改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会 (第21回) 第1 日 時  令和7年7月24日(火)    自 午後3時00分                         至 午後3時18分 第2 場 所  法務省第1会議室(20階) 第3 議 題  取りまとめ報告書(案) 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○中野参事官 ただ今から、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の第21回会議を開催します。皆様、御多用中のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。   本日は、前回会議に引き続き、取りまとめに向けた議論を行うこととします。   議事に入ります。   まず、事務当局から、本日お配りしている配布資料46の内容について御説明します。   配布資料46は、取りまとめ報告書の案です。   前回会議において皆様から頂いた御意見を踏まえて、事務当局において、前回お配りした配布資料45「議論のためのたたき台」に必要な修正を行い、期日間に皆様と調整した上で作成したものです。   配布資料46についての御説明は以上です。   この際、「取りまとめ報告書(案)」について御意見・御発言がある方は挙手の上、御発言をお願いします。 ○藤井構成員 取りまとめありがとうございました。文言の修正とかそういうことではないのですけれども、被害者支援の現場に関わる立場として、一言だけ申し上げさせていただきます。   自己負罪型の合意制度や有罪答弁制度について、取りまとめ本文について、本協議会で指摘された懸念・課題に十分配慮すべきと記載されている懸念・課題には、被害者の知る権利や司法参加の機会が損なわれないようにという観点も当然に含まれているものと理解しております。こうした制度の導入に当たっては、手続の簡素化や効率化といった方向性のみに偏ることなく、被害者が事件の真相に触れ得る機会や被告人に対して意見を述べる場が、制度設計の過程においてしっかり確保されることが重要だと考えております。取りまとめの末尾に「国民の安全・安心な生活を確保する」とありますけれども、現に被害に遭った犯罪被害者の人がその中核をなすべきものでありまして、その存在が等閑視されることのないよう改めて強調させていただき、今後の議論の中で丁寧に取り上げていただけるようお願いいたします。 ○中野参事官 ほかに御意見がないようですので、この「取りまとめ報告書(案)」の内容をもって本協議会の取りまとめとすることで御異議ございませんでしょうか。              (一同異議なし)   ありがとうございます。 ○成瀬構成員 協議会を終えるに当たって、一言申し上げたいと思います。   平成28年改正は、「証拠の収集方法の適正化・多様化」と「公判審理の充実化」という二つの趣旨を実現すべく、刑事手続全般にわたり、大規模な法整備を行ったものでした。それゆえ、これらの改正規定の施行状況等について議論する本協議会は、必然的に多数の論点を取り上げることとなり、取調べの録音・録画をはじめ、構成員間の意見が鋭く対立する論点も複数ありました。   それでも、様々な知識・経験を有する構成員が、実務運用に関する統計資料等を参照しながら、お互いの立場を尊重しつつ率直に意見を述べ合い、我が国の刑事手続の現状と課題について真剣に議論したことには、大きな意義があったと考えています。私自身も、構成員の皆様の御意見から多くのことを学ばせていただきました。心より御礼申し上げます。   3年間にわたる議論の結果を取りまとめた報告書では、賛否両論を併記する形となった論点も多いものの、「第6 終わりに」は、全構成員の一致する意見として、冒頭に申し上げた平成28年改正の二つの趣旨に照らし、現在の刑事手続に残された課題を具体的に示すとともに、今後の検討の在り方を提言する内容となっています。これは、「刑事手続の在り方について意見交換を行い、制度・運用における検討すべき課題を整理する」という本協議会の開催目的に正面から応えたものといえるでしょう。   「終わりに」に記載されているように、今後、政府において、本協議会の成果を踏まえつつ、取調べの録音・録画の制度改正や運用の見直し、自己負罪型の合意制度や有罪答弁制度、取調べへの弁護人の立会いなどの新たな制度の導入について、具体的な検討が行われることを強く望みたいと思います。   最後になりましたが、有益な統計資料等を多数御準備くださり、また、報告書の取りまとめにも御尽力くださった事務当局の皆様に感謝を申し上げたいと思います。 ○佐藤構成員 私からも一言申し上げたいと思います。少し長くなりますけれども御容赦ください。   まず、事務当局におかれては、本協議会における議論を整理し、構成員の意見を反映する形で取りまとめ文書の案をお示しいただいた上、前回の議論を踏まえ、短期間のうちに「第6 終わりに」の部分をまとめていただいたことに感謝を申し上げます。   また、この取りまとめ文書の末尾に別添の資料として掲載されておりますが、検討の基礎となる各種の統計や通達類を含む有益な情報の提供、さらに、その前提となる調査、資料作成という、膨大な量の、しかも精密さを要求される作業を担ってくださった事務当局及び関係機関の皆様のおかげで、私自身も多くを学ぶことができ、何よりこの場における協議が充実したものになったと感じております。これらの統計等の資料も本協議会の成果であろうと思います。この場を借りて御礼を申し上げます。   なお、広く公開されているこれらの統計等の資料は、既に論文等においても参照されており、学界における議論の展開にも貢献していることを申し添えたいと思います。研究者の一人としましては、甚だ勝手なお願いではございますけれども、できる限りこうした情報の提供を継続していただければ有り難いと思います。   さて、この協議会には、取調べ及び供述調書への過度の依存を改めるために、平成28年の刑事訴訟法等の改正により導入又は改正された規定の現状を踏まえ、見直すべきものがあれば、その改善策ないし改善の方向性を示すことが要請されていたと理解しておりますが、まずは、「第6 終わりに」、32ページの第2段落にありますとおり、この間の協議を通じて、改正法の施行後の状況に関し、「一部に事実認識や評価が分かれるところもあるものの、全体としては、運用それ自体には、おおむね問題はない」との評価が得られたことは、何よりであったと思います。   もっとも、前回会議において、裁判員裁判の対象事件のような、事案の重大性という観点からは真相解明の必要が最も大きい部類に属する事件が、既に取調べの録音・録画制度の対象とされていることを踏まえると、それ以外の、録音・録画制度の対象ではない事件について真相解明の必要を絶対視することは困難ではないかという意見を述べたところですけれども、仮に投入可能な司法資源が大きく変化しないことを前提に、取調べの比重を下げながら、しかし現在の訴追、立証、そして有罪認定に求められる心証の水準をおおむね維持するという方向を模索するとすれば、取りまとめ文書の32ページ、下から6行目以下にある、「『証拠の収集方法の適正化・多様化』は、十分達成されている状況にあるとは言えない。」との指摘は非常に重い意味を持っていると認識しております。   平成28年改正は、取調べ以外の供述獲得手段として、通信傍受の対象犯罪の拡大、実施の合理化・効率化を図ったほか、協議・合意や刑事免責の各制度を導入しましたが、その利用が広がりを欠いているとすれば、その原因の解明と解消に努める一方、取調べの機能を代替し得る、より一般的な手段・制度についての本格的な検討が必要になるでしょう。   さらに、「公判審理の充実化」についても、取りまとめ文書の33ページ8行目に、「なお懸念すべき点が残る状況にある。」との指摘がなされていることからも、同文書の最後にありますように、本協議会をもって議論を終わりとすることなく、「取調べの録音・録画の対象の拡大を含む制度の改正や運用の見直し、その他刑事手続における新たな制度の導入について、新たな検討の場を設けて、具体的に検討を行う」ことを強く期待する次第です。   平成28年改正に対しては、個人的な問題意識との関係では、録音・録画制度が導入され、取調べの状況が明らかになることにより、公判における供述の任意性立証が取調官と被告人との間での水掛け論になっていると言われることのあった状況を脱し、取調べの限界について、記録された事実を基に具体的に議論することができるようになることを期待しておりました。   もとより本協議会は、個別の事案を取り上げてその是非を議論する場ではないという位置付けであったわけですけれども、一部の事件で違法・不当な取調べが行われているとの指摘もございました。その意味で、取調べの適正確保という目的はいまだ十分に達成されているとは言い難く、取調べにおける黙秘権保障の在り方について、黙秘権保障の趣旨を実質的に損なわない取調べとはいかなるものか、一義的な基準を導くことは難しいとしても、より具体的な検討を行う必要を感じているところです。この点については、自らの課題として引き続き考えてまいりたいと思います。   長くなりましたが、最後に、3年間、21回の会議を通じて、様々な立場の構成員の皆様から我が国の刑事手続の現状について御教示を受け、また、意見交換を通じて手続の在り方について考える機会を得られたのは貴重な体験でした。ありがとうございました。 ○河津構成員 本協議会においては、それぞれの立場から様々な意見が示されていましたが、その一致点を見いだし御調整いただいた事務当局の皆様に感謝を申し上げたいと思います。   前回会議で成瀬構成員が、未来志向の建設的な提言とすることを提案されていましたが、私もこれを未来志向の建設的な提言として受け止め、取りまとめに賛成いたしました。この取りまとめを受け、新たな検討の場において、取調べへの過度の依存の見直しという改正刑訴法の趣旨を達成するために、取調べの録音・録画の対象範囲の拡大を含む制度改正等の具体的な検討がスピード感を持って進められていくことを強く期待いたします。   新たな検討の場においても未来志向の建設的な議論が行われるべきですが、そのためにこそ、なぜ今日まで改正刑訴法の趣旨が十分に達成されていないのかという点については振り返って考えておかなければならないものと思います。改正刑訴法が取調べの適正確保にとどまらず、取調べへの依存自体を改めることを目指して、客観証拠の収集手段を拡充し、より透明性の高い供述証拠の収集手段を創設したのは、もとより人の供述は不確かな証拠であり、捜査機関の取調べを通じて内容が変容しやすい性質を有するという認識を前提としたものです。   今日まで取調べへの過度の依存が改められていないのは、捜査機関がその立場から妥当と判断する結論を得るために、取調べを通じて供述を獲得する方が他の捜査手法を用いて証拠を獲得するよりも効率的であるという状況が継続しているからでしょう。その状況は合意制度の運用に最も分かりやすく表れていると思われます。今後、取調べへの過度の依存の見直しを達成するためには、そのような状況を変更する必要があります。連日長時間の取調べを可能にしている勾留の在り方、黙秘権を行使しても弁護人の立会いも認めず続けられている取調べの在り方、虚偽供述を誘引し供述調書への同意を事実上強制する手段となっている保釈の在り方、供述の信用性に関連する証拠の開示が保障されていない証拠開示の在り方などは、それぞれが独立した制度上・運用上の論点であるのと同時に、取調べへの依存が改められていない構造的な原因でもあって、見直しが必須であると思われます。   また、取調べへの過度の依存を改め、公判廷で当事者が攻撃・防御を尽くす中から事案の真相が解明され、それを踏まえて適切に刑罰権が行使される刑事裁判のあるべき姿に近づけるとすれば、争いのある事件の公判手続のボリュームは現在よりも大きなものとなると思われます。そのような刑事裁判を実現するためには、争いのある事件と争いのない事件の手続を区別することも避けられないと考えます。   新たな検討の場においては、改正刑訴法の趣旨を達成するために、法律家と一般有識者の英知を結集し、必要な法整備に向けた検討が迅速に行われることを強く期待いたします。 ○足立構成員 私からも、本協議会のこれまでの議論と取りまとめを踏まえて、政府に1点お願いしたいことがあるので、申し述べます。   もし今後、会議体を設置することになった場合、いろいろな人の意見を聴けるような仕組みにしてほしいというお願いです。本協議会では、刑事司法の知識に乏しい一般国民は私一人でした。この場におられるほかの構成員の皆さんは、素人である私の意見や質問に真摯に耳を傾けてくださり、大変感謝しています。ただ、不適正な取調べを受けた元被告人やえん罪の被害者といった方々のヒアリングが実現しなかった点は心残りです。言うまでもなく、刑事司法制度の在り方は国民の生活や人生を大きく左右するものであり、実際に捜査や裁判手続の影響を受けた人の経験は、制度見直しの検討過程でも有意義なものではないかと考えています。個別の事情だからといって排斥するのではなく、意見が広く得られるような運営をお願いいたします。更に申し上げると、会議体のメンバーについても、法律の専門家に限定するのではなく、法律の知識のない市民や学者、団体や企業の人にも加わっていただくことが望ましいと考えています。   以上が私からのお願いですが、最後に、本協議会の運営・進行を支えてくださった事務当局の中野参事官をはじめ職員の皆様方に深く感謝申し上げます。制度の基本的な仕組みや運用状況のデータの解釈、構成員の皆さんの御意見内容のそしゃくまで、私が理解できるよう丁寧に御教示くださいました。本当にありがとうございました。 ○中野参事官 その他、よろしいでしょうか。   本協議会は、本日の会議をもって終了となります。   この際、刑事局長の佐藤から一言御挨拶を申し上げます。 ○佐藤刑事局長 刑事局長の佐藤でございます。「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」の終了に当たりまして、御礼の御挨拶を申し上げます。   構成員の皆様方におかれましては、令和4年7月の第1回会議から本日の第21回会議までの間、約3年間にわたり、大変お忙しい中、本協議会において、様々な貴重な御意見を頂き、心から御礼申し上げます。   皆様の御尽力によりまして、本日、充実した取りまとめを頂くことができました。   本日取りまとめていただいた報告書におきましては、平成28年改正法の制度・運用における検討すべき課題を整理していただいた上で、新たな制度を含む今後の刑事手続の在り方についての視点もお示しいただきました。   私ども刑事局といたしましては、この取りまとめ報告書、そして、これまでに皆様から頂いた御意見も踏まえ、引き続き、必要な取組を推進してまいりたいと考えております。   皆様におかれましては、今後とも法務行政に対して御理解と御協力を賜りますよう、改めてお願い申し上げまして、御挨拶とさせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。 ○中野参事官 本日予定していた議事については、これで終了しました。   本日の会議の議事については、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとさせていただきたいと思います。そのような取扱いとさせていただくことでよろしいでしょうか。              (一同異議なし)   それでは、そのようにさせていただきます。   これをもちまして、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会を終了します。どうもありがとうございました。 -了-