改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第20回) 第1 日 時  令和7年7月8日(火)    自 午前 9時59分                        至 午前11時17分 第2 場 所  法務省第1会議室(20階) 第3 議 題  1 起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置         2 議論のためのたたき台 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第20回会議を開催します。   皆様、御多用中のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日の議事ですが、まず、川瀬構成員から、起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置に関して御説明したい事項があるということですので、御説明を頂いた上で、質疑・意見交換を行い、その後、前回会議の結果を踏まえて、取りまとめに向けた議論を行うこととします。   まず、事務当局から本日の配布資料について確認をさせていただきます。本日は、事務当局において作成した配布資料45のほか、川瀬構成員提出資料をお配りしています。配布資料の内容につきましては、後ほど御説明します。   それでは、川瀬構成員から、起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置に関する御説明を頂きたいと思います。 ○川瀬構成員 最高裁の方から提供した資料について御説明させていただきたいと思います。   資料2の公開の法廷における被害者特定事項の保護の条文ですけれども、こちらをまず御覧ください。こちらは、公開秘匿の条文の構成をまず確認していただいた上で資料を見ていただいた方が分かりやすいという趣旨で、皆さんもう御承知のことかもしれませんが、少し御説明させていただきます。刑事訴訟法第290条の2第1項の中で、その公開を秘匿することができる対象事件として、第1号、第2号、第3号と挙がっています。第1号の方が、刑法第176条や第177条という、いわゆる不同意性交といった典型的な性犯罪が挙げられていて、第2号の方は、特別法で同じように性犯罪に係るようなものが挙げられています。第3号で、前2号に掲げる事件のほか、平穏が著しく害されるおそれなどがあると認められる事件が対象事件として定められているという状況になっています。   少し注意していただきたいのは、例えば、この刑事訴訟法第290条の2第1項第1号の中ですと、刑法第225条の罪、これは誘拐などといった事件なのですけれども、この誘拐などの事件全てが対象になるわけではなく、わいせつ又は結婚目的があるものについて対象となっており、条文の中でもこの第1号や第2号について、一部対象事件が限られているという構造になっているということを前提に押さえていただければと思っています。   それを前提として、資料1の方に移っていただけると幸いです。資料1には、最初はグラフ、それから別紙①、別紙②という形で罪名を挙げています。この別紙①というものが先ほどの刑事訴訟法第290条の2第1項第1号に当たる罪を羅列したもの、別紙②の方が同法第290条の2第1項第2号に当たる罪を羅列したものになります。資料1のグラフの内訳の2段目、「別紙①及び別紙②に掲げる罪の終局人員」ということで、今掲げられた同法第290条の2第1項第1号や第2号に当たる罪の終局人員、要するに、それぞれの年で裁判所で取り扱った被告人の数がこちらの青い線のグラフということになります。   それから、これは前回、足立構成員の方から指摘がありました、裁判所の方がウェブサイトで公開している、公開の秘匿をした被害者の数がオレンジのグラフになっています。オレンジのグラフが、大体4000件程度で推移していたものが5658件に令和6年は増えており、青い方については、1800件から1900件程度で推移していたものが、令和6年には2840件ということで、同じような傾向を示していることが分かると思います。   一番上のグラフのグレーで色掛けしている、「うち刑訴法290条の2第1項第1号及び第2号に掲げる罪以外の罪が含まれる可能性があるもの」と書かせていただいたものが、先ほどの、例えば誘拐などのときに、統計上は、この誘拐の事件の件数を取ったときに、これがわいせつ目的か結婚目的かというところまで区別して裁判所は統計を持っておりませんので、仮に全てがわいせつ目的ではない、この対象事件ではないと扱った場合の件数としては、令和元年で約300件、令和6年で約170件ということで、ボリュームとしてはかなり少ないことになりますので、仮にこれらの事件が全て刑事訴訟法第290条2第1項第1号、第2号の対象に該当しないものとして計算したとしても、このグラフの傾向が大きく変わることはないと思っています。   すなわち、このグラフからこちらとして読み取れると思っていることを御説明しますと、従来より刑事訴訟法第290条の2第1項第1号、第2号に該当しない罪についても公開秘匿されることがあった、つまり第3号要件によって公開秘匿されている事案が一定数あったということがうかがえるかと思います。また、青色の方の第1号、第2号の罪に当たる終局人員の件数が令和5年から令和6年にかけて1957件から2840件と大きく増加していますが、これは不同意性交等の罪の改正や、あるいは性的姿態等撮影罪の新設等の法改正が令和5年7月13日から施行されたことに基づくものと考えられます。これとおおむね連動する形でオレンジ色の公開秘匿されているという事件も増加しているということがうかがえると思っています。 ○平出構成員 今の点に関連して、現場の感覚として少しお話をしたいと思います。   これら刑事訴訟法第290条の2第1項第1号、第2号に掲げられた罪については、秘匿されることがほとんどでありまして、また、同法第290条の2第1項第1号、第2号の罪名に直接該当しない事案でも、例えば、痴漢などの迷惑行為防止条例違反など、秘匿されるものも相当数あるという認識でございます。   また、近年については、令和5年に、逮捕状・起訴状の秘匿措置制度が導入されたことの影響も一定程度あり、増加していると思われますが、近時、SNSでの誹謗中傷、デジタルタトゥーへの恐怖心などから被害者の側から秘匿の申出がなされ、検察官としても個人情報保護に配慮して秘匿相当との意見が付されて通知されるというケースが増えているというような状況にもあるかと思っています。 ○中野参事官 その他、御質問、御発言のある方はいらっしゃいますでしょうか。 ○足立構成員 質問なのですけれども、この決定をするときに、検察官からの申出がメインになると思うのですけれども、そのときに、例えば、被告人の弁護人からの意見聴取だったりとか、どのような意向なのかというのは、裁判所としては確認しているものなのでしょうか。 ○川瀬構成員 資料2の条文の方を御覧いただきますと、刑事訴訟法第290条の2の公開秘匿をするに当たっては、被害者の方から申出があると、その申出に検察官の意見が付いて裁判所の方に通知がされます。この条文にあるとおり、「被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは」となっていますので、被告人の方の弁護人の意見も聞いた上で、公開の法廷での秘匿をするかどうかということを決定することになっています。   ちなみに、申し上げますと、前回、足立構成員の方が見ていただいた資料の方で、被害者について公開法廷での秘匿をする事件が令和5年から令和6年にかけて増えているという話もあったのですけれども、同じ資料の中で公開秘匿をしない決定をしたという被害者数も公開していまして、こちらも令和5年から令和6年にかけては23人から65人という形で増えているということは資料ではうかがえます。 ○足立構成員 ありがとうございました。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、続きまして、取りまとめに向けた議論に入りたいと思います。   まず、事務当局から配布資料45の内容について御説明します。   配布資料45は、本協議会の取りまとめに向けた「議論のためのたたき台」です。   前回会議において、本協議会の取りまとめに向けて事務当局がたたき台を作成することとされましたので、事務当局において一案を御用意させていただきました。   この「たたき台」では、「第1 はじめに」及び「第2 本協議会の開催状況」において本協議会の概要等を記載した上で、「第3 附則第9条第1項関係(取調べの録音・録画制度の導入)」、「第4 附則第9条第2項関係」、「第5 附則第9条第3項関係」に分けて、これまでの協議における構成員の皆様の御意見を整理して記載しています。   「第6 終わりに」については内容の記載がありませんが、これは、本日の協議において、ここに盛り込むべき内容について御議論いただきたいという趣旨です。   配布資料45についての御説明は以上です。   協議の進め方としては、まず、ただ今御説明した「たたき台」に基づいて、「第1 はじめに」から「第3 附則第9条第1項関係(取調べの録音・録画制度の導入)」まで、「第4 附則第9条第2項関係」、「第5 附則第9条第3項関係」に分けて御意見を伺い、その後、「第6 終わりに」に盛り込むべき事項について御意見を伺うこととしたいと存じます。   そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   まず、「たたき台」の「第1 はじめに」から「第3 附則第9条第1項関係(取調べの録音・録画制度の導入)」までにつきまして、御意見・御発言がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 「たたき台」を作成いただき、ありがとうございました。私が述べた意見も簡潔にまとめてくださっていますが、できる限り「たたき台」だけを読んで趣旨が明確に伝わるようにする観点から、何点か補足をお願いしたいと思います。まず、2ページ、「3」「(1)」「ア」の最初の「○」の意見については、「自白が公判において利用されなければ不適正な取調べがあってよいというものではない」という趣旨も述べておりますので、この点を補足していただきたいと思います。   3ページから4ページにかけて、「ウ」の最初の「○」につきましても同様に、「不適正な取調べは、それ自体を防止する必要があるのであって、公判で供述調書の証拠能力が争われなければよいというものではない」という趣旨を補足していただきたいと思います。   5ページ、「エ」の二つ目の「○」の意見については、「被害者等の取調べについても、被疑者の取調べと同様、その言動により記録をしたならば十分な供述をすることができないと認めるとき等の除外事由を設けることにより、弊害は防止し得る」という点を補足していただきたいと思います。   11ページから12ページにかけて、「(3) 違法・不当な取調べと制裁の在り方について」の最初の「○」の意見について、「違法な取調べが録音・録画の下ですらも繰り返されている背景には、供述調書を証拠として請求せず、あるいは証拠能力を争われないようにすることによって、取調べの司法審査を容易に回避することができる構造があると考えられるから」と補足していただきたいと思います。 ○成瀬構成員 「警察の運用による録音・録画」に関する私の意見は、「たたき台」の6、7ページに適切に記載していただいているところですが、改めて一言申し上げたいと思います。   刑事訴訟法は、被疑者の取調べに関して、検察官と司法警察職員の権限や取調べにより得られた供述の証拠能力を同一の取扱いとしています。よって、被疑者取調べを録音・録画することにより、公判で供述の任意性・信用性が争われる事態に備えるとともに、取調べの適正を確保するという要請は、検察だけでなく警察にも同じように妥当します。これまでの協議会においても、警察の被疑者取調べにより得られた供述の任意性・信用性が争われた事例や、警察の被疑者取調べが違法・不当と評価された事例が、複数紹介されてきました。   それにもかかわらず、警察は、検察と比較して、運用による録音・録画の拡大について消極的と言わざるを得ません。検察が本年4月1日から逮捕・勾留されていない被疑者の取調べについても録音・録画の試行を開始したことにより、両者の差はますます広がっていくと予想されます。   私は、警察が第一次捜査機関であることや、録音・録画の実施拡大に伴い更なる人的・物的負担が生じることを最大限考慮したとしても、現在の警察による消極的な運用は是認することができず、少なくとも逮捕・勾留中の被疑者の取調べの録音・録画については、もう少し幅広く実施していただく必要があると考えています。   なお、今申し上げた意見を報告書に追記するか否かについては、事務当局の判断にお任せします。 ○佐藤構成員 私も、警察の運用による録音・録画に関して意見を述べたいと思います。   「議論のためのたたき台」の6ページ、「第3」「取調べの録音・録画制度の導入」に関する、「3」「(2)」「ア 現行制度の運用について」の項目に、「取調べの録音・録画制度の運用それ自体には、おおむね問題はないと考えられる。」との記述がございます。   たしかに、制度対象事件に関する運用について、特に問題があるわけではないと思いますし、また、警察において、制度対象以外の事件に関する運用上の対応として、録音・録画実施のための一定の基準を設け、録音・録画を行った実例が存在することも、第3回会議に松田構成員から提出された資料2によって確認することができます。   ただ、この制度対象以外の取調べの録音・録画の実施状況につきましては、「たたき台」の7ページ、最初の「○」の記述にありますとおり、「警察が第一次捜査機関であるという特性や、録音・録画機材の数による制約があることを踏まえても、実施件数自体が非常に少ないと言わざるを得ない」との評価を免れないように思われます。   捜査において取調べが果たす機能については理解いたしますけれども、裁判員対象事件に関しては、基本的に、録音・録画に伴う「弊害」があるとしても、その実施の必要性を優先するという制度設計になっております。事案の重大性という観点からは真相解明の必要が最も大きい部類に属する事件が、既に録音・録画制度の対象とされていることを踏まえますと、それ以外の、制度の対象ではない事件について真相解明の必要を絶対視することは困難であり、運用上、取調べの録音・録画を実施する対象を更に広げる方向で考えてみてはいかがかという意見を持っております。 ○中山構成員 警察の取調べの録音・録画についての御意見を頂きました。これまでの協議会でも申し上げてまいりましたけれども、まず、一般に取調べの録音・録画につきましては、被疑者の供述の任意性等の立証に資する一方で、被疑者から供述を得にくくなるという弊害があることから、まず、これ以上の制度における対象範囲の拡大については取調べの真相解明機能の低下につながるおそれがあるほか、一定の人的・物的負担が生じるということもあるので、制度としては、現行の制度を維持することが適当であると考えているところです。   言及もありましたけれども、我が国の多くの事件においては、警察が第一次的に捜査を行っており、警察においては、事案の全容を早期に幅広く解明をして事件の真相に迫るということが求められています。このため、警察としましては、録音・録画によって被疑者が供述を躊躇しかねないというような状況に対しては、より慎重に判断を行っていく必要があると考えているところですけれども、他方で警察におきましては、従前から通達におきまして、任意事件の取調べも含めて、取調べの録音・録画の制度対象事件や、あるいは精神に障害を有する被疑者に係る取調べ等の録音・録画に該当しない場合であっても、必要がある場合には録音・録画を実施することができると、この旨、通達において指示をしてきたところでして、この点につきましては、今後も適切に運用してまいりたいと考えています。 ○宮崎構成員 「たたき台」の作成をどうもありがとうございました。こちらの「たたき台」には、構成員間に意見の相違がなかった論点についてはそのように記載され、構成員の意見に隔たりがあった論点に関しては、双方の意見がバランスよく反映されており、私としては「たたき台」の内容に異論はありません。   先ほど河津構成員の方から幾つか追記の御意見がありまして、その中で、「被疑者以外の者の取調べについて」の箇所についての追記ですけれども、こちらの被疑者以外の者の取調べの論点については、「たたき台」にもありますように様々な意見があり、構成員間で意見に隔たりがあったところでもあります。仮に御指摘の意見を追記するのであれば、バランスを失することとならないよう、それと異なる意見も併せて追記することが必要となるのではないかと考えています。   また、御意見の中で、「自白が公判において利用されなければよいというものではない」という趣旨の追記が2か所あったかと思いますけれども、こちらについては、過去に私の方で、現実に公判で取調べ等の状況が争われる事件がどれほどあるのかは極めて重要な考慮事情であるということを発言しているということをこの場で申し上げておきたいと思います。特にこの点は追記を求めるという趣旨ではありません。 ○河津構成員 「たたき台」の「第3」の「3」「(2)」「ウ」、「検察の運用による録音・録画」について、検察が本年4月1日に開始した逮捕・勾留されていない被疑者の取調べの録音・録画の試行について、「一定の前進であると評価することができる」との評価が加えられています。平成27年及び平成28年の附帯決議で求められていたものを今年から試行するというのは遅きに失するのではないかという点はおくとしても、「一定の前進である」と評価することができるかどうかは試行の内容次第であると思われます。   今回の試行が開始される前にも、例外的に、逮捕・勾留されていない被疑者の取調べの録音・録画が実施されることはありましたが、その中で、参院選大規模買収事件が正にそうであったように、事前にリハーサルを行うなどして、不適正な取調べを隠蔽し、自発的に供述したものであるかのように偽装したと評され得るような一部録音・録画が行われていました。そのような、取調べの適正な実施の確保という趣旨に反する録音・録画を防止するためには、対象を恣意的に選別することができないようにし、原則全過程が録音・録画される仕組みが必要ですが、今回の試行がそのような仕組みを伴うものであるのかどうか、現時点では不明です。   「一定の前進であると評価する」と取りまとめるのであれば、そのような仕組みを伴うものであることを明らかにしていただきたく、それを明らかにできないのであれば、「一定の前進である」と現時点で評価することには同意できませんので、取りまとめにおいては中立的な記述としていただきたいと思います。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。 ○河津構成員 「第3」の「関連する事項に関する議論の結果」も含まれますでしょうか。 ○中野参事官 「第3」の関連事項も併せて、この場でお願いします。 ○河津構成員 「第3」の「4」「(1)」の「黙秘権行使と取調べ」について、「被疑者が黙秘権を行使する旨を明らかにした場合における取調べの在り方」につき、私が述べた「取調べの継続が許されなくなる明確な基準を設けるべきである」とする意見に対し、成瀬構成員の御意見や佐藤構成員の御意見が記載されています。第15回会議において、成瀬構成員は、「捜査機関による説得には、説得を継続することが許される時間、説得の際に取り得る方法、説得の頻度・回数などについて、被疑者の黙秘権の実質的保障という観点から限界がある」と述べられ、佐藤構成員も、「被疑者の身体拘束期間が満了するまでいつでも何時間でも取調べを行うことが許されるかというと、そうではなく、黙秘権保障の観点からの制約がかかることが前提となっている」と発言されています。このように、取調べの継続に黙秘権保障の観点からの制約がかかることについては、捜査機関の構成員を含めて異論がなかったはずです。必ずしも意見が一致しなかったのは、許容されるのが意思確認にとどまるか、説得かという点と、ルール化が可能であるかという点であり、後者の点について、佐藤構成員の御意見は、「取調べの録音・録画を活用した裁判所の判断を手掛かりとして、適法な取調べの外延を確定していく必要がある」というものであったと理解しております。   いずれにしても、取調べの継続に黙秘権保障の観点から制約があることは、憲法第38条の規定から当然のこととも言えますが、本協議会において、この点についてすら意見の不一致があったとの誤解を与えることは不適切ですので、この点に異論がなかったことを明確にした上で、それぞれの立場から述べられた意見を整理していただくようお願いいたします。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは、次に、「たたき台」の「第4 附則第9条第2項関係」について、御意見・御発言がある方は、御発言をお願いします。 ○河津構成員 この項目についても、私の意見を要約いただいた記述の補足を幾つかお願いしたいと思います。   17ページの最初の「○」の私が述べた意見について、「保釈された被告人が罪証を隠滅し、それが刑事裁判の事実認定を誤らせることを防止するための方策として、偽証罪、証人等威迫罪、事件関係者への接触禁止等の保釈条件、刑訴法第321条第1項第2号書面といった何重もの担保が設けられている」という点を補足していただきたいと思います。   17ページから18ページにかけて、「第4」「3」「(4)」「ア」の最初の「○」の私の意見について、「身体拘束の長期化を避けるための虚偽供述を誘発するなどして刑事裁判における適正な事実認定を阻害している」という点と、「罪証隠滅を防止するための制度的担保が機能していないと見るべき根拠の有無を吟味する上で、被告人の応訴態度は考慮に入れることが相当な事情でもない」という点を補足していただきたいと思います。   18ページ、「イ 身体拘束の代替手段の拡充について」の最初の「○」の私の意見について、「自由権規約第9条第3項が裁判に付される者を抑留することが原則であってはならないと規定し、自由権規約委員会が抑留の代替措置が審査されなければならない旨の見解を示していることも踏まえ」という点を補足していただきたいと思います。   20ページ、「ウ 関連する事項に関する議論の結果」の「被疑者に教示すべき事項」の最初の「○」について、「現行の警察における教示文書は、自ら選任する資力のない被疑者は当番弁護士を依頼することができないとの誤解も生じさせている」という点を補足していただきたいと思います。   21ページ、「イ 制度・運用に関する議論の結果」の最初の「○」の意見について、「証拠一覧表の記載以前に、そもそも証拠が適切に把握されていない事例もあり、証拠の管理に重大な課題がある」という点を補足していただきたいと思います。   22ページ、「ウ 関連する事項に関する議論の結果」の最初の「○」について、「証拠開示は、その性質上、検察官の見立てに反する無罪方向の証拠を被告人側に開示させることに意味があるのだから、任意に委ねてよいものではなく」という点を補足していただきたいと思います。   23ページ、「ウ 関連する事項に関する議論の結果」の「(ア)」の最初の「○」の私が述べた意見は、「全面的証拠開示制度を導入せず、現行制度の基本的な枠組みを維持するとしても」という前提で申し上げたものですので、その点を補充していただきたいと思います。 ○足立構成員 このテーマについて何か補足を求めるものではないのですけれども、これまでの議論を踏まえて若干意見を申し述べたいと思っています。   昨今、大川原化工機の事件をはじめ、人質司法と言われたり、被告人の身柄拘束が非常に長期にわたるような事例が散見されます。「たたき台」の中で言うと「公判前整理手続の請求権の付与」のところにありますように、22ページの「ウ」の最初の「○」にありますように、「証拠開示は、その性質上、一方当事者に権利を保障し、反対当事者にそれを義務付けることが必要」だと、「証拠開示の請求権が、公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件に限って認められている現行法の枠組みを前提とすれば、証拠開示の必要性が特に高い公訴事実に争いのある事件については、請求があれば、公判前整理手続又は期日間整理手続に付されることとする必要がある」とあります。   昨日、事務当局から、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会構成員の皆様へ」という要請書を頂戴しました。構成員の皆さんの間で共有されていると思います。これは、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の村木厚子さんをはじめ、5人のメンバーの方が作られたものです。   そして、この3ページにありますように、「証拠開示はえん罪を防止するために欠くことのできないものです。被告人が無罪を主張しているのに、公判前整理手続に付されず、証拠が開示されていない事件が少なくないことに重大な懸念を覚えます。公訴事実に争いのある事件において、被告人が求めたときは、公判前整理手続に付さなければならないこととし、被告人が証拠開示を受ける権利を保障することを求めます。」と記されています。先ほどの長期勾留の観点から私が思ったのは、主に保釈を認めるかどうかの判断というのは、裁判所は、罪証隠滅と逃亡のおそれがあるかないかということを基準に判断されていると思います。その点、証拠開示がどんどん拡大されていくのであれば、罪証隠滅という観点では、身柄の長期拘束というものを改善していく手だてになるのではないかと思っています。   そして、もう一つ、今のテーマになっているところで言うと、「たたき台」の18ページになりますが、「イ 身柄拘束の代替手段の拡充について」というの項目の二つ目の「○」の中に、現在、GPSを使った国外逃亡を防止する目的に限って位置情報を取得する制度ができて、今後運用されていくということになっています。   個々のテーマを見るというよりは、身柄の長期拘束を防ぐという目的に照らすと、証拠開示の更なる拡大と、こういったGPS技術のような新しいデジタル技術を使って実効性の高い機器を用いた逃亡防止措置があれば、身柄の拘束というものは長期化を防ぐことができるのではないかと考えています。 ○中山構成員 先ほど河津構成員から、追加の御発言ということで御意見がありましたけれども、そのうち20ページのところの警察における弁解録取の際の弁護人の依頼に関する教示の部分がありましたけれども、この御意見自体は河津構成員の御発言ですので、直接御意見を申し上げるものではありませんけれども、念のため申し添えますと、弁解録取をしたときに作成をいたします弁解録取書につきましては、その別紙部分も含めまして、検事総長から指示をされた司法警察職員捜査書類基本書式例に定めた様式を用いて作成し、教示を行っているところでして、その旨、若干付言をさせていただきたいと思います。   それと、もう1点ですけれども、同じく河津構成員の先ほどの御意見の中で、21ページの部分ですが、「証拠一覧表の記載以前に、そもそも証拠が適切に把握されていない事例もあり、証拠の管理に重大な課題がある」と追記という御意見でしたけれども、この御発言があったときには、私の方からも、警察においては証拠物件の適正な保管・管理については極めて重要であると考えておりまして、今後も引き続き都道府県警察に対して証拠物件の適正な保管・管理について指導をしてまいりたい旨を申し上げたところでして、その旨を追記するようにお願いをしたいと思いますのと、これは若干形式的な話ですが、当該部分について、「イ」の部分の一番下、「その他」のところと重複してしまうかと思いますので、そこは適宜御対処いただければと思います。 ○宮崎構成員 先ほど河津構成員から追記の御意見が種々ありましたが、その中で、「たたき台」の「第4」の「3 裁量保釈の判断に当たっての考慮事情の明確化」のうち、「(3) 制度・運用に関する議論の結果」、「(4) 関連する事項に関する議論の結果」の「ア 否認・黙秘している事実を不利益に取り扱ってはならない旨の明文規定を設けることについて」の項目に追記の御意見がありました。これらの論点につきましては、先ほど申し上げたのと同様で、様々な意見があり、構成員間で意見に隔たりがあったところです。仮に御指摘の意見を追記するということであれば、バランスを失することとならないよう、それと異なる意見も併せて追記することが必要となると考えています。 ○河津構成員 バランスをとる観点から意見を追記いただくことは結構だと思うのですが、具体的にはどういう御意見を追記すべきだという御意見なのでしょうか。 ○宮崎構成員 具体的な点は、分量の点もありますので、事務当局の方にお願いしたいと思いますけれども、意見としましては、保釈の運用状況に関しましては、過去の回で、改正法の想定どおりに運用されているということであったり、現行の枠組みの中で適切に判断していくべきということを発言しています。また、現行の運用について適切に判断されているということや、一旦罪証隠滅が行われると適正な事実認定に弊害が生じるということについて、過去の回で吉田構成員からも発言がありまして、私もこれに賛同するものです。また、否認・黙秘を不利益に取り扱ってはならない旨の規定の関係につきましては、長期化による虚偽自白の誘引は保釈そのものの効果ではないということや、経験則に反する不合理なものとなる理由として、被告人の供述態度や供述内容が罪証隠滅の主観的可能性を一定程度推認させる方向に働く事情となるということについて、私が過去の回で発言していますし、また、別の箇所で引用はされていますが、他の構成員の方も、否認・黙秘を裁判所が過剰に評価している実態はないということを御発言されていたかと思います。どのような追記をするかは、分量の問題もあると思いますので、事務当局で御検討いただければと思っています。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。 ○河津構成員 「第4」の「1」「(1) 証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の導入」の「ウ 制度・運用に関する議論の結果」の部分です。「合意制度については、現時点で広く活用されている状況にあるとは言えず、その要因は必ずしも明らかでないものの、合意制度によって得られた供述の信用性の立証について実務上の課題があることがその一因であり得ると考えられる」という記述がございます。この「合意制度によって得られた供述の信用性の立証について実務上の課題があることがその一因であり得る」との記述には、異議を述べざるを得ません。   これまでも遺憾である旨を申し上げてきましたが、本協議会には、合意制度が活用されていない要因を分析するために必要な最低限の基礎的な統計資料が提供されていません。合意制度については、立法当時から、裏付け証拠が十分にあるなど積極的に信用性を認めるべき事情がある場合でなければ合意しないと説明されてきたのですから、裏付け証拠が十分にないときに合意制度を活用しないのは予定どおりであって、それは信用性の「立証」以前の問題です。逆に、裏付け証拠が十分にあるのであれば、供述の信用性の立証は容易であるはずですから、「合意制度によって得られた供述の立証について実務上の課題があることが一因」であるという見方は的確ではないと思われます。むしろ、取調べにおいて裏付け証拠もなく供述が誘導され、供述の信用性の検討が十分に行われていないのではないかという懸念をこれまでもお伝えしてきましたが、合意制度によって得られた供述に限って信用性の立証に課題があるという整理には同意することができませんので、記述を改めていただきたいと思います。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。 ○河津構成員 「第4」の「1」「(1)」「エ」の「関連する事項に関する議論の結果」のうち、「(イ) いわゆる自己負罪型の合意制度」について、「被疑者が罪を認めたら罰が軽くなるという制度が国民の理解を得られるか」ということが課題として指摘されています。このことも課題となり得ることは理解しますが、「長期間の身体拘束を回避するための虚偽自白の誘発をいかにして防止するか」ということもそれ以上に重要な課題であると思われますので、この点も明記していただきたいと思います。   「第4」の「8」の「自白事件の簡易迅速な処理のための措置の導入」、「(3) 制度・運用に関する議論の結果」です。「実務上、通常の手続であっても争いのない事件については効率的かつ迅速に公判審理が行われており、即決裁判手続で得られる合理化・効率化の効果が非常に高いとは言い難い」という記述がございます。「即決裁判手続で得られる合理化・効率化の効果が非常に高いとは言い難い」という指摘はそのとおりだと思いますが、その前提として、「実務上、通常の手続であっても争いのない事件については効率的かつ迅速に公判審理が行われており」と評価することについては若干の違和感を覚えます。実務上、争いのない事件であるにもかかわらず、何か月も時間を費やしている事案もありますし、一般的に起訴前に20日間勾留し、そこから判決まで2か月程度要することは、果たして効率的かつ迅速に公判審理が行われているものと評価してよいのか疑問があります。この記述は削除していただきたいと思います。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。   それでは、次に、「たたき台」の「第5 附則第9条第3項関係」について御意見・御発言がある方は、御発言をお願いします。   この点、特に御意見はないということでよろしいでしょうか。   それでは、次に、「第6 終わりに」に盛り込むべき事項について、御意見・御発言がある方は、御発言をお願いします。 ○足立構成員 この「終わりに」という項目は、今後についてのことと理解していまして、私としては、これまでの本協議会の議論を踏まえて、一般国民の立場から意見を二つ申し上げます。   一つ目は、取調べの録音・録画の拡大に向けて、法改正を前提とした会議体を設置し、スピード感を持って制度設計をお願いします、ということです。   15年前の大阪地検特捜部の不祥事から、本協議会の発足後、現在に至るまで、捜査機関による不適正な取調べが相次いで発覚してきました。国民の不信感は一向に拭えていないと言うほかありません。それは、取調べの可視化の拡大を主張する各メディアの報道や、先ほどの村木さんたちの要請書を見ても明らかです。   昨今、検事が被疑者に暴言を吐く問題が民事裁判で発覚しました。不法行為の決め手になった取調べの映像では、カメラの前でも被疑者の人権をおとしめる発言がなされていました。そうであれば、カメラのない密室ではどれだけひどいことが行われているのだろうかと、そのように思うのは自然のことです。不適正な取調べは蔓延していないと捜査機関の方々がどれだけ主張しても、このような状況では、他にもひどい取調べに泣き寝入りしている人がいるのではないか、という不安と恐怖が国民の間で高まっているのは当然のことです。   少し話が脇道にそれますが、2019年の参院選をめぐる検事の供述誘導問題でも、袴田さんの再審事件でも、検察は、組織内での検証にとどめました。第三者の視点を入れなかったことに不信感を抱いた国民は少なくありません。これも、検証の前後に、各メディアが第三者機関の設置を主張した報道を見れば明らかです。   私は、取調べでもカメラという客観的な視点を入れることが、適正な捜査につながるとともに、国民の司法への不信を払拭する効果を担えると考えています。国民の信頼の土台を培うのは、不祥事が起きる度に繰り返される捜査機関内部の教育研修や、捜査をチェックする職制上の手当てではないと思っています。取調べの厳格なルール化と、ルール化に伴う運用実態の可視化なのだと考えています。   特捜事件や裁判員事件で逮捕された被疑者の取調べの可視化は法制化され、その範囲で、おおむね問題なく運用されていることに異論はありません。3年間に及ぶ本協議会の議論を経て、今、次のステップに向けた岐路に立っていると考えています。   現行制度の運用に大きな問題がないからこそ、現状に満足するのではなく、不適正な取調べを防ぐための取組を更に広げる段階であり、法務省をはじめ、関係機関には国民に対する責務を果たす義務があることを改めて認識していただきたいと願っています。   これまでの本協議会の議論を踏まえると、私は、速やかな法改正に向けて、具体的には、検察の取調べの録音・録画を第一次捜査機関である警察の取調べに先行して拡大していくことが現実的だと感じています。   補足させていただくと、まず向き合うべき課題としては、3種類の取調べが対象になると考えています。   1点目は、逮捕された被疑者の取調べ、2点目は、在宅事件の被疑者の取調べ、3点目は参考人の取調べです。   1点目の逮捕された被疑者について、検察は、運用上、既に9割を超える事件の取調べで録音・録画を実施しており、目立った弊害は出ていません。逮捕された被疑者の取調べについて、原則全件で録音・録画するよう法改正することは十分可能だと思っています。   2点目の在宅事件の被疑者について、検察は、この春から取調べの録音・録画の試行を始めています。その運用状況を見ながら法制化を模索するとともに、3点目の参考人取調べの録音・録画を試行するという流れが考えられるのではないでしょうか。   警察の取調べの可視化の拡大についても、運用上の試行は十分可能だと思います。デジタル機器の発展も見据えながら、新たな会議体での議論を重ねる過程で、運用実態と課題を可視化することが必要だと考えています。   何より、新たな会議体を設けてルール化の本格的な議論が行われ、その検討内容が国民に伝えられることによって、捜査機関に対する国民の不信感が減っていき、ひいては刑事司法全体への信頼がより強固になることを切に願っています。   私の二つ目の意見は、自己負罪型の合意制度について改めて議論を深める時期に来ているのではないかということです。   私は、第18回本協議会で、自己負罪型の合意制度について、被害者や家族の感情という観点、歴史の出来事の記録と検証という裁判の機能、刑事司法制度の大きな変化に対する国民感情といった3点から、慎重に議論すべきだと意見しました。これらに加え、無辜の人が安易に取引に応じてしまわないかや、いわゆる「ごね得」の懸念にどう対応するのか、無実の人に取引に応じないよう弁護人が適切に助言できるのか、証拠開示の時期や範囲はどうするのかといった様々な課題もあると理解しています。   その一方で、本協議会の議論では、昨今、被疑者の黙秘が増えていること、これからも増加が見込まれ、捜査機関の負担が重くなるだろうこと、公判前整理手続の長期化に伴って裁判所の負担も重くなり、司法コストの増大が懸念されること、被告人の長期勾留への批判が年々強まっていること、不適正な取調べなどを防ぐためには、弁護人を立ち会わせるべきであることといった御意見を伺いました。   近年、長期勾留の問題や弁護人の取調べへの関与、証拠開示の在り方といったテーマに対し、国民の関心は高まっています。私は、自己負罪型の合意制度の議論が進むことによって、こうした課題の解消に別の角度からアプローチできる可能性があると思います。   自己負罪型の合意制度は、現時点では、ほとんど国民に知られていません。現行の捜査協力型の協議合意制度の運用状況も踏まえ、自己負罪型の合意制度の効果や課題、対策について民間団体の国民らも交えて議論を深めることができれば、国民の関心が高まることが見込まれます。それとともに、現在の刑事司法が、信頼を損なわないような形で改善に結び付く手掛かりがないか、本格的に検討してもらいたいと考えています。 ○佐藤構成員 「第6 終わりに」の内容の方向性について意見を申し上げます。   平成28年の刑事訴訟法等の改正は、当時の捜査・公判が取調べ及び供述調書に過度に依存した状況にあるとの指摘を踏まえ、このような状況を改めて、刑事手続を時代に即したより機能的なものとし、国民からの信頼を確保するため、刑事手続における証拠の収集方法の適正化・多様化及び公判審理の充実化を図るものであったと言うことができると思います。   これによって導入又は改正された規定につきましては、本日、「たたき台」の「第3」及び「第4」について議論しましたように、一部に事実認識や評価が分かれるところもあるものの、全体としては、おおむね適正に運用されていると評価することができると考えられ、まずは、この点を確認すべきではないかと考えております。   その上で、各論的に見ますと、証拠の収集方法の適正化・多様化の中でも、取調べの適正確保という目的に関しましては、本協議会においても指摘されてきましたように、近時も一部の事件で違法・不当な取調べが行われており、中には録音・録画されている状況においても不適正な取調べが行われた例もあることに鑑みますと、いまだ十分に達成されているとは言い難いと思われます。   また、自白事件の簡易迅速な処理を可能とするために導入された即決裁判手続は、検察官に活用の動機付けを与えることを図った平成28年改正の施行後も、余り活用されているとは言えません。被告人が否認・黙秘する事件が増加して公判手続の負担が増大する傾向にあるとの指摘がある中、限られた司法資源を合理的・効率的に活用することは、法曹三者だけでなく、広く国民にとっても重要であり、このことは私たちの共通認識と言えるのではないでしょうか。   したがって、刑事司法がその機能を適切に発揮できるよう、引き続き、制度・運用の両面について不断の検討を行い、必要な措置を講じていく必要があると思います。   この点、本協議会では、平成28年改正により導入又は改正された規定以外に、自己負罪型の合意制度や有罪答弁制度、取調べへの弁護人の立会い等といった新たな制度についても幅広く議論を行ってきたところです。現時点では、検討すべき課題も多いものの、これらを含む刑事手続の在り方については、今後とも実務の状況や刑事手続のデジタル化をはじめとする近時の法整備の効果等も注視しつつ、真摯な検討を継続していくことが重要であり、本協議会の取りまとめとしては、そのような取組がなされることを強く期待するという趣旨を盛り込むことが望ましいのではないかと考えております。 ○成瀬構成員 私も、取りまとめの「終わりに」に盛り込むべき内容について、意見を申し上げます。   平成28年改正の附則第9条第3項において検討を行うことが求められた措置等のうち、「起訴状等における被害者の氏名の秘匿に係る措置」については、令和5年の刑事訴訟法等の改正により必要な法整備が行われ、「再審請求審における証拠の開示」についても、本協議会における議論を踏まえて、本年3月に、刑事再審手続に関する規律の在り方について法制審議会に対して諮問がなされ、現在、調査審議が行われています。   また、本協議会における最大の論点であった取調べの録音・録画に関しては、検察の運用において、制度対象以外の逮捕・勾留中の被疑者についても幅広く実施されており、本協議会における議論と並行して、本年4月からは、逮捕・勾留されていない被疑者の取調べについても試行が開始されました。   このように、刑事手続における制度・運用が、平成28年改正の趣旨も踏まえて着実に発展を続けていることについて、総論として確認しておきたいと思います。   もっとも、足立構成員や佐藤構成員から御指摘があったように、近時も、一部の事件において、違法・不当な取調べが行われ、中には、録音・録画下でも不適正な取調べが行われた事例もあります。また、平成28年改正では、「証拠の収集方法の適正化・多様化」を図る趣旨から、通信傍受の対象犯罪の拡大や手続の合理化・効率化、合意制度等の導入などが行われましたが、近時、被疑者が否認・黙秘する事案が増加傾向にあり、客観証拠の重要性はますます増してきているにもかかわらず、通信傍受の利用件数は、従前より増えたとはいえ、依然として年間数十件程度にとどまっています。組織的な犯罪等において、手続の適正を担保しつつ事案の解明に資する供述等を得ることを可能とし、証拠収集に占める取調べの比重を低下させるための手法として期待された合意制度も、広く活用されているとは言えません。   これらの点に鑑みると、平成28年改正の趣旨である「証拠の収集方法の適正化・多様化」が十分に達成されているとは言えないと思われますので、そのことを本協議会の取りまとめにおいて指摘する必要があるでしょう。   他方、公判段階について見ると、平成28年改正当時に指摘されたような、供述調書に過度に依存するという傾向は改善され、充実した公判審理がおおむね実現してきているように思われます。しかしながら、近時、公判前整理手続の長期化傾向が顕著となっており、それによる証人等の記憶の減退等の弊害が指摘されているところ、これは、平成28年改正のもう一つの趣旨である「公判審理の充実化」との関係で懸念すべき点です。   取りまとめの「終わりに」においては、以上申し上げたような、平成28年改正の趣旨のうち、いまだ十分に達成されているとは言えない点や懸念が残る点を率直に指摘した上で、引き続き、制度・運用について不断の検討を行うことが求められる旨を盛り込んで、未来志向の建設的な提言にしていただければと考えています。 ○宮崎構成員 本協議会におけるこれまでの議論を踏まえますと、平成28年の刑事訴訟法等の改正により導入・改正された制度については、現時点まで、おおむね適正に運用されてきていると評価してよいと思われ、その点は、本協議会の取りまとめとして盛り込むべきと考えています。   また、取調べの録音・録画に関して、検察においては、運用上、制度対象以外であっても、逮捕又は勾留されている被疑者につき幅広く実施してきている上、本年4月から、一定の在宅事件の被疑者についても試行を開始したところです。   本協議会でも議論されたように、近時も、一部に、検察官の取調べの在り方について問題が指摘されている事案があることは事実であり、そのことは、検察に身を置く者としても真摯に受け止めなければならないと考えていますが、他方で、検察においては、取調べの録音・録画の取組を着実に実施しているところであり、そのことは報告書に記載していただきたいと思います。 ○中山構成員 これまで本協議会におきましては、平成28年の刑事訴訟法改正により創設・改正された制度のほかにも、例えば、より強力な証人保護措置をはじめとする新しい制度に関しても幅広く議論がなされたものと承知をしています。   そのほかにも、「議論のためのたたき台」の「第4」の「2」「(2)」におきまして、新たな捜査手法の検討の必要性についての私の意見を記載していただいていますけれども、最近における刑事手続に係る運用の状況や、あるいは現下の犯罪情勢も踏まえれば、国民の安全・安心な生活の確保に責任を持つ警察としましては、今後このようなものも含めた新しい制度あるいは捜査手法についても広範に検討を進めていく必要があると考えており、そういったことに関しても記載をしていただきたいと考えています。 ○河津構成員 先ほど足立構成員からも御紹介がありましたが、昨日、事務当局を通じて、法制審議会・新時代の刑事司法制度特別部会の一般有識者委員であった神津里季生さん、周防正行さん、松木和道さん、村木厚子さん、安岡崇志さん、5名連名の「刑事訴訟法改正に関する要請」と題する文書を受領し、本日も机上配布していただいております。   5名の一般有識者は、取調べの録音・録画等について、義務の対象を全ての事件の全ての取調べに拡大すること、供述しない意思を明らかにしている被疑者に延々と取調べを続けることを禁止すること、弁護人を立ち会わせる権利を保障すること、著しく不適正な取調べについて裁判所の審査を求めることができる制度を創設すること、という方向で取りまとめを行うことを強く要請しています。また、保釈については、無罪を主張している被告人を不利益に取り扱ってはならないことを明確にした上で、身体拘束を継続する場合にはその理由を具体的に明示しなければならないものとすること、証拠開示については、公訴事実に争いのある事件で証拠開示を受ける権利を保障すること、証拠を保管する検察官が不開示とする証拠を理由を示して特定し、それ以外の証拠は速やかに開示する義務を負う仕組みとすることを求めています。   この文書の冒頭に記載されているとおり、5名の一般有識者は、特別部会において、「取調べの録音・録画制度創設時の対象が一部の事件に限定されるなど多くの課題は残るものの、大きな刑事司法改革の第一歩になると考え、一定期間経過後に運用状況の検証を行い、それに基づく見直しを行い、あるべき姿を目指すことを条件に取りまとめに賛成」したという経緯があり、また、平成28年改正後も不適正な取調べが相次ぎ、新たなえん罪が生まれていることを心から憂慮して、本協議会にこのような要請をされたものです。   本協議会には、足立構成員のみが一般有識者として参加しておられますが、取りまとめに当たっては、国民の期待に応えるために、一般有識者の視点や指摘は重く受け止められるべきです。そして、このような一般有識者の指摘を踏まえると、平成28年改正法がおおむね適正に運用されていると評価できるかは疑問があります。   附則第9条第1項に基づく検討の対象である取調べの録音・録画について、平成28年改正法は、それが取調べの適正な実施に資するものであるという共通認識を前提としつつ、捜査上の支障その他の弊害が生じる場合があるという捜査機関の立場からの御意見を踏まえて、法律上義務付ける範囲を限定し、施行後に見直すものとしたものです。捜査機関の立場から取調べの録音・録画を義務付けられることについて賛成する意見が述べられないことは、最初から想定されていたことであり、本協議会の取りまとめに当たってそのことを確認する意味は乏しいと申し上げざるを得ません。   ここで確認すべきなのは、捜査機関の立場からの御意見の内容が、制度創設前と変わらない抽象的な弊害のおそれの指摘の繰り返しであり、制度の施行から6年が経過しているにもかかわらず、具体的な弊害が示されていないということです。これは、取調べの録音・録画には取調べの適正な実施の確保という有用性を上回る弊害がないことが運用により実証されたことを意味します。他方で、平成28年改正の契機となったえん罪事件であれだけ強い批判を受けたにもかかわらず、改正法の施行後も不適正な取調べにより国民を無実の罪に陥れるような捜査が繰り返されており、取調べ監督制度や指導、研修だけでは不適正な取調べを十分に防止できないことも実証されました。   取調べの録音・録画は、適正な取調べをする捜査官を守るものでもあり、供述が正確に記録されることの犯罪捜査上のメリットも大きいはずです。以前の会議でも御紹介した川出敏裕教授の論考でも指摘されているように、「捜査機関としては、録音・録画がなされることを前提に、そのメリットを生かしながらどのように信用性のある供述を獲得していくかを検討すべき時期に来ている」ことは否定できないのではないでしょうか。取調べの録音・録画について、本協議会としては、必要に応じて段階的な拡大の方法を検討する余地はあるとしても、最終的に、全事件、全過程の録音・録画を義務付けるための法改正を速やかに行うことを求める取りまとめを行うべきと考えます。   附則第9条第2項又は第3項に基づく検討の対象であるその他の制度についても、法改正の必要性は明らかになっています。5名の一般有識者も要望書で法改正を求めている保釈については、平成28年改正の契機となった事件でも、無実の被告人が長期間勾留され、長期間の勾留を利用して他人を罪に陥れる虚偽の供述が強要されたことについて強い批判を受けたにもかかわらず、改正法の施行後も同様の過ちが繰り返され、そもそも犯罪が成立しない事件において繰り返し保釈請求を却下し、必要な治療を受ける機会を奪い、死に至らしめるという事案まで発生しました。これは、民間企業であれば会社の存続に関わる重大不祥事であり、徹底的な原因究明が行われ、再発防止策が講じられるものであって、有効な再発防止策を講じないというのは国民の理解が得られるものではありません。   証拠開示についても、それがえん罪防止に不可欠であるにもかかわらず、無罪事件の約半数で公判前整理手続に付する決定を求める請求が却下され、証拠開示の権利が保障されないまま公判審理が行われていることや、証拠開示を受けるために年単位の不合理な期間を費やしていることは、制度創設時には想定されなかったシステムの欠陥を示していることが明らかであり、その手直しをしないということも国民の理解を得られるものではありません。   さらには、取調べの録音・録画の下ですらも不適正な取調べが行われている事実を通じて、取調べの録音・録画だけでは不適正な取調べや、それによって作られた供述によるえん罪を十分に防止できないことも明らかになりました。不適正な取調べの内容は、公務員が国民に対して陵虐の行為に及んで他人を罪に陥れる供述を強要したり、黙秘権保障の趣旨に反して人格権を侵害するというものであって、黙秘権保障のための取調べの規制や、弁護人を立ち会わせる権利の保障などの再発防止策を講じなければ、やはり国民の理解が得られるものではありません。   これまでの協議では、自己負罪型合意制度及び有罪答弁制度について導入を検討すべきであるという意見が多数を占めたと認識しています。私も、足立構成員から示された御懸念も踏まえつつ、検討を進めることに賛成します。ただ、単に効率的な処罰を実現するという観点からこれらの制度を検討することは、平成28年改正法の理念とそぐわないものです。平成28年改正法は、当時の国会の附帯決議でも述べられているとおり、「度重なるえん罪事件への反省を踏まえた議論」に基づくものであり、取調べへの過度の依存を改めることを目的としたものです。その目的を達成するために、身体拘束、証拠開示、取調べ等に関する更なる法改正が進められるべきであり、自己負罪型合意制度及び有罪答弁制度も、取調べへの過度の依存を改めるためのものとして位置付けられなければなりません。   今後、えん罪を防止し、取調べへの過度の依存を改めるための法改正の具体的な検討を進めるべきですが、その検討は、相当なスピード感を持って行われる必要があります。法制審議会特別部会の設置から14年、平成28年改正法の成立から9年、施行から6年以上が経過して、ようやくこのような検討状況であり、その間に同じようなえん罪事件や不適正な取調べが繰り返されていることについては反省を要するのではないでしょうか。近年、社会においては、ハラスメントの防止等、人権意識の浸透が進んでいますが、刑事手続、特に取調べや身体拘束における人権意識は社会から数十年の単位で遅れをとっているように思われます。取調べに依存した刑事司法を全体的に見直すための制度設計を速やかに進める方向で取りまとめを行うべきと考えます。 ○藤井構成員 取調べの可視化について、新たな会議体での検討という意見については理解できますけれども、被害者を含む参考人の取調べの可視化については当面の検討対象から除外すべきではないかと考えます。被害者、特に性犯罪等の事案においては録音・録画されること自体が心理的負担となりまして、萎縮や供述困難を引き起こす可能性が高いという弊害は、既に当協議会で指摘されたとおりです。そもそも被害者や参考人の取調べ可視化というのは、被疑者取調べとは性質や目的が大きく異なるものともいえ、当協議会でもろもろと問題点が指摘されたのも専ら被疑者取調べでありまして、同列で議論するのが適切とは考えにくいところです。したがいまして、仮に新たな会議体を設けるとしても、まずは被疑者取調べの可視化に絞って検討すべきであり、先ほど来、スピード感のある検討という指摘も出ていますが、新たな会議体での効率的・集中的な検討という見地からも、被害者・参考人については議論の対象に含めるべきではないのではないか、少なくとも段階的あるいは後回しの議論にすべきではないかと考えます。 ○宮崎構成員 取調べの録音・録画制度等について、速やかな法改正を目指すべきという御意見がありましたけれども、取調べの録音・録画制度等に関しましては、本協議会でも相当の時間を掛けて議論を行ったところですが、「たたき台」にもあるように、様々な意見があり、構成員間で意見に隔たりがあったものと認識しています。   繰り返しになりますけれども、取調べの録音・録画に関して、検察においては、現在、取組を着実に実施しているところであり、その状況を見ていただきたいと考えています。   一般論として、取調べの録音・録画制度を含む様々な刑事司法制度について不断に検討していくこと自体、異論はありませんけれども、現時点において、それを超えて速やかな法改正を目指すという御意見には賛同できません。総意としてそのような方向性を示すことは困難であると考えられます。 ○河津構成員 捜査機関のお立場から取調べの録音・録画の義務付けの範囲を拡大する御意見が述べられないのはもとより想定されていたものであることは、先ほど申し上げたとおりです。藤井構成員から、いわゆる参考人の取調べの録音・録画の義務付けについての御意見がございました。犯罪被害者支援の立場からの御意見としては理解することができますが、私は、これまでも述べたとおり、除外事由を適切に設けることによって被害者への配慮は可能であると考えられること、参考人には、被害者に限らず、目撃者や共犯者等を含む様々な立場の人物が入り得ること、いずれについても、その供述を正確に記録することには意義があると考えられることなどから、およそ参考人の取調べの録音・録画を議論の対象から外すのは適切でないと思います。参考人の取調べについても議論の対象とした上で、藤井構成員御指摘の視点も踏まえて、スピード感のある検討を進めるのが適切と考えます。 ○中野参事官 その他、いかがでしょうか。   ないようでしたら、本日の協議はここまでとさせていただきたいと思います。   今後の進行につきましては、本日の協議において皆様から頂いた御意見を踏まえ、事務当局において、「議論のためのたたき台」に必要な修正を行って取りまとめの報告書の案を作成しまして、期日間に皆様と調整をした上で、次回会議では、その案に基づいて、最終的な取りまとめに向けた詰めの議論をしていただくこととしたいと思いますが、そのような進め方とさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   第21回会議の日程の詳細は、追ってお知らせします。   また、本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   本日はこれにて閉会といたします。 -了-