改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第18回) 第1 日 時  令和7年4月2日(水)    自 午後2時56分                        至 午後4時58分 第2 場 所  法務省第1会議室(20階) 第3 議 題  合意制度等の導入         通信傍受の合理化・効率化         裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化         弁護人による援助の充実化 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第18回会議を開催します。   皆様御多用中のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   まず、事務当局から、冒頭、再審制度についての法制審議会への諮問について御説明申し上げます。   再審制度については、本協議会において御議論いただき、前回会議においては、再審制度については別途法制審議会において更に検討を深めるべきであるとの御意見が示され、御異論は見られなかったところです。そこで、このような再審制度をめぐる議論の動向等を踏まえ、法務大臣において、本年3月28日、再審手続の規律の在り方について法制審議会に諮問いたしました。   諮問の内容は、「近時の刑事再審手続をめぐる諸事情に鑑み、同手続が非常救済手続として適切に機能することを確保する観点から、再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧及び謄写に関する規律、再審開始決定に対する不服申立てに関する規律、再審請求審における裁判官の除斥及び忌避に関する規律その他の刑事再審手続に関する規律の在り方について御意見を賜りたい。」というものです。   ただ今御説明した内容につきまして、御質問等がある方はおられますでしょうか。             (一同異議なし)   まず、事務当局から、本日の配布資料について確認をさせていただきます。本日は、事務当局において作成したものとして、配布資料44をお配りしています。   それでは、議事に入りたいと思います。まず、事務当局から配布資料44の内容について御説明します。   配布資料44は、「附則第9条第2項に係る制度」についての論点整理案です。この論点整理案は、前回会議の後、第1段階の協議を踏まえて事務当局において作成した「たたき台」を構成員の皆様にお示しし、頂いた御意見を反映させた上で、内容を皆様に御確認いただいたものです。この論点整理案では、「以下の各事項について、制度上又は運用上、改めるべき点はあるか」とした上で、附則第9条第2項に係る各事項を掲げています。その上で、各事項について関連する論点として御意見を頂いたものを記載しています。   配布資料44についての御説明は以上です。   協議の進め方ですが、ただ今御説明した論点整理案の記載の順番に従って意見交換を行うこととし、論点が掲げられている事項については、まず、第1段階における御議論も踏まえて、全体的な内容について意見交換を行い、その後、個別の論点について意見交換を行うこととしたいと思います。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   まず、「合意制度等の導入」のうち、「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の導入」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○足立構成員 合意制度の導入の前に、在宅事件の取調べの可視化について、一言お願いを申し上げたいと思います。   取調べの可視化について、畝本検事総長が、2月19日に、在宅事件の取調べでも可視化を試行すると表明したと報じられたところです。これは、これまでの議論を踏まえると大きな一歩前進ではないかと私は考えています。一方で、本協議会ではこれまで在宅事件の可視化に関する統計データが非常に乏しいと感じていました。これは言わずもがなのことだとは思いますが、試行の結果については国民に公表するようにお願いしたいと思います。 ○中野参事官 事務当局から、若干その点について御説明申し上げたいと思います。   最高検におきましては、今般、公判請求が見込まれる事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が立証上重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考える事件の検察官による被疑者の取調べについて、身柄拘束中か否かを問わず、録音・録画を試行することとしたと承知しています。その上で、統計の関係ですが、各地方検察庁において取り扱う事件の実情等を勘案して、今後、最高検において検討を行うものと承知しています。 ○足立構成員 よろしくお願いします。   その上で、合意制度の導入について、まず最初に御質問ですけれども、これは事務当局なのか、宮崎構成員なのか、私には分からないのですが、合意制度の申入れ件数や、協議を拒否された件数、それから合意内容書面の作成件数といった統計データがあれば、教えていただけないでしょうか。 ○中野参事官 検察を所管する事務当局から御説明申し上げます。最高検におきましては、各地検における合意制度の利用について所要の報告等を求めています。ただ、その報告等の件数や内容につきましては、捜査・公判に係る内部資料であり、その取扱いに慎重を要するところとされていると承知していまして、お求めの件数を御紹介することは困難であるということで御理解いただければと思います。 ○足立構成員 捜査上の支障がある、困難があるというような御趣旨と理解すればよろしいでしょうか。 ○中野参事官 その理由ですけれども、お求めの件数や内容ですが、事務当局として把握しているものではないことを御理解願います。その上で、現状において、合意制度が広く利用されている状況ではないと考えられるところであり、お求めの件数等が明らかになることによって、既に報道等により明らかになっている情報と対照されるなどして、合意制度が利用された事案が事実上特定されかねず、現に行われている捜査・公判にも支障が及ぶおそれがあると考えられるところです。いずれにせよ、検察当局において、そのような件数等の取扱いについては慎重を要するとされておりまして、事務当局として、お求めに応じて御紹介することは困難であるということで御理解賜れればと思います。 ○足立構成員 ありがとうございます。それでは、今の御説明を踏まえた上で、私から合意制度の導入について意見を述べさせていただきたいと思います。   私たちメディアは、いわゆる日本版司法取引と呼んでいる制度ですが、これまでのメディアの報道によると、司法取引が適用されたケースは5件だと報じられています。そのうちの1件は警察の捜査、別の1件は大阪地検特捜部の捜査、残りの5件は東京地検特捜部による捜査だということです。司法取引は今年6月に導入から7年が経ちます。7年で5件という数字をどう見るか、評価は分かれるかもしれませんが、大部分のケースで特捜部が適用していることを踏まえると、広く捜査で活用されているとはいえないと感じています。   司法取引は、本来、客観的な証拠が少なく、密室のやり取りが多い組織犯罪や経済犯罪の捜査の武器になると想定されていました。過度に取調べに依存する捜査を抑止できる可能性があるだけでなく、運用が定着すれば企業や組織の自浄作用に期待も持てると思っています。さらに、制度が成熟することになれば、テロだったり選挙違反といった対象犯罪の拡大も視野に入れることができるなど、潜在的な必要性は高いと考えています。その割に運用が低空飛行を続けているように見えるのは、司法取引の過程が水面下で行われ、刑事裁判の審理の中でその一部のみが判明するため、適用の実態が不透明で検証しづらいという側面があるようにも考えています。   証人保護や捜査の観点から公にしづらい点があるのであれば、例えば、検察の内部で、検察官が協力者・弁護人との間で協議した件数、合意内容書面を交わした件数、協議を拒否された件数、犯罪種別、協力者の立場、刑事処分を軽減した処分内容とその理由、司法取引の協議をどちらがどのように持ち掛けてどのような経緯をたどったのか、供述や証言の信用性に対する裁判所の厳格な判断傾向をどう捉えるべきかといった課題を整理して、その検証結果をプライバシーや捜査上の支障に配慮した上で弁護士や裁判所と共有して、運用を広げる方策を模索するようお願いしたいと考えています。 ○成瀬構成員 私は、足立構成員が少し言及された協議・合意制度の最新の運用状況について、報道等から分かった範囲で、もう少し詳しく情報共有をさせていただいた上で、宮崎構成員に質問をさせていただきたいと思います。   第1段階の議論においては、協議・合意制度が利用された事件として、事務当局から配布資料16に基づき2件の事案が紹介され、私から最高裁判所令和4年5月20日判決の事案について紹介しました。これら3件のうち、配布資料16の【判決等②】については、今年2月に検察・弁護側双方の控訴を棄却する控訴審判決があったものの、検察・弁護側双方ともこれを不服として最高裁判所に上告したようです。また、報道によれば、新たに二つの事件で協議・合意制度が利用されたようですので、それらの事案の概要を簡潔に紹介させていただきます。   1件目は、奈良県御所市の市議会議員であった被告人が、同市発注に係る火葬場建設工事に関する建設業者らによる談合を見逃す見返りとして、現金の供与を受けたという加重収賄被告事件であり、大阪地検特捜部が捜査を主導したとされています。この事案では、工事の受注に関わったコンサルタント会社の従業員との間で合意制度が利用されたと報道されています。   2件目は、自動車販売会社の代表取締役であった被告人が、銀行に虚偽の決算報告書等を提出するなどして現金をだまし取るなどしたという詐欺等被告事件であり、兵庫県警が捜査を主導したとされています。この事案では、虚偽の決算報告書等の提出に関与した税理士法人の従業員との間で合意制度が利用されたと報道されています。   第1段階の議論で取り上げられた3件は、いずれも東京地検特捜部が捜査を主導した事案でしたが、今回新たに紹介した2件は、大阪地検特捜部や兵庫県警が捜査を指導しています。また、両事件の罪名も、第1段階の議論で取り上げられた3件とは異なるものです。このように、近時は、様々な捜査機関が様々な犯罪について協議・合意制度を利用していることがうかがわれます。   もっとも、協議・合意制度は、施行後すでに6年半以上経過しているところ、報道等で確認できる利用事案はここまで紹介した5件に限られており、いまだ公表されていない利用事案があるかもしれないことを考慮しても、その数は決して多いとはいえません。   そこで、宮崎構成員に伺いたいのですが、協議・合意制度の利用件数が少ない理由について、検察としてどのようにお考えでしょうか。 ○宮崎構成員 合意制度の利用状況につきまして、統計としては承知しておりませんが、実務における認識としても、現状において合意制度が広く利用されているという認識はありません。仮に合意制度が広く利用されていないとして、その理由について一概に申し上げることは困難でありますし、個別事件における判断に立ち入ることは差し控えざるを得ないのですが、検察当局におきましては、本人の事件についての処分の軽減等をしてもなお他人の刑事事件の捜査・公判への協力を得ることについて、国民の理解を得られる場合でなければならないとする運用をしています。   合意制度を利用する事案の選定に当たっては、最高検が発出しております配布資料15の合意制度の運用等についての次長検事依命通達に、そのようなことが記載されております。先ほど申し上げたような国民の理解を得られる場合であって、基本的には従来の捜査手法では同様の成果を得ることが困難な場合において、協議の開始を検討することとされておりまして、実務においては、この依命通達に沿って運用されているものと承知しております。   また、幾つか判決で明らかになっているものもあるということですが、個別の事案について詳しく承知しているわけでは全くないですけれども、裁判所において、合意制度によって得られた共犯者の供述の信用性が過度に慎重に判断されているのではないか、という印象があり、検察官においても、合意制度によって得られた供述の信用性が将来の公判で否定されることを懸念し、利用に慎重にならざるを得ない面があるのではないかとも考えられるところです。 ○成瀬構成員 丁寧に御教示くださり、ありがとうございました。検察側の問題意識がよく分かりました。   協議・合意制度は、取調べ及び供述調書に過度に依存した捜査・公判の在り方を抜本的に見直し、新たな刑事司法制度を構築するためには、組織的な犯罪等において手続の適正を担保しつつ、事案の解明に資する供述等を得ることを可能にする取調べ以外の方法を導入する必要があるとの観点から、証拠収集に占める取調べの比重を低下させるための手法として導入されたものです。それゆえ、今後も協議・合意制度の利用が広がらないとすれば、捜査機関としては、これまでどおり取調べに依存せざるを得ないこととなり、同制度を導入した趣旨が損なわれるおそれがあります。   また、近時は、刑事弁護の充実等により、被疑者・被告人が黙秘する事案も多くなっており、特に組織犯罪において共犯者から供述を得ることが困難になっている実情もあるようです。このような傾向は、今後ますます進んでいくと予想され、それに伴って、協議・合意制度を利用する実務上のニーズは更に増していくと考えられます。   これらの点に鑑みれば、もとより合意制度を利用するか否かは個別事件における検察官の判断に委ねられているものの、合意制度の利用が適切と考えられる事案においては、もう少し積極的に同制度を活用することを考えてもよいように思われます。 ○佐藤構成員 私も基本的に成瀬構成員のおっしゃるような方向を模索することが相当であると考えます。   合意制度につきましては、被疑者・被告人が虚偽の供述をして第三者を巻き込むおそれがあるという指摘があるところですけれども、共犯者による巻き込みのおそれは共犯者の供述一般に妥当する懸念であり、合意制度を利用した場合に特有の問題ではありません。もっとも、合意によって得られる供述には、恩典によって引き出されるという側面がありますので、その信用性をより慎重に吟味する必要があることは当然の前提となります。   そこで、合意制度においては、共犯者による巻き込みを防止する観点から、例えば、合意に基づく供述が他人の公判で用いられるときは、合意内容が記載された書面が当該他人にも裁判所にも明らかにされる仕組みとされている、合意に向けた協議については、その開始から終了に至るまで常に弁護人が関与することとされ、合意が成立する場合には、その合意自体にも弁護人が必ず関与することとされている、合意に違反して捜査機関に対し虚偽の供述等をする行為が処罰の対象とされている、といった制度的な手当てが講じられています。そのため、合意制度を利用したからといって、そのこと自体を理由として、これによって得られた供述の信用性を認めることに過度に慎重になる必要はないのではないかと思われます。   共犯者供述の信用性の判断方法に関する議論も蓄積されていることを踏まえますと、合意制度の利用が有効、適切と考えられる事案においては、より積極的にこれを活用するという方向が模索されてもよいのではないかと思います。 ○中山構成員 警察といたしましては、近年、国民に多大な被害を及ぼし、我が国の治安上の大きな課題となっている匿名・流動型犯罪グループが敢行する事件において、その組織の実態や、組織によって敢行された犯罪の全容解明に向けた手法の一つとして、合意制度の活用の可能性があるのではないかと考えております。しかしながら、匿名・流動型犯罪グループを含め、組織犯罪においては、被疑者が合意制度を活用するためには、言わば組織を裏切る必要があることから、報復を恐れ、この制度の利用をためらうこともあるのではないかとも考えております。実際に匿名・流動型犯罪グループでは組織を離脱した者に報復を行っている例もあり、こういった点を踏まえれば、証人保護プログラムの整備等、合意制度をより実効なものにするための制度を整備した上で、これらを活用していく必要があるのではないかというのが率直な感想であります。 ○河津構成員 先ほど足立構成員がお求めになった合意制度に関する統計データについて、当協議会に御提供いただけないのは遺憾であると申し上げざるを得ません。改正刑訴法附則第9条第2項は、この合意制度についても施行状況を検討することを求めています。合意制度は、この制度を通じて得られた証拠であることを明らかにすることにより、証明力を慎重に判断できるようにする仕組みが採用されており、手続を透明化することも制度の趣旨には含まれていたはずです。そうした観点からしても、基礎的な統計データが明らかになることによって、利用された事件が推知され、捜査・公判に支障が及ぶという御説明は、理解し難いところがございます。基礎的な統計データすら明らかになっていないために、先ほどの議論も、この制度が利用されていない原因の推測に基づくものとなってしまっているように思われます。   事務当局におかれましては、この基礎的な統計データを当協議会に提供することについて、再度御検討いただきたいと思います。 ○中野参事官 御意見として伺いました。 ○宮崎構成員 先ほど佐藤構成員から、合意制度においては巻き込みの危険についての手当てがなされているというお話がございました。そのとおりだと思っておりまして、私もそういった観点から、合意制度により得られた供述について、合意制度を利用したというだけでその信用性を認めることに過度に慎重になることは、適切でないのではないかと考えているところです。   先ほど申し上げたように、合意制度の利用状況について、実務における認識としては、現状、広く利用されているという認識はありませんので、引き続き、合意制度に関しては運用を積み重ねていく必要があるものと考えております。 ○河津構成員 合意制度が適用された事件における供述の信用性が過度に慎重に判断されているのかについては、疑問がございます。合意制度が適用された事件で供述の信用性が慎重に判断されているように見えるのは、合意制度が適用されたからではなく、それが恩典と引換えになされた供述であるからだと思います。そのような供述の信用性が慎重に吟味されるべきなのは当然であるように思われます。   他方で、取調べにおいて不起訴や強制捜査の回避といった恩典を事実上示唆して得られた供述は、それが恩典と引換えになされた供述であることが裁判所に対して明らかにならない結果、信用性の判断を誤っているおそれがあるのではないかと感じております。 ○中野参事官 それでは、この事項に関連する論点として、「合意制度によらない取引による供述の獲得等を禁止する明文規定を設けるべきか」について、御意見がある方は御発言をお願いします。 ○河津構成員 司法取引とも呼ばれる合意制度については、平成28年の立法当時から、他人を巻き込む供述等を誘発するおそれがあると指摘され、制度化に強く反対する意見もありました。もっとも、不起訴や早期の保釈と引換えに一定の供述をさせる事実上の司法取引は、従来から取調べにおいて行われていることも指摘されており、改正刑訴法の契機となった村木厚子さんの事件が、正に早期の保釈と引換えに村木さんを巻き込む内容の供述調書に署名させたことが明らかになった事件でした。   平成28年の参議院法務委員会では、法務大臣及び法務省刑事局長から、合意制度を創設する以上、捜査官が制度によらない取引をした場合、合意制度において対象犯罪や合意の内容に含めることができる事項等を限定することとしていることに鑑み、これらに反する合意をすることは違法となるとの答弁がなされました。平成28年刑訴法改正は、衆参両院法務委員会の附帯決議でも確認されているように、「度重なるえん罪事件への反省」を踏まえた議論に基づくものであったことを踏まえると、この答弁は非常に重要なものであったと思われます。   しかし、改正刑訴法の施行後、いわゆる参院選大規模買収事件において、捜査官が被疑者に対し、「できたら議員を続けていただきたいと思っているわけで、そのレールに乗ってもらいたい」「強制とかになりだすとね、今と比べものにならない、要するに、朝、家にぱっと来て、令状持って入ってくるわけですから、家中ひっくり返されてという話」などと申し向けて、不起訴や強制捜査の回避を示唆し、それを受けて被疑者が捜査官の見立てに沿う内容の供述をしたことが明らかになったことは御承知のとおりです。この事件については被疑者が取調べの録音に成功していたことから、このような合意制度によらない違法な取引が明らかになりましたが、被疑者が取調べの録音を試み、かつそれに成功するのは極めてまれであることも考慮すると、この事件は氷山の一角であると見ざるを得ません。このような合意制度によらない違法な取引がどの程度の頻度で発生しているのか、統計的には明らかでありませんが、それは、国会の附帯決議にもかかわらず、在宅被疑者の取調べの録音・録画が実施されてこなかったことによるものです。   第5回会議で、制度によらない事実上の合意は違法であることを確認した答弁の内容を周知する通達等が検察庁から発出されているのかお尋ねしましたが、第6回会議で、そのような通達等は発出されていない旨の御回答をいただきました。しかしながら、合意制度によらない取引は、取引が行われたこと自体が明らかにならず、その結果、信用性を慎重に検討する機会が失われる点で、巻き込みによるえん罪を生む危険が極めて大きいものであり、これを明確に禁止し、それを徹底することが必要です。   そこで、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、合意制度の手続によることなく、被者者又は被告人との間で、証拠収集等への協力行為をし、かつ捜査又は訴追に関する行為をすることを内容とする合意をしてはならない旨を明文で規定すべきと考えます。 ○宮崎構成員 合意制度によらない取引による供述の獲得等を禁止する明文規定を設けるべきかということですけれども、先ほど河津構成員が言及された平成28年の改正刑訴法の国会における法案審議の際の答弁がございました。こちらについては、仮に合意制度によらない事実上の取引がなされた場合、それが問題になるのは、当該取引に基づく供述が他人の公判に顕出され、その証拠能力が争われた場合であると考えられるところ、その場合の証拠能力については、法律上明文で対象犯罪や合意の内容に含めることができる事項が限定されているにもかかわらず、これを意図的に無視しており、法軽視の態度が顕著であると言わざるを得ないこと、また、仮にこのような証拠を許容したとすれば同様の事態が繰り返されるおそれが大きいこと、こういったことから、刑事免責制度に関する最高裁大法廷判決の趣旨に照らして証拠能力が否定され得ると考えられるという、そのような内容の答弁であったかと思います。この答弁のとおり、証拠能力について否定され得ると考えられるわけでありまして、そのため、合意制度によらない取引による供述の獲得等を禁止する明文規定をあえて設ける必要性はないと考えられます。   また、個別事件については立ち入ってコメントいたしませんけれども、私としては、前も述べましたとおり、取調べにおいて合意制度によらない取引による供述の獲得等が横行しているという実態はないと認識しておりまして、恐らく御指摘の事案の判決書におきましても、取調べにおいてそのような取引がなされたという認定はされていなかったのではないかと思います。 ○河津構成員 宮崎構成員の御発言の趣旨について確認させていただきたいのですが、参議院法務委員会の議事録を確認しますと、宮崎構成員が引用された部分の後に、「合意制度において対象犯罪や合意の内容に含めることができる事項等を限定することとしていることに鑑みますと、これらに反する合意をすることは違法となる」と法務大臣は答弁されているように思います。これは単に公判において証拠能力が否定され得るというだけではなく、そのような合意をすること自体が違法となるという趣旨の答弁だと思いますが、その理解は共通していると考えてよろしいでしょうか。 ○宮崎構成員 どういった場合に違法になるかというのは、結局のところ具体的な場面によるのかと思います。違法になり得る、あるいは証拠能力を否定され得るということだろうと思います。 ○中野参事官 それでは、次に、この事項に関連する論点として、「いわゆる自己負罪型の合意制度を設けるべきか」について、御意見がある方は御発言をお願いします。 ○足立構成員 意見というか、河津構成員へのお尋ねなのですけれども、私はここに来る前に会社で「自己負罪型」というキーワードで過去記事を検索したところ、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、合わせて過去30年間で17件の記事しかヒットしないということになっていました。私も全く耳になじみがないのですけれども、可能であれば、制度の概要とその必要性について御説明いただければと思います。 ○河津構成員 平成28年改正刑訴法で創設されたのは、捜査・公判協力型の合意制度と呼ばれており、他人の刑事事件に関する証拠収集等の協力をすることと引換えに恩典が与えられる制度です。これに対して、自己負罪型の合意制度は、自己の刑事事件に関して証拠収集等に協力することと引換えに、刑の減軽等の恩典が付与される制度で、他人の刑事事件の証拠収集等に協力をするか、自分の刑事事件の証拠収集等に協力するかが、大きな違いとなります。自己の刑事事件に協力することは、自らが刑罰を受け入れることにつながりますので、自己負罪型と呼ばれているものと理解しておりますが、厳密なところは成瀬構成員から御説明いただければと思います。 ○中野参事官 必要性に関しましては、いかがでしょうか。 ○河津構成員 今の説明にもし不正確なところがございましたら、成瀬構成員から御説明をお願いします。 ○成瀬構成員 河津構成員の御説明に異存ございません。私も同様に理解しております。 ○中野参事官 必要性も含めて御説明をお願いします。 ○河津構成員 平成28年改正刑訴法は、度重なるえん罪事件への反省を踏まえ、取調べへの依存を改めることを目的としたものでした。しかしながら、改正刑訴法の施行後も違法、不当な取調べは減っておらず、取調べによる供述強要を原因とするえん罪も繰り返されています。本協議会における議論を振り返っても、捜査機関の取調べに依存する姿勢はほとんど変わっておらず、刑訴法改正の目的は達成されていないように思われます。   取調べは、それによって明らかになる事実がある一方で、捜査機関の心証に沿うように証拠をゆがめ、刑事事件の事実認定を誤らせるおそれも大きいものです。これまでも不適正な取調べの具体例を御報告してきましたが、取調官が否認又は黙秘する被疑者に対し、重い求刑をすること、追起訴をすること、保釈に反対すること等を示唆して自白を迫るような取調べは繰り返されています。   自己負罪型の合意制度も虚偽の自白を誘発する危険があり、慎重な運用が必要であることは間違いありません。ただ、合意制度の手続においては弁護人が協議に関与することを前提とすると、虚偽自白を誘発する危険がより大きいのは取調べであると思われます。   そこで、取調べへの依存を改めるという改正刑訴法の目的を達成するため、いわゆる自己負罪型の合意制度を設けることについても検討すべきであると考えております。 ○足立構成員 ありがとうございました。追加で2点、河津構成員にお尋ねですが、この自己負罪型の合意制度が導入された場合に、その対象事件、罪名等の対象事件に何らかの限定があり得るものなのか、それが1点。もう1点は、もし本人が自白して取引を行って、自分の罪を軽くしてもらうということだと思うのですが、その場合の刑事裁判はどうなるのかという点について、お伺いしてもよろしいでしょうか。 ○河津構成員 対象事件につきましては、限定することも考えられると思います。例えば、自己負罪型の司法取引に対する否定的な御意見の中には、被害者感情への配慮を理由に挙げるものもあったかと存じます。それに配慮すると、まず被害者のない犯罪を対象事件として導入することも考えられるのではないかと思います。ただ、私の意見は、先ほど申し上げたとおり、取調べへの依存を抜本的に改めるため、取調べの中での重い求刑や追起訴の示唆などを明確に禁止することと引換えに合意制度を導入すべきというものですので、対象事件を限定することなく、弁護人が協議に参加する自己負罪型の合意制度の導入を目指すべきではないかと考えております。   2点目の、刑事裁判がどうなるのかについては、自己負罪型の合意制度を導入しただけでは、刑事裁判そのもの、公判の在り方は変わらないものと理解しています。通常は自白事件ということになるでしょうから、短期間に裁判が終わることになるのではないかと考えております。 ○足立構成員 御丁寧に説明いただき、ありがとうございました。今の御意見も踏まえた上で、私から若干意見を申し上げたいと思います。   1点目は、今、河津構成員からも御説明がありましたが、気掛かりなのが被害者の感情の問題だと思います。私は、被害者の中には自分が巻き込まれた事件が早く解決して、効果的に処罰を与えてほしいという方がいるようにも思いますが、その一方で、加害者には罪に見合った罰を受けてほしいという方も少なくないのだと思います。一般的に重大事件になればなるほど処罰感情は峻烈になることが想定され、被疑者が罪を認めたら罰が軽くなるというシステムを国民が受け入れるかどうかは慎重に見極める必要があるのだと思います。   2点目も今、河津構成員から御説明いただきましたが、仮にですけれども、自己負罪型の合意制度によって、もし刑事裁判がきちんと開かれないまま刑罰が下されるような仕組みになるのだとすると、事件の内容や背景、社会的な課題が明らかにならないままになる、もしくは明らかになりづらくなることが懸念されます。刑事裁判は公開の法廷で行われて、特に社会的関心の高い事件では報道機関や被害者、傍聴者らの目や耳に触れることによって多角的に検証されるという機能があると思っています。歴史の出来事の記録という点でも、この刑事裁判との関わりについては改めて検討する必要があると思います。   3点目は、刑事司法の形を大きく変更することについて国民がどう受け止めるかという点です。裁判は、訴追者の検察官がいて、防御する弁護人がいて、そして第三者の立場の裁判所が判断するという構造が国民の信頼を得てきました。もし検察官が裁量によって加害者本人の罪を取引するようなことになれば、あたかも検察官が裁判官の役割を果たすかのように国民には映るのではないとないかと思っています。量刑ガイドラインをどう定めるかだったり、裁判官と検察官、弁護人の役割がどう変わるのかといった様々な観点で検討の必要な事項が生じるのではないかと考えます。 ○成瀬構成員 自己負罪型の合意制度を設けることについては、法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」において検討がなされました。その際、会社犯罪や経済犯罪については、企業のコンプライアンス促進という観点からも、自己負罪型の合意制度の導入を積極的に検討すべきであるなどの意見が示された一方で、一般的に自己の犯罪を認めるかどうかを協議・合意の対象とすると、「ごね得」の事態、つまり、最初から自白するよりも、まずは否認して検察官と交渉した方が有利な取扱いを受けられるという事態を招き、結果として被疑者に大きく譲歩せざるを得なくなり、事案の解明や真犯人の適正な処罰を困難にするという消極意見も示されました。   そして、我が国の刑事司法制度に協議・合意の要素を有する手法を取り入れるのは、平成28年の刑訴法改正が初めてであったことから、まずは、証拠の収集方法として特に必要性が高いと考えられる捜査・公判協力型の制度を導入することとし、自己負罪型の制度については、捜査・公判協力型の制度の運用状況等も踏まえつつ、必要に応じて検討を行っていくこととされたと承知しております。   もっとも、特別部会において述べられた自己負罪型の合意制度に対する消極意見は、捜査機関が被疑者に対して真摯な説得を行えば、被疑者は任意に供述してくれるということを暗黙の前提にしていたと思われるところ、近時は、刑事弁護の充実等により、被疑者・被告人が黙秘する事案が多くなっており、もはやそのような前提は成り立たなくなっているようにも思われます。そして、黙秘事案の増加に伴い、捜査・公判における様々な負担も増してきている状況にあり、このような傾向は今後ますます進んでいくと思われることからすれば、事件処理の効率化を図る観点から、自己負罪型の合意制度の導入についても、いずれ本格的な検討を迫られる時期が来るのではないかと考えています。   ただ、先ほど申し上げたとおり、捜査・公判協力型の合意制度はいまだ利用件数が少なく、実務に定着したとはいえない状況であり、足立構成員も指摘されたとおり、我が国の刑事司法制度に協議・合意の要素をより幅広く取り入れることについて、被害者をはじめとする国民の理解が得られているとも思われません。また、自己負罪型の合意制度を導入するに当たっては、約束による自白の証拠能力を否定した最高裁判例との関係などを整理する必要があり、検討すべき法的課題も少なくないと思われます。   そこで、今後は、捜査・公判協力型の合意制度の運用状況を注視しつつ、自己負罪型の合意制度についても、諸外国の制度や運用状況を調査するなど、少しずつ検討を始めていく必要があると考えています。 ○佐藤構成員 先ほど河津構成員から、取調べへの依存を改めることと関連付ける形で、自己負罪型の合意制度の導入の可能性、必要性についての御発言がございましたけれども、逆に捜査機関側において、自己負罪型の合意制度を導入する必要性についてどのような御認識をお持ちになっているか、伺えればと思います。   自己負罪型の合意制度については、例えば警察や検察が処理し切れないほどの事件負担の下にあるならば、事件処理の効率化のためにこれを導入するといった筋道もあり得るかもしれませんが、現在、我が国はそこまでの状況には至っていないように見受けられます。ただ、近時、被疑者・被告人が黙秘する事案が増えていて、これによって捜査・公判における負担が重くなっている状況があるとすれば、制度の導入について具体的に検討するきっかけにはなるように思われます。   そこで、実際に捜査に関わられる中で、自己負罪型の合意制度の必要性についてどのようにお考えになっているか、もし可能であれば、検察、警察双方の構成員の方に伺ってみたいと思います。いかがでしょうか。 ○宮崎構成員 成瀬構成員、佐藤構成員の御指摘のように、近時の捜査・公判実務におきましては、被疑者・被告人が取調べ等において黙秘をする事案が増えてきておりまして、その結果として事案の真相解明が難しくなってきている。そして、これに伴い、捜査機関や立証活動を行う検察官の捜査・公判上の負担も増大しているというのは実情でありまして、そのように実感しております。このような傾向は今後ますます進んでいくのではないかとも思われるところです。このような捜査・公判実務の実情に照らすと、自己負罪型の合意制度の導入を検討する意義はあると考えております。   他方で、御指摘があるように、一般的に自己の犯罪を認めるかどうかを協議・合意の対象とすると、ごね得を招くのではないか、自己の犯罪を認めるかどうかを協議の対象とすることについて被害者や国民の理解が得られるのかなど、検討すべき課題は少なくないと考えられます。   いずれにせよ、捜査・公判協力型の合意制度が広く利用されているという認識は現状においてはありませんので、引き続き、その運用状況も注視しつつ、自己負罪型の合意制度について検討を行っていくことが相当であると考えております。 ○中山構成員 自己負罪型の合意制度に関して申し上げますと、先ほど来お話にありましたとおり、やはり取調べにおいて供述がなかなか得られにくいというのは実感として感じているところでございます。また、他方で、これも先ほど来お話のありましたとおり、果たして国民の理解が得られるのかという論点ですとか、あるいは法制審議会でも意見がありましたように、いわゆるごね得というようなものが起こり得るのではないかという懸念もあるところかと存じます。   先ほども申し上げましたとおり、匿名・流動型犯罪グループなどに見られる組織犯罪の実態解明に資する側面もあるかもしれませんけれども、申し上げたような懸念される論点も含めて、この自己負罪型の合意制度については議論を更に行っていく必要があるのではないかと考えております。 ○中野参事官 この論点に関しては、よろしいでしょうか。   次に、「合意制度等の導入」のうち「刑事免責制度の導入」に関する意見交換を行いたいと思います。この点につきまして、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○成瀬構成員 刑事免責制度の運用に関して、平出構成員に質問をさせていただきたいと思います。私は、協議・合意制度に関する第1段階の議論において、合意をした協力者の供述の信用性は裁判所において相当慎重に評価されている旨を指摘させていただきました。これと比較した場合、刑事免責制度を適用された証人の証言の信用性評価について、裁判所はどのようなスタンスで臨んでおられるのでしょうか。 ○平出構成員 おっしゃるとおり、供述の信用性についての判断というのは、個別の事件において様々でありまして、一般的、類型的にお答えすることはなかなか難しいというのは前提でございます。その上での話ですけれども、協議・合意制度との対比という話がございましたので、協議・合意制度の方から少しお話ししますと、協議・合意制度によって利益を得た者の供述というのは、先ほど来、様々な裁判所の判断について御議論がなされておりますが、特別部会等において裁判所の委員が発言していたとおり、ここも個別の判断ではあるのですけれども、いわゆる引っ張り込み供述とか引き込み供述と呼ばれるものでありまして、共犯者に罪を負わせて、相対的に自分の罪が軽くなるといった利益を期待して行われる可能性があるので、一般的にはその信用性は慎重に判断する必要があると考えられているということは、既に裁判所の委員から過去に指摘されているとおりでございます。   他方、刑事免責によって得られた証言の信用性の判断については、合意制度によるものとは異なって、虚偽の証言を行うことにより自己の罪責が軽減されるという状況ではないことからしますと、正に一般的な供述の信用性判断の問題にほぼ解消されるのではなかろうかと考えているところです。 ○成瀬構成員 丁寧に御教示くださり、ありがとうございました。刑事免責制度に対する裁判所のスタンスがよく理解できました。   第1段階の議論でも申し上げましたが、刑事免責制度は、協議・合意制度の対象犯罪となっている事件だけでなく、殺人や傷害致死等の事件でも用いられており、多様な事件において刑事免責制度を用いる実務上のニーズがあることがうかがわれます。少なくとも現時点において、刑事免責制度の運用上の問題点は特に見受けられませんので、今後も運用状況を慎重に見守っていきたいと考えております。 ○佐藤構成員 刑事免責制度につきまして、私も、引き続き今後の運用状況を見守っていくのが相当だと考えております。   配布資料19によれば、刑事免責制度は、合意制度の対象犯罪となっている事件だけではなく、殺人等の重大事件でも用いられており、成瀬構成員の御指摘のとおり、多様な事案において、この制度を用いることには利点があると評価されていることがうかがえます。   なお、その利点に関しましては、この制度が、運用上、免責証人自身の有罪を立証し得る各種の証拠が既に十分収集されている場合に、その証人に公判で証言をさせるための手段として用いられているとの指摘もあるところです。   いわゆる派生使用免責の考え方による現行法の下では、公判供述を免責の付与によって獲得したとしても、その供述とは独立に収集された証拠による有罪立証が可能であれば、免責証人の訴追、処罰は妨げられず、免責の付与は免責証人の訴追、処罰の断念を何ら意味しないこととなります。この場合、仮にその免責証人が首謀者であるとしても、その者が訴追、処罰を免れることにならないばかりか、本制度の利用によって、その首謀者の供述が供述調書ではなく公判証言の形で顕出されるという、むしろ、公判中心主義の観点からは望ましい結果がもたらされることにもなるわけです。   こうした運用は、刑事免責制度は、首謀者の刑事責任を追及するために、従属的な共犯者に免責を付与し、その訴追、処罰を断念するものだ、という想定とは異なる事態といえますが、現行法が本制度をそのような想定に合致するように用いることしか許していないとは言い難く、また、刑事訴訟法第350条の2第1項が免責決定に当たっての考慮事由として挙げる、「関係する犯罪の軽重及び情状」という要素も、本制度の利用を、従属的な共犯者の訴追、処罰の断念を伴う場合に限定するとまでは考えられないといたしますと、今述べたような、免責証人の訴追、処罰の断念を伴わない本制度の用い方もあり得るのだろうと思われます。   このように捉えますと、少なくとも現時点において刑事免責制度の運用に特段の問題点は見受けられないと思います。 ○宮崎構成員 私は、事務当局から提供された刑事免責の施行状況に関する情報や、私自身の実務での認識も前提としますと、刑事免責制度については、相当数の事案において活用されており、特段の問題点は指摘されていないものと認識しております。そのため、現時点において、刑事免責制度について改正の必要性は認められないと考えております。 ○中山構成員 具体的な制度設計の案があるわけではございませんが、匿名・流動型犯罪グループによる犯罪の中には、実行犯の一部を逮捕したとしても他の実行犯によって人命が脅かされる状況が継続する場合があります。しかしながら、警察が被害者を救出したり、更なる被害を食い止めようとするにも、逮捕した被疑者が黙秘しており、迅速な救出や新たな被害発生の防止が困難な場合も現にあります。黙秘は被疑者の権利であり、これを否定するものではありませんが、一方でこうした場合は人命救助、安全確保がより優先されるべきではないかと考えております。現行の証人尋問に係る制度とは建て付けが異なってくることは承知の上で申し上げますが、例えば、逮捕段階の被疑者に対しても、刑事免責の上で、裁判官に対して人命救助、安全確保の証言を義務付けるなどの仕組みは考えられないかというのは、警察としては感じているところではあります。 ○中野参事官 次に、「通信傍受の合理化・効率化」に関する意見交換を行いたいと思います。この点につきまして、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は御発言をお願いいたします。 ○足立構成員 意見ではなくて、中山構成員にお尋ねしたい点があるのですけれども、先ほどもトクリュウについて触れられていましたが、昨今テレグラムとかシグナルといった秘匿性の高いアプリを使った犯罪が増えています。第7回の本協議会の際に通信傍受の方法について私がお尋ねしたところ、実績としては携帯電話事業者による音声通話のみが対象になっているとお答えを頂きました。デジタル技術の発展に伴って、難しい捜査が増えていると考えられます。こうした社会状況の変化を踏まえて、通信傍受の対象範囲、それから実施方法の課題や改善点について、もし御意見が頂けるようであれば、差し支えない範囲でお願いいたします。 ○中山構成員 現行の通信傍受法の対象範囲や実施方法については、前回の刑事訴訟法の改正によって実施方法に関する改正がなされたところでありまして、これを引き続き適正に運用していくのかと考えております。また、その通信傍受の、例えば対象犯罪の拡大に関しましては、現在、刑事訴訟法等の改正案が国会で審議をされている状況ですので、現時点では言及は差し控えたいと考えているところでございます。   また、御指摘のシグナルですとか、あるいはテレグラム等といった秘匿性の高い通信アプリに関することで申し上げますと、こういった通信アプリを利用した通信内容の把握の方法については、研究を進めていかなければならないと考えているところでございます。 ○足立構成員 ありがとうございました。 ○成瀬構成員 私は、通信傍受の運用状況について意見を申し上げた上で、中山構成員に質問させていただきたいと思います。   第1段階の議論でも申し上げましたが、配布資料21によれば、通信傍受手続の合理化・効率化が施行された令和元年以前と令和2年以降の通信傍受の年間実施事件数を比べてみると、令和元年以前はおおむね10件前後で推移しているのに対し、令和2年以降は20件以上と約2倍になっていることが分かります。そして、令和2年以降の事案について見ると、通信傍受が実施された全ての事案において、特定電子計算機を用いる方法により通信傍受が実施されています。このように、通信傍受手続の合理化・効率化の観点から導入された手法が広く用いられていることからすれば、通信事業者や捜査機関の負担軽減に一定程度効果があったと考えられます。この点については、第6回会議において、松田構成員から実感のこもった現場の声も伺いました。   また、平成28年改正においては、通信傍受の対象犯罪として、殺傷犯関係の罪や窃盗・強盗・詐欺・恐喝関係の罪などが追加されたところ、これらの追加された犯罪についても通信傍受が相当数実施されていることからすれば、対象犯罪の拡大の効果もあったといえます。   先ほど中山構成員も言及されたとおり、現在国会で審議中のいわゆる刑事デジタル法案においては、通信傍受の対象犯罪として、財産上の利益を取得する類型である、いわゆる2項強盗・2項詐欺・2項恐喝を新たに追加することとされていますので、同法案成立後の施行状況も含めて、引き続き通信傍受の運用状況を見守っていきたいと考えています。   このように通信傍受の合理化・効率化は一定の成果を上げているものの、私は、通信傍受だけで組織犯罪対策として十分なのだろうかという疑問を抱いております。先ほど足立構成員から御指摘がありましたように、匿名・流動型犯罪グループがテレグラムやシグナルなど秘匿性の高い通信アプリを用いて犯罪を遂行している今日の状況においては、通信傍受以外の新たな捜査手法の導入を検討する必要があるのではないでしょうか。先ほど中山構成員は、これらの通信アプリを利用した通信内容の把握方法について研究を進めていかなければならないとおっしゃいましたが、もう一歩踏み込んで、お考えになっていることをお聞かせいただけますでしょうか。 ○中山構成員 それでは、先ほどの足立構成員のお尋ねと、成瀬構成員のただ今のお尋ねと、両方にお答えするような形でお話をさせていただければと思います。   先ほど来申し上げておりますように、匿名・流動型犯罪グループは、近年、我が国の治安上の大きな課題となっております。その点をまず、若干ブレークダウンして申し上げますと、これらは特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺をはじめ、組織的な強盗、悪質ホストクラブ事犯、オンライン上で行われる賭博事犯、組織的窃盗・盗品流通事犯、悪質リフォーム事犯のほか、インターネットバンキングに係る不正送金事犯等に至るまで、国民に多大かつ深刻な被害を与えています。   具体的には、特殊詐欺の令和6年中の被害額は約722億円、SNS型投資・ロマンス詐欺の被害額は約1268億円と過去最悪の被害となっておりまして、これらの被害額の合計は約2000億円に上っております。また、一昨年以降、関東地方を中心に一般住宅や質店等に押し入り、何の落ち度もない一般の方々が、金品に加え、その生命を奪われるなどの強盗殺人事件等も発生をしております。   匿名・流動型犯罪グループが関与する強盗や特殊詐欺等の犯罪においては、いわゆる闇バイトと呼ばれる犯罪の実行者をSNSで募集するなどし、実行役を言わば使い捨てにする、首謀者、指示役が秘匿性の高い通信アプリを利用して犯罪の実行者と連絡を取り合う、SNS等を用いて調達した他人名義の口座、インターネットバンキング、暗号資産を利用し、巧妙にマネー・ローンダリングを行っているなど、匿名性が高い技術やサービスを悪用しながら、その手口を刻々と巧妙化、複雑化させている特徴が見られます。匿名・流動型犯罪グループの弱体化、壊滅のため、その被疑者らを解明、検挙し適正な科刑を実現することはもとより、財産被害の回復や、解明した実態を踏まえ国民が被害に遭わないための抑止対策を推進していく必要があり、そのためには中枢被疑者に直接迫る捜査が必要であると考えています。   しかしながら、実行犯は首謀者や指示役等の組織実態について知らない者が多く、また、知っていたとしても、組織的な暴力による支配を背景に、指示役や首謀者等から報復をほのめかされて黙秘を指示されるなどがあるほか、犯罪事実にとどまることなく、犯行手口や将来の犯罪計画、潜在的な被害者の存在等まで黙秘するなどし、取調べによる真相解明が機能していないことも少なくありません。もとより黙秘権は被疑者に認められた重要な権利ではあるものの、取調べにおける証拠収集、ひいては真相解明が困難となっている例が多いと感じています。   こうした中にあって、申し上げたように指示役と実行役の連絡にはシグナルやテレグラム等といった秘匿性の高い外国の通信アプリが利用されており、これを利用して行われる指示の内容等の解明が必須となっております。しかしながら、こうした特徴を有する通信の内容の把握には困難が伴うことが多いです。加えて、これら通信アプリ等に係る事業者は国内には所在していない上、仮に令状で差押えができたとしても得られる情報は極めて限定的であるなど、到底捜査に資するものではありません。このように、現行の強制捜査の枠組みでは対処できていない現状にあります。このため、諸外国の事例や法制等も参考にしつつ、犯行グループの端末から犯罪に悪用される通信アプリ等の通信内容等を迅速に把握するなどの効果的と考えられる手法について、研究する必要があると考えております。   さらに、被害金は他人名義の口座やインターネットバンキングを悪用し次々と移転されるなど、その追跡が困難となっております。そこで、例えば警察が開設する架空名義口座を犯人側に渡らせ、利用させることができれば、被害金の回収や資金の流れの追跡が可能となるほか、上位被疑者の解明、口座を悪用したマネー・ローンダリング行為の牽制といった効果も期待できると考えておりまして、こうしたものの実施に向けた検討を進める必要があると考えております。   そのほか、実情として犯罪行為と財産の関連性を明らかにすることが困難であることなどから、匿名・流動型犯罪グループが犯罪により獲得した財産を刑事手続上奪うことができておらず、被害者の救済も十分に進んでいるとはいえません。言わばやり逃げの状態になっております。こうした財産を効果的に剥奪し、被害者を救済していくための手法を検討していくことも必要ではないかと考えております。 ○成瀬構成員 丁寧に御教示くださり、ありがとうございました。第一次捜査機関である警察の問題意識がよく分かりました。   法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」では、「取調べに過度に依存しない証拠収集手段の適正化・多様化」が目指されましたが、これは平成28年改正のみで達成できるものではなく、時代状況の変化を踏まえつつ、今後も継続的に追求すべき課題であると考えています。そのような観点からすると、近時の情報通信技術の発展を踏まえて中山構成員が提案された、端末から通信アプリの通信内容等を迅速に取得する捜査手法や、架空名義口座を犯人側に利用させる捜査手法、犯罪収益をより実効的に剥奪する手法などについて、諸外国の法制度・運用を参考にしつつ、我が国においても導入に向けた議論を開始すべき時期に来ているように思われます。   もちろん、これらの新たな手法について検討を進めるに当たっては、我が国の憲法・刑事訴訟法の基本枠組みに適合的な形で導入できるかという点や、被疑者・被告人をはじめとする国民の正当な権利利益を適切に保護できるかという点などについて、慎重に見極める必要があると考えています。 ○中野参事官 次に、「裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化」に関する意見交換を行いたいと思います。この点につきまして、第1段階における御議論も踏まえ、御意見、御質問のある方は発言をお願いします。 ○宮崎構成員 平成28年の刑訴法第90条の改正は、裁量保釈の判断に当たっての考慮事情について、実務上の解釈として確立しているところを確認的に明記することにより、法文の内容をできる限り明確化するという趣旨によるものであり、裁量保釈に関する実務の運用を変化させることを意図したものではなかったところでありまして、配布資料24に示されていますように、平成28年以降、保釈率に大きな変化がないということは、当該改正がその趣旨に照らして適切なものであり、想定どおりに運用されていることを意味するものと考えられます。   一方、令和5年に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律においては、逃亡防止のための諸制度が導入されたところでして、保釈されている被告人の公判期日への出頭等を確保するための罰則の新設、保釈されている被告人に対する報告命令制度や監督者制度の創設については既に施行され、出国制限制度や保釈されている被告人の国外逃亡を防止する目的での位置情報を取得する制度については、今後順次施行されることとなっています。   したがいまして、保釈については、これらの制度の施行状況をも踏まえ、引き続き運用状況を見守っていくことが適当であろうと思います。 ○中野参事官 次に、この事項に関連する論点ですが、「保釈の裁判に当たり、否認又は黙秘している事実を不利益に取り扱ってはならない旨の明文規定を設けるべきか」という点について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 平成28年改正の契機となった村木厚子さんの事件では、村木さんが関与したとする事実に反する内容の供述調書に署名押印した係長が起訴翌日に保釈されたのに対し、村木さんの保釈請求は繰り返し却下され、その身体拘束期間は164日に及びました。平成28年改正では、防御の準備上の不利益が裁量保釈の考慮事情として明記されましたが、これは法制審議会特別部会で村木さんらが求めていたものです。さらに、衆参両院法務委員会の附帯決議では、「保釈に係る判断に当たっては、被告人が公訴事実を認める旨の供述等をしないこと又は黙秘していることのほか、検察官請求証拠について刑事訴訟法第326条の同意をしないことについて、これらを過度に評価して、不当に不利益な扱いをすることとならないよう留意するなど、本法の趣旨に沿った運用がなされるよう周知に努めること。」との附帯決議がなされています。   しかし、改正刑訴法の施行後もプレサンス事件では、山岸さんの関与を認める供述をした元部下が起訴翌日に保釈されたのに対し、山岸さんの保釈請求は繰り返し却下され、その身体拘束期間は248日に及びました。   いわゆる東京五輪談合事件でも、捜査段階で自白調書に署名押印した被告人のうち3名は在宅起訴、2名は起訴翌日に保釈されたのに対し、否認した被告人2名の保釈請求は繰り返し却下され、1名の身体拘束期間は196日、もう1名の身体拘束期間は237日に及びました。なお、自白したとされる被告人らは、その後次々と、それが強要され、あるいは身体拘束を避けるためのものであったことを公判で明らかにしています。   大川原化工機事件では、もともと規制対象に該当せず検察官が公訴を取り消した事案で、黙秘権を行使し無罪を主張した被告人らの保釈請求が繰り返し却下され、大川原さん及び島田さんの身体拘束期間は332日に及び、勾留中に胃がんと診断され、それにもかかわらず保釈が許可されなかった相嶋さんは死亡しています。   このような保釈の運用は、無実の市民を含む、いまだ有罪判決を受けていない被告人から自由を奪い、家族との接触も制限し、通常の社会生活を営むことを不可能にし、健康を維持することも困難にして生命すらも奪っているのであり、この国最大の人権侵害の一つであって、これを改めることは先送りの許されない課題です。   裁判官は決して、自白させることを目的として身体拘束を継続する判断をしているものではないと思いますが、問題は裁判官の主観的な意図ではなく、身体拘束という重大な人権制限に見合うだけの正当な理由があるかどうかです。罪証隠滅の防止の必要性については、起訴の時点で検察官は有罪立証できると判断できるだけの客観証拠を保全しているはずであり、保釈された被告人が検察官が保全している客観証拠を隠滅することはもとより不可能です。   供述証拠については、証人が記憶に反する証言をすることは偽証罪として3月以上10年以下の拘禁刑の対象となるものですから、証人のリスクは極めて大きく、普通の証人は他人のためにそのリスクを冒すことはありません。被告人についても偽証教唆罪は成立すると解されていることから、被告人が証人に働き掛けることは偽証教唆罪で追起訴を受けるリスクもあります。証人が働き掛けに応じなくても、面会を強請し又は威迫すれば、証人等威迫罪として2年以下の拘禁刑の対象となります。   さらに、保釈に当たっては、証人への働き掛け以前に事件関係者への接触自体を禁止することができます。これは接触という外形的事実だけで条件違反となるものであり、それは保釈の取消しと保証金の没取によって担保されています。保釈が取り消され、再度収監されることは被告人にとって重大な不利益であり、それにとどまらず、被告人が無罪を主張している刑事裁判の判決に取り返しのつかない悪影響を及ぼすことも容易に想像できます。   検察官請求証人は、証人尋問までの間、検察官が証人テストを実施するなどして連絡を取っているのですから、接触を試みた時点でそれが発覚する可能性は大きいといえます。したがって、被告人が証人への接触を試みるリスクは相当大きいものがあります。   しかも、仮に証人が証言内容を変更したとしても、検察官は、検察官調書を刑訴法第321条第1項第2号書面として取調べ請求することができます。証人の証言が働き掛けを受けたものであり信用性のないものであるならば、裁判所は相対的特信情況を認めて検察官調書を採用するはずです。検察官は取調べを録音・録画することにより、相対的特信情況を容易かつ的確に立証できるはずです。   このように、保釈された被告人によって罪証隠滅が敢行され、それが刑事裁判の事実認定を誤らせることを防止するためには、何重もの制度的な担保が設けられています。身体拘束という重大な人権制限に見合うだけの正当な理由があるといえるのは、これらの制度的な担保がいずれも機能しないと見るべき具体的かつ合理的な根拠がある場合なのではないでしょうか。   否認又は黙秘している被告人を長期間身体拘束する保釈の運用は、身体拘束により人権を侵害しているだけでなく、刑事裁判の事実認定を誤らせています。刑事裁判の適正な事実認定は両当事者の攻撃、防御が尽くされることにより実現するものです。しかし、被告人が身体拘束されたままでは証拠を十分に検討することは著しく困難であり、特に近年、証拠としての重要性が増している電子データについては、事実上全く検討することができません。今国会で審議されている刑事デジタル法案においても、身体を拘束された被告人が電磁的記録である書類を授受し閲覧する権利は認められていません。また、身体を拘束された被告人は、差し入れられた証拠の検討以外に自ら調査をすることもできません。さらに、身体拘束の長期化は被告人の心身の健康を害するものであり、正常な精神状態を維持することも容易ではありません。このように、一方当事者である被告人の防御権行使を困難にすることが刑事裁判における適正な事実認定を阻害していることは明らかです。   保釈を実現するために弁護人が争点を減らしたり、検察官請求証拠に同意したりすることを余儀なくされることも、刑事裁判における事実認定を誤らせる危険を内包しています。それによって、真実に反する事実が争いのない事実として判決の前提となったり、供述者の記憶と異なる内容が記載された供述調書が証拠となったりする危険は相当現実的なものです。   否認すると保釈が許可されず身体拘束が長期化するという現実は、罪を犯していない国民に自白をさせる結果を生んでいます。弁護人が無罪を主張する被疑者・被告人から、身体拘束の長期化を避けるために、やっていない罪を認めた方がよいのか、という相談を受けることはまれではありません。特に執行猶予判決が見込まれる事案においては、無罪を主張して何か月も身体拘束されるよりも無実の罪を認めて身体拘束を免れる方が、一般的に合理的な選択となってしまっていることは否定できない面があります。仕事を持ち、養わなければならない家族がいる市民がそのような選択を迫られたときにどうするのか、想像に難くないのではないでしょうか。   このような保釈の運用は、虚偽の自白だけでなく、他人を罪に陥れる供述をも促しており、共犯者等が長期間の身体拘束を恐れて検察官の見立てどおりの供述をする事案は後を絶ちません。罪を犯していない被告人について有罪認定をすることは、最も避けなければならない事実認定の誤りであるはずです。   このような保釈の運用を改めるため、保釈に関する裁判においては、被告人が嫌疑を否認したこと、取調べ若しくは供述を拒んだこと、又は検察官請求証拠について同意をしないことを被告人に不利益に考慮してはならない旨を明文で規定するべきであると考えます。先ほど申し上げたとおり、罪証隠滅をすると疑うに足りる相当な理由は、それを防止する制度的な担保が機能しないと見る具体的かつ合理的な根拠があるか否かによって判断されるべきであり、被告人が嫌疑を否認していること等を被告人に不利益に考慮する必要はありません。他方で、身体拘束の長期化を恐れて虚偽の自白や他人を巻き込む供述をすることを防止するためには、不利益に考慮することを禁止する必要があると考えるものです。 ○平出構成員 今の河津構成員の御発言に関して、提案の趣旨の前提としては、現行の運用で否認又は黙秘している事実を裁判所が過剰に評価しているという評価が多分あるという前提だと思いますので、その点について私の方から一言お話をさせていただきます。   個別の事件についてそれを評価する立場にはありませんので、個別の事案について申し上げるということではありませんが、第7回で裁判所側の構成員から提出された資料などを見ますと、否認事件だから類型的に保釈しないとか、保釈されることがまれであるということはないと考えます。当事者から得られた情報を基に、裁判所は罪証隠滅のおそれの有無や程度、逃亡のおそれの有無や程度を評価することになりますが、その際には事案の軽重や被告人の具体的な供述内容、それは、例えば犯人性、行為態様、故意など様々なものがありますが、加えて身上経歴等も踏まえつつ、罪証隠滅行為の態様を想定するなどした上で、その現実的可能性や実効性について具体的、実質的に検討した上で判断していると思っております。   したがって、現行の運用で、否認又は黙秘している事実を裁判所が過剰に評価しているという実態はないものと私は認識しております。 ○宮崎構成員 個別の事案についてはコメントいたしかねますけれども、今の河津構成員の御発言を聞いておりまして、保釈の裁判に当たり、否認又は黙秘している事実を不利益に取り扱ってはならない旨の明文規定を設けるべきとの御提案ではありますけれども、おっしゃっていた理由の根本は、関係者への働き掛け等の罪証隠滅のおそれがあるということは保釈を許さない理由とすべきではないのだというところがまずあり、それから、否認していると勾留期間が長期化するということが虚偽自白を誘引するものとなっているのではないかということにあるのかと、聞きながら理解をいたしました。   後者につきましては、保釈そのものの効果ではないように思うわけですけれども、その上で申し上げますと、否認又は黙秘している事実を不利益に取り扱ってはならない旨の明文規定を設けるべきとの御提案の趣旨が、仮に、被告人が事実を認める供述をしないということのみをもって直ちに罪証隠滅等のおそれがあると認めてはならないという旨の規定を設けるものだとすると、検察官においてそのように判断をして対応しているものではありませんし、もとより、今お話があったように裁判所においても同様であると考えられまして、当然の内容の規定を置く必要はないと考えます。   他方で、仮に、そのような趣旨を超えて、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるか否かの判断に当たり、被告人の供述態度や供述内容を、罪証隠滅の主観的可能性についての状況証拠としても一切考慮してはならない旨の規定を設けるものだとすると、否認又は黙秘等の被告人の供述態度や供述内容は、自白して詳細に語っている被告人のものと比較して、罪証隠滅の主観的可能性を一定程度推認させる方向に働く事情となるものと考えられるにもかかわらず、そのような経験則に反する不合理なものになってしまうというほかないと思います。   そのため、いずれにしても、否認又は黙秘している事実を不利益に取り扱ってはならない旨の明文規定を設けることは適切ではないと考えております。 ○河津構成員 私の意見を正確に御理解いただけなかったところがあるかもしれませんので、補足させていただきます。私は関係者への働き掛け等の罪証隠滅のおそれを勾留や保釈請求却下の理由とすべきでないと申し上げているわけではなく、各種の罪証隠滅を防止するための制度的な担保がある中で、当該事案においてその制度的な担保が機能しないかどうかが吟味されるべきであって、その際に、被告人が無罪を主張しているのか、自白しているのかは、考慮に入れる必要のない要素であるし、それを考慮に入れることが虚偽自白や虚偽供述の誘発につながっているのではないかということを申し上げました。   その上で、平出構成員と宮崎構成員にお尋ねしますが、現に、長期間身柄拘束されることを避けるために誤った自白をする、あるいは検察官の見立てに沿って供述をするという事態が起こっており、それによってえん罪が発生していることも明らかになっていますが、現在のような被告人の供述態度を考慮事情とする保釈の運用を続けていったときに、そのような事態はどのようにすれば防ぐことができるとお考えなのでしょうか。 ○平出構成員 誤った自白によってえん罪が発生し、とおっしゃったでしょうか。 ○河津構成員 誤った自白もそうですし、第三者についての事実に反する供述もそうですが、長期間拘束されることを避けるためにそのような供述をしてしまうという事案が現に存在するわけです。今のような保釈の運用を続けていたら、私は、それは避けられないのではないかと思うのですが、裁判官、検察官のお立場からは、どのようにすればそういった事態を避けられるとお考えなのか、もし可能であれば教えていただきたいということです。 ○平出構成員 やや大きい問題設定になっているので、直ちにそれにお答えすることはできないのですが、裁判所としては、先ほど申し上げたとおり、保釈請求に対して、ではどのように向き合うのかということですので、そこに関しては、先ほど私が申し上げたとおり、裁判所としては丁寧な判断を心掛けているつもりでございますので、そのような運用を更にやっていくということしかないのかと思っています。その際には、私が思いますのは、検察官、弁護人と裁判所がその経過できちんと議論をしながら、保釈の適切な判断をするために意思疎通をしていくということが大切だと思っております。   私が申し上げられることは以上でございます。 ○宮崎構成員 個別の事案の評価を踏まえたことについてはコメントいたしかねますけれども、弁護人が保釈請求をし、検察官がそれに意見を述べ、裁判官が双方の請求、それから意見を踏まえ、記録を見て、そして判断をするという枠組みであり、その中で罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ、あるいは保釈の相当性というものを判断しているわけで、その枠組みの中で適切に判断をしていくということになろうかと思います。 ○河津構成員 お答えの難しい質問をして恐縮ですが、これは個別事案の問題ではなく、身体拘束の長期化を避けるためには、やっていない罪でも認めた方がいいという構造、特に執行猶予判決が見込まれる事案においては、無罪を主張して何か月も身体拘束されるよりも、無実の罪を認めて身体拘束を免れる方が一般的に合理的な選択となる構造になってしまっていることは否定できないと思います。弁護人は被疑者・被告人の立場に置かれた国民と直接やり取りをする中で、そういった切実な場面を日常的に経験しておりますが、このことについては、法曹三者で問題意識を共有していただきたいと思います。 ○中野参事官 それでは、この事項に関連する論点として、「身柄拘束の代替手段を拡充すべきか」という点について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 自由権規約第9条第3項は、裁判に付される者を抑留することが原則であってはならないと規定しています。自由権規約委員会は、2014年に採択された一般的意見35号において、「裁判所は保釈、電子腕輪又はその他の条件といった公判前の抑留の代替措置により、当該事案において抑留の必要性がなくならないかどうかを審査しなければならない」「公判前の抑留に必要性があるとする最初の判断がなされた後、可能な代替措置に照らして、引き続き合理性及び必要性があるといえるかどうかを判断する定期的な再審査がなされるべきである」との見解を示しています。   先ほども御紹介がありましたが、令和5年刑訴法改正により、住居不帰着等の罪、報告命令制度、監督者制度、位置測定端末装着命令制度等の逃亡防止のための制度が創設されましたが、身体拘束の継続より制限的でない勾留代替措置については、より積極的に検討されるべきではないかと考えます。例えば、位置測定端末装着命令制度については、国外に逃亡することを防止するための措置として創設されましたが、一般的に逃亡防止のための仕組みとして機能し得るものですし、所在情報が把握され、記録されることは、証人等の所在する場所に移動して威迫することをも有効に抑止することができ、想定可能な罪証隠滅の態様、方法を限定することにも資するように思われます。在宅拘禁制度は、勾留の代替措置としては最も権利制限の程度が大きいものですが、身体拘束の継続よりは人権被害の程度が小さいことは間違いなく、検討されてよいのではないかと思います。 ○成瀬構成員 河津構成員に御発言の趣旨を確認させていただきたいと思います。令和5年刑訴法改正の位置測定端末装着命令制度は、保釈中の被告人による国外逃亡を防止する制度として創設されましたが、河津構成員の御意見は、これを直ちに法改正して、国外逃亡防止に限らず、国内逃亡防止や罪証隠滅防止のためにも用いることができる制度に改めるべきであるという御趣旨なのでしょうか。 ○河津構成員 保釈の運用の改善が喫緊の課題であることからすれば、私は、直ちに法改正をして、これをより広く用いることができるようにすべきだと思いますが、より穏当な意見を申し上げれば、国外逃亡防止のために導入されたこの制度の運用状況を見て、それを拡大していくことも考えられると思います。 ○成瀬構成員 河津構成員は十分理解されているものと思いますが、念のため、令和5年に成立した刑事訴訟法等の一部を改正する法律において、保釈されている被告人の国外逃亡を防止する目的に限って位置情報を取得する制度が創設された経緯を確認しておきたいと思います。   保釈されている被告人の位置情報を取得する制度については、法制審議会刑事法(逃亡防止関係)部会において議論がなされ、今、河津構成員が提案されたように、被告人が国内で逃亡をしたり罪証隠滅を図ったりすることを防止する目的でも活用すべきではないかといった意見が示されていました。しかし、我が国においてGPS技術を活用して保釈中の被告人の逃亡を防止する制度は初めて導入するものであることから、特に活用の必要性が高く、効果的な活用方法も明らかで、運用に伴う困難も少ないと考えられる範囲に限ることが適切であると判断され、国外逃亡を防止する目的に限って位置情報を取得する制度が創設されたと承知しており、この制度はまだ施行されておりません。   このような議論の経緯に鑑みますと、まずは、令和5年刑訴法改正で新たに導入された国外逃亡を防止する目的で位置情報を取得する制度の施行を待って、その運用状況を見守ることが必要であり、河津構成員の立法提案について検討するのは時期尚早であるように思われます。 ○足立構成員 これは裁判所なのか法務省なのか、お尋ねなのですけれども、令和5年の法改正に伴って、大手の警備会社にGPS機器の開発や実験を委託して進めているというような報道がなされているのですが、その実施準備状況がどうなっているのかをお伺いしてもよろしいでしょうか。 ○川瀬構成員 御指摘のとおり、令和5年の改正の施行時期に向けまして、裁判所として、この位置測定端末装着制度について求める機能とか構造が法定されておりますので、そのような基準を満たして、あるいは裁判所の方がその運用に耐え得るものかどうかというところは、その業者等と開発準備を進めている状況でございます。 ○足立構成員 その上で、なお今準備状況であるところを見ると、成瀬構成員がおっしゃったように、いまだ国内の逃亡犯向けに拡大して対応できるような状況にあるのかという点は、疑問に感じたところです。   一方で、これも新聞記事ベースなのですけれども、昨年7月、一審で懲役12年の判決を受けて控訴していた被告人が拘置所から保釈されたという記事がありました。GPSの端末を身に着けることや住居の玄関先に監視カメラを付けるといった、ある意味柔軟な条件を基に認められたという事例もあります。ですので、今の準備状況だったり、裁判所の保釈に対する条件の付け方、運用面での改善を図ることがもしできるのであれば、まずはその様子を見守った上で、次に検討するということでよいのではないかと私は考えています。 ○河津構成員 まずは令和5年改正の実施状況を見て検討すべきという御意見も理解できますが、当協議会で取り扱っている制度の中にも、創設したものの余り活用されていない制度があることは否定できず、位置測定端末装着命令制度もそのようなことにならないように、ということはあらかじめ申し上げておきたいと思います。これが勾留の代替措置として逃亡や罪証隠滅の防止のために役立ち得るものであることは間違いないのですから、将来拡大することを念頭に置いて、裁判所においては御準備を進めていただきたいと希望いたします。 ○中野参事官 それでは、次に、「弁護人による援助の充実化」のうち、「被疑者国選弁護制度の対象事件の拡大」に関する意見交換を行いたいと思います。この点につきまして、まず、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○佐藤構成員 運用状況との関係で、発言させていただきます。平成28年改正においては、対象事件の拡大に当たって、被疑者に国選弁護人の請求権を与える以上、全国どこでも迅速かつ確実に弁護人が選任されなければならないことを前提に、被疑者国選弁護制度の対象事件を拡大しても国選弁護人の選任体制を確保することが十分可能な状況に至ったとして、勾留状が発付された全ての被疑者を対象とすることになったと承知しております。   第7回会議におきまして、河津構成員から、勾留状が発付された全ての被疑者を被疑者国選弁護制度の対象としたことについては、全国的に対応することができているという御認識が示され、この実情につきましては、他の実務家の構成員の方も同様の御認識を共有されているものと理解しております。本制度の円滑な運用を実現、維持していくための弁護士会、関係機関の御尽力を多とするものでありまして、引き続き運用状況を注視して参りたいと考えております。 ○中野参事官 それでは、この事項に関連する論点として、「被疑者国選弁護制度の対象を逮捕段階に拡大すべきか」につきまして、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 憲法34条が、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と規定していることに照らすと、逮捕段階で国選弁護人を選任することができず、その結果、多くの逮捕された被疑者が弁護人の援助を受けることができていない現状は、早急に解消される必要があります。   第7回会議でも御報告しましたが、逮捕段階の被疑者国選弁護制度に向けた弁護士の対応体制は十分であると申し上げることができます。法テラスとの間で国選弁護人契約を締結する弁護士の人数は、2007年時点では1万733人でしたが、2023年には3万1958人にまで増加しています。また、法テラスが24時間以内に指名通知をした事件の割合も5年連続して99.9%であり、2018年に被疑者国選の対象事件が拡大した後も問題なく運用されています。   課題となるのは逮捕段階の選任手続ですが、今国会で審議中の刑事手続のIT化が実現すれば、オンラインで迅速に選任手続をすることが可能になると考えられます。えん罪を防止するためには、逮捕直後に弁護人の援助を受けることが重要であり、逮捕された国民が拘留という重大な不利益を回避するためにも、逮捕段階で弁護人の援助を受けられるようにすることが必要であり、被疑者国選弁護制度の対象を逮捕段階に拡大すべきであると考えます。 ○成瀬構成員 河津構成員が強調されましたように、身体拘束をされている被疑者にとって弁護人の援助が重要であることは、逮捕段階と勾留段階とで変わるものではなく、今後の捜査の流れや取調べへの対応方法などについて早期に助言を受けるという意味では、逮捕段階の方がより重要であるという見方もできるところです。そして、先ほど佐藤構成員が言及されたように、平成28年改正により被疑者国選弁護制度が勾留状の発付された全事件に拡大された後も、弁護士の先生方や日本司法支援センターの御尽力により同制度が安定的に運用されていることに鑑みますと、これを一歩進めて、被疑者国選弁護制度を逮捕段階にまで拡大するという御提案についても、十分検討に値すると考えています。   もっとも、その検討に当たっては、現行法の被疑者国選弁護制度が勾留段階からとされている二つの理由を踏まえる必要があります。第1の理由は、被疑者国選弁護人を選任するに当たっては、被疑者の請求、裁判官による要件審査、裁判官による弁護人候補の指名通知請求、日本司法支援センターによる弁護人の候補の指名通知、裁判官による選任命令の発付といった一連の手続を経ることとされており、また、被疑者が国選弁護人の請求をするには資力申告書を提出しなければならず、その資力が基準額以上である場合には、弁護士会に対する私選弁護人の選任の申出を前置しなければならないとされているところ、逮捕段階には、これらの手続を実施する時間的余裕が乏しく、これを全国一律に遂行することは困難であることです。第2の理由は、裁判官が国選弁護人の選任命令を発するに当たり、資力等の要件を審査するため、被疑者を裁判官の下に押送させて面談する必要があると考えた場合に、これに対応することが困難であることです。   この二つの困難を克服する可能性を秘めているのが、先ほど河津構成員も言及された刑事手続のデジタル化です。現在、国会で審議されている刑事デジタル法案が成立し施行されれば、書類の電子化・発受のオンライン化が実現し、第1の理由で挙げられた国選弁護人の選任手続についても円滑化・迅速化が図られるものと期待されます。また、刑事デジタル法案の中には、一定の場合にビデオリンク方式で勾留質問を実施することを可能とする規定も含まれており、将来的に、刑事施設等と裁判所の間でオンラインによる面談を可能とする環境が整備されることも想定されますので、第2の理由で挙げられた資力等の審査要件をオンラインによる面談で実施することも考えられるでしょう。   もっとも、いくら迅速化するとはいえ、逮捕段階の限られた時間で国選弁護人の選任手続を本当にやり遂げられるのかという点や、オンラインによる面談という手法が全国どこでも実施できるようになるのかといった点については、今後の通信設備の整備状況等も踏まえつつ、慎重に見極める必要があると思います。   それから、被疑者国選弁護制度の逮捕段階への拡大を検討するに当たっては、弁護士の対応体制についても慎重な考察が必要であると思います。司法統計年報をざっと確認してみたところ、自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件以外の事件に限っても、勾留人員と逮捕人員で約1万件の差があり、仮に被疑者国選弁護制度を逮捕段階の全事件に拡大するならば、単純計算で対象事件が約1万件増加することが想定され、自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件も含めた場合には、更に対象事件が増加することが予想されます。   第1段階の議論でも強調させていただきましたが、被疑者に国選弁護人の選任請求権を与えるのであれば、全国どこでも迅速かつ確実に弁護人が選任されなければなりません。よって、刑事手続のデジタル化が実現した後、被疑者国選弁護制度の逮捕段階への拡大について具体的な制度設計を行う段階に至った場合には、弁護士の対応体制の十分性を検証するため、先ほど河津構成員が言及された、国選弁護人契約を締結している弁護士の人数や、推計される1人当たりの受任件数のみならず、司法過疎地域のほか、離島を含む遠隔地や寒冷地の実情等も踏まえ、予想される対象事件の増加に対応可能であるのかについて、説得的なシミュレーションを示していただく必要があると考えています。 ○中山構成員 警察の考えを申し上げさせていただきます。警察における逮捕から送致までの時間は、法律上、48時間が上限とされていますが、実態としてはそれよりもはるかに短い時間で送致のために必要な手続を行っています。例えば、逮捕時間が夜中であった場合、48時間後の夜中に送致することは現実的にはあり得ません。警察では、被疑者の適正な処遇の観点から睡眠や食事といった配慮もしなければいけないことから、取調べを行うことができる時間は相当程度限られています。   その上で、逮捕段階で国選弁護人を選任することになると、現在の48時間という上限の下で、国選弁護人の選任に必要な書類の作成手続を行った上で速やかに弁護人を選任するべく対応する必要がありますが、こうなりますと、限られた時間の中で捜査上や処遇上の支障が生じるなどの課題があるのではないかと考えています。   仮に国選弁護制度の対象を逮捕段階にまで拡充するということであれば、選任に関する時間的猶予も考え、逮捕から送致までの時間、送致後の勾留請求までの時間が十分に確保される必要性についても議論することが求められるのではないかと考えております。 ○宮崎構成員 私も成瀬構成員の御意見と同様ですけれども、今、警察の御事情についても御説明があったように、身柄事件のうち多くは警察からの身柄送致事件であるわけですけれども、送致の時間帯がおのずから限られますので、逮捕された時間帯によっては48時間よりも相当短い時間で検察官に送致が行われることは少なくありませんし、検察官も24時間の手持ち時間よりも相当短い時間で勾留請求を行うことも少なくないのが捜査の実情です。現状、勾留請求された被疑者であれば、国選弁護人の請求をできることになっているわけですけれども、その勾留請求まで72時間よりも相当短い時間でなされることも少なくないというのが実情です。   そのような中で、勾留請求までの時間内で国選弁護人の選任手続の実施を確保するということは実際上困難であって、国選弁護人を期間内に付すことができなかったり、仮に付すことができたとしても、相当時間が経過してからになりかねないのではないかと考えられます。また、デジタル化が進んだ場合であっても、やはり一定時間を要することにはなりますので、勾留請求までの時間内に選任手続の実施を確保することが困難になる場合も生じることとなるのではないかと考えられます。   そういったことで、被疑者国選弁護制度を逮捕段階まで拡大することは、現状、相当ではないと考えておりまして、引き続き今の運用状況を注視していく必要があるのではないかと考えております。 ○中野参事官 それでは、予定していた時間が参りましたので、本日の協議はここまでとさせていただきたいと思います。   次回の会議におきましては、配布資料44の論点整理案に従い、引き続き各制度に関する意見交換等を行うこととしたいと思います。次回の日程の詳細は追ってお知らせします。   また、次回会議におきまして構成員の皆様から資料の提出と御説明を頂く時間を設ける場合には、事前に御送付いただく必要がございますので、併せて提出の期限についても御連絡します。その場合の資料につきましては、事務当局において確認させていただき、必要に応じてどのような形で御提出いただくかなどについては御相談させていただきたいと存じます。   本日の会議における御発言の中には、職務上取り扱われた事例に関するものなどもございましたので、御発言内容を改めて確認させていただき、御発言なさった方の御意向を改めて確認の上、非公開とすべき部分がある場合には該当部分を非公開としたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等につきましては、その方との調整もございますので、事務当局に御一任いただきたいと存じますが、よろしいでしょうか。             (一同異議なし)   それでは、本日はこれにて閉会といたします。 -了-