法制審議会 民法(成年後見等関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  令和6年9月10日(火)自 午後1時29分                     至 午後5時32分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  1 法定後見制度を前提とする他制度に関する検討事項について         2 任意後見に関する検討事項について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 定刻より1分ほど早うございますが、会場、遠隔、両方とも委員、幹事がおそろいであるという報告を受けております。   ただいまより法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第7回会議を始めます。   本日も御多忙の中、御出席を頂きまして誠にありがとうございます。本日は櫻田委員、家原幹事、小林幹事、杉山幹事、山下幹事が御欠席と伺っています。また、沖野委員及び櫻庭幹事が会議の中ほどから出席予定と伺っております。佐保委員におかれては、やむを得ない業務のため途中、会場からお出になるということも伺っております。どうぞよろしくお願いいたします。   審議に入ります前に、配布資料の説明を事務当局から差し上げます。 ○山田関係官 本日は、既に配布しております部会資料4に加えて、部会資料5を配布しております。資料の内容については、後ほど御審議の中で事務当局から説明を差し上げる予定です。 ○山野目部会長 本日の審議に入ります。   本日は、部会資料の第4からの審議をお願いいたします。初めに、部会資料4の18ページからになります、部会資料4の第4、法定後見制度を前提とする他制度に関する検討につきまして、事務当局から部会資料の説明を差し上げます。 ○山田関係官 部会資料4、18ページからの第4、法定後見制度を前提とする他制度に関する検討について御説明いたします。   現行の法定後見制度を前提とする規律は多数存在しています。法定後見制度の見直しをすることとする場合には、その見直しによってこれらの規律に影響を与えるか、与える場合にどのように対応するか等にも留意しながら、制度の見直しを検討する必要があると考えられます。   まず、18ページの2では意思表示の受領能力の規律について、19ページの3では成年被後見人と時効の完成猶予の規律について、それぞれ整理しています。これらの規律は、判断能力が回復しない限り後見開始の審判が取り消されない現在の成年後見制度を前提にしたものですが、成年後見制度の見直しに関連して、これらの規律についてどのように考えるかにつき、御議論いただきたいと考えています。   また、20ページの4では成年被後見人の訴訟能力等の規律について、22ページの5では手続法上の特別代理人の規律について、それぞれ整理しています。これらの規律についても、成年後見制度の見直しに関連してどのように考えるかにつき、御議論いただきたいと考えています。   さらに、このほかにも検討が必要な規律がありましたら、御指摘いただけますと幸いです。   説明は以上です。 ○山野目部会長 ただいま御案内を差し上げました諸点、すなわち意思表示の受領能力、成年被後見人と時効の完成猶予、成年被後見人の訴訟能力等、さらに、手続上の特別代理人、これらの論点につきまして、いずれについてでもよろしくございますから、また、どなたからでも結構でございますから、御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。今回の部会資料に示されている場面について、特に規律の見直しまで必要はないのではないかと考えています。意思表示の受領能力や時効の完成猶予、成年被後見人の訴訟能力等の場面においても当てはまることですが、これらの事情が分からずに、法定後見制度利用の必要性がないとして制度の利用が終了してしまうことも起こり得るとは考えますが、現行制度においても、実質的には後見制度の利用が必要ではあるけれども成年後見制度を利用していない方、部会資料中の記載されている、意思能力を欠く状況にあるが、まだ後見開始の審判を受けていない者は多く存在しているものと思いますので、現行の規律の中で、そのような方々と同様の取扱いでよいのではないかと考えています。 ○青木委員 まず、意思表示の受領能力についてですけれども、今回検討されている新しい制度では、必ずしも「意思能力が欠ける常況にある」と判断するわけではなく、個別の代理権に必要な範囲で判断能力を判定するものとすれば、後見制度を利用した者が常に意思能力を受領する能力がないとなるわけではありませんので、まず、この問題の前提の立て方として、異なるのではないかと思います。   その上で、この例示にありますような売買の場合につきましては、売買の代理権の終了というのは売買契約の決済が終わってから直ちになされるわけではなく、その後に債務不履行状況がないかの確認もした上で終了することになるわけですから、まだ代理権が付いた段階で、相手方から代金減額請求であったり、瑕疵担保請求であったりということが生じるということになりますので、特段そこで実務上の不利益は生じないと考えます。   ただ、売買から数年たって、何かの状況で新たな瑕疵などが発見されたことによる請求というのはないわけではありません。その場合には、その段階で本人の売買に関する判断能力がどの程度かというのは、その段階で確認することであり、その段階で意思能力に欠けることになると限るものではありませんので、その段階で必要があれば、再度、売買契約の事後処理に関する代理権を付与するということで対応できると思いますし、その申立てを本人や申立権者がしない場合には、相手方はその意思表示を到達させるために訴訟等を行って、代金減額請求等の訴訟を行う中で意思表示を到達させ、その後の対応としては、本人に特別代理人等の選任を受けて、その代金請求権の履行に関する訴訟で対応するということでいいのではないかと考えます。そういう意味では、この条文中の、法定代理人が付いている限りはその限りではないというところは、成年後見については該当がなくなることになるのではないかと思われます。   そう考えましても、先ほども小澤委員の御発言がありましたように、一般には成年後見が付いていない中で、認知症等によって判断能力がなくなって、売買の契約の履行が難しくなったときには、そういった対応をしているわけですから、そういう民事手続上の一般のルールに基づいて判断能力についても考えると、前回のヒアリングにもありましたように、なるべく一般社会のルールに基づいて障害のある人も規律することができるのであればそうする、ということに戻るということが適切ではないかと思います。   現に私が最近経験した事案でも、売買契約時には判断能力があった方が、その後、農地の譲渡許可のために時間を要することになり、決済まで1年ぐらいかかるうちに、売主の認知症が進み、決済時には御本人さんの売買や登記についての判断能力がないという方がおられました。買主さんからは成年後見等を付けてほしいと要求されましたが、親族としては、そのためだけに一生続く成年後見の申立ては難しいとなったため、買主さんは決済の履行を求めるため所有権移転登記手続を求める訴訟をされるということになり、売主である被告に特別代理人が付いたというケースを経験しています。実務上はそういった対応が可能であると思います。   時効の完成につきましても、時効の完成を止める必要のある何らかの請求権につき代理権が付与されていれば、その代理権に基づいて後見人さんが行使するでしょうし、そのような代理権が付与されていない場合には時効の完成は進むということになりますが、完成を止める必要がある場合には、その時点において、その請求権についての代理権付与の申立てをしていただき、その時点では、現在の規律と同じように、時効完成につき6か月間の猶予を認めるというような規律でよいのではないかと思っております。   訴訟能力につきましては、先ほどの繰り返しですけれども、成年後見制度を利用している、イコール、事理弁識能力に欠ける常況というわけではなくなりますので、訴訟能力についてはその個別事案ごとに民事訴訟法手続の中で、裁判所が訴訟能力があるかどうかを実質的に御判断いただき、必要があれば当事者の方にそれに関する代理権付与の申立てを促す、その促しに応じない場合には、相手方に対して特別代理人等の手当てを促すということでよく、訴訟能力の判断も、後見制度の利用の有無とは離れて判断をするとなるのではないかと思っています。 ○佐久間委員 意思表示の受領能力についてですけれども、お二人の意見と違って、私は対応が必要なのではないかと思っております。成年被後見人の類型をなくすということは、当然のことながら、お二人がそれでいいとおっしゃったように、98条の2の適用対象から外れるということです。ただ、意思無能力の場合に受領能力を欠くという規定は残りますから、現在の成年後見相当の方は、今後は専ら意思無能力を主張して争う、意思表示の効力が自分には対抗できないと主張するために意思無能力で争うということになり、それは封じられないのだろうと思います。   そうすると、取引の相手方の方からいたしますと、成年後見開始の審判がされている、小澤委員がおっしゃったとおり、全ての人にされているわけではなくて、されていない人も多いことは多いのですけれども、後見開始の審判がされている方に関しましては、どのように対応していいかということが分かるのに対し、この人の判断能力は少し不十分なのではないか、あるいはその程度が相当著しいといえるのではないかと相手方が見たときに、もし単純にこの規定をなくして、ほかに対応しないということになりますと、意思無能力による意思表示の効力不発生の対抗を受けることを考えて、相手方は行動しなければいけないということになってしまいます。そういたしますと、相手方が取引にちゅうちょするということが出てくるのではないか。私はこれまでの部会でも何度か発言いたしましたけれども、相手方が取引にちゅうちょするということは、結局のところ本人に、法律関係の形成が困難になるという不利益となって跳ね返ってくると思います。   部会資料では売買の例が挙げてあり、青木委員も売買の例でお話をなさいましたけれども、もっと深刻なのは不動産の賃貸借とか、施設の入所とか、銀行取引のような継続的な関係がある場合だと思います。継続的な関係がある場合にはおよそ、保護者といっておきますけれども、保護者の代理権を終了させない、権限を終了させないということであれば、大して問題はないのかもしれませんけれども、どのようにこれから議論が進んでいくか分かりませんが、今いろいろな方がおっしゃっている考え方で言うと、そのような場合であっても代理権はある時期に消滅するということがあり得ることを一応想定して考えていくといたしますと、このような継続的関係の場合に、途中でその法定代理人に当たる人がいなくなったとなりますと、単に98条の2で成年被後見人に関する規定をなくすと、相手方は対応のしようがないということになり、そのような継続的契約について、現に判断能力が衰えているのではないかと思われるような方だけではなく、高齢者一般について、取引に今でも応じてもらいにくいということが、例えば賃貸借などに関してよく報道されておりますけれども、更に問題が高ずるおそれがあるのではないかと思っております。   小澤委員がおっしゃったように、問題自体は現在もあって、確かに現在ある問題が少し広がるだけですねというふうに見えるかもしれませんけれども、現在、例えば事理弁識能力に問題のある人の1割、2割程度しか成年後見制度を使っていないとしても、なくなった場合のインパクトというのは、その1割、2割程度の人が使わなくなったということに限らず、繰り返しになりますが、高齢者の取引一般に及び得ると私は考えています。   そうすると、どうするのかということが問題になりますけれども、これは受領能力を補う人を付けたからといって御本人の行為能力が制限されることになるわけではないと私は思いまして、また不利益も、受領能力のことだけで言うと、補う人を付けても、御本人に対する制約、不利益は大きくないと思っています。   更にもう一つ、先ほど言い忘れましたけれども、例えば、今議論されている本人に意思決定支援をして、なるべく本人の意思決定を尊重し、本人に意思表示をさせていこうというような考え方を仮に採った場合、そのときに意思決定支援を受けたので意思無能力という判断は控え目にするということが意思表示をする場面では考えられたとしても、受領能力の方に併せて手当てをしておきませんと、意思表示はできるけれども、受けることが、不都合だったら、できないということにするというようなことになり、ややバランスを欠くことになるのですけれども、相手方からすると、やはり不安を拭えないということにもなる。   などなどから、私は、ここからは単なる思い付きですけれども、民事訴訟法35条にある特別代理人のような規律を、もちろん訴訟外でです、当然何らかの公的手続を経て、受領についてのみ代理権を有する人を立てることができるというような制度を、少なくとも構想してはどうかと思います。仮に成年後見制度の後見類型が残った場合には、そんな必要はありませんけれども、そうでなくなった場合には、受領に関してそのような配慮をする必要があるのではないか。また、えらく先走ったことを申しますけれども、そのような特別代理人に相当するような制度、受領のためだけの代理人を設けるということになりますと、配偶者とか近親者その他の本人の身近な人だけではなくて、継続的取引の相手方も申立権者にするとか、そのようなことも含めて、私は考えていく必要があるのではないかと思っております。   長くなりますけれども、時効のところも申し上げてよろしいですか。続いて、時効に関してなのですけれども、こちらは端的に言うと、この成年被後見人に関する規律の部分を落とせば、結局のところ意思能力を欠く人であっても時効がさっさと完成してしまいますね、ということになるわけです。それでいいというのであれば、私に異論はありません。ただ、これまでは行為能力の制度というのは、誰もそれは否定していなかったと思いますが、本人の制約はあるとしつつ、恐らくはそれを上回る本人の保護を図れるであろうということで組まれてきた制度でありまして、今、部会で出されている一つの有力な方向では、本人の制約をなくそうということであり、それに伴って本人の保護が当然、場合によっては削減されることになります。その本人の保護の削減を社会的には受け入れようということであれば、繰り返しますが、それでいいと私は思います。というか、そうせざるを得ないと思います。   しかし、本当にそれでいいのかということを、やはり少し疑問には思う、これはもう価値判断の問題だと思いますけれども、意思能力を欠いている、あるいは事理弁識能力でもいいですけれども、欠いている状態なので、自分でいろいろな申立てはできない。周りの人が状況を見てきちんと対応してくれない。そのときに、意思能力ないし事理弁識能力が欠けている状況が継続している間に時効が完成し、自己の権利の行使の機会を失う。しようがないですね、で本当にいいのかなということを、私は疑問に思います。   ではどうすると言われると、よく分からないのでここからも全くの思い付きですけれども、行為能力の制限を必ずしも伴わない形での今行われているような後見開始の審判の宣言みたいなことをできるようにしておくことはどうかと思っています。今は、保護者に権限がなかったらその制度は要りませんねということで開始しませんし、制度が開始されても取消しになるわけですけれども、繰り返しますが、これは本当に単なる思い付きですので、次回以降で取り上げていただく必要もないかもしれないですが、その枠組みだけを宣言的にできるようにしておき、権限が必要だということになれば、また手続はしなければいけませんけれども、権限を与える。必要がなくなったら権限を消滅させる、などなどをして、時効の問題については、その宣言を受けている人については、それこそ法定代理人が選ばれていないという状態に、もし誰にも権限がなかったらですね、なるので、時効は完成しない、猶予があるというようなことをすることも考えられてよいのではないか。繰り返しますが、本人の保護を削減しても仕方がないということであれば、そんな無理をする必要はありませんけれども、そうでないとしたら、やはり何か知恵を絞らなければいけないのではないかと思っています。   それから、訴訟能力については、異論は特にないのですけれども、民事訴訟法35条でしたか、特別代理人を選ぶという規定、あれが意思無能力者を含むということは、少なくとも文言上は読めないので、この際というか、今のような成年後見制度をなくすのであれば、意思無能力者はそこに入るのだということがはっきり分かるような文言に変更することが必要というか、それが望ましいのではないかと思っております。   長々と申し上げまして申し訳ありません。以上です。 ○山野目部会長 お尋ねしている論点のそれぞれについて、かなり奥行きを明瞭にする御発言をしていただきました。ありがとうございます。   引き続き御意見を伺います。いかがでしょうか。 ○竹内(裕)委員 こちらの論点なのですが、日弁連内でもいろいろな意見があるところなのですけれども、先ほど佐久間委員も少し言及くださったのですが、今後この類型をどうするのか、この法定後見、包括的な代理権というものが維持されるのか、今とは違う形でもっと狭く、でも維持されるのかという類型に関わって、ここの第4の部分について、現在の条文のままでも問題ないとなることもあり得ますので、そことの関連性がかなりあるのではないかと考えました。   ただ、それは置いておいて、では必要な範囲で必要な期間でという法制度を仮に採った場合、日弁連の一部の委員かもしれませんけれども、議論をしたときに、やはりここは意思表示を、受領してもらうための制度が何らか必要になるのではないかというような問題意識もございました。いつも訴え提起をしないと意思表示が届けられないということでは、相手方にとっても大きな負担を課してしまうのではないかという問題意識からです。   また、時効の完成のところにつきましても、後見人が不存在だということになりますと、これは相手にとって時効がいつまでも成立しないことになってしまうのではないかという問題意識について議論がございましたので、発言させていただきました。 ○青木幹事 ありがとうございます。4の訴訟能力等のところと5の手続法上の特別代理人に関して、発言をさせていただきます。   部会資料の御説明と重複いたしますが、民事訴訟において訴訟行為をするには訴訟能力が必要で、訴訟能力が認められる者の範囲については基本的には民法の行為能力の規律に従うとされていますが、他方で現行法上、成年被後見人の法律行為は取り消すことができるのが原則であるのに対して、通常の民事訴訟における訴訟行為については、この訴訟行為には訴訟代理人に訴訟委任をするといったことも含まれると解されていますけれども、訴訟行為は成年被後見人は自らすることはできず、法定代理人、成年後見によらなければすることができないとされております。これは、訴訟手続は訴訟行為を積み重ねていくために、法律行為のように、一応有効だけれども後から取り消すことができるといったような浮動的な状態を認めない、そういう趣旨だとされております。   財産関係をめぐる通常の民事訴訟は、今申し上げたようなのですけれども、離婚訴訟のような人事訴訟については、なるべく本人の意思を尊重するということで、成年被後見人についても訴訟能力を認めつつ、成年被後見人が訴訟行為をする場合に、裁判所が弁護士を訴訟代理人として選任するということができるとか、成年後見人も成年被後見人のために当事者となることができるといったことを併せて定めています。   もっとも訴訟行為をするには意思能力が必要でありまして、成年被後見人が訴訟行為をすることを人事訴訟では認めているわけですけれども、その場合に、裁判所が個々の訴訟行為について意思能力を確認する必要があるのではないかといったことが指摘され、また、事理弁識能力を欠く常況にある者について、意思能力を前提とする訴訟能力を認めることができるのかといった問題を指摘する見解もございます。今申し上げているのは人事訴訟についてですけれども、通常の民事訴訟における訴訟能力についての規律を改めていくとすれば、その際には参考になる規律ではないかと思います。   次に、部会資料の方で具体的に指摘されている点ですけれども、部会資料の22ページ、6行目以下、成年後見人等が法律行為について代理をした後に法定後見が終了し、その後当該法律行為から当該成年被後見人等であった者を当事者とする訴訟が開始されるという場面が問題として想定されているかと思います。この点は、第1には、以前部会において議論されたように、成年後見の必要性がなくなったということで法定後見制度が終了するといった場合に、再度利用する場合には速やかに法定後見が開始されるといったことで対応するのが、まずは考えるべきではないかと思います。   第2に、部会資料のその次の項目5で示されているように、手続法上の特別代理人の選任といったものが考えられます。現行の民事訴訟法35条1項において、手続法上の特別代理人の選任の申立ては、成年被後見人から見て相手方となる、成年被後見人に対して訴訟行為をしようとする者に認められています。これを条文の文言から広げていくとして、まずは部会資料22ページ、25行目以下の段落にあるように、事理弁識能力を欠く常況にあるが後見開始の審判がされていない場合、また、必要性がなくなったといったことで後見開始の審判が取り消されるということが出てくるといった場合に、そういった場合にも特別代理人の選任が認められるのかといったことが検討の対象になるかと思います。   次に、民事訴訟法35条は、成年被後見人に対して相手方が訴訟提起をすることができるようにするという趣旨で特別代理の制度が設けられておりますが、成年被後見人の側で訴訟を提起する場合に特別代理人の選任の申立てを認めることはできないのかという問題も考えられ、それを更に広げていくと、後見開始の審判がされていない場合、あるいは必要性がなくなったということで後見開始の審判が取り消されているといったような場合に、しかし事理弁識能力を欠く常況にあるといった者の側で、手続法上の特別代理人の選任の申立てをするといったことが認められないのかといったことも検討の対象になってくるのかなと思います。   論点の指摘のみでございますが、発言は以上です。 ○山野目部会長 訴訟法上の論点について明瞭な整理の御発言を頂きました。根本幹事、どうぞ。 ○根本幹事 青木幹事から御指摘がありました人訴の関係と、佐久間委員から御指摘がありました意思表示の受領について、それぞれ申し上げたいと思います。   まず、青木幹事からもありましたけれども、成年被後見人の職務担当として成年後見人自身が当事者となるということが人事訴訟法上ありますけれども、包括的な類型をどうするのかということとの関係で整理が必要だと思いますし、最判昭和33年7月25日との関係で、人訴における被後見人の特別代理人をどのように考えていくのかということについ、検討が必要であるという認識を私自身も持っております。   それから、先ほど佐久間委員からありましたけれども、意思表示の受領能力との関係のところについて2点ございます。まず一つは、特別代理人を意思表示の受領の場面で新しく設けていく場合、結局その特別代理人の方は意思表示を受領した後に、御本人のことを考えれば、新しくなった後見制度の利用が必要かどうかを考えなければいけないということになります。そうすると、まず、仮に特別代理人というような存在をここで設けるのであれば、特別代理人には新しい制度の申立権者としての資格を付与しなければいけないということに理屈上はなるのだろうと思います。ただ、そもそもこのような場合の特別代理人は、ほとんどの場合、新しい制度の利用を検討しなければいけない立場に置かれると思われます。特別代理人に意思表示を受領させて、新しい制度の申立人となり、新しい制度の申立てをさせるために特別代理人を制度上置くというのは、少し迂遠ではないかと思います。   他方で、先ほど青木幹事からありましたけれども、成年被後見人が原告となって訴訟提起をしたいという場合には、特別代理人なのか、若しくは保全処分なのかはともかく後見の申立てまで時間が掛かる中で訴訟提起が遅れてしまう、場合によっては時効等を迎えてしまうというケースも現実として起きています。成年被後見人が原告となる場合に、速やかにまずは訴訟提起を行うというためだけの特別代理人を地裁との関係で認めていただく、後で家裁の方から制度の開始の審判を頂いた上で訴訟に関しての代理権付与を頂くという仕組みづくりはあり得ると思いました。   佐久間委員が御指摘された継続的な取引との関係の点で、具体的に三つ挙げていただいている中で、銀行取引と不動産賃貸借と施設入所というところがありました。銀行取引については、いわゆる高齢者と金融取引全般としていろいろな問題がありますし、仮に預貯金の代理権も途中で終了するとなった場合のその後の銀行取引の問題は、今後しっかりと議論しなければいけない点だと思っていますので、これは少し先に置かせていただきます。例えば入所や不動産の賃貸借で問題になる意思表示の受領が果たしてどういう場面で問題になるのか個別具体的に考えていく必要があると思っています。   具体的に考えてみますと、入所にせよ不動産の賃貸借の賃借人の立場にせよ、一つは、施設費用とか賃料や家賃の支払いにおいて問題があることは考えられるところですが、保証人などを立てているケースが多いので、意思表示の受領自体が問題になる場面はどのくらいあるのか考える必要があると思います。また、例えば退去や転所の場面においては、意思表示の受領が問題になるというより、結局その後の御本人の生活が福祉的な観点で、そこに引き続きお住まいになるか、引き続き住み続けることが介護上、福祉的な意味で難しいケースが多いと思っています。そうなると意思表示の受領が問題になるというより、そもそも御本人がそこで生活を続けられるのかという福祉とか介護の問題が起きてきて、転所する、若しくは退去するということが必要になるので、理論上は問題になるとしても、実体上意思表示の受領が退居や転所との関係でどこまで問題になるのかもう少し分析的に考えていく必要があるのではないかと思っております。   以上です。すみません、長くなりました。 ○上山委員 ありがとうございます。大きく2点、発言したいと思います。   まず、議論が積み重なってきている民法98条の2の受領能力に関する手当ての部分ですが、私は佐久間委員が提案された、この領域に成年後見と形式的に切り離した形で特別代理人類似の仕組みを置くという考え方に基本的にはシンパシーを持っています。つまり、成年後見と異なり、取引相手方のイニシアチブで限定的な仕組みを動かすというのは、政策論としてあり得るだろうと考えています。   同じく、時効の完成猶予に関する民法158条の対応ですが、仮に相手方のイニシアチブで動かせる限定的な特別代理人制度の仕組みを導入するという前提を採った場合には、この158条の部分にも、98条の2が想定している、その時効完成6か月前に意思無能力の状態にある人というのを追加する形で、同じ仕組みを利用できるようにするというのが一つの考え方かなと感じました。   ただ、この一方で、先ほど根本幹事から類似の発言がありましたが、不動産の賃貸借や、あるいは銀行の日常預金口座の管理というのは、恐らく日本全国でこれから数百万とか、場合によっては1,000万単位のニーズが出てくる可能性がありますので、いま議論している成年後見あるいは民法典上での枠組みとは別に政策的な対応を考えるということも必要ではないかと感じています。   2点目はごく簡単に申し上げます。資料の方には挙がっていませんが、会社法の331条の2や一般社団法人法の65条の2のように、法人の役員については現行の後見類型と保佐類型の存在を前提とした規定が置かれていますので、仮に今後、3類型の見直しが行われた場合には、これらの規定についても必然的に影響を及ぼすということも念頭に置く必要があるのかなと感じました。 ○佐久間委員 根本幹事がおっしゃったことに対して、私は違う考え方を持っておりますので、その点を発言させていただきます。   まず、繰り返しますけれども、特別代理人のような制度を設けるのも一つの考え方だというだけでありまして、もっと何か別のいろいろなことはあり得るという前提の下に、根本幹事は特別代理人のような制度を設けるのは迂遠ではないかとおっしゃったのですけれども、相手方の方からいたしますと、これは部会資料の19ページの25行目以下にあるように、現状では、相手方の方からすると、本人側に法定後見とかの対応を促して、それを待つということになります。根本幹事のお考えはそれでいいではないかということかもしれませんけれども、私はこれでは足りないと思っております。足りないというのは、全ての場面ではありませんけれども、契約の相手方になっている、あるいはなろうとしている、継続的契約を結んでいるというようなときには、相手方のイニシアチブである程度、その先の法律関係を動かすことについて道筋が見えるようにしておく必要がある。そこで、民事訴訟上の特別代理人と申し上げたのは、先ほど青木幹事も整理の際に言及してくださいましたけれども、これは成年被後見人側ではなくて訴訟の相手方の方から特別代理人を立てろと言える。これと同じような制度を設けて、特別代理人、取りあえずそういっておきますが、特別代理人類似のものを設けた場合には、ここは根本幹事がおっしゃるとおり、通常、単に通知を受け取りましたというのでは何の意味もないので、受け取った後、さあ本人のためにどうするということが始まり、必要であれば特別代理人のイニシアチブによって当該事案限りの代理人等が選ばれていく、というふうになるのではないか。こういう制度が必要だというのが私の考えであります。   もう1点ですけれども、不動産賃貸借、施設入所などについては、福祉の問題にもなるし、精査が必要だとおっしゃった。それはそのとおりだと思います。ただ、そのような退去とかどうのこうのとか、あるいは契約の打切りとかいうことに行く前に、まずいろいろな催告が行くはずなのですね。この催告も意思表示類似の行為ですから、民法98条の2の適用ではないかもしれないけれども、類推適用があるというのは多分疑われていないと思います。この催告の効力が生じないと、相手方からして、例えば解除できないというふうなことにもなるので、福祉の問題うんぬんに行く前に、そもそもそのレベルでもやはり意思表示を受領させる、あるいは意思表示類似の行為を受領させるというか、効力をきちんと発生させるということは必要だと思います。一つ一つの契約について、これは対応できますよね、こうすればいいですよねという積み重ねでいいのかというのが、私が非常に疑問に思っているところでありまして、売買の場合だって、先ほど青木委員がおっしゃったとおり、その後にもう一度選べばいいとかということは可能は可能かもしれないけれども、そういう積み重ね、一つ一つの手当てが本当にできるのか。できたとしても、相当面倒くさいことになるのではないか。そういうことを考えると、ここは私の認識がもしかしたら誤っているのかもしれませんけれども、本人に対する制約はそうなさそうに思える特別代理人的な制度、受領に限ってです、それは設けておく方が、本人にとってもいいし、社会の円滑な取引関係というか、法律関係の処理の円滑を図るためにもいいのではないかと思っております。 ○山野目部会長 補足の御発言を頂きました。   ほかに御発言はおありでしょうか。 ○青木委員 法律実務家として、普段から相手方がはっきりしない方に関する法律関係を解決しようということをしている身からしますと、今、佐久間委員がおっしゃったような事例というのはたくさんありまして、その中には判断能力が十分でないために意思表示が到達しなくて、その後手続きを進めることができずに困ることもあれば、意思表示は到達するけれども全く反応していただけなくて困ることもあります。その場合には、やはり訴訟手続を使って打開をするしかないのでありまして、それはそういう法的ルールにより動いているのだと思います。意思表示の到達だけを利益と考える相手方はいないわけでして、その先には必ず賃貸借契約の解除とか、賃料を回収をするとか、具体的な利益を実現するための手当てが求められそのためには訴訟をしないといけなければ、その前提として、意思表示だけに特別の制度を作るということには実益がないと考えます。 ○根本幹事 まず、一つ誤解がないように申し上げたいのは、仮にこの催告ですとか手続的な相手方の担保という意味で、特別代理人なり、特別代理人にこだわるわけではありませんけれども、何らかそういう制度が必要だということに仮になるのであれば、前々回議論がありましたけれども、申立権者に取引の相手方を含めるということは、必要なくなるということになるのだろうとは思っています。全体の政策的なバランスの中でどう考えていくかということになるのかもしれませんが、取引の相手方に申立権者としての立場を認めるということについては、改めて強く反対の考えを示しておきたいと思っています。申立権者に取引の相手方を含めないとした場合に、他方で催告を含めた手続上で取引の相手方の保護が必要だということは、最終的な結論としてはあり得るのかもしれないとは思いました。   ただ、今、青木委員からもありましたけれども、実際には訴訟提起をしていただければ、現行の実務上、裁判所の判断において、特別代理人か、若しくは状況によっては後見制度の利用を促す裁判所の個別の事案においての御判断というのはあると思います。そうした対応策の整備をすることはあり得ると思いました。   佐久間委員が言われた、催告の効力が生じないと解除ができないということなのですが、実際の状況で想定されるのは、御本人が御自宅で引き続き生活されるということが実体上難しくなっているケースが多いと思います。そうなると意思表示の能力はまた理論上は問題になりますけれども、合意で賃貸借契約を解除をして、次の福祉や介護の側面から見て適切だと思われる生活の場に生活の拠点を移されるということになるのが実際ではないか思っております。   それから、上山委員からほかの制度についての類型論との関係での御指摘がありましたので、私もそれに併せて3点申し上げておきたいと思います。第1回のときに申し上げましたけれども、973条の成年被後見人による遺言の作成に関する規定は、もし包括的な類型でなくなるということであれば、どのような形に整理するのかという点は実務上、遺言無効訴訟との関係においても重要な点かと思います。上山委員からは会社法331条の2の御指摘がありましたけれども、その前提となる委任の規定の653条の3号についても、障害のある方、若しくは御高齢の方の社会的な参画との関係で、どのように考えるのかということは議論されるべきだと思っています。   それから、これは第1回で常岡委員からも御指摘がありましたが、現行法上は未成年で障害特性がある方について成年後見制度を利用しても未成年後見を利用しても、どちらでもよいということになっていますから、それぞれの状況に応じてどちらの制度を利用するのかということを判断していただいているというのが実務ですけれども、新しい制度になった場合に、未成年の障害があるお子さんについて現行と同じように、引き続きどちらの制度も利用できるということでよいのかどうかということは、開始要件の議論とも関係して、現行の考え方が維持されるという場合でも、きちんとこの部会において確認されておくべきことかと思いましたので、申し添えます。 ○山野目部会長 委員、幹事にお声掛けをしながら、花俣委員と久保委員に、もし何か御発言があれば伺おうということも考えておりますけれども、今御議論をお願いしている事項について無理に御発言をお願いしようという考えはありませんから、何かあればということでよろしいです。まず委員、幹事皆さんにお声掛けをしますが、引き続きの御発言を伺います。いかがでしょうか。 ○佐久間委員 また補足というか、念押ししたいことだけ申し上げようと思うのですが、青木委員も根本幹事も、不動産賃貸借の契約に入ってこういうことが起こったらどうだ、こうだとおっしゃるのですけれども、私はそこよりもっと大事なのは、全体の制度設計を見たときに、自分の契約相手になった人がいざ認知症になった、あるいは、なるおそれがあるとなったら、こうなるのだ、ああなるのだということを、普通の取引について合理的判断をする人だったら考えると思うのです。そのときに、相手が認知症になったときにものすごく面倒くさそうだというふうな、あるいは、いざとなったら、青木委員がそうおっしゃったのですけれども、訴えを起こせばいい、起こすしかないというふうな、そんなことになったときに、取引をやめようとまではすぐにはならないのかもしれないけれども、どうしようかなと逡巡する場合が出てくるのではないかと。私は実務家でもないし、単に大学で民法を教えているだけなので、本当に世の中がそうだなんてことを言うつもりはありませんけれども、私が取引相手の立場だったら多分そう考える。そのような社会でいいのかということを私は申し上げたいわけでありまして、個々の場面だけ取って、こうすれば手当てをできるということばかり言っているのでは足りないのではないかということを、念押しみたいで申し訳ありませんが、言っておきたいと思います。 ○山野目部会長 佐久間委員におかれては、全然申し訳なくありません。今のような御発言があると、また青木委員と根本幹事から御発言があるかもしれませんが、両先生、それから竹内裕美委員を加えたお三方は、弁護士会に持ち帰っていただいて、今のようなやり取りがされているということをまた多くの弁護士の先生にお尋ねして、御議論を深めていただければ一層有り難いと感じます。 ○加毛幹事 ありがとうございます。屋上屋を重ねる発言になるかもしれませんが、意思表示の受領能力について申し上げたいことがございます。まず、民法98条の2には、現在では「意思表示の受領能力」という見出しが付されているため、成年被後見人の能力の制限について定めるものであるような印象を与えますが、民法制定当時から、同条が意思表示の受領能力に関する規定として理解されてきたわけではありません。実際、同条の効果は、成年被後見人等に意思表示を行おうとした者が、成年被後見人に対して意思表示を対抗できないということであり、成年被後見人の側で意思表示の存在を主張することは許されることになります。その意味で、民法98条の2が、成年被後見人、未成年者及び意思能力を有しない者に保護を与えることを目的とした規定であることを確認しておくべきように思います。   その上で、民法98条の2は、被保佐人や行為能力を制限されている被補助人を、適用対象から除外しています。それゆえ、これらの者は、行為能力が制限される法律行為に関する意思表示であっても、それを受領すれば、意思表示を対抗されることになります。そして、被保佐人や被補助人が受領した意思表示について対応をとらなければならない場合において、行為能力の制限による制約があるときは、保佐人や補助人に意思表示の到達があったことを知らせて、適切な対応をとってもらうことになるものと思われます。民法98条の2が、成年被後見人と未成年者に限って意思表示の対抗を否定するのは、全面的に行為能力を制限される成年被後見人や未成年者を保護するためであると考えられます。   以上のような理解を前提とすると、仮に、成年後見類型に関して、特定の法律行為についてのみ行為能力を制限するという形で改正を行った場合には、成年被後見人を、民法98条の2の適用対象から除外すべきことになると考えられます。成年被後見人に意思表示が到達した場合、成年被後見人は、自ら対応できる場合には自分で対応し、自らが対応できない場合には保護者である後見人に適切な対応を求めることになるものと思われます。そのことを前提として、成年被後見人にこれまで認められてきた法的保護をはく奪することが果たして望ましいのかを検討すべきように思われます。   次に、佐久間委員が98条の2について提起された問題は、平成29年の民法(債権関係)改正において、意思能力の不存在に関する民法3条の2が新設され、それに伴って民法98条の2が改正されたために新たに生じた問題であると考えられます。そして、成年後見類型の改正のいかんにかかわらず、意思能力の欠如については問題が存在することになります。意思能力の欠如を理由として意思表示の対抗が否定されることを懸念して取引行為に萎縮が生じる可能性はあるだろうと思います。   もっとも、この問題は、現在の意思能力制度に内在する問題であるようにも思われます。平成29年改正で新設された意思能力制度のもとでは、意思能力を有しない者の保護者に関する規律が存在しません。その結果、意思能力を有しなかった者がその後意思能力を回復して意思表示の無効を主張するような場合であれば問題は少ないのですが、意思能力の欠如という状態が継続している場合には、意思表示の無効を誰が主張できるのかが明らかではありません。民法98条の2に関する問題も、このような意思能力制度の在り方に密接に関わるように思われます。   それゆえ、佐久間委員の御懸念は、意思能力制度の見直しにつながる契機を含んでいるものと、私には感じられました。時効の完成猶予に関する問題についても、同様の観点から理解すべきかもしれません。この点については、問題の提起にとどまり、解決のためのアイデアがあるわけではないので恐縮ですが、気づいた点として申し上げておきたいと思います。ありがとうございました。 ○山野目部会長 御意見を承りました。   花俣委員、何かおありでしょうか。特になければ無理にはお願いしません。 ○花俣委員 非常にテクニカルな議論で、何となくもやもやしているのですけれども、ここで私が的確な発言をできるだけの知見を有していませんので、また何かの機会に。 ○山野目部会長 承知しました。   久保委員、いかがですか。   御欠席中ですか。承知しました。   ほかに委員、幹事から今お諮りしている事項についての御発言を伺います。いかがでしょうか。 ○常岡委員 1点だけ、少し戻りますが、訴訟能力について申し上げます。人事訴訟法の話が先ほど何回か出ていましたけれども、現行の人事訴訟法では13条で、訴訟行為について行為能力の制限を受けた者が訴訟行為をする場合においては、という文言で、行為能力とリンクした形の条文になっています。一方、多くの場合、成年後見に該当する方の人事訴訟として離婚訴訟、精神病離婚の話になると思いますが、精神病離婚という離婚原因自体が今般の改正で削除に至りまして、新法ですと民法770条1項4号の婚姻を継続し難い重大な事由の中に吸収されるということもありますけれども、精神病離婚の場合には、13条でというよりも、14条で、成年後見の申立てをして、相手方について成年後見の審判を受けた上で成年後見人を相手に訴訟を行っていくというのが通常のパターンだろうと考えております。そして、現行法であれば、成年後見の審判自体も配偶者が申立権者になっていますので、夫婦の離婚の場合にこういう手続で非常にスムーズに行く、スムーズと言ってよいか分かりませんけれども、回復し難い強度の精神病の場合に離婚の道を破綻主義によって開くということが機能しているのですが、仮に成年後見制度自体を改廃して、成年後見という類型自体もなくしてしまう、意思決定を尊重していくといった場合に、民事訴訟法だけではなくて、この人事訴訟法についても非常に見直しの必要があると考えられます。特に人事訴訟の場合には対世的効力がありますので、通常の民事訴訟法の場合とは違う意味合いも持ってくる。そこも踏まえて、今日の資料の中で人事訴訟については特に触れられていなかったのですけれども、対象としては重要な論点かと思いますので、今後追加いただければと思っております。 ○山野目部会長 承知しました。   ほかにいかがでしょうか。   部会資料4の最後の部分について、委員、幹事におかれては熱心な御議論を頂きまして、ありがとうございました。本日の御議論を踏まえて、5点ほど御案内を差し上げておきます。   1点目は、佐久間委員の問題提起を皮切りとして、相手方から申立てがあるという事態を認める可能性も含めて、保存行為ないし受動的な行為とでもいえばよろしいでしょうか、そこに限局された権限を与えられる、仮に特別代理人と呼ぶことにしますと、そのようなものの構想について今後検討を進めていく必要が一つの課題として浮かび上がってまいりました。採否を含めて、いろいろな観点を検討しなければならない事柄であると感じられます。保存行為ないし受動的な行為と申し上げましたけれども、それ自体に携わることに加えて、恐らくそれでは終わらなくて、その特別代理人なるものになった人は、その後どういうふうにつないでいくかという応急措置的な事柄についてもその事務として想定しておかなければいけないという可能性を含めつつ、この形態の新しい手続構想についての検討を深めていかなければいけないと感じます。   2点目でございますけれども、特別代理人と呼ぶかどうかはともかくとして、このような形態の保護者の存在態様を認めるかどうかということを考える際に、それを仮に認めるとしても、包括的な仕方でそのようなものを制度化するか、それとも98条の2や158条の局面を限定して列挙し、そのような局面について認めるかということについては、なお検討がされなければなりません。上山委員から個別の局面に限定して制度を作ったときのシミュレーションを具体的にお話しいただきました。半面におきまして、第4回会議において竹内裕美委員から、この特別代理人ということではなくて、成年後見一般について利害関係人に申立てを認める可能性という問題提起をもらっているところでございます。その論点のお話とも関連させた上で、本日構想の示唆があったこの特別代理人的な保護者の存在態様の構想についても、更なる検討が必要だろうと思われます。考え方が分かれてくる側面が大きい論点でございまして、今後引き続き検討していく必要があります。   3点目でございますが、特別代理人と呼ばれているような保護者の選任が仮にあり得るとしたときに、その人がボランティアで仕事をするということは考えられませんから、その人に支払う報酬について、本人の財産から支弁するという通常のルールをそのままこの局面にも当てはめるということで、理論的に、また運用上、問題がないかということについても検討が要ります。   4点目といたしまして、民事訴訟における訴訟行為の効力の捉え方につきまして、青木哲幹事から本日整理をしていただいたところを受け止めて、次回以降の整理をしてまいります。人事訴訟の手続についての現在の規定の態様などのヒントも頂きました。加えて常岡委員からは、その人事訴訟の現在の仕組みそのものについても今般の改革に伴って見直しの必要が生ずるであろうという問題提起を頂いたところであります。   5点目といたしまして、民事訴訟法35条につきましては、そもそも現行法の下においてこの文言が解釈運用の実態と一致していないという問題があり、その点は佐久間委員から御指摘いただいたとおりでありまして、更に青木哲幹事からも問題点を幅広く整理していただいたところでありますから、それを踏まえて35条の見直しを考えていかなければいけません。どのように見直しを考えていくかということは、今般改革のほかの制度の新しい姿の帰すうに依存する側面が非常に大きくございますから、それらをにらみながら、しかし、いずれにしても35条が今の規定のままでは済まないだろうということを覚悟して、今後検討を深めていく必要があると感じられます。   以上5点でございますが、補足を1点添えますと、類型の見直しということがされていくとすると、この規定も見直さなくてはいけないとか、この規定も文言を改めなければいけないとかいう御指摘を本日も幾つか頂いたところであります。この種類のお話は、やっていくと極めて膨大な数のものになります。最近は電話帳というものがはやらないですけれども、本気で始めると、この部会の議論の結論、帰すうによっては、電話帳みたいな関係法律の整備になり、いろいろなところを見直さなくてはいけない、あるいは見直しを検討しなければいけないということになります。本日御指摘いただいたところもごもっともな部分がございますけれども、類型につきましては、この部会の論議がここまで深まってきていることを踏まえて、またいずれまとまった仕方で委員、幹事の現在段階における御意見を伺っておこう、そういう機会も考えておりますから、その際の御議論にもお付き合いいただきたいと望みます。   部会資料4についての本日の審議をここまでといたします。   引き続き、部会資料5をお取り上げくださるようにお願いいたします。部会資料5は「任意後見に関する検討、成年後見制度に関する家事審判の手続についての検討」についてでございます。これについての審議をお願いすることになり、初めに部会資料5の「第1 適切な時機に後見人の監督を開始するための方策」の部分につきまして、事務当局から資料の説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料5、1ページからの「第1 適切な時機に任意後見人の監督を開始するための方策」について御説明いたします。   任意後見制度が、本人があらかじめ決めた保護の内容を、その判断能力が低下した場合に、法的な監督を伴いながら実現する制度であることからしますと、本人の判断能力が低下した場合には、任意後見監督人の監督が開始されることが制度の趣旨に合致するものと考えられます。現行法は、任意後見監督人の選任の申立権者として本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者を規定して、これらの者によって申立てがされることを予定しています。しかし、第二期成年後見制度利用促進基本計画では、適切な時機に任意後見監督人の選任がされていないことを前提とする指摘があります。法務省において実施した意識調査においても、任意代理契約のままで支障を感じていないことなどを理由に、任意後見監督人の選任の申立てをしていないなどの回答もあるところです。そこで、適切な時機に任意後見人の監督を開始するための方策について検討することが考えられます。   部会資料では検討の項目として、4ページの3(2)で、任意後見監督人選任の申立てをする義務を負う旨の規律を設けるかについて、5ページの3(3)で、任意後見監督人の申立権者の範囲について取り上げていますが、そのほかにも検討すべき方策がある場合には、その点も御指摘いただきたいと存じます。   なお、議論の前提として、本人の判断能力が低下しているにもかかわらず、任意後見受任者が任意後見監督人の選任の申立てをしない事案において、任意後見監督人の選任の申立てを確保して、そのような任意後見受任者に任意後見人として活動してもらうことに対するニーズがあるのがどのような事案であるのかについても御知見を頂き、それに基づいて御議論を頂ければと考えております。 ○山野目部会長 ただいま御案内を差し上げました部分につきまして御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。2点ございます。4ページの(2)任意後見監督人選任の申立義務ですが、任意後見監督人選任の申立てについては、本人の判断能力が低下した場合にできるだけ速やかに申し立てる責務を明確にする必要はあると考えますが、単に申し立てることのみを法律上の義務とすることについては消極に考えております。私たち司法書士は司法書士の行為規範において、本人及び支援者の意見を聴取するなどした上で任意後見契約の効力を生じさせるなど、遅滞なく適切な措置をとる義務を設けていますので、これに基づいて行動することになっておりますが、一般の方はそのような規定がございませんので、ガイドラインとかモデル契約書などによって、本人の判断能力が低下した場合に任意後見受任者が適切な措置をとることを義務付けるような方策も考えられるのではないかと考えております。   2点目は、5ページの(3)の任意後見監督人の申立権者でございます。任意後見監督人の選任申立権者について、市町村長などの公的機関に選任申立権を付与することには基本的に賛成いたします。ただ、公的機関などが任意後見監督人選任申立てをするには、任意後見契約締結の事実を把握しておく必要があると考えますので、そのための方策としては、契約締結の事実を公的機関で登録しておくような仕組みの構築が併せて必要となると考えております。公的機関が任意後見契約締結の事実を把握できていれば、公的機関が申立て手続自体を行わない場合でも、親族などに監督人選任の申立ての必要性を説明する、親族などから相談を受けるといったこともできるため、有益だと考えております。 ○野村幹事 まず、選任申立ての義務の件ですけれども、任意後見監督人の選任申立てについては本人の意思が尊重されるべきであり、補助、保佐相当で本人の判断能力がある程度残存しているときにまで一律に義務付けることについては、慎重に検討すべきではないかと考えます。また、本来は法定後見を検討すべき場合にまでに後見監督人の選任申立てが義務付けられることになってしまうのではないかという懸念もあります。さらに、本人の判断能力が低下しているにもかかわらず任意後見監督人の選任申立てをしない受任者に対して、任意後見人として活動してもらうことに合理性はあるのかという疑問もあります。このようなことから、義務化については消極的に考えております。   適切な時機に後見監督人の選任がされるための方策として、任意後見が発効していない契約を有期にする規定を設けることが検討できるのではないかと思います。例えば、未発効の契約期間を1年や2年とする有期の契約にすることで、期間満了のタイミングで見直しを掛けることが可能になります。見直しの段階で本人の判断能力があれば更新して、判断能力がなければ任意後見監督人選任の申立ての機会にできると考えられます。その場合は、その見直しの時期に本人の判断能力の衰えをチェックする機関等の設置が必要になるのではないかと思います。   そして、申立権者についてですけれども、まず、受任者が監督人の選任申立てをしない場合には市町村長が法定後見の申立てをちゅうちょなくできるようにすべきであると考えます。任意後見契約がある場合に法定後見の申立てをするには、本人のために特に必要があることが条件になっており、市町村長側に特に必要があることの根拠が必要であるがために、法定後見の申立てをちゅうちょさせることがないようにすべきだと考えます。加えて、契約時に公的機関や本人の望む個人を含む三者契約を締結することで、当該機関や個人に監督人選任申立権を付与することを可能として、登記事項とすることなども考えられます。しかし、任意後見という私的な契約があることを第三者が把握できるのか、その第三者が本人の判断能力の衰え等の状況を把握することができないのであれば、申立権者を拡大する現実的なメリットがないとも考えられます。 ○上山委員 すみません、各論的な発言に入る前に一言だけ前提的なことを申し上げておきたいと思います。今回の議題になっています任意後見契約の制度設計や、あるいはその監督体制などの各論を考えていく前提として、認知症高齢者などの判断能力不十分者の法律行為に対する支援手段の中で、任意後見の比重をどれだけ大きなものと考えるか、もっと平たく言えば、任意後見の利用件数をどのくらいの規模感で見積もるのかも意識しておく必要があるのではないかと感じます。   例えば、任意後見型の仕組みを重視する国としてはイギリスやドイツがありますが、既に登録ベースでイギリスでは約800万件、ドイツでは600万件の利用がされているわけでして、単純に人口比だけで考えると、日本では1,000万件ぐらいの潜在需要があってもおかしくないということになります。仮にそういう規模感で考えるとすると、おのずから制度設計、監督体制などを含めて制約を受けるような気もしますので、その辺りを意識した議論が必要なのではないかと感じています。   各論については、後ほど機会があれば申し上げたいと思います。 ○山野目部会長 上山委員から、原則的な見地に関わる議論を忘れてはいけないという御注意を頂きました。部会資料5についての審議をお願いするに際して、本来私の方から委員、幹事に注意喚起を差し上げておくべき事柄でありました。抜かりがあったところを上山委員に正していただきました。一つ二つ申し上げますと、任意後見に関する議論は、成年後見制度改革の中でいろいろなところで行われていますけれども、どうしてもいろいろな会議の組み方などで、法定後見についての御議論が時間的に押した後でお話をお願いしたり、もっと言うと、法定後見等の議論で疲れてしまった後で、どうですかと伺って、余り御意見が出なかったりするようなきらいがなきにしもあらずです。けれども、実は任意後見は現在の制度を作るときにも、大変大事なものであり、将来育てていかなければいけない制度であるという心意気で作りましたし、それから、ここで議論しているような法定後見についての改革が今想定されている方向に進んでいくとすると、尚更この任意後見についての新しい役割というものについての視座を整えなければいけないということの重要性が増してまいります。部会資料において、特に今、上山委員からお話しいただいたような総論的なことの御検討をお願いする項目は用意しておりませんけれども、委員、幹事におかれましては、各論についての御発言を頂くに当たっても、これからの任意後見についてどう向き合うかということについてのお考えがあれば、併せて御披瀝いただき、それと関連させながらお話を賜りたいと望むものであります。上山委員、どうもありがとうございました。 ○根本幹事 申立義務と申立権者のところについて、それぞれ申し上げたいと思います。   まず、任意後見監督人選任の申立てを法令上の義務とまで引き上げるかどうかというところについて、法令上の義務とまで引き上げでなくてもいいのかもしれませんが、実務上、今非常に難しい問題になっていると感じていますのが、例えば、任意後見契約を締結しているが発効はしていないときに、御本人の保護の観点や必要性から考えると法定後見を申し立てなければいけない場面です。任意後見法の10条、特に必要があると認めるときとの関係で、一つは、任意後見契約が締結されているときに法定後見を申し立てると、実務上、任意後見契約を解除してから法定後見を申し立てることはできないのかという事実上の確認が法定後見開始の申立ての時点であることがあります。実際に法定後見の申立ての審理を進めていただく上で、特に必要があると認めるときの一考慮要素として、受任者の不適格事由として、本来申立てをするべきなのに申立てをされていないということをもって、任意後見受任者の不適格性の一事由を主張していくということにとどまるということになっております。本来速やかに審理をして速やかに法定後見の開始を必要とする場面においても、任意後見契約がありその発効がされていないということがゆえに、審理が非常に遅れてしまうという実務の実態がございます。   申立てを法令上の義務と引き上げるかどうかともかくとしても、何らか御本人に保護の必要性があることを前提に見てみると、少なくとも現在の実務上公証人会が作っていただいている文例に基づけば、任意後見監督人選任の申立てが契約上の義務になっていますので、契約上の義務を履行しないような任意後見受任者を、任意後見人にすることが適切なのかという議論は今まであり、正にそのとおりなのです。そうであるのだとすると、法定後見の審理の場面において、例えば、特に必要があると認めるときの10条において、法制上の何らか文言を足していただくなどして、申立てをしない任意後見受任者が申立てをしない場合には法定後見が速やかに開始できる、特に必要があると認めるときという点の審理負担を軽減していただく法制上の措置は考えられるのではないかと思っているところです。   それから、申立権者との関係で、市区町村長などを申立権者に加えるかどうかについてはこれまでも議論があったところではありますけれども、市町村側若しくは福祉機関等から見てニーズがあるかどうかというところについて、次回のヒアリングで一定程度明らかになるのではないかと思っています。仮にそこでニーズがあるのであれば、公的機関を申立権者に加えるというときに常に懸念される点は、公的機関の場合、申立権が付与された場合に、それが事実上、申立義務がまるで自治体に課されているかのような負担が生じてしまうのではないかといった懸念があるところだと思います。この御指摘はごもっともで、そうだとすれば、飽くまでも申立権があるというだけにとどまり、公的機関が申立権者となったとしても申立義務があるわけではないのだと、若しくはそれが国賠等で何か責任を問われることはないのだというところを見通した関連省庁の通達等も含めた措置を含めて、申立権者に公的機関を加えていくということが検討されるべきではないかと考えております。 ○佐久間委員 実は私、ここは一体どういう場面が問題になっているのだろうかというのが余りはっきり分からないところがございます。それは、先ほどの御説明で、一体どういうところにニーズがあるのかということがあったのですが、それと多分同じなのだろうと思います。まず、大本で思っておりますのは、この部会で全体の制度見直しの基調にあるのは、やはり本人の意思を重視していこうということだと思うのです。単純に本人の意思を重視していこうという関係からすると、本人とは関係のない人が任意後見監督人選任の申立義務を負うというのは、本人の意思をある意味では無視してというか、本人の意思をさて置いて申立てをさせましょうということですから、どうなのかな、矛盾していないのかなと。   申立権者を広げるというのも、部会資料の説明では、本人の状況の把握が適切にできる人かどうか怪しいではないかというようなことが書いてあり、それはそうだと思うのですが、本人の意思、本人の自己決定ということからすると、本人以外の申立権者というのは、本人の自己決定を差し置いて申立てをする、任意後見の効力を発せられるような立場になる人ですから、申立権者を広げるというのは本人の意思への介入をやはり強めるということになる。だから、どちらも少し、どうもこの部会全体の議論の基調、特に法定後見のところを今までは議論してきたわけですけれども、それからして、やや矛盾するところがあるのではないかと思いました。   ただ、矛盾しない場面は一つ多分あって、それは何条だったか、任意後見契約の法律の4条の3項ただし書ですか、本人がその意思を表示することができないという、この場合に限っては、本人の意思への外部からの介入ということを考慮する必要がないので、この議論は当てはまると思うのです、私は。でも、そうでない場合は、例えば、本人が申し立ててくれというのだったら、本人自身が申し立てればいいわけだし、本人が嫌だと言っているのに、本当は外部から見ると、先ほど根本幹事がおっしゃったことで言うと、必要性はあるように見えても、本人が意思表示ができる状態で嫌だと言っているのに、外から介入していいのか、義務まで課して申立てさせていいのかというと、繰り返しますが、この部会での今までの議論全体の基調とどうも相入れないように思う。申立権者の拡大も同じように思う。   ただ、よく分からないと最初に申し上げましたのは、最初の御説明でありましたニーズ、一体どこを狙っているのか、どんな場面を狙っているのかというのをもう少しはっきりさせていただくと、考え方をより固めやすくなる、考え方というのは自分だけの考え方ですけれども、なるなと思っています。 ○青木委員 先ほどの上山委員の御指摘もありましたけれども、任意後見制度を法定後見制度と違う性格の制度というよりは、全体として、意思決定支援を中心としながら、それを補完する制度としての成年後見制度を考えていくときに、自ら意思決定することが難しくなることを予測して、信認できる方を選任した上で、自ら必要だと思われる代理権を設定し、それを確実なものとするために公正証書や監督を必須のものとするというこの制度は、より大きなウエートで今後日本において利用していただくというものにしていくべきという、そういう位置付けでしっかりと議論するということが、第二期基本計画も含めて、そういう視点で考えていくということだと思います。   ただ、今回の各論点は、必ずしも現行の制度を大きく変えようという議論ではなくて、現在の制度をいかに少しよりよいものにするかという論点になっておりますので、例えば、公正証書によることそのものをどうするかとか、監督そのものが常時要るのかという議論も本当はあるとは思っておりまして、それはドイツやイギリスの制度等を参照しながら考えるものとは思いますが、将来的にはそういった議論も含めて必要になるのではないかと思っております。ただ、今回はその中で、そういうことも意識しつつ、今の制度の中で、より利用しやすくしたり、より制度の趣旨に合致したものにするにはどうするかという議論をするものだというふうな立場で発言をしていきたいと思っています。   その上で、第1点目の申立義務の話というのは、利用を促進、拡張するというよりは、本来、今の制度が公正証書プラス監督必須という中で、安心して使える制度にしようとしているにもかかわらず、年間1万件の契約数はあるものの年間800数件の任意監督人選任申立てしかないという状態が、制度が想定する適切な状況なのかというのがあると思いまして、恐らく本来は必要な方が監督を付されずに任意後見受任者が支援をしている状態があるのだろうと思います。   その中で、先ほどここでのニーズは何ですか、というお話と関係しますけれども、やはり実際に監督人が付いてみると、必ずしも御本人さんの利益というよりは家族さんの都合で支援をしているという方が、別に悪意でやっている方ではない親族の方ですけれども、それが監督人によって是正されて、より本人のための任意後見人としての活動に是正をされていくという事案というのが、実際に監督人が付けばでき得るのですが、それが監督人が付かないために、そうなっていないと。御本人さんの当初の契約時の意思からすると、そういう事態を望んでいたかというと、そうではないわけで、監督人が付いて、きちんと息子や娘などがやってくれることを見てくれることを期待して契約したものが、実際そうなっていないとすれば、やはり監督人が付いて事態が是正されるということは、本人の契約の意思にも適うし、利益にも適うことだと思います。そういう実態を是正していくためには、やはり監督人選任の申立について、任意後見受任者に限って義務化するということは、適切な措置になるのではないかと思います。加えて、本人の意思との関係で言えば、申立てをしても、現行制度では本人の同意がなければ後見人監督は選任されず効力発効はしませんので、そこにおいて本人の意思は十分に考慮されますので、監督人選任申立てを義務化することが本人の意思に背く方向性になるのではないかということはないと考えているところです。   もう一つのニーズは、悪意といいますか、意図的に、任意後見契約は結ぶけれども監督人を付けないというような人たちについては、いくら申立てを義務化したところで効果があるか、そういう場合には契約を発効させてその人たちを任意後見人として活動させるのではなくて、法定後見制度の申立てをすべきではないかという議論があります。そのご意見は、確かにそのとおりだと思いますが、先ほど根本委員のご意見で、法定後見の申立てに当たって、任意後見優先の原則があるために、なかなか法定後見の申立てが進まないというときに、任意後見契約を意図的に悪用しているかどうかということの立証が十分できない中で、監督人選任の申立てをしないということ自体を一つの不適切な要素として考慮し、法定後見に移行させるということが考えられますので、そういった意味でも、監督人選任申立てが任意後見受任者に義務化がされているということは非常に効果のあるもので、そういったところに実際のニーズが、申立てを義務化することのメリットがあると考えております。こうした観点から、私は申立義務を、任意後見受任者に限定をして設ける、ということが必要なのではないかと思っているところです。 ○星野委員 ありがとうございます。社会福祉士の場合も、少ない数とはいいながら任意後見を受けております。それで、今回の資料の中では弁護士、司法書士という専門職ということになっているのですが、任意後見のニーズというところが、いわゆる財産管理を大きく期待する部分と、我々のような社会福祉士は、財産はそれほどないけれども身上保護的なところを期待された任意後見契約というのが実際あります。   そういうところから考えますと、先ほど上山委員のお話にもあったのですが、どれだけ自分の本当の意思というか希望で契約を結んでいるかというと、福祉関係者から見ると、ほかの方策がないというと言い方は少し語弊があるのですが、法定後見の対象ではない、しかし、やはり身寄りがなかったり、先々のことに不安があったり、死後事務のことをどうするかといった中で、福祉関係者から任意後見契約というものの説明を受けて、そして、もちろん説明を受けて表面的には理解をして契約はするのですけれども、それが本当に本人の望んでいるものかどうかというと、非常に難しいなと思うケースがないわけではないです。そういう状況から言えば、やはり発効する段階になれば監督人が付くということはとても重要だと思う反面、多くの事案は親族と契約を結んでいるケースが多いと思いますので、なかなかこの議論は、どういう意見を言えばいいかとても難しいというのが正直なところです。   そして、法定後見がこれから見直されようとしていると、法定後見というものがより本人の意思に沿った形で使われるようになってくると、法定後見と任意後見の関係性がどうなるかによっても、監督人の選任申立義務のことや申立権者をどうするかという考え方は相当違ってくるようにも思います。   現状で言いますと、申立ての義務というのは受任者、本人がこの人ということで選んでいるわけですから、受任者が義務を負うということは考えられるかとは思いますが、市町村においては、監督人の選任の申立てということもありますけれども、法定後見の必要性みたいなところとの絡みというところがありますので、なかなか難しい議論だなというのが正直な感想です。 ○山野目部会長 引き続き、社会福祉士会においても御議論してくださるようにお願いします。 ○佐保委員 ありがとうございます。前回の部会でも申し上げたとおり、障害を持つ人など、本人の意思をできる限り尊重するため、長期的には成年後見制度の廃止を目指しつつも、当面は任意後見制度を利用しやすくすべきと考えております。その上で、5ページにある任意後見受任者への任意後見監督人の選任申立ての義務化について、本人の判断能力が不十分になった場合に、できるだけ早く本人を保護する必要性は理解するものの、ウに記載のとおり、義務化によって義務の履行が果たされなければ実効性に欠けること、親族等の任意後見受任者の負担を増やし、任意後見制度の利用を妨げる懸念があることから、義務化の規律を設ける必要性は低いと考えております。   なお、受任者である専門職や日常的にコミュニケーションが取れない親族が任意後見監督人の選任を申し立てない背景として、任意後見契約締結後に長期間が経過し、本人と受任者の関係が疎遠になっていることも指摘されております。選任申立ての義務化とは切り分け、本人の判断能力の低下を適宜把握できるよう、地域におけるサポートの在り方も検討すべきと考えております。   私からは以上です。ありがとうございます。 ○上山委員 申立権に関わる規律について、一つ発言したいと思います。先ほども関連するお話が出ましたけれども、任意後見の利用に当たって本人の同意というものが、現行法では任意後見監督人の選任の審判の要件として規定されていて、申立ての要件ではないということになります。その結果として、件数は限定されるかもしれませんが、佐久間委員から懸念が出されたところと関連するように、御本人の意向が脇に置かれた状況のまま申立てが先行して、実際に審判が開始されてから御本人の意向が初めて確認されるというような場面がないわけではないだろうと思います。これは、御本人の自己決定を尊重するという任意後見の仕組みからすると少し違和があるところですので、実際には任意後見の開始の申立てをする時点で本人の意思を確認させるような仕掛けというものを導入することを検討するというのも一案ではないかと考えます。 ○山城幹事 これまでに議論になっておりました点について、重ねての発言です。   まず、任意後見契約の位置付けとして、判断能力が低下した後の自身の事務を委託することについては、任意後見によらなければならないという制度設計になっているわけではなく、一般法上の委任契約を締結することも妨げられないというのが現行法の前提であると理解しております。このことから翻って考えますと、委任契約を締結して事務処理を委託することができるのにもかかわらず、あえて任意後見という形態を選択したということは、自分自身の判断能力が低下した後には公的機関の監督を伴う形で委任事務を処理してもらいたいという、そのような契約締結時の意思に基づいて任意後見契約が選択されているとみることができるのではないかと思います。そうだといたしますと、少なくとも任意後見受任者に関しては、適切な時機に監督人の選任を申し立てるという義務が課されるとしても、理論的にはおかしなことはないと感じます。   任意後見契約法2条1号には、「任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる」旨の定めがありますけれども、これは代理権を与えられた委任事務についての効力発生を想定した規定であって、監督人が選任されるまでは、任意後見受任者による義務履行を観念することはできないとする趣旨のものではないと理解しております。したがって、任意後見契約上、代理権に基づく委任事務の開始に至るまでの間に、受任者が一定の事務を適切に処理するという義務を課されるとしても矛盾はないと、現行法を前提としてもそのように考えられるだろうと思います。   その上で、確かに、本人、つまり委任者の意思に反して監督人選任の申立てがされる可能性はあるかもしれませんけれども、それは委任事務を処理する上でのある種の指図の問題であって、委任契約に基づき、適切に意思確認をしつつ申立てに至るという義務を受任者に課することも考えられるかと思います。以上が1点目でございます。   もう一つは佐久間委員からも御指摘があった点ですけれども、いま申し上げたような考え方と、監督人選任の申立権者の範囲を広げることとが整合するかについては、端的に申しますと不整合な点があると感じます。受任者が監督人選任の申立てをすることは、任意後見契約に基づいて与えられた権限であるということができますが、現行法よりも広い形で第三者が監督人の選任を申し立てることができるという帰結は、任意後見契約そのものの性質からは必ずしも導かれないのではないかと感じます。   この点について、現行法は、法定後見に平仄を合わせて任意後見を規律するという意図で申立権者を定めているのではなかろうかと思います。しかし、第3で検討される点とも関わりますけれども、法定後見と任意後見との関係をどのように捉えていくかについて、任意後見は飽くまでも契約に基づく仕組みだという制度設計をしていくことも十分にあり得るであろうと思います。そのような観点からしますと、申立権者を広げていくことに対しては消極的な見方も十分に成り立ち得るであろうと感じました。 ○佐久間委員 上山委員と山城幹事がおっしゃったことに関連して、少し考えを述べたいと思います。   まず、山城幹事がおっしゃった、委任契約に基づくものであるのだから受任者に対しては申立てを義務付けることがあり得るのではないかと、それはそのとおりだと思うのですけれども、任意後見契約の内容を、その受任者に申立てを義務付けるということしかあり得ない考える必要はないと、私は思っています。部会資料でいいますと6ページのエのところで、第三者契約を締結した場合についても何だかんだで疑問があるということがあるわけですけれども、本人の自己決定からすると、契約によって第三者の判断でしてもらう、その第三者は受任者でも当然いいのですけれども、その申立てを契約で義務付けた上で、一定の状況になったら必ずしてもらうということは、あり得てよいと思っておりますが、他方で、任意後見契約を結んだからといって受任者をそういう立場に当然置かなければならないとなると、やはり最後まで申立てをするかどうかは自分で判断したいという本人もいるはずなので、その意思を尊重することにはならないように思います。そこで、契約で決められるとする方が、私はいいのではないかと思っています。   その上で、上山委員が確か言われたと思いますが、義務の履行のことに関してなのですけれども、2点思うことがありまして、一つは、義務付ける、義務だから申し立てるという人に本当にその後、任意後見人になって事務をしてもらうのでいいのかな、適切な事務処理を期待できるのかなということを、これは抽象的な話ですけれども、思わないわけではないということが一つあります。   それから、義務付けるといったときに一体要件をどうするのか。上山委員が、今は本人の事理弁識能力の不十分は選任の要件になっていると指摘されました。これが申立ての要件に事実上なる、要するに義務履行のための要件になるとすると、その要件にあたるかどうかを、もちろん弁護士とかだったら判断できるのかもしれません。けれども、個人の受任者が排除されるわけでもないので、あらゆる人にそれを判断して義務の履行を迫るなんていうことが可能なのだろうか、ということが非常に疑問に思われるところです。また、そうなるかどうか分かりませんけれども、義務なのだということになると、義務違反にならないために早く申立てをしようという行動を誘発するおそれも、これは飽くまで抽象的なものかもしれませんが、ないわけではないので、本当に可能ですかということを申し上げておきたいです。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   久保委員と花俣委員の御意見を伺いたいですから、根本幹事にお願いですけれども、簡潔にお願いします。 ○根本幹事 補足です。佐久間委員が言われているように、申立てにおいて、特に任意後見においては御本人の意思が重要であるということは、これは言うまでもないことでして、ここは私からも確認はしたいと思っています。その上で、申立権者を広げるかどうかの点について、佐久間委員が先ほど言われた、御本人の同意が難しい場合を念頭に、広げる場面があってもよいのではないかというのが私の意見の趣旨になりますので、その点だけ申し上げておきます。 ○山野目部会長 承りました。   久保委員からお尋ねします。何か御指摘があれば、御発言を賜りたいと存じます。 ○久保委員 我々知的障害者の場合、契約を結び、そしてどの時点になったら変更ができるのかとか、そういうことを理解することが大体難しい場合が多い、そういう人たちが多いということになりますので、この任意後見というのは使いにくいなと思いながら聞いていたのと、任意後見であっても、監督人が付いたりすると、どちらにも報酬が発生してくるのかなというようなことも少し思ったりもしますので、任意後見だったら報酬が、御本人が使いやすくなるのかなと思っても、そうでもない場合もあるのかなと思ったりもして、なかなかこの任意後見というのも知的障害の場合は何となく使いづらいなというような気がしています。   それと、いろいろな申立てをするときに、うまく本人の意思を酌み取っていただく方というのが、いつの場合も知的障害の場合は必要なのです。本人の思っていることを本人が自分の口からうまくそのとおりに発言できない場合が往々にしてありますので、その辺のところはとても難しい、後見であったり、簡単に言いますと、ピンポイントに利用するにしても、本人の意思というのを確認し、そして、ある意味新たに見直した制度をうまく使っていくというのも、誰かが横に寄り添ってくれないとなかなか本人としては難しいなという思いがありますので、この任意後見は特に、契約でとかいうようになると、更に本人にとっては、知的障害者にとってはなかなか難しい仕組みといいますか、制度になってくるなと思いながら聞いていました。   感想のようなことで申し訳ありませんけれども、よろしくお願いします。 ○山野目部会長 久保委員に多くの点を御指摘いただいたうちの、報酬がダブルで生ずるのではないかというおそれないし感覚の話は、また後で監督の体制の議論を致しますから、引き続きその際にも御意見を頂きたいと望みます。   花俣委員、お願いします。 ○花俣委員 特に認知症高齢者に関しては、この任意後見制度を備えとして利用するというのは有効ではないかと思っています。もちろん様々な課題があるということも承知していますけれども。それから、申立てに関しては、本人の同意、本人が意思表出をすることがかなり難しくなった時点で申立てがなされるのだと、勝手にそういうふうに思い込んでいたのですが、第三者が申立てをすることについてというような議論が今、重ねられており、元々本人が何らかの形で意思表出ができる間、あるいは本人に不利益が生じない時点では、特に発効の必要はないと思っておりました。ここについての議論は、決して認知症高齢者が使うだけの制度ではないということを考えれば、当然そういう議論が必要になってくるのだろうと思いました。   あともう1点、先般、成年後見制度利用促進の地域連携ネットワークの協議会にオブザーバーで出席したときに、メディカルソーシャルワーカーの方が現状をいろいろお話しいただいた中に、身寄りのない方等が緊急で入院されたときに、様々な事情でなかなかスムーズに手続き等が運ばないときに、その人に後見人が付いていてくれればいいのだけれど、そういうときに首長申立て等々の仕組みを利用すると非常に時間を要し、とてもそれでは間に合わない、追い付かないというようなお話をされていました。この方にもし仮に任意後見制度の利用が備えとしてあれば、もう少しそういう困り事があったときにスピーディーに事が運んでいくのではないのかなと思いました。必ずしも身寄りがない場合に限らず、遠方におられる親族あるいはお子さんがこういった契約を事前に結んでおくことで、様々な場面で有効に制度を発効することができれば、いろいろな場面の困り事もう少し軽減されるのではないかと感じています。ただし、難しいことがよく分からないので、印象ということで御容赦いただきたいと思います。 ○山野目部会長 花俣委員の御期待に沿えるよう、この後の任意後見の論点も一所懸命審議を進めてまいります。ありがとうございます。   部会資料第5の第1の部分について御議論を頂きまして、ありがとうございました。4点申し上げます。   任意後見監督人の選任の申立義務につきまして、要件と効果を検討しなければなりませんけれども、要件の点については、法令に根拠を置くか、契約で律することを期待するかといったような点を引き続き検討しなければなりません。佐久間委員から御注意があったように、法令で一律に律するようなことが本当に可能かというようなことは考えていかなければならない点であります。また、いずれにしても申立義務のようなものを考えるときに、申立てがされなかったときの効果がどうなるかという問いに答えていかなければなりません。青木委員、根本幹事から、10条の規定と関連させて、それに法的効果を見いだしていくという可能性についてヒントを頂いたところであります。これらの点に留意しつつ、引き続き検討を進めていくことになります。   2点目でありますが、社会実態との関係について留意をしておくべき点があります。任意後見の制度は、残念ながら一部の実態において、本人の権利利益を損なう業態の、良質でない事業者が用いる一つのツールになってしまっている側面があります。しかしながら、これを根絶やしにしようとして、民事法制のみが頑張って何か対処を考えようとすると、不当に重い監督の体制を作ってしまったりするなど、いびつなものになりかねません。民事法制の検討だけで頑張るというよりは、今後、政府全体の責任で構築される取締行政に期待しつつ、それとの架橋の糸口を民事法制に設けておくといったような観点も大事であろうと思います。   3点目、そういうこととの関係でありますけれども、地域福祉の公的機関が、本人に対する虐待の実態になっているような事案を発見したり、そうではなくても本人のために任意後見を発効させた方が良いと見られる事案を見いだしたりしたときに、首長申立てをする可能性を認めてはどうかということについて、本日御議論を頂きました。小澤委員、根本幹事、野村幹事からそれぞれ御注意があったように、しかしそうはいっても、少なくとも現行法ではこの首長申立ては民法に規定されているものではなくて、老人福祉法その他において要件を絞った上で定められているところであります。また、その制度を設けるに当たっては、地方団体の理解も得た上でこういうものが制度化されているという経緯がございます。今後、社会福祉の見直しがどういうふうに発展していくかということをにらみ、厚生労働省主務の法令の中でそういう規律を考えていくことが可能であるかということを政府全体の調整の中で検討していくことが必要でありますし、そのプロセスの中では地方団体との対話も深めた上で、こういうものが制度としてあり得るかということを考えてみなければなりません。   4点目でございますけれども、等しくこの申立権者との関係で、本日御指摘がありませんでしたけれども、任意後見については現行法では検察官が申立権者に入っておりません。私的自治を尊ぶ制度であるという観点から、国家介入的な印象を与える検察官が入っていないというふうな説明は可能でありますし、これまで恐らくそういうふうに受け止められてきたものでありましょう。半面、佐久間委員が御指摘になったように、本人が意思を表示することができないような事案において、取り分け人権侵犯事案や犯罪事犯が関連しているような局面について、誰もそこについて公的に手当てができないというような状況が極限に達接したときには、検察官というものを考えるという余地も議論としてはあってよいかもしれませんから、引き続きこれも論点として視野に置かれるかもしれません。日本の検察官というものは、いつの間にか刑事裁判の人になってしまっていますけれども、多分、明治の初めに作ったときはそういう制度イメージではなかったのでありまして、検察庁法4条が定めているように、公益の代表者としての役割が期待されていたという側面があったでしょうから、今一度そういうところも思い起こして、全体として、この任意後見の制度が本人の意思に基づく本人のための制度であると同時に、不当な人権侵害のための制度として用いられたりすることがないような手立てについても総合的に考えていかなければいけないと感じられるところでございます。   部会資料5の第1のところまで御議論を頂きまして、ありがとうございました。   休憩にいたします。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   引き続きまして、部会資料5の6ページから後、「第2 任意後見人の監督」についての審議をお願いいたします。この部分について、事務当局から説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料5、6ページからの「第2 任意後見人の監督」について御説明いたします。   現行法では、任意後見監督人による直接の監督及び任意後見監督人を通じた家庭裁判所の間接的な監督によって、任意後見人の事務処理の適正を確保することとされております。現行の任意後見監督人による監督の制度が、基本的に本人保護のための監督の機能を果たしていると考えられるものの、監督に負担を感じるなどの指摘があることなどを踏まえ、任意後見人に対する監督の規律について見直しが必要であるかを含めて、御議論をお願いしたいと存じます。   なお、監督について検討していただくに当たりましては、主に監督の主体や監督の具体的内容等の観点を踏まえつつ御議論いただけますと幸いです。 ○山野目部会長 ただいま説明を差し上げました部分について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。任意後見人に対しては監督が必要であると考えておりますが、任意後見人にも様々な属性があるため、その属性によって監督の態様が異なってもいいのではないかと考えております。例えば、私たち司法書士で申し上げますと、任意後見事件においても所属する公益社団法人成年後見センターリーガルサポートの監督を受けております。十分な監督機能を有する機関や団体の監督を受けている場合には、任意後見監督人による監督までは求めず、当該機関や団体を通じて家庭裁判所への定期的な報告を行うなどの簡易な監督という態様も考えられるのではないかと考えております。 ○根本幹事 私からは3点申し上げたいと思います。   一つは、今、小澤委員からもありましたけれども、監督を考えていく上で、大きく分けて、専門職が任意後見人になっている場合親族の方がなっている場合でも、ほかに何らか別の親族の方がいらっしゃる場合、若しくは、何らか任意後見人をチェックする立場の人がどなたもいらっしゃらない場合として、それぞれ任意後見受任者の属性ですとか、若しくは任意後見受任者が置かれている環境によって、監督方法が変わってもよいのではないかと考えています。   二つ目になりますけれども、具体的に申し上げれば、現行法上は任意後見監督人が必須ということになっているわけですけれども、ここを何らか見直すことはできないかということを考えております。任意後見監督人を必須とするかどうかというところについて、裁判所が任意後見監督人が必要だという場合とそうではない場合というのを判断することはできないのだろうかということが一つ。もう一つは、これはピンポイントというようなこともあるかもしれませんけれども、常に監督人が必要なのかという視点から検討ができないかということが二つ目です。   三つ目は、これはこれまでも家庭裁判所による直接監督という方法が検討できないのかというところについて御提案申し上げています。家庭裁判所による直接監督を検討するに当たっては、監督の内容に十分留意をしなければ、ただ家庭裁判所の負担を重くすればよいという議論ではないとは承知をしていますので、その観点で更に二つのことを申し上げたいと思います。   一つは、家庭裁判所による直接監督の内容について、改めてこの部会で議論するべきだと思っております。例えば一番ライトな監督というところで言えば、ドイツやイギリスのような、選解任権だけを裁判所が持っている、事務の内容については事後審査を行うという直接監督という方法もあるのではないかと思います。もう一つ、その監督内容についての視点で申し上げますと、元々この平成11年の任意後見制度ができたときに想定されていた家庭裁判所による監督人を通じた監督というのは、監督人の報酬付与ですとか、若しくは監督人の選解任権を行使するための監督ということだったはずでありまして、監督の内容というのが、例えば法定後見において監督人を選任されている場合や専門職が法定後見人を行っている場合とで、そう違いはないのではないかと思っています。家裁による直接監督ということだけを申し上げると、ものすごく家庭裁判所の負担が増えてしまう、件数も含めてものすごく増えてしまうというイメージを持たれてしまうのかもしれないのですが、そうではなくて、監督内容も踏まえた上での家裁による直接監督という方法があるのかないのかということを議論するべきだと思います。   そうすると、部会資料にもありますが、任意後見における監督の内容というときに、監督人が行う監督の内容と、家庭裁判所が行う監督の内容というのを見比べて、家裁の監督行為としてのいわゆる標準が、最初に申し上げた、任意後見人がどういう属性の人なのかなどによって変わってくるのだろうと思います。そこを区別して議論する必要があると思っていますし、これは少し内部的な議論になってしまうかもしれませんが、例えば、相続財産管理人や清算人といわれるような方について、家庭裁判所は定期立件はしないのだと思うのです。任意後見について家裁による直接監督が大変になってしまう一つの理由は、毎年の監督人の報酬付与の度に監督についての定期立件をされるということになっているのだと思います。定期立件における負担を家庭裁判所以外の関係機関で分担をするということも含めた広い監督の方法ということを議論できたらいいのではないかと考えています。 ○山野目部会長 ここまでの範囲で、小澤委員からは簡易な監督、それから根本幹事からは、ほかにもたくさん重要なことをおっしゃいましたけれども、常に監督が必要かとおっしゃっていただいた辺りが印象に残ります。 ○野村幹事 現行の任意後見監督人による監督の制度は、基本的には本人保護のための監督の機能を果たしていると考えられます。任意後見制度が私人間の契約によることに鑑みて、国の機関である家庭裁判所の関与を最小限にとどめる現在の仕組みを大きく変えることは、適切ではないと考えます。しかし、現状の一律の監督の仕組みは、事案によっては重装備の仕組みとなっており、任意後見の委任者にとって負担感、特に任意後見監督人の報酬の負担などが大きいことが任意後見制度の利用及び適切な運用の障壁の一つとなっていると考えられます。事案ごとの適切な監督体制と監督人に係る報酬コストが調整されれば、任意後見制度が更に利用が促進されると考えられます。   そこで、まず一つ目に本人の資産、状況、二つ目に任意後見受任者の属性や能力、資格、経験、三つ目に任意後見人に付与された代理権、これは、例えば重要な財産の処分であったりですとか、本人の生活を左右するような居所の選定であったりですとか、本人が任意後見契約で特に希望した事項など、そういったものを踏まえて、以上三つを踏まえて監督の在り方に選択肢を持つことは検討すべきではないかと考えます。すなわち、重い監督、軽い監督、事案によっては監督人を不要とする等が検討されるべきです。   そして、それら監督の在り方を決めるに当たっては、任意後見制度においては特に、本人の意向を尊重すべきと考えます。具体的には、任意後見契約に関する法律の第4条、任意後見監督人の選任の規定において、任意後見監督人を選任するに当たっては、家庭裁判所は任意後見契約に示された本人の意思を尊重するとの項を加える改正も考えられます。また、その第7条の任意後見監督人の職務等について、任意後見監督人はその職務を行うに当たって、任意後見契約に示された本人の希望を尊重した監督を行うとの趣旨の項を加える改正も考えられます。   最後になりますけれども、任意後見制度の利用者を広げていくために、任意後見制度においては、家庭裁判所が任意後見監督人の選任に関与しない監督人についても検討していくことも必要ではないかと考えます。監督機関の担い手としては、例えば社会福祉協議会ですとかリーガルサポートのような機関が関与することが考えられます。これは、全国一律の監督を行うことによって、専門職の過疎地域の監督人の担い手不足に関する課題ですとか、任意後見監督人の報酬の課題にも一定の効果があると考えられます。 ○山野目部会長 野村幹事においては幅広く論点の整理を頂きました。ありがとうございます。   根本幹事からは、家庭裁判所における立件の在り方についての論及がありました。ここで、向井幹事の御発言を頂きます。お願いします。 ○向井幹事 まず、毎年の報酬付与申立てについて家裁が定期立件をすることの負担についてご発言がありました。しかし、定期監督は、報酬付与申立ての有無とは関係なく、不正防止の観点から、必ず年1回の報告を求めるという運用をしております。   次に、任意後見人の監督について発言させていただきます。現状、任意後見については任意後見監督人を必ず選任する建付けになっていますが、本日の議論では、任意後見人の監督の在り方について、様々な考え方、監督の仕方があるのではないかというご意見があり、そのような側面もあるのだろうと考えているところです。   ただ、現行制度とは異なる監督の方法として、家庭裁判所が任意後見人を直接監督するという方法については慎重に考えていただく必要があると考えております。その理由としては、まず、部会資料の第2の3(2)アの第3段落に、「法定後見と異なり、家庭裁判所に選任権のない任意後見人に対して家庭裁判所が直接的な監督を行うことは実際には困難であり、その監督を実効性のあるものとするためには、家庭裁判所の選任する任意後見監督人の監督の下に任意後見人を置くことが有効であると考えられる」との記載があります。この記載は任意後見契約に関する法律ができたときの法案の説明資料から引用されているものだと思いますけれども、この指摘自体は現在も当てはまると考えております。また、これに加えまして、部会資料の8ページにも記載がありますけれども、やはり、任意後見制度は、私的自治、自己決定の尊重という理念の下、本人保護のための必要最小限の法的な関与として現行の法制が採用されていることからすると、家庭裁判所が任意後見人を直接監督するというのは任意後見制度の趣旨にはそぐわないのではないかと考えております。   家庭裁判所が任意後見人を直接監督すればよいのではないかというご意見の背景には、主に二つの事情、一つは、任意後見人が専門職後見人である場合には、わざわざ任意後見監督人を付けなくても十分ではないかというようなこと、もう一つは、任意後見監督人に対する報酬の負担が重いということがあるのではないかと考えております。前者については、先ほど、司法書士の委員・幹事からもご意見がありましたけれども、任意後見人に専門職後見人が就任している場合には、当該専門職後見人が所属する専門職団体による自律的な監督等に委ねるというような方法もあるのではないかとは思っており、裁判所の直接監督だけではない方法も選択肢に入れながら検討いただくのがよいのではないかと考えております。また、後者については、報酬の負担等は報酬助成等の他の制度で賄われるべきであって、裁判所が直接的に監督すべきかどうかという問題とは別の論点であり、裁判所による監督が無料であるから裁判所にやらせるべきだというのは、議論の仕方が違うのではないかと思っています。 ○山野目部会長 承りました。ありがとうございます。   引き続き御意見を伺います。いかがでしょうか。 ○佐久間委員 意見もあるのですけれども、質問が実は二つあります。どなたにお答えいただいても結構なのですけれども、一つは、部会資料7ページの1行目、2行目にある、他方で以下、任意後見人が任意後見監督人や間接的にせよ家庭裁判所による監督に負担を感じるなどとの指摘がある、だから監督人の選任をやめよう、あるいは家庭裁判所の監督をやめようという方向の議論があるというのは分かったのですけれども、両方ともやめようという、なくてもいいではないかという意見があるのかどうかということを、まず知りたいと思います。つまり、任意後見監督人の選任を必須とはしないけれども、その場合は家庭裁判所による監督は必ずある、あるいは、任意後見監督人を選んだら家庭裁判所による監督は、いいかどうかともかく、やめる、これはあると思うのですが、両方やめるというような主張、そこまでの主張があるのかどうかということを知りたいというのが一つです。   2番目の質問は、法定後見、成年後見の類型、保佐の類型でもいいのですけれども、において、家庭裁判所は、例えば後見だったら後見人の事務を監督するということが家事審判手続法の別表のどこかに多分あると思うのですが、そこでいう事務の監督と、任意後見契約に関する法律の7条1項にある任意後見監督人が任意後見人の事務を監督するというのは、文言上は同じなのですけれども、実態において、家庭裁判所が法定の成年後見人の監督をしているのと、任意後見監督人が任意後見人の事務を監督しているのでは、同じなのか違うのか。違うとしてどのぐらい違うのかということを知りたいと思います。私は実務を知りませんので、理屈で言うと、任意後見監督人というのは飽くまで任意代理人を監督する立場であり、任意代理人の監督は、本当は本人がすべきところ、その代わりにする人なのだから、本人がするような監督を、どの程度できるかはともかくとして、個別に、例えば行為ごとに介入していくということも含めて、あるのかなと思うのですけれども、実態はどうなのかということを少し教えてくださいということです。これが実際上、家庭裁判所の成年後見人に対する監督と、任意後見監督人の任意後見人の監督で、ほとんどの場合大して違わないのだとすると、任意後見監督人の監督はやめてもいいですねということが出てきやすいかと思うのですが、そうでもないとなると、そうはいかないということにもなりそうなので、教えてほしいということです。   その上で、この点に関しては今の質問に対してどなたかがお答えいただいたら、また意見を申し上げることがあるかもしれませんが、ここまででいろいろな方がおっしゃったことで少し気になるのが、少し言いにくいのですけれども、弁護士だからとか何々士だから監督が緩くていいではないかということは、一般論としてはそうかなと思うのですが、制度的にそれをいいですよねというのは、どうかなと思うところがある、社会から受け入れられるかなと。大変失礼ながら、やはり士業による不正行為も後を立たないし、士業の不正行為の場合、一件一件の被害が大きくなりがちということからすると、なかなか打ち出しにくい。だから、法定後見の場合のように、監督人を選任することができるとはしておいて、選任するかどうかを誰が受任者であるかによって実際には変えるということはあり得るのだとは思うのですが、士業だからいいですよねという議論はいいのかなと思うということが、差し当たりの意見です。 ○山野目部会長 主たる御指摘として、二つお尋ねの形でおっしゃっていただいた事項のうちの前の方は、意見の分布を確認してほしいというお求めであると受け止めました。およそ監督がない、つまり、任意後見監督人を置かない、したがってその監督も主題とならず、家庭裁判所による直接、間接の監督もないという状態で、もはや任意後見受任者ではなくて、任意後見人としての職務、権限行使をするという事態も容認しようという御意見があるかという意見分布の確認のお求めがありました。これについて委員、幹事のお考えをお尋ねしますけれども、いかがでしょうか。 ○竹内(裕)委員 私が弁護士会内で議論をしたときには、確かに知らない他人が関与するということへの抵抗ということが理由だったりするのですけれども、もう監督人も要らないのではないかというような意見はあります。ただ、その場合、悩みどころが、そうはいってもそれをやってしまうと、それは任意代理と変わらないではないかと、そこがジレンマになってはいるのですけれども、議論自体はあることはございます。 ○山野目部会長 ほかに今の点について御発言がありますか。なければ、今の竹内裕美委員の御発言を受けて佐久間委員にお尋ねしますけれども。 ○山城幹事 すみません、一言だけ。竹内裕美委員から御示唆がありましたけれども、私も、任意後見監督人を置かない任意後見契約というのは一般法上の委任契約にすぎないと理解しております。 ○山野目部会長 ほかになければ、佐久間委員、御発言ください。 ○佐久間委員 山城幹事がおっしゃったことに関して、一体そうだとするとこの制度は何のために設けておくのかというのが分からない。どうして委任による代理と違うものとして組むのかということが、どういうお考えなのかと。制度の独自の意義がなくなるのではないかと思うので、質問したのですが、実はいずれの監督もないなどということはあり得ないのではないか、というのが含意としてはあります。 ○山野目部会長 竹内裕美委員、御発言ですか。 ○竹内(裕)委員 いえ、私は発言というか、それで、なかなか意見として、そういう監督人が要らないという提案をすることが果たして妥当なのかというところで、そういったことです。 ○山野目部会長 山城幹事もそれと同じ旨とおっしゃったのですよね。 ○山城幹事 はい。 ○山野目部会長 だから、佐久間委員の御懸念はないと考えますけれども。なにがしかの監督があるということをみんな想定しているとみられます。 ○佐久間委員 多分そうだろうというので、2番目の質問になるのです。監督の実態はどうなのですかという。 ○山野目部会長 少しそこはお待ちください。根本幹事に御発言をお願いしましょう。 ○根本幹事 1点目のところは、監督人か家裁か、どちらかは必ず監督するということだろうと私も理解しています。弁護士会の意見としても、両方の監督が全く要らないという意見はないのではないかと理解します。   二つ目の点ですが、先ほど申し上げたのですが、法定後見における監督人が付いている場合と、若しくは法定後見において専門職が後見人を務めている場合と、任意後見監督人に対して家庭裁判所が行っている監督の内容というのは、任意後見監督人の報酬付与と、監督人の選解任のための監督が基本的な内容のはずではありますので、法定後見における監督人、法定後見監督人がいる場合と任意後見人が専門職の場合とで違わないのではないかというのが私の理解です。   3点目の、佐久間委員が言われるように、士業だからということだけでは私も理由にはならないと思っていますので、そこは飽くまでも個別の事案ごとに監督人を付けるか付けないかを選べるようにするという限度に制度設計上はなると考えてはいます。 ○山野目部会長 ほかに、佐久間委員に御発言をお願いする前に、お尋ねの点について御発言はありますか。 ○青木委員 イメージを皆さんにも湧かせていただくために、実際の監督の状況をお伝えしたいと思いますけれども、法定後見は、平成24年以降ですけれども、どんな後見人についても必ず年に1回報告をさせて、財産の多寡によらず報告書と財産目録と収支、収支はいろいろバリエーションがありますけれども、あと預金通帳などの財産資料ということで、必ず全件確認をするという監督が裁判所においてなされています。   任意後見人についてはそもそも、元々の法的な期待としては、後見監督人の広範な裁量に基づく監督に委ねられていたと思いますけれども、実際上はそうはなっていませんで、任意後見監督人は年に1回裁判所に報告をすることになっており、任意後見監督人が任意後見人に対する監督事務については、大体は任意後見契約の中に3か月に1回報告するとか、6か月に1回報告するという任意後見契約上の記載があるものですから、それに基づいて、法定後見の裁判所に対する報告に比べるとかなり短期間で定期的に後見監督人に対する報告をするということになっておりまして、加えて、任意後見監督人の監督事務は、おおむね裁判所の法定後見の監督事務に倣ってしているものですから、3か月や6か月に一度、通帳とか報告書の提出を全部求めて、それに間違いがないかをチェックした上で、必要があればいろいろな相談・助言に応じると、そういうことをして、その監督事務の1年間のまとめを、裁判所に年一回報告し、場合によっては任意後見人の作った資料と監督人が作った資料両方を出したり、あるいは監督人だけの資料を出したりということをしていると、こういう状況にありますので、かなり濃厚な監督事務が任意後見監督人についてはなされているという状況です。これはもしかすると2000年当初に法律を作ったときに想定した監督のあり方とは違うことになっているかもしれないということもあります。   その一つの要因としては、任意後見人の7割が親族がなっているということもありまして、親族後見人さんはなかなか後見事務のやり方が分からないとか、十分対応ができないこともあるので、どうしても後見監督人がかなりこまめに丁寧な監督をすることで、適切な任意後見の職務ができているという実態が反映されて、そうした監督事務になっているのかなと思っていますが、それと同じことを専門職後見人についても求めるものですから、専門職である任意後見受任者からすると、随分と濃厚な監督をされるけれども、そこまでの監督が要るのかなということにもつながっているということでして、また、親族の任意後見人の中にも、元銀行マンとか、元会社勤務の方で大変経理に明るい方などが、任意後見監督人の監督でなくてもいいのではないかと思っている方もいると、こんな状況が現在の任意後見監督人の監督の実情だと思います。 ○山野目部会長 特段なければ、ここまでの御発言を受けて、佐久間委員からお話を頂きたいと考えますが、よろしいですか。お願いします。 ○佐久間委員 ありがとうございます。濃密な監督が任意後見人に対してはされているということは、今後の任意後見人にどういう人がなっていくかという見通し、あるいはその理想と関係してくるのだとは思うのですけれども、本人が選ぶ代理人である、後見人であるということになると、やはり親族あるいは近しい個人が就任するということも比較的恐らく多いのだろうなと思い、濃密な監督体制というのは維持されることが望ましいのではないかと考えます。それを家庭裁判所に期待するというのは、やってくださいというのは簡単かもしれませんけれども、現実はなかなか難しいのだろうと思います。   その上で先ほどの、戻りますけれども、専門職だったらいいではないかというのは、報酬の面がダブルで掛かってくるというのが何とも言えないところではあるのですけれども、専門職だからいいではないかというのは、どうでしょうか。やはり任意後見監督人は必要だとしておいて、ただ、その監督の在り方が屋上屋を架すようなことでないようなものに、これは多分、法律でこれだけのことをしなさいと決まっているわけではないので、そこを工夫するということが穏当なのではないかなと今のところは思います。 ○山野目部会長 佐久間委員の御意見を承りました。 ○久保野委員 ありがとうございます。直近の佐久間委員の御意見に賛成いたします。枠組みとしては任意後見監督人という制度を維持するというのも十分にあり得るのではないかと考えます。それで、専門職の方々の場合に専門職団体等によって実質的に実効的な監督がなされているという点について、それを任意後見監督人の制度を維持したまま入れ込んでいくというようなことがあり得ないのかなというのは、少し気になっております。任意後見監督人というのは法人もなれるかと思いますので、法人としての任意後見監督人の体制を組むというようなことができないかどうか、なども視野に入れて議論できるとよいのではないかと思いました。 ○山野目部会長 御意見を頂きありがとうございます。専門職だから直ちに監督が要らないと御発言された方は多分おられないような気がしますけれども、専門職が任意後見人のときには、その状況の特性を踏まえて任意後見監督人の選任等の在り方を検討してみようという御議論が続いていて、久保野委員の御発言も今その一角として、参考になることをおっしゃっていただいたと聞こえました。ありがとうございます。 ○星野委員今の、士業だからということではなくてというところで発言したいと思うのですが、社会福祉士会もぱあとなあという組織を持って、リーガルさんがやられているような契約のひな形で、任意後見契約を行うときに所属している職能団体に報告をするということを契約の条文の中に入れており、それがいわゆる、監督ではないのだけれども、所属している組織のチェックを受けるということに合意をしていただいて契約をするというのが専門職の一般的な任意後見の契約の中身だと思います。ですので、監督が不要ということではなくて、そういう状況がある中で、個別に監督の在り方やその濃密さも含めて、検討されていく必要があるのではないかという意見です。 ○青木委員 先ほど実情だけお話ししましたけれども、私の意見としては、やはり現在の任意後見監督人を必ず付けるというのは硬直的だとは思っておりますので、柔軟に監督人を付ける場合と監督人以外の監督に付する場合というのも必要ですし、監督の在り方も、先ほど申し上げましたような定期報告ということはもちろんありますけれども、解任とか何か違法性がある場合について随時監督を行うというような柔軟な監督の在り方もあるのではないかと思います。法定後見の方が、今後、個別代理権の付与が中心になったときに監督の在り方が変容していく可能性はありますので、それに併せて任意後見の方も柔軟な監督の在り方を裁判所としてもお考えいただくということができるのではないかということも含めて、監督の在り方は裁判所が事案に応じて選択できるようにし、監督人の選任を必須とはしないことがいいのではないかと思っています。   現在、大阪家裁では、親族後見人になるべく就任してもらえるために、親族後見人が法定後見人になるときには、最初の9か月間だけ専門職が法定後見監督人に付いて、それでいろいろ後見人の基本的事務を一緒にやることによって、9か月間ぐらいたつと、大体分かったのであとは1人でやります、として監督人が外れるという制度を4年前ぐらいから実施していますけれども、実際に裁判所に伺いましても、やはり効果があって、裁判所だけが監督するのに比べると、きちんとできるようになる、ひとり立ちできるのが多いという評価も出ていますので、任意後見人についても、発効の当初は監督人が付いてやるけれども、監督人がなくとも十分できるとなった場合には裁判所の直接の監督にするといった在り方も十分あり得るのかなと思っています。裁判所が当初の選任権がない中で任意後見人を監督するのが難しいという御懸念については、そういった方策によって解消することも可能かなと思っています。 ○山野目部会長 少し議論を整理しますけれども、冒頭に小澤委員が簡易な監督という言葉をおっしゃって、その後、委員、幹事に御議論を頂いて、局面ごとに柔軟ないし簡易な監督を行うという局面と丁寧な監督を行う局面があって、使い分けられるべきであるという点について、多くの賛同の意見を頂いていますが、青木佳史委員の御意見は、任意後見監督人なるものを簡易にせよ置いておくのではなくて、全く置かない時間もあるということを御意見としておっしゃっていると受け止めてよろしいですか。 ○青木委員 裁判所の監督若しくは任意後見監督人の監督のどちらかという意味で、監督人が付かないこともあり得るという意見になります。 ○山野目部会長 理解を致しました。 ○向井幹事 裁判所による直接監督について、その監督の意味、監督としてどのようなものを想定しているのかを明確にした方がよいと思っております。先ほど、裁判所が直接監督するのは望ましくないと私が申し上げた際の監督としては、基本的には、法定後見での監督を念頭に置いて、年1回の後見事務報告を求めるというような監督をイメージしております。このような監督ではなく、申立てに基づいて任意後見人を解任することや、例えば、見直し後の制度において、任意後見監督人について、必ず選任するのではなく、申立てに基づいて必要に応じて選任するという建付けになり、申立てに基づいて任意後見監督人を選任するということも監督権行使の一環であるということであれば、裁判所がそのような監督を行うということはあり得るのではないかとは思います。いずれにせよ、どのようなものを念頭に置いて「監督」とおっしゃっているのかということについては、今後、明確にさせた上で議論した方がよいと思いました。 ○山野目部会長 一つ前の青木委員の御発言と今の向井幹事のお話に尽きているところがあって、今日の議論の整理としては、委員、幹事から多くの御発言を頂いたところを集約して、今お二人がおっしゃっていただいたようなところをもう一度整理して、任意後見監督人の在り方を引き続き検討していくことになるであろうと感じます。   引き続き御意見を伺いますが、いかがでしょうか。   では、花俣委員と久保委員にお声掛けをする前に、野村幹事にお尋ねを少ししておきたいですけれども、仮にリーガルサポートが機関といいますか法人として任意後見監督人になったときに、本人から報酬は取るというイメージで議論しておられるでしょうか。そこら辺りのところをお教えいただきたくて、必要に応じて小澤委員からも何か補足があったらお話を頂きたく、そこを教えていただきたいことが1点と、それからもう一つは、これも仮にですけれども、もし政府として財政的基盤、制度的基盤を調えて差し上げるようなことをすれば、リーガルサポートとして司法書士でない任意後見人に対する任意後見監督人の仕事もお引受けしますという応接を期待することができ、そのときに本人から頂戴する報酬というものは、品のない言葉ですけれども、薄利多売で結構です、それほど重たい報酬をもらわなくても、それは機関としてお引き受けするということを考えていますよというふうなお話もあり得るか。もちろん、皆さんの団体において、ここで御発言いただく前提で検討したはずはないでしょうから、今日の時点での個人としてのお考えをお教えいただくことで結構ですし、よろしければぱあとなあの様子もお話しいただいても結構ですけれども、野村幹事、いかがですか、突然のお尋ねで恐縮ですけれども。 ○野村幹事 まず、現在でもリーガルサポートが任意後見監督人になっているケースはございますが、もちろんこちらは報酬を頂いています。今後、低廉でやっていくかどうかについては、まだ議論しておりませんので、その点も含めて議論していきたいと思います。 ○山野目部会長 小澤委員、星野委員からも、何か今の点について御発言があれば承っておきます。よろしいですか。よく分かりました。   久保委員、お声掛けをしてよろしいですか。 ○久保委員 今いろいろと聞かせていただきまして、監督人の在り方もいろいろ検討していくと、少し使いやすくなるのかなというような感じもしましたけれども、親族後見の場合、私は社福をやっていますけれども、職員が1人、家族支援室というのを持っていまして、成年後見人になっておられる御家族を支援するという、後見人をやっているわけではなくて、後見人になっておられる御家族を支援するという形のことを今やっているのですけれども、最初に申し立てられたときは、少し話をお聞きしてお答えすると、すらすらとお書きになるのですけれども、そのまま何年かたつと、もう分からなくなって、だんだん難しいといって必要なものを全部持ってきて、これはどうすればいいみたいな感じになってこられるので、親族後見の場合もなかなか、私はいつから親族後見ではなくて専門職の後見に替わるのかというふうな部分も、結構タイミングが難しいなと思いながら家族支援室の様子を見ているのですけれども、本人に寄り添っていくには親族後見はとても、身上保護の場合では、よいのですけれども、何年かたつと、そこがまたしっかりしてこないというような状態になってきますので、その辺のところは本人の任意後見も含めて、親が法定後見の後見人になっていても、また少し私たちの場合は難しいところがあって、何せ被後見人よりも年を行っている親が後見人になるわけですから、そこが親族後見の場合も難しいところがあるのです。そういうケースが結構最近たくさん出てきまして、これは少し難しい課題だなと思って、そろそろお母さん、専門職と言いたいのですけれども、お金が掛かるしねとかと言われると、なかなかお勧めしにくいというのがあるのですけれども、そういう親族後見に監督人が付いていただくというのも、今付いておられる方も当然おられますし、うちがお世話というか御支援させていただいているので、というので付いておられないのか、よく分かりませんけれども、付いておられない方もおられますので、その辺のところの監督人のお仕事の内容とか、しっかり関わっていただく場合と、軽く関わっていただく場合のお仕事の内容が、どこがどう違うのかというのもよく分からないので、段々にしっかり関わっていただくということもできないかなというようなことも思っていまして、なかなか親が後見人になっているというのは難しい部分もありまして、将来的なことを心配してしまうというのがありまして、いろいろ今検討しているからこそ、こんな後見であってほしいということを私たちの方から申し上げた方がいいのだろうなと思いながらも、仕組みがよく分かっていないというのがあって、申し上げることができないのですけれども、少し不安に思っていること、困り事みたいなものをお伝えしながら、皆さんにお知恵をお貸しいただいて、よい後見制度になったらいいなと思いながら話を聞かせていただいているような状態でして、感想のようなことで申し訳ないのですけれども、そのように思っています。 ○山野目部会長 久保委員が一つ前の御発言でおっしゃった、任意後見監督人を置いた場合の報酬の負担ないし負担感というものに対して、本日段階の審議で十分にお応えすることができるものには至っておりませんけれども、しかし、そこを考える、解決するためには、正に今の御発言でおっしゃったように、監督、久保委員のお言葉でいうと任意後見監督人の仕事の中味ですが、委員、幹事において御議論を頂き、聞いておられてお分かりのように、監督の概念といいますか、中味をもう少し深めていって議論を整理しようという方向で本日歩み出しましたから、まだ議論が必要ですけれども、見守っていただきたいと望みます。   花俣委員、お願いします。 ○花俣委員 今の久保委員の御発言と大きく違いはない、私どもも同様の考え方でいるということが申し上げられると思っています。ただ、任意後見契約を結んで発効したときに、監督人が必ず付くというのが発効の条件になっているというのは、少ししんどい、確かに今の段階だと報酬が発生するということが必ず付いてくるわけですから、そこを考えると、本来、先ほども青木委員の方から7割が親族だというようなお話もありました。親族の場合、ほとんど報酬付与の申立てというのはされないわけですから、特段その制度を使うときに報酬が発生しない、特に認知症高齢者の場合を考えると、それも一つのメリットというか、使いやすさ、ハードルが下がる点だと思うのですけれども、任意後見契約で、それが発効するとなったときに監督人が必ずいて、そうするとまたそこに報酬が発生するということになると、制度利用をぎりぎりまで我慢して、法定後見を使った方がまだいいのではないか、みたいな話にもなりかねない、そこら辺のところを含めて、本来監督人というのは何をしてくれる人なのか、ということが私たちにもよく分かるような、そういう点も非常に大事かなと感じながら皆さんのお話を聞いていました。引き続き議論を重ねていただければ大変有り難いところです。 ○山野目部会長 ありがとうございます。御意見を承りました。   それでは、「第2 任意後見人の監督」についての御審議を頂いたという扱いにいたしまして、続いて「第3 任意後見制度と法定後見制度との関係」についての審議をお願いすることにいたします。この部分について、部会資料の説明を事務当局から差し上げます。 ○木田関係官 部会資料5、8ページからの「第3 任意後見制度と法定後見制度との関係」について御説明いたします。   現行法では、任意後見契約を締結した本人について、任意後見監督人の選任後に法定後見開始の申立てがされた場合には、本人の利益のため特に必要があると認めるときを除いて法定後見の開始をすることができず、法定後見の開始の審判がされたときは任意後見契約は当然に終了するとされており、例えば補助人の代理権の範囲と任意後見人の代理権の範囲が重ならない場合であっても、補助人と任意後見人の併存を一律に認めておりません。仮に法定後見制度を適切な時機に必要な範囲、期間で利用する制度とする場合などには、任意後見人の権限と抵触や重複しない範囲で法定後見の代理権を設定することができることになります。また、任意後見契約をいかしつつ、不足部分が生じた部分を手当てすることを目的として、両制度を併存するニーズがあるとも考えられます。このような点を踏まえて、両制度の併存を許容するかについて御議論をお願いしたいと存じます。   なお、検討していただくに当たりましては、仮に併存を認める場合における任意後見人と成年後見人等の権限の抵触の効果や、併存する場合の監督の在り方等の観点を踏まえつつ、御議論を頂けますと幸いです。 ○山野目部会長 御案内を差し上げた点について御意見を承ります。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。2点ございます。   まず、9ページの任意後見人と成年後見人等との併存の可否及び、併存するとした場合の併存の在り方についてですが、任意後見制度が本人の自己決定を尊重した制度であることから、法定後見に優先するとの考え方を維持した上で、法定後見制度との併存が可能となる制度とすることに賛同いたします。併存を認めることによって、例えば任意後見契約で定めた代理権などが不足し、代理権などを追加する契約の締結ができないために法定後見を申し立てて任意後見を失効させざるを得なくなることや、将来的に必要となる代理権等が不足することを恐れて包括的な代理権を設定するという任意後見制度における問題点を改善することができるのではないかと考えています。   もう1点は、10ページの抵触の効果ですが、基本的には任意後見人が法定後見人に選ばれ、不足する代理権を追完するという運用がいいのではないかと考えておりますが、仮に特段の事情があって任意後見人と法定後見人とが別の人となる場合には、法定後見による代理権を付与するに際して、家庭裁判所において、任意後見の代理権とは抵触しないように法定後見人の代理権を付与する必要があると考えますし、後見制度全体の見直しの中で必要性が考慮される制度になるのであれば、あえて新たな規律を設けなくともそのような帰結になるものとも考えております。その上で、解釈上どうしても代理権の範囲が抵触したり重複したりする場合も考えられますが、やはりその場合には、本人の意思を尊重する観点から任意後見の代理権を優先させることが適当と考えております。 ○根本幹事 小澤委員もおっしゃられたところと少し重なるところもあるのですが、併存するということについては、この後申し上げる幾つかの懸念点がありますので、現場や実務が混乱しないようにするという意味で、併存を認める場面というのをまず限定的に考えるべきであろうと思っています。   部会資料の15ページの(2)にもありますけれども、任意後見において現行法上は代理権の追加付与が、新しい任意後見契約を結ばなければいけないということで、非常に困難であるというのは小澤委員の御指摘のとおりです。もっともそれを理由に併存を認めるということにはならないと思っていまして、それは、この15ページの(2)の記載にあるように、家庭裁判所による追加付与の審判というものを任意後見にも導入していくということができれば、何も法定後見と併存させる必要はないということになるのだろうと考えています。   その上で、いかなる場面で併存が必要になるのかといえば、それは任意後見人とは異なる別の者に何らか代理権行使をさせる必要性が出てきた場面ということになりますので、それは任意後見人とは別の人を追加したい場面ということになるのだろうと思います。人を追加するということになると、これは任意後見人と別の者が法定後見人として就任するということが前提になりますので、権限の重複の問題がかなりセンシティブに懸念点としては生じてくるということになりますし、その際に、不適切な任意後見人をきちんと排除するということへの配慮も十分に必要です。任意後見契約を必ず残すということありきではなくて、場合によっては現行法のように、任意後見契約を終了させて法定後見のみを開始させる場面というのも、任意後見人が不適切な場合には、排除する仕組みも同時に考えなければいけないのだろうと思います。   その上で、仮に併存を認めるという場合でも、その権限の分掌が明確に、対外的にも、若しくは任意後見人や法定後見人から見ても、明らかに分かるように権限を分掌させる必要があると思います。場合によっては法律上、法定後見と併存する場合には、法定後見の付与されている代理権の範囲では任意後見はその代理権を失うということをきちんと明記する必要があると思います。抵触しないようにする代理権をどのように法定後見開始の場面において付与するかは、結局裁判所の審判事項ということになるわけですので、裁判所が果たして権限が競合しないように、重複しないようにチェックできるのかというところへの配慮も必要だろうと思います。   あわせて、非常に難しい問題になってくると思っているのは報酬の点でして、任意後見契約の中で、元々予定されている代理権に基づいて報酬を契約で定めているということになった場合に、これは代理権の拡張の場面でも同じことが言えるのですが、代理権が減ったり増えたりしたということに伴って報酬が変わるのか、変わらないのか、若しくは法定後見を追加した場面において、法定後見における報酬と任意後見の元々契約で定められている報酬との関係性というところも、基礎報酬の部分において非常に問題になると思います。かつ付加報酬においても、契約で定めている報酬、任意後見における報酬を法定後見でそのまま踏襲するわけにはいかないと思いますが、法定後見の方が任意後見契約で定めている報酬よりも著しく低額になってしまうということは、併存する場合のアンバランスになってしまうと思いますので、考えるべきだと思います。   さらに、併存する場合に、任意後見人がそのまま任意後見契約を続けたいと思うのか、併存になるのであればいっそのこと全て法定後見でやってもらいたいと考える任意後見人もいるでしょうから、そうなると、任意後見人に任意後見契約を継続させるかどうかを判断する機会というのを改めて付与するべきではないかとも思っています。 ○野村幹事 併存について申し上げます。本人の意思決定をより尊重する方向への成年後見制度の見直しの観点からも、本人の判断能力があるときに本人の意思により行った任意後見契約について、可能な限り尊重すべきであるので、任意後見契約を締結している場合は、これを終了させずに、抵触、重複しない代理権の範囲で必要な法定後見との併存を認めて、課題の解決によって法定後見を取り消すというような柔軟な制度設計の見直しを検討すべきと考えます。   併存のニーズとしては、今後は法改正によって法定後見制度が終われる制度になったときには、任意後見制度の利用の形態が増えることが予想されます。その場合に、スムーズに移行させるためには、任意後見との併設を認めた方が利便性があると考えられます。法定後見の利用を最小限に抑えるという観点からも、両制度の併存が認められるべきと考えます。ただし、任意後見契約の効力発生後においても、任意後見契約の代理権の拡張が可能となれば、法定後見との併用の可能性が少なくなると考えられます。任意後見人と成年後見人等の権限の競合、権限の調整が困難な場合が想定されることについては、権限の重複、これは文言上明らかに重複している場合のほか、文言上は重複しているのか明確でない場合も含みますが、その取扱いが不明瞭です。この懸念を解消できるようなよい案を現在のところ持ち合わせておりませんが、仮によい案が見付かったとしても、現状で任意後見受任者の7割以上を占めている非専門職には複雑で分かりにくいだけでなく、取引の相手方、これは典型例としては銀行だと思いますが、にとって、代理人の代理権の範囲が明確でありません。法定後見人に付与されている代理権と任意後見人に付与されている代理権を明瞭に区別できないとすると、実務上大きな支障が生じて、どの代理人との取引に応じてよいのかが分からないことになって、ひいては制度の利用が事実上広がらない、制限されてしまうという結果になりかねません。   併存する場合において、任意後見監督人と法定後見を監督する家庭裁判所の監督の在り方は異なりますが、法定後見は必要がなくなれば取り消される規定のため、法定後見人は家庭裁判所に後見事務を報告するとともに、任意後見監督人へも報告することが考えられます。事件によっては法定後見についても任意後見監督人が監督するなど、柔軟な監督の在り方も検討すべきと考えられます。 ○小出委員 今回の任意後見人と成年後見人の併存というところにつきましては、この後議論があります任意後見人を複数選任する場合のところでも、権限の重複という同じような議論があると思うのですけれども、こういった金融機関のところで懸念されるのは、権限の重複があって、例えば任意後見人、後見人間で意見の相違が発生すると、そういったことが少し懸念されるところかなと考えております。   例えば、任意後見人が実行した取引を後見人の方が復元するように求めてくるといったような事例が発生した場合は、本当に本人のために適切な取引がなされているのかということに懸念が生じるほか、取引の相手方の立場からしますと、こういったトラブルを避けて、任意後見人、後見人の双方の合意の下でしか取引に応じないといったようなことも考えられるということなのですけれども、その場合も取引ができないことで御本人様が困ることはないか、取引権限を有することが代理権目録から明らかな方からの要請を拒絶することができるのか、そもそも複数の権限者の権限を適切に管理できるのかといった、そういった問題に直面するのかなというところでございます。   こういった問題を踏まえますと、取引の相手方の立場としては、権限者については可能な限り一本化された方がよく、任意後見人と成年後見人との権限の重複でしたり、任意後見人の複数選任に当たっては、この辺りのところは慎重に御検討をお願いしたいと考えております。また、仮に権限重複がないことを前提に併存を認める場合には、今まで出てきた議論のとおりですけれども、実質的に権限の重複が発生しないか、付与する権限の分掌が明確に分かれているかということを実質的に御審査いただくようお願いしたいと考えております。   例え話にはなりますけれども、銀行取引を任意後見人、証券取引を後見人に権限付与したとしますということなのですけれども、一見すると権限重複がないというふうに見えますけれども、銀行で販売する国債や投資信託、銀行でもこういったものを取り扱っておりますので、どちらの方が権限を有するのか現場において判断が難しいということも想定されますので、こういった混乱が発生しないように考慮をお願いしたいというところでございます。   最後に、こちらは今後の議論になってしまいまして、先走って恐縮なのですけれども、権限追加の方法としては、任意後見人の代理権の段階的発効というところもあるのですけれども、取引の相手方の立場としては、こういったことを認めていく場合には、外形的に確認できるように御検討をお願いしたいと考えております。 ○山城幹事 2点について御発言申し上げたいと思います。   1点目は、ここで問題とされている事柄の位置付けですけれども、法定後見の理念として補充性や必要性を問題とするとしますと、ここで言われていることはその一つの表れにすぎないのではないかと思います。つまり、補充性という考え方によると、法定後見のほかに利用可能な仕組みがあり、それが任意後見であるときは、任意後見を法定後見に優先させるという考慮が働くだろうと思います。もう少し申しますと、任意後見に限らず、一般法上の委任契約との関係でも同じような考慮が働く余地はあるのではないかとも感じられます。ただ、仮にそうであるとしましても、任意後見契約の優先性を確認的に明らかにしておく意味はあるかと思いますので、この問題を取り上げて議論すること自体が不適切だというわけではないと理解しております。   2点目は、併存ないしは権限の重複の問題についてです。まず、権限が併存するということと重複するということは、区別して議論されているのではないかと理解しております。つまり、法定後見と任意後見とが文字どおり併存する場合があり、その中にさらに権限が重複するときと、重複せずに併存するときとがあると整理されていたのではないかと感じます。その上で、仮に併存を認めるとしても、権限の重複は避けるべきであるというのが、これまでの議論の基調にある考え方ではないかと理解いたしました。   しかし、民法653条3号との関係で、委任契約は委任者について成年後見が開始されても当然に終了するわけではありませんので、一般法上の委任契約に関しては、その権限が法定後見との関係で重複することもあり得るのだと理解しております。そうだといたしますと、任意後見契約が委任契約であるという一般論からすれば、任意後見についても権限が重複することはあってよいということにならないかと思います。   つまり、任意後見契約法10条3項は、法定後見が開始された場合における任意後見契約の終了について定めていますけれども、これは、事柄の性質からいって当然の帰結を定めたものではなく、任意後見と法定後見とが等質のことを規律しているという前提に立って、両者の重複を避けるために任意後見を終了させるという特別な調整を規定したものではないかと感じます。お求めになられている事柄に対する答えになっていないかもしれないですけれども、権限の重複が生じること自体は必ずしも現行法の想定していない事態ではないように感じましたので、発言をさせていただきました。 ○佐久間委員 まず、任意後見人と成年後見人等との併存に関してですけれども、議論するときに、本人の意思の尊重を重視するということからいたしますと、本人に意思能力があるという状況で、かつ任意後見が開始しているという状況で、法定後見を開始する必要があるのかというか、そもそもそれを認めるのかということを考えるべきではないかと思います。と申しますのは、皆さん御存じのとおり、任意後見契約というのは即時発効型も認められておりますから、意思能力さえあれば任意後見契約を締結し、それを即時発効させるということができるわけです。そうだとすると、一旦既に任意後見が開始して効力が生じていたといたしましても、権限拡張の必要があるのならば、新たな任意後見契約を結ぶことは、今のところですけれども、排除されていないわけです。これが手続的には非常に面倒くさいので、任意後見契約の変更みたいなものを手続的に設けて拡張を認めるというような方策が、どのぐらい新たな契約を結ばせるのと比べて負担が軽くなるか分かりませんけれども、あってもいいのではないか。それで対応できる限りは対応し、つまりは意思能力、事理弁識能力が欠ける状況でないという人は、任意後見契約があるのだったら、それ一本で行ってくださいという態度もあり得るのではないかと思っています。ただ、別の人に頼みたいときはまた話が変わってきて、もう一つ別の契約をしてねということになるのかもしれませんけれども、そのようなことが考えられるのではないかと思います。   ただ、そのような考え方を採ったとしても、既に事理弁識能力を欠く常況にある方、今でいう後見の類型に移行せざるを得ないような方については、この考え方は採れません。そのときに併存を認めるかというと、権限の重複さえ避けられるならば認めても特段問題ないと思いますし、権限の重複に関しましても、今、山城幹事がおっしゃったことと基本的には考え方は同じで、重複したら本当に駄目なのかということを考えていいのではないかと思います。   小出委員がおっしゃったのがどういう意味なのかというのがはっきり分からなかったのですけれども、権限の重複があったとしても、民法の原則では複数の人が権限を持っているときは単独で権限行使できるのであって、重複して、あるいは権限が抵触して困るというのは内部的な問題です。法的には共同代理の縛りを掛けない限りは、1人の代理人、あるいは意思能力があるのだったら本人がやったって一緒なのですけれども、先にある行為が行われれば、それは法的に権限内だったら有効だということになる。それで割り切るならば、法的には問題はないと思います。ただ、先ほど小出委員がどうおっしゃったのかが分からないのだけれどもと申し上げたのは、法的にはそうであっても、実務上それほど割り切った対応はなかなか難しいということはあるのかなと思いますので、そこまで慮るかどうかかなと考えております。 ○山野目部会長 不動産を所有している人が、同じ不動産について甲という代理人を選任して売却の権限を与えると告げ、別途、また、乙という者を代理人に選任して同じ不動産の売却の権限を与えるとし、それぞれが売買契約をすると二重譲渡になりますと答えてくれる法科大学院の学生ばかりではなくて、そんなことはできないと思いますとかという誤解が時にあって困惑しますが、それは民法の普通の理屈では特に不思議な事態ではありません、ということを今、佐久間委員に教えていただきました。   小出委員が取引の相手方から見て困惑する場面があるとおっしゃった点は、法律理論的なことか、もう少し実務運用の観点からのことであるかというお話もありました。小出委員に無理に発言をお願いしませんけれども、何かお話があれば承ります。取引の実務の観点からであろうなというふうにお話は聞こえましたけれども、小出委員におかれて何か補足の御発言があれば、すぐにでなくても承ります。 ○青木委員 まず、併存に関しての一つの大きなメリットといいますか、それは、いわゆる同意権、取消権につきましては御本人が任意後見契約に基づいて設定ができませんので、もし生活状況の中でそういう必要性が発生した場合には、それについて併存を認めることだと思います。現行制度では、先ほど御説明がありましたように、保佐、補助で同意権・取消権が付いてしまうと任意後見が取消しですので、そういう意味で言うと、任意後見人に付与した代理権の範囲でできるだけのことをしていただきつつ、同意権・取消権が必要な場面で併存させるというのは大きな本人にとってのメリットの一つと考えられると思われます。もちろん、法定後見の方で、同意権・取消権を廃止せずに何らかの形で引き続き残すという前提の場合になりますけれども。   それから、任意後見契約で権限を付与していなかったものについて、任意後見での追加的付与ということもありますけれども、追加的付与よりは、法定後見に基づく代理権付与の方が適切だという場合もケースによってはあると思いますが、そこは、先ほど山城幹事からあったように、必要性、補充性のところを十分に検討して、その中でやはり法定後見による付与がいいという判断があった場合に付けるということですから、ここでは基本的に権限の重複は生じないでしょうから、それによって適切な権限をそれぞれに行使していただくということが可能になると思います。基本はその二つを中心に運用することで、併存による弊害の懸念はないのではないかと思います。   ただ、おっしゃるとおり、権限が実際には重複してしまうものがあるとか、あるいはあえて重複してでも法定後見を付けたい場合というのも全くないことはないと思います。一つ想定されるのは、任意後見人が高齢になってきてしまって、今後任意後見でずっと最後まで本人を支援することが難しいというときに、法定後見の申立てをして重複で付けて、次第にリレーをしていきたいという事案というのが想定されます。その場合には、同じ権限についてあえて重複をさせて一緒に権限をしていくということもあると思いまして、それを否定するところまではする必要はなくて、ここは必要性・補充性の検討の中で確認をできればいいのではないかと思います。   現行でも、法定後見においては、複数後見をしまして権限を分掌しないという事案がたくさんあります。その場合には、親族と弁護士が一緒になるというのもあれば、異なった専門職同士や法人との場合もありますが、権限を分掌する方が金融機関にとっては明瞭でありますが、権限分掌しないというのもありまして、その場合でも、後見人間では権限行使の在り方については十分に協議をしますし、問題があれば裁判所に監督の一環として相談をするということをしています。銀行との関係では、どちらか1人を後見人として登録してくださいということになりますので、どちらか1人だけを登録して、基本的には登録をした後見人との間で銀行が相対すれば銀行の責任はクリアされるように実務的に運用されていますので、今後、権限が重複したときにも、そういった実務運用をすれば、金融機関としての戸惑いも解消されるのではないかと思っています。任意後見人と法定後見人が併存する場合には、任意後見監督人が付いているとすれば、その監督人が調整役に当たるということも十分に考えられますので、できるだけ権限は重複しないに越したことはありませんが、仮に重複するときにも調整の機能は期待できるのではないかと思っています。   現在、未成年者について、未成年の障害児に成年後見人が付く場合がありまして、そのときには親権との重複ということがあって、若干そこで調整が難しくなる場合があるのですけれども、そういったときにも家庭裁判所の助言を受けながら調整をするということをしておるというのが実情でもあります。 ○小出委員 先ほど離席中のところで、弊職の発言ところで、権限の併存について法律的な懸念なのか、それとも実務上の懸念なのかというところで御質問いただいたとお聞きしておりまして、こちらのお答えということですけれども、実務上の懸念ということでございまして、当然、法律的には両方の権限者が立っていれば、淡々と両権限者と取引すればいいと思うのですけれども、実務上は混乱が発生するだろうということを懸念した発言でございます。 ○山野目部会長 承りました。 ○根本幹事 先ほど青木委員から、法定後見における、例えば親族後見人と専門職後見人の権限競合があるというお話がありましたけれども、多くの場合、そのようなときはある程度、法定後見人同士の関係性が良好であるということが前提なのだろうとは思っています。この併存が認められる場合というのは、先ほど佐久間委員からもありましたし、先ほど私の方でも申し上げましたけれども、権限を足し引きしたい場合は、それは変更の許可なり、若しくは代理権の追加付与ということでいいと思いますので、そうなると異なる人を付けるという場面が想定され、その異なる人を付けるということについて任意後見人は、拡張では駄目なのかと、なぜ別の人を付けるのだと不満を持つこともあります。任意後見人側が追加で選任された法定後見人に対して、好意的である場合もあるかもしれませんけれども、必ずしも好意的ではない場面、本来なら拡張でいいはずなのになぜ別の人を付けるのだという場面は十分に想定されるので、そうなると任意後見人と法定後見人との間の調整が難しい場面もあるように思っています。権限競合を安易に認めるということは、非常に実務に混乱を引き起こすのではないかということを懸念しています。   もう一つは、そういう場合に任意後見監督人がそのままスライドして法定後見人も兼任するような形という運用も含めた工夫が認められれば、この権限の競合の問題というのは少し解決しやすくなるのかなという気もいたしますけれども、それでもやはり基本的に権限競合というのは認めないことを前提とした法制にするべきではないかと考えております。民法上の原則はもちろん承知をしている上で、ということになります。 ○山野目部会長 小出委員がおっしゃった証券取引と預貯金の取引の関係も興味ある問題であると感じますし、広く見渡しますと今、根本幹事がおっしゃったように、今まで任意後見人は自分に任せてくれていると思って張り切ってやっているところに、法定後見人が任命されると気分を害するというか、ライバル意識を持つというか、銀行取引以外でもいろいろな場面があると思います。アパートの賃貸借のことは任意後見人、君に任せたよと言っているときに、実はそのアパートは本人が施設に入るための資金を得るのに売却することになりました、売却の権限は法定後見人に与えますとなったときに、そのアパートの入居者の立退き料の交渉は誰がしますかといったら、任意後見人は賃貸借のことだから自分がするぞといって張り切ってするでしょうし、売却の準備だから法定後見人のほうからこちらでさせよといってきて、ぶつかり、それで、交渉の相手になる者は誰を相手にすればいいですか、というふうな事態が起こりそうであろうという心配は抱きます。こういう心配をし始めると切りがないという側面もあります。 ○星野委員 少し平たい話になって恐縮なのですけれども、財産管理上で権限が重なって意見が食い違うということの話に今なっているように思っているのですけれども、そもそもその財産をどのように活用していくかというところは身上保護ともかなり深い関わりがある中で、もしそのように、意見が食い違うという場面においては、第二期計画の中でも、後見人の仕事というのは単体で行うのではなく、支援者と一緒にチームを組みながら、本人にとって何が求められているかという本人の意思を尊重しながらやっていくということが求められていると考えられます。チームによる支援が継続していくことが本人にとっての利益になっているという考え方のもとでは、今の議論のような権限が重なり合って、どちらがそれを行使するかというところで問題になるケースはないとは言い切れないまでも、もしそういうことが課題になっているのであれば、それはそこで本人を含めたチームにおいてしっかり検討されるべき問題となりますので、対立構造がずっと継続していくというのが何となくイメージしにくい感じを受けています。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   久保委員と花俣委員に、無理に御発言はお願いしません。お聞きになっておられるように、かなり技術的なことを議論しております。何か感想のようなことがあったら承ろうと考えます。その前に委員、幹事から引き続き御意見を伺いますけれども、いかがでしょうか。よろしいですか。   では、久保委員、いかがでしょうか。 ○久保委員 今、皆さんのお話を聞かせていただいて、任意後見と法定後見、任意後見を利用していて法定後見に移行していくというときに、併存していても大丈夫なのではないかというようなお話もあったですし、権限もどちらかというのがはっきりしていたらいいのかな、みたいなことも少し印象として持ちましたので、割と、親が後見人になっているときに、親に任意後見を付けるのかな、よく分からないですけれども、その場合、親に任意後見を付けたら親のことをやるのですね、障害のある本人のことはやってくれないですよね。少し違うなと思っているのですけれども、本人のことを親に代わってやってくれる方が、親が後見人になっていても、だんだん認知が入ってきたりとか、そういうことも可能性がありますので、ダブルの時期があって、うまく移行していくというか、そういうことがあればいいのになと思っていたのです。その時期だけ報酬がダブルで発生するというぐらいだったら、まだ皆さんは納得できるのかなというふうなことは思うのですけれども、本人の権利を守るためにですね。そんなことを、聞きながら、うまくそういう仕組みが使えたら、ピンポイントで使ったり、出たり入ったりしたり、親がやっていることを専門職にだんだん替わっていっていただくとかいうときも、何か少しうまくいく仕組みがあったら、使いやすいものになるのかなと思って聞かせていただきました。感想です。 ○山野目部会長 御感想を頂いてありがとうございます。   花俣委員、お願いします。 ○花俣委員 そもそもこの任意後見制度と法定後見制度の関係という今の論点が、非常に複雑で分かりづらいなという印象を持っています。任意後見契約を結んだ相手、つまり、例えば親族なのか、あるいは全く赤の他人、第三者なのか、あるいは専門職なのかという、それぞれどういう方と契約を結んでいるかによって考えるべきことというのは変わってくるのかなと思っています。それから、併存に関しては、例えば現行の法定後見の制度ではなくて、元々の改正の議論の中にあるスポット的な利用ということであれば、必要に応じてその併存ができるということも一つ、あってもいいのかなとは思いますが、決定的に何がよくて何が悪いという判断を、今の時点では全く私には理解が届いていませんということです。 ○山野目部会長 おっしゃるとおり、難しい議論をしています。議論をしている法律家も困惑しています。我が国の法律制度史上初めての事態を今、想定して議論しているところですから、引き続きお付き合いをくださるようにお願いします。   ほかに御意見はありませんか。   ここまでのところで4点ほど御案内を差し上げることにいたします。   1番目は、山城幹事に明解に整理していただいたように、併存を認めるかという論点と重複をどう考えるかという論点は別な論点であります。併存の方に関して申し上げますと、本日の御議論を伺う限り、現行法と同じように完全に二つを切り分ける仕組みを今後も堅持すべきであるとおっしゃった御意見はなかったようにお見受けします。この意見分布の認識を踏まえて、次回以降の検討をお願いします。   2点目でありますけれども、御議論がなかった点を申し上げますけれども、重複が生ずるおそれを後見登記の仕組みで阻止しようという御発言はありませんでした。これは、余り登記のことに関心が向かなかったか、元々登記ですることは無理だよねというお考えで御発言にならなかったかよく分かりませんが、任意後見人がある権限を与えられて任意後見の登記がされているところに、もしかしたら重複があるかもしれないという疑義が生ずる法定後見の後見登記の申請又は嘱託があったときに、登記官が一所懸命考えて却下するという仕方でコントロールをすればよいという観点の御発言はありませんでした。恐らく、見通しとして無理であるとみられます。そこで登記官にそういう負荷を掛けることが困難でしょうから、おのずと、これは家庭裁判所において代理権目録を調製するときに留意してくださいというお話になると思われますが、しかしそうはいっても、家庭裁判所があらゆる事態を想定して事細かに法定後見の方の後見開始審判の代理権目録を調製するということは不可能でございますから、そこにも留意する御議論がされたと感じます。   それから、3点目ですけれども、そういうことになってきますと、従来の任意後見人の立場を活かしながら問題を考えていく余地がないかという発想が一つの候補として出てまいります。佐久間委員からは、任意後見契約の変更の仕組みというものが考えられないかというヒントを頂きました。それとともに根本幹事からは2回にわたる御発言で、それはあり得るけれども、しかし任意後見人とは別な人を選ぶことがふさわしい事態になっているからこそ、この併存の話が生じているのであって、事態の特性、実質を見極めて議論を進める必要があるという御注意も頂いたところであります。これが3点目です。   4点目でありますけれども、そういうことですから、理論的に重複があっておかしくないですし、重複は避けられないのですが、可能な限り実務上の工夫ができないかという観点から、幾つかのヒントを本日の段階においても頂きました。野村幹事からは、法定後見が後発的に開始されたときに、成年後見監督人を必置にした上で、任意後見監督人に併任させる、同じ人がその任に付くというアイデアもあり得るという一つのヒントをくださいました。恐らく両方を兼ねる人がコントロールをして、ちょうど2機の飛行機が飛んでいるときの1個の管制塔のような役割をして調整をし、この監督人の指示に従わないで前のめりに権限行使をしようとする者の職務遂行は善管注意義務違反になるという構成が想定されていると思います。また、根本幹事からは、それと似ているようなアイデアかもしれませんが、任意後見監督人を務めてきた人が法定後見人になるということもあり得るという組合せの示唆も頂いたところであります。これらはいずれも伺っていて、それぞれが一つのヒントであると感じますから、次回に御審議をお願いする機会に向けて議事を整理したいと考えます。   ここまでの御議論を頂きまして、ありがとうございました。   本日段階でもう一つさせていただきたく、委員、幹事においてはお疲れのところかもしれませんけれども、よろしくお願いします。部会資料5の「第4 任意後見制度に関するその他の検討」のところに入り、差し当たり「1 任意後見における監督の開始の要件」のところについてお諮りをします。これでは少し分かりにくいのですよね、1番の任意後見における監督の開始の要件の議論ですが、中味の実質は、どんな人が任意後見制度を使えるようにしますかという議論になってまいりますから、ここの議論をお願いします。事務当局からこの部分について資料の説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料5、11ページからの第4の「1 任意後見における監督の開始の要件」について御説明いたします。   現行法は、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときと規定しており、重度の身体障害者は任意後見契約を締結することは可能ですが、重度の身体障害であることは任意後見人に対する監督を開始する原因とされておりません。任意後見は契約であることから、重度の身体障害によって意思疎通が著しく困難である場合にも利用できる制度とする余地があるなどの指摘を踏まえて、重度の身体障害者等が任意後見制度を利用することについて、具体的にどのようなニーズがあるかに関して御知見を頂き、それに基づいて御議論を頂ければと考えております。   なお、任意後見における監督の開始の要件として任意後見の必要性を考慮することについてもこの部分で御議論いただくか、第4の3の任意後見人の代理権の段階的発効等の部分において御議論いただければと考えております。   説明は以上です。 ○山野目部会長 説明を差し上げた点について委員、幹事の御意見を伺います。いかがでしょうか。 ○小澤委員 ありがとうございます。任意後見における監督の開始要件を重度の身体障害にまで拡大するには、慎重な検討が必要だと考えています。部会資料5の第1で、任意後見受任者に対して任意後見監督人の選任申立てを義務付けることについての検討項目がございましたが、重度の身体障害を任意後見の開始要件とする制度とするのであれば、重度の身体障害のある利用者については、自身の判断能力や意思能力には問題がなく、自身で委任した第三者を監督することもでき、本人も直接監督する意向があるにもかかわらず、重度の身体障害となったことで任意後見監督人の選任申立てをして、任意後見を開始しなければならなくなってしまうといった場面も想定されてしまうのではないかと考えています。   ただ、重度の身体障害がある方の中には、判断能力が不十分という状況ではなくとも、実際には自分で第三者を監督することが困難であるということも考えられないわけではないと思いますので、そのような方に対して、判断能力が不十分な状況ではないことを理由に一律に制度利用を否定するのは、重度の身体障害のある方にとって酷な制度となってしまうとも考えられますので、重度の身体障害があることに加えて、自ら監督することができないときといった一定程度限定した要件を設けた上で、任意後見制度を利用できるようにすることも考えられるのではないかという意見を持っています。 ○野村幹事 重度の身体障害者に任意後見を利用することの可否についてですけれども、基本的には当事者が法制化に反対しておらず、本人にとっての選択肢が増えるということであれば、重度の身体障害の人を制度に取り込むについて反対する理由はないと考えています。その際に検討すべき要件なのですけれども、ここはまだ少し議論が必要なところだとは感じているのですけれども、当事者の同意によって発効時期を選択することができるようにするということも考え得るのではないかと思われます。すなわち、判断能力を喪失してから代理権を発生させるか、あるいは任意に設定した時期から代理権を発生させるか、当事者が選択できるような制度も考え得るのではないかということです。 ○根本幹事 そもそも、先ほど段階的発効のところで開始要件をという御案内もありましたが、段階的発効するかどうは、また別の観点からの議論も必要だと思っていますので、任意後見開始そのものの要件は、ここできちんと一度議論をする必要があると思っています。   その前提でということになりますけれども、法定後見の開始要件が仮に包括的な類型ではなくて、個別の法律行為等との関係で判断能力の個別の低下を見ていくということになるのだとすれば、任意後見においても、やはりそのような形で発効を望む範囲での当該代理権についての判断能力の低下は見ていかなければいけないのではないかと思っています。   他方で、法定後見にありました必要性のような議論というのは、基本的に任意後見契約を御本人が望んで締結をされているという前提になりますので、御本人の同意があって、かつ、先ほど申し上げた発効を望む範囲での判断能力の低下の二つが大きな要件になるのではないかと思います。もっとも、御本人が既に同意することが難しい状況になっている場合も想定されますので、その場合には必要性という要件をそこでは考慮するということになるのだろうと思います。ただ、そのときの必要性の考慮というのは、法定後見における強い必要性なり高度の必要性までの要求は必要なく、通常の必要性を要件とすることはあると思いますし、その際には法定後見で議論されていたような保護の必要性や事務の必要性の中身を見ていくことになるのではないかと考えています。 ○星野委員 発言がうまく趣旨が伝わるか不安がありながら発言します。重度の身体障害という捉え方の中に、いわゆる判断能力の障害ではない身体的な障害によるというところの中に、コミュニケーションにおける課題や、あるいは、御本人の意思はあるけれどもこちら側が意思を酌み取ることが難しい状況にあるという方がいらっしゃると思っています。この任意後見については、任意代理とは違うということが先ほどから出てきているように、自らが監督ができない状況というのは様々な状態があると考え、社会福祉士会の中で前に議論したときには、障害の種別によって分類するのではなく、自ら監督をすることが難しく、そしてまた、重度の身体障害の中には、自身の中の障害だけではなく、社会的な障壁によって選択肢が少なくなっている場合、自ら選ぶことが難しい場合ということがありますので、そのような第三者の監督が必要になっているという状況であれば、これは発効するということを認める必要があるのではないかと、そういった法律に変えていく必要があるのではないかと思っております。 ○佐久間委員 重度の身体障害者等が任意後見制度を利用することについては、まず当事者のニーズが本当にあることが、疑っているわけではありませんけれども、このような制度を検討し、設けることにつなげる大前提だと思います。   そのニーズがあることを前提といたしまして、重度の身体障害以外にあるのかどうか知りませんけれども、前にこの問題が取り上げられたときに伺った限りでは、判断能力自体に問題はないけれども意思疎通に困難があって、自分の意思を適切に表現できない可能性があり、望んだ法律関係の形成が困難になる、そういうことがあるのだということでしたから、正にそれを要件にするということになるのではないかと思いました。そうであったとして、具体的には任意代理では何が困るかというと、意思疎通が難しいから任意代理人を選ぶことにも困難が伴うし、その後の監督も、内心では、こいつのやっていることを何だと思っていても、それがうまく表現できない、伝えられないということだから、そこを補いましょうということであるので、監督困難もやはりメルクマールにはなってくる。   その上で、この場合には飽くまで判断能力自体はある、その人の判断したことをきちんと引き出せばいいだけだということが前提となっている以上は、制度の発効は本人の意思にのみ基づいてすべきであると私は思います。周りの人、親族や利害関係人等が制度を発効させてくれと請求した場合には本人の同意を要するとするのではなく、ここは区別して、本人の請求によってのみ決めるということが、私は今の段階では望ましいのではないかと思っております。   ただ、かつて検討されたときに差別や偏見を助長するおそれがないかということが懸念されたという指摘が部会資料にあります。理念的にはインクルージョンで、そういうことはないようにするのですというのは簡単だと思うのですけれども、現実社会でこのような制度を設けたときに本当にその懸念された事態が起こらないのかということは、当事者のニーズとともに慎重に見極める必要があるかと思っています。 ○山野目部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   恐らく法制的にといいますか、あるいは従来の民法学の概念整理を踏まえて言いますと、本人による監督というよりは、本人が監督するということはおかしいですから、委任契約の通常の概念の使用であれば、委任者がする指図ですね、委任契約の締結も含まれるかもしれないけれども、更に委任契約が始まった後の委任者による指図が、意思疎通における社会的な障壁などによって著しく困難であるという局面において、任意後見の制度を用いることができるようにすべきではないかという問題について今、委員、幹事からたくさんの御議論を頂きました。星野委員におっしゃっていただいたように、今のような観点から始まっている議論ですから、恐らく制度としてこれを受容する際にも、何か医学的な身体障害の種類を列挙して掲げるというよりは、むしろ指図が意思疎通の重大な困難によって妨げられているような事態は、というふうに、もう少し社会的な障壁の観点からそれを表現していくということになるであろうと想像します。現在の民法の法制では、そういう重度の身体障害がきっかけで社会的な意思疎通ができない局面については、遺言書を作成する場合や保証意思宣明公正証書を作成する場面については法制上の手当てがありますが、それ以外の局面については、本人が判断ができる限りは、その判断の内容の表現の段階について全く民事法制上の手当てがされていないという状況であり、そこの隙間をどうするかということについて今、御議論いただいていると整理することができます。そういう性質のものですから、佐久間委員におっしゃっていただいたように、本人の意思にかかわらず、あるいはそれに反する仕方で第三者が主導して開始するという姿はおかしいのでありまして、本人の意思をしっかり確認した上で始まったものについて、本人の指図に困難がある事態をどういうふうにしたら打開する制度にするかという点の議論であったと感じます。その方向で考えてみようという多くの委員、幹事の御発言があったと本日段階では整理することが考えられますけれども、ほかに御意見があれば承ります。 ○河村委員 本日ずっと非常にテクニカルな御議論が続いていて、今のテーマになるところまでは、意見を申し上げることが難しかったのですけれども、最後のところの重度の身体障害の方を含める、使えるようにするかということに関して意見を申し上げます。前回の一連のヒアリングなどの中で言われていた障害者権利委員会の勧告など、人権の見地から見たときに、伝えるのが難しいとか受け取るのが難しいというよりも、それは受け取る技術の問題といえると思うので、判断力があるのに身体障害のために伝えるのが難しい場合は、判断能力に支障がある場合とは性格が全く違うサポートのように思えます。重度の身体障害の場合はこういうふうにすべきという何か新たなルールができるなら別ですけれども、同じルールの下に、判断能力に問題があるといわれる方と、専ら身体の能力の問題で何かが伝えられないという人を同じ仕組みの中でやるのには大変違和感があるということだけ申し上げたいと思います。つまり、いかに読み取るかということに全力を傾けなければいけない場面だと思いますので、何というのでしょう、契約がうまくいくようにとかスムーズに行くようにという便宜的な視点だけではなくて、今はそういう技術が不十分かもしれませんが、いかにそういう方の意思を読み取るかということが強く求められる場面だと思います。従って、重度の身体障害者の方のことは極めて慎重にすべきだと思います。ニーズがあるのであれば、何かサポートは必要だと思いますが、同じ仕組みではないのではないかという気がいたします。 ○山野目部会長 御意見を頂きました。ありがとうございます。 ○久保野委員 ありがとうございます。私もおまとめのお話との関係で、慎重に考えてよいのではないかという意見を持っていましたので、手を挙げたところでしたが、今、河村委員からも慎重にという意見が出ましたので、大きな方向としては重なります。   それで、ニーズが何かということについて精査が必要だというのも、先ほど出た御意見と同じ意見を持っていますし、また、今日何回も出てきたとおり、通常の委任契約と任意後見との違いというものをどこに見いだすのかという点と関わって、そのニーズといったものが任意後見でしか対応できないものなのかというところの検討が慎重になされるべきなのだろうと思います。   どのような使い方でどういう場面を想定するのかというところを、私自身は少しまた混乱しておりまして、つまり、この資料の中で監督の開始の要件に関する規律という題名になっているところとの関係で言いますと、任意後見契約を行うときには身体上の障害はなかった方が、途中でそのような障害を負った場合ということもあり得るのだと思いますけれども、元々当事者のニーズといったようなときに、当事者がよろしいと言っているのであればよろしいのではないかというようなお話をしているときには、誤解かもしれませんが、重度の身体障害を持った当事者の方々がそれを使いたいというニーズがあるという発想も入っているようにも思われます。そうだとしますと、そもそもの任意後見契約をどのように結ぶことが考えられているのかというところも少し考えながら検討していくということになるのかなと思いました。 ○山野目部会長 部会資料5の第4の1のところが任意後見における監督の開始の要件という仕方で問題提起をし、実質において、お話しいただいたように任意後見契約の制度を使える者の範囲という形で問題提起を差し上げましたから、多くの委員、幹事において、重度の身体障害の方の疎通の困難ということも射程に含める制度にすることがあり得るのではないかという御意見をおっしゃってくださいました。一つ一つそういう方向からおっしゃっていただいた御議論は根拠のあることであると聞こえます。   それと同時に、今、河村委員と久保野委員におっしゃっていただいたように、部会資料のこういうふうな問題提起とは異なる観点というかアプローチとして、河村委員のお言葉でいうと読み取るための仕組みですね、それを任意後見制度の適用要件という、このアングルでだけ議論するのではなくて、もう少し汎用性のある普遍的な制度として、民事法制の中にルールとして考案することができないかという課題の検討をしてみてもよいかもしれません。今のお二人の委員のお話は、そういうふうな全く別個のアプローチということも今後の調査審議の進行において顧みてほしいという御意見、御要望だったというふうに聞こえますから、これも改めて議事を整理する際に受け止めて、考えを深めてまいりたいと思います。両委員におかれては誠にありがとうございました。   第4の1のところの御議論を頂きました。 ○佐久間委員 すみません、今の最後のおまとめのところに関係してなのですけれども、前回この話が出たときに、意思疎通の困難、意思は形成されている、疎通の困難なのであったとしたら、それは使者を認めるようなものなのではないのかと私は申し上げました。今も理屈はそうなのではないかと思っているのですけれども、使者と呼ぶかどうかはともかく、とにかく本人の意思はこうですと伝える、その補助だということで理屈の上では必要十分なのではないかと思うのですけれども、その場合は、その本人の意思が作られた意思であるということを恐れるというか、心配する必要があるのではないかと。そうだとすると、作られた意思ではなく、権限を与えてその人の判断、つまり補助者の判断で代理させる方がいい、そこで任意後見でいいのではないかと思ったことから、前回、使うとしたら任意後見なのではないでしょうかというふうなことを申し上げました。   今の、任意後見は違和感があるとおっしゃるのは、正しくそのとおりだと思うのです、飛躍があるので。本人が決められるのに他人が決めますということだから、飛躍はあるのですけれども、本人の決めた意思の伝達だけサポートしますということで本当にうまくいくかというと、それは結構難しいのではないかという感覚を私は持っています。そもそも制度導入について慎重にすべきだという点は賛同するのですけれども、取りあえず今後の検討のために、意思疎通をスムーズにするための手段として考えるのは結構難しいのではないかということだけ申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 伝統的な民法の概念整理で整理すると使者になりますね。ただし、使者の概念を用いてこの局面を扱うことが、佐久間委員もおっしゃったように、極めて技巧的な、あるいは不自然な展開、帰結を招くものではないかという観点から、本日は任意後見制度の適用場面の拡大という方向での御議論もあったし、河村委員と久保野委員がおっしゃっていただいたような、それとは異なるアプローチの示唆もあったところでありまして、これらを見据えて次回以降の審議をお願いしてまいりたいと考えます。   ほかに御意見はありませんか。   よろしいですか。それでは、本日部会資料5の第4の1のところまで進みましたから、久保委員と花俣委員のお話は、また第4の議論がもう少し進んだところで、まとまった仕方でお声掛けを差し上げたいと考えます。   任意後見制度の議論に入りました。委員、幹事の皆さんに御努力を頂いて、どうしても任意後見に関する議論が薄くなりがちですけれども、本日まだ若干残っている部分があるとはいえ、かなり厚みのある調査審議をしていただいたものと考えます。法定後見制度が大きく改革されていく可能性が出てきていることをにらみながら、今後の任意後見制度が高齢者、障害者の暮らしにとってどういう意義を持って行くかということを考えていくという大局的な観点も忘れないようにしながら、次の機会の審議もお願いしたいと考えます。   あと一つ申し添えますと、任意後見の制度は実態を見ると、年齢、性別などにおいて多様な方が、それぞれの必要に応じて利用しているという実態もあることから、いろいろな利用の場面も視野に入れながら、今後の調査審議も進めていくことが望ましいのだろうとも思われます。   本日ここまで後見制度についての御議論を頂きまして、ありがとうございました。議事の整理としては、部会資料5の第4の1までお願いしたという扱いにし、次の機会に第4の2のところからのお話をお願いしたいと考えます。ただし、次の機会と申し上げているのは、間にヒアリングが入ったりしますから、いささかややこしいです。事務当局から次回以降の日程についての説明をお願いいたします。 ○波多野幹事 本日も長時間にわたりまして御審議いただきまして、ありがとうございました。次回の議事日程につきまして御説明いたします。   次回の日程は、令和6年10月8日火曜日、午後1時30分から午後5時30分まで、場所は法務省7階の共用会議室6、7を予定しております。次回は関係団体へのヒアリングの実施を予定しておりまして、市区町村、社会福祉協議会と、施設を運営されている方からお話をお聞きしたいと思っております。市区町村は横浜市と八尾市です。社会福祉協議会は世田谷区社会福祉協議会と伊賀市社会福祉協議会の2か所です。施設は社会福祉法人栄和会、こちらは認知症の方を対象にされているような施設と聞いております。もう1件が社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会、知的障害者の方の施設を運営されている方ということで、この6者の方からお話をお聞きするということを予定しております。   なお、部会長からも御説明がありましたが、本日積み残しとなった部会資料5の第4の2以降につきましては、その次の回、10月22日の部会で御審議をお願いしたいと思っております。 ○山野目部会長 ただいま波多野幹事から御案内を差し上げました次回以降の日程の点も含め、この部会の運営につきましてお尋ねや御意見があれば承ります。いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。ありがとうございます。   本日も長時間にわたる御審議を熱心になさっていただきまして、ありがとうございました。   これをもちまして法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第7回会議を散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-