法制審議会 刑事法(再審関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  令和7年9月5日(金)   自 午前 9時30分                       至 午前11時52分 第2 場 所  中央合同庁舎第6号館A棟7階会議室 第3 議 題  1 審議          ・「再審開始事由」          ・「再審請求事件の管轄裁判所」          ・「再審請求権者の範囲」         2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○今井幹事 ただいまから法制審議会刑事法(再審関係)部会の第6回会議を開催いたします。 ○大澤部会長 本日は御多忙のところ、皆様御出席くださりまして誠にありがとうございます。   本日は、酒巻委員、井上関係官、寺田関係官はオンライン形式により出席されています。また、谷委員におかれましては、所用のため遅れての出席となると承っております。   それでは、早速議事に入りたいと思います。   それに先立ちまして、毎回のことで恐縮でございますけれども、一言だけお願いをさせていただきたいと思います。   前回の会議におきましては、長丁場の会議であったということもあり、また熱の入る議題があったということもあるかもしれませんが、御発言の内容が重複したり、かなり長いものとなるということが見受けられたように思われます。第4回の会議でも申し上げましたとおり、できる限り多くの方に御発言をいただく機会を設けますとともに、意見交換がかみ合ったものとなるようにしたいと考えております。そのような観点から、委員、幹事の皆様におかれましては、御発言の内容につきまして重複を避けていただきますとともに、できる限りコンパクトにまとめていただきますよう、改めて御理解と御協力を賜りたくお願い申し上げます。   次に、事務当局から本日お配りした資料について説明をしてもらいます。 ○今井幹事 本日は、鴨志田委員御提出の資料といたしまして、「諸外国の有罪確定後救済制度」と題する資料、「諸外国における有罪確定後救済制度の修正箇所についての説明」と題する資料、「再審請求権者に関する問題点」と題する資料をお配りしています。   本日お配りした資料の御説明は以上となります。 ○大澤部会長 本日お配りした資料につきまして、御意見あるいは御質問等ございましたら、挙手の上、どの資料に関するものであるかを明らかにしていただいた上で御発言をお願いしたいと存じます。御発言ある方いらっしゃいますでしょうか。 ○鴨志田委員 本日提出させていただいた資料のうち、海外法制に関する資料につきましては、先だって成瀬幹事、川出委員、そして森本委員から御指摘を受けた部分について我々の方で検討をいたしまして、その趣旨を反映させて修正を行いました。的確な御指摘を頂いたことで、内容をより正確なものにすることができました。御指摘をいただいた方々には改めて御礼申し上げたいと思います。   御指摘を踏まえて、アメリカに関しましては、内容の詳細は提出資料の「修正箇所についての説明」というところに書かせていただいていますので、多くを説明することは必要ないと思いますが、有罪確定後の救済手段として、人身保護手続が実質的に機能しているのだということが分かるような記載ぶりにさせていただきました。   また、イギリスに関しましては、私どもが挙げていた条文というのが授権規定にすぎないものでしたので、その授権規定の下に根拠規定があるということを明記させていただきました。また成瀬幹事から御指摘いただいたとおり、押収物自体を保存しなくてもその目的を果たせる場合には、押収物の写真や複写物の保存で代えることができるという部分を明記させていただきました。  ドイツに関しましては、ドイツ刑訴法147条に基づく記録閲覧権の対象については、同199条2項2文に基づいて、検察官が裁判所に提出すべきだった記録が閲覧対象となることをきちんと確認をした上で、判例について言及するという形に、明確に分けさせていただきました。   それから、韓国につきましては、表の中にある「開示/閲覧の対象」というところの欄の本文の記載と条文の記載との対応関係が誤っているということでしたので、ここを、対応をきちんと整合するように改めさせていただきました。   こちらの説明資料については、関連条文の紹介のところで、一部の文字が重なってしまって読みづらくなっている箇所があるという御指摘を頂いて、修正をしたものを改めて提出させていただいています。今日の配布には間に合わなかったので、形式的なところを修正したものを後日改めて皆様方にお届けするよう事務当局にお願いしたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。 ○大澤部会長 それでは、諮問事項の審議に入りたいと思います。   本日は「論点整理(案)」「4 再審開始事由」の「(1) 刑事訴訟法第435条第6号の規定を改めるか」から審議を行いたいと思います。この事項についてはおおむね25分間、午前10時までを目途に審議を行いたいと思います。   御意見等のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田委員 この点に関して、議論の前提として、既に御提示を頂いております日本弁護士連合会改正案の規定の内容についてお尋ねをさせていただきたいと思います。   日本弁護士連合会改正案の第435条第6号は、現行の無罪を言い渡すべき「明らかな証拠をあらたに発見したとき」という文言を、無罪を言い渡すべき「事実の誤認があると疑うに足りる証拠をあらたに発見したとき」に改めるという内容となっています。   ここで言うところの「事実の誤認があると疑うに足りる」とは、具体的にどの程度の疑いをお考えなのかということについて、お尋ねをさせていただければと思います。 ○大澤部会長 今の御質問の点でございますが、どなたかお答えいただけますでしょうか。 ○田岡幹事 池田委員から御質問があった点を踏まえて、私の方からこの日弁連改正案435条6号の趣旨を御説明させていただいて、その上で御質問にお答えしたいと思います。   この日弁連改正案435条6号は、御指摘のとおり、無罪等を言い渡すべき「明らかな証拠」という文言を、無罪等を言い渡すべき「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」と改正することを提案しております。これは、白鳥・財田川決定、最高裁判所の判例の趣旨を、解釈上争いのない限度で、明確にするという趣旨の提案であると理解しております。   御承知のとおり白鳥・財田川決定によれば、この435条6号の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、「確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠」を言い、「右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたとするならば、はたしてその確定判決においてなされたような事実認定に到達したであろうかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的に評価して判断すべきであり、この判断に際しても、再審開始のためには、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、「疑わしいときは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用される」とされております。   そうしますと、少なくとも孤立評価説ではなく総合評価説を採ったということ、また心証引継説ではなく再評価説を採ったということ、以上を前提に、総合評価の際に、「疑わしきは被告の利益に」という刑事裁判の鉄則が再審請求審においても適用されるということ。これらの点については、解釈上争いのないところであると理解しております。   なお、再評価の方法や範囲に関しましては解釈上争いがあり得るところであると理解しておりますので、日弁連改正案はそこには踏み込まずに、ただいま申し上げたような総合評価説、あるいは再評価説を前提に、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用されるということを明確にする趣旨であると理解しております。   しかし、現在の文言を素直に読みますと、「明らかな」と書かれていることから、あたかも新証拠単独で無罪を証明しなければならないのではないかという誤解が生じかねないのではないか。特に、刑事裁判の専門家である弁護士や裁判官、検察官は誤解をすることはないのでしょうけれども、再審請求人や被害者、一般国民から見たときに、果たして分かりやすい規定になっているかということを考えたときに、非常に分かりにくい規定になっているのではないかという疑義がありましたので、先ほど申し上げた白鳥・財田川決定の趣旨を、解釈上争いがないと思われる限度で、明確にする趣旨の提案でございます。   したがいまして、池田委員の御質問にお答えしますと、「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」とは、すなわち、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則が適用される結果、確定判決の有罪認定に合理的な疑問を差し挟む場合をいうと考えております。 ○池田委員 御説明いただきまして、どうもありがとうございました。   田岡幹事からの御説明にもありましたように、白鳥決定、財田川決定は、証拠の明確性の意義について、確定判決における事実認定につき合理的な疑いを抱かせ、その認定を覆すに足りる蓋然性がある証拠といって判示しています。   今の御説明によりますと、その合理的な疑いを差し挟むに足りる証拠だということですけれども、この判示の後段部分、その認定を覆すに足りる蓋然性というところの意義については、なお争いがあり、具体的には、新証拠と旧証拠の総合評価により、無罪を指向する証拠が優勢であることを必要とするのか、それとも、当該判示に特段の意味はなく、確定判決における事実認定に合理的な疑いを抱かせれば足りるかということについて、見解の相違があると承知しております。   両決定以降の最高裁判例によりますと、名張第5次再審請求の特別抗告審決定においては、確定判決の有罪認定につき、合理的な疑いを生じさせるか否かに帰着すると判示したものがある一方で、マルヨ無線第5次再審請求の特別抗告審決定や、大崎第3次再審請求の特別抗告審決定は、それぞれその認定を覆すに足りる蓋然性の部分も含めて、白鳥・財田川両決定と同一の判示を繰り返しています。そのため、両決定がどのような見解に立ってその認定を覆すに足りる蓋然性と判示したのかは、現時点でも明らかではないと考えられます。   このように、白鳥・財田川両決定が判示した明白性の意義のうち、その認定を覆すに足りる蓋然性の部分については、解釈が確立しているとまでは言えないという中で、日本弁護士連合会改正案は、この部分に特段の意味はなく、確定判決における事実認定に合理的な疑いを差し挟む証拠であれば足りるという立場に立つものであると考えられ、そうであるとすれば、そのこと自体の当否については、なお議論の余地があるように思われます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私も、田岡幹事に質問をさせていただきたいと思います。先ほどの田岡幹事の御説明は、第435条第6号の文言を「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」という形に改めることにより、総合評価説や再評価説を採ることまでは明らかにするけれども、再評価の具体的な方法や範囲には踏み込まないという趣旨であると理解しました。   もっとも、単に「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」という文言に改めるだけでは、それが総合評価説や再評価説を意味していることを読み取ることはできないように思います。このように文言を改めることによって、総合評価説や再評価説を採っていることまで明確化できるというのはなぜなのか、もう少し説明していただけますでしょうか。 ○大澤部会長 田岡幹事、御発言いただけますか。 ○田岡幹事 おっしゃるとおり、この日弁連改正案435条6号の文言だけですと、総合評価説を意味するとまで読み取れるかどうかが明確ではないようにも思われます。   諸外国の立法例の中には、その点を明確にするために、例えばドイツは「それ単独又は旧証拠と総合して判断したとき、無罪等を言い渡すに適した新たな事実又は証拠が顕出されたとき」、台湾は「新たな事実又は証拠単独又は旧証拠と総合的に判断した結果、有罪判決を受けた者が無罪等を受けるべきであると認めるに足りるとき」などとする例があると認識しております。このように新証拠単独又は旧証拠を総合したときにと書いたほうがより明確になると私も思いますが、この日弁連改正案は、あえてそこまで書かなくても、単に「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」と書けば、要するに新証拠と旧証拠を総合評価した結果、最終的には確定判決の有罪認定に合理的な疑問を差し挟む場合を意味するのだということが読み取れると考えて、このような条文案を提案しているものと理解しております。 ○成瀬幹事 御回答下さり、ありがとうございました。  私の理解を申し上げますと、刑事訴訟法第435条第6号の「明らかな証拠」という文言は、無罪を言い渡すべき蓋然性の程度を表現するものであり、当該文言を改正するということは、その蓋然性の程度、又はその表現方法を変更するということを意味します。他方で、仮に刑事訴訟法第435条第6号の文言を改めたとしても、当該文言に表現されていない明白性の判断方法を変更することにはなりませんから、この文言を変えるだけで、総合評価説や再評価説を採ったことまで明確化されるというのは困難であろうと思います。   また、先ほど田岡幹事が御紹介くださった白鳥決定・財田川決定は、明白性の判断方法についても判示しておりますが、その判示をどのように理解するかについては見解の対立があります。一方で、旧証拠を全面的に再評価すべきであるとの見解に立つものという理解がありますが、他方で、新証拠の持つ重要性と立証命題に照らし、確定判決の当否を検討するのに必要な限度で旧証拠を再評価すべきであるとの見解に立つものという理解も示されています。このように、明白性の判断方法に関する白鳥決定・財田川決定の判示について確立した解釈がない中で、その趣旨を総合評価説や再評価説の限度で明文化しようとすること自体にも、困難があると思われます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○川出委員 私も、成瀬幹事がおっしゃったように、「明らかな」という文言を日本弁護士連合会改正案のように改めることによって、証拠の明白性の判断方法が定まるという関係にはないと思います。   さらに、先ほど田岡幹事は、日本弁護士連合会改正案は総合評価説、再評価説を採るということを示しているにとどまり、再評価の方法については踏み込んでいないとおっしゃいましたが、意見書の6ページ及び8ページでは、白鳥決定、財田川決定以降の裁判例には、両決定の意義が必ずしも適切に反映されていないものも見受けられるので、その趣旨の明文化を図るという観点から文言を改めるものとした上で、その例として、全面的再評価ではなく、新証拠と立証命題を共通する旧証拠の関係でのみ再評価を行った裁判例が挙げられています。   これを見る限り、日本弁護士連合会改正案は、白鳥決定、財田川決定による明白性の判断方法について、日本弁護士連合会が採っている解釈である全面的再評価説が正しく、限定的再評価説を採る裁判例の解釈は誤っているということを前提として、その間違いを第435条第6号の文言を変えることによって正そうという意図の下に作られているということになろうかと思います。   しかし、先ほど成瀬幹事が指摘されたように、白鳥決定、財田川決定が判示した証拠の明白性の判断方法については様々な理解があり、判例も固まっているわけではありません。そうすると、両決定の理解について、日本弁護士連合会改正案が依拠する見解とは異なる見解によって立つ裁判例があるということは、そもそも刑事訴訟法第435条第6号を改正する必要性を基礎付ける事実とはいえないと思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○小島幹事 今回御提示いただいている日本弁護士連合会改正案は、「事実の誤認があると疑うに足りる証拠」という表現になっておりまして、専門家であれば、先ほど御説明いただいたように、その読み方はすぐ分かるということだと思うのですが、専門家ではない人が見たときに、通常審における有罪認定に単なる疑いを生じさせる証拠であれば足りるというわけではなくて、合理的な疑いを差し挟む余地を生じさせる証拠でなければいけないとの趣旨であるということが理解できるのか、今の表現で、それがきっちり出せているのかというところが少し気になっているところでございます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○鴨志田委員 白鳥・財田川決定における明白性の判断手法、特に新証拠と立証命題を関連する旧証拠の範囲に限定して総合評価を行うべきか、そのような限定がないのかというところについて、議論があるということはそのとおりでございますが、そもそも白鳥・財田川決定は、総合評価の対象となる証拠の範囲を限定しろというようなことは、一切決定の中には書いてありません。そのような解釈に至ったのは、御承知のとおり、これらの決定についての調査官解説が複数ございまして、その中で唱えられてきたことだという点は留意が必要であると思います。   白鳥・財田川決定の趣旨を明確にするために提案している日弁連案は、正に白鳥・財田川決定の判例の文言そのものから導かれるということを、まず申し上げておきたいと思います。   それから、今小島幹事がおっしゃったことに関しまして、私もそれはそのとおりだなと思いまして、一般の人に分かりやすい条文ということで考えたときには、「合理的な疑い」ということについて、もう少し言葉を足した方がよいのではないかということは、本当にそのとおりだと思います。   そのような観点から、やはり何といっても、私たちがこのような文言に改めるべきだという見解に至ったのは、先ほどの総合評価の解釈というようなこと以前に、やはり法律というのは国民に向けられたものですので、その受け止める国民が、無罪を言い渡すべき明らかな証拠という言葉の意味を聞いたときに、どういう印象を持つかどうかというところに着目する必要があると思います。   私もいろいろなところで一般向けに講演などをさせていただいていますけれども、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と言ったら、どういうものをイメージしますかと一般の方たちにお聞きしたときに、やはりその証拠だけで無罪を証明できる証拠というふうな意味に捉えられていることが多いように思います。そうすると、白鳥・財田川決定によって否定され、また、否定されたことについては争いのない孤立評価、心証引継ぎ、そして無罪の証明が必要という誤解を招きかねない、ここは間違いがないと思います。   ですから、条文の文言を決するに当たっては、そういった国民の受け止めというところで、どのように435条6号の再審開始事由の意味が捉えられるのかということを、是非念頭に置いて御検討いただきたいと思います。   それからもう一つ、このことと関連して、台湾では御承知のとおり、2015年の法改正、これは、台湾は2度にわたって再審法の改正をしておりますけれども、最初に行った2015年改正で、日本と同じ、「明白な」という言葉と同じ「確実な」という言葉が元々の条文には入っておりましたが、この「確実な」という文言を削除しています。これは、議員立法によって「確実な」という文言を削除するということが合意されたという経緯がございました。当時の台湾の議論においても、司法院や行政院といったところでは、これに対する反対もあったように聞いております。けれども、やはり再審制度の目的は、真実を発見しつつ、公平と正義の具体的実現を追求する、真実を発見し冤罪を避けるため、確定判決後の再審事由は規定されている。そのことは被告人の権利にも重大な影響を及ぼす以上、「確実な」という文言を入れなくても、原判決を揺るがす合理性があると認められて、無罪、免訴等を認めるべきと判断した場合には、再審開始を決定すべきであるという立法理由で可決がされたという経緯があります。   ですから、この「確実な」という言葉が削除されたということも、やはり、国民に対する理解ということも含めた判断がされたのではないかと推察しておりますので、一つの情報として共有させていただければと思います。 ○村山委員 確かに、この「明らかな」というのを「事実の誤認があると疑うに足りる」と変えたときに、どのように意味が変わるのかということについて、日弁連の意見書だと、判断方法全体を根本から規定するという趣旨で改めるとなっています。それは、この文言を変えただけでそこまで読み取れるのかと言われると、多分読み取れないというのは私も認めます。   判断方法全体についていろいろな議論があって、必ずしもここにおられる委員の方の中でコンセンサスがあるとは思えないというのも私も率直にそう思います。しかし、文言として「明らかな」というのは、例えば私が市民集会などに出ると、明らかってどういう意味なんですかって聞かれます。明らかっていうのはやはり、その文言とおりだと、本当に一つの証拠だけでもう完全にひっくり返るという、そういうのをいうのですかと言われまして、それで、その点の説明にかなり時間が掛かるという場合があります。   そういった意味でも、現在のその最終的な判断の程度の問題としては、「明らか」というのは、総合的にみて疑いを生じさせるという、「合理的」と付くかどうかは分かりませんけれども、その限度の理解としては多分異論はないのではないかと思いますので、その限度でも、やはり文言を今の実態に合わせるということはあってもいいのではないかなと、私は思っております。 ○江口委員 実際に現場で再審についての判断をしている立場から、一言申し上げさせていただきますが、今既にほかの委員の方からも御指摘がありましたように、日本弁護士連合会改正案の文言自体が、そもそも白鳥決定や財田川決定の内容を条文として的確に示すものかどうかということについては、やはり理解としていろいろな考え方があるということ、また、その後示された幾つもの重要な再審の判例との関係で、どう位置付けられるのかということが疑問を持たれ得るということは、私も同意見でございます。更に付け加えまして、この条文が仮に規定されたとした場合に、やはり現場の実務家としましては、ほかの刑事訴訟法の条文との整合性というのを考えざるを得ないかと思っております。   そういった観点で見ますと、上訴に関する各規定で、例えば刑事訴訟法第382条は、控訴の理由について、事実の誤認があってその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることという規定がございます。また、刑事訴訟法第411条第3号は、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるとの事由があって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときに、上告裁判所は原判決を破棄することができるとしてございます。   例えば、この日本弁護士連合会改正案と現行の刑事訴訟法の上訴の各規定との整合性というものが、条文解釈として成り立ち得るのかどうか、かえってこのような規定が再審請求理由として規定されるということで、判断に混乱が生じるのではないかが、実際に判断する立場からしますと、大変疑問に思うところでございます。 ○大澤部会長 おおむね予定した時間に近づきつつありますけれども、ほかに御発言ございますでしょうか。 ○宮崎委員 池田委員、川出委員、成瀬幹事も述べられていたとおり、白鳥決定、財田川決定の判示をめぐっては様々な議論があり、証拠の明白性の意義をめぐって見解が分かれていることからしますと、そもそも白鳥決定、財田川決定の趣旨を一義的に明確化することは、私も困難であると考えます。   また、御提案が、証拠の明確性の判断方法について、旧証拠の全面的再評価を行うべきであるとの立場に立っているのだとすると、再審の請求を受けた裁判所は、旧証拠を洗いざらい評価し直した上、新旧証拠の総合評価を行うこととなりますが、これは確定した事件の審理のやり直しを行うことにほかならず、実質的には再審請求審を第四審とするものであって、相当ではありません。   加えて、日本弁護士連合会の御提案は、江口委員からも御指摘があったように、刑事訴訟法第411条第3号が、上告審における職権破棄事由として「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があ」り、「原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるとき」と規定していることよりも、緩やかな基準で再審開始を認めることともなりかねないものです。   再審請求手続が、十分な手続保障と三審制の下で確定した有罪判決について、なお事実認定の不当などがあった場合にこれを是正する非常救済手続であるのに、仮に御提案のとおり刑事訴訟法第435条第6号を改正することとすると、上告審において救済されない場合についてまで再審開始を認めることになってしまい、相当でないと考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。なるべく簡潔にお願いします。 ○田岡幹事 いくつかの疑問が呈されましたので、簡単にコメントしたいと思います。   まず池田委員から、「蓋然性」という部分について特段の意味があるのかないのかについて、現在でもなお見解の相違があるのではないかという御指摘ありましたけれども、成瀬幹事の法学教室の461号の論文でも、現在では、この基準は「確定判決の有罪認定につき合理的な疑いを生じさせ得る証拠」と理解されており、「蓋然性」という要件は事実上意味を失っていると説明されています。私の理解でも、この「蓋然性」という部分には特段の意味はなくて、「疑わしきは被告の利益」にという刑事裁判の鉄則が適用される結果、確定判決の有罪認定に合理的な疑問が生じるか否かということが判断基準であると理解しております。この点は、さすがに現在では異論はないのではないかと思われます。   宮崎委員からは、全面的再評価説を主張する趣旨であれば相当ではないという趣旨の御指摘がありましたが、先ほど来御説明しておりますとおり、この日弁連改正案は必ずしも全面的再評価説に立った文言改正を提案する趣旨ではなくて、飽くまで白鳥・財田川決定の趣旨を、解釈上争いがないと思われる限度において、明確にする趣旨の提案でございます。   また、江口委員と宮崎委員から、控訴理由、上告審の職権破棄事由との関係について、御指摘がありましたけれども、単に事実誤認があると疑うに足りる証拠と書けば、判決に影響がない場合まで一切含むのかとか、著しく正義に反しない場合も含むのかという疑問が生じるかもしれませんが、無罪を言い渡すべき事実の誤認と書いてあるわけでございます。無罪を言い渡すべき事実の誤認があるのに、判決に影響を及ぼさないとか、破棄しないことが正義に反しないなどということは考えられないのではないでしょうか。   つまり、本来無罪とされるべき人が誤って有罪とされているのであれば、その事実の誤認というのは、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認、あるいは著しく正義に反する事実の誤認に当たるというべきですから、少なくとも控訴理由や上告審の職権破棄事由よりも緩やかな基準になるとの批判は当たらないと考えます。 ○大澤部会長 この枠につきましてはこの程度ということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 次に、「論点整理(案)」「4」のうち「(2)死刑判決について、量刑等に関する事実誤認を再審開始事由とするか」について審議を行いたいと思います。この事項についてはおおむね25分間、午前10時30分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   御意見等のある方は挙手をお願いいたします。 ○池田委員 この点についても、議論の前提として、御提示いただいている日本弁護士連合会改正案の文言についてお尋ねをさせていただきたいと思います。   日本弁護士連合会改正案の第435条第8号には、「死刑の言渡しを受けた事件について、刑の加重減免の理由となる事実又は量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠を新たに発見したとき」を、再審開始事由として追加しておりますけれども、こうした再審開始事由を追加することとする趣旨と、それを基礎付ける立法事実の存否についてお伺いできればと思います。 ○大澤部会長 どなたかお答えいただけますでしょうか。 ○田岡幹事 私の方から、日弁連改正案の435条8号の趣旨について説明をさせていただきます。   435条8号は、死刑の言渡しを受けた事件について、刑の加重減免の理由となる事実又は量刑の基礎となる事実の誤認があると疑うに足りる証拠を発見したとき、これを新たな再審開始事由とすることを提案しています。   これは、私の理解では、仮にそのような新証拠が通常審において提出されていたならば、死刑が言い渡されることはなかったであろうと、このような事実が確定判決後に新たに発見されたときには、死刑が言い渡された事件に限って、再審の開始を認める必要があると、こういう趣旨で、新たな再審開始事由を提案しているものと理解しております。   死刑というのは人の生命を奪う不可逆的な刑罰である点で、ほかの刑罰とは質的に異なるものです。本来通常審においても、他の事件とは異なる特別な手続保障が要請されるわけですが、現在は、通常審では特別な手続保障が制度化されているとは言えません。証拠開示も十分とは言えませんし、上訴の取下げも認められており、必ずしも三審制による審理がなされているとも言えません。その結果、誤判が生じる可能性が否定できません。   我が国では、死刑が言い渡された事件について、再審が開始され無罪とされた事件が5件あります。これらは、無罪とされるべき新たな証拠が発見されたために再審開始が認められたわけですが、これが無罪を言い渡されるべき新証拠ではなく、刑の加重減免の理由となる事実や量刑の基礎となる事実の誤認があったために、本来死刑とされるべきではなかったのに誤って死刑とされた場合には再審開始事由とならず、適切な刑を受けることができないというのは不合理であると考えます。再審の目的には、無辜、つまり無実の人を救済することだけではなくて、誤判を正し、それによって刑事裁判に対する国民の信頼を確保するということもあるわけですから、このような誤った判決を放置することは許されないものと考えます。   その上で、435条8号は、刑の加重減免の理由となる事実、つまり刑の加重減免事由と量刑の基礎となる事実を分けておりますので、この2つに分けて御説明いたします。   まず、刑の加重減免事由のうち、刑の加重事由である累犯については、仮に累犯事由である確定判決が取り消されますと、刑訴法435条4号の再審開始事由に当たることから、この新たな規定がなくても、再審開始事由に当たるのだろうと考えております。また、刑の免除事由については、刑の免除を言い渡すべき明らかな証拠がある場合には、現行法の435条6号の再審開始事由に当たりますので、これも新たな規定を必要としないのだろうと考えております。したがいまして、問題は刑の減軽にとどまる場合であると理解しております。   御承知のとおり、最高裁判所の判例によりますと、435条6号の「原判決において認められた罪より軽い罪」とは、原判決が認めた犯罪よりその法定刑の軽い他の犯罪をいうなどとされているために、例えば心神耗弱や従犯、身代金目的略取・誘拐の解放等の刑の必要的減軽事由を認めるべき新証拠が確定判決後に発見されたときであっても、必ずしも再審開始事由には該当しないのではないかという問題があります。   しかし、刑法68条によれば、刑の減軽事由が認められる場合には、死刑は無期懲役、現在は無期拘禁刑、又は有期懲役、現在は有期拘禁刑に必要的に減軽されますので、本来確定審でこのような事実が判明していれば、死刑を言い渡すことはできなかったはずであります。それが、判決が確定したという一事をもって再審開始が認められないということになりますと、例えば、本来幇助犯とされるべき人が、誤って共同正犯として死刑が言い渡された場合に、その判決を是正することができなくなってしまいます。そもそも刑の免除を言い渡すべき新証拠があるとして再審開始が認められても、再審公判において刑の免除でなく刑の減軽にとどまると判断される場合もあり得るわけですので、刑の免除と減軽とを区別する合理性はないものと考えます。   ドイツでは、正犯や教唆犯の確定判決に対して幇助犯を認定すべき場合や既遂の確定判決に対して未遂犯を認定すべき場合は、解釈上、再審開始事由に当たるとされていると認識しております。そうすると、少なくとも刑の加重減免事由の誤認を認めるべき新証拠がある場合は、本来は死刑が言い渡された事件に限らずと言うべきだと思いますが、再審開始事由に当たると考えるべきです。   次に、量刑の基礎となる事実ですけれども、確かに、日弁連改正案は、量刑の基礎となる事実の誤認を疑うに足りる新証拠があればすべからく、つまり、判決の量刑に対する影響を考慮することなしに再審開始事由としているようにも読めますので、仮に判決の量刑に影響しない事実誤認まで含める趣旨であるとすれば、それはさすがに広すぎると言わざるを得ないのだろうと思います。   しかし、少なくとも、例えば首謀者か否かとか計画的犯行か否かといったような、量刑上重要な事実に誤認があるために、死刑の量刑を見直すべき新証拠が発見されたときについて言えば、仮に通常審においてこのような事実が判明していれば、死刑が言い渡されなかった可能性が高いのですから、判決が確定したとの一事をもって、誤った量刑を見直すことができない、再審開始理由にならないというのは疑問です。その結果、例えば本来首謀者でない者が首謀者とされて死刑とされ、本来首謀者である者が首謀者ではないとされて無期懲役等にとどまるとされた場合でも、このような不公正な判決を是正することができなくなってしまいます。   したがいまして、死刑が言い渡された事件は、特に救済の必要性が高い、また誤判を正す必要性が高いことから、刑の加重減免事由の事実誤認、又は量刑の基礎となる事実誤認を疑うに足りる新証拠があって、死刑以外の刑、つまり無期懲役、現在は無期拘禁刑等を言い渡すべき場合には、再審開始事由とする必要性があると考えております。 ○池田委員 加重減免事由と量刑の基礎と、それぞれについて御説明を頂きました。   御指摘がありましたように、累犯には適用がない、つまり加重の方には適用がないというのは、結論としては私もそのとおりだと思います。といいますのも、刑法の規定によりますと、刑種として死刑を選択した場合には、併合罪加重や再犯加重は行われないとされていますので、加重事由にかかる事実の誤認を問題とするのは合理的ではないと理解しております。また、免除についても、既に刑事訴訟法第435条第6号に当たるということも御指摘いただきまして、そのとおりであると考えております。   田岡幹事から御説明いただいたように、この規定が実際に問題となりますのは、刑の必要的減軽や任意的減免事由にかかる事実、そして量刑の基礎となる情状事実についてであると考えられます。   私は、そのうち情状事実等についての事実誤認を、死刑判決の再審開始事由とすることについて意見を申し上げたいと思います。   これも、田岡幹事の御説明の中にもありましたけれども、共犯事件を念頭に置いて、主犯格とされた者が死刑に、比較的従属的であるとされた者が無期懲役にそれぞれ処せられて、それぞれ刑が確定したという場合において、主犯格とされた者については、情状事実等に関する事実の誤認を理由として再審請求をなし得るということとなり、再審公判において比較的従属的であるとされた者よりも軽い刑に処せられ得る一方で、比較的従属的であるとされた者については、同様の事情があったとしても、再審請求をなし得ないということになるわけですけれども、このような観点から見れば不公平、不均衡な帰結をもたらすのではないかと思われます。   こうした共犯者間における不公平、不均衡を招来しないためには、死刑判決に限らず広く一般の有罪判決について、情状事実等に関する事実誤認を理由として再審を開始する制度とせざるを得ないようにも思われます。ただ、そのようにすると、これまでに認められていた再審開始事由の範囲を質的に大きく変更することにもなりかねないと思われますので、その必要性や相当性については、なお慎重に議論する必要があると考えております。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私も、仮に刑の減免事由や情状事実に関する事実の誤認を再審開始事由とする場合には、今、池田委員が述べられたように、死刑判決に限らず広く一般の有罪判決について、刑の減免事由や情状事実に関する事実誤認を再審開始事由とすることとせざるを得ないと考えています。田岡幹事も、先ほどの御発言の中で、刑の減免事由の誤認については、本来は死刑事件に限らず、再審開始事由に当たると考えるべきとおっしゃっておられました。   この立場を前提に考えてみますと、量刑は、犯情から一般情状に至るまで、多種多様な事実に基づいて判断されるものであり、刑の減免についても、多種多様な事実に基づいて判断されます。そのため、これらの事実の中には、仮に事実誤認があったとしても、確定判決の主文に影響を及ぼさないものも多いと思われます。  それゆえ、日本弁護士連合会改正案第435条第8号の元々の趣旨によれば、「刑の加重減免の理由となる事実又は量刑の基礎となる事実」の誤認があれば、確定判決の主文への影響を問わず、幅広く再審が開始されることとなるものの、再審公判において、結局、確定判決の結論を維持するのが相当と判断される場面が頻発することとなりかねず、確定判決による法的安定性が不当に害されるおそれが大きいと考えられます。  田岡幹事は、そのことを認識された上で、「情状事実等に関する事実の誤認が確定判決の主文に影響を与える蓋然性が認められる場合」に限って、再審開始決定をすべきという提案をされました。ただ、この御提案についても、次のような問題が生じると思われます。   まず、再審開始の要件を幾ら限定したとしても、先ほど申し上げたように、量刑は多種多様な事実に基づいて判断されることから、そのうち何らかの事実に誤認があったと主張すれば、再審請求をすること自体は可能となってしまいます。その結果、再審請求が現在よりも大幅に増えることが想定され、再審請求審における迅速な事件処理に支障を生じさせることとなりかねません。   また、田岡幹事が提案された「確定判決の主文に影響を与える蓋然性が認められる場合」、死刑事件でいえば、「死刑という刑種を変更すべき蓋然性が認められる場合」という限定要件の意義及び機能についても、通常審との関係で検討を要する点があると思われます。  すなわち、再審請求手続が、三審制の下で確定した有罪判決について、なお事実認定の誤りなどがあった場合にこれを是正する非常救済手段であることからすると、仮に、情状事実等に関する事実の誤認を理由とする再審開始事由を認めるならば、その要件は、上告審における職権破棄事由である「刑の量定が甚しく不当であり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとき」という要件よりも、厳格なものとしなければならないと考えられます。そうすると、田岡幹事が先ほど提案された「確定判決の主文に影響を与える蓋然性が認められる場合」という再審開始を限定する要件は、上告審の職権破棄事由よりも厳格な要件であると理解されることになりますが、現在の実務において、上告審における量刑不当の判断は厳格になされており、量刑不当を理由として原判決が破棄されることは極めて稀であることに鑑みれば、御提案の限定要件を満たし、情状事実等に関する事実の誤認を理由として再審が開始されるケースが果たしてどれだけ生じるのかは疑問に思います。   以上の問題点に加え、そもそも、情状事実等に関する事実誤認を再審開始事由とするという御提案は、池田委員も指摘しておられたように、これまで認められていた再審開始事由の範囲を質的に変更するものであることからすると、その必要性・相当性については慎重に議論する必要があると考えます。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○宮崎委員 池田委員、成瀬幹事の方から、仮に情状事実等に関する事実の誤認を再審開始事由とする場合、死刑判決に限定することは相当でなく、広く一般の有罪判決について、情状事実等に関する事実誤認を再審開始事由とすることとせざるを得ないという御発言がありました。   一般の有罪判決について情状事実等に関する事実誤認を再審開始事由とすることとすると、成瀬幹事御指摘のように、量刑の判断は、動機、犯行態様、被害結果等といった犯情から、反省の有無、生育歴等といった一般情状に至るまで、非常に多種多様な事実に基づくものでありまして、刑の減免の判断についても多種多様な事実に基づくものであることからしますと、やはりそのうち何らかの事実に誤認があったと主張することで再審請求をすることは可能となるため、再審請求が非常に増えるということが想定され、裁判所による再審請求事件の処理が再審請求の増加に追い付かず、再審請求審における迅速な事件処理に支障を生じさせることとなりかねないというのは、私も同意見でございます。   しかも、刑の減免や量刑に関する事実の中には、事実誤認があったとしても確定判決の主文に影響を及ぼさないものも多いと考えられるにもかかわらず、それらに関する事実の誤認を再審開始事由とすることとしますと、確定判決の主文への実際の影響がどうかということを問わず幅広く再審が開始されることとなるものの、再審公判において、結局、確定判決の結論を維持するのが相当だと判断されるような場面が頻繁に起こることとなりますが、再審公判で結論が変わる見込みのない事件まで幅広く再審が開始されるような仕組みとすることは、確定判決による法的安定性を不当に害することとなりかねないと思います。   したがって、御提案は相当でないと考えております。 ○村山委員 先ほど来のいろいろ御意見いただいて、本当にもっともだなと思う意見が多いのですけれども、やはり死刑に限っているというところをお考えいただきたいと思っています。   まず、必要的減軽事由があった場合、これも、心神耗弱なども考え方によって、現行法でも再審事由になるという考え方とそうではないんだという考え方があって、やはり現行法でならないという考え方に立つと、これは再審事由として認める必要があるだろうと、新たな証拠によって必要的減軽事由があると相当疑われるということであれば、再審を認めるということですね。この点は、この場の皆さんの間である程度了解事項なのかなと思っておりますが。   それから、量刑の基礎となる事実というのは、確かに死刑だけ特別にするのはおかしいのではないかと、理論的におかしいだろうと言われれば、本当は、それはそのとおりだと思います。ではなぜ死刑にこだわるかというと、死刑がやはり特別な刑罰だからです。不可逆的に人間の存在自体を失わせるという、そういう特殊な刑だからこそ、やはりこだわる必要があるのではないかということで、こういう規定を設けています。確かに量刑の基礎となる事実というのは非常に広範なものがあって、どういう事実を指すのかは難しく、死刑を選択するかどうかに関わるような情状事実と考えざるを得ないわけですけれども、そういった点について一切再審事由にならないということでいいのかというのが問題意識だと、私は理解しております。 ○江口委員 まず、そもそも、死刑が求刑される事案につきましては、既にその確定審において、死刑が究極の刑罰であって、その適用は慎重に行わなければならないという観点及び公平性の確保の観点を踏まえて、その判断に必要な審理を十分に尽くした上で、熟慮に熟慮を重ねて最終的な判断がなされているものと承知しております。   再審請求審の場合において、死刑の言渡しを受けた事件について、特別な規定を設ける必要性があるのかということについては、私としては疑問がございます。   また、既に多くの御指摘がございましたが、日本弁護士連合会改正案の「量刑の基礎となる事実の誤認」が具体的にどのような内容を意味するのかは必ずしも明らかではありませんが、刑の量定をするに当たって考慮される事実の範囲は、その存在のみならず、不存在も含めて考えますと、それだけでも極めて広範なものとなり得ますし、さらに、この誤認というものの中に、刑を量定するに当たって当該事実がどのように評価されたのかという内容まで含むということになりますと、その内容は限りなく広範なものとなるかと思います。   私もこれまで複数の死刑の言渡しを受けた事件についての再審請求事件を担当してまいりましたが、今申し上げた点からしますと、日本弁護士連合会改正案によれば無限定な再審請求がなされるということが十分に考えられます。ましてや、死刑の言渡しを受けた事件に限らないということになりますと、更に無限定な再審請求がなされることが考えられ、そもそも判決の確定というものはどういうことを意味するのかということも問われるように思っております。 ○山本委員 日弁連の意見と離れますけれども、死刑判決を受けた事件の被害者、恐らくは御遺族になると思いますけれども、再審請求がなされると、再度事件について司法手続に直面して、心の平穏を乱されることになると思います。そして、死刑についての量刑判断が明記されれば、そのおそれは高くなると考えますので、改正についての判断は慎重にされる必要があると思います。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○田岡幹事 江口委員から、そもそも、死刑が求刑される事件では、確定審において、熟慮に熟慮を重ねた判断がなされているという指摘がありました。確かに熟慮に熟慮を重ねた判断がなされているのだろうとは思いますけれども、現実に上訴により死刑の量刑が見直される事件が相当数ある、それにもかかわらず上訴の取下げによって第一審の死刑判決が確定している事件も相当数あるということは、指摘せざるを得ないのだろうと思います。   例えば、令和元年から令和6年の6年間における第一審の死刑判決に対する控訴審の判決は16件ありますが、控訴棄却は7件しかありません。つまり、半数に達しないんです。その他9件のうち、4件は無期懲役に減軽されております。1件は公訴が棄却されております。4件は控訴取下げにより確定しております。そうすると、第一審の死刑判決が、上訴によって無期懲役に減軽されたものが25%、仮に公訴棄却と控訴取下げを除くと36%ありますので、第一審が死刑判決であっても、上訴によって死刑の量刑が見直される可能性は相当程度あるということが言えます。   しかし、他方で、上訴の取下げができるとされておりますので、第一審の死刑判決が控訴の取下げにより確定したものも、25%あります。また、控訴審死刑判決に対する上告審判決は、同じ6年間で11件ありますが、そのうち上告取下げにより確定したものが2件、18%あります。そうすると、必ずしも上訴審により死刑の量刑が見直される機会が保証されているとはいえない、つまり上訴審の判断を経ることなく死刑判決が確定してしまっている事件が相当数あるということが言えます。   本来死刑判決に対する上訴の取下げは制限されてもしかるべきではないかと思いますが、現在のように上訴の取下げを無制限に認めますと、その時点では控訴審、上告審の判断を経ずに死刑判決を確定させてしまいたいという心境であったとしても、後からやはり死刑の量刑を見直してもらいたいので再審を求めたいと再審請求人が希望し、かつ、それを裏付ける新証拠が発見されて、本来であれば死刑を言い渡すべきではなかったということが明らかになった場合であっても、判決の確定という一事をもって、死刑の量刑を見直すことができないといった事態が生じ得ることになります。   確かに数の上では少数かもしれませんが、本当は幇助犯と認めるべきであったのに共同正犯と認定されてしまった事実や、心神耗弱と認定すべきであるのに完全責任能力とされてしまったという事実が、もし仮にですよ、新証拠によって明らかになっているにもかかわらず、検察官であっても再審請求ができないといった事態を考えますと、誤った判決を是正する機会が全くないというのは、やはりこれは正義に反するのではないでしょうか。   先ほど上告審の職権破棄事由との整合性について指摘がありましたけれども、死刑が言い渡されるべきではなかった人に対して死刑が言い渡された場合に、これを是正しないのは、やはり著しく正義に反するというべきですから、上告審における職権破棄事由より緩和するものとは言えません。むしろ上訴によって誤った死刑判決を是正する機会がなかった人について、救済する制度となり得るものと考えております。 ○大澤部会長 おおむね予定した時間に近づきつつありますが、更に御発言ございますでしょうか。   この段階としては、この程度でよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 次に、「論点整理(案)」「4」のうち「(3)手続の憲法違反を再審開始事由とするか」について審議を行いたいと思います。この事項についてはおおむね25分間、午前10時55分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   御意見等のある方、挙手をお願いします。 ○池田委員 ここでも、この論点に関わる日本弁護士連合会改正案の趣旨についてお尋ねをさせていただきたいと思います。   御提案の第435条第9号においては、「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違反があつたとき」とされておりますが、文言上、新規性のある証拠、新たに発見された証拠であることが要求されていないように見受けられるところ、そのような理解で良いのかということについて御教示を頂ければと思います。 ○大澤部会長 この点、どなたかお答えいただけますか。 ○鴨志田委員 今の御質問の趣旨の部分も、恐らく今から申し上げる内容に入っていると思いますので、私の方から意見を申し上げたいと思います。   日弁連案では、「原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違反があったとき」という書きぶりにしております。捜査や裁判の手続に憲法違反があるということが明らかとなった場合に、そのこと自体をもって再審理由となし得るかということについては、御承知のとおり、現行法上は必ずしも明確ではありません。しかし、憲法上の手続規定は、適正な刑事事実認定のために不可欠な権利を被告人に保障したものであるので、これらの権利が保障されなかったこと自体が事実誤認の徴表というべきです。   そもそも、当該判決に至る捜査や公判の手続において、憲法的価値が踏みにじられていたことが明らかとなった場合に、再審でこれを是正しないということは、冤罪被害者の人権保障を目的とする再審制度の理念にも反します。とりわけ、死刑判決の場合は、その事件の捜査や裁判の手続に重大な憲法違反があったことが明らかとなったにもかかわらず、無罪を言い渡すべき明らかな証拠がないということを理由に再審の門戸を閉ざすことは、違憲状態の下での死刑執行を容認するということにほかなりません。個人の尊厳に究極の価値を置く憲法が、そのような事態を許容しているとは到底考えられません。   そこで、新証拠のいかんにかかわらず、原判決をした裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違反があったときには、再審開始事由とする必要があると考えております。   この論点を検討するに当たって念頭に置くべきは、ハンセン病療養所内の特別法廷で死刑判決がされ、その後確定し、死刑執行もされた菊池事件です。菊池事件につきましては、別の論点に関するものですが、本日鴨志田の方で提出させていただいた再審請求者に関する問題点の一覧表の中に、事件の経緯等が記されていますので、是非御参照いただければと思います。   この菊池事件に関しましては、改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会の議論においても言及があったと承知しております。しかし、そこでは、裁判の公開原則との関係でのみの検討となっていた感が否めないと感じております。   菊池事件の捜査や裁判の手続における重大な憲法違反とは、公開原則違反にとどまらず、裁判官を始め、法廷に立ち会った関係者が予防衣を着用し、証拠物を箸で取り扱うなどの異常な審理がされたこと、第一審弁護人が書証に全部同意し、証拠物に異議も述べず、検証にも立ち会っていないということで、実質的な弁護が行われていないこと、被告人質問が実施されていないこと、そして、これらの全ての背景に、ハンセン病に対する差別や偏見に基づく国民の忌避感や無関心があり、一般の傍聴人も不在であったということなど、およそ公平な裁判とはほど遠いものであります。   この事件については国賠判決がされておりまして、結論は棄却ながら、菊池事件の審理が憲法13条、14条に違反する、そして憲法37条、82条1項にも違反する疑いがあるということを認めた上で、次のように判示しています。   「現行の再審制度は、実体的な事実誤認の是正を中核とするものであって、手続に憲法違反があることは、刑事訴訟法435条所定の再審事由に掲げられておらず、実際の運用としても、事実誤認を問題とする同条6号を再審理由として請求されている事例がほとんどである。しかしながら、同条には、確定判決に関与した裁判官等が被告事件について職務に関する罪を犯したことが再審事由として規定されているところ、これも確定判決の事実認定に誤りがあることが推測される一類型ではあるものの、事実誤認の是正に直ちに結びつくものではない。したがって、刑事訴訟法は、事実誤認の是正のみならず、公正の観点から確定判決を是正すべき場合があり得ることを予定しているものともいえ、再審が事実誤認の是正のみを目的とする制度ではないと解する余地もあると考えられる。憲法が国の最高法規であることからすると、これに違反するような重大な瑕疵があり、被告人の権利が害されている場合について、後記のとおり有罪の言渡しを受けた者の被害回復を直接の目的とする再審制度の対象からあえて除外されたとは考え難く、憲法違反があることが上告理由とされていること、判決確定後に当該事件の審判が法令に違反したことが発見された場合には、非常上告手続があることとの均衡からも、手続に憲法違反があることが再審事由に当たると解することも相当な理由がある」というものです。   もっとも、続いてこの判決は、「これらの憲法違反があることのみで再審事由があると認めることはできない」とも判示しています。ただ、その理由としては、再審事由は厳格に解釈されるべきであり、明文にない再審事由を認めることには慎重でなければならないと述べています。つまり、再審事由を認めないという判断に至ったことには、明文規定がないことが影響しているというべきです。   このように、現場の裁判官にちゅうちょを抱かせないという意味でも、重大な憲法違反を理由とする再審請求の類型を設けることが必要であると考えます。 ○池田委員 この規定の全体の趣旨について御説明を頂きまして、どうもありがとうございました。   私の御質問の趣旨は、新証拠を要求するのか否かという点であり、今の御説明の中では、新証拠のいかんにかかわらずというお話がありましたので、こちらを前提に私の理解を申し上げたいと思います。   刑事訴訟法における再審開始事由は、それが広範に過ぎますと、裁判の不当な蒸し返しを招き、確定判決による法的安定性が損なわれ、裁判の紛争解決機能を失わせることとなる一方で、厳格に過ぎますと、確定有罪判決に誤りがある場合に、当該判決を受けた者の救済を図ることが困難となるということから、双方のバランスを考慮して、有罪判決の確定後に事情の変更がある場合であって、かつ、当該判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性が認められるときに限り、再審開始事由とされていると考えられます。   このうち事情の変更については、現在の規定、刑事訴訟法第435条第6号においては「証拠をあらたに発見したとき」という事情の変更が、また同条第1号から第3号までや第7号においては確定判決により一定の事由が「証明されたとき」という事情の変更が、それぞれ要求されています。これに対して御提案が、有罪判決の確定後に事情の変更があったことを要求しないものだとしますと、例えばその有罪の言渡しを受けた者が確定審においてしたけれども容れられなかった主張や、これに関する証拠を再び持ち出して再審請求をすることが認められることとなり、事情の変更を求めるという刑事訴訟法における既存の再審開始事由の前提をなす理解と整合しないという懸念があります。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 再審開始事由を定めた刑事訴訟法第435条を見ると、第6号においては、先ほど「(1)」の論点で議論されたように、「確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性」そのものが要件とされている一方で、同条第1号から第3号までと第7号においては、一定の事由が確定判決によって証明されたという形式的な事由が要件とされ、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性そのものは要件とされていないという違いがあります。   その理由は、確定有罪判決の証拠となった証拠書類の偽造や偽証などといった、裁判所の事実認定を誤らせる不公正な行為があった事実が裁判所により認定されて、その判決が確定した場合には、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性があることが類型的に推認されることから、当該事実が確定判決により証明された場合には再審を開始することとしたものと考えられます。   このような現行法の理解を前提とした上で、村山委員提出資料の日本弁護士連合会改正意見書9ページを見ると、「憲法上の……権利が保障されなかったこと自体が事実誤認の徴表といえる」と指摘されています。先ほど、鴨志田委員も同趣旨の指摘をしておられました。そうすると、鴨志田委員の御提案は、裁判所の手続に重大な違法があることが認められれば、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性があることが類型的に推認されるという意味で、刑事訴訟法第435条第7号等と類似する考え方に立脚して再審開始事由とすべきという趣旨ではないかと、私なりに理解したところです。   もっとも、「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」における河津構成員の御発言によれば、新たに提案されている第435条第9号の文言のうち、「原判決をした裁判所の手続」には、捜査手続も含む趣旨とのことでした。先ほど、鴨志田委員も、捜査手続の違法を含む前提で発言をしておられました。   そうすると、御提案の再審開始事由は、捜査手続の違法や裁判所の手続の違法が問題となる事案を広く対象とするものになりますが、それらの事案の中には、例えば、捜査機関による捜索の手続に違法があったものの証拠物は押収されなかった事案や、裁判所の手続が公開原則に違反した事案などのように、確定有罪判決の事実認定に影響しないものが多数含まれます。それゆえ、「裁判所の手続に憲法の趣旨を没却するような重大な違法があった」こと自体から、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性があることが推認されるとはいえないと思われます。   また、御提案の再審開始事由は、刑事訴訟法第435条第7号等のように、一定の事由が裁判所により認められて、その判決が確定したことを要件としているものでもありません。  さらに、刑事訴訟法における非常救済手続としては、確定判決における事実誤認を是正するための再審制度とは別に、判決が確定した事件に係る審判手続の法令違反を是正するための非常上告制度が設けられており、審判手続の法令違反については、本来、非常上告で対処すべきものであると思われます。   したがって、鴨志田委員の御提案は、刑事訴訟法における再審開始事由の基本的な考え方や非常救済手続の枠組みと整合しないものであり、御提案のような再審開始事由を設けることは相当でないと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○宮崎委員 先ほど来お話が出ておりますように、日本弁護士連合会改正案の「原判決をした裁判所の手続」には、捜査手続も含む趣旨とのことですけれども、仮に御提案のような再審開始事由を設けた場合、捜査手続や裁判所の手続の違法については、個々の事案ごとにその軽重や内容の点で多種多様なものが考えられるところでありまして、仮に再審開始事由をこれらの手続の違法のうち「憲法の趣旨を没却するような重大な」ものに限定したとしても、そのような再審開始事由があると主張して再審請求をすること自体は妨げられず、また、池田委員から御発言があったように、御提案は有罪判決の確定後に事情の変更があったことも要求しないものとなっています。   そのため、実態としては軽微な違法も含め、これらの手続に重大な違法があったと主張するだけで再審請求ができることとなることから、そのような再審請求が激増し、それに伴って、不適法である請求や主張自体失当である請求なども激増することが想定され、再審請求審における迅速な事件処理に支障を生じさせることとなりかねないと思います。   また、捜査手続や裁判所の手続の違法が問題となる事案の中には、確定有罪判決の事実認定に影響しないものが多数含まれると考えられるところで、先ほど成瀬幹事からも御指摘があったところですけれども、そのような違法を理由として再審開始となったとしても、結局、再審公判において有罪判決が維持されるといった事態が頻発することにもなりかねないわけですが、再審公判で結論が変わる見込みがない事件まで幅広く再審が開始される仕組みとすることは、確定判決による法的安定性を不当に害することとなりかねないと思います。   このような事態は、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性そのものが要件とされていない、刑事訴訟法第435条第1号から第3号及び第7号の再審開始事由についても一定程度生じ得ますが、御提案のような再審開始事由を設けることとすると、成瀬幹事から御発言があったように、刑事訴訟法第435条第1号等の要件を満たす場合には確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性があることが類型的に推認されるのに対し、御提案は、確定有罪判決の事実認定に影響しない手続の違法についても、幅広く再審開始事由に含むものであることから、結局、再審公判において有罪判決が維持されるといった事態をより一層幅広く招くこととなると考えられます。   しかも、再審請求に理由がないとして棄却決定がなされた場合であっても、その理由と異なる理由により再審請求をすることができることとされているところ、御提案のように捜査手続や裁判所の手続の違法を問題として再審請求をすることができることとすると、積み重なる一連の手続の中で、ある一部分を切り出してその手続の違法を主張して再審請求をし、これが棄却されるとまた別の一部分を切り出してその手続の違法を主張して再審請求をするといったことの繰返しを許すことにもなりかねないと思います。   したがって、御提案のような再審開始事由を設けることとすることは相当でないと考えられます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○田岡幹事 私は、日弁連改正案の9号というのは、いわゆるノヴァ型再審ではなくてファルサ型再審の一類型を提案する趣旨であって、現行法の435条の7号に類似する条文案なのだと理解をしております。   435条7号は裁判官、検察官、検察事務官又は司法警察職員の職務犯罪が証明されたときを再審開始事由としているわけですが、これは具体的な事実誤認との結び付きを要求しておりませんので、必ずしも職務犯罪が確定判決により証明されたからといって、その実体判断が誤りであるということに直ちに結び付くわけではありません。しかし、このような裁判がなされた場合というのは、およそ公平公正な裁判所による裁判とはいえないという趣旨で、いわゆるファルサ型の再審を認めたのだと理解しております。   先ほど鴨志田委員から御説明のありました菊池事件は、国家賠償請求訴訟において、単に公開原則に違反したというだけではなくて、憲法13条、14条に違反したと、また憲法37条1項、82条1項にも違反した疑いがあると、具体的に認定されているのですから、7号と比較しても裁判の公正さを害する度合いは高いと思われます。にもかかわらず、7号の場合には明文化されているから再審開始事由となるのに、菊池事件のような場合には明文化されていないから再審開始事由とならないのは不合理ではないかと思われます。   この点に関して、非常救済制度として非常上告があるという話がありましたが、そうであれば、菊池事件についても、検事総長が非常上告すればよいわけですが、現実には非常上告なされていないわけですよね。非常上告というのは、本来法令の解釈を統一することを目的とした制度でありまして、申立権者が検事総長に限られているために、それを申し立てるか否かは検事総長の判断にかかっているという限界があります。また、確定判決を破棄した場合でも、必ずしも被告人に有利な判決がなされるという保証はなく、刑訴法458条1号ただし書に基づいて自判する場合に限り、被告人に有利な判断がなされることになっております。   要するに、非常上告というのは誤った有罪判決を受けた者の救済制度ではなくて、法令解釈適用の統一を目的とした制度であって、有利な判決がなされるのは付随的ないし反射的な効果にすぎないと解釈されているからです。公正な裁判所による裁判を受けられなかったために誤った有罪判決を受けた者を救済するためには、非常上告の申立権者を拡大するのでなければ、再審によって救済する以外に方法はないのではないでしょうか。   憲法98条1項の趣旨に照らしても、検事総長が非常上告を申立てしないときに、憲法違反が是正されることなく放置されることは適切ではありませんので、菊池事件のような事例を救済するためには、新たな再審開始事由を認める必要があるものと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○鴨志田委員 少しだけ補足をさせてください。このような類型の再審を認めると、その事件数が、細かなものも含めて請求自体認められてしまうので、どんどんこの事件が増えてしまうというような御指摘がありましたが、そもそも想定している、「憲法の趣旨を没却するような重大な手続違反」という部分が、多分レベルが全然違うんだろうなと思いながらお聞きしていました。   菊池事件という事件は、確定判決が1953年で、もちろん今の憲法になってからなんですね。今の憲法になってからでさえも、このような特別法廷で、全く公開もされず、先ほど申し上げたような様々な問題のある手続の下で死刑になり、しかも執行までされていると。つまり、今後の歴史においても、非常に大事な個人の尊厳という憲法の究極の価値がないがしろにされるような、そういう異常な事態が起こらないという保証はどこにもないんですね。   ですから、要件はどのような形にするかということを検討することは当然必要だと思いますけれども、このような憲法違反をもって再審開始事由とするという類型を認めないということは、このような事件が起きたときには、先ほど申し上げたとおり、違憲だということがはっきり分かっているのに、死刑執行されても仕方がないということを、この国の司法は是認するということになると、このことは是非ともお考えいただきたいと思います。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○川出委員 先ほど田岡幹事から、日本弁護士連合会改正案は、ファルサ型再審の一類型を提案する趣旨であるという御指摘がありました。しかし、現行の刑事訴訟法第435条第6号以外の再審開始事由は、確定有罪判決の事実認定を覆すに足りる蓋然性があることが類型的に推認されるという意味で、事実認定の誤りにつながることが前提となっています。その意味で、現行の再審制度は、確定した有罪判決の事実認定に誤りがあった場合に、それを是正することを目的としたものだということは揺るがないと思います。   そうだとしますと、仮に裁判所の手続に憲法に反するような重大な違法があったとしても、適法に手続が行われた場合とで、有罪の言渡しを受けた者が罪を犯したという事実認定に変わりがないのであれば、再審によって手続をやり直すことは想定されていないと言わざるを得ません。したがいまして、御提案のような再審開始事由を設けるということは、やはり現行の再審制度の目的と整合しないと思います。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○村山委員 今おっしゃっていることは本当にもっともだと思いますが、多分想定している事態が大分違うと思うんですよね。   私どもというか私自身は、やはり菊池事件のような非常に例外的で、公平な裁判を受けたと言えないのではないか、そうなると、そこでの事実認定とか量刑とかいうのが、そもそも本当に正しかったのかということに疑問を呈するような裁判が行われると。それがやはり重大な憲法違反だということで、そういうときに、具体的な事実誤認の理由を新証拠で証明できなければ再審が許されないんだというのは、やはり不合理な部分が生じるのではないかという、非常に例外的な救済手続としての事由も定める必要があるのではないかという、そういう趣旨で言っているわけです。   確かに日弁連の意見書は、必ずしもファルサ型だと読めない部分もあるかもしれませんけれども、ただファルサ型というのも、確かに類型的には事実誤認を導く理由だという、それは川出委員のおっしゃるとおりだと思いますが、公平な裁判を受けたと言えないのではないかという事態が起きていたら、そこでの裁判というのは本当に事実認定が正しいのか、量刑が正しいのかって、そういうような問題に直結するんだろうというふうな理解だと、私は理解しています。 ○大澤部会長 おおむね予定した時間になっておりますが、更にこの際という御発言ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 次に、「論点整理(案)」「4」のうち「(4)刑事訴訟法第437条の規定を改めるか」について審議を行いたいと思います。この事項についてはおおむね20分間、午前11時15分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   御意見等ある方、挙手をお願いいたします。 ○宇藤委員 この論点は、日本弁護士連合会改正案に係るものであり、その内容は、刑事訴訟法第437条ただし書の削除ということであろうかと思います。その趣旨についてお伺いしたいと思います。   特に、日本弁護士連合会改正案を拝見しますと、このただし書を削除することによって、「確定判決により証明」すべき犯罪について無罪が言い渡された場合や、不起訴になった場合についても、本文に係る規定を適用するという趣旨であるとの説明がございます。説明をお伺いできれば大変助かります。 ○大澤部会長 御質問でございますけれども、どなたかお答えいただけますか。 ○鴨志田委員 今の御質問も踏まえて、日弁連案、またこのような立法が必要であるということについての立法事実等についても、併せてお話をしたいと思います。   この証拠の偽造や偽装等があったことを再審の理由とする、いわゆるファルサ型の場合に、その証明というのは、原則として確定判決によらなければならないとされているところでございます。もっとも、確定判決を得ることができないときは、その事実を証明して再審の請求をすることができるというのが、この437条の本文でございます。この場合、「証拠がないという理由によつて確定判決を得ることができないとき」というのが除外されていて、これが問題となっているただし書ですね。証拠不十分で無罪判決が言い渡された場合だけでなく、不起訴処分となった場合にも、これに当たるとする見解がございます。   しかし、確定判決以外の証拠によって当該事実の証明ができるということが明らかであるにもかかわらず、今のただし書によって再審ができないのは不合理であるため、この際、ただし書は削除するべきだというのが日弁連案でございます。   立法事実となりましたのが、徳島ラジオ商殺し事件でございます。この事件では、確定判決が有罪認定の根拠とした2人の少年が、後に偽証であったということを告白しました。請求人、後に亡くなられた冨士茂子さんが、この2人を偽証罪で告訴したのですが、嫌疑不十分として不起訴処分となりました。しかし、これに対しては、検察審査会に審査の申立てがされ、不起訴不当という決議もされているというようないきさつがございます。   このような中で、結局のところ、この2人の少年の偽証の告白ということが、正にその確定判決によっては証明ができていないという状況の中で、第2次再審、この事件は最終的には第5次再審で再審開始が確定しているのですが、第2次再審の段階で、この2人の少年の偽証について、犯罪の嫌疑がないという理由で公訴が提起されない場合、右ただし書の「証拠がないという理由によつて確定判決を得ることができないとき」に該当する、要するに、ただし書が適用されて、確定判決に関し、それを認めないという趣旨のように判断されています。   徳島ラジオ商殺し事件というのは昭和28年の事件で、再審無罪の判決が言い渡されたのは昭和60年の7月になってからで、しかも請求人本人は審理の途中で亡くなられて、日本では死後再審の再審無罪第1号になった事件であります。しかし、この2人の少年の偽証について、確定判決に代わる証明が認められていたならば、被告人の存命中にもっと早く再審開始が得られたのではないかと思われる、こういった事例があることから、このただし書の削除について御提案をさせていただいているという次第でございます。 ○宇藤委員 鴨志田委員、ありがとうございます。今の御説明ですと、証拠がないとの理由により不起訴処分がなされた場合、確定判決に代わる証明を認める、こういう趣旨の提案ということであろうと思います。   刑事訴訟法第437条が設けられた趣旨は、再審理由に当たる犯罪事実があることに合理的な疑いがない場合であるにもかかわらず、事実上又は法律上の理由でそのことを審理し、確定判決を得るすべがもはやないという弊害を避けることにございます。   このような趣旨を踏まえますと、訴追を担う検察官が、犯罪事実が存在することになお疑問ありと判断して不起訴処分とするような場合については、犯罪事実の存在になお合理的な疑いがあるというわけですから、例外とすることに合理性があると解されます。したがって、特にただし書を改正する必要性はないでしょう。加えて、付審判手続や検察審査会等を経て、その後に審理に付される機会が存在し得ることも併せ考えると、例外として取り扱うことは差し支えないと思います。   先ほど、徳島ラジオ商殺し事件についてのお話がございましたが、これも,不起訴となった場合には、御指摘のような弊害が一律に生ずるといった差し支えを、説明するようなものではなかったと思います。   また、鴨志田委員からは、無罪判決のあった場合にも例外を認めるべきかについては特にお話がありませんでしたが、こちらについても現行法を改める必要性はないと考えております。元々刑事訴訟法第437条の本文というのは、審理の機会がないということを前提にしたものです。したがって、既に審理を経て無罪判決がなされた場合は、本文がそもそも予定するところではありません。このような趣旨に照らしますと、ただし書を削除し、「確定判決により証明」すべき犯罪について無罪判決がある場合でもなお再審事由に当たる犯罪事実に係る事実の証明に当たり得るとするのは、かなり難しいのではないでしょうか。 ○大澤部会長 それでは、他に御発言ございますでしょうか。 ○宮崎委員 御提案につきましては、刑事訴訟法第437条本文による確定判決に代わる事実の証明に用いる証拠については、新規性は要求されていないように見受けられます。そうすると、仮に刑事訴訟法第437条ただし書を削除することとすると、同法第435条による再審請求が許されない場合であっても、幅広く再審請求を許容することとなってしまいます。   すなわち、刑事訴訟法第435条第1号から第3号まで及び第7号が規定する証拠書類の偽造や偽証等の犯罪があったとする主張を証明する確定判決を得ていないため、第1号等を理由とする再審請求が許容されない場合であり、かつ、偽造や偽証等の犯罪があったとする主張が確定審で取調べ済みの証拠を理由としており、同条第6号が要件としている新規性のある証拠を得ていないため、第6号を理由とする再審請求も許容されない場合であったとしても、同法第435条第1号等が規定する犯罪があったことを理由としさえすれば、同法第437条本文によって、適法に再審請求をすることを幅広く許容する規律となってしまうこととなります。   その結果として、証拠書類の偽造や偽証等の犯罪があった事実を証明する証拠がなく、再審が開始される見込みのない再審請求が大幅に増加する上、裁判所においては、現行法の下では犯罪があった事実を証明する確定判決がないという形式的な理由により直ちに再審請求を棄却している相当数の事案について、犯罪があった事実が認められるか否かについて実質的な審理をすることが求められることとなることが見込まれるところであり、その弊害は深刻であると思われます。   他方、証拠がないという理由によって確定判決を得ることができなかったとしても、無罪であること等を示す明らかな証拠が新たに発見されたときには、その証拠に基づき、刑事訴訟法第435条第6号の再審開始事由を主張して再審請求をすることは可能であり、この場合に確定判決に代わる証明を許さないとしても、不当な結論を招くものではないと思います。   以上のことを踏まえると、御提案のように刑事訴訟法第437条ただし書を削除することは適当でないと考えられます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○田岡幹事 私は、現行法の437条ただし書を前提としても、嫌疑不十分による不起訴処分はこれに当たらないのではないかと考えますが、異なる見解の裁判例がありますので、これを明確にする必要があると考えております。   鴨志田委員から徳島ラジオ商殺し事件について説明がありましたが、この事件は、2人の少年は自ら偽証をしたとして自首をしております。また、検察審査会において、不起訴不当であり、両名を起訴すべきという議決がなされております。にもかかわらず、検察官が公訴を提起しなかったために、確定判決を得ることができなかった。その結果、3号の再審事由とすることができないので、結果的に第5次再審において6号の再審開始が認められましたが、そのために相当長期間を要したという事例でございます。   他方で、いわゆるロシア人おとり捜査事件、札幌高裁の平成28年10月26日は、この437条による確定判決に代わる証明を認めておりますが、この事件では、E警視やG警部が共謀し、又は単独で、又はA警部補とも共謀して、証拠書類を要するに偽造したとされており、検察審査会では起訴相当の議決がなされておりますけれども、公訴は提起されておりません。この場合において、E警視が既に死亡し、A警部補及びG警部が起訴猶予処分を受けたことを認定した上で、437条ただし書所定の証拠がないという理由によって、確定判決を得ることができないときには当たらないという判断をしております。   先ほどの徳島ラジオ商殺し事件の第2次再審請求に係る再審棄却決定、徳島地裁昭和45年7月20日判決が引用する大審院の昭和16年4月8日判決を見ますと、この判決は、「同人に対する偽証被疑事件は犯罪の嫌疑なきものとして不起訴処分となり、これがために同人の前記証言が偽証となることにつき確定判決によりこれを証明することあたわざるものなること看取し得る」とした判決であります。つまり、嫌疑不十分であるから、直ちにただし書に当たるとしたというよりは、嫌疑不十分とされたことから、これがために確定判決に代わる証明ができないことを看取し得るとしたと読めますので、嫌疑不十分による不起訴処分をこの刑訴法437条ただし書に含めることには、疑問があります。   結局、現在の制度では検察官が公訴権を独占しておりますので、偽証の事実を、その偽証をした証人自らが認めて自首をし、また検察審査会が不起訴不当の議決をしたとしても、検察官が公訴を提起しなければ確定判決を得ることができなくなってしまう、こういった弊害があることから、437条ただし書に当たらないと解釈すべきであると考えますが、異なる見解の裁判例がありますので、この場合を少なくとも除外する必要があります。   なお、無罪の場合は、結果的に、確定判決に代わる証明はできないと考えられますので、このような場合にまで確定判決に代わる証明を認める必要はないと私は思いますけれども、少なくとも嫌疑不十分による不起訴処分の場合は437条ただし書に当たらないということを明確にする必要がありますので、日弁連改正案は、この際ただし書を削除してしまうという提案をしているものと理解しております。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○池田委員 今の田岡幹事の御意見も踏まえて、私の意見を申し上げます。刑事訴訟法第437条の本文自体は、その確定判決が得られる証拠がある事案であるにもかかわらず、確定判決を得るための法的手段がとれないために、これが不可能である場合に、一律に確定判決による証明を再審開始の要件とすることが正義に反するという理解に基づくものです。その上で、田岡幹事の御指摘にもありましたが、ただし書を単に削除してしまいますと、確定判決を得るための法的手段を取ること自体は可能であった、無罪判決があった場合も含めて、改めての証明が可能になってしまうという不都合がある点は、否定し難いのではないかと思います。   また、問題とされております嫌疑不十分による不起訴の場合ですけれども、これも、法的な手段がとれない場合に当たるのかといいますと、やはり検察官が証拠関係に照らして犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分である、又は証拠がないと判断するというプロセスを経ておりますので、およそそのような手段がとれない場合に当たるということにはならないのではないかと思います。   少なくとも、田岡幹事はそうは思われないということではありましたけれども、異なる立場もあるところでありまして、ただし書を削除することによって実現することの必要性と相当性については、慎重に検討すべきではないかと思います。 ○川出委員 日本弁護士連合会改正案のように、刑事訴訟法の第437条ただし書を削除するとしますと、刑事訴訟法第435条、第436条では一定の事由について確定判決を証明要件としながら、第437条では確定判決によらない証明を一般的に許容するということになりますので、それでは、第435条や第436条で確定判決による証明を要件とする意味がなくなってしまいます。これは、例えば刑事訴訟法第435条第1号に定められた証拠書類の偽造に関して、起訴がなされたものの証拠不十分で無罪判決が言い渡され、それが確定した後に、有罪の言渡しを受けた者が、やはり証拠書類は偽造されたのだと主張して再審請求を行うという事案を考えれば明らかだろうと思います。   その意味で、刑事訴訟法第437条ただし書を削除するのは、法的規律として整合性を欠く結果をもたらすことになると思いますし、加えて、先ほど宮崎委員からも御指摘がありましたように、例えば証人の偽証について証拠がないという理由によって確定判決を得ることができなかったとしても、その証言の信用性を否定するような新規性のある証拠に基づいて、第435条第6号の再審開始事由を主張して再審請求をすることは可能ですので、嫌疑不十分とか嫌疑なしを理由として不起訴処分がなされた場合に確定判決に代わる証明を許さないとしても、必ずしも不当な結果が生じるものではないと思います。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○村山委員 確かに、ただし書きを削除してしまうと、無罪の確定判決の場合もカバーしてしまうということになるので、さすがにこれはちょっと難しいかなという気はします。要は、やはり不起訴処分のときに、確定判決に代わる証明というのを許さないと不都合が生じるのではないかということです。  宮崎委員の前では言いにくいのですけれども、警察官や検察官の犯罪について、検察官がそれほど起訴するかというと、現実的にはなかなか厳しい、難しい部分もあるのではないかと思います。確かに付審判請求だ、それから、最近では検察審査会制度が充実してきたということもあって、不起訴処分に対しての一定の対策はできるわけですけれども、それでもなおかつあり得るということで、不起訴処分の関係についてはやはり再審への道を作っておかないと、ファルサ型のせっかくの規定があるのに、確定判決がないというだけで、本当は確定判決が取れてもよさそうな事案が再審請求のルートに乗らないというのはいかがなものかという、そういう発想です。確かに一律に削除するということについてはいろいろな問題が生じるので、これは考えものかなとは思っておりますけれども。 ○大澤部会長 おおむね予定した時間になっておりますけれども、なおこの際ということで御発言がありますでしょうか。   よろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 この段階としては、この論点についてはこの程度ということにさせていただきまして、次に、「論点整理(案)」「5 再審請求事件の管轄裁判所」、具体的には、「再審請求事件の管轄裁判所を確定審の第一審裁判所とするか」について審議を行いたいと思います。この事項につきましてはおおむね20分間、午前11時35分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   御意見等のある方は挙手をお願いいたします。 ○成瀬幹事 議論を始める前提として、日本弁護士連合会改正案の趣旨についてお尋ねをしたいと思います。   日本弁護士連合会改正案の第438条ただし書では、原判決をした裁判所が高等裁判所や最高裁判所である場合に、再審請求事件の管轄裁判所を確定審の第一審裁判所とする旨が規定されていますが、その趣旨について、どなたか説明して頂けますでしょうか。 ○田岡幹事 日弁連改正案の趣旨について、御説明いたします。   現行法の438条は、再審請求は原判決をした裁判所がこれを管轄すると定めておりますので、現在は確定判決を言い渡した裁判所と同じ審級の裁判所が再審請求事件の管轄裁判所になります。   しかし、上告審はそもそも現行法上法律審でありますし、控訴審は事実審と法律審の性格を併せ持っておりますが、事後審として関与するわけであり、第一審と同じような立場で事実審理を行うことに適しているとはいえません。   再審請求事件では、裁判所が再審理由の適否を審査するために再審請求人の主張を明確にさせたり、あるいは新証拠を取り調べたり、さらには裁判所不提出記録を検察官から取り寄せて、それを弁護人に閲覧・謄写させ、その上で、もし不服があれば裁定をするといったことが必要になります。こういった事実審理の手続を行うのにふさわしいのは、第一審の裁判所である地方裁判所でありまして、最高裁判所や高等裁判所はこのような審理を普段余り行っていないわけですから、適しているとは言えないのではないかと考えます。   特に、最高裁判所が管轄裁判所になる場合には、不都合が大きいと考えます。   例えば、実際に再審請求がなされてはいないと思いますが、日建土木保険金殺人事件、最高裁第2小法廷平成8年9月20日判決は、被告人は犯行に関与していないとして無罪を主張していた事件でありますが、最高裁判所は、原判決と第一審判決の死刑を破棄し、無期懲役に減軽した、破棄自判をしました。この場合には、最高裁判所が管轄裁判所になりますから、元被告人の方が再審請求をしようとすれば、最高裁判所に対して再審請求をしなければならないということになります。   しかし、最高裁判所は、期日を指定して、再審請求人や弁護人を出席させ、その上で、主張を明確にさせて、事実の取調べを行うといったことは、普段は行っていないことだと思われますので、このような事実審理を行うのには適しているとはいえません。更に問題になりますのは、この最高裁判所が仮に再審請求を棄却したとした場合に、不服申立てがどうなるのかということでありまして、最高裁判所の決定に対する不服申立てが認められないとしますと、別の理由でまた再審請求するしかなくなってしまうという問題があります。このように特に最高裁判所の場合には不都合が大きいのではないかと思われます。   諸外国の立法例を見ますと、ドイツは日本と通常審の上訴制度の審級が異なると理解しておりますけれども、事物管轄を同じくする原判決を行った裁判所以外の裁判所が再審手続を管轄するけれども、ただし、上告審において言い渡された判決に対する再審の申立てについては、その判決に対して上告された裁判所、つまり原裁判所と同じ等級の別の裁判所が行うとされていると認識しておりまして、上告の場合には原裁判所ですから、第一審裁判所が管轄裁判所になると理解をしております。   そうしますと、このようなドイツの規定と我が国の三審制の審級制と合わせて考えたときに、第一審裁判所を管轄裁判所とすることにも合理性があるのではないかと考えます。 ○成瀬幹事 丁寧に御説明くださり、ありがとうございました。   今、田岡幹事が指摘されたとおり、通常審の手続においては、高等裁判所や最高裁判所は事後審や法律審として審理を行います。しかしながら、高等裁判所や最高裁判所が再審請求を受けた場合には、自ら再審請求事由の有無についての審理を行うのであって、その審理や判断の在り方は、地方裁判所や簡易裁判所が再審請求を受けた場合と異なるものではありません。事実の取調べをすることができることも同じです。   「法律審である最高裁判所は、普段、期日を指定して事実の取調べを行ってはいない」と田岡幹事はおっしゃいましたが、最高裁判所が再審請求を受けた場合には、法律上、期日を指定して事実の取調べを行うことが十分に可能であり、必要であれば、実際にも行われるものと理解しております。   また、高等裁判所や最高裁判所の裁判官が経験豊富な法曹等から任命されることに鑑みても、再審請求事件を高等裁判所や最高裁判所が管轄することが、事実認定上の支障を生じさせるとは考え難いでしょう。高等裁判所や最高裁判所の裁判官は、第一審における事実審理の経験も豊富な方が多いので、このようにいえると思います。  したがって、再審請求審としての審理や判断の在り方との関係において、わざわざ再審請求審を第一審の裁判所が管轄することとすべき必要性はないと思われます。   それから、先ほどの田岡幹事の御説明では、最高裁判所が再審請求の管轄裁判所となる場合に、再審請求棄却決定に対する不服申立てができないという点も問題視されていました。すなわち、田岡幹事の御提案には、第一審から開始することで、不服申立ての機会を保障するという趣旨も含まれていると理解したところです。   しかしながら、再審請求審は、有罪の確定判決につき、再審を開始すべき法定の事由が存するか否かを判断する手続であり、再審請求者が当該事由があると主張する確定判決よりも前の審級における事実認定の当否等を問題とするものではありませんので、当該事由の存否の判断については、現行法のように、当該確定判決をした裁判所の審級から開始することが自然であるように思われます。   そもそも、我が国が採用する審級制度は、下級裁判所の裁判について、上級裁判所の審判による救済を求めることを許し、上級裁判所による是正の機会を認めることにより誤りなきを期する趣旨のものであるところ、これは、下級裁判所よりも上級裁判所の方が、基本的に、より正しい判断をすることができるということを前提としているものと考えられます。  仮に、原判決をした裁判所が高等裁判所や最高裁判所であるときに、再審請求審を第一審の裁判所が管轄することとした場合、再審請求審において、高等裁判所や最高裁判所は、常に即時抗告審や特別抗告審を担うこととなり、その性質は事後審・法律審になると考えられます。しかしながら、より正しい判断をすることができると想定されている上級裁判所が自ら再審請求を受けた裁判所として審理を行うこととされている現行法の規律を改めてまで、わざわざ下級裁判所である第一審の裁判所に再審請求の審理を行わせた上で、上級裁判所はその判断の誤りを事後的に審査することにとどめるものとする必要性は見いだせず、相当でもないと思われます。   よって、不服申立ての機会を保障するという趣旨との関係でも、御提案のような改正を行う必要はなく、相当でもないと考えます。 ○江口委員 成瀬幹事の御指摘と重なる部分もございますが、再審請求審につきましては、控訴審や上告審でなされた確定判決に対する審査を、その下級審であり、かつ、破棄を受けた第一審裁判所が行うことの合理性をどこに見いだすのかという、困難な問題があろうかと思っています。   例えばですが、罰金以下の刑に当たる罪などは、簡易裁判所が専属管轄を有しておりますが、簡易裁判所は合議体を構成することができません。そうすると、控訴審や上告審の合議体でなされた確定判決に対する審査に対して、簡易裁判所が単独で審理判断をするということになりますが、そういった判断が合理性を持つものといえるのかというのも、議論の余地があろうかと思います。   また、加えて、再審公判についても、恐らく共に議論になり得るかと思うのですけれども、再審開始決定があった場合、一般に、確定判決を含めて、それまでの訴訟手続が全て消失し、手続を一からやり直すとは考えられておらず、確定判決の確定力だけがなくなって、元の確定審の公判手続を更新する形で手続をスタートさせるという例が多いと思われます。そういたしますと、確定判決を言い渡した裁判所を管轄裁判所とするのが、自然であると考えております。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○後藤委員 ただいま、再審請求審や再審公判を高等裁判所や最高裁判所で行うと、適切に事実審理を行うことができないのではないかという懸念を表明されたところだと思うのですけれども、これについては、困難性はないのではないかと思っております。   まず、再審請求審につきましては、現行の規定上、それが地方裁判所、高等裁判所、最高裁判所のいずれであるかによって、事実の取調べ方法や審理の方式にも違いが生じないということから、適切な事実審理が困難であるという観点から、あえて管轄裁判所を第一審にしなければならないという理由には乏しいのではないかと考えます。   再審公判に関してですが、上告審は経験がないので分かりかねますが、再審公判を控訴審で行ったとしても、必要があれば事実の取調べを行うことができます。事実審理を行う上で問題があるという指摘はこれまでに経験したことがありませんし、そのような指摘を聞いたこともございません。   適切な事実審理が困難であるという観点から、あえて管轄裁判所を第一審にしなければならない理由は乏しいと考えます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○鴨志田委員 今の議論をお聞きしていて、確かに、例えば高裁段階で事実調べをするというようなことについて、それほど支障はないのではないかということは、私も高裁での事実調べ、再審の事実調べを経験していますので、そこは首肯できるところです。   ただ、先ほど田岡幹事が紹介された、最高裁が確定審であるという事件について、もちろん法律上は、最高裁において十分取調べが可能であるとおっしゃいますけれども、やはり元々の最高裁が日頃法律審として機能している実情と、再審における新証拠の明白性判断のために行われること、事実調べ、例えば鑑定が新証拠として出されているときの鑑定人に対する尋問であったり、証拠開示をめぐる様々な訴訟指揮であったり、こういったことを想定したときに、やはり最高裁が請求審になるということには、いろいろと想定し難い問題があるのではないかということと、何といってもやはり、不服申立てが非常に限られてしまうということは、これも否定し難いように思います。   ドイツも上告審の場合には第一審のところに戻るということだとお聞きしていますので、やはりこの問題全体を、全く今のままでいいというようなところで決め打ちをするような形ではなくて、やはりいろいろな場面を想定した上での御議論がされるべきではないかと思った次第です。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。   この論点についはこの程度で、第一巡目としては議論が尽きたということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 次に、「論点整理(案)」「6 再審請求権者の範囲を拡大するか」について審議を行いたいと思います。この事項についてはおおむね20分間、午前11時50分頃までを目途に審議を行いたいと思います。   御意見等のある方は挙手をお願いいたします。 ○鴨志田委員 この論点につきましても、日弁連の方から出させていただいたものですので、私の方から口火を切らせていただきます。   結論としましては、現行法よりも再審請求権者の範囲を拡大すべきであると考えております。   日弁連案では、439条の4号と5号という形で、一つは現行刑訴法439条4号の「有罪の言渡を受けた者が死亡し、また心神喪失の状態に在る場合には、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹」の後に、「有罪の言渡を受けた者からあらかじめ指名を受けた者」というのを加えております。また、第5号として、「第2号乃至前号の規定により再審の請求をする者が存在しない場合には、弁護士会及び日本弁護士連合会」を請求権者とすべきであるという規定ぶりにしております。   御承知のとおり、現行刑訴法では、435条の1号でまず検察官、2号で有罪の言渡しを受けた本人、3号で有罪の言渡しを受けた者の法定代理人及び保佐人、4号は先ほど申し上げたとおり、ということになっているのですが、いわゆる本人、有罪の言渡しを受けた再審請求人が死亡し、また心神喪失の状態になった場合には、その配偶者、直系の親族、兄弟姉妹の協力を得られなければ、再審請求ができないという状況になります。また、有罪の言渡しを受けた者が死亡又は心神喪失となった場合で、更にその再審請求権者に該当する配偶者や一定の親族が死亡したり心神喪失の状態になった場合には、再審請求を行うことができる者がいなくなるという問題が生じます。   一方、有罪判決を受けた者の親族は、事件発生当時から犯罪者の身内として世間の冷たい目にさらされており、その身分関係を隠して生活していることが少なくないです。そのため、有罪の言渡しを受けた者が死亡し、又は心神喪失の状態になったとしても、その親族が再審請求権者として名のりを上げ再審の請求を行うということは、非常に困難を伴う状態が多いということがございます。   再審請求人が不在となって再審請求を継続できなくなったケースや、今後の継続に困難が予想される事例については、本日提出をさせていただきました一覧表、「再審請求権者に関する問題点」の中に8事例を挙げているところでございます。中には、非常に高齢化が進んでおりまして、現状では何とか再審請求が成り立っていますけれども、今現在再審の請求を行っている者が亡くなった場合には、実際にそれを継ぐ人間がいなくなるという事件が、少なからず存在しているということです。   そこで、一定の親族というところだけになっている現行刑訴法の4号に「有罪判決を受けた者からあらかじめ指名を受けた者」というものも含めるべきことを提案しています。具体的には、例えば死刑の再審事件の場合に、その死刑囚と特別に面会を許された支援者といったような、親族関係はなくても非常に密接な関係を持っている方々がいらっしゃると承知をしております。こういった者を想定しております。   また、確定判決が誤りである蓋然性が極めて高いにもかかわらず、439条の2号から4号に該当する再審請求権者が存在しないために、再審請求が現実にできないという状況になった場合には、もちろん法的には、同条第1号、最初に上がっている請求権者は検察官でございますので、検察官が公益の代表者として再審請求を行うことがもとより可能です。しかし、鴨志田が今提出させていただいた資料にある菊池事件、国賠請求判決を先ほど紹介しましたが、この事案は検察官に対して再審請求を行ってほしいということを繰り返し要望したものの、拒否されたということで、これを契機として国家賠償請求が提起されたという経緯があります。請求は棄却で終わっておりますけれども、検察官が公益の代表者として再審請求すべきだということを、弁護団や支援者が要望したにもかかわらず、それが認められなかったということが、現実問題として存在したわけです。   そこで、刑事訴訟法439条第1項第4号に、先ほど申し上げた、あらかじめ指名を受けた者を追加したわけですけれども、更に5号として、検察官が実際には再審請求を行うという形を期待できないような場合に、同様に公益的な立場にある者として日弁連や各弁護士会に再審請求権を付与すると、社会的な正義の実現又はその有罪の言渡しを受けた者の名誉の回復という公益的な立場で、再審請求人として認めるべきではないかという、そういう意見になります。 ○大澤部会長 ほかに御発言ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 私は、まず日本弁護士連合会改正案の第439条第1項第4号について意見を申し上げたいと思います。   第4号では、有罪の言渡しを受けた者が死亡し、又は心神喪失の状態にある場合について、現行法に規定されている「配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹」に加えて、「有罪の言渡しを受けた者からあらかじめ指名を受けた者」にも再審請求権を認めることとされています。   その法律構成については、以下の二つが考えられます。第1は代理構成、すなわち、指名を受けた者が有罪の言渡しを受けた者を代理して再審請求権を行使するものとする構成であり、第2は権利承継構成、すなわち、指名を受けた者が有罪の言渡しを受けた者から再審請求権を引き継いで行使するものとする構成です。   もっとも、現行制度において、刑事手続上の権利の行使に関し、弁護人以外の個人に任意で代理権を授与したり、刑事手続上の権利を他者に任意で承継させたりすることができるとされている例はないと思います。加えて、第1の代理構成については、民法上、代理権は本人の死亡によって消滅するとされていることからすると、有罪の言渡しを受けた者が死亡した場合に、その再審請求権を代理行使することは困難であると考えられます。   このように、有罪の言渡しを受けた者からあらかじめ指名を受けた者に再審請求権を認めることについては、法的な課題が多いように思われます。 ○江口委員 日本弁護士連合会改正案によりますと、「有罪の言渡しを受けた者からあらかじめ指名を受けた者」は再審請求ができるということが規定されております。現場の立場として、ほかの現行刑事訴訟法の規定との整合性というのを考えますと、現行刑事訴訟法では、被告人らが代理人等を通じて権利等を行使することにつき、どのような場合に許容されるのか、どのような者が代理人等になれるのかについて、明確な規定が設けられているところでございます。   しかしながら、日本弁護士連合会改正案のように、再審請求者たる地位を、有罪の言渡しを受けた者が、その対象者等も全く無限定に、指名という行為で生じさせることができるとすることは、刑事訴訟法の代理等に関するほかの規定との整合性から大きな疑問がございます。また、再審請求権者について更に申し上げますと、従前の申立権者は戸籍等から客観的に把握できる者でございました。ただ、指名を受けたか否かという話になりますと、客観的な証拠に残っていない場合も想定されるところでございます。   例えばではございますが、別々の者が前後して、同一理由に基づき再審請求を行った場合に、同一の理由による再審請求が禁じられているということも踏まえますと、そもそも各請求者が本当に指名を受けたのかどうかや、有罪の言渡しを受けた者が、例えば、後に片方の者については指名を取り消したのではないかということなどが深刻に争われ、本筋とは離れたところで再審請求審が混乱し、長期化するということも懸念されるところでございます。   再審請求者の範囲を明確にするという観点からは、この点は慎重に検討すべき問題であると考えております。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○池田委員 現行規定の趣旨を考えてみますと、現在一定の者に制限されている理由は、その有罪の言渡しを受けた者の名誉を回復するために必要であるということを前提としつつ、他方で刑事補償を受け得るなどの法律上の利益が認められ得る範囲に限定するという観点から、これらの者に再審請求権を認めていると考えられますので、その範囲を拡大して、有罪の言渡しを受けた者から単に指名を受けたというだけで、再審請求権を認めるということについては、その必要性及び相当性について、慎重な検討を要するものと考えられます。   また刑事訴訟法上の他の規定との整合性ということで言いますと、例えば、死者自身の名誉を保護法益とすると考えられる死者に対する名誉毀損罪の告訴権者について、死者の親族又は子孫と定めておりまして、死者自身の名誉との関係で犯人の処罰を求めることができる者を一定の範囲に限定しています。したがって、同じく死者自身の名誉のために権利を行使する再審請求の場面において、本人から指名を受けたというだけで、何らの固有の利益を有しない者にまで請求権者の範囲を広げることについては、同じ刑事訴訟法における取扱いの統一性や整合性という観点から、問題があると考えております。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○成瀬幹事 鴨志田委員の先ほどの御提案では、検察官以外の再審請求権者が存在しない場合には、日本弁護士連合会改正案第439条第1項第5号によって、弁護士会及び日本弁護士連合会に再審請求権を認めるべきとのことでした。   そこで、鴨志田委員に質問させて頂きたいのですが、我が国の現行法において、手続上の請求権者や申立権者が存在しない場合に、弁護士会や日本弁護士連合会に請求権等を認めている制度はあるのかという点について、もし御存知であれば教えていただければと思います。 ○鴨志田委員 今ちょっとすぐにこう、あるとかないとかいうことは断言できないというところです。刑事関係で思いつく限りはないと思いますけれども、それ以外のものについてはちょっと、私の今の知識の中で確答できないので、そこはちょっと保留させていただければと思います。 ○成瀬幹事 御回答いただき、ありがとうございました、突然の質問で申し訳ありません。   少なくとも、我が国の現行制度をモデルにして提案されているわけではないということは理解できましたので、そのことを前提に、私の意見を申し上げたいと思います。   まず、検察官については、刑事訴訟法第439条第1項第1号において再審請求権が認められており、有罪の言渡しを受けた者が生存しており、かつ、再審請求をすることがその者の意思に反していたとしても、検察官独自の判断で再審請求をすることができるとされています。このように、検察官に固有の再審請求権が認められている趣旨は、検察官は、検察庁法第4条において、「公益の代表者」として、刑事事件において「裁判所に法の正当な適用を請求」する権限を有するとともに、その義務をも負っており、被告人であった者の正当な権利利益を擁護すべき立場にあるためであるとされています。   これに対し、弁護士会及び日本弁護士連合会は、弁護士法第31条第1項及び第45条第2項により、弁護士等の「指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする」団体とされ、また、弁護士会や日本弁護士連合会を構成する弁護士は、弁護士法第3条第1項により、「当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件(等)の法律事務を行う」ものとされているにとどまり、検察官のような公益の維持・実現を責務とする旨の規定は見当たりませんでした。  もとより、弁護士会や日本弁護士連合会は、一定の公益性を有する団体であると認識しておりますが、今申し上げたとおり、検察官と弁護士会・日本弁護士連合会とでは法的な立場や位置付けが大きく異なるため、検察官と同様に固有の再審請求権を認めることは困難であるように思われます。   そうすると、そのような弁護士会や日本弁護士連合会について、仮に再審請求権を認めることとする場合、その法的構成は、先ほど申し上げた代理構成と権利承継構成、すなわち、有罪の言渡しを受けた者を代理して再審請求権を行使する、あるいは、有罪の言渡しを受けた者から再審請求権を引き継いで行使する、という二つ以外には考え難いところですが、いずれの構成についても法的な課題があることは先ほど申し上げたとおりです。   以上のことから、現行法において、手続上の請求権者等が存在しない場合に、弁護士会や日本弁護士連合会に請求権等を認めている例が見つけられていない中で、再審の場面において弁護士会や日本弁護士連合会に再審請求権を認めることについては、慎重な検討を要すると考えます。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○田岡幹事 御指摘がありましたように、確かに4号や5号を認めますと、再審請求権者の範囲が広がるという問題があることは、否定できないと思われます。  ただ、他方で必要性がないかと言われますと、鴨志田委員がまとめられた「再審請求者に関する問題点」のように、現実に再審請求人が再審を請求しており、再審開始事由が認められた可能性があったのに、本人や親族が亡くなってしまうと、仮に、再審開始事由があることが明らかになったとしても、検察官が再審請求をしなければ再審開始が認められないというのは、やはり不合理であるようにも思われます。   この部会の委員、幹事宛に届いた要望書や意見書の中にも、野田事件の弁護団、救援会から意見書が出ておりました。袴田事件では御本人が心神喪失の状態になったために、お姉さんのひで子さんの協力を得られたからこそ再審請求ができた。現在野田事件でも御親族の協力を得て再審請求をしているけれども、御親族は高齢であり、仮にもしものことがあれば再審請求ができなくなってしまうといった切実な訴えがなされておりました。   本来は検察官が適切に再審請求を行うような制度にするか、あるいは検察官に代わる立場の国の機関などが再審請求を行う制度があればいいんですけれども、検察官は確定審において有罪を主張していた立場でありますから、その誤りを自ら認めるということはなかなか難しいと思われますし、また再審請求手続においても、当事者ではないけれども、当事者的な立場で再審理由を争う立場になりますから、検察官が自ら再審請求をするということは、なかなか期待し難いところがあると思います。   そもそもなぜこのような問題が生じるかということを考えますと、やはり再審請求手続に時間が掛かり過ぎるということが背景にあるのではないでしょうか。仮に再審請求手続が迅速に審理されて、隠されていた証拠が速やかに開示されて再審開始に至っていれば、御本人が高齢化して亡くなったり、あるいは親族がいなくなるといった事態は生じないわけですけれども、例えば菊池事件は、1953年の判決の事件なのですが、検察官に対して再審請求を行うも再審請求はなされず、2021年に遺族が匿名の再審請求を行うまでに相当な時間が経っております。袴田事件でも、相当な時間が掛かっております。   このように再審請求手続に時間が掛かってしまったために、再審請求ができなくなってしまうといった事態が現実に生じていることを踏まえますと、その範囲をどこまで広げるかはともかくとしまして、現行法の規定では、不都合があるといった事実があることは認めざるを得ないのではないかなと考えております。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。 ○山本委員 5号に関してなんですけれども、弁護士法1条の1項が、弁護士は基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とすると規定されておりまして、それも一応根拠になるのかなと思いました。 ○大澤部会長 更に御発言ございますでしょうか。   この枠も予定の時間を迎えておりますが、更にこの際ということで御発言があれば承りたいと存じますが、よろしいでしょうか。              (一同異議なし)   ○大澤部会長 予定した全体の時間もまいりましたので、本日の審議はここまでにしたいと思います。   次回は「論点整理(案)」「7 弁護人による援助」の「(1)再審請求審又はその準備段階における国選弁護制度を創設するか」から審議を行うこととしたいと思います。次回会議において、どの項目まで審議を行うかにつきましては、期日間に事務当局を通じてお伝えをさせていただくことにします。   本日の会議における御発言の中で、特に公開に適さない内容にわたるものはなかったと理解しておりますけれども、具体的事件に関する御発言等もございましたので、非公開とすべき部分があるかどうか精査をした上で、そのような部分があるという場合には、御発言なさった方の御意向なども確認した上で該当部分を非公開にする処理をしたいと存じます。 それらの具体的な範囲や議事録上の記載方法につきましては、部会長である私に御一任いただくということでよろしいでしょうか。              (一同異議なし) ○大澤部会長 次回の日程について、事務当局から御説明をお願いします。 ○今井幹事 次回の第7回会議は、令和7年9月22日月曜日の午後1時30分からを予定しております。また次々回の第8回会議につきましては、令和7年10月14日午前9時30分からを予定しております。詳細につきましては、別途御案内申し上げます。   ○大澤部会長 本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-