法制審議会 民法(遺言関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和6年10月29日(火) 自 午後1時30分                       至 午後5時36分 第2 場 所  法務総合研究所第6教室(赤れんが棟1階) 第3 議 題  1 遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討⑴及び⑵         2 参考人ヒアリング 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会民法(遺言関係)部会の第6回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   それでは、本日の審議に入ります前に、配布資料と本日の進行についての説明を事務当局の方からお願いいたします。 ○齊藤幹事 本日もよろしくお願いいたします。配布資料として、部会資料6「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(2)」がございます。部会資料の内容につきましては、本日前半の審議の中で事務当局から御説明をいたします。また、参考人から御提供いただいた資料として、「アメリカ合衆国における電子遺言制度の動向」及び「カナダにおける電子遺言制度の動向」がございます。これらについては、本日後半のヒアリングにおいて参考人から御紹介を頂きたいと思っております。また、席上のタブレットには委員等名簿及び議事次第を格納しております。   本日の進行でございますが、まず、前回の会議で積み残しとなりました「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(1)」について引き続き御審議いただければと存じます。その後、今回配布させていただいた部会資料6に基づき「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(2)」について御審議を頂ければと存じます。   その後、休憩を挟み、午後3時45分頃を予定しておりますが、参考人ヒアリングとなる予定です。本日は、横浜国立大学理事・名誉教授でいらっしゃいます常岡史子様に御参加をお願いしております。常岡参考人からは、アメリカ及びカナダにおける遺言法制について、30分程度でまとめて御紹介を頂きたいと存じます。その後、アメリカとカナダとに分けてそれぞれ質疑応答の時間を設け、最後にアメリカ、カナダ全体を通じての遺言法制に関して質疑応答の時間をまとめて設けるという進行を予定しております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。ただいま事務当局から御説明がありましたように、前回の会議では部会資料5に基づく「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(1)」につきまして、時間の関係で途中で終わるということになっておりました。この点につきまして幹事、委員の皆様から引き続き御意見を頂戴したいと考えております。前回会議の最後に小粥委員から挙手を頂いておりましたので、まず本日、小粥委員の御発言からお願いをしたいと思っております。 ○小粥委員 ありがとうございます。委員の小粥でございます。少し取り留めのないようなことでございますが、前回の審議の中で申し上げたかったことを申し上げさせていただきます。   この部会では、本当に大ざっぱな言い方をいたしますと、遺言の方式を簡便化することにつきましては、遺言者の真意の確保ですとか遺言の真正性確保等の観点から問題があるというような御指摘が行われていると承知しています。その内容については私も共感するところが大いにございます。しかし、この問題を指摘するときに、しばしばリスクという言葉が用いられることがございます。特に、前回の相原委員の御発言の中には、そういうことで簡単にするとリスクがあるというような趣旨のことを伺ったという記憶がございます。このときのリスクということで何が考えられているのかということについて、少し考えた方がよくないかということです。   二つあると思うのですけれども、一つは具体的な不利益を被る人がいるのだということです。その具体的な不利益を受ける人というのは、受益者の側というのか、遺言によって何かをもらう、もらわないという人の側ということです。つまり、遺言によって思っていたよりも利益を受けられなくなるとか、あるいは後から遺言がされることによって受けられる利益が減るとか、あるいは、ばかげた想像かもしれませんけれども、遺言がなければ国庫に財産が帰属するはずだったのに国庫に財産が入らないというような、そういうレベルの問題が一つあると思います。   そうでないとすると、もう一つは、遺言者の意思が実現されないということをリスクという言葉で表しているのかなということを思うわけです。そうすると、遺言者の意思が実現されないということが一体どういうリスクなのかと、かなり抽象的なリスクということになりますけれども、そもそも遺言において遺言者の意思というのは法定事項の中でしか実現できないものですから、一般的に私的自治の世界といわれている契約の自由などとは少し違うところがあるように思います。そうではなくて、何か保護すべき遺言者がいて、その保護が十分になされていないがゆえのということであるとすると、この問題は成年後見法の問題と何か接続するような問題なのかもしれないという気がするわけです。   ここから先は本当にはちゃめちゃなことですけれども、最後に申し上げたようなことがリスクなのだとすると、こうした問題を遺言の方式等の平面で受け止めて解決するということは、もしかしたら制度全体を考えると問題があるかもしれないということに思い至るわけです。つまり、もう少し乱暴に、分かりやすく申しますと、例えば成年後見法のところで、補助人が同意を要する事項として、遺言を書くということをリストに加えるというような方向での検討、つまり、問題は遺言法の問題というよりは成年後見法の問題なのかもしれないというようなこと、少なくともそういった問題について考える必要はないだろうかということを申し上げたかったということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。小粥委員からは、遺言の「簡便化」に伴う問題点のうち、遺言者の意思の実現ができないのではないかという点については、成年後見制度で対応すべき問題というのもあるのではないかと、その制度との切り分けというか分担というか、そうしたことについても考える必要があるのではないかと、こういう御指摘を頂いたと受け止めました。ありがとうございます。   そのほかについて、御発言はいかがでしょうか。 ○相原委員 今御発言くださった点につきまして、この案件に関して議論する場で、高齢者関連の委員会の弁護士からも、かねて出ておりました成年被後見人の遺言の問題等も何か配慮すべきこと、指摘すべきことはないのかというような意見もございました。   今、小粥先生がおっしゃってくださったのと少しリンクするのですが、御本人の意思をきちんと反映することができるかというところで、成年後見制度との関係がどうしても出てくるわけです。一方で法制審で現在進行形で、御本人の意思の実現というところが議論を正にされているということも承っておりまして、その議論をする場がどちらなのかということもあろうかと思っています。遺言に関してはどの程度どちらの範ちゅうでやるかということは残ろうかと思っております。私自身の発言として、非常にリスクがあるとか、きちんと丁寧にしなければいけないと言いつつ、意思実現からするとハードルが高すぎると言って、自分でも矛盾していることを言っているような気もしなくはないのですが、そのバランスといいますか、そこが本件の重要なポイントになろうかなとは思っております。   支離滅裂で申し訳ないですけれども、今御指摘いただきましたので、その点も重要な点としてあるかなとは思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。小粥委員の御発言が相原委員の御発言を受けてという形でしたので、直前の小粥委員の御発言についてのコメントという形で御意見を頂戴したかと思います。現在、法制審の他の部会で成年被後見人等の意思の実現という観点からの審議がなされているということで、そちらはそちらで成年後見制度という観点から検討が進むと考えておりますけれども、制度に乗っていったときにどういう保護がされるのかということと、その制度の外で、では何をすべきなのかということと、両方をにらみながら問題を考えていかなければいけないということなのだろうと思います。類似の問題はいろいろあると思いますが、ある制度が使えれば、それでそちらの制度の問題として問題は解決するけれども、必ずしもその制度が常に使えるというわけでもないといった問題もあろうかと思いますので、そうした点も考慮しつつ議論を進めていければと思っております。   その他、御意見いかがでしょうか。 ○齊木委員 小粥先生が指摘されるリスクについて、1点だけ付け加えさせていただくと、遺言者の意思を実現するのは遺言者が亡くなってからということになります。遺言者が亡くなったときに何か文書が出てきたときに、それが遺言者の遺言だろうか、その真意に基づいた遺言だろうか、意思能力、判断能力があったのだろうかということが争われたときに、それが立証できるような方式を決めておかなければ、その方の意思は実現できないわけです。ですから、後で争われても持つような方式を決めるべきだというのが私の意見で、後から争われたらすぐに消えてなくなるような方式を決めたら、意思が実現できないというリスクがあるというのが私の意見でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。方式の役割をどこに求めるのかということは根本的な問題だと思いますけれども、方式が意思を支えているのだということが、特に遺言の場合には重要ではないかという御指摘として承りました。   それでは、その他、御発言あれば伺いますけれども、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○戸田委員 今のお話に関しまして、小粥先生がおっしゃるとおり、方式でもってリスクを完全に除去というのはできないですし、現状の自筆証書遺言でそういったものが防げているかというと、ほとんど防げていない状況でございます。リスクを除去するのは遺言者自身が自己責任で基本的にはやる話であって、なるべく確度の高いリスク除去ということであれば公正証書遺言を選択するといったやり方もあるわけですし、それを鑑みますと、方式でもって全て除去するというのは、技術的にも、まず難しいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。戸田委員からも方式についての御意見を頂戴いたしました。全てのリスクを方式で排除できるのかというと、齊木委員もそのようにはおっしゃっていないだろうと思います。方式というものがどのくらいの役割を果たし得るものか、方式に何を担わせるのかということかと思って伺いました。ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   前回、小粥委員の発言が最後に残ってしまったということで、今回に持ち越しましたけれども、議論の大枠について御発言を頂きまして、さらに数人の委員の方々から御発言を頂きましたので、部会資料5「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(1)」につきましては、ここまでで一通り皆様の御意見を頂戴したということにさせていただきまして、次に進みたいと思います。   続きまして、部会資料6に基づきまして「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(2)」についての議論に入りたいと思います。部会資料6は大きく三つの部分に分けられておりますけれども、本日は、自筆証書遺言及び秘密証書遺言の方式要件の在り方と、それから特別の方式の遺言の方式要件の在り方に二分いたしまして御議論を頂きたいと考えております。そこで、大きくまとめました場合の前半部分に当たります部会資料6の第1及び第2の部分につきまして、事務当局の方からまず御説明を頂きたいと思います。 ○石川関係官 部会資料6について御説明いたします。まず、1ページ目の冒頭の(前注)では、部会資料5と同様に、参考人ヒアリングの結果を踏まえた上で更なる検討を行うことを予定している旨を記載しております。   本文第1の「自筆証書遺言の方式要件の在り方」について御説明いたします。本文1では、自書を要しない範囲について、現行規定を維持し、その範囲を拡大しないことについてどのように考えるか、本文2では、本文1の検討を前提に、押印要件について現時点で考えられる三つの案についてどのように考えるかについて記載しています。   三つの案のうち、甲案は、押印を要しないものとする案、反対に、丙案は、引き続き要するものとする案、乙案は、それらの中間案としまして、押印を要するものの、それを欠いたとしても、ほかの方式要件等によれば本人の意思に基づいて遺言が作成されたものと認められるときは、遺言はなおその効力を有するものとする案です。   補足説明として、1ページの1では、自書を要しない範囲について、更なる方式要件の緩和によって、偽造変造のおそれや、遺言者が遺言の内容を十分に理解しないまま作成するおそれが増大することも考えられること等を踏まえ、現行規定を維持することが考えられることを記載しています。   2ページからの2では、押印要件に関する三つの案についての補足説明を記載しています。まず(1)では、甲案について記載しておりまして、真意性等の担保は全文や氏名等の自書により図ることができているとも考えられること、また、下書きと完成品との区別の観点から見ても、署名要件が押印要件に代わるものとして認識されていくことになると考えられるとの意見があったことなどを踏まえ、押印要件を廃止することが考えられます。なお、遺言本文への押印要件を廃止する場合、自筆証書遺言に関するそのほかの押印要件についても同様に廃止することを検討すべきと考えられることから、本文2の(注1)にはその旨を記載しています。また、遺言書に押印がされたときは、当該押印については引き続き有益な機能等を有すると考えられることから、本文2の(注2)にその旨を記載しています。   次に、3ページの(2)では、乙案について記載しており、仮に押印を方式要件とするとしても、それを欠いた場合の法的効果について、一定の場合には遺言はなおその効力を有するものとすることが考えられます。もっとも、この考え方については、例外的に遺言の効力を認める場合としてどのような場合を想定するか、また、誰がいかなる手続ないし段階においてこの一定の場合に該当するかどうかを判断するのかが問題となると考えられることから、その旨を記載しています。   最後に(3)では、丙案について記載しており、押印は依然として下書きと完成品とを区別する機能を果たしているとも考えられること、押印の負担はそれほど大きなものではないとも考えられることから、引き続き押印を要するものとすることが考えられます。遺言という方式行為の特殊性に鑑み、押印要件を存置することもなお考えられるため、この案も含めまして、皆様の御意見を頂ければと思います。   続いて、本文第2の「秘密証書遺言における方式要件の在り方」について御説明いたします。4ページの本文1では、検討の方向性について、押印要件以外については現行規定を維持するとともに、デジタル技術を活用した新たな方式を設けないものとすることについてどのように考えるか、本文2では、公証人の押印要件については維持する一方、遺言者と証人の押印要件については、甲、乙、丙案の三つの案につきどのように考えるかについて記載しています。これらの三つの案については、自筆証書遺言における押印要件の三つの案と同じく、押印要件を廃止する案の甲案、維持する案の丙案、そして中間案としての乙案としております。   補足説明の1では、部会資料3においても御紹介しましたが、改めて秘密証書遺言の方式要件について御紹介するとともに、特に領事方式による場合については、令和3年の改正により、遺言者及び証人による封紙への押印要件が廃止されたことを御紹介しています。   次に、5ページの2では、押印要件以外の方式要件について、秘密証書遺言に対する需要はそれほど大きいものではないと考えられることなどを踏まえ、本文1のとおり、現行規定を維持等することが考えられることを記載しています。   5ページ以下の3では、まず(1)において、本文2のうち公証人の押印要件について記載しています。公証人による押印が公証人による署名とあいまって、公正証書が公正の効力を有するための不可欠の要件であるとされていることを踏まえると、現行規定を維持することが考えられることから、本文2にその旨を記載しています。   次に、(2)において、遺言者及び証人の押印要件に関する三つの案について記載しています。まず甲案について記載しておりまして、自筆証書遺言において押印を要しないものとする場合、その趣旨に鑑み、秘密証書遺言における遺言者及び証人の押印要件についても、これを要しないものとすることが考えられます。もっとも封紙の要件まで廃止するかについては、その要件の趣旨などに鑑み、別途の検討が必要であると考えられる旨も併せて記載しています。   続けて、乙案及び丙案について、自筆証書遺言における押印要件につき乙案又は丙案を採用する場合に、秘密証書遺言における遺言者及び証人の押印要件についても、それぞれ同様に乙案又は丙案を採用することが考えられます。もっとも6ページの22行目のイでは、秘密証書遺言における遺言者及び証人による押印を不要とするか否かについては、自筆証書遺言における遺言者の押印を不要とするか否かとは別の考慮を要するとの考えもあり得ると考えられることから、その旨を第3回会議における意見を御紹介しつつ、記載しています。   このように、秘密証書遺言における遺言者及び証人の押印の要否の検討に際しては、これらの押印と自筆証書遺言における遺言者の押印との間で趣旨や機能において相違があるか否かについても留意する必要があると考えられ、その点を踏まえて皆様の御意見を頂ければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第1と第2と共通する点がありますので、まとめて御説明を頂きました。しかし、最後に相違があるか否かという点についても留意する必要があるという御指摘もあったところです。今の御説明につきまして、まず御質問があれば、それを伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○倉持幹事 自筆証書遺言の折衷案とされている乙案についてです。この乙案についての説明で、3ページの25行目に、遺言者の真意に基づく旨の裁判所の判断という部分がありますが、これは具体的な手続の構想案があるのかという質問です。またこれに関連して、そこの詰めができていないとすると実務上の混乱が避けられないのではないかという指摘に対して、弁護士会内で意見が出たのが、例えば、保管した場合には押印を不要とするとすると、判断が明確になるのではないかという指摘もあったので、そういうことがあり得るのかどうかということについての質問です。 ○大村部会長 ありがとうございます。自筆証書遺言の乙案についての御質問を頂きましたけれども、いかがでしょうか。 ○齊藤幹事 まず、裁判所の判断という点について御質問いただいたと理解いたしました。この点については、特段何もそれ以上の規定を設けないという考え方もあり得ると思いますが、そうすると、ではどういう裁判なのだということになるので、少しそれは難しかろうという気がいたします。内部で議論いたしましたところでは、例えば別途の家事審判手続を設けるとか、あるいは訴訟手続によるとか、両様あり得るだろうという話題がございました。   それから、仮に訴訟だとして、どういう訴訟類型になるのかという問題もございますけれども、例えば、預金の解約に応じない個別の銀行相手に一つ一つ給付訴訟というようなことをするのだと、各訴訟の当事者間でのみ既判力が生じるということになり、上手く機能しないということになるかと思います。そうすると、訴訟でやるのであれば、相続人あるいは受遺者等を全て当事者とした上での有効であることの確認訴訟が簡明かなという気はいたしました。ただ、そこを具体的に提案するというところまでは至っていないというのが現状でございます。   このような考え方に対して、更に付け加えますと、やはりそのような重たい裁判手続が付随して初めて実現可能ということになると、なかなか重たい手続であり、機能しづらいのではないかという意見もあり得るかなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。倉持幹事からは、それとは別の、保管に関わる御意見ないし御提案もありましたけれども、またそれは御意見ということで、後で議論をしていただければと思います。   その他、御質問はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、御質問も含めまして御意見の方をお伺いしたいと思います。御意見がおありの方は、どなたからでも結構ですので、挙手を頂ければと思います。 ○齊木委員 これは全く私個人の意見ですが、甲案をベースに、押印を要しないとした場合について意見を述べます。私どもは日頃多く扱っているのはやはり80代、90代の方の遺言であり、そういう高齢者の方は判子がないと、少しすっきりしないのです。かつ、自筆証書遺言の検認もかつてやったことがありますけれども、やはり2葉、3葉にまたがっているときに判子だけで済むのと各葉に署名するのでは大分違って、年をとると何が面倒かというと、字を書くのが面倒でして、判子の方が大分楽なのです。だから押印を必要としないとしても、使ってもよいとし、使ったら各葉ごとの押印とか加除訂正には判子を使えるというような、そういう案では駄目でしょうか、つまり、若い人は押印不要の方が良いのですが、高齢者は押印をした方がしっくりするというので、全世代対応型の規定にするのは駄目でしょうかというのが私の考えです。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲案をベースにして、押印にも一定の意味があるという形の規律は考えられないだろうかという御提案を頂いたと受け止めました。甲案からのバリエーションを考えるというときにもいろいろなものがあり得るかと思いますけれども、一つの具体的なものを御提案いただいたと受け止めました。   ほかにいかがでしょうか。今の点でも違う点でも結構です。 ○隂山委員 隂山でございます。自筆証書遺言の自書を要しない範囲と押印要件について述べさせていただきます。   まず、第3回会議を踏まえまして検討順を整理してくださったことにつきまして、感謝申し上げます。自書を要しない範囲につきまして内部で検討いたしましたところ、部会資料5の第1にある甲案や乙案等が継続的に検討されることが前提であると考えておりますが、そのような点を踏まえまして、自書を要しない範囲を拡大しないことにつきましては特段の異論はありませんでした。第3回会議でも申し上げましたけれども、自筆証書遺言において自書を要しない範囲が拡大すると、部会資料5の第1の乙案に限りなく近くなっていくように思われます。そうしますと制度上の差異が分かりにくくなる可能性もありますので、自書の範囲につきましては部会資料御記載のとおりでよろしいのではないかと考えております。   次に、押印要件ですけれども、先ほど倉持先生からも御指摘がありましたが、乙案につきましては実務上円滑な執行が可能であるか疑義が生じるように考えております。補足説明では、遺言者の真意に基づく旨の裁判所の判断を得ることにより執行が可能となるという整理が行われておりますが、この場合、時間が掛かることは否めないように思われます。相続登記に関しましても対抗要件となりましたので、実務家の肌感覚といたしましては、迅速な登記申請が求められていると感じております。そのため、甲案や丙案のように形式的要件が明確であることが、手続遂行の立場としては、迅速な対応をとることが可能ではないかと考えています。   これらを踏まえまして、部会資料5の第1の甲案、こちらは電子署名方式が基本となっており、乙案が遺言者の署名が求められております。特に乙案につきましては、ワープロ等を用いて全文及び日付を記録した電磁的記録を作成し、当該記録をプリントアウトした書面に対して遺言者が署名をするといった提案がなされており、この場合であっても押印までは求められていないのが現状の提案になっているかと思います。このような現状の方向性から、押印要件につきまして、これを不要とするということも十分に考えられるのではないかと捉えております。その意味で、先ほど齊木先生からもございましたけれども、甲案をベースに検討することができればよいのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。隂山委員からは2点、自書と押印について御発言いただきましたが、自書を要しない範囲については、遺言の新しい方式での検討を前提に考えるのならば、そちらに委ねて、旧来の方式については現状を維持するということの方が紛れがないのではないかと、こういう御発言だったかと思います。そしてもう一つ、押印については、先ほども御発言があったのですけれども、乙案にはやはり問題があるのではないかということが出発点で、その上で甲案か丙案ということになるけれども、新しい方式との平仄等を考えると、甲案をベースにして、どうするかという方向ではないかという御発言だったかと思います。ありがとうございます。   ほかはいかがでしょうか。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。今、隂山委員から前回の部会資料5の乙案、プリントアウトしたものに署名をする方式が提案されていることについても言及を頂きました。事務当局の意図としては、押印については部会資料6でまとめて検討いただき、その結果がほかの関連する分野にも及んでいくというようなところかなと思っておりますので、その意味では部会資料5の乙案、プリントアウト署名方式で更に押印まで要するかどうかは、むしろ今日の御議論を中心にして、もう一回振り返るというような構造なのかなと事務当局としては考えておりました。表現が足りていなければ、その点は御理解いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。平仄をとる、合わせる必要があるというところは共通の認識であるけれども、前回の資料で既に何か決まっているというわけではなくて、今回の資料で御議論を頂いたものがフィードバックされて整合性が図られるということなのだと補足を頂きました。そういうことであったとして、しかしどうするかということで、甲案をベースにしてやはり考えるのだというお考えと、いや、それならば丙案というお考え等、あり得るかと思いますが、今のところ甲案をベースにというお考えが複数出ているという状況かと受け止めておりますけれども、いかがでございましょう、他の委員、幹事、御発言があれば、是非お願いをいたします。 ○小粥委員 続けての発言になってしまって恐縮です。委員の小粥です。甲案をベースにということについて、少し違うことも申し上げておこうと思って、申し上げるだけのことでございます。   押印を要しないものとする考え方は確かにあると思うのですけれども、しかし、押印を維持することにそれほど問題があるのかという考え方もあるように思いまして、法律家は概して保守的な発想をするものだと思っているのですけれども、なくすことによって何かメリットが大きく見えるならともかく、それで今までやってきて大きな不都合もなさそうに思うから、そのままでもいいのではないかということからすると、丙案でもいいような気がしております。もちろん若い人たちの中では判子を持っていない人もいるわけですので、そうだとすると、丙案を固い形で維持するのが問題だとすると、乙案ということになって、乙案は執行の立場からすると問題があるという御指摘は重々理解できるつもりですけれども、私としては丙案を出発点とするという考え方も大いにあり得るのではないかと思っています。   それで、乙案の方向として、何もないと、きちんと遺言書として形を成しているのかどうかが形式的に判別しづらいということについては、例えばでございますけれども、遺言者が、その内容を確認して、これが私の最終意思であることを間違いなく認めましたというような確認文言をどこか条文化でも規則でも書いておいて、間違いなくその部分だけは署名とともに筆記したということにすれば、押印がなくてもよいとかということにすると、つまり物理的な判子はなくてもよいということにするとか、例えばですけれども、そんなことも考えられるので、いずれにせよ丙案ベースでもいいのではないかということを申し上げたかったということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲案ベースの御意見が多いのではないかと直前にまとめたのですけれども、小粥委員からは、いや、丙案から考え始めることも可能なのではないかと、先ほど事務当局の御説明の中にもあったかもしれませんけれども、それほど負担があるわけではないのではないかといった見方もあるのではないかという御指摘をいただきました。齊木委員からは、むしろ便利なのではないかという御指摘もあったわけなのですけれども、そうだとすると丙案から出発する、しかし丙案が窮屈だということならば、丙案をベースにして少しそれを緩めるということを考える。ただ、乙案のような考え方ではなくて、押印に代わるような方式というのを別途考えて、それを備えていれば押印と同じように扱うというのはどうかという御提案を頂いたと受け止めました。 ○石綿幹事 幹事の石綿です。小粥委員と同様に、丙案もまだ考えられるのではないかという趣旨の発言をさせていただければと思います。   私自身、甲案か丙案かということを判断が付きかねておりますが、この問題を判断する際に、将来、押印ということが社会で必ずしも一般的ではなくなるかもしれないということと、今現在、押印をなくして問題が生じることが本当にないのか、押印要件があることで何か困っていることがあるかということ、この二つの視点から考える必要があるのだろうと思っております。小粥委員から御指摘があったように、現在押印があることによってそれほど困っているということもないのであれば、丙案ベースということも一つ考えられるのかなと思います。   押印をなくすことによって、完成品と下書きの区別が付かないという御指摘が何度かあったかと思いますが、他の要件、日付、署名、自書の三つの要件でその問題がクリアできるのかという辺りは詰めて検討した上で、甲案を採るかどうかということ、甲案ベースで行くのかということをはっきりさせた方がいいのかなと思います。  それから、乙案というのが実務家の方の感覚からするとなかなか受け入れられ難いということは認識しましたが、他方で、本人の意思に基づいて遺言が作成されたことをどういう証拠等で認定するのかということがもう少し具体的になってくると、丙案についてイメージもしやすく、議論がしやすいのかなと思いました。  今日、後半で扱われる常岡先生のカナダ、アメリカなどの資料を見ていると、アメリカでは恐らく、遺言が形式要件を満たしていなかったとしても、遺言意思を具現したということを明白かつ確信に足る証拠があれば遺言の効力が認められるというような条項があるようなことがあるようです。外国法なども参考にしながら、どういう証拠等があればよいのかということをもう少し具体的にすることが考えられるのかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。石綿幹事、それから小粥委員もおっしゃっていたことですし、他の委員、幹事も折々に触れられていることだと思うのですけれども、これは時間の推移の中で考えていくと、現在の私たちの意識あるいは使い得る技術というものと、将来の世代の意識あるいは使い得る技術というものとは同じではないので、どこを基準に考えていくのかということ、あるいはそれが変わっていくということを考慮に入れつつ考えていくということが必要だろうということ、それは一般的な御指摘として、そのとおりだと思って伺いました。その上で、石綿幹事からは、丙案について、これを出発点とすべきだという小粥委員の御意見に賛成するという御発言があったと承りましたけれども、押印による完成ということの意味を他のもので代替することがどこまで可能なのかという視点は、なお必要なのではないかということと、それから、少し実務的に問題があるのではないかと言われた乙案について、本当にそうなのかと、その問題を突破していくような可能性はないのかと、今日これからヒアリングがありますけれども、そこで紹介されるようなものも含めて、なお乙案もまだ捨てなくていいのではないかと、こういう御発言を頂いたと理解いたしました。   ほかはいかがでしょうか。 ○戸田委員 少し質問なのですけれども、先ほどのお話の中で、部会資料5の内容について、乙案で押印が必要かどうかというのもこの議論と連接するというようなお話だったのですけれども、部会資料5の乙案で署名をするということについては、電子署名でも可能なのではないかと、押印と同様に推定効が働くという意味では、電子署名で機能を果たすのではないかと思うのですけれども、そういう考え方はないのでしょうか。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。こちらで部会資料5を作成したときの意図としては、部会資料5の乙案というのは、プリントアウトした書面が遺言となるというものなので、例えば電磁的記録はそのプリントアウトする手前には存在はするのだけれども、電磁的記録自体はその作成過程で一時的に存在するものなので、乙案では、これに電子署名をするという発想はなくて、プリントアウトしたところに手書きで署名をするものです。それに対して甲案は、電磁的記録自体をもって遺言とするので、この場合には手書きで署名をするというのは逆に観念し難いので、甲案においては電子署名がその役割を果たすという発想でおりました。そのため、部会資料5の乙案においては電子署名というのは組合せとして少し難しいのかなという考えでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでございましょうか。 ○冨田委員 連合の冨田でございます。1点質問をさせていただきたいのですが、自筆証書遺言の中で押印が規定をされている、その法律ができたときに、なぜ押印が必要と規定されたのか、その背景について教えていただけないでしょうか。なぜかと言うと、その背景と今を比較したときに変化点があるのであれば、その変化点に基づいて押印の有無の判断もできるのではなかろうかと思ったからです。なぜ法律で押印が必要と規定されたのか、その背景につきまして御教示いただけると有り難いと思います。どうぞよろしくお願いします。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。私よりもほかの先生方に御説明いただいた方がいいのかもしれませんが、事務局で準備している下調べの中では、やはり重要な文書には押印をするというのが一般的な法意識であると、そして、遺言というのは厳格な方式要件を定め、それによって真意に基づいて作成されたものであることを確保するという方式であり、そういった意味で、元々明治31年にできた法律と思いますが、やはり押印を要するということ自体は、当時からすると一般的な考え方だったのかなという認識でおりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。事務当局の方から今お答えいただきましたが、他に補足の御発言があればという促しもありましたので、もしどなたか追加の御発言があれば承りますけれども、いかがでしょうか。   特にないでしょうか。今のような御説明を一応承ったということで、進めたいと思います。   細かいことというか、私が別の関心から個人的に調べていることを申し上げますと、押印慣行というものがどの時期にどのように広がっていったのかというのは、立法のときに起草者たちが考えていたこととは少しまた違うところもあって、実態を見ると、やはり民法ができたのに伴って押印というものがより普及していくという事情もあったように思います。これもしかし、当時の状況について詳しく何かを調べるということができるわけではなくて、私がたまたま調べている領域の契約書類を見ると、そういうこともあるということを少し付け加えさせていただきたいと思いました。 ○宇田川幹事 最高裁家庭局の宇田川でございます。乙案の遺言者の真意に基づく旨の裁判所の判断というところについて、先ほど法務省の齊藤幹事からも、今具体的に特に構想しているわけではないけれども、家事審判の手続又は訴訟手続などが考えられるということでの御紹介がありました。家事審判手続ということですと、現行法で遺言の確認という手続がございますけれども、こちらにつきましては一般危急時遺言や船舶危急時遺言などの証人が立ち会って関与するというような特別の方式の遺言について定められていると認識をしております。であるからこそ、裁判所においても審問の手続で証人等から陳述を聴取して、遺言者の真意についての心証を形成していくということが想定されているものと認識をしております。   他方で、自筆証書遺言については通常、一般危急時遺言などのように証人が関与するというものではなく、そういう形の方式要件も定められていないところで、様々な状況において不定形に作成されるものと認識をしておりますので、家事審判の手続において当該遺言が遺言者の真意に基づくものであるとの心証を得るということは、なかなか困難な状況にあるのではないかとも思われるところでございます。   また、訴訟手続の関係については、齊藤幹事からもお話があったように、重たい手続にはなってしまいますので、今申し上げたような事情も踏まえた上で、裁判所がどのような手続を行うべきなのか、どういう目的で関与するのか、何を審理、判断すればよいのかということについては慎重に御議論いただければ幸いでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。宇田川幹事からは、現在裁判所が関与する場合の状況について御説明を頂きました。それを前提に御議論を頂きたいということだったかと思います。   そのほか、御意見、御発言はいかがでしょうか。 ○中原幹事 私自身は甲案ベースがいいかなと思っています。現状困っていることがないから丙案でもよいではないかということなのですけれども、これから困ることがないだろうかということが問題であって、甲案なのか丙案なのか、決定的に違うのは、押印がない場合に遺言が無効になってしまうかどうかということだと思います。重要な文書には押印するというような慣行が崩れているということなのであれば、やはり遺言を無効にするということはよくないのではないかという印象がどうしても私自身は拭えないというか、そういうふうに思いますので、甲案をベースに考えるというのがよいのではないかと現時点で考えているところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。中原幹事から、丙案で押印なしで無効になるということの効果としての重大さということを考える必要があるという御指摘がありました。それで、慣行の問題はなかなか難しいところで、現に重要な文書について押印するという慣行がないのか、この先なくなっていくのかという、その辺のところをどう考えるのか、しかし、いずれにしても時系列の中で見ていくと、先ほども少し触れましたけれども、だんだんなくなっていくのではないかということをどう織り込むのかということなのかと思って承りました。 ○木村幹事 京都大学の木村です。先生方の御議論を踏まえて、意見を述べさせていただきたいと思います。まず、乙案についてですけれども、先ほど裁判所の方からも御指摘があったとおり、民法976条3項などにおいて裁判所の確認という手続が定められております。これについては注釈書などによると、危急時遺言などの場合については真意性の担保が不十分であることを前提に、それを補うために裁判所の確認手続を必要としているとの説明がされているところです。となれば、今回の乙案の提案でも書かれているように、そもそも押印がない場合には真意性の担保が十分でないということが前提になっているのだと考えられます。この点については、先生方の御議論にもあったとおり、押印があるということが真意性の担保として必要なのか、つまり、氏名などについて自書がされていることに加え、押印がされていないと真意性が担保されていないのかということが議論になる、あるいは検討課題になると思います。   この点、少し私が混乱しているのですけれども、真意性の担保という点で押印が必要であるという実質的な意義にかかわる部分と、重要な文書については押印が必要であるという慣行をどこまで重視するかという観点において、重複している部分もありつつ、後者は実質的な意義とは異なる慣行を重視するか否かの観点であると捉えることもできるのだと思います。このような整理を前提とすると、個人的には、少なくとも前者の点においては、氏名などの自書があることに加えて更に押印をするということがその文書の真意性を担保するために必要な要件かというと、必ずしもそうではないと考えることもできるのではないでしょうか。   これとは別の議論として、押印というものが氏名の自書などに加えて必要なのかという問題と、自署に代えて押印で足りるものと認められるべきか否か、という問題もあり得るのだと思います。この点については、先ほど齊木議員がおっしゃっていたと思うのですけれども、加除訂正などをするときには自署に代えて押印でよいとするか、または自署に重ねて押印が必要かという点について、自署又は押印のいずれかでよいという形で、押印を自署に代える選択肢として認めるというのも十分にあり得ると考えております。   最後にあらためて整理をするのならば、結局押印がなぜ必要なのかということについては、実務上重要な文書については押印が必要であるという慣行を重視する観点、押印というものが実質的に真意性の担保のために必要不可欠であるのかという観点のほか、完成品と下書きの区別という三つの観点があるのだと思います。これらの観点は重複して語られているところもありますが、厳密にはそれぞれの機能に分けて議論することができると思いますので、その辺りを精査しつつも検討していくのが望ましいと思っています。   まとまりがないですが、結局甲案ベースで議論するのがあり得る筋ではないかと個人的には考えているところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見は甲案ベースでということを最後におっしゃっていたかと思いますけれども、御指摘は、少し順序が逆になりますけれども、押印の必要性について、幾つかの観点がこれまでの議論の中に混在しているのではないか、それを整理した方がいいのではないかということと、それから、押印がないと真意性が担保されないのかというときに、自書があったとしても押印がないと駄目なのかということを考える必要があるということと、それから齊木委員がおっしゃった、押印に代えてということと、押印を加えてということを区別する必要があるのではないかと、こんなことだったかと思います。   ほかはいかがでしょうか。どうでしょうか。   今のところ、この押印要件については、甲案、乙案、丙案それぞれについて、なお検討すべきなのではないかという御意見があるという状況なのかと承っております。他方で自書を要しない範囲については、先ほど隂山委員から、現在の自筆証書遺言についてはこれでよいのではないかという御発言がありましたけれども、ほかの委員、幹事からは特に御意見を頂いていないという状況かと思います。また、秘密証書遺言の方式について自筆証書遺言の場合と異なる点があるかどうかという問題についても、今のところ特に御発言を頂いておりませんけれども、こうした点につきまして何か追加の御指摘、御発言等がありましたら、是非頂ければと思いますが、いかがでしょうか。 ○相原委員 前半部分なのですが、これに関しましては甲案、乙案、丙案に関して、それぞれを支持される御発言をいただいたかと思っています。私は、最初拝見したときに、乙案も魅力的かなと思ったのですけれども、後の説明を聞いて、確かに実務的に難しいところがあるなというので悩んでいたところです。また今、各委員からそれぞれ積極的な御発言があったので、試案として出され、聴いていただくとすれば、やはり甲案、乙案、丙案いずれも聴いていただく必要があろうかと思っております。   その上で、まず、自書を要しない範囲につきましては、ここでまとめてくださった以上のことは、他の弁護士からも聞いておりませんので、先ほど隂山委員もおっしゃいましたけれども、同じような意見を持っております。それから、秘密証書遺言につきましても、まとめますと、いわゆる公証人の場合は別にして、自筆証書遺言とパラレルな結果になるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの甲案、乙案、丙案につきまして御感触を頂いた上で、自筆証書遺言の問題と、それから秘密証書遺言の点について御発言を頂いたと考えます。御提案があった方向について、それと異なる方向でといった御趣旨ではないと承りました。   ほかにいかがでしょうか。 ○内海幹事 話としては自筆証書遺言の話になるかもしれないのですが、乙案が少し手続的に重たくなるというのは、私も第一感としては思っておりまして、押印を要求すればしなくて済んでいるはずのことについて、こういう手続を仕組むというだけのメリットがあるかというのは、少し疑問がないではないと思います。他方で、方式で解決できない問題という問題として、事後的にある種の裁判手続によって、本当にこれは遺言者の真意に出たものなのかということを実質的に判断するというアプローチそのものは、有効な場面もあるだろうとは思っておりまして、それが現在の危急時遺言であるとか、そういったケースに厳密に限られなければいけないかと言われると、そうでもないような気もします。けれども、自筆証書遺言の多くでそういったものが必要になるようなやり方は、さすがに効率が悪いのではないかという気はしております。   もう一点、慣行というふうに先生方あるいは部会長がおっしゃっているところというのは、手続法ないし証拠法の目から見ると、これは経験則が成り立っているかどうかというようなところに翻訳されて聞こえてくるところがあります。印影があるということから押印したといえるかどうかも一つの問題ですけれども、仮に押印したとすればその人のそのような意思であるはずだというような推定が今後も可能であるのかどうかということにその話が関わってくるということかと思います。しかし逆に、署名によって物事を完結させるという慣行があるのかと言われれば、そちらはそちらで、ないような気もいたしまして、では、押印を廃止したらこれからはサインの時代になるかというと、恐らく電子化の時代には、紙に署名をみんなが頻繁にするという時代が来るわけでもないとすると、押印のこれまで何がしかの背負ってきた機能を署名が代替してくれるということに今後期待できるというわけでもないような気もいたします。一例としては、後で真正性が争われるというようなことになったときに、今までだったらまず印影に着目をして、その印影がどういうものか、そして、それがどう管理されてきたものかというようなことから物事を考えてきたものに、それをなくしたときにどういう判断がなされていくのかと、その判断のクオリティーみたいなものに、これまで押印をベースに考えてきたものがそれほど信頼に足るものだったかということについても議論の余地がある一方で、それすらなくなったときに、生身の、これが自筆だということの判断というものを我々がある程度納得可能な形で安定的に判断するということが本当にできるのだろうかと。これまでやってきたことも大したことではなかったという認識に基づけば、それはしようがないことだという割り切りもあり得るかとも思いますけれども、なくした後の世界については少し想像をはせた上で、どちらに軸足を置いて検討していくかということは考えていく必要があるのではないかという、これも感想ですけれども、そういうことを思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。内海幹事からは、2点だったかと思いますが、乙案について手続的に重いのではないかという話が出ているけれども、実質的な判断を事後的に行うということ自体は現状でも一定程度行われている、それをどのくらい広げるかという問題として捉えることができるのではないかといった御指摘を頂いたかと思います。それから2番目に、押印をやめるということになったときに、ではサインということになるのかというと、サインが現在普及しているとか、あるいはこの先普及していくと考えてよいのかどうか、そう考えるのが難しいとすると、どういうことになるのかということも想定して議論すべきだと、こういう御指摘を頂いたかと思います。ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。 ○戸田委員 少し派生的な話で恐縮なのですけれども、保管制度があった場合は、PDF化して保管するというやり方もあって、そこに電子署名を打つということも可能だと思うのです。そうすると利便性も向上する、今後の世界においては、そういうこともあるかと思います。私も自筆証書遺言書保管制度を実際に利用したときに、押印していなくて、近所の文房具屋に印鑑を買いに行ったことがあるのですけれども、マイナンバーカードを持っていたので、これで署名を有効にしてもらえると非常に助かったのになというような経験がございましたので、申し上げます。 ○大村部会長 ありがとうございます。今、戸田委員から保管との関連について御発言がありました。先ほど倉持幹事からも、押印がなくても保管制度と結び付けるのならばということで御発言があったところで、押印に代えて署名だけでいいのかというのと、いや、保管と結び付けることによってというのと、両様あるのだろうと思いますが、今日の資料の中には保管の話が必ずしも前面には出てきておりませんけれども、保管と結び付けるというようなこともこれまでに、あるいは今日の御発言の中にもあったということで、これからもなお検討していくべき問題として残っていると受け止めております。   ほかはいかがでしょうか。 ○宮本幹事 先ほどから押印の意味につきまして、真意性の確保という観点と、重要な文書について押印する慣行があるという観点からの議論が多かったかと思いますけれども、自筆証書遺言についての押印の意味について述べた平成元年の最高裁判決が、「遺言の全文等の自書とあいまって、遺言者の同一性及び真意を確保する」とも言っており、真正性にも言及していて、遺言者が書いたものかということを確認する意味もあるのだろうと思います。   公正証書遺言と秘密証書遺言は公証人に接して作成しますので、公証人法が適用され、公証人法28条に基づき本人確認がなされる、そこでは印鑑証明などで本人確認がなされます。これに対して、自筆証書遺言においては遺言者の同一性をどう確保するのかというところが問題となっていて、確かに、現行法のもとでも押印といってもどのような判子でもいいとされているため、押印にどれだけ意味があるのかという御指摘はもちろんあるとは思いますけれども、押印要件をなくしたときにどうなるのか、押印をなくしても遺言者の同一性も確保できるのかというような観点も必要かなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。真正性の確認、確保というのが押印要件に担わされているところがあるが、それがどうなるのか、押印要件だけでそれを実現できるのかどうかという話はまた別だけれども、それが弱まるということをどう考えるのかという御指摘を頂いたと理解をいたしました。   ほかには御発言いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、第1、第2の部分につきまして、第1の2の押印要件の部分に意見が集中した形になったかと思います。甲案、乙案、丙案とございますけれども、先ほども申し上げましたように、どの案にもなお検討する余地があるのではないかという御発言があったということで、今日のところは引き取らせていただきたいと思います。ただ、甲案や丙案を採用するとして、これに多少の緩みというか余裕を持たせる必要があるのではないかという御発言も複数あったということを確認させていただきたいと思います。その余の問題につきましては特に大きな御異論等はなかったということで、今日のところは先に進みたいと思います。   次の議題ということになりますけれども、部会資料6の第3の部分について御検討を頂きたいと思います。第3の部分につきまして、事務当局の方からまず御説明をお願いいたします。 ○大野関係官 部会資料6の第3について御説明します。7ページの本文第3では、特別の方式の遺言の方式要件について、現行規定を修正する場合の検討の方向性と、デジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方の大きく二つに分けて検討しております。   1の現行規定を修正する場合の検討の方向性では、(1)アの死亡危急時遺言に関して、作成することができる場面について現行規定を維持することも含め引き続き検討し、方式については、現行規定に問題点があるとの指摘も踏まえ、修正の要否について引き続き検討すること、イの船舶遭難者遺言に関して、作成することができる場面について、現行の文言に限らず航空機遭難や天災その他避けることのできない事変も含むことを明文化し、方式については、現行規定を維持することも含め引き続き検討することを記載しております。また、(2)の隔絶地遺言に関しては、作成することができる場面について、現行の文言に限らず、一般社会との交通が事実上又は法律上自由に行い得ない場所にあるもの全てを含むことを明文化し、方式については、現行の規定を維持することも含め引き続き検討することを記載しております。   2のデジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方では、冒頭で、本文1における特別の方式の遺言を作成することができる場面についての検討を前提とすることを記載しております。(1)アでは、死亡危急時遺言について、現行規定における3人以上の証人の立会いの下での口授、筆記及び読み聞かせ等の要件の枠組みを踏まえつつ、考えられる在り方として(ア)と(イ)を例示しております。(ア)は、遺言の内容を筆記した文書又は文書に代えて作成した文字情報に係る電磁的記録に加え、遺言者が口授する状況を録音・録画した電磁的記録を作成する在り方であり、この在り方の場合には証人の数を現行の3人より減少させることも考えられる旨記載しております。(イ)は、現行規定の口授、筆記及び読み聞かせに代えて、遺言者が遺言を口述する状況を録音・録画した電磁的記録をもって遺言とする在り方であり、やはり証人の数を現行の3人より減少させることも考えられる旨記載しております。   イでは、船舶遭難者遺言について、危急時遺言において例示した(ア)及び(イ)の各在り方について、更に方式の緩和を検討することが考えられること、遭難又は災害等に際して遺言者が置かれる状況を考慮すると、特に(イ)については、遺言者が遠隔地にある者に対して録音・録画に係る電磁的記録を送信するものとすることも考えられることを記載しております。これに対し、(2)の隔絶地遺言については、公正証書遺言及び秘密証書遺言の作成が困難な場合の特別の方式と位置付けられるところ、一定の要件の下にではあるものの、令和5年公証人法改正によりウェブ会議方式を用いた公正証書遺言の作成が可能となることも考慮し、デジタル技術を活用した新たな方式を設けないことも含め、引き続き検討することとすることを記載しております。   補足説明として、8ページの1では、特別の方式の遺言の方式要件の在り方については、第4回会議において、デジタル技術を活用した新たな方式を追加することについて否定的な意見は見当たらず、また、現行規定についてはこれを存置しつつ、現代の状況に合わせて一部修正することを検討すべきとの意見、さらに、危急時遺言と隔絶地遺言とを区別し、それらの趣旨等を踏まえ、規定の現代化、合理化を図る必要性や具体的方策等について検討すべきであるとの意見があり、このような意見も踏まえ、危急時遺言と隔絶地遺言とを区別して、考えられる方向性を記載していると記載しております。   9ページの2では、現行規定を修正する場合について記載しており、(1)において検討の前提として、現行規定における方式要件の概要を記載しております。その上で10ページの(2)では、死亡危急時遺言について作成が認められる場面と方式要件については、一定の合理性を有すると考えられる一方で、遺言者が遺言書を承認した痕跡が残らないこと、現行の確認の審判の実務では真意性の確保がかなり後退していることを踏まえ、現行規定を修正すべきとの意見もあったことなどを記載しております。(3)では、船舶遭難者遺言について作成することができる場面について、大規模自然災害や国際紛争等も含め、現代においてどのような場面が考えられるかを踏まえつつ、特別の方式による遺言の作成が認められる場面を現代化する必要があるのではないかとの意見について記載しております。11ページの(4)では、隔絶地遺言について、公正証書に係る一連の手続のデジタル化や情報通信技術の進展、発展を踏まえても、隔絶地がおよそ存在しないとまではいえないと考えられることなどを記載しております。さらに、(5)では、本文の(注1)から(注3)までのとおり、危急時遺言における確認手続の在り方を見直すことも考えられること、特別の方式の押印要件については、自筆証書遺言及び秘密証書遺言における在り方を踏まえて検討すること、現行規定を修正する場合の検討の方向性として、デジタル技術を活用する在り方については本文2で検討することと整理していることについて記載しております。   12ページの3では、デジタル技術を活用した新たな遺言の方式を設ける場合について記載しています。(1)アの死亡危急時遺言については、普通の方式の遺言におけるデジタル技術を活用した方式を踏まえ、更に方式要件を緩和していく方向性を検討する必要があるとの意見や、災害時等の熟慮の上での遺言作成が期待できないような場面に限っては、録音・録画自体を遺言とする在り方を許容することも考え得るのではないかとの意見などに加え、活用が考えられるデジタル技術としては、広く社会に普及しているデジタル機器を用いて作成することが可能な方式であることが望ましいと考えられることから、録音・録画を方式要件とすることが考えられると記載しております。もっとも録音・録画のみではディープフェイク技術等による偽造、変造のリスクがあることから、証人の立会いを要するものとし、現行規定の要件の枠組みを出発点としつつ、考えられるデジタル技術の活用の在り方の例示として(ア)と(イ)の二つの在り方を記載しております。   (ア)については、部会資料5の普通の方式に関する検討の甲1案及び甲2案並びに乙1案を併せて考慮したものと位置付けられ、この考え方を採った場合、証人の人数を3人より減少させることも考えられる上、電子署名を要するものとする在り方も考えられる旨記載しております。また、証人の人数や録音・録画による撮影の在り方などについても更に検討する必要がある旨記載しております。(イ)については、部会資料5の普通の方式における検討の(後注)を特別の方式において検討するものと位置付けられ、証人による遺言の承認や証人の特定の方法について検討する必要があり、録音・録画自体を遺言とするとしても、文書又は文字情報に係る電磁的記録を併せて作成する在り方についても検討する必要があるとも考えられる旨記載しております。   13ページのイでは、船舶遭難者遺言について、(ア)及び(イ)の在り方から更に方式要件を緩和することが考えられること、遭難又は災害等においてはデジタル機器自体が滅失等するおそれも考えられることから、遺言者が遠隔地にある者に対して録音・録画に係る電磁的記録を送信するものとすることも考えられる一方、受信した者が内容を改変したり、真実は送受信自体がなかったにもかかわらず、ディープフェイク技術を用い、これがあったかのように録音・録画を他人が偽造したりするなどのリスクについても検討する必要があることを記載しております。  (2)では、隔絶地遺言について、公証人改正により公正証書作成手続のデジタル化が実現され、そもそも作成場面が限定的であることに加え、現行規定の下でもワープロソフト等のデジタル技術を活用する余地があることなどから、デジタル技術を活用した新たな方式を設ける必要は高いとは言い難いとも思われる旨記載しております。   以上、第3では、特別の方式における現行規定及びデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の在り方について御意見を賜ればと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございました。最後にまとめていただいたように、現行規定を修正する場合の検討の方向性というのと、それからデジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方という二つに一応、分けていただいているかと思います。   御意見を頂く前に、まず御質問があれば、そちらからお願いしたいと思いますけれども、何か御質問がありましたらお願いをいたします。   特によろしいでしょうか。それでは、御質問も含めまして御意見の方をお願いしたいと思います。どなたからでも結構ですので、挙手をお願いいたします。 ○隂山委員 隂山でございます。第3の2のデジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方について、述べさせていただきます。検討を進めるに当たりまして、新たな方式の遺言の方向性によっては、特別の方式の遺言の方式要件の在り方についての検討の方向性が変わり得るのではないかと感じました。例えば、部会資料5の自ら作成することが必須ではなく全文等を口述する状況を録音・録画し、電子署名をする方式である甲1B案や、録音・録画ではなく証人関与型としての甲2B案、あるいは録音・録画自体を遺言とする方式である(後注)②が採用されたような場合に、部会資料6の8ページ御記載の提案と要件が重なる部分であったり、包含するであったりということがあるのではないかと感じました。   これまでは検討する必要が特段なかったかと思われます自筆証書遺言と死亡危急時遺言の差異という視点ですけれども、デジタル技術を活用する方式が認められることにより、新たな方式のデジタル技術を活用した遺言であるのか、死亡危急時におけるデジタル技術を活用した遺言であるかが判然としないということも生じ得るのではないかとも感じましたので、新たな方式のデジタル技術を活用した遺言との差異に留意をしながら検討を進めていかなければならないと考えております。   その上で、録音・録画のみをもって死亡危急時遺言や船舶遭難者遺言として認める場合には、フェイク動画のリスクを避けて通ることはできないとも考えています。また、電磁的記録を送信するという点で生じ得る議論としましては、受信したデータを遺言原本と見て差し支えないか、電磁的記録が作成された端末を発見することができなかった場合、送信されたデータと受信したデータの同一性をどのようにして確認するのかなどが考えられると思われます。 ○大村部会長 ありがとうございます。隂山委員から大きな議論の仕方についての御指摘と、それから具体的な御意見を頂戴したと思います。従来、普通方式と特別方式との間の違いということについて特に大きく意識することはなかったけれども、デジタル技術を導入すると両者の関係が曖昧になるところがあるのではないか、この関連について明確に整理をする必要があるのではないか、こういう御指摘を頂いたと理解をいたしました。その上で個別の問題については、こういう場合にやはり問題が生ずる、疑念が生ずるのではないかということで、録音・録画の偽造というかフェイクの問題と、それから送信に関わる問題、これも複数のものを御指摘いただきましたけれども、やはり本物なのかということに関わる問題というのがあるのではないかという御指摘だったかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○中原幹事 2点ありまして、まず、現行規定の修正について、隔絶地遺言ですかね、本文の17行目から21行目に掛けて、場面は一般的な形で明文化すると、方式は現行規定を維持となっているのに対して、補足説明の11ページの17行目から29行目辺りに書かれている最後のところに、場面及び方式について現行規定を維持するとなっていて、ここのところはずれが生じている、場面についての説明が補足説明のところで欠けているのではないかと思います。先ほど質問のところで指摘すればよかったことかもしれません。   いずれにせよ、ここの補足説明で書かれていることからすると、この場面及び方式について現行規定を維持するという結論にはならないのではないかと思います。確かに現行規定を維持したという場合には、10ページの11行目から15行目辺りで書かれているような伝染病隔離者に限らず一般社会との交通が行い得ない者全てが含まれるという解釈は依然として妥当し得るのでしょうけれども、やはり本文の方に書かれているように、それを文言上明らかにするということは必要であると思われますし、それから11ページの17行目からの記載のように、現在では交通ではなくて通信の環境が重要であるというのであれば、尚更、その旨のより一般的な規定の形に977条を修正すべきことになるのではないかと思います。その場合には、978条は船舶の場合の特則というような位置付けになるのかなと思います。ただし、船舶の場合だけでいいのかという問題はあると思います。さらに、977条、そのときに立ち会うのが警察官となっているのですけれども、通信が問題だとなるとすると、警察官の話なのかということも併せて考える必要があるのではないかと思いました。   それから、2点目ですけれども、デジタル技術を活用した新たな方式についてですが、前提として、特別方式の遺言を認めることの正当化の根拠として、自筆証書遺言をするということが困難な状況にあるということと、デジタルの通常方式で遺言をすることが困難な状況にあるということの二つを考える必要があって、前者の困難性というのは、これは場面設定によって普遍的に妥当する事柄なので、後者の方のデジタルの通常方式で遺言することが困難であるという、こちらの方が重要なのかと思います。ここでは、デジタルの通常方式をどのようなものとするかが前提となる、当然そうなるのだと思います。   死亡危急時遺言については、遺言者本人が弱っているだけなので、仮にデジタルの通常方式における本人の負担が大きくなくて、周りが代替し得ることが多いという場合には、さほど劇的に要件を緩和する必要はないというようなことになるのかなと思います。他方で船舶遭難者遺言、これは航空機の場合もそうだという話ですけれども、これについては遺言者を取り巻く状況自体が危機的であるという前提なので、使用できるデジタル機器自体が非常に限られているため、ノーマルな死亡危急時遺言で認められる方式に加えて、かなり思い切って緩和された方式で遺言をするということが許されるというような、図式的にはそういう整理になるのではないかと思いました。   部会資料を読んでいて、どの状況と比べてどうなのか、どうするのかという、特別方式を考える前提の事柄をどう理解しているのかが分かりにくいと感じたため、発言させていただいた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。中原幹事からは、第3の1と、それから第3の2の双方について御意見を頂きました。1については、(2)の隔絶地遺言について、本文と補足説明の間にそごがあるのではないかという御指摘を頂いた上で、本文のような考え方の方がよいという御意見であったと受け止めました。明文化をすべき場合がやはりあるのではないかという御指摘を頂いたものと理解しています。それから、2の方については、特別方式についてデジタルを活用した新しいものを設けるというとき、それが用いられる場面というのは、普通方式の遺言が困難であって、かつ新たに付け加えるそれに相当するデジタル方式の遺言、これも困難だということが加わるということを出発点にして、では後者の要件となる困難さがある場面というのはどのような場面なのかということを仕分けて考えていく必要があるのではないかと、こういう御指摘を頂いたと受け止めました。資料について補足の説明があれば、頂きたいと思います。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。11ページの28行目、9行目辺り、こちらが本文に必ずしも合致していないということは御指摘のとおりでして、そして本文に書いてある内容を軸に資料を作成すべきであったということを補足いたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、御意見いただければと思いますが、いかがでしょうか。 ○小粥委員 細かいところで恐縮なのですけれども、質問に関わるようなところでございます。第3のところでいっている修正という言葉の意味なのですけれども、形式的に受け止めると、現行の民法の条文の言葉を変えるということを意味しているのだと思うのですけれども、もう一つ、実質的に今までやってきた方式で行われた遺言が無効になる可能性があるのかどうかというレベルでの修正かどうかということも私は関心がありまして、部会資料の作り方はそこが必ずしも読み取りにくいのですけれども、私の言った後者の意味での修正ということがあるかないかということについては、その辺りはどの程度、検討されているのでしょうか。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。御質問に御質問で恐縮なのですが、現行規定の作成することができる場面についての修正というか明文化、これに関わる御質問という理解でよろしいでしょうか。 ○小粥委員 いえ、もう少し広くて、第3のところで使っている修正という言葉の意味で、もちろん明文化するということは形の上では法改正なわけですけれども、別の言い方をして、また違う言葉を出すと混乱を招くだけかもしれないのですが、実質について今までの実質を変えるのか、それとも足すだけなのかというようなことです。 ○大村部会長 今まで有効だったものが有効でないという場面が出てくるのかと、そういう趣旨ですか。 ○小粥委員 そのとおりです。 ○齊藤幹事 事務局としては、そういった場面は恐らく出てこないことを前提に資料は作成しておりました。と申しますのも、実質的に何か変える、そして変えることの方向として、広げるのではなくて特に狭くする、そういった場合には、これまでできていたものができなくなるということがあり得るのかもしれませんが、資料作成の際の意図としては、これまで解釈上許されてきたことに文言を合わせるということで、そうすると、特に広げることも狭めることもしないという発想で資料は準備したつもりでございます。 ○大村部会長 小粥委員の出発点は、この特別方式については現状が望ましくないという考え方もあるのではないか、現状を修正して、例えば広く認められすぎているので、その現在の状況を前提にするならば絞りを掛けるべきではないか、そういう意見もあり得るのではないかと、こういうことを含んでいますか。 ○小粥委員 いや、そこまでは私自身は含んでいないです。 ○大村部会長 そうですか。では、今の御質問に対するお答えとしては、齊藤幹事のお答えでよろしいということですか。 ○小粥委員 はい、ありがとうございます。 ○大村部会長 分かりました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○戸田委員 デジタル技術を活用した新たな方式を作る場合の話なのですけれども、少し話が戻って、部会資料5では遺言の方式ではオフライン的なものしかなかったのですが、将来的にはスマホを使った本人確認というのがかなり普及してくることが想定されます。そうすると、オンラインでもって保管を受けるといったようなことも技術的には可能ではないかと思っておりまして、そういった方式を使うのであれば、ディープフェイク等の混入も避けられるということになろうかと思いますので、先々においてはそういったオンラインでの遺言の作成・保管の方式も検討していくべきではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。今、オンラインを使ったものを検討すべきだという御指摘だったのですけれども、特別方式との関係で何かございますか。 ○戸田委員 特別方式でも、オンラインが方式化されれば、それを使って保管するということも可能ではないかと思います。 ○大村部会長 御趣旨としては、特別方式だけに限るというわけではないけれども、今ここの議論との関係でという御発言だということですね。分かりました。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○齊木委員 非常に細かいことを申すようで恐縮なのですけれども、公正証書遺言というのはリモートでテレビ会議で作れるようになっています。法律ができた後、議論されているのは、証人がどこにいるべきかということなのです。これも恐らく証人、ビデオ会議でお友達をつないでやった場合に、遺言の場所にいなくてもいいという規定にするかどうか、恐らくはっきり規定した方がいいかもしれないというのが1点です。また、その場合は、実は何が原本かという隂山先生の問題が非常に重要でして、証人又は本人が保存するというふうにすれば、保存をそこの場所で決めてもらって、例えば遺言者が誰々さん、保存してねと言えば、それが原本になるというような規定ぶりにしておけば良いと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございました。証人の所在、どこにいるのかということで、その所在について制限を掛けなければ、人数を仮に減らさないとしても、その負担とは必ずしも大きくないということにもなってくるだろうと、それから、直前の戸田委員の御発言とも関係するのかもしれませんけれども、誰がどこで保管するのかというようなことについても幾つか選択肢があるかもしれないといった御発言を頂いたものと理解をいたしました。   ほかにはいかがでございましょうか。特に御発言はございませんでしょうか。   特別の方式の遺言の方式要件の在り方ということで、先ほどから複数の御発言でも触れられていたところかと思いますけれども、前の方の本体という言い方が適切かどうか分かりませんが、新しい方式の遺言というものをどのようなものとするかということとの関連で、先ほど切り分けの問題も出てくるという話もありました。そちらが議論されないとなかなか具体的なところに入れないということが前々から言われていたところでありますけれども、前の方の議論がだんだん具体化してきたのに伴って、後ろの方についても従前よりは立ち入った整理をしていただいているかと思います。ただ、それにしてもやはり前の方の問題が依然としてあるということで、このぐらいの整理で先に進むということで御提案を頂いているものと受け止めました。   それで、皆様から留意事項や考え方について御指摘がありましたけれども、ここで提案されていることについて、特に強い賛成とか反対とか御意見が何かあるようであれば御披露いただけますと、この後の検討に役立つかと思うのですが、何かありましたらお願いをしたいと思います。 ○相原委員 デジタルの問題で、遺言書の作成、新しい在り方を考えるというのが出発点であろうと思います。その中で、特別方式のところも同じような形で考えていく、特にデジタルの利用とか、さらには録音・録画、これは本体の方ではなかなか要件化の方は厳しいけれども、それも危急の場面では利用の可能性があるのではないかというような御提案はありだと思います。要は、いわゆるデジタル化といっても本当に日進月歩で、非常にいろいろなことが出てきているので、ここで思い切ったことを日本で最初に提案していくのか、それとも、少なくともこれは行けるだろうというようなところで慎重に行くのか。あとは現状が本当に問題があるから微修正、例えば、従前の解釈として一般的なところ、例えば船舶とかというのをもう少し一般条項的な文言にするとかいうような話なのかということです。どんどん新しく変えていく、いろいろなものを採用していく方向なのかというところの視点といいますか、それが少しまだ私の中では定まっていないというところが正直言って、あります。   したがいまして、今回2順目で、パブリックコメントとかを出す方向になっているわけですけれども、そういう視点も含めて、どんどん条文を変えて、細かくかなりのことをアップデートでやるのか、それとも、それを最小限にして確実なところから行こうとするのかという、そこら辺の方向性をもう少し集約した方がいいのかなと、御意見を聞いていて思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。今御指摘を頂いたように、どういうスタンスで立法するのかということについては皆様それぞれお考えをお持ちなのだと思います。また、委員、幹事それぞれの中でも幅というのがあって、どの辺りがいいのかというところについて具体的な判断は揺れるというところもあるのではないかと思っています。相原委員がおっしゃっているのは、そうしたところについて皆さんの御感触を伺いたいということですか。 ○相原委員 今ではなくてもいいのですけれども、要はそこら辺で大分違ってくると思うのですよね、採用すべき方向性だとか。それから、内部の意見を聴いたところも、特段の必要性はないのではないか、需要が来ていないのにどんどん変えていくのかどうか、みたいなことも一方ではあるかなと思います。そこら辺は委員、幹事の御意見も聴きたいし、それから、最終的にパブコメ等でも御意見を聴いていただきたいところであると、そういうことでございます。 ○大村部会長 皆様の御感触を伺うとともに、個々の問題についてどうかということと併せて、デジタル化社会において立法するときに、特に遺言の問題について立法するときに、どんな構えで立法するのが望ましいと感じるかといったことについても、この部会の外の御意見も欲しいと、こういう御要望を頂いたと理解をいたしました。   この後、ヒアリングを予定しておりますけれども、実は参考人がいらっしゃるまでまだ少し時間がございます。相原委員に、今、御発言いただいたので、何か御意見を頂いて、それでどうなるかということがここで定まるということではないのですが、せっかくですので、御感触等がもしあれば伺えればと思います。   今日の議論の範囲内でも、将来の技術の変化というものをどのくらい読み込むのかということで、先の方を考えて議論するのか、現状で考えて議論するのか、あるいは現状で議論するけれども近い先のことは織り込んだような、あるいは織り込めるようなスタイルにするとか、いろいろな選択肢があるのではないかと思いますけれども、その点についての御感触、それから工夫のあり方、こんな形で立法したら先の状況にある程度まで対応できるのではないかというようなものもあるのではないかと思いますので、何かその辺について御発言があれば承っておきたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○柿本委員 主婦連合会の柿本でございます。主婦連合会の会員は一般市民である女性が多い構成となっております。先日この件に関しまして話合いを持ちましたところ、公正証書遺言に関しては、かなりデジタルの要素などを取り込んで時代の流れに即して変更してきているので、この方向性については理解ができるし、信頼もできる。しかし、自筆証書遺言に関しては、財産目録は既にデジタルでの作成ができるようになっているので、それ以上のデジタル化は、信頼性の観点から時期尚早ではないかという意見が多数でした。また、デジタル方式を採用した署名に関しては、個人によりイメージが全く一致しませんで、信頼性への不安を感じているという意見が多く出されました。   そして、これは中間試案についての本論から外れますけれども、遺言についてもう少しきちんと市民が知るべきではないか、とにかく市民に周知することがまず第一ではないか、という話でまとまりました。一度目で苦労したので、公正証書遺言を作った方、裁判で7年間ももめた方、身内には一切残したくない、全てユニセフに寄附するという文書を残していたにもかかわらず、押印されていなかったのでそうはならなかったという方など、いろいろな事例が出てまいりました。現在の主婦連の到達点でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。公正証書遺言の現状を前提として、そのデジタル化は理解ができるけれども、自筆証書遺言についてはデジタル化についてそれほどの要望があるわけではないのではないかといった御感触を御披露いただいたと思います。最後におっしゃった広報の点は、法改正するときには常に必要なことになりますけれども、今回は遺言のデジタル化ということで、遺言自体、亡くなる方の財産の処分に関わることでありますし、それがデジタル化されるということで、今お話がありましたけれども、なかなかそのイメージを形成することが難しいところがありますので、どんな形の法改正をするということになりましても、これを丁寧に説明して制度についての理解を深めていくということが必要だろうと思います。この時点でそのことを改めて確認しておくということには大きな意味があるだろうと思ってお話を伺っておりました。   ほかに何か御発言はございますでしょうか。 ○戸田委員 技術のどの辺りにターゲティングするかという話なのですけれども、基本的には現状の自筆証書遺言と同程度のものを法的には定めておいて、それで不十分なところは、先般の部会第4回会議で参考人のプレゼンテーションにあったように、技術を使って将来の遺言無効確認請求訴訟に対抗し得る強度を付けていこうといったようなことは民間サービスがいろいろ考えると思うのです。そういったところに任せておけば、いろいろな技術が発展していっても徐々に民間企業が取り込んでいくというようなことになろうかと思いますので、基本的なところは自筆証書遺言ベースのもの、前回でいうと甲案、乙案、ございましたけれども、ああいったもので実現しておいて、そこから先の電子化するような部分は技術の進歩に任せるといったようなやり方がいいのではないかと思いました。   今、柿本委員からもあったのですけれども、例えば遺贈寄附を法人相手にする場合には、相続人側に納税義務が発生するケースもあり、そういったことも知らずに遺言を書いてしまうということも多々あろうかと思うのです。そうした場合に必要な知識を遺言者に与えるような民間サービスも、今後出てくるのではないかと思いますので、利便性の向上などは市場に任せるといったような考え方もあろうかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。民法の立法だけで完結するものとは考えないで、民法の立法で一定のことを行い、あとはこの先の展開に委ねる、あるいは民間にある様々なノウハウのサポートということも期待する、そういう考え方があり得るのではないかという御意見として承りました。   ほかはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   どの辺りを見据えて立法するのかということ、また個別の問題についても、それを意識しつつ考えなければいけないということで、パブコメを頂いて次の段階に入りますと、特定した形でどうするのかという問題に直面するということになろうかと思いますけれども、本日のところは相原委員から問題提起いただきましたので、それについて多少の意見交換をさせていただいたということで、進みたいと思います。   部会資料6「遺言制度の見直しにおける論点の更なる検討(2)」につきまして、おおよそ御意見を頂いたのではないかと思いますので、ここまでということにさせていただこうと思いますが、よろしいでしょうか。   それでは、参考人の御都合もございますので、3時40分まで休憩ということにいたしまして、3時40分に再開ということにさせていただきたいと思います。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、これから後半でございますけれども、参考人のヒアリングに入らせていただきたいと思います。   常岡参考人におかれましては、本日大変お忙しい中、詳細な資料を御準備いただきました上で当部会に御参加を賜りまして、誠にありがとうございます。常岡参考人から本日、アメリカ及びカナダにおける遺言法制についてのお話を伺いまして、今後の当部会における検討にいかしてまいりたいと考えております。何とぞよろしくお願いを申し上げます。   まず、最初に常岡参考人の方から御説明をお願いしたいと思っております。どうぞよろしくお願いを申し上げます。 ○常岡参考人 それでは、アメリカから始めたいと思います。   アメリカの相続制度の概要ということで、日本法との比較で最も重要なのは、手続がそもそも異なっているという点かと思います。アメリカの検認手続はプロベートを必要としていまして、これはイングランドの制度を承継していますけれども、遺産を裁判所の監督の下に管理する、その発想としては、信用の置けない遺言執行者や相続人らから、被相続人の債権者や相続による受益者を保護するという、そういう考え方に基づいていると、大きくはそのように言うことができるかと思います。   その上で、実際にどのぐらいの人たちが検認裁判所を利用し、そこではどのような手続が具体的に行われているのかという話を最初に簡単に少し触れておきたいと思います。そもそもアメリカでは国民の64%ぐらいの方が遺言を作成することは重要だと考えているけれども、実際に作成しているのは32%程度で、減少している傾向にはある。エステイト・プランニングをしていない人たちの40%ほどが、それに見合うほどの資産がないということを理由として挙げているといったデータも示されているところではあります。そのエステイト・プランニングをしない人たちの中でも、遺言をすることと、それ以外のエステイト・プランニングでは少し差異があるということになりますので、まず、遺言と遺言がない場合の検認について資料に簡単に挙げておきました。   資料の(2)になりますけれども、アメリカにおいてプロベートというのは、裁判所で遺言を形式的に確認する手続のみを指すものではございません。プロベート・コートは、検認手続の申立人の主張立証に基づく遺言の有効性の確認を行うこと、そして遺産管理の開始から終局に至るまで、遺産に属する財産の収集、それから債権者らからの請求の清算や遺産の決算や分配、そしてそのような終局に至るまでの遺産管理の全般、全過程をプロベート・コートで管轄するという仕組みになっています。   検認財産の分配は、人格代表者と呼ばれる遺言執行者若しくは遺産管理人の指名から始まります。そこにおいて遺言の有無、その有効性、あるいは無遺言であることの事実認定等をまず行うのですけれども、検認手続自体も簡易な手続と、それから厳格な手続に分かれることがあります。簡易な手続ですと、(2)の3番目の段落になりますが、遺言に補助裁判官、レジストラーによって検認命令が出されることで済みますし、そうではなくて遺言自体にウィル・コンテスト、疑義等があるときには、裁判所による検認裁判によって、いずれにしても遺言が有効であるということが確認されて初めて遺言執行者の指名とか相続受益者への財産の移転が可能になるのが原則といえます。   ここでは、州によって検認手続は具体的には千差万別ですので、統一検認法典、すなわちUPC、ユニフォーム・プロベート・コードの規定を模範として御説明をしておりますけれども、そこでは、いざ検認手続が始まって、これでよろしいということで人格代表者を選ぶ際には、法定のリストというのをUPCですと用意していて、多くの州法もそのような法定のリストがありますけれども、その中から形としては裁判所が人格代表者を選任するということになっています。優先順位としては、例としまして、資料にありますように、遺言で指名された者が第1、それから、受遺者である生存配偶者、その他の受遺者等々と続いていく、UPCの3-203条でそのような順位も規定されているところです。   無遺言相続の場合には、遺産の管理人ですね。遺言がなくても遺産管理人を選任して、管理人の下で裁判所の監督に服しながら遺産の清算や分配を行っていくということで、検認裁判所は決して遺言だけを対象とするのではなくて、無遺言の場合も原則としてはプロベートの手続が必要ということになります。   ただし、無遺言の場合に遺産の額が少額であるときには、相続人は検認手続を回避して人格代表者の選任なしに遺産を承継することができるという特則も置かれています。UPCだと2万5,000ドルを超えない財産しか残っていない場合という一定の目安があります。多くの州でもこのような例外規定はもちろん置かれていますが、遺産がこれを超えると、原則としてプロベートが必要になってきてしまいます。   そこで、このような煩雑な手続を回避するために非検認、ノンプロベートの承継方法ということがアメリカでは実は主流になっています。被相続人の遺産は、プロベートを受ける検認財産とノンプロベートの非検認財産に大きく分けられて、非検認財産は、遺言と遺言のない無遺言相続以外の方法で裁判所の検認手続外で承継が可能な財産という分類になります。そこに例を挙げていますけれども、ジョイント・テナンシーであるとか信託などがその方法として使われています。   したがって、アメリカでは遺言や無遺言相続制度の下の検認手続に乗るよりも、非検認の方法による遺産の承継が一般的となっていますので、遺言を作成する人数の割合がそれほど多くないとはいっても、遺言以外の非検認、ノンプロベートの方法での財産承継のためエステイト・プランニングをする人たちは一定数いて、こちらの方がメジャーであるという状況にあるといえます。   もちろん手続の簡便さもありますけれども、特に遺言の場合には、法定の様式を欠くと遺言は無効になって、遺言者の意思が反映されなくなるおそれがあると、死後にそのようなことが発覚してしまうと対処のしようがないのだけれども、非検認の方法であれば、契約等が手続として中心になりますので、そういった事態を回避できる可能性が高いということで、非検認の方が好まれているという実情もあります。また、検認費用、検認裁判所での費用も高額であるといったこともちゅうちょさせる理由として指摘されるところではあります。そうではありますけれども、遺言については検認手続で行われるとなっていますので、それに従ってやっていくと。   今日もテーマになるかと思いますが、事前に御質問等を少し拝見しましたけれども、検認裁判所で一体何をするのか、それから証人はどのような役割を負うのかといったことに恐らく御関心がおありの委員の方々も多いかと思います。その前提として、検認の手続ですけれども、検認の趣旨としましては、遺言の検認手続を請求する者は遺言の有効性を証明する責任を負うということが大前提です。ただ、これは原則としては、遺言がそれぞれの作成の方式に関する要件を満たしているということを示せれば、一応クリアされていると考えられます。それに対して、検認手続の中で、遺言者が遺言作成に当たって不当威圧等を受けていたとして検認に異議を申し立てる者が生じる場合もあります。その場合には、異議を申し立てた者が不当威圧等の推定を生じさせる事実を主張立証しなければならない、ここで立証責任が転換されます。さらに、それがなかったこと、あったこと等の証明が検認手続の中で検認裁判所で進んでいきますと、そこで、遺言に立ち会っていた証人の証言等が証明の一環として用いられることになる、これが大枠で、一つの例として、このような扱いということで証人の意義が挙げられるかと思います。   その次の資料の(ⅱ)は、正式検認と略式検認に関するUPCの扱いで、正式の検認手続というのは訴訟手続だけれども、略式検認は、先ほど申し上げたように簡略な補助裁判官による確認でよいというものであります。この辺りは資料を御覧いただければよいかと思いますが、では実際にその遺言の方式はどうなっているかということで、電子遺言が対象の関心事となっておりますけれども、統一法では電子遺言は飽くまで特則という位置付けで、原則的な遺言の方式はUPCの中に置かれております。UPCが遺言の方式として認めているのは、証人を用いた遺言、公証人による遺言、そして自筆遺言の3種で、そのうち証人遺言等は自己証明遺言にできますので、大きく分けると、この3種と、プラス自己証明遺言という形になります。   証人遺言と公証遺言ですが、要件はUPCであります。資料に書いてありますけれども、書面の作成、そして遺言者又は他者がする遺言者の姓名の署名、そして証人による証明か又は公証人による認証で、ここが選択の対象となっているということであります。この書面の要件は、紙に記載されているものに限られません。合理的な範囲で恒久的な記録であればよいとされています。   本日、御質問を事前に頂いてもいて、証人は何の証人になるのかということでしたが、署名がなされたというのが基本的な証明の対象になります。遺言者によって遺言者の遺言書というものに署名が遺言者の意思でなされたということを証人によって証明するというのが基本の対象となるのですけれども、それに当たって、資料4頁の②で、この署名については、他者が遺言者の代わりに署名する場合は、遺言者がきちんと認識をもってそこに立ち会い、コンシャスなプレゼンスがあること、そして、遺言者の指示によって署名することということで、遺言者の指示によって署名がその書面になされたということが一番の要になるという位置付けかと思います。   証人又は公証人の立会いについては、証人の場合には2人以上の証人が必要です。署名又は遺言者によるその署名の承認、若しくは遺言書の承認に立ち会ったということと、そして証人自身もその遺言書に署名するということが要件ですし、あるいは公証人を使う場合には、その公証人等認証の法的権限を有する者の前での遺言書の承認ということが要件となります。   この証人の要件につきまして、あるいは何か要件があるのかという御質問が出るかと思いましたので、資料へ少し書いておりますけれども、UPCでは、証人が当該遺言について利害関係を有していないということは要件としては挙がっていません。利害関係のある当事者によって証言された遺言であっても有効であります。利害関係のある証人は、たとえその前の遺言や無遺言相続によって得たであろうものより多額の遺贈がなされたとしても、それを得る権限を証人になったことによって失わない。   その理由として、これはUPCの公式の解説で述べられているところですが、利害関係のない証人を要件とすることは、遺言に対する詐欺や不当威圧を回避するのに役立つわけではないと、むしろ不当威圧の事案では、威圧者は証人として自分で署名することはしないだろう、利害関係のない証人をあっせんする行動をとるであろうから、余り意味がないことであるというのがUPCの立場です。   ただ、これは州法によって異なります。例えばカリフォルニア州法では、遺言の証人への遺贈は、当該遺贈が強迫、威嚇、詐欺又は不当威圧によるものだという推定規定が置かれていますので、必ずしも、利害関係を有さないことを要件としないのがアメリカの一般的な要件であるとはいえません。ただ、UPCは先述の立場をとっているということになります。   具体的に、証人遺言と公証遺言の要件は以上ですが、それを自己証明遺言の形にすることができるというのが日本と違う、アメリカ独特のやり方であるかと思います。遺言書の作成や証言、遺言者によるそれらの承認及び証人の宣誓供述書による認証を、公証人等宣誓をつかさどる権限を有する役人の前で同時に行って、公的なシールを押してもらうと、そういう役人の証明書によって証拠立てることによって、証人が死亡等してしまって実際にプロベートの検認手続のときに裁判所に出頭できない、証言できないという場合であっても、自己証明遺言の形で、宣誓し供述書を付することによって、それが適正な遺言作成の要件を満たせていることを示すことができる。原則としてそのような宣誓供述書の付いた自己証明遺言は有効な遺言であるということを踏まえて、遺言の検認手続を行うことが可能になるという点でメリットがあります。   証人が死亡した場合だけでなく、この宣誓供述書が付いた自己証明遺言であれば、プロベートの手続でわざわざ証人を呼んで、いちいち遺言の有効、無効を確認することなく、有効であるということを前提に手続をしていくと。そこでもちろん、更に宣誓供述書の不備であるとか、あるいは証人の宣誓自体の無効を争う者が出てくれば、更にプロベート・コートで遺言の有効、無効を争いますけれども、そうでなければ原則として宣誓供述書によって、プロベートの手続で更なる有効、無効の確認をせず、原則としては検認手続が進むという、そういう役割を担っています。   UPCは、自筆遺言も認めています。日本の自筆証書遺言と恐らくかなり感覚が違うかと思いますけれども、UPCの要件自体は、遺言者の署名があること、そして、遺言書の有効な部分が遺言者の手書きで書かれていることの2点が挙がっています。もちろん州法では、これに日付とか、いろいろな要件が具体的に加わっているのが通常といえると思います。UPCは、本質的な部分のみが自筆であるということを要件としていますから、一部がタイプとかされていても、それは有効な自筆遺言と扱われ得ますし、更に検認手続を経ますので、自筆遺言の場合に文書中、遺言者の手書きでない部分があったとしても、外部証拠ですね、遺言に記載されたもの以外のエクストリンシック・エビデンスによって、当該文書が遺言者の遺言であるという遺言者の意思を立証すれば、それは有効な遺言となるということです。実際に自筆遺言の要件自体を厳格にして、そこをもとに有効性を生じさせるという扱いはUPCはとっていないということがいえるかと思います。   ただ、アメリカではそもそも自筆遺言を遺言の方式として認めていない州もあります。自筆遺言ですと証人もいないし、プロベートの手続でほかの相続人等から遺言の有効、無効が争われる可能性が高い、わざわざそういうものを作らずに、プロベートでの紛争を避けたいという意識も強いので、自筆遺言はアメリカではかなり謙抑的な位置付けかと思います。遺言の方式として自筆遺言を認めている州でも、日本と同じように全文と日付が自筆であることを要求する州もあります。それから、一種の特別方式の遺言のようなものですけれども、戦争中の軍隊の所属者とか、航海中の船員についてのみ証人のない自筆遺言を認める州、ニューヨークなどの例もあるという状況です。   このように、通常の方式でも遺言のパターンとして、日本とはかなり異なっているということがいえるかと思いますが、さらに、検認裁判所が入りますので、遺言に関する治癒の法理というのがアメリカでは一般的です。これはカナダでもそうですけれども、裁判所は、遺言作成の方式について不備がある場合であっても、遺言を無効とせず、あるいは不備を修正して、被相続人の真の意思を表す遺言書の検認が否定されないようにするという、そういう法理が発達しています。実質的遵守の法理と、無害の手続的瑕疵の法理というのがあり、実質的遵守の法理は、仮に欠陥があったとしても、欠陥がなければそれ以外は方式を全部満たしているときに、裁判所が方式と一致したとみなすということができるという法理ですし、無害の手続的瑕疵は、法律適用免除権限ともいわれるのですが、被相続人が当該書面を遺言としていたという明白かつ確信的な証拠があるときには、制定法との不一致を問題にしないで、裁判所がそれを認定して、遺言書を有効として検認手続を行うことが可能となると、そういった権限です。UPCにもこの権限が規定されていますけれども、これはUPC独特のものではなく、従来からアメリカの各州の遺言に関するルールでこのような治癒の法理というのが用いられてきたということになります。   あと、遺言の変更と撤回についても規定があります。州ごとにこれも若干の違いがありますけれども、前の遺言の全部又は一部を撤回する遺言、あるいは撤回行為による場合という2種類のパターンがあって、撤回行為による場合と、遺言によって撤回する場合とで、若干要件が異なるという規定をUPCは用意しているところであります。   ここまでが一般的な遺言に関するルールですが、では電子遺言はどうなるかといいますと、統一電子遺言法が特則のような形で統一法委員会から公表されています。これは2019年7月に採択されまして、現在13州で導入が決定されていて、既に9州で施行済みです。先ほどの無害の手続的瑕疵法理とか、適用免除権限というのは、実は従来からデジタルなものであったり電子的な方法で書かれた遺言の救済方法として、近年、特に利用されてきたという実情があります。個別に検認裁判所の判断によるこのような法理による救済ではなくて、制度の一つとして電子遺言という方式を法律によって正面からもう規定すべき時期に来ているのだということで、2019年にこれが採択に至ったということです。   過去の例としましては、電子機器を使用して作成された遺言書ということで、三つの判例が有名なものなのですけれども、そこで電子機器を使用してというのは、パソコンによる作成やタブレットにスタイラスペンで書かれた遺言書です。その場に証人が2人いて、証人の前でパソコンによる署名を記入した遺言書が有効かどうかということで、先ほどの治癒の法理を用いてこれを有効としたテネシー州の判例が2003年に出ています。また、同じくタブレットや携帯電話で作成された遺言ということですけれども、タブレットにスタイラスペンで書かれたものとか、あるいはワープロで打ち込んだ遺言ですね、これも従来から、プリントアウトされずにパソコンの中に保存されていたようなものについても、適用免除権限等を用いて、ハームレス・エラー・ルールで救済してきたということです。   証人のないケースとしましては、ホートンのミシガンの例ですが、これは携帯電話の中のテキストアプリに遺言書を打ち込んであったもので、証人はいないのですが、ミシガンは自筆遺言を認めていますので、携帯アプリのエバーノートに、ウェブでクラウドで保存できる、そこの中に遺言書が保存されていたものを自筆遺言として有効と認めるという判例が出たりしていました。   そういうように個別の件で有効と認める方向にあったのですけれども、明確なルールが必要であろうということで、統一電子遺言法では、従来の書面による遺言の方式に加えて、デジタル方式で作成された遺言にも正式な遺言として法的効力を認め、裁判所の検認手続を可能とするということで、証人遺言、公証遺言、そして自筆遺言に加えた4番目の遺言という位置付けになると思います。   そこでの目的としては、資料7頁に挙げているような方針に基づいて起草がされました。具体的には、遺言者の意思について永続的かつ信頼できる証拠を提供するものであること、遺言者の意思が理解可能な方法で表現されていて、裁判所や人格代表者が遺言の有効性に関して訴訟に及ぶことなく有効に執行できることを可能とするものであること、電子遺言となる電子書面が最終形態のものであることを確保できること、遺言能力を有して、詐欺、強迫等を受けずに作成したものと判別できることというのが要点となるのですが、これを全部満たすためにどのようなことをULCでは考えたかということで、次に具体的な要件に行きます。   技術面については、特定の電子媒体や電子機器の使用を規定することは、この統一電子遺言法、UEWAでは、していません。将来の技術発展に対応できるように、柔軟な規定を置いたということです。結局、電子遺言の要件については、統一電子遺言法も証人遺言と公証遺言の方式に倣ったものであり、自筆遺言を電子遺言にするという方法はとっていません。したがって、資料の①、②にありますように、遺言者又は遺言者の物理的立会いの下でその指示によって他者が名前を署名する時点においてテキストとして読むことのできる記録というのが一つ目の要件となります。それから②として、少なくとも2人の証人が立ち会っていること又は公証人が立ち会っていること、とされていて、これがUEWAの電子遺言の要件です。   電子的に作成された記録を本人の電子遺言とする、これを遺言とするという意思があるということが遺言であることの大条件になりますので、そのような意思については必ずしも電子記録そのものではなくて、ここでもやはり外部証拠によって立証しても構わないという、プロベートの手続での外部証拠による立証の余地を認めています。テキストとして読むことができるということなので、コンピューターのプログラム・コード等は駄目だということだし、音声の録音や録画というのも駄目だけれども、証拠として、プロベートで争われたときに、この遺言書が遺言者の意思に基づいた有効なものだという証拠としては用いられるということです。   一方、音声ファイルのテキスト変換プログラムによって作成された電子文書とか、先ほどのタブレットにタッチペンに記載した文書とか、パソコンにワードで保存された遺言とか、携帯電話にテキスト保存された遺言等は電子遺言となるということで、ここで先ほどの各種の判例を取り込んだ形になっています。ここはUEWAの公式の解説でこういうものは可能だということが指摘されているところで、従来の州法の判例に沿ったものになっています。   電子遺言の署名とは何かということで、UEWAに定義があります。署名される記録を認証する意図で作成・添付等された有形のタンジブル・シンボル又は電子シンボル、若しくはプロセスをいうということで、いわゆる公開鍵と秘密鍵のようなデジタル署名のみを指すものではありません。   具体例として、これもULCの公式の解説に挙がってるものですが、電子遺言に通常のフォントや筆記体でタイプされた署名、署名の電子コピーを貼り付けた署名も、署名であるという意思をもって行われたのであれば、電子遺言の署名の要件を満たすとされています。さらに、他の種類のシンボルやプロセスが使用される可能性も否定しないという形で要件が置かれているということです。   証人が何を証明するのかということについて、これは通常の遺言の場合も共通ですが、証人は遺言者による署名であることを証明するということがメインにあります。それと関連して、プロベート・コートで証言が必要となれば、遺言者の意思と遺言の内容に一貫性があるか、遺言作成に当たって遺言者への不当な干渉があったか等について証言をするという役割を担っているということですけれども、証人の立会いのメインは、遺言者自身がその書面に対してその意思で署名を付した、遺言者の意思であれば他者が代わって署名をしたことでも構わないという、その事実を証明するのが証人の役割と位置付けられています。その立会いですが、統一電子遺言法では、実際に物理的に同席することのほか、ウェブ・カメラによる遠隔的な、電子的立会いも認めるという方法をとっています。   ここまでは証人遺言についてですけれども、公証遺言についても電子遺言の作成を可能として、公証人の対面又は電子方式による遺言認証を受けたときは、証人がなくても、この点は通常の遺言と同じですけれども、公証人の立会いによって電子遺言を作成することができます。   それから、電子遺言も自己証明遺言とすることによって、プロベート手続で原則有効性が推定されるということになりますが、作成、証言及び遺言者の承認と証人の宣誓供述書をもって認証に関する自己証明を行うことで、自己証明遺言とできると規定されています。   可能であれば、遺言制度のデジタル化に関する調査研究報告書(参考資料2)の52ページを御覧いただければと思いますが、作成時に認証される自己証明遺言の例として、統一電子遺言法の8条に電子遺言の自己証明の要件というのがあります。このようなフォーマットが統一電子遺言法の中に書き込まれています。そこの「私は」以下で、「私、(氏名)は、遺言者であり、宣誓の上、本証書に私の電子遺言として署名し」とあり、このように自発的行為で行ったこと、それから18歳以上であること、心身が健常で不当威圧を受けていないこと等を、「下名の役人」すなわち公証人に対して宣言しますといって、遺言者がここに署名をする。さらに、証人2人がいて、証人たちも、私たちはこれを公証人に対して宣言しますというのがある。そこで、州の役人すなわち公証人が、遺言者が署名して宣誓して認証したこと、証人がまた宣誓したことを証明しますとして、署名を書くといったフォーマットです。自己証明遺言は、このような形になっています。   では、先ほどの資料に戻ります。このようなことで、自己証明遺言というものをULCは推奨しているというか、統一電子遺言法の中にフォーマットとして置いていて、それを各州でカスタマイズして使っているということです。   次に、方式の欠陥や瑕疵の治癒ですが、電子遺言についても治癒の法理が認められています。結局、遺言に厳格な方式を求める理由は何かというと、遺言者に遺言意思があることを表すための役割であるというのがアメリカでの基本的な考え方なので、無害の手続的瑕疵法理というのは、遺言の方式が厳格に遵守されていることによる遺言意思の確認を、直接的に遺言者の意思に関する証拠によってプロベート手続の中で置き換えて、遺言者の遺言意思をそこで認定して、有効な遺言なのかどうかということを判断していくと、そういうものだと言われています。   統一電子遺言法では、先ほどの電子遺言の要件を満たさずに作成されたテキストとして読み取り可能な記録について、明白かつ確信を抱くに足る証拠に基づいて、その検認を請求した、申し立てた者が、死者が当該記録を本人の遺言や、あるいは撤回も同じなのですが、撤回等とする意思を立証することを要件として、そのような記録を電子遺言の要件に合致しているものとみなすとしています。先ほどのハームレス・エラー・ルールの規定を電子遺言につき明文として置いており、検認裁判所による救済の手続が定められています。   なお、電子遺言が作成された場合に、途中で撤回ということが当然生じるのですが、電子遺言の場合は複数、原本というかコピーとかがあるので、どうやって撤回するのかというのが当然気に掛かるところではあります。統一電子遺言法では、電子遺言の全部又は一部を撤回することを明示した遺言又は抵触遺言ですね、これら撤回等の遺言は電子遺言以外の遺言でも構いません、遺言によって撤回することができるとしており、遺言による撤回が原則です。ただ、物理的行為によっても撤回ができるということも認めています。その場合には、遺言の全部又は一部を撤回する意思をもって遺言者がその行為を行ったか、又は他者に指示をして、この者が遺言者の物理的立会いの下でその行為を行ったことが証拠の優越によって立証されることを要するということでありまして、具体例としては、これも公式の解説に載っているところですけれども、遺言をプリントアウトした紙に撤回と記載すること、遺言の電子ファイルに撤回とタイプすること、それから、微妙ですが、電子遺言を削除することやパソコンの「ごみ箱」に入れる方法によっても撤回できる、第三者機関に保存している場合には、そこで指定された撤回方法があるときは、それによってもよいということになっています。   ただ、電子遺言は、先ほど申し上げましたように、先生方御存じのように、複製の原本が存在し得ます。したがって、物理的行為による撤回は確実ではなく、後の遺言により撤回する方がより適切だと、新しい遺言を書いてそちらで撤回する方が、日付も残りますので、より適切だと言われています。遺言に複製原本がある場合に、遺言者がその一つについて撤回する意思をもって物理的行為を行うことで撤回はできるのですけれども、これは結局、プロベートの裁判所での証明の問題になってきます。遺言者が当該電子遺言を撤回する意思を有していたことは、物理的行為による撤回を主張する者が証明しなければならないということで、証拠の優越基準によって撤回の意思を証明することになります。   このような形で電子遺言を作成したりするのですが、結局、紙の原本を作るということが付随的に行われるケースも少なくないということなのです。これは資料の(v)になりますけれども、電子遺言の検認の請求者は、もしも偽証すれば偽証罪が適用されるものになりますが、電子遺言の紙コピーを提出できるという規定が統一電子遺言法の9条に置かれています。電子遺言の完全で真実かつ正確な複製であることを確約して、認証謄本を作成して家庭裁判所に検認書類として出すことができる。この条文を置いていますのは、やはり各州の検認規則が電子ファイルでの検認手続に対応できていない場合もあるし、検認手続においては電子ファイルではなくて紙の謄本を出せと明確に規定している州もあるので、それに対応する意味で、統一法としてはこのような規定を設けているということになります。   これが統一電子遺言法ですが、各州でも電子遺言制度を導入していますし、UEWAを導入している州もどんどん増えてきています。統一電子遺言法がULCで採択される以前に既に電子遺言を導入していた州としてネバダ、アリゾナ、フロリダ、インディアナの4州があるのですけれども、特にネバダは全米で一番早く、法律を制定して国内で電子遺言を法制化した州です。その後、2001年法の方法ではやはり使いにくいということで、2017年に遺言法を改正しまして、自己証明電子遺言の制度をここでようやく導入したり、自己証明電子遺言についての適格保管者の規定を設けたりしていますので、ここではネバダの電子遺言制度を簡単に取り上げようと思います。アリゾナ、フロリダ、インディアナについては報告書の方に記載もしておりますので、御関心があれば、そちらをまた後日、御覧いただければ有り難いかなと思います。   そこで、ネバダなのですが、まず通常の方式として自筆遺言を認めているのです。方式としては2種類で、証人遺言と、それから自筆遺言が従来からありましたが、そこに電子署名が付されたコンピューターファイル形式の電子遺言を2001年に導入し、それが2017年に更に改正されてグレードアップされたという状況になります。口頭の遺言はネバダでは特別方式としても認めていません。日本にあるような特別方式の遺言はありません。   電子遺言の定義がネバダ州法で規定されていて、電子遺言とは、①電子記録の中で作成、保存されていること、②日付と電子署名があること、さらにここが恐らく御関心が多いかと思いますけれども、③○a遺言者の認証特性ですね、オーセンティケーション・キャラクタリスティックがあること、あるいは○b遺言者が電子署名をその面前で行った電子公証人が遺言者の面前で記載した電子署名と電子シールがあること、若しくは○c2人の証人が電子署名をして証人となっていること、この③の○a、○b、○cは、どれか一つがあることが要件ですが、2001年の法律では、○aの認証特性のみの要件しかありませんでした。それを2017年に電子公証人若しくは2人の証人でもよいという○bと○cの要件を法律に加えて電子遺言の充実化を図ったということであります。   認証特性の例として、これもネバダ州法のところに解説として挙げているものですが、指紋とか網膜スキャン、音声認証、顔貌認証、ビデオ録画、デジタル化された署名、その他その者に固有の特徴を用いた商業的に合理的な認証という定義になっています。ここのデジタル化された署名というのは、いわゆる私どもがもしかしたら思っているデジタル署名ではなくて、電子的手段によって作成され、生成され、又は保存された手書きの署名のグラフィック画像を指すということが、これは定義として規定が設けられていますので、ネバダではそういうものを当初、念頭に置いていたと言えるかと思います。   2017年の改正法は、もう少し定義を整えまして、遺言における電子署名とは、記録に署名する意思を持ってある者が実行又は採用した電子的な音、象徴又はプロセスで、当該記録に添付され又は論理的に結合されたものをいうとしています。「電子的」の定義もある、電子文書の定義も置かれているということで、資料にあるように、電子記録の定義もあります。電子記録というのは、電子的手段によって作成、生成、送信、通信、受信又は保存されるものという定義で、ブロックチェーンも含まれるけれども、それに限定されるものではないということで解説を付けております。   このような要件で作成されたものを自己証明遺言にできるということで、証人の立会い、証言をもってする証人遺言ですね、証人遺言は自己証明遺言にもできるということですが、その次に要件がありまして、公証人の前で証人がした宣言書、宣誓書面を添付するということです。そこでは、リモートの立会いも可能であるということで、この辺りは先ほどのUPCと似ているかと思いますが、ネバダの特徴は、自己証明電子遺言とするためには適格保管者に保管されることが必要だという、そういう要件が加わっています。   それから、ネバタの場合は紙の原本をプロベート・コートの検認手続に出すのですけれども、紙の原本になる以前においては常に、人は替わってもいいのですが、とにかく適格保管者である人に保管されていたことというのを要件にしています。この要件を満たせば自己証明電子遺言になりますが、この要件を満たさなくても電子遺言はできます。ただ、自己証明遺言とするためにはこの要件が必要だということで、ただの電子遺言であれば、これは先ほどUPCでも出てきましたけれども、検認手続で有効性が争われれば証明しなくてはいけないという手続が加わってくるということになります。   自己証明遺言にする場合の適格保管者の要件がありまして、相続人、受益者、受遺者は適格保管者になることができない、それから、適格保管者はセキュアなシステムを採用していること、そこに電子遺言の電子記録を保管していることが要件となっています。そして、電子遺言の電子記録に、遺言以外に遺言書の証人の写真とか、ドキュメンテーションとか、立会いのときの記録とか、そういうものも一緒に保存しておいて、必要があれば検認裁判所に提出する義務を負うと、情報提供する義務を負うということになります。撤回するときには、自己証明遺言の場合、適格保管者に言うのですけれども、その場合には適格保管者は、撤回証明書という形で撤回をそこで書くか、確認するということになります。結論として、こういう要件を満たせば、弁護士事務所でも適格保管者になれますし、また、デジタル保管庫等の民間提供事業者も適格保管者になり得ます。   仮に自己証明遺言ではなくて通常の電子遺言等、適格保管者の管理下に置かれていたのではないものが発見された場合についても規定があり、電子遺言を発見した者は、それを裁判所に提出すると、そこでは資料13頁にあるように規定に従って、いろいろな問題がないという記載をした宣誓供述書を作成した上で提出をするということになります。それで問題がなければ、裁判所ではそういった適格保管者に保管されていない通常の電子遺言も、もちろんプロベートの手続に行きますけれども、そうでなければ、つまり、もしも争う人が出てくれば、証人の証言等により有効性を確認しなければなりません。   このように、自己証明遺言の要件を満たさない電子遺言については、遺言の執行のための検認手続において証明が必要になります。認証特性のみを用いた電子遺言の場合には、証人の立会いがないので自己証明遺言とはなりません。認証特性が付されていることは、遺言が当該遺言者によって作成されたものであることや、遺言を作成して、それに従って死後の処理をするという意思を有していることの証拠の一つとしては、もちろん機能します。ただ、検認手続で、それのみによって遺言が有効と認定されるものではなく、争われなければそれでいいのでしょうが、もしも争われた場合には、自己証明されていない通常の遺言と同様の証明手続を行うということになります。ネバダでは先ほど申し上げたように、電子遺言の検認は紙の原本に変換して行われますので、証明手続としては、もしも証人がいれば、署名証人ではないのですけれども、何らかの形で本人が電子遺言を書いたということを証明できる証人を見付けてくることができれば、検認手続においてその人を呼んでくる、もしも亡くなっていれば、立会いの証人がいたけれども、それも亡くなっていて、しかも自己証明遺言でなかった、みたいなことになったときにどうするかは、ネバタ州法で規定を置いていて、裁判所は利害関係のない証人を直接呼んできて、宣誓供述書などに基づいて、遺言の検認を認めることができるといった規定もあります。   実際の運用がどうなっているかという点ですが、ネバタでは2001年に認証特性のみの遺言を導入しましたけれども、非常に今述べたようなことで使いにくい、自己証明遺言にもできないので、だったら通常の遺言書で証人を置いて自己証明遺言にした方が後でトラブルが少ないということで、なかなか使われなかったというところです。そこで、2017年の改正で要件を加えて、電子遺言も証人遺言を可能にして、公証人の立会いによる自己証明遺言にもできるような改正を行いました。  一般の電子遺言の保管については、特に規定はありません。自己証明電子遺言についてのみ、先ほどの適格保管者による保管を要件としていますが、それ以外の電子遺言については特段、要件は規定されていないというところです。結局、自己証明でない電子遺言については、検認手続での主張立証の問題になり得る、その可能性があるということです。   なお、通常の電子遺言や、それ以外の遺言についても、公的な保管をしてはどうかということで、2009年にネバダ・ロックボックスというのを設けましょうという話になったのですが、結局ネバダ・ロックボックスは余り活用されていませんでして、現在でも、そのホームページを見ていただいたら分かると思いますけれども、遺言の登録ではなくて、成年後見関係の登録とか、医療の事前指示書の保管場所として活用されているにとどまっています。   ネバダについては、デジタル業界から、もう少し進んで、文書の保全に関して一定の資格を満たして遺言者の権利と意向に合致した方法で電子遺言を取り扱うことに合意した保管者の下で作成され、保管されている電子遺言について、有効性を推定するセーフ・ハーバー・プロビジョンを置いてもらえると、自己証明電子遺言でないものでも、電子遺言を作るという一般の人たちの動機付けになるので、これをしてもらえないかという声もあるようです。しかし、ネバダではそこまでは進んでいないという現状であります。   参考までに、資料15頁で、ネバダの2001年法の条文はそこにあるようなものだったのですけれども、2017年の改正で、最初に述べた三つの要件が加わったということです。2001年法の電子遺言、認証特性だけの電子遺言のときには、一応1の(c)項で、正本が遺言者又は遺言者により電子遺言中で指名された保管者によって保管され管理されていることという要件に関する条文はあるのですが、この保管者の定義はなかったのです。2001年法の電子遺言では、単に誰それに保管されるということが指名されていればよい、又は遺言書自身が保管していてもよいという状況だったので、少し使いにくいというか、発見されないという問題も生じるということであったかと思います。   以上が、少し長くなりましたけれども、アメリカになります。続けて、カナダも言っていただいていましたので、カナダの方も続けて行かせていただいて、あとは、事前の質問を昨日送っていただいたりしたものもありましたので、それも含めて少しお話をした上で、委員、幹事の方々の御質問を受けた方がよいかなと思います。   カナダなのですが、カナダはアメリカよりも州の数も少ないし、統一法の条文ももう少し淡泊で、簡単になっています。   カナダはアメリカと比べてイングランド法の影響が多いのですが、更に独自の法を展開してきたという状況ではあります。ここでももちろん遺言の検認や手続は各州の在り方に任されています。   これはカナダがまたアメリカと少し違うところなのですけれども、カナダの場合は原則として、検認手続がないと、例えば不動産の登記を書き換えられないとか、あるいは、これは金融機関によるのですけれども、一定以上の資産、貯金とかは検認手続がないと銀行が払い戻してくれないとか、そういう扱いが州で行われています。具体的にどういう扱いかは州ごとに違いますけれども、先ほどの銀行預金ですと裁判所でのプロベートの許可がないと払い戻してくれませんよと、その金額は銀行ごとに決まったりするので、銀行に行って、プロベートがなくても預金を下ろせますか、みたいなことを相続人が個々に確認することになると、そのような扱いがされているという状況だということです。   ただ、資料1頁にありますように、遺産中に不動産がなくて、金融資産も一定額を下回る場合であれば、検認手続なしに遺産の清算や分配が可能になることもありますし、州によって一様ではないのですけれども、遺言で遺言執行者、いわゆる人格代表者が指名されているときは、この遺言執行者が裁判所を通じずに相続人や利害関係人に通知をして、遺産の清算と分配を行うことができるとする州もあるので、この辺りは州によってまちまちですが、原則はここですね、資料1頁の4番目の段落になりますけれども、一般的には遺言で指名された遺言執行者がいる場合も、検認裁判所に申立てをして、許可、すなわちグラントによって、裁判所が人格代表者を指名する、通常は遺言で指名された遺言執行者の優先等がやはり法定されていますが、グラントを出した上で、不動産登記の書換えとか、銀行の高額の預金の引き出しとか、そういうことを遺言執行者がグラントを持った上で行うというのが原則です。遺言執行者の指名がない場合や、そもそも遺言がない場合には、検認裁判所が人格代表者として、遺産管理人を指名し、遺産管理人を通じないと遺産の管理や清算、分配ができないというのが基本的なカナダの扱いということになります。したがって、カナダの場合は、むしろ遺言できちんと遺言執行者を指名しておくことがスムーズな遺産の取得のために必須であるという発想が強いということが言え、その点では先ほどのアメリカの遺言を避けて非検認で行こうという動向とは少しスタンスが違うといえるかと思います。   カナダの遺言法ですが、カナダの統一法会議というのがやはりありまして、2015年に統一遺言法を定めて、カナダ各州における遺言法の現代化を図り、2021年には電子遺言の導入を目的としてこの統一遺言法を改定しました。カナダの場合には、統一遺言法の一部修正として、その中に電子遺言の規定を組み入れたという改正の形になっています。   一般的な遺言の方式については、カナダでもやはり証人遺言が原則で、2人以上の証人が必要であるということです。もちろん、自筆遺言もカナダの統一遺言法は認めています。この二つの方式が原則になっています。  証人遺言の場合の立会いの要件ですが、カナダの統一遺言法では資料1頁以下にある要件になっていまして、遺言による受益者やその配偶者も、そのことによって証人になる資格を失うものではないけれども、ただ、証人として遺言書に署名した者や、遺言者に代わって署名した者に対して、もしも遺言によって受益処分が行われた場合には、それは無効となり得るということです。これはアメリカのUPCなどと違っているところで、証人になった場合には、証人になった遺言によってその証人が受けた受益は無効となる可能性がある。ただ、これには救済方法があって、不当威圧とか詐欺とかがなかったという主張があり、裁判所がそれを認定すれば、こういう人たち、すなわち受益者等が証人になっても、その者への遺言による処分は有効だとされるのですが、一応、統一遺言法には上述のような要件が付いています。   それから、撤回と変更についても規定がありまして、カナダの統一遺言法の場合には、当該遺言が作成された方式に従ってされた場合のみ変更は有効ですよということで、変更と撤回が少し要件が違うのです。したがって、証人遺言は証人遺言の方式で変更しなさい、自筆遺言は自筆遺言の方式で変更しなさいということです。撤回については、資料2頁のこちらになりますけれども、遺言による撤回、書面による宣明による撤回、それから、撤回行為による撤回が可能ですということになっています。この辺りは一般的な書面による遺言の場合と同様ですね。   それから、カナダでも方式を遵守しない遺言の有効化ということで、法律適用免除権限を裁判所に認めています。カナダで特にやはり多いのは、電子的に作成された文書ですね。作成された文書が死亡した者の遺言意思を具現したものであると明白かつ確信を抱くに足る証拠によって認定した場合は、当該遺言が証人遺言若しくは自筆遺言の要件に従って作成したものでないか、又は、電子形式でもいいという文言が実は元の2015年法の段階から入っていたのです。電子形式で作成されたものであっても、当該文書が死者の遺言として完全に有効であると裁判所は決定することができるという規定が従来の統一遺言法10条にありました。これはやはり裁判所に法律適用免除権限を認めたもので、電子遺言についても裁判所の判断で有効な遺言と認めると、そういう対応をしていたのだけれども、そうではなくて、もう正面から電子遺言の要件を定めて、適用して、様式の中に組み込みましょうというのが改正の趣旨ということになります。そういうことなのですが、ここでは電子方式で作成された文書について、文章や記述、印、抹消についても適用免除の対象になる、重複になるのですけれども、これらすべてに法律適用免除権限で対応しましょうというのが従来の統一遺言法だったということです。   また、遺言の解釈も柔軟で、解釈に関する条文も2015年の統一遺言法の中に入れられていて、そもそも裁判所にこれこれの解釈の権限があるということを法律の中で認容しています。それから、遺言の復元に関する権限も裁判所に認められていて、遺言の一部が欠けているような場合、紙などの場合や、消えていて見えないということについても、復元の権限を裁判所の判断で許すという規定を置いていました。それが、統一遺言法の中で電子遺言というものを正式に方式として認めていこうではないか、法律適用免除権限ではその場限りでの要件の緩和にすぎないので、もう条文を置きましょうとなったのです。   ただし、特徴的なのは、電子遺言の真正性に関する具体的な規定を統一遺言法に置くことはしていません。この点は各州の制定法や規則、弁護士会の実務規約などに委ねるという方式をカナダの統一遺言法はとっています。各州で置かれ得るルールの例としては、電子遺言が保存されている媒体へのアクセスを制限することによって改ざんを防ぐとか、パスワードや2段階認証による保護とか、読み取り専用バージョンのみの提供とか、デジタル保管庫の活用とか、そういうことで真正性を確保したらどうか、どういう方法をとるか、どういう文言にするかは各州に委ねますというのがこのULCCの統一遺言法の立場ということになります。   統一遺言法の電子遺言については、やはり電子形式の定義などが置かれているのですが、ポイントとしては、ビデオや録音による遺言は認められていないという点です。要件としては、簡単ですが、電子形式で作成されたもの、かつ遺言者によって遺言者の電子署名がされているか、又は他者による電子署名が遺言者のために遺言者の立会いの下でされていることが必要となっていて、それプラス、2人以上の証人が同時に立会いをすること、ということが要件となり、証人遺言の形をとっています。証人の立会いは、もちろんバーチャルなものでもよいのですけれども、一方で、明文で、電子遺言によって自筆遺言を作成することは認められないと9条で規定しています。国防軍とか船員の遺言も、これらはいわゆる緊急時の遺言ですけれども、電子方式の作成は認められていないということになります。   電子署名の定義としては、人が文書に署名するために作成し、又は採用した電子形式の情報で、当該文書中にあるか、添付されているか、又は結合されているものをいうとなっています。電子署名の例としては資料5頁のようなもので、定型化された署名の電子版を作成して、それを添付するとか、印とかシンボル使う、あるいは第三者のプロバイダによる認証を使ってもいいですよというものです。統一遺言法の公式の解説に、これらの例が挙がっています。   それから、変更と撤回についてもパターンを分けています。変更も撤回もできるのですが、撤回は、他の遺言によるか、遺言の形式をとらないけれども書面による宣明によるか、それとも撤回行為によるか、事実行為によるかについて条文が置かれています。   遺言又は遺言の一部の一つ又は複数の電子版を消去した場合、どうなるかについては、不注意による消去は遺言の撤回の意思の証拠にはならないという規定が16条に明文で置かれています。不注意による消去かどうかはプロベート・コートで主張立証することになるのですが、電子遺言の場合、原本を特定することが事実上困難であるという点を考慮して、偶発的な削除というものは起こり得るのだが、そういう場合には、そのようなファイルの消去が遺言者の撤回意思と結び付いていることを要件とし、撤回を主張する者がそれを証明しなくてはいけないとする形です。   以上が統一遺言法ですが、カナダでも各州で遺言を電子化する動きがあり、ブリティッシュ・コロンビアは、2021年の統一遺言法の修正案の作成に当然、代表者たちが参加していたのですけれども、統一法より一足早く州法で電子遺言を法制化しています。そこで、例として少しここで挙げています。   ブリティッシュ・コロンビアもやはり自筆遺言ではなくて、証人の立会いによって作成するというのが電子遺言の方式の要件となっています。電子署名につきましては、ブリティッシュ・コロンビアの遺言・遺産及び相続法で、人が記録に署名するために作成し、採用した電子形式の情報であること、そして、当該記録中にあるか、当該記録に添付又は結合されているものと定義されています。撤回についても規定がありますが、ブリティッシュ・コロンビアでは、データの削除か、プリントアウトを証人の前で破棄することとしています。証人の前での破棄はいいのですけれども、撤回の意思をもった遺言のデータの削除もやはり要件の一つとなっているので、先ほどの統一遺言法と同じですけれども、撤回の意思があったかどうかがプロベートで問題になれば、プロベート・コートの前で証明しなくてはいけないということになります。電子バージョンを削除した場合に、複数バージョンが一部残っていた場合にどうなるかは不明確なので、それは遺言の撤回意思があったかどうかの証明に係らせるという扱いになっています。   ブリティッシュ・コロンビアでの電子遺言の導入は、コロナ禍の時期と重なったのですが、コロナに対する緊急措置ではなくて、恒久的な州法であるという位置付けです。資料で生命統計局と訳しましたけれども、そこで遺言書登録簿を管轄して、遺言が作成された日付と、どこに遺言を預けたかということを登録できるようになっています。遺言書自体の登録ではないのですが、所在場所の登録ができて、これは更新ができるので、それを見て遺言の所在を探り当てることを一般人ができるようにと、そういう対応がブリティッシュ・コロンビア州としてされています。   2020年の調査なのですが、州民の50%が署名があって法的に有効な最新の遺言書を有していて、そのうち持ち家の所有者で遺言を有する者は更に数が多く、55歳未満の持ち家所有者では50%強、55歳以上の者では80%以上が遺言を有すると報告されているということです。これは最初に申し上げたように、不動産の場合、遺言書があって遺言執行者が示されていて検認をぱっと受けられないと、登記の名義が書き換えられないという扱いが通常で、ブリティッシュ・コロンビアも同様なので、不動産を持っている者は、特に遺言書を書いて遺言執行者を指名しておかないと、検認裁判所で遺産管理人を選んで手続してもらわないと不動産の登記名義が書き換えられないといったことが起こるものですから、遺言書の作成が非常に多いと言えます。ブリティッシュ・コロンビア州自体も遺言の作成を促進していて、遺言作成ウイークのようなものを、ちょうど今年も10月の初めにあったようですが、そういうキャンペーンを行って、遺言を作成して、特に不動産はきちんとしておきましょう、としているので、そういう影響もあるかなと思います。   こちらで御用意しました資料の説明は以上になります。 ○大村部会長 ありがとうございます。アメリカ及びカナダの法制につきまして大変詳しい御説明を頂戴いたしました。本日冒頭、事務当局の方から、アメリカ法についての質問、カナダ法についての質問、双方に係る質問ということで順番に皆さんの御質問を受け付けると申し上げましたけれども、残りの時間が限られていますし、常岡参考人お一人にお答えを頂くということですので、そのように分ける必要は必ずしもございませんので、一括して御質問を伺いたいと思います。それから、残りの時間との関係で、できるだけ多くの方々の御質問を頂きたいと思っておりますので、まずは皆さん、一番聞きたいことを一つ短く聞いていただいて、常岡参考人から短い答えを頂いて、一通り回ってまだ時間があったら2問目を出していただくと、こういうやり方で進めさせていただきたいと思います。   ということで、どなたからでも結構ですので、まず御発言を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○齊木委員 日頃から御論文とかを読ませていただいて勉強させていただいて、ありがとうございます。それで、今の御講演だと、アメリカでは自筆遺言の制度はあるけれども、余り使われていない、それから、セルフプルービングな遺言とそうでない遺言があるけれども、セルフプルービングな遺言が主として用いられているというふうな印象を受けたのですけれども、それはやはり、アメリカでは結局、遺言は争われることが結構あるので、争いに強い遺言形式が選択されていると、こういう実情だという理解でよろしいでしょうか。 ○常岡参考人 争いに強いかどうかは一概には言えませんけれども、争いが起こる可能性が高いものは避けた方がいいと、わざわざひょっとして争いが起こるような遺言のままにせずに、自己証明遺言にしておけばスムーズな議論が検認でできるのであれば、そちらの方を選択しようということであると思います。それと同時に、遺言自体がそれほど用いられていないというか、非検認の手続の方がもう主流になっているので、多くの人は非検認の手続で、遺言を使わずに死後の財産を処分していますから、それでもなお遺言でというときには、争いを避けてということになるかと思います。結局、遺言に対する発想が多分に違う上に、自筆遺言の信憑性に対する、自筆遺言の位置付けですね、それもアメリカと日本では感覚が違うところはあるかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。 ○谷口委員 信託協会の谷口でございます。今のお話の続きになるのですが、アメリカで非検認の承継が主流になっていると思います。その中で、特にトラストが使われていると思うのですけれども、トラストについて、電子契約とか証人とか、そういった方式要件はアメリカにはないという理解でよろしいでしょうか。 ○常岡参考人 統一電子エステイト・プランニング文書法というのを実はアメリカで統一法委員会が作成しています。自分の原稿で恐縮ですけれども、信山社から先日出版された「家族法学の現在と未来」に載せた論文に記載していますが、エステイト・プランニングにおいて、遺言法、いわゆる相続法、物権法、信託法、家族法等々、保険も含めて、問題になるということで作られました。結局、検認外で電子化の対象になるものとして、14種類の非遺言文書が統一エステイト・プランニング文書法で挙がっています。信託証書とか信託に関するものもここの中で対象になっておりまして、これらも電子署名とか電子シンボルとか、電子化の動きがあります。ですから、アメリカでは遺言以外にも電子化が進んでいるということはもう間違いないし、特に非検認の方がよく使われますので、今御質問いただきましたが、そちらも統一法委員会の方で対応しているという状況と思います。   統一エステイト・プランニング文書法についても、統一電子遺言法よりも新しい統一法なのですけれども、かなりの州が導入をしています。それぞれULCのホームページで、どの州がどれだけ導入しているかもすぐ御覧いただけますので、御確認いただければよいかと思いますけれども、信託についてもエステイト・プランニングの一環として電子化が進んでいる状況といえるというお答えになります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでございましょう。 ○隂山委員 本日はありがとうございました。アメリカの資料の15ページで、2017年改正による電子遺言の要件という改正条文を挙げていただいておりまして、こちらで遺言者の認証特性がある場合には証人は特段必要ないと理解いたしました。この趣旨なのですけれども、認証特性が含まれているケースにおいては、遺言者の確実な当人認証が行われているから特段証人を要求していないという理解でよろしいでしょうか。 ○常岡参考人 認証という、元々あった制度ですので、この改正においてそれを特に削除する必要がなく、証人とそれから公証人によるものを追加したというのが基本的なスタンスですが、認証特性がある場合に、御本人の認証というよりも、本人が遺言意思をもってその文書を作成したということの証拠になるからということではあります。証人による場合も、それから認証特性を使う場合も、結局やりたいことというか必要なことは、本人が、それを自分の遺言であるという、遺言文書として最終的な意思であるということを示したということの意思が示されていればよいということですが、それで絶対ではないということです。認証特性があっても、それをプロベートの手続で争うことは妨げられていない。プロベートの手続で、認証特性はあるけれども、それは万が一他人が付したものであるとか、後に改ざんされたものであるとかということを証明すれば、もちろんそれは無効になる可能性はあるわけですが、常にプロベートの手続を前提として、その上で、認証特性があれば証人を付することは要しないという位置付けだということはいえると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでございましょう。 ○戸田委員 ありがとうございました。1点質問なのですけれども、米国もカナダも遺言を取り扱う電子公証サービスというものが、結構いろいろなホームページで出ているのですけれども、それらの規制官庁としては各州が監督していると思うのですが、15ページの上のところに書いてあった、電子遺言について有効性を推定する規定が改めて必要だというふうなお話については、これは他の文書とは違って遺言特有の何か問題というのがあるということなのでしょうか。 ○常岡参考人 資料15ページの、デジタル業界からはというところになりますでしょうか。この推定規定があれば、検認のときに原則として有効であると推定されるので、もしも有効でないと主張する者がいる場合に立証責任が転換されるということになって、より電子遺言を使いやすい規定になるというのがこのセーフ・ハーバー・プロビジョンの目的ということになると思います。   それで、皆さんも御存じだと思いますけれども、アメリカは公証人というのは日本とは位置付けが違います。サイン証明をする、署名証明ですね、サインの証明をするというのが公証人の役割であって、公正証書を作る権限はアメリカの公証人にはないですよね。そういう意味では、証人による署名の証明と、それから公証人による署名の証明ということについて、日本で思っているような差異は恐らくなくて、その文書をその人が自分の遺言として署名をしたということの証明ができればよい、それが証人であれ公証人であれ、その役割であるという位置付けになります。   それを前提とした上で、ネバダのデジタル業界の場合でも、自己証明遺言でなくても一定の要件を満たした保管者の下で保管されていれば、それは本人の遺言として有効に、途中で改ざんされずに保管されたものだということが推定されるということになるかと思います。例えば、本人の意思で、詐欺とか強迫に遭わずにということは、認証特性が付いている場合には、それは本人の意思で自分の認証特性を付したということで、一応電子遺言の要件としては満たされているのですけれども、ただ、それを争わないということはないというところがプロベートの意味合いと位置付けられ、そこと関連すると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、御質問いかがでしょうか。 ○沖野委員 ありがとうございます。実は3点、認証特性の話と、署名の話と、それから法律適用免除権限の話があるのですが、1点に絞ってということですので、次があればお伺いしたいということにしまして、法律適用免除権限について教えていただければと思います。   元々日本とは検認の意味も違いますし、遺言の執行の手続もかなり違っているのではないかと思いますので、同じようにはできないかと思うのですけれども、裁判所が、要件を満たしていなくても遺言者が正にこれを意図していたと判断すれば、有効という判断をするということを日本で導入できるのかということが気になっておりまして、どのくらいこれが重い手続であるかとか、あるいは元々検認において有効性を確認するということがベースにあるので導入し得たものなのかというのが気になっております。法律適用免除権限の行使に関して、どのくらい手続として重いのか、これ自体が結局、検認の手続に乗せたときに有効性の問題があるのだけれども、既に方式が欠けているというときに、しかし裁判所は問題ないと判断されて、例えばグラントを出すとか、オーセンティケーションを出して預金の払戻ができるとか、そういう形で動くということでよろしいのでしょうか。それが裁判所に不当な負担になっていないかと、最終的には日本で導入できるかということについて、もし教えていただければと思います。 ○常岡参考人 検認裁判所の位置付け自体も、アメリカと日本では大きく異なっていて、検認裁判官はアメリカの場合、いわゆる法曹である必要は必ずしもありません。州や郡によって違いますけれども、選挙で一般の人が検認裁判官として選ばれてよいという考え方があり、そもそもコートの位置付けが少し違っているかと思います。  検認手続というのは植民地時代からずっと行われてきていて、地域の有力者とか、知事、ガバナーとか、そういった人たちが、移民で来ている人たちについてもすぐに相続の問題が生じてくるので、そこで遺産を円滑に渡せるようにというのが、アメリカの場合、発端になっていると思います。検認裁判官自体は一般に選挙で選ばれて、その後、カレッジ・オブ・プロべート・ジャッジズのようなものが全米でありますので、そこでいろいろと学習をして、専門的知識を得てプロベートの手続を行っていくという位置付けになります。それがプロベート・コートですので、裁判所の負担という意味では、日本よりもはるかに数も多いし成り手も多いので、日本のように法曹が家庭裁判所において遺言の無効とか遺産分割とかを扱うというものとはかなり組織自体が違うといえると思います。   このような状況の下で、アメリカの法律適用免除権限についてですが、これは決してUPCで導入されたのが初めてではなくて、リステートメント自体が、コモン・ローのルールとして、遺言者の意思を実現することが何よりも重要であると、もしも遺言の方式が満たされていなくて不備であっても、ほかの方法で遺言者の意思が確認できるのであれば、その意思を実現することが何よりも第一であって、そのために裁判所が関与して構わないのだという発想になっています。そこの位置付けも、恐らく日本法の自筆証書遺言等と比べて考えたときに、かなり扱いが違ってくるのではないかと考えております。そのために外部証拠を導入しても構わないということが統一法の中でも、それから各州法の中でも言われているのは、今申し上げたようなことで、遺言書だけではなく外部証拠を用いて遺言者の最終の意思を実現していくことがプロベートの役割であると、そういう位置付けになります。   なので、それを日本において導入できるかというのは、何とも軽々には申し上げられません。何かの新しい仕組みを設ければ、あるいはできるのかもしれませんけれども、現在の家裁においてそれを行うというのは、なかなか難しい局面があるのではないかという気もいたしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○石綿幹事 幹事の石綿です。今の沖野委員の御質問に重ねてなのですが、法律適用免除権限等で、遺言者が遺言を意図していたという明白かつ確信的な証拠があれば遺言が有効と認められるということですが、先ほど外部証拠という御紹介もありましたが、典型例としてどのようなものが用いられているか、教えていただければと思います。よろしくお願いします。 ○常岡参考人 遺言書の要件以外の典型例としては証人の証言です、もしも証人がいればですが、自筆遺言の場合においては。自筆遺言でも証人を連れてくることはあり得ます。だから、自筆遺言なのだけれども、それを作成していたところを誰かが見たと証言してくれれば、あるいは他に、ほかの文書において、これは自分のものであると、要件が欠けていたとしても、ほかの文書と併せて、それが一体的な形で、何らかまとまった形で置かれていて、ほかの文書によって、方式の欠けた文書が遺言書であるという意思が確認できれば、それはこの法律適用免除権限の対象として、裁判所の判断によって有効な遺言ということになるということが起こり得るといえます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○木村幹事 京都大学の木村です。今日は貴重な御報告ありがとうございました。アメリカ法における証人や公証人の位置付けについてお伺いしたいのですけれども、資料8ページ統一電子遺言法の説明において、証人は遺言者による署名であることを証明する、あるいはその内容の一貫性や、遺言者に不当な干渉などがあったかどうかについての証言を行うとなっているところ、他方で10ページのネバダ州にかかる説明では、電子遺言における電子署名について、証人あるいは公証人の面前で行ったという要件のみが定められていると理解しました。この点を踏まえて、証人あるいは公証人も役割が違うところがあるかもしれませんけれども、これらの者は、遺言者が遺言を作成するどの段階からどのような形で立ち会うのか、あるいは署名の段階のみに存在していれば最低限足りるのか、どのように考えられているのか、教えていただければと思います。 ○常岡参考人 まず、統一電子遺言法は飽くまで統一法ですので、ULC、統一法委員会が出したもので、これはそこの独自の見解になりますし、ネバダはネバダで独自の要件を出しているということになるかと思います。それを踏まえた上で、統一電子遺言法の方での証人の立会いということについて、要件を少し見ていただくとよいのかもしれませんが、立会いについては、署名を確認するというのが統一電子遺言法の方の基本になります。ですから、サインの証明、署名証明というのがUPCの立場です。遺言者が署名をしているところを見るというのが、統一電子遺言法の場合に証人の目的になります。その人がその電子遺言であれ、通常の遺言であれ、それを自分の遺言書として署名をしたというところを確認するのが統一法の場合の証人の役割、立会いの役割ということなので、その場で署名する行為を見てもいいのですけれども、本人が自分の遺言書だということを承認したということを証明しても構わないと、統一法の場合はそういう要件になっています。したがって、ある電子遺言が書かれて、それを本人が、遺言者が署名したということを確認する、あるいは遺言者自身が自分の遺言書だと認めたということを確認する、そのいずれかを証明するという二つのパターンを統一法の方は入れているということがいえると思います。   立会いのところはそういう要件の規定ぶりになっているので、証人は遺言者による署名であることを証明するのですけれども、そこで遺言者による署名、又はそのような署名の承認、又は遺言書の承認を確認したということであるので、中心的には署名を承認するということになりますが、UEWAの書き方自体は、資料7ページの(ⅱ)のところの要件で、遺言書の承認を確認した後ともあり、これは条文そのままの要件ですけれども、署名行為の証明が原則であるけれども、遺言者自身が遺言して承認したということについてでも構わないと、そういう書きぶりになっています。そこで念頭に置かれているのは、それを自分の文書として遺言者が署名をしたか、又は、そこに自分が署名をしたことを承認したこと、自分の遺言書であることを承認したこと、それを証明するのが証人の立会いの趣旨ということになります。   ネバダの方は、これはネバダでの要件になっているのですけれども、先ほど言ってくださったように、資料10ページの③○b○cで、公証人の場合は遺言者の面前で署名とシールを行うと、それから証人の場合も、遺言者の面前で電子署名を記載することということですが、証人の場合は、遺言者が電子署名をその遺言にしたこと、やはり遺言者が署名をしたことの証明ということで、UPCの原則と共通かと思います。公証人の場合については、これはそのままの要件です。こちらも遺言者が電子署名をその面前で行った電子公証人が、ということなので、電子公証人の証明の対象も、遺言者が電子署名を面前で行った、イン・ザ・プレゼンスで行ったことという理解になるかと思います。したがって、結局、遺言者がそこに署名をしたことを証明するというのが証人若しくは公証人の役割ということで、その点では共通になると思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。 ○内海幹事 常岡先生、どうもありがとうございます。私は手続法が専門なもので、アメリカ法の資料の3ページに、検認手続は訴訟手続であるというくだりが出てくるかと思うのですけれども、この訴訟手続であるという表現のインプリケーションが、沖野先生や石綿先生が聞かれたこととの兼ね合いもあって、少し気になりまして、訴訟手続であると日本人が読むと、これはもう公開法廷が出てきて、対審と判決を公開法廷でするという手続が究極的には保障されるような場面なのだというようなインプリケーションを持って受け止める向きもあるかもしれないのですけれども、直感的にはそこまで強い含みというよりは、一定の争いがある場合にプロベートコートが実質的に判断をするという以上の含みでもないのかなというような気もしていておりました。この辺り、これが訴訟だというときには、この判断手続がどういうものであるということについて、何といいましょうか、その共通の感覚みたいなものがどのくらいアメリカにあるのか、あるいは実態としてどういう、例えば、上訴がどれぐらいできるものかとか、そういったことについて何か御存じであれば、教えていただければと思うのですけれども。 ○常岡参考人 今手元にないのですが、もしも可能であれば、アメリカの相続制度の報告書を10年ほど前に作成し、そちらに一般的なプロベートの手続については詳細を記載しておりますので、そちらを御覧いただければと思いますが、アメリカのプロベートは厳格な手続と簡易な手続に分かれることが通常です。UPCもその両方の手続を分けていて、厳格な手続へ行くときには通常、訴訟手続であるという記述がされています。アメリカの訴訟手続自体が、そもそも日本の訴訟手続とどのぐらい違うのかと言われると、私は民事訴訟法の専門家ではなく、アメリカの民事訴訟手続にそこまで詳しいわけではありませんので、ここで両者を比較して詳しいお答えをすることはできないかと思います。   ただ、遺言はプロベートが行われると、裁判の検認記録は原則として全て公開されます。遺言書の内容も公開されて、裁判所のデータベースでアクセスができるものとなります。そういう意味ではプロべートの記録は公的な記録として残るものであって、その遺言書が有効か無効かという裁判所の判断ももちろん法的な記録として残るということになります。もしも厳格な検認手続において遺言の有効、無効を争う場合には、遺言者の意思や、不当威圧や詐欺、強迫があったかなかったか、そういうことを争って主張する側が主張立証しなければならず、遺言者が不当威圧を受けたということを証明できれば、遺言は無効となるという判断がもちろん下されます。そういう意味では、内々の単なる検認手続ということでなくて、やはり一定の訴訟の枠組みに乗ってくるものだということはいえるのではないかと思います。   一方、簡易な検認手続の方は、これは補助裁判官というのですが、私も具体的にどういうものか、州ごとに違うので、一般的なことは言えませんが、書記官とか簡易裁判所の裁判官の方ぐらいのイメージでよいのかとは思いますけれども、その補助裁判官が遺言を有効だと認めればよいということになります。家族の間で、少額の遺産で、争いがなくて、家族の一部の者が遺言執行者に指名されていてという場合に、迅速に検認手続を行うというときには、補助裁判官による簡易な手続で、検認命令を出すことでよい、一方、正式の厳格な手続の場合には検認の決定をする、ディクリーを出すということになります。検認手続について、そういう区別はあるということのレベルではお答えできるかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかはどうでしょうか。 ○相原委員 どうもありがとうございました。遺言作成の率が下がり、むしろ非検認の財産移転方法の例が増えているとのことですが、信託についてかなり増えているというのは私も読んだことがございます。そのほか、合有財産による不動産とか、動産の共同所有とかが、2ページに挙げられているのですけれども、これは、例えば片方の方が合有財産を持っている人が亡くなったら、合有者の方に権利が移行すると、つまり、遺言書を作らなくても、いわゆる相続みたいな形ではなくて、権利移転がそのままできるということとかが利用されている、信託も生前の信託で事前に死後のことを準備しておく方が増えていると、そういう理解でよろしいのでしょうか。よろしくお願いいたします。 ○常岡参考人 ジョイント・テナンシーについてはそのとおりで、合有財産権という形なので、合有者の一方が亡くなれば他方に所有権が移りますので、プロベートの手続は不要になります。それから、生命保険とか、PODや、TOD、亡くなったらそのときは銀行預金を直接この人にお支払いしますとか、亡くなったらこの人に所有権移転します、といった契約もアメリカでは使われているようですので、そういった方法でプロベートの手続を回避するのがよいエステイト・プランニングであり、どのぐらい財産を持っているかによりますけれども、何もせずに放置しておくのは望ましくないという発想があるかと思います。ただ、これもアメリカも広い上に、少し社会の格差というか、教育レベルも、それから財産レベルも千差万別ですので、全ての人に共通かというとそうは少し言い難い面はあるかと思います。ただ、一般的にはこのような非検認の方法が主流になってきているということは、通常言われている状況かと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、もしあれば伺いますが、いかがでしょうか。1回り目はよろしいですかね。   もう時間が来ているのですけれども、沖野委員は先ほど3問あるとおっしゃったので、1問は少なくとも後でと思いますが、2問目、どうしてもということがあったら、手を挙げていただいて、状況を見たいと思うのですけれども、いかがでしょうか。   と言うと、なかなか皆さん遠慮されてしまうかもしれませんけれども、沖野委員、あと2問あるとおっしゃっていたので、1問、まず、どうぞお尋ねください。 ○沖野委員 ありがとうございます。署名についてなのですけれども、電子署名というときには、かなり多様な署名の仕方があるように感じました。例えば、自分でサインをして画像にして貼り付けるというようなものも、アメリカもカナダも電子署名として認められていると理解をしまして、それを前提にですが、そうしたときに、証人がその署名が正に遺言者が遺言に署名するという意図で署名をしたということを、証人が正にそこを担保するということだと思うのですけれども、こういうふうに署名をしているというのはそれで分かるかもしれないのですが、遺言者であるという、その同一性の点が、例えば一定の電子署名に限ることで遺言者しかアクセスできないというようなものであれば、そこで本人だというのが一定の確保になると思うのですけれども、証人の場合、あるいは公証人も遺言者をよく知らないということだと、この人が本当に遺言者なのかという同一性等はどのようにして図られているのでしょうか。やはり、よく知った人が証人になるということなのでしょうか。 ○常岡参考人 よく知った人が証人になるかどうか、私もそこまで実際のアメリカの実務を調べてはおりませんので、それは何ともお答えがし難いところはありますが、先ほど、ネバダでしたか、そこでは、適格保管者が、実際に署名をするときの様子を録画で撮っておきなさいとか、身分証明書を確保しておきなさいとか、そういう要件を加えていますので、州によって、もちろんそのような要件を加えるということはあり得ると思います。統一電子遺言法はそのような細かいことは入れていないので、そこにはありませんけれども、統一法というのは飽くまで統一のモデルなので、それをベースにしながら州法が各自、法律のレベルであれ規則のレベルであれ、適宜対応していくことは可能です。そういうように本人確認を要求する州法ももちろんあります。   署名についてなのですけれども、日本だとおそらく、自筆証書遺言の場合、もしも争われたら筆跡鑑定をして、本人の筆跡かどうか、みたいなことをされて、筆跡鑑定自体も万能とはいえないかと思いますが、まずはそのような方法をとられるのかもしれません。ただ、多分署名の感覚が、これも日本と少し違うかなと思います。つまり、アメリカの署名というのは、その人物が署名をしているという行為を証人が証明するということなので、そこで書かれている文字自体は、極端なことを言えば、本人の名前である必要はないわけです。クロス・サインでもいいし、実際に、紙の遺言ですけれども、スマイルマークを書いた遺言が、法律適用免除権限等を駆使して有効と認められた例などもあったりするので、署名の位置付け自体は、決して本人の名前とかそういうものを確認するということではなく、その署名をしている人が自分がその文書に署名をしたということを証人が証明するということにポイントがあると考えることができると思います。   電子署名ではいろいろな方法がありますけれども、プロセスでもよいというのが出てきます。プロセスというのは、例えばチェックシートのチェック欄にチェックをするということです。あなたの遺言書はこれでいいですか、はい、チェックみたいな、そのチェックをしたことによって署名にするというのも含まれていると言われています。日本と違い、アメリカでは遺言書のフォーマットをあちらこちらで、民間でもそうですし、一定の政府機関や、行政機関系のNPOのようなところもフォーマットを公開していて、そこに書き込んだり、チェックを入れていけば一定の遺言が作成できる、作成したものを証人のところに持っていって、署名するときに立ち会ってもらうといったメカニズムがもうできています。そういったときに、署名を手書きでするようなフォーマットもあれば、そこで先ほど申し上げた、あなたの遺言としていいですか、というところのチェック欄にチェックを入れた、そのチェックがプロセスとして署名に当たるという解釈まで行っているので、そのような状況を考えると、署名自体がどういうものであるかということよりも、その文書、電子文書でもいいのです、それを自分の文書として署名した行為を見るということに証人の役割があると言えます。そういう意味では、自筆遺言の場合もそこに署名をしますけれども、先ほどのクロス・サインだけでも有効な遺言の署名となるという、紙への署名の場合にそういう裁判例もありますので、署名については私どもが日本で考えているような署名とは、遺言であっても、アメリカではかなりその役割や位置付けが違うのではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   沖野委員、すみません、3問目もあるでしょうが、ここまでということにさせていただきたいと思います。非常に内容の多い御報告でしたので、皆様も、まだ時間があれば様々なことを、御質問があるのではないかと思います。しかし、今日お話を伺ったことによって、アメリカのデジタル遺言がアメリカの遺言法のシステムの中でどのような位置を占めているのか、それから、私たちが証人とか署名とかと言っているものがアメリカではどういうものであるのかということについて、常岡参考人のお話を伺って、私も含めて、皆さん、非常に理解が進んだのではないかと思っております。   貴重な時間を割いて本日お越しいただきました常岡参考人に、改めて御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。参考人ヒアリングは以上ということにさせていただきます。改めて、当部会の調査審議に御協力いただきましたことについてお礼を申し上げまして、ここまでということにさせていただきます。   本当にありがとうございました。ここで御退室いただいて、ということでお願いをいたしたいと思います。   それでは、少し時間を過ぎておりますけれども、本日のヒアリングはここまでということにさせていただきまして、審議の方もここまでということにいたします。   次回の議事日程等につきまして、事務当局の方から説明をしていただきたいと思います。 ○齊藤幹事 本日も御多忙の中、熱心に御議論、御質問いただき、ありがとうございました。   次回の日程は、令和6年11月19日火曜日、午後1時30分から午後5時30分まで、場所は法務省20階の第1会議室でございます。   次回は、デジタル技術を活用した新たな遺言の方式の在り方について、事務当局から中間試案の取りまとめに向けたたたき台となるような資料、これを準備させていただき、御議論を頂ければと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。外国法についてのヒアリングと併せて、その余の時間を使って、皆様に幾つかの問題について御検討を頂いてまいりましたけれども、今お話がありましたように、次回からは中間試案のたたき台となるような資料を出していただいて、中間試案の取りまとめに向けて御議論を頂きたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。   それでは、ここまでで法制審議会民法(遺言関係)部会の第6回会議を閉会させていただきます。   本日は熱心な議論を賜りましてありがとうございました。閉会いたします。 -了-