法制審議会 会社法制 (株式・株主総会等関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時 令和7年8月27日(水)    自 午後0時59分                        至 午後5時05分 第2 場 所 法務省地下1階 大会議室 第3 議 題 企業統治の在り方に関する規律の見直しに関する論点及びその他の論点の検討 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○神作部会長 それでは、皆様おそろいでございますので、ただいまから法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第5回会議を開催いたします。   本日も皆様、御多忙の中、また大変暑い中、御出席いただきまして誠にありがとうございます。   本日もウェブ会議の方法を併用して議事を進めることといたします。初めに、事務当局からウェブ会議に関する注意事項の御案内を御説明ください。お願いいたします。 ○宇野幹事 事務当局より御説明差し上げます。ウェブ会議を通じて御参加されている皆様につきましては、発言される際を除きマイク機能をオフにしていただきますよう御協力をお願いいたします。御質問がある場合や審議において御発言される場合は、画面に表示されている手を挙げるの機能をお使いください。指名がされましたらマイクをオンにして御発言ください。御発言が終わりましたらマイクをオフにし、また、画面の挙手ボタンを再度押して挙手を下げていただきますようお願いいたします。なお、御発言の際はお名前をおっしゃってから発言されるようお願いいたします。会議室にお集まりの方々におかれましても、ウェブ会議の方法で出席されている皆様にはこちらの会議室の様子が伝わりにくいため、お名前をおっしゃってからの御発言に御協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   本日の会議の出欠状況についてでございますけれども、本日は家原幹事が御欠席と伺っております。   次に、本日の審議に入る前に、事務当局から配付資料の御説明を頂きます。よろしくお願いいたします。 ○宇野幹事 配付資料について御確認いただきたいと思います。   まず、部会資料5「企業統治の在り方に関する規律の見直しに関する論点及びその他の論点の検討」がございます。こちらについては後ほど審議の中で事務当局から御説明をさせていただきます。   次に、参考資料15「有価証券報告書の総会前開示について」は、金融庁の小長谷幹事から御提出があったものでございます。この資料につきましては、後ほど小長谷幹事に御説明いただきます。   最後に、参考資料16「企業統治の在り方に関する論点及びその他の論点について」は、経済産業省の鮫島幹事から御提出があったものでございます。この資料につきましては、後ほど鮫島幹事に御説明を頂きます。   配付資料の御紹介は以上でございます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   それでは、本日の審議に入りたいと存じます。   初めに、事務当局から部会資料5についての御説明をお願いいたします。 ○宇野幹事 部会資料5について御説明を致します。部会資料5は、諮問事項に掲げられた三つの大きなテーマのうち三つ目の「企業統治の在り方」に関する規律の見直しと、その他の論点に関する検討を行うものでございます。   まず、1ページ目の第1では「指名委員会等設置会社制度の見直し」を検討事項として掲げております。1ページ目では総論的な問題提起をさせていただきまして、2ページ目以降に具体的な検討事項を記載しております。   2ページ目の「1 指名委員会の権限の見直し」では、指名委員会等設置会社において取締役の過半数が社外取締役である場合は、指名委員会の決定の内容を取締役会の決議により変更することができる旨の規律を設けることについて、どのように考えるかとの問題提起をしております。   次に、3ページ目の「2 監査委員会の権限等の見直し」では、監査委員会に関して第1回会議で御指摘のあった事項についての問題提起をしておりまして、具体的には、監査委員会の議事録について、取締役であれば監査委員でなくとも閲覧等が認められることの見直し、監査委員会には監査委員となることが予定されている取締役の選任に関する議案についての同意権及び提案権がないこと等に関する見直し、指名委員会等設置会社において常勤の監査委員や監査委員会の職務を補助する常勤の者の設置が義務付けられていないことに関する見直しについて問題提起をしております。   さらに、5ページ目以下の「3 モニタリング・モデルをより強く指向する会社のための機関形態としての見直し」では、第1回会議におきまして、モニタリング・モデルがどう在るべきなのかという観点に立ち返った上で、現在の社外取締役の選任状況等を踏まえて、その在り方や位置付けを整理するべきであるとの御指摘があったことなどを踏まえまして、指名委員会等設置会社制度をモニタリング・モデルをより強く指向する会社のための機関形態として位置付けた上で、そのために必要な見直しについて検討をするものでございます。   第1回会議でも御指摘があったとおり、指名委員会等設置会社においては、端的に取締役の過半数が社外取締役であることを義務付けるということも考えられますものの、取締役会全体で取締役の過半数が社外取締役であることを義務付ける場合には、取締役会と各委員会の権限分配をどのように整理するのか、そもそも各委員会の設置を義務付ける必要があるのかなど、指名委員会等設置会社制度についての部分的な見直しではなく全体的な見直しを検討する必要があるものとも考えられ、そのような点も踏まえて御意見を頂ければと思います。   次に、9ページ目、第2では「役員等の責任に関する規律の見直し」として、二つの検討事項を掲げております。   一つ目は、責任限定契約制度の見直しでございます。責任限定契約について、第1回会議では、業務執行取締役等である取締役と株式会社との間の責任限定契約の締結を認めるべきであるとの御指摘があった一方で、業務執行取締役等である取締役に責任限定契約の締結を認めることは、これまで人材確保のためと説明されてきた責任限定契約制度の趣旨そのものを変えることになるという御指摘もあったところでございます。制度の趣旨そのものを見直すことの適否につきましては、その必要性及び許容性の観点から検討するということが考えられますところ、必要性としては、グローバルに優秀な経営人材の確保、経営陣による適切なリスクテイクの促進、適切な責任分担という観点等がこれまで指摘されているところでございます。また、許容性としては、民事責任の機能である抑止機能及び損害塡補機能が制限されることが許容されるのかといった点を検討する必要があるものと考えております。   二つ目は、12ページ目の「株主代表訴訟制度の見直し」についてでございます。株主代表訴訟につきましては、株式会社の利益に反する訴えが提起されているとの指摘や、提訴の要件を厳格化するべきであるとの指摘があるところでございます。もっとも、まずは現行法の株主代表訴訟に関する要件により実際にどのような問題が生じているのかを確認する必要があると考えております。この点につきまして、12ページ目の表とグラフのとおり、株主代表訴訟の年間新受件数は令和2年以降は5年連続で50件を下回っているとのことでございます。また、株主代表訴訟の要件の厳格化につきましては、過去の法制審議会においても複数回検討されたものの実現には至らなかったという経緯も踏まえる必要があると考えております。   最後、13ページ目の第3では「有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた規律の見直し」という検討事項を掲げております。有価証券報告書の総会前開示につきましては、後ほど小長谷幹事からも御説明いただきますけれども、その有用性を指摘する声があり、直近でも進展の動きがあるところでございます。   もっとも14ページ目のとおり、現行法上、株式会社が有価証券報告書の総会前開示をすることに関する直接的な法律上の制約はないものと考えられ、むしろ実務上の課題の解決に向けて、15ページ目に記載したような勉強会や相談窓口の設置などの取組が進められているところでございます。そのため、有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた会社法制に関する規律の見直しを検討するに当たっては、これらの状況も踏まえつつ、規律の見直しの具体的な内容、必要性、実務上の取組による解決の可否等について検討する必要があるものと考えられます。   その上で、このような見直しとしては、事業報告等と有価証券報告書の開示事項の相違点、16ページの参考図のBの部分でございますけれども、この部分についてどのように対応するかが問題となると思われます。この点の対応につきましては、第1の方向性として、有価証券報告書の総会前開示をする場合に限りBの部分に含まれる事項について開示を不要とすることが考えられますが、そのことの当否について検討する必要があるものと思われます。また、第2の方向性として、Bの部分に含まれる事項をなくすということも考えられ、この方向性による場合には、上場会社は有価証券報告書を作成することによりまして、同時に事業報告等の作成に関する会社法上の要請をも満たすことができるということとなりまして、事業報告等及び有価証券報告書の開示事項の相違点があることによる上場会社の負担が解消されるとも考えられるところでございます。   さらに、18ページ目に記載したとおり、有価証券報告書の総会前開示をする株式会社においては事業報告等を作成しなくともよいものとする、いわゆる開示書類の一本化ということも考えられるところでございます。もっとも、飽くまで開示事項の相違点についての対応をすることが前提となりますけれども、その前提が達成できるのであれば、有価証券報告書をきちんと作成すれば自動的にその書類は事業報告等でもあるということになりまして、企業は有価証券報告書について事業報告等の開示事項をも満たしているかという、現行では必要となっている確認の手間はなくなると思われます。これらを踏まえまして、開示書類の一本化の見直しに係る具体的な必要性があるかどうかについても検討する必要があるものと考えられます。   以上のほか、有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた会社法の規律の見直しについては、19ページの(4)に記載した指摘もされているところでございますけれども、これを踏まえた会社法制の規律の見直しについて、計算書類及び事業報告並びに連結計算書類の作成に関する規律の見直しを含め、どのように考えるのかとの問題提起をさせていただいているところでございます。   駆け足でしたけれども、部会資料5の説明は以上でございます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   続きまして、参考資料15につきまして小長谷幹事から御説明をお願いいたします。 ○小長谷幹事 私からは資料に沿って、有価証券報告書の総会前開示について金融庁はじめ関係省庁の取組を御説明申し上げます。   資料の2ページを御覧ください。有価証券報告書については近年、コーポレートガバナンスの観点などから投資判断に必要な情報の拡充が図られてまいりました。足元ではサステナビリティ開示基準に基づく開示の導入も金融審議会で検討されているところでございます。このような記載事項の拡充によりまして、投資家の意思決定のための有価証券報告書の重要性は増していると考えられますけれども、企業と投資家の建設的な対話の更なる充実のため、有価証券報告書による情報開示が定時株主総会前になされることの必要性も高まっているというところでございます。また、株主総会の後に有価証券報告書を開示するという運用は我が国独自のものでありまして、企業開示の質と適時性を高める観点から、後ほど御紹介するとおり、特に海外の機関投資家から株主総会前の開示を求める声が高まっているところでございます。情報開示を充実させる各企業の御努力が、有価証券報告書が株主総会前に行われていないことをもって十分に評価されていないとも考えられるところでございます。   次に、資料の3ページを御覧ください。こちらは2024年3月期の状況でございますけれども、有価証券報告書を定時株主総会前に開示している上場企業は比率にして1.8%と少数でございまして、総会同日又は翌日に開示する企業が8割以上を占めるという状況にございました。また、このスライドの下の方にございますとおり、総会前開示を行っている場合であっても数日前であることが多くて、1週間以上前の開示を行っている会社は18社という状況でございました。   次に、4ページを御覧ください。諸外国に目を向けますと、金融庁として網羅的に調査できているものではないのですけれども、調べた限り英、米、独、仏の状況をここに並べておりますが、そこにおいては日本の有価証券報告書に相当する年次報告書は株主総会から数か月前に開示されているものと承知しております。   次に、5ページ、6ページでございます。このような諸外国の状況を踏まえまして、海外の機関投資家からは、エンゲージメントや議決権行使を含むスチュワードシップ活動の観点で、有価証券報告書を株主総会前に開示する要望があったところでございます。具体的には、このスライドにございますとおり、例えば日本の現在の慣行は有価証券報告書が株主総会後に開示される唯一の市場であり、極めて異例で対話の妨げとなっているとか、あるいは政策保有株式に関する情報などを十分に得た上で議決権を行使できるようにすべきであるといった御意見があったところでございます。   次に、7ページを御覧ください。もっとも日本におきましても、先ほど事務局から御説明いただきましたとおり、上場会社が有価証券報告書の総会前開示を行うに当たって現行法制上の制約は基本的にないものと承知しております。金融商品取引法上、有価証券報告書の提出期限は事業年度経過後3か月以内とされておりまして、また、会社法上、株主総会は基準日から3か月以内に開催する必要があるとされているところでございます。こうした中で、日本ではほぼ全ての上場企業が定時株主総会の基準日を事業年度末日、すなわち決算日に設定しておりますが、これは法の求めているところではございません。   次に、8ページを御覧ください。このような状況を踏まえまして、金融庁では昨年12月から本年6月に掛けまして、有価証券報告書の定時株主総会前の開示に向けた環境整備に関する連絡協議会という協議会におきまして、総会前開示に係る課題及び具体的な施策について実務的な検討を行うとともに、本年3月には金融担当大臣名で全上場会社に対しまして、「株主総会前の適切な情報提供について」と題する要請を発出させていただいたところでございます。この要請は、有価証券報告書の提出は株主総会の3週間以上前が最も望ましいことを示しつつ、企業の実務負担にも考慮しまして、また、総会前開示に係る慣行の醸成も重要であることから、取組を進めるための第一歩として、まずは有価証券報告書を株主総会の前日ないし数日前に提出することの検討をお願いしたものとなっております。   次に、9ページを御覧ください。今御説明申し上げました大臣要請を受けまして、2025年3月期決算会社で総会前開示を行った会社は57.7%と半数を超えまして、先ほど御説明した前期の1.8%に比べると著しく増加いたしました。東証プライム上場企業で見ますと69.6%が総会前開示を行っております。大部分は大臣要請の文言のとおり、株主総会の前日ないし数日前の提出ということになっておりますが、1週間以上前に開示を行った会社も44社に増加しているところでございます。   次に、10ページを御覧ください。総会前開示を実現する方法としては、こちらにございますとおり大きく四つの方法があるかと考えているところでございます。まず①は、基準日を決算日に設定したまま、実務の工夫によって有価証券報告書の総会前開示を目指そうという類型でございまして、大臣要請を受けた2025年3月期の総会前開示企業では、1社を除き全企業がこちらの方法によっていると考えられるところでございます。   ②は、①と同様に基準日を決算日に設定したままで、実務の工夫を更に推し進めた結果、有価証券報告書の開示時期が総会の3週間以上前となった類型でございまして、これにより有価証券報告書と事業報告等との一体開示、すなわち両者を一体の書類として作成、開示することも可能となるものと考えられます。ただ、この類型におきましては、決算日から有価証券報告書の開示までの期間が現行実務より数週間早まることとなりますので、十分な監査期間の確保などには懸念があるところでございまして、多数の企業がこの方法を採用するのは実務的には難しい面もあるのかなと考えております。   ③と④でございますが、いずれも株主総会に係る議決権基準日を決算日に設定していない点では共通しておりますが、現行のスケジュールと比べて、③は議決権基準日と総会開催日を後ろ倒す、④は決算期を前倒す点で違いがございます。③、④においても、有価証券報告書の開示が総会より3週間以上前になれば事業報告等との一体開示が可能となるものと考えられます。   金融庁といたしましては、投資家の声や有価証券報告書と事業報告等との一体開示の可能性を踏まえ、有価証券報告書は株主総会の3週間以上前に開示されることが望ましいと考えております。その際、ここに挙げた②から④のいずれの方法によって総会前開示を実現するかは各企業の任意によるところだと考えておりますが、多数の企業が②の方法を採用することには実務的な困難もあると考えられますことから、③又は④の方法によることが現実的であるものと考えております。   次に、11ページから16ページでは、前の10ページで掲げた③の方法、すなわち基準日と株主総会開催日を後ろ倒しする方法を採った場合における実務上の課題をまとめております。時間の関係もございますので、一つ一つ御説明することは省略させていただきますが、例えば11ページで指摘されているのは役員人事への影響、次に12ページでございますが、第1四半期の開示業務との重複、また、後発事象期間との関係、資料14ページにございますのは、総会開催時期と気候、また、他社事例がないという点、15ページでございますが、配当の権利確定や支払の時期が遅くなる、16ページでございますが、定款変更議案について投資家から反対される、また株主名簿確定のコストが複数回掛かる等々の課題が指摘されておりまして、現時点で考えられる対策などを挙げているところでございます。   最後に、17ページを御覧ください。こちらは金融庁が先ほど御紹介した連絡協議会におきまして、本年6月に今後の取組方針として示したものでございます。上場会社の取組の支援、上場会社に対する要請、周知の実施、制度面の対応を組み合わせて、企業の対応状況を把握しつつ、総会開催日の後ろ倒しによる総会3週間以上前の有価証券報告書の開示を容易にするための施策の実施等に取り組んでいくことが考えられると結んでおります。   私からの説明は以上でございます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   続きまして、参考資料16について鮫島幹事から御説明をしていただきます。よろしくお願いいたします。 ○鮫島幹事 参考資料16に基づきまして、経済産業省産業組織課から2点、御説明申し上げます。   1点目は、責任限定契約でございます。ここにありますように、企業本来の目的である持続的な成長及び中長期的な企業価値の向上を実現するためには、中長期目線での稼ぐ力の強化に向けた新規の設備投資や人材・研究開発投資、更には大胆な事業再編やM&A等々、攻めの成長投資を行っていく必要がございます。こういった中長期的な投資、更には改革、これは成功は予期できませんので、経営上のリスクを伴う場合もございますが、やはりアニマルスピリットを健全な形で発揮して、スピード感を持って適切にリスクテイクできる環境整備が重要ということでございます。   ただ、経営上のリスクが実現した場合に、その経営者個人が損害を際限なく賠償する義務を負うと、こういった場合には経営者は巨額の賠償リスクにひるんで、リスクを伴う成長投資や経営改革に踏み出せない可能性もございます。この責任限定契約は、悪意や重過失なく任務懈怠責任を負担した場合の上限額を定めるものではございますが、それで個人で負担するリスクの予見可能性を高めるものと考えてございますが、御案内のとおり業務執行取締役等は責任限定契約を締結できないとされてございます。   経産省で開催した「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会、CG研と略させていただきますが、以下のように、適切なリスクテイクを促進する観点から、業務執行取締役等も責任限定契約を締結可能とするべきというふうな意見が出されてございます。例えば、グローバルな外国人材を含めた人材の確保であるとか、また投資、チャレンジを可能にする観点からは、無制限に責任を負担させるのは望ましくない、少なくとも定款変更で大多数の株主の賛同を得ている場合には、法的に一律に禁止する必要はないという御意見がございました。   なお、実際には多くの企業では、過度にリスク回避的とならないようD&O保険を利用している場合がございます。経産省の委託調査では、このD&O保険を締結している上場企業は9割以上存在しているということでございます。ただ、このD&O保険には補償の上限額が定められている場合も多く、リスク軽減できているかという課題も指摘されるところでございます。   また、次のページでございますが、このCG研では、会社に生じた損害に関して株主と取締役経営者との間の適切なリスク配分という観点から、軽過失にすぎない場合でも業務執行取締役に責任を無制限に負担させることは合理的ではないと、そういった意見もございました。もちろん他方では、責任限定契約を締結できるようにすると業務執行の適切性が損なわれかねないといった御指摘もあろうかというふうに考えてございます。そういった考えも踏まえまして、基本的には経営者が過度にリスク回避的とならないような適切な責任分担を実現する観点から、業務執行取締役等も責任限定契約を締結できるようにすべきではないかという考えでございます。   もう1点、株主総会前開示でございます。先ほど金融庁さんからございましたとおり、財務情報であるとか非財務情報、これは株主とのエンゲージメントを行う上での基盤でございまして、そのエンゲージメントを中長期的な企業価値向上につなげるような建設的、実効的なものにすることは重要、そのために分かりやすく有用性の高い形で情報開示することが重要だと基本的に考えてございます。   その上で、これも先ほど御説明があったとおり、会社法に基づく事業報告等及び金融商品取引法に基づく有価証券報告書、更には東証の定めるコーポレートガバナンス報告書等と様々な形式での情報開示がございまして、特に事業報告等と有価証券報告書、これは記載の大部分においては重複してございますが、法制度上は別個のものと、更にはそれぞれ期限が定められているということでございます。このため、実際には別個に作成して別の日に開示するという実務が定着している結果、開示する企業はもちろん株主や投資家の双方で負担が生じている可能性がございます。こういった状況で事業報告等と有価証券報告書、これを一つの書類として同時に開示すること、これによって作成、開示を効率化、合理化することを企業が指向する場合には、それを実施できる環境整備が重要ということでございます。現時点ではこの一体開示を行った企業は存在してございませんので、これを指向する企業に対しては、制度上又は運用上の課題、障壁があれば、その解消に向けた検討が行われることは有益だと考えてございます。 ○神作部会長 御説明どうもありがとうございました。   それでは、部会資料5につきまして、三つのセクションに分けて御議論を頂きたいと存じます。   初めに、部会資料5の「第1 指名委員会等設置会社制度の見直し」について意見交換をしていただきます。御意見のある方は挙手をお願いいたします。 ○久保田委員 まず、指名委員会の権限の見直しについてです。ここで提案されている見直しというのは、現行法を前提にしますと理屈が通っていると思いますので、もし現実のニーズがあるのであれば、見直しをすることはあり得るのではないかと考えています。   ただし、部会資料にも記載されていますとおり、指名委員会の権限について見直しをして取締役の過半数が社外取締役である場合の特則を設けるとしますと、制度が複雑になってしまうという問題があります。また、指名委員会等設置会社制度の本来的な設計理念からしますと、取締役会の構成について、その過半数が社外取締役でなければならないとするのが望ましいということもあります。そのため、実現可能であるならば、指名委員会等設置会社については取締役の過半数が社外取締役であることを義務付けた上で、指名委員会の権限の見直しをするというのがよりよいのではないかと考えています。   さらにその点を置いても、仮に見直しをするとした場合に、私が追加的に手当てを検討すべきであると考えられることが2点ほどあります。まず一つは、取締役が指名委員会の決定を覆したときは、株主がそのこと及び覆した理由を知ることができるようにすべきであると思います。株主がそうした情報を知った上で株主総会に提出された取締役選任議案について議決権行使を行うことにすれば、取締役会が不当な理由によって指名委員会の決定を覆すことは難しくなりますので、今回の見直しは、より正当化しやすくなるであろうと思います。   もう一つ私が気になっていますのは、指名委員会の権限の見直しをして、取締役会が指名委員会の決定を覆すことができるとすると、業務執行者が現在よりも更に取締役、取り分け社外取締役の選解任手続に影響を及ぼし得ることになりかねないという問題があると思います。これはどういうことかといいますと、まず基本的な考え方として、業務執行者が取締役、取り分け社外取締役の選解任手続に影響力を及ぼし得ることは望ましくないと考えられます。なぜなら、業務執行者が取締役の選解任手続に影響を及ぼすことができるとすると、社外取締役が業務執行者にとって都合の悪い発言や行動をした場合に、その報復として当該社外取締役が解任や再任拒否といった人事上の不利益を受ける危険があるからです。実際上そのような危険が現実化することはそう多くないかもしれませんけれども、そのような危険があるということ自体が社外取締役による機能発揮を少なからず妨げるであろうと考えられます。   この点に関連して、現行法上は指名委員会の構成について、社外取締役が過半数を占めればよい、逆に言えば、残りの半数未満については執行役を兼ねる社内取締役でもよいとされています。そこで、大阪大学の津野田先生などによって、我が国でも米国と同様に、指名委員会についても全員社外取締役によって構成されるべきであるとする立法論が有力に主張されており、私はこの立法論に説得力を感じています。ところが今回、指名委員会の構成については現在のまま維持した上で、指名委員会の権限だけを見直して取締役会で指名委員会の決定を覆すことができるとすると、たとえ取締役会のメンバーの過半数が社外取締役であることを要件とした場合でも、状況次第ではありますが、業務執行者が現在よりも更に社外取締役の選解任手続に影響を及ぼし得ることになりかねないと考えています。   そのため、元々指名委員会の構成については見直しをすることが望ましいと考えられるところ、今回、指名委員会の権限の見直しをするのであれば、より一層、指名委員会の構成についても見直しを検討すべきであろうと考えています。具体的には、指名委員会は全員社外取締役によって構成されなければならないとする規制を設けるか、又はそれが現実に難しいということであれば、せめて執行役を兼ねる取締役は指名委員会の委員になってはならないとする規制を設けることを検討することが望ましいと考えています。   次いで、監査委員会の権限等の見直しについてです。まず、監査委員会の議事録の閲覧等が認められる者を制限すること自体には賛成いたします。その上で、どのような者を制限対象にするかが問題になるわけですが、監査委員でない取締役であっても、執行役を兼ねていない取締役や業務執行取締役でない取締役については、閲覧等を認めるべき場合は有り得ますし、また、閲覧等を認めることによって何か問題が生じるわけでもないと考えられます。そのため、監査委員でない取締役であって執行役を兼ねている取締役及び業務執行取締役についてだけ監査委員会の議事録の閲覧等を制限することがよいのではないかと思います。   監査委員の選定及び解職手続については、現行法上、経営上の不正の疑いを指摘した監査委員を取締役会の決議で解職することも可能になっているため、何らかの手当てをすべきであるという問題意識に強く共感いたします。これは、先ほど私が指名委員会の構成について申し上げたことと共通する問題意識であろうと思います。   その上で部会資料では、指名委員会等設置会社において株主総会の決議によって取締役を選任する際に、各委員会の委員に選定されることが予定されている取締役については、その旨を株主総会参考書類の記載事項とすることが提案されています。これは田中委員が第1回会議で示された提案であると思いますが、この提案については、各委員会の委員が不当な人事上の不利益を受けることを防止する効果が一定程度期待できる上に、既に行われている実務でもあり、実務上も受け入れられやすい提案だと思いますので、私も賛成したいと思います。   これに対し部会資料には、こうした提案に対し制度としての一貫性や整合性を欠き望ましくないという考え方もあり得るという旨の記載があります。しかし、株主総会参考書類の記載事項とするのは飽くまで委員人事の予定にすぎません。そして、確かに監査委員を含む各委員会の委員を選定するのは株主総会で新たに選任された取締役によって構成される取締役会ですけれども、この取締役会は株主総会参考書類に記載されたとおりの委員人事を行うことも、それとは違う委員人事を行うこともできるわけです。違う委員人事を行ったときは、その旨及びその理由を何らかの形で株主に開示させることが必要であると思いますが、いずれにせよ株主に開示できるような合理的な理由がある場合に、株主総会参考書類に記載された予定人事とは違う委員人事もできるということは別に不合理なことではありませんから、制度としての一貫性や整合性を欠き望ましくないということにはならないのではないかと思います。   また、これは議論があり得るところかもしれませんが、上記の提案と両立し得るものとして、同様の趣旨を実現するために追加的に監査委員を含む各委員会の委員の候補者について指名委員会の決定事項とする旨の規定を設けることも検討に値するのではないかと思います。この点について、私は実務がどうなっているのかを存じ上げないのですが、各委員会の委員の予定人事につきましても、最終的には取締役会で決定しているとは思いますが、実質的な選定は指名委員会が行っている可能性もあるのではないかという気がしていまして、仮にそうであれば、この提案は実務で行われていることを法制化するものですので、実務に受け入れられる可能性があるのではないかと思っています。また、この場合、社外取締役が過半数である取締役会で各委員会の委員人事に関する指名委員会の決定を覆すことは認められてよいと思いますが、覆す場合は、そのこと及びその理由を株主に開示させることが望ましいであろうと思います。   常勤の監査委員を選定しない場合の常勤の補助者の設置義務について、私は現在の実務上、常勤の監査委員が置かれていない場合でも、常勤の補助者は当然に設置されているのであろうと考えておりました。仮にそうであれば、現行法の規定のままでよいと思うのですが、そうではなく、現在常勤の補助者を設置していない会社が少なくないのであれば、まずはその理由を知りたいと思っています。その上で、その理由が合理的なものであればよいのですが、そうでない場合は常勤の補助者の設置義務を明文で規定するということはあり得るだろうと思います。   最後に、モニタリング・モデルをより強く指向する会社のための機関形態としての見直しについては、実現可能であれば行った方がよいとは思っています。しかし、部会資料にも記載されているとおり、これについては非常に様々な見直しが考えられるところ、それをどこまで行うべきなのかというのは、実現可能性とも関連して非常に悩ましいところであろうと思います。そのため、この見直しに反対するわけではないのですが、今回は優先順位が特に高いと考えられる見直しだけにとどめることもあり得るのではないかと思っています。   具体的には、最初の方でも触れましたし、また部会資料の7ページでも記載されていますような指名委員会の構成の見直しを行うということは、指名委員会の権限の見直しをするかどうかにかかわらず、行うことが望ましいのではないかと思っています。また、取締役会の構成についても、これも最初の方で述べましたとおり、仮に指名委員会の権限の見直しをするのであれば、これはそうした見直しをする場合だけでよいような気がしているのですけれども、取締役の過半数が社外取締役であることの義務付けを行うこともあり得るのではないかと考えています。 ○神作部会長 ありがとうございました。 ○北村委員 まず、部会資料1ページから2ページにかけて説明されておりますように、平成14年当時と現在では社外取締役の選任の状況が異なっておりますので、社外取締役が取締役会構成員の過半数であるという場合に、各委員会の権限を強くする必要はなく、各委員会の決定を取締役会が覆せるようにするという方向で検討するということには一定の合理性があると思っております。   ただ、第1回会議で田中委員が指摘されましたように、指名委員会について、取締役全員を指名委員会の委員にすれば全体の取締役会で候補者を決めることができるというのは正にそのとおりで、報酬委員会についても同じことが言えるわけです。そうすると、問題は取締役の過半数が社外取締役である場合に、あえて指名委員会等設置会社を選択する意味はどこにあるのかということかもしれません。   そこで、部会資料の5ページ以下にありますように、指名委員会等設置会社をモニタリング・モデルをより強く指向する会社のための機関形態と位置付けるという観点からの見直しが検討されるべきではないかと思っております。5ページ以下で述べられている提案は、指名委員会等設置会社では取締役の過半数が社外取締役でなければならないということと、執行役は監査委員会の委員だけではなく指名委員会と報酬委員会の委員にもなれないということです。ただ、取締役と執行役の兼任禁止までは提案されておりませんので、ここでいう提案はいわゆる2層制を目指すものではないということになります。   久保田委員がおっしゃいましたように、指名委員会等設置会社の中で更に取締役が過半数かどうかでカテゴリーを分けるよりも、制度の在り方としては、指名委員会等設置会社は取締役の過半数が社外取締役である会社が選択できる機関設計であるとした方がシンプルかと思います。この点は、監査等委員会設置会社で社外取締役が過半数であれば、重要な業務執行の決定を取締役に委任できることとも整合します。   その場合に、指名委員会や報酬委員会の決定を取締役会が覆せるかどうかということなのですけれども、これにはいろいろなやり方があって、覆した場合は事業報告等で開示するという方向性も考えられますし、あるいは原則として現行どおり覆せないとした上で、覆すことができるようにするためにはその旨定款で定めるという方式もあり得るのではないかと思っております。   このように、指名委員会等設置会社をモニタリング・モデルを強く指向する会社のための機関設計として再編成するということになりますと、部会資料3ページの2の監査委員会の権限等の見直しに記載されている問題、例えば執行役の不正行為を指摘した監査委員を取締役会で解職することができるという弊害も相対的に低くなるということが考えられます。   次に、指名委員会等設置会社の場合は、監査等委員会設置会社と異なり、各委員会メンバーは取締役会で選定、解職します。部会資料では、株主総会に取締役候補者を提案するときに、将来どの委員になるかが予定されている場合は、それを株主総会参考書類等で開示するという方向性が示されております。現行法では、会社法施行規則第74条第4項第3号で、社外取締役候補者についてだけは、取締役に選任されるとどういう役割を期待されるかを株主総会参考書類に記載することになっていまして、指名委員会等設置会社であれば、どの委員になることが期待されるかも書かれるのではないかと思います。これを更に明文化し、かつ社外取締役候補者でない取締役についても明文化するというのは、それほど不自然なことではないと思っております。   現状、指名委員会等設置会社であるが取締役の過半数が社外取締役ではない会社が上場会社では19社あるということです。上場会社以外でも、指名委員会等設置会社を選択している保険相互会社もございます。こういう状況を踏まえた上で、指名委員会等設置会社では取締役の過半数が社外取締役でなければならないという制度にするのであれば、一定の移行期間を検討する必要があると思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○臼井委員 会社としての在るべき姿について、私どもとしては、いわゆるモニタリング・モデル、すなわち取締役会が独立しており経営と監督の分離がなされている、株主は取締役会を承認、任命し、取締役会は経営を監督する形が望ましいと考えております。取締役会は経営陣の業績、構成、報酬等を監督する重要な役割を果たしており、事業運営及び業績に関するリスクに責任を持ちます。さらに、上場会社の取締役は、経営陣が株主の財務的利益を最優先に行動するように監督する最終的な責任を負っており、取締役会による効果的なガバナンスは、平時だけでなく、企業の立て直しなど非連続な変化が起こる際にも非常に重要になってくると考えております。   質の高い取締役会は、過半数の独立社外取締役による監督、適正なスキルや経験、多様性、委員会制による責任の明確化、選出における過半数基準、年次改選といった条件を満たした上で、説明責任を果たすとともに経営陣の報酬を業績に連動させ、規律ある資本配分を行い、株主との積極的な対話を行うものであると位置付けております。もちろん全ての取締役会が現状こうした水準を満たすわけではございませんが、取締役会の構成やその行動が株主の財務的利益にそぐわないと判断した場合には、議決権行使によって取締役の責任を問うというのが、運用会社としての受託者責任であると考えております。   ガバナンスの重要性に関する分析を少し御紹介させていただければと思います。弊社はグローバルに議決権行使を行っておりますが、米国における2017年から2024年の弊社の議決権行使結果に基づく分析では、取締役の選任に関して弊社が反対票を投じた会社は、全ての取締役の選任に対し賛成票を投じた会社に比べて、翌年1年間の株価パフォーマンスが有意に低かったというような結果も出ております。こうした分析からも、取締役への信認度合いはコーポレート・ガバナンス、並びにそれに基づく株価パフォーマンス、企業価値向上の観点から非常に重要な点であると考えております。   これらを踏まえますと、指名委員会等設置会社として指名、報酬、監査各機能の責任が明確であり、かつ取締役会全体において過半数が独立社外取締役であるというのが本来在るべき姿であると我々は考えております。一方、現状は指名委員会等設置会社はプライム市場でおよそ5%程度にとどまっており、相応の大企業であっても指名委員会等設置会社に移行していないのは問題であると考えております。独立社外取締役が過半数を占める会社は現在プライム市場の26%程度まで増えてきているということですので、指名委員会の決定を取締役会で覆せないということが、指名委員会等設置会社への移行においてハードルになっているのではないかとも考えられます。   指名委員会の決定権について、株主にとって最も重要なことは、経営陣の行動が株主の利益と一致しない場合に経営陣を交代させられるということです。指名委員会等設置会社において、取締役会全体では独立過半ではなかったとしても、指名委員会は独立過半であって権限がある、つまり株主が選んだ独立の指名委員会に決定権があるということが非常に重要であると考えております。こうした観点からは、先ほど御指摘があったように、取締役会が独立過半であるのならば指名委員会の決定を覆す権限があってもいいというところには賛同いたしますが、ここは制度の煩雑性というところも踏まえて慎重に議論すべきだと思っております。また、監査委員会の議事録閲覧についても、これも取締役の過半が社外取締役であるならば、閲覧権があることはそれほど問題にはならないのではないのかと考えております。   こうした考え方、つまり取締役会は独立過半であり、かつ形式としては指名委員会等設置会社が望ましいという見方ですけれども、投資先企業とのエンゲージメントの実績からは、必ずしも広まっていないと感じております。改正に当たっては、目指すべき姿は飽くまでも指名委員会等設置会社かつ過半数が独立取締役の取締役会であって、それに続いて言わば発展途上の形態として、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社という形が続くという考え方を明確にすることはできないかと考えております。投資家から見ると、これら三つの形式は並列ではなく、目指すべきもの、本来の理想というのは指名委員会等設置会社、かつ取締役の過半数が独立であるということであります。   現状の分類は、やはり煩雑であるという認識はございまして、コーポレート・ガバナンスの強化、投資家が信頼を持って日本企業に投資できるようにしていくためには、取締役会の独立性強化を始めとした体制整備が重要であると考えております。加えて社外取締役の実効性の強化、これは過半になればおのずと整備に向けた流れになるとも考えられますけれども、例えば事務局の設置など、社外取締役の実際の手足となるような機能整備も進めることで実効性を高めていくような仕組みづくり、こちらについても行われていくべきだと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松中幹事 指名委員会の権限などの委員会の権限を考えてみると、第1の3にあるような指名委員会等設置会社の在り方をどのようにしていくのかという点が、先決の問題のようにも感じられます。もし社外取締役を過半数にして執行役との分離も強化するというのであれば、現状の委員会の権限を見直すというのは極めて自然な話で、かなり見直すのだというような方向にも行くかと思います。他方で、そういう大きな変化は指向しないのだというのであれば、現状の制度からの延長線上で変えられるところだけを見ていくということになるのかなと思います。   その上で、私はもし社外取締役を過半数にして執行役との分離を強化するというのであれば、そもそも委員会の設計自体、権限分配自体をもっと柔軟化してもいいのではないか、こういう問題はここで決めなさいというのを強行法的に定めておく部分自体を減らしてもいいのではないかと思います。そして、指名委員会の権限を考える上でも、社外取締役が全体の過半数であるということが前提とすると、取締役会全体で指名委員会の判断を覆せた方がいいのかどうかというのは、一概にどちらがいいともどちらが悪いともいえないように感じられるのです。   例えば、社外取締役のみで構成された指名委員会の結論に社内取締役が異を唱えて取締役会全体で覆す、これは従来の想定してきたことからすると余りよくない話ではあります。他方で、社長が指名委員として指名委員会に入っていて、そこで非常に強い影響力を及ぼしている、そういう会社で取締役会全体で社外取締役が過半数となって、社内者が変な結論を誘導しているのだという形で覆すのであれば、これは従来考えてきた指名委員会等設置会社の在り方からも正当化できるような場面ではないかと思います。   そういうわけで、昔は社外取締役は全体の過半数ではないのが前提であったわけですが、今は過半数の場合もあればそうでない場合もあるというので、いろいろな状態を想定しなくてはいけないので、制度設計自体がすごく難しい状態になっているのかなと思います。   その上で、もし現状を変えないとしたら、つまり第1の3のようなことをやらないのだとしたら、別に全体で覆せてもおかしいとは全然思わないのですけれども、指名委員会の委員は取締役会全体で選んでいて、いつでも解職できるわけですから、これを交代させずに、首はすげ替えないのだけれども結論だけ変えろということを求められるようにするのがなぜ必要なのかというのは、分かるような分からないようなところがあるということでございます。   続いて、第1の2の監査委員会の権限等の見直しですが、議事録の閲覧については私は提案に賛成であります。監査委員会の議事録の閲覧制限というのは、不正行為をしていると疑われる者自身が、自身についての監査の進捗などについて情報を得る、それは監査の実効性を損ねるわけですから、これを防ぐというのは機関設計にかかわらず考慮すべき問題であると思われます。監査委員会が取締役会の内部機関であるというような立て付けとの関係では、別にそこから直ちに議事録の閲覧権限について何らかのアレンジが論理必然的に導かれるわけでもありません。それから、取締役会と各委員会の連携にしても、似たような機能はほかの会社でも求められるわけでして、余り指名委員会等設置会社だからという特殊性がある問題ではないように思います。   続きまして、監査委員の選定、解職については、今日の議論を伺っていると、確かに飽くまで予定であるという前提で、事前に開示するというのはあり得ることなのかなと思うようになりました。その上で、ただ結局、指名委員会等設置会社の場合は委員の選定、解職は取締役会にあるわけですから、事前の開示はしても全く構わないと思うのですけれども、事後の開示の方がより重要になってくるのではないかと思います。こういう予定ですと言っていて、実際にその予定と違うことをやった場合に、当然、誰が委員になったかは開示されるわけですけれども、その理由などを開示させる。取締役会で決めるので、その権限行使を正当なもの、適正なものにしていくというためには、事後の開示が大事ではないかと思います。その上で、退任するような場合、解職の場合というものについて、監査役や監査等委員と同様の意見陳述権を与えるというのも、もちろん全く構わないというか、必要なのではないかと思います。   最後の常勤の監査委員とそれがいない場合の補助者ですが、いずれについても常勤の意義というのが、より問題になるのではないかと思います。監査委員については、常勤の社外者というのは、もちろん論理的にはあり得るわけですが、どういう状態であればこれに該当するのかというのが、今でも理屈の上には問題になるのですけれども、今以上になるのかなと思います。その上で、仮に監査委員に常勤の者を置く方に誘導することになるのであれば、現実に常勤の社外者という人を確保するのは実際簡単ではないと思いますので、そうすると結局は社内者を置かなければいけないという規律に近付いてしまい、それは指名委員会等設置会社の趣旨として考えてきたことと整合するのかなという疑問は少し残っております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○仁分委員 まず、指名委員会等設置会社以外の機関設計も含めて制度全体を見直すことにつきましては、「会社法制研究会報告書」の134ページに記載のとおり、「実務への影響が極めて大きく、短期間のうちに実現することは、困難であるとともに、相当ではない」と考えられます。その上で、現在上場会社の中で指名委員会等設置会社の機関設計を採用している会社はごく僅かであります。また、経団連の会社法制検討ワーキンググループにおきましても、指名委員会等設置会社である会社とそうでない会社のいずれからも、指名委員会等設置会社制度の見直しを求める意見が寄せられたことはございません。今回あえて指名委員会等設置会社についてのみ見直しを検討する必要性は極めて低いと考えます。   それから、公開大会社で認められている三つの機関設計には優劣はないと考えております。各企業は自らの目的や業種、業態、経営環境等に応じたガバナンス体制を主体的に構築する中で、どの機関設計を選択するのがよいかを判断しております。平成26年の会社法改正により三つの機関設計が規定されて以降、現在も制度間競争が行われ、いまだ市場からの評価も定まっていない中にもかかわらず、あたかも指名委員会等設置会社が監査役会設置会社や監査等委員会設置会社よりも法制度的に優れているかのように考え、指名委員会等設置会社への移行を推奨する方向性で法改正を行うというのであれば、慎重な検討を求めます。   それから、「指名委員会の権限の見直し」につきましては、取締役の過半数が社外取締役である場合に、取締役の選任及び解任に関する議案の内容についての指名委員会の決定の内容を取締役会の決議により変更可能とする案につきましては、現行法においても取締役会は指名委員会の委員を選定する権限を有しており、取締役の全員で選任議案や解任議案の内容を決定すべきであると取締役会が判断した場合には、取締役の全員を会社法上の指名委員会の委員とするなどの方法により対応できます。また、経団連として指名委員会の権限の見直しを求める企業の意見も把握してございません。このような事情から、法改正が必要になる立法事実があるのかの検証をお願いしたいと存じます。   次に、「監査委員会の権限の見直し」に関してでございますけれども、監査委員会は取締役会の内部機関であり、監査委員でない取締役による監査委員会の議事録の閲覧等は、監査委員会に対する取締役会の監督機能の一環として行われるものであります。したがいまして、監査委員でない取締役による閲覧等を認めないとする見直しは行うべきでないと考えます。   監査委員の選定及び解職手続について、こちらも監査委員会は取締役会の内部機関であり、監査委員の選定及び解職を行うのは株主総会ではなく取締役会ですので、監査委員の選定予定者を株主総会参考書類の記載事項とするなどの見直しは不要であると考えます。   常勤の監査委員を選定しない場合の常勤の補助者の設置義務につきまして、部会資料5の5ページに記載のとおり、監査委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人に関する規定が既に存在することから、見直しの必要がないと考えております。   それから、モニタリング・モデルに関してですけれども、モニタリング・モデルを強く指向する会社としては、現行法の下でも機関形態にかかわらず、その判断により取締役の過半数を社外取締役とし、その旨を投資家等に向けて開示することが可能ですので、現行制度による運用上の支障はございません。一方、指名委員会等設置会社について取締役の過半数が社外取締役であることを義務付けると、現在取締役の過半数が社外取締役でない会社に大きな影響が生じることになります。取締役の過半数を社外取締役とするかは各社の判断に委ねられるべきだと考えます。   また、執行役の兼任規制につきましても、見直しは不要と考えます。現行法の下でも、指名委員会及び報酬委員会の委員につきまして執行役との兼任を排した体制を構築することが可能であり、その是非は各社の判断に委ねられるべきと考えます。一方、執行役が各委員会の委員を兼ねてはならないとする規制を設けると、現在、執行役が指名委員会又は報酬委員会の委員を兼任している会社に大きな影響が生じます。以上から、指名委員会等設置会社を、モニタリング・モデルを強く指向する会社のための機関形態として位置付ける見直しは不要と考えます。企業側からの見直しを求める声も聞こえていない中で、このような見直しを行うことには疑問を感じます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○行岡幹事 私からは大きく2点申し上げたいと思います。   まず1点目は、部会資料の第1の1及び第1の3に関連するところでございます。私としては、部会資料の「指名委員会の権限の見直し」及び「モニタリング・モデルをより強く指向する会社のための機関形態についての見直し」という各項目に書かれている内容には強く共感するところでございまして、中長期的にはこのような方向性で指名委員会等設置会社の制度を見直していくことが望ましいのではないかと考えています。   ただ、他方で現在の上場会社の取締役会の構成、取り分け指名委員会等設置会社においても社外取締役が過半数であるものとそうでないものがあることに鑑みますと、指名委員会等設置会社の中でも取締役会の役割あるいは取締役会と委員会との権限分配についてどのように考えるかにつき、様々な考え方が併存している状態なのだと思われます。今後それがどのように推移していくか分からない現在の時点において、第1の1及び第1の3に記載されているような法改正をすることが果たして適切なのか、慎重に考える必要があるのではないかと思います。すなわち、現在の時点で法改正の形で手当てすることで、その改正が中途半端なものになってしまったり、あるいは過度に複雑な制度になってしまうというおそれもあるのではないかと懸念している次第でございます。   2点目ですけれども、これはやや細かな話になるかもしれませんが、第1の2の監査委員会の権限等の見直しに関する話で、先ほど来、議論になっておりますとおり、監査委員の地位をいかに業務執行者の不当な影響、業務執行者による不当な人事のおそれから守るかということが重要になるという点は、先ほど久保田委員が指摘されたところで、それは私も賛同するところでございます。   この点に関して、今から申し上げることはやや細かいことでありますが、部会資料に記載されておりますとおり、株主総会参考書類の記載事項として取締役候補者がどの委員会に選定されることが予定されているかを記載させるという改正提案には私も賛成なのですけれども、この提案が任期中の解職に対する牽制としてどれだけ意味があるのかというのは、私は率直に言ってよく分からないなと思ったところでございます。すなわち、そのように事前に予定を記載させることで、その予定と異なる選定がなされた場合には一定の説明責任が生じるというのは、そのとおりだと思うのですけれども、任期途中の解職との関連性は乏しいのではないかと思いました。任期中の不当な解職のおそれに対する対処法としては、先ほど松中幹事が指摘されたように、そのような任期中の監査委員の解職等について意見陳述権を与えるというような形で対応することが望ましいのではないか、と思います。この点は部会資料には書かれていない論点だったと思いますので、松中幹事のご提案に賛同する趣旨で発言をさせていただきました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○青委員 指名委員会の権限の見直しに関してですけれども、これまでも議論されているように、本来は機関設計全体を見直しの対象として考えていくべきだと思います。多くの企業の根幹に関わる重要なテーマかと思いますので、やはり総会、取締役会、各取締役、執行役、そこの関係性の再整理等も含めて、全体について時間を掛けながら丁寧に議論を積み重ねていくということが必要ではないかと基本感としては思います。軽々に進めるのは難しいので、早急に見直しが必要な事項について局所的に最低限見直すことは理解できるところではございますが、全体にどういった影響があるかは十分考慮する必要があると思います。   その上での当面の対応としまして、指名委員会等設置会社については、社外取締役が過半数を占めている企業が増えているという環境変化を踏まえて見直しをすることは、あり得るのではないかと思います。具体的には、指名委員会等設置会社のうち、社外取締役が中心になっていて、もちろん、社外取締役が過半数という要件だけで本当に足りるかどうかは検討が必要と思いますけれども、何らかの方法で、取締役会による経営陣の監督というものが十分にワークしていると言える会社については、取締役会が株主意思を最も反映できるよう、経営陣を監督するのに最適な機関であると位置付けることで、取締役会と指名委員会の関係性を変更して、取締役会の方で指名委員会の考えを覆せるとすることも考えられるのではないかと思います。   その際に、指名委員会は少人数で時間を掛けて議論をするということを考えますと、取締役全員が指名委員になることが現実的かどうかは、考慮した方がいいと思いますし、また、指名委員会等設置会社のみ社外取締役の過半数を必須にすると、今度は指名委員会等設置会社というものが選択されにくいですとか、現状、選択している会社が他の形態に移行する可能性も考えられるので、総会の意思を取締役会に反映させる方向に結果として近付くのかどうかは、慎重に考えた方がいいと思います。   また、報酬の関係でございますけれども、もしこのような見直しを指名委員会等設置会社で行う場合、その理由としては、委員会よりも取締役会で株主意思をきちんと反映するという発想かと思いますので、指名委員会のみならず、報酬委員会についても同様に考えるのが論理的に必然ではないかと思います。にもかかわらず、指名委員会のみ変更するとし、報酬については特に見直しに関する意見も出てきていないとすると、何らか報酬委員会に求める機能の在り方がおかしいのか、報酬に関しては取締役会に機能させることを想定していないのかどうかとかいったことが考えられるので、丁寧にケアした方がいいかと思い、やるのであれば両委員会セットで見直さないと、少しおかしな話になるのではないかと思います。   監査委員会の権限について、本来働いてしかるべき監督が十分に機能するように見直していくという方向感は、よく分かるところでありますけれども、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社とでは、それぞれ取締役会と委員会の関係性が異なり、片や指名委員会等設置会社の方は取締役会の内部にある委員会ということになるでしょうし、監査等委員会設置会社の方はそうではないと考えられますので、その違いを考慮する必要があると思います。   したがいまして、監査等委員会設置会社の方と同じ仕組みを導入すべきだとは軽々にはいえなくて、やはり個別にその必要性を慎重に検討すべきではないかと思います。議事録の閲覧について言えば、取締役会が監査委員会含め監督することが期待されている点を踏まえますと、利害関係人を外すということはあるかもしれませんけれども、一律に全ての取締役に対して監査委員会の議事録の閲覧を認めないというのは適当ではないのではないかと思います。   監査委員会の選定、解職につきましても、あらかじめ選定者を参考資料に示すということは、実務上は十分あり得ると思いますけれども、必ずしもそうした手段をとらなければならないとまではいえないのではないかという感触を持つところです。   常勤の監査委員については、現状きちんと補助者が付いていれば対応できるということだと思いますし、松中幹事のおっしゃられたとおり、常勤の監査委員の人選を考えていきますと、難しい面も出てまいりますので、ここは現状維持でよいのではないかと思います。   最後に、モニタリング・モデルを強く指向する会社のための見直しの点でございますけれども、本来的には指名委員会等設置会社であろうと監査役会設置会社であろうと、どの形態であったとしても、いわゆる監督機能を十分に働かせることに重点を置いて議論していくということが重要ではないかと思いまして、例えば取締役会がその総会の意思を代弁することが期待できるような取締役構成であれば、総会決議事項を取締役会権限に委譲するということも考えられるかもしれないとか、幅広く考えるべきではないかと思います。先程も申し上げたとおり、指名委員会等設置会社に限らず、機関設計全体を見直すという方向感で今後議論が重ねられることが必要ではないかと思うところで、更に申し上げますと、社外取締役が過半数を超える取締役会を中心に、どのような監督機能を果たしていけるのかを出発点に、各機関の関係性を再整理をして丁寧に議論していくということが重要だと思います。すぐには難しいと思いますし、実務の進展を見ていく必要もありますので、時間を掛けながら中長期的な目線で議論していくといった対応が重要ではないかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○藤井委員 私からは第1の3の部分のみ、発言をさせていただければと思います。部会資料にもございますとおり、現行の指名委員会等設置会社のうち2割の会社につきましては社外取締役が過半数未満という状況と認識しております。これらの会社も含めて、取締役会全体における社外取締役の比率につきましては、先ほどの仁分委員の御発言にも近いところではありますけれども、各企業の置かれた状況や指向するガバナンスの在り方とそのバランス等様々な検討をした上での結果で、各企業において選択するものと考えておりまして、一律の要請として、社外取締役を過半数にすることを法定化するということは馴染まないのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○加藤幹事 2点コメントいたします。   1点目は、現在における指名委員会等設置会社の意義についてです。指名委員会等設置会社の意義は、本日の部会資料でも説明がありましたとおり、社外取締役を数多く選任することが期待できない状況の中で、社外者による監督の仕組みを上場会社にいかに組み込んでいくかということであったかと思います。しかし、その後の状況の変化により、少なくとも社外取締役の取締役会における役割は増加する傾向にあり、やや乱暴な言い方をすれば、指名委員会等設置会社という機関設計はその役割を終えたとの評価もあり得ます。では指名委員会等設置会社に今どういった役割があるのかということになりますが、例えば、現在社外取締役が過半数を占めている会社がなぜ指名委員会等設置会社のままとどまっているのかということ、つまり、そういった会社が指名委員会等設置会社に何を期待しているのかということが、もう少し明らかになるとよいと考えます。   更に言いますと、先ほどの藤井委員の意見とも重なりますけれども、これから指名委員会等設置会社を選択することを考えている会社にとって、例えば、社外取締役は過半数選任できないけれども社外者によるガバナンスを導入したいという需要はないのかということも若干気になっております。   2点目ですけれども、指名委員会の権限の見直しなどを進めた場合に、ほかの機関設計との比較で、では指名委員会等設置会社の一番の特徴は何になるのかということも考える必要があるかと思います。考えてみますと、報酬の決定権限が株主総会ではなく取締役から構成される委員会にあるということになると思います。そうしますと、報酬の決定権限を株主総会から報酬委員会に移す、ないしは取締役会に移すということを基礎付けるためにどういった要素が必要なのかという視点も必要となると思いました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○内田委員 私の方からは、指名委員会の権限見直しについては、皆様から意見が出たとおり、進めるべきだと思います。社外取締役も増えてきている状況ですし、取締役会が社外取締役の増加によって従来よりは機能することが期待できる状態であって、取締役会で指名委員会の決定を覆すということがあってもいいと思いますし、このタイミングで指名委員会の権限の見直しということが進められるべきかと思います。その上で、法制化に当たっては、条件として独立社外取締役の構成は過半にすべきで、少なくとも指名委員会等設置会社についてはそうすべきだと思います。   そうした場合に、委員会を別に設置しなくてもいいのではないかという議論があると思いますが、それについてはやはり指名・報酬の専門の委員会を設置する意味はあるのだと思っています。指名、報酬、監査ともに専門性を非常に強く求められる委員会でありますし、機微情報を取り扱うということで慎重に議論する場であることを考えますと、やはり少人数で議論するということがある意味、必要になってくるかと思います。その意味では、現行法でも全取締役が指名委員に就任すれば指名委員会と取締役会の齟齬というのはなくなる訳ですけれど、その場合でも実質的には指名委員会の傘下にそういった少人数の専門部会のようなものが恐らく設置されて、そこで議論が進められると想定されます。つまり指名報酬のような部会、委員会においては専門性を持った少人数での審議、答申が必要になるのではないかと思っております。これが指名委員会等についてであります。   それから、監査委員会の権限等の見直しについては、これも進めるべきだと思うわけですが、頂いた部会資料の中で、執行役を兼ねる取締役と業務執行役員については閲覧を認めないという文言が出てきていると思いますが、ここは社内取締役に閲覧を認めないという形に変えた方がいいのではないかと思っております。理由といたしましては、執行役を兼ねないのであれば、取締役であっても、非業務執行の社内取締役であっても、不正に関与する確率というか可能性は少ないということだろうとは思うのですが、このような取締役は往々にして、親会社とか大株主、創業家から送り込まれてきたり、元社長だったりとか、特定の利害関係者が付いていることが多いと感じております。そういう意味で、業務執行への影響が全くないとは言い切れないのではないかと考えますと、社内取締役について閲覧を認めないという形にすべきではないかと思っております。   あと、常勤監査委員の義務化については、これは委員会型においては内部監査部門を使った組織監査がベースになると思いますので、あえてこの常勤監査委員の義務化というのは設置しなくてもいいのではないかと思っております。   最後に、全体として機関設計の見直しというところですが、やはり現行の仕組みで動いている以上、大幅な改定は現時点では必要ないのではないかと思う一方で、少し気になるところがありまして、監査等委員会設置会社については監査等委員会の権限がやはり強すぎると考えています。特に、監査等委員である取締役が自らの再任決議を取締役会に諮らずに株主総会に提出できるというところで言うと、自らの選任議案を株主総会に出すことができるということであり、自らを選ぶというふうに実質的にはなりかねないので、ここについてもやはり指名委員会等設置会社と同じように権限の見直しがあってもいいのではないかと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○豊田委員 指名委員会等設置会社の見直しにつきましては、制度制定の時点では取締役会における社外取締役の人数が非常に少なかったという状況が大きく変化していることに鑑みまして、見直しを検討するという方向性に異存はございません。ただ、やはり気になりますのが、他の委員・幹事の方もおっしゃっていますように、制度の複雑化ということでございまして、既に三つの会社の制度設計がある中で、更に社外の取締役が過半数という形態を作るのは、分かりにくくなるのではないかと懸念しております。その観点も加味したと思われる、3に出てくる指名委員会等設置会社についての大幅な見直しという点も、検討に値するのではないかと思います。   また、若干法制的なことになるのかもしれませんが、指名委員会と取締役会の二つの機関がある中で、指名委員会の決定を覆してその内容を変更することが取締役会で可能であるという点については、機関の権限の関係が若干気になります。すなわち、取締役会で内容を変更できるということであれば、取締役会に指名の最終的な決定権限があるということだと思いますが、そうであれば、指名委員会に決定権限がありつつ、それを取締役で差し戻すだけではなく変更もできるということで、どういう整理をするのか、それが指名委員会が諮問機関であるということとどう違うのかといったような整理も今後、行っていただければと思います。   また、全体的に制度を整理するということになれば、報酬委員会についても指名委員会と同様に考えるという方向性になるようにも思われますが、他方で、実務的に個別の報酬の額をどの程度取締役会全体に共有するのかという指名委員会とは別の要素もあると思われますので、実際に使われる制度にするという観点から、この点についての調査等も行った上で、指名委員会と異なる要素についても丁寧に検討することが必要ではないかと思います。   次に、2の監査委員に関連する見直しですけれども、監査する側と監査される側の適切な関係という観点からは、一定の改正をすべきという方向には賛成いたします。各委員会が取締役の内部機関であるということを過度に強調すべきではなく、適切なガバナンスが働くような制度とすべきと考えます。議事録の閲覧権を制限する場合、制限される人を監査委員以外の取締役全員とするか、執行役を兼ねている者のみ、業務執行取締役のみとするかについては、実際の不祥事の場面を考えますと、執行役を兼ねていなくても言わば執行側に付くような取締役がいることも考えられますので、監査委員以外ということでよいのではないかと考えております。   取締役会に監査委員の解職権があるということについて、何らかの手当てをすることを検討することにも賛成いたします。参考資料に各委員の就任予定について記載するということも一つの手段であると思います。   常勤の補助者について、これが従業員であるとすると、従業員は当然、通常は常勤であるということかと思いますので、ここで言いたいことは常勤というよりはその業務に専従するということではないかと思いますが、あえて専従であるという規定を置くというよりは、内部統制システムで監査委員を補助する使用人についての事項を適切に定めるという中で対応していくことがよいのではないかと思いますので、この点についての規定を追加する必要性は必ずしも高くないのではないかと思っております。   次に、3について、先ほども申しましたように、指名委員会について社外過半数の場合を別に規定するという制度ですと、更に複雑化する点が懸念されますので、指名委員会等設置会社をモニタリング・モデルをより強く指向する会社の機関形態として整理するという方向も十分考えられるのではないかと思います。他方で、現在指名委員会等設置会社であり社外が過半数ではない会社や、また現在他の機関設計をとりつつ、新たな制度ができた場合にはそれに移行してもよいのではないかと考えている会社があるかといった広い意見聴取、また投資家の意見等も踏まえた上で、制度を作ったけれども余り使う人がいないということにならないような形をしっかり検討していくことが必要ではないかと思います。   執行役の兼任制限につきましては、その観点から、全く兼任できないという方向ではなく、各委員会の委員を兼ねられないという程度ということで検討をしていく方向性がよいのではないかと考えます。   また、スケジュールの関係はあるとは思いますが、中長期的な観点から丁寧に議論をしていくということが必要ではないかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松井(智)委員 まず、委員会についてでございますけれども、御提案は、指名委員会における選解任に係る議案の内容を後から実質的にオーバーライドできるというような制度を導入するということであったかと思います。現行の指名委員会は、取締役の選任に係る決定権を持つ特別な取締役を置くという点で累積投票とか種類株式によって選任される特別な取締役の制度と類似していますが、株式のアレンジメントと異なって取締役会構成員の中で委員が選ばれるというところが特徴であって、松中幹事の御発言と同様に、現行でも指名委員会というものとの関係における取締役会の社内での最高機関性というものは維持されていると思います。   このような制度の建付けがある以上は必要がないように思われるけれども、なおオーバーライドのニーズというのがどこから来るのかということを考えたときに、委員としては社内者の意見に負けない人というのが恐らく選任の過程で選ばれると思うのですけれども、実際にこれを走らせてみると、委員会の中で社外委員が機能しないであるとか、経営陣を批判する社外取締役を排除するような決定がなされるとか、あるいは逆に、社外委員が主導して話を進めているけれども、会社全体の利益に沿わない討論になっているといった状況ではないかと思います。   実際には、指名委員会の議事録をウォッチしていけばこの点は見て取れるということがあるので、指名委員会の構成員について再考するということは制度上できるのではないかと思いますが、オーバーライドのニーズというのは、それができず、出てきた議案を最後に修正することを法に認めてもらう必要があるということではないか、そういう応急措置が必要になるということは、指名委員会がどちらの方向に振れて議論しているのかを問わず、取締役会というのが実際にコントロールができていないという現状があるということを反映しているのだと思います。   このコントロールができていないことについて、複数の委員から、取締役会が委員会を兼ねれば足りるという発言がございました。これについて、社外者のマンパワーが不足しているので、特に常に作業がある監査委員との兼任が無理であるという反論もあるようですけれども、最終決定権を取締役会イコール指名委員会である会議体に置いた上で、時間のかかる作業については一部の者を選んで法律上の定めのないワーキンググループを作るというような形をすると、選定の実際の作業は現在の指名委員会と同じように一部に任せるということができるので、こういった立て付けにすれば実際の問題というのはクリアできるような気がいたします。   そうすると、今回の指名委員会等設置会社制度について、その全体について過半数を社外取締役とする会社として位置づけるという構想とセットにするのかどうかということを考えないで、単に特則を作って、現在の指名委員会等設置会社と呼ばれる会社であれば社外取締役過半数ということをもってオーバーライドができますという特則を1個作るというのが、どの程度ニーズがあるのかということが少し疑わしいのではないかと思っております。   次に、監査委員会の独立性についてですけれども、閲覧者の制限であるとか、同意権、意見陳述権、それから常勤者について田中先生が御指摘されたこととの関係で、全体として監査委員会の独立性を高めるための改正というのは望ましいのではないかと思っております。一方で、監査活動の実効性を高めるための常勤者の選任については、不要であるという意見が大勢であると理解いたしましたけれども、内部統制システムがあっても、それを実際に実施する際には、各業務執行担当者の下で行われている活動を、従来より分かりやすくなっているとはいえ監査活動においてヒアリングして聴き取っていくという活動をせざるを得ないのだと思いますので、習熟した人員は必要だと思います。まず監査活動の補助者については、監査役会設置会社の事務局は現実として恐らく兼職者が多く、一定の業務執行者の指揮下に入っていない事務局というものを確保する必要があると思っています。この点、取締役会の決議事項の中にある補助者の独立性に係る事項というものをきっちり決議してもらうという形で実現するのではないかと思います。次に、事務局でカバーできないのが、役員レベルの活動を監査する必要がある場合でございまして、執行に人事権を持たれていない者が監査を常勤で担当するということが必要・有用になる場合というのがあるかもしれません。これは非常に限定的な場合かもしれませんけれども、必要になった時点で常勤者を置くということを致しますと、その時点で何をするのかという点について秘匿性がなくなる可能性があったりもいたしますので、なお検討の可能性というのはあるのかなと個人的には思っております。   最後に、中長期的に時間を掛けてモニタリング・モデルを強化していくということについてですけれども、これは、先ほどの過半数社外取締役の構造等も含め、実現を指向するということはあり得るのではないかと思います。このような会社を指向する場合についてなのですけれども、取締役会の権限について整理ができないかと考えております。現行法においては取締役会は会社の形態にかかわらず、原則として全ての業務執行について決定権を持っております。指名委員会等設置会社がマネジメント・ボードに近い形になるのか、モニタリング・ボードに近い形になるのかというのが、かなり広い振れ幅があるのがその反映なわけなのですけれども、そうすると、社外者中心であったとしても、執行を伴わないけれどもマネジメント・ボードに近い決定をできるというような法律上の可能性というのが残っている一方で、責任限定契約みたいなものがあって、社外であれば責任を限定できるという切り分けになっていたりするので、マネジメントの権限と責任というものが一致しているのかどうかの検証が必要になるのではないか、経営への実際の影響に応じた責任というものを考えるということが重要ではないかと思います。この点は責任限定契約の話にも関連するかと思いますので、中長期的なモニタリング・モデルの強化という話の中で簡単に議論することがなかなか難しいことではありますが、今発言をしておきたいと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○白井幹事 私の方からは、部会資料の3ページの「監査委員でない取締役による監査委員会の議事録の閲覧等」について1点、意見を述べさせていただければと存じます。   部会資料でも書かれておりますように、監査委員会には、監査の独立性を確保する観点から、他の委員会とは異なる一定の手当てが必要であるという価値判断自体につきましては、私も合理性があると考えております。ただし、その一方で、現在の指名委員会等設置会社制度の下では、各委員会は取締役会の内部機関と位置付けられ、取締役会と各委員会との緊密な連携という観点、更には委員会相互の緊密な連携という観点から、制度が全体として用意されているという側面も現実にはあるように思われまして、そこでは、監査委員会や監査委員をその職務内容に照らして別扱いにすべきであるということが十分には意識されていないように感じております。そういたしますと、議論の対象を広げてしまうことになり恐縮ですが、果たして議事録の閲覧の部分だけを手直しをして済む話なのかという点については、少し立ち止まって考える必要があるのかもしれません。   例えばですけれども、会社法第411条第3項では、執行役等の委員会への出席・説明義務が規定されておりまして、同項にいう「執行役等」には取締役も当然に含まれます(会社法第404条第2項第1号参照)。ですので、会社法第411条第3項の規定に基づけば、監査委員会の委員である取締役に対して他の委員会が出席を要請し、監査委員会における検討状況などを質問するということは少なくとも制度上は可能であって、また、その質問に対する同項に基づく説明については、取締役として善管注意義務を尽くして説明する必要があると解されています。例えば指名委員会が人事案を検討する上で必要であるという形をとることで、監査委員会の委員である取締役には指名委員会に出席し監査委員会における検討状況などを説明する義務が一応は生じ得るように思われます。   このように、指名委員会等設置会社制度における各委員会の位置付けや委員会相互の緊密な連携という観点から設けられている制度と、監査役と同程度の経営からの独立性を与えるべきだという観点がある意味で緊張関係にあるといえそうなものは、実は議事録の閲覧の部分だけでなく、ほかにも指名委員会等設置会社制度の中にはあるように感じておりまして、議事録の閲覧の部分だけを手直しすることで果たして必要十分なのかということについては、個人的には少しちゅうちょを覚えております。   そういたしますと、やや大きな話になるのかもしれませんが、そもそも論として、指名委員会等設置会社における監査委員会というものの位置付けをどう考えるべきかについて、もう少し正面から取り上げて議論した方がよいのではないかという気もしております。監査委員会について、その職務内容からして監査役会に近付けていくべきだと考えるのか、そうではなく、やはり指名委員会等設置会社制度の下では他の委員会と基本的には同等であって、そこでは他の委員会との緊密な連携や取締役会の内部機関という位置付けを重視すべきだという考え方に立つのか、その位置付けをどのように考えるべきかについてもう少し正面から取り上げてもよいように感じました。   仮に位置付けにつきまして、監査委員会は他の委員会とは異なるものであって、監査という職務内容を重視して監査役会に近付けていくべきだと考えるのであれば、恐らくは議事録の閲覧だけではなくて、そのほかの様々な指名委員会等設置会社制度の内容につきましても、この機会にもう少し細かく修正の要否を確認する必要が出てくるのかもしれません。これに対して、仮にその位置付けについて、基本的には他の委員会と異ならないと整理するのであれば、先ほど青委員が述べられましたように、監査委員会についてだけは一律に全ての取締役に対して議事録の閲覧を認めないとするよりも、利害関係人を外すなど不適切な利用を排除できるような規定を導入する方向で対応を検討することも、指名委員会等設置会社制度における制度全体の一貫性を確保する観点からは考えられるところかと思われます。いずれにしましても、監査委員会というものをどう位置付けていくべきかにつきまして、単に議事録の閲覧を制限する、制限しないというレベルよりももう少し大きな話として、取り上げることとしてもよいのではないかという印象を持ちました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○田中委員 第1回で申し上げましたことの一部を取り入れていただいたようで、大変感謝しております。繰り返しになる部分も多いのですが、申し上げさせていただきますと、指名委員会等設置会社は、設立時にはモニタリング・モデルを目指して創設された会社形態でありましたが、上場会社の約4分の1が既に社外取締役を過半数にしている現状では、指名委員会等設置会社が特にモニタリング・モデルを志向しているとは必ずしも言い切れなくなりました。むしろ制度上、指名委員会等設置会社では、取締役会本体は社外取締役が過半数であることを求められないにもかかわらず、取締役会の決議によって監査委員が選定、解職されてしまったり、また、監査委員会の活動に必要な常勤の補助者の設置でありますとか、内部統制システムや内部監査部門の組織や活動に関して監査委員会がどの程度の権限を行使できるかといった事項についても、取締役会が決定する仕組みになっておりますので、監査委員会の監査活動についても、取締役会本体によって掣肘を受けるような仕組みになっております。   また、監査委員会の議事録についても、取締役であれば閲覧できることになっており、従って執行役であっても取締役であれば閲覧できることになり、特に監査周りで、監査の独立性や実効性の観点からは、他の会社形態に比べてむしろ見劣りする仕組みになっているという問題意識を持っております。元々モニタリング・モデルを指向して作られたシステムだということであるならば、端的に、指名委員会等設置会社については社外取締役を過半数にしなければならないという制度にすることがすっきりするように思います。しかし、もしもそのような改正ができない、難しいというのであれば、少なくとも監査委員会周りで、今述べたような問題について何らかの対応をした方がいいのではないかということで、初回に御提案させていただいたわけであります。   先ほど来、議論されていることについて一つずつ意見を申し上げていきますと、まず常勤の補助者に関しては、今回、事務局から出された御提案は、指名委員会等設置会社は、必ず監査委員の中に常勤者を置けということではなくて、監査委員の中に常勤者がいない場合は、常勤で監査を補助する者を置いてくださいと、そういう提案であります。日本監査役協会のアンケート調査によれば、会員である指名委員会等設置会社のうち75%ぐらいは、常勤の監査委員を置いておりますので、この提案が実現したときに、新たな負担が義務付けられるのは4分の1程度になります。そして、この4分の1の会社は、常勤の監査委員を置いていないわけですから、監査委員は全て非常勤の監査委員であります。それなのに、常勤で監査を補助する使用人を置くこともしないとすれば、それは一体どういうことなのかということを少し考えた方がいいと思うのです。監査役設置会社は常勤の監査役がいるのに対して、常勤で監査委員の職務をする者もいないし、しかも常勤で補助者がいないという会社は、単純に、監査の実効性が極めて乏しい会社だと考えた方がいいのではないでしょうか。   もちろん監査体制は、各社の実情に合わせて適切に決定する必要があり、常勤を1人置けばそれでいいわけではないことはもちろんですけれども、常勤の監査委員もいないし補助者もいないというのは、実際のところどんな監査をしているのかを考えた方がいいと思います。現在の指名委員会等設置会社は、もちろんその大半は、モニタリング・モデルを真面目に志向してこの形態を選択していると思いますが、監査周りを弱体化させるためにこの会社形態を採用することも、経営者が本気で考えれば不可能ではないような制度に現在なっていると思います。今回、制度改正に対してはいろいろな消極論があることは理解しましたけれども、今一度考えていただきたいと思っているところであります。   それから、議事録の閲覧に関しては、例えば、何らかの事由があれば議事録の閲覧を拒否することができるというような代替的な対応策があるのであれば、それに反対するものでありませんが、現行の制度では、執行役兼取締役であっても監査委員会の議事録を制限なく閲覧することができ、とりわけ、自分が監査の対象にされているような執行役兼取締役であっても閲覧できるという点については、やはり何らかの対応が必要であると考えております。   それから、監査委員の任期中であっても、取締役会がその選定、解職をすることが自由にできるという点について、私は、本当は監査委員についても、監査役および監査等委員である取締役と同様の意見陳述権を認めることが望ましいと考えております。ただ、もしそのような改正が、指名委員会等設置会社の制度の立て付けからして難しいのであれば、せめて株主総会における選任段階で、委員の選定予定を開示させることにより、その後の取締役会による選定や解職に対し、一定の牽制機能を果たさせることが望ましいと考えます。私としては、こういう改正をすれば、恣意的な選定・解職の問題に十分対処できるということではなくて、せめてこのくらいはやってほしいという感じであります。指名委員会等設置会社について、全面的に何らかの改正をするか、そうでなければ何もしないかという、そういう二者択一にはならないようにしていただきたいです。   それから、指名委員会等設置会社における指名委員会の権限に関してですが、確かに社外取締過半数にすれば指名委員会の決定を取締役会で覆すことを認めるというのは無理な制度ではありませんし、むしろ株式会社であれば、株主総会の議案は取締役会が全体で決めるという方が自然でありますから、より自然な制度ではあります。ただこの点については、先ほど来、何人かの委員・幹事が言われていますように、取締役全員を指名委員にすればこの問題は解決するので、喫緊に必要な改正であるとは考えておりません。   最後に、モニタリング・モデルを指向する会社のために指名委員会等設置会社を考えていくべきではないかという点についてですが、私は、どちらかといえば、現在大半の上場会社が利用しております監査役設置会社や監査等委員会設置会社について、これらの会社がよりモニタリング・モデルを指向した企業統治形態を望む場合には、それができるような制度設計を考える方がいいのではないかと思っております。例えば、執行役制度については、監査役設置会社や監査等委員会設置会社は利用し得ないものとする理由は余りないと思っておりまして、これらの会社形態も、代表取締役・業務執行取締役制度に代えて、代表執行役・執行役制度を利用できるものとする方が、執行と監督の分離を志向している会社であることを明瞭にすることができます。そのような利用の仕方も認めてもいいのではないかと思います。   それから、現在ほとんどの上場会社は、任意の指名委員会、報酬委員会を設置しているわけで、こういった任意の委員会について、何らかの形で会社法に位置付けを与えるような制度改正があってもいいと思います。もちろん委員会の権限は各社である程度自由に決めることができるようにするべきですので、余り規制で柔軟性を損なうことはいけないと思います。けれども、いやしくも上場会社でそうした委員会を設置する以上は、例えば社外取締役が過半数であることが当然であるといいますか、そうでなければ指名委員会とか報酬委員会とかを名のらせない方がいいのではないかとも思えます。任意に委員会を設置した場合に、委員の構成その他の事由に関し、会社法の中で、例えば開示ルールを定めるとか、そういった方向性もあってもいいと思っております。   将来の機関設計の在り方については、これは加藤幹事が言われたことに関係しますが、なぜ指名委員会等設置会社があるのかということが若干疑問になるところです。会社形態を問わず、上場会社のほとんどが指名委員会、報酬委員会を設けるようになっていることからすれば、むしろ指名委員会等設置会社の方をなくして、監査等委員会設置会社か監査役会設置会社かの選択にするほうがすっきりするような気もいたしましす。これは、今回の改正ですぐに法制化できるものではないかもしれませんが、モニタリング・モデルを指向する会社にどういう選択肢を与えるかという点は、慎重に検討した方がいいように思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○髙橋委員 既に多くの御意見が出ているところですので、重複しない内容として、指名委員会の権限の見直しについてのみ一言コメントさせていただきます。   既に御案内のとおり、平成14年の当時から見て社外取締役の選任状況はかなり変わっており、指名委員会の権限の見直しのお話は非常に説得的かと思います。ただ、14年当時に委員会制度が導入されたのは、もちろん社外取締役の登用の点もございましたけれども、当事の大きな会社で取締役会のサイズが非常に大きくて実質的な議論ができていないケースもあり、一定の事項は小委員会で議論をすること、しかもその原案を社外取締役が過半数を占める会議体で実質的に議論をさせるという趣旨もあったのではなかったかと考えております。取締役会の構成メンバーに社外取締役が増えているということは、取締役会がモニタリング機能を発揮する上では非常に望ましいことだとは思いますけれども、それが指名委員会の権限を縮小させる方向での見直しにつながり得るのかということについては、若干疑問がございます。   また、指名委員会と取締役会の構成メンバーを一致させることによって、指名委員会の決定が取締役会の決定と同じになるという考え方も示されておりますけれども、そうすることによって、指名委員会の本来の職責である取締役候補者の選定の議案の策定に対して、社外取締役の関与が逆に薄くなってしまわないかという危惧がございます。これは取締役会の構成次第かもしれませんし、理念の域を出ないかもしれませんがやはり取締役会の構成人数が多い中で社内取締役が会議の内容のイニシアチブをとるということになりますと、社外者の関与というのが実質的には減ってくるという可能性がございます。そういたしますと、本来委員会制度が理想としていた、社外取締役が過半数を占める小規模の会議体で実質的な議論が行われるという点が減じられるのではないかと危惧しております。   このような危惧は、現在でも利用されておりますような任意の小規模な会議体に任せれば、回避できるとも考えられるのですが、取締役候補者の最終決定権が委員会にあるということによって、候補者の決定基準やプロセスを委員会レベルで非常に活発に御議論なさっているのではないかと推察しております。たとえ今後の見直しの過程で、法定の指名委員会の権限を縮小する形で取締役会の決議でオーバーライドするということを認めるとしても、ある程度までは指名委員会の勧告が尊重されるような形での仕組みづくりというのがあった方がよいのかなと思いました。   そのほかの点につきまして、特に構成メンバーの点は、最初に久保田委員が御指摘になったことかと思いますけれども、私も指名委員会に限らず、委員会メンバーの構成については少し検討の余地があるように思っております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○森委員 私からは、この議論の前提として、社外取締役が増えてきているということに関して、少しだけコメントしたいと思います。確かに指名委員会等設置会社の制度創設以来、社外取締役は増えてきていますが、アメリカなどと比較するとその性質が違うというところは、認識した上で議論をする必要があるのではないかと思っております。   といいますと、海外では転職が当たり前で、いろいろな業界、業種を経験した人たちが偉くなっていって、社外取締役もやっていくという事例が多いですし、職業的な経営者もたくさんいらっしゃいます。そのように非常に厚みがある社外取締役のプールが存在するわけです。一方で、日本では終身雇用を前提として、その業態、業種しか知らない人が社長、若しくはそれなりの地位まで昇進し、引退後に、若しくは社長をやりながら他業種の社外取締役をやるという事例が結構多く、また、そういった方でないとすると、弁護士、会計士といった専門職の方が複数の会社の社外取締役を兼務しているという事例も多くなっています。そのような実態において、社外取締役の経験ですとか素養ですとか、厚みが海外とは随分違うというところは、やはり実際上、念頭に置かないといけないのではないかと思っております。   そういったことを考えますと、例えば3.のところにありますように、モニタリング・モデルを強く指向した場合の選択肢として、取締役の過半数を社外取締役とすることを必須とするというようなことですとか、更に進んで、執行役は各委員会の委員を兼務させるべきではないというところまで行くのは、実務的には相当な無理があるのではないかという気がしております。   これまで指名委員会等設置会社が制度創設されたにもかかわらず、そこまで数が増えていないという背景には、指名委員会等設置会社という機関設計を選択することが、イコール、社外取締役が過半数を占める指名委員会が経営陣を決めていくという非常に大きな一歩を踏み出すことになるということもあると思っています。すなわち、経験、素養、知見において十分信頼に足りる社外取締役を揃えられると確信することができる会社、すなわち知名度が非常に高い大企業であれば指名委員会等設置会社を採用できても、通常の上場会社では大企業であっても、なかなかそこまで踏み出せないというのが現実ではないかと思います。   そういった実情を踏まえた議論をしないと、単に社外取締役が増えてきたから大丈夫ではないかという議論は、少し実務から掛け離れてしまうかなという感じがいたしますので、今回いろいろ改定の議論はありますけれども、そういった議論をするに当たっては、そこのところは一旦踏まえて議論をすべきではないかと考えています。   なお、指名委員会等設置会社の権限の見直しに関して、指名委員会が少人数の議論の中で、かつ社外取締役が過半数を占めている中で全て決めてしまうというところのリスクを認識している会社があると思いますので、それをミティゲイトする観点から、社外取締役が取締役会の過半数を占めている会社であれば指名委員会を諮問機関的に位置付けるですとか、オーバーライドできるですとか、そういった見直しはあってもいいのではないかと思いますが、一方で、わざわざその点だけを改正するのはいかがかという議論もあるかと思いますので、そこはまた議論していきたいと思います。 ○神作部会長 ありがとうございました。 ○藤田委員 部会資料5第1は議論しにくいアジェンダ設定になっている気がします。いろいろ御意見を聞いていると、ますますそういう気がしてきたのですが、どういうことかというと、現在1から3の提案が上がっているのですが、現段階でこの1から3について各々賛成です、反対ですと個別に意見を申し上げることにどういう意味があるのだろうか疑問があるという意味で、議論しにくいと思いました。   部会資料5第1で扱おうとしているのは、取締役会の独立性が強化される方向で会社の経営機構が変わってきているという現象があり、取締役会の構成が大きく変わってきており、モニタリング・モデルへの指向も潜在的には強くなってきている中で、それを実現する適切な機関構成のフォーマットがない、現在あるフォーマットは帯に短したすきに長しではないかという問題だと思います。モニタリング・モデルのためのフォーマットと言われる指名委員会等設置会社は、平成14年の段階での状況認識で作られているため、取締役会レベルでは独立性は確保できないということを前提に業務執行者からの独立性の高い監督を確保するためかなり複雑な仕組みを作ったものです。しかし、現在は社外取締役が過半数の会社が現れてきて、それがどれだけ実効性があるかはともかく、少なくとも形の上では独立性が高い取締役会が生まれてきている。このように平成14年商法改正時には想定できなかった事態が起きていることは確かなので、それを前提にしたときに、今の指名委員会等設置会社制度に見直すべきところがないかという問題意識それ自体は分かります。1で提案されている指名委員会の権限見直しには、正にそのような問題意識が端的に表れていると思います。   ただ、モニタリング・モデルを指向する会社にとって適切なフォーマットを用意する、取り分け取締役会の過半数が社外取締役であるタイプの会社について適切なフォーマットを用意するという場合には、幾つかの選択肢が本来はあり得るはずです。1の提案は、指名委員会等設置会社はモニタリング・モデルにとって一番望ましいということを前提にした上で、その利用を促進すべきであるという方向性をとり、かつ指名委員会等設置会社の中で取締役会の過半数が社外取締役か否かで権限を変えれば指名委員会等設置会社の利用が促進されるという前提の提案だと思います。ただ、これは唯一の選択肢では全然なくて、指名委員会等設置会社を活用するという場合にも、第1回会議で指摘され、今日も指摘されたように、取締役会メンバーの過半数が社外取締役なのであれば、取締役全員を指名委員にした上で、それだと大人数すぎるなら、指名委員会の中に一部のメンバーによる諮問委員会を作って、そこでコンフィデンシャルなことは議論するということにすれば、法改正しなくても、事実上第1の1で提案されていることは達成できるはずです。   また、監査等委員会設置会社を前提に、任意委員の指名委員会、報酬委員会について、その構成とか役割とか設置の在り方とかについて上場規則などで厳格に規律していくという方向で、法的な枠組みとしては監査等委員会設置会社の進化系のようなものを想定することでもこの1で目指したようなことはできるはずです。したがって、指名委員会等設置会社制度を直すという選択がまずあって、それを採ることを前提に1で掲げられているような見直しはどうですかとなるわけですけれども、今述べたような前提が全く議論されないまま、指名委員会の見直しの部分だけ単独で是非を問われているので、少し答えにくい気がします。   そういう意味で、上場企業の取締役会の在り方が大きく変わってきた中で、モニタリング・モデルを指向する会社にとって適切なフォーマットを用意するために、どういう方向で改革を進めていくかというピクチャーがないまま、個別の提案について賛否を問うて、それを足したものが要綱になりますという議論の進め方は、やめた方がいいと思います。   その上で、積極的なことは何も言わないのもどうかと思うので、私としてはどうするのが一番いいと考えているかということだけ申し上げておきます。どなたも言わなかったし、ますます議論を混乱させるかもしれませんけれども、現段階で一番いい方向は、――取締役の独立性が確保された会社にとってふさわしい形態を用意するのが必要だと考えるということが前提ですが、そう考えるのであれば――、既存の指名委員会等設置会社の指名委員会の権限を見直すことはやめて、指名委員会等設置会社の外に新しい機関構成の類型を作った方がいいと思います。   これは第3の提案に近いのですが、第3の提案は取締役会の過半数が社外取締役ではない指名委員会等設置会社は廃止することになるのですが、そこまですることはないと思います。既存の指名委員会等設置会社の幾つかがそのまま維持できなくなるということはさて置くとしても、社外取締役を過半数にしないまま、それでも執行と決定を分離するという選択があっていけないとまでは言えないと思うので、この選択肢を廃止するほどのことはないと思うのです。ただ、取締役会のレベルで独立性を確保した場合には少し違った規律が必要だということにこたえるため、指名委員会等設置会社とは別の類型を作った方がいいように思います。   こういう提案に対しては、また新しいものを作るのか、委員会型ガバナンスを3種類にすると複雑になりすぎるのではないかという意見が出そうですが、少なくとも、指名委員会の権限を見直す提案よりは、はるかに分かりやすいものになると思います。つまり新たな類型は、取締役会の過半数が社外取締役で、取締役会レベルで独立性が十分確保できる場合のためのフォーマット、指名委員会等設置会社は、取締役会レベルでは十分に独立性が確保できていないけれどもモニタリング・モデルを目指したいという会社が使うべきフォーマット、監査等委員会設置会社は、現行法を維持するとすれば、モニタリング・モデルの実現のためにも使えるけれども、それ以外のいろいろな使い方も可能で、よく言えば柔軟、悪く言えばそれ自体としては内容が薄いフォーマットという形で類型化ができます。   これに対して指名委員会の権限を見直すという形にすると、指名委員会等設置会社の中に質的に違うものが複数存在することになります。取締役会の独立性が確保できる会社と、そうではない会社と、さらに、独立性が確保されている会社の中にも、指名委員会の権限を制約している会社としていない会社という形で、指名委員会等設置会社というだけでは、それがどういうものなのかはさらに精査しないと性格が分からない形になってしまう、それよりは新しいのを作った方がまだしも複雑にならないようには思います。現在の状況と比べても、むしろ新しい類型を作った方が指名委員会等設置会社の性格がはっきりすることで、かえって整理されて分かりやすいのではないかとすら思っています。そういう意味で、1のような提案の形での改正についてはしない方がいいという気がしています。   なお新しいフォーマットを作る場合、どのようなものになるかというと、それほど難しいことは考えなくてよいでしょう。基本は指名委員会等設置会社をベースに考えるのですけれども、取締役の過半数が社外取締役で取締役会自体が独立しているので各委員会の権限は柔軟に設定できる、つまり取締役会で適宜修正してもよいということにするほか、取締役の権限のうち現在、指名委員会等設置会社において会社法第416条第4項のもとで執行役に委任できる権限は、もうデフォルトで執行役に与えてしまう方がいいと思います。そのほか、執行役との兼任禁止とか、指名委員会の決定を取締役会がひっくり返した場合の事後処理に何か手を打つか等は別途検討する。監査委員の独立性、監査の実効性を確保するための手段は、私も手当てした方がいいと思いますが、これは恐らく指名委員会等設置会社と併せて措置することになるでしょう。このように新しい類型と言っても、議論の分かれる争点を含むような制度をゼロから作ろうとするわけではないので、思ったより実現可能性はあると思っています。   以上を前提に、提案されている1から3に答えますと、1については、新しいフォーマットを作るならその話に吸収され、指名委員会等設置会社としては対処不要、2で書かれた内容は、新しいフォーマットでは検討するけれども、場合によっては指名委員会等設置会社でも同じような検討をした方がいいかもしれない、3については、指名委員会等設置会社の改正ではなくて新しいフォーマットとして併存する形で、ここで書かれた内容を取り込むということになります。作業は大変になる点でちゅうちょはないわけではないですけれども、改正するのであれば、指名委員会等設置会社の手直しよりは、この方が最終的な落としどころとしては分かりやすいし、できあがりもきれいだと思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○齊藤委員 既に出ている御意見と重複するところもございますけれども、指名委員会等設置会社の今後の在り方について意見を申し述べます。藤田委員から新たな案が出たところでございまして、考えられ得る案の一つであると存じますが、そのような御提案があるということはひとまず置き、頂いた資料に対する御意見として申し述べさせていただきます。   私の考え方は、基本的には松中幹事がおっしゃったものと同じで、私も、取締役会において社外取締役が多くを占める場合には、指名委員会等設置会社の規律を少し緩めてもいいのではないかと思います。委員会型のガバナンスというのは、本来独立性の高い取締役会が、その判断で一部の少人数のメンバーで構成される委員会にその権限の一部を委託するという発想で諸外国では作られていると思われますが、我が国では、平成14年改正の経緯もございまして、委員会の委員は、取締役会により選定、解職がされるものの、取締役会から独立性の高い別の機関と位置付けられておりまして、しかも、そのことが証券取引所の上場規則やコーポレートガバナンス・コードではなくハードローで定められており、それに反する行為は原則として無効となるという効力を伴っているところに、その特徴があろうかと思います。   取締役会の独立性の実質的な確保をハードローで行うことには限界がございまして、ハードローでできるのは最低限の要請を定めることにとどまり、それを超えた、各会社に望ましいガバナンスの在り方は、上場規則やコーポレートガバナンス・コード、機関投資家によるエンゲージメントや株主総会の議決権行使等によって、結果として選ばれていくことに委ねざるを得ないのではないかと思います。   三つの形態に優劣がないというのはそのとおりでございまして、しかし、それは、どれを選んでも、そのことをもって優良なガバナンスが保証されるわけではないという意味であり、法では最低限の要請のみが定められているにすぎないという点において優劣はないというのにとどまるものであるように思われます。この度の改正で、指名委員会等設置会社に関する規律に手を入れるとしても、それは指名委員会等設置会社への移行を促すという観点からではなく、現状を前提にいたしますと、もはや制度の合理性を説明できなくなっている、場合によってはモニタリング・モデルの理念に反する結果になっている場合もある、そこを矯正するため、ということになるのではないかと思います。   最初に3について述べますと、モニタリング・モデルの最低限の要素は法で定めて、それ以外のところは、独立性の高い取締役会を持つような会社につきましては、法定の権限は緩めて様々なコードなどに委ねる、ただ、監査の実効性については、諸外国においても厳格に規律されているところでございますので、監査委員会に当たるものについては法でしっかり定めていく必要もあろうと思われます。そのような方向で、モニタリング・ボードが望ましい会社につき、それを根付かせていく土壌を会社法が提供することが望ましいのではないかと思っております。   以下に述べることは、今の述べた方向が採用されるか否かに左右されないものと思いますが、1、2のうち、まず、指名委員会等設置会社の指名委員会の権限につきましては、取締役会において社外取締役が過半数を占める場合に、指名委員会の決定の拘束力を縮小するという方向性には賛成いたします。それに際して、提案を委員会に差し戻すのか、取締役会で直接変更し得るものとするのかにつきましては、議論の余地があるように思いまして、少人数の委員会で案をもむことの意義について、髙橋委員が御指摘になったことはもっともであると思われますので、そのような機能を損なわないかについて検討していく必要があるのではないかと思います。   また、立法技術上の問題ですので、私が口をはさむべきことではないかもしれませんけれども、助言機能を持つにすぎない委員会を法律で規定するということは、もしかしたら難しいかもしれませんので、仮にそのようなものを想定するのであれば、少し工夫が要るのではないかと思われました。規定がややこしくなる、複雑になることは望ましくないのは、全く私も同意見でございまして、形式的には会社法第404条第1項を前段と後段に分けるとか、同項の後に2項が入るとか、そのようなシンプルなものでとどまればよいのですが、いずれにしても、今の時点において、複雑になるという理由だけ取り上げないとする必要はないのではないかと思います。   次に、監査委員会の独立性は重要な問題でございますところ、これは取締役会の独立性にもある程度左右されるので、一律に議論するのが難しいところはございますけれども、いろいろな取締役会の構成があり得ることを前提に、辞任、解職時の株主総会における意見陳述権というものは考えられるように思います。監査委員会が担っている監査業務の重要性に鑑みて、株主に直接情報提供をする必要性を認めるという捉え方をすれば、内部機関であるということと必ずしも矛盾しないのではないかと思います。最終的に、監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社を収れんさせていく場合には、株主総会に監査委員の指名権を与える定款自治を認めるというようなこともあり得るかもしれません。   議事録につきましては、白井幹事と田中委員の御意見をお聞きしながら、難しいところがあることを理解いたしました。ただ、業務監査の対象となる執行役が閲覧できるという点につきましては確かに問題があるように思いますので、そこは制限することもやむを得ないのではないかと現在のところ考えております。   常勤の補助者がないと、実効的な監査はできないではないかと私も思っておりましたので、常勤の委員はいなくても常勤の補助者が付いているものと思っておりまして、常勤の補助者も付けず、でも、監査はしてくださいというような委任をしている会社があるといたしますと、監査の実効性の観点から望ましくないように思います。そのような会社の監査委員が常勤の補助者を付けてほしいということを申し述べたところで、付けてもらえる可能性が余りないとすると、法で、そのような手当は重要だというメッセージを発するということは必要なのではないかと思いました。ただ、有効に機能するかどうかは難しいところで、その人選は結局執行側が行うなら、望ましい補助者がつけてもらえるかは分からないように思われます。ただ、立法でできるのはその程度のことにとどまらざるを得ないのではないか、と思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   ほかに御意見はございますでしょうか。   よろしいでしょうか。一通り第1のセクションについて御議論を頂いたと思います。   ここで一旦休憩を入れたいと思います。15分休んでいただきまして、25分ぐらいをめどに戻ってきていただければと思います。よろしくお願いいたします。           (休     憩) ○神作部会長 それでは、皆様おそろいでございますので、再開いたします。   部会資料5の「第2 役員等の責任に関する規律の見直し」に関して御議論を頂きたいと存じます。「第2 役員等の責任に関する規律の見直し」について御意見のある方、挙手をお願いいたします。いかがでしょうか。 ○矢野幹事 まず、1の責任限定契約制度の見直しについてですが、この趣旨については十分に理解できるところだとは考えているのですけれども、責任限定契約という形で制度化となると、かなりハードルが高いのかなと思っています。   具体的に申し上げますと、責任限定契約を作るということになると、ほかの制度に倣って報酬何年分といった形になるのかと思いますけれども、そうしますと、例えばその会社からの報酬はごく少なく、限りなく低くしておいて、子会社から子会社の取締役を兼務して配当をもらうとか、あと配当に回して還元する形をとって直接的な配当、あるいは大株主になっている資産保有会社の取締役の報酬といった形でもらうといった形で、潜脱はすぐに思い付くというのが実情かと思います。そして、こうした場合を網羅的に対処するというのは立法技術的に非常に難しいと感じておりまして、逆に責任限定の潜脱を考えるということで、本来在るべき報酬体系を歪ませてしまうというデメリットもあるかとは感じています。   また、リスクテイクの観点での必要性というところについても少し疑問がありまして、例えば、業務執行取締役であっても報酬額がそう多くないケースというのはありまして、そうした場合、実際は社会保険料だとか生活費を使ってしまって、ほとんど残っていないと、だから額面報酬の何年分だと言われてもとても払えないというケースは実際にあるわけです。そういった場合だと、責任限定契約を締結したからといってリスクテイクができるようになるということは言えないということになります。   以上の点から、趣旨としてはよく分かるところはあるのですけれども、責任限定契約という形で規律するのは非常に難しいとは感じているところです。   一方で、今回の部会資料だと11ページ目の10行目、真ん中ぐらいに必要性が①、②、③といった形で書かれておりまして、このうち②の退任後の取締役の責任追及に関する部分ですね、証拠の偏在があって個人である取締役が不利になるといった指摘があるというところは、非常によく分かるところだと私個人としても思っています。ただ、この不利益があるから責任限定契約となりますと、少々論理が飛躍しているというところがありますので、この点は他の方策での対応を積極的に検討すべきであると考えています。   第1回の会議でも、違法配当関係の役員責任の立証責任の点だとか、あと商事事件の裁判管轄の点などを申し上げたかとは思いますけれども、こうした対応だとか、経営判断原則だとか信頼の権利みたいなものをもっと法制化していくだとか、あと証拠開示の点だとか、そういった点の対応をすることで訴えられたときのリスクというものを減らしていくということで、そういった不利益を解消していくということがいいのかなとは個人的には思います。   なお、若干ですが別の観点で申し上げますと、現在D&Oだとか会社保証については利益相反取引の対応に関する条文が入っているかと思いますけれども、責任限定契約はそれが入っていないということがありまして、そこが利益相反になるのかどうかよく分からないという問題があるという認識はしていますので、責任限定契約の検討に当たりましてはこの点も検討していく必要があるのかなとは考えています。まず、1の点は以上です。   2の代表訴訟の見直しは、特に必要はないとは考えています。現状この制度があることで濫用的な訴えが蔓延しているといった立法事実はないように思っていますし、仮に濫用者がいて何か規律を設けたとしましても、今度は別の方法を考えて、例えば直接的な損害賠償請求だとか、そういった方法に変わるだけと思いますから、結局濫用的な訴訟の防止にはならないというのが結論かと思ってはいます。これに限らず濫用的な訴訟というのは一定程度存在しているというのは、弁護士としても感じるところではありますけれども、そうしたときには粛々と対応して、逆に損害賠償請求をするだとか、そういった形で毅然とした対応をするほかないというのが実務上の感覚です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松中幹事 責任限定契約制度の見直しについて申し上げたいと思います。まず、実質的に見て、経営判断を失敗して取締役が責任を負わされるというのは、そうそうなくなっているとは思うのですが、一部の監視義務違反のように、確かに業務執行取締役も含めて取締役の会社に対する責任で解決すべき問題なのかという疑問が残る場面があるのは理解できるところです。   それから従来、人材確保という趣旨が言われており、それが業務執行取締役に当てはまるのかという話があったわけですが、ただ、人材確保というのも、合理的なリスク分担から外れたような責任を負わせていると人材確保ができないので、そのリスク分担を合理的にしていくというところがあったように思います。そういうわけで、合理的なリスク分担を実現するという点では、業務執行取締役について責任限定を認める場合にも当てはまるのではないかと思います。現在の責任限定契約をめぐる制度も、別に合理的なリスク分担という観点から外れて特別に責任を軽くしてあげているというものではないはずだと思います。その意味では、従来の趣旨と多少違うにしても、全く違うものにはならないのではないかというのが一つです。   他方で、業務執行取締役に拡大していくのであれば、やはりどのような責任は限定されないのかが重要になってくるのではないかと思います。取り分け利益相反、ここで言うのは利益相反取引とか競業というよりも、もう少し広いものを想定しているのですが、利益相反がある場合の責任について、必ずしも職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に当たらないのではないかという点が問題になります。もう少し言うと、善意無重過失というのは、必ずしも利益相反があるかどうかとか、取締役の裁量を尊重すべきかどうか、裁判所の介入によって問題解決すべきかどうかというのとは少し違う観点で作られた要件ですので、この辺りを整理しないといけないのかなと思います。こういったことは理屈の上では今までも問題になり得たのですが、業務執行をしない役員であれば顕在化する場面は余り多くなかったのだろうと思います。もし業務執行取締役にも適用範囲を拡大していくのであれば、こうした、どんな責任であれば限定されないのかというのを正面から整理し直す必要があろうかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○久保田委員 これは会社法制研究会のときから申し上げてきましたように、適切な責任の分担の実現という観点から、業務執行取締役等である取締役との責任限定契約の締結を認めることに賛成いたします。過去に申し上げたことと繰り返しになるかもしれませんけれども、取り分け上場会社では、何か問題が生じると会社に巨額の損害が生じるわけですけれども、最近はビジネスと人権に関する国際規範を始め各種の規範について事実上の拘束力が増してきており、それに伴い取締役の職務の対象も拡大してきています。このような状況で、個人である取締役に対して、軽過失しかない場合にまで巨額の損害賠償責任を負わせることは非現実的であろうと思います。   この点に関連して、経営判断については基本的に経営判断原則が適用されるため、軽過失しかない業務執行取締役等の責任が認められるという事態はそもそも生じないであろうと考えられます。しかし、これは部会資料にもありますとおり、他の取締役に対する監視、監督であるとか、あるいは適正な業務執行を行うに当たり配下の使用人等を監視、監督するという文脈では、軽過失しかない業務執行取締役が巨額の損害賠償責任を負わされることはあり得るわけです。そのため、責任額を減額するための解釈論もこれまで様々唱えられてきたわけですけれども、いずれも必ずしも功を奏していないという状況にあります。このような状況では、定款の定めという形で株主の同意を要求することを前提に、業務執行取締役等である取締役との責任限定契約の締結を認めることによって、取締役が負う損害賠償責任の額を一定の範囲に限定し、相対的にリスク負担能力のある株主が残りのリスクを負うという形での責任分担を実現することが、現実にとり得る対応策の中では最善なのではないかと考えています。   なお、矢野幹事から問題提起がございまして、確かにこの点は問題になり得るわけですけれども、ただ、責任限定契約については定款で定めた額の範囲内であらかじめ会社が定めた額と法定の最低責任額、これが報酬をベースにした金額になるわけですけれども、いずれか高い額を限度とする旨の契約という形での制約がありますので、ここで一定の歯止めは掛かるのではないかと考えています。   もう1点、松中幹事から重要な問題提起があったと思います。善意でかつ無重過失である場合と構造的な利益相反がある場合というのが、少なくとも判例上は必ずしもきれいに整理できていないところがありますので、確かに善意・無重過失であることを要件とするだけですと、場合によっては業務執行取締役の責任が過小になるという危険はあり得るかと思います。そのため、私も改めてどのように整理すべきかを考えてみたいと思いますけれども、事務当局の皆さまにも、この点について可能な範囲で何らかの整理をしていただければ有り難いと思います。   なお、趣旨に関してですけれども、部会資料では人材の確保や適切なリスクテイクの促進という趣旨も記載されています。ただ、人材の確保については、平成26年改正で人材の確保を強調しながら責任限定契約の対象を非業務執行取締役までにしか拡大しなかった、そのときから大きな状況変化があったとは必ずしもいえないという問題があるかと思います。また、リスクテイクの促進は基本的には経営判断原則によって対応できますので、人材の確保やリスクテイクの促進という趣旨も当然入ってくるとは思いますけれども、中心に据えるべきは適切な責任の分担という趣旨であろうと考えています。   他方、株主代表訴訟制度の見直しについては、濫用的な訴訟の早期の排除という観点からの見直しをすることはあり得ないことであるとまでは思いません。ただ、現在何か大きな問題が起きているかといえば、そうではなく、今すぐ改正が必要であるというような状況にあるとはいえないように思います。また、先ほど申し上げましたとおり、業務執行取締役等である取締役に責任限定契約の締結を認めることが望ましいと考えていますところ、それに加えて株主代表訴訟制度の見直しまでしてしまうと、その見直しが濫訴の防止のためのものであったとしても、違法の抑止機能についての不必要な懸念を招きかねないということを危惧しております。そのため現時点では、少なくとも今回は、株主代表訴訟の見直しは避けた方がよいのではないかと考えている次第です。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○仁分委員 日本企業が国際競争の中で持続的な成長を実現するためには、経営陣が積極的かつ果断な意思決定による適切なリスクテイクを行い、果敢に挑戦することが求められます。しかし、そうした経営判断の結果として会社に損失が生じた場合に、事後的に過失を問われることで高額な賠償責任を負うおそれがございますと、役員等は責任の発生を危惧して経営判断が萎縮する懸念がございます。また、各企業には経済のグローバル化や経営課題の多様化・困難化に伴い、優秀な経営人材をグローバルに、かつ継続的に確保することが求められておりますが、高額な賠償責任を負うおそれがございますと、その支障になる懸念がございます。これらの懸念を解消するためには、経営判断の結果として事業がうまくいかなくなった場合でも役員等が過度に責任を負うことのない制度設計が求められます。したがいまして、役員等の責任に関する制度を見直し、経営陣の適切なリスクテイク、優秀な経営人材の確保を後押しする環境を整備していただきたく存じます。   まず、業務執行取締役等である取締役及び執行役について、責任限定契約の締結を可能としていただきたく存じます。現在多くの上場企業においては複数の社外取締役が取締役会に参加し、企業の重要な経営判断を行っております。しかし、経営判断や監督に関して責任問題が生じた場合、業務執行取締役と社外取締役との間で責任限定に関する取扱いが大きく異なる現行の規律は合理的ではなく、見直しが必要と考えます。責任限定契約は取締役の責任を完全に免責するものではなく、故意又は重過失がある場合は免責されず、軽過失の場合でも一定の損害賠償責任を負担する形での責任限定であります。また、責任限定契約の導入に当たっては株主総会における定款変更決議が必要であり、株主による意思決定を経て行われます。株主の意思で責任限定契約の導入が支持されている場合にまで、会社法が業務執行取締役等である取締役や執行役の責任限定契約を一律に禁止することは、合理的とは言い難いと考えます。   次に、「株主代表訴訟制度の見直し」も御検討いただきたく存じます。我が国の株主代表訴訟制度は、その提訴権が単独株主権であり、また、申立ての費用も一律・低額であるなど、国際的に見ても訴訟が提起されやすい仕組みとなっております。一方、株主代表訴訟制度は会社や役員に大きな負担を強いるものであります。具体的には、まず株主から提訴請求がなされた段階で、会社は多大な費用や労力を掛け、調査や提訴・不提訴の判断、不提訴理由の通知などの対応を行わなければならず、しかも提訴請求から60日以内に会社自身が提訴しない場合は株主が株主代表訴訟を提起することが可能であるため、会社は事実上60日という非常に短い期間の中でこれらの対応を行わざるを得ません。また、提訴請求から株主代表訴訟提起までの期間の制限が会社法上は存在しないため、ひとたび提訴請求があると、その対象となった役員は長期間にわたって不安定な立場に置かれることとなり、もろもろの負担が長く続く可能性があります。さらに、実際に株主代表訴訟が提起されると、訴えられた役員や補助参加をする会社は、それが不合理な提訴であったとしても、訴訟対応に追われることで、本来注力すべき業務に専念できなくなります。   このように、役員に責任がなかったとしても、実際に提訴請求や株主代表訴訟の提起がなされると、会社や役員において多大な時間、労力、費用の負担が生じますので、そのような負担を強いることになる現行の制度には疑問を感じます。近年、政府は資産運用立国を掲げており、個人投資家を含めて株主数の増加が見込まれております。株主代表訴訟制度が会社全体の利益や株主共同の利益に沿う形で利用されるためには、例えば一定割合の株式保有を提訴要件とすること、すなわち株主代表訴訟の提訴権を単独株主権から少数株主権へ変更することが必要と考えられます。   また、株主代表訴訟の却下の在り方についても検討が必要と考えます。例えば米国では、独立性が担保された委員会において株主代表訴訟が会社の利益に反すると判断された場合には、裁判所が当該訴訟を却下できる制度、いわゆる「訴訟委員会制度」がございます。これに対し、日本にはそのような制度が整備されておりませんが、日本においても近年、社外取締役の導入が急速に進展したことを踏まえ、株主代表訴訟の提訴が会社の利益に資するかについて、まずは社外取締役が評価し、その上で裁判所は手続的な審査を行うこととするなどの見直しを御検討いただきたく存じます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○北村委員 何人かの委員の先生と重複することを申し上げますが、役員等の責任の見直しについてコメントをさせていただきます。   責任限定契約制度の見直しでございますが、第1回会議の際に責任限定契約の制度を業務執行取締役に拡大するということになると、制度そのものの趣旨をどのように考え直すのかを検討しなければならないと申し上げました。すなわち、責任限定契約は、役員等のうち、専ら業務執行の監督、監査を行うことが期待され、自らリスクを十分にコントロールできない立場にある者を対象にする制度でありましたけれども、部会資料11ページ等に書かれておりますように、優秀な経営者の人材確保や大胆な経営判断の促進、更には株主と取締役との適切な責任分担を実現するための制度という面も含めるものとするか、ということです。これについては私は、そういうニーズがあるということであれば、業務執行取締役にも責任限定契約を認めるという検討はすべきであると思っております。   諸外国の例が部会資料11ページの(注)で紹介されておりますが、我が国の責任限定契約は、会社法第423条第1項の任務懈怠責任のうち悪意重過失のないものを対象としており、違法配当や株主の権利行使に関する利益供与など同項以外の責任は対象になりません。また、同項の責任でも、取締役が自己のために会社との間でした取引に関する責任は対象になりません。   抑止力の観点からは、責任限定契約を業務執行取締役に適用すると、1年分の報酬の4倍から6倍あるいはそれ以上の額で定款で定めた額の範囲内で株式会社が定めた額が責任を負わなければならない額ということになりますから、抑止的な効果はそれなりに働くのではないかと思います。また、業務執行取締役に責任限定契約が認められるということになりますと、D&O保険の保険料が安くなったり、付保範囲が拡大するということが見込まれることなどを勘案すると、業務執行取締役に責任限定契約を適用させるという方向での議論は進めるべきと思っております。   利益相反の問題が松中幹事や久保田委員から出てまいりました。現在は会社法第423条第1項の責任のうち取締役が自己のためにした直接取引についての責任のみ、責任限定契約の対象にはならないとされております。広い範囲の利益相反というのが、なかなか日本の会社法では言いにくいわけでございますが、例えば会社法第356条第1項の取締役に関する責任、つまり競業取引と利益相反取引についての責任ですけれども、同項の取締役の会社法第423条第1項の責任については、少なくとも業務執行取締役においては責任限定契約の対象にならないということが考えられそうです。責任限定契約を業務執行取締役にまで拡大するということであれば、そのような形で、現状とは違う責任限定契約の対象を検討するというのも必要になってくると思います。   株主代表訴訟の見直しですけれども、私はこれについては見直しの必要はないと思っております。部会資料を見ましても、特に現時点でこれを改正する必要があるとは思えません。したがって、役員等の責任規制の見直しの論点に関しては、責任限定契約の見直しを検討することに注力したらいいのではないかと思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○行岡幹事 私からは、責任限定契約制度の見直しについて2点申し上げたいと思います。前提として、私は、責任限定契約制度を業務執行取締役にも適用するという方向性には基本的に賛成でございまして、これから申し上げる意見は、その制度の細部の設計について留意すべき点を述べるという位置付けのものとなります。   1点目は、先ほど来、松中幹事、久保田委員、北村委員から御発言がありました利益相反に関する点です。利益相反が存在する場合には責任限定契約の適用を認めるべきではないという議論があり得るという点は、先生方がおっしゃるとおりだと思っておりまして、問題はその利益相反の範囲をどう確定していくかということになってくるのだと思います。   北村委員がおっしゃったとおり、これを立法技術として最も無理のない形で規定しようとすると、会社法第356条第1項に規定する取引についてはこの適用対象外とするという方向があり得るかと思います。しかしながら、より実質的に妥当な制度を設計しようとすると、形式的に同項の取引類型に当てはまるかどうかに限らず、少し表現は難しいですが、言わば実質的に利益相反のある取引についてはこの制度の適用対象外とするという方向性もあり得るところなのかなと思います。ただ、これも北村委員がおっしゃったとおりで、立法技術としてそれをどう規定するかが難しいという問題があるかと思います。部会資料の11ページの(注)ではアメリカについて御紹介があり、アメリカでは忠実義務違反による責任は適用対象外とされているということですが、アメリカではいかなる場合に忠実義務違反になるかについて判例法の蓄積があって、ある程度これが明確化されているという前提があるのだと思います。これに対し、日本ではそのような前提を欠くので、「忠実義務違反に該当する場合」などという形で規定することは難しい、しかも、日本の判例上、忠実義務は善管注意義務を敷衍し、一層明確にしたものにとどまるものであり、質的に異なるものだとは解されていないということもあって、難しいという事情があるのかなと思います。   以上、申し上げたことを前提としながらも、実質的利益相反がある場合を適用対象外とする方向での立法が可能かどうかということは、前向きに検討する価値があるのではないかと思いました。それが1点目です。   2点目は、責任限定契約制度の適用対象の拡大を考えるときには、D&O保険との関係も併せて検討する必要があるのではないか、という点です。責任限定契約制度の見直しの議論が出てきている背景ないし理由として部会資料に書かれておりますのは、現在の制度の下では業務執行取締役の責任を限定することはできず、かつD&O保険でカバーされる補償額も上限があるので、業務執行取締役自身が負担しなければいけない金額が大きくなりすぎる場合があるということかと思います。今般の見直しにより責任限定契約の締結が可能となれば、業務執行取締役の責任額に上限を設けることができるので、D&O保険で責任額の全額をカバーできる状態に持っていけるというところに、この改正の意義ないし狙いがあるのだと思います。   ただ、この場合、業務執行取締役自身の個人負担がD&O保険と組み合わせてゼロになりうるということでいいのかどうかという点は、少し考えておく必要があるのではないか、すなわち、軽過失の任務懈怠について、業務執行取締役のアウト・オブ・ポケットの負担がゼロになるということで民事責任の抑止機能が十分に発揮されるのかということは併せて検討する必要があるのではないかと思います。もちろん、これがゼロになってもいいという議論もあり得るとは思いますけれども、そのような方向性で良いかという点は明示的に検討しておく方が良いのではないかと思いました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○内田委員 私は短めですが、業務執行取締役に責任限定契約を導入するということであれば、会社法上の社外取締役も含めた取締役の役割とか責務を明確にするということを一緒に併せて議論すべきではないかと思っています。先ほど少しコメントがありましたが、人材確保の面では、特に業務執行取締役については、そういった実情ではないというか、そういう事例は余りないと思っておりますし、先ほどから議論があるように、社外取締役を中心とした取締役会での実効性が依然として疑問視されている、余り機能していないケースもあるという課題もある中で、責任を緩和するだけがいい制度ではないと思いますので、一定のやはり規律というか、責務、責任を明確にしてから導入するということが必要ではないかと思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○森委員 私は責任限定契約は株主代表訴訟と関連して検討、議論した方がいいのではないかと思っております。株主代表訴訟制度は、一人の株主であっても株主権として僅少な金額で訴えを提起できることになっており、海外と比較しても異質なものになっていると思われます。そういったことがあるからこそ、責任限定契約がなければリスクが大きいということになっている側面があると思っています。  少数株主が会社の利益のためにどこまで全体の株主を代表して権利行使すべきであるかという視点から考えた場合、株主代表訴訟制度については、会社に対して訴え提起を請求すること自体に制限は設けなくてもよいと思いますが、実際に自ら訴えを提起できる株主の条件については、例えば1%以上の株式を保有する株主といった制限を設けることも検討に値するのではないでしょうか。  仮に株主代表訴訟制度の修正を行わないのであれば、業務執行取締役に対する責任限定契約制度導入の必要性がより強く認識されるものと考えます。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○松尾幹事 私も責任限定契約について一言だけ申し上げます。業務執行取締役にもこの対象を広げるべきであるということについては賛成でして、既に何人かの委員、幹事の方から出たとおりの認識でおります。具体的に特に懸念しておりますのが、従業員による違法行為について会社に課された課徴金、これを監視監督義務違反があったという形で取締役に賠償させると、こういう事例が既に幾つか出ておりまして、その額がかなり大きい、付保限度を超えていて、そのまま負わせると破産せざるを得ないような金額になるという事例が既に出てきていると承知しておりますので、喫緊の課題なのではないかと認識しております。本来はそういうところは賠償すべき範囲の解釈論で対応するのがよろしいかとは思うのですけれども、それがなかなか難しいというのは久保田委員がおっしゃったとおりですので、可能であるならば、そのシチュエーションに限ってでもいいので、是非この責任限定契約の対象にしていただきたいというところなのですけれども、なかなかそういう限定が難しいというのが悩ましいところであるかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○藤田委員 私も責任限定契約の点について若干コメントしたいと思います。既に述べられたこととかなり重なるのですけれども、基本的には見直しに賛成なのですが、それを前提に若干コメントしますと、責任限定契約できる主体については元々は社外取締役に限定されていて、その場合の趣旨は、人材確保、すなわち社外取締役を引き受けてもらうためにこの契約が必要だったということだったわけです。   平成26年で非業務執行取締役に主体が拡張されたときは、身も蓋もない言い方をすると、社外取締役の定義が変わったため、社外取締役の要件を満たさなくなる非業務執行取締役がでてくることになるので、従来なら保護された人の既得権を守ってあげるためということかもしれませんが、もう少し理屈で説明するなら、非業務執行取締役が厳しく監督することで業務執行取締役と対立したりすると、いざというときに非業務執行取締役が責任軽減決議を後でしてもらえないおそれが生じ、かえって監視機能が弱まることになりかねないから、あらかじめそういう人たちの責任限定を確保してやるために必要だという説明になると思います。   ところが、代表取締役を始めとする業務執行取締役に責任限定契約を解禁すると、その存在意義の説明が少なくともそのままでは使えなくなるので、業務執行者について導入するとすれば、経営上のリスクについて業務執行者は一定以上は負担しなくていいとすることが会社経営にプラスに働くといった説明になってくると思います。ただ、そういう側面を加える必要はあるのですが、そう言ったからといって、従来の社外取締役や非業務執行取締役についてしてきた説明を全部放棄して、新しい説明だけで責任限定契約制度の全てを説明しなければいけないわけではなくて、責任限定契約制度は、契約主体に応じて強調すべき点が異なるいろいろな側面・機能を持つものである説明していくことになると思います。だから決め打ちで改正後の制度趣旨はこれだということを言わない方がよい気がします。   今言ったような意味での趣旨は理解できる面もあるのですが、問題はイエスかノーかというより、どういう内容で導入するかという点であって、こちらの方がより気になります。単純に現行法の責任限定契約の主体に業務執行取締役を加えるだけなのだという改正をしてしまうと、11ページに(注)があり、ヨーロッパはもとよりアメリカのデラウエア州は、――取締役の責任の限定との関係でよく引き合いに出されるのですが――、と比べても更に責任が制限されてしまう可能性が出てきます。すなわち、デラウエア州の場合は実は適用除外がいろいろあるのですが、それが現行法の適用除外と比べて広いのか狭いのかが実はよく分からないところがあります。デラウエア州会社法の場合、これまで何度か指摘があった忠実義務違反の場合に加えて、認識のある法令違反というのも除外されているし、不適切な個人的利益を得ることになる取引――これは広い意味での忠実義務違反かもしれませんけれども――も除外されます。このように、個別に排除されているものがいろいろあります。   これに対して、現行法で責任限定契約の適用外として規定されているのは悪意・重過失の場合ですが、それが適切な除外事由になっているかは検討の必要があります。松中幹事が言われたことなのですが、非業務執行取締役であれば、悪意・重過失を例外とすることでいいような気がします。つまり非業務執行取締役の場合は、基本的には監視義務が責任の原因ですので、著しく注意を欠ける形でしか監視しなかったなら責任軽減を享受できないというように、基本的には普通の意味での重過失で理解しやすいです。これに対して、業務執行者について除外したい範囲は、実質はデラウエア州会社法等と余り変わらなくてよいと思うのですけれども、それが重過失概念でうまく実現できるかよく分からない気がします。   更に言うと、非常に高いリスクがあるけれどもそれは百も承知でやりますというような行為は、仮にこれが重過失だと責任制限をかぶらないことにもなりかねないという逆の方向の懸念もないわけではありません。そもそも重過失という概念が責任制限の限界を画す概念としては適切かという疑問は、責任限定契約が最初に導入されたときから気にはなっていたのですが、業務執行取締役が適用対象になるとそれが一層正面から出てくるような気がして、そこが今回の提案で一番気になっているところです。   北村委員の言われたような形の明確化も、これはもちろんやるに越したことはないと思うのですが、それに加えて、結局何を排除したいのか、どんなものが外れるのかという実質について、せめて法制審の部会の中では認識を共有した上で、重過失の中身について整理し直した方がいいと思います。できることなら、更に文言も変えられたらいいと思うのですが、妙案は出てこないかもしれませんので、その場合には普通の意味で重過失を解釈をしなければいけない可能性があることといったことについて、少しでも明確にできるような議論が今後できればと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   ほかにいかがでしょう。   よろしいでしょうか。もしよろしければ、第3のセクションに移らせていただきます。   部会資料5「第3 有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた規律の見直し」の論点につきまして御意見がございましたら、御発言を頂きたいと思います。いかがでしょうか。 ○仁分委員 前回の部会におきまして参考資料12を提出し、株主総会前の情報開示の充実に向けた取組を進めるのであれば、会社法と金融商品取引法の双方に関係する開示書類の在り方や、当該開示書類に関する責任、監査、株主総会の在り方の見直しをも含めた制度横断的な環境整備が求められることを御説明させていただきました。   今回、株主総会前の情報開示に関して議題として取り上げていただいたことに感謝申し上げます。まず、本件について議論するに当たって、前提として、投資家からどのような声が挙がっているかを正しく把握することが重要であると考えます。金融庁の小長谷幹事から提出された参考資料15の6ページ冒頭において、「海外機関投資家は有価証券報告書を株主総会前に開示することは上場企業として当然であると主張」との記載がございます。しかしながら、そのような声を企業が個々の機関投資家から直接聞くことはほとんどないというのが実情であります。   前回の部会で提出させていただきました参考資料13「有価証券報告書の株主総会前開示アンケート結果」のとおり、経団連において会員企業・団体にアンケート調査を実施しております。その14ページに記載のとおり、本年、株主総会前に有価証券報告書を提出したと回答した企業は全部で181社でした。そのうち「投資家からの反応」についての質問に有効回答があったのは129社であります。まず、その129社のうち113社、割合にして87.6%が、「投資家から大した反応はなかった」と回答し、2社は「ネガティブなフィードバックを受けた」と回答しました。一方、「前向きなフィードバックを多く受けた」と回答した企業は2社、「前向きなフィードバックを少しは受けた」と回答した企業は12社にとどまりました。さらに、15から16ページに記載のとおり、企業からは、「短信と同時に任意開示のIR資料にて投資家の要望にできる限り手厚く対応している。そのため、そもそも有価証券報告書の前倒し要望は投資家から特段出ておらず、現状は特段のメリットがない中での前倒しの実務負荷だけが生じている状態である。」との反応や、「複数の機関投資家より議決権行使判断に際して有価証券報告書でしか確認できない情報はないとのコメントがあった。」との反応がございました。このように、全ての投資家が有価証券報告書を株主総会前に開示することを求めるものではないと認識しております。   一方で、前回もコメントさせていただきましたが、有価証券報告書の株主総会前開示につきましては、上場会社に実務上の負担が大きいことに加え、開示時期の前倒しには一定の限界がございます。有価証券報告書を株主総会前に開示する意義や必要性については、効果の検証を含めて十分に議論を尽くす必要があると考えます。   その上で、仮に株主総会前の情報開示の充実に向けた取組を進めるとした場合の制度整備に関し、前回は具体的な内容の説明は割愛いたしましたが、今回は制度設計の方向性について御説明させていただければと思います。参考資料12の2ページ以下に記載のとおり、大きく、「企業情報開示に関する制度の整備」及び「決算・監査及び株主総会準備の効率化」の二つに関して、会社法の規定の見直しを御検討いただきたいと存じます。   まず、「企業情報開示に関する制度の整備」につきまして、株主総会前に真に有用で効率的な開示を実現するためには、上場会社がその選択により、会社法に基づく開示書類と金融商品取引法に基づく開示書類を一本化できるようにすることが望ましいと考えます。その観点から、特に次の3点を御検討いただきたく存じます。   1点目は、事業報告等と有価証券報告書の一本化であります。現在は、事業報告等と有価証券報告書の記載事項には重複が多いことから、従来の事業報告等と有価証券報告書が一つに統合された「新たな開示書類」について規律を設けることを要望いたします。なお、部会資料5の16ページに事業報告等と有価証券報告書の記載事項の相違点についての対応に関し二つの案が示されており、また、18ページに事業報告等と有価証券報告書の一本化について記載されていますが、これらの点については企業実務の実態も踏まえ、追って改めて意見を述べたいと存じます。   2点目は、監査役等の監査の不要化であります。財務計算書類に会計監査が必要であることや、サステナビリティ情報について第三者による保証が段階的に義務付けられることなども踏まえ、新たな開示書類については監査役等の監査を不要としていただきたいと存じます。   3点目は、法的責任の合理化です。新たな開示書類の虚偽記載等に関する会社及び役員等の責任は、従来の事業報告等の虚偽記載に関する規律を基本としたものに一元化していただきたいと存じます。   続きまして、「決算・監査及び株主総会準備の効率化」につきまして、株主総会前における情報開示の充実の妨げとなっている要因の一つとして、事業年度末から株主総会開催日までの限られた時間の中で、決算・監査及び株主総会準備が多大な負担となっていることが挙げられます。そこで、これまでの部会で議論されてきた、事前の議決権の行使により株主総会の決議があったものとみなす制度等の創設、バーチャルオンリー株主総会の開催要件の緩和、株主提案の議決権300個要件の廃止、株主提案の期限の見直し、株主総会資料の書面交付請求制度の廃止に加えまして、単体決算開示の不要化についても御検討いただきたく存じます。   それから、1点コメントさせていただきます。企業統治の在り方に関連しまして、企業からは、取締役会議事録等の閲覧・謄写請求制度におきまして、近時、例えば株主総会での議決権行使に役立てるためといった抽象的な理由のみで株主による閲覧・謄写請求が裁判所に許可されることがあるとの意見がございました。この取締役会議事録等の閲覧・謄写請求制度につきましても、議決権行使等のみを目的とする閲覧・謄写は認めないこととするなど、見直しを御検討いただきたく存じます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○石井委員 第3の有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた規律の見直しを行うことに、異存ございません。前回も少し申し上げましたが、企業は第1四半期において、決算手続や株主総会の準備等の中で、決算短信、事業報告等、それから有価証券報告書などの開示書類を立て続けに作成し、この実務対応に、非常に多大な工数を掛けて対応しているという現実がございます。総会前開示をするという前提にかかわらず、開示書類作成実務の負担軽減につながる施策というのは、本来あってしかるべきではないかと考えておりまして、今回、非常にいい機会だと思いますので、是非検討いただきたいです。   ただ、株主総会前の有価証券報告書の開示を、今は数日前という形がメインだと思うのですけれども、仮に3週間前に要請された場合には、先ほど仁分委員もおっしゃられましたが、企業実務にとってのハードルは非常に高いと言わざるを得ません。年度決算確定後、決算短信、事業報告等の作成を経て、もちろん、一定程度同時進行できるプロセスはありますが、3月決算会社の場合、本格的な有価証券報告書作成のスタートは大体GW連休明けという会社が多いのではないかと思います。   今回、部会資料で規律の見直し例として御提示いただいている書面交付請求制度については、EDINET特例を活用されているという会社にとどまらず、総会前の情報開示の充実化にとっても実務上の負担となりますので、是非廃止の方向で検討いただきたいと思います。   もう一方で御提示いただいている、開示事項の相違点についての対応ですが、事業報告等に固有の相違点Bがあることにより、多大な負担になっている点も、一体開示の面からは言えるかもしれません。さらに、早期開示という側面から見ますと、実務担当にも聞いてみたところ、事業報告等の重複事項Aの表記方法などが、会社法と財務諸表等規則で異なるケースも多く、そのまま使用できないということで、二重チェックとならざるを得ないことや、有価証券報告書特有の開示事項Cが多いという点もネックとなっていると聞きました。例えば、今後導入も増えてくるであろう国際会計基準(IFRS)を採用している会社にとっては記載すべき注記事項も非常に多いという事実があることと、今後サステナビリティ情報開示の拡充が見込まれることも踏まえますと、会社法制の対応のみでは限界があるのではないかと思っています。   そう考えますと、Bの固有の相違点を解消して一体開示の環境を進めるということに加えまして、仁分委員からも御発言いただきました、金融商品取引法の開示書類と一本化した書類も、企業サイドの選択肢として検討に値するものと考えております。そこで、重複事項Aの統一化を図るとともに、Cについても、本当に総会前開示として必要なものか否かという見地から最大限見直しを図っていただけると非常に有り難いと思っています。   その際、こちらも経団連殿の御要望にありましたように、総会前開示の必要性が低いものは後日開示も可という選択肢も認めること、サステナビリティ情報開示につきましても、企業が創意工夫して作成している統合報告書などの任意開示書類との交通整理も含めて、法的開示は重要なものにとどめるということも可とすることを検討いただいてもよいのではないかと思います。   本日金融庁様から御紹介いただいた海外投資家の意見にもありましたが、前回議論された、事前の議決権行使によって株主総会の決議があったものとみなす制度を創設した場合には、議決権行使に当たって有価証券報告書の情報を参考にしたいという意見も当然に出てくると思います。早期開示の必要性の認識の醸成を社会的に図っていただくことに加えて、企業と株主双方にとって有用な開示の在り方についてのベストプラクティスを探るべく、議論を是非深めていただきたいと考えています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○藤井委員 仁分委員と石井委員と少し重複するところもあるのですけれども、意見をさせていただければと思います。   有価証券報告書の現在要請されております総会前開示の一番の趣旨は、株主、投資家が議決権行使をするのに当たり必要な情報を一定の時期までに企業側が開示すべきであることと理解をしております。この本来の趣旨から鑑みますと、事業報告等の開示事項で解決していくべき問題とも考えておりまして、ただ、それは時代の変化に応じた若干の見直しというのは必要なのかなと考えております。   この趣旨を実現するために、短期的には、例えば有価証券報告書の記載事項のうち、参考図ですとCの部分になるかと思うのですけれども、株主や投資家が議決権行使の判断に当たって真に必要としている情報で足りていないようなもの、これは投資家の御意見は様々あろうかとは思うのですけれども、例えば政策保有株式の保有状況とか、こういったところが該当すると理解しているのですけれども、こういったものを事業報告等に取り入れて、AとBの範囲を少しだけ広げるといったことも考えられると思っております。   先ほど石井委員からもございましたとおり、私も承知しているところですと、やはり有価証券報告書と事業報告等の二つの開示物でAと整理されて、同じ事項だと整理されているものについても、用途の違いで基準が異なっている、例えば大株主の状況等を開示する際に、有価証券報告書については発行済株式ベースで、事業報告等においては議決権ベースで開示しているといった違いがあると承知しておりまして、やはり実務上の負担が生じているということは声として多く聞くところでございます。そういったことも踏まえまして、中長期的には、お二人からもございましたとおり、会社法と金融商品取引法が要請する二つの書類の一本化を、これを機に目指していくべきと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○内田委員 それでは、議決権を行使している立場として若干コメントさせていただきたいと思います。議決権行使に当たっては五つの資料を使っています。株主総会参考資料、これはいわゆる招集通知ですね、それと独立役員届出書、あとガバナンス報告書、これはクイックからデータをダウンロードしています。それから短信、これもクイックからダウンロードしています。あとISSのレポート、この五つで議決権行使をしています。特に6月の集中月については、これらを駆使して行使しているという状況です。有価証券報告書に記載されている情報は、今申し上げた五つの中からほぼ取得可能な状況です。   逆に、有価証券報告書からしか取れない情報としては、幾つかありまして、いろいろな方からコメントがあった政策保有株はそれに該当するかと思うのですが、最近は米国の議決権行使助言会社が強く推奨していることもあって、それらが招集通知に記載されていることが多くなってきています。ですから、実際に参照する機会は非常に少なくなってきていると思います。それから、役員報酬に関する情報も有価証券報告書を参照するのですけれど、最近は議決権行使基準に役員報酬を必ずしも定量的に組み入れないところも増えてきていまして、弊社もそうですが、かつては役員報酬は参照していたのですけれども、現在もう見ていないというような状況になっています。ですから、まとめると政策保有株は有価証券報告書を参照するというところですかね。   それを踏まえて、実際のオペレーションでは、金融庁の説明もあったように、有価証券報告書についてはやはり3週間から4週間前に一律に開示していただけないと実務的には使うことはないということだと思います。実際に書面行使は7日前で、電子行使は大体4日から5日というのが一般的だと思います。それを踏まえると、3週間から4週間前に、部分的に歯抜けというか、例えばA社は開示している、B社は開示していませんということだと使えないので、これは一律に開示していることがやはり必要だということだと思います。加えて、6月の集中月以外でもこれらの日程は同じですので、4月であろうが8月であろうが3週間前には情報が必要だということだと思います。   それが実際の現在の状況で、有価証券報告書の総会前の開示が実現するには、やはり現実的な取組みとしては、発行体の負担も考えて、先ほど金融庁から説明があったように、やはり総会時期を柔軟に運用していくこと、つまり後ろ倒しも含めて検討していくということが現実的な対応だと思います。それに向けて対応していくのだろうと思います。総会時期を柔軟に運用して、要するに後ろ倒しになっても、特にそれに対して大きな問題はないと考えています。   あと、実際に有価証券報告書には必要な情報がやはり詰まっていますので、これが総会前に早期に開示されれば、先ほど申し上げたような資料とは別に、やはり有価証券報告書を第一に見に行くということが当然であろうと思います。   それから、開示資料の一体化はやはり進めていただきたいと思います。現在、有価証券報告書、それから事業報告書があると思いますが、基本的には有価証券報告書に投資家が必要としている情報は多く、網羅的に開示されていると思いますし、有価証券報告書はフォーマットなどもきちんと決まっていて、データベース化とかAIを活用したスクリーニングとかもすごくやりやすい状況になっているので、やはり有価証券報告書をベースとして、事業報告書の中で有価証券報告書で開示していないものを丁寧に拾ってきて、そこで情報開示を一本化していくというのが投資家フレンドリーであると考えます。   今後、先ほどありましたように、非財務の情報開示なども拡充が進んでいくものと思いますし、開示の後退というのは望ましくないということで考えると、余り性急に簡略化して、その代わりとして開示の後退を招くようなこと避けるべきですし、総会を少し後ろ倒しにするような形で、発行体にも余り負担を掛けない運用をしていくことが現実的な対応であると考えるところであります。 ○神作部会長 投資家の立場からの御意見をありがとうございます。 ○青委員 現状の実務をベースに様々な御意見が出ているかと思うのですが、有価証券報告書については、これまで正直、余り投資家の方が利用していなかったというところを、今後は例えばセーフハーバールールを強化することによって、企業の方々がより具体的で分かりやすい説明をしやすくするといった工夫を通じて、将来的には投資家の方々が投資判断をする際に実際に使われるような方向感で、議論されていると承知しているところです。   それから、総会の準備が大変だというのはそのとおりだと思うところ、それをできる限り簡略化していくという意味で、一体的な開示を志向していくことはもちろんあり得るのですけれども、先ほどもサステナビリティの開示が大変になるのではないかという話もあったように、開示すべき事項が増えていく可能性もあるわけでございます。総会前の様々な株主提案への対応だとか、いろいろ起き得るところについて、提案自体をできなくするといった方向も考え得るのかもしれませんけれども、一方で時間的な余裕を確保するというのも重要な視点かと思います。   そのように考えていきますと、見直すのであれば、現状のスケジュールに過度に拘泥せず、全体として、有価証券報告書の位置付けや諸々の手続が今後変わり得るということも念頭に置きながら、総会のスケジュールを含めてよく議論をしていって、企業側と投資家の双方の意見も踏まえつつ、諸外国の実務にも配慮しながら、新しい実務を作り上げていくといった視点が重要ではないかと思っています。金融庁の方でもこういったスケジュール感含め議論されているところと認識してございますので、そこでの議論結果にも期待したいところです。   そのような方向感を踏まえ、まず目先のところでできることとして、事業報告と有価証券報告書の開示事項をできる限り調整して、一つの書類で済むような形にしていくことは重要であって、それぞれの法令や省令で支障がある点の見直しを考えていく方向がよいかと思うところです。   法務省様の資料の16ページのA、B、Cというところがございますけれども、有価証券報告書と事業報告書のどちらに寄せていくのかというところは様々考え方があるかもしれませんけれども、将来的に有価証券報告書を実際の投資判断に使われるものにしていくことを考えていくと、有価証券報告書の記載事項に会社法上必要なものを足していくという形ぐらいが一番よいのではないかと思い、基本的には会社法でしか求められていない部分について、削除できるものは削除し、有価証券報告書に統合できるものについては多少の調整をしながら統合していくという方向感の方が、全体としての出来上がりはよいのではないかと思います。   ただ、完全にBの部分をゼロにすべきかは、それぞれの法律の目的の違いが当然あるわけでございますので、それぞれの法律の目的を変えない中では、慎重に考える必要があると思いますし、仮に一つの法体系の中で作るべきだということであれば、例えば金融商品取引法で決めるとした場合に、会社法上の要請も取り込んだ形で規定できるような工夫も、必要かもしれないと思ったりはするところです。どういう結論が出るのかなかなか見通せないところがございますけれども、丁寧に考えていく必要があるのではないかと思います。   また、いろいろ御意見がありますので一概に決め切ることはできないわけでございますけれども、仮に総会のタイミングを後ろ倒しにするという方向で考えると、例えば総会を2か月遅らせ、有価証券報告書を現状より1か月遅らせることで、有価証券報告書を出すタイミングを総会に比べて早くした場合に、現行の基準日から3か月以内に総会を開くというルールについて、基準日をずらすという方法もあるのですけれども、基準日から数か月延ばすという方法もあったりとか、あるいはエンプティ・ボーティングを招かないようにということで、基準日から総会までの期間を短くしつつ、例えば配当の基準日については前倒ししていくとか、いろいろな対応が考えられるかと思います。発行会社が対応しやすいようにするためには、どういう手当てがよいのかも追って議論していく必要があるかと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○田中委員 まず、今回の資料に書かれている会社法上の書類と有価証券報告書との一体化ないし一本化については、そういったルールを積極的に進めていくことが望ましいと考えます。私は、会社法上開示すべき書類と、有価証券報告書で開示すべき書類とで、記載すべき事項に言われているほどのずれはないと思っています。基本的に、投資判断にとっては重要であるが、議決権行使にとって重要でないとか、あるいはその逆というのは余りないのではないか。いずれにせよ、対象会社の企業価値にとって重要な影響を与えるものは重要であるということになるのではないかと思っています。現在、二つの法制で開示すべき事項に差異があるのは、多分に立法経緯による違いにすぎない部分が大きいと思っておりまして、法制上の立て付けが違うから一体化できないというようなことはなく、基本的に一体化することは可能だと思います。   事務局の資料の分類でいいますと、Bに区分される事項、つまり、有価証券報告書の開示事項になっていないが事業報告では開示事項とされるものは、恐らくそれほど数は多くなく、これらについては有価証券報告書においても開示事項とすることは特に困難ではないと思います。そのような形で一本化することはできると思うのですが、ただ、これは既に御意見が出ていることですが、一本化にとっての真の課題は法制上の問題というよりは、やはり、株主総会のスケジュールの問題だと思います。現在の決算期から3か月以内に株主総会を開くというスケジュールの下では、会社法上の書類については監査をした上で招集通知発送前にできていなければならないので、現在のスケジュールを前提にする限り、たとえ事業報告を有価証券報告書に一本化したとしても、結局、招集通知発送前に監査を受けてできているべき部分と、できていなくてもいい部分とを分ける形にせざるを得ず、実際上は一本化できないことになると思います。したがって、やはり抜本的な解決としては、株主総会スケジュールを後ろ倒しにすることがいいと思っております。   現在、株主・投資家は、株主総会前に開示されている資料を駆使して議決権行使に必要な情報を得ていると思いますが、先ほど内田委員もおっしゃったように、1個の書類でフォーマットが決まっていて、そこに必要なことは皆書いてある方がよいことは明らかであるように思えまして、諸外国でもそのようにしていると理解しております。同じことを日本ができないということは考えにくいと思っております。   それに対する主な障害は、結局のところ、企業にとっての役員の改選時期の問題で、あとは、要は慣れの問題ではないかと思います。諸外国で、株主総会のスケジュールを決めるに当たって役員の改選時期の問題がほとんど議論されないのは、恐らく、取締役の改選と執行役(経営陣)の改選は別の事柄なので、執行役の改選時期は、別に株主総会の期日と揃っていなくても構わないということがあるのではないかと思います。この点が、日本のこれまでの企業統治の常識と違っている部分だと思いますが、現在、日本の上場会社でも相当程度にモニタリング・モデル化が進んでいますので、ある程度そこは、執行の改選期と取締役会の改選期が違っていてもいいという形で割り切ることもできるのではないかと思います。   この点に関し、先ほど少し思い付き的に申し上げましたけれども、少なくとも上場会社については、執行役制度をオプションとして認めるということによって、取締役の改選時期と執行(経営陣)の改選時期は違ってもよいということを新しい常識にするということもできるのではないかと思います。   株主総会の招集スケジュールについて、諸外国との比較を私も研究したことがありますけれども、やはり他国から見れば、上場会社において招集通知発送から総会開催まで3週間というのも短いわけで、株主・投資家から見てぎりぎり許容できる水準といえるかも分からない。正直、短すぎると思います。短い招集期間をものすごく苦労してやっと実現しているという状況なのであって、本当は、招集期間は1か月以上の余裕があった方がよいわけで、そこを、決算期から3か月以内に総会を開くことを常識にしているために、いろいろな可能性を閉ざしているような気がします。ここは、実務と法制の両面から、常識を変えていくのがよいと思っております。   それから、余計なことかもしれませんけれども、現在、会社法にある様々な規制について緩和の主張がありますし、私自身もそのうちの一部には賛成なのですけれども、決算期から3か月以内に総会を開いているのは、飽くまでも企業の自主的判断なので、決算期から3か月以内に株主総会を開くことを前提にして、基準日に関する規制(3か月しか効力を持たない)は負担だから緩和するというような議論にはしないでいただきたいと思います。緩和すべき規制はスケジュールに関係なく緩和すべきですが、スケジュールがきついからこの規制を遵守しづらいというのは、規制のほうでなくスケジュールの方を変えていただきたいと思います。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○臼井委員 有価証券報告書の開示タイミングについて、総会前の開示にこだわる必要性は投資家目線では大きくないものの、よりタイムリーな開示に向けて、効率化を含め何らかの手当て、枠組みを作ること、また、有価証券報告書にまとめるという方向で開示の一本化に賛同いたします。   弊社において、日本のアクティブ運用戦略における議決権行使にあたっては、決算短信、決算説明会の資料や説明内容、必要に応じてエンゲージメントにより判断をしております。従って、有価証券報告書が総会の前日若しくは数日前に出されたとしても、現状では議決権行使へのインパクトは限定的と考えております。ただ、これは裏を返せば現状、上場会社の自主的な御努力によりこうした情報提供が行われているために、実務上問題が起きていないだけということでもありまして、より迅速性を義務付けるような形で仕組みを作っていく方向性に賛同を致します。   また、議決権行使への活用にはこだわらないとしても、現状の有価証券報告書の発行タイミングは少し遅すぎるという感触を持っております。先ほどの資料にもございましたが、例えば米国のForm 10-Kは大企業であれば期末後60日以内に発行されており、こうしたタイムリーな発行を希望いたします。現状、事業報告書は招集通知と共に発表されておりますが、こちらは機関投資家のニーズとはやや異なっており、決算説明会資料等の活用が併せて必要になってくるということになります。   投資家には、事業報告書や決算短信には収録されていないような、有価証券報告書によってリリースされる重要な情報を、銘柄選別や分析においてなるべくタイムリーに入手したいというニーズがございます。具体的には役員リスト、保有株数、財務諸表の詳細、結合会計、債務の返済スケジュール、従業員や固定資産の状況、セグメント情報の詳細、注記等を、連結ベースで評価したいというニーズがあり、単体ベースが中心の事業報告書とはギャップが生じます。また、海外の投資先候補の企業と比べた際に、日本の有価証券報告書でこうした連結に関する詳しい情報が出てくるのが遅いという現状は、日本株に投資する上での課題ともなり得ます。   開示書類の一本化、有価証券報告書にそろえる形での一本化をした上で、効率化も図りながらタイムリーな発行ができるような法整備ができればと考えております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○久保田委員 既に御発言された委員、幹事の方々と重なるかもしれませんけれども、意見を申し上げさせていただきます。この第3のところは、タイトルとして有価証券報告書の総会前開示の進展を踏まえた規律の見直しということになっているわけです。ここに書かれているとおり、有価証券報告書の総会前開示の進展が求められていますけれども、これは開示事項を調整するとか、あるいは有価証券報告書と事業報告書等の一本化をするということだけでは到底実現できないものであろうと思います。正に内田委員がおっしゃったように、株主総会の開催スケジュールの見直しが不可欠であろうと思います。そして、開催スケジュールの見直しが可能になれば、前回議題になったような株主提案権の行使時期についての問題も、よりよい形で解決できるのではないかと考えています。   これは蛇足かもしれませんけれども、有価証券報告書の総会前開示が我が国で難しいことについては、我が国では欧米、特にヨーロッパ諸国と比べて基準日に関する規制が緩い、総会日から3か月以内でよいとされていることも間接的には影響しているのではないかという気がしています。どういうことかといいますと、我が国では基準日が総会日から3か月以内でよいという比較的緩やかな規制になっているために、決算日を基準日にした株主総会のスケジュールがぎりぎり可能になってしまっています。ただし、飽くまでぎりぎり可能なスケジュールですので、有価証券報告書の総会前開示もぎりぎりになって、余り意味がないものになってしまっていると言えなくもないわけです。   もちろん、そうだからといいまして基準日に関する規制についてヨーロッパ並みの規制にするためには、議決権行使を基本的に電子投票にすることが必要であるなど、考慮すべき要素がほかにありますので、単純に基準日に関する規制を強化すべきであるとは考えていないのですけれども、少なくとも基準日に関する規制を現状より更に緩めることによって対応するというのは避けた方がよいのではないかと考えております。   他方で、事業報告等及び有価証券報告書の開示事項の相違点についての対応及び有価証券報告書と事業報告等の一本化については、飽くまで企業の開示実務の効率化、合理化、あるいは投資家にとっての利便性の向上という観点から行うべきものだろうと思います。そして、ここで掲げられていることについては、基本的に開示すべき事項に変更はない、ただ開示媒体が変わるというだけですので、その意味で基本的には規制の実質的な内容の変更を伴うものではないと理解しています。   これに対し、部会資料19ページの(4)、最後のところに掲げられていることについては、これは規制の実質的な内容の変更を伴うものであろうと思います。そのため、田中委員もおっしゃったように、企業の業務負担を軽減するということだけではおよそ十分な正当化理由にはならないと思いますので、慎重な検討が必要であろうと考えています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○加藤幹事 私も19ページの(4)について、1点だけコメントを致します。現在、事業報告については監査役などが監査をするという枠組みになっております。この監査役などによる監査の対象には、例えば内部統制システムの運用に関する事項や、親会社などとの取引に関する事項も含まれます。こういった事項については、事業報告を受け取った後、その監査という枠組みにはなっておりますけれども、実際にはそれにとどまるものではないと考えます。これは事業報告の記載事項の見直しとも関連しますけれども、現在の事業報告の監査によって監査役に期待されている役割の中には、単に事業報告の記載事項を簡略化したからといってなくしてよいものではないものも含まれていると思いますので、その点は注意する必要があると思いました。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。 ○齊藤委員 事業報告との関係について意見を述べさせていただきます。   既に御指摘があったところですが、総会前開示にかかる最大の課題は株主総会の開催時期でございまして、今回のような提案には、株主総会の開催を遅らせることを立法で強制することは難しいので、それを促すために手当てするという御趣旨も含まれているのではないか、と理解いたしました。久保田委員が御示唆されたことになるのかは分からないのですけれども、いっそうのこと基準日と権利行使の期間を短くする立法をすれば、後ろ倒しが進むのではないかとは思われます。しかし、そのような改正をしないのであれば、どのように開示と株主総会における議決権行使をつなげていくかということを検討せざるを得ないのだろうと思います。   藤井委員が御指摘になられたことと関連するのですけれども、株主総会の議決権行使に必要な情報は、本来は事業報告でするのが筋ではないかと思われますし、例えば非財務情報、サステナビリティ情報につきまして、現在のところ、事業報告の方の法的手当ては余りなされていないと思いますけれども、閉鎖的な会社であっても営業利益が大きかったり従業員が多いものであれば、サステナビリティ情報を参照したいと思う株主もいるかもしれませんので、事業報告の内容も有価証券報告書の記載内容と同じように見直していかなければいけないのだろうと思われます。しかし、今回の改正でその点までは予定されていないのだとすると、現在の運営スケジュールでどのような手当てをしていくかを考えざるを得ないのだろうと思われます。   日本の立法事情として、金融商品取引法上の開示の改正の方が社会経済情勢の変化に対してリアクティブで迅速にされるので、投資家からこのような情報が必要だという意見が出れば、それに応じて有価証券報告書の記載事項は充実していくけれども、事業報告は置き去りにされるようなところがあります。しかし、そのような課題につきましては、投資家から要請された情報だからといって直ちに金融商品取引法で対応して、それで終わりというのではなく、会社法的な関心なのか資本市場的な関心なのかというような整理もして、場合によっては、事業報告の内容も変更し、重複する部分は一本化で対応していくというようなことも必要なのではないかと思います。金融商品取引法上の開示に関する責任と会社法上の開示に関する責任も違ってきますので、一本化するのだったらその辺りも整理していく必要があるのだろうと思っております。   期末3か月以内の開催を前提に、そのスケジュールでは実現できないということを理由に改正を見送るというようなことは、私も望ましくないと思っております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○松中幹事 議論を伺っていて、情報と書類の話と二つ、少し性格の違う話があるのかと思います。どの情報がいつまでに出てほしいという話と、特定の書類あるいはどんな書類をいつまでに出す、あるいはもうまとめてしまうとかいう話は一応別なのだろうと思います。特に有価証券報告書を総会前に出すべき理由として、投資家から幾らこういう情報が足りないというのを指摘されても、それは有価証券報告書を早く出す理由には直ちにはつながらないはずだということだと思います。それは別に事業報告でもいいし、別の形でもいいかもしれません。   その上で大きな話は、どちらかというと書類の話になっているのかなと思います。どの情報が必要か、今出ている情報が足りていないか、不足しているかというのとは別に、一つの特定のフォーマットの書類で出してくださいというのは、それはそれとして政策的な問題として成り立つ話かと思います。取り分け有価証券報告書の位置付けを変えていく話は、これも会社法のところでやる話なのかはともかく、それにとって障害になっているものを変えていくという部分が大事なのかなと感じました。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○矢野幹事 まず、一体開示や一本化については、方向性としては賛成いたします。部会資料のベン図でいいますとBのところをAの方に含めていって、全体を一本化していくという方向になるのかなという印象ではあります。   ただ、それに際して若干申し上げたいことがありまして、一つには監査役の責任の明確化との関係での留意が必要であろうとは考えています。有価証券報告書提出会社になった途端に監査義務がないよというのは、やはり変ですから、とはいえ逆に、有価証券報告書部分全部だということになると、それはそれでまたおかしいということになるかと思いますので、何らかの形で手当てが必要だと。ただ、事業報告部分に限ってやればよいという形しか書かないということになりますと、これは先ほど石井委員等からも御指摘があったかと思いますけれども、事業報告と有価証券報告書で、実際問題としてはAの部分ではあるのですけれども、実際書き方が若干違うというか、そういったところがありまして、一つの文書であっても同じ中で混在しているということが今後は考えられるということがありますから、ここだけやればいいとなると、結局監査役としてどこまで監査すればいいのか分からなくなるという問題があるかと思いますので、その点の配慮が必要かと思います。   別の観点で申し上げますと、少し分かりにくくて恐縮なのですけれども、会社の発展の仕方で言うと、まず事業報告等を作るところから始まっていって、有価証券報告書に行くという形になるので、有価証券報告書の形に全部ならないといけないということになると、有価証券報告書提出会社になった途端に今まで作っていたA、Bのところをがらっと変えないといけないということになって、非上場企業の観点からすると負担が逆に重いということになりかねないところがありますから、統合した上での書き方としては、A、B、いわゆる事業報告があってCの部分があるというような、そんな目線で一体化を含めて検討できるといいのかなとは個人的には思っています。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。 ○藤田委員 私からも若干、余り細かなことではない点を申し上げます。事業報告等と有価証券報告書の開示事項の調整自体は賛成で、その場合、16ページの参考図でいえばBの部分をなくす方向で調整を進めるということになるのでしょう。その結果、有価証券報告書の開示書類を作成すれば会社法上の事業報告も自動的にできているという方向自体はいいと思います。問題はBのなくし方なのですけれども、総会前に開示される有価証券報告書の記載事項に現在含まれていないものは全部会社法上の事業報告の対象から外すというのは、さすがに無理でしょう。17ページに、例示ですけれども挙がっていますが、これが全部会社法との関係では不要というのは、少し難しいとは思います。   そうなると、基本は有価証券報告書の記載事項を若干拡張することでBをなくすということにならざるを得ないとは思います。下の方の16ページの表現だと②という考え方になりそうです。もちろん、数は多くないのですが、これを機に事業報告から落とすことを検討してよい項目もないことはないかもしれませんので、そこは精査していただければと思います。余りよく考えたわけではないのですが、完全子会社等の名称等などというのは本当に必要か疑問に思ってはいます。そのほかの共通するAの中でも、基準が実は違うものを調整できないかとか、Cの一部を改めて事業報告等に含めるということも検討していいのかもしれませんが、これらは省令記載事項ですので、細かいことまでこの段階で確定するというよりは、基本的な方向性について申し上げることにとどめておきたいと思います。   法律論として少し気になっているのは、資料の後半で書かれている有価証券報告書と事業報告等の一本化というところで、これは意見というより確認したいことなのですが、一体的開示の場合はもとより、有価証券報告書と事業報告等を一本化して、事業報告等は作成しなくてよいとした場合に、例えば会社法第429条第2項第1号のロでは、事業報告の虚偽表示についての責任が規定されているのですが、この責任の対象となるのは、仮に独立の事業報告を作成したとすればそこに含まれることになる情報、16ページでいうとAとB、調整が進んでBがなくなればAだけになりますが、それに限定されるという理解でよいのかということです。事業報告を作成しなくてよいとし、実際作成しないなら、事業報告も観念的になくなりますので、厳密な意味で事業報告記載事項はなくなるため、会社法第429条第2項の責任は、仮に独立の事業報告を作成すれば含まれたであろうはずの情報についてだけに限定されるのかどうかということです。もしそういうことだとすると、法律の本体で規定の仕方を改めなくてはならないことかもしれません。そういう理解でよいか確認させていただければと思います。そして、もしそういう理解でよいとすれば、書類の様式上も、会社法の事業報告で要求される情報の範囲が分かるような形の様式を考えてもらう必要があると思います。   今、会社法第429条第2項というややマニアックな条文を例に申し上げましたけれども、監査役の会社法上の監査義務等についても似たような話があるかもしれません。このように一本化し観念的に事業報告をなくすということの意味について確認させていただければと思います。そこさえ確保されるのであれば、一本化も制度的には余り大きな問題はないと思います。もっとも一体的開示に加えてどの程度ニーズがあるかは私はよく分かりませんが、一部の会社にでもニーズがあるというのであれば、そういう会社が一本化できるようなルールにしてもいいとは思っております。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。1点御質問、御確認事項があったかと思います。宇野幹事、お願いいたします。 ○宇野幹事 藤田委員の御確認事項につきましては、おっしゃられたとおりでございまして、有価証券報告書に仮に一本化することになれば、有価証券報告書のうち事業報告に本来記載されるべき事項が記載された部分について、例えば会社法第429条第2項であれば同項の責任を負うという形になろうかと思いますので、いきなり全体に広がったりとか、逆になくなったりとかいうことは想定せず、そこはある意味、現行法の規律がそのまま維持されるという形になろうかと思っております。 ○神作部会長 よろしいでしょうか。 ○小長谷幹事 複数の委員、幹事の先生方から御指摘いただいております開示書類の相違点の整理ということにつきましては、今、藤田委員からもお話がありましたとおり、基本的には内閣府令、あと法務省令レベルの話になるかと思いますので、こちらについては法務省と協力して、手を付けられるところから進めていきたいと考えております。   その上で1点、部会資料の19ページのところでございますけれども、今お話にもございました一本化のところで、開示事項の相違点についての対応をする場合には、上場会社が実際に作成する書類は上記のような開示書類の一本化の見直しをするか否かによって変わることはないものと考えられるという記述がございます。確かに開示事項の相違点についての対応がなされれば、一本化の有無にかかわらず、外形的には作成される書類に記載すべき内容は同一のものになるかと考えております。ただ、事業報告を提出する法的義務が残る限り、一体開示に係る書類が双方の開示項目を満たすものであるか否かについて確認する必要性ですとか、あるいは監査におきましても、会社法と金融商品取引法それぞれの財務報告の枠組みへの準拠性を確認する必要性などが残ると考えられますから、企業における開示負担の軽減ですとか、あるいは監査法人における監査手続の効率化といった効果は相対的に限定的になるのではないかと考えているところでございます。   したがいまして金融庁としましては、有価証券報告書を提出した後に総会を開催するという運用が我が国において広まるためには、一体開示にとどまらず、両書類の一本化というところまで御検討いただくのが望ましいのではないかと考えているところでございます。 ○神作部会長 御意見どうもありがとうございます。 ○松尾幹事 既に久保田委員、齊藤委員から出たところですけれども、やはり総会前の有価証券報告書の開示については、基準日から権利行使まで3か月空けてよいというルールの下で形成された現在の実務の枠内という、その枠がどうもいろいろ合理的な制度設計の邪魔をしているのではないかという気がしてなりません。久保田委員は、少なくともこれを延ばす方向の検討はやめた方がいいと、齊藤委員は、むしろ短縮するのがいいのではないかということを示唆されながら、今回は改正は難しいのではないかということをおっしゃったと思うのですけれども、我慢のない私は、是非そこは一度検討していただいていいのではないかと、少なくとも振替株式を採用している会社で3か月空けることのメリットというのが、なかなか私には理解しにくい部分がありますので、3か月必要なのだと、そういう場面があるのだということであれば、そういう御意見をお聞かせいただきたいと、その前提として、権利行使基準日から権利行使までの期間の短縮ということを検討していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○神作部会長 どうもありがとうございます。   ほかに御意見はございますでしょうか。よろしいでしょうか。   事務局からも、特に発言はございませんか。   それでは、ほかにもし御意見がございませんでしたらば、本日審議いただく事項は一通り済みましたので、今後の議事日程等について事務当局から御説明を頂きたいと思います。   宇野幹事、どうかよろしくお願いいたします。 ○宇野幹事 次回の日程ですけれども、10月1日水曜日の午後1時から午後5時30分までを予定してございます。場所は、恐縮ですが現時点においては未定でございますので、改めて御連絡を申し上げます。 ○神作部会長 どうもありがとうございました。   それでは、本日は予定した時刻よりも少し早いのですけれども、本日はこれで終わらせていただきます。   法制審議会会社法制(株式・株主総会等関係)部会の第5回会議をこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところ、大変ありがとうございました。 ―了―