法制審議会 民法(成年後見等関係)部会 第18回会議 議事録 第1 日 時  令和7年4月15日(火)自 午後1時15分                     至 午後6時05分 第2 場 所  法務省地下1階 大会議室 第3 議 題  1 法定後見制度に関するその他の検討事項         2 任意後見制度における監督に関する検討事項         3 任意後見制度と法定後見制度との関係         4 任意後見制度に関するその他の検討         5 その他 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山野目部会長 法制審議会民法(成年後見等関係)部会の第18回会議を始めます。   本日も御多用の中、御出席を賜りまして誠にありがとうございます。   本日は、久保野委員、櫻田委員、小林幹事及び杉山幹事が御欠席でいらっしゃいます。   本日の審議に入ります前に、配布資料の説明を事務当局から差し上げます。 ○柿部関係官 それでは、配布資料について御説明いたします。   本日は、新たな部会資料として部会資料14を配布しております。資料の内容については後ほどの御審議の中で事務当局から御説明差し上げます。   このほか配布資料といたしまして、山下幹事から「預金取引に必要な意思能力の考え方の整理」、根本幹事から「預貯金取引の代理権の必要性が喪失する場面についての整理」と題する資料をそれぞれ提出いただいており、事前に配布しております。 ○山野目部会長 御紹介を差し上げましたとおり、本日はいずれも預貯金の取引に関係する山下幹事及び根本幹事からの資料の提供を頂いております。両幹事におかれましては準備に労を割いていただいたことに御礼申し上げます。両幹事からそれぞれ提出いただいた資料について、そのあらましの説明を頂きます。その後、若干の時間を設けまして、それぞれの資料や、それについてこれからお願いする説明につきまして委員、幹事からのお尋ね、意見表明を承りたいと考えます。   初めに、山下幹事からお願いいたします。 ○山下幹事 それでは、お時間を頂きまして、私の方から御報告を差し上げます。   預金取引に必要な意思能力の考え方の整理ということでございまして、問題意識としては、1に掲げてあるように、預金取引について意思無能力のために預金取引自体が無効になってしまったというような場合に、預金残高が減らずに銀行が損失を被るという可能性がどのぐらいあるのかということについて整理をしたものです。結論から申しますと、普通預金口座から少額の払戻しをするという場面に限定して考えるならば、預金の払戻しが意思無能力により無効となるリスクというのは、あるいは銀行が損失を被るリスクというのは、ほとんどないのではないかということをこちらで主張したいということで、資料を作っております。   2以下はその理由ですが、2は意思能力について幾つかの立場から定式化を図るということをしております。詳細は省略いたします。その上で、3のところで普通預金の払戻しの場面において、どの程度の能力というか認識が本人にあればいいか、あるいは認識する能力があれば取引が有効と見られるかということについて、それぞれの立場から、どの程度の認識が必要だろうかということを書いております。①から③となっていて、③の方がより無効になりやすいという立場で書いているつもりです。いずれにしても、③の立場を採ったとしても、それほど大きく無効になるという可能性はないのではないかというような話をしております。   ただ、無効になるリスクが全くゼロになるわけではないということになりますので、そこはもちろん、非常に限定された場面では銀行取引が無効になってしまう可能性というのは、現行の民法の制度を前提にする場合の解釈論としては、あり得るだろうということになります。そこで、どのような形でよりリスクを低めていくかという話については、この後多分、根本幹事が御報告をなさると思いますので、私からは民法の立場では大体、少額のものの普通預金口座の払戻しであれば、意思無能力になる可能性というのはゼロではないけれども非常に低いという話を報告させていただきます。 ○山野目部会長 続きまして、根本幹事、お願いいたします。 ○根本幹事 今日お配りさせていただいているペーパーにつきまして、現在、終われるようになる後見ということを検討して法改正の議論をさせていただいているわけですが、実務上大きく懸念される点といたしまして、終われるとなった場面で金融機関での取引がどのようになるのかということが、金融機関の口座は公共料金の引落し、各種福祉サービスの利用料の支払い、逆に収入では年金や給付金などの受け取りですとか、最近はキャッシュレス決済の決済口座など、日常金銭管理とは切っても切り離せない関係にあるといえると思います。途中で終了した場合の金融機関の対応について、理論的には、山下幹事から御案内を頂いたとおりかと思いますけれども、金融機関の窓口実務上の課題も生じてくるかと思いますので、整理を試みたというものになります。   預貯金取引の代理権が付与されている場合の終了の場面を想定するということになりますし、その中でも代理権付与時に預貯金取引について取引能力を理由に開始をしていると、その場合に代替手段による終了、能力回復、死亡による終了という以外の事由による終了が認められるというためには、今申し上げましたように、能力論という意味での法的な課題だけではなくて、金融機関が取引に安定的に応じられるかという観点からも検討されることが必要になります。   ①、②、③とありますが、本人が単独で取引できる場合の①については、社会モデルという観点を含めた能力回復ということもあると思いますし、次にあります本人単独取引を補助する仕組みということを活用していくということもここに含まれると考えることもできるのだろうと思います。この本人単独取引を補助する仕組みの例として考えられるのが、一番下にあります事実上の支援という提案も検討できるのではないかと思いますし、②として補充性の原則の適用ということで、新しい日自も含めた日自や即効型の任意後見、それから信託商品などを中心とした金融サービスの活用、任意代理、自動引落しの設定、これらを全てここに位置付けてよいのかというところは、また先生方によって御議論はあるかと思いますが、一度整理を試みたということになります。   今後、検討課題としましては、事実上の支援というものについて、現場でスムーズに取引ができるようにする、そういった仕掛けをいかに用意できるかということもあると思いますし、②に書かせていただいているそれぞれの利用形態について、金融機関でできるだけ統一的な取扱いをお願いすることができるのかどうかということも検討課題になってくると思っています。それから、今後終われる後見ということを考えていく上で、比較的大きい金額を御本人が保有されている場合に、②に書かれているような様々な手段とあいまって、後見制度を継続するということだけが選択肢ではないということを、金融包摂の観点から見て提案できる枠組みを引き続き検討しなければいけないと考えております。 ○山野目部会長 両幹事におかれましては誠にありがとうございます。ただいまのお二人のお話につきまして質問や意見を承ります。いかがでしょうか。 ○佐久間委員 根本幹事に質問です。ほかの方には常識なのかもしれませんけれども、分からないので教えてください。「社会モデルによる」能力回復というのは、どういうことを意味している、どんな場面を指しているのでしょうか。皆さんにとって常識だったらごめんなさい、私は分からなかったので。 ○根本幹事 成年後見制度利用促進基本計画にも記載があるのですが、医学モデルは、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、専ら心身の機能の障害に起因するとする考え方で、社会モデルは、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるとする考え方です。いわゆる事実上の支援は、それが本人に対する不当な影響を及ぼすものでない限り、社会的な若しくは福祉的な支援が入ることによって御本人が取引できるという場面もあるだろうと考えておりまして、その趣旨を含んで、ここで書かせていただいているということになります。 ○佐久間委員 能力回復ということは、法定後見の制度が開始したときにはそのような本人の周りの状況が整っていなかったのだけれども、その後整ったので、ということを考慮するということですか。 ○根本幹事 はい。 ○佐久間委員 分かりました。ありがとうございます。 ○佐野委員 ありがとうございます。まず、山下幹事に御整理いただいたところから少しコメントさせていただきます。本部会においては、終われる後見制度の導入に向けまして審議が進んでいるものと理解しておりまして、導入された場合には、必要性が喪失されれば、判断能力が十分でない人でも成年後見制度が終了するということも考えられると理解しております。このような場合には今後、判断能力が十分でない人も銀行と預金取引を行う場面というのが増えると想定されることを踏まえて、御整理いただいたものと認識しております。ありがとうございます。   まず、2番の意思能力の定式であるとか3番のところで御整理いただいたところで、預金取引に必要な判断能力としては、今回論点に挙げていただいております預金取引の結果を認識可能というところだけでなく、預金取引に関する記憶があるかという観点も考慮すべきではないかと考えております。具体的に申し上げますと、カードや通帳を繰り返し喪失、再発行するお客様であったり、同様の入出金を日々繰り返し実施するようなお客様に関しても、その都度の取引に関して認識さえあれば預金取引を実施する判断能力があると判断してよいのかという点が、取引の相手方となる立場の銀行としては、財産管理責任は預金者本人にあるから金融機関に責任は生じないと理解できるものかという点が気になっております。   また、無効リスクの考え方のところに関してですが、本人が意思無能力だと判定がされまして取引が無効となった場合に、本人は現存利益を銀行に返還することになるので、日常生活費程度の払戻しであれば法的には銀行が負うリスクというのが限りなく小さくなるという点は理解いたしました。   しかし銀行の実務において、訴訟などを経ることによって後々本人から返還を受けられる見込みがあるというものについて、無効リスクが僅少かというと、そこは慎重に検討すべきポイントだと考えております。各銀行は日々、何千件もの口座出金等の手続に対応している中、権限や判断能力に疑わしい点があった手続全てについて、訴訟等を経て利益の返還に尽力するということはできず、時間であるとか費用であるとか人的リソースなどの経済的合理性に鑑みて対応を決定しているという実態があります。そのような要素を勘案しました結果、法的には現存利益の返還請求が可能であるとしても、訴訟提起等を行わず、やむなく二重払い等を受け入れざるを得ないという判断に至る事例も多くあると理解をしております。   つまり、銀行の実務においては、無効となった際に払戻しした預金の返還が受けられるか否かという点はもちろんのこと、そもそも取引が無効となってしまうリスクを回避できるということが重要であると考えております。よって、預金残高であるとか払出金額にかかわらず、判断能力が不十分な方による出金が無効になる懸念が高いということで、取引は敬遠せざるを得ないと考える銀行は相応にあると考えております。   あわせて、取引上限金額を定めることができる普通預金を設けるという案も御提案いただいているところですが、ここは対応できる銀行が少ないのではないかという印象を持っております。システム開発が必要になってしまう銀行であるとか、取引上限額は窓口での手管理として、出金手続や窓口の受付のみとするような銀行が大半になると思われますので、すべからく全銀行で本人の利便性が高い口座として提供することは少し難しい、困難であると考えております。   次に、根本幹事に御整理いただいた部分についてもコメントさせていただきます。本人が単独で取引できる状態の場合は、本人の能力及び環境が単独取引をするに足る状況となっていることを終了の審判書等で確認ができると、各金融機関の受付判断は円滑になると考えております。また、本人取引の位置付けでありながらもサポート支援、付添いが付くような環境というのも想定されると思いますが、その支援が適切であるか、例えば悪意を持った支援者によって本人の意思が尊重されない事態となっていないかという点を都度、取引時に窓口担当者が判断するというのは少々困難に思われます。   この判断の一助として、例えば、預金者を支援する支援者が国や自治体等の公的機関が適切と認定した人物、組織であることを確認した上で取引を行いたいと考えておりますので、そのような支援者の認定制度があると有り難いと考えております。支援者をあらかじめ金融機関等に届け出る支援者登録制度については、各金融機関において受付に係るシステム構築などが発生することも考えられますので、対応が困難となる金融機関も出てくる可能性はあると考えております。ですので、慎重に検討する必要があると考えております。   ここで、すみません、第15回の2月25日の部会で当方が持ち帰ったところに関してのお話も続けてよろしいでしょうか。 ○山野目部会長 お願いします。 ○佐野委員 ありがとうございます。こちらで保護者の交代であるとか第17回の終了のところの論点で申し上げた取引の相手方の保護というところで、現存の民法で保護されるのかというところの論点の宿題を頂いておりました。こちらについて、条文等の新設は不要だと考えております。   まず、民法112条については、他人に代理権を与えた者についての表見代理が定められておりますところ、法定代理人に代理権を与えているのは本人ではないので、後見の場面では本条は適用外かと考えております。そうすると、この法律に基づきまして銀行が無権限者に預金を払い戻したことについての効果は預金者本人に及ばないと考えられるので、銀行としては二重払いを強いられることになると考えております。一方、民法478条については、受領権者に制限行為能力者の法定代理人が含まれると解されていることからしますと、その外観を有する者に対してしました弁済が善意無過失であった場合に、免責を受けられる余地はあると考えております。   ですので、保護者の交代に関する論点や法定後見終了の論点でも申し上げましたとおり、取引の相手方である銀行は、終了されたという事実を認識する方法は旧保護者による取引の相手方である銀行への届出、連絡になると考えておりまして、銀行への届出がない場合に、民法478条に基づきまして弁済の善意無過失を主張することは可能と考えております。届出を受けなかった場合の免責について、あえて明文化を求める必要はないと考えております。この点は、参加者の皆様におかれましても、届出がない場合に金融機関が免責を受けることについて認識の相違があれば、御指摘いただけますと有り難いと考えております。 ○山野目部会長 ただいまの佐野委員のお話の前の方の山下幹事及び根本幹事から出していただいた資料についての論評は、意見であると承りましたから、両幹事におかれて特に何かありましたならば、御発言を求めていただきたいと望みます。   その点も含めて、引き続き委員、幹事の御発言を承ります。いかがでしょうか。 ○佐久間委員 最後におっしゃった、今日のお二人の話とは別のことでもよろしいでしょうか。 ○山野目部会長 お願いします。 ○佐久間委員 よく理解できなかったところが2点あったのですけれども、一つは、佐野委員が最後におっしゃったことについて、銀行に対して、預金取引をする権限のある人として本人以外の人を届け出た場合に、その届けの撤回というのでしょうか、がなければ、法定後見の法定代理権が消滅しても、銀行としては当然に代理権があるものとして扱ってよいのだということをおっしゃったのかどうか。仮にそうおっしゃったならば、それはおかしいと私は思います。銀行との関係での任意代理だったらいいと思うのですけれども、法定代理権というのは銀行と直接関係ないところで発生し、消滅するものなので、もしそうだったらおかしいと思うのが1点です。   もう1点は、これは銀行取引に限らないのですけれども、銀行取引でいうと、弁済については478条で保護されるというのはそのとおりで、心配ないとおっしゃるとおりだと思います。でも、弁済に含まれる範囲というのは、それなりに拡張されているとはいえ限られているので、それ以外の取引場面では112条によるしかないはずだと思います。ところが、112条は今おっしゃったとおり法定代理権の消滅には適用がないから、その点で銀行は心配ないとお考えになっているというのが疑問の2点目です。もし心配ないと銀行が思われていたとして、銀行はそうかもしれないけれども、法定代理の相手方になるのは銀行だけではありません。今までは基本的にはこの種の法定後見制度における法定代理権というのは、本人の能力回復以外ではそう簡単に消滅しないというのが前提にあったので、この112条のままでよかったと思いますけれども、これからそうではなくなるということになると、未成年者の方は関係ないと思いますが、112条をこの成年後見制度における法定代理権消滅についても適用できるようにするのか、それとは外枠で、ここでの法定代理権の消滅についての相手方保護の規定を設けるのか、何もしないのか。もちろん何もしないというのもあり得ると思いますが、それは検討しなければいけないのではないかと思います。 ○山野目部会長 ただいまの佐久間委員の御発言は、佐野委員のお話の後半の部分を受けてのお話でした。佐野委員からこの段階で何かお話がありますれば、御発言をお願いしたいと考えます。 ○佐野委員 今、佐久間委員からお話しいただいた部分の前者のところ、答えになっていなかったら申し訳ないのですけれども、当方が申し上げておりました旧保護者による銀行への法定後見の終了の届出、連絡というところは、誰が代理権がある人ですよという届出ではなくて、この法定後見が終了しましたという事実を教えてもらえなければ、銀行は知ることができないですよねということを申し上げた意図になります。   後段の部分については、すみません、今こちらの回答のところを持ち合わせていない部分がございますので、一度持ち帰りとさせていただければと思います。よろしくお願いします。 ○山野目部会長 佐野委員が前段でお話しになったことの意味を確かめますけれども、届出されている者について、その状況が変わったという連絡がなければ、事実として銀行の方は気付かないという、単なる事実の因果がそうなるということをお話しになっているということにとどまると受け止めてよろしいでしょうか。 ○佐野委員 はい、今おっしゃっていただきましたとおりになります。 ○山野目部会長 そうすると、佐久間委員の御懸念の点は、法律論まで及んでいないというお話ですから、届出のところを訂正しない限り法定代理権が続くということはないというところまで今、お二人のお話は進んで、一致を見たというふうに聞こえましたけれども、佐久間委員におかれてもこの整理でよろしゅうございますか。何か御発言があれば。 ○佐久間委員 銀行がそれでいいとおっしゃるのだったら、それでいいのですけれども、でも、法定代理権はもうそれで消滅してしまっているわけですよね、銀行には分からないけれども。無権代理人と取引している状態が続くことについて、いいのかというのが素朴に。いいとおっしゃるなら、銀行限りではいいと思いますが、ほかの取引相手にはそれではやはり困るという方がたくさんおられると思うので、それはそれで考えなければいけないと思っています。 ○山野目部会長 よく分かりました。今の点は引き続き検討しなければいけないと感じます。   ほかに御発言があれば承ります。 ○根本幹事 私が申し上げることではないのかもしれませんが佐久間委員と佐野委員とのやり取りは、開始時にどういうことを銀行に届け出るのか、若しくは開始された、代理権が付与されたということについて登記事項証明書がどのような記載になるのか、若しくは期間の議論において部会資料13でも御整理いただいていますが、期間の整理がどのような理屈になるのかということによっても変わってくる議論だろうとは思っていますので、そのようなことを前提としたお二人の議論だという理解になると申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 お話を承っておくことでよろしいですね。 ○根本幹事 はい。 ○山野目部会長 ほかにいかがでしょうか。   よろしいでしょうか。それでは、お二人の幹事から提出していただいた資料についての意見交換をここまでとし、この際、私の方から3点ほど整理で申し上げておくということにいたします。   預貯金取引が、取り分け後見類似の本人のための制度が終了した後においてどのように展開していくかということを検討しておくという課題は、極めて重要であります。ここで進めている法制の検討において重要であるという認識の下でお話を進めなければなりません。法律が出来上がってから運用で関係者が悩めばよろしいですね、ということで済む話ではないということは委員、幹事におかれて既に御理解いただいているとおりでございます。ここでの法制の立案検討においても、そのことについてある程度の見通しが必要ですし、これから、中間試案で社会の各方面の意見を問う際にも、さらには法律の立案を経て両議院の審査を受ける際においても、そのことがどうなるでしょうということについて全くイメージを持ち合わせていませんというわけにはまいりません。当然そのことを懸念しておられることから本日、おふたりの幹事から2点の資料の提供を頂いたものであります。   それをめぐって御議論いただいたところが有益であったと感じまして、その上で3点の御案内を差し上げますと、1点目は理論的な整理でございますけれども、山下幹事から御提供いただいた資料に基づく、意思無能力が預貯金の取引の関係でどのように働くかということについての整理は、山下幹事のお話を受け止めて、よく理解をすることができました。本日、委員、幹事から特段のこれを受けての御発言はありませんでしたけれども、山下幹事がここまで整理していただいたところを踏まえて、引き続きこの方面についての検討を進めていかなければならないという課題があるということを確認しておきます。   2点目でございますけれども、より実務的な問題として、意思無能力の問題がどのようになるかという理論的な整理を措くとして、そこがどのようになるとしても、現場の窓口においては円滑な預貯金の取引が本人を取り巻いて進められなければなりません。そのための取引の枠組みというものは、新しい成年後見制度を前提として考案される必要があるでしょう。本日、根本幹事にその観点からの現時点での可能な整理をしていただきました。これを踏まえてこの後、金融機関、関係団体を含めてどのような検討の場を設けて、この新しい取引の仕組み、枠組みの検討を進めたらよいかということについて、今日を皮切りとして関係者において御検討いただきたいということを要請しておきます。重ねて申し上げますと、法律が出来上がってから、どっこいしょといって運用を考えましょうというリズムで済む話ではないということを御理解いただいているとおりでございますから、どういうふうに検討を進めたらよいかということを今から考え始めなければなりません。   3点目でございますけれども、法定代理として与えられてきた権限が消滅した後、しかしそのことを取引の相手方が必ずしも直ちに情報として把握して、知るとは限らないということに関連して、どういうふうな法制上の対応が考えられるか、あるいは法制上の対応の必要がないと考えられるかということをめぐっては本日、佐野委員と佐久間委員との間で御議論がありました。何も規定を設ける必要がなくて、従来の民法の規定の規律内容を確認して進めることでよいということを佐野委員からお話しいただいて、余り負担感のないお話を頂いたと一安心しようとしておりましたが、佐久間委員から御注意いただいたことを聞くと、もしかすると必ずしもそうはいかないかもしれません。佐久間委員がおっしゃったとおり、従来、法定代理権については、それが生じたけれども消滅するという場面が、少なくとも成年後見制度に関しては、現場でほとんどなかったものですから、この問題が現実問題として顕在化しておりませんでしたけれども、これからは正にそこが顕在化いたします。任意後見契約に関しては11条で、代理権の消滅を善意の第三者に対抗する可能性を特別に開く規律を設けているところでございまして、従前の法制上の取組も参考としながら、今後ここで検討していく法制の中で、この立法課題についてもどういうふうな出口が考えられるかということについて、本日の議論を参考として、委員、幹事におかれて引き続き考えをめぐらせていただければ有り難いと考えます。預貯金の取引について有意義な意見交換をしていただきました。どうもありがとうございました。   部会資料14の検討に入ります。初めに、部会資料14の第1の1から6までについての審議をお願いすることとし、事務当局からこの部分についての資料説明を差し上げます。 ○山田関係官 部会資料14の2ページから第1の1から6までについて御説明いたします。   まず、2ページからの1では、法定後見制度の本人の相手方の催告権について記載しており、基本的に現行法の規律を維持するものとして整理しています。   また、9ページからの2では、本人の詐術について整理しています。   そして、14ページからの3では、意思表示の受領能力等について記載しており、意思表示の受領能力(2)において、意思表示を受領する権限を有する者を選任する仕組みについて、それぞれ整理しています。   さらに、21ページ目からの4では、成年被後見人と時効の完成猶予について、24ページからの5では、受任者が法定後見制度を利用したことと委任の終了事由等について、さらに、31ページからの6では、成年被後見人の遺言について、それぞれ整理しています。 ○山野目部会長 説明を差し上げた1から6の部分につきまして御意見を承ります。 ○小澤委員 第1の1から6について、論点として部会資料の記載のとおり取りまとめることに異論はありません。その上で、1点だけ意見を述べさせていただきます。   3の意思表示の受領能力等についてですが、この論点は前回部会で議論した法定後見の開始の要件の論点の中で、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設ける制度とするか否か、という中に取り込んだ案とした方が分かりやすいのではないかと思いました。 ○山野目部会長 御意見を承りました。   引き続き伺います。 ○野村幹事 部会資料の太字の部分については異論はございませんが、説明の部分について幾つか意見を述べさせていただきます。まず、相手方の催告権のところなのですけれども、5ページの7行目の事理弁識能力を欠く常況にある者についての説明ですが、「不安定な立場に置かれることが想定され、そのような規律でよいか検討を要すると思われる」と修正してはいかがでしょうか。これは、8行目の記述と、8行目以降の事理弁識能力が著しく不十分な者については、制度終了後に事理弁識能力が回復していなくても、催告に対する確答を発しないときに追認したものとみなすという効果が生じることの是非の検討についての記載があるため、バランスをとる必要があるのではないかと思います。   続いて、6ページの25行目からの説明ですが、制度利用時と制度終了時では保佐人の有無という大きな違いがあり、制度終了時に何らの手当てもなしに不利益が生じないと評価することは難しいと思います。そこで、「見直し後の制度において、制度終了に当たり、本人に必要な支援の構築が適正になされるのであれば」というような文言を追加してはいかがでしょうか。   続いて、本人の詐術ですが、乙案については、なぜ乙案がここで提案されているかが一読して分かりにくいようにも思われましたので、「制限能力者の保護と取引の安全との調整をより図る」との乙案が今回の見直しにおいて提案された理由について、説明を加えた方がよいのではないかと感じました。   続いて、意思表示の受領能力等のところなのですが、18ページの32行目以降の甲案に対する指摘の再指摘として、「そのような場面でこそ成年後見制度が必要とも思われる」との記載を追加していただけたらと思います。本人について意思表示の受領能力に問題がある場合は常に訴訟提起をしなければならないことになるとの記載について、例えば、債権者から督促を受けていて本人だけでは対応できないようなケースにおいては、本人側から見れば意思決定の支援を受けるべき場面であって、意思表示の受領だけの問題ではなく、正に成年後見制度を利用する場面ではないかと思います。19ページの9行目以降の事例の場面についても同様の指摘ができると思います。   あと、20ページのウの乙案に対する指摘等ですけれども、部会では、意思表示の到達だけが問題になる事例はほとんどなくて、結局は再度の成年後見制度の利用を検討する場面がほとんどであるですとか、98条の2は無効ではなく対抗要件であるとの指摘ですとか、また、債権者等の利害関係者による申立てができるとすると、制度利用時と異なって本人の意思の尊重が図れないおそれがあるとの指摘があったと思いますので、そういった指摘についても記載していただけたらと思います。   あと、委任の終了事由のところなのですけれども、26ページの11行目のところですが、「委任の性質から、そのような負担を委任者に課すことが相当かという点は問題となり得る」との記載があるのですが、一読して、委任の性質からの文言だけでは分かりにくいと思いましたので、「本人が法定代理人の状況を適切に確認することが通常は困難であるということと比較した上で」という文言を挿入してはいかがでしょうか。   続いて、29ページの24行目に、「その合意をするにも委任者に負担が生じる」との記載がありますが、どのような負担が生じるのか明確でないように思いますので、この部分は削除してもいいのではないかと感じました。   最後になりますけれども、30ページの30行目ですが、「状況が異なる部分があるとの意見があった」という記載があるのですが、この文言のみでは分かりづらいので、その頭に、「代理人の行為をコントロールすることについての期待可能性という視点からすると」といったような文言を挿入してはいかがでしょうか。 ○山野目部会長 細目にわたる御検討を頂き、ありがとうございました。   引き続き伺います。 ○佐保委員 私から3点申し上げたいと思います。   まず、9ページからの本人の詐術のところでございますが、制限行為能力者の保護と取引の安全とのバランスは、本人が詐術を用いたと認識しているのか、その詐術の程度、不利益の評価など様々なケースが想定され、一律に規律を設けることは難しいのではないかと考えております。そうした観点から、個別に判断できる余地を残す必要があるのではないかと考えておりますが、当事者からは具体的な事例をもって様々な意見があることが想定されます。そのため、甲案、乙案としてパブリック・コメントに付す方向性に異論はございません。中間試案に向けて更に乙案を詰めたいという事務局の意向があれば、ほかの委員の先生方の意見もお伺いした上で考えたいと思います。   続いて、14ページからの意思表示の受領能力等についてです。意思表示の受領能力についても、先ほどの本人の詐術と同様に、様々な場面が想定されます。事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合においても、保護者に受領を求められる意思表示に関する代理権や受領する権限の付与ができる仕組みは必要ではないかと考えております。   最後、21ページからの成年被後見人と時効の完成猶予についてです。以前の部会で、特定の法律行為について保護者に権限を付与する仕組みのみを設けると設けるものとする場合でも、保護者がいなくなった場合など、その特定の法律行為について時効の完成猶予など何らかの保護を設ける必要はないのか、問題はないのかといった懸念がある旨の発言をさせていただきました。その懸念も含めて、パブリック・コメントで御意見を頂きたいと思います。   その他の項目については異論はございません。 ○上山委員 ここまでの取りまとめに大きな異論はないということを前提にした上で、4の時効の完成猶予について2点、6の成年被後見人の遺言について1点、簡単に意見を申し上げたいと思います。   1点目は、先ほど佐保委員が最後におっしゃっていただいた点と同じでして、仮に事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合について、なお検討の余地がないかということを注書き等で残していただけると有り難いと感じました。   これに関連してということになりますが、158条1項は成年被後見人だけではなくて未成年者も対象にしている規定だということになります。言うまでもなく未成年者については、その全てが事理弁識能力を欠く常況にある者ではございませんので、そうすると、理論的には、事理弁識能力を欠く常況にある者の保護だけよりも、もう少し幅広なものがこの保護の対象になり得る気がします。ここは元々前回改正のときに禁治産者という文言を現在の成年被後見人に改めたのかと思いますけれども、その規定の流れからしても、未成年者と禁治産者ないし現行の成年被後見人とが同列に並べられているということは、御本人の判断能力の程度だけではなくて、むしろその保護者に包括的な法定代理権があるということを念頭に置いた規定ではないかという気もいたします。そうであるとすると、逆に、事理弁識能力を欠く常況にある者について保護の仕組みを設けるとしたとしても、包括的な法定代理権を外すということになると、158条1項との関係性はなお検討の余地があると感じました。   2点目ですけれども、これは非常に小さな点で恐縮ですが、甲案、乙案いずれを採ったとしても、2の意思表示の受領能力のところで、仮に乙案、つまり本人に代わって意思表示を受ける者を選任するという考え方を立法として採用した場合には、この者を158条1項のところに組み入れるという考え方があり得るのではないかと感じました。もちろん、これは飽くまでも、そういう立法を採った場合という話にとどまります。   最後ですが、6の成年被後見人の遺言についてなのですが、この辺の整理に特段異論はございませんが、私が気になったのは966条の整理、つまり、いわゆる利益相反の取扱いについて同じように整理されているのかという点です。966条の取扱いについてどう考えるかというのは、遺言ができるかできないかという規律の問題とは別に考慮する余地があるのではないかと思います。この規定が念頭に置いている本人と保護者との利益相反の関係というのは、実は現行の補助や保佐の類型でも同じような潜在的な課題はありますので、例えば家裁の許可の仕組みを入れるといった手立ての要否などを含めて、966条の規定の在り方についても少し議論をする余地がまだ残っているのではないかと感じました。 ○佐久間委員 何点かあります。まず全体として、前回も申し上げたのですけれども、前回の第1の1の甲案、つまり現在の3類型を基本的に維持するという場合についてはほとんどこの資料では考慮されていないので、前回のお願いと同じく、前回の甲案が残るのであれば、この資料にもこうなるというのを入れていただきたいというのが1点目です。   それから、本日の資料の第1の1、本人の催告権に関しまして、先ほどどなただったかな、野村幹事もおっしゃったところなのですが、6ページの25、6行目ですかね、催告を本人が受けた場合に、「誰か適切な者に相談するなどして自己に不利益が生じないように適切に対応することを期待することができ」、「不相当に不利益を生ずることはない」と書かれているのですけれども、これを言ってしまうと、そもそも保佐の対象者、補助の対象者というのは、何かするときに誰かに相談して適切にやることがいろいろできますよねとなってしまうので、理由付けとして余り適切ではないのではないかと思います。だからといってこの考え方が駄目だというわけではなくて、私の理解によれば、不利益を生じることがあったとしても、相手方保護の点とか、判断能力自体は回復していなくても行為能力の制限を解いたということは、本人に、次のエにも表れていますけれども、いろいろ能力制限のない形でやらせようということにするのだから、それはもうやむを得ないのだと、そういう理由になるのではないかと。少し理由付けをほかに波及しないように御検討いただけたらと思います。   次が詐術の点で、まず甲案と乙案は、乙案がどの程度の提案なのかというのが今一つよく分からないのでということなのですが、私の理解では、詐術という言葉で乙案のようなことを既に判断しているのではないかと思うのです。だから、甲案は現状のとおり、正にいまの文言どおりとしますということなのかもしれませんけれども、乙案は、理解はいろいろだというのは分かっていますが、一つの理解としては、甲案と必ずしも対立するわけではないのだけれども、詐術に当たる、当たらないということについての判断要素というのですかね、判断の在り方をもう少し明確化するとかいう程度なのか、そうではないのかをはっきりさせていただいたらいいかなと思いました。その際に、もし要素を少し考えるとなると、本人の判断能力の程度というのは重要な要素になるのではないかと思うので、御検討いただけたらと思います。   それから、細かいことですけれども、詐術の用語について多分、私が前回に見直さなくていいのかなとかいうふうに申し上げたから注記していただいているのかもしれませんけれども、もしそうだったら、私は見直した方がいいと申し上げたのではなくて、例えば事理弁識能力も含めて、いろいろ用語をどうしますかという話が出ていたので、詐術も対象になりうるのではないか、と申し上げたまでです。ただ、そういった用語の見直しというのは今回の改正全体について係ってくることだから、詐術だけ取り分けてこのように記すのは、もし私が言ったことがきっかけだったら、どうかな、余り適切ではないのではないかなと思いました。   それから、これも細かいことなのですけれども、12ページに、本人が保護に同意しているにもかかわらず詐術する場合に、どんなときがあるのかとあります。これは、最初は了承したのだけれども、保護者が付いてその同意を得られないために行為ができないという不自由を感じていて、勝手にやってしまうというのが典型なのではないでしょうか。結局、保護者が言うことを聞いてくれないことはもちろんあり得るわけなので、その場合に自分の希望を通したいということかなと思いました。そんな単純なことではない、もっといろいろあるのだということだったら別ですけれども、そこは余り疑問として効いていないかなという気がしました。   3に飛びまして、意思表示の受領能力についてです。これも説明のところなのですが、確かに間違っていないですけれども、20ページの3行目以下に、そもそも法定後見制度を見直すから必要になるということではなくて、今でもある問題なのだとお書きいただいているのですね。それはそのとおりなのですけれども、今でもある問題が生じたのは平成29年の民法改正でのことでありまして、これは新しく生じた問題です。その29年改正が間違っていたとはいえないのですけれども、何も対応を置かないことでよかったのかということがそもそも問題としてあり、もし意思能力を欠く状態が継続している人について、個別の代理権等の授与だけで、保護はそれだけですとなったらその問題が非常に拡大するおそれがあるので、今重要な問題として出てきているということだと私は認識しています。ですので、今まであった問題だよねというのは、そうなのだけれども、今申し上げたような事情があることをお伝えしておきたいと思います。説明は事務局の判断で、責任で作られることだと承知していますので、そのことを盛り込まなければいけないとまではもちろん言えませんけれども、問題意識としてはそういうところがあるということです。   それから、続いて任意後見人と時効の完成猶予について、最初は発言するつもりはなかったのですけれども、今、佐保委員と上山委員が注記として、制度が変わっても存続を検討する旨を入れたらどうかとおっしゃったので、少し申し上げておきたいのですけれども、ほかのところでも検討する旨の注記は入っているから、入れてはいけないとは思いません。思いませんけれども、ハードルは相当高いので、そこについてある程度見通しを持たないと、検討すると簡単に言うのは難しいのではないかと思います。   この規定の基礎として少なくとも二つの事柄が考慮されていて、まず時効の完成猶予、あるいは更新ですか、をしようとする立場の人が、意思能力か事理弁識能力か分かりませんけれども、その能力に鑑みてそれを自らすることが期待できない状況にあるということと、その人については、でも、通常は保護者というか、代わって権限行使することができる人がいるはずであるところ、その権限行使できる人が例外的にいないという、その状況を制度の安定性とか相手方の保護の面も含めて、考えているわけだと思います。   そうだとすると、まず、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けないときに、その人が事理弁識能力を欠く常況にある人だということを安定的に認定することができるようにすることが不可欠だと思います。もしそのことを認定しないでぽんと158条のような規定を残しますと、先ほどの意思表示の受領の問題と同じことがここで起こってくることになってしまうので、それはよろしくないと思います。それと、それが認定できたとしても、これは上山委員もおっしゃったことですけれども、権限を元々包括的にというか、当該時効更新等の行為をする権限を持っている人が保護者として存在するということが大前提になる。だからこそ自分はこう言ったということを言いたいわけではないですけれども、保護者の権限で包括性は認めないけれども保存行為という形でここを取り込んできたらどうかということを申し上げたところです。事理弁識能力を欠く常況にある者についての特別の仕組みを設けるときも、その仕組みに対応する権限は与えるということが飽くまで前提になっているということを申し上げておきます。   それから、24ページからの5の委任の終了事由等についてなのですが、まず(2)の乙案で、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合はそうなるのだと言いますが、設ける場合は、単純削除という考え方があるのか、いいのかということが疑問です。というのは、111条については、資料にも書いてありますが、法定代理の場合を基本的には前提にしているというか、任意代理の場合だったら653条のところでほぼ決着が付いているので、この111条の1項2号は、法定代理権の消滅の場合に意味があると思うのです。そうすると、法定代理の本人の保護を考えなければいけないので、代理権がそのまま存続します、例えば、相手方が、本当はもうまともに代理権を行使できる状態にない人が代理人になっていることを知っていて、自ら利益を得るためにその代理人と行為しました、その場合も無権代理になりません、法定代理の本人が不利益を被りました、というようなことになるのはよろしくないと私はずっと考えていて、申し上げているところです。したがって、この乙案ではよくないのではないかと思っています。   それとの関係で、31ページの最後、イのところで、111条関係についても653条と基本的には同じ考えだと簡単に述べてあるのですけれども、これはそうは言えないのではないかと。法定代理の本人の必要性というのが特に考慮されなければならなくて、委任の場合だったら委任者は自分で、現実的に可能かどうかは分からないけれども、受任者又は任意代理人の状況をずっと見張っておけ、と言おうと思ったら言えると思います。それに対して、法定代理人の本人はそのようには言えない人であるところをどうするか、ということを正面から取り上げないといけないのではないかと思っています。   最後に、29ページに戻りまして、29ページに委任の場合の分析が書いてあるのですけれども、「敷衍すると」からの8行目以下なのですが、代理権が与えられた委任の場合を書かれているのですが、それもあるのですけれども、代理権を伴わない場合もやはり記しておく方がいいのではないかと思いました。   長くなりましてすみません。 ○山野目部会長 御意見を頂き、ありがとうございます。 ○竹内(裕)委員 2点あります。今回、6までのところで時効の完成猶予とか委任の終了事由、遺言と挙げていただいているのですけれども、同じ未成年者と後見人が掲げられている条文で、917条に相続の放棄の熟慮期間の期間の起算点があります。ここは問わなくてもよかったのだろうかというところが、まず1点。   次、2点目ですが、20ページなのですけれども、意思表示を受領するための権限を有する者について、検討すべき点について27行目辺りに、どういうところを検討すべきかと書かれているのですが、権限を有する者に対する報酬をどうするか、予納なのか、後で決定するのか、誰が負担するのか、その辺りも重要な点になろうかと思いましたので、加えてもいいのではないかと思いました。以上2点です。 ○山野目部会長 竹内裕美委員に一つ補足でお尋ね、お教えいただきたいと考えまして、相続放棄の熟慮期間の話は、聞いていてなるほどと感じました。民法やその他の民事法制のいろいろなところの規律において、何々の事実を知った時から何年間というものは、ここに限らず御案内のとおりたくさんありますけれども、それらも含めて一応注意した方がよいという含意もおありでしょうか。念のためお教えてください。 ○竹内(裕)委員 そうですね、ほかにもあろうかと思いますので、例えば第1の1から6の次に、その他、例えば注意すべき条文はないかというような聴き方で、中間試案を出してもいいのかなとは思いました。 ○山野目部会長 よく分かりました。   オンラインでお手をお挙げになっている御希望について、お手をお挙げになった順番で、佐野委員にお願いした上で加毛幹事にお願いしようと考えます。 ○佐野委員 31ページ以降の成年被後見人の遺言に関する部分について、銀行の立場で発言させていただきます。32ページ以降のところで、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合の記載に関してです。   現行の規律においても、自筆証書遺言に基づく相続時の預金の払出しに伴いまして、遺言者は遺言を作成した時点で認知症の診断を受けていたので、その遺言は無効である、よって遺言に基づく受遺者への支払いをしないでくれといった主張とか要請が受遺者以外の相続人から銀行に対してなされて、対応に苦慮するという場面は多くあります。事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合に、遺言をする際に医師2名以上の立会いがなければならないとの規律を削除した場合に、実態として事理弁識能力を欠いた人が作成したにもかかわらず、その法的有効性が担保されていない遺言が増加すると想定しております。その場合、取引の相手方である銀行にとっては対応に苦慮する場面が増加すると考えております。そのような手続を拒まざるを得ない状況と判断する銀行も出てき得ると考えておりますので、結局、被後見人の方が遺言をしづらい状況につながってしまうかと考えます。よって、取引の相手方の立場としては、こと遺言に関しては現行法の規律が維持される方が望ましいと考えております。 ○加毛幹事 まず、「第1」の「1」の相手方の催告権につきまして、5ページの最後から始まる箇所で、民法第20条第1項の規律を維持することを基礎付ける論述が展開されています。成年後見類型を残すか否かにかかわらず、本人の保護の必要性を個別的に判断するという方向で成年後見制度を見直すことになるのだと思いますが、そのような方向性のもとで、民法20条1項について議論をする際には、4ページの16行目から24行目に書かれているように、審判の取消しに際して保護の必要性の消滅が適切に判断されることが前提になるものと思います。そのような判断の結果として、民法20条1項の適用場面が必ずしも広くならないという前提のもとで、民法20条1項の規律を維持するという議論を展開するのがよいように思われます。   次に、8ページから9ページにかけて、取消権者の範囲に関する記述があります。以前に取消権と追認権の関係が議論の対象となった際に、同意権者が取消権を有しないとした場合にも追認権を有するという考え方が示されましたが、9ページの25行目以下の叙述は、そのような考え方の説明として簡素すぎるように思われます。この考え方が追認をどのように把握するのかという点を含めて、もう少し説明があってよいのではないでしょうか。この部会の議論を丁寧にフォローしている人でないと、この部分の意味を理解できないのではないかという懸念を持った次第です。   なお、関連して、細かい点で恐縮なのですが、3ページの24行目から25行目及び9ページの3行目から4行目において、「追認とは、取消権者が取消権を放棄して、その行為を取り消さないと決めること」であると説明されています。個人の好みかもしれませんが、「取り消さないと決めること」という表現に少し引っ掛かりを覚えました。   続いて、「2」の本人の詐術につきまして、14ページの甲案の説明に疑問を覚えました。4行目から「法定後見制度は事理弁識能力が不十分な者を保護するための制度であるから、保護者の同意を得なければならない旨の審判を受けることにより取消権による保護を受ける本人について、その取消権を剥奪するのは本人に相当程度の悪性がある場合に限るとの考え方によるものである」と書かれています。これによれば、詐術概念を厳格に理解するのが甲案であることになりそうなのですが、果たしてそれが甲案の考え方なのでしょうか。先ほど佐久間委員が、甲案と乙案がいかなる意味で対立しているのかについて疑問を提起されたことにもかかわりますが、乙案は、民法制定後の判例や学説の展開を踏まえて、現時点において相手方保護の規律を明確にすることを目指す立場なのだろうと思います。しかし、そのような方向での法文化が難しいことも考えられるところであり、そうであるとすれば、現在の詐術概念の解釈で対応するという考え方に基づいて、民法21条を改正する必要がないとするのが、甲案なのではないでしょうか。14ページの説明によると、甲案が、11ページで紹介されている古い大審院判決の立場に立ち返ることを目指す考え方であるような印象を受けるので、説明の仕方を見直す必要があると思った次第です。   次に、「3」の意思表示の受領能力について、野村委員の御発言にも関わるところであると思うのですが、20ページの12行目の「(ウ)」の段落では、本人のために意思表示や意思の通知を受領した者が、本人保護のために何らかアクションをとる必要がある場合があるとして、法定後見の開始の審判を申し立てることが指摘されています。しかしながら、例えば「1」の催告権との関係では、1か月以上の期間を定めた催告を受領した場合に、当該期間内に適切なアクションをとることができるのかが問題になるように思います。意思表示や意思の通知を受領した後のアクションについては、期間制限がある場合に困難な問題を惹起する可能性があることを指摘しておいた方がよいのではないかと思いました。   続いて、同じく20ページなのですが、34行目から「4」という項目が置かれているのですけれども、「3」の後にあえて「4」を置く理由があるのかが、よく理解できませんでした。「4」で書かれている内容は、17ページの16行目から19行目の内容と対応しているのだろうと思うのですけれども、「3」を検討した上で「4」という独立の項目を立てる必要があるのか、疑問に思った次第です。   最後に、「4」の成年被後見人と時効の完成猶予についてです。21ページの19行目からの「現行法の規律」では、民法158条第1項と158条第2項の双方について説明がされている一方で、28行目以下の「規律の趣旨等」で書かれている内容は、民法158条1項に関するものであるように思いました。民法158条1項は、対外的な関係における時効の完成猶予について規定した条文ですが、民法158条2項は、成年被後見人と後見人という対内関係における時効の完成猶予に関する規定です。両者では規定の趣旨も異なるのであり、28行目以下の民法158条1項に関する説明に加えて、民法158条2項についても検討が必要ではないのだろうかと思いました。もちろん、規定の趣旨は違っても、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない以上は、対内関係にせよ対外関係にせよ、本人が適切に権利を保存する行為を行うことを期待するという考え方に基づいて、民法158条1項も2項も、成年後見制度との関係では不要であるとする判断はあり得るだろうと思います。しかし、そのような結論を導くうえでの説明の仕方には気になるところがあることを申し上げたいと思います。   ありがとうございました。 ○山野目部会長 子細に検討いただきまして、ありがとうございました。遠藤幹事、お願いします。 ○遠藤幹事 1点だけ、意思表示の受領能力の関係で申し上げたいと思います。乙案の関係です。   20ページの12行目以下にありますとおり、乙案に提案されているような、代理人を取引安全の保護という観点から法定後見の開始の審判の申立人とするといったところまで含むという点については、先ほど野村幹事から御指摘があったとおり、御本人の自己決定の尊重という今般の法改正の趣旨との関係、法定後見開始のところで利害関係人を含むかどうかという議論との関係をよく整理していく必要があるだろうと思っておりますが、その上で、実際に審判等を担う裁判所として思うところを1点だけ申し上げます。例えば、この意思表示の受領能力もそうですし、この後議論になる特別代理人等の関係でも同じ議論があるのですけれども、一般にこういった場合、相手方と御本人とは対立構造にあるということが想定されるところ、こういった対立構造にある相手方からの申立てが契機となっている場合に、本人が任意に鑑定に応じるかというと、難しい場合が多いのではないかと考えられるところです。当該本人に何らかの通院歴等があって、そのカルテ等を訴訟法上の手段で入手できるといったような場合には、事理弁識能力についての判断ができるという場合もあるかと思いますが、必ずしもそういう場合ばかりでもないという実感を持っております。   そもそも広い意味での司法作用のリソースの問題といたしまして、このような対立構造に立つ場合、地域によってはそのような鑑定を受託していただく医師を探すこと自体が困難であるという点も、これは無視できないところではないかとも考えられるところでありまして、20ページの乙案に対する指摘としては、こういった隘路があるという点についても付記をしていただくことがよいのではないかと考えたところです。 ○山野目部会長 今、遠藤幹事がお悩みを語ったように、司法精神医学という分野は今、非常に困った状況にありまして、一言で言えば人手不足というか、後継者不足といいますか、なかなかしてくださる方が見付からないという問題を抱えていて、遠藤幹事がお話しのように裁判所としては悩んでいます。民法の一般的な実体的規律を考えるときには、お医者さんに診てもらったらどう、と、余り子細に考えずに言ってしまうところがありますけれども、現実の運用では悩みがあるということもにらみながら、検討を進めてまいるということにいたしましょう。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐久間委員 遠藤幹事に少し伺いたいのですが、今の御発言だと、民事訴訟法35条の特別代理人の選任のときも状況としては同じだということでしょうか。 ○遠藤幹事 今の現行法はそもそも成年被後見人の方ということになっていますが、これが今回の部会資料のように事理弁識能力を欠く常況にある方という形で置き換えられることになりますと、受訴裁判所において先ほど申し上げたのと同じような隘路に直面する可能性があると思いまして、この隘路をどうやって克服するかということについて、まだ裁判所の定見はないのですが、そういった難しい問題が起きそうだと裁判所として考えているということになります。 ○山野目部会長 佐久間委員、よろしゅうございますか。 ○佐久間委員 はい。もう一つは、少し離れるのですけれども、現在の成年後見開始の審判をするときに、御本人が納得しないときは、進んで受けてくれる、受けないという同じような問題が起こっていないのかなと。部会長もおっしゃいましたが、制度を作ろうとしてもそんなものはワークしないというのだったら、作っても意味がないので、少し現状を教えていただけると有り難いです。 ○山野目部会長 遠藤幹事、どうぞ。 ○遠藤幹事 佐久間委員の御指摘は裁判所としても非常に難しいと考えているところでして、今の成年後見の申立ての中でも、一部の御本人の中にはなかなか鑑定に任意に応じていただけないという方もいらっしゃって、非常に粘り強く説得をして、ようやく鑑定に応じていただく、診断に応じていただく、そういった方も実際にいらっしゃるというのは、それは間違いのない事実でありますので、御報告だけさせていただきます。 ○山野目部会長 今のことを私も述べようと考えました。 ○青木委員 第1の1の催告についてですけれども、6ページの20行目ぐらいから、保佐を例にして書いていただいていますけれども、今回問題になる点というのは、同意権・取消権が付いていたけれども、それを終了してよいという判断で終了した場合という場面になりますと、判断能力の程度によらず、何らかの形で本人に同意権・取消権がなくても大丈夫であるという環境が整ったということが確認された上で終了するということになると思います。そうしますと、その後に何らかの催告が本人に来たときにも、そういう整えられた環境の中でどう対応するかを検討できる、必要があれば取消権を行使できる代理権を付与する等の再度の申立てをして代理人を付与するなどの対応ができる環境にあると思われますので、そういう意味で、従来の法制で考えている状況に比べても本人の判断能力の違いによらず何らかの対応ができるのではないかということを、是非、説明部分に書いて頂いて、利益衡量の判断に付していただければと思います。   もう1点は、ただ、「事理弁識能力が欠ける常況」にあって本人に催告の意思表示の受領能力がないというときには、取引の相手方としては、取り消されるのかそうではないのかが確定できない、受領能力がない場合には本人から取消権を行使される可能性もないと思いますけれども、何らかの形で能力が回復して、また取消しをするのではないかという不安定な要素は残ると思いますが、そのような状況は本当にごく限られた場合でして、元々制限行為能力制度というのは、取引の相手方にご負担を掛けつつ本人の保護を図ろうという制度でありますので、取引の安全の観点から不自由な点が残るという点は、利益衡量の中ではやむを得ないという点もあるのではないかというふうなことも、検討いただくには重要な視点ではないかと思います。   次は、この論点における内容には直接関係がないのですけれども、4ページ以降で整理をしていただくときに、「後見に相当する者」、「保佐に相当する者」、「補助に相当する者」という場合を分けて検討いただいているのですけれども、特に4ページからの、例えば、「事理弁識能力に欠ける常況にある者」をそのまま後見に相当する者と書いていただいていますが、前回の議論との関係で、つまり、「事理弁識能力に欠ける常況にある者」としているが現在の後見類型として運用されている者とは違う能力を想定していますよということを意識していただきたいという話との関係で、このように表現されると、ますます誤解を招くので、表現の問題として、こういった形は避けていただく方がいいのではないかということを、資料全体についてご留意いただけないかと思っています。   次に、第1の2の詐術ですが、ここはそもそも今回の事理弁識能力に欠ける常況の有無によらずに制度を作っていくという新しい制度によって発生した問題なのか、そうではなくて、そもそも取引の相手方等と取消権行使によって保護を得たい本人との関係の適切な利益衡量が、「詐術」ということでは十分でないので、もっと利益衡量の目盛りを変えていきましょうという議論なのかという、制度の枠組みの改正に伴う議論なのか、元々ある課題をこの際見直そうという話なのかということの論点としての見え方が十分でないと思っています。   私としては、新しい制度になって必要性の解消により終了する事案が出たからといって、何か新しい利益衡量になるものではなくて、資料にいろいろ書いていただいている場面というのは、それぞれ、一定の判断基準が決まれば、それに基づいてあとは個別事情の認定をしていくということでは一緒だと思っていますので、そういう意味で言うと、今回の見直しに伴う論点ではなくて、元々の「詐術」という規定や解釈の問題性を検討する論点ではないかと思われますが、そういうことを整理いただいた上で、乙案というのを従来のとどう違うようにするのかということを分かるように選択肢を示していただいて、パブリック・コメントに付していただくのが必要なのではないかと思います。   次に、意思表示の受領能力のところなのですが、ゴシック体のある14ページですが、(1)で、「事理弁識能力を欠く常況にある者」についての保護の仕組みを設けるという立場に立ったときでも、(2)の例えば乙案というものが必要だということになるのかどうかという、この(1)と(2)との関連性というのでしょうか、そういったものが分かるようにしていただけるといいのではないかと考えました。(1)で、もし事理弁識能力を欠く常況にある者について保護の仕組みを設けて、意思表示を受領させることができることにした場合には、(2)の必要はなくなるのかどうかはっきりしないものですから、そこの整理をお願いできればと思いました。   それから、17ページの5行目から、「この観点から」という説明があるのですけれども、この説明がこれでいいのだろうかと、読んでいてよく分からなかったという点があります。98条の2の本文は、対抗することができないとすることで、意思表示を受領する側が有利であれば存在を認め、不利であれば不存在とすることができることによって、受領能力に欠ける者全般を保護しているのであり、成年被後見人のみを保護しているわけではありません。ただし書きがなくとも、保護がされているはずです。しかし、ここの説明では、成年後見人が意思表示を受領できることで保護ができているかのように説明されており、それは98条の2の説明として適切ではないのではないかと思いました。   それから、18ページの25行目です。実務上問題となるケースは多くないと御指摘していただいているのですが、具体的に、先ほども少し御発言があったと思いますけれども、意思表示を受領させた後には必ず次に請求権の実現のための課題を実行するための手段というのがとられるのが通常である、ということだと思いまして、その辺り、例えば賃貸借の解約という意思表示を到達させたとしても、その後、解約に伴う明渡しとか賃滞納賃料の請求とか、そういうものに移行するのが通常なのでと、そういう例を具体的に書かれた方が、どんなことを想定しているかを御理解いただけるのではないかと思いました。   それから、時効の完成猶予について、確かに若干保護に欠けるところがあるかという御懸念は分かる一方で、前から申し上げていますけれども、必要があればその段階で法定後見制度を利用して、時効の完成猶予や更新等をするための基本になる法律行為についての代理権付与等によって対応するということもできるのではないかということも、現行維持のままでも大丈夫ではないかという事情の一つとしてあるのではないかということを説明で入れていただければと考えました。   それから、遺言につきましては、説明の仕方の問題なのかもしれないのですけれども、32ページから33ページに掛けて御説明を頂いているところですけれども、要は事理弁識能力の程度を評価しなくなったときには、遺言能力と事理弁識能力の不十分さというのはイコールではないわけですから、遺言能力自体が後で欠けると言われたくないために、遺言をする者としては何らかの手立てをとって、自分は遺言能力があった上で行ったものであるということの担保をとっておくということを現在でもされているわけですけれども、そういったことが事理弁識能力の程度によらずそれぞれに工夫をされるということで足りるということなのではないか、ということをおっしゃっていただいているのだと思いますけれども、むしろそういう筋で書いていただくことによって、一身専属性のある遺言というものをできるだけしてもらうためには、様々な手法によってそれを担保するという方策があっていいのであって、かえって法で形式を整えることによって、窮屈になったり、萎縮をしてしまったりするのではないかというような、そういうこととしてお書きいただく方が伝わるのではないかと思いました。   最後に、先ほど遠藤幹事と佐久間委員の間で御議論があったところですけれども、新しい受領能力のための代理人を選任するという制度というのは、設定ができれば、一つの方策だと思っておりますけれども、現在の実務において、特別代理人の選任を民事訴訟法で請求するときには、特段、鑑定はしていないと思いますし、必ずしも診断書の提供もされていなくて、相手方に特別代理人を付けてほしいと思っている当事者の方から何らかの疎明資料や事情説明等がされることによって裁判所が判断していると思っていますが、それと同じようなものとして今回この制度を整備いただけないかと受け止めていましたので、鑑定が難しいということだけから制度利用が難しいという議論に直ちになるのか、実務上で事理弁識能力を欠く常況の認定手法というのは考えられないかということだと思われます。 ○根本幹事 私からは1点だけです。24ページの委任のところですけれども、ここの甲案のところで、(注)ということになるのかもしれませんが、それが法制上の問題なのか解釈の問題なのかというところもあるということは理解はしていますけれども、任意規定にするという見解があるということは(注)で書いていただけないかと思っております。解釈の問題であって、文言が変わるわけではないのでという意味では、甲案記載のとおりで間違いはないのかもしれませんが、解釈をこの場でするという部会はないということも承知をしてはいるのですけれども、説明に書くのか(注)に書くのかはともかく、検討されているということは中間試案において示されるべきではないかとは思っております。詳細については今まで発言したとおりということになります。 ○山野目部会長 ゴシックにするか説明に回すか、少し考えてみます。 ○常岡委員 遺言について、事理弁識能力を欠く常況にある者について保護の仕組みを設けない場合、先ほど何人かの委員の方から御意見も出ましたけれども、32ページから33ページに掛けて、保護の仕組みを設けない場合に、念のため医師二人の立会いを求めて遺言をすることになると、機動的に遺言をする機会を奪う可能性があるということで、それはそうかもしれませんけれども、機動的に遺言をすることによって、本人が亡くなった後で、意思無能力状態で遺言を作成した等の紛争を引き起こすということと、どちらを考慮するかということは少し検討が必要かなと思います。   要件を緩やかにすれば、もちろん非常に遺言しやすくなりますけれども、遺言能力を欠いているということで本人が亡くなった後に遺言無効の確認請求訴訟が起こるということが最近も増えてきています。民法973条の現行法の規定ですけれども、これは医師の立会いを要求するだけではなくて、医師が立ち会って、精神上の障害によって事理弁識能力を欠く状態になかったことを付記事項として付記するということが遺言の要件の中に組み込まれていますので、それをすることによって確実に遺言が有効に効力を発生するということを担保する規定であるということもいえます。   遺言は本人が亡くなった後に効力を生じるので、ある意味、本人に経済的な、あるいは物質的な損失が生じるわけでもないから、遺言能力については15歳でよいとか、そういうような見方がされるのかもしれませんけれども、ただ、遺言の内容によっては、そこで行われている処分行為、法律行為の内容によっては、非常に大きな財産を処分するという内容のものがあり得ますし、あるいは配偶者に対するもの、例えば配偶者居住権を遺贈するとか、そのようなものが含まれている場合だってあり得ます。そういったときに後日、本人が亡くなってから余り遺言について疑義が生じるような状態は望ましくないのではないかと考えています。   また、33ページの4行目以降に、そういうような者について、例えば何らかの裁判手続を設けることを仮定した場合ということが書かれています。これはどんな裁判手続を想定されているのか、分からないので、その点については教えていただければと思いますけれども、その後に、しかし、本人が事理弁識能力を欠く常況にある者に該当するかの疑義を有しない場合には、本人は当該裁判手続を利用することはないとありますが、疑義を有している人については、そういう手続があることによって確実に自分の死後、自分の意図した財産処分等が実現されるということを担保しておくということは、本人、すなわち現行法で成年被後見人に該当する人についても、その死後に関する意思を実現する、意思の尊重という観点から見れば、やはりないがしろにできないのではないかと思います。本人が亡くなった後で紛争が生じるようなことはなるべく避けたい、しかも本人の最後の意思である、終意処分である遺言の効力も尊重したいということであれば、何らかの法定の制度があることが、保護の仕組みを設けない場合についてこれを考えることは難しいのかもしれませんけれども、ただ、少しそこは検討がまだ必要かなという気はいたしました。 ○山野目部会長 御注意を頂きました。 ○加毛幹事 これまでの委員の先生方の御発言に関連して、3点申し上げたいことがあります。   第1に、14ページで「詐術」という用語の見直しについて、(注)として検討の必要性が指摘されていることへの違和感が佐久間委員から示されました。ただ、私は、このような形で「詐術」という用語の見直しの必要性について書いておいてよいのではないかと思います。「詐術」という言葉は、一般には、相当に悪性の強い行為を意味するように思われます。実際、民法起草時や制定直後には、そのような考え方が有力であったといえます。しかし、果たしてそのような考え方が妥当であるのかがこれまで議論されてきたのであり、そのような議論の変遷を踏まえて「詐術」という用語の妥当性を見直す必要があるのではないかと思います。   第2に、青木委員の御発言に関わるところですが、「4」の時効の完成猶予について、23ページの「(2)イ」において、「時効の期間の満了前6か月以内に、法定後見制度を利用している本人が特定の法律行為について時効の完成猶予や更新の効力を生ずる行為をすることが期待できないときにおいて、保護者が不在のときには、そのような本人について時効の完成猶予の規律を設ける」という考え方が示されています。このような規定を設けるのは法制執務上難しいのかもしれないのですが、やはり何らか規定を残しておいた方がよいのではないかと思うところがあります。というのも、青木委員がおっしゃった、問題がある場合には、時効の更新などをするために成年後見制度を利用するという対応につきまして、そのような規定に一定の意義があるのではないかと考えられるからです。23ページで提案される規律が民法に残るとすれば、22ページで紹介される平成26年の最高裁判決は、なお先例として一定の意義を有し続けるという解釈があり得るのではないかと思います。例えば、時効完成が目前に迫っており、法定後見開始の審判の申立てなどが間に合わないという事例について、6か月の猶予によって本人が救われるという事態が生じることが考えられます。その意味で、なお時効の完成猶予に関する規定を残しておくことに意義があるのではないかと思いました。青木委員の御発言の趣旨を曲解しているかもしれません。そうであれば御批判を頂ければ幸いです。   第3に、「6」の成年被後見人の遺言について、佐野委員から、金融機関の立場からは現行の規律を維持することが望ましいとのご発言がありましたが、その意味するところを明確にしていただいた方がよいのではないかと思います。現行制度下における成年被後見人に対応する者の遺言の効力を明確にするためだけに、成年被後見人という類型を残しておくべきであるということをおっしゃったのでしょうか。それとも、32ページから33ページにかけて提案されているような制度改正を前提とした上で、事理弁識能力を欠く常況にある者については医師二人以上の立会いを要するとの規律を残すべきであるとお考えなのでしょうか。   さらに言えば、おそらく金融機関にとっての関心は、遺言の効力が事後的に否定されることによって、相続をめぐるトラブルに巻き込まれることを回避することなのではないかと思います。そうすると、現行法のように、成年被後見人についてのみ医師の立会いが求められるという規定では不十分であるという評価もあり得ようかと思います。そうだとすると、意思能力や遺言能力を確証するための制度が必要であるというのが、金融機関としてのお考えなのかもしれません。その辺りについて、御発言の趣旨を明らかにしていただくとよいように思った次第です。よろしくお願いいたします。 ○山野目部会長 最後におっしゃった点は、佐野委員の方におかれて、今お声掛けをしませんから、引き続き御検討くださるようにお願いいたします。   1から6まで御意見を伺ったところで、波多野幹事から御発言があれば伺います。 ○波多野幹事 いろいろ御指摘いただきましてありがとうございました。御指摘を踏まえて整理を進めたいと思います。その中でも、今回取り上げていない条文についても幾つか御指摘いただきましたので、そこもどのように取り上げるかも含めて、検討を進めたいと思います。 ○山野目部会長 私の方から5点申し上げます。1点目は、2の本人の詐術のところは、甲案と乙案の関係についてもう少し検討を深める必要があるということが佐保委員、佐久間委員、加毛幹事、青木委員のお話でよく分かりました。改めて整理を致します。   2点目として、意思表示の受領能力のところについて、本人の事理弁識能力を欠く常況にあると認められる場合の特別の仕組みを設けることとの関係での問題提起をしておりますけれども、小澤委員からは、これは前回資料の部会資料13の冒頭で扱った、いわゆる類型の編成の問題のところで関連させて提示してはどうかというお話も頂きました。もう少し考え込みますと、本日の部会資料14の至るところに、欠く常況にある場合の特別の仕組みを設ける場合には、という話が出てきますが、この部会の調査審議の経過を知らない人が読むと、それは一体どこで問題提起されている話であるかが分かりにくいということがあるかもしれません。意思表示の受領能力等のところだけで断るというよりは、全般的にそれが読み手にもう少し分かるように、どこかでまとめて案内をしておくとか、それぞれのところで、ややしつこいけれども注記をするとかいうような工夫をして整理をした上で、小澤委員の提案をどう受け止めるかということを改めて考えてみようと今、見通しております。   3点目でありますけれども、佐久間委員から、前回部会資料13の冒頭の甲案ですね、現行法をほぼ維持した上で検討を進めるという案についての言及が部会資料14の方では無視されているというか、ほとんどされていないというところは、工夫をしなければいけないと感じます。いちいち甲案について論及するのも少し重いなという気もしますから、どこかでまとめて読み手に向け、論理としてはすっきりするような案内をするということも含めて、考えてみます。   それから4点目は、竹内裕美委員から、ある事実を知った時からある期間が定められているところについての規律は一応見直しておきましょうという御示唆を頂きました。なるほどと感じましたとともに、実はその課題は中間試案に至るまでのここまでの検討で、余り委員、幹事において丁寧に御議論をしてこなかったような経過がございます。その状態で中間試案の中に入れる扱いは、なかなかに距離があるだろうと感じます。半面、法制事項であるという側面も強うございますから、これは余り前のめりに焦らないで、中間試案後でもよいと考えます。制度の全体の骨格が見えてきたところで、関連する重要な法制事項として注意して見通しておくということかもしれません。考えてみますと、あることを知ったという時から何年か経過したとき、というところを見直さないと何が困るかという点が、もう少し検討してみる必要があって、本人の判断能力がないから知ったというふうにならないでしょうということになれば、多くの場合は本人にとって利益に働くものでありますから、特段の措置を講ずる必要がないかとも思われますが、ただし、知ったか知らないがあやふやで、よく分かっていないのに知ったということにしてしまいましょう、とされるような状況が生じますと、それはそれで不利益が懸念される場合もあります。それとともに、相続放棄の熟慮期間の場合のように、申立てによって期間を伸長することができるというような柔らかい仕組みが併せて設けられている場面が多うございますから、そちらに期待して現実的な処理をしていくという可能性もあると思われます。ですから、いずれにしても余り慌てないで、ここのところは広く見渡して丁寧に1個1個のところを検討していくというお話かもしれません。   5点目ですけれども、幾つかの御指摘で、後見人と被後見人の間の関係、加毛幹事の言葉を用いると内部的関係になりますが、その種類の規律に関連して、何か検討する事項がないかとか、そこまで検討が及ぶかという問題提起を頂いてきたところです。上山委員から966条、加毛幹事から158条2項のお話がありました。考えてみますと、これもここまで委員、幹事に余り念入りな御議論をお願いしてこなかった経過があります。これも中間試案において、そこを何かしますか、みたいなものを、その他のところに一つの例として挙げるような扱いは考えられますけれども、余りゴシックにしてかちっとした案を出していくところまで煮詰まっていないかもしれません。それとともに、これも少し法制事項の関係する整理という側面がありますから、中間試案までに絶対ということではなくて、引き続きの検討ということが親しむ主題であるかもしれません。   実は、言わば手続上の縁組障害を定めている794条にも同じ問題があります。注意して見渡すと、それは横並びで検討しなければいけない上に、実はこの内部的関係のところというものは少し注意しなくてはいけません。このアイデアの規定というものは古代ローマ以来ある規律です。今般の改革において、日本法がこれはもうやめよう、といって簡単にやめてしまっていいような性格のものかどうかは少し怪しくて、大げさに述べると人類の遺産みたいなところがありますから、もう少しそれは丁寧に検討を重ねていくというお話であるかもしれません。   それでは、この後、続けて部会資料14の第1の7、8、9のところについて、まず事務当局から資料説明を差し上げます。 ○柿部関係官 資料について御説明いたします。   部会資料14の33ページから、第1の7におきまして、法定後見制度の本人の民事訴訟における訴訟能力について整理しております。   次に、35ページの8では、法定後見制度の本人の人事訴訟における訴訟能力について整理しています。これは、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設ける場合については、現行法の成年被後見人の訴訟能力の規律を維持することとしています。他方で、事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合には、成年被後見人に関する人事訴訟における訴訟能力等の規律を修正することを含め、引き続き検討するものとしており、御議論いただきたいと考えております。   最後に、38ページの9では、手続法上の特別代理人について整理しています。 ○山野目部会長 説明を差し上げた部分について御意見を頂きます。 ○小澤委員 第1の7から9についても、論点として部会資料記載のとおり取りまとめることに異論はありません。 ○山野目部会長 引き続き伺います。 ○佐保委員 私も7から9に掛けて、方向性に異論はございません。 ○青木幹事 4点あります。   まず、7の民事訴訟における訴訟能力のうち、前半の事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設ける場合について、現行法の規律を維持することを中間試案の内容とすることに異存はありません。関連して、前回の部会資料13の3ページ、前回の部会資料で大変申し訳ないのですが、その3ページに掲載されております乙2案のイ②に、民法第13条第1項各号に掲げる行為は取り消すことができるものとするとあるのですが、法定代理人によらない訴訟行為は無効ということになりますので、現行の民法9条と同様に、その対象を法律行為に限定していただくとよいかと思います。部会資料の説明の方では法律行為を取り消すことができるということで説明されておりますが、念のため申し上げました。   2点目ですが、後半の事理弁識能力を欠く常況にある者についての保護の仕組みを設けない場合については、成年被後見人の訴訟能力の規律を残すことはできないというのは、帰結としてはそうなのだと思います。ただ、規律を削除した場合にどのような規律が妥当することになるのかということについては、補足説明などで示していただくとよいかと思います。また、規律を明示するという観点から、成年被後見人に関する規律に代えて、民事訴訟法に意思能力に関する規定、例えば民法3条の2に相当するような規定を設けるといったことは考えられるかと思います。   3点目、8の人事訴訟については、御提案でも示されていますが、法律関係の主体、例えば離婚訴訟であれば夫婦の一方が意思能力を欠くために有効に訴訟行為をすることができないといった場合に、保護者が訴訟にどのように関わるのかといったことについては、引き続き検討をする必要があるということでよいかと思います。   4点目、9の手続上の特別代理人についてですが、特別代理人の選任の申立てをすることができる場合として、部会資料においては、成年被後見人に代わるものとして事理弁識能力を欠く常況にある者という概念を用いて整理してくださっていますが、より広く、意思能力を欠く者に対して訴訟行為をする場合には、本人に対して有効に訴訟行為をすることができないので、とりわけ緊急を要する場面を想定すると、特別代理人の選任を認める必要があるのではないかと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございました。青木幹事から4点頂いたところ、いずれもそれを踏まえて検討することにいたします。民事訴訟法版の3条の2の規定を設ける可能性についてもアイデアを頂戴いたしましたから、事務当局で検討してまいりますし、青木幹事にも引き続き御相談を差し上げていくだろうと思いますから、どうぞよろしくお願いいたします。   ほかにいかがでしょうか。   よろしければ、第1の部分がここまでお話が進んできて、久保委員と花俣委員に何かありますれば御発言いただきたいと考えますけれども、無理にお声掛けはいたしません。よろしゅうございますか。   それでは、部会資料14の「第2 任意後見制度における監督に関する検討事項」の1及び2、引き続き「第3 任意後見制度と法定後見制度との関係」の1及び2の部分について、事務当局から説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料14の「第2 任意後見制度における監督に関する検討事項」及び「第3 任意後見制度と法定後見制度との関係」について御説明いたします。   まず、40ページからの第2の1では、任意後見人の事務の監督の在り方について整理しています。   また、44ページからの第2の「2 任意後見人の事務の監督の開始に関する検討」では、任意後見人の事務の監督を開始する要件及び適切な時機に任意後見人の事務の監督を開始するための方策について整理しています。   次に、51ページからの第3の「1 任意後見制度と法定後見制度の併用の可否等」では、任意後見制度と法定後見制度との併存の可否、任意後見人と成年後見人等との権限が重複した場合の調整、任意後見人と成年後見人等とが併存した場合の監督の在り方について整理しています。任意後見人と成年後見人等との権限が重複する場合の権限の調整について規律を設ける場合の要件、効果及び手続についても御議論いただきたいと考えております。   また、57ページからの第3の「2 任意後見契約が存在する場合に法定後見制度の利用を開始する要件等」では、任意後見契約が存在する場合に法定後見制度の利用を開始する要件、法定後見制度の利用を開始している場合に任意後見人の事務の監督を開始する要件及び既に任意後見契約が存在する場合のみでなく本人に任意後見契約を締結することが可能な事理弁識能力がある場合を含めて規律することについて整理しています。 ○山野目部会長 説明を差し上げた部分について御意見を承りますけれども、いろいろな御意見があると思いますから、恐らく途中に休憩が入ります。そこは余り心配なさらないで、御発言を求めていただきたいと望みます。それでは、お願いします。 ○小澤委員 第2の1の任意後見人の事務の監督の在り方の取りまとめ方について、意見を述べさせていただきたいと思います。なお、第2の2から第3の2については、論点としてこの部会資料記載のとおり取りまとめることに異論はございません。   そこで、改めて第2の1の任意後見人の事務の監督の在り方についてですが、甲案、乙案に加えて、任意後見監督人による監督を必須のものとせず、家庭裁判所の判断により、家庭裁判所の直接監督のほか家庭裁判所が指定する機関によって監督させることを認めるものとするという案を追加していただきたいと思っています。もし中間取りまとめに案として追加するということが難しいのであれば、少なくとも乙案の家庭裁判所の直接監督について、家庭裁判所の判断によっては、家庭裁判所が指定する機関を家庭裁判所による監督の補助的機関として扱い、その機関による監督を活用することも可能であるという考え方があることを注記していただければと思います。   また、家庭裁判所が直接監督を行うか、家庭裁判所の指定機関が監督を行うかを家庭裁判所が判断をする際には、本人が任意後見契約においてどの機関による監督を希望するかを示している場合は、家庭裁判所がその契約内容を十分に考慮することで、より本人の意思尊重にかなう制度になると考えています。   また、このような家庭裁判所が指定する機関による監督が可能になれば、任意後見制度が多く利用がなされている諸外国と比較して我が国の制度は重装備な制度と言われているわけですから、その我が国の任意後見制度の現状を改善することにもつながって、任意後見制度の利用を促進することにも資するのではないかと考えています。   なお、家庭裁判所が指定する機関については、公的機関や公的機関に準ずるような機関をイメージしておりますが、指定機関の規律の仕方としては、例えば法令で別に定めるものとしてもよいのかなとも考えています。   そして、指定機関による監督方法を新たに規律する制度的メリットとしては、家庭裁判所が指定する機関に任意後見人の事務の監督の一部を任せることができることとなって、家庭裁判所はその指定する機関からの報告を受け、事務に問題がある旨の報告を受けた場合にのみ介入することとすれば、国家の私的自治への介入も家庭裁判所の負担も、それぞれ大きく軽減されるものではないかとも考えています。   本人が契約で希望した監督方法の考慮の仕方としては、例えば民法843条の第4項の成年後見人の選任のような規定を任意後見の監督を開始するときにも規定し、任意後見の監督を開始するには、本人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、任意後見人の職業及び経歴並びに本人との利害関係の有無、本人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないと定めることがよいのではないかと考えています。   最後に、現在様々なデジタル技術が開発をされておりますので、例えばAIなどを用いて不正の疑いのあるケースを検知させ、問題のある可能性があるケースのみ人がチェックするといったデジタルトランスフォーメーションによって、今後は家庭裁判所が指定する機関による監督、家庭裁判所による直接監督のいずれの場合においても、比較的低コストで不正防止を図ることができるようになることも期待できるのではないかと考えています。 ○山野目部会長 御意見、御提案を頂きました。   引き続き伺います。 ○野村幹事 まず、監督の在り方についてですが、任意後見人の事務の監督の在り方として甲案、乙案のとおり提示することについては異論はありませんが、いずれにしても家庭裁判所が公的機関等を関与させて行う監督についても検討する余地があると思います。甲案については注記で、本人の資産や状況、任意後見受任者の能力や経験等に応じて監督の範囲を限定したり、故意重過失がない場合には免責される規律を設けるなど、柔軟な監督について引き続き検討すべきとの意見がある旨の記載を入れていただければと思います。   また、監督人を選任するに当たって、任意後見契約で本人の意向が示されている場合には、その意向に沿った監督人を選任すべきと思いますので、任意後見契約に関する法律7条4項で民法843条4項が準用されており、監督人の選任時に本人の意見を考慮するとされていますが、私人間の契約であることから一歩踏み込んで、任意後見契約に関する法律4条などで、任意後見監督人を選任するに当たっては本人の意向を尊重するという規律を設ける旨の記載を中間試案には入れていただきたいと思います。   ただいま小澤委員から御提案がありました公的機関等による監督についてですが、現状はリーガルサポートは会員の執務管理を行っていますが、このノウハウは今後、公的機関等による受任の仕組みを検討する際に活用できるところもあると思われますので、引き続きリーガルサポートとしても検討していきたいと考えております。監督の在り方が統一されて、システムを使った効率的な監督体制が整えば、一定の品質の監督を適切な監督報酬で行うことができるようになるのではないかと思います。任意後見制度の利用が促進されたとき、現在行っているような監督体制を維持することは難しいと考えられますので、監督体制の整備と拡充が必要と思います。   続きまして、監督の開始に関する検討なのですけれども、ここについては太字の部分について異論はございません。少し細かい実務上の指摘をさせていただきます。49ページの25行目なのですけれども、ここで見守り契約等の御指摘がされていまして、25行目に「契約では報酬について合意していないと考えられることから」とありますが、通常は任意後見契約と併せて締結される見守り契約ですとか財産管理等委任契約においては、申立ての報酬について合意することが実務上行われていますので、ここは「任意後見契約では」との記載がよいのではないかと思います。   続きまして、第3についても太字のとおり異論はございませんが、「本人に任意後見契約を締結することが可能な事理弁識能力がある場合には、法定後見制度による代理権の付与の審判をすることができないとする考え方がある」について、62ページの10行目に環境整備が前提としてという記載がありますが、この必要な環境整備についてはもう少し丁寧に示していただく必要があると思います。これは代理人候補者との調整だけではなくて、法定後見制度だと資力がない方は法テラスの民事法律扶助制度を利用することができますが、任意後見契約締結の際の費用・報酬などを支払えない場合はどうするのか、任意後見人や任意後見監督人の報酬についても助成制度を利用できるかなど、様々な環境整備が必要だと思います。そういった点についても丁寧に示していただければと思います。 ○星野委員 2点申し上げたいと思います。   まず1点目です。第2の2のところです。44ページのところですが、任意後見人の事務の監督の開始に関する検討のゴシックの説明書きのところの(注1)です。ここでは、任意後見受任者は監督を開始するための裁判手続の申立てをしなければならないものとする旨の規律を設けるとの考え方があるということを書いていただいているのですが、これはもう少し、申立てをしなければならないということは多分義務化の話だったと思いますので、そういう文言を入れていただいた方が、よりはっきり分かりやすいと思いますというのが1点目です。   それから、2点目につきましては、第3の任意後見制度と法定後見制度の関係の並存の可否のところです。こちらについて説明のところで、59ページの3の検討する場面(1)の4行目からなのですけれども、そのほかというところで、契約の時期が法定後見制度の利用の開始前か開始後かという観点について、この説明のところに加えていただいた方がいいかなという意見ではあり、質問にもなるのですけれども、通常、任意後見契約を先に契約していて、法定後見制度が開始された場合、併存するので、法定後見制度を利用していても任意後見契約が維持されているという考え方だと思っていたのですが、法定後見が利用された後、開始後に任意後見契約を締結するということが考えられるという説明なのであれば、そこは少し丁寧な説明を頂いた方が分かりやすいかなと思います。 ○山野目部会長 いずれも説明の方についての要望を二つおっしゃったと聞きました。 ○星野委員 1点目はゴシック体の方の(注1)の方になりますので、説明ではないです。 ○山野目部会長 1点目のゴシック体の(注1)がゴシックの話であるとすると、少し理解がかなわなかったのですが、申立てをしなければならないと今のゴシックの文も書いてあるところを、どのように改良しますか。 ○星野委員 例えば福祉関係者とか一般の人がこの中間試案だけを見たときに、任意後見監督人の選任には申立てが必要だというのは分かっている人たちはいるわけです。でも、ここで書いているのは、受任者が申立てをしなければならないという、いわゆる義務を設けるかというところの議論であったと私は思っていたのですが、もしそうであれば、義務化という言葉が入ってもいいのかなと、そういう意見です。 ○山野目部会長 任意後見受任者は、という主語で始まって、申立てをしなければならないという表現は、義務化ではないのですか。 ○星野委員 それで分かればいいのですけれども、ただ、私自身が読んだときに、義務化という読み方にならない可能性を自分の中で感じたので、あえて申し上げているというだけなので、不要であれば結構です。 ○山野目部会長 検討してみます。ありがとうございます。 ○佐保委員 まず、監督の在り方でございますが、任意後見人の事務の監督の観点からも、監督の主体及び監督の具体的内容については現行法の維持でよいのではないかと考えます。任意後見人が専門職でも第三者の監督は必要であり、家庭裁判所が直接的に監督を行うことは人員的、体制的に難しいのではないかと考えております。しかし、乙案としてパブリック・コメントに諮るべき、付すべきという意見があるならば、それを妨げるつもりはございません。   続いて、開始に関する検討でございますが、任意後見人の事務の監督を開始する要件については、複雑化と関係者の負担を避ける観点からも、現行法の規律を維持する方向でよいと考えているので、方向性に異論はございません。   続きまして、並存の可否等の部分でございますが、並存することを認めるという考え方でよいのではないかと考えております。その上で、権限の重複による混乱を避けるためにも、家庭裁判所による任意後見人と成年後見人等との権限の調整に関する規律は必要だと考えております。その際は本人の意思を尊重する観点が重要ではないかと考えます。   最後に、利用を開始する要件等でございますが、並存を前提とした見直しが必要であると考えます。この内容で対応が可能であるならば、方向性に異論はございません。 ○根本幹事 まず1点目が、43ページの9行目のところになるのですけれども、現行法の任意後見の仕組みの趣旨を重視するべきであるとの考え方があり得るほか、というところについてですが、遠藤幹事からそのような御趣旨の御意見があったということは承知はしております。ただ、私ないし佐久間委員からも申し上げていた点だと思いますけれども、公的な監督機能付きの任意代理であると仮に任意後見を考える場合に、果たしてここで書いていただいている、任意後見の仕組みの趣旨を重視するべきであるとの考え方から、理論的帰結になるのかというところについては、いろいろな意見があるところだと思います。別にその意見を否定するという趣旨で申し上げたいわけではなく、ここについてはもう少し書き下していただくといいますか、御説明を頂く必要があるのではないかと思っております。   2点目は、同じく43ページの(3)のところで、柔軟ないし簡易な監督という考え方が示されていますけれども、監督をどう考えるのかという点については非常に重要な点だと思っていますので、野村幹事からは記載を深めるという御趣旨の御発言がありましたが、部会の中で今後、中間試案までにコンセンサスが得られる努力をして、できれば(注)に持っていけるようにしたいと、私の希望も含めてですが、思っています。   3点目は44ページのところの2(1)のゴシックで、現状は任意後見人の事務の監督を開始する要件と書いていただいて、その上で現行法の規律を維持するものとすると書いていただいています。他方で説明を見ますと、46ページの(4)の最終的な2行目で、任意後見人の事務の監督を開始するための裁判手続という表現を用いていると、必ずしも監督人が選任されるということだけではないということに対応した記載にしていただいているということになるわけですが、ゴシックを中心に中間試案はお尋ねいただき、その上で意見を述べるという形になるということを考えますと、現行法の規律を維持するものとすると書いていただいたときに、46ページで説明していただいているところまで含めて理解をしていただけるのか、現行の任意後見法4条は、監督人を選任するという現行の規律にはなりますので、できれば、現行の規律を維持すると書いていただくよりは、46ページの表現をゴシックに上げていただいた方が分かりやすいのではないかと思いました。   4点目になりますが、先ほど野村幹事から監督人を希望するという場合についての記載についての御意見がありましたけれども、部会の議論においては、監督の実質という点を考えると賛否の意見があったところだと理解をしておりますので、もし書かれるのであれば、監督の実質という点について先生方から懸念が示されたということは書いていただく必要があるのではないかと思います。   5点目は、野村幹事からの御発言との関係にもなりますが、任意後見監督人ないし家庭裁判所以外の何らかの監督機関を中間試案の段階で書くのかというところについて、具体的なイメージも各委員、幹事によって異なるようには思いますし、実体が何であるのかということが分からない中で国民の皆さんに問うというのは、私としては少し時期早尚ではないかと思います。ただ、今回の改正ではなくて、更にその次の改正を見据えて検討されるべきとか議論されるべきということであれば、そこは理解できるところです。   6点目になります。野村幹事の49ページの25行目の御指摘のところは、私はむしろ、24行目からの任意後見受任者に本人との契約で合意した以外の何らかの法的義務が生ずる旨の規律を設ける場合になりますので、何も見守り契約というような合意がない場合のことを指して書いておられると思います。元々ある任意後見契約には見守りについての報酬合意というのは当然含まれていないので、もし直すとすると、そこを明らかにされるということになると思いました。   次が51ページの第3のゴシックの(注)のところです。57ページのイのところで中身について書いていただいているところだと思いますが、57ページのイの議論がまだ十分でないとすると、(注)の中でその要件まで書いた上でパブコメには出すべきではないかと思っております。   次が54ページになりますが、11行目のところです。代理権目録の記載ぶりによってはということを書いていただいていて、恐らく御趣旨としては、今ある日公連のモデル文例の代理権目録を念頭に置いた上で、現行もそうですけれども、東京法務局が運用上認める範囲で、より個別具体的に代理権目録を書き下している例もあるということも念頭に置いてこれは書かれているのではないかと思います。つまり、通常一般的に使われている文例の代理権目録以外にも、より特定したり個別具体性を持たせた代理権の記載をしているという実務を踏まえて書いていただいているのではないかと思うのですが、任意後見の実務を知っていないと意味が分からないかなと思ったということになります。私がそう思ったというだけです。   次が16行目のところになります。後で出てくる61ページの頭の10行目ぐらいまでのところで御記載いただいているところとも関係するとは思うのですが、利用を開始した際に契約を締結されているかどうかということではなくて、時的な基準という意味で行くと、法定後見制度の申立てをした後に任意後見契約を締結されているときという形で、利用開始時ではなくて、もう少し前倒しして、申立て後ということの方が問題点としては正確なのではないかと思いました。   それから、次が58ページから59ページに掛けての、特に59ページのところです。現行の規律を維持するということで書いていただいているのですが、まず一つ、58ページから59ページに掛けて書いていただいている場面で、争いになる場面において、現行の本人の利益のために特に必要があるという要件をそのまま維持してよいのかどうかについてはもう少し議論が必要ではないかとは思っています。特に、権限調整に関して行われている、後で出てくる議論は、ここでも妥当するのではないかとは思っておりますし、もう一つは、これは部会の中でもどなたか、おっしゃっていたと思いますけれども、特に任意後見契約が争いになるような場面で、御本人の過去の意思にどこまで拘束されるのかということは、後で終了のところで申し上げますが、仮に有効期間を任意後見契約に御本人が設けたいと思った場合には、その有効期間の議論との関係もあります。先ほど申し上げた本人の利益のため特に必要があるというのが、少なくとも私の理解では審判上、裸の利益衡量になってしまっているように思っていますので、考慮要素を例示列挙するなどの手直しも含めて、もう少し議論が必要ではないかと思っています。   最後になりますけれども、60ページから61ページのところになりますけれども、ここもいろいろな意見があり、病理現象等の指摘があるというのはそのとおりだと思いますが、特に必要があるというこの要件との関係で、実際上判断されるときに、かなり意図的というか、若しくは潜脱的にされている、若しくは妨害的にされているということは非常に立証が困難であるので、先ほど申し上げた点とも重なりますが、特に必要があるというような要件のときに、例えばその申立て時期等を考慮するという形でそこを例示するということは、議論としてあってよいのではないかと思っています。 ○木田関係官 考慮要素とか調整の規律に関する御意見は、後ほどされるという趣旨でよろしいでしょうか。 ○根本幹事 ゴシックにしていただくには何らかお出しした方がよいということではなかろうかと思っていますので、少し後日検討してお出ししたいとは思います。 ○佐久間委員 小澤委員と野村幹事が、第2の1の機関による監督というふうなことをおっしゃったと思うのですけれども、どういうことか教えてくださいということなのですが、機関による監督というのは、その機関が任意後見監督人になるということとは違うのかというのがよく分かりませんでした。また、機関が仮に任意後見監督人になった場合に、おっしゃる機関以外の者が任意後見監督人になった場合と機関が任意後見監督人になった場合とでどこが違うのかというのも教えていただきたいと思います。それによっては少し意見があるかもしれないので。   それから、次に42ページの同じく1のところなのですが、前から申し上げていて、またかと思われるかもしれませんけれども、家庭裁判所は任意後見人を自分で選任していないから監督するのも難しいという、これは現行法の立法のときに言われたという整理であるというのは承知していますが、それはおかしいだろう、ほかの任意後見監督人による監督だって同じだろうということをもう一度申し上げた上で、家庭裁判所が監督することはどうかというときに、任意後見契約で予定されているような任意後見監督人がすべき監督あるいは職務の遂行を家庭裁判所に求めるのは、これは無理があると私は思っています。資料には家庭裁判所の監督というときの中身が余り書かれていないように思うのですが、飽くまで私はですが、法定後見の場合と同程度の監督を家庭裁判所がすれば、それでいいと思っています。ただ、そうすると、例えばですけれども、任意後見契約の7条1項の3号、4号にあるような個別行為への介入というのは、これは当然あり得ないということになり、ほとんどが法定後見並びになると思います。しかしそうすると、必ず用意しなければいけないのが、家庭裁判所による任意後見人の職権での解任と思います。そうしておかないと、解任を誰もできないということになってしまうので。   これに対しては、もしかしたら私的自治に反するなんていう御異論があるかもしれませんけれども、そもそも後見監督人がいる場合は後見監督人が請求をし、家庭裁判所が認めることで、本人の意思に基づかずに解任されることがあるわけですので、先ほど根本幹事が私的自治とのバランスうんぬんというのは余り関係ないではないかとおっしゃったのと広い意味では同じで、可能ではないかと思っています。ただ、家庭裁判所の人員がどうのこうのということは考えないといけないと思っています。   次に、監督を開始する要件に関する47ページに、任意後見受任者が適切な時機に任意後見監督人の選任の申立てをしないときに関し、13行目ですかね、「一般的には、法定後見を活用することが適切である」と書いてあるのですけれども、そうかなと私は疑問に思います。任意後見契約の解除というのは、その後見人候補が役に立たないので任意後見契約の解除を認め認めて、ほかの者との契約をするということも別に当然の選択肢として入ってくるので、法定後見の活用が適切というわけではなくて、単にその受任者に事務処理をさせること自体が適切かということが問題となってくるというのにとどまるのではないかと思います。細かいことですけれども、説明の仕方としてです。   その後、15行目から、親族が任意後見受任者であるときに限定してうんぬんと書いてあるのですけれども、専門職だって、専門職の方がいっぱいおられる前で一応失礼だと思っているということだけは申し上げておいた上で、いろいろな専門職がいるわけですし、法定後見人の解任に関して何人かの方から聞かせていただいたこととして、専門職が本人の状況に意を払わないということがあるというようなことが出てきているわけなので、ここで親族限定にするのではなくて、後見受任者であってもきちんと働かない者はいるからという程度のことにしておく方が無難だと思います。   それから、同じく選任に向けての話で、50ページに飛びまして、これはものすごく細かい話なのですけれども、15行目から、申立権者について公示する方法がないという指摘があるということなのですが、これが何で意味を持ってくるのか、私には分かりませんでした。別に、契約にきちんと申立権者はこの人ですよと定められていたら、その時点で公示がされていなくても問題ないのではないかと思うので、この批判は本当にこれでいいのかということを御確認いただきたいということです。   それから、同じページのその下の方に市区町村長による申立てに関して書かれているわけですけれども、それ自体に異論があるわけではありませんが、51ページに検察官申立てに関して私的自治に反するという記述があり、それは市区町村長についても全く同じではないかと思います。そこで、要するに公的なというか、本人でもない、受任者でもない、親族でもない、全く関係のない公的機関が出てくるのは、私的自治との関係でおかしいという話なのではないかと思ったということです。   次は第3に関しまして、任意後見と法定後見の並存に関して、権限の抵触、重複に関してです。具体的には54ページの30行目からあるところなのですが、30行目に、「任意後見人と成年後見人等の権限の抵触及び重複を避けるべきであるとの考え方を前提に」とあって、こういう考え方があるというのは承知しておりますし、現行法が実際そうなのだと思うのですけれども、そもそもの甲案に対する疑問として、複数の、例えば任意後見人同士とか、任意代理人と任意後見人の権限の抵触、重複については問題視されていないにもかかわらず、なぜ法定後見の場合には問題視されるのかということが出発点の一つとしてあると思うのです。それを分析するというか、そこを明らかにして、どうだこうだという議論をする必要があるのではないかと私は思っています。法定の保護者との権限重複だけを問題視する理由としては、例えば現在の後見、保佐の場合だと、保護者の権限が広いので、ほぼ権限が重複することになるので、そもそも複数人によって保護を図ることがどの程度必要なのかとか、効率の面を考えてどうなのか、コストの面を考えてどうなのか、そのようなことも考えた上で、重複すると事務の円滑さにも問題が出てくるので、疑問視されているのかなと思いました。補助に関しては、抵触、重複が実際あるという場合はそのとおりだと思うのですけれども、補助による保護の場合には、任意後見による保護と権限が重複しないということがあり得る。あり得るのだけれども、その場合は補助の対象者だということは、更に任意後見契約の見直しをするとか、任意代理を使うとかいうことだって排除されているわけではないということを考えると、それこそコストが掛かる、社会的にもコストが掛かる法定の保護をわざわざ加えるのかというようなことが考えられてもいいのかなと。そういったことも考えて、総体的判断からすると権限の重複を排除しているということかなと思いました。最後に言ったことは事実の問題ではあるのですけれども、自分のほかのところの主張とも絡まって、またかと思われるかもしれませんが、任意後見とか任意代理で対応できる人が、わざわざこの事項だけ法定後見でやってくれというのをどこまで認めるかという問題は、コスト面を考えても、あるのではないかと思っています。   最後に、第3の2の任意後見契約が存在する場合に法定後見制度の利用を開始する要件等に関する60ページの12行目からある(3)の説明のところのアなのですけれども、法定後見の利用を妨害する意図で任意後見契約がされることがあるという、その点がなぜ駄目なのかが私には実はよく分かりません。妨害する意図でも、任意後見契約が有効なのであれば、公序良俗とか何か分かりませんが、そういう理由で無効だったら別ですが、有効なのだったら、それは本人が法定の保護を受けたくないと望んで、わざわざ契約を締結しているということに当たるのではないか。そうだとすると、むしろ法定の保護をそのような場合に本人の意向を無視して開始していいのか、あるいは法定の保護の方を優先していいのかという問題の捉え方だってできるのではないかと思います。問題の立て方として、こういう場合があるのですね、だから考えなければいけないですねと、これだけだとはもちろん思っていませんけれども、これでいいのかどうか私は疑問に思いました。逆に法定後見を開始したくないからこそ任意後見にしておくということは、事理弁識能力のまだ不十分ながらもある人なので、あっていいのではないかと思いました。 ○山野目部会長 佐久間委員の幾つかの御指摘の中に、ほかの委員、幹事へのお問い掛けにわたる部分も含まれていました。それらの点でもよろしいですし、それ以外の点でもよろしいですから、引き続きお話を伺います。 ○青木委員 第2の1の甲案、乙案のゴシックなのですけれども、小澤委員に確認させていただきたいことになりますけれども、丙案として書く以上は、後見監督人の一つとして機関がなるということではなくて、裁判所の委託を受けた機関として、裁判所がやるべき後見監督を一部受託をし、したがって裁判所が報酬を支払うので、後見監督人としての報酬が発生するものでないと、そういった仕組みの提案であれば、さらに丙案として出す意味があると思うのですけれども、そうではなくて、あくまでも任意後見監督人が他の機関に担わせるということであれば、現行規定を維持した上で、任意後見監督人としての扱いということになると思いますので、その辺りの構想をもう少し詳しく、どういう構想としておっしゃっているのかということを教えていただきたいと思います。これにより、委託された機関の監督にかかる報酬の負担が、国が負担するのか任意後見委任者が負担するのかという違いも出てくるようにも思われます。   次に、41ページの17行目辺りから実態調査の紹介を頂いているのですけれども、この調査は第9回部会で参考資料4で出していただいています調査なのですけれども、この調査結果には、ここに紹介されたものだけではなくて、「監督人に報酬が支払われることが負担に感じる」というのも20%ぐらいありまして、「簡易な定期報告に監督を受けるもの」とするなど監督の負担を軽減する仕組みにすべきと感じるというのも26%ありますので、ここで書かれるについてはそういうものも含めて紹介いただいた上で、その後の検討につなげるというふうにしないと、紹介の仕方として適当かという問題があるのではないかと思います。   それから、43ページの13行目から、監督の内容を家庭裁判所がするには負担が高いという記載があって、ここは結論としては佐久間委員の御意見に私も賛成で、裁判所がやる以上は法定後見と同じようにするということがいいと思っていますが、現在、任意後見の方が報告の頻度が高いのは、一つは、契約書に数ヶ月に一度の報告をするようにとの条項の記載があるということや、あるいは親族による任意後見受任者が多いことなどによるものでありますが、そういうものを全部家庭裁判所で直接監督をするということを乙案は提案しているものではないわけです。にもかかわらず、こういうまとめにされると乙案の意図が伝わらない、つまり裁判所の負担というのはそれほど高いものでなくできるのではないかという意見との擦り合わせをしていただく必要があるのではないかとも思います。現在の実務でも、任意後見監督人が付いていても、年に1回、任意後見監督人が家庭裁判所に定期報告しますが、それについては裁判所がチェックをして、内容に疑義があればそれについても任意後見監督人を通じて追加の調査や監督するようにしていますので、それと同じ程度の負担ではないかということでもあるわけです。   それから次に、第2の方に行きまして、2(2)のゴシックのうち、任意後見受任者の監督人選任申立ての義務化と、第三者への申立権の付与が(注)扱いになっているのは、やはり対案として乙案にするにはなお十分でないという事務局の御判断なのかと思いますけれども、申立ての義務化については、この間消極意見もたくさんありますから両論があるというのはそのとおりだと思いますが、パブリック・コメントでは、一つの案として意見を聞いていただいてもいいのではないかと思われます。それから、第三者を申立権者に指定することについては、部会の中で消極的な意見というのはなかったようにも思いますので、これも一つの案として提案いただいてもいいのではないかと思いました。   それから、続きまして第2の2の説明の中の45ページの12行目から、イとして、開始の要件における診断書等の議論がありまして、これは初期にこういう意見があったかと思いますけれども、その後余りこの45ページの12行目からのイのような御意見というのが維持されている方があったかどうかと思うので、ここは記載するまでもないのではないかと思ったところがございます。   それから、46ページの4行目からの記載があるのですけれども、ここで書かれている保護の必要性をいちいち確認しなくてもいいという趣旨というのは、5行目から「しかし」以降で書いていただいていることよりは、元々任意後見契約というのは、本人が、自分が事理弁識能力が低下した場合には代理権目録にある代理権を発効して代理権行使をしてほしいということが本人の意思なのですから、あえて客観的な保護の必要性というのを確認しなくてもいいのではないかという趣旨での御意見が多かったのではないかと思いますので、こうした記載への見直しをしていただきたいところでございます。   それから、佐久間委員からも御指摘がありましたが、普通はこういう場合は法定後見をした方がいいという47ページの10行目から14行目ですけれども、悪意で後見監督人を申し立てないときにはそうだということは言えますけれども、みんなが悪意なわけでもないので、最初にこの4行が来るというのは私も非常に違和感を感じております。そういう場合もあるけれども、一般的には、そうではなくて、善意で、あるいはよく制度を知らなくて、任意後見監督人選任を申立てしない人もいる、そういうことを中心にお書きいただければいいのではないかということで、この4行があることによって、かえってその次のセンテンスがすっと理解しにくいところを感じました。   それから、任意後見と法定後見の併存についての第3の1ですけれども、ここで法定後見の方で、事理弁識能力の欠ける常況にある場合に類型的な代理権を付与するといったときでも、並存の規律については特段の違いはないのか、あるいはその場合には多くの代理権が重複してしまうこともあるので並存に関して何らかの一定の規律が新たに必要になるのかという辺りが、乙2案の立場からどうなるのかということが気になったというところを申し上げておきたいと思います。   それから、最後ですが、第3の2のゴシックで57ページの終わりからになりますけれども、(注)で書いていただいていることについてですが、任意後見契約を締結する能力ということをどのようにして判断することができるのかという問題もありますし、仮に締結する能力はあったとしても後見人や監督人の費用が払えないとか、任意後見受任者として託せる者が見付からないとか、いろいろな事情から任意後見契約が締結できない人はたくさんいるわけです。特に所得の高くない層ですね。そういう人にまで締結能力があれば法定後見を使えないことにすることになるのかという問題点もあったり、もともとの法定後見の制度利用時における必要性の要件における補充性の原則というのをどの程度まで考慮するかというところの議論にも影響しますので、現段階で、(注)としてであっても、このことを掲げていただくのは非現実的なところがあるので、いかがであろうかと思っております。 ○山野目部会長 青木委員のお話の最初の方の御発言で小澤委員に対する問い掛けがありました。佐久間委員のお話にも、やはり小澤委員に教えていただきたいという点が、恐らくその趣旨であろうというお話がありました。小澤委員から何かありますれば、お話を頂いておきます。 ○小澤委員 家庭裁判所の判断によって、家庭裁判所の直接監督のほか、家庭裁判所が指定する機関によって監督をさせるということを認めるという案もあっていいのではないか、あるいは家庭裁判所が指定する機関を家庭裁判所による監督の補助的機関として扱って、その機関による監督を活用する、そういう選択肢もあっていいのではないかというのが趣旨でありまして、ではその家庭裁判所が指定する機関というのはどんなものかという問い掛けに関しましては、公的な機関か、あるいは公的機関に準ずるようなものをイメージしております。そして、その指定機関の規律の仕方として、例えば法令で別に定めるものということも考えられるのではないかという現状、アイデアでございます。また、青木委員から頂いた報酬については、そういう機関であれば低廉に抑えられるのではないかというイメージを持っています。 ○山野目部会長 小澤委員に少し確認ですけれども、公的機関とおっしゃるのは公法人である必要はありませんね。 ○小澤委員 はい、そこは幅広でいいのではないかと。 ○山野目部会長 報酬は安くなるであろうけれども、本人の財産から負担するというお考えですね。 ○小澤委員 その辺りもまだ、必ずしもそうでなければいけないとも考えてはいません。 ○山野目部会長 仮に報酬が本人の財産から支弁されるという、高くないかもしれないけれども支弁されるというイメージで、公法人に限らず、小澤委員の言葉でいうと別に法令で定める要件を満たす法人が監督の事務を担うというイメージをお考えいただいているとすると、一つのまとまった実務性のあるイメージの提案を御提供いただいているという意味で意義がある御提案であると聞こえます。それとともに、恐らく佐久間委員、青木委員がそれについてお感じになったことは、私のように素直に聞いていなくて、お二人はきっと法制的な目で見たと想像しますが、法制的に見ると、現行の規律でも、成年後見監督人に選任される者は個人でなければいけないというルールがありませんから、公私の機関、法人が成年後見監督人に家庭裁判所から選任されるということがあり得るものであって、現行の規定のまま仮に進んだとしても、その下で小澤委員が描いた一つのデッサンですけれども、それは可能ではないかというふうな御疑問に近いものを持って見ておられるとみます。そうすると、小澤委員に発案いただいて野村幹事も理解を示されたその御提案は、先々に任意後見制度が花開いていく姿をイメージしたときに、育てていきたいと感ずる提案であると感ずるとともに、それが法制的な洗練さに耐えていくためには、別に法令で定める法人が成年後見監督人に選任されたときの監督の事務の在り方について、何か通常の現行法の下での成年後見監督人の事務の在り方とは異なるルールを用意しておいて、その特別メニューで監督が行われるし、報酬もそのことを考慮したものになるでしょうといったような按配の規律をセットにしていただくと、それは意義のあるものであるというふうに、だんだん皆さんの意見交換が深められていくかもしれません。司法書士会において、ここまで御努力いただいてきたところの想像に添えて、引き続きの期待を差し上げておきたいと考えます。どうもありがとうございます。 ○遠藤幹事 今ほどの小澤委員ほかの意見は、以前の部会であったところで、裁判所も少し発言したこともあったので、併せて考えますと、一定の認証を受けた団体が監督を行うと、裁判所には最後の任意後見人の解任権ぐらいは留保するけれども、それ以外は認証を受けた団体の監督に委ねるという簡易な監督の一つの方策として出ていた話だったのかと思いますので、そういったところも含めて御検討があるのかなと思われたところです。   私の方からの発言としましては、御議論がいろいろあったところなので、今更というところなのですが、一応念のため申し上げておきたいと思います。43ページの8行目のイのところです。様々御意見がありましたので、余り繰り返すことはいたしませんが、イのところで私的自治の尊重とのバランスを図った現行法の任意後見の仕組みの趣旨を重視すべきであるというところは、結局、任意後見法の最初の立法されたときの趣旨が正にこういったことではなかったかと思われまして、今回の議論を聞いて、様々なニーズはあるということは裁判所も理解をしたのですが、それがこの法律を変えるようなニーズであるのかということについて、更に検討の余地があるという観点でお話を申し上げていたということになります。   あとは、これもなかなか御理解いただけていないところではあるのですが、裁判所の視点で任意後見の監督の実情を申し上げますと、これも繰り返しになりますが、任意後見の場合、任意後見人は裁判所から見て御本人の課題との関係で、その課題に応じた適任者が選任されているというわけではないということがあります。そういった場合でも任意後見法上は、任意後見事務の遂行が御本人意思の尊重や生活状況等への配慮にかなったものであるかを監督する必要があります。そういった場合、後見人の属性によって左右される部分があるというのは当然そうなのかもしれませんが、財産管理、身上保護のいずれについても法定後見以上に手厚い形での審査を行わざるを得ない、行っているというのが現状でございまして、これを任意後見監督人なしに家庭裁判所が直接行うということは裁判官のみならず書記官事務の観点からも相当の負担となるというところでございます。この点は、同じページの13行目以下に既に書いているところですので、更に付記していただくまでもないのかもしれませんが、裁判所の実情としては申し上げておきたいと思いましたので、御発言させていただきました。 ○山城幹事 御発言申し上げたいことが2点ありますが、それに先立って、先ほど小澤委員から御発言があり、遠藤幹事から御発言が補われた点につきましても申し上げたことがございまして、加えさせていただきます。私も議論の経緯につきましては今、遠藤幹事から御発言がありましたように理解しておりまして、そうしますと、小澤委員から御提案があった点については、青木委員からも御指摘があった二つの考え方があり得るのではないかと思いました。   第一に、小澤委員がおっしゃる監督が、家庭裁判所による監督を念頭に置くものであったといたしますと、監督人の選任とは別に、一定の機関が家庭裁判所に代わって監督を行うことがイメージされていたのではないかと思います。そうであればこそ第2の1の部分で規定される意義があるというのが、青木委員の御発言ではなかったかと思います。これは一つの考え方だと思うのですが、先ほどの小澤委員の御発言も受けて考えますと、家庭裁判所には報酬を払わないのに、なぜこの機関が監督をすると報酬を支払わなければならないのかという点は、実際上の問題として残るのではないかと感じました。   もう一つは、当該機関が任意後見監督人になるという考え方もあるのかもしれないと思いました。その場合には、その種の機関が監督人になったことを考慮して、家庭裁判所による監督がより軽いものになってよいという、そういう場面を認めるという御提案になるのではないかと思います。しかし、一定の人を監督人選んだときになぜ家庭裁判所の関与が軽くなるのかについては、さらに説明が必要であるように思われます。理解が間違っているかもしれませんが、このような議論ではなかったかと感じ、一応発言させていただきたいと思いましたのが、ただいまの点です。   それから、御発言申し上げたいと考えました点は、既にあった御発言とも重なりますが、いずれも説明の部分に関わります。一つは47ページの10行目から4行にわたる部分です。この部分があることで前後のつながりが悪くなっているのではないかという御指摘が先ほど青木委員からありましたけれども、私も同様の感想を持ちました。その上で、佐久間委員から御発言があったとおり、他の者と契約を締結する可能性はあると思いますし、指摘されているような事情を考慮して法定後見を開始させるという考え方もあってよいのであろうと思います。   そうだとしますと、部会資料58ページから59ページまでに掛けて、法定後見と任意後見とが競合する場合において、法定後見をむしろ優先させようというときに、本人の利益のために特に必要があることを重視すべきであるとの説明がされているところがありますが、47ページの10行目以降の説明にも、ここで触れる方がよいのではないかと感じました。現行法に関する立案担当者の見解は、任意後見契約法10条にいう「特に必要があると認めるとき」とは、特別養子に関する民法817条の7と同じ趣旨であるとしており、かなりハードルの高い必要性を想定したものではなかったかと思います。それに比べますと、47ページで想定されているような、一般的には法定後見を活用することが適切であるという場面は、恐らくより低い程度の必要性しかない場合であっても法定後見を優先させる余地があるという、現行法の立案担当者が想定していたのとは異なる含意を持ち得る叙述ではないかと理解しました。そうであれば、本人の利益のために特に必要があるという要件を解釈するに当たって、そのような理解の可能性が含みにされていることを示す趣旨で、47ページの10行目以降の説明を58ページから59ページまでの説明と結びつけて示していただくのも一案かと思いました。これが1点目でございます。   もう一つは、48ページの19行から20行に掛けて、(イ)で想定されている場面について、任意後見制度の周知によって対応すべきであるという説明がございます。ここは任意後見が既に利用されている場面を念頭に置く説明ですので、対応策としては、任意後見制度を周知することではなく、制度趣旨の理解の促進に沿った適切な監督人の申立て、事務処理が期待されるのではないかと思います。純然たる書きぶりの問題ですが、工夫をしていただけるとよいのかもしれないと感じました。 ○根本幹事 先ほどの佐久間委員からの一番最後の御指摘の関係で申し上げておきたいことがあります。書きぶりをどうされるかというところはともかくとしても、いわゆる実際の場面においてここで書いていただいているようなケースいわゆる意思能力、契約としての能力無効ということが問題になっているというのは、一つは任意後見契約の能力論について疑義があるというケースももちろんあるわけですが、それにとどまらず、実例として御本人がそれを望んでというよりかは、本人に何らか、不当かどうかは評価があると思いますけれども、相当程度の影響を本人が受けて締結されているというのが実情ではないかと承知をしております。もう一つは、結局のところ親族間紛争、特に御本人との面会をめぐっての囲い込みのツールとして使われているというのが裁判例を見てもうかがえるところではないかと思っておりまして、最終的に面会交流に関しての仮処分につながっていくようなケースも含まれるということで、御記載いただいていると私自身は理解をしております。ただ書きぶりについて、改めていくということ自体は否定されることではないと思います。 ○佐久間委員 青木委員の御発言で最後におっしゃった58ページの注記の件についてです。別に注記として残してほしいと申し上げるつもりはありません。だけれども、今回の、特に法定後見の見直しについて、先ほど青木委員からも補充性をどう考えるかということにもよるというふうな御発言があったとおり、あるいは国連の勧告ですね、あれを受け止めて結構純粋に考えていくと、任意後見で対応できるところは任意後見で対応すべきだというのは一つの理念としてあり得るのではないかと私は思っています。その理念としてあり得るのではないかということ、前も発言申し上げたときに、これが実現するとは自分でも思っていませんがと申し上げたとおり、費用面のこととかを考えたら難しいことはあると思うのですけれども、理念としてはこれがあり得る、しかも、例えば20年先、30年先にはもしかしたらこのような制度に移行する素地を今作った方がいいということを前提に、ここだけではなくて法定後見のところの様々な部分について考慮していくというか、検討の一つの素材としていくことは不可欠なのではないかと私は思っています。   それで、費用面のことを考えてというのは、正におっしゃるとおりだと思うのですけれども、そうすると考えなければいけないのは、お金のない人が使える制度として法定後見を組んでいくのか。建前論は建前論でいいと思うのですけれども、実際に制度を組むときにはそこも考える必要があると思います。費用節約のために法定後見を使うということは、あって駄目だとは思いません。駄目だと思いませんけれども、そういう観点は結構重要なのだということを、まず、もし必要だったら受け止めた上で、では次に考えるのは、任意後見の方の費用を安くできないのかということを、これも考えればいい話だと思います。さらには、これは審議会の外側の話になりますけれども、福祉的な側面があるのだから、金銭的な補助などをもう少し充実させるというような要求をある段階で出すということだってあり得ると思うので、その補助をもっと充実させてくださいということを要求として出すとすれば、自助に関してはやれるだけやってもらいますということがあった方がいい。それ以外のどうしても金銭的な補助の必要な人にその補助を出してもらえるようなことを期待する、飽くまで期待するですけれども、というようなことを求めていくこともできるのではないかと思いますので、注記にしていただく必要は別にありませんが、説明のところでそういう意見があったということを是非とも残していただきたいと私は希望します。 ○青木委員 私も佐久間委員の意見に大変賛成でありまして、ほぼ同じ意見であると思うぐらいでございます。私からは、今回こういう形で載せるのが適当かということで御意見を申し上げましたが、前回の部会で、法定後見の開始における必要性と補充性の原則の要件の議論のところで、消極的な要件とすることについて、説明文書が原理的に否定するような意見だけが記載されているということについて、今後将来的に消極的な要件にすることの芽を摘むものとして適切ではないとの意見を申し上げていたところであり、本来、佐久間委員がおっしゃったように、福祉的なものも含めて様々な今後の発展可能性を含んで、消極的な要件としての補充性というのは、今後は十分考えないといけないよねということを書いてほしいと申し上げました。今の佐久間委員の意見もそういう御意見だと理解しておりますので、私としましても、補充説明などではこうした観点を展開して頂くということには異存はございません。 ○山野目部会長 この注記は誠に理念の香り高い注記です。地味な、注記というフォームになっていますけれども、国民各層に検討してもらうためには、説明に落としてしまっては、よほど専門的な目で見ている人でない限り検討してもらえませんから、太いゴシックで残しておいた方が、佐久間委員が先ほど机を叩かんばかりにして力説された理念について、国民に本気で考えてもらえると予想します。少し私は不思議な光景を見ているような感じがして、この話は攻守入れ替わっていると感じませんか。入れ替わっているというか、青木委員も全く同じ考えであるとおっしゃったから、だったらこれはゴシックで残した方がよいでしょう。また、費用の点は、もちろん佐久間委員がおっしゃったとおり、これは民事基本法制として対処すべき事柄の外側になりますけれども、しかしこれないしこれに類似の発想で制度が組み立てられていったときには、それに付随する費用負担の問題は、法務省所管事項だけでは決まらないことがありますけれども、政府が一体となってやはり推進していくことであって、社会福祉上の補助というお話も出ましたけれども、更に言えば、この間、自分の老親の任意後見契約を結びましたという人が私に語ってくれたアイデアとして、これに掛かる費用って地震保険とか生命保険と同じように税制上の控除の対象にする扱いは当然ではないですか、と、このようなアイデアを述べた人がいて、所得が少ない層の皆さんに対しては社会福祉上の補助の充実ですし、しかし、それを語るには少し親しまないなという中間層の方にもこの制度を大いに使ってもらうため、老後とか先々の備えで保険料控除がされている扱いと同じように、これも税制上の控除の対象にしたらどうですかという発想は、悪くないアイデアですが、それを法制審議会で審議することはかないません。ここで意見を述べるのにふさわしい所掌事項の外側になりますけれども、ただし、アイデアとしては社会的にいろいろな機会に問題提起をしていけばよいでしょう。   ほかにいかがでしょうか。   大体御議論を伺ったとすると、少しお疲れかもしれませんから、若干の休憩をしていただいた後、波多野幹事や関係官のお話を伺い、その後、久保委員、花俣委員にこの順番でお声掛けをして、第2、第3のお話をだんだん区切りに向けてまいりたいと考えます。           (休     憩) ○山野目部会長 再開いたします。   佐野委員、御発言をどうぞ。 ○佐野委員 ありがとうございます。今活発な議論がされていた部分と少し違うところになってしまうのですが、1点御発言させていただきます。   51ページからの任意後見制度と法定後見制度の並存の部分に関して、乙案の、併存することを認めた場合の権限の重複を認めないという規律のところを、もし設けなかったとしてもというところなのですけれども、少なくとも運用面の取扱いとして、57ページの6行目のところに記載いただいているような権限の重複がないような調整というものはしていただきたいと考えております。また、権限の重複がないように調整したとしましても、銀行取引の実務上、対応に苦慮するトラブルというのはどうしても起こり得ると想定しております。   以前の部会でも小出委員の方から発言しておりますが、56ページの22行目以降に例示されているような場面において、預貯金についての代理権を持つ任意後見人と、遺産分割に関する代理権を持つ法定後見人から異なる振り込み先への申出が同時にあって、両方の申出をかなえようとすると原資が不足するといったパターンなどですけれども、これも一例であって、パターンは様々あると考えております。   今後、57ページに記載いただいているように、具体的な規律を検討していくに当たっては、万が一トラブルが発生した際に取引の相手方である銀行としてどのように対応すべきかということの判断を仰げる相談先を設けるという内容も、こちらの規律に含めて考慮いただきたいと考えております。 ○山野目部会長 御懸念や関連する御提案、アイデアを頂きました。よく分かりましたから、反映してまいります。   ほかにおありでしょうか。よろしいですか。   そうしましたら、第2、第3の部分について波多野幹事からお尋ね、意見等ありますれば承ります。いかがでしょうか。 ○波多野幹事 私の方は大丈夫です。 ○山野目部会長 関係官からおありでしょうか。 ○木田関係官 57ページからの2のゴシックで書かせていただいた、任意後見契約が存在する場合に法的後見制度の利用を開始する要件等の部分でございますが、こちらにつきまして先ほど根本幹事からは御発言がありましたが、そのほか、この点について委員、幹事の皆様から御意見等はないでしょうか。 ○山野目部会長 木田関係官において、今後の議事の整理を進める上での委員、幹事の意見分布の確認のお声掛けです。特段のことがなければ強いて発言をお願いしませんけれども、何かありますれば御遠慮なくおっしゃってください。   もう1点、お願いします。 ○木田関係官 もう1点、今回もゴシックにすべきではないかと言われた57ページのイの部分でございます。権限の調整の部分でございまして、こちらをもう少し整理する必要があると思っているところでございますが、今日の時点でこの点につきましても何か御意見等がございましたら、お伺いしたいと考えているところでございます。 ○山野目部会長 この点はいかがでしょうか。   よろしいですか。という意見分布のようですね。  私から1点お尋ねがあります。44ページでございますけれども、任意後見監督人の事務の監督の開始に関する検討のところに注記が二つあって、(注2)でありますけれども、これについて若干の、しかし活発な御議論を頂きました。青木委員からは、これは異論がなかったところであろうから、考え方がある、から案に昇格させてもいいくらいだという御意見も頂いているところです。そのこと自体はあり得る取扱いですが、中味を少し確認いたします。任意後見契約の当事者が契約の中で申立権者を新たに追加する合意をすることがあり得るという考え方があるというお話ですけれども、任意後見契約の中で申立権者の合意をすることができるという法律上の規定、規律を設けるという提案であると受け止めてよろしいですね。いや、別に法律に規定はなくても任意後見契約でできる事項であるから放っておけばいいでしょうということを言っている意味の考え方がある、ではないだろうなと想像しました。しかし、いささかはっきりしない部分がありますから、皆さんの方で、いや、自分はこういう意味で述べていましたというような念押しなどの発言があれば、頂戴しておいた方が先々の整理において混乱がないと考えますけれども、その点いかがでしょうか。私の理解でよろしいでしょうか。定めることができると法律で規定する。   実は少し悩みがある論点は、任意後見契約は契約ですから、契約は契約自由の原則が普通働き、別に定めることができると言ってもらわなくても何でも定めることができるという一方のベクトルがあります。ただし、他方で任意後見契約が家族制度であるとは考えませんけれども、家族制度と少し似たような側面のある公の秩序であるという性格も持っているものでありまして、何でも当事者が法律の授権がないのに決めていいということになりますか、そこが、いや、契約だから当たり前でしょうと言ってしまっていいですかという点が気になって、そしてまたさらに、ではその逆向きのことはできるでしょうか。例えば、任意後見監督人の選任申立ては任意後見受任者だけがするのであって、親族は黙っていよ、と、親族の申立権を否定しますという規制を任意後見契約で定めたら、それは有効であるということになるであろうかという辺りも、余り学者がそれほど正面から議論してこなかったように感じますけれども、どうでしょうか。佐久間委員、お願いします。 ○佐久間委員 契約で当事者が定めることについては確かに契約自由が妥当すると思うのですけれども、ここでは申立権者という公的手続に関する事柄が問題なので、当事者の関係ではないから、契約自由だとは私は言えないのではないかと思いました。法定後見、成年後見の各種制度について、本人が申立権者になっておりますけれども、そこで、例えば第三者との間で代理権授与の契約をした場合に、その人が申立権者になれますかというと、余り考えたことはなかったですけれども、私は否定されるのではないかと思い、そうだとすると、任意後見の場合も申立権については法定後見の申立てと変わらないから、同じように考えるべきではないか、部会長がおっしゃった、では削除の方はできるのかというと、それはやはりできないだろうと。申立権については、これは公法的規律と言っていいかどうかは少し問題かもしれませんが、そのような色彩の強いものなので、もし本人が契約をしたらその第三者が申立権者になれるということにするのであれば、法律の規定というか4条でしたっけ、選任の申立て、請求をすることができるように、本人の代理人になるのですかね、というのを入れないといけないのではないかという気がしました。ただし、学者としての意見ではありません。 ○山野目部会長 よく分かりました。私が分からなかっただけかもしれませんけれども、自分の頭の中で曇っていたことは今、佐久間委員の整理していただいたところですっきり分かりました。これは厳密に言うと訴訟行為ではなくて手続行為ですけれども、広い意味で訴訟行為でしょう、と仮に整理すると、一種の訴訟契約ですよね、どういうことができるかということを裁判所との関係でも、訴訟法律関係というか手続行為関係を規律することを内容とする私法上の合意であるという性格を持っていますから、確かに家族制度に近いから公序だというよりも、裁判所における手続のやり方を定める契約だから公序であり、それは法律の規定のコントロールを受けるでしょうということになるものでありまして、親族に申立権を認めないという合意をするとしても、それは何か少し雰囲気は不起訴合意に似ていて、一般論として不起訴合意が効力が常に認められるでしょうというわけにはいかなくて、不起訴合意も公序のコントロールに服するときにはいろいろな考慮が払われるということになるでしょうから、ここは正にそういう性格のものであって、どういうときに申立権者を追加することができますかという論点は、法律の規定でコントロールした上で、その下で定めるということを、認められた局面で定めたい方はどうぞ定めてくださいというふうに進んでいくという整理になると理解されます。   今のことに関連して何か御発言があれば承っておきますけれども、検討した上で、また次の機会に発言しようというお話でも結構です。 ○青木委員 私の想定は、今御指摘いただいたように、第4条の中に任意後見受任者などが申立権者として定められていますが、その後に、別途、「任意後見契約に基づいて本人が指定した者」などの規定を置くということではないかと思っておりました。これについては、公的な要請に基づく申立権者ではないとは思いますけれども、任意後見受任者自身も本人が信認して受託した者が、その立場から申立権者の一人と認められるのと同様の趣旨で、本人が監督人選任の申立てを確実にするために信頼して受託した者にも公的な役割を与えてもいいという評価をした上で、付け加えることができるのではないかと考えておりました。 ○山野目部会長 よく分かりました。 ○上山委員 実は今の青木委員と言いたかったことは同じでして、もし定めるとすると、4条1項の中で、任意後見契約において本人が指定した者というような定め方が無難ではないかと感じました。代理人と書いてしまうと、また少しその代理人の解釈で議論が広がる余地があるので、先ほどの青木委員の規定ぶりというか文言がよろしいのではないかと感じました。 ○山野目部会長 (注2)の趣旨を一層明確にするのに役立つ二人の委員の御発言を頂きました。この点に関連して、ほかにありますでしょうか。 ○波多野幹事 (注2)について具体的に少し御議論を進めていただいて、ありがとうございます。今、青木委員、上山委員から頂いたところでして、指定した者ということになりますと、いわゆる第三者との関係では、任意後見契約のときには第三者は登場しないというか、契約当事者には出てこないという前提で、指定した者という趣旨でアイデアを頂いたのか、そうではなくて、第三者も一緒に任意後見契約のときには合意しているけれども、書きぶりとしては指定した者というアイデアがあるのではないかという趣旨でアイデアを頂いたのか、少しそこが分からなかったものですから、もし明らかにしていただけるのであれば助かります。 ○山野目部会長 お二人に限りませんけれども、お二人を中心に、いかがですか。 ○上山委員 私は単純に前者の理解で発言しました。任意後見契約の時点で必ずしも第三者が合意している必要はなく、単に任意後見契約の中に具体的な者を指名しておけば良いという理解です。 ○青木委員 イメージは遺言執行者の定めみたいなところがありまして、一方的な委任者による指定ですけれども、もちろん内々には受託を頂いていますけれども、それが任意後見契約上に表れるわけではなく、あるいは指定をしてもらったけれども申立権者として受託しないので、実際には申立てをしてくれないという事態もあり得るという前提で、指定という考えを私はとりました。 ○山野目部会長 それで行く際には、遺言執行者と同じように、というアイデアで、イメージはすごくよく分かりましたけれども、遺言執行者の場合のように就職を承諾するとかという大げさな話は要らなくて、指定されていれば、指定されていますから私がさせていただきますよという形で話が進むという想定ですね。 ○青木委員 はい。 ○山野目部会長 小澤委員が別な論点のときに司法書士会で検討していただいた、公的機関が監督に任じます、というようなアイデアとつなげて考えると、ここのところで公的機関を指定しておいて、その公的機関が申し立てた上で自分を任意後見監督の事務をさせてくださいと促していくような、つなげていくような進め方があるかもしれません。公的機関を幾つか指定しておいて、そのどこかがしてください、というような指定の仕方が、指定の構成だと、できます。波多野幹事が示唆された二つの、指定ですか、契約ですかというアイデアのうち、契約であると最初の段階で公証役場に行って、そこで相手方にサインしてもらわなければいけないということになりますから、少し進め方が異なってくるでしょう。   波多野幹事、このくらいの議論をしたところでいいですね。 ○波多野幹事 はい。 ○山野目部会長 議論がかなり深まりました。深まりましたというのは、当然、この段階で今幾つか語られたアイデアのどれかの一つに絞って、それで決定しましょうという話ではありませんから、バリエーションがそれぞれその輪郭が明確になってそろってきたという御議論をしていただくことができたということであります。 ○山城幹事 先ほど部会長から、この問題を考えるに当たっては任意後見には契約と公序という二つの側面が意識されなければならないという御発言がありましたが、私もそのとおりだと感じております。この点に関わって、今後の課題のようなことですけれども、少し気になったことがございます。先ほど波多野幹事からお尋ねがあった点については、私も指定をするというような構成かと想像していたのですが、その場合に、任意後見受任者に対しては申立権を与えないということは、理屈としてできるのでしょうか。現行法の申立権者の範囲は、法定後見に平仄を合わせつつ、それに任意後見受任者も加えてよいという考え方でできており、両者は異なる考慮に基づいて申立権者とされているのではないかと思います。もしそうだとすれば、任意後見受任者については、公序として申立権者に加えられているわけではなく、契約当事者であることに鑑みて原則として指定があったものとして扱われるにすぎないという見方も、制度設計としてはあり得るように思います。どれだけ実益があるかは分からないですけれども、理論的な位置付けのはっきりしない部分がある問題ではないかと感じました。 ○山野目部会長 そうしますと、現在の任意後見監督人の選任申立ての申立権者の規律を一回ゼロリセットして考え直し、組み立て直していった上で、その結論として、その中に指定された者とか、あるいは改めて考えてリストアップした中に、法定後見と似たような人も入っているということもあり得るかもしれませんけれども、現行法の任意後見監督人の申立権者が何となく、法定後見の申立権者をコピー・ペーストして掲げているようなきらいもなくはなく、そこをもう一回きちんと考えてみましょうという、もう少しサイズの大きな御示唆を、更に今、山城幹事がアイデアとして、提案として加えてくださったと感じます。 ○山城幹事 例えば申立て義務を課するという規律を考えるときにも、任意後見契約に基づいて申立てをすべきであるとされた者に対してはそういった義務を課しやすいのに対して、法定後見に準じて扱われている人については課しにくいですとか、そういったつながりも生じるかもしれませんので、そういう点からも検討が必要かと感じております。 ○山野目部会長 よく分かりました。ただいま話題になったことについて、ほかに何かおありでしょうか。 ○山下幹事 少し4条との関係で言うと、3項の本人の同意との関係も少し整理をしておいていただきたいというか、要するに、本人が指定して申立権者にしたときに、改めてその後見監督人を選ぶときに本人の同意が必要なのかどうかというところについても、少し考え方を整理しておいていただけるといいかなと感じたという、それだけです。 ○佐久間委員 部会長がおっしゃった、4条の請求権者についてゼロリセットしてから考えるというのはあると思うのですけれども、今の山城幹事がおっしゃったことのうち、もし指定する人がいた場合に受任者をどうするのかということを問題とするのであれば、配偶者や四親等内の親族その他の者だって同じであるということと、申立て義務との関係で言うと、義務を課すなら一方的指定では足りないということになると思います。だから、ゼロリセットして考えるというのはあっていいと思うのですが、それこそ次の中間試案のときにどこまで提案として出せるのかは少し慎重に考えて、注記は別にいいと思うのですけれども、一定の考え方で臨むというところまで出すのは、議論できればいいですが、できなかったら、少し慎重に考えた方がいいかなと思いました。 ○山野目部会長 ゼロリセットって少し失言でしたね。どこまでリセットするのかが曖昧なので、少し分かりやすくしようとして暴言を吐いたのですけれども、もちろん中間試案までの距離、時間を考えると、現在の注記の記述を更に今日の議論を振り返って精密にするというところまでだろうと思います。ただ、中間試案へ出された意見の取りまとめを終えた後で更に、注記のこの文そのものは法文にはなりませんので、これを法文に育てていくときに、今日、山城幹事などが提案してくださったことや、しかし、それについて佐久間委員に御注意いただいたようなことを思い起こして、法制上の最終的な考えを深める作業をしていくことになるのだろうと思います。どうもありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   よろしいですか。そうしましたらば、もしおられたら久保委員、そして花俣委員にお声掛けをします。任意後見についての議論が進んでいて、かなりの部分が今終わっているところですけれども、いかがでしょうか。 ○花俣委員 議論が深まれば深まるほど、ますます難しい話になってきたというのが率直な感想です。任意後見制度は法定後見に比べたくさんメリットがあると法務省から出ているリーフレット等にも書かれていますが、前半の議論は余りそういうことを感じられず、もちろん必要な課題における様々な議論であろうということは分かるのですが、私たちにとっては、えっ、この制度もこんなに複雑でややこしいのだと、そんな印象になってしまいました。ただ前半の議論終盤では、本来国連の権利条約の流れから、自分のことを自分で決められるうちに早めに任意後見制度を有効に活用することが好ましいとされ、そこは大切なお話だと思って聞くことができました。今後、中間試案でパブリック・コメントを求められても、ここまで深い議論に対し我々レベルでは反応するのはかなり厳しいことを併せて感じております。   あと、任意後見については育成会の皆様は既に契約を結んでおられる方が多いかと思いますので、久保委員の御意見も参考にしながら、引き続き皆さんの御意見を拝聴したいと思います。 ○山野目部会長 ありがとうございます。引き続きお付き合いください。   引き続きまして、部会資料14の「第4 任意後見制度に関するその他の検討」の部分につきまして、事務当局から資料説明を差し上げます。 ○木田関係官 部会資料14の62ページ以下の「第4 任意後見制度に関するその他の検討」について御説明いたします。   まず、62ページからの第4の1では、任意後見契約の方式、任意後見契約の一部の解除及び発効並びに委託事務の追加(変更)、予備的な任意後見受任者(任意後見契約の登記に関する規律等)について整理しています。   また、72ページからの第4の2では、(注)において、任意後見契約を親権者等の法定代理人が締結することを禁止する規律を設ける考え方について引き続き検討することとしています。 ○山野目部会長 説明を差し上げた部分について御意見をお願いします。 ○小澤委員 第4に記載された項目については、論点として部会資料記載のとおり取りまとめることに基本的には異論はございませんが、1点だけ申し上げたいと思います。   第4の1(2)の任意後見契約の一部の解除及び発効並びに委託事務の追加(変更)についてですが、本人の事理弁識能力が不十分な状況でないのであれば、本人との契約により任意後見契約の委託事務の追加及び一部解除を行うことについて、反対する御意見はなかったと考えていますが、ゴシック体ではこの点も含めて引き続き検討とされております。これまでの部会における議論の中でも、任意後見契約の締結後に、少なくとも本人の意思により任意後見契約の委託事務の追加及び一部解除といった任意後見契約の変更をすることができるようにするという考え方は多数であったと認識していますので、今回の法改正の正式な案としてゴシック体で記載していただければなという意見を持っています。 ○根本幹事 五つ申し上げます。まず1点目は62ページのゴシックのところです。小澤委員の指摘とも関係しますが、変更と段階的発効のところについては、もう少し説明を、(注)に引き上げる内容を増やさないと、ゴシックを見ただけで何を意味しているのか、何が内容なのかということがなかなか国民の皆さんに伝わりにくいのかなと思いました。引き続き(注)に引き上げる内容を精査する必要があるのではないかと思います。   二つ目は終了についてです。現状は73ページのところの説明に落ちていますけれども、終了に関しては最終的に第4(4)というような形でゴシックにしていただく必要があるのではないかと思っております。その理由といたしましては、一つは、現行法は解除という方法だけになっているわけですけれども、今までの部会での議論を前提にしますと、73ページの説明のところにも書いてはいただいていますが、必ずしも解除だけにとどまらないのではないかということもありますし、少なくとも現行法の正当事由というものは、これは並存との関係での整理が必要になるということもあるかと思います。   また、終了する場面というのが解除以外に、例えば説明にも書いていただいていますが、有効期間というところもありますし、あとは目的終了というくくり方でいいのかどうかも含めての議論だと思いますが、例えば必要性、いわゆる限られた代理権で任意後見契約を結んでいる場合に、その限られた代理権の内容が全て終了していれば、それは目的終了という整理でよいのか、若しくは一部解除、一部終了とも関係しますが、そういった優先関係によるもので、任意後見契約が事実上何も対象となる代理権がなくなってしまっていると評価できるような場合も、これも目的終了といってよいのかというようなところを議論した上で、ゴシックに上げるべきではないかと思っております。ここは登記にも関係する話にもなってくるという点もありますし、取引の相手方にも影響してくるところになるかと思いますので、そういう意味でもゴシックにするべきではないかと思っております。   3点目が68ページの(5)の一部解除のところです。一部解除ないし一部終了と、例えば一部停止との関係ですとか、その規律にどのような差が設けられていくのかという点も含めて、もう少し説明が必要だとは思っております。いろいろな要素が関連するところだと思いますので、どのように説明するのかというところが非常に苦慮する点であるということは承知をした上で申し上げるところになります。   4点目が予備的なところで、71ページのところになりますけれども、ウからエのところ全般的にかもしれませんが、できれば(注)に引き上げられるぐらいに甲案、乙案まではゴシックで書いていただいていますけれども、具体的にどのような規律を設けるのかというところをもう少し書かないと、パブリック・コメントで意見を頂くのが難しくなってしまうと思っております。   最後、五つ目です。72ページにあります(注)のところは、引き続き中間試案で(注)という形で構いませんので、残していただきたいと思っております。これは議事録に残るという意味でも申し上げるところなのですが、今回の改正でゴシックにはならないというところはいろいろな事情で承知をするという前提で申し上げますけれども、やはり(注)のままで構いませんのでここをしっかり残すというのは、部会としての問題意識を広く示しておくという観点で必要だと思います。実務に対しても非常に大きな影響がある、部会でこういう議論をしているということを広く国民の皆さんに知っていただくということに意味があるというのは、佐久間委員も同じ御趣旨で御発言を頂いていたと記憶をしておりますので、その意味でも(注)に残していただきたいということになります。議事録に残すという観点で申し上げますと、民法797条の養子の代諾の問題などともあいまって、次の後見法改正の議論なのか、若しくは親族法の改正のときに併せてここを御議論いただいたり御検討いただけるのかというところはあろうかと思いますが、次の親族法を含めた改正議論のときに、改めて親族法の観点からも御検討いただきたいという意味も含めて、議事録に残していただければと思っております。 ○星野委員 第4のところについてです。先ほどの後半の議論のところでもありました、法定後見と任意後見の並存のところでも出ていたのですが、契約内容を変更をする、部分的に発効する、追加をする、これについては部会の中でもほとんど合意形成ができたと思っており、小澤委員もおっしゃったのですが、(1)の現行法の規律を維持するものとするを残すのかというところについては是非御検討いただきたいと思っていて、多くの委員の方からは、任意後見の使いやすさというところでは、一部解除とか一部の発効、それから追加、変更というところを入れるべきという意見が多かったと思いますので、注書きに是非入れてほしいという希望があります。   このときに、先ほどの後段の議論であった費用負担が難しい方たちという方が一定いらっしゃって、それが任意後見が難しいから、では法定後見なのかというのが佐久間委員からあって、非常に本質的な議論だなと思って聞いていたところです。こういういろいろな動き方が任意後見でできるようになるということを示すときに、その手続や費用負担のあり方というのはどのように考えていけばいいのか。今、任意後見は非常にお金と時間が掛かるというのが割と一般的に、残念ながら知られているところなので、説明のところでは見ていただけない可能性があるので、(注)のところでそういう費用負担について検討していくというような意見があったということを入れていただきたいというのが一つの意見です。 ○佐保委員 まず、62ページからの任意後見契約の方式などについてですが、任意後見契約の方式については、デジタル化で負担軽減も行われるとのことなので、公正証書による現行法の規律を維持する方向性に異論はございません。また、委託事務の追加の方が利用しやすいとの意見もございますが、既に任意後見契約を結んでいる障害をお持ちの方にお聴きしたところ、自分が適切に判断できるうちに任意後見契約を行い、段階的に発効させた方がよいという意見でございました。そのため、委託事務の追加に加えて、段階的な発効を認める規律も必要だと考えております。   予備的な任意後見受任者の定めをする任意後見契約の締結を可能とする規律は、必要だと考えております。登記は今の任意後見人が誰なのかを明らかにすることが重要であり、予備的な任意後見受任者が任意後見人に選任された段階で登記をし直すのであれば、予備的な段階で登記をする必要は余りないと考えておりますが、パブリック・コメントに諮ることに異論はございません。   72ページからのその他でございます。1の任意後見受任者が複数いる場合については、現行法下においても権限の分掌の定めをすることも、一つの権限を複数で共同行使する定めをすることも可能ということで、本文には記載しないということにつきましては承知いたしました。   2の任意後見受任者の事務所所在地及び職務上の氏名の登記も、法改正ではなく運用改善も含めた総合的な検討として、本文に記載しないことは承知いたしました。   次に、3の終了事由の(1)につきましては、任意後見契約は本人の意思を尊重した保護を実現する仕組みであり、法定後見制度の期間設定とバランスをとるために任意後見契約にも有効期間を設けるべきかについては疑問を感じております。ほかの委員の方の意見もお伺いしたいと思っております。   最後に、4の法定代理人による任意後見契約の締結については、様々な意見があり、引き続き検討するものとして承知いたしました。 ○野村幹事 67ページのところなのですけれども、(4)の委任されていない事務を追加する変更の説明のところで、少し意見を述べさせていただきます。67ページ、ア(ア)に述べられていますが、契約発効後において本人が任意後見契約の締結ができる意思能力を有している場合は、新たな任意後見契約(B契約)を締結することが可能であると考えられますが、このB契約については、直ちに監督人の選任を申し立てて契約を発効させる場合と、必要が生じたときに発効させる場合、二つの場面が想定されるかと思います。直ちに発効させる場合は、A契約を変更するという方法も考えられるのではないかと思います。その場合、A契約の監督は変更後の契約にも及ぶとして、新たに監督人の選任を求める必要はないということも検討できるのではないかと思います。また、B契約を締結する場合については、選任される監督人は特段の事情のない限りはA契約と同じ監督人が選任されると定めた方がよいと思います。こういった意見も追加していただけたらと考えております。   続きまして、67ページ、イ(ア)の本人の事理弁識能力が任意後見契約を締結することができない状況にまで低下した場合における代理権の追加に関してですけれども、委任者の意思を尊重する観点から、そのような場合に代理権を追加するに当たっては、契約締結時に委任者が追加することに同意して、公正証書においてその旨の記載があることが前提となることを追記すべきと考えます。   また、代理権の追加と法定後見の併存の関係ですけれども、一般的に任意後見は本人と受任者との一定の信頼関係を基に締結するものであって、受任者がその業務を行えることが本人の希望であると考えられますので、委任されていなかった事務を追加する変更により、可能な限りその希望を実現できることが必要と考えます。しかし、部会資料54ページの②や③のような場面においては、法定後見と併存する必要性もあると思われますので、どの場面でどちらが採用されるかという関係について整理して、具体的な場面について記載すれば国民にも分かりやすいと考えます。   それから、次の(5)の任意後見契約の一部を解除することの部分なのですけれども、68ページの12行目から14行目にあるように、特に法定後見と併存した場合の任意後見人との権限の調整を図る場面において、一部解除は有用であると考えます。また、(6)の後見登記に関してですが、一部解除した契約は継続していることから、公正証書により作成するものとして、その上で変更を嘱託登記にすることも検討できるのではないかと考えますので、その旨の記載もしていただけたらと思います。   続きまして、予備的な任意後見受任者のところですが、これは制度の利用を検討する方の相談を受けていますと、契約から発効までの期間が長いことを不安に感じるという話もよく聞くところで、そのような場合は当事者間の合意によって予備的な受任者を事実上定めるということは現状でも行われています。しかし、当事者間の合意にとどまりますので、受任者を信頼しての契約であったとしても、委任者の視点で考えると、このことが制度上で担保されて登記されているということが安心感につながると思いますし、制度利用の促進という視点からも、前向きに検討する必要があると実務の現場の感覚では感じるところです。具体的には、70ページの(2)において、「予備的な任意後見受任者を定めるニーズ」とありますが、「予備的な任意受任者を定め、これを明示するニーズ」と記載していただければと思います。 ○佐久間委員 終了事由の関係で1点と、それに関連して1点申し上げたいと思います。   まず、終了事由について、ここに書かれていることに特段異論はないのですけれども、法定後見の方の終了に関する見直しとバランスをとるというか、全部一緒にするという意味ではありませんけれども、考え方をそろえる必要が出てくるということ、法定後見の終了がどうなるか分からないので、それを踏まえてこちらも見直す必要が出てき得るということを、説明のところでもう少し強調しておいていただくといいかなと思いました。   それとの関係で、法定後見の場合とバランスをとるということは、結果としての規律の内容もそうなのですけれども、考え方もバランスをとる必要があると思っています。一つは、ここからは今まで委員がおっしゃったことに関して思うことなのですが、まず佐保委員からは、期間について任意後見の場合に設定することが適当かというご疑問がありましたけれども、私は、法定後見の方で期間を設定するのも、法定の制度だから期間を定めるべきだということではなくて、本人の意思の尊重というのですかね、自由を認める範囲を余り強く制限してはいけないということから、本人の意思によって何か定め直すことができるということを確保しようということだと理解しています。そうだとすると、これは何度か申し上げたのですけれども、任意代理でも任意後見でも、本人に事理弁識能力がなおある場合は、その本人の意思に基づく新たな法律関係の形成の可能性があるので、いいのですけれども、事理弁識能力を欠く常況になった場合は、期間に関して言うと、やはり一定期間経過したらいつまでもかつての意思に縛られ続けるということは適当ではないということ、これは資料にも書いていただいているのですけれども、解除を自由とするのかどうなのか、いろいろ難しいところはありますけれども、考えなければいけないと思います。それとともに、野村委員が、追加のときは当初の契約で追加可能とされている必要があるとおっしゃったと思うのですけれども、事理弁識能力を欠く常況になったときに当初の意思に永久に縛られるというのは、やはり少しおかしな面があり得ると思います。事理弁識能力を欠く本人のために任意後見人の権限を追加するというのは私には考え難い、それはもう法定の制度ではないかと。もしそれを認めるとしたら、当初の本人の意思は関係がないというか、余り強調すべきものではないと思っています。   最後に二つ申し上げたのは各論であって、言いたいのは、とにかく法定後見の見直しとの平仄を規律の内容面でも思想の面でも、よく通るように留意しなければいけないということです。 ○常岡委員 72ページの2のその他について、(注)のところで、任意後見契約を親権者等の法定代理人が締結することを禁止する規律を設ける考え方ですけれども、禁止するというような御意見が今まで出たのかなと少し疑問に思いました。これを解釈に委ねるというところのお話はあったと思いますけれども、これを明確に禁止してしまうという議論がここでいきなり出てきた印象を受けましたので、少しこれは御確認を頂いた方がいいかなと思います。   それを含めて、これは恐らくその後の74ページの4の法定代理人による任意後見契約の締結の可否というところにつながるのだと思いますけれども、これについて私自身は、何回か申し上げましたけれども、民法の規定としてユース・トランジションをコントロールするべきではないかという立場でありますけれども、いろいろな御意見もありますし、それについては解釈に委ねるとか、あるいは更に検討するという方向でよいかと思っておりますが、議論のスタンスとして、例えば先ほどの任意後見契約のところで、任意後見監督人の選任請求権者についてですけれども、現行法では、山野目部会長もおっしゃったように、本人の他に、配偶者、四親等内の親族という、家族というようなものが法定後見の方との連動で入ってきています。このような配偶者や四親等内の親族を、例えば任意後見契約を締結した本人が申立権者から排除できるかということについては、本人の意思を最大限に尊重するのであれば、もちろんそういう方向性はありますけれども、配偶者、四親等内の親族というのは位置付けがおそらく少し違っているのだと思うのです。親族ということについてどのぐらい法的な効果を認めるかということについては、もちろん議論していかなくてはいけないですし、親族というだけでこのような権限を認めるべきではない、申立権者であるべきではないという御議論もあるかとは思います。   ただ、前提として、例えば、先ほどの任意後見監督人の選任申立権者について、本人と配偶者とか四親等内の親族が非常に仲が悪いので、こいつらには申立てはさせたくないと、だから排除しよう、排除できるみたいなことは、やはり民法上はよくなくて、と申しますのは、本人と折り合いが悪いかもしれないけれども、一応前提としては家族というのは本人のために行動するというか、親族というのは助け合いの立場にあるというのが恐らく、性善説かもしれませんけれども、そういう前提で成り立っている部分は民法にはあるので、その辺りを考えますと、そのようなものとして親族に一定の効果を認めているという法律の構成でこれまで来ていたということについて、今後見直しが必要なのかもしれないし、親族の効果や、親族そのものにそれほど重きを置かず、親族に一定の法定の権限等を認めるべきではないという考え方にシフトするのかもしれない、それからまた、身寄りのない人や、あるいは近しい親族のいない人たちにどう対応していくかということも、もちろん重要な検討課題ですけれども、そこに一足飛びに行く前に、やはりまだ親族関係というものをひとつの軸に一応、民法の家族法の部分ができているということとの関連は、少し慎重に検討する必要はあるかなと感じました。 ○山野目部会長 常岡委員の御発言の前の方でお問い掛けがあった、その他の注記のところで禁止するという規律を設ける考え方というものを、そういう意見を抱いて述べている人は誰ですかというお問合せがありましたけれども、お声掛けをしますが、どうでしょうか。 ○根本幹事 正確に申し上げると、制限する規律というのが私が想定しているところと一致するのかなとは思います。任意後見契約を締結する意思と、委任の意思という二つを要件にしてはどうかと申し上げたところでありますので、それは制限するという表現になると思っています。 ○山野目部会長 未成年者が本人のときに、本人の意思を要件にするのですか。 ○根本幹事 未成年とかに限定せずに、代理締結というものについての規律を設けるということで、意見を申し上げているつもりです。 ○山野目部会長 親権者等と書いてありますけれども、親権者がいるのは未成年のときだけですよね。 ○根本幹事 はい。親権者の場面に限定される話ではないと思います。 ○山野目部会長 そうですか。 ○山城幹事 72ページのこの記述に対応する規律がどういう理由から設けられるのかに関しては、いろいろな考慮があるのだろうと思います。私が認識しているところは、根本幹事がおっしゃったことと必ずしも矛盾しないと思いますが、少し違った観点も含んでいます。と申しますのは、現行法は、親権者が未成年者を代理して任意後見契約を締結することを明示的に禁止も許容もしていないけれども、成年に達した後の法律関係を親権に基づいて設定することはできないのではないかという理論上の問題があり、この疑問が当たっているとすれば、親権者が未成年者を代理して任意後見契約を締結することは、禁止するまでもなくできないのではないかという問題があると感じます。ただ、この限りでは、親権者等に対して、未成年者のために任意後見契約を締結する権限を法律によって与える余地はあるはずで、その点が検討課題とされているのではないかと思います。   このような観点からしますと、書き方としましては、例えば、任意後見契約を親権者等の法定代理人が締結することを許容する規律について引き続き検討するというように、弥縫策的かもしれませんが、結論の方向性を示さずに引き続き検討するという形で整理しておくことも一案かと感じたところでございます。 ○山野目部会長 分かりましたけれども、どう整理していいか少し悩ましいですね。 ○青木委員 これまで余りこの点について発言したことはなかったかもしれませんが、私は、任意後見契約の本質が、本人の意思に基づいて本人が信認する者を受任者として代理権を付与する契約の性質からして、親権者であることをもって本人の意思と関係なく本人が未成年の間に任意後見契約を結んで、親が信認する第三者等を受任者として契約をするということは禁止すべきであると考えています。親御さんがお子さんの成年期のことを考えて心配するということはもちろんあるわけですから、その場合には法定後見制度の申立ては可能でして、親としてはそれを利用して成年期以降のことも考えていただくということにするべきではないかと。やはり任意後見の本質は、本人が自分で信認する人と代理権というところにあると考えるからです。   更に知的障害のあるご本人の立場から言いますと、ご本人は二十歳以降、60歳、70歳と長らく生きていくのですが、その間の長い人生における本人の生活状況や社会的能力を身につけていくことを見通して、その間のことを任意後見人に受託するということを、まだ未成年の間に、親が判断をして受託することが果たして適当なのかということです。ご本人は、成年になって、その後自分でいろいろなことを経験して、考えて、自分なりに支援をする人を選んでいくということもできるかもしれないではないかということも考えますと、親権者が契約することは相当性も欠けるのではないかという意見です。したがって、未成年のときに親権者が契約をするということについては禁止すべきであると考えています。 ○佐久間委員 私の考えは前に長々と申し上げましたので、繰り返さないですが、私の認識では、ここに書いてある、あるいは今、根本幹事、青木委員がおっしゃったような禁止する規律を設けるという考え方が一方であるとともに、常岡委員がおっしゃった、可能だということを明確にするという考え方も出ていたので、注記するのなら両方書く方がいいと思います。規定を設けるというのは無理なのではないのかというのが私の考えなのですけれども、その上でもう1点、親権者にフォーカスされていますが、「等」というのは一応今のところ意味があって、今後の制度ではそうはならないかもしれませんけれども、成年後見人は成年被後見人の財産に関する一切の行為について今のところ権限を有していますので、仮にそれが今後も残るということになったら、その成年後見人に当たる人が、それこそ法定後見を終わらせるために任意後見契約を結ぶということを許容する、しないということにも関わってまいります。ですので、この御提案の「等」のところは意味がある、広がりは真剣に考え出すと制度設計によってはいろいろ出てくるということだと思っています。 ○山野目部会長 少し中間試案の表現ぶりを見定めることを困難にしている事情は、次元が異なる二つの問題が一遍に議論されていて、一方では実質論ですね、法定代理人が本人に代わって任意後見契約を結ぶこと自体を好ましいと考えるか、好ましくないと考えるかということについての意見の対立がある。意見の対立がある様子は今確認しました。あわせて、しかしそれができる、あるいはできないという点は、規定を設けなくても解釈上当然であると考えるか、解釈上当然かもしれないけれども規定を設けた方がはっきりすると考えるかというところが、また人によって、こちらは考え方の違いというのよりは温度差というのに近いかもしれませんけれども、でも明らかに差異がありますね。この二つがクロスしていますから、どういうふうに書いたらいいか難しいですけれども、どちらにしても出口は引き続き検討する、ですから、皆さんがおっしゃろうとしていることを全部受け止めると、任意後見契約を親権者等の法定代理人が締結することの適否に関する規律を設けるかどうかについて、引き続き検討する、ということになるでしょう。今日の議事録を整理した上で、事務当局の方で、ここをゴシックにしたときにどのような表現にすることがよいかということを引き続き悩むことにいたします。   そのほかの点について、引き続き御意見を承ります。 ○青木委員 62ページのゴシックですけれども、一部発効の問題と変更を含む解除ないし追加の変更ですね、これは分けて整理を頂く必要があるのではないかと思います。性質からしましても、ご本人さんが既に任意後見契約をしていて、代理権も含めて内容が固まっているものについて、発効の時期だけを本人の意思に応じて決めるという制度的な設計というのと、元々契約に含まれていなかったものを追加したり、あったものをなくすというものは、別の問題として整理していただかないと分かりにくいと思います。   次に、一部発効につきましては、そういうことですから、ご本人さんの意思に基づいて必要な範囲で発効させ、更にご本人の意思に基づいて追加で発効させ、本人が意思を表明することができなくなった段階では任意後見人の申立てで全部を発効させるということとし、家庭裁判所に申立てをして発効を確認していくという手続で、複雑になることなく制度化できるものではないかと思っています。 ○佐野委員 今お話しいただいたところと同様に、62ページ以降に記載いただいております任意後見契約の段階的な発効、あと事務の追加のところについて、銀行の立場で申し上げさせていただきます。こちらは今までもお話しいただいているとおり、本人の意思に基づいて本人の真意を尊重するという方向で実施されるものと理解しております。こちらは、ただ、どのような条件で、どのような手続でなされるかというところは引き続き議論が必要で、今後議論がされる部分かと考えていますが、取引の相手方の立場としましては、段階的な発効や執行というところは、飽くまでも任意後見契約が継続されている間の個別の手続によって発生して、そのたびに取引の相手方には都度、届出がされるというものが有り難いと考えております。   その上で、こちらもまた取引の相手方の立場としてはというところですけれども、任意後見の手続に応じるという上では、資料の66ページの28行目、エの部分などにも書いていただいておりますが、その時点でどの代理権が有効なものであるかというのを登記によって明示されているという必要があると考えております。 ○根本幹事 代理締結のところに少し戻るのですが、説明のところで少し誤解を生む表現があるかと思いますので、申し上げておきたいと思います。75ページの30行目ないし31行目からのところですが、いわゆる補充性の原則の適用との関係で、任意後見契約を活用することを示唆する意見があったとあり、その次の段落のところが少し誤解を生むように思っておりまして、恐らくこの任意後見契約を活用するということを申し上げているのは、私若しくは佐久間委員だと思うのですが、私も佐久間委員も、その場面で代理権で任意後見契約を締結するということについては、これはできないということを一貫して申し上げているところではないかと承知をしております。ここで想定しているのは、そのような場面で御本人が任意後見契約を締結することによって、任意後見契約の即効型で移行していくということをイメージして申し上げていますので、このようなという、この段落の表現のところについては、少なくとも私や佐久間委員の意見ではないということだと思いますし、そういった御意見が出ていたという記憶はないので、誤解を生むのではないかと申し上げておきたいと思います。 ○山野目部会長 受け止めて整理を致します。   ほかにいかがでしょうか。   よろしければ、先に進めてまいります。進行の効率を期して、次の「第5 その他」について事務局説明を差し上げ、そこについて委員、幹事の御議論を承った後、波多野幹事や関係官、それから事務当局からのお尋ね、御発言を頂き、そしてその後、花俣委員、久保委員にこの順番でお声掛けをすることにいたします。   その他の部分について、事務当局からの資料説明をお願いします。 ○柿部関係官 部会資料14の76ページ以下の第5の1では、成年後見制度の見直しに伴い、成年後見制度に関する家事審判の手続について所要の整備を行うということとしております。83ページの第5の2では、重度の身体障害により意思疎通が著しく困難である者の法定後見制度及び任意後見制度のいずれの利用に関しても規律を設けることとするか否かについて、引き続き検討することとしています。 ○山野目部会長 説明を差し上げた部分について御意見を伺います。 ○小澤委員 第5に記載された項目について、論点として部会資料記載のとおり取りまとめることに異論はありません。 ○星野委員 第5の1、手続についての検討のところ、76ページのところですが、家事審判の手続についての検討についてです。ここには法定後見のところも当然入ってきているわけですけれども、説明書きのところには、いわゆる医学モデルから社会モデルというようなことを意識した意見が多く出ていて、本人の陳述を聴取するとか、本人のいろいろな状況を確認するというところは出ているのですが、所要の整備を行うものとするということだけでは、やはり何を整備することが必要だと出てきたのか説明を読まないと分からないので、例えば、これは部会の中でも意見として申し上げたところでありますけれども、既に法定後見の申立てのときには本人情報シートというものがかなり広く使われているというところで、この本人情報シートの申立て時の必須化などについても意見が出ているようなところも少し注書きに入れていただけないかという希望です。   それからもう一つ、最後ですが、83ページの2番のところに、重度の身体障害により意思疎通が著しく困難である者というゴシック体のところがあります。これについては何も結論のようなものは書かれていなくて、引き続き検討するものとするということで説明になってはいるのですけれども、ここで「重度の身体障害」という言葉の使い方が部会の中で共通に認識できているかというところを実は私は懸念をしています。というのは、国連の権利条約でいうところの障害というのは、その方の個人に発生している障害のことをいっているのではなくて、社会の障壁がどうかというところで、その人にとっての障害が生じているという捉え方だと思うのです。そのときに、我々が少し安易に重度の身体障害という言葉を用いているときにイメージしているものが、重度という言葉を使っていいのかというのが私の中には懸念としてあります。なので、この言葉の使い方というところをもう一度確認をしたいなというところで、意見として申し上げました。 ○根本幹事 私からは、ゴシックのところの所要の整備ということについての具体的な論点として、(注)で表示をしてはどうかと思っている項目が7点ありますので、申し上げます。   一つは、先ほど星野委員からも御指摘がありましたけれども、いわゆる本人情報シート若しくはそういった医学的な知見以外の本人の生活状況や社会的環境等を示すものとして、本人情報シートに限るかということはもちろんありますけれども、生活状況の要素を開始ないし選任、交代、それから終了の場面で、知見といいますか情報を考慮するということを手続法上法制化していくということは、議論の俎上にのってよいのではないかと思います。  関連して、2点目になります。仮に中核機関が法定化された場合に、現状の調査嘱託という手段だけで足りるのか、横文字を使えばいいということではありませんが、クリアリングというものを調査嘱託とは別に設けていく必要はないのかという点も、これは具体的に議論されるべきだと思っています。その理由については、既に申し上げているところですが、調査嘱託の場合には本人の同意がないというような理由で回答を拒否されるという場面が実際に実務ではありますので、調査嘱託と差異を設けていく必要があるのではないかと思っているということになります。   3点目は鑑定についてです。鑑定の在り方については、これは実体法上の事理弁識能力を欠く常況というところとの議論とも関係する部分はあるかもしれませんし、あわせて、今までの議論の中で青木幹事からも問題意識が示されていたところではないかと承知をしていますので、ここは具体的に書いてもよいのではないかと思っているということになります。   4点目の論点としてあり得るのは、79ページの(イ)の指示との関係にもなりますけれども、これは法制化の問題ではないと理解はしていますが、この指示には後見制度支援信託・支援預貯金の指示書も含まれているということになりますので、いわゆる事理弁識能力を欠く、その類型が残るか残らないかという議論とあいまって、後見制度支援信託・支援預貯金の在り方について、ここではまだ十分に議論はできていないのですが、類型がどうなるのかということと少し議論が関係するのかなと理解をしていますので、ここは論点として記載してもよいのではないかと思っているということになります。   五つ目は、遠藤幹事からの御指摘などとも関係しますが、今後制度が改正されていく上で、調査官調査に関しての負担というのが増していくということは、議論としてあるところだと思います。運用上の問題といえるのかもしれませんけれども、例えばオンライン化ということとの関係で見たときに、オンライン聴取、聴取方法をオンライン化していくですとか、若しくは書面によるものを柔軟に認めていくということについての議論というのは今までも部会の中であったかと思いますので、それを手続法の規定との関係で論点として書くということはあり得るのではないかと思います。   6点目は、終了ないし取消しということになるのか、法定後見の終了場面における審判の点についてです。これは終了の議論がどのようになるのかということとも関係しますけれども、どのような終了事由であっても、終了の審判というものを全件行うのかどうかということについては、手続との関係で見たときに議論があるところだと思いますし、あとは本日冒頭で佐野委員若しくは従前の小出委員からの御発言とも関係しますけれども、取引の相手方との関係で見たときに、終了事由が法定化されている終了事由との関係で、終了事由自体を審判書に書くのかというところも御意見があったところだと思いますので、議論としては残しておくべきではないかと思っております。   7点目は、先ほどの任意後見が解除だけで終了するのかということとも関係しますけれども、仮に解除だけではないとなるのであれば、終了事由との関係で任意後見もやはり何らかその終了の審判というようなものがあり得るのか、その場合の申立権者というようなことをどのように規律するのかということも具体的に今後議論しなければいけないということだと思いますので、これらの点を(注)に書くのか説明なのか分かりませんが、具体的に記載された方がいいのではないかと思います。 ○野村幹事 説明の部分について意見を述べさせていただきます。まず、法定後見の家事審判手続の中で、(1)の精神の状況に関する鑑定及び意見の聴取のところのアの後見開始の審判、保佐開始の審判及び補助開始の審判のところなのですが、77ページの7行目に、「部会では、鑑定や医師その他適当な者の意見を聴くとする現行法の規律の見直しにおいて、医学的判断のみならず福祉的な判断も加えることや、現在運用で活用されている「本人情報シート」について、何らかの法令上の根拠の付与を検討する必要性について意見があった」という記載を追記していただけたらと思います。   続いて、(2)の陳述の聴取のところですが、78ページの9行目に、「部会では法定後見、任意後見に限らず、本人の心身の障害によって本人が陳述できない場合でも、本人の意思確認の重要性から、画像データ等の提示など、本人の意思を確認する方法を広く認める必要性があるとの意見があった」と追記していただけたらと思います。   それから(5)の保全処分のところですが、80ページの24行目に、「部会では見直し後の法定後見制度においても保全処分に関する現在の規律を維持することでよいのではないかという意見がある一方で、申立て後の審判がされるまでに時間を要するが虐待等により緊急性が高い場合、保全処分をより活用しやすくするような、開始要件を緩やかにするようなことや、保存行為のみならず最低限の支出について柔軟に認められるような選択肢の検討について意見があった」と追記いただけたらと思います。   最後になりますが、(3)の任意後見の精神の状況に関する意見の聴取のところですが、80ページの33行目に、「部会では医師の診断書に限らず、作成者の資格や内容の客観性が確保されて法的根拠が与えられた本人情報シートの活用により審理を進めることの検討についての意見があった」と追記していただけたらと思います。 ○遠藤幹事 このセクションについては基本的には、いわゆる実体法と申しますか、法定後見ないし任意後見制度がどう変わるかに伴ってどうなるかという話と私どもは理解をしておりましたので、その運用の変化、法律の変化に従ってというところはあるのだろうと思いますが、先ほどの根本幹事その他の皆様のお話との関係で若干申し上げますと、まず、本人情報シートや中核機関のお話は前回私どもの方から、交代の話をするときに、交代の要件如何によっては、福祉的な知見を有する専門的機関から意見を聴けるような規律を設けることがあり得るのではないかという御意見を申し上げたところです。   鑑定の関係、今も原則鑑定とされており、見直し後の制度において定められる類型に関する議論において、要件を厳格なものと捉えるという観点から、一定の類型については鑑定を原則にすべきとの御意見もありましたが、そうでない場合も含め、全ての場合に必ずしも原則鑑定としない、という選択肢もあってよいと思うところでございます。   最後に念のため申し上げますが、先ほどの根本幹事の御発言との関係で、調査官調査の法制化についてのお話がありました。調査官がどのような手法により調査をするかということについては、必ずしも法律によって定められているわけではなく、運用によってウェブの活用などはできるものと理解をしております。実際に必要に応じてウェブを活用した調査などを行っておりますので、法制化の必要はないのだろうと裁判所としては理解しております。 ○佐保委員 76ページからの1の家事審判の手続についての検討等については、異論はございません。83ページからの2の重度障害により意思疎通が著しく困難である者について、引き続き検討していくということで承知いたしました。この点については、より当事者に近い方の意見も重要と考えております。ほかの委員の方の御意見も伺いながら検討してまいりたいと考えます。 ○青木委員 デジタル化に関する規定のところでお願いですけれども、デジタル化についての制度論等を81ページから82ページに掛けて書いていただいていますが、令和5年改正等によってこういうことができるように改正はされましたが、現実にまだ施行されていないと思いますので、具体的に施行される日時までを明記することは難しいにしても、このまま読みますと、既にオンラインでのデジタル化が成年後見制度もその他も含めて始まっているかのように誤解されますので、具体的な施行のことについても御説明を頂きたいと思っておるところです。   また、成年後見登記のオンラインによる申請ですけれども、一部の項目については現在もできているのは事実でありますけれども、対象が限られ、オンライン申請できる資格も限られており、後見人等や関係者全員がオンライン申請で速やかに登記事項を取得できている実情にはないというところもありまして、ここは書くのはなかなか難しいとは思いますけれども、今後関係者が速やかにオンライン手続ができるようにするための更なる改善というのも必要だと思いますので、ここの書きぶりとの関係では、一定の要件を満たす人はオンラインで申請や登記事項証明が取得できるというぐらいの記載にしていただかないと、誤解を生むことになるのではないかと思います。 ○上山委員 最後の83ページの、重度の身体障害により意思疎通が著しく困難である者のゴシック部分の記載については、私は重度のという形容詞は削除してよいのではないかと感じます。この規律の趣旨の重点は意思疎通が著しく困難である者というところにあると思いますので、単に身体障害により意思疎通が著しく困難である者とした方が問題提起として分かりやすいのではないかと感じます。説明の箇所ではこのまま、重度のという表現を残しておいても構わないと思うのですが、途中で星野委員がおっしゃった障害の社会モデルとの関係から言っても、精神の障害の部分では特に重度という表現はないわけですので、ここも重度のという言葉は削っても差し支えないのではないかと感じたということです。 ○山野目部会長 よく分かりました。   ほかにいかがでしょうか。   第4及び第5の部分について、波多野幹事から発言があれば承ります。 ○波多野幹事 大丈夫です。 ○山野目部会長 木田関係官、いかがでしょうか。 ○木田関係官 2点確認させていただきたいところがございまして、野村幹事がおっしゃっていた67ページの任意後見契約の変更の部分でございまして、元々の最初結んでいたA契約について変更する場合も公正証書で行うことを前提とされていますでしょうかというところと、監督人がそのまま選任されるということでございまして、家庭裁判所に対する請求ですとか、何らかの手続を必要としたものという理解でよろしかったでしょうか。 ○野村幹事 契約を変更する契約は公正証書を想定しています。また、B契約を締結して直ちに発効しない場合、その契約を発効させる場合は、任意後見監督人の選任申立ての手続きが必要となり、その場合にA契約で選任された任意後見監督人と同じ監督人が選任されるということを条文で規定することが考えられます。必ずということではなく「原則」とか「特段の事情がない限り」という定め方も考えられます。 ○山野目部会長 木田関係官、よろしいですか。 ○木田関係官 もう1点だけ、申し訳ございません。83ページの今、上山委員から重度のを付けるかどうか指摘があったところで、身体障害により意思疎通が著しく困難である者について、法定後見制度もこのままパブリック・コメントに掛けていく方向でいいのかについて、今のところ何も御意見がないということであれば、法定後見もこのまま残すという整理にしてしまってよろしいのでしょうかというところの確認をさせていただきたいと思ったところでございます。 ○山野目部会長 今の点、いかがでしょうか。法定後見についても身体障害の論点を引き続き掲げるというところは、今の文章はそういう想定で、だから第5のところに回っていますけれども、木田関係官がお尋ねになったことは、ですから、中間試案の項目の編成にも関わります。法定後見でそれは問わないということになれば、これは任意後見のところの一項目として整理し直すということになりますが、この点について何か御意見がありますか。 ○佐久間委員 法定後見によるということは、当初出てきた案だったと思いますが、反対も多かったと思うのです。任意後見でどうかというのも、私も最初申し上げたことがあったと思いますが、それについても任意後見も少し違うのではないかという意見もあったと思います。ですので、この項目は、成年後見制度といっていいのだったら、成年後見制度の利用に関してとするか、又は新たな制度というのですかね、を設ける、この方たちのことに関して引き続き検討するというのが、今までの議論を一番反映しているのではないかと私は感じました。 ○佐保委員 すみません、先ほど星野委員も言いましたし、神山委員も言いましたけれども、重度のという部分についてですが、私も同じく重度は要らないのではないかと思っています。なぜかといいますと、重度の身体障害者、一応、厚労省とかで定義はございますが、障害の部位によって異なります。内部疾患であれば、例えば心臓疾患で人工弁を付けても重度になりますが、それでも普通に日常生活を送れたりします。逆に言うと、重度の定義とは何なのかということを考えますと、身体障害により意思疎通が著しく、ということでくくってしまっていいのではないかと思いました。 ○山野目部会長 重度の、を外す扱いは多くの方が言った意見ですから、それはそうだろうという感触を抱きますけれども、佐久間委員の御提案のところについてほかの委員、幹事の御意見はいかがですか。成年後見制度の話というふうにもう少し広げて尋ねたらどうかということや、あるいはそもそも成年後見制度の話というよりは、任意後見、法定後見の制度の外にあって、身体障害によって意思疎通といいますか意思表明に困難がある人の意思表明を助けるための仕組みを設けるかどうかについて引き続き検討するとかという、そういう方向はどうでしょうという提案が佐久間委員のアイデアでしたけれども、それについての意見を伺っておきますけれども、いかがですか。 ○山下幹事 私としては、佐久間委員のおっしゃった方向でもう少し広げた方がいいのではないかという気はします。やはり法定代理を利用することの適否としてしまうと、恐らく反対の方が多いのではないかと思うのですが、今おっしゃったように意思決定支援も含めた意思の確認の手続のようなものについて、もう少し幅広に議論していく必要性というのは多分あって、それをパブリック・コメント等で意見を聴いておくというのは非常に意義が大きいのではないかと思いますので、もう少し広めの議論として一般的に意見を聴くという形でまとめてはどうかというのは私も思いました。 ○青木委員 障害によって意思疎通が難しい方に関する問題としては、情報コミュニケーションの情報保障の問題としてや、それから障害者差別解消法に基づく合理的配慮や環境整備の問題として、既に議論と制度や運用の検討がされてきているところです。そういう問題としては当然、障害者団体も含めて様々な提案がなされ、制度整備が進められているところでして、そのことについてどう在るべきかというのを正面から問うというのは、今回の成年後見見直しのパブコメの趣旨からは反するものではないかと思います。むしろ、そういう他の検討や整備がなされている中で、環境整備の一つとして、成年後見制度、法定後見や任意後見というものを一つのツールとして活用するということについてどう考えるかというような問い掛けであれば、成年後見に引き付けたものとして適当かなと思いますけれども、一般的に意思表示が困難な課題に関する施策をどう考えますかというのは余りにも広すぎますし、ここの聴きたい項目とも外れるように思いますので、そこは少し工夫が要るのではないかと思います。 ○山野目部会長 なかなか悩ましいですね。 ○山城幹事 発言させていただきたいことが二つございます。一つは今、青木委員がおっしゃったこと、あるいは先ほど上山委員が御指摘になったことと関わるのですが、想定されているのは意思疎通が著しく困難な者だけれども、それだけを示すと、精神上の障害により意思疎通が困難な人だけではなくて、身体障害により意思表明が困難な人も含む余地が生じるので、対象をどう区切るのかが問われているのだと思います。これはどこに制度設計の力点を置くかに依存する問題で、意思疎通が困難である者であっても、その原因が意思表明を困難にする身体障害である場合は区別すべきなのか、あるいは原因の如何にかかわらず意思決定支援は必要なのだから、包括的な制度を作るべきなのかが問題になり得るのだろうと思います。そのこと自体は問うてもよいと感じますが、ただ、青木委員から御指摘があったとおり、問いたいことはその点ではないのではないかとも感じます。これが一つです。   もう一つは、法定後見と任意後見を成年後見制度と総称するという佐久間委員の御発言がありましたが、利用促進法2条の用語法は両者を含んだ成年後見制度を想定するものかと思いますので、その点でも成年後見制度という語を用いることは適切なのではないかと思います。法定後見と任意後見の総和を成年後見制度と呼ぶのだとすれば、結局のところ83頁の記述とは表現の違いしかないのかもしれませんが、成年後見制度という語を用いることで、関連する制度全体の位置付けを問うているのだという趣旨を明らかにすることはできそうですから、用語法としては意味があるのではないかと感じました。 ○山野目部会長 なかなか悩ましいとは感じますが、しかし皆さんがおっしゃったことを少し手間を掛けて整理すれば整理は可能であると感じますから、木田関係官にお問い掛けいただいた価値はあったということになります。このような整理で進めていただいてよろしいですか。 ○木田関係官 ありがとうございます。 ○山野目部会長 花俣委員、いかがでしょうか。 ○花俣委員 私から特段意見はなく、先ほど申し上げたとおり、それ以上でもそれ以下でもございません。大変丁寧な御議論を拝聴させていただきまして、心から感謝申し上げます。 ○山野目部会長 ありがとうございます。今日もお疲れさまでした。   久保委員、お願いします。 ○久保委員 ずっと皆さんのお話を聞いていますと、成年後見制度をまだ利用していない人が大変まだ多い現状にあるかなと思いますけれども、このことが多いですけれども、その場合、現状はどのように対応しておられるのかなと思って、今議論をされていて、この場合にどう対応するのか、この場合はこういうしておかないと、という議論がなされているのかなと思っているのですけれども、今現状どう対応されているのかなということも少し参考になるのかなと思いつつ、ふと疑問に思ったところです。   それともう一つは、未成年者の親が親権を持っていますけれども、その段階で、成年になった場合に任意後見を利用するとかそういうことを、親権があるのにもかかわらず、先に本人の意思とは関係なく親が決めてしまうということは、少しよくないなということは思っていまして、その辺のところも皆さんが御議論いただいていることに私の思いは一致しているのかなとは思っていますけれども、またそんなところも具体的にどう書くのかということも御検討いただけたら有り難いなと思っています。ありがとうございました。 ○山野目部会長 久保委員が前半でおっしゃったとおり、本日御議論いただいた任意後見、直近に御議論いただいたそれのみならず、法定後見の諸論点につきましても、現在、成年後見制度を用いていない状況の人たち、用いてよさそうであるに用いていない人たちがたくさんいますから、その下でも起きている問題が相当俎上に載っています。問題が複雑である要因は、そういう方が今いて、しかし現実の解決はつかさ、つかさでされていることをにらみながら、今度、制度を変えていこうとしていますから、新しい制度の下でそういう問題がどう考えられるかということをまた思考実験しなければいけません。話は複雑ですけれども、何か所か、今でもある問題ですけれども、というふうな御発言が委員、幹事からあった点は、そのような観点にできる限り注意しながら進めようという努力であったと感じます。久保委員にもそのことを見抜いていただいていますから、引き続き御覧いただければ有り難いと存じます。後半で久保委員が観点として強調しておっしゃったことは、従来、久保委員からも再々御注意いただいていることでありますし、本日委員、幹事から一般的に議論していただいたことを踏まえて、任意後見契約の代理による締結の問題をこれからも慎重に検討してまいります。どうもありがとうございます。   部会資料14についての審議を熱心に頂くことがかないました。次回会議に向けての案内を波多野幹事から差し上げます。 ○波多野幹事 本日も長時間にわたって御審議いただきまして、ありがとうございました。   次回の議事日程でございますが、令和7年5月13日火曜日午後1時15分から午後5時30分まで、場所は東京地検の総務部教養課会議室302号室を予定しております。   次回は、前回及び今回にわたって御審議いただきました内容を踏まえまして、部会資料13及び14のゴシック部分を中心に修正した部会資料を御準備し、中間試案の取りまとめに向けて引き続きの御議論をお願いしたいと考えております。 ○山野目部会長 次回の第19回会議は、今回と同じく開始時刻が13時15分になるということを今御案内申し上げました。よろしく御協力ください。   これらの案内を含め、皆さんの方から何かおありでしょうか。   よろしいでしょうか。お疲れさまでした。   これをもちまして法制審議会民法(成年後見等関係)部会第18回会議を散会といたします。どうもありがとうございました。 -了-