改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第17回) 第1 日 時  令和7年2月5日(水)    自 午後3時00分                        至 午後5時02分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室(5階) 第3 議 題  再審請求審における証拠開示等 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第17回会議を開催いたします。   皆様、御多用中のところ御出席くださり誠にありがとうございます。   本日の会議から、横山構成員の後任として、川瀬構成員に御出席いただいております。   川瀬構成員から、簡単で結構ですので自己紹介をお願いできればと存じます。 ○川瀬構成員 この12月より最高裁の刑事局第一課長に参りました川瀬と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中野参事官 それでは議事に入ります。   議事については、まず、前回会議において御要望がありました最高検察庁作成の検証結果報告書について、事務当局から御説明させていただき、これに関する協議を行い、次に、前回会議に引き続き、再審請求審における証拠開示等に関する論点について、配布資料43の論点整理案に記載した順に従って協議を行うことといたしたいと存じます。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、まず、事務当局から、令和6年12月26日に最高検察庁が公表した検証結果報告書の内容について御説明します。   この報告書においては、最高検察庁は、刑事司法の一翼を担う検察として、袴田氏が相当な長期間にわたり法的地位が不安定な状況となってしまったことを真摯に受け止め、再審請求手続が長期化に及んだことや本件の捜査・公判上の問題点を検証し、さらに、今後、再審事件に検察が対応するに当たって講ずべき方策について検討を行った、としています。   この協議会の場においては、時間の都合上、同報告書の内容のうち、手続の長期化に関する問題点と問題点を踏まえた対応策について、かいつまんで御説明します。   まず、この報告書においては、同事件に係る再審請求審以降の審理が長期化にわたった要因として考えられるものとして、打合せの頻度及び各種書面の提出時期、実験・鑑定、証拠の開示、検察官による抗告、再審公判における有罪立証の項目に分けた上で、それぞれ検討を行っています。   そして、このうち、打合せの頻度及び各種書面の提出時期について、第1次再審請求審における裁判所主宰の打合せの頻度は、平均すると約8か月に1回であり、積極的に審理を促進する方策が十分でなかったことが、手続の長期化の要因の一つとなったと見ることができる、としています。   他方、第2次再審請求審における打合せの頻度は、平均すると約2か月に1回であり、この頻度や検察官の各種書面の提出時期を見ても、特に手続を長期化させる要因となったものは認められない、としています。   実験・鑑定について、5点の衣類の色調に関する実験やDNA型鑑定は、相応の時間を掛けて各種実験等が行われたり、弁護人、検察官の双方の主張や証拠を踏まえて審理が行われたこと自体に問題があるとは認められない、としています。   また、科学的証拠の信用性については、十分な証拠に基づき、慎重に判断されるべき事柄であって、相応の時間をかけて審理を行ったことには意義があった、としています。   続いて、いわゆる証拠の開示、正確には検察官から裁判所に証拠を提出するとともに弁護人がその閲覧等をすることについて、第1次再審請求審において、弁護人が、合計5回にわたり証拠開示命令の申立てをしたのに対し、検察官が、理由がない旨の意見を裁判所に述べるなどの対応をし、その際、裁判所は、検察官に対して証拠開示命令も勧告も行わなかった、としています。   そして、近年においては、検察官は、裁判所の意向も踏まえつつ、請求人側が提出した新証拠が「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」に該当するか否かを裁判所が判断するために必要性・関連性があり、かつ、これを明らかにしてもプライバシーの侵害等の弊害がないと考えられる場合には、検察官が保管する証拠を裁判所に提出するという方針で臨むようになっている、とした上で、同事件の第1次再審請求審において、検察官が、現在の視点から見れば、消極的ともいえる対応をしていたことについて、その背景には、当時は平成16年刑事訴訟法改正前であって、通常審における証拠開示制度すら規定がなく、裁判例上、一定の場合に、裁判所が、検察官に対し証拠開示命令をすることができるとされるにとどまっていたという事情があり、検察官としては、確定した事件の再審請求審においては、なおさら、裁判所からの証拠開示命令や勧告がないのに、証拠開示に応じる必要はないという理解があったのではないかと推測される、としています。   もっとも、5点の衣類の写真やそれらのネガフィルムについては、第1次再審請求審において証拠開示命令申立てがあった段階で探索していれば、審理がより促進されていた可能性があった、としています。   検察官による抗告については、第2次再審請求審において、再審開始を認めた平成26年静岡地裁決定に対し、検察官が即時抗告を申し立てたことにつき、差戻前抗告審等の各決定やその後の再審公判における令和6年静岡地裁判決において、平成26年静岡地裁決定は、鑑定の手法や結果の信用性について科学的に明らかに誤った判断を前提としたものであると認められており、検察官がした即時抗告は、科学的に誤った判断を是正するために必要かつ相当なものである、としています。   また、再審制度では、三審制の下で慎重な審理を経て確定した判決を覆すべき事由として、刑事訴訟法が定める再審開始事由がある場合に限って再審公判を開始することとされており、再審請求審と、有罪か無罪かを含めた事実審理を行う再審公判の手続とは分けられているので、再審を開始するという判断に違法・不当な点がある場合に、それを放置したまま再審公判に進むことは法の予定していないところであって、そのような対応が、検察の対応として適切であるとは言い難い、としています。   また、再審公判における有罪立証について、再審公判において検察官が有罪立証を行ったこと、及びその立証活動方針は相当なものであり、問題があったとは認められない、としています。   最後に、検察における再審事件への対応の現状等と検証結果を踏まえた対応策について、再審事件については高度な業務遂行が求められる事案がある中、現状は、対応する検察官が多忙な日常業務と併行して対応しているのが通常である上、再審について十分な知見を有しているとは限らない、とした上で、全ての再審事件において、統一的な方針の下、十分な体制で適切な判断を行っていくことが求められる、としています。   その上で、対応策として、最高検に設けられた再審事件専門の組織である再審担当サポート室の体制を強化するとともに、高検にも同様の組織を設置するなどして、全国の重要再審事件について、適時適切に支援・指導を行っていくなど、上級庁において主導的役割を果たせる仕組みを構築していくこと、最高検、高検などにおいて、再審に関する知見を集約し、検察官に対する情報共有を図り、研修などを通じて、検察官が再審事件に臨むに当たり、弁護人からの証拠開示命令の申立てを含む様々な申立てについて、統一的かつ一貫した方針の下、適切に対応することができる仕組みを構築していくこと、警察における捜査資料や証拠の保管・管理の一層の適正確保に資するため、検察においても警察との認識の共有をより緊密にするとともに、再審事件のような審理が長期間に及び得る事件においては、特にこの点を留意する必要があることを、検察官に周知・徹底させる仕組みを構築していくことなど、検察組織全体で再審事件に対応するための体制強化を図っていく、などとしています。   検証結果報告書の概要の御説明は以上となります。   ただ今、御説明した報告書の内容につきまして、御質問、御意見等ありますか。 ○足立構成員 まず一つ、今の御説明に関連して御質問を検察の方にしたいと思います。   この検証結果報告書の25ページの中段ほどにありますけれども、検察官は、平成22年5月28日に実施された第3回打合せにおいて、「「検察官は公益の代表者でもあるので、裁判所の審理にできる限り協力するべきであると考えており、開示できる証拠は任意に開示したい」と述べて証拠開示の求めへの対応についての姿勢を変え、方針を示した」と記載されています。これは、第2次再審請求審になって、証拠開示の求めへの対応について姿勢を変えたと読めますけれども、これは、検察組織としてこういう御発言があったかどうか、そのきっかけというか、何か姿勢を変えるような事情があったのかどうか、これは先ほど御説明のあった平成16年の証拠開示に関する法改正が関係しているのかもしれませんが、何かその事情についてお伺いできますでしょうか。   それから、もし検察組織として姿勢を変えたのであれば、現在でもこのような姿勢を取られているのかどうかについて、お伺いできますでしょうか。 ○中野参事官 ただ今報告書を説明した事務当局から御説明させていただきます。   御質問の1点目、組織としてこの発言がなされたのかどうか、あるいは、そのきっかけは何かあったのかというところですが、ここに記載のある報告書以上の内容を事務当局として把握していませんので、お答えはしかねるところです。   また、御質問の2点目、現在でも、同様の姿勢なのかということに関連するものとしては、先ほど御説明申し上げたとおり、最高検、高検などにおいて、再審に関する知見を集約して、検察官に対する情報共有を図り、検察官が再審事件に臨むに当たり、弁護人からの証拠開示命令の申立てを含む様々な申立てについて、統一かつ一貫した方針の下、適切に対応することができる仕組みを構築していくこととされていますので、この辺りが御参考になるかと思います。 ○足立構成員 分かりました、ありがとうございました。   では、その上で私から、再審請求審の長期化という観点から意見を2点述べさせていただきたいと思います。   報告書の最後につけられている別添資料の時系列表を見ると、第1次再審請求審には26年11か月掛かっていて、その間、裁判所が主宰する検察、弁護側との打合せは19回行われています。第1次再審請求審の一審では、再審請求の申立てから最初の打合せまでに3年7か月、初回の打合せから2回目の打合せまでに2年3か月、2回目から3回目までの打合せに2年3か月掛かっていて、その後は、おおむね3か月から6か月に1回のペースで行われています。即時抗告審では、最初の打合せまで4か月、最初の打合せから2回目の打合せまで1年7か月、その後はおおむね3、4か月に1回のペースでした。第2次再審請求審は14年11か月掛かっていて、その間、打合せは67回行われました。最初の打合せまで1年3か月掛かっていますが、その後は、長い場合で5か月、短い場合で10日間、そのほかはおおむね1か月から3か月の間で行われています。   第1次再審請求審と第2次再審請求審の打合せのペースに差があるだけではなく、同じ請求審の中でも、時期によって打合せのペースにばらつきがあることが分かります。特に第1次再審請求審の一審では、1回目の打合せと2回目の打合せの間隔が2年3か月あるのに、その間の動きは検察側の意見書が1通出されただけでした。   こうしたばらつきがなぜ起きたのかは、私には分かりません。ただ、再審請求の当事者と一度も向き合わないまま異動していった裁判官もいたのではないでしょうか。再審請求審の進行は裁判官に委ねられているため、担当裁判官の熱意や意向が進行を左右したように見えます。第1次再審請求審を通じて、弁護人の証拠開示の申立てに対し、裁判所は検察に命令や勧告も行いませんでした。   私は、審理の進行を裁判官の裁量に全て委ねてしまうことによって、進行や審理内容に差が出るという現状を改めるためのルール作りが必要だと考えています。再審請求の申立てを受けた裁判官は、検察、弁護側と争点整理を行って審理計画を立てて、それに沿って着実に進行していく仕組みが必要なのだと思います。   前回の協議会でも意見を述べましたが、こうしたルール作りの前提として、裁判所の訴訟指揮がどのような判断に基づいて進められたのか、手続を早める手立てがなぜ講じられなかったのかといった点について、裁判所自身が適切なやり方で検証することを、改めて検討するようお願いいたします。   以上が1点目で、次に検察官の証拠開示について意見を申し述べます。   再審無罪判決に結び付いた5点の衣類の証拠について、弁護側は平成2年1月26日に確定記録中の検証調書や実況見分調書等に添付されなかった写真及びそのネガフィルムなどに関する捜査書類の開示を求めました。これに対し、検察官は開示する理由がないと主張し、裁判所も証拠開示の勧告や命令は行わず、事実上追認しました。   5点の衣類のカラー写真が裁判所に提出されたのは、第2次再審請求審の一審の平成22年12月1日なので、開示されるまで20年近く掛かったことになります。しかも、このときに開示されたのはカラー写真のみで、ネガフィルムが提出されたのは更に3年6か月後のことでした。捜査機関によって証拠がきちんと管理され、5点の衣類のカラー写真やネガフィルムが早期に開示されていれば、袴田さんはもっと早く救済されていた可能性があり、残念でなりません。   現在の通常審では、初公判前に公判前整理手続に付すこと、検察官は証拠の一覧表の交付をしなければならないこと、一覧表の交付後、新たな証拠を保管するときは、速やかに被告人や弁護人に証拠の一覧表を交付しなければならないことが定められています。検証報告書では、こうした現行制度を説明した上で、次のように記しています。「今では、検察官の証拠について弁護人は網羅的に把握することができ、客観的な捜査資料や証拠の保管、把握が適正に行われるようになっている」と述べています。   本協議会の議論の中でも、証拠開示の有用性に異論を挟む意見はなかったと思います。そうであれば、私は再審請求審でも現行の証拠開示の仕組みが援用されるような仕組みを導入すべきだと考えています。 ○河津構成員 日本弁護士連合会は、2025年1月17日付けで「「袴田事件」に関する最高検察庁の検証結果を受け、改めて一刻も早い再審法改正の実現を求める会長声明」を公表しました。そこでも述べられていますが、この検証結果報告書は、無罪の結論を否定するものではなく、検察は袴田氏を犯人視していないと言いながら、無実である袴田さんを死刑囚として50年近くにわたり身体拘束し、日々死刑執行の恐怖にさらし続け、甚大な人権侵害をもたらした死刑冤罪事件であることを真摯に受け止めたものとは評価することのできないものです。   また、この報告書は、手続の長期化、証拠開示の遅延、再審開始決定に対する即時抗告のいずれについても、検察官の対応に問題がなかったとしています。その個々の評価の当否は別として、検察においてこのような受け止め方がされていること自体が、同じような甚大な人権侵害が繰り返されないようにするためには、運用上の努力では足りず、再審法の改正が必要不可欠であることを示しています。   前回会議でも申し上げましたが、再審請求審における証拠の開示等については、改正刑訴法附則9条3項で、政府は速やかに検討を行うものとされていましたが、その後8年間、内容を伴う検討は進められませんでした。前回会議以降、過半数の国会議員によって構成される超党派の議員連盟が、具体的な法案の検討を開始していると承知しておりますが、国会において速やかに議論が進められ、再審法改正が実現されるべきです。   他方、当協議会においては、本来の任務である取調べの録音・録画制度を始めとする改正刑訴法の見直しに向けた議論を迅速に進めるべきであると考えます。 ○川瀬構成員 足立委員の方から、最高裁というか裁判所の検証等は行わないのかという御意見があったと思いますので、その点について述べさせていただきたいと思っております。   これは前回等でも申し上げさせていただいておりますけれども、最高裁の事務当局が具体的な審理、判決の当否に踏み込んだ検証を行うということは、個々の裁判の当否の評価になりかねず、裁判官の職権行使の独立の観点から問題があると思っております。   ただ、一般論として、再審請求事件について、適切かつ迅速に処理されなければならないということは言うまでもなく、手続遂行の責任を負っている裁判官において、過去の再審請求事件から審理運営上の課題や、これを克服するための工夫例を学び、広く共有していくということは、とても重要であると考えております。   特に再審請求事件の審理が長期化する要因としては、統計等御報告させていただきましたが、必ずしも事件数が多いというわけではなく、また文献も乏しいという中で、裁判所内で再審請求事件の経験が蓄積・共有されにくいという状況にあったと考えております。   今後、司法研修所におきましても、再審をめぐる諸問題について、審理・運営の工夫や課題について、意見交換するということを予定しております。 ○中野参事官 その他いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、前回の協議に引き続きまして、論点の「再審開始事由を拡大すべきか」に関する意見交換を行います。この点に関しまして御意見がある方は、挙手の上御発言をお願いいたします。 ○佐藤構成員 日弁連意見書において提案されている第435条第8号について、質問させていただきます。   この御提案は、再審請求事由として、「死刑の言渡を受けた事件について、刑の加重減免の理由となる事実又は量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠をあらたに発見したとき」を追加することを内容とするものです。 この規定について議論を行う上で前提となる認識を共有するため、平出構成員に質問させていただきます。   第10回会議において宮崎構成員から、通常審において、量刑は多種多様な事実に基づいて行われるという御指摘がありましたけれども、刑事裁判の実務では、どのような枠組みの下で、どのような事情を考慮して量刑が行われているのか、量刑判断の在り方について、お伺いできればと思います。 ○平出構成員 量刑の一般論としましては、教科書的なお話にはなりますけれども、行為責任主義に基づく量刑判断ということになりますので、まずは、その行為に対するそれに見合った刑罰、量刑の幅というのを考えて、その中で、更に言えば、いわゆる一般情状と言われる事実も加味して、その幅の中で具体的な量刑を決めていくというのが、基本的なものの考え方ですけれども、そういう考え方に基づいて、量刑は決められているという現状でございます。   その具体的な当てはめというのはなかなか難しいので、具体的に様々な事情に基づいて議論していくということになります。 ○佐藤構成員 ありがとうございます。ただ今の御説明を前提とした上で、第435条第8号として、「死刑の言渡を受けた事件について、刑の加重減免の理由となる事実又は量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠をあらたに発見したとき」を再審請求事由に追加する御提案につきまして、意見を申し上げます。   この御提案は、これまで認められてこなかった量刑等の事実誤認を理由とした再審請求を、法制度として認めようとするものです。現行の再審制度は、再審請求事由を含めて、確定判決による法的安定性と具体的事案における是正の必要性の双方を考慮して、その調和点、均衡点として定められたものであると理解することができますけれども、御提案に係る再審請求事由を追加することは、これまで認められていた再審請求事由の範囲を質的に大きく変更することになるため、その是非については、慎重かつ丁寧に議論する必要があると思います。  先ほど平出構成員から御説明いただいたところによりますと、現在の実務では、犯罪行為それ自体に関わる事実によって量刑の大枠を決定し、その大枠の中で、一般情状をも考慮して具体的な刑が決定されているとのことであり、その判断において考慮される事実には、多種多様、様々なものが含まれると理解いたしました。ただ、そうした多種多様な事実の中には、仮に誤認があったといたしましても、結論として量刑に影響を及ぼさないものもあり得るように思われます。それにもかかわらず、御提案のように、量刑の基礎となる事実の誤認を再審請求事由として取り上げることにいたしますと、確定判決が導いた結論には問題がない場合でも、再審を開始すること自体は認められる結果、再審が開始されても、再審公判において、結局、確定判決の結論を維持するのが相当という判断に終わる場合が少なからず生じることになるのではないかと考えられるところです。 以上述べましたことは、量刑に関わる再審を認める場合一般にあてはまることですので、死刑事件においても、量刑における考慮が多種多様な事実に及ぶ結果として、いずれかの事実に誤認があると疑うに足りる証拠があれば再審を請求することができるということにいたしますと、再審が開始されても、再審公判において確定判決の結論が維持される場合が生じることが想定されます。河津構成員にこの点に関する御意見がございましたら、お伺いしたいと思います。 ○河津構成員 日弁連が死刑の言渡を受けた事件について再審開始事由を加えることを提案しているのは、死刑が人の生命を奪う不可逆的な刑罰である点で他の刑罰とは質的に異なることから、他の事件とは異なる特別な手続保障が要請されることを根拠とするものです。死刑事件については、無罪を言い渡すべき場合に限らず、死刑の量刑を基礎付ける事実に誤認がある場合にも、再審が認められる必要があるというのが、日弁連の意見書の立場です。現行刑事訴訟法の解釈としても、死刑の量刑を基礎付ける事実の誤認は、原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき場合に該当するとの解釈も成り立ち得ますが、文言上明確とは言えないために、死刑の量刑再審を再審の理由の一つとして追加することを提案しています。 ○佐藤構成員 続けてのお尋ねで恐縮ですが、死刑事件のみを対象として量刑に関わる再審を認めた場合に生じる可能性がある、次のような事態については、どのように考えればよいでしょうか。 共犯事件において、主犯格とされた被告人Aを死刑、比較的従属的であるとされた共同被告人Bを無期懲役にそれぞれ処するものとした判決が確定した後、両名に共通する、重要な情状事実に関する誤認が判明したといたします。再審の対象となるのが死刑事件のみだといたしますと、主犯格とされたAにだけ再審を請求することが認められることとなります。そして、その請求が容れられ、再審公判に進んだ場合、主犯格とされるAに対して、比較的従属的とされるBよりも軽い有期刑が言い渡される、という事態も生じ得るのではないかと思われるわけです。   比較的従属的であるとされたBに対する無期懲役の判決はそのまま維持される一方、主犯格とされたAに対する死刑の判断は是正されて有期刑に減軽される、という結果は、共犯者間の立場の違いに照らして、不均衡、不公平なのではないか。ただ、これを是認しがたいと考えて、不均衡、不公平を回避しようとすると、比較的従属的であるとされたBについても、量刑を是正する余地を認める必要が出てくる。そうすると、結局、死刑事件に限らず、量刑に関わる再審一般を認めざるを得なくなるのではないか。 このような疑問を持っておりまして、確定判決への影響を問わないかたちで量刑に関わる再審請求を認めることに加えて、その対象を死刑事件に限定することによって生じる問題もあるように思われました。 ○河津構成員 佐藤構成員が御指摘になった共犯者間の不均衡、不公平という問題は、通常審において、例えば別の裁判体で審理が行われ、前提となる事実認定が異なるものとなり、その結果、異なる量刑がされることによっても生じ得るものなのではないかと思います。   逆に、主犯格であることが決定的に重要な量刑事情として考慮され、死刑判決が選択された場合、その認定が誤りであることが明らかな証拠が発見されたのに、それが是正されないまま放置されることは、重大な不正義なのではないかと私は思います。死刑の不可逆性を考慮すると、その量刑判断の基礎となる事実の誤認があった場合を再審開始事由に加えることは、正義にかなうと私は思います。 ○佐藤構成員 今回の御提案が、主犯格であることを基礎付ける事実に誤認があった場合も含め、確定判決の死刑の量刑を是正すべき事案があるのではないか、という問題意識に基づくものであることは理解しておりますけれども、是正の対象を死刑事件に限定することにより、共犯者の主従関係に関わる事実認定は変わらないまま、共犯者双方に共通する、量刑を基礎付ける事実について誤認があるという場合には、先ほどお話をしたような問題が生じるのではないかというのが、お尋ねの趣旨でした。   また、量刑が多種多様な事実に基づいて行われることとの関係では、その事実のいずれかについて誤認があると疑うに足りる証拠があれば再審を請求すること自体はできるといたしますと、量刑判断に影響を及ぼさないため本格的な審理を必要としない再審請求が増加する可能性がある点についても先ほど申し上げたとおりです。 いずれにしましても、繰り返しとなりますが、現行の再審制度は、確定判決による法的安定性と具体的事案における是正の必要性の双方を考慮して、その調和点として定められております。御提案は、これまで認められていた再審請求事由の範囲を質的に大きく変更し、これまでの調和点を動かしかねない側面を持っておりますので、その是非については、慎重かつ丁寧に検討する必要があると考えております。 ○中野参事官 その他いかがでしょうか。   佐藤構成員、お願いします。 ○佐藤構成員 続きまして、これも日弁連意見書の御提案に関わるため、できましたら、河津構成員に御教示いただけると有り難いのですけれども、第435条第9号として、訴訟手続の憲法違反に関する再審開始事由を追加する点について質問させていただきます。 第10回会議におきまして、河津構成員は、同号にいう、「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違法があったとき」という事由によって捉えようとしている想定事例として、ロシア人おとり捜査事件や憲法で禁止されている拷問があった場合を挙げられたと記億しております。   ただ、ロシア人おとり捜査事件に関しましては、警察官がおとり捜査を行った上、さらに、確定審において、組織ぐるみで虚偽証言に及ぶなどした事案につき、即時抗告審では、現行法の第435条第6号への該当性が否定される一方、警察官が当該被告事件で虚偽有印公文書作成罪を犯したことに関し、判決に代わる証明があったとして、第435条第7号への該当性が認められた、というかなり特異な事案といえるように思われます。   また、拷問があった場合に関しまして、河津構成員は、再審公判で公訴が棄却されることを想定されていると理解したのですけれども、現行法上、捜査手続に違法があったとしても、直ちに公訴が棄却されることとはされておらず、御案内のとおり、最高裁判例において、公訴の提起が無効となるのは、公訴提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られるとされていることからいたしますと、拷問の事実が、再審公判において直ちに公訴棄却という帰結に結び付くか、という点につきましても議論の余地があるように思われました。   そこで、ただ今挙げました事件や拷問の場合のほかに、「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違法があったとき」という事由によって捉えようとしている、一般的と申しますか、典型的と申しますか、そうした想定事例がございましたら、御教示いただければと思います。いかがでしょうか。 ○河津構成員 日弁連の意見書にいう「原判決をした裁判所の手続」は捜査手続を含む趣旨であることは、第10回会議でも申し上げたとおりです。文字どおりの「裁判所の手続」については、例えば、隔離された特別法廷で審議され、有罪判決が言い渡されたような場合が想定されていると理解しております。   私個人の意見を申し上げると、やはり原判決に至る手続に憲法違反が発見されたときは、再審開始事由とすべきであると考えます。第10回会議で佐藤構成員が御指摘になったとおり、判決が確定した後に法令の違反が発見された場合については、非常上告の制度がありますが、同制度は法令の解釈適用を統一することを目的としたものであり、申立権者は検事総長に限られています。   しかし、憲法98条1項の趣旨に照らすと、検事総長が非常上告を申し立てないときに、憲法違反が是正されることなく放置されることは適切でないと思われます。そこで、再審開始事由として明記することにより、無効とされるべき手続により有罪の言い渡しを受けた者が、自ら是正と救済を求めることができるようにすべきであると考えます。 ○佐藤構成員 ただ今、河津構成員が例に出された、隔離された特別法廷における審理に関しまして、第10回会議でも同じことをお尋ねしたと記憶しておりますけれども、この再審請求事由においては、改めて公開の法廷で審理を行った場合に、有罪、無罪等の結論に影響があるかどうかは問題としない、という御趣旨だと理解してよろしいのでしょうか。 ○河津構成員 はい。隔離された特別法廷で審議されたことが有罪の原因となっていない場合、再審を行っても、結局、有罪判決を言い渡されることになってしまうのではないか、ということは御示唆のとおりだと思います。   ただ、それは事案次第でもあり、本当に結論に影響しないものである場合は再審請求をするインセンティブがないということになるとしても、憲法上有効な手続で審理することを求めるというのであれば審理をやり直すことが、憲法98条1項の趣旨に沿うと理解しております。 ○宮崎構成員 私からも、今の日弁連案の第435条第9号についてですが、第10回会議における河津構成員の御説明によれば、「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違反があつたとき」を、再審請求事由に追加することとする御提案の趣旨は、有罪認定の根拠となった証拠が違法収集証拠であって、それが証拠から排除されるべきものであることを認める新証拠が発見された場合が、再審請求事由となるということを明確化することにあり、それによって再審が開始された場合には、違法収集証拠が排除されて無罪となることが想定されており、その違法の程度が甚だしい場合には、公訴棄却となり得ることが想定されているものと理解しています。   まず、現行法上の再審請求事由を見ますと、明白性、新規性のある証拠を発見したときや、証拠となった証拠書類が偽造であることが確定判決により証明されたときなど、いずれも確定判決後に事情の変更があった場合が再審請求事由とされています。これに対し、日弁連案につきましては、何ら事情の変更がないにもかかわらず、訴訟手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違法があったと主張するだけで、再審請求が可能となるものとなっており、再審請求事由に関する現行法の考え方と整合しないと考えられます。   また、この御提案は、違法収集証拠であることを認める新証拠が発見された場合が再審請求事由となることを明確化する趣旨と思われますけれども、御提案の文言上、証拠の収集手続とは関係のない手続に重大な違法があった場合にも、再審を開始し得ることとされており、先ほどの御説明もそのような趣旨かと思います。   そのため、御提案によれば、佐藤構成員が御指摘もされていましたし、今ほど河津構成員からも言及があったように、公開原則違反のように、具体的な事実誤認と結び付かない手続違反があった場合であっても、再審の開始を認め得ることとなります。また、捜査手続についても、例えば、任意同行の手続に違法があったものの、任意同行後に供述調書等の証拠が作成されなかった場合のように、有罪判決の根拠とされた証拠の収集と関係しない捜査活動上の違法もあり得るところ、御提案によれば、こうした具体的な事実誤認と結び付かない捜査手続に重大な違法があったような場合も、再審の開始を認め得ることとなります。   しかし、そのように、具体的な事実誤認と結び付かない手続違反を理由として再審を開始した場合、再審公判を経ても、結局、確定判決が維持されることとなり、意味のない手続の繰り返しを招くだけということになりかねないと思います。   再審制度は、主として、確定判決における事実誤認を是正して、有罪の言渡しを受けた者を救済するための非常救済手段であり、刑事訴訟法第435条各号に掲げる再審請求事由は、いずれも確定判決の事実認定に誤認があることが顕著に推測される場合であるとされています。 したがって、御提案のように、具体的な事実誤認と結び付かない手続違反についてまで再審の請求を認め得ることとすることは、再審制度の目的と整合しないものであり、非常上告制度との区別も曖昧にするものであると思います。   さらに、仮に一部の証拠が違法収集証拠であるとして排除され、事実認定に変動を来す場合であっても、有罪の結論には影響を及ぼさない場合もあり得るところ、御提案によれば、有罪認定の根拠とされた証拠が違法収集証拠であるとされれば、確定判決が導いた結論の当否に問題がなくても再審が開始され、再審公判において、結局、他の証拠関係から有罪を維持するのが相当と判断される場面が生じることとなりかねないのではないかと考えられます。   加えて、違法収集証拠排除法則は、判例法理によって認められたものであり、最高裁判例では、証拠物の押収等の手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力が否定される旨判示されているところ、その判示の趣旨等については、違法の重大性と排除相当性の関係などに関して種々の議論があるものと承知しており、そもそも判例の趣旨を一義的に明文化することは困難であると考えられます。   以上のとおり、日弁連案第435条第9号の「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違反があつたとき」を再審請求事由に追加することは、相当でないと考えております。 ○中野参事官 その他いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次の論点である「再審請求審について、裁判官の除斥・忌避に関する規定を設けるべきか」に関する意見交換を行います。   この点につきましては、まずは河津構成員からその改正の御提案の概要・趣旨を、簡単に御説明賜れればと思いますが、いかがでしょうか。 ○河津構成員 現行刑事訴訟法には、再審手続に関与する裁判官について除斥及び忌避に関する規定はなく、再審の目的となった確定判決に関与した裁判官は、当該再審請求に関する裁判に関与することを妨げないと解されています。しかしながら、新証拠の明白性は、新証拠それのみで判断するのではなく、新証拠と他の全証拠とを総合的に評価して、確定判決の有罪認定に合理的な疑いが生じるか否かによって判断することとされています。したがって、再審請求における審議の対象は、当該再審請求の審議で提出された新証拠のみならず、過去の審理で提出された旧証拠にまで及ばざるを得ませんが、過去の審議に関与した裁判官は、自ら行った証拠評価の影響を払拭することが困難です。   そもそも確定判決の判断の誤りを指摘し、その是正を求める再審手続に、過去の審議に関与した当の裁判官が関与することは、裁判所の公平性、公正性に対する疑念を抱かせるものですし、当の裁判官から有罪判決を受けた再審請求人にとっては耐え難いところです。そこで、通常審において裁判官が前審の裁判に関与したことが除斥事由とされているのと同様に、再審請求審においては、原審の裁判に関与したことを除斥事由とすべきであるというのが、日弁連意見書の立場であると理解しております。   私個人の意見としましては、再審請求審において、新たに発見された証拠によれば、無罪を言い渡すべきことが明らかであるかどうかを判断するに当たり、確定審において有罪判決を言い渡した裁判官は、有罪判断を維持する方向のバイアスから逃れられないことは、心理学的に否定できないものと思われます。深刻な人権侵害を伴う重大な不正義を是正するための手続において、そのようなバイアスが判断に影響を及ぼすことは看過できず、原審の裁判に関与した裁判官は、再審請求審においては除斥されるべきであると考えます。 ○佐藤構成員 除斥・忌避に関わる実情につきまして、河津構成員に二つ御質問できればと思います。   まず一つ目ですけれども、近年、確定審又は過去の再審請求審に関与した裁判官が、同じ事件の再審請求審又は再審公判に関与した事例について把握されておりましたら、御教示いただければと思います。 ○河津構成員 私自身は詳細は存じ上げないのですが、いわゆる飯塚事件に関して、確定審の有罪判決に関与した裁判官が、再審請求審の即時抗告審に関与し、それを避ける措置が取られなかった例があるとの報告を受けております。 ○佐藤構成員 ありがとうございます。   続いて二つ目のお尋ねですけれども、私が確認することができた範囲においても、裁判所において、過去の再審請求審に関与した裁判官が新たな再審請求の審理に関与することを避けるために、一定の措置が取られた例もあるようです。令和2年7月15日付けの滋賀県弁護士会会長の声明によりますと、いわゆる日野町事件について、第2次再審請求の即時抗告審が大阪高裁に係属しているときに、人事異動によって、裁判長が第1次再審請求審の請求棄却決定当時の裁判長であった裁判官に交替したものの、その後、この事件については、大阪高裁の別の裁判体に配付替えが行われたとのことでした。   そこで、河津構成員、あるいは日弁連におきまして、確定審又は過去の再審請求審に関与した裁判官が、同じ事件の再審請求審又は再審公判に関与することを避けるために、何らかの措置が取られた事例について把握されているか、そして、把握されている場合には、どのような事例において、どのような理由でそのような措置が取られたのか、御教示いただけるでしょうか。 ○河津構成員 過去の再審請求審に関与した裁判官が、後の再審請求審に関与し、それを避けるための措置が取られなかった事例と、事件の配置換えが行われることによって、過去の再審請求審に関与した裁判官が関与することが避けられた事例があるとの報告を受けております。   今、佐藤構成員から御紹介いただきましたように、いわゆる日野町事件に関しては、事件の配置換えが行われたとのことです。これに対し、いわゆる大崎事件に関しては、過去の再審請求審に関与した裁判官が、後の再審請求審に関与し、裁判所はそれを避ける措置を取らなかったとの報告を受けております。 ○佐藤構成員 ありがとうございます。 ただ今、河津構成員からいただいた御回答に関連しまして、川瀬構成員にも同様のお尋ねをしたいと思います。   最高裁判所におきまして、近年、確定審又は過去の再審請求審に関与した裁判官が同じ事件の再審請求審又は再審公判に関与した事例や、これを避けるために何らかの措置が取られた事例について把握されているか、御教示いただければと思います。 ○川瀬構成員 再審請求審をどの裁判官が担当するかについては、全国的に統一的なルールがあるものではなくて、各庁がその実情に応じて事務の分配を定めております。こちらも御存じかと思いますけれども、最高裁判例においては、再審請求の目的となった確定判決に関与した裁判官が、再審請求事件の審理に関与したとしても、再審は上訴の一種には属しないものであるから、当該審理手続から除斥されるものではない旨の判示がされていると承知しております。   このような最高裁判例も踏まえて、各庁の事務分配の定めの上では、確定判決に関与した裁判官が、所属する部や係に再審請求事件を配点することとされている例があると承知しております。   このように全国的に統一的なルールがあるものではなく、各庁がその実情に応じて事務の分配を定めているところでありまして、最高裁の事務当局において、御指摘のような事例、何らかの措置を取った事例というものを、網羅的に把握するということはしておりません。 ○佐藤構成員 ありがとうございます。 これまで伺ったところを踏まえて、意見を申し上げたいと思います。   刑事訴訟法第20条は、裁判官の除斥について規定しております。その趣旨は、事件の審判を行う裁判官が、公平、公正でなければならないのは当然のこととして、裁判官が現実に偏頗な心情を持っていなかったとしても、外部の者からその疑いを持たれるような相当な理由がある場合には、当該裁判官を事件の審判に関与させないことが、裁判の信頼確保につながるところにあるなどとされております。   その上で、同条第7号が、「前審の裁判」に関与した裁判官が職務の執行から除斥されることとしている趣旨は、当該裁判官が前審でなした自らの裁判を後に取り扱うこととなった場合、前審の裁判に固執して自己弁護に陥るおそれがあり、仮にそうなれば、裁判に不服があるときには上訴して是正を求めることができることとした審級制度と相容れないからであるなどとされております。   こうした刑事訴訟法第20条第7号の趣旨を踏まえて考えますと、確定審又は過去の再審請求審に関与した裁判官が、後の再審請求審や再審公判に関与することとなった場合、実際には当該裁判官の公正さに問題がないとしても、再審請求者や一般の国民から見たときに、その公正らしさに疑いを持たれる可能性を否定し切れないとも思われます。川瀬構成員が指摘された最高裁判例がすでに存在するところではございますが、裁判官の除斥・忌避に関する日弁連意見書の御提案につきまして、私としては、なお検討に値するのではないかと考えております。 その上で、裁判所における運用可能性という観点から、再び、川瀬構成員、あるいは平出構成員にお尋ねしたいことがございます。   仮に日弁連意見書の御提案のように、確定審又は過去の再審請求審に関与した裁判官は、当該事件の再審請求審及び再審公判から除斥されることとした場合に、裁判官の総数や各裁判所への配置等の観点も踏まえて、裁判所において対応することができるかどうかという点について、御所見をお聞かせいただけると有り難いのですけれども、いかがでしょうか。 ○川瀬構成員 これは、第9回、第10回会議で提出した資料になりますけれども、再審請求事件の内容は様々でありまして、その中では、再審開始決定に至るものがある一方で、請求の方式に不備があるなどの手続違反があるもの、あるいは以前の請求と同一の理由により請求がされているもの、主張自体が失当、あるいは再審理由の主張がないものも、相当程度存在しております。   当該請求者から、確定裁判からどれくらいの期間を置いて再審請求がされたか、これまで再審請求がどれくらいの頻度で、どれくらいの回数なされているかなどによるところではありますが、再審請求事件については、全ての裁判所において取り扱う可能性があるところ、その重大性に鑑みて、単独体ではなく3人の合議体による決定がされることも少なくなく、配属されている裁判官の数などに鑑みると、対応が難しくなる庁が出てくる可能性はあり得ると認識しております。 ○平出構成員 今の佐藤構成員の質問に対してお答えしますと、再審請求事件の内容は、今、川瀬構成員からも説明ありましたとおり、極めて様々でありまして、これらの中には、同一の者から実質的に同じ理由で再審請求が繰り返し行われるケースも相当数あるものと承知しております。   もとより、どのような制度とすべきかについて意見を申し上げる立場ではありませんが、同一の者から実質的に同じ理由で再審請求が繰り返し行われるケースにおいては、確定審又は過去の再審請求審に関与した裁判官が、全て再審請求審から除斥されるとすれば、再審請求審を担当する裁判官を構成することに支障が生じる場面も想定し得るところであると考えております。 ○成瀬構成員 ここまでの議論を踏まえて、裁判官の除斥・忌避に関する私の意見を簡潔に申し上げます。   前回の協議会において、刑事訴訟法第435条第6号の改正提案について議論した際に申し上げたとおり、白鳥決定・財田川決定を始めとする最高裁判例においては、証拠の明白性を判断するに当たり、過去の審理で提出された旧証拠も含めて、証明力を総合評価する旨が判示されています。このことに照らすと、確定審や過去の再審請求審に関与した裁判官が、再審請求審や再審公判に関与することとなった場合、実際には当該裁判官が過去の判断に固執するおそれはないとしても、再審請求者や一般の国民から見たときに、その公正らしさに疑いを持たれる可能性があるという、河津構成員の御指摘には一定の理由があるように思いました。   もっとも、具体的な法改正を考えるに当たっては、先ほど川瀬構成員が紹介してくださった裁判官の除斥に関する従前の判例の考え方との整合性や、川瀬構成員・平出構成員が指摘してくださった実際の裁判所における運用可能性等も踏まえて、更に検討する必要があると思います。 ○中野参事官 その他、御質問ある方おられますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に「再審請求審における国選弁護人制度を設けるべきか」という論点に関する意見交換を行います。   この論点についても、河津構成員から提案の概要と御趣旨を御発言いただければと存じます。 ○河津構成員 再審請求をするためには、事実上、法律上の主張を構成したり、新証拠を収集したりする必要がありますが、再審請求人は法的知識が十分でないことに加え、身体拘束を受けている場合が多いことなどもあって、独力でこれらの作業を行うことは困難です。そこで、再審請求人に弁護人による実効的な援助を受ける権利を保障するために、国選弁護人制度を設けることを日弁連の意見書は提案しております。   日弁連意見書の提案は、再審の請求をした者が、貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所はその請求により弁護人を付さなければならないものとし、ただし、再審の請求が不適法であるとき、又は再審の請求に理由がないことが明らかなときは、この限りでないとするものです。   例外として、死刑の言い渡しを受けた者について再審の請求がされた場合については、裁判所は、弁護人がないときは職権で弁護人を付さなければならないものとしており、これは、死刑が不可逆的に生命を奪う刑罰であることによるものです。   日弁連意見書の提案は、更に再審請求の準備段階についてまで、国選弁護人の選任請求権を拡張するものです。 個人的な意見を申し上げると、誤った有罪判決を受けた者が救済を受けるためには、弁護人の援助を受けることが不可欠であり、貧困その他の事由により弁護人を選任できないことによって、不正義が是正されないことはあるべきでなく、再審請求審における公的弁護制度の必要性は否定できないと考えます。   そして、再審請求に当たり、無罪を言い渡すべきことが明らかな新たな証拠を再審請求人が示すことを要求する枠組みを前提とするのであれば、再審請求の準備段階から弁護人の援助がなければ、不正義の是正が実現されない場合のあることも否定できないと思われます。   再審請求審に限らず、逮捕段階の被疑者のほか、処分保留釈放後の被疑者を含む在宅被疑者についても、国選弁護人制度がないことによって不正義が生み出される場面が残されており、刑事手続の様々な場面で公的弁護制度の拡充がなお必要とされています。再審請求については、専門性の高い分野であることなどから、再審請求に特化した公的弁護人を設け、その弁護人が再審請求人や再審請求をしようとする者の申出を受けて、必要な調査をするなどして理由の存否を審査し、その結果により国選弁護人として再審請求の手続を遂行するような制度が検討されてよいのではないかと、個人的には考えます。   これまで三審制の下で審理が尽くされたはずの死刑事件ですら、誤って有罪判決が確定していることがあり、しばしばそれを覆す証拠は捜査機関の手元にあったというのが、我が国の法律家が経験してきた事実です。そうした経験を踏まえると、これまで明らかになったもの以外にも、誤った有罪判決が確定していないのか、十分に検証し、誤りを迅速に正していくことこそが、刑事司法に対する信頼を高めるものです。その観点からも、再審請求人や再審請求をしようとする者が、有効な弁護人の援助を受けることのできる仕組みが検討されるべきであると考えます。 ○佐藤構成員 それでは、日弁連意見書の御提案のうち、第440条第4項の規定について、お尋ねしたいと思います。   ただ今、河津構成員が、御発言の中で、再審請求の準備段階における弁護人の援助について言及されましたが、同項は、再審請求の準備段階において、一定の要件を満たす場合には、請求によって国選弁護人を付さなければならないとする規定だと理解いたしました。   まず、この再審請求の準備について、どの段階に至れば準備と言えるのか、日弁連の御見解などを、河津構成員から御教示いただければと思うのですけれども、いかがでしょうか。 ○河津構成員 日弁連改正案は、再審請求の準備につき段階を観念して、一定の段階に至ったときに国選弁護人選任請求できるものとしているとは読み取れないように思われます。   ただ、再審請求の理由となる事実又は証拠を発見できる蓋然性等がなければ、選任請求は却下されてしまうことから、再審請求の理由となる事実又は証拠を発見できる見込みが生じた後に、選任請求をすることが想定されているのではないかと思います。 ○佐藤構成員 第4項第1号に規定される、「弁護人の調査により、再審の請求を理由があるものとすることができる事実又は証拠を発見できる蓋然性」、その見込みが得られたかどうかが目安となる、との御説明と理解いたしました。   その第1号との関係で、更に質問させていただきます。この「弁護人の調査により、再審の請求を理由があるものとすることができる事実又は証拠を発見できる蓋然性があること」という要件の判断に当たり、具体的に、裁判所においてどのような審査、判断がなされることを想定されているのか、御教示いただければと思います。 ○河津構成員 日弁連改正案は、選任請求をした者が提出した書面等に基づいて、弁護人を選任すればその調査により再審の請求を理由があるものとすることができる事実又は証拠を発見できる蓋然性があるかどうか、弁護人の協力が必要かどうかを判断することを想定しているものと思われます。   弁護士は時折、面識のない受刑者等から再審請求の援助を求める詳細な手紙を受け取ることがあり、それを読んで、再審請求の見込みがあるかどうかということを検討することがありますが、それに近いものが想定されているのではないかと思います。 ○佐藤構成員 続いて、第4項第2号についてもお尋ねしたいのですけれども、同号の要件は、「事実関係又は法律関係が複雑なため、弁護人の協力が必要であること」とされております。こちらも、具体的に、裁判所においてどのような審査、判断がなされることを想定されているのか、御教示いただければと思います。 ○河津構成員 私の理解では、成り立つ可能性のある再審請求の多くでは、弁護人の援助の必要性はあるのだろうと思います。裏を返せば、再審請求の理由のないことが明白で、弁護人の援助の意味が乏しいような場合を除外する趣旨なのではないかと、私は理解しております。 ○佐藤構成員 繰り返しのお尋ねに対して丁寧に御説明いただき、ありがとうございました。 今までの御説明を踏まえまして、川瀬構成員、あるいは平出構成員にお尋ねしたいと思います。   ただ今、日弁連意見書において提案されている第440条第4項第1号、第2号について御説明を受けたところですけれども、仮にこの要件について裁判所において判断される場合に、何か困難だと考えられる点があるか、御所見をお聞かせいただけるでしょうか。 ○川瀬構成員 どのような制度とすべきかについては、そもそも意見を申し上げる立場にはないという前提にはなりますけれども、今お伺いした中では、取り分け、第1号の、「弁護人の調査により、再審の請求を理由があるものとすることができる事実又は証拠を発見できる蓋然性があること」という要件が、基準として明確であるかどうかというところについては、懸念がないわけではないと認識しております。 ○佐藤構成員 第4項の規定に関しまして、ただ今伺った御所見も踏まえて手短に意見を申します。第1号、第2号の要件に関して、それによって目指される方向性自体は理解いたしますけれども、それらの要件を満たすか否か、裁判所において判断することに困難があるということですと、文言としての明確性になお課題があるものと考えます。 ○成瀬構成員 国選弁護人制度に関する河津構成員の御説明を伺って、再審請求審及びその準備段階から弁護人の助力が必要であるという御主張の根拠については、一応、理解することができました。   もっとも、国選弁護人制度の新設については、現行法の趣旨も踏まえて検討する必要があると思います。例えば、被告人の請求による国選弁護人の選任について規定した刑事訴訟法第36条の趣旨は、刑事訴追を受けた者が防御のために弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障する点にあるとされており、被疑者の請求による国選弁護人の選任について規定した刑事訴訟法第37条の2の趣旨は、刑事訴追を受ける可能性のある者が弁護人から援助を受ける機会を実効的に担保するとともに、弁護人による早期の争点整理を可能にし、刑事裁判の充実・迅速化を図る点にあるとされています。   現行法には、そのほかにも、刑事訴訟法第37条、第37条の4に職権によって付される国選弁護人制度、第289条に必要的弁護制度の規定などが置かれていますが、これらの規定は、総じて、現に刑事訴追を受け、又はその可能性のある者が、刑罰を含む不利益な処分を受ける可能性のある立場に置かれていることに鑑み、その防御権や利益の保護を全うするため、弁護人から援助を受ける機会を担保することに主眼を置くものであると考えられます。   これに対して、再審請求の場面は、既に有罪判決が確定しており、刑罰を含む不利益な処分を更に受ける可能性がある状況ではないという点において、現行法上の国選弁護人制度や必要的弁護制度が予定している場面とは、やや状況を異にするように思われます。 今後、再審請求審における国選弁護人制度の新設を考えるに当たっては、このような現行法との差異も踏まえながら検討する必要があると思います。 ○宮崎構成員 再審請求審における国選弁護人制度について、意見を申し上げます。   今ほど御指摘にもありましたけれども、再審請求審において国選弁護人制度を新設することについては、現行刑事訴訟法上の国選弁護人制度や必要的弁護制度が予定している範囲からは、相当程度外れているように思われます。加えて、国選弁護人制度を拡大することとなれば、相応の予算措置を伴うと思われるところ、現下の厳しい財政状況の下で国民の理解を得るためには、その必要性や合理性を慎重に吟味する必要があると思われます。   その上で、第9回会議で横山構成員が御提出された資料1から3によりますと、有罪判決を受けた本人側が行った多数の再審請求のうち、本格的な審理が必要となる事件はごく一部にとどまることがうかがわれます。このような再審請求の実情にも照らすと、再審請求審における国選弁護人制度については、慎重な検討が必要であると考えます。 ○中野参事官 ほかに御質問等がある方はおられますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に「期日指定、事実の取調べ、再審請求理由の追加・変更に関する規定など、再審請求審における詳細な手続規定を設けるべきか」という論点について、意見交換を行います。   この点につきまして、御意見がある方は御発言をお願いします。  ○宮崎構成員 再審請求審における詳細な手続規定を設けるべきか否かを考える上での観点について、コメントさせていただきます。   再審請求審における詳細な手続規定を設けるべきとする意見には、再審請求審における審理の進め方等が裁判所によって区々であり、積極的に活動する裁判所がある一方で、そうでない裁判所もあり、裁判所の意欲の差による、いわゆる再審格差が生じているとの指摘に基づくものがあるものと承知しております。また、そのような御指摘が、当協議会でもされているところかと思います。   私としては、事件ごとに再審請求理由や証拠関係などが異なる以上、審理の進め方等について差が生じるのはむしろ当然であって、差があること自体に問題があるのではなく、個々の事案に応じて、裁判所が適切に職権を行使することが重要であると考えています。その上で、一般的に見た場合、裁判所において、審理の進め方等に関し、不適正な運用が行われているとまでは言い難いのではないかと思います。   したがって、いわゆる再審格差を是正するといった観点から、手続規定の整備を検討することは妥当でないと考えますが、再審請求審については、一部の事件につき審理の長期化が指摘されているところであり、審理の迅速化・円滑化を図る観点から、手続規定を整備することが必要かつ相当であるということであれば、そうした検討を行うことは考えられると思います。   もっとも、再審請求事件は、第9回会議での横山構成員御提出の資料にもありましたけれども、請求が不適法であったり、主張自体失当とされるものや、再審請求理由の主張がないとされるものから、本格的な審理を要するものまで様々であるという実情等に鑑みると、裁判所による事案に応じた柔軟かつ適切な対応を阻害することのないようにするとともに、迅速化・円滑化の実効性が確保できるのかについても、十分に検討する必要があると思います。 ○成瀬構成員 再審請求審における期日指定に関して、日弁連の刑事訴訟法改正案第445条第2項では、特別の事由がある場合を除き、再審の請求がされたときから2か月以内に期日を指定しなければならないとされています。この御提案につきまして、今、宮崎構成員が指摘された裁判所による事案に応じた柔軟かつ適切な対応が可能かという観点から、私の問題意識を申し上げた上で、川瀬構成員と平出構成員に質問をさせていただきたいと思います。   一般に、訴訟法上の期日とは、裁判所及びその他の訴訟関係人が集まり、訴訟行為を行う時間をいうものとされているところ、通常審においては、刑事訴訟法第273条第1項により、裁判長は公判期日を定めなければならないとされています。これは、通常審においては、対審構造による公判手続が定められており、そうした手続を実施するためには、公判期日を開き、裁判官・裁判所書記官のほかに、当事者である検察官、被告人・弁護人を集めなければならないからであると考えられます。このように、法律上、期日の指定が必要的とされているのは、一定の目的の下で、裁判所が訴訟関係人を集めて行うべき訴訟行為が具体的に想定されているからであると思われます。   これに対して、再審請求審については、請求が容れられないことが明らかな事案を除いたとしても、証人尋問等も視野に入れて本格的に審理を進行する必要があると考えられる事案から、書面のやり取りによって再審請求の趣旨・内容を確認すれば処理できると考えられる事案まで、様々な事案が存在するでしょう。こうした再審請求事件の実情に鑑みると、事案に応じ、様々な方法・手順により再審請求に理由があるか否かを判断することが必要かつ適切であり、全ての事案について、手続当初の一定の期間内に必ず期日を開き、裁判所が訴訟関係人を集めて行うこととすべき訴訟行為を想定することは困難ではないかと思われます。 それにもかかわらず、一定の期間内に初回期日を開かなければならないこととすると、期日が空転する事態が少なからず生じることとなり、かえって訴訟経済に反するのではないかと懸念しております。   この点について、実際に刑事裁判実務を担う立場からはどのように考えられるか、川瀬構成員と平出構成員にお伺いできれば幸いです。 ○平出構成員 再審請求事件の内容は様々であり、各裁判体は事案の内容や当事者の意見も踏まえて打合せをすることもあるのだと思います。その中で、原則として期日指定を必要的にしてしまうと、今行われているような事案の内容に応じた柔軟な対応が難しくなることがあり得ると思われます。 ○川瀬構成員 今まで出てきたところに尽きるかなと思っていますけれども、やはり再審請求事件の内容がそもそも様々であるということで、今、正に成瀬構成員の方から御指摘があったように、期日が空転するような事案というのも生じてきてしまうというところはあるかなというふうに思っております。   それは、先ほど除斥・忌避のところでも裁判所の体制の話もありましたが、再審に限らず、ほかの刑事裁判等を担っているという立場から、期日が必要的だということで運用が硬直的になってしまうと、そういった体制面からも少し考える必要が出てくるんではないかという懸念があると思います。 ○成瀬構成員 丁寧に御教示くださり、ありがとうございました。   続けて、再審請求理由の追加・変更に関して、意見を申し上げたいと思います。   日弁連の刑事訴訟法改正案第441条の2第2項を見ると、第1文で、再審請求者は、審理の終結に至るまで、請求の理由を追加・変更することができるとされ、第2文で、抗告審においても同様とするとされています。   まず、第1文の趣旨が、再審請求者に主張を補充することを許すにとどまるのか、それとも、全く別の再審請求理由を追加することまで許すものであるのかは、明らかではありませんが、仮に再審請求理由の追加・変更を無制約に許すこととした場合には、第10回会議で横山構成員も示唆しておられたように、審理をいたずらに長期化させることとなりかねないのではないかと思われます。 また、第2文では、抗告審においても、再審請求の理由を追加・変更することができるとされていますが、最高裁判例では、事後審である抗告審において、再審請求理由の追加は許されないとされており、この改正案が、こうした最高裁判例や事後審である抗告審の性質と整合するのかについて慎重に検討する必要があると思います。 ○中野参事官 ほかに御質問等がある方はおられますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に「再審請求審における審理を公開することとすべきか」という論点に関する意見交換を行います。この点について、御意見がある方は御発言をお願いいたします。 ○足立構成員 川瀬構成員に御質問があるんですけれども、現在の再審請求審の審理を公開してはいけないというような規定だったり法令があるのでしょうか。 ○川瀬構成員 お答え申し上げます。   まず、法制上、そこは明確にされてないというところになっておりまして、最高裁の事務当局におきましては、再審請求審において、審理が公開されたか否かということを網羅的に把握するということはしておりません。ただ、文献等によりますと、再審請求手続の審理の一部が公開された例もあるとは承知しております。   結局、再審請求審を公開するか否かについては、各裁判体の判断事項でありまして、事案ごとの事情を勘案して判断するというふうには承知しておりますけれども、ただ、再審請求審を公開で行うことは、ほとんどないと認識しております。 ○足立構成員 ということは、過去の公開された件数が何件あるかといった、そういった統計資料はないと理解しましたが。 ○川瀬構成員 再審請求において公開だったかどうかというところを、統計上取っているということはございません。 ○足立構成員 通常は公開していないという点については、何か、どのような事情があるのか、どのような理由があるのか、もし分かれば教えていただきたいんですけれども。 ○川瀬構成員 こちらも、各裁判体の判断事項なので、結局、何が決定的な事情になったかということは、こちらは承知しておりません。 ○足立構成員 今の御回答を踏まえた上で、私から審理の公開について、意見を申し述べたいと思います。   私は、特に重大事件については、審理の公開を積極的に進めるべきだと思います。再審請求審の審理は、通常、今お話にあったように非公開となっていて、国民の目には何が行われているのか分からない状態になっています。裁判所からの再審請求審の決定が出たとしても、その審理経過は把握できないため、検証することも困難です。それが、司法に対する国民の不信感を増幅させる一因になっているようにも感じています。   袴田さんの検証結果報告書を読むと、途中から検察と弁護側が主張書面を何度もやり取りしていた状況が伺えます。これは、争点が明確ではなくて、時には当事者の主張が変遷したり、新たな主張が出てきたりした上で、それに、さらに相手方が再反論したりして、時間が掛かったのかもしれません。そうした審理の実態がリアルタイムで明らかになれば、進行の課題が可視化されて、審理に緊張感をもたらし、国民の間から様々な意見や指摘が出ることによって、社会的な関心も高まると考えています。そうなれば、結果的に再審請求審に対する国民の理解と信頼が深まることに結び付くはずだと、私は考えています。 ○成瀬構成員 私は、日弁連の刑事訴訟法改正案について、河津構成員に質問をさせていただきたいと思います。   この日弁連の刑事訴訟法改正案第445条の6、第445条の8、第445条の14によれば、再審請求の理由について陳述する手続期日、証人尋問・検証・鑑定、事実取調べ後に意見を陳述する手続期日を公開しなければならないとされています。   憲法第82条第1項は、裁判の対審及び判決は公開の法廷で行うと規定しているところ、最高裁判例によれば、同条は、刑事手続については、刑罰権の存否及びその範囲を定める手続について、公開の法廷における対審及び判決によるべきことを定めたものであり、そこに再審請求審の手続は含まれないとされています。   もとより、これは、再審請求審における手続を公開してはならないことを意味するものではありません。先ほど川瀬構成員から、法制上、この点は明確でないとの御指摘もありましたが、現行法上、裁判所の判断で再審請求審の手続を公開することは可能であるという理解が一般的だと思います。そのように理解されているからこそ、実際に、再審請求審における証人尋問等を公開の法廷で行った事例も存在すると承知しております。   ただ、日弁連の改正提案のように、法律上、一定の場合に再審請求審の手続を公開しなければならないこととするのであれば、そのような法改正をすべき立法事実が必要であると思われます。そこで、立法事実についてどのようにお考えであるのか、河津構成員に伺えれば幸いです。 ○河津構成員 日弁連意見書は、裁判所の職権行使の在り方を市民の監視下に置くという観点から、少なくとも重要な手続は公開して行うこととするものです。審理に年月が掛かっている再審請求事件の中には、弁護人から見ると事件が長期間放置されているように見えるものもありますが、手続が全て非公開であるために、それは本当に放置されているのか、それともそれは誤解なのかすらうかがい知ることができません。重要な手続を公開して行うこととすることは、市民の目を意識することになることから、適正な審理の進行には資すると考えらます。   私個人の意見を申し上げると、再審請求審に限らず、刑事手続全般において、透明性を高めることが課題なのではないかと思います。例えば、勾留、保釈の審理や公判前整理手続は、国民の権利に重大な影響を及ぼすものですから、公開して行われるべきであり、それと同様に、再審請求審の重要な手続も公開されるべきであると考えております。 ○宮崎構成員 再審請求審における審理を公開しなければならないとする日弁連案につきまして、意見を申し上げます。   一般に、裁判を公開することは、訴訟関係人の名誉、プライバシー等に影響を及ぼすものであり、憲法上の要請を越えて、法律上、再審請求審の手続の公開を義務付けることとするのであれば、積極的な立法事実が示される必要があると考えられます。 先ほど河津構成員の御説明された御提案の趣旨につきましては、裁判所の職権行使の在り方を国民の監視下に置くということで、裁判所の適切な職権行使を確保しようとするものであるという、そのような御趣旨だと理解いたしました。   しかし、現時点において、一般的に、裁判所の職権行使に関して不適正な運用が行われているとまでは言い難く、先ほどの御説明を聞きましても、法律上、再審請求審における審理の公開を義務付けるべき積極的な理由は示されていないのではないかと思います。 他方で、再審請求審の手続を公開することとした場合、審理が傍聴の対象となり、再審請求審における審理内容等に関しても、より詳細な報道等がなされることが想定され、判決確定後も長期間にわたり被害者等の事件関係者のプライバシー、名誉等に関連する内容が、世間一般に知られ得る状態となり、被害者等の事件関係者の平穏な生活を害することとなりかねません。   また、再審請求事件は、理由がないとして棄却される事件が大半であるところ、御提案のように再審請求審の手続を公開することとした場合、こうした事件も含めて、既に確定している事件の公判手続がいつまでも続いているかのような様相を呈し、紛争解決手段としての刑事裁判制度に対する国民の信頼を損なうことともなりかねないと考えられます。   以上のことから、再審請求審における審理の公開を義務付けることについては、慎重に検討すべきであると考えます。 ○中野参事官 ほかに御質問等がある方はおられますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に「再審請求がされた場合に、死刑の執行停止を義務付けるべきか」という論点に関する意見交換を行います。この点について御意見がある方は、御発言をお願いいたします。 ○宮崎構成員 この点につきましては、第10回会議でも申し上げたところですけれども、改めて日弁連改正案第442条第3項につきまして意見を申し上げます。   改正案第442条第3項は、死刑の言渡しを受けた者について再審の請求がされたときは、裁判所は、決定で刑の執行を停止しなければならないというものでありますが、このような規定を設けると、再審開始事由がないことが明らかな場合であっても、再審請求が繰り返され続ける限り、永久に刑の執行をなし得ないこととなることなどから、不合理であると考えます。   また、日弁連改正案第442条第2項について意見を申し上げます。   改正案第442条第2項は、再審請求があった場合において、裁判所による刑の裁量的執行停止を認める旨の規定と理解いたしました。もっとも、現行刑事訴訟法においては、第472条第1項が、「裁判の執行は、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する」としているように、司法作用である裁判と行政作用である執行とを分離した上で、行政権を担う検察官に刑の執行を指揮する権限を与えています。その上で、刑事訴訟法は、検察官に対し、刑の執行指揮権限の一環として、例えば第442条ただし書等において刑の執行を停止する権限を与える一方、裁判所に対しては、再審開始決定があった場合に限って、例外的に執行停止の権限を認めることとしています。再審請求があった場合の裁判所による刑の裁量的執行停止を認めることとするかについては、今申し上げた現行法の建て付けも踏まえて、慎重に検討する必要があると考えます。   さらに、日弁連改正案第448条第2項について意見を申し上げます。   改正案第448条第2項は、再審開始決定があった場合において、裁判所による刑の執行停止を義務付ける旨の規定と理解いたしました。もっとも、一般に、確定判決の効力は再審開始決定によって失われるものではないと解されている上、再審請求審と再審公判とでは審判対象も手続も異なり、再審開始決定があったことが直ちに再審公判において無罪が言い渡されることを意味するわけでもないことからすると、再審開始決定があったことをもって一律に刑の執行停止を義務付けることには、慎重な検討を要するものと思われます。 ○河津構成員 確かに死刑の執行停止が義務付けられるとすると、再審請求をすることによって死刑の執行を免れることができることになりかねません。他方で、再審請求がされても、死刑の執行停止が義務付けられないとすると、確定判決が誤りであったことが明らかになったときには、既に死刑が執行されてしまっているという、取り返しのつかない事態が起こり得ることになります。さらには、誤った死刑判決を受けた市民を、日々死刑執行の恐怖にさらし続けることにもなります。そのどちらを避けなければならないのかといえば、後者であることは明白ではないでしょうか。   国連総会は、2007年以降、各国に対し死刑の執行の停止を求める決議を繰り返しており、死刑が執行されないことは、むしろ国際社会の要請に沿うものです。確定した刑罰が執行されないことは不正義だと考えるとしても、取り返しのつかない事態を招き、無実の市民を死刑執行の恐怖にさらし続ける不正義は、それとは比較にならないのではないでしょうか。   三審制の下で審理が尽くされたはずの死刑事件ですら、誤って有罪判決が確定していることがあり、それを覆す証拠は捜査機関の手元にあったという事案が複数存在することは、軽視されるべきではないと思います。 ○中野参事官 その他いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に「再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止すべきか」という論点に対する意見交換を行います。この点について御意見がある方は、御発言をお願いいたします。 ○足立構成員 第11回の本協議会で、河津構成員から御提出のあった資料、検察官抗告の状況によると、19事件、計21件の再審開始決定のうち、17事件、計19件について検察官が抗告しています。そのうち6件については、その後、検察官の抗告が裁判所に認められて再審開始決定が取り消されています。このように、検察官の抗告を受けて裁判所が証拠を吟味した結果、再審開始決定を取り消すケースが3割近くあり、さらに検察官が全件で抗告しているわけではない状況を見ると、現行制度上、検察の抗告が機能していない、あるいは直ちに負の方向に機能しているとは言い切れないと思います。   ただ、再審開始決定が取り消されることを、再審請求人の立場で見ると、酷に過ぎる面があることも確かだと思います。請求理由である無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見するというハードルは極めて高く、再審請求人がこのハードルを越えるためのエネルギーには、経済的にも時間的にも、また精神的にも相当のものが求められると推察します。検察官に抗告権を与えることは、最初のハードルを何とか越えてきた請求人に、更なる高いハードルを課すことにもなります。しかも、検察官には、再審公判で開始決定の当否を正々堂々と争うことができます。職権主義の下では、検察官は当事者ではなく、予備審査とも言える請求審の段階で、最高裁への特別抗告まで含む抗告権を検察官に認める必要があるのかどうか、無辜の救済を制度趣旨とする以上、疑問でもあります。   私は、検察官に抗告権を禁止しないのであれば、再審請求審の証拠開示制度が現行の通常審と同程度に整備されること、先ほど、いろんな事案があって証拠関係も多様だという御説明がありましたが、それでも、重大事件については裁判所が検察、弁護側と的確に争点を整理して、審理計画に基づいて公開の法廷で着実に審理が進行することといった、長期化を防ぐ方策が前提になると考えています。 ○佐藤構成員 私からは、この問題について考える際の観点について、ただ今、足立構成員が御指摘になった、検察官による抗告が機能していないわけではないという実情を前提とした上で、意見を述べておきたいと思います。 我が国の刑事訴訟における再審の手続は2段階に分けられており、再審請求審は、そのうち1段階目の手続として、2段階目の手続である再審公判に先立って、再審請求に係る確定判決が、再審請求者の提出した新証拠により覆される蓋然性があるか否か等について審理し、再審公判を開始すべき事案を適切に選別するためのものと位置付けることができます。   したがって、1段階目の手続である再審請求審において、所定の要件を満たさない違法、不当な再審開始決定がなされる場合であっても、当該決定の是正の余地を認めず、必ず再審公判を開始しなければならないとすることが、再審公判を開始すべき事案を適切に選別するため、再審請求審、再審公判の2段階構造が取られていることと整合するのかどうかという点については、現行制度全体の設計を踏まえて、慎重に検討する必要があるのではないかと考えております。   それから、再審開始決定に対する抗告を禁止すべきだとの御主張は、抗告による手続の長期化等に伴い再審請求者の負担が過重になっているのではないかとの問題意識に基づくものと理解をしておりますけれども、仮に再審開始決定に対する抗告を禁止した場合に、これまで再審請求審において行われていたのと同様の審理が再審公判において行われることとなりますと、再審請求審、再審公判全体を通じた負担の軽減にはつながらないのではないかという見方も成り立ち得るところです。この問題については、総体として、再審請求者の負担の軽減をどのように図っていくのかという観点から、再審請求審と再審公判の関係を更に考えていく必要があると思います。 ○宮崎構成員 再審開始決定に対する検察官の不服申立てに関しては、第10回会議において申し上げたとおりであり、検察当局においては、いたずらに不服申立てを行っているものではなく、実際に、これにより上級審で是正がなされ、再審不開始で確定した事案があるという実情を踏まえますと、再審開始決定に対する不服申立てを禁止した場合、確定判決による法的安定性が害され、実質的な四審、五審、あるいは六審を認めることとなりかねないなどの問題があると考えています。   もとより手続はできる限り迅速に進められるべきことは当然でありますが、再審請求審の審理期間に影響を与える要因には様々なものがあると思われる中で、検察官の不服申立てを一律に禁止するというのは不合理であり、相当でないと考えています。 ○河津構成員 第11回会議でも申し上げましたが、そもそも巨大な権力と莫大な資金力を有する政府が、権力も資金力もない個人を、無罪であっても有罪とする危険に繰り返しさらすこと自体がフェアではありません。そうであるにもかかわらず現行法上認められている再審開始決定に対する検察官の不服申立てがどのような結果をもたらしているかと言えば、検察官の不服申立てにより、再審開始が確定するまでに数年から十数年もの年月が費やされていることも、第11回会議で申し上げました。   深刻な人権侵害を伴う不正義が是正されるまでに、これほどの年月が費やされること自体、あるべきことではありません。検察官の不服申立権の適切な行使や審理の迅速化の努力で対応できる問題であるならば、なぜこれまでそうしてこなかったのでしょうか。   本日御報告いただいた袴田事件の検証結果にも現れているように、検察官は主観的には適正に権限を行使しているつもりなのであり、それが客観的には誤っていることがあるというのが、我々日本の法律家がこれまで経験してきたことです。誤って有罪判決を受けた人から残された貴重な時間を奪い続けるという不正義は、制度によってしか防止し得ないものであり、再審開始決定に対する検察官の抗告は禁止される必要があると考えます。 ○中野参事官 その他御意見、御質問ある方はおられますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に「再審請求に係る決定に対する不服申立期間を延長するか」という論点に関する意見交換を行います。この点について、御意見がある方は御発言をお願いいたします。 ○成瀬構成員 まず、現行法における再審請求棄却決定又は再審開始決定に対する不服申立ての期間を確認させていただきます。   刑事訴訟法第450条により、再審請求棄却決定又は再審開始決定に対しては、即時抗告をすることができるところ、刑事訴訟法第422条により、その提起期間は3日とされています。第一審として高等裁判所がした再審請求棄却決定又は再審開始決定に対しては、第428条第2項により、異議申立てをすることができるところ、同条第3項により即時抗告の規定が準用されて、その提起期間も3日とされています。また、第433条第2項により、特別抗告の提起期間は5日とされています。 そして、即時抗告若しくは異議申立て又は特別抗告をする場合には、一般に、最高裁決定を踏まえて、申立期間内に、申立理由を記載した申立書を提出するか、申立書とは別に理由書を提出することが必要であるとされています。   以上を前提に、日弁連の「刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書」の22ページを見ると、現行法下では、著しくタイトなスケジュールを強いられていることなどから、不服申立期間を延長するとともに、不服申立てを行うこととした場合にその理由を記載した書面を作成するための期間を設けることが提案されています。   再審請求審については、特に刑事訴訟法第435条第6号の再審請求事由が問題となる事案において、証拠の明白性及び新規性の要件が争われ、証拠の量や争点が多くなり、通常の公判審理と同等か、それ以上に審理が複雑なものとなることもあり得るところです。それゆえ、不服申立期間の延長等については、再審請求者やその弁護人のみならず、検察官にもニーズがあるのではないかと思われます。   もっとも、一般に、即時抗告は、特に速やかに解決・処理する必要がある決定について認められているとされています。また、仮に、再審請求棄却決定及び再審開始決定についてのみ不服申立期間の延長等を行うこととする場合、それ以外の即時抗告の対象となる決定との整合性も問題となり得ます。 私自身、現時点で確たる意見を持っているわけではありませんが、不服申立期間の延長等を検討するに当たっては、速やかな解決・処理の要請や他の即時抗告の対象となる決定との整合性をどのように考えるかといった点についても、検討する必要があると思います。 ○河津構成員 再審請求に係る決定に限らず、3日間という即時抗告期間及び異議申立期間や5日間という特別抗告期間は、被告人、再審請求人に対してだけでなく、組織的なバックアップを受けられない弁護人に対しても、相当な困難を強いるものです。特に決定の告知が事前の予告なく行われる場合、その困難は著しいものがあります。   再審請求については、決定に至るまでの審理に何年も費やし、抗告後の審理にも何年も費やすのに、不服申立ては3日ないし5日以内にしなければいけないというのは、明らかにバランスを欠いているように思われます。そのような短期間に決定を確定させなければならない正当な利益はないのではないでしょうか。   短期間に抗告を申し立てることができなかったことにより、重大な不正義が是正されずに放置されるという結果が生じないような制度とすべきであり、不服申立期間については、常識的な期間に見直される必要があると考えます。 ○中野参事官 ほかに御質問等ある方はおられますでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、論点整理表の最後のところですが、再審請求審における証拠開示等に関するその他の論点について、御意見がある方はおられますでしょうか。特段ないと聞いてよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、一通りの論点についての議論はここで終了となりますが、この際、再審請求審における証拠開示等に関しまして、ほかに御発言のある方はいますでしょうか。 ○足立構成員 今回の再審の問題もそうですけれども、再審請求審をめぐっては、無実の罪を着せられた人が、取調室や拘置所、刑務所で受ける恐怖は計り知れないと考えています。何十年も苦しみ続けて、人生を棒に振ってしまうえん罪被害者が現に何人も存在しています。   袴田さんの事件の検証報告書に繰り返し記されているとおり、検察官は公益の代表者であり、重要なのは事件の真相解明のはずです。大阪地検特捜部の証拠改ざん事件の反省から、検察は平成23年に検察の理念を定めました。その中には、次のような誓いの言葉が述べられています。「自己の名誉や評価を目的として行動することを潔しとせず、時としてこれが傷つくことをもおそれない胆力が必要である」とうたわれています。再審請求審の進行が裁判担当者の意向によって滞ったり、無実を証明できる証拠が延々と開示されなかったりする状況では、再審制度は非常救済手続に値しないようにも思います。   近年、再審制度に対する国民の目は、かつてなく厳しくなっています。社会的な関心はますます高まって、再審制度の改善を目指す国会の議員連盟には、国会議員の過半数が加入し、刑事訴訟法改正案のたたき台を作成していると聞いています。国民の代表者による議論の内容も踏まえながら、早急に法整備に取り組む必要があると考えます。 ○成瀬構成員 ただ今の足立構成員の御意見を踏まえて、今後の再審制度に関する議論の進め方について、事務当局に提案をさせていただきたいと思います。   本協議会では、再審請求審における証拠開示の問題を中心としつつも、それ以外の論点も含めて、再審制度の現状と課題について、第1段階、第2段階と議論を重ねてきました。これまでの議論を通じて、法改正を真剣に検討した方が良いと思われる事項が存在することも明らかになったように思います。   もっとも、本協議会の目的は、平成28年に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律附則第9条に基づいて法務省が行う検討に資するため、改正規定の運用状況を共有しながら意見交換を行い、制度・運用における検討課題を整理することであり、再審請求審における証拠の開示は、附則第9条第3項で明示されているとはいえ、本協議会が取り扱う多数の検討項目の中の一つにとどまります。足立構成員も指摘されたように、近時の再審制度をめぐる議論の動向や国民の関心の高さを踏まえると、本協議会において他の検討項目と並行しつつ再審制度に関する議論を続けることは、もはや事柄の性質や重要性にそぐわないように思われます。   そこで、再審請求審における証拠開示を始めとする再審制度に関わる論点を、本協議会の検討項目から切り離し、別途、法制審議会において多角的な観点から議論を深めることを事務当局に提案させていただきたいと思います。 ○中野参事官 ほかに御発言がある方はおられますでしょうか。              (一同異議なし) ○中野参事官 ただ今の足立構成員と成瀬構成員の御意見につきまして、他の構成員の皆様に特段の御異論はないと伺いました。この点につきましては、事務当局において引き取らせて検討させていただきたいと思います。   それでは、予定していた時間が参りましたので、本日の協議はここまでとさせていただきます。   今後の進め方についてですが、第15回会議で成瀬構成員から御提案を頂きましたとおり、期日間で事務当局において本協議会において協議した議事のうち、「取調べの録音・録画制度」及び「再審請求審における証拠開示等」以外の論点整理案を作成させていただき、構成員の皆様の御了解を得た上で、次回以降はそれに沿って御協議を頂きたいと思いますが、そのような進め方でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) それでは、そのようにさせていただきます。   次回会議の日程の詳細につきましては、追ってお知らせいたします。   次回会議において、構成員の皆様から資料の提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御送付いただく必要がございますので、併せて提出の期限についても御連絡をいたします。その場合の資料について、事務当局において確認させていただき、必要に応じて、どのような形で御提出いただくかなどについて御相談させていただくことは、これまでと同様です。   本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったように思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。本日はこれにて閉会といたします。ありがとうございました。 -了-