法制審議会 担保法制部会 第51回会議 議事録 第1 日 時  令和7年1月28日(火) 自 午後1時30分                      至 午後3時26分 第2 場 所  法務省地下1階・大会議室 第3 議 題  要綱案のとりまとめ 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○道垣内部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会担保法制部会の第51回会議を開会いたします。本日は御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日は、委員の大西さん、金澤さん、松下さん、内野宗揮さん、さらには幹事の家原さんが御欠席と伺っております。   まず、配布資料の説明をしていただきますので、事務局からお願いいたします。 ○笹井幹事 本日もよろしくお願いいたします。事前に部会資料50の1「担保法制の見直しに関する要綱案(案)」及び部会資料50の2「担保法制の見直しに関する要綱案(案)の補助資料」をお送りいたしました。   部会資料50の1は、本日事務当局といたしましてはお取りまとめいただきたいと思っております「担保法制の見直しに関する要綱案(案)」です。本日お取りまとめいただいたときには、この「(案)」が取れまして、法制審総会において審議されます要綱案として総会にお諮りすることになります。50の2は、これまで同様、前回の部会資料49からのゴシック部分の変更点を見え消しにし、説明を付した補助資料です。後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。それでは、審議に入りたいと思います。本日は要綱案の取りまとめに向けた議論ということになりますが、事務当局におきまして部会資料の説明をお願いいたします。 ○伊賀関係官 関係官の伊賀でございます。それでは、資料の説明をさせていただきます。   部会資料50の2におきましては、前回の部会資料から修正した点と、その補足説明について記載しているところでございます。このうち前回の部会で主に議論となった論点につきまして御説明させていただきます。   まず、第3の11の「牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権の順位の特例」につきまして御説明いたします。前回部会におきましては、動産売買契約等がされた後に第三者がその買主から所有する動産について占有改定の方法により動産譲渡担保権の設定を受け、その後、動産売買契約に係る売主がその売買代金のみを担保として動産譲渡担保権の設定を受けた場合に、後者の動産譲渡担保権が優先するとの帰結について疑問が呈されたところでございます。一方でこれに対しましては、占有改定劣後ルールの趣旨などを踏まえると本文記載の規律にも理由があるという御意見があったところでございます。   確かに、占有改定の方法であっても目的となる動産について対抗要件を備えた権利を有する第三者が現れた場合には、その後は牽連性優先ルールを適用しないとする考え方もあり得るとは考えられます。しかし、牽連性担保権の保護のためにその設定と被担保債権の発生の同時性が必要でないといたしますと、牽連性担保権の設定を受けようとする者は、他の担保権者が現れていないかどうかを確認し、現れていなければ優先的に扱われるということを期待すると考えられますところ、占有改定の公示性が高くないということを踏まえて、その対抗力としての効力を劣後させるという占有改定劣後ルールの趣旨は、この場面でも妥当すると考えられます。また、占有改定劣後ルールの下では、占有改定により設定を受けたにすぎない動産譲渡担保権者は、後から現れた他の担保権が優先するということを受忍しなければならない立場にあり、これは後に牽連性担保権を有する者が現れた場合についても同様と考えられます。   以上を踏まえ、前回の部会資料の案を維持するということとしております。 ○工藤関係官 関係官の工藤です。第9の1(1)及び2(1)につきましては、「譲渡担保動産の引渡しを受けた」としていた点を「譲渡担保動産を現に所持して占有するに至った」などと修正しております。これは、前回の部会での御議論を踏まえまして、実行の終了を引渡しの方法によって判断するのではなく、譲渡担保権者等が取得した占有の態様によって判断しようとするものであり、第三者から見ても外形上明らかな程度に事実上の支配が移転した場合には、通知から2週間が経過していなくても実行の効力が生ずることとするものです。指図による占有移転のうちの一部によってこの要件を満たすかどうかについては、解釈に委ねられることとなりますが、少なくとも動産譲渡担保権者が現実の引渡しを受けた場合と同程度に譲渡担保動産に対する事実上の支配が移転していると評価できる場合には、これに該当すると考えられます。   続きまして、第10の4及び5につきまして、従前の案においては、差押え等がされた場合において固定化が生ずる範囲について、「動産特定範囲のうち差押えの場所に係る範囲」などのように表現しておりました。しかし、動産特定範囲は場所以外の事項を指定することにより定められることがあり、そのような場合には「差押えの場所に係る範囲」は動産特定範囲に含まれているわけではありません。このため、これを「動産特定範囲のうち」であると表現することは必ずしも適切ではないと考えられます。そこで、「範囲」ではなく、どのような「動産」に集合動産譲渡担保権が及ばなくなるかによって固定化の範囲を特定することとしております。このように、修正の趣旨は、場所的な範囲ではなく動産に着目することによって固定化の範囲を表現しようとしたものであり、固定化の範囲については従来の提案からの修正はございません。 ○笹井幹事 最後になりますけれども、第10の6について御説明をさせていただきたいと思います。この組入義務につきましては、動産、債権について議論が重ねられてきたところですけれども、前回の部会におきまして、物の価値を基準とするという考え方を原則ベースとして置きつつ、最先順位の担保権者については元本に関して保証するといいますか、最先順位の譲渡担保権者の被担保債権のうちの元本を割り込むまでの組入義務は負わないという提案を事務当局の方から提案いたしました。   これについて、前回の部会におきましては、その割合として、9割を担保権者が確保する、逆に言えば1割が組入れの対象になるということと、それから、最先順位の担保権者の被担保債権のうちの元本だけではなくて利息まで保証すべきではないかという2点の御指摘を頂いたところでございます。この点につきましては、事務当局におきましても再度検討いたしまして、どのような修正が可能なのか、例えば割合の変更ですとか、あるいは利息も含めて保証するということが制度設計として考えられるかということを検討してきたところでございます。   もちろんこの割合をどのようにするか、最先順位の担保権者の被担保債権をどれだけ確保できるようにするのかということにつきましては、唯一の正解があるというわけではなくて、これまで議論がされてきましたように、一方ではこの制度の趣旨である一般債権者の保護といいますか、一般債権者のための配当原資をどれだけ確保するのかという一般債権者から見た利益の確保と、資金調達にどのような影響を与えるのかということとのバランスを考慮した上で何が最適な制度設計なのかということを追求していくということが必要なのであろうと思います。そういう意味ではもちろん、理屈の上での制度設計は様々なものが可能であろうかと思いますけれども、この部会におきまして、一方ではこれまでもこの組入制度の実効性を確保するという観点を重視した御発言もございましたし、他方で金融実務に対する影響をできるだけ小さくとどめるべきであるという御発言もございました。こういった双方向からの御発言を総合的に考慮して、最終的にこの部会として取りまとめが可能な案というものを事務当局におきましても前回部会以降、検討してきたところでございます。   結論的に申しますと、今回の部会資料におきましても前回と同様の提案を維持するということとしております。これは、やはりこれまでの部会における様々な方向性からの議論を検討したときに、前回提案からの修正は、もちろん理屈の上では考えられるところであり、例えば利息についても全体ではなくて一部分を組み入れることとしてはどうかということですとか、あるいは利息を付け加えるのであれば、その割合をもう少し調整するということがどうかと、様々な可能性としてはあり得るところであろうかと思います。   ただ、一方で制度としての簡明性といいますか、例えば利息の一部分といったときにどのようにそれを算出していくのかなどの制度設計の簡明性も併せて考える必要があろうかと思いますし、またその割合というものを大きくする、あるいは小さくするといったときに、今問題になっている最先順位の担保権者と一般債権者以外にも、例えば後順位の担保権者というものが今後どれだけ出てくるかということも併せて考えていく必要があり、そういった後順位の担保権者の利益を考えていくということも必要になってくるのではないかと思います。こういったものを考えたときに、やはり現在までの部会での審議状況、御発言の状況を踏まえて、あり得る制度設計、これは今申し上げたように簡明性とかそういったところも含めてということですけれども、を考えますと、やはり組入れの割合を10%とする一方で元本保証にとどめるという案以外には、なかなか調整が困難ではないかと考えるに至ったというところでございます。   この点につきまして前回御発言いただきました銀行業界からの御意見は傾聴に値するものであろうと事務当局としても考えておりますけれども、ただ、一方でこの制度の実効性ということを考えたときに、このような案で再度御提案をしたいと考えております。何とぞ御理解を頂ければと思っております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。それでは、どなたからでも結構でございますので、全体について、全体というのは個々の場所のことですが、御意見等を頂ければと思います。よろしくお願いします。   笹井さんからもう1回補足がございます。 ○笹井幹事 申し訳ありません。先ほどの組入義務のところで、もう1点修正したところがありますので、そちらについての説明を補充させていただければと思います。   これも前回部会でも御指摘のあったところですけれども、いわゆる累積型と呼んでおりました集合債権譲渡担保、すなわち、倒産手続の開始によっても固定化しないという合意がされた集合債権譲渡担保について、この組入義務の規定をどのように適用するのかという問題でございます。前回まではこの点について特段の定めを設けていなかったところですけれども、倒産によっても固定化しないということになりますと、倒産手続後も引き続き担保の及ぶ債権の範囲がどんどん増えていくということになりますので、何をベースにしてその9割を算出するのか、計算ができなくなってしまいますので、ではどう解釈するのかという問題が生じてまいります。   そのために、今回の部会資料におきましては、実質的な内容といたしましては、時的な限界を設け、具体的に言いますと、倒産手続の開始時点を基準時にいたしまして、それまでに発生したものをベースに、それまでに回収したものが9割を超えているのかどうかを計算するということにいたしまして、倒産手続後に回収されたものについては別途の償還義務に委ねるということにしております。   部会資料は動産についての規律を債権に準用する形になっておりますので、少し読みにくいのですけれども、それを読み替えるという方法で今申し上げたことを実現しようと試みているというところでございます。   以上です。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。それでは、どなたからでも結構でございますので、御意見等をお願いいたします。 ○日比野委員 ありがとうございます。笹井幹事から御説明いただきました第10の6、第12の2の超過分の金銭の組入義務について、最終的な要綱案の案として、確保される対象は、結論として部会資料49から変わらず、最先順位の元本のみとされた点についてです。法務省案は、笹井幹事から御説明いただきましたとおり様々な事情を考慮斟酌しての結論ということだと理解いたしますし、その帰結についても、ここまでこの部会で長きにわたって議論してきた、譲渡担保を中心とした担保制度の法制化という目的を実現するためにはやむを得ないものと考えますが、ただ、前回も申し述べましたとおり、融資をする金融機関としては、事業を継続するために必要となる全ての費用を利息から回収するということは厳とした事実です。   したがいまして金融機関としては、融資をするという判断の際に元本と利息双方の回収を確実と評価できることを前提とするという考え方は、この規律の導入によっていささかも変わるものではございません。資金需要のある数多くの事業者様に対して安定的な資金を供給するという立場にある金融機関としましては、この規律の導入によって、何か元本と利息とでその重要性に差異があることが認められたといったような理解が生じるのは本意ではありませんので、この点は改めてこの場で明確にしておきたいと考えております。   もう1点、6(1)アで、評価額に10分の9を乗じた額、要するに組入率を10%とするという点も部会資料49から不変とされたということについてです。この点も前回申し上げたことと重なりますが、この規律は、集合動産譲渡担保の対象となるような集合動産全体の価値の維持あるいは増加というものが、他の担保権に比べると一般債権者の寄与による程度が大きいという特徴があるという評価に基づいて、後日設定者に倒産手続が開始したときは、目的物の価値のうち一般債権者がその維持あるいは形成に寄与した部分を一般債権者への弁済に充てると、このようなコンセプトだと理解しております。   この規律で法制化される10分の9という組入れの割合、あるいは倒産手続の開始のみによって組入義務が発生するというこのような枠組みは、今述べたような制度の趣旨によるものでして、例えば、設定者の倒産時において、別除権協定の交渉によって決定される組入率など、この制度趣旨が当てはまらない他の場面においてこのような枠組みとかこの数字とが参照されるべきものではないということは、確認しておきたいと考えております。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。このルールが及ぼす他への影響というものについては消極的に考えるということは確認しておきたいということだろうと思いますが、ルール自体についてはいろいろなことでお認めいただけるということでございますので、ありがとうございます。 ○内野(嘉)委員 横浜銀行の内野でございます。今、日比野委員からお話があったことと重なるところもあるかもしれませんが、私は地方銀行という立場からお話をさせていただきたいと思います。   先ほど笹井幹事から御説明があったとおり、要綱案の案の提案ということでございますが、今まで繰り返しこの論点につきましてはいろいろと議論を重ねてきたところであると認識しております。その中でも、なかなか一つの意見にまとまることがなく、非常に難しいテーマだということは十分認識しているというところでございます。ただ、金融機関として、前回部会資料49が示された後も地銀委員会の中でいろいろと議論を重ねてきましたし、どう在るべきかということにつきましていろいろと議論をしてきたところです。その中で、一貫して全員が一致した意見というのは、先ほど日比野委員からもありましたとおり、元本と利息については両方しっかりと保護されるべきであるということでございます。これが我々地方銀行皆が一致した意見であるということは、是非意見として述べたいと思います。   ただ、一方で、この段階において一番重要なのは、50回、今回51回といろいろと議論を重ねる中で、動産あるいは債権譲渡担保がしっかりと活用されるということを制度として確立するという大きな目的、これは見失ってはいけないということだと思っております。ですので、最終的には今回示されましたこの要綱案の案については受け入れざるを得ないというか、この案を支持するということだと思っております。重ねてになりますけれども、しかしながら、これが全てよしということではなく、やはり我々としては元本と利息の両方が保護されるということが原則であるということは、議論を重ねる中でも、最後まで皆が言っているということ、私もそう思っているということでございます。一方でこの組入率との問題、制度の複雑性というのも、しっかりとこれが使われるためにも、この期に及んでなかなかそこをまとめきるということは難しいということも十分理解しておりますので、今回提案されたものでやむなしということだと考えております。   それと、もう一つですが、これも先ほど日比野委員からもありましたとおり、組入率の10%というものが、ここで法制化するということになるのですが、他のものにこの数字だけが影響を及ぼすということがないように、是非ともここは確認をしておきたいというところでございます。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。いろいろある中で取りまとめに御協力いただきまして、ありがとうございます。 ○笹井幹事 ありがとうございました。今、日比野委員、内野委員から御指摘いただいたところですけれども、ほかの数字にどのような影響があるのかというところについて、お二人から共通した御指摘を頂いたと思っております。   この点につきまして、倒産手続における組入れ、いわゆる管財人が任意売却に協力したときにおける組入率などがどのようになっていくのか、例えば現状がどうであり、何が適切なのかということを私の立場から申し上げる立場にはないのだろうと思います。ただ、この制度の趣旨自体につきましては、これまでも繰り返し部会資料においても記載してまいりましたとおり、これは日比野委員からも御指摘いただいたところですけれども、集合物というものの特殊性というものに着目したものであり、具体的に言いますと、集合物の担保価値の維持でありますとか、あるいは増加する場合もありますので、担保価値の維持、形成に様々な債権者が寄与している部分があるだろうと、もちろんこれは、別に特定物だからといって一般債権者の寄与というものが全くないわけではありませんので、程度問題ということではあろうかと思いますが、集合動産や集合債権については類型的にそういった特徴が特に強く認められるので、この点に着目して作られた規定なのだろうと理解をしております。   そういう意味では、冒頭申し上げましたように、今の実務において行われているいわゆる組入れにおける割合の当否については私は申し上げる立場ではないのですけれども、少なくともそこでいう組入れと今回議論されている制度とは趣旨を異にするものでありますので、今回の資料において御提案した割合というものが、ほかの制度に影響していくということは、事務当局において意図しているものではないということを申し上げておきたいと思います。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。ほかにございませんでしょうか。 ○阿部幹事 関係ないところでもよろしいですか。 ○道垣内部会長 もちろん。 ○阿部幹事 部会資料の第4の3のところについて申し上げたいと思います。先ほど特に説明はなかったところですけれども、前回これに関して御質問申し上げたところでありまして、この規定そのものに反対するわけではないのですが、前回御説明いただいたような趣旨の規定であるとすれば、それで問題ないとは思うのですけれども、ただ、やはりこの文言で行くときに、幾つか残された問題というのがどうしても生ずるだろうなということがありまして、それについて少し備忘のために申し上げたいと思います。   大きく二つありまして、一つは処分といったときの処分の範囲、それから処分できる、できないという場合にどういう効果が生ずるのか、相互に関係していると思うのですけれども、そういった問題がどうしても残されてくるかなと思いました。この集合動産譲渡担保権設定者による特定範囲所属動産の処分ですけれども、まずその処分の中に、前回私が考えていたのは、例えば設定者による特定範囲所属動産の売却のような譲渡を念頭に置いていましたが、そのほかに担保権設定なども含まれるのではないかと、そういったことも考えられているようでありました。ただ、担保権の設定ができると、そのこと自体は総則規定の第2の5というところでも示されているところでありまして、ここで何かそれと違った意味で担保権の設定というものをこの処分に含めるのだとすると、恐らくそれは集合動産譲渡担保権に優先するような担保権を特定範囲所属動産に設定できるかと、そういうことなのではないかと思います。そのことを踏まえた上で、担保権設定というのがこの処分の中に含まれるかということを考える必要があるのだろうと思いました。   それから、もう一つは事実的な処分、例えば特定範囲所属動産の廃棄などでありまして、この規定の範囲で廃棄をすることができるということ自体には特に問題はないと思うのですけれども、ただ、事実的な処分、廃棄のようなものについては、処分することはできるとかできないとか言っても、その意味が違うのではないかと。具体的には、処分することはできないと言っても、実際に処分してしまった場合には元に戻らないわけでありまして、(1)のただし書でも、処分の効力を生じないものとするというような書き方になっていますが、これはやはり法的な効果を生ずる法的な処分を念頭に置いた書きぶりでありまして、事実的な処分には当てはまらないものだと、これは事務局でも認識されているようですけれども、そういうような問題があろうかと思いました。法的処分であれば、処分することはできないと言えば、その法律効果の一部が生じないという意味になると思うのですけれども、事実的な処分に関しては、できないと言っても、その意味が法的な処分とは異なってくるということなのではないかと思います。   こういうこともありますので、そもそも法的な処分と事実的な処分について、同じように処分として包括的に論ずることにある種、限界があるのではないかとも思われますけれども、もし今後もこういった処分という形で法的な処分と事実的な処分を併せて規定していくと考えると、一定程度のやはり抽象性を残す必要があるだろうと。そうしないと、一方に適切な規律になっても他方について適切でないといったことがあり得るのではないかと思いますので、そういった形で、処分に何が含まれるのか、また処分できる、できないといった場合に具体的にどういう効果が生ずるのかということについては、なお今後残された問題として我々は引き続き考えなければいけない問題であろうと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。今回、ずっと判例法理でやってきた非典型担保といいますか譲渡担保その他につきまして、なるべく明快なルールというものを文章化、文字化しようとしたのですが、もちろんなおその解釈論で、言葉の範囲とか中身とかを決定していかなければならない点というのはどうしても残らざるを得ないと思います。その中で、先ほど、例えば事実上の処分と法的な処分というものが同じく処分の中に含まれたときにどういうふうに考えるのかといったりするのを、二通りに分けて考えなければいけないのかとか、そういうふうな問題というのは重要な問題の一つだろうと思います。今後いろいろなところでそういうふうな言葉の解釈の問題というのが出てくると思いますけれども、今回の段階で明確にできる限りにおいて、コンセンサスがとれる範囲で明確にできる範囲で何とか取りまとめようとしているということだろうと思いますので、御理解いただければと思います。   ほかにございませんでしょうか。 ○横山委員 京都大学の横山です。第9の中の今回修正されたところですけれども、本文の1でしょうか、以前は譲渡担保動産の引渡しを受けたとなっていたところが、譲渡担保動産を現に所持して占有するに至ったと変わっておりまして、これを卒然と読みますと、引渡しを要せずに、ともかく結果として占有を得てしまえば、そこで終わってしまうと読めるように思いましたが、ここは引渡しは飽くまで必要であるということが前提と理解すればよろしいでしょうか。もしも引渡しなしに、とにかく結果だけで、どんな形でも占有すれば終わってしまうというのは少し不当になるのかなと思いまして、御確認をお願いいたします。 ○笹井幹事 そこは自力救済のような場面を除外する必要があるのではないかということでしょうか。 ○横山委員 そうですね、あるいは不法占有取得のようなものですね。 ○笹井幹事 そうですね、ここは意図としてはそういったものを含めるつもりはございませんで、様々な引渡方法がある中で、不当な占有の取得までをその中に含めるというつもりではございませんでしたけれども、引渡しがされることを前提として、しかしその結果として取得した占有が、前回議論されたように、譲渡担保権者の意向をより強く反映するような、事実的な支配力の強さというものを表現できるようにということで書いてみたものです。自力救済とか不法占有みたいなものでもよいということを意図していたわけではございません。 ○横山委員 ありがとうございます。そうしますと、内容としては、引渡しにより当該動産を現に所持して占有するに至ったと、そのような意味だと理解すればよいということでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、そのように御理解いただければと思います。 ○横山委員 ありがとうございます。 ○道垣内部会長 そこの部分につきましては、今、引渡しによりというのを挿入して考えるのかという御発言がございましたけれども、なお分かりにくいという点が若干あるのかもしれないと思います。一般的な占有改定では駄目だろうというふうなことをどういうふうに表現するのかということで、こういう文言が一番適切なのかどうなのかというのは、なお若干問題があるところがあるのかもしれないとは思っているのですが、別段その辺はよろしゅうございますか、今の時点では御発言はないと。 ○笹井幹事 そうですね、私たちとしては前回の部会を踏まえまして、どちらかというと引渡方法というよりは、結果的にどのような占有を取得するのか、その占有の態様を「現に」という文言によって限定していくというのが一つの手法としてあり得るのではないかと考えて、部会資料においてはそのような提案を差し上げたところです。   既に御承知のところではあろうかと思いますけれども、前回の部会においてある程度合意された部分というものを私の認識で申し上げますと、やはり占有改定は必ずしも適当ではないだろうと、それは対抗要件の具備方法としての占有改定が実行前にされていた場合はもちろんですし、実行後に改めて占有改定をしたとしてもそれは不十分であろうというのが前回の会議においておおむねの共通認識になっていたところではないかと思います。   他方で、譲渡担保においては余りないとは思いますけれども、譲渡担保権者が対抗要件具備として現実の引渡しを受けていた場合には、実行後に改めて、例えば簡易の引渡しを受けなくてもいいのではないかという御意見が多かったように思います。   また、指図による占有移転につきましては、倉庫業者などの代理占有者が専ら譲渡担保権者のために占有するに至った場合には、この2週間の猶予期間というのは要らないのではないかというような御意見が、前回は、どのように表現するかはともかくとして、結果的にそのような法律関係になるのではないかということがおおむね多くの方々が合意されていたところではないかと思いました。   そういった実質があるということを前提にして、それを一言でどのように表現するかということで、「現に」という表現で、譲渡担保権者が取得した占有の強さというものを表現しようとしたところですけれども、恐らく実質をどのように表現するのかについては様々な文言の選択の仕方はあろうかと思いますので、この点については再度の検討の余地というのはあるのかなと思っております。 ○道垣内部会長 井上さんからも手が挙がっていますが、最後に本当は申し上げるべき事柄なのですが、例えば、第11の1(1)が今回、「給付」が「利益」と直っているわけですが、突っ込みを入れ始めると、どこがどう違うのかという話になってくるわけですが、それは他の法文で用いられている用語法との関係とかそういうふうなことで、細かな修正というものがどうしても必要になってまいります。今回、今日仮に取りまとめを頂きましたとしても、なお他の法文その他との関係で文言を修正しなければならない箇所はどうしても出てまいります。今、笹井さんの方から、具体的にどういった形のときに猶予期間が要らなくなるのかということについての大体のコンセンサスは皆さんにあるだろうと理解していると笹井さんはおっしゃいまして、それはそのとおりだろうと思います。そして、そのコンセンサスを後から勝手に動かすということは、もちろん会議体で決める要綱案でございますので、それはできません。ただ、その結論とか価値判断をいかした形で、他の条文の文言その他との関係で若干の修文をさせていただくということはあろうかと思います。   最後に本当はお願いすべき事柄なのですが、最終的にそれは事務局と部会長のところで、皆さんの付託に決して反しないようにいたしますので、多少のそういうふうな文言調整というものはお許しいただければと思います。それはもう一度、最後に確認させていただきます。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。今の点ですけれども、今回は前回のような形で引渡しの方法によってということではなくて、取得した支配の程度によって決めるというアプローチをとられたことについて、賛成いたします。今のお話ですと、そういう同一の価値判断の範囲でどう表現するかについてはお任せするということだと理解しておりますけれども、その意味するところについて念のため確認したいのですが、今笹井さんから御説明いただきましたように、基本的にこの意味するところによると、現実の引渡しは2週間を待たずにということになる反面、占有改定では足りないことについては異論はないと思いますので、結局のところ指図による占有移転がどうなるのかということで、これは御説明によれば解釈に委ねられるということですが、何をもって現実の引渡しを受けた場合と同程度かについて、先ほどの笹井さんの御説明ですと、例えば設定者と倉庫業者との間の寄託契約上の地位を担保権者に移転するとか、あるいは現時点の設定者と倉庫業者との間の寄託契約を終了させて、担保権者と同じ倉庫業者が新たに契約をまき直すとか、そういう形で物の出し入れをできる地位といいますか、倉庫業者に対する契約上の地位が、元の設定者ではなく担保権者に移るという状況があれば、これは現実の引渡しと同程度と考えるのだろうと理解したのですが、それでおおむね理解が合っているのかを確認したいということです。   そのうえで質問差し上げたいのは、指図による占有移転についての古い判例ですけれども、単なる荷渡指図書を倉庫業者ですとか、占有者ですとかに交付するだけでは指図による占有移転にはならずに、寄託者台帳の名義を変更するところまでして初めて指図による占有移転であるという裁判例などに照らすと、指図による占有移転と評価される場合は、ほぼ現実の引渡しと同程度のようにも思えなくもなくて、そうなると、今回のアプローチで「現に所持して占有する」というには至らない指図による占有移転とは、どんなものをイメージすればいいのかをお尋ねできればと思います。 ○笹井幹事 前回の部会におきまして御議論いただいたところ、実質としてというところですけれども、今、井上委員からも御指摘がございましたように、指図による占有移転であっても、例えば、譲渡担保権者といいますか指図による占有移転を受ける人のためだけに倉庫業者との契約関係が残っており、その後、倉庫業者に対する返還請求などの指示が譲渡担保権者だけができるというような状態になっている場合には、現実の引渡しを受けたのとほぼ同様な状態になっているということで、2週間の猶予期間を経ることなく実行が終了するということで、おおむねコンセンサスが得られたのではないかと理解をしておりまして、その点は今、井上委員がおっしゃったことと同様ではないかと思っております。   あと、後段の質問はやや答えにくいところもあるのですけれども、民法184条を見る限りでは、代理人が本人のために占有するということになっています。先ほど私が申し上げたように、専ら特定の本人のために占有するということになっていれば、ここでいうところの「現に所持」している場合と同様に扱われるということでよろしいのではないかと考えておりました。   ただ、現在は、例えば譲渡担保権の目的財産が倉庫に入っているケースで、設定者が倉庫に預けている物について譲渡担保権を設定して、指図による占有移転によって譲渡担保権者に対抗要件を具備させるということがあり得るということを踏まえて、これまで議論がされてきたのではないかと思っておりまして、そういった場面では倉庫業者は、民法の文言から見ると、譲渡担保権者のために占有せよという指図を受けているということではあるのですけれども、それが集合動産譲渡担保権のような場合には、恐らくその後、事業の継続に従って物を出したり入れたりとかいうことは設定者の指図に従ってやっているのではないか、そういったものも含めて、これまでは指図による占有移転によって譲渡担保権の対抗要件が具備されたと理解をしてきたのではないかと考えておりました。   そうすると、こういった場面、対抗要件具備時点における指図による占有移転というのは、必ずしも、専ら譲渡担保権のために占有しているのではなく、両方の代理人でもあるみたいな関係にもあるのかなと思っておりまして、仮にこういった場面が実行より前に実現していたとしても、それはやはり2週間の猶予期間をスキップするということはできない。このような場面で実行を2週間以内に終わらせるのであれば、例えば設定者との契約関係を解消して、譲渡担保権者と倉庫業者だけの関係が残るようにするとか、あるいはもう倉庫から出して現実に譲渡担保権者に引き渡すとか、そういったことが必要ではないかと思います。   井上先生の二つ目の質問は、現実の引渡しとは同視できないような指図による占有移転とはどういうものかということだったかと思いましたので、そういう意味で言うと、指図による占有移転が行われてもなお、その設定者の代理人でもあるといいますか、設定者の指示に従って出し入れをするという関係が存続しているという場面があり得るのではないかと思っております。 ○道垣内部会長 つまり結局、譲渡担保権者に実効的な支配が、ほぼ排他的なのでしょうが、実効的な支配が移転したときにということは、その猶予期間というものがもはや不要になるということは、恐らく皆さんのコンセンサスが得られているのではないかと思うのです。先ほどから申し上げておりますのは、それでは実効的な支配が移転しているというふうなことをどういう文言で書き下すのかというのがやはりなかなか難しくて、現在の現に所持しているという形の言葉が本当に適切なのかというのは、なお今後も考えてみる必要があろうかと思います。   かつ、指図による占有移転のことについて私の方からも一言申し上げますと、実務的にはそれは倉庫でしょうと思うわけですが、民法学者というのは、井上さんのものを道垣内が預かっていて、それを横山さんに引き渡すときに、井上さんから電話が掛かってきたと、そういうのも含めて指図による占有移転というのを考えてしまいますものですから、実務的には荷渡し指図書がないと、それはいかんでしょうという話は、それはそのとおりなのかもしれないのですけれども、非常に民事的といいますか、取引社会ではない事例も全部やはり含められる形での概念規定というのをしないといけないと考えてしまうのですね。他への影響というのが出てまいりますので。そうなると、なかなか難しいところがあろうかと思います。その辺りの、現在の言葉が最適なのかどうなのかというのが若干疑問なところがあるのですが、なお検討するとともに、コンセンサスとして得られている実効的な支配というふうなことを勝手に変えてしまうということはないということで、御理解いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○青木(則)幹事 非常に細かいことで恐縮でございますが、後順位の債権譲渡担保の実行について伺いたいと思います。以前に債権譲渡担保の実行を執行手続の対象にしないという御説明があったときに、では後順位の債権譲渡担保権者は何ができるのかといった議論があって、そのときは、動産の後順位の譲渡担保と同じような形で、先順位の担保権者の承諾があれば私的実行等ができるのではないかというお話があったように思います。しかし、その後の御提案では、第11の債権譲渡担保の実行の2のところで、第9の3のような、動産の後順位譲渡担保権の実行についての規定が準用されていないという形になっているかと思います。これはそういったようなものについては解釈でやっていくという御趣旨なのでしょうか。その点について確認させていただければと思います。 ○工藤関係官 今お尋ねいただいた点につきまして、後順位の債権譲渡担保権者がどういう手段で実行できるのかという点でございますけれども、今御提案している規律としましては、先ほど御指摘いただいたとおり、その部分は準用の対象から外しているということで、結論として、後順位の債権譲渡担保権者が先順位の同意を得て実行をすることはできないという発想で案を作っております。   と申しますのは、やはり債権譲渡担保の場合ですと、第三債務者から見ると、真正譲渡と債権譲渡担保とは区別ができない場合があるということを前提といたしますと、同意を得て後順位が実行してくるという場合について、果たしてこれが真正譲渡なのか、それとも債権譲渡担保なのかで、第三債務者としてどうすればよいのかということで対応に困ってしまう場面があり得るということも考えまして、結論としては、そういったことについては基本的に債権譲渡担保についてはできないという形で組立てをしているところです。したがいまして、後順位の債権譲渡担保権者が実行をするに当たっては、基本的には清算金に対する物上代位によって実行していってもらうという形で御提案をしているということになります。 ○青木(則)幹事 ありがとうございます。特に反対というわけではなくて、先般の御発言との関係がどうなるのかなということの確認でした。どうもありがとうございます。 ○阪口幹事 すみません、細かいことも含めて3点、確認というか、申し上げたいと思います。   まず、第1の1の定義のところで、特許権等を除いている点の確認です。ここに文言上、著作権が書かれていなくて、それは同じ知的財産権でも特許権等とは仕組みが少し違うので、著作権は適用対象外にしない、つまり適用対象となるという理解でいいかどうかが1点目です。   2点目が、30ページに書かれている、第10の5のいわゆる集合動産の固定化の話です。ここは非常に分かりにくくて、何度か意見を申し上げたこともありますけれども、リンゴとミカンとスイカのような例を考えても難しいのに、今回さらに、動産特定範囲は場所以外の事項による特定もあると記載されています。確かにそういう話になっていますので、おっしゃるとおりだと思うのですが、今まで、場所を使わない特定範囲というのは、ケーブルテレビ会社のチューナーみたいな話があったかも分かりませんけれども、とにかくそういう場所を使わない特定もあるとしたときに、一体この固定の範囲はどうなるのか、一問一答か何かで少し分かりやすいサンプルでも書いていただかないと多分、一体どんな局面なのか、場所的特定で考えても分かりにくいのに、場所を含まないときのこの固定の範囲というのはますます難しいと思うので、今後何か解説されるときに、例えばこんな例です、みたいなものを書いていただいた方が分かりやすいと思います。結論そのものはもう今更ですので、どうこう言いませんけれども、今後の説明をお願いしたいということです。   それから、3点目が32ページから33ページの、先ほどの再生、更生の場合でも効力が及ぶ場合の組入義務の9割のベースとなる評価の話の修正部分の御説明があったところです。そこ自身はそうなのだろうと思います。前回の部会で、そういう特約がない場合の集合債権譲渡担保に関する100分の90のベースが一体どこからどこまでかという話があり、部会資料49に書かれた説明について、私の方で少し違うのではないかという意見を申し上げました。今回そこは何も書かれていないので、今後解釈に委ねるということかと思うのですけれども、私としては、ここに今回修正箇所として入った、再生、更生があっても効力が及び続ける、真に累積的な債権譲渡担保に関する規定はこういうものだと規定することによって、逆に、真に累積的な合意をしていないものは、倒産局面になれば固定する、スクリーンショット型になるわけだから、100分の90のベースも、やはりスクリーンショット型の解釈になるべきではないかということを私の意見として申し上げておきたい。   以上3点です。よろしくお願いします。 ○笹井幹事 まず1点目、著作権のところですけれども、定義のところで除外しました特許権などは登録が譲渡の効力要件とされているのに対して、著作権は対抗要件となっております。そういう意味では、特許権等の方が、登録の内容と実態が一致すべきものとして制度設計がされていますので、そういった特徴も踏まえて、このような除外規定を設けたということです。ここに含まれていない著作権を目的とする譲渡担保権については、この法律の対象になるということになっております。   第10の5につきましては、実質は確かに場所的な概念だけではないので、「のうち」という表現を修正したということではありますが、結果的には実質的に何か今までの規律を変えようとしているわけではありませんので、結果的に差押えが行われた場所、これは場所によって差押えが行われるわけですので、その場所に入ってきたものには今後及ばないというところは、これまでと変わっているわけではありません。御指摘を踏まえて、しっかり御理解いただけるように努めてまいりたいと思っております。   それから、最後に組入れのところにつきましては、これも御意見として承りました。書きぶりとして、例えば動産についても何か、その目的となる動産の価額と言っているだけで、同様にこちらも債権の価額と表現しているだけですので、そこをどのように評価していくのかというところは、今後の運用であったり、場合によっては個別の譲渡担保権設定契約における定め方とか、そういったところにもよってくるのかもしれません。ここは、個別の契約の解釈あるいは法律の解釈に最終的には委ねられることになるのではないかと思いますけれども、この点につきましても、こういった議論があったということを何らかの形で周知していく。まだ法律ができたわけではありませんが、成立した場合には、こういった議論の内容も含めて紹介してまいりたいと思っております。 ○道垣内部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○井上委員 井上です。ありがとうございます。先ほどとは別に、今回の修正と関わらないのですが、細かいことを確認したい点が2点あります。   1点目が今、阪口幹事がおっしゃったことに関わるのですけれども、5ページ目の定義ですが、今、譲渡担保契約の範囲の御説明の中に、登録が効力要件になっている点に着目した御説明があったのですけれども、ただ、ここに挙げられていない以上は、それ以外の登録等を効力要件とする財産、例えば電子記録債権とか振替有価証券とかは、「その他の財産」に含まれて、ここでのルールの適用があると理解しておりますが、その確認と、それから、同じ5ページで、その一方で、これも単なる確認になってしまうかもしれないのですけれども、一括清算法においては、担保目的で行われる金銭又は有価証券の消費貸借あるいは消費寄託を担保取引と定義しているわけですけれども、その担保はここには含まれないという理解でよいでしょうかというのが、定義に関して確認したい点です。   もう1点が、12ページから13ページに掛けての牽連性のある金銭債務の範囲についてですけれども、これは解釈に委ねるということだろうと思ったのですが、(1)のアとイのうち、イは代金債務を履行したことによって生ずる求償権に係る債務となっているところ、履行していない場合、例えば代金債務を債務引受してもらった場合の引受対価支払債務も、ここに含めてよいのかということです。文言に照らすと、これは履行したことによって生じているわけではなくて、履行することを約束しているだけですけれども、牽連性はあると思われますので、これもここでいう牽連性ある債務に含めるということなのかについて、解釈に委ねるということかもしれませんが、お尋ねしたいということです。 ○笹井幹事 私の先ほどの説明がやや言葉足らずだったかもしれませんが、登記登録が効力要件になっている場合というのは、いろいろなファクターの中の一つの要素として、著作権との違いということで申し上げましたけれども、ここは飽くまで限定列挙ですので、電子記録債権とか、おっしゃったようなものを目的とする譲渡担保権については、適用対象になってきます。登記登録が譲渡の効力要件になっているものが全てここで除外されるというわけではありません。   それから、二つ目の一括清算法についての御質問が、聞き逃してしまったのですが、どの定義の規定との関係でおっしゃったでしょうか。 ○井上委員 一括清算法上、担保として扱われる取引は、担保目的で行う金銭又は有価証券の貸借又は寄託で、これは通常、消費寄託又は消費貸借で行われているので、担保目的有価証券を債権者に消費貸借するという行為が担保取引として扱われますし、それは担保目的で譲渡しているといえなくもないので、この5ページの定義からすると、例えば有価証券の消費貸借、消費寄託で言えば、債務者が金銭債務を担保するために有価証券を債権者に譲渡することを内容とする契約であるかのように読めるのですけれども、ここで想定している譲渡担保とは大分違うもので、こういった消費貸借、消費寄託型の担保取引を譲渡担保と整理するわけではないだろうと理解しているのですけれども。 ○笹井幹事 補足をありがとうございました。それは、消費寄託しておいて、いざというときには相殺的な処理をして回収するので、実質的には担保として機能するということでよかったでしょうか。 ○井上委員 そうですね、金銭同士の場合あるいは全く同一種類の有価証券の場合は相殺という処理も可能だと思いますが、一般にデリバティブ取引では異なる種類の金銭や有価証券も差引計算ができることになっていて、それが正に一括清算法で明確化されているわけですけれども、価額評価をして、異なる種類のものであっても差引処理をする取引を担保目的で行うことについて、交互計算の規定を参照したり、相殺の規定を参照しながら伝統的には説明されて、正当化されてきたものでありますが、今は法律によって保護されているものですが、いずれにしても担保として行われている取引であることは間違いなくて、それで、その際に消費貸借・消費寄託の形で所有権を移転していることも間違いないといえば間違いないのですけれども、ただ、今申し上げたような意味で、譲渡担保とは全然違うものであり、むしろどちらかというと、相殺的な処理を目指して行われる取引だと思います。 ○笹井幹事 おっしゃるとおり、消費寄託型、消費貸借型のものについては、この譲渡担保の定義には当たらないものであると理解をしております。 ○井上委員 ありがとうございます。物上代位とかそういう話になってこないはずなので、その確認をしたかったということです。ありがとうございます。 ○笹井幹事 それから、もう1点…。 ○井上委員 第3の5(1)です。 ○笹井幹事 おっしゃったことは基本的には解釈問題だろうと思っています。免責的債務引受の場合、その対価として支払われる金銭はあるのですが、御承知のように、民法上は求償権は発生しないことになっていますので、履行したことによってという部分と、求償権に係るという部分の両方の点で、今おっしゃった債権が当たるかどうかというのは、二つの解釈問題があるのかなとお聞きしながら思いましたが、いずれにしてもここは解釈問題にはなるのではないかと思います。 ○井上委員 ありがとうございました。 ○道垣内部会長 取りまとめをお願いしております私の立場でこのようなことを申し上げるのは大変恐縮なのでございますが、貸借型には適用されないというのは、一括清算法があるからなのですか、それとも、およそ貸借型には適用されないということなのですか。私は後者には必ずしも賛成できないですね。それは実質的な性質決定の問題ですから、一括清算法でやっているようなものにこれは影響を及ぼさないというのはよく分かるのですけれども、今後貸借型という形をとってやれば全部をすり抜けられるというふうなことがここでコンセンサス、確認がとれたと考えるのは、私は妥当ではないと思いますけれども。だから、そういう考え方の人もいたということなのですけれども。 ○井上委員 今の点について、部会長が一括清算法だからということなのか、とおっしゃるのは、一括清算法は金融機関を一方当事者とするデリバティブ取引に適用されるだけなのですが、全く同じデリバティブ取引を非金融機関同士で行う場合も、こういうタイプの担保を差し入れることが一応あり得るわけで、そういう担保は一括清算法の適用対象ではないけれども性質上は似たようなもので、というか、似たような取引において用いられる貸借型の担保ですが、それについては、むしろ今回の譲渡担保のルールが適用される方がよいのではないかというご趣旨でしょうか。 ○道垣内部会長 いえ、私が少し勇み足をしてしまいまして、一括清算法が適用されることがポイントであると申し上げるつもりではなかったのですが、およそ貸借の形をとったならば、形式的に、全てが免れ得るという解釈論をここで打ち立てるべきではないと申し上げたわけであり、現在デリバティブ取引で非金融機関内で行われているというものについてこれが適用されて、今の実務が変わるというふうな認識を私は持っているわけではありません。井上さんの質問と笹井さんの回答において少し過度な一般化がされているのではないかなという気がいたしましたものですから、一言申しました。 ○井上委員 ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ほかに何かございますか。   それでは、全体についての議論をここら辺りで終了させていただきまして、要綱案についてお諮りをしたいと思います。   ここにおきましては、きちんと賛否といいますか、きちんと把握するということが大切になりますので、しかるに現在、ウェブを利用して議事進行も同時に行われております。そこで念のために、ウェブを利用して出席されておられます委員の皆様と意見表明が相互に可能であるということを確認させていただければと思います。お手数をお掛けいたしますけれども、ウェブ会議の方法で出席されている委員の方々は、私の声が聞こえていらっしゃればというのは、何か恥ずかしいですが、手を挙げるという機能をお使いになってお知らせいただけませんでしょうか。これは賛成という意味ではございません。聞こえていますよという意味でございますので、お願いできればと思います。 ○道垣内部会長 それでは、御出席の方々との間では相互に意思疎通が可能であるということが確認できました。   そこで、これから「担保法制の見直しに関する要綱案(案)」についてお諮りをしたいと思います。   本部会といたしましては、いろいろな御注意いただいた点はあるわけですけれども、部会資料50の1で提示している内容で担保法制の見直しに関する要綱案を取りまとめることにしたいと思いますが、いかがでございましょうか。 ○道垣内部会長 それでは、特段の反対意見はないようでございますので、出席委員全員の一致により賛成いただいたものとして、当部会として要綱案を取りまとめることにしたいと思います。どうもありがとうございました。   また、途中でも1回申し上げましたが、要綱案につきましてはこれまでも字句、表現の修正というのがいろいろされてまいりましたけれども、今後、総会での答申に至るまでの間にも法制的な観点から字句等の修正があり得ると存じます。途中でも御説明申し上げましたけれども、このような修正につきましては部会長と事務当局に御一任いただければと存じますが、お認めいただけますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは、ただいま御了承いただきました要綱案の今後の取扱いにつきまして、事務当局から説明をお願いいたします。 ○笹井幹事 長期間にわたる審議でしたけれども、要綱案を取りまとめいただきまして、どうもありがとうございました。   今後についてですけれども、2月10日月曜日に法制審総会が開催される予定でございます。そこで本日お取りまとめいただきました要綱案を御審議いただく予定でございます。総会の了承が得られましたら、その後、法務大臣に答申されるという流れになります。その後、答申がされた場合には、その答申に基づき法律案の策定作業を行い、速やかに法案を提出すべく準備をしたいと考えております。 ○道垣内部会長 どうもありがとうございました。   多少、今後のことにつきまして更に追加的な御説明が事務局からあるということでございますので、お願いいたします。 ○淺野関係官 先ほどお取りまとめいただきました要綱案については、従前よりお伝えしておりますとおり、これを新法において規定するということを検討しているところ、新法の施行日及び経過措置について説明してもらいたいという御要望を頂いておりましたので、ここでその概要をお伝えいたします。   新法については、その内容の周知のために一定の時間を必要とし、また、登記制度の整備のためのシステム改修、必要な政省令等の整備のためにも一定の時間を要することから、施行日を公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とする方向で検討しております。   そして、経過措置ですが、施行日前に締結された譲渡担保契約についても原則として新法が適用される方向で検討しております。要綱案における規律は、現行法における判例法理を明文化するものが多いことから、新法の規定を適用することとしても、基本的に当事者の予測や期待に不相当に反するとはいえないと考えられます。また、譲渡担保権の順位に関する規定についても、施行日前に設定された譲渡担保権と施行日後に設定された譲渡担保権とが競合した場合に、後者についてのみ新法が適用されることとなると法律関係が複雑になるなどの問題があることから、占有改定劣後ルール及び牽連性担保権を他の担保権に優先させるルールも含めて、その順位に関する新法の規定は、施行日前に設定された譲渡担保権についても適用する必要があると考えられます。これらを踏まえまして、施行日前に締結された譲渡担保契約についても、施行日後は原則として新法の規定を適用するという方向で検討しているところです。   ただし、施行日前に締結された譲渡担保契約について、施行日に新法を適用することが当事者の予測や期待に反することとなり、相当でないと考えられるものについては、個別に例外規定を設けることとし、例えば、集合動産譲渡担保権者等による超過分の金銭の組入義務に関する規定、あるいは破産手続開始決定等があった後の集合動産譲渡担保権等の効力に関する規定などについては、施行日前に締結された譲渡担保契約について適用すると当事者の予測や期待を害すると考えられますので、施行日前に締結された譲渡担保契約に適用しない方向で検討しております。   また、占有改定劣後ルールの規定の経過措置について申し上げたいと思います。施行日前に占有改定により対抗要件を具備して設定した動産譲渡担保権について、施行日後に新法を適用しないということとしますと、施行日後も占有改定により対抗要件を具備した先順位の動産譲渡担保権が残存しているリスクが残り続けるということになり、占有改定劣後ルールを導入した趣旨が損なわれることになると考えられます。そこで、この点については原則どおり、施行日後は新法が適用される方向で検討しております。   ただし、施行日前に占有改定により引渡しを受けて優先的な地位を有していた動産譲渡担保権者が大きな不利益を受け得るため、次のとおり経過措置を設ける方向で検討しております。すなわち、占有改定で譲渡担保動産の引渡しを受けることにより対抗要件を備えた者であっても、新法の施行日から2年を経過する日までに動産譲渡登記を備え、かつ、経過措置の適用を受ける譲渡担保である旨が登記原因として記録されたときには、その引渡しの時に占有改定以外の方法による引渡しにより対抗要件を備えたものとみなすこととし、この登記は施行日前からすることができるとする方向で検討しております。これにより、占有改定で引渡しを受けた動産譲渡担保権者について一定の保護が図られることになると考えております。   以上につきましては、所有権留保契約についても基本的に同様とする方向で検討をしております。ただし、先ほど申し上げた占有改定劣後ルールに関する経過措置としての登記について、動産譲渡登記であれば施行日前でも登記を備えることができますが、所有権留保については施行日後しか登記を備えることができませんので、施行日前にあらかじめ登記を備えておくということはできない点が異なります。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。直接に部会の審議事項ではないのかもしれませんが、実際上極めて重要な事柄だと思いますので、今御説明を頂きました。   御質問、御意見等がありましたらお伺いいたしますが、いかがでしょうか。 ○日比野委員 占有改定劣後ルールに関する経過措置について、当たり前の話かなと思いつつ、念のため確認なのですが、法律が施行されましたがまだ登記はされていません、という段階では、占有改定は劣後の状態に置かれ、その後2年以内に登記がされると、遡って引渡しによる対抗要件が具備されたことになる、こういう理解で正しいですか。 ○笹井幹事 そうですね、2年以内に登記をすれば、占有改定の時点に遡って、強い対抗力が具備されることになります。技術的には、今おっしゃったように、施行がされたけれどもまだ登記がされていないという段階では、占有改定劣後ルールが適用されているので、その時点だけを見ると、占有改定後に登記されたものに劣後している状態なので、早めに登記をしておく必要があるということかと思います。また、これは先ほど申し上げましたように、譲渡担保に関して言いますと、施行日前にもこの登記ができるようにする方向で考えておりますので、施行日前に登記をしておけば、逆転というのは生じないことになります。 ○日比野委員 ありがとうございます。施行日前に登記をしておけば、施行後にどちらが優先するかという問題が起きることはないと、他方で、施行日の時点では占有改定のままになっていて、その後に登記をするということになると、レアケースかもしれませんが、施行日後に争いが継続しているような事案において、登記をすることによって優先と劣後が逆転する場合があり得ると、それがいい、悪いと言っているわけではなくて、そういうことでよいかということと、あとは、これも念のためですが、占有改定の時点に遡るというときに、占有改定をいつ行ったかということは、立証の問題になるという理解でよろしいでしょうか。 ○笹井幹事 おっしゃるとおりで、占有改定については結局、立証が必要になってきます。そこは登記所が審査をするわけにもいきませんので、立証の問題になってくるということかと思います。 ○日比野委員 ありがとうございました。その確認でした。 ○阪口幹事 阪口です。2点確認させてください。   先ほど日比野さんがおっしゃった、施行日の時点ではまだ占有改定による譲渡担保権者がその登記を得ていない場合、その後は占有改定劣後ルールを受ける、でも、2年以内に登記を得れば、地位が戻るというのは、極端な話、施行日の翌日に他の登記を得た担保権者が実行を始めて、そのときは手続が進んでいくけれども、最後の最後に占有改定担保権者が登記したら、全部遡及して勝つことができるという、そういう制度ですかということの確認が一つです。つまり、実行手続が始まった後に再逆転ができるということでよいのかという確認です。   2点目が、所有権留保です。所有権留保のところで、先ほどの御説明では、優劣の問題は、施行前の人と施行後のもので順番のルールが違うとややこしいから、もうまとめて適用しますというお話だったと思うんです。ただ、今回、所有権留保をかなり譲渡担保に近付けている部分があって、例えば第三者異議を考えたときに、今までの判例法理上の第三者異議は、譲渡担保に関して言うと、特段の事情があったら第三者異議できません。具体的には、被担保債権との大小の問題があり、これは今回の立法でその内容が規定化されます。他方、所有権留保に関しては、従前の判例は、特段の事情という制約がなく、所有権留保というだけで第三者異議できたと思うのです。そうすると、今回の立法が施行された途端に、債権の大小でできたり、できなくなったりするという地位に落ちてしまうことになるのですか、というのが2点目の確認です。 ○笹井幹事 1点目は、法律関係としてはおっしゃるとおりかと思います。一旦、時間的には後に担保権を設定したのだけれども、占有改定劣後ルールによって優先する担保権者が実行を始め、しかしその後に占有改定をしていた担保権者が登記をすることによって再逆転されるのは問題ではないかという御指摘だったかと思いますが、施行前は占有改定によって最先順位の担保権を持っていた人ですので、何を優先するかということを考えますと、後から事後的に逆転するということができるだけない方が、それはもちろん混乱が少ないだろうとは思いますけれども、ある一定期間においては生じてしまうのはやむを得ないのかなと思います。しかし、施行日前に、できるだけそういうことがないように登記ができることとしております。所有権留保に関してはどうしても施行前に所有権留保登記ができませんので、そこは限界はあるのですけれども、譲渡担保に関してはそういった手当ても図っており、かつまた、これが今、淺野の方から申し上げましたように、2年半ぐらいの期間が確保されておりますので、そこはそれでしようがないのかなとは思っております。   もう1点、2点目の所有権留保登記については、確かに現行法上は第三者異議が所有権留保だということのみによってできるというのが判例なのだろうと思います。そこが変わってくるというところはあるのかもしれませんけれども、そこも結局、第三者異議が言えなくなる場合については、今の譲渡担保に関する判例の特段の事情を踏襲する形で規定を設けておりますので、結果として、最先順位の担保権者は自分の被担保債権を全部回収できるときには第三者異議は言えないということです。逆に言えば、第三者異議が言えない場面でも被担保債権は全額回収することはできると、そこは確保できております。これも厳密に言うと、実行時期の選択の利益みたいなものが場合によっては侵害されている場面というのが全くないではないかもしれず、阪口先生のお立場からすると、その当否についてもなお疑問があるということかもしれませんが、基本的には担保権としての規律に近付けていくということからすると、その点に関して旧法主義をとらないといけないというほどの不利益とまではいえないのではないかとは考えております。 ○道垣内部会長 よろしゅうございますか。ほかに。 ○沖野委員 ありがとうございます。今の占有改定劣後ルールの猶予期間の話です。元々占有改定で先行していたところ、占有改定劣後ルールでいきなり劣後してしまう、しかも後からの登記が施行日より前に、あるいはこの法律より前にできていたというような場合だと、完全に逆転してしまうということの大きな転落から救うために、2年間の猶予を設け、その期間内に登記をすれば元に復するということだと思うのですけれども、濫用の可能性を考えたときの期間の相当性が問題になりうるように思います。譲渡担保契約がされて、普通は占有改定を同時にもうしてしまうので、結局契約日が問題になるのではないかと思います。そうすると、この経過措置の下では、契約日を債務者との間で遡らせて後から登記をすると、そのとき、契約時に占有改定があったという形となり、その時から登記があったという扱いとなりかねず、優先ということが可能になるのではないでしょうか。そして、譲渡日が本当にその譲渡日であったのかということの確認は裁判で争わない限りは分からない、そういう可能性のある状況が2年間続くということになるのでしょうか。 ○笹井幹事 そうですね、当事者の合意で、本当の占有改定の日よりも前に占有改定をしたことにしようよというのは、それはできないといいますか、当事者が勝手に決めた日から登記と同じだけの対抗力が得られるというわけではありません。ここは飽くまで客観的に占有改定をした日、それは譲渡の日と一致することが多いのかもしれませんけれども、その日まで遡るということです。あとは立証の問題になってくるのですが、それ自体はやむを得ないというか、現在においても、占有改定の先後が問題になった場合に占有改定がいつだったのかというのは立証の問題になってきますので、そこが何か変わってくるわけではないのかなとは理解しております。   譲渡した日は、登記原因の欄に、「何年何月何日、譲渡担保契約」という感じで登記されることにはなりますが、その点については登記官が審査をするわけではありませんので、登記がされたから、登記簿に書いてあるその日付まで遡るということに当然になるわけではないということです。 ○沖野委員 そうすると、争われれば、占有改定があったということを、その登記を受けた譲渡担保権者がもちろん証明していくことになるのですが、それで濫用的な猶予期間の使われ方が防止されることになるのでしょうか。濫用的なというのは、結局、例えば譲渡担保契約に、以後、占有改定の一条が入っていれば、通常、そこで占有改定ができていることになるので、譲渡担保契約の時点で占有改定がされたことが契約書上明らかになるのだと思うのです。その契約書を公正証書など確定日付ある証書によって契約している場合はできないですが、そうでないときに、後から、日付を少し前のものにした契約書を作成して、この時点が契約時点であり、しかもその契約日は譲渡契約の登記原因の中に入り、譲渡担保契約があることが公示されると、普通は占有改定はその時にされるのが通常の取引であれば、実際にはそうでなかったにもかかわらず、登記を用いて潜脱しようとするというか、元々はプライオリティーでも後であったものが優先させる、ということが、これを使ってできるようになりそうなのですが、そのような濫用の懸念もあることを考えると2年間という期間は長いように思うのですが。 ○道垣内部会長 それは違うと思いますが。というのは、まず、現在のこの法律が全然できない間に、占有改定が一つのものについて複数なされているというときに、後順位になるかどうかという問題があるわけですが、仮に後順位になるといったときに、では片方の人が占有改定は何日でしたとうそをついたら先順位になるのかというと、それはそこで争うというか、それの証明の問題として考えざるを得ないわけですよね。しかるに、では登記ができるということになって登記に日付が書かれたらどうなるのかということになりますと、登記に譲渡担保契約が何日ですという日付が書かれたからといって、実体的に遡る効力がその日付によって定まるわけではなくて、実際に譲渡担保契約が何年何月何日になされたかという証明の問題として、その証明できたところまで遡るというわけだから、後から登記をすれば遡及的に効力がそこのところで登記優先になるというふうになることによって、新たな問題が生じているわけではないように思うのですが、私の誤解がありますか。 ○沖野委員 いえ、ですから、そこは結局、証明のところが支えているということですかという質問に対して、そうですというお答えを頂いたということなのですけれども、その証明というのは、今までどうしているのかという問題もあるし、その部分をむしろ拡大するというか、いや、登記をしていますからという主張をしやすくすることで問題にはならないのだろうかというのが、疑問の内容です。そもそもこの経過措置の猶予期間を2年にするのが適切なのかということが気になっており、もしそのような問題があって、結局は証明の問題であって、証明はなかなかできないということであれば、こういう猶予期間を設けたとしても、証明ができないのだったら余り利かないし、割と簡単にできてしまうのだったら結託をして虚偽の日付とすることもできるのかもしれません。疑問のあるような場合は、最終的には裁判に行くのかもしれないけれども、裁判に行かないところで紛争になるというときに、この規律で何か新しい問題を生むことはないのでしょうかというのが懸念点です。 ○笹井幹事 御指摘のように、最終的には占有改定がいつ実体的に行われたのかという証明の問題になってくると思います。あと、この期間をどれぐらい取るのかというのは、結局実務的に、元々占有改定で取っていた人が、特に金融機関などを考えますとそれなりの件数があるかもしれませんので、実務的に対応するのにどれぐらい期間が必要なのかというところを含めて検討をしてまいりました。   2年という期間については、こちらが意図しない使い方がされるのではないかということもありますし、そもそもできるだけ公示性を高めるということですので、余り長くこういう期間を取るのも適切ではないのではないかということも、もちろん御指摘のとおりだと思いますけれども、実務的にある程度の件数がある中で、それを場合によっては発掘したり、自分が多数ある中でどれが必要であり、どれが必要でないかというものを選別し、共同申請主義の下で相手方とも話をして、その多数の件数について登記をしていく必要があります。現行法上は占有改定で最先順位が取れたということがこれまでは続いてきましたので、そういったものを含めると2年程度は必要なのではないかということで、この御提案に至っているというところでございます。 ○沖野委員 ありがとうございます。実質は4年6か月ということですね。 ○笹井幹事 そうですね、施行前の期間を含めますとそれぐらいあります。とはいえ、法律が公布されてすぐに対応ができるかといいますと、法改正の内容やこの経過措置の内容をまずは周知していかないといけないということもあり、本当に4年6か月丸々あるのかといいますと、いきなり最初からできるわけでもないということもあろうかと思いますので、少し関係業界とも相談をした結果として、今こういう案でどうかと考えております。 ○沖野委員 分かりました。ありがとうございます。 ○道垣内部会長 ありがとうございます。   佐久間さんから手が挙がっているのですか。 ○佐久間委員 いや、沖野さんが、「ありがとうございます。」で終わられたので、言う必要はないのかなとは思ったのですけれども、私は、猶予期間といっていいのかどうか分かりませんが、比較的長い方がいいと思っていました。沖野さんのように、恐らく短い方がいいというお考えもあるのかもしれませんけれども、そうでないという意見もあるということを申し上げようと思いました。   それは一つには、笹井さんがおっしゃったような金融機関のこともあるでしょうし、占有改定劣後ルールについて当否を最初のうちは議論していたわけですけれども、その際によく出されたのが、阪口さんがおっしゃったことだと思うのですけれども、隣のおじさん問題だったのですね。隣のおじさんはこれから劣後することになるわけですけれども、既に正当に譲渡担保を取っている人が、このルール変更によってそう簡単に、今まで優先的な地位を持っていた者が劣後させられることになるのは、これは不当であると私は思います。   そのような不当さを避けるためには、一般のというか、仮に余り担保の実務に通じていないような人であっても、自分の権利を守るための手続をとるしかるべき期間が与えられるべきであると思います。そのためには、まずは制度が変わったのだということを知らないと始まらないわけで、その制度の周知期間もある程度取った上で、かつ、制度の変更を知ってからアクションを起こす、そしてそれが最後まで行くというための時間が必要になります。そこで、合計4年6か月が適切かどうかは分かりませんけれども、2年6か月後に、例えば法成立後、法律の規定の効力が発したとしても、そこから極めて短い時間というのは、私は余り適当ではないと思っています。これは結局どう考えるかだけの問題ですから、沖野さんのような考え方もあれば、私は違う考え方を持っているということだけ申し上げようと思いました。 ○道垣内部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見、御質問はございませんでしょうか。   このことにつきましては今後法務省等で、経過措置等についてどういうふうにやるのかということについて考えていくことになると思いますので、皆さんにおかれましてもいろいろな御意見を今後もお寄せいただければと思います。   それでは、経過期間につきましてもお話を頂きました。ほかに全体を通じて何か御発言がございますか。   よろしゅうございますか。それでは、この辺りで部会の議論を終えることにしたいと思います。   部会での議論を終えるに当たりまして、事務当局を代表いたしまして竹内民事局長から御挨拶を頂きます。よろしくお願いします。 ○竹内委員 法務省民事局長をしております竹内でございます。当部会の御審議の終了に当たり、担当部局の責任者といたしまして一言、御礼の御挨拶を申し上げます。   当部会における審議は、令和3年4月の第1回会議から本日までの計51回に及び、この間、委員、幹事の皆様におかれましては、多岐にわたる論点について大変密度の濃い御審議をしていただきました。本日、要綱案をお取りまとめいただきましたことは、道垣内弘人部会長を始めとする委員、幹事の皆様の多大な御尽力があったからこそと深く感謝を致しております。   今回の担保法制の見直しは、これまで明文の規定がなかった譲渡担保や所有権留保について明文の規定を設けることにより、不動産担保や個人保証に依存しない資金調達の促進に資するものでありまして、その意義は非常に大きいものと考えております。2月10日に開催されます法制審議会の総会で要綱が決定され、答申がされましたら、私どもといたしましては所要の法案を速やかに国会に提出するとともに、早期に法律として成立するように全力を尽くしてまいりたいと考えております。委員、幹事の皆様には今後とも様々な形での御支援、御協力を賜りますよう、引き続きよろしくお願い申し上げます。   これまでの皆様の熱心な御審議に重ねて御礼を申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。改めまして、本当にありがとうございました。 ○道垣内部会長 それでは、私からも最後に皆様に一言御挨拶を申し上げます。   先ほど竹内民事局長がおっしゃいましたように、令和3年4月13日から始まりまして、今、令和7年1月でございますので、3年以上、4年近い間、ずっと議論が重ねられてきたわけであります。そして、内容的にもかなり広範な部分を扱っております。保全処分にせよ、倒産のことにせよ、いろいろなことがこの中に出てきております。そうなりますと、全部を理解するというのはなかなか難しくて、私なんて大体何でもすぐ忘れるタイプなのですが、すぐ忘れてしまうのですが、私はこの場で部会長としてやっておりまして、全体について深い理解の下にいろいろな御発言をされる皆さんを拝見しながら、感銘というか驚きというか、いや、すごいなと思っておりました。議論を伺いながら、私は、そうだったっけというふうなことが結構ありまして、そういう頼りない部会長ではございましたが、交通整理といいますか、タイムキーパーだけはできたのではないかと思います。本当にありがとうございました。   先ほど佐久間さんの方でしたっけ、どういうふうな法律ができたのかということについての広報といいますか、そういうものが大切だという話が出ましたが、私はこの改正が始まる前にニュージーランドとオーストラリアに行きました。UCC型の制度を導入した国なのですけれども、いろいろな状況を聞いてまいりました。その両国でその中心を担った方がおっしゃっていたのが、やはり作った後の宣伝活動というのが極めて重要で、パンフレットを一杯作って、こういうふうにするのですよというふうなことをして、ユーザーインターフェースの高いシステムをいろいろ作って、みんなができるようにしたと。それによって混乱というものを最小限にすることができたと、これが自分たちの成功であるというふうなことをおっしゃっていたことを思い出すわけでございます。UCCというのは、いろいろな担保制度があって混乱があるところでできた制度でございますので、混乱があっても仕方がなかったのかもしれませんが、オーストラリア、ニュージーランドとなりますと、それほど混乱はなかったみたいですね。そこに新たな制度を入れるということなので、混乱を起こすだけではないかという反対がいろいろあったようなのですが、だからこそ、一生懸命広報活動をして、こういうふうに便利になりますので、こういうふうにしてくださいね、こういうふうなことが皆さん、求められますよという広報活動がなされたというわけです。   今回の日本における立法につきましても、委員、幹事の皆様におかれましては、今後もそういう広報の面も担っていっていただければと思いますし、法務省等も十分に広報活動をしていくということが必要ではないか、皆さんの理解を得ていくということが必要なのではないかと思います。   頼りない部会長でございましたけれども、取りまとめまでお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。   それでは、これをもちまして担保法制部会の審議を終えることにいたします。長い期間、熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。 -了-