法制審議会 担保法制部会 第47回会議 議事録 第1 日 時  令和6年7月23日(火) 自 午後1時29分                      至 午後3時42分 第2 場 所  法務省地下1階・大会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討⒀ 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 少し早めなのですけれども、御予定の方は全員御参加ということですので、法制審議会担保法制部会の第47回会議を開会したいと思います。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。本日は、幹事の家原さんが欠席で、委員の横山さんが途中参加と伺っております。また、本日は参考人として明治大学法学部教授の山川隆一さんに御出席いただいております。また、同じく参考人として竹村和也弁護士にも御出席いただいております。 (参考人の自己紹介のため省略) ○道垣内部会長 ありがとうございます。よろしくお願いいたします。   幹事の交代がありましたので、お知らせいたします。増田幹事に替わりまして尾田幹事が、亀山幹事に替わりまして河原幹事が新たに就任されました。すみませんが、一言ずつ御挨拶をお願いいたします。 (幹事の自己紹介のため省略) ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   さらに、関係官の交代がありましたので、お知らせいたします。遠藤関係官が新たに就任されました。一言お願いいたします。 (関係官の自己紹介のため省略) ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まず、配布資料の説明をしていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。事前に部会資料45「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(13)」をお送りさせていただきました。後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、審議に入りたいと思います。先ほどもお話がありましたように、部会資料45「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(13)」について議論をしたいと思います。事務当局から、まず部会資料の説明をお願いします。 ○笹井幹事 それでは、御説明いたします。部会資料45におきましては、今回は一つだけ論点を取り上げておりまして、一般債権、特に労働債権などの保護の必要性があるのではないかということで、これまでの審議においても議論されてきましたけれども、こういった一般債権に対しての弁済原資をどのように確保するかという論点を取り上げております。   その全体的な枠組みといたしまして、中間試案に至る前には様々な考え方がございましたけれども、この部会での議論を経まして、現在のところ、実行後に集合動産譲渡担保権ですとか集合債権譲渡担保権の実行後、一定期間内に破産手続等の倒産手続の開始があった場合に、回収した額の一部を倒産財団に組み入れるという枠組みで議論をしておりまして、この部会資料45におきましても、その枠組みを前提とした記載をしております。   その中で、これまでの部会において意見が分かれておりましたのは、どのように倒産財団への組入額を算出するかということで、大きく分けますと、1ページ24行目辺りからになりますけれども、被担保債権の額を基準とするという考え方と、目的財産の価格を基準とするという考え方があったかと思います。   今までの部会資料43などにおいては少し詳細な制度設計を具体的に御提案していたところではありますけれども、今申し上げた大きな二つの考え方の中にも細かい制度設計によって幾つかのバリエーションがあり得ますので、この部会資料45においては余り特定の方向性に絞らず、どういうバリエーションがあるのかということを御紹介しているということにしております。   まず、被担保債権額を基準とするという考え方においては、3ページに図1を書きましたけれども、今までは、元本と利息部分、1年分の遅延損害金、1年分を更に超える遅延損害金という三つの枠に分けて検討をしておりました。被担保債権額を基準とするという考え方の中でも、この三つの枠をどのように分類するか、またその枠の中をどのように分けるかによって、幾つかのバリエーションがあるのではないかと思っております。   まず、真ん中の枠、1年分の遅延損害金については、担保権者の優先弁済権を否定しないということを前提としてこれまで議論しておりましたが、この期間を更に短縮するとか、また、期間ではなく、割合的な一部を組み入れるという考え方もあるのではないかという問題提起しております。更には、元本それから利息についても組入れの対象にするということも考え得るわけですが、こういった部分について、現状の融資に対するどういった影響があり得るのかといったことも含めて、御検討いただければと思っております。   続きまして、目的財産の価格を基準とする考え方につきましても、部会資料43におきましては、複数の担保権者がいた場合にどのように処理をするかということも考慮して提案をしておりました。このような提案については、制度が複雑になる、また、管財人がまず請求していくということでアクションを起こすことになりますけれども、その管財人の負担が重くなりすぎるのではないか、資料収集が困難ではないかというような指摘も受けていたところです。   こういった問題点についての解消を優先するということになりますと、部会資料43のように、それぞれの担保権者が回収した額を合算して、その合計額と目的財産の価格を比較するということではなくて、それぞれの担保権ごとに、担保権者ごとに考えていくということもあり得るのかもしれません。こういった修正というのがあるのではないかと思っております。   また、3ページの25行目以下の②、③につきましては、この目的財産の価格基準という考え方そのもののバリエーションというよりは、むしろ先ほど申し上げました被担保債権額を基準とする考え方と、どのように組み合わせていくかということかと思いますけれども、元本そのもの、あるいは元本の少なくとも一定額については優先弁済権を限定しないというような考え方もあり得るかもしれませんし、逆に、この目的物の価格の一定割合を下回る回収しか受けていないとしても、被担保債権額の弁済に充てられた部分が、多くが遅延損害金に充てられているとか、そういった場合には組入れの対象にするという形で併用するということもあり得るのではないかと考えております。   それぞれメリット、デメリットはいろいろ指摘されているところでして、例えば、現在の実務を前提とする限りは、被担保債権基準額によると余り組入れというのが生じないことになって、それは制度としての意味が失われるのではないかという御指摘ですとか、逆に、目的物の価格を基準とした場合には、融資額の減少につながってしまうのではないか、あるいは、管財業務において複雑な計算が必要になると管財人に対する負担とならないのかといったところが問題とされてきたところかと思っております。   また、既にこれまでの部会資料におきましても一部触れたところがあるかもしれませんけれども、5ページの(5)において、もし目的財産価格基準ということになった場合には、特に集合債権の場合に何をこの分母といいますか、目的財産の価値としてどの範囲のものを算入するのかということ自体も若干検討が必要になるのではないかと思いますので、その点につきましても付記をさせていただきました。   以上につきまして御議論いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、いろいろなバリエーションというのがありますので、また、いろいろな御意見があろうかと思いますので、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。 ○村上委員 ありがとうございます。労働債権の保護につきまして、別除権に労働債権の一部を優先させる制度を導入していただきたいと考えている点は、繰り返しこれまで述べてきているとおりでございます。また、これまでの部会での議論の到達点として、労働債権を始め一般債権者の保護に向けた政策的対応の必要性自体については、皆様方のコンセンサスは一定程度得られているのではないかと考えております。そうした観点で、今回も制度化に向けて検討いただいていることに加え、本日も本当に暑い中、多くの専門家の先生方に集まっていただいて、その具体化に向けた検討を頂いているということについては感謝申し上げたいと思っております。   その上で、資料43、45などの提案がありますけれども、こうした内容を実効性あるものにするためには、元本や利息の一部についても組入れの対象に加える方向で検討していく必要があるのではないかと考えております。そうした観点から、基本的な方向性としては、今回、部会資料45の中では、②の目的財産の価格基準の方が望ましいと考えております。   また、資料45では、具体的な制度化に向けて検討が必要な論点が示されておりまして、本日はその点について様々議論がなされると思いますが、ここに示されていない組入れ後の課題についても意見を申し述べておきたいと思います。倒産局面におきましては、実態として企業に残された財産が十分ではなく、仮に倒産財団に組み入れられたとしても、労働債権を始めとした一般債権の弁済に充てられる前に租税債権や管財人報酬などで、なくなってしまうというケースが多数あると認識しております。そうなりますと、幾ら組入れ前の制度設計を精緻に行っても、実際には一般債権の弁済原資として充当されない制度となってしまいかねないという懸念も持っているところでございます。それを踏まえ、今回の制度で組入れが予定されている額については、特に労働債権などの一般債権について一定の配当割合を法定することで、その実効性を高めることも考えられるのではないかと考えております。   より具体的には、ほかの財産と同様に倒産財団に組み入れ、破産法のルールに従って配当していくのではなく、あらかじめ組入額のうちの一定割合について、労働債権など一般先取特権を有する債権の弁済に充当させるような新たな仕組みであれば、今回の提案内容がより実効性の高いものになるのではないかと考えております。実務的な課題は検討が必要かと思いますけれども、こうした仕組みについても是非御検討いただきたいと考えております。また、その際、特別の取り置き分の在り方については、従前申し上げていた新たな供託制度ということについても検討いただきたいと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○井上委員 ありがとうございます。私も、債務者が倒産したときに、一般債権者あるいは労働債権者の保護のために担保権者の権利が制約されることが政策的に正当化され得るというのは、そのとおりだろうと思います。ただ、その点については既にほかのところでもいろいろ議論されていて、特に集合債権譲渡担保あるいは集合動産譲渡担保の関係では、倒産手続開始時に固定化し、それ以降に発生あるいは取得された動産あるいは債権には及ばないという形で、一般債権者あるいは労働債権者に残す分を確保することが既に議論されているということを、まずは確認したいと思います。また、それ以外にも、禁止命令、中止命令などとセットで別除権協定を結びやすくするなど、いろいろな手当てがなされる見込みになっているわけですけれども、今回は、それで足りないのかというのが第1の問題になり得ると思います。   次に、仮にそれで足りないとして、追加的な手立てが必要だとしても、今回提案されている「組入れ」というのがよい手立てなのかが次の問題になると思っていまして、その観点で、私は、この組入れという方法によって、今申し上げた政策目的を実現するのは非常に難しいので、避けるべきではないかと考えています。なぜならば、既に今、村上委員もおっしゃったことに関わるわけですけれども、組入れをしたとしても、それによって誰がその組入額を受け取るかという点で言えば、多くの倒産手続において、特に破産手続においては、財団不足の場合が多いでしょうから、そうすると、組入額は、多くの場合、一般債権者には回らず、財団債権者で按分することになるのではないかと思います。   その場合に、確かに労働債権の一定部分は財団債権ではありますが、かなりの額は、むしろ租税、社会保険料、最近、社会保険倒産などという言葉もありますけれども、そちらに行くのではないかと思うのです。また、賃金債権についても、これも以前の部会で申し上げたと思うのですけれども、現在創設されている未払賃金立替払制度によって、ざっくり言うと8割ぐらいが立替払いされますから、結局はそこで立替払いをした労働者健康安全機構が代位して財団債権者になるとすると、結局のところ、組入額はほとんどが租税、社会保険料、あるいはこの立替えをした安全機構に行くにとどまってしまうと思われます。そのために、例えば100を組入れるとすれば、担保価値は正に100純減するわけですが、そして、そういう見込みで与信判断をしなければならなくなってしまうわけですが、その結果として、労働者など本来保護すべき人たちに行く金額が幾らになるかというと、極めて限られるのではないかという感じがします。   そう考えますと、この組入れ制度というのは、組入れ自体を実現するために創設するというよりは、これも前回申し上げたことかもしれませんけれども、それほど多くはないかもしれませんけれども、担保余剰があるという場合に、担保権者がだらだらと実行を遅らせて、遅延損害金が次々と積み上がったところで実行するような形で、不当に破産財団などの一般債権者に回る財産を減らすような行為を抑止するという効果がある制度として、その是非を考えるべきで、そう考えると、ここでは、債権額基準である①を採った上で、この1年という期間が本当に必要なのかどうかという観点から議論するのがよいのではないかというのが私の現時点での意見です。   それについて今、村上委員から、組入額が一般債権者や労働者に行かないのであれば、組入額自体をプールして取り置き、別扱いにして、租税債権者等を押しのけて一般債権者あるいは労働債権者に払う仕組みを準備すればよいというのは、そこまでやれば、それは確かにそのとおりだと思います。しかし、それは相当程度、実体法上の優先劣後関係を大きく変えることになり、倒産手続上の優先順位に大きな穴といいますか例外を作ることになるので、法改正としては相当厳しい議論になるような印象を持っているということを申し上げたいと思います。   それよりはむしろ、本来、労働債権自体を民法などで先取特権その他により広く保護するようなストレートな手当て、あるいは倒産法自体を改正して、少額債権あるいは労働債権の保護部分をより増やす議論をする方がストレートフォアードであり、部会資料において指摘されている制度の複雑さを避けることができるのではないかと考えます。 ○道垣内部会長 少し井上さんの御意見を確認したいのですが、私は途中で、結論を予想しながら井上さんのお話を伺っていたところ、予想が外れてしまったのです。どういうことかと申しますと、最初、組入れという手法はそれほど適切なものではない、なぜならば財団債権者に行ってしまう、租税とか社会保障とかに行ってしまうというだけになるからであるとおっしゃいました。しかるに、最後の方では、それよりも労働債権が勝つというのは、やはり実体法上の優先劣後関係として、例えば租税債権とか社会保障の債権とかというのは優先しようという法的な価値判断がされているわけですから、それをひっくり返すというのもなかなか大変だろうとおっしゃいました。その二つの関係がよく分からなくて、組入れという方法ではないが、しかし。 ○井上委員 私自身は、冒頭に申し上げたように、固定化などの手当てによる保護では不十分だという結論は十分あり得ると思っております。これ以上労働者を保護すべきでないとは全く思っていないのです。そこはむしろ政治的にというか民主的に、どの辺りまで保護すべきかという議論をすべきだと思っているのですが、ただ、その議論の結果、仮に保護が追加的に必要だという立場に立ったとしても、今回提案されている「組入れ」という方法は、担保価値を減らすほどにはメリットがないため、反対したということです。例えば100のデメリットを甘受しても、今の提案のままだと結局5しか労働者なり一般債権者なりが保護されないという意味で反対だということであって、100の担保価値が減じられても、もし100のメリットが労働者等に与えられるならば、それは一つの政策判断としてよかろうと考えているというのが私の意見です。   そこで、100減じて100労働者に回るような制度を構想するとすると、村上委員がおっしゃったような取り置きの制度とか、それから、倒産実体法や民法を変えるというのが一つの案になると思います。しかし、それはここでのミッションを超えるかもしれないというのが一つと、それから、ここでのミッションの範囲で、先ほど村上委員がおっしゃったことを正しく理解できているかどうか分かりませんけれども、民法の改正もせず、倒産法上の優先順位の改正もせず、組入制度の一環として組入金をプールして労働者なりに払うという制度は、法制上ハードルがものすごく高いのではないかという意味で、反対というよりは懸念というか、難しさを申し上げたかったということです。 ○道垣内部会長 なるほど。担保権信託しなければいけないという、いわゆる事業価値担保権と同じような話が出てき得るわけですね、システムとしては。 ○井上委員 そうしないと、民法も倒産法も変えないで、ここだけで変えるのは難しいのかなということです。 ○道垣内部会長 お立場はよく分かりました。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○竹村参考人 ありがとうございます。何周も遅れての発言になるかもしれないのですが、労働者、労働組合側で労働事件を取り扱う際に、会社の危機時にどのように労働債権を回収するのかというのは常に課題になっております。その際、抵当権や譲渡担保権といった約定担保権が広範囲に設定された場合に、それら約定担保権を持つ金融債権に劣後する労働債権の回収というのは、やはり容易ではないという実情はございます。今回もこれらの指摘を踏まえて、担保法制見直しにおいて労働債権などを保護するための規律が議論されていると認識しております。本来、抵当権等との関係でも議論していただきたいのですが、比較的簡易な手続で広範囲な担保権設定が可能な譲渡担保権について、まず議論していただいているということについては、賛同したいと思っております。   具体的な検討状況を拝見する限り、まず労働債権を含む一般債権者の利益をどのように保護するのかという点、融資実務にどのような影響があるのかという点、管財実務にどのような影響があるのかという点について具体的に調整されているものと認識しております。井上先生も御指摘されているように、結局この制度は労働債権等の保護を目的としていますので、その実効性をどういうふうに考えるのかというところは非常に重要になってくるのかなと思っております。   以上を踏まえ、私としては案①の被担保債権額を基準とする案では、元本割れのケース等を典型として、組入れが生じない可能性、あったとしても過小な組入れにとどまる可能性があると思われますので、確実な組入れを確保するという点で、案②の目的財産の価格を基準とするということが望ましいと考えております。ただ、ここも先ほど議論されておりますとおり、結局それが労働者に回るのかという点が非常に重要になってくるかと思っておりまして、公租公課等の関係で労働債権に十分に配当されないというのは、一般の破産事件でも十分あり得るところです。   ですので、本来的には、井上先生も御指摘があったとおり、財団債権内での順位をどういうふうに調整するのかという点も検討する必要があろうかと思いますし、実体法上の労働債権の順位をどのように考えるのかという点はあろうかと思います。ただ、やはり今ここで議論されている労働債権等への保護というこの制度を実効性のあるものにするということであれば、今回の制度に限って、何らかの方法で労働債権等の一般債権に配当される、そういう仕組みを特別に検討することも十分考えられるのではないかと思って聞いておった次第です。   労働債権にどのように行くのかというところにもつながりますが、案②を採った場合でも、やはり組入れの具体的な割合をどうするかという点も問題なると思っておりまして、ここが僅少であれば、やはり労働債権保護という制度趣旨は実現されないと思いますので、労働債権にしっかり行くという枠組みを実効性あるものとしていただきたいというのが、現状私が聞いている中での意見でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかの方、御自由に御意見を頂ければ。 ○大西委員 まず、破産の場合、例えば不動産の抵当権の任意売却のときに組入れということを管財人がやるのですが、これは一般的に言われるのは、管財人の汗かき量とか、あとは競売よりも高く売れると、これはひいては一般債権者のためということですが、そんなような趣旨でやられてきていると理解をしているのですが、今回、担保制度でここで明確に決めるということの抵当権との違いで言うと、やはり非常にスピーディーに処理する、場合によってはもう債権者が帰属清算で速やかにと、こういうことなので、それによって組入れを確保する、そういう機会もなかなかないかもしれないというようなこともあるのかなと思っております。   ですので、ここのそういう必要性ということの中で、実際どうなるかというと、やはり担保物権の場合、元本とか利息遅延損害金を回収してなお余るという状態は、余り通常は想定できない。先ほど井上先生がおっしゃった、余り想定できないと意味がないという、同じような理屈で別の局面で、担保、それを超える部分というのがあるケースでというのは余り見たことがない。そうすると、やはり原則は財産価値でやるのかなと、こういうふうに考えております。あとは、融資に影響があるということを考慮すると、それは元本部分は確保するという考えもあるのですが、ただ、これも後順位が付いてしまうと結局は担保割れするということから、保護する方向で考えられるとすると、やはり実際の価値に応じた、その一定割合ということなのかなと思います。   あともう一つは、評価が難しいのではないかとあるのですが、ただ、ここは、いわゆる不動産の任意売却もそうですが、実際に売れた額で計算をするしかないわけで、何か違う評価額を使ってというのも難しいので、そういう意味では、いわゆる処分清算であれば処分額だし、帰属清算であればそこでフィックスした帰属額と、これの一定割合ということなのかなとは思っております。いずれにせよ、こういう制度でやるということであれば、やはりこの財産価値でやるしかないのかなと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかにございますか。 ○日比野委員 どうもありがとうございます。従来から同じ主張をさせていただいているのですが、金融機関の立場としては、被担保債権の額を基準とする考え方となります。今回新たに1年分の遅延損害金についても組入れしてはどうかというような形で提案をされており、この部分についても積極的に賛成する立場ではないのですが、金融機関の立場としては、少なくとも元本と利息については担保からの回収が確保されることを維持していただきたいと考えております。   現在は、倒産手続に入ったときの利害の調整という観点でのお話が続いているかと思いますけれども、金融機関としては、平時に融資を行うという立場から、元本と利息については確保できることを前提に担保を活用することによって債務者、事業者の方に必要な資金を提供していくということが使命でありますし、預金者の方から集めた資金を事業者の方にご融資として提供しているという立場からすると、少なくとも元本及び利息については、万一のときには、それを回収する責務を負っており、その実現を担保に期待することになります。   倒産したときに元本、利息は確保されるとすると、現実には組入れが発生しないことが多いのではないかという点についても、これも立場が異なるので、余り同じ土俵での議論ということにならないかもしれませんけれども、もしそうだとすれば、それはすなわち担保価値だけではなく、それを上回る資金を融資として提供しているということを意味することになるはずです。そのような融資は平時あるいは場合によっては危機時期に近いような時期で担保取得して提供されるケースもあるわけで、その融資金は、当然のことながら一般債権者の方々への支払い資金に充当されるという関係にあると理解しております。従いまして、この点については、従前どおりの意見ですけれども、被担保債権の額を基準とする考え方に賛成するということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見はございませんでしょう。 ○片山委員 武蔵野大学の片山でございます。どうもありがとうございます。私も何度か同じような発言をしていることになるのかもしれませんが、今回、組入れといいますかカーブアウトで労働債権とか商取引債権を保護していくということですけれども、その根拠をどこに見いだすかということに関しましては、恐らく、一方では、集合動産担保とか集合債権担保というのは包括的な形での資産を担保に取っており、他方では、労働債権、商取引債権も資産の形成に寄与しているという側面があるので、カーブアウト、組入れをすべきであるいうことなのだと思います。ただ、恐らくそれは事業担保、企業価値担保権が創設されましたが、そういう全てのアセットを言わば丸取りしている、そういう担保で初めて議論が可能なのではないかと思ってはおります。   ですから、ここで、全ての動産担保ではなくて集合動産譲渡担保と、集合債権譲渡担保とに限定をしているということではありますが、果たして集合動産とか集合債権譲渡担保がそのような担保なのかというと、特に集合動産担保というのはむしろ個別担保に近いような担保で、在庫を担保に取っているから包括性があるようには思えるのですけれども、在庫といっても10ぐらいある倉庫の中の一つの倉庫しか担保に取っていないということもあるでしょうし、そもそも集合動産担保は固定化を前提としていますので、最終的に実行段階で確保できるのはその時点にある在庫に限られていますから、およそ包括担保のような全資産担保とは距離がある担保なのかと思います。そのような局面では、こういう形で担保権者の担保目的となる範囲を制限して、一般債権の方に組入れをするということになると、やはり資金調達をする際に、動産担保は取っても担保として魅力がないということになり、せっかく今後、動産担保をしっかり活用して資金調達を可能にして行こうという趣旨で立法するにもかかわらず、それを阻害してしまう要因になってしまうのではないかと懸念をしているところであります。   他方、集合債権譲渡担保に関して言いますと、確かにいろいろな形態はあるのでしょうが、少なくとも累積型に関して言いますと、収益を丸取りしている側面は確かにあるかと思います。ですから、そこではこのような組入れが合理性を持ってくるのではないかとは思っております。   ですから、動産と債権の切り分けというのがなかなか難しいですし、集合債権譲渡担保の中で累積型と循環型の分切り分けが難しいというのは、さんざんもう1年も2年も掛けて議論してきているところでありますが、組入れが議論可能な範囲はどこかということになりますと、集合債権に限定されるべきで、集合動産は実際そのような形で用いられている担保とは異なるのではないかという印象を持っております。実務を十分知っているわけではありませんが。   その上で、二つの方式、債権額基準で行くか目的財産基準で行くかということなのですが、やはり債権額基準というのは、なぜ元本と利息に限定されるのかというところの正当化の根拠が難しいのかなとは思っております。抵当権に関して類似の規定がありますけれども、あそこでは主として後順位抵当権者との公平な規律ということが根拠になっているのかとは思いますので、そもそも元本と利息に限定するということの根拠が乏しいですし、それから、やはり担保割れしているケースがありますので、実効性が乏しいですので、制度を作っても労働債権にまで行き渡らないという側面があるのかと思っています。他方、目的財産基準ですが、事業担保であるとか集合債権担保のような形の包括担保に近いものについては、一定の資産の範囲について労働債権等のために組入れをするということに、やはりそれらの債権がその資産の形成に関与しているからということを根拠に正当化できるのではないかとは思っております。   ですから、実際の新しい制度を作るときに、動産担保と債権担保を区別できるのかとか、あるいは債権担保の中で累積型と循環型を切り分けられるのかという問題はあるのかとは思いますが、この制度が合理化されるのは本当に一部の担保に限られているのではないかというのが私自身の印象でございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大澤委員 ありがとうございます。私も何度か意見を述べていて、そこから余り変わるものではないのですけれども、ただ、管財実務からまず申し上げると、こういった集合動産、集合債権が破産手続等において回収される場合においては、元本と利息に至らないような回収額であることの方が多いという実態がございますので、こういった形でバランスをとって何らか一般債権を保護しようと考えるのであれば、必要性の観点から行くと、やはり目的財産の価格を基準とする考え方が基本になろうかなと思ってはおります。   ただ、そうすると当然のことながら元本なり利息に食い込んでいくような形にもなるので、担保権者の貸付けとの関係で、それでいいのかと考えていくと、そもそも倒産手続と十把一からげにするのがいいのか、それとも、究極の清算であって誰もが痛手を、どれでも倒産手続は誰でも痛手は被るのですが、一番関係者全てが痛手を被る破産手続に限って、こういった目的物、目的財産の価格を基準とする考え方を導入するというのはあり得るかなとも思っているところでございます。   御指摘がありましたとおり、組入れを考えるときには、そもそも破産債権に至る、あるいは至る前の租税債権等に弁済が行くというのが破産法の順序ですから、そういったところを考えても、手段として適切なのか、効果的なのかというところは、委員の先生方がおっしゃるとおりだとも思っておりますので、もちろん疑問がないわけではないのですけれども、こういった制度を導入するとなると、やはり担保価値を基準に考えないと、実効性がますますなくなるかなとも思った次第です。   一方で、管財人から物事を見たときに、従前も申し上げましたが、やはり先ほど大西委員からですかね、お話もありましたけれども、価値がどうだったかという話をするというのは極めて困難な話でして、結局やはり売れた額、担保権者が実行して換価をした額というものがまず考え方の基準にならないと、その当時の評価がどうであったかとかいう話には、なかなか管財人としては難しいというのがあろうかと思います。   それ以外にも、申立てから1年を振り返るような形になりますから、管財実務から見たときに、特に中小企業の倒産のときには、基本的には資料がかなり散逸しているということが多いので、やはり金融機関側というか担保権者側の組入れ義務という形ではっきり示していただかないと、なかなか実務としては、資料を担保権者からスムーズに出していただくということもないと、なかなか実務が回らないというのもございますので、組入れ義務というような形でのはっきりした書きぶりということも必要になってくるかなとも感じております。私からは取りあえずは以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○佐久間委員 私は実務のことがこの点では全然分かっていないので、これまでこの問題については発言していなかったのですけれども、多分そろそろ最終局面かなと思いますので、素朴な意見しか申し上げられませんけれども、意見の分布を明らかにすることにも意味があるのではないかと思い、発言させていただきます。   二つの考え方が示されているうちのどちらかといえば、被担保債権額を基準とする方が私はよいのではないかと思っています。目的財産の価格を基準といたしますと、既に資料にも書かれておりますし、何人かの方もそういう面はあるだろうとおっしゃったと思うのですけれども、実務とか規律が複雑になりすぎるのではないかと思います。複雑にすることにメリットがあるのであれば、それでもよいのだろうと思うのですけれども、担保権者が目的財産の価格を上回る額の回収をするということがどれほどあるのかということが既に意見として出されておりますし、あった場合であっても、それがどのぐらい上回る額になるのかというのは、実務を余り知りませんけれども、そんな大した額にならないのではないかと思うものですから、それほど複雑にすることにどれほど意味があるかということを疑問に思っているところです。   次に、被担保債権額基準を採る方がいいのではないかと思う、積極的というか、こうだからこそということを申し上げますけれども、今は一般債権者の保護をどうするかという観点から検討がされているところではありますけれども、担保権者の側から見ますと、倒産局面での調整は一定程度既にされているのだという、今回の議論で井上さんがおっしゃったことを前提といたしまして、担保権者が担保目的財産から元本と利息を回収することができるというのは極めて当然のことではないかと私は思っています。元本全額すら回収できないというのは、率直に言って理解しかねますし、商事の場合は利息も回収することができて当然だと思っています。ただ、利息や遅延損害金は累積いたしますので、一般論としては多額に上ることがあり得るわけですけれども、この動産債権譲渡担保の場合に債務者の支払いが滞っているというときに、担保があるから大丈夫だということでいつまでも回収に動かず放置している人がどれほどあるのかということを疑問に感じますので、累積して多額になるということをそんなに問題視する必要はないのではないかと思っています。   次に、目的財産基準によった場合は、目的財産の価格に比して小さな債権額しか有しない者は債権全額の回収を確保することができるのに対しまして、目的財産の価格を超える債権額を有する人は、その確保をすることができないということに当然なるわけです。これは、目的財産の見込み額よりも小さな額の融資等の信用供与をしておくことが無難である、得策であるということを含意するのではないかと思います。それでは、集合動産とか集合債権という債務者の事業力を反映するものをきちんと評価して多くの融資が引き出せるようにしようという今回の改正作業の目的の一つに、理屈の上かもしれませんけれども、もとる結果になるのではないかと感じています。   また、抵当権の場合、抵当権者は元本と最後の2年分の利息、遅延損害金を、少なくとも倒産局面の任意売却の場合は別といたしまして、法的には担保目的である不動産から回収することができるわけですね。これに対しまして、集合動産とか債権の譲渡担保において目的財産基準を採りますと、元本全額の回収すら確保できないということが起こります。そのようにしてしまいますと、結局不動産担保の方が有利、確実ということになりまして、不動産担保の偏重からの脱却を図ろうという、これも多分今回の目的の一つ、それが主眼だとは申しませんけれども、目的の一つと掲げられているところにそぐわないのではないかということを感じています。   以上のことを避けるためには、目的財産基準を採りつつ元本の回収を認めるとか、利息も一定程度認めるということはあり得るのかもしれませんけれども、そんな複雑なことにするくらいだったら被担保債権額基準を採用する方がいいのではないかと思っています。その上で、1年分の遅延損害金まで回収可能というのが今までのところの案だったかと思いますが、別にそのままでもいいのではないかと本当は思っているのですけれども、更に限定するのであれば、期間を短縮するということの方が望ましいと思っています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○山川参考人 ありがとうございます。前も申し上げたことから始めますと、現在の担保実務を把握しておりませんので、組入れが生ずる場合がどの程度あるかということ、さらに、将来どうするかということについてもなかなか前提がよく分かっていないことはありますが、今回の資料で、細かな点かもしれませんが、添え担保という言葉が出てきまして、主たる担保があって添え担保があるとすると、倒産実務において主たる担保をまず実行して、添え担保は実行しないということがどのくらいあるのかということにも関わるのかなという感じといいますか、疑問が生じた次第です。   あとは、債権額基準説をもし採る場合には、1年分の遅延損害金の1年を短くするというほかに、今回は更に比率的に組み入れるという、資料45の3ページ目の図がありますけれども、これも実務を知らないのかもしれないのですけれども、私的実行を不用意に早めるようなリスクを減らすためには、比例的あるいは割合的に組み込む方がよいのかなと思った次第です。   他方、目的財産基準説あるいは財産価値基準説の方でも、先ほど佐久間先生からもお話がありましたように、元本あるいは合算された元本を組入れの対象から除外するとしますと、担保割れのような場合は、やはり組入れの生ずる可能性は少なくなるので、そちらの手当てを考える必要もあろうかと思います。   あとは、これまで先生方、村上委員も含めておっしゃられた点で、破産財団に組入れがなされた場合の処理はどうなるかは、どちらの説を採っても問題になるような感じがいたします。これまでの考え方は、恐らく一般債権の中でも賃金債権は一定範囲で財団債権になるので、倒産手続、特に破産手続に持っていけば、管財人が随時弁済するような位置付けになるので、確保がほかのものに比べると図られるということかなと思います。ただ、具体的な適用をどう仕組むかにもよるのですけれども、こういう場合、もし導入されたとして、個々の財産との牽連性の要件を外すとしますと、管財人の先生方が、全従業員の財団債権額を把握して、弁済に充てていくということになるのかと思います。そうすると、一体1人頭に弁済される額というのはどのぐらいなのかなという点が気になるところです。   その他、破産財団の中での租税債権との優先関係等が問題になるのは、そのとおりかと思います。こちらはもう倒産法の問題になるかと思います。そもそもの組入れの趣旨は、これまでもありましたように、集合動産と債権の譲渡担保権者を、片山先生のお話がありましたように、両者同じに扱っていいかという点はあるかもしれませんが、非常に弁済を受けられる範囲が広がってしまって一般債権者が不当に害されるということを防ぐという趣旨だとしますと、それは労働債権に限られた話ではないといいますか、労働債権の特別扱いというのはここまでは入ってこないので、破産財団に組み込む結果、労働債権の優先性が生きてくると、そういう仕組みなのかなと思います。   そうなると、結局は破産手続内での労働債権の優先性の問題に本来は帰着する話かなという感じもしまして、例えば財団債権の範囲ないし地位の拡大等ということが最も直裁的なのかなという感じもしますが、それは今回のミッションからは外れるということなのかもしれませんが、先ほど村上委員のお話で、座長からも、ある種の信託財産を別個、破産財団に作るかというような御指摘がありましたが、その点について言いますと、そこまで行かないこともあり得るのではないかと、つまり、破産財団の内部での区分けのようなことをして、その中で、例えば優先権のある債権に弁済すると、その場合も、恐らく区分けしたところで、その中の弁済をどうするかというのは破産法に関わることであると思いますので、これもミッションから外れるのかもしれませんけれども、私自身はそもそもこの部会のミッションというのがどこまでに限定されるのかということ自体を把握していませんので、先ほどの村上委員のお話からすると、別の信託財産のようなものではなくて、財団の中での区分けをして、その中での優先性を別途考えるというようなこともあり得るのかなと思った次第です。   これもまた門外漢ゆえ変なこと言っているかもしれませんけれども、以上になります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   まだまだ手が挙がっていますので、発言を伺うことを続けたいと思います。沖野さん、お願いいたします。 ○沖野委員 ありがとうございます。沖野でございます。私も、最終的にはというか、結論を先に申し上げますと、①の被担保債権の額を基準とする考え方がむしろよろしいのではないかと思っておるのですけれども、一般的に申しますと、今回特に集合型のものを対象にこのような制度が考えられるというのは、広範囲な担保設定が可能になることによって、破産や倒産のときにもうその原資が残らない、ほとんどの財産が担保に取られてしまっていて、倒産手続が意味をなさないというようなことにもなりかねない、そういう担保制度でいいのかということについて、最後の最後に一部は残そうという考え方ではないかと思っております。そしてまた、その一部を残すことによって、要保護性の高い債権に回しやすいというところが出てくるということも、一定の範囲で正当化されるものだと思うのですけれども、基本的には、担保権者が全部を取ってしまったら、倒産のときには制度自体がもう立ち行かないということとの調整で、残すということではないかと思っております。   そうだとすれば、実はその考え方からすれば、むしろ②の目的財産価格がよろしいとは思うのですけれども、ただ、非常に難しい問題があるのではないかと思っております。一つは、片山委員がおっしゃったように、その考え方は全資産を担保に取るというようなものについては妥当するのだけれども、この場合果たしてどうかということです。広く取れるということは確かなのですけれども、それが常に広く取っているかというのは保証されないというか、必ずしもそうはならないわけで、10の倉庫のうちの一つの倉庫だけ取っているとか、ある地域の部分だけ取っているとかということもあり得るわけです。そうすると、倒産のための原資としてはほかの部分もある、債務者の財産からするとごく一部を、しかし集合債権とか集合動産の形で取っているとなると、やはり一部は出さなければいけないということが果たして適切なのかということが気になっておりまして、さらに、そういうふうに出さなければいけないのであれば、そのような取り方ではなくて、むしろたくさん取った方がいいと、なるべく全財産に近いような形で取った方が絶対額は多く来ますので、そういう担保の取り方を推進するということにならないかと。ここでは、本当にそういう行動になるのかということと、それを推進して何が問題なのかという二つが、これ自体は融資実務との関係で、融資をする側、される側にとってどういう評価になるかという、そこの評価を入れないと何とも言えないので、実は何とも言えないのですけれども、そういう行動も考えられるのではないかということです。   また、佐久間委員がおっしゃったように、今度は小さい方で、なるべく担保目的財産に照らして一部しか融資にはならないように極力小さめにやるということだと、平時において担保財産を十分に活用できるのかという話に戻ってくるわけで、これも本当にそういう行動になるのかということに掛かっているわけですが、そうであれば、部分的にしか取っていないということならば、この制度が発動するためには、債務者の全財産のどのくらいを取っているかということを更に条件に掛けるということも考えられますけれども、それはもう非常に難しいことになりますので、全く実効的ではないと思っております。目的財産についてはそのような、どういう行動に影響してくるのか、これ自体、私は評価できないのですけれども、机上の空論かもしれないけれども、そういった行動が考えられるところをどう評価するかというのは、やはりあるのだと思います。   それから、少し細目なのですけれども、この目的財産の部分について、担保権が競合するときに、今回は担保ごとに考えるという考え方が出されていまして、前回は言わば最下位からというか、劣後する方からその分を取っていくと、同順位であれば債権額に応じた割り付けということだったのですが、今回はそうではなく、担保権ごとだということになりますと、例えば第1順位と第2順位があったときに、第1順位の方が、被担保債権額のこともあり、第1順位であることもあるので、所定の割合を超えた弁済を受けていて、第2順位はそこまでは受けていないので、第2順位は回収額全額を保持して、第1順位は回収額全額は保持できないということになります。   そうすると、第2順位に本来回るのが何かを考えますと、担保権の順位として、第1順位が取って初めて第2順位に回るという担保権の順位からすると、その考え方と矛盾することにならないかと。さらに、それを調整するならば、結局、組入れをした後に、もし優先する方が吐き出して、しかし劣後する者にも一部回っているとすると、不当利得として、優先する担保権者が劣後する担保権者に対して返還請求を掛けて調整していくというようなことになる、それは考えられるわけで、そういった後始末を入れるというか、想定するというか、そうすると非常に複雑な話にならないかと思うわけです。   ここで書かれている中のところでは、この両者が競合するという場合について、3ページの37行目のところで、客観的な評価額と言われますけれども、この客観的な評価額というのは、先ほど来問題となっているところで、結局実行の価格しか取れないのではないかということであれば、ここも同じ話になるように思われますので、実行の価格自体は破産管財人と両方が共有して持っていなければならないということになるのではないかと思うわけですけれども、優先する担保権者の被担保債権の弁済に充てられた額というのは、劣後の方から割り込んでいくということであれば、優先する者にどれだけ回ったかということは余り関係なくて、自分が最劣後であって、そして、どれだけの範囲が本来は組み入れられるということになるのかということと、自分の回収額を比較するだけではないかという感じがしております。   それから、4ページにある、複数の担保権が設定され、一部分重複した形で、つまり目的財産が完全には重ならない形の場合については、ただ、そこにも優先劣後があるでしょうから、一部だけは、例えば第2順位の者の対象にもなっていて、残りの部分というか、それは第1順位しか付いていないときに実行を掛けたとき、第1順位が一体どの部分から回収したのかということを割り付けないと、第2順位はその目的財産からどれだけ回収できたのかということが決められないので、結局割り付けはしなければいけないのではないかと、それが必要になる部分は出てくるのではないかと思っております。ですので、もしも担保権者が複数いる場合の処理ということを考えるならば、むしろ前回出されていた、下位の方からその部分を取り分けていくというやり方の方がまだいいのではないかと、この②の方法によるときには、と思うわけです。それは細目ですけれども。   それから、実体的な優先関係のところで、この制度が特に労働債権の保護のために設けるのだというのは、一つの場合だと思うのですけれども、そのためにより具体的な、そのために取り分けるとか、あるいはその金銭に対して、あるいはその債権に対して更に特別の先取特権を付けるとか、いろいろあるのかもしれませんけれども、倒産法の枠組みの中で、財団債権ゆえに優先的に取れるというのは今の枠組みなのですけれども、そういう倒産法の局面における優先劣後ともまた違う形で、最優先というのをこの金銭だけについて付けるというのは、それを仮に信託構成にするにしても、誰を受益者とするかという、その選択のところがありますので、本当に決め切れるのかということは気になっております。   確かに労働債権の保護ということが言われていて、以前から租税債権との関係で、今のままでいいのかとか、実体的な優先関係にもかかわらず、倒産になると一部財団債権になると、そこでもう既に実体的な優先関係と違う扱いはされているわけですけれども、それをも越えて、いろいろな債権の間の優先劣後というのを考えるときには、例えば今回、一般先取特権の付いた扶養料、子供の養育費の債権などについても、これらは立替払いの制度もなく、要保護性は高いものだと思われますけれども、倒産になったときに実体的な優先権とは更に違う優先的な扱いができるのかということは問題となるわけで、そういったことにも立ち入らないといけなくなると思うのですけれども、そもそも倒産における処遇の問題をここで変えてしまっていいのかという問題がありますし、それはそれとして、この組入金の配当なり支払のルートの仕方の問題なのだといっても、その優先関係というのを現法制上の実体的優先関係と違うところで、ここだけで決められるのかというと、非常に難しいのではないかと思っております。   トータルでといいますか、結局組入れは余りなくなりますよねということについては、はっきりとはしませんけれども、融資の実務に与える影響の問題ですとか、目的財産の価格にしたときのかなりの複雑な問題を生むのではないかという今まで申し上げたようなことから考えると、相対的には動かしやすいのではないかということと、その制度趣旨は、井上委員がおっしゃったような、じりじりと無駄に遅延損害金だけを増やすというような、そういうことだけは防ぐということで、他の保護措置は別のところで設けるということになるのではないかと。   そうしたときに、遅延損害金だけでいいのかという問題ですけれども、遅延損害金は1年分だとしたとしても、そこから更に組み込んでいくかということについて、単純に期限を切るというやり方もありますけれども、割合にするということは結局、約定の利率などをこの場面では書き換えるということになります。それでもいいのかという感じもしますけれども、そのときに、やはり利率分というのは元本使用の対価ということになっていますので、言わばそれに相当する部分というのは、返していない以上は、あるはずということを考えると、一律何%というよりは、最低限度として、一般の利息の利率の部分を組み込むことは、それを超えるようなものにはならないということは大事ではないかと思っております。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。後半は沖野さんらしく精緻な話だったので、逆に付いていけなかったのですが、それはともかく、根本的なところで、不当利得とか何とかとおっしゃったときのこの制度の捉え方に関連しまして、例えば、最後の最後に、約定利息は元本の使用の対価なのだから、それをうんぬんとおっしゃったのですけれども、例えば約定利息が10%であっても、抵当権の登記において利息を5%と書いていたら、5%分しか取れないですよね、優先弁済の範囲としては。 ○沖野委員 対抗できないからですね。 ○道垣内部会長 つまり、この制度全体を、取れる額は10あるのだと、10取るのだけれども1出すのだと考えるのか、取れる額というものを、優先弁済の範囲を9にするのだと考えるのかで、かなり違ってくるのではないかと思うのです。つまり、優先弁済権の範囲が9にしか及んでいないのだったらば、1取れなかったものが後ろに回ろうが何しようが、不当利得の問題は生じてこないような気がするのですが、沖野さんの全体の制度の捉え方がどういう前提なのかいうことが少し分からなかったのですけれども。 ○沖野委員 不当利得うんぬんというのは、被担保債権額で切る場合ではなくて、目的価格で切った上で、かつ担保権者が競合しているというときに、担保権ごとに考えるといったときの問題点ということですので、被担保債権の範囲自体に何か影響しているというわけではなくて、第1順位が取れないのに、なぜ第2順位が取れるということになるのですかということへの対応ということになります。 ○道垣内部会長 それは、第1順位の被担保債権額が財産の価格の9割になっていると考えるのではないですか。そうすると、それは被担保債権額と同じですよね。言わば制度の捉え方の問題なのですけれども。 ○沖野委員 そうかもしません。実は、②も被担保債権額が全部それで頭打ちになるという制度を導入しようとしている。 ○道垣内部会長 いや、それはこの制度の全体をどういうふうに仕組むかという問題で、どちらかというと今回の資料はそういう枠組みではないと思うのですけれども、仮にそういうふうな、被担保債権額が、優先弁済の範囲がそもそも小さくなっているのだと考えたときに、沖野さんが最後の方におっしゃった問題というのが生じるのか、生じないのかというのがよく分からなかったものですから、確認をさせていただいたと。 ○沖野委員 分かりました。今、被担保債権額自体が、その設定時には不確定だと思いますけれども、絶対額の頭打ちというのが常に入ると、常に入るというのは、発現するのは、しかしこういう条件を満たした倒産時だけということで、被担保債権額自体が縮減されているので、そうであれば優先する範囲にそもそも入ってこないということですね。それは倒産時にはそうなるけれども、倒産でないときはなお優先するけれども、というところが少し嫌らしい感じはしますけれども、それは①でも同じかもしれません。そういう説明はできるのだと思います。 ○道垣内部会長 制度全体の仕組み方の問題ですから、私が言っていることが正しいというわけでは全くないのですけれども、捉え方をそうしたときにどうなるのかなという気がしましたものですから、少し伺った次第です。 ○山本委員 大変精緻な御議論の後、私自身は非常に雑駁な意見であり、かつ、必ずしも定見もないのですけれども、今回の趣旨は、佐久間さんが言われたように、なるべく皆話をしろという趣旨なのかなと思いますので、一応話をさせていただきたいと思います。   私自身は、この制度の目的が一般債権への弁済原資を確保するということだとして、かつ、この集合債権あるいは集合動産譲渡担保の利用形態が、いわゆるABL的なものを少なくとも主としてとして念頭に置くとすれば、やはり目的物価格を基準にしないと、実際上は余り、その確保の手段としての意味は小さくなるだろうなとは思っています。   ただ、そこからは、しかし、現行の考え方に近いものとしては被担保債権額基準というのがあり、皆さんのお話からも、そちらの方がより単純に制度を仕組めるとすれば、制度の発足においてはこちらの側でやってみて、実際にどういう形で担保がこの新しい制度の下で付けられるかということは、なかなか予測も難しいところがあるとすれば、本当はそういう10個の倉庫のうちの1個みたいなものが主流になるのかということがもし生じるのだったら、別にそれでもいいということはあると思うのですが、しかしそうではなくて、やはりかなりの資産が担保に取られて、一般債権者の弁済原資の確保というのが本当に重要な課題になるということであるとすれば、また変えるということもあるのかなと。徐々に制度を進めるというか、小さく産んで大きく育てるというか、何かそういうようなこともあるのかなということを今までは思っていました。   ただ、本来的には先ほど言ったように、目的物価格基準の方が実効的ではあるという気はしているわけですけれども、今回それに対する批判として、テクニカルなところはともかくとして、融資する価格が少なくなるのではないかということですけれども、これはそうなのだろうと思うのですけれども、ただ、目的物のどの程度の割合を組み入れるかということにもちろん掛かってきて、現在の破産の不動産担保の組入れのように、例えば5%とかいうことだとすると、結局担保掛目が80だったのが75になるとか、もっと小さいのかもしれないけれども、70が65になるとか、そういう担保掛目が少し減って、その分融資額が小さくなるということで、それが日本経済にどの程度影響を与えるのかというのは私も全く分かりませんけれども、それで駄目なのかなということを思わなくはないですし、また、元本割れという話は確かに問題だといえば問題なのですが、それは結局、担保権者の側のモニターの問題ではないかという気もして、結局こういう集合債権譲渡担保というのは、担保権者がモニターをする担保だといわれると思うので、結局その実行時期の選択の問題なのかなという感じがしております。   その分、要するに一般債権者にも回る分を踏まえて、その分、したがって少し早い段階で、実行を考えなければいけないということになると思うのですが、それはまたそれで問題だと、首つりの足を引っ張ると、例えは悪いですが、そういうことなのかもしれないけれども、それが本当に悪いのかどうかというのは考え方の問題なのかなという気もしていて、結局考えあぐねて、なかなかどちらがいいということでは必ずしもありませんということではあるのですが。   それから、もう1点、今日の議論で、財団組入れという手法がそもそも、結局破産手続における労働債権の取扱いから考えて意味があるのかという御指摘がありました。それはそのとおりなのだと思います。ただ、私自身はこの制度というのは、もちろん労働債権保護ということは一つの中心的な課題ではあるのだろうけれども、正に書かれているように一般債権への弁済原資を確保する手段ということであるので、そこの優先順位の問題は、やはり基本的には現在の実体法、さらには財団債権等を含めれば破産法の優先順位に従うということなのかなと思っています。   私の理解している限りでは、企業価値担保権も不特定被担保債権という概念をとり、更にそれを信託受益権とするという構成をとっていますが、結論的には結局、破産法の優先順位に従って弁済をするということになっているのではないかと、それの技術的な表現として今のようなことになっているけれども、実質はそうなのではないかと思っており、これがもし間違いであれば修正していただきたいと思いますが、そうだとすると、今回の制度の趣旨というのが、企業価値担保において不特定被担保債権というのを創設した趣旨と基本的にはパラレルなものであるのだとすれば、ここで破産法の優先順位を崩すという議論はなかなか出てこないのではないかと思うところであります。   もちろん現在の租税債権と労働債権の優先順位の問題というのは、問題があるという御指摘があるということは十分理解していますし、私も十数年前ですか、破産法改正のときに正にいた人間で、そこでどういう財団債権の順位にするかということは激しい議論がなされたということを目の前にした人間ですけれども、その結果として現在の破産法の優先順位の秩序があるわけなので、もしそれを変えるというのならば、やはり正面からもう破産法の改正を私はやるべきなのだと思っております。この点は山川参考人と全く同じ考えではないかと思いますけれども、そういうふうに思っていて、ここだけ何かその優先順位秩序を変えるような仕組みを設けるということは難しいし、あるいは適当でもないというのが私の意見です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○阪口幹事 阪口です。大きく四つ申し上げたいと思います。   まず、問題となっている債権基準説か、目的物基準説かという点については、前にも意見を述べたとおり、債権基準説しかないだろうという意見です。理由は、担保の本質とか、評価の難しさという点です。評価に関して、回収額から考えたらいいという先ほどのお話がありましたけれども、第43回会議で申し上げたとおり、集合債権が対象となる場合のように、必ずしも全てを回収しているわけではなく、まだ対象財産は残っているという局面もあるので、評価という問題は避けて通れないと思っています。   二つ目の意見として、被担保債権基準説だと組入れが生じないではないかという指摘があり、これはそのとおりだと思うのです。ただ、その問題を考えるにあたっては、ここで、新たな問題提起と思いますけれども、集合財産譲渡担保権と別に、個別財産譲渡担保権とか抵当権とかを持っていたときの取扱いについて確認したいと思います。先ほど山川先生から添え担保はどうなのかという話がありました。1億円の貸金債権があり、集合債権なり集合動産で6,000万円分ぐらいの価値のある担保物があるが、それとは別に6,000万円の価値のある不動産に抵当権を取っていますという例です。この例では回収の先後関係で結論が変わるのかという問題が生じます。先に不動産担保権を実行して、その後に集合財産譲渡担保権を実行したときには、あなたは集合財産譲渡担保権で貸金残金の全額を回収したから組入れをせよという議論になるのだったら、担保権者の方は、そんなことになるぐらいだったら先に集合譲渡担保権を実行して、その段階ではまだ満額カバーされていないので、その後にゆっくり不動産担保権を実行しよう、不動産担保権には組入れ制度はないので、別に返さなくていいと考えるのではないか。こういう回収の先後関係で結論が変わるのかという問題が起きてしまうと思うのです。   普通は集合財産譲渡担保と不動産担保であれば、不動産担保の方が回収が遅いに決まってはいますけれども、もう片方が個別動産譲渡担保、つまり在庫を取るのと同時に対象外の機械を担保に取っていますという例を考えたら、これは担保権者の方は回収時期の調整が可能ですね。そこで先後関係によって組入れの有無が変わるのかというのを、大阪弁護士会で議論したときには、もうそれはやむを得ないという意見もありましたが、それはおかしいという意見もありました。おかしいという議論の中で、民法394条のような制度を導入すべきではないかという意見もありましたけれども、私としては、集合財産譲渡担保権を取った人は、ほかに担保権があったとしても、それも込みでこの制度の適用対象になるという制度設計が良いと思います。そうすれば、被担保債権基準説だと適用局面がほとんどないという問題が少し緩和される。ABLだけで、集合財産譲渡担保権だけを取っている人は、回収の先後の問題は起きませんけれども、少なくとも現在の実務はむしろ、集合財産譲渡担保権が添え担保の方で、もう一つ担保権を持っているケースが多いわけですよね。それだったらフルカバー以上の事態というのは当然あるわけです。そうすると、今ここでいう組入れが生じないではないかという問題は少しは緩和されると思います。今言った、回収の先後関係で結論が変わっても仕方がない意見と、いや、それはおかしいという意見、ここはもう、価値判断が大きいとは思いますけれども、少なくとも今までこの点は明示的に議論されていないと思いますので、そういう二つの担保権があるときに、回収の先後関係で結論が変わっても仕方がないのかも含めて御議論いただけたらと思っています。   三つ目の問題として、被担保債権額基準説を採ったときに、これも第45回会議で申し上げたことですけれども、3ページの図のオレンジ色の部分をどうやって小さくして組入れを生じやすくするかという問題で、期間を短くするか、割合を入れるかということです。しかし、期間を余り短くすると、担保権者が即回収という動きになってしまって、これ自身は大きなマイナスです。おそらく、半年がリミットですけれども、半年でも少ししんどいのかなという気もします。オレンジの期間が半年となると実質、話合いの期間が1か月か2か月しかなく、そこから、直ちに行動に移らなければいけないということになってくる。担保権者からすると、いつ回収できるか確実ではありませんから。したがって、この1年というのを半年に縮めたいという気持ちと同時に、半年に縮めると、これはまた弊害が大きいのかなと思っています。   そうすると、あとはこの割合を縮める方です。割合を縮める方は、前にも通常利息でいいのではないかということを申し上げました。改めて考えたときに、倒産実務からすると、期限の利益喪失日というのが実は不安定なことが多いのです。例えば破産申立てであれば期限の利益の当然喪失という約定が一般的と思いますけれども、しかし、それは担保権者、債権者からすれば、分からない日なので、後から考えたらあの日だったということでしかなく、債権者側の事実と客観的な認識がずれることは往々にしてあります。というか、ほとんどずれているのではないかと思います。そうすると、3ページの絵では、ブルーのところとオレンジ色の部分が明確に区分されていますけれども、実務的にはここは必ずしもくっきり分かれていない、もちろん片方当事者の認識としては分かれているのだけれども、両方当事者の認識を合わせると少しずれてくるということは、ままある。それだったら、通常利息説にすれば、どこで失期しても同じことになるので、それはそれで一つの解決なのかなと思っています。   最後の四つ目は、この組入れが発生した場合に特別の処理をするかどうかという、今日、村上委員から出たお話です。魅力的なご提案ではありますけれども、破産管財人からしたら少し大変だなというのが正直な感覚です。その対象債権者を誰かを確定させるという問題が、まずありますし、破産配当とは別に行うことになると思います。それを破産手続の中で管財人は、もちろんやってやれないことはないかもしれないけれども、えらく大変だなと。かつ、恐らくその組入額というのはそう大きくはないので、少額を分けるのにそれだけ手間を掛けるのかという擬問もあるというのが四つ目の点です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。失期がいつなのかよく分からないというところについて1点伺いたいのですが、3ページの図の青の部分とオレンジ色の部分の話としておっしゃいましたが、失期が後になると青の部分が拡大するのではないですか。 ○阪口幹事 要するに、額が変わってくると。 ○道垣内部会長 だから、いずれにせよいつの時期なのかというのを決めないと、分からないから通常利息だけだよねというふうなときも、通常利息というものがどの範囲までかという話にはならないのですか。 ○阪口幹事 通常利息で計算する限りは、どこで失期したって計算額としては一緒ですので、このオレンジ色の部分をどこまで縮減するかで、50%説ではなく通常利息割合説というのを仮に採るとすれば、失期時期が1日ずれようが、3日ずれようが、3か月ずれようが、結論は一緒ですよね。 ○道垣内部会長 オレンジ色の部分も通常利息は取れると考えたとき、ということですか。 ○阪口幹事 はい。 ○道垣内部会長 おっしゃっていることが分かりました。   ほかに。私は1個、皆さんに伺いたいことがあるのですが、遅延損害金を1年分に限るとか、あるいは遅延損害金はもう取れないことにしようとか、そして、そのことの根本的な正当化根拠として、担保がたくさんあるときに遅延損害金を稼ぐためになかなか実行しないというふうなことがあって、それはよくないだろうという話があって、それならば余り負担を掛けない時点で実行した方がいいのではないかという話も出たわけなのですが、それと、債権法改正において、保証人がいるときに債権者が、保証人がいるからといってなかなか執行しないというのはいけませんということで、適時執行義務というのが一時期言われたことがあったのですね。しかし、そういうふうな意見に対しては、せっかく債務者に対して実行、期限の利益を喪失させて全額を保証人に求めていくということをやめてあげているのに、債権者にとってそれが不利益になるというのはおかしくて、実務的には債務者により厳しい状況になってしまうのだと、だからそういうふうな適時執行義務なんていう条文は置かない方がいいのだと皆さんがおっしゃったわけなのですが、そこにおける価値判断とここにおける価値判断は、これは両立し得るとお考えですか。どなたでもいいのですが。 ○沖野委員 ありがとうございます。余り正面から答えられる気はしないのですけれども、ここでは飽くまで倒産になったときとの調整の問題であるということと、1年以内に倒産が生じるような状況下でずるずる実行を延ばさないとか、あるいは早めに倒産の引き金を引いた方が、むしろ債務者の再建の可能性があるのではないかというような指摘もありますので、そういった場面における扱いであって、およそ一般的に適時執行義務を常に入れるという話ではないと、そういう説明になるのではないかと思いますけれども。 ○道垣内部会長 そう言えば何とか正当化はできるのではないかということですね。何とかかどうか分かりませんが、正当化はできる。 ○沖野委員 説得的かどうか分かりませんが、そういう説明が一つ考えられるのではないかと、そういうことではないかと私は思っております。 ○道垣内部会長 分かりました。 ○井上委員 あともう1点付け加えるとすると、担保権者が1年分までは受け取ることができるという現在提案されているルールは、逆に言えば1年を超えたら受け取れなくなるということですから、すぐに実行されることになるかというと、逆に1年間は実行しないで協議することを促進するといえるかもしれず、飽くまでこれは結局バランスの問題なので、遅延損害金をただずるずると増やすに至ると評価されるべきタイミングが、果たして1年なのか6か月なのかという議論をすべきではないかというのが先ほど私が申し上げたところで、この期間をどれだけと定めたときに、本来在るべきタイミングよりも実行が必ず早まるというわけではないのかなと思いました。 ○道垣内部会長 すみません、細かい話をしまして。 ○大西委員 今の適時執行義務の絡みで、要は担保権者にそういう、ずるずると延ばさない義務を課すのかどうかとことでよろしかったですね。私は、やはり今、倒産、再生の世界はほとんどが法的整理ではなく私的整理ですので、そういう意味ではそういう、ある意味、期限の利益を喪失した状態の中で交渉すると。そうすると、早く執行しないと不利になるということだと、逆に言えば交渉のチャンスを奪われるということになるし、それがひいては私的整理で労働者が保護できるのが、できなくなるという可能性もあるので、そういう義務と、それから、逆にそういうことがあるのだとすると、先ほどの①案というのはむしろ採り得ないのではないかと、早く執行しないと損になるというふうになると、やはりそういう実務が影響を受けるので、この辺は検討の余地が十分あるのではないかと考えています。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   今の点に全く限りませんが、ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○藤澤幹事 ありがとうございます。藤澤です。少し極端かもしれないのですが、意見を申し上げます。   私自身、労働者ですので、労働者として自分の債権を保護してほしいという気持ちはすごくあるのですけれども、元々どうしてこの議論が出てきたのかというところを少し振り返ってみますと、動産担保制度や債権担保制度を検討するに際して、当初は、「在庫一切」とか「売掛債権一切」とか、債務者の全ての動産や債権に担保権を設定できるような制度の提案があって、それとの関係で、債務者の財産が全て担保権者に押さえられているような状態で倒産手続に入ってしまうと、一般債権者に対する配当原資がなくなってしまうではないかという問題意識から、このカーブアウトの議論が始まったように記憶しております。   しかし、事業担保に関しては、企業価値担保権制度において一般債権者に対する手当てが行われました。一方、動産担保や債権担保について見れば、従来の判例法を大きく外れるような担保制度が出来上がるわけではなさそうだということがはっきりしてきました。つまり、現状からそこまで大きく変化しないということです。そうすると、このような制度を新設する立法事実が今あるのかということが少し気になっております。   そういった状況ですので、提案されている制度というのも比較的小規模というか、実際にワークする場面が少ないであろうというふうな制度に見えます。カーブアウトが行われるのは集合動産担保と集合債権担保の場合に限られていますので、そのような担保を使っている企業が、しかも破産した場合だけ使える制度となるので、破綻した企業の労働者が助かるかどうかが偶然に左右されるというか、そういうインパクトの小さい制度になってしまうのではないかと思います。つまり、ここでその制度を導入することにどれほど意味があるのかと思っていて、①案にせよ②案にせよ、本当にそれでいいのかというような気持ちを持っております。   全ての労働者を保護するための制度を作るとすれば、先ほど井上先生や山本先生がおっしゃったみたいに、倒産法の優先債権の順位に問題があるのであれば、そこを正面突破して、倒産法上の優先債権の順位を入れ替えるべきなのではないか、労働債権を租税債権よりも優先するようにした方がいいのではないかと思います。それから、抵当権や個別動産、個別債権の譲渡担保だって債務者の財産の多くをカバーしてしまっているということがあると思うので、全ての担保を対象としたカーブアウト制度とか、裁判所による組入れ命令制度とか、そういう新しい制度を新設することで本当に労働者を保護するような制度ができたらいいなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○井上委員 今、藤澤先生がおっしゃったことに関わるのですが、今までお話を伺っていまして、こういった組入れ制度を設ける以上は担保目的物基準にしなければ意味がない、あるいは担保目的物基準にすれば実効性があるのではないかという御意見が複数ありました。   それに対して、私が先ほど申し上げたかったのは、実効性を組入れによって実現することそのものに限界があるのではないでしょうかということでして、今まで議論されてきたほかの仕組み、固定化とか別除権協定を作りやすくすることとか、そういった仕組みでは足りないということであれば、山本先生もおっしゃいましたけれども、破産法上の優先順位を正面から議論することによって実効性を達成すべきであって、それをそのままにした上で、ここで組入額を増やすとか、あるいは組入れ自体が起こりやすい制度を採るとかによって、何が得られるかというのは、大変疑問に思います。組入れというのは、そのまま純額、そのまま担保価値が減らされる制度ですので、山本先生は、それは別にそういうものとしてとおっしゃいましたし、私も、もし5%程度であれば与信に際し5%程度掛目が変わるだけというのは、そのとおりだと思っておりますが、せっかく掛目を減らす犠牲を払って組入れを達成したとしても、そこから先が達成できないのではないでしょうか。組入額のほとんど全てが、これは極論かもしれず、もう少し実証的に数字を検証しなければいけませんが、租税とか社会保険とか、あとは先ほど申し上げた給料も8割が未払賃金立替払制度で立替払いされることが多いわけですから、労働者健康安全機構の代位債権に、支払われることになってしまうので、私自身は、この①案、②案を比べて、どちらが組入れが起きやすいかという議論をすべきではなくて、もし組入れが起きやすい制度を設けるのなら、それとセットで、組入額を倒産制度を何も変えないでプールして、プールした金額については租税債権その他も全部排除して、特定の、例えば労働債権者に行くというような制度を作らない限り実効性はない、逆に言えば、それをするのであれば、本来は正面から倒産法の改正を議論すべきだと思います。   なので、問いたいのは、制度を設ける以上、担保目的物基準で行くべきだとおっしゃる先生方は、その点をどうお考えなのでしょうか。どうお考えなのかというのは、倒産法の改正も併せてやるべきだということなのか、倒産法を変えなくても、村上委員が御提案されようとしていたのかもしれませんけれども、ここでの議論の範囲で特定のプール、区分けですか、破産財団の中に区分けをして、その資金を倒産法の現在の優先劣後秩序を言わば否定して、租税債権者を排除して特定の債権者に払うという制度をセットでお考えなのか、それはなしで、取りあえず組入れだけ、組入れの実効性を確保しようということなのかということをお尋ねしたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○青木(哲)幹事 青木哲です。冒頭に村上委員から組入れが生じた場合の問題について指摘がございまして、今、井上委員からもお話があったところなのですけれども、少し考えてみてよく分からなかったので、教えていただきたいのですが、組入れが生じても租税債権とか管財人報酬に行ってしまうので、労働債権とか一般債権に回らないのではないかということなのですが、それは組入れがない場合には租税債権、管財人報酬が足りないということで、結局財団不足の話なのかなと思いました。よく分からないというのは、財団不足で同時廃止とか異時廃止になった場合には、恐らく組入れもないのではないかと思うのですが、そのような理解でよいのかどうかということを教えていただければと思います。 ○笹井幹事 部会資料43においては、同時廃止のときには組入れの対象にはしないけれども、異時廃止の場合には組入れの対象にするということにしていたと思います。 ○青木(哲)幹事 すみません、資料の確認ができていなかったので申し訳ないのですけれども、破産法の優先順位に手を付けるということになっているのかもしれないのですが、例えば、破産配当が行われることを停止条件とするというか、破産配当が行われないことを解除条件とするというような形で組入れをすることで、組み入れた金銭が破産債権者への配当に回らない場合は、組入れをせずに本来の担保権者に行くようにするというような形での処理は、一応考えられるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○大西委員 先ほど井上先生からどう思っているのかと聞かれたので、答えざるを得ないと思いますので、お答えします。   まず全体として、今回の動産担保、若しくは債権譲渡担保、いわゆる企業の棚卸資産を対象とした譲渡担保制度において、カーブアウトを入れた趣旨というのが、中小企業だとやはり多くの場合、不動産担保が先に入っていて、その残りの資産で担保対象となる資産となると、やはり集合物動産か集合物債権しかないという感じです。もちろんそれ以外の財産がある場合もあるとは思いますが。それで、私も破産管財人をやっていた時代が大分前の時代なので、最新の実務を踏まえていない可能性はありますが、まず申立て時において、申立て費用やその後の管財人費用に充てる目的から、一定の預金を申立人がプールしている場合が通常ですので、その原資から始めて破産財団を増やしていくことになります。その後は、担保対象財産(不動産の場合が多い)の任意売却による財団への一部組入れを行うことになりますが、流動資産の場合は、今の担保制度だと、別除権者が主導して換価する場合も少なくないことから、財団組み入れ等が難しい場合も多いように思います。このため、労働債権は、租税債権に劣後してしまうのが通例である以上、当該処理を扱う倒産法の改正等の影響が大きいというのは正しい指摘と思います。ただ、財団債権としての労働債権も一部ありますよね。 ○井上委員 一部ありますが、その8割は、先ほどから申し上げている未払賃金立替払制度で払われるので、結局、未払賃金の2割相当額と、それ以外の租税とか社会保険とかの財団債権を全部合わせると、それが分母になります。そうすると、未払賃金の2割相当分を分子に置いたときは、ものすごく割合が少なくなるのではないかと、そうすると、これは単なる想像ですが、純粋に組入額が100だとしたときに、例えば5とか3とかぐらいしか労働者に行かないのではないかということです。 ○大西委員 分かりました。ただ、実際は多分いろいろなケースがあるので、おっしゃるような場合ももちろんあるかと思いますが、一方、そうでもない場合もいろいろあると思います。私は、労働者に対して、今回のカーブアウトを導入する際にベネフィットを受けられる頻度が少ないから、今回の担保制度では何の手当をしなくても良いという論理には疑問があります。カーブアウトをする前提で考えた場合に、財団債権等を支弁しても残余の原資が破産財団にあるような破産事件の場合には、少なくとも今よりは労働者保護に資する方向になるので、今回は別に労働債権者だけのためではなくて一般債権者のためですが、現時点では、労働者保護に資する可能性のある法制度を作る方向を目指すというのが正しい考えではないかと思います。抜本的な倒産法改正が実施されるまでは、何も対処をしないという考え方には疑問があり、この点は、多分、労働関係の専門の先生方と近い意見なのかもしれません。私はどちらかというと、倒産事件を債務者側で仕事することが多かったものですから、当該企業で働いている人は大事だという感覚で仕事をしてきましたので、そのような考えで発言しています。 ○井上委員 私も別に金融機関の側に立っているわけではなくて、むしろ担保価値を100減らす制度を設けるのであれば、労働者に100行く制度を考えるべきではないかというのが私の意見です。 ○大西委員 それはもう同感です。 ○井上委員 それをせずに、組入れだけを制度化すると、名目的なプラスを感じるだけに終わってしまわないのかというのが私の危惧で、やらないよりはいいというよりは、むしろプラスとマイナスを考えると、マイナスほどのプラスがおよそない制度にならないかという心配をしています。 ○大西委員 私は、少しでも保護を図る制度をやるという姿勢も大事なのではないかという意見です。 ○道垣内部会長 今、井上さんおっしゃったことはよく分かるのですが、山本さんが途中でおっしゃった、あるいは何人かの方がおっしゃったように、取り分けて労働債権に充当するというか、労働債権の支払いに使うということというのが、破産法、倒産法全体の中における各種の債権の優先劣後関係の全体的再検討を抜きにして、この集合財産の譲渡担保の制度において作るのが妥当なのかという問題は、どうしてもあるのだろうと思うのです。井上さんはいかがお考えですか。 ○井上委員 そこをこの場で議論するのではなくて、繰り返しになりますが、この場で現在までに議論されたものでよしとするか、それに加えるとすると、今回提案された制度については①の案を採った上で、だらだらと遅延損害金が増えてしまい一般債権者のための財団が失われることを避ける制度にとどめる方がよいのではないかということです。今おっしゃった倒産法秩序を変えるような改正をセットにしないで、組入れだけを多く実現できる制度を設けると、コストベネフィットというか、プラスマイナスというか、の観点から、むしろ非常に残念なというか、もったいない制度になってしまうのではないかと、そういう意見です。 ○道垣内部会長 そうすると、大西さんとの関係で、①案か②案かというふうな対立軸はあるのだけれども、差し当たって一般債権者に回り得る仕組みを作って、更にその後に、倒産法上のどの債権が優先されるのかというふうな検討というのがあり得るという点では、二人は仲間なのですか、敵のように話していたけれども。 ○井上委員 私は、①案を採ったら、担保権者が合理的な行動をする限り、組入れは起こらないのだと思います。担保余剰がない場合、担保割れしている場合はそもそも組入額が生じないし、担保余剰がある場合は、余剰があるうちに、恐らくだらだら待たずに実行に着手するだろうと思います。逆に言えば、そういう範囲で実行が早まるという効果はあると考えています。 ○大西委員 最終的なゴールは何か、仲間のような感じがしますけれども。ただ、それだと融資の掛目には影響されますよね、最終ゴールに行ってしまうと。そこは同じですよね。労働者に直接行くのだったらいいとおっしゃられたので。 ○井上委員 そうですね、倒産法を改正して労働債権の保護を手厚くする手当てをするというのは、それは担保権に基づく与信額には影響すると思いますが、そういう政策目的を実現する方法としては適切だと思います。 ○道垣内部会長 いろいろ御意見いただいておりますが、収束をしている感じではありませんけれども、沖野さん、お願いいたします。 ○沖野委員 ありがとうございます。収束させる方向ではない方向ですけれども、労働債権の保護が重要であるということは恐らく誰も否定をしないのだと思いますけれども、その保護を図ることだけを狙いとしてこの制度を作るべきなのかということについては、そうではないのではないかと思っておりますのと、それから、労働債権だけが保護すべき債権なのかということについても、各種の商取引債権ということが言われたり、先ほど養育費債権を出しましたけれども、本当にこれだけが最優先でいいのかということについては、それ自体としての検討が必要なので、ここでそれを決められるとは到底思えないし、それ自体が目的であるとすることも、やはりできないのではないかと思っております。ですので、むしろ倒産になったときの、そのための原資というか財源というか、それを残さなければならないだろうと、それがどのような処理になるのかは倒産法に委ねるしかないというものとして考えるべきではないかと思っております。   そうしたときに、現実には全く何も組入れがないではないかということになるとしても、これは非常に仮定が多いですけれども、どういう融資になるかとか、行動になるかとか、たとえ被担保債権の遅延損害金を1年で切っても、直ちに実行するとは限らない、様子を見て更に協議を続けるということもあるのかもしれませんし、そこは少し分からないのですけれども、先ほど申し上げたような理由から、①というか案1というか、がいいのではないかと思っておるのですけれども、ただ、これはその後どう動くかとかいうことにもなりますので、その後お話のあった山本先生がおっしゃったような、次があるのではないかという、本当に次はいつ来るのかという感じだとは思いますけれども、まずその小さなというか、こういう観点から作ってみて、これで足りなければ次のことを考えるということも念頭に置いていいのではないかと。ですので、まずはこういう制度として一段入れてみた後、それで駄目なら更に考えるという形で進めていくというのは十分あり得るのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに。 ○山川参考人 ありがとうございます。担保法の専門家でも倒産法の専門家でもないのに、非常に怖いのですが、先ほど道垣内部会長のお話のあった、今回提案されているような組入れ制度の局面について倒産法の財団債権等の取扱いを変えるのはどうかという御質問があったかと思います。   先ほど申しましたように、区分けみたいなことをしたとしても、財団債権等の取扱いに関する倒産法をある程度いじらなければいけないのではないかという感じはしているのですが、その場合の、むしろお答えというよりも質問に近いのですけれども、財団債権の順位を考える際に、実体法上の位置付けというのをどう考えるのか。実体法上、例えばカーブアウト制度のようなものを作って、担保権者に比べて一般債権者、この場合、倒産になりますと優先権のある一般債権者になると思いますが、その人たちのための利益になるような組入れ制度を作るという実体法上の制度を作った場合に、それが財団債権相互の関係に影響を全く与えないと考えるべきなのかという点は、あるかと思います。   例えば、賃金債権に限らないかもしれないですけれども、破綻財団の中で区分けして、そういう優先性のある一般債権者に配当が行くようにする。たまたま財団に組み入れたから、それが租税債権者に行ってしまうというのは、何かウィンドフォールといいますか、制度の趣旨からすると、たまたま組み入れられたものがかなり税金の方に回ってしまうというのは、制度を作った意味がなくなってしまうような気もしまして、その限りで、この組入れ制度を作る趣旨が破産法の方にも生きてくるのかなという気もしたわけです。ただ、それをここでやるかどうかというのは、ミッションをどう考えるかにもよりますが、少なくともそういう課題があり得るということはいえるのではないかと思った次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。本部会のミッションとの関係で、破産法上の順位といいますか、それをここの部会で議論して変えるというのは難しいのだと思います。それともう一つ、山川さんは今、労働債権の保護のために組入れという制度を設けたということを前提にしてとおっしゃいましたけれども、先ほど沖野さんでしたかがおっしゃったように、それにコンセンサスが取れるのかというのは、これはまた問題がありまして、つまり集合財産譲渡担保権者がたくさん取ることによって一般債権者への取り分が減ってしまうのではないか、担保法の改正によって担保制度が安定することによって、一般債権者にそのしわ寄せが来るのではないかという中の、一般債権者の代表例の一つとして労働債権者というものが存在していたという捉え方もあるわけです。別にそれが唯一の捉え方であるというわけではないので、そこについてここでコンセンサスを取るというのはなかなか難しくて、取ったからといって、何かうまくそれを立法に直接結び付けることができるのならば、議論をしてコンセンサスを得るようにしたいと思うのですけれども、どうもなかなかそうもいかないかなという感じがしております。   それと、少し私、要らないことだけ1点付け加えますと、2点、これは別に私がどちらの立場に立っているということではないのですが、藤澤さんがおっしゃったことで、そもそも在庫一切を集合動産の譲渡担保として取るということを認めるということから始まっていったのに対して、現在では種類というものを必須の要件にしようというふうな話になったりしている。そうすると、在庫一切だから全部取られてしまう、オールインベントリーとUCCではよく書くわけですが、在庫一切と書けば全部取れてしまうというふうな制度を作ってしまうと、余りに一般債権者への負担というものが大きいのではないかというところから始まった議論であって、それがずれてきているということを意識すべきであるというのはおっしゃるとおりだろうと思います。   もう一つは、井上さんがおっしゃったように、倒産申立てというか、厳密には覚えていませんが、固定化というものを比較的早くして、それ以降のものについては及ばないというふうな制度設計をするということにして、そこにおいて一般債権者の保護といいますか、一般債権者への配当の原資というものが作られるというふうな仕組みになっているということも併せて考えるべきだというのも、おっしゃるとおりだろうと思います。   繰り返しになりますが、私が労働債権の保護を今回の法制度において考える必要がないと言っているわけでは全くなくて、今日の話が出た中で、最終的な判断をしていくに当たって考慮していくべき事柄ではないかと思った点を申し述べさせていただいただけでございます。 ○山川参考人 やはり先ほど言わなければよかったかなという気もしないでもないのですけれども、先ほど申し上げた趣旨は、組入れ制度自体は労働債権の保護という趣旨のものに限るものではないということが私の意見の出発点で、ただ、倒産の局面に入ると、その優先性を考えざるを得ない。ポイントは、そこで組み入れることによって本来利益を受けることが想定されていなかった債権者まで利益を及ぼすのがいいかどうかと、そういう実体法上の趣旨を、破産法の財団債権のことを考える場合にどう考えるのかということでした。すみません。ミッションの話は了解しました。 ○道垣内部会長 正におっしゃるとおりで、今日の出だしから関係しているのですけれども、この話を議論するのはどちらから始まっているのか、つまり集合財産譲渡担保権者の優先権の範囲が余りに広いと、そこを何とかすべきであるというところから話が始まっているのか、それとも一般債権者の保護というのを、ある種の保護されるべき債権者がいて、その人をどういうふうに保護するのかというところから始まるというのと、2通りあるのだと思うのです。前者の集合財産譲渡担保権者が余りに強大であるということだけを問題にして、それを制約しようというのだったらば、率直に言うと、租税債権がそれによって利益を受けるのは全然構わないともいえるわけなのですが、そうではなくて、一般の、労働債権者にせよ取引債権者にせよ、そういう人に余り負担が掛かるというところを何とかしなければいけないというところから入ると、山川さんがおっしゃったように、組入れの目的として租税債権を回収しやすくしてあげようという話ではないではないかという話がそこで出てくるわけで、そこはまたポリシーとかフィロソフィーの問題としてぶれがないようにする必要があろうかと思います。   ほかにございませんでしょうか。 ○大西委員 1点だけ、部会長の整理の中で、最初は在庫一切で、でも実際はそうではなくなったということの変化が影響があるのではないかということなのですが、でも、実際はやはり倒産する企業ですと、価値がある在庫は全部入れて、これで幾らまでお金借りられますかという方が多いのではないかなという感覚はあります。でも、是非銀行さんから、実際どうなのかと、私の経験例というのはごく一部ですから、そこがどうなのかなと。要は実際は同じだというような感じもするので、そこは是非何か。 ○道垣内部会長 おっしゃるとおりで、個別動産譲渡担保権の制約というのを考えなくていいのかという話も、個別動産譲渡担保権をたくさん設定すると同じではないかと、そのときだけは制約されないのかという問題が起こってくるのと、オールインベントリーといったら、それは駄目ですよといったら、考えられる種類を全部並べたら、それはそれでいいのかという話になって、後者の問題もあるとするならば、別な在庫一切というものがそう簡単には認められないという方向になりつつあるということが、余りこの問題に関係ないのではないかいうことになるのかもしれません。日比野さんから何かありましたら、お願いいたします。 ○日比野委員 業況不振になっているのだけれども、もう破綻確定というわけではなく、目先の資金繰りのめどがつけば何とか行けるかもしれないと、そういう状況に置かれた企業から融資の申込みがあり、その際に担保提供できる資産は何かありますかとなった場合、担保提供されていない動産債権があれば、できるだけ取得した上で、それを踏まえて幾らまでなら融資できるかといった議論をするということは、一般論としてはあるのだろうと思います。また、必ずしも私の経験ということではないですが、そのような場合でも担保評価の範囲に限ってしか融資できないというケースもあれば、そのような担保の提供を受けた上で、ほかの取引金融機関との協調、支援姿勢がとれるということであれば、それも考慮して、無担保の部分にまで踏み込んで融資をするというケースもあろうかと思いますが、これはもうケース・バイ・ケースだとしか言いようがないのだと思います。   従前から申し上げていることの繰り返しになってしまいますけれども、そういった場面で、集合動産、債権担保権が使いづらいものになることによって、融資できる金額が減ったり、それだと融資が難しいといった議論になってしまうと、それは元々のこの議論から、余りそぐわない結果になってしまうのではないかということは、改めて申し上げておきます。 ○道垣内部会長 本日のところで別に決定ができるわけではないと思いますが、お願いします。 ○尾田幹事 失礼します、厚生労働省でございますけれども、1点補足と、併せて少し発言をさせていただきたいと思います。   井上委員から何度か未払賃金立替払制度について言及いただきました。未払賃金立替払制度は、仕組みといたしましては、労働者が企業が倒産等した場合に賃金の6か月分プラス退職金の最大で8割を一時的に支給するというものでございますが、制度の名前にもございますとおり、立替払いという制度でございます。ですから、現在は健康安全機構がお支払をしまして、代位弁済という形になりますので、本人の労働債権を代位して破産財団に入っていくという形になります。ですから、先ほど井上先生から租税と社会保険料と並べて健安機構というふうに何度か御指摘がございましたが、飽くまでも労働債権として入っているということで御理解いただければと思います。また、原資は労災保険料でございますので、これは事業主から頂いている労災保険料を原資として、一部の労働者の不幸にして生じた事態に一時的に対応しているということでございますので、何とぞそこのところを御理解いただきたいと思っております。   その上で、厚生労働省といたしましては、労働債権というのは労働者と家族の生活の糧ということで、その保護は大変重要な課題と考えております。その点、今回の担保法制部会におきまして、今回の資料45でも具体的に御提案を頂いておりますことにつきまして、非常に感謝申し上げたいと思います。その上で、私どもといたしましても、労働債権を含む一般債権者の保護という点で、何か実効性のある仕組みということが実現できればと考えておりますので、引き続き先生方には御議論いただきたいと思います。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   先ほど申しましたように、本日で意見を取りまとめなければならないとは考えておりませんで、取りまとめられるとも考えていないのですけれども、今日頂いた御意見を基に、更に事務局等で検討していただくことになりますけれども、本日のところでまだ御発言がございましたら、お願いいたします。 ○松下委員 ありがとうございます。松下です。少し理屈っぽい話になりますけれども、財団債権の優先性というのは実体法に基づくものではないと理解されていると思いますので、この部会で議論するのが適切なのかどうかというのはよく分からないなというのが一つです。特定のカテゴリーの債権者にだけ組入金が行くような仕組みを作るとなると、これは正に倒産法そのものの話であって、この担保法制の見直しの中で議論できることなのかというのは、既に御指摘のあったとおりのところです。   もう一つ、全然違う話なのですけれども、この資料にもない話なのですが、仮にこういう仕組みを作るとした場合に、手続法の人間として考えてほしいなと思うのは、この仕組みをどう法律的に整理するかということです。先ほど大澤委員から、組入れというのは担保権者の義務として仕組むべきではないかというお話がありました。私も同感で、仮にこういう制度を作るとしたら、破産管財人の担保権者に対する組入れ請求権という実体法上の権利を観念する必要があるのではないかと考えます。その組入れ請求権の迅速な行使のためには、否認の請求や役員責任査定のような決定手続、その後に判決手続という二段階の手続を設けることが考えられようかと。仮に担保目的財産の価格を基準とする考え方を採るのであれば、会社更生の価格決定手続なども参考にしつつ、そういう迅速に行使できる手続を考えるべきではないかというので、御検討をお願いしたいということです。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   差し当たって今回のところで御発言いただくことは、ほかにございませんでしょうか。   いろいろな意見が出て、先ほどの繰り返しになりますけれども、全然まとまったわけではないのですが、論点等々で、あるいは考えなければいけない事柄、フィロソフィーの問題とかというのはかなり議論ができたのではないかと思っております。これを踏まえまして、取りまとめに向けまして、事務局を中心に更に精緻な案を作っていただきたいと思いますけれども、その間に委員、幹事、関係官の皆さんからもいろいろな御意見を事務局にお寄せいただきまして、よりよい案を最終的に作っていくということにさせていただければと思います。   本日のところは、ほかに御意見がございませんようでしたらば、この程度にさせていただければと思いますが、よろしいでしょうか。   それでは、本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次回の議事日程等につきまして事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 本日もありがとうございました。次回は、少し空きますけれども、令和6年10月15日火曜日、午後1時30分から午後6時までを予定しております。場所は法務省20階、第一会議室でございます。   次回は、昨年の秋から今年に掛けて御議論いただきました要綱案のたたき台をまた改めてお示しをするということになろうかと思います。また、一部論点について別途、個別に扱うということも検討しております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、法制審議会担保法制部会の第47回会議を閉会にさせていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして、ありがとうございました。では、10月15日によろしくお願いいたします。 -了-