法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  令和7年7月15日(火)   自 午前 9時30分                        至 午前11時22分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 「再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写」         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野幹事 ただいまから、法制審議会・刑事法(再審関係)部会第4回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 本日は御多忙のところ、また朝早くから皆様御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日は、池田委員、小島幹事、井上関係官、寺田関係官はオンライン形式により出席されています。   まず、冒頭に、私から1点お願いをさせていただきたいと存じます。   御承知のとおり、今回から論点についての実質的な審議に入ってまいることになります。第1回会議及び第3回会議において、委員・幹事の皆様から多くの論点を御提示いただいたところでありますが、他方で、当部会ではできる限り早期の答申を期待されていることから、皆様には今後の調査、審議における円滑かつ充実した議事の進行に御理解と御協力を賜りたいと考えております。   具体的には、まずは御提示いただいた論点について、一巡議論を回すことが重要であると考えられますことから、検討する項目ごとに審議時間の目安を設けることとしたいと考えております。また、できる限り多くの方に御発言いただく機会を設けるとともに、意見交換がかみ合ったものとなりますよう、御発言の内容はできる限りコンパクトにまとめていただき、1回の御発言は2分以内を目安にお願いしたいと考えております。何とぞよろしくお願いいたします。   それでは、次に事務当局から、本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○中野幹事 本日は、事務当局から配布資料4及び5をお配りしています。   配布資料4は、配布資料3の諸外国の刑事再審に関する法制度の追補版であり、期日外において委員から頂いた御指摘を踏まえ、適宜内容を追補したものです。   配布資料5は、委員・幹事の皆様から今後検討すべき事項として御提示のあったものについて、部会長の御指示の下、事務当局において整理させていただいたものです。   また、鴨志田委員、平城委員、村山委員から提出された委員提出資料をお配りしております。   鴨志田委員からは、諸外国の有罪確定後の救済制度についてまとめた資料とその説明資料、再審無罪事件の概要等をまとめた資料、条文案を御提出いただいております。   平城委員からは、司法研修所で行われた共同研究「再審をめぐる諸問題」の結果概要を御提出いただいております。   村山委員からは、日本弁護士連合会による刑事再審に関する刑事訴訟法等改正意見書を御提出いただいております。   そのほかに、さきの通常国会で提出された刑事訴訟法の一部を改正する法律案の内容を机上配布しております。   本日お配りした資料の御説明は以上でございます。 ○大澤部会長 多数の資料が配布されておりますけれども、本日お配りした資料について御質問等がございましたら、挙手の上、どの資料に関する御質問等であるかを明らかにしていただいてから御発言をお願いいたします。   いかがでございましょうか。特にございませんでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、鴨志田委員が提出してくださった外国法制資料について、コメントさせていただきたいと思います。   この資料においては、事務当局が作成してくださった配布資料4では扱われていないカナダや台湾の法制度も紹介されており、有益であると思います。充実した資料を提供していただき、感謝申し上げます。その上で、私が多少の知見を有しているアメリカとイギリスについて、御提供いただいた資料を参照する際の留意点を申し上げたいと思います。   まず、アメリカには日本の刑事再審に相当する制度は存在しないため、アメリカと日本の制度を比較することには難しい面があると考えています。鴨志田委員作成のアメリカの表には、「6.主要な救済制度」の欄に様々な制度が挙げられていますが、このうち、事実認定の誤りを是正する手続は、基本的に、新たな証拠の発見を理由とする「再公判の申立て」のみであり、これが日本の再審手続に最も近いと思われます。事務当局が作成してくださった配布資料4のアメリカの欄に「再公判の申立て」に係る手続のみが記載されているのも、同様の理解に基づくものと考えています。なお、「自己誤審令状」は、これを利用するための前提要件が非常に厳しく、連邦最高裁判例において、「今日の連邦刑事事件において、自己誤審令状が必要又は適切な状況を想定することは困難である」と指摘されている点に留意が必要です。   また、イギリスの表の「5.確定事件に関する記録の保存・保管」の二つ目の丸において、「1984年警察及び刑事証拠法22条は、押収物を必要な限り保存することを義務付け」と下線付きで記載されていますが、条文上は、「押収物を必要な限り保持し続けることができる」と規定されているにとどまり、また、写真や写しで足りる場合には押収物を保持し続けることができない旨も併せて規定されています。証拠物の保管に関する規律については、委員・幹事の皆様の関心も高いと思われますので、正確を期すため、あえて指摘させていただきました。 ○大澤部会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○川出委員 私からは同じ資料のドイツの部分について1点だけ指摘をさせていただきたいと思います。   この図の「2.不提出証拠の開示制度」について、その根拠条文として、記録・証拠の閲覧権を定めた刑事訴訟法第147条が挙げられております。しかし、この刑訴法第147条は、その下の欄に書かれていますように、飽くまで、裁判所に存在する記録、公訴提起の際に裁判所へ提出されることになる記録及び職務上保管されている証拠物について閲覧権を認めているものですので、それが裁判所に提出されていない記録の閲覧権をも保障した規定であるというのは不正確であると思います。   正確に言いますと、ドイツ刑訴法では、通常の刑事手続においても職権主義が採られていることとの関係から、この第147条とは別に、第199条第2項第2文において、検察官が起訴状と共に記録を裁判所に提出することが定められており、この規定に基づき裁判所に提出されていれば第147条に基づいて弁護人がそれを閲覧できたはずであるということから、この両条文があいまって、本来裁判所に提出されるべきであるのに提出されなかった証拠、その一つの例が、ここに書かれている被疑者・被告人の罪責の認定や法の適用にとって重要な内容を含む「証跡記録」ということになりますが、そういった証拠については、弁護人が裁判所に対して、その取り寄せを請求し得るという解釈が採られているということになろうかと思います。   このように、ドイツと日本では、前提となっている刑事手続の構造が異なりますので、裁判所不提出記録の閲覧・謄写についても、それを踏まえた比較が必要だという観点から指摘をさせていただきました。 ○大澤部会長 ほかに御発言ある方はおられますでしょうか。 ○森本委員 私も、鴨志田委員御提出の諸外国の有罪確定後の救済制度について、若干韓国で在外研究をさせていただいた経験から、韓国の制度について指摘をさせていただきたいと思います。   資料の韓国のところの表の「6.主要な救済制度」の三つ目の丸のところ、あるいは「14.検察官の不服申立の可否」の欄に、「過去事清算の一環」、あるいは「過去事再審事件対応マニュアル」との記載が見受けられるところでございますが、この過去事というのは、条文を見ますと、例えば日本の占領期の事柄とか、あるいはその後の軍事政権下の事柄について対象とするという規定がございまして、そうした軍事政権下において発生した特殊な案件、あるいは日本の占領下での特殊な案件のことを指すものでございまして、一般的な刑事事件はこれには該当しないものと理解されますので、その点は御指摘申し上げたいと思います。   また、韓国の刑事訴訟法の条文を見ましたところ、韓国の表の「2-1.開示/閲覧の対象」に記載されているという第266条の3第5項の欄に、「証拠目録の開示を遅滞なく履行しなければ、証拠調べ請求不可」と記載されておりますけれども、実際、その条文を読みますと、検事は、第2項の規定にかかわらず、証拠書類の目録に対しては閲覧又は謄写を拒否することができないと記載されているのがその条文でございまして、この資料になされているような規定はなされておらず、そのほかの条文も確認したところ、記載と同じ内容の規定というのは韓国刑事訴訟法には見当たらないと見受けられますので、その点は御指摘させていただきたいと思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○鴨志田委員 丁寧に資料を見ていただいて御指摘をいただきまして、大変ありがとうございます。一度にかなり多岐にわたる、また多くの国にわたる御指摘を頂きましたので、この場でそれに対して一つ一つこちらで回答するという形を採るのではなく、一度持ち帰りまして、今日御指摘いただいた点について、また補足をしたり訂正をしたりということがあった場合には、後日それを指摘をさせていただく時間を取っていただくように部会長にお願いをしたいと思います。   それから、別件でもう1点申し上げたいことがございます。   先般、国会に提出をされた再審法の改正案が今日の机上配布資料ということになってございます。こちらにつきましては、実は私の方から、この法制審の正式な部会資料としていただきたい、事務当局からの資料としていただきたいということをお願いしておりました。それに対して、この条文案の内容は事務当局が説明責任を負うということができないという理由で、机上配布資料とさせていただきますという回答を頂いているところです。   この法案というのは、既に国会に提出されて、正式に衆議院の法務委員会にも付託をされて継続審議となっている法案でございまして、正に公的な資料ということだと考えております。そのような公的に存在するということが明らかで、内容も明らかになっている資料について、説明責任を果たすことができないという理由で正式な資料とできないという、その理由が私にはどうしてもよく分かりません。今日、この部会の中で、このようなやり取りがあったということを御報告させていただくとともに、改めてこの点について御説明いただければと思っておりますので、よろしくお願いします。 ○中野幹事 事務当局から御説明申し上げます。   机上配布させていただいている刑事訴訟法の一部を改正する法律案につきましては、先般、国会に提出されたものと承知しております。その上で、事務当局として、責任を持って、この内容について御説明させていただくことはできないものですから、事務当局の資料として提出させていただくということは控えさせていただきたいと考えており、そのようなことから、机上配布とさせていただきました。   この内容につきましては、衆議院のホームページにも公表されているものです。机上配布された資料やそれ以外のものについて、この法制審議会の場で議論の対象とはできないというものではないと考えておりますので、御理解いただければと存じます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。   資料を出していただいたものについて、見る上での留意点ということで幾つか御指摘があったということかと思います。御指摘を踏まえてより充実した資料になれば、それは大変有益なことと思いますので、鴨志田委員におかれましては、先ほど御発言ありましたように持ち帰っていただくということで、よろしくお願いいたします。 それでは、資料につきましては以上といたしまして、早速諮問事項の審議に入ってまいりたいと思います。   先ほど事務当局から説明がありましたとおり、第1回会議及び第3回会議において皆様から示された御意見を踏まえて、事務当局に配布資料5「論点整理(案)」を作成してもらいました。今後の調査審議につきましては、この「論点整理(案)」の順に沿って議論を行うこととし、本日は「論点整理(案)」の「1 再審請求審における検察官の保管する裁判所不提出記録の弁護人による閲覧・謄写」について審議を行うこととしたいと思います。   まず、そのような進め方とさせていただくことでよろしゅうございますでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 それでは、まず、「論点整理(案)」の1のうち、「(1)再審請求審における閲覧・謄写に関する規律を設けるか」について審議を行いたいと思います。   この項目につきましては、あらかじめ事務当局を通じてお伝えしておりますとおり、まず制度の枠組みに関する意見交換を行い、その後、具体的な規定の在り方に関する意見交換を行うこととしたいと思います。   それでは、制度の枠組みについて、まずおおむね20分間、時間で申しますと午前10時5分頃を目途に審議を行いたいと存じます。   御意見等がある方は挙手をお願いいたします。 ○宇藤委員 閲覧・謄写に関する規定ということですが、再審請求審における審理が適切に行われるためには、是非必要と考えております。現行法における運用につき指摘される問題点の多くは、確たる規定がない中で、関係者が手探りで運用しているところに起因しているように思われます。そのような理由から、是非とも規定は必要と考えております。その上で、その制度の構築に当たっては、通常審における証拠開示制度が差し当たり手掛かりとなるものと思われます。   もっとも、既に確定判決があることを前提として、裁判所が再審請求に理由ありと認めて初めて再審公判が行われるという再審請求審での閲覧・謄写と、公判が必ず行われることを前提に、その充実のため争点と証拠の整理のために行われる通常審における証拠開示とでは、かなり立て付けが異なりますので、単純にパラレルに論ずることはできません。   以上のことを踏まえますと、検討の糸口となり得るのは、まずは通常審での証拠開示制度のうち、いわゆる争点関連開示であり、閲覧までの制度の在り方としては、刑事訴訟法第316条の27に定められております方式ではないかと思われます。それ以上の充実を否定するものではもちろんございませんが、少なくとも現行制度との整合性を踏まえた比較対象には、以上のようなものがしやすいのではないかと考えております。 ○川出委員 本日鴨志田委員から御提出があったいくつかの事件の概要と再審手続に関する問題点という資料にも示されていますように、裁判所不提出記録の中に、裁判所が再審請求に理由があるか否かを判断するために有益な証拠が存在する場合があるということは、まぎれもない事実であると思います。その一方で、現行法には、再審請求審において裁判所が検察官に証拠の提出を求めたり、あるいは弁護人にそれを開示させたりすることを定めた規定が存在しないことから、裁判所によって対応が異なっているという指摘もなされています。明文の規定のない中で、どのような運用をすべきなのかは、裁判官にとっても悩ましい問題であるということは、本会議第1回においても指摘がなされたところです。この両面から、私も、再審請求審における閲覧・謄写について必要な法整備を行うべきであると思います。   問題は、その上でどのような仕組みとすべきなのかですが、本日提出されております日本弁護士連合会の改正意見書においては、再審請求者又は弁護人から請求があった場合に、裁判所が検察官に対し、再審請求者又は弁護人への開示を命じるという形の制度が提案されております。これは、通常審における証拠開示に倣ったものであると思われますが、通常審の証拠開示は、検察官が公訴事実を立証し、被告人・弁護人がそれに反証を行うという対審構造の下において、類型証拠や主張関連証拠を開示することにより、争点と証拠を整理し、同時に被告人が十分な防御ができるようにすることを目的とするということから、検察官から被告人・弁護人に開示するという形が採られているものです。   これに対し、再審請求審においては、検察官は当事者ではなく、再審請求審は再審請求者・弁護人と裁判所という二面構造の下で、再審請求に理由があるかどうかを裁判所が主体となって審理するというものです。そうであれば、裁判所不提出記録については、裁判所が審理に必要であると考えた場合に、裁判所が、検察官に対し、その提出を命じる形にするというのが、再審請求審の構造との整合性という点でも、また実質的にも適当であると思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 川出委員が指摘されたように、再審請求審は、再審請求権者が再審請求事由の存在を主張し、裁判所が職権によりその存否を判断するという二面構造であり、そのために必要な取調べは裁判所が主体的に行うこととされています。こうした再審請求審における審理の構造に照らせば、裁判所が審理に必要と認めた証拠について、検察官が提出すべき相手は、再審請求者や弁護人ではなく、判断権者である裁判所とするのが整合的であると思われます。   このような枠組みとしても、裁判所が再審請求審において検察官から入手した証拠については、刑事訴訟法第40条第1項に基づき、弁護人が裁判所において閲覧・謄写をすることができますので、弁護人において、再審の請求についての裁判に資する証拠の内容を確認することが可能であり、その活動に支障は生じないものと考えられます。   なお、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会においては、主張と関連付けられないまま未整理の状態で裁判所に公判不提出記録を提出させるよりも、まずは弁護人に開示させて主張・立証させる方が合理的であるとの考え方も示されましたが、こうした発想は、裁判所は再審請求人や弁護人から提出された証拠のみを判断資料とすべきという当事者主義的な発想の裏返しであり、再審請求審の職権主義構造と整合しないと思われます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○鴨志田委員 まず、この問題の大前提として、証拠開示は、事案の真相究明や無辜の救済のために不可欠であるということ、また現行法にその手続を定めたルールがないために、開示の実現に膨大な年月が掛かり、当事者の救済が著しく遅れたということは、ヒアリングの対象の2事件、また今回私の方から提出させていただいた5事件の資料から明らかであると考えます。再審請求審に、閲覧・謄写に関する規律を設けるかどうか、またその規律の在り方をどうするかという問題は、この立法事実を出発点としなければならないということをまずもって申し上げておきたいと思います。   その上で、直接開示型とするのか、裁判所提出型にするのかという論点につきましてでございます。そもそも、直接開示型が当事者主義に親和性がある、裁判所提出型が職権主義からの帰結という二者択一の関係には立っていないと考えます。裁判所は、職権主義の下で認められている広範な裁量、訴訟指揮権に基づいて、検察官に対し裁判所に提出せよと命じることも、当事者に直接開示せよと命じることもできるものと考えられるからです。現に、これまでの実際の再審事件では、請求人側の証拠開示請求を受けた裁判所が、検察官に対し証拠又は証拠リストを裁判所に提出するよう勧告した事例も、また弁護人に対し直接開示するように勧告した事例も存在いたします。   このような立法事実も踏まえ、私の方から今回提出させていただいた法律案の資料、これは日弁連の意見書を基にしたものですけれども、より現実的にというか、実践的に改正項目をまとめたという内容でございますが、その19条においても、このような事例を反映して、「裁判所に提出することを命じ、又は再審の請求をした者若しくは弁護人に開示することを命じなければならない」という形の書きぶりにさせていただいています。   実務上、裁判所に提出するように勧告された事例にあっても、多くの場合で、検察官は開示する書証について、同一の写しを2部裁判所に提出し、裁判所はそのうちの一部を直ちに弁護人に交付するという形を採っていることが多いです。実質的には、請求人に直接開示するのと大差ない運用だと言うこともできます。   また、一方で、裁判所が弁護人への直接開示を命じた事例では、請求人側が自らの主張のために必要と考える証拠の開示を求めているため、裁判所がそれに応えて開示の必要性を認めた場合には、まずその主張をする請求人側で開示証拠の取捨選択を行って、整理して裁判所に提出する方が、裁判所にとっても合理的と判断をして、それに沿う職権発動を行ったものと考えられると思っております。 ○田岡幹事 先ほど成瀬幹事から、検察官が証拠を提出する相手は弁護人ではなく裁判所とする方が再審請求審の構造と整合的であり、その場合であっても、弁護人は刑訴法40条により閲覧・謄写することができるのだから、その活動に支障はないのだという御指摘がありました。しかし、それが果たして自明の前提であるのかについては疑問があります。   実際に、特別抗告審、すなわち再審請求の特別抗告が最高裁判所に係属している事件において、裁判所は、必ずしも弁護人に対して、記録の閲覧・謄写を許可しておりません。裁判所の説明によりますと、裁判所が検察官、すなわち保管検察官又は最高裁判所であれば最高検察庁から取り寄せた記録というものは、あくまで借り受けているものであり、保管権限は保管検察官にあるのであるから、保管検察官の許可なしに裁判所が閲覧・謄写をさせることはできないのだという理由から、弁護人がその保管記録、すなわち確定した訴訟記録について閲覧・謄写の申請をしても、それを拒否されたという事例が複数件報告されており、必ずしも裁判所は、刑訴法40条の訴訟に関する記録又は証拠物として閲覧・謄写を許可するという運用にはなっていないと認識しております。   そうしますと、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会の第9回会議において、中野参事官から、訴訟に関する書類等の閲覧・謄写に関しては刑訴法40条が適用されると考えられておりますという発言があり、また、第16回会議において、成瀬幹事から、本日と同様に、裁判所に提出する枠組みを採用したとしても、弁護人において、その証拠を閲覧・謄写することはできるのだから、弁護人の活動に支障は生じないのだという発言がありましたが、それが果たして自明の前提であるのかということについては疑問があります。   仮に裁判所提出型とするのであれば、刑訴法40条の規定、又はそれとは別に新たに規定を設けることによって、再審請求人及び弁護人が、裁判所に提出された証拠を閲覧・謄写する権利を保障することが必要になるものと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○村山委員 今までの議論を伺っておりまして、まず確認しなくてはいけないのは、実際に再審開始になった事件で、どのような形で証拠開示がなされたのかという、そこだと思います。それがどれだけ再審開始にとって有益なものであったかというのは、今日提出された資料を見ても明らかだと思います。これはやはり立法事実として注視しなければならず、どういう形の証拠開示が必要かというのも、おのずとそこから考えなければいけないだろうと私は思っています。   まず、その制度の在り方として、裁判所に提出するのか、当事者主義的に開示をするのかという問題なんですけれども、私は正直言ってどちらでもいいのではないかなと思ってはいます。要するに職権主義、当事者主義といっても、再審請求審の職権主義というのは、典型的な職権主義ではありません。そういう意味では、当事者、つまり請求人が特定をした形で請求をしないと審理が始まらないという形になっていますので、必ずしも純粋な職権主義ではないと思います。三面構造か二面構造かというふうな議論を立てれば、確かにそうかもしれませんけれども、では二面構造だったらその開示という形を直接的に弁護人に示すということが許されないのかというのも、それも前提に疑問を私は持っています。   ただ、現状において、裁判所に検察官が提出し、その提出された証拠が弁護人の方に渡って、弁護人がそれを精査するという方式を採っている裁判所が私は多いと認識しています。その結果、その提出記録の提示を受けた弁護人において、その中から更にセレクトして事実取調べの請求としてその書類、若しくはその書類に関わる証人尋問なり事実の取調べを請求するという形で審理が進んでいくと認識しています。それ自体は、私は非常に有益な方法だと思っています。ですから、一義的にどちらかのタイプでなければいけないということではなくて、どちらでもいいように規定を作るということも考えられるのではないかと思っています。   それから、先ほどの刑事訴訟法40条問題、これも私が実際にやっていたときに、取り寄せ記録は検察官から借りた記録という認識でした。ですから、必ずしもそれを全部謄写させるかというと、それはそうではなかったという認識ですし、必ずしもその40条のルートで全部弁護人、請求人側が見られる、謄写できるんだという議論に一直線になるかどうかというのは、私も疑問を持っています。   ただ、これは規定を付ければいいだけの話でして、疑義があるのであれば、そういう規定を作って、裁判所に提出された、検察官が裁判所へ提出した記録であっても、請求人側、弁護人がそれを閲覧・謄写できるという疑義のないような規定を設けることによって、疑問は解消できるだろうと思っています。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。   最初のテーマについてはよろしいでしょうか。   第40条の運用がどうなっているかという問題提起もございましたので、もしそのあたりが分かれば、また調べていただけたらと思います。   次に、具体的な規定の在り方について、おおむね25分間、午前10時30分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   それでは、具体的な規定の在り方につきまして、御意見等ある方は挙手をお願いいたします。 ○成瀬幹事 裁判所は、再審の請求について裁判をするに当たり、再審請求者が主張した事実に拘束され、職権で請求されていない再審理由に関する事実の取調べを行うことは許されないと解されています。この点を踏まえると、提出命令の対象となる証拠は、再審請求の理由と関連し、かつ、裁判所の判断に必要な範囲の証拠とすることが適当であると考えられます。   他方で、再審請求審において裁判所に提出された証拠と刑事訴訟法第40条第1項の関係については、先ほど田岡幹事や村山委員から御異論も示されたところですが、私自身は、基本的に弁護人による閲覧・謄写の対象となると理解しております。そうすると、検察官に対する証拠の提出命令の対象を適切な範囲に限定しなければ、事件関係者の名誉・プライバシー等が不当に侵害される事態も生じ得ます。   そこで、裁判所は、再審請求理由との関連性及び再審請求判断における必要性の程度と、提出を受けた場合に生じるおそれのある弊害の内容及び程度とを比較衡量して、相当と認められるときに、証拠の提出命令を発することができるものとすることが考えられるでしょう。   これに対して、村山委員が提出してくださった日本弁護士連合会改正案第445条の10第1項のように、「相当でない」と認めるに至らない限り、原則として証拠の提出又は開示を命ずることとしたり、鴨志田委員が提出してくださった改正案の第20条のように、相当であるか否かにかかわらず証拠の提出又は開示を命ずることとすることは、さきに申し上げた弊害を軽視して、通常審よりも緩やかな要件の下で裁判所不提出記録の閲覧・謄写を認めるものであり、疑問が残ります。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○田岡幹事 先ほど成瀬幹事から、裁判所に提出された証拠は、基本的には弁護人による閲覧・謄写の対象になるという、先ほどの御発言を前提とした御発言がありました。まず、その前提自体に疑問があることは、先ほど申し上げたとおりです。   その上で、同じように職権主義の手続である少年審判事件では、一件記録が裁判所に送致される仕組みとなっており、付添人は、その送致された一件記録を、少年審判規則7条2項に基づいて閲覧・謄写するという仕組みになっております。   その際、弊害のおそれがある証拠については、裁判所は、7条3項に基づき、閲覧・謄写を許可する際に少年等に知らせてはならない旨の条件を付したり、少年等に知らせる時期若しくは方法を指定するなどの措置を講じることができるという仕組みになっており、7条4項に基づき、これらの措置によっても弊害を防止することができないおそれがあると認めるときは、閲覧を禁止することもできるという仕組みになっております。つまり裁判所に提出された証拠がそのまま自動的に閲覧・謄写の対象になるという仕組みにすれば、確かに弊害を防止することができないのかもしれませんが、必ずしもその全てを閲覧・謄写の対象になるという仕組みにせず、弊害のおそれがある証拠については、条件を付したり、若しくは時期、方法を指定したり、又は閲覧を禁止したりという措置を講じることができるという仕組みにするのであれば、弊害のおそれを理由として、裁判所に提出する証拠そのものを制限する必要はないのではないかと考えられます。   むしろ、再審請求審が職権主義だというのであれば、少年審判事件や医療観察事件、あるいは付審判請求事件などと同じように、裁判所は、必要があれば、基本的には全ての証拠を検察官、すなわち保管検察官から取り寄せることができるとした上で、再審請求人及び弁護人に閲覧・謄写の権利を保障するが、そのうち弊害のおそれがある証拠については、条件を付したり、若しくは時期、方法を指定したり、又は閲覧を禁止したりという措置を講じることができるという仕組みにすることも十分に考えられるのではないかと思われます。   ただ、証拠の取寄せにかかる裁判所の裁量権の行使を自由な裁量に委ねてしまいますと、裁判所によっては、その職権行使に積極的であり、600点にも及ぶ証拠開示が実現した事例もあれば、全く職権を発動しなかった事例もあるというように、裁量権の行使に幅が生じてしまいます。これは、いわゆる再審格差の問題です。したがって、一定の範囲の証拠については、必ず再審請求人及び弁護人に開示される仕組みにする必要があるという問題意識から、日弁連の意見書の445条の10は、証拠開示命令として、一定の範囲の証拠については、いわゆる証拠開示命令を義務付ける規定を設けるという仕組みを提案しているのだと理解しております。   したがいまして、私は、まず前提として、裁判所は必要があると認めるときは、保管検察官等から裁判所不提出記録を含む証拠を取り寄せることができるという規定を設けることにより、裁判所に権限があるということを明確にした上で、一定の範囲の証拠については、裁判所は、その提出を命じなければならない、また、検察官はそれを提出しなければならないという規定を設けることによって、再審請求人及び弁護人が、その証拠にアクセスする権利を保障するという仕組みがふさわしいのではないかと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○鴨志田委員 法は、再審開始要件としての無罪を言い渡すべき明らかな新証拠の発見と提出義務を再審請求人に課しています。一方、請求人において、最初から明白性のある証拠を出すということは極めて難しい。このことは、平城委員御提出の資料の共同研究の中でも、複数の現役の裁判官が指摘しているところでございます。   一方、ヒアリングの対象となった2事件、また私が提出した資料の5事件のうち、足利事件と湖東事件を除く5事件で、再審請求前又は請求後に初めて検察官から開示された証拠が明白な新証拠と認められています。なお、除外した足利事件と湖東事件では、再審公判段階で初めて開示された証拠が無罪判決の根拠となっています。この点、開示が実現した事例は、証拠開示に向けた裁判所の積極的な訴訟指揮が奏功した結果であるということが言えるかと思いますが、同一事件であっても、裁判体によって全く開示が進まなかった時期もこれらの事件には存在します。   例えば、布川事件、これは資料として提出しておりますけれども、第1次再審の段階では10点程度、請求審で8件、抗告審で3点しか開示されていません。それから袴田事件の第1次請求審ではほとんど証拠は開示されていません。また、検察官がその開示に抵抗を示すなどして証拠が長期にわたって、しかも五月雨式に開示されるということで的確な争点形成が困難となり、このことによっても審理が著しく遅延したと言える事例が布川事件、東住吉事件、東京電力女性社員殺害事件などに見られ、提出した資料からも分かると思います。また、このことは、今般「判例時報」の2620号に、現役の裁判官から寄せられた論文にも指摘されているところです。   ですから、法が明白な新証拠の提出と再審理由の主張立証を再審請求人に要求している以上は、その負担を課せられた主体である再審請求人が主張立証を尽くすために、この請求人の請求をまずは契機として、裁判所に証拠開示命令を義務付けるという立て付けの規定が不可欠であると考えます。   また、開示の対象となる証拠については、再審請求人の提出した新証拠と、これに関する主張に関連する範囲に限定すべきという意見がヒアリングでも出されていましたが、これには強く反対したいと思います。通常審で開示されるべきであった無罪方向の証拠が再審請求後に初めて開示され、それが明白な新証拠と認定された事例が現に存在する以上、そのような証拠の存在を事前に把握できなかった再審請求人に対して、当初提出した新証拠に関連する範囲でしか証拠開示が認められないとすれば、現行法の下で運用によって実現している証拠開示からも後退するということがいえると思います。それは、無辜の救済という再審制度の使命を放棄するに等しいと考えています。   袴田事件では、5点の衣類のカラー写真が開示されて初めて色問題という争点が顕在化し、真相究明と当事者の救済につながりました。最高検は、検証報告書において、第1次再審では請求人側が5点の衣類とは関係のない主張に基づき、又は関連する新証拠を提出しないまま証拠開示請求を行ったため、当時の検察官が証拠開示に消極的だった対応については問題がなかったと結論付けています。しかし、通常審で提出されるべき証拠を提出しなかったという不正義に目をつぶって、請求人側が関連する新証拠の提出や主張がされていないことを理由として証拠開示を認めないということが正当化されるような規定では、到底改正と呼ぶにも値しないと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ある方はおられますでしょうか。 ○池田委員 鴨志田委員からも御指摘があった、提出を命ずべき証拠の範囲について意見を申し上げます。   具体的な規定の在り方として、手掛かりとして通常審における類型証拠開示と類似の制度を設けるべきであるという考え方もあると承知しておりますが、この類型証拠開示は、検察官の主張立証構造が明示された後、被告人側で十分な争点及び証拠の整理と防御の準備が行われるべく、検察官請求証拠の証明力について適切な判断を可能にしようとするものである一方で、再審請求審では、先行する検察官の主張立証に相当するものがないという意味で、類型証拠開示と類似の制度を設ける基礎には欠けるように思われます。   こうした指摘に関しては、本日提出されております日本弁護士連合会の改正案の第445条の10、あるいは鴨志田委員提出資料の第20条、更にはただ今の鴨志田委員の御発言にも関連すると思われますけれども、確定判決の有罪認定の根拠となった証拠の証明力を判断するためとして、類型証拠開示と同様の制度を設ける旨の提案があると承知しております。もっとも、そのような制度を設けることにつきましては、まず少なくとも近時の最高裁判例において、刑事訴訟法第435条第6号の明白性判断は、新証拠の立証命題に関連する他の証拠それぞれの証明力を踏まえ、これらと対比しながら検討すべきなどとされており、つまりは有罪認定の根拠となった旧証拠であっても、そうした新証拠との関連性の有無にかかわらず再評価し直すこととはされていないこととの整合性が問題となるほか、再審請求を受けた裁判所が、再審請求の理由の有無を判断するに当たり、再審請求者の主張する事実に拘束され、つまりは請求に示されていない事実はその取調べを職権で行うことができないとされているという再審請求審の構造との整合性にも問題があるため、検討を要する点がなお残るのではないかと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○村山委員 ただいまのいろいろな御意見を伺っていまして、二つ大きな問題があるのかなと思っています。   まず、開示の対象となる証拠の範囲がどのようなものかということと、それから弊害があるということについてどういう対処をするかという問題なんですけれども、まず最初のその範囲の問題なんですが、今ほど池田委員、成瀬幹事もそうだと思うんですが、再審請求審の構造論といいますか、そういうものから類型証拠開示のようなものは想定しにくいのではないかというお話でした。確かに構造は違うというのは、私もそのとおりだと思います。ただ、それでいくと、今まで再審開始の理由となった新証拠が出てこなくなってしまうと。現実的にそういう問題に突き当たるのではないかなと私は思います。   つまり、新証拠関連という形で限定した場合に、その限定した範囲の中での証拠開示なり証拠の提出、閲覧ということになってしまうと、これまで裁量的に裁判所が開示を命じて出てきた証拠も、そのルートには明らかに私は乗らないと思います。つまり、現状において開始決定になったその理由となる新証拠すら、今度改正すると出てこなくなってしまうという危険性をはらむという意味で、私は反対せざるを得ないと思います。   その原因は、最初の新証拠を携えて請求しなければいけないというところに、どこまでの新証拠を携えて請求できるのかという根本的な問題があると思います。請求人は、例えば自分は犯人ではないということは自分で分かっていますので、どうしても請求したいということになるわけですけれども、その証拠を何とかして見付けたいということで、何か証拠をこれだということで出すんですけれども、それが決め手になっていないというのが現状です。そこのところはよく考えていただきたいと思っています。   もう一つ言いますと、例えば主張関連という場合に、自分は犯人ではないといって提出した証拠が、目撃者の方が、いや、あのときに証言としてこの人は犯人だと言ったけれども、実は記憶が本当ははっきりしていなかったんだという、こういう供述をするということは十分ありまして、そういう証拠を新証拠だといって提出する場合があります。では、この場合、現場に遺留されていた体液等があって、そのDNA鑑定という新証拠は開示の対象になるのでしょうか。つまり、目撃者の供述証拠を新証拠とした場合、その新証拠関連というと、何かそこには現場の遺留物からのDNA鑑定というのは及ばないようにも見えるわけですけれども、実際は自分は犯人ではないという犯人性を争っている主張関連では、そういう場合も及ぶと考えられるのではないかと私は思っています。   だから、そこは主張関連といっても、請求人の主張と新証拠の明白性という形で限定しますと、その新証拠関連ではないのだということになって、否定されてしまうのかどうかという、こういうところも、主張関連で新証拠に限定されるんだという考え方の方は、こういう問題はどういうふうにお考えになるのかなというのをまず前提問題として伺いたいと思います。   それから、もう1点は弊害の問題です。確かに弊害というのはあり得るとは思いますが、私は通常審の場合に比べて、この弊害というのは非常に少なくなっていると思うわけですね。証拠開示で弊害、通常審の場合は罪証隠滅ということも多分に言われているわけですけれども、再審請求になった場合に、罪証隠滅のおそれというのは相当程度減退していると思います。確かに被害者のプライバシーの問題があります。これはこれで大事なことなので、ではそういう場合はどうすればいいかというと、裁判所に提出する記録を絞るというよりも、やはり裁判所が実際にその弊害が大きいかどうかを判断して、弁護人なり請求人なりに見せるかどうかというところで一応セーブするというか、そういう形の弊害防止ということは十分考えられるのではないかなと私は思っています。   ですから、原則的にはこういう形の証拠開示請求について応じなければいけないけれども、このような弊害のある場合には、ある程度それをセーブできるという規定を作るということは十分可能ですし、現にそういうふうにやっているわけなんですね。少年審判の規定でもそうなっています。そういうのを参考にしながら規定を作るということは、私は十分可能だと思っています。 ○大澤部会長 ほかに御発言いかがでございましょうか。 ○田岡幹事 私からも、開示を義務付けるべき証拠の範囲について、意見を申し上げたいと思います。   既に鴨志田委員や村山委員から発言がありましたが、いわゆる主張関連証拠開示と同じように、再審請求人が主張する再審理由や新証拠との関連性、必要性を要求しますと、結局、これまでの再審開始決定及び再審無罪判決に至った事件で開示されてきた証拠が開示されなくなってしまい、無罪とされるべき人が無罪とされなくなってしまうのではないか、現状よりむしろ悪くなってしまう、改悪になるのではないかという危惧が拭えません。中川元裁判官も、第3回会議のヒアリングで、新証拠を離れて、類型証拠開示のようなものを対象とすることは難しいのではないかと発言されていましたが、それでは、まるで、袴田事件の5点の衣類のカラー写真やネガフィルムのような証拠は出てこなくても仕方がない、袴田さんが無罪にならなくても仕方がないというようにも聞こえてしまいます。   しかし、そのような結論を誰も望んでいないことは明らかなのではないでしょうか。ヒアリングにおいて、再審請求人の袴田ひで子さんや青木惠子さん、また、弁護人の間弁護士、塩野弁護士から、無罪を言い渡すべき明らかな証拠が検察官の手元に残っているということ自体がおかしいのであって、証拠が開示されなければならないことは当然であるという御意見がございました。また、被害者支援に関わっておられる髙橋弁護士、報道機関の宮下参考人から、弊害がある証拠はともかく、弊害がない証拠は真相究明のために開示されるべきであるという御発言がございました。特に宮下参考人からは、単にこれは長期化防止という問題ではなくて、真相の究明、えん罪の防止という意味において、この証拠開示が果たしている役割というのは非常に重要であるから、再審請求審においても証拠開示が必要だという御意見を述べられておられました。再審理由や新証拠に関連するものに限定すべきという意見は、元裁判官と元検察官以外には見られませんでした。   実際に、布川事件の国賠訴訟の判決では、検察官は公益の代表者なのだから、裁判の結果に影響を及ぼす可能性が明白であるものについては、被告人に有利不利な証拠を問わず法廷に顕出する義務がある、また、結果に影響を及ぼす可能性が明白であるとまではいえない場合であったとしても、開示をしない合理的な理由がない場合には、開示する義務があるという判示がなされています。松橋事件の国賠訴訟の判決では、検察官は、裁判所による真実発見に協力すべき国法上の職責を負っているのだから、事実が明らかになったことを前提とした審理・判断がなされるように訴訟活動をなすべき注意義務があったという判示がなされています。福井事件の再審開始決定では、確定審検察官の訴訟活動は、公益を代表する検察官としてあるまじき不誠実で罪深い不正の所為と言わざるを得ず、適正手続確保の観点から到底容認することはできないといった厳しい判示がなされています。   これらの判決は、要するに、検察官はうそを言ってはいけない、という当たり前のことを言っているのだと思います。つまり、確定判決が認定した事実又は検察官が主張している事実が真実に反する、又はその可能性があることを知りながら、その証拠を提出しないことは許されないということです。このことは、抽象的に証拠開示義務があるかという問題ではなくて、真実に反する訴訟活動をすることが許されるかという問題だと思います。真実に反することを知りながら証拠の提出を拒否することは、むしろ、検察官が真実の発見を妨害している、又は証拠を隠匿していると言われても仕方がないのではないでしょうか。   弊害のおそれがある証拠、つまり被害者など関係者のプライバシーや名誉を毀損するおそれがあるものは別としまして、そういった弊害がない限り、証拠物や検証調書、実況見分調書、鑑定書などの客観的な証拠については、原則として開示される仕組みにすべきであり、その際、類型証拠開示の規定の在り方は十分に参考になると考えられます。   また、類型証拠開示の規定を設けることは、長期化防止の観点からも重要です。間弁護士は、ヒアリングにおいて、関連性などの点について厳格に考え出すと、これはやはり審理の長期化を招くと思います、と発言しておられます。なぜかと言えば、先ほど村山委員も指摘されましたように、再審理由との関連性、必要性は、判断者によって当然幅があるわけです。私は犯人ではありませんと主張している場合に、犯人ではありませんという主張に関連するものは広く出しましょうと考えれば、開示の範囲は広がりますが、犯人ではない理由を具体的に主張させ、その具体的な主張に関連するものしか開示しないと考えると、かなり狭い範囲のものしか出てきません。その際、関連性、必要性がないと考える検察官と、いや、あるんだと考える再審請求人及び弁護人との間で、再審理由との関連性、必要性をめぐる争いが長期化します。仮に証拠開示を命じる決定がなされたとしても、即時抗告等がなされますと、更に審理が長期化します。その結果、証拠開示の手続がいつまでたっても終わらないということになりかねません。再審請求審の迅速かつ円滑な進行という観点からは、類型証拠開示の対象になるような客観的な証拠は原則として開示すべきであるという規定を設けるべきであると考えます。   なお、通常審においては、類型証拠開示の規定が設けられていることから、裁判所は検察官に対して、類型証拠に当たるようなものは、弁護人の証拠開示請求を待たずとも、任意に開示するようにという勧告をするのが通常であり、検察官も任意開示として類型証拠に当たるようなものは開示することが一般的な運用です。再審請求審においても、類型証拠開示の規定を設けることにより、同様の運用をすることは十分可能であると考えられます。先ほど鴨志田委員が引用されました今井輝幸裁判官の「判例時報」2620号の論文でも、裁判所には、平成17年11月以降、公判前整理手続の経験、知見の蓄積があるから、適切に裁量権を行使して証拠開示の運用は可能であると指摘されているところです。あえて通常審より証拠開示の要件を限定することは、私は適切ではないと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ある方はおられますでしょうか。 ○山本委員 私は被害者支援をやっているので、被害者の方から見てしまうのですけれども、無辜の不処罰は当然必要で、被害者としても、無辜の方が処罰されているのであれば、早く解放して真犯人をまた探していただきたいと思っているので、早期の真相の解明はとても必要だと思っています。その点からすると、証拠を絞ってなかなかその真相にたどり着けないということはなるべく避けるべきであって、類型証拠開示など実際今運用されているものがある以上は、それを利用して早く証拠を開示していった方がいいと思っております。 ○大澤部会長 ほかに御発言はいかがでございましょうか。 ○宮崎委員 まず、具体的な要件の在り方について申し上げますと、再審請求段階だからといって、証拠の閲覧等により関係者の名誉、プライバシーが不当に侵害されるなどの弊害が一律に、あるいは類型的に減少するというものではないと考えます。したがって、裁判所が検察官に証拠の提出を命ずるといったような規律を設けるとしても、提出の必要性のほか、提出された場合に証拠の閲覧等によって生じる名誉、プライバシーの侵害等の弊害についても十分に考慮して命ずることとする規定とすべきであります。   次に、規律を設けることとした場合の裁判所の提出命令に対する不服申立ての在り方について、裁判所による証拠の提出命令に対して即時抗告が認められないこととなると、検察官としては、提出命令の違法は再審開始決定に対する上訴の中でしか争えないこととなり、違法な提出命令にも応じなければならず、提出した証拠について閲覧等がなされ得ることになります。しかし、後に上訴審において提出命令が違法と判断されたとしても、既に生じた名誉、プライバシー等の侵害を回復することは不可能なのであって、提出命令に誤りがある場合には直ちに是正する必要があります。したがって、裁判所の決定に対して、検察官による即時抗告の規定を設けることは不可欠であると考えます。 ○川出委員 裁判所が検察官に対して証拠の提出を命じる制度を前提とした場合の、再審請求者、弁護人の関与の仕方について意見を申し上げたいと思います。   先ほど申し上げましたように、閲覧・謄写の枠組みとしては裁判所が検察官に対して証拠の提出を命じる制度とすべきだと考えますが、そうであっても、再審請求者には、再審請求を申し立てた者として、裁判所が審理に必要な証拠を提出させた上で十分な審理を行ってもらう法的な利益があることは間違いないところです。そして、例えば、再審請求者側が真に必要であると考える証拠の存在について裁判所が気付いていないという場合、再審請求者側は裁判所に職権発動の申立てを行うことができますが、その場合、裁判所に応答義務はありませんので、裁判所が提出を命じないという結論に達した場合であっても、その旨の判断を示す必要はないということになります。   再審請求審においては、裁判所が職権的に手続を進めますが、そのことと手続関与者にどのような権利を保障するかということは別の問題ですので、この場面でも職権主義であるから、再審請求者・弁護人は職権発動の申立てしかできないと考える必要はないと思います。検察官に証拠の提出を命ずるか否かについて裁判所の判断が迅速かつ明確に示されるということは、再審請求者・弁護人が当該判断に対する検討とその後の対応を適時適切に行うことを可能とするとともに、裁判所の審理の進行に対する信頼を確保することにもつながると考えられますので、再審請求者・弁護人に対して裁判所が証拠の提出命令を発することの請求権を認めて、裁判所に応答義務を課すということも検討すべきではないかと思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言はございますでしょうか。 ○村山委員 今ほどの川出委員の御発言に、私は非常に賛成でございます。そういう形で請求人側にそういう請求権を与えて、裁判所が明確にこれを判断するということは、その再審請求審の審理を迅速かつ明確にするという意味で非常に意味があるというふうに思っています。   それから、宮崎委員が言われた提出命令に対する不服申立ての問題、これは一抹の不安といいますか、そういうことをやると再審請求審が長期化するのではないかという不安があることは事実なんですけれども、逆に言うと、請求人側も不服申立て、不服申立てが片面的ということはあまり考えにくいと思いますので、どちらにも作用するということを考えますと、不服申立てができるかどうかという点については、申立てができるということになると、その請求審自体が長期化するという懸念はあるんですけれども、そういう申立てができないということになりますと、どちらにとっても不利益があり得るということを考えていかなければならないかなと気づいたところでございます。 ○大澤部会長 この枠としては差し当たりよろしいでしょうか。 ○恒光幹事 今日、様々に規律の在り方について御意見を交わされましたけれども、裁判所といたしましては、規律が設けられるとしても、その規律が明確なものであることが望ましいと考えております。何人かの委員の方から不服申立てのお話も少し出ましたけれども、この規律が明確でなければ、不服申立ての結果が二転三転するということもあり得ますし、そもそもその判断自体が速やかにされないということもありますので、裁判所の立場からは、規律が明確なものであることが望ましいということだけ付け加えさせていただきます。 ○大澤部会長 次に「論点整理(案)」「1」の「(2)再審請求審における検察官による証拠の一覧表の提出に関する規律を設けるか」について審議を行います。   この事項につきましては、おおむね20分間、午前10時55分を目途に審議を行いたいと思います。   それでは、御意見等がある方、挙手をお願いいたします。 ○鴨志田委員 証拠の一覧表の件ですけれども、これまでの再審請求において、裁判所の訴訟指揮によって証拠の一覧表が開示された実例としては、日野町事件第1次再審請求審がございます。ただ、これは極めてまれなケースと認識しております。   検察官は、証拠の一覧表の開示については、証拠そのものの開示以上に消極的で、裁判所が証拠の存否を調査して、存在する証拠の標目を開示せよと勧告したケース、これは松橋事件、大崎事件第2次即時抗告審などで実例がございます。また、警察が検察に記録を送致した際の送致目録を開示せよと勧告した事例、これは飯塚事件の第2次請求審にございますが、このようなケースでは、全て標目の開示を拒絶しています。   しかし、再審請求人にとって、捜査機関が保有する公判不提出記録や証拠の実情を把握することは不可能です。証拠の一覧表が示されなければ、手掛かりもないまま当てずっぽうに個別の証拠の存否を問い、これに検察官が個別に応答するということがどんどん繰り返されていく、そういうことで膨大な時間を要することになります。現に、証拠の一覧表の開示請求を弁護人が行っていながら、これが認められなかった布川事件では、2度にわたる再審請求で弁護団が繰り返し個別証拠の開示請求を行いました。第2次再審だけで弁護人は21回の開示請求を行っています。その結果、再審請求人の犯人性を否定する方向の証拠が最終的には多数開示されましたけれども、先ほども申し上げたとおり、非常に五月雨的に実現したわけでして、開示の実現に要した年月は、第2次再審の請求審段階、公判段階を合わせて7年間に及んでいます。証拠開示による真相究明と当事者の迅速な救済という観点からは、証拠の一覧表の提出に関する規律を設けることは必要不可欠であると考えます。   では、その規律の在り方についてですけれども、再審請求人の請求を受けた裁判所が検察官に対し、その保管する全ての証拠の一覧表を作成、提出するように命ずる規定というものを、私が提出した資料の条文案の18条で提示をしておりまして、こちらが基本となると考えますが、現行法上の運用においても、警察が検察に記録を送致した際、記録や証拠に係る送致目録というのを付しております。裁判所がこの送致目録の開示を勧告したという実例が現にあります。これは狭山事件の第3次請求審で、裁判所の勧告によって、警察が検察に送致した証拠物の送致票の開示が実現しています。このような実例がありますので、開示の対象として、書証や証拠物といった証拠そのもののみならず、警察から検察に記録や証拠が送致された際の送致目録も、開示の対象に含めるということも検討されるべきであると考えます。 ○大澤部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 仮に、裁判官による検察官に対する証拠の提出命令を設けることとする場合には、裁判所が提出命令の要件該当性の判断を適切に行うことができるようにするため、刑訴法第316条の27第2項が定める、通常審における証拠の一覧表の提示命令に倣った規定を設けることが考えられます。その場合、証拠の一覧表については、裁判所が証拠の提出命令を発するか否かを検討するに当たり、検察官が実際にどのような証拠を保管しているのかを把握するために必要な範囲で提示を命ずることができるものとすることになるでしょう。   もっとも、それを超えて、今、鴨志田委員が提案されたように、再審請求の理由や請求人が提出した新証拠との関連性を問わず、検察官が保管する全ての証拠の一覧表を提出させるような仕組みを設けることは、再審請求審が確定判決の全面的な見直しを行う手続ではなく、飽くまで、再審請求に理由があるか否かを判断する手続であることと整合しないように思われます。 ○大澤部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○宇藤委員 一覧表の提示に関してでございますが、先ほど成瀬幹事からも御発言がありましたように、刑事訴訟法第316条の27に定めるものを基本として考えるのがよろしいのではないかと考えます。その際、第316条の27に定められる一覧表というのは、第316条の14に定められる一覧表と比較してかなり詳細なものであると承知しております。再審請求審の性格からして、そのような面でも一覧表についてはある程度詳細なものである方がよく、さらに運用に関しても、裁判所におけるインカメラを積極的に使用すること等も考えられてよいのではないかと思われます。 ○田岡幹事 先ほど成瀬幹事、宇藤委員から、刑訴法316条の27の一覧表は考えられるけれども、316条の14第2項の証拠一覧表は考えられないという趣旨の発言がありました。ただ、私は通常審の公判前整理手続を相当数担当しておりますけれども、316条の27の一覧表が用いられたという経験は、全くありません。弁護人は、類型証拠開示請求又は主張関連証拠開示請求をする際には、まずはどのような証拠があるのかを把握する必要がありますので、検察官保管証拠の一覧表である316条の14第2項の証拠一覧表を請求します。その上で、裁定請求を求める際には、316条の27の一覧表という制度は設けられておりますけれども、ほとんどの場合には316条の14第2項の証拠一覧表があれば足りますので、316条の27の一覧表を必要とすることはありません。   再審請求審が職権主義であるというのであれば、少年審判事件の運用が参考になると思われますが、少年審判事件では一件記録が裁判所に送致されるという仕組みになっており、一件記録には送致書類目録が綴じられております。私どもは少年審判事件の付添人として一件記録を閲覧・謄写する際には、送致書類目録を見ながら証拠を見ていきます。この送致書類目録というものが、事実上、証拠一覧表の代わりになっておりまして、証拠を探す際に役に立っております。   再審請求審において、証拠を把握する仕組みとして、新たに証拠一覧表の制度を設けるか、あるいは送致書類目録を提出させるかということを考えますと、新たに証拠一覧表を作るよりは、既に存在する送致書類目録があるのであれば、裁判所がそれを手掛かりとして証拠開示命令を発するという仕組みも考えられます。あるいは、裁判所が一件記録を取り寄せた上で、送致書類目録を見ながら証拠の内容を把握した上で、必要なもののみを取り寄せて、必要のないものはお返しするという仕組みにすることも考えられます。証拠を把握する段階で、手間を掛けるのは合理的な仕組みとは言えないように思われます。   したがいまして、316条の27の一覧表を提案されるのであれば、本当に使われているのかどうか、使い勝手がよいものかどうかというという通常審における運用を調査していただいた上で、316条の14第2項の証拠一覧表のような規定を設けるのか、316条の27の一覧表のような規定を設けるのかということをお考えになられた方が、再審請求審における証拠開示の円滑な運用に資するのではないかと思われました。 ○大澤部会長 今オンラインで池田委員から手が挙がっておりますので、池田委員どうぞ。 ○池田委員 一覧表の提出を命じる規律を設ける場合に、そこにどのような証拠を載せるべきかということについて意見を申し上げます。   これは、先ほど述べたことに関連するのですけれども、やはりここでも請求審における事実の取調べの範囲が再審請求者が主張した事実に拘束されることや、明白性の判断に当たり、判例上は有罪認定の根拠となった旧証拠を請求の内容とは無関係に再評価し直すこととはされていないこととの関係に鑑みますと、ここでも再審請求の理由や請求人が提出した証拠に関係なく、検察官が保管する全ての証拠の一覧表を提出させるような仕組みを設けることとなるとすれば、先ほど申し上げたような考慮との関係を改めて検討する余地が残るのではないかと考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○村山委員 今の池田委員の、無関係なということなのですけれども、関係があるかないかどうかは分からないんですよね。要するに、証拠がどういうのがあるかというのは分からないので。そうなってくると、その段階で証拠一覧表のこの部分という、こういう証拠というのを書けるということ自体が私は難しいのではないかなと思っています。   確かに証拠一覧表、現状では316条の14の方で、検察官は非常に苦心されていると思うんですね、この一覧表を作るのは。そうであれば、私も少年事件をかなりやった経験があるのですけれども、送致書類目録というのが非常に便利だったと私も記憶していまして、それをもって代替するという形でもいいのかなと思って、要は入り口の段階ですので、あまり手間を掛ける必要はないと思うんですけれども、その入り口の段階であるからこそ、関連性という形で絞るということ自体が私は不可能に近いのではないかなと思っております。 ○大澤部会長 ほかにいかがでしょうか。   この段階としてはよろしいですか。   それでは、次の論点でございますけれども、「論点整理(案)」「1」の「(3)再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規律を設けるか」について審議を行います。   この事項についてもおおむね20分間、時間といたしましては午前11時5分を目途に審議を行いたいと思います。   御意見等がある方は挙手をお願いいたします。 ○田岡幹事 第3回会議でも要点を発言しましたけれども、趣旨を敷衍して、御説明したいと思います。   刑事訴訟規則では、再審請求人は、再審を請求するには、その趣意書に証拠書類及び証拠物を添えて管轄裁判所に差し出さなければならないとされておりまして、新証拠を提出することが義務付けられております。しかし、新証拠となり得るものは、過去の再審請求事件の実情を見ますと、ほとんどの場合、既に押収されている証拠物であったり、又は証拠物をもとに作成された証拠書類であったりします。そのため、再審請求人が新証拠を探すというよりも、既に押収されているが開示されなかった証拠、いわゆる古い新証拠を開示させることによって、再審開始決定に至った事件というのがほとんどであり、再審請求人が最初に添付した新証拠のみで明白性が認められた事例はほぼないと言われています。   こうした実情からしますと、再審請求手続を適切に機能させ、真相を解明し、無辜を救済するためには、裁判所不提出記録に対する再審請求人及び弁護人のアクセス、すなわち閲覧・謄写の権利を保障することが不可欠です。裁判所不提出記録の閲覧・謄写が認められることによって、再審請求人は、請求段階から、再審理由を的確に構成し、新証拠を添付することが可能になります。また、そうなれば、一旦新証拠を出してから証拠開示命令を出してもらい、開示された証拠を踏まえて、改めて再審理由を再構成し、更に新証拠の開示を請求するという手続をとる必要はなくなるわけですから、その後の再審請求審の手続はより迅速かつ円滑なものになると考えられます。更に、仮に再審理由の構成が難しければ、再審請求を断念することになると思われますので、スクリーニングのためにも、再審請求準備段階で、裁判所不提出記録の閲覧・謄写を認めることは有益であると考えられます。   この点、刑事訴訟法、刑事確定訴訟記録法及び記録事務規程には、裁判所不提出記録の閲覧・謄写の規定は置かれていないわけですが、これは単に裁判所不提出記録が刑訴法53条及び刑事確定訴訟記録法の対象となり、原則公開の対象となる訴訟記録に含まれないからという理由にすぎないと考えられます。実際に、実務運用上、裁判所不提出記録の閲覧・謄写が禁止されているわけではありません。   最高裁判所の平成16年5月25日の決定及び平成31年1月22日の決定は、公判不提出証拠を公にすることは、保管者の合理的な裁量に委ねられていることを前提に、その裁量の範囲を逸脱し、又はこれを濫用することは許されないという趣旨の判示をしています。証拠の保管者は保管検察官であることが多いと思われますが、都道府県警である場合もあります。これら保管者の合理的な裁量権の行使によって、公判不提出証拠つまり裁判所不提出記録を閲覧・謄写させることができるとされているわけです。なお、念のため、今回の第4回会議の準備に当たって、事務当局にも確認しましたけれども、実務運用上、裁判所不提出記録の閲覧・謄写は禁止されているわけではないということでした。   しかし、実際にそれが行われることがまれなのは、刑事確定訴訟記録法に、裁判所不提出記録の閲覧・謄写を認める規定が置かれておらず、その手続が定められていないからだと思われます。つまり、刑事確定訴訟記録法には、保管証拠や再審保存記録の閲覧・謄写については、その手続の在り方、例えば印紙の額や請求書の書式などの手続が定められているのに対して、裁判所不提出記録の閲覧・謄写については、それらの規定がなく、そもそも閲覧・謄写ができるということ自体が知られていないのではないかと思われます。   ただ、松橋事件においては、再審請求準備段階で、保管検察官に対する請求により証拠品の閲覧が認められた実例がございます。証拠品の閲覧が認められたことにより、再審請求及び再審開始決定につながり、他の再審請求事件と比べれば、まだ迅速な救済ができたと言えるのではないかと思われます。鴨志田委員提出の「松橋事件の概要と再審手続に関するの問題点」の「再審手続に関する問題点についての意見」の1に書かれておりますとおり、シャツの切れ端の閲覧、あるいは証拠物の閲覧の結果、被害者着衣が開示されたことで、凶器と傷の不一致が明らかになる、そういった法医学者の鑑定書の作成が可能となって、このシャツと法医学者の鑑定書が再審開始の重要な契機になったとされています。こういった実務運用を踏まえた上で、再審請求準備段階における裁判所不提出記録及び証拠物の閲覧・謄写の規定を設けることが考えられます。   なお、閲覧・謄写を認める証拠の範囲については保管検察官等の判断に委ねられているわけですが、少なくとも通常審で開示済みのものについては、一旦、検察官が開示の必要性、相当性を認めて開示されたものであり、確定したからといって必要性、相当性がなくなるわけではありませんので、閲覧・謄写を拒否する合理性はないと考えます。刑事訴訟法281条の4第1項2号ホには再審請求の手続が掲げられており、通常審における開示証拠は再審請求の手続に用いることが予定されて考えられているわけですから、開示証拠を謄写していなかったとか、謄写したけれども紛失したとか、あるいは謄写した弁護人が再審請求の弁護人とは異なるなどといった理由から、再審請求をしようとする者がそれを利用できないのは不合理ですから、当然、改めて、閲覧・謄写が許可されるべきです。また、証拠物は、謄写といっても写真に撮ることしかできないわけですから、再審請求しようとする者がその実物を見たいという場合には、当然、閲覧が許可されるべきです。したがいまして、少なくとも、確定審又は過去の再審請求手続で開示された証拠は、再審請求の準備段階であっても、閲覧・謄写が認められるべきであると考えます。   また、間参考人の発言にもありましたように、袴田事件の5点の衣類のカラー写真やネガフィルム、取調べテープなどの証拠物は、現行法でいえば類型証拠開示請求の対象となり、通常審の段階で、弁護人は目にしているようなものになります。また、証拠物などの客観的な証拠については、事前に開示を受けなければ、弁護人としては再審理由にかかる主張を組み立てられないという問題があると指摘されておりました。したがって、証拠物などの客観的な証拠についても、閲覧・謄写が認められるべきであると考えます。   この点、被害者に関しては、平成20年11月19日の法務省刑事局長通知により、不起訴事件記録、これには裁判所不提出記録がこれに含まれると理解できますが、の閲覧・謄写の運用に係る指針が示されており、少なくとも実況見分調書、検証調書、写真撮影報告書、鑑定書等の客観的証拠は原則として閲覧・謄写を認めるとされております。これによって、被害者等から請求があった場合には、裁判所不提出記録であったとしても、閲覧・謄写はできるという運用になっております。そうであれば、再審請求の準備のために再審請求人又は弁護人から保管検察官に対して閲覧・謄写の請求があった場合にも、同様に、客観的証拠は原則として閲覧・謄写が認められるべきではないかと思われます。これは既に15年以上の運用の実績がありますので、保管検察官において、その当否を判断することは容易であると考えられます。再審請求準備段階では、これらが類型証拠開示に代わり、再審請求人及び弁護人の裁判所不提出記録及び証拠物へのアクセスを保障することになるのではないかと考えているところです。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○川出委員 ただいま田岡幹事からも御説明がありましたが、再審請求の準備段階における閲覧・謄写に関する規定を設けるとした場合の具体的な案が、日本弁護士連合会改正案の第444条の5と河井試案の第18条で示されています。いずれの案においても、閲覧・謄写の対象とされているのは、証拠物と、それから通常審で開示された裁判所不提出記録ということになっています。この二つは、厳密に言うと閲覧・謄写の目的が異なるように思いますけれども、共通しているのは、これらを閲覧・謄写することによって、再審請求を行うかどうか、あるいはそれができるかどうかの判断資料とするということであろうと思います。そうしますと、両条文では閲覧請求の主体が「再審の請求をしようとする者」となっていますが、それは主観的に再審請求を考えている者というにとどまりますので、結局は、有罪判決が確定した者という以上の意味はないように思います。   そう考えますと、そういった地位の者について、現行の刑事確定訴訟記録法を超える範囲の閲覧を一般的に認めるだけの理由が果たしてあるのかについては疑問があります。もちろん、田岡幹事が御指摘になりましたように、これまで、通常審において開示されなかった検察官が保管する証拠が、明白性のある新証拠として認められ、再審が開始された事例があることは確かですし、また松橋事件のように、再審請求の前にそうした証拠が開示された事件もありますので、そのような開示が求められる事例があることは理解できます。ただ、そうであるとしても、そのような場合は、これも田岡幹事が指摘されたように、刑事訴訟法第47条ただし書に該当するものとして、個別に閲覧・謄写の機会を認めるという対処をすべきであって、一律に裁判所不提出記録の閲覧・謄写を認めるような規定を設ける必要はないですし、また相当ではないと思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○宮崎委員 田岡幹事の御提案は、証拠物等の客観的証拠については、通常審での開示の有無によらず開示を認めるべきという御意見だと理解いたしましたし、また今、川出委員の方から御指摘のあった、鴨志田委員の提出資料の第18条、また村山委員提出資料の日弁連案の第444条の5につきましても、証拠物について、通常審における証拠開示の要件を満たさないものについてまで再審請求の準備段階における閲覧等を認め得るものとなっていると理解しております。   しかし、このように通常審における証拠開示制度より広く再審請求前の証拠物の閲覧等を可能とする制度を設けることは、上訴よりも再審請求をした方が有利な訴訟戦略となりかねず、通常審の軽視を引き起こすおそれなどがあり、相当でないと考えます。   そもそも、再審請求者の主張すら明らかになっていない以上、再審請求の準備段階において閲覧等を認める範囲を適切に確定することは極めて困難であることからすると、制度として再審請求の準備段階における閲覧等を認めることは相当ではないと考えられます。   また、一般論として、通常審において閲覧等された証拠書類の写しは、適切に管理され、弁護人が交代した際には引き継がれているものと認識しており、御提案のような規定を設ける必要性も乏しいのではないかと思われます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ある方はおられますでしょうか。 ○成瀬幹事 私も、今、宮崎委員が問題提起された証拠物の取扱いについて意見を申し上げたいと思います。   前提として、私も、先ほど田岡幹事が指摘されたように、再審請求の準備段階において、保管検察官の裁量に基づき、裁判所不提出の証拠物の閲覧・謄写を認めることは可能であると理解しています。   もっとも、今回の御提案は、証拠物については、通常審において開示の対象となっていないものも含めて、一律に再審請求の準備段階における閲覧・謄写を認める制度を創設すべきというものですので、その御提案に対しては、以下のような懸念を申し上げたいと思います。   この御提案は、要するに、判決の確定により当該事件の終局的な解決を図る一方で、それと同時に、新たな証拠物により当該確定判決の当否を争う機会を与えることを意味しますので、自己矛盾をはらむ不合理な制度となりかねません。仮に、御提案のような制度を再審請求の準備段階に導入しようとするのであれば、その前提として、通常審の証拠開示制度においても証拠物は一律に開示されるものとしなければ、刑事司法制度全体の整合性を保つことができないと思われますが、本部会に対する諮問事項は「刑事再審手続に関する規律の在り方」に限定されており、通常審の証拠開示制度を改めることは、本部会の任務を超えていると考えます。 ○大澤部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○田岡幹事 先ほど宮崎委員から、通常審における開示証拠の写しは再審請求の弁護人に引き継がれていると認識しているという発言がありましたが、必ずしもそうではないということは申し上げておきたいと思います。まず、通常審において、弁護人が全ての開示証拠を謄写するのが当然であるかと言われますと、必ずしもそうなっておりはません。国選弁護報酬として謄写費用が全額払われる制度となっておりませんので、弁護人によっては開示証拠の全てを謄写しないという場合もありますし、謄写するとしてもカラーコピーではなくて白黒コピーにするといったことはあります。また、第一審の弁護人が謄写したとしても、それを控訴審、上告審の弁護人に引き継がなければならないという義務は定められておりませんので、第一審の弁護人が引き継がない場合には、控訴審及び上告審の弁護人は改めて閲覧・謄写しなければなりません。なおさら、それを再審請求の弁護人に引き継がなければならないといった義務は定められておりません。   また、証拠物に関して言えば、謄写と言っても写真に撮ることしかできません。仮に写真があったとしても、その証拠価値を把握することはできませんので、改めて証拠物を閲覧してその証拠価値を把握し、再審請求ができるかどうかの検討をするためには、再審請求の準備段階において、再審請求人及び弁護人が証拠物の現物を閲覧することが必要になってくるということは申し上げておきたいと思います。   次に、先ほど宮崎委員から、日弁連の意見書及び鴨志田委員提出の条文案において、証拠物については一律に開示すべきとされていることについて、通常審における証拠開示制度とは整合しないという趣旨の指摘がありました。私の理解では、これらが証拠物は一律に開示すべきとしている理由は、やはりその特殊性によるのだろうと思います。   まず、そもそも、刑事確定訴訟記録法は、刑事確定訴訟記録、つまり証拠書類を対象としており、証拠物は対象外となっています。証拠物は、証拠品事務規程によって取り扱われていると理解しております。   その上で、証拠品事務規程によれば、没収、所有権放棄等により国庫に帰属した証拠品については、検察官は再審請求が予測される場合には保管することになっておりますが、そうでない限りは、提出者、つまり所有者等に還付するというのが原則的な取扱いであると理解しております。証拠物の場合には還付、仮還付によって、証拠物そのものがなくなってしまうという可能性があるわけです。閲覧の機会を与えずに、還付、仮還付されてしまった場合には、それを閲覧することができなくなってしまうといった不都合があることから、そのような取り返しがつかない事態になることを防ぐためには、証拠物に対するアクセスについては、証拠書類とは別途の考慮を必要とすると考えております。 ○大澤部会長 ほかにいかがでしょうか。   ○鴨志田委員 先ほど宮崎委員の方から、証拠物に関しては通常審よりも開示の範囲が緩やかになるということで、それは上訴せずに再審を選択するというようなことを招きかねず、通常審の軽視につながるといった意見がございました。ただ、これは飽くまでも仮定上の話ということで、現実にそのような選択をするかということをお考えいただきたいと思います。服役をする、また前科が付く、こういったことが有罪判決の確定によってもたらされるわけですから、それをあえて選んで再審をするという決断に至るということはなかなか難しいのではないかと思っています。   また、通常審で出なかったものを再審で開示するということは問題であるかのような発言が多数されていますけれども、そもそもこれは通常審で開示されるべきものが開示されていないという状態の現れということが言えるわけです。松橋事件のシャツの袖であったり、袴田事件の場合は再審請求後に開示された、しかもこれは最初の再審請求から29年もたって開示された5点の衣類のカラー写真は、本来であれば当然通常審で開示されていなければならなかったものです。これが通常審で開示されなかった場合、これから再審を請求しようとする者に、こういった証拠にアクセスする機会が得られないということであれば、再審がえん罪救済のための最後のセーフティーネットとして機能し得ないということを意味するのではないかと思います。   おそらくこのような観点から、当時者主義を採っているイギリスでも、また日本の母法であって職権主義を採っているドイツでも、有罪判決の確定後に再審の申立てをする前の段階で証拠にアクセスをするということが認められており、イギリスの場合では、事前に開示された証拠を持ってCCRCに申立てをしていく、またそこに公的な、法律扶助といったような弁護人を付けることができるというような立て付けになっていたり、ドイツにおいても、確定判決後の刑の執行手続における申立てや再審請求の準備のために記録閲覧権を行使でき、さらに検察官が記録閲覧を認めない場合には裁判所に不服申立てをできるといった制度が設けられていて、ドイツの場合も再審の申立ての準備段階で国選弁護人を付ける制度も採用されているということは、この準備段階での活動の重要性ということを裏付けていると考えます。 ○大澤部会長 この枠につきましてはこの程度でよろしいでしょうか。    それでは、次に「論点整理(案)1」の「(4)再審請求審において閲覧・謄写した証拠の目的外使用を禁止するか」について審議を行います。   この事項については、おおむね20分間、午前11時30分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   それでは、御意見等ある方は挙手をお願いいたします。 ○池田委員 目的外使用の禁止について意見を申し上げます。   通常審で開示された証拠の複製等の目的外使用の禁止等については、刑事訴訟法の第281条の3以下に規定が置かれております。これらの趣旨ですけれども、開示証拠の複製等が本来の目的のみに使用されることを担保することで、証拠開示がされやすい環境を整え、ひいては証拠開示制度の適正な運用を確保するという点にあるとされています。   これに対し、再審請求審において閲覧又は謄写された証拠はこれらの規定の対象とはならず、そのため現行法上、これらの証拠の取扱いに関する規律は存在しない状況です。その上で、このたび再審請求審において裁判所が一定の要件を満たす場合に、検察官に対して証拠の提出を命ずることができる旨の規律を設けるということとなった場合には、刑事訴訟法第40条に基づいて、検察官から裁判所に提出された証拠が弁護人によって閲覧又は謄写される機会も一定程度増加することになると想定されます。しかし、その複製等が本来の目的以外にも自由に使用でき、あるいはその管理の適性を欠くこととなれば、関係者の名誉やプライバシーの侵害等の弊害が生じかねず、また裁判所においても、本来の目的以外の使用や外部への流出の可能性を現実的に想定せざるを得なくなり、その結果、提出命令の適正な運用が阻害されるおそれもあります。   こうした懸念に鑑みますと、通常審と同様に、ここでも適正管理及び目的外使用の禁止の規律を設ける必要があると考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○宮崎委員 近時におきましても、例えば被告人が、自身が起訴された性犯罪に係る事件の捜査報告書等の内容をインターネットの掲示板サイトに掲示して起訴されたといった報道がされているとおり、現行法の目的外使用の罪、刑事訴訟法第281条の5第1項ですけれども、これが適用されている事案は現実に存在するものと承知しております。   もっとも、池田委員御指摘のように、現行法下では再審請求審において検察官が任意に開示した記録や裁判所において閲覧・謄写の機会を与えた記録については、目的外使用禁止の規制は及びません。また、現状において、再審請求審の弁護人が通常審の弁護人から通常審の開示証拠を引き継いだ場合には、その証拠の複製等が再審請求審段階でも引き続き目的外使用禁止の規制対象となる一方で、再審請求審段階で同一の証拠の開示を受けた場合には、その取扱いについて何らの法的規制がなく、同様の弊害が生じ得ることからすると、不均衡な状態となっていると思われます。   仮に不提出記録の閲覧・謄写について何らかの規律が設けられる場合には、閲覧・謄写の機会が増加し、目的外使用による関係者のプライバシー侵害等のリスクも高まると考えられることから、併せて、再審請求審段階においても、閲覧・謄写の機会を与えた証拠につき、現行法のような目的外使用禁止の規制を及ぼす必要があると考えられます。 ○山本委員 被害者が捜査に協力するに当たっても、後々再審の段階で証拠として出てきてしまったものが開示されてしまうと、なかなか協力もしにくくなってしまうと思いますので、規制は必要だと思っております。   実際、先ほどネットにアップされたという話もありましたけれども、近時は映画化された件もありますし、聞いた話ですけれども、再審の弁護団の集会で御遺体の写真がプロジェクターで放映されているのがネット上にアップされているというようなことも聞いておりますので、正に被害者に対する二次被害が生じているところなので、この点については規制は必ず必要だと思っております。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○田岡幹事 目的外使用の問題を考える際には、再審請求事件では、支援者による支援活動や報道機関による報道が、再審開始決定や再審無罪判決に寄与することがあるという事実を踏まえる必要があるのだろうと思っております。   例えば、袴田事件では、5点の衣類のカラー写真を支援者などに見せた結果、支援者の発案によってみそ漬け実験が行われ、これが結果的に無罪を言い渡すべき明らかな証拠とされたと聞いております。また、東住吉事件では、塩野参考人から発言がありましたように、報道機関の協力によって燃焼実験を行うことができ、これが結果的に無罪を言い渡すべき明らかな証拠となったと聞いております。これらの証拠が被害者など関係者のプライバシーや名誉に関わるものであったとは思えません。   もとより、再審請求の手続のために使用するのであれば、支援者や報道機関に提供することは目的外使用にそもそも当たらないと認識しておりますので、袴田事件のみそ漬け実験や東住吉事件の燃焼実験は目的外使用には当たらないのだといえばそうかもしれません。しかし、これには刑事罰が定められておりますので、5点の衣類の写真を支援者に見せれば処罰されるかもしれない、報道に用いれば処罰されるかもしれない、犯罪になるかもしれないということになりますと、萎縮効果を招くことになります。これが再審請求事件が非公開の手続であることとあいまって、隠された証拠が国民の目に触れる機会がなくなり、より隠されたものになってしまうといった懸念がございます。   この点、宮下参考人も、真実を明らかにするために使われる分には、それは許されてよいのではないかと思いますし、事件の本質を伝えるために、例えば報道機関がそれを報じることも許されていいのではないかと思いますと。もちろん、証言してくれた方のプライバシーとか実害が生じるのであればそれは別なのだけれども、そうではないのに一律に禁止することについては疑問を呈しておられました。   ところで、先ほどの証拠開示の在り方、制度の枠組みに関してですけれども、直接開示型にするのか、裁判所提出型にするのかといった議論がございましたが、仮に裁判所提出型とするのであれば、少年審判事件の規律が参考になります。少年審判事件では、目的外使用の禁止の規定はございません。先ほども申し上げましたが、少年審判規則7条2項によりますと、付添人は少年審判事件の記録を閲覧することができ、また、裁判所が許可をすれば謄写をすることもできることになっております。また、医療観察事件においては、医療観察法32条により、付添人はその記録を閲覧することができますし、また、裁判所が許可をすれば謄写できることになっており、現実にはほとんどの場合に許可される運用になっております。   もちろん被害者の方の住所などがマスキングされることは、私どもも付添人として経験しております。被害者保護のために必要があるのでしたら、少年審判規則の7条3項及び4項によって、条件を指定したり、若しくは時期、方法を指定したり、又は閲覧を禁止したりといった措置を講じることができることは、先ほど申し上げたとおりです。これらの規定によって、被害者や関係者の名誉、プライバシーに配慮することは可能であると考えられますから、目的外使用の禁止を定めるのではなくて、少年審判規則や医療観察法と同様に、裁判所が適切な措置を講じることによって弊害を防止していくというのが、整合的な規律の在り方と考えます。   少年保護事件の件数を見ますと、令和5年は付添人は5,506件、うち弁護士は5,472件選任されており、これらの事件では、法律記録の閲覧・謄写がなされていると思われますが、少年審判事件の規律を見直すべきといった議論は聞いたことがありません。再審請求事件という少年審判事件と比べればはるかに少ない件数の事件について、目的外使用禁止を設けることについては、合理性はないのではないかなと考えているところです。 ○大澤部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○村山委員 私も、目的外使用禁止を一律に定めるべきではないという意見です。   やはり再審事件の場合は、例えば支援者の方の会合とか、それからマスコミの影響というのは大きいということは、これは厳然たる事実だと思うんですね。そういったものを、目的外使用を禁止するということで一律に禁止してしまう、そういうことができなくなってしまうということは非常に大きな弊害だと理解しています。確かにプライバシーの問題、被害者の方の秘密の問題等は守らなければいけないというのは、これは先ほどと同じ、証拠開示と同じ議論なのですけれども、やはりそれは個別にということで、今ほど田岡幹事の方から一つの例としてお示しありましたけれども、少年事件の例なども参考にするということは十分可能だと思いますし、この職権主義手続でその証拠を見るというところで、なぜ禁止するかというのは、通常審とのパラレルに考えるということだと思うのですけれども、必ずしもそうではないだろうと理解しています。   そういう意味で、宮下参考人も言われたように、こういった形で目的外使用を禁止するということになれば、報道機関が同じような証拠を報道するということ自体が全部禁止されてしまうということになってしまいますので、これはマスコミの報道の自由、それから知る権利という観点からも、私は相当ではないと理解しています。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは、他に御意見がなければ、本日の審議はここまでということにしたいと思います。   本日は、論点の「1」の「(4)」のところまで御議論いただいたということで、次回は「論点整理(案)1」の「(5)裁判所不提出記録・証拠物の保存・管理に関する規律を設けるか」から引き続き審議を行うこととしたいと思います。次回会議においてどの項目まで審議を行うかについては、期日間に事務当局を通じてお伝えいたします。   本日の会議における御発言の中で、具体的事件に関する御発言などで、非公開とすべき部分がある場合には、御発言なさった方の御意向なども確認した上で、該当部分を非公開としたいと思います。それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法等については、御発言なさった方との調整もありますので、部会長である私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 ありがとうございます。   具体的な事件と申し上げましたけれども、特に支障あるものはなかったようには思っておりますけれども、一応念のため、御了解を頂いたということでございます。   次回の日程について、それでは事務当局から説明をお願いいたします。 ○中野幹事 次回の第5回会議は、令和7年8月7日木曜日午後2時からを予定しております。詳細につきましては別途御案内申し上げます。 ○大澤部会長 それでは、本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-