改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第19回) 第1 日 時  令和7年5月29日(木)    自 午後2時58分                         至 午後4時55分 第2 場 所  法務省共用会議室6・7(7階) 第3 議 題  弁護人による援助の充実化         証拠開示制度の拡充         犯罪被害者等・証人を保護するための措置         証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げ         自白事件の簡易迅速な処理のための措置 附則第9条第3項の事項のうち、証人等の刑事手続外における保護に係る措置 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第19回会議を開催します。   皆様、御多用中のところ御出席くださり、誠にありがとうございます。   それでは、議事に入りたいと思います。   本日は、前回会議に引き続き、第2段階の協議として、「附則第9条第2項に係る制度」に関する意見交換を行った後、「附則第9条第3項の事項のうち、証人等の刑事手続外における保護に係る措置」に関する意見交換を行うこととしたいと思います。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、配布資料44の論点整理案の四つ目の論点である「弁護人による援助の充実化」のうち、「弁護人の選任に係る事項の教示の拡大」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論を踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 逮捕され、被疑者の立場に置かれた国民にとっては、犯していない罪で処罰されないためにも、勾留という重大な不利益を不必要に受けないためにも、直ちに弁護人の援助を受けることができることが極めて重要です。憲法第34条は、何人も、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されないとして、身体を拘束された国民の弁護人依頼権を保障しています。   しかし、逮捕段階の国選弁護人制度がいまだ整備されていない中で、これを補う役割を果たしているのが、各地の弁護士会が実施している当番弁護士制度です。当番弁護士制度は、無償で弁護士が接見し、助言する制度であり、日本弁護士連合会が法テラスに委託している刑事被疑者弁護援助事業を利用することにより、資力のない被疑者であっても弁護人を選任することができます。   法制審議会特別部会では、弁護人の選任に係る教示の拡大として、当番弁護士制度の告知をすべきであるとの意見も述べられましたが、当番弁護士制度は法律上の制度でないとして、条文に当番弁護士という文言は書き込まれず、刑事訴訟法第78条第1項の規定による弁護人の選任の申出ができる旨を教示しなければならないとの規定が設けられました。   改正法の施行後、各地の弁護士会から都道府県警察に対し、当番弁護士制度の告知をするよう申し入れましたが、受け入れられず、現在、当番弁護士制度の告知が行われている都道府県はないとの報告を受けています。残念なことに、法改正前には事実上当番弁護士制度の告知をしていたところでも、法改正後は告知されなくなったとの報告もあります。   警察においては、統一的な教示文書を用いて弁護人の選任に係る事項の教示を行っているものと承知しており、教示義務の履行を確保する観点から統一的な教示を行うことは理解いたします。しかし、そのことと全国で実施されている当番弁護士制度を教示することとは両立するはずであり、むしろ、その教示をすることが弁護人による援助の充実化という改正法の趣旨に沿うと思われます。   現在の教示文書では、「あなたに弁護人がない場合に、自らの費用で弁護人を選任したいときは、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して申し出ることができます」と教示することとされているものと承知しております。先ほど申し上げたとおり、当番弁護士は、無償で接見し、助言する制度であり、刑事被疑者弁護援助事業を利用すれば、資力のない被疑者も弁護人を選任することができます。ところが、「自らの費用で弁護人を選任したいときは」という教示がなされるため、資力のない被疑者は弁護人の援助を申し出ることはできないという誤解が生じています。   実際、勾留後に選任された国選弁護人が、なぜ逮捕段階で当番弁護士を呼ばなかったのかを被疑者に尋ねると、自ら選任する費用がないから呼ぶことができないと誤解していたことが明らかになることもあります。逮捕された被疑者に弁護人の援助を受ける権利を保障することは、憲法の要請であることを踏まえ、当番弁護士制度の教示が行われるよう運用を改めることが必要であると考えます。 ○中野参事官 事務当局から御趣旨の確認をしたいのですが、先ほどおっしゃった点は、「弁護人の選任に係る事項の教示の運用を改めるべきか」という論点との関係での御意見ということでお聞きしてよろしいでしょうか。 ○河津構成員 はい。 ○中野参事官 平成28年の制度改正を踏まえ、それに加えて、この御提案ということでよろしいでしょうか。 ○河津構成員 今回お示しいただいている論点整理の中で、この点だけが運用に関する論点として設定されておりますので、運用に関する意見として申し上げました。 ○中野参事官 そうしましたら、この際、平成28年の制度改正の運用状況に対する御意見と、それに加えて、先ほど河津構成員から次の論点につきましても御意見いただきましたので、この点についても御意見のある方は挙手いただければと思います。 ○中山構成員 それでは、まず初めに、弁解録取について申し上げたいと思います。   弁解を録取したときに作成する弁解録取書は、司法警察職員捜査書類基本書式例に定める様式を用いて作成をしているところです。この様式には、「1」として、弁護人を選任することができること、「2」として、弁護人がない場合に、自らの費用で弁護人を選任したいときは、弁護士、弁護士法人(弁護士・外国法事務弁護士共同法人を含む。)又は弁護士会を指定して申し出ることができ、その申出は、司法警察員(送致された場合は検察官)か、留置されている施設の責任者(刑事施設の長若しくは留置業務管理者)又はその代理人に対してすることができること、「3」として、引き続き勾留を請求された場合において貧困等の事由により自ら弁護人を選任することができないときは、裁判官に対して弁護人の選任を請求することができ、裁判官に対して弁護人を請求するには資力申告書を提出しなければならず、資力が50万円以上であるときは、あらかじめ弁護士会に弁護人の選任の申出をしていなければならないこと、「4」として、弁護人又は弁護人となろうとする弁護士と接見したいことを申し出れば、直ちにその旨をこれらの者に連絡することといった記載があらかじめ印刷されており、警察においては、逮捕時にこの様式を被疑者に示しながら読み上げることよって、刑事訴訟法に定められた事項について確実に被疑者に告げるようにしているところでございます。   各都道府県警察においては、弁解録取時には、刑事訴訟法に定められた、今申し上げた事項を被疑者に教示しているところ、法に定めのない当番弁護士制度についての教示を行っている事例は承知をしていないところであります。ただし、弁解録取において、刑事訴訟法に定められた項目を教示した後に、被疑者から私選弁護人を選任したいが心当たりがないなどの申出があった場合等には、必要に応じて教示を行っていると承知しております。   当番弁護士制度については、法制審議会でも議論になったように、法で定められた制度ではなく、また、当番弁護士は私選弁護人になろうとする者として活動する者と承知しておりますが、被疑者が私選弁護人の選任に関する意思を示していない段階で、法で定められた弁解録取の項目に追加する形で、各都道府県の弁護士会がそれぞれ定めている当番弁護士制度を全国一律に教示することはなじまないと考えておりまして、それぞれの御要望に対しては、各都道府県警察が判断する事項であると考えております。 ○成瀬構成員 今、河津構成員から当番弁護士制度についても運用で教示すべきではないかという御意見が示され、それに対する中山構成員の御回答があったところですけれども、私は、「教示の運用を改めるべきか」という論点に入る前に、そもそも平成28年改正による教示事項の拡大がきちんと運用されているのかという点について、意見を申し上げたいと思います。   中山構成員の御回答の前半で、警察においては、身体を拘束された被疑者の弁護人選任権に関する手続保障をより十分なものにするという平成28年改正の趣旨を踏まえ、告知・教示すべき事項等を記載した紙面に基づき、被疑者に対する告知・教示を行っているとの御説明がございました。また、第7回会議の事務当局からの御説明において、検察も、警察と同様に告知・教示すべき事項等を記載した紙面に基づき、被疑者に対する告知・教示を行っている旨の御発言があったと記憶しております。   そうすると、平成28年改正による教示事項の拡大については、趣旨に沿う運用が警察及び検察においてなされているといえますので、今後も、その運用を見守っていきたいと思います。 ○宮崎構成員 身体拘束された被疑者・被告人の弁護人選任権に関する手続保障をより十分なものにするという趣旨から、裁判所、司法警察員、検察官等は、これらの者に対して弁護人選任権を告知する際に、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならないこととされました。   第7回会議において、配布資料25に基づいて事務当局から説明があったとおり、検察においては、刑事訴訟法第204条第1項の規定により、検察官が被疑者に弁解の機会を与える際、刑事訴訟法によって告知することが求められている事項、すなわち、弁護人を選任することができる旨、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して申し出ることができる旨及びその申出先の教示、貧困等の事由によって自ら弁護人を選任することができないときは、裁判官に対して弁護人の選任を請求することができることや、資力に関する要件といった国選弁護人の選任請求に関する事項について、これらの事項が記載された別紙に基づいて告知・教示を行っているほか、法律上の要請ではないものの、勾留中の被疑者と弁護人等との接見に対して十分な配慮を行うという観点から、被疑者から弁護人等と接見したい旨申出があった場合、直ちにその旨を弁護人等に連絡することについても、別紙に基づいて教示を行うこととしています。   また、刑事訴訟法第203条の規定により、司法警察員から送致された被疑者を受け取った場合については、刑事訴訟法上、検察官において、改めて弁護人選任権の告知等を行うことは求められていないものの、検察の実務の運用においては、弁解の機会を与える際に、先ほどの別紙に基づいて告知・教示を行っています。   このように、検察の実務においては、弁護人の選任に係る事項の教示が拡大された趣旨も踏まえて、適切な告知・教示が行われており、現時点において、当番弁護士の点も含め、制度上又は運用上改めるべき点はないものと認識しています。 ○中野参事官 それでは、次に「証拠開示制度の拡充」に移りたいと思います。   この「証拠開示制度の拡充」のうち、「証拠の一覧表の交付手続の導入」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階の御議論も踏まえ、御意見がある方は御発言願います。 ○成瀬構成員 証拠の一覧表の交付手続は、被告人側において、類型証拠及び主張関連証拠の開示の請求に先立ち、その手掛かりとして、検察官の保管する証拠の一覧表の交付を受けることができれば、円滑・迅速な証拠開示請求に資することとなるという観点から導入されたものです。   第1段階の議論においては、河津構成員から、「証拠の一覧表の交付により、証拠の開示漏れがないかどうかを確認することが容易になった」、「証拠の一覧表の記載が、証拠開示請求の手掛かりとなることもないわけではない」といった御意見が示され、証拠の一覧表が被告人側の証拠開示請求に一定程度役立っていることが確認されました。   他方で、河津構成員は、「証拠の一覧表の標目や品名の記載からは開示を求めるべき証拠を十分に特定できないことが多い」とも指摘されていましたが、この点については、第1段階の議論において玉本構成員から御説明があったように、一覧表の作成・交付が円滑・迅速になされ、かつ、その記載の仕方をめぐる争いが生じないようにするという観点から、現在のような形式的な記載事項とされたものと理解しています。   玉本構成員が、「個別の事件の中で、検察官が交付した一覧表について弁護人から問合せがあった場合には、個々の検察官において、事案に応じ、弁護人とのコミュニケーションの中で手続が円滑に進むように柔軟に対応している」とおっしゃっていたことも踏まえますと、河津構成員の御懸念については、検察官と弁護人の間のコミュニケーションといった運用上の工夫で対応することが望ましいと思われ、現時点で、証拠の一覧表の記載事項を改めることは相当でないと考えます。   令和7年5月16日に成立した「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」、いわゆる刑事デジタル法においては、証拠の一覧表を電磁的記録をもって作成・提供することができることとされており、この規定は令和8年度末までに施行されますので、今後は、その点も含めた運用を見守っていきたいと思います。 ○河津構成員 弁護士の中には、証拠の一覧表の記載事項について見直しを行うべきだとする意見も強くあります。私は、一覧表の記載事項より、むしろ前提となる証拠の管理に重大な課題があるのではないかと感じています。   例えば、証拠一覧表を見ると、先ほど成瀬構成員も言及されましたが、様々な内容の多数の書面が「捜査報告書」という同じ表題で管理をされていたり、多数の押収物を詰めた段ボール単位で1個の証拠として取り扱われているなど、必ずしも適切な管理が行われていないのではないかと懸念させられることがあります。   先月、令和7年4月11日に東京地方裁判所立川支部で無罪判決が言い渡されました。判決は、目撃者とされた2名の証人の間でやり取りされていたLINEメッセージについて、「被告人が公訴事実記載のとおり暴行に及んだことを警察等に認めてもらうのに、都合の良い話を作り出して共有したことも強く疑われる」と指摘して無罪を言い渡しましたが、このLINEのトーク履歴は、公判前整理手続中に弁護人が証拠開示を求めていたにもかかわらず、「不存在」を理由に開示されていなかったところ、証人尋問が行われた後に、その存在が明らかになったという経緯も判決は指摘しています。   この事案は、検察官が証拠を適切に管理、把握していなかったために、無罪証拠が「不存在」として開示されなかったものであり、偶然証人尋問でその証拠の存在が明らかにならなければ、誤った有罪判決が言い渡されていたおそれが大きいものでした。同様に、存在する無罪証拠が「不存在」と誤認されて開示されず、誤った有罪判決が言い渡されている事案がどれだけあるのか、想像もつきません。   証拠一覧表や証拠開示の前提としての証拠の適正な管理の必要性について、認識を共有していただきたいと存じます。 ○中山構成員 ただ今の河津構成員の御発言に関連して、申し上げたいと思います。   警察におきましても、証拠物件の管理については適正に行うべきであると認識をしておりまして、国家公安委員会規則である犯罪捜査規範や関係通達等に基づき、定められた保管設備等において適切な保管・管理に努めているところでございます。   ただ今御指摘のありました事件につきましては、個別の事案の管理状況等でもございますので、詳細は把握していないところでもありますし、また、個別の事件についての当否について、この場で言及することは差し控えたいと思いますけれども、いずれにいたしましても、私どもといたしましては、引き続き都道府県警察に対しては、適切・適正な証拠物件等の保管・管理について指導を継続していきたいと考えております。 ○宮崎構成員 個別の事件についてはコメントいたしませんが、証拠の一覧表の交付手続は、証拠開示請求の「手掛かり」として、被告人・弁護人による円滑・迅速な証拠開示請求に資するという観点から導入されたものであるところ、その運用に関し、これまで実務上問題が生じているという状況にはないと考えています。   他方で、先ほど成瀬構成員からもお話があったように、先日成立した「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」においては、証拠の一覧表を電磁的記録をもって作成・提供することができることとされ、今後施行されることとなっており、より被告人・弁護人側の防御準備に資するものとなり得るのではないかと思います。検察としては、証拠の一覧表の交付・提供について、改正後の規定も含め、引き続き、適切に運用していくものと認識しています。 ○中野参事官 それでは、次に、「公判前整理手続の請求権の付与」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○佐藤構成員 「公判前整理手続の請求権の付与」について意見を申し上げます。   平成28年改正は、従前、訴訟当事者の申出を受け、両当事者の意見を聴いた上、専ら職権による決定で開始されていた公判前整理手続について、訴訟当事者が裁判所に対して事件を同手続に付するよう求めることができることを制度上明確にするとともに、訴訟当事者の請求があったときは、裁判所がその判断を「決定」という方式で合理的期間内に行わなければならないこととしたものです。   この、公判前整理手続の請求権を両当事者に付与することにつきましては、現時点において、問題が生じているという状況は見受けられないように思います。なお、配布資料27によりますと、平成28年以降、公判前整理手続に付された被告人の割合に大きな変化は見られません。これらの数値は、個々の事例における裁判所の判断の積み重ねの結果ですので、一概にその評価を述べることは困難ですが、少なくとも公判前整理手続に付するか否かの裁判所の判断に問題があるとか、それが制度的な要因に由来するとか、そうした主張について、実証的な根拠は示されておらず、現時点で、制度に瑕疵があって、これを改めなければならないという状況にはないと考えております。 ○河津構成員 近年、再審請求審における証拠開示制度が整備されていないことが社会的に注目され、当協議会でも制度化の必要性について議論が行われましたが、証拠開示制度の整備が十分でないのは通常審も同じです。   現行法上、証拠開示の権利が認められているのは、第一審で、かつ、公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件に限られています。証拠の大部分は、捜査機関が強制力を用いて収集することから、罪を犯していない国民が誤って処罰されないようにするためには、捜査機関が保管する証拠の開示を受けることが決定的に重要です。   証拠開示請求権を公判前整理手続等に付されていない事件にまで拡大して保障するのでない限り、被告人側が証拠開示を求める事件については、公判前整理手続に付されるようにする必要性が高いと思われます。特に、被告人が無罪を主張する事件については、公判前整理手続に付されることにより証拠開示の権利を保障しなければ、えん罪を有効に防止することはできないのではないでしょうか。   ところが、平成28年改正により公判前整理手続の請求権が付与された後も、弁護人の公判前整理手続の請求が却下されているという報告があり、日本弁護士連合会が統計調査を依頼したところ、最高裁判所から2020年9月から11月までの3か月間の統計資料を御提供いただきました。それによると、弁護人が公判前整理手続を請求した44件のうち、裁判所が公判前整理手続に付する決定をしたのは22件、却下したのは16件で、否認事件32件についても、裁判所が公判前整理手続に付する決定をしたのは16件で、12件が却下されていることが分かりました。   以前、公判前整理手続に付されていない事件における任意開示について、私は、ほとんど開示されていないのが実態であると認識しており、幅広く任意開示が行われているというのであれば、検察官の手持ち証拠のうち、開示されている証拠の割合を統計的に示すことをお願いしたことがありました。その統計は、これまでお示しいただいていませんが、そもそも証拠開示という事柄の性質上、開示は任意になされればよいというものではなく、義務付けることに意味があるものです。被告人にとって、開示を受ける必要のある証拠は無罪方向の証拠であり、それは、反対当事者である検察官にとっては、その見立てに沿わない、開示したくない証拠にほかなりません。一方当事者にとって差し支えのない証拠を任意に幾ら開示しても、反対当事者の防御に資するものではありませんから、証拠開示は、一方当事者に権利を保障し、反対当事者にそれを義務付けることが必要です。   証拠開示の請求権が、公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件に限って認められている現行法の枠組みを前提とすると、証拠開示の必要性が特に高い公訴事実に争いのある事件において請求があったときは、公判前整理手続又は期日間整理手続に付さなければならないものとして、証拠開示の権利を保障することが必要であると考えます。 ○藤井構成員 一巡目の議論で、公判前整理手続が長期化しているという現状は共有されていると思いますけれども、被害者参加人は、現行制度上、公判前整理手続に訴訟関与することが制度的にも認められておりません。よって、手続が長期化する場合、被害者側に参加弁護士が付されている場合には、当該弁護士を通じた一定の情報共有や心理的サポートが期待されることもありますが、そうでない場合、被害者は、訴訟の進行に関する情報や議論の内容に触れる機会を持たないまま、事実上、長期間にわたり訴訟過程から隔絶された状態に置かれることになります。   本質的な問題は、一巡目の議論で成瀬構成員からも御指摘がありましたとおり、公判前整理手続の迅速化を図るという法曹三者の取組が強く求められているところなのでしょうけれども、先ほど申しました公判前整理手続に付された事件における被害者の現状に鑑みますと、公判前整理手続の対象事件を拡大することについては、被害者側の見地からは懸念を抱かざるを得ないところです。 ○中野参事官 それでは、先ほど河津構成員から御提案のあった「公訴事実に争いのある事件について、請求があったときは公判前整理手続に付さなければならないこととするか」という論点について、御意見いただければと思います。 ○成瀬構成員 公判準備の手段としては、公判前整理手続のほかにも、刑事訴訟規則第178条の16第1項に基づき、訴訟の進行に関し必要な事項について打合せを行うなど、様々な方法があります。第1段階の議論における鈴木構成員の御発言を踏まえれば、現状は、裁判所がこれらの方法の中から各事案に適する公判準備の方法を選んで対応していると思われます。   公判前整理手続は、検察官による証明予定事実記載書の提出を皮切りに、段階を踏んで、証拠開示を含めた各種手続が進められる仕組みになっており、手続自体が重厚であることから、そのような重厚な手続に見合う複雑困難事件に限定して用いられているのでしょう。   それにもかかわらず、先ほど河津構成員が提案されたように、当事者から請求があった場合には必ず公判前整理手続に付さなければならないこととすれば、その必要性が乏しい事件についてまで公判前整理手続が行われることとなり、かえって手続の硬直化・長期化を招きかねないように思われます。   そもそも、公判前整理手続は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うために争点と証拠を整理するための手続ですから、この手続に付するか否かは、当事者の意見を踏まえつつも、公判運営に責任を負う裁判所において判断すべき事柄であり、当事者が請求した場合に必ず公判前整理手続に付さなければならないこととするのは相当でないと考えます。 ○平出構成員 公判前整理手続に付すか付さないかという話が出ておりますので、私から実情をお話ししたいと思います。   公判前整理手続が請求される事案は様々ですが、先ほどから話が出ておりますが、争点が複雑で証拠も多い事案であれば、当然付すことになりますし、そこまででない事案については、打合せも含めて様々な方法により進行をしております。正に、事案に応じて適切に対処していると考えているところです。   刑事訴訟法第316条の2第1項にありますとおり、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うために必要になるかどうかということで、事案ごとに適切に判断するという建て付けになっていると理解しています。 ○宮崎構成員 成瀬構成員、平出構成員から言及がありましたように、公判前整理手続は、「充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため」に、争点と証拠を整理するための手続であるところ、公判前整理手続以外にも公判準備の手段として様々な方法がある中で、この公判前整理手続に付すか否かは、公判運営に責任を負う裁判所において適切に判断すべき事柄であると思います。その中で、裁判所の判断において、事案に応じた適切な方法が用いられているものと考えます。   また、「公訴事実に争いのある事件」といっても、犯人性が深刻に争われる事案から犯行態様に若干の争いがあるにすぎない事案まで様々であり、後者のような事案であれば、争点や証拠の構造もさほど複雑でないと考えられます。そのような事案についてまで、当事者から請求があったときは公判前整理手続に付して、証明予定事実や主張予定書面のやり取りをしなければならないこととすれば、成瀬構成員の御指摘のように、かえって手続の硬直化・長期化を招きかねないと思います。   したがって、公訴事実に争いのある事件について、請求があったときは公判前整理手続に付さなければならないこととすることは、相当でないと考えます。 ○足立構成員 これまでの御議論を聞いて、それを踏まえた上で、私から若干コメントをさせていただきます。   私は、新聞記者になった当初、検察側と弁護側が持つ証拠の数に大きな差がある、というよりも、検察が有罪を立証するための証拠しか開示していないということに非常に驚いた記憶があります。今でも、証拠が全て開示されているわけではないことを知っている一般国民は、決して多くないと感じています。   昨今の再審裁判を通じて、通常審で検察が証拠を開示しないまま有罪が確定したものの、再審請求審になって検察が新たに証拠を開示した結果、えん罪が明らかになった事件が複数ありました。現在の通常審でも、類型証拠の開示をめぐって、弁護側と検察で何度も手続上のやり取りが重ねられ、結果的に裁判が長期化する一因になっているということです。   捜査機関は、国民の負託に基づいて人材や税金を使って権力を行使しています。その権力行使は、国民への説明責任を伴うはずであり、裁判で捜査手続をチェックすることは、そのための効果的な手段だと思います。したがって、捜査の成果物である証拠は、国民の負託に基づく公共財として、弁護側や裁判所の検証にさらされる必要があるのだと思います。   平成16年改正法の施行により、証拠開示の請求権が弁護側に付与され、証拠開示をめぐる状況が大きく変化したことは、本協議会の議論でも度々耳にしました。開示をめぐって検察と弁護側の応酬に時間が掛かり過ぎるという点を除けば、大きなトラブルも見られず、証拠開示の有用性は多くの人が認識している状況だと感じています。たとえ公判前整理手続に付されていなくても、検察が、先ほどもお話のあったように任意開示という形で積極的な証拠開示に臨んでいるとも聞いています。   裁判の前に弁護側がなるべく多くの証拠を把握できれば、開示をめぐる応酬は減って、準備期間を短縮できる可能性があると思います。検察側が、犯罪事実の立証のみならず、捜査が適正に行われたことも証明できることになり、国民の目には裁判の審理がよりフェアで公正なものに映るとも思っています。弁護側による証拠隠滅のおそれだったり、いわゆる証拠あさりといわれるものだったり、関係者のプライバシーの懸念だったりする点から全面的な証拠開示には消極的な意見もなお強いかもしれませんが、素人の目から昨今の証拠開示の状況を見ると、着実に開示が広がっているように見えます。   公判前整理手続に付す対象事件を、事案に応じて裁判員裁判の対象事件から柔軟に広げた上で、証拠開示をできるだけ広げる努力が必要なのだと考えています。 ○河津構成員 成瀬構成員に御質問させていただいてよろしいでしょうか。先ほど成瀬構成員から、当事者から請求があった場合には必ず公判前整理手続に付さなければならないとした場合の弊害について御説明いただきました。   私は、当事者から請求があった場合に必ず付さなければならないものとすることを御提案しているわけではなく、公訴事実に争いのある事件において、被告人側から請求があったときは、公判前整理手続に付さなければならないものとすることを御提案しております。   成瀬構成員がおっしゃるとおり、公判前整理手続は、本来、争点と証拠を整理するための手続です。一方で、論点整理の表題にも記載されているように、平成28年改正は、「証拠開示制度の拡充」の一環として、公判前整理手続の請求権を付与しました。先ほど申し上げたとおり、我が国においては、公判前整理手続又は期日間整理手続に付されなければ、証拠開示の権利が保障されていないというのが現状です。その下で、裁判所から見たときに争点が複雑でないことを理由に公判前整理手続に付されない場合、無罪を主張する被告人側が証拠開示を受けることができないという問題は、どのようにして解消されるべきとお考えなのか、アイデアがあれば御教示いただきたいと思います。 ○成瀬構成員 河津構成員がおっしゃるとおり、平成28年改正に証拠開示制度を拡充する趣旨も込められていたことは事実であろうと思います。ただ、刑事訴訟法第316条の14以下に規定されている証拠開示制度は、公判前整理手続における争点・証拠の整理と関連付けた仕組みとして平成16年改正により創設されたものであり、その基本的な仕組みを維持しつつ、可能な範囲で証拠開示制度の拡充を図ったのが平成28年改正であると理解しております。このような現行法の基本的な仕組みを踏まえますと、たとえ公訴事実に争いのある事件に限定したとしても、当事者が請求したときに常に公判前整理手続に付さなければならないという御提案には賛同しかねます。   その上で、公判前整理手続以外の手段を用いて公判準備が行われる事案において、どのように証拠開示を拡充していくかという点は、今後の重要な課題になると思いますが、差し当たりは、検察側の任意開示がより広く確実に行われるように、運用上の努力が重ねられるべきであると考えております。 ○河津構成員 成瀬構成員、御説明ありがとうございました。先ほど御紹介した令和7年4月11日の東京地方裁判所立川支部の判決の事案も、争点は必ずしも複雑ではないと見ることもできる事件で、公判前整理手続に付されず、LINEのトーク履歴が証拠開示請求によって開示されなければ、誤った有罪判決に至っていたおそれは否定できないと思われます。   このような事件で、証拠開示の権利を確実に保障していくために、現行法の枠組みを前提にすればこそ、公判前整理手続に確実に付される仕組みを作る必要があると私は考えます。先ほども申し上げましたが、証拠開示という事柄の性質上、任意開示といった相手方当事者の倫理や良心に委ねてよい問題ではないと思います。 ○中野参事官 それでは、次に「証拠開示の対象の拡大」に関する意見交換を行いたいと思います。この点につきまして、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○佐藤構成員 「証拠開示の対象の拡大」について意見を申し上げたいと思います。   現行の証拠開示制度は、公判前整理手続における争点及び証拠の整理と関連付けて、まず、検察官請求証拠の証明力判断のために必要な一定の類型の証拠を開示する類型証拠開示、次いで、被告人側の主張が明示されてから、その主張に関連する証拠を開示する主張関連証拠開示、という段階を踏む構成をとり、これによって被告人の防御の準備のために必要かつ十分な証拠が開示される仕組みとなっております。そこでは、開示の必要性と開示に伴う弊害の双方を勘案して、開示の要否を判断することが制度の基本に据えられていると理解することができます。   こうした現行法の証拠開示の基本的な成り立ちを改めるべきだとする意見が仮にあるとしますと、その内容として、いわゆる原則事前全面開示の制度、すなわち、開示により弊害が生じるおそれがあるものを除いて、検察官は、原則として全ての手持ち証拠を被告人側に開示する制度とすべきであるといった趣旨のものが考えられます。   しかしながら、この原則事前全面開示の制度につきましては、証拠隠滅、証人威迫、関係者の名誉・プライバシーの侵害などの弊害が生じるおそれがある場合については、例外的に開示しないものとしましても、なお事件の争点と関連しないなど、開示の必要性が認められない証拠が大量に開示の対象となる結果、被告人側で開示証拠の点検・検討に時間を要して、かえって審理の遅延を招くおそれもあり、特に、昨今指摘されるデジタル証拠の増加は、そういった懸念を増す要因の一つとなるのではないかと思われるところです。   加えて、原則事前全面開示の制度につきましては、証拠開示制度を導入した司法制度改革の際に、時間をかけて様々に議論されましたけれども、被告人側の主張が明らかでない段階で全ての証拠を開示することは、争点及び証拠の整理が十分にされなくなるなどの弊害が指摘され、採用されませんでした。   さらに、法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会においても、改めてこの制度についての議論が行われましたけれども、その中間的な取りまとめとして策定された「基本構想」でも、現行制度の合理性や実際の運用状況に鑑みて、現行の証拠開示制度の枠組みを改める必要はないと整理された経緯があります。   そして、平成28年改正の施行後も、その基本的な仕組みを改めるべきことを基礎付ける状況の変化は見受けられないように思われますことから、現時点においても、原則事前全面開示の制度につきましては、慎重な検討を必要とする状況に変わりはないと考える次第です。 ○宮崎構成員 平成28年改正においては、一定の共犯者に係る取調べ状況記録書面と、検察官請求証拠である証拠物や類型証拠として開示すべき証拠物の押収手続記録書面が、新たに類型証拠開示の対象とされたところですけれども、その運用について、特段問題点は指摘されていないと考えています。   検察としては、引き続き適切な運用に努めていくものと認識しています。 ○中野参事官 それでは、次の論点ですが、「類型証拠及び主張関連証拠の開示の手続を改めるべきか」について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 21年前、平成16年改正により創設された類型証拠及び主張関連証拠の開示制度は、それまで捜査機関の手元に埋もれていた無罪証拠の開示を通じて、えん罪防止の役割を果たしてきたと私は評価しています。村木事件を含めて、公判で事案の真相が明らかになった事件で、証拠開示制度がなかったならば、事実認定が誤ったものとなっていたおそれのある事件は数多く存在します。   その一方で、約20年間の運用を通じて、現行制度の課題も明らかになり、それは平成28年改正によっても解消されていません。最大の課題は、証拠開示に余りにも時間と労力が費やされていることです。   現在の制度の下では、証拠開示の完了までに、数か月にとどまらず、年単位の時間が費やされることがあります。例えば、現在私が担当している公判が進行中の事件のうち1件は、令和3年6月に起訴、同年9月に検察官から証明予定事実記載書が提出され、翌10月に証拠開示請求をしましたが、証拠開示が一応完了して公判前整理手続が終了したのが令和6年11月、証拠開示の手続に3年以上掛かり、この間、被告人は勾留され続けました。   もう一件は、令和5年2月に起訴、同年6月に証明予定事実記載書が提出され、同月直ちに証拠開示請求をしましたが、翌令和6年5月までに証拠開示が終わらず、証拠開示未了のまま公判が開始され、開示請求から約2年経過した本日、令和7年5月29日時点でも証拠開示は完了していません。   もちろんこの2件はいわゆる大型事件であり、平均的なものではありませんが、それでも証拠開示に何か月もの時間を費やすのが通例となっており、令和5年の裁判員裁判の公判前整理手続の期間の平均は11.1月、否認事件では13.5月に及んでおり、公判前整理手続の長期化については、対処を要する課題として共通認識になっていると思われます。   物事には、時間を掛けることがより良い結果の実現につながるものもありますが、証拠開示はそうではありません。事案の真相を解明するのは公判であり、弁護人は公判の準備のために検察官から開示を受けた証拠を検討します。証拠の開示を請求し、開示を受けることはその準備であり、言わば準備の準備にすぎません。ここに莫大な時間と労力を費やさなければならないのは、決して合理的ではありません。   憲法は迅速な裁判を受ける権利を保障していますが、証拠開示に年月が費やされている間、被告人の多くは身体拘束され続け、被告人の地位に置かれていること自体による不利益を受け続けることになりますし、関係者の記憶も薄れていくことから、その弊害は極めて大きいものです。   この後の論点とも関連しますが、我が国と同様に検察官請求証拠の証明力に関連する証拠と被告人側の主張に関連する証拠の開示制度を設けている韓国では、検察官は、弁護人から申請を受けてから48時間以内に回答するものとされていると承知しています。   日本弁護士連合会は、先ほど佐藤構成員から御紹介いただいたような全面的証拠開示制度の実現を求めており、全面的証拠開示制度の下では、証拠開示にこのような時間が費やされることは考えられませんが、仮に検察官請求証拠の証明力に関連する証拠と被告人側の主張に関連する証拠を開示の対象とする現行制度の考え方を前提としても、手続の合理化は可能なのではないでしょうか。   第8回会議でも申し上げましたが、現行制度の手続では、証拠が手元にない弁護人が、想像力を働かせて証拠を特定して開示を請求し、検察官が必ずしも的確に特定されていない証拠の存否を確認した上で、要件該当性を検討して回答し、開示の回答を受けた弁護人が、開示されていない証拠はないかを確認するために求釈明をしたり、開示の理由を補充したり、証拠を特定し直して再度開示請求をしたりし、それを受けた検察官が、再度確認、検討して回答するということが繰り返されています。このように、両当事者の作業には、相当の時間と労力が費やされており、しかも、それが何往復も繰り返されていることが、証拠開示の遅延の構造的な原因であると考えられます。   証拠を手元に保管しているのは検察官なのですから、検察官は、検察官請求証拠の証明力判断に関連する証拠、関連しない証拠、関連するが弊害が優越すると判断される証拠に分類することができるはずです。その分類に従って、関連しない証拠と弊害が優越する証拠以外の証拠を開示すれば、証拠開示のかなりの部分はその時点で完了すると考えられます。その後、弁護人から予定主張が明示されたときは、不開示とした証拠の中から、主張に関連する証拠を追加で開示するようにすれば、証拠開示の手続は合理化され、現在のような遅延は避けられると考えられます。   証拠開示に年月が費やされている現状は解消されるべきであり、20年の運用の経験を踏まえて見直しを行う必要性は大きいのではないでしょうか。 ○宮崎構成員 現行の証拠開示制度は、第1回公判期日前の段階から、事件の争点及び証拠を十分に整理するとともに、被告人側が防御の準備を十全に整えることができるようにするため、争点及び証拠の整理と関連付けて、まず、被告人側から請求があった場合、検察官請求証拠の証明力を判断するために必要な一定の類型の証拠を開示し、被告人側の主張が明示されてから、被告人側から請求があった場合に、主張に関連する証拠を開示する制度として導入されたものであり、合理的なものであると考えています。   これ以上にこの証拠開示の枠組みを変えるということになりますと、事件の争点との関連性が低いなど、開示の必要性が乏しい証拠についても開示の対象になることにより、かえって審理の遅延を招くことも考えられる上、被告人側の主張が明らかにされる前に証拠を開示することとなると、開示証拠と矛盾しないような虚偽の弁解が作出される危険性もあるかと思います。   したがって、この証拠開示の枠組みを変えることについては、相当でないと考えております。 ○河津構成員 宮崎構成員の御意見は、仮に全面的証拠開示を導入した場合の弊害の御指摘としては理解することができますが、先ほど申し上げたような、検察官請求証拠の証明力判断に重要な証拠と弁護人側の主張に関連する証拠を開示対象とする基本的な枠組みを維持した上で手続を合理化することには、その弊害の御指摘は妥当しないのではないかと思います。 ○中野参事官 さらに、この事項に関連する論点として、「検察官が証拠開示の回答をすべき期限を定めることとすべきか」について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 公判前整理手続の長期化について、一方的に検察官に責任があると申し上げるつもりは決してございません。ただ、証拠開示請求をした後、検察官の回答に何か月も掛かったり、いつまでに回答するかを表明することができないと言われることがあるのも事実です。   もちろん、検察官の検討に要する合理的な期間は事案にもよりますし、的確に証拠を特定することができているかを含め、弁護人の請求にもよるとは思います。しかし、回答を待っている間に補充捜査が行われていたことが後に明らかになったり、検察官が異動で交代するということもあります。先ほど、証拠開示は公判の準備の準備であると申し上げましたが、検察官から見ると、相手方の準備のための準備作業ということもあり、他の業務もある中で優先的に作業を進める動機が乏しい面もあることは否定できないのではないでしょうか。   また、証拠開示の請求を受けた検察官の検討は、時間を掛けようと思えば掛けられるという性質もあります。例えば、近年、電磁的記録媒体が押収される事案が多くなっていますが、その開示に当たって、開示請求を受けてから、検察官がその媒体の内容である何千件、何万件もの電子データを確認するから時間が掛かるという対応をされたことがあります。   いずれにしても、この証拠開示請求に対する回答は、相手方当事者の準備のための作業という性質上、期限を設けなければ遅延が生じやすいものなのではないでしょうか。証拠の開示に不合理な年月が費やされている現状は改める必要があり、検察官が証拠開示の回答をすべき期限を設けることは、その改善に資すると思われます。   先ほど、韓国では48時間以内に回答すべきものとされていることを御紹介しましたが、48時間以内に回答がない場合は、裁判所に閲覧・謄写の許容の申請ができるものとされているとのことです。我が国でも、48時間以内とするかどうかはともかく、一定の期限を設けて早急な開示を動機付ける必要があるのではないでしょうか。 ○宮崎構成員 検察官におきましては、被告人側から証拠開示の請求があった場合、できる限り速やかに要件を検討した上で、開示すべき証拠は適切に開示しているところであり、個々の事案によって証拠開示に要する時間は様々であるものの、例えば、証拠の全体的な量や、そのうち関係者のプライバシー等、マスキングが必要となる内容を含む証拠の分量など、もろもろの事情によって左右されるわけですけれども、一般に証拠開示が不当に長期化しているという実情はないと考えています。   現行法において、類型証拠及び主張関連証拠の開示の請求を受けた検察官は、開示を相当と認めるときは速やかに開示をしなければならないこととされています。そして、検察官が合理的な期間を超えて開示又は不開示の判断を示さなかったときには、請求者は、不開示の判断があったものとして、裁判所に開示命令を請求することができると解されています。また、実務上、必要に応じて、裁判所が検察官に証拠開示の時期の見込みを明示させ、公判前整理手続調書にその旨を記載するという運用が広く行われ、円滑な証拠開示が図られていると認識しています。そのため、検察官の証拠開示の回答の期限を定めることに関しては、特段の制度上・運用上の措置をとる必要性はないと考えていますし、適切でもないと考えますけれども、いずれにせよ、検察としては、引き続き、速やかな開示に努めていくものと認識しています。 ○中野参事官 それでは、次に、「犯罪被害者等・証人を保護するための措置」のうち、「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○玉本構成員 先ほども御紹介がありましたけれども、今月の16日に、いわゆる刑事デジタル法、「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立し、それによりビデオリンク方式による証人尋問の拡充も行われていることから、その趣旨と概要について、参考のために御紹介したいと思います。   現行の刑事訴訟法におきましては、いわゆる構外ビデオリンク方式により証人尋問を実施することができるのは、公判廷が開かれる場所と同一の構内にある場所に出頭するときは証人の精神の平穏が著しく害されるおそれがある場合などに限られています。もっとも、これらの場合以外にも、近時、例えば多忙な医師に専門家としての証言を求める場合など、いわゆる構外ビデオリンク方式により証人尋問を実施できるようにする必要性が高い場合が生じています。   そこで、改正法におきましては、証人尋問について、対面での尋問を原則とすることは維持しつつ、構外ビデオリンク方式により実施することができる範囲を拡充し、新たに、証人が傷病等により同一構内に出頭することが著しく困難であるとき、証人が身体の拘束を受けている場合であって、同一構内への出頭に伴う移動により精神の平穏を著しく害され、その処遇の適切な実施に著しい支障を生じたり、証人を奪取・解放する行為がなされるおそれがあるとき、証人に鑑定に属する供述をさせる場合であって、証人が尋問の日時に同一構内に出頭することが著しく困難であり、かつ、当該日時に尋問することが特に必要であるときの各場合が追加されたところです。   また、ビデオリンク方式により証人尋問を実施することについて、検察官及び被告人の双方に異議がなく、かつ、手続を主宰する裁判所において支障がないと判断する場合には、証人尋問をビデオリンク方式により実施することを認めない理由はないと考えられることから、改正法においては、新たに、検察官及び被告人に異議がなく、裁判所が相当と認めるときは、ビデオリンク方式により尋問することができることとされました。   これらの改正規定は、同法律の公布の日である今月の23日から1年以内に施行されることとなっております。 ○成瀬構成員 第1段階の議論において、構外ビデオリンク方式による証人尋問の実施人数は、同一構内のビデオリンク方式による証人尋問の実施人数と比べて少ないことが確認されました。裁判所が構外ビデオリンク方式による証人尋問の実施要件を慎重に検討していることがうかがえ、おおむね適正に運用されていると評価することができると思います。   玉本構成員から、今月成立した刑事デジタル法により、構外ビデオリンク方式により証人尋問を実施できる場面が拡大される旨の御説明がありましたが、この改正法の下でも、飽くまで証人尋問は対面で行うことが原則であって、構外ビデオリンク方式による証人尋問が実施できるのは一定の要件を満たした場合に限られます。よって、今後も裁判所が、当事者の意見を踏まえつつ、構外ビデオリンク方式による証人尋問の実施要件を慎重に検討していくことが重要であると考えます。   第1段階の議論においては、藤井構成員から、裁判所の支部等において、構外ビデオリンク方式による証人尋問を実施するための設備が足りていないのではないかという問題意識も示されました。ただ、今回の刑事デジタル法は、構外ビデオリンク方式による証人尋問を拡充するのみならず、鑑定を命ずる手続や通訳・翻訳をビデオリンク方式によって実施するための要件を緩和したり、被害者参加人やその代理人弁護士がビデオリンク方式により公判に出席することを認める規定も盛り込んでいますので、これらの規定を活用する観点から、裁判所の通信設備は支部等も含めて拡充されていくものと思います。その中で、裁判所の通信設備という面でも、構外ビデオリンク方式による証人尋問を実施する体制が万全になることを期待しています。   なお、現行法では、刑事訴訟規則第107条の3により、構外ビデオリンク方式の証人尋問を実施する場合に証人が所在すべき場所は「他の裁判所の構内」に限定されていますが、今回の刑事デジタル法によって、この限定もなくなります。証人の所在場所の限定がなくなることは、構外ビデオリンク方式により証人尋問を受ける証人が裁判所に出頭する負担を軽減することにつながりますが、他方で、証人が第三者の影響等を受けることなく自己の記憶のみに従って証言できる場所であることを、裁判所が事前に確認する必要が生じます。この点も含めて、刑事デジタル法施行後の構外ビデオリンク方式による証人尋問の運用を注視していきたいと思います。 ○藤井構成員 一巡目の議論で、配布資料29で構外ビデオリンクが令和3年から顕著に増加している現状を示されまして、これは、恐らくコロナ禍に伴う偶発的なものではないかと推測をしますけれども、構外ビデオリンクは、心理的・物理的理由で出廷が困難な被害者や証人の方にとって重要な選択肢であり、先ほど申し上げた顕著な増加というのも、その有効性を示すものとも理解ができると思います。   一方で、先ほど成瀬構成員からも御指摘いただいたとおり、支部等では、設備未整備や貸出し機器の調整の煩雑さといった問題があるという話も聞きますし、被害者側で活動している我々弁護士から見ると、裁判体によっても、かなり謙抑的な運用ではないかと思われる例があるとも仄聞するところですけれども、IT化、デジタル化法案の施行に伴い、種々の予算措置が取られて、こうした物理的制約も改善していくものと期待したいと思います。 ○川瀬構成員 今、最高裁、裁判所に対する環境整備の話があったかと思います。裁判所としましても、今話にありました法の趣旨等を踏まえまして、適切に対処できるように環境整備については努めてまいりたいと考えております。 ○宮崎構成員 ビデオリンク方式による証人尋問を行うことは、証人の負担軽減や、手続の円滑化及び迅速化に資するものと考えています。   ビデオリンク方式による証人尋問については、法廷において対面で行われる尋問等に比して、証人の状況を詳しく観察できないなどの指摘もありますが、一般に、裁判所においては、ビデオリンク方式による証人尋問の実施について、刑事訴訟法の規定に基づき、被告人又は弁護人の意見を聴いた上で、適切に判断しているものと承知しています。成瀬構成員から御紹介があったように、第1段階において示された統計を見ましても、ビデオリンク方式による証人尋問が過度に広範に実施されているというような状況は見受けられません。   検察としては、先ほど玉本構成員から説明のあった、いわゆる刑事デジタル法による改正後の規定も含め、引き続き、適正な運用に努めていくものと認識しています。 ○中野参事官 それでは、「証人の氏名・住居の開示に係る措置の導入」に関する意見交換を行いたいと思います。この点につきまして、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○足立構成員 私からは、「証人の氏名・住居の開示に係る措置の導入」に関連して、被害者の保護の措置について、令和5年の刑事訴訟法改正によって加えられた起訴状等の氏名秘匿について意見を述べさせていただきます。   一巡目、第11回の本協議会の中で、被害者らの個人特定事項がどれくらい伏せられているのかをお尋ねしたところ、事務当局と最高裁より、施行状況に関する統計は取っていないこと、今後もデータを取って公表する予定はないこととの御回答がありました。その際、制度の対象となる性犯罪事件の起訴件数が参考データとして示されましたが、性犯罪事件以外の秘匿状況については明かされませんでした。   既に公表されている参考データとして、平成19年施行の改正刑事訴訟法で明文化された、公開法廷での被害者特定事項の秘匿があります。最高裁のホームページには、「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」と題してデータが掲載されています。公判の中で、裁判所が被害者特定事項を明らかにしない旨の決定をした被害者の数について、過去10年の推移を見ると、おおむね4000人前後で推移し、令和5年は4382人となっていました。ところが、令和6年になると5658人と、一気に1276人増えています。1年間で29%増加したことになります。その要因は私には分かりませんが、改正刑事訴訟法が昨年2月に施行され、被害者等の氏名が起訴状で秘匿される措置が広がったことと無縁ではないように感じています。なぜ1年間で3割増えたのか、秘匿決定の判断基準はどのようにされているのか、裁判所には検証をお願いしたいと考えています。   第11回の本協議会の議論では、河津構成員より、日弁連に入っている施行状況の御報告があり、タクシー会社の運転手が被害者になった傷害事件で、タクシー会社と運転手の氏名が秘匿されたとの事例を御紹介いただきました。あわせて、被疑者らが被害者を特定できないことが、防御権の支障につながりかねないといった懸念も示されました。   犯罪被害者らが自分の個人情報を加害者側に伝えてほしくないという心情は、私も理解しています。性犯罪や、特にストーカー事件の被害者情報の秘匿は当然だとも思います。ただ、現実的な危険が被害者や家族に及ばないような事件でも、安易に秘匿されるような事態になれば、制度濫用の疑念を招き、捜査・公判の過程に国民から不信が生まれることになりかねません。ひいては、国民が裁判を監視して、信頼できる司法を実現するという裁判公開の原則が後退しかねないとも懸念しています。   国家権力が事件関係者に関する捜査・公判上の仕組みを恣意的に運用していないことを示すためにも、裁判所は、秘匿決定に抑制的な姿勢で臨んで審理の透明性を図り、必要最小限の運用にとどめてほしいと考えています。   本協議会の別のテーマ、再審請求審や在宅事件の取調べの可視化を扱ったテーマでは、運用状況の統計が乏しく、議論や検討の手掛かりをつかみづらかったと認識しています。制度の検証材料とするためにも、特定個人情報の秘匿について、施行状況のデータを蓄積して広く公表してもらいたいと強く望みます。 ○中野参事官 事務当局からこの点につきまして若干コメントさせていただきます。   第11回会議において御説明させていただいたとおりですけれども、この点につきましては、先ほどいただいた御意見、一巡目の議論においての御意見も踏まえつつ、統計を取ることについての必要性の有無・程度、あるいは事務負担の程度等も考慮して、今後必要に応じて検討してまいりたいと考えています。 ○佐藤構成員 私からも、「証人の氏名・住居の開示に係る措置の導入」について意見を申し上げます。   第1段階において示された統計を踏まえますと、私は、この、証人の氏名・住居の開示に係る措置については、実務において慎重に運用されていると言ってよいのではないかと考えております。   具体的には、令和5年改正前の刑事訴訟法上の第299条の4第2項や第4項において、証人の氏名・住居の開示に係る措置として、証人等の氏名・住居を被告人のみならず弁護人に対しても知らせないことができるとされております。配布資料30-1を見ますと、すでに成瀬構成員が指摘されているように、令和5年改正前の第2項及び第4項の措置をとった証人が毎年一定数存在しており、令和5年改正前の第1項や第3項のように証人等の氏名・住居を被告人にのみ知らせない措置では、証人に対する危害を十分に防止することができないとされた事案が現に存在することが分かります。その一方で、刑事訴訟法第299条の4の措置をとった証人等の数自体は、公判請求がされた被告人の総数から見てごく一部にとどまっていると言ってよいと思います。   また、刑事訴訟法第299条の4の各措置がとられた場合における裁判所に対する裁定請求の手続が、第299条の5第1項に規定されておりますけれども、括弧内の数値として示されている裁定請求のされた証人等の数は、平成30年を除いてゼロから1桁の数値で推移しており、こうした統計からは、本制度が慎重に用いられていると言えるように思います。加えて、配布資料30-2を見ますと、裁定請求を受けて、裁判所が現に措置の全部又は一部を取り消した証人等の数が示されており、不服申立制度も実際に機能していることがうかがえます。   さらに、令和5年の法改正において、犯罪被害者等の個人特定事項を、証拠開示の場面に限らず、逮捕状における被疑事実の要旨や起訴状における公訴事実等について、被疑者・被告人、更には弁護人に対しても秘匿することを可能とすることにより、捜査から判決後に至るまで一貫して、犯罪被害者等を特定させることとなる情報を保護する措置が整備・創設されております。その運用状況については、令和6年2月15日の施行から1年余りしか経過しておらず、日が浅いため、いまだ評価に適さない段階にあると思いますし、先ほど御指摘がありましたけれども、その統計も裁判所ウェブサイトにある「犯罪被害者保護関連法に基づく諸制度の実施状況」の項目として、一部を確認できるにとどまります。この統計については、なお充実させる余地があるのではないかと感じているところですけれども、令和5年の法改正により設けられた措置につきましても、引き続き犯罪被害者や証人等の情報を必要な範囲で適切に保護する一方、被疑者・被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがないよう、慎重に運用していただくことが重要であると考えており、既存の制度と共に運用状況を注視していきたいと思います。 ○宮崎構成員 証人の氏名・住居の開示に係る秘匿措置については、証人の信用性について弁護人が調査をする上で、基本的な情報を得られなくなるなどの指摘もありますが、そもそも、刑事訴訟法の規定上、「被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるとき」には秘匿措置をとることができないこととされ、検察としても、そのような要件に沿って慎重に運用しているところであり、そのことは、佐藤構成員から御指摘があったように、第1段階において示された統計を見てもお分かりいただけると思います。   検察としては、令和5年の刑事訴訟法等一部改正法により整備された規定も含め、引き続き適正な運用に努めていくものと認識しています。 ○中野参事官 それでは、次に、「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿措置の導入」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○成瀬構成員 第1段階の議論で申し上げたとおり、公開法廷における証人の氏名等の秘匿措置は、公開法廷における被害者の氏名等の秘匿措置と比較すれば、その実施人数は少ないものの、毎年100名以上に用いられており、安定的に運用されていると評価できます。今後も、その運用状況を見守っていきたいと思います。 ○中野参事官 それでは、次に、「証拠隠滅等の罪などの法定刑の引上げ」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○成瀬構成員 私は、第1段階の議論において、配布資料32に基づき、犯人蔵匿等、証拠隠滅等、証人等威迫の罪に対しては、ある程度厳しい対応がなされているという評価も可能である旨を申し上げました。   改めて配布資料32を見てみますと、平成28年から令和3年までの間に、犯人蔵匿等及び証拠隠滅等の罪の懲役の法定刑上限である3年の懲役刑に処された事案はなく、これらの罪の罰金刑の法定刑上限である30万円の罰金刑に処された事件も令和3年に1件あるだけです。これらの事情に鑑みますと、犯人蔵匿等、証拠隠滅等、証人等威迫の罪については、平成28年改正により引き上げられた法定刑の範囲内で適切に量刑がなされており、法定刑を更に引き上げるなどの改正の必要性はないと思われます。   続いて、証人の勾引要件の緩和について申し上げます。   この点については、第1段階の議論において、宮崎構成員と鈴木構成員が、勾引要件の緩和により公判期日の空転を回避しやすくなったとの御意見を述べておられました。配布資料33の数値には、勾引要件が改正されていない被告人と勾引要件が改正された証人の両方が含まれていますので、この数値から平成28年改正の影響を推測するのは難しいのですが、少なくとも、平成28年改正によって証人の勾引件数が急増している様子はありません。これらの事情に鑑みますと、証人の勾引要件を更に緩和する必要も、厳格化する必要もなく、更なる改正の必要性は認められないと思います。 ○宮崎構成員 まず、平成28年改正により、犯人蔵匿等、証拠隠滅等及び証人等威迫の罪の法定刑が引き上げられたことについては、私が他の決裁官や検察官から聞く限り、特段問題点は指摘されていないものと認識しています。   先ほど成瀬構成員からも御指摘があったように、少なくとも引き上げられた懲役及び罰金の上限の刑が科された事案はほとんどなく、引き上げられた法定刑の範囲内で適切に量刑がなされていると考えられまして、更なる法定刑の引上げの必要性はないと考えております。   次に、平成28年改正により証人の勾引要件が緩和されたことについては、第1段階の議論でも述べましたように、証人が召喚に応じないことが事前に明らかである場合に、不出頭を確認するためだけの公判期日を費やすことなく勾引することが可能となり、期日の空転を防止できるようになったほか、出頭に消極的な証人に対し、召喚に応じないおそれがあると認められれば、初回から勾引されることもあり得る旨を説明して、公判期日への出頭をより強く働き掛けることができるようになったものと認識しています。   他方で、先ほど成瀬構成員からも御指摘があったように、平成28年改正後に勾引状の発付件数が急増しているという状況にはなく、特段証人の勾引が緩やかに行われているという状況もないのだと思います。したがって、証人の勾引については、要件について、更なる改正の必要はないと考えております。 ○中野参事官 それでは、次に、「自白事件の簡易迅速な処理のための措置」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○佐藤構成員 「自白事件の簡易迅速な処理のための措置」について意見を申し上げたいと思います。   即決裁判手続は、犯罪事実に争いのない軽微な事件について、公訴提起後できるだけ早期に公判期日を開いて、簡易な方法による証拠調べの手続を行った上、原則として即日判決を言い渡す手続です。第8回会議の第1段階の議論において、宮崎構成員からは、この即決裁判手続が期待されていたほど活用されていない理由として、実務上、通常の手続であっても、争いのない事件については効率的かつ迅速に公判審理が行われていることから、即決裁判手続で得られる合理化・効率化のメリットが大きいとは認識されておらず、即決裁判手続を活用する動機付けが働いていないといった御指摘があったところです。   公訴の提起と同時に行われる即決裁判手続の申立てには、被疑者の同意が必要とされておりますけれども、被疑者・被告人が否認に転じる場合に備えて、捜査を十分遂げておく必要があるといたしますと、被疑者の身体を拘束することができる期間にも制限がありますので、捜査の効率化には限界があるのではないかと考えます。また、そもそも即決裁判手続は、書面審理による略式手続とは異なり、公判期日を開いて手続を行う必要がありますので、これにより公判手続の合理化・効率化を図ることにも、一定の限界があると言わざるを得ません。   そして、こうした捜査・公判の合理化・効率化の限界は、対象となる事件の罪種には直接関わりがないように思われます。さらに、平成28年改正によって、刑事訴訟法第350条の26が新設され、再起訴の制限が緩和されたにもかかわらず、配布資料34によりますと、この改正後も即決裁判手続の利用件数が全体的に減少していることが見て取れます。そうしたことから、現行の即決裁判手続の制度の枠組みを前提とする限り、制度の活用を図ることは難しいのではないかという印象を持っております。   ただ、争いのない事件と争いのある事件を区別して、捜査・公判手続の合理化・効率化を図っていくことは重要であり、そのための方策については、引き続き、検討が必要だと考えております。 ○足立構成員 いわゆる有罪答弁制度というものが一体どのような制度なのかについて、河津構成員でしょうか、どなたか御説明をお願いします。特に、自己負罪型の合意制度との違いと、制度の趣旨、狙いのようなものも教えていただければと思います。 ○河津構成員 平成28年改正においては、即決裁判手続の活用を促すことを目的として、公訴取消し後の再起訴制限の緩和が行われましたが、第8回会議で施行状況を共有いただいたとおり、改正法の施行後、即決裁判手続の利用はむしろ減少してしまっています。   しかし、佐藤構成員も御指摘になったとおり、自白事件の簡易迅速な処理のための有効な仕組みを設ける必要性は大きいと思われます。自白事件の当事者にとっては、公訴事実に争いがないのに、長期間身体拘束されて裁判を受けることは、社会復帰が遅れることにつながります。できる限り早期に刑の宣告を受け、社会復帰できるようにすることが合理的です。   自白事件の簡易迅速な処理が実現していないことは、そうした自白事件の当事者の不利益とは別に、刑事手続の様々な場面に目に見えにくい弊害をもたらしています。刑事司法に携わる関係者の労力や時間、そして予算といった資源には限りがあります。簡易迅速に処理することが望ましい事件について、公訴事実に争いのある事件と同じ手続で処理していることによって、その資源は費やされています。   例えば、自白事件の被告人を判決まで数か月勾留し続けることは、留置施設・刑事施設の人的物的資源を費やしています。さらに、いわゆる接見渋滞と呼ばれる事態も生じさせて、弁護人の時間も浪費しています。もちろん、被告人本人も仕事をすることができず、ただ判決を待ち続けることになります。   未決拘禁には、経済的なコストも相当費やされています。先ほど来言及されていますように、今国会で刑事デジタル法案が成立しました。刑事デジタル法案により、様々な手続が電子化・オンライン化される中で、被疑者・被告人と弁護人とのオンライン接見や電子化された書類の授受の制度化は見送られました。その理由は、結局のところ、全国的にそれを可能にする設備や人的体制を整備する予算を確保できないことです。   言うまでもなく、特に、争いのある事件において、被疑者・被告人が弁護人の助言を迅速かつ十分に受け、証拠等の書類を授受することができるようにすることは、えん罪を防止するために極めて重要です。限られた資源を本当に必要なところに振り向けることができるようにするためには、簡易迅速な処理をすることが望ましい事件は、簡易迅速な処理が行われるようにするべきです。   即決裁判手続は、検察官に申立権のある制度ですが、改正法が期待したようには活用されていないことを踏まえ、迅速な裁判を受ける権利を有する被疑者・被告人に申立権のある有罪答弁制度の導入を検討すべき時期であると、私は考えています。   有罪答弁の手続としては、裁判所が公開の法廷で、被告人に対し、放棄することになる権利、その他有罪答弁の効果を説明し、被告人の意思を確かめるとともに、事実関係の基礎を示す証拠の存在を確認した上で、有罪を宣告し、量刑手続に移行するものとすることが考えられます。   有罪宣告後の手続については、様々な制度設計があり得ますが、私は、事案の性質や宣告される刑の重さに応じた手続を設けるのがよいのではないかと思います。全部執行猶予付きの拘禁刑を言い渡すべき軽微な事案については、有罪宣告後、直ちに量刑審理を開始し、量刑も言い渡すものとすることが、簡易迅速処理の趣旨に沿うと思われます。逆に、裁判員裁判対象事件のような重大事件については、そもそも対象外とするべきという考え方、対象とした上で裁判員裁判で量刑審理を行う考え方、裁判官が量刑審理を行う考え方などがあり得ますが、少なくとも国民の司法参加の機会を縮小することは適切ではありませんので、裁判員裁判対象事件の拡大も視野に入れた検討が必要であると思います。いずれにしても、簡易迅速処理が趣旨である以上、現行の通常の公判手続よりも迅速な判決に至るようにすべきですが、重い刑を選択すべき事案においては、相応に充実した量刑審理も必要であり、それは当然、公開の法廷で行われるべきであると考えます。   足立構成員がお尋ねの有罪答弁制度と自己負罪型合意制度との違いですが、いずれも自白事件が想定されたものではありますが、有罪答弁制度は、言わば公判手続の特則で、被疑者・被告人の申立てにより行われるものであるのに対して、自己負罪型合意制度は、検察官による証拠収集への協力の手続で、検察官と被告人との合意に基づいて行われるものです。自己負罪型合意制度の内容として、例えば、有罪を認めるのと引き換えに起訴猶予とするという合意があり得るのと同じように、有罪答弁をするのと引き換えに、量刑審理において一定の求刑をするという合意をするようなこともあり得ると思います。 ○足立構成員 丁寧な御説明ありがとうございました。   その上で、私が正確に理解したかはおぼつかないのですけれども、それでも、この有罪答弁制度について疑問点が三つありますので述べさせていただきます。   確かに、裁判の迅速化・簡素化、捜査の省力化というようなメリットがある一方で、国民が果たして受け入れやすいのかどうかという観点で、慎重に検討しないといけない事項もあるように思います。   その疑問点の一つ目は、罪に見合った罰を求める被害者の感情があり、どう応えられるのかという点です。薬物事件などの直接被害者のいない事件に限定すれば、被害者の感情はさほど考慮する必要はないのかもしれませんが、アメリカのように被害者のいる事件も含むのか、対象事件に関して慎重な検討を要すると思っています。   疑問点の2番目は、裁判が簡略化され、証拠に基づいた審理がもし省略されて、量刑手続に移るようになると、社会的関心が高い事件であっても、事件の概要や背景や社会的な課題が明らかにはならないのではないかという懸念を持っています。被害者の中にも真相究明を強く望む方は少なくないと認識しています。   最後に、三つ目は、実効性に関する素人としての疑問なのですが、例えば、最初は黙秘した被疑者の方が結果的に罪が軽くなるような事態が起きないのか、逆に、早く釈放されたいと考える被疑者が、捜査機関と交渉することによってやってもいない罪を認めてしまう、いわゆるえん罪の懸念はないのか、弁護人の関与はどのようになるのかといった点など、適正な手続を確保するためにどうすればいいのかといった疑問を抱きました。   前回の協議会で、自己負罪型の合意制度について、私は、朝日新聞と毎日新聞、読売新聞の過去30年分のデータベースに17件の記事しかないという御紹介をしました。今回同じように有罪答弁制度を検索してみると、更に減って7件という結果でした。現時点では、国民にどう理解されて受け入れられるのかどうかといった点を含めて、様々な観点から検討する必要があるように思いました。 ○藤井構成員 先ほど、河津構成員から御説明いただいたような制度は、被害者にとって、被告人が有罪を認め、争点を量刑に限定することで、訴訟の早期終結の見通しが立ち、精神的安定につながる側面があることも否定しません。また、証人尋問が不要となれば、被害者が証言台に立つことを回避できるなど、一定の利点もあるものと理解します。   もっとも、先ほど足立構成員からも御指摘があったとおり、被害者との関係では別の側面もあり、特に被害者参加制度との関係については、若干の懸念を持っております。被害者参加制度は、被害者が刑事裁判に参加し、事件の真相を自らの目で確かめたいという意向に応えるものとして、平成20年から制度化され、実務に定着してまいりました。この制度では、被害者参加人に対して、量刑だけでなく、罪体、犯罪事実の有無に関しても質問権が認められております。今回提案されているような制度が、罪種を問わず、自白事件であれば一律に有罪答弁制度を導入するというような制度設計であれば、こうした被害者参加制度と明確に抵触するのではないかと思われます。すなわち、罪体に関する審理を簡素化し、被告人の有罪答弁を前提に量刑判断のみを行う手続とするのであれば、被害者が真実を知るという機会を制度的に奪うことに等しく、現行の被害者参加制度の意義を著しく損なうものとなってしまいます。   したがって、仮にそういった制度が導入されるとしても、少なくとも被害者参加対象事件については、制度適用前に被害者の意見を聴取する運用を確保するなどの制度的担保が必要ではないかと考えます。 ○河津構成員 足立構成員からお示しいただいた3点の疑問について、可能な範囲で御説明させていただきたいと思います。   1点目の被害者の感情につきましては、藤井構成員からも御指摘がありました。被害者にも様々な方がいらっしゃって、早期に有罪判決が確定することを望む方も少なくありません。有罪答弁制度により早期に有罪が確定することは、そうした被害者の希望にも沿うことになります。また、無罪推定が貫かれるべき公判審理と、有罪答弁により有罪が宣告された後の量刑審理とでは、どこまで被害者保護の要請に応えることができるかも変わってくると思われます。こうしたことから、有罪答弁制度を導入することは、被害者保護に資する面もあるのではないかと、私は考えています。   足立構成員の御指摘の2点目、社会的関心が高い事件の取扱いですが、先ほども申し上げたとおり、有罪宣告後の手続については、事案の性質や宣告される刑の重さに応じた手続を設けるのがよいのではないかと、私も考えております。足立構成員が想定されているような社会的関心の高い事件については、公開の法廷において、相応に充実した量刑審理が行われることが想定されます。   3点目の御指摘、特に適正手続の確保については、早期に手続から解放されるために、罪を犯していない国民が有罪を認めてしまうことが起こるおそれに対処する必要があります。そのためには、当然弁護人の関与が必要ですし、単に有罪を認めるだけでは足りず、公開の法廷で裁判所が被告人に対して十分な説明を行って、その真意を確認する手続は必須のものであると、私も考えております。 ○成瀬構成員 前回、自己負罪型の合意制度について議論した際も申し上げましたが、近時は、黙秘事案の増加に伴い、捜査・公判における様々な負担が増してきており、このような傾向は今後ますます進んでいくと思われます。そのため、佐藤構成員や河津構成員が指摘されたように、争いのない事件と争いのある事件を区別し、争いのない事件の手続を効率化して、その余力を争いのある事件の手続に振り分けることによって、刑事手続全体をより機能的なものとすることが重要であると考えています。   即決裁判手続は、争いのない事件の手続を効率化するために導入されたものですが、残念ながら、平成28年改正後も実務で余り用いられていません。その原因の一つが、即決裁判手続においては事実認定のための証拠調べを省略できないという点にあるならば、アメリカのように、被告人が有罪の答弁をした場合には、事実認定のための審理を省略して、直ちに刑の量定の段階に進む有罪答弁制度を導入することも検討すべきでしょう。   もっとも、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会において指摘されたように、公訴事実が証拠によって客観的に認められるかどうかを確認することなく被告人を有罪と認めることは、我が国の刑事司法制度が採用する実体的真実発見主義とはなじみにくく、足立構成員がおっしゃるように、現状においてこのような有罪答弁制度の採用に踏み切ることについて国民の理解を得るのは難しいと思われます。   そのため、直ちに有罪答弁制度を導入することは困難であると思われますが、河津構成員が先ほど強調されたように、刑事手続全体の合理化・効率化は今後避けて通れない重要課題になっていくと予想されますので、自己負罪型の合意制度と併せて、継続的に検討していく必要があると考えています。 ○宮崎構成員 今ほど成瀬構成員からもお話がありましたように、私の認識では、いわゆる有罪答弁制度は、裁判所が被告人に公訴事実について認否を求める手続、アレインメントに際して、被告人が有罪の答弁をした場合には、事実認定のための審理を省略して、刑の量定の段階に進む手続のことであると理解しています。   米国における有罪答弁制度は、答弁取引制度と併用されており、私が知る限り、手間の掛かる事実審理を省くことで、刑事司法制度の効率的運用を図るための制度とされています。   有罪答弁制度を設けることについては、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会において検討されたものの、課題も指摘され、改正法に盛り込まれなかったものと承知しています。   もっとも、近時の捜査・公判実務においては、防犯カメラ設置台数の増加や犯罪組織によるSNS等の通信ツールの活用が拡大していることなどから、例えば、防犯カメラ映像の解析・精査のほか、携帯電話・パソコン等の電子機器内のデータの解析・精査等に多くの時間・労力を要するようになっているなど、捜査・公判上の負担が極めて増大しており、この傾向は今後も変わらないと見込まれることからすれば、刑事司法制度の効率的運用という観点は、今後一層重要となるものと考えられます。そこで、有罪答弁制度については、様々な課題が指摘されているものの、自己負罪型の合意制度と併せて、私も継続的に検討していく必要があると考えています。 ○中野参事官 それでは、この事項に関連し、「即決裁判制度の対象事件を拡大すべきか」について、御意見がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 現行の即決裁判制度の構造と運用状況を踏まえますと、対象事件を拡大しても利用が拡大することにはつながらないと思われます。   現行の対象事件は、検察官が「公訴を提起しようとする事件について、事案が明白であり、かつ、軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当と認める」事件であって、「死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる事件」を除く事件とされています。仮に即決裁判制度の対象事件を拡大するとすれば、検察官の考慮事情の一つとされている「軽微であること」を削除することが考えられますが、即決裁判制度においては、「拘禁刑の言渡しをする場合には、全部執行猶予の言渡しをしなければならない」ものとされていることが、事実上対象事件を限定していることから、その点も改めなければ拡大にはつながらないと思われます。   一方で、即決裁判に同意しても、全部執行猶予の言渡しになるとは限らないということになると、逆に、被疑者側が即決裁判に同意することをためらうケースも増えると予想されます。被疑者にとっては、量刑の予測可能性があることが、即決裁判に同意する上で重要であることから、仮に拘禁刑の実刑判決を言い渡すことができるようにするのであれば、ある種の量刑合意のようなものが必要となり、そうすると、合意制度によって求刑の合意が成立している事件が対象となり得るのかもしれません。ただ、その合意制度の施行状況も踏まえると、その効果はかなり限定的であり、自白事件の簡易迅速処理を実現するためには、やはり先ほど申し上げた有罪答弁制度の導入を検討すべきであると考えます。 ○成瀬構成員 先ほど佐藤構成員が指摘されたように、平成28年改正後も即決裁判手続の利用件数が全体的に減少しているという現状においては、現行の即決裁判手続の制度枠組を前提とする限り、対象事件を拡大するなどしても、制度の活用を図ることは難しいと思われます。河津構成員の御発言は、このことをより具体的に御説明下さったものと受け止めました。   よって、即決裁判手続について更なる改正を行う必要はないと考えます。 ○中野参事官 それでは、次に、「附則第9条第3項の事項のうち、証人等の刑事手続外における保護に係る措置」に関する意見交換を行いたいと思います。この点について、第1段階における御議論も踏まえ、御意見がある方は、御発言をお願いします。   特段ございませんでしょうか。   それでは、御意見がないとお聞きしました。   本日予定していた議事につきましては、これで終了しました。   本日までの協議により、第2段階の協議として、平成28年改正に係る9項目の制度全てと附則第9条第3項の事項について、第1段階における御議論を踏まえた意見交換を行うことができたと思います。   この際、何か御発言がある方はおられますでしょうか。 ○佐藤構成員 前回会議において、事務当局から、最高検において、一定の在宅事件の検察官による被疑者取調べについて録音・録画を試行することとした旨の御説明がありました。その取組状況につきまして、宮崎構成員にお尋ねしたいのですけれども、いかがでしょうか。 ○宮崎構成員 前回会議において事務当局から説明があったとおり、検察においては、本年4月1日から、一定の在宅事件、すなわち、公判請求が見込まれる事件であって、事案の内容や証拠関係等に照らし被疑者の供述が重要であるもの、証拠関係や供述状況等に照らし被疑者の取調べ状況をめぐって争いが生じる可能性があるものなど、被疑者の取調べを録音・録画することが必要であると考えられる在宅事件の検察官による被疑者の取調べについて、録音・録画の試行を開始したところであります。   近時、在宅事件であっても、公判請求後に被告人が捜査段階の自白を覆し、否認に転じる事案などが散見されるようになっており、公判において、捜査段階の被疑者の供述及び取調べ状況を的確に立証するため、より積極的な対策が求められるところです。また、昨今、検察官の取調べの適正が問題視される事案が少なからず存在し、国民からの厳しい批判の目にさらされており、適正な取調べの実施は検察にとって最重要課題の一つであります。そこで、今般、取調べの適正確保にも資する取組の一つとして、取調べの録音・録画の試行対象を拡大することとしたものであります。   検察としては、こうした試行の趣旨や在宅事件の特性等を踏まえつつ、必要な事案において、適切に録音・録画を実施していくものと認識しております。   本年4月1日の試行開始前に録音・録画が実施された在宅事件の件数を網羅的に把握していないので、試行開始前との比較をお答えすることは困難ですけれども、捜査実務に携わる中で、各地検において、事案に応じて積極的に在宅事件の録音・録画を試行していると聞き及んでおります。 ○佐藤構成員 詳しく説明していただきまして、ありがとうございました。   今の御説明を受けて、意見を申し上げます。在宅事件の被疑者に対する取調べを録音・録画制度の対象とすべきかについては、この協議会においても意見が分かれたところでした。しかしながら、取調べの録音・録画の持つ二つの機能、裁判所による供述の任意性・信用性の判断を容易にすること、そして、取調べの適正化に資することに照らしたとき、従前、在宅被疑者の取調べにおける供述についても任意性や信用性が争われる事例は実際にありましたし、また、この協議会でも紹介のありましたとおり、広島の公職選挙法違反事件のように、被疑者の取調べにおいて不適正な行為を行ったと認定された事例も存在していたわけですので、いずれの立場からも、今般の検察における試行拡大につきましては、一定の前進という評価ができるのではないかと考えております。   本年の4月1日に試行対象を拡大してから、まださほど時間が経っておらず、その評価に十分な情報はありませんけれども、まずは、着実に取り組んでいただくことを期待したいと思います。 ○河津構成員 もしお分かりでしたら、宮崎構成員に教えていただきたいのですが、本年4月1日に試行を開始されて以降、検察官による在宅被疑者の取調べのうち、どのくらいの割合で録音・録画の試行は行われているものなのでしょうか。ざっくりとした割合でも、感覚的なものでもいいので、もしお分かりでしたら教えてください。 ○宮崎構成員 私自身、統計を把握しているわけではありませんので、何とも申し上げようがないです。 ○河津構成員 ざっくりとした感覚的なものも、御説明いただくことは難しい状況ということでしょうか。 ○宮崎構成員 そうですね。 ○河津構成員 理解いたしました。 ○中野参事官 その他、この後の進行について、何か御意見ある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○佐藤構成員 本日までの協議により、附則第9条において検討が求められている項目について、制度運用における課題をめぐる、2段階の議論が一段落しましたことから、大変僭越ではございますけれども、次回以降の議論の進め方について、構成員の皆様に提案をさせていただきたいと思います。   本協議会におきましては、令和4年7月開催の第1回会議から本日まで、約3年にわたって、合計19回の会議を開催し、平成28年改正刑訴法に関する刑事手続の在り方について議論を重ねてきたところです。この間の協議によって、第1段階では、附則第9条において検討が求められている項目について、項目ごとに、事務当局や構成員の皆様から提出された資料、御説明、質疑により、実務の運用の状況に関して幅広く情報を共有することができたのではないかと考えております。   その上で、第2段階では、第1段階における情報共有を前提に、項目ごとに論点を整理し、制度の運用に関して検討すべき課題につき意見交換を行う過程で、各構成員の問題意識が明らかにされ、制度運用に対する評価や改善すべき点のうち、重要と考えられるものについては、一通り御意見の披瀝がなされたように認識しております。   もとより、各構成員の御認識・御意見が一致しない点も見受けられるところですけれども、事柄の性質上、もともと関係者の間で一致が難しい問題が含まれております上、先ほど申し上げましたとおり、本協議会の議論が既に3年になろうとしておりまして、附則第9条において検討が求められている項目には、法律の公布後、必要に応じ、速やかに検討を行うものとされているものも含まれておりました。   そこで、いま述べました事情に鑑みまして、このあたりで議論の取りまとめに入ることにしてもよいのではないかと考える次第です。   なお、この種の協議会の議論の取りまとめの方法に何か決まったものがあるのか存じませんけれども、取りまとめに当たっては、大変お手数ながら、ひとまず事務当局において、これまでの議論を基にしたたたき台を御作成いただいて、それを基に更に議論を深めることにしてはいかがでしょうか。 ○中野参事官 先ほどの御提案について、何か御意見ございますでしょうか。   特段御異論ございませんでしょうか。              (一同異議なし)   そうしますと、先ほど御提案いただいたとおり、まずは、事務当局においてたたき台を作成しまして、次回はそれを基に御議論いただくということで、御異論ないとお見受けしました。そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   第20回会議の日程は、追ってお知らせします。   本日の会議の議事におきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。 -了-