を理由に法的能力を制限することは差別に当たるとしております。法的枠組みと政策の見直しについて、権利委員会は、締約国は障害者の法的能力を完全に認め、支援するために法制度と施策を見直し、改正しなければならないとしております。さらに、障害者が法的能力を行使する際の支援に関する明確なガイドラインと手続を設けることが求められるとしております。障害者の意思と選好が尊重され、障害者が自律的かつ独立して生活できるようにすることが求められているとしています。   さらに、権利委員会は支援付き意思決定の仕組みにおいて、以下のようなセーフガードを設けることが必要だとしています。透明性と説明責任のための定期的な監査が必要である、独立した監視枠組みが必要である、個別の支援計画を策定する必要がある、支援者の教育と訓練が必要である等々です。   次に、権利委員会の総括所見につきまして申し上げます。これも自明かもしれませんが、復習したいと思います。権利委員会は、日本の成年後見制度は、障害者の法的能力を制限し、その意思決定を他者が代理する仕組みだとして、障害者が自らの意思で決定を下すことができるように、支援付き意思決定制度への移行を求めています。   次に、各国の取組に関してです。カナダ、オーストラリア、アイルランド等、複数の国で成年後見制度を縮小して、支援付き意思決定制度を整備、あるいは整備の検討をする動きが進められております。ここでは、カナダのニューブランズウィック州で今年、支援付き意思決定及び代理人法が施行されたことについてコメントしたいと思います。知的障害者が、信頼できる支援者の助けを借りて意思決定を行うことが可能になりました。この法律は、健康や財産管理や個人的な事柄に関して支援者を任命することを可能にし、支援を受けての意思決定が法的に認められる点で画期的と評価されています。インクルージョンインターナショナルなどもそのように評価していると承知しております。   次に、成年後見制度の見直しの私論を申し上げます。仕様だけのラフなもので恐縮です。第1段階として、支援付き意思決定制度を導入し、かつ成年後見制度は補助類型に一本化して縮小しつつ、二つの制度を並行して運用するというのが私案です。社会が新しいパラダイムを受け入れるためには時間が必要ですし、両制度を同時に運用することで問題解決がスムーズに移行できると考えます。そして、最終的には成年後見制度全体を廃止するというものです。   報告の結論です。日本の成年後見制度の改革は、エイブリズムとエイジズムを克服しようとする問題意識に根差して進められてきたと理解しております。しかし、それが成年後見制度である限りは、完全にエイブリズムとエイジズムを払拭できないのではないかと考えます。法的行為能力を制限せずに適切な支援を提供する支援付き意思決定、SDM制度への移行が求められるゆえんだと思います。段階的移行を提案いたします。   障害者の自己決定権を尊重するためには、包括的なアプローチが必要となります。教育、雇用、医療、福祉などの各分野において、アクセシビリティと適切な支援を提供するといったことが必要になります。EUのように、消費者保護法の強化によって脆弱な消費者を守りつつ、しかし法的行為能力は制限しないという手法も有力なものだと考えております。   できるだけ簡潔に述べようとした結果として、短時間で報告が終わってしまいました。あとは意見交換の時間にできればと思います。ありがとうございました。 ○山野目部会長 石川参考人におかれましては、誠にありがとうございます。おっしゃられたように極めて簡潔にお話を頂きましたとともに、お配りいただいた資料を拝見しながら、それと併せてお話を伺えば、仰せになっておられる御意見の骨子を大変よく理解をすることができます。御厚意によって質疑応答の時間を潤沢に取ることができると感じます。   それでは委員、幹事の皆様からの御質疑をお願いします。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。貴重な御意見をどうもありがとうございました。不勉強なところもあるので、すみません、基本的なところからの御質問になるかもしれませんが、お願いします。障害者権利条約や障害者権利委員会による一般的な意見として、日本の現行成年後見制度の全廃を求めているという理解でよろしいのかという点と、仮に現行の民法の成年後見制度を全廃した場合には、例えば社会福祉法制に意思決定支援を明文で義務として盛り込むことによって、そうすれば障害者権利条約との矛盾、抵触は避けることができるという理解でいいのかということと、もう1点最後に、その際の意思決定支援の義務を負うのは誰とするのが適当なのかという質問です。よろしくお願いします。 ○石川参考人 まず、一般的意見は、特に明確にすべき、つまり、様々な解釈の可能性があって混乱あるいは誤解等を誘発するようなリスクのある条文に関して、権利委員会の条文解釈を示したものです。条文ごとに一般的意見としてそれを公表しています。12条もその一般的意見が公表されている条文の一つで、それだけに論争的であったり、一定数、締約国と権利委員会との間で認識や解釈にずれが出ている条文でもあると思います。   一方、日本に対してこれを自動的に適用しているわけではなく、日本の審査において、日本の成年後見制度も含めて日本の施策の実施状況の報告を受けて、権利委員会として審査を行って、更に、ジュネーブで対面で政府代表団との間で建設的対話を行い、また市民社会からのブリーフィング、市民社会からのヒアリングを行い、権利委員会の総括所見というものを公表しております。その総括所見の中で、成年後見制度に対して、先ほど述べましたような、行為能力を制限する制度を廃止して支援付き意思決定の制度にパラダイムシフトするように求めています。この勧告は多くの国に対して出されているので、結果的には同じといえば同じですが、一般的意見から演繹したものではなくて、あくまで日本の成年後見制度の実施状況を見た上で意見を出していると考えております。   2点目の御質問ですが、成年後見制度の代わりに支援付き意思決定の制度がきちんと機能することを求めているので、様々な領域において意思決定、法的行為能力の行使に当たって意思決定を必要としている人が求める、あるいは必要とする支援が提供されていれば、それは権利委員会から見て、条約を適切に履行していると評価されるものと思います。   3点目は何だったでしょうか。 ○小澤委員 その意思決定支援の義務を負う方は。 ○石川参考人 意思決定支援を求めるのは本人というのが権利委員会の解釈であろうと思いますが、この点は微妙で、繊細な議論が必要だと思います。求めるときにのみ支援を提供すればよいのか、必要とするときにそれを提供する義務を、例えば国が負うのかというのは、ここは詳細な検討を必要とする点だと思います。 ○小澤委員 ありがとうございました。 ○佐保委員 石川参考人、いろいろ御示唆を頂きまして、ありがとうございます。私からは1点質問させていただきます。資料にあるとおり、障害を持つ人の法的行為能力を制限する制度は廃止すべきこと、成年後見制度ではなく、支援付き意思決定の制度に移行することについては、将来的な方向性として私も同じ考えでございます。   その上で、資料1ページには、自分の意思をどのような方法によっても表明できない状況に限り、本人の意思の支援者による最善の解釈が許容されるとありますが、成年後見制度全体を廃止することによって、本人の意思を全く確認することができない場合の本人の権利擁護をどのようにお考えになっているのかどうか、例えば例外的に保佐・後見類型を認めるなどの仕組みをお考えかどうか、お伺いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○石川参考人 そのような緊急の状況にある場合に、成年後見制度の枠組みの中での対応と同じように、支援付き意思決定の制度の枠組みの中でも対応できるようにするということが必要だと思います。つまり、最善の解釈を支援のマックスの形態とすることで、支援付き自己決定の枠組みの中にも包摂可能ではないかと考えております。 ○佐保委員 ありがとうございました。 ○竹内(裕)委員 本日はお話をありがとうございます。1点質問させてください。レジュメの2ページのところに、上から三つ目の丸のところで、自律と独立の尊重というところで、これは障害者の権利条約の12条の4項だと思います。それで、障害者の意思と選好を尊重されというところがあって、これは原文では意思のところがウィルで、選考がプリファレンスで、言葉の意味というかイメージとしてはつかめるのですけれども、私の少し勉強が不足だというところもあるので、具体的にはこのウィルとプリファレンス、意思と選好というのはどういう違いというか、具体的にどのような場面で何か例のようなものがあればお教えいただきたいと思いまして質問しました。よろしくお願いします。 ○石川参考人 意思と選好の違いについて、私は明確に答えることができません。申し訳ないです。意思と選好はセットで、意思だけについて何かを語り、選好については別の語り方があるわけではなくて、意思と選好と対になっているので、二つ言葉を重ねることで意味内容をより立体的に表現したいという意図ではないかと思うのですが、これについての説明を実は聞いたことがなくて、私も明快に答えることができません。申し訳ないです。 ○竹内(裕)委員 いえ、今のお答えで、どういうものかむしろ分かったような気がいたしますので、ありがとうございます。 ○石川参考人 ありがとうございます。よく分からないということがお分かりになったかと思います。 ○山野目部会長 内閣の助言と承認というときに、助言とは何ですか、承認とは何ですかと小分けにして問うことに余り意味がないということとほぼ同じ構図の話ですね。 ○根本幹事 今日は貴重なお話をありがとうございます。資料の6ページのところで、EUの消費者保護法についての御指摘を頂いているかと思います。いわゆる制限行為能力制度が、高齢者の方や障害がある方の消費者被害の防止に役立っている側面があるという指摘が日本ではありますが、制限行為能力制度という枠組みによる保護と消費者保護法による保護という、両制度の役割分担について、EUがどのように考えているのか、若しくは石川参考人がどのようにお考えなのか、それぞれもし何か御示唆いただければと思います。 ○石川参考人 ありがとうございます。消費者保護法を強化して、脆弱な消費者を不公正取引から守るというアプローチで、かなりの程度はカバーできるのではないかと思っています。完全にカバーし切れるかどうかについては、私も少し態度を保留とさせていただきたいと思いますけれども、というのは、EU諸国もまだ成年後見制度を完全に撤廃した国はないと考えております。意思決定支援の制度を導入して、二つの制度を並行運用してというのが現実的な考え方で、それは先ほど申し上げたカナダの幾つかの州でもやっているし、欧州でもそういった取組が始まっていると思います。   また、南アメリカの諸国では完全に移行したとデスクリサーチでは言われているのですが、スペイン語圏だということもあって、情報が十分に入ってこないので、ペルーは実際の運用はどうなっているのかとか、そういったこともよくわからないので、更なる現地調査が必要ではないかと思っております。 ○野村幹事 本日はありがとうございました。3点質問させていただきます。   まず1点目ですが、日本の成年後見制度の利用者の多くは認知症の高齢者ですけれども、国連の障害者権利委員会が想定している障害者像は認知症の高齢者を含んでいないか、少なくとも典型的な障害者像になっていないようにも思えるのですが、この点はいかがでしょうか。これが1点目です。   2点目ですけれども、資料の3ページ目に日本への勧告として、意思決定支援制度の導入に当たり適切な法的枠組みを整備することを求めているとありますが、この法的枠組みとは具体的にどのような内容を想定しているのでしょうか。これが2点目です。   3点目ですけれども、先ほどの佐保委員の御質問にも関連するのですけれども、意思と選好に基づく最善の解釈による支援というのは、支援付き意思決定制度に含まれるというお考えということでよろしいでしょうか。 ○石川参考人 ありがとうございます。まず、認知症は、障害者権利委員会はどの程度、あるいは障害者権利条約がどの程度認知症の高齢者を障害者として含めて意識して考えているかということなのですけれども、おっしゃるとおり典型的なケースとしては考えていない可能性が高いと、私も委員としての体験上そのように感じておりました。ただし、次第にニューロダイバーシティーとか、あるいは認知症についても問題意識が権利委員会でも高まりつつあるので、権利条約の策定当初はそれほど中心的なテーマにはなっていなかったとしても、次第に含めて考えなければならないという認識は持っていると思っております。   二つ目の法的な制度ですが、SDM、支援付き意思決定の法制度をきちんと作っていくと、それによって、例えば契約において支援者が果たす責任とか役割、権限の範囲等々についてきちんと法的な制度として厳密なものにしていくということが必要だというふうには述べていると思います。同時に、セーフガードについてもきちんと法的に規定する必要があると、一般的意見ではそのように述べていると考えています。   3点目は何だったでしょうか、すみません。 ○野村幹事 意思と選好に基づく最善の解釈が。 ○石川参考人 はい。これは、支援付き意思決定の制度においても、最善の解釈は意思決定支援の一貫として、ぎりぎりの範囲内として組み込む必要があると考えております。 ○星野委員 本日はありがとうございました。非常に網羅的というか広い視野で、この法改正の議論も、今までの参考人の皆様がおっしゃられたように、法制度だけをどうするかという話ではなくて、社会をどうしていくのかというところを改めて感じることができました。その中で2点、質問させていただきたいと思います。   まず1点目なのですけれども、包括的アプローチの必要性のところの8ページの最後のところに、モニタリングと評価システムの構築ということがございます。成年後見制度が一気には変わらない、段階的に変化していくというところで言うと、このモニタリングと評価をどのように行っていくのか、これについて具体的に、例えば諸外国の例などで、こういうところが参考になるというようなことがもしあれば、教えていただきたいというのが1点目です。   それから2点目は、結論にも書かれていますが、最後の2行ですね、長期的かつ継続的な取組を要する作業、正にそのとおりだと思います。包括的アプローチ、この全てがとても重要だと思います。この審議会の中で、石川参考人がどこまでを目指すことが考えられるかという、それは本当に御私見で結構なのですが、ご助言頂けると有り難いなと思います。 ○石川参考人 ありがとうございます。第1点目は非常に重要な点なのですが、現状私は明確な回答を持っておりません。不勉強で申し訳ないですが、一緒に考えていただきたいと思います。   2点目なのですけれども、貴検討部会の検討の範囲を逸脱した意見表明であるということをお断りした上でこの資料を提出していますというふうに申し上げようかと思ったのですが、言わずもがなかなと思いまして省略いたしました。今回の検討部会に求められている範囲から逸脱した議論であろうかと思いますが、御指摘いただいたように、包括的なアプローチとか、全体像をまず持った上で、その中でどこを今やっているのかという位置を確認するという作業が必要かと思いまして、申し上げた次第です。 ○佐久間委員 大変参考になる御報告でした。誠にありがとうございました。先ほどの参考人の方にもお聞きしたのと同じようなことなのですけれども、私は行為能力制度を改革するということはもちろん必要、重要なことなのだけれども、その結果といたしまして御本人が必要な契約を結べないようなことになっては、これはもうあってはならないことだと考えております。その観点で、御本人が契約を結ぶということになりますと、契約には相手方がおりますので、相手方も安心してその契約を締結できるというような制度にしておかなければいけないと考えています。   そのことを前提にお伺いしたいのは、契約締結時の意思決定支援についてです。御本人の意思の決定を支援するというのには二つの方向があるかなと思っておりまして、一つは、代理人が契約をするというときに、代理人が契約をする前に御本人の意思をきちんと確認をするということ、もう一つは、御本人が契約をするのに当たって、サポートに当たる人が最終的な意思の決定に至るまでに支援をするということがあろうかと思います。そのいずれも、相手方の方からして、仮にきちんとした意思決定支援がされていなかったら効力がどうなるのかということがかなり大きな関心になるかと思うのです。その観点から、まず代理人について、これこれこういう意思決定支援をせよという義務を課すということになったときに、その義務に違反して勝手に代理人が代理してしまったときに、契約の効力は無効にならない、単なる義務違反ですねということにすることで、権利委員会のような考え方からすると問題はないのか、それとも、意思決定支援が十分に結果的にされていないのだから、本人には不利益が生じないように契約の効力を無効にするというところまで踏み込む必要があるのかということを、御自身のお考えで結構ですので、お教えいただきたいのが一つです。   もう一つは、本人が意思表示をする、契約をするというときに、その意思決定支援が枠組みとしてあるのだけれども、それを無視してやりましたという場合に、やはり契約の効力を無効にする必要があるのか、いや、その場合は枠組みは用意してあって、その枠組みが機能することにしていた、しかし単に機能しなかっただけなのだからということで、ある意味、本人のリスクだということで、契約は効力を維持するというようなことになってもいいのか。具体的な場面で申し訳ありませんけれども、意思決定支援ということで求められていることは一体どこまでなのかと、私法上どうなのかということを知りたいと思いましたので、質問させていただきました。よろしくお願いいたします。 ○石川参考人 ありがとうございます。私にとっては難易度の高い質問です。12条の一般的意見は権利委員会の初期の段階で一般的意見第1号として策定されており、委員会内部の議論に参加していないこともあり、私には読み取れないところもあります。ですが、少なくとも成年後見制度の中での意思の尊重は権利委員会の考える意思決定支援とは異なります。あくまで本人が法的行為能力を行使し契約を結ぶことを適切に支援する制度を構築すべきというのが12条の趣旨だとしています。したがって代理人による本人の意思確認、意思の尊重義務違反が契約の効力に及ぶかどうかについては除外します。そのうえでご指摘のように契約の安定性ということは非常に重要なことだと思います。権利委員会はそのための実装を締約国に委ねていると思いますが、例えば、契約に本人とともに支援者も支援者の立場で署名するという契約手続きもあると思います。そうした手続きによって、支援を提供する責任を与えられた支援者による支援が適切に行われたことを契約相手は確認でき、契約の安定が確保できるように思います。いずれにしましても支援付き意思決定の制度を導入する際には契約の安定性を確保するための法的枠組みを精密に設計する必要があると思います。 ○青木委員 本日はありがとうございました。1点お伺いしたいのですけれども、裁判所が選任する法定後見制度、ネーミングはともかくとして、裁判所が選任するものであったとしても、御本人が同意をして、本人の意思に基づいて、例えば代理権を付けてくれとか、同意権、取消権を付けてくれという制度であった場合でも、障害者権利委員会の考え方からすると、それは成年後見制度として廃止すべきものなのか、あるいは、それは任意に契約で頼むものなのか、裁判所が選ぶものかという違いはあっても、本人の意思に基づいて代理権であったり、同意権・取消権というものを付与されているとして、それも意思決定支援の延長としての一つの制度としてあり得るのか、というような議論については、どう考えられますでしょうか。 ○石川参考人 ある種、この質問は、意図されているわけではないのは重々承知しておりますが、何と言ったらいいのでしょう、トラップ的な質問にもなっていて、イエスと答えてもノーと答えても、ある種の問題を誘発する可能性があると思っています。だからあえてこう問われたらどう対応しますかと私にお聞きになっているかと思うのですが、あくまで私見を直感的に述べるならば、権利委員会は、自分の法的行為能力を完全に、全面的にかつ不可逆的に移譲するような自己決定は尊重されないと返答するように思います。あらゆる自己決定を尊重するという立場からは、自己決定権を移譲する自己決定も認めなければいけないかのようにも思われますが、そうすると結果的に全面的に不可逆的に法的行為能力を失う結果になってしまって、それは元々のこの権利条約12条の趣旨から反してしまうという、自己矛盾を引き起こすような問題になる気がします。今日すぐに断言はできかねる問いです。はっきり言えず申し訳ございません。 ○青木委員 全然トラップのつもりではなくて、申し訳ありませんでした。ありがとうございました。 ○山野目部会長 石川参考人に対する期待が非常に大きいものですから、一番難しいところを承知で御質問を委員、幹事が差し上げた経緯があるであろうと感じます。お許しください。   引き続き委員、幹事の御質疑を承ります。いかがでしょうか。 ○沖野委員 ありがとうございます。明快な御説明をありがとうございました。既に御指摘が出て、ある程度分かったところもあるのですけれども、私からは、認知症の高齢者の問題や関係が気になっておりますため、この点を改めてお伺いさせていただければと思います。   と申しますのは、先ほど障害者というときにどういう人たちを念頭に置いているかについて、日本では、まず成年後見制度の利用者を見ますと、これは圧倒的に高齢者が多いという事情があります。80歳以上というようなところもかなり多く、日本において利用は実はそこが一番メインになっていると思われます。それから、消費者なのですけれども、脆弱な消費者と言われるときに、ここでお書きくださっているような形で、やはり認知症の高齢者というのが一つ出てまいります。ただ、一方で障害者権利条約のときの障害者というときに、そのような認知症の高齢者というのは、一つの典型的なカテゴリーとしては必ずしも今まで出ていなかったという御指摘です。   それから、EUの消費者法ですけれども、EUの消費者法における消費者の脆弱性、あるいは脆弱な消費者という場合に、これも状況から来るもの、一般に通有されるものがございますが、特に属性から来る脆弱な消費者というカテゴリーにおきましては、日本ですと、まず高齢者というのが来るわけなのですけれども、ヨーロッパの場合は、むしろ社会経済的な地位が言わば低いクラスにあるとか、それから教育レベルが十分ではないとか、それから外国語、当該市場というか国というか、そこでの国語でない、だから言語が理解できないという人、そして未成年者、未成年者も、特に児童というのが出てまいりまして、認知症の高齢者の数がどんどん増えていくという、少子高齢化という社会構造に対応せざるを得ない日本の中で出てきた消費者問題とは大きく像が違うということがこれまで指摘され、また、明らかになっているところでございます。むしろ日本ですとか東アジアに特有の現象と思われますけれども、日本ではその問題を消費者問題として避けて通れないということがあるわけです。   そういった中で、高齢者というのは狙われる消費者でもあって、その被害をどう防止し、あるいは保護を図っていくかというときに、一方では後見制度の利用というのが一つ、支援も含めて、あったわけなのですけれども、他方で被害からの救済という点では、やはり判断力の不十分に付け込むというタイプの不当な勧誘ですとか、そして契約へと追い込まれてしまったところから、望まない契約からの解放というのを何とかできないか、一般条項を作れないかという議論をしてきているわけですけれども、それがなかなか結実しないということがあります。そういった、例えば判断力が不十分であるというような点について、これをどう証明していけるかとか、あるいは、それを相手方が認識可能であるということが必要ではないかといった指摘もございまして、そういったものをどう図っていくのか、あるいはそれを不要とする理屈をどう用意していくかとか、そういった辺りが消費者法でも問題になっているかと思います。   これらのことは、日本での問題状況として出されました認知症、判断力の不十分さというのが問題になる、そういう高齢者が安心して生活できる社会ということを念頭に置いておいていろいろと法制度を改正しようとすると、十分ではないように思われるのです。諸外国で一体どうなのか、このようなカテゴリーというのは念頭に置かれて考えられているのかという点が一つです。   もう一つ、関連しまして、意向把握というのが非常に重要であると、その意思を実現できるということの重要性というのは、これはもうどれだけ強調しても強調しすぎることはないと思うのですけれども、他方で認知症等の高齢者の場合は意思の把握が非常に難しいのではないか。どこに住みたいかとか、誰からどういうサービスを受けたいかというのが日々変わるということも言われていまして、そういう中で意思把握と言われたときに、どういうふうにそれを判断して、そして本人にとって最も望ましい、あるいは本人の意向というか、そういうものを決定していくのかというのは、この場合には、非常に難しい問題が出てくるように思われます。そういった様々なやや特殊な属性のある問題が、日本では非常に大きな問題として存在するということから、これへの対応というのも十分に図る必要があると思うのですけれども、抽象的な言い方で恐縮ですが、こういった問題状況についての、例えば各国でもそういうことは十分考えられて、しかしこういうカテゴリーが用意されているとか、一般条項の中で包摂されているとか、あるいは先生御自身のお考えなどをお伺いできないかと思ったところでございます。   明確な質問ではなくて申し訳ございません。よろしくお願いいたします。 ○石川参考人 御指摘ありがとうございます。確かにEUの状況では、社会経済的な地位だとか、あるいは経済状況だとか、あるいは移民、言語的な問題等々ありますけれども、もとより年齢、高齢であるということも脆弱性の一つの重要な変数であることに変わりはないと思います。とはいえ、日本において高齢者の、特に認知症、認知的な弱点を抱える高齢者の経済的利益等々を守るという観点が、成年後見制度の運用においてかなりのウエートを占めているということは理解いたします。   その上で、高齢者の意思や選好を理解、最善の解釈をすることが難しいというエビデンスについては、若干疑問もございます。一緒に暮らしてきた経験を持つ家族は、たとえ認知機能が弱まったとしても、本人がこういうときには何を望んでいるのか、どういう意思を持っているのかというのは理解、推定できるはずで、現実の意思のとおりにできないという状況が悩ましさとしてはあるものの、それは地域のリソースさえあれば、状況が許せば、実現したいと望んでいる家族が多いのではないかと思っております。   日本においてはこれまでも成年後見制度の枠の中で本人の意思を尊重していこうとする姿勢はあるわけで、そのようなことが機能するのであれば、何も法的行為能力を制限しなくても支援付き意思決定の仕組みでやっていけるのではないかと、個人的にはそのように思っております。 ○山野目部会長 沖野委員におかれてお続けになることがあれば、どうぞ。 ○沖野委員 よく分かりました。高齢者の問題の中には孤立ですとか独居ですとか、そういうことが大きな要素を占めているという点もあり、そういったことの地域での位置付けというかバックアップというか、そういうことも含めて全体としての処理が必要になってくるということもよく分かったように思いました。ありがとうございました。 ○石川参考人 ありがとうございました。その点についての私の少し認識が甘かったと思います。考えてみます。 ○山野目部会長 意見交換をしていただきましてありがとうございました。   引き続き伺います。 ○河村委員 すみません、質問させてください。障害者権利委員会の考え方としては認知症高齢者というのは典型的なケースとしては考えられていないというお言葉がありました。そこで教えていただきたいのですけれども、EUでの成年後見制度のケースというのは、そのほとんどが認知症高齢者ではない、いわゆる障害者のケースであるという、日本とはそういう違いがあるという理解でよろしいでしょうか。 ○石川参考人 私はそのようなエビデンスがあるというようには確認できていないので、何らかの調査、データをお持ちの方にお聞きしたいところではございます。 ○河村委員 ありがとうございます。 ○山野目部会長 引き続き、いかがでしょうか。   大体お伺いしたと受け止めてよろしいでしょうか。   それでは、石川参考人におかれましては、資料を調えて御準備いただいた上で簡潔に意見の御開陳を頂き、委員、幹事の質疑にも熱心にお答えを頂きました。誠にありがとうございました。   本日予定いたしましたお四方の参考人のお話を伺い、質疑応答も滞りなく、ここで了する次第となりました。改めて、入念な準備の上に御参加いただき、委員、幹事の質疑に熱心に明快にお答えを頂きましたお四方の参考人に深く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。   次回以降の議事日程等に関し、現時点のヒアリングの実施スケジュール等について事務当局から説明をお願いします。 ○波多野幹事 まず、ヒアリングの関係について現状を御説明いたします。9月は来週にもう1回部会を予定しておりますが、10月にもう一度ヒアリングのための部会をお願いします。日付は10月8日でございますが、こちらにおきましては市区町村と社会福祉協議会、そのほかの施設で金銭管理等に関与されている社会福祉法人からお話をお聞きすることを予定して、現在調整中でございます。 ○山野目部会長 ヒアリングの予定、スケジュールにつきまして御案内を差し上げました。この点について委員、幹事からお尋ねがあれば承ります。いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   続きまして、次回の議事日程について事務当局から案内を差し上げます。 ○波多野幹事 次回の日程でございますが、令和6年9月10日火曜日、午後1時30分から午後5時30分まで、場所につきましては地下1階大会議室を予定しております。   次回は、既に配布済みの部会資料4の第4のほか、任意後見に関する検討事項、成年後見制度に関する家事審判の手続についての検討事項に関する部会資料をお送りしまして、議論をお願いしたいと存じます。 ○山野目部会長 前回、部会資料4について積み残した、いずれも少なからぬ重要性を持っている事項の審議を引き続きお願いするほか、間もなく皆さんお手元に部会資料5をお届けすることになりますから、そちらもお読みいただいた上で、ただいま御案内を差し上げた次回会議において、また委員、幹事の皆様におかれましては、どうぞよろしくお願いいたします。   この御案内いたした点を含めて、この部会の運営等につきまして、委員、幹事の皆様から意見や御質問があれば承ります。いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。ありがとうございます。   それでは、これをもちまして法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第6回会議を閉じます。ありがとうございました。 -了-