改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第16回) 第1 日 時  令和6年11月22日(金)    自 午前10時00分                          至 午前11時51分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室(5階) 第3 議 題  取調べの録音・録画制度等         再審請求審における証拠開示等 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第16回会議を開催します。   皆様御多用中のところ、御出席くださり誠にありがとうございます。本日は前回会議に引き続き、第2段階の協議として、「取調べの録音・録画制度等」に関する意見交換を行った後、「再審請求審における証拠開示等」に関する意見交換を行うこととします。   まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をさせていただきます。   本日は、事務当局において作成したものとして、配布資料43をお配りしています。これは、再審請求審における証拠開示等に関する論点整理案です。配布資料の内容については、後ほどこのテーマについて御協議いただく際に御説明いたします。   それでは、議事に入ります。   前回会議におきましては、配布資料41の「論点整理案」の五つ目の論点であるその他のうち、取調べへの弁護人立会いについて御協議いただいたところですが、この点につきまして、更に御意見等ございますか。 ○中山構成員 前回、成瀬構成員から、捜査機関側が事件や場面を選定した上で、弁護人の立会いを試行するべきという御意見がございましたが、改めて取調べへの弁護人の立会いについて申し上げたいと思います。   まず、取調べへの弁護人の立会いは、立会人の取調べへの直接的な介入等によって、供述の確保、事件の真相解明が困難になるなど、取調べに与える影響は非常に大きく、取調べの意味合いや機能を変質させるものであると考えています。   また、警察の捜査・取調べは、適正な手続を経て事件の真相を解明し、適正な科刑に結び付けるという側面だけではなく、まだ被害に遭っていない国民を犯罪から守ることや、現に被害に遭っている被害者を早急に保護することなど、広く公共の安全と秩序の維持に当たるためのものという側面も有しています。   具体的には、例えば、ある事件で被疑者を取り調べるとき、その時点では事件の全容が明らかになっておらず、共犯被疑者の有無も明らかではないことが多くあります。そして、実はその事件が組織的犯罪や共犯事件であった場合、当該被疑者を確保できているからといっても、別の共犯者によって被害者の生命、身体、財産が継続的に危険にさらされる状況が続くところ、警察においては、当該確保した被疑者の取調べを通じて得られた供述によって、共犯者の存在を明らかにし、また、被害者の所在や新たな犯行計画を明らかにし、被害者の保護や新たな被害の発生の抑止を図っているところです。   また、今申し上げたような、新たな被害の抑止にとどまらず、取調べによって得られた供述を分析し、犯行の動機、経緯、手口等の情報を、他の客観証拠とも併せて犯行実態の分析を行い、それに基づき犯罪の態様に応じた防犯に資する情報を広く国民に発信し、国民の安全・安心の向上に寄与しているところです。   さらには、取調べで得られた情報から、一定の類型の犯罪が社会経済上の問題に根ざしている、あるいは社会経済上のシステムが犯行を容易にしているといったような実態を把握したとき、一例で申し上げますと、悪質ホストクラブ対策のように、悪質ホストクラブの被害に遭った女性が金銭的に窮して違法行為を敢行してしまったということが、取調べを契機として明らかになった場合など、警察としては関係機関とも連携しながら解決策を講じるようにしているところであり、新たな犯罪の被害者及び被疑者が生まれることを防いでいるところです。   今申し上げたように、警察の捜査における取調べは、公共の安全と秩序の維持に不可欠なものであることから、その在り方を変質させるのであれば、被疑者の利益のみならず国民全体の利益も俯瞰してバランスのとられた刑事政策の在り方を検討しなければならなくなると考えています。   前回、河津構成員は、弁護人の助言により黙秘権を行使することで供述が得られなくなっても、適正な取調べを妨げるものと評価されるべきではないという旨のことをおっしゃられました。もとより黙秘権の行使や弁護人の弁護活動を否定するつもりは全くございませんが、今申し上げたような警察における取調べの持つ意義を踏まえれば、被疑者の権利擁護の観点と国民の利益の観点のバランスを考えて、どのように調和を図っていくべきなのか、慎重に検討すべき問題であると考えています。   警察の取調べの意義が損なわれることになれば、国民の安全・安心の確保に関して責任を負う警察としては、被害者、国民の期待に応えることは到底できないと考えています。   加えて、共犯事件や暴力団等の組織的犯罪の場合には、過去にも弁護人が共犯被疑者等の依頼を受けて、被疑者や関係者に対して供述をしないように口止めを指示したという事例も複数例あると承知しており、弁護人が被疑者の弁護活動よりも共犯被疑者等の代理人として目付をする可能性も否定できないことにも留意する必要があると考えています。   警察としては、刑事司法制度の在り方を考える上で、仮に供述そのものへの依存度を下げるという方向に向かうのであれば、それに応じた制度とすること、また、公判で事実が明らかにされるためには、その前提として、捜査段階で適正な手続により十分な証拠が収集される必要があるところ、取調べにおける証拠収集が困難となることを踏まえて、新たな捜査手法の導入についても検討すべきではないかと考えられます。   具体的には、例えば過去の法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会において、被疑者が黙秘したことに不利益な推認を行うことについての制度化についても検討することが必要であるとの意見がなされたり、会話傍受について、共謀状況や範囲に関する証拠を収集する上で必要であり、理論的にも制度化は可能であるとの意見がなされたほか、おとり捜査や情報収集の際に、別人の身分を用いることを可能にするための法整備を行うべきであるとの指摘があったと承知をしていますが、これら以外の司法制度や捜査手法も含め、幅広に検討すべき問題であると考えます。   なお、前回、河津構成員は、社会のIT化に伴って、捜査機関は様々なデジタル証拠を収集できるようになっている、証拠収集手段が限定されているとの議論は今日では妥当しないという趣旨のことをおっしゃられました。   ただ、正におっしゃられるような社会のIT化を始めとする科学技術の進展は、犯罪者の側にも大きな武器を与えており、犯行形態・手口は加速度的に複雑・巧妙化しております。犯罪者は、合法・非合法にそれらのツール、例えばシグナル、テレグラムなどの匿名性の高いSNSを駆使しており、捜査が困難になっているということを、今、正に実感をしています。このように、犯罪者は捜査機関にその身を暴露しないようにしながら犯行を重ねており、犯罪を抑止し、新たな被害者を生まないためにも、社会の進展に伴い、時代に応じた捜査手法を不断に研磨していく必要があると考えています。   当方としては、前提として、今申し上げた考え方を持っているところであり、慎重に検討すべき問題であると認識していますが、その上で、前回の成瀬構成員の御提案に関して、捜査機関の側で事案や場面を選ぶという試行についての御提案でしたけれども、そのことに関して申し上げますと、どのような事案であれ、実際に弊害が生じて、初めてその弊害が捜査に与える影響が大きいのか小さいのかが分かるものであって、捜査機関側が事案を選定する、事前に事案を選定するということは困難を極めるものであると考えられます。   また、先ほども申し上げましたが、組織犯罪や共犯事件の中には、当初からそのことが明らかなケースだけとは限りません。当初は単独犯であると思われた犯罪であっても、後に共犯事件等であることが明らかになることがあります。そのような場合、取調べによって犯行の経緯や共謀の状況等の共犯関係を明らかにする必要は高く、取調べの持つ真相解明機能に期待するところは大きいところです。   そうした中、仮に単独犯で、当初から事実関係を認めているからといって、単純な事件だと思って弁護人の立会いを認めても、結局のところ、供述が得られなくなり、事案の実態を把握することが困難となってしまうおそれがあります。そのような事件の中には、共犯者が別の実行犯と共に新たな犯罪を実行する危険があり、警察としては、新たな被害者を生まないためにも、早期に事案の全容を解明しなければならないところです。   その上で、御提案のとおり、捜査機関側で事案を選ぶとした場合、捜査機関としては、取調べ、ひいては事案の真相解明に与える弊害はあってはならないと考えておりますので、先ほどは選定は困難を極めるとは申したものの、取調べが捜査に占める割合が低く、捜査への弊害が小さいと思われる事案を可能な限り抽出して、弁護人の立会いを試行することを検討することとなろうかと思います。   しかし、その結果得られたものが、捜査への弊害は少なかったというものばかりになれば、弁護人の立会いに関する弊害や有効性の検討には資さないのではないかとも思われますし、また、弊害が少なかったものばかりということになれば、弊害が少ないという結論ばかりが独り歩きしてしまうのではないかと懸念されるところです。   したがいまして、弁護人の立会いを試行するのであれば、様々な罪種、また、捜査機関側が捜査上の弊害が大きくなる可能性があると考える事件についても試行しなければ、検証は困難になるのではないかと考えます。   しかし、重ねて申し上げますが、捜査機関としては、犯罪被害者がいる事件を取り扱っている以上、試行の際に弊害が出てしまえば、国民や被害者が捜査機関に期待する事件の全容解明が困難となり、治安維持に責任を持つ者として被害者にも説明もできず、取り返しがつかないことになると考えております。   以上、申し上げましたとおり、弁護人の立会いは課題が山積しておりまして、試行を行うことも極めて困難であると考えております。   なお、現状でも、接見が十分に行われているものと認識をしておりまして、警察においては逮捕・勾留中の被疑者とその弁護人等との間の接見については、弁護人等から接見の申出があった場合には、できる限り早期に接見の機会を与えるよう配慮すべく指示をしているところであります。  ○佐藤構成員 ただいま、接見交通の話が出ましたので、その実情について確認をさせていただければと思います。   前回会議で、被疑者が黙秘権を行使した場合に取調べを続行できるかということについて議論がございましたが、弁護人依頼権の保障との関連で、取調べ中に被疑者から弁護人又は弁護人となろうとする者と接見したいという申出があった場合に実務上どのように対応されているのか、検察、警察の構成員の方にお伺いできればと思います。   接見指定の要件をめぐっては、弁護人等が接見を申し出た事案に関し、平成11年3月24日の最高裁判所の大法廷の判断を筆頭とする、累次の判例が存在しております。これに対して、被疑者から接見の申出があった場合の対応につきましては、最高検察庁から平成20年5月1日付けで依命通達が発出されており、それに基づいて対応されているものと認識しております。その運用について、ご教示いただければと思います。 ○宮崎構成員 検察においては、逮捕・勾留中の被疑者の取調べ中に、被疑者から弁護人と接見したい旨申出があった場合、当該申出があった旨を直ちに弁護人に連絡し、可能な限り早期に接見の機会を付与するなどといった運用を行っています。 ○佐藤構成員 重ねてのお尋ねで恐縮ですが、例えば、弁護人と相談してから供述するかどうか決めたいと被疑者が述べた場合、弁護人に連絡をされた後で、弁護人が到着するまでの間、取調べは続行されるのか、中断されるのかということについても、併せてご教示いただけるでしょうか。 ○宮崎構成員 先ほど申し上げたように、申出があった場合は直ちに弁護人に連絡するということになりますけれども、その上で、被疑者から接見を希望するという申出があった後、弁護人との接見までの間に、被疑者に対する取調べを行うか否かにつきましては、取調べを継続する必要性や弁護人の対応、接見までに要する時間、被疑者の言動など、諸般の事情を考慮しつつ、個々の検察官において適切に対応しているものと認識しています。 ○佐藤構成員 そうしますと、一律に、弁護人等と接見するまで取調べはしないという形で運用されているわけではないという理解でよろしいわけですね。 ○宮崎構成員 直ちに止めるということにはなっていないでしょうし、被疑者も必ずしも直ちに止めてほしいということばかりでもないように思います。 ○中山構成員 警察においても同様でございまして、逮捕・勾留中の被疑者から弁護人と接見したい旨の申出があった場合には、直ちに弁護人に連絡をすることとしております。そして、弁護人が被疑者の依頼に応じて接見に来られた後に、接見を行っているところと承知をしております。   それまでの間の取調べでありますけれども、それはその事案に応じて対応しているということになろうかと思います。 ○佐藤構成員 わかりました。ありがとうございました。 ○河津構成員 中山構成員から、弁護人を立ち会わせることは、警察における取調べの意義を損ねるような支障を生じる旨の御意見を伺いました。   しかし、中山構成員が想定されているような支障は、日本で生じるとすれば諸外国でも起こり得るはずです。にもかかわらず、諸外国では一般的に弁護人の立会いが認められており、日本政府は国連の委員会から繰り返し勧告を受けています。これは、そのような支障は現実的なものでないか、少なくとも弁護人を取調べに立ち会わせる必要性がその支障を上回ることが、先進国の共通認識になっていることを意味します。弁護人を取調べから排除することを正当化できるような支障が日本に限って生じるとは考えられません。   弁護人が当該被疑者の権利利益ではなく、共犯被疑者等の利益を図るような現象は、私自身は聞いたこともなく、当該被疑者のために黙秘権の行使を助言する弁護人を、共犯被疑者の利益を図っていると決め付ける傾向が捜査機関の側にあるのではないかと感じます。 いずれにしても、そのような現象は、被疑者が自らの権利利益を擁護する弁護人を選任することができるよう、公的弁護制度を拡充すること等によって対処すべきなのであって、弁護人を取調べから排除することにより、そのような現象とは無関係な圧倒的多数の被疑者の弁護人の援助を受ける権利を制約するのは不合理です。   そもそも供述をするかどうかは、被疑者の意思に委ねられているのですから、供述を確保することが困難になることは、弁護人の立会いの弊害であると言うことはできません。 前回会議で、成瀬構成員と佐藤構成員が御教示くださった現行法の解釈によっても、黙秘している被疑者に対する捜査機関の説得には、黙秘権保障の観点からの限界、制約があるのですから、被疑者が説得に応じず、弁護人の立会いの下であれば供述するという意思を示した場合、捜査機関としては、弁護人の立会いの下で取調べをするか、取調べを断念するかを選択せざるを得ないはずです。取調べが真相解明に重要な役割を果たすというのであれば、捜査機関としては弁護人を立ち会わせて取調べを行うことを選択するべきことになるのではないでしょうか。   憲法や国際社会の要請に応えるためには、取調べにおいて黙秘権保障の趣旨が実質的に損ねられない運用を確保することが必要です。捜査機関においても、被疑者が弁護人の立会いの下で供述する意思を表示したときは、弁護人立会いの下で適正に供述を獲得するよう意識を変えることが求められているのではないでしょうか。 ○宮崎構成員 1点補足で申し上げたいと思います。   先ほど河津構成員の方から、諸外国では被疑者取調べへの弁護人立会い制度が導入されていて、特に支障がないのではないかという御指摘があったかと思いますけれども、各国の刑事訴訟手続は、それぞれの犯罪情勢等を踏まえ、様々な制度が全体として機能するように成り立っているものでありまして、そのうちの一部のみを取り出して単純に諸外国と比較するのは相当ではないと思っております。   取調べに関していえば、既に申し上げたとおり、我が国においては、被疑者の取調べが、事案の真相を解明し、適正な処罰・処分を実現する上で必要不可欠な役割を果たしているのに対し、被疑者取調べへの弁護人立会い制度を導入している諸外国においては、必ずしも、それぞれの刑事訴訟手続の全体構造の中で、被疑者の取調べがこのような役割を果たしているとは限らないところでありまして、そうした点を捨象して、弁護人立会いの可否、是非のみに絞って論じることは無理があると言わざるを得ないと思います。   ○河津構成員 そもそも我が国の憲法は黙秘権を保障しているのであり、供述を得ることのできない場面は想定されているものです。取調べの機能については、従前から様々な御主張がありましたが、法制審議会特別部会における議論の段階で、取調べ及び供述調書への依存を改めるという方向性は明確に示されたはずです。そうしたことを踏まえて、今後、弁護人の立会いの問題について、前向きな検討がなされるべきと考えます。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、違法・不当な取調べと制裁の在り方について、御意見等はありますか。  ○河津構成員 我が国が加入している拷問等禁止条約は、締約国に対して、自国の管轄の下にある領域内において拷問に当たる行為が行えることを防止するため、立法上、行政上、司法上その他の効果的な措置を採ることを義務付けています。   しかし、我が国においては、取調べ録音・録画制度の創設後も、取調べにおいて特別公務員暴行陵虐罪の陵虐行為に該当するような言動や、人格権を侵害するような言動が繰り返されており、自白等を得ることを目的として重い精神的苦痛を故意に与える行為を防止するための措置は不十分であると言わざるを得ません。   録音・録画の下ですらもこのような取調べが繰り返されている背景には、現行法の下では供述調書を証拠として請求せず、あるいは証拠能力を争われないようにすることによって、取調べの司法審査を容易に回避することができるという構造があります。しかし、違法な取調べは、作成された供述調書が証拠とならなければよいというものではなく、それ自体が効果的に防止されなければなりません。   昨日も、和歌山地検の検察官が、取調べで侮辱的・差別的言動を繰り返した事案が報道されていました。その言動は、取調べが司法審査の対象となることを想定していたら、するとは考えられないものです。日弁連では、この事案においては、弁護人が取調官の上司に当たる主任検察官に抗議した後も、取調べで侮辱的な言動が繰り返されたと報告を受けています。私が第2回会議で報告した事案でも、繰り返し苦情を申し入れたにもかかわらず、威迫し、侮辱し、罵倒する取調べが繰り返されていました。これらの取調官が録音・録画の下で違法な取調べを継続し、取調官の上司もこれを止めていないのは、それが司法審査の対象とならず、当該被疑者の処罰という目的を実現する上で妨げとならないのに対し、供述の強要に成功した方が捜査機関にとって有益であるからにほかなりません。   このような違法な取調べを防止するためには、取調べを録音・録画するだけでは不十分であり、それが司法審査の対象となり、適切な制裁が科される仕組みを明確にすることが必要です。   現行法の下でも、刑事裁判の中で捜査の適法性は争点となり得ますが、捜査の手続に重大な法令の違反があった場合の措置について明文規定がない中で、判例は捜査の違法を理由とする公訴棄却につき限定的にすぎる立場をとっているように思われます。しかし、違法性の程度が大きい取調べをしても、公訴が棄却されることを心配する必要なく、有罪判決が得られるという構造の下では、違法な取調べは防止されません。違法な取調べの動機は、捜査機関が犯人と信じる者を処罰することなのですから、取調べの重大な違法が公訴棄却という法的効果をもたらすことを明確にすることは、それ自体違法な取調べを抑止する効果的に措置となり得ますし、取調べについての司法審査を容易に回避できないものとすることを通じて、取調べの適正化に資すると考えられます。   したがって、憲法や拷問等禁止条約の趣旨を踏まえ、取調べに重大な違法があったとき、それが公訴棄却事由となることを明確にする規定を設けるべきと考えます。 ○宮崎構成員 違法な取調べがあった際に、言わば制裁として公訴棄却をすることを明記すべきだという御意見だと思いますが、そのような考え方について、検察官の立場から意見を申し上げます。   個別の事案についてはコメントいたしませんが、憲法第38条第2項は、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」と規定し、これを受けた刑事訴訟法第319条第1項は、「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。」と規定して、いわゆる自白法則を定めています。また、同法第322条第1項ただし書は、「被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。」と定めています。   供述の任意性が争われた場合には、検察官において、当該供述が任意になされたものであることを立証しなければならず、その結果、任意性に疑いがあると判断されれば、当該供述の証拠能力が否定されることとなります。   また、個別の事情に基づき、供述の信用性が争われる事案もあるところ、その場合には、検察官において当該供述が信用できるものであることを立証しなければならず、その結果、信用性に疑いがあると判断されれば、当該供述に基づく事実認定はなされないこととなります。   取調べを行う主たる目的の一つは、適切な事実認定を行うことができるよう、任意性、信用性のある供述を獲得し、これを適切に証拠化することにあるのであり、公判において当該供述の証拠能力が否定されたり、当該供述に基づく事実が認定されなかったりすることは、それ自体として、不適正な取調べを抑止する機能を有していると考えます。   さらに、検察庁内部においては、検察官を対象とする研修、日常業務における決裁官による部下検察官への指導といった様々な方策を講じているほか、検察官による被疑者の取調べに関して、被疑者の弁護人等から申入れがなされ、又は被疑者から不満等の陳述がなされるなどしたときは、決裁官がその内容を把握し、速やかに、所要の調査を行って、必要な措置を講じることとされている上、第4回会議で事務当局から説明のあったとおり、最高検察庁に設置された監察指導部は、検察官の捜査・公判上の違法・不適正行為等に対して必要な指導等を行うこととされており、実際に一定の件数の指導等が行われています。   以上のように、現時点でも、不適正な取調べがあった場合の対応について様々な措置が存在するのであり、実際にも、繰り返しになりますが、検察における取調べの運用全体を見渡したときに、不適正な取調べが蔓延しているかといえば、決してそうではないというのが、私自身の経験に基づく認識であります。   したがって、これらの措置に加えて、不適正な取調べに対する特別な制裁の仕組みを設ける必要性はないものと考えています。    ○足立構成員 河津構成員にお伺いしたいことがあります。取調べの録音・録画の下でも人格権が侵害されるような深刻な事案が、最近次々に明らかになっていて、それは深刻な問題だとは思っています。なおかつそれを効果的に防止できる方策があればいいと私も思いますが、公訴棄却にすることがどうしてその制裁に当たるのかという点について御説明いただけますか。   つまり、今の裁判で、今、宮崎さんもおっしゃいましたけれども、供述調書の任意性とか信用性が否定されて、無罪判決になることがあったりとか、あと、大阪高裁でもこの間、特別公務員暴行陵虐罪の付審判決定があったりして、そういった無罪判決になったりとか、他の仕組みもある中で、公訴棄却という選択肢を作ることが、検察側に対する制裁になるという理由が、法律の素人にはよく分からなかったもので、その点を教えていただけますか。 ○河津構成員 自白法則が取調べの適正化に資するものであることは、宮崎構成員が御指摘になったとおりだと思います。ただ、この間明らかになっている著しく不適正な取調べは、自白の証拠能力が問題とならない事案において行われています。例えば、黙秘し続ける被疑者に対して、その人格権を侵害するような取調べが行われた場合、最終的にその被疑者が黙秘を続けて、供述調書が作られなければ、その供述調書の証拠能力が問題となるという形で司法審査が行われることはなくなってしまいます。こうした構造を背景に、自白の任意性が問題とならない事案において、録音・録画の下ですらも、不適正な取調べが行われていることが明らかになっています。   取調官は、被疑者に害を与えること自体を目的としてこのような取調べを行っているわけではなく、被疑者が処罰されるべき人物であると信じ、その処罰を実現するためにそのような取調べを行っているのだと思われますが、そのような取調べを行っても、処罰を実現する妨げとならない構造になってしまっています。   先ほど宮崎構成員からは、検察庁における指導監督も、適正化の方策として行われているという御説明がありました。私も、指導監督が適正に機能すれば、不適正な取調べの防止に資すると思いますが、実際には、先ほど御紹介したとおり、検察庁に対して苦情の申出をした後ですらも、不適正な取調べが反復・継続されています。これは検察庁から見て、そのような取調べが反復・継続しても、処罰の実現という目的を阻害しないという構造が背景にあります。   著しく不適正な取調べを行ったときに、それが公訴棄却事由になるということは、処罰という目的が実現できないことになりますから、不適正な取調べを抑止する力は強いものになります。それは一人一人の取調官に対してもそうですし、取調官の上司としても、そのような結果を回避するために、取調べの適正化を強く指導することになるのではないでしょうか。 ○足立構成員 ということは、検察側が起訴した後の裁判の中で、不適正な取調べがあったということを、弁護側として立証していくということになるわけですか。その手掛かりのようなものは、録音・録画の映像だったりとかが想定されるものですか。 ○河津構成員 はい、そうです。 ○足立構成員 よく分かりました。ありがとうございます。 ○成瀬構成員 ここまでの御議論の中で、現行法において不適正な取調べに対する制裁として機能し得る措置が複数指摘されましたので、一度、整理させていただきたいと思います。   まず、不適正な取調べによって得られた被疑者の供述は、自白法則や違法収集証拠排除法則により証拠能力を否定され得るとされており、その信用性が争われた場合には当該供述に基づく事実が認定されない可能性もあります。また、不適正な取調べを行った検察官や警察官に対しては、組織内部において監察・指導が行われ、一定の場合には懲戒処分もなされ、特に悪質な行為については刑事訴追もあり得ます。河津構成員からは、多くの事案で司法審査が行われていないという御指摘もございましたが、取調官個人を直接の対象とするものではないものの、不適正な取調べを受けた者は、国や地方公共団体に対して国家賠償請求訴訟を提起することもできます。   これまで本協議会で言及された不適正な取調べの具体的事例を見ても、これらの措置は有効に機能していると思います。   河津構成員は、取調べに重大な違法があった場合には、公訴棄却にするという新たな制裁を提案されました。しかし、現行法上、捜査手続に違法があった場合に、当該捜査手続によって得られた証拠の証拠能力は否定され得るとしても、捜査手続に違法があったことのみをもって直ちに公訴を棄却すべきとは考えられていません。それゆえ、河津構成員の御提案は、現行法の基本的な考え方とは異なる考え方を採用するよう求めるものであると思われます。  そこで、実質論で考えてみますと、違法な取調べがなされた場合に直ちに公訴を棄却するということは、例えば、被疑者の供述によらずに客観的証拠等のみから犯罪事実が容易に立証できる場合であっても、事案の重大性や被害者の有無等を問わず、一律に処罰の余地を失わせることを意味します。このような帰結が、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正に適用実現するという刑事訴訟法の目的に照らして適切であるかについては、様々な意見があるものと思います。  ○河津構成員 成瀬構成員が御指摘になったとおり、刑法には特別公務員暴行陵虐罪の規定があり、今年8月8日には、プレサンス事件に関して、大阪高裁が初めて検察官に取調べについて付審判決定をしました。しかし、逆に言えば、これまで検察は取調べにおける陵虐行為について起訴をしてこなかったのであり、大阪地裁の原決定も陵虐行為を認定しながら付審判請求を棄却していたように、いまだ違法な取調べを司法審査の対象とし、制裁を科す手段としては有効に機能しているとは言えないと思われます。   また、この刑法上の制裁を求めて告訴をするためにも、あるいは成瀬構成員が言及された国家賠償請求訴訟を提起するためにも、プレサンス事件が正にそうであったように、先行する刑事手続の中で、弁護人が取調べの録音・録画記録媒体の開示を受け、その内容を検討することが実際上は必要です。このことからしても、第一次的には、刑事手続の中で取調べが司法審査の対象となるような仕組みがまず必要であると考えます。   成瀬構成員が御指摘になったとおり、公訴棄却というのは仮に本来有罪であっても処罰しないという強い効果を伴うものですので、だからこそ私も、軽微な違法を対象とせず、重大な違法がある場合を対象と考えております。捜査に重大な違法があった場合に、仮に有罪であっても処罰しないという効果自体は、既に確立している違法収集証拠排除法則によっても生じ得るものです。   そして、公務員が故意に国民の人権を侵害することの違法性というものを軽く考えるべきではないと思います。そのような行為に及んだ捜査機関が、国民を訴追し処罰を求める資格があるのでしょうか。そのような行為を防止するためには、そのような行為に及ぶことを思いとどまらせるような強力な制裁措置を明文で定めることが必要なのではないかと考えます。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。 ○河津構成員 前回、成瀬構成員より、参考人取調べの録音・録画に関する御提案がありました。その中で成瀬構成員は、被疑者取調べの録音・録画に関する議論は、捜査機関が犯罪の嫌疑のある者に対して取調べを行う場合には、被疑者の責任を追及しようと熱心になる余り、違法・不当な取調べが行いやすいことということを前提としていると御指摘されました。   被疑者取調べにそのような危険性があることは、成瀬構成員御指摘のとおりですが、ここで捜査機関が責任を追及しようとする相手方と、違法・不当な取調べの相手方とは必ずしも一致しないことに留意する必要があると思われます。例えば村木事件でも、検察官は村木さんの責任を追及しようとして、村木さんの部下らに対して違法・不当な取調べを行っていました。プレサンス事件でも、検察官は山岸さんの責任を追及しようとして、山岸さんの部下に対して陵虐に当たるような違法・不当な取調べを行いました。   そして、実務の現場では、在宅被疑者と参考人の区別は曖昧であり、時に恣意的に使い分けられています。例えば村木事件は、村木さんが国会議員の要請を受けて、虚偽の公的証明書の作成を部下に指示したというのが検察官の描いたストーリーでしたが、検察官は、この国会議員については参考人として取調べを行う一方で、公的証明書の作成に関与していない、状況を目撃したにすぎない厚労省職員等を被疑者として取り調べていました。 プレサンス事件の山岸さんも、逮捕されるまで、自分が被疑者だとは思っていなかったとおっしゃっています。これらの事件に限らず、取調べを受けた人から相談を受けることがありますが、自分が被疑者として取り調べられたのか、参考人として取り調べられたのかを分かっていないことは少なくありません。   そして、今年10月23日に名古屋高裁金沢支部が再審開始決定をした事案では、事件後の状況を目撃したとされた者が、自己の利益を図るためにうその供述を行い、その後、複数の関係者に対して、捜査機関がそのうその供述に基づく誘導等の不当な働き掛けを行い、供述が形成されていったと判断されており、参考人の取調べについても誘導等の不当な働き掛けを防止するために、録音・録画を義務付ける必要性を示していると思われます。   こうしたことから、参考人の取調べについても、被疑者取調べと同様、録音・録画義務の対象とすべきであり、当協議会で引き続き協議される必要があると考えます。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、取調べの録音・録画制度等に関する協議は、差し当たりここまでとしたいと思います。   次に、再審請求審における証拠開示等に関する意見交換を行いたいと思います。   まず、事務当局から、期日間における調整結果を皆様に御報告した上で、配布資料の説明を行い、その後に意見交換を行うこととしたいと思います。   前回会議以降、事務当局におきまして、前回会議で示された御意見を踏まえ、構成員の皆様に協議の進め方についてお諮りした結果、取調べの録音・録画制度についての協議が終わった後に、再審請求審における証拠開示等についての協議を行うことについて異論は見られませんでした。そこで、本日は、再審請求審における証拠開示等について御協議することとしたいと思います。   その上で、今後の協議を進めるに当たり、事務当局において配布資料43を作成いたしましたので、その内容について御説明いたします。   配布資料43は、「再審請求審における証拠開示等についての論点整理案です。  この論点整理案は、第9回会議から第11回会議までにおいて御協議いただいた内容等を踏まえて、事務当局において作成したたたき台を構成員の皆様にお諮りし、御意見を反映させた上で、再度皆様にお諮りし、御了解をいただいたものとなります。   まず、「1 再審請求審における証拠開示」については、一つ目として、「再審請求審における証拠開示に関する規定を設けるべきか」、二つ目として、「仮に規定を設けることとする場合、どのような規定とすべきか」という論点を掲げています。   次に、「2 その他」については、「(1)再審開始事由」について、「再審開始事由を拡大すべきか」という論点を掲げ、「(2)再審請求審」について、一つ目として、「再審請求審について、裁判官の除斥・忌避に関する規定を設けるべきか」、二つ目として、「再審請求審における国選弁護人制度を設けるべきか」、三つ目として、「期日指定、事実の取調べ、再審請求理由の追加・変更に関する規定など、再審請求審における詳細な手続規定を設けるべきか」、四つ目として、「再審請求審における審理を公開することとすべきか」、五つ目として、「再審請求審がされた場合に、死刑の執行停止を義務付けるべきか」という論点を掲げ、「(3)不服申立て」について、一つ目として、「再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止すべきか」、二つ目として、「再審請求に係る決定に対する不服申立期間を延長するか」という論点を掲げています。また、これらの論点に含まれないものについても、協議の対象から排除されるものではないという趣旨で、「(4)その他」という項目を設けています。   配布資料43についての御説明は以上です。   それでは、この論点整理案に記載した順番に従って協議を行うこととしたいと思います。   まず、「1 再審請求審における証拠開示」について御意見はありますか。   ○足立構成員 今の再審請求のシステムには、事件によってはですが、余りに時間が掛かりすぎていて、欠陥があるのは明らかだと考えています。中には救済されるまで何十年もの歳月を要する事件があります。半世紀も拘置所で過ごして、死刑の恐怖におびえ続けて精神を病んでしまった人がいます。また、有期刑を得て刑務所を出所した後、再審請求の手続に20年間も掛かり、その間、世間の理不尽さにさいなまれ続けた人もいます。   こうした人々は、最終的に無実の罪が晴れたとしても、果たして救済されたと感じられるのかさえ疑問だと考えています。   司法システムを人間が運用している以上は、誤判が起きることは避けられないと思います。年間200件の再審請求のうち、大部分は取るに足らない形式的な申立てかもしれません。それでも0.何%か1%未満の被告人たちは、切実に司法の救済を待っている現実があり、そのような人を救うために再審制度があるのだと思います。   近年、デジタル技術の発展に伴って、科学鑑定などの制度が向上していて、事件当時には思いもよらなかった方法で証拠の再評価ができる可能性も高まっています。そのような現状も踏まえれば、再審請求審の進行を担当裁判官の裁量に任せ切っている運用を改めて、必要な法改正を行い、長期化しないようなシステムに改修することが不可欠だと思います。   そして、その一番の肝になるのが証拠開示制度の導入だと考えています。1966年の静岡県一家4人殺害事件でも、1986年の福井県女子中学生殺害でも、再審開始決定の根拠となった証拠は、第二次再審請求審になって検察が提出したものでした。どちらの事件でも、証拠提出の時点で、第一次再審請求の申立てから20年前後が経過していました。特に袴田さんの事件では、再審無罪判決でも指摘されていた5点の衣類に関するカラー写真の証拠が開示されたのは2010年のことです。第一次再審請求は1981年に申し立てられたので、仮に今の通常審のような証拠開示制度が再審に適用されていれば、30年早く救済できた可能性があることになります。   他にも、裁判所が再審開始決定を出した事件の多くは、再審請求審の段階になってから検察側が初めて開示した証拠に基づくものだとされています。   一国民としてずっと不可解に感じてきたことがあります。それは、再審請求審で弁護側が証拠の開示を求めた際、捜査機関が証拠を持っているにもかかわらず、なかなか開示されないことです。事実かそうでないか真相を確かめるには、なるべくたくさんの資料を突き合わせるのは、再審に限った話ではなく、多くの仕事で当たり前に行われている作業だと思います。事実を正確に把握できれば、論点が明確になり、結果的に時間の短縮にもつながることになると思います。その考え方が、平成16年、2004年の証拠開示制度にも結び付いたと理解しています。   本協議会の議論を通じて、証拠開示の有用性に異論を挟む意見はなかったと思います。   一方、裁判所からの当時の鈴木構成員は、第10回会合で次のような趣旨のことを述べられています。「平成16年に証拠開示が通常審の権利として制度上担保されたことによって、再審請求があった場合の証拠開示や事実の取調べにも大きな影響があった」とおっしゃっていました。   捜査機関が収集した証拠は、公共財のはずです。私は、現行の通常審と同様の証拠開示制度を再審請求審にも準用できるような制度が必要だと考えています。   2014年に特別部会がまとめた資料5-2の「新たな刑事手法制度の構築についての調査審議の結果」の中で、「通常審と再審請求審の手続構造の違いから、通常審の開示制度を再審請求審に転用するのは理論的・制度的整合性がなく、適切ではない」という意見があったとされています。   無辜の救済の重みとてんびんに掛けて、どれほど厳密な整合性がないといけないのか、どのような実害が生じるのか、職権主義と矛盾しないような制度設計はできないのかなど、検討を要する課題はあるのかもしれません。それでも、近年の再審事例を踏まえると、裁判所が職権を適切に行使してきたかどうか疑問があり、むしろ職権の不行使と言えるような状況を招いた事例が少ないように見えています。通常審における現行の証拠開示制度と無辜の救済という再審制度の趣旨を踏まえ、適切な証拠開示の実効性を担保できるような再審制度に変える必要があると考えています。   以上が証拠開示に関する私の意見ですが、それとは別に、再審制度を議論するに当たって、関連で事務当局にお願いしたいことが1点あります。   袴田さんの再審無罪判決について、10月8日に検察が控訴しないことを発表しました。その際、畝本検事総長は、最高検として、袴田さんの再審請求手続が長期間に及んだことなどについて、所要の検証を行うという旨の談話を公表されています。その検証結果について、この協議会でも共有することを検討していただけないでしょうか。 ○中野参事官 事務当局からお答え申し上げますと、御指摘の件につきまして、当協議会への共有については、当協議会の趣旨等も踏まえてその必要性、相当性について検討が必要であると考えられますが、いずれにせよ御提案として伺うこととさせていただきたいと思います。 ○足立構成員 横山構成員にも1点お尋ねしたいことがあります。今回の袴田さんの再審請求審が長期化した理由と背景について、検察は検証すると言っていますが、裁判所としてそのような対応を取られる予定はあるのかないのか、お答えいただけますでしょうか。 ○横山構成員 最高裁判所が今回のような個別の事件の具体的内容に踏み込んだ検証を行うことにつきましては、個々の裁判の当否の評価につながりかねず、裁判官の職権行使の独立の観点から問題があるのではないかと考えているところです。   他方で、一般論といたしまして、再審請求手続に限らずに、裁判官は審理の取組に関する意見交換や情報共有等を日常的に、自律的に行っているものと承知しております。最高裁判所の事務局といたしましても、このような現場の取組については引き続き支援をしていきたいと考えているところです。 ○足立構成員 その上で、若干意見を更に述べたいと思います。  袴田さんの事件については、第一次再審請求の申立てから最初の静岡地裁の決定まで13年間も掛かっていました。さらに、その時点から東京高裁が即時抗告を棄却するまで10年間、第二次再審請求審で地裁が再審開始を決定するまで6年間を要しました。   よく指摘されるように、再審手続が長期化する背景には、刑事訴訟法に再審に関するルールがほとんど定められておらず、担当裁判官に進行を委ねている運用があると言われています。担当された方がやる気のある裁判官なのか、消極的な裁判官かによって、審理の進み具合にばらつきが出て、再審格差という言葉もすっかり耳になじむようになっています。   第10回の本協議会で、鈴木構成員と横山構成員に、長期化の理由、それから背景をお尋ねした際、お二人とも「再審請求の内容や請求の理由は様々であって、一般的に回答することはできない」と述べられました。   本協議会の中でも、再審手続の全体的な期間等の統計データは示されても、長期化の要因をはかるような資料には乏しかったように考えています。   再審請求審は非公開で行われるため、その審理進行が国民の目にさらされていない現実があります。重大事件の再審請求は件数も少ない上、統計データも不十分だと言わざるを得ないと思います。これまでも何度か意見を述べましたが、再審請求の課題を議論するには、深刻な個別事案の事情に踏み込んで検証し、問題点を洗い出す必要があるのだと思っています。   本来は第三者機関のような会議体を設けて、組織横断的な、多角的な調査をすべきだと考えていますが、先ほどおっしゃられたような事情で難しいのであれば、それでも裁判所としては袴田さんの事件に真摯に向き合って、裁判体の独立に触れないような範囲で、これほど長期間に及んだ手続の理由と背景について調査を行い、その結果は社会で共有すべきではないかと思っています。   これは、組織の責任を追及する目的ではなく、再審手続の長期化の原因と背景を探って改善にいかすためであって、それが後世の刑事手法にも有用なものになると考えています。 ○横山構成員 再審請求事件につきましても、適切かつ迅速に処理がされなければならないということは言うまでもないと考えています。   手続の遂行についての責任を負っている裁判官において、過去の再審請求事件から、例えば審理運営上の課題や、これを克服するための工夫例を学んで広く共有していくこと自体は重要であると考えています。  ○足立構成員 そうすると、例えば個別具体的な事件で差し障りがあるのであれば、司法研究のようなテーマにして、過去の再審請求事件を横断的に分析・調査するといったことは考えられないのでしょうか。 ○横山構成員 繰り返しになってしまいますけれども、司法研究も、裁判所の組織として行うものですので、個別の事件に関しての具体的な内容に踏み込んだ検証ということにつきましては、やはり個々の裁判の当否ということになりますので、裁判官の職権行使の独立の観点から、問題があるのではないかと考えています。   それに至らないものについてどのような工夫が可能かにつきましては、引き続き検討していくことになろうかと思っておりまして、それは再審請求事件にかかわらず、広く一般的に行われていることだと認識しています。 ○河津構成員 再審請求審における証拠の開示については、平成28年に成立した改正刑訴法の附則9条3項で、政府は速やかに検討を行うものとされていました。しかし、その後、8年間内容を伴う検討は進められておらず、この間、袴田事件のように深刻な人権侵害を伴う重大な不正義を是正するため、不合理に長い年月が費やされるなど、制度の不備は改めて明らかになっています。もはや政府に与えられた猶予期間は経過したと申し上げざるを得ず、国会において速やかに法改正の具体的な議論を進め、再審法改正を実現すべき段階に至っていると思われます。   再審請求審における証拠開示に関する規定を設ける必要性については、第9回会議でも申し上げたとおり、既に明らかです。私見を申し上げると、ここでいう証拠開示というのは、概念的には裁判所不提出記録及び証拠物の閲覧謄写と整理され得るように思われますが、いずれにしても必要なのは、それらの証拠へのアクセスを保障することです。捜査機関が証拠を収集し保管する以上、再審請求をした者、あるいはしようとする者が、その証拠にアクセスできるようにしなければ、無実の市民に対する有罪判決という重大な不正義の是正は実現できないからです。   明文規定のない現行法の下では、再審請求事件が継続した裁判所によって、証拠開示のための訴訟指揮権を行使しなかったり、検察官が裁判所の訴訟指揮に従わなかったりという事態が生じており、その結果、重大な不正義が是正されないまま放置されているという状況は、看過することができないものと思われます。 ○成瀬構成員 私は、再審請求審における証拠開示という個別論点に関する意見を申し上げる前に、先ほど足立構成員からも御提案があったように、再審に関する規定を改正する必要性について検討するため、最高裁判所において、再審手続の長期化やその原因の特定に関する調査・検証を行っていただくことが考えられるという意見を申し上げたいと思います。   第10回会議において、横山構成員から、再審請求事件の審理期間を既済人員ごとにまとめた資料5を御提供いただきました。ただ、足立構成員が言及されたように、2年を超える長期審理となっている再審請求事件の原因については、鈴木構成員も横山構成員も、事実の取調べを要する事件は、審理期間が長くなる傾向があるという趣旨のお答えをされただけでした。つまり、再審手続の長期化の原因はいまだに特定できていないと思われます。   私も、先ほど横山構成員が指摘されたように、最高裁判所において個別事件の検証をすることは、個々の裁判官の職権行使の独立の観点から適切でないと考えています。もっとも、個別の事件を離れて、再審に関する手続全般を対象とした調査・検証であれば、最高裁判所においても実施する余地があるのではないでしょうか。   再審請求手続の長期化という問題を解決するために、先ほど横山構成員が指摘された裁判所内におけるグッドプラクティスの共有といった実務上の対応で足りるのか、それとも、法律の改正まで必要となるのかという点を見極めるに当たって、仮に、裁判所による検証があるのであれば、重要な判断材料の一つになると思います。   また、第10回会議において、河津構成員から、日本弁護士連合会で再審支援を担当している弁護士は、再審請求審においては通常審と異なり、どのような順序でどのような手続を行い、どのように審理を進めるのかが法律で明確に定められていないことや、担当裁判官が再審請求審の審理の経験に乏しい場合に手探りで手続を進めざるを得ないことから、審理に時間がかかる傾向があると指摘している旨の御発言がありました。先ほど足立構成員からも、再審請求事件を担当する裁判官が職権を適切に行使していなかったのではないかという御指摘があり、さらには、元裁判官による論考等においても、裁判官の交代等によって、事実上何も審理されないまま長い年月が経過する再審請求事件も珍しくないといった指摘がなされています。現状では、これらの指摘が正しいかどうか分かりませんので、その当否について判断するためにも、裁判所による検証が必要ではないでしょうか。   さらに、平成15年に成立した裁判の迅速化に関する法律第8条第1項は、「最高裁判所は、裁判の迅速化を推進するため必要な事項を明らかにするため、裁判所における手続に要した期間の状況、その長期化の原因その他必要な事項についての調査及び分析を通じて、裁判の迅速化に係る総合的、客観的かつ多角的な検証を行い、その結果を、二年ごとに、国民に明らかにするため公表するものとする。」と定めています。そして、この規定は、「裁判所における手続」という一般的な表現を用いており、少なくともその文言上は、再審に関する手続を排除していないようにも見えます。   そこで、裁判所のホームページにおいて公表されている「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」の内容を拝見したところ、公判前整理手続の導入や裁判員法の施行に伴い、公判前整理手続や裁判員裁判に関する統計分析が開始され、裁判員裁判における公判前整理手続の充実・迅速化が課題であるとの結果を得た上で実情調査を行っていることや、第一審の手続だけではなく、控訴審・上告審に関する検証も行われていることなどは確認できたのですが、残念ながら、再審に関する検証結果はありませんでした。   もとより、再審自体は、公判前整理手続や裁判員裁判のような新しい制度ではありませんが、現在、袴田巖さんの再審無罪判決などを契機として、再審手続の長期化が社会問題として世間の耳目を集めていることを踏まえると、裁判の迅速化に関する法律の目的である「国民の期待にこたえる司法制度の実現」に向けて、再審手続に関する調査・検証を行うことも検討に値するのではないかと考えた次第です。  ○佐藤構成員 この間の議論で、いわゆる「再審格差」という言葉が用いられていることに関連して意見を述べておきたいと思います。   例えば、第10回会議におきまして、「証拠開示」をめぐる現状についての評価に関し、河津構成員から、「裁判所によって証拠開示の範囲に大きな差が生じている実情は、再審格差と呼ばれていますが、その原因は、証拠開示に関するルールがなく、訴訟指揮権の行使の在り方についても裁判所に任されていることから、個々の裁判所の姿勢によって証拠開示が左右されるところにあると考えられます。このように証拠開示に関する裁判所の判断の公平性や適切さを担保する制度的保障がない現状は、早急に改められる必要があると考えられます。」との御発言がありました。     私自身は、事件ごとに再審請求事由や証拠関係などが異なる以上、「証拠開示」の範囲について差が生じるのは、むしろ自然な事態であって、問題とされるべきは、そのような差があることや、裁判所に裁量権が与えられていること自体ではなく、個々の事件において裁判所が適正に職権を行使することができているかどうかであろうと考えております。その上で、現段階において、一般的に不適正な運用が行われているかということになりますと、それが実証されているとまではいえないように思われます。   もとより、再審請求審に限らず、一般論として、裁判所における審理ができる限り適正かつ迅速に行われる必要があり、そのような観点からは、裁判実務の現場において、審理の進め方や判断の在り方などについて研究や協議を重ねる中で、よりよい運用が探求され、識見や経験が共有されていくことが望ましく、実際にも通常審における課題についてはそうした取組が活発に行われているものと認識しております。   他方、再審につきましては、件数が少ないこともあって、プラクティスが確立していない、あるいは裁判官の経験が不足しているといった指摘もなされているところです。そうした指摘の当否には議論の余地があるとしましても、裁判所においてよりよい運用の探求や識見、経験の共有のための一定の努力がなされることは必要であり、また、有用なのではないかと思われます。   先ほど横山構成員から、様々な御説明をいただきましたけれども、裁判実務の現場において、再審をめぐり、研究や協議の場で取り上げるなど、そうした取組が行われているのかどうか、平出構成員にもお伺いできればと思います。 ○平出構成員 再審について、特出しして議論ということはございませんけれども、裁判官の中では刑事裁判の進行その他については、常日頃広く議論をしているところではございます。 ○宮崎構成員 再審請求審における証拠開示制度の必要性について意見を申し上げます。   まず、以前の協議会でも申し上げたとおり、平成16年刑訴法改正により通常審における証拠開示制度が導入された後の事件に関して見ると、公判前整理手続に付された事件については、証拠開示制度の適用により幅広く証拠が開示され、公判前整理手続に付されない事件においても、実務上、任意の証拠開示が幅広くなされているところであり、再審請求審において、通常審と同様の基準により証拠開示を法律で義務付けることとすることは、その必要性や相当性に疑問があると考えています。   また、検察官は、証拠の開示を求められた場合には、裁判所が再審開始事由の存否を判断するために必要と認められるか否か、請求人側から開示を求める特定の証拠につき必要性と関連性が十分に主張されたか否か、あるいは、開示した場合における関係者の名誉やプライバシーの保護、将来のものも含めた今後の捜査・公判に与える影響などを勘案しつつ、裁判所の意向等も踏まえて、法令やその趣旨に従い適切に対応しているところであり、法制化しなければ適正な証拠開示が実現されないという関係にはないと考えています。   もっとも、検察官が保管する記録や押収品の中に、再審請求事由に関連する証拠がある場合において、取調べの必要性が認められ、かつ、請求人側が記録を閲覧等することとした場合の弊害の有無及び程度などを考慮して、相当と認められるときに、それを検察官から裁判所に提出し、裁判所の判断資料とすべきことについては、私としても異論はなく、そのことを明文化するという限度での法制化であれば、検討する余地が全くないとまでは言えないと思います。   ただし、その限度であれば、裁判所が再審請求についての決定をするために必要と認めた範囲の資料を、裁判所に対して提出することとすれば足りるのであって、あえて、弁護人等に開示した上で、弁護人等を通じて裁判所に提出することとするのは、迂遠でありますし、再審請求審の審理構造とも整合しないと思われます。   さらに、以前の会議でも申し上げたとおり、再審請求審段階だからといって、証拠開示によって報復目的の加害行為が行われる可能性やプライバシー侵害のおそれなどの弊害が、一律に、あるいは類型的に減少するというものではないと考えられます。   再審請求審における証拠開示については、今、申し上げたような観点も念頭に置いた上で、慎重に検討する必要があると思います。 ○成瀬構成員 ここまでの議論において、足立構成員と河津構成員から、再審請求審における証拠開示に関する規定を設ける必要があるという御意見が述べられ、宮崎構成員も、裁判所が必要と認めた範囲の資料を検察官から裁判所に提出する限度での法制化であれば、検討する余地があるという御意見を述べられました。そこで、私は、仮に規定を設けることとする場合の規定の在り方について、意見を申し上げます。   日本弁護士連合会の刑訴法改正案第445条の10に規定されている証拠開示命令では、検察官が弁護人等に対して直接証拠を開示するものとされています。第10回会議において、私から河津構成員に対し、この445条の10の仕組みが再審請求審の審理構造と整合するかという点について質問をさせていただいたところ、河津構成員から、証拠が主張と関連付けられないまま未整理の状態で裁判所に提出されるよりも、まずは再審請求人や弁護人に開示させ、主張・立証させる方が合理的である場合が多い旨の御回答をいただきました。   その御趣旨は、再審請求者や弁護人が証拠の取捨選別を行うことにより、裁判所は再審請求事由の有無の判断に専念できるということなのかもしれませんが、審理構造との整合性に関する説明としては、やはり十分でないように思われます。   まず、再審請求者や弁護人が裁判所の判断資料を事前に整理すべきとの発想は、裁判所は再審請求者や弁護人から提出された資料のみを判断資料とすべきという発想の裏返しであって、再審請求審において、裁判所が再審請求についての決定をするのに必要な取調べを主体的に実施するとされていることと必ずしも整合しません。   また、証拠を整理し主張と関連付けることが必要な場合には、裁判所が再審請求者や弁護人に対して求釈明をすれば足りますので、審理構造との不整合の問題を生じさせてまで、再審請求者や弁護人への直接開示に固執する必要もないように思われます。   私も現時点で定まった意見を持っているわけではありませんが、仮に、再審請求審における記録等の取扱いについて何らかの規定を設けるならば、日本弁護士連合会の改正案第445条の10のように記録等を検察官から弁護人に開示するという枠組みよりも、検察官が、裁判所に対し、裁判所が必要と認めた範囲の記録等を提供するという枠組みにする方が、少なくとも再審請求審の構造には沿うと考えます。   なお、後者の枠組みにより裁判所が再審請求審段階で検察官から入手した記録等は、「訴訟に関する書類及び証拠物」として、弁護人が裁判所においてその閲覧・謄写をすることができます。よって、仮に、私が申し上げたような枠組みを採用したとしても、弁護人において、再審請求についての決定に資する資料を確認することは可能であり、再審請求審における再審請求者や弁護人の活動に支障が生じるものではないと思われます。   そこで、検察官から再審請求者や弁護人に対して記録等を開示するのではなく、検察官から裁判所に対して裁判所が必要と認めた範囲の記録等を提供し、それを弁護人が閲覧・謄写するという規定の方向性について、河津構成員の御意見をお伺いできれば幸いです。 ○河津構成員 個人的な意見を申し上げますと、再審請求審において、証拠開示的な制度を設ける場合に、再審請求審の構造と整合するのは、成瀬構成員が御指摘になったとおり、裁判所が裁判所に対する証拠の提出を命ずることなのだろうと思います。ただ、別途検討しなければならないのは、誤った有罪判決を受けた人が再審によって救済を受けるためには、無罪を言い渡すべきことが明らかな新たな証拠を自ら示さなければならないところ、その多くは捜査機関の手元にあることから、これに対するアクセスが保障されなければならないということです。捜査機関の手元にその証拠があるがために、誤って有罪判決を受けた人が救済の手続を始めてもらうことすらできないというのは、耐え難い結論ですので、再審請求をしようとする者が裁判所不提出記録や証拠物に対してアクセスする機会を保障する必要があると考えております。 ○成瀬構成員 ただ今、河津構成員から、再審請求の準備のため、再審請求前に、再審請求をしようとする者等に対して、検察官がその保管する記録の全部又は一部を開示するという制度の御提案がありましたので、そうした制度の導入を検討する上での留意点について、意見を申し上げたいと思います。   まず、再審を請求しようとする者等は、刑事確定訴訟記録法第3条第2項により、検察官に対して、その保管記録を再審保存記録として保存することを請求することができ、保管検察官は、同法第5条第1項により、再審を請求しようとする者等から請求があったときは、再審保存記録を閲覧させなければならないとされています。よって、少なくとも、通常審において裁判所に提出された訴訟記録については、再審を請求しようとする者のための新たな開示制度を設ける必要性はないと思います。   次に、裁判所不提出記録については、現行の刑事訴訟法上、その全部又は一部を訴訟終結後に被告人であった者等に開示する制度は存在しないところ、再審請求前に裁判所不提出記録を開示する制度の導入の当否を検討するに当たっては、次の点に留意する必要があると思います。   まず、再審の準備のためとはいえ、通常審における証拠開示制度より広い範囲で裁判所不提出記録の閲覧等が可能になるとすれば、判決に不服がある被告人としては、控訴・上告せず、有罪判決を確定させた上で再審請求をした方が、より広く裁判所不提出記録の開示を受けられる上、再審開始決定が確定すれば同一審級での再審理となり、立証制限も受けないという点で、有利な戦略となりかねません。このように通常審の軽視を招くような制度は不合理であると思われます。   また、先ほど私が申し上げた、検察官が、裁判所に対し、裁判所が必要と認めた範囲の記録等を提供するという枠組みを前提とすると、再審請求前は、再審請求後とは異なり、判断者である裁判所が存在しない上、再審を請求する者の具体的主張の中身も定まっておらず、証拠開示の必要性の判断が困難となる点も課題になると思われます。  ○河津構成員 今、成瀬構成員から、判決を確定させてしまった方が幅広い証拠開示を受けることができることになってしまうと通常審の軽視につながってしまうという御指摘がありました。これについては、そもそも通常審の証拠開示の制度が十分なのかどうかが検討されるべき問題なのではないでしょうか。先ほど、宮崎構成員から、平成16年改正以降の公判前整理手続に付された事件における証拠開示、公判前整理手続に付されていない事件における証拠開示についての宮崎構成員の御認識の御説明がありました。以前も申し上げましたが、公判前整理手続に付された事件においても必ずしも十分な証拠開示はされていませんし、公判前整理手続に付されていない事件についてはほとんど証拠開示は行われていないというのが私の認識です。この問題は、お互いの立場からの見え方を言い合っていても仕方がありませんので、検察庁において、検察官の手持ち証拠のうち、公判前整理手続において弁護人に開示している証拠の割合や、公判前整理手続に付されていない事件において弁護人に開示した証拠の割合などの統計的な根拠があるのであれば、是非お示しいただきたいと思います。 ○中野参事官 御意見として伺いました。 ○宮崎構成員 私からも、再審請求の準備のため、再審請求前に、再審請求をしようとする者等に対して検察官が保管する記録を開示するという制度の御提案について、意見を申し上げたいと思います。   具体的にどのような制度を想定されているのかは定かではないですけれども、仮に、再審請求審において主張する予定の請求理由と関連する記録等の開示にとどめるとしたとしても、再審請求前には、同一の理由による再審請求を禁止した刑事訴訟法第447条第2項による制限が及ばないため、再審の請求をしようとする者等として、当該制限を気にすることなく、開示を受けたい記録を念頭に置きながら、適宜、予定主張を変更して開示請求をするということが可能となり、開示の請求に際限がなくなってしまうと思われます。   もちろん、記録等の保管者である検察官の裁量において、記録等の全部又は一部を弁護人に任意に開示しているものがあれば、その運用自体を否定するものではありませんが、再審請求前に検察官保管記録を刑事確定訴訟記録法による閲覧が可能な範囲を超えて開示する制度を設けることについては、成瀬構成員のおっしゃるとおり、上訴よりも再審請求の方が立証制限を回避できる点等において有利な戦略となりかねず、通常審の軽視を引き起こすおそれがあることから、反対です。 ○河津構成員 御指摘の趣旨は理解できますが、過去に実際に確定判決が誤りであることが判明した事件においては、検察官から開示を受けた証拠が無罪を言い渡すべき明らかな新証拠となったという例が少なくありません。   そのような証拠が裁判所不提出記録の中に埋もれていて、再審請求しようとする者がアクセスすることができず、その結果、再審請求をすること自体ができないという事態が起こってもよいとお考えなのはなぜなのでしょうか。私はそのような結論は避けなければならないのではないかと思います。 ○宮崎構成員 証拠開示に関してもう1点、補足して申し上げます。再審請求審における証拠開示について検討する場合には、開示された証拠の利用の在り方についても検討する必要があると考えています。   現行法下では、再審請求審段階で検察官が任意に開示した記録や裁判所において閲覧・謄写の機会を与えた記録については、刑事訴訟法第281条の4に定める「検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠」には当たらないとされ、いわゆる目的外使用禁止の規制が及びません。   しかし、再審請求審ひいては再審公判に利用するために開示した記録の複製等についても、関係者のプライバシー侵害等の弊害が生じる一方で、例えばそれを不特定多数人に公開するなどといった必要性はおよそ考えにくいです。   また、開示された記録が再審請求審や再審公判の準備以外の目的に使われる可能性が残るのであれば、検察官としては、開示された記録が不特定多数人に公開されるリスクをも踏まえて、開示の当否を判断せざるを得ないこととなります。   さらに現状において、再審請求審の弁護人が通常審の弁護人から通常審の開示証拠を引き継いだ場合には、その証拠の複製等が再審請求審段階でも引き続き目的外使用禁止の規制対象となる一方で、再審請求審段階で同一の証拠の開示を受けた場合には、その取扱いについて何らの法的規制がなく、同様の弊害が生じ得ることからすると、不均衡な状態となっているようにも思われます。  そのため、再審請求審段階で閲覧又は謄写の機会を与えた証拠についても、目的外使用禁止の規制を検討する必要があると考えられます。 ○河津構成員 日弁連は、通常審についても原則として全ての証拠を開示する制度の創設を求めており、再審法の意見書においては、その緊急性に鑑み、現行刑訴法の通常審の公判前整理手続における証拠開示制度を参照した制度を提言していることは、第9回会議で御説明したとおりです。私見を申し上げると、私も本来は、原則として全ての証拠が開示される制度が望ましいと考えますが、少なくとも再審開始事由を裏付ける証拠が捜査機関の手元に埋もれることにより、重大な不正義が是正されないまま放置されることのないようにする必要がありますので、再審開始事由と関連しないことが明らかな証拠や、弊害が必要性を上回ることが明らかな証拠を除いて、アクセスの権利が保障されるべきであると考えております。 ○成瀬構成員 証拠の存否の報告命令について定める日弁連の改正案第445条の11第2項について、河津構成員に質問させていただきたいと思います。   河津構成員は、第10回会議において、証拠の存否の報告命令制度を創設する理由について、検察官が不見当、不存在と回答した証拠が実は存在していたという場合があることから、証拠の存否が争いとなったときに、裁判所が検察官に対して証拠の存否の調査を命ずることができ、検察官は当該証拠の存否を調査し、その結果を回答することを義務付けるというのが、日弁連意見書の提案の趣旨であると理解している旨、述べられました。 これは、要するに、検察官の回答内容の信用性を問題とするものであって、検察官が裁判所からの求釈明にそもそも応じてくれないということを問題視しておられるわけではないと思います。   そして、現在の実務において、検察官が裁判所からの求釈明に応じているのであれば、訴訟指揮権の行使としての求釈明に加えて、裁判所に証拠の存否の報告を検察官に命ずる権限を付与する必要性は乏しいように思います。   また、検察官の回答が結果として誤っていたとしても、その原因が証拠の見落とし等の過失であったならば、仮に調査命令を法定しても、そのようなミスを防ぐことはできないように思われます。   さらに、日弁連の改正案を見ると、証拠の存否の報告命令制度は、証拠開示命令とは別に設けることとされていますが、証拠の提出先についての先ほどの議論は措くとして、裁判所が、再審請求についての決定に必要と認める証拠の提出を検察官に命じることができるのであれば、それに加えて、証拠の存否の報告だけを命じることの意義がどれだけあるのかという点も疑問です。   このように、証拠の提出・開示に関する規定に加えて、証拠の存否の報告命令の規定を設ける必要性が今一つ理解できないので、日弁連の改正案において、証拠開示命令と証拠の存否の報告命令を併存させている趣旨について、改めて河津構成員にお伺いできればと思います。 ○河津構成員 日弁連の意見書が証拠の存否の報告命令を証拠開示命令と併存させているのは、これまでの再審請求事件の中で証拠を開示するか否かの前段階として、そもそも証拠が存在するのか否かに争いが生じ、そのために年単位の時間が費やされることが少なくないという経験に基づくものと理解しております。   私も最近、通常審において、検察官から未開示証拠はない旨の回答を受領した後に、相当多数の証拠が未開示であることが判明し、私の方から指摘をして追加で開示を受けるということを経験しています。このようなことの多くは、必ずしも検察官が意図して証拠を隠しているということではなくて、証拠が適切に管理されておらず、検察官が探すという作業をする必要があり、それが十分に尽くされないときに生じているのではないかと思います。   現行法の公判前整理手続における証拠開示命令制度の運用上も、検察官が不存在と回答した証拠については、裁判所は開示命令を出さない傾向にありますが、不存在との回答の前提として、検察官がどの程度調査を尽くしたのかは不明です。こうした実務の実情を踏まえると、証拠の存否の報告命令を明文で規定した上で、それを命じることができるものとすることは、調査を尽くさせることを通じて、本当は存在する証拠が開示されないという事態を防止するために、実際上は有益であると思っております。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、「2 その他」、「(1)再審開始事由」、「再審開始事由を拡大すべきか」という論点につきまして、御意見等はありますか。 ○成瀬構成員 日本弁護士連合会の改正案では、刑事訴訟法435条6号について、無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」という現行法の文言を、無罪を言い渡すべき「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」という文言に改正することが提案されています。日弁連の「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」の8ページによれば、この改正提案は、白鳥決定・財田川決定の趣旨を明文化するものであるようです。   まず、435条6号の改正提案の趣旨は、以上のような理解でよいかという点について、河津構成員に確認させていただきたいと思います。 ○河津構成員 私も同様に理解しております。 ○成瀬構成員 では、それを前提として、河津構成員に2点質問させていただきたいと思います。   第1に、昭和50年代初頭に出された白鳥決定・財田川決定の趣旨を、あえて今、刑事訴訟法において明文化しなければならない理由や必要性について御説明いただきたいと思います。   第2に、白鳥決定・財田川決定の判示をめぐっては、その趣旨をどのように理解するかについて様々な議論があるものと承知しておりますが、日弁連の御提案は、白鳥決定・財田川決定の判示をどのように理解し、明文化しようとするものであるのかについても、御説明いただければ幸いです。 ○河津構成員 先ほど申し上げたとおり、日弁連の意見書が、6号の「明らかな証拠」という文言を「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」と改めることを提案している趣旨は、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき、合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠というものと解すべきであると判示した、白鳥決定及び財田川決定の趣旨を明文化するものです。新証拠の発見により、有罪認定することについて合理的な疑いを差し挟む余地があることが明らかになった以上、有罪判決を維持することは著しく不正義であることから、これを是正する必要があります。ところが、成瀬構成員も御示唆になったとおり、この両決定の理解については諸説あることから、この判例の解釈をめぐる争いについても決着をつけるという趣旨であると理解しております。 ○成瀬構成員 丁寧に御教示下さり、ありがとうございました。それでは、刑訴法435条6号の改正提案について、私の意見を申し上げます。   白鳥決定・財田川決定が435条6号の再審請求事由に関するリーディングケースであることは異論のないところだと思いますが、先ほども申し上げたとおり、両決定の判示をどのように理解すべきかについては様々な議論がされているものと承知しております。   河津構成員も言及されたように、一般に、白鳥決定・財田川決定は、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」の意義について、「確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」と判示した上で、再審請求手続においても利益原則の適用があることや、証拠の明白性の判断方法について、新証拠と旧証拠との総合評価によることを明らかにしたものであるとされています。   ただ、白鳥決定・財田川決定が判示した証拠の明白性の意義のうち、「その認定を覆すに足りる蓋然性」という部分については、新証拠と旧証拠との総合評価によって無罪を指向する証拠が優勢であることを必要とするのか、それとも、当該判示に特段の意味はなく、確定判決における事実誤認につき合理的な疑いを抱かせれば足りるのかについて、識者によって見解が分かれています。   また、証拠の明白性の判断方法についても、白鳥決定・財田川決定は、旧証拠の全面的再評価を前提とする新旧全証拠の総合評価によるべきであるという見解に立つことを明らかにしたのか、それとも、新証拠の持つ重要性と立証命題に照らして、確定判決の当否を検討するのに必要な限度で旧証拠を再評価すべきであるという見解に立つことを明らかにしたのかについて、識者によって理解が分かれています。もっとも、第10回会議で申し上げたとおり、少なくとも、近時の最高裁判例では、明白性の判断において、常に、旧証拠の全てを再評価する必要があるとまではされていないものと理解しております。   このように、白鳥決定・財田川決定の判示をどのように理解するのかについては様々な議論があり、両決定が出されてから約半世紀を経た現在においてもなお、その解釈が確立しているとまでは言えないと思われます。河津構成員の先ほどの御説明によれば、日弁連の御提案は、このような議論状況において、白鳥決定・財田川決定の判示の理解について特定の立場に立ち、その趣旨を刑事訴訟法上に明文化しようとするものでありますので、そのことの当否については異論もあり得るのではないかと考えています。  ○宮崎構成員 今、取り上げられています刑事訴訟法第435条第6号について、無罪を言い渡すべき「明らかな証拠」との文言を、無罪を言い渡すべき「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」と改正すべきという御提案について、意見を申し上げます。   第10回会議でも申し上げたとおり、再審は、通常審における手厚い手続保障と三審制の下で、適正かつ十分な審理を経て確定した有罪判決を覆して、更に審判を行う非常救済手続であり、再審請求事由を含め、再審制度の在り方を検討するに当たっては、確定判決による法的安定性と具体的事案における是正の必要性の双方を考慮する必要があると考えています。   実務上も、再審制度については、個々の事案に応じ、確定判決による法的安定性と具体的事案における是正の必要性の双方の調和の観点から、適切に運用されているものと認識しています。   無辜の者が処罰されることがあってはならないことは当然であるものの、再審制度の目的が無辜の救済にあるということのみから、再審開始の要件を緩和したり追加したりすることについては、慎重に検討する必要があると考えています。   その上で、成瀬構成員から御指摘のあったとおり、白鳥決定・財田川決定の判示をどのように理解するかについては様々な議論があり、証拠の明白性の意義やその判断方法をめぐって見解が分かれています。   このような中で、御提案は、白鳥決定・財田川決定の趣旨を明文化するという観点から、「明らかな証拠」を「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」に改めることとしているものの、そもそも白鳥決定・財田川決定の趣旨を一義的に明確化することは困難であると考えられます。   また、御提案が、明白性の意義について、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせれば足りるとする見解に立ち、その判断方法についても、新証拠の立証命題に関係なく、旧証拠の全面的再評価を行うべきであるとする見解に立っているのだとすると、裁判所は、再審請求審において、旧証拠を洗いざらい評価し直して自ら心証を形成し、新旧全証拠の総合評価を行った上、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱けば、再審開始決定をなし得ることとなりかねませんが、それは実質的に再審請求審を「第四審」とすることにほかならず、相当でないと考えられます。   さらに、第10回会議でも申し上げたとおり、刑事訴訟法第435条第6号の改正に関する御提案は、刑事訴訟法第411条第3号が、上告審における職権破棄事由として、「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があ」り、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」と規定していることよりも、緩やかな基準で再審開始を認めることともなりかねず、この点からも御提案は相当でないと考えます。  ○中野参事官 その他、刑事訴訟法第435条第6号関係でいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   予定していた時間も迫っていますので、本日の協議はここまでとさせていただきたいと思います。   次回の会議におきましては、本日に引き続き、「再審請求審における証拠開示等」に関する意見交換を行うこととしたいと思います。   第17回会議の日程の詳細は追ってお知らせいたします。また、第17回会議におきまして、構成員の皆様から資料の提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御送付いただく必要がございますので、併せて提出の期限についても御連絡させていただきます。その場合の資料について、事務当局において確認させていただき、必要に応じてどのような形で御提出いただくかなどについて御相談させていただくことは、これまでと同様です。   本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。配布資料につきましても公開することとしたいと思いますが、そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-