法制審議会 民法(遺言関係)部会 第8回会議 議事録 第1 日 時  令和6年12月17日(火) 自 午後1時30分                       至 午後4時15分 第2 場 所  法務総合研究所第1教室(赤れんが棟3階) 第3 議 題  中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台⑵ 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会民法(遺言関係)部会の第8回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   まず、配布資料等についての説明を事務当局からお願いをいたします。 ○大野関係官 本日の会議資料として、部会資料8「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(2)」がございます。こちらについては、後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。また、席上のタブレットには委員等名簿及び議事次第を格納しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。お手元の部会資料8は大きく三つの部分に分かれておりますので、この三つに分けて順次御議論を頂きたいと思っております。   最初に、「第1 自筆証書遺言の方式要件の在り方」についてということで御議論を頂きたいと思いますので、事務当局から部会資料8の第1についての御説明をお願いいたします。 ○石川関係官 「第1 自筆証書遺言の方式要件の在り方」について御説明いたします。前提として、本文及び補足説明、いずれも部会資料6から大きく内容面において変更した点はございません。   まず、本文1の自書を要しない範囲について、これまでの会議において、財産目録のほかに拡大すべきとする積極的な御意見は見られなかったことから、自書を要しない範囲を拡大しないとの考え方を提示しています。   次に、本文2の押印要件について、部会資料6と同様に、現時点で考えられる3案を記載しておりますが、乙案及び丙案の順番を入れ替え、押印を要しないものとする甲案、引き続き押印を要するものとする乙案、それらの中間案としての丙案の順序としております。また、丙案については、押印要件以外の方式要件は遵守していることを前提とするものであることから、そのことを明確にする記載とした上で、「一定の条件を満たすことにより本人の意思に基づいて遺言が作成されたと認められるとき」の例示として、第6回会議の議論を踏まえ、本文の(注3)において自筆証書遺言書保管制度を利用した場合を加筆してございます。   補足説明として、1ページの1では検討の前提として、改めて自筆証書遺言の各方式要件が求められる趣旨を記載しています。次に、2ページの2では、自書を要しない範囲について、3では、押印要件に関する三つの案についての補足説明をそれぞれ記載しています。   部会資料6から加筆した点について御説明すると、まず、2ページ以下の(2)について、3ページの15行目以下に記載しておりますとおり、押印要件につき甲案を採用し、遺言本文への押印要件を廃止する場合、加除その他の変更の押印要件など自筆証書遺言に関するその他の押印要件についても同様に廃止することのほか、押印及び署名のうちいずれかがあれば足りるとし、選択的な要件とすることも考えられます。もっとも、この点につきましては、平成30年の相続法改正に先立って行われました法制審議会民法(相続関係)部会における調査審議において、加除その他の変更の際における押印及び署名要件に関し、署名は遺言者本人によるものか否かがある程度判別可能であるのに対し、押印は遺言者以外の者によっても十分押捺可能であるため、署名を外して押印のみでも足りるとすることについては特に慎重を期すべきである旨の指摘がされ、最終的にこの要件が維持されたことも踏まえ、選択的な要件とすることの当否について検討する必要があると考えられます。   次に、3ページ末尾以下の(3)では、乙案を採用し、引き続き押印を要するものとする場合においても、押印を欠いた遺言がおよそ全て無効となるものではないと考えられることを4ページの(注)に記載しております。   最後に、4ページの(4)では、丙案を採用し、押印を要するものの、押印を欠いたとしても、他の方式要件を充足しており、かつ、一定の条件を満たすことにより、本人の意思に基づいて、遺言が作成されたものと認められるときは、遺言はなおその効力を有するものとする場合について記載しております。その上で、5ページ冒頭付近では、この一定の条件につき、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合を想定する際には、現行法令下では、保管の申請に係る遺言書が民法に規定する自筆証書によってした遺言に係る遺言書ではないときは、その申請を却下しなければならないとされていることとの関係についても整理する必要があることを記載しております。   第1についての御説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。ただいまの事務当局の説明につきまして、まず、御質問があればお願いをいたします。   よろしいでしょうか。   それでは、この後皆さんに御意見を頂こうと思いますので、質問がまたありましたら、その中で伺えればと思います。御意見を伺うに先立ちまして、冨田委員から所用により中座をするというお話を伺っておりますので、この第1の部分に限らず、本日の部会資料8の全体につきまして、冨田委員から御質問あるいは御意見があれば、まず伺いたいと思います。 ○冨田委員 ありがとうございます。部会長から言及いただきましたとおり、本日は途中で退座させていただきますので、部会長の御配慮によりまして、先んじて、8ページ目の「第3 特別の方式の遺言の方式要件の在り方」について2件、意見を申し上げたいと存じます。   まず1点目は、船舶遭難者遺言についてです。本文1(1)イの船舶遭難者遺言につきましては、作成することができる場面について、航空機遭難や天災その他避けることのできない事変を広く含むことを明文化するとの提案がなされております。この点につきましては、第4回の部会で連合の意見を酌んでいただいたものと認識しており、妥当であると考えます。   一方で本文2(1)イの船舶遭難者遺言に関するデジタル技術を活用した新たな方式として提示されている各案は、恐らく船舶遭難を想定したものでありまして、例えば飛行機事故に遭遇している最中に証人を立てて記載の手順を踏むことは現実的には不可能であるのではないかと考えます。船舶遭難以外の様々な場面も含まれることを明文化するのであれば、航空機遭難、天災、国際紛争など、それぞれの場面に分けた上で、その状況下で遺言を作成することが可能な要件を方式として定めることを検討すべきではないかと思います。   2点目は、隔絶地遺言についてです。10ページ目の(2)隔絶地遺言につきましては、新たな方式を設けないこととするとされており、その理由としては、隔絶地遺言については、公正証書に係る一連の手続のデジタル化に加え、現行規定の下でもワープロソフトなどのデジタル技術を活用する余地があり、新たにデジタル技術を活用した方式を設ける必要性が高いとは言い難いことが挙げられております。隔絶地遺言で活用できるワープロソフトなどデジタル技術につきましては、事務局に事前にお尋ねしたところ、スマートフォンによる録音・録画は含まれていないと伺っておりますが、コロナ禍での隔離措置などを思い返しますと、隔絶地でワープロソフトを使えない身体状況であるとか、そもそもプリンターを持ち込んでいないといった方々も想定をされます。そうした場合を想定すると、身近なスマートフォンを用いて遺言を作成できる方式を設ける余地がないか、この点について検討をお願いしたいと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。冨田委員からは、「第3 特別の方式の遺言の方式要件の在り方」につきまして2点御意見を頂きました。1点目は、船舶遭難者遺言について要件を広くするというのを明確化する、それはよろしいけれども、証人を常に要求するという方式が妥当かどうかについて、場合を分けて検討する必要があるという御意見、2点目は、隔絶地遺言について、ワープロ等を使えない場合に対応する方策を考える必要があるのではないかという御意見を頂戴いたしました。後ほど第3について御意見を頂戴する際に、また各委員、幹事から御意見を頂戴したいと思います。ということで、冨田委員、また後の方で御議論をさせていただきたいと思います。   それでは、先ほど御説明を頂いた「第1 自筆証書遺言の方式要件の在り方」の部分につきまして、御質問も含めて御意見を頂きたいと思います。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○相原委員 相原でございます。意見を聴く対象としてこういう形でまとめていただいていることは、いいと思っております。この前、ほかの弁護士にこの表現について意見を聴きましたところ、甲案の押印を要しないものとするというところで、第968条第2項及び加除その他の変更のところで、押印を要しないとすることが考えられるという説明があるわけなのですけれども、署名と押印で、その署名はどうなるのだろうというところが置いてきぼりになるような気がすると、この文章を読んだときにそう受け止めて、少し疑問を持ってしまうという意見を聴きました。   後の説明を聞きますと、署名は残し押印を要しないということはよく読めば分かるのですが、後ろの説明でも選択的にどうするとかいうようなことが入っておりますので、要は署名だけで足りる、押印を不要として署名は残すというところを明確にして質問していただいた方が意見を言いやすいのではないか。選択的についても聴くのか聴かないのか、要は押印のところを聴くのであれば、署名についてはこう残し、署名だけで足りて押印は要しないということを明確にした方が分かりやすいのではないかという意見がありました。   もう1点、丙案の一定の条件を満たすというところです。ここは本当になかなか難しいところで、これ以上どう書くのかというのは難しいということは従前ここの会議でも出ていたところではございます。ただ、やはり一定の条件を満たすというこの提案だとすると、なかなか意見を言いにくいのではないかという意見が出ております。   それから、(注3)のところにあるのですけれども、私も少し素朴に考えてみたときに、条文になるとすれば、押印を要する、ただし何々のときには有効性をとかいう形になるのか、そこは大体、自筆証書遺言書保管制度なんかになりますと、かなり限定されてしまいますし、もう少し一般的なことになるのだとすれば、少しイメージが湧くような質問にしていただかないと意見が言いにくいのではないかという意見でございました。   この(注3)とか、私自身、丙案については迷うところもあり、この方式、充足しているかどうかを誰が判断するのかとか、条件自体が難しいのではないかというのはかなり懐疑的な意見も出ているのは十分承知しておりますが、一方で海外の法制度で結構救うということで、こういうやり方もあり得るのではないかという考えもありましたので、そこについて意見を聴くということはしていただきたいとは思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。相原委員からは、第1の押印要件について甲、乙、丙という形で中間試案を取りまとめてパブコメで意見を徴する、これ自体については賛成であるという御意見を頂き、その上で、甲案の場合の署名の位置付け、それから丙案の場合の具体例というところについてもう少し表現を工夫できないかと、こういう御示唆を頂きました。ありがとうございます。   ほかはいかがでしょうか。 ○隂山委員 隂山でございます。自書を要しない範囲及び押印要件につきまして、検討の方向性としましては、第6回会議でも申し上げたとおり、1の自書を要しない範囲について現在の御提案で異論ございません。   2の押印要件につきまして、中間試案に対するパブリック・コメントを述べるという立場から確認をさせていただきたく存じます。現在三つの案が示されておりますが、それぞれ本文に記載されている案は、いずれも民法968条1項に係る押印という理解でよろしいでしょうか。(注1)で民法968条2項や3項に係る押印を取り上げられておりますので、そのように読んで差し支えないかという点での確認です。   また、意見を述べる立場から悩ましいと感じられるのではないかという点で、乙案と丙案の差異がどこにあるのかという点が挙げられるように考えています。乙案、丙案のいずれも押印を求めつつ、乙案については4ページ(注)で、押印が欠けていたとしても必ずしも無効となるものではないとされており、丙案については、第1の2(注3)で例示されているような場合には、押印が欠けていたとしてもなお遺言としての効力を有することとされています。乙案においても、押印を欠いたのみでは直ちに遺言が無効となるものではないという説明がなされている関係から、丙案をどのように受け止めればよいかという疑問が生じる余地があるのではないかと感じています。   なお、(注3)では相続人間等で争いがない場合が例示されておりますが、相続人の間で争いがない場合には、遺産分割によって遺言と同じ内容の相続を実現することが可能な場合もあると思われますし、相続人間等で争いがないことを理由に被相続人の遺言が効力を有することになることについて、法制上の説明がつくかという点は、検討を要するように思われます。証拠から認定可能な場合という例示につきましては、裁判所による認定が可能という意味合いだと思われますが、裁判所における具体的な手続が現状では示されていないため、認定が可能であると判断する主体は誰なのかという問題も生じるように思われます。   自筆証書遺言書保管制度を利用した場合においては、不明確な点が残らず、相続手続の依頼を受ける者としても受け入れやすいように考えています。この場合、説明でも御記載いただいておりますが、遺言書保管に係る関係法令を整備する必要があると考えており、また、関係法令が整備された場合には、丙案によって救済されるのか、関係法令上有効な遺言として取り扱われるのかという点について、整理が必要ではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。陰山委員からは、第1の1と2のうち、1についてはこれでよいということで、2についてはパブリック・コメントに掛ける前提として幾つかの点を明確にする必要があるのではないかということで、一つは、ここで提案の対象になっている規定の範囲というのはどこまでなのか、これは御質問だったかもしれませんけれども、そのような御意見を頂きました。あとは乙、丙の違い、これはなかなか悩ましいところなのですけれども、これをどう整理するのかということと、(注3)の中に出てくる事柄についてもやはり整理が必要なのではないか、こういう御指摘を頂いたと理解をいたしました。最初の点につきまして、何かお答えが事務当局の方であれば、伺いたいと思います。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。甲案の(注1)に記載していますとおり、968条2項や3項にも署名及び押印というものが出てまいりますので、基本的には甲案を採用した場合には、2項や3項の押印についても、パラレルに考えれば同じ扱いになるという方向性が考えられるということを(注)に記載したつもりでございます。そうしますと、そこから更に引き延ばせば、乙案や丙案を採った場合にも、また同じような方向性でそれぞれ考えることになるのかなと考えておりましたが、少し表現が足りていないかもしれません。お答えになっているでしょうか。 ○隂山委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。また細かな表現は少し調整してもらう必要があるかもしれませんが、今のような趣旨であるというお答えを頂きました。   ほかに御意見、御質問があれば頂きますが、いかがでしょうか。 ○小池委員 1ページ目の第1の2の(注3)ですけれども、本来押印を欠いていて無効な遺言をこういう場合には有効にし得るということなのですが、相続人間等で争いがない場合には本来無効なものを有効にするというのは、どういう論理でやっているのかというのが少し分からなくて、例えば廃除遺言とか認知の遺言とかというのを相続人間、廃除の場合はいいのかな、オーケーだと言ったら何で有効になるのかという。「又は」でつながっている「証拠から認定」というのは、これは遺言者意思を反映しているということを言えるので、何となく分かるのですけれども、相続人間でというのはどういうロジックでこういう正当化をするのか、御説明を頂ければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の点は、先ほど前の隂山委員のところでも出てきた点かと思いますけれども、まとめてお答えを頂ければと思います。 ○齊藤幹事 方式の話と実体法上別途合意がある場合というのは、なかなか整合的に体系的に説明しづらいのではないかというのは、御指摘は十分あり得るかと思いますので、今日の御意見も踏まえて更に検討したいと思います。 ○大村部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○内海幹事 すみません、素朴な質問で、もっと早いところで聞いた方がよかったのかもしれませんが、自筆証書遺言における氏名の自書という概念と、署名という概念は、同じとみんなが理解しているものなのかということが少し気になりました。1ページの補足説明の最初のところに趣旨が出てきて、署名と押印に完成担保機能があるのだというような説明がされているのですけれども、完成担保機能というときの署名というのは、末尾にサインがあって完成担保機能だということになると思いますけれども、氏名がどこかに自書されていればいいということだと、冒頭に「私、誰それは」と書いてあるというのも氏名の自書だという理解が成り立ちそうなのですけれども、このあたり民法の解釈がどうなっているのかということを共有した上で議論した方がいいのかなと思いました。私が知らないだけかもしれませんけれども、恥ずかしながら、少し伺えればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。御質問ということで、何かあれば。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。事務局としては氏名を自書とあれば、署名と厳密に区別していなかったというか、できていないというか、そういう発想ではおりました。内海幹事がおっしゃるような場面、「私、○○は」という冒頭の記載、これも署名といえば署名と評価できるのかなと、そこにそう書いてあるのに、やはり全体としては署名がないという認定も、なかなか難しいような気もいたしました。ただ、これも直感的なお話ですので、今の分析をして何か大きく変わってくるかどうかも含め、少し検討したいと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の問題は多分、自筆証書遺言について押印というものを用いていない諸外国で問題になる事柄だと思います。「私、下記に署名する何々は」と書いて、それで下記に署名するというようなことが行われているのではないかと思うのですけれども、そうすると本文中で名前が書かれているということと署名と分けているのかという感じもします。こうした点も含めて多少調べていただく必要があるかと思います。   ほかはいかがでしょうか。 ○齊木委員 私も実は、特にこだわりはないですが、丙案は規律として少し分かりにくいと思うのです。自筆証書遺言に係るルールというのは、やはり本人が見て分かりやすいルールでないとまずいと思います。諸外国の例が丙案のところに引いてありますが、あれは裁判所の事実認定ルールのような感じを私は受けるのです。ですので、裁判官向けのルールであって、やはり民法に規定するのは本人向けルールであった方がよいと思うので、丙案は少し分かりにくいというのが1点です。   それと、丙案の具体的な場合、一定の条件をどうするかで自筆証書遺言書保管制度を利用した場合と書いてあるのですけれども、法務局の職員は押印を要するという規定があったら押印させてしまいます。だから、これをそこに書くのは余り現実的ではないと思います。   それと、現状の自筆証書遺言の書き方に問題があるけれども相続人に異論がない場合にどうしているかというと、それと全く同じ遺産分割協議書を作って、実印で押印しているというのが実務の大勢だと思いますので、その実務をわざわざ変える必要もないと思います。結局、そうすると残るのは裁判所の判断というところになってくるのですけれども、これを実体法に書いておくのか、これまでも判例でいろいろ例外的な場合についてルールが創設されてきたように、判例に任せるかという問題があって、私はもう判例に任せた方がよろしいのではないかという感じを持っております。   甲案か乙案かについては、将来を見据えれば甲案かなとは思いますけれども、現状のお年寄りを見ると乙案でもいいというような感じで、甲案にするのは将来課題にしてもいいのかなというような気もしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。齊木委員からは甲、乙、丙について具体的な御意見を頂きました。丙についてはまず、分かりにくいし、こういうものを置く必要はないのではないか、甲、乙については、甲は将来的な課題ということでいいのではないかということだったと思います。その上で、今までの委員、幹事からは、パブリック・コメントに向けては甲、乙、丙の3案併記でいいのではないかという御意見が出ていましたけれども、齊木委員はその点についてはいかがですか。 ○齊木委員 載せるのはあえて反対はしませんけれども、何のことだか分からないと思う方が多いかなと思います。 ○大村部会長 分かりました。積極的には賛成しないけれども、あえて反対まではしないと、こういうことだと承りました。いずれにしましても今、丙案について不分明なところが残るのではないかという御懸念がいろいろな形で示されているという状況かと思いますけれども、他に御意見あるいは御質問があれば、更に頂戴したいと思いますが、いかがでしょうか。 ○戸田委員 少し質問になってしまうのですが、丙案の(注3)なのですけれども、自筆証書遺言書保管制度の受付時にマイナンバーカードで本人確認をやっておりますけれども、現状は目視での確認となっておるのですが、これをマイナンバーカードの電子証明書でチェックするというような形にする場合、これは民法の規定とは別に自筆証書遺言書保管制度の規定でもって有効にできるといったようなことはあり得るのでしょうか。 ○齊藤幹事 建て付けとしては、まず実体的には本人の真意性、真正性が担保されることが必要十分な条件だと思いますので、そういう意味では発想としてはあり得るかなという気はいたします。ただ、今頂いたような考えの方向を民法、保管法のどこにどういうふうに表現するのかは、少しまた検討の余地があるのかなと、現時点ではそんな限度です。 ○戸田委員 あと1点、少し論点がずれる話なのですけれども、現状目視確認でやっておりますと、偽造のマイナンバーカードで登録ができてしまい、受付時に被相続人の顔写真のコピーが取ってあっても、それをチェックするというような手続が行われていませんので、なりすましが完全にできてしまうということになります。現状の改善すべき点としては、マイナンバーカードの電子署名を使って窓口で本人確認するといったようなことを、やはりおやりになった方がいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の点は、どこでそれを組み込むかということがあると思いますけれども、本人確認についての精度を上げるような仕組みというものを積極的に取り込んでいった方がいいのではないかという御意見として伺って、具体的にどこでどのように対応するかという点は、また考えていただくということかと思います。ありがとうございます。 ○小池委員 少し丙案に集中してしまいますけれども、丙案で、事前のレクのときにお話をしたことがあるのですけれども、昔、人事法案のところで、裁判所がこういう場合には要件を欠いていても真意確認ができれば有効にできるという案自体はあったので、この丙案は、例えばそういうのもあり得るという含みのある案ということでよろしいでしょうか。補足説明とかだと、余りそういうのが出ていなかったので。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。過去の部会資料で一度関連する記載をしましたが、小池委員御指摘の人事法案の条文の案については、制定法にはならなかったけれども過去に議論をされたことがあるという認識です。丙案はやはりその議論の系列に同じように位置付けるか、あるいは関連するということなのか、いずれにせよ必要な情報だと思いますので、今回の資料は絞った情報ですが、御指摘の情報もきちんと盛り込んだ上で意見を問うことがふさわしいのかなと思っております。ありがとうございます。 ○大村部会長 今の御指摘は、先ほどの齊木委員の丙案についての捉え方とも関連するところがあるかと思いますが、そうした位置付けについて少しどこかに書いていただくということなのかと思って伺いました。   ほかはいかがでしょうか。 ○倉持幹事 丙案に関しては、乙案との区別が分かりづらいというのは会内でも指摘がありまして、具体例が欲しい、どういう場合なのかといった質問が出ています。先ほど、乙案では裁判例で救済できるという御意見もありましたが、花押については最高裁で押印として否定されているということなので、例えば花押をした場合は乙案だと要件を満たさないけれども丙案だと満たし得るということを意識して書かれているのかという質問で、もし意識して書かれているのであれば、これも説明に入れられたらどうかなと思いました。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。具体例を掲げた上で、乙ならバツだけれども丙なら丸、生きてくる余地があるというのが理想的な分かりやすい提示ということで、可能かどうか十分検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○石綿幹事 幹事の石綿です。今の点に重ねて、乙案と丙案の違いについてです。乙案は、押印はないけれども何かしらあることを想定していて、丙案は何もないときを想定していらっしゃるのかなと理解していたのですが、それでよいのでしょうか。花押なり拇印なり、押印ではないけれども何かあるときは乙案でも救済可能であるのに対して、何もない、要は文字しかないというようなときには丙案でしか救えないといったようなこともあり得るのかなと思いました。判例で例外は認められていますが、乙案の(注)の広がりをどこまで想定していらっしゃるのかというところも明らかにしていただけると、議論がしやすいのではないかと思いました。   それから、もう1点、丙案について(注3)の自筆証書遺言書保管制度の利用というのはイメージはしやすいけれども、やはり先ほど隂山委員もおっしゃっていたように、5ページで記載のある問題が残るのだろうと思います。これは本当に隂山委員の御指摘のとおりだと思いますが、仮に押印がなくても有効とする場合、民法の規定によるものなのか、保管法の規定によるものなのか、あるいは場合によってはもう一つ別の自筆証書遺言(保管制度を使ったパターン)という遺言を新たに作り出しているのかといったような整理が必要だと思うので、その辺りの御整理も頂けるとよいかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点御指摘いただきまして、後の点は先ほどの隂山委員の御発言と共通の点で、どのように整理するかということに係る点だったかと思います。その前も、ある意味では整理に関わるのですが、乙、丙の境目というのが不明確ではないかという御意見が相次いでおりますけれども、押印ないしそれに類するものがあるかどうかということで乙、丙を整理することができるのではないかという前提に立たれて、そのような捉え方でよいかと、よいのならばその方向で更に整理したらいいのではないかと、こういうことだったかと思いますが、何か齊藤幹事、ありましたら。 ○齊藤幹事 今の発想も整理のための立て付けとして十分あり得るかなと感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。 ○内海幹事 内海です。丙案のことばかり言って申し訳ありませんが、ついでに、1ページの丙案の本文と(注3)の例の対応関係が少し曇っているような気がしてきたもので、一応申し上げておこうかなと思ったのですけれども、証拠から自書が認定できるというのは、押印を欠いたとしても他の方式要件を充足しているという方に結び付いていて、保管制度を利用したというときには、書くところは見ていないので、持ってきたものは本人が遺言にするつもりなのだろうという、そういう主に真意というか、その意思の方に掛かっていると思うのですけれども、本文の方は「かつ」で両方必要だと言っていることとの関係で、二つが例として並んでいるということの趣旨が少し読み手に伝わりにくいかなという気がしました。保管制度を利用した場合は丙案の射程に入れるのはどうかという提案があり得ることは、別にあり得ると思うのですけれども、なぜそれがセーフなのかという論理は、「かつ」で結んだ丙案との関係でどうなのかという辺りは、少し記述を工夫された方が分かりやすいかなという気がしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。丙案の(注3)の内容について、先ほどからいろいろな御意見を頂いていますけれども、内容そのものとは別に、本文との対応関係について注意をする必要があるのではないかということで、本文との関係でどういう例になっているのかということを説明した方がいい、こういうことだったかと思います。例そのものを少し見直すべきだという御意見も相次いでいますので、それも含めて考えるということなのかと思います。 ○小池委員 すみません、またまた丙案なのですけれども、補足説明の4ページから5ページぐらいに書いてある、先ほど齊木先生の方からも御指摘がありましたけれども、判子がないのを法務局のところに持っていっても受け付けるわけがないでしょうというのがあるぐらいであれば、自筆証書遺言については保管制度を利用したら押印は要らないという方式を定めてしまった方が楽なのではないかと。ただ、それだと今、内海先生が言われた丙案の本文の、「かつ」で結んだ後半のところが落ちるので、それがいいのかという問題が残るのですけれども、ただ、保管制度になるべく誘導していくという、少し話がずれてしまう話ですけれども、そういうことも考えるのだったら、それも案に挙げた方が、案に挙げなくてもいいかもしれませんが、そういうのもあり得るよというのを言ってあげた方が親切かなとは思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。要件になっていて、それを欠けているものを受理するというのはやはり無理があるのではないかという御意見が先ほどから出ている、そうだとすると、要件ではないという形の立て付けにするということも考えられるのではないか、そうすると、今書かれている丙案の書きぶりでよいだろうかという問題が出てくるので、仮にこのゴシックを直さないとして、説明の方でどう位置付けるかということについて工夫を要すると、こういう御意見を頂戴したと理解をいたしました。 ○小粥委員 小粥です。大変細かいことで、また丙案なのですけれども、二つございまして、丙案の本文のところで、右側で遺言が作成されたものと認められるときということですけれども、つまり押印がなくても大丈夫なときに、その作成が認められるというのは、判子を押すということが完結したということも意味するのだとすると、作成だけでいいのかとかいうようなことは少し考える必要があるかもしれないと思ったというのが一つです。   もう一つは、同じく丙案の(注3)の「自書したことにつき」なのですけれども、同じような問題意識で、裁判所に仮に行ったとして、自書したことを認めることでよいのか、それとも真意性、真正性と、それから完結したことが確認される必要があるのかというような、自書ということが主張立証の目標なのかということに少し疑問を感じたものですから、今のが二つ目でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。丙案の本文の作成、それから(注)の自書ということについて、これだけでよいのかということについて明らかにする必要があるのではないかという御意見だったかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。   全体として、甲、乙、丙、3案併記については賛成ないし、これでもよいという御意見が出ている。しかし、丙案については、中身にいろいろ問題があるのではないかという御指摘が相次いでいるかと思います。そうしたときに、なお丙案を残しておくということになると、やはり丙案を残す必要があるのではないかという方向の御意見も多少頂けますと、選択肢として甲、乙、丙と並べて意見を聴きたいということになるのではないかと思いますけれども、その辺について何か御発言がございますでしょうか。どなたかがおっしゃっていたように、外国の例を見ると方式の一部を欠いていても救済するといったことがあると、そういうことがあってもよいのではないかということはこれまでにもこの部会の中で指摘はされてきたかと思いますけれども、齊木委員のように、それはしかし裁判所に委ねればいいのではないかといった考え方もある。こうした状況で、しかし、こういう方向で何か立法するということを選択肢としてなお載せておいた方がよいのではないか、これまでにも議論があって載せておいてもいいという御意見は出ているのですけれども、更に何かより積極的な方向で、難しい点はあるとしても、残しておいてパブコメで意見を聴いた方がよいといったことがあれば有り難いと思います。   沖野委員から手が挙がっていますね。今私が申し上げたことと同方向でなくても結構ですので、御発言いただければと思います。 ○沖野委員 ありがとうございます。丙案の分かりにくさというのは確かだと思います。確かにそういうところがあると思うのですけれども、丙案自体の独自性というか、そういうものをより明確化した上で問うというやり方もあるのかなと、本日の御議論を聞いていて思いました。   乙案は、引き続き押印を要するということですが、現行法の下でも押印がなくても遺言が有効にされているという場合が一定の場合に認められており、特に元々外国の方で押印という慣習が全くないというような場合に認められた例もあると承知しておりますので、そうしますと、先ほどの石綿先生の整理とは少しずれてくるような気もいたしますけれども、そういう現行法の下でもある程度の解釈の余地は例外的にあるということまで否定するものではないということは、乙案の下で引き続き押印を要することの意味を明らかにするというのは必要なことだろうと思います。   丙案は、更にそれをより正面から書くということなのですけれども、本日の御議論を聞いておりますと、むしろ丙案自体は、押印を基本的に要するけれども、それを要しない場合をより正面から認めて、それを更に列挙するとか例示するとかいう形でもあり得るのではないかと思いました。先ほど、押印は必要なのだけれども、自筆証書遺言書保管制度を利用するときは、本人提出が前提ということですが、本人が遺言書として提出する文書が、正に本人がそのようなものとして提出することをもって押印が担っている機能を全部果たすと考えられるので、次の場合は押印を要しないとか、押印がないことをもって効力が否定されるものではないというようなことをより正面から書くと。それから、相続人間で争いがないという場合には、小池先生が御指摘になった、認知などの身分関係についてどうするかというのは今まで余り考えていなかったように思われまして、これなどは遺産分割協議で同じことを書けばいいということにはならないので、実質の問題を改めて検討する必要があると思うのですけれども、例えば相続人間で争いがないときには有効なものと扱うことができるとか、あるいは、こういうときにはもう押印がなくてもいい場面として書くと、それぞれ場面の表れ方が違うし、本人が押印をするかどうかについての可能性が随分違ってくるので、書き方が同じなのか、有効と扱うことができるとかいうことなのか、そもそも押印を要しないということにするのかという点もありますが、ただ、そういう幾つかの場面があることを明示するということが考えられます。   この明示の中には、一つはやはり発想として、途中で言われたし、これまでも言われてきた、押印というのは現在でも少なくとも一定の層においては、やはりこれがないと完結しないというような発想で使われている、それが直ちに消滅するものではなかろうと。そうすると、遺言書として完結させ、自分の意思を表したものとするということの様式、方式として、押印が持つ意味というのは少なくとも当面は必要ではないか。ただ、将来的にはそうはなくなっていくのだろうし、これを厳格に考えるということもないのではないかという発想を体現するものが丙案だと思いますので、そういう基本的な発想と、ただ、それをきれいに法文などに書けるかとか、ルールとして表せるかという問題があって、それはかえって混乱を招くのならば、やめた方がいいし、あるいはそういう発想自体がもう端的に、例えば押印は廃止した方がよほどすっきりするということであれば、そうした方がいいということになるのではないかと思いますので、そういう意味で、なお3案として中間試案では聴いていただくのがよいのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。沖野委員からは甲、乙とは別に丙案というのを立てるということの意味について御意見を頂戴し、そういう考え方についての当否を問うという観点から、丙は中間試案では残した方がいいのではないか、ただ具体的に、ではどうするかということについて、場面を特定した形で示した方がいいという御意見をいただきました。そういう考え方もあり得るということで、やれるかどうか分からないところはあるけれども、幾つかの場合については沖野委員がおっしゃってくださり、その中には小池委員が先ほど示唆されたような方向も含まれていたかと思いますけれども、そうした形で、かなり具体的な例示をして問うてみるということで、残してもいいのではないか。そういう御意見として承りました。   ほかはいかがでしょうか。 ○相原委員 相原でございます。今、沖野先生が詳細な御意見を言ってくださり、同意だなと思って拝聴しておりました。先ほどから乙案と丙案、どう違うのかというので、明確な違いをどこに出すのかというところを皆さんの御意見を聞きながら意識していたのですけれども、なかなか難しい。私は、全く要しないと言い切ってしまうのではなくて、押印を要する、しかしこういうときには有効である、ぐらいの案というのが一般の人から受け入れる余地があるのではないか、そこを意見を聴く必要性は残っているのではないかとは思っていたのです。   したがって、丙案という形で提示したときに、皆さんがおっしゃっているように、かなり表現が難しいし、それでは煩雑であると、むしろ乙案にしてしまって、あとは判例に任せるというような、それが分かりやすく明確であると言われれば、もうそのとおりだなと思います。ただ、いわゆるパブリック・コメントで意見を聴くとすれば、少し努力していただいて、最終的には明確にはできないから否定されるという結論というのも見えてきているかなとも思いますが、聴いていただくことをお願いしたいと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。相原委員からは、丙案については整理の上で意見は聴いていただいた方がいいのではないかという御意見を頂戴しました。その際の丙案の捉え方が、先ほどの沖野委員の御発言とは多少違っているところもあるのかと思いました。その辺りを明確化した形で問うのがいいのか、丙案の中にも考え方が複数あるということを前提にした形で問うのがよいのか、その辺も検討を更にする必要があるのかと思って伺いました。   ほかはいかがでしょうか。 ○小池委員 パブコメには丙案も入れた方がいいとは思っています。というのは、甲、乙はやはり両極の意見なので。ただ、遺言の方式の問題というのは基本、行為規範レベルの問題なので、こういうことでやれば確実に有効な遺言ができるというのを明確に提示する必要がありますので、本当は甲案か乙案かに絞った方がいい。ただ、要は丙案というのは押印の要件を軽くしましょうという話なので、先ほど裁判所で救済すればよいのではという御意見がありましたけれども、およそ判子がないものについてはもう多分裁判所では、指印とか欧米の習慣に従ってサインしたとかいうのだったらともかくとして、少し無理だと思いますので、だからこそ人事法案では条文で救うという、救済のための評価規範を作ったという理解なので、押印の要件を軽くするということでいいのかという案があった方が、パブコメではいいのかなと理解をしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。丙案の位置付けの仕方について、小池委員の観点から整理をしていただいたと受け止めました。その上で、やはり丙は残してパブコメでは意見を聴くと。皆さんの意見を聞いていると、丙はなかなか難しいところはあるということは確かで、出てきている保管制度との関係ということで考えるということになったときに、ここに並ぶようなものとして考えるのか、あるいは保管制度の方の問題として考えるのか、最後にどういう整理をするのかという問題は残るように思います。ただ、差し当たり今のところは、丙にはいろいろ問題があるということを含みつつ、甲、乙、丙の3案ということで残しておくということで大方皆さんの御意見は一致していると受け止めておりますけれども、そのような理解でよろしいでしょうか。   ありがとうございます。ほかに御意見がなければ、第1につきましてはその程度にさせていただきたいと思います。   続きまして、部会資料8の第2の部分、5ページ以下になりますけれども、この部分について御意見を頂戴したいと思います。まず、事務当局の方からこの部分についての御説明をお願いいたします。 ○石川関係官 「第2 秘密証書遺言の方式要件の在り方」について御説明いたします。   第1の自筆証書遺言の方式要件と同様、本文及び補足説明いずれについても部会資料6から大きく内容面において変更した点はございません。   まず、本文1の検討の方向性について、これまでの会議では、現行の方式要件を基本的に維持するとともに、デジタル技術を活用した新たな方式を設けないものとすることにつき消極的な意見は見られなかったことから、その考え方を提示しています。また、本文2(1)の公証人の押印要件について、押印を引き続き要するものとすることについても消極的な意見は見られなかったことから、その考え方を提示しています。続いて、本文2(2)の遺言者及び証人の押印要件について、部会資料6と同様に、現時点で考えられる3案を記載しておりますが、自筆証書遺言における押印要件と同様に、乙案及び丙案の順番を入れ替えた上で、丙案についての文言を訂正しております。   補足説明について、部会資料6から加筆した点を御説明いたします。まず、本文1では、デジタル技術を活用した新たな方式を設けないものとする考え方を提示しておりますが、6ページの2「検討の方向性」において、その理由として、秘密証書遺言に対する需要はそれほど大きいものではないとも考えられることに加えて、証書の全文について必ずしも自筆であることを要せず、ワープロソフト等で入力し、それを印刷したものでも足り、第三者に委託してこれらの手段をとらせることも許されると解されていることからすると、デジタル技術を活用した新たな方式を設ける必要性は高くないとも考えられることを記載しています。   なお、仮に秘密証書遺言の方式要件についてデジタル技術を活用した在り方を検討する場合、どの方式要件との関係でいかなるデジタル技術を活用するかについて検討する必要があると考えられることから、その旨を7ページの(注)に記載しています。   次に、7ページの3(2)遺言者及び証人の押印要件について、秘密証書遺言における遺言者及び証人による押印を不要とするか否かについては、自筆証書遺言における遺言者の押印を不要とするか否かと同様の方向性で検討することが考えられますが、自筆証書遺言における押印要件について甲案を採用し、押印を要しないものとする場合であっても、秘密証書遺言における遺言者による封印の要件については、内容漏えいのおそれを防止する趣旨があることに鑑み引き続き維持するなど、別の考慮を要するとする考え方もあり得ることから、その旨を8ページの(注)に記載しています。   第2についての御説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。第2の部分について、前の資料に加筆した部分を中心に御説明を頂きましたが、基本的な線は従前の資料を維持しているということだったかと思います。   ということで、質問があれば伺いますが、質問と御意見を併せた形で頂戴したいと思います。質問でも御意見でも結構ですので、御発言を頂ければと思います。 ○相原委員 これも先に、聴き方についての意見を御紹介させていただきます。押印要件の甲案ですが、遺言者及び証人の押印を要しないものとする、これにつきましては大体こういう書き方です。御説明の中で、いわゆる条文の中の1号ですか、証書に署名し印を押すこと、2号で、証書に用いた印章をもってこれを封印すること、結局この2か所に出てきているのだけれども、そこの関係について、印を押さなくていいというのは両方なのかというところも、質問に明示していただいた方が分かりやすいのではないかということです。つまり、条文で、印を押すというのと、印章をもって封印すると書いてあるので、そこのところを明確にしていただかないと、分かりにくいと感じたという意見がございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。今の御意見は押印要件の(2)の甲案についてですけれども、ゴシックの部分ですか、説明の方、どちらですか。 ○相原委員 説明の部分にも少し書いていただいた方がいいということです。それほど大量にという話ではなくて、明確にだけしていただきたいというだけの話でございます。 ○大村部会長 分かりました。御要望として承りたいと思います。   ほかはいかがでございましょうか。 ○隂山委員 検討の方向性につきまして、特段異論はございませんが、1点、御説明の箇所で気になる点がございました。6ページの31行目から、証書(遺言書)の全文について必ずしも自筆であることを要せず、ワープロソフト等で入力し、それを印刷したものでも足り、第三者に委託してこれらの手段をとらせることも許されると解されていることを理由として、デジタル技術を活用した新たな方式を設ける必要性は高くないとも考えられると記載されております。この点、現在検討しておりますデジタル技術を活用した新たな方式による遺言の到達点は、ワープロソフト等で入力し、それを印刷したものとするといった理解になりかねないのではないかと感じました。   押印要件の点について、相原委員の御指摘にも通じるかと思われますが、甲案につきましては、もう少し細分化できるのではないかと感じました。今般の甲案における御提案は、5ページ最終行から6ページに掛けて記載されている①から④までのうち、①、②及び④の押印を不要とするものであると理解をしています。もっとも検討の前提としましては、6ページ目15行目の(注)で、領事方式遺言に関する御説明があり、そこでは①及び②の押印は引き続き必要であるとされています。こういった前提を基にしますと、なぜ甲案では①、②及び④の押印が不要と整理されたのか、もう少し詳しい説明が必要になるのではないかとも思われます。細分化という点につきましては、全てを網羅的に検討できているわけではございませんけれども、①、②及び④のいずれの押印も不要、①の押印は必要であるが②及び④の押印は不要、①及び②の押印は必要であるが④の押印は不要など、かなりのバリエーションがありそうに感じております。 ○大村部会長 ありがとうございます。隂山委員からは2点御指摘いただきましたが、順序を逆にしまして、後の方でおっしゃった点、甲案をもう少し細分化していく、あるいは分節化して説明する必要があるのではないかという御指摘があったかと思います。これは先ほど相原委員にお尋ねしたのと同じなのですけれども、説明のレベルでの話なのか、あるいはそれを反映させた形で本文も分節化した方がいいという御意見なのかというところはいかがですか。 ○隂山委員 説明のレベルの話です。 ○大村部会長 分かりました。それからもう1点、最初の方の点は6ページの、先ほど事務当局からおっしゃっていただいた新たに付け加えられた論拠ですね、必ずしも現在自筆であることを要しないと、ワープロ等で入力して印刷したものでもよいということになっているからということが書かれているのですけれども、これが全体の目標であるという誤解が生じないような工夫が必要なのではないか。そういう御趣旨ですね。これ自体について何か反対ということではなく、書きぶりのことですね。 ○隂山委員 はい、本文について特段異論はございません。 ○大村部会長 分かりました。それも少し工夫をしていただこうかと思います。   ほかはいかがでしょうか。 ○石綿幹事 石綿です。丙案についてなのですが、現状の文言は自筆証書遺言の丙案とほぼ同じなのだと思いますが、証人の押印が仮になかった場合に証明するのは、本人の意思に基づいて遺言が作成されたことなのでしょうか。先ほどの小粥委員の自筆証書遺言の丙案に対しての質問と共通するのかもしれませんが、証人の押印が何のためにあって、証人の押印が欠けているときに何を言わなければいけないかというのが現状の資料でよいのかというのが気になりました。これは場合によっては私が、相原委員から御指摘のあった、押印が様々あり、どれを欠くかという点についての理解が不十分なのかもしれませんが。 ○大村部会長 今の点は質問ということになりますか。何か応答してもらった方がいいですか。 ○石綿幹事 いや、指摘だけで大丈夫です。 ○大村部会長 何かあればお答えいただきますが、いいですか。では、少し今の点も踏まえて整理をしていただきたいと思います。   そのほかはいかがでしょうか。 ○中原幹事 私も相原委員、それから隂山委員、さらに今の石綿幹事の御指摘にあったように、①、②、④、どの話なのかというのを、少なくとも説明レベルでは明確にした方がいいのではないかと思いました。それとも関連するのですが、封印についてなのですけれども、8ページの冒頭から2か所、つまり甲案の箇所と、それから一番下の(注)の2か所において、封印には内容漏えいのおそれを防止するという趣旨があるのではないかということに配慮した記述がされています。   2点ございまして、一つは単純に文章の意味が分からなかった、今の①、②、④の区別という話なのですけれども、4行目から始まる「例えば」の文で、5行目に「一方」という言葉がありますが、その後ろに書かれていることは分かるのですけれども、その前に書かれていることが、証書への押印は不要としつつ封印は必要という趣旨なのか、それとも証書への押印とともに封印を必要とし、封紙への押印のみ不要とするという趣旨なのか、よく分からなかった。前者なのではないか、つまり証書への押印を要求せずに封印を単独で要求して、内容漏えいのおそれの防止の役割を担わせることも考えられるというようなニュアンスなのかなと思うのですけれども、そうであるとすると、証書への押印プラスそれと同一の印章による封印という通常の理解ないし現行法の建て付けとは異なりますので、より丁寧な説明が必要であると思います。   もう一つは、(注)の方に書かれていることでありまして、こちらがより重要なのだと思いますけれども、私自身はそもそも、この内容漏えいのおそれの防止ということにどれだけの重要性があるのか、それとの関係で封印という形で印鑑まで要求するのが必然のことなのかについて、正直余りよく分からないという印象を持っています。封印による内容漏えい防止というのは、秘密証書遺言が正に「秘密」の遺言であるという特質上必要とされるものであって、真意性、真正性の確保を目的とする他の遺言の方式とはかなり性質が異なるように思います。秘密証書遺言はほとんど使われていないので、判例はないのですけれども、仮に証書に用いられた印章と封印に用いられた印章が異なっている、しかし誰かが開けたというような疑いは存在しないというような事例があったときに、裁判所は果たして文言どおり遺言を無効とするのだろうかということは少し思うところであります。   実際には、証書が自筆である限りにおいて自筆証書遺言としてどのみち救われるのだ、だから真剣に考える意義はそもそも乏しいのだということなのだと思いますけれども、そのように秘密証書遺言を自筆証書遺言と区別する意味があるというのにとどまるのだとすると、仮に、真意性、真正性の担保は他の要件で十分だとして自筆証書遺言について押印を不要とする、さらにはそれに応じて秘密証書遺言の証書への押印も不要とするという場合に、秘密の遺言たり得るためだけに押印を要求する、(注)で書かれているのはそういう方向性のようにも受け取れるわけですけれども、そういう立場はアンバランスないし過剰なのではないかという印象を受けるところであります。   あるいは、本来プリントアウトは駄目なはずなのだけれども、それを有効化するというような意義を封印などに見いだすということも考えられるのですけれども、通常の方式でもプリントアウトが認められるということになると、そういう意義も乏しくなるのではないかと思いまして、少し(注)で書かれていることについては、パブリック・コメントに掛けるうんぬんの話ではない私自身の考えですけれども、そのように感じたということを申し上げておきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。中原幹事からは、甲案の遺言者及び証人の押印を要しないことということについてもう少し立ち入った説明が必要であるという複数の委員、幹事の御意見に賛成されるという趣旨の御発言と、それから封印の役割について、これももう少し明確化した説明が必要なのではないか、御自身の御意見としては、内容漏えいのおそれを防止するという観点から封印というものを重視するということの妥当性について疑問を感じる、こういう御発言があったと承りました。後の方は、差し当たりはゴシックの部分には関連しないのかもしれませんけれども、封印というものをどのように位置付けて、これをどのようにコントロールしていくのかということと関わるところかと思いますので、少し考える必要があるのかと思って承りました。   ほかはいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、第2につきましては、大きな方向性については御異論はなかったと受け止めましたけれども、複数の方々から、甲案に出ている押印を要しないものとするという点についてもう少し立ち入った検討が必要なのではないかという御指摘があり、それに伴う幾つかの御注意も頂きましたので、それらを踏まえて、また検討を頂くということにしたいと思います。   ということで、第2まで終わったということで、第3が残っておりますけれども、ここで休憩させていただきまして、今14時37分ですので、14時50分に再開したいと思います。   休憩いたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、再開をしたいと思います。   本日の部会資料8の「第3 特別の方式の遺言の方式要件の在り方」についてでございますけれども、この部分について御意見を頂きたいということで、まず事務当局の方から御説明をお願いしたいと思います。 ○大野関係官 8ページからの「第3 特別の方式の遺言の方式要件の在り方」について御説明いたします。   まず、本文1の現行規定を修正する場合の検討の方向性につきましては、部会資料6から大きく内容面において変更した点はございません。   (1)の危急時遺言のうちアの死亡危急時遺言については、作成することができる場面及び方式については現行規定を維持することとし、また、イの船舶遭難者遺言については、作成することができる場面につき、現行の船舶が遭難した場合との文言に限らず、航空機遭難や天災その他避けることのできない事変も広く含むことを明文化し、方式については現行規定を維持することとする考え方を提示しております。   (2)の隔絶地遺言については、作成することができる場面につき、現行の伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にある者との文言に限らず、一般社会との交通が事実上又は法律上自由に行い得ない場所にある者全てを含むことを明文化し、方式については現行の規定を維持することとする考え方を提示しております。   続いて、本文2のデジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方につきましては、部会資料6で記載した検討の方向性を維持しつつ、方式について現時点における普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の在り方についての検討を踏まえ、(1)アの死亡危急時遺言及び同イの船舶遭難者遺言につき、考えられる案として、文字情報に係る電磁的記録による遺言である甲案、書面による遺言である乙案、録音・録画に係る電磁的記録による遺言である丙案の三つの案を提示しています。これに対し、10ページ末尾の(2)の隔絶地遺言については、新たな方式を設けないこととする旨記載しております。   11ページからの補足説明では、検討の方向性として、一般論として特別の方式の遺言の作成が認められる場面については、一般に普通方式を遵守して作成し得ないと考えられる場面に限定することが相当であると思われる旨を記載しております。その上で、そのような場面に置かれた者が遺言を有効に作成できることとするため、特別の方式の遺言のうち死亡危急時遺言の方式要件に関しては、普通の方式における遺言よりも緩和されたものとし、船舶遭難者遺言の方式要件に関しては、死亡危急時遺言よりも更に緩和されたものとすることが考えられることを記載しております。他方で、一般隔絶地遺言及び在船者遺言の方式要件については、公正証書遺言や秘密証書遺言に代わる方式としてどのような方式要件の在り方が相当かを検討する必要がある旨記載しております。   次に、12ページの2の現行規定を修正する場合の検討の在り方については、このような視点やこれまでの議論を踏まえ、(1)において、船舶遭難者遺言及び隔絶地遺言を作成することができる場面について、現行規定の解釈を明文化する方向で修正することとし、その他の特別の方式の遺言の作成が認められる場面や方式要件については現行規定を維持することについて記載しております。   また、(2)では、インターネット等の通信環境が断絶された場所にある者について、一般隔絶地遺言に相当するような特別の方式を設けることの要否について、現時点ではオンラインによる遺言作成が標準的なものとなるか否かは明らかでないとも考えられること、仮にインターネット等の通信環境が断絶されていたとしても、事実上及び法律上、交通が自由になし得るのであれば、公証役場に赴くことが可能であり、あえて一般隔絶地遺言の作成を認める意義に乏しいと考えられることから、インターネット等の通信環境が断絶された場所にある者について、隔絶地遺言に相当するような特別の方式を設ける必要はないとも考えられる旨記載しております。   続いて、3のデジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方の概要として、危急時遺言につき、広く社会に普及しており、かつ比較的デジタル機器に対する知識が乏しい者であっても容易に操作が可能なデジタル機器を用いることが望ましいと考えられることから、録音・録画を用いることを想定しつつ、証人の人数要件を緩和することとしている旨記載しております。   これに対し、隔絶地遺言については、公正証書に係る一連の手続のデジタル化に加え、現行規定の下でもワープロソフト等のデジタル技術を活用する余地があり、新たにデジタル技術を活用した方式を設ける必要性は高いとは言い難いとも考えられること、デジタル技術を活用した新たな方式が必要となる場面を想定することができないとの指摘もあったことなどを踏まえ、新たな方式を設けていない旨記載しております。   13ページの4では、死亡危急時遺言における甲案、乙案及び丙案についての補足説明を記載しております。   (1)では、文字情報に係る電磁的記録による遺言である甲案について、部会資料7の普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の甲案につき方式要件を緩和したものと位置付けられ、立ち会うべき証人の人数を緩和するとともに、電磁的記録に記録された遺言に録音・録画した電磁的記録を結合することを方式要件としていないことを記載しております。   14ページの(2)では、書面による遺言である乙案について、部会資料7の普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の丙案につき、保管制度の利用を前提としないよう方式要件を緩和したものと位置付けられ、また、現行規定と比較しますと、証人の人数要件を3人から1人に緩和する代わりに、死亡危急時遺言の一連の作成過程を録音・録画することとした方式とも位置付けられ、遺言者が遺言書の記載内容を確認して承認していることが録音・録画した電磁的記録によって担保される点で、現行規定よりも真意性を担保することのできる在り方とも考えられる旨記載しております。   15ページの(3)では、録音・録画に係る電磁的記録による遺言である丙案について、部会資料5の第1の(後注)に対応する方式と位置付けられ、口頭による遺言を認めている点で、普通方式の遺言におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式のいずれの案よりも方式を緩和するものと考えられる旨記載しております。   16ページからは、船舶遭難者遺言における甲案、乙案及び丙案について、その位置付け等を記載しております。いずれも死亡危急時遺言における甲案、乙案及び丙案から更に方式要件を緩和させた方式であると位置付けられ、現行規定と同様、遺言者が口頭で遺言することとしております。   これらの各案は、飽くまで現時点における普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の在り方の検討を踏まえたものであり、普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな方式の在り方によっては、今回記載した三つの案以外の在り方も検討する必要が生じ得ると考えられますが、現時点におけるこれら三つの案につきましても御議論いただければと存じます。   第3についての御説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第3は、1の現行規定を修正する場合の検討の方向性と、次のページの2のデジタル技術を活用した新たな方式を設ける場合の検討の在り方と、二つの項目からなっておりますけれども、前者の方については従前の提案を基本的に踏襲されているということだったかと思います。他方、2については、(1)のア、イのそれぞれにつきまして甲、乙、丙という案が並んでおります。これらについて、どういう考え方でこれが整理されているかということについて御説明があったと理解をいたしましたけれども、パブリック・コメントに向けてこれを出していくということになりますと、さっと聞いて理解できるかというようなところもあろうかと思います。皆さんの方から御質問、御意見を頂戴できればと思います。   ここはいろいろあるかもしれませんので、御質問の方を頂ければ、御質問にお答えして、それから御意見を頂戴したいと思います。御質問があれば、まずお願いいたします。 ○石綿幹事 石綿です。細かいのですが、いずれも10ページですが、死亡危急時遺言の丙案、船舶遭難者遺言の丙案についてまとめての質問なのですが、死亡危急時遺言丙案の⑤、船舶遭難者遺言丙案の④、要はそれぞれの最後の要件は、録画・録音をするのは証人ということになるのか、それ以外の人であることも許されるのかということを教えていただければと思います。それぞれの案を並べてみますと、甲案・乙案は証人が録音・録画しなさいということが要件に出てくるわけですが、丙案はそうではないので、そこはどうなっているのか、別の問いをすれば、甲案・乙案は証人が録音・録画することが要件としてかなり重要なのか、誰が録音・録画することが重要なのかということを教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。録音・録画の主体が誰なのかという御質問を頂きました。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。特段、丙案が特殊な位置付けということで記載を書き分けた意図はございませんので、表現ぶりとして正確かどうかは別として、まずは証人が録音・録画をするということが想定されるということになるかと思います。 ○石綿幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 取りあえず、そのような理解で作られているということかと思います。   ほかはいかがでしょうか。   それでは、御意見等を結び付けた形での御質問があろうかと思いますので、御意見も含めた形で伺いたいと思います。どなたからでも結構ですので、挙手をお願いできればと思います。 ○隂山委員 第3の1(1)及び(2)につきましては、いずれも現行制度を維持し、また解釈により認められているものを明文化するという趣旨であると捉えており、特段異論はございません。   デジタル技術を活用した死亡危急時遺言や船舶遭難者遺言につきまして、第6回会議でも発言させていただいたとおり、デジタル技術を活用した特別の方式による議論に関しましては、普通方式による遺言の在り方によるところが大きいと感じております。その上で、今回の御提案につき、いずれも証人が関与し、かつ録音・録画を要する案であると理解しています。各案を内部で検討したところ、例えば死亡危急時遺言ですが、普通の方式による遺言の利便性が向上すれば、死亡危急時の際のデジタル技術を活用した議論が必要なのか、すなわち普通の方式による遺言によって対応できるのではないかといった意見がございました。例えば、部会資料7の乙案がオンラインで完結するような場合、死亡危急時においても普通方式遺言の乙案を利用することで自己の最終意思を法律上適切に残すことができるのではないかといった意見です。また、甲案から丙案について、いずれもどのような過程をたどって具体的な遺言となるのか、一見しただけではイメージが持ちにくいといった意見もございました。可能であればイメージ図などがあると理解に役立つように思われます。   船舶遭難者遺言ですけれども、船舶遭難者遺言を作成することになる局面といたしましては、船舶が遭難した場合を始め航空機遭難や山岳遭難、天災などが考えられるかと思います。このような局面について、冨田委員からもございましたが、デジタル技術を活用して対応可能にしていくことも検討しなければならないのではないかと感じております。船舶遭難者遺言を活用する局面で真っ先に連絡を試みるのは、恐らく最も親しい方になるのではないかと考えております。極限の場面で、最愛の親族などに対して、全ての財産を相続させたいという意思表示を行うことも考えられ、このような意思表示を、デジタル技術を活用することにより法的に有効な遺言と見ることはできないかといった視点も必要であるように捉えています。   現在の各案の場合、デジタル技術を活用したとしても証人が必要とされており、また録音・録画も求められております。航空機遭難のような時間的猶予が極めて限られている場面で、証人を探してくるというのは相当に困難であると思われます。また、山岳遭難のような場合には航空機遭難と比較すると時間的余裕がありそうにも思われますが、そうであったとしても対面による証人を求めることは現実的に難しいと考えます。このように見ますと、実際に各案が成案となった場合に実務現場で新たな遺言が実現するかというと、なかなか難しいようにも感じております。   以上のような視点を踏まえまして、証人が求められることを前提としますと、対面の証人というのは非常に困難であり、非対面による証人についても許容することを考えなければならないと感じております。船舶遭難者遺言の局面につきましては、具体的な場面を想定しながら、どのような技術を活用することができるのかを検討する必要があると考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。隂山委員からは幾つか御指摘を頂きました。一つは、これは前から一般論として出ているところですけれども、普通方式の方をどうするのかということによって、こちらの特別方式の方に対する需要というか必要性というのが左右されるだろうということで、普通方式の内容次第では要らなくなるという場面も出てくるものがあるのではないかということが一つと、他方で船舶遭難者遺言については、先ほど冨田委員からも御発言がありましたけれども、証人を要するというのがやはり重いのではないかということで、そこをどう手当てするのかということについて、具体的な御提案も含めて御意見を頂戴しました。それから、甲案、乙案、丙案と今、3案併記になっていますけれども、それぞれについてどういうプロセスで話が進んでいくのか、手続が進んでいくのかということについてイメージを示した方がよいのではないかという御指摘を頂いたかと思います。以上は2のデジタル技術を活用したという方の話ですが、1の方についてはこれで御異論ないということだったと理解をいたしました。   ほかはいかがでしょうか。 ○齊木委員 デジタル技術を利用したものについてだけ意見を述べたいと思います。結局、デジタル技術を使う場合に、誰が録音し録画するか、あるいは記録するかという問題と、証人がその場にいる必要があるかどうかという問題、これが二つ大きな問題であろうと思っています。   私は、船舶というのは沈みそうなわけですから、その場にいる人は一緒に沈む運命にあるので、やはりこれは電波が届く安全なところにいる、知り合いの人に証人になってもらって、その人に録音・録画してもらうということは当然の前提となるので、こういったものの証人については、まず、デジタルを通じての立会いでよいとし、その人が記録すると考えるべきであろうと思っております。   そういった意味で考えると、冨田委員からは証人を探すのは無理だろうというお話もありましたけれども、恐らくそういう場面は携帯で順番に知り合いを親しい順番から掛けまくるということになると思うので、誰か1人は捕まるという前提で考えればよろしいのではないかと思います。誰一人捕まらないときは、その記録自体が残らないわけですから、それはその遺言が残らないという意味になるわけでして、私は、証人1人で、非対面で、デジタル通信でということでやればよろしいのではないかと、このように考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。齊木委員からは、誰が録画・録音するのかということが非常に重要な問題で、それと関わる形で、証人がどこにいるのか、これは先ほど隂山委員も触れられた点ですけれども、こういうことを考える必要があるということで、結論としては、証人は非対面で1人でいい、そこへ送って録音・録画してもらうと、その方向で考えるというのがよいのではないかという御意見として承りました。   ほかはいかがでしょうか。 ○木村幹事 京都大学の木村です。   今御指摘いただいた点と、その前の石綿先生の御質問とも重なるとは思うのですが、デジタル方式を用いた案についての④についての質問と意見です。ここで示されている証人が記録をする必要があるのかどうかという点について、私自身は、必ずしも証人が記録する必要があるとは限らないと考えていました。今の御意見などを踏まえると、そもそも遺言者の真正性、真意性を担保するために証人が必要であるということを前提に、その証人が1人になっても構わないとされる場合というのは、デジタル記録、録音・録画によって証人の立会いというものがデータとして残っていて証拠となり得ることによって、遺言の真正性・真意性が担保されるためだと考えました。となれば、誰が記録をするのかということ自体は余り重要ではなく、証人として真正性、真意性を担保する者を確保すること、そして、その証人の立会いを非対面、対面、両方含めて録音・録画して、その電磁的記録が残っているということ自体が重要であると考えられると思います。このような理解、整理もあり得るのか、よいのかということを、もう一度法務省の方に御確認させていただければと思います。   その上で、今回の御提案では、電磁的記録自体が記録された後、録音・録画の方法によって作られた電磁的記録が最終的に誰の下にあるのかということ自体については要件が定められていないと思っております。この点についても結局質問になるわけですが、証人が持っている必要はなく、本人、証人それ以外の第三者がデータとして電磁的記録を持っていた場合であったとしても、今回の危急時遺言の要件を満たすのかどうかについてお伺いできればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。最後、質問という形で御発言いただきましたけれども、前提として録音・録画するのは証人である必要はないのではないか、どこかにそれが残っていればよいのではないかということをおっしゃっていて、それとの関係で御質問があったと思いますけれども、齊藤幹事、いかがですか。 ○齊藤幹事 御質問、2点を頂きまして、録音・録画する者、主体は証人ではなくてもよいのではないかという点については、それは排除されない、検討し得る考え方かなと思いました。資料の作成においては、何人もいる場面を余り想定せずに事務局としては検討していた関係もあり、証人が録音・録画をするのかなという暗黙の前提のようなところがございましたが、要はどういった在り方で何が担保されていればいいかという観点であれば、木村幹事のおっしゃることは十分あり得るのかなという理解でおります。   それから、後者の出来上がったものが誰の手元にある必要があるか、そこに関しては、考えが及んだ範囲で申し上げますと、何かそこにハードル、限定を掲げているものではないというのが原案ということになっているかと思います。それでよいのかどうかという御示唆かもしれず、そこは更に検討したいと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○木村幹事 すみません、最後の御指摘なのですけれども、仮にこの危急時遺言については、電磁的記録に当たるものが、録音・録画のものも含めて、誰の手元にあるのかということについては余り問題にしないということになると、他方でそれ以外の普通方式の場合におけるデジタル技術を活用したときに、もろもろの電磁的記録、遺言の本体に当たる電磁的記録も踏まえて、そもそも誰の手元にそのデータがあるのかということについての平仄をどこまで合わせるのかということが気になりました。この点もあわせて、お伺いさせていただいたという趣旨もあります。ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。そちらをどうするかということで、そろっている必要があると考える余地もあるのだけれども、しかしこれは緊急時なので誰でもいいですと考える余地もあるのかもしれませんが、いずれにしても考える必要があるという御指摘だったかと思います。   木村幹事が質問という形でおっしゃった考え方について、他の委員、幹事からも御発言があろうかと思いますけれども、宮本幹事の手が挙がっているので、宮本幹事にまず御発言いただいて、それからほかの方々に更に御発言あれば伺いたいと思います。 ○宮本幹事 ありがとうございます。私から2点申し上げます。   まず1点目、9ページの死亡危急時遺言の甲案及び乙案ですけれども、いずれも③番に、「証人は記録が正確なことを承認した後」という表現がございます。しかし、いずれも②番で、「遺言者の口授の趣旨を記録し」とありまして、そこである程度正確に記録するのは当たり前のことでもありますので、証人が正確なことを承認する必要はないのだと思います。しかも、立ち会う証人は1人とされていて、同人がその内容を正確に記載しているはずなのに、かつその正確性を承認するというのは矛盾も感じます。現行法では、公正証書遺言などの規定において、筆記の正確性を承認するという表現がありますけれども、それは他の証人や遺言者自身が承認するという話なのだと思います。そうすると、証人が正確性を承認するというのは要らず、他方で、例えばですけれども、③番は遺言者が正確性を承認するという表現にすることも考えられるのではないかと思います。   現行法の死亡危急時遺言では、遺言者は正確性を承認した後、押印等をしないので、遺言に遺言者が正確性を承認したという証拠が残らないようになっているのですけれども、甲案、乙案とも録音・録画をしておりますので、例えば遺言者に読み聞かせなどをし、遺言者が「はい」と言ったとか、うなずいたとかいう録音・録画があれば、遺言者が内容を確認したという証拠を残せるのではないか、その意味で現行法よりも、より遺言者の真意性を確保できる方式になるのではないかということも考えます。これが1点目です。   2点目ですけれども、11ページの15行目から17行目です。特別方式の遺言作成が認められる場面については、一般に普通方式を遵守して作成し得ないと考えられる場面に限定することが相当であると思われるという記載がございます。特別方式の遺言については、どのような場面について考えるのかということと同時に、普通方式の遺言ができるにもかかわらず特別方式を認めるのか、認めないのかという考え方は大変重要かなと思っております。   ところが現行法967条は、普通方式によることができる場合を排除するものという定め方にはなっておりませんし、また、11ページの36行目からの(注)の裁判例でもそのようにはなっていないと思います。実際に条文化するのは難しいのかもしれませんけれども、特別方式ができる場面は普通方式ができない場面なのだということをどこまで追求するのかという考え方は重要かなと思っておりまして、意見として述べさせていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点おっしゃってくださいましたけれども、後の方が原理的なことに関わることだったかと思いますので、そちらを先に取り上げさせていただきますが、11ページの15行目から18行目に掛けて、普通方式を用いることができない場合に限定することが相当であると思われると書いてある。御意見は、これが現在の取扱いでない、そしてこの考え方が望ましくないという方向の御意見だと、そういう受け止め方でよろしいのでしょうか。 ○宮本幹事 はい。 ○大村部会長 分かりました。それが1点と、それからもう1点は、9ページの(1)アの甲、乙両案に出てくる③の「記録が正確なことを承認した後」という、この記録が正確なことを承認するのは誰なのかということについて、証人であるというのはおかしくて、むしろ遺言者本人とした方がいいのではないかという御提案だったかと思います。 ○宮本幹事 すみません、合っていますと申し上げたのですけれども、先生がおっしゃった1点目です、11ページに書いてある方針がいいと思っています。 ○大村部会長 そうですよね、私もそうではないかと思って。最後のところにおっしゃったのが結論なのですよね。そうだとすると、そのことをもっと明確に示す必要があると、そういうことですね。 ○宮本幹事 そうですね、強調する方がいいのではないかと。現行の運用よりも、11ページに記載の内容の方がよいと思っています。 ○大村部会長 分かりました。それはそれで今承りましたが、そして最初におっしゃった方については、正確なことを承認した後ということについて、事務当局の方で何かお答えがあれば、どうしてこうなっているのかということについて多少御説明していただければと思います。 ○齊藤幹事 現行法の立て付けを参照しながらゴシック体の本文を検討しているところですが、今、宮本幹事から頂いたような御指摘は、十分検討しなければいけないということを考えたという次第です。 ○大村部会長 分かりました。そこは要検討という形で受け止めていただいたということかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○齊木委員 電磁的記録の場合に何が原本になるかというのは、実は電子公正証書の場合にかなり議論をしたのです。コピーすれば幾つでも、原理的には数十でもできるので、何が原本かというのは、やはり保管主体で限定する以外の方法はないというのが私どもの結論で、それに基づいて電子公正証書の場合には考えられております。では、この場合にどうかというと、やはり証人が保管するものという限定で考えるしかないと思うのです。今後これを翻訳か何かして、それを原本と間違いないかどうかという場合の原本は、やはり証人が保管しているものと同一かどうかというふうな観点で決めざるを得ないと思います。コピーが世の中に何十あれば、全部が原本だという考えでは、裁判所は原本を確認するときにどの原本で確認するかという問題が起きるので、それはやはり保管主体で限定するのがよろしいだろうというのが私の意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほど木村幹事の御発言を頂いて、それについて他の委員、幹事の御発言が後であれば頂きたいと申し上げましたが、齊木委員の方からは、証人に限定するということは原本を確定するというか、特定するという観点から必要なのではないかという御発言がありました。   ほか、木村幹事も含めて、委員、幹事、何か今の点について御発言があれば伺いたいと思いますが、いかがでしょう。 ○小粥委員 小粥です。宮本幹事がおっしゃった2番目の点で、普通方式でできるのであればそちらでやってというようなことに関わることですけれども、それは考え方としてもちろんあり得ると思って、よさそうな気はするわけですけれども、しかし程度問題があって、例えば危険な山に行くときはあらかじめ普通方式で遺言を書いてから行くべきだから、そこまで緊急時とかの手当てをすべきではないというような方向にも働くような気がいたしまして、その考え方は抽象論としてはなかなかよさそうな気もするのですけれども、実際に取り入れたとなると立法政策あるいは解釈論に影響を及ぼしそうで、少し難しいところもあるような気もいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの宮本幹事がおっしゃった点について、理屈の上の線引きはそうかもしれないけれども、実際上の運用ということになったときにどうだろうかと、言わば空白が生ずるようなことになりはしまいかという御懸念を示されたと承りました。ありがとうございます。   木村幹事や宮本幹事の御発言について幾つか、齊木委員と小粥委員から応答いただいたわけですけれども、それらの点につきまして、あるいはその他の点につきまして、更に御意見があれば頂戴したいと思います。 ○倉持幹事 船舶遭難者遺言について、これだけ本文でページ数を割いて提案はされているのですが、そもそも現行法の利用件数があるのかないのかということについて、私が知る限り実例は見たことがありません。遺言の確認の件数が年間100件ほどあるということですけれども、多分ほとんど死亡危急時遺言なのではないかと思いますが、この船舶遭難者遺言について、実例に触れたことがあるのかどうかということの質問です。私が知らないだけで、あるのかもしれませんが、仮に実例がないものだとすると、それなのにこういう規定を設けなくてはいけない必要性というか利用例というのをやはり具体的に示さないと、何のための提案なのかなというのが若干疑問に思うところです。   これまで出た例だと、航空機遭難だとか、地震によって倒壊して建物内に閉じ込められている例だとか、いろいろ出ていますけれども、齊木先生からの御指摘に関連しますが、例えば、LINEのビデオ通話を使って、出てくれた人に遺言内容を伝え、受け取った相手がそれを録音・録画しているような場合が想定されるとすると、その場合には普通方式のデジタル遺言の要件で出てきた証人の同時存在が必要かどうかという論点にも関わるのですけれども、仮に特別方式の場合には同時存在は要らないとなると、そういった利用例も考えられるのではないか。いずれにしてもこれだけ見ると、こういう改正をしなくてはいけない必要性というのが一つ見えてこないということがございます。   それから、隔絶地遺言につきましても、隔絶地というと教科書的には刑務所に受刑中の受刑者だとか、そういうことが言われていますが、身近な例で言うと、昨今の新型コロナの緊急事態宣言が発令された場合、その程度問題にもよるとは思うのですが、その場合にどうしたらいいのかというと、多分パブコメに答える側も具体的にイメージしやすいのかなとは思いました。   その点で、今の提案だと隔絶地遺言についてはデジタル化は必要ないということで書いてあり、その理由の中に公正証書遺言のデジタル化があるという点が指摘されていますが、前回齊木先生から御説明いただいた中で、私の理解だと、公正証書のデジタル化はかなり限定的なのではないかと、そうだとすると公正証書のデジタル化があるから必要ないということには、直ちにならないのではないかという疑問がございます。また、普通方式のデジタル化の甲案については、前回会議で厳しい意見が出ましたけれども、甲案が採用されるかどうかにもよって、隔絶地遺言の必要性の程度も変わってくるという関係にもあると思うので、もう少しそういう意味での具体的なイメージをつかめるような提案にされた方がいいのではないのかと思った次第です。○大村部会長 ありがとうございます。幾つかおっしゃっていただきましたけれども、普通方式の方がどうなるかということによって左右されるというのは、先ほども御指摘があったところかと思います。それから、具体的なイメージ、どういう場合を想定しているのかということをもう少し示してほしいと御要望いただいたと思いますが、3番目にその前提として、船舶遭難者遺言はどのくらい使われているのかというところは、どうなっているのかと、これは御質問なのかと思いましたけれども、3点伺いました。御質問の点を含めて、何かあれば。 ○齊藤幹事 死亡危急時遺言については、裁判例をいろいろと調べさせていただきましたが、船舶遭難者遺言は今、手元でこれですというのはない状況です。ただ、一般論ではありますが、立法事実といい得るかどうかは別として、デジタル技術が活かせる場面であり、検討対象とし得るかなと思います。引き続き、把握できるものがあればしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。それから、倉持幹事の御発言の中で、隔絶地遺言について、公正証書があるからデジタル化しなくていいのではないかという議論については、公正証書のデジタル化の利用というのが一定程度制限されていると理解すると、それでは代替できないのではないかと、こういう御発言がありました。 ○齊木委員 そこについて御説明しますが、コロナ禍の隔絶された中でも公正証書遺言は現実に多数作られております。どのように作ったかを御説明すると、大体窓ガラスの向こう側に御本人がいて、タブレットでこちらのパソコンとつながっているのですが、会話をして、面前で、それで意思確認をします。署名は、介護職員の人がこちらから向こうのスペースに署名をする文書を持っていって、目の前で署名してもらいます、それで確認しています。ですので、公正証書によって多数のものが作られています。かつ、公証人法改正後のリモート公正証書になると、ガラスの向こう側でなくて部屋にいても介護職員の方に介助していただければいいので、幾らでも作れると思います。もとより自筆証書を作れる方は自筆証書を幾らでも作れるわけでございますので、隔絶地というのとは少し違うのではないかという感じがします。 ○大村部会長 倉持幹事がおっしゃったのは、今、二つ分けていただいた、対面の場合とリモートの場合とを齊木委員はおっしゃったのですけれども、対面であれば、それはそれで対応できるということなのですけれども。 ○齊木委員 リモートの場合も、例の法務省の有識者会議では、病院職員の協力が得られるのであればリモートでやってよしという結論になっておりまして、典型的にリモートで行うということが予想されているケースです。 ○大村部会長 それで対応できるのではないかということですけれども。 ○齊木委員 十分にできます。 ○大村部会長 よろしいですか、何か更に。 ○倉持幹事 利用者がどういう状態の方でも対応できるということになるのでしょうか。前のお話だと、やはり高齢者の方が多いので。 ○齊木委員 高齢者についてです。そういう場合には高齢者についても使えるという有識者会議の結論になっています。 ○倉持幹事 リモートでできる場面というのは、高齢者だと他に影響されやすいだとかいうこともあるので、そのチェックというのは各公証人において比較的厳しくやるような御意見だったように私は受け止めたのですが、それは違うのですか。 ○齊木委員 おっしゃるとおりなのです。そのチェックというのは、財産をもらう人とか親族が周りにいないことのチェックなのですけれども、隔絶地で、コロナ禍では親族さえも入れないです。そういう場合は、むしろそういう影響がないのです。あとは本人の意思確認を病院職員の協力でできるかどうかが勝負だったのです、リモートだったら、もちろんそこには親族とか、そういった利害関係のある人が周りにいないことは面会禁止の場面では明らかなわけですから、むしろ利用できるわけです。 ○倉持幹事 今のお話は、コロナ禍とか交通がある程度制限される場合にはある程度緩やかに運用すると、そういう意味も含まれているのでしょうか。 ○齊木委員 コロナ禍と、あと介護施設でございますけれども、それについて病院職員とか介護施設の協力が得られて、周りに親族等がいない環境が確保されている場合には、リモートでもよいのではないかというのが有識者会議の結論です。 ○大村部会長 齊木委員がおっしゃってくださった議論の際に想定されているような例と違うような、例えばコロナのようなことではなくて、災害によってある地区が孤立している、そこには家族共々人がいて、その中の誰かが遺言を残したいと思っている、そういう場合にデジタルで使えることができますかと、そういう質問になりますか、倉持幹事。 ○倉持幹事 はい、そのとおりです。 ○齊木委員 その場合は避難先の役場の方か誰か、実は離島について議論されたのですけれども、離島の場合に、やはり一つのスペース、部屋を使って役場の職員が支援してくれるなら、リモートでいいではないかという議論になっております。同じように避難施設でも、お世話している公務員がいらっしゃるので、そういう方の協力が得られて同じような環境が作れれば、それはできるということになります。 ○大村部会長 なるほど、一定程度公的な立場にある人が介在するということによってデジタルによる危険性というものが排除される、そういう前提の考えに立っているということですね。倉持幹事の立場からすると、それは分かるけれども、それ以外の場合が残るのではないかと、そういう議論になるということですか。 ○倉持幹事 いえ、立場の違いというよりも、実際に公正証書のデジタル化の運用がどの程度されるかというのが少し不透明なところがあったので、それを聞きたかったというところでしたが、今ある程度明らかになったので、ありがとうございます。 ○大村部会長 齊木委員の今の御説明で、状況によってはかなり広い範囲で、信頼できる第三者の関与を求めて、デジタルというものが使えるという道が開けているということで、デジタルの公正証書は制限的なのではないかということについては、必ずしもそうではないという御発言を頂いたと理解をいたしました。ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。 ○柿本委員 主婦連合会の柿本でございます。8ページの第3のイの船舶遭難者遺言について、航空機や天災その他避けることのできないことを明文化することについて賛成でございます。10ページのデジタル技術の活用については、私たちが使うことのできる通信手段はいろいろあるため、録音・録画の範囲などがよく分からない、証人の立会いの定義についても市民にもきちんと分かるようにしてほしいという意見が主婦連会員から出ました。 ○大村部会長 ありがとうございます。船舶遭難者遺言について、8ページのイのところで明文化の方向というものを示されているけれども、それに基本的に賛成であるという御意見を頂いた上で、10ページのデジタル化の方の具体的な案については、録音・録画の範囲、どこまでを録音・録画というのかということと、証人立会いが対面なのか非対面なのか、非対面でいいのではないかという御意見が出ているわけですけれども、そこが分かるようにしてほしいといった御要望を頂きました。これは御要望として伺うということにさせていただきたいと思います。ありがとうございます。 ○木村幹事 私が先ほど示した意見について、更に御意見いただいたところ、電磁的記録について保管主体が重要であり、証人が保管主体である必要があるとなると、証人については、取り分け船舶遭難者遺言などについては非対面となるとの考え方についても、充分にあり得る考えだと思っております。   しかしながら、実際に船舶遭難者遺言が問題となり得る事態を想像したときに、証人に当たる人が非対面で見つかるときもあれば、同じ船や同じ飛行機に乗っている人に証人を頼むということも十分あり得ると思います。そのような場合に、証人あるいは遺言者自身がせっかく電磁的記録に当たるものや録音・録画データを持っていたとしても、不慮の事故によってそのデータ自体が喪失するという危険性も考えられます。そのような場合には、そのデータとして作ったものを遺言者あるいは証人以外の者に送信をするということも十分考えられるのではないかと思ったところです。先ほどの柿本委員の御質問とも少し関心がつながるかもしれないわけですが、遺言者あるいは証人以外の者に送信したデータというものについても一定の危急時遺言としての意味を持たせるということは、実質的にはあり得るのではないかと思いました。   さらに、そのような場合についても、やはりそのデータ自体の信憑性などが問題となり得るところ、少なくとも979条の船舶遭難者遺言については、同条の3項で、証人1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求し、その確認を得るということになっています。その遅滞なくというものの期間を比較的短期間であるとの趣旨として解するのであれば、少なくとも船舶遭難者遺言の場合については、必ずしも電磁的記録の保管主体が証人である必要はないということも、実質的配慮を踏まえると、考えられると思ったところです。   これに対して、危急時遺言のうちの死亡危急時遺言については、家庭裁判所に対して、遺言の日から20日以内という期間が定められております。仮にこれが979条3項よりも長い期間を想定されているのであれば、死亡危急時遺言については本人が電磁的記録を持っている保管主体であることを想定したものである、との形にして、船舶遭難者の場合とは区別した形で規定する可能性もあり得るのかなと思いました。   すみません、長々と、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。証人が、例えば船舶なら船舶にいて、そしてそこで録音・録画されたものが第三者に向けて送信されるということがあって、それを救済する必要というのがあるのではないかと。船舶遭難者については、期間制限等の関係で、そういう例外を認めてもいいのではないかということで、死亡危急時と区別するというような案はどうかと、こういう御提案を頂いたかと思います。それについてまた御意見があれば、他の委員、幹事の御発言を伺いたいと思いますが、沖野委員の手が挙がっているので、沖野委員にお願いしたいと思います。 ○沖野委員 ありがとうございます。少し細かい点になるのですけれども、デジタル化された方式、新たな方式の中で、それぞれについて現行規定における、遺言者が口がきけない者である場合の特則、976条2項であるとか979条2項ということになりますけれども、それについては適用されるとすることが考えられるということが、それぞれ説明のところで記載されております。補足説明のウに当たるそれぞれの部分かと思うのですが、これに関してなのですけれども、部会資料7では、普通方式の場合に、1ページですが、1の甲案についての(注1)で、口がきけない者が遺言をするときは、通訳人の通訳により口述をすること又は遺言者が入力する文字情報を電子計算機を用いて同時に音声に変換することによって口述に代えることができるものとすることが考えられるということが書かれておりました。私はこれを見たときには、この976条2項ですとか979条2項も同じように修正するという御提案なのかなと思っておったところなのです。ただ、今回はそういう記載ではなくて、そのまま適用するということが書かれておりますので、この点の趣旨がどういうことかということです。   修正してもいいのではないかとは思っておるのですが、他方で、入力の仕方は多分いろいろあるのだと思うのですが、電子計算機を用いて音声に変換するというようなことができるのであれば、結局電子計算機を用いて文字情報を打ち込めるということになりますので、その場合にはむしろ普通方式によるべきであって、特別に緩和された方式の利用は認めなくてよいということなのかもしれません。一般的にそれでいいのかという問題ももちろんあるのですが、日頃からの行動が通訳ではないというときに、このときだけ通訳を探してきてというよりは、むしろ電子計算機を用いた変換というのがコミュニケーションの一般的なツールであるならば、それを認めなくていいのだろうかというのがこの点についての質問であり、意見でもあります。   そこからなのですけれども、ただ、電子計算機を用いて実は文字情報が入れられるという場合に、この局面でそれでもよいと、それができる場合も可能にするということであるならば、それ以外の危急時の人とか船舶の遭難等の人についても、文字情報を入れられるという場合に、しかし緊急だから証人を3人も用意できないし、あるいは普通方式でも2人を用意できないとか、そのようなことを考える必要はないのかどうかということであります。   更に言うと、それは普通方式の甲案で行けばいいのだということで、それに対して普通方式の乙案、丙案ですと、保管とセットになっていると理解しておりまして、かつ本人出頭なり、郵送も可能かもしれませんが、とにかく本人が申請しなければならないのだとすると、本人はそこまで行動できないということになると、甲案が唯一の可能なデジタル化をした普通方式ということになるのですけれども、仮に普通方式で甲案が採られなかった場合には、自ら文字データを入力する人、それがあると、そういう方法についての危急時というか、それを用意するということが必要になってこないのかというのも気になっておりまして、つまり普通方式で何が認められるかによって、危急時の方式としてどういうものが必要かというのは、実は書かれていないものがまた必要になってくるというか、あるいは普通方式の甲案の亜種みたいなものを考えるということも出てくる可能性があるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。普通方式がどうなるかによってこちらの在り方が定まってくるだろうというところは、複数の委員、幹事から御指摘いただいたところですけれども、それが今まで想定していなかったような問題を呼び起こすということもあるのではないかという御指摘だったかと思います。具体的には、口がきけない者であるという場合について、電子計算機を用いる変換というものを特別方式の場合にどうするのかという質問から始まったわけなのですけれども、それをどうするかという問題と、そもそもデジタルの技術で文字情報には変換できるというような場合について、より広くこの特別方式で対応する必要はないのだろうかということまで含めて御意見を頂戴したと伺いました。一連の御発言の中で、資料7ではあった部分について今回の資料ではないのはどういう趣旨なのかというのは、御質問の形をとっていたかと思いますので、事務当局の方でそこを何かあればお答えを頂ければと思います。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。御指摘ありがとうございます。特別方式についても障害者、口がきけないとかそういった支障のある方に十分対応する形、これを普通方式とパラレルにというか、検討しなければいけないところについて、まだ十分に検討が至っていないというところかなと思います。さらに、文字を打ち込むということを特別方式で、それをまた音声にするというよりは、もっと別の在り方を考える方がスマートなのかなということも沖野委員の御指摘から考えたところですので、少し検討を深める必要があるかなと感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○戸田委員 普通方式の新たなデジタル方式で、保管機関がオンラインでの受付を可能とするのであれば、大分これを救える部分があるのかなと思うのですけれども、実際に飛行機ですと、現在だとロシアの国境に近いところとか、あるいはアラスカの上空であるとか、こういったところはWi-Fiが使えないですね。それから、小さな機体だとそもそもWi-Fi環境を持っていないところがありますし、墜落しそうになると、機長判断でWi-Fiを止めるというケースも想定し得るので、ここで考えなければいけないのは、恐らくそういったWi-Fi環境がないときにどうするのかというような話かなと思いました。船においても電波の届かない海域がございますので。   そういった場合に、オフラインで作られた遺言を有効にするために、証人の立会いを要件として求めるのか。以前の齊藤幹事のお話だと、証人は亡くなってもしようがないというようなお話だったと思うのです。それを考えると、一緒に墜落して亡くなる可能性が高い方に証人になってもらうことにどれだけの意味があるのか、確実に本人の遺品であるということが分かるものであれば、証人がなくて作ったものも有効にしてあげないと忍びないのではないかと思います。特に、この要件を知っている国民がそもそもどのくらいいるのかということがございまして、恐らく危急時にどうしても意思を残したいといった場合には、取りあえずスマホなんかに記録するというようなことをやる方がいらっしゃると思うので、そういったものを救うという観点からは、証人の要件についてはもっと緩和してもいいのかなとは思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。二つ御発言がありましたけれども、Wi-Fiが使えない環境というのがあるのではないかと、これは一般的にデジタル化ということを考えたときに、Wi-Fiを使えないときにどうするかという問題があるわけですけれども、航空機などについて、戸田委員は具体的な場合を挙げて、使えない場合というのはかなり厳しい状況で出てくるのではないかという御指摘だったかと思います。あとは、証人が一緒に事故で亡くなってしまう可能性があるということで、だから隔地者、非対面の人に送るべきなのだという御意見が何人かの方々から出ていますけれども、そういうことも思い付かないという人もいて、録音・録画を残す。録音・録画でいいということになったということは何となく分かっていて、そういうものが大量に残ったのだけれども証人がいないという場合にどうするのか、そのままそれを放置してよいのかという問題提起を頂いたと受け止めました。そこを証人なしでいいとするのか、何か特別な在り方を考えるのかという選択肢があるかもしれませんけれども、やはり救済すべき場合があるのではないか、これはまた別のところで、先ほど木村幹事が、こういう場合も救った方がいいのではないかということをおっしゃっていましたけれども、どんな範囲でどんな形で救えるのかということをぎりぎりのところでは検討するということなのかと思って伺いました。ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中原幹事 船舶遭難者遺言について3点、既に様々な先生方が指摘されたこととつながるのですけれども、一つ目は、船舶遭難者のみを定める現行規定を修正して、航空機遭難や天災その他避けることのできない事変も広く含むとするのは、方向性としてはよいと思うのですけれども、ただ、これをどう定式化するか、条文の文言にどう落とし込むかというのは案外難しい問題なのではないかと思います。その他避けることのできない事変というのは実は曖昧な表現で、厳密にどういう状況であって、そういうような事変に巻き込まれてどうなのかということが問題となってくるはずですので、全体として、通常の死亡危急時遺言よりも緩和された方式がどういう状況だったら許容されるのかということについて詰める必要があるのだと思います。   個人的には、といいますか、皆さんの御議論を聞いていても、恐らくこういう理解なのだろうと思いますが、生命への重大な危険が遺言者固有の事情のみならず一般的な外的な状況から生じている、あるいは遺言者だけではなくてほかの人も生命の危機にさらされているというような状況が、その存在が重要なのではないかというふうな認識でおりました。しかし、現行の船舶遭難者遺言というのは、実は978条との連続という性格もあって、物理的な隔絶状況にあるとか、遭難することによってもう戻れなさそうというような状況、さらに船長、事務員というような信頼のおける人の協力が得にくいというような切迫した状況というのが問題であると、そういうふうな理解もあり得るのだと思います。   いずれにせよ、新たにこの979条を一般化して規定することになった場合、更にそれを基にどういうふうに方式を緩和するかというのは、今述べたどのような理解を採るかによって大きく変わってくるはずでありまして、まず、船舶遭難者遺言を一般化してどういう状況を想定するのかを厳密に定義する必要があるのではないかと、今の議論を聞いていても思いました。   それから、二つ目ですけれども、現行規定の修正を前提とした上でのデジタル方式の船舶遭難者遺言の在り方は、10ページに三つ提案があるのですけれども、単純にぱっと見て、乙案のように、こういう危機的な状況に遭遇した状況下で遺言を出力するというのは、余り現実的でないように感じられました。通常の方式におけるプリントアウト方式からの流れの提案なので、一つのオプションとしては挙げてよいと思うのですけれども、これを単体として取り上げると若干奇異な印象を受けるというか、読んでいる人に余りレレバントな提案をしていないというような印象を与えるのではないかと思いまして、むしろ今までの御意見にもあったように、通常の方式とは違う独自のものを考えるというような発想、丙案はそうなのだと思うのですけれども、それも大事なのではないか、横並びではなくて、それを緩和するというような感じではなくて、新たなものを作るというような発想も大事なのではないかと思いました。   それから、三つ目ですけれども、これもいろいろ御指摘があったように、現行の船舶遭難者遺言というのは、立ち会う証人自身も遭難状況にあるので、運よく証人が遭難状況から脱した場合に初めて遺言が生きてくるというものなのではないかと思います。それに対してデジタル方式では、まずスマホなんかを用いて遺言を作るのだろうと、現に甲案、丙案とかはそれができそうなわけですけれども、そうすると、災害が起こって、しかしスマホのみ後で見付かって遺言が発見されるというような状況も想定できますし、あるいは遭難状況でどれだけ通信環境があるかというのは、いろいろなケースがあるようでありますけれども、木村幹事が指摘されていたような、遺言の電磁的記録を外部に送信して保存を図るというようなことも想定されると思います。   なので、その制度の仕組みとして通信による方法を想定し、非対面のやり方を考えるべきだというのが一方でありますし、他方において、家庭裁判所による確認手続について、979条3項後段、4項を適用するとだけ説明されているのですけれども、たまたま生きて帰った証人が遺言の存在を知らしめようというのとは少し違う事態が生じるのではないか、例えば第3項の利害関係人というのが同じ意味になるのだろうかというようなことが問題となってくるのではないかと思います。   いずれにせよ、いろいろ意見を伺っていて思ったのは、船舶遭難者遺言を一般化する、さらにデジタルのものを認めるとなったときには、かなり現行方式とは違うものになってくる、独自の世界があるような気がしまして、特別方式の議論は一番最後にはなるのだろうと思うのですけれども、少し集中的な議論が必要なのではないかと私自身は感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。3点ということでおっしゃってくださったのですけれども、最後にまとめていただいて、特別方式については特別方式に固有の問題というものも少なくないようなので、集中的に詰めた審議が必要なのではないかとおっしゃっていただきました。3点の中では、船舶遭難者遺言は、現行の規定を拡張するに当たって定式化はかなり難しいのではないか、観点が複数あるので、どうするのかということについて検討すべきではないかと、それから、デジタルの方については甲、乙、丙のうちの乙は少しリアリティーがないのではないかと、それが普通の方式と同じように並んでいるというのは、形は整うかもしれないけれども、形を整えることよりも独自性を重視すべきではないか、こうおっしゃっていただいたと思います。3点目が必ずしもよく分からなかったのですけれども、要点をもう一度おっしゃってください。 ○中原幹事 要するに、通信を前提とすると、今まで船舶遭難者は口頭で遺言をし、それを証人が後でその趣旨を筆記して、家庭裁判所で確認するということだったわけですけれども、対面の証人というのを想定した場合に、その証人が帰ってこないというような場面があり得ますし、それから非対面の証人が許されることになれば、それだけデータが残るというわけで、データが先にあるというか、そういうような状況が生じるのではないかと思われ、そのときに家庭裁判所による確認というのが現行でイメージしているものと同じなのかどうなのかということが気になるということであります。そういった点も含めて、デジタルということになったときには様々な活用の仕方が考えられるので、どういう論点が生じてくるかというのを詰めて議論する必要があるのではないかと、そういう趣旨です。 ○大村部会長 分かりました。対面、非対面、送信の要否ということについて御意見があるのかと思ったのですけれども、必ずしもそうではなくて、むしろデータを基にして考えるということが必要なのではないかと、従来は証人というのを基にして考えていたので、確認の手続等が違ってくるのではないか、こういう御趣旨ですか。 ○中原幹事 そうですね、飽くまで非対面を許すならばという前提ではありますけれども、様々なものがやはり出てくるのでしょうと。 ○大村部会長 分かりました。ありがとうございます。 ○谷口委員 谷口でございます。私からは、悪用される領域が拡大することについての懸念の意見だけです。デジタル技術の新しい方式の中の死亡危急時遺言のところだと思っているのですけれども、動画、録音というところの信頼性というか、先週もちょうどChatGPTのOpenAIという会社が動画作成AIを、Soraという名前らしいですけれども、発表されたと。今でも私ども、スマホで撮った写真で、その人がいなかったのにいるようにするのが幾らでもできる状態、それが普通にもうやってしまっている状態が今、世の中にあって、それが次には動画で行われる世の中になると。しゃべっていないのに、そうしゃべったような動画が幾らでも作れるということになっている世の中が目の前にあるというか、もうサービスとして始まるときに、証人が3人から1人に減ると、要件として大丈夫だろうか、悪用される懸念が増えるのではないだろうかということについては、技術的な部分を含めて、見ておいた方がよろしいのではないかという意見でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。技術的な進歩によって最後の意思を残せるというときに、それを何とか救済したいという方向は一方にありますけれども、他方で同じように技術が進歩したことによって、録音・録画といっているけれども、偽造は非常に容易になっているということであるとすると、悪用、濫用の可能性というものにも十分に配慮する必要がある、こういう御意見として承りました。現にいろいろな形で偽造、変造が簡単にできる、将来のことではなくて現にある問題となっているのではないかという御指摘を頂きました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○相原委員 先ほどからここの特別の方式の場合に関しては、普通方式においてデジタル技術を活用した新たな遺言の方式を含む方式が採用されたりすると、それによってかなりの影響があるというか、もうほとんどそれによって決めなければいけないこと、検討しなければいけないことが出るというのは、ずっと議論に出てきているところかと思います。   今回、中間試案といいますか、パブコメを求めるに際して、初見の人がどこまでそれが理解できるのか。要は、先ほども少し出ていましたが、保管制度を前提としていない甲案に対しても前回もかなり厳しい意見も出たわけなのですけれども、甲案の内容如何によってこちらの方にも関わってくるみたいなことを説明の中に書いた方がいいのではないかと思います。余計ややこしくしてしまうのか、そこのところは最終的にはお任せしたいと思うのですが、少しそこは意識した方がいいのかなと思います。   私は特別方式を一生懸命考えようと思うのですけれども、普通方式でどれが採用されるかによって大分違うなと思うと、今の段階でどこまでがちがち詰めていく必要があるのかというところはちゅうちょしてしまうわけなのです。そういうところを意識した書きぶりとか、普通方式でデジタル化をというふうに、さらっと書いてはくださっているのですが、そこのところを少し意識して、もう少し書いていただけると分かりやすいかなと思いました。   次に、最後の段階になっているかと思うのですけれども、確かに危急時のこういうものをきちんと手当てしておくというのは必要であろうし、議論しておくことは重要かなと思います。ただ、従前、ヒアリング等で海外の状況を聞いたときに思ったことですが、やはり冷静な段階できちんとした遺言を作っておかないで、そういう危急時で、生命、身体の状況としてパニックになっているときに遺言書を書くというところへエネルギーを使うというよりは、今、死後事務委任などが非常に注目されていますが、それとセットでの遺言書というのが検討されるべきなのではないかということです。海外なんかの死後事務委任、それから亡くなった後の不動産の行方とかを相当かなり力を入れて事前に検討しているという情報を得て、冷静に判断できた段階できちんと作っておくというのが重要で、それをどこで誰がアピールするのが必要なのかなとかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点、一般的な方向性についての御指摘を頂いたと思います。後の方は非常に重要な問題なのだろうと思います。特別方式で事後的に救済したいという場面がありますけれども、それよりは普通方式で対応してもらえるような形、そういう制度を安定したものとして提供する、その上で特別方式を考えるということなのかと思いました。もう1点は、本当に難しいところで、ここで議論しているときには皆さん、普通方式の方がどうなるかによって特別方式は左右されるだろうということは分かるわけですが、中間試案(案)と補足説明を見ただけで、普通方式がどうなるのかということでこちらが影響を受けるというようなことは、なかなかやはりイメージしにくいことなのだろうと思いますので、意見を聴く際に、やはりあるところは固定した形で聴かないと意見の言いようもないということになると思います。その上で、しかし普通方式のこの方式と、特別方式のこの方式というものの間に関連があるということを一定程度はやはり説明する必要があるのかと思って伺いました。これは前にも御指摘いただいたところかと思いますが、全体として、普通方式と特別方式があると、そして特別方式については従来の方式とデジタルによる場合というのがあるということで、様々なものの関係がどうなるのかということについて、全体的なイメージというのを獲得するための手段というものがあった方がいいのではないかと。これは繰り返しになりますけれども、複数の委員、幹事から御指摘いただいたところなのではないかと思います。そうしたことと併せて、なかなか難しいことではありますけれども、事務当局の方で更に工夫を頂ければと思って伺ったところでございます。   ほかにはいかがでございましょうか。 ○内海幹事 ただの感想みたいなことで、かつ、先ほど中原先生がおっしゃられたこととかなり重なるところがあるような気もするのですけれども、危急時、船舶遭難者などについても現行の場面が特定されすぎていて、ここに限らないのではないかということは、それ自体は私もそうではないかという気がします。それから、特別の方式というのは、普通の方式がうまくいかない、できないようなときに使うべきものだというのは、これも一般論としてはおっしゃるとおりではないかという気もします。それから、デジタル技術が出てきているので、これを使えば、今までになかったような、今までは不可能だったようなところでも、ある程度きちんとした遺言が残せるのではないかと、これもおっしゃるとおりだと思うのですが、三つが合わさりますと、どんな極限状態でも、残された手段を用いて残せればそれは全部遺言として受け止めるべきだ、それが究極的には正しいのだというところに行き着きかねないような議論になっているような節もあるように感じます。そういう考え方ももちろんあり得るとは思うのですけれども、ただ、少なくとも現行民法は、979条のような遺言が残せるのだったらそれは認めるという立場、言い換えれば、極限状態で紙に何かが残っていたらそれを信じるという建て付けにはなっていないという理解も成り立つように思います。そのような考え方が、仕方なく諦めていただけなのだというコンセンサスがとれるようであれば、ユニバーサルアクセスの方にシフトしていくということも合理性があるのだと思うのですけれども、そこまでいえるのかというのはよく分からない、あるいは、そこをスクラッチにしてこれから議論するということだとすると、それがうまくいくのかなといったあたりに、少し不安がないではないかという気もしまして、その辺がどうなのかという、これが感想です。   さらに、申し訳程度に手続的なところに引き付けますと、これも中原先生がおっしゃったところですけれども、かなりいろいろなメニューを状況に応じて用意するという話になってきたときには、やはり現在の確認という手続のままの姿でいいかどうかは分かりませんけれども、後で審査する方に負担が掛かっていくということにはなっていくのだろうと思います。利用件数を非常に小さく見積もった上で、家庭裁判所ないし事後的な判断主体というものが、よき遺言と認めるに足りるというものを拾っていくというような思い切りもあり得るかもしれませんけれども、それはかなり考え方のシフトを伴うのかなという気もいたします。この点も含めてどれぐらいの野心を持って検討していくのかということを、中原先生もおっしゃったように考えておかないといけないのだろうという気がいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。大きな問題として、特別方式によって救済するという方向の御議論も出ているわけですが、他方で、しかし濫用もあるし、いや、普通方式でやってくださいという要請もあるということなので、救済一本ではないわけなのですけれども、しかしできるだけ救済したいと考えるとしたときに、現行法はそういうことだったのだろうか、何らかの形で要件を満たすものが残っていればそれは考慮するけれども、というのが現行法の立て付けではないのかもしれない、そうだとしたら、方針を転換するのかどうかというところをしっかり議論しておく必要があるのではないかというのが最初の御指摘だったのだろうと思います。その上で、どのくらい実例があるのかという話は先ほども出てきましたけれども、広く緩く認めたということになったときに、事後的な手続上の負担が生ずるということになる、これは繰り返しですけれども、数の問題に依存するところはありますけれども、しかしそのこともやはり考えておく必要があるのではないかという御指摘を頂いたかと思います。   ほかはいかがでしょうか。   ありがとうございます。取りあえず、特別方式について今日の時点での御意見を頂いたということにさせていただきたいと思います。これはなかなかまとめるのが難しくて、非常に難しい問題が残っていて、様々な御意見を頂戴して、課題も後に残ったというほかないという状況かと思いますので、この程度にとどめさせていただきたいと思っております。   今日の資料についてほかに御意見がなければ、本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますけれども、よろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。それでは、本日の審議はここまでということにさせていただきます。   次回の議事日程等につきまして、事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○齊藤幹事 本日も御多忙の中、熱心に御議論を頂き、ありがとうございました。   次回の日程ですけれども、令和7年3月25日火曜日、午後1時30分から午後5時30分まで、場所は法務省地下1階大会議室を予定しております。中間試案の取りまとめに向けて、諸般の事情により事務当局の準備に時間を要するということで、次回は3月の開催とさせていただきたいと存じます。委員、幹事の皆様におかれましては、今後の御予定を確保し、本部会の円滑な進行にこれまでも御協力を頂いておりますところですが、今後の調査審議につきましても変わらぬお力添えを賜りますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○大村部会長 ありがとうございます。委員、幹事の皆様にお時間を割いていただきまして調査審議に御尽力いただいているということを考えますと、本来ならば予定したペース、変わらぬペースで中間試案の取りまとめに向けて進むべきところなのだろうと思っております。他方で、民事局は民法関係だけでも三つの部会を同時に走らせております。また、その他様々な立法に関わる案件というものもございます。そうした事情を勘案しますと、次回が3月に設定されるというのもやむを得ないことなのかなと考えております。委員、幹事の皆様におかれましてはこの点につきまして御理解を賜りますよう、よろしくお願いを申し上げます。   ということで、本日、法制審議会民法(遺言関係)部会第8回会議、これで閉会をさせていただきたいと思います。   本日は熱心な御審議を賜りましてありがとうございました。閉会をいたします。 -了-