法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和7年5月30日(金)   自 午前 9時30分                        至 午前11時46分 第2 場 所  中央合同庁舎第6号館A棟5階会議室 第3 議 題  1 ヒアリング         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野幹事 ただいまから法制審議会刑事法(再審関係)部会の第2回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 本日は御多忙のところ、朝早くから御出席くださいまして誠にありがとうございます。会場にお運びいただいた皆様、足元の悪い中、ありがとうございます。   本日、酒巻委員、小島幹事、吉田誠幹事、井上関係官及び寺田関係官はオンライン形式により出席されています。また、川出委員につきましてはオンライン形式により出席いただく予定ですが、所用のため遅れての出席となります。   議事に入る前に、第1回会議を御欠席された小島淳幹事に自己紹介をお願いしたいと思います。 ○小島幹事 小島淳と申します。名古屋大学で刑事訴訟法を担当しております。どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○大澤部会長 次に、事務当局から、本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○中野幹事 本日、ヒアリング関係の資料として、ヒアリング出席者名簿とヒアリング出席者の説明資料をお配りしています。また、鴨志田委員から配布の御要望があった「再審法改正を求める地方議会の意見書採択などの状況」と題する書面、「地方自治体の首長からの再審法改正への賛同回答」と題する書面について、机上配布資料としてお配りしています。 ○大澤部会長 それでは早速、議事に入りたいと思います。   本日は、お配りした出席者名簿に記載されている3組5名の方々からヒアリングを行うことといたします。進行としては、ヒアリング出席者名簿の記載の順に、1組ずつ、20分程度お話を伺った後、10分程度、委員・幹事の皆様からの御質問にお答えいただくという流れで進めていきたいと存じます。   それでは、始めたいと思います。              (参考人入室) ○大澤部会長 ヒアリングの1組目の方は、青木惠子様と塩野隆史弁護士です。   この部会の部会長を務めております大澤裕でございます。本日は御多用中のところ、朝早くから、また足元もお悪い中、ヒアリングに御協力いただきまして誠にありがとうございます。部会を代表いたしまして、心より感謝の意を申し上げたいと思います。   まず、お二人から20分程度お話を伺い、その後、委員・幹事の方から質問があれば、10分程度御質問をさせていただきたいと思います。   それでは、よろしくお願いいたします。 ○青木参考人 東住吉事件の青木惠子です。よろしくお願いします。   2009年8月7日に再審請求を申し立て、2012年3月7日に大阪地方裁判所で再審開始決定が出されました。私は、和歌山刑務所の接見室で、弁護士さんから再審開始決定の報告を聞きました。これまでの裁判人生の中で、私は、初めて勝利を喜び、感じて、涙があふれ、安堵して、改めて弁護団、支援者、専門家の先生方に感謝の気持ちで一杯になりました。でも、この喜びは、接見室を出ると、まるで何もなかったかのように受刑者としての日常生活に戻り、工場で作業をしていました。この日はテレビのニュースを見ることも新聞を読むこともなく、刑務所では前日の夕刊、当日の朝刊しか読めないため、私は、「勝ったのだよね」と自分自身に問い掛けながら、寂しく悲しく過ごしました。翌日からの新聞記事、支援者、マスコミからの手紙で、私は、勝利を再確認し、ほっとしましたが、再審開始決定が出されたのに、なぜ私は和歌山刑務所の中にいなければいけないのかとの思いになり、弁護士さんに刑の執行停止の申立てをしてほしいとお願いしました。   当時、私は、検察が即時抗告をすることに対しては、したければすればいいと強気でいましたが、実際に即時抗告をされたときは、再現実験で真実が明らかになったのに、まだ自分たちの間違いを認めないのかと怒りがこみ上げてきました。また、再審で無罪を勝ち取るには、私はあと何回裁判で勝たなければいけないのかと怒りを感じ、これまで再審で無罪になった事件の経過を新聞記事で調べながら、一喜一憂しながら、私の事件は大丈夫だ、負けないとプラス思考で受け止めて、一日も早く社会に帰れる日を夢見て受刑生活を過ごしました。   結局、検察が即時抗告審で何をしたのかといえば、弁護団と同じ再現実験を実施しただけでした。そもそも再現実験は起訴前に行った上で起訴・不起訴を決めないといけないと思いますが、いい加減な再現実験で起訴しておきながら、今頃になり、弁護団の再現実験で再審開始決定となり検察が負けたこと、自分たちのメンツのためだけに即時抗告審で再現実験を行う態度に、私は、人の人生をどう考えているのか、いい加減にしてほしいと心底頭に来て、許せない気持ちになりました。その後、検察の再現実験も弁護団の再現実験を裏付ける結果となり、これで裁判が終わると思いました。しかし、裁判所が自然発火についての立証をしませんかと検察に手を差し伸べたことを聞いて、私は、裁判長は再審開始決定を取り消したいのだと思い、その怒りと悔しさを陳述書に書き上げて裁判所に提出してもらいました。   2013年3月6日に、福井女子中学生殺人事件の異議審で再審開始決定が取り消されたことを知り、「再審開始決定が取り消されるの」と衝撃を受けました。私は、まるで自分自身が負けたように体が震え、涙が止まらず、私も負けるかもしれない、無期懲役だから獄死するかもしれないと恐怖に襲われて、息子に遺書を書こうと考えるほど、私は精神的に追い詰められていき、吐き気、頭痛に見舞われました。裁判に対して拒絶反応のように体の症状が出ました。その後も、検察はいたずらに時間だけを掛け、引き延ばして、何一つ立証できませんでした。獄中から無実を叫んでいる人間、再審開始決定が出された人間に対して、検察は真摯に向き合うこともなく、反省することもなく、ただただ自分たちのメンツのためだけに、当たり前のように即時抗告をしただけです。再審開始決定が確定すれば裁判が終わるわけではなく、まだ再審公判があるのです。公判で検察は争えるのです。私の場合は、再審の公判で検察は再現実験をして争えばよかったのです。   2015年10月23日に検察の即時抗告が棄却されましたが、この3年7か月と16日掛かった即時抗告審に、一体何の意味があったのでしょうか。検察の即時抗告権には全く意味がありません。再審法改正では、検察官の抗告を禁止する法律が不可欠です。   さらに、刑の執行停止についてですが、2012年3月30日の昼食後に職員から食堂に残るように言われて、「もしかして釈放」と思い期待しました。そして、職員が私を迎えに来て、大阪地方裁判所からの書類を受け取りました。「4月2日午後1時30分に刑の執行停止」の文字に、私は両手を握りしめて喜びました。その後、荷物の整理をして、刑務所のものは縁起が悪いので全て捨てました。私は、釈放扱いとなり、最低限の物だけを持ってテレビもない独居房に入り、こんなに幸せな夜はありませんでした。翌日の土曜日はすごい風と雨が降り、春の嵐のようなお天気でしたが、きっと娘も喜んでくれているなと思いました。あと1日となった日曜日は、17年も獄中生活を送ってきた私は社会に帰ることに不安を感じ、心の葛藤があり、夜も眠れませんでした。   やっと4月2日を迎えて、午後から荷物の確認などをして、弁護士さんが差し入れしてくれた私服に着替えて椅子に座って待っていました。そこに、釈放まであと10分というときに職員が走ってきて、「釈放の書類が届いていないので、あなたを釈放できなくなりました。詳しいことは弁護士さんから聞いてください。」と言われて、何が起こったのか訳が分からずパニック状態でした。一瞬職員も固まっていましたが、すぐに刑務所の服に着替えるように言われて、急いで着替えをして、弁護士さんと接見しました。接見室に入ると、3人の弁護士さんが座っていて、高裁の裁判所が刑の執行停止を取り消したなどと聞いて、私は、力が抜けて何も考えられなくなり、言葉もなくし、弁護士さんたちも黙ってしまい、重い空気となりました。このままではつらくなり、私は、「仕方ない、あと何年掛かりますか」と尋ねました。弁護士さんが「1年半ぐらいです」と言ってくれたので、それぐらいならと思い直して、弁護士さんも、「再審開始決定が取り消されたわけではないから」と言って、差し入れを頼んで、弁護士さんたちは帰っていきました。   すぐに私は処遇に呼ばれて、職員から、「今の気持ちは。元の工場より他の工場の方がよい。気持ちが落ち着くまで昼夜独居にいればいいです。」などと言われましたが、今は考えられないですし、私の気持ちなど誰にも分からないですし、刑務所は私が自殺しないかと心配していることが分かったので、私は死にませんから大丈夫ですと伝えました。そして、部屋に戻ると作業が入ってきて、ここは刑務所だと現実を突き付けられ、涙も出てこなくて、唯一私が救われたことは、昨夜眠れなかったことが幸いして眠れたことでした。   翌日の朝、目が覚めると、刑務所にいることの悔しさ、涙が止まらず、作業しながらも涙があふれてきて、大阪高等裁判所が刑の執行停止を取り消したのだから、再審開始決定も取り消すと考えてしまい、悔しさと不安が入り混じってつらかったです。一度服まで着替えて釈放されると信じていたのに、取り消されてしまい、同じ血の通った人間がすることなのかと思い、天国から地獄に突き落とされた気持ちでした。その後、一度は正義に反しないと刑の執行停止を取り消した大阪高等裁判所が、即時抗告審では正義に反すると言って刑の執行停止を認めてくれました。でも、また土日を過ごさなければいけない状況に、私はいつまた取り消されてしまうのかと気が気ではなかったです。   2015年10月26日に、私は、刑の執行停止が認められて、やっと社会に戻ることができました。もう二度と私のようなつらい思いは誰にもしてほしくありません。2016年8月10日、大阪地方裁判所から自白の任意性が否定され、自白が証拠から排除されて、私は真っ白な無罪判決を勝ち取ることができて、とても嬉しかったです。   通常審のときからずっと、私は、刑事の取調べについて、刑事に無実を訴えても全く聞く耳を持たずに犯人扱いされ続けたこと、大声でどなられて、体調が悪くても病院にも連れて行ってもらえなかったこと、娘や息子の話をされて母親失格とまで言われたこと、娘の写真を壁に貼られて、机の上にも写真を置き、頭を押さえられて見せられたことなどを細かく被告人質問の中で訴え続けました。確かに私は、二度の自白をさせられましたが、1回目は、任意同行され逮捕された日、刑事からBが娘に性的虐待をしていたと聞かされたことで、頭の中が真っ白になったことでした。2回目は、刑事から、無実だというのならなぜ娘を助けなかったのか、娘を助けられなかったことは殺したことと同じことだと言われて、娘を亡くして以来、私は精神的におかしかったために、私が殺したことになると思い込まされて、自殺するつもりでしたから、自白したことなどどうでもよかったのです。後から自白が問題になるなど考えもしませんでした。ここでは全ての内容を述べ切れませんが、刑事からの言葉の暴力、侮辱の数々は、今も私の記憶から消えることはありません。   弁護団は、通常審のときから、警察の取調べ日誌の証拠開示を求めていましたが、検察は全く応じませんでした。裁判所も証拠開示の勧告、命令を出すこともなく、弁護士さん、支援者の方々以外、私の無実の訴え、証言に耳を傾けてくれることはなく、検察の思いどおりに、私は、無期懲役が確定してしまいました。もし、通常審の段階で警察の取調べ日誌が証拠開示されていれば、私が被告人質問の中で証言したことが真実だと分かり、無罪判決を勝ち取れていたかもしれません。なぜ検察は、ここまでして警察の取調べ日誌を隠そうとしたのでしょうか。検察が証拠を隠して、隠し続けてまで守りたいものは一体何だったのでしょうか。それは、検察自身が一番分かっているように、警察の取調べ日誌の中には、大声でどなったこと、老人のようによたよたと歩いたので支えて歩いたことが悪びれもなく書かれてあり、これが明らかになることを恐れたのです。   裁判とは、証拠を開示した上で、検察、弁護士が同じ立場となり、初めて真実が明らかにされて、裁判所も正しい判断ができるのです。それを再審の即時抗告審まで警察の取調べ日誌を隠し続けてまでも、私を犯人に仕立て上げようとしたのです。幸いにも警察の取調べ日誌が証拠開示されたことで、裁判所が自白の任意性を否定し、自白を証拠から排除してくれたのです。裁判所が自白の排除をしたのは東住吉事件が初めてのことでした。ですから、私は、「裁判所から真っ白な無罪判決を頂きました」と話すのです。私にとっては、やっと私の訴えが受け入れられて信じてもらえたことが、無罪判決よりも嬉しく、感動して、裁判所には感謝しています。   再審法改正には、証拠開示が重要ですし、証拠開示を除いての再審法改正には全く意味がありません。えん罪犠牲者にとって、検察が隠している証拠の中にこそ再審請求をする新証拠、無罪を示す証拠があるのです。えん罪をなくすためには、裁判を平等に受けられる権利、どの裁判官に担当されても、当たり前のこととして証拠開示がなされることは絶対に欠かせません。私たちえん罪犠牲者の立場に立ち、机の上での空想ではなく、今すぐにでもえん罪犠牲者の事件の全てで証拠開示すべきです。   ここまでの内容を聞いていただきありがとうございました。私はえん罪が晴れて社会で生活ができていますが、今も獄中、獄外で無実を叫び闘っているえん罪犠牲者が多くいます。この世の中にえん罪犠牲者がどれだけいるのかを御存じでしょうか。私には分かりません。それは、私が知らないえん罪犠牲者がいるからです。この再審法改正は、再審のルールを整備するためのものです。えん罪犠牲者のことを御自身のことと捉えていただき、真剣に考えて、証拠開示、検察官の抗告の禁止、再審開始決定後の刑の執行停止、再審の三者協議への当事者本人の立会いを、再審法改正の内容に入れていただきたいです。上記の内容は再審法には欠かせません。えん罪犠牲者が平等に裁判を受けられる権利として、通常審の裁判のように国選弁護人制度も検討していただきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。 ○塩野参考人 弁護士の塩野隆史でございます。よろしくお願いいたします。   本日は、このような場で意見を述べる機会を与えていただきありがとうございます。私は、1995年7月に発生したとされるいわゆる東住吉事件について、今発言された青木惠子さんの弁護人を、起訴前である1995年9月から、再審無罪に至る2016年8月まで、20年以上にわたって務めてまいりました。殺人その他の罪名で無期懲役が確定した以降は、再審請求の手続、再審公判の手続を担当したということになります。本日は、刑事再審手続の在り方について意見を述べよということですが、時間の関係もありますので、科学的鑑定と費用の問題、証拠開示等証拠の問題、検察官の不服申立ての問題、そして事件の検証などに絞って意見を述べたいと思います。通常審はもとより起訴前から担当しておりますので、必要に応じてこれらの事情についても言及することをお許しください。   さて、東住吉事件とはどんな事件かということは、おおむね御理解いただいていると思いますが、私の意見に関連する限度で事件を振り返ります。資料①を御覧になってください。これは、1995年7月22日に青木さんが住んでいた自宅の土間兼ガレージで、火災が発生した空間の見取り図であります。結果として、ここに置かれていた車から漏れたガソリンが、付いていたガスバーナーの火に引火して起きた事故だったことが分かりました。この図面には記載がないのですが、左下の「自転車」と記載されている辺りに風呂釜があって、ガスバーナーが付いていたわけです。ところが大阪府警は、青木さんの当時の内縁の夫、以下Bさんといいますが、Bさんがガソリンを数リットルまいて放火して、一緒に住んでいた青木さんの娘さんを死亡させたと断定するわけです。そして、Bさんへの違法な取調べで、それに沿った自白をさせることになります。その自白では、Bさんは約7リットルまいたということにされました。   資料①をもう一度御覧になっていただきたいと思いますが、図面でも分かるとおり、この土間兼ガレージは軽車両を置けばほとんど一杯になるほど狭いわけです。右の壁と車両とは24センチ程度しか離れていません。そこにガソリンを数リットルもまいて、やけどを負わずに着火できないわけです。それどころか、着火するまでに、今申し上げたガスバーナーの火に引火して爆発的に燃焼するわけです。これらのことは通常審から理論的には主張していたのですが、再審請求段階では弁護側で実際に実験を行い、着火することが不可能であるということを明確に証明することができました。   資料②を御覧になってください。これが我々の行った実験のビデオのワンカットです。当時の土間兼ガレージを忠実に再現して、Bさんの自白どおりにガソリンをまいたらどうなるかという実験を行ったわけです。さすがに危険なので、左上のカットのような機械を作って、外から操作し、ポリタンクからガソリンをまきました。左上に「21.2(s)」と記載があるのは、まき始めて21.2秒後の瞬間なのですけれども、右上のカットを見ていただければ分かりますように、ガソリンは車体の底辺りにとどまっています。液体のような黒いところがガソリンです。左上のカットでは、ガソリンはまだまかれていますね。ところが右上のカットでは、その右に黄色い炎が上がっています。すなわち、ガソリンを7リットルまき終わる前に、ガスバーナーの釜が空気を吸って引火してしまうのです。これは早くまいても遅くまいても結果は同じでした。   警察、検察側も実験を行うことは行いました。資料③を御覧になってください。これは警察、検察が行った再現実験と実際の火災現場の条件を考察したグラフであります。現場には排水のため緩やかな勾配が付いていました。勾配があるかないか、それが横軸に取っています。そして、現場はコンクリートでしたが、現場には先ほど申し上げたようにガスバーナーが設置されていました。ところが、警察の実験では現場にあった勾配は再現されていません。しかも床面はコンクリートではなく石膏でありました。そして、種火の付いたガスバーナーも再現されていませんでした。資料③でいうと、警察の再現実験は右下のHというところに該当するわけです。ところが実際には、左上のAというのが現実なのです。言わば一番遠い条件設定をしているわけです。これでは一体何の実験をしたのか不明と言わざるを得ません。   いつになったら再審の話になるのかと思っておられるかもしれませんが、青木さんはこのようなずさんな再現実験で起訴されて、有罪となってしまいました。これを服役している者の立場で反証する過程、これが再審請求だということを分かっていただきたいと思います。ガソリンを7リットルまいて火を付ける、このような実験を通常審から我々もやりたかったのですが、どこの施設もどこの会社も受け入れてくれませんでした。再審請求段階になってようやく、あるテレビ局の協力で場所が見付かりました。ところが、費用が500万円程度も掛かるというので、どうしようもなくなりまして、弁護団全員が自腹を切って費用をまかないました。   長々と述べましたが、要するに、再審請求者には権力はもちろん資金もありません。我々弁護士も手弁当です。したがって、少なくともこのような重要な再現実験については、裁判所若しくは国の費用で行うという制度を是非とも立ち上げてください。そうでないと、今後もこのような科学的鑑定の立証を必要とするえん罪は再審では救済されないということになるからです。   次に、検察が保管する証拠の開示について意見を述べます。青木さんも述べましたが、東住吉事件では即時抗告審で幾つかの証拠が開示されました。一つが警察の取調べ日誌です。これには警察の違法な取調べを証する経過が具体的に記載されていました。その結果、再審判決では、青木さんとBさんの自白調書の証明力はもちろん証拠能力までもが否定されました。なぜこのように重要な証拠が早期に開示されなかったのか、残念でなりません。裁判員裁判が導入された際、一定の証拠が開示されることになりましたが、それだけでは不十分という意見も多く、そもそも再審手続には全く適用されていません。証拠開示に関する立法的整備は不可欠であることは言うまでもないでしょう。また、再審請求審で取り調べられた証拠についても、再審公判では検察官が同意しないと取調べができないとされています。これでは再審請求審での審理の結果が無駄になってしまいますので、このような取扱いも改める方向で整備をお願いしたいと思います。   次に、検察官の不服申立てについて述べます。本件では請求一審で開始決定が出て、刑の執行が停止されました。ところが、検察が即時抗告を行うとともに刑の執行停止に対する通常抗告を行い、刑の執行停止決定が取り消されたのです。ここではまず、再審開始決定に対する検察官の不服申立て、即時抗告ですね、それと刑の執行停止に対する不服申立て、これは通常抗告、の問題があります。前者の即時抗告については、再審請求審は事実上、実体判断を行っていますので、再審開始決定手続と再審公判手続の双方において検察官の不服申立てを認めるのは法的に意味がないと思います。手続の長期化にもつながるので、そこは是非是正していただきたいと思っています。具体的には、再審開始決定と再審公判手続の2本立てを残すということであれば、再審開始決定に対する不服申立てを禁止すべきでしょう。   後者の問題、すなわち刑の執行停止決定に対する不服申立ての問題についてです。再審請求手続にある程度時間が掛かることはやむを得ない面があります。しかし、裁判所が新たな証拠により合理的な疑いが生じたとして再審を開始し、刑の執行停止を認めた以上、原則として最終的な結論が出るまでこれを維持してほしいと思います。一つの裁判体で再審開始決定が出た事件で、最終的に無罪となった割合は極めて高いですね。誤った判断をした可能性があると裁判所が認めたわけですから、その点について最終的な結論が出るまで刑の執行停止をするのを原則とすべきであると考えます。誤判という人権侵害に加えて、無辜である可能性の高い人を拘束し続けるという、誤判とは別といってよい新たな人権侵害は避けるべきだと考えます。   事件の検証について述べます。東住吉事件についてはその後、国賠訴訟も提起しました。裁判所は、大阪府警の取調べの違法性を明確に認めてくれました。検察の捜査や起訴の違法性については認められませんでしたが、検察の責任がないとは言えないことは当然だと考えています。人は間違いを犯すものです。しかし、間違いを犯したら反省し謝罪する、その原因を究明して誤りを正していく、そして再発を防止する、それが健全な組織の発想ではないでしょうか。えん罪についても、検察だけに反省をして頂くことはいささか困難かと思うので、是非法曹三者や研究者を交えた、例えばこのようなメンバーの場で、個々の原因や再発防止について検証してもらい、公表してほしいと考えております。この際、立法でそのようなシステムを導入していただけませんでしょうか。   最後にもう1点、これは刑事ではないのですが、どうしても言うべき事項があります。青木さんは無罪判決の確定後、速やかに自動車メーカーを相手取り、娘さんの損害を相続した、相続権を回復したとして、損害賠償請求訴訟を起こしました。ところが、除斥期間の経過により棄却されてしまったのです。これは相続欠格、すなわち民法891条の問題であり、刑事手続の問題ではないと思われるかもしれません。しかし、再審が不必要に長期化した結果、20年の除斥期間が経過したのですから、再審手続の問題ともいえます。この請求を棄却した民事裁判所の判断も誤っていると思いますが、再審法改正の協議の中で、この問題も是非とも関連事項として解決してくださるようお願いしたいと思います。   本当に最後になりましたが、資料④は、私がまだ再審請求が係属している段階で書いた報告文であります。本日言い尽くせなかった点も記載しておりますので、後日御覧いただけたらと存じます。以上で私の意見陳述を終わります。どうも御清聴ありがとうございました。報告は以上でございます。 ○大澤部会長 貴重なお話をありがとうございました。   それでは、御質問のある方がいらっしゃいましたら挙手をお願いしたく存じます。いかがでしょうか。   それでは、私から一つお伺いしたいと思います。再審の手続について、いろいろと指摘されているところがございますが、青木参考人からは、進行の打合せに御自身が参加できなかったことについて非常にもどかしい思いをされたというお話がございました。審理の進行の仕方について、打合せの期日がなかなか定期に入らなくて時間が掛かるとか、裁判体によってやり方がかなり違うのではないかというようなお話も出てきているところでございますが、この東住吉事件の場合、再審請求してからの打合せの進行とか、そういった点についてはいかがでしたでしょうか。 ○塩野参考人 青木さんが出頭できなかったことについては大変残念ですけれども、第一審の水島裁判長の下で、あるいは即時抗告審の米山裁判長の下での打合せ、三者協議は比較的計画的に、定期的に入ったと認識しております。したがって、ほかの事件と違って、ほかの件の詳細は全ては存じ上げませんが、検察側のもろもろの御主張に対する対応に時間が掛かったということは事実ですけれども、少なくとも裁判所の進行については大きな問題はなかったと私どもは考えております。 ○大澤部会長 ありがとうございます。 ○山本委員 弁護士の山本ですけれども、今日は貴重なお話をありがとうございました。私は、再審について余り存じ上げないのですけれども、弁護団は何名ぐらいいらっしゃって、先ほどの500万は手弁当とおっしゃっていらっしゃいましたけれども、どうやって集めたのかとかを少しお伺いしたいのですが、お願いいたします。 ○塩野参考人 20年間担当しておりましたので、そのいつをとるかによって人数が増えたり減ったりしております。しかしながら、最終的な段階では、青木さんと、それからBさんの弁護団、これは、今話があったように、かなり事実上も法律上も利害対立はしているのですが、えん罪という意味では一致しておりましたので、協力して担当しておりました。青木さんの弁護団が約5名、それからBさんの弁護団が約5名、これは実働レベルですが、合計10名でいろいろな役割を分担して最後まで行ったと、そんなところで間違いないと思います。   費用は、先ほど500万程度のものを立て替えたというような話をしましたけれども、それ以外にも、実は実験を幾つもしているのです。大きな実験、小さな実験、これははっきり申し上げて、全て我々が立て替えておりました。最後まで、20年間ですね。最終的に刑事補償、それから刑事費用補償というのが出ましたけれども、これは最終段階ですし、再審請求についての刑事費用補償は直接出ません。斟酌されて少し増加されたという事情はありますけれども、先生方は御承知と思いますけれども、その点も是非、改善していただきたいと思っております。後で費用が出ても、やはり無罪を闘っているときには、はっきり言って意味がありませんので、そういう意味でも大変なことを我々もしてきたし、現にされている方がおられると思いますので、よろしくお願いしたいと思います。 ○大澤部会長 弁護団のお話が出ましたので、もう1点だけ、私からお伺いさせていただきたいと思いますけれども、5名、5名の実働部隊としての弁護団とのお話でございましたが、一審段階から関与されていた方、塩野参考人は第一審からということでございますが、一審段階から関与された方がどのくらいおられたのか、その後、再審に入ってから弁護団は拡大されていかれたのか。塩野さんがかなり呼び掛け等をされて働き掛けられたのかなという気もいたしますが、その辺りについて少しお話を伺わせていただけたらと思います。 ○塩野参考人 ありがとうございます。一審というのは通常審の一審ですね。 ○大澤部会長 そうです。 ○塩野参考人 起訴前は、あれは当番弁護士だったかな、当番弁護士で女性の弁護士が行かれて、民事事件を一緒にやっている関係で、行ってくれということで、起訴前は3名の弁護士が担当しておりました。起訴されて、いよいよ国選弁護になろうとするときに、当時ですが、国選弁護は2人しか付けませんと言われて、我々3人で担当していたものだから、3名を認めよと裁判所に掛け合ったのですけれども、3名付けるのだったら国選弁護は付けないと言われました。それで、2名分国選弁護を付けてくれと、何せ調書だけのコピーだけでも100万程度掛かりましたので、2名分の国選弁護を出してくれ、それを3名で分けるからと、せめてコピーの費用だけでもということで裁判所に掛け合ったのですけれども、3名付けるなら国選は一切出さないということで、3名とも私選、もちろん青木さんを前にして、あれですけれども、費用ゼロで私選になりました。   一審は有罪で、二審もそうだったのですけれども、仲間を、知り合いをお願いして、二審から5名、6名程度になったでしょうかね、そして、そのまま二審、三審と行って、再審請求審になって、いろいろな先生方が御都合であったり体調であったり、あるいは年齢であったり、辞めていかれたり、そして再審開始決定になって、それは残っていたメンバーでしょうかね、そして再審開始決定が出てマスコミ報道された後は、特にBさんの弁護団とも協力関係がよくなってきたこともあるし、力を合わせてやったというのが現状だと思います。それでよろしいでしょうか、御質問の御回答になっているかどうか分かりませんが。 ○大澤部会長 ありがとうございます。 ○村山委員 村山の方から1点伺いたいのですが、証拠開示の問題で、取調べ状況の報告書が即時抗告審になって出されたのだというお話だったと思うのですが、一審段階ではこの証拠開示については議論されていたのでしょうか。出すのだったら請求審で出してもおかしくなかったかなという、そういう意識で聞いているのですが、議論にはなっていたのですか。 ○塩野参考人 一審段階でも、あるいは通常審からも、証拠を開示せよというのは、もう度々申し上げていました。請求審に関して言えば、一審でも証拠開示をするように弁護側は強く言っていましたけれども、先ほど御説明した実験ですね、これについてかなり、我々の方もやると、裁判所もそれに興味を持ってくれました。一審では、いわゆるこの新しい実験に関して関連する証拠を出しなさいということで、裁判所は検察側に促してくれて、それに関連する証拠、例えば現場の実況見分調書を作った際のネガとか、そういうものは一審で出ました。ところが、それに関連しない、例えば取調べの日誌とか、それは開示されませんでした。ただ、即時抗告審では、その主張をずっとしていたものですから、米山裁判長の方で、それももうこの際、出してはどうかということを強く促していただいて、ようやく出たということになります。 ○村山委員 ありがとうございます。 ○宇藤委員 貴重なお話をありがとうございました。ごく簡単に一つだけお伺いいたします。関係いたしました今回の事件というのは、証拠の点数というのはどれぐらいでしたでしょうか。 ○塩野参考人 ありがとうございます。証拠の点数というのは、数という意味ですか。 ○宇藤委員 そうです。 ○塩野参考人 これは直ちには分からないのですけれども、数百という感じでしょうかね。1,000は行っているかどうか。ただし、一つの調書もかなり長いものもありますので。ごめんなさい、数百ということが一番間違っていないのに近いと思うのですけれども。 ○宇藤委員 ありがとうございます。 ○塩野参考人 いや、どうだろう、1,000に近いかもしれませんね。1,000に近い数百と言わせていただいた方がいいかもしれません。 ○鴨志田委員 青木さんにお伺いします。時間のことを気にされて、今日の意見陳述書、事前に出ているものの最初の方を省略されたので、そこに関わってなのですけれども、無実を晴らすために20年以上掛かったということで、御本人も、それから家族にも大変な負担が掛かったと思います。その辺りのところを、この20年以上の歳月が奪ったものは何だったのかということについての思いを、最後にお聞かせください。 ○青木参考人 何を奪われたかというと、私の事件は娘が亡くなって、それで私が犯人にされてということで、娘の供養もできず、そして、普通は自分の子供が亡くなったら精神的に、心を癒したりとか、いろいろな心の気持ちの整理をする時間、そういうものもなくなって、途中からは、娘のことよりも、自分の無実を晴らす裁判の方に気持ちが行くしかなかった。だから結局、娘の供養もできなかった。そして、当時8歳で別れた息子は、社会に出てきたら29歳、そうしたら、それぞれの人生、私は獄中の生活、息子は私の両親、おじいちゃん、おばあちゃんに育てられて、私と引き離されて、そして、いろいろなことがありながらも、出てきても一切彼の口からは、こんなにつらかったとか言わなかったし、そして、あれだけ獄中で会いたかった息子と社会で再会しても、結局親子としての会話が成り立たない、うまくいかない。ですから、親子関係を奪われて、自分の手で自分の子供を育てるということも奪われて、子供と今は私は一切付き合いありません。   そういう、私の場合は、幸い両親が生きている間に社会に戻れたので、一応母親は2年ぐらい、父親は5年ぐらい、介護ということをできた。それは幸せでしたけれども、結局、皆さんが当たり前に生きてきた、普通に生きてきた20年が、私は、ある日突然、獄中に入れられて、そして今度は、ある日突然、社会に放り出されて、そして20年という月日で、携帯もなかったしパソコンも何にもないし、出てきたら出てきたで本当に大変で、一つ一つ、あほな人みたいに、何も分からない、弁護士と一緒に行動しないと何もできない、そんな自分のみじめさというのを社会に出てきても感じながら、今、今年の10月になって10年ですけれども、まだまだ分からない。えん罪の話は分かるけれども、ほかの人がいろいろな話をすると、それには付いていけないという、結局分からない。普通の人と余り接しない、だから仕事も私は一人でできる仕事で、出てきても、検察が有罪立証すると言ったのでお金が要ると思って、新聞の集金をしました。そこしか雇ってくれませんでした。そして、その恩で今も辞めずに続けています。そして今、介護の資格を取ってグループホームで夜勤をしています。でも、それも一人です。人と一緒に働くということが、何かしゃべられても、昔はこんなことあったねと言われても、私は獄中に入っているので社会のことが分からないから、そういう面で、今もそういうのを乗り越えながら生きている。   だから、私の人生だけではなくて、子供の人生、両親の人生、家族の人生まで奪ってしまうえん罪が本当に許せないし、憎いし、今も私はいろいろな人のえん罪者の相談に乗っているけれども、本当に私の知らなかった苦労、私以上に苦労している獄中者がいると。そして、この再審法改正についても、みんなすごく獄中者は期待しています。ですから、内容のない再審法改正なんて私たちには要らないのです。本当にえん罪者の気持ちになって、皆さんに私は考えていただきたい。自分たちが、もしえん罪で獄中に放り込まれて、無実を訴えて、それでずっと認めてもらえない。無期懲役だったら、もうほとんどここは獄死です。私も一歩間違ったら獄死です。でも、私は出られたので、だから出られた人間として、できることを仲間のためにやりたいと思って、今日も私は何のためにここに来たかって、獄中者のみんなの思いを背負って、大したことは言えないですけれども、それでも私の体験したことを皆さんに聞いてもらって、人ごとではなくて自分のこととして捉えて、受け止めていただきたい、そういう気持ちで来ましたので、本当に再審法改正、真剣に考えていただきたいと思います。ありがとうございました。 ○鴨志田委員 ありがとうございました。 ○大澤部会長 それでは、最初のヒアリングはこれで終了とさせていただきたく存じます。   青木様、塩野様、本日は非常に有益なお話を頂戴いたしまして、誠にありがとうございます。お話しいただきました内容につきましては、今後の審議に役立ててまいりたいと思います。どうもありがとうございました。              (参考人退室)              (参考人入室) ○大澤部会長 ヒアリングの2組目の方は、袴田ひで子様と間光洋弁護士です。   当部会の部会長を務めております大澤裕でございます。本日は御多用中のところ、朝早くから、また足元も悪い中、当部会のヒアリングに御協力いただきまして誠にありがとうございます。当部会を代表いたしまして、心より感謝の意を申し上げたいと思います。   まず、お二人から20分程度お話を伺い、その後、委員・幹事の方から質問があれば、10分程度御質問をさせていただきたいと思います。   それでは、よろしくお願いいたします。 ○袴田参考人 袴田ひで子でございます。よろしくお願いいたします。   私たち家族は、親兄弟、一切、警察の厄介になった者は一人もおりません。実直に平凡に暮らしておりました。それがある日突然、殺人という、それも4人も人を殺したという事件に巻き込まれました。弟、巖は殺人犯というのです。それはもう驚きの連続でした。本人は、白という訴えを最初から申し上げておりました。でも、47年7か月、拘置所に留め置かれました。それも死刑囚として、狭い3畳ほどの部屋の中に押し込められておりました。そして、精神に異常を来したのです。47年もそんな中に閉じ込められていれば、そうなるのは当たり前と、私は思っております。死刑判決が決まった後、様子がおかしくなり、面会拒否が長く続きました。それでも私は、家族は見捨てていないよということを伝えたくて、会えなくてもいいので、月1回、必ず刑務所に通いました。   幸い再審が始まりました。今は、晴れて無罪放免となりました。58年闘ってまいりました。長い、見えない権力との戦いでした。誰といつまで闘うのかまるで見えていない、それは苦しい年月でございました。それでも私は自由に生きてこられました。巖が釈放されて11年目になります。いまだ後遺症は癒えておりません。まともな会話もできないのです。一人の人間をこんなひどい目に遭わせて、弟は30歳で逮捕され、一生涯を台無しにされました。この間、国は何をしていたのでしょう。   また、巖の再審開始のきっかけに証拠開示がありました。弁護団の皆さんが、出た、開示されたと言って色めき立っておりました。このことにしても、死刑判決の確定から30年も掛かってしまったのです。もっと早く開示されていれば、巖の苦しみも短くて済んだと思います。もちろん今苦しんでいる皆さんも。やはり、そこにあるものを隠すということはあってはならないのです。ましてや人の命に関わることです。法に不備があるのですから、一刻も早く改めていただきたいと思います。   村山裁判長さんのお陰で巖に自由がやってきました。しかし、検察官の抗告により、真の自由を得るまでにはなりません。更に10年掛かりました。もしかしたら拘置所に戻されるかもしれないと、周りは大いに気を病んでおりました。私自身は、「再収監できるものならやってみろ、私が代わりに入る。監獄なんて一度も入ったことはないから冥土の土産にちょうどいい」と思って、そのぐらいの覚悟でおりました。長い時間でした。巖も衰えました。再審を待たずに亡くなった方、不運にも獄中死してしまった方、そのことなどを考えますと、速やかに再審を行うべきです。証拠の問題と併せて法の改正が必要です。   再審法に不備があることは間違いありません。是非改正を急ぎ、法律の不備についての訂正をお願い申し上げます。巖だけが助かればいいという問題ではございません。最初のうちは、えん罪家族などということはうちのことだけだと思っておりました。そうではないことが分かりました。今もえん罪で苦しんでいる大勢の方がいらっしゃいます。巖が長く苦労したということを、せめて法律の改正ということで役立ててくださるならば、私たちにとって、こんな幸せなことはございません。   法務省の皆様、弟、巖が47年7か月頑張ってきたということを、人間として考えていただけますでしょうか。再審法改正を早急にお願い申し上げます。 ○間参考人 それでは、続きまして間の方からお話しさせていただきます。静岡県弁護士会に所属しております。袴田事件では弁護人をしておりました。よろしくお願いいたします。   私の方から、袴田事件が示す再審法の問題点と題しましてお話しさせていただきます。大きく6点申し上げます。一つ目は、再審請求の手続規定がないことによる審理の長期化の問題、次に、証拠開示の規定の必要性、次に、証拠の管理、保管の規定の必要性、次に、検察官の不服申立てによる審理の長期化、次に、刑と拘置の執行停止の規定の問題、最後に再審段階の国選弁護人制度の必要性ということでお話ししていきます。   最初に、再審請求の手続規定がないことによる審理の長期化についてです。袴田事件は1966年6月に事件が発生しております。巖さんが逮捕されたのは1966年8月です。2024年10月に無罪が確定するまで、実に58年もの期間を要しています。この長期間の中で、特に時間が掛かったのが再審請求審の審理です。第1次再審請求審で約27年、第2次再審請求審で約15年の期間を要しています。第1次再審請求審は約27年の期間を要しているわけですけれども、地裁の審理で約13年4か月、そして即時抗告審の審理で10年もの期間を費やしているということになります。   この第1次再審請求審が長期間掛かった大きな要因として、やはり手続規定がないこと、その中でも打合せの期日がなかなか入らない、そして、その打合せの中で実質的な争点や証拠の整理が行われないということが挙げられます。実際の審理では、13年4か月の間に、打合せ期日は僅か14回しか行われていません。特に、再審請求から第1回の打合せまで、約3年7か月も期間が空いています。第1回から第2回までも2年3か月、第2回から第3回までも2年3か月と、ここだけでもう8年費やしているのですね。このたった3回の打合せ期日の中で、実質的に何か議論されているかというと、されていないわけです。基本的には、弁護人の追加の主張を待つというような対応がずっと続いていたということになります。8年もほぼ放置されるという事態は、通常審ではあり得ないような事態なわけです。しかし、それが規定がないために許されてしまっていたということになります。背景には、この間、静岡地裁で島田事件が継続していて、袴田事件が後回しにされていたというような事情があるようですけれども、それが理由にならないのは言うまでもありません。島田事件が終わりまして、その後は3か月から7か月に一度の頻度で、年2、3回ということですけれども、打合せ期日が入っていたということになります。   次に、即時抗告審ですが、10年を要しています。打合せ期日は、その前半ですね、平成6年12月から平成9年6月の期間に5回だけ行われています。その後、この審理ではDNA鑑定をするということになりまして、このDNA鑑定に2年4か月もの期間を掛けています。最終的に、このDNA鑑定を経て審理終結に向かうのですが、弁護人の最終意見書と題する書面の提出が平成13年8月なのです。信じられないことですけれども、この後、決定まで3年も期間が空いています。この3年の期間、最終意見書を出した後も、弁護人は意見を追加で、時間があったので、出していたり、この間、打合せとはいえないような弁護人と裁判所の協議が少しあった、いつ決定が出るのだみたいな、そういう形式的なやり取りだけの期日はあったようですけれども、こういった実態があります。今お話しましたとおり、とにかく打合せ期日が長期間入らないということや、あるいはその期日の中で、裁判所による積極的な争点や証拠の整理が行われず、基本的には当事者の主張を待つというような態度、これが第1次再審請求審を非常に長期間に長引かせた大きな要因となっています。   次に、証拠開示の規定の必要性についてお話ししていきます。第1次再審請求の段階で、検察官は証拠開示に一切応じませんでした。証拠開示が進まず、弁護人の主張や立証も停滞するという事態の中で、審理が長期化したということもあります。先ほど、打合せ等が入らない、手続規定がないということも申し上げましたけれども、やはりこの証拠開示が行われなかった、これも審理に長期間を要した大きな要因になっているということについて指摘しておきたいと思います。   第2次再審請求が2008年に行われまして、当初の約2年間、弁護人からは再三証拠開示を求めましたが、検察官は証拠開示に応じませんでした。しかし、2010年5月になって検察官が任意開示に応じる姿勢を示すようになります。しかし、この具体的な理由は明らかにはなっていません。ブラックボックスの中で、応じるということを言い始めたということになります。証拠開示は行われるようになったのですが、五月雨式に開示されるので、なかなか進まなかったという実態があります。そういう中で、裁判所が2011年12月に証拠開示を勧告し、これ以降ですね、それでもまだ五月雨式ではあったところはあるのですけれども、最終的には、第2次再審請求審の段階で約600点に及ぶ証拠が開示されました。   この証拠の中には、報道等で皆さんも御存じかと思いますけれども、例えば5点の衣類のカラー写真とか、あるいは巖さんを取り調べた録音テープ、取調べを録音した録音テープとかですね、あともう一つ大きな証拠としては、5点の衣類の中のズボンを履けたかどうかというのが、確定控訴審などでは大きな争点になっていたのですけれども、このズボンのサイズに関する証拠が新たに開示されたということもあります。このズボンのサイズに関しては、確定控訴審でそのサイズが争点になったときに、結論的には履けたという認定になっているわけですけれども、この裁判所の認定の根拠が明らかに客観的な証拠と相入れないという証拠が新たに開示されたのです。検察官はこういった証拠を見ていないはずはないのです。しかし、その裁判所の認定、検察官の主張と相入れない客観的な証拠すら開示されずに、有罪の認定がされたということです。こんな不正義が許されるような制度であってはいけないと考えます。このように証拠開示が行われたことで審理は促進し、また、その証拠開示によって地裁での再審開始に結び付いたということになります。   次に、証拠の管理、保管の規定の必要性についてお話しします。第2次再審請求の即時抗告審の段階で、新たに重要証拠が発見され、開示されました。一つは、2014年9月に開示された5点の衣類のカラー写真のネガフイルムです。これは地裁の審理の段階、2011年の段階で、検察官はネガは存在しないと明示的に回答していました。しかし、2014年5月、袴田事件とは関係なく、警察署内での記録の点検業務中にたまたまネガが発見され、開示されたという経緯です。次に、2015年1月、約47時間に及ぶ巖さんに対する取調べの録音テープ23巻が開示されました。これも地裁の段階で1巻だけ開示されていて、あとはないとされていたものです。即時抗告審の段階で、再度検察官が警察にその存在について調査を依頼した結果、警察署内で発見されたという経過をたどっています。   5点の衣類のカラー写真のネガに関して言えば、再審開始の理由の一つになった5点の衣類の色調の問題に関連する重要証拠です。この録音テープに関して言えば、再審無罪の判決で三つのねつ造が指摘されていて、そのうち一つは巖さんに対する違法、不当な取調べに基づいて作成された供述調書です。地裁が再審無罪を言い渡すときに、この供述調書のねつ造とまで強い表現で認定できたのは、正にこういった客観的な取調べの録音状況、録音データが開示されて、それで取調べの実態が明らかになったからにほかなりません。いずれも無罪を根拠付ける重要証拠ということが言えます。このような重要証拠が事件から何十年たっても見付からないまま警察署内で眠っている、こんな状況も許されていいはずはありません。   次に、検察官の不服申立てによる審理の長期化についてお話しします。第2次再審請求で再審開始決定が地裁で出た後、検察官は即時抗告を行いました。検察官の即時抗告以降、再審開始確定まで約9年もの期間を要しています。さらに再審の公判、再審無罪確定まで約1年7か月を要しています。   皆さん御承知のとおり、第2次再審請求審は地裁の再審開始決定、そして検察官の即時抗告で再審請求が棄却されたことによって、弁護人が特別抗告を行い、最高裁が差し戻し、差戻しの即時抗告審が行われ、そこで確定という経過を経ています。差戻し前の即時抗告審に4年3か月もの期間を要しています。この間行われた打合せ期日は29回、検察官が提出した証拠は181点にも及びます。これは、多数の事件関係者から聞き取って新たに作成した供述調書であるとか、多数の専門家、DNAの関係とか、あるいは5点の衣類の色調に関するもの、写真の専門家とか、みそ醸造の専門家とかですね、そういった方々の意見書、鑑定書、こういったものが多数含まれておりました。証人尋問はDNAの関係で専門家2名が行われております。   最高裁で差し戻された後の即時抗告審も、2年3か月もの期間を要して審理をしています。打合せ期日は12回行われました。検察官が事実取調べ請求した証拠は60点に及びます。この60点の主な証拠は、検察官が即時抗告審、差戻しされた後から実施したみそ漬け実験の関係の証拠がほとんどということになります。検察官は差戻し後に、衣類に血液を付着させて、みそ漬けのパックをたくさん作って、それで色調の経過を観察をするという実験を大々的に行っているのですね。これの報告書関係が多くを占めています。証人尋問は、この即時抗告審、差戻し後の段階で、最高裁の決定によって争点が5点の衣類の色調が変化する化学的機序に絞られていましたので、その関係での専門家証人、弁護側3名、検察側2名の5名が行われました。   即時抗告が棄却されたことにより再審開始が確定し、再審公判ということになります。この再審公判も、しかし、約1年7か月もの期間を要すことになります。その理由は、検察官が即時抗告後約9年もの期間を掛け主張立証を尽くしたのに、再審公判で改めて有罪立証を行ったからです。その結果、1年7か月も期間を要しました。公判は、2023年10月から翌24年5月に15回も行われました。差戻し後の即時抗告審と同じ争点、5点の衣類の色調の変化に関しての科学的機序、これに関する争点について、検察官は、再審公判の段階で改めて別の専門家からの鑑定書などを提出し、結果、再度5名の専門家の証人尋問が実施されました。差戻し後の即時抗告審とほぼ同一争点について、要するに5人の尋問をやったのに、また公判で5人やっているということになります。   検察官の不服申立てが許されていることにより、再審請求審で長期間審理し判断された内容が再審公判で蒸し返され、巖さん、ひで子さんは、実質的に二度の裁判を強いられたということになります。ひで子さんは、御高齢にもかかわらず、15回の公判、長時間全て出席されていました。検察官の即時抗告がなければ、2014年の再審開始決定後、直ちに再審公判の手続となっていたはずですから、判決まで10年以上を要するということはなかったはずです。   次に、刑と拘置の執行停止の規定の問題についてお話しします。皆様御承知のとおり、刑訴法448条2項は、再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができるということで、任意の規定となっております。かつ、拘置の執行停止は規定がございません。静岡地裁の再審開始決定は、併せて拘置の執行停止も認めました。その理由として、再審の審判で無罪になる相当程度の蓋然性、極めて長期間、死刑の恐怖の下での身体拘束、5点の衣類が捜査機関によってねつ造された疑いなどの捜査機関の違法、不当な捜査の存在などを挙げた上で、拘置を続けるのは耐え難いほど正義に反するとまで言って、やっと拘置の執行停止も認めたということになります。   巖さんは、逮捕から47年7か月を経て釈放されました。しかしこの後、無罪確定までには、更に10年を要することになります。釈放の後、約10か月後ということになりますが、巖さんは、重い胆嚢炎と心臓のカテーテル手術が必要な状況でした。巖さんは、長期間の死刑の恐怖にさらされた中での拘置、長期間の拘束の中で心をむしばまれていましたが、心だけでなく体にも大きなダメージを負っていらっしゃったわけです。拘置が続いていたら、巖さんは命を失っていたかもしれません。無罪判決を聞くこともなかったかもしれません。こんな不正義が許されていいはずはありません。   最後に、国選弁護人制度の必要性についてお話ししたいと思います。請求人は、拘束されていて外部交通も制限されています。専門的なことを調べたり、専門家に頼むなんていうことはできません。再審請求の手続には弁護人の支援が不可欠です。袴田事件で言えば、弁護団長の西嶋弁護士は第1次再審請求の途中から弁護人となって、2024年1月、再審無罪を聞くことなくこの世を去りましたが、34年間、弁護人を務めていらっしゃいました。事務局長の小川秀世弁護士も、第1次再審請求の途中から弁護団に加わり、40年弁護人を続けていました。弁護士人生のほとんどをかけて弁護活動をなさっていたお二人ということになります。長期間、手弁当の弁護活動をしてくれるような引受け手を見付けることは極めて困難です。弁護の引受け手が見付からないために再審請求ができないという事態はあってはなりません。特に、死刑事件ではこの問題は深刻な問題となります。   以上が私の方からお伝えしたかったことになります。袴田事件を過去のものとせず、巖さん、ひで子さんのような被害を二度と生まないための再審法改正の議論をしていただきたくお願いします。ありがとうございました。 ○大澤部会長 貴重なお話をありがとうございました。   それでは、質疑に入らせていただきます。御質問のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田委員 本日は貴重なお話を伺いまして、どうもありがとうございました。間参考人にお伺いいたします。1項目の、手続規定がないことによる審理の長期化につきまして、そもそも請求審の最初の判断が示されるまで13年4か月掛かっていて、請求審自体の迅速化が大きな課題だと考えております。   ただ、規定を整備するとして、例えば毎月開廷するようにという規定を設けたとしても、なかなか現実には動き難いと思います。そこで、審理に関わる裁判所、検察官、弁護人含め、法曹三者において、審理の迅速化を図る上で実質的に留意すべき事柄として、どのようなことが考えられるかを伺えればと思います。特に、再審請求審の判断対象が無罪を言い渡すべき明らかな証拠を新たに発見したことであって、罪となるべき事実の存否ではないという意味では通常審と異なるものであることに基づいて、異なる考慮が必要なのかといったことにつきまして、お尋ねできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○間参考人 ありがとうございます。おっしゃるとおり、手続を何か月に一遍入れるみたいな形式的な規定というのは現実的ではないと思いますので、やはり、むしろ手続で何をしなければいけないのかというようなところを、再審請求というものに即して実質的に規定するようなものが必要になるのかなと思います。やはり打合せ期日が入らないというのは、裁判官の皆さんとしても、どう審理を進めていいかという指針がないために、なかなか手を付けにくいというところがあるのかなと思いますので、そういった指針になるような、再審請求審の審理、争点整理、証拠整理では何をするのかというところを示すような、やはり規定があると、充実した審理が可能になるのかなと思います。   あと、やはり証拠開示の問題は大きいと思っています。証拠開示を受けることによって、弁護人は、主張を組み立て、いわゆる今はケースセオリーといいますけれども、基本的な検察官の出している証拠の信用性や証明力を争う証拠、あるいは客観性の高い証拠、こういったものを見ることによって主張をきちんと出すことができる、こういうことを前提にしないと、やはり審理が進まない、充実しないということが言えるのかなと思います。すみません、少し抽象的なお話になってしまいますが。 ○池田委員 ありがとうございます。 ○成瀬幹事 本日は貴重なお話をありがとうございました。私も、池田委員と同様に、第1次再審請求の静岡地裁における審理が非常に長期化した点に関心を持っております。間参考人の先ほどの御説明では、第1回の打合せが開かれるまでに約3年7か月掛かり、その後の打合せも基本的に弁護人の追加主張を待っていただけとのことでした。その辺りの事実関係についてもう少し詳しく伺いたいのですが、第1次再審請求の段階で、弁護人はどのような新証拠を提出されていたのでしょうか。また、この間の打合せにおいて、裁判所は弁護人に対してどのような追加主張を求めていたのでしょうか。約8年も掛けて追加主張を繰り返さなければならなかった理由がよく分からないものですから、その辺りの事情について、御記憶の範囲で、御教示いただければ幸いです。 ○間参考人 私が弁護団に参加したのが第2次再審請求の途中からなものですから、少し正確に今の御質問にお答えするのが難しいところがあるのですが、少なくとも第1次のときは取調べの問題に焦点が当たっていたりとか、第2次のときのように、5点の衣類の問題とか、それが問題になっていなかったわけではないのですけれども、少し争点としてはずれていたというところはあろうかと思います。   先ほど裁判所をある程度中心に申し上げましたが、当事者の弁護人も、そういう意味では、適切な弁護活動だったのかというのは反省されるべき点はあるとは思います。ただ、それも、先ほど申し上げたことでありますが、証拠開示が行われない中でなかなか主張を組み立てられないという中で、弁護人の主張も五月雨式に、少し焦点がぼやけたような主張、あるいは弁護団も少し途中で意見が割れたりとか、そういう経過もあったようですけれども、そういう中でなかなか進まない。裁判所も余り、だから、弁護人の主張を踏まえてどうこう、こういう点はどうかとか、この点の主張を具体化してほしいとか、あるいはそういうことを具体的に争点整理しているという姿勢は、打合せの調書を見る限り、ほとんど見られず、先ほど申し上げましたけれども、次の弁護人の主張はどういうことを考えているのか、それにはどれぐらいの時間が掛かるのかというようなことをずっと繰り返していると。弁護人の主張が出ると、検察官は反論されますかという形で、五月雨式にずっと打合せが続いていくというような形が、大まかな第1次再審請求審の進め方かなと理解しています。 ○田岡幹事 幹事の田岡です。本日は貴重なお話をありがとうございました。間弁護人にお尋ねしたいのですが、先ほど証拠開示の遅れが30年掛かったということが長期化の要因であるという御指摘がありました。また、証拠開示を受けなければ、なかなか的確な再審理由の主張が難しいという御説明もありました。その上で、証拠開示の規定を設けるとすれば、どのような規定の在り方が望ましいのかということについて、御意見を伺えればと思います。   具体的には、再審請求人からすれば、捜査機関がどのような証拠を保管しているかということはなかなか分からないのが実情であると思われます。5点の衣類のカラー写真や録音テープ、5点の衣類のサイズに関する証拠などは、その証拠を閲覧して、初めてそうした問題があることに気付くという面があると思われます。こうした証拠が再審請求の前の準備段階で開示されていれば、再審請求の段階から的確な再審理由の主張が可能になるわけで、審理の促進にも役立つのではないか。   また、再審理由の主張との関連性や必要性が明確なものに限って証拠開示を認めればよいのだという考えに立つと、弁護人が再審理由との関連性や必要性を具体的に主張しない限り、検察官は証拠開示に応じない。最高検察庁が出した検証結果報告書では、検察官が消極的ともいえる対応をしていた理由として、弁護人の主張が判然としなかったと指摘されていますが、果たして、再審請求の段階で、弁護人の主張との関連性や必要性を具体的に主張するということができるのか。弁護人の立場から実情をお伺いできればと思います。 ○間参考人 袴田事件で言えば、5点の衣類のカラー写真とか、あるいは取調べのテープ、こういったものは現行法でいえば類型証拠開示請求という形で、もう第一審の段階で広く開示して、弁護人は目にしているようなものということになります。現行法の下でこういったことがまた起こるのかということがありますけれども、ただ、今再審になっている事件でも、やはり証拠開示が行われていなかったり、公判前が行われていないとかですね、そういう場合もあるわけで、それは今もあり得る話だと思うのですけれども、いずれにせよ証拠開示、先ほど申し上げました検察官の主張立証の証明力、信用性を争うことができるのかどうかを基本的に考えるために必要な証拠、あるいは客観性の高い証拠、いわゆる類型証拠開示請求が認められているような証拠は、やはり事前に開示を受けないと、弁護人としては主張を組み立てられないということが非常に大きな問題としてあろうかと思います。   袴田事件で、もしこれらの証拠が早期に開示されていれば、全然展開は異なっていたでしょうし、審理は早く進んだと思います。ですので、そういう意味では再審請求の段階で、やはり証拠開示が認められないといけないと思いますし、また、その関連性などの点について厳格に考え出すと、これはやはり審理の長期化を招くと思います。先ほど申し上げたような類型証拠開示に当たるような証拠であれば、弊害も少ないことが多いでしょうから、こういったものはやはり広く開示されるべきと思います。その関連性等の判断が、検察官の一次的な判断や裁判所の判断に掛かることによって審理が長期化するということは、できる限りない方がいいと考えております。 ○大澤部会長 ほかにいかがでございましょうか。それでは、2組目のヒアリングはこれで終了とさせていただきます。   袴田様、間様、本日は非常に有益なお話を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。お話しいただきました内容につきましては、今後の審議に役立ててまいりたいと存じます。本当にありがとうございました。              (参考人退室)              (参考人入室) ○大澤部会長 ヒアリングの3組目の方は宮下哲様です。   部会長を務めております大澤でございます。本日は御多用中のところ、また足元の悪い中、当部会のヒアリングに御協力いただきまして誠にありがとうございます。部会を代表いたしまして、心より感謝申し上げます。   まず、宮下様から20分程度お話を伺い、その後、委員・幹事の方から質問があれば、10分程度御質問をさせていただきたいと思います。   それでは、宮下様、どうぞよろしくお願いいたします。 ○宮下参考人 日本テレビ報道局の社会部の宮下と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。   私は、これまで司法担当の記者あるいはデスクとして、幾つか再審請求事件も含めて取材をさせていただきましたので、そういった経験を踏まえて、現在の再審制度について感じるところを述べさせていただきたいと思っております。かなり緊張しておりますので、少し分かりにくいところがありましたら、後ほど御質問いただければと思っております。   まず、再審制度をめぐって今一番問題になっている審理の長期化という問題についてですけれども、これについては、私も相当に深刻な問題であると感じていまして、今、制度の見直しの機運が高まっているこのタイミングで、是非何らか実効性のある対策を打ち出していただきたいなと思っております。この部会でも提出された資料によりますと、再審請求事件の平均審理期間は、地裁で8.8か月、高裁で8か月ということですので、多くの再審請求事件については、ある程度迅速にスピード感を持って審理が進められているのかなと受け止めておりますけれども、ただ、袴田さんの事件に関しては、第1次再審請求審で最高裁が棄却決定するまでにおよそ27年、第2次再審請求審では開始決定が確定するまでに15年ということで、これは、何か一つの物事について結論を出すまでの期間としては、我々一般的な感覚からすると非常に、もう異常な長さと言ってもいいのではないかと感じております。もちろん特別に長時間を要したまれなケースであるということは承知しておりますけれども、ほかの再審請求事件を見ましても、袴田さんの事件ほどではないにしても、決してスピード感があるとは感じられないケースというのも幾つもあるように思っています。   先日も、いわゆる日野町事件の弁護団の方々が会見されましたけれども、この事件でも第2次再審請求審で大阪高裁が結論を出すまでに4年半、最高裁に舞台が移ってからも、もう2年以上経っているということで、私たちから見ると、この2年の間何をやっていらっしゃったのかなというのは正直、非常に疑問に感じるところであります。もちろん確定判決を見直すかどうかという重大な判断ですので、拙速は絶対にいけないと思いますし、審理は丁寧かつ慎重に行われるべきであろうとは思っております。ただ、余り意味のない長期化というのは、これはもうえん罪を訴える方もそうですし、逆に事件の被害者・遺族の双方が全く望んでいないことだと思っています。この再審請求事件に限らず、刑事、民事含めて、いわゆる裁判に抱く一般市民の印象というのは、とにかく時間が掛かるというのが一般的な感覚と思っています。ですので、今回このタイミングで長期化防止の道筋をしっかり作るということが、司法制度全体の信頼にもつながっていくのかなと思っております。   そして、では、どうしたら審理の長期化を防げるのかという、対策とか解決策の部分ですが、これについては一つ、私は疑問がありまして、ある問題に対してその対策や解決策を考えるには、その問題が生じた原因ですとか背景というのをしっかり分析して、明らかにすることが必要ではないかと思っております。正しい分析があってこそ、適切な対策、解決策というのも見えてくるのではないかと思いますけれども、では再審請求審における審理の長期化の原因というのは果たして明らかになっているといえるのかどうかというところが、まず最初の私の疑問です。   例えば、先ほども例に挙げさせていただきましたが、袴田さんの事件では第1次再審請求審では1回目の三者打合せが行われるまでに3年7か月、3回の打合せをやるまでに8年と1か月掛かったということですが、8年で3回というのは驚くべきスローペースではないかと思っていますが、一体何でそういうことになったのかと。法曹界として、袴田さんの事件からもし教訓を得ようということであれば、その原因というのはしっかり分析した方がいいのではないかと思っています。この事件に関しては、最高検の方で昨年、検証結果を公表しましたけれども、それを見ても、審理の長期化という部分については、多くの点で検察官の対応に問題はなかったという内容で、長期化の原因という部分については明らかになっていないのではないかと受け止めております。この袴田さんの事件に限らず、一つ一つの事件についてしっかり検証と分析、これを行うことによって、最も適切な対策、それが運用の改善で対応できるものなのか、あるいは法改正まで必要なのか、あるいは組織の体制とかそういったものを見直す必要がないのかどうかという部分も見えてくるのではないかと感じています。   そして、再審請求審は職権主義ということで、担当する裁判官の考え方によって審理の進め方もスピードも全く変わってくるという話はよく聞きますし、実際そのとおりなのかなと思います。私個人としては、であるからこそ、裁判所の方にも審理の長期化の原因の分析を行っていただけないかと思っております。   この部会に先立ってありました「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の方でも御意見があったと思うのですけれども、「審理が長期間に及んだ理由と背景について調査を行い、その結果を社会で共有すべきではないか」といった御意見がありました。これに対して、裁判官のメンバーの方からは、「個別の事件の具体的内容に踏み込んだ検証を行うことは、個々の裁判の当否の評価につながりかねず、裁判官の職権行使の独立の観点から問題があるのではないか」といった御意見があったことは承知しております。ただ、再審請求審が職権主義という構造をとっている以上は、どこまで個別の事情に踏み込むかという課題はあるとは思うのですけれども、やはり裁判所側の検証ですとか、その結果の共有というものなく議論を進めて、その議論が本当に芯を食った議論になっているのかどうかというところの懸念はどうしても残るのではないかと感じています。   その長期化の原因が制度の問題なのか、あるいは経験がなかなか少なくて進め方が分からない、戸惑っているとか、あるいはもっとシンプルに、担当する事件が多すぎて手が回らないということもあるのではないかとは思っております。あるいは逆に、慎重に検討するとどうしても時間が掛かるので、別に長期化しているわけではない、いたずらに長期化しているわけではないというようなケースもあるのではないかと思います。いずれにしても、その原因と対策がリンクしているということが非常に大事ではないかと思っていまして、原因の分析、そして、それを踏まえた、それにリンクした対策というのを今回打ち出してこそ、国民の理解ですとか納得感というものが得られるのではないかと思っています。   その上で、いわゆる再審請求審の手続規定の新設について、素人ながら思うところを述べさせていただきますと、私個人としては、個別具体的な点は専門家の皆様の議論に委ねたいと思いますが、総論、大きな方向性としては、何らかの規定を設けてもいいのではないかとは思っています。理由は二つありまして、一つは、先ほども申し上げましたが、裁判官のいわゆるやる気によるスピードのばらつきですとか、格差、再審格差という言葉もありますが、格差があるとされる中では、そういった規定が設けられることによって、その平準化が一定程度担保されるのではないかと思うためです。もう一つは、手続の全部ではなくても、その一部が通常審と同様に公開されて、再審請求審のプロセスが国民からも見えるようになれば、それによって審理の迅速化というのも一層進むのではないかと思うためです。   私たちもこれまで何度も取材をしておりますけれども、再審請求審が今どういう段階にあるのか、裁判所の決定が近いのか、まだまだ先なのか、その辺は頑張って取材はするのですけれども、なかなか見えてこないというのが実情であります。裁判官の皆さんも非常に忙しくて、本当に膨大な事件を抱えていらっしゃって、本当に休むいとまもないとは思うのですけれども、やはり国民から見られているという意識があると、また違ってくるのではないかと感じております。今回の議論の主要なテーマではないのかもしれませんけれども、この手続の公開、プロセスの可視化という点についても是非御議論いただけないかと思っております。   そして、証拠開示の問題についてですけれども、こちらについても、私は、明文化された一定のルールがあってもいいのではないかと思っています。そもそも証拠というのは、やはり公的なものであると思いますし、真実を見極めるために使われるべきものと思っています。ですので、公平にいろいろな方の様々な目で見て分析して評価を加えていくものだと思いますし、究極的には検察側と弁護側の双方ができる限り同じ証拠を見られるのが理想ではないかなとは、本当に素人ながらではありますが、思っています。今、長期化防止という観点で証拠開示の問題が語られていますけれども、やはり真相究明、それからえん罪防止という意味において、証拠開示は非常に重要だと思っています。   通常審においては、公判前整理手続が導入されて、証拠開示もルール化されましたので、以前と比べればずいぶん状況がよくなったとも聞きますけれども、それでも、時々見ていますと、やはり検察側の証拠開示に対する姿勢が消極的だなと、少なくとも積極的とはいえないなと感じるケースというのは時々、通常審でも再審請求審でも目にします。開示の範囲というのはできるだけ広範であった方がいいとは思いますけれども、一方で全ての証拠開示は難しいという捜査当局側の事情も私は理解できますので、一定のルールの下で、技術的な問題は私はよく分からない部分はありますけれども、現在の通常審の証拠開示と同じ程度には、再審請求審においてもルールがあっていいのではないかと感じております。   そして、検察官の不服申立ての制限ですね、いわゆる抗告禁止の部分に関してですけれども、これについて私は現時点で賛成、反対というのではなくて、少し素人感覚でよく分からないなという部分もありますので、素朴な疑問として飽くまでお聞きいただければと思っておりますが、仮に検察官の抗告が禁止されると、最高裁まで争って下された結論、判断について、地裁の裁判官の判断で一旦白紙に戻すこともできると、もちろん新たな証拠が出てきて判断材料が違いますけれども、そういうことになるわけですが、日本の司法制度が三審制という中で、この再審請求の手続だけ検察官がその枠組みから外れてしまうというところが、そういった点が制度全体の整合性という点ではどうなのかというのが素朴な疑問としてございます。   そして、もう一つは、もし仮に検察官の抗告を禁止した場合、いわゆる検察側の主張立証というのは再審公判において行っていくことになると思うのですが、そうすると結局、現状は再審請求審が長くて、公判が始まるとすぐ終わると、それが逆になって、再審請求審が短くて公判が長くなるということになると、結局トータルで要する時間は余り変わらないような気もするのですが、いわゆる審理の長期化を防ぐという意味でどれぐらいの短縮効果があるのかというのは、もし何か想定があるのであれば、議論の前提としては知っておきたいなと感じております。   そして、これは疑問ではなくてお願いですけれども、是非この論点については、事件の被害者・遺族の方の視点というのも踏まえて御議論いただきたいと思っております。被害者、遺族にとっては、再審請求審の結果どうなるのかと、早く結論を出してほしいという気持ちがあると思いますが、それと同時に、やはり真実を知りたいという気持ちが非常に強いのではないかと感じています。そうした中で、司法手続を通じた真相究明、その一端を担う検察官だけに不服申立ての機会がないままに、場合によっては再審開始決定が決まるというような仕組みをどう捉えていらっしゃるのか、是非事件の被害者・遺族の方の立場というのもお聞きいただいて、それを踏まえて御議論いただけないかと思っております。   私が本日お話させていただきたいと思っていた点は、以上でございます。専門家の皆様に大変僭越ではございますが、一市民に近い立場として、思うところを述べさせていただきました。ありがとうございました。 ○大澤部会長 ありがとうございました。   それでは、質疑に移りたいと思います。御質問のある方は挙手をお願いいたします。 ○村山委員 どうもありがとうございました。手続規定の新設の点で、マスコミの関係者という御視点からなのかなと思ったのですけれども、見えるようにする、手続の公開というようなことも少しお話しになっておられました。今、再審請求段階では、公開の法廷でやってはいかんという規定はないのですけれども、現実には公開の法廷でやっているということはまずなくて、事実の取調べを行っても、非公開の法廷でやっている場合がほとんどだと思います。そういったことについて、マスコミの関係者の方から、やはりもっと見えるようにしてほしいとか、それから、もう一つ言われたのは、そのプロセスですね、今審理のどういう段階になっているのかが見えないではないかと、これは私は全くおっしゃるとおりだと思うのですけれども、そういった点については、マスコミの方々から見るとどんなふうに映っておられるかというのをもう少しお話しいただければと思うのですが。 ○宮下参考人 ありがとうございます。我々も下手に慣れてしまっているというか、再審請求なので公開の法廷でやらないのを当たり前と捉えてしまっていた部分もあるのですけれども、やはり今こうして改めて考えてみると、長期化する原因が全く分からないと、分からないので検証のしようもないというようになっているなと感じています。袴田さんの事件ほど長期化するケースは少ないとはいえ、これぐらい時間が掛かってしまう事件があるというのは、やはり何か改善しなければいけないと思うのですが、最初に申し上げたとおり、何でこんな時間が掛かったのという素朴な疑問があるわけですね。それがやはり見えないので検証のしようもないと。何か原因が見えてくれば、我々も何か社会に向かって問題提起することもできるとは思うのですけれども、やはりそこが見えないので状況が変わらないということもあるのかなと思っております。したがいまして、法律的なことは私も分かりませんが、裁判が公開されているそもそもの趣旨ということもあると思いますので、手続が見えることによって、やはり国民の批判にも耐え得る審理、そういったものが実現していくのではないかと感じております。 ○村山委員 どうもありがとうございました。あともう1点なのですけれども、検察官の不服申立てのところでは、現時点では賛否は留保するようなお話でした。その中で、抗告を禁止しても結局、再審公判で争うとトータルの時間が同じではないかというご発言がありました。私も初めはそんなふうに考えていたこともあるのですけれども、実感としては、やはり再審請求審というのが期日指定という形で動かないのですよね。通常の公判手続になりますと、必ず期日で進んでいくのですね。そこで進行のコントロールの仕方が全く違うという、現在の法律を前提にしますと、そういう形になっていて、進行のスピードは全く違うのではないかと、私は裁判官もやっていましたので、今ではそういうふうに思っております。確かに一般論として、結局同じだけ掛かるのではないかというのだったら禁止する意味がないではないかと、迅速化という観点からは意味がないというようなお考えもあり得るとは思うのですけれども、実感としてはやはり相当違うかなと思っているというのは、少しおこがましいですけれども、私の経験からお話をさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。 ○鴨志田委員 マスコミのお立場からのお話ということで、大変貴重なお話として聞かせていただきました。ありがとうございます。非常に印象に残ったのが、原因と対策はリンクしなければならないということで、私も全くそこは同感だと思っております。そのような観点から、こういった誤判えん罪、特に再審無罪が確定するような事件について、ここは法制審議会で、今いるのはほとんど言わば関係者ということなのですけれども、そういった事件を検証する、例えば事故であれば第三者機関というようなものも、例えばフジテレビなんかの場合もそういったものを設置をしておったと思うのですけれども、こういったことについての検証のスキームの必要性というようなものについてはいかがお考えかということを、マスコミのお立場からお聞きしたいと思います。 ○宮下参考人 私は、前半の方でも申し上げたと思うのですけれども、やはり検証のスキームというのはあってほしいと思います。いわゆる袴田さんの事件で最高検の報告がありましたけれども、結局検察官の立場からの見方ということですので、法曹三者がそれぞれやるのか、あるいは一緒にやるのかというのはあるかもしれませんが、やはり、もちろん個別の事情に踏み込むのはなかなかそれは制度上難しい、憲法上難しいところはあるとは思うのですけれども、でも、何もしなくていいのかというのは率直な疑問ではあります。 ○鴨志田委員 ありがとうございます。そこに、例えば第三者といったような視点が入る必要性というものについては、いかがですか。 ○宮下参考人 そうですね、第三者というのは、例えば私どものような。 ○鴨志田委員 一般有識者であるとか、あとは被害当事者というようなところも含めてですけれども。 ○宮下参考人 それはあってもいいのかなと思います。やはり法律家の皆さんにとっての常識と我々の感覚と、違う部分もあると思いますし、あと、今おっしゃられた被害者、被害者というのはえん罪被害者という意味で。 ○鴨志田委員 そうですね。 ○宮下参考人 もちろんえん罪被害者の声というのは大事ですし、あと、やはり我々もいろいろ事件取材する中で当然、検察官、弁護士、裁判官の取材をさせていただくと同時に、事件の被害者、肉親を失った方も含めてですね、そういう被害者取材も多くやってきていまして、やはりその声というのは非常に重いと感じておりますので、是非その視点というのは取り入れていただきたいと思っております。 ○鴨志田委員 ありがとうございました。 ○田岡幹事 報道関係者ということですから、1点、御質問させてください。   開示証拠の目的外使用の規定を設けるかどうかという点です。確かに通常審では開示証拠の目的外使用の禁止という規定があり、弁護人が検察官から開示を受けた証拠は、審理準備の目的以外の目的で、第三者に提供することはできないとされています。そのため、再審でも検察官の裁判所不提出記録の閲覧謄写が認められるようになれば、同様の規律が必要でないかという指摘がございます。ただ、一方で、例えば袴田事件について言いますと、5点の衣類のカラー写真のような隠されていた新証拠がテレビの映像などに放映されたり、あるいは新聞、書籍や映画などに掲載されることによって、国民はなるほどこんな問題があるのかと知ることができ、国民の知る権利や報道の自由に資するという面もあるように思われます。開示証拠の目的外使用を一律に禁止してしまうことで、かえって隠されていた新証拠が国民の目に触れる機会がなくなるのではないかという点についてはいかがお考えか、御意見をお聞かせいただきたいと思います。 ○宮下参考人 前提を逆にお伺いしたいのですけれども、その目的外使用というのは報道機関が報道のために使うことも目的外使用に当たるのですか。 ○田岡幹事 報道機関に提供することが審理準備のためであれば、現行法の下でも許される可能性がないとはいえないと思うのですが、刑事訴訟法281条の4は、開示証拠の使用目的を、飽くまで当該被告事件の審理、あるいは再審請求等の手続の準備に限定しておりますので、その目的を超えることは許されないものと理解しています。 ○宮下参考人 私どもの立場で言えば、もちろん公開、報道をする機会を与えていきたいのは当然、我々の立場からすると、ございます。ただ、これも私は余り勉強不足で、目的外使用というのは、例えばどういうことを想定されているのですか。絶対に許されない目的外使用というのは、それを個人的に誰かに渡すとかそういうこと、あるいは何かについて証言した人のところをまた訪ねていって何か話を聞いたり、そういうことをやっていけないということなのですか。 ○田岡幹事 証拠開示を受けた被告人若しくは弁護人又は元被告人、弁護人であった者が、当該被告事件の審理の準備の目的のために開示を受けたものをそれ以外の目的に使ってはいけないという規律ですから、例えば、報道機関に見せて世論に訴えたいというのが当該被告事件審理の準備のためであれば、許される余地はあるものと認識しておりますけれども、その外縁が明確でないものですから、被告人若しくは弁護人によっては、報道機関に見せることが審理の準備の目的を超えたことに当たるのではないかと懸念して、萎縮効果が生じるおそれがある。また、支援者に開示証拠を見せてみそ漬け実験をやってみようとすることが、審理の準備の目的を超えたことに当たるのではないかと懸念して、萎縮効果が生じるおそれがある、と理解しています。 ○宮下参考人 なかなか難しいと思うのですけれども、やはり僕は、今聞いたお話で言うと、真実を明らかにするために使われる分には、それは許されてもいいのではないかと思いますし、事件の本質を伝えるために、例えば報道機関がそれを報じることも許されていいのではないかとは思います。ただ、それが捜査あるいは今後の事件、今後の一般的ないわゆる事件捜査に影響するですとか、あるいは証言してくれた方のプライバシーが守れないとか、あるいは何か実害が生じるということであれば、それはまた別かなとは思っていますけれども、今伺った範囲では、すみません、少し不勉強で答えになっていないかもしれませんが、そんなふうに感じました。 ○田岡幹事 ありがとうございます。 ○大澤部会長 ほかにはいかがでございましょうか。それでは、このヒアリングはここまでということにさせていただきたいと思います。   宮下様、本日は非常に有益なお話を頂きましてありがとうございました。お話しいただきました内容につきましては、今後の審議に役立ててまいりたいと思います。どうもありがとうございました。              (参考人退室) ○大澤部会長 以上で本日のヒアリングは終了でございます。   次回もヒアリングを実施することとしたいと思いますが、詳細が決まり次第、事務当局を通じて、できるだけ早期に皆様にお知らせしたいと思います。そのような方針で進めてまいることにつきまして、よろしゅうございますでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、今申し上げたようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。本日の会議の議事につきましては、原則的な方針といたしましては、発言者名を明らかにした議事録を作成いたしますとともに、説明資料等についても公表することとさせていただきたいと思います。もっとも、御発言内容を改めて確認いたしまして、ヒアリング出席者の方々の御意向も伺った上で、プライバシー保護等の観点から非公表とすべき御意見等、御発言等がありました場合には、該当部分は非公表としたいと考えております。それらの具体的な範囲や議事録等の記載方法につきましては、相手方との調整もございますので、部会長であります私に御一任いただくということでよろしゅうございますでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。それでは、本日の審議はここまでとしたいと思います。   次回の日程につきまして、事務当局から御説明をお願いいたします。 ○中野幹事 次回の第3回会議は、令和7年6月20日金曜日午前9時30分からを予定しています。詳細については別途御案内申し上げます。 ○大澤部会長 また次回も少し早い時間からでございますが、どうかよろしくお願いいたします。   それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-