法制審議会 会社法制 (株式・株主総会等関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  令和7年5月21日(水)    自 午後 1時29分                         至 午後 5時54分 第2 場 所  法務省法務総合研究所 第6教室 第3 議 題  株式の発行の在り方に関する規律の見直しに関する論点の検討 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神作部会長 それでは、予定した時間になりましたので、ただいまから法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第2回会議を開催いたします。   本日も皆様御多忙の中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日もウェブ会議の方法を併用して議事を進めることとさせていただきます。初めに、事務局当局からウェブ会議に関する注意事項の御案内を差し上げます。 ○宇野幹事 事務当局より御説明差し上げます。   ウェブ会議を通じて御参加されている皆様につきましては、御発言される際を除きマイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願いいたします。御質問がある場合や審議において御発言される場合は、画面に表示されている手を挙げる機能をお使いください。指名がされましたら、マイクをオンにして御発言ください。御発言が終わりましたら、マイクをオフにし、また画面の挙手ボタンを再度押して、挙手を下げていただきますようお願いいたします。   なお、御発言の際はお名前をおっしゃってから発言されるようにお願いいたします。会議室にお集まりの方々におかれましても、ウェブ会議の方法で出席されている皆様にはこちらの会議室の様子が伝わりにくいため、お名前をおっしゃってからの御発言に御協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。 ○神作部会長 御説明どうもありがとうございました。   続きまして、今回が初めての御出席となる関係官がお一人いらっしゃいますので、簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。お名前と御所属等を御紹介いただければと思います。   寺田関係官、よろしくお願いいたします。 (関係官の自己紹介につき省略)   本日は、中西幹事が御欠席と伺っております。また、清水委員が会議の中ほどから御参加予定と伺っております。   次に、本日の審議に入る前に事務当局から配付資料の御説明を頂きます。よろしくお願いいたします。 ○宇野幹事 配付資料について御確認いただきたいと思います。   まず、部会資料2「株式の発行の在り方に関する規律の見直しに関する論点の検討」がございます。こちらについては、後ほど審議の中で事務当局から御説明させていただきます。また、参考資料4「株式の発行の在り方に関する論点について」は、経済産業省の中西幹事から御提出があったものでございます。   配付資料の御紹介は以上でございます。 ○神作部会長 御説明ありがとうございました。   それでは早速、本日の審議に入りたいと思います。   初めに、事務当局から部会資料の御説明をお願いいたします。 ○宇野幹事 部会資料2について御説明いたします。   部会資料2は、法務大臣の諮問事項に掲げられた三つの大きなテーマのうちの一つ目、株式の発行の在り方に関する規律の見直しに関する論点の検討を行うものでございます。   まず、1ページ目の第1では、株式の無償交付の対象範囲の見直しを検討事項として掲げております。1ページ目では総論的な問題提起をさせていただき、2ページ目以降に各論的な検討事項を記載しております。   2ページ目の前提問題の検討では、従業員に対する株式の無償交付の検討に当たっては、その前提として、従業員に無償交付される株式が労働基準法上の賃金に該当し、賃金の通貨払いの原則に抵触しないかについて整理が必要であり、現時点では考え方を示すことができず、大変申し訳ございませんが、少なくとも従業員に無償交付される株式が賃金に該当しないことが従業員に対する株式の無償交付の検討の前提になるものと考えられる旨を記載しております。その上で、賃金は労働者の生活を支える重要な糧であり、株式の無償交付を認めることによって削減されることがあってはならないとの御意見を踏まえますと、賃金の通貨払いの原則に抵触しないことを確保するための会社法制における手当ての要否についても検討する必要があるものと考えられます。   このような手当ての方法としましては、例えば、従業員等に対する株式の無償交付に係る方針で定めるべき内容の一つとして、労働法制等の関係法令に抵触しない範囲内で従業員等に対する株式の無償交付をする旨を定めるとすることなどが考えられるところですが、これらを踏まえまして、賃金の通貨払いの原則に抵触しないことを確保するための手当ての要否及びその具体的な内容について、どのように考えるかとの問題提起をしております。   2ページ目の末尾以下の制度の基本的な枠組みのところでは、既存株主の利益に配慮する観点から、制度の基本的な枠組みについて記載をしております。株式の無償交付をする場合には、1株当たりの価値が下落、すなわち希釈化し、既存株主の利益が害されるおそれがありますため、その利益に配慮する必要があるものと考えられます。このことを踏まえまして、基本的な枠組みを検討するに当たりましては、公開会社と非公開会社に分けて検討することが考えられ、まず、公開会社については議論のたたき台として、有利発行規制を及ぼすA案と、株主総会決議を要件とするB案を掲げております。   A案は、有利発行に該当しない限り株主総会決議を要しないために、機動的に従業員等に対する株式の無償交付を行うことができると考えられる一方で、事後的に有利発行と判断されるリスクを抱えることになるという課題があり得ます。この点については、ストックオプションに関する見解と同様に、インセンティブを与える目的で無償交付される株式も広い意味での職務執行の対価といえるものであり、株式会社は当該インセンティブ分の便益を受けるから、基本的には従業員等に対する株式の無償交付が有利発行に該当することは想定し難いとの考え方の当否などを検討する必要があるものと考えられます。   B案は、株主総会において無償交付を受ける者の範囲及び無償交付をすることができる株式の事業年度ごとの上限などを定めなければならないものとしつつ、株主総会決議による定めに従ったものであることを根拠に、有利発行規制に服しないこととするものでございます。B案の株主総会決議による定めは、一度定めていれば、その内容に変更がない限り重ねて株主総会決議を経る必要はないものとすることが考えられます。また、B案における株主総会決議は、有利発行規制に服しないための根拠として要求するものであれば、特別決議とすることが自然であるとも考えられますものの、株主総会決議を要求する趣旨に応じて、特別決議とするか普通決議で足りるものとするかを検討する必要があるものと考えられます。   次に、非公開会社につきましては、公開会社と異なりまして、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る株主の利益が重視されておりまして、募集事項の決定は株主総会の特別決議によらなければならないものとすることが考えられますため、この点に関する問題提起は注記の形で記載をしております。   なお、6ページ目では、このような基本的枠組みを検討するに当たっては、いわゆる現物出資構成についても同様の規律を及ぼすかなど、その取扱いを検討することも考えられるところですので、その旨の問題提起もさせていただいております。   同じく6ページ目以下では、その他の検討事項として、株式の無償交付の対象者の範囲について、株式会社の従業員のほか、子会社の役員及び従業員並びに監査役及び会計参与等を念頭に、どのように考えるか、非上場会社においても株式の無償交付をすることができることとすることについてどのように考えるか、株式の無償交付の開示や計算の在り方についてどのように考えるかとの問題提起をしておりまして、これらの点につきましても御意見を伺えればと存じます。   次に、8ページ目の第2では、株式交付制度の見直しを検討事項として掲げております。こちらでも8ページ目から9ページ目に掛けて、まず総論的な問題提起をさせていただき、9ページ目以降に各論的な検討事項を記載させていただいております。   9ページ目以下では、株式交付の対象となる場面の拡大ということで、二つの場面を掲げております。一つ目が、子会社の株式を追加取得する場合ですけれども、この点につきましては、この場合においても株式交付を組織再編行為であると整理することができるかや、検査役の調査等を必要としている現物出資に関する規律の趣旨との整合性について検討する必要があるものと考えられます。   二つ目が、株式会社を会社法施行規則第3条第3項第2号及び第3号に掲げる場合における子会社とする場合ですけれども、この点につきましては、効力発生日が到来した後に株式交付の要件を満たさないこととなるなどした場合における法律関係が混乱するなどのおそれについて、どのように考えるかを検討する必要があるものと考えられます。親子会社関係の創設に至らなかった場合であっても、株式交付の無効の訴えにおける無効事由になるにとどまり、法的安定性を大きく害するものではないと考えることも可能であるとの考え方などが指摘されるところでありますけれども、その当否等が問題になるものと考えられます。   さらに、11ページ目以下では、株式交付の対象となる会社の拡大ということで、二つの会社を掲げております。まず持分会社ですけれども、こちらにつきましては前提として、持分会社の子会社該当性の判断基準をどのように考えるかを検討する必要があります。持分会社の子会社該当性は、業務の執行を決定する権限を会社法施行規則第3条第3項の議決権とみて判断することとなるという考え方の当否等について御審議いただければと存じます。また、令和元年改正法における検討経緯などを踏まえますと、持分会社を子会社とする場合を株式交付の対象とする場合に生じ得る法律関係が混乱するなどのおそれについて、どのように考えるのかを検討する必要もあるものと考えられます。   次に、外国会社ですけれども、令和元年改正法では株式交付により株式会社と同種の外国会社を子会社とすることはできないこととされたという経緯がございますものの、日本における同種の会社又は最も類似する会社が株式会社であるものに限ることなく、外国会社を子会社とする場合を株式交付の対象とすることを検討するのであれば、当該外国会社が株式会社と同種であるかどうかを判断する必要はないということになります。もっとも、なお子会社とする会社が外国会社であるかについては判断しなければならないために、これにより生じ得る法律関係が混乱するなどのおそれについて、どのように考えるかを検討する必要があるものと考えられます。   14ページ目以下では、株式交付の手続の緩和として、ここも二つの事項を掲げております。一つ目が、株式交付親会社の反対株主の株式買取請求権ですけれども、こちらにつきましては、株式交付親会社が上場会社である場合に限って反対株主の株式買取請求権を認めないものとするという考え方があり得るところですけれども、株式買取請求権は、単に売却の機会を確保するだけではなく、公正な価格での売却の機会を確保するものであることについてどう考えるかという点を整理する必要があると思われます。   別の考え方として、組織再編行為について、どのような場合に反対株主の株式買取請求権を認めるべきかという点に遡って検討する案を掲げておりまして、一案ですけれども、15ページ目の○アから○オまでの類型化と、○オの会社が他の会社の株式を取得し株式の発行又は自己株式の処分をする場合には、反対株主の株式買取請求権を認めないという整理を記載しております。他方で、組織再編行為に現物出資に関する規律が及ばない理由は、反対株主の株式買取請求権があることをも考慮したものであるために、組織再編行為の一種である株式交付においても反対株主の株式買取請求権を認めるべきであるとの指摘もされているところでございます。   2点目は、株式交付親会社における債権者保護手続でございます。組織再編行為について、どのような場合に債権者保護手続を必要とするかという点に遡って検討するという案を書かせていただいておりまして、一案ですけれども、16ページ目から17ページ目の○アから○エまでの類型化と、○エの組織再編行為の対価が不当である等、財産の流出が生じ得る場合には、債権者保護手続を必要としないという整理の案を記載しております。他方で、現行法上必要とされている債権者保護手続を廃止した場合には、実務に混乱を引き起こす可能性があるのではないかとの指摘も併せてされているところでございます。   17ページ以下では、その他ということで、簡易株式交付の要件を株対価の額の株式交付親会社の純資産額に対する割合が5分の1を超えない場合とすることを検討事項として記載をしております。   最後に、18ページ目の第3では、現物出資制度の見直しを検討事項として掲げております。   19ページ目以下では、検査役の調査の制度の見直しとして、検査役の調査が不要となる場合に関して二つの項目を掲げております。一つ目は、株主総会の特別決議による検査役の調査の省略でございます。株式の発行又は自己株式の処分によりまして株主間の価値の移転が生じるという状況は、有利発行の場合と同様の状況であるところ、会社法が有利発行を株主総会の特別決議により可能としていることを参考に、株主総会の特別決議により現物出資財産の価額を定めたときは、検査役の調査を不要とするということが考えられます。また、有利発行の場合と同様に、株主が適切に判断することができるよう、取締役が現物出資財産の価額が相当である理由を説明することを求めるということが考えられます。   これに対しましては、検査役の調査の制度の趣旨について、株主間の価値の移転を防止するということに加えまして、ある金額が出資されたというアナウンスがされたことに対する債権者の信頼を保護するものであるとする考え方からは、更なる検討を要するところですけれども、このような考え方を前提としましても、現物出資財産が過大評価された場合に第一次的に損害を被るのは、保有株式の1株当たりの価値が下落する既存株主であることを考えると、取締役が株主総会において説明をした上で、募集事項を株主総会の特別決議で決定した場合には、既存株主による現物出資財産の評価に係る判断を通じてその評価の適正性が担保され、債権者の利益も間接的に保護されているために、債権者の信頼の保護の観点での検査役の調査の趣旨の制度にもなおかなうのではないかと説明することも考えられるところでございます。   また、公開会社におきましては、募集事項の決定は原則として取締役会の決議によりますけれども、検査役の調査を不要としようとする場合には、募集事項の決定は株主総会の特別決議によるとすることが考えられます。なお、この公開会社における株主総会の特別決議におきましても、取締役が株主総会において説明をしなければならないということを想定しております。   二つ目が、証明者の資格の拡大でございまして、現行法上、弁護士等の一定の資格を有する者に限定されている証明者の資格を、広く現物出資財産の価額の評価に関し専門的知識を有する者に拡大するというものでございます。こちらに対しましては、資格を有する証明者を具体的に特定しなければ実務上証明の制度が機能しないのではないかという指摘もされているところでありまして、証明者の資格の拡大という方法によりまして望ましい現物出資が促進される効果があるのかという実務上の観点も含めて御審議いただければと存じます。   次に、21ページ目以下では、不足額塡補責任の見直しを検討事項として掲げております。まず、現物出資者の責任の性質ですけれども、現物出資者は不足額について無過失責任を負うものとされ、現物出資者が善意でかつ重大な過失がないときに取消権が認められているところ、この責任の法的な性格は担保責任の一種であると説明をされております。この点につきまして、不足額塡補責任を負うリスクを避けるために現物出資制度の利用がちゅうちょされているとの指摘を踏まえて、現物出資者の責任を緩和するということを考えますと、例えば、立証責任の転換がされた過失責任とすることや、立証責任の転換のない過失責任とすること、取締役を通じて著しく不公正な条件で募集株式を引き受けた場合に限り責任を負うこととすることなどが考えられます。   この検討に当たりましては、前提として、現物出資者の引受契約に基づく義務の内容として、引受契約に基づき所定の価額に相当する現物出資財産を給付する義務まで負うのか、当該現物出資財産を給付する義務を負うにとどまるのかという点についても検討する必要があるものと考えられます。あわせまして、取締役等及び証明者の責任の性質についても、これらの者の責任を緩和するということを考えると、例えば、立証責任の転換のない過失責任とすることなどが考えられるところでございます。   最後、22ページ目では、不足額塡補責任の範囲について記載をしております。現行法の規律に対しましては、募集事項の決定時に現物出資財産が適正に評価された場合であっても、現物出資者が募集株式の株主となったときまでに現物出資財産が値下がりしたときには不足額塡補責任が発生し得るため、このことが実務上のリスクとなっているとの指摘がございます。このような指摘を踏まえますと、不足額塡補責任の範囲について、募集事項の決定のときにおける現物出資財産の価額が会社法第199条第1項第3号の価額に著しく不足する場合における当該不足額とすることなどが考えられるところでございます。   以上、長くなりましたけれども、部会資料2につきましての説明は以上でございます。 ○神作部会長 御説明どうもありがとうございました。   それでは、三つのセクションに分けて議論をしていただきたいと存じます。   初めに、部会資料2の「第1 株式の無償交付の対象範囲の見直し」に関して意見交換をしていただきます。どなたからでも結構でございます。御意見のある方は挙手をお願いいたします。是非御発言ください。よろしくお願いします。 ○矢野幹事 私の方から少し御意見を申し述べたいと思います。今回、弁護士会の中では労働関係の委員会等もありますので、そうしたところも含めまして少し意見を聞いてきましたので、少し御紹介したいと思います。ただ、結局、意見をいろいろ聞いてみたところ、なかなか難しい問題がたくさんあって、正直悩ましいと感じているのが現状の結論というところでして、その辺りを少し御紹介させていただきたいと思います。最終的な意見を整理してみると、少し想定している前提条件がそれぞれで違っていて、意見がいろいろ出ているのかなというようなことを思っています。   労働法的な観点を申し上げますと、部会資料には賃金該当性という観点での説明があるのですけれども、実際は労基法第24条、賃金の問題をクリアしたら、では自由に構成できるかというと、そうではなくて、仮に福利厚生という法的構成をとるとしても、今実務上行われている信託型というのは大丈夫だということだとしても、それ以外の新たな制度ということになると、労基法上も全く自由ではないと。特に、やはり労働関係のところから懸念が示されているのは、労働基準法第16条、損害賠償の予定に関するところで問題があるというところの意見を結構頂きました。全く逆の方向から、信託型を含めて子会社を含めた従業員に対する株式の交付というのは実際に行われている現状があるということなのですけれども、この法改正をすることによって、逆にできなくならないかという指摘もありました。   それなので、どういったことなのだろうということを考えてみると、単に迂遠だから直すという話だけでは少し足らなくて、現状でどういった制度があって、それがどういった運用をされていて、今回の議論ではその現状について、どこをどうしたいのかとか、また、その整理だけではなくて拡大するということだと、どういった場合にどういった要件で労働法上、従業員等への株式の無償交付が許容されるかという前提がしっかり詰められていないと、なかなかいろいろな前向きな議論ができないのかなというところを感じておりまして、そこの前提条件をしっかりクリアにしてから話を詰めさせていただければと思ってはおります。   その上で、少しまた今の話を別の観点からお話をさせていただきたいと思うのですけれども、現状のこの議論だと、株式の無償交付ということしか決まっておりませんので、実際はその趣旨に反する運用をされたといった場合の病理現象についての対応が足らないのかなとは感じています。特に、小規模の非公開会社の想定になりますけれども、発行前に代表者と従業員との間で個別に合意をして、発行直後に安い値段で買い直すというふうな合意をして、ただ、株主に対しては、従業員に対する発行ですよということで発行して、株主も同意をしたと。ただ、実際はそういうことではなくて、後で合意に基づいて購入をするということで代表者の支配権を増やすといったようなときに、会社法上もそうですけれども、労働法上も、別に今、止められる制度がないのかなと感じておりまして、そうしたところの病理現象というか、そうしたところに対する配慮も必要なのかなと。ただ、それは労働法上こうした場合には可能であるということがしっかり決まっていれば、余り気にする必要がないのかなと思ってはおりますけれども、少しその辺りは、やはり議論を詰められていないところが大きいので、なかなか、どうしたらいいのだろうというのが私個人的な悩みです。   私からは、すみません、長くなりましたが、以上です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○久保田委員 まず、前提問題の検討のところについては、無償交付される株式の労働基準法上の「賃金」該当性に関して、どのような整理がされるかが決まらないと確定的なことが申し上げにくいものですから、この整理が付くということを前提に、制度の基本的な枠組みをどうするかという点について意見を述べさせていただきます。   公開会社について、ここではA案とB案が掲げられているわけですけれども、私は、結論から述べますと、A案には幾つかの問題があるため、B案の方が望ましいと考えています。今回、実質的な審議の最初ですので、少し長くなるかもしれませんけれども、A案にどういう問題があるかということから意見を述べさせていただきたいと思います。   A案については、部会資料に記載されていますとおり、事後的に有利発行と判断されるリスクを抱えることになりますし、個人的にはそのリスクは小さくないのではないかと思っています。取り分け親会社による子会社の役員・従業員に対する株式の無償交付の場合は、これらの者は親会社に対して金銭を払い込むわけでもなく、直接的に役務や労務を提供するわけでもないため、従来の有利発行に関する一般的な考え方によれば、有利発行に該当することになるのではないかと思います。   確かに有利発行該当性については、部会資料の4ページに記載されていますとおり、従来とは異なる新しい考え方、すなわちインセンティブを与える目的で無償交付される株式も、広い意味での職務執行の対価といえるものであり、株式会社は当該インセンティブ分の便益を受けるから、基本的には従業員等に対する株式の無償交付が有利発行に該当しないという考え方(これから先、これを単に「新しい考え方」と呼ばせていただきます。)をとることも可能であり、この新しい考え方をとれば、従業員に対する株式報酬が有利発行とされる可能性は比較的小さくなるとは思います。   この新しい考え方は、要するに、将来において引受人の行為によって直接的又は間接的に会社に提供されると予想される便益の大きさというものと、募集株式の払込金額とを比較して、有利発行かどうか判断するという考え方であると理解されます。これは従来の一般的な考え方、すなわち引受人が会社に対して直接的に提供するものの価値と募集株式の払込金額と比較して有利発行かどうかを判断するという考え方に比べると、大きく異なるものだと思いますので、この新しい考え方が本当に裁判所に受け入れられるのかというのは不透明なところがあると思います。   このように申し上げますと、そうであれば株式報酬について新しい考え方を明文化すればよいのではないかという意見が出されるかもしれません。しかし、株式報酬に関してだけ新しい考え方を明文化する、その一方でほかの株式発行の場合については従来の考え方を維持するとなると、これはダブルスタンダードになるのではないかという問題があります。さりとて、それを避けるために株式報酬だけでなく他の株式発行の場合も含めて一般的に新しい考え方をとることになりますと、私は有利発行規制の実効性が大きく損なわれかねないという問題が生じると思います。すなわち、釈迦に説法ですけれども、本来事前規制である有利発行規制については、その適用範囲が明確である必要がある、すなわち有利発行かどうかの判断がしやすいということが必要であると思います。それにもかかわらず、新しい考え方をとると有利発行かどうかの判断が非常に難しくなる、その結果、事前規制である有利発行規制の実効性が大きく損なわれかねないという問題が生じると思います。   この点に関連して、ストックオプションについて一言付言しますと、親会社による子会社の役職員に対するストックオプションの付与については実務上、新しい考え方に基づいて、有利発行ではないということを前提とした対応がとられているという例も見られるようです。しかし、これまで申し上げてきたのと同じ理由から、こうしたストックオプションに関する実務の妥当性についても、私は少なからず疑問を持っています。実際、学説上は今なお親会社による子会社の役職員に対するストックオプションの付与は、子会社の役職員が親会社に対して直接的に役務・労務を提供するわけではないため、原則として有利発行に当たるとする見解が江頭憲治郎先生によって有力に主張されているということに留意すべきであると思います。   このように考えると、正面から有利発行規制の在り方それ自体の見直しを検討するのであれば別ですが、それをしないままA案を採用した上で、事後的に有利発行と判断されるリスクというのを完全に排除するというのは難しいのではないかと思います。これは、言い換えれば、正面から有利発行規制の在り方それ自体の見直しを検討したり、あるいは何かしら特別の制度を設けたりするということをしない限りは、従業員に対する株式報酬の付与が有利発行に当たらないという整理をするのは難しいということを意味します。   他方でB案は、株主総会の決議により従業員等に対する株式の無償交付を可能とすることとした上で、有利発行規制に服しないものとするというものです。私は、このように特別な制度を設けた上で有利発行規制の適用を除外するというB案の方が、A案と比べて比較的無理が少ないため、適切であると考えています。その上で、B案を採用する場合は、株主総会の決議として特別決議とするか、それとも普通決議で足りるかが問題になるわけですけれども、私は普通決議でよいのではないかと思っています。すなわち、取締役に対する株式報酬の場合は株主総会の普通決議の手続でよいとされており、それで実務上、過大な株式報酬が交付されるといった問題は生じていないと認識しています。仮にそうであれば、従業員等に対する株式報酬の場合も、普通決議を要求すれば、それによって過大な株式報酬が交付されることは防止できるであろうと考えられます。   この点について、従業員等、取り分け子会社の役員や従業員については、取締役の場合とは異なり、会社(子会社にとっては親会社ですけれども)に対して直接的に役務や労務の提供がされるわけではなく、間接的に会社に便益が提供されるだけであり、その便益の大きさを測るのは難しいということがありますので、その面では、過大な株式報酬の交付の危険は取締役の場合と比べて比較的大きいともいえます。しかし他方で、取締役に対する株式報酬の場合はお手盛りの危険と表現されるような構造的な利益相反が認められるのに対し、従業員に対する株主無償交付の場合はそういう危険が余りありません。そのため、この面では過大な株式報酬の交付の危険は比較的小さいといえます。   そうだとすると、トータルで見ると、取締役に対する株式報酬の場合と従業員等に対する株式報酬の場合とでは、過大な株式報酬が交付されることを防ぐための規制としては同等の規制で足りるのではないか、したがって株主総会決議も普通決議でよいのではないかと考えている次第です。また、そうなりますと、株主総会決議で定めるべき事項についても、取締役に対する株式報酬に関する株主総会決議の場合と同じく、いわゆる枠決議でよい、すなわち、株主総会で方針を示した上で大枠を決議すれば、その枠内では取締役会限りで無償交付を決定できるとしてよいと思います。   以上のような私の意見に対しては、非上場会社はともかく上場会社にとっては株主総会決議の手続は重すぎるという受け止め方もあると思います。しかし、先ほど述べましたように、株主総会で方針を示した上で大枠について普通決議を取ることでよいとしますと、そこまで重い手続とはいえず、健全な実務を阻害するというようなものでもないと思います。また、そのことに加えて、私が注目していますのは、上場会社の株主・投資家にとって人的資本経営の取組は重要な関心事であり、今後その傾向は一層強まると予想されることです。このような状況の下では、会社がどのように人的資本経営に取り組んでいるのかについて説明する一環として、株主総会において従業員等に対する株式の無償交付についても、その方針を示した上で、いわゆる枠決議を取るという手続は、株主・投資家の理解を得ながら企業価値を向上させるために望ましい手続であるといえるかと思います。また、そのような手続をとることによって株主・投資家の理解は得られやすくなるということが考えられますので、企業価値向上に資すると思われる場合は、むしろ従業員に対する株式の無償交付は行いやすくなるという方向に作用することが期待できます。   これらのことを総合的に考慮しますと、B案を採用して株主総会の普通決議の手続を要求することは、上場会社にとっても健全な実務を阻害するものではなく、むしろ健全な実務をより強く促すものであって、相応の合理性があると考えています。   次いで、非公開会社については、ここに記載されていますとおり、募集事項の決定は株主総会の特別決議によらなければならないとすることに賛成いたします。その上で、仮にB案を採用して公開会社の場合に有利発行規制を適用除外するのであれば、非公開会社についても有利発行規制を適用除外するというのが自然ですので、そうであれば、株主総会における有利発行を必要とする理由の説明は不要であるということになろうかと思います。ただし、他方でB案のように、公開会社の場合に有利発行規制を適用除外する、言わばその代わりとして特別な手続規制を導入するのであれば、非公開会社にも何らかの特別な手続規制を導入することが検討されてよいと思います。例えば、募集事項を決定する株主総会において従業員等に対する株式の無償交付を必要とする理由の説明を要求するなど、一定の追加的な説明を要求することなどが考えられるかと思います。   その他の検討事項につきましては、これはどのような手続規制を要求するかと非常に密接に関係しており、まずは手続規制をどうするかが決まらないと確定的なことを申し上げるのは難しいため、現時点では特にコメントはございません。   ただし、(4)の計算の在り方については、先ほど申し上げたことと関連することがあるため、少しコメントさせていただきます。計算の在り方についても、なかなか現時点では確定的なことを申し上げるのが難しいのですが、取締役に対する株式報酬の場合と同様の会計処理にすることは十分に考えられると思います。この点に関して、ストックオプション等に関する会計基準でも、子会社の従業員等に対するストックオプションの付与によって親会社に便益が生じる場合は、会社の取締役に対するストックオプション付与の場合と同様の会計処理がされることになっていますので、子会社の役員・従業員を含む従業員等に対する株式報酬の場合もストックオプションの場合とパラレルな取扱いをするということには合理性があると思います。   その上で、ここで私が申し上げたいのは、こうした会計処理の在り方と会社法上の手続規制の在り方とでは、そろえた方が分かりやすいとは思いますが、考慮すべき事項が少なからず異なりますので、必ずそろえなければいけないというものではないと考えられることです。そのため、仮に会計処理の方では、会社(子会社にとっては親会社)による子会社の従業員等に対する株式報酬と子会社の従業員等による職務執行の間には対価関係があるという考え方に基づく処理をするとしたとしても、会社法上の手続規制の在り方を検討する際にはそうした対価関係は観念せず、対価関係がないものとして議論するということもあってよいのではないかと思いますし、それで特に問題はないのであろうと考えています。   長くなりましたけれども、以上です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○冨田委員 オンラインから失礼いたします。今回お示しいただいた資料なのですが、前回の私の発言も踏まえまして前提問題を整理いただき、ありがとうございます。先ほど矢野幹事からも問題点を幾つか指摘されておりましたが、私からは、補足説明にありますとおり、今後の検討を進めるに当たっては賃金に該当しないことが株式の無償交付の前提となること、この点につきまして堅持を頂きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○仁分委員 少し長くなりますけれども、一通り意見を述べさせていただきたいと思います。   前回も申し上げましたけれども、株式の無償交付の対象者に、上場会社の従業員に加えて、完全子会社から非完全子会社までを含む全ての子会社の役員及び従業員を含めることを要望いたします。要望の背景を申し上げます。   例えば、グローバルに事業を展開しているある会社では、国内外の約80社に及ぶ子会社の役員及び従業員に対して現物出資構成により株式を交付しております。同社では株式の交付に先立ち、対象となる全ての子会社との間で併存的債務引受契約を締結し、その後、親会社が引き受けた金銭債務について親会社が子会社に対して請求を行い、それに対して子会社が親会社に支払を行うという手続を個別に行っているとのことであります。   特に、海外子会社の場合は、現地の関係者に現物出資構成という極めてテクニカルな日本特有の制度について理解していただき、それに基づく支払処理を継続的に運用してもらう必要があるため、更に多大な負担が生じているのが現状であります。具体的には、併存的債務引受契約につきましては、当然対象となる役員や従業員が1名の子会社との間でも必要になりますし、対象者が契約未締結の子会社に異動した場合、異動先の子会社と新たな契約の締結が必要となります。また、会社再編の場面も含めて、現物出資構成とするための契約管理を徹底することが必要となります。   支払手続につきましては、子会社において支払のための費用の引当てが会計上求められるため、株式の交付に関わる会計ルールについて現地関係者が深く理解する必要があります。また、親会社から対象となる全ての子会社に対して、対象となる役員や従業員への支払額を算出して通知した上で、各子会社が経理処理を行い、親会社の支払を個別に行う必要があります。また、対象国の外貨取引規制等により請求ができず、現物出資構成による株式の交付を断念せざるを得ない場合もございます。   会社法上で従業員等への株式の無償交付を認めることで、このような実務上の負担が大きく軽減されることが期待されます。また、実務上のハードルが下がることにより、子会社の役員及び従業員に株式を交付する上場会社が増えることにもつながると考えられます。現在、企業がグローバルな競争環境の中で優秀な人材を獲得、維持し、企業価値を高めていくため、人への投資や従業員のエンゲージメント向上を重視し、役員に限らず従業員にも株式を交付する動きが広がっております。このような日本企業の競争力に直結する株式の交付を効率的に進めていくために、従業員等に対する株式の無償交付が認められる必要性は増していると認識しております。   検討の対象なのですけれども、まず各論に行く前に、3(2)「株式の無償交付をすることができる株式会社の範囲」について意見を申し上げます。流動性のない非上場会社の株式を交付することについては様々な懸念が生じることは理解できますので、まずは上場会社の株式に限定して議論を進める方が適切であると考えております。   2の「制度の基本的な枠組み」に関してでございますけれども、既存株主の利益の保護に関しましては、制度の実効性の確保及び企業の実務の円滑化の観点から、株主総会での決議を不要とするA案を支持いたします。有利発行規制との関係でございますけれども、株主総会決議を不要とする場合、有利発行に該当するかの判断が難しいとの御指摘を前回も、今回も頂いたと理解しております。しかし、今回は発行会社及びその子会社の役員及び従業員という限定された対象者への交付が検討されております。その背景には、従業員等の労働意欲の向上により会社への貢献が期待されております。すなわち、対価の払込みを要しないという意味で無償交付と呼ばれているものの、実質的には会社が従業員等へ株式を交付することによって適正な便益を受領することになりますので、原則として有利発行に該当しないと整理できると考えます。   新株予約権について申し上げますと、平成17年会社法制定時の法務省立案担当者解説において、従業員に対して新株予約権を交付することは有利発行に該当しないのが通常であるという考え方が明示されており、その後もこの考え方が踏襲されてきました。新株予約権の無償発行についてでさえ有利発行に該当することは現実に想定し難いところ、今回主に議論となっている上場会社の株式は、新株予約権と比較して客観的な評価が容易ですので、有利発行が問題となる可能性は更に低いと考えられます。   株主総会と取締役会の役割分担の関係について申し上げます。公開会社では、取締役会の決議によって募集株式の発行等を迅速に行えることが原則です。そもそも有利発行に該当しない株式の無償交付について、例外的に株主総会決議を必要とすることが適切であるかは慎重に検討する必要があります。また、従業員への株式の交付は基本的に従業員への処遇という企業の人材戦略の一環としての経営判断の問題であり、役員報酬のようなお手盛り防止の観点が求められるものではございませんので、株主総会決議を要求すべき性質のものではないと考えます。さらに、交付するものが金銭と株式のいずれでも、過剰に交付することで既存の株式の価値が下がることになれば、既存の株主は取締役の善管注意義務、忠実義務の問題として責任を追及することができます。加えて、株主による取締役の再任の可否の判断を通じて責任を問うことも可能であります。これらの前提を踏まえますと、事前に株主総会決議を求める必要性は小さいと考えております。   なお、現物出資構成についても同様の規律を及ぼすかという取扱いにつきましては、これまでの現物出資構成の実務において株式の交付は特に法的な問題を生じることなく行われてきましたので、株主総会決議を要件とすべき立法事実はないと考えております。   「その他の検討事項」のところでございますけれども、株式の無償交付の対象者につきましては、申し上げましたとおり、完全子会社から非完全子会社まで全ての子会社の役員及び従業員を含めるべきであると考えております。多くの大企業では、子会社を含むグループ全体で一体的に経営を行っております。また、親会社がグループ会社の従業員に福利厚生を提供することは一般的に行われていることであります。それにもかかわらず、無償交付の対象者が親会社の役職員か子会社の役職員かで対象を区別することは、企業経営の実態に即していないと考えます。特に、持株会社形態を採用している企業グループでは、事業活動を展開している子会社がグループ経営の企業価値向上の源泉となっており、子会社の役員及び従業員への株式交付を可能とする必要性が高くなっております。対象が完全子会社の従業員に限定されると、法改正の実効性が確保されないと考えております。   監査役及び会計参与につきましても、取締役と同様に、会社の中長期的な企業価値向上へのインセンティブを適切に付与する観点から、株式の無償交付の対象者に含める方向で御検討いただきたく存じます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○白井幹事 取締役に対する株式報酬の場合も含めてということになるのかもしれませんが、「職務執行により役務を提供するため、……特に有利な条件(有利発行)に該当することは想定し難い」という部会資料3ページの説明につきましては、①そもそも有利発行には一切該当しないという意味なのか、それとも、②有利発行には理論的には当たり得るけれども、職務執行の金銭的な評価というのは現実には困難であるため、訴訟において有利発行に該当する旨の立証が極めて難しく、そのため有利発行規制を課しても実際には機能しない可能性が高いという意味なのか、いずれの意味で理解すべきなのかによって議論は変わり得るように感じました。   部会資料3ページの記述を自然に読みますと、前者の理解、すなわち①有利発行には一切該当しないという趣旨で記述されているようにも思われるのですが、この点につきましては、久保田委員からも御指摘がありましたように、提供される役務次第では過大な株式交付と評価できる場合というのは、取締役の場合であれ従業員の場合であれ、あり得るように思われまして、個人的には後者の理解、つまり、②有利発行には理論的には当たり得るけれども、職務執行の金銭的な評価が難しいため、有利発行規制が機能しない可能性が高いという理解の方が適切ではないかと感じております。   そのことはさておき、仮に②後者の意味で理解しますと、A案、B案を比較するのであれば、A案は株主の利益保護という観点で機能しないことが見込まれますので、B案の方が適切だということになりそうでして、私自身も後者の理解が適切だと考えることからB案の方が望ましいと評価しております。その上で、B案を採用する場合に、後者の理解からは有利発行の可能性自体はあるということになりますので、有利発行の事前規制と同程度の規制(株主総会の特別決議)を設けることが自然だということにもなりそうなのですが、この点に関しましては、従業員等に対する株式報酬を推し進めるべき政策的な必要性が高いといえるのであれば、又は過大な株式交付のリスクが従業員等の場合には小さいといえるのであれば、普通決議で足りるとするなど、有利発行の事前規制と比べて規制を緩和することも考えられるのではないかと思われます。   これに対しまして、①前者の意味で理解するとした上で、かかる説明は従業員等に対する株式報酬の場合にも妥当すると考えるのであれば、そもそも有利発行には一切当たらないと考えるわけですので、仮にB案を採用するとしても有利発行の事前規制との平仄というのは全く考える必要がなくなります。しかし、およそ有利発行には当たらないと整理する以上、授権資本の範囲内で発行する株式報酬について、そもそも当該株式報酬が既存株主の利益を害する事態として一体どのようなものが想定できるのか、一度立ち止まって考える必要があるかもしれないと感じております。およそ既存株主の利益を害する事態はないと考えるのであれば、A案を採用した上で、有利発行には常に当たらないという整理もあり得るのかもしれませんが、私個人としましては、先ほど申しましたようにB案が妥当ではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○森委員 今回の会社法改正は、令和元年以来の大きな改正となり、法施行のタイミングを考えると、10年に一度の改正ということになろうかと思います。そういった意味で、今回の改正は過去10年の社会経済情勢の変化、それから今後の日本社会の在り方を踏まえて検討しなければならないと考えていますし、日本経済の将来を担う大変重要な改正だと思っております。   その観点も踏まえて、従業員の株式無償交付についてコメントさせていただきますと、御承知のように過去30年にわたって日本はデフレに苦しみ、従業員の給料がなかなか上がらないという状況が続いてまいりました。グローバル企業では、日本の本社の役職員よりも海外の子会社の役職員の方が給料が高いという事態が普通に発生していますし、日本国内においても、外資系企業であれば株式報酬によって多額のインセンティブ報酬をもらえるというような会社が幾らでもあるという状況になっております。更に言いますと、少子化の進展によって労働者の確保自体が大変難しくなってきているということに加えて、テレビやインターネットを見れば分かるように、転職自体が非常に身近で、かつ簡単になってきています。   このように、労働者、取り分け雇用を取り巻く環境というのが過去10年で本当に驚くほど変わってきており、多分私が過ごしてきた時代とはもう全く時代が変わっているという認識を持って、いろいろな議論をしなければいけないのだろうなと感じています。このような状況において、グローバルに優秀な人材を確保し、従業員のエンゲージメントを高めて雇用を維持するというためには、やはり従業員向けの株式報酬制度というのは非常に重要な制度だろうと思っております。この法改正は思っている以上に社会的にインパクトがあり、かつ、日本の将来のためにも非常に重要な改正であると考えております。   その前提で、具体的な案について意見を述べさせていただきますけれども、まず念頭に置くべき論点が二つあると個人的には思っておりまして、1点目は、上場株とそれ以外の株では、株式の持つ性格が大きく異なっているということです。上場株は株式価値が明確で、いつでも譲渡して現金化することができますし、譲渡先を自ら探す必要もありません。そのような上場株と非上場株の性格の違いを念頭に置いて議論をすべきではないかと考えております。   2点目は、株式の無償交付という命題の立て方についてです。従業員に対する株式の無償交付というと、従業員にただで株式を幾らでも配るというようなイメージになりがちですけれども、ここで念頭に置くべきは、従業員への投資、すなわちインセンティブ投資であったり、従業員の貢献に対して報奨を払うというもので、人的資本への投資という位置付けで考えるべきではないかと思っております。そういった意味では、設備投資ですとかM&Aの投資と同じようなものであって、そういった投資であれば取締役会決議で株式発行できる会社について、人的投資については株主にお伺いを立てなければいけないというのは、個人的には違和感があります。例えば、従業員に対して1年間の頑張りに対して特別に100万円の報奨金を出そうという場合に、現金で支給する場合は何ら問題はないということなのに、上場株で100万円相当のものを渡そうとすると株主総会の決議が必要になるというのは、いかにも不合理だと感じています。   一方で、上場していない会社については、株式の価値算定が難しいという問題がありますし、そもそも譲渡が容易ではなく現金化が難しい株式を、従業員に広く配布するというニーズがどこまであるのかという疑問もありますし、ベンチャー企業等であれば、これまでと同じような実務で、例えば新株予約権等の交付によって対応するということもできると思います。したがって、本テーマについては、上場会社について株主総会の決議を要件とせずに従業員に対して株式交付を認めるというアプローチで検討すべきではないか考えており、対象会社は会社法第202条の2と同列で考えるべきではないかと思っております。   そして、有利発行規制につきましては、規制の対象外とするのではなく、規制に服するとした上で、事業報告書などにおいて清々と有利発行には該当しないということを説明すればいいだけであって、上場株であれば人的資本投資の観点から十分に説明できるものだと考えておりますし、株主保護の観点で考えた場合に、事業報告書を見て不当だと考えた株主は、例えば発行差止請求をするですとか、取締役の善管注意義務違反の責任を追及するですとか、取締役の選解任権の行使をするといった形で対応することも可能だと考えられますので、株主保護の観点からも問題がないと考えております。   本テーマは、考える前提をきっちりと整理していかないと、いろいろな要因が重なって、非常に難しい議論に入っていくと思っておりますので、私としては上場会社における従業員に対する株式の交付、正に人的資本の投資という観点で整理をしたらどうかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○内田委員 まずは前提として、株式の無償交付については、上場企業に限らず地方からもそれから非公開会社からも強い要望があるとの認識です。この制度は広く普及していくのだろうと思いますし、非常に重要な変革だと思っています。   その上で、私はこのA案、B案でいうとやはりB案、株主の意思確認をすべきだと思います。確かにこの説明にあるように、従業員の働きを職務執行の点から十分に反映できれば希薄化も問題にならないし、有利発行規制にも該当しないということは理論的には分かります。しかし、現実にはそうではなく、やはり既存株主に希薄化に対する懸念は残ることになるかと思います。新株発行に伴う希薄化が投資家にとってやはり気になるということは、どこまで対象を広げるのか、どれだけ資金が出ていくことになるのかと深く関わってきます。それを十分に考慮しないと、かえって投資家サイドのリスク許容度を萎縮させることになり、この制度に対しての懸念を生むことになるので、逆にこの制度の普及を妨げるのではないかと思っています。   そういう意味では、久保田委員がおっしゃったように、株主総会の普通決議で済むのであれば、一旦それが決められれば、それを何回も議論する必要もなく、発行体も自由度を持って機動的に対応できるということだと思いますので、これが現在行われている現物出資構成による株式交付よりハードルが高くなるとは思えないのです。現物出資構成による株式給付の方が使いやすく、株主総会決議に掛けることによってそれが妨げられて制度として普及しないという懸念は、意見としてはお聞きしたりしますが、あまり心配しなくて良いのではないかと考えています。少なくとも株主総会において一旦承認を受けて、つまり株主の確認を得た上で機動的に対応していく方がこの制度の普及の上では重要なのではないかと思います。   それから、公開会社においては新株発行等は取締役会決議が認められているということだと思いますが、少し種類が違うと思うのです。M&Aや新規投資のための新株発行については、やはり機動性とか柔軟性が求められる案件ですので、この辺りは経営者判断に任せて機動的に対応していくということが資金調達面でも必要だと思います。一方、株式の無償交付については長期的な視点でのインセンティブという色彩が強いと思いますので、計画的に従業員の福利厚生であったり人的資本形成の観点から取り組むべき施策であって、機動性、使い勝手というよりは、やはり株主の意思を確認することで支給する対象や金額や希薄化率も限定されると思いますが、そうではない会社が出てきたときにはそれを抑制するという意味でも株主の意思確認が必要になると思います。その意味では、対象とそれから量というか金額を最初に定めておくのが良いと思いますし、そちらの方がこの制度が長い期間にわたって活用され、多くの人に使われる制度になるのではないかと思います。   また、この対象について少し詳しく述べると、確かに完全子会社だけというのは少し狭すぎるとも言えるので、私は実質的な主要子会社というところを念頭に置きつつ、対象範囲を完全子会社に限定しないで主要子会社に広げていくということもあり得ると思います。その意味では、職務の提供との関連性が容易に想像できるという意味で、確かに昨今、持株会社形態が増えてきて、主要な子会社が収益源だったり事業の柱だったりしますので、そこを含めて明らかに親会社の企業価値向上に貢献しているという点で議論のないところが対象になると思います。さらに、利益相反が疑われるようなエンティティーというか会社でないというのが必須条件になると思いますので、そこが疑われるようであれば、その対象から外すべきだろうと思います。   以上になります。ありがとうございます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松中幹事 まず、余り議論にはなっていなかったのですが、労働法との関係についてどうなのだろうかというところがあります。労働法上、賃金ではないと整理する、しかし広い意味での職務執行だと会社法の世界では整理する、これが本当に成り立つのでしょうか。会社法の世界で広い意味での職務執行の対価だと考えるのは、まあ成り立つと思うのですけれども、そう考えたときに、本当に労働法で賃金ではないと扱ってもらえるのかというのが少し疑問として残っています。取り分け、広い意味での職務執行の対価である、あるいは従業員のモチベーションが上がって将来的に従業員の提供する労働の価値が高まると考える、だから有利発行にならない、なりにくいと考える、こういう考えを強めれば強めるほど、この問題は顕在化してくるのではないかとも考えられます。これが一つです。   もう一つは、やや細かいのですが、2ページの労働法上の関係法令に抵触しない範囲で従業員等に対する株式の無償交付をするというのを方針の中で定めるというところです。これは、会社法に労働法の遵守をある意味、織り込むことになるわけです。これを入れること自体が問題だとは思わないのですけれども、もし労働法に反した場合、無償交付の効力はどうなるのかを整理しておく必要があるのかなと思います。個人的には、それはそれ、これはこれということで切り分けることができた方が望ましいのだろう、法的な安定性が確保できるのだろうとは思っておりますので、そうなるようにした方がいいということでございます。   続いて、会社法の話ですけれども、有利発行については既に議論がいろいろ出ているわけですが、確かに従業員のモチベーション向上などの形で利益があるということは観念でき、それが無償交付を広げていくニーズが正当なものであることの背後にもあるはずだと思っております。これを評価するのは確かに取締役会ですので、モチベーションの向上がどのくらいの利益になるのかというのは別に株主が評価しなくても良いわけです。ただ、だからといって、そのことから直ちに原則として有利発行に当たらないというロジックは出てこないのではないかと思っています。というのも、資本業務提携なんかでも同じで、業務提携して何かのメリットが生じる、その評価は取締役会がやるわけですけれども、だから有利発行に当たることは余り考えられないとか、そういったことは従来言ってこなかったのではないかと思います。そういうわけで、有利発行に当たる可能性というのはあり得るとは思います。現実に上場会社でそんなことがたくさん起きるかというと、それはないだろうという信頼はもちろん共有されているとは思うのですけれども、理屈の話として原則として当たらないとまではいえないと思っております。   そういうふうにいろいろ考えていくと、B案の方が素直でストレートではあると思います。これは結局、株式報酬というのは株主が直接コストを負担する、つまり、効果がどういうものかはともかく、それに対して株式という形で対価を払うわけですから、株主がそれに対して何らかの承認を与えれば、株主の利益を保護する規律というのは外す、これは非常に素直ではないかと思います。もう一つ、非上場会社、非公開会社はともかく、公開会社でかつ非上場の会社にまで広げるのであれば、A案は極めて問題が大きいので、B案にしないとそこまでは広げられないのではないかと思っております。   最後に、対象にする従業員等の範囲ですが、私は完全子会社に限る必要は余りないのではないかと思っています。確かに少数株主がいる子会社の役職員に無償交付を認めると、親会社の利益を優先するインセンティブというのは理論上生じ得るわけですが、これは親会社株主になるから生じるわけであって、必ずしも株式を取得する理由とは関係なく、無償交付であろうが何であろうが、同じものを取得すれば同じことが生じるわけで、取り立てて株式の無償交付特有の問題と考える必要はないのではないかと思っております。もちろん、余りに子会社の少数株主の利益を害するようなことをやっていれば、それは別途問題になるとは思うのですが、無償交付の問題として特に手当てが必要かというと、そうでもないと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○行岡幹事 私からは大きく2点、コメントを申し上げたいと思います。   1点目は、部会資料3ページのA案とB案に関するところでございます。結論から申し上げますと、先ほどの久保田委員、白井幹事と同じく、私もA案は余り適切ではなく、B案の方がよいのではないかと考えています。これから申し上げることは両先生がおっしゃったことと一部重複するのですが、やや異なる観点からコメントを申し上げたいと思います。   このA案とB案に共通する問題意識は、株式の無償交付がいわゆる大盤振る舞いされてしまうリスクにどう対処するかという話だと思います。この問題に対して、A案は有利発行規制によって対処しようとしているわけですけれども、ここで有利発行規制においてどのような判断枠組みで判断されることになるかを考えますと、恐らく、当該無償交付によって会社が享受する便益の大きさと、当該従業員等に交付される株式報酬の内容を比べて、特に有利かどうかを判断する、しかもそれを最終的には裁判所が判断することによって、大盤振る舞いに対する規律付けをする、ということを想定した考え方であると理解できます。   そのような前提の下、裁判所としてどのようなアプローチをとり得るかを考えますに、大きく二つのアプローチが考えられると思います。結論から言うと、どちらのアプローチにも問題があるというのが私の意見なのですけれども、まず一つ目は、裁判所が実質的にそれらの価値の比較を行うというアプローチです。しかしながら、これは既に今までも議論が出ているところなのですけれども、無償交付によって会社がどれだけの便益を享受できるかというのは正に経営判断の問題であって、そもそも裁判所が適切に判断するのになじまない事柄であるように思われることと、仮にそれでもなお裁判所が実質的な判断をしようとすると予見可能性が害されてしまって、非常に使いにくい制度、すなわち裁判所によって有利発行に該当すると判断されるおそれを考慮して、常に株主総会の特別決議を経ておかなければ実務的には怖くて使えない制度になってしまうおそれがあるのではないか、と思います。   そこで、裁判所がとり得る第2のアプローチとして、会社がどれだけの便益を享受するかについては会社の経営判断を尊重するというアプローチも考えられると思います。実は、従来の現物出資構成は、暗黙のうちにそのような考え方を既にとっていたと評価できるのではないかと考えています。なぜなら、現行法上の現物出資方式においては、会社が従業員等に対して金銭債権を付与するわけですけれども、付与する金銭債権の金額の妥当性については、基本的に有利発行の問題ではなく経営判断の問題であると整理されてきたと思われるためです。そうすると、この第2のアプローチは、従来の考え方と整合的であるとはいえるのかもしれないのですけれども、ただ、そのようなアプローチをとりますと、A案のように有利発行規制に服するといったところで、結局のところ実質的には規制がないのとほとんど大差がないといいますか、よほど極端な事例以外では有利発行該当性が否定されるという実務運用になるのではないかと思われ、大盤振る舞いを懸念する立場からは、そのような規制の枠組みでいいのかという疑問が生じると思います。この点については、先ほど仁分委員から、取締役の善管注意義務ないし忠実義務によって規律付けができるというコメントがあり、確かにそれは一理あるのですけれども、果たしてそれで十分かという点については価値判断の分かれ得るところなのかなと考えております。   このような観点から、私としては、大盤振る舞いの懸念を重視する観点から、どちらかというとB案、すなわち、株主総会決議によって一定の枠を設けるということによって規律付けを行うというアプローチが妥当なのではないかと考えている次第でございます。ちなみに、それと関連して付言いたしますと、B案において特別決議か普通決議かという問題があるかと思いますが、この点については私も、久保田委員が先ほどおっしゃったのと同じで、普通決議でよいだろうと考えています。その最も重要と私が考える理由は、いわゆるお手盛りのおそれという構造的な利益相反の問題がある役員の株式報酬についてさえ普通決議でよいとされていることとの均衡から、そのような構造的な問題がない従業員等に対する株式報酬についても普通決議で足りると考えるべきではないかと考えています。以上が1点目のコメントです。   2点目のコメントですけれども、部会資料の6ページの一番上、3の直前の項目に関連して、従来から行われている、いわゆる現物出資構成に対しても何らかの規律を及ぼすべきかという論点があるかと思います。結論から申し上げますと、現物出資構成においても、過大な金銭債権を付与するという形での大盤振る舞いの危険はありますので、先ほど申し上げた論点についてB案を採用するべきだという立場からは、同様の規律を現物出資構成にも適用することが望ましいのではないか、と考えています。   ただ、このような考え方をとると、新たな無償交付制度の在り方次第で、一部かみ合わせが悪い部分が出てくるかもしれないとも思っています。それはどういうことかといいますと、同じ資料6ページの3、その他検討事項の中で出てきます株式の無償交付の対象者の範囲を限定するというアプローチを仮にとったとした場合に、どのような規律になるのか、という問題です。すなわち、例えば無償交付の対象者を当該会社及びその完全子会社の従業員等に限定するなど、無償交付制度の対象者を一定の範囲の者に限定するという制度を仮にとったとします。そしてまた、先ほど申し上げたように、無償交付について、B案のような手続的規律を設けるという制度を仮にとったとします。このとき、無償交付制度の対象範囲に含まれない従業員等については、無償交付という形での株式報酬を与えることはできないということになりますが、そのような者に対して現物出資構成で株式報酬を与えることは、どのように規律されるのかという問題が出てくると思います。   これについては、恐らく大きく三つのアプローチがあり得ると思います。まず、第1のアプローチとして、従来どおりの方法で現物出資構成で株式報酬を与えることができる、という考え方があり得ます。しかし、このような考え方には、無償交付制度の対象を一定の範囲の者に限定し、かつ対象者にはB案のような規律を適用するという制度設計と実質的に整合するのかという疑問があり得るように思います。これに対し、第2のアプローチとして、新たな無償交付制度の対象外の従業員等については、もはや現物出資構成による株式報酬の付与も許されないのだという考え方も、理屈上は考えられると思います。しかし、このような考え方は、従来できていたことをおよそできなくするという話になるので、過剰規制ではないかという疑問が出てくるかと思います。そこで折衷的な第3のアプローチとして、B案と同様の規律、すなわち株主総会決議によって一定の枠を定めることを求めるという規律を、無償交付制度の対象外の従業員等に対する現物出資構成による株式報酬にも一般的に適用するというアプローチも考えられると思います。しかし、果たしてそれは制度全体として整合的な立て付けなのかという疑問がなおもあり得ると思います。   少し長くなってしまいましたけれども、以上コメントさせていただきます。最後の点は問題提起にとどまるものですけれども、以上でございます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○青委員 まず、議論の出発点として、株式会社が従業員に株式を無償交付することで実現したいことや、株式を交付することの性格、意味合いを明確にすることが有用ではないかと考えています。典型例として、株式会社が幹部従業員に対して労働の対価としての通常の賃金とは別に、それに上乗せして将来の功績の発揮に向けてインセンティブ報酬を支払うといった趣旨で株式を交付する行為を念頭に置くと、株式会社としては、従業員にインセンティブ報酬を付与するということを通じて、従業員が将来の功績発揮によって会社に相応の付加価値をもたらすことを期待し得ると考えて、その期待価値を得られる一方で、それに相当する価値の株式を払込みなしで交付する行為であるという理解の仕方が基本にあると考えています。その際、会社のメリットと交付する株式の価値が基本的にはバランスする形で運用されると理解されますので、有利発行に該当する可能性はありつつも、通常は有利発行に該当しないような運用がされるのではないかと理解しております。   しかしながら、先ほどからも出ておりますように、有利発行性の判断は、特に外部から評価しづらい面があり、不安定になりますので、B案のように株主総会で枠を設定する方が、結論としてはより合理的な運営を確保しやすいのではないかと考えます。   また、普通決議か特別決議かにつきましては、先ほどからも御指摘がございましたように、通常の取締役への株式無償交付と異なり、従業員の場合はお手盛り防止の観点を考慮する必要はないと思いますので、取締役が対価の決定について善管注意義務を負っているのであれば、普通決議で足りると考えることもできると思います。   それから、労働法との関係については、やはり調整が難しいと思いますが、通常こうした株式交付は、インセンティブ報酬という考え方を基に実行され、経済的に有用で、かつ企業が成長するために必要な側面があるという性格のものと思いますので、通常の賃金と別に付加的に支払われるのであれば、株式であっても労働者の不利益にはならないのではないかと、素人考えとして思います。労働法上の守るべき利益に照らして、形式というよりも実質的な面も含めて議論できると有り難いと思っています。もちろんこの部会というよりは労働法関係の専門の会議体で御議論される内容かとは思います。また、「福利厚生」という整理で交付する考えもあるかとは思いますが、実際の目的を考慮すると、正面からインセンティブ報酬と捉える方が、制度としては明確な形になるのではないかと思います。   それから、対象の範囲については、完全子会社を対象にすることは異論がないと考えています。完全子会社以外の子会社につきましては、完全子会社の場合と同様に何らかのインセンティブを設けるという考え方自体には賛成ですが、親会社の株式を付与するに当たって、子会社の利益と親会社の利益がバッティングする可能性は慎重に考慮する必要があると思います。   また、現状のスキームでは、親会社が子会社のどの役職員に株式を均一に付与するのか、あるいは人によって差を付けるのかなどは親会社が判断することが想定されているのではないかと思われたのですが、本来は子会社が自ら差配すべきであって、これを親の方が差配するのは、子会社にとっては不自然なことと感じます。子会社の意思・負担でインセンティブ報酬を子会社の従業員に支払うのが基本であって、その際に親会社の株式を利用できるスキームを考えていく方向の方が、子会社の従業員に対するインセンティブの付与という観点では、より自然な形になるのではないかと考えています。   さらに、100%子会社でない場合につきまして、子会社が創出した付加価値のうちグループの利益として上がるのは親会社の持分割合に応じた分のみということに当然なるわけなので、そうした観点からも、完全子会社とそうではない子会社で、同じような働きに対して同じような量の株式の付与をすることだとすると、本当の意味で均等の関係にあるかやや疑問があるところではございます。そうしたところも含めて、子会社については十分丁寧な検討が必要になるのではないかと思われます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○北村委員 まず、A案とB案に関しましては、基本的には久保田委員がおっしゃったこととほぼ同じでありまして、私もB案で、かつ普通決議で足りるという考え方でございます。株式報酬としての募集株式の発行が有利発行になり得るかということについて、白井幹事が先ほどまとめられた中で後者、つまり有利発行にはなり得るという整理が適切かと思いますが、なり得るのだったら、A案なら、無償交付の都度、株主総会特別決議をしなければいけないということになってしまいそうです。それに対してB案であれば、一旦普通決議で決めればそれが効力を持ち続けるということで、使い勝手という面でも、あるいは現在の取締役の株式報酬が普通決議であるということのバランスにおいても優れているということになり、B案に賛成いたします。   次に、無償交付の対象者の範囲を子会社の従業員に拡大するかという問題なのですけれども、私は会社法制研究会のときは完全子会社ぐらいまでが限度ではないか、といった考えを持っておりました。しかし、その後いろいろな御意見を伺い完全子会社に限る必要はないのではないかと考えるようになりました。先ほど内田委員は、利益相反が疑われないような子会社とおっしゃったのですが、そうすると基準が曖昧になってまいりますので、私は子会社の従業員であれば対象にすることができるとすればよいと思っています。この場合、子会社従業員に対する募集株式の割当ての方針を取締役会で定めて、これを含めて、B案であれば株主総会の普通決議で承認するということであれば、制度として成り立たないわけではないと思います。利益相反の問題については、子会社の役員の責任で対応すべきではないかと思っております。   行岡幹事が指摘された、現在行われている現物出資構成との関係ですけれども、子会社従業員に株式報酬として親会社株式を現物出資構成で支給する場合、子会社従業員の子会社に対する報酬債権を親会社が併存的債務引受けをして、子会社が当該債権を親会社に現物出資し、後で親子会社で精算するという、ややこしくまた子会社に負担の生じる手続をしているわけです。もし株主総会普通決議によって子会社従業員に対しても無償交付ができるということになれば、そういう変則的な現物出資構成は要らなくなるという意味で、メリットがあるのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○加藤幹事 私からは1点質問、1点コメントをさせていただきます。   資料の2から3ページに議論のためのたたき台として挙げられているA案とB案のもう少し具体的なイメージについて、質問したいと思います。A案は、例えば新株予約権のように、募集事項として募集株式と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合にはその旨と定めることができると定めた上で、金銭の払込みを要しないこととすることが当該者に特に有利な条件であるときを有利発行とする等の規定をイメージすればよいのでしょうか。また、B案は、令和元年改正によって導入された取締役に対する株式報酬と同趣旨の規定を設ける、こういうイメージでよいのかということを確認させてください。   第2点目は、A案とB案は議論のためのたたき台ですので、A案とB案のどちらの方が望ましいかを考える際には、対処すべき課題の明確化が必要であると私も思います。これも既に多くの委員、幹事の先生方がおっしゃったことと重なりますが、私もコメントさせていただきます。   まず、職務執行の対価というか、報酬という言葉は使わない方がいいのかもしれませんけれども、株式報酬を従業員などに付与することによって、既存株主、株主にとっては希釈化という経済的な不利益が生じる可能性があるということは否定できないと思います。希釈化が生じる原因は、行岡幹事がおっしゃったような大盤振る舞いが行われるということです。会社は、株式報酬を利用することによって従業員などから将来的に有益な職務が提供されることを見越して、株式報酬を付与すると思いますが、そのような将来なされるであろう職務執行の評価が過大になされることにより希釈化の不利益を株主が被るということです。   ただ、既にほかの委員の先生方から御指摘がありましたとおり、従業員などに対して金銭報酬を与える場合については、完全に経営判断の問題であると位置付けられているのに対して、株式報酬を付与する場合には経営判断の問題であると割り切ることはできない点を明確にする必要があるかと思います。その一つの考え方としては、株式報酬は実質的には株主が従業員などに対して報酬を支払っているという点で、金銭報酬とは構造が相当異なるということであると思います。こういった点を留意した上で、A案なのかB案なのかという問題を考えていく必要があると思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。1点御質問があったかと思いますが、もし具体的なイメージが既にありましたら、それについて御説明いただければと思います。 ○宇野幹事 ありがとうございます。書かせていただいたとおり、A案、B案は議論のためのたたき台という立て付けになっておりまして、まだ条文の書き方ですとか規定振りのところまでは詳細を詰めていないところでございます。 ○神作部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございました。 ○田中委員 まず、株式の無償交付制度を設けるかどうかということについては、従業員に対するインセンティブ報酬の合理性を踏まえて、賛成したいと思います。   その上で、労働法の観点についてですが、現行法の下でも、新株予約権については、金銭の払込みなく新株予約権を発行する場合でも、それが特に有利でないと判断できれば、公開会社は取締役会決議だけで発行できています。会社法的には、このような場合は、実質的には従業員に対するインセンティブ報酬として発行しているものであり、実質的な対価は職務執行の形でもらっているから実質的に無償ではないという説明がされていると思います。他方で、ストックオプションについては、労働法的な観点からは労働の対償ではない(だから賃金の通貨払い原則には違反しない)という整理がされているようです。このことからしますと、会社法上の職務執行の対価ということと労働法上の労働の対償というのは、概念の相対性ということで違って解釈されているらしいということがあります。実際問題としては、職務執行の対価として新株予約権を発行するのも株式そのものを交付するのも、労働者の利益という観点からするとそれほど変わらないような気がしまして、一方は許されて他方は許されないという理屈付けをするのは必ずしも簡単ではないと思います。   それから、少し労働法の議論にちょっかいを出しすぎかもしれませんけれども、仮に今回、従業員に対する株式の無償交付という制度を正面から設けることに反対が多くて、そういう立法が実現しなかったとしても、依然として、現物出資構成によって実質的に株式の無償交付と同じことができるわけですし、さらにはストックオプションも交付できることになります。一体そういった制度は本当に労働者の利益保護という観点から整合的に説明できるような制度になのかということを問題にした方がいいと思います。むしろ、従業員に対する株式の無償交付という制度を正面から認めた上で、例えば、従来現金で賃金をもらっていた労働者の処遇が非常に悪化してしまうとか、あるいは現金とエクイティー報酬のバランスが極端にエクイティー報酬に偏っているとか、そういったことを問題にするのであれば、それは新株予約権であるか株式か問わず、また、もちろん現物出資構成であろうと直接交付構成であるかを問わず、横断的に、労働者保護のための規制を課すべきです。そういうことをしないで、これまでも現物出資構成で行われてきたものを、株式の無償交付構成で行われようとするときだけこれを問題視するというのは、ほとんど理解しかねることだと思っています。   それと、部会資料にいう「前提問題」(第1の1)に関しまして、労働者の利益保護のために何かを会社法が手立てを打てるかということについて申しますと、手立てを打つなら労働法で打ってほしいです。労働法できちんとした決まり(規制)を定めて、その決まりを遵守しているということを会社法上開示するというのはいいと思うのですけれども、現在の、率直に言ってバランスがよく分からない労働法の規律を前提にして、会社法で何か手立てを定めろと言われても、困ってしまうということであります。最低限言いたいことは、労働者に対するインセンティブ報酬というのは合理的な仕組みですから、正面からこれを認めていくということがいいと考えております。   その上で、A案かB案かということについて意見を申し上げますと、現行の新株予約権に関しても、少なくとも子会社ではなくて発行会社本体が、つまり発行会社自身が使用者で、その労働者に対して新株予約権を無償で交付することに関しては、実質的に職務執行の対価であるということから有利発行には当たらないと一般に考えられていると思いますし、またその場合には、労働者に対する職務執行の対価としてどれだけの財産的価値を交付することが適切かというのは、これは基本的に経営判断の問題であって、取締役と違ってお手盛り防止の観点から会社法上の規制を課す必要性もなさそうです。したがって、少なくとも会社本体が労働者に新株予約権を交付することについては、ほぼ有利発行規制から免れることを前提にしてよいと思います。このことからすれば、株式を無償交付する場合であっても、有利発行規制からは事実上免れるということになれば、A案ということになるかなと思います。   これに対し、B案については、実質的に職務執行の対価なのだから有利発行規制を課すまでの必要はないのだけれども、株式を対価にするということから、会社の取締役会の判断で、先ほど大盤振る舞いという言葉が出ましたけれども、過大な株式が交付される可能性があるので、政策的な観点から、株主総会の普通決議を要求するという一定の規制を課すという説明が考えられると思います。私は、前にそのような説明も考えられるということは前に申し上げたと思うのですけれども、B案にするときに考えておかなければならないのは、先ほど行岡幹事も言われたような、従業員に対する実質的な無償交付、つまり現物出資構成による交付についてどう考えるかという問題もさることながら、例えば、今日ほぼ有利発行規制の適用を受けずに行われているであろう、上場会社が従業員に対して行う新株予約権の無償交付なども、エクイティー報酬であるということから、やはり株主総会決議を課すのかということが恐らく問題になってくると思っています。もしも新株予約権に対して特に規制をかけずに、株式交付だけB案のような規制を課すとしますと、会社としては、勢い新株予約権発行を利用するという形になっていくのではないかと思っておりまして、この辺りをどう考えるかということが大きな論点になると思います。   もしもエクイティー報酬については、全面的にB案のように株主総会決議を課すという制度にすると、少なくとも現在の実務と比べればかなり大きな規制強化になりますので、このようなことをするほどの必要性があるかという議論になると思います。他方で、諸外国、特にヨーロッパ諸国の規制と比べれば、日本のエクイティー発行規制は緩いわけで、ヨーロッパ的な感覚では、エクイティーの発行は原則的に株主総会決議を取るのが通常ということがありますので、B案にして、株主総会決議をかなり広い範囲で課していくという規制の方向性も必ずしも反対ではありません。ただ、特に新株予約権まで含めて規制の範囲に含めるとすれば、かなり大きな規制強化になることは確かだと思うので、その必要性などを含めて十分検討する必要があると思います。 ○神作部会長 ありがとうございました。 ○藤井委員 私は、先ほど仁分委員、森委員がおっしゃっていただいた意見に賛同したいと考えております。つまり、従業員に対する株式の無償交付を認める場合の基本的な枠組みにつきましては、株主総会の決議を不要とするA案というのを支持したいと考えております。お二人と、意見、繰り返しになりますので、少し簡潔に述べさせていただければと思います。   従業員への株式の無償交付につきましては、私も推薦母体であります信託協会内を含めて広く意見を聴いてまいりましたが、確認できる範囲においては、非公開会社においてニーズが高くあるということは余り確認ができておらず、ここにつきましてはまずは公開会社に限っての検討を進めるということがいいのではないかと考えております。   その上で、先ほど仁分委員もおっしゃっていただきましたけれども、現状の新株予約権の交付につきましては、御紹介いただきました立案担当者によって示されている見解に基づきまして発行実務というのも行われてきているところでございまして、私どもが承知している限りにおいては、特に上場会社においてこの有利発行規制というところが問題になっているということは余り確認はされていないのかなと考えております。先ほど少し田中委員も規制強化というお話をしていただいたかと思うのですけれども、現状、従業員のインセンティブとして株式の交付を行っている企業というのは上場会社において1,000社を超えているというような状況でございます。事務当局からの問いで、いわゆる現物出資構成についても同様の規律を及ぼすかどうかといったところの問いがあったかと思うのですけれども、やはりこちらも既存の実務スキームに影響を及ぼさないような形で考えていただけるといいのかなと私どもは考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○冨田委員 今ほど皆様方の意見を伺っていて、労働者の立場から一言申し上げておかないといけないと思いましたので、発言させていただきます。   今回の株式の無償交付を希望される理由を幾つか伺っていますと、現行制度の複雑さであるとか会計上の負担、こうしたものを軽減するために無償交付を実施したいなど、実務上の課題を上げられる声が多く聞かれたと思っております。一方で人材確保や人への投資の観点の御発言もあったかと思います。労働者側からみると、労働の対価が何で支払われるのかという観点が非常に重要で、この部分は労働基準法に関する部分に当たりますので、会社法の場で申し上げるのはふさわしくないと思い、発言を控えておりましたが、労働者が提供する労働の対価は、労働基準法上、原則として賃金で支払われるとなっております。先ほどからインセンティブ報酬という言葉が委員の先生方から聞かれましたけれども、インセンティブ報酬が何の対価で支払われるものなのかということが、労働者からすると非常に重要なポイントになろうかと思います。この点が明らかにならないと、委員の先生方がおっしゃられた効果が十分に発揮されないのではないかと思います。   提供した労働の対価を賃金以外の方法で払ってもらいたいという声は、少なくとも私どもの仲間から聞こえてきませんので、恐らくは企業側の期待値によるものなのだと思いますが、この部分を掛け違えると、制度ができても十分な効果が発揮できないことになるかと思います。どこで議論するのかというのはあるかと思いますが、必要性を目的とするならば、その目的の効果が本当に発揮されるのかという点についても御議論いただけると有り難いと思います。   いずれにしても労働者としては、先ほど申し上げました賃金該当性の部分の整理を付けていただくことが大事だと思っておりますので、この点の議論を重ねてお願いをしておきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。御指摘のとおり、労働基準法上の賃金との整理はどうしても必要だと思いますが、冨田委員、もし可能であれば、整理が付いたとして、本日の論点について何か御指摘してくださるようなことはございますでしょうか。特によろしゅうございますか。 ○冨田委員 ありがとうございます。我々労働者側からすると、飽くまでも労働の対価は賃金で支払われるべきという原則を堅持していきたいと思ってございますので、そこを超えての発言は今日の場では差し控えさせていただきたいと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○藤田委員 多くの方も既に発言されて、それと重なるところもあるのですけれども、私からも若干申し上げます。まず、賃金の通貨払いの原則をどう考えるかは、重要な前提条件なのですけれども、労働法制上の整理は更に先送りで検討されるということでしたので、ここではそれ自体には余り深く立ち入らないことにしたいと思います。ただ、この問題の解き方次第で、他の論点に全く影響がないとも限らないことだけは少し留意した方がいいかもしれません。労働法上の賃金であることと、会社法上の職務執行の対価であることが何の関係もないと言い切れるのであれば、基本的に影響はないのですけれども、そう割り切れるかという点も含めて、整理の仕方によっては検討課題を残すことは考える必要があると思います。また、会社法上、労働法者保護的なことを直接取り込むのは難しく、この点を手当てするにしても、できることは、今も案で挙がっているように、労働法上の規律をきちんと守った上でやりますということを宣言するという程度にとどまり、それ以上の実体的な労働者保護そのものを会社法に実体として書き込むことはできないというのは押さえておかなければいけないと思います。   その上で、この論点を除きますと、恐らく一番大きな論点は、公開会社を前提とした場合の2で書かれているA案、B案の対立だと思います。ただ、これもここだけで独立に議論することは本当はできなくて、支給対象をどこまで広げるかということと密接不可分な気がしています。例えば、職務執行の対価として金銭債権、すなわち報酬なり賃金なりが明確に観念できる場合に、それを現物出資というプロセスを経ずに割り当てるということを法制化するというだけでしたら、比較的簡単な手続で、例えばA案でも余り抵抗がないような気がします。要するに、職務執行というサービスを賃金債権という形で一旦金銭評価するというプロセスを少し省略する方法をどういう形で組み込むかというだけの議論なので、それほど深刻な話ではありません。しかし、そもそも従来のやり方で付与できなかったり、付与するときに相当面倒くさいことをしなければいけなかったような、具体的には会社がその者に対して直接は債務を負っていないようなもの、交付を受ける側からいえば債権を有していないような人に対価をなしに交付するということを正面から認めて、更に支給できる者の範囲を広げていこうということになると、やはりそういう付与によって生じる既存株主の利益は慎重に検討しなければいけないということにはなります。典型的には子会社の役員、従業員等にまで対象を拡げる場合ですけれども、もし会社が賃金債務を負っていないとすると、無償で割り当てる場合、何を対価に割り当てたことになるのかということが、やはり問題にはなるのですね。その場合、株式の価値とつり合うものが何らかの形で発行会社に入ってきているのかということが問題になります。   A案を採るとすると、有利発行規制を残す以上は、発行会社が職務執行の対価といえないにもかかわらず、株式の価値に見合う何らかの利益が入っているということの説明が一応は必要になってくる。もちろん株式の発行対価の決定に裁量が全くないというつもりはないのですけれども、やはり何らかの説明が付くようなことでないといけなくて、その解釈次第だと、これは一部の委員から指摘があったのですが、このA案というのはかえってやりにくいことにもなりかねないという印象はあります。   従業員や役員に株式を割り当てることに経営上のメリットがあること、そしてその際に子会社を含めて行うことに合理性があることを否定している人はほとんどいないと思います。人的資本への投資の重要性といういうふうに表現する方もいるかもしれませんが、そのような合理性を肯定しても、有利発行か否か判断するときに、何か経営上のメリットがあれば有利発行にならないとは言ってこなかったので、そういう抽象的なメリットを強調しただけで、有利発行には常にならないというようなことは簡単には言えないと思います。例えば、インセンティブの向上に資するということは一般論としては皆さん否定しないでしょうが、インセンティブの向上がどのぐらいの金銭的なメリットと評価できて、それは株式の発行の対価と見合うぐらいの大きいものなのかということを、本当なら検討した上で有利発行か否かが決まることになるのだと思います。その評価は難しいので、事実上裁判所は余り検討しないことになるのかもしれませんが、職務執行の対価という要素を除いたメリットだけでつり合いがとれるというのは、疑問が強いと思います。   今、子会社の従業員や役員の場合について触れましたけれども、労働法上の賃金に関する整理次第だと、自社についてすら少し似た問題が起きるかもしれません。従来できていたのができなくなるのは非常に変な気もするので、こういう議論は余りしたくないのだけれども、労働法上の賃金ではないと言い切ってしまうと、職務執行の対価ではないかという疑問が出てくるため、職務執行の対価だから有利発行のときにカウントしていいという議論がおよそ影響を受けないかも、少し気にはなっています。労働法上賃金となるかということと、会社法上職務執行の対価と扱ってよいかは、次元が違うから整合性は全く気にしなくていいとまでいえるか、そういう割り切った整理が可能かということは、やはり一度検討しなければいけないということになると思います。   なお先ほどから何度か出ている議論で一つ気になっているところがあるので、付加しておきます。従業員に金銭で報酬を与えるのは自由にやれるのに、株式で報酬を与えるとなると突然、株主のお伺いを立てるといったことはあり得ないということが、特に経済界の方から共感を持って語られることがありますので、これが何の問題なのかということを知ってほしいと思うのです。これは報酬の配り方の問題ではありません。会社財産を二束三文に叩き売るという行為は、現行法上、株主の承諾なくやれます。後で事後的に取締役の責任を生じるかどうかともかく、事前規制なしにできます。これに対して、株式を安売りするのはできないことになっています。株式の安売りは有利発行として、面倒くさい手続があります。金銭等をいろいろな方に贈与するのは、事後的な責任は別にすれば、株主の承諾なしにできますが、株式をただで配ろうとすれば有利発行規制の適用が問題になります。これは株式の安売りは、他の財産の安売りとは異なる規制の仕方が現行法上存在していることから生じる違いです。   株式の安売りと他の財産の安売りを異なった手法で規制することが合理的かどうかということ自体を問題にはできます。アメリカのように、株式の安売りもほかの財産の安売りと同じように事後的な役員の責任で処理している法制もありますし、ヨーロッパは株式の発行に特別な規制を課します。日本は厳密にはいずれとも異なりますが、株式の発行を別扱いで規制するという意味では後者です。こういった根本的な規制枠組みの是非にまで立ち入って、現行法は適切ではないから株式の安売りも、他の財産の安売りと同じように規律すべきだというなら主張としては一貫するのですけれども、株式の発行そのものの規制をそのまま残しておいて、報酬のあり方の問題として、金銭報酬は自由なのに株式報酬が自由でないのはおかしいといった形で批判するのは無理があります。制度の建て付けを無視した局所的なバランス論を裸で持ち出すのは問題があると思います。  以上、いろいろ申し上げましたが、総合的に考えるなら、どうしてもB案の方が説明が楽なのだと思います。ただ、その場合どのぐらい規制の規律が必要かという点については、これは多くの方が言われていますけれども、いろいろ柔軟に考える余地はあります。たとえば、常に特別決議、有利発行決議が必要かというと、私もそうは思いません。有利発行決議というのは、たとえ本当に二束三文で価値があるものを売る場合であっても、それを踏めば有効にできるという手続なので、今問題となっているケースでこの手続ではなくてはやってはいけないということはないと思います。恐らく、職務執行の対価として株式を付与するというやり方についての株主の承諾、そういう報酬体系について株主承諾を取るためにはどの程度の手続が必要かということなので、それにもいろいろな考え方があると思いますし、基本的には普通決議で十分だと思います。これは既にストックオプションや役員報酬のところで、そういう形での報酬スキームの承認というのはもう現行法上ある以上、それと同じ並びでいいと思います。   あとは、どのぐらいのタイミングでやらなければいけないか、――大きな枠で与える決議をするのもいいと思いますけれども――、それに加えて、どのぐらいの頻度で決議しなければいけないかといったことも検討の余地があります。役員報酬にとっては、一旦上限を決議すると、その後は、これを増やさない限りそのまま決議しないでよいわけですけれども、同じような形で、たとえば毎年の限度の枠を決議すれば、それを増やさない限り、その枠は毎年維持されていくと考えることも考えられます。そう考えるなら、それほど極端に負担が増える形ではないので、B案のもとで、合理的で、かつ尻抜けにならない程度のものを考えるのが、有利発行の不安もなくなることもあわせ考えると、一番無難な制度設計だという印象を持っています。B案の具体的な中身まで提案されていない段階では最終的な賛否を言えませんけれども、そういう方向での案も検討していただければと思います。   会計処理については、もう少し制度の内容が固まったところで意見を申し上げたいと思います。最後に、現物出資の方向についてどうするかという問題もあるのですが、それもこちら側でどの程度の規制が入るかとの見合いで議論しなければいけないと思いますので、そのときに申し上げたいと思いますが、ただ、現在やっているような、とにかく併存的債務引受けしたら何でも自由みたいものをそのままの形で置いておくことがいいかどうかというのは、より合理的で柔軟な制度ができることを前提にですが、現行の実務の評価も含めて、なにを残すかどうかという観点から検討する必要あるかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○齊藤委員 A案とB案では、B案を支持しますが、その理由につきましては、B案を支持されている委員、幹事の皆様の御発言の中に一通り含まれておりましたので、省略させていただきます。   その上で、二つコメントさせていただきたく存じます。1点目は、子会社の役職員への付与についてでございます。子会社の役職員に流動性のある親会社の株式を与えるということのメリットは十分承知しております。他方で、報酬規制がある役員の場合はひとまず措き、まずは、子会社の従業員に限って話をさせていただきますけれども、子会社の従業員の働きぶりのどの程度がグループ全体への寄与で、どの程度が子会社自身への寄与であるとして評価するか、あるいはそのように働かせるかは基本的には子会社の取締役の裁量に委ねられているものでございまして、ただ、子会社の取締役は、善管注意義務により、子会社自身や子会社の少数株主の利益を損ねる形でその点にかかる裁量を使うことは禁じられると整理できるのではないかと思います。   現物出資方式におきましては、仁分委員が御教示くださった様々な事務を通じて、子会社の取締役が、子会社が役職員に対して負担するべき金銭債務の確定や、親会社株式への出資に関与しているわけでございまして、また、様々な事務を通じて子会社側から親会社にどのくらいの価値が流れ込んでいるのかが可視化されているのでございますけれども、無償交付方式でございますと、これらのことが可視化されないまま手続が進められ、子会社を害する運用における子会社取締役の潜在的な民事責任による規律付けの契機がなくなってしまうおそれがあり、子会社、親会社関係者への透明性も欠けるおそれもございます。追加的な立法が必要かどうかはともかく、子会社側においても、株式報酬の体系を整備するときに、取締役がどのような形で適切な運用について責任を持つのか、重要な業務執行として取締役会決議を取らせるのかなどについて整理をしておく必要があるのではないかと思いました。   望ましい方式であるかはともかく、現物出資方式でやっておりますと、その辺りにつきいろいろと記録が残りますので、親会社、子会社の両関係者の利益が深刻に害されるおそれが多くの場合未然に防止されているということがあろうかと思います。   非公開会社を適用範囲に含めるかにつきましては、既に矢野幹事が慎重な御意見を述べられましたが、非公開会社などを含めますと、想定しなければならない問題が増え、さらにいろいろな濫用的なケースの可能性を考えて議論しなければならなくなりますので、まずは上場会社を対象に制度設計をしつつ、その運用を踏まえ、更にニーズがあれば、将来、非公開会社を入れることを検討するということでもよいのではないかと思いました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松井委員 今回、既に様々な御意見の中で、B案を基本とするのが現状の法制の整理の素直な延長として、よいのではないかという意見が出ているところであり、あとはどのような形で現物出資構成など現行実務も取り込めるような運営と、その法律上の解釈の整合性をとるのかということが恐らく問題になっていくのではないかと思いますので、この点について少し考えたところを発言させていただければと思います。具体的には、インセンティブ報酬について、既に最初の頃に御発言があったかと思いますが、利益相反等の可能性は低い一方で発行額についてのインパクトが大きいような状況の中で、株主総会の普通決議で足りるとした上で、プラス枠決議という方向性で行くという場合に、このときにどのような株主の関与のさせ方をするのかということについてでございます。   株主が欲しい情報を与える場合、人的資本経営の観点から言いますと、ビジネスに不可欠な才能を引き出すためということであれば割り当てるビジョンについて投資家の理解を得ることが望ましい、あるいは安定株主として従業員に期待する趣旨の発行であれば、全体としての累積発行株式数がどうなっているのかということについてのチェックが望ましいわけです。あるいは、有利発行となった場合に株主が被る株価の下押し圧力の可能性であるとか、あるいは特定のグループの急速な持株割合の増加といった不利益に対処する場合、現状の有利発行・不公正発行と同等の情報を株主は必要としそうです。以上のように、経営の規律、ガバナンスの弛緩あるいは経済的な不利益といった諸要因のなかで株主がどういったことに関心を持つのかを考えることが基本になるのではないかと思います。   開示内容についての一般論は以上のとおりですが、そもそもそうした情報をどういうタイミングや形式で株主に示すのかについては、既に御指摘があったとおり、有利発行について株主が、より安い価格で引き受ける人がいるという事実を、それによって会社が被る便益との大小によって考えれば足りるという立場であるとか、先ほど来の議論が、会社法の整理を、ある程度、現状の従業員を引き付けるという強いニーズの下で政策的に変化させるべきだという立法的な議論、政策的な議論であったのであれば、株主の関与という基本線は維持しつつ、これを事後的な規制にシフトさせるという形での緩和をすることが考えられます。既に北村委員もおっしゃっておられましたが、その都度発行規制の手続ということで規制をするというよりは、開示プラスチェックという形へのシフトをするというのは、議論の整理としてあり得ないものではないのではないかと考えております。   そうだとすると、配付資料の中では開示をどうするのかといったことが書かれておりましたけれども、株主が急な発行株式数の変化等によって事前に止めなければいけないというような不利益を被る可能性がないのであれば、こちらの開示プラス事後的なチェックという形で、枠決議を柔軟に運用してもらえれば、少なくとも現物出資構成をとる負担よりは軽い負担によって実務を運用していくということができるのではないか、その方が建設的なのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○臼井委員 これまでの御議論と一部重複する部分もございますが、投資家の立場から考え方を述べさせていただければと思います。   まず現状認識でございますが、従業員への株式付与は企業価値の中長期的な向上という観点から、報酬の一部として自社株を従業員に付与できるということは人的資本の強化にもつながり、歓迎できることだと考えております。日本企業の競争力の確保、特に国内の労働人口が減少し、海外における事業展開が重要になってくる中で、適切かつ魅力ある報酬評価体系で適切な動機付けを行っていくということは、人材獲得、それから活用において鍵となってくるだろうと考えております。そうした中で、自社株の付与というのは従業員と株主側、企業側のインセンティブを合致させる上で有益だと考えますし、株価をより意識した経営につながるという点でも、また有効なのではないかと考えております。そして、これは子会社であっても同様でありまして、グループとしての企業価値向上にもつながるものという認識でございます。   そうした中で今、A案、B案という御議論がされておりますけれども、この二つの中ではB案を支持したいと思っております。従業員の株式付与は、今のエクイティーファイナンスのように機動的なアクションを必要とするというよりは、中期的に恐らくは複数年度にわたって希薄化を伴いながら行われていくものでありますので、株主総会の決議を経ることが望ましいと考えております。先ほど藤田委員から御指摘くださいましたとおり、単年度現金賞与のように人件費として一時的に完結するものではなく、会社の所有権として将来にわたって配当等も支払われるものですので、こちらを考慮した上で株主総会の決議とすることが望ましいと考えます。ただ、一方で使い勝手というところは重要なポイントになると思いますので、枠の設定のような形にすることで、その中の運営については取締役会において柔軟な運営を可能にできるような形が望ましいと考えます。そしてまた、位置付けとしましては、報酬の一部として交付するものであり、有利発行には当たらないというような認識が揺らがないような設計にされることが望ましいと考えます。   また、その他の部分でございますが、付与対象の範囲については、企業価値は飽くまでも連結で評価されているものでありますので、連結子会社の役員、従業員というのは含まれるのがよいと考えます。このときに、例えばジョイントベンチャーなどで保有割合が51%と49%の場合にどうするのだというような実務上の問題は出てくるかと思いますが、そこは余り最初から範囲を狭めないような設計にできるといいのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○豊田委員 A案かB案かについては、どちらかといえばB案の方がいろいろな点で説明もしやすい制度になるのではないかと思っております。現在、発行会社の取締役に株式を交付する場合には、真正面から職務遂行の対価としていると理解しておりまして、その場合にはどのような対価が報酬として適切かという点については一定程度、会社の判断で決められる。すなわち実際に職務遂行によって会社にもたらされた便益と、それに対する株式である報酬額について、有利発行のような厳密な規制ではないと理解しております。   他方で今回、A案とする場合には、労働の対価ではなくインセンティブの向上が会社に対する便益だということで、有利発行規制には服するものの有利発行ではないのだという理屈で株主総会の決議を取らないとする場合には、その便益の価値が正確に測れない中で、当該便益の価値が発行する株式の価値よりも低くないという一定のみなしといいますか、そういう要件が満たされていると考えることになると思います。ただ、なかなか実務的に価値が測れないという中で、本当に大盤振る舞いではないのかという判断は難しいという実情の中で、有利発行の規制が適用されるという前提で、実務的には対処しにくいということを考えますと、取締役と同様の、一定の枠を定めた上で、その中で発行できるというような形の方が望ましいのではないかと考えております。   その際の決議は、私も普通決議でいいのではないかと思っておりますが、それは取締役の報酬決議と同様という点もございますけれども、有利発行決議のような発行時の決議とは異なり、今後このような会社になっていくということを宣言するというような意味で、普通決議で決議することが考えられるのではないかと思います。   次に、非公開会社につきまして、今は株主総会決議による第三者割当てで割当者を定めるための特別決議が必要ですが、今回、この決議とは別に、かつ特別決議だとする新たな制度を設ける一番の趣旨というのはどこなのかというのを考えております。資料の5ページなどを拝見しますと、有利発行における説明義務は不要、つまり有利発行とは別の枠だという整理を想定していると思われますが、そういう場合に、例えば有利発行とは別のカテゴリーとして不公正発行の適用などもないのかどうかという点は問題となり得ると思います。もう無償発行という別の制度なのだということで、そういう有利発行や不公正発行の規定の適用がないとするのは、実態としての非公開会社の支配権の問題を考えますと、なかなか難しいのではないかと考えておりまして、従業員への発行を隠れ蓑にして支配権を強化するといったような病理現象が発生する可能性があるのではないかと思います。   無償交付という制度を認めるニーズとしては、それが1円なのか、それとも0円なのかということよりも、有利発行決議が必要かどうかという点が実務的には大きいと思いますので、その点が今回、もし非公開会社についての制度も作る場合に変わらないとすると、本当にニーズがあって、やるべきなのかというところをやや疑問に思っております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○石井委員 既に皆様方からいろいろ御発言いただき、重複する部分もありますが、私は2番の「制度の基本的な枠組み」と、3番のうち、株式の無償交付の対象範囲について、意見を述べさせていただきます。   まず、機動的に今回のスキームに対応したいという企業サイドの視点から申し上げますと、従業員への株式無償交付は、生活給といった直接の労務対価ではないものの、長期視点で見れば人的資本投資施策としてのインセンティブ報酬として企業利益に貢献する業務執行施策ともいえるため、有利発行には当たらないということを前提に、A案が望ましいと思うのですが、この無償交付発行の対象を今後、海外も含めた子会社、グループも含め、法人格が別のところまで含めて間口を広げ、親会社が直接株式を交付するスキームを認めるとなると、3ページに記載されていますように、直接的な便益ではないが間接的な便益の対価として有利発行に当たらないとはっきり言い切ってしまうことは非常に難しいという感じがします。結果的にそれに対する説明が必要になってくるリスクがあると思います。   よって、B案の株主総会で信認を得ることを前提に、その中でいかに簡便的な手続でできるのかということを御議論いただけるとよいと思います。その一つとして、5ページのウに提示されていますように、総会決議、これは普通決議でよろしいと思いますが、それを前提に無償交付の株式の上限枠を定めて、その範囲内で結果的にA案に基づき柔軟に進めるということも考えていいのではないかと思っています。   それから、非公開会社について、前回少し申し上げたのですが、中小企業については、エクイティ評価の難しさや、思わぬ支配権の拡大・移転といった視点から、積極的な活用に踏み切るというのはなかなか難しく、ハードルの高い部分が当然あると思います。ただし、スタートアップのように、将来一定の出口戦略を企図している企業につきましては、相応のニーズが出てくることも考えられるため、スキームとして間口を広げておくことは有用だと思います。そのため、検討の順番としては、公開会社を先行させるなどステップを踏むかもしれないのですが、非公開会社も範囲の中に入れていただくことも非常に重要ではないかと思います。   なお、非公開会社については、本案に御提示のとおり、現行法どおり株主総会の特別決議をもって決定することでいいのではないかと思います。評価の難しさということもあるため、そこで株主にしっかりと説明する必要があると思います。   また、株主総会の規律とは違いますが、対従業員という話では、交付株式の現金化といった手続面についてもしっかり、総会とは別の場で説明がされるべきだと考えています。   それから、無償交付の対象者の範囲ですが、私は子会社の役員及び従業員を含めることに賛成します。完全子会社に限定せず、連結財務諸表を構成している実質基準も含めた子会社を含めることでよいと思います。インセンティブとして自社の利益を追うことは、一義的には少数株主の利益にもかなうものでありますし、親会社の利益との利益相反については限定的と思いますので、発生時には子会社の取締役に対する責任追及によってで対応することでよろしいのではないかと思います。   それから、先回の研究会の方でも少し議論がありましたが、監査役及び会計参与も含めることについて、積極的なニーズがあるかどうかは正直分かりませんが、会社方針として、ガバナンスの毀損抑止、維持向上といった長期的な業績に寄与しているものとして、交付するニーズも当然考えられますので、認めることでよいと思います。   私からは以上です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   第1のセッションについて御発言はよろしゅうございますでしょうか。   それでは、ちょうどここで議論の区切りが付きましたので、一旦休憩を入れさせていただきます。           (休     憩) ○神作部会長 それでは、皆様にお集まりいただいておりますので、再開したいと思います。   続きまして、部会資料2の「第2 株式交付制度の見直し」について御議論いただきたいと存じます。 ○久保田委員 まず、株式交付の対象となる場面に関する子会社株式の追加取得についてです。部会資料に記載されているとおり、子会社株式の追加取得というのは、従来組織再編とされてきたものと比べると、少なからず異なるため、組織再編であるとは言い難いというところがあります。そのため、本来的には現物出資規制を見直した上で、現物出資として行っていただくというのが筋であろうと思います。   ただし他方で、実務上、仮に現物出資ではなく組織再編である株式交付として子会社株式の追加取得を行うことについてニーズがあり、しかもそのニーズが合理的なものであるならば、それにこたえるために、組織再編として一般に要求される手続をきちんと踏んでもらうことを前提に、子会社株式の追加取得を株式交付として行うことを認めるということはあり得ないことではないと思っています。しかし、その場合は、実質的には繰り返しになりますが、前提として株式交付の手続規制について理屈の立たない規制緩和をしないということが必要になるかと思います。逆に言えば、理屈の立たない手続規制の緩和をした上で、そうして緩和された手続によって株式交付として子会社株式の追加取得をするというのを認めるのは余りに筋が通りませんので、避けるべきであろうと考えています。   続いて、実質基準による子会社化を株式交付の対象としたり、あるいは持分会社の子会社化や外国会社の子会社化を株式交付の対象としたりすることについては、特に私は異存はありません。また、持分会社の子会社化の場合における持分会社の子会社該当性の判断基準についても、部会資料に記載されている整理に特に異存はありません。   他方、株式交付親会社の反対株主の株式買取請求権についてですけれども、もし株式交付の場合はその他の組織再編の場合と比べて総じて株主への影響が小さいといえるのであれば、株式買取請求権を撤廃することも考えられると思います。しかし、株式交付の場合も株主総会決議で定めた株式交付の対価が不当であるということはあり得るわけですし、そのように不当な対価が定められる可能性がほかの組織再編と比べて総じて小さいとは言い難いと思います。また、株式交付によって新たに親子会社関係が形成される場合は、株主にとってのリスクが増大することもあり得ますし、そのように株主にとってのリスクが増大する可能性がほかの組織再編の場合と比べて総じて小さいとも言い難いと思います。この点に関連して、部会資料の15ページに記載されているとおり、確かに株式交付の場合は債務の承継が行われるわけではありませんが、だからといって株主に及ぼす影響が小さいということには必ずしもならないと思います。   以上のことから、私は株式交付親会社の反対株主の株式買取請求権を撤廃することについては理屈が立ちにくいと考えています。そのことは株式交換完全親会社の反対株主の株式買取請求権の撤廃についても同様であろうと思います。   次いで、株式交付親会社における債権者保護手続についてです。部会資料に記載されているとおり、確かに不当な組織再編対価が定められ会社財産が流出することによって債権者が害されるという危険があることについては、債権者保護手続という形では債権者保護を図る必要がないという考え方によって割り切ることはあり得ることであろうと思います。すなわち、そのような危険というのは通常の取引においても生じ得ることであるということがあります。また、実際上そもそも株式以外の財産が対価総額の何%であるかにかかわらず、債権者に影響が出るほどに不当な組織再編対価が定められるという事例は余り生じないのではないかということもあります。そして、そのようなまれな事例については詐害行為取消などの一般法理で対応できると見るならば、債権者保護手続による保護までは必要ないと考えられますので、債権者保護手続を廃止するという立法には相応の合理性が認められると思います。   ただしということなのですけれども、これは会社法制研究会でも申し上げたことですけれども、そういう割り切りはあり得るとは思う一方で、本当にそういう割り切りをしてよいのかについては十分に確信が持てないところがあります。そこで、一つのアイデアとしては、弥縫策かもしれませんけれども、もう少し慎重な立法として、債権者保護手続を完全に廃止するのではなく、例外的に債権者保護手続が不要とされる範囲を緩和するという立法も考えられるのではないかと思います。   現行法だと、対価総額のうち株式以外の財産が5%未満の場合に債権者保護手続が不要とされるわけですけれども、これを10%とか20%、どれぐらい拡大すべきかについて特に根拠があるわけではありませんが、ある程度拡大していく。仮にそれで実務上、株式対価M&Aや混合対価M&Aの活性化の妨げにならないのであれば、そのように債権者保護手続が不要とされる例外を緩和するということはあり得ると思っています。なお、こうした考え方に対しては、会社分割との整合性がとれないという反対論もあり得るかもしれませんが、個人的には会社分割との整合性というのは、それだけでは株式交付親会社における債権者保護手続を撤廃する決定的な理由にはならないと考えています。   最後、その他のところで、簡易株式交付の要件を緩和することについて、混合対価のM&Aをしやすくしたいという実務上のニーズがあることはよく理解できます。しかし、部会資料のこれは18ページに記載されているとおり、緩和の根拠として述べられている考え方は十分な根拠にはなっていないと思います。また、少なくとも私には、そのほかに緩和を正当化する根拠や説明は思い付きませんので、簡易株式交付の要件を緩和するというのは慎重になった方がいいと考えています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○北村委員 まず、株式交付制度の対象となる場面について、子会社株式の追加取得まで広げるか、という点に関して申し上げます。株式交付を組織再編行為の一環として位置付けているときに、親子会社創設のためというのは部分的な株式交換ともいい得るので、これを組織再編の一種とするという説明が成り立つのですけれども、株式対価M&A一般について株式交付の対象にしよう、それは親子会社関係の強化だから、ということになってくると、組織再編というくくりから外れていってしまいます。そこで、やはり、新たに親子会社関係を創設するというところは崩せないのではないかという印象を持っています。   次に、子会社化という場合に、いわゆる実質基準を加えることができるかどうかという問題です。私は子会社の定義について実質基準を設けることには賛成です。令和元年改正のときに形式基準だけを採用したのは、法的安定性のためだったと思いますが、実質基準を基に親子会社創設のための株式交付計画を立てたけれども実際には創設に至らなかった場合は、株式交付無効の訴えの対象となると解釈すれば、無効判決の効力は遡及しないので、法的安定性にある程度配慮できることになります。したがって、子会社の定義について実質基準を定めるということには賛成です。そうなった場合、会社法第774条の3第1項2号、あるいは同条第2項をどのように規定し直すかという問題はありますけれども、これはもっと議論が詰められた後で検討すべきかと思います。   持分会社については、ニーズがあるなら株式交付の対象にすることを検討していいと思うのですけれども、原則1人1議決権で頭数多数決制が採用される持分会社について、これを株式交付子会社にすることができることとなると、かなりルールが複雑になりそうです。   外国会社について、こちらの方がニーズが大きいと言われておりますけれども、どのような外国会社を対象にするかという問題があります。これについては原則として我が国の株式会社に相当する外国会社を対象とするのであれば、ルール化はしやすいと思っております。   手続の見直しについても申し上げます。私は会社法制研究会では反対株主の株式買取請求権を認めないでいいのではないかという前のめりな意見を述べておりましたけれども、いろいろな先生方の御意見をお伺いして、さらに、先ほど、株式交付は組織再編なのだから子会社株式の買い増しまで広げるべきではないという意見を述べたこともあり、やはり組織再編である以上は反対株主の株式買取請求権を認めないといけないのだろうと思っています。その理由は、先ほど久保田委員がおっしゃったとおりです。   債権者保護手続についてですが、私は以前から撤廃することができるのではないかと意見を述べておりました。これは株主保護ではなくて債権者保護なのですけれども、実質的に債権者をどのぐらい害するのか、害する可能性があるのかという問題に帰着します。組織再編に関して債権者保護手続の要否は、承継する財産と流出する財産の両面から検討して債権者を害する可能性があるかどうかで決まると考えております。株式交付の場合は、承継する財産は子会社株式ですので、これによって親会社債権者が害されることはないはずです。流出する財産については、必ず株式交付親会社株式が含まれます。これだけであれば債権者保護手続は要らないはずなのですが、それにプラスして他の財産が流出するという点に着目して債権者保護手続があるわけです。   これについては、久保田委員がおっしゃったように現在の5%基準を緩和するという方向でもいいと思うのですけれども、いっそのこと割り切って、株式交付については債権者保護手続を不要とし、あとは民法の詐害行為取消しとかで対応するという方向もあり得るのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松中幹事 まず、株式交付の対象ですけれども、追加取得については、ニーズとしてはおかしいものではないと思っています。ただ、従来の組織法上の行為、あるいは組織再編の概念を維持したままだとなかなか難しいのかなと思っています。というのも、従来の組織法上の行為なり組織再編というのは、何に当たればこれに当たるのかはともかく、何か一定の条件を整えると組織法上の行為になって、その場合は別立てで規律をすることになっているわけです。そうすると、単なる株式の追加取得というのをほかの行為と区別して組織法上の行為と評価するのは、なかなか難しいなというのが率直なところです。これに対して、組織法上の行為とか組織再編が何かについて全く違う考え方をする、すなわち会社法で、通常の株式の取得だったり新株発行だったり、こういうものとは全く違うルートを作り、同じことを複数のルートでできるようにするのだけれども、そのうちの一つを単に組織法上の行為とか組織再編と呼んでいるだけなのだと、こういうふうに整理するのであれば、そこに何を入れるかは、法律に書けば入るというだけの話ですので、それで入ってくるのかもしれません。ただ、何でそうしなければいけないのかという問題はやはり残ってしまうのかなと思っています。   そうすると、従来の組織法上の行為の概念の中でぎりぎり認められるものを考えてみると、子会社化するのだけれども、1回だけで子会社化するのではなくて、最初から計画した上で連続的に少しずつ株式を取得していって子会社化するような場合、その際の追加取得であれば、組織法上の行為と評価できなくはないのかなと思います。   次に、株式交付の株式買取請求権ですが、既に御指摘がありましたが、私もやはり15ページの○オの考えは成り立たないのではないのかと思います。取り分け、組織法上の行為というのをどう捉えるかはともかく、組織再編の中で株主保護の手段があるからほかの規制が要らないのだというのであれば、これを取ってしまったら何が残るのかというのがあります。さらに、15ページの○オの中で出ている、原則として株主総会決議を要するためというのは、これを言い出したら組織再編全てに当てはまるわけですし、更に言うと、現行法上の株式買取請求権というのは、総会決議が必要な行為について、基本的にはそれに反対した株主に認めているわけですから、そもそもこのロジックはとり得ないのではないのかと考えられます。   これに対して債権者保護手続の方は、これも既に言われているとおりですが、もう少し実質的な観点から、株式交付の場合はそこまで必要ない、もう少し広げると株式交換も含めて、こういう形態の組織再編であれば、余り必要ではないという割り切りは十分にできるだろうと思っています。   それから、対象として外国会社、持分会社を含めていく点については、持分会社はそもそも何を取得したら支配を取得できるのかというところの評価が少し難しいわけですけれども、これを単なる技術的な問題と考えて、そこをクリアできるのであれば、全然問題ないと思います。外国会社については、むしろ、原理的には入っていないのが、特に株式会社に相当するものについて入っていないのが変なのではないのかと思っていましたので、入れるのは賛成であります。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○仁分委員 まず、見直しの必要性に関してなのですけれども、日本の産業の国際競争力強化、それからイノベーション創出の観点から、国内外の企業による統合再編や連携の重要性が一層高まっております。株式対価M&Aは、これらの目的を達成するための有効な手段の一つであります。また、資本コストを意識した経営の一環として自社株買いが増加する中で、自社株をM&Aに活用するニーズも高まっております。ただ、日本においては会社法上の制約等によって、株式対価M&Aが諸外国よりも活発ではない状況だと認識しております。今回改正の検討項目として上がっている論点は、いずれも株式対価M&Aの活性化の観点から極めて重要なものと考えております。より多様かつ柔軟なM&Aが可能となるよう、是非見直しを御検討いただければと思っております。   株式交付の対象となる場面のうち、まず子会社の株式の追加取得ですけれども、こちらは組織再編行為として株式交付の対象に含めるべきであると考えております。議決権保有比率が過半数の子会社となって以降、子会社株式の追加取得の取得比率等によって実態的な変化は生じます。また、実務上も子会社の追加取得を株式交付に含めていただきたいというニーズはございます。会社法制研究会報告書の23ページにもありますけれども、関係当事者間の法律関係が集団的に規律される点に組織再編行為としての要素があると考えておりますので、子会社株式の追加取得を含めても、組織再編行為としての性格を失うものではないと考えております。   また、他の会社の株式を取得して新たに子会社にする場合と、既に子会社である会社の株式の追加取得により親子関係を強化する場合を比較すると、前者の方が連結範囲の変更が生じるなど買収会社、すなわち株式交付親会社の既存株主への影響が大きい行為であります。それにもかかわらず、前者では現物出資規制の適用がなく後者では適用されるということは、制度上の整合性が確保されていないと考えられます。さらに、株式交付では規模に応じて買収会社が対象会社の情報を開示した上で株主総会での承認を得ることとなりますので、既存株主保護の面でも問題は少ないと考えられます。   それから、実質要件に関してですけれども、実質要件により子会社とする場合においても、株式交付の対象としていただきたいと思っております。実務上、他の株式会社の株式を取得して子会社化する場合において、議決権の過半数までは取得せず、議決権比率を50%以下にとどめた上で、実質要件により子会社化するケースがありますけれども、そのようなケースにおいて、現金のみならず株式を対価として子会社化する選択肢があることは、企業にとって有意義であり、実務上のニーズがございます。実質要件による子会社化について、仮に後から子会社の実質要件を満たさないということが判明した場合には、その手続上の瑕疵は株式交付の無効の訴えにより事後的に争うことが可能であるということですので、実質要件による子会社化を株式交付の対象から外す必要はないと考えております。   それから、株式交付の対象となる会社に関して、持分会社を子会社化する場合についても、実質要件による子会社化と同様に考えて、株式交付の対象としていただきたいと存じます。持分会社のうち特に合同会社は、外資系企業やスタートアップが積極的に活用しており、対象に含めることにニーズがございます。   外国会社につきましても、株式交付の対象としていただきたく存じます。グローバルに稼ぐことが多くの日本企業に求められている中で、米国のLLCも含めまして、海外の会社に対するM&Aが増えており、その際に対価として株式を使いたいという実務上のニーズがございます。その際、現物出資による方法をとろうとすると外国の関係者への説明が難しいとの指摘がございます。また、株式交付による買収は個々の株主あるいは出資者の合意が前提であり、対象会社の株式を強制的に移転させられるわけではございませんので、対象会社の準拠法の違いは大きな問題にならないと考えられます。法的安定性の観点では、実質要件による子会社化の場合と同様に、要件を満たさなかった場合に株式交付の無効の訴えによる無効事由とすることで十分であると考えられます。   株式交付の手続に関してでございますけれども、株式交付及び株式交換の双方について、反対株主の株式買取請求権を認めないものとしていただきたく存じます。株式買取請求権が行使された場合、買収会社においては当初想定したよりも多額の現金支出が生じることから、円滑なM&Aの実施の妨げになるとの指摘がございます。特に、買収会社が上場会社である場合、反対株主は市場で株式を売却できますので、株式買取請求権を認める必要性は低いと考えられます。   それから、債権者保護手続ですけれども、こちらに関しましても株式交付及び株式交換の双方について廃止していただきたいと思っております。株式交付及び株式交換では、吸収合併などとは異なり、買収会社が対象会社の権利義務を包括的に承継するわけではございませんので、債権者保護手続の必要性は小さいと考えられます。債権者保護手続には一定の期間が必要となりますので、もしこれを不要にできるのであれば、迅速なM&Aの実現に資すると考えられます。   最後に、簡易株式交付の要件ですけれども、対価として交付する株式のみによって判断することとしていただきたく存じます。少なくとも株式交付に関しましては、対象会社株式の取得行為であって、合併や会社分割のように対象会社の債務などの権利義務の承継は行われておりません。現金で株式を取得するときには株主総会決議が不要であることが原則ですので、簡易株式交付の要件についても、現金対価の部分は除外して、買収会社が発行する株式数によって株主総会の要否を判定する制度にすることに十分な理由も合理性もあると考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○臼井委員 株式を利用した株式交付による保有比率の引上げについてでございますが、まず、特に日本の上場企業において、キャッシュ以外を活用したM&A手法として、資本政策における選択肢が拡大されるという点でニーズがあるということですので、これは外国会社への適用を含め、対象を拡大していくということに賛成いたします。   ただ、その際に、こちらの部会資料の方にも書いていただいておりますが、少数株主の利益保護の観点から、上場企業であっても株式買取請求権というのは認めるべきだと考えております。実務の観点から考えますと、上場している会社でありましても、実際には反対株主による売却ニーズが短期的に急速に増大し、その需給の悪化を踏まえて株価が下落するケースが多い、スムーズな売却につながらないというケースが考えられますので、必ずしも上場しているからといって円滑に市場で売却できるわけではないということが背景にございます。   また一方で、債権者保護についてですけれども、こちらは必ずしも会社法の枠内で行わなくてもいいのではないかと考えておりまして、例えば米国の社債ですと、ハイイールド社債などではチェンジオブコントロール条項等で債券ごとにこうした保護を行っているケースもございますので、会社法で行うのがいいのか、それとも個別の債権について行うのがいいのかというところは、議論の余地があるのかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○田中委員 私も株式対価のM&Aについては、諸外国と比較したときに利用が少ないことについて、何らかの法的障害があるようにも思えまして、そうした障害について、関係者の利益に与える影響を考慮しながら除去できるところは除去していくという姿勢で臨むのがよいと考えております。   その観点から、まず株式の買い増しも株式交付の対象にするというのは、少なくとも現行法の組織再編に対する規律を守って行うのであれば、対象会社を子会社にするときにこの制度は使える一方で、子会社関係を強化するという目的には、この制度は使えないとする実質的な根拠は余りないように思えます。その観点からすれば、株式の買い増しにも利用を認めてもいいのではないかと思っております。   組織再編というのは、何が組織再編になるのかというのはよく分からないところがあって、結局のところ立法政策の問題ともいえます。今現在認められているものを更に拡大しようとする場合に、その拡大する行為について、今現在認められている行為と違って、現在の組織再編規制で十分保護できないような利益が果たしてあるかという観点から考えていってもよいように思えます。そう考えると、子会社化するときは株式交付を認めるけれども子会社関係を強化するときは認めない根拠は余りないのではないかと考えております。   それから、対象となる子会社関係についても、実質基準による子会社化まで対象を広げていいのではないかと思っております。この場合、基準を満たさないことが事後的に判明したら、やはり無効事由になるという解釈になると思うのですけれども、それはそういうリスクを承知の上でやるということになると思います。特に、持分会社を子会社化する場合を株式交付の対象にすることを認めれば、外国会社を子会社にするときも、外国会社が実質的に株式会社といえるかという問題を考えることなく、実質子会社としての基準を満たしているかどうかを考えればいいことになります。ですので、外国会社を子会社にする場合にも株式交付を認めるという形の規制緩和をする上でも、持分会社を子会社にすることを認めることが有益であると思っております。   それから、外国会社を子会社にする場合まで含める場合の準拠法の関係が確かに論点になるのですけれども、これについては、以前からも申し上げていることですが、株式交付については、(株式交付親会社になろうとする)日本の株式会社のみが当事会社になるということで、外国の会社が当事会社になるわけではありませんので、外国会社の株主にとっては、持っている株式を日本の株式会社に現物出資するのと同じ行為ということになります。ですので、日本の法律だけが準拠法になると整理することができると思います。   もちろん、外国で株式交付の効力が争われたりしますと、外国が法廷地になれば、外国の法廷がどう解釈するかはもう日本の私たちにとってはどうにもならないことです。日本法の理解として株式交付をどのように考えるかを整理するが、私たちのできる限界だと思っています。株式交付の適用範囲を外国会社にも拡大したときに、日本法の理解として、外国会社は当事会社にならないのであるから、専ら日本法が準拠法になると考えていいのだという立場を明確にしておくことが大事です。そうすれば、万一外国の法廷で株式交付の効力が問題になったときでも、株式交付の効力が否定されるような結果を相当程度避けることができるのではないかと思っています。   それから、最後に手続面についてですが、ここは多くの委員、幹事から御意見があったのですけれども、反対株主の株式買取請求を認めないものとするというのは、やはり少し慎重に考えた方がいいと思っています。組織再編については株主の利益に与える影響が大きいので、株式買取請求権を認めつつ、簡易要件を満たすときはその規制を除外するという立て付けになっていますので、簡易要件を満たさないときまで株式買取請求権を除外するというのは、慎重に考えた方がいいと思います。   これに対して、債権者保護手続を廃止するというのは、これは考慮に値すると思っています。やっていることは他社の買収であって、公開買付けによって買収するときは別に債権者保護手続はとられないわけでして、それと比較したときに、少々、債権者に予想外の利益を与えているような面もあるかと思います。組織再編において債権者の利益が特に問題になったケースとして、例えば詐害的な行為が過去にありましたけれども、そのようなものと比べれば、他社の買収において債権者の利益が過剰に害されるということは一般的には少ないと申しますか、会社分割と違って債務を実質的に他社に移してしまうといった行為は考えにくいので、債権者保護手続の廃止というのは十分に考慮に値すると考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○松尾幹事 私も2点申し上げます。   一つは、子会社株式の追加取得について株式交付を適用するかということですけれども、ここで株式交付が組織再編といえるかということが議論されてきたのは、同じ効果が現物出資によっても得られるところ、なぜ現物出資とは異なる手続でその効果を得ることができるのか、その説明として、株式交付は組織再編行為だからという説明がされてきたものと、少なくともそういう一面があったと理解しております。そうしますと、現物出資の方の規制の見直しも検討されておりますので、そちらがどうなるかということがここでも影響してくるのではないかと。つまり、現物出資と比べてどこがどう違うのかということがある程度明らかにならないと、どの範囲で株式交付を認めてよいかということも検討しづらい面があるのではないかという気がしております。これが1点目です。   もう一つは、反対株主の株式買取請求についてでありまして、その趣旨は最高裁の示すところによれば、投資回収の機会の確保ということに尽きるものではなくて、やはり対価が不公正である場合の救済という意味もあると判示していると理解しております。そうすると、久保田委員がおっしゃったとおり、株式交付親会社においても対価の不公正の問題は起こり得ますので、買取請求を排除するということは難しいのではないかと。   一方で、会社法制研究会の報告書では、代わりに差止請求の中で差止事由として対価の著しい不公正を入れるのと引換えに株式買取請求を廃止するということは考えられないかということが提案されていました。しかし、果たして今買取請求の中で問題としているようなことを全て差止めの請求の中でできるのか、公正性担保措置が十分であるかとか、そういったことが審査できるのかというのは非常に不安に感じます。基本的には差止請求の場合は仮処分という形になり、かつ、ある程度効力発生日の近いところまで来ないとそういった措置が十分かどうかということは分からないものもあるのではないかと思いますと、かなり審理の期間が短くなってしまって、今買取請求の中でできていることができなくなってしまうのではないか、その結果、買取請求で保護を受けられていた、より高い価格が得られていたケースは差止めが認められないということになりますと、やはり代替措置としては不十分なのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○加藤幹事 私からは、株式交付の対象となる場面と株式交付の対象となる会社について意見を述べます。   まず、子会社の株式の追加取得をする場合を株式交付の対象となる場面に付け加えることについてです。この点は、松尾幹事の御指摘のとおり、現物出資の見直しがどうなるかということと密接に関係していると私も考えます。ただ、現在の日本法において、株式を対価として他社の株式を買収するという手法が非常に使いにくいという点は、意識する必要があると思います。仮に現物出資規制の見直しで、株式を現物出資の対象とするということを念頭に置いた見直しが難しいということであれば、子会社の株式を追加取得をする場合を株式交付の対象となる場面に付け加えるということもやむを得ないという判断もあり得ると思います。ただ、その際に若干気になりますのは、子会社の株式の追加取得をする場合に株式交付を使えるとしたとして、多くの場合、簡易株式交付に該当してしまうのではないかと思います。そうしますと、子会社の株式の追加取得をする場合を株式交付によってできるとした場合の簡易株式交付の定義の仕方が、果たして現行法のままでいいのかということは、修正の要否を含めて、確認した方がよいと思います。   2点目は、会社法施行規則第3条第3項第2号及び第3号に掲げる場合における子会社とする場合を株式交付の対象とするべきかということと、株式交付の対象となる会社に外国会社と持分会社を加えるかという点についてです。これらはいずれも令和元年改正の法制審議会でも検討作業の俎上に上がっており、見送られた理由は主に法制上の理由、すなわち資料の10ページにあります株式交付の手続を進め、株式交付がその効力を生ずる日が到来した後に株式交付の要件を満たさないこととなるなどした場合には、法律関係が混乱するなどのおそれがあるため、株式交付に関する規律の対象の範囲は株式交付をする前に判断することができる客観的かつ形式的な基準で定めるものとすることが相当であるとの判断であったのだと思います。この判断とは異なる判断を今回することができるのであれば、北村委員が御指摘のとおり、会社法第774条の11の第5項の定め方を工夫する必要はあるかと思いますけれども、株式交付の対象となる場面と株式交付の対象となる会社の範囲を拡大するということは積極的に検討されるべきではないかと思います。   ただ、1点質問がありまして、10ページの株式交付がその効力を生ずる日が到来した後に株式交付の要件を満たさないこととなるなどした場合というのは、これは効力発生日の段階で株式交付の要件を満たしていないことが事後的に明らかになった場合という意味であると理解しております。この表現自体は令和元年改正の後の様々な資料で使われている表現であるかと思いますけれども、若干誤解というか、分かりにくい部分はあるかと思います。効力発生日の時点で株式交付の要件を充足していたかどうかを確定することが難しいということが、前回立法を見送った理由であるということを確認できればと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。1点確認事項がございましたので、よろしくお願いします。 ○宇野幹事 質問を頂いた点は、御指摘のとおり、問題になるのは飽くまでも効力発生日における要件充足性だろうと思いますので、少し書きぶりがよくなかった点はおわびいたします。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○久保田委員 先ほど申し上げるのを失念していたことがありまして、それは、正に今、加藤幹事がおっしゃったことなのですけれども、私は先ほど、子会社の株式の追加取得を株式交付の対象とすることを認めてよいのではないか、ただし、それは組織再編として一般に要求される手続をきちんと踏むことを前提にすべきであると申し上げました。しかし、加藤幹事もおっしゃったように、子会社株式の追加取得がおよそ簡易株式交付に該当するということになりますと、株主総会決議も要らない、反対株主の株式買取請求も要らない、更に今回の改正によって債権者保護手続も撤廃されることになりますと、それも要らないということになるため、およそ何の規制も受けることなくできるということになってしまいます。   この点に関連して、先ほども述べましたように、本来的には子会社株式の追加取得というのは現物出資として行うべきものだと思います。そして、現物出資の方は検査役調査の例外は、簡易組織再編に比べると大分制限されている上に、法定の特別責任も規定されていますので、それとの均衡からすると、子会社株式の追加取得も株式交付の対象とする場合は、何も規制が掛からないということを避けるために、何か措置を講じる必要があるかどうかは検討したほうがよいと考えています。仮に措置を講じるとした場合に具体的にどういう規制が設けるべきかというところまではまだ検討できていませんけれども、本当に何も規制が掛からないということでよいのかを検討対象にすべきであることを追加的に申し上げたいと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○藤田委員 私もほぼ重なるような意見になるかもしれませんが、若干の意見を申し上げます。ここでは株式交付という制度の適用範囲の拡大と要件の緩和が同時に検討事項として提案されています。この問題についても、個別のニーズについては私は十分よく分かるつもりです。海外M&Aに際しても株式対価を利用したいとか、子会社株式の買い増しを効率的にしたいとか、更に言うと、株式買取請求や債権者異議手続が株式交付で本当に必要な手続なのですかとか、こういう意見は、一つ一つ個別に見ると、それ自身は理解できるつもりです。だから、ここで挙がっているのはそれなりの経済的合理性のある要望であることは十分承知しております。   ただ、これは第1回で述べたことなのですが、元々株式対価M&Aの法制化に当たっては、現物出資による新株発行の特則というところから出発して、現物出資を緩和するという制度設計も可能であったところを、令和元年改正であえてそういう立場をとらずに、組織再編の一種として位置付けて導入しました。そこで支配権の取得と無関係に追加取得まで範囲を広げ、株式買取請求も、債権者異議手続も全部、株式交付についてだけは外すというようなことを全部同時にしてしまうと、これはそもそもやはり現物出資そのもので、呼び方だけ株式交付としているだけではないかということになってしまう。ドグマだ、教条主義だと言われるかもしれませんが、やはり令和元年の改正の際にとった出発点に関わることなので、そこを根本的に変えることになるなら、本来なら現物出資の制度を基本とした改正でどこまで行けるかということを一からもう1回検討してというのが筋ということになってくるのではないかと思います。   そこまでしたくないのであれば、つまりやはり組織再編の一種として維持するということなら、組織再編として説明できる何らかの実質が残るところでとどまらざるを得ないような気がします。だから、そのような前提をとるのであれば、掲げられている要望を全部同時にかなえるということは難しいのかなという印象があります。では、どれはよくて、どれはだめだということになるのですが、例えば外国会社や持分会社を子会社化するというのは、今言ったような組織再編としての最低限の実質を残すという観点からそれほど違和感はありません。子会社の範囲を実質化するということも、テクニカルに解決しなくてはならない問題はあるかもしれないけれども、発想としてそれほど違和感のある話ではなくて、あとは詳細な制度設計を工夫しましょうという話なのだと思います。   なお外国会社については、準拠法の問題はあります。最後は、逃げるようだけれども国際私法の研究者、実務家の方の意見をきちんと聴いてくださいということなります。ただ抵触法上の性質決定としては、国際的には日本の株式交付のような組織再編制度はきわめて特異で例がないものですので新株発行に準じた扱いにすることを十分考えられますし、それで一貫してルールが適用できるので、説明できるようにはなると思います。ただし、これは専門家に最後、確認していただきたいと思います。   持分会社は正直、日本の会社でこれがどのぐらいニーズがあるのかよく分かりませんが、これを含めることが外国会社を含めることと併せて、外国における株式会社に相当する会社とは何かといった面倒な話が多少なりとも緩和されるなら、その効果と併せて対象に含めることも考えられます。少なくとも、発想として入れられないというような大きな問題ではないので、検討してもいいのだと思います。   これに対して、追加取得について、これを全部そのまま入れてしまい、観念的には株式交付制度で1株でも追加取得できますとして形にしてしまうと、これはさすがにもう子会社株式を現物出資する新株発行そのもので、それを株式交付と言い換えているだけの制度になってしまいます。せめて、例えば何かの実質が変わってくるような要件と引っ掛けて、定量的な要件を定めるといった形で歯止めをかけないと難しいと思います。例えば、単純な子会社を親会社が3分の2以上の議決権を持っている子会社にするとか、本当はキャッシュアウトまでパッケージで企画していれば一番いいのですけれども、そういうふうな要件とするとか、過半数取得に至らないが30%を超える取得をするとか、せめてそういった定量的な要件を入れることで、規制を緩和するのが妥協できる限界かなという気がします。なお、今の最後の30%は思い付きで言った要件ですが、実質的な支配の取得という要件を機に規制を変えるということを会社法で入れてしまうと、第206条の2の辺りまでひょっとしたら手を付けなければいけないかもしれなくなるかもしれません。いずれにせよそういう何らかの実態が変わるような要素を伴う追加取得であれば考える余地はあるけれども、無条件で追加取得一般にというのは無理があるような気がします。   株式買取請求や債権者異議手続については、これを株式交付固有の理由で要らないと言ってしまうと、また単に新株発行そのものの言い換えの制度になってしまいますねということになってしまって、やはり立て付け上は苦しいと思います。このため、恐らく今回の提案では、組織再編一般について株式買取請求権の適用範囲を限定したり債権者保護手続を緩和するという提案をして、それを適用すると株式交付についてもこれらが外れるという議論の立て方で乗り越えようとしていると理解しています。こういうやり方なら、先ほどから言っていることとの関係では検討の余地があるということになるのですが、個別に議論が成功しているかどうかは全く別の問題です。少なくとも株式買取請求は、この整理だと少し厳しいのは多くの方の御指摘のとおりです。これに対して、債権者異議手続については、ひょっとしたら全体的に多少緩和して、その結果、株式交付には事実上保護の適用がないという制度はあり得るかも知れません。  結論としては、基本的には、適用範囲を外国会社に広げる、持分会社に広げる、ひょっとしたら何か要件を緩和した上で、ある種の大規模な追加取得や一定の変動が起きるような追加取得ぐらいには広げる、また債権者保護手続は株式交付固有の話ではない形で外すという辺りぐらいが、組織再編の一種という形を維持したままで実現しようとする場合の限界だという気がしています。  ただ、私は本当はこれは現物出資の緩和でかなり対応すべき問題だと元々は思っているので、そちらも併せて検討していただいて、それはこの子会社化のためだけということではなくて、一般的に検討して、その中で株式交付に代替する手段として使える場合が出てくれば、それはそれでいいとは思っております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○内田委員 株式交付制度の実用実績を見ると、対象が上場会社の場合は公開買付制度の範ちゅうに入ってくるので、買収対象会社は未公開企業とかベンチャー企業が中心であり、買収資金を抑制するというニーズも強く、少額で子会社化するケースが多いと思います。その意味では、これまで対象に入ってこなかった持分会社とか外国会社についてもニーズはあって、対応する必要があるとは思います。   加えて、子会社化すること以外の買い増しなどを組織再編としてどう考えるかということですが、それがうまく説明できるのであれば、子会社化以外の買い増しなどにも認めていいとは思います。ただ、先生方がおっしゃったように組織再編とみなすのであれば何らかのやはり株主への影響やインパクトを与えるような事象が望ましいとは思うのです。そういう場合であれば株式買取請求権も認めるべきとは思いますが、例えば1%ずつ買い増していくような場合にも株式交付制度を認めると、子会社化の強化ということで少しずつ買い増していくことが組織再編といえるかというと、それは少し厳しいとは思います。つまり単なる買い増しのような場合にまで組織再編としての株式交付制度の適用を認めなくてもいいのではないかと思います。一方、例えば議決権の3分の2以上とか9割以上のような場合に組織再編としての説明がクリアできるのであれば、現状のニーズにある程度対応する形での法制化というのはあり得るというか、すべきだとは思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○青委員 基本的には多くの方々がおっしゃられたことと異論ございませんので、出ていない観点に関して、2点だけ申し上げさせていただければと思います。   実質基準で子会社に該当する会社に対しても株式交付を認めること自体には異論はないと思うところですけれども、その際、事後的に無効になってしまうことがあると、やはり影響が大きいという点は十分考える必要があると考えています。理論的には、実質的な子会社でないということが事後的に判明したら、そもそも株式交付を認める必要がなかったので無効事由になるということ自体は分かるのですけれども、仮に取締役が相当の努力をしたうえで実質的な子会社になる要件を満たす予定であったのに、その後の特殊な事情によって期末時点等に実質的な子会社ではないという判断になってしまったという場合にまで無効とする必要が本当にあるのかは、疑問がないとはいえないように思います。可能であれば、決定時点等において十分に子会社化できるであろうということが予見されている状態であって、それについて瑕疵がないという状態であったとした場合にまで無効にしなければいけないのかは、後々議論してもいいのではないかと思います。   それからもう1点は、追加取得の関係です。これについては反対の御意見が多いところですけれども、仮に実施するとした場合については、対象になる会社の株主平等の取扱いや、取得の対価や機会という面で有利、不利が出てこないよう、もう一度、現行制度のよし悪しも含めて、考えてもよいのではと思いましたので、発言させていただきます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○石井委員 株式交付につきましては、譲受会社、譲渡会社、双方にとってメリットがあるものであり、近年においては中小企業の事業承継の手段の一つとしてもM&Aが浸透してきていることや、持ち合い株解消を受けた自己株式の有効活用といった手段としても有用でありますので、こうした観点からも、活用範囲の拡大、手続の簡素化を進めていただきたいと思います。   まず、対象となる範囲のうち、追加取得を対象とすることについてですが、企業サイドとしては、子会社の支配強化やグループ管理強化という位置付けで行われる買い増しも、広い意味での組織再編的な行為として整理いただき、株式交付の対象となるのであれば、資本政策メニューの多様化という観点から非常に有り難いと思います。子会社の少数株主の構成、属性によっては、調整に時間が掛かることが事前に想定されるなど、段階を踏んで子会社株式交付を進める資本政策も一定のニーズがあると思います。また、引受者の税務上のメリットなどを比較考慮の上、資本政策を進めていくケースもあると思いますので、御検討いただけると有り難いと思います。   それから、実質支配力基準における子会社を対象とすることについて、株式交付対象とすることに異論ありません。通常の運用では、11ページに記載がありますが、企業は、役員構成や事業関係など他の支配事実要件を、事前に専門家などに確認し、固めた上で実行することが多く、リスクは極めて限定的ではないかと思います。仮に親子会社関係の成立に至らなかったという場合には、無効の訴えにおける無効事由となる考え方でよいのではないかと考えています。   加えて、外国会社についてもグローバル企業につきましてはやはり一定のニーズがあるものと思われるため、株式交付の対象とすることに異論ありません。   私からは以上です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○森委員 株式交付制度の見直しというのは非常に重要な課題で、これについては日本の将来のためにも是非とも対応しなければいけないと思っております。海外ではGAFAMなどの企業が株式交付制度を使ってどんどんと巨大な企業となっており、5社で東証の株式時価総額に匹敵するぐらいになっている一方、日本では株式交付制度はほとんど使われていません。本テーマは、今後日本の企業が発展するためにどうすればいいかという視点で是非とも前向きな議論をした方がいいと思っていますけれども、かといって理屈が立たないことはできないので、しっかりとこれから議論をすべきだと考えております。それぞれの論点については、藤田委員のおっしゃっていた内容とほぼ考えが同じなので、繰り返しませんけれども、例えば債権者異議手続については組織再編全体の見直しの中で議論すべきだと考えておりますし、反対株主の買取請求も実務的にはかなり障害にはなっているのですけれども、だからといって簡単に外せるかどうかというのは議論があると思っておりますので、そこは今後更に議論を深めていくべきであると考えております。   対象会社につきましても、先ほど藤田委員がおっしゃっていた意見とほぼ重なります。制度創設時のいろいろな考え方やドグマはあると思うのですけれども、海外と比較してこの制度が十分に使われていないという点も踏まえて、今後の日本のためにどう変えていくべきかという前向きな視点で議論をできればと思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○齊藤委員 まず、対象となる範囲についてですが、正確な範囲は最終的に無効の訴えで決着を付けるという前提で、実質子会社にする場合を含め、外国会社のうち、株式会社に相当するものを特定するのができるのであれば、外国会社も入れることでよいのではないかと思われました。持分会社も含めると、外国会社においても含めることができるものが増えてくると思いますけれども、持分会社の場合、持分の取得が支配権の取得に直結するとは限らないので、株式の大量取得による子会社化という側面に着目して株式交付を組織再編と整理したのだといたしますと、持分会社一般を株式交付の対象とするということは難しいのではないかと思われました。ただ、持分の取得を通じて支配権を取得することができる場面を特定できるのであれば、その範囲で認めることは可能なのではないかと思われます。   子会社株式の買い増しの取扱いが難しいのは、他の組織再編行為には類似の状況がないので、他の行為類型で認められているか、という観点から整理できないためなのだろうと思います。この点につきましては、段階的な閾値を設けるという案もあり得ると思いますけれども、それと両立し得ないわけではないものとして、思いつきではございますが、追加取得の特則を設けることが考えられるかと思いました。株式交付の場合は、最終的にどれぐらいの株式を取得できるかが分からない側面があるところ、もっと多くの株式を取得したいと思っていたけれども、ぎりぎり子会社とするに足りる株式しか取得できなかった、しかし、余り間を置かず追加でTOBをしたいというような場合に、第1段階で追加の取得の可能性について明らかにした上で手続をしていれば、一定の期間内で行われる第2段階につきましては、例えば株式買取請求権も債権者異議手続につきましても、第1段階で関係者の利益は十分に保護されているとして不要とするようなことは、現在の枠組みの理解を余り変えずに実現できるのではないかと思いました。   次に、反対株主の株式買取請求権なのですけれども、現在資料で頂いている御説明では、合併と株式交換は株主への影響が全く違うという位置付けであるかのような表現になっており、なぜ株式交換で株主総会決議が必要なのかも説明できなくなるおそれもあるので、株式買取請求権を排除するには別の理由付けがいるのではないかと思われました。   債権者異議手続につきましても、通常の取引とのアナロジーで整理するのは望ましくないと思われます。会社分割一般も、事業譲渡や財産の譲渡と何が違うのか、という議論を誘発しかねないからです。例えば、債権者異議手続の対象となっている一部の債権者の保護は、今後は株式交換の場合も含めて詐害行為取消しに委ねるというように、立法上の整理を変更することなどになるのではないかと、現時点では考えております。   自らの利益を契約で守れる債権者もいらっしゃるのは事実なのですが、日本の現行法の債権者異議手続は不法行為債権者も含めた抽象的な債権者一般の保護を念頭に作られているので、その立法論的な是非について議論はあるのですけれども、契約による自衛を理由に債権者異議手続を排除するという理屈を持ち出しますと、組織再編法制全体の債権者異議手続の存在意義自体から議論しなければならないかと思いますので、そのような説明も避けたほうがよいのではないかと思われます。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○田中委員 これまでの御発言の中で、株式買い増しも株式交付で認めたときに、多くは簡易要件を満たすので、株主総会決議も必要なくなり、株式買取請求も必要なくなるけれども、それでいいのかという御発言がありましたけれども、私はそれが問題だと思っておりません。先ほど発言したときもそれが問題だとは思いませんでしたし、御意見を聞いても、問題だとは思いませんでした。やはり簡易要件というのは、取引額からして株主に対する影響が小さいと判断するからこそ、株主総会決議や株式買取請求の対象にしていないのであって、他社を子会社にするときだって簡易要件を満たしていれば総会決議も要らないし、株式買取請求も要らないわけでして、株式を買い増すときに、それが必要だとしたらかえっておかしいと思います。したがって、株式買い増しの場合に多くが簡易要件を満たすとしても、私はそれが問題だとは思いません。また、この制度を利用する以上は、例えば、従前の上場子会社を3分の2保有にするために公開買付けをするというような、かなり大きな規模の取引をすることも考えられると思いますが、そういった場合には簡易要件を満たさないこともかなりあると思われ、その場合には、簡易要件を満たさないので総会決議も株式買取請求も要るということでいいと思います。   それから、もう一つ、このような株式買い増しを認めても、あくまで子会社関係があるところでその関係を強化するときに限って株式交付を利用できるのであって、一律に現物出資を全部この株式交付で代替するというわけではないので、そこはやはり依然として限定があるということは意識した方がいいと思います。   それから、やはり他社を子会社にするときに現物出資構成にすると、検査役調査か、そうでなければ引受人に責任が生じ得るという制度のもとでは、やはり公開会社などはそのやり方で買収できないと思うのです。不特定多数の株主にそんな引受人としての責任を負わせる可能性があるなんて、そんな制度の下で、株を売ってくださいなんて言えないのではないか。それをどういう形で規制緩和するのかですが、もしも現物出資規制を緩和するとすれば、他社株式を対象とするもの以外も全部、緩和するという話になってきます。これに対して株式交付であれば、子会社化という行為をベースにして少しずつ対象範囲を広げることになるわけです。だから、両方から攻めていくという発想も要ると思っています。全部バランスよく美しい規制の体系にできるかというと、なかなか難しいところで、やはり、既存の制度を前提にして、今のところ問題が起きていないのだからもう少し対象範囲を広げていくとか、そういうインクリメンタルな発想で制度を作っていくしかないと思います。そのときに現物出資の方から緩和していくだけではなくて、株式交付の方からも行くというか、両方から攻めるという発想も大事かなと思います。 ○神作部会長 ありがとうございます。貴重な御意見だと思います。   第3のセッションに進ませていただきたいと思います。   部会資料2の「第3 現物出資制度の見直しに」ついて御議論いただきたいと思いますけれども、御発言はございますでしょうか。 ○久保田委員 まず、株主総会の特別決議による検査役調査の省略についてですけれども、私は検査役調査制度の趣旨については、株主間の価値の移転の防止に加えて、ある金額が出資されたというアナウンスがされたことに対する債権者の信頼をも保護するものであると考えています。このような考え方からしますと、株主総会の特別決議によって検査役調査の省略を認めることについては、債権者を欺く目的で主要な株主が通謀して現物出資財産を過大評価する計画をするケースでは債権者の利益を十分に保護できないことになりますので、その点では問題が残ることになります。ただし他方で、主要な株主が通謀するケースではどのような事前規制を用意しても結局は潜脱されやすく、防止することは難しいということがあると思います。そうであれば、債権者の救済は取締役の第三者に対する責任や不法行為責任によるといった事後的な責任の追及に委ねることにして、株主総会の特別決議による検査役調査の省略を認めることは、まだ積極的に賛成するというところまでに至っていないのですけれども、会社法制研究会での議論を経て、あり得る立法だと考えるようになってきています。   続いて、証明者の資格の拡大についてです。部会資料では、現物出資財産の価額の相当性を証明する資格を有する者を限定列挙するのではなくて、単にその他の当該現物出資財産の価値の評価に関し専門的知識を有する者もその証明をすることができるようにすることが提案されています。こうした規定の仕方はこれまでの検査役調査規制では見られなかったものだと思います。しかし、確かに必ずしも証明する資格を有する者を弁護士等の一定の資格を有する者に限定する必要はないのではないか、重要なのは、いわゆる専門的な第三者評価機関のように適切な財産評価を行うことができると一般に認められる者に証明をさせるという点にあるのではないかと考えています。   この点、提案されている制度ですと、専門的知識を有する者でない者に証明させたことによって現物出資財産の過大評価が行われた場合は、取締役が責任を問われることになりますので、取締役としては事後的な責任を負わされることを回避するために、いわゆる専門的な第三者評価機関に証明を行わせることになるのではないかと予測されます。そのため、ここで提案されている制度というのは、あり得る立法なのではないかと考えています。   この点に関連して、これも会社法制研究会で申し上げたことですけれども、現行法では弁護士等も証明資格を認められています。しかし、実際には弁護士さんも価値評価が難しい財産については結局は専門的な第三者評価機関にサポートしてもらっているのではないかと思うわけです。そうだとすると、価値評価が難しい財産について、現行法の下で弁護士に証明させるのとここで提案されている制度との違いというのは、2点に絞られるでしょう。一つは、誰に財産評価をさせるのかを弁護士さんが選ぶのか、それとも取締役が選ぶのか。二つ目に、適正でない者に財産評価をさせたことによって過大評価が行われた場合に、弁護士も責任証明者として責任負担者に加わるか、それとも加わらないかという2点だけであろうと思います。そして、これらの2点のゆえに、ここで提案されている制度は現行制度に比べると規制の実効性は若干劣るとは思いますけれども、致命的な欠点とまではいえないのではないかと考えています。   次いで、不足額塡補責任の見直しについてです。現物出資者の責任の性質については、部会資料の22ページに二つの考え方というのが記載されているところ、私は後者の考え方、すなわち現物出資者は株式会社に対して会社法199条1項3号の価額に相当する現物出資財産を給付する義務を負うわけではなくて、所定の現物出資財産を給付する義務を負うにすぎないという考え方をとるべきであると思います。   これは、一つには、通常の現物出資者の認識としては、自己が約束しているのはその金額を出資することではなく、その財産を出資するということにあるのではないかと考えられるからです。現物出資者と会社との間でどのような交渉がされるかによっても変わるところはあると思いますけれども、基本的には会社側がまず財産の価値を評価する、そして、これにふさわしい株式数というのは何株であるということで、現物出資者が引き受ける株式数が決まっているのではないかと思います。そうだとすると、このような当事者の認識に鑑みると、基本的にはその財産を給付すれば現物出資者の義務は尽くされていると見ることはいわば素直な見方であろうと思います。   もちろん、それでは足りず、現物出資者には会社に対して、会社法第199条第1項の価額に相当する現物出資財産を給付する義務を負わせるべきである、そのことに強い政策的な合理性があるというのであれば、そのような義務まで負わせることは考えられるわけです。しかし、私は、これまでも申し上げてきましたように、そのような義務を負わせることに余り政策的な合理性はないのではないかと考えています。   すなわち、現物出資財産の中には、例えば事業や非上場会社の株式あるいは知的財産のように価値評価が難しいものもあるところ、そのように価値評価が難しい財産については、事後的に価値評価に誤りがあり、実は過大評価されていたと判断されることは十分に起き得るわけです。このような場合に引受人が常に責任を負わされることになると、社会的に見て望ましい現物出資が行われることを阻害する大きな要因になり得ると思います。この点について、会社法は引受けの申込みに係る意思表示の取消しという方法を用意しているのですけれども、この取消権は引受人が負担するリスクを必ずしも十分に軽減するものではないと思います。そうであれば、現物出資者は所定の現物出資財産を給付する義務を負うにすぎないのであるという考え方に立った上で、一定の帰責事由がある場合、例えば、引受人が会社や証明者に対して現物出資財産の評価に関わる重要な事項につき故意又は重過失によって虚偽の説明をした場合などに限って、現物出資者に不足額塡補責任を負わせるとするのがよいのではないかと考えています。   他方、取締役と証明者については、現時点ではいずれについても現行の規律のままでよいのではないか、これを改める必要性は特に見当たらないように思っています。また、取り分け今回、証明者の資格を拡大するということになりますと、証明者の責任や証明者の責任に関与した取締役の責任による規律付けというのが重要になってまいりますので、その意味でも現行の重たい責任の規律を維持してよいのではないかと考えています。   最後の責任の範囲については、部会資料で提案されている内容に異存ございません。賛成です。 ○神作部会長 ありがとうございました。 ○北村委員 まず、検査役調査制度の見直しについて、会社法第207条第9項の中に検査役調査が不要な場合として株主総会特別決議があった場合というのを追加するということについては、賛成でございます。現物出資規制は有利発行規制とは必ずしも同じではないのですけれども、既存株主の株式価値の保護という観点では共通性がございますので、株主総会特別決議で検査役調査を不要とすることを付け加えることには賛成でございます。   次に、証明者の資格の拡大、つまり現物出資財産の価額の評価に関し知識を有する者の証明をもって検査役調査に代えるという提案についてです。これによると現物出資財産の価額の相当性を証明することができる者というのは、結局誰でもいいということになってしまって、あとは証明者の不足額塡補責任でカバーするということになるのだろうと思います。これは、結果として証明できる知識がない者が証明しても、有効な証明であることを前提としているようです。先ほど久保田委員がおっしゃったように、現在、弁護士等の資格者が現物出資財産の調査をするときに、その財産の内容によっては評価の専門家の意見を聴いて、その上で自己の責任で証明することになっているのであれば、やはり調査者の範囲というのは資格者に限定するのがいいのではないかと思っております。   不足額塡補責任の見直しに移ります。現物出資者の責任については後で申し上げるといたしまして、取締役及び証明者の責任については今のままでいいのではないかと思っています。責任の範囲については、募集事項の決定時点における現物出資財産の価額が募集事項として決定した会社法第199条第1項第3号の価額に著しく不足する場合の不足額にすべきです。決定時を基準にせずに募集株式発行の効力発生時を基準にすると、募集事項決定後、募集株式の効力発生までの間の価額の下落のリスクを負わせることになりますが、それは責任として重すぎるという気がいたしております。   最後に、現物出資者の責任です。22ページの7行目以下に書かれているのは、先ほど久保田委員がおっしゃいましたこと、あるいは会社法制研究会で田中委員がおっしゃったことではないかと思っております。久保田委員のおっしゃったような方向で改正を検討することについては反対というわけではないのですが、現物出資は出資による入社契約であり、株式引受契約ですので、通常の取引、普通の売買とはやはり違う面があると考えております。募集株式の引受契約ということですので、現物出資財産の価額が募集事項として定められ、現物出資者は現物出資財産と引換えに、会社が評価した財産価額に見合う株式の交付を受けるという契約になっていると理解しております。そのため、現物出資財産について、会社が評価した価額に著しく不足するということになると、債務の履行追完義務が生じるということになりますが、これは入社契約である以上、既存株主の利益保護ということが契約の要素になっていると理解するためではないかと思います。   ただ、現物出資財産の価額を決めるのは現物出資者ではなくて会社側ということになります。したがって、後で会社法第199条第1項第3号の価額に著しく不足することになった場合、現物出資者は履行追完をするか、あるいは引受けに係る意思表示を一定の要件の下で取り消すかの選択ができるようになっており、これによって当事者間あるいは株主との利益調整をしているというのが現行法ということになります。   株式会社設立の際の変態設立事項として現物出資と財産引受けがあり、現物出資は出資行為、入社行為だけれども、財産引受けは純然たる取引行為だという区別がされております。財産引受けの財産の価額が定款所定の価額に著しく不足する場合であっても、財産引受けの相手方は、発起人と設立時取締役を除けば不足額塡補責任を負いません。これは出資ではなく純然たる取引だからだといえます。一方、現物出資については、出資者は発起人に限られていますけれども、不足額塡補責任があります。とすれば、募集株式の発行の場合でもそのような整理ができるのではないかと、と考えております。本日は第一読会でもありますので少し保守的な考えを述べさせていただきました。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○松尾幹事 北村委員の御発言にやや反対するような形になるかもしれませんが、私はこの点の改正に対する最近のニーズの背景には、現物出資というのは株式を対価としてその現物出資対象財産を買うのだと、そういうことに現物出資というものを使っている、そういう観点からすると非常に使い勝手が悪いのだと、そういうことがあるのだと理解しております。   そういう観点から見ますと、まず検査役調査のところですけれども、買う側の会社において、対象財産が過大に評価されていると損失を被るところの株主が特別決議で承認しているのであれば、それでよかろうと思います。確かに現物出資がされたというアナウンスメントに対する債権者の信頼ということはあるかもしれませんが、その信頼が裏切られたことによる損害というのが一体どういう形で現れるのか、それが会社法第429条等で賠償請求するということで救済できないものなのかということは非常に疑問に思いますし、そうすると検査役調査というのは非常に過剰な規制ということになっているように思います。   さらに、不足額塡補責任の範囲ですけれども、これは売買契約的に捉えると当然、売買契約の時点の評価ということで、そこがお互いに公正であると認めたのだったらそれでよいということになると思いますので、募集事項の決定時ということになるのではないかと。それが給付時までの目的物の価格下落リスクを売主というか出資者の側に負わせる理屈というのはなかなか、ないのではないかという気がいたします。   さらに、引受人の不足額塡補責任ですけれども、これも契約時点で会社側が幾らと評価して、それで何株渡そうということで合意したのであれば、後から評価がおかしかったと、特に過失によって評価が誤っていたというようなことは、むしろ買手である会社側の問題であるように思います。そうすると、評価した取締役なり、評価者を雇ったときには評価者の責任で、会社の方で対処してくださいと、引受人が責任を負うのはせいぜい通謀して安い価格で引き受けようとした場合、有利発行の場合の引受人の不足額支払責任と同じようなもので十分ではないかと考えております。今の考えからしますと、むしろ取締役ですとか評価をした者の責任というのは、株主との関係で、ある程度厳格に負わせた方がよかろうと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○豊田委員 まず、1(1)の株主総会の特別決議による検査役の調査の省略という点につきましては、アナウンス効果をどう考えるかという点が問題になってくるかと思います。既存の債権者については、既に取引関係に入っていますので、新たに一定の現物が入ってくれば、それがどのように資本金に計上されるか、どのように評価されるかということにかかわらず、責任財産が増えるという意味では不利にはならないので、今後取引関係に入る者について問題となると理解しております。   債権者が取引関係に入るという場面におきましては、その規模等にもよるとは思いますけれども、一定の重要性を有する取引であれば、資本金額がどうアナウンスされたかということよりも、実際の対象会社の財務状態についての調査を行うことが考えられますので、そのような調査を行わずに取引関係に入った者を現物出資の規制を厳格にするということで保護するというのは、少しバランスが悪いのかなと思っている次第です。特に、対等な当事者であればきちんと調べてくださいという話だと思います。ただ、少し弁護士会の中で話が出ていましたのが、消費者系の話で、通謀等をして実際よりも資本金を過大に計上しているような外見を作っている会社について何か問題がないかということが指摘されておりましたので、まだ検討が十分ではないのですけれども、今後そういうことについて、また発言させていただくことがあるかもしれません。   (2)は、専門的知識を有する者を加えて、一定の拡大をするという方向性は反対はしませんが、ただ専門家であるということだけですと、いわゆる自称専門家的な方が不適切な証明を取締役とも通謀して行うといったようなことが問題となると思いますので、そういう意味では一定の限定列挙で増やすという形はあり得るのかなと思っております。   塡補責任につきましては、現物出資者、証明者、取締役について一定の軽減をするということに賛成を致します。現物出資についての当事者の意識が、当該財産が出資されるということなのか、当該財産の価値として記載された額が出資されるかということなのかについて、先ほど御発言が出ておりましたけれども、やはりその財産が出資されるのだと実務上は考えられていると思います。そういう意味で、特に現物出資者の責任につきましては、後で実際にそういう価額ではなかったという場合に、追加的な塡補をするというよりは、株式数の調整ですとか、そういう形での解決というのがよろしいのではないかと思っております。現在、一定の取消権がありますが、部分的な取消しになるのか調整になるのかというところはあると思いますが、そういう形での立法というのはあり得るのではないかと思っております。 ○神作部会長 ありがとうございました。 ○松中幹事 まず、証明者については実際上、必ずしも資格があるかどうかとは関わりなく、入ってほしいのは、価値算定機関のような存在かと思います。限定列挙した場合に価値算定機関が実際上関われないのかは、本当にそうなのか調査が必要なのではないかと思います。もし、大抵の場合、例えば公認会計士がいますよとか、それで足りるのであれば、自称の人がわらわらと証明者になるというのは大変望ましくない事態ですので、可能であればそういう形で解決できればと思います。   もう一つ、不足額の塡補責任について、これはやはり引受人・出資者の責任と、取締役、証明者の責任というのは少し性格が違うのだろうと思っています。その上で、出資者の責任は、これは純粋な対等な普通の売買と同じように考えるのであれば、そもそも責任の規定が要らないということになると思うのです。せいぜい不法行為の特則みたいな感じで、通謀があった場合の責任の規定を置くだけということになるかと思います。価額の下落リスクにしろ、評価間違いのリスクにしろ、全部契約で決めればいいだけだということです。ただ、そこまで割り切っていないのだとすると、やはり北村委員の御指摘のようなことを我々はどこかで考えているのではないのかとも思います。   そう考えた場合に、何か実質的に規律を入れる必要性があるのかというと、一つは株式の発行だからというところです。それを超えてもう一つ何かあるとすると、現物出資財産の中には、出資者が最もよく価値を理解していて出資者の情報開示がないと適切な評価ができないようなもの、知的財産や事業なんかもそうかもしれませんが、そういう性格のものもあるので、デフォルトとしてはリスクを負わせておくいう規律であってもおかしくない。ただ、この場合、やはりどこかで解除できないと変なのではないのかとも感じます。したがって、何らかの形で責任を負わないような規定を入れてもいいのかなとも思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○矢野幹事 私、弁護士の立場で少しお話しさせていただければと思います。幸いにしてと申しますか、この件で申し上げますと、会社側の代理人だけでなく証明する側、債権者の側というところで全部の関係するという可能性がありますので、そうした観点から、少し豊田委員の意見に付け加える形でお話しさせていただければと思っています。   まず、債権者の目から見たときに、資本金の額によって信用力が違うというのはやはり否定し難いというところがあるかとは思います。特に、先ほど例で出た消費者被害ということを考えますと、画期的な投資手法が見付かりましたというような話になってくると、それがいいスタートアップなのか詐欺的な手法なのかというのは当初の段階で区別が付かないという問題があるかと思います。この関係で、やはり自称専門家が証明する資格を有する者に加わるというのは反対します。ただ、限定列挙で増やしていくということはよいかなと思っておりまして、イメージ的には社債管理補助者の規定といった、そんな感じで増やしていくというようなイメージかと思います。   今回、補足説明の中に知財評価の話が出てきましたので、この辺りの関係で、弁護士会の中で知財評価に関連する業務をやっていらっしゃる方がいましたので、少し話を聞いてきました。結論で申し上げますと、資格者の中に弁理士、弁理士法人を加えるというのはありだろうと、ただ、加えたとしたら利用が促進されるのかというと、それは疑問であるという話でした。何で疑問なのかということを申し上げますと、具体的には現状の実務では、ピンポイントで幾ら幾らと出すことは実は基本的にしていないと、幅の範囲で意見を出していることが多いし、依頼者との関係で責任限定する契約の内容になっているということが極めて多いと、ところが現物出資で証明をすると、そういうことではなくてピンポイントの証明を出さなければいけないし、立証責任が転換されているとはいっても、最終的には会社との契約を超える範囲で責任を負う可能性があるということになると、かなりリスクがある行動だと、そうすると、なかなか受ける人はいないのではなかろうかというようなお話でした。ただ、ここは飽くまで一意見にしかすぎませんから、どの程度妥当するのか分かりませんので、弁理士会等も含めて少し意見聴取していただくなどして、どういった制度がいいのかということを考えていただくといいのかなと思いました。   さらに、現物出資が使いにくいと言われている問題はどこにあるのだろうということを少し考えてみますと、会社側代理人の立場に立ったら何が大変なのだろうなと思うと、やはり1回は自社でそれなりの専門家にお金と時間を掛けてやってもらって、やるわけですけれども、そうすると裁判所でまたもう一回申立てをして、もう一回お金を払って、時間も掛けてやらなければいけなくなって、二度手間だと、しかもその結果も読めないということになると、やはり問題だろうということにはなるかと思います。   逆に、証明する立場からすると、先ほどの問題がありまして、やはり幅があることが多くて、裁判所が関係するような鑑定、不動産鑑定だとか株価算定全般であるのですけれども、幅のある範囲、例えば3,000万から5,000万といったような感じで出るのですけれども、それを1個に決めないといけないというところになると、その1個に決める責任を負わなければいけないということになって、なかなか証明者として受けにくいという問題があります。では株主が決めればいいのかとなると、債権者の目から見るとそれも問題だということで、なかなかどれもこれも少々問題があるなというのが今の現状なのですけれども、ではどうすればいいのかというところで、例えばなのですが、証明する者が意見書を出すにしても、それについて法的な担保責任を負わないと、その意見書を前提にして、債権者の信頼を確保しながら現物出資ができるような制度ができないかなというのがポイントなのかなと思いました。少し具体性はないですけれども、例えば証明する資格を有している者が作成した意見書を添付して裁判所へ申し立てて、裁判所の方は形式的な審査をして著しい不当な内容がなければ認可をするとか、そういった形で迅速に処理するといった中間的な制度もあり得るのかなと思ってはいます。   そこら辺は証明者の関係でして、あと、塡補責任につきましては見直しの方向で賛成いたします。ただ、最後の責任の範囲のところは1点だけ、記載の内容については何の異存もない、賛成の方向で考えておりますけれども、昔の教科書を読んだら、今の情報は決定時と会社の成立時に金額に差が生じると、要するに下落することがあるから、著しいという規定を設けているのだというようなことが書いてありまして、そうすると今回提案の内容が従前の解釈ときちんと整合性がとれているのかなというのは少々気にはなりました。ただ、中身に反対するとかそういったものではありませんので、私からは以上です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○藤田委員 現物出資制度の見直しは、どこまで見直すかということで、その範囲は気にはなるのですが、これは各々議論すればいい個別論点の集積だと思いますので、個別に意見を申し上げます。  まず1の検査役調査制度の見直しですが、(1)の方は、現物出資規制は基本的には出資者間の利害調整の話が主たる機能だと思っていますので、そうすると、特別決議というのは有利発行を正当化できるもので、出資財産の過大評価は株主間の利害調整として見る場合、有利発行の一種のようなものですので、特別決議を経るならいいだろうと思います。ただ、学説では、ある金額が出資されたというアナウンスに対する債権者の信頼が全くないと言い切っている人は少ないような気もします。ただ、そのような信頼にどの程度リアリティーがあるもので、どれだけのコストを掛けて守らなければいけないのかという観点まで持ち出すと、特別決議を経ている場合でも、現物出資規制が必要だとまでは言わないでいいという立場もあると思います。したがって1(1)はいいと思います。(2)は、こういう曖昧な拾い方でワークするかという問題意識は共有するという以上のことは、現段階で私は申し上げられません。   難しいのは2です。特に現物出資者の地位をどう考えるかということは、会社法制研究会で議論が始まって以来いろいろ考えることが多くありました。基本的な問題状況は、現物出資者というのは、この財産を出資しそれに対して何株もらえます、だからOKですと納得して応募するのが普通の意識なのだと思われるところ、問題の財産に対して、事後的に判断すると多すぎる株式を結果的に割り当てられてしまったという状況で、どうやって処理するのが一番、当事者の間の利害調整、後始末として適切かということです。   多すぎる株式を割り当てた原因というのも、論理的には出資財産の過大評価もあるのですけれども、ひょっとしたら株式の方の価値の過小評価もあるかもしれなくて、特に市場価格のない場合で、ほかに金銭出資者がいなければ、そういうことも起き得ると思うのですけれども、いずれにせよそういう理由によって株式をたくさん割り当てすぎたときの後始末として、差額を金銭的に評価し塡補させる、それも無過失責任でという現行法の立て付けがいいものとは思えません。ただ、それは単なる売買で、安く買いたいのは当たり前だから何も責任は生じないでいいかと言われると、そこまで割り切るのもどうかと思っています。一番多分穏当な解決は、株式引受人に金銭的な追加出資を求めずに、出資財産に対応するだけの株式を会社が無償で取得し消却してしまうということができる。ただし、そんな数の株式しかもらえないのだったらこんな財産は出しませんでしたと出資者が思うかもしれないので、だからやめるという権利も選択を認めて、ただし、引受人側に何か帰責事由がある、非難すべき事由がある場合にはこの選択は認めない、無償で単に株式を取り上げられるといった形で、株式数の方で調整してお金を動かさないというのが本当は一番解決の仕方としてはきれいなのかなと思っています。ただ余りにも現行法からかけ離れた立て付けな上に、比較法的にもそんな処理をしている国があるかどうかわからないことが気になるのですが、ただ、金銭的に無過失責任で発生させるというのはいかにも重い上に、余りいい解決と思えませんし、実態的な話としては、繰り返しですけれども、この財産を出資したが、たくさん株式を割り当てすぎたということを解消する手段として一番合理的なのは何かという観点で検討したらいいのではないかと思っています。そういう意味では、今言ったのが唯一の解ではないと思うのですけれども、お金でそれを無理やり追加出資させるという以外の選択の解決があればいいと思います。   これに比べると、取締役、証明者の出資財産の変動による話は問題はもう少し簡単で、これは幾ら何でも変動リスクを全部負わすのはおかしいと思うので、不足塡補額の責任が生じるリスクについて決定時点での評価で著しく不足する場合に生じるということを中心に考えるべきです。細かい規定の仕方はともかく、今提案されているのはそういう方向ですので、この方向で更に洗練していけばいいと思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○田中委員 まず、検査役調査制度の見直しなのですけれども、私も株主総会決議を経ることでこれを不要とするという、そういう制度があり得るのではないかと思っております。この点については補足説明で研究会での私の発言も拾っていただいて、有り難いと思っているのですけれども、現物出資規制の利益主体を株主だけではなくて債権者も含めるという考え方によっても、株主総会決議を取っていることで債権者の利益が間接的に保護されていると考えて、検査役の調査との関係では不要とするということは説明が付くのではないかと思います。そういうことをしたときに、いわゆる消費者詐欺的な、もう本当に意図的に財産を過大評価して現物出資するような場合、資本金だけではなくて貸借対照表の資産も過大計上されているわけですけれども、その場合は検査役調査を不要としても、不足額塡補責任の方の役員の責任は残るので、本当に悪意のある財産の過大評価のようなケースは、役員の責任によって保護するべきかなと思っております。   それから、先ほど来、北村委員がおっしゃっていることなのですけれども、現行法制上は多分、入社契約のときに引受人は1,000万円相当の財産を出資します、それと引き換えに会社は何株発行しますという、そういう契約がされていると従来は理解されていると思うのですけれども、これは制度の立て付け次第なので、引受人はこの不動産を出資します、それに対して会社は何株発行しますという、そういう契約をしたのだという理解の下に制度を作ることも可能だと思っています。この点は、現在の現物出資制度の下で現物出資そのものが萎縮しているのではないかということが問題の発端だと思うので、出資者の責任をある程度軽減していくという、これは売買契約の売主と同じ程度まで軽減するべきかどうかは議論の余地はあると思いますが、現物出資の出資者は、売買契約の売主とほぼ同じような立場だとする見方もあり得ると考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○齊藤委員 債権者に対するアナウンスメント機能の立法論的な意義につきましては、確かに評価の分かれるところではございますが、現行法においては、一人会社の設立や一人株主による追加出資についても、現物出資規制の対象外としているわけではございませんので、株主がよいと言ったから現物出資規制を外してよいという考え方をそのまま受け入れる素地があるわけではないように思います。債権者の利益も制度趣旨であることを正面から否定するのであれば、検査役調査全体を見直すことにもなるように思われます。立法論としてはあり得るものですし、諸外国でも議論があるところでございますけれども、その点に手を付けるのであれば、大変な作業になるとは思います。   今回は、その点に手を入れる大きな改正を予定しないといたしますと、改正の課題というのは、一つには、現行法の規定が目的物の評価が短期間に大きく変動するということを十分に配慮していないために、行為に関与した者が過度に目的物の価格下落のリスクを負わされているという結果になっている点を修正するということがあろうと存じます。ある程度、評価が適正に行われ、透明性のある手続が遵守されたのであれば、そのリスクから当事者を解放するというようなことが実現されるべきではないかと思います。他方で、久保田委員が御指摘になったように、通謀によりあからさまな過大評価をして会社関係者を欺こうとすることは阻止するための規律、あるいは、なされた場合の救済に対応するものは残しておく必要があるのではないかと思われます。   会社成立後に、株主の目や善管注意義務を負う機関があるところでは、目的物の評価はある程度適切になされるだろうという考え方は、事後設立においても採用されており、株主総会の決議によって検査役調査を排除するという案は、その延長に位置付けられたと思われます。ただ、事後設立や財産引受けにおいては株式が直接発行されるわけではないので、資本金の過剰計上という問題が生じないところ、現物出資ではそれが問題になるわけでございまして、一人会社の株主による追加出資などで通謀による過剰評価が行われるような可能性を考えますと、取締役による監視は引き続き必要ではないか、つまり取締役の義務、責任による規律付けは引き続き必要であるように思われます。   他方で引受人の責任は、この制度の導入当初の考え方などもあろうかと思いますけれども、いろいろ議論をお伺いしておりますと、現在における現物出資の潜在的なニーズや引受人の属性を考えますと、政策論としては、引受人に担保責任のようなものを負わせることは余り現実的ではないように思われまして、取締役や既存の株主と通謀したような場合に限定するべきではないかと思います。   証明者の範囲を広げることについては、あり得る考え方とは思っておりましたが、確かに、矢野幹事が御指摘になったように、資格者につきましてはその職務遂行の適正さが様々な形で担保されておりますので、職務遂行の適正さについて一定の職業的な監視が働くような者に限定をすることも考えられるのではないかと思われました。完全に責任を排除するというような形ではなく、評価を業とする者の適切な注意義務の水準につき相場が形成されるということに期待をするべきではないかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松井委員 私も、まず、大きな枠として株主総会の特別決議という整理はあり得るものだと思います。有利発行との整合性という点からの説明のほか、価額下落リスクなどについては株主との関係の免責、会社法第424条や第5条のようなものもあるわけでございますし、有効な対処方法の一つとして整理をするということは可能かと思いますけれども、幾つかの場合について例外を設けるという可能性も考えるべきかと思っております。   まず、特に設立直後について、よいスタートアップかどうかということについては、債権者のみならず株主自身も見分けにくいというところがあり、例えば財産引受けについても設立後2年といったような期間を設けた特則というのがあるわけでございますので、何らかのリスクの切り出しというのがあり得る場面ではないかと思っております。   株主の信頼を担保するための証明者の責任という点につきましては、もう既に幾つかの御意見というのが出ておりますけれども、ピンポイントで価額を出し、かつ、責任が非常に重たいというのがリスキーだということでございまして、この点、弁護士賠償責任保険について、弁護士が実際に当該価額というのは間違っているということを知らずに証明を行った場合に、これをカバーの範囲にするという判決が平成28年辺りに出ているのですけれども、現在、保険会社が付保範囲にどのようなものを含めているのかといったようなこと、既に述べたようなリスクを重く感じている実務でもし保険も付保範囲から外すということになっていると、制度として回っていないといいますか、担い手というのが現実として出てこないということもあるかもしれず、どのような実務なのかということについて理解をするということは重要かと思っております。   少し脱線いたしましたが、こういった証明者については、専門性と独立性があることによって株主の信頼を確保するということが有用であろうと思っておりますが、こういった証明者の意見については、先ほどの御意見のなかでは幅で出てくるということが多いということですので、直接の塡補責任を負担するというような制度の設計が現状に合っているのかということを検討する余地はあるかと思いました。   第2に、通謀による現物出資ということについても御懸念の声というのが多かったと思っております。この点の出資者の不足額の塡補責任について、多すぎる株式を返すというアイデアというのがございましたけれども、これは分割払込みの逆バージョンなのではないかと、つまり、出資内容が大したことがなかったということは会社が倒産しそうになってから発覚する、その場合には紙くずを返すという取引になってしまって救済にならず、また紙を返せば足りるのだから多めに株をもらっておこうという事前のインセンティブが発生する可能性がもしかするとあるので、その場合は事後的に発覚したときにはやはり取締役責任のようなものが最終的に控えているということが重要なのではないかと思うため、そういった幾つかの点について例外を設けるという制度を作っていくというのではどうかと考えました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○仁分委員 一言だけなのですけれども、現物出資規制に関しましては、検査役調査を要する範囲が過大であるとか、不足額塡補責任が過剰であるとかいう問題など、確かにございますので、見直しを行うことには賛同させていただきます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   特に第3セッションでは研究者からの御発言が多かったと思いますけれども、実務の方からも是非何か御発言がございましたら、お願いします。 ○石井委員 活用促進の観点から、見直しをしていくことには賛成いたします。現物出資制度は、手元資金の少ないスタートアップ等においても知的財産権等の出資ニーズが多いと思われますので、ニーズの実態を確認の上、それらを踏まえた適切な制度設計をお願いしたいと思います。   検査役調査の制度の見直しについては、特に株主数の少ない非公開会社や中小企業では、株主が現物出資資産の価値を自身が把握しているというケースも多いと思われますので、是非とも総会の決議前提で検査役調査の省略という方向で考えていただければいいと思います。株主間の価値移転に対する防止という観点からも、取締役の説明責任を受けて株主自身が判断するという点で合理的ではないかと思いました。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。   ほかに御発言いただける方はいらっしゃいますか。   よろしゅうございますか。予定の時間をほぼ30分過ぎております。大変申し訳ありません、私の不手際で大幅に時間を超過しましたけれども、大変活発な御議論を頂きありがとうございます。   次回の議事日程等について、事務当局から御説明をお願いいたします。 ○宇野幹事 次回の日程は6月25日水曜日の午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所は、現時点におきましては未定でございますので、改めて御連絡をさせていただきます。   次回は、新たにまた部会資料を用意させていただきまして、テーマとしては株主総会の在り方について第一読目の御議論を頂きたいと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   それでは、以上をもちまして法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第2回会合を閉会させていただきます。   本日も大変活発な議論を頂き、誠にありがとうございました。 ―了―