法制審議会 民法(遺言関係)部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  令和7年3月25日(火) 自 午後1時30分                      至 午後4時14分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台⑶ 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは、予定した時刻になりましたので、法制審議会民法(遺言関係)部会の第9回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中、御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   それでは、まず配布資料等についての説明を事務当局の方からお願いいたします。 ○戸取関係官 本日の配布資料として、部会資料9「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(3)」及び参考資料9「自筆証書遺言と新たな遺言の方式(普通の方式)の各案との比較」がございます。こちらについては、後ほど審議の中で事務当局から御説明いたします。また、席上のタブレットには委員等名簿及び議事次第を格納しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは、本日の審議に入りたいと思います。お手元の部会資料9ということになりますけれども、まずは普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の在り方について、御議論を頂きたいと思います。   事務当局の方から、資料の第1の部分の説明をお願いいたします。 ○戸取関係官 部会資料9は「中間試案の取りまとめに向けた議論のためのたたき台(3)」として、本部会での議論の対象となる論点の全体像を示しております。今後、中間試案を作成した上で意見募集を行うという観点から、本文をどのような内容にしていくべきかを中心に御議論いただければと思います。その上で、部会資料9は部会資料7及び8をベースにしておりますので、これらの資料からの変更点を中心に御説明いたします。   第1では、普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の在り方についての規律を提案しており、1では、デジタル技術を活用した新たな遺言の方式として、従前の資料と同様、三つの案を記載しております。   まず、甲案では、遺言の全文等が文字情報として記録された電磁的記録によって遺言をすることとし、証人の立会い及び録音・録画を要件とする方式としております。部会資料7からの主な変更点としては、本文の①、④及び⑤に関し、(注1)において、遺言者が自ら入力して記録等をする必要はなく、遺言者の指示を受けた証人等の第三者が記録等をすることも許容されることを記載しています。なお、この点は乙案の(注1)及び丙案の(注)において、それぞれ同様の記載をしております。また、甲案の本文の②では、遺言者による遺言の全文の口述を要件としていますが、(注2)では、遺言者の負担等を考慮し、遺言者が遺言の全文を口述することに代えて、遺言の趣旨を口述するものとする考え方もあると記載しております。さらに、本文の⑤の結合について、(注5)では、ワード文書に動画ファイルを挿入することなど、二つの電磁的記録が電磁的な方法により結合され一体となっていることを意味した表現としている旨記載しておりますが、そこまでは求めず、単に二つの電磁的記録を「一体のもの」と表現し、一つのフォルダに二つの電磁的記録を保存することで足りるとすることも考えられる旨を記載しております。   乙案では、遺言の全文等が文字情報として記録された電磁的記録によって遺言をすることとし、公的機関が保管申請時の本人確認など真意性・真正性の担保等のための外形的な確認、これを本人確認等といいますが、こうした本人確認等を行った上で保管することを要件とする方式としております。部会資料7からの主な変更点として、③において、遺言者が保管申請をするときは、遺言者が本人であることを明らかにするとともに、公的機関に提供した電磁的記録が自己の遺言に係るものである旨を申述することを求めていること、(注3)において、本文記載の方法では遺言者の真意性・真正性の担保等が必ずしも十分ではないと考える場合、真意性・真正性の担保等をより一層図る観点から、(ⅰ)から(ⅲ)までのいずれかの方式要件を付加する考え方があることを記載しております。   丙案では、従前と同様、遺言の全文等が文字情報として記載された書面(プリントアウトした書面)によって遺言をすることとし、公的機関が保管申請時の本人確認等を行った上で保管することを要件とする方式としております。   (後注)では、甲案から丙案までのほかに、これまでの御議論を踏まえ考えられるものとして、遺言の全文等が文字情報として記録された電磁的記録によって遺言をすることとし、民間事業者が情報処理システムを用いて本人確認等を行うことを要件とする方式とする考え方について記載しています。その具体的な内容としては、顔貌認証等の生体認証技術、電子署名、録音・録画等のデジタル技術を複数活用した情報処理システムを用いて作成することにより、オンラインで本人確認等をすることが考えられるところ、そのような方法により遺言者が実質的に一人で作成することができることを想定しております。その上で、作成した遺言に係る電磁的記録についても当該民間事業者において保管する規律を設けることの要否や、監督官庁による民間事業者の監督の必要性等については引き続き検討することを要することを現時点では記載しております。   補足説明につきましても、部会資料7からの変更点を中心に御紹介しますと、5ページの1(3)では、録音・録画した電磁的記録自体を遺言とする案について本文で記載していない理由のほか、本文の各案では、全文等が文字情報として記録又は記載されていれば足り、ワープロソフト等を利用して全文等を入力するほか、デジタルタッチペンを利用して全文等を入力する方式も許容されることになる旨記載しております。   8ページ以降の3では、公的機関における本人確認等の在り方について記載しており、11ページの(4)では、遺言能力を有すべき時期について記載しております。乙案及び丙案については、遺言は保管時に完成するとの考え方を採るため、そうであれば、保管時に遺言能力を有している必要があると考えられます。そうすると、入力時には遺言能力があったものの保管時には遺言能力を欠いている場合、当該遺言は無効となると考えられますが、公的機関による保管申請時の本人確認等をもって真意性・真正性の担保等が図られるのであるから、やむを得ないものと考えられる旨記載しております。   本文第1の1についての御説明は以上です。  その上で、規制改革実施計画において、現行の自筆証書遺言と同程度の信頼性が確保される遺言を簡便に作成できることが求められていることを踏まえ、甲案、乙案、丙案、又は(後注)を含めて、更なる検討があり得るかにつきましても、本日御意見を頂ければと考えております。すなわち、これまでの御審議におきまして、信頼性、つまり真意性・真正性の担保等が重要であることについて多く御意見を頂いております一方で、もう一方の要請である簡便性、つまり遺言者にとっての利用しやすさ、作成のしやすさといった観点からの御意見もあるところであり、利用しやすさ等の観点から、甲案、乙案若しくは丙案について更なる工夫があり得るかどうか、又は(後注)のような考え方も含め、ほかに考えられる案があるかなどにつきましても、更なる御意見を頂ければと存じます。   次に、23ページ以降の2では、保管制度の在り方について記載しております。部会資料7からの主な変更点としては、(3)の指定者通知を本文に記載したこと、(注1)において、保管を行う公的機関として法務局とすることが考えられる旨を記載したこととなります。   27ページの3では、日付について記載しております。表現を修正しておりますが、実質的な内容に変更はございません。   31ページの4では、加除その他の変更、撤回について記載しております。(1)の加除その他の変更については、表現を修正したのみで、実質的な内容に変更はありません。(2)の撤回については、保管制度の対象としない場合、遺言を破棄することによる撤回を認めないA案に関して、(注)では、証人による立会いの下の破棄など一定の場合に遺言を破棄することによって撤回することを認める規律を設けるものとする考え方について記載しております。また、保管制度に基づき保管される場合、保管の申請の撤回をした場合には遺言を撤回したものとみなすとともに、当該遺言に係る情報を消去する旨の規律を設けるものとするC案に関して、(注)では、裁判所から照会等があった場合に対応できるよう、撤回をしたときでも遺言に係る情報は消去しないものとする考え方について記載しております。   あわせて、参考資料9についても簡単に御説明いたします。参考資料9は、これまでの会議で各案を比較した分かりやすい表などがあれば望ましいとの御意見があったことを踏まえて作成したものです。内容としては、自筆証書遺言と本文1の各案について、作成方法、作成場面のイメージ、主なメリット、デメリットを簡潔に記載したものですが、その内容を含めて御意見をいただければと思います。   部会資料9の第1及び参考資料9についての御説明は以上となります。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。ただいまの説明の第1の1の最後の部分についてですけれども、簡便性の観点から更なる工夫があり得るどうか、更なる御意見をという補足の説明がございました。私自身は、今回の資料の案は、部会における従来の議論状況に照らしますと、委員、幹事の御意見の大勢に比べて、あるいは、おおよその意見の分布状況に比べて、既に簡便性をより重視した案になっていると感じております。それでも事務局としては、更に簡便な案があり得るのではないかという方向の御意見があれば是非伺いたいということで、今回急遽このような形で皆さんにお尋ねをすることになったものと理解をしております。もちろん、より簡便な案で適切なものがあれば、是非伺いたいと思いますが、他方、簡便性への配慮を勘案した上で現在の案になっているのではないか、あるいは、従来の議論からすると、この案はむしろ行きすぎているのではないかという御意見も当然あろうかと思います。そうした御意見も併せて伺いたいと考えております。これらの様々な御意見を再度伺った上で先に進みたいというのが先ほどの御説明の趣旨であろうと私は受け止めているところでございます。   以上、私の方から補足をさせていただきました。   ただいまの事務当局の御説明について、まず、何か質問があればお伺いしたいと思います。 ○小池委員 今の点ですけれども、より簡便な方式ということで、甲、乙、丙とは全く別のということを想定していらっしゃるようですけれども、例えば、甲のところで証人の要件をより緩くすると、多分言われていたことに対応するのではないかと思いますので、無理に別のことを考えて出すということだけではなくて、甲、乙、丙を更にもう少し簡便にしていくという方向も、先ほど部会長から、これでも簡便ではないかという御意見があったということですけれども、甲、乙、丙をより修正していくという形の対応もあり得るのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承りました。もう今、御意見を頂きましたので、御質問と御意見を併せて、皆さんから御自由な御発言を頂きたいと思います。 ○隂山委員 隂山でございます。今回の新たな遺言の方式の在り方全般として、遺言者の最終の意思を適切に執行することが重要であると考えるところ、遺言を発見することができる環境がとても重要だと考えています。このような視点で、甲案から(後注)までにつき、意見を述べさせていただきます。   まず、甲案につきまして、証人の氏名に加え住所も記録事項になっており、将来的な紛争などが発生した場合の手掛かりが増えたのではないかと捉えています。もっとも相続人からすると、そもそも遺言の有無に関する手掛かりは少ないようにも思われます。また、遺言者の所有する端末等に、甲案の方法によって作成された遺言が保存されている場合、端末等がロックされていると、ロックを解除する作業等から検討しなければなりません。遺言者の負担に加え、相続人の負担にも目を向けますと、円滑な相続手続を実現できるか、引き続きの検討を要するように考えております。   乙案につきまして、③では、いわゆるeKYCの方法による本人確認についても検討の余地があるという趣旨と理解しております。この点につき、8ページでは、同居の親族等が遺言者の署名用電子証明書のパスワードを管理している実態も一定数あると想定されると説明されており、実態としてはそのような想定ができるようにも思われます。他方で、マイナンバーカードによる身元確認保証レベルや当人認証保証レベルは最高レベルであると位置付けられており、これからの社会全体のデジタル化を検討するに際して重要なインフラであると理解をしています。マイナンバーカードの署名用電子証明書のパスワードの管理については本人による厳格な管理が本来的な在り方であり、そのような意識が重要になるところ、直ちに妙案を持ち合わせているものではございませんけれども、説明において多少の工夫が必要になるのではないかと感じました。   なお、8ページの下から4行目では、ウェブ会議等の画面越しの本人確認の方法が記載されておりますが、この方法は現状の犯収法施行規則第6条第1項第1号ホの方法に近いものであると捉えております。非対面取引における本人特定事項の確認について、現在、犯収法施行規則の改正に関するパブコメが実施されており、そこでは、ウェブ会議等の画面に本人確認書類を提示させる方法は本人確認書類の偽造を見抜くことが困難であるという観点から廃止する案が示されています。公的機関における本人確認等の在り方についても、全体的な動向を踏まえて検討する必要があると考えています。   丙案につきまして、本年3月10日より東京法務局において遺言書保管制度のオンライン手続の試行が始まっていると存じます。オンライン手続がどの程度の範囲まで拡大するか、現状分かりませんけれども、試行の範囲が拡大した場合、丙案において全文を自書した上でオンラインの方法で保管申請した場合と、遺言書保管制度におけるオンライン手続との差異が分かりにくくなるのではないかという印象を受けております。   最後に、(後注)ですが、部会資料7の(後注)では、乙案に関連してとされており、飽くまでも公的機関が保管することを前提にしていたように捉えておりますけれども、部会資料9の(後注)では、民間事業者が情報処理システムを用いて本人確認等を行うことを要件とする方式とした考え方とされており、乙案に関連したものというよりも、別案という要素が強くなっているようにも思われます。   現時点での想定といたしまして、例えば22ページにあるような、民間事業者が提供する遺言作成アプリなどを活用しつつ、作成の過程においても本人確認を行い、そのまま民間事業者が新たな方式の遺言の保管を行うことがイメージされているのでしょうか。   先ほど、規制改革の動向などを踏まえてということもございましたけれども、甲案から丙案などをベースに、こちらを更に簡便化することができるか否かを検討しつつ、また、(後注)のような考え方につきましても引き続き検討していきたいと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほど小池委員からは、甲案から丙案を見直すという形で簡便性の要請にこたえていくということも考えられるのではないかという御発言がありました。隂山委員もある意味でそういった方向で、(後注)も含めてということでしたけれども、見ていく必要があるのではないかということだったかと思います。甲、乙、丙について、それぞれ要件等の点をおっしゃっていただいたかと思いますけれども、丙案については現在の遺言書保管法とのすみ分けというか、その部分について明確にする必要があるのではないかという御指摘も頂いたところです。一つ御質問ということで、(後注)の位置付けについて、従前は言わば乙案のバリエーションというような形の位置付けになっていたけれども、今回の案はどうなのかという御趣旨の御質問だったかと思いますが、これについてお答えを頂ければと思います。 ○齊藤幹事 齊藤でございます。確かに今回の(後注)は、三つの案に並べての(後注)になっておりますので、そういう意味では立て付けには御指摘の性格があるかなと考えております。ただ、それも含めまして、(後注)のような案が今後あり得るのか、それについてどの程度の記載を残していくのがよいのかについても、この際、御意見いただければと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。 ○倉持幹事 今話題に挙がっている(後注)についてですけれども、これは狙いとして、証人も不要とし、公的機関の届出も不要とし、という方向性ができるかどうかということですけれども、二点質問がございます。   まず、民間事業者ということですけれども、これについてはどのような事業者なのでしょうか。弁護士会の議論でも、終活事業者は信頼できるのかどうかという相談が弁護士に来たりというのもあり、不動産業者もできてしまうのかなどの様々な懸念もありまして、この事業者のイメージを法務省の方で持たれているのかどうか。事前レクの際には、商法の船荷証券で電子化がされているので、それも参考にしているみたいなお話は頂いたのですが、これはまだ要綱案であり、法務省令の定めるところによりというものしかなくて、具体的なイメージが持てないというのがございます。既に始まっている制度の中だと、例えば、これは少し違うのかもしれませんが、手形の電子化について、電子記録債権法における電子債権記録機関のようなものをイメージされているのかどうかということもお聞きしたいと思っております。   さらに、どういう民間事業者であるかについては、アメリカの制度について第6回の部会で常岡先生からヒアリングで御指摘いただいた適格保管者という制度があったかと思いますけれども、こういうものもイメージされているのか、イメージしているとして、アメリカの適格保管者というのは実例として、例えばどんな会社がどうやっているのかとか、その辺がイメージできる何か具体例があるのかどうかをお聞きしたいと考えております。   2点目は、このような事業者が何を行うのかということについてです。本人確認等とありますが、本人確認だけではなくて、遺言の特性から来るところの真意性の確保ということも含む趣旨かと思いますが、今挙げた船荷証券であったり手形の電子化については、本人確認はするのでしょうけれども、真意性という観点はなくて、これは新たな取組になるのかなと思いますけれども、これについてはどのようなことを考えているのか。(後注)の記載からすると、情報処理システムとして複数のものを兼ね合わせるということですが、これを実際にやろうとすると多額の費用が掛かって、それなりの資金力があるところでないとできないものを想定されているのかどうなのか、そういった観点からも御質問したいと思います。   それに関連して、真意性の審査ということになると、本人確認の一義的なものではなくて、後日このような遺言が本人の真意に基づくかどうかについて将来、紛争の対象になるのかどうかみたいな将来予測、法律上の紛争に関する判断みたいな要素も何か出てくるのかなという気もして、そうだとすると、内容次第では非弁行為との関係が若干気になるものですから、もちろんそういう方向での制度は考えていらっしゃらないとは思うのですけれども、具体的に何をするのかについては、弁護士会としても関心があるところなので、質問させていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。倉持幹事からは、(後注)について、制度のイメージあるいは本人確認等の「等」というところで、真意性について何をしようと考えているのかといったことについて御質問がありましたので、これもお答えを頂ければと思います。 ○齊藤幹事 まず、どのような事業者か、信頼できるところなのか、どんな主体を念頭に置いているのかという点につきましては、まずは資料にお書きした限度であり、そこからの具体化を端的にお示しする状況では今はないと理解しております。例えば、言及のあったような電子債権記録機関は、これはその幅の中でも一番重たいイメージに近いと思っておりまして、そうであれば、しっかり監督をして認定をしてというような仕組みになるのが通常、親和的な在り方かなと思っております。他方で、単純な機械的な本人確認、これを技術をもって行うということであれば、より軽い、一番軽いような在り方で、そこでは実体的な判断や真意性の確認を行うということも想定しないのであれば、非常に軽い在り方になるのかなと思っております。やはり法制的にも、あるいは費用的にも、かなりコストや手間等の問題があるかと思いますので、現状これまで頂いた御意見を基に、どんな現実的な方向性があるのかないのかは、少し次回に向けて検討したいと考えております。その中では当然、弁護士法を含め、既存の法令との兼ね合いはクリアしなければならないと思っております。 ○相原委員 相原でございます。今の質問と少し重なるのかなと思いつつ、やはり民間事業者を使っての簡便な制度を構築するということであるとすれば、いわゆる継続性の問題、それから監督の問題、それから、民間事業者が何をするのかという視点をある程度考えておかなければ、意見を聴くことは無理だろうと思うわけです。   民間事業者を使って簡単に自筆証書遺言と同じぐらいにできますと言われて、抽象的だとすれば、それはいいのかな、みたいについ思ってしまいがちですけれども、民間事業者といっても営利団体なのか、公益的な法人も想定するのか、弁護士会とか、ほかの士業的な団体の可能性があるのか、ないのか。多分ソフトの関係ではなかなか対応できないだろうなと思うわけなのですけれども、それで、個人というのは永続性の観点からは、事業者という形にはならないのかなと一方的に思った次第です。もし何かここら辺のところで、(後注)に書かれている以上のことはありませんとおっしゃることなので、質問しても、検討事項ですという回答かもしれませんけれども、何か分かれば教えていただきたいということです。   それからあと、簡便といっても保管制度、それから証人となると、甲と、それから乙、丙とすると、やはり人間が登場するシステムかと思うのです。証人だとすれば、口授しているところを横で立ち会うと。ですから、法務局もどこまで関わるか分からないですけれども、少なくとも生身の法務局の方がチェックすると。民間事業者がやるといっても、先ほどから本人確認と言いますけれども、それはクリック、クリック、それで、映像が出てきて、合致する、それで進むみたいなので、特段事業者の誰かが関わる、そういうものではないということなのでしょうか。そこのところだけ、民間事業者がやるといっても、いわゆるソフトで、特にこれから先、AIみたいなのが進んでくると、もうそこに入り込んでクリック、クリックして、マイナンバーカードの画面が出て、何とかですかで、はいとか言ったら、それで進むみたいな、証人レベルのアナログなものが一切関与しない簡易なやり方みたいなのが想定されているのかどうか、そこだけ教えていただければと思いました。   それとあと最後に、ヒアリングのときに、フランスかどこかの公証人がフォームを提供してそれに関わる、だけれども実際のところは本人が自筆で書いて、最後、公証人の方は遺言執行者みたいな形で進んでいくと御説明があったかと思うのですけれども、民間事業者が関わるとすれば、通常は遺言執行者になりたいよなと想像されるわけなのですけれども、そういう制度で、費用的にも安く上がりますよみたいな流れに、もしなるとすれば、そういうふうに進んでいくのではないかと想像されたものですから、そこら辺について何かお考えがあれば、教えてください。 ○大村部会長 ありがとうございます。相原委員からも御質問を頂きました。これも一言で言ってしまうと、やはり制度のイメージについてということで、民間事業者ということであると幾つかの要請があるのではないか、それを満たすものとしてどんなものが考えられるのか、あるいは事業者が関わるというのだけれども、その関わり方はどうなのか。あるいは、先ほども外国法についての言及がありましたけれども、他国で行われているような制度との関連付けではどうなのかといったことについてお尋ねがあったかと思います。よろしくお願いします。 ○齊藤幹事 可能な範囲でお答えを差し上げたいと思います。まず、信頼できるものなのかどうか、あるいは個人では永続性が保てないのではないか、そういったものはもう全て、仮に民間事業者が一部でも遺言の作成に関わるとすれば、必要な要件、要素の一つになってくるかと思っておりますので、その範囲の中で具体化できるものがあるかどうかということになるかなと思っております。   それから、公的機関や証人という意味では、生身の人間が関わるのと比べて、デジタル的な、技術的なものだけで進むイメージなのかという御質問もございまして、ここについてはどちらかというと、人が関わるイメージもあり得るかとは思いますが、ただ、そこは技術を求めて民間の技術を用いるということであれば、どちらかというとアナログな人による確認という要素からは遠いものがイメージされているのかなと、表現できているかどうかは別として、思っております。   それから、最後の外国法との比較については、そういった業者では遺言執行者も担当したがるのではないかとか、そういうこともあり得るので、それも検討した上で適否を考えなければいけないと思いますし、逆に極端な例から言うと、何か病理現象というか、好ましからざる業者の介入を招くような余地のある仕組みというのは、もちろん排除しなければならないと思っております。   抽象的な状況で恐縮ですが、以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。 ○齊木委員 いつもながら世間の流れにさおを差すようで恐縮ですが、私は国民の皆さんが遺言を作成する目的は、簡便なものを作りたいということではないと考えております。皆さん、やはりこのまま遺言を作らないでおいたら自分の死後、何か争いとか財産的な問題が生ずるのではないか、その紛争を予防したいと、そういう意図から遺言を作るというのがほとんどではないかと思っております。もしそういう遺言者の方の目的にこたえるのであれば、紛争を防止できる方式を考えなければ、それはユーザーのニーズに合っていない。規制改革推進会議の人たちはお若い方が多いので、実際のユーザーとは乖離しているのではないかと私は思っています。   実際のユーザーはどうなっているかと申しますと、最初に御説明申し上げましたように、公正証書では80代が中心です。80代の方というのはどういう方かというと、判断能力が少しずつ衰える時期です。かつ、人に影響されやすくなってくる年代です。公正証書遺言を手配するのは、実は御本人の場合もありますけれども、半分より上は財産をもらう人、遺言を作成してもらう人が弁護士さん、司法書士さん、行政書士さん、各種団体、会社もありますけれども、そういうところに依頼してコーディネートをするということが多いのです。そういう実態を踏まえると、本当にその方の真意なのかをきちんと確認しなければ適切な遺言というのはできないし、本当の意味での紛争の予防はできないと私どもは考えています。   真意の確認の方法について、これまでどういう議論がされたのかというのをほかの分野でも見てみますと、例えば、今、保証意思宣明公正証書では、連帯保証するには保証意思を確認しろということになっています。実はこれについては、公証人法でデジタルでウェブ会議でできるのに、これだけは除外しろと日弁連から強い申出があって、除外されています。その理由は、ウェブである場合には真意が十分確認できない。それはなぜかというと、債権者の影響下に置かれてウェブにつながるかもしれないからです。つまり、その発言なり意思を表明するときに、ほかの人からの不当な影響を受けないような環境でやらなければ、真意は確認できないというのが一般的な理解だろうと思います。そのために、公正証書はリモートでも作れるようになったのに、遺言については、これは非常に慎重に対応しろと、原則として駄目だというのが日弁連、司法書士会、行政書士会からの一致した意見であります。有識者会議も出ています。このように、不当な影響のないところで本人の意思を確認する必要がある。しかも、裁判例によると、公正証書遺言でもいきなり本文を公証人が読み上げて、はいと言っただけでは駄目だという判例があります。無効にされております。つまり、本人とのキャッチボールがきちんとできないと駄目だというのが真意の確認だというのが裁判例であります。   ところで、現在出ている甲、乙、丙案は、これらの真意性の確認について十分な配慮が全くなされておりません。したがって、私としては賛成できるものがないというのが率直な意見でございます。より簡便にとおっしゃいますけれども、やはり事後の紛争を巻き起こす、紛争が起きたときに、きちんとした遺言であるということが立証できない方式であれば遺言を作る目的が達成されない、このように考えております。   もう一つ、簡便性について申し上げると、実は何が簡便かは人によって異なるということを御理解いただきたいと思います。以前、参考人からの御説明がありましたように、確定申告で7割の方が電子署名をしております。実は私の家族は全員電子署名できますし、うちの役場ももちろん全員できます。でも、ここでの議論を聞いてみると、電子署名なんて要求したらすごく重いものになって簡便ではないとおっしゃるのだけれども、それは本当ですかと、世間の7割の人が確定申告で使っているときに、それが簡便でないというのは本当ですか、世間の実態とずれていませんかと思います。   私の意見としては以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。齊木委員からは、簡便性ということではなくて紛争予防ということがより重要なのではないか、保証における真意確認の方法等と絡める形で御意見を頂きました。また、簡便性の中身について考え直す必要があるのではないかという御指摘を頂きました。それから、甲から丙については、どれにも賛成できないという御意見を頂きました。そういうことでしたね。 ○齊木委員 もっと細かく言いますと、甲については偽造防止の措置ができていないですね。もっと具体的に、このやり方でどういうことが起きるかというと、遺言者が遺言書をワードで作って、ビデオを録画させる。だけれども、亡くなった後に誰かがそのビデオを少し細工して入れ替えたり、例えば、財産を長男にはこれこれ、二男にはこれこれ、三男にはこれこれと与えているところの、その一部の画像のデータを入れ替えるだけで、長男、二男、三男に与えるものを簡単に変えることができるのですね。ワードももちろん変えることができます。ワードにはタイムスタンプがありますけれども、今はタイムスタンプを変更するアプリが普通に検索すれば出てくるのですね。だから、そんな偽造の防止の措置が全くない、非常に危険な案ではないかと思っております、甲案で。   乙案と丙案は、真意性の確認をどうやってやるのだろうと。ちらちら見ると(注)の辺りにウェブだという話が出てきますけれども、ウェブでは真意は十分確認できないというのがこれまでの議論ではなかったのか、法務省はいつから変わったのかと私は思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲案と、それから乙、丙案のそれぞれについて、御疑問の点を具体的に御指摘を頂いたと受け止めました。 ○戸田委員 ありがとうございます。今の齊木先生の話とも関連するのですけれども、参考資料9の比較表において、乙案、丙案のデメリットということで、「自筆証書遺言と対比すれば、遺言者が十分に理解しないまま真意に基づかない内容の遺言を作成する危険性がある」ということで、自筆証書遺言と対比して真意性が劣るような書き方になっているのですけれども、これは特段、自筆証書遺言と大きな違いはないのではないかと思います。出来上がった遺言自体に真意性があるかという観点で行きますと、今おっしゃったような偽造、変造が容易な紙の遺言に比べて、乙案、丙案、これは同等ではないかと思います。特に紙の場合は、本文が不当な威圧によって作成されたものかどうかというのは判定できないし、最近ではAIを使って本人の筆圧、筆跡、これを全く同じレベルで手書き文書を作るといったことも可能になっておりますので、形式的に名前だけ署名した可能性も否定できないということになりますと、大きな差はないのではないかと思います。   一方、乙案、丙案で本人確認を行う点について、この場合、通常であればマイナンバーカードの電子署名、それからチップ内の顔画像との照合、これをやるというのが一般的ではないかと思います。そういったことを遺言書保管官の方の面前で行ったということであれば、一定の真意性を担保できるというようなこともあり得るのではないかということで、比較表の表現としては少し見直していただいた方がいいのではないかと思いました。   それから、簡便性に関してなのですけれども、遺言作成で負担の大きい、特に遺産の正確な把握であるとか、記述であるとか、それから、争いを生じさせないような適切な配分案、これに関してはいろいろな不動産、税の知識が必要になるということで、こういったものを考案する上でのサポートであるとか、あるいは、資産が遺言作成後に変動が起きたときに修正等のアドバイスを行うとか、こういったことが考えられると思います。こういったものはアプリとかオンラインサービス、いろいろな民間サービス等で実現可能だと思いますので、これらを活用して出来上がったものを一連の手続の中でオンラインで保管できるようになれば、十分簡便なのではないかと思います。そういったことが可能な今回の記述になっておりますので、これ以上特段、簡便さを追求する必要もないのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。戸田委員からは、乙案、丙案について、自筆証書遺言とそれほど違わないのではないかということで、そういう前提で資料等を整える必要があるのではないかという御指摘、御意見を頂きました。それから、簡便性についてはアプリとかオンラインとかというようなことで一定程度のものが図れるということで、現在の資料の書きぶりでよいのではないかという御意見として承りました。   ほかにはいかがですか。 ○齊木委員 戸田委員にお尋ねしたいのですけれども、この乙案、丙案の(注1)には、遺言者の指示を受けた第三者が記録してもいいとなっているのですが、戸田委員はこれはどうお考えでございますか。自筆証書遺言は自分で全文記載しなければいけないのです、第三者に記載させてはいけないのですけれども、これは(注1)と同じお考えでいらっしゃるのでしょうか。 ○大村部会長 戸田委員、もしお答えいただけるようであれば。 ○戸田委員 (注1)の理解としましては、遺言者の指示を受けた第三者が記録するというのは、これは記録についてのことをおっしゃっているのではないのでしょうか。 ○齊木委員 いえ、乙案の①を御覧いただくと、遺言の全文及び氏名を記録と書いてあります。その記録を指していると承りますけれども。 ○大村部会長 どういう趣旨なのかを確認した方がいいですかね。事務当局の方から、ここの趣旨について、まず補足の説明をお願いします。 ○齊藤幹事 乙案の(注1)、それから丙案の(注)には、遺言者の指示を受けた第三者が全文を記録、記載することも許容されることを前提としているという記載がございます。これは、齊木委員がおっしゃるとおり、自筆証書遺言では本人自ら筆を走らせるのが要件であるのと比較して、それを要件とはしないということをあえて乙、丙では明示しています。これは、デジタル化の世界になって、やはり遺言者本人による全文入力はなかなかハードルが高いということも議論の中で何度も出てくる御指摘ではあり、そこを踏まえたものということになります。   そういう意味で、入力というか本文を作成する場面においては、本人の関与というのは自筆相当ではないところはあるのかなというのが資料を作成した側の整理でございます。他方で乙、丙案は、別の場面、別の観点から本人の関与を確保するという思想という気がしますので、そういう意味では、戸田委員がおっしゃったように、技術的なものを活用して、電子署名あるいは顔認証等を掛けながら、手続に御本人自らが関与しているということをもって御本人の真意の確認ができているのではないか、こういう御趣旨かなと私の方では理解いたしました。   理解がもし誤っていれば、また補足いただきたいと思うのですが、お二方の御意見は少し場面が違うというか、齊木委員の御発言は、やはり入力の場面において、自ら本文を表現することをしっかり重視されている印象を持ちましたし、戸田委員の方からは、本人の関与を技術的な観点からしっかり確認できれば一定程度、真意が担保できるのではないかということで、別のお考えをそれぞれ述べられたのかなという理解でございます。 ○戸田委員 ありがとうございます。私も今おっしゃったような趣旨で合っていました。実際の作成自体は、例えばAIを使って作らせて、コピペするといった方が本人の真意をより的確に表現できるといったような可能性もありますので、そこについては手書きである必要はないのではないかとは思います。手書きとコピペの研究というのは最近はよくやられているのですけれども、記憶の定着力みたいなところは手書きの方が優れるというようなことがあるのですが、真意であるかどうかについての研究というのは特段、私の調べた限りでは、ありませんので、出来上がった結果の遺言自体が本人の本当に希望するところを表現できるかどうかについては、いろいろな技術に特化したさまざまなサポートを受けて作成するといった方が、より確実になる可能性もありますので、そこについては特段、こうしなければいけないというような規定は特に考えとしては持っておりません。 ○大村部会長 ありがとうございます。齊藤幹事からの御説明で、この資料の趣旨は明らかにしていただいたかと思います。その上で、戸田委員の御意見というのは、全体として自筆相当ということが確保できるのではないか、こういったお考えなのだろうと思います。これに対して、齊木委員は、それはそうでなかろうというお立場なのではないかと思って伺っております。   ほかにはいかがでしょうか。 ○隂山委員 隂山でございます。先ほど齊木先生から御指摘がございました、甲案において偽造防止ができていないのではないかという御指摘、現状の案では恐らくそのとおりなのだろうと考えております。それを防ぐ方策といたしましては、先ほどから出ております電子署名技術を活用していくという方法があるように捉えています。また、御発言がありましたタイムスタンプ、恐らくこれはワードなどのプロパティー上に表示される時刻を変えることについては無償のアプリなどでも容易にすることができるという御趣旨かと思いますけれども、30ページの(注1)などに書かれております時刻認証局が発行する時刻証明情報、公開鍵暗号方式を用いて電子署名と同様の技術で時刻をしっかりと認証するようなタイムスタンプが付与されている場合には、プロパティー上の時刻をずらすことができたとしても、そのデジタルデータに関する時刻証明、存在証明につきましては確保することができるかと考えております。   また、電子署名、先ほど齊木先生から、税務申告につきまして多くの方が電子署名を付与しており、さほど負担はないという御趣旨の御発言もあり、私自身も、電子署名につきましては現状、スマートフォンなどがあれば付すことができるものですから、過度な負担にはならないのではないかと考えている一方、タイムスタンプにつきましては、マイナンバーカードのように無償で付与することができるという性質でもなく、従量課金という性質もございますし、また、一定期間が経過する際にはアーカイブタイムスタンプを付与していかなければならないのではないかといった課題もあるものですから、遺言者本人がタイムスタンプを付すことに関しては、その辺りを含めて、これが負担となり得るかどうかという観点からの検討が必要ではないかと理解をしております。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほど齊木委員から、甲案については偽造の防止についての配慮が足らないという御指摘がありましたが、隂山委員の方からは、確かに現状ではそうであるけれども、タイムスタンプについて別の方策をとれば対応できるのではないか、ただ、コストとか負担の面でそれは問題になるので、簡易かどうかというところとのバランスというのを考えなければいけない、こういう御指摘を頂いたかと思います。 ○齊木委員 隂山先生がおっしゃるような本格的なタイムスタンプの場合には、おっしゃるとおりになりますけれども、恐らく簡便性だと、もう少し一般に使われているソフトで簡単に偽造防止の措置をするためには、アドビアクロバットプロで、封筒に入れるように必要なファイルを入れて、外側に電子署名をすると、それで偽造防止の措置ができるのです。あのソフトは司法書士さん、行政書士さんだと、大概の人は日頃の仕事に使っておられるし、公証人も実は使っておられて、それほど難しい操作ではないのではないかと実は私どもは思っていて、甲案は証人を誰かに頼むわけでございますけれども、大体頼む先としては銀行さんか士業者になると思うのですね。そういうところは全部そういう措置が実は簡単にできるようなところなので、そういう措置を入れたからといって実質的な負担増にはならないだろうと私は思います。慣れているところが証人になるわけですから、そのように考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。齊木委員のおっしゃったのは、隂山委員がおっしゃったような徹底したやり方でない中間的な方策があって、それならば協力者がいればそれほど負担にならないのではないか、こういう御趣旨の御発言だったかと思います。いずれしても偽造防止について何らかの対応をする必要があるのではないかという点では、共通の御意見を頂いたと受け止めました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○中原幹事 今回、簡便性とか利便性という観点が事務局の方から強調されていて、何か工夫が考えられないかということなのですけれども、今まで御指摘もあったとおり、前提として、どこまで簡単であれば簡便性、利便性の要請が満たされるのかということがよく分からないということがあって、恐らく皆さんも困惑されているのではないかと思います。   確かに、真意性とか真正性の確保というような信頼性の観点からこれまで議論をしてきたわけですけれども、それは民法の考え方からすると遺言の性質上、当然のことであるのかなと思います。その制約の中でも簡便性、利便性を向上させる方法があるということは、この部会資料の中でも織り込まれていて、私自身は特に甲案ですね、甲案そのものがいいかどうかという問題は今、齊木委員と隂山委員の間でお話があったところですが、甲案におけるウェブ会議の方法の使用の可否というのは重要な問題なのではないかと感じています。   本人と証人が対面していなくてよいというのであれば、正にコロナ禍のリモート会議の定着によって多くの人が使えるようになった方法、具体的には、ウェブ会議を立ち上げて、画面共有で文書を見せて、会議参加者のやり取りを録画記録に収めて、そのファイルをダウンロードするというような方法を使って遺言をするということができることになって、甲案の利便性というのが多分ぐっと上がるのだと思うのです。特に、低い年齢層にとっての負担感は相当に減ると思います。   ただ、そういうふうな簡便性の点から魅力的な選択肢である反面、14ページの下の方に書かれていますが、特に公正証書遺言あるいは公証人との比較で、ここでの証人というのが全くの素人であってもよい、第三者からの不当な働き掛けの排除が難しいと。私はもうこのことで尽きているようにも思うのですけれども、ただ、あえて簡便性を追求する方向で論じるのであれば、甲案というのは自筆証書遺言の代替であって、自筆証書遺言の場合は第三者の不当な働き掛けがあったかどうかというのはそもそもチェックできない、それよりは録画記録も要求されているのだから、その点は大きな問題ではないのだとか、私自身はこの理屈には別に賛成しているわけではないですけれども、そういった形で論じていく方がこれまでの議論との整合性がとれるのではないかと思います。   冒頭で小池委員が指摘された点に関わりますけれども、要するに、簡便性、利便性の向上を考えるのであれば、今までの部会資料にもその種というのはある。具体的には諸々のオンライン化、手続のオンライン化ですね。新しいものを急に付け加えてというような話よりは、そのオンライン化についてどういうふうに考えるのかについて、必ずしも今の部会資料ははっきりしない。そういうことも考えられるとなっているだけで、そこで簡便性、利便性を更にというようなことを考えようとしても、空回りになるのではないかと思います。そういったことを丁寧に一つ一つ検証していくのがよいのではないかと。それによって最終的に出来上がったものが全く簡便だとはいえなかったとしても、それこそきちんとした検討を通じてこういうふうな結論になったというような理屈が立つのではないかと思いました。   あともう1点、3ページに(後注)が付け加わっているのですが、隂山委員から指摘がありましたけれども、私は部会資料7からの大きな変更だと思っていて、部会資料7では乙案に関連した(後注)があり、それは今回、乙案の(注2)に移動されていますので、今回の(後注)は純粋に付け加わっている感じがします。   民間事業者を使った仕組みだということなのですけれども、仮にそれを考えるのであれば、21ページから23ページに書かれているようなことは確かに問われてくるのだと思います。ただ、一つには、確かに第4回で事業者のヒアリングはしたのだけれども、具体的な仕組みを提示していただいたのは確かその1社だと思いますので、民間事業者を使った仕組みのイメージが我々の中で出来上がっていないのではないか。それから、もう一つには、民間事業者を使った仕組みを許容すると言った場合に何が論点となってくるのか、何を論点とすべきなのかということ自体が我々の中で十分に議論、共有されていないのではないかなということが気に掛かります。   私は民事判決情報のデータベース化の検討に関わったことがありますけれども、そこでは基幹データベースの担い手となる情報管理機関、これは裁判所から民事判決情報を得て、仮名化を施して、それをデータベース化するという機関でありますけれども、その機関に要求される事柄、それに対する監督の在り方等について、かなり長い時間を掛けて議論したと記憶しています。問題となっている事項は全然違いますけれども、この遺言の文脈で出てくる民間事業者というのは、遺言という非常に重要な法律行為の作成に直接関わるわけですね。遺言の有効、無効を決定的に左右するというような重要な役割を担うわけでありまして、例えば簡単に潰れてしまっては困るし、情報が漏れるようなことがあってもいけないし、その意味で何らかの意味での監督は必須であると思われるけれども、どのような点でどのようにそれを行うのかというのはいろいろあり得る。そう簡単な話ではなくて、必要ならば我々のような民法以外の分野の方にも参加していただくというような検討をする必要があるのだと思います。   また、仮にこれが可能になれば、民間事業者はある意味、躍起になっていろいろなサービスを提供しようと考えるものと思われますけれども、その中で何が最低限必要かとか、デジタル技術が確実に日々進化していく中でどのように仕様を定義するのか、何をどこまで要求してコントロールするのかとか、様々な実体的な、あるいは技術的な問題があるのだと思います。こういった事柄について検討してみる価値は大いにあるのだとは思いますけれども、その一方で、それをこれからやるのは相当に大変なので、もし確実にそれを行うことができないということなのであれば、(後注)という形でも、余り期待を持たせる書き方はしない方がいいのではないかというような印象を率直に持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。中原幹事からは、ある意味では表裏一体を成す二つの御意見を頂戴したかと思います。一つは、最初に小池委員からの御発言にあったところでもありますけれども、甲案から丙案までの案の検討をこれまで行ってきたわけですが、民法の制度としての遺言制度の中に何を取り込み得るのかということで私たちは考えてきたのではないか、そういうものとして甲案から丙案というのはできている、その中で足らないものがあるとしたら、オンライン化、ウェブ会議等々の利用というものをどのぐらい図るのか、そこを詰めていくという方向で考えるべきではないかというのが一つ目の御意見だったかと思います。それから他方で、(後注)については位置付けが変わったのではないか、これは先ほども御指摘があったところなのですけれども、それはさて置いて、こういうものを考えるための議論がこれまでに十分にされているかというと、されていないのではないか、もちろんこれからすることはできる、不可能ではないわけですけれども、果たして本当にできるのだろうか、そう考えたときに、(後注)のようなものを現在のような形で出しておくということがどんな意味を持つのかということも考える必要があるのではないか。これは先ほど相原委員もおっしゃったところで、バラ色のものが書かれていると、皆さんがこれがいいと思うかもしれないけれども、結局やってみるとそれは無理だということになりやしまいか、こういう御発言だったかと思います。ありがとうございます。 ○冨田委員 冨田でございます。ほかの委員の先生方の御指摘とかぶる点もあるかと思いますが、まず、今回のお示しいただきました甲、乙、丙の3案については、従前の議論を踏まえた整理がなされておりまして、デジタル技術を活用した遺言の真意性・真正性を確保し、安定的で信頼性のある制度にするための厳密な考慮がなされていると思います。こうした考慮は不可欠だということは理解はしておりますが、これまでも申し上げておりましたように、今回の議論の出発点がデジタル技術を活用して遺言を簡便に作成できる方式を設けるという点にありましたので、今のままであると誰もが使いやすいものとは言いづらいのではないかと感じてございます。真意性・真正性を確保しつつも、国民が易しく理解でき、実際に使える簡便さを持ち合わせたバランスのよい方式、こうしたものを追求する観点から、もう少し要件を緩やかにできるところはないのか、今一度検討を深めていく必要もあるかと思いましたので、意見をさせていただきました。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲案から丙案につきまして、これまで検討してまいりましたけれども、今のままではやはり誰もが使えるものとは言いにくいのではないか、もう少し要件を緩めるというようなことも検討すべきではないか、こういう御意見を頂戴いたしました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○谷口委員 谷口です。大分議論が出ています3ページの(後注)のところです。私自身は、何度か出ましたけれども、去年の三菱UFJ信託さんなどの御説明のときの、あのパターンをイメージして読みました。これを甲、乙、丙それぞれにどう関与させていくかということもあり得ると思うので、やはりパターンを示さないとなかなか、あの三菱UFJ信託さんのパターンなのかとかというところを、それぞれ項目を決めて整理して出していただく、今回の参考資料9で出していただいたように、出していただければよいのではないかと。   その中には、御意見が既にあったところですが、遺言ですので、その永続性、持続性とかという項目は必ず必要だと思いますし、私自身の意見としては、実現性の方もきちんと見ていただきたいということです。簡便に使える遺言というのは、作れるだけの遺言だと意味がないので、ということは何度か申し上げますけれども、実現できるということ、今の自筆証書遺言も、各種アンケートでは公正証書遺言よりもたくさん作られているはずで、それが実際の検認は2万件もない、その中で、検認されても実際に執行完了しているものはもっと少ないはずで、そこをたくさん作っても、何のためにやっているのかということにはなるかと思います。そういった項目も踏まえて(後注)を整理して、有効なものは採用すべしということも考えてもよいのではないかと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。(後注)について、もう少し具体的な整理が必要なのではないかというのが大きな方向の御意見なのかなと思って伺いました。あわせて、簡便さということが今追求されているのですけれども、実現可能性というのがそれと並んで非常に重要な要素なのではないかという御指摘を頂きました。これは最初の方で、隂山委員だったでしょうか、発見できる環境を整えておかなければいけないといったお話がありましたけれども、そこから始まって最後、執行まで一貫して行けるのかということを考える必要があるだろうという御指摘として承りました。   ほかはいかがでしょうか。 ○小池委員 少し感想っぽい話になってしまうのですけれども、甲案で証人というのは一般的な縛り、欠格事由しかないのでしょうけれども、これを(後注)の民間業者みたいのがやって、その民間業者が遺言作成アプリとかいうのをオンラインで提供して、甲案の①、②、③、④を全部クリアしていくというのはあり得ますよねということで、先ほど中原先生の方から、前は乙案の(注)の形で(後注)があったのだけれども、それが乙案の現在だと(注2)の方に吸収されて、(後注)が独り立ちしているというような印象だということだったのですけれども、現状でも(後注)がなくても、甲案にこういう(後注)的なものが入る余地が今だとあるのではないかという気がしたのですけれども、その点はどうなのでしょうかということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。(後注)の位置付けについて複数の委員、幹事から御発言がありましたけれども、甲案の中に(後注)のような技術というものを組み込む、具体的には、証人がそれを用いてといったことは考えられないのだろうかという御指摘を頂きました。御質問ということだったですかね。 ○齊藤幹事 甲案は甲案で、これを満たせば要件としては完結しているということですので、そこに証人としてどういう方が入ってくるかも、欠格事由に該当しないということであれば、一般的にはあり得るということは言えるのかなということは考えております。 ○大村部会長 よろしいですかね。方向性としては、小池委員は甲案の中で考えていった方がいいという趣旨でしょうか。 ○小池委員 積極的にではないですけれども、放っておいても甲案の中でそういうのが出てくるのではないか、民間業者がやりますと言ってきてしまったら防ぎようがないような気はしたのですけれども。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水口委員 専ら執行を受ける立場の金融機関としてからで、過去の意見からの繰り返しになりますが、やはり第三者によるチェックという観点から考えますと、遺言作成からのタイムラグだとか、遺言作成者が御存命かどうかといった違い目から、やはり検認制度より保管制度を前提とした方が法的には安定的なのではないかと考えてはおります。   甲案につきましては、これは今回も書いていただいておりますが、金融機関に録音・録画を確認する必要が生じるというような議論が避けられないのであれば、実務上は困難を伴うということは申し上げてまいりましたので、仮に甲案となる場合は、確認義務がないということはクリアにしていただきたいとは思っていますが、ただし、これが明文化できたとしても、先ほど来、議論が出ているところではあるのですけれども、従来、執行を受ける側としては、自筆証書遺言であっても余り、遺言そのものが偽造とか変造されているというような争いに巻き込まれるというケースはそう多くはなかったところ、やはりこの甲案になることで、要はいつどういう状況で作成されて保管されてきたか分からないデジタル遺言が、証拠保全の手続にとどまる検認を経たことで、本当に有効なものとして取り扱って大丈夫なのか、偽造、変造のリスクを極小化できるのかというのは、引き続き不安に思うところではございます。そういう意味では、パブリックな保管制度とセットになった乙案や丙案が望ましいのではと金融機関としては思っております。   あと、議論が出ています(後注)のところですが、これもどこまで民間事業者にやらせるということであるだとか、また、監督官庁による許認可をどこまで厳しい内容にするかにもよるのだと思いますけれども、仮に民間事業者が相当の数登場して、かつ保管だとか執行だとかというところも含めてその民間事業者に委ねるということになった場合に、それぞれシステムの仕様というのは多かれ少なかれ異なることが予想されます。私ども単独行だけでも、初回の部会で申し上げましたとおり、月に1万件ぐらい預金の相続手続に対応しておりまして、遺言の執行を受ける側としましては、民間のシステムが作成当時にどんな仕様だったのか、偽造、変造を可能な限り排除し得る仕様に本当になっていたのか、といったことを事後的に窓口なりで確認する対応というのは、本当に実務上なかなか厳しいのではないかとは思っておりますので、やはり繰り返しになりますが、これから新しいものを作るということなのであれば、パブリックな保管制度とセットになったようなものがいいのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。水口委員からは執行の観点から、保管を前提とする方が安定的な制度になるのではないかということで、前からおっしゃっていられるところかと思いますが、乙案あるいは丙案がよいのではないかという御意見を頂戴いたしました。それとの関連で、甲案については確認義務というのがないということを明示してもらわないと実務上もたない、あるいはそれを明示したとしても、やはり偽造、変造リスクはあるのではないか、(後注)につきましても、様々なシステムが存在するということでは金融機関としては対応が難しいといった御指摘を頂いたかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○宮本幹事 2点申し上げます。民間事業者について、何度も話題に出てきておりました。既に部会内での共通認識になっていることだとは思いますが、遺言を管理するような事業を行いますと、人の財産の在りかをかなり容易に把握できるという側面があることを忘れてはいけないのかなと思います。アメリカの統一電子遺言法がどのような経緯で作成されたのかを説いた論文を読んだことがあるのですけれども、そこでは事業者がロビー活動をしたというようなことも書かれておりました。民間事業者による遺言の管理を検討するのであれば、悪用の可能性も頭に入れながら議論する必要があるように思います。なお、その論文では継続性の問題も指摘されておりました。これが1点目です。   2点目ですけれども、方式要件をどこまで簡便化するのかという議論が何度も出てきておりますが、遺言の方式要件というのはやはり真意性・真正性を確保するためのものなのだと思います。よって、例えばですけれども、今から新たに作る方式要件をより簡明なものにして、もし、より厳格な方式要件を求めるのであれば公正証書遺言を用いればいいよというような議論をするのは適当ではないと思います。論点としては異なりますが、11ページの下から5行目あたりに、遺言者において遺言能力の有無を含めた厳格な審査を求めるのであれば、公正証書遺言をすることが考えられるという記述がございますが、能力が低下しつつある者が、自分の能力判定が不安だからということで、より高度な方式を選択するということにはならないのではないかと思います。方式要件についても同様で、方式要件でもって遺言者を守れるようにしておくというのが本人にとって重要なのではないかと思いましたので、コメントさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。2点御指摘を頂きました。一つは、民間事業者が参入するという制度については、悪用、濫用の可能性というのを十分に考えておく必要があるということと、もう一つは、方式を簡便化することとの見合いで、危ないと思ったら公正証書遺言によればいいのではないかという議論はすべきではないと、こういう御指摘を頂いたかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○相原委員 相原でございます。民間事業者の話ではないのですが、今回のまとめの中で、簡便性という観点から言えば、ずっと御意見も出てきていたのですけれども、丙案において遺言の全文をプリントアウトしたものに自署だけして、それを郵送ということの御提案が今回あります。それで、前回ももちろん同じものがあったのですが、前は(注)にそれも考えられるとあったのが、3ページの丙案の②で、公的機関に対する郵送による書面の提供を認めるという形で、上に上がってきていると私は認識いたしました。そして、それについての真意性・真正性の担保のところで、ウェブで本人の意向を確認するということが聴かれていて、多分この全体の中では、ある意味一番簡単なのはこれぐらいになりそうなのかもしれないと思います。   ただ一方で、今回のデジタル技術を活用した新たな遺言の方式なわけなのですけれども、結局、遺言者がデジタル技術を使えるのかどうかで、プリントアウトしたものにサインだけするというのは、サインというのは本当に非常にシンプルなことで、名前を書くだけなのですね、その後、郵送も通常に送ればいい。あと、ウェブ方式だとすると、結局ウェブのアドレスといいますか、そういうことがその本人が管理、自分がグリップして、ウェブ会議に出られる人なのかどうかということで、これをもし全部を第三者がお膳立てして、されるということになるとすれば、その可能性があるのではないかというところを私はやはり個人的には危惧します。   一方で、ウェブを使わなければデジタルの意味はないのではないかというような、利便性の意味からの御意見も考えられるのではないかという考え方も当然あろうかと思うのですが、実態を見たときに、先ほど齊木委員がおっしゃったのですけれども、高齢者で本当にデジタル技術を使いこなせるレベルの人であればいいのですけれども、そうでない方で、周りの人がウェブを使って、若しくはデジタルを使ってやるということの場合の、この丙案の郵送、それからウェブ会議ということに関しては、必要性とかというのを全く否定するつもりはないし、今回パブコメとかで意見を聴かれるということを否定するつもりはないのですが、一方でかなり危惧があるのではないかというのをどうしても否めないというのが率直な、これは意見になるのですけれども、思いがあります。ただ、そこら辺のところのリスクを聴いてもらいたいという思いがあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲、乙、丙という中で、丙案が一番簡便なのではないか、この制度であると、ウェブが使えるという人が周りでお膳立てをしてということになって、そういう言葉は使われなかったかもしれませんが、濫用の可能性があるのではないか、こういうことを危惧されているという御意見だったかと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○戸田委員 (後注)が、やはりいろいろな受け止め方があるのだなと、皆様の御意見を伺って感じ、少し分かりにくいところがあるのかなと確かに思いました。これは二つの内容があると理解しておりまして、一つは、作成過程をオンラインでやるという話、オンラインでやることによって真意性・真正性を担保し、保全能力を高めるというようなことがあるのと、それからもう一つは、保管自体を民間事業者がやるという話と、二つあるのかなと思いまして、それは分けた方がよろしいのではないかと思いました。保管自体を民間事業者がやるというのは、先ほどの御意見もありましたとおり、なかなか考えにくいというか、いろいろな問題も出てくるのではないかと思います。しかし、オンラインを使って作成するという、簡単なイメージで行くとe-Taxのような形で、あれに真正性を担保するような技術を加味して、保管だけを公的機関がやるのではなくて、作成過程から公的機関が受けるというような可能性もあるという、そんなイメージもあるのかなと思いまして、そこの辺りを作成過程の話と保管の話を分けて記載された方がいいのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。(後注)について二つの要素が含まれているということで、分けた方がいいのではないかという御指摘を頂いたかと思います。   ほかに、いかがでしょうか。 ○齊木委員 民間事業者の利用について、まだ意見を申し上げておりませんでしたので、申し上げると、まず作成の場面ですけれども、想定されるのは、本人かどうかをマイナンバーカードを使って顔貌認証で本人確認をする、これは既に民間事業者がソフトを一般的に開発しているものです。問題は、その後のオンラインで遺言を作るときですけれども、これも作り方としていろいろあるのですけれども、ChatGPTを使って遺言を作るということは、もちろん考えられると思います。ただ、ChatGPTにこういうのにしてくれという指示が、本人が出した指示かどうかをどうやって担保するのかという問題がどうしてもある。本人が指示したのが担保できなければ、それはやはり真意性・真正性に疑問が生ずるところです。   ちなみに、ChatGPTで遺言書を作るという実験をやっている公証人がいるのですけれども、かなりレベルが高く、9割方、法的に問題がないものができるようです。ですので有効ではあるのですが、その指示を誰が出しているか、遺言者本人が出したことをどうやって担保するのかということをセットで考えないと、やみくもに民間事業者というふうになると、先ほど相原先生もおっしゃったように、ITを知っている業者が入り込んで、本人は最初に顔貌認証のところで顔を出すだけだよというふうなことで、知らない間に遺言が作られてしまうというようなことになりかねないと思っておりまして、その点についての手当てができるかどうかが重要だと、このように思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。相原委員の御発言についても言及がありましたけれども、本人確認をする、そこまではいいですけれども、その後をどうコントロールするかということが重要であって、そこが本人が作っているのだというところを確保するための仕組みというのがないと、やはり問題なのではないかというのが共通の御意見だったかと思って伺いました。   ほかにはいかがでしょうか。   おおむね皆さん、御意見いただいたと考えてよろしいでしょうか。   事務当局、よろしいですか。甲から丙、そして(後注)について御意見いただいてきましたけれども、そのほかのところですね、保管制度、そして日付等の問題について何か御発言、御指摘があれば承っておきたいと思いますが、そちらはいかがでしょうか。 ○相原委員 保管制度の在り方のところで、23ページなのですけれども、本当に些末なところです。確認だけです。2の保管制度の在り方、「(1)相続人、受遺者及び遺言執行者等」と、ここに「等」が入ったのです。前は「等」がなかったと思うのですけれども、これは何を想定して「等」を入れられたのか、それだけ教えてください。 ○齊木委員 実務的に考えられるのが、本人が亡くなって利害関係を持つのは相続人、受遺者、遺言執行者のほかに、成年後見人等が付いていて、残った財産を誰に渡そうかと、それは遺言の中身が、遺言があればそこで指定されている遺言執行者に渡さなければいけないので、そういったものを知る必要があるというのが実務的なところで、そういった意味で、ここで等を入れておかないとそういう方がはじかれると思います。 ○大村部会長 何か事務当局の方で。 ○齊藤幹事 まず、現状ある遺言書保管制度を念頭に置きながらゴシック体を記載しておりますので、そこから大きく隔たった表現をするという意図ではないという状況ではございます。その上で、少し確認はしたいと思います。 ○大村部会長 今のやり取りを含めて御確認を頂くということで。 ○相原委員 はい、別に、些末なところだったのですけれども、前と違ったので少し確認したいというだけでした。 ○大村部会長 ほかにはいかがでしょうか。2の保管制度、それから3の日付、それから4の加除その他の変更、撤回の関係で。 ○隂山委員 まず、保管制度につきまして、第7回部会で、死亡事実の通知につき、作成された遺言書が実効的に活用されるという観点から、重要な制度であると捉えている旨を述べさせていただいたところ、今般の資料で本文に上げてくださり、感謝申し上げます。また同様に、第7回部会でお尋ねをした、現在の自筆証書遺言の保管制度との関係での検索可能性につきましても、26ページ3行目以下に、一元的に行うことができると考えられるという御回答を頂いており、非常に心強く捉えております。   自筆証書遺言の保管制度における死亡時の指定者通知の対象ですが、当初は1名だったものが現在は3名まで指定することが可能となっており、今後、本格的なデジタル社会となりますと、郵送等に要する費用も場合によって不要になることも考えられるところ、新たな方式の遺言を活用した場合において、更に通知の範囲を広げていくことも考えられるのではないかと捉えております。通知を受けた者が遺言者の死亡事実を把握することによって相続手続の更なる円滑化が図られる可能性もあるため、引き続き検討することが好ましいと捉えております。   また、24ページの(注2)や25ページの(6)では、相続手続に際し電子署名のない電磁的記録は受け入れられない場合が多いという想定の下、公的機関が電子署名を講じる方向性を示してくださり、ありがとうございます。御参考までにではありますが、不動産登記では、不動産登記令12条2項におきまして、電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合における添付情報は、作成者による電子署名が行われているものでなければならないとされております。この点、公的機関の電子署名が講じられている場合には、デジタルデータを活用した遺言に基づく登記が可能になりますと、円滑な相続手続などに資するのではないかと考えています。   あわせまして、保管の申請の撤回と情報の消去でございますけれども、31ページのC案及びその(注)では、撤回した際に遺言に係る情報を消去する、又は消去しないという二択が提示されております。この点の御説明といたしまして、36ページでは、遺言の情報を消去することを望む遺言者がいることを想定していると記載されております。こういった御説明に対しましては、遺言の情報を消去することを望まない遺言者もいるのではないかといった意見もあり得るように感じています。説明の方向性といたしまして、遺言者の希望には配慮しつつも、公的機関として一度保管した情報の取扱いをどうするかといった観点から検討することも必要ではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。隂山委員からは保管について、前の案よりも改善されているという御意見を頂戴したと承りました。特に通知については、将来的に更に範囲を広げていくということも考えられるのではないかということだったかと思います。それから、撤回については少し説明の仕方を工夫する余地があるのではないかという御指摘を頂いたと受け止めました。ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。 ○齊木委員 それでは、日付については公的機関が保管を開始した日を記録するというのがよいと考えます。それから、撤回については、保管をやめるというのではなくて、やはり保管はすると、それで新しいものが遺言としては優先するという法理で対処していけばいいと考えております。というのは、私どもが日頃から遺言実務をやっておりますと、前の遺言は長女が作って大体長女が有利な遺言だったのを、2か月後ぐらいに今度は妹が妹有利な遺言を作りに来るとか、実は何回も、おばあちゃんは影響されやすいものですから、子供がどんどん遺言者作成合戦をするというのは実務的に非常に見るのです。すると、前のやつを当然、新しい方、次女の方は消去したいわけです、消したいわけです。でも、消去させると、後でどの時点のが判断能力があって真意に基づくのかを裁判所が判断したり、あるいは周りが考えたり、あるいは利害関係人が裁判を起こすのかを考えたり、いろいろするときに、残っていた方がいいと私は思います。その中身の変遷を検討して、例えば受任した弁護士さんが、これは打って出た方がいいとか、打って出るのをやめようかとか、いろいろ考え方があると思うので、そういった情報はきちんと残っていて利害関係人に開示されるというシステムにしておくのが、遺言の紛争を日頃から経験している立場からすると、よいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。日付と、それから撤回について、御意見を頂きました。特に撤回については、後で紛争になったときの対応ということを考えると、前のものは残すというのがよいという御指摘を頂きました。   ほかはいかがでしょうか。 ○谷口委員 23ページの保管制度のところで、隂山さんがおっしゃったことに絡むところで、(3)の通知のところです。3人になっているということで、郵便のコストなどを含めて3人になったと思っているのですけれども、現実に今の通知の申請書でも、選択できるのが配偶者、子供とあって、その他、実は遺言執行者という選択肢もなかったりするので、ついつい3人の中に入ってこないというようなことで、遺言執行者としては通知が来ないということがまま起こるような現状になっているかなと。きちんと意識すればいいのですけれども、できれば、執行者には来るというふうに、所与にしていただくのが一番有り難いのですけれども、せめて執行者は選ばれるようにもう少し配慮を運用の中でも頂ければ有り難いという、そういう意見でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。通知対象のところをどうするかということで、遺言執行者が入る形というのを考えていただきたいという御要望として承りました。   ほかはいかがでしょうか。 ○小池委員 31ページの4、加除その他の変更、撤回のところで、(2)の撤回のアのところで破棄の話が入っていまして、以前この会議の中で、電磁的記録なので、オリジナルもコピーもないので、1個破棄したって意味ないでしょうと、そういうことだったのですけれども、一番最初の甲案で行くと、記録を作成した遺言者本人が記録を自分で保管をするときに、パスワードとかを付けていて、そのパスワードを封筒などに入れてほかの人に託したとかいうときに、そのパスワードをなくされると中は見られませんよね。そういうのは破棄になるのか、そもそもパスワードがなくて中身を見られなかったら、それが遺言かどうかも分からないから問題にしようがないという話になるのかというのは、事前のレクチャーのときにその論点を少し聞いてみたのですけれども、その後よく考えたら、そもそもパスワードをなくしたら中を見られないのだから遺言かどうかも分からないので、問題にならない可能性もあるなと気付きまして、そこら辺のことを議論しなくていいのかどうかというのは引っ掛かったので、問題提起だけということで、お願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。破棄に関わる具体的な問題を御指摘いただいたと思います。そういうことも含めて、少し御検討いただくということかと思います。 ○水口委員 23ページ目の保管制度の通知に関し、細かい話で恐縮ですが、保管制度の通知については、今の自筆証書遺言書保管制度で指定者通知3名までということが先ほど来お話に上っておりますところ、受遺者と遺言執行者と推定相続人以外も一応指定できるのが今の制度とお見受けしております。3名という人数制限もあいまって、特に現在の運用として相続債務者たる金融機関を指定するようなことは余り行われていないという理解であり、新しい方式の遺言の保管制度においても、これと平仄をとった同じような運用となればいいのですが、もしこの人数制限がなされずに、こことここの銀行には結構預金があるから金融機関宛にも指定者通知しておこうというようなことがもしあり得るなら、実務上一応、受け身がとれるようにしておかないといけないかなと思いますので、もし将来的にワンストップサービス制度みたいなものが実現すれば、そういう世界感というのも有り得ますが、現状そこまでではないと思っていますので、この新たな遺言の方式の保管制度だけがそういうことにならないように、念のため制度設計には一応御留意を頂けると有り難いと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。通知先として債務者である金融機関がどうなるかということについて御配慮を頂きたいという御希望として承りました。   ほかにはいかがでしょうか。よろしいですかね。   それでは、第1につきましては御意見を頂戴したということで、今日の御意見を踏まえて、更に事務当局の方には御検討を頂きたいと思います。   ここで、今15時6分ですので、10分ほど休憩して、15時15分まで休憩いたしまして、その後、残りの部分に入りたいと思います。   休憩をいたします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは、再開したいと思います。   部会資料9の第1につきまして御意見を頂戴いたしましたので、続きまして、部会資料9の第2及び第3の部分を併せて御審議いただきたいと思います。   まず、事務当局の方から御説明お願いいたします。 ○石川関係官 「第2 自筆証書遺言の方式要件の在り方」について御説明いたします。本文及び補足説明、いずれも前回の部会資料8から大きく変更した点はございませんが、本文2、押印要件の丙案について、これまでの会議における御意見等を踏まえ、修正をしております。具体的には、本文について、「押印を要するものとする。ただし法定する条件(遺言者がその意思に基づき遺言をしたことを担保するための条件)を満たすときは、押印を欠いたとしても、遺言は、そのためにその効力を妨げられないものとする」とした上で、(注3)において、この法定する条件の具体例として、「裁判所が、遺言者がその意思に基づき遺言をしたと認める場合」と、「押印と自筆証書遺言書保管制度の利用とを選択的な方式要件と位置付けた上で、後者の方式要件を満たす場合」の二つを挙げております。   この点に関する補足説明については、40ページ以下を御覧ください。まず、乙案と丙案との相違点について、41ページに、丙案の主眼は、法定する条件を満たす場合に一律に救済を図るという点にあり、これに対し乙案は、救済の可否につき裁判所の個別の判断に委ねられている点で、丙案とは異なることを記載しています。続けて、法定する条件の具体例の二つについて、それぞれメリットと検討を要する点を記載しています。そのうち、「押印と自筆証書遺言書保管制度の利用とを選択的な方式要件と位置付けた上で、後者の方式要件を満たす場合」については、要件該当性の判断を容易に行うことができる上に、同一の遺言の効力の判断がまちまちになるなどして実務上の混乱を生じさせる事態等を避けることができると考えられる一方、自筆証書遺言書保管制度の利用を新たに方式要件と位置付けることになるため、現行の自筆証書遺言書保管制度の法的位置付けを変更することになること等の当否や、保管申請の撤回の可否、さらに、選択的な方式を設けることにより国民に混乱を招くことにならないか等について検討を要することを記載しております。   第2についての御説明は以上です。   続けて、「第3 秘密証書遺言の方式要件の在り方」について御説明いたします。こちらも本文及び補足説明、いずれも部会資料8から大きく変更した点はございませんが、本文2(2)遺言者及び証人の押印要件の丙案について、自筆証書遺言の押印要件における丙案と同様、修正をしております。   補足説明について前回の部会資料8から加筆した点を説明いたします。まず、甲案について、45ページ以下に、この案を採用する場合には、令和3年のデジタル一括化法による第984条の改正に際して遺言者及び証人による封紙への押印要件のみが廃止され、遺言者による証書への押印及び封印要件は維持されていることとの関係についてどのように考えるか等につき検討する必要があることを加筆しております。また、丙案について、46ページに、押印を欠いたとしても例外的に遺言の効力が認められるための法定する条件(遺言者がその意思に基づき遺言をしたことを担保するための条件)については、遺言の完成のほか、証人による封紙への押印要件の趣旨に鑑み、封紙に封じられた遺言書が遺言者本人のものであることを担保するための条件である必要があることを加筆しております。   第3についての御説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。部会資料9の第2及び第3について御説明を頂きましたが、ただいまの説明につきまして御質問があれば、まず、伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。   では、併せて御意見の方も頂ければと思いますが。 ○隂山委員 隂山でございます。まず、自筆証書遺言の押印要件につきまして、相続手続の迅速かつ円滑な執行という観点からは、甲案や乙案のように一見して明確な方式が好ましいのではないかと考えております。もっとも遺言者の最終意思の実現という観点からは、救済の余地があるということは非常に重要であると捉えています。   先ほど御質問を差し上げればよかったかもしれないのですが、丙案で仮に「裁判所が、遺言者がその意思に基づき遺言をしたと認める場合」、これを法定した場合、41ページに、裁判所の個別の判断に委ねられる乙案とは異なるとあるとおり、甲案や乙案において何らか形式違背があった場合における裁判所での救済とは位置付けが異なると理解をすればよいかという点を1点、お尋ねさせていただきたいと考えています。   また、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合が法定された場合ですけれども、遺言書保管法についても見直しを行うことになるのかという点と併せまして、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合を法定した際は、一律に救済を図るとされていることから、法務局による審査の在り方が変容することを想定しておられるかを確認できればと思います。お願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。押印の問題について2点御質問いただいたかと思います。乙案との違いということと、それから現在の保管制度との兼ね合いといったことだったかと思います。 ○齊藤幹事 まず、乙案と丙案との違いとしましては、乙案は、現行認められている判例上の個別の救済はあり得るけれども、そこも含めて現行法を法令上手当てすることはしないということかと考えております。それに対して丙案は、一定程度法令の中に定型的に有効、つまり無効にならない場合を定型的に一定程度酌み取る、そして、この酌み取るべき場面については現在も検討中で、このような体裁になっているということですので、まずは違いというのはそういう辺りかと考えております。それでお答えになっているかどうか、というところです。   それから、もう一つ、保管制度を利用した場合に押印不要とした場合には、今ある保管制度の有り様、あるいは審査の有り様にも影響するのではないかという御指摘は、それは必然、そのとおりかなと考えておりますので、そこは、もしも実体法上、押印が必要なくなる場合が保管された場合となるのであれば、それを踏まえての特則というか、別途検討を要するということになるかと考えております。 ○大村部会長 よろしいですかね。ありがとうございます。   そのほかはいかがでしょうか。特に御発言ございませんか。 ○沖野委員 ありがとうございます。今の押印のところの乙案、丙案についてなのですけれども、以前から丙案の二つの点はかなり性格が異なるということが言われていたと思います。裁判所が遺言者がその意思に基づき遺言をしたと認める場合というのは、今の御説明からも、また補足説明においても、乙案の下で解釈に委ねられる事柄とは、定型的に一律に法定の条件でこの場合には効力を否定しないとする点で、違いがあるとされるのですけれども、しかしながら、裁判所が遺言書がその意思に基づき遺言をしたと認める場合ということは、かなり一般的なことであって、個別具体的な事情から、このような習慣があるとか、あるいは取引としてこういうことがあると、花押の例なんかもそうかもしれませんが、かなり個別事情を基にこの判断をしていくということになるのではないか。その意味ではむしろ、乙案の解釈を展開し、更に花押などのような場合についても取り込むということでは、一部判例変更をした上で例外を明文化するという、乙案展開型のようにも位置付けられるように思います。   それに対して、保管の方はむしろ定型的一律に方式としての押印要件を外すというもので、かつ、裁判所が遺言者がその意思に基づき遺言をしたと認める場合というのは、定式としてまだこなれているというわけではないと思いますけれども、そういうときには一種の救済かもしれませんが、それによって効力を妨げられないということになるのは、より導きやすいように思うのですけれども、むしろ保管の方は、そのときにはもう押印は要らないという、押印を要しない場合という、正にここで選択的と書かれていますけれども、そういった規律なり効果になり得るように思います。そうすると、むしろ丙案の中身自体も二つに分けてしまう、あるいは前者の方はむしろ乙案型の方の乙案1、乙案2のようにするというようなことも考えられるのではないかと思います。   そして、保管についてなのですけれども、保管については、これもまた従前から、現在においても結局、保管の場合に押印を欠いていたら、それは押印が欠けているので、押印のところを補充してといいますか、押印をした形で保管に持って行くということなので、現行と結果的には変わらないということも指摘されておりました。   ただ、押印の難しさというのは、この押印についての捉え方が言わば過渡期にあるといいますか、すなわち一方では、もう押印というのはおよそ使われなくなっていく、例えば、これで文書が完成だということについてももう意味を持たないとか、いろいろなところで押印を使わないので、そういったことはもうなくなっていくのだから、将来にわたっての遺言の在り方としてもう不要とすべきではないかという考え方が一方である中で、他方で、どこかで下書きと完成というのを区別するときに、押印というのはなお一定の意味を持ち得る、またそれが続いていく可能性もあるという、ここの将来の見通しや、あるいはそれをどう誘導するのがいいかということについても考え方が分かれるように思います。   そういう中で、およそ押印が要らないというルートを用意することによって、もう押印などは関係ないのだという形であれば、むしろどんどん保管の方を利用することで、そちらを押していく、やがては、押印というのはもはや文章の完成にとっても余り意味を持たない、ある意味を持たないものとして将来設計をすることに問題がないと判断できるときには、更に法改正という形にすることが考えられるし、逆に、やはり完成を決定するものとして一定の意味を持ち得るということが今後も継続していくということであれば、それを評価してというか、押印に一定の意味を持たせるというものをなお継続していくという、将来の進む状況ということへの現時点での対応として、意味がある方策になるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。丙案の(注3)で挙がっている二つの事柄というのは、かなり性質が違うのではないかという御指摘で、整理をするときに、一つ目は、むしろ乙案のバリエーションとして位置付けるということも考えられるのではないか、そういう御指摘を頂きました。その上で、どういう選択肢を用意するかということは、押印というものがこの先どういうふうに扱われていくか、その推移についてどういう見方をするかということと密接に関わっているので、それを意識しながら議論していく必要がある、資料もあるいはそういう形で提示する必要がある、こういった御指摘かと思って伺いました。そんなところでよろしかったですかね。   ほかにはいかがでしょうか。   押印は前回までにも大分議論をしまして、なかなか難しいところがあって、こういう形になっています。更に整理をすることもできるのではないかという御発言がありましたので、検討いただきたいと思います。ただ、最終的にどうするかという点は、中間試案の段階ではなかなか決着が今は付かないのだろうと思いますので、何らかの形で選択肢を整理してパブリック・コメントに掛けるということかと受け止めております。特にこれについて御発言がなければ、先に進みたいと思いますけれども、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、第2、第3も2のところで押印要件に関わる問題を含んでおりますので、連動するところがございますが、これらにつきましては御意見を頂戴したということで、先に進ませていただきたいと思います。   次が、第4の部分ということになります。資料で申しますと45ページ以下ということになりますが、この部分について御審議を頂きたいと思います。   まず、事務当局の方からここの説明を頂きたいと思います。 ○戸取関係官 46ページからの第4では、特別の方式の遺言の方式要件の在り方について検討しており、46ページからの1では、作成することができる場面の規律について、50ページからの2では、作成方法の規律について、それぞれ検討の方向性を記載しております。   まず、46ページからの本文の1、作成することができる場面の規律については、部会資料8と同様の方向性を記載しております。すなわち、船舶遭難者遺言については、現行の文言に限らず、航空機遭難や天災その他避けることのできない事変も含まれることを規律上明確化するとの考え方、一般隔絶地遺言については、現行の文言に限らず、一般社会との交通が事実上又は法律上自由に行い得ない場所にある者全てを含むことを規律上明確化するとの考え方、死亡危急時遺言及び在船者遺言については、遺言を作成できる場面に関する規律については現行法の規律を維持するものとするとの考え方を記載しております。   この点、船舶遭難者遺言において、天災その他避けることのできない事変も含まれることとした場合においても、船舶遭難者遺言は死亡危急時遺言の方式要件すら履践できない場合を想定した規定であることを踏まえると、およそ生命の危険性のない軽微な災害や暴動の場合においてまで船舶遭難者遺言の方式による遺言を認めることは相当でないとも考えられます。そのため、天災その他避けることのできない事変の場合については、それによって死亡の危急に迫ったことが必要であると整理することも考えられる旨を、補足説明のうち49ページの2(2)に記載しております。   次に、50ページからの本文の2、作成方法の規律についても、基本的な方向性は部会資料8から変更はございません。現行法の規律は維持するものとしつつ、デジタル技術を活用した新たな遺言の方式として、死亡危急時遺言と船舶遭難者遺言について、それぞれ甲案、乙案、丙案の三つの案を提案しております。これに対し、一般隔絶地遺言と在船者遺言については、新たな遺言の方式を設けないこととしております。   作成方法の規律の検討に当たっては、54ページの2(2)以下に記載しておりますとおり、特別の方式の遺言は厳格な方式が要求される遺言においては例外的なものであり、普通の方式の遺言の作成が可能な場合にあっては原則として普通の方式の遺言を作成すべきであることから、普通の方式におけるデジタル技術を活用した新たな遺言の方式の検討も踏まえる必要があるものと思われる旨記載しております。また、死亡危急時遺言及び船舶遭難者遺言における三つの案に共通する考え方については、55ページの3以下に記載しております。活用することが考えられるデジタル技術としては、録音・録画を想定しているところ、必ずしも遺言者自身によって録音・録画される必要はなく、遺言者の指示を受けた証人等の第三者が記録するものでも許容されることを記載しております。また、証人の立会いについては、ウェブ会議の方法による場合も含むことを前提としており、その場合における録音・録画は、ウェブ会議の様子を録音・録画することを想定しております。さらに、遺言の全内容が記録された電磁的記録の保管者は、遺言者、証人その他の第三者のいずれであるかを問わないものとしており、確認手続に提出された電磁的記録が確認対象となることとしております。   また、一般隔絶地遺言に新たな遺言の方式を設けないことについては、62ページの(2)以下で、部会資料8から若干加筆しております。一般隔絶地遺言の民法上の位置付けを踏まえると、死亡危急時遺言及び船舶遭難者遺言とは異なり、公証人の関与を期待することができるか否かといった観点からの検討も必要なものと考えられること、公正証書に係る一連の手続のデジタル化により、公証人が相当と認めた場合にはウェブ会議の方法を利用した公正証書遺言の作成が認められるとされたこと、スマートフォン等のデジタル機器を所持している場合には、公証人への相談や機材の手配依頼等を通じて、まずは公正証書遺言の作成を試みることが考えられることから、あえて一般隔絶地遺言にデジタル技術を活用した新たな遺言の方式を設ける必要性は乏しいとも考えられる旨記載しております。   このような特別の方式の遺言の方式要件の在り方についての検討の方向性につき、御意見いただければと思います。部会資料9の第4についての説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。部会資料9の第4について、御説明を頂きました。これにつきまして何か質問があれば、まずお願いをしたいと思います。いかがでしょうか。   それでは、御意見も含めてお願いをいたします。 ○宮本幹事 質問を一つ、よろしいでしょうか。49ページで、先ほど説明を頂きました(2)のところですけれども、(2)の下から3行目、「それによって死亡の危急に迫ったことが必要であると整理することも考えられる」というところですけれども、現行の船舶遭難者遺言は、船舶が遭難した場合において、船舶中にあって死亡の危急に迫った者はという定めになっており、船舶が遭難したことによって死亡の危急に迫ったという文言ではありませんから、御提案は、より厳格にしようという発想なのか、つまり、現行法だと、例えばですけれども、船が座礁して止まっている、そのときにたまたま持病が悪化して心臓が止まりそうだとかという場合も含まれると思われるところ、49ページの記述との関係をどのようにお考えなのか、少しお聞かせいただけると有り難いです。 ○大村部会長 ありがとうございます。現行のルールとの関係についてという御質問ですね。 ○宮本幹事 はい。どちらに反対する意味でもないですけれども。 ○齊藤幹事 ありがとうございます。御指摘いただいたとおり、現行法の第979条は、「船舶が遭難した場合において」と一回区切って、「死亡の危急に迫った者」とありますので、それとの関係では、やはり現状の49ページの御指摘いただいた部分は、これを船舶遭難にそのまま当てはめるとすると、一部狭めることを帰結し得るというのは、正に御指摘いただいたところです。   ただ、正にそこを狭める意図という意味で整理したつもりもないところなので、今の頂いた御指摘も踏まえて、どういう規律ぶりがいいのか、その場合には恐らく、現状のものを含めて広げる方向も、現状を狭める方向も、特段意図しない、そして、結果としてもそれを生じさせないような方向で検討していくのかなということを御指摘から感じました。 ○宮本幹事 ありがとうございます。軽微な災害などまで含める必要はないと思いますが、たまたま災害時に持病が悪化したということはあり得るのかなと思いましたので。ありがとうございます。 ○冨田委員 冨田でございます。船舶遭難者遺言についての作成の規律のところにつきまして、以前の部会についても、実際の場面を想定した方式とすべきではないかということを申し上げたかと思います。実際に、例えば飛行機の遭難時であったりですとか、あとは紛争の真っ只中みたいなところであれば、なかなか証人を確保するのは難しいと思いますので、こうした要件については更なる検討が必要ではないかと考えてございます。   この点につきましては、50ページの(注3)に、証人についてはウェブ会議の方法により立ち会うことができるものとすることも考えられるという記述を加えていただきましたが、今申し上げたような危急時に、ウェブ会議の方法であっても、直ちに証人を確保して立ち会ってもらうのは難しいのではないかと考えます。また、フライト中の飛行機や航行中の船舶の通信環境には制約がありますので、仮に通信ができたとしても十分な時間的余裕はないのではないかと考えます。船舶遭難者遺言については、したがいまして、証人を要しない、より簡便な方式を選択肢に加えることができないのか、御検討を頂けると有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。冨田委員からは、考えるに当たって具体的な実際の場面を想定して考えることが必要であろうということで、50ページの(注3)のようなウェブ会議の方法による立会いといったことは実際にはなかなか考えにくいのではないか、より簡便な方法をここで考える必要があるのではないかという御指摘を頂きました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○隂山委員 隂山でございます。船舶遭難者遺言につきまして、前回部会で、作成することになると考えられる局面といたしましては、船舶が遭難した場合を始め、航空機遭難であったり、また山岳遭難、天災などが考えられると発言させていただきました。今般の資料を拝見いたしますと、山岳遭難につきましては特段例示されておりませんが、現時点において山岳遭難の場面についてもこの船舶遭難者遺言の局面から排除はされていないと理解をしてよいかという御質問でございます。   といいますのも、山岳遭難につきましては警察庁生活安全局生活安全企画課が公表しております令和5年における山岳遭難の概況等によりますと、令和5年の山岳遭難は発生件数が3,126件、遭難者3,568件、そのうち死者・行方不明者が335人となっております。船舶遭難や航空機遭難と比較しても、より遭遇する率が高い数値でもあるように思われるため、発言をさせていただきました。   先ほどの冨田委員の御発言とも重なるところではございますけれども、船舶遭難者遺言の場面におきましては正常な通信状況ではないことが多いとも思われるため、ウェブを利用することができないことも念頭に、デジタル技術を活用した特別方式の遺言については更に検討する必要もあると考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの冨田委員のお話ともつながるわけですけれども、船舶遭難者遺言について更に検討が必要なのではないかという御指摘と、あわせて、何を対象とするかというときに、山岳遭難というものがかなり重要なものとしてあるのではないかということで、これは御質問ということだったかと思います。 ○齊藤幹事 御指摘の山岳遭難等を特に排除ということではございませんので、表現の在り方については引き続き検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○齊木委員 齊木でございます。死亡時危急時遺言の、誰が録音・録画を同時に行うかというところで、全部遺言者に今のところなっているわけでございますけれども、何となくこういう危急時だと、通信状態の問題は確かにあるのですけれども、私は典型的に考えるのは、LINE通話か何かで知り合いに、これを録画してくれと頼んで、証人になってくれと言って録音・録画してもらうということを考えるものですから、証人でもいいようにできないものかなと思います。結局、航空機とか船舶も、沈んでしまえば遺言者の携帯端末というのは駄目になってしまって、そこに残っているものはきちんと残るとはなかなか思えないので、基本的には奇跡的に通信でつながった知り合いに記録してもらったものを遺言とするというのが現実的なところなのかなと私は考えております。 ○大村部会長 ありがとうございました。死亡危急時遺言の記録者は、本人以外の方が、本人以外の者を少なくとも含む方が現実的ではないかという御意見として承りました。   ほかにはいかがでしょうか。   特に御発言ございませんでしょうか。 ○齊藤幹事 冨田委員から、危急時遺言、実際の場面を想定して、もう少しやりやすいものをという御発言がございました。それから、齊木委員から、実際、端末は駄目になってしまうだろうから、たまたま知人のものに飛ばせたデータというのをいかすことが考えられるのではないかという御発言を頂きました。それぞれ何かしら場面を想定して、うまく残せるものを残すという意味では共通な反面、ネット環境がなければ結局その端末に残すしかないということにもなり、ネット環境があれば、たまたま送信はできるけれども、かなりレアかもしれず、あとは、送信できたもの自体が作出されたものでないかどうか、それを担保するような仕組みができるかどうかという論点があるかなと思いましたので、おっしゃっている方向はそれぞれ、若干重ならないところがあるかなとは思いましたが、次回に向けて少し整理をさせていただきたいと感じました。 ○大村部会長 ありがとうございます。通信環境のことも考えると、本人のところに残っているものしか頼るものがないという場合ももちろんあるということで、全体としてどんな場面を想定すればよいのか、それから、特別の方式ではありますけれども、やはりいろいろな事態が想定されますので、そういうことについてどういう態度をとるのかということを検討する必要がある、そういうことかと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 申し訳ありません、50ページの(2)の(注2)が、遺言者の指示を受けた証人等の第三者が録音・録画によって電磁的記録に記録することも許容されることを前提としているとありますので、これは51ページの各種の案の前提になっているのではないかと理解をしておりましたけれども、すみません、何か誤解がありましたら御教示いただければと思います。 ○齊藤幹事 御説明が遅れたところに御指摘を頂きまして、ありがとうございます。御指摘のとおりです。つまり、50ページ(2)の(注2)は、その後に続きますア、イの甲、乙、丙案全体に係っていく構造になっておりますので、そういった意味では、文面上遺言者が録音・録画をするという表現になっておりますが、そこは(注2)にありますとおり、第三者が代行というか事実上代わりに行ってもいいという記載ぶりでございます。 ○大村部会長 齊木委員の御懸念というのは、ここで受けると。 ○齊木委員 そういうことであれば、結構です。 ○大村部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○小粥委員 小粥でございます。特別の方式による遺言をIT技術等によって簡単にできるようにする余地はないかという方向で検討しているものと理解しておりますけれども、それを前向きに進めるということをなぜやらなければいけないのかと、IT技術を活用すること以外にどんな理由があるのか、ですね。つまり、私が考えているのはこういうことです。平時に練った遺言を作っているとして、危急時に急に思い立って、これは簡単にウェブで電波を飛ばせば遺言ができるからということで、やるということがよいのか、悪いのかという問題があるような気がするのです。IT技術を使えるところで使うというだけではなくて、遺言者の真意を担保するとか実現するとかという観点から、危急時に選択肢を増やすということがそもそもよいのか、悪いのかというところも考えた上で政策決定をした方がよいのではないかと思いますという意見でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。特別の方式について、今日の言葉で言うと簡易化というか簡便化でしょうか、これを図るということの当否そのものを考える必要があるのではないか、落ち着いたときにきちんとしたやり方で遺言をするということがむしろ望ましいのではないか、そういう考え方と対比しながら検討する必要があるのではないかという御指摘を頂いたと受け止めました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○齊木委員 あともう1点だけ、確かヨーロッパのどこかの国では、デジタルで確かに録音・録画で危急時に遺言を作れるのですけれども、その飛行機が無事に戻ってくることもあるのですね。無事に戻ってきた場合には、何か月以内にきちんとした方式で遺言を作らないと失効するという規定が確かあったと思うので、そういった規律は必要ないのかと、今の小粥先生の御発言を受けてはたと、そういえば大丈夫だった場合に、危急時のやつを作り直さないでそのまま放置するということでいいのかどうかということを少し思いましたので、発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。危急時を脱したときにどうするのかということまで手当てをする必要があるのではないかという御指摘を頂きました。   ほかには。 ○齊藤幹事 現行民法、御案内のことかと存じますが、第983条、危急時遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときは、その効力を生じないとなっておりますので、一応この資料もその一般的規定は前提とした上での記載かなと考えております。ただ、そこをきちんと意見照会をするときに表現をした上で行っていく必要があるということは認識いたしました。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、第4につきましても御意見を頂いたということにさせていただきたいと思います。   最後、残るのが部会資料の第5の部分ということになります。63ページ以下でございますけれども、この部分について御審議を頂きたいと思います。   まず、事務当局から御説明お願いいたします。 ○戸取関係官 63ページの第5では、遺言の方式ではないその他の論点について記載しております。遺言能力及び遺言事項として記載された内容の明確性を確保することについて、それぞれ特段の規律を設けないものとすること、民法第973条(成年被後見人の遺言)について、自筆証書遺言における押印要件の在り方等を踏まえて検討するほかは規律を見直さないものとすることとしております。従前から実質的な内容に変更はございません。  第5についての御説明は以上となります。 ○大村部会長 ありがとうございます。第5について御説明を頂きました。   御質問、御意見、併せる形で、何かあれば伺いたいと思いますが、いかがでしょうか。 ○相原委員 相原でございます。第5の成年被後見人の遺言については、何度も発言させていただいたところであります。そして、これについてここでというのではなくて、もう一つの部会で御審議されているので、そちらの方に委ねるということについて異論、変更があるわけではございません。   ただ、資料の65ページにも書いてありますように、3類型を見直すということも含めてかなり大きなことが検討されているというのが、実際いろいろ意見が出ているところです。だから、そちらの方に行くかどうか、そちらの方に入るわけにはいかないのですが、(注)のところにありますように、維持しない場合、3類型が廃止されるような場合には、かなりその見直しの要否について考えるというようなことがあります。こちらの方で何か提案するとかいうことを提言するつもりではないのですが、もしそうなったとすれば、一度は成年被後見人になった方が、それこそ医師二人が必要であるというのから、本当にリセットで普通になってしまう可能性があるのだとすれば、かなり対象として考えなければいけないことも、配慮すべき事項もあるのではないかという印象も持ちます。こちらで議論してほしいという意見ではございませんけれども、見守るべき他の部会のことではあるのですけれども、それから、弁護士会でもまだ十分議論しているわけでもないので、何か意見を申し上げるところまで行きませんけれども、かなり見守らなければいけない事項ではないかと個人的に思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。現在他の部会で進行している成年後見制度の見直しについては、当部会もその様子を見ながら必要なことがあれば対応するということでこれまで考えてまいりましたけれども、3類型がどうなるかという問題も出ているので、大きく動くような可能性も含みつつ様子を見守る必要がある、そういう御意見を頂戴しました。   ほかはいかがでしょうか。 ○倉持幹事 1点目は今、相原先生から御指摘があったとおりで、成年被後見人の遺言については、ここで規律を見直さないとあるのはそうなのでしょうけれども、やはり後見部会の動向も見ている者にとっては、やはり若干違和感があるので、本文のところにも(注)で、後見部会の方でも検討されているので、その内容次第では検討を要する事項である、みたいなことを書かれてもいいのかなと思いました。   それともう1点、遺言能力なのですけれども、これは瑣末なところであるのですが、括弧書きで定義のようなものがあって、これは多分、行為能力の問題ではなくて意思能力の問題だということでおっしゃっているのですけれども、特段の規律を設けないとある点は、現行民法でも第963条で、遺言をするときにおいてその能力を有しなければならないという規律はあるので、ここは遺言能力(第963条)の規律については更に具体化することは考えていないとか、そういう御趣旨なのかなと。   あと、ここでは遺言能力を欠く場合の効果も書いていませんが、債権法改正により民法第3条の2で意思能力無効の規定ができましたけれども、それとの適用関係も少し分からなくなるところがあるのですが、それは第3条の2を適用しようが、この第963条を適用しようが、余り関係はないので、どちらを明示しなくてはいけないという意見ではないのですけれども、そういうことも含めて、特段の規律を設けないという定め方をした方が、より分かりやすいかなと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。(注)を付けてはどうかということも含めて、書きぶりについて御指摘を頂いたということで、御検討いただきたいと思います。   ほかにはいかがでしょうか。 ○宮本幹事 細かい話になりますが、先ほどの成年後見のところです。本部会で検討することとして、遺言に立ち会った医師が行う押印の要件についてというのが書かれております。そこでは、自筆証書遺言において押印を要しないとする場合には、これと同様に押印を要しないものとすることが考えられるということですけれども、自筆証書遺言において押印を要するか否かというのは遺言者の押印についてで、ここは立ち会う医師のことですので、仮に自筆証書遺言において押印を要するとしたとしても、医師の押印をなくすというのは考え方としてはあり得るのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。そこも表現に関わる問題として御検討いただきたいと思います。 ○沖野委員 ありがとうございます。既に御指摘のあった3の成年被後見人の遺言ということなのですけれども、ゴシックのところの書き方として、現在書かれている「踏まえて検討する」で切ることはできないかというものです。そのほかは規律を見直さないものとするというのは、より立場がというか、明確ではあるのですけれども、押印のところについてはそれを踏まえて検討するということであれば、他のところの提言は含んでいないというのはゴシックで分かりますし、それから、規律を見直さないということが、見直す必要が全くないのであるという態度決定をこちらでしているというよりは、成年後見制度がどうなるかということは、より、それ自体を検討する部会の方で問題提起がされているということがあるので、それを見守る必要があるという態度決定なのだということを、むしろ打ち出すべきではないかと思っております。   その際、もう一つなのですけれども、64ページの方の(2)の2行上のところで、実務上、医師二人以上の立会いを求めるのは困難ということの意味なのですけれども、これは、それが必要なときにわざわざ医師二人をそのために用意してというか、その上で遺言をするということが非常に現実的でないと、仮にそういうことだとすると、確かにその後の紛争防止という点で一定の予防措置ということはよく分かるのですけれども、このような後見開始の審判を受けたというだけで、実は必ずしも意思能力という点で、遺言をするために必要な能力を備えているような場合であっても、たまたま医師の調達というか用意というか、ができないために遺言が制約されるということが、本当にそれで適切なのだろうかという問題意識は一方であって、実務上困難だというのが、どういう意味でどのくらい本当に困難なのかということにもよるかと思うのですが、やはり問題があることは確かなので、本当にやむを得ないと考えられるか、そこの書き方が、事理弁識能力を欠く常況にある者として審判を受けたのだからやむを得ないという評価は、もう一方の部会における検討とは若干トーンが違うというか、そごがあるというか、というようにも思っておりますので、このような書き方でいいのか、あるいは、むしろ立法趣旨はこうであったということがあるけれども、そもそも成年後見制度の在り方自体が検討されている中で、それを見ないで検討するのは難しいというような、そちらのトーンの方が適切ではないかとも思ったものですから、書きぶりだけですけれども、御検討いただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。その他の3の本文と、それから補足説明の中の表現について、他の部会で検討されているということを踏まえてこちらがこういう態度をとっていることが分かるような表現にする必要があるという御指摘かと思いますので、御検討を頂きたいと思います。 ○木村幹事 ありがとうございます。すみません、私の質問は第5に関わるものではなくて、全体に関わる事柄と、あと参考資料9の表について発言したいと思っていたのですが、時機を逸してしまいました。先に第5について何か御意見があれば、その御意見の後に発言させていただきたいと思うので、よろしくお願いします。 ○大村部会長 分かりました。それでは、第5が終わってからということにさせていただきます。   第5について、そのほかいかがでしょうか。 ○内海幹事 幹事の内海です。やや重箱の隅にあたるようなことかもしれませんけれども、63ページの2の遺言能力の補足説明のところについて発言いたします。遺言能力という問題が、いわゆる真意性みたいな話とどれぐらい一対一対応しているのかというのも微妙ですけれども、一定の関連性があるとすると、ここでの説明は方式要件の問題に含めて考えるのが相当だというポジションで、なので遺言能力そのものについては触れませんと、そういう説明がなされているかと思います。他方で本日は、真意性等に関する懸念みたいなものがありつつ、簡便性を重視するという方向があり得るのかというような方向で議論というか、そういう意見が大勢だったわけではないようにも思いますけれども、そういう方向に向かうこともあり得るというような見せ方であったかと思いますので、もしそういう方向に議論が向かっていくことがあるのだとしたときには、方式要件の問題としてきちんと考えますという説明だけでは、やや言葉足らずなところも出てくるのかなという気もいたします。そういうことで、簡便性の方にもう少し舵を切るかもしれないということであれば、このあたりの説明にもう少し補足があってもいいのかな、という気がいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。遺言能力についての取扱いは、今日の議論をどのように踏まえるかということが影響するだろうということで、次の資料を考えるときに、そちらを見ながらここの修文を考える必要があるという御指摘として伺いたいと思います。   ほかはいかがでしょうか。   第5については、表現について御指摘はありましたけれども、実質については特に御異論はなかったと受け止めさせていただきたいと思います。   それでは、戻って木村幹事、先ほど、全体について、それから今日の補足の資料についてといったことでしたけれども、どうぞ。 ○木村幹事 私の発言が時機を逸したものとなってしまい、お詫び申し上げます。   まず、1点目ですけれども、今回の部会資料では、様々な場面で遺言者によって指示を受けた第三者が挙げられており、記録をしたり、結合したり、あるいは特別方式のところでは保管に関わるような作業をするような者として想定されていたと思います。その上で、法務省の方への質問なのですけれども、この第三者として指示を受けた者というのは、法的な位置付けとして何か意味を持つ者なのか、単なる事務を遂行する者として捉えてよいのかとか、その点について現時点でどのようなお考えを持っているのかについてお伺いさせていただきたいと思います。   その上で、実際指示を受け、事務を遂行する第三者に当たり得る者について、現行民法典では相当する者がいるのか、ただちには判断できなかったのですけれども、当該第三者が様々な意味で遺言に関わる作業をしているという認識が要らないのか、要るのかといったことなどについて検討する必要がないのか、ということについてもあわせて質問させていただきたいと思います。   2点目は、参考資料の表についてです。この表自体は非常に分かりやすく、今後の整理あるいはパブリック・コメントに向けて、とても参考になると思いました。その上で、これは感想というか要望を述べさせていただきます。まず、甲案、乙案、丙案があり、乙案と丙案のところには主なデメリットとして自筆証書遺言と対比すればという表記がありますが、甲案のところにそれに対応する記述がありません。この点、このまま対応する記述がないということでよいのかどうかということです。もう一つが、甲案について、なぜ証人を付ける必要があるのかということについて明確な説明がないように思えまして、このままですと、証人を付けることのデメリットが意識されかねないようにも思われたことが若干気になりました。そこで、証人を付けることがどういった意味を持つのかということについて、何かしら記述があった方がよいと考えた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございました。2点御発言がありましたけれども、1点目は指示を受けた第三者というものについての御質問ということで、お答えを頂きたいと思っております。それから、2点目は、この表ですね、参考資料についてなのですけれども、御指摘は二つあって、乙、丙案については自筆証書遺言と対比すればという形でデメリットの表記がされているけれども、甲案についてこういう表記は要らないのかということと、もう一つ、甲案について証人の必要性について積極的に書いておく必要はないのかという御指摘を頂いたと思います。後の方は御指摘として、この表をまた見直すときに検討していただくということにいたしまして、最初の御質問の方についてお答えを頂きたいと思います。 ○齊藤幹事 遺言者によって指示を受けた第三者が行う場合も含むと複数回記載しているのは、本人自らがする必要があるかどうかを本文だけでうまく書き切れないところを補足する趣旨で記載を致しました。他方で、その記載がぎらついて、これはどういう意味なのかという副作用もあるかなという気もいたしました。現状考えていることとしては、法的な意味としては余りないので、事実行為を手伝うと、逆に言うと、その事実行為を本人がする必要は必ずしもないよということを考えておりました。その上で、木村先生がおっしゃったような、今後検討すべきことがあるかどうかについては現状、考えを十分には整理できておりませんが、検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか、いかがでしょうか。今、木村幹事から全体にわたってということだったのですけれども、全体にわたってということでも結構ですので、何か御発言があれば伺いたいと思いますが。   よろしいでしょうか。それでは、本日の資料については第1から第5まで御意見を伺ったということにさせていただきたいと思います。   ここまでということになりますけれども、次回の議事日程等につきまして、事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○齊藤幹事 本日も御多忙の中、熱心に御議論を頂き、ありがとうございました。   次回の日程も少し日程が空いて恐縮でございますが、6月3日火曜日午後1時30分から5時30分まで、次回は20階の第一会議室を用意しております。次回、本日頂いたいろいろな御指摘をきちんと踏まえながら具体化をさせて、恐らく資料としては全体を一応書くことが主に想定されるかなと思いますが、だんだん論点というか、絞られている、余り御発言いただかない部分はそれなりに、大きな御異論はないということなのかなと思いますので、次回は、逆に御意見が様々ある部分に集中的に御議論いただけるよう、資料準備に努めたいと思います。   では、次回は6月3日でございます。よろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございました。次回、全体をカバーした資料を御準備いただくけれども、なお議論をすべき点について集中的に意見を伺いたいと、こういうことだと理解を致しました。6月3日1時30分からということですので、よろしく御予定のほどをお願い申し上げます。   それでは、法制審議会民法(遺言関係)部会の第9回会議、これで閉会をさせていただきます。本日は熱心な御審議を賜りまして、ありがとうございました。閉会をいたします。 -了- -1-