法制審議会 担保法制部会 第48回会議 議事録 第1 日 時  令和6年10月15日(火) 自 午後1時30分                       至 午後6時13分 第2 場 所  法務省20階・第一会議室 第3 議 題  担保法制の見直しに関する要綱案のたたき台3         担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討⒁ 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第48回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は、委員の倉部さん、福田さん、山崎さんと幹事の家原さん、南さんが御欠席と伺っております。また、幹事の加藤さんが途中退席と伺っております。また、本日は参考人として明治大学法学部の山川隆一さんに御出席いただいているほか、弁護士の竹村和也さんにも御出席いただいております。   まず、配布資料の説明をしていただきますので、事務局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。事前に部会資料46「担保法制の見直しに関する要綱案のたたき台3」及び部会資料47「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(14)」をお送りいたしました。後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   審議に入りたいと思いますが、資料が二つありまして、本日の審議の順序といたしましては、部会資料47の議論を先に行いまして、その後、部会資料46について議論を行いたいと思います。部会資料46というのは御覧のように分厚い資料でございまして、本日全てを議論することは難しいかとも存じます。本日積み残しとなった分は次回、11月5日に議論することにしたいと思います。   それでは、まず部会資料47「担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(14)」について議論を行います。事務当局におかれましては、部会資料の説明をお願いいたします。 ○笹井幹事 それでは、部会資料47について御説明いたします。労働債権者を含む一般債権者の弁済原資を確保するための方策につきましては、既に回数を重ねて御議論いただいているところです。なお意見が収束しておりませんが、最終の段階に入っておりますので、こういう形で時間を取って議論をするというのは最後の機会になろうかと思います。その最後の機会として、時間を取って御議論いただければと思います。   今回、部会資料47については第1の1と2に分けておりまして、1では財団への組入額についての問題点を取り上げております。御承知のように、この一般債権者への弁済原資を確保するための規律につきましては、集合動産譲渡担保権や集合債権譲渡担保権が実行された後、一定期間内に譲渡担保権設定者について倒産手続が開始したという場合を念頭に置きまして、実行によって被担保債権が消滅した額のうちの一部分を財団に組み入れるという、大きくいえばそういった仕組みが検討されているというところでございます。   そのうち、その組入額をどのような基準で算出するのかということについて、被担保債権の額を基準として、実行による消滅額がその一定部分を超えた場合に組入れをするという考え方と、担保目的財産の価額を基準として、その価額の一定割合を超える部分についての実行が行われた場合にその超える部分を組み入れるという、大きく二つの考え方があり得ます。前回は、この大きな二つの考え方から出発して、こういった部分を調整する余地があるのではないかということで幾つかのバリエーションをお示ししたところですけれども、今回は前回の議論を踏まえまして、一つの具体的な案として考えるならば、どうなるのかをお示ししました。   まず、【案1.1.1】は、被担保債権の額を基準とする案です。この点につきまして、実際に被担保債権の額を基準とするといいましても、具体的にどのような部分を組み入れるのかという数字の部分について様々な調整の余地があるところですけれども、今回は前回での部会資料にもお示ししましたけれども、元本と利息に加えて、遅延損害金のうちの半年分について直近の約定利率で計算した部分は担保権者の優先弁済権を制限しないことにして、それを超えた部分については財団への組入れの対象にするという案を示しております。   今までは1年分は遅延損害金率で検査した遅延損害金部分も含めて、担保権者がその確実な優先弁済権の対象にするということにしておりまして、元本利息1年分の遅延損害金を超えた部分だけを組入れの対象にしていたのですけれども、この優先弁済権が制約されない遅延損害金の期間を短縮するとともに、その率についても遅延損害金率ではなくて約定の利率、そのうち一番最後の部分といいますか、遅滞の責任を負った、その時点の約定利率によるということで、組入れの対象額をかなり拡大したという案になっております。   続きまして、【案1.1.2】ですけれども、こちらは担保目的財産の価額を基準とする案になっております。この部分につきましても、複数の担保権が競合した場合に、それぞれについて考えるのか、それとも、それを足し合わせた上で合計の担保権者による回収額とその価額の基準割合とを比較するのかという考え方の違いがありましたけれども、後者の方で提案をしておりまして、競合する担保権があった場合には、その回収額を全て足し合わせたときにその基準となる割合を超えているのかどうかで判断し、複数の担保権がある場合、担保目的財産の価額を超えている場合には、複数の担保権のうちの一番劣後するものから超える部分を組み入れると、また、それが同順位の場合には被担保債権額によって割り付けるということにしております。   この考え方自体は、部会資料43において御提案したものと基本的には一致しております。微妙に違っているところもあるのですが、基本的にはそういう考え方に戻しているということになります。部会資料43におきましては、最先順位の担保権者については元本の保証をすると、元本の部分については少なくとも優先弁済権の制限を受けることがないという考え方を示しておりましたけれども、この考え方を組み入れようとしますと非常にゴシック部分が複雑になりましたので、今回ゴシック部分ではその点は言及しておりませんが、議論の対象から除外するということではありませんので、この点、もし御議論がありましたら、御議論をいただければと思っております。   (2)は、集合債権譲渡担保権についてです。集合債権譲渡担保権につきましては、いわゆる累積的なといいますか、数回に分けて担保権を実行することができるとされておりますので、これとの関係で、もし物の価値基準、先ほどの【案1.1.2】を採るとすれば、分母の部分にどういう数字を持ってくるのかということが問題となり得ます。その他の部分については、【案1.1.1】、【案1.1.2】に対応して、内容は重ねて書いておりませんけれども、同じように【案1.2.1】として被担保債権の額を基準とする考え方、それから【案1.2.2】として、物の価値を基準とする考え方があり得ますけれども、違ってくるところとすると、【案1.2.2】について、先ほど申し上げた分母の部分をどのように考えるのかというところです。   ここでは、前回の部会資料45でも少し説明の中に書きましたけれども、目的財産の価額として、被担保債権の債務不履行時、あるいは倒産手続開始申立て時の1年前のいずれか遅い時点で担保の目的となっていた債権の評価額の合計、それから、その後破産手続開始の日までに発生したものの評価額を合計するという考え方が、理屈からすると最も適合しているのではないかということで、御提案をしております。以上が組入額の基準ということになります。   3ページの2というところは、組入請求権に対して、1の考え方に従って発生した組入請求権について、特定の債権者を優先すべきではないかという議論が前回の部会においてございました。そこで、この点についてどのように考えるかという問題提起をしたということになります。   具体的な問題としては、説明の中の3ページ19行目、それからその後、21行目にありますけれども、少なくとも二つの問題があるのかなと思っておりまして、一つ目は、仮に組入請求権について誰かに優先権を与えるということだとすると、それを誰に与えるのかという優先権を与えられる債権の範囲の問題、そういう必要性がどういう債権について認められるのかという問題が一つ目です。   次に、どのような法的な構成によって優先権を与えるかという問題があるのかなと思っております。一つ目は、例えば民法上の一般先取特権が与えられている債権としてはどうかということですとか、あるいは、政策的な判断によって、労働債権であれば労働債権のみについて優先権を与えるという考え方もあり得るのではないかと思っておりますが、それをどのように正当化するのかという部分については、なお問題として残るのかなと思っております。   また、先ほどの②の問題、どのような法的な構成によるのかということにつきましては、前回の部会におきましては、余り倒産手続の仕組みを大きく変えるような修正というのは控えるべきではないかという御発言がございました。もし倒産手続の手続法的な部分に立ち入らないということだとすると、実体法的に特別の先取特権を与えるということが考えられるのではないかと思っております。ただ、さらに、他の債権との優先権を確保するために差押えを禁止するかどうか、しかし、差押えを禁止したときに、倒産手続上そのような扱いでよいのかどうかといったところが問題になるのかなと思っておりまして、これらの部分について御議論いただければと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと存じます。よろしくお願いいたします。 ○大澤委員 大澤でございます。2の方にも議論としては多分つながるとは思っておりますが、倒産法絡みの破産管財人等をやっている者としまして、労働債権がどう保護されるのかというのはとても重要なことだと思っておりますし、個々の労働債権者の救済ということは非常に大きな問題だとは思っております。ただ、この動産譲渡担保、それから債権譲渡担保の枠の中でそれだけをうまく解決しようとすると、なかなか枠組みとしては難しいと考えておるところです。   といいますのは、まず1に関して申し上げると、【案1.1.1】に関して言えば、元本と利息とを控除していきますので、倒産手続において元本割れでの担保回収というのがほとんどですから、余りそもそも一般債権の保護につながるような形での組入金というものを取るというのは想像しづらいであろうと、まず考えております。では【案1.1.2】の方はどうかと考えましたときに、これは担保権の評価の額なり、担保対象物から何%かを取るということで、確実性は十分にあり得るとは思うのですが、パーセンテージ如何にもよりますけれども、ただ、そういったときには貸付けをする債権者、金融機関側からすると、確実に担保が削られるということが貸付けをするときに分かっていることになりますので、むしろ金融に与える影響がどうなのかというところが懸念をされるところでございます。どの企業も正常に動いていく方が最もいいわけで、その中で労働債権を逐次、適時に弁済していきながら企業が事業を行っていくという意味合いにおいては、担保が適正に取られて、お金が貸付けという形で出ている中で、万が一倒産したときに一部削られるということになると、貸付けの金融機関の方が過度に萎縮しないかという心配も持っているところでございます。   一方で、さらに、すみません、集合動産譲渡担保の話は少し飛ばしておきまして、2の組入金に対する特定債権の優先というところですけれども、こちらも実務的に考えたときに、例えば労働債権の債権者にそういった別除権を与えますというようなお話になったときに、組入れ財産に対して個別の労働者が個別に別除権を持つのだろうかと考えますと、別除権なので破産財団とは関係ありませんから、誰が債権を確定して、その債権を適正に行使するのかというところで、まず正直、難しいのではないかと。従業員さんがたくさんいらっしゃるような形で、残念ながらそれぞれの労働者が未払いを持っているような段階で、個別の方たちが個別に入っていかれると、逆にそれはそれで労働者の中で先取りを許すようなことになってしまって、労働者全体の保護という観点で少し問題が残るのではないかとも考えております。   通常、破産手続の中では、今までは破産管財人がその会社の中でいろいろな労働者に関する資料を集めて給与等の計算をし、時間外労働があればそれを確定し、ということをやっていっておりますけれども、そういったことも外側になるということであれば、破産管財人がやらないというようなお話になるのかもしれませんし、そうすると誰がどうやって債権の額を決めて、きちんとそれが分配できるという仕組みができるのかが、正直よく分からないなというところでございます。   むしろ、そういう不平等あるいは不確実な権利実現になりかねないということだとすると、すみません、この審議会とは完全にずれてしまうので、あれですけれども、今、行政の未払い賃金の立替払の制度がございます、そちらは労働者と完全にひもづく制度ですので、そちらでの拡充といったことをもう少し考える方が、労働者単体で考えたときには、そちらの方がよいのではないかと考えている次第でございます。   すみません、長くなりました。以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかにございますでしょうか。 ○沖野委員 ありがとうございます。沖野でございます。1の組入額についてと、それから特定債権者の優先の2について、それぞれについて申し上げたいと思います。   こういう組入れの制度があること自体は、一定の正当化ができるのではないかと考えておりますけれども、その際の額の基準をどうするのかということについては、私自身は被担保債権の額を基準とする案の方がよいのではないかと思っております。一つは、以前からも言われました、大澤委員も言われましたように、信用供与への影響というか、それが非常に大きいだろうということと、それから、これ自体は何%ということで、もう担保財産の何%しか優先回収に充てられる財産はないのだということで、一律であれば計算の可能性は、それで計算すればいいということになるのですけれども、ただ、この制度自体は実行が掛かったら常にではなくて、一定の時点で倒産手続に移行するというか、そういうものが出たときということなので、その確率も考えていかなければいけないとすると、恐らくは、より多くが活用できない財産の方になってしまうのではないか、そういう計算で信用供与がされるという可能性が高いのではないかということが一つにはあります。   それ以上に、この【案1.1.2】というのは結構複雑ではないかと思われます。財産の評価額の問題がありますし、それから今回、少し理解が及んでいないのかもしれないですが、特に債権の方を考えたときには、実行した財産額ではなくて、実行が可能な対象財産の額から何%ということになっていますので、場合によっては実行しないままの財産が残っている可能性もあるように思われます。その部分も基礎とした上で組入額を決めていくということが、問題がないのかどうかというのが気になっておりまして、今回は破産だけではなくて再建型も全て、倒産手続全部を対象局面とするということなのですけれども、再建型の手続で別除権協定などが結ばれたというときですとか、会社更生ですと、もはや実行できなくなるということだと思っておりますので、未実行の部分が残っているような場合というのは調整の必要があるのか、ないのかということも気になっております。技術的には結構ややこしいことをやる可能性が出てくるのではないか、実際にはそんなに難しいことにはならなくて、割と単純に行くのかもしれませんけれども、かなり複雑な話にならないかと、そこまで複雑なものになると、今度はそれが予測できないということになって、事前の信用供与に跳ね返るということになるように思われます。   それが一つ目の点についてなのですが、2点目について、特定の債権者を優先するという点でございますけれども、特に具体的には労働債権についてということなのですが、私はこれ自体は政策判断としても技術的な制度としても、問題があるように思っております。複数の債権のうち労働債権のみを保護するということについては、労働債権の保護自体は非常に重要だということは異論はないと思うのですが、どの債権よりもあらゆる場合において優先すべきものという優先を与えられるべきなのかというのは、よくは分からないというか、そこまでの正当化はできないのではないかと思っております。   牽連性が大きいという説明が一つ言われておりますけれども、それは全ての財産についてそうだからこそ、一般の先取特権が与えられているのではないかと思われまして、今回の組入請求権についてだけ、特に労働債権のお陰でこれが生じているのだという状態にはならなくて、比較的包括的に取れる担保によって、倒産手続における原資たる財団に対して一定のものを戻すという考え方からして、そのための制度として考えるべきではないかと思っております。   それから、実体的な優先関係、今あるものと違うまた実体的な優先関係を付けるのですけれども、これもまた従前から言われておりますように、人身損害の不法行為の被害者ですとか、あるいは未成年の養育費ですとか、そういうものよりも労働債権こそが全て優先すべきだと本当にいえるのかというのは、ここで直ちには決断できないことのように私は思います。そして、労働債権のそこまでの重要性というのは、現行の実体関係において既に規律として出されているし、倒産のときに特に必要があるのだということを勘案して、それぞれ清算型、再建型に応じて優先的な確保というものが設けられておりますので、やはりそれで不十分だということであれば、難しくてもそこを崩すほかないのではないか、こう言っては何ですけれども、国税関係の方をむしろ修正すべきではないかとも思うわけですけれども、あるいは大澤委員が言われたような立替払の範囲を拡大するとか、そちらの方で行くのがむしろ筋ではないかと思います。   ですから、政策的に十分基礎付けられないのではないかということで、そこで終わってしまうといえば終わってしまうのですけれども、ただ、そうではなくて労働債権は是非保護すべきなのだということがこの部会での一定の合意ということになるのであれば、その方策なのですけれども、特別の実体法上の先取特権を債権について与えるというのは、なかなか技術的に難しいような気がしています。これは保険法22条に責任保険についての特別の先取特権が用意されておりますけれども、これは保険法の改正のときには、直接請求権なども考えられるところ、特別の先取特権にした一つの理由は、例えば製造物責任などで多数の権利者がいるような場合に、保険では足りないというようなときに、保険会社が配当の手続などをしなければいけないというのは、これはもうやり切れないということもあって、特別の先取特権で民事執行法に乗せた上で、もう早い者勝ちでよいという、そういう発想でもできていたように思います。   そうすると、労働債権について単純に特別の先取特権だけ与えるということですと、大澤委員がやはり言われたように、個々の労働債権者が先取特権を証する文書などを出して、実行を掛けて、早い者から取っていくということになりそうで、そうでなければ一定の団体が行使するのかとかいうことになるし、あるいはそれは結局、倒産のところだから倒産手続における管財人がまとめてその部分を優先的に渡すということになると、結局破産配当などの中で実施するということではないのかと、さらには、差押えも禁止するということになれば、本来は倒産財団に入らないというような債権にもなりかねないわけで、それをどうして倒産管財人が処理して、特定の債権者のためだけに、報酬も掛けて、やれるのかという問題も出てきます。それから、余ることはないと思うのですけれども、仮に余ったら、差押え禁止で倒産財団を構成しなかったものはどこに行くのかという、その段階で倒産財団に入ってくるとか、いろいろな手当てを付ける必要もあるように思われます。   そうすると、どうも制度としても利用可能なものを考えるとき実体法上の特別の先取特権というのは、なかなかややこしいことがいろいろ出てくるのではないかと思っておりまして、技術的にも困難が多いように思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○沖野委員 申し訳ありません、言い忘れました。よろしいでしょうか。   表現だけなのですけれども、先ほど訂正がありましたでしょうか、1ページ目の15行目の「破産手続等の開始があった」というのは、開始の申立てになりますでしょうか。   それと、もう1か所なのですけれども、3ページの35行目で、民法上の先取特権が与えられているという理由のみに基づいて、一般債権に対する優先権を与えることは正当化できないというのですが、先取特権を与えるというのは一般債権者に優先するということなので、ここでの問題は、一般債権者に優先させるかということではなく、実体法上の優先関係を別途ここで変えて、これだけ優先させるかということなので、むしろほかにも優先する債権がいる中で、その間平等であったとしてもこれだけは先にするとか、あるいは劣後していたとしてもこれだけは先にすると、そういう関係だろうと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに、いかがでしょうか。 ○阪口幹事 阪口です。まず、2について実務的に無理だというのは、大澤先生が先ほどおっしゃいましたとおりです。破産管財人が、多数の労働者との間で一種の別除権協定を包括的に締結して行動していかなければいけないとなると、行方不明の労働者もいますので、それは困難です。他方、労働者が個別の権利行使をすることを想定する仕組みだと、集合財産担保権者も対応し切れないということになって、実務が回りません。   次に質問です。まず、先ほど沖野先生もおっしゃったけれども、【案1.1.1】は、「1年を経過した日以後に」のところが「破産手続等の開始があったとき」になっているけれども、これは申立てですよねという確認をしたいと思います。次に、【案1.1.1】と【案1.1.2】では消滅という言葉と終了という言葉で、少し用語を変えているのは何か理由があるのかということの確認をしたいと思います。それから、2ページの(2)について、先ほど沖野先生も御指摘されたけれども、途中で実行できたはずのものを本当に全部分母に入れる趣旨ですかという点です。つまり、実行しないで債務者に全部入ってしまったものまで計算に入れるという意味なのか。2ページから3ページにかけての対象債権に関する説明は、担保権者として実行しようと思えば実行できたのだから、分母に入れても仕方がないというニュアンスで書かれているのだけれども、実行しないまま債務者というか設定者の下に入っていたものは、それは普通の事業に使われたり、また従業員のお金に払われたりしているはずなので、それを分母に入れるのは、矛盾しているのではないかと思ったので、そこの確認です。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。質問にわたる事項につきまして、事務局の方からお願いいたします。 ○笹井幹事 一つ目は、修正が漏れていたようですので、修正したいと思います。消滅と終了なのですが、実質的に違っているわけではありません。物の価値基準の場合には被担保債権ではなく物の方から書いたほうが分かりやすいと思いましたので、被担保債権の消滅ではなく、手続全体に着目して、その手続の終了と書いたものです。   先ほど沖野先生からも御指摘があり、阪口幹事からも御指摘のあった、(2)の分母に何を入れるかということなのですけれども、部会資料45においては、債務不履行時にするという考え方と、何らかの実行の着手に入った時点を最初の時点とする考え方と、二つの考え方を示していたところです。しかし、例えば集合動産譲渡担保については、最初の実行通知によって固定化するということになっており、その手続が必ず踏まれるということですので、最初の時点というものを特定しやすいのですけれども、集合債権の場合には必ずしもその全体についての何らかの通知が不可欠の手続として課されているわけではありませんので、最初の時点として何を取るのかという問題がまずあると思います。技術的には、債務不履行ではなく実行に着手した時点以降の債権の価値を算定するという考え方を採るなら、最初に取立ての請求をした時ということも考えられるかと思います。   ただ、実質的な問題として、集合債権のうちの大部分が譲渡担保権者への弁済に充てられると一般債権者を害することになるというのが元々の組入義務の発想なわけですけれども、今正しく阪口幹事が言われたように、担保権者が放っておいた場合、それは設定者が回収していくわけですので、設定者の一般財産の中に入っているわけですね。ですので、その部分を分母となる集合債権から除いていけば、分母となる集合債権のうち回収したものの割合は大きくなっていくわけですけれども、全体として見れば設定者が自分の財産の中に入れたわけなので、その結果としてその割合が高くなり、組入義務が発生するのは、むしろおかしいのではないかと思います。そこで、抽象的に実行の対象にできる、債務不履行後の債権全部を分母にして、そのうちのどれだけの割合を回収したのかということを算出するという考え方にしているということになっております。少し何か誤解があるかもしれませんけれども、この資料の考えとしては今申し上げたとおりです。 ○道垣内部会長 ほかの方からも手が挙がっているのですが、阪口さんが、何を言っているのかよく分からなかったという顔をされているので、もう少しここをはっきりさせてからにしましょう。 ○阪口幹事 阪口です。ごめんなさい。今おっしゃったのは、どちらか遅い時点というのがありますと、そこから破産開始までの間に債権が発生した部分が問題なわけですけれども、その間に対象債権が発生して、実行しない限りは設定者が回収することもあり得ますよね、今おっしゃったのは、それを除いて率が高くなるのはおかしいということでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、一般債権者に残されるべきものを取っておきましょうといのが趣旨なわけですけれども、担保権者が回収しなかったものというのは。 ○阪口幹事 今、笹井さんがおっしゃっているのは、一般債権者の方に行ってしまった、その結果、集合担保権者のものが減る。集合担保権者のものが減るから、最終的にこの特定債権者に渡るのが減るのはおかしい、ということをおっしゃろうとされているのですか。でも、一般債権者に入った分は、むしろ労働債権者に払われている原資になっているはずだと思うのですけれども。 ○笹井幹事 そうです。ですので、分母に入れておこうということです。 ○阪口幹事 だから分母に入れないのではないですか、ごめんなさい、理解できていないのですが、入れるのですか。 ○笹井幹事 例えば、1年前に債務不履行が起き、1年分発生していきますと、しかし実行に着手したのは6か月後ということだとします。1年分全部ではなく、実行着手後の6か月間に請求することができた分だけを分母にするのだとすると例えばもう実行に着手したので担保権者が全部取ってしまったとすれば、一定割合分を超える部分の組入れは必ず発生することになるわけですね。ですけれども、元々担保権として実行することができたのは1年分あったのに、担保権者が実行しなかった結果として、最初の半年分は担保権設定者に入っているわけですね。そうすると、担保権者が取り得たもののうち、単純に考えれば半分しか担保権者は取っていない。そうであるならば、担保権者として取り得たものの大部分を取っていったわけではないので、組入義務を発生させる必要が常にあるわけではないのではないか。実行着手後の6か月分だけを分母に入れると100%になってしまうので、必ず組入れが発生してしまいますが、実質的に見ると100のうちの50しか取っていっていないのだから、それと組入割合を比較すべきではないか、そこの違いが出てくるということなのです。 ○阪口幹事 阪口ですけれども、今口頭でおっしゃったこと自身は理解できました。ただ、それは(2)に書いてあることと整合しているのでしょうか。(2)に書かれていること自身は、1年前の時点で発生した額の評価額に、そこから時間が経過して発生する分を足していくだけですよね。 ○笹井幹事 はい。 ○阪口幹事 設定者に入った分は全く考慮されていないですよね、これは。ひたすら発生したものを足していって。 ○笹井幹事 それが分母になる。 ○道垣内部会長 分母、目的財産の価額のところに足していくだけなので、回収額の部分は増えていかない、そうすることによってパーセンテージが下がる、そうすると、それほど集合債権譲渡担保権者がたくさん取ったわけではないよねというふうになる。分母に入れることによってパーセンテージを下げるという話をここに書いている。 ○笹井幹事 回収額は分子に入る。 ○阪口幹事 もう一遍考えます。すみません。 ○道垣内部会長 なかなか計算も難しいところですが、また必要がありましたら後でお願いすることにして、片山さんから先に手が挙がっておりますので、片山さん、お願いいたします。 ○片山委員 片山でございます。どうもありがとうございます。恐らく前回までに申し上げたこととほとんど内容は同じということですので、改めて発言をすることははばかられますが、これまでの発言からしますと、第1の1に関しては【案1.1.1】の方が優勢であるということですので、私自身は【案1.1.2】の方がいいと思っておりますので、やはりあえて発言をさせていただければと存じます。   まず、第1ですが、労働債権者等の一般債権者への返済原資を確保するための規律がなぜ必要なのかというと、やはり包括担保に近いような形で担保権者が全ての資産を奪ってしまうということは問題だろうから、カーブアウトのような形での労働債権者等の保護が必要になってくるということなのだと思います。ですから、担保権として優先弁済権を付与しているにもかかわらず、なおそれでも一般債権者の保護が必要なのは、そういう局面に限定されるのだと思っております。   そういう意味では、債権担保に関しては事業収益をほぼ全部担保に取ってしまう側面がありますので、ここにいうカーブアウトの規律を設ける必要があると思いますが、他方、動産担保は集合担保、集合動産担保ではありますけれども、基本的には在庫という資産の一部分を把握しているにすぎないものですから、そもそもここで一般債権者へのカーブアウトの規律をすべき土台がないのだと思っています。ですから、債権担保にもいろいろな類型があるといえばあるのですが、あえてこの規律を設けなければいけないのは債権担保だけなのだというのが第1の意見です。   それから、第2ですが、もし仮にこの制度を導入すべきだということで、一般債権者に弁済原資を残すという目的で規律を設けるのだとしたら、【案1.1.1】は、やはり倒産の事案ですから担保割れをしている局面が多いでしょうから、実効性がほとんどない、実効性のない制度を設けるはいかがなものか。やはり【案1.1.1】をそのための制度だとして制度設計をするのは無理があるのではないかと思っております。   【案1.1.2】の方は、確かに制度設計は難しいのではありますけれども、仮に債権担保が事業収益をほぼ全部取ってしまうという担保であるのだとしたならば、具体的に計算方法とか何%かという点は、どこかで決め打ちということになってしまうのかもしれませんが、制度趣旨や根拠は、やはり労働債権者とかその他の商取引債権者も資産の形成に大いに寄与しているからだという説明になってくるのだと思います。ですから、あえて制度を設けるなら【案1.1.2】を設けないと意味がないのではないかという意見です。   それから第2の2のところでどの債権者を優先するのかという点は、やはりこれは担保法の制度設計の中では難しいでしょうから、今回規律を置くとしたら、それは組入れをするというところまでの規定を設けるべきであり、そこから先はやはり破産法の中での規律に委ねざるを得ないのではないかと思っております。   以上、まとめると3点ということになるかもしれませんが、私自身の考え方を述べさせていただきました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○村上委員 ありがとうございます。まず、2の方につきまして、前回の部会におきまして、一般債権者保護のために担保権者に財団への組入義務を課したとしても、実際には租税債権などの回収に充てられてしまい、組入義務の実効性に欠けるということから、特別に取り置く新たな仕組みを検討いただきたいということを申し上げました。また、参考人の方からも、実務的な観点を含めて、労働債権などの保護の実効性を高める必要があるとの御意見を頂いたところでございます。こうしたことを踏まえまして、今回3ページの2のように、新たな特別の先取特権の創設についても積極的な検討を提案いただいたことについては感謝申し上げたいと思います。   これまで繰り返し、別除権に労働債権の一部を優先させる制度の導入が必要ということを申し上げてきた立場からしますと、組入請求権に加えて、新たな特別の先取特権を設けることは、労働債権保護の実効性を確保するためには欠かせない方策と受け止めております。また、資料47の4ページでは、ほかの債権者の差押えを禁止することにより、租税債権などとの関係を含めて、労働債権保護の実効性を担保し得るとされている点も重要だと考えております。倒産財団との関係ですとか、実務的にどのようにしていくのかという点は、整理が必要な点はあるかと思いますけれども、まずは特別の先取特権を認める方向で議論を進めていただき、その中で具体的な制度設計をしていただければと考えております。   労働債権の要保護性について改めて申し上げますと、繰り返し申し上げておりますが、労働債権は労働者やその家族の生活の糧でございまして、政策的に要保護性の高い債権だと考えております。この点は部会全体としても御異論はないと認識をしております。労働者から見ると、使用者は唯一の債務者でありまして、企業が倒産して支払い不能となった場合には、文字どおり生活が脅かされ、ほかの債権者よりも圧倒的に不安定な状態に置かれます。また、一人一人の労働者が自分の勤める企業を取り巻く経営環境や財務状況などの情報を得ることも困難でありまして、ほかの債権者との力の差も極めて大きいと考えます。   労働債権の優先順位の見直しにつきまして、倒産法制の中での課題ということで、今回も複数の先生から御指摘がありましたけれども、私どもも正面から議論していただきたいということで本部会の開催当初から申し上げてきました。しかしながら、そのような場が今、設けられている状況ではないということでございます。そうした中では、労働者の生活の安定に向けて、たとえ一歩でも改善に向けて取組を進めるということは喫緊の課題と考えております。そのために、本部会におきましても長きにわたりまして丁寧な議論を積み重ねていただいたものと認識しておりまして、新たな制度は実効性が高いものにする必要があると考えております。   その上で、1の組入義務の方でございますけれども、【案1.1.1】か【案1.1.2】かというところでございますが、私どもは【案1.1.2】と考えております。前回も複数の先生方から、一般債権者への弁済原資を確保するための制度の実効性の確保や円滑な実務といった観点から、目的財産の価額基準を掲げる【案1.1.2】を採用すべきとの御意見もあったところだと承知しております。元本や利息の一部を組入れ対象に加える方向で検討いただきたいことからしても、【案1.1.2】が望ましいと考えております。加えて、組入義務を課す割合についても、以前の部会で、例えば3割というようなことを申し上げましたけれども、そういったことも考慮して検討いただければと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。 ○大西委員 私も前回のときに申し上げたことなので、繰り返しになってしまうのですが、優先性のところと、それから組入れのところに対してコメントします。まず【案1.1.2】については、これも私は片山先生がおっしゃったように、この制度を入れる趣旨が、担保価値を担保権者が独占することによる弊害を一部是正し、その是正による主たる利益享受者を労働債権者と捉えるのであれば、やはりその効果が出るような内容でなければならないと考えます。このような前提で【案1.1.1】をみると、担保実行を行う場面においては、皆様にも既に御案内のとおり担保割れしているケースが多いため、【案1.1.1】ではその効果が乏しく、【案1.1.2】が妥当と考えます。私自身は、動産の場合と債権の場合の差を設ける理由がそれほど明確にはないと思いますので、債権の場合も同じように【案1.1.2】が妥当と考えます。   それから、二番目の組入れにおける労働債権の優先性の点ですが、ここは大澤先生がおっしゃるように別除権的な構成にすると、非常に複雑な制度となるので、将来の倒産法制の見直しの中で検討すべきことと考えます。   それから、【案1.1.2】での質問ですが、この動産特定範囲に属する動産の価額に乗じたとあるのですが、ここでいう動産の価額は評価額という意味ですか、それとも実際の換価額という意味ですか。もし評価額であるとすると、やはり換価額とはずれる場合もあるので、実際に回収した額に乗じて計算すべきと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。価額について、何かありますか。 ○笹井幹事 ここはやはり評価額ということになろうかと思います。換価、特に処分清算方式の場合には処分価額というのがあるわけですけれども、処分価額は、理屈の上では、本来の評価額を必ず反映したものだということにはなっておりませんので、例えば清算金を算出するに当たっての基準としても、これは現行法でもそうですけれども、評価額を用いるということと解されてきたかと思います。これと同じでして、飽くまで本来の評価額が分母になり、それから分子に回収額が入ると、それによってこの組入割合を超えているのかどうかということが判断されるのかなと思っております。   ただ、そうはいいましても、きちんと処分した場合には、基本的には処分価格は客観的な評価額を反映したものになると思いますので、そこが大きくずれるということは実務的には余りないのではないかとは思っております。 ○大西委員 分かりました。他の条項との整合性からすると、そういう考えによらざるを得ないということで理解をしました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ほかに御意見は。 ○竹村参考人 ありがとうございます。まず、1の件なのですけれども、組入額の件については先日の部会で【案1.1.2】が望ましいと意見させていただいたとおりです。組入れが生じないとなれば、今回検討いただいている趣旨を損なうことになると思いますので、確実な組入れを確保する制度設計が必要だと思います。【案1.1.1】については、先ほど来御指摘があるとおり元本割れのおそれが高いと考えますので、基本的に【案1.1.2】だと思います。金融実務への影響については門外漢なので、何とも申し上げられませんが、それが本当にどれだけの影響があるのかという点についても、労働者側からすると若干の疑念がありますし、前回指摘があったように、モニター等の関係で解消されるべき点なのかなと思ってはおります。   今回、2として組入請求権に対して一定範囲の債権者に特別の先取特権を与えることについて検討いただいておりまして、まずここで一つ、①の論点として出ている、どの債権に優先性を与えるのかという点については、基本的に労働債権に限定してしかるべきかなと考えております。先ほど来指摘されておりますとおり、労働債権については労働者とその家族の生活の原資になるものですし、今回想定されている破産手続の局面においては労働者は職を失ってしまうという点も考慮すべきだと考えております。また、担保対象財産となる動産債権等の会社財産については、総じて労働者の労務提供を前提としている、つまり企業財産の維持形成への寄与という点で、一定程度労働債権を優先させるということは不合理ではないと考えております。   2では牽連性の関係についても指摘がされておりまして、この点については今の労働者の役務提供というのは幅広い企業財産を生み出しているという点で、いわゆる民法324条で想定されているような工業労務、そういうものはむしろ少ないと考えております。この点は、結局は労働債権を優先させる正当化根拠があるか否かという問題だと思いますし、先ほどの労働者、労働債権の生活保障の重要性等、企業財産の維持形成等の観点からすると、一定の牽連性があれば足りるのではないかと考えております。   大澤先生からも御指摘があったとおり、この構成を採ると、基本的に個別労働者の行使の問題になるのだとは思います。本当は財団債権内の順位をいじっていただいて、全労働者への分配というのが理想だと私も思ってはおりますが、この部会で難しいということであれば、今回の構成はやむを得ないと思っております。現実に今の平時での一般先取特権の行使においても、結局は個別労働者の行使に委ねられておりますので、その点、特に不整合はないかなと思っております。   ただ、御指摘があったとおり、労働者、労働組合に対する自身の担保権の存在等については、情報提供などが極めて重要になってくると思いますし、裁判所に対して担保権の存在を証明する文書の提供等においても、それをどうするのかという点について、ここも門外漢になりますが、破産管財人の先生方等の御協力を得る、そういうふうな手続的な配慮等も必要なのではないかと思っています。   未払い賃金立替払制度の充実という御指摘があったので、一言申し上げさせていただきますと、現行、確かに管財人の先生方の御協力を得られながら、ここからの回収というのは一定程度できているとは理解しています。ただ、この制度は労災保険を財源としておりまして、ここを膨らませるというのが本当にいいのかという点は、政策的にも十分考えなければいけないのかと思っております。実際、機構が回収している金額というのは約2割半ば程度だと思っていますので、労災保険制度全体の絡みでこの点も議論する必要がありますので、やはり基本的には使用者からの回収、直接的な回収というのが重要になってくるとは思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○山本委員 2の点についてのコメントですけれども、今回、特別の先取特権構成という新たな御提案というか御示唆があり、この目的を達成するためには確かにこういう方法しかないのかなと一方では思うわけですけれども、やはり皆さん御指摘のとおり、このような構成については違和感は禁じ得ないところがあります。   中心的な点としては、既に多くの委員の御指摘があったところですけれども、やはり特別の先取特権というのは、被担保債権とその目的財産の密接な関連性を前提にしているところではないかと思います。今御批判がありましたけれども、現行民法も323条とか324条で農業労務あるいは工業労務の先取特権を認めているのは、その労務の直接の果実あるいは製作物についてであって、そういう直接の関連性がない場合に、なお政策的にこの先取特権を認めるというのは、かなりハードルが高いのかなと思います。   今回のものは結局、ある意味たまたま譲渡担保権が設定されていて、そこで余った担保を上回る剰余が出たというところに、出たこの剰余金についてのものでありまして、その担保が設定されていなければ、これは全く有責がないというか、一般の先取特権が認められる範囲の財産にしかすぎないのではないかという気がいたします。そういう意味では、そういう担保が設定されていたからといって特別の先取特権ということになるというのは、やはり違和感があるということであります。   それから、差押え禁止の構成という点でありますけれども、これも結局、この組入請求権に対する権利実行が問題になるのは、実際には倒産手続が開始した後ということになります。倒産手続が開始されれば、一般債権に基づく差押え等、あるいは財団債権に基づく差押えもそうですけれども、は基本的には禁止されるはずでありますので、実質的にこの特別の先取特権を妨害するような差押え禁止等が必要になるというのは、基本的には租税債権の滞納処分とか交付要求を禁止するという趣旨なのかなと私自身は理解しました。それは結局、直接労働債権を租税債権の権利実行に優先させるという政策判断を正に体現しているものであって、そういう意味ではやりたいこととは整合しているわけですけれども、そのような租税の権利実行をこの局面においてだけ禁止する根拠、理由というのがどこにあるのだろうかということは、やはり疑問が否めないところがあります。   もちろん村上委員が言われた、あるいは竹村参考人も言われた労働債権の保護というのが極めて重要な課題であるということは、私自身もそのとおりだと思っているところであります。ただ、それはやはり真正面からといいますか、なりますように、基本的にはこの繰入金というのをそのまま破産財団に組み入れながら、しかしその倒産手続の中で労働債権がより保護されるような仕組みということを考えていくということになるのではないか。破産法において大議論をしました、私もその場におりましたけれども、既にそれから二十数年がたっているわけでありますので、十分にこれまでの経済的、社会的な変動に鑑みて、新たな優先順位の形成というのを正面から考えるべき時期に来ているのではないかと思います。   ただ、その際には当然、租税債権あるいは租税法についての専門の知見というのも必要になるわけでありますので、法制審議会倒産法部会がそうであったように、租税の立場を代表するというと少し語弊があるかもしれませんが、そういう総合的な考慮ができるようなフォーラムで、私は正面から議論すべきなのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   ほかに。 ○日比野委員 ありがとうございます。これまでの発言とほぼ同じことの繰り返しになってしまうかなということもあるのですけれども、最後の機会ですので、申し上げさせていただきます。   まず、私ども金融機関の方の立場からしますと、第1の1のところでは【案1.1.1】、被担保債権の額を基準とする案、こちらの方が妥当という主張をずっとさせていただいてきたところでございます。この点、村上委員がおっしゃいましたとおり、労働者あるいは労働債権の保護が大変重要であるということについては、これは私どもの立場としても全くそこは異論ございません。ただ、その上でこのような主張をさせていただいているということになります。   組入れについてですけれども、担保である以上、どれだけ回収できるかという予測可能性が大変重要な要素になってきます。そこに不確実性があるということになりますと、評価額を下げざるを得ない、あるいはそもそもその担保を取得することによって、一定の回収価値を見込んで新規の融資をするということが、相対的に難しくなるとのではないかと考えている次第です。   加えて、この仕組みによりますと、回収してから最大で1年間は、弁済充当したものを組入れが生じることによって債権を復活させるという可能性があるということになると思いますが、一方で金融機関、担保権者の立場とすると、回収したことを所与として、その1年間に新たな事実が積み重なっていくことになると思います。   例えば、集合動産あるいは集合債権譲渡担保から回収をして、その後に、別で取得している不動産担保の競売が開始したとします。その場合の届出債権額は、当然のことながら先行して集合債権あるいは集合動産から回収した額は控除して届け出ることになるわけです。その届出によって配当により回収した後、後日倒産手続が発生して、この組入れが発生するということになりますと、それであれば不動産の競売の届出のときに何かもう少し工夫できないのかと、そういったような議論にもなるかと思います。   この点は【案1.1.1】でも【案1.1.2】でも同じなのですが、やはり元本と利息の額は【案1.1.1】で確保されるという規定になっています。この回収に関する予測可能性と、一度弁済を受けたという事実の確定という点からは、やはり【案1.1.1】の方が望ましいということになります。   あと最後に、これも重ねて述べてきたことですが、このような集合債権あるいは集合動産の譲渡担保は、もちろんABLのように企業が健全な状態のときに利用されるというケースもありますが、資金繰りが不安定になってきている状況下で、資金繰り支援の追加融資とのセットで設定を受けるというケースも、実務上は相応にあると理解しています。そのような場面での資金供給が円滑にできるということも、企業活動の維持によって、労働者の方の生活の安定に資するということにもなろうかと思います。したがいまして、法律の規定としては、倒産手続が開始したらどうなるかという着眼で、どちらの案がいいかということだと思うのですが、存続する可能性がある企業が適切に資金の供給を受けて、企業活動を維持して回復に向かっていくことを支えるという観点も踏まえて、どちらの方の案がいいかということを是非御検討いただきたいと考えている次第です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに。 ○阪口幹事 今、日比野委員から出た話の中で、不動産担保と動産集合担保がある場合の法律関係がありました。前回、それは回収の先後関係で決まるのでしょうかという質問をしました。つまりこの組入義務の適用範囲が、【案1.1.1】を採ったときが特に問題になりますけれども、先に不動産担保で大部分回収していて、少しだけ被担保債権がまだ残っていました、それを集合財産譲渡担保で回収しましたというときには、この組入れが問題になる。他方、先に集合財産譲渡担保権を行使すれば、まだその段階では元本割れしているので、【案1.1.1】の問題は起きず、その後、不動産担保権を実行しても、不動産担保には組入れ制度はないので、そのまま組入れは起きないということになるか、という問題です。先ほど日比野委員がおっしゃった、回収を所与の前提として債権届しているのだから、巻き戻しはやめてよという御発言も、確かにそのとおりという気もするのですけれども、そういう先後関係で法律関係が変わってしまうという、この御提案としては、もうそれはやむを得ないという理解で提案されているかどうかの確認をしたいと思います。 ○笹井幹事 その部分については、現時点で何らかの対応をとっているというわけではありませんので、今、阪口幹事、日比野委員がおっしゃったとおりにならざるを得ないかなと思っております。確かにここで何らかの考慮をするというのは、例えば共同抵当に関する規定のような調整規定を設けることも、およそ不可能ではないのかもしれませんが、制度として非常に複雑になってしまうということもあるかと思いますので、やむを得ないのかなと思っております。 ○山川参考人 ありがとうございます。新たに問題提起のありました2の方から申し上げたいと思います。いずれにしても門外漢なのですけれども、2で問われているのは、なぜ労働債権について優先をするかという理論的な問題と、それから実際的な問題があり、既にいろいろ御指摘のあったところです。   理論的な問題は、要は包括的な担保設定によって一般債権者に不測のといいますか不利益を不当に与えない、その一般債権者の中での優先整備は実体法で決まるということであるかと思いますので、一般法上の民法上の優先性と、ここでの組入請求権についての優先性が特別先取特権であるということで、ずれが生じることをどう説明するかという問題かと思います。   一つは社会政策的な見地ということがあり得るかと思いますけれども、それだけで十分かという点は、なお議論があるかと思います。牽連性の問題が指摘されていますけれども、私も最初の頃に申し上げましたように、例えば、牽連性がある労働者に限って特別先取特権を与えるというようなことも不可能ではないのではないかということを改めて感じたところがあります。   もう一つ、実務的な問題点としては、言わば早い者勝ちというか、権利行使をした者だけが利益を得る、あるいは非常に多数の労働債権者がいるために実務上の処理が大変になるということがありますけれども、仮に牽連性が認められる、ここもどういう場合に牽連性があるかというのはある程度決めの問題になるのですけれども、牽連性があるものに限るとすれば、そうした実務上の問題も多少は減少するのかなと思っております。   ただ、いずれにしても、これまで何人かの先生方からお話がありましたように、前回も少し申しましたけれども、本来は財団債権としての位置付けの問題で、倒産法制の中で検討するのがやはり本来の筋で、それを別除権行使という形で解消するといろいろな問題が生ずるということで、これは、この担保法制部会で対応するとしたら、そういうことになるのであろうという感じを抱いております。   これは1の問題とも関わりまして、1の問題は門外漢であるのみならず、実態がどうなっているのか、さらには今回の改正をした場合に、その運用がどうなっているかとも関わるような感じがしまして、何とも言えないところであります。また、1の【案1.1.1】と【案1.1.2】で、根本的な考え方の違いはあるのですが、【案1.1.1】も弁済期6か月以内の遅延損害金うんぬんということで、だんだんと幅が狭くなってまいりまして、【案1.1.2】の方では、元本保証はまた別に議論され得るということで、元本保証をしたとしたら、いよいよ差が小さくなるような感じがいたしております。なので、なかなか実態が分からないということ、あるいは将来の予測が付きにくいということもありまして、例えば委員の皆様の多数が【案1.1.1】を支持されるとすれば、【案1.1.1】を取りあえず採用して、あとは、先ほどの倒産法制の検討と併せて、山本委員の言われたように、倒産法制の改正からも随分時間がたっておりますので、それと併せて改めて検討するというようなこともあろうかと思っております。   倒産ということになりますと、一つの考慮要素としては、倒産を誘発させないような制度設計にするということは重要ではないかと思っております。解雇に結び付く事柄でありますので、その辺りもどう考慮するかというのは改めて考える必要があるかと思います。 ○道垣内部会長 ほかに御発言はございませんでしょうか。   とても結論が出た、まとまったということではないのですが、それぞれの案の持つ問題点などについては、これまでも既に指摘されてきた問題もあるわけですが、再度きちんと確認をして、ある程度の議論ができたと思います。それを踏まえまして、なおソフトランディングが可能なところがあるのか、それともなかなか技術的に難しいのかということにつきましては、事務局を中心にして、更に御検討いただければと思います。もちろんその間に事務局等に対しましていろいろな御意見を寄せていただくというのは大変有り難いことでございますので、ポリシーの問題についても技術的な問題についても積極的に御意見を頂ければと思います。   本日のところは、ここでよろしゅうございますでしょうか。どうも不確定なままで恐縮でございますけれども、更に検討させていただきたいと思います。   そこで、次に部会資料46に戻りましてというか、移りまして、「第1 定義」から「第3 動産譲渡担保契約の効力」までについて議論を行いたいと思います。関連いたしまして、「第17 所有権留保契約」及び第18の2の「民法の見直し」に係る「抵当権の及ぶ範囲」についても扱いたいと思います。   なお、47の議論が一応これで終了いたしましたので、山川さん、竹村さんにおきましては御退室いただいても結構でございます。   それでは、部会資料46の先ほどの部分につきまして、事務当局から説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 関係官の伊賀でございます。それでは、部会資料46につきまして御説明いたします。まず、部会資料46でございますが、本文のゴシックの部分につきましては、要綱案のたたき台2からの変更部分について修正履歴を付した形で示しております。この中で、動産利用権に関する部分と、それから集合動産譲渡担保あるいは集合債権譲渡担保の組入義務に関する部分につきましては【P】としておりますが、これらは個別論点として扱っていることを踏まえたものであり、個別論点としての議論の内容を踏まえて、それぞれの該当箇所にこの規律を記載していくということを予定しております。   それでは、まず「第1 定義」から御説明いたします。第1の定義の部分につきまして、内容的な変更につきましては2点ございます。   まず、第1の1の譲渡担保契約の定義の部分でございますが、その中の債権という部分の文言に、民法第3編第1章第4節の規定により譲渡されるものに限る旨の記載を括弧書きで付しております。これは、民法第3編第1章第4節の規定により譲渡される債権以外の債権、例えば電子記録債権などの債権は、譲渡についての対抗要件の規律を一般の債権譲渡とは大きく異にしているということを踏まえたものでございます。これらの債権につきましては、その他の財産を目的とする譲渡担保契約の規律が適用されるものとして整理しており、実質的な内容については変わってはいないということになります。   また、第1の1では、これに関する権利という文言を削除しております。これは、抵当権を設定することができる財産に関する賃借権などの権利につきまして、新法の適用対象としようとするものでございます。このような権利は抵当権の目的となることができず、新法を適用する必要性がないとはいえないと考えられること、あるいは新法においては、その適用される財産の範囲について抵当権の目的とすることができる財産か否かという点を原則的な基準としていることなどを踏まえ、新法の適用範囲に含めるという修正をしたということとなります。   次に、「第2 譲渡担保契約に関する総則規定」について御説明いたします。全体として大きな変更点はございませんが、9の根譲渡担保契約の効力の部分について若干御説明いたします。   9ページの9(1)は、根譲渡担保契約について、一定の範囲に属するとの文言を付すこととしております。これは、根譲渡担保権においても他の債権と同様に、どの債権が被担保債権に当たるかを定める必要がありますところ、包括根保証も可能とされている民法465条の2の規定に倣いまして、一定の範囲に属するとの文言を付すこととしたというものでございまして、実質的な変更はございません。   また(2)イの削除した部分について御説明いたします。これは、根抵当権の規定である民法第398条の3第2項に倣った規律として置いておりましたが、根抵当権と異なり、根譲渡担保権は被担保債権を包括的に定めることができることから、包括根保証ではこのような規定が設けられていないということも踏まえまして、これを削除することとしたものです。   (4)は、前回の規律では極度額の変更のみを対象とする規律としておりましたが、根譲渡担保権におきましては契約締結後に極度額を設定することも可能であるほか、当初設定していた極度額を廃止するということも可能でありますため、その旨の規律を追加したものということになります。   (14)の元本確定事由につきましては、表現ぶりの修正のほか、規律を一部追加しておりますが、大きな変更というのはございません。詳細は説明の部分を御覧いただければと思います。   次に、「第3 動産譲渡担保契約の効力」について御説明いたします。第3の2は、動産譲渡担保権の果実に対する効力についての規律でございます。関連する部分として、第18の2の民法371条の見直しの部分についても併せて御説明いたします。前回提案しておりました規律では、天然果実と法定果実を区別せずに果実とした上で、収取されていないものについてその効力が及ぶものとしておりました。この部分につきまして、民事執行法93条第2項の規定に倣い、後に収穫すべきとの規定に修正いたしました。また、一方で法定果実についての文言は削除することとしております。これは、抵当権とは異なり、動産譲渡担保権については担保不動産収益執行の制度がないこと、賃料に対する動産譲渡担保権の行使としては物上代位の規定があり、規定が重複することになるといったことによるものです。   本部会資料18の2の民法371条の見直しについては、部会資料42から実質的な変更はなく、その表現ぶりについては、動産譲渡担保権と同様に、民事執行法93条第2項の規定に倣うこととしております。   動産譲渡担保契約の効力に戻っていただきまして、第3の5の牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権の対抗力について御説明いたします。部会におきましては、この規律の適用範囲の限定について議論したところでございますが、同様の規律である狭義の所有権留保の実務に対する影響が大きいのではないかといった意見が示されたことなどを踏まえまして、部会資料42の規律を維持することとしております。   なお、牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権について、先行する集合動産譲渡担保権に対してのみ対抗要件なくして対抗することができる旨の規律とし、後行の担保権者に対して対抗するには対抗要件を必要とすると考えた場合には、優先劣後関係を確定できない場合が生じるのではないかということ、そのような点につきまして説明欄において記載しております。   第3の12の転動産譲渡担保について御説明いたしますと、この部分について大きな変更はございませんが、動産譲渡登記をすることによっては譲渡の対抗要件の効力が生じない動産があり、このような動産の転譲渡担保につきましては、転動産譲渡担保の設定の登記を対抗要件とすることは相当ではないことから、このような動産についても念頭に置いて規律を整理したものとなります。   続きまして、「第17 所有権留保契約」の部分を御覧いただければと思います。部会資料42におきましては、所有権留保が他の担保権と競合し得るか否かという点につきまして、両論併記としておりました。この点につきまして部会では、競合するとの考え方である【案15.2】を支持する意見が多数であったと認識しております。このような部会の議論を踏まえて、競合し得るとの考え方を採用することとして規律を設けております。   第17の1の留保所有権の対抗要件につきましては、(1)において、拡大された所有権留保を含む留保所有権の原則的な対抗要件の規律を定めるものです。そして、(2)におきましては、狭義の所有権留保について引渡しがなくても第三者に対抗することができるものとしております。なお、(2)の狭義の所有権留保の規律は、登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない動産については適用を除外しております。これは、物的に編成された登記登録制度の下においては、その法律関係が一元的に公示されることが予定されていることなどを踏まえたものとなります。   第17の3は、譲渡担保契約の規定の準用でございまして、動産譲渡担保権の競合に関する規定等も含め、準用することとしております。   以上となります。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。   実質論には全く関係しない、細かいことなのだけれども、第1の定義の1で、括弧して第3編第1章第4節の規定により譲渡されるものに限ると書かれて、電子記録債権などはこれに含まれないということを明らかにしましたというふうな話なのですが、電子記録債権の譲渡性というのは民法466条が根拠になるのではないのですか。 ○笹井幹事 対抗要件とかが違っているので。 ○道垣内部会長 それはもちろん違うのだけれども、電子記録債権は民法第3編第1章第4節の規定により譲渡されるわけではないのですか。 ○伊賀関係官 この表現自体は、動産債権譲渡特例法の規定におきまして、債権譲渡登記の規定においてこの表現が用いられておりまして、それによって電子記録債権などはそこから除外されているということになっております。 ○道垣内部会長 分かりました。すみません、全く実質的には何の変わりもない話なのですけれども、どうもすみません。   どうぞ、御自由に御議論いただければと思います。 ○水津幹事 第18の2、抵当権の効力の及ぶ範囲について、意見を申し上げます。部会資料17ページでは、第3の2、動産譲渡担保権者による果実の収取について、その規律を説明するに当たり、抵当権の効力が賃料に及ぶ実体法上の根拠規定が民法371条であるか民法372条であるか等については、特定の立場を採用していないとしています。しかし、第18の2のとおりに抵当権の効力の及ぶ範囲について原案を修正しますと、広い意味での民法371条説を採用することが前提となってしまいます。私の意見はともかく、特定の立場を採用しないというのであれば、「果実」という文言に手を入れない原案を採ることとなるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 何かございますか。 ○笹井幹事 すみません、今直ちには申し上げる考えがまとまりませんので、少し検討させていただければと思います。 ○道垣内部会長 水津さん、371条の規定を次のように改めるものとするというのは、72ページの記述ですよね。それで、現行の371条が何を意味しているのかということについて意見の対立はあるけれども、その一方にくみするわけではないという記述というのは、ごめんなさい、どこにあるのでしたっけ。 ○水津幹事 17ページです。 ○笹井幹事 11行目ぐらいからです。 ○道垣内部会長 それで、だんだん煮詰めていかなければいけないので、細かなところもあれなのですが、第18の2のような文言にすると変わってくるというのは、それはどうしてそうなるのですか。 ○水津幹事 371条の「果実」は、天然果実のみを意味するという考え方があるからです。明治民法では、その考え方が一般に採られていました。平成15年担保・執行法改正後も、様々なことを考慮に入れると、その考え方を採るほうが望ましいとも考えられます。いずれにせよ、特定の立場を採用しないというのであれば、原案を採ることとなるのではないかというのが、先ほどの発言の趣旨でした。 ○道垣内部会長 なるほど。   今、事務局も検討中でございますけれども、別に今、5分以内に結論が出るというわけでもなさそうなので、少しほかのところに移って、もちろんここについてほかの方の意見があれば、それはそれでもよろしいのですが、また後で必要があれば御検討いただければと思いますが、水津さんはまだ手が挙がっていますので、お願いします。 ○水津幹事 もう一つ意見を申し上げます。第8の適用除外も関連いたしますので、併せて意見を述べてしまってよろしいでしょうか。登記登録を要する動産についての話です。 ○道垣内部会長 もちろん、お願いします。 ○水津幹事 それでは、動産譲渡担保及び所有権留保に係る規律について、2点意見を申し上げます。   第1に、第3の5と11の牽連性に係る特例及び第8の1の適用除外並びに第17の1の留保所有権の対抗要件及び同3の譲渡担保契約の規定の準用について、規律相互の関係が気になりました。部会資料19ページは、牽連性に係る特例を正当化する理由として、所有権留保に関する平成30年判決と、それを基に形成されているであろう実務を挙げています。平成30年判決は、その事案について所有権は代金債権が完済されるまで留保買主に移転しないとするものですので、そこで御説明されているとおり、この判示を素直に読めば、牽連性に係る特例が正当化されることとなりそうです。しかし、この判示が示す理由は、譲渡担保については当てはまりません。また、留保所有権の対抗要件のところでは、先ほど御説明いただいたように、留保所有権と他の担保権との競合が生ずるという考え方を採用するとされています。しかし、平成30年判決の判示を素直に読めば、留保所有権と他の担保権との競合は、生じないこととなりそうです。さらに、現在の提案は、後でまた述べますが、登録自動車等については、牽連性に係る特例を適用しないとしています。しかし、平成30年判決の判示を素直に読めば、牽連性に係る特例は、通常の動産のみならず、登録自動車等についても適用されることとなりそうです。   つまり、牽連性に係る特例を正当化するため、所有権留保に関する平成30年判決を引くと、他の規律を説明するのが難しくなるのではないかと思いました。他方で、部会資料19ページから20ページまでに書かれており、先ほども御説明いただいた問題は、本来であれば対抗要件を備えるべきであるとする価値判断からは、そこでのBがCに劣後するときは、BはAにも優先しないという規律を定めることによって対処すれば足りるようにも思います。そこで、牽連性に係る特例の適用範囲を制限しないのであれば、牽連性にプラスして、適用範囲の制限に至らない別の理由を強調したほうがよいのではないかという気がいたしました。   第2に、登録自動車等についての牽連性に係る特例の適用除外、つまり第8の1及び第17の1(2)の規律が、今更ながら気になりました。部会資料71ページでは、登録自動車等について登録等を不要とすることは、「公示制度の趣旨に照らして問題がある。」ものとされています。しかし、牽連性に係る特例は、これを正当化する理由として牽連性等を挙げるにせよ、平成30年判決を引くにせよ、牽連性のみの担保権者は後行する第三者との関係を含め、当然対抗・優先というルールになっていますから、この特例は、公示とは関わりを持っていない気もいたします。例えば、登録自動車の所有権留保において登録名義が留保売主から留保買主へと移されているケースを想定して、この場合において牽連性のみの留保売主を第三者との関係で当然対抗・優先とすると、公示制度の趣旨に照らして問題があるということなのかもしれないと思いました。しかし、元々登録名義だけがあっても、他人の物であれば、その他人から取り戻されても仕方がありません。そうであるとすると、先に述べたケースについても、牽連性のみの留保売主が当然対抗・優先の扱いを受けることは、第三者は覚悟せよということにもなりそうに思いました。   なお、御検討された結果ですので、もうよいのですが、仮に牽連性に係る特例の適用範囲を制限してこの特例は平成30年判決が扱ったケースのように自衛手段がないときにしか適用されないとするのであれば、登録自動車等については登録等の仕組みとの関係上、平成30年判決が扱ったケースのようなものは考えられませんから、牽連性に係る特例の適用除外を特別に定めなくても、留保売主等は登録等が必要であるとする規律の適用を貫徹することができるように思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。理屈上は確かに、牽連性のある金銭債務を担保するものについて一定の優遇を与えようというのは、公示がなされている、なされていないという問題とは一応切り離された問題で、ある種、さきに出たような特別の先取特権的な意味を持っていると考えると、別に登録とは関係なく認めていいということになりそうなのですが、そこで突っ走っていいのかというのが問題で、適当なところでバランスをとらなければいけないというので出来上がっているのだろうと思うのです。何か御意見等ございますか。 ○笹井幹事 少し考えさせていただきます。 ○道垣内部会長 また次回を楽しみにしたいと思いますが。   ほかに。 ○山本委員 今の水津幹事の最初の御発言との関係です。民法371条の、72ページのところなのですけれども、従来の文言について、全然調べてこなかったので誤解があるかもしれませんけれども、現在の担保収益執行などの実務においては、抵当権の被担保債権の不履行の前の賃料債権等であっても、まだ現実には弁済されていない、収取されていない賃料債権については、その実行の効力が及ぶというか、実行手続の対象になるような取扱いがされていたのではないかという気がするのですが、それが現行の371条と整合的なのかと。371条を素直に読む限りは、不履行後の果実についてのみ担保権、抵当権の効力が及びそうなのですけれども、必ずしもそういう扱いになっていなかったような気もしておりまして、それは民事執行法93条からすれば、そういうような、まだ現実に収取されていない賃料は全て強制管理の対象になるという従来の取扱いが、収益執行でも行われていたのではないかと思います。   それがこの371条と整合的かという議論もあって、今回改正された文言は93条の方に合わせているので、その疑義が払拭されるのかなと私自身は見ていたのですが、また前に戻すということであれば、少しその辺りも、また検討するというお話だったので、そういう収益執行における解釈等も検討して文言を決めていただければ、もちろん民法の解釈を変えるという大胆な、大それたことを思っているわけではありませんけれども、何か実務と整合的な文言にしていただければという趣旨です。 ○笹井幹事 今の点について説明を補足しますと、以前の部会資料42では、天然果実か法定果実かということを区別せずに果実という文言を維持し、ただ、「その後に生じた」という部分は削って、「収取されていないものに限る」という括弧書きを設けるという案を提案していたところです。   それに対して、法定果実と天然果実を分けた方がいいのではないかという部会における御意見もあったかと思いますが、そういった御意見や、民事執行法93条の例を参照し、天然果実と法定果実を分けて規律する案を今回御提示したのですけれども、今の水津幹事の御意見は、私の理解するところでは、今の371条に戻すということではなくて、天然果実と法定果実を区別せずに、ただ、その後に生じたというのを削って、収取されていないものに限るという括弧書きを付けるという部会資料42の提案に戻すということであると思います。   現在、法定果実に対する物上代位の実体法上の根拠については、371条の果実の中に法定果実を読み込んで、372条において準用する304条の文言のただし書の差押えという部分だけを手続として持ってくるという見解と、372条において準用する304条が物上代位の実体的な根拠規定だという見解があると思います。372条説においても、収益執行の実体的な根拠を提供するために限定されますが、371条の果実は法定果実も含んでいることになりますので、いずれにしても今の二つの見解ですと、371条の果実に法定果実が含まれるということになるのだと思います。   ただ、もう一つ、372条の方に、物上代位も収益執行の実体的な根拠もあるのだという見解があるので、そちらとの関係で言うと、確かに今の書き方は特定の見解を採らないということを明らかにしてしまうということになるということかと思います。その点については、少し検討させていただきたいと思います。 ○道垣内部会長 山本さんのおっしゃった、弁済期が未到来でまだ収取されていない法定果実に対して、物上代位権にせよ担保不動産収益執行にせよ、及ぶというのは、371条の文言上はかなり無理がある解釈ではあるのですが、それはこれができたときから問題になっているところであって、今回それを整理するということは多分必要なのだろうと思うのです。ただ、その際に天然果実問題とか、そういうものも全部含めてここに書いてしまうというのが妥当かという問題は、なお残っているのだろうと思います。収取されていないものに限るということでもいいのですが、弁済期が到来しているのだけれどもまだ取り立てられていない賃料債権等について及ぶという実体的な規定にするというのは、解釈論として採られているところでもございますし、そこは書くということにはなるのだろうと思いますが。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。第3の5について発言させていただきます。もう方向性はほぼ決まっているように思いますし、私見はこれまでにも申し上げてきたところですので、繰り返しはいたしません。今回気になったのは説明の書き方です。牽連性担保権は、所有権留保を包摂するということが決まる前に、輸入ファイナンスという譲渡担保を使っているものについて議論されてきたのではないかと思っておりまして、現行の実務に配慮というときも、これまでは主に輸入ファイナンスの譲渡担保についての話をしてきたのかなと思っておりました。そうしますと、輸入ファイナンスの方を優先させる根拠というのは、もちろん所有権留保と、根本的な牽連性という意味での類似性はあるのかもしれませんけれども、どちらかというと先行する集合動産譲渡担保の弱さと申しますか、これまでは、先行する集合動産譲渡担保を、加入時説で処遇することによって妥当な結論を導くことができると期待されてきたところがあったのが、今回の立法で、加入時説ではなくて登記時説ないしは対抗要件具備時説でいくということをはっきりさせる結果、強化するようなことになることに対する、一種の実務の期待を保護、という観点から出てきたのかと思っておりました。そういう意味では、経緯の部分の説明も必要なのではないかと思います。もちろん所有権留保と同じ方向で検討していくということですので、部会資料46の19ページのような書き方でいいのだと思いますけれども、その前提部分の話も是非お書きいただければなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。ただ、この部会の流れというのが輸入ファイナンス問題から始まったのは確かなのですが、そもそもそれでは輸入ファイナンスにおける譲渡担保というものがどうして保護されるべきなのかということになると、やはり所有権留保も保護されて、所有権留保とある種同じだよねというところから来ているのだと思うのです。そうなると、説明のときに論理としての所有権留保から出発した説明にするのか、それでも議論の発端としての輸入ファイナンスの話からするのかというのは、多少微妙なところがあるのかなという気がいたします。議論の流れを踏まえた解説にするのか、また、それを完全に書かないとしても一定程度書き込むのかということにつきましては、更に事務局に検討していただきたいと思いますので。ありがとうございました。 ○阿部幹事 先ほどの水津幹事と山本和彦委員の議論にきちんと付いていけているかどうか自信がないのですけれども、資料72ページの先ほどの民法371条の規律の改正についてですけれども、371条が担保不動産収益執行の実体的な根拠規定になっているということについては、ある程度合意ができているような気がしますので、その辺のことを考えると、担保不動産収益執行でできることと強制管理でできることがそろうということを実体法上も明らかにするということで、民事執行法93条2項に倣った形で民法の371条を改めるという御提案は、私は賛同できるのではないかと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○片山委員 片山でございます。どうもありがとうございます。私も先ほどから議論されている他方の方、69ページの17の所有権留保と、それから19ページの第3の5の牽連性の話との関係なのですが、行ったり来たりがありましたので、これまでの経緯というのが少し整理し切れない部分がございます。今回の表現を二つ並べて見てみますと、69ページの所有権留保に関しては、まず原則として、引渡しがなければ第三者に対抗することができないという書きぶりになっているのですけれども、第3の5の牽連性の方は、引渡しがなくても第三者に対抗することができるという書きぶりになっていまして、所有権留保よりも、譲渡担保で牽連性がある方が強い権利になってしまっているような気がするのが、これでいいのかどうかという疑問がございます。   換言すれば、少なくとも牽連性があるものに関しては、譲渡担保として設定しているわけですから、占有改定は少なくともやってもらっていなければ困るのであって、占有改定しかなくても占有改定以外の引渡しとみなすというところまでしか譲れないということになる。それに対して所有権留保は、最初から占有改定までを要求するのは不合理なところもありますので、何ら引渡しがなくても占有改定によらない引渡しがあったとみなすという結論で、それはそれでいいのかと思います。以上のような意味で少し書きぶりが逆転しているのではないかとの印象を持っています。いかがでしょうか。何か釈然としないところがあるのですけれども、よろしく御検討お願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。第17なのですけれども、これはやはり、かなり法律家的な文章になっていて、2から読んだ方がよほど分かりやすいのですよね。売買代金債権を担保にする所有権留保は引渡しがなくても効力がありますと、ただ、それ以外の場合については引渡しが必要ですというふうに、1が出てくるという形になっていて、それに対して19ページの5のところというのは、引渡しがなくてもというところの文章から始まっているので、何かすごく違うことが書いてあるように見えるのですが、多分書かれた人はそれほど違ったことを書いているわけではないつもりでいるのだろうと思います。ただ、片山さんがおっしゃった中で結構重要なのは、少なくとも譲渡担保設定者に目的物の占有があるときに、牽連性がある代金債権を被担保債権にするとしても、占有改定は少なくとも必要でしょうということについて、それをもう少し書かないとおかしいのではないのかというのは、そうなのかなという気もします。今のは私の理解ですが、違うかもしれません。事務局からお願いしたいと思います。 ○笹井幹事 事務当局といたしましては、譲渡担保と所有権留保は一致させるという方向で考えておりました。所有権留保においては所有権は動かないという見解があったわけですけれども、所有権が動いていないのだと考えますと、やはり所有権留保と他の担保権との競合は、自然に考えれば、生じないのだと思います。そういう理解に立って、昨年の12月には、所有権留保に関して言えば所有権が移転していないことを前提とする考え方もお示ししたところですけれども、それに対しては部会の中では余り賛同が得られなかったと認識をしております。所有権留保が他の担保権と競合し得るとすると、構成としては、一回売主から買主に対して所有権が移転した上で、担保目的で売主に返ってくる、この返ってくるものが所有権として返ってくるのか担保権として返ってくるのかというのは、そこは引き続き解釈に委ねることになっていますけれども、そういうふうに考えるしかないのではないか。そうすると、返ってくる部分というのは譲渡担保権と同じように考えるべきで、所有権留保というのは、売主から買主に移転する部分が譲渡担保権にくっついているものと理解するのではないか。そのように理解しなければ、留保所有権と他の担保権とが競合するということをうまく説明できないのではないかと思いました。   そうすると、今逆転しているとおっしゃいましたけれども、17の1(1)というのは、動産譲渡担保権でいえば民法第178条に相当する規定です。所有権留保は譲渡ではなく、民法第178条を直接適用することができないので、178条に相当するものを17の1(1)に書いております。その上で、今19ページとおっしゃいました第3の5は、71ページの3のところで全部準用されているので、これにより、民法第178条を含めて譲渡担保権に関する規律は全てこの第17のところで所有権留保について適用されることになるという構造になっています。   いずれにしても17の1(1)は178条を持ってきていて、その他譲渡担保権に関するものを全部準用しているということによって、所有権留保と動産譲渡担保権についての規律が完全に同じものになっていると。それは、先ほど申し上げたように、所有権留保というのは行って返ってくる、その返ってくる部分については譲渡担保権と基本的には同じように理解されるのではないかという考えに基づいているものです。したがいまして、逆転するというのは、178条は民法の方に書いてあって、ここには書いていないので、少し裏返っているように見えるのですけれども、しかし全体として見れば、全く同じ規律になっているということでございます。 ○道垣内部会長 本当ですか今の話は、という感じが私にはするのですけれども。片山さんがおっしゃっているのも実体的な結論は変わらないと思うのですが、一旦、所有権留保の場合にも所有権留保という担保権の設定行為があると考えないと、競合が起こらないということになってしまって、それはおかしいから、所有権は一応移転して、譲渡担保権が設定されているという形になるのだけれども、しかし、引渡しをしなければいけないというのは少し困るので、困るのか困らないのか分からないですが、そこを占有改定による引渡しをしろという意見も結構委員、幹事の中にはあったわけですが、そうではなくて、そこは引渡しが不要であるというふうにしようと、それならば牽連性のある債務についての譲渡担保も同じでしょうというのが今の説明ですよね。しかし、それは所有権留保の法的構成について、所有権は一旦移っていて、その後に所有権留保という担保権が設定されているところ、担保権と言わない方がいいのかもしれませんが、担保が設定されているところ、引渡しはなくても対抗できるという特別な効果が認められているのだという説明をするわけだけれども、その説明は、必ずそうするのですか、それとも、それはこれを読んだ人が、そう解釈すると説明しやすいよねというような話なのでしょうか、どちらでしょうね。 ○笹井幹事 私が申し上げたのは一つの理解ですので、そう説明した方が説明しやすいというレベルの問題であり、法制審で議論することは、むしろ実質なのだろうと思います。ただ、やはり事務当局としても一定の理解を踏まえて提案するということになりますので、事務当局としては、譲渡担保権と所有権留保が違ってくるというのはむしろ説明しにくいのではないかと。そうすると、その前提となる理解は今申し上げたような理解になるのではないかと、先ほど申し上げたのはそういう趣旨でございます。 ○道垣内部会長 それはそれで分かって、そうすると片山さんのおっしゃった問題に跳ね返ってくるところ、71ページの3の譲渡担保契約の規定の準用というところで読み込んで、同一の性質であると、これによって19ページの5も適用されるのだと読んで、それで理解しなさいというのは、かなり難しくて、それならば、牽連性のある譲渡担保のメカニズムと所有権留保のメカニズムを素直に書いた方が分かりやすくないですか。71ページの3の準用のところにそれだけ大きな意味があるとは私は実は思っていなかったのですが、それは理解が大変ではないですか。 ○笹井幹事 規律の内容がですか。 ○道垣内部会長 規律の内容の理解が、あるいは論理的構造の理解が、とても難しいような気がしましたけれども。 ○阪口幹事 阪口です。元々、私は狭義の所有権留保は競合が生じないと考えるべきだという意見でしたので、その影響かもしれませんけれども、仮に競合が生じるとしても、最判30年のような感覚は皆さんの頭の中に多分あるのではないかと思うのです。つまり、所有権が来ているけれども来ていないという、一言で言うと、そういう感覚があるのではないのかということです。   だから前回、私は、牽連性ある金銭債務を担保する動産譲渡担保権という概念について、一旦無担保で売って、その後に譲渡担保権の設定を受けた場合まで、本当に含めるのですかという質問をさせてもらったと思うのです。それは何が違うかというと、責任財産に混入しているかしていないかという点です。所有権留保であれば、確かに行って返ってきたという構成を採っても瞬時に返ってきているので、それは一般債権者の引当てとなる責任財産に混入していない。いわゆる輸入ファイナンスも混入していない型なのかな、だからこそ皆さんもそれは特例にしましょうという意識がある。ところが、普通に無担保で売って、その後に何となく不安になったので後日譲渡担保を取るときに、それも占有改定が要らないとする理由は全くないと思うのです。   つまり、もうそのような類型自身を牽連性担保という概念から外したらどうかという意見ですけれども、仮にそういうものも牽連性担保の中に含めるとしても、どこまで保護を与えるのかは別に考えてよいのではないか。つまり、牽連性ある金銭債務というものをより細かく考えていくと、責任財産に混入していないものは、元々所有権が来ていない状態にほぼイコールなので保護してよいけれども、一遍本当に所有権が移ったものは、その後に牽連性ある金銭債務のみを被担保債権としているからと言って、そんなものまで保護するのか、また、保護するとしても占有改定もなくていいのかということを考える必要があると思います。 ○笹井幹事 ただ、それも別除権にはなるわけですよね、設定者が倒産した場合に。そうすると、牽連性ある債権が客観的な価値を下回った場合の余剰部分というのは、やはり別除権として扱う以上は財団に入っているということではないのですか。 ○阪口幹事 所有権留保も別除権として扱うけれども、ほとんどの場合は価値がニアリーだから、残る部分がほとんどないというのが、これは法律論ではなくて実態の問題ですけれども。所有権留保がなぜ別除権構成されるかということは、ずっと昔から議論はあるけれども、でもそこは行って帰ってきたから別除権として扱われるという部分は分かるのです。しかし、それが瞬時だというところに意味があるというのかな、そこが特殊なのだと。責任財産に混入していないといっても、おっしゃるとおり別除権という限りは混入している部分があるけれども、でも大部分混入していない。   他方、無担保で売買して本当に所有権が移転した場合、それは例えば否認の局面などでは結論に違いが生じます。狭義の所有権留保に関して否認の問題なんて多分起きないけれども、本当に所有権移転した後、時間がたって危機時期になってから譲渡担保を取ったら、それは当然、否認の対象になってくる。そういう意味で、狭義の所有権留保と無担保で売った後に売買代金債権のみを被担保債権として譲渡担保に取った場合とでは、要保護性が全然違うのではないかと思います。 ○道垣内部会長 二つの話が出ているような気がして、一つは、ある一定の結論を前提にした上での法律構成と、その中に引渡しというのをどういうふうに位置付けるかという問題と、あるいは実質的にどういった場合が保護されるという内容になっているのかという問題とがあって、二つ少し違う話かもしれないと思うのですが、水津さんからも手が挙がっておりますので、水津さん、お願いいたします。 ○水津幹事 阪口先生は、所有権留保の目的である財産は留保買主の責任財産に入らないとおっしゃいましたが、このことは、拡大された所有権留保についても当てはまるのでしょうか。それとも、狭義の所有権留保についてのみ当てはまるのでしょうか。狭義の所有権留保についてのみ当てはまるとすると、所有権留保は、狭義のものであれ拡大されたものであれ、債権が完済されるまで所有権は移らないとされていることは同じであるにもかかわらず、なぜ両者で扱いが区別されるのかが気になります。いかがでしょうか。 ○阪口幹事 阪口ですけれども、自分の中では狭義の所有権留保と広義の所有権留保は全く別の世界です。広義のものについてはもう、それは本当に僕は単なる譲渡担保だと割り切っていいのではないか、ぐらいに思っています。それが理論的に説明が付かないではないかと言われたら、すみませんということです。 ○水津幹事 拡大された所有権留保を譲渡担保として扱うというのは、債権が完済されるまで所有権は移らないとされているにもかかわらず、債権担保の目的でされたということから、債権が完済されていなくても、留保売主から留保買主へと所有権が移るものとした上で、留保買主から留保売主へと担保のために所有権が譲渡されると構成しているものと考えられます。狭義の所有権留保であっても、債権担保の目的でされたということは、同じです。被担保債権の範囲が、拡大された所有権留保のように代金債権以外の債権を含むか、狭義の所有権留保のように代金債権のみであるかによって、異なる捉え方をするのはなぜなのかが気になった次第です。 ○道垣内部会長 水津さんが平成30年の判決の読み方についていろいろおっしゃったことと関係しているのかもしれませんが、余り所有権が債務者に一度も移転していないではないかということを重視して話を付けていくと、拡大された所有権留保の場合にも当然に、対抗要件がなくてもいいですよということになってしまう。そこで別の論理として、引渡しが不要、対抗要件が不要であるとか、あるいは優先権があるとかというふうなことを持ってこざるを得ないのであって、そうすると問題は実質の話になって、譲渡担保と所有権留保と構成が同じで、買主に所有権は行っているのだというふうなことを言わないと、多分うまくいかないだろうと。さらには、別除権というものの性質からすると、それは責任財産として、破産者なら破産者のところに存在しているということが大前提になるはずで、それとの説明もうまく付かなくなる、取戻権になってしまうのではないかと、そこら辺を全部説明すると、先ほど笹井さんがおっしゃったようなことになるのではないかという、水津さんの御理解というのもそういうことではないかと思いますが。何かありますか。 ○笹井幹事 今、部会長がおまとめになったとおりかなと思います。そういう意味では、事務当局の理解としては、基本的には同じような規律に合わせていって、牽連性に関するルールについても同じように統一的に説明した方が分かりやすいのではないかという気もいたしまして、もちろん阪口幹事がおっしゃったように、そこには違いがあるのではないかということも、もちろん理解はできるのですけれども、ただ、それが、例えば牽連性のある譲渡担保権と牽連性のある留保所有権とで、占有改定を必要とするかどうかという違いとして現れるかというと、そこはむしろ統一的に、もう要らないものは要らないと。そして、対抗要件がいらないことを所有権が移転していないということによって説明するのであれば、そこには違いが出てきますけれども、牽連性ということによって説明するのであれば、そこは違いがないようにしておくべきではないか。むしろその違いを説明する方が、牽連性ということを根拠にしつつ、譲渡担保権と留保所有権とで表れ方が違うのですということを説明することの方が難しいのではないかと思っています。先ほどの片山委員からの御意見についてなのですけれども、今の事務当局の案としては、そこはもう牽連性からの特殊性だということで、両方とも統一的に、占有改定も要らないという規律を提案しているということになります。この点について、もし、やはりそこは変えるべきだということであれば検討いたしますけれども、今の提案としては、そうなっているということでございます。 ○道垣内部会長 いかがでしょうか。私は変えるべきだとは思わないのですが、それは結局、所有権留保という概念を廃棄するということで、廃棄した方が分かりやすいのだよね、多分。 ○笹井幹事 もしかするとそうなのかもしれないのですが、ここは契約の内容、どういう契約をしたのかということの表れ方が違うので、純粋にそれだけで分けているということになります。 ○道垣内部会長 この点でももちろん結構でございますし、1から3まで少なくともやっていますし、17、18というのも今議論対象になっておりますので、ほかのところでも結構でございますので、よろしくお願いいたします。 ○井上委員 ありがとうございます。今の点ですけれども、私の元々の考え方は少し異なるのですが、今までの整理を前提にすると、現時点では、笹井さんが御説明されたような整理が一番、今まで議論してきたことの行き先としては、いいのかなと考えています。別の言い方で具体的に言うと、もし牽連性のある狭義の動産譲渡担保権について占有改定はしなければいかんだろうという価値判断に立つとすると、第三者型かつ狭義の所有権留保についても占有改定が求められるはずではないかというか、そちらは逆に所有権留保だからという理由で第三者に所有権が移転しているのに占有改定すら要らない理由が今一つよく分かりません。そこで、そこはそろえるということだとすると、もう狭義かどうか・牽連性があるかどうかで区別をすることとし、設定の経路というのですか、譲渡型か留保型かは問わないという整理で一貫するというのが今の事務局の考え方なのかなと思って、そこはそういう形で個人的には納得していたところです。 ○道垣内部会長 ほかに。結構重要な話で、別にこれまでと変わったかどうかというのはともかくとして、引渡しが要らないということは、牽連性がある債務を担保する場合の特別の特権というか、そういうものであると位置付ける、別に所有権移転していないからどうだとか、そういう話はないという話で、特別に保護されるべきような類型であるので、対抗要件のところについては特則を与えるとともに、他の担保権との優先関係についてもある程度のプレステージを与えようと、そういうものであると整理をするということだろうと思うのです。繰り返しになりますが、書き方はもう少し考えた方がいいのではないかと個人的には思いますが、内容的にはいかがでしょうか。   1から3の辺りもいかがでしょうか。 ○片山委員 すみません、それほど変わらないのかもしれないのですけれども、一応、意見としては、私自身はやはりグラデーションがあるかなとずっと思っていまして、牽連性のある金銭債権に関するものも譲渡担保としての法律構成をとっているわけですから、少なくとも占有改定はやっていることを前提に、その占有改定を占有改定以外の方法でなされた引渡しとみなすという擬制をするということで、それに対して所有権留保という形でしますと、一旦はやはり、譲渡担保形式をとっておらず、所有権を留保したという当事者の意思がありますので、それを譲渡担保とみなすという擬制がワンクッション入って、そのワンクッション入って、そこで所有権留保構成をとるからにおいては占有改定も要求すること自体は難しくなってしまうので、だから占有改定をしていなくても、一切引渡しをしていなくても、占有改定に当たらない引渡しがあったとみなすと擬制するということなので、擬制の仕方が、それぞれ違う擬制をしているということになるのかとは思いまして、最終的には結論としては、占有改定に当たらない引渡しが擬制されるのですけれども、少なくとも譲渡担保権設定で契約している限りにおいては占有改定をしろよと、やっておけよと言えるような気もするのですけれども、特にはこだわらないのかもしれません。   もう一つは、書きぶりとして、所有権留保の方は引渡しがなくても第三者に対抗することができるという書き方になっていて、こちらは引渡しがあったものとみなすという擬制の方式はとっていない書きぶりになっているのですよね。そこが何でずれているのかというのも少し疑問ではありましたので、所有権留保の方も、1(2)は、引渡しがなくても第三者に対抗できるではなくして、占有改定によらない引渡しがあったものとみなすという書きぶりにすべきかなというか、平仄を合わせた方がいいのかなとも思いました。   以上、2点です。 ○道垣内部会長 後半部分は、19ページの5(2)のところは、引渡しがあったものとみなすというところにポイントがあるのではなくて、占有改定ではないというところにポイントが多分あるのですよね。だから、なぜこちらは引渡しがあったものとみなすのか、片方は引渡しがあったものとみなしていなくてもそのまま対抗要件があるのにということではなくて、いずれも引渡しは不要であると、しかし、このときに対抗要件具備の方法で他の者との優先劣後関係を考えるときに、占有改定劣後ルールは適用されませんということを書こうとしているというものなのだろうと思うのです。だから少し、それがまた分かりにくいといえば分かりにくいのかもしれませんが、更に書き方については検討していただくようにしたいと思います。 ○阿部幹事 資料の21ページの11の、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の順位の特例についてなのですけれども、先ほど阪口幹事の御発言の中で、普通に信用売買して担保なしに売って、後で買主の信用状態がよくなくなってきたので、慌てて担保に取り戻すというような、そういった場合まで、牽連性がある金銭債務を担保するとしてその特例を適用すべきなのかということ、以前から問題提起されていた問題だと思いまして、私も気持ちとしては阪口幹事と同じように、やはりそういう場合にまで特例を適用する必要はないのではないかと思ったりするのです。その理由としては阪口幹事は、責任財産に完全に入ったか入っていないかというところを問題にされていましたけれども、私はそれ以外にも違いはあるような気がしまして、つまり、通常の所有権留保売買であれば、所有権留保という担保設定がなければその信用売買が行われないという、一種の同時交換性みたいなものがあるのに対して、阪口幹事が問題にされていたような場面では、そもそも担保供与がなくても信用売買していたというところがありますので、その辺で優先すべき根拠が欠けているという、そういうところにも違いがあるのではないかと思います。   ですので、何が違うかという点については、少し阪口幹事とは違う見方を持っていますが、いずれにせよそういう場面についても本当にこの順位の特例を適用すべきなのかという疑問は私も共有しているということを改めて申し上げたいと思いました。 ○道垣内部会長 21ページの11のところですけれども、順位の特例が適用されるというのは、所有権留保もなしに売却されたものと、そうか、順位の特例が適用されたら特例適用される、ごめんなさい、やめます。間違えました。 ○大澤委員 ありがとうございます。私は全然違うところのお話なのですけれども、今まだこの牽連性のお話を沖野先生がもしされるのであれば、そちらを先に頂いた方が議論が進むのかと勝手に思いましたが、いかがでしょうか。すみません、進行をどうこうするつもりは全くないのですけれども。 ○沖野委員 すみません、では、この関連なので、先によろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 お願いします。 ○沖野委員 ありがとうございます。ここで問題になっている二つの、一つは留保所有権の規律との対応関係というか、両者の共通性、あるいは何らかの差異という話と、それから譲渡担保を使うときの、この規律がどの範囲に妥当していくかという二つの問題が出ていると思うのですが、前者の方について申し上げたいと思っております。牽連性がある金銭債務であるということから何が正当化できるのかというと、これも政策判断ですけれども、そういうような債権については当該目的財産から優先的に回収させようと、そういう考え方に立っていると、それが所有権留保なり留保所有権なり、あるいは譲渡担保だという形になったとしても、そこは共通でいいのではないかという考え方に立っているのだと思います。   そうしたときに、ここでは二つのことを特別に規律していて、一つは、占有改定であったとしても、なお占有改定ゆえの一種、劣後というか、そういう規律が優先関係については利いてくるというところを、それは仮に占有改定であったとしても劣後しないという、優先させるということを貫徹するという規律と、もう一つは、そもそも対抗できるかどうかについて、引渡しということも要らない、対抗要件不要の当然対抗というのを認めるということです。この2つのうち牽連性があるというところで正当化できるというか、それに直結するのは優先関係だけではないかと思っていまして、第三者との対抗というのは一定の公示なり、その公示の力がどのくらいかということはあるにせよ、そこは公示の問題ではないかと思います。   そうしたときに法律構成として、留保所有権なり所有権留保を使う場合と、譲渡担保を使うという場合で、その部分の何らかの公示に当たる、具体的には結局、占有改定だと思いますけれども、そういうものが期待できないのかというところにつながっていき、そこも共通にしてしまいますかという話だと思うのですが、私は個人的には、もうこだわりませんけれども、むしろその部分も引渡しは要るとした上で、優先関係だけ特別な扱いにすると、譲渡担保であれば占有改定をするでしょうし、留保売主の場合も具体的な占有は自分がずっとキープはしなくて、先ほど二段階構成なのかという話をされましたけれども、引渡しなどの際に占有改定の文言を入れておけば十分実現できますし、かつ登記に載せられるということから、引渡しを要するとした上で、占有改定のところだけの優先の関係さえ付けておけばいいのではないかと、その方が整合するのではないかと、また、留保所有権といってもかなり担保的なものなのだということになるのではないかと思ってはおります。しかし、他方でこの全体の枠組み自体が、やはり最初に、先ほどおっしゃったような、担保権を設定するのだと、機能的な担保は全部担保権という扱いで担保権の規律を設けていきますというのではなくて、契約をしたときにその契約がどういう法律関係を生じるものと見ますかということで、その契約の内容が所有権留保という形の場合の内容と譲渡担保という形の場合の内容では少し違ってくるというようなところからスタートしているのではないかと思います。   そのために、もし全く同じであれば、恐らく所有権留保のところも書かなくて、71ページの3の譲渡担保の規定を全て準用してしまって、同じだと書いてしまってもいいのかなと思いましたけれども、そうではなくて、69ページの第17の1の(1)、(2)では、登記登録がある場合どうするかという問題もあるわけなのですけれども、19ページの5で言えば、一般的に譲渡担保は引渡しによりますという、民法の規律と言われましたけれども、その原則と、しかし引渡しがなくても対抗できるという(1)に対応するものまで書いていて、(2)は準用の方で読んでいるのかなと理解をしていたのですけれども、一部だけは書き下ろしているというところですとか、あと、最後の方の登記についても、所有権留保登記はやはり特別なカテゴリーとしての登記であって、その登記について更に法律関係を付けていくというふうに、留保所有権、譲渡担保では少し違うという前提に立った上で規律を置いているので、その上で両者を同じようにこの範囲では扱っていこうという部分が今書かれており、その両者を同じにするのは両方があると思われて、そのうちの一方を採っているということではないかと理解をしております。 ○道垣内部会長 分かりました。最初、沖野さんのお話を伺っているときには、引渡しを全部要求すると、占有改定でいいからということではなくて、引渡しがあったとみなすと書いてもいいのかなという感じもしたのですが、所有権留保に関してもね。それでも沖野さんのおっしゃることは達成できるのかなと思ったのですが、場合によっては登記の問題が絡んでくると、やはりそこに性質上の違いというのを認めざるを得ないところがあって、そう簡単ではないというのも最後におっしゃったところかもしれないと思います。   例のというか、牽連関係のある債務についての譲渡担保所有権留保の話で、ほかに御発言はございませんでしょうか。 ○笹井幹事 先ほどの阿部幹事の御発言についてで、前回も同じようなことを申し上げたのかもしれないですが、事務当局として何か今のものにすごくこだわっているというわけではなく、阿部幹事あるいは阪口幹事がおっしゃったこともかもしれませんけれども、そこまでの保護は必要ないのではないかというのは、そのことについて理解できないということではありません。   ただ、そうしたときに、やはり所有権留保をとるか、同時性のあるような譲渡担保権は少なくとも同じように扱ってもよいのではないかという気はいたしまして、ただ、その同時性というのをなかなかうまく表現することができないという問題があり、今は11でいいますと(1)、(2)、(3)があれば通常の譲渡担保と同じように扱われるという規律になっております。もちろん「同時に」と書くことは可能なのかもしれませんが、それが厳密に同時にでないといけないのか、翌日だったらいいのか、たまたま何か形式的な理由で担保権設定が遅れてしまったというようなケースはこの規律の対象としてよいのかなどの線引きが難しい。所有権留保は必ず同時にされるということになるのだと思いますので、もしそういったものとうまくパラレルな部分を切り出すことができる、すべきである、あるいはこういうふうにしたらできるのではないか、みたいなことがあれば、また御議論いただければと思っておりますが、今はその辺がなかなか切り分けるのが難しいと感じております。 ○道垣内部会長 ほかに。   松下さん、牽連関係ですか。 ○松下委員 はい。本当に一言だけなのですけれども、同時交換的なものをどう書くかという話で参考になるのは破産法の162条だと思います。同時交換的な担保の提供を除外する趣旨で、既存の債務についてされた担保の提供という書き方になっているので、これは参考になるのかなと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   それでは、少し別の、大澤さんから手が挙がっていますので、大澤さんにお話を伺いたいと思いますが、よろしくお願いいたします。 ○大澤委員 ありがとうございます。大澤でございます。先ほど事務局から御説明のあった10ページの9、根譲渡担保契約の効力のうちの(2)イというところで、譲渡担保契約について、従前の42まで入っていたものを削除していただいております。その理由として、13とか14ページに確か書いてあったと思うのですが、民法398条と平仄を合わせていたので、特段今までは何も申し上げなかったのですけれども、範囲が一定取引ではないから何でも入るので、これは要らないというようなお話だったとは思うのですが、これを取ってしまうということになると、例えば支払いの停止があったとしても、根譲渡担保権者が第三者から債権を譲り受けて、担保余剰がある場合には被担保債権を膨らませて、本来であれば余剰が出るような担保について被担保債権をぎりぎりまで取得していくことで、その担保を食っていけるというか、担保を満足させることができるようにも読めるのですが、そうすると実質的に相殺禁止みたいなこととのバランスがとれないような気もしたのですけれども、そこはいかがでしょうかという御質問を事務局にさせていただければと思いました。 ○笹井幹事 今御指摘があったような問題というのは、確かにあるのだと思います。そういう形で実質的に自分だけが優先弁済を受けるというのが望ましくないというのは、それはそのとおりではあるのですが、ただ、それは恐らく手形小切手だけの問題ではないのだと思うのです。根抵当権については、原則として被担保債権が取引関係によって生ずるものに限定されており、ほかの債権を危機時期以降に入手するという問題が手形小切手の部分に限定されているので、こういう規律があるのですけれども、根譲渡担保権に関していうと、元々一定の取引関係によって発生するものに限定するというような限定が付されていないものですから、今御指摘いただいたような問題に対応しようとすると、手形小切手に限らずに、一般的にそういう規律を設ける必要が出てくるのだろうと思います。   そうすると、根保証についても同じような問題があるのかもしれませんが、そういったものが規律がないところで全く新しいものを作らないといけないということになってきまして、そこが非常にハードルが高い。そうすると、今おっしゃったような問題が望ましくないというのは非常によく分かるのですけれども、そこは一定の一般条項等で対応するしかないのかなと思っております。 ○大澤委員 なるほど、ありがとうございます。保証との関係でも、債権法改正のときは多分、根保証は個人の一般的な根保証の話が非常に検討されたのだと思っていたので、こういったタイプでの根保証は余り検討はされていなかったようにも、資料を読んでいて、思ったのですが、御指摘のとおり、これをもし考えるとすると、しっかりしたものを別途作るとなると大変な作業になるのはよく理解はできてはいるので、難しいなと思いつつ、ただ、おっしゃるように、どちらかというと手形のみならずほかの請求権も全部含めて考えなければいけないのではあるのですけれども、逆になくしてしまうのがいいのかというところを、限定的であっても残っておいた方がいいかなという価値観が少しあったので、御質問させていただいた次第です。   一般法で規律するというか、倒産のときにどうやって、そういう直前における担保債権の買いあさりは駄目よというのをどうやって、否認でもするのかなと思いつつ、これは債務者の行為でもないのでとか、いろいろなことを少し考えながら、これを削除されることにより生じる、それ以外でも生じている不具合を、どう一般法の中で対応するのかということを少し考えておりまして、なかなかうまい解決を見いだせなかったものですから、質問をさせていただいた次第です。ありがとうございました。できれば何らか、少し残していただくことを考えられないかなとは思った次第であります、そういった意味で。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。理屈の問題としては、手形若しくは小切手様の請求権又は、電子記録債権だと最近入ったわけですが、が特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権ではないけれども、それは取り入れるとしたことによる弊害を除くという条文であるところ、そもそも包括でいいということになりますと、それだけを書くというのがどうも必然的ではないということになるのですが、もちろんそれでも、そういうものがあることによって、買い集めは駄目よという雰囲気が漂うというのは分からないではないのですが。   ほかに何かございますでしょうか。 ○横山委員 横山です。先ほどの牽連性のところに戻ってしまって大変申し訳ないのですけれども、阿部幹事と阪口幹事、それから松下委員から、既存の債務を担保を付けたときは外すべきではないかというお話が出ました。私は、この規定は、政策的な問題として、牽連性のある債権については、被担保債権との牽連性を理由に特に保護するのだという趣旨と考えておりました。そうすると、その与えられるべき保護というのを担保の設定された時間によって区別するというのが妥当なのかは疑問もあります。先ほど、事務局の方から、翌日なのか、いつなのか、という話が出ましたが、この規定の目的に照らしますと、保護しないというためには、時間的先後ではなく、やはり何らかの形で、担保権者が、与えられるべき保護を放棄したといいますか、それを自分で要らないと考えたというような、そういう何かの契機というのが要るのではないかと。単に、今日なのか、あしたなのか、同時かどうかという問題ではないのではないかと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   牽連関係の問題をこれで終わらせるというつもりはないのですが、ただ、一応5時半までということで、途中で休憩を入れるというのが建前というか、そういうものになっておりまして、今までずっと連続してやってまいりました。少し休もうではないかという感じもしないではないわけでありまして、今4時13分でございます。普通なら15分休むのですが、そこを12分とさせていただくことにしまして、4時25分まで一旦少し休憩をさせていただければと思います。テーマとして元に戻っていただいても構いはしませんから。           (休     憩) ○道垣内部会長 25分までということでございまして、大体お戻りでございますので、部会を再開させていただければと思います。   先ほど途中で話を打ち切ったような形になっておりますが、なかなかいろいろなところで錯綜しておりますので、本日のところで何か結論が出るというわけではないのかもしれませんけれども、「第1 定義」から「第3 動産譲渡担保契約の効力」まで、第17、第18の2の辺りにつきまして、更にございましたらお願いいたします。 ○松下委員 松下です。先ほど休憩の直前に大澤委員から御指摘のあった、資料の10ページ、根譲渡担保について回り手形の規律を削除した部分について、一言発言させていただきます。事務当局の説明はよく分かったのですが、ただ、一般条項で対応するといってもなかなか難しいので、こういうことはできないだろうかという御提案です。今日は扱えそうにないですが、第16の10に、集合動産譲渡担保に動産を加えるような場合には担保の提供とみなすというような規律がありますけれども、これと同じような規律を置けないかということです。実質は駆け込みで担保を取る行為という点では同じではないか、少なくとも似ていると思いますので、そこは御検討いただければと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに、いかがでしょうか。 ○井上委員 ごめんなさい、先ほどの議論で、片山先生の御発言に関係あるように思うのですが、問題を正確に認識しているかどうかが分からないので、少し事務局にお尋ねしたいのですけれども、引渡しなしに対抗できるというのと、それから引渡しがあったものとみなすというのとの違いなのですけれども、引渡しなくして対抗できるという場合は、それよりも先行して対抗要件を備えている担保にも勝てるというところまで含むとすると、設定時に引渡しがあったものとみなすというのとは違いが生ずると思ったので、確認させてください。   具体的には、集合動産譲渡担保を設定してあり、既に登記がなされている状況で、その特定範囲の中に狭義の所有権留保が設定されている売買目的物が持ち込まれたというときは、狭義の所有権留保が勝つという結論になるということだとすると、所有権留保をしたときに占有改定以外の対抗要件が具備されたものとみなしても駄目で、引渡しなしに勝てるというルールにしなければいけないというところに違いがあると思うのですが、一般論として引渡しなしに対抗できるというのは、そういうことまで含意している、先行する担保権者等の優先権者が仮にいた場合にも、それよりも優先するということなのか、対抗要件の具備を必要としないとか、引渡しなしに勝てるとかいうことの意味合いがどこまで行くのかについて、理解を確認したいということです。 ○笹井幹事 引渡しなしに対抗することができるというのは、飽くまで対抗力の問題であり、対抗力の問題と劣後関係というのはまた別途定められていると考えていますので、対抗要件が要らないということから直ちにほかの担保権に優先するということまで意味しているものではありません。ですので、ほかとの優先劣後関係というのは、対抗要件の具備の先後によるとか、占有改定劣後ルールであるとか、そういうところによってきます。これらの規律との関係で、対抗要件を具備しなかった場合に、対抗要件の先後をどのように決めるのか、また占有改定劣後ルールとの関係ではどのように扱われるのかが問題になるので、5(2)のような規定を設けて、その時点とその方法についてのみなし規定を設けているということになります。 ○道垣内部会長 井上さんが出された具体例は、どういうルールの適用でどういう結果が出てくるのかという話になると思うのですが、つまり、所有権留保目的物が集合動産譲渡担保権の特定範囲に入ったという場合についてということですよね。 ○笹井幹事 それが21ページの11(2)の適用です。競合する集合動産譲渡担保権者が、目的物の引渡しを受け、かつこれがその動産特定範囲に加入した場合は、それよりも後に牽連性ある担保権の担保権者が引渡しを受けても、競合する集合動産譲渡担保権者に優先することができません。この5(2)の規定によって、譲渡の時に引渡しを受けたものとみなされることによって、11(2)との関係で、牽連性のある金銭債務を担保する譲渡担保権者が引渡しを受けたのが、競合する譲渡担保権者への引渡しや集合動産への加入時よりも後ではないということになります。このため、11柱書ただし書の適用はなく、11柱書本文が適用されて、牽連性のある金銭債務を担保する担保権者が、優先することになります。 ○井上委員 分かりました。ありがとうございます。もう一回読んでみます。 ○道垣内部会長 そうすると、先ほどから問題になっている、後で当該動産の売買代金の支払いの融資がなされた場合、その前に当該目的物が集合動産譲渡担保の特定範囲に入っているということになると、その場合は集合動産譲渡担保の方が勝つということになりますよね。しかし、最初から所有権留保でやっているとか、同時交換的に動産譲渡担保権が設定されているというふうなときには、その特定範囲に入る前に当該動産譲渡担保権ないしは所有権留保が対抗要件を具備しているというか、対抗要件は不要なのだけれども引渡しを受けているという状態になるので、そちらが勝つということになると。そういうことで、その意味では、先ほどから出ている、後から融資を行った場合の優先権というのは、最初から所有権留保であるという場合に比べて、少し落ちているとは言えるわけですね。 ○笹井幹事 はい。11の(1)、(2)、(3)以前である必要があるということで、そのことによってぎりぎり同時性に近いものを実現しようとしていたというのが今の提案だということになります。 ○道垣内部会長 みんなで心静めてしんとしながら読まないと分からないというのでいいのだろうかという感じはしないでもないです。   ほかに何かございますでしょうか。   それでは、この点につきましても、まだ多々御議論があるとは存じますけれども、また更に御意見を寄せていただくということにいたしまして、今日の議論といたしましては、「第4 集合動産譲渡担保契約の効力」というところから「第8 適用除外」というところまで、議論の場所を移したいと思います。事務当局において部会資料の説明をお願いいたします。 ○遠藤関係官 関係官の遠藤です。それでは、第4から第8までについて御説明をさせていただければと思います。   まず、「第4 集合動産譲渡担保契約の効力」について御説明いたします。第4の1は、動産特定範囲を定める事項の指定について表現ぶりを修正しています。動産の種類を必須とし、所在場所その他の事項を定める必要がある旨の趣旨が明確となるよう、各号列記としているところです。   第4の2(2)は、前回の要綱案たたき台の規律は、集合動産譲渡担保権の当初設定者と個別動産の譲渡担保権の当初設定者が異なるときに適用されるものとしていました。しかし、本来適用場面として意図しているのは、個別の動産譲渡担保権が設定された時点で、当該個別動産譲渡担保権設定者と集合動産譲渡担保権者が異なる場合であることから、その旨を規律することといたしました。   続きまして、「第5 債権譲渡担保契約の効力」について御説明いたします。第5の2の譲渡担保債権の第三債務者の弁済等の規律についてですが、部会資料42では債権譲渡担保権の実行の規律として設けていたものですが、債務不履行前の規律が含まれていることから、債権譲渡担保契約の効力の規律の一つとして規律を移動させたものになります。実質的な変更点はございません。   第5の6の転債権譲渡担保については、大きな変更点はありませんが、冒頭申し上げたとおり、債権譲渡担保契約の目的とすることができる債権は民法第3編第1章第4節の規定により譲渡されるものに限ることとしております。このような債権のうち、債権譲渡登記をすることができるのは金銭債権であり、非金銭債権については特例法上、債権譲渡登記をすることができないことから、譲渡担保の設定の対抗要件として転債権譲渡担保権の設定の登記を求めることは相当ではないと考えられます。以上の点を念頭に置きつつ、規律の整理を行っているところでございます。   続けて、「第6 集合債権譲渡担保契約の効力」について御説明いたします。第6の1(1)は、実質的な変更点はございません。(2)についてですが、債権譲渡担保権者が被担保債権の弁済期前に第三債務者から弁済を受けた場合に、これを債権譲渡担保権設定者に支払うことを要しないとする第5の2(1)後段の規定について、集合債権譲渡担保権設定者に取立権限が認められる場合に適用するのは相当ではないとの意見が部会でも出されたところであり、これを踏まえて、この規定の適用を除外するものでございます。   「第7 その他の財産を目的とする譲渡担保契約の効力」については、部会資料44の規律から大きな変更点はありません。なお、第7の4の動産譲渡担保契約の効力の規定の準用について、牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権の対抗力の規定については、これを準用することについて慎重な意見が出されたということを踏まえて、準用の規定からは除外をしております。   「第8 適用除外」の規律は、部会資料42で示した規律から実質的な変更はございません。   以上について御議論いただければと思います。私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、この点につきまして、どなたからでも結構でございますので、御意見等を頂ければと存じます。 ○片山委員 片山でございます。もう既に解決しているところで、今回変更しているところではないのですが、改めて読んでおりましたら、これでいいのかなと思った点がございます。25ページの第4の3で、集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲所属動産の処分の話の中で(3)の話です。(1)で、基本的に設定者に処分権がありますということですが、害することを知って処分した場合には効力は生じないということで、そのときに、その例外として、(3)で第三者が現れて、相手方が平穏かつ公然と占有を始めて、かつ善意であるという場合、第三者の保護、相手方の保護を図るということで、まとまったということかと思います。すなわち、そもそも害することを知っていたという場合には全く効力が生じないことを前提として、ここでは192条の即時取得の規定とは異なり要件が無過失までは要求されないという緩和された要件で、言わば192条の特則という形での規定が置かれているということなのかと思いますが、第三者の保護、相手方の保護に関して、改めてそういう保護の仕方でいいのか疑問に思っています。具体的には、即時取得だと占有取得の要件が掛かってくるのですけれども、そこまで要求されるのか、単に一種の内部的な制限みたいなものを知らない第三者、相手方は保護されるということであれば、占有取得までは必要ないので、むしろ即時取得は即時取得として別途規定があることを前提に、単に善意者を保護するという規定でもいいのではないかとは思ったのですけれども、ここのところは192条との関係はどのように整理されたのでしたでしょうか。よろしく御説明をお願いします。 ○笹井幹事 ここも、今正しく片山委員から御指摘があったように、議論がこの論点に関しては何度か繰り返されてきたと記憶しております。そこでは確かに代理権の内部的な制約として捉え、処分の相手方が引渡しを受けなくても所有権を取得することができるという考え方もありましたが、今までの部会での議論としては、基本的には即時取得という制度の枠組みを使っていく中で、しかしその主観的な要件だけを緩和するということにして、今このような形にまとまってきたというのが今までの経緯だったのではないかと思っています。   そういう意味では、この(3)は今、片山委員が正におっしゃったように、192条に対する特則のような関係にあり、主観的な要件を善意無過失から善意にやや緩和しているというだけで、あとは引渡しを受けないといけないとか、そういう部分に関して言うと192条と同様であるというのが、ここでの今までの議論の結果かなと認識をしております。 ○片山委員 どうもありがとうございました。そういう形でまとまったということであれば、それは一つのまとめ方かと思いますけれども、他方の考え方としては、それは192条が別途適用になる余地はあるということを前提とした上で、善意だけでもいいのではないかという気はしております。そういう意見もあったということで、よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。第4の2(2)についてお尋ねしたいと思います。ここでは個別動産譲渡担保の設定者が、その設定時において集合動産譲渡担保の設定者と異なるとまとめられているのかと思います。これは結局、個別動産譲渡担保の設定者の方について生じる、個別動産譲渡担保の設定と集合動産譲渡担保設定者への売却との対抗関係そのものなのではないかと思ったのですが、ご提案では集合動産譲渡担保についての加入時説のような形での対抗要件の特例というふうに扱っています。確かに同じ結論になるとは思うのですが、何か違いがあるのでしょうかというのが質問です。 ○笹井幹事 すみません、私が十分理解をできなかったのですが、何と何との間での違いということでしょうか。 ○青木(則)幹事 御提案の書き方としては、集合動産譲渡担保の方の加入時説のような形での優劣基準を修正するという形で書かれているわけだと思うのですけれども、これは個別動産譲渡担保の方の設定者を軸とする、個別動産譲渡担保設定の対抗要件と、目的物の集合動産譲渡担保の設定者側への処分の対抗関係で処理できるのかなというふうな印象を持っておりまして、あえて集合動産譲渡担保についての対抗要件の特例という形で規律をする御趣旨は何なのだろうというような質問でございます。 ○道垣内部会長 青木さんのおっしゃっていることが完璧に理解できているかどうか分かりませんけれども、私の理解するところでは、2の1というのが、同一の設定者が集合動産譲渡担保権を設定しているにもかかわらず、そこに加入しそうなものについて他の債権者のために特定動産譲渡担保権を設定したというふうなときに、それによってどんどん集合動産譲渡担保権が痩せ細るというのはおかしいのではないかと、それはやはり集合動産譲渡担保権の方が先に対抗要件が備えられて、それが将来加入するものについても及ぶのだと考えることによって、集合動産譲渡担保権者が勝つと考えるべきなのに対し、他の人が、例えば所有している動産について特定動産譲渡担保権が設定されて、そのものが更に別の人に移転されて集合動産譲渡担保権の特定範囲に入ってきたといったときには、それは他の人によって特定動産譲渡担保権の設定を受けた人からしてみれば、まさか自分が受けたものが将来譲渡されてそういうふうになるということは寝耳に水のことになるわけでありまして、やはりそれは特定動産譲渡担保権が勝つことになるでしょうというわけで、それを対抗要件の問題として書くことももちろん可能ですが、1と2というものを対比させるという意味で、1と2という形で現在書いているというふうなことではないかと思うのですが、そういうことですか。 ○笹井幹事 そうですね、実質は今、部会長が御説明くださったとおりですし、その背景はそうなのですが、この問題を理論的にどう位置付けるのかということについては、今直ちにこの形がよい、悪いというように、何か特定の考え方を持っているわけではありません。   ただ、対抗要件具備時説が原則ではありますけれども、実質の問題として、こういう場合には加入時説に修正すべきではないかということで、それを我々なりに表現しようとしたら今こうなったということで、もちろんほかの位置付けとかほかの整理の仕方というのがあり得るのかもしれないとは感じました。そういう意味では、幾つかの考え方を事前に選択肢として検討して、こういう位置付けにしようという、何かそういう判断をしていたわけではありません。 ○道垣内部会長 青木さん、何か。 ○青木(則)幹事 すみません、これは繰り返しになってしまうのですが、やはり設定者が違う人物であるときに、対抗関係のように競合があると考えることに違和感を持っております。もちろん御趣旨は分かります。加入時説の処遇の限界のような話に焦点を当てて書くということで、ルールとして明文規定があった方が分かりやすいというのはそうですし、結論に異論があるわけではありません。ただ、これを競合と考えてよいのかどうかというところに、前々から違和感を持っておりまして、御質問させていただきました。 ○道垣内部会長 分かりました。書き方の問題であるということですね。   ほかに何かございませんでしょうか。 ○阪口幹事 第5の2の部分について少し確認させてください。まず(1)は、第三債務者は担保権者の方に払っていいですよという内容で、他方(3)の方は、担保権者は余剰があったら対象債権の債権譲渡があっても元の当初設定者に戻していいですよということで、これ自身はそうだと思うのです。ただ、債権差押えとの関係を少し確認しておきたいと思って、御質問しました。   つまり、この立法の全体的な枠組みだと、債権譲渡担保に入れた後でも何かが当初設定者に残っているという考え方がベースにあると思うのです。今までだったら債権譲渡担保があり、確定日付ある譲渡通知を送ったら、第三債務者はもう譲受人へ行ったきりと考えたらよかった。しかし、この立法の枠組み全体は、債権譲渡の方でも当初設定者に何か残っているということがベースになる。そうすると、当初設定者の一般債権者、債務名義を持っている一般債権者が元の債権を差押えする局面というのが考えられるわけですね。今までだったら、いや、もうそれ以前に確定日付ある通知が来ていますから、もう外れですということで終わっていた。しかし、今回は、正しく法律を理解している第三債務者は、いや、差押えに係る債権はあるのですと、債権があると表現していいか分からないけれども、何か残っているのですと、ただ、優先する担保権者がいるから差押債権者には弁済しません、(1)の規定に従って私は担保権者に払いますと、こういう行動を取ることができるということになる。   他方、当初設定者の一般債権者は何ができるのかと考えることになります。つまり、(1)でそう払われてしまって、余剰があっても(3)で債務者に戻るとなれば、結局、元の債権の差押えはほとんど意味がなくて、担保権者が当初設定者に戻す余剰金の返還請求権の差押えをすべきだったと、こういうことになるのでしょうか。今回のこの提案そのものは結構ですが、債権差押えの局面が明確に書かれていないので、債権差押えがあったときの流れというか、法律関係を確認したくて、質問させていただきました。 ○工藤関係官 今御質問いただいた差押えとの関係ですけれども、今回、譲渡担保債権についての権利は譲渡が可能な権利というふうに構成していますので、譲渡担保債権についての権利が差し押さえられること自体は恐らく観念できるのだろうと思います。それを前提として考えたときに、法律関係としては債権質の場合と同じような形になっていくというのは一つの考え方としてはあり得るのではないかと思っております。そのように考えますと、債権質の場合には、一般に、一般債権者が目的債権を差し押さえた場合には、債権質権者の取立権限は何ら影響を受けないというふうに言われておりますので、恐らく債権譲渡担保につきましても同じように、譲渡担保債権について差押えが入ったとしても、担保権者の方はそれを無視して取立てができるということになるのではないかと思います。   また、以前に空振りなのかどうかという議論があったと思いますけれども、債権質の場合については、必ずしも空振りではないと理解されていると思っておりまして、一応、債権質の場合も目的債権に対する差押えは当たっていて、例えば転付命令が発令された場合には、質権の負担付きで目的債権が移転していくという考え方が一般に採られていたかと思います。ですので、債権譲渡担保につきましても同じように、譲渡担保債権についての権利に対する差押えとして当たっているということであるとすれば、例えば転付命令が発令されたときには、負担付きという言い方でいいのかどうかは分かりませんけれども、そのような権利として移転していくという考え方は恐らくあり得るのではないかと思っています。   仮にそれを前提としますと、先ほどおっしゃられた(3)の規律との関係につきましては、当初設定者に払えばよいという形にしておりますので、例えば差押えがあって転付命令等で移っていったというときにも、当初設定者のところに払えばよいという形になると思います。ですので、十分に検討したわけではないですけれども、おっしゃられたとおり、一般債権者としては清算金等に対して掛かっていくべきではないかというのは、確かにそうかもしれません。 ○阪口幹事 阪口です。転付命令を取ったときも、実態でいうと債権譲渡と効果的には変わらない。そのときに(3)では、承諾ある債権譲渡というのかな、それとそうでないときを分けて、余剰金をどちらに返すかを規定しているわけだけれども、転付命令のときでも、転付命令を承諾するということが余り考えにくいように思うので、結局は(3)で元の人に払われても文句言えない。そうすると、残る手段はやはり、余剰金返還請求権の差押えしかなかったねということになるのではないでしょうか。もちろん第三債務者が協力的だとか、債権譲渡担保権者が協力的という場合ならば、転付命令も意味があるかも分かりませんけれども、そういうことでない限りは意味がなくて、差押えすべきものを間違ってしまったねというか、そちらではない方が合理的ということの確認です。債務名義を持っている一般債権者の行動パターンとして、何をすべきなのかという問題意識ですけれども。差押えの場合でも、差押え転付命令の場合でも(1)や(3)が適用されるとすれば、そういうことになりますよねということの確認です。 ○工藤関係官 今伺って考えたところではありますが、確かにそういう行動原理に恐らくなっていくのではないかと思います。 ○阪口幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 本当はよく分からないと思いますけれども。つまり、当初の設定者に残りを返してもいいし、譲受人に返してもいいのですよね。誰に対する債権者がその清算金みたいなものを差し押さえることができるのですかね。 ○阪口幹事 元の設定者に対する債権者だと思いますけれども。 ○道垣内部会長 でも、譲受人に対して払ってもいいのでしょう。 ○阪口幹事 譲受人に払ってもいいのです、そうです。 ○道垣内部会長 そうすると、差し押さえてもその債権は実現されないのですよね。 ○阪口幹事 今、譲受人とおっしゃったのは(1)の方の話をおっしゃっているのですかね。(1)は、まず、駄目ですよね。(1)との関係では、債権差押えしても何の意味もなかったと。他方、せめて余剰金ぐらい確保したいと思うのが一般債権者の行動パターンだけれども、それも(3)で駄目だということになるのですねという、そこの確認です。 ○道垣内部会長 分かりました。すみません、私が分かっていないだけかもしれません。 ○片山委員 片山です。ありがとうございます。今と同じ第5の2のところなのですけれども、まずは阪口先生が想定された事案で、譲渡債権を設定者の一般債権者が差し押さえるというケースは、差押え自体は有効だとしても、第三者異議を譲渡担保権者が言えるという点は、それは倒産のときと同じように、言えるということでよろしいのですかというのが、まず第1の確認点なのですが、質問は先なのですけれども、続けてもいいでしょうか。   質問の方は、実行のところの規定を前倒しでここに書き込んでいただいて、非常に分かりやすくなったと思います。その上で、やはり実行時点での取立てと、それ以前に対抗要件を具備して第三債務者に対する権利行使要件ですかね、これを確保する場合、これは取立てとはいわないで弁済受領権というのだという話だったと記憶していますが、その整理を前提とした上で、2(2)のところでは、もし被担保債権の弁済期が到来をしたならば、残りを支払わなければならないと規定している前提として、その段階ではもう被担保債権の弁済期が到来したら被担保債権に充当することができるというか、あるいは充当したとみなすとかという、債権差押えでいうと民事執行法155条の3項が、取り立てたら被差押え債権に弁済充当されたとみなすという規定がありますが、それと同じような意味で、ここでも充当されたという効果が生じるということを前提とした上で、残額を払うということになっているという理解でよろしいでしょうか。47ページの、9が11に変わりましたけれども、取立てのところでも、やはり差額を支払わなければならないというところがありますので、それは同じで、被担保債権にも充当されているという効果が法定されているという理解でよろしいのですかね。この点を確認させていただければと思いました。よろしくお願いいたします。 ○工藤関係官 まず1点目の御質問の、一般債権者が譲渡担保債権を差し押さえたときに、債権譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起できるかというところですけれども、債権質の場合には債権質権者は第三者異議の訴えを提起できるという考え方があったかと思いますので、それと同じように考えるとすれば、第三者異議の訴えを提起することができるという考え方はあり得るかと思います。ただ、いずれにしましても債権譲渡担保権者としては、差押えが入ったとしても無視していても構わないと、取立権限は何ら影響を受けないということになりますので、必ずしも第三者異議の訴えを起こさなくても何か問題が生じるわけではないのかなとも思います。   二つ目の御質問の点ですけれども、確かに(2)のところにつきましては、充当したものとみなすというような文言は今のところ書いておりませんけれども、ここは趣旨としてはおっしゃられたとおり充当というところも織り込んで書いているつもりでございまして、控除した残額を支払わなければならないということで、控除というところに読み込んで、ここで充当されて当然相殺されるという前提で文言を書いているということになります。 ○片山委員 どうもありがとうございました。 ○道垣内部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしゅうございますか。お気付きの点がありましたら、その後もう一回戻っていただいても結構なので、議論の対象を拡大するという面も含めまして、部会資料の「第9 動産譲渡担保権の実行」及び「第10 集合動産譲渡担保権の実行」について、少し入っておきたいと思います。事務当局から部会資料の説明をお願いいたします。 ○工藤関係官 それでは、第9及び第10について御説明を致します。   「第9 動産譲渡担保権の実行」の1及び2では、動産譲渡担保権設定者が留置権を主張した場合についても、動産譲渡担保権者が評価した譲渡担保動産の見積価額と被担保債権額の差額が帰属清算金の額に満たないときは、帰属清算金の支払債務のうち当該差額に相当する部分に限って、譲渡担保動産の引渡しとの間で引換え給付関係に立つものとしています。   「第10 集合動産譲渡担保権の実行」の1及び2では、規定を単純化するため、1(2)の「劣後する」を「競合する」と修正した上で、2(2)を削除しています。なお、1(1)において「あらかじめ」を削除しているのは、直前の「しようとするときは」という文言で既に同様の趣旨が表れているためであり、規律を実質的に修正するものではありません。   第10の4においては、集合動産譲渡担保権者が集合動産譲渡担保権に基づいて動産競売による差押え、配当要求又は保全処分等の執行をした場合の、当該集合動産譲渡担保権及びこれと競合する集合動産譲渡担保権の固定化について、5においては、動産の差押え、配当要求又は保全処分等の執行が集合動産譲渡担保権に基づくものではない場合の、当該動産が動産特定範囲に属する集合動産譲渡担保権の固定化について、規律を整理し直した上で御提案をしています。また、分別して管理されていない動産に関する推定ルール等は、この場合においても必要となると考えられることから、新たに御提案をしております。   以上について御議論いただければと思います。私からの説明は以上です。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。それでは、どの点からでも結構でございますので、御意見等を頂ければと思います。 ○阪口幹事 では、軽いところから。すみません、私ばかり発言して。34ページの(6)の読み方の確認をしたいと思います。帰属清算の清算金に基づく留置権に関して今まで規定が少し右左、いろいろありましたけれども、最終的には帰属清算も処分清算も留置権の規定を設けるということになっています。そこで、(6)の読み方ですけれども、動産譲渡担保権設定者は、帰属清算金の支払の債務の弁済を受けるまで留置できると、こうあるのですけれども、ただ、ここでいう支払の債務の弁済を受けるまでというのは、(4)で、当初設定者に払ってもいいわけですよね。そうすると、設定者といっても第三取得者的設定者の場合、つまり当初設定者でない人の場合ですが、自分ではないけれども、当初設定者の人に払われるまで留置できるというふうに読む、つまり、読み方が、設定者は弁済を受けるまでと、そのまま読んでしまったら、自分が受けるように読めるのだけれども、そういう意味ではなく書いているという理解でよろしいでしょうか。 ○笹井幹事 はい、そのとおりです。 ○阪口幹事 分かりました。 ○道垣内部会長 そうすると、弁済がされるまで。 ○阪口幹事 そうなのです、受けるまでという言葉が少しよくないなと思ったということです。 ○笹井幹事 分かりました。その問題意識は理解いたしましたので、検討いたします。 ○道垣内部会長 軽くない方の質問をお願いします。 ○阪口幹事 すみません、43ページから47ページまでの絵が全く理解できない。多分皆さんもかなり首をひねっておられるのではないかと勝手に思っていますけれども、順番によろしいでしょうか。   本文の方は、読む限りでは納得するのですけれども、例えば、まず、第43ページの一番最初の絵から行きますと、これは集合譲渡担保権者が実行している場合、Bが担保権実行としての競売による差押えをした場合ですよね。Bが差押えするときは、その差押えの場所というのはBの範囲に収まると思うのですけれども、何で横長の楕円がBの範囲を超えて描かれているのかという疑問があります。 ○笹井幹事 これは、例えばBがある倉庫の中の在庫のうち特定の種類のものを取っているときに、場所としては当該倉庫ということになるのだけれども、Bの譲渡担保権に基づく差押えなので、その動産特定範囲に入るものだけが差し押さえられるので、それでこの白い部分が出てくるということで。 ○阪口幹事 差押えの場所という横長がBの丸からはみ出ているのはどういうことでしょうか。 ○笹井幹事 例えば、第1倉庫の中にミカンとリンゴがあるのだけれども、ミカンだけをBが取っていた場合には、この青い斜線部分がミカンであり、これをはみ出る部分にはリンゴがあるということです。場所というのは、物理的な場所ですので、第1倉庫というものをここではこの楕円で表していると。しかし、その楕円の中に入っている動産が全て差し押さえられるわけではなくて、譲渡担保権Bに基づく差押えですので、Bの譲渡担保権の対象になっているものだけが差し押さえられるということで、そのうちの一部分にこの青い斜線部分が限られているということです。 ○阪口幹事 そうすると、ここのAとかBとかCの丸というのは、場所的な範囲だけではなく種類的な範囲も含む概念と読むのですね。僕は場所的範囲を画する丸のように見ていたのだけれども、そこがまず根本的にずれているわけですね。 ○笹井幹事 そうですね、場所的なものももちろんあり、種類的なものもある。集合動産譲渡担保権ですので、今までいろいろ議論があったように、大阪の倉庫と札幌の倉庫と両方取っていると、大阪の倉庫にミカンとリンゴがあるのだけれども、大阪の倉庫のミカンだけ取っている。ただ、大阪の倉庫だけではなくて札幌の倉庫も取っていて、札幌の倉庫の中には何か別の果物が、ブドウとモモとかが入っていると。そうすると、リンゴもブドウもモモも、このAの中には入っていますので、場所的にずれている場合と、場所は共通するけれども種類がずれている場合と、両方含まれているということになります。 ○阪口幹事 私だけが全く理解していないのかもしれませんけれども、今回、差押えのあった動産という黒丸で1か所だけ付けておられますけれども、これはどういう意味を持っているのですか。先ほどの第1倉庫のリンゴならリンゴ、ミカンならミカンだけをBは持っているのだけれども、それで第1倉庫だけやったよと。AとBだけ重なっているところに黒丸を、差押えのあった動産と書かれている意味は何でしょうか。固定化の範囲の結論としては、ここでは全然意味を持っていないですね、4はどれも皆同じ状態になっていますから。他方、5の方ではAの方にだけ固定化の範囲がはみ出て、Cの方にはみ出ないという意味で、この差押えのあった動産が利いているのですけれども、4の方では、差押えのあった動産がどこにあろうと関係ないということですか。 ○笹井幹事 4の意味では、どの実線の中に入っているのかというのは余り大きな意味は持っていないのですけれども、ミカンを全部取っているのだけれども、ミカン全部ではなくて一部分だけを差し押さえられるということが生じた場合でも、固定化の範囲は青い斜線の部分であるということです。 ○阪口幹事 43ページ、44ページで、仮にBさんがこの黒丸がある一番狭いところの部分だけ差し押さえたときでも、この青斜線を引かれている部分は全部固定するということを表現しようとして書かれているということですか、今おっしゃったのは。 ○笹井幹事 はい。 ○阪口幹事 Bさんから見れば、今の青斜線の左の方にあるのか、真ん中辺にあるのか、右なのか、関係ないですよね。Aさんと重なっているか、Cさんと重なっているかは、別にBさんと何の関係もないので。だからそれは、ここに書いてあるから、何か特定の意味を持っているような気もしたけれども、どこかにあればとにかく、なくても固定するのでしょうけれども、あろうがなかろうが、やった範囲は固定するということを表現しようとしていると。 ○笹井幹事 そうですね、Bさんに関して言うと、この黒丸がどこにあろうと余り関係ありません。 ○阪口幹事 もっと言うと、なくてもいいのでしょうか。なくても、要するに完全に在庫がない状態で実行してしまったという悲しいことになったとしても、その範囲ではもう、一回実行した以上、固定はしていると考えるのでしょうか。 ○笹井幹事 それは、何も差し押さえられなかったわけですよね。 ○阪口幹事 そうですね、失敗したと。それはセーフなのですか。1個あると固定で、ゼロ個なら固定しない。 ○道垣内部会長 阪口さんのおっしゃっているのは、どの絵でも一緒なのだけれども、黒丸を左に3センチ動かしたAの白いところに入っているとしますよね。差押えがこの楕円形のものについてなされて、現実に差し押さえられたものはBの範囲ではなくAの範囲にしか入っていなかったと、そうか、ごめん、それでは。でも、差押えはこの範囲についてなされていると、場所的な範囲として。 ○笹井幹事 譲渡担保権Bに基づいての差押えで。 ○道垣内部会長 そういうことはあり得ないのですね。 ○阪口幹事 申立てをしたけれども外れということですね。要するに、執行官が行ったら有価物がなかったというのかな、無価物しかないので、執行不能という調書ができたときに、どうなるかということなのですけれども。 ○笹井幹事 結論的には、それは固定化しないということではないかと思います。 ○阪口幹事 そうなのですか。 ○工藤関係官 4(1)アでは、担保権の実行としての競売による差押えという行為をしたときに固定化が生じるとしていますので、差押え自体がされなかった場合には固定化はしないことになるのではないかと思います。差押えが取り消されたときについても(4)で固定化しなかったことになりますので、それとのバランスから考えると、そもそも差押えに失敗したというときには、やはり固定化はしないと考えた方がよいのではないかと思います。 ○阪口幹事 なるほど。そこまでが4に関する質問です。僕ばかり質問して申し訳ないのですけれども、5の方に行くと、この黒丸の場所が意味を持ってくるというか、Aの方には延びて固定効が一部発生し、Cの方には固定効が延びていないので、そこが意味を持つということなのですけれども、5の場合は誰が実行しているという前提で書いてあるのか、つまり、AでもBでもCでもない個別担保権者が実行しているという前提でいいのですかね。 ○笹井幹事 46の上の方の図は、個別動産譲渡担保権ですので、Aが両方持っているとか、Bが両方持っているとかということはあるかもしれませんが、基本的にはここはA、B、Cでもない別の、少なくとも集合動産譲渡担保権A、B、Cを持っている者ではない、別の担保権に基づく実行を想定しているということになります。 ○阪口幹事 そうすると、よその個別担保権者が入ってきたら、そこに物があり、かつ自分の集合の範囲と場所が全部重なる範囲がそれぞれにおいて固定する、こういう概念ですね。 ○笹井幹事 はい。 ○阪口幹事 倉庫とリンゴの絵を書かないと分からない気がしてきましたけれども、一応今の御説明は少しは分かりました。 ○道垣内部会長 それでは片山さん、お願いします。 ○片山委員 私もその図はよく分からなかったもので、それをどう質問していいのかもよく分からないのですけれども、確認をしたいのは、5ではなくて4の方で書かれているのは、種類と場所があるのですけれども、種類のことは何も書いていませんですから、種類の問題をここで図に取り上げる必要はないのかはと思いますが、ここで書いておられることは、集合動産譲渡担保権者が差押えをするという場合は、やはり集合全体を差し押さえるといいますか、要するに、ここでは場所が問題となっていますので、例えば倉庫が甲、乙、丙と三つあるとしたら、甲、乙、丙全部でなくてもいいです、例えば甲だけを差し押さえるということは可能ですということが大前提となっていて、ただ、甲の中の一つの動産を差し押さえるということは想定されていなくて、甲に含まれるものは全体を差し押さえるということが恐らく前提となっているのだと思います。そのときに、その後に甲に入ってきた財産には担保権の効力は及ばないということとともに、恐らくもう一つは、乙、丙には何らの効力は生じないので、乙と丙は改めて別途実行できますということが前提となっているという理解でよろしいのでしょうか。 ○笹井幹事 今おっしゃった甲、乙、丙は、場所が違うということですか。 ○片山委員 そうです、甲倉庫、乙倉庫、丙倉庫ですね。 ○笹井幹事 そこは、ここの問題というよりは、一部実行がどういう範囲でできるかという問題であり、そこは場所的に違っているところは別々に実行できるということで、今まで議論されてきたかと思います。 ○片山委員 それで、動産特定範囲というのは、恐らく全部を含めるわけですね、三つ倉庫があるケースで。 ○笹井幹事 そうですね、担保権ごとに考えていくので。 ○片山委員 その中で、ここでは差押えの場所という概念を強調されているのは、差押えの場所というふうに観念するためには、やはり倉庫のような場所全体が特定できるような、そういう場所が観念できなければいけないということですね、恐らく。 ○笹井幹事 はい。 ○片山委員 ここで差押えの場所という意味は、実例で言うと、甲、乙、丙の三つの倉庫の中の甲倉庫という意味ですよね。 ○笹井幹事 そうですね、おっしゃるとおりだと思います。甲倉庫がものすごく広大で、そのうちの1区画のみを一つの場所として捉えるということが、もしかするとあるのかもしれませんが、基本的には、甲倉庫だったら甲倉庫をで差押えの場所として特定していくと思います。 ○片山委員 そのときに差押えするのは、集合動産の場合には、甲倉庫の中の個々の動産を差し押さえるということはここで恐らく想定されていませんよね。甲倉庫の全体を差し押さえるということが前提となっているのですね、恐らく。そうでもないのですか、そこは倉庫の中の1個の動産を差し押さえても、甲倉庫の全体の動産に差押えの効力が及ぶ、固定化してしまう意味も含意されているのでしたっけ。 ○笹井幹事 動産の差押えですので、差押えの申立ての段階で何か特定しておかないといけないというわけではないのですが、執行官と一緒に行って倉庫を見て、そこで担保権の目的となっているものを差し押さえていくということになると思います。 ○片山委員 甲倉庫の中の特定の1個だけを差し押さえるということも差押えとしては可能で、ただ、その場合に甲倉庫の中の全部に差押えの効力が及ぶことが前提となっているのですね、ここでは恐らく。 ○笹井幹事 そこは、おっしゃるとおりです。 ○片山委員 だとしたら、本文はよく理解できますので、あとはその図をどう書くかという問題で、種類まで想定した図を書くと、やはりこの本文の説明として分からなくなってしまうという気がいたしました。ということなので、図だけの問題というこかと思いました。 ○山本委員 今の御説明で、アとイですね、この差押えの場所というのは民事執行法上存在する概念であり、民事執行規則においては、申立書の記載事項として差押えの場所を書かなければいけないということになっていると承知しています。今の笹井さんの説明は、基本的には場所単位主義といわれる民事執行法の基本的な考え方で、動産執行あるいは担保権実行は場所を単位として行われるという意味で、この差押えの場所というのは、私は確固とした概念として存在して、この図はよく理解できるのですが、分からないのはウの執行の場所という概念なのですけれども、要するに、引渡し命令とか保全命令においては、今のような場所単位主義というようなものはないのではないかと思うのですが、ただ、これは今回、譲渡担保権の実行として新たに保全命令とか引渡し命令とかを作られるので、何らかの執行の場所という概念が作られるのかもしれないという気はするのですが、少なくとも法律というか要綱案には書かれていないような気がするのですが、要するに執行の場所というのは、執行対象物が存在する場所で一定の広がりを持つ、その一定の広がりというのはどういう広がりかというのがよく分からないのですが、何かそういうものを観念しようということですか。 ○工藤関係官 差押えの場所については民事執行法に規定がある一方で、執行の場所については、確かに明確な規定はないかもしれません。イメージしているものは、基本的に差押えの場所と同じでして、差押えの場所については、申立書ですとか差押調書で特定されるということになるかと思いますので、執行の場所についても執行調書等で特定していくということになるのではないかと思っています。 ○山本委員 特に5の方は、個別動産の実行のための引渡し命令等なので、当然その申立てにおいては、この動産というふうに言ってくると思うのですよね。この動産はそこにあるということは言うと思うのですけれども、その広がりみたいなのは差し押さえる人にとっては関係ない、引渡しを求める人にとっては関係ないのですけれども、それを何か書かせるということになるのですか。それは集合動産譲渡担保権者にとってはかなり大きな利害を生じるわけですよね、どの範囲で特定するかということを決めるということになるのだけれども。 ○工藤関係官 例えば、引渡命令等の場合でも、執行官が現地に行って捜索して強制的に引渡しを実現するということになるかとは思いますので、いずれにしても執行の場面で何かしらの場所的な概念、この範囲で捜索できるという形では特定がされているのではないかとは思います。確かに、集合動産譲渡担保権者にとっては、そこの場所がどこかというのが大きな利害になってくるというのはおっしゃるとおりだと思いますけれども、規律としてはこういう形で、場所については執行のときに特定されたその場所ということにせざるを得ないのかなと思っておりました。 ○道垣内部会長 特定されたその場所というのは、引渡し命令の効力が及んでいる場所ではないですよね、探索の場所という概念ですよね。だから、先ほどの差押えの場所という概念とは大分違う性質を持っているので、事実として場所を書くではないかということでは、山本さんがおっしゃった話は解決できないのではないかと思いますけれども。 ○井上委員 分かっていないことを白状することになるような気もするのですけれども、今回の御提案の前の問題として、私的実行の場合にどうなるのかについては、一応確認したいのですけれども、第10の1(5)、39ページの一番上のところに定められていて、これは過去に議論した、一部実行のときにどういう範囲で特定するのかというときに、特定範囲の中で更に流動性の範囲を特定して、定められた範囲で固定化するというルールです。今回の御提案は、これに加えて、40ページ以降に大きく二つに分けて挙げられているのですが、そのうち4は、集合動産譲渡担保権者によるアクションに関するものなので、39ページの一部実行の場合と似た場面の規律になると思うのですけれども、39ページの(5)の規律ではカバーされないというか、それとは別に、法定のアクションについては、場所という概念が更にかぶってくることに基づいて、このベン図が出てくるということでしょうか。   ただ、4について言うと、集合動産譲渡担保権者による実行という局面で、この図は結局のところ、先ほど阪口委員からも御発言がありましたが、同じところが特定されるわけですよね。結局、譲渡担保権者Bが把握している一定範囲のうち、差押えがなされた部分について固定化するということだとすると、39ページの(5)の固定化の範囲と異なるところはないようにも思うのです。もちろん39ページの(5)に書かれているのは、帰属清算の通知又は処分清算しようとする旨を示したときは、というルールなので、別のルールであることは分かるのですけれども、これとは別に、どういう理由で、今回法定のアクションについては40ページのような固定化ルールを設けようとしたのか、何か違うことを定めようとしたのかが気になって、質問する次第です。繰り返しになりますが、44ページの5は、他人のアクションについてのルールなので、別のルールが必要だというのは理解したのですけれども。   いずれにしても、ここでは、他人の中には集合動産譲渡担保権者は入らないということですね。そうだとすると、他の集合動産譲渡担保権者の実行によって、重なる部分を持つ集合動産譲渡担保権者の特定範囲における固定化はどのように定まるのかというのは、どこの規律によるのでしょうかというのも、併せて聞きたいと思います。 ○笹井幹事 集合動産譲渡担保においては重複の実行は許さないというのが元々大前提としてありまして、全部実行する場合には、もう全部終わってしまうのでよいのですが、一部実行する場合には、その後もまた物が入ってきたりするわけですが、どの部分が終わった部分としてその後の加入物に担保権が及ばなくなり、どの部分はまだ流動しているのかというのを分けられるようなルールにしておく必要があります。   39ページの、私的実行の(5)のところは、動産譲渡担保権者が私的実行をするに当たってどの部分を実行するのかというのを自由に決められますので、対応する部分が分かるような形でその部分を切り出してくれれば、その部分について固定化して、そのほかの部分については固定化しないというルールが適用できることになります。   これに対して、やろうとしていることは似ているといえば似ているのですけれども、4は、これは担保権の法的実行ですので、動産執行の手続と同様になります。先ほど私的実行においては実行の対象を担保権者が決められると申し上げましたが、動産実行でそれに該当するものが何かというと、法的実行では、今、山本和彦委員からも御指摘がありましたように、場所という概念がある。逆に言うと、一方でほかに自由に実行の対象を切り出すとことができません。場所であれば、その場所について実行が終われば、それ以降、その場所はもう終わったというふうに切り出せるので、私的実行において当事者が設定することができる小さな集合部分に相当するものとして、場所という概念を使った。したがって、今この場所という概念によって実行の範囲を画しているということになります。 ○工藤関係官 1と4はそれぞれ、1については私的実行ルートで実行しようとした場合にどの時点で固定化が生ずるのかということを定めておりまして、4については、法的実行ルートで実行したときにどの時点で固定化するのかを定めているということになります。いずれにしても、実行するときには固定化をするということが大前提になっておりまして、法的実行をするときでも、1の実行通知を先に打って固定化させておくということは可能だと思っておりますので、そういう意味では、こちらのルートで行くときは必ずここでしか固定化しないということではなく、相互にそれぞれ関係している部分もあるということになるかと思います。 ○阪口幹事 阪口です。現行法は、執行官が行く前に固定化が生じると対象動産の特定に疑問が生じかねないという問題はありますけれども、一般的には実行通知を送って、その後、断行の仮処分を行うという手順だと思います。その場合、39ページの1(5)の方で、何とか倉庫のリンゴですというふうにして通知で固定する範囲と、この4(1)ウで固定する範囲がずれてくることは許されないですよね。4(1)ウの引渡命令又は保全処分で持ってくるものは当然、固定したものを持ってくる。先に実行通知を送ったら、それに集中しているはずだから、それを持ってくる。そこに、執行の場所という概念が係ってくるのかどうかという問題を、先ほど山本先生がおっしゃった、そういうことになるわけですかね。でも、2回固定することはあり得ないですよね。1回固定したものを持ってくるだけなので、実行通知を送らずにこの保全処分を打った場合は4(1)ウのルートになる、ということをおっしゃっているのですか。 ○工藤関係官 おっしゃるとおり、先に実行通知を打っていれば、39ページの(5)の方でその時点で固定化するということになり、そこで固定化したらその後は固定化されたままという状態かと思います。ただ、その固定化の範囲の問題で、4(1)ウで固定化する範囲の方が実行通知で特定した範囲より広いということになりますと、そのはみ出ている部分については4(1)ウの方で固定化するという場合もあり得るかと思います。 ○道垣内部会長 なるほど、それほど難しい図ではないということは分かってきた。だんだん図の意味が分かってきたのですけれども、43ページでも44ページでもいいのですが、図で、Bがイニシアチブをとってそこの黒い丸の部分の動産が差し押さえられたときに、Aの方が優先しているという状況で、Aが、私が優先していると配当要求でも何すると、それによって46ページの図の状況になるわけ。 ○笹井幹事 43ページの図で、Bがまず差し押さえたわけですね。そうすると、それが換価の対象になりますので。 ○道垣内部会長 そのときにAが優先権を主張したら。 ○笹井幹事 それは、ただその換価の対象になっている43ページの青い部分についての換価価値に対する。 ○道垣内部会長 一部についての。 ○笹井幹事 はい。 ○道垣内部会長 Aは、黒いのが含まれる部分の自分の担保権を実行したというふうなことにはならないわけですね。 ○工藤関係官 その場合には、元々差し押さえて換価されるのがBの動産特定範囲の部分に限られていますので、Aが配当要求をして換価価値を取得するのもBの範囲に限られるということですので、固定化の範囲がAの方に広がってくることにはならないと考えています。 ○道垣内部会長 なるほど。 ○井上委員 よろしいでしょうか。例えば、43ページの図で、Bが果物業者で、倉庫内にある果物について集合動産譲渡担保を設定していたときに、Bが法的アクションによって、そのうちのミカンについて担保権実行としての差押えをしたとすると、倉庫の中にあるリンゴは固定化するのですか。というか、リンゴはこの斜線の中に入るのでしょうか、入らないのでしょうか。場所は倉庫だから含まれるわけですが、Bが元々担保に取っていた倉庫にある果物全体のうち、ミカンを差し押さえたときに生ずる固定化の範囲は。 ○笹井幹事 果物全体に及ぶ。 ○井上委員 及ぶということですね。 ○道垣内部会長 場所を基準にして、及ぶということですね。 ○井上委員 なので、そこが先ほどの私的実行の場合のように、流動性の単位を自分で自由に指定してそこだけ固定化するということはできないと、そういう意味ですね。分かりました。ありがとうございます。 ○日比野委員 理解できていない質問なのかもしれないですけれども、今おっしゃったとおり、第10の1の方で私的実行するときには場所の一部の実行もできるのだけれども、4の方についてはそういった担保権者としての指定みたいなものではなくて、場所で規律されるのだというお話だったと思うのですが、そこでイメージしている場所というのは、例えば倉庫であれば一筆の建物みたいなものを最低範囲としてイメージされているということになるのでしょうか。   何でこういう質問をしたかというと、例えば一つの倉庫の中でA、B、C、D、E、Fという区画が物理的に分けられるとかそういったときに、例えば設定契約書の中で甲倉庫と書いてしまえば、そうなのだけれども、その区画も指定して、A区画ないしF区画に保管されているものみたいに書けば、それは第10の1でいうところの一部ではなくて、D区画ならD区画の全部実行みたいな、そういうことが観念できるという前提なのか、ただ、お話を聞いていると何となく、甲倉庫といったら一筆の建物の中のものが全部固定されるのだというイメージで話をされていたような気がしたので、その点を確認したかったということです。 ○工藤関係官 結論としましては、一つの倉庫のうちの一部の区画というのがはっきり場所として特定されて、差押調書等でそこだけ差押えがされたということがきちんと特定できるのであれば、そこだけ固定化するということはあり得ると考えています。 ○日比野委員 それは、アのケースだとあるのですけれども、イとかウで起点が担保権者でなかったときは、どういう考え方になるのかということを。 ○工藤関係官 イの強制執行ですと、確かにこの場合は余り区画とかいうものではなく、恐らく倉庫や地番など、もっと広い形で場所が特定されて強制執行がされるということになるかと思いますので、その場合に配当要求をして配当を受けるということになりますと、確かに全体が固定化してしまうということになるかもしれません。したがって、その場合、むしろそれだと困るということであれば、配当要求によって無剰余で取り消してもらう、あとは第三者異議の訴えで差押えを取り消すなど、そういった方向を担保権者としては考えていくことになるのではないかと思います。 ○日比野委員 分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 いかがでしょうか。私はだんだん図は分かってきたような気がしますが、より分かりやすい図を工夫した方がよいかもしれませんね。   ほかにいかがでしょうか。藤澤さん、お願いします。 ○藤澤幹事 時間が押しているところ申し訳ありません。少し実務家の先生方にお伺いしてみたいことがあります。このようなルールですと、特にこの図に出てくるような場面ですと、巻き添えで実行に巻き込まれるというか、自分は実行をまだ望んでいないのだけれども、他人の実行によって自分も実行を迫られるというような場面が出てくるような気もするのですけれども、そういうことはあってもやむを得ないと捉えていらっしゃるのか、それともなるべく避けたい事態なのかというのを少しお伺いしてみたいと思ったのです。   なるべく避けたいとすれば、特定をするときに他人とかぶらないように物を特定しようとするとか、なるべく細かく特定しておいた方が、自分が実行したときの余波も少ないし、他人が実行した余波を受けることも少ないことになるのかというのが少し気になっておりまして、先ほど「果物」という特定方法や、「リンゴ」、「ミカン」という特定方法が出てきましたけれども、ここで実行したBさんが非常に広い文言を使っていると余波が大きくなってしまったりするのかとか、あとは逆に、Bさんは細かい特定をしていて、種類を限定して実行していたのだけれども、Aさんが「果物」みたいな幅広の特定をしていた場合には、Bさんの実行対象物が果物に含まれる範囲はAさんもその余波を受けてしまうのかとか、実際の特定にどういった影響を及ぼすのかというようなことを伺ってみたいと思いました。よろしくお願いいたします。 ○道垣内部会長 まずは事務局からお願いできますか。 ○笹井幹事 確かに今おっしゃいましたように、例えば43の一番下の図ですと、Bの実行によってAやCが巻き添えを食らってしまうということはあり得るのだと思います。ただ、そこはやはりBに申立権がある以上はそれを換価して、順位を付けて配当していくということになりますので、その範囲で、つまりAとB、BとCが重なる範囲で固定化してしまうのは、それは法制度としてはやむを得ないのかなと思っています。ただ、確かにおっしゃるように、AとCとしては巻き添えを食らってしまったということなので、できれば設定者との関係で取引を継続したいということであるとすれば、そのような範囲というのはできるだけ小さくしたいというのはあり得ると思います。とはいえ、Bが非常に広い範囲で設定したときには、Bが広く取ってしまった以上は、A、Cへの影響が大きくなるというのはやむを得ないのかなとは思っております。   逆に、Bが細い場合には、Aが仮に大きくなっていたとしても、このBの丸が非常に小さいということになりますので、Aが非常に大きく大ざっぱな特定の仕方をしていたとしても、Aのうち影響を受けるのはBと重なる部分だけですので、Bが小さければ、Aさんの方で巻き添えを食らう部分というのは小さくなってくるのかなと思いました。その辺は実務的な工夫というのがあり得るのかもしれませんけれども、集合物をある意味自由に特定することができるということになる以上は、重なってしまった場合には、実行となれば、重なる限度で固定化が生じるのは仕方がないのかなと思っております。 ○日比野委員 すみません、こんな答えを藤澤先生が求めているのかどうなのか、よく分からないので、少し発言を躊躇したのですけれども、重なって困ることはないのかという点については、非常に厄介なことに巻き込まれるということなので、それは困るということだと思います。なので、通常このような集合動産担保の設定を受けるときにはあらかじめリサーチをするとともに、それに重なるような後続の担保権の設定をしないという契約上の規律を置くということが通常なのだと思います。   また、担保に入っていない動産を有効活用して、ほかの金融機関から調達をしようというときに、先行する担保権者が、先ほどの笹井さんの言葉で言えば非常に広く取っているということであれば、そこを特定させて、重ならないように設定を受けるというのが、実務上の工夫ということになるのだと思います。   これが御期待に沿う答えなのか疑問なのですけれども、以上です。 ○道垣内部会長 よろしゅうございますか。 ○藤澤幹事 契約上の工夫で重複を避けるという方向にこの規律が働くのではないかというところが大変参考になりました。ありがとうございました。 ○阿部幹事 私も巻き添え問題のことが少し気になっておりまして、以前、この資料でいうところの44ページ以下の5に関する話で、他の集合動産譲渡担保権者とか債権者が強制執行したりとか、そういうことがあったとしても、配当要求していかなければ自分は固定化の影響を受けないと、そういうような自衛方法もあり得るのではないかというような話があったような気がして、私がそういうことを気にしていて、一定程度受け入れられていたことがあったような気がしたのですけれども、今の資料ですと、私的実行の場合には、39ページの2で、優先権者が全員同意しないと私的実行ができないということになっているので、実行に同意して乗っていくのであれば固定化するという話になるのかなと思ったのですけれども、法的実行の場合には、その種の同意による制約というのは及んでいなくて、強制執行とか後順位担保権者による法的担保権実行というのは特に同意なしにできるという立て付けになっているのだと思うのですけれども、そうすると、それに自分は配当要求して乗っていったら固定化するけれども、乗っていかなければ固定化は免れると、何かそういうことにした方がよいのではないかと私は思ったのですけれども、そういう話というのはこの資料ではどういうふうに処理されているのか、そもそもこれまでどういうふうにこの議論が処理されていたか余り記憶が定かでないので、この際、確認したいと思いました。 ○笹井幹事 その部分については、まず、一般債権に基づく一般債権者の強制執行については、担保権者は放っておけば固定化はしなくてよいということになっておりまして、そういう意味では、強制執行であるのか、あるいは誰かの担保権の実行なのかというところで線が引かれていることになります。細かいことを言うと、滞納処分は担保の方に入っているというのはあるのですけれども、基本的にはそういう形で分けております。強制執行の場合は、一般債権者がその物の換価価値を持って行くということなので、たくさん取っている担保権者が、そのうちの一部分が一般債権者に取られても別にいいやということで、むしろ取引を今後も継続していくという判断をするのであれば、その判断を優先し、固定化も元本確定もせず、これまでどおりで取引が継続していくという余地を残しております。   ただ、担保権の発動として動産特定範囲に属する動産の価値が誰かの担保権者に対する優先弁済に充てられる場合には、ほかの担保権者も含めて、固定化がこの4とか5とかの範囲で発生するということにしておりまして、それはなぜかというと、やはり、また先ほどの大前提である、担保権者による重複した実行を許さないという出発点を徹底するということなのですけれども、例えば一つの同じ倉庫の同種の在庫について2人の担保権者がいて、優先する者と劣後する者がいるとします。劣後する者が差し押さえても、優先する担保権には影響しないということになりますと、例えば劣後する者がその中にある在庫を全て自分の債権に対する優先弁済に充て、その後にまた新しく入ってきたものを、今度は優先する担保権者が実行の対象にするということになって、時的にはずれていますけれども、結局同じ特定範囲の中に入ってくるものを2人の担保権者が重複して取っていってしまって、一般債権者の分がなくなってしまうことになります。そこで、担保権の実行としての換価、それから優先弁済への充当については、二重にはできないようにしようということで、今こういう設計になっていると。   もちろんこれは、先ほど申し上げた出発点から必ずこの結論に至るというわけではないかもしれませんので、一つの説明にすぎないという面もあり、ほかの考え方もあり得ると思いますけれども、どこかで線を引かないといけませんので、そうすると一番くっきり分かれるのは、担保権実行は担保権実行のグループとして、強制執行の場合は強制執行の場合として、強制執行の場合は一般債権者の充当に充てられるだけなので、二重に担保権が優先弁済に使われてしまって一般債権者が害されるという問題が生じないので、そこに線を引いたというのが今の提案の基になっている考え方といえるかと思います。   これまでの部会資料においても、どこかで線を引かないといけないという話はしておりまして、その線の引き方として、担保権実行と租税の滞納処分を一つのグループにし、強制執行との間で線を引くということについてはおおむね、意識的であるかどうかは別として、余り異論がなかった、おおむね今までそういう議論がされてきたのかなと認識をしております。 ○道垣内部会長 よろしいですか。 ○阿部幹事 重ねて質問してもよいでしょうか。   どこかで線引きをしなければならないというのは確かで、本当にこれでいいのかということなのですけれども、ただ、私も少し準備不足のところもありまして、なお考えたいとは思います。ただ、こういう形になったときに結局、後順位担保権者の担保権実行を先順位が止めることがある程度できれば、さほど問題ないのかなと思ったのですけれども、その場合はやはり、以前もこんな話があったかと思うのですけれども、配当要求した上で無剰余にして取消しを求めていくとか、そういうような手段によって自分の担保の固定化を避けるということになるのでしょうか。これをすると、一度配当要求をしなければいけなくなるのですけれども、無剰余取消しされれば、結局その配当要求もしなかったことになって固定化もしないと、そういうことになるのでしょうか。 ○笹井幹事 おっしゃるとおりで、集合動産の価値を先順位の担保権者の被担保債権が上回っている場合には、無剰余取消しということができると思います。ですので、先順位の担保権者がそれを阻止しようとすると、一番考えられるのは無剰余取消しであると思います。そのときは、今おっしゃったとおり、差押えが取り消された場合には固定化の効力もなかったものとみなされることになっていますので、4でいいますと(4)になりますので、無剰余取消しがされた場合には固定化が発生せずに、そのまま流動、一旦固定化が生じてしまうのだけれども、後から遡ってなかったことになる、ということにはなるかと思います。 ○阿部幹事 分かりました。差し当たりそういう自衛手段はあるということで理解しました。ありがとうございました。 ○道垣内部会長 ほかに、よろしいでしょうか。   18時を過ぎておりますので、一応、先ほど申しましたが、第10のところ辺りまでは御意見を伺ったということにして、更に次にまた継続していきたいと思います。続けて11月に議論をしていただければと思います。 ○村上委員 お時間過ぎている中、申し訳ありませんが、資料47についてもう一言だけ申し上げてよろしいでしょうか。 ○道垣内部会長 はい。 ○村上委員 ありがとうございます。この課題について、今回ぐらいが最後の議論かと思っておりますので、一言だけ申し上げたいと思います。組入義務に関する実効性確保策として、特別の先取特権について御提案いただいて、その点について、別の方法での検討が必要という御意見も幾つかあったと承知をしております。私どもとしましては、今回の御提案も含めて、別の方法であっても、今回の法改正と併せて仕組みを整備していただきたいということをお願い申し上げておきたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   それでは、本日の審議はこの辺りにさせていただきたいと思います。   そこで、次回の議事日程等につきまして事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井幹事 次回の日程は、3週間後になりますが、11月5日火曜日午後1時30分から午後6時まで。場所は東京地検総務部教養課会議室1502というところです。   次回は、今、部会長からもありましたように、部会資料46の積み残しがありますので、そちらと、あと部会資料46から【P】ということで抜いておりますけれども、動産利用権を目的とする譲渡担保権の扱いにつきまして御議論いただければと思っております。動産利用権の部分につきまして、少なくとも新しい資料をお送りするということになると思いますし、分かりませんけれども、様々検討していく中で、46についてももし修正点がありましたら、併せてお示ししたいと思っております。 ○道垣内部会長 よろしくお願いいたします。   それでは、法制審議会担保法制部会の第48回会議を閉会にさせていただきます。   本日も熱心な御審議を賜りまして、ありがとうございました。また次回、よろしくお願いいたします。 -了- - 1 -