法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  令和7年6月20日(金)   自 午前 9時30分                        至 午前11時51分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 ヒアリング         2 意見交換         3 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野幹事 ただいまから法制審議会刑事法(再審関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 本日は御多忙のところ、また前回に引き続きですが朝早くから皆様御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日は酒巻委員、小島幹事、井上関係官、寺田関係官はオンライン形式により出席されています。また、川出委員、成瀬幹事につきましてはオンライン形式により出席いただく予定でございますが、所用のため遅れての出席となります。   次に、事務当局から本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○中野幹事 本日、ヒアリング関係の資料として、ヒアリング出席者名簿とヒアリング出席者の説明資料をお配りしております。 ○大澤部会長 それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、まず、お配りした出席者名簿に記載されている3組4名の方々からヒアリングを行うことといたします。ヒアリング出席者名簿に記載の順に、1組ずつ、20分程度お話を伺った後、10分程度、委員・幹事の皆様からの御質問にお答えいただくという流れで進めさせていただきます。   そして、ヒアリングの後に、今後検討すべきと考えられる事項について、改めて皆様のお考えを承りたいと思います。この点につきましては、既に第1回会議において皆様の御意見を伺ったところでございますが、前回及び今回の会議におけるヒアリングの結果も踏まえまして、今後検討すべきと考えられる事項として追加すべきものがあれば、御意見を頂きたいという趣旨でございます。そのような進め方とさせていただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 御異議がないようですので、そのようにさせていただきます。   それでは早速、まずヒアリングから始めたいと思います。              (参考人入室) ○大澤部会長 ヒアリングのお一人目の方は、田辺泰弘弁護士です。   本日は朝早くから、また御多用中のところ、当部会のヒアリングに御協力いただきまして誠にありがとうございます。   まず、田辺様から20分程度お話を伺い、その後、委員・幹事の方から質問があれば、10分程度、御質問をさせていただきたいと思います。   それでは、田辺様、どうぞよろしくお願いいたします。 ○田辺参考人 おはようございます。田辺と申します。元検察官で、今は弁護士をしております。本日はよろしくお願いいたします。   私は、元検察官でございまして、令和5年7月に福岡高等検察庁検事長を最後に退官し、現在は弁護士をしております。検察官として勤務していた際には、自ら再審公判に立会したこともありますほか、決裁官として幾つかの重要再審事件の検討や決裁に関与した経験がございます。本日は、これらの経験に基づいて、お手元に配布資料を作ってお配りしてありますが、それに沿って御意見を申し上げたいと思います。   最初に、総論的な意見として、再審制度の在り方の御検討に当たっては、多角的な視点からの御検討をお願いしたいという点を申し上げたいと思います。   罪を犯していない者が誤って処罰されるようなことがあってはならず、確定した有罪判決に誤りがあるのであれば、その言渡しを受けた者は速やかに救済されなければなりません。その意味で、制度の在り方の御検討に当たり、誤った有罪判決を受けた者を速やかに救済すべきという視点が重要であることに異論はありません。   しかしながら、他方で、罪を犯していない者が誤って処罰されるようなことがあってはならないという要請は、通常審においても当然の要請であり、通常審においては、その要請に基づき、黙秘権の保障、証拠開示制度など様々な手続保障が図られた上、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に基づき、三審制の下で慎重な事実認定が行われております。再審制度の在り方を考えるに当たっては、こうして慎重な事実認定がなされて確定した有罪判決が安易に見直されることとならないかという視点についても十分考慮いただく必要があるのではないかと思います。   また、こうした通常審の手続保障にも鑑みますと、再審手続における手続保障を、制度として通常審よりも手厚くすることが正当化され得るのかという視点からも十分検討していただく必要があるかと考えます。さらに、再審請求事件の実情を見ますと、単に自己の刑事責任から逃れるために再審請求をしているとしか思えない事案も実際には少なくありませんので、制度の在り方を検討するに当たっては、このような実情をも十分考慮に入れていただく必要があるのではないかと考えます。   本日は、検察官としての経験を踏まえつつ、ただいま申し上げた確定判決との関係、通常審の手続との整合性、再審請求審の実情といった視点から、再審制度の在り方を検討するに当たって御留意いただければと考える点について意見を申し上げたいと思います。   さて、これらの視点のうち、まず再審請求事件の実情に関して、公刊物にも掲載されている事案の中から、誤った再審開始決定が最高裁判所で是正された事案を2件御紹介したいと思います。お手元の配布資料にはその2件の要旨を記載してあります。   一つ目は、最高裁判所平成29年3月31日決定の事案です。この事案は、夫が、当時の妻に対して暴行を加えて傷害を負わせ、傷害罪で略式命令を受けた事案です。説明の便宜上、ここでは、単に「夫」と「妻」と呼んで紹介しますが、略式命令確定後、夫が再審請求をし、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠として、妻の陳述書を提出しました。その妻の陳述書の内容は、「自分は実際には夫から暴行は受けていない。虚偽の被害届を出した。」というものでございました。夫の再審請求を第一審は棄却しましたが、即時抗告審は、この妻の陳述書を基に再審開始決定をいたしました。   これに対し、検察官が特別抗告したところ、最高裁判所は、即時抗告審が妻の証人尋問等を行わないまま妻の陳述書の信用性は相当高いなどと評価し、その陳述書をいわゆる新証拠に当たるとしたという点に審理不尽の違法があるとして、原決定を取り消し、事件を高等裁判所に差し戻しました。差戻し後の即時抗告審では、妻の証人尋問が行われ、その際、妻は、夫から「傷害事件について虚偽の申告をしたと言ってほしい。」と要求され、それに応じて虚偽の陳述書を作成した旨証言をし、その結果、夫による即時抗告の申立ては棄却され、再審不開始となったということでございます。   二つ目は、最高裁判所平成29年12月25日決定の事案です。この事案は、再審請求人が共犯者A及びBと共謀の上、滞納処分の執行を免れるため、Aが経営する風俗店の営業をBに譲渡したかのように装って財産の隠匿をしたという国税徴収法違反の事案で、再審請求人は、懲役1年6月、3年間執行猶予の判決を受け、判決は確定しました。その後、再審請求人が再審請求をし、無罪を言い渡すべき明らかな新証拠として、共犯者Aの陳述書を提出しました。その陳述書の内容は、「再審請求人が財産の隠蔽に関与したとの確定審での自分の証言は虚偽であった。本当は、再審請求人は関与していない。」というものでありました。第一審は、この再審請求を棄却しましたが、即時抗告審は、共犯者への証人尋問を行った上で再審開始決定をいたしました。   これに対し、検察官が特別抗告をしましたところ、最高裁判所は、お手元のメモにありますように、詳細は省略しますけれども、結論として、即時抗告審の証人尋問におけるAの供述は曖昧で信用できない旨判断し、Aの陳述書をいわゆる新証拠と認めた原判断は違法であるとして原決定を取り消し、即時抗告を棄却して再審不開始といたしました。   虚偽の証拠を作出してまで再審請求をする事案がどの程度存在するかはもちろん分かりませんけれども、御紹介した最高裁判所決定が示すように、このような事案が現に存在しているものでございます。そこまでには至らなくても、私の検察官としての経験に照らしますと、再審請求事件の中には、単に自己の刑事責任から逃れるために再審請求をしているとしか思えないというような事案も少なくないというのが実情のところでございます。本日は、このような実情も踏まえながら、本部会で検討されております幾つかの論点について意見を申し上げます。   各論的な意見を3点申し上げます。   まず、再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧及び謄写に関する規律等について申し上げます。   この論点に関しては、本部会の第1回会議の議事録によりますと、「再審請求審においては、広く証拠開示が認められるべきである」という御趣旨の御意見もあったと承知しております。その趣旨が具体的にどのようなものであるかまでは存じ上げませんが、仮に、再審請求審における裁判所不提出記録の閲覧・謄写が通常審による証拠開示よりも広く認められるべきであるという御趣旨であるとすれば、賛成できません。   まず、通常審の手続との整合性の観点からいたしますと、再審請求審における記録の閲覧・謄写を、制度として通常審における証拠開示よりも手厚くすることが正当化され得るのかという問題があると思います。   また、再審請求審においては、再審請求事件の実情を踏まえますと、制度の在り方いかんによっては、自己の刑事責任を逃れようとする者が、主張を変えつつ再審請求と記録の閲覧・謄写を繰り返すということも起こりかねないと思います。   さらに、通常審における証拠開示よりも広く閲覧・謄写できるとすると、通常審で思いどおりに証拠開示を受けられないと考えた者が、有罪判決に対して上訴するのではなく、これをあえて確定させた上で再審請求をし、より広い記録の閲覧・謄写を求めるといった事態さえ起こりかねないと危惧されます。   こうした事態は、確定判決の不当な軽視につながりかねず、制度全体に及ぼす影響は看過できないのではないかと思います。   なお、私は、再審請求審における記録の閲覧・謄写自体に反対しているものではありません。裁判所が再審事由の有無を判断する上で、関連性・必要性があり、かつ相当性が認められる範囲で、裁判所不提出記録を検察官が裁判所に提出して、弁護人に閲覧・謄写の機会を与えるというような枠組みであれば、再審請求審の構造と整合しますし、今申し上げたような問題も生じないと考えます。   次に、記録の閲覧・謄写について考慮いただきたい事情として、被害者をはじめとする関係者の名誉やプライバシーへの配慮があります。   通常審においては、関係者の名誉やプライバシーに与える影響などを考慮して、開示の対象とされない証拠も存在します。再審請求審の中には、事件発生から長い年月が経過した後に再審請求がなされる事案もありますが、時間の経過によって関係者の名誉やプライバシーを保護する必要性が低下するとは限りません。むしろ、関係者の事情の中には、事件発生から長い年月を経過したがゆえに今更知られたくないという事柄もあるのではないかと思います。そうであるにもかかわらず、再審請求審において、関係者の名誉やプライバシーに関する証拠が広く閲覧・謄写の対象とされるようなことがあれば、通常審では侵害されなかった名誉やプライバシーが再審請求審で侵害されることにもなりかねず、仮にそうなれば、事件関係者は、安心して捜査や公判に協力できず、その結果として、事案の真相解明が困難になってしまうこともあり得ると思います。記録の閲覧・謄写の要件や範囲については、関係者の名誉やプライバシーに十分配慮したものとしていただきたいと考えます。   次に、訴訟に関する書類の目的外使用の禁止について申し上げます。本部会の第1回会議において御提案のあった、いわゆる目的外使用の禁止については、私も御検討いただくのがよいと考えます。   現行法上、再審請求審において検察官が任意開示した記録や、裁判所において閲覧・謄写の機会を与えた記録については、刑事訴訟法第281条の4が適用されず、目的外使用の禁止の規制が及ばないとされています。しかし、先ほど申し上げたように、再審請求審の段階であっても、関係者の名誉やプライバシーを保護する必要性に変わりはありません。記録をインターネットにアップロードしたり、不特定多数の者が参加する集会などで示したりすることは、閲覧・謄写の目的の範囲を超え、関係者の名誉やプライバシーを侵害する程度も大きいと考えられます。   また、目的外使用の禁止は、検察官から開示された証拠が本来の目的にのみ使用されることを担保することで、証拠開示がされやすい環境を整え、ひいては証拠開示制度の適正な運用を確保するといった観点も踏まえて創設されたもので、検察官としての経験に照らしても、目的外使用の禁止の規制が存在することで証拠開示がしやすくなったといえます。   こうした関係者の名誉やプライバシーの保護の必要性、記録の閲覧・謄写の適正な運用の確保という観点から、目的外使用を制度として禁止できないか御検討いただくのが相当であると思います。   次に、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止に関して意見を申し上げます。本部会の第1回会議においては、「再審開始決定に対する検察官の不服申立ては、えん罪被害者の迅速な救済を妨げるものであり、禁止すべきである」旨の御意見が示されたものと承知しています。私は、結論から申し上げれば、検察官の不服申立ての禁止の提案には反対です。その理由を簡単に5点述べます。   1点目は、検察官はいたずらに不服申立てをしているものではないという点です。私の検察官としての経験や私の知る限り、主任検察官は、決裁官と共に再審開始決定の決定書を十分に分析した上で、不服申立理由の有無や不服申立てが容れられる蓋然性の程度などを証拠に基づき真摯かつ慎重に検討し、事案によっては上級庁の決裁を仰いで判断しており、検察官がいたずらに不服申立てをしているという実態はございません。この点に関しましては、最近、検察庁においては、再審開始決定に対する即時抗告について検事長の指揮が必要とされるなど、更に慎重な運用が開始されたと聞いております。   2点目は、再審開始決定に誤りがあり、是正が必要な事案が現に存在するということです。冒頭御紹介しましたように、虚偽の証拠を作出して再審請求をし、裁判所が十分な証拠調べをせず、虚偽を見抜けずに誤った再審開始決定をし、これに対する検察官の不服申立てによって誤りが是正されたという事案が現に存在しております。   3点目は、確定判決を軽視することになるという点です。検察官による不服申立てを一律禁止した場合、最高裁まで争って有罪判決が確定した事案であっても、一たび下級審が誤った再審開始決定をすると、その判断がひとまず正しいものとして扱われ、誤った判断が放置されたまま公判がやり直されるということになりますけれども、単に自己の刑事責任から逃れるために再審請求に及んでいるとしか思えないものも少なくない中で、速やかな救済のみを重視し、誤った再審開始決定を是正せずに直ちに公判をやり直すというのは、確定判決を安易に見直すものであって、確定判決を軽視しており、制度の在り方として疑問を抱かざるを得ません。その意味で、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁じても、検察官はその不服を再審公判で争えばよいのであるから、特段の問題はない、というお考えには賛同できないと私は考えております。   4点目は、上訴制度の在り方としての整合性に疑義が生じる点です。検察官の不服申立てを禁止すべきである旨の御提案は、再審請求棄却決定に対する再審請求人側の不服申立ては認める一方で、再審開始決定に対する検察官の不服申立てのみを禁止するという御趣旨であると理解していますが、そもそも上訴の制度は、下級審における判断に誤りがあり得るため、上級審に対して是正を求めるものでありますところ、再審請求棄却決定には誤りがあり得るから是正を求めることができるとする一方で、再審開始決定には誤りがあり得ても是正を求めることができないというのは、上訴の制度の在り方として整合性があるか、疑問に思います。   5点目は、検察官の不服申立てを禁じても、そのことが審理の迅速化には必ずしも通じないのではないかという点です。   現在の再審請求審の運用は、重大事件においては、徹底した事実の取調べが行われ、証拠は膨大となり、それに基づく再審請求審の判断は、極めて詳細なものとなっているのが実情です。仮に、再審開始決定に対する不服申立てを一律禁止したとしても、結局、これまで再審請求審で繰り広げられていた徹底した攻防が再審公判に持ち込まれるだけになるのではないかとも思われます。私の経験から申し上げれば、再審請求審の審理に時間を要する事案の中には、例えば、科学的鑑定や実験に時間を要する事案も多く、そのような場合、再審公判に場面を移したからといって、それらに必要とされる時間は変わらないかと思います。   さらに、誤った再審開始決定が再審請求審で是正されなかった場合、再審公判で有罪判決が言い渡される事態も増えるのではないかと思いますけれども、そうなれば被告人が上訴し、結局、控訴審、上告審まで経なければ再審公判が終結しないといったことも増えるのではないかと思います。   このように考えると、再審請求審と再審公判の手続を全体として見た場合には、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを一律に禁止することが審理の迅速化につながるのかという素朴な疑問があります。   以上、簡単に理由を5点申し上げましたけれども、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを禁止することは、制度としては極端でイレギュラーな例外を認めることになりますところ、そうした例外を認める合理的理由は乏しいのではないでしょうか。救済の迅速化を図るべきことには私も全く同感でありますけれども、審理の迅速化につきましては、再審請求審の運用の在り方も含め、幅広い観点から総合的に御検討いただきたいと思います。   次に、再審請求に係る決定に対する不服申立期間の延長について申し上げます。本部会の第1回会議において、再審請求に係る決定に対する不服申立期間の延長について検討することも御提案されたと承知していますが、私もこの点につき御検討いただくのが相当であると考えます。   現行法上、即時抗告の期間は3日間、特別抗告の期間は5日間とされていますが、重大事案では、争点や証拠が多岐にわたる事案も珍しくなく、再審開始決定書も100ページを超える分量になることがあります。控訴や上告については、不服申立期間が14日以内とされ、これらを行う場合には別途期間を設けて控訴趣意書や上告趣意書を裁判所に提出することとされているのに対し、即時抗告又は特別抗告を行う場合には、3日間あるいは5日間のうちに、不服申立ての理由を記載した書面を裁判所に提出することとされており、しかも、再審請求審で取り調べられた証拠の評価のみならず、これと確定審で取り調べられた証拠との総合評価についての検討も必要となる場合もあり得ます。そのため、主任検察官及び決裁官は、極めて短期間のうちに、先ほど申し上げたような必要な検討を遂げた上で、不服申立ての理由を記載した書面を作成することとなり、その書面もまた、時に100ページ以上に及ぶことがあります。   こうした時間制限の中での検討や作業は非常に大変であり、私の経験や今申し上げた実情を踏まえますと、検察官にとって過重な負担を課していると言えると思います。また、こうした事情は、弁護人にとりましても全く同様であると思いますし、大規模で複雑な再審事件を担当された弁護人の先生の方々には大変な思いをされた方々も多くいらっしゃると推察いたします。このような実情に照らしますと、再審請求に係る決定に対する不服申立期間については、一定期間延長することを検討いただくのが相当であると考えます。   時間の関係で、結びは一言といたしますけれども、私としましては、本日申し上げた視点も御考慮いただき、バランスのとれた制度が構築されますことを希望している次第であります。   私の意見は以上です。本日は御清聴いただきまして誠にありがとうございました。 ○大澤部会長 田辺様、どうもありがとうございました。   それでは、御質問のある方はおられますでしょうか。 ○江口委員 本日は貴重なお話を頂きましてありがとうございました。1点、再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧及び謄写に関して、伺わせていただければと思います。   先ほどお話の中で、関連性、必要性、相当性が認められる範囲で閲覧・謄写の機会を与えるという枠組みも考えられるというお話があったかと思うのですが、実際の実務において、例えば再審請求審におきまして、裁判所から不提出記録の開示であるとか提出を、例えば勧告などという形で求められることもあるかと思います。これに応ずるかどうかについて、どのような視点、観点若しくは基準で御判断されているのかというのを、もし御経験等あれば、教えていただければと思います。 ○田辺参考人 御質問どうもありがとうございます。法律には特に規定はないので、検察庁の中での我々検察官、今は検察官ではないですけれども、検察官の考え方は、先ほど申し上げたように、再審事由の有無を判断するに当たって必要性があり、関連している証拠で、プライバシー等の相当性の問題も、弊害が生じない場合には開示するというもので、ですので、裁判所から求めがあれば、そういう証拠については開示をするという運用がされていると思います。個々の事案でどう対応しているかというところまで網羅的に私が把握しているわけではありませんけれども、もちろん事案によって、その必要性の判断とか、請求人側の主張がどの程度明確に出ているかということもあり、それらは個々の事案によると思いますけれども、今申し上げた、基準というと少し大げさですが、そのような考え方で現に対応していると承知しています。 ○江口委員 ありがとうございます。 ○池田委員 本日は貴重なお話をどうもありがとうございます。ただいまの江口委員からの質問にも関連するのですけれども、不提出記録の閲覧・謄写の機会を与えるという判断をするに当たって、やはり元々の通常審からの期間が長く経過していると、必要な証拠があるのかないのかという判断も難しいことがあるのではないかと思いますが、その辺り、保管の状況等について検察庁においてはどのように対応されているのかということをお尋ねできればと思います。 ○田辺参考人 ありがとうございます。質問の御趣旨は、時間が経過しているので判断が難しいのではないかということですか。 ○池田委員 証拠がどこにあるのかということが直ちには判断がつきかねるということがあるのか、ないのかということでございます。 ○田辺参考人 度々すみません、捜すのが大変ではないかという御趣旨ですか。   もちろん一般論としては、古い記録を引っ張り出してきて、それを一から読むということになり、しかもその記録は膨大ということになりますので、捜すのに担当者は苦労しているかと思いますけれども、関連性、必要性があるかどうかという判断は、通常の実務でやっている証拠開示でもそういう観点で仕事をしているので、裁判所から御指摘を頂いて、こういう関連の証拠ということであれば、その判断自体はそれほど難しいことはないと思いますが、繰り返しになりますけれども、古い記録で分量も膨大にあれば、一般論として捜すのに苦労するということはあると思います。 ○池田委員 ありがとうございます。 ○宇藤委員 本日は貴重なお話をありがとうございました。私からは、先ほどのお話も踏まえてざっくりとした質問をさせていただきます。迅速化あるいは期間の延長についての御意見をお伺いしたときに、検察官も大変である、なかなか作業に時間が掛かるというお話をしておられましたけれども、実際に検察官の中で、例えば再審に十分備えるべく体制が整えられているのか、場合によっては体制が整っていないせいで期間を要したり、あるいは不服申立ても十分にできないということが実際に起こり得るのか、そこら辺のところを、お教えいただければと思います。それに関連して、もし十分な人員あるいは施設面での配慮が必要であるとすると、例えばどこが足りないのかということも含めてお教えいただければ幸いと存じます。 ○田辺参考人 御質問どうもありがとうございます。まず、不服申立ての期間が短いことで非常に苦労しているというのは、その3日ないし5日間で、そのとき初めて決定書をもらうので、それを読んで分析をして検討して、書面を作ってという作業は、これは非常に大変ということであります。それとは別に、通常の事件の対応をしている検察官の方の体制ということで申し上げますと、もちろん事件は事件ごとに異なるので、その事件の内容とか、どのようなことが争われているのかとか、証拠の分量、すごく古い事件でたくさんの分量がある事件ももちろんございます、そういうことも踏まえて、それぞれの事件ごとに体制を考えており、一般論としてはそういうことになります。   その上で、飽くまで私の経験として申し上げますと、非常に重大で対応するのに時間を要するというような事件であれば、検察官を1人ではなくて複数の検察官が担当するということもありますし、御案内のように小規模の地方検察庁では検察官の数が非常に少ないところもございますので、そういう場合には高等検察庁の検察官が地方検察庁の検察官と共同して分担して業務、事件の対応をするということもあります。御案内のように再審請求審の審理がすごく長く掛かる事案もございますが、検察官は転勤する、異動するのが常でありますけれども、人がころころ替わると、また一から記録を読み直すということにもなりますので、ある程度審理が長期にわたるという場合は、事案をよく分かっている検察官にある程度の期間、長期にわたって担当してもらうというような対応もしてございます。検察庁としては個々の事案に応じて、対応できるだけの適切な人員を配置しているのではないかと思っております。   現在は最高検察庁や高等検察庁に「再審担当サポート室」という部署も設置されて、いろいろなサポートするという体制もできていると伺っていますので、組織全体として支援・指導していくという、体制整備の面ではそういうことができていると思いますので、先ほど宇藤委員の御質問にあった、人がそろっていないせいで審理が遅延するということはないのかという点については、そこはきちんと対応ができていると私は考えます。   施設面でのお尋ねがございましたけれども、ここは私の感想からすれば特段、施設という物的面での困っていることというのは今すぐには思い当たらないので、そこはまた別途、事務当局から何かあるかもしれませんが、私からは特に申し上げることはございません。ありがとうございました。 ○宇藤委員 ありがとうございました。 ○大澤部会長 それでは、予定した時間も過ぎておりますので、ここまでとさせていただきたいと思います。   田辺様、本日は非常に有益なお話を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。お話しいただきました内容につきましては今後の審議に役立ててまいりたいと思います。どうもありがとうございました。              (参考人退室)              (参考人入室) ○大澤部会長 それでは、ヒアリングの2番目の方は中川博之様です。   本日は御多用中のところ当部会のヒアリングに御協力いただきまして、誠にありがとうございます。   まず、中川様から20分程度お話を伺い、その後、委員・幹事の方から質問があれば、10分程度質問をさせていただきたいと思います。   それでは、中川様、どうぞよろしくお願いいたします。 ○中川参考人 中川でございます。本日このような機会を設けていただきましたことを大変感謝しております。拙い話しかできないと思いますけれども、どうぞよろしくお願いいたします。   それでは、若干の自己紹介から始めたいと思います。昭和56年、1981年に大阪地方裁判所で判事補として任官いたしました。その後、各地の裁判所の勤務もありましたけれども、大阪が長くなりました。38年余りの任官の期間で、そのうち26年近くを刑事裁判で過ごすことになりました。令和元年に大阪家庭裁判所長を最後に退官いたしまして、その後は京都大学でお世話になって、ロースクールで法律実務、裁判実務を中心に教えるというようなことをしました。今年3月、70歳を過ぎたものですから定年で退職いたしましたけれども、現在非常勤講師の形で引き続き京都大学にお世話になっております。そのようなことから、今回は元刑事裁判官として再審事件についての実情等を少しでもお話し、伝えることができればということでまかり越した次第でございます。   まず、再審事件の傾向等についてであります。再審請求事件は、著名な事件がたくさんあるということではありますけれども、その内容において非常に様々なものがあるということについては最初に強調しておきたいというところがあります。もちろん日本弁護士連合会が支援されているような事件があるわけですけれども、実務の実際上は、刑事訴訟法第435条に定める再審の理由がないことが明らかな事件とか、手続法違反ですね、取り分け刑事訴訟規則第283条で定められている判決の原本とか証拠書類等の添付がないというふうなものが非常に多く、また、同一の理由に基づく繰り返しの請求というようなものが多いというふうなところが実情としてあります。それらの事件の大半は短い期間で棄却の判断に至っているということかなと思います。   ただ、短時間で判断しているということはありますけれども、安易に処理をしているというわけではありません。手続違反が認められる場合であっても直ちに不適法、棄却ということには至らずに、できるだけ請求権者の請求意思を尊重して、できるだけ納得させるという意味において、理由なしの実体的な判断も付加して棄却するというふうな扱いもしていると認識しております。そして、内容によりますけれども、請求にそれなりの理由があるかもしれないということがうかがえるような事件につきましては、一定の提出期限を定めた上で、請求者に対して原判決の謄本等の提出を求めたり、補正を促したりというようなことをしているというところであります。   また、本人による請求の中には非常に趣旨が分かりにくいと、何を言っているのか分からないというふうなものが多々あるわけです。手書きでそのようなことが非常に事細かには書いてあるのだけれども、意味がよく分からないというふうな事件も多く含まれているところであります。しかしながら、その判断に脱漏・遺脱があってはならないということではありますので、1件ずつ請求書を丁寧に読み解いて、個々の事案の内容に対応した手続の進行に努めているということかなと認識しております。   私自身、再審請求事件をそれほど多く手掛けたということがありません。でも、多分それが普通の裁判官の平均的な姿かなと思うのですけれども、1件だけ、ハンナン事件の関連事件で、証拠隠滅が罪名ということだったのですけれども、その事件で再審開始決定に至ったものがありますので、若干の御紹介をさせていただければと思います。   この事件は証拠隠滅ということで、被告人らは会社の経理書類をシュレッダーに掛けて細断したというようなことで、証拠隠滅の罪名で起訴され、認めていた事件で、有罪判決が確定したというところです。ところが、その細断したはずの経理書類が後に見付かったというようなことで再審が請求された事件で、新証拠として、その細断されたはずの経理書類がたくさん新証拠の形で請求されてきたというものです。その書類の原本性が一応問題となりました。検察官においては、それはコピーであって原本そのものはもう処分されていると御主張されていたわけですけれども、新証拠はやはりその細断されたとされる経理書類の一部であって、被告人の自白は客観的事実と大きくそごするということで再審を開始しました。ただ、経理書類、一部といっても非常に膨大な書類の量になっていまして、段ボール箱数箱分が並べられたというような、そんな事件ではありました。   この事件では、その新証拠の原本性が争われたこともあって、経理書類を直接見分するというようなことで、その原本性を確認しました。その分量であるとか、その書類の中に鉛筆書きの手書きメモ等があるとか、あるいは紙のファイルもたくさんあったのですけれども、その紙のファイルが擦り切れて、これはもうコピーではなくて原本そのものではないかというようなことが如実に分かるということがありました。それで原本であることは間違いなかろうということで、それ以上に証人尋問等は実施しなかったというふうな事件でありまして、証拠開示の問題も生じることはなかったというところでありました。   そんなことから再審開始決定を私の部で合議体で行いまして、再審判決自体は後任の裁判官にやっていただいたのですけれども、無罪判決になって一審で確定しております。もっともシュレッダーに掛けた書類もあったのではないかという疑問点というか、それは残っているわけですけれども、全体としてこれだけの分量の経理書類が出てきたということであるならば、全体として合理的な疑いが残るというようなことで、元の確定判決の認定は維持できないと判断したというところであります。   この事件につきましては、証拠隠滅の態様について、シュレッダーによる細断ではなくて隠匿、元々それを被告人たちが隠したのではないかというようなことの疑問が当然浮かんだというふうなケースではありますけれども、それに関する主張とか立証は表面化しなかったというようなことでありました。仮にその辺りの隠匿の可能性が問題になるのだとすると、請求審における審判対象の範囲の問題が顕在化するということになります。そこでは、請求審が判決ではなくて決定手続であることに由来する事実調べの限界といった問題とか、再審公判と請求審との役割分担というふうな問題点などが検討されることになったのではないかということにはなるわけですけれども、その辺りのところは、そこにまで至らず判決に至ったというふうな、そんな事件を経験したということであります。   続きまして、再審請求審における実質的審理の実情について少しお話をさせていただきます。まず、実務上は請求書がありますので、その書面、それから確定判決を照らし合わせて読むというふうなところから、事案の争点の把握に努めるということになります。これと並行して検察官に求意見をし、確定記録、更に先行する再審請求の記録があるのであれば、それらの記録も借り出しておくということが一般的で、そこからスタートするというところかなと思います。   それから、打合せの関係ですけれども、事実上の打合せというようなことは頻繁に行われております。弁護人から打合せの申出があるというようなことがあった場合には、それに普通は応じているということが多いのかなと思っております。その際、検察官に出席の有無を確認するということが一般的な取扱いかなと思います。打合せをどの段階で行うかということは、事案に応じて違うということであろうかと思います。最終的には裁判官の裁量判断によっているということです。当面の進行協議のために必要があれば、請求があった時点で行うということもあるだろうし、ある程度事案の中身を検討・把握した上でなければ打合せの意味がないと考えるのであれば、その判決の構造を分析したり、確定記録も更に検討したりというようなことをしながら、争点・証拠上の問題点を把握した段階で打合せを行うというふうな扱いもあろうかと思います。この辺りは裁判官が個別に判断するということになりそうです。   古い事件に関しましては、証拠の量が多かったり、捜査記録が手書きだったりするというようなことで、今の事件記録、ワープロ文書ですね、これに慣れていると、裁判官からすると苦労するところがあるのかなというふうなことは思います。また、昔の判決書はなかなかこれを読み解けないものもあって、証拠の多さともあいまって、確定判決の構造の分析とか、再審開始の要件を判断するに当たってどこがポイントになるのかというようなことについて、見極めにも時間を要するようなこともあるのではないかと思われます。   事実の取調べと証拠開示の問題点に進みたいと思います。請求審における事実の取調べということにつきましては、請求人が主張する再審事由、それと新証拠、これを出発点として当該事由の有無について判断する、具体的には、新証拠が攻撃目標としている旧証拠に及ぼす影響の有無・程度を起点として、そこから判断していくということになりますので、その判断のために必要な限度で行うのが原則ということになろうかと思います。ただ、証拠書類・書証であれば、陳述書のようなものも含めて、提出されるものがあれば、これは原則として全て取り調べているのではないかと思います。他方、人証・証人尋問等につきましては、その時点までの具体的状況を踏まえて柔軟に裁判所において対応しているというふうなことで、要否を判断しているのではないかと認識しているところであります。   次に、検察官が所持する裁判所不提出記録の弁護人に対する閲覧・開示の問題、いわゆる「証拠開示」ということで便宜上「証拠開示」という言葉で以降進めさせていただきますけれども、これにつきましては、私自身は再審請求審において事案を担当したということではないのですけれども、このような場を頂きましたので、若干の意見を述べておきたいと思います。   裁判官といたしましては、当然のことでありますけれども、正しい判断をしたいと思っているところでありまして、その判断のために必要ということであれば、証拠開示を促し、場合によっては命ずるということになります。そのことを何らためらうものではないということになります。証拠開示に関する手続規定があるとすれば、訴訟指揮がその分しやすくなるということにはなろうかと思いますけれども、結局のところは、裁判官が請求人の主張する再審理由の有無を判断するために証拠開示を勧告ないし命令すべきと判断するかどうかというところに尽きるということになります。裁判官にとっては、そのための判断枠組みが理論的な根拠のある明確なものになっているということが重要であると思います。   ハンナンの事件では事実取調べをそれほど重ねたということではありませんので、証拠開示を検討するまではなかったわけですけれども、一般的に考えると、裁判官としては、手元にある証拠だけでは新証拠の明白性を判断することができないとき、まずは事実の取調べの範囲、これは先ほど述べたように、請求人が主張する再審事由と新証拠を出発点として、当該事由の有無と、それが旧証拠に及ぼす影響の程度について判断をする、そのために必要な範囲、その限度ということですけれども、その範囲内で追加の事実取調べを検討し、その事実取調べの対象となる証拠が不提出記録の中に存在すると、そういう蓋然性があると思われる場合に、初めて証拠開示の要否を検討するというのが自然な発想かなと思います。したがいまして、裁判官の立場からは、証拠開示はおのずと新証拠とそれに関連する請求人の主張との関係で必要な範囲に限定されるというようなことになろうかと考えます。むしろその範囲でなければ、開示の必要性を裁判官として判断できないのではないかと思っているところであります。   この関係につきまして、公判前整理手続が実施されていることとの関連で更に少し考えてみたいと思うのですけれども、公判前整理の発想からすると類型証拠という概念があるので、これを再審における新証拠との関連で類型証拠というようなものを想定することは可能だとは思いますが、その類型証拠の範囲に関しましては、新証拠に基づく請求人の主張との関係で開示が必要となる証拠、ですから、その主張を支える、主張に関わる証拠、これを主張関連証拠というのであれば、その範囲と実質的に異ならない、実質的に重なるということで考えていいのではないかと思っております。   これに対して、新証拠を離れて、確定判決を支える全証拠、証拠の標目に掲げられているものに限るのかどうか、その辺りも議論はあるのかもしれませんけれども、確定判決を支える証拠との関係での類型証拠というふうなことを考えて、その開示を問題とするというようなことも考え方としては成立し得るのかなと思うところではあります。しかし、この意味における類型証拠というのは、再審の請求審の構造にそぐわないというようなことでありまして、前提が大きく異なっているのではないかと言わざるを得ないところであります。   再審請求事件が公判前整理手続を経ていない事件であった場合には、この辺りのところが顕在化するのかなとは思いますが、そのことを理由に類型証拠の開示を広く認めるということにはならないものと考えています。証拠開示の範囲が広すぎると、再審請求審の出発点である新証拠と無関係に争点が拡大して、再審請求審が肥大化してしまう、第四審化するというふうな懸念にもつながるのではないかと思っているところであります。   続きまして、事件の長期化とか誤判の原因等の分析、検証の必要性の問題について少し触れておきたいと思います。事件の長期化等に関する分析、検証についても必要だというふうな御意見もあろうかと思いますし、その辺りのところを一般論としては理解するところであります。ただ、この点に関しては、少し視点がずれることがあるのかもしれませんけれども、今年の2月に裁判官の研究会で再審が取り上げられて、再審請求審の申立時、審理運営時、決定時などの手続段階ごとの運営上の課題とか解決方法等について、様々な議論がなされたものと聞いているところであります。その結果概要を拝見いたしましたけれども、それによる限り、再審請求審に関与した裁判官の悩みとか工夫例が紹介されて共有されているというふうなことがあって、このような方策も審理の長期化を防ぐための有効な方策の一つではないかと考えています。   私自身は、裁判員裁判の準備段階から関与させていただいて、その中でいろいろなことを経験させていただきましたけれども、その実施段階を振り返ってみても、裁判官同士の意見交換の積み重ね、これが非常に有益であったということが明らかであります。再審の問題と裁判員裁判、少し質量とも違うところがあるのかもしれませんけれども、そのようなことから今振り返って再審のことを少し考えてみると、この再審の分野にあっても、司法研修所等における研究会とか現場の裁判官の意見交換会みたいな形の議論の進展、その充実に期待したいと思うところでありますので、このような意見を述べさせていただきました。   以上のところを若干整理してまとめると、次のようなところかなと思います。裁判官としましては、限られた手続規定しかない中で、今説明させていただいたような運用を積み重ねてきたところでありますが、その背景には再審の審理構造、職権主義で行われている審理構造の問題とか、審判対象に対する刑事訴訟法上の基本的な考え方がその背後にはあるというところであります。   今後、仮に新たな条文が付け加えられることになるといたしましても、刑事訴訟法上の基本的な考え方と整合的なものになるものでなければ、裁判官が解釈に迷って、従前よりも運用が不安定になるような懸念もございます。ひいては再審請求審の長期化というようなこと、今現在も長期化は言われているところはありますけれども、この新しいことを原因とした再審の長期化というような問題も生じかねないかなということを懸念するところはあります。   また、新たな条文は、特定の事件類型ではなくて多様な内容の再審請求事件の全体に適切に対応できるものである必要があると思いますので、硬直化した条文運用、条文解釈にならないよう、全体としての柔軟性というようなことも期待したいというところであります。   また、刑事訴訟法第435条に関しても第6号に関する議論が中心で、そちらの方に議論が傾いているということは事実としてあるのかなと思いますけれども、この第6号に関連する議論はもちろん重要でありますけれども、それ以外の第435条各号の再審理由との整合性というようなものも保たれる必要があると思います。   この再審の分野は、審判対象論を始め、これまで十分に議論、共有されてこなかった点が残されているというようなことであろうかと思います。ハンナン事件でも顕在化はしませんでしたけれども、そんな論点が潜んでいるということかなと思います。これらも含め、今回の議論を機会に、研究者の方々のサイドを含めて、再審法制全般に関する理論的な整理が進んで、実務家にとって解釈・運用しやすい制度になることを期待したいと思っているところであります。   取りあえず、以上ということにさせていただきます。どうも御清聴ありがとうございました。 ○大澤部会長 中川様、どうもありがとうございました。   それでは、質疑に移りたいと思いますが、御質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○田岡幹事 幹事の田岡です。本日は貴重なお話をありがとうございました。先ほど再審請求の際に原判決の謄本や証拠の添付されていない、言わば不適法な請求も相当数あり、その場合に直ちに棄却するのではなくて、謄本の提出を求めたり補正を促したりするといった実情の御紹介がございました。私もそういった実態があるのかなとは想像しておったのですけれども、なぜそういうことが起こるのかと考えますと、刑事裁判の場合、民事裁判と異なり判決謄本が当然に送達されるという仕組みにはなっておらず、本人が判決謄本の交付申請をしなければならないとされており、その場合、1枚150円の印紙を購入して添付しなければなりませんけれども、判決の枚数さえ本人には分からなかったり、あるいは確定記録を閲覧しようと思っても、受刑者や死刑確定者の場合にはその閲覧もできないといった事情があるのではないかと思われます。そこで、そういった事案で弁護人がどの程度選任されているのか、またそういった事案で弁護人がいれば、例えば原判決の謄本の提出や補正が容易になるのではないかといったことについて、御意見を伺えればと思います。 ○中川参考人 確かに判決謄本のない請求というのはかなりあって、それは、持っていても1回使ってしまって、何回もやってくるものですから、2回目、3回目からは添付がないと、こんなことが実情なのかなとは思います。弁護人の関係ですけれども、それは国選の弁護人が付くようなシステムが望ましいと、そういうふうな御意見なのでしょうか。 ○田岡幹事 そうです。そういうことが考えられるかということなのですが。 ○中川参考人 今の問題点について、弁護人がいていただければ、そこはスムーズに進むというようなことは御指摘のとおりかなとは思いますが、事件の実情をこれまでのものを振り返って思うところは、やはり全ての事件について国選の弁護人が必要かどうかについては、少し慎重に検討した方がいいのかなと思ったりしております。ただ、事案を検討し、その審理等を進めていく中で、裁判官サイドとしても弁護人がいるのがふさわしいような事件というのは一定数あるのかなということは予想はできますので、一律に国選弁護人を付けるというようなことではなくて、事案に応じて裁判所の判断で裁量的に付することができるというような規定を設けるようなことは考えられる余地はあるのかなということは、個人的には思ったりしているところです。 ○田岡幹事 ありがとうございます。 ○池田委員 本日はどうもありがとうございました。不提出記録の閲覧・謄写の機会の付与についてお尋ねをさせていただきます。   中川参考人御自身はそのような促しをした経験はないというお話ではありましたけれども、実際に新証拠と主張に触れた上で、必要な判断を行うためにこういう証拠が必要だとお考えになられて、請求人あるいは検察官に開示、閲覧・謄写機会の付与を促すとした場合に、その促し方といいますか、特定の証拠を、つまりこういう記録・証拠があれば出してほしいというのか、こういう判断に必要だからそれに関連するものがあれば出してほしいという概括的な促しをするのかといったことについて、事案ごとにそれこそ裁量的なものだと思うのですけれども、どのような形をとられるかということについて考えられるところをお伺いできればと思います。その際に、今日のお話の中でもお示しいただいていましたけれども、どういう規定があるとその判断に資するのかということをイメージとしてお伺いできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○中川参考人 どういう態様で勧告するのかみたいなところは、やはり個々の事案のケース・バイ・ケースかなとは思いますけれども、先ほど申し上げた三者の打合せがあるわけですから、そこで、弁護人がいるという前提なのですが、弁護人からお話を伺って、検察官の方にも応答を求めてという、そういうやり取りの中で、そこのところは具体的に何か方向性を見いだすことができるのではないかと思います。弁護人から出されている書面等々も踏まえながら、三者打合せの中でその辺りは対象をどういうふうに絞るというのですか、どういうふうなものを求めていくのかというようなことは、意見交換する中で浮かび上がるということができるのかなとは思います。   それから、規定の関係ですけれども、裁判所のスタンスというか、私自身の発想からすると、職権主義そのものは維持していくという前提で考えておりますので、場合によっては裁判所においてその事案の状況等を踏まえて必要性、相当性を考慮して、開示の勧告ないし命令をすることができると、そういうふうな規定の仕方のものがあれば裁判所は動きやすいし、手続構造にも沿うことになるのかなというふうな印象は持っております。 ○池田委員 ありがとうございます。 ○村山委員 弁護士の村山と申します。本日は有益なお話をありがとうございました。証拠開示の関係で伺いたいのですけれども、中川様のお話の中で、類型証拠開示との関係で、例えば新証拠との関連で類型証拠開示という点では、結局主張関連の証拠と類型証拠がオーバーラップするのではないかというような趣旨のお話がありました。その点をもう少し御説明いただきたいというのと、もう1点、類型証拠開示の関係で、例えば、新法になって公判前整理手続などを経ていれば良いのですけれども、そうでない事件については、類型証拠開示の問題が顕在化するのではないかということを言及されたと思います。そのような顕在化した場合であっても、類型証拠開示についてはやはり主張関連で見ていくということで、最終的には先ほど言ったオーバーラップするのではないかという結論を取られるというお考えなのでしょうか。その2点を伺いたいと思います。 ○中川参考人 少し説明不十分なところがあったのかもしれませんけれども、類型証拠という言葉を仮に使うとして、二つの態様があるのではないかというところで、一つは、新証拠がありますね。ですから新証拠に関わる類型証拠、新証拠が仮に鑑定書だとすると、捜査段階で検察官手持ち証拠の中にそれに関わるような、新証拠に関連するようなものがあるのだとすると、それを類型証拠と呼ぶことは可能は可能かなとは思います。ですが、それは新証拠に基づいて請求書の中に主張があるわけですから、新証拠と再審請求書の中に現れている主張とをセットで考えるとすると、それに関連して必要な証拠が仮にあるのだとしても、それは主張関連証拠という形で見ることができるのではないでしょうか。そうすると、新証拠の類型証拠というのと、新証拠を前提とする再審請求書の中の主張に関わる主張関連証拠というのは、実質的に重なることになるのではないかというのが私の考えなのです。けれども、そこは違うのだというようなことで、何かこういうものがあるのだということがもしあるのであれば、類型証拠ということを独立に考える必要もあるのかもしれません。けれども、私は今のところは、新証拠に基づく主張というのがあるわけですから、その主張に関わる証拠というような形で証拠開示の範囲を考えるのだとすると、類型証拠もそこに実質的には含まれて、賄えることになるのではないかということを考えていて、それを申し上げたところです。   もう一つは、新証拠を離れた類型証拠ですね、それは確定判決を支える証拠の標目に書かれている証拠を中心とするもの、それについての類型証拠というようなものが二つ目の類型として想定することはできるのだろうと思われます。これを想定すると、公判前整理手続を経ていない事件だとすると、そのような意味での類型証拠というのは開示されていないということになりますから、それの開示という問題はあり得るところなので、そこを開示しろという意見はあり得るとは思います。だけれども、それを開示するということになれば、新証拠とか主張とは全く関係のないところで証拠開示が行われることになります。そうすると、再審の開始の請求書を出せば、新証拠はあるにしても、それとは別のところで確定判決を支える類型証拠がどっと出てくるというようなことになりますから、それは再審請求審の構造とそぐわないということになるのではないかと、こういう意見を申し上げたというところです。 ○大澤部会長 ほかにいかがでございましょうか。   予定した時間も過ぎておりますので、それでは、鴨志田委員を最後として、できるだけ簡潔にお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ○鴨志田委員 鴨志田でございます。今日は貴重なお話をお聞かせいただいてありがとうございます。今の問題に関連してなのですけれども、再審の実情を見ますと、新証拠の証明力を判断するために開示の必要性が認められて開示された証拠が、請求人の提出した新証拠の信用性なり証明力の判断に資するという、そういうものももちろんありますし、恐らく中川先生はそれを想定されて今のような御見解を述べられたと思うのですけれども、他方で、開示証拠自体が新証拠として再審開始が認められたケース、また、請求前の段階でそれが開示されることによって、請求人がそれを新証拠として再審請求して認められたケース、さらには、請求人が新証拠を提出しているのですけれども、実際は開示された証拠だけが明白性を認められて再審開始の確定に至ったケースというようなものがございます。そうすると、先ほどの新証拠を離れて類型証拠を広く開示するということは考えられないというご見解について、このような事例があるということとの関係から、どのようにお考えなのかということを最後、お聞かせいただければと思います。 ○中川参考人 ありがとうございます。そのような事案があるということは、いろいろな文献等々を拝見して認識は一定、しているところでありますけれども、今回の刑事訴訟法の改正との関係で言うと、そこを入れ込むということは非常に難しい、困難ではないかと考える次第なので、先ほどのような意見を申し上げたというところになります。 ○大澤部会長 それでは、中川様のヒアリングはここまでということにさせていただきたいと思います。   中川様、本日は非常に有益なお話を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。お話しいただきました内容につきましては今後の審議に役立ててまいりたいと思います。どうも本当にありがとうございました。              (参考人退室)              (参考人入室) ○大澤部会長 それでは、ヒアリングの本日3番目でございますけれども、磯谷富美子様と髙橋正人弁護士です。   本日は御多用中のところ、また遠方から、当部会のヒアリングに御協力いただきまして、誠にありがとうございます。部会を代表いたしまして、心より感謝の意を申し上げたいと思います。   それでは、まずお二人から20分程度お話を伺い、その後委員・幹事の方から質問があれば10分程度、質問をさせていただきたいと思います。   それでは、どうかよろしくお願いいたします。 ○磯谷参考人 名古屋から参りました磯谷富美子と申します。犯罪被害者遺族です。まずは事件の概要についてお話をさせていただきます。私のたった一人の家族であった利恵は、今から18年ほど前の2007年8月24日から25日にかけて起きた強盗殺人事件の被害者となり、見知らぬ3人の男たちの手によって31歳という若さで人生を終えました。彼らは闇の職業安定所というサイトを通じて知り合い、初めて顔を合わせてから僅か3日後の犯行でした。楽してお金を得ようと、真面目な若いOLを拉致し、カードの暗証番号を聞き出し、預金を引き出し、最後は殺すと決めて、女性を物色。彼らの目に留まった娘は、自宅まであと100メートルほどのところで拉致され、その2時間後には惨殺、遺体は山の中に捨てられていました。その数時間後に仲間を集った張本人である川岸の自首によって事件が発覚し、その日のうちに全員逮捕されました。   この事件は、裁判員裁判がまだ始まっていなかったために職業裁判官によって裁かれ、被告3人の死刑求刑に対し、神田が死刑、堀と川岸は無期懲役の判決でした。その後、神田は2015年に刑が執行されています。また、犯罪傾向性は進んでいないとして死刑から無期懲役に減刑された堀は、刑が確定してから一月もしないときに、娘の事件の9年前に起きた被害者2人の強盗殺人事件と、1年前に起きた被害者1人の強盗殺人未遂事件で逮捕され、それらの裁判では死刑が確定しています。   このように、娘の事件ではえん罪の可能性がゼロの犯人が捕まったために、真犯人ではない場合を想像したことはありませんが、もしえん罪の可能性があるということで再審が開始されたら、私は当時と同じように闘うことはできないと思います。私は、事件を知ってから裁判が結審するまでのおよそ5年間の間が一番つらく苦しい期間でした。その間は、ただただ被告3人の死刑判決だけを願って、やれる限りのことはやろうと思って行動したので、心が休まることは一時たりともありませんでした。裁判が結審しても、判決に納得がいかなくて、被害者側にも再審請求のような道はないかと思いましたが、何もありませんでした。裁判中は本当に苦しい期間だったので、一つの区切りまでやり切ったという気持ちで、ある意味、ほっとしたことを覚えています。精神的には限界だったと思います。再審で再び裁判が始まるとなると、果たして頑張ることができるかどうか自信がありません。燃え尽きたものに再び火を灯すのは至難の業です。再審で無罪となった場合は、それから真犯人を逮捕することは可能なのでしょうか。未解決のままで終わるのではないだろうかとの不安がよぎります。そういう意味では、再審が決まったら早く結審して、えん罪だった場合は真犯人逮捕へと踏み出してほしいと思います。   そのための証拠開示は必要ですが、必要な証拠は最初の裁判のときに開示されているのではないのですか。法律のことは分かりませんが、公判前整理手続のときに精査されて、必要な証拠は開示されていると思っていました。その上での裁判だったと。再審請求されたからといって全ての証拠を開示することになると、そうしなかった最初の裁判は何だったのかと裁判に対する不信感が出てしまいます。何年かたって再び裁判が開かれるとなると、罪状によっては新たな生活へと踏み出している被害者もいます。プライバシーに関わるような証拠や名誉を毀損する証拠は当然開示してほしくないはずです。   私は、娘が3人の男に拉致され殺害されたと聞いたときから、娘が性被害を受けていないか心配でたまりませんでした。もしそうだったらと考えると、確認することも怖くて、聞くに聞けない状態でした。そのようなときに刑事さんから、「着衣の乱れもなく、利恵さんは大丈夫でした。」と教えてもらったときは本当に安心しました。娘が性被害に遭っていたとしたら、私は絶対に証拠を開示してほしくないです。娘の尊厳を亡くなった後まで傷付けてほしくありません。   また、疑問に思うことがあります。再審請求した者に対する国選弁護人制度です。さきの裁判で有罪となった者が再審請求すれば国選の弁護人が付くというのは、とても優遇されているのではないでしょうか。娘の事件の裁判のときは、まだ被害者参加制度はありませんでしたが、私は費用を負担してサポートの弁護士をお願いしました。そのときに、加害者には無料で弁護人が付くのに、被害者は費用を負担して弁護士を依頼しなければならない。逆だったら分かるが、おかしいと思いました。私はずっと、加害者同様に被害者側にも国選の弁護士を付けてほしいと願っていたので、破格の優遇制度だと思います。   私は、簡単に再審が開始されないように、再審開始には十分な検討をお願いしたいです。明らかに不当な再審開始決定があっても、私たち被害者にはそれを争うすべが何もありません。今、検察官が争うことができるように、今後も不当な再審開始決定があった場合は、それを是正する制度は当然必要だと思います。安易に再審ができるようになれば、被害者は終わらない裁判に人生を奪われることになり、司法全体に対する信頼性が薄らいでしまいます。真犯人に間違いなければ再審請求は受け付けないとはっきり定めてほしいです。死刑判決を受けた者が執行を遅らせる目的で何度も再審請求をするという話も聞いています。私の知っている御遺族も、「複数いる死刑囚が次から次へと再審請求をしているが、一体日本は何審制なのだ。」と怒っていました。遺族は死刑執行によって一つの区切りを付けて、前を向いて歩いていきます。そんな遺族のことも考慮してほしいです。再審請求中であっても、えん罪でなければ死刑執行は当然のことです。結審後も死刑囚や弁護人に振り回された生活を強いられるのは、二次被害そのものです。   私の一番の要望は、再審請求する必要がないように、三審制の中できちんと裁いてほしいことです。再審請求に関する法案より先に、どうしたらえん罪を生まないかを考えてほしいというのが本音です。えん罪は犯罪の内容にかかわらず、あってはならないことです。これまでのえん罪事件ではどのような原因で間違ってしまったのかを振り返り、教訓にする必要があると思います。素人の私が言うのも生意気ですが、事件発生当時に関わる警察官の対応がとても重要だと思いました。圧力や焦りや見込み捜査、作られたストーリーにこだわることのない、証拠に基づいた捜査が大切だと思っています。   同じようなことが再審請求に対しても言えます。再審請求者イコールえん罪者なのでしょうか。そのような視点でスタートするのは大変危険だと思います。えん罪で得する者は、本当に裁かれるはずであった真犯人だけです。被害者も、無実の罪を着せられた者も、共に被害者です。   以上で私の話は終わります。御清聴いただきありがとうございました。 ○髙橋参考人 続いて、私、弁護士、髙橋正人の方からお話しさせていただきます。私は、平成30年に解散しました旧全国犯罪被害者の会、旧・あすの会の副代表幹事をやっておりました。設立当初から旧・あすの会に参加しておりました。先月、残念ながら旧・あすの会の元・代表幹事の岡村勲先生がお亡くなりになりましたが、岡村先生が委員をされておりました被害者参加制度創設のための平成17年4月からの第1次犯罪被害者等基本計画検討会、同検討会に基づいて実施された平成18年10月からの法制審議会刑事法(被害者関係)部会、さらには、少年審判傍聴創設のための法制審議会、凶悪犯罪の時効廃止についての法制審議会の全てについて、岡村先生の随行員として参加させていただきました。また、平成25年から始まった平成19年改正刑事訴訟法等に関する意見交換会(被害者参加制度等の3年後見直し意見交換会)では、委員として参加させていただきました。   私が今回、再審法改正に関する法制審についてヒアリングを引き受けようと思いました理由には、二つあります。一つは、報道では加害者のえん罪、そのことばかりが報道されており、被害者の視点を報道しているところがどこもなく、全く見落とされていることを広く国民にご理解頂きたいということにあります。もう一つは、私自身の自戒も含めて申し上げたいのですが、人は誰でも間違いを犯します。だからこそ、間違いを犯すことを前提に制度は作らないといけないという点です。この2点を今日は申し上げたいと思っております。   証拠の開示についてですが、これは早く開示していただかないと、犯罪被害者も困ります。30年も40年もたってから、証拠を出してきて、えん罪だと言われたら、被害者やその遺族はどう捉えたら良いのでしょうか。今まで墓前に、Aさんが犯人でしたと30年間報告していたのに、いや、実はAは犯人ではなかったとなったら、何と報告したらいいのでしょうか。こんな辛い目に犯罪被害者をあわせないで欲しいのです。30年たったら、殺人以外ではもう全て時効が成立しています。時効が廃止された殺人事件でも、事実上、証拠は散逸してしまって真犯人は捕まりません。ですから、証拠は早く開示し、冤罪なら冤罪と早く決めて頂いて、真犯人を捕まえる時間的余裕を持たせて欲しいのです。これが被害者の立場であります。   その証拠の開示ということについてですが、もちろん検察官に大きな責任が私はあったと思います。でも、現在の裁判員裁判を見たときに、本当に検察官だけに責任があるのでしょうか。今、刺激証拠が一切排除されています。もし今後、再審の手続が起きて、その刺激証拠が出されたときに、いや、実は傷害致死ではなくて、これは殺人ではないのかと裁判官が思ったとき、どうするのでしょうか。申立てよりも重く判決を言い渡すことはできません。検察官は全ての証拠をルールに則って、できるだけ早期に提出すべきですし、裁判所も刺激証拠も含めて全ての証拠を俎上に上げて判断すべきです。そして、何よりもえん罪を生んでいる温床は、私は実は弁護士にもあるのではないかと思っています。今や証拠というのは、検察官はルールに則ってほとんどの証拠を通常審の第一審から開示しています。開示しているにもかかわらず、第一審の弁護人の科学的な解析能力、医学的な分析能力、その知識、見識が余りにも乏しい。それがために、これはおかしいのではないかということを科学的に反論できる弁護士が余りにも少ないことにもえん罪の温床があるのではないかと思います。証拠の開示を大前提として、裁判所も刺激証拠だからと言って安易に採用を却下するのではなく、また、弁護人もしっかりと自分の科学的な見識を高めるということが、冤罪を防止する上で最も大切なことではないでしょうか。   ただし、1点だけ証拠の開示で大反対があります。それは性被害です。性被害では、そもそも事実を隠して生活している人がほとんどです。結婚しても旦那さんにはそれは話しません。それを再審でいつ蒸し返されるか分からない、そう怯えてみんな生活しているわけです。今回、性的な姿態に関する撮影を禁止する撮影罪の法律が新たにできました。そこでは検察官は性的な画像・映像は消去・破棄できるようになっております。再審になって、決定的な証拠である画像・映像が消去・破棄されたら証拠がないことになり、無罪になってしまいます。こんなことが許されていいのでしょうか。そういうおそれをいつも抱きながら性犯罪の被害者は生きていかないといけないのでしょうか。それなら、性的な画像・映像をそのまま保存し続ければいいではないかという意見もあるかもしれませんが、性被害の女性からすれば、そういう画像・映像が世の中に存在している、そのこと自体がもう苦痛なのです。また、それを保存するということになったら、せっかく性的な画像・映像を消去・破棄できるようにした法改正の趣旨がないがしろになってしまいます。ですから、性犯罪に関しては証拠の開示、これは慎重になるべきだと私は思っております。   続いて、2点目の検察官の抗告の禁止です。これは、先ほど申し上げましたように、人は誰でも間違いを犯します。私もそうです。私も自分で準備書面とかいろいろ書いてみて、後で終わってみたら、失敗したな、あそこは明らかに間違っていたなと思うところがたくさんあるのです。このようなことは、弁護士だけでなく、検察官にも、そして判断権者である裁判官にもあります。法曹三者全てが人なのですから間違いを犯すことがあるのです。   さて、憲法76条第1項には何と書いてあるでしょうか。すべて司法権は、最高裁判所及び法律で定めるところにより設置する下級裁判所に属すると書いてあります。憲法上は最高裁と下級審が一つあればいい、二審制で合憲なのです。これを法律で三審制にしているのは、人は間違いを犯すからなのです。だから慎重にしようということで三審制にしているわけです。ところで、今は再審開始決定は1人の裁判官だけでもできることになっています。実際には3人で合議でやっていますけれども、その裁判官の中にも、やはり個人差がとても大きいです。その個人差が大きいのを司法試験の科目の中で峻別できるかといったら、そんなことはできません。そのような試験科目はないからです。裁判官の是正は、10年に1回行われているのは下級審の裁判官に対する再任拒否があるだけです。確かに、最高裁国民審査制度もありますが、この裁判官がどんな判断を下したかなんて詳しく公開されていませんから、事実上形骸化しています。こういった状況で検察官の不服申立権を禁止するというのは、人は誰でも間違いを犯すという原点に戻ったとき、「逆」冤罪すら生じかねません。   ところで、このように言うとこういう反論もあります。再審開始決定をさっさとやれば、時間的な短縮になり、事件に早期に決着をつけたい犯罪被害者にも有利になるではないかと、そういう批判を受けたこともあります。しかし、時間の短縮を言うのであれば、私は逆にこう申し上げたい。弁護人の不服申立権こそ禁止すべきです。今は再審開始の請求は濫訴が非常に多いです。ほとんどが意味のない再審開始の申立てが行われています。そして、人、つまり裁判官が間違いを犯したとき、それに対して検察官が不服申立てができないというような制度ができたとき、犯罪被害者はどう捉えたら良いのでしょうか。そこをしっかりと考えていただきたいと思っています。   実際に裁判官が行った間違いを私は1件知っております。それは再審の話ではありませんけれども、刑事裁判の公判記録の閲覧・謄写が被害者参加人に認められているケースでありました。公判記録の閲覧・謄写ができない場合は相当な理由がある場合だけです。平成19年の改正前は、民事訴訟手続を行うためにしか公判記録の閲覧・謄写はできませんでした。それが平成19年の改正法で変わって、原則と例外が逆転して、知る権利のためであれば、とにかく原則開示する、非開示は例外とされました。そして、非開示の例として三つの場合があげられました。そこの記録に爆発物の作り方が書いてある、証人尋問する前に開示してしまう、あるいは第三者のプライバシーが書いてある、そうであるにもかかわらず、実際にはそんな要件が全くないにもかかわらず、交通事故の瞬間を写したもっとも客観的な証拠であるドライブレコーダーについて開示を拒否された例がつい最近、横浜地裁刑事部でありました。これには不服申立権がないのです。従って、もうこれで終わりなのです。犯罪被害者はこれ以上闘えないのです。こういうことが実際には起きています。   さらには、逆えん罪の可能性すらあるのではないでしょうか。日弁連が出した資料によりますと、17件のうち12件で再審開始決定が確定しています。1件はまだ係属中です。ということは、4件は不服申立てが認められています。もし不服申立権を認めなければ、この4件については逆えん罪ということになります。被害者からすれば、どう考えたらいいのでしょうか。もし不服申立権を禁止してしまったら、この4件については、実は真犯人なのだけれども真犯人ではないことになってしまいましたと墓前に報告しなければいけなくなってしまいます。こんな不合理なことが認められてよろしいのでしょうか。そういうことを考えますと、やはり不服申立権の検察官だけの片面的な禁止というものについては私は大反対であります。   裁判官の除斥・忌避、これについては賛成であります。   あと、要件緩和について述べます。日弁連の案では、事実誤認があると疑うに足りる証拠があれば再審を開始すべきとされています。この程度の要件であったら、濫訴の弊害が起きるのは必至です。どんどん再審の申立てが行われる。極端なことを言えば、罰金刑になった交通事故の違反者だって、できることになってしまう。ましてや最近、日弁連が言っている、全て国選弁護にしろなんてしてしまったら、自分はお金を出さなくて済むのですから、どんどん罰金刑になった人だって再審開始の申し立てをやるでしょう。また、不服申立てをする人というのは大概、不合理な理由で、例えば死刑執行を免れたいために、先延ばししたいためにするのがほとんどであります。にも関わらず、単に事実誤認があると疑うに足りる証拠、これだけで再審ができるのだったら、では第一審、第二審、第三審の通常審は何だったのでしょうか。罪を犯したことについて合理的な疑いを差し挟む余地がない程度について3回しっかりと審理した上で、有罪判決が確定したのではないでしょうか。通常審の不服申立て理由と事実上変わらない程度で再審を開始できるとしてしまっては、四審制、五審制、六審制、七審制、永遠審となりかねません。犯罪被害者は死ぬまで前を向くことができません。こんなバランスを欠いた制度は、私はいかがなものかと思います。こう言ったら言いすぎかもしれませんが、日弁連は一体犯罪被害者をどこまで苦しめれば気が済むのでしょうか。   さらには再審請求手続中の義務的執行停止、これは本音は、結局のところは死刑制度の事実上の廃止と同じことではないでしょうか。死刑制度反対論者の意見の隠れ蓑ではないかと私は思います。   最後にまとめますと、やはりえん罪というのは、もちろん今までの検察官にも問題があったと思いますが、でも、決してそれだけではない。法曹三者全員の責任だと思います。それぞれが証拠を開示して、それをきっちりと制限することなく全ての証拠を見て、そして弁護人がしっかりとした見識と知識を持って反論する、そういうことをしっかりと通常審でやってこそ、司法に対する信頼が生まれるのではないかと私は考えております。 ○大澤部会長 どうもありがとうございました。   それでは、質疑に移りたいと存じますが、御質問のある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○宇藤委員 本日は大変貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。私から一つだけ、もう少しお聞かせいただきたいところがございます。「第4」の裁判官の除斥・忌避のところですが、先ほどの御説明では当然賛成ということであったのですが、その趣旨をもう少し御説明いただきますと大変有り難いと存じます。よろしくお願いいたします。 ○髙橋参考人 裁判官の立場から、弁護士の立場から、検察官の立場から、いろいろとこの除斥・忌避については意見はあるかと思うのですが、やはり疑いがあれば広く認めていくべきではないでしょうか。我々弁護士の場合には、少し除斥・忌避とは違いますが、僅かでも利益相反があると絶対に事件は引き受けません。引き受けると懲戒請求されて、それが認められてしまうことがほとんどです。裁判官の場合は、いろいろな除斥・忌避の理由はあるかもしれませんけれども、やはり少しでも公平性に疑いが持たれるようなものがあるのであれば、これは広く認めていくべきではないかと私は考えております。 ○宇藤委員 ありがとうございます。 ○池田委員 本日は貴重なお話を伺いまして、どうもありがとうございました。「第2」の「3」の性犯罪に関連する証拠の不開示についての御意見に関しまして、一つお尋ねがあります。   これは立法論としては、裁判所に開示を勧告する、あるいは命じる権限を与える一方で、一定の犯罪、つまりは性犯罪の証拠については開示の対象から除外するという規定を設けるべきと、そういう主張であるのか、あるいはそれと並んでということかもしれませんが、再審請求を理由として、そのような性的画像を消去しないで保存し続けることがあってはならないという規定を設けるべきだという趣旨なのかについて、具体的にどのような規定を設けることをお考えなのかをお伺いできればと思います。 ○髙橋参考人 確かにそれは難しい立法論になると思うのですが、私の個人的な見解を述べます。性犯罪に関しては、その画像・映像があること自体が苦痛でしようがないです。ですから、消去・破棄はやむを得ないと思っています。その代わり、再審を開始するかどうかの判断に当たっては、性犯罪に関しては、より一層厳しく慎重に判断していただきたいと考えております。 ○池田委員 ありがとうございました。 ○大澤部会長 それでは、3件目のヒアリングでございますけれども、これで終了とさせていただきます。磯谷様、そして髙橋様、本日は非常に有益なお話を頂戴いたしまして誠にありがとうございました。お話しいただきました内容につきましては今後の審議に役立ててまいりたいと思います。どうもありがとうございました。              (参考人退室) ○大澤部会長 以上で本日のヒアリングは終了となります。   それでは、次に、今後検討すべきと考えられる事項について、改めて皆様のお考えを承りたいと思います。ここでは、先ほど申し上げましたとおり、前回及び今回の会議におけるヒアリングの結果も踏まえ、今後検討すべきと考えられる事項として追加すべきと考えられるものについて御意見を頂きたいと思います。 ○田岡幹事 私からは証拠開示、つまり裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写の問題と、国選弁護人制度及びそれに関連する制度について、意見を申し上げたいと思います。   まず、裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写については、前回のヒアリングで、青木参考人、塩野参考人、袴田参考人、間参考人、宮下参考人から、いずれも証拠開示の法制化が必要だという意見がございました。また、先ほど、髙橋参考人からも、証拠は開示されるべきだという意見がございました。恐らくこれを論点に加えることそれ自体については異存はないものと思いますが、更に詳しく意見を申し上げたいと思います。   まず、再審請求審における証拠開示、つまり裁判所不提出記録の閲覧・謄写の問題と、再審請求手続外、つまり再審請求の準備段階における保管検察官に対する請求等の方法による裁判所不提出記録の閲覧・謄写の問題とは分けて、検討すべきであると思います。また、裁判所不提出記録というと一般には記録事務規程の対象となる証拠書類のみを指しますが、証拠品事務規程の対象となる証拠品、つまり証拠物の問題とは分けて検討すべきであると考えます。   そこで、まず再審請求外、つまり再審請求の準備段階における裁判所不提出記録及び証拠品の閲覧について申しますと、現行の刑事訴訟法、刑事確定訴訟記録法、記録事務規程、証拠品事務規程には、保管記録及び再審保存記録の閲覧の規定はありますが、不起訴事件記録及び裁判所不提出記録の閲覧の規定はありません。しかし、実務運用上これらの閲覧が禁止されているわけではありません。実際に松橋事件では再審請求準備段階で証拠品の閲覧が認められたことが再審請求及び再審開始決定につながりました。最高裁判所の平成16年5月25日の決定や平成31年1月22日の決定では、公判不提出証拠を公にすることは保管検察官等の保管者の合理的な裁量に委ねられていることを前提に、その裁量権の範囲が逸脱又は濫用にわたることは許されないという趣旨の判示がなされておりますので、実務運用上、公判不提出記録の閲覧は禁止されているわけではなく、保管者の合理的な裁量に委ねられているものと理解しております。   また、先ほど髙橋参考人も言及されましたが、平成19年改正刑事訴訟法を踏まえて、平成20年11月19日の法務省刑事局長通知によりまして、被害者等から、不起訴事件記録、これには裁判所不提出記録が含まれますが、の閲覧・謄写の請求があった場合においては、少なくとも客観的証拠については原則として閲覧が認められる実務運用になっております。そうしますと、被害者等に対しては裁判所不提出記録であっても開示されるのであれば、再審請求人に対しても開示されるべきではないのかと思われます。   そこで、裁判所不提出記録を再審請求によらずに、つまり、保管検察官に対する請求あるいは弁護士法23条の2による照会の方法によって、閲覧・謄写できることを明記することを検討すべきであると考えます。少なくとも刑事訴訟法281の4第1項2号ホに再審請求の手続が掲げられていることに照らせば、開示証拠が再審請求の手続に用いられることは法が予定していることといえますので、裁判所不提出記録のうち過去の審理、つまり通常審等において開示された証拠については、謄写していないものであったとしても、閲覧・謄写の機会を与えるべきであると考えます。   次に、再審請求審における裁判所不提出記録及び証拠品の閲覧・謄写については、再審請求が職権主義の手続であり、裁判所が再審理由の存否を判断するために必要な事実調べの権限を有していることを前提にしますと、裁判所が裁判所不提出記録及び証拠品の提出を命じることができること、これが手続指揮権に基づくものであるか、あるいは事実取調べの準備行為としてなのかはともかくとして、そのような権限があるということをまずは明記すべきであると考えます。その上で、その証拠の提出を命じる証拠の範囲につきましてはいろいろな考え方があり得るかと思いますが、裁判所の自由な裁量に委ねることは相当ではありませんので、通常審において証拠開示が行われていたとすれば開示されたであろう証拠、つまり類型証拠開示や主張関連証拠の開示の規定を参考にしながら一定の範囲の証拠については、裁判所は裁判所不提出記録の提出をむしろ命じなければならないといった規定を設けることによって、その裁量権を合理的に行使することを担保するということが必要であると考えます。また、そのためには証拠の一覧表を提出させる、あるいは送致書類目録等を提出させることによって、どのような証拠を検察官が保管しているのかについて裁判所と再審請求人及び検察官が共通認識を持つということが必要になると考えます。   また、DNA型鑑定が問題となる事件では、鑑定資料となる証拠物を検察官が保管していることによって、再審請求人がDNA型の再鑑定を行うことが妨げられることがあり得ますので、まずはその証拠価値を保全するために証拠物の保存・保管の規定を設けるとともに、その証拠物を利用した鑑定の手続を実施する権限についても明記すべきであると考えます。   あわせて、袴田事件では第2次再審請求審の即時抗告審の段階で5点の衣類のカラー写真のネガフイルムや取調べの録音テープ23巻が開示されましたが、これらは本来、第2次再審請求の再審請求審の段階で開示されるべき証拠でしたが、その後に発見されたとして開示されたものです。このようなことがないようにするためには、証拠開示の前提として、裁判所不提出記録及び証拠品の保管・保存に関する規定を設けることも検討すべきであると考えます。   次に、国選弁護人制度及びそれに関連する制度について、意見を申し上げます。前回のヒアリングでは、青木参考人や塩野参考人、間参考人から、再審請求審においても国選弁護人制度や科学的鑑定の制度が必要であるという意見がありました。また、先ほど髙橋参考人と磯谷参考人からは、国選弁護人を全件に付けるのは反対であるという意見がありましたが、他方で、髙橋参考人からは、科学的鑑定の重要性についての指摘がありました。   現行の刑事訴訟法では、再審請求審及びその準備段階には国選弁護人制度がないわけでございますけれども、再審請求をするためには原判決の謄本や証拠書類及び証拠物を添付することが義務付けられていること、再審理由に係る事実上及び法律上の主張を構成する必要があること、特に受刑者や死刑確定者が裁判所不提出記録の閲覧・謄写をする場合には弁護人が必要になることを考えますと、国選弁護人制度を設けるべきであると考えます。もちろん、全件に付けるとまでは申しませんので、一定のスクリーニングは必要になるものと思われますが、再審請求審及びその準備段階における国選弁護人制度の創設については検討すべきであると考えます。   また、現行の刑事訴訟法では、再審請求人が弁護人等と接見する際に接見交通権の保障に関する規定がありません。そのために、再審請求人が弁護人を選任しようとしても、その接見の際に立会いが付くために、秘密接見ができないといった問題があります。最高裁判所の平成25年12月10日の判決は、再審請求人と弁護人の接見には秘密面会の利益があるという判示をしておりますけれども、これを明確にするために、再審請求人又は再審請求しようとする者が弁護人又は弁護人となろうとする者と接見する際に、秘密交通権の保障があるということを明記することを検討すべきであると考えます。   最後に、費用補償について、意見を申し上げます。現行の刑事訴訟法は、無罪の判決が確定したときは、その裁判に要した費用を補償すると規定しておりますが、最高裁判所の昭和53年7月18日の決定では、再審手続において請求手続において要した費用は補償の対象とならないと判示していることから、再審請求審において弁護人が出頭したり、あるいは実験や鑑定を行っても、その費用の補償が十分に受けられないという制約がございます。したがいまして、再審請求手続における費用を費用補償の対象に含めることを検討すべきであると考えます。 ○大澤部会長 ほかにいかがでございましょうか。   一応、今後検討すべきと考えられる事項としてということでございますので、もちろん問題意識を述べていただかないと分からないところもございますが、かなり時間も押してございますので、なるべくその辺りを御配慮いただいて御発言いただければと思います。 ○鴨志田委員 私の方からは、今回の諮問において列挙された三つの事項、それから改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会が論点整理としてまとめた項目は論点に入るということを前提にして、それ以外でヒアリング等の結果を踏まえて追加をしていただきたいということについて申し上げます。   一つは、再審公判についての規律でございます。在り方協議会等では論点化されていないのですけれども、今回のヒアリングで塩野参考人から、再審請求審で取り調べられた証拠についても再審公判では検察官が同意しないと取調べができないとされていて、これでは再審請求審での審理の結果が無駄になってしまうという指摘がありましたし、間参考人からは、差戻し後の即時抗告審とほぼ同一争点について再審公判で証拠調べが重ねられたという指摘があったということに関連して、再審公判の審理、とりわけ証拠調べに関する規律の在り方を論点として検討すべきと考えます。   2点目は、管轄裁判所についてです。これは裁判官の除斥・忌避と関連するということも言えるかもしれませんが、管轄裁判所に関する論点の追加を希望します。現行法においては、例えば通常審段階で一審が無罪、控訴審で逆転有罪で確定した場合には、再審請求は高裁に対して行うことになりますけれども、通常審では事後審や法律審として機能する高裁や最高裁が第一次的に再審請求の当否を判断したり、再審開始決定が確定した後の再審公判を高裁や最高裁が担当するということの妥当性という観点から、検討すべきと考えます。   3点目は、ヒアリングでの言及はなかったのですが、現行法上の再審請求権者は極めて限局されていて、えん罪被害者の名誉回復を困難にしていること、また、再審請求手続の長期化によって再審請求人が手続の途上で亡くなってしまうという場合の受継の規定がないといった問題がございます。この点から、再審請求権者についての範囲の問題、それから受継の手続を入れるということについて御検討いただきたいと思います。   4点目は、再審事由に関してです。在り方協議会の論点整理案では、単に「再審開始事由を拡大すべきか」とのみ記載をされております。この記載を補足的に明確にする意味で、日弁連意見書に記載のある4点を、再審開始事由として検討いただきたいという趣旨で申し上げておきます。①435条6号の明白性の判断、②死刑の量刑再審、③原判決の手続に重大な憲法違反があった場合、④確定判決に代わる証明があった場合、この4点はいずれも日弁連の意見書に記載がある再審開始事由に関する論点ですが、これらを検討していただきたいと思います。   5点目は、刑の執行停止に関してです。在り方協議会の論点整理では、「再審請求がされた場合に死刑の執行停止を義務付けるべきか」ということが項目化されています。一方、今日のヒアリングでもこの点についての言及はあったのですが、前回のヒアリングで青木、塩野、袴田、間の各参考人が言及した、再審開始決定に伴う刑の執行停止についても論点化すべきと考えます。東住吉事件については、裁量的な刑の執行停止が取り消されるということで事件本人に甚大な負担を強いたという点、袴田事件については拘置の執行停止がされたということの重要性、こういったものを立法事実として考慮していただきたいということです。   最後に、これは念のためということですけれども、再審開始決定に対する不服申立てに関する規律に関連して、不服申立期間についての言及が、第1回会議における成瀬幹事のご発言と、それから今日のヒアリングでも指摘されました。日弁連の意見書にもこの点については改正条文案がありますので、論点化することについては異論がないのですけれども、日弁連意見書が不服申立期間に係る改正を入れているのは、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止を前提としているということを、念のために申し上げておきたいと思います。 ○村山委員 どうも弁護士ばかりで発言して申し訳ないのですけれども、私は再審請求手続に関して、少し自分の経験も踏まえて、論点として御議論いただきたいと思っています。その眼目は、再審請求人の裁判を受ける権利の保障と、それから手続的公平、さらには審理の迅速化、こういう観点から、こういった論点について議論を頂きたいと思っています。   具体的には、再審請求手続期日の指定というのが一つありまして、実際に先ほどの中川参考人も打合せの期日を行っているという実態をお話しになりましたけれども、これは全ての裁判体で行われているかというと、必ずしもそうではないのでありまして、やはり手続的に期日を設けることの意味というのは非常に大きいものがあると思います。   次に、請求理由について陳述する機会があるということが必要だと思います。これは青木参考人が、実際に打合せの期日に立会いを望んでおられたけれどもそれができなかったということで、陳述書を提出されたというお話をされていたかと思いますが、実際に切望している方は期日で自分の意見として述べたいということは、非常に強い要求としてあると思うのです。そして、期日において請求の理由を述べることがその再審請求の理由及び争点の明確化につながると私は考えています。さらには、事実の取調べの関係では、請求人や弁護人にこの事実の取調べ請求権があるという規定を設ける必要があると思います。確かに職権主義によって裁判所の合理的な裁量による事実の取調べが行われていると、このように私も認識していますけれども、やはり再審請求が請求の理由を立てて請求しろと言っているわけですから、それに準じて請求権がなければ、自らの言いたいことが言えないということになりかねません。新証拠といっても、たどり着けない新証拠がたくさんあるのです。それを事実の取調べとして裁判所に行ってもらいたいということは当然あります。   また、その事実の取調べの中では科学的な証拠、例えばDNA鑑定等の科学的な証拠の請求権、こういうものは非常に重要なものだと思っています。これは諸外国の例でいきますと、アメリカではDNA鑑定の請求権が、これは公判後という形になっていますけれども、認められていまして、この鑑定の結果、何百という単位で誤判が判明したという事実があります。もちろん日本でそんな何百という単位で誤判が判明したら大変なことになりますけれども、しかし、真理に近づくための客観的な証拠です。この客観的な証拠を取り調べるということについては、誰も異存ないと私は思います。   また、意見陳述、これは事実の取調べを行った場合には、その事実がどういう意味を持つのかということを当事者が説明する機会がある、主張する機会があるのは当然だと思います。さらには、審理の締めくくり、実際にそのけじめをつけるためには、例えば審理の終結日、さらには決定日を告知するという形で、結論が出る時期をきちんと決めて、そして裁判所が取り組む、それによって請求人の方もいつになったら結論が出るのかというのが分かる、こういったことが社会的にも注目を浴びている事件については極めて必要だと思います。   最後に、審理の公開の問題です。これは宮下参考人も公開が必要ではないかという趣旨の御発言をされていました。再審事件、確かに今までいろいろな方が、いろいろな事件があるではないかと、そのとおりです。そのとおりですけれども、審理を公開することによって、やはり開かれた裁判所、裁判の公開の意味というものがより一層明確になり、社会においてもこの再審事件の動向がはっきりと分かる。現状では、マスコミは再審請求人側の弁護人の情報で記事を書いているという場合が多いと思いますけれども、実際に公開されれば、より公平な裁判所において行われた事実に基づいたマスコミ報道が可能になります。そういう意味では、正確な報道のためにも公開というのは必要だと思っています。   なお、これまでの話の中でいろいろ申し上げましたけれども、私もこの再審請求事件についてはいろいろな類型がある、これはよく分かっていますし、それは否定しません。今日の中川参考人も言われたように、不適式な請求、繰り返しの請求があるということも事実です。そういうものを含めて議論していますけれども、それはそれで、例えばスクリーニングの話というのは別問題として考えられる話でありまして、一般的な話としては、こういった手続規制を設けることによって、この再審請求事件の審理がより円滑にかつ迅速に、充実した審理が図れるようになると考えています。 ○山本委員 もう範囲に入っているかもしれませんが、証拠の目的外使用の禁止については、被害者の観点から少し検討していただきたいと思っております。また、再審請求審と再審公判の段階での被害者参加の可否のほか、再審請求のときのマスコミからの報道で被害者が知るのはかなりかわいそうだと思いますので、その段階で被害者通知のような形で被害者に通知することを検討していただきたいと思いました。今、お話を伺いながら思い付きの提案なので、中身は具体的になっていませんが、少しそこを検討していただきたいと思っております。 ○大澤部会長 まだ御意見等がある方もおられるかと存じますが、予定していた時間をかなり超過しておりますので、お許しいただければ、本日の会議はここまでということにさせていただきたいと存じます。   次回以降の進め方についてでございます。まずは、皆様から示された御意見を踏まえまして、私の方で論点整理案のたたき台を作成し、期日間におきまして、事務当局を通じて皆様にお示しし、内容について調整させていただいた上で、次回の会議からはその論点整理案に沿って議論を行っていくことにしたいと思います。検討すべき事項について、本日のこの場での意見交換の時間が非常に限られておりましたので、更に御意見のある方もおられるかと存じますが、そのような方につきましては、期日間における調整の段階で、必要に応じて事務当局にお伝えいただければと思います。そのような進め方とすることにつきまして、いかがでございましょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、そのようにさせていただきます。   本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。   本日の会議の議事につきましては、原則的な方針としましては発言者名を明らかにした議事録を作成するとともに、説明資料等についても公表することとさせていただきたいと思います。もっとも御発言内容を改めて確認し、ヒアリング出席者の御意向も伺った上で、プライバシー保護等の観点から非公表とすべき御発言等がある場合には、該当部分につきましては非公表の処理をしたいと考えております。それらの具体的な範囲や議事録等の記載方法につきましては、相手方との調整もございますので、部会長である私に御一任いただくということでよろしゅうございますでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。   それでは、本日の審議はここまでとしたいと思います。次回の日程につきまして、事務当局から説明をお願いいたします。 ○中野幹事 次回の第4回会議は、令和7年7月15日午前9時30分からを予定しております。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○大澤部会長 次回もまた午前9時30分ということで、早い時間からでございますけれども、どうかよろしくお願いいたします。   それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-